(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-27
(54)【発明の名称】皮膚充填剤組成物
(51)【国際特許分類】
A61L 27/20 20060101AFI20221220BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20221220BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
A61L27/20
A61L27/50
A61L27/58
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522829
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(85)【翻訳文提出日】2022-05-24
(86)【国際出願番号】 NL2020050640
(87)【国際公開番号】W WO2021075968
(87)【国際公開日】2021-04-22
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522152452
【氏名又は名称】バイオメド エスセティクス ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ファン グール,ジェスパー ヨハネス フランシスカス
(72)【発明者】
【氏名】ファン ディク,ユリウス マーカス
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア,マルティネス マルセラ アーマイン
(72)【発明者】
【氏名】ボーマンス,アントニウス アンドレアス マリア
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB12
4C081AB16
4C081AB36
4C081BA16
4C081CC04
4C081CD081
4C081DA12
(57)【要約】
本発明は、水および/またはポリアルコールを含むキャリア流体と、架橋ヒアルロン酸と、10~200μmの範囲の平均直径を有する架橋ヒアルロン酸の球状微粒子と、を含む、ゲルの形態の皮膚充填剤組成物に関する。この充填剤は、皮膚組織に注入されたときに、ボリューム化効果ならびに生体刺激効果を提供する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルの形態の皮膚充填剤組成物であって、
-水および/またはポリアルコールを含むキャリア流体と、
-架橋ヒアルロン酸のゲルと、
-10~200μmの範囲の平均直径を有する架橋ヒアルロン酸の球状微粒子と、を含む、皮膚充填剤組成物。
【請求項2】
前記キャリア流体の含有量が、前記皮膚充填剤自体の重量に基づいて、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%である、請求項1に記載の皮膚充填剤組成物。
【請求項3】
前記架橋ヒアルロン酸のゲルを構成する前記架橋ヒアルロン酸の含有量が、前記皮膚充填剤の総重量に基づいて、0.1~10重量%の範囲、具体的には0.5~5.0重量%の範囲、より具体的には1.0~3.5重量%の範囲である、請求項1または2に記載の皮膚充填剤組成物。
【請求項4】
前記架橋ヒアルロン酸のゲルにおいて、前記ヒアルロン酸の質量平均分子量(Mw)が、200~5,000kDaの範囲、具体的には500~3,000kDaの範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載の皮膚充填剤組成物。
【請求項5】
前記架橋ヒアルロン酸の球状微粒子において、前記ヒアルロン酸の質量平均分子量(M
w)が、5~500kDaの範囲、具体的には10~100kDaの範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載の皮膚充填剤組成物。
【請求項6】
前記ゲル中および/または前記微粒子中の前記ヒアルロン酸が、ジグリシジルエーテル、ジ-エポキシアルカンおよびジビニルスルホンの群から、具体的には1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルまたはジビニルスルホンから選択される架橋剤から誘導される架橋を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の皮膚充填剤組成物。
【請求項7】
前記球状微粒子が、15~70μmの範囲、具体的には20~55μmの範囲、より具体的には30~50μmの範囲の平均直径を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の皮膚充填剤組成物。
【請求項8】
本発明の皮膚充填剤中の球状微粒子の含有量が、0.4~10体積%の範囲、具体的には0.5~8体積%の範囲、より具体的には1~6体積%の範囲である、請求項1~7のいずれか一項に記載の皮膚充填剤組成物。
【請求項9】
線状ヒアルロン酸をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の皮膚充填剤組成物。
【請求項10】
前記線状ヒアルロン酸の質量平均分子量(M
w)が、500~5,000kDaの範囲、具体的には800~4,000kDaの範囲である、請求項9に記載の皮膚充填剤組成物。
【請求項11】
ゲルの形態の皮膚充填剤組成物を調製するための方法であって、
-架橋ヒアルロン酸のゲルを調製することと、
-架橋ヒアルロン酸の球状微粒子を調製することであって、前記微粒子が、前記ゲル中に存在するときに、10~200μmの範囲の平均直径を有する、調製することと、
-前記架橋ヒアルロン酸および前記球状微粒子を、水および/またはポリアルコールを含むキャリア流体と混合して、前記ゲルを形成することと、を含む、方法。
【請求項12】
前記架橋が、ジグリシジルエーテル、ジ-エポキシアルカンおよびジビニルスルホン、具体的には1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルまたはジビニルスルホンの群から選択される架橋剤から誘導される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記球状微粒子が、適切な平均直径を有する粒子を得るために、複数のふるい上でふるい分けされる、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
医学療法、美容療法またはエステティック療法で使用するための、請求項1~10のいずれか一項に記載の皮膚充填剤組成物。
【請求項15】
萎縮性にきび瘢痕、脂肪異栄養症、腹圧性尿失禁、膀胱尿管逆流、声帯機能不全、および/または声帯内側化(vocal fold medialization)の治療に使用するための、請求項1~10のいずれか一項に記載の皮膚充填剤組成物。
【請求項16】
美容もしくは治療目的のために組織を充填するか、または組織の体積を増加させるための方法であって、有効量の請求項1~10のいずれか一項に記載の皮膚充填剤組成物をヒトに投与することを含む、方法。
【請求項17】
個体の組織を治療するための、請求項1~10のいずれか一項に記載の皮膚充填剤組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚充填剤組成物、そのような組成物の調製方法、しわの治療に使用するための皮膚充填剤組成物、および医学療法で使用するための皮膚充填剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚のしわおよび他の線の治療は多くの場合、皮膚組織に皮膚充填剤組成物を注入することによって行われる。そのような組成物は、しわを単に充填するボリューマイザーとしてか、または注入されるとコラーゲンの形成を能動的に誘導する生体刺激剤(biostimulator)として作用し得る。ボリューマイザーの効果は即座に現れるが、長くは続かない(典型的には1年未満)。一方、生体刺激の効果は数ヶ月後にのみ現れ、ボリューマイザーの効果より長期間持続する。
【0003】
残念ながら、皮膚充填剤の注入は合併症を引き起こす可能性がある。最も一般的な副作用は、浮腫、疼痛、紅斑、掻痒および斑状出血として現れる局所注入関連の副作用である。これらの有害な副作用は軽度で、通常1週間も続かないが、それでも不快である。より重度の合併症も発生することがあるが、まれである。例えば、血管閉塞は数時間または数日以内に発生し、局所組織の壊死または血管の塞栓を引き起こすことがある。長期的には、色素沈着異常および瘢痕化は、皮膚充填剤の反復注入の有害な副作用として現れることがある。
【0004】
疼痛、刺激および炎症などの合併症の発生を減少させるための継続的な取り組みが、生体刺激剤を使用したいという願望によって妨げられるのは、多くの生体刺激剤の基本的メカニズムが、注入された生体刺激剤によって組織が活性化されるか、さらには炎症を起こすことであるためである。したがって、生体刺激が刺激および炎症と密接に関連しない皮膚充填剤が必要とされている。さらに、多くの生体刺激剤は生分解性が低く、注入部位で望ましくない副作用が発生した場合にそれらを除去することが困難になる。
【0005】
さらに、1つの皮膚充填剤組成物中にボリューマイザーおよび生体刺激剤を組み合わせることは困難であることが判明している。そのような組み合わせの利点は、ボリューム化効果が終了すると、生体刺激効果が引き継がれるため、その効果が時間的により一定になることである。
【発明の概要】
【0006】
したがって、本発明の目的は、皮膚への注入時に、疼痛、刺激および炎症がより少ない皮膚充填剤組成物を提供することである。具体的には、この組成物が、既知の皮膚充填剤と比較して改善された生分解性を有することが目的である。1つの皮膚充填剤組成物中にボリューマイザーおよび生体刺激剤を組み合わせることも目的である。
【0007】
特定の皮膚充填剤組成物を適用することにより、これらの目的のうちの1つ以上に到達できることが今では判明している。
【0008】
したがって、本発明は、ゲルの形態の皮膚充填剤組成物であって、
-水および/またはポリアルコールを含むキャリア流体と、
-架橋ヒアルロン酸のゲル成分と、
-10~200μmの範囲の平均直径を有する架橋ヒアルロン酸の球状微粒子と、を含む、皮膚充填剤組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の皮膚充填剤組成物に使用される微粒子の顕微鏡写真を示す。
【
図2】種々のヒアルロン酸ベースの配合物の注入後数回の間隔で得られたヘマトキシリンおよびエオシン染色組織を示す。
【
図3】種々のヒアルロン酸ベースの配合物の注入後12ヶ月で測定した組織中のコラーゲン密度を示す。
【
図4】本発明の皮膚充填剤組成物による生体刺激の経過を注入後12ヶ月間にわたって示す。
【
図5】
図4に示した生体刺激検査に伴う組織の顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で使用される場合、「皮膚充填剤」という用語は、軟組織欠損の領域に体積を加えるように設計された材料または組成物を広く指す。したがって、同等の用語として、「軟組織充填剤」という用語を使用することもできる。本発明の意味の範囲内で、「軟組織」という用語は、一般に、体の他の構造および器官を連結、支持、または取り囲む組織に関する。本発明において、軟組織としては、例えば、筋肉、腱、声帯、内層組織(lining tissue)、線維組織、脂肪、血管、神経、および滑膜組織が挙げられる。さらに、「皮膚充填剤」という用語は、注入の位置および種類に関してあらゆる制限を課すものとして解釈されるべきではない。それは一般に、真皮の下の複数のレベルでの使用を包含する。
【0011】
本発明の皮膚充填剤は、ゲルの形態であり、すなわち、それはゲルである。本明細書で使用される「ゲル」という用語は、一般に、哺乳動物の体温(典型的には37℃)で液体と固体との間の流動性を有する材料を指す。
【0012】
本発明の皮膚充填剤は、他の成分、具体的には医薬品有効成分を含み得る。例えば、それはリドカインまたはビタミン(例えば、ビタミンB、C、またはE)などの局所麻酔薬を含み得る。
【0013】
キャリア流体は、活性化合物(例えば、しわの治療に有効)が存在する媒体である。キャリア流体は、水および/またはポリアルコールを含む。ポリアルコールとは、ジオールまたはトリオールなどの、2つ以上のヒドロキシル基を含有するアルコールを意味する。
【0014】
キャリア流体は、原則として、生理学的に許容されるキャリア流体となるように設計されている。水がかなりの量(例えば、キャリアされる流体の50重量%超を構成する)で存在する場合、キャリア流体は、典型的には、生理学的pHまたはその付近で、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などの生理食塩水で緩衝される。他の好適な緩衝液は、例えば、リンゲル液(典型的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムおよび重炭酸ナトリウムを含む)またはタイロード液(典型的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リン酸二水素ナトリウムおよび重炭酸ナトリウムを含む)である。
【0015】
本発明のそのような水性ゲルのpHは、通常、6.4~7.8の範囲、具体的には6.8~7.4の範囲である。そのようなpHは、適切なpHを有する上記のような緩衝液を適用することによってか、または適切な量の酸および/もしくは塩基を使用することによってpHを所望の値に設定することによって到達することができる。
【0016】
本発明の皮膚充填剤中のキャリア流体の含有量は、通常、皮膚充填剤自体の総重量に基づいて、少なくとも50重量%である。含有量はまた、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも97.5重量%、少なくとも98重量%、少なくとも98.5重量%、または少なくとも99重量%であり得る。含有量はまた、99重量%以下、98重量%以下、95重量%以下、90重量%以下、85重量%以下、または75重量%以下であり得る。好ましくは、含有量は90~98重量%の範囲である。
【0017】
本発明の皮膚充填剤中のポリアルコールは、エチレングリコール、グリセロール、1,3プロパンジオール、1,4ブタンジオール、マンニトール、ソルビトールおよびポリ(エチレングリコール)の群から選択することができる。
【0018】
本発明の皮膚充填剤のゲル特性は、ほとんどが、ゲルが充填剤の成分である架橋ヒアルロン酸のゲルに由来する。ヒアルロン酸は、ゲルの性質を有する程度に架橋されている。当業者は、発明の努力を行うことなく、および過度な実験をすることなく、そのようなゲルに到達する方法を知っている。
【0019】
架橋ヒアルロン酸のゲルにおいて、ヒアルロン酸の質量平均分子量(Mw)は通常、少なくとも50kDaである。典型的には、100~10,000kDaの範囲である。好ましくは、200~5,000kDaの範囲または500~3,000kDaの範囲である。
【0020】
本発明の皮膚充填剤組成物において、架橋ヒアルロン酸のゲルを構成する架橋ヒアルロン酸の含有量は、通常、皮膚充填剤自体の総重量に基づいて、0.1~10重量%の範囲の架橋ヒアルロン酸、具体的には0.5~5.0重量%の範囲、より具体的には1.0~3.5重量%の範囲である。
【0021】
(ゲル成分の)架橋ヒアルロン酸における架橋は、通常、化学架橋である。これらは、ヒアルロン酸と化学架橋剤との反応によって形成される。例えば、そのような架橋剤は、ジグリシジルエーテル(例えば、1,2-エタンジオールジグリシジルエーテルもしくは1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル)またはジ-エポキシアルカン(例えば、1-(2,3-エポキシプロピル)-2,3-エポキシシクロヘキサンもしくは1,2,7,8-ジエポキシオクタン)であり、好ましくは、架橋剤は、ジビニルスルホンまたは1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルである。
【0022】
これらの架橋剤に起因する架橋は、一般に、それぞれの架橋剤から誘導されると言われている。したがって、本発明の皮膚充填剤において、ヒアルロン酸の化学架橋は、典型的には、ジグリシジルエーテルおよびジ-エポキシアルカンの群から、好ましくは1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルまたはジビニルスルホンから選択される架橋剤から誘導される。
【0023】
本発明の皮膚充填剤組成物中の球状微粒子は、それらが異なる形状を有するという点で、既知の皮膚充填剤組成物で使用される微粒子とは異なる。そのような皮膚充填剤用途における既知のヒアルロン酸微粒子は非球状であるが、本発明に適用されるものは、
図1に示されるように球状である。さらに、本発明の微粒子はまた、かなり柔らかく、押しつけられたときに容易にかつ可逆的に変形し得る。それらは、水を吸収または放出するときに、それぞれ容易に膨張または収縮する。これらの違いは、微粒子を製造する異なるプロセスの結果である。当技術分野において、これは、ゲルを形成するためのヒアルロン酸の架橋、その後、ゲルを、例えば、乳鉢内ですりつぶすことによって微粒子に破砕することに関する(例えば、WO2018/159983A1におけるように)。このようにして得られた微粒子は不規則な形状を有し、例えば、それらは鋭いエッジおよび高いアスペクト比を有する。
【0024】
本発明の微粒子は、根本的に異なる方法で調製される。ヒアルロン酸を水性媒体中に溶解する。この溶液から水/酢酸エチルエマルジョンが作製され、溶解したヒアルロン酸を含む水滴が得られる。酢酸エチルにわずかに可溶性であるため、水は酢酸エチルによって液滴から引き出され、ヒアルロン酸の小球が残る。続いて、生成された小球中のヒアルロン酸が架橋される。次いで、さらなる後処理で架橋ヒアルロン酸の球状微粒子が得られ、後処理で過剰な水にさらされると、それらは大幅に膨潤することがある。したがって、これらの粒子は非常に規則的で、非常に柔らかい。
【0025】
場合によっては、微粒子は完全な球形からわずかに逸脱することがある。例えば、最短の直径と最長の直径との比は、少なくとも0.75、少なくとも0.80、少なくとも0.85、少なくとも0.90、少なくとも0.95、少なくとも0.97、少なくとも0.98、少なくとも0.99、または少なくとも0.995である。
【0026】
動物実験(実施例6を参照のこと)において、組成物中の球状微粒子の存在は、架橋ヒアルロン酸および線状ヒアルロン酸のゲルのみを含む(ならびに微粒子を含まない)組成物と比較して、最大で1年の期間にわたってコラーゲン形成の増加をもたらすことが見出された。これは、球状微粒子が生体刺激効果を有することを強く示している。球状微粒子を含む組成物の注入は、球状微粒子を欠く組成物の注入と同一レベルの炎症を与えることも観察された。不規則な微粒子を含む組成物は、注入後最大で2週間の期間で高レベルの炎症を引き起こすことが知られているため、これは驚くべきことである。したがって、皮膚充填剤組成物における球状微粒子の適用は、炎症の増加と密接に関連しない増加した生体刺激を提供する。
【0027】
上記で概説した調製方法において、最初のヒアルロン酸の質量平均分子量が高いほど、特定の所望のサイズの粒子を得ることがより困難であるように思われた。例えば、ヒアルロン酸が500kDaをはるかに超える質量平均分子量を有する場合、15~70μmの範囲のサイズを有する粒子を調製することは困難であり、これは、例えば、低い粒子収率および低いプロセス効率として現れた。ヒアルロン酸の質量平均分子量を低下させることは、以下に説明するように、望ましくない炎症の副作用を引き起こすことが知られているため、当初は選択肢としてみなされていなかった。
【0028】
ヒアルロン酸は、マクロファージの発現に対して種々の影響を有することが知られている。マクロファージは、マクロファージが接触しているヒアルロン酸の質量平均分子量(Mw)に応じて表現型を変化させることができる。マクロファージは、500kDa、100kDa、または10kDaという低いものなどのより低い質量平均分子量(Mw)を有するヒアルロン酸と接触したときに炎症誘発性応答を示すことが知られている。他方、より高い質量平均分子量(Mw)、典型的には500kDaより高い質量平均分子量を有するマクロファージは、ヒアルロン酸と接触したときに明確な抗炎症応答をもたらすことが知られている。
【0029】
しかしながら、本発明の文脈において、これは偏見であるように思われた。これは、驚くべきことに、微粒子が10kDaという低い質量平均分子量(Mw)を有するヒアルロン酸を含む本発明の組成物が、有意な炎症誘発性応答をもたらさないことが見出されたためである。
【0030】
質量平均分子量(Mw)の減少は、本発明の他の有益な効果、具体的には生体刺激剤としてのその有効性のいずれも無効にしなかったことも見出された。
【0031】
結論として、ヒアルロン酸の質量平均分子量(Mw)の減少は、組成物の有効性に屈することなく、かつ炎症応答などの他の望ましくない効果を誘引することなく、微粒子のより実行可能な調製への道を開いた。
【0032】
したがって、架橋ヒアルロン酸の球状微粒子において、ヒアルロン酸の質量平均分子量(Mw)は通常、少なくとも1.0kDaである。典型的には、1~5,000kDaの範囲である。また、1.2~3,000kDaの範囲、5~2,000kDaの範囲、2.4~500kDaの範囲、5~100kDaの範囲、または10~1,000kDaの範囲であってもよい。好ましくは、5~500kDaの範囲、より好ましくは10~100kDaの範囲である。
【0033】
球状微粒子は、原則として水を含有する。微粒子中の含水量は、通常、50~99重量%の範囲であり、典型的には、75~95重量%の範囲である。例えば、99重量%以下、98重量%以下、97重量%以下、95重量%以下、90重量%以下、85重量%以下、80重量%以下、または75重量%以下であってもよい。また、60重量%以上、75重量%以上、80重量%以上、85重量%以上、90重量%以上、93重量%以上、または95重量%以上であってもよい。
【0034】
球状微粒子のヒアルロン酸における架橋は、通常、化学架橋であり、例えば、ジグリシジルエーテル、ジ-エポキシアルカンおよびジビニルスルホンの群から、具体的には1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルまたはジビニルスルホンから選択される架橋剤から誘導される。
【0035】
本発明の皮膚充填剤中の球状微粒子は、通常、300μm以下、150μm以下、50μm以下、または40μm以下の平均直径を有する。通常、10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上、40μm以上、または50μm以上である。典型的には、15~100μmの範囲、具体的には15~70μmの範囲、より具体的には20~55μmの範囲、さらにより具体的には30~50μmの範囲である。
【0036】
本発明の皮膚充填剤中の球状微粒子の含有量は、通常、0.4~10体積%の範囲、具体的には0.5~8体積%の範囲、より具体的には1~6体積%の範囲である。
【0037】
本発明の皮膚充填剤は、滅菌皮膚充填剤として皮膚充填剤を提供するために滅菌プロセスを受けることがある。例えば、高温(例えば、蒸気滅菌による)または高エネルギー放射線(例えば、ガンマ線照射)への曝露によって滅菌される。
【0038】
本発明の皮膚充填剤の粘度は、ゲル成分に使用されるヒアルロン酸の架橋の程度、微粒子の量およびサイズ、ならびに種々の成分、具体的には、1)架橋ヒアルロン酸のゲル、2)微粒子、および3)線状ヒアルロン酸などの粘度に影響を与える最終的な添加剤の相対的な存在量(abundancy)などの、皮膚充填剤の特定の特性を変化させることによって調整することができる(下記参照)。皮膚充填剤の特定の用途に応じて、より高いまたはより低い粘度を設定することができる。
【0039】
本発明のゲルの動的粘度は、通常、10~1100Pa.sの範囲である。また、20~800Pa.sの範囲または30~700Pa.sの範囲あってもよい。当業者は、定型的な実験により、および発明の努力を行うことなく、特定の粘度に到達するために必要とされる条件を見出すことができるであろう。
【0040】
本発明のゲルの動的弾性率(貯蔵弾性率)は、通常、1~3,000Paの範囲、具体的には5~2,500Paの範囲、より具体的には15~2,000Paの範囲、さらにより具体的には20~1,500Paの範囲である。
【0041】
本発明の皮膚充填剤組成物は、線状ヒアルロン酸を含むことができる。この添加剤の主な目的は、粘度を調整し、充填剤の注入性を最適化するために使用することができることである。
【0042】
線状ヒアルロン酸が存在する場合、通常、少なくとも250kDaの質量平均分子量(Mw)を有する。典型的には、300~10,000kDaの範囲である。好ましくは、500~5,000kDaの範囲または800~4,000kDaの範囲である。
【0043】
線状ヒアルロン酸が本発明の皮膚充填剤中に存在する場合、通常、皮膚充填剤自体の総重量に基づいて、0.05~5.0重量%の範囲、具体的には0.1~2.0重量%の範囲で存在する。
【0044】
線状ヒアルロン酸(存在する場合)および架橋ヒアルロン酸は、通常、それらの乾燥物質含有量に基づいて、1.0:0.25~1.0:15.0の範囲、具体的には1.0:1.0~1.0:10.0の範囲の質量比で存在する。
【0045】
本発明の皮膚充填剤の利点は、充填剤がボリューム化効果ならびに生体刺激効果を提供することである。充填剤の適用後、ボリューム化効果は生体刺激よりも短期間で現れる。これにより、ボリューム化効果のみまたは生体刺激効果のみが存在する場合よりも、充填されたしわの外観がより一定になる。
【0046】
また、本発明の皮膚充填剤を注入される患者が、従来の皮膚充填剤を注入される場合よりも少ない副作用、具体的にはより少ない疼痛および/またはより少ない炎症を経験することも利点である。この副作用の減少が生体刺激の有効性を犠牲にしないことは、なおさら利点である。換言すれば、本発明の皮膚充填剤組成物は、炎症の増加および/または連続的な炎症と密接に関連しない増加した生体刺激を提供する。
【0047】
本発明の皮膚充填剤組成物は、しわの治療のための活性物質、すなわち、皮膚における持続的なボリューム化効果および生体刺激効果に寄与する物質として、ヒアルロン酸およびその誘導体のみを含有する。例えば、局所麻酔薬または特定のビタミンなどの他の活性物質の存在は、注入されたキャリア流体と同じように、持続的なボリューム化効果を有するとは考えられない。これにより、本発明の組成物は完全に生分解性である。さらに、実施例に示されるように、これは、高い安全性プロファイルと、望ましくない副作用の可能性および重症度の低減と組み合わされる。
【0048】
本発明はさらに、ゲルの形態の皮膚充填剤組成物を調製するための方法であって、
-架橋ヒアルロン酸のゲルを調製することと、
-架橋ヒアルロン酸の球状微粒子を調製することであって、球状微粒子は、ゲル中に存在するときに、10~200μmの範囲の平均直径を有する、調製することと、
-架橋ヒアルロン酸および球状微粒子を、水および/またはポリアルコールを含むキャリア流体と混合して、ゲルを形成することと、を含む、方法に関する。
【0049】
本発明の方法において、架橋ヒアルロン酸のゲル成分および球状微粒子は、通常、別個に調製し、その後、それらを、キャリア流体と混合して、本発明のゲルを形成する。したがって、本発明の方法において組み合わされる少なくとも3つの成分が存在する(例えば、任意選択で、線状ヒアルロン酸も)。
【0050】
これらの成分を組み合わせるには、複数のモードが存在する。3つのポリマーは、組み合わせると水がなくなることがあるが、それらのうちの1つ以上は、4つの成分を組み合わせると水を含有することもある。
【0051】
例えば、架橋ヒアルロン酸は、ゲルを形成するためにキャリア流体に含有され得るが、線状ヒアルロン酸および微粒子は、乾燥固体としてこのゲルに添加され得る。線状ヒアルロン酸は、本発明の方法においてすぐに使用することができる(ready for use)乾燥粉末として一般に購入されるため、多くの場合乾燥固体として適用される。微粒子は、典型的には、水性環境で調製され、それにより、本発明の方法においてそれらを湿潤形態で適用することが便利になる。しかしながら、それらを他の成分と組み合わせる前に乾燥させることもできる。
【0052】
架橋ヒアルロン酸は、通常、線状ヒアルロン酸を化学架橋剤、例えば、ジビニルスルホンまたは1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルで処理することによって調製される。同様に、ヒアルロン酸の球状微粒子も、通常、線状ヒアルロン酸を架橋することによって調製される。球状微粒子を調製するための方法は、微粒子が、皮膚充填剤であるプロセスの最終生成物中に存在するとき、微粒子が10~200μmの範囲の平均直径を有するように実施される。それらの平均直径は、水性環境でそれらの調製直後に測定した場合、特にそれらの調製物の水性環境が最終生成物中のキャリア流体とは異なる場合、最終生成物中の微粒子の平均直径とは異なることがある(後者は例えば緩衝液を含み得るが、前者はそのような緩衝液を欠いていることがある)。
【0053】
球状微粒子は、通常、最終生成物中のそれらの平均直径が、15~70μmの範囲、具体的には20~55μmの範囲、より具体的には30~50μmの範囲になるように調製される。これは、粒子の調製中に、粒子が本発明の組成物を調製するために使用されるとき、具体的にはそれらが架橋ヒアルロン酸およびキャリア流体と混合されるとき、後に生じる粒子のサイズの変化が既に説明されていることを意味する。そのような変化は、典型的には、微粒子に含有される水の量が、例えば、塩濃度およびpHを含む、存在する成分の異なる濃度によって変化したときに生じる。当業者は、最終的な皮膚充填剤組成物中の所望の粒径に到達するために、どの粒径が最初に存在しなければならないかを知っている。
【0054】
微粒子の調製には、ふるいの使用が含まれてもよい。次に、球状微粒子は、適切な平均直径を有する粒子を得るために、複数のふるい上でふるい分けされる。ふるい分け工程が実施されるとき、球状微粒子は通常、湿潤状態にあり、すなわち、それらは水を含む。
【0055】
本発明の方法は、典型的には、滅菌工程を含み、滅菌皮膚充填剤として本発明の皮膚充填剤が得られる。例えば、本発明の方法に従って形成された皮膚充填剤は、高温、例えば、80~140℃の範囲、具体的には100~135℃の範囲の温度に曝露され得る。次に、温度および曝露期間は、皮膚充填剤を過度に分解することなく、微生物が所望の程度まで破壊されるように選択される。例えば、皮膚充填剤は、15~20分間(例えば、115~125℃の範囲の温度で)曝露されるか、または2~10分間(例えば、130~140℃の範囲の温度で)曝露される。
【0056】
滅菌はまた、ゲルを高エネルギー放射線、具体的には、ガンマ線、電子線、X線などの電離放射線、および電磁スペクトルの高紫外域に曝露することによっても達成することができる。ゲルが曝露され得る線量は、例えば、15、25または50kGyである。
【0057】
本発明はさらに、上記の方法によって得ることができる皮膚充填剤に関する。
【0058】
本発明の皮膚充填剤は、通常、美容分野、具体的には皮膚のしわおよび線の美容治療に適用される。しかしながら、それは医療分野でも用途を見出せるかもしれない。したがって、本発明はさらに、医学療法で使用するための、薬剤として使用するための、および/または医学で使用するための、上記の皮膚充填剤に関する。
【0059】
本発明はさらに、萎縮性にきび瘢痕、脂肪異栄養症、腹圧性尿失禁、膀胱尿管逆流、声帯機能不全、および/または声帯内側化(vocal fold medialization)の治療に使用するための、上記の皮膚充填剤に関する。
【0060】
本発明はさらに、美容もしくは治療目的のために組織を充填するか、または組織の体積を増加させるための方法であって、有効量の上記の皮膚充填剤組成物をヒトまたは動物に投与することを含む、方法に関する。軟組織は、皮膚、筋肉、腱、声帯、線維組織、脂肪、血管、神経、および滑膜組織であり得る。投与は、典型的には、皮膚充填剤を注射器で針を介して組織に注入することによって実施される。
【0061】
本発明はさらに、上記の皮膚充填剤を必要とする個体において組織を治療するための、上記の皮膚充填剤の使用に関する。
【0062】
本発明はさらに、上記の皮膚充填剤を必要とする個体において、萎縮性にきび瘢痕、脂肪異栄養症、腹圧性尿失禁、膀胱尿管逆流、声帯機能不全、および/または声帯内側化を治療するための薬剤の製造のための、上記の皮膚充填剤の使用に関する。
【実施例】
【0063】
実施例1.ヒアルロン酸ゲルの調製
13.5gの0.25M水酸化ナトリウム(NaOH)中に1.5gの2,600kDaヒアルロン酸(HA)を含有するヒアルロン酸ゲルを調製した。すべてのHAが溶解した後、165mgの1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)を溶液に添加し、スパチュラで5分間混合した。溶液をプラスチックカップに入れ、それを閉じ、50℃のオーブンに2時間移した。次に、ゲルを過剰量のPBSに入れ、1.5重量%のHAパーセンテージに到達するまで水和させた。
【0064】
実施例2.架橋微粒子の調製
50mgの10kDaヒアルロン酸を、7.5mgのジビニルスルホンとともに2mLの0.005NaOH中に溶解し、室温で2時間放置した。次に、800mLビーカー中の400mLの酢酸エチルを、オーバーヘッドスターラーを用いて2,000rpmで撹拌し、ヒアルロン酸溶液を30Gの針を通して2分間かけて添加した。溶液を1時間撹拌させた。その後、溶液を室温で24時間放置した。精製(真空下での酢酸エチルの除去)後、粒子を濾過し、洗浄した。洗浄中、粒子は実質的に膨潤し、柔らかいヒアルロン酸微粒子が得られた。
【0065】
実施例3.3つの成分すべてを組み合わせる
実施例1で調製した22gの水和ゲルを、50mgの1,600kDaヒアルロン酸粉末とスパチュラで5分間混合した。その後、実施例2で調製した90mgの粒子を添加し、得られた混合物を5分間撹拌した。
【0066】
実施例4.微粒子サイズ分析
実施例2で調製した微粒子を、ライカ直立DM2500光学顕微鏡を使用して分析した。200倍の倍率の明視野で粒子を調べた。Image Jを使用して形態およびサイズを分析した。30~50μmの平均球状粒径が得られた。得られた微粒子の顕微鏡写真を
図1に示す。
【0067】
実施例5.ゲルのレオメトリー分析
実施例3で作製された生成物を、Discovery Hybrid Rheometer(TA Instruments)を用いて分析した。25℃で1,200μmのギャップ高さで、貯蔵および損失弾性率を測定した。プレートは25mmの直径を有し、1%のひずみが加えられた。周波数掃引は0.1Hz~5.0Hzで実施した。5.0Hzで、ゲルは372Paの貯蔵弾性率および52Paの損失弾性率を有した。
【0068】
実施例6.生物学的応答-動物実験
6.1.設定
本発明の皮膚充填剤組成物の安全性および有効性を試験するために動物実験を実施した。インビボ実験は、2019年6月2日から2020年6月2日まで、中国杭州のHangzhou Huibo Science and Technology Co.,Ltdで実施された。組成物をニュージーランドの白ウサギに対して試験し、実験の経過を3、6、および12ヶ月の3つの異なる時点でモニターした。3つの異なるゲル配合物(A、BおよびC):
A)架橋ヒアルロン酸ゲルと線状ヒアルロン酸、
B)ヒアルロン酸微粒子と線状ヒアルロン酸、ならびに
C)架橋ヒアルロン酸ゲルと線状ヒアルロン酸およびヒアルロン酸微粒(すなわち、本発明の組成物)を試験した。
【0069】
3つの配合物を、上記の実施例1~3に記載された手順に従って調製した(配合物Bは、架橋ヒアルロン酸を手順から除外したことを除いて、実施例3の手順に従って調製した)。
【0070】
これらの配合物を試験する主な目的は、皮膚充填剤組成物の生体刺激効果に対する微粒子の効果を検査することであった。同時に、炎症、拒絶反応およびカプセル化などのあらゆる副作用をモニターした。
【0071】
この実験において合計21頭のニュージーランドの白ウサギを使用した。ウサギを以下のように割り当てた。配合物Aについては、時点毎に合計1頭のウサギを使用し、配合物BおよびCについては、時点毎に3頭のウサギを使用した。動物の前肢と後肢との間の脊柱から約5cm離れた各ウサギの背側に、0.1~0.2mLの容量を浸潤させた。
【0072】
ヒアルロン酸ゲルの安全性および有効性を検証するために使用した2つの染色は、それぞれ、プリコシリウスレッド(PSR)とともにヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)であった。H&E染色は、ゲルの浸潤後の組織構造の非常に詳細な状態を提供し、PSR染色は、対象の各特定の領域でのコラーゲン線維の存在を強調した。
【0073】
すべての画像は、ソフトウエアImage Jを使用して処理した。すべての画像を同一のスケールおよび10倍の倍率で分析した。画像は、スクロールダウンオプション内のH&E染色を使用して、Colour deconvolutionによって処理した。対象領域(ROI)および閾値パラメータを固定し、すべての画像にわたって使用した。収集した数量データをExcelで処理し、図に示すようにプロットした。
【0074】
以下、「ヒアルロン酸」という用語は「HA」と略されることがあり、「微粒子」という用語はMPと略されることがある。
【0075】
6.2.結果
第1に、得られたデータを、皮膚充填剤組成物のボリューム化効果について分析した。これは、架橋ヒアルロン酸の注入によって引き起こされる体積の増加である。ボリューム化効果は、一般的には、注入直後に最も高くなることが知られている。その後、架橋ヒアルロン酸が分解し、これはボリューム化の低下として現れる。データを、炎症、拒絶反応、カプセル化などの副作用の発生についても分析した。
【0076】
配合物Aまたは配合物Cを注入し、皮膚を経時的にモニターした。注入後特定の時間間隔(3、6および12ヶ月)で、ウサギの組織を分析した。
【0077】
注入後の最初の数週間で、観察されたあらゆる刺激/炎症も、各配合物で治療された組織に均等に分配された。
【0078】
図2は、配合物Aまたは配合物Cの注入後3、6および12ヶ月で得られたH&E染色皮層組織を示す(スケールバーはすべて、5つの0.5mmのセクションにわたって0~2.5mmとなる)。ゲルは色の濃い領域(darker area)として識別され、その輪郭は黒い線で示される。3ヶ月後、ゲルの多くは依然として存在している。注入部位でも周辺部でも皮膚からの拒絶反応は発生していない。皮層は、周囲からだけでなく、その内部/全体も、ゲルの表面積を完全に取り囲んでいる。6ヶ月後の写真は、ゲルの不鮮明な外観を示す。1年後、注入部位にゲルは残っておらず、ゲルの完全な分解を示す。そのような分解プロファイルは、従来のボリューム化組成物のものと一致している。線維化組織を介したゲルのカプセル化はいずれの時点でも観察されず、これは、免疫応答が引き起こされていないことを示す。結論として、これらの試験は、本発明の組成物が効果的なボリューマイザーであり、本明細書における微粒子の存在が、注入時および注入後に望ましくない副作用をもたらさないことを示す。粒子中のヒアルロン酸の質量平均分子量(M
w)を考慮すると、これはなおさら驚くべきことである。M
wはわずか10kDaであり、これは体内で炎症誘発性応答を引き起こすため、通常は不適切とみなされる値である。この低い値は、本発明の皮膚充填剤組成物の低い炎症応答と同様に生体刺激の有効性の鍵となり得るように思われる。
【0079】
第2に、得られたデータを、皮膚充填剤組成物の生体刺激効果について分析した。これは、注入された組成物がコラーゲンの形成を刺激する程度である。この目的のために、各組織試料内のコラーゲン線維の量を、組織のPSR偏光画像に基づいて、注入部位でのコラーゲン密度を測定することによって定量化する。
【0080】
図3は、配合物A、配合物Bまたは配合物Cの注入後12ヶ月で測定した組織中のコラーゲン密度を示す。配合物Aは、生体刺激がないことに対応する基準値を提供し(下のバー)、
図3から、配合物BおよびCは、確かにコラーゲンの形成を開始するということになる(それぞれ中央のバーおよび上のバー)。これは、配合物BまたはCを注入した組織は、配合物Aを注入した組織よりも高密度の外観を有し、かつより少ない空隙を含有するため、組織自体の目視検査によって裏付けられる。
【0081】
さらに、(本発明の)配合物Cは、生体刺激に関して、配合物Bよりもさらに良好に機能するように思われる。これは、微粒子および架橋ヒアルロン酸ゲルの相乗効果を示す。おそらく、ゲルは微粒子の生分解を阻害し、その結果、微粒子の活性が延長される。
【0082】
第3に、得られたデータを、本発明の皮膚充填剤組成物(配合物C)による生体刺激の経過について、注入後12ヶ月間にわたって分析した。生体刺激が測定可能な効果を有するまでには、しばらくの間、例えば、1ヶ月以上かかることが一般に知られている。
【0083】
図4は、効果が3ヶ月後に中程度であり、その後9ヶ月でほぼ3倍となる、配合物Cのそのような時間プロファイルを示す。
【0084】
図5は、
図4のバーに対応する組織の顕微鏡写真を示し、時間の経過とともに、より均一でかつ空隙が少なくなることを明らかにする(スケールバーはすべて、5つの50μmのセクションにわたって0~250μmとなる)。これはまた、本発明の皮膚充填剤組成物の生体刺激効果を証明する。
【0085】
6.3.結論
上記のデータから、以下の結論を得た。
1.本発明の組成物は、初期にボリューム化効果を有し、これは、12ヶ月の間に生体刺激効果によって引き継がれる。両方の効果の組み合わせは、充填が時間の経過とともに一定に感じられることである。
2.微粒子は、生体刺激効果に関与し、本明細書において、架橋ヒアルロン酸ゲルと相乗的に作用する。
3.本発明の組成物は、注入時および注入後に望ましくない副作用をもたらすことなく、1)および2)の下での特性を示す。これは、不規則な形状のヒアルロン粒子を含む既知の組成物とは対照的である。本発明の充填剤中の球状微粒子の滑らかさが、副作用がないことに関与するものと考えられる。
【国際調査報告】