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特表2023-500045STINGアゴニストを用いたがんを処置する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-04
(54)【発明の名称】STINGアゴニストを用いたがんを処置する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7125 20060101AFI20221222BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
A61K31/7125
A61P35/00
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522274
(86)(22)【出願日】2020-10-14
(85)【翻訳文提出日】2022-04-12
(86)【国際出願番号】 US2020055633
(87)【国際公開番号】W WO2021076666
(87)【国際公開日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】62/914,881
(32)【優先日】2019-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522018907
【氏名又は名称】イミューンセンサー セラピューティクス、インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】507053954
【氏名又は名称】ザ・ボード・オブ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・テキサス・システム
【氏名又は名称原語表記】THE BOARD OF REGENTS OF THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ジージェン
(72)【発明者】
【氏名】サン、リジュン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZB26
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZB26
(57)【要約】
本開示は、以下の構造を有する化合物(「化合物A」)またはその薬学的に許容される塩を、特定の投与レジメンで、および場合により、免疫チェックポイントタンパク質を阻害する1つまたは複数の化合物との組合せで投与することによって、患者におけるがんを処置する方法を提供する。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者におけるがんを処置する方法であって、化合物の複数サイクルを前記患者に投与することを含み、
前記化合物が、以下の構造を有するか、またはその薬学的に許容される塩であり:
【化1】

最初のサイクルは、前記化合物を4週間の期間の1、8、および15日目に投与することを含み、ならびに
後続のサイクルは、4週間の期間の1および15日目に前記化合物を投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記化合物が腫瘍内投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化合物が全身投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記化合物が皮下または筋肉内投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記化合物が、50μg~6,500μgの範囲の用量で、サイクルが投与を指定する各日に投与される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物が、100μg~3,000μgの範囲の用量で、サイクルが投与を指定する各日に投与される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物が、100μg~1,200μgの範囲の用量で、サイクルが投与を指定する各日に投与される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記化合物が、100μg~500μgの範囲の用量で、サイクルが投与を指定する各日に投与される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記化合物が、100μg~200μgの範囲の用量で、サイクルが投与を指定する各日に投与される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
免疫チェックポイント阻害剤を前記患者に投与することをさらに含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記免疫チェックポイント阻害剤が最初のサイクルの前に投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記最初のサイクルが、前記患者のがんが安定化した後に開始される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記患者が、前記最初のサイクルの前に少なくとも1サイクルの免疫チェックポイント阻害剤療法を受けている、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記免疫チェックポイント阻害剤が前記最初のサイクルの後に投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記免疫チェックポイント阻害剤が、PD-L1阻害剤、PD-1阻害剤、CTLA-4阻害剤、またはそれらの組合せから選択される、請求項10から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記免疫チェックポイント阻害剤がPD-1阻害剤である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記免疫チェックポイント阻害剤がPD-L1阻害剤である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記免疫チェックポイント阻害剤がCTLA-4阻害剤である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
患者におけるがんを処置する方法であって、化合物のプライミング用量とそれに続く前記化合物の維持用量とを含む投与レジメンに従って前記化合物を前記患者に投与することを含み、
前記化合物が、以下の構造を有するか、またはその薬学的に許容される塩であり:
【化2】

前記プライミング用量における前記化合物の量が、各維持用量における前記化合物の量よりも少ない、方法。
【請求項20】
前記患者が、前記プライミング用量を投与する前に前記化合物を以前に投与されていなかった、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記維持用量がサイクルで投与され、最初のサイクルが4週間の期間の1、8、および15日目に前記化合物を投与することを含み、後続のサイクルが4週間の期間の1および15日目に前記化合物を投与することを含む、請求項19または請求項20に記載の方法。
【請求項22】
第1の維持用量が、前記プライミング用量を投与した少なくとも3日後に投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第1の維持用量が、前記プライミング用量を投与した1週間後に投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記プライミング用量が、重量基準で各維持用量の2分の1~100分の1である、請求項19から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記プライミング用量が、重量基準で各維持用量の2分の1~5分の1である、請求項19から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記プライミング用量が、重量基準で各維持用量の5分の1~20分の1である、請求項19から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記化合物が腫瘍内投与される、請求項19から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記化合物が全身投与される、請求項19から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記化合物が、皮下、静脈内、または筋肉内投与される、請求項19から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
各維持用量が50μg~6,500μgの範囲である、請求項19から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
各維持用量が100μg~3,000μgの範囲である、請求項19から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
各維持用量が100μg~1,200μgの範囲である、請求項19から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
各維持用量が100μg~500μgの範囲である、請求項19から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
各維持用量が100μg~200μgの範囲である、請求項19から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
免疫チェックポイント阻害剤を前記患者に投与することをさらに含む、請求項19から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記免疫チェックポイント阻害剤が、前記プライミング用量を投与する前に投与される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記投与レジメンが、前記患者のがんが安定化した後に開始される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記患者が、前記投与レジメンに従って前記化合物を投与する前に、少なくとも1サイクルの免疫チェックポイント阻害剤療法を受けている、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記免疫チェックポイント阻害剤が、前記プライミング用量を投与した後に投与される、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
前記免疫チェックポイント阻害剤がPD-L1阻害剤である、請求項35から39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記免疫チェックポイント阻害剤がPD-1阻害剤である、請求項35から39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
PD-1またはPD-L1阻害に非応答性であるがん患者を処置する方法であって、化合物をPD-1またはPD-L1阻害剤との組合せで前記患者に投与することを含み、
前記化合物が、以下の構造を有するか、またはその薬学的に許容される塩である:
【化3】

方法。
【請求項43】
前記化合物が腫瘍内投与される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記化合物が全身投与される、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
前記化合物が皮下または筋肉内投与される、請求項42に記載の方法。
【請求項46】
前記化合物が、10μg~6,500μgの範囲の用量で投与される、請求項42から45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記化合物が、100μg~3,000μgの範囲の用量で投与される、請求項42から45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記化合物が、100μg~1,200μgの範囲の用量で投与される、請求項42から45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記化合物が、100μg~500μgの範囲の用量で投与される、請求項42から45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記化合物が、100μg~200μgの範囲の用量で投与される、請求項42から45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記がんが、前立腺がん、膵臓がん、リンパ腫、頭頸部がん、腎臓がん、黒色腫、結腸がん、乳がん、および肺がんから選択される、請求項1から50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記患者が転移性腫瘍を有する、請求項1から51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
患者におけるがんを処置する方法であって、腫瘍内投与のためにアクセス可能な部位で、ある用量の化合物を患者に腫瘍内投与することを含み、
前記化合物が、以下の構造を有するか、またはその薬学的に許容される塩であり:
【化4】

前記がんのいくつかの発生が腫瘍内投与に対してアクセス不可能であり、
前記用量が、前記アクセス不可能ながんの発生に対して前記患者による免疫応答を促進するのに十分なサイトカイン活性化をもたらす、方法。
【請求項54】
免疫チェックポイント阻害剤を前記患者に投与することをさらに含む、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記免疫チェックポイント阻害剤がPD-L1阻害剤である、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
前記免疫チェックポイント阻害剤がPD-1阻害剤である、請求項53に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、とりわけ、がんを処置するための免疫系を活性化するために、特定のSTINGアゴニスト単独または免疫チェックポイント阻害剤との組合せの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
進行性固形悪性腫瘍および多くの血液悪性腫瘍の処置は、満たされていない高いメディカルニーズとして定義され続けている。ほとんどの状況において、細胞傷害性化学療法および標的化キナーゼ阻害剤による処置は、薬物耐性腫瘍クローンの出現ならびにその後の腫瘍の進行および転移をもたらす。
【0003】
近年、免疫介在性腫瘍破壊の活性化を中心とした代替アプローチを通じて注目すべき成功が達成されている。免疫系は、ヒトおよび動物をがんから防御するのに極めて重要な役割を果たす。抗腫瘍効果は、抗腫瘍免疫を活性化するポジティブ因子および免疫系を阻害するネガティブ因子によって制御される。抗腫瘍免疫を阻害するネガティブ因子には、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)、プログラム細胞死-1(PD-1)、およびプログラム死リガンド1(PD-L1)などの免疫チェックポイントタンパク質が含まれる。これらのチェックポイントタンパク質に対する抗体を含む免疫腫瘍学(IO)アプローチは、いくつかの種類のヒトがんにおいて顕著な有効性を示している。
【0004】
しかしながら、免疫チェックポイントの遮断を介した既存のがん免疫療法は、がん患者の一部(平均20~30%)のみに有効である。免疫チェックポイントの遮断に対して不応性である患者は、炎症を起こさない腫瘍、またはいわゆる「冷たい」腫瘍細胞を有することが多く、すなわち、腫瘍浸潤白血球(TIL)、例えば、分化抗原群8(CD8)T細胞を欠くか、または腫瘍微小環境がTILの機能を抑制する。進行中のがん薬物開発研究の主な推進力は、より幅広い患者にわたってより良好な腫瘍制御を達成するために、「冷たい」腫瘍細胞を「熱い」腫瘍細胞に転換することに依然として集中している。
【0005】
病原体およびがん細胞に対する防御の第一線である自然免疫系は、非炎症性腫瘍(「冷たい」)を炎症性(「熱い」)微小環境に変えるために重要である。最近発見された自然免疫経路であるサイクリックGMP-AMPシンターゼ(cGAS)-インターフェロン遺伝子刺激因子(STING)経路は、抗腫瘍免疫において重要な役割を果たす。cGASは、I型インターフェロン経路を活性化するDNAセンシング酵素である。DNAに結合すると、cGASが活性化されて2’3’-サイクリック-GMP-AMP(2’3’-cGAMP)を合成し、次いでこれがアダプタータンパク質STINGに結合してこれを活性化する二次メッセンジャーとして機能する。次いで、STINGは、I型インターフェロン、サイトカインおよび他の免疫メディエーターの産生をもたらすシグナル伝達カスケードを活性化する。
【0006】
サイトカイン産生は抗腫瘍免疫を生成するために不可欠であるが、高いサイトカインレベルは安全性の懸念をもたらす。具体的には、高いサイトカインレベルは、免疫療法を受けているがん患者において炎症応答を誘発し得る。炎症応答は、免疫系を調節する他の化合物、例えば免疫チェックポイント阻害剤の存在下で増強され得る。したがって、がんを治療するための毒物学的に許容される抗腫瘍免疫療法を開発することは、さらなる進歩を必要とする重要な目標である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の構造を有する化合物(「化合物A」)、またはその薬学的に許容される塩を、特定の投与レジメンで、単独または免疫チェックポイントタンパク質を阻害する1つまたは複数の化合物との組合せで投与することを含む、がん患者を処置する方法を提供する。
【化1】

化合物Aは、STINGを活性化することができる環状ジヌクレオチドであり、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2018/0230177号に記載されている。様々な塩形態の化合物Aをがん患者に投与することができる。例えば、一実施形態では、治療有効量の化合物Aのナトリウム塩をがん患者に投与する。本開示における化合物Aへの任意の言及は、その薬学的に許容される塩も含むことが理解されよう。
【0008】
化合物Aは、局所的および全身的に作用して強力な抗腫瘍効果を発揮することができることが発見されている。化合物Aは、それを必要とするがん患者に特定の投与量で投与された場合、転移の拡大を実質的に低減または防止することができる。転移の発症および/または進行を低減または防止する化合物Aの能力は、免疫チェックポイント阻害剤、特にPD-L1またはPD-1阻害剤と一緒に投与された場合に増強され得る。さらに、化合物Aは、単独、または免疫チェックポイント阻害剤、特にPD-L1またはPD-1阻害剤との組合せで投与された場合、強力なアブスコパル効果を発揮することが発見されている。
【0009】
一態様では、本開示は、治療有効量の化合物Aを患者に投与することを含む、ヒトがん患者における転移を処置する方法を提供する。ある特定の実施形態では、化合物Aは腫瘍内投与され得る。他の実施形態では、化合物Aは全身投与され得る。例えば、特定の実施形態では、化合物Aは、皮下、筋肉内または静脈内に投与され得る。
【0010】
一態様では、本開示は、治療有効量の化合物Aを患者に投与することを含む、ヒトがん患者における転移を予防する方法を提供する。ある特定の実施形態では、化合物Aは腫瘍内投与され得る。他の実施形態では、化合物Aは全身投与され得る。例えば、特定の実施形態では、化合物Aは、皮下、筋肉内または静脈内に投与され得る。
【0011】
一実施形態では、本開示は、治療有効量の化合物Aを1つまたは複数の免疫チェックポイント阻害剤との組合せで患者に投与することを含む、ヒトがん患者における転移を処置または予防する方法を提供する。ある特定の実施形態では、患者は、化合物Aの投与開始前に1つまたは複数の免疫チェックポイント阻害剤による少なくとも1サイクルの処置を既に受けている。ある特定の実施形態では、化合物Aは、1つまたは複数の免疫チェックポイント阻害剤の投与前または投与と同時に投与される。いくつかの実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤はPD-1阻害剤またはPD-L1阻害剤である。いくつかの実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤はCTLA4阻害剤である。他の実施形態では、化合物Aは、CTLA4阻害剤およびPD-1阻害剤またはPD-L1阻害剤の投与前または投与と同時に投与される。
【0012】
本開示のいくつかの実施形態では、化合物Aを免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて、免疫チェックポイント療法に対して抵抗性または不応性であるがんを処置することができる。例えば、化合物Aは、免疫チェックポイント療法に抵抗性の原発性または転移性腫瘍を処置するために使用することができる。化合物Aは、免疫チェックポイント阻害剤の投与と同時に、投与前に、または投与後に、例えば1つまたは複数の免疫チェックポイント阻害剤の処置サイクルの投与と同時に、投与前に、または投与後に投与することができる。いくつかの実施形態では、がんは、化合物Aの非存在下で投与された場合、免疫チェックポイント阻害剤による処置に抵抗性である。いくつかの実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、PD-L1とPD-1との間の相互作用を阻害する。例えば、免疫チェックポイント阻害剤は、PD-L1のアンタゴニスト(例えば、PD-L1抗体)またはPD-1のアンタゴニスト(例えば、PD-1抗体)であり得る。
【0013】
免疫チェックポイント阻害に対して不応性なある特定の腫瘍では、化合物Aを単剤療法として投与する場合、化合物Aを、患者を処置するのに必要な用量未満の用量で免疫チェックポイント阻害剤と一緒に投与することができることが見出されている。結果として、併用療法は、単剤療法として使用される場合に化合物Aのより高い用量によって誘発される可能性がある有害な炎症応答を患者に誘発することなく、投与することができる。
【0014】
本開示はまた、化合物Aを単独(すなわち、単剤療法)または免疫チェックポイント阻害剤と一緒に、それを必要とするヒトがん患者に投与するための特定の投与レジメンを提供する。本明細書に開示される投与レジメンは、過剰なサイトカイン産生にしばしば関連する同時の副作用なしに強力な抗腫瘍効果を誘発することができる。驚くべきことに、化合物Aは、低レベルのサイトカイン産生を誘導する投与量レベルでさえ、顕著な抗腫瘍効果を示すことが発見された。したがって、本明細書に記載の特定の投与量およびレジメンを使用して投与される場合、化合物Aは、依然として有意な抗腫瘍効果を示しながら、最小限の副作用で投与され得る。
【0015】
特定の実施形態では、本開示は、がん患者を処置する方法であって、化合物Aの複数のサイクルを患者に投与することを含み、最初のサイクルが、4週間の期間の1、8、および15日目に化合物Aを投与することを含み、後続のサイクルが、4週間の期間の1および15日目(すなわち、隔週)に化合物Aを投与することを含む、方法を提供する。化合物Aは、皮下、筋肉内または静脈内を含めて、腫瘍内または全身投与され得る。いくつかの実施形態では、投与を指定されたサイクルの日に、化合物Aは50μg~6,500μgの範囲の投与量で投与され得る。いくつかの実施形態では、投与を指定されたサイクルの日に、化合物Aは100μg~3,000μgの範囲の投与量で投与され得る。いくつかの実施形態では、投与を指定されたサイクルの日に、化合物Aは100μg~1,200μgの範囲の投与量で投与され得る。
【0016】
別の実施形態では、本開示は、がんを処置する方法であって、治療の開始時に化合物Aのプライミング用量、引き続いて化合物Aの維持用量の投与を含む投与レジメンをがん患者に投与することを含む、方法を提供する。例えば、プライミング用量は処置サイクルの1日目に投与され得、その後、維持用量は処置サイクルの2、3、4、5、6、7、8、9、10、または11日目に開始して投与され得る。いくつかの実施形態では、投与レジメンはまた、免疫チェックポイント阻害剤の投与を伴う。免疫チェックポイント阻害剤は、化合物Aのプライミング用量と一緒に、またはプライミング用量の投与後、例えばプライミング用量の後であるが維持用量の前に、維持用量と同時に、または維持用量の処置サイクルの後に投与され得る。
【0017】
一実施形態では、化合物Aは、免疫チェックポイント阻害療法を既に受けているヒトがん患者、例えばがんが安定化しているヒトがん患者に投与される。特定の実施形態では、がん患者は、化合物Aの投与前に少なくとも1または2サイクルの免疫チェックポイント阻害剤療法を受けたことがある。例えば、がん患者は、化合物Aの投与前に2、3、4、5、6、7、または8サイクルの免疫チェックポイント阻害療法を受けたことがあり得る。これらの実施形態のうちのある特定の実施形態では、がん患者は、化合物Aが投与される際、継続サイクルで免疫チェックポイント阻害療法を受け続ける。
【0018】
別の態様では、本開示は、患者におけるがんを処置する方法であって、腫瘍内投与のためにアクセス可能な部位で、ある用量の化合物Aを患者に腫瘍内投与することを含み、がんのいくつかの発生が腫瘍内投与に対してアクセス不可能であり、用量が、アクセス不可能ながんの発生に対して患者による免疫応答を促進するのに十分なサイトカイン活性化をもたらす、方法を提供する。いくつかの実施形態では、化合物Aは、免疫チェックポイント阻害剤との組合せで投与される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】化合物Aをマウスに投与した後の化合物およびIFNβの血中レベルを示す。図1のパネルAは、マウスに5mg/kgの化合物Aを投与した後の化合物Aの血中レベルを示す。図1のパネルBは、マウスに5mg/kgの化合物Aを投与した後のIFNβの血中レベルを示す。図1のパネルCは、マウスに0、0.15、0.50、1.50、5、15、および50mg/kgの化合物Aを投与した後のIFNβの血中レベルを示す。データは、群あたり3匹のマウスの平均±SDとして表した。IM:筋肉内;IV:静脈内;SC:皮下。
【0020】
図2】ヒト末梢血単核細胞(PBMC)における様々な濃度での化合物Aによって誘導されたIFNβ、TNFα、およびインターロイキン6(IL-6)産生を示す。図2のパネルAは、様々な濃度での化合物Aによって誘導されたIFNβ産生を示す。図2のパネルBは、様々な濃度での化合物Aによって誘導されたTNFα産生を示す。図2のパネルCは、様々な濃度での化合物Aによって誘導されたIL-6産生を示す。
【0021】
図3】B16黒色腫に対する化合物Aの研究の結果を示す。図3のパネルA~パネルCは、様々な濃度でのB16黒色腫に対する化合物Aの腫瘍内投与(単独またはPD-L1抗体との組合せで投与)の腫瘍縮小効果を示す。図3のパネルDは、腫瘍成長曲線の統計を示す。数字は、二元配置ANOVA(分散分析)を使用して得られた各比較群間のp値を示す。図3のパネルE~パネルFは、様々な濃度でのB16黒色腫に対する化合物Aの腫瘍内投与(単独またはPD-L1抗体との組合せで投与)後のマウスの生存を示す。図3のパネルHは、生存曲線に関する統計を示す。数字は、ログランク(マンテル・コックス(Mantel Cox))検定を使用して得られた各比較群間のp値を示す。
【0022】
図4】AG104A線維肉腫に対する化合物Aの研究の結果を示す。図4のパネルAは、AG104A(線維肉腫)モデルに対する化合物Aの皮下投与(単独またはPD-L1抗体との組合せで投与)の腫瘍縮小効果を示す。図4のパネルBは、AG104A(線維肉腫)モデルに対する化合物Aの皮下投与(単独またはPD-L1抗体との組合せで投与)後のマウスの生存率を示す。図4のパネルCは、19日目までの腫瘍成長データの統計分析を示す。比較群間のp値を、二元配置ANOVAを使用して計算した。図4のパネルDは、生存データの統計分析を示す。比較群間のp値を、ログランク(マンテル・コックス(Mantel Cox))検定を使用して得た。
【0023】
図5】AG104LD線維肉腫に対する化合物Aの皮下投与の効果を示す。AG104LD線維肉腫を有するB6C3F1マウスの群を、抗PDL1抗体、化合物A、またはその両方の組合せで、4、7、11、14、18、および21日目に処置した。各群は5匹のマウスを含んだ。図5のパネルAは、経時的な腫瘍成長を示す。データを平均±SEMとして示す。図5のパネルBは、経時的なマウスの生存を示す。図5のパネルCは、腫瘍成長データの統計分析を示す。比較群間のp値を、二元配置ANOVAを使用して得た。図5のパネルDは、マウス生存データの統計分析を示す。比較群間のp値を、ログランク(マンテル・コックス(Mantel Cox))検定を使用して得た。
【0024】
図6】LL2腫瘍に対する化合物Aの腫瘍内投与の効果を示す。LL2腫瘍を有するC57BL6マウスの群を、抗PDL1抗体、化合物A、またはその両方の組合せで、5、10、14、および17日目に処置した。各群は5匹のマウスを含んだ。図6のパネルAは、経時的な腫瘍成長を示す。データを平均±SEMとして示す。図6のパネルBは、経時的なマウスの生存を示す。図6のパネルCは、腫瘍成長データの統計分析を示す。比較群間のp値を、二元配置ANOVAを使用して得た。図6のパネルDは、マウス生存データの統計分析を示す。比較群間のp値を、ログランク(マンテル・コックス(Mantel Cox))検定を使用して得た。
【0025】
図7】4T1腫瘍に対する化合物Aの腫瘍内投与の効果を示す。4T1腫瘍を有するBALB/cマウスの群を、抗PDL1抗体、化合物A、またはその両方の組合せで、5、8、11、および15日目に処置した。各群は5匹のマウスを含んだ。図7のパネルAは、経時的な腫瘍成長を示す。データを平均±SEMとして示す。図7のパネルBは、経時的なマウスの生存を示す。図7のパネルCは、腫瘍成長データの統計分析を示す。比較群間のp値を、二元配置ANOVAを使用して得た。図7のパネルDは、マウス生存データの統計分析を示す。比較群間のp値を、ログランク(マンテル・コックス(Mantel Cox))検定を使用して得た。
【0026】
図8】B16黒色腫に対する化合物Aのアブスコパル効果を示す。B16黒色腫を左右の側腹部の両方に有するマウスを、5、8、11、および15日目に、示された用量の化合物Aで、その右側部位(原発性)に腫瘍内処置した。左側部位(遠隔)の腫瘍は未処置のままとした。各群は7匹のマウスを含む。図8のパネルAは、経時的な原発性腫瘍の成長を示す。図8のパネルBは、経時的な遠隔腫瘍の成長を示す。図8のパネルCは、パネルAにおける腫瘍成長データの統計分析を示す。比較群間のp値を、二元配置ANOVAを使用して得た。図8のパネルDは、パネルBにおける腫瘍成長データの統計分析を示す。比較群間のp値を、二元配置ANOVAを使用して得た。図8のパネルEは、経時的なマウス生存を示す。図8のパネルFは、パネルEにおけるマウス生存データの統計分析を示す。比較群間のp値を、ログランク(マンテル・コックス(Mantel Cox))検定を使用して得た。
【0027】
図9】AG104A線維肉腫に対する化合物Aのアブスコパル効果を示す。AG104A腫瘍を左右の側腹部の両方に有するC3B6F1マウス(N=8)を、腫瘍接種後5、8、11、および15日目に、化合物Aで右側腹部(原発性)に腫瘍内処置した。左側腹部(遠隔)の腫瘍は処置しなかった。図9のパネルAは、経時的な原発性腫瘍の成長を示す。図9のパネルBは、経時的な遠隔腫瘍の成長を示す。図9のパネルCは、パネルAにおける腫瘍成長データの統計分析を示す。比較群間のp値を、二元配置ANOVAを使用して得た。図9のパネルDは、パネルBにおける腫瘍成長データの統計分析を示す。比較群間のp値を、二元配置ANOVAを使用して得た。図9のパネルEは、経時的な生存率を示す。図9のパネルFは、パネルEにおける生存データの統計分析を示す。比較群間のp値を、ログランク(マンテル・コックス(Mantel Cox))検定を使用して得た。
【0028】
図10】B16黒色腫肺転移マウスモデルを使用した腫瘍転移に対する化合物Aの効果を示す。図10のパネルAは、経時的な原発性腫瘍の成長曲線を示す。図10のパネルBは、パネルAにおける腫瘍成長データの統計分析を示す。比較群間のp値を、二元配置ANOVAを使用して得た。図10のパネルCは、すべての群における肺転移を示す画像を示す。右側の2つのパネルは、選択された処置群を代表する肺の拡大画像を示す。図10のパネルDは、パネルCにおける肺転移の定量化を示す。各記号は1匹のマウスを表す。図10のパネルEは、パネルDにおける肺転移の統計分析を示す。比較群間のp値を、対応のないt検定を使用して得た。
【0029】
図11】化合物A(I.T.)、PD-L1抗体(I.P.)、およびCTLA4抗体(I.P.)の三重組合せの効果を示す。B16F10腫瘍を有するC57BL6(n=5)の群を、腫瘍移植後6、10および14日目に、示されるように処置した。図11のパネルAは経時的な腫瘍成長を示し、図11のパネルBは経時的なマウス生存を示す。データを平均±SEMとして示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
5.1.処置の方法
化合物Aは、がんを処置するために使用される。本開示に従って、化合物Aは、原発性腫瘍および転移性腫瘍の両方を処置するために使用することができる。いくつかの実施形態では、化合物Aは、本明細書に開示される投与量レベルまたは特定の投与レジメン下で投与され得、原発性腫瘍の縮小または根絶および原発性腫瘍に由来する転移の発症をもたらす。化合物Aはまた、腫瘍が組織から身体の他の部分に広がる前に投与された場合、転移の形成を予防し得る。例5~例9および図3図10に示すように、化合物Aの投与は、原発性腫瘍および進行中の転移の両方を根絶するのに非常に有効である。
【0031】
したがって、一態様では、本開示は、薬学的に許容される量の化合物Aを含む医薬組成物を投与することを含む、対象におけるがんを処置する方法を提供する。別の態様では、本開示は、薬学的に許容される量の化合物Aを含む医薬組成物を投与することを含む、対象におけるがんを処置する方法を提供する。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、それを必要とする哺乳動物に投与される。特定の実施形態では、医薬組成物は、それを必要とするヒト患者に投与される。
【0032】
いくつかの実施形態では、化合物Aは、患者の原発性腫瘍内に腫瘍内投与される。化合物Aを原発性腫瘍内に腫瘍内投与する場合、原発性腫瘍の部位だけでなく、遠隔腫瘍の部位においても腫瘍成長が抑制されることが見出された(例8および図8および図9を参照されたい)。したがって、化合物Aは、顕著なアブスコパル効果を示す。したがって、本開示は、化合物Aを本明細書に開示される投与量レベルまたは特定の投与レジメンで投与することによって、原発性および遠隔腫瘍(アクセス可能およびアクセス不可能ながんを含む)の両方を処置する方法を提供する。
【0033】
いくつかの実施形態では、化合物Aは、腫瘍内投与に対してアクセス可能な部位でがん患者に腫瘍内投与され、がんのいくつかの発生は腫瘍内投与に対してアクセス不可能であり、用量は、アクセス不可能ながんの発生に対して患者による免疫応答を促進するのに十分なサイトカイン活性化をもたらす。アクセス不可能ながんの発生は、腫瘍内投与によって容易にアクセスすることができない腫瘍塊または進行中の転移であり得る。いくつかの実施形態では、腫瘍は手術による除去に適していない。特定の実施形態では、化合物Aは、以下で論じられるように、免疫チェックポイント阻害剤との組合せで投与される。
【0034】
他の実施形態では、化合物Aは全身投与される。例えば、化合物Aは、がん患者に静脈内、筋肉内、または皮下投与され得る。薬物動態学的研究(例1参照)は、化合物Aが皮下または腫瘍内投与のいずれかの後に高い生物学的利用能を有することを示す。したがって、化合物Aは、全身投与後でさえ有効である。さらに、遠隔腫瘍の縮小および転移の根絶に対する化合物Aの効果は、部分的には、化合物Aの全身利用可能性によって説明され得る。
【0035】
特定の実施形態では、化合物Aは、肺、骨、膵臓、皮膚、頭、首、子宮、卵巣、胃、結腸、乳房、食道、小腸、腸、内分泌系、甲状腺、副甲状腺、副腎、尿道、前立腺、陰茎、精巣、尿管、膀胱、腎臓、または肝臓のがんを処置するために使用され得る。化合物Aによって処置可能なさらなるがんとしては、直腸がん;肛門領域のがん;卵管、子宮内膜、子宮頸部、膣、外陰部、腎盂、および腎細胞の癌腫;軟部組織の肉腫;粘液腫;横紋筋腫;線維腫;脂肪腫;奇形腫;胆管癌;肝芽腫;血管肉腫;血管腫(hemagioma);肝癌;線維肉腫;軟骨肉腫;骨髄腫;慢性または急性白血病;リンパ球性リンパ腫;原発性CNSリンパ腫;CNSの新生物;脊髄軸腫瘍;扁平上皮癌;滑膜肉腫;悪性胸膜中皮腫;脳幹神経膠腫;下垂体腺腫;気管支腺腫;軟骨性過誤腫(chondromatous hanlartoma);中皮腫(inesothelioma);ホジキン病;または前述のがんの1つもしくは複数の組合せが挙げられる。
【0036】
特定の実施形態では、化合物Aは、免疫チェックポイント阻害性療法に対して不応性または非応答性であるがんを処置するために使用され得る。そのようながんには、前立腺がん、膵臓がん、リンパ腫、頭頸部がん、腎臓がん、黒色腫、結腸がん、乳がん、および肺がんが含まれ得るが、これらに限定されない。ある特定の実施形態では、がんは、前立腺がん、膵臓がん、リンパ腫、頭頸部がん、および腎臓がんから選択される。いくつかの実施形態では、がんは、黒色腫、結腸がん、乳がん、および肺がんから選択される。本明細書に記載されるように、そのような不応性または非応答性腫瘍では、化合物Aは免疫チェックポイント阻害剤療法と相乗作用して強力な抗腫瘍応答をもたらすことができる。
【0037】
5.2.併用療法
別の態様では、本開示は、薬学的に許容される量の化合物Aを、少なくとも1つのさらなる抗がん剤と共に含む医薬組成物を対象(例えば、ヒト)に投与することによって、対象におけるがんを処置する方法を提供する。化合物Aおよび1つまたは複数のさらなる抗がん剤は、一緒にまたは別々に投与されてもよく、別々に投与される場合、投与は、別々のまたは組み合わせた医薬組成物中で任意の好都合な経路によって、任意の順序で同時にまたは逐次的に行われてもよい。化合物Aと他の薬学的に活性な抗がん剤(複数可)の量および投与の相対的なタイミングは、所望の合わされた治療効果を達成するために選択される。
【0038】
化合物Aと1つまたは複数の抗がん剤との組合せは、単一の医薬組成物中で一緒に投与されてもよい。あるいは、化合物Aおよび1つまたは複数の抗がん剤は、別々に製剤化されてもよい。別々に製剤化される場合、それらは、任意の好都合な組成物で、好都合には、当技術分野においてそのような化合物について公知な様式で提供されてもよい。
【0039】
したがって、化合物Aは、がん処置の他の治療方法、例えば、抗新生物療法、免疫チェックポイント阻害剤との併用療法、他の化学療法剤、ホルモン剤、抗体剤ならびに外科的処置および/または放射線処置と共に用いられてもよい。
【0040】
一実施形態では、化合物Aは、がんを処置するために免疫チェックポイント阻害剤との組合せで用いられる。PD-1、PD-L1、およびCTLA4に対するヒト化抗体などの免疫チェックポイント阻害剤は、黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞癌腫および膀胱がんを含むいくつかの種類の転移性がんの処置において非常に成功していることが示されている(SharmaおよびAllison、2015、Science 348、56)。しかしながら、一部にはCD8 T細胞などの抗腫瘍免疫細胞が不十分な数しか生成されず、および/または腫瘍に浸潤されないため、依然としてがん患者のごく一部のみしかチェックポイント阻害剤療法から利益を得ていない。本明細書に記載の例に示すように、化合物Aと免疫チェックポイント阻害剤との組合せは、免疫チェックポイント阻害剤による単剤療法に対して不応性であるがんを処置するために相乗的に機能することができる。
【0041】
特定の実施形態では、化合物Aおよび免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイント阻害剤による処置を以前に受けたことがあるがん患者に投与される。
【0042】
他の実施形態では、化合物Aおよび免疫チェックポイント阻害剤は、化合物Aの非存在下で投与された免疫チェックポイント阻害剤による治療に非応答性であるがん患者に投与される。そのような実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、化合物Aの非存在下で投与される場合、腫瘍の成長(進行)を減速または停止させることができず、または処置されているがんに関連する特定の腫瘍バイオマーカーのレベルを低下させることができない。例えば、化合物Aは、免疫チェックポイント療法に対して不応性であるか、または免疫チェックポイント療法に対して完全に抵抗性でさえある原発性または転移性腫瘍を処置するために使用され得る。例に示すように、化合物Aは、これらの抵抗性がんを免疫チェックポイント療法に対して感受性にすることができる。図3図10に示すように、限られた応答を示す腫瘍およびPD-L1阻害に完全に非応答性であった腫瘍は、化合物Aを用いて処置可能であった。驚くべきことに、PD-L1阻害に非応答性であったこれらの腫瘍に対して、PD-L1阻害剤の投与は、化合物Aの抗腫瘍効果を増強した。
【0043】
さらに、例6~例9に示すように、免疫チェックポイント阻害に対して不応性である、ある特定の腫瘍では、化合物Aを単剤療法として投与する場合に患者を処置するのに必要な化合物Aの用量よりも少ない投与量で、化合物Aを免疫チェックポイント阻害剤と一緒に投与することができることが見出された。例えば、免疫チェックポイントがその製品ラベルに示された投与スケジュールに従って投与される場合、化合物Aは、化合物Aが単剤療法として投与される場合に抗腫瘍応答を誘発するのに必要な投与量レベルよりも一般に少ない投与量レベルで投与され得る。いくつかの実施形態では、化合物Aの投与量は、免疫チェックポイント阻害剤との組合せで使用される場合、化合物Aを単剤療法として投与する場合に抗腫瘍応答を誘発するのに必要な投与量の1.2分の1~3分の1である。いくつかの例では、より少量の化合物Aは、化合物AがPD-L1阻害剤との組合せで投与される場合(図9参照)、より多量の化合物Aと同等またはさらにより有効であることが示された。結果として、併用療法は、患者に重度の炎症応答を誘発することなく投与され得る。
【0044】
いくつかの実施形態では、化合物Aは、PD-L1阻害剤、PD-1阻害剤、もしくはCTLA-4阻害剤またはそれらの組合せと一緒に投与され得る。例えば、化合物Aは、PD-L1阻害剤およびCTLA-4阻害剤の両方、PD-1阻害剤およびCTLA-4阻害剤の両方、またはPD-L1阻害剤およびPD-1阻害剤の両方と一緒に投与され得る。
【0045】
化合物Aとの組合せで使用され得るPD-L1阻害剤の例としては、アテゾリズマブ(Tecentriq(登録商標))、アベルマブ(Bavencio(登録商標))、デュルバルマブ(Imfinzi(登録商標))、BMS-936559、およびCK-301が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
化合物Aとの組合せで使用され得るPD-1阻害剤の例としては、ペムブロリズマブ(Keytruda(登録商標))、ニボルマブ(Opdivo(登録商標))、セミプリマブ(Libtayo(登録商標))、AMP-224、AMP-514、およびPDR001が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
化合物Aとの組合せで使用され得るCTLA-4阻害剤の例としては、イピリムマブ(Yervoy(登録商標))およびトレメリムマブが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
化合物Aの抗腫瘍効果は、免疫チェックポイント阻害剤による治療を受けているまたは受けた患者に投与された場合に増強される。例9および図10に示すように、転移を低減または排除する化合物Aの能力もまた、免疫チェックポイント阻害剤の投与によって増強される。同様に、例8および図9に示すように、原発性腫瘍の部位での化合物Aの投与によって実証されるアブスコパル効果は、免疫チェックポイント阻害剤の投与によって増強される。したがって、化合物Aと免疫チェックポイント阻害剤との組合せは、進行性腫瘍、特に転移性腫瘍または身体の二次器官で確立された腫瘍の処置において特に有効である。
【0049】
ある特定の実施形態では、患者は、1つまたは複数の免疫チェックポイント阻害剤による少なくとも1サイクルの処置を既に受けている。特に、商業的に承認された免疫チェックポイント阻害剤(例えば、PD-1またはPD-L1阻害剤)の場合、患者は、免疫チェックポイント阻害剤の承認されたラベルに従って少なくとも1回の投与サイクルを受けている。いくつかの実施形態では、化合物Aの投与前に、患者は、免疫チェックポイント阻害剤による2~20サイクルの処置を既に受けている。いくつかの実施形態では、化合物Aは、疾患が安定化した後に免疫チェックポイント阻害剤療法を受けているがん患者に投与される。いくつかの実施形態では、化合物Aは、患者のがんが免疫チェックポイント阻害剤に対して不応性に成長した後にがん患者に投与される。安定化した疾患または免疫チェックポイント阻害剤療法に対して不応性に成長した腫瘍を有する患者に対しては、化合物Aの処置開始後に免疫チェックポイント阻害剤が依然として患者に投与されてもよい。
【0050】
他の実施形態では、化合物Aは、患者が免疫チェックポイント阻害剤(例えば、PD-1阻害剤またはPD-L1阻害剤)を受ける前に、がん患者に投与される。例えば、患者は、免疫チェックポイント阻害剤を受ける前に、本明細書に開示されるような化合物Aの1~10回の投与サイクルを受けてもよい。いくつかのこのような実施形態では、化合物Aの投与は、免疫チェックポイント阻害剤を用いた投与が開始した後も継続するであろう。他のこのような実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤を用いた投与は、免疫チェックポイント阻害剤を用いた投与が開始した場合に停止するであろう。
【0051】
いくつかの実施形態では、化合物Aは、免疫チェックポイント阻害剤(例えば、PD-1阻害剤またはPD-L1阻害剤)の投与と同じ期間中に投与され得る。例えば、化合物Aおよび免疫チェックポイント阻害剤は両方とも同じ投与サイクルで投与され得る。いくつかのこのような実施形態では、がん患者は、化合物Aおよび免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療を以前に受けていない。
【0052】
一実施形態では、化合物Aは、転移性腫瘍を処置するためにPD-1阻害剤またはPD-L1阻害剤との組合せで投与される。化合物Aは、免疫チェックポイント阻害剤を用いた処置の前に、同時に、または後に投与され得る。ある特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、本明細書に開示されるような投与サイクルに従って投与され得る。そのような実施形態では、PD-1またはPD-L1阻害剤は、投与サイクルの同じ日または異なる日に投与され得る。PD-1またはPD-L1阻害剤が市販品である場合、PD-1またはPD-L1阻害剤は、投与される製品のラベルに従って投与されてもよい。患者に投与されるPD-1またはPD-L1阻害剤の量は、製品ラベルに示された量であり得る。ある特定の実施形態では、患者に投与されるPD-1またはPD-L1阻害剤の量は、製品ラベルに示された量より少なくてもよい。
【0053】
別の実施形態では、腫瘍内投与によって容易にはアクセスできない腫瘍を処置するために、化合物AはPD-1またはPD-L1阻害剤との組合せで投与される。化合物Aは、アブスコパル効果を誘導するために、アクセス不可能な腫瘍から離れた組織において腫瘍内投与され得る。そのような場合、腫瘍内投与用量の化合物Aを受ける腫瘍は、原発性腫瘍または続発性腫瘍であり得る。
【0054】
別の実施形態では、腫瘍内投与によって容易にはアクセスできない腫瘍を処置するために、化合物AはCTLA4阻害剤との組合せで投与される。化合物Aは、アブスコパル効果を誘導するために、アクセス不可能な腫瘍から離れた組織において腫瘍内投与され得る。そのような場合、腫瘍内投与用量の化合物Aを受ける腫瘍は、原発性腫瘍または続発性腫瘍であり得る。
【0055】
別の実施形態では、腫瘍内投与によって容易にはアクセスできない腫瘍を処置するために、化合物AはPD-1阻害剤(またはPD-L1阻害剤)およびCTLA4阻害剤との組合せで投与される。化合物Aは、アブスコパル効果を誘導するために、アクセス不可能な腫瘍から離れた組織において腫瘍内投与され得る。そのような場合、腫瘍内投与用量の化合物Aを受ける腫瘍は、原発性腫瘍または続発性腫瘍であり得る。
【0056】
化合物Aを免疫チェックポイント阻害剤、例えばPD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、および/またはCTLA4阻害剤との組合せで投与する実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤(複数可)は全身投与され得る。例えば、免疫チェックポイント阻害剤(複数可)は、静脈内、皮下または筋肉内投与され得る。一実施形態では、化合物Aは腫瘍内投与され、PD-1阻害剤は全身投与される。別の実施形態では、化合物Aは腫瘍内投与され、PD-L1阻害剤は全身投与される。別の実施形態では、化合物Aは腫瘍内投与され、CTLA4阻害剤は全身投与される。別の実施形態では、化合物Aは腫瘍内投与され、PD-1阻害剤およびCTLA4阻害剤の両方は全身投与される。別の実施形態では、化合物Aは腫瘍内投与され、CTLA4阻害剤は全身投与される。別の実施形態では、化合物Aは腫瘍内投与され、PD-L1阻害剤およびCTLA4阻害剤の両方は全身投与される。
【0057】
5.3.投与レジメン
本明細書に開示される投与レジメンは、過剰なサイトカイン産生にしばしば関連する同時の副作用なしに、または有意に低減した同時の副作用ありで、強力な抗腫瘍効果を誘発することができる。化合物Aは用量依存的様式でサイトカインの産生を誘発することができることが見出された。化合物Aは、非常に低レベルのサイトカイン産生であっても、顕著な抗腫瘍効果を示す。例えば、化合物Aは、がん患者に安全に投与することができ、1~100μg/kgの範囲で投与された場合に治療上の利益をもたらし得る。特定の実施形態では、化合物Aは、1~50μg/kgの範囲で投与され得る。例えば、化合物Aは、1~10μg/kg、5~10μg/kg、5~20μg/kg、5~30μg/kg、5~40μg/kg、5~50μg/kg、10~20μg/kg、10~30μg/kg、10~40μg/kg、10~50μg/kg、15~20μg/kg、15~40μg/kg、20~30μg/kg、20~40μg/kg、20~50μg/kg、30~40μg/kg、30~50μg/kg、5~75μg/kg、10~75μg/kg、15~75μg/kg、20~75μg/kg、25~75μg/kg、35~75μg/kg、5~100μg/kg、10~100μg/kg、15~100μg/kg、20~100μg/kg、25~100μg/kg、35~100μg/kg、または50~100μg/kgの範囲でがん患者に投与され得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、化合物Aは、10~6,500μg、例えば50~6,500μgの範囲の投与量、例えば単回または分割用量で、がん患者に投与され得る。特定の実施形態では、化合物Aは、100~3,000μgの範囲の投与量、例えば単回または分割用量で、がん患者に投与され得る。他の実施形態では、化合物Aは、100~1,200μgの範囲の投与量、例えば単回または分割用量で、がん患者に投与され得る。例えば、化合物Aは、10~50μg、10~100μg、10~200μg、50~200μg、100~200μg、100~400μg、100~500μg、100~800μg、200~400μg、400~600μg、400~800μg、100~1,000μg、250~1,000μg、500~1,000μg、500~3,000μg、1,000~3,000μg、500~4,500μg、1,000~4,500μg、500~6,500μg、1,000~6,500μg、2,000~6,500μg、3,000~6,500μg、または4,500~6,500μgの範囲でがん患者に投与され得る。
【0059】
本開示は、過剰なサイトカイン産生により患者の安全性を損なわないことを確実にしながら、原発性腫瘍および転移性腫瘍に対する有効性を最大化することができる特定の投与サイクルを提供する。一実施形態では、本開示は、化合物Aの特定の投与サイクルを患者に投与することによってがん患者を処置する方法を提供する。一実施形態では、投与サイクルは、化合物Aを4週間の期間の1、8、および15日目に投与することを含む。この投与スケジュールは、3週間にわたって週1回の化合物Aの投与を必要とする。患者は、投与スケジュールの第4週に化合物Aを投与されないであろう。後続のサイクルは、以下に記載されるように、同じ投与スケジュールまたは異なる投与スケジュールに依ってもよい。
【0060】
別の実施形態では、投与サイクルは、化合物Aを4週間の投与スケジュールの1および15日目(隔週)に投与することを含む。後続のサイクルは、同じ投与スケジュールまたは異なる投与スケジュールに依ってもよい。
【0061】
化合物Aは、2つ以上の投与スケジュールを使用して患者に投与され得る。例えば、本開示は、化合物Aのサイクルを患者に投与することによってがん患者を処置する方法を提供し、最初のサイクルは、化合物Aを4週間の期間の1、8、および15日目に投与することを含み、後続のサイクルは、化合物Aを4週間の期間の1および15日目(すなわち、隔週)に投与することを含む。最初のサイクルで投与される化合物Aの個々の投与量は、後続のサイクルで投与される投与量と同じであっても異なっていてもよい。例えば、最初のサイクルで投与される個々の用量は、後続のサイクルで投与される用量よりも少なくてもよい。
【0062】
別の実施形態では、本開示は、がんを処置する方法であって、治療の開始時に化合物Aの1つまたは複数のプライミング用量、引き続いて化合物Aの維持用量の投与を含む投与レジメンをがん患者に投与することを含む、方法を提供する。プライミング用量は、維持用量よりも低い用量で投与される用量を指し、特定の活性剤(例えば化合物A)に対する身体の忍容性を向上させる。プライミング用量の化合物Aの投与は、化合物の安全性プロファイルを改善し、そうでない場合に忍容されるよりも高い維持投与量レベルで化合物を送達することを可能にすることが見出された。一般に、プライミング投与量は、所与の投与サイクルの経過にわたって維持用量未満である。
【0063】
いくつかの実施形態では、プライミング用量は、所与の投与サイクルにおける個々の維持用量の2分の1~100分の1の量(重量基準)で投与され得る。例えば、プライミング用量は、所与のサイクルにおける維持用量の2分の1~70分の1、2分の1~50分の1、2分の1~30分の1、2分の1~20分の1、2分の1~10分の1、10分の1~50分の1、10分の1~30分の1、10分の1~20分の1、または20分の1~30分の1の量で投与され得る。いくつかの実施形態では、プライミング用量は、所与のサイクルにおける維持用量の2分の1~4分の1の量で投与され得る。いくつかの実施形態では、プライミング用量は、所与のサイクルにおける維持用量の2分の1~5分の1の量で投与され得る。いくつかの実施形態では、プライミング用量は、所与のサイクルにおける維持用量の2分の1~8分の1の量で投与され得る。いくつかの実施形態では、プライミング用量は、所与のサイクルにおける維持用量の3分の1~5分の1の量で投与され得る。いくつかの実施形態では、プライミング用量は、所与のサイクルにおける維持用量の3分の1~8分の1の量で投与され得る。いくつかの実施形態では、プライミング用量は、所与のサイクルにおける維持用量の4分の1~8分の1の量で投与され得る。
【0064】
いくつかの実施形態では、プライミング用量は、投与サイクルの経過にわたって、維持用量の約2分の1の用量で送達され得る。いくつかの実施形態では、プライミング用量は、投与サイクルの経過にわたって、維持用量の約3分の1の用量で送達され得る。いくつかの実施形態では、プライミング用量は、投与サイクルの経過にわたって、維持用量の約4分の1の用量で送達され得る。いくつかの実施形態では、プライミング用量は、投与サイクルの経過にわたって、維持用量の約5分の1の用量で送達され得る。いくつかの実施形態では、プライミング用量は、投与サイクルの経過にわたって、維持用量の約10分の1の用量で送達され得る。いくつかの実施形態では、プライミング用量は、投与サイクルの経過にわたって、維持用量の約15分の1の用量で送達され得る。いくつかの実施形態では、プライミング用量は、投与サイクルの経過にわたって、維持用量の約20分の1の用量で送達され得る。いくつかの実施形態では、プライミング用量は、投与サイクルの経過にわたって、維持用量の約50分の1の用量で送達され得る。いくつかの実施形態では、プライミング用量は、投与サイクルの経過にわたって、維持用量の約100分の1の用量で送達され得る。
【0065】
個々の維持用量と上記のプライミング用量との相対量は、比として表すことができることを理解されたい。例えば、プライミング用量が維持用量の約2分の1の用量で投与される実施形態では、プライミング用量と個々の維持用量との1:2の比を含む投与レジメンが記載される。したがって、ある特定の実施形態では、本開示は、がんを処置する方法であって、それを必要とする患者に、プライミング用量と個々の維持用量との1:2~1:100の比、例えば、1:2、2:5、3:8、1:3、2:7、1:4、1:5、1:6、1:8、1:9、1:10、1:11、1:12、1:15、1:20、1:30、1:50、1:75、または1:100(これらの比によって作成される範囲を含む)の比、例えば、1:2~1:3、1:2~1:4、1:2~1:5、1:2~1:8、1:2~1:10、1:4~1:8、1:4~1:10、1:4~1:15、1:4~1:20、1:8~1:10、1:8~1:15、1:8~1:20、1:8~1:30、1:10~1:15、1:10~1:20、1:10~1:30、1:10~1:50、1:20~1:30、1:20~1:50、1:20~1:75、1:20~1:100、1:30~1:50、1:30~1:75、1:30~1:100、1:50~1:75、1:50~1:100、または1:75~1:100を含む投与レジメンに従って化合物Aを投与することを含む、方法を提供する。
【0066】
いくつかの実施形態では、本開示は、がんを処置する方法であって、それを必要とする患者に、プライミング用量と個々の維持用量との1:4もしくは1:5の比、または1:3~1:6、例えば1:3~1:5、1:4~1:6、もしくは1:4~1:5の範囲の比を含む投与レジメンに従って化合物Aを投与することを含む、方法を提供する。他の実施形態では、比は、1:8もしくは1:10、または1:5~1:15の範囲の比、例えば1:6~1:12、1:8~1:12、1:8~1:10、または1:9~1:10である。
【0067】
いくつかの実施形態では、プライミング用量の化合物Aは、10~1,000μgの範囲の投与量でがん患者に投与され得る。例えば、プライミング用量の化合物Aは、10~20μg、10~40μg、10~50μg、10~80μg、20~40μg、40~60μg、40~80μg、50~100μg、100~200μg、100~300μg、100~500μg、200~500μg、200~800μg、200~1,000μg、500~800μg、または500~1,000μgの範囲でがん患者に投与され得る。
【0068】
ある特定の実施形態では、プライミング用量の化合物Aは、0.15~20μg/kg、例えば0.15~1μg/kg、0.25~1μg/kg、0.5~1μg/kg、0.5~2μg/kg、1~3μg/kg、1~5μg/kg、2~5μg/kg、2~7μg/kg、1~10μg/kg、2~10μg/kg、3~10μg/kg、5~10μg/kg、5~15μg/kg、10~20μg/kg、または15~20μg/kgの範囲の投与量でがん患者に投与され得る。
【0069】
いくつかの実施形態では、維持用量の化合物Aは、50~6,500μgの範囲の投与量でがん患者に投与され得る。ある特定の実施形態では、維持用量の化合物Aは、100~3,000μgの範囲の投与量でがん患者に投与され得る。他の実施形態では、維持用量の化合物Aは、100~1,200μgの範囲の投与量でがん患者に投与され得る。例えば、維持用量の化合物Aは、50~200μg、100~200μg、100~400μg、100~500μg、100~800μg、100~1,000μg、200~400μg、200~800μg、200~1,200μg、250~1,000μg、400~600μg、400~800μg、400~1,200μg、500~1,000μg、500~1,200μg、500~1,500μg、500~2,000μg、500~4,500μg、800~1,200μg、800~1,500μg、800~2,000μg、1,000~2,000μg、1,000~3,000μg、1,000~4,500μg、2,000~4,500μg、500~6,500μg、1,000~6,500μg、1,500~6,500μg、2,000~6,500μg、または3,000~6,500μgの範囲でがん患者に投与され得る。
【0070】
ある特定の実施形態では、維持用量の化合物Aは、1~100μg/kg、例えば1~50μg/kgの範囲の投与量でがん患者に投与され得る。例えば、維持用量の化合物Aは、1~10μg/kg、5~10μg/kg、5~20μg/kg、5~30μg/kg、5~40μg/kg、5~50μg/kg、10~20μg/kg、10~30μg/kg、10~40μg/kg、10~50μg/kg、15~20μg/kg、15~40μg/kg、20~30μg/kg、20~40μg/kg、20~50μg/kg、30~40μg/kg、30~50μg/kg、5~75μg/kg、10~75μg/kg、15~75μg/kg、20~75μg/kg、25~75μg/kg、35~75μg/kg、5~100μg/kg、10~100μg/kg、15~100μg/kg、20~100μg/kg、25~100μg/kg、35~100μg/kg、または50~100μg/kgの範囲でがん患者に投与され得る。
【0071】
いくつかの実施形態では、プライミング用量は、処置サイクルの1日目に投与され得、維持用量は、その後、上記の投与スケジュールで投与され得る。第1の維持用量は、プライミング用量の投与の少なくとも2日後、すなわち3日目に投与され得る。例えば、第1の維持用量は、プライミング用量の投与の2、3、4、5、6、7、8、9、または10日後に投与され得る。
【0072】
一実施形態では、投与サイクルは、プライミング用量の化合物Aを処置サイクルの1日目に投与し、続いて維持用量の化合物Aを処置サイクルの8、15および22日目(すなわち、2、3および4週目の最初の日)に投与し、続いて化合物Aを患者に投与しない1週間の期間(すなわち、5週目)を含む。維持投与サイクルを繰り返すことができ、または変更された維持投与スケジュールを用いることができる。
【0073】
別の実施形態では、投与サイクルは、プライミング用量の化合物Aを処置サイクルの1日目に投与し、続いて維持用量の化合物Aを投与スケジュールの8および22日目(すなわち、隔週投与)に投与することを含む。維持投与サイクルを繰り返すことができ、または変更された維持投与スケジュールを用いることができる。
【0074】
別の実施形態では、投与サイクルは、プライミング用量の化合物Aを処置サイクルの1日目に投与し、続いて2つの維持投与レジメン下で化合物Aを投与することを含む。第1の維持投与レジメンは、維持用量の化合物Aを処置サイクルの8、15および22日目(すなわち、2、3および4週目の最初の日)に投与し、続いて化合物Aを患者に投与しない1週間(すなわち、5週目)を含む。第2の維持投与レジメンは、化合物Aを隔週投与レジメンで投与することを含む。例えば、化合物Aを、投与サイクルの6週目および8週目の初めに投与することができる。いくつかの実施形態では、化合物Aの追加の隔週投与を患者に投与することができる。例えば、化合物Aを、投与サイクルの10週目、投与サイクルの10週目および12週目、投与サイクルの10週目、12週目、および14週目、投与サイクルの10週目、12週目、14週目、および16週目などに投与することができる。
【0075】
本開示に従って化合物Aのプライミング用量および維持用量が投与されるいくつかの実施形態では、PD-L1阻害剤、PD-1阻害剤、もしくはCTLA-4阻害剤などの免疫チェックポイント阻害剤またはそれらの組合せも患者に投与され得る。免疫チェックポイント阻害剤は、化合物Aのプライミング用量の前または化合物Aのプライミング用量の後に投与され得る。ある特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、維持用量の完全な1サイクルが患者に投与された後に投与される。
【0076】
6.例
例1.化合物Aに関する薬物動態研究
皮下、静脈内、または腫瘍内に投与された化合物Aの非臨床薬物動態(PK)を、0.1および/または0.5mg/kgの用量でマウスにおいて調査した。0.5mg/kgの化合物Aを雄マウスに皮下注射した後、静脈内AUC0-tと比較して、皮下AUC0-tに基づくと、化合物Aに対するバイオアベイラビリティ(F)値は1.21であり、化合物Aが高い生物学的利用能であることを示した。さらに、化合物Aは、1010mL/時間/kgのクリアランス(CL)、約15分のt1/2、および255mL/kgの分布容積(Vss)で全身コンパートメントに対して迅速にクリアランスされた。化合物Aはまた、腫瘍を有する雌B16F10マウスにおける腫瘍内投与後に血漿中で生物学的利用能が高く、0.1および0.5mg/kgの用量でそれぞれ105%および112%のFrel値を有した。これは、薬理学研究の1つで観察されたアブスコパルな有効性が、全身利用可能性および遠隔腫瘍に対する化合物Aの直接効果に関連し得ることを示唆している。ヒト、ラット、マウス、イヌ、およびサルのインビトロ系における化合物Aのタンパク質結合および代謝安定性の評価は、ヒトにおいて48.9%のタンパク質結合および120分を超える半減期を示し、CYP450系による限られた代謝を示した。
【0077】
例2.化合物Aに関する毒性研究
化合物Aの毒性学的評価は、ラットおよびカニクイザル(非ヒト霊長類[NHP])における研究を含み、化合物Aの標的であるSTING経路が種を越えて保存されているので、潜在的なヒトリスクの評価に関連するはずである。
【0078】
ラットおよびNHPにおける非優良試験所規範(GLP)(non-good laboratory practice)研究は、広範囲の用量およびレジメンをカバーした。これらの研究の目的は、複数回の漸増用量、単回用量、および複数回用量後の化合物Aの効果を評価することであった。
【0079】
これらの研究における一般的な所見は、化合物Aの作用機序(MOA)に関連しており、1型インターフェロン(IFN)および炎症促進性サイトカインを含むSTING依存性遺伝子産物における用量依存的な増加を特徴とする炎症応答として分類することができる。所見は、ラットおよびNHPで同様であった。最も一貫した用量関連の所見は、ラットおよびサルにおけるIFNα、TNFα、およびインターロイキン(IL)-6;ラットにおけるIL-8;サルにおけるIL-1ra、IFNγ誘導性タンパク質10(IP-10)、および単球走化性タンパク質1(MCP-1)の増加であった。サイトカインレベルは、最初の3~6時間で増加を示し、ほとんどの場合6~24時間でベースラインに戻った。自然免疫応答は、これらの因子の産生の自己制御/調節を特徴とする。低用量では、所見は化合物AのMOAに関連する薬理学的変化として特徴付けられる。用量が増加すると、変化は「誇張された」薬理学として特徴付けることができ、これは一般に化合物AのMOAに関連するが、治療応答に影響を及ぼすのに必要な応答よりも大きい予想される変化として定義される。最も高い用量レベルでは、化合物Aは毒性をもたらした。死亡は、10および30mg/kgでの高用量群のGLPラット研究で見られた。死亡は、3.0mg/kg用量レベルでも見られた。死亡は、誇張された薬理学をはるかに超えており、重篤な毒性を引き起こした化合物A媒介性炎症応答と一致する肺水腫に起因した。
【0080】
種および用量範囲/レジメンにわたる他の共通する所見は用量依存的であり、広範囲の肉眼的、血液学的、臨床化学的、および顕微鏡的変化を含んでいた。低用量では、これらの変化は所望の治療効果と一致していた。最も高い用量では、重篤な毒性および死亡があった。回復した動物を用いた研究では、用量依存的な変化を示すパラメータにおいて完全な回復または回復の傾向のいずれかがあった。
【0081】
毒物動態学的所見は、性別に関連する差、用量比例性、および複数回用量研究における蓄積を示さなかった。
【0082】
ラット研究において中用量および高用量レベルで、瀕死および死亡が見られた。明確な死因はなかったが、この所見は、化合物AのMOAの誇張された薬理学に起因するため、用量依存的な炎症応答と一致していた。GLPラット研究における10および30mg/kgの用量レベルでのファースト・イン・ヒューマン(FIH)用量に対する1000~3000倍の用量レベルマージンは、この研究で見られた死亡に関連する安全性の懸念を軽減するはずである。
【0083】
例3.マウスにおいて化合物Aによって誘導されるサイトカイン産生
化合物Aの薬物動態学的/薬力学的特性を、皮下、筋肉内、または静脈内投与経路による投与後のC57BL/6マウスにおいて評価した。血漿中の化合物Aおよびサイトカインレベルを測定するために、投与後に血液を採取した。化合物Aは注射の15分後に5~15μMの範囲で検出され、投与の1時間後に検出限界未満のレベルまで減少した。化合物AのCmaxは投与経路間で有意差はなかった(図1、パネルA)。血中で高レベルのIFNβが投与の3時間後に検出され、経時的にゆっくりと減少した;投与後12時間で、IFNβレベルはBLOQ付近であった(図1、パネルB)。マウスに一連の用量の化合物A(0、0.15、0.50、1.50、5、15、および50mg/kg)を皮下注射した場合、注射3時間後および6時間後にIFNβ(図1、パネルC)および他のサイトカインの用量依存的誘導が観察された。注目すべきことに、0.50mg/kgの化合物Aは非常に低レベルのサイトカインを誘導したが、0.50mg/kgよりはるかに低い用量でも既に、化合物Aは様々な腫瘍モデルにおいて有意な治療効果を示した。例えば、0.005mg/kgの化合物Aは、B16黒色腫モデル(例6および図3を参照)において腫瘍成長を阻害し、生存期間を延長するのに十分であり、治療用量での化合物Aは全身性サイトカインの問題を引き起こさないことを示した。
【0084】
例4.ヒト由来の末梢血単核細胞(PBMC)中の化合物Aによって誘導されるサイトカイン産生
ヒト由来のPBMCを化合物Aの連続希釈液で刺激し、インターフェロンおよび炎症性サイトカインのレベルを測定した。結果を図2のパネルA~パネルCに示す。
【0085】
例5.化合物Aの腫瘍内および皮下投与
腫瘍を有するマウスに腫瘍内投与した場合、化合物Aは、B16F10(黒色腫)、MC38(結腸)、4T1(乳房)、LL2(肺)およびAG104(線維肉腫)を含むいくつかの同系腫瘍モデルにおいて腫瘍成長の阻害に非常に有効であった。B16F10、4T1、LL2およびAG104などのこれらの腫瘍のいくつかは、PD-1、PD-L1、またはCTLA-4に対する抗体に対して不応性であることが公知であることに留意されたい。B16F10腫瘍モデルにおいて、2週間にわたる化合物Aの週2回の注射は、0.1μg~10μg(0.005~0.5mg/kg)の範囲で用量依存的様式で有効であった。化合物Aの皮下投与もMC38およびB16F10腫瘍モデルにおいて有効であったが、3μg~30μg(0.15~1.5mg/kg)の範囲のより高い用量が必要であった。
【0086】
マウスへの皮下または腫瘍内投与後、化合物Aは15分で循環中に検出可能であった。これらの経路または静脈内投与によって投与された化合物Aのレベルは、1時間までに定量限界(BLOQ)未満であった。化合物Aは、投与後3~6時間で用量依存的にサイトカイン産生を誘導し、12時間以内にBLOQに減少した。有意な抗腫瘍有効性を示す用量レベルでは、化合物Aは低レベルのサイトカインのみを誘導した。
【0087】
複数の同系腫瘍モデルにおいて、PD-L1抗体と化合物Aとの組合せは、試験した各用量レベルで、化合物A単独と比較して、より高い有効性を示した。化合物Aの投与は、そうでなければ免疫チェックポイント阻害剤に対して不応性であったいくつかの種類の同系腫瘍において、PD-L1抗体に対する応答性を回復させた。これらの研究のいくつかを以下の例に記載する。
【0088】
例6.B16黒色腫に対する化合物Aの腫瘍内投与の効果(単剤療法および併用療法)
化合物Aの抗腫瘍有効性の研究を、免疫適格マウスにおける同系腫瘍モデルにおいて行った。B16黒色腫モデルでは、化合物Aの腫瘍内投与は、(対照と比較して)腫瘍成長の用量依存的抑制および生存期間の延長を示した。
【0089】
化合物Aの治療活性を評価するために、C57BL/6免疫適格マウスに、右側腹部にB16F10黒色腫細胞の皮下インプラントを与えた。5日後、腫瘍体積が50mmと100mmとの間であった場合、マウスに、0.1、0.3、または1.0μg(0.005、0.015、または0.05mg/kgと同等)の化合物Aを単独、または200μgのPD-L1抗体(Bio-X-Cell(カタログ番号BE0101)から入手可能なクローン10F.9G2)との組合せで腫瘍内投与した。投与を3~4日ごとに合計4回の投与を繰り返した。腫瘍成長の減少および生存期間の延長が、0.005mg/kgという低い用量(0.1μg/マウス)で認められた。図3、パネルA~パネルCは、化合物Aの投与がすべての用量レベルで腫瘍体積を有意に減少させたことを示す。PD-L1抗体が単独で投与された場合、対照(モック)と比較して非常に低い有効性を示したにもかかわらず、化合物AがPD-L1抗体と一緒に投与された場合、腫瘍縮小効果が増強された。図3、パネルE~パネルGは、化合物Aの投与が対照と比較してマウスの生存時間を有意に増加させたことを示す。またしても、化合物AがPD-L1抗体と一緒に投与された場合、効果は増強された。
【0090】
例7.PD-L1抗体抵抗性腫瘍モデルにおける化合物Aの治療有効性
化合物Aを単独、および免疫チェックポイント遮断抵抗性腫瘍において例6で使用した200μgのPD-L1抗体との組合せで評価した。これらの研究では、マウスにLL2(肺がん)、4T1(乳がん)、AG104Ld(線維肉腫)、およびAG104A(線維肉腫)腫瘍を移植した。移植後、動物に、以下の表に示すように、0.5mg/kgの化合物Aを単独またはPD-L1抗体との組合せで腫瘍内または皮下投与した:
【表1】
【0091】
PD-L1抗体単独は有効性を示さなかった。対照的に、化合物Aは、単独で投与された場合、試験したすべての腫瘍モデルにおいて腫瘍成長を抑制し、マウスの生存を延長した。注目すべきことに、AG104A(線維肉腫)腫瘍モデルにおいて、併用処置は、単独で投与された化合物Aと比較して改善された有効性を示し、化合物AがPD-L1抗体と相乗作用したことを示した。AG104A、AG104LD、LL2および4T1細胞株の代表的なデータを、それぞれ図4図7に示す。
【0092】
例8.化合物Aのアブスコパル効果
アブスコパル効果は、原発性腫瘍の直接処置が遠隔腫瘍における応答をもたらし得る免疫介在性の現象である。化合物Aの潜在的なアブスコパル効果を、右側腹部(原発性腫瘍)および左側腹部(続発性腫瘍)の両方に腫瘍を有するマウスを評価する、B16黒色腫およびAG104A線維肉腫腫瘍モデルにおいて評価した。両モデルにおいて、化合物Aを腫瘍接種後5、8、11および15日目に原発性腫瘍内に腫瘍内投与した。続発性腫瘍は処置しなかった。0.15mg/kg(すなわち3μg/マウス)および0.5mg/kg(すなわち10μg/マウス)の用量では、腫瘍成長は原発性および遠隔腫瘍の両方で抑制され、生存は有意に延長された。
【0093】
B16黒色腫およびAG104A線維肉腫モデルからのデータを、それぞれ図8および図9に示す。図8、パネルA~パネルBは、B16黒色腫モデルにおいて、原発性および遠隔腫瘍の両方の腫瘍体積が、対照と比較して化合物Aの投与後に有意に減少することを示す。同様に、図9、パネルA~パネルBは、AG104A線維肉腫モデルにおいて、原発性および遠隔腫瘍の両方の腫瘍体積が、対照と比較して化合物Aの投与後に有意に減少することを示す。図9のパネルA~パネルBは、化合物AとPD-L1抗体との組合せ(例6で使用された200μgの抗体)が、化合物AまたはPD-L1抗体単独と比較して、原発性および遠隔腫瘍の両方の腫瘍体積の減少において有意な相乗的増加をもたらすことをさらに示す。PD-L1抗体は、化合物Aの非存在下で投与された場合に腫瘍体積に対して影響を及ぼさなかったので、この効果は相乗的であり、相加的であるだけではない。図9のパネルEは、化合物Aの投与が腫瘍を有するマウスの生存を増加させ、その程度もまた、化合物Aの非存在下では効果がなかったPD-L1抗体との組合せによって相乗的に増強されることを示す。
【0094】
例9.腫瘍転移に対する化合物Aの効果
B16黒色腫肺転移モデルを使用して、腫瘍転移に対する化合物Aの効果を評価した。化合物Aを、腫瘍接種後5、8、および11日目に、単独またはPD-L1抗体(例6で使用された200μgの抗体)との組合せで腫瘍内投与した。図10、パネルAに示すように、化合物Aを単独またはPD-L1抗体との組合せでの投与は、腫瘍体積の有意な減少をもたらした。図10のパネルCに示すように、肺転移を示す画像は、化合物Aを単独またはPD-L1抗体との組合せで投与した後、肺における転移の数が劇的に減少することを示す。
【0095】
例10.化合物Aのプライミング用量の投与
雄および雌のカニクイザルを群に割り当て、化合物Aの用量を投与した。動物に、2mL/kgの体積で皮下注射によって投与した。ビヒクル対照物/希釈剤はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)であった。
【0096】
化合物Aの用量レベルの上昇は、3.0mg/kg/用量まで忍容され、所見は、体温の上昇ならびにIFNα、IL-6、およびTNFαサイトカインレベルの上昇に限定された。IFNα、TNFα、およびIL-6レベルを、投与後3、6、および12時間で測定した。用量に依存するが、変わり得る変化が観察された。中程度のレベルのIFNαが、投与の3時間後および6時間後に1mg/kg群および3mg/kg群において認められた。より高いレベルのIFNαが10mg/kg群において見られた。3mg/kgおよび10mg/kgでのIFNαレベルは、投与後12時間で減少したが、投与前レベルには戻らなかった。血漿IL-6レベルの増加は、すべての群において投与後3および6時間で認められた。3mg/kgおよび10mg/kgでのIL-6の増加は、投与後12時間で持続した。TNFαレベルは、1mg/kg群において3時間で増加した。3mg/kgおよび10mg/kg群では、より低いレベルのTNFαが観察された。サイトカイン応答は、予測されたSTING経路活性化と一致する。10mg/kg/用量の投与の1日以内に瀕死が観察された;そのため、3mg/kgを以降の反復投与相(第II相)の高用量として選択した。
【0097】
第II相では、0.3mg/kgの化合物Aの週3回の投与が忍容された。ナイーブ動物における3mg/kg用量は忍容されず、投与の1日以内に瀕死または死亡の臨床所見をもたらした。所見は、死亡の可能性が高い原因と考えられた化合物A媒介性炎症応答と一致していた。3mg/kg用量レベルでは、血漿中IL-1ra、IL-6、およびIFNαサイトカインレベルの化合物関連の用量依存的増加は、一般に3および6時間で、IL-6およびIFNαに関して対照で認められたレベルに戻ることが認められた。IL-12、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、およびIFNγレベルの散発的な増加があった。しかしながら、これらの変化は、一般に、性別間で一貫しておらず、用量依存的ではなく、また、小さい規模のものであり、したがって、潜在的には化合物Aに関連するだけであると考えられた。炎症促進性サイトカインおよびケモカインMCP-1およびIP-10のレベルにおける変化は、炎症応答を示唆し、投与後24時間までに消散した。化合物Aの平均Cmax、AUC0-2、AUC0-8、およびAUC0-24値によって評価される曝露は、一般に、第II相の1日目に0.3~3mg/kg/日の用量レベルの増加と共に増加し、一般に用量に比例していた。化合物Aの蓄積は、サルにおいて0.3mg/kg/日の複数回用量後には観察されなかった。一般に、化合物Aの平均Cmax、AUC0-2、AUC0-8、およびAUC0-24値の性別差は2倍未満であった。
【0098】
第III相の間、0.6または1.0mg/kg/日の用量の化合物Aを週3回投与されたすべての動物は、予定された屠殺まで生存した。3.0mg/kg/日の化合物Aをナイーブ動物に投与した後の第II相の間に認められた急性死亡を回避するために、0.1mg/kg/日のプライミング用量を、第1の用量(1.0mg/kg/日の化合物A)の4日前に投与して忍容性を潜在的に発展させた。0.1mg/kg/日で投与された場合、化合物Aは、雄または雌のいずれにおいても血漿IFNαレベルの有意な増加を引き起こさなかった。IL-6の上昇した血漿中レベルが投与後3時間および6時間で認められた;しかしながら、IL-6レベルは、投与後24時間で検出不能なレベルに戻った。TNFαの上昇したレベルが、雄においては投与後6時間で、雌においては投与後3時間および6時間で認められた。両方の場合において、TNFαレベルは、投与後24時間で検出不能なレベルに戻った。IP-10のわずかな上昇が、雄および雌の動物において投与後3時間で認められた。0.6mg/kg/日で投与された場合、化合物Aは、雄または雌のいずれにおいても血漿IFNαレベルの有意な増加を引き起こさなかった。IL-6の上昇した血漿レベルが、投与後3時間および6時間で認められた。TNFαの上昇したレベルが、雄においては投与後6時間で、雌においては投与後1.5、3、および6時間で認められた。時間経過全体にわたって、IP-10の有意な上昇は認められなかった。1mg/kg/日で投与された場合、化合物Aは、投与後1.5および3時間でIFNαレベルの有意な変化を引き起こさなかったが、このサイトカインの上昇したレベルは、雄および雌の両方において投与後6時間で観察された。IL-6レベルの顕著な増加が、雄および雌の両方において、投与後3および6時間で認められた。上昇したTNFαレベルが、雄および雌の両方において、投与後1.5、3、および6時間で認められた。IP-10のわずかに高い投与前レベルが雄においてのみ認められたが、投与後1.5、3、および6時間でIP-10レベルの増加は観察されなかった。
【0099】
結論として、3.0mg/kg以上の化合物Aの投与は、ナイーブ動物では忍容されず、急性の瀕死および/または死亡をもたらし、これは肺水腫に起因するものであった。浮腫は、炎症関連病理および化合物Aの作用様式の誇張された薬理学と一致している。1.0mg/kg/日(0.1mg/kgのプライミング用量が先行する)または0.6mg/kg(プライミング用量なし)の週3回用量の投与は忍容された。事前のより低いレベルでの投与が忍容性を発展させたため、動物は第I相で3.0mg/kgへの漸増に忍容した。0.6または1.0mg/kg/日で投与された動物では、化合物関連の所見は、一過性の体温上昇ならびに軽度から中等度の臨床的および解剖学的病理の所見に限定された。
【0100】
例11.三重の併用療法
0日目に、雌C57BL6マウス(各群5匹)の側腹部に10個のB16F10黒色腫細胞(ATCC CRL6475)を皮下移植した。6日目に、腫瘍を測定し、各群が同様の平均腫瘍体積(約70mm)を有するようにマウスを再び群分けした。6、10、および14日目に、マウスをモック処置または以下で処置した:腫瘍内(I.T.)で0.3μgの化合物A、;50μgのCTLA4抗体(BioXcell BE0164、I.T.);または0.3μgの化合物A(I.T.)と腹腔内(I.P.)で200μgのCTLA4抗体との組合せ。同じ一連の実験において、0.3μgの化合物A(I.T.)と200μgのPD-L1抗体(I.P.)との組合せも、200μgのCTLA4抗体(I.P.)との組合せの有無にかかわらず試験した。腫瘍体積を2~3日ごとに測定し、マウスの生存を毎日モニタリングした。
【0101】
図11Aおよび図11Bに示すように、各併用療法は腫瘍体積および全生存に大きな影響を及ぼし、化合物A、PD-L1抗体(I.P.)およびCTLA4抗体(I.P.)の三重の組合せが最も有効であった。
図1
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図11-1】
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【国際調査報告】