(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-28
(54)【発明の名称】膜小胞の濃縮および糖タンパク質収量の増加のための無細胞抽出物調製プロトコル
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20221221BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
C12P21/02 B
C12N1/20 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022524233
(86)(22)【出願日】2020-10-26
(85)【翻訳文提出日】2022-06-23
(86)【国際出願番号】 US2020057325
(87)【国際公開番号】W WO2021081485
(87)【国際公開日】2021-04-29
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500041019
【氏名又は名称】ノースウェスタン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】マイケル シー.ジュエット
(72)【発明者】
【氏名】ジャスミン エム.ハーシーウィー
(72)【発明者】
【氏名】キャサリン エフ.ワーフェル
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AF01
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC01
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA26X
4B065AC14
4B065CA26
(57)【要約】
開示されるのは、膜小胞において濃縮される無細胞抽出物の調製プロトコル、及び糖タンパク質収率を増加させるための無細胞糖タンパク質合成方法及びプラットフォームにおける開示された抽出物の使用である。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無細胞反応混合物中での協調的な転写、翻訳、及び糖鎖付加を介して、無細胞糖タンパク質合成(CFGpS)反応においてグリコシル化タンパク質を合成する方法であって、前記反応混合物が、原核細胞を溶解して溶解細胞を得て、前記溶解細胞を5,000×gより大きく20,000×g未満の力で遠心分離に供し、前記上清を回収して無細胞画分を得ることにより入手した前記無細胞画分を含み:
(i)無細胞反応混合物中でタンパク質を転写および翻訳するステップ;
(ii)反応混合物中のタンパク質を少なくとも1つの多糖で糖鎖付加して、グリコシル化タンパク質を得るステップ
を含む前記方法。
【請求項2】
前記溶解細胞を5,000×gより大きく18,000×g未満の力で遠心分離に供する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶解細胞を5,000×gより大きく15,000×g未満の力、例えば12,000×gの力で遠心分離に供する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記無細胞画分が、前記溶解細胞を15,000×gより大きい力で遠心分離に供することによって得られる無細胞画分と比べて膜小胞中で濃縮されている、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記膜小胞が約10nm~約500nmの平均有効直径を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記膜小胞が約50nm~約200nmの平均有効直径を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記膜小胞がリン脂質小胞を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記無細胞画分が、少なくとも約4×10
12、又は5×10
12、又は6×10
12、又は7×10
12粒子/mlの濃度で前記膜小胞を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記原核細胞が、前記無細胞反応混合物中の前記タンパク質をグリコシル化する膜貫通オリゴサッカリルトランスフェラーゼを発現し、前記膜小胞が前記膜貫通オリゴサッカリルトランスフェラーゼを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記原核細胞が、前記無細胞反応混合物中の前記タンパク質をグリコシル化する外因性膜貫通オリゴサッカリルトランスフェラーゼを発現し、前記膜小胞が前記外因性膜貫通オリゴサッカリルトランスフェラーゼを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記膜貫通オリゴサッカリルトランスフェラーゼが、PglB、PglO、及びSTT3から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記外因性膜貫通オリゴサッカリルトランスフェラーゼが、PglB、PglO、及びSTT3から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記膜小胞が脂質結合型オリゴ糖(LLO)供与体を含み、前記タンパク質が前記LLO供与体でグリコシル化される、請求項4に記載の方法。
【請求項14】
前記溶解細胞が超音波破砕を行うことにより得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記溶解細胞が均質化を行うことにより得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記原核細胞が大腸菌である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
糖タンパク質の協調的な転写、翻訳、及び糖鎖付加を行うための無細胞タンパク質合成プラットフォームであり、原核細胞を溶解して溶解細胞を得て、前記溶解細胞を5,000×gより大きく20,000×g未満の力で遠心分離に供し、前記上清を回収して無細胞画分を得ることにより入手した前記無細胞画分を含む前記プラットフォーム。
【請求項18】
前記溶解細胞を5,000×gより大きく18,000×g未満の力で遠心分離に供する、請求項17に記載のプラットフォーム。
【請求項19】
前記溶解細胞を5,000×gより大きく15,000×g未満の力、例えば12,000×gの力で遠心分離に供する、請求項17に記載のプラットフォーム。
【請求項20】
前記無細胞画分が、前記溶解細胞を15,000×gより大きい力で遠心分離に供することによって得られる無細胞画分と比べて膜小胞中で濃縮されている、請求項17に記載のプラットフォーム。
【請求項21】
前記膜小胞が約10nm~約500nmの平均有効直径を有する、請求項20に記載のプラットフォーム。
【請求項22】
前記膜小胞が約50nm~約200nmの平均有効直径を有する、請求項20に記載のプラットフォーム。
【請求項23】
前記膜小胞がリン脂質小胞を含む、請求項20に記載のプラットフォーム。
【請求項24】
前記無細胞画分が、少なくとも約4×10
12、又は5×10
12、又は6×10
12、又は7×10
12粒子/mlの濃度で前記膜小胞を含む、請求項20に記載のプラットフォーム。
【請求項25】
前記原核細胞が、前記無細胞反応混合物中の前記タンパク質をグリコシル化する膜貫通オリゴサッカリルトランスフェラーゼを発現し、前記膜小胞が前記膜貫通オリゴサッカリルトランスフェラーゼを含む、請求項20に記載のプラットフォーム。
【請求項26】
前記原核細胞が、前記無細胞反応混合物中の前記タンパク質をグリコシル化する外因性膜貫通オリゴサッカリルトランスフェラーゼを発現し、前記膜小胞が前記外因性膜貫通オリゴサッカリルトランスフェラーゼを含む、請求項20に記載のプラットフォーム。
【請求項27】
前記膜貫通オリゴサッカリルトランスフェラーゼが、PglB、PglO、及びSTT3から選択される、請求項25に記載のプラットフォーム。
【請求項28】
前記外因性膜貫通オリゴサッカリルトランスフェラーゼが、PglB、PglO、及びSTT3から選択される、請求項26に記載のプラットフォーム。
【請求項29】
前記膜小胞が脂質結合型オリゴ糖(LLO)供与体を含み、前記タンパク質が前記LLO供与体でグリコシル化される、請求項20に記載のプラットフォーム。
【請求項30】
前記溶解細胞が超音波破砕を行うことにより得られる、請求項17に記載のプラットフォーム。
【請求項31】
前記溶解細胞が均質化を行うことにより得られる、請求項17に記載のプラットフォーム。
【請求項32】
前記原核細胞が大腸菌である、請求項17に記載のプラットフォーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府支援の研究開発に関する陳述
本発明は、国防脅威削減局(DTRA)によって授与された HDTRA1-15-1-0052 の下での政府の支援により達成された。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年10月25日に出願された米国仮特許出願第62/926,166号に対して米国特許法119条(e)項に基づく優先権の利益を主張し、その全体を参照により本明細書に援用する。
【背景技術】
【0003】
本発明の分野は、無細胞糖タンパク質合成を行うための組成、及び方法に関する。特に、本発明の分野は、膜小胞中で濃縮される無細胞抽出物を調製するためのプロトコル、及び無細胞糖タンパク質合成を行い、糖タンパク質収率を増加させるための方法並びにプラットフォームにおける、その使用に関する。
【0004】
タンパク質の糖鎖付加は、糖部分を有するアミノ酸側鎖の酵素的修飾であり、細胞機能、ヒトの健康、およびバイオテクノロジーにおいて重要な役割を果たす。しかしながら、定義される糖タンパク質の研究及び生産は依然として困難である。粗細胞抽出物中でタンパク質合成および糖鎖付加が行われる無細胞糖タンパク質合成(CFgPS)システムは、これらの課題に対処するための新しいアプローチを提供する。しかしながら、糖タンパク質収量を増加させ、既知のCFgPSシステム及び方法を簡素化するために、より良い成分およびプロトコルが必要である。本明細書において、本発明者らは膜小胞中で濃縮される無細胞抽出物を調製するためのプロトコルを開示する。本発明者らの抽出物は、無細胞糖タンパク質合成を行い、糖タンパク質収率を増加させるための方法及びプラットフォームにおいて使用することができる。
【発明の概要】
【0005】
開示された主題は、糖鎖付加のための成分を含む膜小胞中で、抽出物が濃縮される無細胞抽出物を調製するためのプロトコルに関する。開示された抽出物は、糖タンパク質の収量を実質的に増加させるために、無細胞糖タンパク質合成(CFGpS)反応およびプラットフォームにおいて利用され得る。特に、開示された無細胞抽出物は、糖タンパク質の収率を増加させるために、無細胞反応混合物中で協調的な転写、翻訳、および糖鎖付加を介して無細胞糖タンパク質合成(CFGpS)反応においてグリコシル化タンパク質を合成するための方法およびプラットフォームにおいて利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】粗CFE抽出物中の膜小胞の特性評価。(A) 粗抽出物及びSEC精製小胞のDLS分析。粗抽出物のトレースは重なりを示すために半透明である。エラーバーは、独立して調製された3つの抽出物の三連分析における標準偏差を表す。精製小胞において、エラーバーは、最も濃度の高い小胞溶出画分の三連分析の標準偏差を表す。(B) 粗CFE抽出物中で検出された粒子の説明図。(C) 粗抽出物のクライオEM顕微鏡写真。黒い矢印は、明確な単層形態を有する小胞を示す。白い矢印は、ネストまたはマルチラメラ形態を示す。トリミングされた画像は、代表的な小胞を示す。スケールバーは100nmである。(D) SEC精製小胞のクライオEM顕微鏡写真。トリミングされた画像は、代表的な精製小胞を示す。スケールバーは100nmである。
【
図2】抽出処理は、小胞のサイズ分布および濃度に影響を及ぼす。(A) 抽出処理条件の説明図。抽出物は、図示の各条件について三連で調製した。(B) 超音波処理(青色)および均質化(緑色)抽出物中の小胞のナノ粒子追跡分析(NTA)濃度分析。アスタリスクは、抽出物調製のための基準ケース条件を示す。NTA分析の場合、エラーバーは、独立して調製された3つの抽出物の測定値の標準偏差を表す。(C) 超音波処理(青色)および均質化(緑色)S30抽出物中の小胞のNTA粒子サイズ分布(PSD)。(D) 超音波処理(青色)および均質化(緑色)S12抽出物のNTA PSD。
【
図3】異種膜結合カーゴは、膜小胞を介して濃縮を制御できる。S12およびS30抽出物における異種膜タンパク質の濃縮を、(A) グリコシル化酵素および(B) シグナル伝達タンパク質の異種タンパク質に対するα-FLAGウエスタンブロットを用いて定量した。(C) 膜貫通ヘリックスを有さない細胞質ゾルsfGFPコントロール。各ウエスタンブロットにおいて、左レーンはS12抽出物であり、右レーンはS30抽出物である。黒矢印は目的の膜タンパク質を示す。protein ladder standards由来の分子量(kDa)は、各ブロットの左側に示されている。タンパク質名およびバンドの濃縮比(S12/S30)は、各ブロットのすぐ下に表示されている。すべてのブロットは、3つの独立した実験のうちの代表である。漫画は、各タンパク質の膜貫通トポロジーを描写している。分類学的起源、膜貫通トポロジー、機能、理論サイズ、およびUniProt IDについては、補足表1を参照されたい。(D)蛍光α-FLAG抗体でプローブされた抽出物のSEC分析の蛍光クロマトグラム。抽出物を調製するために使用した株は、膜タンパク質を含まない(灰色の線)、PglB(濃い紫色の線)、またはPglO(薄い紫色の線)と共に濃縮された。3つの独立した実験からの特徴的な小胞溶出画分は灰色で強調表示されている。
【
図4】小胞濃度の増加は、N-結合型およびO-結合型グリコシル化システムのための無細胞糖タンパク質合成(CFGpS)を改善する。(A) PglBおよびC.ジェジュニLLOで濃縮されたS12またはS30抽出物を備えたCFGpS反応の糖タンパク質収率。エラーバーは、3つの独立したCFGpS反応の標準偏差を表し、各反応は独立した抽出で実行される。(挿入図)2段階CFGpS反応の概略図。(B) 20分間のCFPSによるN-結合型CFGpS反応での、糖鎖付加(濃い緑色)および総(明るい緑色)タンパク質収率。エラーバーは、3つの独立した反応の標準偏差を表す。(挿入図)一般的なN-OST媒介性(灰色の星)およびPglB(ピンク色の星)媒介性糖鎖付加に対するシークオン選好。グリコシル化残基は太字である。(C) (B)における代表的な反応物由来の受容体タンパク質のウエスタンブロット、ここでg
0は糖鎖付加受容体タンパク質を示し、g
1は糖タンパク質を示す。(D) 20分間のCFPSによるO-結合型CFGpS反応での、糖鎖付加(濃い紫色)および総(明るい紫色)タンパク質収率。(挿入図)一般的なO-OST(灰色の星)およびPglO(ピンク色の星)媒介性糖鎖付加に対するシークオン選好。グリコシル化残基は太字である。(E) (D)における代表的な反応物由来の受容体タンパク質のウエスタンブロット。全てのゲルは、3つの独立したCFGpS反応のうちの代表である。
【
図5】標準的な無細胞発現反応条件下でのsfGFPレポーターの作製。鋳型DNAが存在する場合タンパク質合成が進行し、鋳型DNAを省くと蛍光は観察されない。エラーバーは、3つの独立したCFE反応の標準偏差を表す。
【
図6】CFE抽出物からの膜小胞の精製および特性評価。(A) FM4-64脂質色素でプローブした抽出物のSECクロマトグラム。灰色のセグメントは小胞溶出画分を示す。(B) (A)で溶出した画分9及び10から採取した精製小胞のNTA分析。(C) PBS中の精製小胞のゼータ電位分析。エラーバーは、精製小胞の3連測定の標準偏差を表す。
【
図7】本検討で特徴付けられるすべてのS30およびS12抽出物のCFE生産性。反応は、標準条件下で30°Cで20時間実行した。(A)における抽出物は、過剰発現された成分のない「空の」シャーシ株に対応する。これらの抽出物は、
図1、
図2で特徴付けられる。(B)は、
図3で特徴付けられる膜タンパク質を濃縮した抽出物を示す。(C)は株中でのC.ジェジュニLLOおよび表記される酵素の濃縮を伴うCFGpS抽出物を示す。CFGpS抽出物は、
図4で特徴付けられる。エラーバーは、三連独立反応の標準偏差を表す。
【
図8】
図2に提示した抽出物のさらなる光散乱特性評価。(A)は、NTAにより求められる抽出物中の平均小胞直径を示す。(B)S30および(C)S12抽出物のDLS分析。スペクトルはどちらの場合も、均質化された抽出物においてより大きく、右にシフトしたピークを裏付けている。NTA粒子数と一致して、小胞ピークに対する~20nmのピーク(リボソーム/小細胞複合体)の相対的なピークの高さは、所与の調製方法ごとに、均質化された抽出物が、超音波処理された抽出物よりも高濃度の小胞を含むことを示す。エラーバーは、3つの独立した抽出の測定値の標準偏差を表す。
【
図9】S30およびS12抽出物における膜タンパク質濃縮のウエスタンブロット分析。示された組換えタンパク質に対して、それぞれ未トリミングα-FLAGブロットが提示される。それぞれの組換えタンパク質の理論質量は、黒い矢印の横に提示される。本発明者らは、膜タンパク質がSDS-PAGE上で異常な挙動を示し、protein ladder standardsと比較して「軽く」流れるという明確に文書化された効果を観察した。レーンキーは下に示される。注、CB1ブロットについて、タンパク質の存在を確認するために、ブロットの右側に示された追加のコントロールが必要であった。
【
図10】CFGpS抽出物における小胞およびPglB濃縮の特性評価。(A) NTAによって測定された、PglBおよびC.ジェジュニLLOで濃縮された抽出物中の小胞濃度。エラーバーは、3つの独立した抽出の測定値の標準偏差を表す。(B、左)OSTおよびLLOの両方で濃縮された抽出物中のPglBに対するα-FLAGウエスタンブロット、並びに対応するレーンキー(B、右)。
【
図11】糖鎖付加成分は膜小胞に埋め込まれる。α-LLOおよびα-OST試薬でプローブされたS30抽出物の蛍光SECクロマトグラムが提示される。小胞溶出画分は灰色で強調表示される。N-結合型PglB OSTを用いた抽出物およびコントロールの分析は(A)に、O-結合型PglO OSTについては(B)に提示される。
【
図12】CFGpS抽出物におけるN-結合型グリコシル化の特性評価。CFGpS受容体タンパク質に対する3連のα-Hisウエスタンブロットは、抽出レプリケート1~3に対応する(A)~(C)に示される。(A)~(C)におけるウエスタンブロットを用いて、
図4の糖タンパク質収率を計算した。(D) (A)における対応する反応のα-グリカンブロット。(E)各条件下で産生された受容体タンパク質の総量、および(F)各条件下で糖タンパク質に変換された受容体タンパク質の割合。エラーバーは、3つの独立した反応の標準偏差を表す。
【
図13】PglBおよびPglOの許容されるシークオンを持つ受容体タンパク質の残基特異的糖鎖付加。一般に、PglOの糖鎖付加選好性は、PglBの選好性よりもあまり理解されていない。ポジティブ及びネガティブシークオンのシークオン特異性は、PglBについて十分に特徴付けられるため、ポジティブ及びネガティブコントロールのブロッティング基準としてPglBサンプルが使用される。(A) CFGpS反応のα-Hisブロットは、5分間のCFPS時間で実行される。糖鎖付加バンドは、すべての糖鎖付加成分および許容可能なシークオンが存在する場合にのみ出現する。(B)対応するα-グリカンブロットは、全ての糖鎖付加成分が存在する場合にg1に対してのみシグナルを示す。
【
図14】CFGpS抽出物におけるO-結合型グリコシル化の特性評価。(A) 20分間のCFPS時間で行われるPglO CFGpS反応のα-Hisウエスタンブロット、及び(B)対応するα-グリカンブロット。(C)糖タンパク質に変換された受容体タンパク質の割合。エラーバーは、3つの独立したCFGpS反応を分析した際の標準偏差を表す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
定義
【0008】
開示された主題は、以下のように定義及び用語を用いてさらに説明され得る。本明細書で使用される定義および用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図するものではない。
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈で明確に別段の指示をしない限り、複数形を含む。例えば、「遺伝子(a gene)」または「オリゴ糖(an oligosaccharide)」という用語は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、それぞれ「1つ以上の遺伝子(one or more genes)」および「1つ以上のオリゴ糖(one or more oligosaccharides)」を意味すると解釈されるべきである。本明細書で使用される「複数」という用語は、「2つ以上」を意味する。
【0010】
本明細書で使用される「約」、「およそ」、「実質的に」、および「有意に」は、当業者には自明であるが、それらが使用される状況によってある程度変化する。それが使用される状況で当業者に明らかではない用語の使用があった場合には、「約」および「およそ」は、特定の用語の±10%までを意味し、「実質的に」および「有意に」とは、特定の用語の±10%を超えることを意味する。
【0011】
本明細書で使用される用語「含む(include)」および「含むこと(including)」は、用語「含む(comprise)」および「含むこと(comprising)」と同一の意味を有する。用語「含む(comprise)」および「含むこと(comprising)」は、特許請求の範囲に記載された成分に加えて追加の成分を含むことを可能にする「開いた(open)」移行用語であると解釈すべきである。用語「なる(consist)」および「からなる(consisting of)」は、特許請求の範囲に記載された成分以外の追加の成分を含めることを認めない「閉じた(closed)」移行用語であると解釈すべきである。用語「から本質的になる(consisting essentially of)」は、部分的に閉じており、特許請求された主題の本質を根本的に変更しない追加の成分のみを含めることを可能にすると解釈すべきである。
【0012】
「のような(such as)」という句は、「例えば、~を含む(for example, including)」と解釈すべきである。さらに、限定はされないが「のような(such as)」を含むあらゆる例示的な語句の使用は、単に本発明をよりよく理解させることを意図しており、別段の主張がない限り、本発明の範囲に制限を及ぼさない。
【0013】
さらに、「A、B、およびCなどの少なくとも1つ(at least one of A, B and C, etc.)」に類似する慣例句を使用する事例では、一般にそのような構成は、当業者が前記慣例句を理解するという趣旨で意図されている(例えば、「A、B、およびCの少なくとも1つを有するシステム」は、限定はされないが、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBを共に、AとCを共に、BとCを共に、および/またはA、B、Cを共に有するシステムを含む)。説明文または図面にかかわらず、2つ以上の代替の用語を表す事実上任意の離接的な単語および/または句は、用語のうちの1つ、用語のうちのいずれか、または用語の両方を含む可能性を熟考するように理解すべきことは、当技術分野内の人々によってさらに理解される。例えば、「AまたはB」という句は、「A」または「B」、あるいは「AおよびB」の可能性を含むと理解される。
【0014】
「まで」、「少なくとも」、「より大きい」、「より小さい」などの全ての用語は、列挙される数字を含み、続いて部分範囲に分解できる範囲を指す。範囲には、個々の要素が含まれる。従って、例えば1~3の要素を有する群は、1、2、または3の要素を有する群を指す。同様に、6の要素を有する群は、1、2、3、4、または6の要素を有する群などを指す。
【0015】
法助動詞「であってもよい(may)」は、記載されるいくつかの実施態様またはそれに含まれる特徴における、1つ以上の選択肢または選択物の好ましい使用または選択を指す。特定の実施態様またはそれに含まれる特徴に関して選択肢または選択物が開示されていない場合には、法助動詞「できる(may)」は、説明される実施態様またはそれに含まれる特徴の形成または使用方法および側面に関する肯定的な行為、あるいは説明される実施態様またはそれに含まれる特徴に関する特定の技術を使用するという断定的な判断を指す。この後者の文脈では、法助動詞「できる(may)」は助動詞「できる(can)」と同じ意味および含意を有する。
【0016】
無細胞タンパク質合成(CFPS)
【0017】
本明細書で開示される方法および組成は、当該技術分野で知られている無細胞タンパク質合成に利用されてもよい。例えば、米国特許第4,496,538号;第4,727,136号;第5,478,730号;5,556,769号;第5,623,057号;5,665,563号;第5,679,352号;6,168,931号;第6,248,334号;6,531,131号;6,869,774号;6,994,986号;7,118,883号;7,189,528号;7,338,789号;7,387,884号;7,399,610号;8,703,471号;および8,999,668号を参照。また米国出願公開2015-0259757号;2014-0295492号;2014-0255987号;2014-0045267号;2012-0171720号;2008-0138857号;2007-0154983号;2005-0054044号;および2004-0209321号を参照。また米国出願公開2005-0170452号;2006-0211085号;2006-0234345号;2006-0252672号;2006-0257399号;2006-0286637号;2007-0026485号;および2007-0178551号;2014-0295492号;2018-0016612号;2018-0016614号;2018-0298416号;および2019/0284600号を参照。またPCT国際出願公開第2004/035605号;2006/102652号;2006/119987号;および2007/120932号を参照。またJewett, M.C., Hong, S.H., Kwon, Y.C., Martin, R.W., and Des Soye, B.J. 2014, “Methods for improved in vitro protein synthesis with proteins containing non standard amino acids,” 米国特許出願第62/044,221号;Jewett, M.C., Hodgman, C.E., and Gan, R. 2013, “Methods for yeast cell-free protein synthesis,” 米国特許出願第61/792,290号;Jewett, M.C., J.A. Schoborg, and C.E. Hodgman. 2014, “Substrate Replenishment and Byproduct Removal Improve Yeast Cell-Free Protein Synthesis,” 米国特許出願第61/953,275号;およびJewett, M.C., Anderson, M.J., Stark, J.C., Hodgman, C.E. 2015, “Methods for activating natural energy metabolism for improved yeast cell-free protein synthesis,” 米国特許出願第62/098,578号を参照。またGuarino, C., & DeLisa, M. P. (2012) “A prokaryote-based cell-free translation system that efficiently synthesizes glycoproteins” Glycobiology, 22(5), 596-601を参照。これら全ての参考文献の内容は、その全体が参照により本出願に援用される。
【0018】
特定の例示的な実施形態において、本明細書に記載の方法の1つ以上が容器内で、例えば、単一の容器または複数の容器内で実施される。本明細書で使用される用語「容器」は、本明細書に記載される1つ以上の反応物(例えば、1つ以上の転写、翻訳、および/または糖鎖付加ステップにおける使用のための)を保持するのに適した任意の容器を指す。容器の非限定的な例としては、マイクロタイタープレート、試験管、マイクロフュージチューブ、ビーカー、フラスコ、マルチウェルプレート、キュベット、流動系、マイクロファイバー、顕微鏡スライドなどが挙げられる。
【0019】
特定の例示的な実施形態において、生理的適合性のある(必ず天然型である必要はない)イオンおよび緩衝液は、転写、翻訳、および/または糖鎖付加に利用され、例えば、グルタミン酸カリウム、塩化アンモニウムなどである。生理学的細胞質塩条件は、当業者に周知である。
【0020】
本明細書に開示される方法及び組成物は、グリコシル化巨大分子(例えば、グリコシル化ペプチド、グリコシル化タンパク質、及びグリコシル化脂質)を調製するために無細胞タンパク質方法に利用されてもよい。開示された株およびシステムを用いて調製され得るグリコシル化タンパク質は、N-結合型グリコシル化(すなわち、アスパラギンおよび/またはアルギニン側鎖の窒素に結合したグリカン)および/またはO-結合型グリコシル化(すなわち、セリン、トレオニン、チロシン、ヒドロキシリシン、および/またはヒドロキシプロリンのヒドロキシル酸素に結合したグリカン)を有するタンパク質を含んでもよい。グリコシル化脂質は、セラミドなどの酸素原子を介してO-結合型グリカンを含んでもよい。
【0021】
本明細書中に開示されたグリコシル化巨大分子としては、当該技術分野で知られている単量体、例えば、限定されないが、グルコース(例えば、β-D-グルコース)、ガラクトース(例えば、β-D-ガラクトース)、マンノース(例えば、β-D-マンノース)、フコース(例えば、α-Lフコース)、N-アセチル-グルコサミン(GlcNAc)、N-アセチル-ガラクトサミン(GalNAc)、ノイラミン酸、N-アセチルノイラミン酸(すなわち、シアル酸)、及びキシロースなどで構成された非分岐及び/又は分岐糖鎖を含んでもよく、そしてそれは、グリコシル化巨大分子に取り付けられてもよく、そしてそれぞれのグリコシルトランスフェラーゼ(例えば、オリゴサッカリルトランスフェラーゼ、GlcNAcトランスフェラーゼ、GalNAcトランスフェラーゼ、ガラクトシルトランスフェラーゼ、及びシアリルトランスフェラーゼ)によってグリカン鎖、又はドナー分子(例えば、ドナー脂質及び/又はドナーヌクレオチド)に成長し得る。本明細書中に開示されたグリコシル化巨大分子としては、当該技術分野で知られているグリカンを挙げてもよい。
【0022】
開示された無細胞タンパク質合成方法およびシステムは、粗製の成分及び/又は少なくとも部分的に単離及び/又は精製された成分を利用してもよい。本明細書において「粗製の」という用語は、細胞を破砕および溶解して、せいぜい、破砕および溶解した細胞から粗成分を最小に精製することによって、例えば、破砕および溶解した細胞を遠心分離して、遠心分離後に上清及び/又はペレットから粗成分を収集することによって得られる成分を意味し得る。用語「単離または精製される」は、それらの天然環境から除去され、かつそれらが天然に会合している他の成分から、少なくとも60%が遊離し、好ましくは少なくとも75%が遊離し、およびより好ましくは少なくとも90%が遊離し、さらにより好ましくは少なくとも95%が遊離している成分を指す。
【0023】
開示された方法及び組成物は、無細胞糖タンパク質合成(CFGpS)を行うために利用されてもよい。特に、開示された方法および組成物は、糖鎖付加のために成分を濃縮した原核細胞溶解物に関する。必要に応じて、本明細書で開示された溶解物は、原核生物の遺伝子組み換え株から調製される。いくつかの実施形態において、遺伝子組み換え原核生物は、大腸菌又はCFGpSのための溶解物を調製するのに適したその他の原核生物の遺伝子組み換え株である。必要に応じて、大腸菌の修飾株はrEc.C321に由来する。好ましくは、修飾株は、好ましくは高収率の無細胞タンパク質合成が可能な溶解物をもたらすゲノム修飾(例えば、改変不能な遺伝子をレンダリングする遺伝子の欠失)を含む。また好ましくは、修飾株は、好ましくは(例えば、ゲノム修飾を有しない株と比較して)比較的高濃度でグリコシル化のための糖前駆体を含む溶解物をもたらすゲノム修飾(例えば、改変不能な遺伝子をレンダリングする遺伝子の欠失)を含む。いくつかの実施形態では、修飾株から調製された溶解物は、修飾されていない株から調製された溶解物よりも少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、またはそれより高い濃度で糖前駆体を含む。非限定的な例として、本方法において有用な細菌ソース株、キット、およびシステムには、rEcoli ΔprfA ΔendA Δgor Δrne (705), E. coli BL21(DE3), E.coli CLM24, E.coli CLM24 ΔlpxM, E.coli CLM24 ΔlpxM CH-IpxE, E.coli CLM24 ΔlpxM CH-IpxE TT-IpxE, E.coli CLM24 ΔlpxM CH-IpxE TT-IpxE KL-IpxE, and E.coli CLM24 ΔlpxM CH-IpxE TT-IpxE KL-IpxE KO-IpxEが含まれる。
【0024】
いくつかの実施形態において、前記修飾株は、糖鎖付加に利用される単糖(例えばグルコース、マンノース、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、ガラクトース、シアル酸、ノイラミン酸、フコース)の濃度の増大をもたらす修飾を含む。このように、前記修飾は、糖鎖付加で利用される単糖又は多糖を代謝する酵素を不活性化させ得る。いくつかの実施形態において、前記修飾は、デヒドラターゼ、又は炭素-酸素リアーゼ酵素(EC4.2)を(例えば、前記酵素をコードする遺伝子の少なくとも一部の欠失を介して)不活性化させる。特に、前記修飾は、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼ(EC4.2.1.47)を不活性化させ得る。修飾株が大腸菌である場合、前記修飾は、(例えば、gmd遺伝子の少なくとも一部の欠失を介した)gmd遺伝子の不活性化修飾を含み得る。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記修飾株は、グリコシルトランスフェラーゼ経路で利用される酵素を不活性化する修飾を含む。いくつかの実施形態において、前記修飾は、オリゴ糖リガーゼ酵素を(例えば、前記酵素をコードする遺伝子の少なくとも一部の欠失を介して)不活性化する。特に、前記修飾は、O-抗原をリピドAコアオリゴ糖に任意にコンジュゲートするO-抗原リガーゼを不活性化し得る。前記修飾は、(例えば、waaL遺伝子の少なくとも一部の欠失を介した)waaL遺伝子における不活性化修飾を含み得る。
【0026】
いくつかの実施形態において、前記修飾株はデヒドラターゼ、又は炭素-酸素リアーゼ酵素を(例えば、前記酵素をコードする遺伝子の少なくとも一部の欠失を介して)不活性化する修飾を含み、そしてまた、前記修飾株は、オリゴ糖リガーゼ酵素を(例えば、前記酵素をコードする遺伝子の少なくとも一部の欠失を介して)不活性化する修飾を含む。前記修飾株は、gmd及びwaaLの両方の不活性化又は欠失を含んでもよい。
【0027】
いくつかの実施形態において、前記修飾株は、1つ以上の直交又はヘテロ遺伝子を発現するために修飾されてもよい。特に、前記修飾株は、例えば脂質結合オリゴ糖(LLO)経路にかかわるグリコシルトランスフェラーゼ(GT)などの糖タンパク質合成に関連している直交又はヘテロ遺伝子を発現するように遺伝子が組み換えられてもよい。いくつかの実施形態において、修飾株は、直交又は異種オリゴサッカリルトランスフェラーゼ(EC2.4.1.119)(OST)を発現するように修飾されてもよい。オリゴサッカリルトランスフェラーゼ又はOSTsは、脂質からタンパク質にオリゴ糖を転移させる酵素である。
【0028】
特に、前記修飾株は、グリコシル化システム(例えば、N-結合型グリコシル化システム及び/又はO-結合型グリコシル化システム)において直交又はヘテロ遺伝子を発現するように遺伝子が改変されてもよい。カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)のN-結合型グリコシル化システムを大腸菌に移行させた(Wacker et al., “N-linked glycosylation in Campylobacter jejuni and its functional transfer into E. coli,” Science 2002, Nov 29; 298(5599):1790-3を参照、これらの内容は、その全体が参照により本明細書に援用される。)。特に、前記修飾株は、C.ジェジュニのpgl遺伝子座の1つ以上の遺伝子、又は相同pgl遺伝子座の1つ以上の遺伝子を発現するように修飾されてもよい。pgl遺伝子座の遺伝子は、pglG、pglF、pglE、wlaJ、pglD、pglC、pglA、pglB、pglJ、pglI、pglH、pglK、及びgneを含み、脂質結合オリゴ糖(LLO)を合成するために使用され、そしてオリゴサッカリルトランスフェラーゼを介してLLOのオリゴ糖部分をタンパク質に転移させる。
【0029】
遺伝子改変株で発現され得る好適な直交又はヘテロオリゴサッカリルトランスフェラーゼ(OST)は、C.ジェジュニ オリゴサッカリルトランスフェラーゼ PglBを含み得る。C.ジェジュニ OSTの遺伝子は、pglBとも呼ばれ、その配列は配列番号:5として提供され、及びC.ジェジュニPglBのアミノ酸配列は配列番号:6として提供される。PglBは、タンパク質上に存在するD/E-Y-N-X-S/Tモチーフ(Y、X≠P)へのオリゴ糖の転移を触媒する。本明細書中に開示される方法、キット、及びシステムで有用なOST酵素のさらなる非限定的な例としては、これだけに限定されるものではないが、カンピロバクター・コリ(Campylobacter coli) PglB、カンピロバクター・ラリ(Campylobacter lari) PglB、デスルホビブリオ・デスルフリカンス(Desulfovibrio desulfuricans) PglB、デスルホビブリオ・ギガス(Desulfovibrio gigas) PglB、及びデスルホビブリオ・ブルガリス(Desulfovibrio vulgaris) PglBが挙げられる。
【0030】
粗細胞溶解物は、本明細書に開示される修飾株から調製され得る。前記粗細胞溶解物は、本明細書に開示されるような種々の修飾株から調製されてもよく、そして前記粗細胞溶解物は、混合粗細胞溶解物を調製するために組み合わされてもよい。いくつかの実施形態では、1つ以上の粗細胞溶解物は、好ましくは(例えば、ゲノム修飾を有しない株と比較して)比較的高濃度でグリコシル化のための糖前駆体を含む溶解物をもたらすゲノム修飾(例えば、改変不能な遺伝子をレンダリングする遺伝子の欠失)を含む1つ以上の修飾株から調製され得る。いくつかの実施形態において、1つ以上の粗細胞溶解物は、糖タンパク質合成に関連する1つ以上の直交又はヘテロ遺伝子、もしくは遺伝子クラスターを発現するように修飾された1つ以上の修飾株から調製されてもよい。
【0031】
本明細書に開示される方法は、糖鎖付加成分、例えば脂質結合オリゴ糖(LLOs)、グリコシルトランスフェラーゼ(GTs)、オリゴサッカリルトランスフェラーゼ(OSTs)、又は任意のその組み合わせなどが濃縮されている、粗細胞溶解物又は混合粗細胞溶解物を調製するために利用してもよい。いくつかの実施形態において、粗細胞溶解物又は混合粗細胞溶解物は、コア真核生物グリカンを表すMan3GlcNAc2 LLOs及び/又は完全にシアル化されたヒトグリカンを表すMan3GlcNAc4Gal2Neu5Ac2 LLOsで濃縮されている。例として、限定するものではないが、開示される方法、キット、及びシステムにおいて有用であるグリカン構造は、フランシセラ・ツラレンシス(Francisella tularensis)SchuS4 O-ポリサッカライド、大腸菌O78 O-ポリサッカライド、大腸菌O-7 O-ポリサッカライド、大腸菌O-9 O-ポリサッカライドプライマー、カンピロバクター・ジェジュニ ヘプタサッカライドN-グリカン、カンピロバクター・ラリ PglB ヘキササッカライドN-グリカン、改変カンピロバクター・ラリPglB ヘキササッカライド N-グリカン、ウォリネラ・サクシノゲネス(Wolinella succinogenes)ヘキササッカライド N-グリカン、及び真核性Man3GlcNac2 N-グリカン構造を含む。
【0032】
開示される粗細胞溶解物は、様々な糖タンパク質を合成するために無細胞糖タンパク質合成(CFGpS)システムにおいて使用されてもよい。CFGpSシステムにおいて合成される糖タンパク質は、原核生物糖タンパク質及び、ヒトタンパク質を含む真核生物タンパク質を含み得る。CFGpSシステムは、本明細書に開示される粗細胞溶解物又は混合粗細胞溶解物を使用する以下のステップ:(a)標的糖タンパク質の遺伝子の無細胞転写を実施するステップ;(b)無細胞翻訳を実施するステップ;及び(c)無細胞糖鎖付加を実施するステップを実施することにより、糖タンパク質をインビトロで合成するための方法に利用されてもよい。前記方法は、単独の容器又は複数の容器中で実施され得る。好ましくは、合成方法のステップは、単独の反応容器を使用して実施され得る。開示される方法は、原核生物の糖タンパク質および真核生物の糖タンパク質を含む、様々な糖タンパク質を合成するために使用され得る。
【0033】
膜小胞及び増加させた糖タンパク質の濃縮のための無細胞抽出物調整プロトコル
【0034】
開示された主題は、抽出物が糖鎖付加のための成分を含む膜小胞において濃縮される無細胞抽出物を調製するためのプロトコルに関する。開示された抽出物は、糖タンパク質の収率を実質的に増加させるために無細胞糖タンパク質合成反応及びプラットフォームにおいて利用され得る。特に、開示された無細胞抽出物は、糖タンパク質の収率を増加させるために、無細胞反応混合物中で協調転写、翻訳、およびグリコシル化を介した無細胞糖タンパク質合成(CFGpS)反応においてグリコシル化タンパク質を合成するための方法およびプラットフォームにおいて利用され得る。
【0035】
いくつかの実施形態において、開示された方法及びプラットフォームは、無細胞反応混合物中で協調的な転写、翻訳、およびグリコシル化を介した無細胞糖タンパク質合成(CFGpS)反応におけるグリコシル化タンパク質の合成に関し、反応混合物は、原核細胞を溶解して溶解細胞を得ることによって(例えば、原核細胞を超音波処理することによって、および/または原核細胞を均質化することによって)得られた無細胞画分を含み、溶解した細胞を5,000×gを超える力および約30,000×g未満(又は約25,000×g、20,000×g、18,000×g、もしくは15,000×g未満)の力で遠心分離に供して、上清を収集して無細胞画分を得る。そのような方法は典型的には以下の成分を含んで、そのようなプラットフォームは以下の成分を含む。(i)無細胞反応混合物中のタンパク質を転写および翻訳するための成分;及び、(ii)グリコシル化タンパク質を得るために、少なくとも1つの多糖を含む反応混合物中のタンパク質をグリコシル化するための成分。いくつかの実施形態において、溶解細胞は5,000×gを超える力および約18,000×g未満又は約15,000×g未満の力で遠心分離に供される。さらなる実施形態において、溶解細胞は約12,000×gの力で遠心分離に供される。
【0036】
開示された無細胞画分は典型的には、例えば、溶解細胞を約15,000×gを超える力または約18,000×gを超える力で遠心分離に供することによって得られる無細胞画分と比較して、膜小胞中で濃縮される。いくつかの実施形態では、無細胞画分は、少なくとも約4×1012、5×1012、または6×1012、7×1012、または8×1012粒子/mlの濃度で膜小胞を含む。
【0037】
無細胞画分中に存在する膜小胞は、典型的には、1ミクロン未満の平均有効直径を有する。いくつかの実施形態において、膜小胞は、約10 nm、20 nm、30 nm、40 nm、50 nm、60 nm、70 nm、80 nm、90 nm又は100 nm~約150 nm、200 nm、250 nm、300 nm、350 nm、400 nm、450 nm、又は500 nmの平均有効直径を有する。さらなる実施形態において、膜小胞は約50nm~約200nmの平均有効直径を有する。
【0038】
膜小胞は、リン脂質小胞を含んでもよい。いくつかの実施形態では、無細胞抽出物を調製するために利用される原核細胞は、無細胞反応混合物のタンパク質をグリコシル化する膜貫通オリゴサッカリルトランスフェラーゼを発現して、膜小胞は膜貫通オリゴサッカリルトランスフェラーゼ(例えば、細菌性膜貫通オリゴサッカリルトランスフェラーゼ)を含む。膜貫通オリゴサッカリルトランスフェラーゼは、天然型オリゴサッカリルトランスフェラーゼであってもよく、および/または膜貫通型オリゴサッカリルトランスフェラーゼは、外因性オリゴサッカリルトランスフェラーゼであってもよい。いくつかの実施形態では、膜貫通オリゴサッカリルトランスフェラーゼは、PglB、PglO、およびSTT3から選択される。
【0039】
膜小胞は、開示された方法及びプラットフォームにおいて糖タンパク質をグリコシル化するためのオリゴ糖を含み得る。いくつかの実施形態では、膜小胞は脂質結合オリゴ糖(LLO)供与体を含み、タンパク質は、LLO供与体でグリコシル化される。
【0040】
開示された方法及びプラットフォームに適している細胞には、原核細胞が挙げられる。適している原核細胞には、限定されないが、大腸菌が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下の実施例は例示であり、請求される主題の範囲を限定するように解釈されるべきではない。
【0042】
実施例1-無細胞糖タンパク質合成システムにおける糖タンパク質産生増加のための大腸菌CFPS抽出物中の膜小胞の濃縮。
【0043】
要約
【0044】
開示された主題は、新しい機能を工学するためのCFPSシステムを理解することを目的とした、大腸菌無細胞タンパク質合成(CFPS)抽出物における膜結合成分の特性評価に関する。特に、本研究は、タンパク質のグリコシル化に必要な酵素および糖供与体の多くが膜結合しているため、CFPSとタンパク質グリコシル化(すなわち、タンパク質への糖の共有結合)との相互作用に意義を有する。グリコシル化は、タンパク質の構造および機能にとって非常に重要であり、組換えタンパク質生産における重要な考慮事項である。本発明者らは、細胞溶解時に形成され、抽出物処理を経て最終抽出物中に保有される数十~数百ナノメートルオーダーの有効直径を有する脂質小胞を含む無細胞抽出物を調製できることを見出した。本発明者らは、より高濃度の膜小胞を含有する活性抽出物を製造するための方法を開発した。糖タンパク質生産に関して、本発明者らは、膜結合型グリコシル化組織を過剰発現するシャーシ株から調製された抽出物が、目的の活性組織で濃縮された小胞を含むことを示した。驚くべきことに、抽出物処理の最適化により、無細胞糖タンパク質合成(CFGpS)反応における糖タンパク質収率が>60%向上し、抽出物処理時間が大幅に短縮された。これらの結果は、大腸菌抽出物中の複雑さの異なる膜結合タンパク質を濃縮するために広く適用可能であり、特にオンデマンドな無細胞糖タンパク質合成の拡大に大きな影響を与える。
【0045】
用途
【0046】
開示された主題の用途は、非限定的に以下を含む:(i)無細胞抽出物中の膜結合成分を濃縮する用途;(ii)抽出物中の膜タンパク質の活性をスクリーニングする用途;(iii)CFPS産物と相互作用させるために抽出物中の膜タンパク質を濃縮する用途;及び(iv)ワクチン並びに糖タンパク質治療薬のオンデマンドバイオマニュファクチャリングのための収率を向上させる用途。
【0047】
利点
【0048】
開示された主題の利点は、非限定的に以下を含む:(i)CFPS抽出物中に存在する膜小胞を増加させる点;(ii)CFPS抽出物中の膜結合成分の濃度を増加させる点;(iii)抽出処理時間を短縮して、以前に使用された方法よりも簡単な計装で行うことができる点;及び(iv)無細胞グリコシル化システムにおける糖タンパク質収率を増加させる点。
【0049】
技術説明
【0050】
本発明者らは、遠心力g力が、宿主細胞培養物から調製された無細胞抽出物中に存在する膜小胞の濃度に影響を及ぼすことを決定した。開示された主題の1つの態様は、30,000×gの遠心分離を用いて調製された一般的に使用されるS30抽出物の代わりに、12,000×gの遠心分離を用いて調製されたS12抽出物が、抽出物においてより高い濃度の膜小胞を含むという予期せぬ技術革新である。膜小胞中に濃縮されたS12抽出物は、無細胞グリコシル化システムおよび方法における実質的な有用性を有する。本発明者らは、S12抽出物を用いることで無細胞糖鎖付加を60%より大きく増強できることを示した。本発明者らはまた、驚くべきことに、小胞が均質化または超音波処理溶解法のいずれかから調製され得ることを示す。開示された技術は、抽出処理時間を短縮し、以前に使用された方法よりも簡単な計装で行うことができる。
【0051】
参考文献
【0052】
Kwon, YC, Jewett, MC (2015) High-throughput preparation methods of crude extract for robust cell-free protein synthesis. Sci Rep. 5:8663.
【0053】
Foshag D, et al. (2018) The E. coli S30 lysate proteome: A prototype for cell-free protein production. N Biotechnol. doi:10.1016/j.nbt.2017.09.005.
【0054】
Hare JF, Olden K, Kennedy EP (1974) Heterogeneity of Membrane Vesicles from Escherichia coli and their Subfractionation with Antibody to ATPase. Proc Natl Acad Sci U S A 71:4843-4846.
【0055】
Patel L, Schuldiner S, Kaback HR (1975) Reversible effects of chaotropic agents on the proton permeability of Escherichia coli membrane vesicles*
(active transport/membrane potential/ft-galactosides/amino acids/lipophilic cations/carbodiimides)
Available at: https://www.pnas.org/content/pnas/72/9/3387.full.pdf [Accessed October 23, 2019].
【0056】
Jewett MC, Calhoun KA, Voloshin A, Wuu JJ, Swartz JR (2008) An integrated cell-free metabolic platform for protein production and synthetic biology. Mol Syst Biol 4:220.
【0057】
Berrier C, et al. (2011) Coupled cell-free synthesis and lipid vesicle insertion of a functional oligomeric channel MscL. Biochim Biophys Acta - Biomembr 1808(1):41-46.
【0058】
Jewett MC, Swartz JR (2004) Mimicking the Escherichia coli cytoplasmic environment activates long-lived and efficient cell-free protein synthesis. Biotechnol Bioeng 86(1):19-26.
【0059】
Boland C, et al. (2014) Cell-free expression and in meso crystallisation of an integral membrane kinase for structure determination. Cell Mol Life Sci 71(24):4895-4910.
【0060】
Wuu JJ, Swartz JR (2008) High yield cell-free production of integral membrane proteins without refolding or detergents. Biochim Biophys Acta - Biomembr 1778(5):1237-1250.
【0061】
Schoborg JA, et al. (2017) A cell-free platform for rapid synthesis and testing of active oligosaccharyltransferases. Biotechnol Bioeng. doi:10.1002/bit.26502.
【0062】
Jaroentomeechai T, et al. (2018) Single-pot glycoprotein biosynthesis using a cell-free transcription-translation system enriched with glycosylation machinery. doi:10.1038/s41467-018-05110-x.
【0063】
実施例2-天然膜小胞の特性評価と濃縮による無細胞糖タンパク質合成の改善
【0064】
要約
【0065】
粗細胞抽出物からの無細胞遺伝子発現(CFE)システムは、細胞機能の設計、オンデマンドバイオマニュファクチャリング、ポータブル診断、および教育キットの加速のために多くの注目を集めている。CFEシステムにタンパク質グリコシル化などの所望の機能を与えることができる多くの重要な生物学的プロセスは、膜結合成分の活性に依存している。しかしながら、合成膜模倣物を使用しない場合での、細菌CFEシステムにおける膜依存性機能の活性化は、ほとんど研究されていないままである。本明細書では、大腸菌ベースのCFE抽出物における天然の、細胞由来の膜小胞を特徴付け、異種の膜結合機構で小胞を濃縮する方法を説明することによって、このギャップに対処する。本発明者らは、まず、ナノキャラクタリゼーション技術を使用して、CFE抽出物中の脂質小胞が数十~数百ナノメートル幅で、約3×1012粒子/mLオーダーであることを示す。次に、CFEシステムにおける膜小胞の濃度を調節するために、溶解後遠心分離などの抽出物処理方法をどのように使用できるかを決定した。これらの方法を同調することにより、本発明者らは、小胞粒子の数を~7×1012粒子/mLに増加させることが、溶解前に発現される異種膜タンパク質カーゴの濃度を増加させるために使用可能であることを示す。最後に、本発明者は、N-結合型及びO-結合型糖タンパク質合成の改善について、膜結合型オリゴサッカリルトランスフェラーゼおよび脂質結合型オリゴ糖を濃縮するために、本発明の方法を適用する。本発明者らの知見は、膜依存的な活性を必要とするインビトロ遺伝子発現システムを促進し、糖工学における新たな機会を開くと期待している。
【0066】
序論
【0067】
脂質膜は、膜タンパク質をコードする遺伝子の~20-30%、及び膜上並びに膜間で起こる多くの重要な工程と共に、生命のあらゆる領域にわたる生物学的機能において極めて重要な役割を果たしている1,2。例えば、膜は分子輸送、免疫学的防御、エネルギー再生、及び翻訳後タンパク質修飾に必要である。無傷である細胞膜が欠損しているにもかかわらず、生物の粗抽出物は、これらの生体現象のいくつかを再構成することによって、様々なインビトロ研究において有用であることが証明されている。これは、細胞溶解物および抽出物調製中の細胞膜の断片化および再編成時に形成される膜構造の存在のために可能である。真核生物由来の無細胞遺伝子発現(CFE)システムでは、小胞体(ER)由来のミクロソームは機能性を増強し、膜タンパク質、ジスルフィド結合を有するタンパク質の合成、及びタンパク質の糖鎖付加を可能にする3-7。真核生物ERマイクロソームは、ミクロンスケールのサイズのために蛍光顕微鏡による品質管理で日常的に特徴付けられており、ミクロソームを活用する多様なシステムの開発を可能にしている8-10。同様に、大腸菌由来のCFEシステムでは、電子伝達系機構を保有する逆膜小胞が酸化的リン酸化及びATP再生を活性化する11,12。典型的な大腸菌抽出物中の小胞は、生化学的方法、スクロース分画、およびリン脂質定量を用いて分析されてきたが、無傷であり、細胞由来の小胞をカウントする、及び特徴付けるための方法の使用はまだ追求されていない13-15。これは、部分的には、大腸菌抽出物中の小胞がナノスケールであるため、特性評価のために蛍光顕微鏡よりも高い分解能技術を必要とするという事実によるものである。ナノディスク、合成リン脂質構造、精製ミクロソーム、精製小胞などの外因性膜はCFEシステムにいて膜生物学を使用可能にしてきたが16-21、宿主由来の天然膜を使用することには処理を簡素化し、魅力的な代替手段である。したがって、天然小胞を分析するための特性評価ワークフローは、大腸菌ベースのCFEにおける膜結合生物学の応用を可能にするための基礎ステップである。
【0068】
技術復興により、CFEシステムは分子生物学技術から、大腸菌システムを最前線に置いた、広く適用可能な生物生産およびプロトタイピングプラットフォームに最近変容した4,22-27。抽出物調製および反応条件の最適化に特化した一連の作業は、大腸菌CFEシステムのコストと性能を簡素化、迅速化、及び改善した22,28-30。最適化された大腸菌ベースのCFE反応は:(i)バッチ反応で1リットルあたりグラムのタンパク質を迅速に合成し31-33、(ii)nLから100Lスケール34,35まで拡張可能であって、(iii)数ヶ月間の貯蔵安定性およびポイントオブケアへの分配のために凍結乾燥することができる6,22,29,36-41。凍結乾燥CFEシステムは、バイオテクノロジーに破壊的な影響を与える態勢を整えており、すでにPOSオブユースバイオセンシング42-47、治療およびワクチン生産38,39,48、並びに教育キット22,49-51に活用されている。
【0069】
ますます多くの文脈において、CFE抽出物は、細胞溶解の前にインビボで可溶性の異種成分を予め濃縮し、精製の必要性を回避することによって、新しい用途に適合させてきた。例としては、タンパク質への部位特異的非正規アミノ酸の組み込み32,52,53、検体のバイオセンシング46,54,55、および貴重な小分子を生産するための代謝経路の組み立て26,56-58が含まれる。しかし、CFEシステムを強化するための膜組み込み成分の設計は、ほとんど研究されていないままである。CFEシステムにおいて膜結合成分を濃縮させることにより、魅力的な用途が可能となる。例えば、膜結合成分によって媒介されるタンパク質糖鎖付加は、タンパク質治療薬及びコンジュゲートワクチンの無細胞バイオマニュファクチャリングにおける重要な考慮事項である。本研究者らは最近、異種の膜結合型糖鎖付加機構で濃縮された抽出物における、定義された糖タンパク質のワンポットバイオマニュファクチャリングのためのプラットフォームである、無細胞糖タンパク質合成(CFGpS)について記述した48。今日まで、CFGpSは、モデル糖タンパク質、ヒト糖タンパク質、およびコンジュゲートワクチンを製造するために使用されてきた39,48,59-61。重要なことに、CFGpS反応は、貯蔵安定性のために凍結乾燥し、効果的なワクチンを作るためにポイントオブケア試験で再水和することができる39。CFGpS活性は膜結合型糖鎖付加成分に依存しているため、抽出物中の膜結合成分を特徴付けて品質管理する方法は、技術を前進させる上で最重要である。
【0070】
本発明において、本発明者らは、抽出物中の天然膜小胞のサイズ分布及び濃度を特徴付け、CFEシステムの分析及び工学のためのベンチマークを提供する。本発明者らは、上流の抽出物処理ステップが小胞プロファイルに及ぼす影響を調査し、抽出物中の小胞濃度を調節するための簡単な取り扱いを明らかにした。本研究者らは、合成由来の膜を使用せずに天然の膜小胞を使用して、抽出物における様々な、異種の膜結合タンパク質及び基質を濃縮する。最後に、本研究の知見を、既存のアスパラギン結合(N-結合)CFGpSシステム、及びセリン/トレオニン結合(O-結合)グリコシル化に基づく新しい膜依存性CFGpSシステムにおける糖タンパク質収率の改善に適用した。本研究の意義は糖鎖付加を超えて拡張され、膜関連活性を持つ新しいCFEシステムの工学に適用可能である。
【0071】
結果
【0072】
本研究において、本発明者らは、細胞溶解中の細胞膜の断片化時に形成される大腸菌ベースのCFE系における膜小胞を特徴付けることを目的とした。次に本発明者らは、この知見を使用して、定義された機能を強化するための膜結合成分の濃縮を制御したいと考えた。これらの目的を達成するために、本研究者らは、(i)大腸菌抽出物中の膜小胞の大きさおよび量を決定するためのナノキャラクタリゼーション技術の使用;(ii)抽出物処理が抽出物中の小胞の濃縮をどのように制御できるかの決定;(iii)小胞を介した抽出物中のいくつかの異種の膜結合成分の濃縮;(iv)膜結合成分の濃縮が、N-結合型およびO-結合型グリコシル化のための無細胞糖タンパク質合成系を改善することの実証を行った。
【0073】
CFE抽出物における膜小胞の特性評価。初めに、本研究者らは、いくつかのナノキャラクタリゼーション技術を使用して小胞の大きさを分析し、CFE抽出物中のこれらの粒子を視覚化した。粗抽出物の動的光散乱(DLS)分析により、2つの主要なピークが明らかになった:~20nmに強度極大を有する1つの狭いピーク、および~100-200nmでの広いピーク(
図1A)。20nmのピークは、20nmの大腸菌リボソーム
62の集合を含む、小さな細胞由来粒子を表しており、本発明の抽出物において活性であることを確認した(
図5)。本発明者らは、~100-200nmのピークで測定された粒子が小胞であるという仮説を立てた。抽出液中に検出された粒子の説明図を
図1Bに示す。リボソーム及びその他の細胞粒子を含まない膜小胞を直接分析するために、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
63-65を介して膜状粒子を同定、及び精製した(
図6A)。精製膜小胞のDLS分析により、粗抽出物のDLSトレースから提示された小胞ピークと直接重なる強度粒度分布(PSD)が明らかになった(
図1A)。ナノ粒子追跡分析(NTA)は、溶液中のナノ粒子をサイジングおよび定量するための直交法であり、DLSで測定されたサイズ範囲を裏付ける118.5±0.7nmの平均精製小胞直径を明らかにした(
図6B)。精製小胞のゼータ電位は-14.5±-1.0mVであり、リン脂質小胞と一致する負の粒子表面電荷を示した(
図6C)。抽出物のクライオ電子顕微鏡(クライオEM)は、小さな(20nm以下)粒子、及び他のより大きな、小胞形態と一致する円形粒子を示した(
図1C)。抽出物のクライオEM顕微鏡写真は、サイズが~40nmと~150nmの間である小胞を明らかにし、そして形態はSEC精製前及び精製後に一貫していた(
図1C-1D)。測定値を比較すると、バルクの溶液内測定であるDLSが小胞の直径を過大評価していることが明らかになった。しかしながらDLSは、小胞よりも小さく、NTAの検出のサイズ限界を下回る粒子<50nm(リボソームを含む)を検出できるため、粗抽出物粒子プロファイルを迅速に特徴付けるための有用なツールである。これらの結果は、粗抽出物の粒子プロファイルを示し、小胞が多分散であり、直径数十~数百nm程度であり、リボソーム及び他の小さな複合体と比較して濃度が比較的低いことを明らかにした。
【0074】
抽出物処理は、小胞のサイズ分布および濃度に影響を及ぼす。抽出物中の膜小胞を制御する方法を理解するために、本発明者らは次に、抽出物を処理するプロトコルが小胞特性にどのように影響するか検討した。具体的には、細胞膜は溶解中に破裂して、遠心分離により粒子分離が決定されるため、細胞溶解及び抽出物の遠心分離を検討した。本発明者らは、標準的な超音波処理(細胞懸濁液の体積当たりの一定の入力エネルギー)または均質化プロトコル(~20,000psig)
28,48を使用して細胞を溶解し、次いで溶解物を従来の30,000×g遠心分離プロトコル(「S30プレップ」と呼ばれる)、又は最大遠心分離速度が12,000×g(「S12プレップ」と呼ばれる)である、より低いg力のプロトコル(
図2A)
28,29に供した。溶解および遠心分離プロトコルのこれらの組み合わせは、4つの異なる抽出条件をもたらし、そのすべてが標準的なCFE反応条件下でのタンパク質合成に活性であった(
図7A)。標準的な均質化及びS30プレップとの組み合わせは、前述のワンポット無細胞糖タンパク質合成プラットフォームで使用される抽出物がこれらの条件で調製されたため、本発明者らの規範ケースを表し、
図1で使用した抽出物も同様である。
【0075】
試験した条件のうち、遠心分離プロトコルは、小胞濃度に最も影響を与えた。本発明者らは、両方の溶解方法についてS12抽出物において有意に高い数の小胞を観察した。具体的には、超音波処理および均質化されたS12抽出物における小胞の1.2倍および2.0倍の濃縮をそれぞれ観察した(
図2B)。均質化されたS12抽出物は、6.5±0.8x10
12粒子/mLを有する最高濃度の小胞を含み(規範ケースの3.4±0.5x10
12粒子と比較して)、小胞を濃縮するための最も有望な条件となっている。
【0076】
遠心分離が小胞濃度に影響を与えたのに対し、溶解方法は小胞の大きさに影響を与えた。超音波処理された抽出物は、遠心分離プロトコルに関係なく、均質化された抽出物よりも小さく、より狭いサイズ分布の小胞を含んでいた。溶解法が小胞サイズに影響を与えるという本発明の観察は、リン脂質(または一般に両親媒性物質)を分散させるための様々な実験パラメータが小胞サイズに影響を与えることを示す研究と一致している
66。超音波処理された抽出物のPSDは~130nmの平均粒径を有し、~110nmで単一の極大に達した。均質化された抽出物は~160nmのより高い平均粒径を有し、~120nmに明確なピークを示し、~150nmに多数のショルダーピークを示した(
図2C~2D、
図8A)。均質化されたPSDは、複数の離散的な小胞集団の存在を示し得る(
図2C~2D)。DLS測定は、超音波処理された抽出物が均質化された抽出物よりも比較的小さく、少ない多分散小胞を含むという観察を確認した(
図8B~8C)。特に、抽出物中の直接小胞分析により、以前はアクセスできなかった方法で抽出物処理の影響を測定することができ、抽出物における無傷の小胞濃度のベンチマークを提供することが可能になった。
【0077】
異種膜結合カーゴは、膜小胞を介して制御可能に濃縮され得る。天然小胞の特性と濃度をよりよく理解するために、本研究者らは、大腸菌のペリプラズム膜に由来する異種カーゴを含む小胞で抽出物を濃縮することを目的とした。S12抽出物はS30抽出物よりも高濃度の小胞を含むため、本発明者らは、S12抽出物はまた、より高い濃度の関連する異種カーゴを含むであろうと仮定した。S12とS30のプレップ間の小胞濃度の最も高いダイナミックレンジは均質化で観察されたため、濃縮実験のために均質化を進めた(
図2B)。本発明者らは、濃縮を試験するために、様々な大きさ、膜貫通トポロジー、生物学的機能、および分類学的起源の6つの膜結合タンパク質を過剰発現させた:PglB、Campylobacter jejuni、UnitProt ID Q5HTX9;PglO、Neisseria gonorrhoeae、UniProt ID Q5FA54;NarX Escherichia coli、UniProt ID P0AFA2;プロテオロドプシン、Uncultured marine gamma proteobacterium EBAC3108、UniProt ID Q9F7P4;カンナビノイド受容体1(CB1)、Homo sapiens、UniProt ID P21554;及びSTT3D、Leishmania major、UniProt ID E9AET9。濃縮のために選択されたタンパク質は、糖鎖付加酵素(PglB、PglO、STT3)及びシグナル伝達/センシングタンパク質(NarX、PR、CB1)を含む、CFEにおける新しい機能を可能にする可能性のあるタンパク質のクラスを包含する。C末端FLAGタグを用いて生体内で各膜蛋白質を発現させて、S30及びS12抽出物を調製し、次いで、定量的ウエスタンブロッティングを用いて過剰発現した膜蛋白質の濃度を分析した。S12割るS30(S12/S30)抽出物において、PR以外のすべてのタンパク質について2倍の膜タンパク質濃縮が観察され、PRについて4倍の濃縮が観察された(
図3A-3B)。コントロールとして、膜貫通ヘリックスのないsfGFPをインビボで発現させた場合、有意なS12/S30濃縮は観察されなかった(
図3C)。
図3A-3Cのブロット全図を
図9に示す。特に、ブロッティングによって得られた濃縮値は、過剰発現のない均質化されたS12及びS30抽出物においてNTAを介して観察された2倍の小胞濃縮と密接に一致する(
図2B)。予め濃縮された膜タンパク質を有する全ての抽出物は、タンパク質合成活性を示した(
図7B)。
【0078】
次に本発明者らは、糖鎖付加の主要な酵素であるPglB及びPglOが、溶液中での遊離とは対照的に、膜小胞と結合することを確認した(
図3D)。予め濃縮されたPglBまたはPglOを含む抽出物を緑色蛍光α-FLAG抗体でプローブし、次いでSECを介して分析した蛍光クロマトグラムを
図3Dに示し、特徴的な小胞溶出画分を灰色で強調表示した(
図6A)。特徴的な小胞溶出ピークは、PglB又はPglOを含む抽出物では緑色蛍光に対応し、過剰発現膜タンパク質を含まない抽出物では対応するピークは観察されなかった(
図3D)。本発明の結果は、異種の、ペリプラズム膜カーゴが抽出物で予め濃縮され、小胞を介して調整され得ることを示す。
【0079】
小胞濃度の増加により、N-およびO-結合型糖鎖付加システムのための無細胞糖タンパク質合成(CFGpS)が改善される。 次に出願における、異種カーゴを保有する小胞を濃縮するための本発明の能力を活用することに着手した。糖鎖付加は細胞機能、人間の健康、バイオテクノロジーにおいて重要な役割を果たしているため、タンパク質の糖鎖付加に注目した。
モデルとして、本発明者らは、より高濃度の膜結合型糖鎖付加機構を含むS12抽出物との反応を備えることによって、以前に報告されたCFGpSプラットフォーム
48において糖タンパク質収率を増加させることを試みた。本発明者らは、糖鎖付加を触媒する膜結合型オリゴサッカリルトランスフェラーゼ(OST)PglBと、非デカプレニルピロリン酸結合供与体からのGalNAc-α1,4-GalNAc-α1,4-(Glcβ1,3)-GalNAc-α1,4-GalNAc-α1,3-Bac(ここで、Bacは2,4-ジアセトアミド-2,4,6-トリデオキシグルコピラノース)の形態の脂質結合型オリゴ糖鎖(LLO)供与体からなるC.ジェジュニ由来のモデルN-結合型グリコシル化経路を過剰発現する株からS30およびS12抽出物を調製した。NTA及びCFGpS抽出物のウエスタンブロット分析により、小胞の2.5倍のS12/S30濃縮、及び対応するPglBの2倍のS12/S30濃縮が明らかになった(
図10)。蛍光染色及びSEC分析により、小胞におけるLLOおよびPglBの存在が確認された(
図11A)。
【0080】
無細胞糖タンパク質合成に対する濃縮小胞の影響を評価するために、本発明者らは、2つの相で反応を行った(
図4A、挿入図)
39。まず、受容体タンパク質の無細胞タンパク質合成(CFPS)を、「CFPS時間」と呼ばれる規定の時間にわたって実行した。CFPS時に、反応はMnCl
2でスパイクされ、CFPSを抑制してOSTにそのMn
2+補因子を提供することにより糖鎖付加を開始した。S30またはS12抽出物を備えるCFGpS反応を、Hisタグ付きsfGFP
DQNAT受容体タンパク質(DQNATは許容可能なPglBシークオンである)を用いて、CFPSを2、10、20、30、および60分間実行した。エンドポイント糖タンパク質収率は、ウエスタンブロッティングによって決定された総アクセプタータンパク質の蛍光及び糖鎖付加%を用いて定量した(
図4A、
図12A~12D)。本発明者は、CFPS時間が長いほど、S12抽出物がS30抽出物よりも有意に多くの糖タンパク質を産生することを観察した。S30及びS12反応の総受容体タンパク質濃度はCFPS時間ごとに類似していたため(
図12E)、S12抽出物中の糖タンパク質収率の増加は、より高い糖鎖付加活性によるものであり、より高いCFE収率によるものではない。具体的には、20分、30分、および60分のCFPS時間で、S12反応における糖タンパク質収率のそれぞれ66%、85%、および90%の増加を観察した。60分間のCFPS時間で、S12反応物はバッチで117.2±9.9μg/mL得られ、数百μg/mLオーダーの糖タンパク質価を本発明の知見で初めて合成した。(
図4A)。S12反応はまた、有意に高い末端糖鎖付加%、又は16時間の糖鎖付加反応の終わりにグリコシル化されるCFPS由来受容体タンパク質%を有していた。これは、実験したすべてのCFPS時間で当てはまった(
図12F)。例えば、20分間のCFPS時間での反応では、S30反応での51%糖鎖付加からS12反応での82%糖鎖付加への増加が観察された(
図4B)。α-His(グリコシル化および非グリコシル化受容体タンパク質を示す)及びα-グリカン(C.ジェジュニのグリカンに対する)の代表的な反応物のウエスタンブロットを
図4Cに示す。
【0081】
無細胞系で多様な糖タンパク質を合成することに長期的な関心を持ち、本発明者らは次に、広いグリカン特異性を有することが知られているO-結合型グリコシル化系をCFGpSプラットフォームに移した
61,68,69。本発明者らは、C.ジェジュニ ヘプタサッカライドLLOを供与体として受け入れるが、アクセプター配列嗜好性においてPglBとは異なる、淋菌由来のO-OST PglOを選択した
70。
図4B及び
図4Dの挿入図は、それぞれPglBおよびPglOのシークオンを示す。PglOについては、最近決定された8アミノ酸の最小最適O-結合認識部位(「MOOR」と呼ばれる)
70を含むsfGFP融合受容体タンパク質を使用した。小胞におけるPglOおよびLLOの残基特異的O-結合型糖鎖付加及び濃縮を確認した(
図13、
図11B)。PglB媒介型CFGpSと同様に、本発明者らは、S12抽出物を備えた反応においてエンドポイント糖タンパク質収率および糖鎖付加%の増加を観察した。具体的には、20分間のCFPS時間での反応は、S30抽出物を含むものと比較して、S12抽出物との反応において、糖タンパク質収率の68%の増加及び27%から40%への糖鎖付加の増加をもたらした(
図4D、
図14)。対応するブロット図を
図4Eおよび
図14A~14Bに示す。まとめると、これらの結果は、S12抽出物における糖鎖付加の改善がN-結合型グリコシル化系からO-結合型グリコシル化系に翻訳されることを示している。
【0082】
考察
【0083】
本研究において、本発明者らは、CFE抽出物中のタンパク質濃縮小胞を、機能拡張および増強のためにベンチマークし、理解し、及び品質管理することに着手した。本発明者らは、上流での抽出物処理がペリプラズムからの小胞および関連するカーゴの濃度を調整するために使用することができることを示した。そして、この知見を無細胞糖タンパク質合成の改善に応用した。本発明の結果にはいくつかの重要な特徴がある。
【0084】
まず、本発明で使用したナノ特性評価手段により、CFE抽出物中の無傷の小胞数と大きさを定量化することができた。この知見は、無細胞系における関連するタンパク質カーゴからの小胞濃度および機能性を高めるための設計規則を知らせるために重要である。特に、NTA測定値(~0.3m2膜/mL抽出物)から計算された有効小胞表面積は、類似の抽出物中のリン脂質濃度から計算された値と一致している15。
【0085】
第二に、本発明の結果は、大腸菌ベースのCFEシステムの分野全体の観察及び制限についての洞察を提供する。たとえば、溶解プロトコルがCFEの生産性に大きな影響を与える可能性があることは十分に文書化されている71。我々の発見は、溶解方法がこの工程中に生成される小胞のサイズ分布に影響を与え、酸化的リン酸化およびATP再生に必要な組織の膜環境に影響を与えることを示している。小胞はCFEにおける酸化的リン酸化による費用対効果の高いエネルギー代謝を活性化するために重要であるため、日常的な小胞特性評価は重要な品質管理チェックとなり、研究室内および研究室間での再現性の向上につながる可能性がある72。本発明の結果はまた、大腸菌CFEシステムに小胞が存在するにもかかわらず、CFE由来の膜タンパク質が、追加の小胞補充なしに天然小胞への挿入によって合成できない理由についての洞察も提供する12,19,21。CFE反応における~6nMの無傷である小胞(NTA測定から推定)では、小胞の濃度は、当社のCFE抽出物で産生される典型的なタンパク質価(約30μM以上のレポータータンパク質)よりも桁違いに低い。
【0086】
第三に、本発明の研究は、濃縮された膜結合成分に依存する工学システムへの扉を開く。本発明者らは、ペリプラズム内でインビボで発現される膜結合タンパク質および脂質結合オリゴ糖が小胞内で濃縮され得ることを示し、小胞の集団がペリプラズム膜に由来することを示す73,74。典型的なS30抽出物中の外膜タンパク質と内膜タンパク質の両方のプロテオーム同定、及び大腸菌抽出物中のエンドトキシンの存在75に基づいて、本研究者らは、小胞の複数の配向および組成(例えば、内/裏返し及び内/外膜)が存在する可能性があると仮定する。これらの詳細を解析するには、将来的な特性評価が必要になる。さらに、本発明のワークフローは、小胞の生物物理学的特徴を調整し、組換え酵素活性をさらに向上させるために、溶解バッファーに添加され得る、膜特性(例えば、組成、サイズ、流動性、曲率)を変更(change)又は変更(alter)する添加剤と容易にインターフェースする19。また、ここでは大腸菌ベースのシステムに完全に焦点を当てているが、報告された特性評価方法は、原則として、糖鎖付加を行い、新生膜タンパク質を組み込み、そして他の膜依存性機能を実行するために、ER由来ミクロソームに依存する昆虫及びCHOベースのCFEシステムをさらに最適化するために拡張され得る。
【0087】
今後、本発明の研究は、糖タンパク質のような膜依存的修飾を必要とするタンパク質を製造する試みを加速させると期待する。例えば、記載されているアプローチは、>100μg/mLのN-結合型糖タンパク質合成収率を可能にし、資源が限られている環境でのオンデマンドワクチン生産のアクセシビリティを向上させる。さらに、S12プレップは、高速遠心分離機を必要とせず、規範事例よりも時間的負荷が低く、CFGpSプラットフォームを簡素化する。まとめると、本発明の結果は、システム機能を拡張し、さまざまな合成生物学用途を可能にするために膜結合活性を必要とする効率的でアクセス可能なCFEシステムへの道を開く。
【0088】
方法
【0089】
抽出物調製。すべての抽出に使用されたシャーシ株はCLM2448であった。供給源株を、1Lの2×YTPG培地中で撹拌しながら37°Cで増殖させた。細胞をOD 3まで増殖させ、遠心分離(5000×g、4°C、15分間)により回収した。インビボでのタンパク質の過剰発現のために、CLM24供給源株を適切な抗生物質と共に2×YTPG中で37°Cで増殖させた。細胞をOD 0.6~0.8で0.02%(w/v%)L-アラビノースで誘導し、30°Cに変更し、OD 3で回収した。その後の全ての工程は、特に断りのない限り4°C及び氷上で行った。ペレット化された細胞をS30バッファー(10 mM 酢酸トリス pH 8.2、14 mM 酢酸マグネシウム、60 mM 酢酸カリウム)で3回洗浄した。最後の洗浄後、細胞を7000×gで10分間ペレット化し、瞬間冷凍して、-80°Cで保存した。増殖および回収後、細胞を解凍して、湿細胞塊1グラム当たり1mLのS30緩衝液に均質になるまで再懸濁した。均質化のために、細胞を単一パスでAvestin EmulsiFlex-B15 high-pressure homogenizer (Avestin, Inc. Ottawa, ON, Canada)を用いて20,000~25,000 psigで破砕した。超音波処理の場合、入力エネルギーは、前述のように実験的相関関係を用いて計算した28。細胞は、20kHzの周波数及び振幅の50%で3.175ミリメートル直径プローブとQ125 Sonicator (Qsonica, Newtown, CT)を使用して氷上で超音波処理した。エネルギーは、45秒のパルスで細胞に送達された後、目標のエネルギーが送達されるまで59秒オフにした。細胞を溶解して、3連で浄化した。S30プレップのために、溶解した細胞を30,000×gで30分間2回遠心分離した;上清はスピン毎に新しいチューブに移した。上清を流出反応のために250rpmで振とうしながら37°Cで60分間インキュベートした。流出後、溶解物を15,000×gで15分間遠心分離した。上清を回収し、分取し、瞬間冷凍し、さらなる使用のために-80°Cで保存した。S12プレップのために、溶解された細胞を一度12,000×gで10分間遠心分離した。上清を回収し、上述の流出反応を行った。流出後、溶解物を10,000×gで4°Cで10分間遠心分離した。上清を回収し、分取し、液体窒素中で瞬間冷凍し、-80°Cで保存した。
【0090】
動的光散乱(DLS)及びナノ粒子追跡分析(NTA)測定。DLS測定は、使い捨てキュベット(Malvern Instruments Ltd., UK ZEN0040)中で測定角度173°のZetasizer Nano ZS (Malvern Instruments Ltd., UK)で行った。すべての測定値は、測定ごとに13回のスキャンで3連で収集された。屈折率および粘度は、機器のパラメータライブラリから取得した。
装置の「汎用」設定は、強度と数の粒子サイズ分布を計算するために使用された。粗抽出物のDLSについて、抽出物を分析前に0.1μm濾過PBSで1:10に希釈した。精製された小胞サンプルについて、溶出液は希釈せずに直接分析した。
【0091】
NTA測定は、642nm赤色レーザー(Malvern Instruments Ltd., UK)を用いてNanosight NS300で行った。サンプルは、希釈係数と測定濃度の間の線形傾向が見つかるまで、滅菌PBSにおいてメーカーが推奨する粒子濃度に希釈された。サンプルをセルに流し込んで、機器はメーカーの推奨事項に従って焦点を合わせた。測定値は、室温で収集し、1mLシリンジ及び注入速度30(任意単位)のシリンジポンプを使用した。各サンプルのデータは、連続流動条件下で、5つの独立した1分間の映像で収集された。平均粒子直径および粒子濃度は、各ランのNanosight実験レポートの集合から得られ、3連の平均を取り、希釈係数について補正された。
【0092】
透過型電子顕微鏡。クライオTEM測定のために、レース状の炭素膜(EMS Cat. # LC200-CU)を備えた200メッシュのCuグリッドをPelco easiGlow glow discharger (Ted Pella Inc., Redding, CA, USA)に入れ、0.24mbarの圧力で15mAの電流で30秒間、グリッドの表面に大気プラズマを導入した。この処理は炭素膜上に負電荷を作り出し、水性液体サンプルがグリッド上に均等に広がることを可能にする。4μLのサンプルをグリッド上にピペットで移し、ブロットオフセット+0.5mmで5秒間ブロットした後、FEI Vitrobot Mark III plunge freezing instrument(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)内の液体エタンに即座に浸漬した。次いで、グリッドを液体窒素に移して保管した。浸漬-凍結グリッドは、120keVのJEOL JEM1230 LaB6 emission TEM (JEOL USA, Inc., Peabody, MA,)で表示しながら、Gatan Cryo Transfer Holder model 626.6 (Gatan Inc., Pleasanton, CA, USA)において-172°Cでガラス質に保った。画像データは、Gatan Orius SC1000 CCD camera Model 831 (Gatan Inc., Pleasanton, CA, USA)によって収集された。画像解析はImage Jを用いて行った。
【0093】
ウエスタンブロッティング及び密度測定分析。SDS-PAGEは、MOPS-SDSバッファー(Thermo Fisher Scientific, USA)と共にNuPAGE 4-12%ビス-トリスプロテインゲルを用いて実施した。電気泳動後、タンパク質を製造業者のプロトコルに従って、ゲルからImmobilon-P polyvinylidene difluoride 0.45 μm membranes (Millipore, USA)に転写した。膜は、OdysseyまたはIntercept blocking buffer (LI-COR, USA)のいずれかでブロックされた。膜タンパク質のα-FLAGブロットを、α-FLAG抗体(Abcam2493)を一次抗体として用いてプローブした。α-Hisブロットは、6×His抗体(Abcam,ab1187)を主としてプローブした。α-グリカンブロットについては、天然のC.ジェジュニグリカンに結合するウサギ由来のhR6血清を一次プローブ
20として用いた。蛍光ヤギα-ウサギIgG IRDye 680RD(LI-COR, USA)をすべてのブロットの二次抗体として使用した。ブロットは、LI-COR Odyssey Fc (LI-COR Biosciences, USA)を用いて画像化した。密度測定は、事前にバンド強度を測定するためにImage Studio Liteソフトウェアを使用して行われた。蛍光バックグラウンドは、バンド強度を決定する前にブロットから差し引いた。膜タンパク質濃縮(S12/S30)を決定するために、3つの独立したS12抽出レプリケート及び3つの独立したS30レプリケートの膜タンパク質のバンド強度を各タンパク質について測定した。三つの比(S12/S30)の四捨五入した平均値及びそれに関連する誤差は、
図3に濃縮として報告されている。CFGpS反応から糖タンパク質収率を決定するために、グリコシル化及び非グリコシル化バンドのバンド強度を、独立した三連の反応から得た。グリコシル化タンパク質の画分及び関連する標準偏差を、バンド強度を介して計算した。糖タンパク質の収率を得るために、糖鎖付加した平均画分に、後述するsfGFP蛍光から計算される平均総タンパク質収率を乗じた。
【0094】
小胞の脂質色素染色および蛍光免疫染色。免疫染色及びSECに使用したすべての試薬は、0.1μmフィルター(Millex-VV Syringe Filter、Merck Millipore Ltd.又はRapid-Flow Filter、Nalgene)で滅菌ろ過した。小胞溶出画分を決定するために、抽出物を、水溶液中での蛍光が低く、膜への取り込み時に明るい蛍光になる親油性スチレン色素であるFM 4-64脂質色素(Life Technologies)でプローブした。FM-464色素は大腸菌の内膜を優先的に染色するが、外膜を染色するためにも使用される76,77。FM4-64脂質色素を100%DMSO中10mg/mLのストック溶液に調製し、使用前にヌクレアーゼフリーの水で1,000倍に希釈した。80μL の抽出物、10μLの10×PBS、及び10μLのFM4-64 を最終濃度1ng 色素/μLまで混合した。サンプルを、SECの前に37°Cで10分間、暗所において色素と共にインキュベートした。小胞中の糖鎖付加成分の存在を検証するため、C. ジェジュニ LLO67に特異的に結合するタンパク質複合体である赤色蛍光大豆アグルチニン(SBA)レクチンを用いたLLOと、上記の直交する緑色蛍光α-FLAG抗体を用いたPglBについて調べた。α-FLAG免疫染色およびSBA染色のために、90 μLの抽出物および10 μLの10×PBSを、2 μLのα-FLAG-DyLight 488(Invitrogen, MA191878D488)及び4μLのSBA-AlexaFluorTM 594 (Invitrogen, 32462)と混合した。抗体及びSBAを、SECの前に4°Cで一晩撹拌しながら暗所で抽出物と共にインキュベートした。
【0095】
小胞のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)。100μLの抽出混合物(脂質色素又は抗体で染色)をPBSと共にサイズ排除クロマトグラフィーカラムに流した。溶出画分を、Gilson FC 204 Fraction Collector (Gilson, Inc., USA)を用いて0.4分/ウェルの速度でclear polystyrene 96-well plate (Costar 3370, Corning Inc., USA)に回収した。
Poly-Prep chromatography columns (Bio-Rad, USA)にビーズ径45~165μmのセファロース4B樹脂8mL(Sigma Aldrich, USA)を充填し、使用前に滅菌PBSで3回洗浄した。溶出蛍光は、Synergy H1 microplate reader (Biotek, USA)を用いて測定した。SBA-AlexaFluorTM 594の励起波長および発光波長は、それぞれ590及び617nmであった。α-FLAG-DyLight 488の励起波長と発光波長は、それぞれ493及び528nmであった。FM 4-64脂質色素で染色された小胞を用いて、特徴的な小胞溶出画分を決定した。FM 4-64でプローブした基準サンプルを用いて、各実験において特徴的な小胞溶出画分を決定した。プロットの場合、各曲線をバックグラウンド減算し、それぞれの蛍光溶出プロファイルごとに測定された最も高いRFUに対して標準化した。
【0096】
CFE反応。タンパク質合成は、三連の反応における修飾PANOx-SPシステムを用いて、独立に調製された抽出物71を含む各反応で実施された。具体的には、1.5mL遠心チューブ(Axygen, MCT-150-C)に、200ng pJL1-sfGFPプラスミド、30%(v/v%)抽出物及び以下を含む15 μL反応物を充填した。6mMグルタミン酸マグネシウム(シグマ、49605)、10mMグルタミン酸アンモニウム(MP、02180595)、130 mMグルタミン酸カリウム(シグマ、G1501)、1.2 mM アデノシン三リン酸 (シグマ、A2383)、0.85 mM グアノシン 三リン酸 (シグマ、G8877)、0.85 mM ウリジン 3リン酸 (シグマ、U6625)、0.85 mM シチジン 三リン酸 (シグマ、C1506)、0.034 mg/mL フォリン酸、0.171 mg/mL 大腸菌 tRNA (ロシュ10108294001)、各 20 mM 20 mM ホスホエノールピルビン酸 (PEP、ロシュ10108294001)、0.4 mM ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(シグマ N8535-15VL)、0.27 mM コエンザイム-A (シグマ C3144)、4 mM シュウ酸 (シグマ、PO963)、1 mM プトレシン (シグマ、P5780)、1.5 mM スペルミジン (シグマ、S2626)、および 57 mM HEPES (シグマ、H3375)。抽出液CFE生産性を測定するために、30°Cで20時間反応を行った。
【0097】
GFP蛍光アッセイ。 無細胞由来sfGFPの活性を、前述のように抽出物中蛍光分析を用いて決定した48。簡単に説明すると、2 μLの無細胞反応生成物を48 μLのアンビオンナノ純水(Invitrogen, USA)に希釈した。次いで、この溶液を、Costar 96-well black assay plate (Corning, USA)に入れた。蛍光は、Synergy H1 microplate reader (Biotek, USA)を用いて測定した。sfGFP蛍光の励起波長および発光波長は、それぞれ485及び528nmであった。
【0098】
無細胞糖タンパク質合成(CFGpS)反応。糖タンパク質の粗抽出物ベースの発現について、以前に記載されたように二段階スキームを実施した48。本研究では、50ngの鋳型DNAを用いたPCRストリップチューブ(Thermo Scientific AB-2000)中で、上記のようにタンパク質合成を15μLで行った。反応物に、sfGFP受容体タンパク質上の許容または非許容シークオンをコードするプラスミドを補充した。pJL1-sfGFP-DQNAT-His(許容)及びpJL1-sfGFP-AQNAT-His(非許容)をPglB媒介性グリコシル化に使用した。pJL1-sfGFP-MOOR-His(許容)及びpJL1-sfGFP-MOORmut-His(非許容)をPglO媒介グリコシル化に使用した。反応は氷上において3連で設定され、各反応は独立に調製された抽出物を含む。CFPS時間は、MnCl2で反応がスパイクした時点を、反応物を30°Cに移した時点として測定した。第二段階において、タンパク質グリコシル化は、終濃度25mMのMnCl2の添加によって開始された。MnCl2(Sigma 63535)に加えて、0.1%(w/v%)DDM(Anatrace, D310S)又は100mMスクロースのいずれかを、それぞれPglBまたはPglO反応に補充した。グリコシル化は30°Cで16時間進行した。糖鎖付加の後、GFP蛍光は受容体タンパク質合成の総量を定量するために用いられ、そしてウエスタンブロットはグリコシル化及び非グリコシル化タンパク質画分を計算するために用いられた。
【0099】
小胞膜面積の推定。以下の式を用いて小胞の表面積(m
2/mL)を計算した。ここで、R
aveは平均小胞半径(m)、CはNTAで測定された粒子の濃度(粒子/mL)である。
【数1】
【0100】
本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、本明細書に開示される発明に対して様々な置換及び変更を実施できることは、当業者には容易に明白である。本明細書に例示的に説明されている本発明は、本明細書に具体的に開示されていない任意の1つ以上の要素、1つ以上の制限がない状態でも適宜実施してもよい。使用された用語および表現は、限定ではなく説明の用語として使用され、そのような用語および表現の使用では、示され、説明される特徴またはその一部の任意の同等物を除外する意図はないが、本発明の範囲内で様々な変更が可能であることが認識される。従って、本発明は特定の実施態様および任意の特徴によって示されているが、本明細書に開示される概念の変更及び/又は変形は、当業者によって行ってもよく、そのような変更および変形が、本発明の範囲内にあると考えられることを理解されたい。
【0101】
いくつかの特許および非特許の参考文献が本明細書では引用されている。引用された参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。引用された参考文献内の用語の定義に対比して、明細書内の用語の定義に矛盾がある場合には、その用語は明細書内の定義に基づいて解釈されるべきである。
【国際調査報告】