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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-27
(54)【発明の名称】鼓膜治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 11/00 20220101AFI20221220BHJP
   A61F 11/20 20220101ALI20221220BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
A61F11/00 350
A61F11/20
A61M25/00 530
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525309
(86)(22)【出願日】2020-10-29
(85)【翻訳文提出日】2022-06-07
(86)【国際出願番号】 EP2020080450
(87)【国際公開番号】W WO2021084033
(87)【国際公開日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】19206775.9
(32)【優先日】2019-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520145953
【氏名又は名称】アベンタメド・デジグネイティド・アクティビティ・カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163061
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】ボーガン,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】オドリスコル,オリーブ
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA02
4C267AA33
4C267BB02
4C267BB22
4C267CC14
(57)【要約】
治療装置(1)は、患者の頭部の動きにもかかわらず相対的運動がないように吸引による鼓膜の把持を伴う、患者の外耳道に挿入されるように構成された遠位端部(60)を有する茎状部(3)を有する。陰圧によって内腔(66)を経由して吸引が加えられた後、針(63)は膜を穿刺する。針先端部は膜を把持する吸引カップ内に位置付けられる。手持ち式制御装置(2)は茎状部に結合され、吸引内腔への陰圧(7)の印加を制御するための、使用者が作動させるコントローラ(8)を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の外耳道に挿入するための遠位端部(60)を有する外耳道茎状部(3)を備える治療装置であって、前記外耳道茎状部(3)が、
吸引を加えるための内腔(66)であって、その近位端部に吸引源、または吸引源に連結するための連結具を有する、内腔(66)と、
鼓膜を突き刺すための先端部を有する針(63、260、303)と、
前記針(63、260、303)の先端部が内部に位置付けられた吸引カップ(61)であって、前記吸引カップ(61)が、前記内腔(66)にリンクされ、鼓膜に係合し、吸引によって前記鼓膜を把持するように構成されている、吸引カップ(61)と、を備える、
治療装置。
【請求項2】
前記治療装置が、前記外耳道茎状部(3)に結合するための、また前記内腔(66)への陰圧の印加を制御するための使用者が作動させるコントローラ(8)を有する、手持ち式制御装置をさらに備える、請求項1に記載の治療装置。
【請求項3】
前記針(63)が前記外耳道茎状部(3)の長手方向軸に対して鋭角でマウントされている、請求項1または2に記載の治療装置。
【請求項4】
前記遠位端部(60)が、前記吸引カップ(61)および前記針(63)を支持するハブ(67)を備える、請求項1から3のいずれかに記載の治療装置。
【請求項5】
前記ハブ(67)が、前記内腔(66)を受けるための導管を含み、前記ハブ(67)を定位置に保持する柔軟なスリーブ(62)によって囲繞されている、請求項4に記載の治療装置。
【請求項6】
前記柔軟なスリーブ(62)が前記吸引カップ(61)を一体に形成する、請求項5に記載の治療装置。
【請求項7】
前記柔軟なスリーブ(62)が、シリコーンオーバーモールドされた構成のものである、請求項5または6に記載の治療装置。
【請求項8】
前記手持ち式制御装置が、前記外耳道茎状部(3)に結合するためのハウジングと、使用者が作動させるためのトリガ・ボタンを備えたハンドルとを備える、請求項2から7のいずれかに記載の治療装置。
【請求項9】
前記手持ち式制御装置が、吸引源に連結するための連結具(7)を備える、請求項2から8のいずれかに記載の治療装置。
【請求項10】
前記外耳道茎状部(3)が、治療用流体を送達するための前記針にリンクされた内腔(65)を備え、前記内腔(65)が、その近位端部に流体供給源に連結するための連結具を有し、前記針(63)が、前記鼓膜を突き刺し、治療用流体を送達するように構成されている、請求項1から9のいずれかに記載の治療装置。
【請求項11】
前記治療装置が、前記内腔(65)と流体連通した治療用流体を備えたシリンジをマウントするためのシリンジ押圧具(10)を備えるハウジングを備える、請求項10に記載の治療装置。
【請求項12】
前記針(63、260)および前記吸引カップ(61、252)が、前記鼓膜を突き刺し、前記鼓膜から後退するために、互いに対して動くことができる、請求項1から11のいずれかに記載の治療装置。
【請求項13】
前記針(260)が固定されており、前記吸引カップ(252)が、前記針による突き刺しを確実にする方式で前記針(260)に対して後退可能である、請求項12に記載の治療装置。
【請求項14】
前記吸引カップ(252)が、前記針(260)に対して後退可能なスリーブ(265)にマウントされるか、またはそれに一体化している、請求項13に記載の治療装置。
【請求項15】
前記スリーブ(265)が、コントローラに動作可能に連結可能な張力ケーブル(266、267)を含む、請求項14に記載の治療装置。
【請求項16】
前記針(63、260、303)が、膜を横断して鼓膜切開チューブを送達し、前記膜に導入された前記鼓膜切開チューブを定位置に残すように後退するように構成されている、請求項1から15のいずれかに記載の治療装置。
【請求項17】
前記外耳道茎状部(3)が、前記遠位端部(60)に複数のセンサ電極をさらに備え、前記治療装置が、駆動信号を前記センサ電極に印加するための回路と、少なくとも1つの電気的パラメータを監視して前記センサ電極が鼓膜に接触しているかそれとも前記外耳道に接触しているかを判定し、前記センサ電極が前記鼓膜に接触しているかどうかを出力装置において示す出力を生成するセンサ回路とをさらに備える、請求項1から16のいずれかに記載の治療装置。
【請求項18】
前記センサ電極の1つが前記針(303)である、請求項17に記載の治療装置。
【請求項19】
1つまたは複数の前記センサ電極が、前記針(303)から間隔を開けて配置された内腔のない針(320)である、請求項18に記載の治療装置。
【請求項20】
前記治療装置が、前記外耳道茎状部(3)に結合するための、また前記内腔(66)への陰圧の印加を制御するための使用者が作動させるコントローラ(8)を有する、手持ち式制御装置をさらに備え、前記出力装置が前記手持ち式制御装置にマウントされる、請求項1から19のいずれかに記載の治療装置。
【請求項21】
吸引が加えられる前に、前記針(63)の前記遠位端部と前記吸引カップ(61)の遠位縁部によって形成される平面との間に、前記外耳道茎状部(3)の長手方向に間隙(Δ)が存在する、請求項1から20のいずれかに記載の治療装置。
【請求項22】
前記吸引カップ(61)の遠位縁部が、前記外耳道茎状部(3)の長手方向軸に対して鋭角である平面を画定する、請求項1から21のいずれかに記載の治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の鼓膜または「ear drum」に関係する治療に関する。本発明の主要分野は、中耳への薬剤の鼓室内送達である。本発明の他の分野は、鼓膜切開チューブ(もしくは「グロメット」)の導入、または中耳からの流体の吸引を含むが、これらに限定されない。
【背景技術】
【0002】
耳は、中耳への薬剤の治療的送達が望ましい種々の状態または疾患にさらされる。一例はメニエール病で、急性回転性めまい発作、耳鳴り、変動性難聴、および耳閉感によって特徴付けられる慢性症状である。別の例は耳鳴りであり、これはしばしば耳の中で鳴り響く音(ringing in the ear)と表現されるが、轟音、クリック音、ヒス音またはバズ音のように聞こえる場合もある。重度の耳鳴りを患う人々は、聞くこと、仕事および睡眠に困難を抱えることがある。別の例は中耳炎であり、抗生物質の必要性を頻繁に生じさせる。
【0003】
耳は、鼓膜が非常に薄く損傷しやすいことにより、特に患者が自身の頭部を治療中に動かすことにより、鼓膜に関わる侵襲的治療による損傷を特に受けやすい。この問題は、患者が小児である場合に特に深刻である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/075949号
【特許文献2】国際公開第2019/086608号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一目的は、鼓膜で、または鼓膜の近くで、流体または装置の送達を伴うかまたは伴わない、効果的で安全かつ繰返し可能な治療を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは添付の特許請求の範囲に記載の治療装置について記載する。
【0007】
また、本発明者らは、患者の外耳道に挿入するように構成された遠位端部を有する茎状部を備える治療装置であって、茎状部が、
吸引を加えるための内腔であって、その近位端部に吸引源、または吸引源に連結するための連結具を有する、内腔と、
鼓膜を突き刺すように構成された先端部を有する針と、
針先端部が内部に位置付けられた吸引カップであって、上記吸引カップが、上記内腔にリンクされ、鼓膜に係合し、吸引によって膜を把持するように構成されている、吸引カップとを備える、治療装置について記載する。
【0008】
好ましくは、装置は、茎状部に結合するための、また吸引内腔への陰圧の印加を制御するための使用者が作動させるコントローラを有する、手持ち式制御装置をさらに備える。好ましくは、針は茎状部の長手方向軸に対して鋭角でマウントされる。
【0009】
好ましくは、茎状部遠位先端部は、吸引カップおよび針を支持するハブを備える。好ましくは、ハブは内腔を受けるための導管を含み、ハブを定位置に保持する柔軟なスリーブによって囲繞される。好ましくは、柔軟なスリーブは、吸引カップを一体に形成する。好ましくは、柔軟なスリーブは、シリコーン(または同様の柔軟な材料)オーバーモールドされた構成のものである。
【0010】
好ましくは、手持ち式制御装置は、茎状部に結合するためのハウジングと、使用者が作動させるためのトリガ・ボタンを備えたハンドルとを備える。好ましくは、手持ち式制御装置は、吸引源に連結するための連結具を備える。
【0011】
好ましくは、茎状部は、治療用流体を送達するための針にリンクされた内腔を備え、上記内腔は、その近位端部に流体供給源に連結するための連結具を有し、針は、鼓膜を突き刺し、上記針を介して治療用流体を送達するように構成されている。
【0012】
好ましくは、装置は、送達内腔と流体連通した治療用流体を備えたシリンジをマウントするためのシリンジ押圧具を備えるハウジングを備える。
【0013】
一例では、針および吸引カップは、鼓膜を突き刺し、鼓膜から後退するために、互いに対して動くことができる。
【0014】
好ましくは、針は固定され、吸引カップは、針による突き刺しを確実にする方式で針に対して後退可能である。好ましくは、吸引カップは、針に対して後退可能なスリーブにマウントされる。好ましくは、スリーブは、コントローラに動作可能に連結可能な張力ケーブルを含む。
【0015】
好ましくは、針は、膜を横断して鼓膜切開チューブを送達し、膜に導入されたチューブを定位置に残すように後退するように構成される。
【0016】
本発明は、添付図面を参照して一例としてのみ与えられる、そのいくつかの実施形態の以下の説明からより明確に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】鼓膜の遠位側の耳に医薬品を送達するための治療装置の斜視図である。
図2】装置の茎状部の斜視図である。
図3】茎状部の遠位先端部の拡大斜視図である。
図4】遠位先端部の側面図である。
図5】遠位先端部の側方断面図である。
図6】代替の装置の図である。
図7】別の茎状部遠位先端部をより詳細に示す側方断面図である。
図8】別の茎状部遠位先端部をより詳細に示す側方断面図である。
図9】代替の茎状部の遠位先端部の拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
種々の例において、本発明者らは、使用時に鼓膜を掴んで治療の目的で鼓膜を穿刺し、それにより、いかなる患者の頭部の動きにもかかわらず茎状部の先端部が膜に対して動かない治療的送達装置について記載する。こうして掴まれた後、一例では膜を通した薬剤の送達であり別の例では鼓膜切開チューブの導入である手術が実施される。
【0019】
有利には、吸引動作により、針が最適に位置付けられ、薬剤の送達または鼓膜切開チューブの配置などの手術を実施している間に動かないことが確実となる。
【0020】
(装置1)
図1を参照すると、治療流体を耳に送達するための装置1が開示されている。装置1は、手持ち式ハウジング2と、柔軟な構造の茎状部3とを備える。この茎状部は長く柔軟であり、したがって「押し込み性(pushability)」が低く、予期しない患者の動きに対応することになる。つまり、茎状部が外耳道に差し込まれ、医師が、遠位先端部が鼓膜(または任意の固体構造体)に接触するように茎状部を前方に押圧した場合、茎状部は、シャフトの柔軟な性質により、押圧力を受けて潰れることになる。さらに、遠位先端部が患者の鼓膜に付いた場合、茎状部は患者のいかなる意図しない動きにも対応することになる。
【0021】
ハウジング2は、ハンドル5と、制御機構を含む本体6とを有する。ハンドル5は、外部吸引源への連結具7と、制御ボタン8とを有する。ハウジング2内には、連結具7に与えられる圧力に誤りがあった場合でも使用時に装置1を通して過剰な圧力が外耳道に印加されるのを防止する、圧力制御弁が存在する。
【0022】
ハウジング本体6は、シリンジ13のピストン12を押圧するように構成された、ばねで負荷がかけられた押圧部材11を有するシリンジ押圧具10を備える。
【0023】
ボタン8は、外部源に結合されたときに吸引を加えるための下部ボタン15と、シリンジが挿入されたときに薬剤を送達するための上部ボタン16とを含む。
【0024】
図2図5を参照すると、茎状部3は、メイン部分50と、遠位先端部60と、製造組立て中にハウジング6に連結するルアー連結部を備えた近位連結具80とを有する。
【0025】
先端部60は、直径が約3mm、カップと遠位側の側壁(茎状部長手方向軸)との間の角度が約45°である吸引カップ61を有し、この角度は概して20°~90°の範囲であることが好ましく、茎状部の外側ライニング62または管状構造体は吸引カップ61へと通じる。吸引カップ61の角度は、鼓膜が外耳道に対して位置するはずの鋭角に合致する。この角度は、小児の患者では特に鋭角になる場合がある。
【0026】
茎状部内には、治療用流体を送達するための送達内腔65が存在し、吸引内腔66も存在する。針63は、その近位端部でプラスチックのハブ67に埋め込まれて、送達内腔65の連続部を形成する。
【0027】
ハブ67は、吸引内腔66の遠位連続部である導管68を形成し、導管68は、遠位方向には、吸引カップ61に広がる開口部69で終端する。
【0028】
図5に最も明確に示してあるように、この例では、外側ライニング62は柔軟なシリコーン(医療用)オーバーモールドまたは同様の材料を含み、これは茎状部の複数内腔外側ライナ70(outer multi-lumen liner)およびハブ67を包み、それ自体が一体化した形で吸引カップ61を形成する。
【0029】
図5に示してあるように、針の端部とカップ61の遠位リムによって形成される平面との間には、Δで示された間隙が存在する。したがって、針63は吸引カップ61の外縁部を越えて突出せず、針が装置の配置中または取出し中に重要な構造体を意図せず穿刺し得ないことが確実となる。その結果、針は吸引が加えられたときのみ穿刺することになり、そうでない場合は吸引カップ内に効果的に収められる。
【0030】
管状ライナ70は柔軟なシリコーン材料(または他の例では熱可塑性エラストマー「TPE」などの適した医療用の柔軟な材料)のものであり、外耳道に茎状部の遠位端部60を挿入するときに受傷のリスクが最小限になることを確実にする。しかし、シリコーンオーバーモールド62は特に柔軟であり、ハブ67、針63、ならびに内腔65および内腔66の遠位端部を、使用時のこれらの部品への最適な支持および柔軟性を確実にする形で効果的に収容する。
【0031】
(装置1の使用法)
医師は、連結具7を外部吸引源に接続する。シリンジ押圧具10は後ろに引かれ(ばねで負荷がかけられ、ボタンで作動させられ)、標準的なシリンジがハンドピースの標準的なルアー連結部、連結部80によってハンドピースハウジング6に取り付けられる。薬剤線は、上部ボタン16を押すことによって使用前にパージされる。遠位端部60は患者の外耳道に配置され、チューブ50(二重内腔)は非常に柔軟であるので、柔軟な茎状部3を押圧することによってチューブ50が耳の鼓膜または構造体(耳小骨連鎖)を損傷させる可能性はなく、この茎状部は、この押圧力を受けて潰れることになる。医師は、鼓膜へと薬剤を送達しようとしている深さまたは場所、好ましくは前下象限を可視化するが、先端部60の性質が柔軟であり、針63が貫入する深さが短いので、これらは遠位先端部60がどこで鼓膜を吸引するかについて具体的である必要はない場合がある。吸引カップ61が鼓膜に達すると、医者は下部ボタン15を押圧し、先端部に吸引(非常に低い陰圧)を加えて鼓膜を把持する。吸引カップ61は鼓膜を掴む。掴んでいる間に、針63は鼓膜である薄い膜を穿刺する(鼓膜の厚み:通常は0.05mm~0.20mm)。この穿刺方法は、針63が設定された深さまでしか穿刺しないことを確実にし、この深さは、ことによると耳小骨連鎖または顔面神経を含む中耳壁などの鼓膜の後ろの重要な構造体に接触する恐れがある、必要以上の深さになることはない。負の吸引圧力は、装置先端部60が鼓膜を掴み、穿刺するような圧力であるが、装置が外耳道壁または耳小骨連鎖などの他の構造体を掴んだ場合、これらのより剛性の構造体に貫入するには吸引力が不十分なはずである。
【0032】
掴まれ、鼓膜が穿刺されると、医者は上部ボタン16を押して薬剤を投与する。完了すると、医師は吸引ボタン16を離し、これにより、吸引線が常圧(または陽圧)へと開いて吸引カップが外れる。茎状部3は患者の外耳道から取り出される。
【0033】
(装置200)
図6図8を参照すると、代替の装置200は、手持ち式コントローラ201と、遠位先端部203を有する茎状部202とを備える。コントローラ201は、吸引源への連結具220を有するハンドル205と、吸引を加えるためのトリガ・ボタン207と、薬剤を送達するためのトリガ・ボタン208とを備える。さらに、以下により詳細に説明するように、先端部203を使用者が作動させて操作するためのトリガ・ボタン209が存在する。コントローラ201は、装置1に関して説明したようにシリンジ押圧具220も備える。
【0034】
図7および図8に最もよく示してあるように、茎状部202は、吸引カップ252内の開口部251で終端する吸引チャネルまたは内腔250を備える。針260は茎状部の長手方向軸に平行に延在し、近位方向には、コントローラ201へと近位方向に戻る茎状部の全長にわたって、茎状部の周囲の部品よりも剛性である内腔として連続する。針は所定の位置に固定され、可動式ではない。針は、鼓膜を突き刺すように構成された先端部261を有する。この例では、針および針から近位方向に連続するチューブの長さは300mmであり、全体として、突き刺すのに必要な剛性のためには十分な長さであるが、過剰な押圧強度を与えるには不十分な長さである。
【0035】
茎状部202は、柔軟な医療用シリコーン材料(またはTPEなどの他の適した柔軟な材料)の管状構造体265を備え、これは遠位方向には吸引カップ252として終端する。構造体265を通って長手方向に延在し、吸引カップ252に隣接して終端する複数の張力ケーブル266および267が存在する。
【0036】
有利には、針63を通して膜の遠位側に薬剤を送達しながら、損傷のリスクなしに鼓膜を把持する動作が同時に行われる。吸引動作により、針が最適に位置付けられ、薬剤送達中に動かないことが確実となる。
【0037】
他の利点は、使用者が吸引カップ252の配置を可視化して正しい場所であることを確実にできること、および医師が導入に満足した後でトリガ209を押圧することができることである。
【0038】
この場合、吸引カップの遠位縁部は長手方向軸に対して直角であるが、他の例では、装置1の場合のように、カットの遠位側ではこの軸に対して鋭角である。
【0039】
(装置200の使用法)
装置1において説明したように、使用時、茎状部は外耳道に挿入され、使用者がボタン207を押すことによって吸引が加えられて鼓膜を把持する。次いで、トリガ209を作動させることにより、使用者は(ケーブル266および267を使用することによって)針260に対して管状構造体265を後退させ、それによって図7に示してある位置から図8に示してある位置へと右に向かう方向で管状構造体を押し縮める。別法として、ケーブル266および267は柔軟なシャフト202の長さを保持し、針261が251に対して相対的に動く。これは、図8に示してあるように針を相対的に突出させる効果を有する。この段階で、鼓膜が吸引カップ252によって把持されているとき、針が鼓膜を通って突出している間に、使用者はボタン208を押圧することによって針260を介した治療用流体の送達を作動させる。
【0040】
送達が完了するとケーブル266および267から張力が徐々に緩められ、それにより、針は膜との係合が外れて吸引カップに対して近位方向に動く。
【0041】
装置1および200のいずれにおいても任意の広範な治療用流体が送達されてもよく、こうした薬剤の例を以下の表に記載する。注記:中耳に送達される薬剤はこの表内の薬剤に限定されず、これら薬剤は単に一例として言及されている。
【0042】
【表1】
【0043】
(代替の装置)
本発明の装置は吸引によって鼓膜を掴み、それにより、起こり得る患者の頭部の動きにもかかわらず、遠位茎状部先端部の場所が膜に対して固定されたままになる。また、遠位先端部は膜を突き刺す。装置1および200の例では、突き刺された場所の膜を通して治療用流体が送達される。しかし、他の例では異なる治療が実施されてもよい。一例は、広範囲の抗生物質が適さない珍しい場合において中耳から感染流体を吸引するアスピレーションである。
【0044】
別の例では、たとえばWO2014/075949(特許文献1)およびWO2019/086608(特許文献2)に記載されているように、たとえば当技術分野で知られている方式での鼓膜切開チューブの導入がある。こうした装置は、膜を掴むための吸引内腔およびカップを有することになる。茎状部はやはり導入針を含むことになり、導入針は、膜を穿刺することに加えて、膜の遠位側に位置付けられると開く遠位フランジを備えたチューブを運ぶことになる。こうした針は、チューブの導入に加えて膜の最初の穿刺を実施してもよい。遠位チューブフランジは、保持具によって解放されることによって開いてデフォルト形状をとってもよく、またはチューブは針を通って抜かれることによって変形させられてもよい。
【0045】
これが前者の構成である場合、装置は近位フランジ、内腔相互連結部、および遠位フランジを備える、事前に負荷がかけられた鼓膜切開チューブを含むことができ、近位フランジは通路を備え、導入前位置では、装置の保持具指部は近位フランジ通路を通って延在し、チューブの遠位フランジを内側に押す。こうした構成では、装置は導入機構に連結された茎状部を有してもよく、導入機構に連結するための連結具を有してもよく、針は鼓膜を突き刺す先端部を有し、針は長手方向軸を有し、保持具は、上記長手方向軸からある距離のところで軸方向に延在する複数の指部を有し、保持具は、保持具がチューブの遠位フランジを半径方向に内側に押して上記遠位フランジを折りたたまれた位置に保持するように構成された導入前遠位位置から、チューブの遠位フランジが導入済み位置へと半径方向に自由に飛び出す導入近位位置へと動くことができる。好ましくは、少なくとも2つの正反対に配置された保持具指部が存在し、好ましくは、指部は凹型の内側表面を備えた弓形の断面形状を有する。
【0046】
(装置300)
図9を参照すると、別の例では、茎状部300は、上の実施形態のいずれかで説明されたようにハウジングから延在する。茎状部300は、吸引カップ301と共にその遠位端部で終端する外側管状構造体302と、内腔の端部にある、針63に類似し、同じ目的を有する針303とを有する。この場合、第2の針320が提供され、これは内腔を有しない。しかし、第2の針320は、茎状部壁302内の有線接続部を介してハンドピース内の電子回路と通信する。針303も、この電子回路板への有線接続部を有する。使用中、装置が吸引を加えると、両方の針が部位組織に貫入することになる。回路は2本の針303と針320の間に電気的駆動力を印加し、インピーダンスまたはキャパシタンスなどのパラメータが測定される。装置のハンドル内の回路は、LCDスクリーンまたはLEDライトなどの出力装置へのインターフェースを有する。回路はセンサにもリンクされて、カップ301への吸引線内の圧力を測定する。これらの2つの入力を通じて、回路は、使用者に薬剤が正しい場所に投与され得るかどうかを知らせる出力を生成する。つまり、吸引線内の圧力が上昇した場合、すなわち装置が標的部位を吸引し、または標的部位に付いた場合、装置は、次いで2本の針の間のキャパシタンス/インピーダンスを測定することになる。この測定値が閾値よりも大きい場合、回路は使用者が鼓膜に取り付けたのか、それとも外耳道壁に取り付けたのかを区別することができる。回路は、トリガ・ボタンを押すことによって薬剤を投与するか、それとも吸引から外し、装置を再び位置決めするかについて、実行か中止かの判定を使用者に示すことになる。
【0047】
代替の一実施形態では、キャパシタンスまたはインピーダンスを測定するために必要とされる2つの電極は、同軸絶縁ケーブルなどのケーブルによって回路にリンクされた単一の針の内部に存在する。
【0048】
この実施形態の主な利点は、医師が手術顕微鏡/耳鏡などの可視化補助具なしにこれを使用することができ、正しい場所に正確に薬剤が送達されるのを確実にできることである。
【0049】
本発明は記載した実施形態に限定されず、構成および詳細が異なっていてもよい。たとえば、別の例では、スリーブは後退せず、針が突出して相対的な長手方向の運動を実現する。また、上に述べたように、部品が弾力的で柔軟な場合、部品はTPEなどの任意の適した医療用材料のものでもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】