(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-05
(54)【発明の名称】セラミック
(51)【国際特許分類】
C04B 35/495 20060101AFI20221223BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20221223BHJP
H01G 4/12 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
C04B35/495
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
H01G4/12 090
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525441
(86)(22)【出願日】2020-10-29
(85)【翻訳文提出日】2022-06-24
(86)【国際出願番号】 GB2020052731
(87)【国際公開番号】W WO2021084252
(87)【国際公開日】2021-05-06
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505361716
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ リーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ミルン,スティーブ ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,アンドリュー ポール
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,トーマス アンソニー
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AE00
5E082AB03
5E082FF05
5E082FG26
(57)【要約】
本発明は、セラミックに関し、セラミックを調製する方法及びコンデンサの誘電体としてのセラミックの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式:
【数1】
(式中、
[α]は、希土類元素及びアクチニドからなる群の1つ以上を示し;
[β]は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群の1つ以上を示し;
[γ]は、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、マンガン、スズ、シリコン及びアルミニウムからなる群の1つ以上を示し;
-0.1≦d≦0.2;
0<e≦0.1;
0≦f≦0.2;
0≦g≦0.2;
0≦h≦0.1;
f=d+g-e;
h≦f;かつ、
kは、確実に電荷のバランスをとるのに十分な酸素欠損を示す)
で表される正方晶タングステンブロンズ構造がある固溶体を含むセラミック。
【請求項2】
実質的に単相である、請求項1に記載のセラミック。
【請求項3】
0<d≦0.2である、請求項1又は2に記載のセラミック。
【請求項4】
0.01≦e≦0.075である、請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミック。
【請求項5】
0<f≦0.2である、請求項1~4のいずれか一項に記載のセラミック。
【請求項6】
0.01≦f≦0.15である、請求項1~5のいずれか一項に記載のセラミック。
【請求項7】
0<h≦0.1である、請求項1~6のいずれか一項に記載のセラミック。
【請求項8】
0.01≦h≦0.075である、請求項1~7のいずれか一項に記載のセラミック。
【請求項9】
[α]は、イットリウム(Y)又はランタン(La)である、請求項1~8のいずれか一項に記載のセラミック。
【請求項10】
[α]はイットリウム(Y)である、請求項1~9のいずれか一項に記載のセラミック。
【請求項11】
[β]はナトリウム(Na)である、請求項1~10のいずれか一項に記載のセラミック。
【請求項12】
[γ]はジルコニウム(Zr)である、請求項1~11のいずれか一項に記載のセラミック。
【請求項13】
前記固溶体は、以下の一般式:
【数2】
で表される正方晶タングステンブロンズ構造を備える、請求項1~12のいずれか一項に記載のセラミック。
【請求項14】
前記固溶体は、以下の一般式:
【数3】
(式中、
0<x≦0.1;
0≦y≦0.1である)
で表される正方晶タングステンブロンズ構造を備える、請求項1に記載のセラミック。
【請求項15】
0.01≦x≦0.075である、請求項14に記載のセラミック。
【請求項16】
0<y≦0.1である、請求項14又は15に記載のセラミック。
【請求項17】
0.01≦y≦0.075である、請求項14~16のいずれか一項に記載のセラミック。
【請求項18】
前記固溶体が以下の一般式:
【数4】
で表される正方晶タングステンブロンズ構造を備える、請求項14~17のいずれか一項に記載のセラミック。
【請求項19】
xとyは同じである、請求項14~18のいずれか一項に記載のセラミック。
【請求項20】
Sr、Ca、[α]、[β]、Nb及び[γ]を含む混合金属酸化物の焼成可能な形状を焼成することにより得ることができる、請求項1に記載のセラミック。
【請求項21】
コンデンサの誘電体としての請求項1~20のいずれか一項に記載のセラミックの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックに関し、セラミックを調製する方法及びコンデンサの誘電体としてのセラミックの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電体であるBaTiO3系の市販のクラスII高体積効率X7R-9Rセラミックコンデンサの動作範囲は、-55℃から125~175℃である。この上限温度は、再生可能エネルギー及び低炭素エネルギー技術に関連する多くの新興エレクトロニクス用途には不十分である。高電圧パワーエレクトロニクスは、再生可能エネルギーの生成及びグリッド分配に必要であり、250℃以上の温度でワイドバンドギャップ半導体と共に動作することができる受動部品による。クラスIIのコンデンサには、300℃以上といった、さらに高温でも安定した性能を維持しなければならない用途もある。例えば、航空宇宙用に開発される分散型エンジン制御回路や、地熱エネルギー探査用の深井戸のドリルビットフィードバックシステム等である。
【0003】
適当な次世代誘電体は、業界標準の動作下限温度-55°Cと上限温度250~300℃を維持しつつ、εr値の安定性をElectronics Industries AllianceのX’及びR’仕様に対して±15%以内で維持しなければならない。体積効率の高いクラスIIコンデンサの場合、εrは全温度範囲にわたり1000より高くなければならない。低誘電損失は、さらなる基本要件である。
【0004】
過去10年間にわたり、高温誘電体として広範に研究されてきたのは、ペロブスカイトABO3結晶構造がある組成的に複雑なリラクサ強誘電体である。これらの中には、上記の目標仕様を満たす(又はほとんど満たす)ものもある。しかし、これらは一般に酸化ビスマスを含んでいるため、還元雰囲気(Po2<10-8気圧)及び1000℃以下の焼成温度で実施される、市販の多層セラミックコンデンサ(MLCC)製造プロセスと熱力学的に合致しない。このような条件では、低コストのニッケル電極を使用することができる。Bi含有(又はPb含有)誘電体セラミックを工業的に変換する場合の障壁は、MLCC産業における通常の焼成条件下で、Ni/NiO及びBi/BiO1.5カップルのGibbs自由エネルギーが類似していることが原因である。これにより、誘電体層中のBiイオン(又はPbイオン)の化学的還元及びNi電極の酸化というリスクがもたらされる。そしてこれにより、誘電体の電気絶縁特性及び電極の伝導特性が共に著しく低下する。
【0005】
特許文献1は、(1)タングステンブロンズ構造がある(K1-xNax)(Sr1-y-zBayCaz)2Nb5O15(式中、0<=x<0.2である)、(2)BaTiO3、及び、ペロブスカイト構造がある関連化合物、並びに(3)元素Mを含む多相カリウム含有セラミック組成物、を開示する。
【0006】
特許文献2は、一般に、A3(B1)(B2)4O15として表される、正方晶タングステンブロンズ構造がある主成分と、Mn、Cu、V、Fe、Co又はSiである付属成分と、を含むセラミック組成物を開示する。
【0007】
特許文献3及び4は、(1)式(K1-xNax)(Sr2-y-zBayCaz)mNb5O15(式中、0<=x<0.2である)があるカリウム含有タングステンブロンズ型複合酸化物、(2)Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選択されるR、並びに(3)Mn、V、Li、Si、Ni、Cr、Co、Fe、Zn、Mg及びZrから選択されるMを含む、セラミック組成物を開示する。
【0008】
特許文献5は、式Sr2-xCaxNaNb5O15(式中、xは、0.14~0.155の範囲である)で表される非ドープセラミックを開示する。
【0009】
特許文献6は、式(K1-xNax)Sr2Nb5O15(式中、0<=x<0.4である)のタングステンブロンズ型錯体酸化物及びGeの酸化物を主とする多相カリウム含有組成物を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2008/155945号
【特許文献2】特開2018/104209号公報
【特許文献3】米国特許第777921号
【特許文献4】米国特許出願公開第2009/290285号明細書
【特許文献5】中国特許出願公開第107892572号明細書
【特許文献6】特開2018/135254号公報
【発明の概要】
【0011】
本発明は、タングステンブロンズSr2NaNb5O15のA及びB部位に低レベルの特定のドーパントを組み込むと、安定かつ、所望の温度範囲にわたって比誘電率が高いセラミックが得られるという認識に基づく。
【0012】
したがって、第1の態様としては、本発明は、以下の一般式:
【0013】
【数1】
(式中、
[α]は、希土類元素及びアクチニドからなる群の1つ以上を示し;
[β]は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群の1つ以上を示し;
[γ]は、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、マンガン、スズ、シリコン及びアルミニウムからなる群の1つ以上を示し;
-0.1≦d≦0.2;
0<e≦0.1;
0≦f≦0.2;
0≦g≦0.2;
0≦h≦0.1;
f=d+g-e;
h≦f;かつ、
kは、確実に電荷のバランスをとるのに十分な酸素欠損を示す)
で表される正方晶タングステンブロンズ構造がある固溶体を含むセラミックを提供する。
【0014】
本発明のセラミックは、有利には、市販の多層セラミックコンデンサの製造に通常用いられるニッケル電極に適合する温度範囲にわたって一貫して比誘電率が高い。
【0015】
好ましくは、セラミックは実質的に単相である。
【0016】
好ましくは、セラミックは、本質的に固溶体からなる。例えば、当該固溶体は、セラミック中に、90wt%以上、特に好ましくは95wt%以上、より好ましくは99wt%以上の量で存在することができる。
【0017】
セラミックは、1つ以上の金属酸化物相をさらに含むことができる。当該金属酸化物相(又は各相)は、[β]NbO3(例、NaNbO3)等の三元酸化物又は[γ]O2(例、ZrO2)等の二元酸化物である。
【0018】
当該金属酸化物相(又は各相)は、セラミック中に、10wt%以下、好ましくは5wt%以下、より好ましくは1wt%以下の量で存在することができる。存在する当該金属酸化物相(又は各相)は、微量であってもよい。
固溶体は、部分的な固溶体であってよい。好ましくは、固溶体は完全な固溶体である。
【0019】
正方晶タングステンブロンズ構造は、充填されていても、充填されていなくてもよい。好ましい実施形態では、固溶体には、疑似正方晶セルがある。
【0020】
好ましくは、セラミックには、実質的に
図1又は9に例示するようなX線回折パターンがある。
【0021】
本発明の一実施形態では、h<fである。本発明の他の実施形態では、h=fである。
【0022】
好ましい実施形態では、0<d≦0.2である。特に好ましくは、0.01≦d≦0.15である。より好ましくは、0.05≦d≦0.1である。
【0023】
好ましい実施形態では、0.01≦e≦0.075である。特に好ましくは、0.025≦e≦0.05である。好ましくは、0<f≦0.2である。
【0024】
好ましい実施形態では、0.01≦f≦0.15である。特に好ましくは、0.05≦f≦0.1である。
【0025】
好ましくは、0≦g≦0.1である。特に好ましくは、g=0である。
【0026】
好ましくは、0<h≦0.1である。
好ましい実施形態では、0.01≦h≦0.075である。特に好ましくは、0.025≦h≦0.05である。
【0027】
通常、0≦k≦0.4である。好ましくは、k=0である。
【0028】
好ましくは、[α]はイットリウム(Y)又はランタン(La)である。特に好ましくは、[α]はイットリウム(Y)である。
【0029】
好ましくは、[β]は1つ以上のアルカリ金属である。特に好ましくは、[β]はナトリウム(Na)である。
【0030】
好ましくは、[γ]はジルコニウム(Zr)である。
【0031】
好ましい実施形態では、前記固溶体は、以下の一般式:
【0032】
【数2】
で表される正方晶タングステンブロンズ構造を備える。
【0033】
好ましい実施形態では、前記固溶体は、以下の一般式:
【0034】
【数3】
(式中、
0<x≦0.1;
0≦y≦0.1である)
で表される正方晶タングステンブロンズ構造を備える。
【0035】
好ましい実施形態では、0.01≦x≦0.075である。特に好ましくは、0.025≦x≦0.05である。
好ましくは、0<y≦0.1である。
【0036】
好ましい実施形態では、0.01≦y≦0.075である。特に好ましくは、0.025≦y≦0.05である。
【0037】
好ましい実施形態では、前記固溶体が以下の一般式:
【0038】
【数4】
で表される正方晶タングステンブロンズ構造を備える。
好ましくは、xとyは同じである。
【0039】
好ましくは、セラミックの25℃での比誘電率(εr(25C))は、1000以上、特に好ましくは1050以上、より好ましくは1200以上、さらにより好ましくは1300以上である。
【0040】
好ましくは、セラミックの25℃での比誘電率(εr(25C))は、温度範囲-55~270℃(好ましくは-55~300℃)にわたって、25℃での比誘電率(εr(25C))と比較して≦16%(特に好ましくは≦15%、より好ましくは≦14%)変化する。
【0041】
好ましくは、セラミックの中央比誘電率(εr)は、温度範囲-55~270℃(好ましくは-55~300℃)では1000以上、特に好ましくは1050以上、より好ましくは1200以上、さらに好ましくは1300以上である。
【0042】
好ましくは、セラミックの比誘電率(εr)は、温度範囲-55~270℃(好ましくは-55~300℃)にわたって、当該比誘電率の中央値と比較して≦16%(好ましくは≦15%、特に≦14%)変化する。
【0043】
好ましくは、セラミックの誘電正接(tanδ)は、温度範囲-10~300℃(好ましくは-55~300℃)にわたって、≦0.03(特に好ましくは≦0.025)である。
【0044】
セラミックは、Sr、Ca、[α]、[β]、Nb及び[γ]を含む混合金属酸化物の焼成可能な形状を焼成することにより得ることができる。
【0045】
好ましい実施形態では、セラミックは、以下の:
(A)Sr、Ca、[α]、[β]、Nb及び[γ]の各化合物の実質的に化学量論的な量を密接する混合物に調製する工程;
(B)前記密接する混合物を密接する粉末へ変換する工程;
(C)前記密接する粉末中の反応を誘導して、混合金属酸化物を生成させる工程;
(D)前記混合金属酸化物を焼成可能な形状に操作する工程;かつ、
(E)前記焼成可能な形状の混合金属酸化物を焼成してセラミックを製造する工程;
によって得ることができる。
【0046】
さらに他の態様では、本発明は、以下の:
(A)Sr、Ca、[α]、[β]、Nb及び[γ]の各化合物の実質的に化学量論的な量を密接する混合物に調製する工程;
(B)前記密接する混合物を密接する粉末へ変換する工程;
(C)前記密接する粉末中の反応を誘導して、混合金属酸化物を生成させる工程;
(D)前記混合金属酸化物を焼成可能な形状に操作する工程;かつ、
(E)前記焼成可能な形状の混合金属酸化物を焼成してセラミックを製造する工程;
を含む、本明細書中に定義されるセラミックを調製するためのプロセスを提供する。
【0047】
好ましくは、工程(A)では、Sr、Ca、[α]、[β]、Nb及び[γ]の各化合物の実質的に化学量論的な量は、以下の組成式:
【0048】
【数5】
(式中、α、β、γ、x、及びyは、上記の通りである。)によって表される。
【0049】
Sr、Ca、[α]、[β]、Nb及び[γ]の各化合物は、酸化物、硝酸塩、水酸化物、炭酸水素塩、イソプロポキシド、ポリマー及び炭酸塩からなる群から各々独立して選択されてよい。
【0050】
密接する混合物は、スラリー(例えば、粉砕スラリー)、溶液(例えば、水溶液)、懸濁液、分散液、ゾル-ゲル又は溶融フラックスであってよい。
【0051】
工程(C)には、加熱(例えば、焼成)が含まれる。好ましくは、工程(C)は、段階的又は間隔的な加熱を含む。工程(C)は、段階的又は間隔的な冷却を含んでよい。
【0052】
好ましくは、密接する粉末は、粉砕された粉末である。
【0053】
工程(E)では、段階的又は間隔的な焼成とすることができる。好ましくは、工程(E)は、段階的又は間隔的な焼成及び段階的又は間隔的な冷却を含む。
工程(E)は、焼成助剤の存在下で行うことができる。当該焼成助剤が存在することにより、緻密化が促進される。
【0054】
工程(D)は、混合金属酸化物を粉砕する工程を含んでよい。工程(D)は、混合金属酸化物をペレット化する工程を含んでよい。
【0055】
さらに他の態様では、本発明は、コンデンサ内の誘電体として、本明細書で定義されるようなセラミックの使用を提供する。
【0056】
好ましくは、コンデンサはクラスIIコンデンサである。
【0057】
本発明による使用において、コンデンサは、-55~270℃、特に-55~300℃の範囲の温度で動作可能であることが好ましい。
【0058】
本発明による使用において、コンデンサは、航空宇宙用又は自動車用の分散型エンジン制御回路、地熱エネルギー探査用、高圧パワーエレクトロニクス用又は再生可能エネルギー用に配置されることが好ましい。
【0059】
本発明は、以下の実施例及び添付の図面を参照して、非限定的な意味で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】1300℃で4時間焼成後の粉砕ペレットのX線回折の結果を示すグラフである。a)未修飾Sr
2NaNb
5O
15;b)Sr
1.95Ca
0.025Na
1.0Y
0.025Zr
0.025Nb
4.975O
15;c)Sr
1.90Ca
0.05Na
1.05Y
0.05Zr
0.05Nb
4.95O
15(*はNaNbO
3相を示し、他の記号は単斜晶ZrO
2による微弱なピークを示す)。
【
図2】Sr
2-xCa
xNaNb
5O
15における異なるCa含有量(含量(x))に対する斜方晶系格子定数を示すグラフである。
【
図3】焼成、研磨及びエッチングしたセラミックSr
2-x-yCa
xNa
1.0Y
yZr
yNb
5-yO
15のSEM顕微鏡写真である。(a)x=0.05、y=0、及び(b)x=0.05、y=0.05である。
【
図4】Sr
2-x-yCa
xNa
1.0Y
yZr
yNb
5-yO
15、x=0.05、y=0.05のSEM後方散乱画像と対応するEDX組成分布図である。後方散乱画像におけるより暗い粒子はNa富化領域に対応し、ミクロンサイズの明るいコントラスト粒子はZr富化領域である。
【
図5】Sr
2-x-yCa
xNa
1.0Y
yZ
ryNb
5-yO
15(x=0.05,y=0.05)の高解像度HAADF-STEM画像及びEDX元素マップを示す写真である。Zrのマッピングにより、主相の格子中にZrが存在することが確認された。
【
図6】比誘電率-温度及び損失正接(接線)-温度プロットのグラフである。比誘電率-温度及び損失正接(接線)-温度プロットは、より低温でのT1ピークの周波数分散が強調されている:a)未修飾のSr
2NaNb
5O
15;b)Sr
1.95Ca
0.025Na
1.0Y
0.025Zr
0.025Nb
4.975O
15;c)Sr
1.90Ca
0.05Na
1.0Y
0.05Zr
0.05Nb
4.95O
15。
【
図7】比誘電率-温度及び損失正接(接線)-温度プロット(1kHzデータ)に及ぼすCaYZrの影響:黒のダッシュはSr
2NaNb
5O
15、赤のダッシュはSr
1.95Ca
0.025Na
1.0Y
0.025Zr
0.025Nb
4.975O
15、青のラインはSr
1.90Ca
0.05Na
1.0Y
0.05Zr
0.05Nb
4.95O
15。
【
図8】Sr
2-xCa
xNa
1.0Nb
5O
15、x=0.025、1kHzにおける温度250~350℃での誘電損失正接値の低下における過剰なNa
2Oの影響を示すグラフである。
【
図9】Sr
2-2zCa
zNaNb
5-zZr
zO
15の粉砕した焼成ペレットのX線粉末回折データの全パターンを精密化したグラフである:a)z=0;b)z=0.025;c)z=0.05。凡例中の用語「NN」及び「TTB」は、各々ニオブ酸ナトリウム型ペロブスカイト第2相及び擬似正方晶タングステンブロンズ主相である。
【
図10】Sr
2-2zCa
zY
zNaNb
5-zZr
zO
15のSEM顕微鏡写真である:(a)z=0及び(b)z=0.05(1300℃で4時間焼成)。
【
図11】試料組成z=0.05のSEM‐EDX画像は、XRD及びZrO
2粒子(1300℃で4時間焼成)によって同定されたNaNbO
3相と一致する二次Na富化相を示した。
【
図12】走査型TEM-EDX画像により、従来のペロブスカイト型BaTiO
3X
7R温度安定性誘電体とは対照的に、結晶粒子間に検出可能な元素のグラデーションがないことが確認された。HAADF*画像(左上)のストライエーションは、TEM試料の調製に用いたFIB-SEM薄膜化手法による「カーテイング」アーチファクトである。*HAADF高角度環状暗視野。
【
図13】Sr
2-2zCa
zY
zNaNb
5-zZr
zO
15に対する比誘電率-温度及び損失正接(接線)-温度応答:a)z=0;b)z=0.025;c)z=0.05。
【
図14】Sr
2-2zCa
zY
zNaNb
5-zZr
zO
15:(a)z=0;(b)z=0.025;(c)z=0.05におけるεr値の-65℃から≧300℃までの安定性を強調する1kHzの比誘電率を比較するグラフである。点線の輪郭は、環境アセスメントで要求される±15%の制限値を示す。誘電損失正接プロットも示されている。
【
図15】(a)E
max=40kVcm
-1及び(b) E
max=5kVcm
-1に対するP-Eループの比較を示すグラフである。
【
図16】電場(界)振幅の増加の関数としての比誘電率の(a)実部及び(b)虚部の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0061】
実験
Sr2NaNb5O15、Sr2-xCaxNaNb5O15(x=0.025、0.05及び0.075)及びSr2-x-yCaxYyNaNb5-yZryO15の試料を、混合酸化物合成を用いて調製した。粉末形態の出発試薬は、炭酸ストロンチウム(Aldrich、99.9%)、炭酸カルシウム(Aldrich、>99%)、炭酸ナトリウム(Sigma-Aldrich、99.95%)、酸化ニオブ(Alfa Aesar、99.9%)、酸化イットリウム(Alfa Aesar、99.9%)及び酸化ジルコニウム(Aldrich、99%)であった。粉末を、イソプロパノール中の安定化ジルコニア粉砕媒体を用いて、ボールミル粉砕前に、24時間まで適当な比率で混合した。乾燥粉末を高純度アルミナるつぼ中で、1200℃で6時間(加熱速度5℃/分)焼成した。2質量%のバインダー(Optapix AC112、Zschimmer & Schwarz)を含む焼成粉末を24時間水中でボールミル処理し、乾燥させ、300μmメッシュのナイロン篩を通過させ、その後、直径1cmの鋼ダイ中で100MPa(90秒)で一軸圧縮した。ペレットを高純度アルミナるつぼ中の同じ組成の粉末床上に置き、同じ組成の粉末で約1cmの深さに被覆した。焼成のために、圧縮ペレットをまず1℃/分で550℃に加熱し、4時間保持してバインダーを燃焼させた。次いで、ペレットを5℃/分で(例えば)1300℃又は1350℃に加熱し、この温度で4時間保持した。
【0062】
密度はペレット寸法と質量から測定した。理論密度は公称単位格子量と測定された格子パラメータから求めた。粉末X線回折(XRD)による相分析を、Bruker D8粉末X線回折計を用いて行った。単位格子定数はリートベルト法により求めた。走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)を、エネルギー分散型X線能力(EDX)と共に用いて、微細構造の評価と組成の情報を得た。比誘電率(εr)及び損失正接(tanδ)は、HP4284 LCRメータ(Hewlett Packard)を用いて、20~400℃の温度範囲で、一定の周波数における温度の関数として測定した。-70℃までの温度では、環境チャンバ(Tenney社製)を用いた。銀電極を対向するペレット面(Sun Chemical、Gwen Electronic Materials)に貼り付けた。
【0063】
結果と考察
構造解析
Sr
2-xCa
xNaNb
5O
15の焼成ペレットを粉砕した粉末のXRDパターン(x=0.0及び0.05については
図1を参照)は、文献で報告されたものと概ね同様であった。2θの32.24°におけるピークの肩はNaNbO
3の主ピークに対応する(Garcia-Gonzalez,E.,Torres-Pardo,A.,Jimenez,R.and Gonzalez-Calbet,J.(2007).Structural Singularities in Ferroelectric Sr
2NaNb
5O
15. Chemistry of Materials,19(14),pp.3575-3580及びTorres-Pardo,A.,Jimenez,R.,Gonzalez-Calbet,J. and Garcia-Gonzalez,E.(2011).Structural Effects Behind the Low Temperature Nonconventional Relaxor Behavior of the Sr
2NaNb
5O
15 Bronze[online] Inorganic Chemistry,50(23),pp.12091-12098を参照のこと)
この種のタングステンブロンズの回折パターンを正方晶として指標化するか、あるいはNbO
6八面体の傾きから生じるスーパーセルを考慮したより大きな斜方晶に基づいて指標化するかについては、文献上あいまいなところがある。
図1の回折パターンは、Garcia-Gonzalez[上記]によってSr
2NaNb
5O
15について報告された斜方晶セルに基づいて指標化されている。Sr(及びおそらくNa)のCa置換による固溶体形成は、格子定数のわずかなシフトによって確認された
図2参照)。
【0064】
測定密度は理論密度の~88~92%に相当する4.7~4.8g/cm
3の範囲であった。粒径は、従来の混合酸化物合成(通常<7μm、
図3参照)によって調製されたセラミックの場合に期待されたサイズであった。
【0065】
後方散乱SEM画像のコントラストの変化から、粒子の約5%の組成の変化が示唆される、これはSEM-EDX元素マッピングにより、マトリクスよりもNa含有量が高い粒子に起因することが示された(
図3参照)。当該粒子はXRDによって検出されるNaNbO
3相である。
【0066】
固溶体Sr
2-x-yCa
xY
yNaNb
5-yZrO
15にYとZr(YをSrに、ZrをNbに等しく置換すると仮定)を取り入れた場合の効果を、x=0.025とy=0.025、x=0.05とy=0.05について検討した。XRDのピーク位置は、y=0の場合と比較してほとんど差がなかった(
図1参照)。しかし、少量のジルコニアが検出された。
【0067】
図4は、YZr修飾試料のSEM-EDX元素マッピングである。y=0の試料と同様にNa富化結晶粒子が確認された。また、Zr富化結晶粒子も見られ、XRDで検出されたZrO
2のピークと一致する(
図1参照)。このことから、Zr
4+イオンがNb
5+イオン(ZrNb)に置換され、Y
3+イオンがSr
2+イオン(YSr)に置換されるという電荷平衡機構の仮定に疑義が生じた。しかし、高解像度S/TEMとEDXを用いたさらなる微細構造解析(
図5参照)により、すべてのマトリクス粒子にY及びZrの存在が明らかになり、Sr
2-xCa
xNaNb
5O
15格子への両元素の格子置換が確認された。1350℃の焼成温度では、ZrO
2量は1300℃に比べて有意に減少し、このZrO
2の量により、遊離したZrO
2が(部分的に)不完全な固体反応の結果であることが示された。
【0068】
SEM及びS/TEM EDX分析により、1300℃で焼成した試料中に~1μmのジルコニア粒子が存在することが確認された。ジルコニアは1350℃で焼成された試料にも存在したが、その量は減少していた。イットリウムを含む第二相の証拠はなかった。
【0069】
したがって、SEM及びS/TEM EDXの解析結果により、欠陥化学が出発組成式で仮定されるよりも複雑であることが示唆される。主相の組成は公称の固溶体式からわずかにずれているであろう。焼成セラミックでは、電荷のバランスにより、主にSr(Ca)とNaが置換され、Bサイト置換は当初の予想よりも制限されているようだ。これは、余剰のNa、Sr及びZrイオンを生成する効果があり、検出された相集合と一致する。構造と特性の関係を詳細に理解し、最適なセラミック加工条件を確立するためには、相平衡と欠陥化学の別個の研究が必要である。XRD、SEM、S/TEM-EDXの結果を総合すると、最も有用な誘電特性がありセラミック製品は、一般式Sr2-dCaeYfNa1-gNb5-hZrhO15-k(f=d+g-e及びh<f)によって最もよく表されることが示唆される。
【0070】
誘電特性
Sr
2NaNb
5O
15は、対象とする温度範囲に2つの誘電ピークがあることによって特徴付けられる(
図6a参照)。類似のタングステンブロンズの300℃におけるより高い温度ピークは、面外(ab)八面体傾斜を含むスーパーセルの形成(冷却時)に対応すると報告されている。このような微妙な構造変化により強誘電挙動が生み出される。0℃が低温ピークである理由についてはあまり理解されていない。これは熱膨張係数の変化と一致し、対応する構造偏差は検出されていないが、組成が強弾性であることを示唆する(Toledano,J.and Pateau,L.(1974).Differential thermal analysis of ferroelectric and ferroelastic transitions in barium sodium niobate.Journal of Applied Physics,45(4),pp.1611-1614).
Sr
2NaNb
5O
15については、高温側のピークが305℃(T2)、低温側のピークが-15℃(T1)となった(
図6a参照)。後者は、リラクサ強誘電体等の周波数分散を示した。Ca置換の効果は低温T1の相対的な大きさを増加させることであった。T2ピークはやや拡散した(
図6bと
図6c参照)。
【0071】
図7は、YとZrによるx=0.025と0.05の修飾がεr-T応答に及ぼす影響を示したものである。両方の組成の修飾について、T2ピークは大きさが減少し、特にx=0.05とy=0.05で顕著であった。T2ピークはx=0.05、y=0.05ではるかに拡散し、その温度も低下した。
【0072】
これらの変化の結果、組成x=0.025、y=0.025、焼成温度1300℃(密度<90%理論値)では、誘電率の値は温度範囲-55~300℃にわたってεr=1076±14%(ここで、1076はεrの中央値であり、85℃で発生した)の範囲で低下した。しかし、1350℃で4時間焼成した高密度(理論値93%)の試料では、-70℃から300℃までεr=1510±16%であった。対応する誘電損失正接値は、-70℃から260℃までの<0.035(
図7参照)であり、260℃から300℃までの間で0.09に増加した。
【0073】
Y及びZrをより多く含む試料(すなわち、x=0.05、y=0.05)では、-70℃から270℃の温度範囲で、誘電特性の優れた組み合わせが観察された。この上限温度は、提案されているほとんどのパワーエレクトロニクス用途の要件を満たす。25℃点に対する誘電率は、-70~270℃でεr(25C)=1370±14%であった。コンデンサの温度安定性仕様は、通常、室温値に対する変動率で記述される。したがって、25℃でのεrの中央値x=0.05、y=0.05は極めて有利な値である。誘電損失正接値は、-12~290℃で0.025以下、-32℃で0.03、-70℃で0.038に増加した(
図7参照)。
【0074】
CaYZr修飾Sr2NaNb5O15セラミックの上記誘電特性を以下の表1a及び1bに要約する。
【0075】
焼成中の蒸発によりセラミック中のNa
2Oの一部が失われた可能性があるとの仮定に基づき、出発混合物に過剰なNa
2CO
3を添加した場合の影響を検討した。2質量%及び4質量%を添加した場合、ピーク温度T1及びT2及びεr値が高まった(
図8参照)。これより、このような添加によって欠陥構造が緩和されたことが示唆される。この仮説は、tan δが0.025以下に減少する高温領域(>250℃)において誘電損失がより低下したことにより確認された。これにより、電気伝導機構による寄与が低いことが示唆される。しかし、-55~250~300℃の間のεrの変動は15%を超えた。
【0076】
結論
新しいクラスII誘電体材料として著しく有望なビスマスおよび鉛非含有セラミック組成系は、公称固溶体式:Sr2-x-yCaxYyNaNb5-yZryO15に対して、-70℃(またはそれ以下)から270-300℃の非常に広い温度範囲にわたって比誘電率の安定性が高く、かつ誘電損失が低いことが実証された。x=0.05、y=0.05の場合、25℃での比誘電率の値は1370であり、-70~270℃の温度での変動はわずか±14%であった。誘電正接は-32~-70℃の範囲で0.038にわずかに上昇した以外は0.03未満であった。
【0077】
エネルギー分散型X線回析による高分解能走査型透過電子顕微鏡では、母体タングステンブロンズSr2NaNb5O15の結晶格子におけるCa、Y及びZr置換が確認されたが、少量のジルコニア及びニオブ酸ナトリウム相が存在するため、主相の組成が公称固溶体式からわずかに逸脱することが示唆された(ただし焼成温度を1300から1350℃まで上昇させると、固溶反応の程度が高まり、副相量が減少した)。これらの特性は、ビスマス及び鉛フリーのタングステンブロンズニオブ酸塩は高温コンデンサ材料として優れた候補であることを示唆する。また、熱力学的な計算から、ニッケル電極積層セラミックコンデンサの同時焼成技術との相性も良いことが予想される。
【0078】
表1:Sr1.95C0.025Na1.0Y0.025Zr0.025Nb4.975O15(1350℃で焼成)とSr1.90Ca0.05Na1.05Na1.05Zr0.05Nb4.95O15(1300℃で焼成)のセラミックの主要誘電特性の要約
a)温度範囲-70~270℃:1kHzの誘電体データの要約
【0079】
【表1】
b)温度範囲-70~300℃:1kHzの誘電体データの要約(焼成T=各々1350℃及び1300℃)
【0080】
【実施例2】
【0081】
実験
この実施例では、親ニオブ酸塩相(Sr4Na2Nb10O30)の化学式は、便宜上、Sr2NaNb5O15(SNN)と表現した。置換組成物は、固溶体式Sr2-2zCazYzNaNb5-zZrzO15を仮定して表現した。Ca2+及びY3+置換基がA1/A2部位を占め、Zr4+がNb5+(B)部位を占めると仮定する。Cの部位は空のままである。z=0、0.025及び0.05の試料処方を、混合酸化物合成を用いて調製した。組成物は著しく低いレベルの置換に相当する。組成z=0.025では、Sr2+(A)部位のわずか1.25at.%が、かつ、組成z=0.05では、2.5 at.%が、Y3+で置換されている。B部位での、Nb5+に対するZr4+の置換のレベルは、各々、組成z=0.025及び0.05に対して各々、0.05at.%及び1at.%である。
【0082】
出発試薬は、炭酸ストロンチウム(Aldrich、99.9%)、炭酸カルシウム(Aldrich、99%以上)、炭酸ナトリウム(Sigma-Aldrich、99.95%)、酸化ニオブ(Alfa Aesar、99.9%)、酸化イットリウム(Alfa Aesar、99.9%)及び酸化ジルコニウム(Alfa Aesar、99.7%)を用いた。粉体を適当な比率で混合した後,イソプロパノール中で安定化ジルコニア粉砕媒体を用いて最大24時間ボールミル処理した。乾燥粉末を高純度アルミナるつぼで、1200℃6時間(加熱速度5℃/分)焼成した。2質量%のバインダー(Optapix AC112、Zschimmer&Schwarz)を添加した焼成粉末を水中、24時間ボールミルで粉砕し、乾燥後、300μmメッシュのナイロン篩を通過させ、その後、直径1cmの鋼製金型で、100MPa(90秒)で一軸プレス成形を行った。一軸プレス後、静水圧プレス(Stanstead fluid power, Essex, UK)で、グリーンペレットを、等圧プレス(200MPa、5分間)した。バインダーバーンアウトは、加熱速度1℃/分でドウェル温度550℃まで加熱し,5時間保持した。同じ組成の粉末にペレットを埋め込んだ後に焼成を行った。焼成温度1300℃又は1350℃で最大密度が得られた。滞留時間は4~5時間であった。焼成セラミックの密度を、測定されたペレットの寸法と質量から測定した。理論密度は、公称単位格子量と測定された格子定数から推定した。
【0083】
粉末X線回折(XRD)による相分析を、Bruker D8 X線粉末回折計を用いて行った。TOPAS 5.0ソフトウェア(Bruker AXS, Karlsruhe, Germany)を用いた完全パターンリートベルト微細化により採用した擬正方晶構造のユニットセル格子定数を得た。微細化解析では、ピーク形状関数をX線回折計幾何学の基本パラメータによって決定した。微細化されたパラメータは、バックグラウンド関数係数、格子定数、スケール係数及び原子配位である。
【0084】
走査型電子顕微鏡による微細構造評価用の試料を調製するために、セラミックペレットをエポキシ樹脂(エポチン、Buehler)にマウントし、P240、P600及びP2500炭化ケイ素紙で研磨した。その後、Texmet Pマイクロクロスを用いて、粒径が9μm、3μm及び1μmと小さくなる、MetaDi 2ダイヤモンド懸濁液を用いて順次研磨を行った。最終研磨は、Buehler EcoMet 300グラインダー/ポリッシャー上で、ChemoMet及びMasterMet 0.06μmコロイドシリカを用いて行った。フッ化水素酸と濃硝酸を2:1の比で90秒間、室温で化学エッチングした。
【0085】
走査型電子顕微鏡(SEM)を、80mm2 X‐Max SD検出器と分析ソフトウェアを備えたOxford Instruments Aztecエネルギー分散型X線回析(EDX)システムを装着した日立SU8230高性能冷電界放出装置を用いて実施した。透過型電子顕微鏡(TEM)では、薄い試料ラメラを、FEI Helios G4 CX Dual Beam - 高解像度モノクロ電界放出ガン、走査型電子顕微鏡(FEG‐SEM)を用いたin‐situ lift‐out法によって調製した。デュアルビーム顕微鏡では、500nmの白金(Pt)を標的領域の表面上に電子ビーム蒸着した(電子源については5kV,6.4nA)。その後、FIB(液状Gaイオン源:30kV,80pA)を用いて第二のPt層(1μm)を成膜した。最初のラメラを(30kV、47nAのFIBによって)カットしてから、最終的なカットアウト(30kV、79nA)を行った。低エネルギーイオンビーム(5kV,41pA)を用いて,ラメラを最終的に薄層化し、電子透過性を高めるために研磨を行った。ラメラを、SEMチャンバ内に設置した銅FIBリフトアウトグリッド(Omniprobe,USA)上にイオンビーム蒸着した白金を用いてラメラを取り付けて(in-situ)、TEMへの移送準備を整えた。SuperX EDXシステム及びベロックス処理ソフトウェアを装着したFEI Titan Themis3 300 kV TEMを用いて、ラメラを、画像化した。
【0086】
電気的測定には,銀電極をペレットの対向面に貼り付けた(Sun Chemical,Gwent Electronic Materials)。比誘電率、εr、及び損失正接(tanδ)を、固定周波数での温度の関数として、Hewlett Packard、HP4284 LCR分析器を用いて低磁場で測定した。環境チャンバは-65℃までの低温用として用いた(TJR;Tenney Environmental-SPX,White Dier,CA)。強誘電体ヒステリシスの測定は、HP33120A関数発生器とHVA1B高電圧増幅器(Chevin Research,Otley,UK)と組み合わせ、周波数2Hzの正弦波電場波形を用いて行った。測定した電場時間及び電流時間波形を、M.Stewart,M.G.Cain,D.A.Hall,Ferroelectric hysteresis measurement & analysis,National Physical Laboratory Report CMMT(A),152[1](1999)に記載の方法で、分極‐電場(P‐E)ループ及び有効複素誘電率値を求める処理を施した。
【0087】
結果と考察
粉砕した焼成ペレットの粉末X線回折データの完全パターン微細化した結果を
図9に示す。3つの試料とも二次相NaNbO
3が存在していた。焼成時間や焼成時間を長くしても、余分な相を除去することはできなかった。したがって、未修飾のSNNでさえ、Sr
2NaNb
5O
15という想定式は不正確な場合がある。例えば、Na富化である二次相は、Sr
2+がNa
+サイトの一部を占有しているため、Sr
2+xNa
1-2xNb
5O
10となる可能性がある。単斜晶ZrO
2二次相はz=0.05の試料でのみ同定された。すべての相はリートベルト精製に含まれていた。
【0088】
電子線回折で観察され、斜方晶系ユニットセル(空間群Im2a)とされた、20°2θ又は37°2θ付近での弱い超格子反射は、XRDでは確認されなかった。X線回折パターンに明確なスーパーセル反射がないことから、正方晶の軸でインデックスを作成し、空間群P4bmに基づいてデータを精密化した。P4bmで精密化された結晶学的データを表2にまとめた。Ca2+、Y3+、Zr4+による修飾により、固溶体形成と一致するセル体積がわずかに収縮した(表2参照)。
表2:Sr2-2zCazYzNaNb5-zZrzO15のリートベルト解析による(擬)正方形格子パラメータ、適合度、Rwp、相分割のまとめ
【0089】
【表3】
z=0及びz=0.05の研磨及びエッチングされた切片の走査型電子顕微鏡写真を
図10に示す。観察された粒径は、両組成で類似(<10μm)していた。密度は推定理論値の92~93%であった。SEM-EDX と TEM-EDXを用いて、粒子結晶内の元素偏析の可能性を検討した。X7R BaTiO
3系のコンデンサ材料では、様々な添加剤酸化物によってもたらされるコアシェル粒子構造が、-55℃~125℃までの温度安定性誘電率応答を誘導する原因である。したがって、SNNのεr-T特性を平坦化する原因が、同等の微細構造-歪みメカニズムであるかどうかを確認することが重要であった。z=0.05のSEM-EDX分析では、粒子内に元素の階調は認められなかった(
図11参照)。XRDパターンで確認されたニオブ酸ナトリウムとジルコニアの二次粒子は各々、SEM-EDX分析により、粒径が~5μmと~1μmであることが確認された。また、ニオブ酸ナトリウム粒子中のSrの存在を示すEDXの証拠もあった。TEM-EDXを用いたより詳細な分析により、コアシェル粒子構造や個々の粒子内の元素の階調がないことが確認された(
図12参照)。
【0090】
親タングステンブロンズSr
2NaNb
5O
15セラミック(SNN)の比誘電率-温度特性(εr-T)を
図13aに示す。より高温での誘電ピーク(305℃)をT2と表す。他のタングステンブロンズでは、この誘電異常は、強誘電挙動を引き起こすスーパーセルの形成(冷却時)に対応すると報告される。それゆえT2はキュリー点を表す。構造相関は、SNN中-14℃(1kHz)で発生し、リラクサ強誘電体に類似した周波数分散を示す、より低温での誘電ピークT1に関しては、あまり理解されていない。
【0091】
関連するタングステンブロンズの熱膨張係数の熱膨張係数の変化から、T1ピークは強弾性転移に対応することが示唆されるが、関連する構造上の差異は検出されない。z=0(SNN)の場合、「標準」誘電ピークは、-55℃~300℃の有意な温度範囲にわたってεrが±22%変動した(
図13a参照)。これは、クラスIIコンデンサ材料に要求されるR型±15%の安定性レベルをはるかに超えている。そこで、Sr
2+をCa
2+で部分置換したSr
2-xCa
xNaNb
5O
15x <0.1について検討した。SNNとCa-SNNセラミックのεr-T応答は、同程度の密度で概ね類似した。誘電率の温度変動を抑制し、R型性能を達成するために、Ca
2+、Sr
2+の代わりにY
3+、Nb
5+の代わりにZr
4+の共置換を含む、さらなる化学修飾を検討した。イオン半径と原子価の考慮に基づいて置換イオンを選択した。
【0092】
Ca
2+、Y
3+、Zr
4+修飾SNN試料組成z=0.025では、T2ピーク温度は、未修飾SNN(1kHzで)の305℃から345℃に上昇した。また、ブロードニングの増加によるεrの最大値の低下も認められた(
図13b参照)。低温ピークでは、置換基のドーピングによるピーク温度T1の変化はほとんど見られなかったが(-18℃に対し、SNNz=0では-14℃)、周波数の分散が高まった。試料組成z=0.025では、周波数1kHzと周波数1MHzのε
rmax温度(Tm)の温度差(△T)は25℃であったのに対し、未修飾SNN(z=0)では10℃であった。
【0093】
より高レベルの化学置換(z=0.05)では、T2異常はz=0.025のT2ピークより90℃低い255℃まで変位した(
図13cを参照)。このzによるT2の非単調シフトは、誘電体異常の置換レベルと温度の間の複雑な相互作用を示し、これは欠陥構造の変化(T2の場合にはNbO
6傾斜に影響を及ぼす可能性がある)に関連が深い。T2異常はまた、置換のレベルが高まるにつれて、有意に拡散した。その結果、T2におけるε
rmax値は、未修飾SNN(z=0)で観察された値の約60%であった。また、T1ピークのブロードニングも増加したが(
図13c参照)、T2ピークほどではなかった。
【0094】
ピーク温度及びピークプロファイルに及ぼすこれらの化学修飾の正味の効果は、非常に広い温度範囲にわたってε
rに必要なε
r±15%のR型の一貫性の達成であった。z=0.025では、測定されたε
rデータの変動は、-65℃~325℃までの温度の中央値1565%の±13%以内であった(ε
rの中央値は~105℃で生じた)。より高いレベルのCa
2+、Y
3+及びZr
4+の置換度が高いほど、温度安定性はさらに改善された。z=0.05の試料組成では、温度が-65℃~300℃の温度で、±10%の変動があり、中央値はε
r=1310であった。コンデンサ材料としての考察に非常に関連したのは、z=0.05のセラミックにおけるε
rの中央値は25℃で生じ、コンデンサ材料としての検討に非常に適していた。z=0、z=0.025及び0.05での1kHz ε
r-Tプロットの比較を
図14に示すが、温度安定性誘電率の発達が強調される。
【0095】
1kHzでの低磁場誘電損失正接値は、z=0.025では、-65℃~320℃まで≦0.035(tanδ≦0.025~-290℃)であった。損失は、tanδ<0.04のz=0.05のサンプルでわずかに高かった。z=0.05の試料ではtanδ<0.04とわずかに損失が大きい。これらの92~93%の緻密な試料の誘電率データを表3にまとめた。
表3:92~93%緻密Sr2-2zCazYzNaNb5-zZrzO15:セラミックの誘電率データのまとめ(1kHzデータ)
【0096】
【表4】
すべての組成のP-Eヒステリシスループは概ね同様の外観で、明らかに強誘電体であった(
図15a参照)。最大分極(最初は約13μC.cm
-2)は減少し、かつ、zが0から0.05に高まると、保磁力以下の磁場領域では、誘電体非直線性と損失が著しかった(
図15b参照)。例えば、4kV.cm
-1の電場振幅における実効tanδ値は、非ドープSNNで0.154、z=0.025及び0.05で各々0.081及び0.060に減少した。
【0097】
非線形性は、複素誘電率の実部及び虚部においても明らかに見られた(
図16を参照)。観測された挙動は、古典的なレイリー則(線形εr-Emax関係)から概ね外れており、15kV.cm
-1までの電界範囲では二次応答の傾向にあった。非線形性の程度はz=0.05で強く抑制され、これはドメインスイッチング機構による電界誘起分極への寄与が減少していることを示しており、無秩序化の進行と一致する。
【0098】
要約すると、タングステンブロンズSr2NaNb5O15強誘電体をCa2+、Y3+、及びZr4+で極めて低レベルでの化学置換により製造されたBi非含有及びPb非含有誘電体セラミックの一次誘電パラメータははクラスをリードし、極めて広い温度範囲で動作可能なベースメタル電極クラスIIコンデンサ材料の開発にとても重要である。Ca2+、Y3+、及びZr4+によるこのような低レベルの組成修飾が誘電率応答に劇的な変化をもたらす理由を解明するためには,結晶構造及び欠陥化学の今後の基礎研究が必要である。しかしながら、この初期段階でさえ、ペロブスカイトBaTiO3をX7R温度安定性誘電体に変換するタイプのコアシェル微細構造メカニズムを除外することができる。さらに、SNNの誘電率応答を平坦化するのに必要なCa2+、Y3+、及びZr4+の濃度は、組成不均一性効果によるペロブスカイト中のキュリー点を有意に広げるのに必要な濃度よりはるかに低かった。
【0099】
結論
高誘電率(クラスII)セラミック誘電体は、300℃以上では誘電率が安定化し、問題となるビスマスや酸化鉛を含まないことが実証された。Sr2NaNb5O15をCa2+、Y3+、及びZr4+イオンで化学的に置換することにより、次世代パワーコンデンサ材料に求められる技術的に重要な-55℃~300℃の安定容量温度範囲を十分満足する材料となった。式Sr2-2zCazYzNaNb5-zZrzO15(z=0.025)では、εrの値は温度が-65℃~325℃の範囲で1565±13%である。より高い置換(z=0.05)では、双誘電ピークはさらに拡散し、εr値は-65℃から300℃までの温度から1310±10%となる。誘電損失正接値は、試料組成z=0.025では、誘電率が安定する全温度範囲で≦0.035(1kHz)であり、tanδは-60℃から290℃まで≦0.025である。限界誘電損失はz=0.05試料では、限界誘電損失がわずかに高かった(tanδ≦0.04)。市場で優位である既存のBaTiO3系コンデンサ(200℃以下)の限界をはるかに超えた温度で動作する次世代クラスIIコンデンサに対する需要が高まっていることを考えると、これらの主要な(一次)誘電特性は大きな影響を与える。揮発性ビスマス酸化物成分が存在しないことは、将来のベースメタル電極高温積層セラミックコンデンサのための工業的に関連する誘電体の探索においてとても有利である。
【国際調査報告】