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特表2022-554153抗微生物剤および抗微生物治療用アジュバントとしてのフィブリノゲン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-28
(54)【発明の名称】抗微生物剤および抗微生物治療用アジュバントとしてのフィブリノゲン
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/36 20060101AFI20221221BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20221221BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20221221BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20221221BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
A61K38/36
A61P31/04
A61L27/22
A61L29/08 100
A61L31/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523883
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(85)【翻訳文提出日】2022-05-26
(86)【国際出願番号】 EP2020079970
(87)【国際公開番号】W WO2021078986
(87)【国際公開日】2021-04-29
(31)【優先権主張番号】19204958.3
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520414413
【氏名又は名称】フィブリアント・ベスローテン・フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】FIBRIANT B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】コープマン,ヤーコプ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェッヘマン,ミランダ・
(72)【発明者】
【氏名】フリンベルヘン,ヨーゼフ
【テーマコード(参考)】
4C081
4C084
【Fターム(参考)】
4C081AA08
4C081AA12
4C081AB05
4C081AB17
4C081AC03
4C081AC05
4C081AC06
4C081AC07
4C081AC08
4C081AC09
4C081BA14
4C081CD18
4C081CD23
4C081CE01
4C081DA12
4C081DA14
4C081DC01
4C081EA06
4C084AA01
4C084AA02
4C084CA53
4C084DC11
4C084MA13
4C084MA27
4C084MA28
4C084MA65
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB351
4C084ZC751
(57)【要約】
本発明は、フィブリノゲンを含む、微生物の抗微生物薬感受性を高めるための組成物に関する。本発明は、マイクロバイアルバイオフィルムまたは凝集体の、例えば医療器具、特に留置型器具、または創傷床におけるマイクロバイアルバイオフィルムの抗微生物薬耐性の問題を軽減するために用いることができる。前記器具または創傷床は、抗微生物薬感受性を高めるために、フィブリノゲンで(プレ)コーティングされる。前記抗微生物薬は、前記フィブリノゲンと別々に供給しても、一緒に供給してもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物個体における微生物の抗微生物薬耐性の治療方法または予防方法に用いる、フィブリノゲンを含む、組成物。
【請求項2】
前記抗微生物薬が、抗菌剤、好ましくは、抗生物質である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記微生物が、バイオフィルムまたは凝集体にあって、前記組成物が、バイオフィルムまたは凝集体の抗微生物薬感受性を高めることを目的とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記バイオフィルムが、医療器具または傷害組織上にある、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、血漿フィブリノゲン、ワイルドタイプフィブリノゲン、フィブリノゲンγ´、フィブリノゲンα伸長変異体またはフィブリノゲンα切断変異体を含む、あるいはからなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記フィブリノゲンが、埋め込み前の医療器具もしくはインプラントのコーティング、またはドレッシングもしくは縫合前の創傷のコーティングに用いられる、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、トロンビン、バトロキソビンまたはレプチラーゼをさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記方法が、抗微生物剤の供給をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物内の前記フィブリノゲンが、組み換えによって生産される、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記微生物が、グラム陽性菌またはグラム陰性菌である、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記細菌が、シュードモナス属またはブドウ球菌属、好ましくは黄色ブドウ球菌、より好ましくはアンピシリン耐性黄色ブドウ球菌、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌または多剤耐性黄色ブドウ球菌株である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、スプレー、ペーストまたはゲルである、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のフィブリノゲン組成物をex vivoで、医療器具に塗布することを特徴とする、個体における微生物の抗微生物薬耐性の治療または予防方法。
【請求項14】
前記フィブリノゲン組成物が、血漿フィブリノゲン、ワイルドタイプフィブリノゲン、フィブリノゲンγ´、フィブリノゲンα伸長変異体またはフィブリノゲンα切断変異体を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記医療器具が、カテーテル、気管内チューブ、経腸栄養チューブ、心臓弁、人工関節、ステント、気管切開チューブ、血管アクセスデバイスまたは創部用ドレインである、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗微生物剤および抗微生物治療の微生物感受性を高める方法、特に抗微生物薬に対するバイオフィルムの耐性を減らすために用いられる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病原菌の抗微生物薬耐性は世界中で高まる懸念の原因である。しばしば、病原菌はペニシリンといったかつての強力な抗微生物化合物の作用から何とか逃れている。抗微生物薬耐性の問題を克服するために様々な戦略が用いられる:1)新たな抗微生物薬が開発中である、2)2つまたはそれ以上の既存の抗微生物薬を用いる併用療法が用いられている、および3)既存の抗微生物薬に対する病原菌の耐性を減らすための、抗微生物薬のアジュバントとして作用する治療戦略および治療薬が、この抗微生物薬と併用される。抗微生物薬のアジュバント製剤および治療戦略には、抗耐性薬(例えば、βラクタマーゼ阻害薬)、抗毒性薬(例えば、細菌毒素阻害薬)および宿主標的治療(例えば、自然免疫系アゴニスト)が挙げられる。
【0003】
微生物が、抗微生物剤および抗微生物治療に対する耐性を高めるために利用する機序の一つは、凝集体、微小コロニーまたはバイオフィルムを形成することである。バイオフィルムまたは凝集体における病原菌は、プランクトン様形態中における浮遊性病原菌と比較して、10から1000倍以上の抗微生物剤耐性があることが知られている。カテーテル、ステント、心臓弁、ペースメーカーおよび人工関節といった留置型医療器具にバイオフィルムが形成される場合、それは全感染症の65%で生じるが、このことは医療器具の分野において深刻な問題である。バイオフィルム形成は、器具の不具合および器具関連感染の拡大を引き起こす可能性がある。器具の取り外し後または同時の抗菌処理および感染除菌後の器具の交換が、現在推奨されている方法である。取り外しおよび交換の代替手段が提案されている。Kretlowら(2014)(Plast Reconstr Surg. 2014, 133(1):28e-38e)は、抗菌ビーズを用いた左心補助人工心臓のin situ治療を報告している。
【0004】
さらに複雑なことは、ある種の真菌およびウイルスまたは真菌および細菌を含むポリマイクロバイアルバイオフィルムの存在で、抗ウイルス、抗細菌および抗真菌剤に対する耐性の増大をもたらすことである。
【0005】
コロニー形成およびそれに続く病気の進行には病原菌の付着が必要であるので、何人かは、バイオフィルム形成を防ぐために表面への病原菌付着予防に注力している。最も豊富な宿主血漿タンパク質の一つであるフィブリノゲンは、バイオフィルム形成を促進する重要な宿主タンパクであると考えられている。Flores-Mirelesら(J Urol 2016: 416)は、フィブリノゲン沈着を尿路病原菌の蓄積面であると報告している。Kwiecinskiら(J. Infect. Dis. 2016:213)、いかにして線維素溶解酵素がバイオフィルム形成を防ぐのかを報告している。
【発明の概要】
【0006】
フィブリノゲンは、バイオフィルムの抗菌剤耐性を高めるとも考えられている。Bedranら(Biomed Research International vol. 2013, article ID 431465)は、in vitroにおいて、フィブリノゲンがミュータンス連鎖球菌によるバイオフィルム形成を誘導し、ペニシリン耐性を高めるという結果を報告している。Jorgensenら(Microorganisms 2016: 4)は、in vitroにおいて、フィブリノゲンまたはフィブリンを特異的に分解する線維素溶解酵素が、いかにして細菌バイオフィルムの抗菌剤感受性を著しく高めるのかを報告している。これらの報告は、in vitroにおいて、フィブリノゲンの存在が、バイオフィルム形成を刺激することおよびフィブリノゲンの枯渇をもたらす線維素溶解が、バイオフィルム感染治療における抗菌剤の有効性を向上させることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】異なる固定化フィブリノゲン種に対する黄色ブドウ球菌の付着量
図2】in vitroにおいて、異なるフィブリノゲン種でプレコーティングした表面上に形成されたバイオフィルムと関連する、黄色ブドウ球菌の生菌数
図3】in vitroにおいて、ノンプレコーティング表面上に、バイオフィルム形成中に細菌培養液中の血漿FibまたはrhFibγ´を用いて形成したバイオフィルムで検出された、黄色ブドウ球菌の生菌数
図4】in vivoにおいて、血漿FibまたはrhFibγ´でプレコーティングし、マウス皮下に埋め込み、黄色ブドウ球菌で感染させた、PTFEケージ上に形成したバイオフィルムで検出された、黄色ブドウ球菌の生菌数
図5】in vitroにおいて、異なるフィブリノゲン種でプレコーティングした後に、異なる用量のバンコマイシンまたはアンピシリンに曝した表面上に形成されたバイオフィルムで検出された、黄色ブドウ球菌の生菌数
図6A】in vitroにおいて、細菌培養液中に血漿Fib(6Aおよび6C)またはrhFibγ´(6Bおよび6D)存在下で、;6E)血漿FibおよびrhFibγ´が50/50の混合物が存在し、後にバンコマイシンに曝した、ノンプレコーティング表面上に形成されたバイオフィルムで検出された、黄色ブドウ球菌の生菌数
図6B】in vitroにおいて、細菌培養液中に血漿Fib(6Aおよび6C)またはrhFibγ´(6Bおよび6D)存在下で、;6E)血漿FibおよびrhFibγ´が50/50の混合物が存在し、後にバンコマイシンに曝した、ノンプレコーティング表面上に形成されたバイオフィルムで検出された、黄色ブドウ球菌の生菌数
図6C】in vitroにおいて、細菌培養液中に血漿Fib(6Aおよび6C)またはrhFibγ´(6Bおよび6D)存在下で、;6E)血漿FibおよびrhFibγ´が50/50の混合物が存在し、後にバンコマイシンに曝した、ノンプレコーティング表面上に形成されたバイオフィルムで検出された、黄色ブドウ球菌の生菌数
図6D】in vitroにおいて、細菌培養液中に血漿Fib(6Aおよび6C)またはrhFibγ´(6Bおよび6D)存在下で、;6E)血漿FibおよびrhFibγ´が50/50の混合物が存在し、後にバンコマイシンに曝した、ノンプレコーティング表面上に形成されたバイオフィルムで検出された、黄色ブドウ球菌の生菌数
図6E】in vitroにおいて、細菌培養液中に血漿Fib(6Aおよび6C)またはrhFibγ´(6Bおよび6D)存在下で、;6E)血漿FibおよびrhFibγ´が50/50の混合物が存在し、後にバンコマイシンに曝した、ノンプレコーティング表面上に形成されたバイオフィルムで検出された、黄色ブドウ球菌の生菌数
図7A】in vivoにおいて、血漿Fib、rhFibWTまたはrhFibγ´でプレコーティングし、マウス皮下に埋め込み、治療的(7A)および予防的(7B)なダプトマイシン処置後に、PTFEケージ上に形成されたバイオフィルムで検出された、黄色ブドウ球菌の生菌数
図7B】in vivoにおいて、血漿Fib、rhFibWTまたはrhFibγ´でプレコーティングし、マウス皮下に埋め込み、治療的(7A)および予防的(7B)なダプトマイシン処置後に、PTFEケージ上に形成されたバイオフィルムで検出された、黄色ブドウ球菌の生菌数
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、フィブリノゲンを含む、個体における抗微生物薬耐性の治療用または予防用組成物の使用に関する。
【0009】
本発明による使用は、微生物の抗微生物剤耐性の問題を軽減する。特に、本発明は、抗微生物治療の微生物感受性を高め、バイオフィルム、凝集体または微小コロニーにおける微生物といった、抗微生物化合物感受性が典型的で最小限である微生物の対処に特に有利である。微生物の集団であるバイオフィルムは、抗微生物剤耐性で有名である、すなわち、このようなバイオフィルムは、かつての強力な抗微生物化合物の作用から逃れる。本発明に使用される組成物は、既存の抗微生物薬と併用される抗微生物薬のアジュバントとして作用して、マイクロバイアルバイオフィルムまたは凝集体が持つ、これらの抗微生物薬に対する耐性を減らすことができる。
【0010】
ある実施形態において、本発明に使用される組成物は、細菌の抗細菌化合物感受性を高める。抗細菌化合物は、細菌増殖を防ぐ(静菌)または細菌を殺し(殺菌)、抗菌剤、バクテリオファージおよびそのエンドリシン、抗菌または抗微生物ペプチド並びに抗菌抗体が挙げられる。当業者であれば、ある細菌に対する殺菌化合物が、他の細菌に対して静菌性を持つ可能性があり、その逆の可能性もあるということを理解するだろう。好ましくは、前記抗細菌化合物は、天然、合成または半合成の抗菌剤である。適切な天然、合成または半合成の抗菌剤は、アミノグリコシド、抗菌イミダゾール、βラクタム、マクロライド、ペプチド系抗菌剤、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体、キノロン、スルホンアミドおよびテトラサイクリン系抗菌剤並びにそれらの誘導体が挙げられる。
【0011】
アミノグリコシドの例に、ゲンタマイシンおよびトブラマイシンがある。抗菌イミダゾールの例に、ミコナゾールおよびメトロニダゾールがある;βラクタムの例に、ペニシリンがあり、アモキシシリン、アンピシリンおよびペニシリンなどの天然ペニシリン、アミノペニシリン、βラクタマーゼ耐性ペニシリン、カルボキシペニシリンが含まれ;セファレキシンといったセファロスポリンがあり;並びにメロペネムおよびドリペネムといったカルバペネムがある。マクロライドの例に、クラリスロマイシン、エリスロマイシンおよびテリスロマイシンといった、ケトライド系並びにマクロライド系抗菌剤がある。ペプチド系抗菌剤の例に、バンコマイシンといったグリコペプチド系抗菌剤およびダプトマイシンといったリポペプチド系抗菌剤がある。抗体の例に、黄色ブドウ球菌クランピング因子A、α毒素、リポテイコ酸およびテイコ酸に対する抗体がある。キノロンの例に、シプロフロキサシンおよびレボフロキサシンといったフルオロキノロンがある。スルホンアミドの例に、スルファセタミドおよびスルファメトキサゾールがある。テトラサイクリン系抗菌剤の例に、テトラサイクリンおよびドキシサイクリンがある。ある実施形態において、抗細菌化合物は、ペニシリンまたはペプチド系抗菌剤である。別の実施形態において、抗細菌化合物は、カルボキシペニシリン、グリコペプチド系抗菌剤またはリポペプチド系抗菌剤である。さらに別の実施形態において、抗細菌化合物は、アンピシリン、バンコマイシン、ダプトマイシンおよびトブラマイシンからなる群から選択される。
【0012】
当業者であれば、いくつかの抗微生物剤は、数個の微生物群に対して用いられるという事実を熟知しているだろう。例えば、いくつかの抗微生物ペプチドは、細菌およびウイルスまたは真菌感染症の両方に対して使用できる。
【0013】
前記組成物は、数種類の微生物を含む感染症の治療にも用いることができる。前記組成物は、1種類の微生物または数種類の微生物の抗微生物薬感受性を高めるのに用いることができる。例えば、細菌バイオフィルムにおけるウイルスまたはイーストの、抗ウイルスまたは抗イースト剤感受性を高めることができる。
【0014】
バイオフィルムまたは凝集体における感染性の微生物は、病原菌と呼ばれることもある。本発明のアジュバント法を用いて治療できるバイオフィルム関連感染症における、悪名高い病原菌は、黄色ブドウ球菌、特に、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)である。
【0015】
本発明に使用される組成物は、微生物の抗微生物薬感受性を高める。本発明によって処理される微生物は、好ましくは凝集体または塊状といったクラスター状にあるが、例えばバイオフィルムのように、表面に付着していてもよい。クラスター状またはバイオフィルムにおける微生物は、浮遊状態にある微生物よりも抗微生物剤感受性が弱い傾向にある。バイオフィルムにおいて、微生物は、通常、微生物自身によって分泌されるまたは宿主から集められる、糖タンパク質といった高分子物質由来細胞外マトリックス(EPSs)に囲まれている。バイオフィルムは、当技術分野で、グリコカリックスと呼ばれることもある。
【0016】
付着表面には、組織、細胞表面および創傷床などの生体表面、並びにカテーテル、埋め込み型心臓電気デバイス(CIED)、心臓弁、イモビライザー、人工関節、ステント、気管切開チューブおよび創部用ドレインを含む、医療器具、特に留置型医療器具またはインプラントなどの不活性表面が挙げられる。カテーテルの例は、末梢挿入型中心カテーテル(PICCライン)、埋め込み型ポートおよび尿道カテーテルである。CIEDの例は、ペースメーカー、左心補助人工心臓(LVADs)および埋め込み型除細動器である。イモビライザーの例は、ピン、プレート、ロッド、スクリューおよびワイヤである。人工関節の例は、股関節、膝関節および肩関節プロテーゼである。前記器具は、金属、セラミックまたは、プラスチックもしくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE、テフロン(登録商標))のような非生分解性合成ポリマー、もしくはコラーゲン、ヒアルロン酸、ポリ乳酸もしくはポリウレタンのような生分解性ポリマーを含む、あるいはからなってもよい。前記医療器具は、好ましくは、数日間、数週間、数か月間、または数年間、体内にとどまるように作られた、留置型器具またはインプラントである。
【0017】
本発明に使用される前記組成物は、フィブリノゲンを含む。前記組成物における前記フィブリノゲンは、健康個体の血液中で生じるありとあらゆるフィブリノゲン変異体の混合物である、血漿フィブリノゲン(血漿Fib)であってもよく、あるいは、血漿(もしくは血漿フィブリノゲン)から分離される、または組み換えタンパク質生産技術によって生産される、1つ以上のこれらの特定のフィブリノゲン変異体からなる製剤であってもよい。前記組成物における前記フィブリノゲンは、好ましくはヒト血漿フィブリノゲン、ヒトWTフィブリノゲン、ヒトフィブリノゲンγ´、ヒトフィブリノゲンα伸長変異体またはヒトフィブリノゲンα切断変異体を含む。ある実施形態において、前記組成物における前記フィブリノゲンは、ヒト血漿フィブリノゲン、ヒトWTフィブリノゲン、ヒトフィブリノゲンγ´変異体、ヒトフィブリノゲンα伸長変異体またはヒトフィブリノゲンα切断変異体からなる。ヒトフィブリノゲンは、ヒトの大多数に存在するアミノ酸配列を有するフィブリノゲンを指す。
【0018】
血漿フィブリノゲンは、血漿から分離されるフィブリノゲンを指し、通常、選択的スプライシング、タンパク質分解または翻訳語修飾の結果物である、自然発生するフィブリノゲン変異体の混合物を含む。血漿フィブリノゲンは、一つの個体からの由来であっても、複数の個体からプールされたものであってもよい。
好ましくは、前記血漿フィブリノゲンは、高純度である、すなわち、少なくとも95% w/w、少なくとも97% w/wまたは少なくとも98% w/wの血漿フィブリノゲンを含む組成物において構成される。純度は、凝固能力によって割り出してもよい。
【0019】
WTフィブリノゲンは、循環血液における全血漿フィブリノゲンの60~80%を占める、ヒトフィブリノゲンの成熟、顕性型を指し、610アミノ酸からなるAα鎖、461アミノ酸からなるBβ鎖および411アミノ酸からなるγ鎖を有する。文字通り、このフィブリノゲンの型は、高分子量(HMW)フィブリノゲンまたはインタクトフィブリノゲンとも呼ばれる。
【0020】
フィブリノゲンγ´変異体は、2本αポリペプチド鎖、2本のβポリペプチド鎖および2本のγポリペプチド鎖を有し、少なくとも1本のγポリペプチド鎖が、γ´ポリペプチド鎖である。ヒトにおいて、γ´ポリペプチド鎖は、427個のアミノ酸を有する。フィブリノゲン分子が、1本のWTγポリペプチド鎖(γ411)および1本のγ´ポリペプチド鎖(γ427)を含む場合、ここでは、この変異体をフィブリノゲンγ´ヘテロダイマーまたはFibγ427/411と呼ぶ。両方のγポリペプチド鎖が、γ´型(γ427)である場合、この変異体をフィブリノゲンγ´ホモダイマーまたはFibγ427/427と呼ぶ。本発明に使用される前記組成物は、フィブリノゲンγ´ヘテロダイマーおよびホモダイマーの混合物といったγ´変異体の混合物を含むまたはからなってもよく、1種類のγ´変異体を含むまたはからなってもよい。
【0021】
フィブリノゲンα伸長変異体は、2本のαポリペプチド鎖、2本のβポリペプチド鎖および2本のγポリペプチド鎖を有し、少なくとも1本のαポリペプチド鎖が、伸長ポリペプチド鎖であり、少なくとも1本のγポリペプチド鎖が、γ´ポリペプチド鎖である。ヒトにおいて、α伸長ポリペプチド鎖は、847個のアミノ酸を有する。フィブリノゲン分子が、1本のWTαポリペプチド鎖(Aα610)および1本のα伸長ポリペプチド鎖(Aα847)を含む場合、ここでは、この変異体をフィブリノゲンα伸長ヘテロダイマーまたはrhFibAα847/Aα610と呼ぶ。両方のαポリペプチド鎖が、α伸長型(Aα847)である場合、この変異体をフィブリノゲンα伸長ホモダイマーまたはFibAα847/847と呼ぶ。本発明に使用される前記組成物は、フィブリノゲンα伸長ヘテロダイマーおよびホモダイマーの混合物といったα伸長変異体の混合物を含むまたはからなってもよく、1種類のα伸長変異体を含むまたはからなってもよい。
【0022】
フィブリノゲンα切断変異体は、2本のαポリペプチド鎖、2本のβポリペプチド鎖および2本のγポリペプチド鎖を有し、少なくとも1本のαポリペプチド鎖が、251番目のアミノ酸と610番目のC末端のアミノ酸の間で切断されている。フィブリノゲン分子が、1本のWTα鎖(Aα610)および1本のα切断ポリペプチド鎖(Aα<610および≧251)を含む場合、ここでは、この変異体をフィブリノゲンα切断ヘテロダイマーまたはFibAα610/切断≧251と(血漿から分離された場合、文字通り、LMWフィブリノゲンとも)呼ぶ。両方のαポリペプチド鎖が、α切断型(Aα<610および≧251)である場合、この変異体をフィブリノゲンα切断ホモダイマーまたはFibAα切断(血漿から分離された場合、文字通り、LMW´フィブリノゲンとしても知られている)と呼ぶ。フィブリノゲンのアミノ酸配列は、公開されており、例えば、α、βおよびγ鎖並びにそれらの変異体の配列は、WO2010/004004を参照されたい。
【0023】
本発明に使用される前記組成物は、フィブリノゲンα切断ヘテロダイマーおよびホモダイマーの混合物といったα切断変異体の混合物を含むまたはからなってもよく、1種類のα切断変異体を含むまたはからなってもよい。
【0024】
α鎖変異体(伸長または切断)とγ´変異体を組み合わせたフィブリノゲンは、両方の変異体ポリペプチド鎖のヘテロダイマー、αまたはγ変異体のヘテロダイマー、および両方の変異体ポリペプチド鎖のホモダイマーであるフィブリノゲンが挙げられ、本発明に使用される組成物として用いることができる。
【0025】
前記組成物における前記フィブリノゲンは、当技術分野で既知の方法によって入手することができる。例えば、血漿フィブリノゲンは、血漿からの分離によって、または、例えばイギリス、スウォンジーのEnzyme Research LabsからFIB3もしくはFib1として、商業的に入手することができる。好ましくは、精製血漿フィブリノゲンは、例えば、少なくとも95%の凝固能力を有する、プラスミノーゲン枯渇フィブリノゲンとして用いられる。特定のフィブリノゲン変異体は、血漿からの精製によって、または市販の血漿フィブリノゲンから入手することができる。代替方法として、特定のフィブリノゲン変異体は、組み換え生産によって、例えば、コードされた遺伝子またはcDNAのクローニングまたは化学合成後に、宿主細胞または哺乳類もしくはヒト細胞培養系といった細胞培養系を用いてトランスフェクションすることによって入手することができる。タンパク質の組み換え生産は、血漿由来の材料を使用するよりも多数の利点がある。これらの利点には、好ましい安全性プロフィール、純粋な方法で変異体を生み出す可能性、無制限供給可能という事実が挙げられる。
【0026】
経済的に可能な方法で生産するためには、インタクトで機能的なフィブリノゲンまたはその変異体の高い発現レベルが必要である。さらに、特定の用途では、適切な翻訳後修飾(例えば、グリコシル化)が必要である。したがって、本発明のある実施形態において、医薬品基準にとって、前記フィブリノゲンは、好ましくは、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、NSO細胞、Sp2/0細胞、PER.C6細胞、HEK293細胞、昆虫細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはアフリカミドリザル由来COS細胞といった哺乳類細胞培養系で生産される。ある好ましい実施形態において、本発明に使用される前記組成物中の前記哺乳類フィブリノゲンは、CHO細胞で生産される。
【0027】
ある好ましい実施形態において、本発明に使用される前記組成物中の前記フィブリノゲンは、好ましくは、ホモダイマー型であり、好ましくは、組み換えによって生産された、ヒトフィブリノゲンγ´からなる。
【0028】
別の好ましい実施形態において、本発明に使用される前記組成物中の前記フィブリノゲンは、好ましくは、ホモダイマー型である、組み換えヒトα伸長フィブリノゲンからなる。
【0029】
別の好ましい実施形態において、本発明に使用される前記組成物中の前記フィブリノゲンは、γ´ポリペプチド鎖とα伸長ポリペプチド鎖を組み合わせた、好ましくは、γおよびα変異体ポリペプチド鎖の両方がホモダイマー型である、組み換えヒトフィブリノゲンからなる。
【0030】
前記組成物は、移植前の移植用医療器具のプレコーティングまたはドレッシングもしくは縫合前の創面のコーティングに用いることができる。前記組成物による(プレ)コーティングは、ノンコーティングの表面と比較して、in vivoにおける細菌の抗菌剤感受性を高める。前記コーティングは、フィルムのような薄いものでもよく、数個の層を含む厚いものでもよい。前記組成物は、エアロゾル、点滴、乾燥粉末、エマルジョン、泡、ゲル、軟膏、ペースト、軟膏、半ゲル、スプレーまたはサスペンションとして製剤してもよい。好ましくは、前記組成物は、スプレー、ペーストまたはゲルとして製剤される。
【0031】
前記コーティングは、連続であっても不連続であってもよい。医療器具のプレコーティングは、任意にトロンビン溶液と併用して、37℃で数時間、10~100μg/mlのフィブリノゲンをPBS中に含むフィブリノゲン溶液とともにインキュベートする、または100~1000μg/mlの濃度の溶液を室温でスプレーすることで行うことができる。in situにおける創傷または組織表面のコーティングは、任意にトロンビン溶液と併用して、1~50mg/mlのフィブリノゲン溶液をスプレーすることで行うことができる。通常、コーティング表面1cm2あたり0.1~1mlのコーティング溶液で十分である。医療器具または細胞組織の表面全体にわたる最終コーティングの均一な有効性を確保するために、前記組成物は、好ましくは、コーティングする表面の単位面積あたりのフィブリノゲン濃度が最大50%、例えば最大25%、例えば最大10%と変化するように、医療器具または組織の一定幅に均一に広げられる。ある実施形態において、コーティング溶液は、少なくとも1μg/ml、少なくとも5μg/ml、少なくとも10μg/ml、少なくとも25μg/mlまたは少なくとも50μg/mlのフィブリノゲンを含む。
【0032】
前記組成物は、アプリケーター、ドレッシング材、創傷パッキング材、バンテージまたはスワブを用いて、医療器具または傷害組織に塗布してもよい。
【0033】
微生物の前記抗微生物薬感受性は、本発明による方法によって向上する。感受性の向上は、増殖の低下または細胞死といった何通りかの方法で反映することができ、前記組成物を用いない対照状況と比較した、乾燥重量の低下、コロニー形成単位(CFU)の減少、代謝活性の減少によって明らかにすることができる。ある実施形態において、前記減少は、CFUにおける1logから5logの間の減少である。別の実施形態において、抗菌剤感受性の上昇は、マウス実験で、前記組成物を用いない場合は3log-しか減少しない一方、前記組成物を用いた場合は6logまたはそれ以上から0CFUへと減少することから明らかである。治癒率は、フィブリノゲンを用いない対照群と比較して、少なくとも25%上昇する。別の実施形態において、治癒率は、5%から100%に、または5%から60%に、あるいは60%から100%に上昇する。
【0034】
本方法で抗菌剤感受性が向上可能な細菌は、グラム陽性またはグラム陰性菌、嫌気性菌、通性嫌気性細菌または好気性菌である。細菌の適切な例には、アシネトバクター属、バチルス属、バクテロイデス属、バークホルデリア属、カンピロバクター属、クロストリジウム属、エンテロコッカス属、エスケリキア属、クレブシエラ属、リステリア属、マイコバクテリウム属、ナイセリア属、シュードモナス属、サルモネラ属、エルシニア属、ブドウ球菌属およびレンサ球菌属に属する細菌を含む。特に、抗菌剤耐性で有名であり、抗菌剤感受性が低い種の例は、アシネトバクター・バウマニ、バチルス属菌、バクテロイデス属菌、バークホルデリア・セパシア、カンピロバクター属菌、クロストリジウム・ディフィシル、エンテロコッカス・フェカリス、大腸菌、クレブシエラ・ニューモニエ、リステリア属菌、結核菌、淋菌、緑膿菌、サルモネラ属菌、エルシニア属菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、ミュータンス連鎖球菌および化膿レンサ球菌が挙げられる。
【0035】
好ましくは、前記細菌は、シュードモナス属、ブドウ球菌属またはレンサ球菌属に属する。より好ましくは、前記細菌は、アンピシリン耐性黄色ブドウ球菌、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌300WTまたは黄色ブドウ球菌43300といったメチシリン耐性黄色ブドウ球菌、オキサシリン耐性黄色ブドウ球菌および多剤耐性黄色ブドウ球菌を含む、黄色ブドウ球菌株である。
【0036】
本発明に使用される前記組成物は、通常は存在しないまたは個体内に異常量存在する微生物の侵入または増殖を指す、治療または予防に対して有利に使用することができる。前記感染症は、亜臨床的、すなわち無症状であってもよく、臨床的、すなわち明らかな症状があってもよい。治療または予防可能な感染症には、菌血症、骨感染症、肺感染症、心内膜炎、硬膜外膿瘍、性器感染症、髄膜炎、骨関節感染症、腹膜炎、肺炎などの呼吸器感染症、人工関節感染症、にきびおよび酒さなどの皮膚感染症、敗血症、敗血症性血栓静脈炎、毒素性ショック症候群、尿路感染症並びに創傷感染症が挙げられる。
【0037】
本発明による前記フィブリノゲン組成物は、治療有効量のフィブリノゲンを含んでいてもよく、予防有効量のフィブリノゲンを含んでいてもよい。治療有効量とは、望ましい治療成果を達成するために必要な用量および期間での有効量を指す。フィブリノゲン変異体またはそれらの組成物の治療有効量は、当業者によって決定され、個人の病状、年齢、性別および体重などの要因、並びに個体内で望ましい反応を引き起こす、前記哺乳類フィブリノゲンまたは組成物の能力によって変わることがある。治療有効量は、本発明の変異体フィブリノゲンまたは組成物のいかなる毒性または有害作用が、治療上有益な作用によって上回られるような量でもある。予防有効量とは、望ましい予防成果を達成するために必要な用量および期間での有効量を指す。通常、予防用量は、病気の初期段階またはその前の患者に用いられるので、予防有効量は、治療有効量よりも少ないだろう。
【0038】
器具のプレコーティング用の前記組成物の前記フィブリノゲン含有量は、好ましくは、前記組成物の重量に対して、0.0001%w/wから0.1w/w、例えば0.001%w/wから0.05%w/w、0.001%w/wから0.1%w/w、または0.005%w/wから0.1%w/wである。創傷または組織表面のコーティング用の前記組成物の前記フィブリノゲン含有量は、好ましくは、前記組成物の重量に対して、0.01%w/wから10%w/w、例えば、0.1%から5%w/wである。
【0039】
本発明の別の実施形態において、本発明による前記フィブリノゲン組成物は、医薬組成物または製剤であり、好ましくは無菌である。したがって、本発明に使用される前記組成物は、付着防止剤、酸化防止剤、結合剤、増量剤、担体、着色剤、崩壊剤、希釈剤、充填剤、矯味剤、滑沢剤、保存剤、溶剤、界面活性剤、甘味剤、ビークルまたは湿潤剤といった、薬学的に許容し得る添加剤をさらに含んでよい。前記添加剤は、製剤において、前記組成物の安定性に悪影響を及ぼすべきではない。「薬学的に許容し得る」という用語は、一般に安全と考えられているおよび無毒であるなど、医薬組成物の製剤に適しているということを指す。
【0040】
薬学的に許容し得る添加剤としてはたらき得る材料のいくつかの例には、これらに限らないが、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;アルギン酸;パイロジェンフリー水;生理食塩水;リンゲル液;エチルアルコール、およびリン酸塩緩衝液といった緩衝剤、ならびにラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムといった他の無毒な添加剤、並びに保存剤および抗酸化剤が挙げられ、これらが前記組成物中に存在していてもよい。技術および製剤は、一般に「Remington’s Pharmaceutical Sciences」(Meade Publishing Co.、イーストン、ペンシルベニア州)で見ることができる。好ましくは、前記担体、ビークルまたは希釈剤には、滅菌水、滅菌生理食塩水、滅菌リンゲル液または滅菌乳酸溶液が挙げられ、それらの選択は、当業者によく知られている。適切な溶剤には、水、生理食塩水、オレイン酸エチル、グリセリン、水酸化キャスターオイル、エタノールなどのアルコールおよびリン酸塩緩衝液が挙げられる。全身性組成物中の溶剤量は、80%から約99.95%w/wまたはw/vまで変動してよい。
【0041】
本発明に使用される前記組成物は、トロンビンまたはレプチラーゼもしくはバトロキソビンといったトロンビン様酵素またはフィブリノゲンと結合するペプチドといった非酵素的活性化因子などの活性化因子をさらに含んでよい。前記トロンビンおよびトロンビン様酵素は、α鎖およびβ鎖からそれぞれフィブリノペプチドAまたはBを開裂することで、フィブリノゲンモノマーをフィブリンポリマーに変換する。開裂したフィブリン(およびフィブリノゲン)モノマーは、後に伸長し、3次元フィブリンネットワークを作り上げるフィブリンポリマーを形成可能な、二本鎖プロトフィブリルへと自発的に重合する。好ましくは、前記活性化因子は、ヒトトロンビンであり、最も好ましくは、精製された形で、血漿から分離される、または組み換えによって生産される。
【0042】
前記非酵素的活性化因子は、少なくとも2つの結合部位を含み、2つの異なるフィブリノゲン分子と結合することで(フィブリノゲンは対称ダイマーであるので、2つの活性化因子結合部位を有する)、トロンビンにより誘導されるフィブリンと似た特性を有するポリマー構造のフィブリノゲンを導入する、物質である。
【0043】
本発明に使用される前記組成物は、抗微生物薬のアジュバントとして作用し、抗微生物薬と併用して、この抗微生物薬に対する病原菌の耐性を減らすことができる。前記抗微生物薬は、フィブリノゲンを含む前記組成物と別々に塗布しても、一緒に塗布してもよい。別々に塗布する場合、抗微生物薬およびフィブリノゲンは、同時に塗布しても、互いに前後して塗布してもよい。前記抗微生物薬およびフィブリノゲンを一緒に塗布する場合、それらは、別々の組成物に含まれていてもよく、一つの組成物内で一緒になっていてもよい。したがって、本発明に使用される組成物は、抗菌剤、抗真菌剤、抗イースト剤および抗ウイルス剤を含む、一つ以上の抗微生物薬をさらに含有していてもよい。ある実施形態において、本発明の方法に使用される前記組成物は、抗菌剤と一緒に、別々に、または同じ組成物内に供給される。
【0044】
前記組成物は、ヒトおよびアルパカ、バイソン、バッファロー、ネコ、ウシ、シカ、イヌ、ロバ、ウマ、ネズミ、ブタ、ウサギ並びにヒツジを含む哺乳動物といった、それを必要としているあらゆる個体内で、抗微生物薬感受性を高めるために用いられる。動物の治療には、通常、好ましくは、ヒトフィブリノゲンの動物等価量を用いる。
【0045】
別の態様では、本発明は、フィブリノゲンでコーティングした医療器具、特に、数日間、数週間、数か月間、または数年間、体内にとどまるように作られた、留置型器具またはインプラントに関する。医療器具の例には、前述のもの、およびカテーテル、気管内チューブ、経腸栄養チューブ、心臓弁、人工関節、ステント、永久気管孔並びに創部用ドレインが挙げられる。前記器具は、プレコーティングした状態で供給または市販されていてもよく、使用の数時間、数分または数秒前など、使用する直前にプレコーティングしてもよい。
【0046】
さらに別の態様では、本発明は、微生物の抗微生物薬感受性を高める方法に関する。ある実施形態において、前記方法は、ヒトまたは動物個体内の微生物による感染症を予防または治療するために、フィブリノゲンを含む組成物を前記個体に供給することを特徴とし、前記微生物の抗微生物薬耐性を減らすために、任意に前記抗微生物薬と併用される。別の実施形態において、前記方法は、医療器具または創傷床にフィブリノゲン組成物を塗布することを特徴とする。ある実施形態において、前記フィブリノゲン組成物は、ヒトまたは動物個体内への医療器具の埋め込みまたは導入前に、ex vivoで前記医療器具に塗布される。フィブリノゲンを含む前記組成物は、本発明に使用される、先に述べてきた組成物のいずれであってもよい。
【0047】
当業者であれば、前記組成物の使用について言及される実施形態および好ましい実施形態は、前記医療器具および微生物の抗微生物薬感受性を高める前記方法に適用してもよいということ、およびその逆のことも理解するだろう。
【実施例
【0048】
材料および方法
細菌
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)株USA300およびUSA43300は、ATTCCから入手し、トリプティックソイブロス(TSB)中またはトリプティックソイ寒天培地(TSA)平板培地上に37℃でルーチン培養した。
【0049】
フィブリノゲン
精製血漿フィブリノゲン(血漿Fib)は、イギリス、スウォンジーのEnzyme Research Labsから入手した。rhFibWTおよびrhFibγ´、並びにrhFibα伸長型およびrhFibγ´/α伸長型は、標準的な組み換えDNAタンパク質生産技術によって作成した。フィブリノゲンAα610(WT)鎖、Aα847(α伸長型)鎖、Bβ鎖、γ411(γ)鎖およびγ427(γ´)鎖をコードするcDNA配列は、異なる前記フィブリノゲン鎖の発現ベクターを構築するpcDNA3.1プラスミド(Invitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州、アメリカ)でクローニングした。Aα、Bβおよびγ鎖をコードするcDNAを含む発現プラスミドを組み合わせて用い、製造業者の指示に従ってHEK293細胞(Life technologies EXPI293 system)を用いる一過性発現、またはCHO細胞での安定発現によって、異なる完全に集合した組み換えヒトフィブリノゲン種を生産した。CHO細胞は、ProCHO5細胞培養液(Westburg, ルースデン、オランダ)中で培養し、製造業者の指示に従ってAmaxa device(Westburg, ルースデン、オランダ)を用いたエレクトロポレーションによって、トランスフェクションした。選択マーカーとしてブラストサイジンおよびゼオシンを使用し、フィブリノゲンを生産するクローンは、既に記載された(Hoegee-de Nobel E. et al. Thrombosis Haemostasis 1988 Dec22; 60(3): 415-8)ELISA法を用いて選択した。選択したCHOクローンは、CD FortiCHO細胞培養液(Life Technologies Europe、ブレイスウェイク、オランダ)中で7から10日間、37℃で5%CO2のもと培養した。細胞上清は、遠心分離またはろ過によって回収し、組み換えフィブリノゲン変異体は、基本的にKuyas C et al. (Thrombosis Haemostasis 1990 Jun 28; 63 (3): 439-444)に記載された通りに、GRRPカラムによるアフィニティ精製を用いて精製し、リン酸塩緩衝液(PBS)pH 7.4中に2~40mg/mlの濃度で製剤化した。
【0050】
レサズリン法
細胞代謝活性を測定するレサズリン法は、Lee A. and Jain E. Tip Biosystems Application note AN016 Rev. 1.0 Mar 2017に記載された通りに行った。
【0051】
手短に言えば、レサズリンに基づくバイオフィルム感受性アッセイは、以下の通りに行った。1x108 CFU/mL(OD600 およそ0.1AU)の濃度のUSA300黄色ブドウ球菌のワーキングストックは、前記細菌をTSB中で培養することで調製した。フィブリノゲン希釈液は、PBS pH 7.4で調製した。90μLのTSBおよび90μLのフィブリノゲン希釈液を96ウェル組織培養マイクロタイタープレートに添加した。続いて、20μLの黄色ブドウ球菌ワーキングストックを各ウェルに添加し、37℃で24時間インキュベートしてバイオフィルムを形成させた。プレートを0.9%滅菌食塩水で3回洗い、100μLのカチオン調整ミューラー・ヒントン寒天培地(CAMHB)を異なる濃度の抗菌剤(0~100μg/mL)とともに96ウェルプレートに添加し、37℃で24時間インキュベートした。10μL(サンプルボリュームの10%)のアラマーブルー(レサズリン)溶液を各ウェルに添加し、優しく揺らし、1~4時間、37℃でインキュベートした。細胞活性を割り出すために、570および600nmにおける吸光度を測定した。
【0052】
実施例1:iv vitroにおける、異なるフィブリノゲン種への黄色ブドウ球菌の付着
結合実験は、基本的に既に記載された通り(Flick M. et al Blood 2013 Mar 7; 121(10): 1783-94)に行う。手短に言えば、結合アッセイは、以下の通りに行う:96ウェルマイクロタイタープレートをリン酸塩緩衝液(PBS)のフィブリノゲン溶液(0~25μg/ml)で、37℃で終夜インキュベートすることでコーティングした。洗浄およびブロッキング後、ウェルにPBSの黄色ブドウ球菌USA300懸濁液(OD600nm およそ0.4)を添加し、2時間、37℃でインキュベートする。洗浄後、前記プレートを0.1%クリスタルバイオレット溶液とともに、30分間インキュベートし、洗浄後、結合した前記クリスタルバイオレットを10%酢酸で可溶化し、570nmにおける吸光度を測定して前記細菌の付着を定量化した。
【0053】
図1は、黄色ブドウ球菌は、精製血漿Fib、rhFibWTおよびrhFibα伸長型に結合するが、rhFibγ´またはrhFibα伸長型/γ´に結合しないことを示す。このことは、フィブリノゲンへの黄色ブドウ球菌の付着は、AGDVモチーフを含む、前記フィブリノゲンγ鎖(γ411)のC末端の存在に依存することを示す。前記α鎖の長さの相違(Aa610 vs Aa847)は、前記黄色ブドウ球菌のフィブリノゲンとの結合に影響を及ぼさない。これらの結果は、文献データと一致する。
【0054】
実施例2:iv vitroにおける、異なるフィブリノゲン種でプレコーティングした表面上でのバイオフィルム形成
in vitroにおける、プレコーティングしたポリスチレン表面上でのバイオフィルム形成は、既に記載されており(Harrison JJ. et al. 2010 Nature Protocols 5, 1236-1254)、製造業者のプロトコールに従って、Innovotech (エドモントン、アルバータ州、カナダ) MBECアッセイを用いて行った。
【0055】
手短に言えば、前記アッセイは、以下の通りに行った。96個のペグが付いた、96ウェルマイクロタイタープレートのポリスチレンの蓋は、10または100μg/mlの濃度でPBSバッファーに溶けた異なるフィブリノゲン種を含む0.25mlの溶液に、24時間、37℃でペグを沈めることでプレコーティングした。洗浄後、前記プレコーティングペグ(およびノンプレコーティングコントロール)に1%グルコース入りTSBの~10E6 CFU/ml細菌懸濁液を添加し、24時間、35℃でインキュベートしてバイオフィルム形成させた。プランクトン様細菌を除去するために前記ペグを洗浄後、バイオフィルム付き前記ペグにCAMHBを添加し、24時間、37℃でインキュベートした。洗浄後、マイルドソニフィケーションによって前記表面から前記生菌を剥離し、TSAプレート上にプレーティングすることで生菌数を割り出した。CFU/ペグ表面を割り出すためにコロニーを数えた。結果を図2に示す。
【0056】
rhFibWTまたはrhFibα伸長型でコーティングしたペグと比較して、ノンプレコーティングコントロールおよびrhFibγ´プレコーティングペグ上で、およそ1logの、生菌数の小さな減少が認められる。
【0057】
これらの結果は、実施例1(および文献)で認められる、AGDV結合モチーフを含むフィブリノゲンのC末端の有無に結合が強く依存することを実証する、非常に有意な結合量の差を考えると、驚くべきことである。本結果は、バイオフィルムに組み込まれた生菌の数は、前記プレコーティングフィブリノゲンとの相互作用に、ほんのわずかに依存することを示唆する。結論として、in vitroにおいて、フィブリノゲンで表面をプレコーティングしても、各表面上に形成されるバイオフィルムにおける生菌数は、有意に増加または減少しない。
【0058】
実施例3:iv vitroにおける、細菌培養液中の、異なるフィブリノゲン種の存在下における、ノンプレコーティング表面上のバイオフィルム形成
先述のレサズリンアッセイを用いて、(バイオフィルム形成前のプレコーティング表面と対照的に)表面上でのバイオフィルム形成中に存在する、溶液中の異なるフィブリノゲン種の作用を割り出した。
【0059】
0~250μg/mlの濃度の精製血漿FibまたはrhFibγ´をTSBに追加し、次に、この混合物に細菌を播種し、続いて、24時間、37℃でインキュベートし、フィブリノゲンのコーティングおよびバイオフィルム形成をポリスチレン表面上で同時に起こした。レサズリン添加後に、OD 570 nmを測定することで、異なる条件下で形成されたバイオフィルムにおける生菌数を比較した。
【0060】
結果を図3に示すが、本結果は、全条件下で、バイオフィルムにおける生菌数に有意な差はなかったことを示す。しかしながら、フィブリノゲンなしと比較して、血漿Fib存在下で形成されたバイオフィルムにおいて、生菌数の小さな増加が認められた。
これらの結果は、フィブリノゲンでプレコーティングした表面を用いる、実施例2で得られた結果に非常に似ており、バイオフィルムと関連する生菌数は、フィブリノゲンとほとんど無関係であることを裏付ける。
【0061】
実施例4:iv vivoにおける、プレコーティング表面上でのバイオフィルム形成
異なるフィブリノゲン種によるプレコーティングが有する、黄色ブドウ球菌USA43300によるバイオフィルム形成へのin vivo作用は、基本的に既に記載された通り(Nowakowska J et al. Antibiotics 2014, 3, 378-397)に行った。手短に言えば、本実験は、以下の通りに行った。
【0062】
10または100μg/mlのrhFibWTまたはrhFibγ´を含むPBSのフィブリノゲン溶液とともに、24時間、37℃でインキュベートすることでプレコーティングした、ポリテトラフルオロエチレンケージ、およびノンプレコーティングコントロールをC57Blマウスの皮下に埋め込んだ。前記ケージは、およそ400CFU/ケージの黄色ブドウ球菌で感染させた。埋め込み2日後に、前記ケージを取り除き、マイルドソニフィケーションを用いて前記細菌を前記表面から剥離し、付着生菌を計測し、次に、TSAプレート上にプレーティングして、CFU/ケージの数値を割り出すためにコロニーを数えた。
【0063】
図4に示す本結果は、ノンプレコーティングケージおよびrhFibWTでプレコーティングしたケージとの間で、CFUの数に差がなかったことを示す。ノンプレコーティングおよびrhFibWTプレコーティングケージと比較して、rhFibγ´コーティングケージにおけるCFUの量の、小さな、すなわち臨床的に有意でない減少(およそ1log)が認められた。
【0064】
これらの結果は、in vivoにおいて、ノンプレコーティングケージ上、およびrhFibWTでプレコーティングしたケージ上に形成されるバイオフィルムにおける付着細菌数は、実質的に同じであった一方で、rhFibγ´でプレコーティングしたケージは、よりわずかに少ない数(およそ1log)の付着細菌を含んでいたことを示す。
【0065】
これらのin vivoにおける結果は、実施例2および3のin vitroにおける結果と一致し、バイオフィルムにおける付着生菌数は、フィブリノゲンによるプレコーティングとほとんど無関係であるという前記発見を支持する。
【0066】
実施例5:プレコーティング表面上に形成されるバイオフィルムの抗菌剤感受性のin vitro分析
異なるフィブリノゲン種でプレコーティングした表面が有する、バイオフィルムにおける前記細菌の抗菌剤感受性への作用を割り出すために、実施例2に記載する通りにin vitro実験を行った。CAMHB添加後のインキュベート工程中、異なる濃度(0から100μg/ml)のバンコマイシンまたはアンピシリンが存在した。抗菌剤のインキュベート後、マイルドソニフィケーションで処理して前記表面から細菌を遊離させ、前記表面に関連するCFUを割り出した。
【0067】
図5に示す結果は、ノンプレコーティングペグまたはrhFibγ´もしくはrhFibα伸長型でプレコーティングしたペグ上に形成される黄色ブドウ球菌USA300バイオフィルムは、rhFibWTでプレコーティングしたペグ上に形成されるバイオフィルムと比較して、バンコマイシンおよびアンピシリン曝露に対する感受性がより高いことを示す。
【0068】
これらの結果は、ノンプレコーティングペグまたはrhFibγ´もしくはrhFibα伸長型でプレコーティングしたペグ上に形成されるバイオフィルムは、rhFibWTでプレコーティングしたペグ上に形成されるバイオフィルムよりも、抗菌剤に対する感受性が高いことを示す。言い換えると、in vitroにおいて、バイオフィルムの抗菌剤感受性は、rhFibγ´およびrhFibα伸長型を用いることで高まる。
【0069】
実施例6:ノンプレコーティング表面上に形成されるバイオフィルムの抗菌剤感受性のin vitro分析
バイオフィルム形成中に溶液中に存在する、異なるフィブリノゲン種およびそれらの混合物が有する、バイオフィルムにおける前記細菌の前記抗菌剤感受性への作用を割り出すために、先述のレサズリンアッセイを用いて、実施例3に記載する通りにin vitro実験を行った。抗菌剤濃度が0μg/mlであるコントロールと比較して、570および600nmにおけるOD測定値から生菌率を計算した。
【0070】
図6Aに示すバンコマイシンの結果は、精製血漿Fibでは、コントロールと比較してより多くの生菌が残っていることを示す。このことは、血漿Fibが存在する場合、バイオフィルムにおけるバンコマイシン耐性は、コントロールと比較して高くなることを示す。アンピシリンにおいて、同様の結果が認められた(図6C)。
【0071】
図6Bに示すバンコマイシンの結果は、rhFibγ´では、コントロールと比較して同数程度の生菌が残っていることを示す。このことは、rhFibγ´が存在する場合、バイオフィルムにおけるバンコマイシン耐性は、コントロールと比較して変化しないことを示す。アンピシリンの場合(図6D)、高濃度rhFibγ´において、コントロールと比較して生菌数が少なくなるという結果が認められた。このことは、in vitroにおいて、rhFibγ´を用いることで、アンピシリン耐性株のアンピシリン感受性が高まる可能性があることを示す。
【0072】
図6Eに示す結果は、in vitroにおいて、ノンプレコーティング表面上に、細菌培養液中血漿Fib/rhFibγ´が50/50の、濃度が1mg/mlの混合物を用いて形成し、バンコマイシンで処理したバイオフィルムでは、血漿Fibのみでプレコーティングした表面と比較して、黄色ブドウ球菌の生菌数が有意に少ないことを示す。この結果は、rhFibγ´は、フィブリノゲンWT存在下においても、抗菌剤感受性を高めることができることを示し、臨床的に意義がある。
【0073】
実施例7:プレコーティング表面上バイオフィルムの抗菌剤感受性のin vivo分析
異なるフィブリノゲン種でプレコーティングした表面が有する、バイオフィルムにおける前記細菌の前記抗菌剤感受性へのin vivo作用を割り出すために、実施例4に記載する方法に、予防的および治療的なダプトマイシン処置を追加して、マウスで実験を行った。ノンプレコーティングまたは10もしくは100μg/mlの精製血漿Fib、rhFibWTもしくはrhFibγ´でプレコーティングした、ポリテトラフルオロエチレンケージをC57Blマウスの皮下に埋め込んだ。
【0074】
予防群におけるマウスは、埋め込みおよび感染の30分前にダプトマイシン(50 mg/kg)で処理した。治療群におけるマウスは、埋め込みおよび感染の24時間後にダプトマイシン(50 mg/kg)で処理した。マウスは、400~600CFU/ケージの用量で黄色ブドウ球菌43300を感染させた。感染の48時間後に、前記ケージを取り出し、洗浄し、超音波で処理して細菌をケージ表面から遊離させた。前記ケージに関連するCFUを割り出した。
【0075】
治療的処置(図7A)および予防的処置(図7B)の結果は、ダプトマイシンで予防的または治療的処置をしたにもかかわらず、すべての(100%)ノンプレコーティングケージ(コントロール)で、有意な量のプランクトン様および付着生存黄色ブドウ球菌が残っていたことをはっきりと示す。このことは、in vivoにおいて、ノンプレコーティング表面上に形成されるバイオフィルムは、抗菌剤の処置に対する耐性がより高いことを示す。このことは、in vitroにおいて、ノンプレコーティング表面上に形成されるバイオフィルムは、抗菌剤の処置に対して感受性があったという、実施例5のin vitroにおける結果と対照的である。明らかに、in vitroにおける結果は、in vivoにおける結果にとって断定的な価値を持たない。
【0076】
理論に制約されることなく、この食い違いを説明するならば、in vivo実験において、宿主の細胞外タンパク質(例えば、フィブロネクチン)が、埋め込むノンプレコーティングケージに付着した結果、これがバイオフィルムを形成し、抗菌剤の処置に対する耐性が細菌についたということが考えられる。
【0077】
血漿Fib(10および100 μg/ml コーティング)でプレコーティングしたケージのわずか50~60%で、ダプトマイシンによる治療的(図7A)または予防的(図7B)処置後に、付着生存黄色ブドウ球菌が残っていた。このことは、in vivoにおいて、血漿Fibプレコーティングした表面上に形成されるバイオフィルムでのみ、抗菌剤の処置に対する部分的な耐性を有することを示す。56~67%のケージで生菌が残るという同様の結果が、rhFibWT(10および100 μg/ml)でプレコーティングし、ダプトマイシンで治療的処置(図7A)をしたケージで認められる。これらの結果は、実施例5のin vitroにおける発見と対照的であるように見えるが、これは、in vivoにおける宿主防御機構との相乗効果が原因であるかもしれない。
【0078】
rhFibγ´(10および100 μg/ml)でプレコーティングしたケージで、ダプトマイシンによる予防的(図7B)または治療的(図7A)処置後における、生菌数の最も大幅な減少を示した。図7Bは、rhFibγ´でプレコーティングし、ダプトマイシンで予防的処置をしたケージのわずか7%で、生菌が残っていた(ノンプレコーティングケージでは100%)ことを示す。ダプトマイシンの治療的処置をした場合(図7A)、rhFibγ´でプレコーティングしたケージの37%で、生菌が残っていた(ノンプレコーティングケージでは100%および血漿FibまたはrhFibWTコーティングでは55~67%)。in vivoにおいて、rhFibγ´プレコーティングが有する、バイオフィルムにおける前記細菌の抗菌剤の処置に対する感受性への、この驚くべき強力な作用(5~6logの減少)は、in vitroにおいて、rhFibγ´でプレコーティングした表面上に形成されるバイオフィルムにおける、細菌の抗菌剤感受性の上昇を示す、in vitroにおける結果(実施例5)と一致しているように見える。しかしながら、in vivoで認められる作用は、in vitroにおける作用と比較して、ずっと明白である。
【0079】
図7AおよびBに示すデータは、フィブリノゲンによる医療器具のプレコーティングまたは組織表面のコーティングは、抗菌剤の処置といった殺菌処理に対する、細菌と関連するバイオフィルムの感受性を高めることを示唆する。rhFibγ´における結果は、より明白である。
【0080】
実施例8:異なるブドウ球菌属菌によるバイオフィルムの抗菌剤感受性のin vivo分析
異なるフィブリノゲン種でプレコーティングした表面が有する、数種類のブドウ球菌属菌によって形成されるバイオフィルムの前記抗菌剤感受性へのin vivo作用を割り出すために、実施例7に記載する方法に、予防的なダプトマイシン処置を追加して、マウスで実験を行った。前記菌種のひとつに表皮ブドウ球菌があり、β鎖を通じてフィブリノゲンと結合する。rhFibWTおよびrhFibγ´におけるβ鎖は、同一である。
【0081】
10または100μg/mlの精製血漿Fib、rhFibWTまたはrhFibγ´でプレコーティングした、ポリテトラフルオロエチレンケージをC57Blマウスの皮下に埋め込んだ。ノンプレコーティングケージをコントロールとした。マウスは、埋め込みおよび感染の30分前にダプトマイシン(50 mg/kg)で処置した。前記細菌の用量は、400~600CFU/ケージであった。感染の48時間後に前記ケージを取り出し、洗浄し、超音波で処理して細菌をケージ表面から遊離させた。前記ケージに関連するCFUを割り出した。結果を表1に示すが、本結果は、いずれの種類のフィブリノゲンプレコーティングにおいても、プレコーティングなしより、よく作用することを示す。
【表1】
【0082】
本結果は、バイオフィルム表面がフィブリノゲンでプレコーティングされている場合、コーティングなしと比較して、前記バイオフィルムにおける細菌で抗菌剤感受性の上昇が見られ、それゆえ抗菌剤耐性がより低いということを示す。表皮ブドウ球菌バイオフィルムにおいても、前記表面がrhFibγ´でプレコーティングされている場合に最高の結果が得られる。
【0083】
実施例9:シュードモナス属菌によるバイオフィルムの抗菌剤感受性のin vivo分析
予防的なトブラマイシン処置を追加して、緑膿菌株PA01で実施例8を繰り返し、フィブリノゲンでプレコーティングした表面が有する、グラム陰性菌によるバイオフィルムの前記抗菌剤感受性へのin vivo作用を割り出した。緑膿菌は、フィブリノゲンとの結合部位が知られていない、グラム陰性菌である。トブラマイシンは、グラム陰性菌に対する抗菌剤として典型的に用いられるので、ダプトマイシンの代わりにトブラマイシン(50 mg/kg)を使用した。結果を表2に示すが、本結果は、フィブリノゲンによるプレコーティングは、プレコーティングなしより、よく作用することを示す。バイオフィルム表面がフィブリノゲンでプレコーティングされている場合、コーティングなしと比較して、前記バイオフィルムにおける前記グラム陰性菌で抗菌剤感受性の上昇が見られる。
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7A
図7B
【国際調査報告】