(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-27
(54)【発明の名称】ピンホールに対する安定性が改善された顔料入り水性コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 175/04 20060101AFI20221220BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20221220BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20221220BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20221220BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20221220BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20221220BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20221220BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D167/00
C09D133/00
C09D7/63
C09D7/61
B05D1/36 B
B05D7/24 301F
B32B27/20 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523710
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(85)【翻訳文提出日】2022-06-08
(86)【国際出願番号】 EP2020079852
(87)【国際公開番号】W WO2021078923
(87)【国際公開日】2021-04-29
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】レーヴ,ノルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ブルム,バスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ケメラー,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】シュタインメッツ,ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】シェッファー,フロリアン
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AE06
4D075CA48
4D075DB01
4D075DB31
4D075DC12
4D075EA06
4D075EA13
4D075EA41
4D075EA43
4D075EB22
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4D075EC03
4D075EC07
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4D075EC54
4F100AA20A
4F100AK01C
4F100AK25A
4F100AK41A
4F100AK51A
4F100AR00D
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4F100BA10B
4F100BA10D
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4F100JL10A
4F100JN01D
4F100YY00A
4J038CG121
4J038DD001
4J038DG001
4J038HA446
4J038JA19
4J038JA26
4J038JA57
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA01
4J038NA12
4J038PC08
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのバインダー、少なくとも1つのモノ-、ジ-及び/又はトリグリセリド、及び少なくとも1つのシリカ化合物を含む顔料入り水性コーティング組成物に関するものである。本発明はさらに、第1の被覆で任意にコーティングされた基材上に直接ベースコート又は2つ以上の直接連続するベースコートを製造し、ベースコート上又は2つ以上のベースコートの最上位上に直接クリアコートを製造し、その後1つ以上のベースコート及びクリアコートを一緒に硬化することによって、マルチコート塗装系を製造する方法に関するものである。複数のベースコート材料の少なくとも1つは、本発明の水性コーティング組成物を含む。最後に、本発明は、本発明の方法によって得ることができるマルチコート塗装系に関するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料入り水性コーティング組成物であって、
(a) 少なくとも1つの結合剤、
(b) 前記コーティング組成物の総質量に基づいて、0.01~1質量%の総量の、不飽和又は飽和のC
6~C
30脂肪族モノカルボン酸とのグリセロールの少なくとも1つのエステル、及び
(c) 少なくとも1つのシリカ化合物
を含む、顔料入り水性コーティング組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの結合剤が、各場合とも前記コーティング組成物の全結合剤含量に基づいて、2~60質量%固体、好ましくは3~50質量%固体、より好ましくは5~45質量%固体の総量で存在する、請求項1に記載の顔料入り水性コーティング組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1つの結合剤が、ポリウレタン、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、それらのコポリマー、及びこれらのポリマーの混合物からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の顔料入り水性コーティング組成物。
【請求項4】
トリアシルグリセロールの酸成分が、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸及びオレイン酸、及びこれらの混合物から選択される、請求項1から3のいずれか1項に記載の顔料入り水性コーティング組成物。
【請求項5】
不飽和又は飽和のC
6~C
30脂肪族モノカルボン酸とのグリセロールの前記少なくとも1つのエステルが、各場合とも前記コーティング組成物の総質量に基づいて、0.05~0.5質量%、好ましくは0.15~0.4質量%の総量で存在する、請求項1から4のいずれか1項に記載の顔料入り水性コーティング組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つのシリカ化合物がヒュームドシリカから選択される、請求項1から5のいずれか1項に記載の顔料入り水性コーティング組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1つのシリカ化合物、好ましくはヒュームドシリカが、前記コーティング組成物の総質量に基づいて、0.001~1質量%、好ましくは0.005~0.5質量%、より好ましくは0.01~0.1質量%の総量で存在する、請求項1から6のいずれか1項に記載の顔料入り水性コーティング組成物。
【請求項8】
前記組成物が、一般式(I)
【化1】
(式中、
R
1は、直鎖状又は分岐状のC
1~C
10アルキル基であり、
R
2は、水素又は直鎖状又は分岐状のC
1~C
10アルキル基であり、
aは、0~10の整数であり、そして
bは、1~10の整数である)
の少なくとも1つの化合物をさらに含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の顔料入り水性コーティング組成物。
【請求項9】
一般式(I)中の残基R
1が、直鎖状又は分岐状のC
2~C
8アルキル基、好ましくは直鎖状又は分岐状のC
2~C
6アルキル基、非常に好ましくは直鎖状のC
3又はC
4アルキル基である、請求項8に記載の顔料入り水性コーティング組成物。
【請求項10】
一般式(I)中の残基R
2が、水素又は直鎖状C
1~C
4アルキル基、好ましくは水素又はC
1アルキル基、非常に好ましくは水素又はC
1アルキル基である、請求項8又は9に記載の顔料入り水性コーティング組成物。
【請求項11】
一般式(I)におけるaが、整数の0又は1、好ましくは0である、請求項8から10のいずれか1項に記載の顔料入り水性コーティング組成物。
【請求項12】
一般式(I)におけるbが、1~8の整数、好ましくは1~6、より好ましくは1~4、非常に好ましくは1である、請求項8から11のいずれか1項に記載の顔料入り水性コーティング組成物。
【請求項13】
一般式(I)の化合物が、各場合とも前記コーティング組成物の総質量に基づいて、0.1~15質量%、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは1~5質量%の総量で存在する、請求項8から12のいずれか1項に記載の顔料入り水性コーティング組成物。
【請求項14】
以下の工程:
(1) 組成物(Z1)を基材(S)に施与し、続いて施与した組成物(Z1)を硬化させることにより、前記基材(S)上に硬化した第1のコーティング層(S1)を任意に製造する工程と、
(2) 水性ベースコート材料(bL2a)を直接前記第1のコーティング層(S1)に施与するか、又は少なくとも2つの複数の水性ベースコート材料(bL2-x)を直接前記第1のコーティング層(S1)に連続施与することにより、ベースコート層(BL2a)又は少なくとも2つの直接連続した複数のベースコート層(BL2-x)を、直接前記第1のコーティング層(S1)上に製造する工程と、
(3) クリアコート材料(cm)を直接前記ベースコート層(BL2a)又は最上位のベースコート層(BL2-z)に施与することにより、クリアコート層(C)を直接前記ベースコート層(BL2a)又は前記最上位のベースコート層(BL2-z)上に製造する工程と、
(4) 前記ベースコート層(BL2a)と前記クリアコート層(C)とを、又は前記複数のベースコート層(BL2-x)と前記クリアコート層(C)とを、一緒に硬化させる工程と、
を含み、
少なくとも1つのベースコート材料(bL2a)又は複数のベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つが、請求項1から13のいずれか1項に記載の組成物を含む、基材(S)上にマルチコート塗装系(M)を製造するための方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法によって得ることができる、マルチコート塗装系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの結合剤、少なくとも1つのモノ-、ジ及び/又はトリグリセリド、及び少なくとも1つのシリカ化合物を含む、顔料入り水性コーティング組成物に関するものである。本発明はさらに、第1の被覆で任意にコーティングされた基材上に直接少なくとも1つのベースコートを製造し、最上位のベースコート層上に直接クリアコートを製造し、次いで、少なくとも1つのベースコートとクリアコートとを一緒に硬化させることによって、マルチコート塗装系を製造する方法に関するものである。複数のベースコート材料の少なくとも1つは、本発明の水性コーティング組成物を含む。最後に、本発明は、本発明の方法によって得ることができるマルチコート塗装系に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の仕上げにおいて特に、及び良好な装飾効果を特徴とし、同時に腐食に対する良好な保護を与えるコーティングが所望される他の分野において、互いに頂部に配置された2つ以上のコーティング層を基材に提供することが知られている。
【0003】
マルチコート塗装系は、好ましくは、ベースコート/クリアコート処理と呼ばれる方法に従って施与される。すなわち、顔料入りベースコート材料を最初に施与し、短時間のフラッシュオフの後、ベーク工程なしで(ウェットオンウェットプロセス)、クリアコート材料で被覆する。その後、ベースコートとクリアコートを一緒にベークする。
【0004】
この方法は幅広く用いられており、例えば、自動車のOEM仕上げに、そして金属製及びプラスチック製の付属部品の塗装に用いられる。このような塗装系(コーティング)の塗布技術的及び審美的特性に課せられる現在の要求は膨大である。
【0005】
起こっているにもかかわらず、従来技術によって依然として満足に解決されないままであった課題の1つが、ピンホールと呼ばれるものの発生であり、すなわち、ピンホールに対する不十分な安定性である。いくつかのコーティング材料、例えばベースコート及びクリアコートを連続的に施与する際、及び個々のポリマー層のそれぞれを別々に硬化させないときには、望ましくない空気、溶媒及び/又は水分の包含が存在することがあり、これは塗装系全体の表面下にある泡の形態で知覚できるものとなり、そして最終的な硬化の過程で破裂するおそれがある。この場合、ベースコート層及びクリアコート層の全体的な構造の結果として存在する有機溶媒及び/又は水の量、並びに施与手順によって導入される空気の量が多すぎるので、最終的な硬化段階の間に欠陥を生じることなくマルチコート塗装系から完全に逃れることができない。この結果として塗装系中に形成された穴もまた、ピンホールと呼ばれるものであり、不利な外観につながる。
【0006】
さらなる要因は、最近、環境への優しさに関する要件の高まりを考慮するために、有機溶媒をベースとしたコーティング材料の水性コーティング材料への置き換えが、これまでになく重要になってきているという点である。
【0007】
従って、ピンホールに対する高い安定性、良好な光学的及び着色特性、並びに優れた機械的特性を示す顔料入り水性コーティング組成物が有利である。組成物が「ウェット・オン・ウェット」コーティング法における使用に適していることも有利であろう。さらに、水性コーティング組成物は、高い貯蔵安定性を有するべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
主題
従って本発明の主題は、従来技術における上記に特定した欠点をもはや有しないコーティングを製造するために使用することができる顔料入り水性コーティング組成物を提供することである。より具体的には、その顔料入り水性コーティング組成物の使用によって、特にコーティング組成物を「ウェット・オン・ウェット」法で使用する場合に、傑出したピンホールに対する安定性がもたらされるべきである。さらに、その顔料入り水性コーティング組成物は、高い貯蔵安定性を有するべきである。
【0009】
技術的解決策
上記の目的は、特許請求の範囲に記載された主題によって、及び本明細書中で以下の記述に記載されるその主題の好ましい実施態様によって、達成される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って本発明の第1の主題は、顔料入り水性コーティング組成物であって、
(a) 少なくとも1つの結合剤、
(b) 該コーティング組成物の総質量に基づいて、好ましくは0.01~1質量%の総量の、不飽和又は飽和のC6~C30脂肪族モノカルボン酸とのグリセロールの少なくとも1つのエステル、及び
(c) 少なくとも1つのシリカ化合物
を含む、顔料入り水性コーティング組成物である。
【0011】
上記に示した水性コーティング組成物は、以下に本発明のコーティング組成物とも称され、よって本発明の主題である。本発明のコーティング組成物の好ましい実施態様は、本明細書中で以下の記載及び従属請求項から明らかである。
【0012】
本発明のコーティング組成物はピンホールに対する優れた安定性を有し、特にこのコーティング組成物が「ウェット・オン・ウェット」コーティング法で使用される場合に、ピンホールに対する優れた安定性を有する。この理論に縛られることなく、ピンホールに対する優れた安定性は、エステル化合物(b)及びシリカ化合物(c)の組み合わせに起因すると考えられる。ピンホールに対する優れた安定性とは別に、本発明のコーティング組成物は、上述した化合物(b)及び(c)の組み合せを含まないコーティング組成物に匹敵する良好な光学的及び機械的特性を有するコーティング層をもたらす。
【0013】
本発明のさらなる主題は、第1の被覆で任意にコーティングされた基材上に1つのベースコート又は2つ以上の直接連続したベースコートを直接製造し、その1つのベースコート上又はその2つ以上のベースコートの最上位のベースコート層上に直接クリアコートを製造し、その後、1つ以上のベースコートとクリアコートとを一緒に硬化させることによって、マルチコート塗装系を製造する方法である。複数のベースコート材料の少なくとも1つは、本発明の水性コーティング組成物である。
【0014】
本発明のさらに別の課題は、本発明の方法によって得ることができるマルチコート塗装系である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
定義:
まず最初に、本発明の文脈において用いられるいくつかの用語について説明する。
【0016】
「水性コーティング組成物」という表現は、当業者に知られている。これは、有機溶媒のみに基づくものではないコーティング組成物を指す。従って本発明の文脈における「水性」とは、コーティング組成物が、各場合とも存在する溶媒(すなわち、水及び有機溶媒)の総量に基づいて、少なくとも20質量、好ましくは少なくとも25質量%、非常に好ましくは少なくとも50質量%の水画分を含むことを意味すると理解される。そして水画分は、コーティング組成物の総質量に基づいて、好ましくは30~70質量%である。
【0017】
「結合剤」という用語は、本発明の意味において、且つDIN EN ISO4618(ドイツ版、日付:2007年3月)と一致して、好ましくは、その中の任意の顔料及び充填剤を除き、フィルムの形成に関与する本発明の組成物の不揮発性画分を指し、そしてより具体的には、フィルムの形成に関与するポリマー樹脂を指す。不揮発性画分は、実施例のセクションに記載の方法によって決定してよい。
【0018】
「顔料入りコーティング組成物」という用語は、本発明によれば、少なくとも1つの着色顔料及び/又は効果顔料を含むコーティング組成物を指す。
【0019】
「シリカ化合物」という用語は、本発明によれば、二酸化ケイ素の無機化合物を指す。前記化合物は、場合により、無機又は有機材料で表面処理することができる。
【0020】
「(メタ)アクリレート」という用語は、本明細書中で以下において、アクリレート及びメタクリレートの両方を指すものとする。
【0021】
本発明の文脈において報告されるあらゆる膜厚は、乾燥膜厚として理解されるべきである。従ってこれは、各場合において硬化した膜の厚さである。よって、コーティング材料が特定の膜厚で施与されることが報告されている場合、これは、硬化後に記載の膜厚になるようにコーティング材料を施与することを意味する。
【0022】
基材へのコーティング組成物の施与、又は基材上へのコーティングフィルムの製造は、以下のように理解される:それぞれのコーティング組成物を、その組成物から製造されたコーティングフィルムが基材上に配置されるように施与するが、必ずしも基材と直接接触する必要はない。それ故、コーティングフィルムと基材との間に他の層が存在してよい。例えば、任意の工程(1)において、硬化したコーティング層(S1)が金属基材(S)上に形成されるが、後述する変換コーティング、例えばリン酸亜鉛コーティングが基材と硬化したコーティング層(S1)との間に配置されてもよい。
【0023】
対照的に、コーティング組成物を直接基材に施与するか、又はコーティングフィルムを直接基材上に製造すると、製造されたコーティングフィルムと基材とが直接接触する。よって、より具体的には、コーティングフィルムと基材との間に他の層は存在しない。無論、同じ原理が、コーティング組成物の直接連続施与又は直接連続するコーティングフィルムの製造に、例えば本発明の工程(2)(b)において、適用される。
【0024】
「フラッシュオフ」という用語は、施与後、通常は周囲温度(すなわち室温)、例えば15~35℃で、或る期間、例えば0.5~30分間、コーティング組成物中に存在する有機溶媒及び/又は水を蒸発させることを意味する。コーティング組成物は、少なくとも液滴形態で施与された直後は、まだ自由に流動しているので、垂れにより、均一で滑らかなコーティングフィルムを形成することができる。しかし、フラッシュオフ操作後のコーティングフィルムは、まだ使用可能な状態ではない。例えば、それはもはや自由に流動しないが、依然として軟質及び/又は粘着性であり、そして場合によっては部分的にしか乾燥していない。より具体的には、後述するように、コーティングフィルムはまだ硬化していない。
【0025】
対照的に、中間乾燥は、例えば、より高い温度及び/又はより長い期間行われ、その結果、フラッシュオフと比較して、より高い割合の有機溶媒及び/又は水が、施与されたコーティングフィルムから蒸発する。よって中間乾燥は、通常、周囲温度に対して高めた温度、例えば40~90℃で、例えば1~60分間行われる。しかし、中間乾燥でも、コーティングフィルムは使用可能な状態、すなわち後述する硬化したコーティングフィルムとはならない。フラッシュオフ及び中間乾燥操作の典型的なシーケンスは、例えば、施与されたコーティングフィルムを周囲温度で5分間フラッシュオフし、次いで、それを80℃で10分間中間乾燥することを伴う。
【0026】
このようにコーティングフィルムの硬化とは、そのフィルムをそのまま使用できる状態、すなわち、それぞれのコーティングフィルムを備えた基材を、意図した輸送、保管及び使用ができる状態に変換することを意味すると理解される。より具体的には、硬化させたコーティングフィルムは、もはや軟質でも粘着性でもないが、固体コーティングフィルムとして調整されており、以下に記載するような硬化条件へのさらなる曝露下においても、その特性、例えば硬度又は基材上の接着性に、さらなる有意な変化を受けない。
【0027】
本発明のコーティング組成物は、1成分又は2成分系として配合することができる。1成分系では、架橋させる成分、例えば、結合剤及び架橋剤としての有機ポリマーは、互いに共に存在する、すなわち、1成分中に存在する。そのためには、架橋される成分が、例えば100℃を超える比較的高温でのみ互いに反応する、すなわち硬化反応に入ることが必要である。組み合わせの例として、ヒドロキシ官能性ポリエステル及び/又はポリウレタンと、架橋剤としてのメラミン樹脂及び/又はブロック化ポリイソシアネートとの組み合わせが挙げられる。2成分系では、架橋させる成分、例えば、結合剤としての有機ポリマー及び架橋剤は、施与の直前にのみ結合される少なくとも2つの成分中に別々に存在する。この形態は、架橋させる成分が、周囲温度又はわずかに高い温度、例えば40~90℃でさえも互いに反応する場合に選択される。組み合わせの例は、ヒドロキシ官能性ポリエステル及び/又はポリウレタン及び/又はポリ(メタ)アクリレートと、架橋剤としての遊離ポリイソシアネートとの組み合わせである。
【0028】
或る特定の特性変数を決定するために本発明に関連して使用される測定方法は、実施例のセクションから明らかである。特に明記しない限り、これらの測定方法は、それぞれの特性変数を決定するために使用するものとする。
【0029】
本発明の文脈において例示されるあらゆる温度は、コーティングされた基材が存在する部屋の温度として理解される。よって基材自体が特定の温度を有していなければならないという意味ではない。
【0030】
本発明との関連において公定規格に言及する場合、この公定規格は当然ながら、出願日において現行であった規格のバージョンを意味し、又は、現行バージョンが当該出願日において存在しない場合は当該出願日において最新の現行バージョンを意味する。
【0031】
本発明の水性コーティング組成物:
結合剤(a):
第1の必須構成成分として、本発明のコーティング組成物は、少なくとも1つの結合剤を含む。
【0032】
結合剤は、好ましくは、規定された総量で本発明の水性コーティング組成物中に存在する。従って本発明の好ましい一実施態様では、少なくとも1つの結合剤は、各場合ともコーティング組成物の全結合剤含量に基づいて、2~60質量%固体、好ましくは3~50質量%固体、より具体的には5~45質量%固体の総量で存在する。1つを超える結合剤が使用される場合には、上記の量範囲は、組成物中の結合剤の総量に基づく。上記の量範囲で少なくとも1つの結合剤を使用すると、硬化時に本発明の組成物の貯蔵安定性に悪影響を及ぼすことなく、良好な機械的特性が得られる。
【0033】
本発明の文脈において、少なくとも1つの結合剤がポリウレタン、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、それらのコポリマー、及びこれらのポリマーの混合物からなる群から選択される場合に有利であることが証明された。特に好ましいコポリマーは、ポリウレタン及びポリ(メタ)アクリレートのコポリマーである。
【0034】
好ましくは、少なくとも1つの結合剤は、各場合ともコーティング組成物の総固形分含量に基づいて、2~60質量%固体、好ましくは3~50質量%固体、より具体的には5~45質量%固体の総量で存在する。
【0035】
ポリウレタンは、好ましくは、アニオン安定化ポリウレタンから選択される。一般にアニオン安定化結合剤、及び特にアニオン安定化ポリウレタンは、本発明によれば、中和剤によってアニオン性基(潜在的なアニオン性基)に変換することができる基を含む結合剤であると理解される。中和剤によってアニオン性基に変換することができるアニオン性基は、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基及び/又はホスホン酸基、より具体的にはカルボン酸基である。
【0036】
アニオン安定化ポリウレタン樹脂は、水性分散体の形態で使用される。水性ポリウレタン樹脂分散体の調製は当業者に知られており、例えばEP-A-89,497にも記載されている。本発明により使用されるアニオン安定化ポリウレタン樹脂は、通常、下記を反応させることによって調製される:
(1) ポリエステル成分であって、
- 少なくとも50質量%、好ましくは50~60質量%の少なくとも1つのC18~C60-ジカルボン酸、好ましくはC36ジカルボン酸、及び少なくとも1つの短鎖ジカルボン酸、好ましくは無水フタル酸から構成される、カルボン酸成分と、
- 少なくとも2つのヒドロキシル基を有するアルコール、好ましくは1,6-ヘキサンジオール
との反応生成物から構成される、ポリエステル成分、
(2) 少なくとも1つの活性水素及び少なくとも1つのカルボン酸官能基を有する多官能性化合物、好ましくは2,2-ビス-(ヒドロキシメチル)-プロピオン酸、
(3) ポリイソシアネート、好ましくは3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル-イソシアナート、及び
(4) ヒドロキシル、スルフヒドリル、第1級及び第2級アミン、好ましくはトリメチロールプロパンからなる群から選択される少なくとも2つの活性水素基を有する化合物。
【0037】
ポリウレタン樹脂は通常、少なくとも1,000g/モルの数平均分子量Mnを有する。アニオン安定化ポリウレタンの数平均分子量Mnは、好ましくは少なくとも4,000g/モル、特に好ましくは5,000~8000g/モルの間である。本出願において引用される数平均分子量に関するデータは、ポリスチレン標準を用いて行われるゲル浸透クロマトグラフィーによる測定に関する。当業者は、ポリウレタン樹脂の分子量に影響を及ぼすいくつかの可能性を認識している。例えば、分子量は、使用されるNCO基の当量と、成分(1)、(2)及び(4)において使用されるNCO基に対して反応性の基の当量との間の比によって影響される可能性がある。さらに、分子量は、(1)、(2)及び(3)から調製したNCO基含有プレポリマーと成分(4)との反応を介して、使用する成分(4)の量により、調整することができる。(4)は、成分(4)からの遊離NCO基及びヒドロキシル基の当量の間の比に応じて、末端基形成剤又は鎖延長剤として機能する。また、分子量は、所望の分子量に達した時点で反応を終了させることによって、例えば、反応温度を急速に低下させることによって、及び/又はまだ存在している任意のイソシアネート基と反応する共反応物を添加することによって、鎖延長の発生なしで、調節することもできる(例えば、水、成分(4)又は1つのNCO反応性基のみを多量に含む成分)。
【0038】
ポリウレタン樹脂は、DIN EN ISO2114:2006-11に準拠して決定して、7~50mgKOH/g固体、好ましくは15~35mgKOH/g固体の酸価を有することが好ましい。
【0039】
成分(1)として使用できるポリエステルポリオール及びポリエーテルポリオールは、好ましくは、ポリエステルジオール及びポリエーテルジオールである。ポリエステルジオールを成分(1)成分として使用することが好ましい。成分(1)は、好ましくは、ポリウレタン樹脂の50~80質量%、特に好ましくは60~70質量%を占める量で用いられ、質量パーセントは、ポリウレタン樹脂分散体の固形分含量に対するものである。
【0040】
カルボキシル基は、好ましくは、成分(2)を介してポリウレタン樹脂分子に導入される。これは、例えば、ジヒドロキシプロピオン酸、ジヒドロキシコハク酸及びジヒドロキシ安息香酸を用いて行うことができる。カルボキシル基をポリウレタン樹脂分子に導入するための好ましい成分(2)は、α,α-ジメチロールアルカン酸、例えば2,2-ジメチロール酢酸、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロール酪酸、及び2,2-ジメチロールペンタン酸である。カルボキシル基は、アミノ基、例えばα,ε-ジアミノ吉草酸及び3,4-ジアミノ安息香酸を含有する成分(c)を介して導入することもできる。しかしながら、アミノ基を含有する成分(2)の使用は、あまり好ましくない。
【0041】
成分(3)として、式(II)
OCN-C(R1R2)-X-C(R1R2)-NCO (II)
(式中、
Xは、2価の芳香族炭化水素ラジカル、好ましくはナフチレン、ビフェニレン、1,2-フェニレン、1,3-フェニレン又は1,4-フェニレンラジカル、特に好ましくは1,3-フェニレンラジカルを表し、それぞれ場合によりハロゲン、メチル又はメトキシで置換されており、そして
R1及びR2は、互いに独立して、1~4個の炭素原子を有するアルキルラジカル、特に好ましくはメチルラジカルを表す)
のジイソシアネート又はこのようなジイソシアネートの混合物を使用する。
【0042】
式(II)のジイソシアネートに加えて、他の脂肪族及び/又は脂環式及び/又は芳香族ポリイソシアネートを使用することもできる。追加的に使用できるポリイソシアネートの例は、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビスフェニレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロペンチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、エチルエチレンジイソシアネート及びトリメチルヘキサンジイソシアネートである。2より高い官能性を有するポリイソシアネートも、ジイソシアネートに加えて使用することができる。ただし、この場合、架橋ポリウレタン樹脂が得られないように注意しなければならない。所望される場合、モノイソシアネートを同時に使用することにより、平均官能価を低下させることができる。
【0043】
成分(3)として、式(II)のジイソシアネート、又はこのようなジイソシアネートの混合物のみを使用することが好ましい。成分(3)として、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル-イソシアナートを使用することが特に好ましい。
【0044】
成分(4)として特に、60~400g/モル(数平均)の分子量を有し、少なくとも2つのヒドロキシル基又はアミノ基を含有する化合物を使用することができる。成分(4)として、1~6個の炭素原子を有する脂肪族ジオール又はトリオール化合物、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール又はトリメチロールプロパンを使用することが好ましい。
【0045】
成分(4)の組み込みは、好ましくは、NCO基を含有するプレポリマーを最初に(1)、(2)及び(3)から調製し、次いでそのプレポリマーを水相中で成分(4)とさらに反応させることによって行う(EP-A-89,497参照)。その後、成分(2)のカルボン酸基を、塩基で中和する。カルボン酸基を中和するために、有機塩基と無機塩基の両方を使用することができる。第1級、第2級及び第3級アミン、例えばエチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、モルホリン、ピペリジン及びトリエタノールアミンの使用が好ましい。第3級アミン、特にジメチルエタノールアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン及びトリブチルアミンが、中和剤として特に好ましく使用される。
【0046】
本発明のコーティング組成物は一般に、アニオン安定化ポリウレタンを、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、2~15質量%、好ましくは3~12質量%、より好ましくは6~9質量%の総量で含有すべきである。
【0047】
他の水で薄めることが可能な合成樹脂、例えばアミノ樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリエステル樹脂及びポリエーテル樹脂は、無論、当該の水性アニオン安定化ポリウレタン樹脂分散体に加えて使用することができる。適した樹脂は、例えば、少なくとも1つのポリヒドラジド及び少なくとも1つのカルボニル含有ウレタン-ビニルハイブリッドポリマーを含む自己架橋性水性分散体である。適した自己架橋性水性分散体は、例えば、EP0649865A1に記載されている。
【0048】
適したポリエステル樹脂は、
- 40~50質量%の少なくとも1つのC18~C60-ジカルボン酸、好ましくはC36ジカルボン酸、及び少なくとも1つの短鎖ジカルボン酸、好ましくはヘキサヒドロフタル酸無水物及び/又はトリメリット酸無水物を含むカルボン酸成分と、
- 少なくとも2つのヒドロキシル基を有する少なくとも1つのアルコール、好ましくはネオペンチルグリコール及び/又は1,6-ヘキサンジオール及び/又はポリ(テトラメチレンオキシド)を含むアルコール成分と
の反応生成物である。
【0049】
ポリエステルは、好ましくは、DIN EN ISO2114:2002-06に準拠して決定して、20~110mgKOH/g固体、好ましくは40~100mgKOH/g固体、非常に好ましくは60~80mgKOH/g固体のOH価を有する。
【0050】
本発明内で適したポリエステルは、アニオン安定化することができるか、又はアニオン性基を含まなくてもよい。よって、ポリエステルが、DIN EN ISO 2114:2006-11に準拠して決定して、0~80mgKOH/g固体、好ましくは15~60mgKOH/g固体、非常に好ましくは25~40mgKOH/g固体の酸価を有する場合が好ましい。本発明のコーティング組成物は一般に、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、0.1~15質量%、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは1~5質量%の総量でポリエステルを含有すべきである。
【0051】
本発明のコーティング組成物は、好ましくは、少なくとも1つのポリウレタンポリ(メタ)アクリレートも含み、前記ポリウレタンポリ(メタ)アクリレートコポリマーは、少なくとも1つの不飽和基を含有するポリウレタンの存在下における、少なくとも1つの不飽和モノマーのラジカル重合によって得られる。
【0052】
少なくとも1つの不飽和基を含有するポリウレタンは、好ましくは、
(1) ポリエステル成分であって、
- 少なくとも50質量%、好ましくは50~60質量%の少なくとも1つのC18~C60-ジカルボン酸、好ましくはC36ジカルボン酸、及び少なくとも1つの短鎖ジカルボン酸、好ましくはイソフタル酸から構成される、カルボン酸成分と、
- 少なくとも2つのヒドロキシル基を有するアルコール、好ましくは1,6-ヘキサンジオール
との反応生成物から構成される、ポリエステル成分、
(2) 少なくとも1つの活性水素及び少なくとも1つのカルボン酸官能基を有する多官能性化合物、好ましくは2,2-ビス-(ヒドロキシメチル)-プロピオン酸、
(3) ポリイソシアネート、好ましくは3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル-イソシアナート、及び
(4) 少なくとも1つの環状アミン、好ましくはN-メチルピロリドン、少なくとも2つのヒドロキシ基を含む少なくとも1つの第2級アミン、好ましくはジエタノールアミン、及び少なくとも1つの芳香族モノイソシアネート、好ましくは1-(1-イソシアナト-1-メチルエチル)-3-(1-メチルエテニル)-ベンゼンの反応生成物
を反応させることによって得られる。
【0053】
ポリウレタンの組み込みは、好ましくは、NCO基を含有するプレポリマーを最初に(1)、(2)及び(3)から調製し、次いでそのプレポリマーを水相中で反応生成物(4)とさらに反応させることによって行う。その後、成分(2)のカルボン酸基を、塩基で中和する。カルボン酸基を中和するために、有機塩基と無機塩基の両方を使用することができる。第1級、第2級及び第3級アミン、例えばエチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、モルホリン、ピペリジン及びトリエタノールアミンの使用が好ましい。第3級アミン、特にジメチルエタノールアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン及びトリブチルアミンが、中和剤として特に好ましく使用される。
【0054】
本発明の組成物に使用されるポリウレタンポリ(メタ)アクリレートコポリマーを調製するのに適したモノマーの例は、以下のとおりである:
【0055】
モノマー(a1)
アクリル酸、メタクリル酸又は別のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステルであって、酸でエステル化されたアルキレングリコールから誘導されるもの、又は酸をアルキレンオキシドと反応させることによって得ることができるもの、特にヒドロキシアルキル基が20個以下の炭素原子を含有するアクリル酸、メタクリル酸又はエタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、例えば2-ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシプロピル、3-ヒドロキシプロピル、3-ヒドロキシブチル、4-ヒドロキシブチルアクリレート、メタクリレート、エタクリレート又はクロトネート、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデンジメタノール又はメチルプロパンジオールモノアクリレート、モノメタクリレート、モノエタクリレート又はモノクロトネート、又は環状エステルの反応生成物、例えばε-カプロラクトン、及びこれらのヒドロキシアルキルエステル、又はオレフィン性不飽和アルコール、例えばアリルアルコール又はポリオール、例えばトリメチロールプロパンモノアリル又はジアリルエーテル又はペンタエリスリトールモノアリル、ジアリル又はトリアリルエーテル。より高官能であるこれらのモノマー(a1)は一般に、使用されるモノマーの全体の質量に基づいて、2~10質量%の少量でのみ使用される。
【0056】
モノマー(a2)
アルキルラジカルに20個以下の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸アルキル又はシクロアルキルエステル、特にメチル、エチル、プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ヘキシル、エチルヘキシル、ステアリル及びラウリルアクリレート又はメタクリレート、脂環式(メタ)アクリル酸エステル、特にシクロヘキシル、イソボルニル、ジシクロペンタジエニル、オクタヒドロ-4,7-メタノ-1Hインデンメタノール又はtert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸オキサアルキルエステル又はオキサシクロアルキルエステル、例えば好ましくは550g/モルの分子量Mnを有するエチルトリグリコール(メタ)アクリレート及びメトキシオリゴグリコール(メタ)アクリレート;又は他のエトキシル化及び/又はプロポキシル化されたヒドロキシルを含まない(メタ)アクリル酸誘導体。
【0057】
モノマー(a3)
分子当たり少なくとも1つの酸基、好ましくはカルボキシル基をもつエチレン性不飽和モノマー、又はそのようなモノマーの混合物。成分(a3)として、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を用いることが特に好ましい。しかしながら、分子中に6個以下の炭素原子を有する他のエチレン性不飽和カルボン酸を使用することも可能である。そのような酸の例は、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸である。エチレン性不飽和スルホン酸又はホスホン酸、及び/又はそれらの部分エステルを成分(a3)として使用することも可能である。さらに適したモノマー(a3)には、モノ(メタ)アクリロイル-オキシエチルマレエート、スクシネート、及びフタレートが含まれる。
【0058】
モノマー(a4)
分子内に5~18個の炭素原子を有するアルファ-分岐モノカルボン酸のビニルエステル。分岐モノカルボン酸は、ギ酸又は一酸化炭素及び水を、液体の強酸性触媒の存在下でオレフィンと反応させることにより得られ、オレフィンは、パラフィン系炭化水素、例えば鉱物油画分からの分解生成物であってよく、そして分岐鎖及び直鎖両方の非環式及び/又は脂環式オレフィンを含有してよい。このようなオレフィンと、ギ酸及び/又は一酸化炭素及び水との反応では、カルボキシル基が主として第4炭素原子上に位置するカルボン酸の混合物が形成される。他のオレフィン系出発物質は、例えば、プロピレン三量体、プロピレン四量体、及びジソブチレンである。あるいは、ビニルエステルを、酸から従来の方法で、例えば酸とアセチレンとを反応させることによって、調製してよい。入手しやすいことから特に好ましいのは、9~11個の炭素原子を有し、アルファ炭素原子上で分岐している飽和脂肪族モノカルボン酸のビニルエステルの使用である。
【0059】
モノマー(a5)
アクリル酸及び/又はメタクリル酸と、分子当たり5~18個の炭素原子を有するアルファ-分岐モノカルボン酸のグリシジルエステルとの反応生成物。アクリル酸又はメタクリル酸と、第3級アルファ炭素原子を有するカルボン酸のグリシジルエステルとの反応は、重合反応の前、重合反応の最中又は重合反応の後に行ってよい。成分(a5)として、アクリル酸及び/又はメタクリル酸と、Versatic(登録商標)酸のグリシジルエステルとの反応生成物を用いることが好ましい。このグリシジルエステルは、Cardura(登録商標)E10という名称で市販されている。
【0060】
モノマー(a6)
酸基、例えばオレフィン、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、シクロヘキセン、シクロペンテン、ノルボルネン、ブタジエン、イソプレン、シクロペンタジエン及び/又はジシクロペンタジエンを実質的に含まないエチレン性不飽和モノマー;(メタ)アクリルアミド、例えば(メタ)アクリルアミド、N-メチル-、N,N-ジメチル-、N-エチル-、N,N-ジエチル-、N-プロピル-、N,N-ジプロピル、N-ブチル-、N,N-ジブチル-、N-シクロヘキシル及び/又はN,N-シクロヘキシル-メチル-(メタ)アクリルアミド;ビニル芳香族炭化水素、例えばスチレン、アルファアルキルスチレン、特にα-メチルスチレン、アリールスチレン、特にジフェニルエチレン及び/又はビニルトルエン、ニトリル、例えばアクリロニトリル及び/又はメタクリロニトリル;ビニル化合物、例えば塩化ビニル、フッ化ビニル、ビニリデンジクロリド、ビニリデンジフルオリド;N-ビニルピロリドン;ビニルエーテル、例えばエチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル及び/又はビニルシクロヘキシルエーテル;ビニルエステル、例えばビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニルピバレート、Versatic(登録商標)酸のビニルエステル、及び/又は2-メチル-2-エチルヘプタン酸のビニルエステル;及び/又は分子当たり平均で0.5~2.5のエチレン性不飽和二重結合を有するポリシロキサンマクロモノマー、又は
ヒドロキシ官能性シランをエピクロロヒドリンと反応させ、次いで反応生成物をメタクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルと反応させることによって得ることができる、アクリロキシシラン含有ビニルモノマー。
【0061】
特に適した不飽和モノマーは、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のC1~C10アルキルエステル、ビニル芳香族化合物及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0062】
本発明のコーティング組成物は一般に、ポリウレタンポリ(メタ)アクリレートコポリマーを、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、0.1~10質量%、好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.5~2質量%の総量で含有すべきである。
【0063】
特に好ましいコーティング組成物は、結合剤として、少なくとも上述のアニオン安定化ポリウレタン、ポリエステル及びポリウレタンポリ(メタ)アクリレート樹脂を含有する。この点で、アニオン安定化ポリウレタンのポリエステル及びポリウレタンポリ(メタ)アクリレートコポリマーに対する質量比が15:8:1~5:1:1、好ましくは9:5:1~6:3:1である場合が特に好ましい。
【0064】
グリセロールと不飽和又は飽和のC6~C30脂肪族モノカルボン酸とのエステル(b):
第2の必須構成成分(b)として、本発明のコーティング組成物は、グリセロールと不飽和又は飽和のC6~C30脂肪族モノカルボン酸との少なくとも1つのエステルを含む。
【0065】
本発明の意味における化合物(b)は、モノカルボン酸で部分的又は完全にエステル化されたグリセロール化合物であり、モノ-、ジ-又はトリグリセリドとも呼ばれる。よって化合物(b)は、1つ、2つ又は3つの飽和又は不飽和酸成分でエステル化されたグリセロール骨格を含み、各酸成分は、6~30個の炭素原子を含む。化合物(b)は、好ましくは、約400~約1,000g/モルの数平均分子量を有する。酸成分は、好ましくは、亜麻仁油、大豆油、ヒマワリ油、ベニバナ油、麻仁油、キリ油、オイチシカ油、コーン油、ゴマ油、綿実油、ヒマシ油、オリーブ油、落花生油、菜種油、ココナッツ油、ババス油、及びパーム油の少なくとも1種から選択される。上記の酸成分の種々の組み合せ及び混合物も、本発明で利用してもよいことを理解されたい。
【0066】
酸成分が、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、及びオレイン酸及びこれらの混合物から選択される場合が特に好ましい。特に適した化合物(b)は、前記酸成分のモノ-、ジ-及びトリグリセリド、すなわちパルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸及びオレイン酸のモノ-、ジ-及びトリグリセリドの混合物である。モノ-、ジ-及びトリグリセロールの前記混合物を化合物(c)と組み合わせて使用すると、本発明のコーティング組成物で調製されたコーティング層におけるピンホールの有意な減少がもたらされる。
【0067】
少なくとも1つの化合物(b)、特にパルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸及びオレイン酸のモノ-、ジ-及びトリグリセリドの混合物は、好ましくは、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、0.01~1質量%、より好ましくは0.05~0.5質量%、非常に好ましくは0.15~0.4質量%の総量で存在する。
【0068】
シリカ化合物(c)
第3の必須構成成分(c)として、本発明のコーティング組成物は、少なくとも1つのシリカ化合物を含む。
【0069】
特定の好ましいシリカ化合物(c)は、ヒュームドシリカから選択される。フュームドシリカ(CAS番号112945-52-5)は、火炎中で生成されることから発熱性シリカとしても知られており、分岐した鎖状の三次元二次粒子中に融解し、次いで凝集して三次粒子となる非晶質シリカの微細な液滴からなる。得られた粉末は、極めて低いかさ密度と高い表面積を有する。
【0070】
少なくとも1つのシリカ化合物(d)、好ましくはヒュームドシリカは、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、0.001~1質量%、好ましくは0.005~0.5質量%、より好ましくは0.01~0.1質量%の総量で存在する。記載の量のシリカ化合物(d)、好ましくはヒュームドシリカを、化合物(b)及び(c)と組み合わせて使用すると、本発明のコーティング組成物から調製されたコーティング層のピンホールが減少する。
【0071】
顔料:
本発明のコーティング組成物は顔料入り組成物であり、すなわち、少なくとも1つの着色及び/又は効果顔料を含む。このような色顔料は当業者に知られており、例えば、Roempp-Lexikon Lacke and Druckfarben,Georg Thieme Verlag,Stuttgart,New York、1998年、第176頁及び第451頁に記載されている。「着色顔料」及び「色顔料」という用語は、交換可能である。
【0072】
適した色顔料は、好ましくは、(i)白色顔料、例えば二酸化チタン、白色亜鉛、硫化亜鉛又はリトポン、(ii)黒色顔料、例えばカーボンブラック、鉄マンガンブラック又はスピネルブラック、(iii)有彩顔料、例えばウルトラマリングリーン、ウルトラマリンブルー、マンガンブルー、ウルトラマリンバイオレット、マンガンバイオレット、酸化鉄レッド、モリブデートレッド、ウルトラマリンレッド、酸化鉄ブラウン、混合ブラウン、スピネル相及びコランダム相、酸化鉄イエロー、ビスマスバナデート、(iv)有機顔料、例えばモノアゾ顔料、ビスアゾ顔料、アントラキノン顔料、ベンズイミダゾール顔料、キナクリドン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ジオキサジン顔料、インダントロン顔料、イソインドリン顔料、イソインドリノン顔料、アゾメチン顔料、チオインジゴ顔料、金属錯体顔料、プリノン顔料、ペリレン顔料、フタロシアニン顔料、アニリンブラック、及び(v)それらの混合物からなる群から選択される。
【0073】
適した効果顔料は、好ましくは、(i)血小板状金属効果顔料、例えば層状アルミニウム顔料、(ii)金ブロンズ、(iii)酸化ブロンズ及び/又は酸化鉄アルミニウム顔料、(iv)真珠光沢顔料、例えば真珠エッセンス、(v)塩基性炭酸鉛、(vi)酸化ビスマス塩化物及び/又は金属酸化物マイカ顔料、(vii)層状顔料、例えば層状黒鉛、層状酸化鉄、(viii)PVDフィルムから構成される多層効果顔料、(ix)液晶ポリマー顔料、及び(x)その混合物からなる群から選択される。
【0074】
少なくとも1つの顔料、好ましくは少なくとも1つの着色及び/又は効果顔料は、好ましくは、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、1~40質量%、好ましくは2~35質量%、より好ましくは5~30質量%の総量で存在する。
【0075】
一般式(I)の化合物
本発明のコーティング組成物は、一般式(I)の少なくとも1つのヒドロキシ化合物をさらに含むことができる。
【0076】
一般式(I)の好ましい化合物は、残基R1として直鎖のアルキル基を含む。よって一般式(I)中の残基R1が、直鎖状又は分岐状のC2~C8アルキル基、好ましくは直鎖状又は分岐状のC2~C6アルキル基、非常に好ましくは直鎖状のC3又はC4アルキル基である場合が好ましい。
【0077】
本発明のコーティング組成物に好ましく用いられる式(I)の化合物は、分岐状又は直鎖状いずれかのヒドロキシ化合物である。従って、一般式(I)中の残基R2は、好ましくは水素又は直鎖状C1~C4アルキル基であり、より好ましくは水素又はC1アルキル基であり、非常に好ましくは水素又はC1アルキル基である。
【0078】
式(I)における整数a及びbは、好ましくは、特定の整数を示す。このように、一般式(I)におけるaは、整数の0又は1である場合が好ましく、好ましくは0である。
【0079】
好ましくは、一般式(I)におけるbは、1~8の整数、好ましくは1~6、より好ましくは1~4、非常に好ましくは1である。
【0080】
特に好ましい一般式(I)の化合物は、n-プロポキシプロパノール又はn-ブトキシプロパノールから選択される。
【0081】
上記成分(b)及び(c)の使用により達成されるピンホール数の減少に対する悪影響を回避するために、本発明のコーティング組成物は、好ましくは、一般式(I)の化合物を特定量で含有する。従って一般式(I)の化合物が、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、0.1~15質量%、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは1~5質量%の総量で存在する場合が好ましい。
【0082】
さらなる構成成分:
本発明の顔料入り水性コーティング組成物は、上記の必須構成成分(a)~(c)及び式(I)の化合物の他に、ポリプロピレンオキシド、中和剤、増粘剤、架橋剤、添加剤及びそれらの混合物の群から選択されるさらなる構成成分を含んでもよい。
【0083】
ポリプロピレンオキシドは、好ましくは、ポリスチレンを内部標準として使用するゲル浸透クロマトグラフィーにより決定して、200~4,000g/モル、より好ましくは1,000~3,500g/モル、非常に好ましくは2,000~3,000g/モルの平均分子量Mwを有する。
【0084】
この文脈において、ポリプロピレンオキシドが、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、0.01~1質量%、より好ましくは0.05~0.5質量%、非常に好ましくは0.15~0.4質量%の総量で存在する場合が好ましい。
【0085】
適した中和剤、増粘剤及び架橋剤は当業者に周知であり、慣用量で存在させることができる。
【0086】
さらに、本発明の組成物は、少なくとも1つの添加剤も含むことができる。そのような添加剤の例は、残留物なしで、又は実質的に残留物なしで熱分解することができる塩、前述のポリマーとは異なる樹脂、有機溶媒、反応性希釈剤、透明顔料、充填剤、分子分散体に可溶な染料、ナノ粒子、光安定剤、酸化防止剤、脱気剤、乳化剤、スリップ添加剤、重合阻害剤、フリーラジカル重合の開始剤、接着促進剤、フロー制御剤、フィルム形成補助剤、たれ制御剤(SCA)、難燃剤、腐食阻害剤、ワックス、乾燥剤、殺生物剤、及びつや消し剤である。前述の種類の適した添加剤は、例えば、ドイツ特許出願DE19948004A1、第14ページ第4行目~第17ページ第5行目、ドイツ特許DE10043405C1、第5欄、段落[0031]~[0033]から知られている。それらは、慣例且つ既知の量で使用される。例えば、その割合は、各場合とも、コーティング組成物の総質量に基づいて、1.0~20質量%の範囲であってよい。
【0087】
本発明のコーティング組成物は、比較的高い固形分を有する。固形分含量は、主として、施与に必要な粘度、より具体的にはスプレー塗布に必要な粘度によって導かれるので、当業者は、自身の一般的な技術知識に基づいて、場合によっては、いくつかの探索的試験の助けを借りて、調整してよい。従って組成物が、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、DIN EN ISO3251(2008年6月)に準拠して測定して、10~60質量%、より好ましくは12~55質量%、非常に好ましくは15~50質量%の固形分含量を有する場合が好ましい。高い固形分を考慮しても、本発明のコーティング組成物は、その貯蔵安定性に悪影響を及ぼすことなく、良好な環境プロフィールを有する。貯蔵安定性は例えば、経時的な液体状態における粘度測定によって記載することができる。
【0088】
マルチコート塗装系を製造するための本発明の方法:
マルチコート塗装系(M)を基材(S)上に製造するための本発明の方法は、以下の工程:
(1) 組成物(Z1)を基材(S)に施与し、続いて施与した組成物(Z1)を硬化させることにより、基材(S)上に硬化した第1のコーティング層(S1)を任意に製造する工程と、
(2) 水性ベースコート材料(bL2a)を直接第1のコーティング層(S1)に施与するか、又は少なくとも2つの複数の水性ベースコート材料(bL2-x)を直接第1のコーティング層(S1)に連続施与することにより、ベースコート層(BL2a)又は少なくとも2つの直接連続した複数のベースコート層(BL2-x)を、直接第1のコーティング層(S1)上に製造する工程と、
(3) クリアコート材料(cm)を直接ベースコート層(BL2a)又は最上位のベースコート層(BL2-z)に施与することにより、クリアコート層(C)を直接ベースコート層(BL2a)又は最上位のベースコート層(BL2-z)上に製造する工程と、
(4) ベースコート層(BL2a)とクリアコート層(C)とを、又は複数のベースコート層(BL2-x)とクリアコート層(C)とを、一緒に硬化させる工程と、
を含み、
少なくとも1つのベースコート材料(bL2a)又は複数のベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つが、本発明のコーティング組成物を含む。
【0089】
基材(S)は、好ましくは、金属基材、プラスチック基材、強化プラスチック基材、及び金属成分とプラスチック成分とを含む基材から選択され、特に好ましくは、金属基材から選択される。
【0090】
この点で、好ましい金属基材(S)は、鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、マグネシウム及びこれらの合金、及び鋼から選択される。好ましい基材は鉄及び鋼のものであり、例として自動車産業分野で使用される典型的な鉄及び鋼の基材が挙げられる。基材自体は如何なる形状でもよく、すなわち、例えば、単純な金属パネルか、或いは複雑な構成要素、例えば特に自動車のボディ及びその部品などでよい。
【0091】
好ましいプラスチック基材(S)は基本的に、(i)極性プラスチック、例えばポリカーボネート、ポリアミド、ポリスチレン、スチレンコポリマー、ポリエステル、ポリフェニレンオキシド及びこれらのプラスチックのブレンド、(ii)合成樹脂、例えばポリウレタンRIM、SMC、BMC、及び(iii)ゴム含量の高いポリエチレン及びポリプロピレン型のポリオレフィン基材、例えばPP-EPDM、及び表面活性化ポリオレフィン基材を含むか、又はこれらからなる基材である。プラスチックはさらに、特に炭素繊維及び/又は金属繊維を用いて繊維強化されていてよい。
【0092】
基材(S)としてさらに、金属画分及びプラスチック画分の両方を含有するものを使用することも可能である。この種の基材は、例えば、プラスチック部品を含有する車体である。
【0093】
基材(S)は、本発明の方法の工程(1)の前に、又は組成物(Z1)を施与する前に、任意の従来の方法、すなわち、例えば、洗浄(例えば、機械的及び/又は化学的に)、及び/又は既知の変換コーティングの提供(例えば、リン酸塩処理及び/又はクロメート処理)、又は表面活性化前処理(例えば、火炎処理、プラズマ処理及びコロナ放電)で、前処理してよい。
【0094】
工程(1):
本発明の方法の工程(1)では、組成物(Z1)を基材(S)に施与し、続いて組成物(Z1)を硬化させることによって、硬化した第1のコーティング層(S1)を基材(S)上に製造する。この工程は、好ましくは、基材(S)が金属基材である場合に行う。
【0095】
組成物(Z1)は、電着被覆材料であってよく、そしてプライマーコートであってもよい。しかしながら、本発明によるプライマーコートは、本発明の方法の工程(2)で施与されるベースコートではない。本発明の方法は、好ましくは、金属基材(S)を用いて実施する。従って第1の被覆(S1)は、より具体的には硬化した電着被覆(E1)である。よって本発明の方法の好ましい一実施態様では、組成物(Z1)は、基材(S)に電気泳動的に適用される電着被覆材料である。適した電着被覆材料及びそれらの硬化は、WO2017/088988A1、WO9833835A1、WO9316139A1、WO0102498A1及びWO2004018580A1に記載されている。
【0096】
施与した組成物(Z1)は、例えば15~35℃で、例えば0.5~30分の間フラッシュオフし、及び/又は好ましくは40~90℃で、例えば1~60分間、中間乾燥させる。基材に施与した組成物(Z1)(又は施与した未硬化の組成物)は、好ましくは、100~250℃、好ましくは140~220℃の温度で5~60分、好ましくは10~45分の期間硬化させ、硬化した第一のコーティング層(S1)を製造する。
【0097】
第1のコーティング層(S1)の層厚は、例えば40μm以下、好ましくは15~25μmである。
【0098】
工程(2):
本発明の方法の工程(2)は、正確に1つのベースコート層(BL2a)の製造(工程(2)(a))か、又は少なくとも2つの直接連続する複数のベースコート層(BL2-a)及び(BL2-z)の製造(工程(2)(b))のいずれかを含む。層は、(a)水性ベースコート組成物(BL2a)を直接基材(S)又は硬化した第1のコーティング層(S1)に施与するか、又は(b)少なくとも2つのベースコート組成物(BL2-a)及び(BL2-z)を基材(S)又は硬化した第1のコーティング層(S1)に直接連続して施与することにより、生成される。従って製造完了後、工程(2)(a)によるベースコートフィルム(BL2a)が、直接基材(S)上に又は直接硬化した第1コーティング層(S1)上に、配置される。
【0099】
よって、少なくとも2つ、すなわち複数のベースコート組成物を基材(S)又は硬化した第1のコーティング層(S1)に直接連続して施与することは、第1のベースコート組成物(BL2-a)を直接基材(S)又は硬化した第1のコーティング層(S1)に施与し、次いで第2のベースコート組成物(BL2-b)を直接第1のベースコート組成物の層に施与することを意味すると理解される。次いで、任意の第3のベースコート組成物(BL2-c)を、直接第2のベースコート組成物の層に施与する。次いで、この操作を、さらなるベースコート組成物(すなわち、第4、第5等のベースコート組成物)について同様に繰り返すことができる。本発明の方法の工程(2)(b)の後に得られた最上位のベースコート層を、ベースコート層(BL2-z)と示す。
【0100】
このように、ベースコート層(BL2a)又は第1のベースコート層(BL2a)は、直接基材(S)又は硬化した第1のコーティング層(S1)上に配置される。
【0101】
「ベースコート組成物」及び「ベースコート層」という用語は、本発明の方法の工程(2)で施与されたコーティング組成物及び生成されたコーティングフィルムに関して、より明確にするために使用される。ベースコート層(単数又は複数)は、クリアコート材料と一緒に硬化させるので、硬化は、導入部に記載した標準的な方法で使用されるいわゆるベースコート組成物の硬化と同様に達成される。より具体的には、本発明の方法の工程(2)で使用されるコーティング組成物は、標準的な方法の文脈でプライマー-サーフェイサーと呼ばれるコーティング組成物のように、別々に硬化させない。工程(2)(b)に関連して、ベースコート組成物及びベースコート層は一般に、(bL2-x)及び(BL2-x)によって示され、ここでxは、特定の個々のベースコート組成物及びベースコート層の命名において、他の適切な文字に置き換えられる。
【0102】
本発明の方法の好ましい態様は、本発明のコーティング組成物を使用することにより、本発明の方法の工程(2)(a)に従って1つのベースコート層(BL2a)を調製することである。
【0103】
本発明の方法の工程(2)(b)を行う場合、ベースコート組成物(bL2-z)は、少なくとも1つの結合剤を含有する。従って好ましい水性ベースコート組成物(bL2-z)は、少なくとも1つのヒドロキシ官能性ポリマーを結合剤として含み、前記少なくとも1つのヒドロキシ官能性ポリマーは、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリレート、それらのコポリマー、及びこれらのポリマーの混合物からなる群から選択される。好ましいポリウレタン-ポリアクリレートコポリマー(アクリレート化ポリウレタン)及びその製造は、例えば、WO91/15528A1、第3頁第21行目~第20頁第33行目、及びDE4437535A1、第2頁第27行目~頁第22行目に記載されている。結合剤は、好ましくは20~200mgKOH/gの範囲、より好ましくは40~150mgKOH/gのOH価を有する。
【0104】
結合剤、好ましくは少なくとも1つのポリウレタン-ポリアクリレートコポリマーの割合は、各場合とも水性ベースコート組成物の総質量に基づいて、好ましくは0.5~20質量%の範囲、より好ましくは1~15質量%、特に好ましくは1.5~10質量%である。
【0105】
本発明の方法の工程(2)(b)で使用されるベースコート組成物(bL2-z)は、好ましく着色されている、すなわち、その組成物は好ましくは少なくとも1つの着色及び/又は効果顔料を含有する。よって水性ベースコート組成物(bL2-z)は、好ましくは少なくとも1つの着色及び/又は効果顔料を含み、より好ましくは少なくとも1つの着色及び効果顔料を含む。
【0106】
この点に関し、好ましい顔料は、本発明のコーティング組成物に関連して記載した顔料である。
【0107】
さらに、本発明の方法の工程(2)(b)で使用されるベースコート組成物(bL2-z)は、好ましくは、それ自体が既知の少なくとも1つの典型的な架橋剤を含む。好ましくは、水性ベースコート(bL2-z)は、ブロック化ポリイソシアネート及び/又はアミノプラスト樹脂、好ましくはアミノプラスト樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの架橋剤を含む。アミノプラスト樹脂の中でも、特にメラミン樹脂が好ましい。
【0108】
これらの好ましいメラミン樹脂のうち、架橋剤、特にアミノプラスト樹脂及び/又はブロック化ポリイソシアネート、より好ましくはアミノプラスト樹脂の割合は、各場合とも水性ベースコート組成物(bL2-z)の総質量に基づいて、好ましくは0.5~20質量%の範囲、より好ましくは1~15質量%、特に好ましくは1.5~10質量%である。
【0109】
好ましくは、本発明の方法の工程(2)(b)で使用されるベースコート組成物(bL2-z)は、少なくとも1つの増粘剤をさらに含む。適した増粘剤は当業者に知られている。特に好ましい増粘剤は、フィロシリケートの群から選択される。増粘剤の割合は、好ましくは、各場合とも水性ベースコート組成物(bL2-z)の総質量に基づいて、0.01~5質量%の範囲、好ましくは0.02~4質量%、より好ましくは0.05~3質量%である。
【0110】
さらに、水性ベースコート組成物(bL2-z)は、少なくとも1つの添加剤を含んでもよい。適した添加剤は、本発明のコーティング組成物に関連して記載されている。添加剤は、慣例且つ既知の量で使用される。例えば、その割合は、各場合とも水性ベースコート組成物(bL2-z)の総質量に基づいて、1.0~20質量%の範囲であってよい。
【0111】
ベースコート組成物(bL2-z)の固形分含量は、好ましくは5~70質量%、より好ましくは8~60質量%、最も好ましくは12~55質量%である。固形分含量は、実施例に記載のように決定することができる。
【0112】
ベースコート組成物(bL2-x)は、水性である。本発明の目的における「水性」とは、好ましくは、ベースコート組成物が、各場合とも存在する溶媒(すなわち、水及び有機溶媒)の総量に基づいて、少なくとも40質量%、好ましくは少なくとも45質量%、非常に好ましくは少なくとも50質量%の水画分を有することを意味すると理解すべきである。そして好ましくは、水画分は、各場合とも存在する溶媒の総量に基づいて40~95質量%、より具体的には45~90質量%、非常に好ましくは50~85質量%である。
【0113】
本発明により用いられるベースコート組成物は、ベースコート材料の製造に慣例且つ既知の混合用組立体及び混合技術を使用して製造することができる。
【0114】
ベースコートフィルム(BL2a)及び(BL2-x)は、クリアコート材料と一緒に硬化させる。特に、本発明の方法の工程(2)で使用されるコーティング組成物は、別々に硬化させない。従ってベースコートフィルム(BL2a)及び(BL2-x)は、100℃を超える温度に1分より長い時間曝露されないことが好ましく、特に好ましくは、100℃を超える温度に全く曝露されない。
【0115】
ベースコート材料(bL2a)及びベースコート材料(bL2-x)は、工程(4)における硬化後、ベースコートフィルム(BL2a)及び個々のベースコートフィルム(BL2-x)それぞれの膜厚が、例えば5~50マイクロメートル、好ましくは6~40マイクロメートル、特に好ましくは7~35マイクロメートルとなるように施与される。工程(2)の第1の代替例では、15~50マイクロメートル、好ましくは20~45マイクロメートルの比較的高い膜厚を有するベースコートフィルム(BL2a)を製造することが好ましい。工程(2)の第2の代替例では、個々のベースコートフィルム(BL2-x)は、比較すると低い膜厚を有する傾向があり、すると全体の系はやはり、1つのベースコートフィルム(BL2a)の規模内である膜厚を有する。例えば、2つのベースコートフィルムの場合、第1のベースコートフィルム(BL2-a)の膜厚は、好ましくは、5~35マイクロメートル、より具体的には10~30マイクロメートルであり、第2のベースコートフィルム(BL2-z)の膜厚は5~35マイクロメートル、より具体的には10~30マイクロメートルであり、そして全体の膜厚は50マイクロメートルを超えない。
【0116】
工程(3):
本発明の方法の工程(3)では、クリアコートフィルム(K)を直接ベースコートフィルム(BL2a)上又は最上位のベースコートフィルム(BL2-z)上に生成する。この生成は、クリアコート材料(k)の対応する施与によって達成される。適したクリアコート材料は、例えばWO2006042585A1、WO2009077182A1か、又はWO2008074490A1に記載されている。
【0117】
クリアコート材料(k)又は対応するクリアコートフィルム(K)は、施与に続き、好ましくは15~35℃で、0.5~30分間、フラッシュ及び/又は中間乾燥させる。
【0118】
クリアコート材料(k)は、工程(4)における硬化後のクリアコートフィルムの膜厚が、例えば15~80マイクロメートル、好ましくは20~65マイクロメートル、特に好ましくは25~60マイクロメートルとなるように施与される。
【0119】
工程(4):
本発明の方法の工程(4)では、ベースコートフィルム(BL2a)及びクリアコートフィルム(K)、又はベースコートフィルム(BL2-x)及びクリアコートフィルム(K)を一緒に硬化させる。
【0120】
一緒の硬化は、好ましくは60~250℃の温度、好ましくは70~180℃の温度、非常に好ましくは80~160℃の温度で、5~60分の持続時間で行われる。
【0121】
本発明の方法により、別個の硬化工程なしで基材上にマルチコート塗装系を製造することができる。それにもかかわらず、本発明の方法を適用して得られるマルチコート塗装系は、良好な光学特性及び着色特性、特にピンホールの量の減少を有する。
【0122】
本発明の方法のさらなる好ましい実施態様に関して、特に、そこで使用されるベースコート組成物及びこれらのベースコート組成物の成分に関して、本発明のコーティング組成物に関してなされた陳述が準用される。
【0123】
本発明のマルチコート塗装系:
本発明の方法の工程(4)の終了後、本発明のマルチコート塗装系(M)が結果として得られる。
【0124】
本発明のマルチコート塗装系のさらなる好ましい実施態様に関して、本発明のコーティング組成物及び本発明の方法に関してなされるコメントが準用される。
【0125】
本発明を、以下の実施態様によって具体的に記述する:
第1の実施態様によれば、本発明は、顔料入り水性コーティング組成物であって、
(a)少なくとも1つの結合剤、
(b) 該コーティング組成物の総質量に基づいて、好ましくは0.01~1質量%の総量の、不飽和又は飽和のC6~C30脂肪族モノカルボン酸とのグリセロールの少なくとも1つのエステル、及び
(c) 少なくとも1つのシリカ化合物
を含む顔料入り水性コーティング組成物に関する。
【0126】
第2の実施態様によれば、本発明は、少なくとも1つの結合剤が、各場合ともコーティング組成物の全結合剤含量に基づいて、2~60質量%固体、好ましくは3~50質量%固体、より具体的には5~45質量%固体の総量で存在する、実施態様1に記載の組成物に関する。
【0127】
第3の実施態様によれば、本発明は、少なくとも1つの結合剤がポリウレタン、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、それらのコポリマー、及びこれらのポリマーの混合物からなる群から選択される、実施態様1又は2に記載の組成物に関する。
【0128】
第4の実施態様によれば、本発明は、ポリウレタンがアニオン安定化ポリウレタンである、実施態様3に記載の組成物に関する。
【0129】
第5の実施態様によれば、本発明は、アニオン安定化ポリウレタンが、
(1) ポリエステル成分であって、
- 少なくとも50質量%、好ましくは50~60質量%の少なくとも1つのC18~C60-ジカルボン酸、好ましくはC36ジカルボン酸、及び少なくとも1つの短鎖ジカルボン酸、好ましくは無水フタル酸から構成される、カルボン酸成分と、
- 少なくとも2つのヒドロキシル基を有するアルコール、好ましくは1,6-ヘキサンジオール
との反応生成物から構成される、ポリエステル成分、
(2) 少なくとも1つの活性水素及び少なくとも1つのカルボン酸官能基を有する多官能性化合物、好ましくは2,2-ビス-(ヒドロキシメチル)-プロピオン酸、
(3) ポリイソシアネート、好ましくは3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル-イソシアナート、及び
(4) ヒドロキシル、スルフヒドリル、第1級及び第2級アミン、好ましくはトリメチロールプロパンからなる群から選択される少なくとも2つの活性水素基を有する化合物、
を反応させることによって得られる、実施態様3又は4に記載の組成物に関する。
【0130】
第6の実施態様によれば、本発明は、アニオン安定化ポリウレタンが、ポリスチレンを内部標準として使用するゲル浸透クロマトグラフィーによって決定して、少なくとも1,000g/モル、好ましくは少なくとも3,000g/モル、より好ましくは5,000~8,000g/モルの数平均分子量Mnを有する、実施態様3から5のいずれかに記載の組成物に関する。
【0131】
第7の実施態様によれば、本発明は、アニオン安定化ポリウレタンが、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、2~15質量%、好ましくは3~12質量%、より好ましくは6~9質量%の総量で存在する、実施態様3から6のいずれかに記載の組成物に関する。
【0132】
第8の実施態様によれば、本発明は、ポリエステルが、
- 40~50質量%の少なくとも1つのC18~C60-ジカルボン酸、好ましくはC36ジカルボン酸、及び少なくとも1つの短鎖ジカルボン酸、好ましくはヘキサヒドロフタル酸無水物及び/又はトリメリット酸無水物を含むカルボン酸成分と、
- 少なくとも2つのヒドロキシル基を有する少なくとも1つのアルコール、好ましくはネオペンチルグリコール及び/又は1,6-ヘキサンジオール及び/又はポリ(テトラメチレンオキシド)を含むアルコール成分と
の反応生成物である、実施態様3から7のいずれかに記載の組成物に関する。
【0133】
第9の実施態様によれば、本発明は、ポリエステルが、DIN EN ISO2114:2002-06に準拠して決定して、20~110mgKOH/g固体、好ましくは40~100mgKOH/g固体、非常に好ましくは60~80mgKOH/g固体のOH価を有する、実施態様3又は8のいずれかに記載の組成物に関する。
【0134】
第10の実施態様によれば、本発明は、ポリエステルが、DIN EN ISO 2114:2006-11に準拠して決定して、0~80mgKOH/g固体、好ましくは15~60mgKOH/g固体、非常に好ましくは25~40mgKOH/g固体の酸価を有する、実施態様3から9のいずれかに記載の組成物に関する。
【0135】
第11の実施態様によれば、本発明は、ポリエステルが、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、0.1~15質量%、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは1~5質量%の総量で存在する、実施態様3から10のいずれかに記載の組成物に関する。
【0136】
第12の実施態様によれば、本発明は、ポリウレタンポリ(メタ)アクリレートコポリマーが、少なくとも1つの不飽和基を含有するポリウレタンの存在下における、少なくとも1つの不飽和モノマーのラジカル重合によって得られる、実施態様3から11のいずれかに記載の組成物に関する。
【0137】
第13の実施態様によれば、少なくとも1つの不飽和基を含有するポリウレタンが、
(1) ポリエステル成分であって、
- 少なくとも50質量%、好ましくは50~60質量%の少なくとも1つのC18~C60-ジカルボン酸、好ましくはC36ジカルボン酸、及び少なくとも1つの短鎖ジカルボン酸、好ましくはイソフタル酸から構成される、カルボン酸成分と、
- 少なくとも2つのヒドロキシル基を有するアルコール、好ましくは1,6-ヘキサンジオール
との反応生成物から構成される、ポリエステル成分、
(2) 少なくとも1つの活性水素及び少なくとも1つのカルボン酸官能基を有する多官能性化合物、好ましくは2,2-ビス-(ヒドロキシメチル)-プロピオン酸、
(3) ポリイソシアネート、好ましくは3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル-イソシアナート、及び
(4) 少なくとも1つの環状アミン、好ましくはN-メチルピロリドン、少なくとも2つのヒドロキシ基を含む少なくとも1つの第2級アミン、好ましくはジエタノールアミン、及び少なくとも1つの芳香族モノイソシアネート、好ましくは1-(1-イソシアナト-1-メチルエチル)-3-(1-メチルエテニル)-ベンゼンの反応生成物
を反応させることによって得られる、実施態様12に記載の組成物に関する。
【0138】
第14の実施態様によれば、少なくとも1つの不飽和モノマーが、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のC1~C10アルキルエステル、ビニル芳香族化合物及びそれらの混合物からなる群から選択される、実施態様12又は13に記載の組成物に関する。
【0139】
第15の実施態様によれば、本発明は、ポリウレタンポリ(メタ)アクリレートコポリマーが、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、0.1~10質量%、好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.5~2質量%の総量で存在する、実施態様3から14のいずれかに記載の組成物に関する。
【0140】
第16の実施態様によれば、本発明は、アニオン安定化ポリウレタンのポリエステル及びポリウレタンポリ(メタ)アクリレートコポリマーに対する質量比が15:8:1~5:1:1、好ましくは9:5:1~6:3:1である、実施態様3から15のいずれかに記載の組成物に関する。
【0141】
第17の実施態様によれば、本発明は、トリアシルグリセロールの酸成分が、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸及びオレイン酸、及びこれらの混合物から選択される、先行する実施態様のいずれかに記載の組成物に関する。
【0142】
第18の実施態様によれば、本発明は、不飽和又は飽和のC6~C30脂肪族モノカルボン酸とのグリセロールの少なくとも1つのエステルが、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、0.01~1質量%、好ましくは0.05~0.5質量%、非常に好ましくは0.15~0.4質量%の総量で存在する、先行する実施態様のいずれかに記載の組成物に関する。
【0143】
第19の実施態様によれば、本発明は、少なくとも1つのシリカ化合物がヒュームドシリカから選択される、先行する実施態様のいずれかに記載の組成物に関する。
【0144】
第20の実施態様によれば、本発明は、少なくとも1つのシリカ化合物、好ましくはヒュームドシリカが、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、0.001~1質量%、好ましくは0.005~0.5質量%、より好ましくは0.01~0.1質量%の総量で存在する、先行する実施態様のいずれかに記載の組成物に関する。
【0145】
第21の実施態様によれば、本発明は、顔料が着色及び/又は効果顔料から選択される、先行する実施態様のいずれかに記載の組成物に関する。
【0146】
第22の実施態様によれば、本発明は、着色顔料が、(i)白色顔料、例えば二酸化チタン、白色亜鉛、硫化亜鉛又はリトポン、(ii)黒色顔料、例えばカーボンブラック、鉄マンガンブラック又はスピネルブラック、(iii)有彩顔料、例えばウルトラマリングリーン、ウルトラマリンブルー、マンガンブルー、ウルトラマリンバイオレット、マンガンバイオレット、酸化鉄レッド、モリブデートレッド、ウルトラマリンレッド、酸化鉄ブラウン、混合ブラウン、スピネル相及びコランダム相、酸化鉄イエロー、ビスマスバナデート、(iv)有機顔料、例えばモノアゾ顔料、ビスアゾ顔料、アントラキノン顔料、ベンズイミダゾール顔料、キナクリドン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ジオキサジン顔料、インダントロン顔料、イソインドリン顔料、イソインドリノン顔料、アゾメチン顔料、チオインジゴ顔料、金属錯体顔料、プリノン顔料、ペリレン顔料、フタロシアニン顔料、アニリンブラック、及び(v)それらの混合物からなる群から選択される、実施態様21に記載の組成物に関する。
【0147】
第23の実施態様によれば、適した効果顔料が、(i)血小板状金属効果顔料、例えば層状アルミニウム顔料、(ii)金ブロンズ、(iii)酸化ブロンズ及び/又は酸化鉄アルミニウム顔料、(iv)真珠光沢顔料、例えば真珠エッセンス、(v)塩基性炭酸鉛、(vi)酸化ビスマス塩化物及び/又は金属酸化物マイカ顔料、(vii)層状顔料、例えば層状黒鉛、層状酸化鉄、(viii)PVDフィルムから構成される多層効果顔料、(ix)液晶ポリマー顔料、及び(x)その混合物からなる群から選択される、実施態様21又は22に記載の組成物に関する。
【0148】
第24の実施態様によれば、本発明は、少なくとも1つの顔料、好ましくは少なくとも1つの着色及び/又は効果顔料が、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、1~40質量%、好ましくは2~35質量%、より好ましくは5~30質量%の量で存在する、実施態様21から23のいずれかに記載の組成物に関する。
【0149】
第25の実施態様によれば、本発明は、前記組成物が、一般式(I)
【化1】
(式中、
R
1は、直鎖状又は分岐状のC
1~C
10アルキル基であり、
R
2は、水素又は直鎖状又は分岐状のC
1~C
10アルキル基であり、
aは、0~10の整数であり、そして
bは、1~10の整数である)
の少なくとも1つの化合物をさらに含む、先行する実施態様のいずれかに記載の組成物に関する。
【0150】
第26の実施態様によれば、一般式(I)中の残基R1が、直鎖状又は分岐状のC2~C8アルキル基、好ましくは直鎖状又は分岐状のC2~C6アルキル基、非常に好ましくは直鎖状のC3又はC4アルキル基である、実施態様25に記載の組成物に関する。
【0151】
第27の実施態様によれば、本発明は、一般式(I)中の残基R2が、水素又は直鎖状C1~C4アルキル基、好ましくは水素又はC1アルキル基、非常に好ましくは水素又はC1アルキル基である、実施態様25又は26に記載の組成物に関する。
【0152】
第28の実施態様によれば、本発明は、一般式(I)におけるaが、整数の0又は1、好ましくは0である、実施態様25から27のいずれかに記載の組成物に関する。
【0153】
第29の実施態様によれば、本発明は、一般式(I)におけるbが、1~8の整数、好ましくは1~6、より好ましくは1~4、非常に好ましくは1である、実施態様25から28のいずれかに記載の組成物に関する。
【0154】
第30の実施態様によれば、本発明は、一般式(I)の化合物がn-プロポキシプロパノール又はn-ブトキシプロパノールから選択される、実施態様25から29のいずれかに記載の組成物に関する。
【0155】
第31の実施態様によれば、本発明は、一般式(I)の化合物が、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、0.1~15質量%、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは1~5質量%の総量で存在する、実施態様25から30のいずれかに記載の組成物に関する。
【0156】
第32の実施態様によれば、本発明は、組成物がさらにポリプロピレンオキシドを含む、先行する実施態様のいずれかに記載の組成物に関する。
【0157】
第33の実施態様によれば、本発明は、ポリプロピレンオキシドが、ポリスチレンを内部標準として使用するゲル浸透クロマトグラフィーにより決定して、それぞれ200~4,000g/モル、好ましくは1,000~3,500g/モル、より好ましくは2,000~3,000g/モルの平均分子量Mwを有する、実施態様32に記載の組成物に関する。
【0158】
第34の実施態様によれば、本発明は、ポリプロピレンオキシドが、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、0.01~1質量%、好ましくは0.05~0.5質量%、非常に好ましくは0.15~0.4質量%の総量で存在する、実施態様32又は33に記載の組成物に関する。
【0159】
第35の実施態様によれば、本発明は、コーティング組成物が少なくとも1つの中和剤をさらに含み、前記中和剤が好ましくは無機塩基、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン及びそれらの混合物、より具体的にはN,N’-ジメチルエタノールアミンからなる群から選択される、先行する実施態様のいずれかに記載の組成物に関する。
【0160】
第36の実施態様によれば、本発明は、少なくとも1つの中和剤、好ましくはN,N’-ジメチルエタノールアミンが、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、0.05~5質量、好ましくは0.05~4質量%、より好ましくは0.05~1質量%、より具体的には0.05~0.2質量%の総量で存在する、実施態様35に記載の組成物に関する。
【0161】
第37の実施態様によれば、本発明は、コーティング組成物が、少なくとも1つの増粘剤をさらに含み、前記増粘剤が、好ましくは、フィロシリケート、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリレートコポリマー、疎水的に修飾されたエトキシル化ポリウレタン、疎水的に修飾されたポリエーテル、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリアミド、及びそれらの混合物、特に(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリレートコポリマー及び疎水的に修飾されたエトキシル化ポリウレタンの群から選択される、先行する実施態様のいずれかに記載の組成物に関する。
【0162】
第38の実施態様によれば、本発明は、少なくとも1つの増粘剤、より具体的には(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリレートコポリマー及び疎水的に修飾されたエトキシル化ポリウレタンが、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、0.015~3質量%、好ましくは0.03~2質量%、より好ましくは0.04~1質量%、より具体的には0.05~0.7質量%の総量で存在する、実施態様37に記載の組成物に関する。
【0163】
第39の実施態様によれば、本発明は、コーティング組成物が少なくとも1つの架橋剤をさらに含み、前記架橋剤が好ましくはメラミン-ホルムアルデヒド樹脂、遊離及び/又はブロック化ポリイソシアネート、ポリカルボジイミド、及びそれらの混合物、より具体的にはメラミン-ホルムアルデヒド樹脂からなる群から選択される、先行する実施態様のいずれかに記載の組成物に関する。
【0164】
第40の実施態様によれば、本発明は、少なくとも1つの架橋剤、特にメラミン-ホルムアルデヒド樹脂が、各場合ともコーティング組成物の全結合剤含量に基づいて、0~50質量%固体、好ましくは0~40質量%固体、より好ましくは0~35質量%固体の総量で存在する、実施態様39に記載の組成物に関する。
【0165】
第41の実施態様によれば、本発明は、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて、DIN EN ISO3251(2008年6月)に準拠して測定して、10~60質量%、より好ましくは12~55質量%、非常に好ましくは15~50質量%の固形分含量を有する、先行する実施態様のいずれかに記載の組成物に関する。
【0166】
第42の実施態様によれば、本発明は、コーティング組成物の総質量に基づいて、30~70質量%の総量の水を含む、先行する実施態様のいずれかに記載の組成物に関する。
【0167】
第43の実施態様によれば、本発明は、基材(S)上にマルチコート塗装系(M)を製造するための方法であって、以下の工程:
(1) 組成物(Z1)を基材(S)に施与し、続いて施与した組成物(Z1)を硬化させることにより、基材(S)上に硬化した第1のコーティング層(S1)を任意に製造する工程と、
(2) 水性ベースコート材料(bL2a)を直接第1のコーティング層(S1)に施与するか、又は少なくとも2つの複数の水性ベースコート材料(bL2-x)を直接第1のコーティング層(S1)に連続施与することにより、ベースコート層(BL2a)又は少なくとも2つの直接連続した複数のベースコート層(BL2-x)を、直接第1のコーティング層(S1)上に製造する工程と、
(3) クリアコート材料(cm)を直接ベースコート層(BL2a)又は最上位のベースコート層(BL2-z)に施与することにより、クリアコート層(C)を直接ベースコート層(BL2a)又は最上位のベースコート層(BL2-z)上に製造する工程と、
(4) ベースコート層(BL2a)とクリアコート層(C)とを、又は複数のベースコート層(BL2-x)とクリアコート層(C)とを、一緒に硬化させる工程と、
を含み、
少なくとも1つのベースコート材料(bL2a)又は複数のベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つが、実施態様1から41のいずれかに記載の組成物を含む方法に関する。
【0168】
第44の実施態様によれば、本発明は、基材(S)が好ましくは金属基材、プラスチック基材、強化プラスチック基材、及び金属成分とプラスチック成分とを含む基材から選択され、特に好ましくは、金属基材から選択される、実施態様43に記載の方法に関する。
【0169】
第45の実施態様によれば、本発明は、金属基材(S)が、鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、マグネシウム及びこれらの合金、及び鋼から選択される、実施態様44に記載の方法に関する。
【0170】
第46の実施態様によれば、本発明は、水性ベースコート組成物(bL2-z)が、少なくとも1つのヒドロキシ官能性ポリマーを結合剤として含み、前記少なくとも1つのヒドロキシ官能性ポリマーは、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリレート、それらのコポリマー、及びこれらのポリマーの混合物からなる群から選択される、実施態様43から45のいずれかに記載の方法に関する。
【0171】
第47の実施態様によれば、本発明は、水性ベースコート組成物(bL2-z)が少なくとも1つの着色及び/又は効果顔料、より好ましくは少なくとも1つの着色及び効果顔料を含む、実施態様43から46のいずれかに記載の方法に関する。
【0172】
第48の実施態様によれば、本発明は、水性ベースコート(bL2-z)が、ブロック化ポリイソシアネート及び/又はアミノプラスト樹脂、好ましくはアミノプラスト樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの架橋剤を含む、実施態様43から47のいずれかに記載の方法に関する。
【0173】
第49の実施態様によれば、本発明は、一緒の硬化(4)を60~250℃、好ましくは70~180℃、非常に好ましくは80~160℃の温度で、5~60分間の持続期間行う、実施態様43から48のいずれかに記載の方法に関する。
【0174】
第50の実施態様によれば、本発明は、実施態様43から49のいずれかに記載の方法によって得ることができるマルチコート塗装系に関する。
【実施例】
【0175】
本発明を、実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は決してこれらの実施例に限定されるものではない。さらに、実施例における「部」、「%」及び「比率」とは、別段の記載がない限り、それぞれ「質量部」、「質量%」及び「質量比」を意味する。
【0176】
1. 決定の方法:
1.1 固形分含量(固体、不揮発性画分)
不揮発性画分は、DIN EN ISO3251(日付:2008年6月)に準拠して決定した。これは、あらかじめ乾燥させておいたアルミニウム皿に1gの試料を量り取り、乾燥オーブン中125℃で60分間乾燥させ、デシケーター内で冷却してから再秤量することを伴う。使用した試料の総量に対する残渣は、不揮発性画分に相当する。不揮発性画分の体積は、必要であれば、DIN53219(日付:2009年8月)に準拠して、場合により決定してよい。
【0177】
1.2 酸価の決定
酸価は、DIN EN ISO2114(日付:2002年6月)に準拠し、「方法A」を用いて決定される。酸価は、DIN EN ISO2114に規定された条件下で、試料1gを中和するのに必要な水酸化カリウムの質量(mg)に対応する。ここで報告された酸価は、DIN規格に示された合計酸価に相当し、且つ固形分含量に基づく。
【0178】
1.3 OH価の決定
OH価は、DIN53240-2(日付:2007年11月)に準拠して決定される。この方法において、OH基を、過剰の無水酢酸を用いるアセチル化によって反応させる。その後過剰の無水酢酸を、酢酸を形成するために水の添加によって分解し、全酢酸をエタノール性KOHで逆滴定する。OH価は、mgで表すKOHの量(固体に基づく)を示し、これは試料1gのアセチル化で結合した酢酸の量と同等である。
【0179】
1.4 数平均及び質量平均分子量の決定
数平均分子量(Mn)は、DIN55672-1(日付:2007年8月)に準拠してゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定される。数平均分子量の他に、この方法はさらに、質量平均分子量(Mw)、及び多分散性d(質量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比率)の決定にも使用することができる。テトラヒドロフランが溶離剤として使用される。決定は、ポリスチレン標準に対して実施される。カラム材料は、スチレン-ジビニルベンゼンコポリマーからなる。
【0180】
1.5 マルチコート塗装系の製造
硬化させた標準カソード電着被覆材料(Cathoguard800、BASF Coatings GmbH社から入手可能)及び硬化させた表面系(HR Anthrazit 121-71245-10、乾燥膜厚25~30μm、23℃で5分間及び70℃で5分間乾燥後、150℃で10分間硬化させた)で被覆した鋼板(30×50cm、Chemetal社)の長手方向の一端に、接着ストリップを設け、被覆後の膜厚差を決定できるようにした。
【0181】
これらのパネル上に、水性ベースコート材料WBC-C1、WBC-C2、WBCI1又はWBC-I2のそれぞれをくさび状に静電的に施与し、23℃で4分間、及び70℃で10分間乾燥させて、乾燥膜厚15~20μmの第1のベースコート層(BL2a)を得た。
【0182】
その後、BASF Coatings GmbH社から市販されているProGloss(登録商標)2成分クリアコート材料(FF99-0345)を、乾燥水性ベースコート層それぞれの頂部に施与した。得られたクリアコート層を室温で20分間フラッシュオフした。次いで、水性ベースコート層及びクリアコート層それぞれを、空気循環オーブン中140℃で20分間、一緒に硬化させた。硬化させたクリアコート層の膜厚は、パネル全体で一定(±1μm)であり、クリアコート膜厚は、40~45μmであった。
【0183】
1.6 ピンホール数及びピンホール限界の評価
ポップ限界及びピンホール限界は、ポップ及びピンホールのそれぞれが最初に発生する、くさび状に増加するベースコートフィルムの得られた膜厚を確認することにより、視覚的に決定した。さらに、ピンホール数の場合は、エッジ長さ30×50cmの被覆金属パネル上に発生したピンホールの数を決定した。
【0184】
1.7 膜厚の決定
膜厚は、DIN EN ISO2808(日付:2007年5月)、方法12Aに準拠して、ElektroPhysik社からのMiniTest(登録商標)3100-4100装置を使用して決定した。
【0185】
2. 水性ベースコート材料の調製
本明細書中で下記の表に示す配合物の構成成分及びそれらの量に関しては、次のことを考慮すべきである。市販の製品又は他の文献に記載されている調製プロトコルに対する言及がなされる場合、その言及は、問題の構成成分に関して選択される原則的呼称とは無関係に、厳密にその市販製品に対するものであるか、又は厳密にその言及されたプロトコルで調整された製品に対するものである。
【0186】
よって配合物の構成成分が、「メラミン-ホルムアルデヒド樹脂」という原則的呼称をもつ場合、且つ市販の製品がこの構成成分に関して示される場合、そのメラミン-ホルムアルデヒド樹脂は、厳密にこの市販製品の形態で使用される。従って、(メラミン-ホルムアルデヒド樹脂の)活性物質の量について結論が導かれる場合、その市販製品中に存在する任意のさらなる構成成分、例えば溶媒を考慮に入れなければならない。
【0187】
従って、配合物の構成成分の調製プロトコルに対して言及がなされる場合、且つそのような調製によって、例えば、規定の固形分含量を有するポリマー分散体が得られる場合には、厳密にこの分散体が使用される。最重要要因は、選択された原則的呼称が「ポリマー分散体」という用語であるか、あるいは単に活性物質、例えば「ポリマー」、「ポリエステル」又は「ポリウレタン変性ポリアクリレート」であるかということではない。(ポリマーの)活性物質の量に関して結論が導かれる場合、このことについて考慮されなければならない。
【0188】
2.1 カラーペースト及びマイカスラリーの調製
2.1.1 カーボンブラックペーストP1の調製
カーボンブラックペーストP1は、10.1質量部のカーボンブラックFW2と、DEA4009858A1の第16欄、第37~59行目、実施例Dに従って調製した5質量部のポリエステルと、特許出願WO92/15405の第14頁、第13行目~第15頁、第13行目に従って調製した58.9質量部の結合剤分散体と、2.2質量部のPluriol(登録商標)P900(BASF SE社)と、8.4質量部の脱イオン水と、7.8質量部のジメチルエタノールアミン水溶液(脱イオン水中10質量%)と、7.6質量部のブチルグリコールとから調製した。
【0189】
2.1.2 ブルーペーストP2の調製
ブルーペーストP2は、WO91/15528に従って調製した69.8質量部のアクリレート化ポリウレタン分散体(結合剤分散体A)と、12.5質量部のPaliogen(登録商標)blue L6482と、1.5質量部のジメチルエタノールアミン水溶液(脱イオン水中10質量%)と、1.2質量部のPluriol(登録商標)P900(BASF SE社)と、15質量部の脱イオン水とから調製した。
【0190】
2.1.3 マイカスラリーの調製
マイカスラリーは、1.5質量部のブチルグリコールと、DE4009858Aの第16欄、第37~59行目、実施例Dに従って調製した1.5質量部のポリエステルと、1.3質量部のMica Mearlin ext.Super Orange339Z(Merck KGaA)とを、撹拌装置を用いて混合することによって調製した。
【0191】
2.2 水性ベースコート材料WBC-C1及びWBC-C2の製造(比較例)
表1の「水性相」に列記した化合物を記載の順番で混合して、水性混合物を得た。さらに、表1の「有機相」に列記した化合物を記載の順番で混合して、有機混合物を得た。有機混合物を水性混合物に撹拌しながら加え、そして撹拌を10分間続けた。その後、組成物を、脱イオン水及びジメチルエタノールアミンを用いてpH8.0に調整し、回転粘度計(Mettler-Toledo社のRheomat RM10機器)を用いて測定して1000s-1のせん断荷重下において95mPa*sのスプレー粘度に調整した。
【0192】
【0193】
2.3 水性ベースコート材料WBC-I1の製造(本発明の例)
本発明の水性コーティング材料WBC-I1は、0.5質量部のAgitan(登録商標)352(45~55質量%の、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸及びオレイン酸に基づくモノ-、ジ-及びトリグリセロールの混合物、及びヒュームドシリカを含有する)を、99.5質量部の水性ベースコート材料WBC-C1に攪拌しながら添加し、調製した。
【0194】
2.4 水性ベースコート材料WBC-I2の製造(本発明の例)
本発明の水性コーティング材料WBC-I2は、0.5質量部のAgitan(登録商標)352(45~55質量%の、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸及びオレイン酸に基づくモノ-、ジ-及びトリグリセロールの混合物、及びヒュームドシリカを含有する)を、99.5質量部の水性ベースコート材料WBC-C2に、攪拌しながら添加して、調製した。
【0195】
3. ピンホール限界及びピンホール数
調製した多層コーティング(1.5項参照)のピンホール限界及びピンホール数を、1.6項に記載したように決定した。得られた結果を表2に示す。
【0196】
【0197】
本発明の水性顔料入りベースコート組成物(WBC-I1及びWBC-I2)におけるトリアシルグリセロール(b)及びヒュームドシリカ(c)の組み合わせの使用は、トリアシルグリセロール及びヒュームドシリカを含まない顔料入り水性ベースコート組成物(WBC-C1及びWBC-C2)と比較して、有意なピンホール限界の増加及びピンホール数の減少をもたらす。
【手続補正書】
【提出日】2022-06-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項7
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項7】
前記少なくとも1つのシリカ化合物、好ましくはヒュームドシリカが、
各場合とも前記コーティング組成物の総質量に基づいて、0.001~1質量%、好ましくは0.005~0.5質量%、より好ましくは0.01~0.1質量%の総量で存在する、請求項1から6のいずれか1項に記載の顔料入り水性コーティング組成物。
【国際調査報告】