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特表2023-500308呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質阻害剤組成物及びそれを用いてRSV感染を治療及び予防する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-05
(54)【発明の名称】呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質阻害剤組成物及びそれを用いてRSV感染を治療及び予防する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/554 20060101AFI20221223BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20221223BHJP
   A61K 9/30 20060101ALI20221223BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20221223BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20221223BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20221223BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20221223BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20221223BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20221223BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20221223BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20221223BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20221223BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
A61K31/554
A61K9/48
A61K9/30
A61K47/26
A61K47/38
A61K47/32
A61K47/12
A61K47/14
A61K47/36
A61K47/20
A61K9/14
A61K47/02
A61K47/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525589
(86)(22)【出願日】2020-10-29
(85)【翻訳文提出日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 CN2020124909
(87)【国際公開番号】W WO2021083290
(87)【国際公開日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】62/929,034
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】522172184
【氏名又は名称】シャンハイ アーク バイオファーマスゥ-ティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ペン,チェン
(72)【発明者】
【氏名】ウ,ジン,ゼット.
(72)【発明者】
【氏名】リー,ユピン
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ,チュンヤン
(72)【発明者】
【氏名】リー,ユアンユアン
(72)【発明者】
【氏名】トゥーヴェイ,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ユアン,ハイチン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA45
4C076AA63
4C076AA94
4C076BB01
4C076CC15
4C076CC35
4C076DD05F
4C076DD09F
4C076DD28C
4C076DD28G
4C076DD29C
4C076DD46C
4C076DD47B
4C076DD47C
4C076DD57F
4C076DD67A
4C076EE06G
4C076EE07J
4C076EE10J
4C076EE11J
4C076EE12J
4C076EE16G
4C076EE23B
4C076EE23F
4C076EE31A
4C076EE32G
4C076EE32J
4C076EE33J
4C076EE38A
4C076EE38G
4C076FF31
4C076GG16
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC92
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA10
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZB33
(57)【要約】
本発明は、腸溶性コーティングがされたマイクロペレットを複数を含む単位投与量の医薬組成物を開示する。各腸溶性コーティングがされたマイクロペレットは、それぞれ、コアビーズと、任意の第1シール層と、下記の構造を有する化合物(I)又はその薬学的に許容される塩を含むAPI層と、任意の第2シール層と、腸溶性コーティング層とを含む。本発明はさらに、化合物(I)を提供することと、化合物(I)のt1/2が約6~13時間となるように、治療有効量の化合物(I)を、それを必要とする患者に投与することとを含む、RSV感染を治療及び予防する方法を開示する。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸溶性コーティングがされたマイクロペレットを複数含む、単位投与量の医薬組成物であって、
各腸溶性コーティングがされたマイクロペレットは、それぞれ、
コアビーズと、
任意の第1シール層と、
下記の構造を有する化合物(I)又はその薬学的に許容される塩を含む医薬品有効成分(API)層と、
任意の第2シール層と、
腸溶性コーティング層とを含む、単位投与量の医薬組成物。
【化1】

(式中、-Rは、水素、ハロゲン、C~Cアルキル基、C~Cアルコキシ基、-CN、-C(O)R、ハロゲンで置換されたC~Cアルキル基、及びハロゲンで置換されたC~Cアルコキシ基から選択され、
-Rは、水素、ハロゲン、C~Cアルキル基、C~Cアルコキシ基、及び-CNから選択され、かつ
-Rは、水素、C~Cアルキル基、及びC~Cアルコキシ基から選択される。)
【請求項2】
前記化合物(I)の構造において、Rはメチル基であり、かつRは水素である、請求項1に記載の単位投与量の医薬組成物。
【請求項3】
10~300mgの前記化合物(I)を含む、請求項1又は2に記載の単位投与量の医薬組成物。
【請求項4】
カプセル、錠剤及び小袋から選択される形態である、請求項1~3のいずれか1項に記載の単位投与量の医薬組成物。
【請求項5】
前記コアビーズは、ショ糖コアビーズ、結晶セルロースコアビーズ、及びデンプンコアビーズから選択され、
前記コアビーズの直径が0.2~2mmであり、
前記コアビーズの重量が0.05~0.5mgである、請求項1~4のいずれか1項に記載の単位投与量の医薬組成物。
【請求項6】
前記任意の第1シール層は、結合剤を含み、
前記結合剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプンスラリー、メチルセルロース及びそれらの組み合わせから選択され、
前記任意の第1シール層の重量が0.001~0.01mgである、請求項1~5のいずれか1項に記載の単位投与量の医薬組成物。
【請求項7】
前記任意の第1シール層は、さらにタルクを含む、請求項6に記載の単位投与量の医薬組成物。
【請求項8】
前記任意の第1シール層は、胃溶性フィルムコーティングプレミックスを使用して作製されたものであり、
前記任意の第1シール層の重量が0.001~0.01mgである、請求項1~5のいずれか1項に記載の単位投与量の医薬組成物。
【請求項9】
前記API層は、前記化合物(I)及び結合剤を含み、
前記結合剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、デンプンスラリー、メチルセルロース、及びそれらの組み合わせから選択され、
前記API層の重量が0.01~0.1mgである、請求項1~8のいずれか1項に記載の単位投与量の医薬組成物。
【請求項10】
前記任意の第2シール層は、結合剤を含み、
前記結合剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプンスラリー、メチルセルロース、エチルセルロース、及びそれらの組み合わせから選択され、
前記任意の第2シール層の重量が0.002~0.02mgである、請求項1~9のいずれか1項に記載の単位投与量の医薬組成物。
【請求項11】
前記任意の第2シール層は、さらにタルクを含む、請求項10に記載の単位投与量の医薬組成物。
【請求項12】
前記任意の第2シール層は、胃溶性フィルムコーティングプレミックスを使用して作製されたものであり、
前記任意の第2シール層の重量が0.002~0.02mgである、請求項1~9のいずれか1項に記載の単位投与量の医薬組成物。
【請求項13】
前記腸溶性コーティング層は、30~95wt%の腸溶性コーティング層、1~40wt%の可塑剤、1~20wt%の粘着防止剤、及び0.5~20wt%の乳化剤を含み、
前記腸溶性コーティング層は、アクリル系樹脂、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、フタル酸酢酸セルロース、ポリメチルメタクリレート、メタクリル酸-アクリル酸エチルコポリマー、メタクリル酸コポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、及びそれらの組み合わせから選択され、
前記可塑剤は、クエン酸トリエチル、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、セバシン酸ジブチル、フタル酸ジエチル、及びそれらの組み合わせから選択され、
前記粘着防止剤は、モノステアリン酸グリセリン及びタルクから選択され、
前記乳化剤は、Tween及びドデシル硫酸ナトリウムから選択され、
前記腸溶性コーティング層の重量が0.01~0.1mgである、請求項1~12のいずれか1項に記載の単位投与量の医薬組成物。
【請求項14】
前記腸溶性コーティング層は、オイドラギット L30D-55、オイドラギット S100、及びオイドラギット L100の少なくとも1種を含み、
前記腸溶性コーティング層の重量が0.01~0.1mgである、請求項1~12のいずれか1項に記載の単位投与量の医薬組成物。
【請求項15】
前記腸溶性コーティング層は、可塑剤を含有する水性混合エマルジョンを含み、
前記腸溶性コーティング層の重量が0.01~0.1mgである、請求項1~12のいずれか1項に記載の単位投与量の医薬組成物。
【請求項16】
前記単位投与量の医薬組成物は、複数の腸溶性コーティングがされたマイクロペレット及び粘着防止剤を含み、
前記粘着防止剤は、二酸化ケイ素、ステアリン酸、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク及びそれらの組み合わせから選択され、
前記粘着防止剤と前記腸溶性コーティングがされたマイクロペレットとの重量比は0.0005~0.1:1である、請求項1~15のいずれか1項に記載の単位投与量の医薬組成物。
【請求項17】
前記化合物(I)の粒径D90は100μm以下である、請求項1~16のいずれか1項に記載の単位投与量の医薬組成物。
【請求項18】
RSV感染を治療及び予防する方法であって、
下記の構造を有する化合物(I)又はその薬学的に許容される塩を提供すること、
【化2】

(式中、-Rは、水素、ハロゲン、C~Cアルキル基、C~Cアルコキシ基、-CN、-C(O)R、ハロゲンで置換されたC~Cアルキル基、及びハロゲンで置換されたC~Cアルコキシ基から選択され、
-Rは、水素、ハロゲン、C~Cアルキル基、C~Cアルコキシ基、及び-CNから選択され、かつ
-Rは、水素、C~Cアルキル基、及びC~Cアルコキシ基から選択される。)、及び、
治療有効量の前記化合物(I)を、それを必要とする患者に投与することを含む、方法。
【請求項19】
前記化合物(I)の構造において、Rはメチル基であり、かつRは水素である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
成人患者に対する前記化合物(I)の治療有効量は、1日1回、200mg~600mgである、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
成人患者に対する前記化合物(I)の治療有効量は、12時間ごとに100mg~300mgである、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項22】
小児患者に対する前記化合物(I)の治療有効量は、1日1回、体重1kgあたり1mg~10mgである、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項23】
小児患者に対する前記化合物(I)の治療有効量は、12時間ごとに体重1kgあたり1mg~8mgである、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項24】
治療有効量の前記化合物(I)を、それを必要とする患者に投与する場合、前記化合物(I)の半減期(t1/2)は約6~13時間である、請求項18又は19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2019年10月31日に出願された米国仮特許出願番号62/929,034の権益及び優先権を主張し、その開示全体を参照により本明細書に組み込む。
[技術分野]
【0002】
本発明は呼吸器合胞体ウイルス(respiratory syncytial virus)融合タンパク質阻害剤組成物及び当該組成物を用いてRSV感染を治療及び予防する方法に関する。本明細書に記載の組成物及び方法は、RSV融合タンパク質の阻害が望まれる治療分野において有用であるとともに、このようなRSV融合タンパク質阻害剤の投与に起因する有害な副作用をできるだけ減少又は排除することが可能である。
【背景技術】
【0003】
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は、パラミクソウイルス科のニューモウイルス亜科に属す。ヒトRSVは、乳児及び小児における急性上気道及び下気道感染症の主な原因である。ほぼすべての小児が、2歳までに少なくとも1回RSVに感染されたことがある。RSVに対するヒトの自然免疫は不完全であり、健常な成人及び年長の小児では、RSV感染症は主に上気道症状に関連している。RSV感染の重症例は、しばしば細気管支炎や肺炎を引き起こし、入院が必要である。下気道感染症の危険因子には、早産、先天性心疾患、慢性肺疾患及び免疫不全状態(immuno-compromised conditions)などがある。若い年齢での重症感染症は、再発性喘鳴と喘息(recurrent wheezing and asthma)につながる可能性がある。高齢者の場合、RSV関連の死亡率は加齢とともに高くなる。
【0004】
サブユニットワクチン(subunit vaccine)及び弱毒生ワクチン(live-attenuated vaccine)に関しては、多くの試みがなされているものの、ヒトが使用できるRSVワクチンは未だに存在していない。VIRAZOLE(リバビリンのエアロゾル型)は、RSV感染症の治療のために承認された唯一の抗ウイルス薬である。しかし、有効性が限られていることと、副作用が起こりうることから、臨床的に使用されることはほとんどない。Medimmune社(CA、USA)は、2つの予防抗体を開発し、既に市販されている。
【0005】
RSV-IGIV(商品名RespiGam)は、病院で毎月750mg/kg注入する必要がある、ポリクローナル濃縮RSV中和抗体である(Wandstrat T. L.、Ann.Pharmacother.、1997年1月; 31(1):83-8)。その後、RSV-IGIVの使用は、パリビズマブ(商品名SYNAGIS)に大幅に取り替えられた。パリビズマブは、1998年に高リスク乳児の予防のために承認されたRSV融合(F)タンパク質に対するヒト化モノクローナル抗体である。RSVシーズン中、月に1回15mg/kgで筋肉内投与した場合、パリビズマブは、選択された乳児のRSV感染による入院率が、45%~55%低下したことを示した(Pediatrics、1998年9月; 102(3):531-7 ; Feltes T. F. et al.、J. Pediatr.、2003 October; 143(4):532-40)。残念ながら、RSV感染症と診断された場合、パリビズマブは、その治療に効果がない。モノクローナル抗体であるモタビズマブの新しいバージョンを、パリビズマブの潜在的な代替品として開発されたが、その後の第III相臨床試験においてパリビズマブよりも優れる追加効果を示すことができなかった(Feltes T. Fetal、Pediatr . Res.、2011 Aug; 70(2): 186-91)。MEDI8897(より長い半減期を持つ呼吸器合胞体ウイルス(RSV)Fモノクローナル抗体(mAb))は、現在、高リスク小児におけるRSVによって引き起こされる下気道感染症(LRTI)(ClinicalTrials.gov 識別番号:NCT03959488)の予防のために開発されている。
【0006】
いままで、多くの小分子RSV阻害剤が発見されている。その中で、第I相又は第II相臨床試験に達したものはごくわずかである。GS-5806(効力があるFタンパク質阻害剤)は、ヒトRSVウイルスチャレンジ研究において、ウイルス量(4.2 log10)と疾患症状スコアを大幅に低下でき、一定の有効性を示したが、造血幹細胞移植患者を対象とした第II相試験において、一次及び二次有効性エンドポイントを達成できなかった(Beigel、J. H. et al.、Antiviral Research、2019 Jul; 167)。ルミシタビン(AL-8176)は、以前にヒトRSVチャレンジモデルで概念実証された経口ヌクレオシド類似体である(DeVincenzo J. et al.、N.Engl.J.Med.、2015; 373:2048-2058)。RSV感染症で入院した乳児を対象とした単回及び複数回の用量増量研究が最近完了し、段階的な治療による好中球異常(EudraCT番号:2013-005104-33)を示す結果が得られ、その後、この分子の臨床開発は完全に中止された。JNJ-53718678は、第2a相成人RSVチャレンジ研究で臨床的概念実証が確立した別の小分子RSV融合阻害剤である(Stevens、M. et al.、J. Infect.Dis.、2018; 218; 748-756)。JNJ-53718678に関して、成人と乳児を対象とした2つの第2相試験が開始されている(ClinicalTrials.gov識別番号:NCT03379675、NCT03656510)。
【0007】
RSVに対するRNAi治療法も徹底的に研究されている。ALN-RSV01(Alnylam Pharmaceuticals、MA、USA)は、RSV遺伝子を標的とするsiRNAである。成人ボランティアでは、RSVワクチン接種前の2日間及び接種後の3日間に鼻内噴霧を投与すると、感染率が低下した(DeVincenzo J. et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、2010 May 11; 107(19):8800-5)。自然に感染した肺移植患者による第II相試験では、いくつかの健康上の利点が観察されたが、抗ウイルス効果を持つ結論を出すには、結果はまだ不十分であった(Zamora M. R. et al.、Am.J.Respir.Crit.CareMed.、2011 Feb .15; 183(4):531-8)。同様の患者集団におけるALN-RSV01の第IIb相臨床試験では、一部の患者のコホートで新規又は進行性閉塞性細気管支炎症候群の減少傾向が観察されたが、ウイルスパラメーター又は症状スコアに有意な影響は示されなかった(Gottlieb J. et al、J. Heart Lung Transplant.、2016年2月; 35(2):213-21)。
【0008】
したがって、RSV感染の安全で効果的な治療が緊急に必要となっている。
【発明の概要】
【0009】
以下、本発明の実施形態を詳しく説明する。
【0010】
一実施形態において、本発明は、腸溶性コーティングがされたマイクロペレットを複数含む単位投与量の医薬組成物に関する。各腸溶性コーティングがされたマイクロペレットは、それぞれ、
コアビーズと、
任意の第1シール層と、
下記の構造を有する化合物(I)又はその薬学的に許容される塩を含む医薬品有効成分(API)層と、
任意の第2シール層と、
腸溶性コーティング層とを含む。
【0011】
【化1】
(式中、-Rは、水素、ハロゲン、C~Cアルキル基、C~Cアルコキシ基、-CN、-C(O)R、ハロゲンで置換されたC~Cアルキル基、及びハロゲンで置換されたC~Cアルコキシ基から選択され、
-Rは、水素、ハロゲン、C~Cアルキル基、C~Cアルコキシ基、及び-CNから選択され、かつ
-Rは、水素、C~Cアルキル基、及びC~Cアルコキシ基から選択される。)
【0012】
別の実施形態において、前記化合物(I)の構造において、Rはメチル基であり、かつRは水素である。
【0013】
別の実施形態において、前記単位投与量の医薬組成物は10~300mgの前記化合物(I)を含む。
【0014】
別の実施形態において、前記単位投与量の医薬組成物は、カプセル、錠剤及び小袋から選択される形態である。
【0015】
別の実施形態において、前記コアビーズは、ショ糖コアビーズ、結晶セルロースコアビーズ、及びデンプンコアビーズから選択され、直径が0.2~2mmであり、かつ、各腸溶性コーティングがされたマイクロペレットのコアビーズの重量が0.05~0.5mgである。
【0016】
別の実施形態において、前記任意の第1シール層は結合剤を含み、かつ結合剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプンスラリー、メチルセルロース、及びそれらの組み合わせから選択される。第1シール層は、さらにタルクを含んでもよい。各腸溶性コーティングがされたマイクロペレットの任意の第1シール層の重量が0.001~0.01mgである。
【0017】
別の実施形態において、任意の第1シール層は、胃溶性フィルムコーティングプレミックスを使用して作製されたものであってもよく。各腸溶性コーティングがされたマイクロペレットの任意の第1シール層の重量が0.001~0.01mgである。
【0018】
別の実施形態において、API層は、化合物(I)及び結合剤を含み、かつ結合剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、デンプンスラリー、メチルセルロース、及びそれらの組み合わせから選択される。各腸溶性コーティングがされたマイクロペレットのAPI層の重量が0.01~0.1mgである。
【0019】
別の実施形態において、任意の第2シール層が結合剤を含み、かつ結合剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプンスラリー、メチルセルロース、エチルセルロース、及びそれらの組み合わせから選択される。第2シール層は、さらにタルクを含んでもよい。各腸溶性コーティングがされたマイクロペレットの第2シール層の重量が0.002~0.02mgである。
【0020】
別の実施形態において、任意の第2シール層は、胃溶性フィルムコーティングプレミックスを使用して作製されたものであってもよく。胃溶性フィルムコーティングプレミックスは、結合剤、可塑剤及び着色剤(例えば、オパドライTM Complete Film Coating System)を含む。各腸溶性コーティングがされたマイクロペレットの任意の第2シール層の重量が0.002~0.02mgである。
【0021】
別の実施形態において、腸溶性コーティング層は、30~95wt%の腸溶性コーティング材、1~40wt%の可塑剤、1~20wt%の粘着防止剤、及び0.5~20wt%の乳化剤を含み、腸溶性コーティング材は、アクリル系樹脂、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、フタル酸酢酸セルロース、ポリメチルメタクリレート、メタクリル酸-アクリル酸エチルコポリマー、メタクリル酸コポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、及びそれらの組み合わせから選択され、可塑剤は、クエン酸トリエチル、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、セバシン酸ジブチル、フタル酸ジエチル、及びそれらの組み合わせから選択され、粘着防止剤は、モノステアリン酸グリセリン及びタルクから選択され、乳化剤は、Tween及びドデシル硫酸ナトリウムから選択され、かつ、各腸溶性コーティングがされたマイクロペレットの腸溶性コーティング層の重量が0.01~0.1mgである。
【0022】
別の実施形態において、腸溶性コーティング層は、オイドラギット L30D-55、オイドラギット S100、及びオイドラギット L100の少なくとも1種を含む。各腸溶性コーティングがされたマイクロペレットの腸溶性コーティング層の重量が0.01~0.1mgである。
【0023】
別の実施形態において、腸溶性コーティング層は、可塑剤を含有する水性混合エマルジョンを含む(例えばPlasACRYLTM HTP 20)。各腸溶性コーティングがされたマイクロペレットの腸溶性コーティング層の重量が0.01~0.1mgである。
【0024】
別の実施形態において、単位投与量の医薬組成物は、複数の腸溶性コーティングがされたマイクロペレット及び粘着防止剤を含む。粘着防止剤は、二酸化ケイ素、ステアリン酸、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、及びそれらの組み合わせから選択される。粘着防止剤と腸溶性コーティングがされたマイクロペレットとの重量比は0.0005~0.1:1である。
【0025】
一実施形態において、腸溶性コーティングがされたマイクロペレットにおけるAPIの粒径D90は100μm以下である。
【0026】
一実施形態において、本願は、さらにRSV感染を治療及び予防する方法を提供する。前記方法は、
下記の構造を有する化合物(I)又はその薬学的に許容される塩を提供すること、
【0027】
【化2】

(式中、-Rは、水素、ハロゲン、C~Cアルキル基、C~Cアルコキシ基、-CN、-C(O)R、ハロゲンで置換されたC~Cアルキル基、及びハロゲンで置換されたC~Cアルコキシ基から選択され、
-Rは、水素、ハロゲン、C~Cアルキル基、C~Cアルコキシ基、及び-CNから選択され、かつ
-Rは、水素、C~Cアルキル基、及びC~Cアルコキシ基から選択される。)、及び
治療有効量の化合物(I)を、それを必要とする患者に投与することを含む。
【0028】
別の実施形態において、化合物(I)の構造において、Rはメチル基であり、かつRは水素である。
【0029】
別の実施形態において、成人患者に対する化合物(I)の治療有効量は、1日1回、200mg~600mgである。
【0030】
別の実施形態において、成人患者に対する化合物(I)の治療有効量は、12時間ごとに100mg~300mgである。
【0031】
別の実施形態において、小児患者に対する化合物(I)の治療有効量は、1日1回、体重1kgあたり1mg~10mgである。
【0032】
別の実施形態において、小児患者に対する化合物(I)の治療有効量は、12時間ごとに体重1kgあたり1mg~8mgである。
【0033】
別の実施形態において、治療有効量の化合物(I)を、それを必要とする患者に投与する場合、化合物(I)の半減期(t1/2)は約6~13時間である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明では、設計及び詳細な実験と臨床試験に基づき、組成物を製造し、投与レジメンを作成することにより、例えば、今まで4-(((3-アミノオキセタン-3-イル)メチル)アミノ)-キナゾリン誘導体化合物(I)の特徴であると考えられていた不安定性及び悪い吸収などの課題を、臨床的に顕著でないレベルまで改善された。本発明の設計によれば、乳児、幼児、子供、青少年、成人など、異なる年齢や体重のヒト患者への投与に適した、化合物(I)を単位剤形あたり約10mg~約300mgで含む単位剤形の開発が可能になる。このような単位剤形は、経口投与されたときに治療上有用な薬物動態特性を提供し、今まで不可避的だと考えられていた分解を最小限に抑える。最高血中濃度(Cmax)、最高血中濃度到達時間(Tmax)、定常状態での最低濃度(Ctrough)及び薬物曝露量(AUC)などの化合物(I)の薬物動態特性は、所望の治療効果を達成するとともに、副作用を最小限に抑えるために重要である。化合物(I)の分解は、胃の中や胃腸管の中などの酸性環境で発生でき、薬の副作用につながる可能性がある。本発明の単位剤形(例えば、腸溶性コーティングがされたマイクロペレットとして、約10~約300mgの化合物(I)を含むカプセル、又は約0.01~0.60gの化合物(I)を含む懸濁剤用の乾燥粉末)及び投与レジメン(1日1回又は2回、1日あたり最大600mgの化合物(I))によれば、化合物(I)をRSV感染症に罹患した患者(小児患者も含む)に投与できる。
【0035】
本明細書に記載されるように、化合物(I)又はその薬学的に許容される塩は、下記の構造を有する。
【0036】
【化3】

(式中、-Rは、水素、ハロゲン、C~Cアルキル基、C~Cアルコキシ基、-CN、-C(O)R、ハロゲンで置換されたC~Cアルキル基、及びハロゲンで置換されたC~Cアルコキシ基から選択され、
-Rは、水素、ハロゲン、C~Cアルキル基、C~Cアルコキシ基、及び-CNから選択され、かつ
-Rは、水素、C~Cアルキル基、及びC~Cアルコキシ基から選択される。)
【0037】
上記のような有用な化合物を、RSV状態の治療又は予防のための医薬組成物に作製できる。標準的な製剤技術、例えばRemington: The Science and Practice of Pharmacy、第21版、Lippincott Williams & Wilkins(2005)に開示されたものは使用でき、その内容の全体が参照により本明細書に援用される。
【0038】
いくつかの実施形態において、上記した選択された有用な化合物に加えて、薬学的に許容される担体を含む組成物を含むが、これに限定されない。本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」という用語は、哺乳動物への投与に適する1種又は複数種の適合性のある固体又は液体の充填剤、希釈剤又は封入物質を意味する。本明細書で使用される「適合性」という用語は、組成物の成分が、通常の使用状況で、薬物の効力を大幅に低下させないように、又は組成物の副作用を増加させるという相互作用がないように、対象の化合物と混合することができ、かつ互いに混合することもできることを意味する。薬学的に許容される担体は、治療されるヒト被験者への投与に適するように、十分な高純度及び十分な低毒性を有しなければならない。
【0039】
薬学的に許容される担体又はその成分として使用できる物質のいくつかの例としては、ラクトース、グルコース、マルトデキストリン及びショ糖などの糖;コーンスターチ及びポテトスターチなどのデンプン;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及びメチルセルロースなどのセルロース及びその誘導体;粉末トラガカント;モルト;ゼラチン;タルク;ステアリン酸、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸マグネシウムなどの固体潤滑剤;硫酸カルシウム;ピーナッツ油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油などの植物油;プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコールなどのポリオール;アルギン酸;Tweenなどの乳化剤;ドデシル硫酸ナトリウムなどの湿潤剤;着色剤;香味剤;錠剤化剤;安定化剤;酸化防止剤;防腐剤;パイロジェンフリー水;等張食塩水;及び、リン酸塩緩衝液が挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
対象化合物と併用される薬学的に許容される担体の選択は、実質上、化合物の投与方法によって決定される。
【0041】
本明細書に記載されるように、組成物は、単位剤形で提供されることが好ましい。本明細書で使用される「単位剤形」は、良好な医療行為に従って、単回投与量でヒト被験者への投与に適した化合物を含む組成物である。しかしながら、単回の単位剤形の製剤は、1日1回、又は治療コースにつき当該剤形を1回投与することを意味するのではない。このような剤形は、1日1回、2回、又は3回以上投与され、かつ1回で複数の単位剤形を投与できると予想されるが、単回投与は特に除外されるものではない。当業者であれば、製剤が治療の全過程を具体的に企図せず、上述のような決定は、製剤分野の技術者よりも、むしろ治療分野の技術者に委ねられていることは分かる。
【0042】
上記した有用な組成物は、様々な投与経路、例えば、経口、経鼻、直腸内、局所(経皮を含む)、眼内、脳内、頭蓋内、髄腔内、動脈内、静脈内、筋肉内、又はその他の非経口投与経路に、好適な様々な剤形のいずれかであってよい。当業者は、経口組成物及び経鼻組成物が吸入によって投与され、利用可能な方法を使用して作製される組成物を含むことを理解できる。望まれる特定の投与経路に応じて、当該技術分野で周知の様々な薬学的に許容される担体を使用することができる。薬学的に許容される担体には、例えば、固体又は液体の充填剤、希釈剤、ハイドロトロピー剤、界面活性剤、及び封入物質が挙げられるが、これらに限定されない。化合物の阻害活性を実質的に妨害しない任意の薬学的活性物質が含まれ得る。化合物と併用される担体の量は、化合物の単位用量あたりの投与のための実際的な量の物質を提供するのに十分な量である。本明細書に記載の方法に使用され得る剤形を作製するための技術及び組成物は、以下の参考文献に記載されている。Modern Pharmaceutics、第4版、第9章および第10章(Banker&Rhodes、editors、2002); Lieberman et al、Pharmaceutical Dosage Forms:Tablets (1989);Ansel、Introduction to Pharmaceutical Dosage Forms、第8版(2004)、上記参考文献は、いずれも参照により本明細書に援用される。
【0043】
経口剤形としては、様々な経口剤形を使用することができ、例えば錠剤、カプセル、顆粒剤、及びバルク粉体などの固体形態が挙げられるが、これらに限定されない。錠剤は、適切な結合剤、潤滑剤、希釈剤、崩壊剤、着色剤、香味剤、流動誘導剤及び溶融剤を含む、圧縮錠、粉砕錠、腸溶錠、糖衣錠、フィルム被覆錠、又は多重圧縮錠であってもよい。液体経口剤形には、適切な溶媒、防腐剤、乳化剤、懸濁剤、希釈剤、甘味料、融解剤、着色剤及び香味剤を含む、水溶液剤、エマルジョン、懸濁液、非発泡性顆粒から再構成された溶液及び/又は懸濁液、及び、発泡性顆粒から再構成され、発泡製剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
経口投与用の単位剤形の調製に適した薬学的に許容される担体は、当該技術分野において周知のものである。錠剤は、典型的には、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、マンニトール、ラクトース及びセルロースなどの不活性希釈剤、デンプン、ゼラチン及びショ糖などの結合剤、デンプン、アルギン酸及びクロスカルメロースなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸及びタルクなどの潤滑剤などの、薬学的に適合性のある通常のアジュバントを含む。二酸化ケイ素などの流動促進剤を用いて粉末混合物の流動特性を改善することができる。外観のために、FD&C染料などの着色剤を添加することができる。アスパルテーム、サッカリン、メントール、ペパーミント及びフルーツフレーバーなどの甘味料及び香味剤は、咀嚼錠に有用なアジュバントである。カプセルは通常、上記した有用な固体希釈剤を1種又は複数種含む。担体成分の選択は、味、コスト、及び貯蔵安定性などの補助的考慮事項に依存し、当業者が容易に行うことができる。
【0045】
経口組成物には、液体溶液、エマルジョン及び懸濁液なども含まれるが、これらに限定されない。そのような組成物の調製に適した薬学的に許容される担体は、当該技術分野において周知のものである。シロップ、エリキシル、エマルジョン及び懸濁液用の担体の典型的な成分としては、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、液体スクロース、ソルビトール及び水が挙げられるが、これらに限定されない。懸濁液について、典型的な懸濁化剤としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、AVICEL RC-591、トラガカンス及びアルギン酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。典型的な湿潤剤としては、レシチン及びポリソルベート80が挙げられるが、これらに限定されない。典型的な防腐剤としては、メチルパラベン及び安息香酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。経口液体組成物はさらに、甘味料、香味剤及び着色剤など、上記した有用な1種又は複数種の成分を含むことができる。
【0046】
そのような組成物はまた、従来の方法によって、典型的にはpH依存性又は時間依存性コーティングでコーティングすることができ、それによって対象化合物は所望の局所適用の近くの消化管中でまたは様々な時間で放出されて、その作用を延長する。このような剤形には、通常、酢酸フタル酸セルロース、ポリ酢酸フタル酸ビニル、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、エチルセルロース、オイドラギットコーティング、ワックス及びシェラックのうちの1種又は複数種が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
本発明は、酸性条件下で安定であり、持続的な抗RSV効果及び低減された副作用を提供する薬物動態特性で動物体及び人体内部に放出され得る、化合物(I)を含む腸溶性コーティングがされたマイクロペレットの最適化された賦形剤を提供する。
【0048】
一実施形態において、各腸溶性コーティングされたマイクロペレットは、コアから外部まで、コアビーズ、任意の第1シール層、薬物層(又はAPI層)、任意の第2シール層及び腸溶性コーティング層を含み、好ましくは、これらの物質から構成される。各層の質量増加は、任意の第1シール層では1%~15%、薬物層では5%~150%、任意の第2シール層では2%~15%、及び腸溶性コーティング層では5%~25%である。任意の第1シール層及び第2シール層は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はポリビニルアルコールを含む。薬物層は、化合物(I)及び結合剤を含み、好ましくは、化合物(I)及び結合剤から構成される。腸溶性コーティング層は、腸溶性コーティング材、可塑剤、粘着防止剤及び乳化剤を含み、好ましくは、これらの物質から構成される。
【0049】
別の実施形態において、各腸溶性コーティングがされたマイクロペレットは、コアビーズ0.05~0.5mg、任意の第1シール層0.001~0.01mg、薬物層0.01~0.1mg、任意の第2シール層0.002~0.02mg、及び腸溶性コーティング層0.01~0.1mgを含み、好ましくは、これらの物質から構成される。
【0050】
本発明はさらに、治療有効量(即ち、RSV感染の治療又は予防のために十分な用量及び頻度)で組成物を投与する投与レジメンを提供する。好ましい実施形態の化合物について、ヒトの投与量レベルは、まだ最適化されていないが、通常、本明細書に記載されるように、好ましくは、化合物の1日の投与量は、成人の場合、1日あたり約100mg~600mgであり、小児の場合、1日あたり1mg~600mg/体重1kgである。投与する活性化合物の量及び頻度は、治療される被験者及びその病状、疾患の重症度、投与方法とスケジュール、及び処方する医師の判断に依存する。
【0051】
本明細書に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩の経口投与は、通常、好ましい実施形態の対象であるRSV感染の治療に使用される。
【0052】
一実施形態において、健常な成人被験者において、腸溶性コーティングがされたマイクロペレットとしての30~1200mgの化合物(I)を含有するカプセルを含む医薬組成物を、無作為化、二重盲検、プラセボ対照での単回及び複数回用量漸増研究で試験した。
【0053】
以下の実施例は、説明のみを目的としており、いかなる方法で本発明の範囲を制限することを意図するものではなく、そのように解釈されるべきではない。
【実施例
【0054】
実施例1:腸溶性コーティングがされたマイクロペレットの組成。
【0055】
以下、腸溶性コーティングがされたマイクロペレットの組成を示す。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例2:腸溶性コーティングがされたマイクロペレットの組成。
【0058】
以下、腸溶性コーティングがされたマイクロペレットの組成を示す。
【0059】
【表2】
【0060】
実施例3:安定性及び溶出性の測定。
【0061】
化合物(I)を含む腸溶性コーティングがされたマイクロペレットの0.1N HCl中で2時間の安定性について測定した。結果を分析したところ、0.2%の化合物(I)のみが放出されたことを示した。その後、標準的な溶出性試験条件下で、マイクロペレットを、0.5wt%のドデシル硫酸ナトリウムを含むpH=6.8の緩衝液に移した。下表に示すように、93.1%の化合物(I)が10分以内に放出されることがわかった。
【0062】
【表3】
【0063】
実施例4:イヌにおける化合物(I)の懸濁剤製剤と腸溶性コーティングがされたマイクロペレット製剤を比較する薬物動態学検討。
【0064】
イヌに、化合物(I)の懸濁剤製剤又は腸溶性コーティングがされたマイクロペレット製剤を10mg/kgの用量で投与した。血漿中濃度を24時間にわたってウォッチングした。結果は、化合物(I)の総曝露量が2つの製剤間で同等であることを示した。しかしながら、腸溶性コーティングがされたマイクロペレット製剤の最大濃度は、懸濁剤製剤のそれよりも有意に低かったが、投与後12時間の血中濃度は、マイクロペレットのほうが有意に高かった。これらの異なる薬物動態学特性は、薬物作用の延長と副作用の低減が期待される。よって、より広い薬物安全性ウィンドウ及びより高い抗RSV効果がもたらされる。
【0065】
【表4】
【0066】
max:最高血中濃度到達時間
【0067】
max:最高血中濃度
【0068】
12h:投与後12時間の血中濃度
【0069】
AUC0-inf:0時間から無限大時間までの血中濃度-時間曲線下面積
【0070】
実施例5:健常な成人被験者において、腸溶性コーティングがされたマイクロペレットを用いて行った無作為化、二重盲検、プラセボ対照での単回の用量増量研究及び複数回の用量増量研究。
【0071】
化合物(I)を含む腸溶性コーティングがされたマイクロペレットのカプセルは、健常な成人ボランティアに、増加した用量レベルでの単回投与、及び、3つの異なる用量レベルでの複数回投与(1日2回、7日間)で投与された。化合物(I)に曝露された被験者数は、下表にまとめた。
【0072】
【表5】
【0073】
単回投与後の薬物動態学データは、化合物(I)が30mg~1200mgの範囲で良好に吸収され、Tmax中央値が2.0時間~3.5時間であることを示した。Cmax及びAUCo-tでの曝露値は、化合物(I)の用量が300mgまで増加するにつれて増加した。しかし、600~1200mgの間に用量との非比例性が観察された。Tmaxの推定値は、すべての用量レベルで一貫しているようであり、かつ2.0時間~3.5時間の範囲内であった。薬物半減期t1/2は、30mgを超えた用量群においても同等であり、約6~12時間の範囲であった。これらの発見は、ヒトにおけるマイクロペレットの1次線形動力学を示している。
【0074】
単回の用量増量治療アームにおける、30mg~1200mgの用量レベルでの化合物(I)のマイクロペレット製剤のヒトPK特性を下表にまとめた。
【0075】
【表6】
【0076】
複数回の用量増量治療アームにおいて、1日2回の投与を6日半繰り返した後、7日目の定常状態での結果は各群同士で比較した任意のパラメータのうち、用量正規化されたAUC0-t、AUC0-inf及びCmaxにおいて有意な差を示さなかった。Tmaxは、この期間中の反復投与による影響を受けていないようであり、単回投与アームにおいて観察された結果と非常に類似した結果となっている。半減期について、t1/2値はすべての用量群で同等であり、t1/2の推定中央値は単回投与アームと同様であり、かつ用量に依存性していないと考えられる。複数回の用量増量治療アームにおける100mg~300mgの用量レベルでの化合物(I)のマイクロペレット製剤のPK特性を下表にまとめた。
【0077】
【表7】
【0078】
実施例6:健常な成人被験者において、溶液剤としての化合物(I)を用いたオープンラベルで単回用量研究。
【0079】
この研究において、化合物(I)を水性酒石酸の溶液剤として健常な男性ボランティアに投与した。被験者数と化合物(I)への曝露量は下表にまとめた。
【0080】
【表8】
【0081】
薬物動態学の結果は、化合物(I)が迅速に吸収され、Tmax値が0.5時間~1.0時間であり、腸溶性コーティングがされたマイクロペレットより明らかに短いことを示した。血中濃度は、マイクロペレットと同様に、10.3時間の幾何平均半減期で低下した。Cmaxでの曝露量は、マイクロペレットの場合に観察された曝露量の4~5倍に達したが、AUCは同じ用量レベルで同様であった。溶液製剤のヒトにおけるPKパラメーターを下表にまとめた。
【0082】
【表9】
【0083】
実施形態を参照して本発明を十分に説明したが、本発明の精神又は範囲から逸脱することなく様々な修正及び変更を行うことができることは当業者には明らかである。したがって、そのような修正及び変更は、添付の特許請求の範囲及びそれらの均等物に規定する本発明の範囲内に含まれると理解されされたい。
【国際調査報告】