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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-27
(54)【発明の名称】振動増幅装置を備える時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 21/08 20060101AFI20221220BHJP
   G04B 23/02 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
G04B21/08 Z
G04B23/02 F
G04B21/08 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022524031
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(85)【翻訳文提出日】2022-06-16
(86)【国際出願番号】 EP2020079950
(87)【国際公開番号】W WO2021078968
(87)【国際公開日】2021-04-29
(31)【優先権主張番号】19205438.5
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501099611
【氏名又は名称】パテック フィリップ ソシエテ アノニム ジュネーブ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベノワ、クエンティン
(72)【発明者】
【氏名】ゲイザー、シルヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ル ゴール、エリック
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンディーニ、アレッサンドロ
(57)【要約】
本発明は、ケースと、少なくとも1つの音を生成するようになっており、上記ケース内に収容されたムーブメントおよび振動発生装置と、上記振動発生装置によって発生する振動を増幅するための装置(16)と、上記増幅された振動を受けて、時計の内側から外側に向かって音を発生させるように構成された膜とを備える時計(1)に関する。上記振動増幅装置(16)は、膜の平面と非平行な枢動平面内で支持体(22)に枢動可能に取り付けられ、振動発生装置と協働して振動をレバー(20)に伝達する伝達部材によって作動されように構成されたレバー(20)を備え、加えて、振動発生装置に連結された上記伝達部材の振動によって発生し、上記伝達部材によって作動されるレバーを介して膜に伝達される伝達部材の変位が、増幅された音を発生させるよう上記膜の増幅された変位を発生させるように、上記レバー(20)が、少なくとも枢動平面内で並進的に膜に固定される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間部(3)、裏蓋(4)およびベゼル(5)を有するケース(2)と、少なくとも1つの音を生成するようになっており、前記ケース(2)内に収容されたムーブメントおよび振動発生装置と、前記振動発生装置によって発生する振動を増幅するための振動増幅装置(16)と、前記増幅された振動を受けて、時計の内側から外側に向かって音を発生させるように構成された膜(18)とを備える時計(1)であって、前記振動増幅装置(16)が、前記膜(18)の平面と非平行な枢動平面内で枢動可能に支持体(22)に取り付けられ、前記振動発生装置と協働して振動をレバー(20)に伝達する伝達部材(28)によって作動されるように構成されたレバー(20)を備え、加えて、前記振動発生装置に連結された前記伝達部材(28)の前記振動によって発生し、前記伝達部材(28)によって作動される前記レバー(20)を介して前記膜(18)に伝達される前記伝達部材(28)の運動が、前記膜(18)の増幅された運動を発生し、それによって増幅された音を発生させるように、前記レバー(20)が、少なくとも前記枢動平面内で並進的に前記膜(18)と一体であることを特徴とする時計(1)。
【請求項2】
前記振動増幅装置(16)が、前記ムーブメントから分離されていることを特徴とする、請求項1に記載の時計。
【請求項3】
前記レバー(20)の前記支持体(22)が、前記ベゼル(5)もしくは前記裏蓋(4)に、または前記ムーブメントに、前記ムーブメントと前記支持体(22)との間の分離要素(35)を介して取り付けられることを特徴とする、請求項1または2に記載の時計。
【請求項4】
前記レバー(20)の前記支持体(22)が前記ベゼル(5)および前記裏蓋(4)にそれぞれ取り付けられるとき、前記ベゼル(5)および前記裏蓋(4)がそれぞれ、分離要素を介して前記中間部(3)に組み付けられることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の時計。
【請求項5】
前記レバー(20)の前記枢動平面が、前記膜(18)の平面に対して垂直であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の時計。
【請求項6】
前記レバー(20)が、ピン(26)または可撓性ボールジョイント(24)を介して前記支持体(22)に枢動可能に取り付けられていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の時計。
【請求項7】
前記レバー(20)が、前記支持体(22)に枢動可能に取り付けられ、前記伝達部材(28)と一体の第1端(20a)と、少なくとも前記枢動平面内で並進的に前記膜(18)と一体の第2端(20b)とを備えることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の時計。
【請求項8】
前記レバー(20)と前記膜(18)との連結点は、前記膜の中心からの距離が、前記膜の幅の40%未満、好ましくは20%未満の位置に配置され、より好ましくは前記膜(18)の中心に配置されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の時計。
【請求項9】
前記膜(18)の運動によって発生した音が外側に出現する前に、前記音を増幅するように構成された圧縮室(40)を備えることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の時計。
【請求項10】
前記圧縮室(40)が、前記膜(18)の下流に配置された壁であって、少なくとも1つの開口部(42)を有する壁によって閉じられ、前記開口部の寸法は、望ましい音増幅の機能としての、前記膜(18)の表面積に関連して選択されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の時計。
【請求項11】
前記圧縮室(40)の前記開口部(42)の調整可能な閉鎖手段(44)であって、前記膜によって発生する音の音量を調整することを可能にするように構成された閉鎖手段(44)を備えることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の時計。
【請求項12】
前記音が発生した後、前記圧縮室(40)の前記開口部(42)を閉じるように構成された、前記開口部(42)を閉じるための機構(46)を備えることを特徴とする、請求項10または11に記載の時計。
【請求項13】
前記振動発生装置が、時打ちハンマー(12)によって打たれるように構成された時打ちゴング(14)であり、前記時打ちゴング(14)が、前記伝達部材(28)と一体であり、前記伝達部材(28)が、前記レバー(20)と一体であることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の時計。
【請求項14】
前記振動発生装置が、音を発生させるように構成された彫刻溝を備える回転ディスクであり、前記伝達部材(28)が、前記レバー(20)と一体であり、前記ディスクの前記溝に追従するように構成された針であることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の時計。
【請求項15】
前記振動発生装置が、スタッドによって固定された振動ブレードを備えるオルゴールであり、前記伝達部材が、前記スタッドおよび前記レバー(20)と一体であることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間部、裏蓋およびベゼルを有するケースと、少なくとも1つの音を生成するようになっており、上記ケース内に収容されたムーブメントおよび振動発生装置と、上記振動発生装置によって発生する振動を増幅するための装置と、上記増幅された振動を受けて、時計の内側から外側に向かって音を発生させるように構成された膜とを備える時計に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような時計は、例えば、時打ち機構(ミニッツリピーター、グランドソヌリ、プティットソヌリ、アラームなど)を備えた携帯時計であり、振動発生装置が、例えば、音を生成する目的で振動を発生させるために時打ちが開始されるときに、ハンマーによって打たれるように構成されたゴングである、時打ち機構を備えた時計である。ゴングは、従来、ムーブメントの周りに巻き付けられたストリップばねの形態をとる。ゴングは、ゴングの振動を携帯時計全体(フレーム、ムーブメント、外部部品)に伝達するために、ヒールまたはゴングホルダーを介して携帯時計フレーム(底板およびブリッジアセンブリ)と一体に取り付けられる。したがって、ゴングの振動は、最大強度で携帯時計の着用者に伝達される。
【0003】
音伝達は、携帯時計全体を振動状態にすることによって得られるため、携帯時計の様々な要素の振動を補助して上記音伝達を改善するために、これらの要素を強化することが提案されている。
【0004】
この解決策は、音伝達品質に関して満足のいく結果をもたらすが、望ましくない音の出現などの、他の問題を引き起こす。音の強度が大きいほど、ムーブメントが大きく振動し、振動によって、様々なムーブメント構成要素がノイズをより発生させるからである。これらの振動が組み合わさって、望ましくないノイズを発生させる。
【0005】
音を増幅するための1つの解決策は、ハンマーがそのゴングを打つ力を増加させることである。これにより、音量レベルの増加は可能となるが、望ましくないノイズにより音質が劣化する。
【0006】
欧州特許出願公開第3525045号明細書に記載されている時計は、底板またはより一般にはフレーム要素に取り付けられた音伝達ブリッジを使用することによってこの問題を解決することを提案しており、上記伝達ブリッジは、携帯時計ケース中間部に固定された膜とも接触している。したがって、フレームと一体に取り付けられた上記ゴング自体が振動すると、音伝達ブリッジもまた同様に振動し、この同じ振動を膜に伝達する。伝達ブリッジは、その剛性およびその表面積に起因して、大幅な空気変位に寄与し、これにより音の強度および音質が改善される。さらに、伝達ブリッジは、底板以外のフレーム要素と一体化することができるため、他のムーブメントの構成要素の周りの他のフレーム要素から生じる振動を膜に伝達する場合がある。
【0007】
しかしながら、フレーム振動に起因した、様々なムーブメントの構成要素の振動が残るため、依然として望ましくないノイズが発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3525045号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、少なくとも1つの音を生成するようになっている振動発生装置と、これらの振動を増幅して、上記発生する音が大幅に増幅されることを可能にするための装置とを備える時計を提案することによって、これらの欠点を克服することを目的とする。
【0010】
本発明のさらなる目的は、望ましくないノイズなしに、または上記の望ましくないノイズを少なくとも抑制して、発生する音の増幅を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的のために、本発明は、中間部、裏蓋およびベゼルを有するケースと、少なくとも1つの音を生成するようになっており、上記ケース内に収容されたムーブメントおよび振動発生装置と、上記振動発生装置によって発生する振動を増幅するための装置と、上記増幅された振動を受けて時計の内側から外側に向かって音を発生させるように構成された膜とを備える時計に関する。
【0012】
本発明によれば、振動増幅装置は、膜の平面と非平行な枢動平面内で枢動可能に支持体に取り付けられ、振動発生装置と協働して振動をレバーに伝達する伝達部材によって作動されるように構成されたレバーを備え、加えて、振動発生装置に連結された上記伝達部材の振動によって発生し、上記伝達部材によって作動されるレバーを介して膜に伝達される伝達部材の運動が、増幅された音を発生させるよう上記膜の増幅された運動を発生させるように、上記レバーが、少なくとも枢動平面内で並進的に膜と一体である。
【0013】
したがって、本発明で使用される増幅装置により、発生する振動は、上記振動を膜に伝達する前に機械的に増幅するように構成されたレバーで回収され、1回目の音の増幅を生成する。
【0014】
好ましくは、振動増幅装置は、振動がムーブメントおよび/またはフレーム要素(底板およびブリッジ)に伝達されないようにムーブメントから分離されている。さらに、膜は、好ましく、有利には、ムーブメントの外側に配置され、特に時計のベゼルまたは裏蓋内に配置されるため、膜に伝達された振動のいずれもムーブメントにおいて散逸されないように、膜自体がムーブメントから分離される。したがって、本発明による時計は、ムーブメント要素および/またはフレーム要素の振動に関連する望ましくないノイズをほとんどまたは全く発生しない。すべての振動は、ムーブメント要素および/またはフレーム要素のうちの1つに伝達されることなく膜に向けられるため、時打ち機構の場合、ムーブメント要素および/またはフレーム要素の振動に影響を与えることなく、ゴングへの打力を変更することが可能である。
【0015】
有利には、膜の運動によって発生した音が外側に出現する前に増幅するように構成された圧縮室が設けられる。
【0016】
これにより、2回目の音の増幅を発生させることが可能になる。
【0017】
したがって、本発明による時計は、望ましくないノイズをほとんどまたは全く伴わずに大幅に増幅された音を生成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明の他の特徴および利点は、非限定的な例によって提供される本発明の様々な実施形態の以下の詳細な説明を読むことから明らかになるであろう。説明は、添付の図面を参照して行われる。
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態による時計の裏蓋の図である。
図2図1の時計の裏蓋側面の部分断面図である。
図3】本発明の第2の実施形態による時計の裏蓋の斜視図である。
図4】本発明の第1の実施形態による膜および振動増幅装置の図である。
図5】膜および圧縮室の断面図である。
図6】膜によって発生する音の音量を調整するための手段の図である。
図7】閉位置にある音量調整手段を示す部分断面図である。
図8】開位置にある音量調整手段を示す部分断面図である。
図9】音発生時間外での圧縮室の開口部の閉鎖を示す、本発明による時計の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、中間部、裏蓋およびベゼルを有するケースと、少なくとも1つの音を生成するようになっており、上記ケース内に収容されたムーブメントおよび振動発生装置と、上記振動発生装置によって発生する振動を増幅するための装置と、上記増幅された振動を受けて、時計の内側から外側に向かって音を発生させるように構成された膜とを備える時計に関する。
本発明によれば、上記振動増幅装置は、膜の平面と非平行な枢動平面内で支持体に枢動可能に取り付けられ、振動発生装置と協働して振動をレバーに伝達する伝達部材によって作動されるように構成されたレバーを備え、上記レバーは、加えて、少なくとも枢動平面内で並進的に膜と一体であり、レバーの作動点、レバーの枢支点、および膜とのレバーの連結点は、振動発生装置に連結された上記伝達部材の振動によって発生する伝達部材の運動が、上記レバーのレバーアーム効果によって増幅された状態で、上記伝達部材によって作動されるレバーを介して膜に伝達されるように配置される。
【0021】
振動発生装置は、時打ちハンマーによって打たれるように構成された時打ちゴングであってもよく、上記時打ちゴングは伝達部材と一体であり、上記伝達部材はレバーと一体である。
【0022】
別の変形形態では、振動発生装置は、音を発生させるように構成された彫刻溝を備える回転ディスクであってもよく、伝達部材は、レバーと一体であり、ディスク上の溝に追従するように構成された針である。
【0023】
別の変形形態では、振動発生装置は、スタッドによって固定された振動ブレードを備えるオルゴールであってもよく、伝達部材は、上記スタッドおよびレバーと一体である。
【0024】
以下の説明では、振動発生装置は、時打ちハンマーによって打たれる時打ちゴングであり、時計は、時間を示すための(ミニッツリピーター、グランドソヌリ、プティットソヌリ)または所定の時間の瞬間に打撃するための時打ち機構(アラーム)を備える。時計は、好ましくは携帯時計であり、より好ましくは使用者の手首に着用されるようになっている腕時計である。
【0025】
特に明記しない限り、本発明、特に振動増幅装置の説明の他の部分は、針によって読み取られる回転ディスク、またはオルゴールを備える携帯時計にも同様に適用される。
【0026】
図1図2および図9を参照すると、携帯時計1は、中間部3、裏蓋4、ベゼル5および第1のガラス6を有するケース2を備える。裏蓋4は環状であり、その中央開口部は第2のガラス7によって閉じられており、その機能については後述する。ベゼルおよび中間部は、2つの異なる部品であってもよく、または単一のモノブロック片を形成してもよい。同様に、裏蓋および中間部は、2つの異なる部品であってもよく、または単一のモノブロック片を形成してもよい。
【0027】
以下の説明では、振動増幅装置および膜は、携帯時計の裏蓋、より詳細には第2のガラス7を介して音を発生させるように構成される。当然ながら、振動増幅装置および膜は、同様であるが逆の方法で、携帯時計の文字盤側から、より詳細には第1のガラス6を介して音を発生させるように構成されてもよい。
【0028】
より具体的に図1図2および図4を参照すると、携帯時計1はまた、少なくとも1つの音を生成するようになっている振動発生装置を構成する、ムーブメント(不図示)および時打ち機構9を備える。ムーブメントおよび時打ち機構9は、ケース2の中間部3に収容され、フレーム10(底板およびブリッジ)に取り付けられている。時打ち機構9は、既知の方法で時打ちゴング14を打ち付けるように構成されたハンマー12を備え、この場合、ワイヤまたはストリップばねのゴングは、ムーブメントの周りに巻き付けられる。
【0029】
ゴング14によって生成する音を増幅するために、ゴング14によって発生する振動を増幅するための装置16に加えて、上記増幅された振動を受けて携帯時計の内側から外側に向かって音を発生させるように構成された膜18が設けられる。この場合、音は裏蓋側から伝達され、膜18は、ムーブメントと第2のガラス7との間で、裏蓋4と平行に上記裏蓋4に取り付けられる。膜は、音を文字盤側から伝達するときに、ムーブメントと第1のガラス6との間で、上記ベゼル5と平行に、上記ベゼル5の内側に取り付けられる。
【0030】
本発明によれば、上記レバー20が、膜18の平面と非平行な枢動平面内で、上記回転軸を中心にして上記支持体22に傾動可能または枢動可能に取り付けられるように、振動増幅装置16は、単一の回転軸に沿うジョイントによって支持体22に連結されたレバー20を備える。
【0031】
より好ましくは、レバー20は、膜18によって画定される平面に垂直な枢動平面内で傾くように、レバー20の支持体22に枢動可能に取り付けられる。
【0032】
図1図2および図4に示す第1の実施形態によれば、レバー20は、可撓性ボールジョイント24を介して支持体22に枢動可能に取り付けられる。可撓性ボールジョイントは、必要に応じて振動の方向を変えることを可能にする。特に、時打ちゴングの場合、支持体22は、ハンマーが時打ちする方向に、半径方向に振動する傾向がある。好ましくは、レバー20の可撓性ボールジョイント24の位置により、ゴングの半径方向振動の方向を90°変更して、上記レバー20の枢動によって膜18の平面に垂直な運動に変換することが可能になる。
【0033】
図3に示す第2の実施形態によれば、支持体22に横方向に取り付けられ、レバー20の枢動軸を構成するピン26によって、レバー20は、支持体22に枢動可能に取り付けられる。ばね27が、支持体22に作用する。
【0034】
レバー20は、ゴング14と協働して振動をレバー20に伝達する伝達部材28によって作動されるように構成される。伝達部材28は、好ましくは、レバー20と一体である。伝達部材28は、例えば、レバー20と一体のヒールまたはゴングホルダーで構成され、ゴング14は、例えば、埋め込み、ねじによる係止、またはロウ付けによってレバー20に取り付けられる。この目的のために、伝達部材28は、ゴング14が挿入されるオリフィス30を備える。したがって、ゴング14は、レバー20と一体であり、ヒールを介して携帯時計のフレームに固定されない。伝達部材28は、レバー20に取り付けられてもよく、またはレバー20と一体であってもよい。レバー20が鋼で作られている場合、ゴング14、伝達部材28およびレバー20は、単一部品に作られてもよい。
【0035】
レバー20はまた、レバー20が傾いたときに、レバー20の枢動平面内で膜18を移動させることができるようにするために、少なくともレバーの枢動平面内で並進的に上記膜18と一体である。音を発生させるのは、レバー20によって動かされる膜18の直線運動である。
【0036】
より具体的には、レバー20は、支持体22に枢動可能に取り付けられ、伝達部材28と一体の第1端20aと、少なくとも上記レバー20の枢動平面内で並進的に膜18と一体の第2端20bとを備える。
【0037】
好ましくは、伝達部材28がゴング14に対して固定されている時打ち機構の場合、レバー20は、並進的に固定され、膜18に固定的に連結される、すなわち、レバー20は、膜18と回転的および並進的に一体である。レバー20は、例えば、膜18に設けられた孔34およびレバー20に設けられた孔36にねじ込まれたねじ32によって、または接着、溶接などによって、膜18に固定することができる。
【0038】
針によって読み取られるディスクの場合、レバーおよび針は、レバーおよび針の膜の平面における並進運動を可能にするように構成され、レバーが傾いたときに、レバーの枢動平面内で膜18を移動させることができるようするために、レバーは、膜18の枢動平面内で並進的に一体のままである。
【0039】
ゴング14に連結された伝達部材28の振動によって発生する上記伝達部材28の運動であって、上記伝達部材28によって作動されるレバー20を介して膜18に伝達される運動が、機械的レバーアーム効果によって上記膜18の増幅された運動を発生し、それによって増幅された音を発生させるように、伝達部材28によるレバー20の作動点、レバー20の枢支点、および膜18とのレバー20の連結点は、配置される。
【0040】
好ましくは、可撓性ボールジョイント24は、ゴング/レバー/膜アセンブリの質量中心に配置される。
【0041】
好ましくは、レバー20と膜18との連結点は、上記膜18の中心からの距離が、上記膜18の幅の40%未満、好ましくは20%未満の位置に配置される。より好ましくは、レバーアーム効果を最大にするために、レバー20と膜18との連結点は、上記膜18の中心に配置される。
【0042】
別の変形形態では、固定点の弾性および膜のねじれを利用して、連結点は、膜の外周に配置することができる。
【0043】
有利には、振動増幅装置、より詳細にはレバー20の支持体22は、ムーブメントから、時打ち機構9から、およびフレーム10から分離されている。この目的のために、レバー20の支持体22は、音が文字盤側から伝達される場合には外部部品、より詳細にはベゼル5に取り付けられてもよく、音が裏蓋を介して伝達される場合には裏蓋4に取り付けられてもよい。時打ちゴング14は、レバー20と一体の伝達部材28に埋め込まれているため、上記ゴング14は、従来のようにヒールを介してフレームに固定されず、ムーブメントの周りに浮いているように見える。
【0044】
レバー20の支持体22はまた、支持体22を、ムーブメント、中間部およびフレームから確実に分離するために、ポリマーなどの分離要素35を介して、であれば、ムーブメントに取り付けられてもよいし、または中間部3にさえ取り付けられてもよい。
【0045】
レバー20の支持体22が、ケースの要素(ベゼル5、中間部3、裏蓋4)のうちの1つに取り付けられるとき、ムーブメントと、レバー20の支持体22を支持する、ケースの上記要素との間で、ムーブメントに分離装置を配置することによって、ムーブメントを携帯時計の残りの部分から分離することも可能である。そのような分離装置は、例えば、平坦なガスケットに関連付けられた真鍮リング、または炭素充填ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の分離リングであってもよい。例えば、ムーブメントを分離するために、ケースの上記要素は、それ自体がケース中間部にねじ込まれるPEEK分離リングにフランジ付けされてもよい。
【0046】
レバー20の支持体22がベゼル5または裏蓋4に取り付けられるとき、上記ベゼル5または上記裏蓋4は、従来のように中間部3に直接組み付けられてもよい。しかしながら、望ましくない振動が中間部3に到達しないこと、したがってムーブメントに到達しないことを確実にするために、上記ベゼル5または上記裏蓋4は、ポリマーなどの分離要素を介して中間部3に組み付けられる。
【0047】
膜18は、音が裏蓋を介して伝達される場合は裏蓋4に取り付けられ、音が文字盤側から伝達される場合はベゼル5に取り付けられる。したがって、膜18は、ムーブメントおよび時打ち機構9からも分離される。
【0048】
その結果、振動増幅装置および膜は、レバー20によって回収されたゴングのすべての振動が、ムーブメント、フレームおよび中間部に伝達されることなく、膜18に向けられて伝達されるように、ムーブメントおよびフレームから分離される。
【0049】
レバー20は、好ましくは、非常に軽量で非常に剛性の高い材料から作られる。例えば、レバー20は、鋼、チタン、アルミニウム、マグネシウム、複合材料、カーボン、ガラス、サファイアおよびセラミックで作られてもよい。
【0050】
膜18は自由に振動できなければならない。膜18は、大きな動的応答を有し、運動時に変形しないために、非常に軽量で剛性の高い材料から作られることが好ましい。膜18は、好ましくは透明材料で作られる。例えば、膜18は、サファイア、ミネラルガラス、Plexiglas(登録商標)などのプレートの形態に作られてもよい。したがって、膜18は、第2のガラス7(または、適宜、第1のガラス6)の下に配置された第3の内部ガラスによって構成されてもよい。膜18はまた、安全ガラスタイプの複合材料、セルロース、または複合ガラスで作られてもよい。当然ながら、膜18はまた、金属ガラス、チタン、シリコン、セラミック、カーボンファイバー複合材料、セルロースまたはケプラーなどの、半透明材料または不透明材料など、完全に透明ではない材料で作られてもよい。
【0051】
膜18は、可能な限り剛性が高く、軽量でなければならない。この目的のために、膜の厚さは1mm未満、好ましくは0.5mm未満、より好ましくは0.3mm未満である。
【0052】
より具体的に図5を参照すると、好ましくは、気密性を確実にしながら自由に振動することを可能にするために、膜18はサスペンションに取り付けられる。サスペンションは、膜18の周りに配置された成形ガスケット、または膜18の両側面の外周に配置されたOリングガスケットによって、上記膜18と裏蓋4(または、適宜ベゼル5)との間に設けられる場合がある。例えば膜18の外周に設けられた溝38によって、膜18にテクスチャ処理をして、その可撓性を改善することも可能である。膜18の厚さを利用することもまた可能である。
【0053】
有利には、時計は、1回目にすでに増幅された膜の運動によって発生した音が外側に出現する前に、この音を増幅するように構成された圧縮室40をさらに備える。
【0054】
圧縮室40は、膜18の下流に配置された壁であって、時計の外側に向けられた少なくとも1つの開口部42を有する壁によって閉じられている。開口部42の寸法は、望ましい音増幅の機能としての、膜18の表面積に関連して選択される。
【0055】
好ましくは、膜18が裏蓋4に配置される場合、上記壁は第2のガラス7によって構成される。上記第2のガラス7は、強く、耐引っかき性(scratchproof)のあるものでなければならない。第2のガラス7は、好ましくは、サファイアから作られる。
【0056】
膜18の下流に配置された壁は、圧縮室40内に一定量の空気を発生させることを可能にする。膜18が移動することによって、この空気が圧縮される。空気の体積を定める移動する膜18の表面積と、開口部のサイズとの比により、音の2回目の増幅が可能になる。
【0057】
開口部42は、壁、この場合は第2のガラス7の中心の孔、複数の横方向孔、多数の微小孔など、様々な形態をとってもよい。出口開口部の形状は、音をさらに増幅するために円錐形であってもよい。有利には、開口部42は、1つ以上の長手方向の溝であって、中間部の周りに、ムーブメント平面に平行に延在し、図9に示すように、膜18が裏蓋4に配置されている場合には、例えば裏蓋4と中間部3との間に空間を残すことによって得られる、1つ以上の長手方向の溝の形態をとってもよい。そのような横方向開口部42は、有利に、膜18によって発生する音を腕時計着用者の腕に向け直すことを可能にし、上記着用者に、さらに増幅された音の感覚を与える。
【0058】
図6図8を参照すると、時計は、有利に、圧縮室40の開口部42の、調整可能な閉鎖手段44を備え、この調整可能な閉鎖手段44は、膜18によって発生する音の音量を調整することを可能にするように構成されている。これらの閉鎖手段44は、開口部42が完全に閉じられる閉位置と、開口部42が最大である開位置との間で移動可能であるように構成され、中間位置は、音量を調整するために、開口部42を、より広い範囲、またはより狭い範囲でふさぐことを可能にする。例えば、開口部42が横方向開口部である場合、閉鎖手段44は、リングなどの回転要素であって、裏蓋4に回転可能に取り付けられ、図7に示すように開口部42を完全にふさぐ閉位置と、図8に示すように開口部42が最大である開位置との間で回転するように構成されたリングなどの回転要素を備える場合がある。
【0059】
有利には、不純物が圧縮室40に入るのを防ぐために、開口部42は通気性および防水性のあるフィルタによって保護されてもよい。そのようなフィルタは当業者に知られている。
【0060】
有利には、図9を参照すると、時計は、音が発生した後、例えば時打ち時間外に、圧縮室40の開口部42を閉じるように構成された、上記開口部42を閉じるための機構を備えてもよい。このような機構により、振動発生装置の不使用時における不純物の混入を抑制することができる。特に、開口部42が側面開口部である場合、閉鎖機構は、時打ちが完了した後、開口部42を自動的に閉じるように、時打ち機構によって制御されるリングなどの閉鎖部材46を備えてもよい。そのような機構は、例えば、スイス国特許発明第704940号明細書に記載されており、当該特許文献は、参照することによりに組み込まれる。
【0061】
膜18が裏蓋4に配置され、裏蓋側から音が発生する場合、発生する音が携帯時計の側面を立ち上げることを可能にするように構成された反射器を設けることもまた可能である。そのような反射器は、例えば、裏蓋の外側に配置され、裏蓋を囲み、携帯時計に向けられた円錐形の外壁を有する。
【0062】
本発明による時計は、大幅な音増幅を可能にする。すなわち、レバー20を介して行われる1回目の増幅の比は、10から16程度である。さらに、膜18の移動表面積と開口部42との間の比(20対30の表面積比)に起因して、2回目の増幅比は1.5程度である。本発明による携帯時計によって達成されるトータルの増幅比は、60dBの標準的なミニッツリピーターと比較して、80dBを超える、または90dBにもなる音を得る場合がある。
【0063】
さらに、増幅装置の構成および取り付けは、すべての振動がムーブメントを通過することなくレバーを介して膜に向けられるように、振動発生装置および膜をムーブメント、フレームおよび中間部から分離することを可能にする。したがって、一般にムーブメントの構成要素の振動に関連する望ましくない音は、ほとんどまたは全く得られない。
【0064】
さらに、ムーブメントの構成要素の振動に影響を与えることなく、ゴングへの打力を増加させる場合がある。
【0065】
さらに、膜を備えた増幅装置は裏蓋またはベゼルと一体であるため、裏蓋またはベゼルを分解するだけで、簡単にムーブメントおよびゴングにアクセスして調整することができる。
【0066】
最後に、膜を備えた増幅装置の構成は、例えば、他のすべてのミニッツリピーターの原理とは異なり、ケースの気密性が音量に影響を及ぼさないようなものである。これは、膜がそのサスペンションと共に、圧縮室40を除いて、システムを漏れにくくするためである。圧縮室40は、フィルタシステムによって漏れが防止されるように作られてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】