(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-28
(54)【発明の名称】がんのための組合せ処置
(51)【国際特許分類】
A61K 45/06 20060101AFI20221221BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221221BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221221BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20221221BHJP
A61K 31/553 20060101ALI20221221BHJP
A61K 31/428 20060101ALI20221221BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20221221BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20221221BHJP
A61K 31/4965 20060101ALI20221221BHJP
A61K 31/495 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
A61K45/06
A61P35/00
A61P43/00 121
A61P35/04
A61K31/553
A61K31/428
A61K31/517
A61K31/506
A61K31/4965
A61K31/495
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022524218
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(85)【翻訳文提出日】2022-06-22
(86)【国際出願番号】 EP2020079971
(87)【国際公開番号】W WO2021078987
(87)【国際公開日】2021-04-29
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520010248
【氏名又は名称】セレックス・オンコロジー・イノヴェーションズ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ムスタファ・ビルギン・アリ・ジャムゴス
(72)【発明者】
【氏名】カールステン・ファルタム
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA20
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZC412
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC42
4C086BC46
4C086BC48
4C086BC50
4C086BC75
4C086BC84
4C086GA07
4C086GA09
4C086GA12
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA55
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC41
4C086ZC75
(57)【要約】
がんの転移及び/若しくは侵襲挙動を減少、防止若しくは阻害することを含めてがんを処置又は防止するための、電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)遮断薬とイオン機序を直接若しくは間接的にモジュレートする少なくとも1つの他の物質、例えば、カリウムチャネル開口薬、ナトリウム流入阻害薬若しくはVGSC発現の上流下方調節因子との組合せ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象においてがんを処置又は防止する方法に使用するための組合せであって、組合せが、
a)電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)電流の持続部分を少なくとも部分的に遮断できるが、VGSC電流の過渡部分を完全には遮断しない第1の物質、及び
b)カリウムチャネル開口薬、非VGSCナトリウム流入阻害薬及びVGSC発現の上流下方調節因子から選択される、又はそのいずれか2つ以上を含む組合せである少なくとも1つの第2の物質を含む、組合せ。
【請求項2】
対象において1つ又は複数の腫瘍がVGSCを発現する、請求項1に規定の使用のための組合せ。
【請求項3】
VGSCが、Nav1.5、Nav1.7、Nav1.6、Nav1.2及びその2つ以上の任意の組合せから選択され、任意選択でNav1.5、Nav1.7、Nav1.6及びNav1.2のうちの1つ又は複数が、新生児形態である、請求項1及び2のいずれか一項に規定の使用のための組合せ。
【請求項4】
対象において1つ又は複数の腫瘍が、新生児Nav1.5(nNav1.5)を発現する、請求項3に規定の使用のための組合せ。
【請求項5】
第1の物質が、ラノラジン(N-(2,6-ジメチルフェニル)-4-[2-ヒドロキシ-3-(2-メトキシフェノキシ)プロピル]-1-ピペラジンアセトアミド)、エレクラジン(4-(ピリミジン-2-イルメチル)-7-(4-(トリフルオロメトキシ)フェニル)-3,4-ジヒドロベンゾ[f][1,4]オキサゼピン-5(2H)-オン)、GS-1655(4-(ピリミジン-2-イルメチル)-7-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-3,4-ジヒドロベンゾ[f][1,4]オキサゼピン-5(2H)-オン)、及びリルゾール(6-(トリフルオロメトキシ)-2-ベンゾチアゾールアミン)からなる群から選択される、又はそのいずれか2つ以上を含む組合せである、請求項1から3のいずれか一項に規定の使用のための組合せ。
【請求項6】
第1の物質が、ラノラジンである、請求項1から5のいずれか一項に規定の使用のための組合せ。
【請求項7】
a)ラノラジン及びカリウムチャネル開口薬;
b)ラノラジン及び非VGSCナトリウム流入阻害薬;
c)ラノラジン及びVGSC発現の上流下方調節因子;
d)ラノラジン、カリウムチャネル開口薬及び非VGSCナトリウム流入阻害薬;
e)ラノラジン、カリウムチャネル開口薬及びVGSC発現の上流下方調節因子;
f)ラノラジン、非VGSCナトリウム流入阻害薬及びVGSC発現の上流下方調節因子;又は
g)ラノラジン、カリウムチャネル開口薬、非VGSCナトリウム流入阻害薬及びVGSC発現の上流下方調節因子
を含む、請求項1から6のいずれか一項に規定の使用のための組合せ。
【請求項8】
少なくとも1つの第2の物質が、ミノキシジル、アプリカリム、ビマカリム、クロマカリム、ジアゾキシド、エマカリム、レブクロマカリム、マゾカリム、ナミニジル、ニコランジル、ピナシジル、ビルマカリム、サラカリム、トルフェナム酸、ルピルチン、レチガビン、リルゾール、NS1619、NS11021、ベンゾイミダゾロン1-EBIO、ロットレリン、レチガビンからなる群から選択される、又はそのいずれか2つ以上を含む組合せであるカリウムチャネル開口薬を含む、請求項1から7のいずれか一項に規定の使用のための組合せ。
【請求項9】
カリウムチャネル開口薬が、K
ATP開口薬、K
Ca開口薬及びKv開口薬から選択される、請求項1から8のいずれか一項に規定の使用のための組合せ。
【請求項10】
少なくとも1つの第2の物質が、アミロライド及びジゴキシンからなる群から選択されるナトリウム流入阻害薬、又はその組合せを含む、請求項1から9のいずれか一項に規定の使用のための組合せ。
【請求項11】
ナトリウム流入阻害薬が、上皮ナトリウムチャネル(ENaC)遮断薬である、請求項1から10のいずれか一項に規定の使用のための組合せ。
【請求項12】
少なくとも1つの第2の物質が、AG1478、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ及びダコミチニブからなる群から選択されるEGFRキナーゼ阻害薬、又はそのいずれか2つ以上を含む組合せであるVGSC発現の上流下方調節因子を含む、請求項1から11のいずれか一項に規定の使用のための組合せ。
【請求項13】
a)ラノラジン及びミノキシジル;
b)ラノラジン及びアミロライド;
c)ラノラジン及びAG1478;
d)エレクラジン及びミノキシジル;
e)エレクラジン及びアミロライド;
f)エレクラジン及びAG1478;
g)リルゾール及びミノキシジル;
h)リルゾール及びアミロライド;
i)リルゾール及びAG1478;
j) GS-1655及びミノキシジル;
k) GS-1655及びアミロライド;
l) GS-1655及びAG1478;、又は
m)ラノラジン及びリルゾール
を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用のための組合せ。
【請求項14】
がんが、乳がん、大腸がん、前立腺、非小細胞肺がん(NSCLC)、中皮腫、子宮頸がん、胃がん、卵巣がん、黒色腫、口腔扁平上皮細胞癌、星状細胞腫、神経芽細胞腫又はその任意の組合せである、請求項1から13のいずれか一項に規定の使用のための組合せ。
【請求項15】
がんの転移性挙動、がんの侵入性、対象の苦痛感、がんの全体の悪性度若しくはそのいずれか2つ以上の組合せを防止、減少又は阻害する、請求項1から14のいずれか一項に規定の使用のための組合せ。
【請求項16】
第1の物質が、VGSC電流の過渡部分を完全に遮断することなくVGSC電流の持続部分を少なくとも部分的に遮断するのに有効な量で投与される、請求項1から15のいずれか一項に規定の使用のための組合せ。
【請求項17】
第1の物質が、VGSC電流の持続部分を基本的に遮断する、請求項16に規定の使用のための組合せ。
【請求項18】
第1の物質及び少なくとも1つの第2の物質が、対象へ個別、逐次又は同時投与される、請求項1から17のいずれか一項に規定の使用のための組合せ。
【請求項19】
a)電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)電流の持続部分を少なくとも部分的に遮断できるが、VGSC電流の過渡部分を完全には遮断しない第1の物質、及び
b)カリウムチャネル開口薬、非VGSCナトリウム流入阻害薬及びVGSC発現の上流下方調節因子から選択される、又はそのいずれか2つ以上の組合せを含む少なくとも1つの第2の物質;
を含む、対象においてがんを処置又は防止する方法に個別、逐次若しくは同時に使用するためのキットオブパーツ。
【請求項20】
対象に
a)電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)電流の持続部分を少なくとも部分的に遮断できるが、VGSC電流の過渡部分を完全には遮断しない第1の物質、及び
b)カリウムチャネル開口薬、非VGSCナトリウム流入阻害薬及びVGSC発現の上流下方調節因子から選択される、又はそのいずれか2つ以上の組合せを含む少なくとも1つの第2の物質;
を投与する工程を含む、対象においてがんを処置又は防止する方法。
【請求項21】
活性成分として
a)VGSC電流の持続部分を少なくとも部分的に遮断できるが、VGSC電流の過渡部分を完全には遮断しない第1の物質、及び
b)カリウムチャネル開口薬、非VGSCナトリウム流入阻害薬及びVGSC発現の上流下方調節因子から選択される、又はそのいずれか2つ以上の組合せを含む少なくとも1つの第2の物質;
を薬学的に許容可能な担体、希釈剤、媒体及び/又は賦形剤との混合物中に含む医薬組成物。
【請求項22】
請求項1から18のいずれか一項に記載の特徴を更に含む、請求項19に記載のキットオブパーツ、請求項20に記載の方法、又は請求項21に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)遮断薬と、カリウムチャネル開口薬、他のナトリウム流入阻害薬及び/又はVGSC発現の上流下方調節因子等少なくとも1つの第2の物質との組合せを特に使用するがん療法に関する。
【背景技術】
【0002】
電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)は、孔を形成するアルファサブユニット及び孔を形成しないより小さいベータサブユニットを含有する内在性膜タンパク質であり、細胞の原形質膜を通してナトリウムイオン(Na+)を導通する。ヒトには、遺伝子SCN1A、SCN2A、SCN3A、SCN4A、SCN5A、SCN8A、SCN9A、SCN10A及びSCN11Aにそれぞれコードされる異なる9個のVGSCアルファサブユニット又は「Nav」タンパク質(Nav1.1~Nav1.9)が存在する。VGSCのアルファサブユニットは、4つの繰り返し膜貫通ドメイン(DI、DII、DIII及びDIVと称される)を持つ膜貫通タンパク質であり、各ドメインは、S1~S6と称される6つの膜貫通スパニング部を含有する。Na+イオンは、4つ全てのドメインのS5及びS6によって形成される孔を通って流れる。S4部は、電圧検知に中心的な役割を果たす。より小さいベータサブユニットは、N末端細胞外免疫グロブリン(Ig)ループ、膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインを含有する。
【0003】
VGSCは、多数のがんの転移性細胞に発現されており、侵襲及び転移挙動を強化する(Brackenbury、2012年; Rogerら、2015年; Djamgozら、2009年; Dissら、2001年、2005年)。一部のがんにおいて、発現される支配的なVGSCは、VGSCの新生児スプライスバリアントである。
【0004】
例えば、SCN5A(Nav1.5)について10個以上の異なるスプライスアイソフォームが記載されており、そのいくつかは、異なる機能特性を保有し、異なるアイソフォームが、新生児及び成人期に発現される。Nav1.5タンパク質の新生児及び成人形態は、エクソン6の選択的スプライシングの結果であり、例えば、チャネルタンパク質のDI:S3-S4領域にいくつかのアミノ酸の差異がある(
図1)。特に、211位で、成人性Nav1.5において保存されているアスパラギン酸(Asp又はD)残基(負電荷)が、新生児Nav1.5においてリジン(Lys又はK)残基(正電荷)に転換している。
【0005】
ヒトNav1.7は、遺伝子SCN9Aにコードされている。Nav1.7の新生児形態(nNav1.7)は、エクソン6のスプライスバリアントであり、nNav1.5と類似して、その結果、例えば、ヒトNav1.5の残基211と整列するアミノ酸において、全てのVGSC(Nav1.1~Nav1.9)において保存されているアスパラギン酸(Asp又はD)がアスパラギン(Asn又はN)に転換している。
【0006】
ヒトNav1.6は、遺伝子SCN8Aにコードされている。新生児形態は、Nav1.7と類似してスプライスされる(即ち、Nav1.5の残基211と整列する残基においてDからNへの置換)。
【0007】
WO2012/049440(Celex Oncology Ltd.)は、ラノラジン又はリルゾールを投与することによってがんにおける転移挙動を阻害若しくは減少させる方法に関する。
【0008】
WO2018/146313(Celex GmbH)は、エレクラジンを投与することによってがんにおける転移挙動を阻害又は減少させる方法に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2012/049440
【特許文献2】WO2018/146313
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Antzelevitch Cら、Circulation (2004年);110:904~910頁
【非特許文献2】Abadjianら、Adv Exp Med Biol. 2017年;1036:229~257頁
【非特許文献3】Wilson及びHay、Nature Reviews Cancer 2011年;11: 393~410頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、腫瘍細胞の転移及び/若しくは侵襲挙動を防止、減少又は阻害する方法を含めて、がんを処置する方法を改善する必要性は依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
VGSC遮断薬、特にVGSCの持続的電流遮断薬とカリウムチャネル開口薬、他のナトリウム流入阻害薬及びVGSC発現の上流下方調節因子を含めたイオン機序を直接又は間接的にモジュレートする他の様々な物質との組合せが、がんを防止又は処置するために使用されうることが本発明者らによって明らかになった。特に、がん又は腫瘍細胞の転移及び/又は侵襲挙動が、防止、減少又は阻害されうる。相乗的組合せが特に好ましい。
【0013】
そこで、第1の態様において、本発明は、対象においてがんを処置又は防止する方法に使用するためのそのような組合せに関し、組合せは、VGSCの持続的電流遮断薬である第1の物質、並びにカリウムチャネル開口薬、ナトリウム流入阻害薬及びVGSC発現の上流調節因子から選択される、又はその組合せである少なくとも1つの第2の物質を含む。
【0014】
第2の態様において、本発明は、対象においてがんを処置又は防止する方法に使用するための第1の物質及び少なくとも1つの第2の物質を含むキットオブパーツに関する。
【0015】
第3の態様において、本発明は、対象に第1の物質及び少なくとも1つの第2の物質を投与する工程を含む、対象においてがんを処置又は防止する方法に関する。
【0016】
第4の態様において、本発明は、活性成分として第1の物質及び少なくとも1つの第2の物質を、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、媒体及び/又は賦形剤との混合物中に含む医薬組成物に関する。
【0017】
本発明は、添付の特許請求の範囲においてより詳細に記載され、更なる詳細が、以下で提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】nNav1.5とaNav1.5(それぞれ配列番号1及び2)、nNav1.6とaNav1.6(それぞれ配列番号3及び4)、及びnNav1.7とaNav1.7(それぞれ配列番号5及び6)の整列部分を示す図である。「成人」部分の対応する位置と異なる「新生児」部分の残基に下線を引く。
【
図2】VGSC電流の過渡(「ピーク」)成分に対するラノラジンの効果(ヒト強転移性MDA-MB-231細胞)を示す図である。本実施例に使用した濃度(<<10μM)において、過渡電流に対する効果はほとんどない。
【
図3】低酸素(1% O
2)下での細胞侵入性に対するテトロドトキシン(TTX)、ラノラジン(5μM)、アミロライド(100μM)及びラノラジンとアミロライドの組合せによる効果を示す図である。組合せの場合に相乗効果が観察された。
【
図4】低酸素(1% O
2)下での細胞侵入性に対するDMSO、ミノキシジル(50μM)、又はミノキシジル(Min)とラノラジン(Ran)(5μM)の組合せによる効果を示す図である。組合せの場合に相乗効果が観察された。
【
図5】低酸素下での浸潤に対するラノラジン、ミノキシジル及び薬物組合せ処置の効果を示す図である(ヒト強転移性MDA-MB-231細胞)。ボックスプロットは、異なる濃度の処置による効果を示す。(a)(i)5μMラノラジン、50μMミノキシジル及びその組合せ、並びに(ii)5μMラノラジン、5μMミノキシジル及びその組合せ(それぞれn=3)。(b)2.5μMラノラジン及び2.5μMミノキシジル。ボックスプロットは、中央値、四分位範囲; 5%及び95%信頼区間並びに外れ値として示される。***=p<0.001。
【
図6】低酸素下での浸潤に対するラノラジン(RAN)、ミノキシジル(MIN)の濃度範囲及び薬物組合せ処置の効果を示す図である(ヒト強転移性MDA-MB-231細胞)。ボックスプロットは、(a)2.5μMラノラジン、2.5μMミノキシジル及び組合せ処置(n=3);並びに(b)1.25μMラノラジン及び2.5μMミノキシジル及び組合せ処置(n=6);並びに(c)0.625μMラノラジン及び2.5μMミノキシジル及び組合せ処置(n=4)の効果を示す。ボックスプロットは、中央値、四分位範囲; 5%及び95%信頼区間並びに外れ値として示される。全ての場合において、組合せの効果は、RAN単独より有意に大きい(***=p<0.001)。
【
図7】低酸素(a)並びに正常酸素(b)下での浸潤に対するラノラジン、ミノキシジル及び薬物組合せ処置の効果を示す図である(ヒト強転移性MDA-MB-231細胞)。ボックスプロットは、細胞侵入性に対する2.5μMラノラジン、2.5μMミノキシジル及びその組合せの効果を示す(それぞれn=3)。ボックスプロットは、中央値、四分位範囲; 5%及び95%信頼区間並びに外れ値として示される。結果は、ラノラジンが、低酸素下でのみ効果的であり、組合せは、ラノラジン単独より有意に効果的であることを示す(***=p<0.001)。
【
図8】低酸素下での中程度に転移性のヒト乳がんMDA-MB-468細胞の侵入性に対するラノラジン、ミノキシジル及びその組合せによる効果を示す図である。低酸素下でのボックスプロットは、細胞侵入性に対する2.5μMラノラジン、2.5μMミノキシジル及びその組合せの効果を示す(n=4)。ボックスプロットは、中央値、四分位範囲; 5%及び95%信頼区間並びに外れ値として示される。**=p<0.01; ***=p<0.001。
【
図9】低酸素下でのnNav1,5タンパク質発現に対するラノラジン、ミノキシジル及び薬物組合せ処置の効果を示す図である(ヒト強転移性MDA-MB-231細胞)。発現は、任意単位(AU)で免疫蛍光として定量化した。ボックスプロットは、(a)非透過又は(b)透過条件下でのMDA-MB-231細胞におけるnNav1.5タンパク質発現に対する5μMラノラジン、50μMミノキシジル及び薬物組合せ処置の効果を示す(個々の条件に対してn=134~299個細胞)。ボックスプロットは、中央値、四分位範囲; 5%及び95%信頼区間並びに外れ値として示される。ラノラジン(i)は、両方の条件において免疫蛍光を減少させ、組合せ(ii)は、ラノラジン単独より効果的であったが、非透過性細胞においてのみであった。
【
図10】細胞浸潤に対する0.1% DMSO(対照)、TTX(10μM)、AG1478(10μM)及びTTX + AG1478の効果を示す図である(ヒト強転移性MDA-MB-231細胞)。
【
図11】MDA-MB-231細胞におけるVGSC活性に対する50μMミノキシジルの急性適用の効果を示す図である。(a)ピーク電流に対する50μMミノキシジルの効果を示す図である。(b)対照条件及び50μMミノキシジルに対する電流電圧曲線を示す図である(それぞれn=8及びn=6)。(c)対照細胞及び50μMミノキシジルに対する定常状態の不活性化を示す図である(それぞれn=7及びn=5)。(d)対照細胞及び50μMミノキシジルに対する不活性化からの回復を示す図である(それぞれn=7及びn=5)。差し込み図をb~d部に適用する。データは、平均±平均値の標準誤差として示される。
【
図12】MDA-MB-231細胞におけるVGSC活性に対する低酸素下での50μMミノキシジルによる慢性(48時間)処置の効果を示す図である。(a)対照条件及び50μMミノキシジルに対する電流電圧曲線を示す図である(それぞれn=7及びn=8)。(b)対照細胞及び50μMミノキシジルに対する定常状態の不活性化を示す図である(それぞれn=7及びn=8)。(c)対照細胞及び50μMミノキシジルに対する不活性化からの回復を示す図である(それぞれn=6及びn=7)。差し込み図を図の全部に適用する。データは、平均±平均値の標準誤差として示される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、VGSC遮断薬、特にVGSCの持続的電流遮断薬である第1の物質とイオン機序チャネルを直接又は間接的にモジュレートする少なくとも1つの第2の物質との組合せが、腫瘍細胞の転移及び/又は侵襲挙動を防止、減少若しくは阻害するうえで個別の物質より効果的でありうるという驚くべき発見に少なくとも一部基づく。第2の物質は、例えば、カリウムイオンの流出を増大させ、ナトリウムの流入を減少させ、及び/又はVGSC発現を下方調節するものでありうる。
【0020】
理論に束縛されるものではないが、第2の物質は、VGSCの持続的電流遮断薬に曝露されたVGSC発現腫瘍細胞において細胞内ナトリウムイオンレベルの更なる減少をもたらし、それにより、腫瘍細胞の転移及び/若しくは侵襲挙動のなお更なる減少又は阻害を得られる可能性がある。そこで、カリウムチャネルを開くことにより膜電位が過分極化され、したがってVGSCが不活性状態になる力を減少させることができ;上皮ナトリウムチャネル(ENaC)等異なる型のナトリウムチャネルを遮断することにより、細胞内ナトリウムレベルを更に減少させることができ;及びEGFR-TK活性を遮断することによりVGSC発現を減少させ、それによりナトリウムイオンの流入を減少させることができる。
【0021】
実施例に記載の通り、本発明者らは、VGSC/INaP遮断と相乗効果を生成する異なる(独立した) 3つの考えうる方法: (i) K+ ATPチャネル開口薬(ミノキシジル); (ii)VGSCとは独立して細胞内へのナトリウム流入を制御する手段としてENaC遮断薬(アミロライド);及び(iii) EGFシグナル伝達によって駆動される機序をモジュレートするためにEGFRキナーゼ阻害薬(AG1478)を試験した。
【0022】
例えば、VGSC遮断薬であるラノラジンとカリウムチャネル開口薬であるミノキシジルとの組合せに関連して以下のことが判明した(詳細については実施例3~5を参照のこと):
・ヒト乳がんMDA-MB-231(BCa)細胞系におけるマトリゲル(登録商標)浸潤は、ラノラジンによって低酸素下で、及びミノキシジルによって正常酸素と低酸素下の両方で、用量依存的様式で有意に減少した。低酸素下での薬物組合せに対する増強作用の証拠が存在した。浸潤に対するラノラジン、ミノキシジル及び薬物組合せの類似の作用が、更なるヒトBCa細胞系(MDA-MB-468)について低酸素下で示された。
・細胞の生存及び増殖は、低酸素又は正常酸素下のいずれでも薬物若しくは組合せのいずれによる影響も受けなかった。
・nNav1.5タンパク質の「総」発現は、低酸素下で両方の薬物によって有意に減少したが、「原形質膜」レベルは、ラノラジンによってのみ減少した。
【0023】
更に、ラノラジンとENaC遮断薬の組合せ(詳細については実施例2を参照のこと)及びVGSC遮断薬であるTTXとEGFRキナーゼ阻害薬との組合せは、TTX単独より侵入性を有意に阻害した(詳細については実施例6を参照のこと)。したがって、この様式でVGSCの1つ又は複数の他の態様と関連する他の薬剤と組合せた場合、ラノラジン等のVGSC遮断薬による抗侵襲/転移効果は、したがって増強されうる。
【0024】
本発明をより詳細に記載する前に、本発明が、記載された特定の態様及び実施形態に限定されず、したがって、当然ながら、変化しうることを理解すべきである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることになるので、本明細書に使用される用語は、特定の実施形態のみについて記載することを目的するものであり、限定することを意図するものではないことも理解されるべきである。別段の規定がない限り、本明細書に使用される技術及び科学的用語は、本発明が属する当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0025】
態様及び実施形態
以下は、本発明による特定の態様及び実施形態に関してより詳細を提供する。
【0026】
第1の態様において、対象においてがんを処置又は防止する方法に使用する組合せが提供され、組合せは、
a)電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)電流の持続部分を少なくとも部分的に遮断できるが、VGSC電流の過渡部分を完全には遮断しない第1の物質、及び
b)カリウムチャネル開口薬、非VGSCナトリウム流入阻害薬及びVGSC発現の上流下方調節因子から選択される、又はそのいずれか2つ以上を含む組合せである少なくとも1つの第2の物質を含む。
【0027】
第1の態様による一部の実施形態において、対象において1つ又は複数の腫瘍はVGSCを発現する。
【0028】
第1の態様による一部の実施形態において、VGSCは、Nav1.5、Nav1.7、Nav1.6、Nav1.2及びその2つ以上の任意の組合せから選択され、任意選択でNav1.5、Nav1.7、Nav1.6及びNav1.2のうちの1つ又は複数は、新生児形態である。
【0029】
第1の態様による一部の実施形態において、対象において1つ又は複数の腫瘍は、新生児Nav1.5(nNav1.5)を発現する。
【0030】
第1の態様による一部の実施形態において、第1の物質は、ラノラジン(N-(2,6-ジメチルフェニル)-4-[2-ヒドロキシ-3-(2-メトキシフェノキシ)プロピル]-1-ピペラジンアセトアミド)、エレクラジン(4-(ピリミジン-2-イルメチル)-7-(4-(トリフルオロメトキシ)フェニル)-3,4-ジヒドロベンゾ[f][1,4]オキサゼピン-5(2H)-オン)、GS-1655(4-(ピリミジン-2-イルメチル)-7-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-3,4-ジヒドロベンゾ[f][1,4]オキサゼピン-5(2H)-オン)、及びリルゾール(6-(トリフルオロメトキシ)-2-ベンゾチアゾールアミン)からなる群から選択される、又はそのいずれか2つ以上を含む組合せである。
【0031】
第1の態様による一部の実施形態において、第1の物質は、ラノラジンである。
【0032】
第1の態様による一部の実施形態において、組合せは、
a)ラノラジン及びカリウムチャネル開口薬;
b)ラノラジン及び非VGSCナトリウム流入阻害薬;
c)ラノラジン及びVGSC発現の上流下方調節因子;
d)ラノラジン、カリウムチャネル開口薬及び非VGSCナトリウム流入阻害薬;
e)ラノラジン、カリウムチャネル開口薬及びVGSC発現の上流下方調節因子;
f)ラノラジン、非VGSCナトリウム流入阻害薬及びVGSC発現の上流下方調節因子;又は
g)ラノラジン、カリウムチャネル開口薬、非VGSCナトリウム流入阻害薬及びVGSC発現の上流下方調節因子
を含む。
【0033】
第1の態様による一部の実施形態において、少なくとも1つの第2の物質は、ミノキシジル、アプリカリム、ビマカリム、クロマカリム、ジアゾキシド、エマカリム、レブクロマカリム、マゾカリム、ナミニジル、ニコランジル、ピナシジル、ビルマカリム(pilmakalim)、サラカリム、トルフェナム酸、ルピルチン(lupirtine)、レチガビン、リルゾール、NS1619、NS11021、ベンゾイミダゾロン1-EBIO、ロットレリン、レチガビンからなる群から選択される、又はそのいずれか2つ以上を含む組合せであるカリウムチャネル開口薬を含む。
【0034】
第1の態様による一部の実施形態において、カリウムチャネル開口薬は、KATP開口薬、KCa開口薬及びKv開口薬から選択される。
【0035】
第1の態様による一部の実施形態において、少なくとも1つの第2の物質は、アミロライド及びジゴキシンからなる群から選択されるナトリウム流入阻害薬、又はその組合せを含む。
【0036】
第1の態様による一部の実施形態において、ナトリウム流入阻害薬は、上皮ナトリウムチャネル(ENaC)遮断薬である。
【0037】
第1の態様による一部の実施形態において、少なくとも1つの第2の物質は、AG1478、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ及びダコミチニブからなる群から選択されるEGFRキナーゼ阻害薬、又はそのいずれか2つ以上を含む組合せであるVGSC発現の上流下方調節因子を含む。
【0038】
第1の態様による一部の実施形態において、組合せは、
a)ラノラジン及びミノキシジル;
b)ラノラジン及びアミロライド;
c)ラノラジン及びAG1478;
d)エレクラジン及びミノキシジル;
e)エレクラジン及びアミロライド;
f)エレクラジン及びAG1478;
g)リルゾール及びミノキシジル;
h)リルゾール及びアミロライド;
i)リルゾール及びAG1478;
j) GS-1655及びミノキシジル;
k) GS-1655及びアミロライド;
l) GS-1655及びAG1478;、又は
m)ラノラジン及びリルゾール
を含む。
【0039】
第1の態様による一部の実施形態において、がんは、乳がん、大腸がん、前立腺、非小細胞肺がん(NSCLC)、中皮腫、子宮頸がん、胃がん、卵巣がん、黒色腫、口腔扁平上皮細胞癌、星状細胞腫、神経芽細胞腫又はその任意の組合せである。
【0040】
第1の態様による一部の実施形態において、組合せは、がんの転移挙動、がんの侵入性、対象の苦痛感、がんの全体の悪性度若しくはそのいずれか2つ以上の組合せを防止、減少又は阻害する。
【0041】
第1の態様による一部の実施形態において、第1の物質は、VGSC電流の過渡部分を完全に遮断することなくVGSC電流の持続部分を少なくとも部分的に遮断するのに有効な量で投与される。
【0042】
第1の態様による一部の実施形態において、第1の物質は、VGSC電流の持続部分を基本的に遮断する。
【0043】
第1の態様による一部の実施形態において、第1の物質及び少なくとも1つの第2の物質は、対象へ個別、逐次又は同時投与される。
【0044】
第2の態様において、
a)電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)電流の持続部分を少なくとも部分的に遮断できるが、VGSC電流の過渡部分を完全には遮断しない第1の物質、及び
b)カリウムチャネル開口薬、非VGSCナトリウム流入阻害薬及びVGSC発現の上流下方調節因子から選択される、又はそのいずれか2つ以上の組合せを含む少なくとも1つの第2の物質;
を含む、対象においてがんを処置又は防止する方法に個別、逐次若しくは同時に使用するためのキットオブパーツが提供される。
【0045】
第3の態様において、
a)電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)電流の持続部分を少なくとも部分的に遮断できるが、VGSC電流の過渡部分を完全には遮断しない第1の物質、及び
b)カリウムチャネル開口薬、非VGSCナトリウム流入阻害薬及びVGSC発現の上流下方調節因子から選択される、又はそのいずれか2つ以上の組合せを含む少なくとも1つの第2の物質
を対象に投与する工程を含む、対象においてがんを処置又は防止する方法が提供される。
【0046】
第4の態様において、活性成分として
a)VGSC電流の持続部分を少なくとも部分的に遮断できるが、VGSC電流の過渡部分を完全には遮断しない第1の物質、及び
b)カリウムチャネル開口薬、非VGSCナトリウム流入阻害薬及びVGSC発現の上流下方調節因子から選択される、又はそのいずれか2つ以上の組合せを含む少なくとも1つの第2の物質;
を薬学的に許容可能な担体、希釈剤、媒体及び/又は賦形剤との混合物中に含む医薬組成物が提供される。
【0047】
一部の実施形態において、第2の態様によるキットオブパーツ、第3の態様による方法又は第4の態様による医薬組成物は、第1の態様の実施形態のいずれか1つ又は複数の特徴を更に含む。
【0048】
以下の付番された実施形態も、提供される:
【0049】
1. 対象においてがんを処置又は防止する方法における使用のための組合せであって、
a)電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)電流の持続部分を遮断できるが、VGSC電流の過渡部分を遮断しない物質、及び
b)カリウムチャネル開口薬;
を含み、物質及びカリウムチャネル開口薬が、対象に個別、逐次若しくは同時投与される組合せ。
【0050】
2. 対象の原発腫瘍が、VGSCを発現している、実施形態1による使用のための組合せ。
【0051】
3. 実施形態1又は2のいずれか1つによる使用のための組合せであって、VGSC電流の持続部分を遮断できるが、VGSC電流の過渡部分を遮断しない物質が、Nav1.5、Nav1.7、Nav1.6、Nav1.2、及びその2つ以上の任意の組合から選択され、任意選択でNav1.5、Nav1.7、Nav1.6及びNav1.2のうちの1つ又は複数が新生児形態である組合せ。
【0052】
4. VGSCが、新生児Nav1.5(nNav1.5)を含む、実施形態3による使用のための組合せ。
【0053】
5. VGSC電流の持続部分を遮断できるが、VGSC電流の過渡部分を遮断しない物質が、ラノラジン(N-(2,6-ジメチルフェニル)-4-[2-ヒドロキシ-3-(2メトキシフェノキシ)プロピル]-1-ピペラジンアセトアミド)、エレクラジン(4-(ピリミジン-2-イルメチル)-7-(4-(トリフルオロメトキシ)フェニル)-3,4-ジヒドロベンゾ[f][1,4]オキサゼピン-5(2H)-オン)、4-(ピリミジン-2-イルメチル)-7-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-3,4-ジヒドロベンゾ[f][1,4]オキサゼピン-5(2H)-オン、及びリルゾール(6-(トリフルオロメトキシ)-2-ベンゾチアゾールアミン)から選択される、又はそのいずれか2つ以上の組合せである、実施形態1から4のいずれか1つによる使用のための組合せ。
【0054】
6. カリウムチャネル開口薬が、ミノキシジル、アミロライド、AG1478、アプリカリム、ビマカリム、クロマカリム、ジアゾキシド、エマカリム、レブクロマカリム、マゾカリム、ナミニジル、ニコランジル、ピナシジル、リルマカリム、サラカリム、フルフェナム酸、メクロフェナム酸、ニフルム酸、ニメスリド、ロットレリン(マロトキシン)、トルフェナム酸、ルピルチン、レチガビン及びリルゾールからなる群から選択される、又はそのいずれか2つ以上の組合せである、実施形態1から5のいずれか1つによる使用のための組合せ。
【0055】
7. カリウムチャネル開口薬が、ミノキシジル、アミロライド、AG1478、及びそのいずれか2つ以上の組合せから選択される、実施形態1から5のいずれか1つによる使用のための組合せ。
【0056】
8. 組合せが、
・ラノラジン及びミノキシジル;
・ラノラジン及びアミロライド;
・ラノラジン及びAG1478;
・エレクラジン及びミノキシジル;
・エレクラジン及びアミロライド;
・エレクラジン及びAG1478;
・リルゾール及びミノキシジル;
・リルゾール及びアミロライド;
・リルゾール及びAG1478;
・4-(ピリミジン-2-イルメチル)-7-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-3,4-ジヒドロベンゾ[f][1,4]オキサゼピン-5(2H)-オン及びミノキシジル;
・4-(ピリミジン-2-イルメチル)-7-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-3,4-ジヒドロベンゾ[f][1,4]オキサゼピン-5(2H)-オン及びアミロライド;
・4-(ピリミジン-2-イルメチル)-7-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-3,4-ジヒドロベンゾ[f][1,4]オキサゼピン-5(2H)-オン及びAG1478;又は
・ラノラジン及びリズオール(rizuole)
を含む、実施形態1から7のいずれか1つによる使用のための組合せ。
【0057】
9. がんが、乳がん、大腸がん、前立腺、非小細胞肺がん(NSCLC)、中皮腫、子宮頸がん、胃がん、卵巣がん、黒色腫、口腔扁平上皮細胞癌、星状細胞腫、神経芽細胞腫又はその組合せである、実施形態1から8のいずれか1つによる使用のための組合せ。
【0058】
10. 組合せが、がんの転移挙動、がんの侵入性、対象の苦痛感、がんの全体の悪性度若しくはその任意の組合せを防止、減少又は阻害する、実施形態1から9のいずれか1つによる使用のための組合せ。
【0059】
11. 物質が、VGSC電流の過渡部分を完全に遮断することなくVGSC電流の持続部分を少なくとも部分的に遮断するのに有効な量で投与される、実施形態1から10のいずれか1つによる使用のための組合せ。
【0060】
12. 物質が、VGSC電流の持続部分を基本的に遮断する、実施形態10による使用のための組合せ。
【0061】
13. a)電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)電流の持続部分を遮断できるが、VGSC電流の過渡部分を遮断しない物質、及び
b)カリウムチャネル開口薬、
を含む、対象においてがんを処置又は防止する方法に個別、逐次若しくは同時に使用するためのキットオブパーツ。
【0062】
14. 対象に
a)電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)電流の持続部分を遮断できるが、VGSC電流の過渡部分を遮断しない物質、及び
b)カリウムチャネル開口薬VGSC遮断薬
を個別、逐次若しくは同時投与する工程を含む、対象においてがんを処置又は防止する方法。
【0063】
15. 活性成分として
a)VGSC電流の持続部分を遮断できるが、VGSC電流の過渡部分を遮断しない物質、及び
b)カリウムチャネル開口薬
を、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、媒体及び/又は賦形剤との混合物中に含む医薬組成物。
【0064】
16. 実施形態1から12のいずれか1つによる特徴を更に含む、実施形態13によるキットオブパーツ、実施形態14による方法、又は実施形態15による医薬組成物。
【0065】
したがって、本明細書に記載の態様又は実施形態のいずれかによる第1の物質と少なくとも1つの第2の物質との組合せは、例えば、がんを処置するための医薬として使用されうる。適切な患者は、がんを患っているヒト、サル、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、マウス及びラット等の哺乳動物患者を含む。好ましくは、患者は、ヒト成人患者等のヒト患者である。好ましくは、本明細書に記載の態様又は実施形態のいずれかによる第1の物質と第2の物質との組合せは、相乗的である。
【0066】
組合せの第1の物質は、電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)電流の持続部分を少なくとも部分的に遮断できるが、VGSC電流の過渡部分を完全には遮断しないVGSC遮断薬、好ましくはVGSC遮断薬である。
【0067】
本明細書では、「電位依存性ナトリウムチャネル」又は「VGSC」とは、イオンチャネルを形成する内在性膜タンパク質のクラスのことを指す。内在性膜タンパク質は、細胞の原形質膜を通じて細胞内へナトリウムイオン(Na+)を導通する。ヒトには、異なる9個のVGSCアルファサブユニット又は「Nav」タンパク質(Nav1.1~Nav1.9)があり、それらは、9個の遺伝子(それぞれ、SCN1A、SCN2A、SCN3A、SCN4A、SCN5A、SCN8A、SCN9A、SCN10A及びSCN11A)にコードされている。本明細書では、文脈によって否定されない限り、用語は、あらゆる公知のVGSCのことを指しうる。
【0068】
本明細書では、「Nav1.5」とは、SCN5A遺伝子(Genbank Gene ID: 6331)にコードされるヒトNav1.5タンパク質(成人又は新生児形態)のことを指す。文脈によって否定されない限り、本明細書において用語Nav1.5は、細胞(がん細胞等)で発現されるNav1.5のあらゆる形態を包含することを意図し、新生児Nav1.5(「nNav1.5」又はNav1.5の「胎児」形態とも本明細書に称される)又はUniProtKB登録Q14524(SCN5A_HUMAN)に記載されているスプライスバリアント及び変異体等当業者に公知の他のスプライスバリアント若しくは変異体も含まれる。
図1及びQ14524(SCN5A_HUMAN)を参照して、新生児Nav1.5タンパク質のアミノ酸配列は、少なくともアミノ酸残基211において成人Nav1.5タンパク質と異なっており、残基206、207、209、210、215及び234等の他のアミノ酸残基においても異なりうる。好ましくは、新生児形態において、211位のアミノ酸は、K(Lys)である。例えば、新生児形態は、206、207、209、210、211、215、及び234位にアミノ酸残基V、S、N、I、K、L、及びPをそれぞれ含む場合があり、成人形態は、同じ/対応する位置にアミノ酸残基T、T、F、V、D、V及びSを含む。一実施形態において、新生児バリアントにおいて、残基206~211は、TTEFVD→VSENIKに変化しており、任意選択で、新生児バリアントにおいて、215位でアミノ酸残基は、V→Lに変化し、及び/又は234位でアミノ酸残基は、S→Pに変化している。UniProtKB-H9KVD2(H9KVD2_HUMAN)は、新生児Nav1.5のアミノ酸配列の特定の例を表す。
【0069】
本明細書では、「Nav1.7」とは、SCN9A遺伝子にコードされるヒトNav1.7タンパク質(成人又は新生児形態)のことを指す。文脈によって否定されない限り、本明細書において用語Nav1.7は、細胞(がん細胞等)で発現されるNav1.7のあらゆる形態を包含することを意図し、新生児Nav1.7(「nNav1.7」又はNav1.7の「胎児」形態とも本明細書に称される)又はUniProtKB登録Q15858(SCN9A_HUMAN)に記載されているスプライスバリアント及び変異体等当業者に公知の他のスプライスバリアント若しくは変異体も含まれる。
図1は、Nav1.7タンパク質の新生児と成人形態の間で一般に異なる特定のアミノ酸残基を例示する。
【0070】
本明細書では、「Nav1.6」とは、SCN8A遺伝子にコードされるヒトNav1.6タンパク質(成人又は新生児形態)のことを指す。文脈によって否定されない限り、本明細書において用語Nav1.6は、細胞(がん細胞等)で発現されるNav1.6のあらゆる形態を包含することを意図し、新生児Nav1.6(「nNav1.6」又はNav1.6の「胎児」形態とも本明細書に称される)又はUniProtKB登録Q9UQD0(SCN8A_HUMAN)に記載されているスプライスバリアント及び変異体等当業者に公知の他のスプライスバリアント若しくは変異体も含まれる。
図1は、Nav1.6タンパク質の新生児と成人形態の間で一般に異なる特定のアミノ酸残基を例示する。
【0071】
本明細書では、「Nav1.2」とは、SCN2A遺伝子にコードされるヒトNav1.2タンパク質(成人又は新生児形態)のことを指す。文脈によって否定されない限り、本明細書において用語Nav1.2は、細胞(がん細胞等)で発現されるNav1.2のあらゆる形態を包含することを意図し、新生児Nav1.2(「nNav1.2」又はNav1.2の「胎児」形態とも本明細書に称される)又はUniProtKB登録Q99250(SCN2A_HUMAN)に記載されているスプライスバリアント及び変異体等当業者に公知の他のスプライスバリアント若しくは変異体も含まれる。
【0072】
本明細書では、「電位依存性ナトリウムチャネル遮断薬」又は「VGSC遮断薬」とは、VGSC電流、優先的にはVGSC電流の持続(後期)部分を少なくとも部分的に遮断できる物質のことを指す。一部の実施形態において、VGSC遮断薬は、VGSC電流の持続部分を遮断できるが、VGSC電流の過渡部分を遮断しない物質である。例えば、一部の実施形態において、VGSC遮断薬は、VGSC電流の持続部分を少なくとも部分的に遮断できるが、VGSC電流の過渡部分を完全には遮断しない物質である。VGSC遮断薬は、例えば、持続電流を少なくとも約30%等、少なくとも約40%等、少なくとも約50%等、少なくとも約60%等、少なくとも約70%等、少なくとも約20%遮断することができうる。好ましくは、特に臨床的に関連する投薬量で提供される場合、VGSC遮断薬は、過渡電流を約15%以下等、約10%以下等、約5%以下等、約2%以下等、約20%以下遮断する。特定の実施形態において、VGSC遮断薬は、例えば、in vitroアッセイにおいて、好ましくは臨床的に関連する濃度で持続電流を少なくとも約50%遮断できるが、過渡電流を、約5%を超えて遮断しない物質である(
図2を参照のこと)。VGSCの持続及び過渡電流を遮断する物質の能力を評価するための適切なアッセイは、当業者に公知である;例えば、Antzelevitch Cら、Circulation (2004年);110:904~910頁を参照のこと。
【0073】
適切なVGSC遮断薬の非限定的な例には:
・ラノラジン(N-(2,6-ジメチルフェニル)-4-[2-ヒドロキシ-3-(2メトキシフェノキシ)プロピル]-1-ピペラジンアセトアミド)
・エレクラジン(4-(ピリミジン-2-イルメチル)-7-(4-(トリフルオロメトキシ)フェニル)-3,4-ジヒドロベンゾ[f][1,4]オキサゼピン-5(2H)-オン)
・GS-1655(4-(ピリミジン-2-イルメチル)-7-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-3,4-ジヒドロベンゾ[f][1,4]オキサゼピン-5(2H)-オン)
・リルゾール(6-(トリフルオロメトキシ)-2-ベンゾチアゾールアミン)
がある。
【0074】
特定の実施形態において、(第1の)物質は、ラノラジンである。例えば、がんの処置のための医薬としてのラノラジンの使用の詳細については、WO2012/049440 A1を参照のこと。
【0075】
組合せの第2の物質は、例えば、カリウムチャネル開口薬、ナトリウム流入阻害薬又はVGSC発現の上流調節因子でありうる。VGSC遮断薬と2つ以上のそのような第2の物質を含む組合せも意図される。したがって、一部の実施形態において、組合せは、VGSC遮断薬、カリウムチャネル開口薬及びナトリウム流入阻害薬を含む。一部の実施形態において、組合せは、VGSC遮断薬、カリウムチャネル開口薬及びVGSC発現の上流調節因子を含む。一部の実施形態において、組合せは、VGSC遮断薬、ナトリウム流入阻害薬及びVGSC発現の上流調節因子を含む。カリウムチャネル開口薬、ナトリウム流入阻害薬及びVGSC発現の上流調節因子の組合せも意図される。
【0076】
本明細書では、「カリウムチャネル開口薬」とは、カリウムチャネルに作用してチャネルを介するK+イオン伝達を促進し、それにより細胞外へのカリウムの流れを一般に可能にできる物質のことを指す。これらの薬剤は、例えば、膜電位を過分極化することによってVGSCの活性化に「拮抗し」、次に「持続電流」(INaP)の抑制をもたらしうる。一部の実施形態において、カリウムチャネル開口薬は、ATP感受性カリウムチャネルによるイオン伝達を促進する。ATP感受性カリウムチャネル(KATP)は、細胞内ヌクレオチド、ATP及びADPによって開閉され、心臓、膵臓ベータ細胞、骨格筋、平滑筋及び中枢神経系を含めた様々な組織に見られる。特に、本発明は、Ca2+(KCaチャネル)又は電圧(Kvチャネル)によって開閉されるカリウムチャネルも意図される。
【0077】
カリウムチャネル開口薬の非限定的な例には:
・ミノキシジル(6-(1-ピペリジニル)ピリミジン-2,4-ジアミン 3-オキシド)( KATPチャネル開口薬)
・アプリカリム(KATPチャネル開口薬)
・ビマカリム(KATPチャネル開口薬)
・クロマカリム(KATPチャネル開口薬)
・ジアゾキシド(KATPチャネル開口薬)
・エマカリム(KATPチャネル開口薬)
・レブクロマカリム(KATPチャネル開口薬)
・マゾカリム(KATPチャネル開口薬)
・ナミニジル(KATPチャネル開口薬)
・ニコランジル(KATPチャネル開口薬)
・ピナシジル(KATPチャネル開口薬)
・リルマカリム(KATPチャネル開口薬)
・サラカリム(KATPチャネル開口薬)
・トルフェナム酸(KCaチャネル活性化因子)
・ルピルチン(Lupirtin)(Kvチャネル開口薬)
・レチガビン(Kvチャネル開口薬)
・リルゾール(KCaチャネル活性化因子)
・NS1619(1,3-ジヒドロ-1-[2-ヒドロキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-5-(トリフルオロメチル)-2H-ベンズイミダゾール-2-オン)( KCaチャネル開口薬)
・NS11021 (N'-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]-N-[4-ブロモ-2-(2H-テトラゾール-5-イル-フェニル]チオウレア)( KCaチャネル開口薬)
・ベンゾイミダゾロン1-EBIO(KCaチャネル開口薬)
・ロットレリン(マロトキシン)(KCa及びKv11.1チャネルの活性化因子)
・レチガビン(KCNQ/Kv7開口薬)
がある。
【0078】
特に意図されるカリウムチャネル開口薬には:
・ミノキシジル
・クロマカリム
・レブクロマカリム
・ジアゾキシド
・NS1619
・NS11021
・ベンゾイミダゾロン1-EBIO、及び
・レチガビン
がある。
【0079】
特定の一実施形態において、カリウムチャネル開口薬は、例えば、ミノキシジル、クロマカリム、レブクロマカリム及びジアゾキシドからなる群から選択されるKATP開口薬である。特定の実施形態において、カリウムチャネル開口薬は、ミノキシジルである。
【0080】
別の特定の実施形態において、カリウムチャネル開口薬は、例えば、NS1619、NS11021及びベンゾイミダゾール1-EBIOから選択されるKCa開口薬である。
【0081】
別の特定の実施形態において、カリウムチャネル開口薬は、KCNQ/Kv7開口薬、例えば、レチガビンである。
【0082】
一部の実施形態において、カリウムチャネル開口薬は、リルゾールでない。例えば、第1の物質がリルゾールである任意の実施形態において、リルゾールは、(唯一の)第2の物質ではない。
【0083】
本明細書では、「ナトリウム流入阻害薬」とは、細胞内へNa+を浸透させる1つ又は複数の非VGSCイオンチャネルに作用して、ナトリウムイオンの流入を減少させる能力がある物質のことを指す。そのため、ナトリウム流入阻害薬は、細胞内ナトリウムイオンレベルに対する影響を増大させることによってVGSC-INaPの効果を増強できる場合がある。そのようなナトリウムチャネルの非限定的な例には、上皮ナトリウムチャネル(ENaC)、一過性受容体電位型チャネルサブタイプM4(TrpM4)、ATP活性化型「プリン作動性」受容体サブタイプ7(P2RX7)、及びNa+- K+ ATPアーゼ/ポンプがある。特定の実施形態において、ナトリウム流入阻害薬は、ENaC遮断薬であり、本明細書において、ENaCに作用してチャネルを通したナトリウム流入を減少させる能力がある分子のことを指し、その作用は電圧非依存的である。ENaCは、分極化した上皮細胞の頂端膜に位置し、それにより癌腫内に一般に存在する。別の特定の実施形態において、ナトリウム流入阻害薬は、Na+-K+ ATPアーゼ/ポンプの遮断薬であり、本明細書において、Na+-K+ ATPアーゼ/ポンプに作用して、チャネルを通るナトリウムイオンの流入を減少させる能力がある分子のことを指す。
【0084】
ナトリウム流入阻害薬の非限定的な例には、アミロライド及びジゴキシン[ラノキシン(登録商標)]がある。
【0085】
特定の一実施形態において、ナトリウム流入阻害薬は、カリウム保持性利尿薬として公知のENaC遮断薬であるアミロライドである。
【0086】
特定の別の実施形態において、ナトリウム流入阻害薬は、Na+-K+ ATPアーゼ/ポンプの阻害薬であるジゴキシン[ラノキシン(登録商標)]である。
【0087】
本明細書では、「VGSC発現の上流下方調節因子」とは、VGSC発現を調節する経路の上流メンバーに作用することによってVGSC発現レベルを下方調節できる物質のことを指す。一実施形態において、物質は、成長因子受容体型チロシンキナーゼ(TK)を調節する。したがって、TK阻害薬は、INaP遮断薬と相乗しうる。「EGFRキナーゼ阻害薬」又は「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬」又は「EGFR-TK阻害薬」を特に意図し、上皮成長因子受容体(EGFR)のチロシンキナーゼ活性を阻害する能力がある物質のことを指す。
【0088】
EGFR-TK阻害薬の非限定的な例には、
・AG1478/チルホスチン N-(3-クロロフェニル)-6,7-ジメトキシ-4-キナゾリンアミン、又その類似体若しくは誘導体
・ゲフィチニブ/イレッサ(登録商標)
・エルロチニブ/タルセバ(登録商標)
・アファチニブ(ジオトリフ)
・オシメルチニブ(タグリッソ)
・ダコミチニブ(ビジンプロ)
がある。
【0089】
特定の一実施形態において、EGFR-TK阻害薬は、AG1478である。別の特定の実施形態において、EGFR-TK阻害薬は、ゲフィチニブである。別の特定の実施形態において、EGFR-TK阻害薬は、ゲフィチニブである。別の特定の実施形態において、EGFR-TK阻害薬は、アファチニブである。別の特定の実施形態において、EGFR-TK阻害薬は、オシメルチニブである。別の特定の実施形態において、EGFR-TK阻害薬は、ダコミチニブである。一部の実施形態において、EGFR-TK阻害薬は、AG1478、ゲフィチニブ、ゲフィチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ又はダコミチニブの類似体若しくは誘導体、例えば、Ko143{[(3S,6S,12aS)-1,2,3,4,6,7,12,12a-オクタヒドロ-9-メトキシ-6-(2-メチルプロピル)-1,4-ジオキソピラジノ[1',2':1,6]ピリド[3,4-b]インドール-3-プロパン酸1,1-ジメチルエチルエステル]}等のAG1478の類似体若しくは誘導体である。
【0090】
本発明による少なくとも1つの第2の物質としてVGSC遮断薬との組合せを意図される別の物質のカテゴリーは、VGSCシグナル伝達の下流にある機序の阻害薬である。非限定的な例には:
・ナトリウム-水素交換輸送体(NHE1)の阻害薬、例えばカリポリド
・ナトリウム-カルシウム交換輸送体の阻害薬(NCX)、例えばORM-11372
がある。
【0091】
一部の実施形態において、少なくとも1つの第2の物質は、プロプラノロールを含まない。
【0092】
本明細書に記載される処置の方法の一部の実施形態において、第1及び少なくとも1つの第2の物質のそれぞれは、治療上有効な量又は用量で投与される。「治療上有効な量」、「治療上有効な用量」によって、がんを患っている患者に組合せ投与される場合、例えば、がんの転移挙動の減少、がんの転移挙動の防止、苦痛の減少等など、患者の処置に関して正の治療応答をもたらす各物質の量又は投薬量が意図される。
【0093】
そこで、第1及び少なくとも1つの第2の物質のそれぞれは、意図した目的に対して治療上有効な量、並びに訓練された医師によって決定された頻度及び期間で患者に投与される。本発明に包含される個々の物質に対する有効な投薬量及びin vivo半減期の推定は、従来通りの方法を使用して又は適当な動物モデルを使用するin vivo試験若しくはその物質の先行する臨床用途からの知見に基づいて行うことができる。
【0094】
例えば、第1の物質、即ちVGSC遮断薬は、VGSC電流の過渡部分を完全に遮断することなく持続部分を少なくとも減少させる投薬量で患者に好ましくは投与される。特定の実施形態において、VGSC遮断薬は、がんの腫瘍細胞の増殖を防止しない又は腫瘍を破壊しない投薬量で投与される。ラノラジン及びエレクラジンの適切な投薬量は、WO2018/146313(Celex GmbH)及びWO2012/049440(Celex Oncology Ltd.)に見ることができ、その両方をその全体において参照により本明細書に組み込む。
【0095】
VGSC遮断薬は、例えば、持続電流の少なくとも約30%等、少なくとも約40%等、少なくとも約50%等、少なくとも約60%等、少なくとも約70%等、少なくとも約20%を遮断できる投薬量で投与されてもよい。好ましくは、特に臨床的に関連する投薬量で提供される場合、VGSC遮断薬は、過渡電流の約15%以下等、約10%以下等、約5%以下等、約2%以下等、約20%以下を遮断する投薬量で投与される。特定の実施形態において、VGSC遮断薬は、持続電流を少なくとも約50%遮断できるが、過渡電流を、約5%を超えて遮断しない投薬量で投与される。
【0096】
例えば、一部の実施形態において、VGSC遮断薬は、ラノラジンであり、例えば、約0.5μM~約20μM等、約1μM~約10μM等、約2μM~約5μM等、約0.1μM~約100μMのラノラジン血漿中濃度を提供する投薬量で患者に投与される。一部の実施形態において、ラノラジンは、例えば、約0.5μM~約20μM等、約1μM~約10μM等、約2μM~約5μM等、約0.1μM~約100μMのラノラジン腫瘍中濃度を提供する投薬量で患者に投与される。一部の実施形態において、ラノラジンは、少なくとも約20mg等、少なくとも約50mg等、少なくとも約100mg等、少なくとも約200mg等、少なくとも約400mg等、少なくとも約800mg等、少なくとも約1600mg等、少なくとも約10mgの投薬量で患者、例えばヒト成人に投与される。一部の実施形態において、ラノラジンは、患者、例えば成人ヒト患者に、投与される単回用量当たり約375mg~約750mg、例えば、375mg、500mg若しくは750mg等約100~約1000mgラノラジンの投薬量で、任意選択で、徐放若しくは持続放出製剤で、例えば、1日2回、1日1回、1週間に1回又は1カ月間に1回投与される。
【0097】
一部の実施形態において、第2の物質は、ミノキシジル等のカリウムチャネル遮断薬であり、少なくとも約2mg等、少なくとも約5mg等、少なくとも約10mg等、少なくとも約20mg等、少なくとも約50mg等、少なくとも約100mg等、少なくとも約1mgの投薬量で患者、例えばヒト成人に投与される。一般に、適切な投薬量は、例えば、1日2回、1日1回、1週間に1回又は1カ月間に1回、投与される単回用量当たり約2mg~約60mg若しくは約5~約40mg等、ミノキシジル約1mg~約100mgになる。
【0098】
一部の実施形態において、第2の物質は、アミロライド等のENaC遮断薬であり、少なくとも約2mg等、少なくとも約3mg等、少なくとも約4mg等、少なくとも約5mg等、少なくとも約8mg等、少なくとも約10mg等、少なくとも約1mgの投薬量で患者、例えばヒト成人に投与される。一般には、適切な投薬量は、例えば、1日2回、1日1回、1週間に1回又は1カ月間に1回、投与される単回用量当たり、体重1kg当たり約2~約8mg若しくは約3~約5mg等、アミロライド約1~約10mgになる。
【0099】
一部の実施形態において、第2の物質は、例えばエルロチニブ等のEGFR-TK阻害薬であり、患者、例えばヒト成人に少なくとも約10mg等、少なくとも約20mg等、少なくとも約50mg等、少なくとも約100mg等、少なくとも約150mg等、少なくとも約5mgの投薬量で投与される。一般に、適切な投薬量は、例えば、1日2回、1日1回、1週間に1回又は1カ月間に1回、投与される単回用量当たり約10~約100mg若しくは約20~約50mg等、体重1kg当たりAG1478約5~約150mgになる。
【0100】
適切な処置レジメンは、一般に治療利益若しくは応答が観察される若しくは予備知識に基づいて期待されるまで毎日、毎週又は毎月の間隔等で少なくとも1回投与を繰り返す工程を含みうる。第1及び/又は第2の物質のための送達媒体が、持続製剤を含めて、必要に応じて利用されうる。適切な投薬レジメンは、当業者、例えば、医師によって想定及び実行されうる。
【0101】
維持療法も、意図される。熟語「維持療法」又は「維持期間」とは、長期間(数カ月間又は数年間)転移の危険性を、例えば減少させるために、疾病の処置の間に対象の維持に使用される治療レジメン(又は治療レジメンの部分)のことを指す。維持レジメンは、継続療法[例えば、一定の間隔(例えば、毎週、毎月、毎年、等)で薬物を投与する]、又は間欠療法[例えば、中断処置、間欠処置、再発時の処置又は特定の予め定めた基準(例えば、苦痛、疾患徴候、等)の達成に応じた処置]を利用してもよい。
【0102】
VGSC遮断薬及び少なくとも1つの第2の物質は、対象に同時、個別又は逐次投与されうる。
【0103】
一部の実施形態において、VGSC遮断薬及び少なくとも1つの第2の物質は、同時投与される。本明細書では、用語「同時投与」とは、同時に又は実質的に同時に、例えば、1時間以内、30分間以内、15分間以内、10分間以内、5分間以内若しくはより短い間に第1及び第2の物質を投与することを指す。任意選択で、同時投与は、2つの物質を同じ投与経路で投与することを含みうる。一部の実施形態において、同時投与は、第1と第2の物質の両方を含む医薬組成物を投与することによって達成される。
【0104】
一部の実施形態において、VGSC遮断薬及び少なくとも1つの第2の物質は、個別投与される。本明細書では、用語「個別投与」とは、個別の機会並びに/又は個別であるが、重なり合う投薬レジメンにしたがって第1及び第2の物質を投与することを指す。したがって、第1及び第2の物質は、任意の順序で、複数時間間隔、複数日間隔又は2日間以上の間隔で投与されてもよい。一部の実施形態において、第1及び第2の物質の個別投与は、多くとも1カ月間以内又は多くとも1週間以内に行う。個別又は類似の投与経路が使用されてもよい。
【0105】
一部の実施形態において、VGSC遮断薬及び少なくとも1つの第2の物質は、逐次投与される。本明細書では、用語「逐次投与」とは、予め定めた順序で個別の機会に第1及び第2の物質を投与することを指す。したがって、第1及び第2の物質は、予め定めた順序で、少なくとも5分間隔、少なくとも10分間隔、少なくとも15分間隔、少なくとも30分間隔、少なくとも1時間間隔、少なくとも1日間隔又は少なくとも2日間隔で投与されてもよい。一部の実施形態において、第1及び第2の物質の逐次投与は、多くとも1カ月間以内又は多くとも1週間以内に行う。個別又は類似の投与経路が使用されてもよい。
【0106】
一部の実施形態において、第1及び少なくとも1つの第2の物質は、両方の物質が、腫瘍中で薬理学的に有効なレベル以上及び/又は血液、血清若しくは参照組織中で予め定めたレベル以上であるような間隔で両方とも投与される。一般に、腫瘍中の薬理学的に有効なレベルは、予め定められる又は血液若しくは血清中の特定のレベルと関連する。
【0107】
組合せ処置に特に意図されることは、1つ若しくは複数のVGSCを発現する、又はその発現と関連することが少なくとも公知であるがん形態、それによる転移挙動である。以下のTable 1(表1)は、一部の特定のがん形態とそのVGSCサブタイプ発現の間で判明した関連を示す。
【0108】
【0109】
一部の実施形態において、がんは、成人及び/若しくは新生児形態でNav1.5、Nav1.6、Nav1.7、Nav1.2若しくはその組合せを発現する、又はその発現と関連することが公知であるがん細胞を含む1つ若しくは複数の腫瘍、例えば、原発腫瘍を含む。
【0110】
一部の実施形態において、がんは、成人若しくは新生児形態でNav1.5を発現する、又はその発現と関連することが公知であるがん細胞を含む1つ若しくは複数の腫瘍、例えば、原発腫瘍を含む。
【0111】
特定の実施形態において、がんは、新生児Nav1.5を発現する、又はその発現と関連することが公知であるがん細胞を含む1つ若しくは複数の腫瘍、例えば、原発腫瘍を含む。
【0112】
本明細書では、がんを「処置する」又は「処置」とは、がんの転移挙動を減少させる、がんの転移挙動を防止する、苦痛感を減少させる、がんの侵入性を減少させる、がんの全体の悪性度を減少させる又はその任意の組合せを含むが、これに限定されない。そこで、個別及び特定の実施形態において、本発明による処置の方法は、(i)がんの転移挙動を減少させる、(ii)がんの転移挙動を防止する、(iii)がんを患っている患者において苦痛感を減少させる、(iv)がんの侵入性を減少させる、又は(v)(i)~(iv)のうちの2つ以上の組合せでありうる。
【0113】
乳、結腸及び前立腺がん等の転移性がんの進行は、以下の5つの主要な段階:
1. 発生、即ち、正常細胞の、がん細胞への初期の形質転換;
2. 増殖、即ち、がん細胞の数が増大して、一般に滑らかで明瞭な表面を持ち、サイズが増大する原発腫瘍を形成する;
3. 転換、発生又は増殖段階の間に、がん細胞が侵襲若しくは転移挙動の潜在性のない状態から潜在性のある状態へ、がんの境界線を溶解し、拡散することを一般に特徴とする;
4. 原発腫瘍からがん細胞が分離し、その後分離した細胞が、循環系へ向けて同じ器官内の組織の周辺領域へ移動する;
5. 転移、即ち、分離した細胞が、循環(血液又はリンパ)によって他の器官へ移動して、他の器官内で続発性腫瘍を創出する
のうち少なくともいくつかを含むと一般に考えられる。
【0114】
しかしながら、転移が、初期の増殖段階なしに起こりうる点に注意すべきである。そのような場合、転移は、特定可能な原発腫瘍なしに患者に見られうる。
【0115】
がんの「転移挙動を減少させる」によって、分離したがん細胞が循環(血液又はリンパ)によって移動して他の器官内に蓄積する、及び/若しくは続発性腫瘍を創出する、又は周囲組織に局所的に侵入することに関連するあらゆる挙動の減少が意図される。一般に、患者は、第4若しくは第5段階等第3、第4又は第5段階である。転移挙動を減少させることは、例えば、(i)対照と比較してがん細胞において新生児並びに/又は成人VGSC(例えば、Nav1.5)の転写、翻訳及び/若しくは発現を減少させる、新生児Nav1.5(nNav1.5)を一般に減少させる; (ii)がん細胞の侵入性を減少させる; (iii)がん細胞におけるVGSC電流のピーク密度を減少させる; (iv)VGSC電流を示すがん細胞の割合を減少させる; (v)がん細胞の運動性を減少させる(例えば、横の運動性を減少させる)、(vi)がん細胞の遊走を減少させる(例えば、横断遊走)、及び(vii)過渡部分を除去することなくVGSC電流の持続部分を減少させる、ことのうち1つ又は複数を含みうる。VGSCは、例えば、nNav1.5等、(成人及び/又は新生児形態において)Nav1.5でもよい。「運動性」は、腫瘍細胞が、基底膜へ及びそれを通って周囲組織内へと最初に移動する能力を反映し;細胞の「侵入性」は、周囲組織に侵入してその組織を通って循環系の方へ移動する腫瘍細胞の能力を反映し;「遊走性」は、周囲組織からその壁を経て循環系内に遊走する腫瘍細胞の能力を反映する。
【0116】
がんの「転移挙動を防止する」によって、転移性疾患の危険性があるが、まだ転移性疾患と診断されていないがん患者を予防的に処置して、上に記載のがんの転移挙動の危険性を防止又は減少させることに言及することが意図される。一般に、患者は、第1、第2又は第3段階である。転移挙動を防止することは、例えば、成人及び/又はnNav1.5等の新生児形態の1つ若しくは複数のNav1.5であるVGSCの発現を、例えば防止又は減少させることを含みうる。
【0117】
本明細書では用語「良性状態」とは、第1若しくは第2段階の腫瘍又はがんのことを指す。本明細書では、腫瘍が、(a)近くの組織に侵入しない(侵入性); (b)身体の他の部分に転移しない(伝播); (c)明瞭な境界を有する傾向がある;及び/又は(d)ゆっくり増殖する場合、腫瘍は良性状態であるとも特徴付けられうる、又は代わりに特徴付けられうる。
【0118】
用語「悪性状態」とは、第3、第4若しくは第5段階の腫瘍又はがんのことを本明細書において指す。
【0119】
定量又は定性的用語において、「がんの全体の悪性度を減少させる」によって、がんの進行と関連するあらゆる挙動の減少が意図される。一部の実施形態において、がんの悪性度の減少とは、第3、第4又は第5段階のいずれか1つのがんの、より小さい数字の段階への反転のことを指し、第3段階から第2段階若しくはより低く、第4段階から第3段階若しくはより低く、及び第5段階から第4段階若しくはより低く、を含むがそれだけに限らない。一部の実施形態において、がんの悪性度を減少させるとは、悪性状態のがん又は腫瘍の、良性状態のがん又は腫瘍への反転のことを指す。一部の実施形態において、「がんの全体の悪性度を減少させる」によって、非転移性であるが、非侵襲的とは限らない状態へのがんの減少が意図される。
【0120】
「がんの侵入性を減少させる」によって、予め定めた条件、例えば、正常酸素又は低酸素条件下でのがん細胞の侵入性の有意な減少が意図される。侵入性を決定するための適切なアッセイの例は、本明細書の他の場所に提供されている(例えば「機能的特徴」と命名された部を参照のこと)。侵入性の有意な減少は、対照と比較して少なくとも30%、40%、50%、60%、70%又は80%等、例えば、少なくとも約10%、20%又はより多くの減少を含む。
【0121】
本発明による処置に適したがんには、乳がん、大腸がん、前立腺、非小細胞肺がん(NSCLC)、中皮腫、子宮頸がん、胃がん、卵巣がん、黒色腫、口腔扁平上皮細胞癌、星状細胞腫、神経芽細胞腫、及びその任意の組合せがあるが、これに限定されない。一部の実施形態において、がんは乳がん、結腸直腸がん、肺がん、卵巣がん、神経芽細胞腫又はその任意の組合せである。本明細書では、一部の実施形態において、結腸直腸がんは、がん組織の起源に一般に応じて大腸がん又は直腸がんと特徴付けられうる。しかしながら、文脈によって否定されない限り、結腸直腸がん及び大腸がんは、互換的に使用されうる。一実施形態において、がんは、結腸直腸がん、大腸がん又は両方である。
【0122】
特定の実施形態において、がんは乳がんである。
【0123】
一部の実施形態において、患者の1つ又は複数の腫瘍は、低酸素である又は低酸素になる危険性がある。一部の実施形態において、患者の1つ又は複数の腫瘍は、訓練された医師によって低酸素であると予想又は決定される。低酸素の存在は、磁気共鳴映像法(MRI)(例えば、Abadjianら、Adv Exp Med Biol. 2017年;1036:229~257頁を参照のこと)又はピモニダゾールによる腫瘍組織の試料の染色(例えば、Wilson及びHay、Nature Reviews Cancer 2011年;11: 393~410頁を参照のこと)を含むがこれに限定されない当業者に公知の様々な技術によって決定されうる。
【0124】
がんを発現しているVGSC(例えば、nNav1.5)は、上記の通り一般に第3、第4又は第5段階である。
【0125】
一実施形態において、患者は、第4若しくは第5段階等第3、第4又は第5段階である。一実施形態において、がんは、第1若しくは第2段階等第1、第2又は第3段階である。
【0126】
一実施形態において、がんは第3段階である。第3段階のがんを患っている患者は、転移性疾患と一般に診断されてこなかったが、がんの転移挙動、即ち、第4又は第5段階への進行の危険性がある。第3段階のがんを患っている患者は、したがって本発明によって処置されてがんの転移挙動を防止されてもよい。
【0127】
一実施形態において、がんは第4段階である。第4段階のがんを患っている患者は、転移性疾患と診断されない場合があるが、がんは転移挙動へと進行している。第4段階のがんを患っている患者は、したがって本発明によって処置されてがんの転移挙動を減少されてもよい。
【0128】
一実施形態において、がんは第5段階である。第5段階のがんを患っている患者は、転移性疾患と診断されることがあり、がんは転移挙動によって特徴付けられる。第5段階のがんを患っている患者は、したがって本発明によって処置されてがんの転移挙動を減少されてもよい。
【0129】
一部の実施形態において、患者は、VGSC発現及び/又は転移挙動の危険性と関連するがんを患っている場合があるが、VGSC発現(例えば、nNav1.5発現)及び/又は転移挙動は、まだ決定されていない。転移挙動の傾向があるがんには、例えば、大腸がん、乳がん、肺がん及び卵巣がんがある。例えば、患者から得られた腫瘍生検又は血液試料等のがん細胞含有試料の免疫組織化学的分析は、試料中の腫瘍細胞が、nNav1.5又は試験した他のVGSCを発現しないことを示した場合もある。したがって、がんは、第1段階又は(より高い可能性で)第2段階でありうる。
【0130】
一実施形態において、がんは第2段階である。第2段階のがんを患っている患者は、転移性疾患と一般に診断されてこなかったが、がんのVGSC(例えば、nNav1.5)発現及び転移挙動、即ち、第3、第4又はより高い段階への進行の危険性がある。第2段階のがんを患っている患者は、したがって本発明によって処置されてがんのnNav1.5発現又は転移挙動を防止されてもよい。
【0131】
第2~第5段階のいずれか1つ等、第1~第5段階のいずれか1つのがんを患っている患者は、がん、例えば、原発腫瘍に起因する苦痛も患う場合があり、したがって、本発明によって処置されて苦痛感を減少させうる。
【0132】
一実施形態において、本発明による方法に使用する場合、その組合せは、がん細胞を死滅させることなくnNav1.5発現がんにおける転移挙動を減少又は防止する。
【0133】
一実施形態において、本発明による方法に使用する場合、その組合せは、がん細胞の増殖に実質的に影響を及ぼすことなくnNav1.5発現がんにおける転移挙動を減少又は防止する。
【0134】
一実施形態において、組合せによるがん細胞の処置は、新生児形態でのNav1.5のがん細胞発現(例えば、mRNAレベル、タンパク質レベル又は原形質膜レベルとして決定される)を、予め定めた対照値、組合せに曝露されないがん細胞又は参照化合物、例えば、第1若しくは第2の物質に曝露されたがん細胞等の対照の発現より有意に低くする。一実施形態において、組合せによるがん細胞の処置は、組合せで処置されたがん細胞の侵入性、運動性及び/若しくは遊走能力を、予め定めた対照値、組合せに曝露されないがん細胞又は第1の物質だけ若しくは第2の物質だけで処置したがん細胞等の対照のそれより有意に低くする。
【0135】
一般に、第1の物質及び少なくとも1つの第2の物質は、共同又は別々の組成物の形態で投与される。それぞれは、経口、口腔、唇下、舌下、直腸、静脈内、皮下、真皮内、筋肉内、経皮及び鼻腔内投与並びに/又は腫瘍、原発腫瘍等への直接投与を含むがこれに限定されない任意の適切な経路による対象への投与のために、1つの組成物、一般に医薬組成物中において製剤化されうる。一部の実施形態において、VGSC遮断薬及び第2の物質、例えば、カリウムチャネル開口薬は、任意の適切な経路による患者への投与のために同じ組成物、一般に医薬組成物中において製剤化される。
【0136】
本発明の医薬組成物は、局所又は全身的処置が所望されるかどうか、及び処置すべき腫瘍若しくはがんに応じて、いくつかの方法で投与されうる。持続放出系を使用して特に長期間にわたって物質を放出してもよい。送達は、対象への、VGSC遮断薬及び/若しくは第2の物質、例えば、カリウムチャネル開口薬、を含む医薬組成物等の組成物の局所(例えば、腫瘍内)又は全身投与によっても実行されうる。
【0137】
対象は、一般に患者、好ましくはヒトがん患者等のヒト患者又はがん、特にVGSC発現に関連するがんの危険性があるヒト対象である。一部の実施形態において、がん患者は、転移及び/又は侵襲挙動がある1つ若しくは複数の腫瘍、例えば、原発腫瘍を有する。一部の実施形態において、がん患者は、転移及び/又は侵襲挙動の危険性がある1つ若しくは複数の腫瘍、例えば、原発腫瘍を有する。ヒトがん患者が、本発明によるがん処置に特に意図される。
【0138】
一部の実施形態において、本明細書に記載の処置方法は、がん又は1つ若しくは複数の腫瘍、例えば原発腫瘍が、任意選択で新生児Nav1.5、Nav1.6及び/若しくはNav1.7等の新生児形態でVGSCを発現する細胞を含むかどうか試験する工程を含む。この工程は、VGCS遮断薬を投与する前、また任意選択でカリウムチャネル遮断薬を投与する前に行われうる。試料は、例えば、処置を意図する対象の腫瘍から、例えば腫瘍生検によって取ることができ、腫瘍試料又は腫瘍細胞は、関連するVGSC mRNA、VGSCタンパク質の発現又は両方について分析される。
【0139】
一部の実施形態において、患者は、Nav1.5発現がん細胞を含むがんを患っている。そのようながんは、がん細胞によるNav1.5の発現を検出するためにnNav1.5、aNav1.5若しくは両方に特異的な検出可能なモノクローナル若しくはポリクローナル抗体を使用して、又はNav1.5 mRNAの存在について試料を分析して、患者から得られるがん細胞含有試料(腫瘍生検又は血液試料等)の免疫組織化学又は分析によって、例えば同定されてもよい。一実施形態において、がん細胞は、aNav1.5とnNav1.5の両方を発現する。特定の実施形態において、がんは、成人及び/又は、例えば新生児Nav1.5等の新生児形態でNav1.5を発現する。好ましくは、がん細胞は、新生児形態でNav1.5を少なくとも支配的に発現する。好ましい実施形態において、処置方法は、第1の物質、第2の物質又は両方を投与する前にがんが、nNav1.5を発現している細胞を含むことを決定する工程を含む。
【0140】
本発明は、以下の実施例によって更に例示されるが、それは、限定するものと解釈されるべきでない。
【実施例】
【0141】
(実施例1)
材料及び方法
この実施例は、実施例2~7に報告される実験業務において使用した材料及び方法について記載する。
【0142】
細胞培養:
細胞を、60×15mmディッシュ[Falcon(登録商標)、Becton Dickinson、Oxford、UK]組織培養ディッシュ中の、4mmol/L L-グルタミン(Invitrogen)及び5%ウシ胎児血清(FBS)(Invitrogen)で補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Invitrogen、Paisley、UK)中で培養した。播種のために、細胞をインキュベーター内で、トリプシン-EDTA[Sigma-Aldrich(登録商標)、Dorset、UK]で、37℃で5~10分間処置し; FBSを補充したDMEMをトリプシン処置後に添加して更なる反応を停止させた。細胞を、1700rpmで1分間の遠心分離によってペレット化し、培地に再懸濁した。懸濁液濃度を、血球計算器を使用して決定した。以降のアッセイのために、細胞を、所与の薬物による所与の時間の前処置の24時間前にインキュベーター(Heraeus、Hanau、Germany)内で、37℃、5% CO2及び湿度100%で終夜静置しておいた。
【0143】
薬理学:
1. テトロドトキシン(TTX)を、Alomone Labs(Jerusalem、Israel)から入手し、濃度10~20μMで使用して、存在する電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)を部分的に遮断した。TTXは、VGSCの周知の遮断薬であるので正の対照として働く。
【0144】
2. AG1478を、Sigma-Aldrich(Dorset、UK)から入手し、濃度10μMで使用した。それを、対照溶液としても使用した0.1% DMSOに溶解した。
【0145】
3. ラノラジンを、Sigma-Aldrich(Dorset、UK)から入手した。4濃度: 0.625、1.25、2.5及び5μMのラノラジンを使用した.
【0146】
4. ミノキシジルを、Alfa Aesar (商標)(Thermo Fisher Scientific、UK)から入手した。50μMを使用した1つの初期の免疫細胞学実験を除いて、3濃度:2.5、5及び5μMのミノキシジルを使用した。対応する対照溶液としても使用した2.5% DMSOにミノキシジルを溶解させた。
【0147】
実験を、直接比較及び統計分析が可能になるように、組で設計した(すなわち、細胞を、薬理学的薬剤及びその組合せと並行して処置した)。全ての場合において、機能的アッセイを開始する前に細胞を所与の薬剤で24時間前処置した(アッセイの全期間続けられる所与の処置による)。
【0148】
ラノラジン(2mM)及びミノキシジル(31mM)保存溶液を、それぞれ、DMEM及び100%ジメチルスルホキシド(Sigma-Aldrich)に薬物を溶解することによって調製し、使用まで-20℃で凍結させた。ミノキシジル及び組合せ処置用の対照溶液を、ミノキシジルを終濃度のDMSOと置換することによって作製した。新しい溶液を、DMEMに希釈することによって所望の濃度で作製し、各実験の前に37℃に暖めた。
【0149】
処置は、短期/急性又は長期/48時間のいずれかであった(機能的アッセイ)。正常酸素下でのインキュベーションを、加湿したチャンバ内で行い、低酸素下でのインキュベーション(37℃、5% CO2、湿度100%及び1% O2)を、低酸素チャンバ(Micro Galaxy、RS Biotech Laboratory Equipment Ltd、Irvine、UK)内で行った。
【0150】
細胞毒性及び増殖:
細胞生存率を、トリパンブルー色素排除アッセイを使用して決定した。アッセイを、正常酸素と低酸素条件の両方で行った。処置期間の終了後、培地を吸引し、0.4%トリパンブルー(Sigma-Aldrich)0.2mL及びDMEM培地0.8mLと置きかえた。ディッシュを混合し、加湿したチャンバ内で10分間インキュベートした。トリパンブルー溶液をDMEM 1mLと置きかえ、ディッシュを倒立顕微鏡(ID 03、Zeiss)で、位相差により倍率100倍で観察した。MTTアッセイを使用してNAD(P)H依存的細胞型酸化還元酵素のレベルを決定することによって細胞代謝活性を評価した。細胞を、2×104個細胞/ウェルで24ウェルプレート(Becton Dickinson、Oxford、UK)に播種し、処置前に終夜静置させておいた。処置の間、溶液500μLを各ウェルに添加し、アッセイを正常酸素及び低酸素条件で行った。処置終了後に、DMEM 400μL及びMTT 100μLを各ウェルに添加した。プレートを正常酸素条件で、37℃で3時間インキュベートした。MTT溶液を吸引し、DMSO 500μL及びソーレンソンのグリシン緩衝液75μLと置きかえた。プレートを、150サイクル/分で5分間振とうしてDMSOとホルマザンを混合し、得られたホルマザンの吸光度をマルチプレートリーダー(ELX800 Universal Microplate Reader、Bio-Tek Instruments、UK)を用いて570nmで測定した。各結果について2回の測定を5分間隔で記録し、平均を算出した。細胞数と吸光度値の間の直線関係を示す標準曲線をプロットし、生の吸光度値を今後の分析に使用した。
【0151】
マトリゲル浸潤:
細胞を、35×10mmディッシュ(Becton Dickinson)に5×10個細胞/ディッシュで最初に播種し、終夜定着させた。総処置時間は48時間であり、アッセイを開始する前に細胞を薬物で前処置した。MDA-MB-231細胞系の場合、前処置時間は36時間であり、MDA-MB-468細胞系の場合、前処置時間は28時間である。8μm孔のトランスウエルフィルター(Beckton Dickinson)を24ウェルプレート中に置き、FBS不含DMEMで1.25mg/mL~10mg/mLストックに希釈したマトリゲル(登録商標)(Becton Dickinson)50mLでコーティングした。マトリゲルを、インキュベーター内で終夜固化させておいた。前処置期間後、播種前にFBS不含DMEM 500μLでインサートを水和し、播種日に37℃でインキュベートした。細胞をトリプシン処理し、1% FBSで補充した処置溶液に再懸濁し、インサートの上部チャンバ内に2×104個細胞/インサートで播種した。走化性勾配を、上方チャンバに1% FBSを補充した溶液300μL及び下方チャンバに5% FBSを補充した溶液300μLを添加することによって創出した。プレートを、低酸素/正常酸素条件でインキュベートし、両チャンバ内のFBSを補充した溶液を吸引し、アッセイ終了後インサートの上部を綿棒で拭って、非侵入細胞及びマトリゲルを除去した。侵入した細胞を、氷冷100%メタノール300μLで15分間固定し、25%メタノールに希釈した0.5g/mLクリスタルバイオレット300μLで15分間染色し、両方とも下方チャンバに添加した。インサートをその後蒸留水で洗浄し、侵入した細胞を計数する前に乾燥させておいた。20個の独立した視野内にある染色された細胞を、倒立顕微鏡(Carl Zeiss、Hertfordshire、UK)を用いて倍率400倍で計数した。
【0152】
免疫細胞学:
細胞を、35×10mmディッシュ(Becton Dickinson)に5×105個細胞/ディッシュで最初に播種し、終夜定着させた。細胞を、処置溶液で32時間前処置した。アッセイを低酸素条件でのみ実行した。細胞を播種する前に、13mmカバーグラスを24ウェルプレート内に置き、ポリL-リジン(Sigma)500μLを、各ウェルに添加し20分間おいた。前処置期間後、細胞をトリプシン処理し、それぞれの処置溶液500μLに2×104個細胞/カバーグラスで播種した。プレートを低酸素条件でインキュベートし、アッセイを16時間させておいた。各実験について少なくとも2つのカバーグラスを調製した。アッセイ終了後、カバーグラスを、PBSに希釈した4%パラホルムアルデヒド(Sigma) 500μLで固定する前にリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄した。固定化は、オービタルシェイカー上で、室温で、10分間であった。次いで、カバーグラスを、PBS中で3×5分間洗浄した。各条件についてカバーグラスのうち1つを、0.1%サポニン/PBS溶液(Sigma) 500μLで4分間透過化し、3×5分間のPBS洗浄を続けた。透過化した及び透過化していないカバーグラス全てを、5%ウシ血清アルブミン(BSA)/PBS(pH7.4、容積/容積; Dako、Cambridge、UK)ブロッキング薬剤500μLで1時間処置した。カバーグラスを、24ウェルプレートから湿度チャンバへ移し、0.7mg/mLストックを1:200希釈した一次抗体(NESOpAb)100μLとオービタルシェイカー上で、3~5℃で終夜インキュベートした。使用した一次抗体は、Nav1.5 VGSCの新生児アイソフォーム(nNav1.5)の外側のエピトープ配列を特異的に認識し、結合できるNESOpAbであった(Chioniら、2005年)。次いで、カバーグラスをPBSで3×5分間リンスし、1:100濃度で二次抗体、ヤギ抗ウサギIgG Alexa Fluor(登録商標)568(Dako) 100μLと暗所で、室温で1時間インキュベートした。陰性対照用のカバーグラス(二次抗体のみとインキュベートした)も調製して、一次抗体の特異性を確認した。次いで、カバーグラスをPBS+0.1% BSAで3×5分間リンスし、封入剤(Dako)を使用してスライドガラス上に封入する前に蒸留水に浸漬し、暗所で、3~5℃で貯蔵した。画像を、Axioimager免疫蛍光及び位相差倒立顕微鏡(Zeiss)に挿入されたCanon(登録商標)デジタルカメラで撮像し、Remote Capture Software(登録商標)(Canon)で加工した。ImageJを使用して、補正した総細胞蛍光を分析し、定量化した。
【0153】
電気生理学:
全細胞パッチクランプ記録を、哺乳動物の生理的食塩水(MPS)による表面灌流下の細胞で実行する。全細胞記録の詳細については、これまでに記載されてきた(Fraserら、2003年、2005年; Grimesら、1995年; Laniadoら、1997年)。簡潔には、MPSは(mMで): 144 NaCl、5.4 KCl、1 MgCl2、2.5 CaCl2、5 HEPES及び5.6 D-グルコース(NaOHでpH7.3に調整した)を含有する。パッチピペット(先端抵抗、およそ5MΩ)を、外向きのK+電流を遮断するように設計した1M CsOHでpH7.4に調整した溶液(mMで):NaCl 5、CsCl 145、Mg Cl2 2、Ca Cl2 1、HEPES 10及びEGTA 11で満たす。推定される細胞内遊離Ca2+濃度は、およそ15nMである(Laniadoら、2001年)。-100mVの保持電位を印加する。標準電位固定プロトコールを使用して、VGSC電流の電気生理学的特性を研究する。主に以下の特徴を研究する:ピーク電流(及びその密度)、電流-電圧曲線(ピークに対して標準化した電流)、定常状態不活性化/「有効性」=試験電流(I)/最大電流(Imax);不活性化からの回復=試験電流(It)/対照電流(Ic)。ピーク電流遮断に対するミノキシジルの急性効果を正確に決定するために、200pAより大きい電流だけを使用する。電位固定プロトコールの更なる詳細、データ分析及び曲線近似は、以前に公開されている(Onkalら、2008年)。
【0154】
データ分析:
それぞれが少なくとも3つの技術的反復からなる最低3つの生物学的反復を行った。浸潤アッセイの場合、各生物学的反復が2つのインサートからなる最低3つの生物学的反復を行った。データの正規性を、シャピロ-ウィルクW検定で確認した。パラメータデータを、スチューデントt検定で分析し、棒グラフ(平均±平均値の標準誤差を示す)によって表示した。ノンパラメトリックデータを、マンホイットニーU検定を使用して分析し、ボックスプロット(中央値、四分位範囲; 5%及び95%信頼区間並びに外れ値を示す)によって表示した。有意な結果を、*(P<0.05)、**(P<0.01)又は***(P<0.001)として示す。
【0155】
(実施例2)
ラノラジンとアミロライドの組合せ
この実施例は、実施例1に記載される材料及び方法を使用して、低酸素(1% O
2)下での細胞侵入性に対するテトロドトキシン(TTX)、ラノラジン(5μM)、アミロライド(100μM)並びにラノラジンとアミロライドの組合せ(それぞれ、5μM及び100μM)の効果を比較するものである。TTX(20μM)を陽性対照として使用した。結果を、
図3に示す。
【0156】
(実施例3)
ラノラジン及びミノキシジルの組合せ
この実施例は、実施例1、特にマトリゲル侵入性アッセイに記載される材料及び方法を使用して、低酸素又は正常酸素下での細胞侵入性に対するラノラジン、ミノキシジル及びその組合せの効果を比較するものである。
【0157】
【0158】
低酸素下で、ミノキシジル(50μM及び5μM)は、MDA-MB-231細胞の浸潤をそれぞれ89%及び56%有意に減少させた。ラノラジン(5μM)は、浸潤を42%減少させ、それを50μM及び5μMのミノキシジルと組合せると100%及び54%の減少を得られた(全てについてP<0.001)(
図5a)。加えて、50μMミノキシジルと組合せ処置の間の減少程度の11%の増大は有意であった(P<0.05)が、5μMミノキシジル処置では有意でなかった(
図4a)。ミノキシジルを2.5μMへ減少させると、48%の浸潤の有意な減少をもたらし、5μMラノラジンは、浸潤を43%有意に減少させ、組合せ処置は、有意な58%の減少を引き起こした(
図4b;全てについてP<0.001)。加えて、ミノキシジル単独と比較して有意な増強が組合せ処置で観察された(
図5b; P<0.001)。
【0159】
ラノラジン濃度の減少による効果も、試験した。2.5μMラノラジンは、浸潤を36%有意に減少させ、2.5μMミノキシジルは、浸潤を24%有意に減少させ、組合せ処置は、有意な55%減少を引き起こした(
図6a;全てについてP<0.001)。組合せ処置は、ラノラジン単独処置と比較して有意な増強を生じた(
図6a; P<0.001)。1.25μMラノラジンは、浸潤を32%有意に減少させ、2.5μMミノキシジルは、浸潤を41%有意に減少させ、組合せ処置は、有意な71%減少を引き起こした(
図6b;全てについてP<0.001)。組合せ処置は、ミノキシジル単独処置と比較して有意な増強を生じた(
図6b; P<0.001)。最後に、0.625μMラノラジンは、24%で浸潤を有意に減少させ、2.5μMミノキシジルは、42%で浸潤を有意に減少させ、組合せ処置は、有意な53%の減少を引き起こした(
図6c;全てについてP<0.001)。組合せ処置は、ミノキシジル単独の処置と比較して有意差がなかった(
図6c)。
【0160】
次に、薬物の効果を正常酸素対低酸素下で調査した。低酸素下で、2.5μMラノラジンは、浸潤を30%(P<0.001)まで有意に減少させたが、正常酸素下では効果がなかった(
図7)。2.5μMミノキシジルは、浸潤を低酸素下で49%(
図7a)、正常酸素下で53%(
図7b;両方についてP<0.001)有意に減少させたが、互いに異ならなかった(P=0.49)。加えて、組合せ処置は、低酸素下で56%の有意な減少、正常酸素下で57%の有意な減少(両方についてP<0.001)をもたらし、低酸素下のミノキシジル処置と比較して有意な増強が観察された(P<0.001)が、正常酸素では観察されなかった(P=0.89)。
【0161】
実験の最終組において、低酸素下でのラノラジン、ミノキシジル及び組合せ処置の効果を、機能的VGSC活性を発現することが同じく公知の更なるBCa細胞系(MDA-MB-468)に対しても試験した(Aydarら、2016年)。2.5μMラノラジンは、浸潤を33%有意に減少させ(
図8; P<0.01)、2.5μMミノキシジルは、それを44%有意に減少させた(
図8; P<0.001)。組合せ処置は、侵入した細胞において有意な55%の減少を引き起こし(
図8; P<0.001)、この減少は、ミノキシジル処置と比較した場合有意により大きかった(
図8; P<0.001)。
【0162】
要約すると:
・
図5及び
図6の結果は、ラノラジン(RAN)による効果が、不顕性レベル(625nM)まで用量依存的であり、ミノキシジル(MIN)も抗侵襲性であり、試験した全ての濃度でMINがRANの効果を強化することを示す(p<0.001)。
・
図7の結果は、ラノラジン(RAN)の抗侵襲性効果が低酸素下でのみ見られ、不顕性レベル(625nM)まで用量依存的であり、正常酸素と低酸素下の両方でMINも抗侵襲性であり、RAN+MINの抗侵襲性効果が、正常酸素と低酸素下の両方でRAN単独より大きいことを示す。
・
図8の結果は、RANが、MDA-MB-468細胞の侵入性も阻害し、MINも抗侵襲性であり、RAN+MINの抗侵襲性効果が、RAN単独より大きいことを示す。
【0163】
(実施例4)
対照実験
使用した方法については、実施例1に記載されている。
【0164】
3つの細胞系(MBA-MD-231、MBA-MD-468及びマウス4T1)に対するPCRにより、全ての細胞においてKATPチャネルサブユニットK6.1、6.2及びSUR1/2A/2B mRNAが発現されていることを確認した。
【0165】
実験に使用した最高濃度のラノラジン(5μM)、ミノキシジル(50μM)及びその組合せは、正常酸素若しくは低酸素処置下でMDA-MB-231又はMDA-MB-468細胞系のいずれの細胞生存率にも48時間にわたって効果がなかった。
【0166】
同様に、運動及び浸潤研究に使用した薬物の濃度は、48時間にわたってMDA-MB-231とMDA-MB-468両方の細胞系の成長に効果がなかった。
【0167】
(実施例5)
nNav1.5発現に対する効果
この実施例は、nNav1.5発現レベルに対するラノラジン、ミノキシジル及びその組合せによる効果を研究するものである。材料及び方法については実施例1を参照のこと。
【0168】
nNav1.5タンパク質に対する免疫細胞化学的染色を、非透過及び透過条件下で実行した(それぞれ
図9a及び
図9b)。期待した通り、非透過条件と比較して、蛍光レベルは、DMEMとDMSO対照の両方でそれぞれ12%、48%有意により高かった(両方ともP<0.001)。これは、主に「原形質膜」発現を検出する非透過条件と整合しており、透過条件では「総量」(すなわち、原形質膜と細胞内両方のnNav1.5タンパク質)を検出した。ラノラジン(5μM)は、非透過と透過両方の条件下でnNav1.5タンパク質の発現をそれぞれ30%及び43%有意に減少させた(両方ともP<0.001)。ミノキシジル(50μM)及び薬物組合せは、透過性細胞においてnNav1.5発現をそれぞれ49%及び37%有意に減少させた(
図9b;それぞれP<0.001及びP<0.01)。それに対し、非透過性細胞の場合、ミノキシジルも薬物組合せも、有意な効果はなかった(
図9a;それぞれP=0.58及びP=0.18)。加えて、nNav1.5発現に対する組合せ処置の減少効果は、ラノラジンと比較して非透過性細胞において有意であった(
図9a; P<0.05)。しかしながら、透過性細胞において薬物組合せの効果に有意な差異はなかった。
【0169】
(実施例6)
AG1478とTTXの組合せ
この実施例は、正常酸素におけるMDA-MB-231細胞系の侵入性に対するAG1478(10μM)、TTX(10μM)及びその組合せの効果を比較するものである。対照は、0.1% DMSOである。
【0170】
結果を
図10に示す。簡潔には、
図10aは、4つの処置条件下で侵入した細胞の典型的な顕微鏡的図を示す。侵入性を対照に対して標準化してプロットした定量化データを
図10bに示す。TTXは少しの効果を有するが、これは有意でない(組合せのいかなる複合効果も不明瞭にならないように濃度を低く保った)。AG1478は、侵入性に対して有意な阻害効果を有する。TTXとAG1478の組合せは、TTX又はAG1478の個々の効果より有意に大きい(それぞれp=0.02及び0.006)。
【0171】
(実施例7)
電気生理学的測定
結果を、
図11及び
図12に示す。簡潔には、ミノキシジル(50μM)の短期(急性)適用は、ピーク電流に対して効果がなかった(原形質膜nNav1.5タンパク質の発現に対するミノキシジルの効果の欠如と一致する)が、回復時間を遅延させ、定常状態の不活性化をより過分極化した電位に移行させたことは、VGSCが、活性化する可能性が低いことを意味した(
図11)。50μMミノキシジルによる長期(48時間)処置後(その後洗浄する)にVGSCの特徴がいかなる変化も示さなかったことは、どんな効果を生じるにもミノキシジルが存在しなければならないことを示す(
図12)。
【0172】
以下に挙げた各参照を含めて本出願において引用した各参照文献は、その全体を参照によりここに特に組み込む。
(参考文献)
【国際調査報告】