(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-28
(54)【発明の名称】リン添加物を含むスルホン酸に基づく電解質組成物
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20221221BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20221221BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022524272
(86)(22)【出願日】2020-10-21
(85)【翻訳文提出日】2022-06-23
(86)【国際出願番号】 FR2020051898
(87)【国際公開番号】W WO2021079062
(87)【国際公開日】2021-04-29
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オベール、ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】プレ、ドミニク
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126BB10
5H126JJ08
(57)【要約】
本発明は、スルホン酸と、任意に硫酸と、レドックス金属イオンと、酸化度が+5以下である少なくとも1つのリン原子を含む少なくとも1つの無機添加物(A)とを含む、水性電解質組成物に関する。本発明は、また、前記電解質組成物を含む電気化学セル及びそのようなセルを含む酸化還元電池(レドックス電池とも呼ぶ)に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式R-SO
3Hのスルホン酸と(式中、Rは、(C
1-C
4)アルキル又は(C
1-C
4)アルキルで置換されていてもよい(C
6-C
14)アリールである)、
任意に硫酸と、
レドックス金属イオンと、
酸化状態が+5以下である少なくとも1つのリン原子を含む少なくとも1つの無機添加物(A)と、
水とを含む、電解質組成物。
【請求項2】
前記スルホン酸が、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、1-ナフタレンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、及びp-トルエンスルホン酸からなる群から選択され、好ましくはメタンスルホン酸である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
硫酸を含み、好ましくはメタンスルホン酸と硫酸との混合物を含む、請求項1又は請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記無機添加物(A)が、次亜リン酸、亜リン酸類、次リン酸、リン酸類、ポリリン酸類、それらの塩、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記無機添加物(A)が、次亜リン酸、メタ亜リン酸、ピロ亜リン酸、オルト亜リン酸、次リン酸、メタリン酸、ピロリン酸、オルトリン酸、トリリン酸、それらの塩、ヘキサメタリン酸ナトリウム、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記無機添加物(A)の量が、前記電解質組成物の総重量に対して、5重量%以下、好ましくは0.5重量%~3重量%の間である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記レドックス金属イオンが、バナジウムイオンであり、好ましくは、V
2+、V
3+、VO
2+、VO
2
+、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
腐食防止剤をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記腐食防止剤が、下記一般式(1)又は(2)の化合物から選択される、請求項8に記載の組成物。
NO
2X (1)又はNO
3X (2)
〔式中、Xは、Na、K、NH
4、及びHから選択され、かつ、
前記腐食防止剤が式(1)の化合物である場合、Xはさらに、
1~6個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐状のアルキル基R’と、
特に少なくとも1つのアルキル基R’によって、置換されていてもよいアリール基Arと、
-SO
2-G基と(ここで、Gは、H、OH、R’、OR’、OM、Ar、OAr、NH
2、NHR’、及びNR’R’’であり、R’とArは、上記で定義した通りであり、R’’は、1~6個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、Mは、1価又は2価の金属カチオン、好ましくはアルカリ金属の又はアルカリ土類金属のカチオンである)、
-CO-G基と(ここで、Gは、上記で定義した通りである)、
から選択されてもよい。〕
【請求項10】
負極と、正極と、請求項1~9のいずれか一項に記載の電解質組成物とを含む、電気化学セル。
【請求項11】
請求項10に記載の少なくとも1つの電気化学セル、好ましくはバナジウムレドックスフロー電池を含む、レドックス電池。
【請求項12】
レドックス金属イオンの濃度を増加させるための、並びに/又は、請求項1~9のいずれか一項に記載の電解質組成物中のレドックス金属イオンの析出を防止、若しくは減少及び/若しくは減速、若しくは遅延させるための、請求項1、4、5、及び6のいずれか一項に記載の無機添加物(A)の使用。
【請求項13】
0℃~60℃の間の温度、好ましくは5℃~50℃の間の温度における、請求項1~9のいずれか一項に記載の電解質組成物を安定化させるための、請求項1、4、5、及び6のいずれか一項に記載の無機添加物(A)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホン酸と、任意に硫酸と、レドックス金属イオンと、酸化度が+5以下である少なくとも1つのリン原子を含む少なくとも1つの無機添加物(A)とを含む、水性電解質組成物に関する。本発明は、また、前記電解質組成物を含む電気化学セル及びそのようなセルを含む酸化還元電池(レドックス電池とも呼ぶ)に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽エネルギー及び風力エネルギーのような再生可能エネルギーの開発は、世界規模での重要な課題である。しかし、これらのエネルギー源の主要な欠点の1つは、これらが気象現象に依存し、それ故に断続的なものであるということである。したがって、これらの新しいソースからのエネルギーの確実な供給を確保するためには、適切な貯蔵手段が必要である。
【0003】
検討された解決策の中で、レドックス電池は有望な貯蔵手段である。これらの充電式電池は、異なる酸化状態の金属(電解液における金属イオンの形態で)を用いて、可逆的な酸化還元反応により、エネルギーを化学的形態で貯蔵し、電気の形態で復元する。
【0004】
バナジウムレドックスフロー電池(又は、VRFB)は、重放電(100%)でき、数万サイクルの寿命を有し、電解質貯蔵タンクのサイズを大きくするだけで、実質的に無制限のエネルギー量を貯蔵できるため、特に興味深い。
【0005】
しかし、レドックス電池の性能、特にエネルギー密度は、一般的には、金属イオン析出現象によって制限される。例えば、バナジウム電池の場合、V(V)イオン(酸化度+5のバナジウム)が約40℃超の温度で析出し、V(II)イオン及びV(III)イオンは、約10℃未満の温度で析出する。これらの析出現象は、例えば、空調及び/又は換気システムを用いて、比較的限定された範囲において厳密な温度制御を行う必要があるため、これらの電池の使用を強く制限する。
【0006】
実際、これらの電池の有効なエネルギー密度は、電解質組成物中の酸化還元反応を受ける金属イオンの濃度に正比例する。したがって、エネルギー密度は、電解質組成物中の金属塩又は酸化物(溶解すると、金属イオンの形態で見られる塩又は酸化物)の最大溶解度によって制限される。
【0007】
結果として、電解質組成物中の金属イオンの析出が、防止、減少、遅延、又は減速される場合には、レドックス電池の最大エネルギー密度が増加する。さらに、電池は、より極端な条件下、特に10℃未満及び/又は40℃超の温度でも依然として使用可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、金属イオンの析出を防止、減少、減速、又は遅延させ、それらの溶解度を向上させることを可能にする電解質組成物が求められている。また、レドックス電池の性能を向上させることを可能にする電解質組成物も求められている。
【0009】
したがって、本発明の目的の1つは、酸化還元反応を受ける金属イオンの析出を防止、減少、減速、及び/又は遅延させることを可能にする電解質組成物を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、レドックス金属イオンの溶解度を向上させ、及び/又は、レドックス電池の性能、特にエネルギー密度を向上させることを可能にする電解質組成物を提供することである。
【0011】
本発明の目的の1つは、また、約0℃~約60℃の間の温度で安定である電解質組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、驚くべきことに、本発明のリン添加物に結合したスルホン酸の使用により、電解質組成物中のレドックス金属イオン、特にバナジウムイオンの析出を防止、減少、減速、及び/又は遅延することが可能になることを見出した。
【0013】
このように、本発明者らは、本発明のスルホン酸とリン添加物との組み合わせにより、電解質組成物中のレドックス金属イオンの溶解度を向上させることが可能になることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
したがって、本発明は、
式R-SO3Hのスルホン酸と(式中、Rは、(C1-C4)アルキル又は(C1-C4)アルキルで置換されていてもよい(C6-C14)アリールである)、
任意に硫酸と、
レドックス金属イオンと、
酸化度が+5以下である少なくとも1つのリン原子を含む少なくとも1つの無機添加物(A)と、
水とを含む、電解質組成物に関する。
【0015】
本発明の電解質組成物は、特に増加したエネルギー密度を有するより効率的な電池を得ることを特に可能にする。
【0016】
1つの実施形態では、本発明の電池のエネルギー密度は、30~50Wh/Lの間である。
【0017】
本発明の電池は、約0℃~約60℃の間の温度で、好ましくは約5℃~約50℃の間の温度で、特に使用され得る。
【0018】
「レドックス電池」という用語は、酸化還元反応により、エネルギーを化学的形態で貯蔵し、電気の形態で復元する任意の電池を特に意味する。これらの酸化還元反応は、特に金属イオンの形態で、酸化還元対又は「レドックス対」を含む。
【0019】
より具体的には、レドックスフロー電池において、電気化学的対は電池の外部に貯蔵でき、2つのタンクには液体状態の電解質が入っており、ポンプによって、電解質は、2つのコンパートメントが固体膜によって分離されているイオン交換セルを循環する。
【0020】
これらの電池は広く知られており、例えば、「Electrochemical Energy Storage for Renewable Sources and Grid Balancing, 2015 Elsevier B.V. Chapter 17, “Redox Flow Batteries”, G. Tomazicら, 2015,309~336ページ」に記載されている。
【0021】
これらの電池は、特に、国際公開第1996/035239号に記載のバナジウム電池、米国特許第9118064号に記載のチタン-マンガン電池、米国特許出願公開第2018/0013164号に記載の鉄、又は亜鉛のハイブリッド電池であり得る。
【0022】
電池の「エネルギー密度」という用語は、単位質量又は単位体積当たりに貯蔵されるエネルギーの量を意味する。一般的には、Wh/kg又はWh/Lで表される。
【0023】
「無機添加物」という用語は、炭素原子を含まない化合物を特に意味する。
【0024】
「(C1-C4)アルキル」という用語は、直鎖状又は分岐状であることができ、1~4個の炭素原子を含む飽和脂肪族炭化水素を意味する。「分岐」という用語は、主アルキル鎖においてアルキル基が置換されていることを意味する。
【0025】
「(C6-C14)アリール」という用語は、単環式、二環式、又は三環式の芳香族炭化水素系化合物、特にフェニルを意味する。
【0026】
電解質組成物
本発明では、特に言及しない限り、「電解質組成物(electrolyte composition)」及び「電解質組成物(electrolytic composition)」という用語は互換的に使用される。
【0027】
したがって、本発明は、
式R-SO3Hのスルホン酸と(式中、Rは、(C1-C4)アルキル又は(C1-C4)アルキルで置換されていてもよい(C6-C14)アリールである)、
任意に硫酸と、
レドックス金属イオンと、
酸化状態が+5以下である少なくとも1つのリン原子を含む少なくとも1つの無機添加物(A)と、
水とを含む、電解質組成物に関する。
【0028】
電解質
電解質組成物は、特に、溶液の形態であり、好ましくは水溶液の形態であり、より優先的には酸性水溶液の形態である。
【0029】
電解質組成物は、好ましくは液体であり、及び/又は0℃~60℃の間の温度、好ましくは5℃~50℃の間の温度で安定である。
【0030】
特に、前記組成物中にスルホン酸が、0.08M~8Mの間、好ましくは0.1M~4Mの間のモル濃度で存在する。
【0031】
特に、前記組成物中に硫酸が、0.08M~8Mの間、好ましくは0.1M~4Mの間のモル濃度で存在する。
【0032】
したがって、スルホン酸及び任意の硫酸は、電解質組成物において目標とするモル濃度を得るために必要な量の水で優先的に希釈される。これらは、特に水溶液の形態である。
【0033】
特に、スルホン酸は、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、1-ナフタレンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、及びp-トルエンスルホン酸からなる群から選択され、好ましくはメタンスルホン酸である。
【0034】
好ましくは、本発明の電解質組成物は、硫酸を含む。メタンスルホン酸と硫酸との混合物が特に好ましい。スルホン酸は、例えば、アルケマ(Arkema)により商品名MSA LC(登録商標)で販売されている製剤として供給されることが可能である。
【0035】
前記組成物において、スルホン酸/硫酸のモル比は、1/99~99/1の間、好ましくは1/99~50/50の間、より好ましくは5/95~15/85の間であってもよく、例えば8/92であってもよい。この比の範囲は、特に硫酸のみを含む電池よりも高いエネルギー密度を有し、特に最適化された特性を有する電池を得ることを可能にする。
【0036】
メタンスルホン酸/硫酸の質量比は、1/99~50/50の間、好ましくは5/95~15/85の間であってもよく、例えば8/92であってもよい。
【0037】
無機添加物(A)
本発明の電解質組成物は、酸化度が+5以下である少なくとも1つのリン原子を含む、少なくとも1つ、好ましくは1つ又は2つの無機添加物(A)(鉱物添加物(A)とも呼ぶ)を含む。
【0038】
例えば、前記無機添加物(A)は、1つ、2つ、3つ、又は6つのリン原子を含み、好ましくはリン原子を1つのみ含む。前記無機添加物(A)は、特にポリマーの形態であってもよく、例えば、ポリリン酸類、特にポリメタリン酸であってもよい。
【0039】
前記リン原子の酸化度は、+I、+III、+IV、又は+Vであってもよい。好ましくは、前記無機添加物(A)は、リンのオキソ酸である。
【0040】
特に、前記添加物(A)は、N-P結合(窒素-リン結合)を含まない。特に、前記添加物(A)は、亜リン酸のアンモニア誘導体ではない。
【0041】
無機添加物(A)の塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、及びアンモニウム塩から選択することができる。
【0042】
前記無機添加物(A)は、次亜リン酸(+I)、亜リン酸類(+III)、次リン酸(+IV)、リン酸類(+V)、ポリリン酸類(+V)、それらの塩、及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0043】
より具体的には、前記無機添加物(A)は、次亜リン酸(+I)、メタ亜リン酸(+III)、ピロ亜リン酸(+III)、オルト亜リン酸(+III)、次リン酸(+IV)、メタリン酸(+V)、ピロリン酸(+V)、オルトリン酸(+V)、トリリン酸(+V)、それらの塩、ヘキサメタリン酸ナトリウム(+V)、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0044】
前記無機添加物(A)は、次亜リン酸(+I)、次リン酸(+IV)、メタリン酸(+V)、ピロリン酸(+V)、オルトリン酸(+V)、トリリン酸(+V)、それらのナトリウム塩、カリウム塩、及びアンモニウム塩、並びにヘキサメタリン酸ナトリウム(+V)からなる群から選択することができる。
【0045】
好ましくは、前記無機添加物(A)は、次亜リン酸(+I)、オルト亜リン酸(+III)、メタリン酸(+V)、ピロリン酸(+V)、オルトリン酸(+V)、ヘキサメタリン酸ナトリウム及びトリリン酸ナトリウム(+V)、リン酸トリカリウム(+V)、リン酸モノアンモニウム及びリン酸ジアンモニウム(+V)、並びにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0046】
特に好ましくは、前記無機添加物(A)は、ヘキサメタリン酸ナトリウム及びトリリン酸ナトリウム(+V)、リン酸トリカリウム(+V)、並びにリン酸モノアンモニウム及びリン酸ジアンモニウム(+V)から選択される。
【0047】
無機添加物(A)の量は、電解質組成物の総重量に対して、5重量%以下であってもよく、好ましくは厳密に0重量%超~5重量%の間であってもよく、例えば0.5重量%~5重量%の間であってもよい。好ましくは、無機添加物(A)の量は、電解質組成物の総重量に対して、0.5重量%~3重量%の間である。
【0048】
レドックス金属イオン
電解質組成物は金属イオンを含み、金属イオンは、特に、前記電解質組成物中に溶解した塩又は金属酸化物から得られる。用いられる金属イオンは、特に、電解質組成物中のレドックス対を形成する。本発明では、「金属イオン」、「レドックスイオン」、及び「レドックス金属イオン」の用語は、互いに代替でき、特に、以下に定義する電気化学セル及び/又は電池の実施を可能にする酸化還元反応を受ける金属イオンに対応する。
【0049】
電解質組成物中のレドックス金属イオンのモル濃度は、0.1mol/l~15mol/lの間であってもよく、好ましくは1mol/l~10mol/lの間であってもよく、優先的には1.6mol/l~5mol/lの間であってもよい。例えば、電解質組成物中のレドックス金属イオンのモル濃度は、約3mol/L、約4mol/L、又は約5mol/Lである。本発明の電解質組成物は、レドックス金属イオンで過飽和した組成物であってもよい。
【0050】
レドックス金属イオンは、特に、次のイオン:Mn2+、Mn3+、Ti3+、TiO2+、Fe2+、Fe3+、V2+、V3+、VO2+、VO2
+、Zn2+、Ce3+、Ce4+、及びそれらの混合物からなる群から選択されることができる。
【0051】
電解質組成物に含まれ得るレドックス対は下記の通りである:
Mn2+/Mn3+、Ti3+/TiO2+、Fe2+/Fe、Fe2+/Fe3+、V2+/V3+、VO2+/VO2
+、Zn2+/Zn、及びCe3+/Ce4+。
【0052】
最も特に好ましくは、金属イオンは、バナジウムイオンであり、優先的には、V2+、V3+、VO2+、VO2
+、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0053】
1つの実施形態では、アノードが位置する電解質組成物は、V2+及びV3+イオンを含み、カソードが位置する電解質組成物は、VO2+及びVO2
+イオンを含む。
【0054】
1つの実施形態では、アノードが位置する電解質組成物は、Ti3+及びTiO2+イオンを含み、カソードが位置する電解質組成物は、Mn2+及びMn3+イオンを含む。
【0055】
1つの実施形態では、アノードが位置する電解質組成物は、Fe2+イオンを含み、カソードが位置する電解質組成物は、Fe2+及びFe3+イオンを含む(鉄電池は、アノードに鉄の析出物を有するハイブリッドレドックス電池である)。
【0056】
1つの実施形態では、アノードが位置する電解質組成物は、Zn2+イオンを含み、カソードが位置する電解質組成物は、Ce3+及びCe4+イオンを含む(電池は、アノードに亜鉛の析出物を有するハイブリッドレドックス電池である)。
【0057】
レドックス金属イオンは、スルホン酸の水溶液中において塩及び/又は対応する金属酸化物が、任意に硫酸の存在下で、溶解した後に得ることができる。
【0058】
したがって、溶解され得るバナジウムの塩又は酸化物のうち、特に、メタバナジン酸アンモニウム(NH4VO3);(NH4V(SO4)2);ピロバナジン酸バリウム(Ba2V2O7);バナジン酸ビスマス(Bi2O3 V2O5);(VCs(SO4)2 12H2O);メタバナジン酸鉄(Fe(VO2)3);バナジン酸鉛(Pb(VO5)2);メタバナジン酸カリウム(KVO3);(KVSO4);硫酸バナジウムルビジウム(RbV(SO4)2);メタバナジン酸ナトリウム(NaVO3);バナジン酸(HVO3);メタバナジン酸ナトリウム(Na3VO4);オルトバナジン酸カリウム(K3VO4);オルトバナジン酸アンモニウム;ピロバナジン酸ナトリウム(Na4V2O7);ピロバナジン酸カリウム(K4V2O7);ピロバナジン酸アンモニウム;ヘキサバナジン酸ナトリウム(Na4V6O17);ヘキサバナジン酸カリウム(K4V6O17);ヘキサバナジン酸アンモニウム;ピロバナジン酸タリウム(Tl4V2O7);メタバナジン酸タリウム(TIVO3);ピロバナジン酸タリウム(TlV2O7 6H2O);五酸化バナジウム(V2O5);硫酸バナジウム(V(SO4)2);酸化バナジウムVO;バナジン酸マグネシウムカルシウム;VOCl3を挙げることができる。
【0059】
好ましくは、五酸化バナジウム又は硫酸バナジウムが用いられ、より優先的には硫酸バナジウムが用いられる。
【0060】
例えば三塩化バナジルVOCl3等のハロゲン化バナジルからのバナジウムイオンを含む電解液を得ることも可能である。
【0061】
腐食防止剤
本発明の電解質組成物は、腐食防止剤をさらに含んでいてもよい。「腐食防止剤」という用語は、本発明のスルホン酸による金属の腐食を制限し、又は防止することさえ可能な化合物を特に意味する。このような防止剤は、特に、特許出願の国際公開第2019/043340号に記載されている。
【0062】
具体的には、腐食防止剤は、下記一般式(1)又は(2)の化合物から選択される。
NO2X (1)又はNO3X (2)
式中、Xは、Na、K、NH4、及びHから選択され、かつ、
前記腐食防止剤が式(1)の化合物である場合、Xはさらに、
1~6個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐状のアルキル基R’と、
特に少なくとも1つのアルキル基R’によって、置換されていてもよいアリール基Arと、
-SO2-G基と(ここで、Gは、H、OH、R’、OR’、OM、Ar、OAr、NH2、NHR’、及びNR’R’’であり、R’とArは、上記で定義した通りであり、R’’は、1~6個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、Mは、1価又は2価の金属カチオン、好ましくはアルカリ金属の又はアルカリ土類金属のカチオンである)、
-CO-G基と(ここで、Gは、上記で定義した通りである)、
から選択されてもよい。
【0063】
Xが水素原子の場合、式(1)の化合物は亜硝酸である。本発明の好ましい実施形態では、前記防止剤は、Xが、-SO2-Gを表し、より好ましくは、-Gが、
-OH(この場合、腐食防止剤はニトロシル硫酸(SHN;CAS No.7782-78-7)である)、
又は、
アルキル基R’、好ましくはメチル基(この場合、腐食防止剤(CAS No.117933-98-9)はメタンスルホン酸(又はこの塩化物)と亜硝酸との反応の生成物である)、
のどちらかである-SO2-Gを表す、式(1)の化合物から選択される。
【0064】
好ましくは、腐食防止剤は、ナトリウム、カリウム、及びアンモニウムの亜硝酸塩及び硝酸塩から選択される。
【0065】
電解質組成物は、金属塩及び/又は酸化物を適切な割合の酸性水溶液に、好ましくは撹拌及び/又は超音波で、溶解することによって調製してもよい。
【0066】
例えば、本発明の電解質組成物は、次の方法により調製してもよい:
a)上記で定義したスルホン酸の水溶液を調製する工程;
b)任意に、工程a)で得られた前記水溶液と硫酸を混合する工程;前記硫酸は、水溶液の形態で事前に任意に調製する;
c)工程a)又は工程b)で得られた前記水溶液に無機添加物(A)を添加して溶解する工程;並びに
d)レドックス金属塩及び/又は酸化物を添加して溶解する工程。
【0067】
電気化学セル及び電池
本発明は、また、負極と、正極と、特に前記負極と前記正極との間にある、前述の電解質組成物とを含む、電気化学セルに関する。電気化学セルは、レドックス金属イオンに対して不透過性であり、好ましくはバナジウムイオンに対して不透過性である、プロトン交換膜をさらに含んでいてもよい。このような膜は、特に、ナフィオン(登録商標)の商品名(例えば、ナフィオン(登録商標)N115、N117)で知られ、スルホン化テトラフルオロエチレン系のフッ素化共重合体に基づいている。
【0068】
本発明の電解質組成物は、カソライト(カソードが浸漬される組成物)及び/又はアノライト(アノードが浸漬される組成物)であり得る。これらは、一般に、外部タンクに貯蔵され、セルのカソード及びアノードがそれぞれ浸漬されるカソードコンパートメント又はアノードコンパートメントに注入される。本発明の電解質組成物を含む電気化学セルは、特に、レドックス電池、好ましくはレドックスフロー電池、より詳細にはバナジウムレドックスフロー電池との関連で通常使用されるものである。
【0069】
本発明では、「負極」又は「アノード」という用語は、放電時に還元種の酸化を可能にする電極を意味する。
【0070】
本発明では、「正極」又は「カソード」という用語は、放電時に酸化種の還元を確実にする電極を意味する。
【0071】
レドックス電池セルの構造は、特に、金属フレーム、集電体、バイポーラプレート、電極とのシール、プロトン伝導膜、電極とのシール、バイポーラプレート、集電体、及び金属フレームを含む。言うまでもなく、電圧及び電流量を確保するような方法でセルを組み立てる。
【0072】
本発明は、また、前述の少なくとも1つの電気化学セルを含む、レドックス電池に関し、好ましくはレドックスフロー電池に関する。電池が本発明の電気化学セルを複数含む場合、前記セルは直列及び/又は並列に組み立てることができる。
【0073】
特に好ましくは、本発明の電池は、バナジウムレドックスフロー電池である。
【0074】
使用
本発明は、また、特に無機添加物(A)を含まない電解質組成物に関して、レドックス金属イオンの濃度を増加させるための、並びに/又は、前述の電解質組成物中のレドックス金属イオンの析出を防止、若しくは減少及び/若しくは減速、若しくは遅延させるための、前述の無機添加物(A)の使用に関する。
【0075】
本発明は、また、0℃~60℃の間の温度、好ましくは5℃~50℃の間の温度における、前述の電解質組成物を安定化させるための、前述の無機添加物(A)の使用に関する。
【0076】
本発明は、また、0℃~60℃の間の温度、好ましくは5℃~50℃の間の温度における、前述の電解質組成物中で、レドックス金属イオン、特にバナジウムイオンの析出を防止、若しくは減少及び/又は遅延、若しくは減速させるための、前述の無機添加物(A)の使用に関する。
【0077】
本発明は、また、再生可能エネルギー、特に太陽エネルギー及び風力エネルギーを貯蔵し復元するための本発明の電池に関する。
【0078】
これらの使用では、電解質組成物及びその成分は、前記組成物、前記電気化学セル、及び前記電池について上記で定義した通りである。
【0079】
本発明では、「x~yの間の」又は「x~yの間」という用語は、境界値x及びyが含まれる区間を意味する。
【実施例】
【0080】
実施例1:メタンスルホン酸(MSA)及び1つ又は複数のリン添加物を含むバナジウムレドックスフロー電池用水性電解質の高温及び/又は低温における安定性
【0081】
H2SO4/MSA/無機リン添加物の混合物を含むバナジウムレドックスフロー電池用電解質の熱安定性を、市販されているもの、例えば、Oxkem社(https://www.oxkem.com/_html/product_pages/vanadium_sulfate_electrolyte.html)又はGfE社(https://www.gfe.com/en/products-and-solutions/vanadium-chemicals/product-overview)により販売されているもの等の従来のバナジウムレドックスフロー電池電解質の熱安定性と比較した。ここで:
・酸化状態+4(V+4)のバナジウムの濃度は、一般に、約1.55~1.75M(mol/l)であり、
・硫酸(H2SO4)の濃度は、一般に、約2~3Mであり、及び
・通常はリン酸である、安定化添加物の濃度は約0.05Mである。
【0082】
Alfa Aesar社の99.9%硫酸バナジルVOSO4、H2O4.8(V4+)、Carl-Roth社の95%硫酸(H2SO4)、Arkema社の99.5%メタンスルホン酸、及びVWR社の水中85%リン酸(H3PO4)(Ph.Eur p.a.)から、一連の電解質を調製した(以下の表1参照)。
【0083】
このために、所望の適量のVOSO4を秤量し、最終体積が15mlとなるように計算した所望の量の酸(硫酸及び/又はメタンスルホン及び/又はリン酸)で予め酸性化した約10mlの水に加える。得られた混合物を水浴中で60℃に加熱して、硫酸バナジルを溶解する。溶解が完了した後、電解質15mlを得るために必要な量の水を60℃で加え、20~23℃まで冷却する。
【0084】
少なくとも2日間安定化させた後、バナジウム+4及び+5の濃度をセリメトリー滴定(cerimetric titration)で測定する(以下の表1参照)。
【0085】
【0086】
次に、熱安定性試験用の電解質V+5及びV+3を得るために、上記で調製した3つの電解質を従来の方法に従って電気化学セルで電解した。
【0087】
この電解の終了後、MSAを含む(ただし、リン酸は含まない)電解質V+3及びV+5に、他の2つの添加物を加えた:
・リン酸ジアンモニウム:Sigma-Aldrich社の99.9%(NH4)2PO4、
・Sigma-Aldrich社の99.9%リン酸カリウムK3PO4と96%ヘキサメタリン酸ナトリウム(NaPO3)nの50/50%質量混合物。
【0088】
最後に、各電解質1mlを小さなプラスチック管に入れ、サンプルを49~51℃の炉に入れ、最初の固体粒子の出現又は電解質劣化の兆候である色の変化の開始まで毎日目視で検査した。これにより、「誘導時間」、すなわち調査した温度での電解質の安定時間を決定する。そして、上澄み液中のバナジウム濃度を測定し、析出したバナジウムの割合を定量的に評価する。
【0089】
熱安定性試験に供した様々な電解質の組成及び誘導時間を以下の表2に示す。
【0090】
【0091】
表2の結果から、まず、本発明による電解質は、参照電解質とは異なり、熱試験後の全バナジウム濃度が試験前の初期濃度(1.7M)とあまり変わらないか、又は等しいため、バナジウム系電解質の安定性を大幅に改善することが可能であることが明確に示されている。
【0092】
次に、電解質の劣化の最初の兆候は、参照電解質よりも遅く現れ、本発明の電解質2では13日長い。
【0093】
さらに、本発明の組成物H2SO4/MSA/添加物は、低温での良好な安定性も可能にする。V+3及びV+2電解質が低温に対して最も敏感であることが知られている。しかし、V+4溶液の電解後に得られたV+3電解質溶液のいずれも、5℃で8日間後に劣化の兆候(色の変化又は固体粒子の出現)を示さなかった。
【0094】
以上のことから、本発明の電解質組成物は、特にバナジウムレドックスフロー電池に関して、優れた熱安定性を示す。
【国際調査報告】