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特表2022-554258ALK陰性癌および形質細胞媒介性疾患の治療のためのALK阻害剤
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  • 特表-ALK陰性癌および形質細胞媒介性疾患の治療のためのALK阻害剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-28
(54)【発明の名称】ALK陰性癌および形質細胞媒介性疾患の治療のためのALK阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20221221BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20221221BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221221BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20221221BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 31/501 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 31/4545 20060101ALI20221221BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20221221BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20221221BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
A61K45/00
G01N33/68
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/02
A61K31/506
A61K31/501
A61K31/5377
A61K31/496
A61K31/4545
C12Q1/6813 Z
C12Q1/686 Z
A61P37/06
A61K31/675
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525050
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(85)【翻訳文提出日】2022-06-27
(86)【国際出願番号】 EP2020056698
(87)【国際公開番号】W WO2021083555
(87)【国際公開日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】1915618.1
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公開の事実 ウェブサイトの掲載日2019年3月13日(平成31年3月13日) ウェブサイトのアドレス www.biorxiv.org/content/10.1101/575365v1
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】510179537
【氏名又は名称】ウニヴァーシテテット イ オスロ
【住所又は居所原語表記】P.O. Box 1072,Blindern,0316 Oslo Norway
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ファルハン、ヘッソ
(72)【発明者】
【氏名】ムンテ、ルズヴィ
(72)【発明者】
【氏名】タスケン、チェーティル
(72)【発明者】
【氏名】スコンランド、シグリッド
(72)【発明者】
【氏名】ジリベルト、マリアセレナ
(72)【発明者】
【氏名】ヘレム シュイェスヴォルド、フレドリック
(72)【発明者】
【氏名】ドリーセン、クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ベス、レンカ
(72)【発明者】
【氏名】ベス、アンドレイ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CB02
2G045DA20
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC36
4C086BC42
4C086BC50
4C086BC73
4C086DA38
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB27
(57)【要約】
本発明は、対象におけるALK陰性/LTK陽性癌を治療する方法を提供し、前記方法は、医薬上有効な用量のALKの線状阻害剤を前記対象に投与することを含む。本発明は、プロテアソーム阻害剤耐性多発性骨髄腫を含む多発性骨髄腫の治療に、特に有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における癌または形質細胞媒介性疾患の治療に使用するための未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)の線状阻害剤であって、前記癌または形質細胞媒介性疾患は、ALK陰性かつ白血球チロシンキナーゼ(LTK)陽性である細胞により特徴づけられる、ALKの直鎖阻害剤。
【請求項2】
前記使用は、癌の治療である、請求項1に記載の使用のためのALK阻害剤。
【請求項3】
前記癌は、多発性骨髄腫である、請求項2に記載の使用のためのALK阻害剤。
【請求項4】
前記癌は、慢性リンパ性白血病、または肝癌である、請求項2に記載の使用のためのALK阻害剤。
【請求項5】
前記癌は、プロテアソーム阻害剤を使用した治療に耐性がある、請求項2~4のいずれかに記載の使用のためのALK阻害剤。
【請求項6】
前記プロテアソーム阻害剤は、ボルテゾミブである、請求項5に記載の使用のためのALK阻害剤。
【請求項7】
前記形質細胞媒介性疾患は、自己免疫疾患である、請求項1に記載の使用のためのALK阻害剤。
【請求項8】
前記自己免疫疾患は、ループスまたは免疫性血小板減少症である、請求項7に記載の使用のためのALK阻害剤。
【請求項9】
前記形質細胞媒介性疾患は、移植片対宿主病である、請求項7に記載の使用のためのALK阻害剤。
【請求項10】
前記阻害剤は、式XIに記載の構造を有する、請求項1~9のいずれかに記載の使用のためのALK阻害剤。
【化1】
前記式XIにおいて、
1はCH3またはiPrであり、
2はHまたはCH3であり、
【化2】
【請求項11】
前記阻害剤は、セリチニブである、請求項10に記載の使用のためのALK阻害剤。
【請求項12】
前記治療は、450mgのセリチニブを含む用量の連日投与を含み、前記用量は、経口投与される、請求項11に記載の使用のためのALK阻害剤。
【請求項13】
前記治療は、一日に200mg~400mgのセリチニブを含む用量の投与を含み、前記用量は、経口投与される、請求項11に記載の使用のためのALK阻害剤。
【請求項14】
前記治療は、多発性骨髄腫のための治療であり、前記治療は、一日に400mg~500mgのセリチニブを含む用量の投与を含み、前記用量は、経口投与される、請求項11に記載の使用のためのALK阻害剤。
【請求項15】
前記阻害剤は、ブリガチニブである、請求項10に記載の使用のためのALK阻害剤。
【請求項16】
前記阻害剤は、クリゾチニブ、エンサルチニブ、アレクチニブ、およびエントレクチニブから選択される、請求項1~9のいずれかに記載の使用のためのALK阻害剤。
【請求項17】
前記対象は、ヒトである、請求項1~16のいずれかに記載の使用のためのALK阻害剤。
【請求項18】
対象における癌または形質細胞媒介性疾患を治療する方法であって、前記癌または形質細胞媒介性疾患は、ALK陰性かつLTK陽性である細胞により特徴づけられ、前記方法は、医薬上有効な用量のALKの線状阻害剤を、前記対象に投与することを含む。
【請求項19】
対象におけるALK陰性癌を診断し治療する方法であって、前記方法は、
(i) 前記対象における癌を診断すること;
(ii) ALKおよびLTKの発現について、前記癌を調べること;および
(iii) 前記癌がALK陰性かつLTK陽性であると分かった場合、医薬上有効な用量のALKの線状阻害剤を、前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項20】
対象におけるALK陰性癌を診断し治療する方法であって、前記方法は、
(i) 前記対象における癌を診断すること;
(ii) 前記癌がALK陰性かつLTK陽性であることを判定すること;および
前記癌を治療するのに有効な量のALKの線状阻害剤を、前記対象に投与することを含む。
【請求項21】
前記癌、形質細胞媒介性疾患、ALK阻害剤、対象、および/または用量は、請求項2~17のいずれかに定義されるものである、請求項17~19のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
対象における癌または形質細胞媒介性疾患を治療するための医薬品の製造における、ALKの線状阻害剤の使用であって、前記癌または形質細胞媒介性疾患は、ALK陰性かつLTK陽性である細胞によって特徴づけられる、使用。
【請求項23】
前記癌、形質細胞媒介性疾患、ALK阻害剤、治療、および/または対象は、請求項2~17のいずれか一項で定義されるものである、請求項22に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトにおける、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)陰性かつ白血球チロシンキナーゼ(LTK)陽性の癌(ALKNegLTKPos標的細胞)の治療に使用するための、線状(linear)ALK阻害剤を提供する。本発明はまた、ALK陰性かつLTK陽性の形質細胞を特徴とする形質細胞媒介性疾患を、ヒトにおいて治療する際に使用するための、線状ALK阻害剤を提供する。本発明にしたがって治療された形質細胞媒介性疾患は、特に、自己抗体の産生を特徴とする自己免疫疾患であってもよい。
【0002】
未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)は、インスリン受容体スーパーファミリーに属する受容体チロシンキナーゼ(RTK)である。健康な成人において、ALKタンパク質は中枢神経系にのみ、低レベルで発現する(Pulford et al. Blood 89:1394-1404,1997)。しかしながら、Hallberg & Palmer、2016年(Annals of Oncology 27 (Supplement 3): iii4-iii15)で考察されているように、多くの癌での異常なALKの発現が報告されている。ALK融合タンパク質は、いくつかの癌で発現していると報告されている。ALKは、特に(たとえば未分化大細胞型リンパ腫の中の)NPMや、(たとえば非小細胞肺癌(NSCLC)の中の)EML4など、様々なタンパク質と融合することが分かっている。発癌性ALK融合は、ALKタンパク質のキナーゼドメインを含み、リガンド非依存性である(すなわち、ALKドメインは恒常的に活性である)。ALK媒介性の発がんの他のメカニズムもまた、特定されている:特に神経芽細胞腫中で、全長ALK遺伝子における点変異が報告されている;また、いくつかの腫瘍タイプで、全長ALKの過剰発現が報告されている。
【0003】
ALKPos癌はALKを発現する癌であるが、なんらかの形態のALKPos癌の治療用に、ALK阻害剤が広く知られている。たとえば、国際公開第2009/126154号、および国際公開第2010/002655号は、ALKにより媒介された病状(特にALKにより媒介された癌)の治療に使用するためのトリアジンおよびピリミジン誘導体を開示している。癌治療用に承認された最初のALK阻害剤は、クリゾチニブであり、これはALKPos NSCLCの治療用に2011年に承認された。上記治療用に、その他多数のALK阻害剤が承認されており、セリチニブ、アレクチニブ、ブリガチニブなどがある。セリチニブは国際公開第2008/073687号に初めて開示された。
【0004】
本発明は、公知のALK阻害剤の新たな用途を提供する。本発明は、ヒトにおけるALKNegLTKPos癌の治療におけるALK阻害剤の提供を含む。前記発明はまた、ALKNegLTKPosである形質細胞によって特徴づけられる形質細胞媒介性疾患の治療におけるALK阻害剤の提供を含む。白血球チロシンキナーゼ(LTK)は、小胞体(ER)からの輸送を調節する、小胞体常在受容体チロシンキナーゼである(Centonze et al., Journal of Cell Biology 218(8): 2470-2480, 2019)。本発明者は、LTKが、タンパク質恒常性において重要な役割を果たすことを実証している。
【0005】
タンパク質恒常性は、一方で新生タンパク質の合成と輸送を、他方ではミスフォールドタンパク質(misfolded protein、誤って折り畳まれたタンパク質)の分解を、含む。タンパク質恒常性のうちの生合成の部分と分解の部分とには、高度な相互接続があり、いわゆるタンパク質恒常性ネットワークを形成している。前記小胞体は、タンパク質恒常性の主要な部位であり、プロテオームの不均衡を感知してそれに応答する様々な制御システムを備える。ミスフォールドタンパク質が蓄積すると、三つの小胞体常在膜貫通タンパク質(IRE1、ATF6、およびPERK)が活性化され、その結果、アンフォールドタンパク質(unfolded protein、折り畳まれていないタンパク質)応答(UPR)の誘導が起こる。UPRは、タンパク質を折り畳み(fold)処理する小胞体の能力を増大させるのみならず、末端ミスフォールドタンパク質のプロテアソーム分解を刺激する。したがって、前記UPRは、前記タンパク質恒常性ネットワークの自己調節プロセスと称することができる。ミスフォールドタンパク質が小胞体を離れて分解区画へ向かう一方、正しく折り畳まれた(correctly folded)分泌タンパク質は、小胞体出口部位(ERES)と呼ばれる特別な領域で形成されるCOPIIキャリアで小胞体を離れる。ミスフォールドタンパク質への適応応答はかなりよく理解されている一方、フォールドタンパク質(folded protein、折り畳まれたタンパク質)の負荷(load)を感知してERESを調節することにより応答する同等のメカニズムについては、ほとんど知られていない。
【0006】
LTKが分泌負荷に応答し、小胞体の分泌容量を調節して、小胞体をタンパク質恒常性ネットワークにおける調節点とすることが、本明細書において示されている。このように、LTKは、タンパク質恒常性ネットワークの生合成部分における標的であって、過剰なタンパク質分泌を特徴とする疾患の治療で標的となる能力を備えた標的の代表的なものである。多くの癌が、高レベルのタンパク質分泌(分泌過多)を特徴とし、タンパク質恒常性メカニズムへの高い依存度を示す。自己免疫障害などの特定の形質細胞媒介性疾患はまた、形質細胞、形質芽細胞や、その前駆体によるタンパク質(抗体)分泌過多を特徴とする。
【0007】
タンパク質分泌過多を特徴とする病状の特定の例としては、多発性骨髄腫がある。多発性骨髄腫は、クローン形質細胞の癌である。癌化した細胞は、抗体製造細胞であり、多発性骨髄腫は抗体分泌過多を特徴とする。多発性骨髄腫におけるタンパク質恒常性の重要性は、タンパク質恒常性ネットワークの分解の部分を阻害するプロテアソーム阻害剤の臨床における成功から明らかである(Moreau et al., Blood 120(5): 947-959, 2012)。多発性骨髄腫の治療の最近の進歩は生存期間の向上をもたらしたが、2011年までの間、多発性骨髄腫の全5年生存率は49%にとどまり(Kazandjian, Seminars in Oncology 43(6): 676-681, 2016)、療法により疾患が寛解することはあっても、完治はしないと考えられている。したがって、新たな治療が必要である。
【0008】
細胞がタンパク質分泌過多を呈することを特徴とする病状の別の例としては、慢性リンパ性白血病(CLL)、すなわち、リンパ節、脾臓、または骨髄でのBリンパ球のクローン増殖を特徴とする癌がある。癌組織(いわゆる偽濾胞)中で増殖するCLL芽細胞(芽球)は、細胞分裂を起こす前に、モノクローナル抗体を分泌する(Darwiche et al., Frontiers in Immunology 9:683, 2018)。
【0009】
タンパク質分泌過多を特徴とする病状のその他の例としては、調節不全の形質細胞により自己抗体を産生することに関連する自己免疫疾患がある。かかる病状の例の一つは、ループス(狼瘡)(全身性エリテマトーデス(紅斑性狼瘡、SLE)としても知られる)である。ループスでは、調節不全のB細胞の分化が、細胞核組成に対する自己抗体(抗核抗体(ANA)など)を産生する形質細胞を発生(development)させる。ループスにおける自己抗体の特に共通する標的としては、二本鎖DNA、およびリボ核タンパク質などがある。かかる自己免疫疾患の別の例は、免疫性血小板減少症(ITP)であり、調節不全の形質細胞が、血小板表面構造に対する抗体を産生し、血小板欠乏を起こし、その結果、血液凝固欠損を起こす。かかる自己免疫疾患の有効な治療が必要である。
【0010】
本発明者らは、以前に、特定の既知のALK阻害剤が、LTKの阻害に有効であることを示した(Centonze et al.、上記参照)。本発明者らは、臨床的に承認されたALK阻害剤でLTKを標的にすることで、多発性骨髄腫細胞や増殖しているCLL芽球などの分泌過多の細胞の、小胞体ストレスに対する感受性を高め、アポトーシスを誘導することを、現在、実証している。同様に、アポトーシス促進効果が、様々な自己免疫疾患で高レベルの自己抗体を分泌する調節不全形質細胞で起こる。それに伴い、ALK阻害剤はALKPos癌の治療に対する有用性がかなり限定的であると以前は考えられてきたが、本発明は、ALKNegLTKPos癌(特にALKNegLTKPos多発性骨髄腫、およびALKNegLTKPos CLL)、およびALK-/LTK+である細胞によって特徴づけられる形質細胞媒介性疾患の治療における、いくつかのかかる薬剤の新たな使用を提供する。本発明者らは、LTK+ALK-ノックダウン細胞株またはALK-ノックダウン細胞株がALK阻害に対して感受性があるままなので、ALK阻害剤の効果がALK発現から独立していることを示している。
【0011】
したがって、本発明は、第一の態様において、対象における癌または形質細胞媒介性疾患の治療に使用するためのALKの線状阻害剤(linear inhibitor)を提供し、前記癌または形質細胞媒介性疾患は、ALK陰性かつLTK陽性である細胞によって特徴づけられる。
【0012】
本発明は、同様の態様において、対象における癌または形質細胞媒介性疾患を治療する方法を提供し、前記癌または形質細胞媒介性疾患は、ALK陰性かつLTK陽性である細胞によって特徴づけられ、前記方法は、前記癌を治療するのに有効な量のALKの線状阻害剤を、前記対象に投与することを含む。
【0013】
また、対象におけるALK陰性癌を診断し治療する方法が提供され、前記方法は、
(i) 前記対象における癌を診断すること;
(ii) ALKおよびLTKの発現について、前記癌を調べること;および
(iii) 前記癌がALK陰性かつLTK陽性であると分かった場合、前記癌を治療するのに有効な量のALKの線状阻害剤を、前記対象に投与することを含む。
【0014】
同様に、本明細書において、対象におけるALK陰性癌を診断し治療する方法が提供され、前記方法は、
(i) 前記対象における癌を診断すること;
(ii) 前記癌がALK陰性かつLTK陽性であることを判定すること;および
前記癌を治療するのに有効な量のALKの線状阻害剤を、前記対象に投与することを含む。
【0015】
他の態様において、本発明は、対象における癌または形質細胞媒介性疾患を治療するための医薬品の製造における、ALKの線状阻害剤の使用を提供し、前記癌または形質細胞媒介性疾患は、ALK陰性かつLTK陽性である細胞によって特徴づけられる。
【0016】
他の態様において、本発明は、プロテアソーム阻害剤耐性癌の治療に使用するための、ALKの線状阻害剤を提供する。前記プロテアソーム阻害剤耐性癌は、好ましくはプロテアソーム阻害剤耐性多発性骨髄腫である。前記プロテアソーム阻害剤耐性癌は、LTK陽性の癌であってもよく、特にLTK陽性の多発性骨髄腫であってもよい。
【0017】
下記に詳細に述べられるように、前記対象は、哺乳類の対象であればよいが、前記態様の、ある好ましい実施形態において、前記対象はヒト対象である。
【0018】
上述のように、本発明者は、いくつかの公知のALK阻害剤(本明細書において、ALKの阻害剤ともいう)もまた、LTKの阻害に有効であることを発見した。特に、実施例に示されるように、線状ALK阻害剤がLTKの阻害に有効であることを見出した。ただし、環状ALK阻害剤は効果が無いことを見出した。ALKとLTKは関連タンパク質である(それらの細胞質キナーゼドメインは、ヒトにおいて79%同一である。Centonze et al.、上記参照)が、あるALK阻害剤がLTKに対して交差特異性を示すこと、一方、他の阻害剤は示さないこと、は予想され得なかった。
【0019】
本明細書で述べられているように、ALK阻害剤は、ALK(特にヒトALK)と相互作用しその活性を低減または無効にすることができる化合物である。ヒトALKのUniProt受入番号はQ9UM73である。ALK阻害剤は、全長、野生型のALKと、ALK融合タンパク質との両方の活性を阻害できる。Chand et al. (Disease Models & Mechanisms 6: 373-382, 2013、この参照により本明細書に援用される)に記載されているように、ALK阻害の活性について化合物を試験する多数の方法が知られている。たとえば、ALK活性化は、Tyr1278の自己リン酸化を必要とする。ALKの活性の阻害は、したがってTyr1278自己リン酸化を阻害し、これは抗リン酸化ALK(Y1278)抗体を使用するイムノブロットによって検出されうる。かかる抗体は市販されている(たとえば、抗体#3710、Cell Signaling Technology社、米国)。したがって、化合物がALK阻害の活性を有する(すなわち、ALK阻害剤である)かどうかを判定するために、ヒトALKを発現している細胞に目的の化合物を適用し、前記細胞を溶解させ、Tyr1278のALK自己リン酸化を解析してもよい。
【0020】
ALK阻害についての他の検査方法も知られている。たとえば、Chand et al.(上記参照)に記載されているように、Tyr1604のALK自己リン酸化、および/または、ERKやSTAT3などのALK基質のリン酸化の分析が知られている。
【0021】
当該技術分野において、いくつかのALK阻害剤が知られており、現在までに、クリゾチニブ、セリチニブ、アレクチニブ、ブリガチニブ、エントレクチニブ、および、ロルラチニブの6つが、医療的使用の承認を受けている。その他に知られているALK阻害剤としては、ベリザチニブがある。
【0022】
本明細書に記載の使用のための前記ALK阻害剤はまた、LTKの阻害、特にヒトLTKの阻害にも有効である。ヒトLTKのUniProt受入番号はP29376である。「LTKの阻害に有効」とは、阻害剤がLTK(特にヒトLTK)と相互作用することができ、LTKの活性を低減する、または無効にすることができることを意味する。LTK阻害の活性について化合物を試験する方法が知られており、下記の実施例で説明される。特に、LTK活性化はTyr672の自己リン酸化を必要とし、これはTyr1278のALKの自己リン酸化と同等である。リン酸化ALK(Y1278)を認識する多くの抗体が、リン酸化LTK(Y672)をも認識する。リン酸化LTK(Y672)を検出するための好適な抗体が市販されている(たとえば、抗体D59G10、Cell Signaling Technology社)。したがって、化合物がLTK阻害の活性を有する(すなわち、LTKの阻害剤である)かどうかを判定するために、ヒトLTKを発現している細胞に当該化合物を適用し、前記細胞を溶解させ、Tyr672のLTK自己リン酸化を解析してもよい。
【0023】
前述のように、本発明者は、線状ALK阻害剤がLTK阻害の活性も有し、その一方で環状ALK阻害剤はLTKに対して効果が無いことを発見した。「線状(linear)」ALK阻害剤とは、分子コアとして機能する中心環(すなわち、すべての官能基がそこから出ているような中心環)が無いALK阻害剤を意味する。かかる環を、本明細書において環状の分子コアと称する。線状ALK阻害剤は、それにもかかわらず、フェニル基などの環状官能基を含んでもよい。しかしながらこの例では、すべての官能基および側鎖が同じ環状構造(またはその一部)から延在するわけではない。換言すれば、「線状ALK阻害剤」という用語は、別個の画定された端部を持たない「円形」構造(すなわち、円形の骨格)を有するという意味での環状化された分子を含まない。環状の分子コアを含むALK阻害剤は、環状ALK阻害剤であり、または別の表現をすれば、環状化された、または円形の、ALK阻害剤である。
【0024】
環状ALK阻害剤の例としては、ロルラチニブがあり、これは式Iに記載された構造を有する。示されているように、ロルラチニブは12員環を含み、この12員環は、分子のコアを形成する。このコア環を有するので、ロルラチニブは環状ALK阻害剤である。ロルラチニブは、LTK阻害の活性を有さないことがわかっている。
【化1】
【0025】
線状ALK阻害剤は、環状の分子コアの無い構造を有している。線状ALK阻害剤はむしろ、互い直列につながった多くの官能基を含む。線状ALK阻害剤の例には、クリゾチニブ、セリチニブ、ブリガチニブ、エンサルチニブ、アレクチニブ、およびエントレクチニブがある。クリゾチニブ(3-[(1R)-1-(2,6-ジクロロ-3-フロロフェニル)エトキシ]-5-(1-ピペリジン-4-イルピラゾール-4-イル)ピリジン-2-アミン)の構造を、式IIに示す;セリチニブ(5-クロロ-2-N-(5-メチル-4-ピペリジン-4-イル-2-プロパン-2-イルオキシフェニル)-4-N-(2-プロパン-2-イルスルフォニルフェニル)ピリミジン-2,4-ジアミン)の構造を、式IIIに示す;ブリガチニブ(5-クロロ-4-N-(2-ジメチルホスホリルフェニル)-2-N-[2-メトキシ-4-[4-(4-メチルピペラジン-1-イル)ピペリジン-1-イル]フェニル]ピリミジン-2,4-ジアミン)の構造を、式IVに示す;エンサルチニブ(6-アミノ-5-[(1R)-1-(2,6-ジクロロ-3-フロロフェニル)エトキシ]-N-[4-[(3R,5S)-3,5-ジメチルピペラジン-1-カルボニル]フェニル]ピリダジン-3-カルボキシアミド)の構造を、式Vに示す;アレクチニブ(9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イルピペリジン-1-イル)-11-オキソ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カルボニトリル)の構造を、式Vに示す;エントレクチニブ(N-[5-[(3,5-ジフロロフェニル)メチル]-1H-インダゾール-3-イル]-4-(4-メチルピペラジン-1-イル)-2-(オキサン-4-イルアミノ)ベンザミド)の構造を、式IVに示す。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【0026】
式II~VIIに見られるように、前記線状ALK阻害剤は、環状の分子コアが無い。例示された前記線状ALK阻害剤はすべて、環状の基(たとえばフェニル基)を含むが、それらの中には、すべての官能基がそこから出ているような中心環を形成しているものは無い。
【0027】
非線状の、「環状」のALK阻害剤において、環状の分子コアがALK阻害剤内で最大の環状基であってもよい。特に、環状の分子コアの員数は、分子内の他の環状基の員数よりも少なくとも2大きくてもよい。違う言い方で定義すれば、環状の分子コアは、少なくとも8員環、たとえば9員環、10員環、11員環、または12員環であってもよい。ロルラチニブの環状の分子コアは12員環である。上述のように、線状ALK阻害剤は、環状の分子コアを有さないALK阻害剤である。
【0028】
本発明に係るALK阻害剤は、ALKNegかつLTKPosである細胞によって特徴づけられる癌または形質細胞媒介性疾患の治療に使用するためものである。ALKNegかつLTKPosである細胞によって特徴づけられる癌は、癌を構成する悪性細胞がLTKを発現するがALKを発現しない、という癌である。すなわち、本発明に従って治療される癌は、ALKNeg(ALK陰性)かつLTKPos(LTK陽性)である。
【0029】
本明細書で使用される、ALKPos(ALK陽性)癌とは、いかなる形態のALKタンパク質を発現する癌を意味し、野生型タンパク質、ALK融合タンパク質、または変異した全長タンパク質(たとえば、機能獲得型変異を含む)としてのALKタンパク質を発現する癌を意味する。癌がALKを発現するかどうかを判定する方法は、当該技術分野において標準的であり、ALK阻害剤治療が承認されている癌、特に、NSCLCについてのALK発現の状況を判定するために、現在普通に使用されている。
【0030】
かかる方法は、典型的には、癌の生検サンプルに対して行われる。ALK発現を検出するための好適な方法の例は、免疫組織化学(IHC)である。ALK発現検出用IHCキットは、規制上の承認を受けており、市販されている。かかるキットの例としては、ALK発現の検出に使用されうるVentana ALK (D5F3) CDx Assay(Roche社、スイス)がある。その他のかかるキットも使用してもよい。
【0031】
特定の実施形態において、規制上の承認をうけているALK発現検査において陽性の結果が出た癌は、ALK陽性とみなされ、かかるALK発現検査で陰性の結果が出た癌は、ALK陰性とみなされる。熟練した病理学者であれば、組織サンプルがALKPosかALKNegか普通に判断できる。
【0032】
このように、ALKNeg癌は、ALKの発現について癌組織を解析した時にALK陰性であると判断される癌であってもよい。特に、ALKNeg癌は、ALK発現がIHCによって検出されない癌であってもよい。たとえば、ALK陰性癌は、ALK発現検出の規制上の承認を受けた解析によると陰性の結果となる癌であってもよい。特定の実施形態において、ALKNeg癌は、Ventana ALK (D5F3) CDx Assayによると陰性の結果となる癌である。
【0033】
ALK遺伝子再構成は、たとえば蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)を使用して、ゲノムレベルで直接検出してもよい。特にbreak-apart FISHをALK遺伝子再構成を検出するために使用してもよく、好適なbreak-apart FISHキットが市販されており(たとえば、Vysis ALK Break Apart FISH Probe Kit、Abbott Molecular社、米国、製品番号06N38-023)、また、熟練技術者により設計することができる。DNAレベルでのALK遺伝子再構成を呈する癌は、本明細書においてALKPos癌と定義される。前述のように、本発明は、ALK癌の治療に関する。
【0034】
同様に、LTKPos癌は、検出可能なレベルのLTKの発現を有する癌である。ALKの検出と同様に、当該技術分野で標準的な方法を使用してLTKの発現を検出することができる。かかる方法は、典型的には生検サンプルに対して行われてもよい。たとえば、LTKタンパク質の発現を直接検出するために、免疫組織化学(たとえば免疫蛍光染色)を利用してもよい。mRNAレベルでLTKの発現を検出するために、逆転写酵素PCR(RT-PCR)を信頼して使用してもよい。LTK PT-PCRでの使用に好適なプライマーは、熟練技術者により設計することができる。好ましくは、qPCRは、LTKの発現を検出するために使用される。LTK qPCRでの使用に好適なプライマーは、熟練技術者により設計することができ、また、市販もされている(たとえば、LTK QuantiTect primer assay、Qiagen社、カタログ番号QT00219877)。
【0035】
このように、本発明にしたがって、当該技術分野において標準的な方法を使用して、対象において癌を診断してもよい。その後、ALKおよびLTKの発現について、前記癌を調べてもよい。ALKおよびLTK発現検査のために、生検サンプルを取得してもよい。癌の診断に生検サンプルが使用される場合、ALKおよびLTKの発現検査に、同一の生検サンプルを使用してもよく、または、異なる生検サンプルを使用してもよい。前記生検サンプルは、癌のタイプに適したなんらかの手段で取得すればよい。たとえば、前記生検サンプルは、直視下生検によって取得してもよく、たとえば、摘出生検サンプルであってもよい。または、前記サンプルは、針生検によって取得してもよい。多発性骨髄腫やCLLなど、血液癌の場合、生検サンプルは、骨髄生検によって取得してもよく(骨髄腫またはCLL)、または血液サンプルであってもよい(CLL)。熟練した医師であれば、適切な生検サンプルを取得できる。
【0036】
生検サンプルは、たとえば血液から取得される、液体生検サンプルであってもよい。特に、上述したように、末梢循環腫瘍細胞を単離して、ALKおよびLTKの発現について解析してもよい。多発性骨髄腫の診断と特徴把握のための液体生検法が、Kamande et al. (Integrative Biology 10(2): 82-91, 2018)に開示され、この方法を、上述したように、ALKおよびLTKの発現について調べるために使用してもよい。調べられた癌がALKNegLTKPosであるとわかれば、本発明に係るALK阻害剤で治療してもよい。
【0037】
このように、上記の技術を使用して、癌がALKNegかつLTKPosであるかどうかを実験的に判定してもよい。または、ある例において、癌が、その癌の既知の特徴に基づいてALKNegかつLTKPosであると推定してもよい。このように、事情が許せば、実験的な確認が無くとも判定されることがあってもよい。
【0038】
本明細書で使用される「癌」という用語は、当該技術分野における通常の意味、すなわち、悪性腫瘍性の病状、という意味で使用されている。本発明に従って治療される癌は、固形癌および血液癌の両方を含む、いかなる種類の癌であってもよい。ALKNegかつLTKPosであるいかなる癌も、本発明に従って治療してもよい。
【0039】
ある実施形態において、本発明に従って治療される癌は、ROS1陰性(ROS1Neg)である。ROS1は、ALKに関連するチロシンキナーゼである。正常な発生(development)におけるその役割は不明だが、いくつかの癌で異常に発現するとわかっている。多くのALK阻害剤がROS1の阻害の活性を示し、かかるALK阻害剤(たとえばクリゾチニブ)がROS1Pos癌の治療に有用であるとわかっている。ヒトROS1のUniProt受入番号はP08922である。癌という文脈では、ROS1は、遺伝子再構成の結果生じ、融合タンパク質内に発現することがわかっている。いくつかの発癌性ROS1融合タンパク質が知られており、ROS1はそこで恒常的に活性であり、FIG、CD74、TPM3、SDC4、およびSLC34A2などとの融合を含む。
【0040】
ROS1陰性癌は、ROS1の検出可能な発現を呈しないものもある。しかしながら、ROS1の発現は、健康な成人のヒトの組織に見られる。したがって、ROS1Neg癌は、より好ましくは、ROS1の発現に起因するわけではない癌として定義されうる。特に、ROS1Neg癌は、遺伝子再構成が起こることで生じる変異ROS1を発現しない癌として定義されてもよい。特に、ROS1Neg癌は、ROS1融合タンパク質を発現しない。これは、「ROS1陽性」(ROS1Pos)という用語が、ROS1融合タンパク質を発現する癌を称するために一般的に使用されるという、当該技術分野で使用される用語法と一貫している。
【0041】
癌にROS1が関係すること、特にROS1融合タンパク質の役割、およびかかるタンパク質がどのように検出されうるか、については、Davies & Doebele, Clinical Cancer Research 19(15): 4040-4045, 2013に記載されている。ROS1融合タンパク質の発現は、当該技術分野に公知のなんらかの方法、たとえば、qPCRまたは免疫組織化学法を使用して、検出してもよい。または、ROS1遺伝子再構成は、たとえばFISHによって(ROS1遺伝子再構成の検出用の“break-apart” FISH assayは、Davies et al., Clinical Cancer Research 18(17): 4570-4579, 2012に記載されており、この参照により本明細書に援用される)、または次世代ゲノムシーケンシングによって、DNAレベルで直接検出してもよい。このように、本発明に従って治療される癌は、ALKNegかつROS1NegかつLTKPosであってもよい。
【0042】
別の実施形態において、本発明に従って治療される癌は、NTRK融合陰性(本明細書において、NTRK-f陰性、NTRK-fNegともいう)である。ヒトには三つのNTRK遺伝子:NTRK1、NTRK2、NTRK3(それぞれ、TrkA,TrkB、およびTrkCをコードする)がある。TrkAのUniProt受入番号はP04629である;TrkBのUniProt受入番号はQ16620である;TrkCのUniProt受入番号はQ16288である。前記Trkタンパク質は、ALKに関連する受容体チロシンキナーゼである。ALKやROS1と同様に、Trk遺伝子再構成は、癌と関連すること、特に、恒常的に活性なTrk融合タンパク質を生む再構成と、関連することがわかっている。Trkタンパク質とTPM3、CD74、TRIM24、およびETV6などとの融合を含む、いくつかのかかる発癌性Trk融合タンパク質が知られている。
【0043】
NTRK-fNeg癌は、遺伝子再構成が起こることで生じる変異Trkタンパク質、特にTrk融合タンパク質を発現しない癌である。当該技術分野においてNTRK遺伝子の検出方法は既知であり、Hsiao et al., Journal of Molecular Diagnostics 21(4): 553-571で考察されている。好適な方法には、免疫組織化学(TrkA、TrkB、およびTrkC融合タンパク質に結合可能なpan-Trk抗体を利用)、FISH(特にbreak-apart FISH)、qPCR、および次世代DNAシーケンシングなどがある。このように、本発明に従って治療される癌は、ALKNegかつNTRK-fNegかつLTKPosであってもよい。特定の実施形態において、本発明に従って治療される癌は、ALKNegかつRos1NegかつNTRK-fNegかつLTKPos(ALKNegRos1NegNTRK-fNegLTKPos)である。
【0044】
本発明に従って治療される癌は、タンパク質分泌過多に関連する癌であってもよい。タンパク質分泌過多に関連する癌は、高い代謝活性を有し、他の細胞よりも有意に多いタンパク質を分泌する癌である。タンパク質分泌過多に関連する癌の例は、多発性骨髄腫であり、これは、Mタンパク質として知られるモノクローナル免疫グロブリンの分泌過多と関連する。多発性骨髄腫は、タンパク質分泌過多を呈する癌性の形質細胞である。下記にさらに詳細を示すように、CLL細胞はまた、LTKを発現し、ALK陰性であり、増殖状態ではALK阻害剤の標的となる。本明細書において、CLL細胞は、タンパク質分泌過多を呈する癌性の芽細胞である。下記にさらに詳細を示すように、非癌性形質細胞もまた、LTKを発現し、ALK陰性であり、ALK阻害剤の標的となる。
【0045】
特定の実施形態において、本発明に従って治療される癌は、多発性骨髄腫である。多発性骨髄腫(単に「骨髄腫」としても知られる)は、上述したようにクローン形質細胞の癌である。多発性骨髄腫は、血液および/または尿中のMタンパク質の存在に基づいて診断されてもよい。より一般的には、多発性骨髄腫は、骨髄生検を行い、骨髄に占める形質細胞の割合を測定することで診断される。多発性骨髄腫に特有の骨格中の渙散性病変を特定するために、医用撮像(たとえば、X線、MRIスキャン、およびPET/CTスキャン)を行ってもよい。多発性骨髄腫はこのように、当該技術分野において標準的な方法を使用して特定してもよい。ALKNegLTKPos多発性骨髄腫は、本発明に係るALK阻害剤で治療してもよい。
【0046】
下記実施例では、ALK阻害剤がALKNegLTKPos多発性骨髄腫の生存率を低減することに有効であることを示している。下記実施例に示されているように、多発性骨髄腫のかなりの割合がALKNegである(767人の患者からの多発性骨髄腫の>99.8%)。このように、本発明は、その利点として、多発性骨髄腫患者の、かなりのLTKPosサブセット(後述する767人の患者の解析に基づくと、多発性骨髄腫患者の80%を超えると推定される)に対して新たな治療の選択肢を提供する。
【0047】
別の実施形態において、本発明に従って治療される癌は、B細胞性の悪性慢性リンパ性白血病(CLL)である。本発明者らに解析された107人のCLL患者のうち、94人(94/107(88%))がLTKを発現したCLL細胞を有し、誰もALKを発現したCLL細胞を有さなかった。このように、調べられたCLL患者の大部分がALKNegLTKPos癌を有していた。CLL細胞は、リンパ組織または骨髄で、癌支持細胞がCLL細胞分裂を活性化する偽濾胞において、分裂する。悪性CLL細胞が、増殖状態の芽球と称される活性化された大きな癌細胞になる。この状態で、CLL細胞はまた分泌過多になり、モノクローナルIg(Mタンパク質)を分泌する。CLL患者は、IgVH変異CLLおよびIgVH非変異CLLという癌の二種類の形態のうちの一つを有してもよい。CLLのIgVH変異およびIgVH非変異の型のどちらも、ALK阻害剤によって死滅しやすく、したがってIgVH変異CLLおよびIgVH非変異CLLのどちらも本発明に従って治療されうる。以前に治療を受けた患者、および治療を受けていない患者からのCLL癌細胞は、ALK阻害剤により死滅しやすい。このように、ALK阻害剤は、CLL(たとえば、新たに診断されたCLL、または新たに症状が出たCLL)の第一選択治療として、または再燃したCLLの治療のために、本発明に従って使用されてもよい。
【0048】
別の実施形態において、本発明に従って治療される癌は、ALKNegLTKPos肝癌である。肝癌とは、原発性肝癌を意味し、体の他の場所から肝臓へ転移した続発性肝癌は意味しない。肝細胞癌、胆管細胞癌、およびその他の肝癌の珍しいタイプを含む、肝癌のすべてのタイプは、本発明に従って治療してもよい。
【0049】
LTKおよびALKは、すべての哺乳動物に発現する。従って、本発明はいかなる哺乳類の対象の治療にも及ぶものである。このように、前記対象は、ヒト対象に加えて、家畜動物、飼育動物、または競技用動物であってもよい。本発明は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物におけるALKNegLTKPos癌の治療を含む。本発明に従って治療されてもよい非ヒト哺乳動物の例としては、イヌ(イヌ科)、ネコ(ネコ科)、およびウマ(ウマ科)が含まれる。
【0050】
本発明に従って治療される癌は、ステージIの癌、ステージIIの癌、ステージIIIの癌、またはステージIVの癌など、いかなるステージであってもよい。このように、本発明に従って治療される癌は、限局性であってもよいし、または体中に広がっていてもよい。多発性骨髄腫に関していえば、骨髄腫は、国際病期分類(International Staging System)による分類として、ステージ1、ステージ2、またはステージ3であってもよい。本発明に従って治療される癌は、癌の再発であってもよく、たとえば、本発明が再燃した(relapsed)または再発した(recurrent)多発性骨髄腫またはCLLの治療に使用されてもよい。本発明に係る多発性骨髄腫の治療は、くすぶり型骨髄腫(smouldering myeloma)の治療を含む。くすぶり型骨髄腫は、活性多発性骨髄腫の前兆である。くすぶり型骨髄腫の治療により、活性な多発性骨髄腫への進行を予防したり遅延させたりしてもよい。
【0051】
本発明に従って治療される癌は、ヒト対象(または患者)に存在する。本発明に従って治療される患者は、ALKNegLTKPos癌と診断された患者である。かかる診断は、上述したように行うことができる。特定の実施形態において、本発明に従って治療される患者は、ALKNegLTKPos多発性骨髄腫と診断された患者である。または、前記患者はALKNegLTKPosCLLと診断されていてもよい。または、前記患者はALKNegLTKPos原発性肝癌と診断されていてもよい。前記患者はいかなる年齢でもよく、男性でも女性でもよい。
【0052】
上述したように、タンパク質分泌過多に関連する癌(特に多発性骨髄腫)は、通常、プロテアソーム阻害剤で治療される。現在まで、ボルテゾミブ(式VIII)、カルフィルゾミブ(式IX)、およびイキサゾミブ(式X)の、三つのプロテアソーム阻害剤が、多発性骨髄腫の治療用に承認されている。
【化8】
【化9】
【化10】
【0053】
当該技術分野では他のプロテアソーム阻害剤も多数知られており、そのうちのマリゾミブ、オプロゾミブ、およびMG132など、いくつかは、癌治療の臨床治験が行われている。
【0054】
特定の実施形態において、本発明に従って治療される癌は、プロテアソーム阻害剤を使用した治療に耐性がある。プロテアソーム阻害剤を使用した治療に耐性がある癌は、プロテアソーム阻害剤によって増殖が阻害されない癌である。すなわち、プロテアソーム阻害剤を使用した治療に耐性がある癌は、プロテアソーム阻害剤を使用した治療に応答しない癌、すなわち、プロテアソーム阻害剤を使用した治療にもかかわらず、増殖または進行を継続する癌である。
【0055】
プロテアソーム阻害剤を使用した治療に耐性がある癌は、プロテアソーム阻害剤を使用した治療に本質的に耐性があってもよい。前述のように、タンパク質分泌過多を特徴とする癌は、プロテアソーム阻害剤療法に対して特に感受性がある。これは、タンパク質分泌過多を特徴とする癌におけるタンパク質の合成レベルが上がった結果、小胞体(ER)におけるミスフォールドタンパク質のレベルが上がり、小胞体ストレスを起こすからである。これは、プロテアソームによるミスフォールドタンパク質の分解によって軽減される。プロテアソーム阻害は、ミスフォールドタンパク質の分解を抑制し、したがって小胞体ストレスの軽減を抑制し、細胞死を引き起こす。一方で、タンパク質分泌過多に関連しない癌はプロテアソーム阻害に影響を受けにくく、したがってプロテアソーム阻害剤を使用した治療に耐性がありうる。
【0056】
阻害剤と結合する部位でプロテアソームに変異があることにより、プロテアソーム阻害剤治療に本質的に耐性がある癌もある。たとえば、ヒトプロテアソームのβ5サブユニットのA49T変異が、ボルテゾミブ耐性と関連していることがわかっている。癌がプロテアソーム阻害剤を使用した治療に耐性を持ちうるメカニズムは、Wallington-Beddoe et al., British Journal of Haematology 182(1): 11-28, 2018で考察されている。
【0057】
プロテアソーム阻害剤を使用した治療に本質的に耐性がある癌は、プロテアソーム阻害剤治療に全く応答しない癌、すなわち、プロテアソーム阻害剤を患者に投与した最初の時に、癌がその治療に応答せずに増殖および/または進行を継続する癌である。
【0058】
または、プロテアソーム阻害剤を使用した治療に耐性がある癌は、プロテアソーム阻害剤耐性を獲得したものでもありうる。プロテアソーム阻害剤耐性を獲得した癌は、初期にはプロテアソーム阻害剤を使用した治療に応答したが、その後この治療に対する応答性を失っている癌である。このようにプロテアソーム阻害剤療法に対する応答性が失われることにより、治療中の患者に癌の再燃または再発を起こすことがある。特にプロテアソームにおける変異が発生(development)し阻害剤の結合を阻むなど、上記に述べた、またWallington-Beddoe et al.(上記参照)で考察されている、一つ以上のメカニズムにより、癌がプロテアソーム阻害剤に対する耐性を獲得することがある。
【0059】
プロテアソーム阻害剤を使用した治療に耐性がある癌は、一つ以上のプロテアソーム阻害剤を使用した治療に耐性があってもよい。異なるプロテアソーム阻害剤は、プロテアソームに対する異なる結合特性を有し、したがって、癌があるプロテアソーム阻害剤に対しては耐性があるが、別のプロテアソーム阻害剤を使用した治療には感受性がありうることが知られている。特定の実施形態において、癌はボルテゾミブを使用した治療に耐性がある。別の実施形態において、癌はカルフィルゾミブを使用した治療に耐性がある。別の実施形態において、癌はイキサゾミブを使用した治療に耐性がある。癌は、すべてのプロテアソーム阻害剤を使用した治療に耐性を有していてもよく、特に癌治療について認可を受けたすべてのプロテアソーム阻害剤を使用した治療に耐性を有していてもよい。プロテアソーム阻害剤を使用した治療に耐性がある前記癌は、多発性骨髄腫であってもよく、特に、ボルテゾミブ治療に耐性がある多発性骨髄腫であってもよい。
【0060】
「形質細胞媒介性疾患」とは、調節不全の形質細胞、または形質細胞に産生された抗体が、健康を害しているような疾患または病状を意味する。すなわち、形質細胞の活性が引き起こす、または寄与する、なんらかの疾患または病状が、形質細胞媒介性疾患である。形質細胞媒介性疾患において、形質細胞が産生する抗体が、患者において組織損傷を引き起こす。かかる疾患は、調節不全の形質細胞からの抗体の分泌過多に関連することがよくある。本発明は、ALK陰性かつLTK陽性である細胞を特徴とする、形質細胞媒介性疾患の治療に使用するためのALKの線状阻害剤を提供する。これに関していうと、ALKNegかつLTKPosである前記細胞は、前記疾患を媒介する形質細胞である。
【0061】
形質細胞媒介性疾患の例としては、全身性エリテマトーデスやITP、および移植片対宿主病(GVHD)など、多数の自己免疫疾患がある。GVHDがT細胞媒介疾患であると主に考えられる時もある一方で、慢性拒絶反応で重要なB細胞成分を有することもある。ここで、調節不全形質細胞が自己抗体を産生し、これが遅延した移植片拒絶および疾患の影響に大きく寄与する。したがって、本明細書において、GVHDを形質細胞媒介性疾患と考える。
【0062】
本明細書において定義されるように、「形質細胞」とは、形質細胞株の細胞のすべてのタイプ、すなわち、成熟形質細胞およびその前駆体を意味する。本明細書において、形質細胞は、抗体分泌形質芽細胞およびその他の抗体分泌B細胞芽球を含む、末端分化B細胞と定義される。このように、「形質細胞」には、成熟形質細胞、および短命の形質芽細胞がある。当業者に知られているように、活性化されたメモリーB細胞芽球は、CD20を発現してもよく、CD20は、CD38HiCD138Negである形質芽細胞で失われてもよい。形質細胞は、CD38HiCD138PosCD19+またはCD38HiCD138PosCD19Neg末端分化形質細胞であってもよい。
【0063】
このように、本発明にしたがって、線状ALK阻害剤が自己免疫疾患に使用されてもよく、特に自己抗体の産生を特徴とする自己免疫疾患の治療のために使用されてもよい。本発明に従って治療可能な自己免疫疾患の例としては、ループスおよびITPがある。本発明はまた、線状ALK阻害剤を使用したGVHDの治療を提供する。前述のように、非癌性形質細胞(たとえば形質芽細胞および成熟形質細胞)は、ALKNegLTKPos表現型を有することを特徴とし、したがって本発明に従って治療されるいずれかの形質細胞媒介性疾患(自己免疫疾患またはGVHDなど)はALKNegLTKPosである形質細胞によって媒介され、ただし形質細胞のALKおよびLTKの表現型は、上述したように実験により判定されてもよい。
【0064】
前述のように、LTKおよびALKがすべての哺乳動物に発現するので、本発明は、ヒトおよび非ヒト哺乳動物を含む、いかなる哺乳類の対象においても自己免疫疾患を治療するための線状ALK阻害剤を提供し、特にALKNegLTKPos形質細胞による自己抗体の産生を特徴とする自己免疫疾患を治療するための線状ALK阻害剤を提供する。本発明に従って治療されてもよい非ヒト哺乳動物の例には、イヌ(イヌ科)、ネコ(ネコ科)、およびウマ(ウマ科)がある。
【0065】
前述のように、線状ALK阻害剤はLTKを阻害することがわかっている。したがって、本発明に係る癌または形質細胞媒介性疾患の治療に使用されるALK阻害剤は、阻害剤がLTKに対する活性も有しさえすれば、いずれの公知のALK阻害剤であってもよい。このように、本明細書で規定され記載された本発明の様々な態様において、前記ALK阻害剤は、LTKを阻害することができるALK阻害剤とも定義されてもよく、または特にLTKの活性を阻害することができるALK阻害剤とも定義されてもよい。
【0066】
ある実施形態において、前記ALK阻害剤は、下記式XIに記載された一般構造を有する。
【化11】
式XIのALK阻害剤において、R1はCH3またはiPrであり、R2はHまたはCH3であり、
【化12】
【0067】
本発明に従って使用されるALK阻害剤は、特に、セリチニブ(式III)であってもよい。セリチニブは、商品名がジカディア(Zykadia)であり、これも市販されている(たとえば、ケイマンケミカル(Cayman Chemical、米国)から、品番19374)。
【0068】
NSCLCの治療におけるセリチニブの標準的な投薬計画は、一日一回450mg経口用量である。本発明の特定の実施形態において、セリチニブを使用した治療は、約450mgのセリチニブの一日一回の用量、好ましくは、450mgセリチニブの一日一回の用量を投与することを含む。別の実施形態において、前記治療は、約300mgのセリチニブまたは約150mgのセリチニブの一日一回の用量、好ましくは300mgのセリチニブまたは150mgのセリチニブの一日一回の用量を投与することを含む。特定の実施形態において、前記治療は、100~400mgのセリチニブの一日一回の用量、たとえば、200~400mg、100~300mg、200~300mg、または300~400mgのセリチニブの一日一回の用量を投与することを含む。別の実施形態において、前記治療は、400~600mgのセリチニブの一日一回の用量、たとえば、400~500mg、または500~600mgのセリチニブの一日一回の用量を投与することを含む。特定の実施形態において、本発明は、400~500mgのセリチニブの一日一回の用量、好ましくは450mgのセリチニブの一日一回の用量を投与することを含む、ALKNegLTKPos多発性骨髄腫の治療を提供する。セリチニブは、好ましくは経口投与される。
【0069】
特定の実施形態において、本発明は、ヒト対象におけるALK陰性かつLTK陽性の多発性骨髄腫の治療に使用するためのセリチニブを提供し、前記治療は、一日に450mgのセリチニブを含む用量の投与を含み、前記用量は経口投与される。
【0070】
別の実施形態において、本発明は、ヒト対象におけるALK陰性かつLTK陽性の多発性骨髄腫の治療に使用するためのセリチニブを提供し、前記治療は、一日に300mgのセリチニブを含む用量の投与を含み、前記用量は経口投与される。
【0071】
別の実施形態において、本発明は、ヒト対象におけるALK陰性かつLTK陽性の多発性骨髄腫の治療に使用するためのセリチニブを提供し、前記治療は、一日に150mgのセリチニブを含む用量の投与を含み、前記用量は経口投与される。
【0072】
別の実施形態において、本発明は、ヒト対象におけるALK陰性かつLTK陽性の多発性骨髄腫の治療に使用するためのセリチニブを提供し、前記治療は、一日に500~600mgのセリチニブを含む用量の投与を含み、前記用量は経口投与される。
【0073】
別の実施形態において、本発明は、ヒト対象におけるALK陰性かつLTK陽性の多発性骨髄腫の治療に使用するためのセリチニブを提供し、前記治療は、一日に400~500mgのセリチニブを含む用量の投与を含み、前記用量は経口投与される。
【0074】
別の実施形態において、本発明は、ヒト対象におけるALK陰性かつLTK陽性の多発性骨髄腫の治療に使用するためのセリチニブを提供し、前記治療は、一日に300~400mgのセリチニブを含む用量の投与を含み、前記用量は経口投与される。
【0075】
別の実施形態において、本発明は、ヒト対象におけるALK陰性かつLTK陽性の多発性骨髄腫の治療に使用するためのセリチニブを提供し、前記治療は、一日に200~300mgのセリチニブを含む用量の投与を含み、前記用量は経口投与される。
【0076】
別の実施形態において、本発明は、ヒト対象におけるALK陰性かつLTK陽性の多発性骨髄腫の治療に使用するためのセリチニブを提供し、前記治療は、一日に100~200mgのセリチニブを含む用量の投与を含み、前記用量は経口投与される。
【0077】
別の実施形態において、ヒト対象におけるLTK陽性の多発性骨髄腫の治療に使用するためのセリチニブが提供され、前記治療は、一日に300~750mgのセリチニブを含む用量の投与を含み、前記用量は経口投与される。
【0078】
別の実施形態において、ヒト対象におけるLTK陽性の多発性骨髄腫の治療に使用するためのブリガチニブが提供され、前記治療は、一日に50~200mgのブリガチニブを含む用量の投与を含み、前記用量は経口投与される。
【0079】
別の実施形態において、多発性骨髄腫、慢性リンパ性白血病、または肝癌と診断された患者において癌を治療する方法が提供され、前記方法は下記工程を含む:
前記患者から癌細胞を含むサンプルを取得する工程;
前記癌細胞にLTK発現解析を行う工程;および
前記癌細胞がLTKを発現している場合、有効量の線状ALK阻害剤を前記患者に投与する工程。
【0080】
別の実施形態において、多発性骨髄腫、慢性リンパ性白血病、または肝癌と診断された患者において癌を治療する方法が提供され、前記方法は下記工程を含む:
前記患者から癌細胞を含むサンプルを取得する工程;
前記癌細胞にLTK発現解析を行う工程;および
前記癌細胞がLTKを発現している場合、セリチニブ、ブリガチニブ、クリゾチニブ、エンサルチニブ、およびエントレクチニブから選択されるALK阻害剤を有効量、前記患者に投与する工程。
【0081】
別の実施形態において、ループスまたは免疫性血小板減少症と診断された患者において自己免疫疾患を治療する方法が提供され、前記方法は下記工程を含む:
前記患者から形質細胞を含むサンプルを取得する工程;
前記形質細胞にLTK発現解析を行う工程;および
前記形質細胞がLTKを発現している場合、有効量の線状ALK阻害剤を前記患者に投与する工程。
【0082】
別の実施形態において、ループスまたは免疫性血小板減少症と診断された患者において自己免疫疾患の治療を行う方法が提供され、前記方法は下記工程を含む:
前記患者から形質細胞を含むサンプルを取得する工程;
前記形質細胞にLTK発現解析を行う工程;および
前記形質細胞がLTKを発現している場合、セリチニブ、ブリガチニブ、クリゾチニブ、エンサルチニブ、およびエントレクチニブから選択されるALK阻害剤を有効量、前記患者に投与する工程。
【0083】
別の実施形態において、患者における移植片対宿主病の治療を行う方法が提供され、前記方法は下記工程を含む:
前記患者から形質細胞を含むサンプルを取得する工程;
前記形質細胞にLTK発現解析を行う工程;および
前記形質細胞がLTKを発現している場合、有効量の線状ALK阻害剤を前記患者に投与する工程。
【0084】
別の実施形態において、患者における移植片対宿主病の治療を行う方法が提供され、前記方法は下記工程を含む:
前記患者から形質細胞を含むサンプルを取得する工程;
前記形質細胞にLTK発現解析を行う工程;および
前記形質細胞がLTKを発現している場合、セリチニブ、ブリガチニブ、クリゾチニブ、エンサルチニブ、およびエントレクチニブから選択されるALK阻害剤を有効量、前記患者に投与する工程。
【0085】
セリチニブは、いずれかの好適な形態で投与されればよい。セリチニブの様々な結晶形態が知られており、国際公開第2012/082972号および国際公開第2016/098070号に詳細が記載されている。本発明に従って、いずれかのかかる結晶形態が使用されてもよい。好ましくは、セリチニブはカプセル状に製剤化されて投与される。
【0086】
別の実施形態において、本発明に従って使用されるALK阻害剤は、ブリガチニブ(式IV)である。ブリガチニブは、商品名アルンブリグ(Alunbrig)であり、基準として、7日間は一日一回90mg、その後一日一回180mgという投薬計画に従って、患者に経口で投与される。本発明のある実施形態において、ブリガチニブは、この投薬計画に従って投与される。別の実施形態において、ブリガチニブは、7日間一日一回60mg、その後一日一回120mg、または一日一回90mgという投薬計画に従って、経口投与される。別の実施形態において、ブリガチニブは、一日一回60mgの経口投与量で投与される。好ましくは、ブリガチニブは錠剤状に製剤化されて投与される。
【0087】
別の実施形態において、本発明に従って使用されるALK阻害剤は、クリゾチニブ(式II)である。クリゾチニブ(商品名ザーコリ(Xalkori))は、基準として、250mgを一日二回、経口で摂取という投薬計画に従って、患者に投与される。本発明のある実施形態において、クリゾチニブは、この投薬計画に従って投与される。別の実施形態において、200mgのクリゾチニブを一日二回、経口投与する。別の実施形態において、クリゾチニブは、一日一回250mgの経口投与量で投与される。好ましくは、クリゾチニブはカプセル状に製剤化されて投与される。
【0088】
別の実施形態において、本発明に従って使用されるALK阻害剤は、エンサルチニブ(式V)である。エンサルチニブは、一日一回225mgの投与量で経口投与されてもよい。
【0089】
別の実施形態において、本発明に従って使用されるALK阻害剤は、アレクチニブ(式VI)である。アレクチニブ(商品名アレセンサ(Alecensa))は、基準として、600mgを一日二回、経口で摂取という投薬計画に従って、患者に投与される。本発明のある実施形態において、アレクチニブは、この投薬計画に従って投与される。別の実施形態において、450mgのアレクチニブを一日二回、経口投与する。別の実施形態において、300mgのアレクチニブを一日二回、経口投与する。好ましくは、アレクチニブはカプセル状に製剤化されて投与される。
【0090】
別の実施形態において、本発明に従って使用されるALK阻害剤は、エントレクチニブ(式VII)である。エントレクチニブ(商品名ロズリートレク(Rozlytrek))は、基準として、600mgを一日一回、経口で摂取という投薬計画に従って、患者に投与される。本発明のある実施形態において、エントレクチニブは、この投薬計画に従って投与される。別の実施形態において、500mgのエントレクチニブを一日一回、経口投与する。別の実施形態において、400mgのエントレクチニブを一日一回、経口投与する。別の実施形態において、300mgのエントレクチニブを一日一回、経口投与する。別の実施形態において、200mgのエントレクチニブを一日一回、経口投与する。好ましくは、エントレクチニブはカプセル状に製剤化されて投与される。
【0091】
または、国際公開第2008/073687号、国際公開第2009/126514号、または国際公開第2010/002655号(この参照によりすべて本明細書に援用される)に開示された線状ALK阻害剤のいずれか一つを、本発明に使用してもよい。
【0092】
各薬剤について、熟練の医師により、好適な服用スケジュールが選択されてもよく、たとえば臨床研究や薬に対する患者の反応に基づき、好適な服用スケジュールが選択されてもよい。ALK阻害剤は経口投与用が現在知られているが、必要に応じて、たとえば静脈内投与など、別の投与経路を利用してもよい。本発明に係る使用のためのALK阻害剤は、好ましくは医薬組成物の形態で投与される。好適な医薬組成物としては、溶液またはシロップや、粉末、細粒、錠剤、またはカプセルなどの固形組成物、ならびにクリームおよび軟膏が挙げられる。好ましくは、上記に規定されたように、各ALK阻害剤が、ALKPos NSCLCの治療での使用について認可された形態で投与される。
【0093】
このような組成物に用いられる医薬上許容される希釈剤、担体、および賦形剤は、当該技術分野において周知である。たとえば、好適な賦形剤としては、乳糖、デンプングリコール酸ナトリウム、トウモロコシデンプンまたはその誘導体、ステアリン酸またはその塩、植物油、蝋、脂肪、およびポリオールが挙げられる。好適な担体または希釈剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、デキストロース、トレハロース、リポソーム、ポリビニルアルコール、医薬品グレードのデンプン、マンニトール、乳糖、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム、セルロース、グルコース、スクロース(および他の糖)、炭酸マグネシウム、シリカ、ゼラチン、油脂、アルコール、界面活性剤、およびポリソルベートなどの乳化剤が挙げられる。安定化剤、湿潤剤、乳化剤、甘味料などが用いられてもよい。安定化剤、湿潤剤、乳化剤、甘味料なども、使用されてもよい。
【0094】
好ましい実施形態において、本発明に従って使用されるALK阻害剤は、使用が事前に承認されている賦形剤などが配合される。かかる情報は、FDAまたはEMAによって発行された、これらの薬の規制上の承認に見ることができる。
【0095】
本明細書で使用される「治療」という用語は、治癒する治療(または、治癒を意図する治療)と、もしくは苦痛緩和の治療(すなわち、癌または形質細胞媒介性疾患の症状を、単に、制限する、和らげる、または改善する治療)の両方を含む。
【0096】
ある実施形態において、本発明に従って使用されるALK阻害剤は、たとえば癌または形質細胞媒介性障害の治療用の、単一治療薬として使用してもよい。本発明に従って、複数のALK阻害剤を順次使用してもよい。これは、以下のことを意味する。第一のALK阻害剤を患者の癌治療に使用し、その後使用を中断する(たとえば、患者に、その薬に対してよくない反応がある、または前記癌がその薬に対して耐性をもつようになる、などの理由から)。前記第一のALK阻害剤の投与中断の後、第二の(異なる)ALK阻害剤を患者に投与する。これもまた中断し、第三の異なるALK阻害剤を投与する(等々)。形質細胞媒介性障害の治療にたいしても、必要であれば、同様の方針が適用されてもよい。
【0097】
別の実施形態において、本発明に従って使用されるALK阻害剤は、併用療法の一部分を構成してもよい。たとえば、癌治療において、ALK阻害剤を、少なくとも一つのさらなる抗腫瘍性薬または抗腫瘍性療法とともに使用してもよい。前記さらなる抗腫瘍性薬/療法は、ALK阻害剤ではない。ALK阻害剤の投与は、たとえば、従来の化学療法薬や、放射線治療、ホルモン療法または免疫療法、もしくは第二の標的/高精度低分子治療などと組み合わせてもよい。本発明に係る形質細胞媒介性疾患の治療で、ALK阻害剤を好適な第二の治療用分子と組み合わせて使用してもよい。たとえば、自己免疫疾患の治療で、たとえば非ステロイド抗炎症薬(NSAID)やコルチコステロイドなどの免疫抑制剤等、自己免疫疾患の治療に用いられる薬と組み合わせてALK阻害剤を用いてもよい。
本発明によると、ALKNegLTKPos多発性骨髄腫の治療において、プロテアソーム阻害剤と組み合わせて、ALK阻害剤を特に使用してもよい。本発明に係る使用のためのALK阻害剤は、上記のプロテアソーム阻害剤のいずれか一つと組み合わせて使用してもよい。たとえば、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、またはイキサゾミブと組み合わせてセリチニブを使用してもよい。
【0098】
本発明は、以下の限定しない実施例および図面を参照することによって、さらに理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0099】
図1図1:LTKノックダウンは、小胞体ストレス引き起こす。 この図は、タンパク質分泌過多に起因する小胞体ストレスに対するLTKノックダウンの効果を示す。誘導的に発現可能なIgM(重鎖および軽鎖)をコードするHeLa細胞に、コントロール、またはLTK siRNAを遺伝子導入した。72時間後、ミフェプリストンで細胞を処理してIgM発現を誘導し、その後、(誘導後の指示された時間で)溶解させ、指示されたタンパク質に対してイムノブロットを行った。
図2図2:LTKは、細胞が高分泌負荷に対処できるようにする。 A:L363細胞を5μMクリゾチニブで処理し、スプライシングされていないXBP1とスプライシングされたXBP1との発現の比、およびATF4の発現を処理後4時間、8時間、および12時間で測定した。XBP1のスプライシングとATF4の蓄積とは、小胞体ストレスの誘導の徴候である。B:ボルテゾミブ耐性L363aBTZ細胞を5μMクリゾチニブで処理し、スプライシングされていないXBP1とスプライシングされたXBP1との発現の比、およびATF4の発現を、処理後4時間、8時間、および12時間で測定した。C:誘導可能なIgM(重鎖および軽鎖)を発現したHeLa細胞をミフェプリストンで処理し、2週間、IgMの発現を誘導した。その後、1μMクリゾチニブで24時間、細胞を処理し、その後溶解させ、スプライシングされたXBP1に対してイムノブロットを行い、小胞体ストレスを測定した。+および-は、細胞のミフェプリストン処理の有無をそれぞれ示す。誘導された細胞は、分泌過多であると考えられ、誘導されていない細胞は分泌のレベルが正常である。ブロットの上の数字は、三つの独立した実験からの濃度測定の定量化±SDを示している。ただし、分泌過多細胞は、クリゾチニブでの処理の際に高レベルの小胞体ストレスを呈する。D:IgMを過剰発現しないHeLa細胞と、長期(14日)間IgM過剰発現させた細胞との間の、定量的PCRによるLTK mRNA発現の比較
図3図3:ALKNegLTKPos細胞は、クリゾチニブ処理に対して感受性があり、アポトーシスを起こす。 この図は、分泌過多の細胞におけるLTKの阻害が、その生存率を低下させることを示す。A:誘導可能なIgM(重鎖および軽鎖)を発現したHeLa細胞をミフェプリストンで処理し、2週間、IgMの発現を誘導した。その後、1μMクリゾチニブで24時間、細胞を処理し、その後溶解させ、カスパーゼ3についてイムノブロットを行った。上のブロットは、非切断カスパーゼ3を示し、下のブロットは切断されたカスパーゼ3を示す。カスパーゼ3の切断は、アポトーシス誘導を示し、+および-は、細胞のミフェプリストン処理の有無をそれぞれ示す。B:三つの異なる骨髄腫細胞株の生存率に対するクリゾチニブ処理(24時間)の効果についての濃度反応曲線。結果は、三つの独立した実験の平均値である。C:示された骨髄腫細胞株においてLTKおよびALK mRNAの発現レベルを、qPCRにより測定した。
図4図4:ALKNegLTKPos細胞株は、ALK阻害剤処理に対して感受性がある。 この図は、骨髄腫細胞株L363およびAMO-1、およびそれらのボルテゾミブ耐性クローン(L363-BTZおよびAMO-1-BTZ)の生存率に対する、セリチニブ、アレクチニブ、エンサルチニブ、ロルラチニブ、エントレクチニブ、およびクリゾチニブ(24時間の処理)の効果についての、濃度反応曲線を示す。結果は、三つの独立した実験の平均値である。骨髄腫細胞の生存率の濃度依存的な減少に注目。
図5図5:LTKは分泌を調節し、かつ線状ALK阻害剤は分泌を低減する。 この図は、タンパク質分泌についての、セリチニブによるLTK阻害の効果を示す。A:flagタグ化LTKを発現しているHeLa細胞を、1μMのクリゾチニブまたはセリチニブで30分間処理した。その後、細胞を溶解し、リン酸化したLTKでイムノブロットし、これをLTKの活性形態の代用物として使用した。下のブロットは、細胞中の全LTKのレベルを示す。B:HeLa細胞を1μMセリチニブで30分間処理し、続いて、固定し、ERESを標識するためにSec31Aについて染色を行った。共焦点顕微鏡により細胞を撮像し、ImageJを使用してERESを数えた。C:mCherryタグ化マンノシダーゼII RUSHレポーターを安定的に発現しているHeLa細胞。細胞をビオチンで処理し、ERからレポーターを放出させた。20分後、レポーターのほとんどがゴルジに到着した時点で、細胞を固定し、ゴルジ装置を標識するためにGM130を免疫染色した。画像は、ビオチン添加の20分後の細胞の代表的な例を示し、ここでセリチニブ処理細胞は、ゴルジ領域でレポーターの発現が少ない。右側のグラフは、ゴルジ(緑色)領域におけるレポーター蛍光(赤色)の比率で定量したものを示す。D:IgA分泌AMO-1細胞を3時間、示された用量のセリチニブで処理し、細胞上清中のIgAの量をELISAで測定した。
図6図6:患者からの多発性骨髄腫細胞は、クリゾチニブ処理に対して感受性がある。 この図は、示されているように7人の患者から単離した純化CD138+多発性骨髄腫細胞の生存率におけるクリゾチニブ処理(72時間)の効果についての用量反応曲線を示す。生存率は、CellTiterGloにより測定した。
図7図7:骨髄腫患者からの多発性骨髄腫細胞中のLTKおよびALK発現。 AおよびBは、CoMMpass study、IA-13 buildからのオーミックデータを示す。データは、Multiple Myeloma Research Foundation Personalized Medicine Initiatives (https://research.themmrf.org)からの、767個の多発性骨髄腫サンプル(www.themmrf.org)を含んでいた。RNA配列データは、Fragments Per Kilobase of transcript per Million mapped reads(FPKM)として表されている。 A:CoMMpass studyの767人の患者の多発性骨髄腫細胞のRNA配列データ。LTKと、ERGIC-53(LMAN1)、VIP36(LMAN2)、SURF4、BiP(HSP5A)などの分泌経路遺伝子、ALK遺伝子、およびネガティブコントロールIL-2の発現を示す。IL-2は、多発性骨髄腫細胞では発現しない(発現は、FPKM=1というカットオフ値(点線)を下回る)。バイオリン図は、中央値(一点鎖線)と四分位値(点線)を含む。 B:767人の患者のLTKの発現対ALKの発現を示すドットプロット。点線は、LTKおよびALKについての発現のカットオフ値(FPKM=1)を示す。
図8図8:NSGマウスの異種移植ヒト多発性骨髄腫細胞は、クリゾチニブに対して感受性がある。 この図において、免疫低下NSGマウスに、ヒトL363-BTZ(ボルテゾミブ耐性)骨髄腫細胞を大腿内注射した。前記細胞は、疾患の進行をインビボでモニターするために、ルシフェラーゼを有した。10日後から、マウスに、ボルテゾミブを静脈内注射で7日間に二回、クリゾチニブを経口で7日間毎日、投与して治療した。左側の画像は、治療の4日目と7日目(腫瘍接種後14日目と17日目)の異なるグループの腫瘍負荷の例を示し、右側のグラフは、治療0日目(腫瘍接種10日目)に正規化した各コホート(n=4)の各マウスについて、平均的なルシフェラーゼシグナルを示している。グループ間の統計的有意差を2要因分散分析(two-way ANOVA)によって分析し、時点間の統計的有意差をチューキーポストテスト(Tukey post-test)を用いた1要因分散分析(one-way ANOVA)によって分析した。
図9図9:慢性リンパ球白血病(CLL)細胞におけるLTK発現およびALK発現。 107人の患者のCLL細胞サンプルからの遺伝子発現データを、LTKおよびALKの発現について、解析した。示されているように、CLLサンプルの、107人の患者のうち94人(88%)がカットオフ値(点線)を超えてLTKを発現し、一方でALKを発現したサンプルは無かった(右側のヒストグラム)。
図10図10:患者からのCLL細胞は、線状ALK阻害剤クリゾチニブに対して感受性がある。 この図は、線状ALK阻害剤に応答している、活性化され増殖しているCLL芽球の応答を示す。 左:21人の患者からのCLL細胞の用量反応曲線。 中央:クリゾチニブに対する感受性がある17個のサンプルを示すバイオリン図に、IC50値を示す。これらは、過剰な感受性がある(3人の患者からのCLL細胞)、高い感受性がある(3人の患者)、および感受性がある(11人の患者)ことを示す。 右:薬物感受性スコア(DSS値、Yadav et al., Scientific Reports 4: 5193,2014)は、ハイスループット化合物試験研究での多重用量反応関係を統合する(integrate)。患者の三分の一がクリゾチニブに対して高い感受性があるCLL細胞を有していることを、CLLサンプルのDSSが示している。
図11図11:IgVHUnmut患者からのCLL細胞は、クリゾチニブに対して感受性がある。 図10からのCLLサンプルを、免疫グロブリン変数重鎖(IgVH)遺伝子の変異状態に関して分類した。 左:IgVHUnmut CLLを有する6個の患者サンプルのうち4個が、クリゾチニブに対して高い感受性がある。IgVHUnmutサンプルに低い感受性を示すものは無かった。 右:15個のIgVHMut CLLサンプルのうち3個が、クリゾチニブに対して高い感受性がある。これらのうち1個がかろうじて変異していると認められた(97.9%の相同性を有するCLL168)。15個のIgVHMutサンプルのうち4個が低い感受性を示した。
図12図12:患者からのCLL細胞は、ALK阻害剤治療に対して感受性がある。 ブリガチニブ、セリチニブ、エンサルチニブ、エントレクチニブ、およびロルラチニブを使用したALK阻害剤治療に対する応答について、12人の患者からのCLL細胞を調べた。薬物感受性スコア(DSS値、Yadav et al., Scientific Reports 4: 5193,2014)を示す。カットオフラインは、DSS=10に設定されている(点線)。
図13図13:B細胞分化におけるLTK発現およびALK発現。 この図は、ヒトでのB細胞のサブセットにおけるALKおよびLTKの発現を解析する。A:B細胞サブセットについて、発現シグナルを示す:LTKの発現(左のプロット)およびALKの発現(右)。メモリーセル、形質芽細胞、および形質細胞中で、LTKはカットオフ値を超えて発現する。ALKはB細胞サブセット中で発現しない。 B:健康なドナーの末梢血単核球(PBMC)分画内の29種の免疫細胞タイプについて、寄託されたRNA配列およびフローサイトメトリーデータから、RNA配列データをダウンロードした。データは、ナイーブB細胞ではLTKの発現が低く(105中18が陽性)、ALKに対して陰性であることを示した。メモリーB細胞および形質細胞は、LTKに対して陽性であり、ALKに対してすべて陰性であった。メモリーB細胞および形質細胞は、ALKNegLTKPosであった。
図14図14:インビトロで生成された形質細胞は、クリゾチニブに対して感受性があった。 5人の血液バンクドナーからのCD19+B細胞に、CD40L、BAFF、およびAprilを発現している接着性マウスL細胞により、3日間刺激を与え、B細胞芽球(形質芽細胞/細胞)を作製した。クリゾチニブに対する感受性について、形質芽細胞/細胞を72時間調べた。 左:クリゾチニブで処理された5人の正常な形質芽細胞/細胞の薬剤感受性プロファイルにおける、相対的な細胞の生存率。 右:クリゾチニブで処理された5人の正常な形質芽細胞/細胞のIC50
図15図15:インビトロで生成された形質細胞は線状ALK阻害剤クリゾチニブおよびセリチニブに対して感受性がある 血液バンクドナーからのネガティブ選択された正常なB細胞を、sCD40L、IL-21、IL-4で5日間刺激した。このプロトコルにより、IRF4およびBLIMP1を発現する10~20%末端分化形質細胞を生成することができる。5~7日目より、細胞を、Aでは用量設定したクリゾチニブ、またはBでは用量設定したセリチニブに暴露した。 AおよびBで、ゲーティングされたCD19+B細胞中のIRF4対BLIMP1を示す。IRM4陽性かつBLIMP1陽性の二重陽性の細胞は、最終段階の形質細胞を意味する。かかる形質細胞はゲーティングされ(青色の楕円の領域)、形質細胞の割合が示されている。阻害剤の無い(0)条件、および0.01μM、0.1μM、1μM、10μM、および100μMの濃度で線状ALK阻害剤(クリゾチニブ、A;セリチニブ、B)の有る条件が、示されている。 パネルCは、クリゾチニブおよびセリチニブの示された用量に応答した、形質細胞の百分率生存率を算出したものを示している。
図16図16:形質細胞はインビボでクリゾチニブに感受性があり、インビトロでIgの分泌を低減する。 ルシフェラーゼ+L363wt形質細胞株を、免疫低下NSGマウスに大腿内注射した。10日後、マウスを7日間毎日クリゾチニブで治療した(一日50mg/kg、経口)。 左:異種移植マウスにおいて、形質細胞株はクリゾチニブにより殺傷される。10日目、14日目、および17日目に、IVIS光学撮像装置でマウスを撮像した。4匹のマウスのうちの3匹の腹側面を示す。マウスには、媒質(上)またはクリゾチニブ(下)を与えた。4匹のマウスのうちの3匹で、クリゾチニブは、形質細胞からのシグナルを顕著に低減した。 右:Igの分泌がセリチニブにより減少する。形質細胞株AMO-1を洗浄して、ウェルに投入(106細胞/ウェル)し、3時間セリチニブの滴定下に置いた。Human IgA ELISA Kit(Abcam社、英国ケンブリッジ)を使用し、AMO-1細胞によって分泌されたIgAについて、上清を解析した。
図17図17:肝臓肝細胞癌は、ALKNegLTKPosであり、クリゾチニブによりアポトーシスに対して感受性になる。 365個の肝細胞癌(HCC)からのRNA配列データを、Cancer Genome Atlas (TCGA)から生成し、FPKM(Fragments Per Kilobase of exon per Million readsの数)として報告した。肝細胞癌からの365個の患者サンプルを、LTKおよびALKの発現について調べた。Aにおいて、左側のプロットは、点線で示されるカットオフ値と共に、LTK対ALKを示す。患者全員が、ALKNegであるサンプルを有している。前記サンプルの四分の一はLTKPosであり、したがってALKNegLTKPosである。 Bにおいて、肝細胞癌細胞(HepG2)をDMSOで処理した(未処理)か、または24時間ドキソルビシンの濃度を増加させて処理し(1、2、および5μM)、切断されたカスパーゼ3についてのイムノブロットによってアポトーシスを調べた。なお、5μMのドキソルビシンが細胞死をわずかに誘導したのみであった。また、1μMクリゾチニブの存在下で24時間、同じ濃度のドキソルビシンで細胞を処理した。なお、クリゾチニブの存在により、HepG2細胞のアポトーシス誘導薬ドキソルビシンへの感受性が高まり、これは線状ALK阻害剤の提供によりHCC細胞がアポトーシスに対して感受性になることを示している。
【実施例
【0100】
骨髄腫の実験、材料、および方法
患者サンプルおよび原発性多発性骨髄腫細胞サンプルの処理
多発性骨髄腫患者は、オスロ大学病院のオスロ骨髄腫センターから募った。この研究は、南西ノルウェー医療健康研究倫理地域委員会(the regional Committee for Medical and Health Research Ethics of South-East Norway)の承認を得た(REC#2016/947および2012/174)。骨髄液は、ヘルシンキ宣言に従って、告知に基づく同意に署名の上、多発性骨髄腫の患者から取得した。
7人の多発性骨髄腫患者のサンプルが含まれていた。患者は、二回目の再燃(患者番号1701)、三回目の再燃(2101,2021,1802,9041,2504)、または四回目の再燃(2201)の後に治療を受けた。患者は、少なくとも一つの治療において、プロテアソーム阻害剤(ボルテゾミブまたはカルフィルゾミブ)を摂取した。
Lymphoprep密度勾配遠心分離により、患者の骨髄液から、骨髄単核細胞(BMMC)を用意した。Dynabeads(ライフテクノロジーズ社)によるCD8の除去の後、Human T-Activator CD3/CD28 Dynabeads(ライフテクノロジーズ社)および100U/ml human interleukin-2(hIL-2、Roche社、ドイツ、マンハイム)の存在下でTh細胞を増殖させることにより、BMMCを刺激した。48時間後、BMMCを、CD138+富化し、MACS CD138+マイクロビーズ(ミルテニーバイオテク社、ドイツ、ベルギッシュグラートバッハ)を使用して多発性骨髄腫形質細胞を単離した。
【0101】
薬物療法および細胞生存率解析(多発性骨髄腫患者の細胞)
活性化解析からのCD138+多発性骨髄腫細胞(5,000~10,000細胞/ウェル)を、クリゾチニブに対する応答について、384ウェルプレートで調べた。0.1~10,000nMの濃度範囲を含む10倍希釈での6段階のクリゾチニブ濃度について調べた(Echoアコースティックディスペンサー(LabCyte社、米国カリフォルニア州サンホセ)により分注したプレート)。
前記プレートを、37℃および5%CO2の加湿環境下でインキュベートした。72時間後、製造者の説明書にしたがってCellTiterGlo(Promega社、米国ワイオミング州マディソン)ATP解析を使用し、かつ、Envision Xciteプレートリーダー(Perkin Elmer社、米国コネチカット州シェルトン)を使用して、細胞の生存率を決定した。各ウェルについて発光単位をネガティブコントロール(DMSO 0.1%)とポジティブコントロール(100μM BzCl)で正規化することにより、相対的割合(%)の細胞の生存率を算出し、曲線適合を行って、IC50値を得た。
【0102】
細胞培養および遺伝子導入
10%FCSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシン(GIBCO)を添加したDMEM(GIBCO)中で、HeLa細胞を培養した。プラスミドの過剰発現については、Fugene6を使用して、またはTransIT-LT1(Mirus社)を使用して、細胞に遺伝子導入を行った。ノックダウン実験については、HiPerfect(キアゲン社)を使用し、製造者の説明書にしたがって、10nM siRNA(最終濃度)を細胞に逆遺伝子導入した。
【0103】
細胞溶解およびイムノブロット
細胞をPBSで二度洗浄し、プロテアーゼ・ホスファターゼ阻害剤(Pierce Protease and Phosphatase Inhibitor Mini Tablets、EDTA無添加)を添加した溶解バッファー(50mM Tris-HCl, pH7.4; 1mM EDTA, 100mM NaCl, 0.1% SDS、および1% NP-40)に採集した。溶解物を、氷の上で10分間インキュベートし、次いで、洗浄遠心分離を20,000xg、4℃で、10分間行った。上清を清浄な試験管に移し、還元ローディングバッファーを加えた。溶解物にSDS-PAGEを行い、半乾式移動によりニトロセルロース膜上に移動させた。前記膜をブロックし(ROTIバッファー(Roth社)、または0.1%Tweenを含む5%ミルク含有PBSで)、適切な一次抗体でプローブした。続いて、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体で膜をインキュベートした。化学発光試薬(ECL clarity, BioRad社)を使用して、イムノブロットを展開し、ChemiDoc(BioRad社)を使用して撮像した。
【0104】
多発性骨髄腫細胞株、細胞培養、および生存率解析
使用された細胞株は、ヒト多発性骨髄腫細胞株L363(DSMZカタログ番号ACC49)、AMO-1(DSMZカタログ番号ACC538)、およびARH-77(ATCC CRL-1621)であった。
10%加熱不活性化胎児ウシ血清(FBS)、100μg/mlストレプトマイシン、および100U/mlペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich社、スイス、バックス)を添加したRPMI-1640培養培地(Sigma-Aldrich社、スイス、バックス)で、多発性骨髄腫細胞株を維持した。親細胞株を継続的に12カ月以上薬物曝露することにより、親細胞株からボルテゾミブ耐性細胞株を確立し維持した(Soriano et al,.Leukemia 30:2198-2207,2016)。
前記細胞の生存率は、製造者の説明書にしたがって、細胞カウントキット-8(CCK-8;MedChemExpress社、米国ニュージャージー州)を使用した24時間の後処理により、決定した。
【0105】
遺伝子発現解析
オミックスデータはCoMMpassSM study、IA-13 buildからダウンロードしたもので、767個の多発性骨髄腫サンプルを含んでいた(www.themmrf.org)。これらのデータは、Multiple Myeloma Research Foundation Personalized Medicine Initiatives (https://research.themmrf.org)の一部として生成された。RNA配列データは、Fragments Per Kilobase of transcript per Million mapped reads(FPKM)として表された。FKPM<1は、陰性とみなされた。
【0106】
RNA単離およびRT-PCR(s/uXBP1およびATF4誘導)
Trizol(Ambion/Thermo Fisher Scientific社、米国マサチューセッツ州)およびDirect-zol RNA MiniPrep(Zymo Research社、米国カリフォルニア州)を使用して、トータルRNAを細胞株から単離した。High Capacity cDNA Reverse Transcription kit(Applied Biosystems/Thermo Fisher Scientific社、米国マサチューセッツ州)を使用して、製造者の説明書にしたがって、トータルRNAの500ngを逆転写した。その後、QuantStudio5 Real-Time PCR system(Applied Biosystems/Thermo Fisher Scientific社、米国マサチューセッツ州)において、2xPowerUp SYBR Green Master Mix(Applied Biosystems/Thermo Fisher Scientific社、米国マサチューセッツ州)および以下のプライマーを用いたqPCR反応あたり10ngのcDNAを使用した。プライマー:スプライシングされたXBP1、スプライシングされていないXBP1、およびトータルXBP1、ならびにATF4(Oslowski & Urano, Methods in Enzymology 490: 71-92, 2011)、およびハウスキーピング遺伝子コントロールとしてGAPDH。
【0107】
ELISA
1x106/ml IgA分泌AMO-1細胞を、対象の化合物の用量を増加させた新鮮な培地に3時間播種した。続いて、前記培地を回収し、20倍に希釈し、Human IgA ELISA Kit(Abcam社、英国、製品番号ab137980)を用いて、製造者の説明書にしたがって、細胞培養上清中のIgA抗体のレベルを測定した。
【0108】
インビボ実験
Jackson Laboratory(No.005557、米国、カリフォルニア州)からNSG(NOD-scid IL2Rgammanull)マウスを取得し、個別換気ケージの中で自由に餌を接種させて飼った。同齢(6~8週齢)のマウスに対し、0.5x105L363-BTZ_Luc+_TdTomato+多発性骨髄腫細胞(モニタリング用に、Addgeneから取得したルシフェラーゼベクター#72486を備える)を、右大腿に注射した。ルシフェリン注射(150mg/kg、BioVision社、米国カリフォルニア州から取得)後、一週間の間に二回、腫瘍の増殖をモニターした。腫瘍接種後10日目に、クリゾチニブ(50mg/kg、経口、毎日)、ボルテゾミブ(1mg/kg、静脈内注射、7日間に二回)、または媒質を使用して処理を開始し、7日間行った。3Rの原則に従って研究を行った。実験は、動物実験委員会(Committee for Animal Experiments、スイス、ザンクトガレン)の承認された(申請番号30177)。ボルテゾミブおよびクリゾチニブは、MedChemExpress社、米国ニュージャージー州から購入した。
【0109】
CLLの実験、材料、および方法
遺伝子発現データ
CLL細胞についての遺伝子発現データは、 HYPERLINK "http://www.genomicscape.com/microarray" http://www.genomicscape.com/microarrayプラットフォームから取得可能な以前のデータセットの解析により取得した。107人のCLL患者のCLL細胞からのデータを、LTK遺伝子およびALK遺伝子の発現について、解析した。データは、Affymetrix Human Genome U133 Plus 2.0 Array)からの、Herold、慢性リンパ球白血病、HGU133P(107サンプル)のデータセット((Herold et al., Leukemia 25(10): 1639-45, 2011)を、Robust Multiarray Averaging(RMA)で正規化したものであった。
【0110】
CLLサンプルについての用量応答実験
患者からのCLL細胞に、CD40L、BAFF、およびAprilを発現している接着性マウスL細胞により、24時間刺激を与えた。前記L細胞を、その後、免疫磁気分離により除去した。洗浄したCLL細胞を、384ウェルプレートフォーマットに播き(10,000細胞/ウェル)、クリゾチニブについて、10倍希釈での5段階の濃度で調べた(Echoアコースティックディスペンサー(LabCyte社、米国カリフォルニア州サンホセ)により分注したプレート)。前記プレートを、37℃および5%CO2の加湿環境下でインキュベートした。72時間後、CellTiterGlo(Promega社、米国ワイオミング州マディソン)ATP解析を製造者の説明書にしたがって使用し、かつ、Envision 2102 Multilabelリーダー(PerkinElmer社、米国コネチカット州シェルトン)を使用して、細胞の生存率を測定した。各ウェルについて発光単位をネガティブコントロール(DMSO 0.1%)とポジティブコントロール(100μM BzCl)のウェルで正規化することにより、相対的割合の細胞の生存率を算出した。曲線適合を行って、IC50値を得た。
個々の薬物について、差異のある薬物感受性の定量的な点数を、薬物感受性スコアとして算出した(DSS値、Yadav et al., Scientific Reports4:5193,2014)。DSS値は、示されているように、ハイスループット化合物試験での統合された多重用量反応関係について算出した。
【0111】
ヒトB細胞についての遺伝子発現解析
ヒトにおけるB細胞の分化についての遺伝子発現データは、 HYPERLINK "http://www.genomicscape.com/microarray" http://www.genomicscape.com/microarrayプラットフォームから取得可能なデータセットの解析により取得した。前記GEPデータセットは、Affymetrix Human Genome U133 Plus 2.0 Array上のMAS5により正規化した、ヒト形質細胞分化から由来したものである(Jourdan et al., Leukemia 28(8): 1647-56, 2014; Jourdan et al., Journal of Immunology 187(8): 3931-41, 2011; Jourdan et al., Blood 114(25): 5173-81, 2009; Caron et al., Journal of Immunology 182(12): 7595-602, 2009)。
ドナーからのデータを、ヒトのBリンパ球新生におけるLTK遺伝子およびALK遺伝子の発現について、解析した。B細胞は、下記のサブセットに分類された。1.ナイーブB細胞(n=5);2.中心芽細胞(n=4);3.中心細胞(n=4);4.メモリーB細胞(n=5);5.プレ形質芽細胞(n=5);6.形質芽細胞(n=5);7.初期形質細胞(n=5);8.骨髄形質細胞(n=5)。
RNA配列データを、寄託されたデータからダウンロードした(Monaco et al., Cell Reports 26(6): 1627-40, 2019)。RNA配列およびフローサイトメトリーを使用して、健康なドナーの末梢血単核球(PBMC)分画内の29種の免疫細胞タイプについて、データを解析した。ナイーブB細胞のデータは、Schmiedel et al., Cell 175(6): 1701-15, 2018からのものであった。
【0112】
活性化B細胞芽球/形質細胞の薬物感受性スクリーニング
5人の血液バンクドナーからのCD19+B細胞に、CD40L、BAFF、およびAprilを発現している接着性マウスL細胞により、3日間刺激を与え、B細胞芽球(形質芽細胞/細胞)を作製した。洗浄した形質芽細胞/細胞を、分離して384ウェルフォーマットに播き(10,000細胞/ウェル)、クリゾチニブについて、103~10μMの濃度範囲を含む10倍希釈での6段階の濃度で調べた。72時間後、CellTiterGloを使用して、細胞の生存率を測定した。各ウェルについて発光単位をネガティブコントロール(DMSO 0.1%)とポジティブコントロール(100μM BzCl)とで正規化することにより、相対的割合の細胞の生存率を算出し、曲線適合を行って、IC50を得た。
【0113】
結果
LTKはタンパク質恒常性ネットワークの制御性ノードである
LTKが、分泌流によって活性化される小胞体輸送の正の調節因子であることを、数理モデルが示唆した。この予測を実験的に確認するために、誘導的にIgMを発現するHeLa細胞を使用した(Bakunts et al.、上記参照)。24時間のIgM発現の誘導は、XBP1sレベルの上昇に示されるように、UPR(小胞体ストレスのマーカー)の穏やかな活性化をもたらした(図1)。LTK発現が抑えられると、IgM発現の誘導に対し小胞体ストレスのレベル上昇を伴って細胞が応答した(図1)。これにより、LTKがタンパク質恒常性ネットワークの制御性ノードであることが確認される。
【0114】
LTKは、多発性骨髄腫細胞が分泌負荷の上昇に対処することを助ける
多発性骨髄腫は、免疫グロブリンの過剰な量の分泌を特徴とする。LTK阻害が多発性骨髄腫細胞株において小胞体ストレスを誘導するかどうかを判定するために、L363細胞をクリゾチニブで処理した。クリゾチニブは、LTKを阻害し、その分泌に影響を与えることが分かっている化合物である(Centonze et al.、上記参照)。クリゾチニブ処理が小胞体ストレスを誘導したことは、XBP1のスプライシングの増加とATF4の誘導の増加とから明らかである(図2A)。同様の所見が、ボルテゾミブに耐性のあるL363-BTZ細胞についてなされた(図2B)。ただし、L363細胞と、そのボルテゾミブ耐性クローンとは、LTKについては陽性であるが、ALKについては陰性であり(下記参照)、クリゾチニブのオフターゲット効果の可能性を最小限にする。
LTKが、高分泌負荷に対して細胞が適応することを助けるかどうかを調べるために、同じ細胞の過剰分泌があるものと無いものとの直接比較を可能にするシステムを使用した。IgM産生と分泌のパルス誘導を短期間のみ使用するのではなく、IgM産生を14日間誘導した。これは、分泌タンパク質の慢性的過剰発現に対する潜在的な細胞の適応機構を考慮に入れるためである。14日間IgMを過剰発現するよう誘導されたHeLa細胞を、誘導されなかったHeLa細胞と比較した。誘導されなかった細胞をLTK阻害剤クリゾチニブで処理すると、小胞体ストレスに顕著な増加は無かった(図2C)が、長期間にわたって増大した分泌負荷を受けた細胞は、2.5倍高いレベルの小胞体ストレスを呈した(図2C)。分泌過多の細胞のLTKに対する依存が高いことは、分泌過多の細胞がLTK発現を4倍増加したという所見と一致している(図2D)。
【0115】
LTKを標的にすることが多発性骨髄腫細胞の生存率を低減する
LTK阻害が分泌過多細胞において小胞体ストレスを誘導するという所見に基づき、本発明者は、それが細胞死の原因ともなるかどうかを調べた。IgM分泌過多があるHeLa細胞と無いHeLa細胞とにおけるカスパーゼ3切断に対する、クリゾチニブの影響を調べた。非分泌細胞は、クリゾチニブ処理に対するアポトーシス応答を示さなかった(図3A)が、これは、これらの細胞が小胞体ストレスに応答しないという所見と一致する。しかしながら、慢性的に分泌負荷が増大している細胞は、クリゾチニブ処理の際にアポトーシスの顕著な増加を示した(図3A)。二つの多発性骨髄腫細胞株(L363およびARH77)を、クリゾチニブで処理すると、薬学的に関連する薬物濃度で、細胞の生存率にはっきりした減少が見られた。L363のボルテゾミブ耐性クローンの場合も、同様であることがわかった(図3B)。ただし、これら細胞はLTKについては陽性であるが、ALKについては陰性であり(図3C)、患者から取得した多発性骨髄腫細胞も同様であった(参照下記)。
【0116】
クリゾチニブと同様に、他の線状ALK阻害剤、セリチニブ、アレクチニブ、エンサルチニブ、およびエントレクチニブなども、多発性骨髄腫細胞に対する細胞障害性活性を呈することが分かった(図4、左パネル)。前記環状ALK阻害剤ロルラチニブは、骨髄腫細胞を効率よく殺傷することが無かった。下記IC50値(μM)は、調べた細胞株でセリチニブについて取得した:L363において1.03、L363-BTZにおいて0.79、AMO-1において2.09、およびAMO-1-BTZにおいて2.77。下記IC50値(μM)は、調べた細胞株でクリゾチニブについて取得した。L363において3.323、L363-BTZにおいて4.15、AMO-1において3.92、およびAMO-1-BTZにおいて6.477。下記IC50値(μM)は、調べた細胞株でアレクチニブについて取得した。L363において6.12、L363-BTZにおいて6.22、AMO-1において13.31、およびAMO-1-BTZにおいて17.6。LTK阻害に対する同様の感受性が、L363およびAMO-1のボルテゾミブ耐性バージョンについて見られた(図4、右)。このことは、LTKがタンパク質恒常性ネットワークのプロテアソーム非依存部分上で働くこと、および多発性骨髄腫におけるプロテアソーム阻害剤耐性がLTKを阻害することにより克服されうることを、示唆している。これは、承認されたALK阻害薬物を使用することにより達成することができる。
【0117】
メカニズムの点では、セリチニブなどの線状ALK阻害剤がLTKを阻害し(図5A)、これが小胞体ーゴルジ輸送を阻害し(図5B、C)、その結果、免疫グロブリン分泌をも阻害する(図5D)。
【0118】
ついで、クリゾチニブの効果を、第3~第5選択療法を受けている再燃患者から取得した原発性骨髄腫細胞に対して調べた。CD8を除去した骨髄由来の単核細胞を、IL-2中で抗CD3/CD28ビーズにより刺激した。この方法は、多発性骨髄腫細胞活性化を支えるCD4+ヘルパーT細胞(Th細胞)を刺激した。48時間後、15人の患者それぞれからのCD138+多発性骨髄腫細胞を、用量設定したクリゾチニブの存在下のウェルに移し、濃度反応曲線を算出した(図6)。LTK阻害は、すべての患者由来の多発性骨髄腫細胞に対して顕著な効果を有し、IC50レベルは0.8~5μMであった。とりわけ、多発性骨髄腫の767人の患者のコホートの解析は、LTK mRNAの平均発現レベルが8.18である一方、ALKの平均発現レベルが0.02(図7A)とカットオフ値(100)よりも低いことを示した。前記患者を次のカテゴリーに分けた:767人の患者のうち636人(83%)に見つかった、AlkNegLTKPosである骨髄腫細胞;767人の患者のうち130人(17%)に見つかった、AlkNegLTKNegである骨髄腫細胞;および、767人の患者のうち1人(0.001%)のみに見つかった、AlkPosLTKPosである骨髄腫細胞(図7B)。ALK阻害剤には標的としてのALKが無いので、クリゾチニブによる原発性骨髄腫細胞の死滅は、おそらくLTK阻害の結果である。
【0119】
多発性骨髄腫細胞に対するクリゾチニブのインビボでの効果を調べた。この目的のために、ルシフェラーゼを発現するように改変されたボルテゾミブ耐性L363細胞を、免疫低下マウスの大腿に注射した。インビボでの腫瘍の増殖のモニタリングを容易にするために、細胞をルシフェラーゼを発現するように改変した。このモデルは、プロテアソーム阻害剤耐性の多発性骨髄腫細胞の特殊な生理と、インビボでの多発性骨髄腫の生理に重要な骨髄の微小環境の保護的かつ薬剤耐性を促進する特性とのどちらをも考慮に入れている。クリゾチニブを使用した治療は、臨床現場を模倣して、腫瘍が容易に検出できる段階(腫瘍接種後10日目)で開始した。マウスをボルテゾミブでも治療した。ボルテゾミブは、ボルテゾミブ耐性L363細胞が使用されていることを考えれば何の影響も無いと予想されていたが、プロテアソーム阻害剤耐性が確認された。マウスにクリゾチニブを7日間毎日経口で投与した(50mg/kg)。ボルテゾミブは、上記期間中二回静脈内投与した(1mg/kg)。クリゾチニブによる処理は、ベースライン、未治療のコントロール、およびボルテゾミブで治療したマウスと比較して、腫瘍負荷を減少させた(図8)。このことは、LTKの阻害剤による治療で、多発性骨髄腫のプロテアソーム阻害剤耐性を克服することができることを示している。
【0120】
原発性CLL細胞はALKNegLTKPosである
慢性リンパ球白血病(CLL)については、ALKおよびLTKの転写を調べ、107個のCLL細胞サンプル中94個(88%)がLTKPosであり、107個のサンプルすべてがALKNegであったことがわかった(図9)。したがって、CLLは、患者の大半がALKNegLKPosCLL細胞を有する癌である。CLLは、血液中の白血病細胞が活動していないか、またはプレアポトーシス(pre-apoptotic)状態である癌である。リンパ節、脾臓、または骨髄の特殊な微小環境で、CLL細胞の分裂が起きる。ここで、分裂しているCLL芽細胞は、リンパ球芽球化と有糸分裂を支える微小環境(いわゆる偽濾胞)において刺激細胞と隣り合っている。この段階で、CLL細胞は分泌過多であり、細胞分裂を起こす前にモノクローナル抗体を分泌する(Darwiche et al.,上記参照)。
【0121】
原発性CLL細胞は線状ALK阻害剤に対して感受性がある
CLL細胞の活性化に重要な微小環境要因(Patten et al., Blood 111: 5173-5181, 2008; Bagnara et al., Blood 117: 5463-5472, 2011; Hall et al., Blood 105: 2007-2015, 2005; Os et al., Cell Reports 4(3): 566-577, 2013)を準備し、増殖性のCLL芽球を、線状ALK阻害剤に対する感受性について試験した。21個の患者サンプルのうち17個(81%)が、線状ALK阻害剤クリゾチニブに対する感受性があるCLL細胞を有していたことがわかった(図10)。これらのうち、11個は正常な感受性であり(IC50<2μM)、3個は感受性が高く(IC50<2x10-1μM)、3個は感受性が非常に高かった(IC50<10-2μM)。ハイスループット化合物試験の多重用量反応関係をさらに統合すると、薬物感受性スコア(DSS)が、患者の三分の一がクリゾチニブに対して高い感受性があるCLL細胞を有することを示していることがわかった。
【0122】
予後の悪い患者は、線状ALK阻害剤に対して感受性があるCLL細胞を有していることが多い
CLLは、上記に詳細を示すように、重鎖の免疫グロブリン可変遺伝子(IgVH)のV領域の変異負荷に応じて二つのサブタイプに分かれる。IgVHに変異の無いサブタイプは予後が悪く、その一方で、IgVHに変異があるもの(生殖細胞系に対して<98%の相同性)は予後がよりよい緩慢CLLに見られる。これらの結果は、予後の悪いサブタイプが線状ALK阻害剤に対して高い応答率と感受性を有したことを示した(図11)。これは、線状ALK阻害剤が、IgVHに変異の無い、予後の悪いサブタイプの治療に特に関係することを示唆する。
ALK阻害剤に対する感受性について、12人の新たな患者からのCLL細胞を調べた。図12に示すように、ほぼ全員の患者が、セリチニブ、クリゾチニブ、エンサルチニブ、およびエントレクチニブに対する感受性を示すCLL細胞を有した(DSS=10というカットオフ値を使用すると、結果は、11/12、10/12、11/12、12/12である)。ブリガチニブは、12人中4人の患者からのCLL細胞を阻害し、ロルラチニブは、12人中0人の患者からのCLL細胞を阻害した。
【0123】
正常なメモリーB細胞、形質芽細胞、および形質細胞はALKNegLTKPos
次に、正常なB細胞と、ナイーブ成熟B細胞、胚中心芽細胞、胚中心細胞、メモリーB細胞、前形質芽細胞、形質芽細胞、初期形質細胞および骨髄形質細胞を含むB細胞分化系統とを考察した。遺伝子発現(アレイに基づく)とRNAシーケンシングは、メモリーB細胞形質芽細胞および形質細胞がすべてLTKを発現したが、ALKを発現しなかったことを示した(図13)。メモリーB細胞、形質芽細胞、および形質細胞は、したがって、ALKNegLTKPosである。
【0124】
正常なメモリーB細胞、形質芽細胞、および形質細胞は線状ALK阻害剤に対して感受性がある
活性化されたB細胞は、3日後、B細胞芽球となった。かかる巨大化細胞は、高いレベルで抗体を分泌し、したがって分泌過多である。B細胞を3日目に刺激し、さらに3日間、線状ALK阻害剤とともに培養した。サンプルはすべて、クリゾチニブに対して、1~1.5μMのIC50を有する同じような感受性を有していた(図14)。結果は、芽球状のB細胞(メモリーB細胞芽球、形質芽細胞、および形質細胞)の少なくとも半分が、3日間の処理の間に死滅することを示している。細胞のサブタイプの感受性をさらに調べるために、B細胞を5日間刺激し、形質細胞を発生させた。最終段階の形質細胞は典型的にIRF4およびBLIMP1を発現し(図15)、高レベルで抗体を分泌する。線状ALK阻害剤(クリゾチニブまたはセリチニブ)の暴露は、感受性の高い形質細胞を効率よく死滅させた。形質細胞の応答は、IC50が0.8μM(クリゾチニブ)および<0.001μM(セリチニブ)であり、これは、形質細胞が線状ALK阻害剤に対して非常に感受性があることを示している。他の活性化されたB細胞サブセットおよび形質芽細胞のすべてに減少が見られたが、形質細胞が線状ALK阻害剤に対してもっとも感受性が高く、また、形質細胞はセリチニブに対して感受性が非常に高かった。
【0125】
クリゾチニブは異種移植されたNSGマウスの形質細胞を死滅させる
ALKNegLTKPos形質細胞株をNSGマウスに大腿内注射した。クリゾチニブでのマウスの治療は、形質細胞の密度を減少させ(図16、ルシフェラーゼ依存シグナル、IVIS光学撮像において)、これは形質細胞株がインビボでも阻害されうることを示している。
【0126】
セリチニブはインビトロで形質細胞による抗体分泌を阻害する
形質細胞の分泌が線状ALK阻害剤で阻害されるかどうかを調べた(図16)。3時間の暴露により、形質細胞株から分泌された免疫グロブリンのレベルが低下し、これは、図5A~Cに示されたような、小胞体からゴルジへの輸送の遮断を示唆している。
【0127】
肝細胞癌(HCC)細胞はALKNegLTKPosでありクリゾチニブに対して感受性があった
365個のHCCからのRNA配列データから、患者全員がALKNegであるHCCサンプルを有していたことがわかった。前記サンプルの約四分の一はLTKPosであり、したがってALKNegLTKPosであった。線状ALK阻害剤クリゾチニブが細胞増殖阻害薬であるドキソルビシンと共働作用する実験において、高分化型のHCC細胞株HepGからの細胞は、前記線状ALK阻害剤クリゾチニブに対して感受性があることがわかった(図17)。このように、クリゾチニブは、HepG HCC細胞をアポトーシスに感作させた。
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【国際調査報告】