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特表2023-500284ケイ素及び亜鉛のナノ材料をベースとする環境保全型抗真菌性農薬製剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-05
(54)【発明の名称】ケイ素及び亜鉛のナノ材料をベースとする環境保全型抗真菌性農薬製剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/16 20060101AFI20221223BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
A01N59/16 Z
A01P3/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525418
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(85)【翻訳文提出日】2022-06-23
(86)【国際出願番号】 IB2020060115
(87)【国際公開番号】W WO2021084448
(87)【国際公開日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】NC2019/0012045
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CO
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
3.CIRRASOL
(71)【出願人】
【識別番号】521440080
【氏名又は名称】バイオロジコス・エストラテジコス・バイオエスト・エセ・ア・エセ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・ブランコ・ティラド
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011AA03
4H011BB18
4H011BC03
4H011BC06
4H011BC08
4H011BC18
4H011BC19
4H011BC22
4H011DH14
(57)【要約】
本発明は、ケイ酸塩、酸化亜鉛ナノ粒子、植物油、界面活性剤又は界面活性剤の混合物、分散剤又は分散剤の混合物、及び安定剤又は安定剤の混合物を含み、真菌又は卵菌等の微生物によって引き起こされる植物病害の予防又は防除に有用である、安定な農薬製剤に関する。本発明はまた、そのような農薬製剤を調製する方法に関する。本発明の農薬製剤及び方法により、ケイ酸塩及び酸化亜鉛ナノ粒子を含有する農薬製剤の調製が容易になるが、該農薬製剤は更に、駆除性、殺菌性、殺真菌性及び殺卵菌性化合物の散布によって生じる環境への影響を低減する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- ケイ酸塩;
- 植物油;
- 界面活性剤又は界面活性剤の混合物;
- 分散剤又は分散剤の混合物;
- 酸化亜鉛ナノ粒子;及び
- 安定剤又は安定剤の混合物
を含む、農薬製剤。
【請求項2】
前記安定剤又は安定剤の混合物が増粘剤である、請求項1に記載の農薬製剤。
【請求項3】
前記製剤がエマルジョンの形態である、請求項1に記載の農薬製剤。
【請求項4】
前記ケイ酸塩が、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸マンガン、ケイ酸マグネシウム又はケイ酸カルシウムからなる群から選択される、請求項1に記載の農薬製剤。
【請求項5】
前記ケイ酸塩が0.01~250g/Lの間の濃度である、請求項1に記載の農薬製剤。
【請求項6】
前記界面活性剤が、エトキシル化直鎖状アルコール、エトキシル化アルキルフェノール、脂肪酸エステル、アミン誘導体、アミド誘導体、アルキルポリグルコシド、エチレングリコール/プロピレングリコールコポリマー、ポリオール、エトキシル化ポリオール、チオール(メルカプタン)、又はそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の農薬製剤。
【請求項7】
前記界面活性剤が0.01~10g/Lの間の濃度である、請求項1に記載の農薬製剤。
【請求項8】
前記植物油が、大豆油、トウモロコシ油、綿実油、オリーブ油、ヤシ油、ピーナッツ油、キャノーラ油、サフラワー油、ゴマ油、ヒマワリ油、ヘーゼルナッツ油、アーモンド油、クルミ油、マカダミア油、ペカン油及びピスタチオ油からなる群から選択される、請求項1に記載の農薬製剤。
【請求項9】
前記植物油が0.01~50g/Lの間の濃度である、請求項1に記載の農薬製剤。
【請求項10】
前記分散剤が、グリセロール、クエン酸アンモニウム、又はヘキサメタリン酸ナトリウムからなる群から選択される、請求項1に記載の農薬製剤。
【請求項11】
前記分散剤が0.1~500g/Lの間の濃度である、請求項1に記載の農薬製剤。
【請求項12】
前記安定剤が、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、キサンタンガム、ヒドロキシメチルセルロース、アラビアガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ジェランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、トラガカントガム、スクシノグルカンガム、ゼラチン、カラギーナン、デンプン、サゴ、タピオカ、ペクチン、コラーゲン及び寒天からなる群から選択される、請求項1に記載の農薬製剤。
【請求項13】
前記安定剤が0.01~5g/Lの間の濃度である、請求項1に記載の農薬製剤。
【請求項14】
前記酸化亜鉛ナノ粒子のサイズが1~100nmの間である、請求項1に記載の農薬製剤。
【請求項15】
前記酸化亜鉛ナノ粒子が0.1~300g/Lの間の濃度である、請求項1に記載の農薬製剤。
【請求項16】
請求項1に記載の農薬製剤を調製する方法であって、
a)ケイ酸塩の水性溶液を植物油と混合する工程;
b)界面活性剤又は界面活性剤の混合物を添加する工程;
c)安定剤又は安定剤の混合物を添加する工程;
d)酸化亜鉛ナノ粒子と分散剤とを含むナノ流体を調製する工程;
e)工程a)で得られた生成物を工程d)によるナノ流体と混合する工程
を含む、方法。
【請求項17】
微生物によって引き起こされる植物病害の予防又は防除のための、請求項1から16のいずれか一項に記載の農薬製剤の使用。
【請求項18】
前記植物が、果実又は果序を生成する植物、観賞用植物、薬用植物、マメ科植物、穀物及び塊茎からなる群から選択される、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記植物が、チャード(ベーター・ブルガリス)、トウガラシ(カプシクム種)、ニンニク及びタマネギ(アリウム種)、セロリ(セロリ・グラベオレンス)、ナス(ソラナム・メロンゲナソラヌム)、カボチャ(キュウリビタ・モシャタ)、ハヤトウリ(セチウム・エディュール)、キャベツ(ブラシカ・オレラセア)、ほうれん草(スピノキア・オレラセア)、豆(ファセオルス・ブルガリス)、レタス(ラクチュカ・サティバ)、トウモロコシ(ズィー・メイス)、ピーナッツ(アラキス・ヒポゲア)、トマト(ソラヌム・リコペルシクム)、キュウリ(ククミス・サティブス)、オクラ(ヒビスクス・エスクレントゥス)、ダイコン(ラパーヌス・サティブス)、ビートルート(ベーター・ブルガリス)、ニンジン(ダウクス・カロタ)、アボカド(パーシー・アメリカーナ)、バンレイシ(アノナ・スクアモサ)、カイミト(クリソフィルム・カイニト)、カニステル(ポウテリア・カムペチアナ)、チェリー(マルピギア・プニキフォリア)、カスタードアップル(アノナ・レティキュラータ)、プラム(スポンディア・ズルシス)、ココナッツ(ココス・ヌキフェラ)、パパイヤ(カリカ・パパイヤ)、サワーソップ(アノナ・ムリカタ)、グアバ(プシディウム・グアジャワ)、ザクロ(プニカ・グラナタム)、ライム(シトラス・アウランティフォリア)、レモン(シトラス・リモヌム)、レッドマメイ(カロカルプム・マモサム)、マメイサントドミンゴ(マメア・アメリカーナ)、メリコッカノキ(メリコセア・ビジュガ)、マンダリン(シトラス・レティキュラータ)、マンゴー(マンギフェラ・インディカ)、パッションフルーツ(パッシフロラ・ローリフォリア)、スイカ(シトルラス・ブルガリス)、ダイダイ(シトラス・アウランティウム)、スイートオレンジ(シトラス・シネンシス)、パイナップル(アナナス・コモサス)、バナナ(ムサ・パラディシアカ)、オオバコ(ムサ・バルビシアーナ)、タマリンド(タマリンダス・インディカ)、グレープフルーツ(シトラス・パラディシ)、クレオールグレープフルーツ(シトラス・グランディス)、ブドウ(ヴィティス・ヴィニフェラ)、豆(ファセオルス・ブルガリス)、トウモロコシ(ズィー・メイス)、米(オリザ・サティバ)、コーヒー(コーヒー・アラビカ)、サトウキビ(サッカラム・オフィシナルム)、綿(ゴシピ
ウム・ヒルスタム)、ガーキン(メロテリア・グアダルペンシス)、サツマイモ(イポモエス・バタタス)、ジャガイモ(ソラナム・チュベロサム)、クレオールポテト(ソラナム・プレジャ)、ケープグズベリー(フィサリス・ペルヴィアーナ)、キャッサバ(マニホット・エスクレンタ)、大豆(グリシン・マックス)、イチゴ(フラガリア種)、ブラックベリー(モルス種)、キイチゴ(ルーバス種)、アラカ科のヤシ、アブラヤシ(エラエイス・グイネンシス)、ココア(テオブロマ・カカオ)、トマトノキ(ソラナム・ベタセウム)、ルロ(ソラナム・キトエンセ)からなる群から選択される、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
微生物が真菌又は卵菌である、請求項16に記載の使用。
【請求項21】
前記微生物が真菌である、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記真菌が、マグナポルテ・オリザエ、ボトリティス・シネレア、プッチニア種(フザリウム・グラミネアラム、フザリウム・オキシスポルムを含むがこれらに限定されない)、ブルメリア・グラミニス、ミコスファエレラ種、ミコスファエレラ・フィジエンシス、ミコスファエレラ・グラミニコラ、コレトトリカム種、ウスチラゴ・メイディス、メラムプソラ・リニ、ファコプソラ・パキリジ、及びリゾクトニア・ソラニを含む群から選択される、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記微生物が卵菌である、請求項21に記載の使用。
【請求項24】
前記卵菌が、フィトフトラ種、フィトフトラ・インフェスタンス、フィトフトラ・ラモルム、フィトフトラ・ソジャ、フィトフトラ・カプシシ、フィトフトラ・シンナモミ、フィトフトラ・パルミボラ、及びフィトフトラ・パラジティカ、ヒアロペロノスポラ・アラビドプシス、プラスモパラ・ビチコラ、ピシウム・ウルティマム、アルブゴ・カンディダ並びにペロノスポラ・ファリノーサを含む群から選択される、請求項23に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農芸化学の分野に属し、特に、さまざまな植物及び作物を物理的及び化学的に保護し、農業生産における病原性真菌の発生を減らすために設計された農薬製剤に属する。
【背景技術】
【0002】
2050年までに人口は94億人になると推定されており、これは食料生産が約50%増加することを意味する(「Solar Energy Supply and Storage for the Legacy and Nonlegacy Worlds」、Timothy R. Cookら、Chem. Rev. 2010、110、6474~6502;「Can we improve global food security? A socio-economic and political perspective」、Ulrike G.、Food Sec. 2014、6、187~200)。しかし、食料を50%多く生産するには、耕作に適した土地、水、種子、肥料の恒久的な供給、有害生物防除、特に虫及び真菌防除のメカニズムが必要である。毎年、世界の作物の10~16%が植物病害によって失われ、約2,200億ドルの損失がある(「Climate change, plant diseases and food security: an overview」、Sukumar C.ら、Plant Pathology. 2011、60、2~14)ことを考慮すると、とりわけ次のような特定の機能を備えた新世代の駆除剤(殺虫剤及び殺真菌剤)を作製する緊急の必要性があることは明らかである。(i)無毒の原材料の高い入手可能性、(ii)製造の容易さ、(iii)生物の科に対する高い特異性、(iv)ヒト、哺乳類、及び貴重な昆虫、例えば蜂に対する、殺真菌剤を構成する物質の無害性、並びに(v)殺真菌剤合成における低い環境フットプリント。
【0003】
ジチオカルバメートは、真菌による植物病害の予防及び防除に最も広く使用されている種類の合成有機化学物質の1つである。これらの物質を配合した市販の殺真菌剤が広く使用されている。しかしながら、このクラスの殺真菌剤は、合成フットプリント、製造の複雑さ、及び有効成分の生物毒性等の欠点を有し、これらの欠点により、望ましい前述の特性のいくつかを満たさない。
【0004】
通常、殺真菌剤中の活性化合物は、制御された実験室アッセイで高い効率及び有効性を有する。しかし、これらの物質を現場で使用するには、補助剤、結合剤、分散剤、消泡剤、及び該物質の散布を改善する他の分子を含む製剤を作製する必要があることはよく知られている。
【0005】
病原性微生物の防除に使用される製品を処方するために、さまざまな戦略が使用される。例えば、米国特許証第8,404,263号において、駆除剤、有機UV光防護遮蔽剤、及び金属酸化物でコーティングされたナノ粒子を含有する農薬製剤が開示されている。本明細書に開示される本発明の目的は、日光、特にUVへの曝露による駆除性化合物の分解を減少させる組成物を提供することである。
【0006】
他方では、米国特許出願第2010/0016443号において、金属酸化物コーティングを含む駆除剤化合物の粒子、及びそのような粒子を含む組成物を調製する方法が開示されている。該文献に記載されている発明は、活性化合物(駆除剤)の単離を可能にし、更にその制御放出を可能にする。
【0007】
更に、特許出願EP0496106及びMX2017012740において、植物及び/又は作物の有害生物を予防するための殺真菌性殺虫剤として作用する、α-不飽和アミン誘導体、それらの塩、又は硫酸鉄化合物及び液体パラフィンをそれぞれ含む安定な農薬組成物が開示されている。
【0008】
前述のことを考慮すると、一般に、市販の殺真菌剤製剤は、とりわけ、多種多様な有機補助剤、固定剤及び分散剤分子を含有すると結論付けることができる。これらの分子の機能は、製品の散布を改善し、活性分子を植物に長時間固定させて残留効果を生み出すことである。殺真菌剤は葉面噴霧により散布されるため、食用の果実及び葉に残留効果が伝わる。したがって、新世代の殺真菌剤は、病原体に対して選択性が証明され、作物において有益な動物、小型哺乳類、及びヒトに対して無害であることが証明されている化学物質を製剤に含む必要がある。これらの物質が土壌や水源を汚染しないことも求められている。
【0009】
最近の研究では、ケイ素は植物生理学、主にイネ科植物(grasses)においていくつかの機能を有することが示されている。生理学的機能の中には、重金属により生じる毒性への耐性、病原体に対する機械的保護があり、場合によっては、ケイ素は植物の成長に寄与する必須養分とさえ考えられる(「Silicon and Plan Diseases」、Fabricio R.ら、Springer、2015)。実際、「Benefits of plant silicon for crops: a review」、Guntzer F、Agron Sustain Dev. 2012 32、201~213によると、世界で最も生産されている10の作物のうち7つは、トウモロコシ、米、テンサイ、サトウキビ及び小麦を含む、ケイ素を蓄積するものである。
【0010】
ケイ素はまた、例えば土壌伝染病及び種子伝染病の防除等、さまざまな戦略を通じてさまざまな作物の病害を予防及び防除するために使用されてきた。したがって、Alessandro F.が「Silicon and Plan Diseases」、Fabricio R.ら、Springer、Chapter 3、2015で詳しく説明した総説によると、植物の養分をケイ素で補うと、病原菌フィトフトラ・シンナモミ(Phytophthora cinnamomi)、シリンドロクラディウム・スパシフィリ(Cylindrocladium spathiphylli)、フザリウム・オキシスポルム種キュベンス(Fusarium oxysporum sp. cubense)、メロイドギネ・ジャバニカ(Meloidogyne javanica)、フィトフトラ・カプシシ(Phytophthora capsici)、メロイドギネ・エキシグア(Meloidogyne exigua)、ピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)、フザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)、ピシウム・ウルティマム(Pythium ultimum)、ピシウム・アファニデルマタム種ククメリナム(Pythium aphanidermatum sp. cucumerinum)、フザリウム・オキシスポルム種ラクチュカ(Fusarium oxysporum sp. lactucae)、フザリウム種(Fusarium spp.)、メロイドギネ種(Meloidogyne spp.)に侵された、とりわけアボカド、バナナ、赤トウガラシ、コーヒー、トウモロコシ、キュウリ、レタス、メロン、米、トマト、スイカ、小麦において特定の病害の影響が減少する。ケイ酸塩はまた、真菌、細菌、ウイルスによって引き起こされる単子葉及び双子葉植物の葉の病害を防除するのに役立つ。
【0011】
一方、「Benefits of plant silicon for crops: a review」、Guntzer F、Agron Sustain Dev. 2012 32、201~213によると、植物におけるケイ素の利点は、環境ストレス下でより容易に証明されている。これらの利点は、病原体及び虫に対する耐性の向上、干ばつ時の緩和、高塩濃度によるストレスの発生率の低下、カリウム、リン、カルシウム取り込みの改善、過剰な場合の養分取り込み(リン及び窒素)の調節、並びにアルミニウム及び亜鉛の毒性緩和としてまとめられる。特に、ケイ素は植物に、有機組織内のケイ素プラントオパールの存在に由来する機械的な利点も提供し、これにより、強風及び雨に対する耐性が高まり、虫に対する耐性も高まる。
【0012】
作物の処置にケイ素を組み込む方法の1つは、植物にケイ酸塩溶液を噴霧することである。ケイ酸塩溶液は、植物の表面に病原体の感染を予防する物理的なバリアを形成するためである。最近、ケイ酸塩により、病原体に対する植物の特定の防御経路が活性化されることが示された(「Silicon and Plan Diseases」、Fabricio R.ら、Springer、2015)。ケイ酸塩は無害であるため、他の農薬及び駆除剤の環境問題を示さない。ケイ酸塩のライフサイクルは有毒であることが示されていないからである(「Soluble Silicates-Highly Versatile and Safe」、CH. Baehrら、International Journal for Applied Science、2007、133、88~94)。更に、ケイ酸塩は植物の健康を促進し、微生物又は他の有害生物による植物への日和見的攻撃を予防する。
【0013】
ただし、ケイ酸塩には農薬等の有用な物質として特定の利点があるが、ケイ酸塩含有混合物は、ケイ酸塩が9未満のpH値で沈殿するために不安定である。このため、有効成分としてケイ酸塩を使用する製剤は、9より高いpH値を示すNa又はKのケイ酸塩の形態で販売されている。例えば、Sil-MATRIX(登録商標)は、予防殺真菌剤として機能するケイ酸カリウム製剤であり、農作物、とりわけ果物、ナッツ等に推奨される。該製剤は植物に噴霧する前に希釈する必要があり、完全な混合物を得るため、継続的な撹拌が推奨され、希釈した材料の保管及び混合は避ける(http://www.certisusa.com/pdf-labels/Sil-Matrix_label.pdf)。この欠点に加えて、液体状態のケイ酸塩の葉面固定能力が低いことに関連した別の側面がある。これは、作物への期待される効果を保証するために、永続的な繰り返しでより多くの用量を投与することを意味する。
【0014】
一方、最近の研究では、ナノ材料、特に遷移金属酸化物のナノ粒子の使用は、さまざまな物理的及び化学的プロセスで大きな反応性を示すことも示されている。これらの材料の反応性は、ナノ粒子材料の、溶液中又は表面の分子又は微生物とのより大きな接触面積をもたらす大きな表面積に基づいている。例えば、銀(Ag)は、二重結合を持つ分子、特に細胞壁に見られる分子と結合できるため、非常に効果的な殺菌剤である。このような銀ナノ粒子/細胞壁複合体の形成は、細胞質の露出、及びその結果としての細胞死を促進する。
【0015】
何人かの著者は、実験室の制御された条件下で、酸化亜鉛ナノ粒子がカンピロバクター(Campylobacter)の細菌における細胞壁の開口を生成することも実証した(「Antibacterial Activity and Mechanism of Action of Zinc Oxide Nanoparticles against Campylobacter jejuni」、Yanping Xら、Journal of American Society for Microbiology、2011; 77(7): 2325~2331)。一方、他の著者は、グラフェンと組み合わせた酸化亜鉛ナノ粒子が殺菌剤としても作用することを示し(「Synthesis, characterization and enhanced antimicrobial activity of reduced graphene oxide-zinc oxide nanocomposite」、Rajveer Sら、Mater. Res. Express、2017、1~8)、他方、Lili Heら(2011)は、酸化亜鉛ナノ粒子が、ボトリティス(Botrytis)、及びペニシリウム(Penicillium)に対して抗真菌性を有することを示すアッセイを開発した(Lili He.、Yang Liu.、Azlin Mustapha.、Mengshi Lin.、Microbiological Research. 2011、166、207~215)。これらの研究はまた、ナノ粒子材料と接触すると真菌及び細菌細胞の形状及びサイズの変形が促進され、最終的に壁の開口による細胞死が引き起こされる細胞壁修飾によって、酸化亜鉛ナノ粒子の作用メカニズムを制御できることを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許証第8,404,263号
【特許文献2】米国特許出願第2010/0016443号
【特許文献3】EP0496106
【特許文献4】MX2017012740
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】「Solar Energy Supply and Storage for the Legacy and Nonlegacy Worlds」、Timothy R. Cookら、Chem. Rev. 2010、110、6474~6502
【非特許文献2】「Can we improve global food security? A socio-economic and political perspective」、Ulrike G.、Food Sec. 2014、6、187~200
【非特許文献3】「Climate change, plant diseases and food security: an overview」、Sukumar C.ら、Plant Pathology. 2011、60、2~14
【非特許文献4】「Silicon and Plan Diseases」、Fabricio R.ら、Springer、2015
【非特許文献5】「Benefits of plant silicon for crops: a review」、Guntzer F、Agron Sustain Dev. 2012 32、201~213
【非特許文献6】「Silicon and Plan Diseases」、Fabricio R.ら、Springer、Chapter 3、2015
【非特許文献7】「Soluble Silicates-Highly Versatile and Safe」、CH. Baehrら、International Journal for Applied Science、2007、133、88~94
【非特許文献8】http://www.certisusa.com/pdf-labels/Sil-Matrix_label.pdf
【非特許文献9】「Antibacterial Activity and Mechanism of Action of Zinc Oxide Nanoparticles against Campylobacter jejuni」、Yanping Xら、Journal of American Society for Microbiology、2011; 77(7): 2325~2331
【非特許文献10】「Synthesis, characterization and enhanced antimicrobial activity of reduced graphene oxide-zinc oxide nanocomposite」、Rajveer Sら、Mater. Res. Express、2017、1~8
【非特許文献11】Lili He.、Yang Liu.、Azlin Mustapha.、Mengshi Lin.、Microbiological Research. 2011、166、207~215
【非特許文献12】「Synthesis and characterization of zinc oxide nanoparticles: application to textiles as UV-absorbers」、Becheri A.ら、J. Nanopart. Res、10: 679~689
【非特許文献13】「Low temperature synthesis of ZnO nanoparticles using mechanochemical route: a green chemistry approach」Azam Aら、IJTAS、2009、1(2): 12~14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
殺菌剤及び殺真菌剤としての酸化亜鉛ナノ粒子の可能性にもかかわらず、該ナノ材料の安定化及び製剤は技術的な課題を示している。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、植物油、界面活性剤又は界面活性剤の混合物、分散剤又は分散剤の混合物、及び安定剤又は安定剤の混合物と共に、ケイ酸塩及び酸化亜鉛ナノ粒子を含む安定な農薬製剤の調製を記載する。本発明のケイ酸塩含有農薬製剤は、植物病原性真菌によって引き起こされる植物病害に関連した問題を予防及び治療し、またその製造において、有機性であり、ヒト及び有益な生物に対して無害である、無毒の化学物質を使用し、環境への影響がほとんどないことを特徴とする。
【0020】
本発明は、ケイ酸塩、植物油、界面活性剤又は界面活性剤の混合物、分散剤又は分散剤の混合物、酸化亜鉛ナノ粒子、及び安定剤又は安定剤の混合物を含む農薬製剤、並びに該農薬製剤を調製する方法に対応する。特に、該製剤は、長期間安定であり、真菌又は卵菌等の微生物によって引き起こされる植物病害の予防及び防除に有用であることを特徴とする。したがって、該農薬製剤は、環境への影響が少ない天然又は有機殺真菌剤として、農産業における用途がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(A)ゾルゲル法で合成されたZnOナノ粒子(実施例1)、(B)乾式合成されたZnOナノ粒子(実施例2)、及び(C)市販のUSP ZnOナノ粒子の粉末X線回折図である。
図2】ZnOナノ粒子のFT-IRスペクトル図である:(A)ゾルゲル合成(実施例1)及び(B)乾式合成(実施例2)。
図3】酸化亜鉛ナノ粒子のUV-VISスペクトル図である:(A)溶媒H2Oの乾式合成、(B)溶媒H2Oのゾルゲル合成、(C)溶媒PEP-H2Oのゾルゲル合成、及び(D)溶媒PEP-CH3H8Oのゾルゲル合成。
図4】走査型電子顕微鏡(SEM)写真である:(A)乾式合成酸化亜鉛ナノ粒子;(B)ゾルゲル合成酸化亜鉛ナノ粒子;(C)市販のUSP酸化亜鉛ナノ粒子。
図5】実施例7の農薬製剤における走査型電子顕微鏡(SEM)写真である:(A)農薬製剤D;(B)農薬製剤F及び(C)農薬製剤H。
図6】実施例7の農薬製剤のUV-VISスペクトル図(10日間)である:(A)農薬製剤D及び(B)農薬製剤H。
図7】実施例7の農薬製剤の安定性曲線図である:(A)農薬製剤D(B)農薬製剤F及び(C)農薬製剤H。
図8A】B.シネレア(B. cinerea)に対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(A)農薬製剤D1。
図8B】B.シネレアに対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(B)農薬製剤F1。
図8C】B.シネレアに対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(C)農薬製剤H1。
図8D】B.シネレアに対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(D)農薬製剤I。
図8E】B.シネレアに対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(E)農薬製剤J。
図9A】M.フィジエンシス(M. fijiensis)に対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(A)農薬製剤D1。
図9B】M.フィジエンシスに対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(B)農薬製剤F1。
図9C】M.フィジエンシスに対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(C)農薬製剤H1。
図9D】M.フィジエンシスに対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(D)農薬製剤I。
図9E】M.フィジエンシスに対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(E)農薬製剤J。
図10A】P.パルミボラ(P. palmivora)に対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(A)農薬製剤D。
図10B】P.パルミボラに対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(B)農薬製剤F。
図10C】P.パルミボラに対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(C)農薬製剤H。
図10D】P.パルミボラに対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(D)農薬製剤I。
図10E】P.パルミボラに対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(E)農薬製剤J。
図11A】P・インフェスタンス(P. infestans)に対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(A)農薬製剤D。
図11B】P・インフェスタンスに対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(B)農薬製剤F。
図11C】P・インフェスタンスに対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(C)農薬製剤H。
図11D】P・インフェスタンスに対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(D)農薬製剤I。
図11E】P・インフェスタンスに対する時間に基づく実施例7の農薬製剤の抗真菌活性の図である:(E)農薬製剤J。
図12A】(A)B.シネレアに対する、市販の殺真菌剤における時間に基づく抗真菌活性の図である:Siganex(C1)、Mancozed 80% WP(C2)及びForum 500 WP(C3)。
図12B】(B)M.フィジエンシスに対する、市販の殺真菌剤における時間に基づく抗真菌活性の図である:Siganex(C1)、Mancozed 80% WP(C2)及びForum 500 WP(C3)。
図12C】(C)P.パルミボラに対する、市販の殺真菌剤における時間に基づく抗真菌活性の図である:Siganex(C1)、Mancozed 80% WP(C2)及びForum 500 WP(C3)。
図12D】(D)P・インフェスタンスに対する、市販の殺真菌剤における時間に基づく抗真菌活性の図である:Siganex(C1)、Mancozed 80% WP(C2)及びForum 500 WP(C3)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、液体マトリックス中にケイ酸塩及び酸化亜鉛ナノ粒子を含む農薬製剤であって、植物油、界面活性剤又は界面活性剤の混合物、分散剤又は分散剤の混合物、及び安定剤又は安定剤の混合物を含有する農薬製剤、並びに該農薬製剤を調製する方法に対応する。特に、本発明は、経時的に安定な、ケイ酸塩及び酸化亜鉛ナノ粒子を含む農薬製剤を提供する。
【0023】
本出願の目的のために、「ケイ酸塩(silicate)」又は「ケイ酸塩(silicate salt)」という用語は、(SiO3)2-陰イオン、並びにナトリウム、カリウム、マンガン、マグネシウム及びカルシウムを含むがこれらに限定されない任意の陽イオンを含む塩を指す。本発明の一実施形態において、ケイ酸塩(silicate or silicate salt)は、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸マンガン、ケイ酸マグネシウム、及びケイ酸カルシウムから選択される。
【0024】
ケイ酸塩は、本発明の農薬製剤に0.01~250g/Lの間の濃度で含有されている。本発明の別の実施形態において、濃度は、0.05~240g/L、0.1~230g/L、0.5~220g/L、0.8~210g/L、1.0~200g/L、1.5~190g/L、2.0~180g/L、2.5~170g/L、3.0~160g/L、3.5~150g/L、4.0~140g/L、4.5~130g/L、5.0~120g/L、5.5~110g/L、6.0~100g/L、6.5~95g/L、7.0~90g/L、8.5~85g/L、9.0~80g/L、10~75g/L、15~70g/L、20~65g/L、25~60g/L、30~55g/L、35~50g/L、40~45g/Lの間で選択される。
【0025】
更に、「植物油」という用語は、植物から抽出され、非極性化合物、主にトリグリセリドでできている、室温で粘稠な液体混合物を指す。使用可能な植物油には、大豆油、トウモロコシ油、綿実油、オリーブ油、ヤシ油、ピーナッツ油、キャノーラ油、サフラワー油、ゴマ油、ヒマワリ油、ヘーゼルナッツ油、アーモンド油、クルミ油、マカダミア油、ペカン油及びピスタチオ油が含まれるが、これらに限定されない。本発明の一実施形態において、植物油は、大豆油、トウモロコシ油、綿実油、オリーブ油、ヤシ油、ピーナッツ油、キャノーラ油、サフラワー油、ゴマ油及びヒマワリ油からなる群から選択される。植物油は、0.001~5.0%v/v、0.01~3.0%v/v、及び0.1~1.0%v/vの間の濃度で含まれる。
【0026】
更に、本出願で使用される「界面活性剤(surfactant)」という用語は、極性及び非極性基を含み、液体の表面張力、又は2種の非混和性物質の界面張力を低下させる化合物を指す。同義語は「界面活性剤(surfactant)」及び「界面活性剤(surface-active agent)」である。本発明の農薬製剤を構成する界面活性剤は、イオン性及び非イオン性界面活性剤から選択される。本発明の一実施形態において、界面活性剤は非イオン性である。例えば、非イオン性界面活性剤は、エトキシル化直鎖状アルコール、エトキシル化アルキルフェノール、脂肪酸エステル、アミン誘導体、アミド誘導体、アルキルポリグルコシド、エチレングリコール/プロピレングリコールコポリマー、ポリオール、エトキシル化ポリオール、チオール(メルカプタン)、及びそれらの誘導体又はそれらの混合物を含む群から選択されるが、これらに限定されない。特に、非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート、ポロキサマー、オクチルグリコシド、ポリグリセロール、ポリリシノール酸塩、Triton X-100、セチルアルコール及びCirrasolを含む群から選択されるが、これらに限定されない。特に、非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート20(Tween 20)、ポリソルベート40(Tween 40)、ポリソルベート60(Tween 60)、ポリソルベート65(Tween 65)、ポリソルベート80(Tween 80)、Cirrasol、又はそれらの混合物であり得る。界面活性剤又は界面活性剤の混合物は、0.0001~1%v/v、0.001~0.1%v/v、及び0.001~0.01%v/vの間の濃度である。
【0027】
本出願で使用される場合、「増粘剤(thickener)」という用語は、液体の粘度を増加させる化合物を指す。この用語の同義語は「粘稠剤(viscosifier)」である。本発明の製剤を構成する増粘剤又は粘稠剤は、有機物質、多糖類、タンパク質、増粘剤又は粘稠剤、それらの誘導体又はそれらの混合物である。例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、キサンタンガム、ヒドロキシメチルセルロース、アラビアガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ジェランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、トラガカントガム、スクシノグルカンガム、ゼラチン、カラギーナン、デンプン、サゴ、タピオカ、ペクチン、コラーゲン及び寒天。特に、増粘剤又は粘稠剤は、メチルセルロース、キサンタンガム、ヒドロキシメチルセルロース、アラビアガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ジェランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、トラガカントガム、スクシノグルカンガム、ゼラチン、カラギーナン、デンプン、寒天等の多糖類である。増粘剤は、0.0001~10.0g/L、0.001~8.0g/L、0.01~6.0g/L、0,y1~4.0g/Lの間の濃度である。
【0028】
本明細書で使用する場合、「ナノ流体」という用語は、均一且つ安定して懸濁されたナノ粒子を含有する流体を指す。
【0029】
本発明で使用する場合、「安定」という用語は、30日を超える貯蔵時間の間、その成分又は相が分離することなく均質のままであるケイ酸塩及び酸化亜鉛ナノ粒子を含有する製剤を指す。
【0030】
本発明の一実施形態において、農薬製剤は、非混和性液体の一方が他方に均一に分散している二相系からなるエマルジョンの形態である。本発明において、二相は、界面活性剤と共に、ケイ酸塩及び植物油で形成される。このエマルジョンには、酸化亜鉛ナノ粒子も含まれている。本出願で使用される場合、「ナノ粒子」という用語は、1~999nmの間のサイズを有する粒子を指す。
【0031】
本発明の一実施形態において、農薬製剤は、ケイ酸塩、植物油、界面活性剤又は界面活性剤の混合物、分散剤又は分散剤の混合物、安定剤又は安定剤の混合物、及び酸化亜鉛ナノ粒子を含む。酸化亜鉛ナノ粒子は、0.1~300g/Lの間の濃度である。本発明の一実施形態において、酸化亜鉛ナノ粒子は、1~100nm、10~80nm、25~80nm、及び25~50nmのサイズを有する。
【0032】
本発明の更なる実施形態において、農薬製剤は、ケイ酸塩、植物油、界面活性剤又は界面活性剤の混合物、安定剤又は安定剤の混合物、酸化亜鉛ナノ粒子を含み、分散剤又は分散剤の混合物を更に含む。本出願で使用される場合、「分散剤」という用語は、酸化亜鉛ナノ粒子の凝集を防止して溶液中の分散を維持することを可能にする物質を指す。本発明の一実施形態において、分散剤は、クエン酸アンモニウムとグリセロールとの混合物(1:1.5の比率)及びヘキサメタリン酸ナトリウムから選択される。分散剤は、0.1~500g/L、0.5~400g/L、1.0~300g/L、5.0~200g/L、10.0g/L~100g/L、及び0.1~40g/Lの間の濃度である。
【0033】
本発明の農薬製剤に組み込まれる酸化亜鉛ナノ粒子は、該問題に平均的に精通している者にとって公知である任意の技術、とりわけ、コロイド法、光化学的及び放射化学的還元、マイクロ波照射、デンドリマーの使用、ソルボサーマル合成、ゾルゲル合成、乾式合成等によって合成することができる。本発明の一実施形態において、亜鉛ナノ粒子は、「Synthesis and characterization of zinc oxide nanoparticles: application to textiles as UV-absorbers」、Becheri A.ら、J. Nanopart. Res、10: 679~689により展開されたゾルゲル方法論、及び「Low temperature synthesis of ZnO nanoparticles using mechanochemical route: a green chemistry approach」Azam Aら、IJTAS、2009、1(2): 12~14により展開された方法論の変形によって合成される。
【0034】
前述の農薬製剤の調製は、本発明の形態(modality)に対応する以下の方法によって実施される。ケイ酸塩、植物油、及び界面活性剤又は界面活性剤の混合物、分散剤又は分散剤の混合物、酸化亜鉛ナノ粒子、及び安定剤又は安定剤の混合物を含む製剤は、a)ケイ酸塩水溶液を植物油と混合する工程;b)界面活性剤又は界面活性剤の混合物を添加する工程;c)安定剤又は安定剤の混合物を添加する工程;d)酸化亜鉛ナノ粒子と分散剤とを含むナノ流体を調製する工程;e)工程a)で得られた生成物を工程d)によるナノ流体と混合する工程を含む方法に従って作製される。
【0035】
本発明の製剤は、微生物により生じる植物病害の予防又は防除のために使用することを目的としている。例えば、植物は、野菜、果実又は果序を生成する植物、観賞用植物、薬用植物、マメ科植物、穀物及び塊茎であり得る。特に、チャード(ベーター・ブルガリス(Beta vulgaris))、トウガラシ(カプシウム種(Capsicum spp.))、ニンニク及びタマネギ(アリウム種(Allium spp.))、セロリ(セロリ・グラベオレンス(Celery gravolens))、ナス(ソラナム・メロンゲナソラヌム(Solanum meolongena))、カボチャ(キュウリビタ・モシャタ(Curcurbita moschata))、ハヤトウリ(セチウム・エディュール(Sechium edule))、キャベツ(ブラシカ・オレラセア(Brassica oleracea))、ほうれん草(スピノキア・オレラセア(Spinaca oleracea))、豆(ファセオルス・ブルガリス(Phaseolus vulgaris))、レタス(ラクチュカ・サティバ(Lactuca sativa))、トウモロコシ(ズィー・メイス(Zea mays))、ピーナッツ(アラキス・ヒポゲア(Arachis hypogaea))、トマト(ソラヌム・リコペルシクム(Solanum lycopersicum))、キュウリ(ククミス・サティブス(Cucumis sativus))、オクラ(ヒビスクス・エスクレントゥス(Hibiscus esculentus))、ダイコン(ラパーヌス・サティブス(Raphanus sativus))、ビートルート(ベーター・ブルガリス(Beta vulgaris))、ニンジン(ダウクス・カロタ(Daucus carota))、アボカド(パーシー・アメリカーナ(Persea americana))、バンレイシ(アノナ・スクアモサ(Annona squamosa))、カイミト(クリソフィルム・カイニト(Chrysophyllum cainito))、カニステル(ポウテリア・カムペチアナ(Pouteria campechiana))、チェリー(マルピギア・プニキフォリア(Malpighia punicifolia))、カスタードアップル(アノナ・レティキュラータ(Annona reticulata))、プラム(スポンディア・ズルシス(Spondias dulcis))、ココナッツ(ココス・ヌキフェラ(Coco nucifera))、パパイヤ(カリカ・パパイヤ(Carica papaya))、サワーソップ(アノナ・ムリカタ(Annona muricata))、グアバ(プシディウム・グアジャワ(Psidium guajava))、ザクロ(プニカ・グラナタム(Punica granatum))、ライム(シトラス・アウランティフォリア(Citrus aurantifolia))、レモン(シトラス・リモヌム(Citrus limonum))、レッドマメイ(カロカルプム・マモサム(Calocarpum mammosum))、マメイサントドミンゴ(マメア・アメリカーナ(Mammea americana))、メリコッカノキ(メリコセア・ビジュガ(Melicocea bijuga))、マンダリン(シトラス・レティキュラータ(Citrus reticulata))、マンゴー(マンギフェラ・インディカ(Mangifera indica))、パッションフルーツ(パッシフロラ・ローリフォリア(Passiflora laurifolia))、スイカ(シトルラス・ブルガリス(Citrullus vulgaris))、ダイダイ(シトラス・アウランティウム(Citrus aurantium))、スイートオレンジ(シトラス・シネンシス(Citrus sinensis))、パイナップル(アナナス・コモサス(Ananas comosus))、バナナ(ムサ・パラディシアカ(Musa paradisiaca))、オオバコ(ムサ・バルビシアーナ(Musa balbisiana))、タマリンド(タマリンダス・インディカ(Tamarindus indica))、グレープフルーツ(シトラス・パラディシ(Citrus paradisi))、クレオールグレープフルーツ(シトラス・グランディス(Citrus grandis))、ブドウ(ヴィティス・ヴィニフェラ(Vitis vinifera))、豆(ファセオルス・ブルガリス(Phaseolus vulgaris))、トウモロコシ(ズィー・メイス(Zea mays))、米(オリザ・サティバ(Oryza sativa))、コーヒー(コーヒー・アラビカ(Coffea arabica))、サトウキビ(サッカラム・オフィシナルム(Saccharum officinarum))、綿(ゴシピウム・ヒルスタム(Gossypium hirsutum))、ガーキン(メロテリア・グアダルペンシス(Melothria guadalupensis))、サツマイモ(イポモエス・バタタス(Ipomoes batatas))、ジャガイモ(ソラナム・チュベロサム(Solanum tuberosum))、クレオールポテト(ソラナム・プレジャ(Solanum phureja))、ケープグズベリー(フィサリス・ペルヴィアーナ(Physalis peruviana))、キャッサバ(マニホット・エスクレンタ(Manihot esculenta))、大豆(グリシン・マックス(Glycine max))、イチゴ(フラガリア種(Fragaria spp.))、ブラックベリー(モルス種(Morus spp.))、キイチゴ(ルーバス種(Rubus spp.))、アラカ科のヤシ、アブラヤシ(エラエイス・グイネンシス(Elaeis guineensis))、ココア(テオブロマ・カカオ(Theobroma cacao))、トマトノキ(ソラナム・ベタセウム(Solanum betaceum))、ルロ(ソラナム・キトエンセ(Solanum quitoense))の作物。
【0036】
特に、微生物は細菌、真菌又は卵菌である。例えば、細菌は、シュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)、ラルストニア・ソラナセアラム(Ralstonia solanacearum)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)、キサントモナス種(Xanthomonas spp.)(キサントモナス・オリザエ病原型オリザエ(Xanthomonas oryzae pv. oryzae)、キサントモナス・カンペストリス(Xanthomonas campestris)、キサントモナス・アキソノポディス(Xanthomonas axonopodis)、エルウィニア・アミロボーラ(Erwinia amylovora)、キシレラ・ファスティディオーサ(Xylella fastidiosa)、ディケヤ・ダダンティイ(Dickeya dadantii)、ディケヤ・ソラニ(Dickeya solani)、ペクトバクテリウム・カロトボラム(Pectobacterium carotovorum)、ペクトバクテリウム・アトロセプチカム(Pectobacterium atrosepticum)、クラビバクター・ミシガンエンシス(Clavibacter michiganensis)、クラビバクター・セペドニクス(Clavibacter sepedonicus)、シュードモナス・サバスタノイ(Pseudomonas savastanoi)を含むが、これらに限定されない)である。特に、真菌は、マグナポルテ・オリザエ(Magnaporthe oryzae)、ボトリティス・シネレア(Botrytis cinerea)、プッチニア種(Puccinia spp.)(フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)、フザリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)を含むがこれらに限定されない)、ブルメリア・グラミニス(Blumeria graminis)、ミコスファエレラ種(Mycosphaerella spp.)(ミコスファエレラ・フィジエンシス(Mycosphaerella fijiensis)、及びミコスファエレラ・グラミニコラ(Mycosphaerella graminicola)を含むがこれらに限定されない)、コレトトリカム種(Colletotrichum spp.)、ウスチラゴ・メイディス(Ustilago maydis)、メラムプソラ・リニ(Melampsora lini)、ファコプソラ・パキリジ(Phakopsora pachyrhizi)、及びリゾクトニア・ソラニ(Rhizoctonia solani)である。卵菌に関して、これはフィトフトラ種(Phytophthora spp.)(フィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)、フィトフトラ・ラモルム(Phytophthora ramorum)、フィトフトラ・ソジャ(Phytophthora sojae)、フィトフトラ・カプシシ、フィトフトラ・シンナモミ、フィトフトラ・パルミボラ(Phytophthora palmivora)、フィトフトラ・パラジティカ(Phytophthora parasitica)、ヒアロペロノスポラ・アラビドプシス(Hyaloperonospora arabidopsidis)、プラスモパラ・ビチコラ(Plasmopara viticola)、ピシウム・ウルティマム、アルブゴ・カンディダ(Albugo Candida)、及びペロノスポラ・ファリノーサ(Peronospora farinosa)を含むがこれらに限定されない)であり得る。
【実施例
【0037】
(実施例1)
ZnOナノ粒子のゾルゲル合成
5.5gの量のZnCl2を、油浴中、90℃で水200mLに溶解した。次いで、5MのNaOH 16mLを、90℃で10分間にわたって穏やかに撹拌しながら、ZnCl2溶液に滴下して加えた。沈降により上澄み分散液から粒子を分離した後、上澄み液を廃棄した。懸濁液を蒸留水で5回洗浄し、AgNO3溶液によって懸濁液からのNaClの除去を測定して、NaCl濃度を1μM未満に下げた。得られた精製粒子を超音波浴中において2-プロパノールで10分間解膠して、微小凝集体(micro-agglomerate)を分解させ、ZnOナノユニットを得た。次いで、6000rpmで15分間の遠心分離により粒子を分離した。洗浄手順は3回実施した。最後に、粒子を250℃に5時間さらして、酸化亜鉛ナノ粒子1.5gを得た。
【0038】
(実施例2)
ZnOナノ粒子の乾式合成
21.9gの量の酢酸亜鉛及び酒石酸18gをめのう乳鉢にて室温で30分間粉砕して混合し、酒石酸亜鉛を生成した。酒石酸亜鉛を450℃に1時間さらして、酸化亜鉛ナノ粒子7gを得た。
【0039】
(実施例3)
ZnOナノ粒子のX線粉末回折特性評価
図1A及び図1Bに見られるように、実施例1及び実施例2に従って合成された酸化亜鉛ナノ粒子は、六方晶ウルツ鉱相に対応し、類似の格子定数(a=3.251 y c=5.205Å)を有する結晶構造を示す。追加の相は観察されず、得られた化合物の純度が保証される。特に、合成されたナノ粒子から得られた回折図は、市販のUSPナノ粒子と同じピークを示している(図1C)。
【0040】
(実施例4)
FT-IR分光法によるZnOナノ粒子の特性評価
実施例1及び実施例2に従って合成された酸化亜鉛ナノ粒子のFT-IRスペクトル(図2A及び図2B)は、430cm-1付近のZn-O吸収バンドを示している。3450及び2350cm-1のピークは、おそらく大気中に存在する水分及びCO2により、極微量の-OH及びC=Oが存在することを示している。以下の乾式合成(ST SC)、ゾルゲル合成(ST SOL-GEL)、2-プロパノール解膠(pectization)を伴うゾルゲル合成(ST SOL-GEL PECT)、2-プロパノール解膠及び120℃でのオーブン乾燥を伴うゾルゲル合成(ST SOL-GEL PECT SC)によって製造したナノ粒子から同じスペクトルを得た。
【0041】
FT-IRスペクトルでは、分析前駆体(analytical precursor)の、乾式合成によるZnOナノ粒子(ZnO NPs SS Analit)における波長400cm-1の強いバンドで酸化亜鉛の存在が解釈され、前駆体酒石酸を市販の酒石酸に変更して(ZnO NPs SS AT)同じ合成を使用したものが類似のスペクトルを示し、化合物ZnO USPも同じスペクトルを示した。
【0042】
(実施例5)
紫外可視分光法によるZnOナノ粒子の特性評価
異なる溶媒を使用して、実施例1及び実施例2に従って合成された酸化亜鉛ナノ粒子のUV-Visスペクトルを図3A図3B図3C及び図3Dに示す。吸光度は、水性及び有機性で372及び362nmから示される。解膠を伴う、脱イオン水溶解ゾルゲル合成(ST SOL-GEL PECT-H2O)が1.72の最高吸光度であり、中間の大きさの0.36~0.56は、蒸留水溶解ゾルゲル合成(ST SOL-GEL-H2O)、2-プロパノール溶解プロパノール(ST SOL-GEL PECT-C3H8O)に対応し、より低い大きさの0.228は、脱イオン水溶解乾式合成(ST SC-H2O)に対応し、後者の値も著者により典型的なZnOナノ粒子で報告されている[4、6]。
【0043】
紫外可視分光法により、酸化亜鉛は370~390nmの範囲の波長において0.22%~1.80%の間の吸光度で報告され、これにより化合物の安定性及び純度を定性的に識別、評価可能である。
【0044】
(実施例6)
走査型電子顕微鏡(SEM)によるZnOナノ粒子の特性評価。
図4に見られるように、実施例2(図4A)の酸化亜鉛ナノ粒子は球形で直径が25~47.2nmの間であるか、不規則で凝集体を形成している。実施例1で合成された酸化亜鉛ナノ粒子(図4B)に関して、該粒子は、幅29.83nm及び長さ72.05nmの明確な花弁形シートの凝集体を形成する。最後に、市販のUSP酸化亜鉛ナノ粒子(図4C)に関して、該粒子は長さ205~500nm、底99~177nmの明確な棒状、及びいくつかの形状を有する凝集体の形態である。
【0045】
(実施例7)
農薬製剤の調製
表1~表5に示す濃度に従うさまざまな製剤(製剤A~H)を試験した。この目的のために、2種の初期組成物が作製された。第1の組成物は、最初にK2SO3 40%w/v水性溶液を大豆油と混合し、次いでTween 80及びCirrasolを添加し、最後にキサンタンガムを添加することによって調製された。第2の組成物は、最初にZnOナノ粒子をボールミルでクエン酸アンモニウム及びグリセロールと混合し、次いで超音波で10分間混合することによって調製された。最後に、両方の組成物を混合した。表1~表5に示すように、すべての製剤がすべての成分を含むわけではない。成分の1つが含まれない場合は、そのような成分に関連した工程を省略することにより、前述の手順を単純に続行した。或いは、前述の方法に従って濃縮製剤を調製した後、濃縮製剤を希釈して他の濃度を得た。例えば、表2~表5の製剤も、表1の濃縮製剤を水で希釈することによって調製された。したがって、表2の製剤は、表1の製剤に関して40に等しい希釈係数を示し、表3の製剤は、表1の製剤に関して200に等しい希釈係数を示し、表4の製剤は、 表1の製剤に関して400に等しい希釈係数を示し、表5の製剤は、表1の製剤に関して800に等しい希釈係数を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
(実施例8)
本発明の製剤の安定性評価
製剤D、F及びHの安定性は、EDS、SEM(図5)、紫外可視分光法(図6A及び図6B)及びTurbiscan技術によって決定され、後者の2つは、10日の期間における製剤の安定性を評価する。EDSの結果を考慮すると、製剤Dに亜鉛、酸素、及び炭素が含まれることは明らかである。更に、該製剤は、粒径が42~60nmの間であり、球状で、不規則な形状の凝集が多く、完全にコーティングされた酸化亜鉛ナノ粒子を示す(図5A)。製剤Fに関しては、亜鉛、酸素、炭素、ケイ素、カリウムの存在が特徴である。更に、該製剤は、製剤の乳化化合物による、粒子を覆う線状網内に、粒径が22~47.4nmの間であり、球状で、直径が542.0nm~638.2nmの球状凝集体を伴う酸化亜鉛ナノ粒子を示す(図5B)。最後に、製剤Hでは、亜鉛、酸素、ケイ素、カリウムの存在が証明されている。製剤Hの酸化亜鉛ナノ粒子は、製剤の乳化化合物による、粒子を取り囲み覆う線状網内に、粒径が24.0~68.0nmの間であり、さまざまな凝集を伴う球状、球形の変形及び多角形を伴う球状を有する(図5C)。評価されたすべての製剤は、図7で明らかなように、長期間にわたって高い安定性を示している。
【0052】
(実施例9)
実施例7の製剤の抗真菌活性評価
実施例7の製剤D、F、H、I及びJの抗真菌活性並びにその1/2及び1/4希釈物を、4種の微生物:ボトリティス・シネレアATCC 36634、ミコスファエレラ・フィジエンシスATCC 36055、フィトフトラ・パルミボラATCC 46634及びフィトフトラ・インフェスタンスATCC 48716で試験した。本発明の製剤の効果と比較するために、市販の殺真菌剤及び殺卵菌剤(oomyceticide):Misilk 360、Nitrofil FT、Siganex、Mancozeb 80% WP、及びForum 500 WPも試験した。更に、ZnOナノ粒子のサイズの影響を決定するために、前述の製剤は、本発明の製剤で使用されるナノ粒子よりも大きい粒径を特徴とする市販の酸化亜鉛USPを使用して調製された。市販のUSP酸化亜鉛を含有する製剤はアスタリスク(*)で示されている。
【0053】
真菌及び卵菌は、菌株に応じて、2%ポテトデキストロース寒天培地(PDA)にて、24±1℃の温度で7~30日間培養し、増殖させた。その後、本発明の製剤を含有する新しいPDA培地に播種した。製剤は表3、表4及び表5に示される濃度で使用され、滅菌蒸留水が対照として使用された。次いで、ノギスを使用して、病原体の放射状成長を時間に基づいて測定した。すべてのアッセイは3回実施した。阻害率の計算に使用される式は次のとおりである。
【0054】
【数1】
【0055】
表6は、評価された製剤における、7日間の増殖後のB.シネレアATCC 36634について得られた結果を示している(図8A図8B図8C図8D及び図8E)。アッセイ7日目に得られた結果によると、製剤F及びHは、ボトリティス・シネレア菌株において最も高いインビトロ抗真菌活性を示し、抗真菌剤なしの増殖対照に対し、増殖阻害率が80~99%であった。評価された最高濃度の製剤F及びHの抗真菌活性は、市販の殺真菌剤Siganex及びMancozebにより示される抗真菌活性と同等であった(図12A)。
【0056】
評価された製剤における、M.フィジエンシスATCC 36055増殖阻害の40日目の結果を表7に示す(図9A図9B図9C図9D及び図9E)。該真菌の増殖は55日目までも安定化されていた。このため、40日目が真菌の放射状成長の最大点と見なされた。結果を考慮すると、製剤D、H、及びH*は、阻害対照として評価された市販の殺真菌剤と同様に真菌増殖を100%阻害し、M.フィジエンシス菌種に対して最高のインビトロ抗真菌活性を示した(図12B)。
【0057】
同様に、評価された製剤における、P.パルミボラATCC 46634菌種について研究の17日目に得られた結果を表8に示す(図10A図10B図10C図10D及び図10E)。結果によれば、化合物F、H、H*及びMisilk 360(図12C)は、評価された最低濃度(希釈係数800)でも最も高いP.パルミボラ活性(対照に対し94%を超える増殖阻害率)を示した。化合物Nitrofil FTを除き、評価された製剤は最高濃度において該卵菌の99%超を阻害した。
【0058】
評価された製剤における、P.インフェスタンスATCC 46634増殖阻害の20日目の結果(図11A図11B図11C図11D及び図11E)を表9に示す。得られた結果によれば、化合物(J)を除き、本発明の製剤は、P.インフェスタンスの増殖を98~100%阻害し得る。
【0059】
結論として、製剤F、F*、H、及びH*の最高濃度は、評価されたさまざまな植物病原体に対して、市販の殺真菌剤Siganex、Mancozeb 80% WP及びForum 500 WPと同等である、インビトロで最良の抗真菌又は抗卵菌活性を示す製剤であると考えられる。
【0060】
【表6】
【0061】
【表7】
【0062】
【表8】
【0063】
【表9】
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図12A
図12B
図12C
図12D
【国際調査報告】