(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-28
(54)【発明の名称】エンドセリンレセプターアンタゴニストを使用する眼疾患の処置
(51)【国際特許分類】
A61K 31/422 20060101AFI20221221BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20221221BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20221221BHJP
A61K 31/4025 20060101ALI20221221BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
A61K31/422
A61P27/06
A61P27/02
A61K31/4025
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525291
(86)(22)【出願日】2020-10-30
(85)【翻訳文提出日】2022-06-24
(86)【国際出願番号】 US2020058411
(87)【国際公開番号】W WO2021087399
(87)【国際公開日】2021-05-06
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522170076
【氏名又は名称】パフューズ セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ギュルカン, セヴギ
(72)【発明者】
【氏名】フロイド, デイビッド
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA16
4C084MA58
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA10
4C084ZA211
4C084ZA212
4C084ZA331
4C084ZA332
4C084ZC751
4C084ZC752
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC07
4C086BC69
4C086GA09
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA58
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA10
4C086ZA33
(57)【要約】
本開示は、ヒト視覚系に、そして結果として、クオリティー・オブ・ライフに大きく影響を及ぼすある特定の眼の疾患が、エドネンタンまたはA-182086を使用して処置され得るという発見に関する。エドネンタンまたはA-182086は、単独で、または例えば、眼内圧(IOP)降下剤、神経保護剤、抗VEGF剤、もしくは全てと組み合わせて使用され得る。エドネンタンまたはA-182086を、単独で、またはさらなる薬剤と組み合わせて使用することによって、ある特定の疾患において網膜への灌流の増大が提供され、網膜細胞への損傷が低減される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼疾患を処置する方法であって、前記方法は、
被験体の視覚組織と、治療上有効な量のエドネンタンもしくはA-182086のいずれか、またはこれらの薬学的に受容可能な塩、またはこれらの結晶形態もしくは非晶質形態を含む組成物とを接触させる工程、
を包含し、ここで前記眼疾患は、緑内障、糖尿病網膜症(DR)、網膜静脈閉塞症(RVO)、非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)、動脈炎性前部虚血性視神経症(AION)、および未熟児網膜症(ROP)からなる群より選択される、方法。
【請求項2】
前記処置の治療有効性は、視力または視野における改善の程度を評価することによって決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記眼疾患は、緑内障である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記処置の治療有効性は、眼内圧の降下、または視神経損傷の割合の低減を、視神経損傷を軽減または防止するために十分な量で検出することによって決定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記処置の治療有効性は、視神経乳頭血流の改善によって決定される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記眼疾患は、DR、RVO、NAION、AION、またはROPである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記処置の治療有効性は、糖尿病によって誘導される網膜神経変性の減少によって決定される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記処置の治療有効性は、組織または網膜灌流の改善によって示される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記処置の治療有効性は、組織もしくは網膜灌流の改善、炎症の低減、またはこれらの組み合わせを測定することによって決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物は、治療上有効な量の、眼内圧(IOP)降下剤もしくは神経保護剤、またはこれらの薬学的に受容可能な塩をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物は、治療上有効な量の眼内圧(IOP)降下剤またはその薬学的に受容可能な塩をさらに含み、ここで前記IOP降下剤は、プロスタグランジン(例えば、ラタノプロストまたはトラボプロスト)、β遮断薬(例えば、チモロールまたはベタキソロール)、αアドレナリン作動薬(例えば、ブリモニジン、アプラクロニジン)、炭酸脱水酵素インヒビター(例えば、ドルゾラミドまたはブリンゾラミド)、Rhoキナーゼインヒビター(例えば、ネタルスジル)および縮瞳薬またはコリン作動性薬剤(例えば、ピロカルピン)からなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物は、治療上有効な量の神経保護剤またはその薬学的に受容可能な塩をさらに含み、ここで前記神経保護剤は、抗アポトーシス薬剤(例えば、カスパーゼ-2インヒビター)および神経栄養因子(例えば、毛様体神経栄養因子)からなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物は、エドネンタンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記眼疾患は、緑内障である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記処置の治療有効性は、眼内圧の降下、または視神経損傷の割合の低減を、視神経損傷を軽減または防止するために十分な量で検出することによって決定される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物は、A-182086を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記眼疾患は、緑内障である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記処置の治療有効性は、眼内圧の降下、もしくは視神経損傷の割合の低減、またはこれらの組み合わせを、視神経損傷を軽減または防止するために十分な量で検出することによって決定される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記組成物は、1μg~4mgの間の投与量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記組成物は、10μg~100μgの間の投与量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記接触させる工程は、前記組成物を、眼またはその一部の表面に局所的に投与する工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記接触させる工程は、眼またはその構成要素に組成物を注射する工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記組成物は、1種またはこれより多くの保存剤、保存助剤、粘性または潤滑調節剤、張度調節剤、可溶化剤、緩衝物質、界面活性剤、安定化剤、またはこれらの組み合わせを含む眼用調製物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記接触させる工程は、標的化薬物送達システムを介して組成物を投与する工程を包含し、ここで前記標的化薬物送達システムは、ApidCOR、BioSeizer-ProDex、Vitrasert、Retisert、Iluvien、I-Vation、Nanoporous Silicon、Ozurdex/Novadur、OcuLief、Port Delivery System(PDS)、PEA Implant、PEG-PLA Microspheres、PRINT Technology、Q-Sphera、SKS Microparticles、Verisome、Capsule Ring Device、MicroPump、Microneedle Injector、Microneedle/Needle-less Injectors、EyeCET、Gemini Refractive Capsule、IVMED、Ciliary Sulcus Ring、Episcleral Exoplant、Eye-D Implant、およびNanoliposomesからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年10月30日および2020年8月20日にそれぞれ出願された米国仮特許出願第62/928,092号および同第63/068,215号(これらの全内容は、全ての目的のために本明細書に参考として援用される)の優先権を主張する。
【0002】
分野
本開示は、医療の分野および眼疾患の処置に関する。より具体的には、本開示は、緑内障、糖尿病網膜症(DR)、網膜静脈閉塞症(RVO)、非動脈炎性前部虚血性視神経症(non-arteritic anterior ischemic optic neuropathy)(NAION)、動脈炎性前部虚血性視神経症(arteritic anterior ischemic optic neuropathy)(AION)、および未熟児網膜症(ROP)の処置または改善におけるエドネンタンおよびA-182086エンドセリンレセプターアンタゴニストの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
眼の疾患は、ヒトのクオリティー・オブ・ライフに対して非常に大きな影響を有するが、有効な処置は非常に分かりにくいままである。米国では、一千億ドル超という年間の経済的負担が、視力喪失、眼疾患、および視覚障害から生じると概算される。消耗性の眼疾患の例としては、緑内障、糖尿病網膜症(DR)、網膜静脈閉塞症(RVO)、非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)、動脈炎性前部虚血性視神経症(AION)、および未熟児網膜症(ROP)が挙げられる。
【0004】
緑内障は、視野欠損および視神経乳頭陥凹によって特徴づけられる眼の障害である。異常に高い眼内圧は、眼に有害であることが一般に公知であり、緑内障患者において、これはおそらく、網膜の変性を引き起こす最も重要な物理的変化であるという明確な徴候がある。最終的には、処置されなければ、時間を経て徐々に視力が失われる。しかし、緑内障の病態生理学的機序は、なお未知である。
【0005】
緑内障には3つの基本的なタイプが存在する:原発性、続発性、および先天性。原発性緑内障は、最も一般的なタイプであり、開放隅角緑内障および閉塞隅角緑内障に分けられ得る。原発性開放隅角緑内障(「POAG」)は、米国で観察される緑内障の最も頻度の高いタイプである。POAGは通常、慣用的な眼の検査中にその初期段階で検出される。原発性閉塞隅角緑内障は、急性緑内障ともいわれ、通常は、突発的な発症を有し、眼の疼痛および霧視によって特徴づけられる。続発性緑内障は、種々の他の状態(例えば、傷害、炎症、一般的な血管疾患、および糖尿病)の合併症として起こる。先天性緑内障は、眼の排液機序における発生上の欠損に起因する。
【0006】
糖尿病網膜症(DR)は、糖尿病の最も一般的な合併症であり、先進国の生産年齢集団における視力の低下および失明の原因第1位である。DRの発生率は、糖尿病の進展の時間とともに増大する。従って、1型糖尿病を有する患者のうちの90%および2型糖尿病を有する患者のうちの60%は、糖尿病の進展の20年後にある程度のDRを有する。西側諸国におけるDRの有病率は、非常に似通っており、およそ30%であり、その症例のうちの10%では、DRは、視力に重篤に脅威を与える進行した段階にある。
【0007】
DRは、血中グルコースレベルの変化が、網膜血管の変化を引きおこす場合に起こる。いくらかの場合には、これらの血管は腫脹し(swell up)(黄斑浮腫)、眼の後部へと液体を漏出させる。他の場合には、異常な血管が網膜の表面上で増殖する。処置されなければ、DRは、徐々により重篤になって「背景網膜症(background retinopathy)」から進行して、視力に重篤に影響を及ぼし得、失明をもたらし得る。
【0008】
網膜静脈閉塞症(RVO)は、網膜の血管障害であり、全世界で視力喪失の最も一般的な原因のうちの1つである。具体的には、それは、糖尿病網膜症後の網膜血管疾患に由来する失明の最も一般的な原因第2位である。RVOはしばしば、根底にある健康上の問題(例えば、高血圧症、高コレステロールレベル、糖尿病、および他の健康上の問題)の結果である。網膜静脈閉塞症には2つのタイプがある: 網膜中心静脈閉塞症(CRVO)は、主要な網膜静脈の閉塞であり、網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)は、より小さな分岐静脈のうちの1つの閉塞である。
【0009】
現在では、網膜静脈の閉塞を除去する(unblock)方法は存在せず、許容される処置は、網膜静脈閉塞症に関連する健康上の問題に対処することに指向される。視力は、網膜静脈閉塞症に罹ってしまった眼でも戻る場合もある。約1/3はある程度の改善を有し、約1/3は同じままであり、約1/3は徐々に改善するが、最終的な転帰を決定するには、1年またはより長くかかり得る。いくらかの場合には、閉塞した血管は、網膜における液体蓄積をもたらす。他の場合には、虚血の発生が、新たな血管の形成を引きおこす。RVOは現在、抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬物の硝子体内注射で処置されている。
【0010】
前部虚血性視神経症(AION)は、視神経の前部(後毛様体動脈循環によって主に供給される領域)への虚血性損傷から生じる。前部虚血性視神経症は、2つのタイプに分けられる: 血管炎(特に、巨細胞動脈炎)に続発する動脈性AION(AAION)および非炎症性小血管疾患に続発する非動脈性AION(NAION)。NAIONは、全AIONのうちの95%を構成し、50歳を超える人々における急性視神経症の最も一般的な原因であり、100,000人あたりおよそ2~10人の間の個体に影響を及ぼす(米国で1年間あたりおよそ1500~6000の新たな症例)。現在では、NAIONの一般に許容される処置または二次的防止は存在しないが、いくらかの患者では、ステロイドが旧来から使用されている。
【0011】
未熟児網膜症(ROP)は、早産に起因して起こり得る。網膜における異常な漏出血管増殖(新生血管形成)は、早産に関する他の処置に対して続発して生じ、しばしば新生児の失明をもたらし得る。妊娠中に、血管は、母親の妊娠16週目に、発育中の子供の網膜の中心から増殖し、次いで、外側に分枝して、妊娠8ヶ月目に網膜の縁部に到達する。早産の子供では、正常な網膜血管増殖が不完全であり、従って、より容易に破裂し得る。
【0012】
エドネンタンは、高度に選択的でありかつ非常に強力なエンドセリンAレセプターアンタゴニストである。エドネンタンは、最初の臨床候補であるBMS-193884(これは、うっ血性心不全(CHF)の処置のために開発されていた)の中止後に、第二世代アナログとして開発された。エドネンタンは、2002年4月までフェーズI治験中であったが、その開発は中止された。
【0013】
A-182086は、4倍のETA/ETB選択性を有する強力な二重ETA/ETBレセプターアンタゴニストである。A-182086は、今日まで臨床現場では研究されてこなかった。
【0014】
緑内障、DR、RVO、NAION、AION、およびROPの発生率をより効果的に低減する、これらを処置するまたはそうでなければ改善する必要性が未だにある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
要旨
本発明は、緑内障、糖尿病網膜症(DR)、網膜静脈閉塞症(RVO)、非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)、動脈炎性前部虚血性視神経症(AION)、および未熟児網膜症(ROP)から選択される眼疾患を処置するためにエンドセリンレセプターアンタゴニストを使用する方法を提供する。
【0016】
上記方法は、被験体における視覚組織(optical tissue)と、治療上有効な量のエドネンタンもしくはA-182086、またはその薬学的に受容可能な塩を含む組成物とを接触させる工程を包含し、ここで上記エンドセリンレセプターアンタゴニストは、エドネンタンまたはA-182086である。このようなアンタゴニスト真たはその薬学的に受容可能な塩は、結晶形態または非晶質形態にあり得る。これらの各々は、薬理学的に受容可能な使用のためのものであり得る。
【0017】
いくつかの実施形態において、接触させる工程は、眼またはその一部の表面に局所用組成物を投与する工程を包含する。他の実施形態において、接触させる工程は、エドネンタンまたはA-182086を眼へと、全体にまたはその特定の領域に注射する工程を包含する。
【0018】
さらに他の実施形態において、接触させる工程は、眼インプラント(eye implant)、例えば、ポート送達システム(port delivery system)を介して、組成物を投与する工程を包含する。眼インプラント技術の例としては、ApidCOR、BioSeizer-ProDex、Vitrasert、Retisert、Iluvien、I-Vation、Nanoporous Silicon、Ozurdex/Novadur、OcuLief、Port Delivery System(PDS)、PEA Implant、PEG-PLA Microspheres、PRINT Technology、Q-Sphera、SKS Microparticles、Verisome、Capsule Ring Device、MicroPump、Microneedle Injector、Microneedle/Needle-less Injectors、EyeCET、Gemini Refractive Capsule、IVMED、Ciliary Sulcus Ring、Episcleral Exoplant、Eye-D Implant、およびNanoliposomesが挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
いくつかの実施形態において、本開示の方法において使用され得る眼インプラント技術は、ApidCOR、BioSeizer-ProDex、Vitrasert、Retisert、Iluvien、I-Vation、Nanoporous Silicon、Ozurdex/Novadur、OcuLief、Port Delivery System(PDS)、PEA Implant、PEG-PLA Microspheres、PRINT Technology、Q-Sphera、SKS Microparticles、Verisome、Capsule Ring Device、MicroPump、Microneedle Injector、Microneedle/Needle-less Injectors、EyeCET、Gemini Refractive Capsule、およびIVMEDから選択される。好ましくは、上記眼インプラント技術は、ApidCOR、BioSeizer-ProDex、Vitrasert、Retisert、Iluvien、I-Vation、Nanoporous Silicon、Ozurdex/Novadur、OcuLief、Port Delivery System(PDS)、PEA Implant、PEG-PLA Microspheres、PRINT Technology、Q-Sphera、SKS Microparticles、Verisome、Capsule Ring Device、またはMicroPumpである。
【0020】
いくつかの実施形態において、上記眼疾患は、緑内障である。いくつかの実施形態において緑内障を処置することにおける治療有効性は、眼内圧の降下、または視神経損傷/網膜神経線維層菲薄化の速度の低減を、視神経損傷を軽減または防止するために十分な量で検出することによって決定される。さらなる実施形態において、上記処置の治療有効性は、視神経乳頭血流の改善によって決定される。他の実施形態において、緑内障を処置することの治療有効性は、網膜、視神経乳頭または組織灌流の改善を測定することによって決定される。
【0021】
緑内障の処置に関するいくつかの実施形態において、そのレジメンは、治療上有効な量の眼内圧(IOP)降下剤もしくは神経保護剤、または前述のうちのいずれかの薬学的に受容可能な塩の追加をさらに包含する。いくつかの実施形態において、上記IOP降下剤は、プロスタグランジン(例えば、ラタノプロストまたはトラボプロスト)、β遮断薬(例えば、チモロールまたはベタキソロール)、αアドレナリン作動薬(例えば、ブリモニジン、アプラクロニジン)、炭酸脱水酵素インヒビター(例えば、ドルゾラミドまたはブリンゾラミド)、Rhoキナーゼインヒビター(例えば、ネタルスジル)および縮瞳薬またはコリン作動性薬剤(例えば、ピロカルピン)からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、上記神経保護剤は、抗アポトーシス薬剤(例えば、カスパーゼ-2インヒビター)および神経栄養因子(例えば、毛様体神経栄養因子)からなる群より選択される。
【0022】
いくつかの実施形態において、上記眼疾患は、糖尿病網膜症(DR)である。さらなる実施形態において、DRを処置することの治療有効性は、網膜新生血管形成、糖尿病網膜症重篤度スコアおよび糖尿病によって誘導される神経変性の減少によって決定される。他の実施形態において、DRを処置することの治療有効性は、網膜または脈絡膜灌流の改善を測定することによって決定される。
【0023】
いくつかの実施形態において、上記疾患は、網膜静脈閉塞症(RVO)である。さらなる実施形態において、RVOを処置することの治療有効性は、組織灌流の改善、炎症の低減、または前述の組み合わせを測定することによって決定される。
【0024】
いくつかの実施形態において、上記疾患は、NAIONである。さらなる実施形態において、NAIONを処置することの治療有効性は、組織灌流の改善、炎症の低減、または前述の組み合わせを測定することによって決定される。
【0025】
いくつかの実施形態において、上記疾患は、AIONである。さらなる実施形態において、AIONを処置することの治療有効性は、組織灌流の改善、炎症の低減、または前述の組み合わせを測定することによって決定される。
【0026】
いくつかの実施形態において、上記眼疾患は、未熟児網膜症(ROP)である。さらなる実施形態において、ROPを処置することの治療有効性は、網膜灌流の改善および異常な新生血管形成の低減を測定することによって決定される。
【0027】
いくつかの実施形態において、上記エンドセリンレセプターアンタゴニストまたはその薬学的に受容可能な塩は、エドネンタンである。他の実施形態において、上記エンドセリンレセプターアンタゴニストまたはその薬学的に受容可能な塩は、A-182086である。いずれにしても、上記アンタゴニストまたはその薬学的に受容可能な塩は、結晶形態または非晶質形態にあり得る。その各々は、薬理学的に受容可能な使用のためのものであり得る。
【0028】
いくつかの実施形態において、上記エンドセリンレセプターアンタゴニストは、約1μg~約4mgの間(例えば、約1μg~約10μgの間、約10μg~約100μgの間、約100μg~約500μgの間、および約500μg~約4mgの間)の投与量で投与される。いくつかの実施形態において、上記エンドセリンレセプターアンタゴニストは、約0.1μg~約10μgの投与量で投与される。いくつかの実施形態において、上記エンドセリンレセプターアンタゴニストは、約1μg~約10μgの投与量で投与される。さらなる実施形態において、上記エンドセリンレセプターアンタゴニストは、約10μg~約100μgの投与量で投与される。
【0029】
さらなる実施形態において、上記エンドセリンレセプターアンタゴニストは、約100μg~約500μgの間、および約500μg~約4mgの間の投与量で投与される。
【0030】
本発明の技術のさらなる特徴および利点は、以下の説明に示され、その説明から部分的に明らかであるか、または本発明の技術の実施によって学習され得る。本発明の技術の利点は、書面による説明の中で特に指摘される構造およびその実施形態によって実現されかつ獲得される。
【0031】
本開示の1またはこれより多くの実施形態の詳細は、以下の説明の中で示される。本開示の他の特徴、目的および利点は、以下の図面、説明および特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、代表的実験の光干渉断層撮影-血管造影検査(OCT-A)画像を示し、硝子体内(IVT)注射を介して0.5μgのエンドセリン-1(ET-1)を投与して45分後に焦点を当てたウサギ網膜血管構造の重篤な血管攣縮を明らかにする。
【0033】
【
図2】
図2は、10μg エドネンタンのIVT投与後のET-1誘導性血管攣縮の逆転を明らかにするフルオレセイン血管造影検査(FA)画像を示す。
【0034】
【
図3】
図3は、ビヒクル単独(コントロール群)、または0.5μgのET-1単独、または0.5μgのET-1および10μgのエドネンタン、または0.5μgのET-1および10μgのA-182086のIVT投与後の健常ウサギ(n=5/群)における網膜血流の指数としてフルオレセイン色素速度の比較を示す-エドネンタンまたはA-182086での処置後にコントロールレベルに対して改善されているET-1処置ウサギにおける色素速度の延長/流れの低減を明らかにする。
【0035】
【
図4】
図4は、ビヒクル単独(コントロール群-DMSO)または単一用量のエドネンタン(1μLの2μg/μL 溶液)のIVT投与後24時間、48時間、および96時間での、酸素誘導性虚血性網膜症(OIR)を有するマウス(n=10匹のマウス/群)における網膜低酸素領域の比較を示す-エドネンタンでの処置後のOIRを有するマウスにおける改善された網膜低酸素症を明らかにする。
【0036】
【
図5-1】
図5Aは、ビヒクル単独(コントロール群)またはエドネンタンの局所投与後の眼内圧(IOP)が上昇したラット(コントロールについてはn=4匹のラット/群、エドネンタンについてはn=6匹のラット/群)の網膜周辺部における網膜神経節細胞(RGC)数の比較を示す。
図5Bは、ビヒクル単独(コントロール群)またはエドネンタンの局所投与後の眼内圧(IOP)上昇ラット(コントロールについてはn=4匹のラット/群、エドネンタンについてはn=5匹のラット/群)におけるパターン網膜電図(pattern electroretinogram)(PERG)変化の比較を示す。
図5Aおよび
図5Bは、エドネンタンでの処置後のRGC喪失の防止およびRGC機能の維持を明らかにする。
【0037】
【
図5-2】
図5Cは、局所投与または経口投与したエドネンタンの、ラットの血漿、網膜/網膜色素上皮(RPE)/脈絡膜、硝子体液および眼房水における薬物動態プロフィールを示す。
図5Cは、エドネンタンが局所投与後に角膜/強膜を経て透過し、網膜曝露を達成する能力を明らかにする。
【0038】
【
図6-1】
図6Aは、ビヒクル単独(コントロール群)またはA-182086の局所投与後の眼内圧(IOP)が上昇したラット(コントロールについてはn=4匹のラット/群、A-182086についてはn=6匹のラット/群)の網膜周辺部における網膜神経節細胞(RGC)数の比較を示す。
図6Bは、ビヒクル単独(コントロール群)またはA-182086の局所投与後の眼内圧(IOP)が上昇したラット((コントロールについてはn=4匹のラット/群、A-182086についてはn=5匹のラット/群)におけるパターン網膜電図(PERG)変化の比較を示す。
図6Aおよび
図6Bは、A-182086での処置後のRGC喪失の防止およびRGC機能の維持を明らかにする。
【0039】
【
図6-2】
図6Cは、局所投与または経口投与したA-182086の、ラットの血漿、網膜/網膜色素上皮(RPE)/脈絡膜、硝子体液および眼房水における薬物動態プロフィールを示す。
図6Cは、A-182086が局所投与後に角膜/強膜を経て透過し、網膜曝露を達成する能力を明らかにする。
【0040】
【
図7-1】
図7A~7Lは、レーザー誘導性緑内障モデルにおける視神経乳頭(ONH)血流の指数として、全体の平均ブレ率(global average mean blur rate)(MBR)またはベースラインからの経時的なMBR変化において、3匹の非ヒト霊長類の実験的緑内障の眼および対側の健常な眼(コントロール)の比較に関するレーザースペックルフローグラフ(LSFG)を示す。
図7Mは、3匹の非ヒト霊長類からの集合結果を示す。
図7Nは、種々の選択された時点での、上記非ヒト霊長類のうちの1匹のLSFGスキャンを示す。
【0041】
【
図8】
図8Aおよび
図8Bは、ビヒクル単独(コントロール)、0.1μgのET-1および10μgのエドネンタン、0.1μgのET-1および2.5μgのエドネンタン、0.1μgのET-1および0.5μgのエドネンタン、0.1μgのET-1および0.1μgのエドネンタン、または0.1μgのET-1単独のIVT投与後の、ET-1誘導性ウサギ(n=5匹のウサギ/群)における網膜血流の指数としてのフルオレセイン色素速度の比較を示す-ウサギET-1誘導性血管攣縮モデルにおける用量応答を明らかにする。
【0042】
【
図9-1】
図9A、
図9B、
図9Cおよび
図9Dは、硝子体内送達したエドネンタンの、ウサギの血漿、網膜、虹彩-毛様体(ICB)、網膜色素上皮(RPE)/脈絡膜、硝子体液または眼房水における薬物動態プロフィールを示す(
図9A、
図9B、
図9Cおよび
図9D)-エドネンタンに関するより長いt
1/2を明らかにする。
【0043】
【
図10】
図10は、局所投与したエドネンタンの、ウサギの血漿、網膜、硝子体液および眼球結膜における薬物動態プロフィールを示す-エドネンタンが、眼への1回の局所投与後に眼の層を経て透過する能力を明らかにする。
【発明を実施するための形態】
【0044】
詳細な説明
本発明は、エドネンタンおよびA-182086が、眼疾患(緑内障、糖尿病網膜症(DR)、網膜静脈閉塞症(RVO)、非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)、動脈炎性前部虚血性視神経症(AION)、および未熟児網膜症(ROP)が挙げられるが、これらに限定されない)を防止する、処置する、または別の方法で改善するために使用され得るという発見から生じる。本発明は、以下にさらに記載される。
【0045】
エンドセリンレセプターアンタゴニスト
本発明の方法は、眼の組織と(局所的または眼内での)治療上有効な量のエドネンタンおよびA-182086、またはこれらの薬学的に受容可能な塩との接触または投与を包含する。上記アンタゴニストは、以下で記載されるように、具体的にはエドネンタンおよびA-182086である。
【0046】
エドネンタンを調製する方法は、当業者に周知である。適切な方法は、例えば、米国特許第6,043,265号に開示される。エドネンタンは、N-[[2’-[[(4,5-ジメチル-3-イソオキサゾリル)アミノ]スルホニル]-4-(2-オキサゾリル)[1,1’-ビフェニル]-2-イル]メチル]-N,3,3-トリメチルブタンアミドという化学名(分子量536.6g/mol)および以下の構造:
【化1】
を有する。
【0047】
A-182086を調製する方法は、当業者に周知である。適切な方法は、例えば、米国特許第6,162,927号に開示される。A-182086は、(2R,3R,4S)-4-(2H-1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-2-(3-フルオロ-4-メトキシフェニル)-1-[2-(N-プロピルペンタン-1-スルホンアミド)エチル]ピロリジン-3-カルボン酸という化学名(分子量578.7g/mol)および以下の構造:
【化2】
を有する。
【0048】
眼疾患
本開示の方法は、緑内障、糖尿病網膜症(DR)、網膜静脈閉塞症(RVO)、非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)、動脈炎性前部虚血性視神経症(AION)、および未熟児網膜症(ROP)から選択される眼疾患(これらは以下に記載される)の処置および改善において、上記のエドネンタンおよびA-182086の使用を包含する。
【0049】
緑内障
本明細書で記載されるエドネンタンまたはA-182086を使用する緑内障の処置において、「治療上有効な量」とは、標準ケアによって達成され得るもの(眼内圧(IOP)の降下)を超える、網膜血流(RBF)の改善を評価することによって決定され得る。緑内障兆候に関して、健常ウサギ眼モデルにおける血流の改善は、ヒトにおける薬力学的応答(PD)の予測因子として使用され得る。ウサギは、ウサギおよびヒトの眼の解剖学的および機能的類似性に起因して、ヒトの眼疾患を目標とする化合物に関して眼のPK/PD関係を評価するために一般に使用される。以前は、ET-1をウサギの眼に硝子体内投与することで、顕著な血管収縮および視神経損傷を誘導することが示された(Sasaoka M.ら, Exp Eye Res 2006; Sugiyama T.ら, Arch Ophthalmol 2009)。このモデルにおける有効性は、ある特定の濃度での硝子体内ET-1投与によって誘導される灌流障害の逆転に対する基準にされる。例えば、上記有効性は、ヒトの緑内障患者の血漿および眼房水において観察されるレベルに等しい濃度で達成され得る(Li S.ら, Journal of Ophthalmology 2016)。
【0050】
関連する動物の緑内障モデルの他の例は、IOP上昇のMorrisonのラットモデルおよびレーザー誘導性非ヒト霊長類(NHP)緑内障モデルである。Morrisonのラットモデルにおける緑内障は、強膜上静脈を介する高張性食塩水投与を経てIOPの持続性の上昇によって誘導される。上記レーザー誘導性NHP緑内障モデルでは、IOPの持続性の上昇の後に、視神経乳頭血流は低減することが示された(Wang L.ら, Invest Ophthalmol Vis Sci 2012)。さらに、視神経乳頭血流の低減は、視神経における長期の構造的変化と相関することが示されている(Cull G.ら, Invest Ophthalmol Vis Sci 2013)。
【0051】
上記の緑内障モデルにおける有効性は、IOPの降下、ベースラインからの視神経乳頭もしくは網膜血流の改善、フラットマウント上での構造的神経変性変化(例えば、光干渉断層撮影法(OCT)または網膜神経節細胞数によって測定される網膜神経線維層の厚さ)の進行の防止または緩慢化、ならびにエドネンタンまたはA-182086での処置後の網膜電図(ERG)またはコントラスト感度のような機能的変化として定義される。
【0052】
網膜血流に対するエドネンタンまたはA-182086の効果が、ポアズイユの法則における血管半径(r)によって評価され得ると考えられる。エンドセリンアンタゴニストによる(r)の増大は、IOP降下を経て灌流圧の増大によって達成され得るものより顕著な血流の増大を誘導する:
血流=(灌流圧×πr4)/(8ηl)
ここで
l: 血管の長さ
r: 血管の半径
η: 血液の粘性
灌流圧: 平均動脈圧-IOP
さらに、エドネンタンまたはA-182086は、網膜/視神経乳頭組織灌流における改善とは独立した機序を通じて、IOPを降下させ得るおよび/またはRGC死滅を防止し得る。よって、ある特定の特異的エンドセリンレセプターアンタゴニストを使用することによって、上記のパラメーターのうちの1つ(r)またはより多くの(IOP)が、RBFを改善するように変化させられ得、よって、緑内障を処置することにおける治療有効性を達成する。
【0053】
いくつかの実施形態において、上記緑内障患者は、彼らが診断され次第、処置が開始される。いくつかの実施形態において、エドネンタンまたはA-182086は、3~12ヶ月ごと(例えば、3~6ヶ月ごとまたは4~6ヶ月ごと)の頻度で硝子体内、局所、脈絡膜上、またはインプラント送達プラットフォームを使用して眼の後ろ側に局所投与される。
【0054】
糖尿病網膜症(DR)
糖尿病は、微小血管障害性(網膜症、ニューロパチーおよび糖尿病性腎症)および大血管障害性(macroangiopathic)(心血管疾患)として分類される重篤な後期合併症を引きおこし得る。糖尿病網膜症は、網膜の小血管およびニューロンに対する損傷の結果である。糖尿病網膜症をもたらす最も早い変化としては、網膜血流の低減と関連した網膜動脈の狭窄;網膜内層のニューロンの機能障害、続いて、後のステージでは、視覚機能の微妙な変化と関連する網膜外層の機能の変化;血液中の多くの物質(毒素および免疫細胞が挙げられる)から網膜を防御する血液網膜関門の機能障害が挙げられ、網膜神経網(retinal neuropile)への血液成分の漏出をもたらす。後に、網膜血管の基底膜は肥厚化し、毛細管は変性して細胞、特にペリサイトおよび血管平滑筋細胞を失う。これは、血流の喪失および進行性の虚血、ならびに毛細管壁からはみ出したバルーン様構造(これは、炎症性細胞を動員する)として現れる顕微鏡的動脈瘤をもたらし;そして網膜のニューロンおよびグリア細胞の進行した機能障害および変性をもたらす。
【0055】
DRにおいて観察される虚血およびオキシダント傷害(oxidant injury)は、血流を損ない、本発明者らが発見した組織虚血は、エドネンタンおよびA-182086によって逆転され得る。DR兆候に関しては、網膜灌流の改善は、低酸素症を低減し、血管増殖性変化、新生血管形成および/または黄斑浮腫合併症を遅らせるという結果的な利益とともに、血管内皮増殖因子(VEGF)アップレギュレーションを抑制することが理解される。
【0056】
DRにおいて観察される虚血性網膜症変化の代理モデルとして、未熟児網膜症(ROP)の前臨床マウスモデルが使用され得る。上記マウスにおける酸素誘導性網膜症は、ROPおよび他の血管病理(DRが挙げられる)の網膜新生血管形成に関する病因および治療介入を試験するために適切な、再現性がありかつ定量可能な増殖性網膜新生血管形成モデルである。上記モデルは、以前に記載されるように、1週齢のC57BL/6Jマウスを75%酸素に5日間、次いで、室内気へと曝すことによって誘導される(Smith LEHら, Invest Ophthalmol Vis Sci 1994)。ROPのこの前臨床モデルにおける有効性は、網膜低酸素症および新生血管形成を試験することによって評価され得る。DRにおける現在の標準ケアは、疾患の進行した血管合併症に対処するのみの抗VEGF治療を含む。いくつかの実施形態において、DRを有する患者は、上記疾患の非増殖性の段階の間にこの処置が着手される。いくつかの実施形態において、エドネンタンまたはA-182086のいずれかが、3~12ヶ月ごと(例えば、3~6ヶ月ごとまたは4~6ヶ月ごと)の頻度で、硝子体内、局所、脈絡膜上、またはインプラント送達プラットフォームを使用して眼の後ろ側に局所投与される。
【0057】
網膜静脈閉塞症(RVO)
網膜の血管障害である網膜静脈閉塞症(RVO)は現在、黄斑浮腫を引きおこす増殖因子を阻害するための抗VEGF薬物および浮腫をもたらす炎症性の構成要素と戦うためのコルチコステロイドの硝子体内注射で処置される。組織灌流を改善し、全身の免疫抑制の不要な影響および/またはステロイドの局所的有害効果を回避しながら炎症を低減することによって、RVOを処置するためにエドネンタンおよびA-182086治療を使用することは、非常に望ましい。
【0058】
RVOは現在、硝子体内ステロイドおよび抗VEGF剤で処置されている。既存の血管の灌流を改善することは、黄斑浮腫の程度ならびにVEGFアップレギュレーションおよびRVOとして症状発現する下流の不適応の変化を低減する。有効性を試験するために、虚血性網膜症の前臨床マウスモデルが使用され得る。上記マウスにおける酸素誘導性網膜症は、多くの虚血性網膜症(RVOが挙げられる)における網膜新生血管形成に関する病因および治療介入を試験するために適切な、再現性がありかつ定量可能な増殖性網膜新生血管形成モデルである。上記モデルは、以前に記載されるように、1週齢のC57BL/6Jマウスを75%酸素に5日間、次いで、室内気へと曝すことによって誘導される(Smith LEHら, Invest Ophthalmol Vis Sci 1994)。虚血性網膜症のこの前臨床モデルにおける有効性は、網膜低酸素症および新生血管形成を試験することによって評価され得る。本明細書で記載される「治療上有効な量の」エドネンタンまたはA-182086は、組織灌流を改善し、局所的ステロイドの不必要な効果を回避しながら、ET-1によって媒介される炎症を低減することによる、現在の標準ケアに対する追加であり得る。RVOの処置のいくつかの実施形態において、エドネンタンまたはA-182086は、硝子体内、局所、脈絡膜上、またはインプラント送達プラットフォームを使用して眼の後ろ側に局所投与される。投与頻度は、患者の疾患経過および治療への応答に基づいて変動する。
【0059】
非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)
非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)において、視神経の前部に供給する小血管への血流の妨害が存在する。NAIONにおける視力喪失は、疼痛がなく、急速であり、通常は恒久的である。NAIONのリスク因子としては、アテローム性動脈硬化症(これは、視神経に供給する血管を通る血流を損なうので)および「絞扼された(tight)」視神経を含む。「リスクのある乳頭(disc at risk)」ともいわれる、小さな眼杯を有するかまたは眼杯のない視神経は、眼に入る場合に、強膜を通過する「絞扼された」経路になる。強膜を通過するこの絞扼された経路は、視神経に供給する小血管にさらなる圧力を課すと考えられる。アテローム性動脈硬化症は、これらの小血管の外径の増大を(および内径の減少を)引きおこすことから、血管が広がる余地がない。なぜならそれらは、「絞扼された」視神経によって拘束されるからである。このプロセスは最終的に、視神経への適切な血流の喪失をもたらし、虚血性視神経症が後に起こる。NAIONを処置しようとする試みは、視神経に対する機械的圧力およびその支持する血管系を解放するために、放射状神経切開術(radial neurotomy)を含んだ。この手順は、眼内手術のリスクの全てを有し、実施するのは困難である。穿孔される領域は、周囲の構造と同様に極めて繊細である。これらの構造に付帯する損傷は、希なことではない。
【0060】
NAIONに関しては、エンドセリン拮抗作用とともに有効性を試験する関連のある前臨床モデルは存在しない。さらに、非動脈性前部虚血性視神経症に関して承認された治療は存在しない。NAIONの処置に関しては、「治療上有効な」量のエンドセリンアンタゴニストは、視神経の灌流を増大させることによって、視力および/または視野の臨床上意味のある改善を引きおこすものである。この前臨床エンドポイントの予測因子として、レーザーフローメーターまたは光干渉断層撮影-A(OCT-A)によって評価される視神経乳頭灌流の改善、および(OCT)によって決定される網膜神経線維層(RNFL)厚の解剖学的変化が、使用される。いくつかの実施形態において、薬物治療は、患者の疾患経過および治療への応答に基づいて、必要とされる場合に4~6週間ごとの頻度で硝子体内、局所、脈絡膜上、またはインプラント送達プラットフォームを使用して眼の後ろ側に局所投与される。例えば、上記薬物治療は、患者の疾患経過および治療への応答に基づいて、必要とされる場合に5週間ごとの頻度で、懸濁物の硝子体内注射を使用して眼の後ろ側に局所投与される。
【0061】
動脈炎性前部虚血性視神経症(AION)
動脈炎性前部虚血性視神経症(AION)は、50歳を超える高齢患者において主に起こり、その後各10年間で発生率が増大する急性の、しばしば有痛性の視神経症であり、視覚の恒久的な喪失を引きおこし得る。虚血は、神経線維の構造的密集と関連して、視神経の頭部で起こり、灌流を損ない、視神経乳頭浮腫をもたらす。白色人種がより高い割合で罹患することを証拠が示していることから、上記疾患には遺伝的構成要素があると考えられるが、多くの異なる人種および民族においても報告されている。
【0062】
症状発現は、視力の低下(代表的には、重篤: 患者のうちの60%超において<20/200)、視野欠損(水平半盲が最も一般的である)または両方が付随する片側の視覚喪失の急激な発生を含む。AIONに関しては、エンドセリン拮抗作用とともに有効性を試験する関連のある前臨床モデルは存在しない。さらに、非動脈性前部虚血性視神経症に関して承認された治療は存在しない;しかし、ステロイドは、大部分の患者において旧来から使用されている。処置がなければ、GCA患者のうちの54~95%において(16)、代表的には、4ヶ月以内に(10)、視覚喪失が起こる。コルチコステロイド治療を用いると、このような減退の率は、概算13%へと低減される(16)。処置を受けた罹患した眼の視力回復は、15~34% 改善率で不十分であり、これは、静脈内治療でより高い。視力の増悪は、治療にもかかわらず、9~17%において報告されている。両眼の視力喪失は起こり得る;しかし、大部分の症例は、それが、ある患者が、最初の眼の視力喪失に気づかない場合に頻繁であることが示されている。この両側が関わっている発生率は、コルチコステロイド治療をどの程度積極的に利用するかと同様に、タイミングに大きく関わる。しかし、処置されないまま放置されれば、両側の視力喪失は、症例のうちの50%までで、視神経虚血、網膜虚血もしくは脈絡膜虚血のいずれかから急速に進行し得る。AIONの処置に関しては、エンドセリンアンタゴニストの「治療上有効な」量とは、視神経および網膜の灌流を改善することによって、ステロイドによって達成される視力の付加的な改善を引きおこすものである。視力および/または視野における改善の予測因子として、レーザーフローメーターまたはOCT-Aによって評価される視神経乳頭灌流の改善、および光干渉断層撮影(OCT)によって決定される網膜神経線維層(RNFL)厚の解剖学的変化が、使用される。いくつかの実施形態において、薬物治療は、患者の疾患経過および治療への応答に基づいて、必要とされる場合に4~6週間ごとの頻度で硝子体内、局所、脈絡膜上、またはインプラント送達プラットフォームを使用して眼の後ろ側に局所投与される。例えば、上記薬物治療は、患者の疾患経過および治療への応答に基づいて、必要とされる場合に5週間ごとの頻度で懸濁物の硝子体内注射を使用して眼の後ろ側に局所投与される。
【0063】
未熟児網膜症(ROP)
未熟児網膜症(ROP)は、早産児に影響を及ぼす網膜血管増殖性疾患である。ROPは、全世界で失明および視覚障害の主要な防止可能な原因であり続けている。周産期ケアの改善、中等度早産児(moderately preterm infant)の生存の改善、および酸素送達およびモニタリングに関する資源の制限に伴って、発展途上国では、より成熟した早産児が、重篤なROPを発生している。
【0064】
ROPの病態生理は、2つの段階によって特徴づけられる。第I段階のROPは、VEGFおよびインスリン様増殖因子-1(IGF-1)の顕著な減少に続発する出生直後に始まる血管閉塞(vaso-obliteration)に起因する。第II段階は、およそ33週間の月経後年齢(postmenstrual age)(PMA)に始まる。この段階の間に、VEGFレベルは、特に、網膜代謝の増大に伴う網膜低酸素症および酸素の要求が存在する場合に増大し、異常な血管増殖をもたらす。進行したステージのROPに関しては、無血管網膜のレーザーアブレーション、ROP早期処置(ETROP)プロトコール、抗VEGF抗体(例えば、ベバシズマブ)の硝子体内注射および硝子体切除術は、中心視力を保護し、網膜剥離を防止するために使用される。長期の合併症(例えば、屈折異常(refractory error)、ROPの再発および網膜剥離のリスク)は、思春期およびその後も眼科医による継続した追跡を必要とする。
ROPは、早産に続発する網膜血管の発達不全に起因する重篤な虚血によって誘導される。従って、本発明の一局面として、本発明者らは、エドネンタンまたはA-182086での既存の血管の灌流の改善が、虚血の程度およびVEGFアップレギュレーション、およびROPとして症状発現する下流の不適応の変化を低減すると考える。有効性を試験するために、ROPの前臨床マウスモデルが使用され得る。上記マウスにおける酸素誘導性網膜症は、ROPにおける網膜新生血管形成に関する病因および治療介入を試験するために適切な、再現性がありかつ定量可能な増殖性網膜新生血管形成モデルである。上記モデルは、以前に記載されるように、1週齢のC57BL/6Jマウスを75%酸素に5日間、次いで、室内気へと曝すことによって誘導される(Smith LEHら, Invest Ophthalmol Vis Sci 1994)。ROPのこの前臨床モデルにおける有効性は、網膜低酸素症および新生血管形成を試験することによって評価され得る。エドネンタンまたはA-182086の「治療上有効な量」は、本明細書で記載されるように、組織灌流を改善し、VEGFによって誘導される病的な新生血管形成を低減することによる、現在の標準ケアに対する追加である。いくつかの実施形態において、上記薬物治療は、患者の疾患経過および治療への応答に基づいて、必要な場合に4~6週間ごとの頻度で、硝子体内、局所、脈絡膜上、またはインプラント送達プラットフォームを使用して眼の後ろ側に局所投与される。例えば、上記薬物治療は、患者の疾患経過および治療への応答に基づいて、必要な場合に5週間ごとの頻度で、硝子体内注射を使用して眼の後ろ側に局所投与される。
【0065】
薬学的組成物
本明細書で記載されるいくつかの実施形態は、治療上有効な量の、エドネンタンおよびA-182086(本明細書で記載される)のうちの一方、またはその薬学的に受容可能な塩、および薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤、賦形剤またはこれらの組み合わせを含み得る薬学的組成物に関する。このようなアンタゴニストまたはその薬学的に受容可能な塩は、結晶形態または非晶質形態にあり得る。これらの各々は、薬理学的に受容可能な使用のためのものであり得る。
【0066】
用語「薬学的組成物」とは、本明細書で開示される一方または両方の化合物と、他の化学的構成要素(例えば、希釈剤またはキャリア)との混合物に言及する。上記薬学的組成物は、生物への上記化合物の投与を容易にする。薬学的組成物は一般に、特定の意図した投与経路に合わせて作られる。
【0067】
いくつかの薬学的組成物は、薬学的に受容可能な塩を調製することを要する。薬学的に受容可能な塩としては、本発明の化合物に存在する酸性のまたは塩基性の基の塩が挙げられる。薬学的に受容可能な酸付加塩としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、イソニコチン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、パントテン酸塩、重酒石酸塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチシン酸塩(gentisinate)、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩(glucaronate)、サッカリン酸塩(saccharate)、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩およびパモ酸塩(すなわち、1,1’-メチレン-ビス-(2-ヒドロキシ-3-ナフトエート))。本発明のある特定の化合物は、種々のアミノ酸と薬学的に受容可能な塩を形成し得る。適切な塩基塩としては、アルミニウム塩、カルシウム塩、リチウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、亜鉛塩、およびジエタノールアミン塩が挙げられるが、これらに限定されない。薬学的に受容可能な塩に対する総説に関しては、Bergeら, 66 J. PHARM. SCI, 1-19 (1977)を参照のこと。
【0068】
用語「薬学的に受容可能な」は、その意図した使用にとって安全かつ有効であるキャリア、希釈剤、賦形剤、塩または組成物を定義し、所望の生物学的および薬理学的活性を有する。
【0069】
本明細書で使用される場合、「キャリア(carrier)」とは、細胞または組織への化合物の組み込みを促進する化合物をいう。例えば、限定なしに、ジメチルスルホキシド(DMSO)は、被験体の細胞または組織への多くの有機化合物の取り込みを促進する一般に利用されるキャリアである。
【0070】
本明細書で使用される場合、「希釈剤」とは、薬理学的活性を欠くが、薬学的に必要であるかまたは所望され得る、薬学的組成物中の成分をいう。例えば、希釈剤は、製造および/または投与のためには質量が小さすぎる強力な薬物のかさを増大させるために使用され得る。それはまた、注射、摂取または吸入によって投与されるべき薬物の溶解のための液体でもあり得る。当該分野の希釈剤の一般的形態は、緩衝化水性溶液(例えば、ヒト血液の組成を模倣するリン酸緩衝化食塩水が挙げられるが、これらに限定されない)である。
【0071】
本明細書で使用される場合、「賦形剤」とは、限定なしに、かさ、粘稠性、安定性、結合能力、潤滑、崩壊能力などを組成物に提供するために薬学的組成物に添加される不活性物質をいう。「希釈剤」は、賦形剤の1タイプである。
【0072】
本明細書で記載される薬学的組成物は、それ自体が、またはそれらが他の活性成分(併用療法にあるように)と、またはキャリア、希釈剤、賦形剤もしくはこれらの組み合わせと混合される薬学的組成物において、ヒト患者に投与され得る。適切な製剤は、選択される投与経路に依存する。本明細書で記載される化合物の製剤化および投与のための技術は、当業者に公知である。
【0073】
本明細書で開示される薬学的組成物は、例えば、従来の混合、溶解、造粒、研和(levigating)、乳化、被包化または捕捉プロセスによって、それ自体公知の様式で製造され得る。例えば、Encapsulation Processes, in: Food Powders, 2005, 199-299を参照のこと。さらに、活性成分は、その意図した目的を達成するために有効な量で含まれる。本明細書で開示される薬学的組み合わせにおいて使用される化合物は、薬学的に受容可能な塩として提供され得る。
【0074】
本発明の化合物または薬学的組成物を、局所的眼用製剤として、または眼の組織へと直接、上記化合物もしくは薬学的組成物の注射を介して、しばしば、デポーまたは徐放性製剤においていずれかで、局所的な様式で投与することは、好ましい。局所投与の様式は、製剤の硝子体内、脈絡膜上、眼球周囲、もしくは結膜下注射、またはインプラント技術もしくは局所適用の使用であり得る。例えば、上記化合物は、所望の薬理学的効果を持続させる化合物をゆっくりと放出するリポソーム調製物において投与される。あるいは、ポリビニルアルコールナノ粒子は、局所もしくは眼内適用のための徐放性製剤もしくは長期放出製剤を提供するために、周知の方法によって調製され得る。
【0075】
さらに、標的化薬物送達システムにおいて上記化合物が投与され得る。標的化薬物送達システムの例としては、ApidCOR、BioSeizer-ProDex、Vitrasert、Retisert、Iluvien、I-Vation、Nanoporous Silicon、Ozurdex/Novadur、OcuLief、Port Delivery System(PDS)、PEA Implant、PEG-PLA Microspheres、PRINT Technology、Q-Sphera、SKS Microparticles、Verisome、Capsule Ring Device、MicroPump、Microneedle Injector、Microneedle/Needle-less Injectors、EyeCET、Gemini Refractive Capsule、IVMED、Ciliary Sulcus Ring、Episcleral Exoplant、Eye-D Implant、およびNanoliposomesが挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
いくつかの実施形態において、本開示の方法において使用され得る標的化薬物送達システムは、ApidCOR、BioSeizer-ProDex、Vitrasert、Retisert、Iluvien、I-Vation、Nanoporous Silicon、Ozurdex/Novadur、OcuLief、Port Delivery System(PDS)、PEA Implant、PEG-PLA Microspheres、PRINT Technology、Q-Sphera、SKS Microparticles、Verisome、Capsule Ring Device、MicroPump、Microneedle Injector、Microneedle/Needle-less Injectors、EyeCET、Gemini Refractive Capsule、およびIVMEDから選択される。好ましくは、上記標的化薬物送達システムは、ApidCOR、BioSeizer-ProDex、Vitrasert、Retisert、Iluvien、I-Vation、Nanoporous Silicon、Ozurdex/Novadur、OcuLief、Port Delivery System(PDS)、PEA Implant、PEG-PLA Microspheres、PRINT Technology、Q-Sphera、SKS Microparticles、Verisome、Capsule Ring Device、またはMicroPumpである。
【0077】
いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物は、本明細書で記載される1種もしくはこれより多くのエンドセリンレセプターアンタゴニスト、またはその薬学的に受容可能な塩の治療上有効な量を含む眼用調製物である。本明細書で使用される場合、「眼用調製物(ophthalmic preparation)」とは、眼の外側表面(局所)に滴下される、内側に(眼内)もしくは眼に隣接して(眼球周囲)投与される、または眼用デバイスとともに使用されるように設計された特化された投与形態をいう。いくつかの実施形態において、上記眼用調製物は、液剤、懸濁物、または軟膏剤の形態にある。他の実施形態において、上記眼用調製物は、局所、または好ましくは、硝子体内注射、もしくはインプラントのための、ゲル、ゲル形成溶液、眼用挿入物、マイクロ/ナノ粒子調製物の形態にある。
【0078】
いくつかの実施形態において、上記眼用調製物は、保存剤を含む。適切な保存剤の例としては、カチオン性湿潤剤(例えば、塩化ベンザルコニウム)、有機性水銀(例えば、フェニル水銀硝酸塩、フェニル水銀酢酸塩)、有機酸もしくはそれらのエステル(例えば、ソルビン酸、p-ヒドロキシ安息香酸のエステル(例えば、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル)、およびアルコール代替物(例えば、クロロブタノール、フェニルエタノール)が挙げられるが、これらに限定されない。保存剤は、約0.002% w/v~約0.5% w/v(例えば、0.01~0.25% w/v)の範囲の量で上記眼用調製物に存在し得る。上記眼用調製物は、保存助剤(preservative aid)をさらに含み得る。適切な保存助剤の例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
いくつかの実施形態において、上記眼用調製物は、粘性または潤滑を付与する、活性成分を分解に対して安定化させる、活性成分もしくは不活性成分の溶解度を増大させる、張度を調節する、または溶媒として作用するために、1もしくはこれより多くのさらなる賦形剤または作用物質を含む。賦形剤または粘性もしくは潤滑を付与するための作用物質の例としては、ヒプロメロース、カルボマー974P、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール、ヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、Carbopol 940、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポロキサマー、キシログルカン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ゲランガム、酢酸フタル酸セルロース、およびキサンタンガムが挙げられる。賦形剤、または安定化剤としての作用物質の例としては、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、および硫酸ナトリウム/硫酸(これらは、抗酸化剤として作用し得る)が挙げられる。賦形剤、または可溶化剤としての作用物質の例としては、ポビドン(providone)、クレアチニン、ヒマシ油、およびシクロデキストリン(例えば、γ-シクロデキストリン)が挙げられるが、これらに限定されない。賦形剤、または張度を調節するための作用物質の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム二水和物(calcium chloride dehydrate)、塩化マグネシウム六水和物、糖(例えば、スクロース、マルトース、デキストロースなど)、グリセリン、プロピレングリコール、マンニトール、アスコルビン酸、およびアセチルシステインが挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
いくつかの実施形態において、上記眼用調製物は、pHを調節するための1またはこれより多くの緩衝物質を含む。pHを調節するための緩衝物質の例としては、クエン酸ナトリウム、一塩基性リン酸ナトリウム、二塩基性リン酸ナトリウム、ホウ酸、七水和物(hepatahydrate)、酢酸ナトリウム三水和物、クエン酸ナトリウム二水和物、ヒスチジン、およびリン酸緩衝化食塩水(PBS)が挙げられるが、これらに限定されない。得られる組成物は、5.0~8.5(例えば、5.0~6.0、5.2~5.8、6.0~8.0、6.6~7.8、6.2~8.2、および6.2~7.5)のpH値を有し得る。
【0081】
いくつかの実施形態において、上記眼用調製物は、1種またはこれより多くの界面活性剤を含む。界面活性剤の例としては、オレイン酸のソルビタンエーテルエステル(例えば、ポリソルベートまたはTween(登録商標) 20および80)およびチロキサポールが挙げられる。
【0082】
ヒトの眼に1度に注射され得る容積は、硝子体内経路を経ておよそ50~90μL、網膜下経路を経て450μLまで、脈絡膜上経路を介して200μLまで、および局所経路(例えば、点眼剤としての局所投与)を介して約40~50μLである。これらの経路において使用される針は、代表的には、27~30Gのサイズである。その用量は、この容積、効力、目標有効性および各適応症に関する薬物動態プロフィールと適合するように製剤化され得る濃度に依存する。一般に、眼への注射は、片眼あたり1ヶ月に1回より多い頻度では投与されない。局所投与(例えば、点眼剤)に関しては、大部分の場合に、眼への投与頻度は、1日に1回より多くも2回より多くも超えない。
【0083】
いくつかの実施形態において、上記硝子体内製剤は、約1μg~約1mgの範囲のエンドセリンレセプターアンタゴニストの用量を含む。第1の例示的な製剤は、約1μg~約1mgの上記のエンドセリンレセプターアンタゴニスト、約10mM ヒスチジンHCl、約10% α,α-トレハロース二水和物、および約0.01% ポリソルベート20を含む。第2の例示的な製剤は、約1μg~約1mgのエンドセリンレセプターアンタゴニスト、約10mM リン酸ナトリウム、約40mM 塩化ナトリウム、約0.03% ポリソルベート20、および約5% スクロースを含む。
【0084】
いくつかの実施形態において、上記硝子体内製剤は、約10μg~約100μgの範囲のエンドセリンレセプターアンタゴニストの用量を含む。第1の例示的な製剤は、約10μg~約100μgの上記のエンドセリンレセプターアンタゴニスト、約10mM ヒスチジンHCl、約10% α,α-トレハロース二水和物、および約0.01% ポリソルベート20を含む。第2の例示的な製剤は、約10μg~約100μgのエンドセリンレセプターアンタゴニスト、約10mM リン酸ナトリウム、約40mM 塩化ナトリウム、約0.03% ポリソルベート20、および約5% スクロースを含む。
【0085】
さらなる実施形態において、上記硝子体内製剤は、約500μg~約4mgの範囲のエンドセリンレセプターアンタゴニストの用量を含む。第1の例示的な製剤は、約500μg~約1mgの上記のエンドセリンレセプターアンタゴニスト、約0.014% リン酸カリウム一塩基性、0.08% リン酸ナトリウム二塩基性、0.7% 塩化ナトリウム、0.02% ポリソルベート、および0.5% カルボキシメチルセルロースナトリウムを含む。第2の例示的な製剤は、約500μg~約1mgの上記のエンドセリンレセプターアンタゴニスト、約0.04% リン酸ナトリウム一塩基性一水和物、約0.3% リン酸ナトリウム二塩基性七水和物、0.63% 塩化ナトリウム、および約1%~約2.3% ヒアルロン酸ナトリウムを含む。
【0086】
さらなる精緻化なしに、当業者は、上記の説明に基づいて、その完全な範囲にまで本発明を利用し得ると考えられる。従って、以下の具体例、すなわち、実施例1~8は、例証に過ぎず、如何様にしても本開示の残りの限定ではないと解釈されるべきである。
【実施例】
【0087】
実施例1: 化合物の物理化学的および生化学的特徴付け
以下の表1に提供されるのは、上記のエドネンタンおよびA-182086に関する物理化学的および生化学的データである。表1に示されるように、pH2では、A-182086は、エドネンタンのものより優れた溶解度を有する。他方で、pH7では、エドネンタンは、A-182086のものより優れた溶解度を有する。
表1. 化合物の物理化学的および生化学的特徴付け
【表1】
a データは、非晶質形態のものである。
b 表面電荷分布(主にOおよびN)を考慮して適切に計算した。およそ90またはこれ未満のPSAを有する化合物は、血液脳関門を横断すると推測される。
【0088】
上記の表において、物理化学的データ(例えば、溶解度)を、当該分野で公知の標準的プロトコールに従って得た(例えば、Reisら, Mini Rev Med Chem., 2010, 10(11):1071-6; Avdeefら, Expert Opin Drug Metab Toxicol., 2005, 1(2):325-42; Bharateら, Comb Chem High Throughput Screen., 2016, 19(6):461-9;およびJainら, J Pharm Biomed Anal., 2013, 86:11-35を参照のこと);生化学的データ(すなわち、ETA/ETBの効力)を、当該分野で公知のプロトコールに従って得た(例えば、Kirkbyら, Br J Pharmacol., 2008, 153(6):1105-19;およびMaguireら, Br J Pharmacol., 2014, 171(24):5555-72を参照のこと)。
【0089】
実施例2: ウサギにおける硝子体内使用のためのエドネンタンの製剤化
適切な量のエドネンタンを、ニートのPEG400中に溶解し、続いて、15% CD(HP-β-シクロデキストリン)溶液を添加する。PEG400の最終濃度は、20%であると測定される。目標濃度は、エドネンタンの量に基づいて、5mg/mlおよび0.5mg/mlである。その得られた溶液を、0.25ミクロンフィルターを使用して濾過する。
【0090】
実施例3: ウサギモデルにおけるエドネンタンおよびET-1の効果
成体雄性Dutch-beltedウサギに、0.5μgのET-1の20μl 硝子体内注射(IVT)を与え、続いて、10~100μg エドネンタンの20μl 硝子体内注射を、ET-1投与の30分後に与えた。IOP、光干渉断層撮影-血管造影検査(OCT-A)、およびフルオレセイン血管造影図(FA)を、ET-1およびエドネンタン投与後の所定の時点(30分、45分、60分、および75分)で行って、ET-1±エドネンタンによって誘導された網膜血流変化を評価した。
図1に示されるように、ET-1投与は、45分以内に網膜血管床において明らかな血管収縮を効果的に誘導した。
図2は、ET-1の効果が、次いで、90分以内(エドネンタン投与の60分後)の10μgのエドネンタン投与で逆転されたことを示す。
【0091】
実施例4: エドネンタンを含む長期放出製剤の調製
濃縮エドネンタン分散物を、エドネンタンと、水、ビタミンE-TPGSおよびγ-シクロデキストリンとを合わせることによって作製する。これらの成分を混合して、エドネンタンを分散させ、次いで、オートクレーブにかける。ヒアルロン酸ナトリウムを、無菌粉末として購入し得るか、または希薄溶液を濾過によって滅菌し、続いて、凍結乾燥して、無菌粉末を獲得し得る。その無菌ヒアルロン酸ナトリウムを水に溶解して、水性濃縮物にする。その濃縮したエドネンタン分散物を混合し、スラリーとしてヒアルロン酸ナトリウム濃縮物に添加する。水を、十分量で(十分な程度に、この場合、均質な混合物、分散物、ゲルまたは懸濁物を調製するために必要とされる十分な程度に)添加し、その混合物を、均質になるまで混合する。これらの組成物の例を、以下の表2に提供する:
表2. エドネンタンを含む長期放出製剤の組成物
【表2】
【0092】
これらの例示的組成物は、ヒトの眼への硝子体内注射の際に、ゼラチン状のプラグまたは薬物デポーを形成するように、十分な濃度の高分子量(すなわち、ポリマー)ヒアルロン酸ナトリウムを含む。好ましくは、使用されるヒアルロン酸塩の平均分子量は、200万未満であり、より好ましくは、使用されるヒアルロン酸塩の平均分子量は、約130万~160万の間である。上記エドネンタン粒子は、実際には、ヒアルロン酸塩のこの粘性プラグ内に捕捉または保持され、その結果、望ましくないプルミング(pluming)は、上記製剤の硝子体内注射の際に起こらない。従って、薬物粒子が都合悪くも網膜組織上に直接沈殿するというリスクは、例えば、水のような粘性を有する組成物(例えば、Kenalog(登録商標)40)を使用することと比較すると、実質的に低減される。ヒアルロン酸ナトリウム溶液は、劇的なずり減粘を受けることから、これらの製剤は、25ゲージ、27ゲージまたはさらには30ゲージ針を介して容易に注射される。
【0093】
実施例5: 局所エドネンタン製剤の調製
局所エドネンタン製剤を、公知の方法(例えば、WO 2016156639 A1)に従って調製し得る。より具体的には、20gのCremophor(登録商標) RH40を、磁性式撹拌によって75mLの脱イオン水に溶解し、これを、完全に溶解するまで撹拌させておく。次いで、1.5gのトロメタモールを、その得られる溶液に添加し、15分間撹拌し、完全な溶解を達成する。0.5gのエドネンタンを添加し、15分間撹拌させ、完全な溶解を確実にする。次いで、2gのグリシンおよび1gのホウ酸を添加し、完全に溶解されるまで撹拌させる。その得られた溶液を、100mL 脱イオン水に十分量で添加する。その最終溶液を濾紙で濾過すると、pH8.06を有する無色透明溶液が得られる。容積5mLを有する点眼用滴瓶の点眼剤中に上記溶液を充填する。
【0094】
実施例6: エドネンタンを含む局所眼用液剤ナノ粒子
ナノ粒子を、溶媒エバポレーション技術によって調製した。60mLの酢酸エチル中120mgの50:50 PLGAの溶液を、調製した。この溶液に、50mlの水と12mgのエドネンタンおよび0.5mgのポリビニルアルコールの水性溶液を、激しく撹拌しながら組み込んだ。その得られた混合物を、連続撹拌下および2時間の真空下で放置した。次いで、その得られた調製物を超遠心分離し、水で3回洗浄して、その媒体からナノ粒子を取り出した。そのようにして得たナノ粒子を、真空オーブン中で乾燥させ、評価後に、5mg/1mLのエドネンタンの濃度に対して十分な等張性の水性溶液中に分散させた。
【0095】
実施例7: 緑内障前臨床試験
健常ウサギモデルは、エドネンタンおよび/もしくはA-182086またはこれらの薬学的に受容可能な塩の薬力学的効果を(インビボで)評価するために使用される。これらの試験を、選択したエンドセリンアンタゴニストの種々の用量で行う。さらなる動物試験を、エンドセリンアンタゴニストと現在の標準ケアとを組み合わせることによって行う。緑内障のMorrisonのラットモデル、急性に上昇したIOP上昇のラットモデルおよび非ヒト霊長類のレーザー誘導性緑内障モデルを使用して、標準ケアありおよびなしの選択したエンドセリンアンタゴニストの種々の用量に伴う視神経乳頭血流および網膜神経節細胞喪失の割合を評価する。
【0096】
健常ウサギモデルの血流の改善は、局所投与したET-1による灌流障害の誘導後に、種々の用量で、示されたエンドセリンレセプターアンタゴニストに関して測定される。非ヒト霊長類緑内障モデルにおける視神経乳頭血流および網膜神経線維層(RNFL)厚の変化は、種々の用量で、示されたエンドセリンレセプターアンタゴニストに関して測定される。その結果は、RGC生存、網膜および視神経乳頭血流の改善、ならびに選択したエンドセリンレセプターアンタゴニストの使用に起因するRNFL菲薄化の緩徐化を示す。ヒトに関する投与レジメンは、健常ウサギおよび非ヒト霊長類の緑内障モデルの結果から推測される。
【0097】
ウサギにおける網膜血流変化を評価するための薬力学的試験
ウサギにおいて硝子体内投与したエンドセリン-1(ET-1)、続いて、アンタゴニストであるエドネンタンの投与後の網膜血流の効果を評価するために、ウサギ(Oryctolagus cuniculus)の左眼に、ET-1の20μL 硝子体内注射を、続いて、2種(または3種)の異なる用量(例えば、0.1μg、0.5μg、2.5μg)のエドネンタンの20μL 硝子体内注射を与えた。パルスオキシメーター、眼圧測定、光干渉断層撮影-血管造影検査(OCTA)、フルオレセイン血管造影検査(FA)および網膜漏出スコア付けを、評価のために行った。ウサギにおける用量応答を、
図8Aおよび
図8Bに示す。
【0098】
ウサギにおいて硝子体内送達したエドネンタンの薬物動態および耐容性分析
ウサギにおける硝子体内投与後のエドネンタンの薬物動態および安全性特性を決定するために、ウサギ(Oryctolagus cuniculus)に、両側の硝子体内注射(20μL 注射容積/眼)を与えた。その注射後に、動物をケタミン/キシラジンカクテルで鎮静化し、次いで、その動物を、ペントバルビタールナトリウム(Euthasol)の過剰投与で安楽死させた。薬物動態分析のために指定された動物を、種々の時点(例えば、12時間、16時間、24時間、36時間および48時間)で安楽死させた。少なくとも1.0mLの全血を、耳介縁部(marginal ear)の静脈または心臓穿刺(終末採血のみ)から、血漿収集のためにK2EDTAチューブへと採血し、分析のために処理した。
【0099】
安楽死直後に、眼を摘出した。両眼の眼房水を、シリンジを介して取り出し、分析用に急速凍結した。眼を凍結したときに解剖して、種々の眼の組織を単離し、隣接組織への薬物拡散を最小限にした。左眼および右眼の組織を、分析のために別個のバイアルの中に集めた。集めた組織のリストは、血漿および眼房水、虹彩/毛様体(ICB)、網膜、硝子体液およびRPE/脈絡膜を含む。ウサギにおいて硝子体内送達したエドネンタンの薬物動態特性を、
図9A、
図9B、
図9Cおよび
図9Dに示す。
【0100】
ウサギにおいて局所投与したエドネンタンの薬物動態分析
ウサギにおける局所投与後のエドネンタンの薬物動態特性を決定するために、ウサギ(Dutch-beltedウサギ)の両眼に、点眼剤(100μgのエドネンタン、35μL用量容積/眼)を与えた。その投与後に、動物(N=2)を、種々の時点(例えば、10分(投与直後(immediately after pot-dose))、2時間および7時間)で安楽死させ、分析のために組織を集めた。集めた組織のリストは、血漿、網膜、硝子体液および眼球結膜を含む。ウサギにおいて局所送達したエドネンタンの薬物動態特性を
図10に示す。これは、エドネンタンが、1回の局所適用後の全ての時点で試験した全ての組織において検出されたことを示す。
【0101】
緑内障のMorrisonのラットモデルにおける有効性試験
成体雄性および雌性の繁殖を終えたBrown Norwayラット(およそ8~11ヶ月の年齢群)を、Envigo(Indianapolis, IN)から得た。ベースラインIOP測定およびパターン網膜電図(PERG)振幅を、IOPの上昇のための手術前に集めた(IOPおよびPERG振幅が、予測される値の範囲にあったことを担保するため)。IOPをラットの片眼(左眼)で上昇させた一方で、その対応する右眼を、対側のコントロールとして供した。ラットにおいてIOPを上昇させるMorrison法を、50μLの高張性食塩水を強膜上静脈を経て注射することによって行って、線維柱網を硬化させた。IOPを、実験の継続期間全体の間に1週間に2回測定した。手術の7~10日後に、IOP上昇が、ラットの手術した眼において観察された。2連続日にわたってIOPの上昇を検出した後、点眼剤の局所投与(IOPが上昇した眼において20μL(100μg)/用量の試験化合物)を開始し、1週間に5日間、合計4週間にわたって行った。処置の4週間目に、PERG分析を行い、ラットを、ペントバルビタール(Fatal-Plus)の過剰投与によって屠殺した。眼房水をラットの眼から集め、凍結し、分析のために送付した。網膜のフラットマウントを準備し、RGCマーカー、Brn3a抗体で免疫染色し、生存しているRGCを、2つの偏心(eccentricity)(中心および周辺部)で計数した。
【0102】
この試験のために、Morrisonのモデルを使用して、Morrisonら(Morrison JC, Moore CG, Deppmeier LM, Gold BG, Meshul CK, Johnson EC. A rat model of chronic pressure-induced optic nerve damage. Exp Eye Res. 1997;64(1):85-96)によって以前に記載されたように、成体の繁殖を終えた雄性Brown Norwayラットにおいて眼内圧亢進(ocular hypertension)を誘導した。
【0103】
免疫染色した網膜フラットマウントを得て、網膜神経節細胞(RGC)数を測定した。免疫染色した網膜フラットマウントを得るために、その動物を、処置後に安楽死させ、次いで、それらの眼を摘出した。その眼杯を、4℃において4% パラホルムアルデヒド(PFA)中で一晩固定し、網膜フラットマウントを、画像を集めるために準備した。網膜神経節細胞(RGC)計数を、免疫染色した網膜フラットマウントの画像を使用して行った。その画像を、ImageJ(生物学研究のために設計されたフォトエディター(Rasband, 1997-2018))にアップロードし、その標識した網膜神経節細胞を、2つの偏心(中心および周辺部)において手動で計数した。
図5Aは、ビヒクルとエドネンタンとの間の周辺部網膜におけるRGC数の比較を示し、
図6Aは、ビヒクルとA-182086との間の比較を示す。
【0104】
パターンERG(PERG)を使用して、RGC機能を評価した。そのパターンergの記録を得るために、UTAS Visual Electrodiagnostic System(LKC, Gaithersburgh, MD, USA)を、Porciattiら(Porciatti V, Saleh M, Nagaraju M. The pattern electroretinogram as a tool to monitor progressive retinal ganglion cell dysfunction in the DBA/2J mouse model of glaucoma. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2007;48(2):745-751)によって記載される方法に従って使用した。簡潔には、PERGシグナルを、角膜表面の下側部分に配置したDTL-plus電極から獲得し、PERG波を、EMWINソフトウェア(LKC)を使用して分析した。主要な正(P1)および負(N2)の波の振幅間の差異を計算して、PERG振幅を解読(deciper)した。
図5Bは、ビヒクルとエドネンタンとの間のIOP媒介性PERG変化を示し、
図6Bは、ビヒクルとA-182086との間の変化を示す。
【0105】
RGC数およびPERG変化は、
図5A、
図5B、
図6Aおよび
図6Bに示されるように、エドネンタンおよびA-182086の両方が、緑内障のmorrisonのラットモデルにおいてRGC喪失を防止し、RGC機能を維持したことを明らかにする。
【0106】
ラットにおいて局所的にまたは経口的に送達したエドネンタンまたはA-182086の薬物動態分析
ラットにおける局所投与後に、エドネンタンまたはA-182086の薬物動態特性を決定するために、ラット(Brown Norwayラット)に、点眼剤(100μgのエドネンタン、20μL用量容積/眼;または100μgのA-182086、20μL用量容積/眼)を与えた。ラットにおける経口投与後のエドネンタンまたはA-182086の薬物動態特性を決定するために、ラット(Brown Norwayラット)に、10mg/kgもしくは50mg/kgのエドネンタンの経口投与、または1.7mg/kgもしくは17mg/kgのA-182086の経口投与を与えた。投与後に、動物(N=2)を、種々の時点(例えば、4時間および8時間)で安楽死させ、組織を分析のために集めた。集めた組織のリストは、血漿、網膜/網膜色素上皮(RPE)/脈絡膜、硝子体液および眼房水を含む。ラットにおいて局所投与または経口投与したエドネンタンの薬物動態特性を、
図5Cに示す。ラットにおいて局所投与または経口投与したA-182086の薬物動態特性を、
図6Cに示す。
図5Cおよび
図6Cは、エドネンタンおよびA-182086の両方が、網膜/RPE/脈絡膜、眼房水および硝子体液において局所投与の4時間後および8時間後で検出されることを示す。これらのデータはまた、エドネンタンが、エドネンタンの経口投与後に17mg/kgで眼房水において、ならびに1.7および17mg/kgで網膜/RPE/脈絡膜および硝子体液において検出可能であり、A-182086が、A-182086の経口投与後に50mg/kgで網膜/RPE/脈絡膜において検出可能であることを明らかにした。
【0107】
酸素誘導性虚血性網膜症を有するマウスにおける試験
関連するマウスモデルを、
図4に示されるように、種々の時点で、酸素誘導性虚血性網膜症(OIR)を有するマウスにおいて網膜低酸素領域を得るために使用した。エドネンタンによるマウス酸素誘導性虚血性網膜症(OIR)モデルの網膜低酸素症の改善が、明らかにされる。簡潔には、P17において、OIRを有するマウス(n=60)に、ET-1アンタゴニストの注射(1μLの2μg/μL エドネンタン製剤、単一用量)を片眼に与え、PBSを他眼に与えた。注射後24時間、48時間、および96時間で、マウス(各時点に対してn=10)を安楽死させ、網膜を解剖し、GSAレクチンおよびhypoxyprobeで染色した。NVの領域、網膜低酸素症の領域、および網膜非灌流の領域を、各網膜に対して決定した。
【0108】
実施例8: レーザー誘導性非ヒト霊長類試験-薬力学的試験
非ヒト霊長類(アカゲザル、Macaca Mulatta)を、この試験のために得た。各動物の片眼に、線維柱網の反復レーザー光凝固による眼内圧(IOP)の上昇の誘導を行った。画像化セッションを反復して、視神経乳頭(ONH)および網膜構造の変化をモニターした。
【0109】
IVT投与後の視神経乳頭血流に対するエドネンタンの効果
レーザー誘導性緑内障モデルにおけるONH血流の指数として、全体の平均ブレ率(MBR)およびベースラインからの経時的なMBR変化において3匹の非ヒト霊長類の実験的緑内障の眼および対側の健常な眼(コントロール)を比較する試験を行った。より具体的には、ビヒクルコントロール、0.02mg/mLのエドネンタン、0.2mg/mLのエドネンタン、または2.0mg/mLのエドネンタンを、3匹の非ヒト霊長類(アカゲザル、Macaca Mulatta)の各々の緑内障の眼に硝子体内投与した(50μL)。次いで、ONH血流を、
図7A~7Lに示されるように、レーザースペックルフローグラフィー(LSFG)を使用して6時間かけて測定した。これらのグラフは、ビヒクル単独(
図7A、
図7E、および
図7I)、0.02mg/mLのエドネンタン(
図7B、
図7F、および
図7J)、0.2mg/mLのエドネンタン(
図7C、
図7G、および
図7K)または2.0mg/mLのエドネンタン(
図7D、
図7H、および
図7L)のIVT投与後の3匹の非ヒト霊長類におけるONH血流を示す。
図7A~7Lは、エドネンタンでの処置後に用量依存性様式において、ONH血流の改善を明らかにする。3匹の非ヒト霊長類の集合結果を、
図7Mに示す。これは、エドネンタンが、コントロールの眼と比較して、実験的緑内障の眼において網膜動脈、静脈、および毛細管の拡張から生じるONH血流の用量関連増大を明らかに示すことを示す。
【0110】
上記の3匹の非ヒト霊長類のうちの1匹において、LSFGスキャンを、エドネンタンを2.0mg/mLで投与した場合に種々の選択した時点で行った。結果を
図7Nに示す。
【0111】
局所投与後の眼内圧に対するエドネンタンの効果
単一用量の0.5% チモロールまたは単一用量の2mg/mL エドネンタンを、右眼(OD)にレーザー誘導性緑内障を有する3匹の非ヒト霊長類に、無作為の順序での1週間洗い流しを伴って局所投与した。
【0112】
試験結果:
コントロール1: 各眼における単一用量の50μLの局所的チモロール 0.5%は、投与前から投与後(120分間)へと約20%のIOP降下を示した。
【0113】
コントロール2: 各眼における単一用量の50μLの局所チモロール 0.5%は、投与前から投与後(120分間)へと約30%のIOP降下を示した。
【0114】
非ヒト霊長類1: 実験的緑内障の眼における50μLのエドネンタン点眼剤(2mg/mL)は、投与前から投与後(120分間)へと約60%のIOP降下を示し、対側の健常な眼においては、投与前から投与後(120分間)へと約10%のIOP降下を示した。
【0115】
非ヒト霊長類2: 実験的緑内障の眼における50μLのエドネンタン点眼剤(2mg/mL)は、投与前から投与後(15分間)へと約50%の、および投与前から投与後(120分間)へと約30%のIOP降下を示した。対側の健常な眼における50μLのエドネンタン点眼剤(2mg/mL)は、投与前から投与後(15分間)へと約20%の、および投与前から投与後(120分間)へと約0%のIOP降下を示した。
【0116】
非ヒト霊長類3: 実験的緑内障の眼における50μLのエドネンタン点眼剤(2mg/mL)は、投与前から投与後(15分間)へと約40%の、および投与前から投与後(120分間)へと約40%のIOP降下を示した。対側の健常な眼における50μLのエドネンタン点眼剤(2mg/mL)は、投与前から投与後(15分間)へと約10%の、および投与前から投与後(120分間)へと約40%のIOP降下を示した。
【0117】
他の実施形態
本明細書で開示される特徴は全て、任意の組み合わせにおいて組み合わされ得る。本明細書で開示される各特徴は、同じ、等価な、または類似の目的を果たす代替の特徴によって置換され得る。従って、別段明示的に述べられなければ、開示される各特徴は、包括的な一連の等価なまたは類似の特徴の例に過ぎない。
【0118】
さらに、上記の説明から、当業者は、本発明の必須の特徴を容易に確認し得、その趣旨および範囲から逸脱することなく、本発明の種々の変更および改変を行って、種々の使用法および条件に適合させ得る。従って、他の実施形態はまた、特許請求の範囲内にある。
【国際調査報告】