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特表2022-554054非アルコール性脂肪性肝疾患の予防及び/又は治療に使用される化合物(特にRIPA-56)
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-28
(54)【発明の名称】非アルコール性脂肪性肝疾患の予防及び/又は治療に使用される化合物(特にRIPA-56)
(51)【国際特許分類】
   C07C 239/14 20060101AFI20221221BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 31/165 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 9/02 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 9/68 20060101ALI20221221BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20221221BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
C07C239/14 CSP
A61P1/16
A61K31/165
A61K9/08
A61K9/20
A61K9/70
A61K9/06
A61K9/14
A61K9/48
A61K9/02
A61K9/10
A61K9/68
A23L33/10
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022516621
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(85)【翻訳文提出日】2022-04-26
(86)【国際出願番号】 EP2020079932
(87)【国際公開番号】W WO2021078958
(87)【国際公開日】2021-04-29
(31)【優先権主張番号】19306380.7
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507416908
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
(71)【出願人】
【識別番号】509000747
【氏名又は名称】アンスティトゥー ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ レシェルシュ メディカル(イエヌエスエエールエム)
(71)【出願人】
【識別番号】505132183
【氏名又は名称】アシスタンス プブリク-オピトウ ドゥ パリ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴーテロン ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】ラツィウ ヴラド
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C076
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4B018MD18
4B018ME14
4B117LC04
4B117LK06
4C076AA01
4C076AA06
4C076AA09
4C076AA11
4C076AA22
4C076AA36
4C076AA53
4C076AA69
4C076AA72
4C076CC09
4C076FF70
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206HA16
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA75
4H006AA01
4H006AB27
(57)【要約】
本発明は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、特に脂肪肝又は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の予防及び/又は治療に使用される、化合物及び該化合物を含む組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NAFLD、特に非アルコール性脂肪肝又はNASHの予防及び/又は治療に使用される、式(I):
【化1】
(式中、
は、任意選択でフッ素化又はメチル化されたフェニルであり、
は、任意選択でフッ素化された1,1-ジメチルプロピルである)の化合物、又はその薬学上許容される塩若しくは水和物。
【請求項2】
前記化合物は、
【化2】
(N-ベンジル-N-ヒドロキシ-2,2-ジメチルブタンアミド又は「RIPA-56」)
又はその薬学上許容される塩若しくは水和物である、請求項1に記載の使用のための化合物。
【請求項3】
NAFLD、特に非アルコール性脂肪肝又はNASHの予防及び/又は治療に使用される、活性成分として請求項1又は2に記載の化合物少なくとも1種と、少なくとも1種の薬学上許容される賦形剤とを含む、組成物。
【請求項4】
前記化合物又は前記組成物は、経腸又は非経口経路で投与される、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のための化合物又は組成物。
【請求項5】
前記化合物又は前記組成物は、液剤、食物、飲料、丸剤、錠剤、シロップ剤、パッチ、ガム、クリーム、ゲル、ローション、軟膏、散剤、カプセル剤、バイアル、又は坐剤の形状にある、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用のための化合物又は組成物。
【請求項6】
前記化合物又は前記組成物は、前記化合物が1mg~1000mg、特に50mg~500mg、より詳細には100~300mgの単位剤形に製剤化されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のための化合物又は組成物。
【請求項7】
前記化合物又は前記組成物は、1日あたり1回以上投与される、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用のための化合物又は組成物。
【請求項8】
患者に、1kgあたり1mg~1000mg、特に1kgあたり50mg~500mg、より詳細には1kgあたり100mg~300mgのレジメンで投与される、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用のための化合物又は組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、特に脂肪肝又は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の予防及び/又は治療に使用される、化合物及び該化合物を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、肥満の世界的な増加と並行して、最も一般的な慢性肝疾患となっており、罹患者は、現在、西洋諸国の成人人口の3分の1にのぼる。この実体には、脂肪肝及び脂肪性肝炎の両方が含まれる。脂肪肝とは、肝臓における脂質の異常な貯留である。これは、トリグリセリド脂肪の合成及び排出の正常過程における機能障害を示す。脂肪肝では、脂肪の細胞内貯蔵は、脂肪毒性又は臓器損傷の機構を駆動しないが、これとは対照的に、脂肪性肝炎は、肝硬変及び最終的に末期肝疾患へと進行する可能性があり、したがって、NAFLDに関連する肝臓関連の罹病及び死亡のほとんどが脂肪性肝炎による。脂肪肝と脂肪性肝炎との相違は、小葉又は門脈の炎症及び肝細胞損傷の存在に基づき形態学的に定義されるが、脂肪性肝炎における細胞損傷及び細胞死の機構決定因子については、まだほとんど不明である。
【0003】
肝細胞死は、全ての慢性炎症性肝疾患の進行において重大事象である。最近まで、細胞死の主な形態として2種類が認識されていた:高度に制御された様式で起こるアポトーシス、及び偶発的に引き起こされるネクローシス(necrosis)である。しかしながら、近年、プログラム細胞死がアポトーシスに限定されず、他の形態の制御された細胞死を含むことが明らかとなった。そのような細胞死の1つがネクロトーシスであり、これは、外因性アポトーシス経路の分子機械とネクローシスに類似した進行とを組み合わせたもので、オンコーシス(oncosis)、オルガネラ拡大、及び形質膜崩壊が関与する。アポトーシスが、カスパーゼとして知られるアスパラギン酸特異的プロテアーゼの活性化を必要とするのとは異なり、ネクロトーシスは、受容体共役タンパク質キナーゼ(RIPK)1及び3、並びに偽キナーゼ混合系統キナーゼドメイン様(MLKL)の活性化により駆動される。活性化されると、RIPK1、RIPK3、及びMLKLは、ネクロソーム(necrosome)を形成する。アポトーシスが概してサイレントモードの細胞死であるのとは異なり、ネクロトーシスは、損傷関連分子パターン(DAMP)の放出を介した大規模な炎症、及びネクロソーム依存性インフラマソームの活性化を招く可能性がある。ネクロソーム依存性インフラマソームは、プロIL-1β及びプロIL-18という2種の高度炎症促進性サイトカインの成熟を引き起こす。
【0004】
以前の前臨床及び臨床試験における知見は、汎カスパーゼ阻害剤を通じたアポトーシス阻止が、NASHにおいて肝臓損傷を減少させることが可能であるものの限定的であったことを示し、他の様式の細胞死が関与している可能性があることを示唆した。さらに、汎カスパーゼ阻害剤の存在下では、細胞死受容体の刺激は、ネクロトーシスを優先的に活性化する。したがって、カスパーゼ阻害は、ネクロトーシスを誘導する可能性があり、そのため、NASHにおいて進行中の損傷に実質的に有利となることもあり得る。NASH患者の肝細胞でネクロトーシスが活性化されることも実証された(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Gautheron et al., EMBO Mol Med 2014;6:1062-1074
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、NAFLD、特に脂肪肝又はNASHの有効な予防法又は治療法が、正真正銘必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、NAFLDを予防及び/又は治療するための化合物及び組成物を提供することにより、このような需要を満たすと考えられる。
【0008】
驚いたことに、本発明者らは、RIPK1の高特異的阻害剤であるRIPA-56が、肝臓の脂肪過多症、炎症、及び線維症を減少させるプラス効果を有するという知見を得た。
【0009】
これに関連して、本発明は、NAFLD、特に非アルコール性脂肪肝又はNASHの予防及び/又は治療に使用される、式(I):
【化1】
(式中、
は、任意選択でフッ素化又はメチル化されたフェニルであり、
は、任意選択でフッ素化された1,1-ジメチルプロピルである)の化合物、又はその薬学上許容される塩若しくは水和物に関する。
【0010】
本発明はさらに、NAFLD、特に非アルコール性脂肪肝又はNASHの予防及び/又は治療に使用される、活性成分として上記に定義されるとおりの化合物少なくとも1種と、少なくとも1種の薬学上許容される賦形剤とを含む、組成物に関する。
【0011】
本発明はさらに、NAFLD、特に非アルコール性脂肪肝又はNASHを予防及び/又は治療する必要がある患者に、上記で定義されるとおりの化合物を有効量で投与することによる、NAFLD、特に非アルコール性脂肪肝又はNASHを予防及び/又は治療する方法に関する。
【0012】
本発明はさらに、NAFLD、特に非アルコール性脂肪肝又はNASHの予防用及び/又は治療用医薬を製造するための、上記で定義されるとおりの化合物の使用に関する。
【0013】
本発明において、「薬学上許容される」は、医薬組成物の調製において有用であり、概して安全であり、無毒であり、かつ生物学的にもそれ以外でも望ましくないものではなく、獣医学的及びヒト医薬用途の両方において許容されることを意味するものとする。
【0014】
化合物の「薬学上許容される塩」は、本明細書で定義されるように薬学上許容され、かつ親化合物の所望の薬理活性を有する塩を意味するものとする。薬学上許容される塩として、比較的無毒の酸又は塩基を用いて調製される、活性化合物の塩が挙げられる。
【0015】
本発明の化合物は、非溶媒和形及び溶媒和形で存在可能であり、溶媒和形には水和形が含まれる。一般に、溶媒和形は、非溶媒和形と等価であり、本発明の範囲内に包含されるものとする。一般に、全ての物理的形態は、本発明が企図する使用に関して等価であり、本発明の範囲内にあるものとする。
【0016】
「薬学上許容される賦形剤」は、本発明によれば、医薬組成物の製造において使用される医薬不活性添加剤を意味し、この賦形剤は、医薬活性成分が、医薬組成物の投与に際し医薬の必要なバイオアベイラビリティを患者に提供する医薬配合物又はガレノス製剤へと製造されることを可能にする。賦形剤は、好ましくは、組成物のその他の成分と適合性があり、ヒト又は動物に投与された場合に、有害効果、アレルギー反応、又は他の望ましくない反応を何ももたらさない。
【0017】
本発明において、「非アルコール性脂肪性肝疾患」すなわち「NAFLD」という用語は、過剰な脂肪が肝臓に貯蔵されている状態を指す。この脂肪蓄積は、大量のアルコール使用により引き起こされるのではない。NAFLDスペクトル内で、単純性脂肪肝から非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)へと進行する実体が存在する。
【0018】
本発明において、「脂肪肝」、別名「単純性脂肪肝」という用語は、肝臓による脂肪の異常蓄積が存在するNAFLDの一形態を示し、この形態では、肥満、2型糖尿病、又はメタボリックシンドロームの他の構成要素の場合に合併症を引き起こす可能性がある。
【0019】
本発明において、「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」という用語は、脂肪過多症が肝炎及び肝細胞損傷と共存しているNAFLDの一形態を示す。炎症及び肝臓細胞障害は、肝臓の線維症、又は瘢痕を引き起こす可能性がある。NASHは、肝硬変又は肝臓癌を招く可能性がある。
【0020】
「治療」は、本発明によれば、疾患、障害、又は1つ以上の兆候及び/又は症候の減少又は消失を意味する。特に、NAFLDの治療は、肝臓における脂肪の異常蓄積の減少又は抑制に相当し、NASHの場合は、肝臓の炎症、線維症、及び/又は瘢痕の抑制又は減少に相当する。
【0021】
「予防」は、本発明によれば、疾患、障害、又は1つ以上の兆候及び/又は症候の出現の予防を意味する。特に、NAFLDの予防は、肝臓における脂肪の異常蓄積の予防に相当し、NASHの場合は、肝臓の炎症、線維症、及び/又は瘢痕の予防に相当する。
【0022】
本発明による予防及び治療は、ヒト又は動物に適用される。
【0023】
一部の実施の形態において、本発明による化合物は、
【化2】
(N-ベンジル-N-ヒドロキシ-2,2-ジメチルブタンアミド又は「RIPA-56」)
又はその薬学上許容される塩若しくは水和物である。
【0024】
化合物「RIPA-56」は、受容体共役タンパク質キナーゼ1(RIPK1)の選択的かつ代謝安定な阻害剤である(Ren et al., J Med Chem 2017;60(3): 972-986)。
【0025】
一部の実施の形態において、本発明は、NAFLDの予防及び/又は治療に使用される、化合物RIPA-56又はその薬学上許容される塩若しくは水和物に関する。
【0026】
一部の実施の形態において、本発明は、脂肪肝の予防及び/又は治療に使用される、化合物RIPA-56又はその薬学上許容される塩若しくは水和物に関する。
【0027】
一部の実施の形態において、本発明は、NASHの予防及び/又は治療に使用される、化合物RIPA-56又はその薬学上許容される塩若しくは水和物に関する。
【0028】
一部の実施の形態において、本発明による化合物は、受容体共役タンパク質キナーゼ1(RIPK1)の選択的阻害剤である。RIPK1の選択的阻害は、結合アッセイにより実証することが可能である。
【0029】
本発明の化合物は、それらが活性である場合に、任意の従来様式で任意の投与経路により投与することができる(単独で又は他の医薬品と併用してのいずれかで)。例えば、投与は、経腸経路、特に経口若しくは直腸投与により、又は非経口経路、特に注射によるものが可能であるが、これらに限定されない。具体的な投与経路及び投薬レジメンの選択は、所望の臨床反応を得るために、臨床医に既知の方法に従って臨床医により調節される又は用量設定されることになる。
【0030】
本発明による化合物又は組成物は、患者に投与することが可能である任意の形状とすることができ、例えば、液剤、食物、飲料、丸剤、錠剤、シロップ剤、パッチ、ガム、クリーム、ゲル、ローション、軟膏、散剤、カプセル剤、バイアル、坐剤等である。
【0031】
好適な実施の形態において、本発明による化合物又は組成物は、経口投与することが可能な形状にある。
【0032】
投与される量は、化合物の配合、治療される症状の重篤度、宿主、投与経路等に左右される。この量は、概して、経験的に決定され、常用試験で調節可能である。
【0033】
概して、製剤の単位用量中の活性化合物の量は、特定の用途に応じて、約1mg~1000mgで変更又は調節可能である。
【0034】
一実施の形態において、本発明による化合物又は組成物は、上記化合物が1mg~1000mg、特に50mg~500mg、より詳細には100mg~300mgの単位剤形に製剤化されている。
【0035】
一実施の形態において、本発明による化合物又は組成物は、上記化合物が1mg、2mg、3mg、4mg、5mg、6mg、7mg、8mg、9mg、10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、550mg、600mg、650mg、700mg、750mg、800mg、850mg、900mg、950mg又は1000mgの単位剤形に製剤化されている。
【0036】
一実施の形態において、本発明による化合物又は組成物は、患者に、1kgあたり1mg~1000mg、特に1kgあたり50mg~500mg、より詳細には1kgあたり100mg~300mgのレジメンで投与される。
【0037】
本発明による化合物又は組成物は、1日あたり1回以上投与することができる。当業者又は臨床医は、レジメンを容易に調節することができる。
【0038】
一実施の形態において、本発明による化合物又は組成物は、1日1回、1日2回、1日3回、又は1日4回投与される。
【0039】
一実施の形態において、本発明による化合物又は組成物は、1週間に1回、1週間に2回、1週間に3回、又は1週間に4回投与される。
【0040】
一実施の形態において、本発明による化合物又は組成物は、食事中に、好ましくは食物又は飲料の形態で投与される。
【0041】
別の態様において、本発明はさらに、患者においてNASHを検出するためのバイオマーカーとしての、RIPK1及び/又はMLKLの血清中濃度の利用に関する。
【0042】
実際、本発明者らは、驚いたことに、NASH患者の血清中、タンパク質RIPK1及びMLKLの濃度が上昇し、トランスアミナーゼ活性と相関するという知見を得た。
【0043】
したがって、本発明は、NAFLD患者において、NASHを単純性脂肪肝と区別する有用なツールを提供する。
【0044】
したがって、別の態様は、患者においてNASHを診断するin vitro又はex vivo方法に関し、本方法は、以下の工程:
上記患者の血清試料中のタンパク質RIPK1及び/又はMLKLの濃度を測定する工程と、
得られた値を参照値と比較する工程と、
を含み、
患者の血清試料中のタンパク質RIPK1及び/又はMLKLの濃度が、参照値と比較して上昇している場合は、NASHを示す。
【0045】
一実施の形態において、上記患者は、NAFLDに罹患していると既に診断されている。
【0046】
一実施の形態において、参照値は、健康な個体の血清試料中のRIPK1及び/又はMLKL濃度に相当する。
【0047】
一実施の形態において、参照値は、NAFLD患者の血清試料中のRIPK1及び/又はMLKL濃度に相当する。
【0048】
一実施の形態において、参照値は、単純性脂肪肝患者の血清試料中のRIPK1及び/又はMLKL濃度に相当する。
【0049】
一実施の形態において、タンパク質RIPK1及び/又はMLKLの濃度は、免疫アッセイにより、好ましくはELISAにより測定される。
【0050】
一実施の形態において、患者の血清試料中のタンパク質RIPK1及び/又はMLKLの濃度が参照値と比較して少なくとも2倍上昇している場合は、NASHを示す。
【0051】
一実施の形態において、患者の血清試料中のタンパク質RIPK1及び/又はMLKLの濃度が参照値と比較して少なくとも3倍上昇している場合は、NASHを示す。
【0052】
一実施の形態において、患者の血清試料中のタンパク質RIPK1及び/又はMLKLの濃度が参照値と比較して少なくとも4倍上昇している場合は、NASHを示す。
【0053】
以下の実施例は、当業者に、本発明をどのように作り上げ使用するかについての完全な開示及び説明を提供するために提示するものであって、本発明者らが本発明として考える範囲を限定することを意図してもいなければ、以下の実験が、全ての又は唯一の行われた実験であることを意図してもいない。本発明は、その具体的な実施形態を参照して説明されてきたものの、当業者には当然のことながら、本発明の真の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことが可能であり、また等価物で置き換えることが可能である。また、特定の状況、材料、組成物、プロセス、単数又は複数のプロセス工程を、本発明の目的、趣旨、及び範囲に適合させるために多くの変更を行うことが可能である。そのような変更は全て、本明細書に添付される特許請求の範囲内にあるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】RIPA-56は、L929細胞において、カスパーゼ阻害及びTNF刺激に際してRIPK1依存性細胞死を防止することを示す図である。TNF(50ng/mL)あり又はなしでインキュベートする前に、L929細胞を、RIPA-56(20μM)、Nec-1(20μM)、又はビヒクルで2時間処理し、TNFあり又はなしで20時間インキュベーションした後、(A)形態及び(B)MTTアッセイを用いた細胞生存率を分析した。(C)TNFありでのインキュベーション中の様々な時点でのウエスタンブロット分析。結果は、平均±SEMで示す。n.s.、有意ではない。****p<0.0001。データは、3回の独立した実験を代表するものである。
図2】RIPA-56処置は、HFD給餌マウスにおいて、肝臓の炎症及び線維症を改善することを示す図である。6週齢の雄C57BL/6Jマウス(1群あたりn=5)に、16週間の予防(「Pro」)又は治癒(「Cur」)計画に従って、通常の対照食(NCD)、又はRIPA-56を補充した若しくは補充していない高脂肪食(HFD)を給餌した。16週というのは、炎症及び線維化が発生するのに必要な時間である。マウス間の差は、分散分析(ANOVA)にボンフェローニの多重比較検定を合わせて用い判定した。(A)実験計画の概略図;(B)NCD(1~3)、HFD(4~6)、RIPA-56補充HFD「Pro」(7~9)、又はRIPA-56補充HFD「Cur」(10~12)を給餌したマウス由来の全肝臓タンパク質抽出物に、RIPK1、MLKL、RIPK3、及びローディングコントロールとしてのGAPDHに対する抗体を用いて行った免疫ブロット分析;(C)血清ALT分析;(D)各群のマウス由来の代表的な肝組織切片で行ったF4/80の免疫組織化学分析;(E)ImageJソフトウェアを使用したF4/80病巣の定量分析、マウス1匹あたり10枚の画像を定量した;(F)F4/80、Mcp-1、及びTnfのmRNAレベルをRT-qPCRにより評価した。(G)各群のマウス由来の肝組織切片で行った代表的なシリウスレッド染色;(H)偏光シリウスレッド画像の定量、マウス1匹あたり10枚の画像を分析した;(I)Col1a1のmRNAレベルをRT-qPCRにより評価した。データは全て、平均±SEMで表す;p<0.05;**p<0.01;***p<0.001。スケールバーは、50μmを示す。
図3】予防処置及び治癒処置を受けたマウスの肝臓におけるMLKL、RIPK3、及びRIPK1のmRNA発現レベルのHFD下の対照マウスとの比較を示す図である。Mlkl、Ripk3、及びRipk1のmRNAレベルを、RT-qPCRにより評価し、NCD給餌マウスと比較して示した。群(n=5)間の差は、一元配置分散分析にボンフェローニの多重比較検定を合わせて用い判定した。結果は、平均±SEMで示す;**p<0.01;n.s.、有意ではない。
図4】予防処置及び治癒処置を受けたマウスの肝臓における炎症マーカーのmRNA発現のHFD下の対照マウスとの比較を示す図である。Cd38、Ccl20、Nlrp3、カスパーゼ-1、Il-1bのmRNAレベルを、RT-qPCRにより評価し、NCD給餌マウスと比較して示した。群(n=5)間の差は、一元配置分散分析にボンフェローニの多重比較検定を合わせて用い判定した。結果は、平均±SEMで示す;**p<0.01;n.s.、有意ではない。
図5】RIPA-56処置は、マウスにおいて、HFD誘導型肥満及び脂肪過多症を改善することを示す図である。6週齢雄C57BL/6Jマウス(1群あたりn=5)に、図2Aで示したとおり、NCD又はRIPA-56を補充した若しくは補充していないHFDいずれかを16週間給餌して、マウスの代謝状態を分析した。(A)4群のマウスにおける体重増加。4群のマウスにおいて、(B)食物摂取、(C)自発運動、又は(D)呼吸交換比(RER)に有意な変化はなし;(E)4群のマウスにおける日中及び夜間の総エネルギー消費量を評価した;(F)4群のマウス由来の肝組織切片の代表的なH&E染色。スケールバー、50μm;(G)肝組織切片の脂肪過多症スコアを、盲検で評価した;(H)マウス1匹あたり2つの肝臓試料で肝内トリグリセリド含有量を測定した。結果は、平均±SEMで示す;p<0.05;**p<0.01;***p<0.001。
図6】予防処置及び治癒処置を受けたマウスの脂肪量及び除脂肪量のHFD下の対照マウスとの比較を示す図である。(A)体脂肪量及び相対体脂肪含量、並びに(B)除脂肪量及び相対除脂肪含量を、MRI分析を用いてHFD給餌マウスで評価した。結果は全て、平均±SEMで示す;1群あたりn=5;p<0.05。群間の差は、一元配置分散分析にボンフェローニの多重比較検定を合わせて用い判定した。
図7】RIPA-56処置は、初代ヒト肝細胞において脂肪枯渇を誘導することを示す図である。初代ヒト肝細胞を、NAFLD患者のヒト脂肪肝(n=5)(A~C)から、又はヒト非脂肪肝から単離し、遊離脂肪酸とともにインキュベートして脂肪過多症を誘導するか、又は遊離脂肪酸なし(W/O)でインキュベートし(n=5)(D~G)、RIPA-56(20μM)又はDMSO(ビヒクル)で24時間処理した。(A、D)代表的なオイルレッドO及びDAPI画像;(B、E)DAPI染色核の数を基準に正規化したオイルレッドO染色の定量;(C、F)タンパク質含量を基準に正規化した細胞内トリグリセリドの定量;(G)CPT1A、MTTP、及びAPOB100のmRNAレベルを、RT-qPCRにより評価し、DMSO処理した肝細胞と比較して示す。結果は、平均±SEMで示す;n.s.、有意ではない;p<0.05;**p<0.01;スケールバー、100μm。これらの結果は、5つの独立した細胞調製物を代表するものである。
図8】初代ヒト肝細胞における遊離脂肪酸を48時間用いた脂肪過多症の誘導を示す図である。(A)FFA(オレイン酸及びパルミチン酸)あり又はなしでインキュベートしたPHHの代表的な画像;オイルレッドO染色(B)及び細胞内トリグリセリド含量の定量(C);(D)細胞生存度分析は、MTTアッセイを用いて行った。結果は、平均±SEMで示す;n.s.、有意ではない;****p<0.0001。データは、5つの独立した実験を代表するものである。FFAなしとFFAありとの間の差は、ステューデントのt検定を用いて判定した。
図9】MLKLは、肝細胞において肝内トリグリセリド含量を制御することを示す図である。(A~D)初代ヒト肝細胞を、ヒト非脂肪肝から単離し、遊離脂肪酸とともにインキュベートして脂肪過多症を誘導するか、又は遊離脂肪酸なし(W/O)でインキュベートしてから、ネクロスルホンアミド(NSA)(20μM)又はDMSO(ビヒクル)で24時間処理した。(A)代表的なオイルレッドO及びDAPI画像;(B)DAPI染色核の数を基準に正規化したオイルレッドO染色の定量;(C)タンパク質含量を基準に正規化した細胞内トリグリセリドの定量。(D)CPT1A、MTTP、及びAPOB100のmRNAレベルをRT-qPCRにより評価し、DMSO処理した肝細胞と比較して示した;(E~H)AML-12細胞を、MLKLについてノックアウト(KO)し、対照(CTL)細胞と比較した。CTL細胞は、KO細胞と同様なCRISPR-Cas9選別を受けたものである;(E)全細胞ライセートを、CTL細胞及びMLKL-KO AML-12細胞から抽出し、MLKL、チューブリン、及びGAPDHに対する抗体を用いてウエスタンブロットにより分析した;(F)代表的なオイルレッドO及びDAPI画像;(G)オイルレッドO染色、並びに(H)脂肪添加細胞株におけるトリグリセリド定量。結果は、平均±SEMで示す;n.s.、有意ではない;p<0.05;**p<0.01;***p<0.001;スケールバー、100μm。これらの実験は、5つの独立した細胞調製物を代表するものである。
図10】MLKLは、マウス肝細胞においてミトコンドリア呼吸を調節することを示す図である。AML-12細胞を、MLKLについてノックアウト(KO)し、対照(CTL)細胞と比較した。CTL細胞は、KO細胞と同様なCRISPR-Cas9選別を受けたものである。(A)細胞生存度を、MTTアッセイを用いて分析した;細胞増殖を、(B)BrdU取り込み及び(C)リアルタイム細胞分析(xCELLigence Cim-Plate 96)を用いて分析した。各細胞株を、6つの同一種類ウェルに播種した;(D)ミトコンドリア量を、3つ組で、MitoTracker Red-Probeを用いて評価した;(E)Pgc1a、Cpt1a、及びAcox1のmRNAレベルを、3つ組で、RT-qPCRにより評価した;(F)細胞の呼吸フラックスプロファイルを、Seahorse Extracellular Flux Analyzerを用いて、12回連続で酸素消費速度(OCR)を測定して特定した。各細胞株を、8つの同一種類ウェルに播種した;(G)基礎ミトコンドリアOCR、ATP関連OCR、最大OCRは、活性化倍率で表す。結果は、同一種類8つの平均±SEMで示す;n.s.、有意ではない;p<0.05;**p<0.01;***p<0.001;****p<0.0001。CTL細胞とKO細胞との間の差は、ステューデントのt検定を用いて判定した。実験は全て、3つの独立した細胞調製物を代表するものである。
図11】ミトコンドリア生体エネルギー特性は、CDAAを給餌したRIPK3欠損マウスにおいて向上することを示す図である。(A)32週間CDAAを給餌したWTマウス(1~3)及びRIPK3-/-マウス(4~6)由来の全肝臓タンパク質抽出物でp-MLKL、MLKL、RIPK3、及びローディングコントロールとしてのGAPDHに対する抗体を用いて行った免疫ブロット分析;(B)32週間又は66週間CDAAを給餌したWTマウスとRIPK3-/-マウス(n=7)で比較したクエン酸シンターゼ(CS)及びミトコンドリア呼吸鎖(MRC)活性;(C)Pgc1a及びAcox1のmRNAレベルをRT-qPCRにより評価し、WTマウス(n=7)に関して示した。データは全て、平均±SEMで表す;p<0.05;**p<0.01;***p<0.001。WTマウスとRIPK3-/-マウスとの間の差は、ステューデントのt検定を用いて判定した。
図12】RIPK1及びMLKLは、ネクロトーシス中に細胞外に放出されることを示す図である。(A及びB)NAFLDを有し、組織学的活性スコアが2未満である(n=8)又は2以上である(n=27)対象の血清中のRIPK1及びMLKLタンパク質レベルのELISA分析;**p<0.01;(C及びD)全対象におけるRIPK1又はMLKLレベルとALTレベルとの間の相関プロット分析、r値は、ピアソン相関を用いて計算した;(E)汎カスパーゼ阻害剤Zvad(20μM)、RIPA-56(20μM)、ネクロスタチン-1(Nec-1、20μM)、又はビヒクル(DMSO)で2時間処理してから、TNFα(25ng/mL)あり又はなしで6時間インキュベートしたL929細胞のデブリを除去した上清における、RIPK1のELISA分析。結果は、同一種類6つの平均±SEMで示す。
図13】MLKLは、インスリンシグナル伝達を調節することを示す図である。(A)インスリン(10nM)で15分間刺激したAML-12CTL細胞及びAML-12MLKL-KO細胞における免疫ブロット分析。(B)免疫ブロットインスリン刺激細胞(n=3)の半定量的分析。結果は、平均±SEMで表す;p<0.05。AML-12CTL細胞とAML-12MLKL-KO細胞との間の差は、ステューデントのt検定を用いて判定した。データは、3つの独立した実験を代表するものである。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0055】
材料及び方法
RIPA-56給餌実験
6週齢雄C57BL/6Jマウス(Charles River Laboratories、エキュリー、フランス)に、高脂肪食(HFD-脂肪45kcal%)又は通常固形飼料食(NCD)(Ssniff spezialdiaeten GmbH、ゾースト、ドイツ)を16週間(炎症及び線維化が発生するのに必要な時間)給餌した。高強力かつ高特異的RIPK1キナーゼ阻害剤(RIPA-56と称する)を、最初に記載したとおりに300mg/kg用量でHFDに組み込むことにより、その効果を評価した。
【0056】
患者
血清試料は、35人のNAFLD対象から得た(表1)。試験集団を、活性の組織学的スコア、すなわち、肝細胞風船化及び小葉炎症の合計に基づき2つの群に分けた。第一群には、スコア2未満である対象が含まれ、第二群には、スコア2以上である対象が含まれた。ヒト試料は、Biological Resource Center、Bio-ICAN、Institute of Cardiometabolism and Nutrition(IHU-ICAN、ANR-10-IAHU-05、パリ、フランス)により処理及び貯蔵が行われた。対象は全員、本試験に参加する前に、書面によるインフォームドコンセントを提出した。
【0057】
初代ヒト肝細胞(PHH)の単離及び培養
ヒト肝細胞の単離に関する倫理的承認は、Persons Protection Committee(CPP Ile de France III)及びフランス保健省により与えられた(番号:COL 2929及びCOL 2930)。結腸直腸癌転移の治療のため部分肝切除術を受けた対象から、肝組織を得た。細胞単離は、先に記載したとおり、Human HepCellプラットフォーム(IHU-ICAN、パリ、フランス)で行った。
【0058】
リアルタイム定量的PCR(RT-qPCR)
RNeasyカラム(Qiagen、Courtaboeuf、フランス)を用いて、トータルRNAを抽出した。ΔΔCt法を用いることにより、Hprt、Hmbs、又はGAPDHに対して正規化した後、選択した遺伝子のmRNAレベルを計算した。
【0059】
統計分析
事前決定するためのサイズパワー分析法(GraphPad StatMate)を用いて、以前の実験の標準偏差に基づき、標本サイズを計算した。各群の最小標本サイズは、動物5匹と計算された。同じ性別及び同じ年齢の動物を用いて、生理学的変異性を最小限にした。ステューデントのt検定又は分散分析(ANOVA)を用いて、それぞれ、2群間、及び3群以上の群間の比較を行った。GraphPad Prismソフトウェア(バージョン6.0)を用いて、統計的有意性を計算した。統計検定は、図の説明で記載したとおりに用い、統計的有意性は、以下のとおりであるとして示した:p<0.05;**p<0.01;***p<0.001;****p<0.0001;n.s.、有意ではない。データは全て、平均±SEMで表す。
【0060】
RIPA-56給餌実験
RIPA-56(MedChemExpress、ストックホルム、スウェーデン)は、Ssniff spezialdiaeten GmbH(ゾースト、ドイツ)が標準プロトコルに従って食事に組み込んだ。Ssniff社は、実験動物用食の認可取得企業であり、指令第2001/82/EC号に従って実験動物用の薬用餌を製造する許可を持つ。給餌期間の終了前に、マウスを1週間代謝ケージに単独収容して、LabMaster間接的熱量測定システム(TSE Systems GmbH、バート・ホンブルク、ドイツ)を用いて、食物摂取、呼吸交換比(RER)、エネルギー消費、及び自発運動を測定した。マウスを麻酔下で屠殺し、血液を心臓内穿刺手技により収集した。組織試料は、分子分析用に直接液体窒素に入れて急速凍結させるか、組織分析用に4%PFAで固定してパラフィンに包埋させるかのいずれかを行った。実験は全て、CRSAのSPF動物実験施設において行われ(承諾番号第C-75-12-01号)、実験操作のための動物の管理及び使用に関する欧州共同体理事会指令(2010/63/UE)に従っており、及び<<Comite National de Reflexion Ethique sur l’Experimentation Animale>>(イル・ド・フランス、パリ、n°5)に登記されたフランス動物実験倫理委員会<<Charles Darwin>>の規制に準拠していた。操作は全て、この委員会により承認された(番号第B751201号)。
【0061】
RIPK3 KOマウス給餌実験
7~8週齢の雄C57BL/6野生型及びRIPK3-KOマウスに、コリン欠乏、アミノ酸規定食(CDAA;Envigo、マディソン、アメリカ)を、32週間(NASHを誘導するため)又は66週間給餌した。各実験群には、動物が7匹含まれていた。指定された時点で、動物を4時間絶食させ、CO過剰投与により屠殺し、続いて全採血した。肝臓を取り出し、1つの葉を収集し、生理食塩水ですすぎ、更なる分子分析用に直ちに液体窒素に入れて急速凍結させた。動物実験は全て、地方動物倫理委員会の許可を得て行われており、EU指令(2010/63/EU)、ポルトガル法(DL 113/2013)、及び全ての関係する規則に準拠していた。実験プロトコルは、Direccao Geral de Alimentacao e Veterinaria(ポルトガル)により承認された。動物は、温度管理された環境下、12時間の明暗サイクルで、人道的に管理され、この管理は、学会の指針に準拠しており、全米科学アカデミーが作成し、国立衛生研究所が発行した「Guide for the Care and Use of Laboratory Animals」(NIH publication 86-23、1985年改訂)に記載される概要のとおりに行われた。
【0062】
細胞株及び試薬
L929細胞(LGC Standards、モルスハイム、フランス)を、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(ThermoFisher、マサチューセッツ、アメリカ)で培養した。培地には、10%ウシ胎仔血清(Eurobio、Courtaboeuf、フランス)、ペニシリン(100IU/ml)、ストレプトマイシン(0.1mg/ml)、及びL-グルタミン(0.03%)(ThermoFisher)を補充しておいた。L929細胞を、Zvad(#sc-3067、20μM;Santa Cruz Biotechnologies、ダラス、アメリカ)、Nec-1(#sc-200142、20μM);RIPA-56(#HY-101032、20 M;MedChemExpress、ソーレントゥーナ、スウェーデン)、及びTNFα(#315-01A、20ng/ml;Peprotech、ヌイイ=シュル=セーヌ、フランス)で処理した。AML-12(アルファマウス肝臓-12)肝細胞(LGC Standards)を、DMEM/F12培地(ThermoFisher)で培養した。培地には、10%ウシ胎仔血清(Eurobio)、10μg/mlのインスリン、5.5μg/mlのトランスフェリン、5ng/mlのセレン、及び40ng/mlのデキサメタゾン(Sigma、ミズーリ、アメリカ)を補充しておいた。AML-12肝細胞を、インスリン(#I0516、10nM;Sigma)で15分間刺激した。
【0063】
MlklのCRISPR/Cas9介在型欠失
pSpCas9(BB)-2A-GFP(PX458)を用いて、AML-12細胞にCas9を標的指向ガイドRNA(gRNA)とともに形質移入した。ガイドRNAを設計し、効率及び特異性についてチェックした。続いて、それらをプラスミドにクローニングし、TurboFect(ThermoFisher、マサチューセッツ、アメリカ)形質移入試薬を用いて取扱説明書に従って細胞に形質移入した。形質移入の48時間後、細胞を、フローサイトメトリー(Cell Sorting Core Facility、Centre de Recherche Saint-Antoine)により分取し、GFP陽性度の最も高い細胞を、最終的に96ウェルプレートに単独細胞として移して増殖させた。
【0064】
初代ヒト肝細胞(PHH)の単離及び培養
肝臓断片を、最初に、5mmol/Lのエチレングリコール四酢酸(Sigma)を補充し予め温めた(37℃)カルシウム不含緩衝液で灌流し、続いて、6mmol/Lのカルシウム(CaCl)及びコラゲナーゼ0.05%(5mg/mL)(Sigma)を含有する予め温めた(37℃)緩衝液で灌流した。次いで、肝臓断片を穏やかに震盪撹拌して、肝臓細胞を肝細胞洗浄培地(Life Technologies、ヴィルボン=シュル=イヴェット、フランス)に分散させた。得られる細胞浮遊液を、ガーゼ張りした漏斗で濾過した。次いで、細胞を低速で遠心した。上清には、損傷又は死肝細胞、非実質細胞、及びデブリが含まれており、この上清を除去して、ペレット化肝細胞を、肝細胞洗浄培地に再懸濁させた。生細胞数を、トリパンブルー排除法を用いて測定した。単離したばかりの正常(脂肪過多症5%未満)肝細胞又は脂肪性(10%超)肝細胞を、ウィリアム培地E(Life technologies)に再懸濁させた。培地には、10%ウシ胎仔血清(Eurobio)、ペニシリン(200U/mL)-ストレプトマイシン(200μg/mL)、Fungizone(2.5μg/mL)、及びインスリン(0.1U/mL)(Life Technologies)を含ませておいた。細胞を、I型コラーゲンで予めコーティングした12、24、及び96ウェルプレートに、それぞれ、0.78×10、0.4×10、及び0.5×10生細胞/ウェルの密度で播種し、5%CO雰囲気下、37℃で一晩インキュベートした。培地を、新鮮な完全肝細胞培地に交換した。培地には、1μmol/Lのヘミコハク酸ヒドロコルチゾン(Laboratoires SERB、パリ、フランス)を補充しておいた。肝細胞を、この培地で維持した。正常肝細胞において脂肪過多症を誘導するため、PHHを、それぞれ、オレイン酸とパルミチン酸のモル比2:1の遊離脂肪酸(FFA)混合物(500μmol/L:250μmol/L)とともに、及び1%脂肪酸不含BSAとともに、48時間インキュベートした。
【0065】
ウエスタンブロット
組織粉砕乳棒(Kimble、ロックウッド、アメリカ)又はビーズ粉砕機12(Omni International、ジョージア、アメリカ)を用いて、組織試料をNP-40溶解緩衝液にホモジナイズして、タンパク質ライセートを得た。細胞又は組織ホモジネートから抽出したタンパク質抽出物30μgを、SDS-PAGEにより分離させ、ポリフッ化ビニリデン膜に移し、免疫ブロット法により分析した。膜を、以下の抗体でプローブ探索した:抗RIPK3(#NBP1-77299;Novus、センテニアル、アメリカ)又は(#AHP1797、AbD Serotec,Bio-Rad Laboratories、ハーキュリーズ、アメリカ)、抗RIPK1(#3493;Cell Signaling、マサチューセッツ、アメリカ)、抗ホスホ-MLKLマウス(#37333;Cell Signaling)又は(#ab 196436、Abcam、ケンブリッジ、イギリス)、抗ホスホ-AKT Ser473(#4060;Cell Signaling)、抗AKT(#4691;Cell Signaling);抗GAPDH(#97166;Cell Signaling)又は(#sc-23233、Santa Cruz Biotechnology);抗MLKL(#ab172868;Abcam)又は(#SAB1302339、Sigma)、及び抗チューブリン(#66031-1-lg;Proteintech、イリノイ、アメリカ)。全ての一次抗体は、1:2000に希釈して使用した。二次抗体として、抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)(#NA934V;GE healthcare、シカゴ、アメリカ)及び抗マウスHRP(#NA931V;GE healthcare)を使用した。全ての二次抗体は、1:10000に希釈して使用した。
【0066】
リアルタイム定量PCR(RT-qPCR)
TRIzol試薬(ThermoFisher)及びRNeasy Miniキット(Qiagen、Courtaboeuf、フランス)を用いて、トータルRNAを肝組織から精製した。RNAの量及び質は、nanodrop(ThermoFisher)を用いて、分光学的に特定した。トータルRNA(2μg)を用いて、M-MLV逆転写酵素キット(ThermoFisher)を用い、製造業者の手順に従って、cDNAを合成した。cDNA試料(2μl)は、合計体積10μlで、SYBRグリーン試薬(Roche Diagnostics、メラン、フランス)及び特異的プライマーを用いて、LightCycler 96 Roche装置でRT-qPCRを行うのに使用された。全てのRT-qPCRは、2つ組で行われた。データを生成し、LightCycler 96ソフトウェア1.1.0を用いて分析した。全ての値は、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、ヒドロキシメチルビランシンターゼ(Hmbs)、又はヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Hprt)mRNAのレベルを基準に正規化された。
【0067】
組織学検査及び免疫組織化学検査
パラフィン切片を、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)、シリウスレッド(SR)で染色するか、又は様々な一次抗体及び二次抗体とともにインキュベートした。ホルマリン(4%)固定しパラフィン包埋した肝組織切片を、Bond一次抗体希釈剤(Leica Biosystems、ウェッツラー、ドイツ)中でインキュベートし、BOND-MAX免疫組織化学ロボット(Leica Biosystems)で、3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)用BOND重合体精密検出液を用いて染色を行った。抗F4/80抗体(Spring Bioscience、アリゾナ、アメリカ)を一次抗体として使用した。撮影は、NanoZoomer S360スライドスキャナー(浜松ホトニクス株式会社、浜松、日本)で行った。H&E及びSR染色は、熟練した病理医により盲検で評価され、NAFLD用組織学的スコアリングシステムを、NASスコアシステムに従って行った。染色は、FIJIソフトウェアを用いてデンシトメトリー法(合計組織面積あたりの染色面積)で定量し、合計組織面積を基準に正規化した。
【0068】
ミトコンドリア呼吸アッセイ
MitoTracker Redプローブを用いて、ミトコンドリア量を測定した。細胞を、96ウェルプレートで培養し、洗い、DMEM/F12中、37℃で2時間、MitoTracker(500nmol/L)(ThermoFisher)とともにインキュベートした。プレート蛍光リーダー(TECAN、メンネドルフ、スイス)を用いて、MitoTracker色素について励起575nm/蛍光620nmで色素蛍光を分析した。結果は、DAPI蛍光を基準に正規化した。ミトコンドリア呼吸アッセイを、Seahorse XF24 Cell Mito Stress検査キット(Seahorse Biosciences、マサチューセッツ、アメリカ)を用いて、取扱説明書に従って行った。手短に述べると、AML-12細胞を、24ウェルSeahorse細胞培養プレートに1ウェルあたり50000細胞の最適化密度で播種し、一晩インキュベートした。各細胞株を、8つの同一種類のウェルで播種した(n=8)。24時間後、Seahorse XF24 Extracellular Flux AnalyzerをXF Waveソフトウェアとともに用いて、各ウェルの酸素消費速度(OCR)を測定した。各ウェルについて連続OCR測定を行った。この測定は、3回の基礎OCR測定、1μmol/Lのオリゴマイシンの自動注入に続く3回のOCR測定、1μMのカルボニルシアニドp-トリフルオロメトキシフェニルヒドラゾン(FCCP)の注入に続く3回のOCR測定、そして最後に、1μMのロテノンの2回注入に続く3回のOCR測定からなるものであった。OCR測定に続いて、細胞播種が、対照細胞とKO細胞との間で同一であることを確実にするために、各ウェルの総細胞タンパク質抽出物を評価した。
【0069】
肝臓ミトコンドリアの単離及びMRC酵素アッセイ
凍結肝臓試料を単離緩衝液(225mMのマンニトール、75mMのスクロース、0.1mMのEDTA、及び10mMのTris-HCl(pH7.2))中、450μlあたり肝組織50mgの比で、機械式ビーズホモジナイザー(RETSCH-MM301、Verder Scientific GmbH、ハーン、ドイツ)を用いてホモジナイズすることにより、マウス肝臓核除去後上清を調製した。800g、4℃で10分間遠心後、上清は残して、ペレットを廃棄した。タンパク質濃度を、Pierce BCAタンパク質アッセイキット(ThermoScientific(商標))で、標準としてBSAを用いて測定し、アッセイごとに20μlの一定分量(2μg/μl)を用いた。呼吸複合体I、II、II+III混合型、IV、及びクエン酸シンターゼの活性を、以下に記載のとおりに分析した。
【0070】
複合体I(NADHユビキノンオキシド-レダクターゼ)の比活性を、NADHの酸化による340nmのNADH吸光度の低下により測定した。2つの1mLキュベット中、単離した核除去後上清(40μg)を、反応緩衝液(50mMのリン酸カリウム(pH7.5)、3.75mg/mLのBSA、100μMデシルユビキノン)950μlに加えた。2つのキュベットのうち片方に、ロテノン(12.5μM)を複合体I活性の阻害剤として用いた。340nm及び37℃の条件下、初期較正を空気で行い、キュベットを分光光度計(Beckman Coulter DU 800)中で5分間インキュベートした。次いで、NADHの酸化速度を、100μMのNADHを添加してから3分間、15秒ごとに測定した。複合体I比活性は、合計NADHユビキノンオキシド-レダクターゼ活性からロテノン非感受性活性を差し引くことにより計算されたロテノン感受性活性である。
【0071】
複合体II(コハク酸ユビキノンオキシド-レダクターゼ)の比活性を、2,6-ジクロロフェノールインドフェノールの還元による600nmの吸光度の低下により評価した。肝臓核除去後上清(40μg)を、反応緩衝液(25mMのリン酸カリウム(pH7.5)、20mMのコハク酸塩、1mMのKCN、100μMのATP、2mg/mLのBSA、50μMの2,6-ジクロロフェノールインドフェノールナトリウム塩)976μlに加え、各キュベット中、37℃で5分間、平衡化させた。初期較正を空気で行い、ベースラインを、3分間、15秒ごとに測定した。室温に維持しながら、25mMのデシルユビキノンを4μl加えることにより反応を開始させ、600nmでの吸光度を、37℃で3分間、15秒ごとに測定した。
【0072】
複合体II+III(コハク酸シトクロムcオキシド-レダクターゼ)の混合活性を、シトクロムcの還元による550nmの吸光度の上昇により測定した。核除去後上清(40μg)を、反応緩衝液(20mMのコハク酸塩、20mMのリン酸カリウム(pH7.5)、100μMのシトクロムc、1mMのKCN、2mg/mLのBSA、100μMのATP)880μlに加え、37℃で5分間、平衡化させた。初期較正を空気で行い、ベースラインを、550nmで3分間、15秒ごとに測定した。室温に維持しながら、1mMのシトクロムcを100μl加えることにより反応を開始させ、550nmでの吸光度を、37℃で3分間、20秒ごとに測定した。
【0073】
複合体IV(シトクロムcオキシダーゼ)の比活性を、還元シトクロムcの酸化による550nmの吸光度の低下により測定した。50mMのリン酸カリウム(pH7.0)中の100μMの還元シトクロムcを使用することにより、初期シトクロムc溶液を調製した。シトクロムcの100%酸化溶液及び還元溶液は、それぞれ、1mLキュベット中、初期シトクロムc溶液を用いて、フェリシアン化カリウム及び亜ジチオン酸ナトリウムを数グラム加えて調製した。空気でのブランクを得た後、100%酸化溶液の吸光度を550nmで測定し、次いで100%酸化溶液を用いて再度ブランク測定した後、100%還元溶液を測定した。吸光度が還元溶液吸光度の90%~95%に到達するまで、初期シトクロムc溶液に一定分量の100%還元溶液を少しずつ加えた。次いで、還元された初期シトクロムc溶液980μlを、1mLキュベット中、37℃で5分間、インキュベートした。初期較正を空気で行った。核除去後上清(40μg)を加えることで反応を開始させ、550nmでの吸光度を、37℃で3分間、10秒ごとに測定した。
【0074】
クエン酸シンターゼ(CS)の活性は、チオニトロ安息香酸アニオン形成の変化により評価した。肝臓核除去後上清(40μg)を、反応緩衝液(100mMのTris/HCl(pH8.1)、100μMの5,5’-ジチオビス-2-ニトロ安息香酸塩、300μMのアセチル-CoA、500μMのオキサロ酢酸塩、及び0.1%のTritonX100)930μlに加えた。次いで、412nmでの吸光度を、37℃で4分間、20秒ごとに測定した。
【0075】
測定された活性は全て、nmol/分/タンパク質mgで表した。
【0076】
細胞増殖アッセイ
AML-12細胞(1ウェルあたり5000)を、96ウェルプレートに播種し、DMEM/F12培地(ThermoFisher)中、37℃で一晩インキュベートした。培地には、10%ウシ胎仔血清(Eurobio)を補充しておいた。細胞増殖を、播種から0時間、2時間、4時間、8時間、12時間、及び24時間後にBrdU比色測定ELISAアッセイ(Roche Diagnostics、メラン、フランス)を行うか、又はxCELLigenceリアルタイム細胞分析を取扱説明書に従って行うかのいずれかにより測定した。
【0077】
細胞生存度アッセイ
細胞生存度を、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシ-フェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム(MTT)比色測定アッセイ(ThermoFisher)を用いて特定した。このアッセイは、細胞代謝活性を測定する。このアッセイは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)がMTTを還元してその不溶性最終産物ホルマザンにする能力に基づいており、ホルマザンは、紫色を呈色する。細胞を、0.5mg/mLのMTT試薬(ThermoFisher)とともに2時間インキュベートした。光学顕微鏡下でMTT結晶を制御して発生させたら、結晶をDMSOに溶解させて、540nmで吸光度を測定することにより定量した。
【0078】
オイルレッドO染色、画像処理、及び定量
細胞内脂質を、オイルレッドO(Sigma)で染色した。細胞を、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗い、4%パラホルムアルデヒド含有PBSで、10分間固定した。固定した細胞を、オイルレッドO溶液とともに室温で30分間インキュベートし、次いで、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)(Life Technologies)とともに5分間インキュベートした。蛍光画像を、IX83 Olympus顕微鏡で視認し、Cell-Sens V1.6で取得し、FIJIソフトウェアで分析した。1条件あたり8箇所~10箇所の異なる範囲の画像を、mCherryフィルターを用いて蛍光顕微鏡により画像化し、続いてFIJIソフトウェアを用いてコンピューター画像分析を行った。簡単に述べると、分析は、8ビッドレッド・グリーン・ブルー画像を二値画像へと閾値変換することにより行った。二値画像は、脂肪滴を表すピクセルのみからなるものである。実験の各セットについて、脂肪滴シグナル、すなわちレッドピクセルの色飽和につき1つの閾値を定義した。重要なことは、画像分解後、一貫性及び正確な二値変換に関して、二値画像を元来の画像と手作業で比較したことである。画像中の脂肪滴で占められた範囲を、FIJIソフトウェアによりμm単位の表面積として表示する。これは、DAPI染色核の半自動計測による細胞数を基準に正規化された。切片の拡大表示は、白色四角で示される。
【0079】
細胞内トリグリセリド含量の定量
ヘキサン/イソプロピルアルコール(3:2)を用いて、細胞内脂質を初代ヒト肝細胞から抽出した。細胞を洗い、12ウェル培養プレート中、ヘキサン/イソプロピルアルコール(3:2、vol/vol)を1ウェルあたり500μL用いて、シェーカー(80rpm/分)中、室温で60分間、インキュベートした。次いで、全てのウェルの内容物を、有機溶媒の窒素蒸発用ガラス管に移した。蒸発後、脂質をイソプロピルアルコールに再懸濁させ、乾燥後分析用に2つ組の96ウェルプレートに移した。Infinity(商標)トリグリセリドキット(ThermoFisher)を用い、取扱説明書に従って、トリグリセリドを測定した。各ウェルの吸光度を、Tecanマイクロプレートリーダー(TECAN)を用いて測定し、標準曲線に基づいて濃度に変換した。結果は、細胞タンパク質含量を基準に正規化した。
【0080】
肝組織(20mg~30mg)を、1mLのPBSに加えて、Tissue-Lyserホモジナイザー(Qiagen)を用いて3回のサイクルでホモジナイズした。サイクルはそれぞれ30秒であった。ホモジネートを、透明ガラス管(Labelians Group、ヌムール、フランス)に移した。ホモジネートを、クロロホルム及びメタノール5mL(2:1、vol/vol)と混合した。混合物を激しくボルテックスし、氷上で15分間インキュベートして、2相に分離させた。脂質抽出物を、1650g、4℃で10分間遠心することにより、下相に濃縮させた。有機溶媒相の一定分量を、窒素ガス下で蒸発させた。肝組織の脂質抽出物を、1%TritonX-100含有イソプロパノール200μLに溶解させた。アッセイ自体に関して、トリグリセリド標準又は肝臓脂質抽出物10μlを96ウェルプレートに加え、Infinity(商標)トリグリセリド試薬(ThermoFisher)200μLをマイクロプレートに加えた。ライセート中のタンパク質濃度を、BCAアッセイキット(ThermoFisher)により測定した。吸光度を、Tecanマイクロプレートリーダーを用いて測定した。肝臓トリグリセリドレベルを、タンパク質含量を基準に正規化した。
【0081】
ELISA分析
ヒトRIPK1(SEE640Hu;Could-Clone Corp.、テキサス、アメリカ)、ヒトMLKL(SER645Hu;Could-Clone Corp.)及びマウスRIPK1(CSB-EL019735MO;Cusabio、テキサス、アメリカ)のタンパク質濃度を、ELISAキットにより、取扱説明書に従って測定した。
【0082】
実施例1 - RIPK1阻害剤は、HFD給餌マウスにおいて、壊死性炎症性特質及び繊維化NASH特質を減少させる
RIPA-56は、TNFα誘導型細胞死の十分に確立された細胞モデル、すなわち、L929細胞を用いて本明細書中で確認されたとおり(図1A図1C)、高度に強力、選択的、かつ代謝安定なRIPK1阻害剤であり、MLKL活性化及びMLKL介在性細胞死を防止することができる。NASHにおけるRIPK1阻害の治療可能性を研究するため、RIPA-56を、HFDマウスモデルで試験した。6週齢雄C57BL/6Jマウスに、16週間、NCD又はHFDを給餌した。HFD給餌マウスは、追加の処置を受けないか又はRIPA-56を投与されるかのいずれかであり、RIPA-56は、HFD給餌の最初から又は12週間後のいずれかで投与され、それぞれ予防処置及び治癒処置を模倣していた(図2A)。ウエスタンブロット分析から、RIPK1の下流標的であるMLKL及びRIPK3が、NCD給餌マウスに比べてHFD給餌マウスの肝臓で過剰発現したことが示された。HFD給餌マウスでは、RIPA-56は、両方の処置でそれらの発現を抑制しており、予防設定ではほとんど完全な阻害であった(図2B)。同様に、MLKL及びRIPK3のmRNAレベルは、両レジメンで低下した(図3)。対照的に、RIPK1の発現は、RIPA-56処置による影響を受けなかった(図2B及び図3)。HFD給餌マウスにおける血清中アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の増加(NCD給餌マウスに比べて約5倍の増加)は、予防設定及び治癒設定の両方で、RIPA-56により消失し、このことは、これらの動物において組織損傷が減少したことを示唆する(図2C)。
【0083】
HFD給餌マウスの肝臓の組織変化は、脂肪過多症、炎症細胞浸潤、及び線維症が複合していた(図2D図2I)。肝臓F4/80免疫染色によりHFD給餌マウスにおけるマクロファージ浸潤(NCD給餌マウスに比べて約10倍の増加)が確認されたが、これは、予防処置及び治癒処置の両方でRIPA-56により抑制された(図2D及び図2E)。この知見と一致して、F4/80のmRNAレベル及び強力なマクロファージ化学誘引物質であるMcp-1のmRNAレベルは、HFD給餌マウスの肝臓中の方がNCD給餌マウスよりも有意に高かった(それぞれ約3倍高かった)。そしてこの差は、RIPA-56を用いたレジメン両方後に消失した(図2F)。主要炎症促進性サイトカインであるTNFαの発現は、HFD給餌マウスの肝臓でも同様に増加した(3倍の増加)が、RIPA-56予防処置後は増加せず、治癒処置後は顕著に減少した(図2F)。同様に、他の炎症性マーカー、例えば、Ccl20、Nlrp3、又はIl-1b等のmRNAレベルの増加が、HFD給餌マウスの肝臓で観察されたが、RIPA-56処置されたマウスでは、消失又は減少した(図4)。
【0084】
肝組織切片のシリウスレッド染色から、HFD給餌マウスは、細胞周囲線維症を発症した(NCD給餌マウスよりも10倍高い)が、これは、RIPA-56処置後、実質的に消失したことが示された(図2G及び図2H)。HFD給餌マウスの肝臓では、コラーゲン-1a1(Col1a1)mRNAレベルも、NCD給餌マウスに比べて上昇した(約6倍の上昇)。mRNAレベルは、RIPA-56予防処置後は全く上昇することはなく、治癒処置後に低下した(図2I)。
【0085】
これらの結果は、RIPK1がNASHの病理発生に寄与していること、及びRIPK1阻害剤RIPA-56を用いた予防処置がNASHの組織学的特質を予防するのに対し、治癒処置は、それら特質の強度を大きく減弱させることを、疑いの余地なく実証した。
【0086】
実施例2 - RIPK1阻害剤は、HFD給餌マウスにおいて、脂肪過多症を反転させ、体重増加を弱める
HFD給餌マウスは、肥満を発症した。予防設定で、RIPA-56処置及びHFDを同時に開始した場合、マウスは依然として肥満であったものの、体重増加が未処置HFD給餌マウスよりも有意に少なかった(約12%低かった)(図5A)。これらのマウスは、HFD下の未処置マウスに比べて、脂肪量及び相対脂肪量の有意な減少、並びに除脂肪量及び相対除脂肪体重の増加傾向を提示した(図6A及び図6B)。対照的に、治癒設定で、12週間のHFD後にRIPA-56を遅れて開始した結果、未処置HFD給餌マウスに比べて体重増加、脂肪量、又は除脂肪量に差がなかった(図5A並びに図6A及び図6B)。HFD給餌群間で食物摂取、自発運動、又は呼吸交換比(VCO対VO比)に有意差は観察されなかった(図5B図5D)。それでも、間接的熱量測定法を用いると、HFD給餌マウスでは、RIPA-56治癒処置を受けたもの又は処置を受けなかったものと比べた場合に、RIPA-56予防処置後にエネルギー消費が増加したことが記録され(図5E)、予防処置は、これらマウスにおける体重増加が少なかったことに少なくとも部分的に寄与していた可能性がある。興味深いことには、HFD給餌マウスは、治癒的及び予防的RIPA-56投与どちらの後も肥満のままであったにもかかわらず、両設定において脂肪過多症は大きく減少した(図5F図5H)。RIPA-56は、盲検組織分析(図5F及び図5G)により及び肝臓トリグリセリド含量(約30%~40%減少)(図5H)により測定した場合、肝脂肪含量の顕著な減少をもたらした。まとめると、これらの結果は、RIPK1阻害がHFD誘導型脂肪肝を改善することを示した。
【0087】
実施例3 - RIPK1阻害は、初代ヒト脂肪性肝細胞において脂肪枯渇を促進する
RIPA-56が肝細胞に直接作用する可能性があるかどうかを試験するため、初代ヒト脂肪性肝細胞のモデルを最初に使用した。NAFLD患者の肝臓から単離した肝細胞を、48時間初代培養した後、RIPA-56又はビヒクル(DMSO)で24時間処理した。細胞内脂質含量を、オイルレッドO染色及びトリグリセリドアッセイにより評価した(図7A図7C)。RIPA-56処理した脂肪性肝細胞は、細胞内脂肪滴(図7A及び図7B)及びトリグリセリド含量(図7C)の顕著な減少を起こした。根本的機構についての洞察を得るため、初代ヒト肝細胞を遊離脂肪酸混合物(オレイン酸及びパルミチン酸、モル比2:1)とともに48時間インキュベートすることで脂肪過多症を誘導したものも用いた。遊離脂肪酸に誘導された脂肪滴の増加は、細胞生存度に影響を及ぼすことなく、48時間以内で約2倍~3倍にのぼった(図8A図8D)。脂肪肝から単離された肝細胞と類似して、初代ヒト肝細胞にin vitroで脂肪過多症を誘導したものも、RIPA-56に反応して、細胞内脂肪滴(図7D及び図7E)及びトリグリセリド含量(図7F)の有意な減少を起こした。これは、CPT1A、APOB100、及びMTTP発現の上方制御と共存しており、このことは、脂肪酸β酸化及び/又はトリグリセリド排出の増加が、RIPA-56の抗脂肪性作用に寄与したことを示唆する(図7G)。
【0088】
実施例4 - RIPK1の下流標的であるMLKLは、肝細胞においてトリグリセリド含量を調節する
MLKLは、RIPK1の下流標的であり、そのリン酸化及び活性化は、RIPA-56により、数時間の間、阻害される(図1)。MLKLの発現もまた、RIPA-56処置後、数週間、HFD給餌マウスの肝臓で下方制御される(図2B及び図3)。したがって、MLKL阻害により、脂肪性肝細胞においてRIPA-56により誘導される脂肪枯渇を説明できるのではないかという仮説が立てられ、ヒトMLKLの特異的阻害剤であるネクロスルホンアミドが、ヒト脂肪性肝細胞において細胞脂肪を減少させるかどうかが試験された。図9は、ネクロスルホンアミドが、細胞内脂肪滴(図9A及び図9B)及びトリグリセリド含量(図9C)を有意に減少させ、CPT1A発現を上方制御した(図9D)ことを示す。MLKL消失が、ネクロスルホンアミドと接触した肝細胞で見られる脱脂効果を再現するかどうかについても判定した。脂肪酸代謝が初代肝細胞のものに酷似している不死化マウス肝細胞(AML-12細胞株)で、CRISPR-Cas9を用いてMLKLをノックアウト(KO)した。有効なKOであることは、ウエスタンブロット分析により確認した(図9E)。遊離脂肪酸とともに48時間インキュベートした後の細胞内トリグリセリド蓄積は、MLKL-KO細胞において、対照よりも有意に低かった(図9F図9H)。総合して、これらの結果は、RIPK1若しくは最終遂行物MLKLを阻害することによる、又はMLKLを除去することによるネクロソームの不安定化が、肝細胞中のトリグリセリド含量を減少させるのに十分であることを示す。このため、RIPK1/MLKL軸は、NAFLDにおいて肝臓脂肪蓄積の主要経路であるように思われる。
【0089】
実施例5 - MLKLは、ミトコンドリアバイオマス及び活性を調節する
RIPK1/MLKL軸が肝細胞における脂肪貯蔵を制御する機構について洞察を更に深めるため、MLKL-KO細胞のミトコンドリア活性を検査した。MLKL-KO細胞は、MTTアッセイで評価した場合、生存度の見かけ上の上昇を示した(図10A)。この効果は、増殖とは無関係であり、増殖については、BrdUアッセイ(図10B)及びxCELLigenceリアルタイム細胞分析(図10C)で示されるとおり、KO細胞と対照細胞との間で差がなかった。MTTは、代謝活性な細胞で減少するが、これは部分的にはミトコンドリアデヒドロゲナーゼ酵素の作用によるものである。ミトコンドリア量を測定したところ、その量は適度であったが、対照と比較した場合にKO細胞で有意に増加していることがわかった(図10D)。同様に、ミトコンドリア新生の主要制御因子であるPgc1aのmRNAレベルも、KO細胞において有意に上昇していた(図10E)。これらの知見に基づいて、ミトコンドリア活性がKO細胞株で上昇している可能性があると見込まれた。脂肪酸β酸化に関与する遺伝子(Cpt1a、Acox1)の発現を測定したところ、それらは、対照に比べて、KO細胞で過剰発現していることがわかった(図10E)。これら細胞の生体エネルギー状態を比較し、ミトコンドリア呼吸試験を行った。MLKL-KO細胞は、基礎ミトコンドリア呼吸が対照細胞よりも顕著に高かった(図10F及び図10G)。ATP合成に費やされる酸素消費を、ミトコンドリア内膜を横断する自然プロトンリークによるものと区別するため、ATPシンターゼ阻害剤オリゴマイシンを加えたところ、KO細胞ではATP関連呼吸が増大していることが示された(図10F及び図10G)。ATPを生成させずに酸素の急速な消費を招くアクセラレータイオノフォアであるFCCPを加えたところ、KO細胞は、最大呼吸数が、対照細胞よりも顕著に高いことが示された(図10F及び図10G)。最後に、コリン欠乏アミノ酸規定(CDAA)食で誘導されたNASHであるRIPK3-KOマウスでも、WTマウスと比べた場合にミトコンドリア生体エネルギー特性の改善を提示するかどうかを評価した(図11A図11C)。最初に、RIPK3-KOマウスは、同一食を給餌されたWTマウスに比べて、リン酸化MLKL(p-MLKL)のレベルが有意に低いことがわかった(図11A)。MLKLの低下した活性に合わせて、肝臓ミトコンドリアにおけるクエン酸シンターゼ(CS)及びミトコンドリア呼吸鎖(MRC)複合体、特に複合体II+IIIの活性は、WTマウスに比べて、RIPK3-KOマウスで有意に向上した(図11B)。WTマウスとKOマウスとの間のこれらの違いは、給餌期間が長くなるほど一層著明になった(図11B)。同様に、Pgc1a及びAcox1のmRNAレベルは両方とも、32週間で、WTマウスに比べて、RIPK3-KOマウスで有意に上昇した(図11C)。まとめると、これらの結果は、ミトコンドリア呼吸の調節を通じたMLKL活性化の新規機能を提示する。
【0090】
実施例6 - RIPK1及びMLKLは、NASH患者の血清中で増加する
ネクロトーシスに介在するタンパク質の血清中濃度は、敗血症により引き起こされた組織損傷のある患者において上昇することが、以前に見つかっており、このことから、NAFLDの患者でも、この上昇が壊死性炎症性活性の結果として生じる可能性が出てくる。RIPK1及びMLKLタンパク質の血清中濃度を、NAFLD患者35人で測定したところ、これらの濃度は、活動性疾患である(組織学的活性スコア2以上対2未満)患者の血清中で顕著に上昇していた(表1及び図12A及び図12B)。両タンパク質の血清中濃度は、ALTと正の相関にあった(図12C及び図12D)。ネクロトーシスのメディエーターがネクロトーシス中に細胞外環境に放出され得ることを確認するため、TNFαと接触させたL929細胞が、それらの上清にRIPK1を放出するかどうか試験した。TNFαと接触させたL929細胞の上清にRIPK1が放出され、この放出はZvadの存在下で顕著になるが、細胞をRIPA-56又はNec-1処理することによりネクロトーシスを抑止した場合は、検出不能なままであることがわかった(図12E)。合わせると、これらの結果は、ネクロトーシスがNAFLDの病理発生に寄与していること、並びにRIPK1及びMLKLの体循環中への放出が、ヒトNAFLDにおける壊死性炎症性活性を反映していることを示唆する。
【0091】
【表1】
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
図11
図12
図13
【国際調査報告】