(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-28
(54)【発明の名称】可変電気コンダクタンスの電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
H01L 21/8239 20060101AFI20221221BHJP
H01L 49/00 20060101ALI20221221BHJP
G06N 3/063 20060101ALI20221221BHJP
H01L 45/00 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
H01L27/105 448
H01L49/00 Z
G06N3/063
H01L45/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523462
(86)(22)【出願日】2020-10-16
(85)【翻訳文提出日】2022-04-20
(86)【国際出願番号】 EP2020079177
(87)【国際公開番号】W WO2021083690
(87)【国際公開日】2021-05-06
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【氏名又は名称】太佐 種一
(74)【復代理人】
【識別番号】110000316
【氏名又は名称】特許業務法人ピー・エス・ディ
(72)【発明者】
【氏名】ブラガグリア、バレリア
(72)【発明者】
【氏名】ルク、パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ラポルタ、アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】フォンペイリーヌ、ジャン
(72)【発明者】
【氏名】アベル、ステファン
【テーマコード(参考)】
5F083
【Fターム(参考)】
5F083FZ10
5F083GA11
5F083JA60
(57)【要約】
電気化学デバイスは、電気化学セルと電気回路とを含む。電気化学セルは、第1の固体コンポーネント及び第2の固体コンポーネントを含む。2つの固体コンポーネントは、同じ化学元素を含むが、その化学元素のうちの少なくとも1種類の濃度が異なる。固体電解質が2つの固体コンポーネントの間に配置される。固体電解質は、誘電体材料である。電気回路は、電気化学セルに接続されている。電気化学セルを、酸化還元反応に従って動作させて、少なくとも1種類の化学元素を第1の固体コンポーネントと第2の固体コンポーネントとの間で交換し、それによって2つの固体コンポーネントの各々の電気コンダクタンスを変化させることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は複数の特定の化学元素を含む第1の固体コンポーネントであって、前記1つ又は複数の特定の化学元素のうちの第1の化学元素が前記第1の固体コンポーネント中に第1の濃度で存在する第1の固体コンポーネントと、
前記1つ又は複数の特定の化学元素を含む第2の固体コンポーネントであって、前記1つ又は複数の特定の化学元素のうちの前記第1の化学元素が前記第2の固体コンポーネント中に第2の濃度で存在し、前記第1及び第2の濃度が異なる、第2の固体コンポーネントと、
前記第1の固体コンポーネントと前記第2の固体コンポーネントとの間に配置され、誘電体材料である第1の固体電解質と、
を含む電気化学セルと、
前記電気化学セルに結合する電気回路であって、前記電気化学セルを酸化還元プロセスに従って動作させて、前記第1の固体コンポーネントと前記第2の固体コンポーネントとの間で前記第1の化学元素を交換することにより、前記第1及び第2の固体コンポーネントの各々の電気コンダクタンスを変化させるように構成された電気回路と、
を含む、電気化学デバイス。
【請求項2】
前記第1及び第2の固体コンポーネントが各々、前記1つ又は複数の特定の化学元素のうちの少なくとも2つの化学元素の化合物を含み、前記第1及び第2の固体コンポーネントの各々は、前記少なくとも2つの化学元素のうちの1つの化学元素の濃度が異なる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記第1及び第2の固体コンポーネントが各々WO
3を含む、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記第1の固体電解質が高κ誘電体材料を含む、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記第1の固体電解質がHfO
2を含む、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
前記電気回路が、
前記第1の固体コンポーネントを前記第2の固体コンポーネントに接続する、電気化学セルを動作させるための第1の回路と、
第1及び第2の端子を有し、各端子が前記第2の固体コンポーネントに接続された、電気信号を検知するための第2の回路と
を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記電気化学セルが、
ソースコンタクト、ドレインコンタクト、及びゲートコンタクトをさらに含み、前記ソースコンタクト及び前記ドレインコンタクトの各々は、前記第2の固体コンポーネントと電気的に連通し、前記ゲートコンタクトは、前記第1の固体コンポーネントと電気的に連通し、
前記第1の回路は、前記ソースコンタクト及び前記ゲートコンタクトの各々に接続し、
前記第2の回路は、前記ソースコンタクト及び前記ドレインコンタクトに接続する、
請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
前記デバイスが基板をさらに含み、
前記第2の固体コンポーネントが前記基板の上部に延在し、
前記ソースコンタクト及び前記ドレインコンタクトが各々、前記第2の固体コンポーネントと電気的に連通し、
前記第1の固体電解質が前記第2の固体コンポーネントの上にこれと接して延在し、
前記第1の固体コンポーネントが前記第1の固体電解質の上にこれと接して延在し、
前記ゲートコンタクトが前記第1の固体コンポーネントの上にこれと接して配置された、
請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
前記ソースコンタクト及び前記ドレインコンタクトの各々が前記第2の固体コンポーネントの上にこれと接して配置され、前記第1の固体電解質が前記ソースコンタクトと前記ドレインコンタクトとの間に延在する、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記基板がドープ基板を含む、請求項8に記載のデバイス。
【請求項11】
前記電気回路が第3の回路をさらに含み、前記第3の回路が前記ドープ基板を接地に接続する、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記電気化学セルが
前記ドープ基板と前記第2の固体コンポーネントとの間に延在する第3の固体コンポーネントであって、前記1つ又は複数の特定の化学元素を含み、前記1つ又は複数の特定の化学元素のうちの前記第1の化学元素が前記第3の固体コンポーネント中に第3の濃度で存在し、前記第3の濃度が前記第2の濃度とは異なる、第3の固体コンポーネントと、
前記第3の固体コンポーネントと前記第2の固体コンポーネントとの間に延在し、前記第3の固体コンポーネント及び前記第2の固体コンポーネントと接する第2の固体電解質と、
をさらに含む、請求項10に記載のデバイス。
【請求項13】
前記電気回路が第3の回路をさらに含み、前記第3の回路は前記第1の回路に接続され、それにより前記ドープ基板を前記第1の回路に接続する、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記第2の固体コンポーネントがフィンであり、
前記ソースコンタクト及び前記ドレインコンタクトが各々、前記基板の上に延在して、前記フィンにその各々の端部で横方向に接触しており、
前記ゲートコンタクト、前記第1の固体コンポーネント、及び前記第1の固体電解質が、前記フィンの第1の部分の周囲に少なくとも部分的に巻き付けられている、
請求項8に記載のデバイス。
【請求項15】
第2のゲートコンタクトと、前記第1の固体コンポーネントと同じ化学元素を同じ濃度で含むコンポーネントと、前記第1の固体電解質と同じ組成物を含む第2の電解質とをさらに含み、前記第2のゲートコンタクト、前記コンポーネント、及び前記固体電解質は、前記フィンの前記第1の部分の周囲に少なくとも部分的に巻き付けられた前記ゲートコンタクト、前記第1の固体コンポーネント、及び前記第1の固体電解質から離間して、前記フィンの第2の部分の周囲に少なくとも部分的に巻き付けられている、
請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記第1の固体コンポーネント及び前記第2の固体コンポーネントの各々が材料の層として形成される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項17】
1つ又は複数の特定の化学元素を含む第1の固体コンポーネントであって、前記1つ又は複数の特定の化学元素のうちの第1の化学元素が前記第1の固体コンポーネント中に第1の濃度で存在する第1の固体コンポーネントと、
前記1つ又は複数の特定の化学元素を含む第2の固体コンポーネントであって、前記1つ又は複数の特定の化学元素のうちの前記第1の化学元素が前記第2の固体コンポーネント中に第2の濃度で存在し、前記第1及び第2の濃度が異なる、第2の固体コンポーネントと、
前記第1の固体コンポーネントと前記第2の固体コンポーネントとの間に配置され、誘電体材料である第1の固体電解質と、
を含む電気化学セルと、
前記電気化学セルに結合する電気回路であって、前記電気化学セルを酸化還元プロセスに従って動作させて、前記第1の固体コンポーネントと前記第2の固体コンポーネントとの間で前記第1の化学元素を交換することにより、前記第1及び第2の固体コンポーネントの各々の電気コンダクタンスを変化させるように構成された電気回路と、
を各々が有する、複数の電気化学デバイスと、
前記複数の電気化学デバイスを動作させるための、前記デバイスの前記電気回路に接続されたコントローラと、
1つ又は複数の電気化学デバイスの第2の固体コンポーネントの電気コンダクタンスの変化の結果としての電気信号の変化を検知するための、前記複数の電気化学デバイスの前記電気回路に接続された読出し回路と、
を含む、装置。
【請求項18】
前記装置は、人工ニューラルネットワーク・ハードウェアとして構成され、前記複数の電気化学デバイスの各々は、前記人工ニューラルネットワーク・ハードウェアのシナプス素子として構成される、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
電気化学デバイスを動作させる方法であって、
1つ又は複数の特定の化学元素を含む第1の固体コンポーネントであって、前記1つ又は複数の特定の化学元素のうちの第1の化学元素が前記第1の固体コンポーネント中に第1の濃度で存在する第1の固体コンポーネントと、
前記1つ又は複数の特定の化学元素を含む第2の固体コンポーネントであって、前記1つ又は複数の特定の化学元素のうちの前記第1の化学元素が前記第2の固体コンポーネント中に第2の濃度で存在し、前記第1及び第2の濃度が異なる、第2の固体コンポーネントと、
前記第1の固体コンポーネントと前記第2の固体コンポーネントとの間に配置され、誘電体材料である第1の固体電解質と、
を含む電気化学セルと、
前記電気化学セルに結合する電気回路であって、前記電気化学セルを酸化還元プロセスに従って動作させて、前記第1の固体コンポーネントと前記第2の固体コンポーネントとの間で前記第1の化学元素を交換することにより、前記第1及び第2の固体コンポーネントの各々の電気コンダクタンスを変化させるように構成された電気回路と、
を含む、デバイスを提供することと、
前記電気化学セルを前記酸化還元プロセスに従って動作させることと、
前記第2の固体コンポーネントの電気コンダクタンスの変化の結果としての電気信号の変化を検知することと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、固体電解質を用いた電気化学デバイスの分野に関する。特に、本発明は、デバイスの固体コンポーネントの電気コンダクタンスを変化させるための電気回路を含む電気化学デバイスに関する。様々な実施形態による電気化学デバイスは、例えば、ニューロモルフィック・ハードウェア装置におけるシナプス素子として有利に使用することができる。本発明はまた、電気化学デバイスを動作させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械学習は、人間又は動物の脳内の生物学的なニューラルネットワークに着想を得たコンピューテーショナル・モデルである人工ニューラルネットワーク(ANN)に依拠することが多い。ANNは、人工ニューロンと呼ばれる、接続されたユニット又はノードの集合を含む。シナプスと同様に、人工ニューロン間の接続(エッジとも呼ばれる)に沿って信号が伝達される。すなわち、信号を受け取った人工ニューロンは、その信号を処理し、接続されたニューロンへ信号を送る。接続及びノードには、接続の重み(シナプスの重みともいう)が関連づけられている。各ニューロンは複数の入力を有することができ、各入力に対して接続の重みが帰属されている(その特定の接続の重み)。このような重みは学習が進むにつれて調整される。
【0003】
ニューラルネットワークは、通常、ソフトウェアで実装される。しかしながら、ニューラルネットワークは、ハードウェアで、例えば、抵抗処理ユニット(クロスバー・アレイ構造による)又は光ニューロモルフィック・システムとして実装されることもある。すなわち、ハードウェアで実装されたANNは、(学習もしくは推論目的、又は学習及び推論目的で)ANNを実装するために本来的かつ具体的に設計されている点で、古典的コンピュータ(汎用又は専用コンピュータ)とは明らかに異なる物理機械である。ニューロモルフィック・ハードウェア装置に使用されるシナプス素子は、典型的には、メモリスタ(memristive)デバイス、例えば相変化メモリデバイス、抵抗ランダムアクセスメモリ(RRAM)、又は磁気ランダムアクセスメモリ(SRAM)を含む。
【0004】
ニューロモルフィック・ハードウェア装置とは別に、様々な電気化学デバイスが知られている。電気化学セルは、化学反応から電気エネルギーを生成する、あるいは逆に、電気エネルギーを利用して何らかの化学反応を引き起こすように構成されたデバイスである。固体電気化学キャパシタ、並びに、このようなキャパシタを用いたコンピュータメモリ素子、特に電気化学ランダムアクセスメモリ(ECRAM)デバイスが提案されており、例えば、Sharbati、Mohammad Taghi他、「Artificial Synapses: Low-Power, Electrochemically Tunable Graphene Synapses for Neuromorphic Computing (Adv. Mater. 36/2018).」、Advanced Materials 30.36 (2018): 1870273、及びJ. Tang.他、「ECRAM as Scalable Synaptic Cell for High-speed, Low-Power Neuromorphic Computing」、IEDM、p.13.1.1、2018を参照のこと。
【発明の概要】
【0005】
様々な実施形態において、電気化学デバイスは、電気化学セルを含む。電気化学セルは、第1の固体コンポーネント及び第2の固体コンポーネントを含むことができる。さらに、電気化学セルは、第1の固体電解質及び電気回路を含むことができる。第1の固体コンポーネントは、1つ又は複数の特定の化学元素で構成することができ、1つ又は複数の特定の化学元素のうちの第1の化学元素は、第1の固体コンポーネント中に第1の濃度で存在する。第2の固体コンポーネントは、同じ1つ又は複数の特定の化学元素で構成することができるが、1つ又は複数の特定の化学元素のうちの第1の化学元素は、第2の固体コンポーネント中に第2の濃度で存在し、第1の濃度と第2の濃度とは異なっている。第1の固体電解質は、第1の固体コンポーネントと第2の固体コンポーネントとの間に配列又は配置することができる。第1の固体電解質は、誘電体材料である。電気回路は、電気化学セルに結合され、電気化学セルを、酸化還元プロセスに従って動作させるように構成され、第1の固体コンポーネントと第2の固体コンポーネントとの間で第1の化学元素が交換される。この交換により、第1及び第2の固体コンポーネントの各々の電気コンダクタンスを変化させる。
【0006】
第1の態様によれば、本発明は、電気化学デバイスとして具現化される。このデバイスは、電気化学セルと、電気回路とを含む。電気化学セルは、2つの固体コンポーネント、すなわち、第1の固体コンポーネントと第2の固体コンポーネントとを含む。2つの固体コンポーネントは、同じ化学元素を含むが、その化学元素のうちの少なくとも1種類の濃度が異なっている。第1の固体コンポーネント及び第2の固体コンポーネントの各々は、例えば、材料の層として形成されてもよい。2つの固体コンポーネントの間に固体電解質が配置される。固体電解質は、誘電体材料である。電気回路は、電気化学セルに接続されている。電気回路は、概ね、酸化還元プロセスに従ってセルを動作させて、第1の固体コンポーネントと第2の固体コンポーネントとの間で上記少なくとも1種類の化学元素を交換し、それによって2つの固体コンポーネントの各々の電気コンダクタンスを変化させるように構成されている。
【0007】
このように、固体コンポーネントは対称的な組成を有し、カソード及びアノードの役割を担う。両者は、共通に有する化学元素のうちの1つ又は複数の化学元素の濃度が異なるため、酸化還元プロセスによって、固体コンポーネントの一方を他方に変換することができ、固体コンポーネントの一方は他方の還元型となる。このデバイスの動作は非常に単純であり、これを利用して、第2の固体コンポーネントにおけるコンダクタンス(又は抵抗、又はそのようなコンダクタンスもしくは抵抗の変化)を読み出すようにすることができる。固体コンポーネントの使用によって、このデバイスはハードウェアに組み込むのに非常に適したものとなる。特に、このようなデバイスは、ニューロモルフィック回路におけるシナプス素子として、認知作業負荷を処理するために使用することができる。電気化学的原理を利用することによって、このデバイスは不揮発性デバイスとなり、ニューロモルフィック・ハードウェアのシナプス素子の重みを記憶し及び変更するために有利に使用することができる。
【0008】
実施形態において、2つの固体コンポーネントは、各々、少なくとも2つの化学元素の化合物を含み、その少なくとも2つの化学元素のうちの1つの化学元素の濃度が異なる。
【0009】
好ましくは、2つの固体コンポーネントの各々はWO3を含むが、デバイスの動作時、コンポーネントの一方は他方の還元型である。
【0010】
好ましい実施形態では、固体電解質は高κ誘電体材料を含む。固体電解質は、例えばHfO2を含んでもよく、動作時には、これを介して2つの固体コンポーネント間でインターカレーション・イオンが交換される。
【0011】
実施形態において、電気回路は、2つの回路、すなわち、第1の回路及び第2の回路を含む。第1の回路は、動作時に酸化還元プロセスに従ってセルを動作させるために、第1の固体コンポーネントを第2の固体コンポーネントに接続する。第2の回路は、第2の固体コンポーネントによって閉じられている。第2の回路は、デバイスの動作時に、第2の固体コンポーネントにおいて生じる電気コンダクタンスの変化によって影響を受ける電気信号を検知するように構成される。
【0012】
好ましくは、電気化学セルは、3つの電気コンタクトをさらに含み、これはソースコンタクト、ドレインコンタクト、及びゲートコンタクトからなる。ソースコンタクト及びドレインコンタクトの各々は、第2の固体コンポーネントと電気的に連通し、他方、ゲートコンタクトは、第1の固体コンポーネントと電気的に連通する。第1の回路は、ソースコンタクト及びゲートコンタクトの各々に接続する。第2の回路は、ソースコンタクト及びドレインコンタクトに接続する。例えば、電気化学セルは、ソースコンタクト、ドレインコンタクト、及びゲートコンタクトからなる3つの電気コンタクトを有する3端子デバイスとして構成されてもよい。
【0013】
好ましくは、デバイスは、基板をさらに含み、第2の固体コンポーネントは、基板の上に延在し、ソースコンタクト及びドレインコンタクトは各々、第2の固体コンポーネントと電気的に連通し、固体電解質は、第2の固体コンポーネントの上にこれと接して延在し、第1の固体コンポーネントは、固体電解質の上にこれと接して延在し、ゲートコンタクトは、第1の固体コンポーネントの上にこれと接して配置される。
【0014】
実施形態において、ソースコンタクト及びドレインコンタクトの各々は、第2の固体コンポーネントの上にこれと接して配置され、固体電解質は、ソースコンタクトとドレインコンタクトとの間に延在する。
【0015】
いくつかの実施形態において、基板は、ドープ基板を含む。変形例では、絶縁(又は半導体)基板が使用される。好ましい実施形態では、電気回路は第3の回路をさらに含み、第3の回路はドープ基板を接地に接続する。
【0016】
好ましくは、セルは、ドープ基板と第2の固体コンポーネントとの間に延在する第3の固体コンポーネントをさらに含む。第3の固体コンポーネントは、第1の固体コンポーネント及び第2の固体コンポーネントと同じ化学元素を含むが、第2の固体コンポーネントと比べて、化学元素のうちの上記少なくとも1種類の濃度が異なる。上記固体電解質は、第1の固体電解質であり、第2の固体電解質は、第3の固体コンポーネントと第2の固体コンポーネントとの間に、第3の固体コンポーネント及び第2の固体コンポーネントと接するように延在する。
【0017】
実施形態において、電気回路は第3の回路をさらに含み、第3の回路は第1の回路に接続され、ドープ基板を第1の回路に接続するようになっている。
【0018】
第2の固体コンポーネントは、場合によっては、フィンとして構造化することができる。その場合、ソースコンタクト及びドレインコンタクトは各々、基板の上に延在して、フィンにその各々の端部で横方向に接触するようになっている。さらに、ゲートコンタクト、固体電解質、及び第1の固体コンポーネントは、フィンの周囲に少なくとも部分的に巻き付けられて(wrapped)、例えばラッピング(wrapping)構造を形成するようになっている。
【0019】
好ましい実施形態では、デバイスは、互いに離間してフィンに沿って配置された複数のラッピング構造を含む。ラッピング構造の各々は、上記のラッピング構造と同様の構造になっており、各々がフィンの周囲に少なくとも部分的に巻き付けられている。
【0020】
別の態様によれば、本発明は、上述のような複数の電気化学デバイスを含む装置として具現化される。この装置は、酸化還元プロセスに従ってデバイスを動作させるように、デバイスの電気回路に接続されたコントローラをさらに含む。さらに、読出し回路がデバイスの電気回路に接続されている。読出し回路は、動作時に、1つ又は複数の電気化学デバイスの第2の固体コンポーネントの電気的コンダクタンスによって影響を受ける電気信号を検知するように構成されている。装置は、好ましくは、人工ニューラルネットワーク・ハードウェアとして構成され、その場合、デバイスの各々は、人工ニューラルネットワーク・ハードウェアのシナプス素子として構成される。
【0021】
最後の態様によれば、本発明は、電気化学デバイスを動作させる方法として具現化される。この方法は、上述のようなデバイス、すなわち、2つの固体コンポーネント、すなわち第1の固体コンポーネント及び第2の固体コンポーネントを含む電気化学セルを含む、デバイスに依拠する。この2つの固体コンポーネントは、同じ化学元素を含むが、その化学元素のうちの少なくとも1種類の濃度が異なっている。このデバイスは、2つの固体コンポーネントの間に配置された固体電解質をさらに含み、固体電解質は誘電体材料である。最後に、このデバイスはまた、電気化学セルに接続された電気回路を含む。この方法によれば、電気回路は、酸化還元プロセスに従って電気化学セルを動作させて、第1の固体コンポーネントと第2の固体コンポーネントとの間で上記少なくとも1種類の化学元素を交換し、それによって2つの固体コンポーネントの各々の電気コンダクタンスを変化させ、第2の固体コンポーネントの電気コンダクタンスに影響される電気信号を検知するために使用される。
【0022】
次に、本発明を具体化するデバイス、装置、及び方法を、非限定的な例として、添付の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
同様の符号は別々の図全体を通して同一又は機能的に類似の要素を示す添付図面は、以下の詳細な説明と共に本明細書に組み込まれて本明細書の一部を構成するものであり、すべて本開示による様々な実施形態をさらに例証し、様々な原理及び利点を説明するのに役立つ。
【0024】
【
図1】本発明の実施形態による電気化学デバイスの2次元断面図である。
【
図2】本発明の実施形態による電気化学デバイスの2次元断面図である。
【
図3】本発明の実施形態による電気化学デバイスの2次元断面図である。
【
図4】更なる実施形態による電気化学デバイスの3次元図である。
【
図5】実施形態による、入力ラインと出力ラインとが
図4に描かれたような電気化学デバイスを介して接合部で相互接続するクロスバー・アレイ構造を含む、ニューロモルフィック装置の3次元図である。
【
図6】実施形態による、電気化学デバイスを動作させる方法の高レベル・ステップを示すフローチャートである。
【0025】
添付図面は、実施形態に関与する装置又はその部品の簡略化された表現を示す。図面に描かれた技術的特徴は、必ずしも縮尺通りではない。図中の類似の又は機能的に類似の要素には、特に断らない限り、同じ符号が割り当てられている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
ニューロモルフィック・ハードウェアのシナプス素子に、通常のメモリスタ・デバイスの代わりに電気化学デバイスを使用することが提案されている。こうしたデバイスは、一般に低パワーバジェットである。しかしながら、そのスケーラビリティ、CMOS互換性の欠如、及びリザーバの化学量論に対して許容された制御(リザーバは、電気刺激によって活性化された化学反応の結果として、ECRAM機能を可能にする活性イオンを供給又は貯蔵できるコンポーネントである)から生じるさまざまな問題がある。さらに、これらのデバイスは液体電解質又は有機固体電解質によるものであることが多く、そのため、ニューロモルフィック・ハードウェアへの組み込みには適していない。
【0027】
本発明者らは、ニューロモルフィック・ハードウェアに組み込むのに適した電気化学デバイスを開発すべく邁進し、ニューロモルフィック・ハードウェアに十分使用できる様々なデバイスを開発するに至った。そうした解決策を以下の説明で詳細に説明する。
【0028】
図1~
図4を参照して、まず、電気化学デバイス1~4に関する本発明の一態様を説明する。電気化学デバイス1~4は、それぞれ、電気化学セル30、31、32、33を含む。電気化学デバイス1~3及び
図5に示す装置100は、電気回路110~150を含み、この電気回路は、典型的には、異なる機能を有する複数の回路部分を含む。
【0029】
電気化学セル30、31、32、33は、2つの固体コンポーネント11、12、すなわち第1の固体コンポーネント11及び第2の固体コンポーネント12を含む。2つの固体コンポーネント11、12は、同じ化学元素を含んでもよいが、化学元素のうちの1つ又は複数が固体コンポーネント11、12中に異なる濃度で存在してもよい。例えば、特定の化学元素が固体コンポーネント11中に第1の濃度で存在し、同じ特定の化学元素が固体コンポーネント12中に第2の濃度で存在し、第1の濃度と第2の濃度とが異なる。このように、コンポーネント11、12は、それらが共通に有する化学元素のうちの少なくとも1種類の濃度が異なる。このことにより、動作時、低い開放電圧を得ることができる。例えば、コンポーネント11、12は、1つの元素の濃度が異なる、2元化合物を含んでもよい。
【0030】
また、電気化学セル30、31、32、33は、2つの固体コンポーネント11、12の間に配置された固体電解質14を含んでもよい。この固体電解質は、誘電体材料である。固体電解質14は、例えば、高κ誘電体材料、例えば、HfO2(ハフニウム(IV)酸化物)を含んでもよく、この場合、酸素イオンがインターカレーション・イオン、すなわちコンポーネント11と12との間を移動するイオンとして使用される。(「高κ」のカッパは、誘電率を表す。)このようなイオンは、イオン伝導体の役割を果たすが電子電流は伝導しない電解質14を通過する。インターカレーション・イオンとして酸素を用いることで、主に文献に見られるようなLiベースのデバイスの使用によって生じる問題点(安全性の欠陥、エネルギー密度など)を回避することが可能となる。
【0031】
電気回路110~140は、電気化学セル30、31、32に接続されている。電気回路150は、装置100の電気化学セルに接続されている。回路は、一般に、酸化還元プロセスに従ってセルを動作させるように構成される。酸化還元プロセスは、化学的なものであってもよく(例えば、水素雰囲気中)、又は電気化学的なもの(例えば、負/正バイアス電圧の印加による)であってもよい。これが、デバイスの動作時に、第1の固体コンポーネント11と第2の固体コンポーネント12との間で上記少なくとも1種類の化学元素の交換を生じさせる。この交換が次に、2つの固体コンポーネント11、12の各々の電気コンダクタンスの変化を生じさせる。
【0032】
このように、固体コンポーネント11、12は、カソード及びアノードの役割を果たす。これらは共通に有する1つ又は複数の化学元素の濃度が異なるので、デバイス1~4の動作時に、酸化還元プロセスによって固体コンポーネントの一方を他方に変換することができる。すなわち、動作時に、固体コンポーネントの一方が他方の還元型となる。このことを利用して、後述する実施形態のように、第2の固体コンポーネントのコンダクタンス(又は抵抗、又はそのようなコンダクタンスもしくは抵抗の変化)を読み出すことができる。
【0033】
デバイス1~4は、多層デバイスとして作製することができ、例えば、
図1~
図4を参照されたい。電気化学セル30、31、32、33の固体電解質14及び固体コンポーネント11、12は、例えば、材料層として形成されてもよく、場合によっては構造化されてもよい。固体コンポーネントを使用することによって、このデバイスはハードウェアに組み込むことに適したものになる。特に、このようなデバイスは、ニューロモルフィック回路におけるシナプス素子として、認知作業負荷を処理するために使用することができる。電気化学的原理を利用することによって、このデバイスは不揮発性デバイスとなり、ニューロモルフィック・ハードウェアのシナプス素子の重みを記憶し及び変更するために有利に使用することができる。
【0034】
このすべてを、ここで本発明の特定の実施形態を参照して詳細に説明する。そもそも、2つの固体コンポーネント11、12は、好ましくは、各々、少なくとも2つの化学元素の化合物を含み、その少なくとも2つの化学元素のうちの1つの濃度が異なるものとする。例えば、固体コンポーネント11、12は、ちょうど2つの元素を含んでもよい。例えば、WO3(三酸化タングステン)を含んでもよい。対称的なWO3ベースの固体コンポーネントの使用により、デバイスは、CMOS互換性となり、デバイスをCMOSプロセスのバックエンドオブライン(BEOL)で組み込むことができるようになる。ちなみに、WO3ベースの固体コンポーネントを使用することは、HfO2のような高κ誘電体材料を使用する場合に特に有利であり、なぜならHfO2は良好なイオン伝導体であり(しかし電子伝導体ではない)、WO3の2つの固体コンポーネント間で酸素イオンを適切に(脱(de-))インターカレーションさせることができるからである。
【0035】
様々な実施形態において、固体コンポーネント11、12及び固体電解質14には、他の材料を想定することもできる。例えば、固体コンポーネント11、12は各々、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3、略してSTO)を含んでもよい。変形例では、例えば、これらは、ペロブスカイト(SrFeOx、SrCoOx、CaCrOx)、固溶体、BaInOx-BaZrOx、SrTiOx-SrCoOx、その他の酸化物(La2NiO4、La2CuO4)、又は非酸素ベースの化合物(LixCoO2及びNaxCoO4など)を含むことができる。さらに、固体電解質14は、例えば、Ta2O5、又はイットリウムドープ酸化ジルコニウム(Y:ZrO2、又はYZO)、又はCeO2、又は非酸化物酸素電解質(LaF3)、又は(脱)インターカレーション種に適した他の電解質を含んでもよい。
【0036】
図1~
図3に描かれているような実施形態では、デバイス1~3の電気回路は、2つの(接続されているが)別個の電気回路(又は回路部分)、すなわち第1の回路110及び第2の回路120に分解される。第1の回路110は、コンタクト21を介して第1の固体コンポーネント11を第2の固体コンポーネント12に接続する。回路110は、一般に、上述のようにセル30、31、32が酸化還元プロセスに従って動作することができるように設計されている。第1の回路110は、典型的には、添付図面で想定されるように、酸化還元プロセスを駆動するための電圧源又は電流源を含む。電流源は、酸化還元プロセス中に移動するイオン電荷を測定することを容易にするので好ましい。
【0037】
第2の回路120は、デバイス1~4の動作時に、第2の固体コンポーネント12に顕著に生じる電気コンダクタンスの変化によって影響を受ける何らかの電気信号を検知するために設けられる。第2の回路120は、第2の固体コンポーネント12(本書では「チャネル」とも呼ばれる)によって閉じられており、それゆえ第2の固体コンポーネント12の電気的特性によって影響を受けることに留意されたい。第2の回路120は、例えば、電流を検知し、それによって第2の固体コンポーネント12の例えば抵抗又はコンダクタンスを読み取るように設計することができる。チャネル12のコンダクタンスの変化は、酸化還元プロセスに起因してチャネル12に到達したイオン又はチャネル12から離脱するイオンによるものであり、チャネルのコンダクタンスの不揮発性変化とみなすことができる。
【0038】
図1~
図4に示すように、電気化学セル30、31、32、33は、好ましくは、3つの電気コンタクト、すなわち、ソースコンタクト21、ドレインコンタクト23、及びゲートコンタクト22を含む。ソースコンタクト21及びドレインコンタクト23は各々、第2の固体コンポーネント12と電気的に連通し、一方、ゲートコンタクト22は、第1の固体コンポーネント11と電気的に連通する。図示のように、第1の回路110はソースコンタクト21及びゲートコンタクト22の各々に接続し、一方、第2の回路120はソースコンタクト21及びドレインコンタクト23に接続する。
【0039】
このように、デバイス1~4は、第1の回路110によって供給することができるゲートへの電圧の印加によって電流の流れを制御することができ、それが次に、第2の回路120によって測定されるドレインとソースとの間の導電率を変化させるので、FET様デバイス(すなわち電界効果トランジスタに似たデバイス)とみなすことができる。特に、電気化学セル30、31、32、33は、3端子デバイス1~4、すなわち、ソースコンタクト21、ドレインコンタクト23、及びゲートコンタクト22からなる3つの電気コンタクトを有するデバイスとして構成することができる。
【0040】
図1の例では、デバイスは3つの電気コンタクト21~23のみを含み、基板10は電気絶縁性である。この場合、チャネル12を読み出す際に読出し電流が基板を通ることを防止するために、基板は実際に絶縁性でなければならない。しかしながら、基板10は、シリコンのようなドープされていない半導体材料を含むか又はそれ自体であってもよいことに留意されたい。
【0041】
図1~
図4で見られるように、デバイス1~デバイス4は、本質的に層構造を有していてもよい。例えば、第1の固体コンポーネント11及び第2の固体コンポーネント12の各々は、材料の層として形成されてもよい。同様に、固体電解質14も材料の層として形成されてもよいが、固体電解質14は、ソースコンタクト21又はドレインコンタクト23と第1の固体コンポーネント11との間の短絡を回避するように、好ましくは構造化(例えば、図に示すように隆起リムを提示するように)される。
【0042】
デバイス1~3は、好ましくは以下のような構造である。第2の固体コンポーネント12は、基板10の上に延在する。ソースコンタクト21及びドレインコンタクト23は各々、第2の固体コンポーネント12と電気的に連通する。さらに、固体電解質14は、第2の固体コンポーネント12の上にこれと接して延在する。次に、第1の固体コンポーネント11は、固体電解質14の上にこれと接して延在する。そして最後に、ゲートコンタクト22は、第1の固体コンポーネント11の上に、このコンポーネント11と接して配置される。「上に(on top)」とは、「それの上方に(above)、かつ、それと接して又はそれと距離を置いて」という意味であることに留意されたい。すなわち、所望の電気経路を著しく変化させないという条件で、追加の材料の中間層が必要とされる場合がある。「上方」は、z方向である。
【0043】
図1~
図3に示す構造例では、ソースコンタクト21及びドレインコンタクト23の各々は、第2の固体コンポーネント12の上にこれと接して配置されている。さらに、固体電解質14は、ソースコンタクト21とドレインコンタクト23との間に延在する。ソースコンタクト21及びドレインコンタクト23は、
図1~
図3で想定されるように、コンパクト化又はフットプリントのために、横方向に固体電解質14と直接接触している場合もあることに留意されたい。しかしながら、固体電解質は誘電体材料であるため、このことは何の影響も及ぼさない。
【0044】
図2及び
図3の例では、基板へのコンタクトが追加されているので、基板10aは、
図1とは逆に、ドープされた材料を含む。実際上、基板10は、例えば、通常のMOSFET回路のp型シリコン内に打ち込まれたnウェルと同様に、接地から絶縁されるように撃ち込まれたドープ領域を含むことができる。
【0045】
図2の例では、全体の電気回路は、ドープ基板10aと接地とを接続する第3の回路部130をさらに含む。デバイス2は、追加のコンタクトにもかかわらず、依然としてFET様デバイスとみなすことができることに留意されたい。第3の回路130及びドープ基板上の追加のコンタクトは、FETを動的に制御するためのものである。この回路130は、上部コンタクト22と共に、イオンが層12にインターカレーションすること、又は逆にこの層12から脱インターカレーションすることを可能にする。回路130は、揮発性電界効果として作用する。したがって、その場合、同じデバイス2内で2つの効果が得られる。第1の効果は、回路110を介した電気化学的な動作から得られる不揮発性効果であり、一方、回路130を介して得られる第2の効果は、揮発性効果である。別の言い方をすれば、回路130は、基板10aに接地に対する電位を印加して、基板をゲートとして機能させることを可能にする。
【0046】
さらに、
図2及び
図3では、別の誘電体層16が、ドープ基板10aの上、すなわち第2の固体コンポーネント12と基板10aとの間に延在する。この層16は、固体電解質14と同様に、例えばHfO
2を含んでもよく、又はTa
2O
5、もしくはYZOなどの任意の他の誘電体材料を含んでもよい。
【0047】
図3の例では、セル32は、ドープ基板10aと第2の固体コンポーネント12との間に延在する第3の固体コンポーネント13をさらに含む。第3の固体コンポーネント13は、第1の固体コンポーネント11及び第2の固体コンポーネント12と同じ化学元素を含む。しかしながら、第3の固体コンポーネント13は、少なくとも第2の固体コンポーネント12と比較した場合に、層11~13が共通に有する化学元素のうちの1つ又は複数の濃度が異なる。前述の場合と同様に、濃度の差は、1つの元素のみに関するものであってもよい。それでも、この元素の初期濃度は、対称的なイオン交換層構造を実現するために、例えば第1及び第3の固体コンポーネント13において同じとすることができる。
【0048】
セル32はまた、この例では第2の固体電解質16を含む。すなわち、その場合、2つの固体電解質が設けられる。固体電解質16は、第3の固体コンポーネント13と第2の固体コンポーネント12との間に延在する。第2の電解質16は、下層(第3の固体コンポーネント13)及び上層(第2の固体コンポーネント12)の各々に接している。
【0049】
好ましくは、デバイス3の電気回路は、さらに第3の回路140を含む。しかしながら、
図2の回路130とは逆に、ここでは回路140は、第1の回路110に接続しており、ドープ基板10aを第1の回路110に接続するようになっている。ここでもまた、第3の回路140は、
図3で想定されるように、電圧源又は電流源を含むことができる。デバイス3は、4端子のデュアルゲート様デバイス(対称的なイオン交換層構造を有する)とみなすことができる。
【0050】
回路140は、2つのゲート、すなわち上部ゲート(
図1と同様に回路110に基づく)及び基板(回路140に基づく)を用いて、デバイスを動作させるためのものである。この特徴は、例えばデバイス3を含む人工シナプスを動作させる際の柔軟性をより高める。すなわち、第3の回路140は、回路110と同様のパルス(例えば、電流パルス又は電圧パルス)の別の供給源を提供することができる。総シナプス応答は、例えば、第1のゲート、第2のゲート、又は両方のゲートから生じる効果の組み合わせに起因する、チャネル12内で生じる二重の酸化還元プロセスから生じるものとすることができる。別の言い方をすれば、
図3に示すような構造は、ゲートとチャネルとの間の複数の界面を脱インターカレーションの目的で利用することができるFinFETの場合と同様に、チャネル12のコンダクタンスを変化させるチャネル材料の活性セクションを増大させる別の方法を提供する。しかしながら、回路140は任意である。
【0051】
図4に示す実施形態は、第2の固体コンポーネント12がフィンとして構造化された代替的な構造を含む。さらに、ソースコンタクト21及びドレインコンタクト23は各々、基板10の上に延在し、フィン12にその各端部で横方向に接触するようになっている。さらに、固体電解質14、第1の固体コンポーネント11、及びゲートコンタクト22は、連続した層14、11、22(この順)として、フィン12の周囲に少なくとも部分的に巻き付けられている。ゲートコンタクト22、固体電解質14、及び第1の固体コンポーネント11によって形成されるラッピング構造は、したがって、フィン12に対してその2つ以上の側面で(例えば、
図4の例のように、フィンの矩形断面を仮定すると、3つの側面で)接触することができる。このような構造は、複数のイオン交換層を有するFinFET様デバイス4とみなすことができ、これもまた、コンパクトかつ容易に製造できる方法で、デバイスの動作の際に、(
図1の例と比較して)より高い柔軟性を可能にする。
【0052】
また、この例でも、少なくとも電解質14で分離された2つのコンポーネント11、12のみが使用される場合、基板は絶縁性である。マルチゲートを得るために(上部及び下部から、又はFET機能を使用する場合)追加の回路が存在する場合は、ドープ基板が必要とされる。
【0053】
しかしながら、デバイス4は、任意に複数のラッピング構造(描画を分かりやすくするために図示せず)を含んでもよく、複数のラッピング構造の各々は、上述の
図4に示すラッピング構造、すなわちフィンの周囲に巻き付けられたフィンと相補的な形状の一続きの層14、11、22と同様であることに留意されたい。すなわち、得られるラッピング構造の各々は、
図4に示される単一のラッピング構造と同様の構造であり、フィン12の周囲に少なくとも部分的に巻き付けられる。複数のラッピング構造は、互いに横方向に離間しているが、フィン12に沿って配置される。
【0054】
上述のような複数のラッピング構造を含む構造は、互いに分離された複数のゲートを得ることを可能にする。複数のゲートを用いることで、1つのフィン12を並列に動作させることができるので、より高い密度を実現することができる。特に、デバイス4がニューロモルフィック装置に用いられる場合、これを、シナプスの重みの調整可能性を高めるために利用することができる。重みは、その場合、チャネル12の抵抗又はコンダクタンスの値によって捕捉される。人工シナプスは、接続されたノードから到来する入り刺激に対する重みを担っており、したがって、信号がノードに沿ってさらに処理/伝播される方式を変更する。後で本発明の第2の態様を参照して説明するように、重みの値は、出力において読み出される電流に影響を与える。
【0055】
図1~
図4を参照して説明した特徴の多くは、組み合わせることができる。例えば、実施形態は、電気化学デバイスに向けたものとすることができ、ここで、上層及び下層(すなわち、アノード及びカソードを形成する固体コンポーネント11、12)は、同じ化学元素(例えば、二元化合物の場合「A」及び「X」)で構成されているが、元素のうちの1つ(例えば「X」)は濃度が異なり、その結果、低い開放電圧がもたらされる。この特徴は、低いセル電圧をもたらし、そのことは電池には望ましくないが、シナプスデバイスのようなデバイスには望ましいので、このことが、この電気化学デバイスを固体電池及び固体酸化物燃料電池と区別する。前述のように、酸化還元プロセスによって一方の化合物(固体コンポーネント11)を他方の化合物(固体コンポーネント12)に変換することができる。第1の電気回路110は、上層のコンタクトと下層のコンタクトとの間に形成され、一方、第2の電気回路120は、同じ下層のコンタクト間に形成される。従来の電界効果デバイスとは異なり、第1の電気回路110を通じて印加される電気信号によって、可変濃度の元素(「X」)が固体電解質14を通して固体コンポーネント11及び12に対応する層間で交換される。下層の導電率は、その中の可変濃度の元素(「X」)の濃度の関数として変化する。このデバイスは、例えば、切り離されたプログラミング動作及び読み出し動作を用いる、3端子デバイスとして構造化することができる。固体コンポーネント11(これはリザーバと考えることができる)及びチャネル12は、有利には、WO
3を含むことができ、コンポーネント11、12の一方における組成物は、他方の還元型である。最後に、固体電解質は、好ましくは、HfO
2を含む。開始時のWO
xの抵抗率は、例えばH+/Ar還元処理を用いて、堆積中に制御及び調整することができる。その他の点については、従来のリソグラフィ・プロセスを用いてデバイスを作製することができる。
【0056】
ここで、
図5を参照して、装置100に関する、本発明の別の態様を説明する。
【0057】
図5で見られるように、装置100は、上述したような複数の電気化学デバイス4を含む。さらに、本装置は、コントローラ170(すなわち、プログラミング回路)を含み、このコントローラは、電気化学デバイス4の電気回路(例えば、
図1~
図3に示すような回路部分110)に接続されており、前述したように、酸化還元プロセスに従ってデバイス4を動作させるようになっている。描写を明確にするために、コントローラ170と個々のデバイス4との間の電気的接続は示されていないことに留意されたい。
【0058】
さらに、読出し回路160が設けられており、これもまたデバイス4の電気回路(例えば、
図1~
図3に示す回路部分120)に接続されている。読出し回路160は、チャネルの電気コンダクタンスによって影響を受ける1つ又は複数の電気信号を検知するように構成される。チャネルは、動作時に、電気化学デバイス4の1つ以上の第2の固体コンポーネント12によって形成される。後に明らかになる理由により、入力回路150及び処理ユニットのような更なるコンポーネントが必要とされる場合がある。
【0059】
図5において、入力回路150、読出し回路160、及びコントローラ170は、典型的には、電気導体155及び165によって形成される接続構造と共に、同じ処理コアの一部を形成することが意図されていることに留意されたい。しかしながら、変形例では、コンポーネント150、160、及び170は、例えば、別々のチップ上に設けられてもよい。
【0060】
装置100は、
図5で想定されるように、特にニューロモルフィック装置として構成される。その場合、各デバイス4は、それぞれのシナプス素子の一部を形成することができる。各デバイス4は、
図5に関して先に述べたように、いくつかのラッピング構造を含んでいる場合もあるが、それでもなお単一のシナプス素子4の役割を果たすことに留意されたい。構造の各々は、固体電解質14、第1の固体コンポーネント11、及びゲートコンタクト22を含むことができ、これらは少なくとも部分的にフィン12に巻き付けられている。これらのラッピング構造の各々は、
図5に示すように、フィン12に沿って、互いに間隔をあけて又は離間して配置することができる。このような実施形態は、例えば、複数のPCMデバイスを用いて各シナプス素子の総応答を提供するPCMシナプス素子に匹敵するものとなり得る。各々の単一シナプス素子に複数のラッピング構造を使用する利点は、各シナプス素子のチャネルの総抵抗/コンダクタンスの調整可能性を高めることにある。
【0061】
図5の例では、装置100は、N個の入力ライン155とM個の出力ライン165とによって形成されるクロスバー・アレイ構造で構成されている。この例では、描画の都合上、5つの入力ライン及び5つの出力ラインのみが描かれている。しかしながら、実際には、おそらく数百の入力ラインが関与するであろう。同様に、数百の出力ラインが必要であり得る。入力ラインと出力ラインは、各々が前述のような電気化学デバイス4を含むN×M個の電子デバイスを介して、接合部で相互接続される。
【0062】
コントローラ170は、有利には、
図1~
図3に示すような第1の回路110に接続されたアナログ回路とすることができる。コントローラは、デバイス4が値を記憶するように、又はより正確には、そうした値として解釈可能な特性(例えば、電気コンダクタンス)を有するように、デバイス4をプログラムするために使用される。デバイス4は、それに応じて、シナプス重みを記憶するようにプログラムすることができる。
【0063】
別個のアナログ回路150は、例えば、
図5に示されるように、入力信号を入力ライン155に結合する(例えば、電圧バイアスを印加する)ために使用することができる。
【0064】
読出し回路160は、M個の出力ライン165から得られるM個の出力信号(例えば、電流)を読み出すように構成される。読み出しは、典型的には、入力ライン155の各々に結合された信号(例えば、電流又は電圧バイアス)を考慮にいれた積和演算に従って行われる。実行される積和演算に従って、電気化学デバイス4の各々に記憶された値が読み出しに影響を与える。積和演算の結果、典型的には、入力ラインに結合された信号に、接合部においてデバイス4上に記憶された値が乗算される。
【0065】
図5に示すアーキテクチャは、多層ネットワークではなく、ANNのノードの単層に対応するものであることに留意されたい。このアーキテクチャは、原理的には、いくつかの接続された層を具現化するために拡張(又は積層)することも可能であり(したがって、多層ネットワークを表すことが可能)、又は、おそらくはデジタル処理ユニットを含む、コア-コア通信バスに接続することも可能である。
図5に示すようないくつものクロスバー・アレイ構造をこの通信バスを介して相互接続することができる。回路150~170の各々又はいずれかは、信号を変換するための適切な変換器が提供されるならば、デジタル処理ユニットとして具現化することもできる(とはいえ、効率上の理由から、アナログ回路に依るものであることが好ましい)。
【0066】
デバイス4に記憶される重みは、推論目的では一定(電気化学デバイス4の安定性の恩恵を受ける)であるのに対し、学習目的では繰り返し再プログラムされる必要がある。重みの更新の計算は通常、処理ユニットによって行われるのに対し、クロスバー・アレイ構造は、ANNに必要なすべての基本演算(すなわち、前進評価(forward evaluation)のための行列ベクトル積、後退評価(backward evaluation)のための転置行列と誤差勾配ベクトルとの積、及び重み更新のためのベクトル外積)を行うために用いられ、これらは大きなベクトル-行列乗算を伴う。学習相の場合は、アナログ回路170を用いて、デバイス4に記憶されたシナプス重みを変更するようにデバイス4を再プログラムすることができ、これは任意の適切な自動学習プロセスに従って行われる。しかしながら、
図5に示されるような構造又はニューロモルフィック・デバイス100は、学習及び推論の両方の目的に役立つことができる。
【0067】
ここで、
図6を参照して、本発明の最後の態様を説明するが、これは、電気化学デバイス1~4、ひいては、
図1~
図5を参照して先に説明したような装置100を動作させる方法に関するものである。この方法の本質的な態様は、すでに本発明のデバイス及び装置を参照して説明した。したがって、この方法については以下に簡潔に述べるにとどめる。
【0068】
S10において、前述したような電気化学デバイス1~4が提供される。すなわち、デバイス1~4が提供され、ここでデバイスは、同じ化学元素を含むがそれらが共通に有する化学元素のうちの1つ又は複数のものの濃度が異なる2つの固体コンポーネント11、12を有する、電気化学セル30、31、32、33を含む。電気化学セル30、31、32、33は、2つの固体コンポーネント11、12の間に配置された固体電解質14(誘電体材料)をさらに含む。本デバイスは、電気化学セルに接続された電気回路110~150をさらに含む。
【0069】
図6のフローチャートに示すように、S20において、電気回路を用いて、セル30、31、32、33を酸化還元プロセスに従って動作させて、固体コンポーネント11、12間で化学元素を交換し、それによって2つのコンポーネント11、12の各々のコンダクタンスを変化させる。
【0070】
さらに、S30において、電気回路を用いて、チャネル、すなわち第2の固体コンポーネント12の電気コンダクタンスによって影響を受けた電気信号を検知する。
図5を参照して前述したように、同じ原理を複数のデバイス1~4について利用することができる。また、ステップS20及びS30は、例えばニューロモルフィック・デバイス100のシナプス重みを訓練する目的では、典型的には混在することになる。
【0071】
本発明を、限られた数の実施形態、変形例及び添付図面を参照して説明してきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更がなされもよく、均等物が置換されてもよいことが、当業者には理解されるであろう。特に、所与の実施形態、変形例で述べられ、又は図面に記載された特徴(デバイス的又は方法的)を、本発明の範囲から逸脱することなく、別の実施形態、変形例、又は図面における別の特徴と組み合わせること、又は置き換えたりすることができる。添付の特許請求の範囲内に留まる、上記の実施形態又は変形例のいずれかに関して記載された特徴の様々な組み合わせを、それに応じて企図することができる。さらに、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるために、その範囲から逸脱することなく、多くの小さな修正を行うことができる。したがって、本発明は、開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲内に入るすべての実施形態を含むことになることが意図される。さらに、上記で明示的に触れた以外の多くの変形例も想定され得る。例えば、本明細書で明示的に引用した材料以外の材料を用いることができる。
【国際調査報告】