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特表2023-500033血管新生性眼疾患を治療又は予防するためのカルレティキュリン
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-04
(54)【発明の名称】血管新生性眼疾患を治療又は予防するためのカルレティキュリン
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20221222BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221222BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20221222BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20221222BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20221222BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20221222BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20221222BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20221222BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
A61K38/17 ZNA
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K9/08
A61P27/02
A61P27/06
A61P3/10
A61P9/00
C07K14/47
C12P21/02 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022521196
(86)(22)【出願日】2020-10-07
(85)【翻訳文提出日】2022-05-09
(86)【国際出願番号】 EP2020078173
(87)【国際公開番号】W WO2021069523
(87)【国際公開日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】1914516.8
(32)【優先日】2019-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522140105
【氏名又は名称】ユーエービー バルティマス
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】リマンタス・スリビンスカス
(72)【発明者】
【氏名】エヴァルダス・チプリス
【テーマコード(参考)】
4B064
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA06
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4C076AA12
4C076BB11
4C076CC10
4C076FF61
4C076FF70
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA22
4C084MA17
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA33
4C084ZA36
4C084ZC35
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、血管新生性眼疾患の治療におけるカルレティキュリンの治療的使用に関する。 様々な治療方法及びカルレティキュリンを含む医薬組成物が開示される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における血管新生性眼疾患の治療又は予防における使用のためのカルレティキュリンであって、前記カルレティキュリンは、医薬組成物に含まれることを特徴とする、カルレティキュリン。
【請求項2】
前記血管新生性眼疾患が、脈絡膜血管新生、角膜血管新生、及び網膜血管新生の1以上を含む、請求項1に記載の使用のためのカルレティキュリン。
【請求項3】
前記血管新生性眼疾患が、増殖性糖尿病性網膜症、黄斑変性症、又は血管新生緑内障である、請求項1又は2に記載の使用のためのカルレティキュリン。
【請求項4】
前記血管新生性眼疾患が、加齢性黄斑変性症である、請求項3に記載の使用のためのカルレティキュリン。
【請求項5】
前記カルレティキュリンが、血管新生を予防する又は減少させる、請求項1から4のいずれかに記載の使用のためのカルレティキュリン。
【請求項6】
前記対象がヒトであり、前記カルレティキュリンが、ヒトカルレティキュリンである、請求項1から5のいずれかに記載の使用のためのカルレティキュリン。
【請求項7】
前記カルレティキュリンが、配列番号1のアミノ酸配列を有する、又は配列番号1のアミノ酸に対して少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、請求項1から6のいずれかに記載の使用のためのカルレティキュリン。
【請求項8】
前記カルレティキュリンが、成熟全長タンパク質である、請求項1から7のいずれかに記載の使用のためのカルレティキュリン。
【請求項9】
前記カルレティキュリンが、真核細胞から得られる、請求項1から8のいずれかに記載の使用のためのカルレティキュリン。
【請求項10】
前記カルレティキュリンが、酵母における組換え発現によって得られる、請求項9に記載の使用のためのカルレティキュリン。
【請求項11】
前記医薬組成物中の前記カルレティキュリンの少なくとも75%が、モノマー形態である、請求項1から10のいずれかに記載の使用のためのカルレティキュリン。
【請求項12】
前記医薬組成物が、硝子体内注射で眼に投与される、請求項1から11のいずれかに記載の使用のためのカルレティキュリン。
【請求項13】
前記医薬組成物が、25μg/ml~50mg/mlの濃度でカルレティキュリンを含む、請求項12に記載の使用のためのカルレティキュリン。
【請求項14】
前記医薬組成物が、眼に対する局所適用によって投与される、請求項1から11のいずれかに記載の使用のためのカルレティキュリン。
【請求項15】
前記医薬組成物が、25ng/ml~250μg/mlの濃度でカルレティキュリンを含む、請求項14に記載の使用のためのカルレティキュリン。
【請求項16】
前記対象が、請求項14又は15に記載の眼に対する局所適用によって既に治療されている、請求項12又は13に記載の使用のためのカルレティキュリン。
【請求項17】
前記対象が、請求項12又は13に記載の硝子体内注射によって既に治療されている、請求項14又は15に記載の使用のためのカルレティキュリン。
【請求項18】
前記医薬組成物が、抗血管新生剤と併用して、別々に、又は連続して使用するためのものである、請求項1から17のいずれかに記載の使用のためのカルレティキュリン。
【請求項19】
前記抗血管新生剤が、血管内皮増殖因子(VEGF)の阻害剤である、請求項18に記載の使用のためのカルレティキュリン。
【請求項20】
カルレティキュリン及び1以上の緩衝剤を含む医薬組成物であって、
前記医薬組成物が、眼内投与用に処方されることを特徴とする医薬組成物。
【請求項21】
前記医薬組成物が、点眼薬として眼に対する局所投与用に、又は眼内硝子体内注射用に処方される、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記カルレティキュリンが、請求項6から11のいずれかで定義される通りである、及び/又は前記医薬組成物が、請求項13又は15で定義される濃度でカルレティキュリンを含む、請求項20又は21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
請求項20から22のいずれかに記載の医薬組成物を含むことを特徴とする、プレフィルド硝子体内シリンジ。
【請求項24】
請求項20から22のいずれかに記載の医薬組成物と、定量の前記医薬組成物を眼に投薬するためのノズルと、を含むことを特徴とする、点眼薬ボトル。
【請求項25】
請求項20から22のいずれかに記載の、眼内投与用に処方される医薬組成物を製造する方法であって、前記方法が、以下の工程:
(a)ネイティブなカルレティキュリンシグナル配列及びカルレティキュリンを含むポリペプチドをコードするコード配列を含むヌクレオチド配列で酵母細胞を形質転換することと;
(b)前記カルレティキュリンが分泌形態で発現される条件下で前記酵母細胞を培養することと;
(c)培養培地から前記カルレティキュリンを抽出することと;
(d)前記カルレティキュリンを使用して、眼内投与用に処方される前記医薬組成物を製造することと、
を含むことを特徴とする、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象における血管新生性眼疾患の治療又は予防に使用するためのカルレティキュリンタンパク質、及び前記使用に好適な医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
眼の血管新生は、脈絡膜血管新生、角膜血管新生、増殖性糖尿病性網膜症、網膜血管新生、加齢性黄斑変性症、及び血管新生緑内障に関連する失明の主な原因である。特に、加齢性黄斑変性症(AMD)は、50歳以上の人々の視力への不可逆的な損傷の主な原因の1つである。この病気だけでも何百万人もの高齢者を襲い、治療の選択肢は限られており、全て侵襲的処置が必要である。更に、現在の治療は、不快な、そしてしばしば痛みを伴う眼内注射の後に多くの副作用をもたらす。使用される注射剤の殆どは、血管内皮増殖因子(VEGF)に対する抗体である。これらには、Avastin(登録商標)(ベバシズマブ)、Lucentis(登録商標)(ラニビズマブ)、及びEylea(登録商標)(アフリベルセプト)が含まれる。残念なことに、そのような薬剤の注射後のポジティブな効果は、時間とともに薄れ、その結果、硝子体内注射を更に繰り返す必要が生じる。通常、治療コースは、合計52週間の治療期間に亘って、4週間毎の注射を含む。それでも、治療のポジティブな効果は長期的には薄れて消える傾向があるため、最終的な結果は、あまり見込みがない。特に、AMDでは視力(VA)の初期の向上が長期的に維持されなかったことが報告されてきた(非特許文献1を参照)。抗VEGF治療を使用した最初の視力の向上にもかかわらず、治療された眼の平均VAは、治療が中止された頃にベースラインに落ちるか、又は悪化した(非特許文献2)。
【0003】
抗VEGF治療を無期限に継続されるべきであることが受け入れられる場合、別の問題がある。注射には大量の抗体が必要であり、1回の処置の費用は、通常1,000ユーロを超える。何年もの間、RocheとNovartisのLucentis(登録商標)、及びBayerとRegeneronのEylea(登録商標)がAMD治療で優位を占めており、2017年の総売上高は90億ドルを超えている。米国政府が管理する高齢者向けのメディケア健康保険は、2016年にEylea(登録商標)及びLucentis(登録商標)だけで32億5,000万ドルを費やした。
【0004】
上記に照らして、より効果的でより安価な治療オプションの必要性は、議論の余地がない。更に、患者の観点からは、新しい治療オプションは非侵襲的で痛みがなく、長期的には向上した効果を提供することが望ましい。
【0005】
しかしながら、眼の薬剤送達は、眼の制限的なバリア機能のために、非常に困難な領域である。眼は、眼の前部3分の1であり、硝子体の前の構造を含む前方部と、硝子体、網膜、及び脈絡膜を含む後方部とに分けることができる。局所投与(TA)は、自己投与が可能であり、非侵襲的であり、患者にとって最も受け入れられるため、最も望ましい投与経路である。しかしながら、角膜層、特に眼の最外層の2つである上皮と実質は、眼の薬剤送達の主要なバリアと見なされている(非特許文献3)。更に、緩衝房水としての涙膜は、2~3分の速い回復時間を示し、殆どの投与された点眼薬/溶液は、最初の15~30秒以内に洗い流され、低いバイオアベイラビリティとなる(<5%)(非特許文献4)。そのため、局所投与(例えば、点眼薬の形態で)は、特定の活性薬剤に対してのみ可能であり、脈絡膜、網膜、又は黄斑を含む血管新生性眼疾患等の後方部疾患の治療には、通常効果的ではない。
【0006】
腫瘍の増殖及び転移における血管新生の重要性のために、抗血管新生化合物及び癌の治療におけるそれらの潜在的な使用について多くの研究がなされてきた。血管内皮増殖因子に対する抗体等、これらの幾つかは、血管新生性眼疾患の治療にも働くことが分かってきた。
【0007】
その抗血管新生効果及び癌治療の可能性について調査されてきた1つのタンパク質及び関連タンパク質断片は、カルレティキュリン(CRT)、及びカルレティキュリンのアミノ酸1~180(VS180)を含むバソスタチンとして知られる、そのN末端断片である。腫瘍増殖に関連したバソスタチンとカルレティキュリンに関する最初の研究では、マルトース結合タンパク質に融合した組換えタンパク質としてE.coliで生成されたバソスタチン、及びグルタチオンSトランスフェラーゼタンパク質に融合した組換えタンパク質としてE.coliで生成されたカルレティキュリンが、インビトロで内皮細胞(ウシ胎仔心臓内皮細胞)の増殖を阻害し、マウスに皮下注射するとバーキット腫瘍の増殖を阻害した(非特許文献5及び非特許文献6)。関連する特許出願(特許文献1)では、精製されたB細胞株の上清から得られた天然のゲル溶出カルレティキュリンが、ウシ胎仔心臓内皮細胞の増殖も阻害したことを報告した。しかしながら、これらの化合物の抗血管新生特性に関する更なる研究の結果は、様々である。別のグループによるその後の研究では、ヒト胎盤から単離されたネイティブなCRTを使用した共培養血管新生アッセイでは、CRTの抗血管新生効果を実証することはできなかった(非特許文献7)。更に、数例を挙げると、過去10年間の幾つかの出版物は、CRTのレベルの上昇が胃癌、膵臓癌、前立腺癌、及び卵巣癌の癌転移に寄与したため、CRTが腫瘍の進行を促進することがわかったと報告している(例えば、非特許文献8;多くの要約された情報源については、非特許文献9の概説を参照)。更に、非特許文献10は、CRTの過剰発現が、血管新生を促進し、胃癌細胞の増殖と遊走を促進することを報告した。
【0008】
眼に関連した血管新生に関する研究は、バソスタチンが、ラットモデルにおいて、点眼薬の形態での局所適用後に、誘発された角膜血管新生及び誘発された脈絡膜血管新生病変の進行を抑制したことを報告した(非特許文献11及び非特許文献12)。しかしながら、組換えで発現されたVS180が直面した多くの問題があり、主に、このコンストラクトの高い分子量に起因することが報告された。即ち、(i)VS180は、細胞への送達が不十分であった。(ii)VS180は、血管内皮細胞との結合が容易ではないため、血管新生の阻害効率は低かった。(iii)VS180の水への溶解度と安定性が低いため、点眼薬に製造する際にVS180を水に溶解すると、通常、沈殿物が発生した(特許文献2)。したがって、組換えで発現されたVS180は、溶解性を高めるために、チオレドキシン(TRX)等の標識タンパク質を必要とした。しかしながら、チオレドキシンを結合させた組換えで発現したVS180(TRX-VS180)は、個体に送達したときに、眼の赤みやかゆみ等を含む、宿主における免疫応答を誘発したため、実用的用途ではまだ不十分であった(特許文献2)。
【0009】
更に、発現されたVS断片をより短いが、なお効果的なペプチドに減らすことを試みた。48残基のペプチド断片であるバソスタチン48(VS48)は、CRTの残基133~180からなり、融合タンパク質TRX-VS48として発現されると、点眼薬の形態で機能することが分かった(非特許文献13)。それは、ラットにおいて、眼のレーザー誘発性脈絡膜血管新生(CNV)を治療するために使用された。また、TRX-VS48は、ウサギでネガティブな免疫応答を誘導することが示され、融合パートナーなしでVS48ペプチドのみを使用することが提案された(特許文献2)。同じグループは最近、なお活性のあるCRT抗血管新生ドメイン(CAD)断片のサイズを、CAD様ペプチド27(CAD27)と呼ばれる、CRTの残基137~163を含む27残基のペプチドに減らすことができた。それは化学合成によって環状ペプチドとして生成され、レーザー誘発性CNVのラットモデルにおいて、点眼薬の形態でなお活性であったが、CRT断片VS180及びVS48で以前に示されたよりもはるかに高い濃度であった(非特許文献14)。その著者らは、硝子体内注射及び局所投与によってそれぞれ投与された場合に、CAD27は、低分子量で、後方部への網膜又は経強膜のより良好な浸透を可能にするため、VS180及びVS48よりも有利であると報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第WO00/20577号(2000年4月に最初に公開され、2005年9月22日に公開された後の特許ファミリー米国特許出願公開第2005/0208018 A1号明細書)(Tosatoら))
【特許文献2】米国特許出願公開第2013/0296242 A1号明細書(Taiら)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Wecker T, Ehlken C, Buhler A, Lange C, Agostini H, Bohringer D, Stahl A: Five-year visual acuity outcomes and injection patterns in patients with pro-re-nata treatments for AMD, DME, RVO and myopic CNV. Br J Ophthalmol. 2017 Mar; 101(3):353-359.
【非特許文献2】Gillies MC, Campain A, Barthelmes D, Simpson JM, Arnold JJ, Guymer RH, McAllister IL, Essex RW, Morlet N, Hunyor AP; Fight Retinal Blindness Study Group: Long-Term Outcomes of Treatment of Neovascular Age-Related Macular Degeneration: Data from an Observational Study. Ophthalmology. 2015 Sep;122(9):1837-45.
【非特許文献3】Gaudana R, Ananthula HK, Parenky A, Mitra AK: Ocular drug delivery. AAPS J. 2010 Sep; 12(3):348-60.
【非特許文献4】Barar J, Javadzadeh AR, Omidi Y: Ocular novel drug delivery: impacts of membranes and barriers. Expert Opin Drug Deliv. 2008 May;5(5):567-81.
【非特許文献5】Pike SE, Yao L, Jones KD, Cherney B, Appella E, Sakaguchi K, Nakhasi H, Teruya-Feldstein J, Wirth P, Gupta G, Tosato G: Vasostatin, a calreticulin fragment, inhibits angiogenesis and suppresses tumor growth. J Exp Med. 1998 Dec 21;188(12):2349-56.
【非特許文献6】Pike SE, Yao L, Setsuda J, Jones KD, Cherney B, Appella E, Sakaguchi K, Nakhasi H, Atreya CD, Teruya-Feldstein J, Wirth P, Gupta G, Tosato G: Calreticulin and calreticulin fragments are endothelial cell inhibitors that suppress tumor growth. Blood. 1999 Oct 1;94(7):2461-8.
【非特許文献7】Friis T, Kjaer Sorensen B, Engel AM, Rygaard J, Houen G: A quantitative ELISA-based co-culture angiogenesis and cell proliferation assay. APMIS. 2003 Jun; 111(6):658-68.
【非特許文献8】Sheng W, Chen C, Dong M, Zhou J, Liu Q, Dong Q, Li F: Overexpression of calreticulin contributes to the development and progression of pancreatic cancer. J Cell Physiol. 2014 Jul;229(7):887-97.
【非特許文献9】Eggleton P, Bremer E, Dudek E, Michalak M: Calreticulin, a therapeutic target? Expert Opin Ther Targets. 2016 Sep; 20(9):1137-47.
【非特許文献10】Chen CN, Chang CC, Su TE, Hsu WM, Jeng YM, Ho MC, Hsieh FJ, Lee PH, Kuo ML, Lee H, Chang KJ: Identification of calreticulin as a prognosis marker and angiogenic regulator in human gastric cancer. Ann Surg Oncol. 2009 Feb; 16(2):524-33.
【非特許文献11】Wu PC, Yang LC, Kuo HK, Huang CC, Tsai CL, Lin PR, Wu PC, Shin SJ, Tai MH: Inhibition of corneal angiogenesis by local application of vasostatin. Mol Vis. 2005 Jan 13;11:28-35.
【非特許文献12】Sheu SJ, Bee YS, Ma YL, Liu GS, Lin HC, Yeh TL, Liou JC, Tai MH: Inhibition of choroidal neovascularization by topical application of angiogenesis inhibitor vasostatin. Mol Vis. 2009 Sep 18;15:1897-905.
【非特許文献13】Bee YS, Sheu SJ, Ma YL, Lin HC, Weng WT, Kuo HM, Hsu HC, Tang CH, Liou JC, Tai MH: Topical application of recombinant calreticulin peptide, vasostatin 48, alleviates laser-induced choroidal neovascularization in rats. Mol Vis. 2010 Apr 28;16:756-67.
【非特許文献14】Bee YS, Ma YL, Chen J, Tsai PJ, Sheu SJ, Lin HC, Huang H, Liu GS, Tai MH: Inhibition of Experimental Choroidal Neovascularization by a Novel Peptide Derived from Calreticulin Anti-Angiogenic Domain. Int J Mol Sci. 2018 Sep 30;19(10). pii: E2993.
【発明の概要】
【0012】
血管新生性眼疾患の治療又は予防に使用するためのカルレティキュリンが、本明細書に記載されている。特に、本発明は、対象における血管新生性眼疾患の治療又は予防における使用のためのカルレティキュリンを提供し、前記カルレティキュリンは、医薬組成物に含まれる。
【0013】
第2の態様では、本発明は、対象における血管新生性眼疾患を治療又は予防する方法を提供し、有効量の前記カルレティキュリンを前記患者の眼に投与することを含み、前記カルレティキュリンは、医薬組成物に含まれる。
【0014】
本発明はまた、カルレティキュリン(CRT)が血管新生性眼疾患の治療に効果的であることを実証する実験データを提供する。特に、提供されたデータは、硝子体内投与及び局所投与によって投与された場合、カルレティキュリンが脈絡膜血管新生の治療に効果的であることを示している。これらの結果は、非常に予想外である。なぜなら、発明者の知る限りでは、異なる臓器を隔てるバリア、特に幾つかの体表面上皮バリアを通過するCRTに関するデータがなく、その分野の専門家の間で、CRTは上皮バリアを通過することができないという幅広い意見があるからである。更に、上述されるように、Taiら(2013年)は、バソスタチンは、その高い分子量のためにうまく機能せず、複数の問題をもたらすことを示してきた。したがって、著者らのグループは、断片のサイズを可能な限り小さなペプチドに減らすために多大な努力を払ってきた。著者らの研究では、より大きなタンパク質断片又はタンパク質が効果的である可能性があるというヒントや示唆はない。
【0015】
これとは対照的に、本発明者らは、驚くべきことに、全長高分子量カルレティキュリンタンパク質が眼の異なる層を通過することができ、硝子体内投与及び局所投与後に効果的であることを示した。最も驚くべきことに、眼へのCRTの局所投与は、Taiのグループによって報告されたバソスタチン断片の効果よりも顕著なポジティブな効果を示した(以前の報告におけるバソスタチンの場合の約50%の減少と比較して、CNV病変の70%以上の減少)。局所投与が比較的容易であるため(硝子体内注射と比較して)、これらの知見は、非常に重要である。
【0016】
第3の態様では、本開示は、カルレティキュリンと、1以上の緩衝剤と、を含む医薬組成物を提供し、前記医薬組成物は、眼内投与用に処方される。
【0017】
第4の態様では、本発明は、上記の医薬組成物を含むプレフィルド硝子体内シリンジを提供する。
【0018】
第5の態様では、本発明は、上記の医薬組成物と、定量の前記医薬組成物を眼に投薬するためのノズルと、を含む点眼薬ボトルを提供する。
【0019】
第6の態様では、本発明は、第3の態様に関連して、上記のように眼内投与用に処方された医薬組成物を製造する方法を提供し、前記方法が、以下の工程:
(a)ネイティブなカルレティキュリンシグナル配列及びカルレティキュリンを含むポリペプチドをコードするコード配列を含むヌクレオチド配列で酵母細胞を形質転換することと;
(b)前記カルレティキュリンが分泌形態で発現される条件下で前記酵母細胞を培養することと;
(c)培養培地から前記カルレティキュリンを抽出することと;
(d)前記カルレティキュリンを使用して、眼内投与用に処方される前記医薬組成物を製造することと、を含む。本発明の好ましい特徴は、従属請求項に定義される。
【0020】
この要約は、以下の詳細な説明で更に説明される簡略化された形式で概念の選択を紹介するために提供される。この要約は、請求項に係る主題の主要な特徴又は本質的な特徴を特定することを意図していなければ、請求項に係る主題の範囲を制限するために使用されることも意図していない。また、請求項に係る主題は、本明細書に記載されている不利な点のいずれか又は全てを解決する実施に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本開示の理解を助け、実施形態がどのように実施されることができるかを示すために、例として、以下の添付の図面を参照する。
【0022】
図1図1は、各経過観察時点でのCNV病変のパーセンテージを示すグラフである。Eylea(登録商標)及びCRTの硝子体内(IVT)注射の結果、並びにPBSビヒクルのIVT及びTAの結果は、破線で示される。様々な濃度でのCRTのTAの結果は、実線で示される。白抜きの記号は、ビヒクルコントロール(PBS)を示し、塗りつぶしの(黒)記号は、含まれる化合物(Eylea(登録商標)及びCRT)による処置を示す。
【0023】
図2図2は、治癒されたCNV病変のパーセンテージを示すグラフであり、各経過観察時点での治療効果を示す。
【0024】
図3図3は、様々な処置群のマウスの体重を示すグラフである。データは、群当たり4頭のマウスの平均±SDとして表される。データは、二元配置分散分析及びその後のシダックの事後検定によって統計的に分析された。処置群間で有意差は観察されなかった。
【0025】
図4図4は、血管漏出における様々な処置群間の違いを示すチャートである。結果は、ベースライン(0日目)と比較した処置終了時(14日目)での血管漏出面積の変化率として提供される。カラムは平均変化を表し、エラーバーはSEMを示す。
【0026】
図5図5は、5日目の片眼(マウス番号22、ビヒクルで処置された(IVT)群)のイメージングセッションから得られた12の代表的な画像を示す。一連の最初の画像(上段、左端)は、表面網膜層のレベルに焦点を合わせ、フルオレセイン注射の前に撮影された赤外線反射画像である。画像2~6(上段の左から2番目~上段の右端)は、網膜レベルに焦点を合わせ、60秒間隔でフルオレセインの皮下投与の直後に獲得された蛍光眼底造影(FA)画像である。一連の7番目の画像(下段、左端)は、脈絡膜レベルに焦点を合わせ、フルオレセイン注射前に撮影された赤外線反射画像である。画像8~12(下段の左から2番目から下段の右端)は、脈絡膜レベルで焦点を合わせ、60秒間隔でフルオレセインの注射の直後に撮影されたFA画像である。レーザースポットでのフルオレセインの漏出は、イメージングセッション全体(5分)で増加する。
【0027】
図6図6は、様々な経過観察時点(マウス番号16、Eylea(登録商標)で処置された群)における各病変から獲得された、代表的なボリュームインテンシティ投影(VIP、眼底)及び関連するBスキャン画像を示す。Bスキャン画像の各段は、イメージングの様々な時点の各レーザースポット(円で囲まれている)でのCNVの発生を示し、Bスキャン画像の一番上の段は、図の左側の画像の上の円に関連し、B-スキャン画像の中央の段は、図の左側の画像の中央の円に関連し、Bスキャン画像の下の段は、図の左側の画像の下の円に関連している。
【0028】
図7図7は、様々な処置群からマウスの例を使用したFA分析の代表的な画像を示す。研究の示された時点での各処置群からの個々のマウスの表面網膜のレベル及び同じ眼の脈絡膜レベルの両方において、焦点を合わせてフルオレセイン注射の5分後に、FA画像を撮影した。
【0029】
図8図8は、様々なpHでの+22℃で3か月間のインキュベーション後のCRTの安定性を示すSDS-PAGEゲル写真を示す。サンプルを含むレーンは次のように示される:M-タンパク質分子量マーカー;1-インキュベーション(0時間)前に採取したコントロールCRTタンパク質サンプル;2-コハク酸緩衝液、pH5.0におけるインキュベーション後のCRT;3-コハク酸緩衝液、pH6.0におけるCRT;4-100mMのリン酸緩衝液、pH7.0におけるCRT;5-トリス緩衝液、pH8.0におけるCRT;6-トリス緩衝液、pH9.0におけるCRT;7-150mMのNaClを含むトリス緩衝液、pH7.5におけるCRT;8-150mMのNaClを含む100mMのリン酸緩衝液、pH7.4におけるCRT;9-150mMのNaClを含む100mMのリン酸緩衝液、pH7.4におけるCRT(室温でのインキュベーションの前に85℃で3分間の熱ショックを行った)。
【0030】
図9図9は、様々なpHでの+37℃で15日間のインキュベーション後のCRTの安定性を示すSDS-PAGEゲル写真を示す。ゲルレーンにおけるサンプルの表示は、図8と同じである。
【0031】
図10図10は、様々なpHでの+37℃で9日間又は10日間のインキュベーション後のCRTの安定性を示すSDS-PAGEゲル写真を示す。ゲルレーンM及び1~8のサンプルの表示は、図8と同じである(レーン2~8のサンプルは、+37℃で9日間のインキュベーション後に採取された)。レーン9では、150mMのNaClを含む10mMのリン酸緩衝液、pH7.4におけるCRTサンプルを、+37℃で10日間のインキュベーション後にロードした(インキュベーション前に高温で予熱することなく)。
【0032】
図11A図11Aは、様々な温度で9か月間の保存後の、PBS緩衝液(pH7.4)における様々なタンパク質濃度でのCRTの安定性を示すSDS-PAGEゲル写真を示す。図11Aは、2.5μg/mlの濃度の溶液から採取したCRTタンパク質を含むゲルを示す。 レーンにおけるサンプルは、次のように示される:M-タンパク質分子量マーカー;St.-安定性研究の開始点(0日目)で同じタンパク質濃度の溶液から採取したコントロールCRTサンプル;Bl.-ブランクレーン。他のレーンでは、CRTサンプルが9か月間インキュベーションされた温度が示される。
図11B図11Bは、様々な温度で9か月間の保存後の、PBS緩衝液(pH7.4)における様々なタンパク質濃度でのCRTの安定性を示すSDS-PAGEゲル写真を示す。図11Bは、25μg/mlの濃度の溶液から採取したCRTタンパク質を含むゲルを示す。 レーンにおけるサンプルは、次のように示される:M-タンパク質分子量マーカー;St.-安定性研究の開始点(0日目)で同じタンパク質濃度の溶液から採取したコントロールCRTサンプル;Bl.-ブランクレーン。他のレーンでは、CRTサンプルが9か月間インキュベーションされた温度が示される。
図11C図11Cは、様々な温度で9か月間の保存後の、PBS緩衝液(pH7.4)における様々なタンパク質濃度でのCRTの安定性を示すSDS-PAGEゲル写真を示す。図11Cは、250μg/mlの濃度の溶液から採取したCRTタンパク質を含むゲルを示す。 レーンにおけるサンプルは、次のように示される:M-タンパク質分子量マーカー;St.-安定性研究の開始点(0日目)で同じタンパク質濃度の溶液から採取したコントロールCRTサンプル;Bl.-ブランクレーン。他のレーンでは、CRTサンプルが9か月間インキュベーションされた温度が示される。
【0033】
図12A図12Aは、様々なタンパク質濃度における様々な温度でのインタクトなCRT形態のパーセンテージを示すグラフであり、各経過観察時点での溶液中のタンパク質の完全性と安定性を示す。パーセンテージは、SDS-PAGEゲルのスキャニングデンシトメトリーによって決定された。図12Aは、2.5μg/mlの濃度でのCRTの安定性を示す。 グラフに示されるように、+5℃、+22℃、及び+37℃の3つの異なる温度で9か月(270日目)間、溶液中で安定性試験を実施した。
図12B図12Bは、様々なタンパク質濃度における様々な温度でのインタクトなCRT形態のパーセンテージを示すグラフであり、各経過観察時点での溶液中のタンパク質の完全性と安定性を示す。パーセンテージは、SDS-PAGEゲルのスキャニングデンシトメトリーによって決定された。図12Bは、25μg/mlの濃度でのCRTの安定性を示す。 グラフに示されるように、+5℃、+22℃、及び+37℃の3つの異なる温度で9か月(270日目)間、溶液中で安定性試験を実施した。
図12C図12Cは、様々なタンパク質濃度における様々な温度でのインタクトなCRT形態のパーセンテージを示すグラフであり、各経過観察時点での溶液中のタンパク質の完全性と安定性を示す。パーセンテージは、SDS-PAGEゲルのスキャニングデンシトメトリーによって決定された。図12Cは、250μg/mlの濃度でのCRTの安定性を示す。 グラフに示されるように、+5℃、+22℃、及び+37℃の3つの異なる温度で9か月(270日目)間、溶液中で安定性試験を実施した。発明の詳細な説明
【0034】
上記のように、本開示は、対象における血管新生性眼疾患の治療又は予防におけるカルレティキュリンの医学的使用に関する。同様に、本開示は、対象における血管新生性眼疾患を治療又は予防する方法を提供し、前記対象に有効量のカルレティキュリンを投与することを含む。
【0035】
血管新生性眼疾患は、眼の異常な血管新生を伴い、組織機能の障害(例えば、視力の喪失)を引き起こす疾患である。これらの疾患は、脈絡膜血管新生、角膜血管新生、及び網膜血管新生の1以上を伴うことがある。好ましくは、前記血管新生性眼疾患は、脈絡膜血管新生を含むものである。
【0036】
前記血管新生性眼疾患は、黄斑変性症、増殖性網膜症、増殖性糖尿病性網膜症、血管新生緑内障、後水晶体線維増殖症、及び角膜血管新生(例えば、感染性又は炎症性プロセスに続発する角膜血管新生)から選択されることができる。好ましくは、前記血管新生性眼疾患は、増殖性糖尿病性網膜症、黄斑変性症、及び血管新生緑内障から選択されることができる。最も好ましくは、前記血管新生性眼疾患は、滲出型加齢性黄斑変性症(滲出型AMD)である。
【0037】
前記対象は、ヒト、非ヒト霊長類、又はネコやイヌ等の飼育哺乳動物を含む任意の哺乳動物であることができる。好ましくは、前記対象は、ヒトである。
【0038】
カルレティキュリンは、幅広い種に見られ、高度に保存された配列を有する、小胞体タンパク質である。特に、ヒトでは、カルレティキュリンタンパク質は、分子量46kDaを有する400アミノ酸タンパク質である。
【0039】
前記カルレティキュリンは、成熟タンパク質(タンパク質前駆体ではない)、即ち、翻訳後修飾を受け、特に転座シグナルが除去させたものと称されることができる。ヒトでは、転座シグナルは、417アミノ酸のタンパク質前駆体から切断された17アミノ酸の疎水性N末端シグナル配列である。ヒトカルレティキュリン前駆体の配列(即ち、17アミノ酸の転座シグナルを含む)は、UniProtデータベースにおけるUniProtKB-P27797で見ることできる。成熟ヒトカルレティキュリンタンパク質は、配列番号1を有し、これは、UniProtKB-P27797から17アミノ酸の転座配列を引いた配列である。
【0040】
前記カルレティキュリンは、全長タンパク質と称されることができ、バソスタチンのようなカルレティキュリンの単なる断片ではなく、例えば、配列番号1のアミノ酸配列からなる、野生型の成熟カルレティキュリンタンパク質の元の長さを保持していることを意味する。若しくは、本発明のカルレティキュリンは、タンパク質のN末端又はC末端で、1~50アミノ酸、好ましくは1~20アミノ酸以下、最も好ましくは1~10アミノ酸以下の除去又は付加を含むことができ、付加/欠失を有するカルレティキュリンが、本明細書に記載のタンパク質の機能を保持しているという条件で、例えば、血管新生性眼疾患を治療する能力を決定するのに好適なインビトロアッセイの比較対照において、付加/欠失を有するカルレティキュリンは、対応する野生型成熟カルレティキュリン(配列番号1を有するカルレティキュリン等)と少なくとも同程度に(+/-10%)、効果を有する。好適なインビトロアッセイは、(例えば、ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)、ヒト微小血管内皮細胞(HUMVEC)、又は正常なヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)等の細胞株を使用した)細胞増殖アッセイ、(HUVECとNHDF、又はHUMVECとNHDF等の細胞株の組合せを使用した)共培養アッセイ、及び(トランス)マイグレーション又は走化性アッセイである。好ましい前記インビトロアッセイは、細胞増殖アッセイである。好ましくは、アミノ酸の除去又は付加は、タンパク質タグの付加等の付加である。より好ましくは、アミノ酸の除去又は付加は、N末端でのタンパク質タグの付加である。
【0041】
本発明の幾つかの例では、前記カルレティキュリンは、配列番号1のアミノ酸配列、又は配列番号1に対して少なくとも85%又は少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、又は、からなることができる。好ましくは、前記カルレティキュリンは、配列番号1のアミノ酸配列、又は配列番号1に対して少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む、又は、からなる。より好ましくは、前記カルレティキュリンは、配列番号1のアミノ酸配列、又は配列番号1に対して少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含む、又は、からなる。特に、カルレティキュリンの多様体は、様々な動物からの相同配列及び当技術分野において既に知られている非病性多型から知られる。好適な多様体はまた、単一アミノ酸置換、特に保存的置換に基づいて作製されることができ、本明細書に記載の機能を保持する(例えば、上記のインビトロアッセイによって決定される)。
【0042】
前記カルレティキュリンは、真核細胞から得られることができ、特に真核細胞での組換え発現によって得られることができる。好ましくは、前記カルレティキュリンは、Saccharomyces cerevisiae又はPichia pastoris等の酵母細胞における組換え発現によって調製される。特に、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるCiplysら(2014及び2015)に記載されるように、カルレティキュリンは、そのネイティブなシグナル配列を含むヒトカルレティキュリン前駆体の発現後の培養培地へのネイティブな組換えタンパク質の分泌に基づいた組換えタンパク質産生技術を用いて、調製されることができる。
【0043】
特定の例では、前記医薬組成物中の前記カルレティキュリンの少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%が、モノマー形態である。少なくとも90%が好ましく、95%がより好ましい。前記医薬組成物中の前記カルレティキュリンのモノマー形態は、Ciplysら(2015)によって実証されるように、ネイティブPAGE又はブルーネイティブPAGE等の未変性PAGE、及びSE-HPLC(サイズ排除高速液体クロマトグラフィー)によって、確認されることができる。
【0044】
具体的には、本発明者らは、酵母分泌組換えCRTは、例えば、Pikeら(1999)によって記載されるもの等の先行技術研究で用いられ、細菌E.coli中の細胞内タンパク質として生成される先行技術の組換えCRTとは構造的に異なると考える。このようなタンパク質は、疎水性のN末端シグナル配列が除去されてなく、カルレティキュリン等の複雑な真核生物タンパク質の発現が、原核細胞の細胞基質において、MBPやGST等の細菌タンパク質タグへの融合として、組換え生成物の構造に影響を与える恐れがある。更に、本発明者らは、彼らの手によって、E.coliにおける組換えCRTの調製が、高度のオリゴマー化及び二量体化タンパク質を有する生成物をもたらすことを見出した。E.coliで生成された組換えCRTとは対照的に、本発明者らは、酵母培養培地から分泌及び精製されたヒトCRTが、専らモノマータンパク質であることを見出した(Ciplysら、2015)。
【0045】
理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、本明細書で実証される血管新生性眼疾患の治療及び予防は、インビボで、おそらくカルレティキュリンの投与によって誘発される複数の経路を介して、内皮細胞の増殖及び分化の直接阻害、又は血管新生の間接阻害、又は異常な血管新生の矯正及びその病理学的結果に関連することができると考える。実施例1に記載された本研究において、CRTが、脈絡膜血管新生のマウスモデルにおいて、硝子体内(IVT)注射後及び点眼剤の形態での局所適用(TA)後に、ポジティブコントロールとして使用された薬剤Eylea(登録商標)の硝子体内注射と比較して、強いポジティブな結果を示したことが記載される(図1に示される結果を参照)。CRTがわずか500ng/眼(眼の硝子体内注射当たり2μL)の用量で使用されたのに対し、Eylea(登録商標)の用量は、40μg/眼(眼の硝子体内注射当たり2μL)であり、即ちCRTは、ポジティブコントロール薬剤の80倍低い用量で使用されたことは注目すべきである。本発明者らは、等しい濃度又はモル比でのCRT対Eylea(登録商標)のIVT注射の比較は、CRTが数倍効率的であることを示すことを予想している。TAの場合、局所投与された全てのCRT群は、ビヒクル群と比較してより良い効果を示した。低濃度の局所投与されたCRTは、高濃度よりもより効果的であり、最高の100倍希釈で最もポジティブな効果が観察された(作用濃度2.5μg/ml;容量12.5ng/眼、眼局所投与当たり5μL、1日3回繰り返した)。
【0046】
理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、より低い用量でのCRTのTAのより高い有効性は、タンパク質の固有の特性によって説明されることができると考える。37~40℃の生理学的温度で、CRTは二量体化及びオリゴマー化を開始することが示されている(Jorgensenら、2003;Mancinoら、2002)。更に、CRTのオリゴマーは、本来の生理学的条件ではモノマーに戻ることができない(Jorgensenら、2003)。より高い濃度では、相互作用のためのタンパク質分子の増加した利用可能性のため、前記CRTは、より速く二量体化/オリゴマー化することがあり、そのような二量体/オリゴマーは、TA後に大き過ぎて眼に入らないことがある。したがって、局所投与の場合に最良の治療的効果を達成するために、主にモノマー形態でタンパク質を維持するより低い作用濃度が必要であることがある。
【0047】
観察された効果をより良く視覚化し比較するために、主なデータを図2に再び示し、ビヒクル単独の投与の効果に対して規格化した治癒されたCNV病変(レーザーによって誘発された全病変からの%)を示す(それぞれ、IVTビヒクルに対するIVT化合物、TAビヒクルに対するTA CRTの投与)。Eylea(登録商標)のポジティブな効果は5日後に消え、その後10日後に回復することが認められることができる。CRT適用の場合、タンパク質投与方法に関係なく、ポジティブな効果はより安定して継続する(図1及び図2)。
【0048】
したがって、本明細書に記載される使用は、硝子体内注射又は局所的によって、CRTを含む医薬組成物の投与を含むことができる。好ましくは、前記使用は、局所投与(TA)を含む。幾つかの例では、前記医薬組成物が硝子体内注射によって眼に投与される場合、前記組成物は、25μg~50mg/mlの濃度でカルレティキュリンを含むことができる。幾つかの例では、前記医薬組成物が、例えば、点眼薬の形態で、眼に局所的に投与される場合、前記医薬組成物は、25ng/ml~250μg/ml、好ましくは25ng/ml~200μg/mlの濃度でカルレティキュリンを含むことができる。
【0049】
局所投与又は硝子体内注射による投与の好適な量は、治療される眼のサイズに依存し、当技術分野で知られている。ヒトの眼の場合、硝子体内注射は、0.01ml~0.1mlの範囲であることができるが、通常は0.04~0.06mlの範囲である。ヒトの眼への局所投与の場合、5~70μlの量が使用されることができる。
【0050】
実施例1に記載された研究は、血管新生性眼疾患の治療に重要な意味を持つ異なる作用機序を更に明らかにした。CRTの治療的活性は、2つの並行する効果に分けることができる。即ち、高いCRT濃度の適用後(主にIVT注射後)すぐにスタートする「効果I」、及び低いCRT濃度によって誘発され、TAによる治療開始後約1週間後にスタートする「効果II」である(図2)。
【0051】
更に、CRTのIVT投与後の効果I及びCRTのTAによって誘発される効果IIは、時間的に異なるだけでなく、異なるペースを有することにも留意されたい。IVT注射は、即時の治療効果をもたらすが、より遅い速度で起こる。一方、CRTのTAは、顕著に遅延した治療を示すが、この効果はスタート時により速く発生する(図2)。治療コースの最後(14日目)に、IVT(単回注射)とTA(点眼薬の複数回投与)の両方の投与が、使用された同じ量のCRTタンパク質をもたらし(マウスの眼当たり約500ng)、最終的に効果IIが、効果I(>50%)よりも多い完全に治癒されたCNV病変(>70%)を示す。したがって、CRT点眼薬の非侵襲的で痛みのないTAは、様々な血管新生性眼疾患に関連する血管新生の重要な治療選択肢であることが明らかになる。更に、血管新生性眼疾患の治療のためのCRTタンパク質の治療的使用の発見に加えて、結果は、効果Iと効果IIが異なり、それらのポジティブな影響が相加的であり、並列に発生できることを示唆する。
【0052】
結果として、本開示によれば、本明細書に記載される医学的使用は、局所投与及び硝子体内注射の併用を含むことができる。例えば、カルレティキュリンを含む医薬組成物は、カルレティキュリンを含む医薬組成物の少なくとも1回の硝子体内注射を受けた対象に、局所的に投与されることができる。若しくは、カルレティキュリンを含む医薬組成物は、カルレティキュリンを含む医薬組成物の局所投与を受けた対象に、硝子体内注射によって投与されることができる。
【0053】
更に、本明細書に記載される対象における血管新生性眼疾患の治療又は予防の方法は、硝子体内注射によって対象に有効量のカルレティキュリンを投与することと、局所投与によって前記対象に有効量のカルレティキュリンを投与することと、を含むことができる。
【0054】
幾つかの例では、カルレティキュリンの医学的使用は、抗血管新生剤と併用して、別々の、又は連続した使用を含み、好ましくは、前記カルレティキュリンは、局所投与によって投与される医薬組成物に含まれることができる。同様に、治療又は予防の方法は、抗血管新生剤を併用して、連続して又は別々に投与することを含むことができる。特に、前記抗血管新生剤は、血管内皮増殖因子(VEGF)の阻害剤であることが好ましく、ベバシズマブ、ラニビズマブ、及びアフリベルセプトから選択されることがより好ましい。前記抗血管新生剤は、アフリベルセプトであることが最も好ましい。
【0055】
具体的には、承認された抗VEGF薬剤Eylea(登録商標)が、異なる作用機序を示唆する研究の時点の間、両方のCRT適用とは異なる効果を示したことを実験結果が示していることに留意されたい。したがって、他の抗血管新生剤の併用、具体的にはEylea(登録商標)(アフリベルセプト)等の血管内皮増殖因子の阻害剤の併用、特に、前記併用が、点眼薬の形態のCRTのTAである場合に、相乗効果を有する。その理由は、この場合、Eylea(登録商標)の効果が薄れ始めたときに、CNV病変のCRT特異的治癒がスタートするからである。
【0056】
上記のように、本開示はまた、上記のカルレティキュリンを含む医薬組成物を提供し、前記医薬組成物は、眼での使用に好適であり、特に、眼内投与のために処方され、例えば、硝子体内注射のために処方される、又は点眼薬等の、眼への局所投与のために処方される。前記医薬組成物は、点眼薬として処方されることが好ましい。
【0057】
幾つかの例では、前記医薬組成物のpHは、7.0~9.0、好ましくは7.0~8.2、より好ましくは7.2~8.0の範囲である。好ましくは、前記医薬組成物が眼への局所投与のために処方される場合、前記医薬組成物のpHは、7.2~7.6である。
【0058】
幾つかの例では、1以上の緩衝剤は、5mM~20mM(好ましくは20mM未満)の範囲の点眼薬を緩衝するための濃度を有するリン酸塩であり、前記医薬組成物のpHは、7.0~7.6、又は好ましくは7.2~7.6の範囲である。別の例では、1以上の緩衝剤は、10mM~130mMの濃度範囲のトリスであり、前記医薬組成物のpHは、7.2~8.5、好ましくは7.2~8.2の範囲である。
【0059】
前記医薬組成物は、本発明の第1の態様及び第2の態様の医学的使用に関連して本明細書に記載されるようなカルレティキュリンの濃度を有することができる。前記医薬組成物のカルレティキュリンは、本発明の第1の態様及び第2の態様における医学的使用に関連して本明細書に記載されている通りであることができる。
【0060】
幾つかの例では、前記医薬組成物は、前記カルレティキュリン及びPBS又はトリス緩衝液からなることができる。代替の例では、前記医薬組成物は、界面活性剤、張性調整剤、保存剤、又は透過促進剤からなる群から選択される1以上の追加の成分を含むことができる。特に、前記医薬組成物は、生理学的濃度の生理食塩水を含むことができる。
【0061】
幾つかの例では、前記医薬組成物は、凍結又は凍結乾燥されることができる。
【0062】
本開示の第4の態様及び第5の態様によれば、前記医薬組成物は、貯蔵及び使用のために包装されることができる。具体的には、本開示は、上記の医薬組成物を含む、硝子体内注射用のプレフィルドシリンジを提供する。更に、本開示は、取り外し可能なキャップと、上記の医薬組成物と、定量の前記医薬組成物を眼に投薬するためのノズルと、を含む点眼薬ボトル又はディスペンサーを提供する。特に、前記定量の容量は、5~70μlの範囲、好ましくは5~55μlの範囲であることができる。前記点眼薬ボトル又はディスペンサーは、10μl~10ml、好ましくは20μl~10mlの容量を有することができる。前記ボトル又はディスペンサーは、各眼に5~70μlの1つの定量された容量を投与することができるのに十分な容量を含むことができる。若しくは、前記ボトル又はディスペンサーは、各眼に複数の定量された容量を投与することができるのに十分な容量を含むことができる。この例では、前記ボトル又はディスペンサーのキャップをノズルに再度取り付けることができるため、前記点眼薬ボトル又はディスペンサーは、数日又は数週間に亘って再利用されることができる。
【0063】
第6の態様では、本発明は、第3の態様に関連して、上記のように眼内投与用に処方された医薬組成物を製造する方法を提供し、前記方法が、以下の工程:
(a)ネイティブなカルレティキュリンシグナル配列及びカルレティキュリンを含むポリペプチドをコードするコード配列を含むヌクレオチド配列で酵母細胞を形質転換することと;
(b)前記カルレティキュリンが分泌形態で発現される条件下で前記酵母細胞を培養することと;
(c)培養培地から前記カルレティキュリンを抽出することと;
(d)前記カルレティキュリンを使用して、眼内投与用に処方される前記医薬組成物を製造することと、を含む。
【0064】
特に、本明細書の他の箇所で言及されるように、本発明のカルレティキュリンは、上記のように、参照によりその全体が本明細書に明示的に組み込まれる、Ciplysら(2014及び2015)に記載される方法に従って調製されることができる。更に、本開示の方法は、本開示の第3の態様に従って、上記でより詳細に説明される、眼内投与用に処方された医薬組成物の製造において前記カルレティキュリンを利用する。
【0065】
以下は例としてのみ意図されており、本開示を限定するものではない。
【実施例
【0066】
実施例1
この研究は、マウスレーザー誘発性脈絡膜血管新生(CNV)モデルにおける脈絡膜血管新生に対するアフリベルセプト(Eylea(登録商標))及びカルレティキュリンの抗血管新生効果を比較するために実施された。
【0067】
3回のレーザー火傷を用いて、オスのC57BL/6JRjマウス(商業的ベンダー、Janvier Labs、フランスから供給)でCNVを誘発した。0日目から、研究化合物をCNV誘導直後に硝子体内に1回投与するか、1日3回局所投与した。参照化合物としてアフリベルセプト(Eylea(登録商標))を使用し、眼当たり40μgの用量で硝子体内投与した。インビボイメージングを使用してマウスを14日間追跡調査した。CNVの誘発直後0日目のベースライン、経過観察の5日目、経過観察の10日目、及び経過観察の14日目に、インビボイメージングを実施した。
【0068】
ダイオードレーザーを使用してブルッフ膜に穴を開けることによって、脈絡膜から網膜下血管の成長を動員した。レーザー照射の直後に、IVT処置群のマウスに対して処置化合物の片眼の硝子体内(IVT)投与を実施した。反対側の眼は、全てのマウスで処置が行われず、コントロールとして機能した。最初のレーザー照射後14日間、インビボイメージング(蛍光眼底造影(FA)及びスペクトルドメイン光干渉断層撮影(SD-OCT))を使用して、マウスを追跡調査した。
【0069】
合計29頭のマウスを研究に使用した。本研究では、以下の処置群を使用した。
群1:CNV+PBS、眼当たり2μLの硝子体内注射(n=4)
群2:CNV+Eylea(登録商標)、用量40μg/眼、20mg/ml溶液の眼当たり2μLの硝子体内注射(n=4)
群3:CNV+カルレティキュリン、用量500ng/眼、250μg/ml溶液の眼当たり2μLの硝子体内注射(n=4)
群4:CNV+カルレティキュリン、用量12.5ng/眼、2.5μg/ml溶液の眼当たり5μLの局所投与(n=4)
群5:CNV+カルレティキュリン、用量125ng/眼、25μg/ml溶液の眼当たり5μLの局所投与(n=4)
群6:CNV+カルレティキュリン、用量1250ng/眼、250μg/ml溶液の眼当たり5μLの局所投与(n=5)
群7:CNV+PBS、眼当たり5μLの局所投与(n=4)
【0070】
ARVO Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Research及び動物実験ためのEC Directive86/609/EECに従って、全ての動物を処置した。8週齢のオスのC57BL/6JRjマウスをJanvier Labs(フランス)から購入した。一定温度(22±1℃)(表1の詳細な環境条件を参照)で、餌と水を自由に摂取できる光制御環境(午前7時から午後7時まで点灯)で、動物を飼育した。最低1週間の隔離と飼育場での順化の後に、実験を開始した。体重をモニターするために、CNV誘導前0日目のベースラインで、及び各インビボイメージング時点の間で、マウスの体重を測定した。
【0071】
CNV誘発
ケタミン(37.5mg/kg;Ketaminol Vet、Intervet Oy MSD Animal Health、エスポー、フィンランド)及びメデトミジン(0.45mg/kg;Domitor、Orion Oy、エスポー、フィンランド)混合物の腹腔内注射によって、全てのマウスを麻酔した。瞳孔を拡張するために、一滴の0.5%トロピカミド(Santen Oy)を角膜に滴下した。局所麻酔として、一滴のオフタンオブカイン(oftan obucain)(Santen Oy)を使用した。細隙灯に取り付けられた532nmのダイオードOculight(登録商標)TXレーザー(Iridex Corp.、CA,USA)を使用して、レーザー光凝固術を1回実施した。カバースリップとViscotears(登録商標)gel(Novartis Alcon)を使用して、角膜を圧平した。各マウスの右眼に3つのレーザー損傷を行った。メデトミジンのα2アンタゴニストであるアチパメゾール(5mg/kg皮下注射、Antisedan、Orion Pharma、エスポー、フィンランド)によって、麻酔を直ちにリバースした。
【0072】
試験化合物及び参照化合物
ネイティブなシグナル配列を含むヒトカルレティキュリン前駆体の発現後、培養培地へのネイティブな組換えタンパク質の分泌に基づく組換えタンパク質生成技術を用いて、酵母Pichia pastorisにおいて、UAB Baltymasにより組換えヒトカルレティキュリンタンパク質を生成した(Ciplysら、2014及び2015)。配列番号1のアミノ酸配列を有する最終タンパク質生成物を、PBS溶液中で250μg/ml、25μg/ml、及び2.5μg/mlの濃度(10mMリン酸ナトリウム、137mM塩化ナトリウム、及び2.7mM塩化カリウム、pH7.4)に処方し、-80℃で凍結した。研究全体を通して、実験の前にタンパク質溶液を解凍し、更に+4℃で保存した。University Pharmacy(クオピオ、フィンランド)から、40mg/mlの濃度の、ヒトへの硝子体内注射用のための即時使用可能な溶液として、参照化合物アフリベルセプト(Eylea(登録商標)、Bayer Pharma AG)を購入し、使用前に20mg/mlに希釈した。
【0073】
治療管理
群1~3の場合、片側に(右眼)IVTで、参照化合物(Eylea(登録商標))、ビヒクル(PBS)、及び試験化合物(カルレティキュリン)を一回(レーザー照射及びインビボイメージング直後の0日目に)投与した。5μlのガラスマイクロシリンジ(Hamilton Bonaduz AG、ボナドゥウ、スイス)を使用して、マウスは2μlの注射用量を受けた。群4~7の場合、ビヒクル(PBS)及び試験化合物(様々な濃度のカルレティキュリン)を1日3回:8:00、13:00、及び18:00に局所投与した。動物は、右眼に5μlの溶液を投与された。
【0074】
インビボイメージング
スペクトルドメイン光干渉断層撮影(SD-OCT)を使用したin vivoイメージングをベースラインで実施し、眼/網膜の病状がないことを確認し、SD-OCTと蛍光眼底造影(FA)を使用してレーザーを照射した直後に、ブルッフ膜をうまく損傷させたことを確認した。経過観察5日目、10日目、及び14日目にSD-OCTとFAの両方を使用して、CNVの進行を追跡調査した。
【0075】
蛍光眼底造影
マウスは、1mlの5%フルオレセインナトリウム塩(Sigma-Aldrich Finland Oy、カタログ番号F6377)の腹腔内注射を受けた。Heidelberg Spectralis HRA2システム(Heidelberg Engineering、ドイツ)を使用して血管漏出を調べた。簡潔に説明すると、マウスホルダーにマウスを配置し、イメージングシステムを前記システムで撮影した最初の赤外線反射画像と合わせた。その後、フルオレセインナトリウムを投与した。フルオレセインナトリウム注射から5分間の期間、網膜及び脈絡膜の焦点レベルから60秒毎に、連続したFA画像を撮影した。
【0076】
スペクトルドメイン光干渉断層撮影
上記のように麻酔をかけたマウスで、Envisu R2200 SD-OCTシステム(Bioptigen Inc.、USA)を使用して、CNV病変をモニターした。
【0077】
データ解析
全ての画像データ分析は、眼科を専門とし、眼球マウスモデルを使用した同様の研究の経験を持つ、盲検評価者によって、実施された。GraphPad Prismソフトウェア(v.8.0、GraphPad Software Inc.)を使用して、定量的データをグラフ化及び分析した。多重比較のための一元配置分散分析検定とテューキー検定を使用して、データを分析した。差は、P<0.05レベルで統計的に有意であると見なされた。
【0078】
結果
1)体重
様々な処置における体重は、全ての研究を通じて研究の開始時と同様であった(表1及び図3を参照)。
【0079】
【0080】
2)CNV
CNVに対する治療の効果を比較するために、CNV誘発直後のベースライン0日目、経過観察5日目、10日目、及び14日目で獲得されたFA(図5)及びOCT(図6)画像から、漏出性CNV病変の存在を評価した。各処置群における所定の測定時点での漏出CNVのパーセンテージを比較した(図1)。
【0081】
Image Jソフトウェアを使用して網膜レベルから取得されたFA画像から、血管漏出面積について、手動で輪郭が描かれた(各動物の値と計算されたスポットは表2に提供される)。GraphPad Prism 8ソフトウェアを使用して、結果を評価した。平均とSEMを計算し、テューキーの多重比較検定によって処置群間の差の有意性を評価した(分析結果を含むグラフは、図4に提供される)。各群からの動物の例を使用したFAによる代表的なイメージングを図7に示す。
【0082】
CNV病変の存在の計算(図1)と同様に、Eylea(登録商標)及びCRTの両方を使用したIVT治療は、IVTコントロール(ビヒクルPBS単独)と比較して有意な効果を示し、Eylea(登録商標)の効果は僅かに強かった。2つの低濃度のCRT(2.5μg/ml及び25μg/ml)のTAは、CRTのIVT注入と同様に効果的だった(図4)。
【0083】
【表2-1】
【表2-2】
【0084】
実施例2
本実施例は、眼への適用のための、溶液中の全長CRTタンパク質を含む治療的調製物の製剤及び長期保存のための最適pH及び緩衝液組成を定義し、凍結解凍後の前記調製物の安定性を試験するために、酵母P.pastorisに由来する組換えCRTタンパク質調製物を使用して実施された安定性試験を記載する。
【0085】
タンパク質の原薬としての使用について、その調製物の長期安定性が非常に重要である。点眼薬の形態でタンパク質を局所適用するには、作用濃度で溶液中の安定性を必要とする。動物の眼への局所適用にN末端CRT断片バソスタチン(CRTタンパク質の1~180アミノ酸)を使用した以前の研究は、溶液中の安定性分析を含んでいた。前記報告によると、バソスタチンは、メチルセルロース溶液又はPBSのいずれかで作用濃度で、4℃で保存された場合、7日間安定であった(Wuら、2005;Sheuら、2009)。公表された結果(Wuら、2005の図3)から、長い保存は、バソスタチンの完全性の喪失(SDS-PAGE法で分析)、それによる第二週の保存後の抗血管新生活性の継続的な低下をもたらすことが明らかである。明らかに、このような安定期間は短すぎて便利な治療法を開発することができず、マウスモデルでのCNVの治療コースでさえ3週間かかり(Sheuら、2009)、使用前の治療的調製物の保管に必要とされる十分な期間は言うまでもない。したがって、特定の安定剤を添加するか、緩衝液の組成、pH等を変更することによって、バソスタチン調製物の安定性を大幅に改善する必要があるだろう。そのような操作が眼の治療のための意図された用途に適合するかどうかは明らかではない。背景技術の欄で説明されたように、Taiら(2013)は、発現したバソスタチン断片のサイズを小さくすることにより、バソスタチンの適用に関連するこの問題及びその他の問題を解決しようとした。
【0086】
実施例2-1
まず、様々なpHで溶液中の組換えCRTタンパク質の安定性を分析した。4~9の範囲の様々なpHで、最終濃度0.1Mの適切な緩衝液を含む溶液に、P.pastorisから精製された配列番号1を有するCRTタンパク質を移し、0.2mg/mlの最終タンパク質濃度で様々な温度(22℃、37℃、及び45℃)でインキュベーションした。CRTは、pH4.0(コハク酸緩衝液)で凝集したため、このpHは不適切であるとして以降の分析から除外した。様々な時点及び様々な温度で、pH5~9からのタンパク質サンプルを採取し、SDS-PAGEゲルのスキャニングデンシトメトリーで分析した(デンシトメトリースキャナーBIO-5000PLUSで、ゲルをスキャンし、ImageQuant TL 8.1ソフトウェアを使用して、画像を分析した)。インキュベーション前(0時間の時点で)に採取され、各SDS-PAGEゲルでのコントロールとして実行したCRTタンパク質サンプルと比較することによって、インタクトなカルレティキュリンのパーセンテージを計算した。この最初の研究は、3ヶ月間実施した。
【0087】
結果は、室温(+22℃)で7~8のpH範囲でCRTは一般的に安定しており、3か月後のインタクトなCRT形態の量が約90%以上であると決定されたことを示した(CRTサンプルを含むSDS-PAGEゲルを図8に示す)。スキャンしたゲルのバンドのデンシトメトリー評価は、非常に正確な分析方法ではなく、最大10%の測定誤差を示すので、初期コントロールサンプルと比較して、インタクトなCRT形態の量が90%以上と計算された場合、タンパク質は安定状態を保っていると考える。
【0088】
pH5~6でのインキュベーションは、有意なCRT分解をもたらしたが、pH9でのインキュベーション後(図8、レーン6)、残存するインタクトなCRT形態の量は約80%と計算された。室温でのインキュベーション後のpH区間7~9において、サンプル間のタンパク質安定性の差は、あまり明確ではなかったため、より高温でのインキュベーション後の分析は、より有益であった。
【0089】
CRTは、生理学的温度よりも高い温度では安定ではないことに留意されるべきである。以前に、ヒト胎盤から単離されたネイティブなCRTが、40℃を超える温度でオリゴマー化することが実証された(Jorgensenら、2003)。同様に、組換えCRTも37~45℃でオリゴマー化/重合することが報告されている(Mancinoら、2002)。オリゴマー化に加えて、ネイティブなヒト胎盤CRTと酵母由来の組換えCRTの両方が、高温での長時間のインキュベーション後に部分的に分解する傾向があることを認めた。実際、オリゴマー化はCRTの増加した部分分解と一致し、これは図8にも示される。私たちの方法では、タンパク質サンプルを85℃で3分間保持するだけで、完全にオリゴマー化されたCRTを得ることができた(ネイティブPAGEで調べた)。このような熱ショック後、オリゴマー化されたCRTは、室温でのインキュベーション中でも部分的に分解したが(図8、レーン9)、85℃での予熱をしなかった、対応するサンプルのモノマーCRTの分解は、ごく僅かであった(図8、レーン8)。生理学的な45℃温度より高い温度でのCRTのインキュベーションは、試験された全てのpH値で、タンパク質の急速な部分分解をもたらし、2~3日後又は数日後では、インタクトなCRT形態は検出されなかった。したがって、タンパク質の安定性の最も有益な指標は、37℃でのインキュベーションであった。この温度での初期分析は、CRTが、pH7.5~8.0のトリス緩衝液で最も安定であることを示した(図9、トリス緩衝液、pH9.0でCRTを使用したレーン6と比較したレーン5及びレーン7)。リン酸緩衝液中の非常に類似したpH7.4では、タンパク質の安定性がはるかに低いのは、注目に値する。更なる分析は、緩衝リン酸塩の濃度が、CRTの安定性に特定の影響を与えることを示した。NaClを含まないリン酸緩衝液で実験を行い、結果は、CRTが約7mM~約17mMの濃度の範囲で安定化されることを示した。リン酸塩濃度を20mM以上に上げると、CRTの顕著な分解が見られた。したがって、安定したCRT溶液の処方にリン酸緩衝液を使用する場合、緩衝リン酸塩の濃度は、5~20mMの範囲である必要があると考える。同様の結果が、pH7.2又は7.4のいずれかで観察された。したがって、安定したCRT溶液のためのリン酸緩衝液の推奨されるpHは、7.0~7.6の範囲であろう。
【0090】
生理学的濃度の生理食塩水(NaCl)をリン酸緩衝液に添加しても、CRTの安定性に有意な影響はなかった。
【0091】
37℃でタンパク質サンプルを9~10日間インキュベーションした後のSDS-PAGE分析の例とともに、10mMリン酸塩濃度でのCRTの改善された安定性を図10に示す(10mMリン酸塩でインキュベーションしたCRTを含むレーン9対レーン8における100mMリン酸塩を含む同様のCRTサンプル)。
【0092】
トリス緩衝液の場合、20mM又は100mMトリス濃度を使用してもCRTの安定性に違いは認められなかった。したがって、安定して機能するCRTタンパク質溶液中のトリスの可能な濃度は、10mM~130mMであり、緩衝液pH区間は7.0~8.5である。
【0093】
涙液の生理学的pHは7.4であるため(Agrahariら、2016)、リン酸塩又はトリス緩衝液のいずれかを使用することで、このpHにできるだけ近い点眼薬用のCRT溶液を処方すると都合がよい。リン酸塩とトリスの両方が、米国及びヨーロッパ薬局方の要件に従った医薬品開発に適した緩衝液である。
【0094】
実施例2-2
実施例1に従い、酵母P.pastorisに由来する組換えCRTタンパク質調製物を使用して初期凍結/解凍実験を実施した。
【0095】
作製時に、凍結せずにトリス緩衝液で最終精製されたタンパク質調製物の安定性と、保存のために-80℃で凍結し、更に使用するために解凍したものの安定性とを比較した。5℃、22℃、又は37℃での3か月間のインキュベーション後、電気泳動法(SDS-PAGE及びネイティブPAGE)を使用して検査したところ、溶液中の非凍結CRTサンプルと凍結/解凍CRTサンプルとの間のタンパク質の完全性に違いは、認められなかった。
【0096】
凍結CRTサンプルは、原薬の分析に適用される要件に従って開発された幾つかの分析方法によって更に試験された。CRTタンパク質調製物の純度と均一性は、注射可能な医薬調製物の開発にも十分なレベルであることが分かった。
【0097】
-80℃又は-20℃のいずれかで追加の凍結による2回目の凍結/解凍サイクルを実行し、分析試験手順を繰り返した。主な分析方法RP-HPLC、SE-HPLC、SDS-PAGE、及びネイティブPAGEを使用して、トリス緩衝液におけるCRT調製物の2回目の凍結/解凍サイクル後に、同じ結果が得られた。これらの結果は、CRTタンパク質が、凍結/解凍の追加サイクル後に分解又はオリゴマー化/重合しないことを示唆している。
【0098】
実施例2-3
より長い安定性の研究では、単一のPBS(リン酸緩衝生理食塩水)緩衝液を選択した。これは、そのpH(7.4)と生理食塩水濃度が、局所的な眼の使用に最適であると思われるからである。マウスCNVモデル(実施例1に記載)でのインビボ研究に使用されたPBS中の同じCRTタンパク質製剤も、様々な温度での長期安定性について試験した。
【0099】
記載されているように、配列番号1を有するCRTタンパク質(作製/精製後に事前に凍結され、その後解凍された)は、250μg/ml、25μg/ml、及び2.5μg/mlの3つの作用濃度で、PBS(10mMリン酸ナトリウム、137mM塩化ナトリウム、及び2.7mM塩化カリウム、pH7.4)で処方された。調製されたCRT溶液をフィルター滅菌し、複数のチューブにアリコートし、-80℃で再度凍結した。保存後、全てのチューブをほぼ同じ日に解凍し、それらの一部をマウスCNVモデルのインビボ実験で使用したが(実施例1)、他のチューブは5つの群に分け、-80℃、-20℃(凍結状態での保管;合計で3回目の凍結サイクル)、5℃、22℃、及び37℃(溶液中での保管)の様々な温度での安定性研究のために更にインキュベーションした。9ヶ月間の様々な時点で、SDS-PAGEによるタンパク質の完全性の分析のためにサンプルを採取した。
【0100】
9ヶ月のインキュベーション後の様々なタンパク質濃度の調製物からのCRTを用いたSDS-PAGEゲルの例を図11A図11Cに示す。全体の長期研究の各時点でのインタクトなCRT形態の計算されたパーセンテージを図12A図12Cに提供する。結果は、5℃又は22℃の温度でインキュベーションされた場合、250μg/mlのより高いタンパク質濃度で、CRTがPBS溶液中で非常に安定であることを示す(図11C及び図12C)。希釈されたCRT溶液は、安定性が低いように見えたが、25μg/mlと2.5μg/mlの両方の濃度において、5℃の低温で9か月間インキュベーションした後も、タンパク質はインタクトな状態を保っていた(図11A及び11B、並びに図12A及び12B)。単一のPBSを使用して点眼薬の形態で局所適用用に処方されたCRTは、添加剤なしで、溶液中で4~5℃で保存でき、希釈された作用濃度で少なくとも9か月間安定して機能し続けることができることを示唆する。組換えCRTを含む新しい局所適用薬の開発には十分な安定性を有するように見える。
【0101】
前記結果、又は実施例2-2及び2-3はまた、希釈されたCRT溶液の長期保存期間が、最終タンパク質調製物を-20℃で凍結することのみによって大幅に延長されることができることを示唆する。作用濃度で、PBS中で凍結した後、CRTタンパク質を使用して実施例1の研究を行った(合計で、使用されたCRTタンパク質バッチの2回目の凍結解凍であった)。実施例2-3に記載されている安定性研究におけるCRTの3回目の凍結は、-80℃又は-20℃のいずれかで保存した後、インタクトな安定したタンパク質を維持した(図11A図11C)。
【0102】
まとめると、結果は、タンパク質の完全性と活性を失うことなく、何年にも亘って長期間保存するために、組換えCRTタンパク質調製物を繰り返し凍結することができることを示す。
【0103】
実施例2に記載される結果は、本発明が、硝子体内及び局所適用後のCRTタンパク質の予期しない治療的効果を示すだけでなく、特に点眼薬の製剤において、活性タンパク質物質の必要とされる長期安定性に対する解決策も提供することを実証する。
【0104】
本明細書に記載される実施例は、本発明の実施形態の例示的な例として理解されるべきである。更なる実施形態及び実施例が想定される。任意の1つの実施例又は実施形態に関連して説明される任意の特徴は、単独で、又は他の特徴と併用して使用されることができる。更に、任意の1つの実施例又は実施形態に関連して説明される任意の特徴はまた、他の任意の実施例又は実施形態の1以上の特徴、又は他の任意の実施例又は実施形態の任意の組合せと併用して使用されることができる。更に、本明細書に記載されていない同等物及び改変もまた、特許請求の範囲に定義されている本発明の範囲内で使用されることができる。
【0105】
文献
配列
本明細書で使用される配列番号1は、以下の配列を有する(UniProtKBデータベースID番号P27797に示されるヒトカルレティキュリン前駆体のアミノ酸18~417):
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図12C
【配列表】
2023500033000001.app
【国際調査報告】