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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-28
(54)【発明の名称】がんを処置する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/06 20060101AFI20221221BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221221BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221221BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20221221BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
A61K45/06
A61P35/00
A61P43/00 121
A61P35/02
A61K31/7068
A61K39/395 T
A61K31/519
A61P43/00 111
G01N33/574 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523890
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(85)【翻訳文提出日】2022-06-20
(86)【国際出願番号】 EP2020079856
(87)【国際公開番号】W WO2021078925
(87)【国際公開日】2021-04-29
(31)【優先権主張番号】62/926,055
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391008951
【氏名又は名称】アストラゼネカ・アクチエボラーグ
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】レオ,エリザベッタ
(72)【発明者】
【氏名】ウィンクラー,クラウディア
(72)【発明者】
【氏名】オコナー,マーク ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ,ジェマ ニコール
(72)【発明者】
【氏名】ピアス,アンドリュー ジェイムズ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084AA20
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C084ZC201
4C084ZC202
4C084ZC751
4C085AA14
4C085CC23
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB06
4C086EA17
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC20
4C086ZC75
(57)【要約】
SLFN11機能欠損がん細胞を有する患者においてWEE1阻害剤及びDNA損傷剤の組合せによりがんを処置する方法を、本明細書において開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者においてがんを処置する方法であって、
a)がんと診断された患者を選択することと;
b)前記患者のがん細胞がSLFN11機能欠損であるかどうかを決定することと;
c)前記患者のがん細胞がSLFN11機能欠損である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を前記患者に同時投与することと
を含む、方法。
【請求項2】
患者においてがんを処置する方法であって、
a)がんと診断された患者を選択することと;
b)SLFN11発現が、前記患者のSLFN11発現非がん細胞に対して前記患者のがん細胞においてより低いかどうかを決定することと;
c)SLFN11発現が、前記患者のSLFN11発現非がん細胞に対して前記患者のがん細胞においてより低い場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を前記患者に同時投与することと
を含む、方法。
【請求項3】
前記患者のがん細胞が、SLFN11発現について陰性である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
SLFN11の発現レベルが、免疫組織化学、質量分析法、in situでのハイブリダイゼーション、NanoString、逆転写定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)、マイクロアレイ分析、亜硫酸水素塩配列決定、又は定量的メチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応(Q-MSP)によって決定される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
SLFN11の発現レベルが、免疫組織化学によって決定される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
患者においてがんを処置する方法であって、
a)がんと診断された患者を選択することと;
b)前記患者のがん細胞においてSLFN11の発現レベルを決定することと;
c)SLFN11の発現レベルが<10%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を前記患者に同時投与することと
を含む、方法。
【請求項7】
SLFN11の発現レベルが、0%である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
SLFN11の発現レベルが、免疫組織化学、質量分析法、in situでのハイブリダイゼーション、NanoString、逆転写定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)、マイクロアレイ分析、亜硫酸水素塩配列決定、又は定量的メチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応(Q-MSP)によって決定される、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
SLFN11の発現レベルが、免疫組織化学によって決定される、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項10】
DNA損傷剤による処置に対して耐性である患者においてがんを処置する方法であって、
a)前記患者のがん細胞がSLFN11機能欠損であるかどうかを決定することと;
b)前記患者のがん細胞がSLFN11機能欠損である場合、WEE1阻害剤及び前記DNA損傷剤を前記患者に同時投与することと
を含む、方法。
【請求項11】
DNA損傷剤による処置に対して耐性である患者においてがんを処置する方法であって、
a)SLFN11発現が、前記患者のSLFN11発現非がん細胞に対して前記患者のがん細胞においてより低いかどうかを決定することと;
b)SLFN11発現が、前記患者のSLFN11発現非がん細胞に対して前記患者のがん細胞においてより低い場合、WEE1阻害剤及び前記DNA損傷剤を前記患者に同時投与することと
を含む、方法。
【請求項12】
前記患者のがん細胞が、SLFN11発現について陰性である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
SLFN11の発現レベルが、免疫組織化学、質量分析法、in situでのハイブリダイゼーション、NanoString、逆転写定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)、マイクロアレイ分析、亜硫酸水素塩配列決定、又は定量的メチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応(Q-MSP)によって決定される、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
SLFN11の発現レベルが、免疫組織化学によって決定される、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
DNA損傷剤による処置に対して耐性である患者においてがんを処置する方法であって、
a)前記患者のがん細胞においてSLFN11の発現レベルを決定することと;
b)SLFN11の発現レベルが<10%である場合、WEE1阻害剤及び前記DNA損傷剤を前記患者に同時投与することと
を含む、方法。
【請求項16】
SLFN11の発現レベルが、0%である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
SLFN11の発現レベルが、免疫組織化学、質量分析法、in situでのハイブリダイゼーション、NanoString、逆転写定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)、マイクロアレイ分析、亜硫酸水素塩配列決定、又は定量的メチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応(Q-MSP)によって決定される、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
SLFN11の発現レベルが、免疫組織化学によって決定される、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項19】
前記がんが、膵臓がん、子宮内膜がん、卵巣がん、黒色腫、肺がん、結腸直腸がん、結腸がん、直腸がん、前立腺がん、乳がん、脳がん、頭頚部がん、食道がん、甲状腺がん、胃がん、胆嚢がん、肝臓がん、絨毛がん、子宮体がん、子宮頸がん、腎臓がん、膀胱がん、睾丸がん、皮膚がん、神経芽細胞腫、骨肉腫、ユーイング肉腫、白血病、ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、及び頭頸部がんからなる群から選択される、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記がんが、卵巣がんである、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記がんが、プラチナ耐性卵巣がんである、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記がんが、子宮内膜がんである、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記がんが、膵臓がんである、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記がんが、乳がんである、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記DNA損傷剤が、ゲムシタビン、エトポシド、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ピコプラチン、メトトレキサート、ドキソルビシン、ダウノルビシン、5-フルオロウラシル、イリノテカン、マイトマイシン、テモゾロミド、トポテカン、カンプトテシン、エピルビシン、イダルビシン、トラベクテジン、カペシタビン、ベンダムスチン、フルダラビン、ヒドロキシ尿素、トラスツズマブデルクステカン、及び薬学的に許容されるその塩からなる群から選択される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記DNA損傷剤が、ゲムシタビン、エトポシド、カンプトテシン、シスプラチン、ヒドロキシ尿素、及び薬学的に許容されるその塩からなる群から選択される、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記DNA損傷剤が、ゲムシタビン又は薬学的に許容されるその塩である、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記DNA損傷剤が、トラスツズマブデルクステカンである、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記WEE1阻害剤が、アダボセルチブ又は薬学的に許容されるその塩である、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記DNA損傷剤が、ゲムシタビン又は薬学的に許容されるその塩であり、前記WEE1阻害剤が、アダボセルチブ又は薬学的に許容されるその塩である、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記DNA損傷剤が、トラスツズマブデルクステカンであり、前記WEE1阻害剤が、アダボセルチブ又は薬学的に許容されるその塩である、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
28日サイクルにおいて、175mgのアダボセルチブが、1日目、2日目、8日目、9日目、15日目、及び16日目に前記患者に投与され、800mg/mのゲムシタビン又は薬学的に許容されるその塩が、1日目、8日目、及び15日目に前記患者に投与される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
28日サイクルにおいて、175mgのアダボセルチブが、1日目、2日目、8日目、9日目、15日目、及び16日目に前記患者に投与され、1,000mg/mのゲムシタビン又は薬学的に許容されるその塩が、1日目、8日目、及び15日目に前記患者に投与される、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に、がんを処置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
WEE1は、タンパク質キナーゼのセリン/トレオニンファミリーに属する核キナーゼである。WEE1は、2つの異なる部位(Tyr15及びThr14)上のCDKをリン酸化することによってサイクリン依存性キナーゼ(CDK)を阻害する。したがって、WEE1は、有糸分裂開始及びDNA複製の開始、細胞サイズ、並びにDNA損傷チェックポイントの制御においてある役割を果たす。WEE1の阻害剤は、単独療法として及び他のがん処置と組み合わせた、がんの処置のために試験されてきた。
【0003】
Schlafen11(SLFN11)は、タンパク質のSchlafenファミリーに属し、ヒト及びいくつかの霊長類においてのみ発現する。がん細胞におけるSLFN11の不活性化は、DNA損傷及び複製ストレスをもたらす抗がん剤に対する耐性をもたらすことが示されてきた。このように、SLFN11は、異なるクラスのDNA損傷剤及びPARP阻害剤に対する感受性の決定要因である。非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3を参照されたい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Zoppoli et al.,PNAS 2012;109:15030-35
【非特許文献2】Murai et al.,Oncotarget 2016;7:76534-50
【非特許文献3】Murai et al.,Mol.Cell 2018;69:371-84
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
いくつかのがん処置が開発され、承認されてきた。しかし、いくつかのがん処置は、患者の一部分においてのみ有効である。さらに、がん患者の一部分は、特定のがん処置に対して耐性となる。このように、がん処置が適当な患者を標的にすることができるように、がん処置に対して応答性である患者を同定する方法が必要とされている。さらに、一部の患者において観察されるがん処置に対する耐性を逆転させる方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の必要性は、本明細書に記載の方法によって満たされる。特に、本明細書において開示するのは、a)がんと診断された患者を選択することと;b)患者のがん細胞がSLFN11機能欠損であるかどうかを決定することと;c)患者のがん細胞がSLFN11機能欠損である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を患者に同時投与することとを含む、患者においてがんを処置する方法である。一部の実施形態では、患者のがん細胞は、SLFN11発現について陰性である。
【0007】
一部の実施形態では、本明細書において開示するのは、a)がんと診断された患者を選択することと;b)SLFN11発現が、患者のSLFN11発現非がん細胞に対して患者のがん細胞においてより低いかどうかを決定することと;c)SLFN11発現が、患者のSLFN11発現非がん細胞に対して患者のがん細胞においてより低い場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を患者に同時投与することとを含む、患者においてがんを処置する方法である。一部の実施形態では、患者のがん細胞は、SLFN11発現について陰性である。
【0008】
一部の実施形態では、本明細書において開示するのは、a)がんと診断された患者を選択することと;b)患者のがん細胞においてSLFN11の発現レベルを決定することと;c)SLFN11の発現レベルが<10%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を患者に同時投与することとを含む、患者においてがんを処置する方法である。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルは、0%である。
【0009】
一部の実施形態では、本明細書において開示するのは、a)患者のがん細胞がSLFN11機能欠損であるかどうかを決定することと;b)患者のがん細胞がSLFN11機能欠損である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を患者に同時投与することとを含む、DNA損傷剤による処置に対して耐性である患者においてがんを処置する方法である。一部の実施形態では、患者のがん細胞は、SLFN11発現について陰性である。
【0010】
一部の実施形態では、本明細書において開示するのは、a)SLFN11発現が、患者のSLFN11発現非がん細胞に対して患者のがん細胞においてより低いかどうかを決定することと;b)SLFN11発現が、患者のSLFN11発現非がん細胞に対して患者のがん細胞においてより低い場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を患者に同時投与することとを含む、DNA損傷剤による処置に対して耐性である患者においてがんを処置する方法である。一部の実施形態では、患者のがん細胞は、SLFN11発現について陰性である。
【0011】
一部の実施形態では、本明細書において開示するのは、a)患者のがん細胞においてSLFN11の発現レベルを決定することと;b)SLFN11の発現レベルが<10%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を患者に同時投与することとを含む、DNA損傷剤による処置に対して耐性である患者においてがんを処置する方法である。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルは、0%である。
【0012】
一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルは、免疫組織化学、質量分析法、in situでのハイブリダイゼーション、NanoString、逆転写定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)、マイクロアレイ分析、亜硫酸水素塩配列決定、又は定量的メチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応(Q-MSP)によって決定される。特定の実施形態では、SLFN11の発現レベルは、免疫組織化学によって決定される。
【0013】
本明細書において開示する方法の一部の実施形態では、がんは、膵臓がん、子宮内膜がん、卵巣がん、黒色腫、肺がん、結腸直腸がん、結腸がん、直腸がん、前立腺がん、乳がん、脳がん、頭頚部がん、食道がん、甲状腺がん、胃がん、胆嚢がん、肝臓がん、絨毛がん、子宮体がん、子宮頸がん、腎臓がん、膀胱がん、睾丸がん、皮膚がん、神経芽細胞腫、骨肉腫、ユーイング肉腫、白血病、ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、及び頭頸部がんからなる群から選択される。
【0014】
本明細書において開示する方法の一部の実施形態では、DNA損傷剤は、ゲムシタビン、エトポシド、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ピコプラチン、メトトレキサート、ドキソルビシン、ダウノルビシン、5-フルオロウラシル、イリノテカン、マイトマイシン、テモゾロミド、トポテカン、カンプトテシン、エピルビシン、イダルビシン、トラベクテジン、カペシタビン、ベンダムスチン、フルダラビン、ヒドロキシ尿素、トラスツズマブデルクステカン、及び薬学的に許容されるその塩からなる群から選択される。
【0015】
本明細書において開示する方法の一部の実施形態では、WEE1阻害剤は、アダボセルチブ又は薬学的に許容されるその塩である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】それぞれ、DU145異種移植片組織(SLFN11機能保全)及びHT29異種移植片組織(SLFN11機能欠損)における、SLFN11免疫組織化学(IHC)アッセイからの陽性及び陰性染色を示す。
図2A】SLFN11野生型(WT)及びノックアウト(KO)DU145同質遺伝子細胞における、SLFN11及びGAPDHについての免疫ブロットを示す。KO1及びKO2は、2つの異なるCRISPR-KOクローンであった。
図2B】ゲムシタビン(Gem.)及びアダボセルチブの組合せによる、野生型SLFN11(WT)又はSLFN11ノックアウトDU145細胞系(KO1及びKO2)の処置からもたらされる、相乗作用スコア(Loewe)を示す。
図2C】エトポシド(ETP)及びアダボセルチブによる、野生型SLFN11(WT)又はSLFN11ノックアウトDU145細胞系(KO1及びKO2)の処置からもたらされる、相乗作用スコア(Loewe)を示す。
図2D】DU145同質遺伝子細胞における0.36μMのアダボセルチブの非存在下又は存在下での、示したDNA損傷剤(ゲムシタビン、エトポシド、カンプトテシン、シスプラチン、及びヒドロキシ尿素)の生存曲線を示す。
図3A】SLFN11機能欠損又はSLFN11機能保全である膵臓細胞系のパネルにおける、ゲムシタビン単独療法のlog IC50値を示す。
図3B】SLFN11機能欠損又はSLFN11機能保全である膵臓細胞系のパネルにおける、アダボセルチブ単独療法のlog IC50値を示す。
図3C】SLFN11機能欠損又はSLFN11機能保全である膵臓細胞系のパネルにおける、ゲムシタビン及びアダボセルチブの組合せについての相乗作用スコアを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を本明細書において示し、記載する一方で、このような実施形態はほんの一例として提供されることは当業者には明らかであろう。多数の変動、変更及び置換は、本発明から逸脱することなく、当業者には思い当たる。本明細書に記載されている実施形態に対する様々な代替物を用い得ることを理解すべきである。本明細書において使用されるセクションの見出しは単に編成の目的のためであり、記載する主題を限定するものとは解釈されない。
【0018】
定義
用語「処置する」、「処置すること」又は「処置」及び他の文法的同等物は、本明細書において使用する場合、疾患若しくは状態又はその1つ若しくは複数の症状を緩和、寛解若しくは改善させること、根底にある症状の代謝的原因を改善させること、疾患若しくは状態を阻害すること、疾患若しくは状態を軽減すること、疾患若しくは状態の退行をもたらすこと、疾患若しくは状態によってもたらされる状態を軽減すること、又は疾患若しくは状態の症状を停止することを含む。
【0019】
用語「投与する」、「投与すること」、「投与」及びそれらの文法的同等物は、本明細書において使用する場合、本明細書において開示する医薬組成物を生物学的作用の望ましい部位に送達するために使用される方法を指す。
【0020】
用語「同時投与する」、「同時投与」、「と組み合わせて投与される」及びそれらの文法的同等物は、本明細書において使用する場合、単一の個体への活性剤の投与を包含することを意味し、他に特定しない限り、薬剤が同じ若しくは異なる投与経路によって、又は同じ若しくは異なる時間において投与される処置レジメンを含む。これらには、別々の組成物中での同時投与、別々の組成物中での異なる時間における投与、又は1種若しくは複数の活性剤が存在する組成物での投与が含まれる。
【0021】
用語「薬学的に許容される」は、本明細書において使用する場合、生物活性又は活性剤の特性を抑制せず、且つ相対的に無毒性である材料、例えば、担体又は賦形剤を指し、すなわち、材料は、望ましくない生物学的効果をもたらすか、又はそれが含有されている組成物の構成要素のいずれかと有害な様式で相互作用することを伴わずに個体へと投与し得る。
【0022】
用語「薬学的に許容される塩」は、本明細書において使用する場合、活性剤の遊離酸又は遊離塩基の生物学的有効性を保持し、且つ生物学的又はその他の点で望ましくなくはない塩を指す。活性剤は、無機塩基若しくは有機塩基、又は無機酸若しくは有機酸と反応して、薬学的に許容される塩を形成し得る。これらの塩は、最終的な単離及び精製の間にin situで、或いは別々に、精製された化合物を適切な無機塩基若しくは有機塩基、又は無機酸若しくは有機酸と反応させ、このように形成された塩を単離することによって調製することができる。
【0023】
用語「患者」、「対象」及び「個体」は、本明細書において互換的に使用される。本明細書において使用する場合、これらは、がんを患っているヒトを指す。
【0024】
本明細書において使用する場合、用語「SLFN11の発現レベルは」ある量、例えば、0%であるとは、患者のがん組織における記述した量のがん細胞がSLFN11を発現していることを意味する。同様に、本明細書において使用する場合、用語「SLFN11の発現レベルは、<」ある量、例えば、10%であるとは、患者のがん組織において記述した量未満のがん細胞がSLFN11を発現していることを意味する。
【0025】
本明細書において使用する場合、用語「SLFN11機能欠損」は、遺伝子と関連する正常な表現型を示すのに、又はタンパク質について、その生理機能を示すのに不十分である、関連性のある患者、動物、組織、細胞などにおけるSLFN11の発現レベルを指す。前臨床モデルの状況において、SLFN11遺伝子がノックアウト(KO)されている細胞又は動物は、「SLFN11機能欠損」の例である。
【0026】
本明細書において使用する場合、用語「SLFN-11機能保全」は、遺伝子と関連する正常な表現型を示すのに、又はタンパク質について、その生理機能を示すのに十分である、関連性のある患者、動物、組織、細胞などにおけるSLFN11の発現レベルを指す。前臨床モデルの状況において、SLFN11遺伝子が正常レベルで発現している細胞又は動物、すなわち、野生型(WT)細胞又は動物は、「SLFN11機能保全」の例である。
【0027】
処置の方法
一部の実施形態では、本明細書において開示するのは、a)がんと診断された患者を選択することと;b)患者のがん細胞がSLFN11機能欠損であるかどうかを決定することと;c)患者のがん細胞がSLFN11機能欠損である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を患者に同時投与することとを含む、方法である。一部の実施形態では、患者のがん細胞は、SLFN11発現について陰性である。
【0028】
一部の実施形態では、本明細書において開示するのは、a)がんと診断された患者を選択することと;b)SLFN11発現が、患者のSLFN11発現非がん細胞に対して患者のがん細胞においてより低いかどうかを決定することと;c)SLFN11発現が、患者のSLFN11発現非がん細胞に対して患者のがん細胞においてより低い場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を患者に同時投与することとを含む、患者においてがんを処置する方法である。一部の実施形態では、患者のがん細胞は、SLFN11発現について陰性である。
【0029】
一部の実施形態では、本明細書において開示するのは、a)がんと診断された患者を選択することと;b)患者のがん細胞においてSLFN11の発現レベルを決定することと;c)SLFN11の発現レベルが<25%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を患者に同時投与することとを含む、患者においてがんを処置する方法である。一部の実施形態では、本明細書において開示するのは、a)がんと診断された患者を選択することと;b)患者のがん細胞においてSLFN11の発現レベルを決定することと;c)SLFN11の発現レベルが<20%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を患者に同時投与することとを含む、患者においてがんを処置する方法である。一部の実施形態では、本明細書において開示するのは、a)がんと診断された患者を選択することと;b)患者のがん細胞においてSLFN11の発現レベルを決定することと;c)SLFN11の発現レベルが<15%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を患者に同時投与することとを含む、患者においてがんを処置する方法である。一部の実施形態では、本明細書において開示するのは、a)がんと診断された患者を選択することと;b)患者のがん細胞においてSLFN11の発現レベルを決定することと;c)SLFN11の発現レベルが<10%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を患者に同時投与することとを含む、患者においてがんを処置する方法である。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが<9%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが<8%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが<7%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが<6%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが<5%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが<4%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが<3%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが<2%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが<1%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが0%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。
【0030】
一部の実施形態では、本明細書において開示するのは、a)患者のがん細胞がSLFN11機能欠損であるかどうかを決定することと;b)患者のがん細胞がSLFN11機能欠損である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を患者に同時投与することとを含む、DNA損傷剤による処置に対して耐性である患者においてがんを処置する方法である。一部の実施形態では、患者のがん細胞は、SLFN11発現について陰性である。
【0031】
一部の実施形態では、本明細書において開示するのは、a)SLFN11発現が、患者のSLFN11発現非がん細胞に対して患者のがん細胞においてより低いかどうかを決定することと;b)SLFN11発現が、患者のSLFN11発現非がん細胞に対して患者のがん細胞においてより低い場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を患者に同時投与することとを含む、DNA損傷剤による処置に対して耐性である患者においてがんを処置する方法である。一部の実施形態では、患者のがん細胞は、SLFN11発現について陰性である。
【0032】
一部の実施形態では、本明細書において開示するのは、a)患者のがん細胞においてSLFN11の発現レベルを決定することと;b)SLFN11の発現レベルが<25%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を患者に同時投与することとを含む、DNA損傷剤による処置に対して耐性である患者においてがんを処置する方法である。一部の実施形態では、本明細書において開示するのは、a)患者のがん細胞においてSLFN11の発現レベルを決定することと;b)SLFN11の発現レベルが<20%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を患者に同時投与することとを含む、DNA損傷剤による処置に対して耐性である患者においてがんを処置する方法である。一部の実施形態では、本明細書において開示するのは、a)患者のがん細胞においてSLFN11の発現レベルを決定することと;b)SLFN11の発現レベルが<15%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を患者に同時投与することとを含む、DNA損傷剤による処置に対して耐性である患者においてがんを処置する方法である。一部の実施形態では、本明細書において開示するのは、a)患者のがん細胞においてSLFN11の発現レベルを決定することと;b)SLFN11の発現レベルが<10%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤を患者に同時投与することとを含む、DNA損傷剤による処置に対して耐性である患者においてがんを処置する方法である。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが<9%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが<8%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが<7%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが<6%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが<5%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが<4%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが<3%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが<2%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが<1%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルが0%である場合、WEE1阻害剤及びDNA損傷剤が同時投与される。
【0033】
本明細書において開示する方法において、SLFN11の発現レベルは、当業者には公知の任意の適切な方法によって決定し得る。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルは、mRNA転写物レベル又はDNAプロモーター過剰メチル化によって決定される。一部の実施形態では、SLFN11の発現レベルは、免疫組織化学、質量分析法、in situでのハイブリダイゼーション、NanoString、逆転写定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)、マイクロアレイ分析、亜硫酸水素塩配列決定、又は定量的メチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応(Q-MSP)によって決定される。特定の実施形態では、SLFN11の発現レベルは、免疫組織化学(IHC)によって決定される。
【0034】
疾患
本明細書に記載の方法は、種々のがんの処置に適用可能である。一部の実施形態では、がんは、膵臓がん、子宮内膜がん、卵巣がん、黒色腫、肺がん、結腸直腸がん、結腸がん、直腸がん、前立腺がん、乳がん、脳がん、頭頚部がん、食道がん、甲状腺がん、胃がん、胆嚢がん、肝臓がん、絨毛がん、子宮体がん、子宮頸がん、腎臓がん、膀胱がん、睾丸がん、皮膚がん、神経芽細胞腫、骨肉腫、ユーイング肉腫、白血病、ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、及び頭頸部がんからなる群から選択される。一部の実施形態では、がんは、膵臓がんである。一部の実施形態では、がんは、卵巣がんである。一部の実施形態では、がんは、プラチナ耐性卵巣がんである。一部の実施形態では、がんは、子宮内膜がんである。一部の実施形態では、がんは、乳がんである。
【0035】
WEE1阻害剤
アダボセルチブは、化学名2-アリル-(1-[6-(1-ヒドロキシ-1-メチルエチル)ピリジン-2-イル]-6-{[4-(4-メチルピペラジン-1-イル)フェニル]アミノ}-1,2-ジヒドロ-3H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-3-オン及び下記の化学構造
【化1】
を有する。
【0036】
WEE1の阻害剤としてのアダボセルチブの活性、様々ながんの処置における有用性、及び合成は、米国特許第7,834,019号明細書に記載されている。アダボセルチブの様々な結晶形態は、米国特許第8,703,779号明細書及び同第8,198,281号明細書に記載されている。一部の実施形態では、本明細書に記載されている方法において投与されるWEE1阻害剤は、アダボセルチブ又は薬学的に許容されるその塩である。一部の実施形態では、本明細書に記載されている方法において投与されるWEE1阻害剤は、アダボセルチブである。
【0037】
3-(2,6-ジクロロフェニル)-4-イミノ-7-[(2’-メチル-2’,3’-ジヒドロ-1’H-スピロ[シクロプロパン-1,4’-イソキノリン]-7’-イル)アミノ]-3,4-ジヒドロピリミド[4,5-d]ピリミジン-2(1H)-オンは、下記の化学構造
【化2】
を有するWEE1阻害剤である。
【0038】
WEE1の阻害剤としての3-(2,6-ジクロロフェニル)-4-イミノ-7-[(2’-メチル-2’,3’-ジヒドロ-1’H-スピロ[シクロプロパン-1,4’-イソキノリン]-7’-イル)アミノ]-3,4-ジヒドロピリミド[4,5-d]ピリミジン-2(1H)-オンの活性、がんの処置における有用性、及び合成は、米国特許第8,436,004号明細書に記載されている。一部の実施形態では、本明細書に記載されている方法において投与されるWEE1阻害剤は、3-(2,6-ジクロロフェニル)-4-イミノ-7-[(2’-メチル-2’,3’-ジヒドロ-1’H-スピロ[シクロプロパン-1,4’-イソキノリン]-7’-イル)アミノ]-3,4-ジヒドロピリミド[4,5-d]ピリミジン-2(1H)-オンである。
【0039】
DNA損傷剤
本明細書において使用する場合、「DNA損傷剤」又は「DDA」は、がん細胞のDNAへの損傷をもたらすことによって機能するがん処置である。DDAは、DNA架橋、DNA複製の妨害、及びDNA合成の阻害を含めた種々の機序を介して作用する。本明細書に記載の方法において使用し得るDDAの非限定的例は、ゲムシタビン、エトポシド、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ピコプラチン、メトトレキサート、ドキソルビシン、ダウノルビシン、5-フルオロウラシル、イリノテカン、マイトマイシン、テモゾロミド、トポテカン、カンプトテシン、エピルビシン、イダルビシン、トラベクテジン、カペシタビン、ベンダムスチン、フルダラビン、ヒドロキシ尿素、トラスツズマブデルクステカン、及び薬学的に許容されるその塩を含む。
【0040】
併用療法
一部の実施形態では、本明細書において開示する方法において同時投与されるWEE1阻害剤及びDDAは、1つ若しくは複数のさらなるがん療法と共に同時投与される。医師は、患者の特定の特徴及び処置されるがんによって、患者に同時投与される1つ若しくは複数のさらなるがん療法を決定することができる。1種若しくは複数のさらなるがん療法は、本明細書に記載の方法によるWEE1阻害剤及びDDAの投与と同時に、前に、又は後に投与し得る。一部の実施形態では、1つ若しくは複数のさらなるがん療法は、電離放射線、チューブリン相互作用剤、キネシンスピンドルタンパク質阻害剤、スピンドルチェックポイント阻害剤、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、プロテアソーム阻害剤、Bcl-2阻害剤、熱ショックタンパク質モジュレーター、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、抗エストロゲン剤、選択的エストロゲン受容体モジュレーター、抗アンドロゲン剤、LHRHアゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、チトクロムP450C17リアーゼ阻害剤、アロマターゼ阻害剤、EGFRキナーゼ阻害剤、erbB1及びerbB2デュアル阻害剤、ABLキナーゼ阻害剤、VEGFR-1阻害剤、VEGFR-2阻害剤、ポロ様キナーゼ阻害剤、オーロラキナーゼ阻害剤、JAK阻害剤、c-METキナーゼ阻害剤、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤、PI3K阻害剤、並びにmTOR阻害剤から選択される。
【実施例
【0041】
下記に提供する実施例は、本開示をさらに例証及び例示し、特許請求の範囲を決して限定しない。
【0042】
実施例1:SLFN11に対して特異的なFFPE IHCアッセイの開発、及びDU145SLFN11KO細胞系の特性決定。
方法
DU145前立腺がん細胞におけるSLFN11のノックアウトは、CRISPR/Cas9によって行った。エクソン4(GCGTTCCATGGACTCAAGAGAGG、プロトスペーサー隣接モチーフは太字)におけるSLFN11を標的とするsgRNAは、組織内のCRISPR3ソフトウェアで設計し、Integrated DNA Technology(IDT)によって合成し、CAS9及びGFPカセットを含有するベクター(azPGE02-Cas9-T2A-GFP)中にクローン化した。Lipofectamine3000(Thermofisher Scientific)を使用して、ベクターをそれに続いてDU145前立腺がん細胞中にトランスフェクトした。48時間後、最も高い緑色蛍光タンパク質(GFP)発現を伴う細胞プールを、96ウェルプレート中に単一細胞ソーティングを行った。それらの野生型対立遺伝子を失ったクローンを増大させ、単一のクローンから細胞系を得た。2つのSLFN11機能欠損クローンを、薬理学的研究(クローンKO1及びクローンKO2)のために特性決定及び選択した。SLFN11機能保全(wt)並びにSLFN11機能欠損(KO1及びKO2)からの細胞ライセートを調製し、標準的なSDS-PAGE免疫ブロットによって分析した。免疫ブロット検出のために使用した抗体は、抗SLFN11抗体(ab121731、1:1000、Abcam)及び、ローディングコントロールとして、抗GAPDH抗体(14C10、1:2000、CST)であった。
【0043】
DU145(SLFN11機能保全)及びHT29(SLFN11機能欠損)異種移植片を、AstraZeneca Global Bioethics policy、UK Home Office legislation及びAnimal Scientific Procedures Act1986(ASPA)に従って成長させた。SLFN11免疫組織化学を、ホルマリン固定したパラフィンに包埋した組織の4μM厚さの腫瘍切片上で行い、ER1抗原賦活化を使用してBond RX(Leica Microsystems)上で遂行した。スライドは、異種移植片組織からの切片について0.5μg/mlで、及びヒト組織からの切片について2.5μg/mlで、一次ウサギポリクローナル抗SLFN11抗体(Abcam、ab121731)で染色した。デジタルスライドをAperio AT2スキャナー(Leica)で20倍対物レンズを使用して取得した。
【0044】
結果
SLFN11陽性DU145及びSLFN11陰性HT29組織のSLFN11免疫組織化学によって、これらの2つのモデルにおけるSLFN11のそれぞれの存在及び不存在を確認した(図1A)。
【0045】
実施例2:DU145SLFN11KO細胞におけるDDAに対する耐性は、WEE1阻害剤との併用処置によって逆転させることができる。
方法
アダボセルチブは、AstraZenecaにおいて合成した。ゲムシタビン、シスプラチン、ヒドロキシ尿素(HU)、及びエトポシドはTocrisから得て、カンプトテシンはSigmaから得た。ゲムシタビン(50mM)、シスプラチン(1.67mM)及びHU(1M)のストック溶液を、水溶液中で調製した;全ての他の薬物は、10mM濃度でジメチルスルホキシド(DMSO)(10mM)に溶解させた。
【0046】
DU145同質遺伝子細胞(WT及びSLFN11KO)を384ウェルプレートにおいて播種し、一晩沈降させた。図2Aは、実験において使用したSLFN11WT及びKO DU145同質遺伝子細胞についての免疫ブロットを示す。KO1及びKO2は、2つの異なるCRISPR-KOクローンであった。Echo555(LabCyte)を使用して3μMのアダボセルチブ、0.1μMのゲムシタビン、及び1μMのエトポシドの最高用量を伴う6×6の濃度マトリックスで、細胞に化合物溶液を与えた。連続的処置の5日後、細胞生存率を生死判定SyToxグリーンアッセイ(Life Technologies、Carlsbad、CA、USA)によって決定した。生細胞の数は、死亡及び総リードを減算することによって計算した。この方法論を使用して、処置の時点(0日目)におけるウェル毎の細胞数をまた決定した。等式[1-(Ti-Tz)/(C-Tz)]×100を使用してデータを示し、値について、Ti≧Tz及び[1-(Ti-Tz)/Tz]×100であり、濃度について、Ti<Tz、×100であり、式中、Ti=化合物処理された細胞であり;Tz=0h時点における細胞であり、C=対照細胞である。これは、生細胞数の0~200%のスケールを与え、ここで、0~100%は、成長阻害を表し、100~200%は、細胞死滅を表す。
【0047】
組合せ活性(相乗作用)を、Genedata Screener(Genedata、Basel、Switzerland)ソフトウェアにおいてLoewe用量相加性モデルを使用して計算した。このモデルは、2つの単独療法に基づいて2つの化合物の効果が相加的であった場合の、予想される結果を計算する。過剰スコアは、実験結果がどのくらい予測される相加効果を上回るかを反映する。このプログラムは組合せについて相乗作用スコアを提供し、これは過剰スコアの強さ及び用量依存性の両方を反映する。スコア>5は、相乗的であると見なされる。
【0048】
96ウェルプレートにおける細胞生存実験のために、HPディスペンサーを使用した化合物投与に続いて細胞を96ウェルプレートに播種した。72時間後、エンドポイントCellTiter-Glo発光アッセイ(Promega)で細胞生存率を決定した。成長百分率は、等式(T-T0)/(C-T0)×100を使用して計算したが、式中、T=化合物処理された細胞であり;T0=0h時点における細胞であり、C=対照細胞である。用量応答曲線を、GraphPad Prismにおいてプロットした。
【0049】
結果
アダボセルチブ及びゲムシタビン又はエトポシドによる併用処置は、野生型SLFN11機能保全細胞と比較したとき、SLFN11KO細胞においてより高い相乗作用スコアを一貫して生じさせた(それぞれ、図2B及び2C)。より高い相乗作用スコアは、WEE1阻害剤及びDDAによる併用処置が、野生型細胞に対して、いずれかの薬剤による単独療法の効果に対して、SLFN11KO細胞においてより有効であることを示す。組合せ相乗作用実験を、より低いスループットアッセイフォーマットによって検証した。異なる示したDDA(ゲムシタビン、エトポシド、カンプトテシン、シスプラチン、及びヒドロキシ尿素)とアダボセルチブとの組合せについて、結果を図2Dにおいて示す。全ての場合において、SLFN11KO細胞(灰色の点線)は、野生型細胞(灰色の実線)と比較したとき、DDAのそれぞれに対して耐性であることが見出された。DDAとアダボセルチブの組合せは、SLFN11機能保全細胞において有意な抗増殖性効果を与えなかった(黒色の実線)。しかし、SLFN11KO細胞において、同じ組合せは、SLFN11機能欠損細胞におけるDDA単独療法と比較して有意な曲線シフトをもたらした(黒色の点線で示す)が、これらの細胞は、アダボセルチブを同時投与することによって、DDA処置に対して完全に再感作させることができることが確認される。
【0050】
実施例3:SLFN11機能欠損細胞系におけるゲムシタビンに対する耐性は、WEE1阻害剤との併用処置によって逆転させることができる。
方法
SLFN11RNA seqデータ(log2RPKM値)は、cancer cell line encyclopedia(CCLE)(Barretina J.et al.,Nature,2012;483:603-607)から、並びに薬物応答データ(log(IC50)及び用量応答曲線下面積(AUC))は、がんデータベースにおける薬物感受性(Yang W et al.,Nucleic Acids Res,2013;41:D955-61)からダウンロードした。1未満のCCLE RNA seq log2RPKM値を有する細胞系は、SLFN11機能欠損であると定義し、1超のlog2RPKM値を有する細胞系は、SLFN11機能保全であると定義した。384ウェルプレートにおける19の膵臓細胞系に、Echo555(LabCyte)を使用して6×6の濃度マトリックスで増加する濃度のアダボセルチブ及びゲムシタビンを与えた。用量範囲は、アダボセルチブについて0~3μM、及びゲムシタビンについて0~0.3μMであった;いずれにしても、最高用量からの1:3希釈を行った。連続的処置の5日後に、細胞生存率を、生死判定SyToxグリーンアッセイ(Life Technologies、Carlsbad、CA、USA)によって決定した。相乗作用は、上記のようなLoewe用量相加性モデルを使用してGenedata screenerソフトウェアにおいて分析した。
【0051】
結果
実施例2において提示した結果は、膵臓がん細胞系のパネルにおいて検証した。このパネルにおいて、ゲムシタビン単独療法による用量応答処置によって、SLFN11機能欠損細胞系は、SLFN11機能保全細胞より、平均して100分の1より感受性でないことが見出された(図3A)。SLFN11機能欠損及びSLFN11機能保全膵臓がん細胞系は、アダボセルチブ単独療法処置に対して同じ応答を示した(図3B)。しかし、ゲムシタビン及びアダボセルチブによる併用処置は、SLFN11機能保全膵臓がん細胞よりSLFN11機能欠損膵臓がん細胞において有意により相乗的であった(図3C)。結果は、WEE1阻害剤及びDDAによる併用療法が、WEE1阻害剤又はDDAによる単独療法と比較して、SLFN11機能欠損がん細胞を有する患者においてより有効であることが予想されることを示す。
図1A
図2A-2B】
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
【国際調査報告】