(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-28
(54)【発明の名称】塗装性を改善するポリカーボネート及びポリカーボネートブレンドを含む層状複合材
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20221221BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20221221BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
B32B27/36 102
C09D5/00 D
C09D5/00 Z
C09D201/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523424
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(85)【翻訳文提出日】2022-04-20
(86)【国際出願番号】 EP2020080223
(87)【国際公開番号】W WO2021083925
(87)【国際公開日】2021-05-06
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520204744
【氏名又は名称】コベストロ・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・アンド・コー・カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィッツ クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】クナウプ マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ノルテ マリウス
(72)【発明者】
【氏名】フーフェン ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】ヒンツマン ディルク
(72)【発明者】
【氏名】シグムント スヴェン
(72)【発明者】
【氏名】クリッペルト ウーヴェ
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AA37
4F100AA37A
4F100AK01
4F100AK01A
4F100AK01B
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4F100AK45
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4J038HA026
4J038KA08
4J038MA08
4J038NA01
4J038PA07
4J038PB07
4J038PC08
(57)【要約】
本発明は、繊維を含有する場合があるポリカーボネートベースのマトリックスと、特定のポリカーボネート-ポリエステルブレンドの上層(outer layer)とを含む層状複合材、そしてまたその上層(outer layer)のマトリックスとは反対側にある面に塗装が施されている上記のような層状複合材、これらの複合材を製造する方法、そしてまた例えば自動車用外装部材(add-on parts)を製造するためのそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層Sと、該基材層Sと少なくとも部分的に接合された上層Dとを含み、
前記基材層Sの材料が第1の熱可塑性ポリマーを含み、かつ前記上層Dの材料が同様に第1の熱可塑性ポリマーを含む、層状複合材であって、
前記第1の熱可塑性ポリマーは、芳香族ポリカーボネートであり、かつ、
前記上層Dの材料は、ポリエステル成分Pとのブレンドとして前記第1の熱可塑性ポリマーを含み、ここで、
i)このポリエステル成分Pの割合は、前記上層Dの材料の総重量に対して、2重量%以上、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは8重量%以上であり、かつ前記ポリエステル成分Pは、少なくとも1種のポリシクロアルキレンテレフタレートを含み、又はそれからなり、
ii)このポリエステル成分Pの割合は、前記上層Dの材料の総重量に対して、10重量%以上、好ましくは15重量%以上、特に好ましくは17重量%以上であり、かつ前記ポリエステル成分Pは、少なくとも1種のポリアルキレンテレフタレートを含み、又はそれからなり、
iii)このポリエステル成分Pの割合は、前記上層Dの材料の総重量に対して、20重量%以上、好ましくは30重量%以上、特に好ましくは35重量%以上であり、かつ前記ポリエステル成分Pは、少なくとも1種のポリアルキレンナフタレートを含み、又はそれからなり、
iv)このポリエステル成分Pの割合は、前記上層Dの材料の総重量に対して、2重量%以上、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは8重量%以上であり、かつ前記ポリエステル成分Pは、以下の成分:
少なくとも1種のポリシクロアルキレンテレフタレート、
少なくとも1種のポリアルキレンテレフタレート、
少なくとも1種のポリアルキレンナフタレート、
の少なくとも2種の混合物を含み、又は該混合物のみからなることを特徴とする、層状複合材。
【請求項2】
前記上層Dの前記基材層Sとは反対側にある面上に配置されて、前記上層Dに少なくとも部分的に接合された塗料層Lが更に存在する、請求項1に記載の層状複合材。
【請求項3】
前記基材層Sは、強化繊維を更に含む、請求項1又は2に記載の層状複合材。
【請求項4】
前記基材層Sは、それぞれの場合に一方向に整列したエンドレス繊維の複数の層を含み、かつ1つの層のエンドレス繊維は、直接隣接する層のエンドレス繊維と同じ配向を有していない、請求項3に記載の層状複合材。
【請求項5】
前記第1の熱可塑性ポリマーは、ビスフェノールAに基づくホモポリカーボネート、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンに基づくホモポリカーボネート、モノマーのビスフェノールA及び1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンに基づくコポリカーボネート、又は上述のポリマーの少なくとも2種の混合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の層状複合材。
【請求項6】
前記上層Dの材料は、耐衝撃性改良剤を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の層状複合材。
【請求項7】
前記上層Dは、500μm以下の厚さを有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の層状複合材。
【請求項8】
前記塗料層Lは、少なくとも1つのプライマー層Gと、少なくとも1つのベースコート層Bと、少なくとも1つのクリアコート層Kとを含む、請求項2~7のいずれか一項に記載の層状複合材。
【請求項9】
前記塗料層Lによって構成される層の少なくとも1つは、水系である、請求項8に記載の層状複合材。
【請求項10】
I)基材層Sを上層Dに接合させる工程、
を含み、
前記基材層Sの材料が第1の熱可塑性ポリマーを含み、かつ前記上層Dの材料が同様に第1の熱可塑性ポリマーを含む、層状複合材を製造する方法であって、
前記第1の熱可塑性ポリマーは、芳香族ポリカーボネートであり、かつ、
前記上層Dの材料は、ポリエステル成分Pとのブレンドとして前記第1の熱可塑性ポリマーを含み、ここで、
i)このポリエステル成分Pの割合は、前記上層Dの材料の総重量に対して、2重量%以上、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは8重量%以上であり、かつ前記ポリエステル成分Pは、少なくとも1種のポリシクロアルキレンテレフタレートを含み、又はそれからなり、
ii)このポリエステル成分Pの割合は、前記上層Dの材料の総重量に対して、10重量%以上、好ましくは15重量%以上、特に好ましくは17重量%以上であり、かつ前記ポリエステル成分Pは、少なくとも1種のポリアルキレンテレフタレートを含み、又はそれからなり、
iii)このポリエステル成分Pの割合は、前記上層Dの材料の総重量に対して、20重量%以上、好ましくは30重量%以上、特に好ましくは35重量%以上であり、かつ前記ポリエステル成分Pは、少なくとも1種のポリアルキレンナフタレートを含み、又はそれからなり、
iv)このポリエステル成分Pの割合は、前記上層Dの材料の総重量に対して、2重量%以上、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは8重量%以上であり、かつ前記ポリエステル成分Pは、以下の成分:
少なくとも1種のポリシクロアルキレンテレフタレート、
少なくとも1種のポリアルキレンテレフタレート、
少なくとも1種のポリアルキレンナフタレート、
の少なくとも2種の混合物を含み、又は該混合物のみからなることを特徴とする、方法。
【請求項11】
II)工程I)により得られた前記層状複合材において、前記上層Dの前記基材層Sとは反対側の面に少なくとも1つの塗料層Lを塗布する工程、
を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記基材層Sは、強化繊維を更に含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記塗料層Lは、少なくとも1つのプライマー層Gと、少なくとも1つのベースコート層Bと、少なくとも1つのクリアコート層Kとを含み、かつ任意に前記塗料層Lによって構成される層の少なくとも1つは、水系である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか一項に記載の層状複合材を使用して得ることができる自動車用外装部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意に繊維を含有するポリカーボネートベースのマトリックスと、特定のポリカーボネート-ポリエステルブレンドから構成される上層とから構成される層状複合材、及び上層のマトリックスとは反対側にある面に塗装仕上げが施されている上記の層状複合材、これらの複合材を製造する方法、及び例えば自動車用外装部材を製造するためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート、ポリカーボネートブレンド、例えばPC及びASA又はABSに基づくポリカーボネートブレンド、並びにポリカーボネート複合材、つまり繊維強化ポリカーボネートは、自動車産業において長い間確立されてきた。これらは、例えば自動車用外装部材の製造において使用される。これらは軽量であるため、これを用いて製造された車両用部材の重量は、強度及び安全性を変えずに、従来の材料を使用して製造された対応する車両用部材と比較して大幅に低減し得る。これにより、燃料消費量を大幅に削減することができる。
【0003】
プラスチック部品は、環境の影響から保護するプライマー層、いわゆるプライマーと、光学的特性又は効果付与特性を実現する塗料層とでコーティングされる。これらのコーティングを焼き付けると、本書の実験部分に示されているように、コーティングに気泡、膨れ、ひけ、及びひび割れの形成が引き起こされる場合がある。これは美観的理由から望ましくなく、更にコーティングの保護効果を損なう可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、従来技術の上述の不利な点を伴わずに、塗装仕上げ、特に自動車用外装部材の塗装仕上げを施すことができるポリカーボネートベースの系を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、ポリカーボネートベースのマトリックスと、特定のポリカーボネート-ポリエステルブレンドから作られた上層とから作られた多層構造物によって解決された。
【0006】
本発明は、基材層Sと、該基材層Sと少なくとも部分的に接合された上層Dとを含み、
基材層Sの材料が第1の熱可塑性ポリマーを含み、かつ上層Dの材料が同様に第1の熱可塑性ポリマーを含む、層状複合材であって、
第1の熱可塑性ポリマーは、芳香族ポリカーボネートであり、かつ、
上層Dの材料は、ポリエステル成分Pとのブレンドとして第1の熱可塑性ポリマーを含み、ここで、
i)このポリエステル成分Pの割合は、上層Dの材料の総重量に対して、2重量%以上、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは8重量%以上であり、かつポリエステル成分Pは、少なくとも1種のポリシクロアルキレンテレフタレートを含み、又はそれからなり、
ii)このポリエステル成分Pの割合は、上層Dの材料の総重量に対して、10重量%以上、好ましくは15重量%以上、特に好ましくは17重量%以上であり、かつポリエステル成分Pは、少なくとも1種のポリアルキレンテレフタレートを含み、又はそれからなり、
iii)このポリエステル成分Pの割合は、上層Dの材料の総重量に対して、20重量%以上、好ましくは30重量%以上、特に好ましくは35重量%以上であり、かつポリエステル成分Pは、少なくとも1種のポリアルキレンナフタレートを含み、又はそれからなり、
iv)このポリエステル成分Pの割合は、上層Dの材料の総重量に対して、2重量%以上、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは8重量%以上であり、かつポリエステル成分Pは、以下の成分:
少なくとも1種のポリシクロアルキレンテレフタレート、
少なくとも1種のポリアルキレンテレフタレート、
少なくとも1種のポリアルキレンナフタレート、
の少なくとも2種の混合物を含み、又は該混合物のみからなることを特徴とする、層状複合材を提供する。
【0007】
別形iv)においては、
少なくとも1種のポリシクロアルキレンテレフタレート及び少なくとも1種のポリアルキレンテレフタレート、又は、
少なくとも1種のポリシクロアルキレンテレフタレート及び少なくとも1種のポリアルキレンナフタレート、又は、
少なくとも1種のポリアルキレンテレフタレート及び少なくとも1種のポリアルキレンナフタレート、
を含むか、又はこれらのみからなる混合物を使用することが好ましい。
【0008】
別形iv)においては、少なくとも1種のポリシクロアルキレンテレフタレート及び少なくとも1種のポリアルキレンテレフタレートを含むか、又はこれらのみからなる混合物を使用することが特に好ましい。
【0009】
独国実用新案第202017004083号は、繊維を含有する、好ましくはポリプロピレン又はポリアミドである熱可塑性プラスチックに基づくコアと、同様に好ましくはポリプロピレン又はポリアミドから作られた熱可塑性プラスチックフィルムから作られた上層とから構成される多層構造物を開示している(請求項1、[0014]、[0041])。ポリカーボネートベースの系は挙げられていない。この文献は熱可塑性プラスチックの塗装性も扱っていない。
【0010】
本発明による上述の主題によれば、成分Pは、或る特定のポリエステル成分(i)からiv)を参照)を含むか、又はそれらのみからなる。「含む」の実施形態においては、対応するポリエステル成分は、例えば不純物又は更なるプラスチック、例えば更なるポリエステルを含んでいてもよく、ここで、更なるポリエステルは、他のポリエステル成分に挙げられているものとは異なる。したがって、例えば、実施形態i)は、1種以上のポリシクロアルキレンテレフタレートを含むポリエステル成分Pを記載している。この実施形態においては、例えばポリアルキレンテレフタレートは、ポリエステル成分中に追加的に存在し得ない。ポリアルキレンテレフタレートが追加的に存在するのであれば、これは実施形態iv)として扱われるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
基材層Sの説明
本発明の文脈におけるポリカーボネートとしては、ホモポリカーボネートだけでなく、コポリカーボネート及び/又はポリエステルカーボネートも挙げられ、ポリカーボネートは、既知のように線状又は分岐状であり得る。また、本発明によれば、ポリカーボネートの混合物も使用可能である。
【0012】
芳香族ポリカーボネート及びポリエステルカーボネートの重量平均分子量Mwは、GPC(ポリカーボネート標準を使用する塩化メチレン中でのゲル浸透クロマトグラフィー)によって測定されて、15000g/mol~35000g/molの範囲、好ましくは20000g/mol~33000g/molの範囲、より好ましくは23000g/mol~31000g/molの範囲である。
【0013】
本発明により使用されるポリカーボネート中のカーボネート基の最大80mol%、好ましくは20mol%~50mol%の部分を、芳香族ジカルボン酸エステル基によって置き換えることができる。炭酸から誘導される酸基だけでなく、芳香族ジカルボン酸から誘導される酸基も分子鎖に含むこの種類のポリカーボネートは、芳香族ポリエステルカーボネートと呼称される。本発明に関して、これらのポリカーボネートは、「熱可塑性芳香族ポリカーボネート」という総称内に包含される。
【0014】
上記ポリカーボネートは、既知のように、ジフェノール、炭酸誘導体、任意に連鎖停止剤、及び任意に分岐剤から製造され、ポリエステルカーボネートは、炭酸誘導体の一部を芳香族ジカルボン酸又はジカルボン酸の誘導体によって、芳香族ポリカーボネート中のカーボネート構造単位が芳香族ジカルボン酸エステル構造単位によって置き換えられるべき程度に応じた度合いで置き換えることによって製造される。
【0015】
ポリカーボネートの製造に適したジヒドロキシアリール化合物は、式(1):
HO-Z-OH (1)
(式中、Zは、6個~30個の炭素原子を有し、1つ以上の芳香族環を含み得て、置換されていてもよく、かつ架橋元素として脂肪族基又は脂環式基又はアルキルアリール又はヘテロ原子を含み得る芳香族残基である)の化合物である。
【0016】
式(1)におけるZは、好ましくは、式(2):
【化1】
(式中、
R
6及びR
7は、互いに独立して、H、C
1~C
18-アルキル、C
1~C
18-アルコキシ、Cl若しくはBr等のハロゲン、又はそれぞれの場合に任意に置換されたアリール若しくはアラルキル、好ましくはH又はC
1~C
12-アルキル、特に好ましくはH又はC
1~C
8-アルキル、非常に特に好ましくはH又はメチルを表し、かつ、
Xは、単結合、-SO
2-、-CO-、-O-、-S-、C
1~C
6-アルキレン、C
2~C
5-アルキリデン、又はC
1~C
6-アルキル、好ましくはメチル若しくはエチルによって置換されていてもよいC
5若しくはC
6-シクロアルキリデンを表し、或いはヘテロ原子を含む更なる芳香族環に任意に縮合されていてもよいC
6~C
12-アリーレンを表す)の基を表す。
【0017】
Xは、好ましくは、単結合、C
1~C
5-アルキレン、C
2~C
5-アルキリデン、C
5若しくはC
6-シクロアルキリデン、-O-、-SO-、-CO-、-S-、-SO
2-、又は式(3a):
【化2】
の残基を表す。
【0018】
ジヒドロキシアリール化合物(ジフェノール)の例は、ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシジフェニル、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)アリール、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド、1,1’-ビス(ヒドロキシフェニル)ジイソプロピルベンゼン、並びにこれらの環アルキル化化合物及び環ハロゲン化化合物である。
【0019】
本発明による使用のためのポリカーボネートを製造するのに適したジフェノールは、例えば、ヒドロキノン、レゾルシノール、ジヒドロキシジフェニル、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド、α,α’-ビス(ヒドロキシフェニル)ジイソプロピルベンゼン、並びにこれらのアルキル化化合物、環アルキル化化合物、及び環ハロゲン化化合物である。
【0020】
好ましいジフェノールは、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、1,3-ビス[2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン(ビスフェノールM)、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、1,3-ビス[2-(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、及び1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)である。
【0021】
特に好ましいジフェノールは、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、及び1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)である。
【0022】
最も好ましいのは、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)である。
【0023】
これらの適切なジフェノール及び他の適切なジフェノールは、例として、米国特許第2999835号、米国特許第3148172号、米国特許第2991273号、米国特許第3271367号、米国特許第4982014号、及び米国特許第2999846号、独国特許出願公開第1570703号、独国特許出願公開第2063050号、独国特許出願公開第2036052号、独国特許出願公開第2211956号、及び独国特許出願公開第3832396号、仏国公開特許第1561518号、モノグラフ「H. Schnell, Chemistry and Physics of Polycarbonates, Interscience Publishers, New York 1964, p. 28ff and p. 102ff」及び「D.G. Legrand, J.T. Bendler, Handbook of Polycarbonate Science and Technology, Marcel Dekker New York 2000, p. 72ff.」に記載されている。
【0024】
ホモポリカーボネートの場合には、1つだけのジフェノールが使用され、コポリカーボネートの場合には、2つ以上のジフェノールが使用される。使用されるジフェノールは、合成に添加されるあらゆる他の化学物質及び助剤と同様に、それら自体の合成、取り扱い、及び貯蔵に由来する汚染物質で汚染されていてもよい。しかしながら、可能な限り高純度の原材料を使用することが望ましい。
【0025】
分子量調節に必要とされる単官能性連鎖停止剤、例えばフェノール又はアルキルフェノール、特にフェノール、p-tert-ブチルフェノール、イソオクチルフェノール、クミルフェノール、それらのクロロ炭酸エステル若しくはモノカルボン酸のアシル塩化物、又はこれらの連鎖停止剤の混合物は、ビスフェノキシド(複数の場合もある)と一緒に反応に供給されるか、又は更にはホスゲン若しくはクロロ炭酸末端基が反応混合物中に依然として存在するならば、若しくはアシル塩化物及びクロロ炭酸エステルが連鎖停止剤である場合には初期ポリマーの十分なフェノール末端基が利用可能である限りは、合成の任意の所望の時点で添加される。しかしながら、連鎖停止剤(複数の場合もある)が、ホスゲン化の後にホスゲンがもはや存在しないが触媒がまだ添加されていない位置若しくは時点で添加される場合、又は触媒の前に若しくは触媒と一緒に若しくは触媒と並行して添加される場合が好ましい。
【0026】
使用される分岐剤又は分岐剤混合物はいずれも、合成に同様に添加されるが、典型的には連鎖停止剤の前に添加される。典型的に使用される化合物は、トリスフェノール、クアテルフェノール(quaterphenols)、又はトリカルボン酸若しくはテトラカルボン酸のアシル塩化物、又は更にはポリフェノールの混合物若しくはアシル塩化物の混合物である。
【0027】
分岐剤として使用可能な、かつ3つ以上のフェノール性水酸基を有する化合物の幾つかの例としては、フロログルシノール、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)ヘプト-2-エン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリ(4-ヒドロキシフェニル)エタン、トリス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス[4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル]プロパン、2,4-ビス(4-ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノール、テトラ(4-ヒドロキシフェニル)メタンが挙げられる。
【0028】
他の三官能性化合物の幾つかは、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、トリメシン酸、塩化シアヌリル、及び3,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-2-オキソ-2,3-ジヒドロインドールである。
【0029】
好ましい分岐剤は、3,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-2-オキソ-2,3-ジヒドロインドール及び1,1,1-トリ(4-ヒドロキシフェニル)エタンである。
【0030】
任意に使用可能な分岐剤の量は、同様にそれぞれの場合に使用されるジフェノールのモル数に対して0.05mol%~2mol%である。
【0031】
分岐剤は、ジフェノール及び連鎖停止剤と一緒にアルカリ性水相中に初充填しても、又ホスゲン化の前に有機溶剤中に溶解させて添加してもよい。
【0032】
ポリカーボネートを製造するこれらの全ての措置は、当業者によく知られている。
【0033】
ポリエステルカーボネートを製造するのに適した芳香族ジカルボン酸は、例えば、オルトフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、tert-ブチルイソフタル酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4-ベンゾフェノンジカルボン酸、3,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,2-ビス(4-カルボキシフェニル)プロパン、トリメチル-3-フェニルインダン-4,5’-ジカルボン酸である。
【0034】
芳香族ジカルボン酸の中で、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸を使用することが特に好ましい。
【0035】
ジカルボン酸の誘導体は、ジハロゲン化ジカルボニル及びジアルキルジカルボキシレート、特に、ジカルボニルジクロリド及びジメチルジカルボキシレートを含む。
【0036】
芳香族ジカルボン酸エステル基によるカーボネート基の置き換えは、本質的に化学量論的であるとともに定量的でもあるため、反応物のモル比は最終的なポリエステルカーボネートにおいても維持される。芳香族ジカルボン酸エステル基はランダムに又はブロック状に組み込まれ得る。
【0037】
本発明により使用されるポリエステルカーボネートを含むポリカーボネートの好ましい製造様式は、既知の界面法及び既知の溶融エステル交換法である(例えば、国際公開第2004/063249号、国際公開第2001/05866号、国際公開第2000/105867号、米国特許第5,340,905号、米国特許第5,097,002号、米国特許第5,717,057号を参照)。
【0038】
前者の場合、使用される酸誘導体は、好ましくはホスゲン及び任意にジカルボニル二塩化物であり、後者の場合、好ましくはジフェニルカーボネート及び任意にジカルボン酸ジエステルである。ポリカーボネート製造又はポリエステルカーボネート製造のための触媒、溶剤、後処理、反応条件等は、両方の場合において十分よく記載され、知られている。
【0039】
基板層Sの材料はまた、ブレンド相手としてポリカーボネート以外のプラスチックを含み得る。
【0040】
使用可能なブレンド相手としては、ポリアミド、ポリエステル、特にポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレート、ポリラクチド、ポリエーテル、熱可塑性ポリウレタン、ポリアセタール、フルオロポリマー、特にフッ化ポリビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、特にポリエチレン及びポリプロピレン、ポリイミド、ポリアクリレート、特にポリ(メチル)メタクリレート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリアリールエーテルケトン、スチレンポリマー、特にポリスチレン、スチレンコポリマー、特にスチレン-アクリロニトリルコポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー及びポリ塩化ビニルが挙げられる。ブレンド相手は、ポリカーボネート及びブレンド相手の総重量に対して、好ましくは70重量%以下、特に好ましくは50重量%以下、非常に特に好ましくは35重量%以下の量で使用される。
【0041】
基材層の材料の総重量に対して、最大10.0重量%、好ましくは0.10重量%~8.0重量%、特に好ましくは0.2重量%~3.0重量%の他の慣用の添加剤も任意に存在する。
【0042】
この群には、ポリカーボネートに慣用の量における、難燃剤、アンチドリップ剤、熱安定剤、離型剤、酸化防止剤、UV吸収剤、IR吸収剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、光散乱剤、無機顔料を含む顔料、カーボンブラック及び/又は染料等の着色剤、及び無機充填剤が含まれる。これらの添加剤は、個別に又はそうでなければ混合物で添加され得る。
【0043】
ポリカーボネートの場合に典型的に添加される添加剤は、例えば、欧州特許出願公開第0839623号、国際公開第96/15102号、欧州特許出願公開第0500496号、又は「Plastics Additives Handbook」,Hans Zweifel著,第5版(2000年),Hanser出版社(ミュンヘン)に記載されている。
【0044】
基材層は、繊維材料から作られた1つ以上の強化繊維層を含み得る。これは、以下で繊維複合材料と呼ばれる繊維含有複合材料を形成する。基材層Sはまた、繊維複合材料の2つ以上の層からなっていてもよく、そのときに、多層複合材料と呼ばれる。
【0045】
繊維複合材料
多種多様な様々な化学構造の繊維材料の繊維が存在し得る。繊維材料は、それぞれの場合に存在する熱可塑性マトリックス材料よりも高い軟化点又は融点を有する。
【0046】
使用される繊維材料は、好ましくは適切なサイズ剤でコーティングされている。
【0047】
繊維複合材料の一実施形態において、繊維層は、一方向繊維層、織布層若しくはノンクリンプ織物層、緯編物(loop-drawn knit)、経編物(loop-formed knit)若しくは編組物、ランダムレイド繊維マット(random-laid fiber mats)若しくは不織布、又はそれらの組合せの形である。試験において、繊維複合材料の最良の特性は、一方向繊維層、織布、及びノンクリンプ織物で達成された。
【0048】
本発明の文脈において、「一方向」は、繊維が実質的に一方向に整列している、すなわち、縦方向に同じ方向を向いているため、同じ走行方向を有することを意味すると理解されるべきである。本明細書の場合において、「実質的に一方向」とは、繊維の走行方向から最大5%のずれが可能であることを意味すると理解されるべきである。しかしながら、繊維の走行方向におけるずれが3%を十分に下回る場合、特に好ましくは1%を十分に下回る場合が好ましい。
【0049】
繊維材料は、短繊維(長さ1mm未満)、長繊維(1mm~50mm)、又はエンドレス繊維(50mm超)の形で存在し得る。繊維材料は、好ましくは、長繊維又はエンドレス繊維の形で存在する。本発明によれば、繊維材料は、好ましくは、粉砕された繊維又は細断されたガラス繊維である。「存在する」という語句の意味は、他の繊維材料との混合物も包含すると理解されるべきである。しかしながら、それぞれの繊維材料が唯一の繊維材料である場合が好ましい。
【0050】
本発明の文脈における「エンドレス繊維」という用語は、当業者に同様に知られている短繊維又は長繊維とは区別して理解するべきである。エンドレス繊維は、一般に、繊維複合材料の層の全長にわたって延在している。「エンドレス繊維」という用語は、これらの繊維がロール上に巻き取られており、繊維複合材料の個々の層の製造時に巻き戻されてプラスチックで含浸されるという事実に由来するため、ロールの時折の破損又は交換を除き、上記繊維の長さは、典型的には、繊維複合材料の製造された層の長さに実質的に対応する。
【0051】
繊維材料の例は、無機材料、例えば、多種多様な様々な種類のケイ酸塩ガラス及び非ケイ酸塩ガラス、炭素、バサルト、ホウ素、炭化ケイ素、金属、金属合金、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、及びケイ酸塩等、並びに有機材料、例えば、天然ポリマー及び合成ポリマー、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、超高延伸ポリアミド、ポリイミド、アラミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド等である。高融点材料、例えば、ガラス、炭素、アラミド、バサルト、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリエーテルイミドが好ましい。特に好ましい繊維材料は、ガラス繊維又は炭素繊維である。
【0052】
繊維層とも呼ばれる繊維材料の層は、実質的に平面に配置された繊維によって形成されるシート状の層を意味すると理解されるべきである。繊維同士は、それらの相対する位置により、例えば、繊維の織布様の配置により、互いに結び付けられ得る。さらに、繊維層はまた、繊維同士を互いに結び付けるために或る割合の樹脂又は別の接着剤を含む場合もある。代替的に、繊維同士は結び付けられていない場合もある。これは、大きな力を加えることなく繊維を互いに分離することができることを意味すると理解される。繊維層はまた、結び付けられた繊維と結び付けられていない繊維との組合せを含む場合もある。繊維層の少なくとも片面は、マトリックス材料として本発明により使用されるポリカーボネートベースの組成物中に埋め込まれている。これは、繊維層が少なくとも片面で、好ましくは両面で、ポリカーボネートベースの組成物によって取り囲まれていることを意味すると理解されるべきである。繊維複合材料の外縁は、好ましくは、ポリカーボネートベースの組成物のマトリックスによって形成される。
【0053】
原則として、繊維複合材料の層における繊維層の数に制限はない。したがって、2つ以上の繊維層を重ね合わせることも可能である。2つの重ね合わされた繊維層は、それぞれ個別にマトリックス材料中に埋め込まれ、こうして、それぞれが両面でマトリックス材料によって取り囲まれる場合がある。2つ以上の繊維層が直接重ね合わされて、その全体がマトリックス材料によって取り囲まれる場合もある。この場合に、これらの2つ以上の繊維層は1つの厚い繊維層と見なすこともできる。
【0054】
多層複合材料
多層複合材料は、少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つの重ね合わされた繊維複合材料の層を含み、ここで、3つの複合材料層の場合に、これらは相対的に2つの繊維複合材料の外側層、及び少なくとも1つの繊維複合材料の内側層として定義される。
【0055】
繊維複合材料の層における好ましい繊維材料は、好ましくは一方向に整列したエンドレス繊維である。
【0056】
繊維材料としてのエンドレス繊維の場合に、繊維複合材料の内側層は実質的に同じ配向を有してよく、繊維複合材料の外側層に対するその配向は30度~90度だけ回転していてよく、ここで、繊維複合材料の1つの層の配向は、その中に存在する一方向に整列した繊維の配向によって決定される。
【0057】
好ましい実施形態においては、層は交互に配置されている。この場合、外側層は0度の配向にある。繊維複合材料の内側層が同じ配向を有し、繊維複合材料の外側層に対するその配向が90度だけ回転している場合に、特に実際に有用であることが判明した。「交互に」とは、内側層がそれぞれ90度の角度又は30度~90度の角度だけ回転して代わる代わる配置されていることを意味すると理解されるべきである。外側層はそれぞれ0度の配向にある。角度はそれぞれ、層ごとに30度から90度まで変動し得る。
【0058】
更なる好ましい実施形態においては、層の少なくとも一部は同じ配向を有し、層の少なくとも別の部分は30度~90度だけ回転している。この場合、外側層は0度の配向にある。
【0059】
更なる好ましい実施形態においては、内側層は同じ配向を有し、繊維複合材料の外側層に対するその配向は30度~90度だけ回転しており、外側層はそれに対して0度の配向にある。
【0060】
織布の場合には、繊維複合材料の層は、経糸方向(0度)及び緯糸方向(90度)又は上述の角度で代わる代わる積み重ねられている。
【0061】
繊維又は多層複合材料は、メタリックの色調(metallic sound)を有し得る。これらは更に、製造に対する費用効果が高く、そこではプラスチックが使用されるため極めて軽量であるという利点を有する。繊維又は多層複合材料は更に、例えばハウジング部品の付形が、複合材料の熱成形性のため特に容易かつ柔軟に行われ得るという利点を有する。
【0062】
本発明による多層複合材料は、原則として、繊維複合材料の層だけでなく、1つ以上の更なる層も含み得る。ここで挙げることができる例としては、繊維複合材料の層において使用されるプラスチックマトリックスと同一であっても又は異なっていてもよい更なるプラスチック層が挙げられる。これらのプラスチック層は、特に、本発明により提供される繊維材料とは異なる充填剤も含み得る。本発明による多層複合材料は、接着剤層、織布層、不織布層、又は表面強化層、例えば、塗料層も追加的に含む場合がある。これらの更なる層は、繊維複合材料の内側層と外側層との間に、繊維複合材料の2つ以上の内側層の間に、及び/又は上層Dとは反対側にある繊維複合材料の外側層上に存在し得る。しかしながら、繊維複合材料の外側層と少なくとも1つの内側層とが互いに接合されていて、それらの間に更なる層が配置されていない場合が好ましい。
【0063】
繊維複合材料の個々の層は、実質的に同一の又は異なる構成及び/又は配向を有し得る。
【0064】
本発明の文脈における繊維複合材料の層の「実質的に同一の構成」は、化学組成、繊維体積含有量、及び層の厚さを含む群からの少なくとも1つの特徴が同一であることを意味すると理解されるべきである。
【0065】
「化学組成」は、繊維複合材料のポリマーマトリックスの化学組成及び/又はエンドレス繊維等の繊維材料の化学組成を意味すると理解されるべきである。
【0066】
本発明の好ましい実施形態においては、繊維複合材料の外側層は、それらの組成、それらの繊維体積含有量、及びそれらの層の厚さの点で実質的に同一の構成を有する。
【0067】
多層複合材料が0.4mm~2.5mm、好ましくは0.7mm~1.8mm、特に0.9mm~1.2mmの総厚を有する場合が好ましい。実際の試験により、本発明による多層複合材料が、これらの薄さでさえも優れた機械的特性を達成し得ることが示された。
【0068】
繊維複合材料の全ての内側層が合計で200μm~1200μm、好ましくは400μm~1000μm、特に好ましくは500μm~750μmの総厚を有する場合に特に有利であることが判明した。
【0069】
本発明の文脈において、繊維複合材料の2つの外側層のそれぞれの厚さが100μm~250μm、好ましくは120μm~230μm、特に好ましくは130μm~180μmである場合に更に有利である。
【0070】
本発明により好ましい繊維複合材料層は、30体積%以上で60体積%以下、好ましくは35体積%以上で55体積%以下、特に好ましくは37体積%以上で52体積%以下の繊維体積含有量を有する。繊維体積含有量が60体積%を超えると、繊維複合材料の機械的特性の低下がもたらされる。何らかの科学的な理論に縛られることを望むものではないが、これは、そのような高い繊維体積含有量では含浸中に繊維をもはや十分に濡らすことができないため、繊維複合材料における含有空気の増加及び表面欠陥の発生の増加、並びに機械的弾力性の大幅な低下につながることに起因すると思われる。
【0071】
多層複合材料の一実施形態においては、多層複合材料の総体積に対する繊維材料の体積含有量は、30体積%~60体積%の範囲、好ましくは40体積%~55体積%の範囲である。
【0072】
本発明の一実施形態においては、繊維複合材料の外側層は、50体積%以下、好ましくは45体積%以下、特に42体積%以下の繊維体積含有量を有する。
【0073】
本発明の特定の実施形態においては、繊維複合材料の外側層は、少なくとも30体積%、好ましくは少なくとも35体積%、特に少なくとも37体積%の繊維体積含有量を有する。
【0074】
本発明の更なる特定の実施形態においては、繊維複合材料の外側層は、繊維複合材料の層の総体積に対して、繊維複合材料の少なくとも1つの内側層よりも低い繊維の体積含有量を有する。
【0075】
繊維複合材料の内側層は、繊維複合材料の層の総体積に対して、40体積%~60体積%、好ましくは45体積%~55体積%、特に好ましくは48体積%~52体積%の繊維体積含有量を有し得る。
【0076】
「体積%」は、本明細書においては、繊維複合材料の層の総体積に対する体積分率(%(体積/体積))を意味すると理解されるべきである。
【0077】
繊維複合材料及び多層複合材料の製造
本発明により基材層Sとして使用される繊維複合材料/多層複合材料を製造する方法は、当業者に知られており、例えば、欧州特許出願公開第3464471号及び欧州特許第3055348号に記載されている。
【0078】
上層Dの説明
上層Dの材料は、請求項1に記載の、ポリ(シクロ)アルキレンテレフタレート及びポリアルキレンナフタレート又はこれらのポリエステルの混合物を含むポリエステル成分Pとのブレンドとして基材層S中にも存在する芳香族ポリカーボネートを含む。
【0079】
これらのポリエステルは、テレフタル酸又はナフタレン-2,6-ジカルボン酸又はそれらの反応性誘導体、例えばこれら2つの酸のジメチルエステルと、脂肪族ジオール又は脂環式ジオールとの反応生成物である。
【0080】
ポリアルキレンテレフタレート及びナフタレートの生成には、3個~12個の炭素原子を有する(芳香)脂肪族ジオール、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、2-エチルプロパン-1,3-ジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-エチルペンタン-2,4-ジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2,2,4-トリメチルペンタン-1,3-ジオール、2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、2,2-ジエチルプロパン-1,3-ジオール、ヘキサン-2,5-ジオール、1,4-ジ(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2-ビス(4-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン及び/又は2,2-ビス(4-ヒドロキシプロポキシフェニル)プロパンを使用することが好ましい。エチレングリコール及び1,4-ブタンジオールが好ましい。
【0081】
ポリシクロアルキレンテレフタレートの生成には、6個~21個の炭素原子を有する脂環式ジオール、例えば、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン及び/又は2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオールを使用することが好ましい。1,4-シクロヘキサンジメタノール及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、並びにそれらの混合物が好ましい。
【0082】
特に好ましいポリアルキレンテレフタレート/ナフタレートは、ジカルボン酸成分に対して少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%のテレフタル酸残基/ナフタレン-2,6-ジカルボン酸残基と、ジオール成分に対して少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90mol%のエチレングリコール残基及び/又はブタン-1,4-ジオール残基とを含む。
【0083】
特に好ましいポリシクロアルキレンテレフタレートは、ジカルボン酸成分に対して少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%のテレフタル酸残基と、ジオール成分に対して少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90mol%の1,4-シクロヘキサンジメタノール残基及び/又は2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基とを含む。
【0084】
好ましいポリ(シクロ)アルキレンテレフタレート/ポリアルキレンナフタレートは、テレフタル酸残基/ナフタレン-2,6-ジカルボン酸残基に加えて、最大20mol%、好ましくは最大10mol%の、8個~14個の炭素原子を有する他の芳香族若しくは脂環式ジカルボン酸、又は4個~12個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸の残基、例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シクロヘキサン二酢酸の残基を含み得る。
【0085】
好ましいポリアルキレンテレフタレート/ナフタレートは、エチレングリコール残基/ブタン-1,4-ジオール残基に加えて、最大20mol%、好ましくは最大10mol%の、3個~12個の炭素原子を有する他の(芳香)脂肪族ジオール、例えば、プロパン-1,3-ジオール、2-エチルプロパン-1,3-ジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタン-1,5-ジオール、ヘキサン-1,6-ジオール、3-エチルペンタン-2,4-ジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2,2,4-トリメチルペンタン-1,3-ジオール、2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、2,2-ジエチルプロパン-1,3-ジオール、ヘキサン-2,5-ジオール、1,4-ジ(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2-ビス(4-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、及び2,2-ビス(4-ヒドロキシプロポキシフェニル)プロパンの残基を含み得る。
【0086】
好ましいポリシクロアルキレンテレフタレートは、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基及び/又は2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基に加えて、最大20mol%、好ましくは最大10mol%の、6個~21個の炭素原子を有する他の脂環式ジオール、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンの残基を含み得る。
【0087】
上述のポリエステルは、例えば、独国特許出願公開第1900270号及び米国特許第3692744号に従って、比較的少量の三価アルコール若しくは四価アルコール又は三塩基性カルボン酸若しくは四塩基性カルボン酸を混加することによって分岐させることができる。好ましい分岐剤の例は、トリメシン酸、トリメリット酸、トリメチロールエタン及びトリメチロールプロパン、並びにペンタエリスリトールである。
【0088】
非常に特に好ましいポリアルキレンテレフタレートは、テレフタル酸又はその反応性誘導体(例えば、そのジアルキルエステル)及びエチレングリコール又は1,4-ブタンジオールのみに基づく。
【0089】
非常に特に好ましいポリシクロアルキレンテレフタレートは、テレフタル酸又はその反応性誘導体(例えば、そのジアルキルエステル)及び1,4-シクロヘキサンジメタノール及び/又は2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオールのみに基づく。
【0090】
非常に特に好ましいポリアルキレンナフタレートは、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸又はその反応性誘導体(例えば、そのジアルキルエステル)及びエチレングリコール又は1,4-ブタンジオールのみに基づく。
【0091】
ポリ(シクロ)アルキレンテレフタレート及びポリアルキレンナフタレートは、既知の方法によって製造され得る(例えば、Kunststoff-Handbuch,第VIII巻,第695頁以降,Carl-Hanser出版社,ミュンヘン(1973年)を参照)。
【0092】
ポリエステル成分Pの割合は、別形i)によるポリエステル成分Pが少なくとも1種のポリシクロアルキレンテレフタレートを含む、又はそれらのみからなる場合に、上層Dの材料の総重量に対して、非常に特に好ましくは30重量%以上、更により好ましくは35重量%以上である。
【0093】
ポリエステル成分Pの割合は、別形ii)によるポリエステル成分Pが少なくとも1種のポリアルキレンテレフタレートを含む、又はそれらのみからなる場合に、上層Dの材料の総重量に対して、非常に特に好ましくは30重量%以上、更により好ましくは35重量%以上である。
【0094】
ポリエステル成分Pの割合は、別形ii)によるポリエステル成分Pがポリエチレンテレフタレートを含む、又はそれらのみからなる場合に、上層Dの材料の総重量に対して、更に好ましくは45重量%以上、最も好ましくは50重量%以上である。
【0095】
全ての実施形態についてのポリエステル成分Pの割合は、上層Dの材料の総重量に対して、好ましくは60重量%以下、特に好ましくは55重量%以下である。
【0096】
上層の材料は、更なるブレンド相手を含み得る。使用可能なブレンド相手としては、ポリアミド、上述のポリエステルとは異なるポリエステル、ポリラクチド、ポリエーテル、熱可塑性ポリウレタン、ポリアセタール、フルオロポリマー、特にフッ化ポリビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、特にポリエチレン及びポリプロピレン、ポリイミド、ポリアクリレート、特にポリ(メチル)メタクリレート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリアリールエーテルケトン、スチレンポリマー、特にポリスチレン、スチレンコポリマー、特にスチレン-アクリロニトリルコポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー及びポリ塩化ビニルが挙げられる。
【0097】
上層Dの材料の総重量に対して、最大10.0重量%、好ましくは0.10重量%~8.0重量%、特に好ましくは0.2重量%~3.0重量%の他の慣用の添加剤も任意に存在する。この箇所では、基材層の説明における添加剤に関連する前述のものが参照される。
【0098】
上層Dは、500μm以下、好ましくは300μm以下、特に好ましくは200μm以下、非常に特に好ましくは100μm以下の厚さを有する。
【0099】
上層Dは、5μm以上、好ましくは10μm以上の厚さを有する。
【0100】
塗料層Lの説明
塗料は、対象物に薄く塗布され、化学的過程又は物理的過程(例えば、溶剤の蒸発)によって連続的な固体被膜となる液状又は粉末状のコーティング材料の名称である。
【0101】
塗料層Lとして企図されるのは、当業者に知られるポリカーボネート含有基材上で使用されるあらゆる塗料である。好ましい実施形態においては、塗料は、自動車用外装部材の塗装の分野に関する塗料であり、ここで、塗料層Lは、好ましくは、以下の層:
少なくとも1つのプライマー層G、
少なくとも1つのベースコート層B、
少なくとも1つのクリアコート層K、
のうちの1つ以上を含む。
【0102】
自動車分野においては、プライマー層は、例えば屋外曝露後にもプラスチック部品への塗料の付着性を最適化するコーティングを意味すると理解されるべきである。したがって、プラスチック部品は通常、単数又は複数の色付与性及び効果付与性の塗料層を塗布する前にプライマーでコーティングされる。プライマーは、付着性に加えて、例えばストーンチップ保護にも寄与するべきである。さらに、プライマーは、カーボンブラック等の適切な添加剤を添加することによって導電性にすることができるため、その後に塗布される層を静電スプレー塗布によって、したがって特に高い塗着効率で塗布することが可能となる。
【0103】
ベースコート(ベースコート層)は、自動車塗装において慣用の色を付与する中間コーティング材料の名称である。
【0104】
クリアコート(クリアコート層)は、ベースコートを屋外曝露作用からだけでなく、機械的浸食及び化学的浸食からも保護する。
【0105】
塗布されるベースコート層及びクリアコート層の数は、それぞれの場合に1つの層に限定されない。2つ、3つ、4つ、若しくはそれより多くのベースコート層を塗布することも、又は複数の交互のベースコート層とクリアコート層とを塗布することも可能である。次の層を塗布する前に、個々の層をそれぞれ完全に乾燥させてもよく、又は部分的にのみ乾燥させてもよい。後者は「ウェット・オン・ウェット」塗布とも呼ばれる。クリアコートで上塗りする場合にも、層の数は1つに限定されない。
【0106】
塗料層Lの製造は、当業者に知られるあらゆる水系又は有機溶剤系のプライマー、ベースコート、及びトップコートを使用することができる。
【0107】
本発明により使用可能なプライマー層Gの例は、例えば、欧州特許第1226218号、又は本発明の出願日時点ではまだ公開されていない出願番号18213389.2を有する欧州特許出願において見出すことができる。
【0108】
本発明により使用可能なベースコート層Bの説明は、例えば、米国特許出願公開第3,639,147号、独国特許出願公開第3333072号、独国特許出願公開第3814853号、英国特許出願公開第2012191号、米国特許出願公開第3,953,644号、欧州特許出願公開第260447号、独国特許出願公開第3903804号、欧州特許出願公開第320552号、独国特許出願公開第3628124号、米国特許出願公開第4,719,132号、欧州特許出願公開第297576号、欧州特許出願公開第69936号、欧州特許出願公開第89497号、欧州特許出願公開第195931号、欧州特許出願公開第228003号、欧州特許出願公開第38127号、独国特許出願公開第2818100号、及び国際公開第2017/202692号の公報において見出すことができる。
【0109】
本発明により使用可能なクリアコート層Kは、例えば、欧州特許出願公開第3445827号及び国際公開第2017/202692号に記載されている。
【0110】
本発明は更に、
I)基材層Sを上層Dに接合させる工程、
を含む層状複合材を製造する方法であって、
基材層S及び上層Dが上記説明に相当する、方法を提供する。
【0111】
本発明は更に、
II)工程I)により得られた層状複合材において、上層Dの基材層Sとは反対側の面に少なくとも1つの塗料層を塗布する工程、
を更に含む、上記方法を提供する。
【0112】
本発明による層状複合材は、例えば、自動車用外装部材を製造するのに使用される。
【0113】
したがって、本発明は更に、自動車用外装部材を製造するための本発明による層状複合材の使用、及びそれから得られる自動車用外装部材自体を提供する。
【実施例】
【0114】
本発明を以下の実施例によって詳細に説明するが、実施例に限定されるものではない。
【0115】
基材Sの製造:
実験のために、350×350mm2の寸法を有するポリカーボネート及び炭素繊維から作られた複合材料(以下、複合材と呼ぶ)のシートを基材層として使用した。この複合材は、8層のUDテープからCovestro Thermplast Composite GmbH(CTC)によって製造された。ここで、UDテープ自体は、40体積%~45体積%のMitsubishiのTRH-50 60Mのタイプの一方向配向炭素繊維と、60体積%~55体積%のポリカーボネートマトリックス(カラー901510のMakrolon(商標)3107)とから構成されていた。一般的な製造の説明は、例えば、国際公開第2018/007335号に見出すことができる。
【0116】
個々のUDテープ層における炭素繊維の角度方向に基づいて、複合材の準等方性強化が達成されるように層構成を選択した(0度/45度/-45度/90度/90度/-45度/45度/0度)。
【0117】
上層Dの製造:
表1に報告されている処方で成分A~成分Eを含有する熱可塑性成形コンパウンドを、Coperion, Werner and Pfleiderer(ドイツ)製のZSK25二軸スクリュー押出機において250℃~300℃の溶融温度で製造した。その後、得られたペレット材料を使用して、約100μmの厚さを有するフィルムを押し出した。このために、対応する材料を、予備乾燥(4時間、85℃~90℃)後に、押出機(約50rpm、溶融温度265℃(表1中の項目1~項目16)及び300℃(表1中の項目17))において溶融し、450mmスロットダイを介してローラー上に押し出した。
【0118】
上層Dにおいて使用される成分:
成分A:約31000g/molの平均分子量Mw及び150℃の軟化温度(ISO 306:2014-3によるVST/B 120)を有し、UV吸収剤を含まない線状ビスフェノールAポリカーボネート。ISO 1133:2012-03によるメルトボリュームフローレート(MVR)は、300℃及び1.2kgの荷重で6.0cm3/(10分)であった。
【0119】
成分B1:DIN EN ISO 1133に準拠して250℃の温度及び2.16kgの荷重で測定された9.0g/10分~14.5g/10分のメルトマスフローレート(MFR)を有するポリブチレンテレフタレート(PBT)。
【0120】
成分B2:0.623dl/gの固有粘度を有するポリエチレンテレフタレート(PET)。比粘度は、ジクロロ酢酸中で1重量%の濃度において25℃にて測定される。固有粘度は、以下の式:
固有粘度=比粘度・0.0006907+0.063096
に従って比粘度から計算される。
【0121】
成分B3:フェノール/テトラクロロエタンの60/40混合物(重量%/重量%)中で25℃にて0.5g/100mlの濃度において測定された0.69dl/g~0.75dl/gの固有粘度を有する、テレフタル酸、シクロヘキサンジメタノール、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオールに基づくポリエステル。
【0122】
成分B4:ポリエチレンナフタレート(PEN)。
【0123】
成分C:スチレン-ブタジエン-ゴムコアと、メチルメタクリレート-スチレンコポリマーから作られたグラフトシェルとのコア-シェル形態を有し、かつ68%~72%のブタジエン含有量、及び130nmから160nmの間のゴム粒子サイズ分布を有する耐衝撃性改良剤。
【0124】
成分D1:sedigraphを使用して測定された1.2μmの平均粒径d50を有し、かつ0.5重量%のAl2O3含有量を有するタルク。
【0125】
成分D2:BASF SEの熱安定剤であるIrganox 1076。
【0126】
成分D3:固体としての亜リン酸H3PO3。
【0127】
成分E:滑沢剤/離型剤としてのテトラステアリン酸ペンタエリスリチル。
【0128】
次に、静的なラボ用プレス(JoosのLAP 100)において、調査対象のフィルム(上層D)を複合材(基材)の両面に貼り合わせた。研磨されたインサート(「高光沢押し型」)及び外部離型剤(Frekote(商標)、Henckel)を使用した。
【0129】
塗料層Lの製造
プライマー層、ベースコート層、及びクリアコート層の製造に使用される物質:
特段の指定がない限り、これらの物質は更に精製又は前処理することなく使用された。
【0130】
Allnex Resins Germany GmbH(ドイツ)の顔料用アニオン性湿潤分散剤であるAdditol XL 250。
【0131】
Evonik Resource Efficiency GmbH(ドイツ)のフュームドシリカ艶消し剤であるAerosil(商標)R 972。
【0132】
BYK Chemie GmbH(ドイツ)のレオロジー改変ワックスエマルジョンであるAquatix 8421。
【0133】
Lanxess AG(ドイツ)の酸化鉄顔料であるBayferrox(商標)318 M。
【0134】
Covestro AG(ドイツ)の芳香族ポリエステルジオール及びポリカーボネートジオールの混合物に基づく共溶媒不含の脂肪族のアニオン性ヒドロキシ官能性ポリウレタン分散液であるBayhydrol(商標)U 2757。水希釈性2成分PUR塗料の製造用のバインダー(2016-09-13のデータシートによれば、水/N,N-ジメチルエタノールアミン中で約52%、DIN EN ISO 3251に準拠して不揮発性割合(1g/1h/125℃)に基づいて(計算された)ヒドロキシ含有量約1.8%)。
【0135】
Covestro AG(ドイツ)の共溶媒不含の脂肪族のポリカーボネート含有アニオン性ポリウレタン分散液であるBayhydrol(商標)UH 2606。プラスチック基材及び木質材料用の水希釈性コーティングの製造用のバインダー(2016-09-13のデータシートによれば、水中で約35%、N-エチルジイソプロピルアミンで約35:64:1の比率で中和(塩として結合)されている)。
【0136】
Covestro AG(ドイツ)の2層車両塗装、プラスチック塗装、自動車再塗装、工業塗装用の水性の空気乾燥性及びオーブン乾燥性のベースコート、並びに低温乾燥性の機能的ストーンチップ層用の脂肪族のアクリレート変性ポリウレタン分散液バインダーであるBayhydrol(商標)UA 2856 XP。2016-03-03のデータシートによれば、23℃での粘度100mPa s未満(ISO 3219/A.3)。
【0137】
Covestro AG(ドイツ)のヘキサメチレンジイソシアネートの三量体に基づく親水性ポリイソシアネートであるBayhydur(商標)XP 2655(2017-06-01のデータシートによれば、NCO含有量20.8%(ISO 11909)、23℃での粘度3500mPa s(ISO 3219/A.3))。
【0138】
OMG Borchers(ドイツ)のポリエーテル変性ポリシロキサンであるBaysilone(商標)塗料添加剤OL 17(流動制御添加剤)。
【0139】
Sachtleben Chemie GmbH(ドイツ)の充填剤であるBlanc fixe micro。
【0140】
OMG Borchers(ドイツ)のポリウレタン増粘剤であるBorchigel(商標)PW 25。
【0141】
Azelis Deutschland GmbHの溶剤である酢酸ブチル(酢酸n-ブチル)。
【0142】
BASF SE(ドイツ)の溶剤であるブチルグリコール(2-ブトキシエタノール)。
【0143】
BYK Chemie GmbH(ドイツ)の基材の濡れを改善するシリコーン界面活性剤であるByk(商標)348。
【0144】
耐光性ポリウレタン塗料系用の硬化剤成分としての、Covestro AG(ドイツ)の脂肪族ポリイソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネートの三量体)であるDesmodur(商標)ultra N 3390。2018-11-14のデータシートによれば、NCO含有量19.6%(ISO 11909)、23℃での粘度500mPa s(ISO 3219/A.3)。
【0145】
Covestro AG(ドイツ)のヘキサメチレンジイソシアネートの三量体に基づくポリイソシアネートであるDesmodur(商標)ultra N 3600(2017-06-01のデータシートによれば、NCO含有量23.0%(ISO 11909)、23℃での粘度1200mPa s(ISO 3219/A.3))。
【0146】
Covestro AG(ドイツ)の耐候性弾性塗料の製造用の低分岐型のヒドロキシル含有ポリエステルであるDesmophen(商標)670 BA。2018-03-01のデータシートによれば、23℃での粘度3000mPa s(ISO 3219/A.3)。
【0147】
Acros Organicsの溶剤であるジアセトンアルコール(DAA)。
【0148】
ISO-ELEKTRA - Elektrochemische Fabrik GmbHの触媒であるジブチルスズジラウレート。
【0149】
Sigma Aldrich Chemie(ドイツ)の中和剤であるN,N-ジメチルエタノールアミン(DMEA)。
【0150】
BASF SE(ドイツ)の分散助剤であるDispex(商標)Ultra FA 4436。
【0151】
Mondo Minerals BV(オランダ)のタルクであるFinntalc(商標)M-15 AW。
【0152】
BASF SE(ドイツ)の溶剤である1-メトキシ-2-プロピルアセテート(MPA)。
【0153】
Sachtleben Chemie GmbH(ドイツ)の白色顔料であるR-KB-2。
【0154】
Allnex Resins Germany GmbH(ドイツ)の官能性アクリレートポリマー含有バインダーであるSetalux(商標)DA 365 BA/X。
【0155】
Allnex Belgium SA/NVの非官能性アクリレート含有コポリマーであるSetaqua 6801。
【0156】
Azelis Deutschland GmbHの溶剤であるSolvent Naphtha 100(ソルベントナフサ(heavy benzol))。
【0157】
Eckart GmbH(ドイツ)のアルミニウム顔料ペーストであるStapa Hydrolan 2156の番号55900/Gアルミニウム。
【0158】
Evonik Resource Efficiency GmbH(ドイツ)の非イオン性の湿潤消泡分散助剤であるSurfynol(商標)104 E。
【0159】
BASF SE(ドイツ)のUV安定剤であるTinuvin(商標)292及びTinuvin(商標)1130。
【0160】
塗料処方物:
プライマー(Covestro Deutschland AGによって発表された出発処方(2016-09-13版)による水性2成分型プラスチックプライマーPCO-0148-PS):
成分1を製造するために、最初にバインダーを初充填し、次に報告された順序で更なる構成成分を秤量してから、混合物をガラスビーズ(2.85mm~3.45mm)とともに1:1(体積比)で混合した後に、Lau Skandex BA-S20ラボ用シェイカーを用いて30分間粉砕した。次に、ガラスビーズを篩い分けによって取り除いた。次に、ディゾルバー(ディゾルバーディスク5cm、800rpm)で撹拌しながら、増粘剤をゆっくりと加え、混合物を更に5分間撹拌した。次に、成分1を、4mmのDINカップにおけるカップ流出時間が25秒~30秒になるまで脱塩水で調整した。
【0161】
塗布の直前に、パドル型撹拌機(5分、700rpm)で撹拌しながら成分2を混和し、即使用可能なプライマーを30分以内で塗布した。
【0162】
【0163】
水系メタリックベースコート(Covestro Deutschland AGによって発表された出発処方(2016-08-23版)による1成分型水系塗料HEBE 4134/1):
最初に、メタリックペースト(表2のパート3)を別の容器において調製した。このために、表2のパート3における全ての構成成分を、プロペラ型撹拌機で撹拌しながら報告された順序で混合した。次に、pHを試験し(目標:pH8.0~8.5)、必要に応じてDMEAで調整した。約10.5m/秒で更に30分間撹拌(最大50℃まで加熱)した後に、ペーストは即使用可能であった。
【0164】
メタリックベースコートのために、表2のパート1及びパート2を、約5.2m/秒でプロペラ型撹拌機を用いて混合した。次に、パート3を加え、約10.5m/秒で30分間混和した。最後に、パート4を加え、混合物を5.2m/秒で更に5分間撹拌した。塗布前に、塗料のpHをDMEAで8.0~8.5に調整した。脱塩水を用いて、4mmのDINカップによるカップ流出時間を40秒に調整し、56μmの篩を通して塗料を濾別した。
【0165】
【0166】
クリアコート(Covestro Deutschland AGによって発表された出発処方(2015-09-01版)による溶剤系クリアコートRR 4822):
成分1を製造するために、最初にバインダーを導入した。ディゾルバー(ディゾルバーディスク5cm、800rpm)で撹拌しながら、表3のパート1における全ての更なる構成成分を報告された順序で加え、混合物を更に5分間~10分間撹拌した。
【0167】
塗布の直前に、パドル型撹拌機(5分、700rpm)で撹拌しながら成分2を混和し、即使用可能なクリアコートを30分以内で塗布した。
【0168】
【0169】
基材-上層積層物の塗装
塗料処方物を製造し、続いて基材層-上層積層物を塗装する手順は、とりわけ、本発明の出願日時点ではまだ公開されていない出願番号18213389.2を有する欧州特許出願に記載されている。最初に、水性の2成分型プラスチックプライマーを上記のように調製し、Satajet RP重力式スプレーガン(1.3mm、空気圧2.1bar)を用いて1回の交差行程(cross-pass)で表面全体に塗布して、20μm~25μmの(乾燥)層厚を得た。塗布後に、プライマーを室温で10分間、そして強制循環炉内で80℃にて30分間乾燥させ、室温で16時間貯蔵した。
【0170】
続いて、1成分型水系塗料を上記のように調製し、同様にSatajet HVLP重力式スプレーガン(1.2mm、空気圧2.1bar)を用いて1回の交差行程で表面全体に塗布して、9μm~12μmの(乾燥)層厚を得た。ベースコートを室温で10分間、そして強制循環炉内で80℃にて30分間乾燥させ、室温で3時間貯蔵した。
【0171】
最後に、溶剤系クリアコートを上記のように製造し、マスターバッチと硬化剤とを混合した直後に、Satajet HVLP重力式スプレーガン(1.2mm、空気圧2.1bar)を用いて1回の交差行程で塗布して、25μm~32μmの(乾燥)層厚を得た。クリアコートを室温で10分間、そして強制循環炉内で80℃にて45分間乾燥させた。
【0172】
塗装された全体的な構造物の視覚的評価:
基材層、上層、及び塗料から構成される全体的な構造物の表面の視覚的評価を、コーティングされたシートを強制循環炉内で60℃にて少なくとも16時間エージングしてから室温で8時間貯蔵した後に行った。視覚的評価の結果を表5に示す。
【0173】
塗装された基材層-上層積層物に気泡、ひけ、膨れ、又はひび割れがなく、フィルムの下にある基材からの繊維が表面上にせいぜい最小限にしか見えない場合に、スコア「1」を割り当てた。
【0174】
塗装された基材層-上層積層物に気泡、ひけ、膨れ、又はひび割れがないが、フィルムの下にある基材からの繊維が表面上に見える場合に、スコア「2」を割り当てた。
【0175】
コーティングされた基材層-上層積層物に気泡、ひけ、膨れ、及び/又はひび割れが示された場合に、スコア「3」を割り当てた。
【0176】
上層におけるポリエステル成分B1~B4の或る特定の濃度でのみ1及び2のスコアが達成され得たのに対して、ポリエステル成分を混合しないと(純粋な成分Aを使用する場合)、塗装後に気泡、ひけ、膨れ、及び/又はひび割れが常に発生することが判明した(例17、スコア3)。
【0177】
ポリエステル成分としてPBT(B1)及びPET(B2)を使用した場合に、上層の組成物の総重量に対して18重量%の低さの含有量以降から、良好な塗装仕上げの結果が達成された(例2~例4及び例6~例8)。PBTを使用した場合に、フィルムの下にある基材からの繊維が塗装面でより見えにくくなるため、36重量%の低さ以降から表面の視覚的外観も著しく改善された(例3)のに対して、PETを使用した場合には、上層中でのより高い濃度以降からこの効果が明らかになったにすぎなかった(例8)。
【0178】
ポリエステル成分としてB3を使用した場合に、上層の組成物の総重量に対して9重量%の低さの含有量以降から、良好な塗装仕上げの結果が達成された(例9~例12)。フィルムの下にある基材からの繊維が塗装面でより見えにくくなるため、36重量%の低さ以降から表面の視覚的外観が著しく改善された(例11及び12)。
【0179】
ポリエステル成分としてPEN(B4)を使用した場合に、上層の組成物の総重量に対して36重量%の高さの含有量を上回った場合にのみ良好な塗装仕上げの結果が達成された(例15及び例16)のに対して、フィルムの下にある基材からの繊維が依然として塗装面でかなりの程度で視認され得たため、1のスコアを達成することはできなかった。
【0180】
【0181】
【国際調査報告】