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特表2023-500357生物内に新規突然変異を作出するための方法およびその適用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-05
(54)【発明の名称】生物内に新規突然変異を作出するための方法およびその適用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20221223BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20221223BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20221223BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221223BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221223BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221223BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221223BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221223BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20221223BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20221223BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20221223BHJP
【FI】
C12N15/10 200Z
C12N15/09 110
C12N15/09 100
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A01K67/027
A01H1/00 A
A01H5/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022526315
(86)(22)【出願日】2020-10-13
(85)【翻訳文提出日】2022-05-06
(86)【国際出願番号】 CN2020120633
(87)【国際公開番号】W WO2021088601
(87)【国際公開日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】201911081617.X
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010821877.2
(32)【優先日】2020-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010974151.2
(32)【優先日】2020-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520479722
【氏名又は名称】チンタオ、キングアグルート、ケミカル、コンパウンド、カンパニー、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】QINGDAO KINGAGROOT CHEMICAL COMPOUND CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】NO.53,QINGLONGHE ROAD,HUANGDAO DISTRICT,QINGDAO,SHANDONG,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】チアン、リンチエン
(72)【発明者】
【氏名】モー、ストン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、チヤオ
(72)【発明者】
【氏名】リー、ユカイ
(72)【発明者】
【氏名】チー、ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】リー、ホアロン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ボー
【テーマコード(参考)】
2B030
4B065
【Fターム(参考)】
2B030AA00
2B030AB04
2B030CA14
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、遺伝子工学の技術分野に関して、特に、人工DNA鋳型の不在下で生物内に部位特異的突然変異を作出するための方法、およびその使用に関する。この方法は、以下の工程:生物のゲノム中の特定の部位に2箇所以上のDNA切断を連続的に作出する工程およびそれらをそれぞれ自発的に修復する工程を含んでなり、後のDNA切断は前のDNA切断修復から生成された新規配列に基づいて生成される。本発明において、新規標的は連続的編集によって生じた新規修復イベントによって生成された配列に基づいて設計され、よって、突然変異は、ゲノム中の特定の部位に多数回連続的に作出可能であり、これにより、DNA切断後の修復イベントのタイプが大幅に増え、単一の遺伝子編集では見ることのできない新規の塩基置換、欠失および挿入突然変異が実現する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物内に新規突然変異を作出するための方法であって、以下の工程:前記生物のゲノムの特定の部位に2箇所以上のDNA切断を連続的に作出する工程、およびそれらをそれぞれ自発的に修復する工程を含んでなり、後のDNA切断が前のDNA切断修復から生成された新規配列に基づいて生成される、方法。
【請求項2】
前記「DNA切断」が、標的化特性を有するヌクレアーゼを前記生物の細胞に送達してゲノムDNAの特定の部位と接触させることによって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記「標的化特性を有するヌクレアーゼ」がZFN、TALENまたはCRISPR/Casシステムである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記「特定の部位に2箇所以上のDNA切断を連続的に作出すること」が、ZFNまたはTALEN編集によって生成された前のDNA切断修復イベントによって生成された新規配列に基づき、新規ZFNまたはTALENタンパク質がその部位を再び切断するように設計される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記「特定の部位に2箇所以上のDNA切断を連続的に作出すること」が、CRISPR/Casシステムによって生成された前のDNA切断修復イベントによって生成された新規配列に基づき、新規標的RNAがその部位を再び切断するように設計される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記「2箇所以上のDNA切断」が、異なる標的化ヌクレアーゼを異なる世代のレシピエント細胞に連続的に送達することによって作出され、前の編集を完了した突然変異細胞が後の編集の標的化ヌクレアーゼの送達を受容するためのレシピエントとして使用され、それにより、部位特異的突然変異を生成するための第2の編集を行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記「2箇所以上のDNA切断」が、異なる標的のための異なる標的化ヌクレアーゼを同じレシピエント細胞に送達することによって作出される、請求項1~3および5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記「2箇所以上のDNA切断」が、異なるgRNAまたはsgRNAをそれぞれ有する同じCRISPR/Casヌクレアーゼによって形成されたRNP複合体が、対応する標的配列を連続的に切断する場合に作出される、請求項1~3、5および7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記「2箇所以上のDNA切断」が、各gRNAまたはsgRNAで異なるPAM配列を認識する2つ以上のCRISPR/Casヌクレアーゼのそれぞれによって個々に形成されたRNP複合体が、対応する標的配列を連続的に切断する場合に作出される、請求項1~3、5および7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記標的化ヌクレアーゼがゲノム編集を実行することができる任意のCRISPR/Casヌクレアーゼである、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記標的化ヌクレアーゼがDNAの形態である、請求項6または7に記載の方法。
【請求項12】
前記標的化ヌクレアーゼがDNAではなく、mRNAまたはタンパク質の形態である、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記標的化ヌクレアーゼを細胞に送達するための方法が、1)PEG媒介細胞トランスフェクション法;2)リポソーム媒介細胞トランスフェクション法;3)エレクトロポレーション形質転換法;4)マイクロインジェクション;5)遺伝子銃衝撃;または6)アグロバクテリウム媒介形質転換法から選択される、請求項6または7に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法によって得られる新規突然変異。
【請求項15】
請求項14に記載の新規突然変異を有する、タンパク質またはその生物学的に活性な断片。
【請求項16】
請求項15に記載のタンパク質またはその生物学的に活性な断片をコードする核酸配列または相補配列を含んでなる核酸。
【請求項17】
(a)標的RNAをコードするヌクレオチド配列
を含んでなり、前記標的RNAは、少なくとも2つの標的RNAを含んでなり、第1の標的RNAは、あるDNAを標的としてそのDNAに切断を引き起こし、後者の標的RNAは前の切断修復イベントから生成された配列を標的とし、再び切断を作出する、核酸。
【請求項18】
(b)Casポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をさらに含んでなる、請求項17に記載の核酸。
【請求項19】
前記標的RNAがsgRNAまたはgRNAである、請求項17または18に記載の核酸。
【請求項20】
前記Casポリペプチドおよび標的RNAがin vitro細胞またはex vivo細胞に存在する、請求項17~19のいずれか一項に記載の核酸。
【請求項21】
請求項16~20のいずれか一項に記載の核酸、およびそれに機能的に連結されたプロモーターを含んでなる組換え発現ベクター。
【請求項22】
請求項16~20のいずれか一項に記載の核酸を含んでなる発現カセット
【請求項23】
請求項22に記載の発現カセットを含んでなる宿主細胞。
【請求項24】
請求項23に記載の宿主細胞から再生される生物。
【請求項25】
標的DNAを溶解させるための方法であって、前記標的DNAを複合体と接触させることを含んでなり、前記複合体は、
(a)Casポリペプチド;および
(b)少なくとも2つの標的RNA、ここで、第1の標的RNAは、前記DNAを標的としてそのDNAに切断を引き起こし、後者の標的RNAは前の切断修復イベントから生成された配列を標的とし、再び切断を作出する、
を含んでなる、方法。
【請求項26】
前記標的RNAがsgRNAまたはgRNAである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記標的DNAが細菌細胞、真核細胞、植物細胞または動物細胞に存在する、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
前記標的DNAが染色体DNAである、請求項25~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記Casポリペプチドおよび標的RNAがin vitro細胞またはex vivo細胞に存在する、請求項25~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
接触させることが、前記細胞に以下:(a)CasポリペプチドまたはそのCasポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および(b)標的RNAまたはその標的RNAをコードするDNAポリヌクレオチドを導入することを含んでなる、請求項25~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
(a)Casポリペプチド、またはそのCasポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;および
(b)少なくとも2つの標的RNA、またはそれらの標的RNAをコードするDNAポリヌクレオチド、ここで、第1のRNAは、あるDNAを標的としてそのDNAに切断を引き起こし、後者の標的RNAは前の切断修復イベントから生成された配列を標的とし、再び切断を作出する、
を含んでなる、組成物。
【請求項32】
前記標的RNAがsgRNAまたはgRNAである、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
前記Casポリペプチドおよび前記標的RNAがin vitro細胞またはex vivo細胞に存在する、請求項31または32に記載の組成物。
【請求項34】
疾患の治療のための薬剤の製造における、請求項31~33のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項35】
(a)Casポリペプチド、またはそのCasポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでなる核酸;および
(b)少なくとも2つの標的RNA、またはそれらの標的RNAをコードするヌクレオチド配列を含んでなる核酸、ここで、第1のRNAは、あるDNAを標的としてそのDNAに切断を引き起こし、後者の標的RNAは、前の切断修復イベントから生成された配列を標的とし、再び切断を作出する;
を含んでなり、(a)と(b)は同じまたは別の容器にある、キット。
【請求項36】
前記標的RNAがsgRNAまたはgRNAである、請求項35に記載のキット。
【請求項37】
(b)の標的RNAが同じまたは別の容器にある、請求項35または36に記載のキット。
【請求項38】
外因性のトランスジェニックマーカーに依存しない編集イベントをスクリーニングするための方法であって、以下の工程:
1)レシピエント細胞の第1の標的遺伝子の配列の特定の部位に2箇所以上のDNA切断が連続的に作出され、それぞれ自発的に修復され、後のDNA切断は、前のDNA切断の修復から生成された新規配列に基づいて生成される工程;
2)第1の標的遺伝子の特定の部位が連続的に切断され修復された後にある特定の編集イベントが生じ、これは突然変異細胞にある特定の選択圧に対する抵抗性を付与して表現型選択が可能な形質を作出することができ、その形質に関して選択を行うために対応する選択圧が適用され、このような編集イベントを含む細胞、組織、器官または完全な生物体が単離される工程;
3)場合により、同時に別の標的部位を編集するために、第1の標的遺伝子に加えて、少なくとも1つの第2の標的遺伝子に対する標的化ヌクレアーゼが使用され、第2の標的遺伝子の編集イベントが富化され、第1の標的遺伝子の突然変異によって生成された選択可能な形質のスクリーニングを介して同期してスクリーニングされ、第1の標的遺伝子の編集イベントと少なくとも1つの第2の標的遺伝子の編集イベントを同時に含む細胞、組織、器官または完全な生物体が単離される工程
を含んでなる、方法。
【請求項39】
前記「第1の標的遺伝子」が、少なくとも1つの表現型選択が可能な形質をコードする遺伝子座であり、前記少なくとも1つの表現型選択が可能な形質が抵抗性/耐性形質または成長に有利な形質である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
「第1の標的遺伝子の特定の部位」が、連続的切断および修復の後に、レシピエント細胞にある特定の選択圧に対する抵抗性を付与して少なくとも1つの表現型選択が可能な抵抗性/耐性形質または成長に有利な形質を生じ得る、ある特定のタイプの突然変異が生成される部位を指す、請求項38または39に記載の方法。
【請求項41】
前記「ある特定のタイプの突然変異」が単一塩基の置換、複数塩基の置換、または不特定数の塩基の挿入もしくは欠失を含んでなる、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記「ある特定の選択圧」が環境圧または付加された化合物から生じる圧力であり、前記環境圧は、好ましくは高温、低温または低酸素であり、付加された化合物から生じる圧力は、好ましくは、塩イオン濃度、抗生物質、細胞毒素または除草剤から生じる圧力である、請求項38~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記「DNA切断」が、標的化特性を有するヌクレアーゼを生物の細胞に送達してゲノムDNAの特定の部位と接触させることによって達成される、請求項38~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記「標的化特性を有するヌクレアーゼ」がゲノム編集を実行することができる任意のCRISPR/Casヌクレアーゼである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
「配列の特定の部位に2箇所以上のDNA切断が連続的に作出される」という特徴が、CRISPR/Casシステムによって生成された前のDNA切断修復イベントにより生成された新規配列に基づき、新規標的RNAがその部位を再び切断するように設計されることを指す、請求項38~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記「2箇所以上のDNA切断」が、異なるgRNAまたはsgRNAをそれぞれ有する同じCRISPR/Casヌクレアーゼによって形成されたRNP複合体が、対応する標的配列を連続的に切断する場合に作出される、請求項38~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記「2箇所以上のDNA切断」が、各gRNAまたはsgRNAで異なるPAM配列を認識する2つ以上のCRISPR/Casヌクレアーゼによって個々に形成されたRNP複合体が、対応する標的配列を連続的に切断する場合に作出される、請求項38~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記「第2の標的遺伝子」が第1の標的遺伝子とはコードが異なる別の遺伝子を指す、請求項38~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記「少なくとも1つの第2の標的遺伝子に対する標的化ヌクレアーゼ」および第1の標的遺伝子の特定の部位にDNA切断を作出するために使用される前記CRISPR/Casヌクレアーゼが同じかまたは異なる、請求項38~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記標的化ヌクレアーゼがDNAの形態である、請求項38~45および48~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記標的化ヌクレアーゼがDNAではなく、mRNAまたはタンパク質の形態である、請求項38~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記標的化ヌクレアーゼを細胞に送達するための方法が、1)PEG媒介細胞トランスフェクション法;2)リポソーム媒介細胞トランスフェクション法;3)エレクトロポレーション形質転換法;4)マイクロインジェクション;5)遺伝子銃衝撃;または6)アグロバクテリウム媒介形質転換法から選択される、請求項43~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
生物ゲノムの非トランスジェニック一過性編集のための方法であって、以下の工程:
1)レシピエント細胞の第1の標的遺伝子の特定の部位に対して、少なくとも2つのcrRNA断片の組合せまたは少なくとも2つのsgRNA断片の組合せが設計および合成され、tracrRNAと組み合わせた前記crRNAの組合せまたは単独の前記sgRNA組合せが、対応するCasタンパク質を、レシピエント細胞の第1の標的遺伝子の特定の部位に2箇所以上のDNA切断を連続的に作出し、それらをそれぞれ自発的に修復するようにガイドすることができ、後のDNA切断は前のDNA切断修復から生成された新規配列に基づいて生成される工程;
2)適当な量のCRISPR/Casタンパク質または対応するそのmRNAが、上記で予め設計および合成された、第1の標的遺伝子の部位特異的編集を内因性の選択マーカーを生成するようにガイドすることができるcrRNA断片とtracrRNA断片の組合せまたは単独のsgRNA断片の組合せと混合され、場合により、第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子を標的とする人工的に合成されたcrRNAおよびtracrRNA断片または人工的に合成されたsgRNA断片のうちの少なくとも1つがさらに付加され、RNP複合体を形成するためにin vitroでインキュベーションが行われる工程;
3)遺伝子編集を達成するために、上記RNP複合体がレシピエント細胞に送達され、ゲノムDNAの特定の部位と接触される工程;
4)RNP複合体による第1の標的遺伝子の部位特異的編集によって生成された表現型選択が可能な形質に従い、その形質に関して選択を行うために対応する選択圧が適用され
、その編集イベントを含む細胞、組織、器官または完全な生物体が単離され、場合により、第1の標的遺伝子の編集イベントと第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子のうち少なくとも1つの編集イベントを同時に含む細胞、組織、器官または完全な生物体が単離される工程、
を含んでなる、方法。
【請求項54】
前記「第1の標的遺伝子」が少なくとも1つの表現型選択が可能な形質をコードする遺伝子座であり、前記少なくとも1つの表現型選択が可能な形質が抵抗性/耐性形質または成長に有利な形質である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記「第1の標的遺伝子の特定の部位」が、連続的切断および修復の後に、レシピエント細胞にある特定の選択圧に対する抵抗性を付与して少なくとも1つの表現型選択が可能な抵抗性/耐性形質または成長に有利な形質を生じ得るある特定のタイプの突然変異が生成される部位を指す、請求項53または54に記載の方法。
【請求項56】
前記「ある特定のタイプの突然変異」が単一塩基の置換、複数塩基の置換、または不特定数の塩基の挿入もしくは欠失を含んでなる、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記「ある特定の選択圧」が環境圧または付加された化合物から生じる圧力であり、前記環境圧は、好ましくは高温、低温または低酸素であり、付加された化合物から生じる圧力は、好ましくは、塩イオン濃度、抗生物質、細胞毒素または除草剤から生じる圧力である、請求項55または56に記載の方法。
【請求項58】
前記CRISPR/Casタンパク質がゲノム編集を実行することができる任意のCRISPR/Casヌクレアーゼである、請求項53~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
「特定の部位に2箇所以上のDNA切断を連続的に作出する」という特徴が、CRISPR/Casシステムによって生成された前のDNA切断修復イベントにより生成された新規配列に基づき、新規標的RNAがその部位を再び切断するように設計されることを指す、請求項53~58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記「2箇所以上のDNA切断」が、異なるgRNAまたはsgRNAをそれぞれ有する同じCRISPR/Casヌクレアーゼによって形成されたRNP複合体が、対応する標的配列を連続的に切断する場合に作出される、請求項53~59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記「2箇所以上のDNA切断」が、各gRNAまたはsgRNAで異なるPAM配列を認識する2つ以上のCRISPR/Casヌクレアーゼのそれぞれによって個々に形成されたRNP複合体が、対応する標的配列を連続的に切断する場合に作出される、請求項53~59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記「第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子」が、第1の標的遺伝子とはコードが異なる他の遺伝子を指す、請求項53~61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記「第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子を標的とする人工的に合成されたcrRNAおよびtracrRNA断片または人工的に合成されたsgRNA断片のうちの少なくとも1つ」が、第1の標的遺伝子を標的とするcrRNAまたはsgRNAを有する同じCasタンパク質を有する、請求項53~62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
前記「第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子を標的とする人工的に合成されたcrRNAおよびtracrRNA断片または人工的に合成されたsgRNA断片のうちの少なくとも1つ」ならびに第1の標的遺伝子を標的とするcrRNAまたはsgRNAが、異なるPAM配列を認識するCasタンパク質を使用する、請求項53~62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
前記RNP複合体を細胞に送達するための方法が、1)PEG媒介細胞トランスフェクション法;2)リポソーム媒介細胞トランスフェクション法;3)エレクトロポレーション形質転換法;4)マイクロインジェクション;または5)遺伝子銃衝撃から選択される、請求項53~64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
植物ゲノムの非トランスジェニック一過性編集のための方法であって、以下の工程:
1)レシピエント植物細胞または組織の第1の標的遺伝子の特定の部位に対して、少なくとも2つのcrRNA断片の組合せまたは少なくとも2つのsgRNA断片の組合せが設計および合成され、tracrRNAと組み合わせた前記crRNAの組合せまたは単独の前記sgRNAの組合せが、対応するCasタンパク質を、レシピエント細胞の第1の標的遺伝子の特定の部位に2箇所以上のDNA切断を連続的に作出し、それらをそれぞれ自発的に修復するようにガイドすることができ、後のDNA切断は前のDNA切断修復から生成された新規配列に基づいて生成される工程;
2)適当な量のCRISPR/Casタンパク質または対応するそのmRNAが、上記で予め設計および合成された、第1の標的遺伝子の部位特異的編集を内因性の選択マーカーを生成するようにガイドすることができるcrRNA断片とtracrRNA断片の組合せまたは単独のsgRNA断片組合せと混合され、場合により、第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子を標的とする人工的に合成されたcrRNAおよびtracrRNA断片または人工的に合成されたsgRNA断片のうちの少なくとも1つがさらに付加され、RNP複合体を形成するためにin vitroでインキュベーションが行われる工程;
3)遺伝子編集を達成するために、上記RNP複合体がレシピエント植物細胞または組織に送達され、ゲノムDNAの特定の部位と接触される工程;
4)RNP複合体による第1の標的遺伝子の部位特異的編集によって生成された表現型選択が可能な形質に従い、その形質に関して選択を行うために対応する選択圧が適用され、その編集イベントを含む細胞、組織、基間、または完全な植物体が単離され、場合により、第1の標的遺伝子の編集イベントと第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子のうち少なくとも1つの編集イベントを同時に含む細胞、組織、器官または完全な植物体が単離される工程を含んでなる、方法。
【請求項67】
前記「第1の標的遺伝子」が少なくとも1つの表現型選択が可能な形質をコードする遺伝子座であり、前記少なくとも1つの表現型選択が可能な形質が抵抗性/耐性形質または成長に有利な形質である、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記「第1の標的遺伝子の特定の部位」が、連続的切断および修復の後に、レシピエント細胞にある特定の選択圧に対する抵抗性を付与して少なくとも1つの表現型選択が可能な抵抗性/耐性形質または成長に有利な形質を生じ得るある特定のタイプの突然変異が生成される部位を指す、請求項66または67に記載の方法。
【請求項69】
前記「ある特定のタイプの突然変異」が単一塩基の置換、複数塩基の置換、または不特定数の塩基の挿入もしくは欠失を含んでなる、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記「ある特定の選択圧」が環境圧または付加された化合物から生じる圧力であり、前記環境圧は、好ましくは高温、低温または低酸素であり、付加された化合物から生じる圧力は、好ましくは、塩イオン濃度、抗生物質、細胞毒素または除草剤から生じる圧力である、請求項68または69に記載の方法。
【請求項71】
前記「レシピエント植物細胞または組織」が、一過性発現のレシピエントとして働くことができ、かつ、組織培養によって完全な植物体に再分化可能であり、前記細胞は好ましくはプロトプラスト細胞または懸濁細胞であり、前記組織は好ましくはカルス、未熟胚、成熟胚、葉、茎頂、幼穂または胚軸である、請求項66~70のいずれか一項に記載の方法。
【請求項72】
前記CRISPR/Casタンパク質がゲノム編集を実行することができる任意のCRISPR/Casヌクレアーゼである、請求項66~71のいずれか一項に記載の方法。
【請求項73】
「特定の部位に2箇所以上のDNA切断を連続的に生成する」という特徴が、CRISPR/Casシステムによって生成された前のDNA切断修復イベントによって生成された新規配列に基づき、新規標的RNAがその部位を再び切断するように設計されることを指す、請求項66~72のいずれか一項に記載の方法。
【請求項74】
前記「2箇所以上のDNA切断」が、異なるgRNAまたはsgRNAをそれぞれ有する同じCRISPR/Casヌクレアーゼによって形成されたRNP複合体が、対応する標的配列を連続的に切断する場合に作出される、請求項66~73のいずれか一項に記載の方法。
【請求項75】
前記「2箇所以上のDNA切断」が、各gRNAまたはsgRNAで異なるPAM配列を認識する2つ以上のCRISPR/Casヌクレアーゼのそれぞれによって個々に形成されたRNP複合体が、対応する標的配列を連続的に切断する場合に作出される、請求項66~73のいずれか一項に記載の方法。
【請求項76】
前記「第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子」が、第1の標的遺伝子とはコードが異なる他の遺伝子を指す、請求項66~75のいずれか一項に記載の方法。
【請求項77】
前記「第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子を標的とする人工的に合成されたcrRNAおよびtracrRNA断片または人工的に合成されたsgRNA断片のうちの少なくとも1つ」が、第1の標的遺伝子を標的とするcrRNAまたはsgRNAを有する同じCasタンパク質を有する、請求項66~76のいずれか一項に記載の方法。
【請求項78】
前記「第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子を標的とする人工的に合成されたcrRNAおよびtracrRNA断片または人工的に合成されたsgRNA断片のうちの少なくとも1つ」ならびに第1の標的遺伝子を標的とするcrRNAまたはsgRNAが、異なるPAM配列を認識するCasタンパク質を使用する、請求項66~76のいずれか一項に記載の方法。
【請求項79】
前記RNP複合体を植物細胞に送達するための方法が、1)PEG媒介細胞プロトプラスト形質転換法;2)マイクロインジェクション;;3)遺伝子銃衝撃;4)炭化ケイ素繊維媒介方法;または5)真空浸潤法、または任意の他の一過性導入法から選択される、請求項66~78のいずれか一項に記載の方法。
【請求項80】
前記「第1の標的遺伝子」が、除草剤抵抗性/耐性から選択される少なくとも1つの表現型選択が可能な形質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子であり、前記除草剤抵抗性/耐性は、EPSPS阻害剤に対する抵抗性/耐性、グルタミン合成阻害剤に対する抵抗性/耐性、ALSまたはAHAS阻害剤に対する抵抗性/耐性、ACCase阻害剤に対する抵抗性/耐性、カロテノイド生合成阻害剤に対する抵抗性/耐性、セルロース阻害剤に対する抵抗性/耐性、脂質合成阻害剤に対する抵抗性/耐性、長鎖脂肪酸阻害剤に対する抵抗性/耐性、微小管重合阻害剤に対する抵抗性/耐性、光化学系I電子シャント剤に対する抵抗性/耐性、光化学系II阻害剤に対する抵抗性/耐性またはPPO阻害剤に対する抵抗性/耐性、および合成成長ホルモンに対する抵抗性/耐性からなる群から選択され;好ましくは、前記「第1の標的遺伝子」は、PsbA、ALS、EPSPS、ACCase、PPO、HPPD、PDS、GS、DOXPS、TIR1またはAFB5から選択される、請求項66~79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項81】
前記「第1の標的遺伝子」がALSであり、前記「遺伝子の特定の部位」がアラビドプシスAtALSタンパク質のアミノ酸配列における部位A122、P197、R198、D204、A205、D376、R377、W574、S653もしくはG654、および別の植物のALSタンパク質における、AtALSアミノ酸配列を参照標準として使用することにより上記アミノ酸部位に相当するアミノ酸部位を指すか;または
前記crRNAもしくはsgRNAが、A122、P197、R198、D204、A205、D376、R377、W574、S653、G654もしくはそれらの任意の組合せからなる群から選択されるAtALSタンパク質のアミノ酸配列部位をコードする配列を含んでなる標的配列、ならびに別の植物のALSタンパク質における、AtALSアミノ酸配列を参照標準として使用することにより上記アミノ酸部位、およびそれらの任意の組合せに相当するアミノ酸部位をコードする配列を含んでなる標的配列を標的とする、
請求項80に記載の方法。
【請求項82】
前記「第1の標的遺伝子」がACCaseであり、前記「遺伝子の特定の部位」が、ノスズメノテッポウAmACCaseタンパク質のアミノ酸配列における部位I1781、E1874、N1878、W1999、W2027、I2041、D2078、C2088もしくはG2096、およびAmACCaseアミノ酸配列を参照標準として使用することにより上記アミノ酸部位に相当する別の単子葉植物のACCaseタンパク質のアミノ酸部位を指すか;または
前記crRNAもしくはsgRNAが、I1781、E1874、N1878、W1999、W2027、I2041、D2078、C2088、G2096もしくはそれらの任意の組合せからなる群から選択されるAmACCaseアミノ酸配列部位をコードする配列を含んでなる標的配列、ならびに別の単子葉植物のACCaseタンパク質における、AmACCaseアミノ酸配列を参照標準として使用することにより上記アミノ酸部位、およびそれらの任意の組合せに相当するアミノ酸部位をコードする配列を含んでなる標的配列を標的とする、
請求項80に記載の方法。
【請求項83】
前記「第1の標的遺伝子」がHPPDであり、前記「遺伝子の特定の部位」がイネOsHPPDタンパク質のアミノ酸配列における部位H141、L276、P277、N338、G342、R346、D370、P386、K418もしくはG419、および別の植物のHPPDタンパク質における、OsHPPDアミノ酸配列を参照標準として使用することにより上記アミノ酸部位に相当するアミノ酸部位を指すか;または
前記crRNAもしくはsgRNAが、H141、L276、P277、N338、G342、R346、D370、P386、K418、G419もしくはそれらの任意の組合せからなる群から選択されるOsHPPDアミノ酸配列部位をコードする配列を含んでなる標的配列、ならびに別の植物のHPPDタンパク質における、OsHPPDアミノ酸配列を参照標準として使用することにより上記アミノ酸部位、およびそれらの任意の組合せに相当するアミノ酸部位をコードする配列を含んでなる標的配列を標的とする、
請求項80に記載の方法。
【請求項84】
前記「第1の標的遺伝子」がPPOであり、前記「遺伝子の特定の部位」がイネOsPPO1タンパク質のアミノ酸配列における部位S128、V217、S223、V364、K373、L423、Y425またはW470、および別の植物のPPOタンパク質における、OsPPO1のアミノ酸配列を参照標準として使用することにより上記アミノ酸部位に相当するアミノ酸部位を指すか、または
前記crRNAもしくはsgRNAが、S128、V217、S223、V364、K373、L423、Y425、W470またはそれらの任意の組合せからなる群から選択されるOsPPO1アミノ酸配列部位をコードする配列を含んでなる標的配列、ならびに別の植物のPPOタンパク質における、OsPPO1アミノ酸配列を参照標準として使用することにより上記アミノ酸部位、およびそれらの任意の組合せに相当するアミノ酸部位をコードする配列を含んでなる標的配列を標的とする、
請求項80に記載の方法。
【請求項85】
前記「第1の標的遺伝子」がTIR1であり、前記「遺伝子の特定の部位」が、イネOsTIR1タンパク質のアミノ酸配列における部位F93、F357、C413もしくはS448、および別の植物のTIR1タンパク質における、OsTIR1アミノ酸配列を参照標準として使用することにより上記アミノ酸部位に相当するアミノ酸部位を指すか;または
前記crRNAもしくはsgRNAが、F93、F357、C413、S448もしくはそれらの任意の組合せからなる群から選択されるOsTIR1アミノ酸配列部位をコードする配列を含んでなる標的配列、ならびに別の植物のTIR1タンパク質における、OsTIR1アミノ酸配列を参照標準として使用することにより上記アミノ酸部位、およびそれらの任意の組合せに相当するアミノ酸部位をコードする配列を含んでなる標的配列を標的とする、
請求項80に記載の方法。
【請求項86】
請求項53~85のいずれか一項に記載に記載の方法を使用する、非トランスジェニック一過性編集システム。
【請求項87】
選択マーカーとしてのまたは疾患の治療または生物育種における、請求項86に記載の非トランスジェニック一過性編集システムの使用。
【請求項88】
ゲノムが、
1)第1の標的遺伝子の編集イベント;
2)第1の標的遺伝子の編集イベントと少なくとも1つの第2の標的遺伝子の編集イベント;または
3)少なくとも1つの第2の標的遺伝子編集イベント、この場合、第1の標的遺伝子の編集イベントは遺伝的分離により除去されている、
を含んでなり、非トランスジェニック様式で得られる、請求項66~85のいずれか一項に記載の方法によって得られる遺伝子改変植物。
【請求項89】
請求項66~85のいずれか一項に記載の方法によって得られる新規植物遺伝子突然変異。
【請求項90】
以下のタイプ:
アラビドプシスALS376に相当する部位におけるアスパラギン酸の、任意の他のアミノ酸での置換、アラビドプシスALS574に相当する部位におけるトリプトファンの、任意の他のアミノ酸での置換、アラビドプシスALS653に相当する部位におけるセリンの、任意の他のアミノ酸での置換、もしくはアラビドプシスALS654に相当する部位におけるセリンの、任意の他のアミノ酸での置換;またはノスズメノテッポウACCase2027に相当する部位におけるトリプトファンの、任意の他のアミノ酸での置換
の1つまたは2以上の組合せを含んでなる、植物に作出された新規突然変異。
【請求項91】
アラビドプシスALS376に相当する部位におけるアスパラギン酸がグルタミン酸により置換され、アラビドプシスALS574に相当する部位におけるトリプトファンがロイシンもしくはメチオニンにより置換され、アラビドプシスALS653に相当する部位におけるセリンがアスパラギンもしくはアルギニンにより置換され、またはアラビドプシスALS654に相当する部位におけるグリシンがアスパラギン酸により置換され;あるいはノスズメノテッポウACCase2027に相当する部位におけるトリプトファンがロイシンもしくはシステインにより置換されている、請求項90に記載の突然変異。
【請求項92】
イネALSの部位350におけるアスパラギン酸が任意の他のアミノ酸により置換され、イネALSの部位548におけるトリプトファンが任意の他のアミノ酸により置換され、もしくはバレイショALS2の部位561におけるトリプトファンが任意の他のアミノ酸により置換され;またはイネACCase2の部位2038におけるトリプトファンが任意の他のアミノ酸により置換されている、請求項90に記載の突然変異。
【請求項93】
イネALSの部位350におけるアスパラギン酸がグルタミン酸により置換され、イネALSの部位548におけるトリプトファンがロイシンもしくはメチオニンにより置換され、またはバレイショALS2の部位561におけるトリプトファンがロイシンもしくはメチオニンにより置換され;あるいはイネACCase2の部位2038におけるトリプトファンがロイシンまたはシステインにより置換されている、請求項90~92のいずれか一項に記載の突然変異。
【請求項94】
請求項89~93のいずれか一項に記載の新規突然変異を含んでなるタンパク質またはその生物学的に活性な断片。
【請求項95】
請求項94に記載のタンパク質またはその生物学的に活性な断片をコードする核酸配列または相補配列を含んでなる核酸。
【請求項96】
請求項95に記載の核酸およびそれに機能的に連結されたプロモーターを含んでなる組換え発現ベクター。
【請求項97】
請求項95に記載の核酸を含んでなる発現カセット。
【請求項98】
請求項97に記載の発現カセットを含んでなる植物細胞。
【請求項99】
請求項98に記載の植物細胞を使用することにより再分化した植物。
【請求項100】
除草剤に対する抵抗性または耐性が改良された植物を生産するための方法であって、植物細胞を請求項96に記載の組換え発現ベクターまたは請求項97に記載の発現カセットで形質転換またはトランスフェクトすること、および形質転換またはトランスフェクトされた植物細胞を植物に再分化させることを含んでなる、方法。
【請求項101】
植物栽培地の雑草を防除するための方法であって、前記植物が請求項88もしくは99に記載の植物または請求項100に記載の方法によって生産された植物を含み、前記方法は、前記栽培地に1種類以上の除草剤を、雑草を防除するために有効な量で施与することを含んでなる、方法。
【請求項102】
除草剤に対する植物細胞、植物組織、植物部分または植物体の抵抗性または耐性の改良おける、請求項89~93のいずれか一項に記載の新規突然変異、請求項94に記載のタンパク質もしくはその生物学的に活性な断片、請求項95に記載の核酸、請求項96に記載の組換え発現ベクター、または請求項97に記載の発現カセットの使用。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
優先件情報
本願は、2019年11月7日出現された中国特許出願第201911081617.X号、2020年8月15日に出願された中国特許出願第202010821877.2号、および2020年9月16日に出願された中国特許出願第202010974151.2号の利益を主張するものである。上記出願は、それらの全内容が引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、遺伝子工学の技術分野に関し、特に、人工DNA鋳型の不在下で生物内に部位特異的突然変異を作出するための方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
生物のゲノムを改変するための遺伝子工学技術は、薬学分野および化学分野で慣用される遺伝子改変微生物、ならびに農業分野での昆虫抵抗性および除草剤抵抗性を有する遺伝子改変作物など、工業生産および農業生産に広く使用されている。部位特異的ヌクレアーゼの出現により、レシピエント生物のゲノムへの標的化断片化を導入し、自発的修復を引き起こすことによって、ゲノムの部位特異的編集およびゲノムのより厳密な改変を達成することが可能となった。
【0004】
遺伝子編集ツールは主として、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)およびCasシステム(CRISPR/Casシステム)に関連するクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)(CRISPR)という3種類の配列特異的ヌクレアーゼ(SSN)を含む。配列特異的ヌクレアーゼは、ゲノム中の特定の部位にDNA二本鎖切断(DSB)を作出することができるプログラム可能なヌクレアーゼである。DNA二本鎖切断は、細胞においてDNA損傷を修復するための内因性DNA修復経路を活性化するが、その修復プロセスは標的部位におけるDNA配列の変化を容易にもたらし、それにより注目する部位における突然変異の導入を達成する。この技術は、生物学者が標的遺伝子を正確に標的化しそれを編集することを可能とする。とりわけ、ZFNおよびTALENの両方は標的配列に対する特異的認識タンパク質モジュールを設計することを必要とし、それにより低いスループットおよび複雑な操作となる。しかしながら、Casタンパク質は、CRISPR/Casシステムにおいて万能であり、この場合、ガイドRNA(gRNA)は標的部位のみに対してもしくはトランス活性化RNA(tracrRNA)と組み合わせて設計された特異的CRISPR-RNA(crRNA)によって形成され得る、または単独の単一ガイドRNA(sgRNA)で十分であり、crRNAおよびtracrRNAが一緒にもしくは単独のsgRNAがCasタンパク質と集合してリボヌクレオタンパク質複合体(RNP)を形成し、標的配列はゲノム中のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)に基づいて同定され、それにより部位特異的編集が実現し、よって、それはその簡単な操作、広い適用範囲およびハイスループットのために主要な遺伝子編集となっている。
【0005】
配列特異的ヌクレアーゼは、ゲノム中の特定の部位にDNA二本鎖切断を作り出す。これらのDNA二本鎖切断は、様々な異なる修復タイプへ修復される可能性があり、これらは主として塩基の挿入または欠失である。例えば、CRISPR/Cas9編集イベントの最も一般的な2つのタイプは、切断部の塩基の挿入または切断部の塩基の欠失である(Shen et al. 2018. Predictable and precise template-free CRISPR editing of pathogenic variants. Nature. DOI: 10.1038/s41586-018-0686-x)。コード領域における塩基の挿入または欠失はフレームシフト突然変異を引き起こし、遺伝子機能の欠損をもたらす。よって、上記遺伝子編集ツールの主要な目的は、やはり遺伝子ノックアウトを実行することである。
【0006】
配列特異的ヌクレアーゼを使用するだけでは塩基置換のタイプの突然変異を達成できないということが常に考えられてきた。このために、従来技術では3つの解決策が提案されている:1)相同組換え修復経路を誘導するために外因性DNA断片を修復鋳型として加えること;2)CからTおよびAからGのための単一の塩基編集ツールを連続的に開発するためにデアミナーゼをCas9と融合させること;3)小DNA鎖の合成および置換をガイドするためにpegRNAを用いて逆転写酵素をCas9と融合させること。しかしながら、これらの3つの解決策の編集効率は、遺伝子ノックアウトの効率よりもかなり低く、同時に導入された外因性DNA断片および逆転写酵素は、生物学的安全性の懸念にも容易につながり得る。単一塩基編集の標的外効果もまた、細胞治療における潜在的適用を制限する。特に、長期にわたる植物育種事業では、生物安全性に関する規制当局の懸念を軽減しつつ標的部位における塩基置換効率をどのように改善すればよいかは、遺伝子編集技術の適用において解決する必要のある問題である。
【0007】
概要を述べると、細胞治療および生物育種の分野では、外来のDNA断片を導入することなく、特に、部位特異的塩基置換編集を効率的に実行するための非トランスジェニック一過性編集システムを介して配列特異的ヌクレアーゼの標的化ノックアウトのみを使用することによる部位特異的塩基置換の差し迫った必要がある。
【発明の概要】
【0008】
発明の概要
本発明は、人工DNA鋳型を提供することなくゲノムに二本鎖切断を作出することだけで生物内に部位特異的突然変異を作出するための方法およびその方法の使用を提供する。
【0009】
本発明によって採用された技術的解決策は次の通りである。
生物内に新規突然変異を作出するための方法であって、以下の工程:前記生物のゲノムの特定の部位に2箇所以上のDNA切断を連続的に作出する工程、およびそれらをそれぞれ自発的に修復する工程を含んでなり、後のDNA切断が前のDNA切断修復から生成された新規配列に基づいて生成される、方法。
【発明の具体的説明】
【0010】
特定の実施形態において、「DNA切断」は、標的化特性を有するヌクレアーゼを生物の細胞に送達してゲノムDNAの特定の部位と接触させることによって達成される。
【0011】
特定の実施形態において、「標的化特性を有するヌクレアーゼ」は、ZFN、TALENまたはCRISPR/Casシステムである。
【0012】
特定の実施形態において、「特定の部位に2箇所以上のDNA切断を連続的に作出すること」は、ZFNまたはTALEN編集によって生じた前のDNA切断修復イベントから生成された新規配列に基づき、新規ZFNまたはTALENタンパク質がその部位を再び切断するように設計される。
【0013】
別の特定の実施形態において、「特定の部位に2箇所以上のDNA切断を連続的に作出すること」は、CRISPR/Casシステムによって生じた前のDNA切断修復イベントから生成された新規配列に基づき、新規標的RNAがその部位を再び切断するように設計される。例えば、第2の切断は、Cas9編集の第1の切断修復イベントから生成された新規配列に基づいて新規標的RNAを設計することによってその部位で再び実行される。同様にして、第3の切断は、図1に示されるように、第2切断修復イベントから生成された新規配列に基づいて新規標的RNAを設計することによってその部位で実行されるなどである。
【0014】
特定の実施形態において、「2箇所以上のDNA切断」は、異なる標的化ヌクレアーゼを異なる世代のレシピエント細胞に連続的に送達することによって作出され、前の編集を完了した突然変異細胞が後の編集の標的化ヌクレアーゼの送達を需要するためのレシピエントとして使用され、それにより、部位特異的突然変異を生成するための第2の編集を行う。この方法は好ましくは、ZFNおよびTALEN編集システムに使用される。
【0015】
別の特定の実施形態において、「2箇所以上のDNA切断」は、異なる標的のための異なる標的化ヌクレアーゼを同じレシピエント細胞に送達することによって作出される。この方法は好ましくは、CRISPR/Cas編集システムに使用される。
【0016】
特定の実施形態において、「2箇所以上のDNA切断」は、異なるgRNAまたはsgRNAをそれぞれ有する同じCRISPR/Casヌクレアーゼによって形成されたRNP複合体が、対応する標的配列を連続的に切断する場合に作出される。
【0017】
別の特定の実施形態において、「2箇所以上のDNA切断」は、各gRNAまたはsgRNAで異なるPAM配列を認識する2つ以上のCRISPR/Casヌクレアーゼによって個々に形成されたRNP複合体が、対応する標的配列を連続的に切断する場合に作出される。例えば、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来Cas9により認識されるPAM配列は、「NGG」または「NAG」であり(Jinek et al., "A programmable dual-RNA-guided DNA endonuclease in adaptive bacterial immunity", Science 2012, 337:816- 821)、黄色ブドウ球菌菌(Staphylococcus aureus)のCas9により認識されるPAM配列は、「NNGRRT」または「NNGRR(N)」であり、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)Cas9により認識されるPAM配列はNNNNGATTであり、サーモフィラス菌(Streptococcus thermophilus)Cas9により認識されるPAM配列はNNAGAAWである。このように、DNA分子の編集可能枠はより大きい。
【0018】
特定の実施形態において、標的化ヌクレアーゼは、ゲノム編集を達成することができる任意のCRISPR/Casヌクレアーゼである。
【0019】
特定の実施形態において、標的化ヌクレアーゼはDNAの形態である。
【0020】
別の特定の実施形態において、標的化ヌクレアーゼは、DNAではなく、mRNAまたはタンパク質の形態である。タンパク質の形態が好ましい。
【0021】
特定の実施形態において、標的化ヌクレアーゼを細胞に送達するための方法は、限定するものではないが、1)PEG媒介細胞トランスフェクション法;2)リポソーム媒介細胞トランスフェクション法;3)エレクトロポレーション形質転換法;4)マイクロインジェクション;5)遺伝子銃衝撃;6)アグロバクテリウム媒介形質転換法から選択される。
【0022】
この方法において、新規標的は、前のDNA切断修復から生成された新規配列に基づいて設計され、よって、突然変異は、ゲノム中の特定の部位に多数回連続的に作出可能であり、それにより、DNA切断後の修復イベントのタイプが指数関数的に増え、単一の遺伝子編集では見ることのできない新規タイプの塩基置換、欠失および挿入突然変異が生成し、従って、この方法は新規突然変異を作出するためのツールとして使用するために好適である。この方法は、簡単に述べれば、プログラムされた連続的切断/編集または連続的切断/編集の方法ということができる。
【0023】
特定の実施形態において、新規標的は、生物ゲノムの特定の部位において前の切断修復から生成されると予測される新規な特定の配列に基づいて設計され、その後、連続的編集が実行され、よって、その部位における可能性のある最終的な突然変異は、予測される編集を達成するように予め設計することができる。
【0024】
別の特定の実施形態において、新規標的は、生物ゲノムの特定の部位において前の切断修復から生成されると予測される新規配列に基づいて設計され、その後、連続的編集が実行され、最終的にその部位に、予測される編集イベントに加えて、様々な異なる突然変異が生成可能であり、従って、この方法は種々の異なる突然変異を作出するためのツールとして使用することができる。
【0025】
別の側面において、本発明はさらに、生物内に新規突然変異を作出するための方法であって、以下の工程:生物のゲノムまたは染色体レベルで遺伝子の特定の部位に2箇所以上のDNA切断を連続的に作出し、それにより正確な塩基置換、欠失または挿入を達成する工程を含んでなる方法を提供する。
【0026】
特定の実施形態において、「特定の部位に2箇所以上のDNA切断を連続的に作出すること」は、新規標的RNAが前の切断修復イベントから生成された新規配列に基づいて設計されることを指し、その同じ部位で再び切断が実行される。
【0027】
特定の実施形態において、「DNA切断」は、標的化特性を有するヌクレアーゼによって達成される。
【0028】
本発明はさらに、前述の方法によって得られた新規突然変異を提供する。
【0029】
本発明はさらに、前述の新規突然変異を有するタンパク質またはその生物学的に活性な断片を提供する。
【0030】
本発明はさらに、タンパク質またはその生物学的に活性な断片をコードする核酸配列またはその相補配列を含んでなる核酸を提供する。
【0031】
本発明はさらに、
(a)標的RNAをコードするヌクレオチド配列
を含んでなり、前記標的RNAは、少なくとも2つの標的RNAを含んでなり、第1の標的RNAは、あるDNAを標的としてそのDNAに切断を引き起こし、後者の標的RNAは前の切断修復イベントから生成された配列を標的とし、再び切断を作出する核酸を提供する。
【0032】
特定の実施形態において、核酸は、(b)Casポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をさらに含んでなる。
【0033】
特定の実施形態において、標的RNAは、sgRNAまたはgRNAである。
【0034】
特定の実施形態において、Casポリペプチドおよび標的RNAは、in vitro細胞またはex vivo細胞に存在する。
【0035】
本発明はさらに、前述の核酸およびそれに機能的に連結されたプロモーターを含んでなる組換え発現ベクターを提供する。
【0036】
本発明はさらに、前述の核酸を含んでなる発現カセットを提供する。
【0037】
本発明はさらに、前述の発現カセットを含んでなる宿主細胞を提供する。
【0038】
本発明はさらに、前述の宿主細胞を使用することにより再生される生物体を提供する。
【0039】
本発明はさらに、標的DNAを溶解させるための方法であって、前記標的DNAを複合体と接触させることを含んでなり、前記複合体は、
(a)Casポリペプチド;および
(b)少なくとも2つの標的RNA、ここで、第1の標的RNAは、前記DNAを標的としてそのDNAに切断を引き起こし、後者の標的RNAは前の切断修復イベントから生成された配列を標的とし、再び切断を作出する、
を含んでなる方法を提供する。
【0040】
特定の実施形態において、標的RNAは、sgRNAまたはgRNAである。
【0041】
特定の実施形態において、標的DNAは、細菌細胞、真核細胞、植物細胞または動物細胞に存在する。
【0042】
特定の実施形態において、標的DNAは、染色体DNAである。
【0043】
特定の実施形態において、Casポリペプチドおよび標的RNAは、in vitro細胞またはex vivo細胞に存在する。
【0044】
特定の実施形態において、接触させることは、前記細胞に以下:(a)CasポリペプチドまたはそのCasポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および(b)標的RNAまたはその標的RNAをコードするDNAポリヌクレオチドを導入することを含んでなる。
【0045】
本発明はさらに、
(a)Casポリペプチド、またはそのCasポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;および
(b)少なくとも2つの標的RNA、またはそれらの標的RNAをコードするDNAポリヌクレオチド、ここで、第1のRNAは、あるDNAを標的としてそのDNAに切断を引き起こし、後者の標的RNAは前の切断修復イベントから生成された配列を標的とし、再び切断を作出する、
を含んでなる組成物を提供する。
【0046】
特定の実施形態において、標的RNAは、sgRNAまたはgRNAである。
【0047】
特定の実施形態において、Casポリペプチドおよび標的RNAは、in vitro細胞またはex vivo細胞に存在する。
【0048】
本発明はさらに、疾患の治療のための薬剤の製造における前記組成物の使用を提供する。
【0049】
本発明の組成物で治療可能な疾患としては、限定するものではないが、1型チロシン血症、フェニルケトン尿、プロジェリア、鎌形赤血球病などの、単一の遺伝子突然変異によって引き起こされる疾患が挙げられる。自発的細胞修復は、細胞に、Casタンパク質および病原性突然変異部位を修復すると予測されるcrRNAまたはsgRNA組成物に送達して正常な機能的タンパク質を生成することによって誘導され、従って、治療効果が得られる。
【0050】
本発明はさらに、
(a)Casポリペプチド、またはCasポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでなる核酸;および
(b)少なくとも2つの標的RNA、またはそれらの標的RNAをコードするヌクレオチド配列を含んでなる核酸、ここで、第1の標的RNAは、あるDNAを標的としてそのDNAに切断を引き起こし、後者の標的RNAは、前の切断修復イベントから生成された配列を標的とし、再び切断を作出する
を含んでなり、(a)と(b)は同じまたは別の容器にある、キットを提供する。
【0051】
特定の実施形態において、標的RNAは、sgRNAまたはgRNAである。
【0052】
特定の実施形態において、(b)の標的RNAは同じ容器または別の容器にある。
【0053】
本発明はさらに、外因性のトランスジェニックマーカーに依存しない編集イベントをスクリーニングするための方法であって、以下の工程:
1)レシピエント細胞の第1の標的遺伝子の配列の特定の部位に2箇所以上のDNA切断が連続的に作出され、それぞれ自発的に修復され、後のDNA切断は、前のDNA切断の修復から生成された新規配列に基づいて生成される工程;
2)第1の標的遺伝子の特定の部位が連続的に切断され修復された後にある特定の編集イベントが生じ、これは突然変異細胞にある特定の選択圧に対する抵抗性を付与して表現型選択が可能な形質を作出することができ、その形質に関して選択を行うために対応する選択圧が適用され、このような編集イベントを含む細胞、組織、器官または完全な生物体が単離される工程;
3)場合により、同時に別の標的部位を編集するために、第1の標的遺伝子に加えて、少なくとも1つの第2の標的遺伝子に対する標的化ヌクレアーゼが使用され、第2の標的遺伝子の編集イベントが富化され、第1の標的遺伝子の突然変異によって生成された選択可能な形質のスクリーニングを介して同期してスクリーニングされ、第1の標的遺伝子の編集イベントと少なくとも1つの第2の標的遺伝子の編集イベントを同時に含む細胞、組織、器官または完全な生物体が単離される工程
を含んでなる方法を提供する。
【0054】
特定の実施形態において、「第1の標的遺伝子」は、少なくとも1つの表現型選択が可能な形質をコードする遺伝子座であり、前記少なくとも1つの表現型選択が可能な形質は、抵抗性/耐性形質または成長に有利な形質である。
【0055】
特定の実施形態において、「第1の標的遺伝子の特定の部位」は、連続的切断および修復の後に、レシピエント細胞にある特定の選択圧に対する抵抗性を付与して少なくとも1つの表現型選択が可能な抵抗性/耐性形質または成長に有利な形質を生じ得るある特定のタイプの突然変異が生成される部位を指す。
【0056】
特定の実施形態において、「ある特定のタイプの突然変異」は、単一塩基の置換、複数塩基の置換、または不特定数の塩基の挿入もしくは欠失を含んでなる。
【0057】
特定の実施形態において、「ある特定の選択圧」は、環境圧または付加された化合物から生じる圧力であり得;例えば、環境圧は、高温、低温または低酸素などであり;付加された化合物から生じる圧力は、塩イオン濃度、抗生物質、細胞毒素、除草剤などから生じる圧力であるであり得る。
【0058】
特定の実施形態において、「DNA切断」は、標的化特性を有するヌクレアーゼを生物の細胞に送達してゲノムDNAの特定の部位と接触させることによって達成される。
【0059】
特定の実施形態において、「標的化特性を有するヌクレアーゼ」は、ゲノム編集を実行することができる任意のCRISPR/Casヌクレアーゼである。
【0060】
特定の実施形態において、「配列の特定の部位に2箇所以上のDNA切断が連続的に作出される」という特徴は、CRISPR/Casシステムによって生成された前のDNA切断修復イベントにより生成された新規配列に基づき、新規標的RNAがその部位を再び切断するように設計されることを指す。
【0061】
特定の実施形態において、前記「2箇所以上のDNA切断」は、異なるgRNAまたはsgRNAをそれぞれ有する同じCRISPR/Casヌクレアーゼによって形成されたRNP複合体が、対応する標的配列を連続的に切断する場合に作出される。
【0062】
別の特定の実施形態において、「2箇所以上のDNA切断」は、各gRNAまたはsgRNAで異なるPAM配列を認識する2つ以上のCRISPR/Casヌクレアーゼのそれぞれによって個々に形成されたRNP複合体が、対応する標的配列を連続的に切断する場合に作出される。このように、DNA分子の編集可能枠はより大きい。
【0063】
特定の実施形態において、「第2の標的遺伝子」は、第1の標的遺伝子とはコードが異なる別の遺伝子を指す。
【0064】
特定の実施形態において、「少なくとも1つの第2の標的遺伝子に対する標的化ヌクレアーゼ」および第1の標的遺伝子の特定の部位にDNA切断を作出するために使用される前記CRISPR/Casヌクレアーゼは同じである。
【0065】
別の特定の実施形態において、「少なくとも1つの第2の標的遺伝子に対する標的化ヌクレアーゼ」および第1の標的遺伝子の特定の部位にDNA切断を作出するために使用されるCRISPR/Casヌクレアーゼは異なる。このように、第2の標的遺伝子にはより多くの選択可能な編集部位が存在する。
【0066】
特定の実施形態において、標的化ヌクレアーゼは、DNAの形態である。
【0067】
別の特定の実施形態において、標的化ヌクレアーゼは、DNAではなくmRNAまたはタンパク質の形態である。タンパク質形態が好ましい。
【0068】
特定の実施形態において、標的化ヌクレアーゼを細胞に送達するための方法は、限定するものではないが、1)PEG媒介細胞トランスフェクション法;2)リポソーム媒介細胞トランスフェクション法;3)エレクトロポレーション形質転換法;4)マイクロインジェクション;5)遺伝子銃衝撃;または6)アグロバクテリウム媒介形質転換法から選択される。
【0069】
本発明はさらに、生物ゲノムの非トランスジェニック一過性編集のための方法であって、以下の工程:
1)レシピエント細胞の第1の標的遺伝子の特定の部位に対して、少なくとも2つのcrRNA断片の組合せまたは少なくとも2つのsgRNA断片の組合せが設計および合成され、tracrRNAと組み合わせた前記crRNA組合せまたは単独の前記sgRNA組合せが、対応するCasタンパク質を、レシピエント細胞の第1の標的遺伝子の特定の部位に2箇所以上のDNA切断を連続的に作出し、それらをそれぞれ自発的に修復するようにガイドすることができ、後のDNA切断は前のDNA切断修復から生成された新規配列に基づいて生成される工程;
2)適当な量のCRISPR/Casタンパク質または対応するそのmRNAが、上記で予め設計および合成された、第1の標的遺伝子の部位特異的編集を内因性の選択マーカーを生成するようにガイドすることができるcrRNA断片とtracrRNA断片の組合せまたは単独のsgRNA断片組合せと混合され、場合により、第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子を標的とする人工的に合成されたcrRNAおよびtracrRNA断片または人工的に合成されたsgRNA断片のうちの少なくとも1つがさらに付加され、RNP複合体を形成するためにin vitroでインキュベーションが行われる工程;
3)遺伝子編集を達成するために、上記RNP複合体がレシピエント細胞に送達され、ゲノムDNAの特定の部位と接触される工程;
4)RNP複合体による第1の標的遺伝子の部位特異的編集によって生成された表現型選択が可能な形質に従い、その形質に関して選択を行うために対応する選択圧が適用され
、その編集イベントを含む細胞、組織、器官または完全な生物体が単離され、場合により、第1の標的遺伝子の編集イベントと第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子のうち少なくとも1つの編集イベントを同時に含む細胞、組織、器官または完全な生物体が単離される工程、
を含んでなる方法を提供する。
【0070】
特定の実施形態において、「第1の標的遺伝子」は、少なくとも1つの表現型選択が可能な形質をコードする遺伝子座であり、前記少なくとも1つの表現型選択が可能な形質は
、抵抗性/耐性形質または成長に有利な形質である。
【0071】
特定の実施形態において、「第1の標的遺伝子の特定の部位」は、連続的切断および修復の後に、レシピエント細胞にある特定の選択圧に対する抵抗性を付与して少なくとも1つの表現型選択が可能な抵抗性/耐性形質または成長に有利な形質を生じ得るある特定のタイプの突然変異が生成される部位を指す。
【0072】
特定の実施形態において、「ある特定のタイプの突然変異」は、単一塩基の置換、複数塩基の置換、または不特定数の塩基の挿入もしくは欠失を含んでなる。
【0073】
特定の実施形態において、「ある特定の選択圧」は、環境圧または付加された化合物から生じる圧力であり得、例えば、前記環境圧は、高温、低温または低酸素などであり、付加された化合物から生じる圧力は、塩イオン濃度、抗生物質、細胞毒素または除草剤などから生じる圧力であり得る。
【0074】
特定の実施形態において、CRISPR/Casタンパク質は、ゲノム編集を実行することができる人のCRISPR/Casヌクレアーゼである。
【0075】
特定の実施形態において、「特定の部位に2箇所以上のDNA切断を連続的に作出する」という特徴は、CRISPR/Casシステムによって生成された前のDNA切断修復イベントにより生成された新規配列に基づき、新規標的RNAがその部位を再び切断するように設計されることを指す。
【0076】
特定の実施形態において、「2箇所以上のDNA切断」は、異なるgRNAまたはsgRNAをそれぞれ有する同じCRISPR/Casヌクレアーゼによって形成されたRNP複合体が、対応する標的配列を連続的に切断する場合に作出される。
【0077】
別の特定の実施形態において、「2箇所以上のDNA切断」は、各gRNAまたはsgRNAで異なるPAM配列を認識する2つ以上のCRISPR/Casヌクレアーゼのそれぞれによって個々に形成されたRNP複合体が、対応する標的配列を連続的に切断する場合に作出される。このように、DNA分子の編集可能枠はより大きい。
【0078】
特定の実施形態において、「第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子」は、第1の標的遺伝子とはコードが異なる他の遺伝子を指す。
【0079】
特定の実施形態において、「第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子を標的とする人工的に合成されたcrRNAおよびtracrRNA断片または人工的に合成されたsgRNA断片のうちの少なくとも1つ」は、第1の標的遺伝子を標的とするcrRNAまたはsgRNAを有する同じCasタンパク質を有する。
【0080】
別の特定の実施形態において、「第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子を標的とする人工的に合成されたcrRNAおよびtracrRNA断片または人工的に合成されたsgRNA断片のうちの少なくとも1つ」ならびに第1の標的遺伝子を標的とするcrRNAまたはsgRNAは、異なるPAM配列を認識するCasタンパク質を使用する。このように、第2の標的遺伝子にはより多くの選択可能な編集部位が存在する。
【0081】
特定の実施形態において、RNP複合体を細胞に送達するための方法は、限定するものではないが、1)PEG媒介細胞トランスフェクション法;2)リポソーム媒介細胞トランスフェクション法;3)エレクトロポレーション形質転換法;4)マイクロインジェクション;または5)遺伝子銃衝撃などから選択される。
【0082】
本発明はさらに、植物ゲノムの非トランスジェニック一過性編集のための方法であって、以下の工程:
1)レシピエント植物細胞または組織の第1の標的遺伝子の特定の部位に対して、少なくとも2つのcrRNA断片の組合せまたは少なくとも2つのsgRNA断片の組合せが設計および合成され、tracrRNAと組み合わせた前記crRNA組合せまたは単独の前記sgRNA組合せが、対応するCasタンパク質を、レシピエント細胞の第1の標的遺伝子の特定の部位に2箇所以上のDNA切断を連続的に作出し、それらをそれぞれ自発的に修復するようにガイドすることができ、後のDNA切断は前のDNA切断修復から生成された新規配列に基づいて生成される工程;
2)適当な量のCRISPR/Casタンパク質または対応するそのmRNAが、上記で予め設計および合成された、第1の標的遺伝子の部位特異的編集を内因性の選択マーカーを生成するようにガイドすることができるcrRNA断片とtracrRNA断片の組合せまたは単独のsgRNA断片組合せと混合され、場合により、第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子を標的とする人工的に合成されたcrRNAおよびtracrRNA断片または人工的に合成されたsgRNA断片のうちの少なくとも1つがさらに付加され、RNP複合体を形成するためにin vitroでインキュベーションが行われる工程;
3)遺伝子編集を達成するために、上記RNP複合体がレシピエント植物細胞または組織に送達され、ゲノムDNAの特定の部位と接触される工程;
4)RNP複合体による第1の標的遺伝子の部位特異的編集によって生成された表現型選択が可能な形質に従い、その形質に関して選択を行うために対応する選択圧が適用され、その編集イベントを含む細胞、組織、基間、または完全な植物体が単離され、場合により、第1の標的遺伝子の編集イベントと第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子のうち少なくとも1つの編集イベントを同時に含む細胞、組織、器官または完全な植物体が単離される工程を含んでなる方法を提供する。
【0083】
特定の実施形態において、「第1の標的遺伝子」は、少なくとも1つの表現型選択が可能な形質をコードする遺伝子座であり、前記少なくとも1つの表現型選択が可能な形質が抵抗性/耐性形質または成長に有利な形質である。
【0084】
特定の実施形態において、「第1の標的遺伝子の特定の部位」は、その部位における連続的切断および修復の後に、レシピエント細胞にある特定の選択圧に対する抵抗性を付与して少なくとも1つの表現型選択が可能な抵抗性/耐性形質または成長に有利な形質を生じ得るある特定のタイプの突然変異が生成される部位を指す。
【0085】
特定の実施形態において、「ある特定のタイプの突然変異」は、単一塩基の置換、複数塩基の置換、または不特定数の塩基の挿入もしくは欠失を含んでなる。
【0086】
特定の実施形態において、「ある特定の選択圧」は、環境圧または付加された化合物から生じる圧力であり得、例えば、環境圧は、好ましくは高温、低温または低酸素などであり、付加された化合物から生じる圧力は、塩イオン濃度、抗生物質、細胞毒素または除草剤などから生じる圧力であり得る。
【0087】
特定の実施形態において、「レシピエント植物細胞または組織」は、一過性発現のレシピエントとして働くことができ、かつ、組織培養によって完全な植物体に再分化することができる任意の細胞または組織である。特に、前記細胞は、プロトプラスト細胞または懸濁細胞であり、前記組織は、好ましくはカルス、未熟胚、成熟胚、葉、茎頂、幼穂、胚軸などである。
【0088】
特定の実施形態において、CRISPR/Casタンパク質は、ゲノム編集を実行することができる任意のCRISPR/Casヌクレアーゼである。
【0089】
特定の実施形態において、「特定の部位に2箇所以上のDNA切断を連続的に生成する」という特徴は、CRISPR/Casシステムによって生成された前のDNA切断修復イベントによって生成された新規配列に基づき、新規標的RNAがその部位を再び切断するように設計されることを指す。
【0090】
特定の実施形態において、「2箇所以上のDNA切断」は、異なるgRNAまたはsgRNAをそれぞれ有する同じCRISPR/Casヌクレアーゼによって形成されたRNP複合体が、対応する標的配列を連続的に切断する場合に作出される。
【0091】
別の特定の実施形態において、「2箇所以上のDNA切断」は、各gRNAまたはsgRNAで異なるPAM配列を認識する2つ以上のCRISPR/Casヌクレアーゼのそれぞれによって個々に形成されたRNP複合体が、対応する標的配列を連続的に切断する場合に作出される。このように、DNA分子の編集可能枠はより大きい。
【0092】
特定の実施形態において、「第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子」は、第1の標的遺伝子とはコードが異なる他の遺伝子を指す。
【0093】
特定の実施形態において、「第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子を標的とする人工的に合成されたcrRNAおよびtracrRNA断片または人工的に合成されたsgRNA断片のうちの少なくとも1つ」は、第1の標的遺伝子を標的とするcrRNAまたはsgRNAを有する同じCasタンパク質を有する。
【0094】
別の特定の実施形態において、「第2、第3またはそれ以降の標的遺伝子を標的とする人工的に合成されたcrRNAおよびtracrRNA断片または人工的に合成されたsgRNA断片のうちの少なくとも1つ」ならびに第1の標的遺伝子を標的とするcrRNAまたはsgRNAは、異なるPAM配列を認識するCasタンパク質を使用する。このように、第2の標的遺伝子にはより多くの選択可能な編集部位が存在する。
【0095】
特定の実施形態において、RNP複合体を植物細胞に送達するための方法は、限定するものではないが、1)PEG媒介細胞プロトプラスト形質転換法;2)マイクロインジェクション;;3)遺伝子銃衝撃;4)炭化ケイ素繊維媒介方法;または5)真空浸潤法、または任意の他の一過性導入法から選択される。遺伝子銃衝撃が好ましい。
【0096】
特定の実施形態において、「第1の標的遺伝子」は、除草剤抵抗性/耐性から選択される少なくとも1つの表現型選択が可能な形質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子であり、前記除草剤抵抗性/耐性は、EPSPS阻害剤(グリホサートを含む)に対する抵抗性/耐性、グルタミン合成阻害剤(グルホシネートを含む)に対する抵抗性/耐性、ALSまたはAHAS阻害剤(イミダゾリンまたはスルホニル尿素を含む)に対する抵抗性/耐性、ACCase阻害剤(アリールオキシフェンオキシプロピオン酸(FOP)を含む)に対する抵抗性/耐性、カロテノイド生合成阻害剤(フィトエンデサチュラーゼ(PDS)段階のカロテノイド生合成阻害剤、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ(HPPD)阻害剤またはその他のカロテノイド生合成標的阻害剤を含む)に対する抵抗性/耐性、セルロース阻害剤に対する抵抗性/耐性、脂質合成阻害剤に対する抵抗性/耐性、長鎖脂肪酸阻害剤に対する抵抗性/耐性、微小管重合阻害剤に対する抵抗性/耐性、光化学系I電子シャント剤に対する抵抗性/耐性、光化学系II阻害剤(カルバミン酸塩、トリアジンおよびトリアゾンを含む)に対する抵抗性/耐性、PPO阻害剤に対する抵抗性/耐性、および合成成長ホルモン(ジカンバ、2,4-D(すなわち、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸)を含む)に対する抵抗性/耐性からなる群から選択される。ここで、第1の標的遺伝子は、PsbA、ALS、EPSPS、ACCase、PPO、HPPD、PDS、GS、DOXPS、TIR1、AFB5から選択され、これらの除草剤標的遺伝子の特定の部位において連続的切断および修復の後に作出されるいくつかのタイプの突然変異は、レシピエント植物細胞に対応する除草剤に対する抵抗性/耐性を付与し得る。
【0097】
特定の実施形態において、「第1の標的遺伝子」はALSであり、「遺伝子の特定の部位」は、アラビドプシス(Arabidopsis)AtALSタンパク質のアミノ酸配列(例えば、配列番号1に示される通り)における部位A122、P197、R198、D204、A205、D376、R377、W574、S653またはG654、および別の植物のALSタンパク質における、AtALSアミノ酸配列を参照標準として使用することにより上記アミノ酸部位に相当するアミノ酸部位を指す。crRNAまたはsgRNAは、A122、P197、R198、D204、A205、D376、R377、W574、S653、G654またはそれらの任意の組合せからなる群から選択されるAtALSタンパク質のアミノ酸配列部位をコードする配列を含んでなる標的配列、ならびに別の植物のALSタンパク質における、AtALSアミノ酸配列を参照標準として使用することにより上記アミノ酸部位、およびそれらの任意の組合せに相当するアミノ酸部位をコードする配列を含んでなる標的配列を標的とする。ALS W574部位が好ましい。選択圧は、好ましくは、ピロキシスラムまたはニコスルフロン処理である。
【0098】
特定の実施形態において、「第1の標的遺伝子」はACCaseであり、「遺伝子の特定の部位」は、ノスズメノテッポウ(Alopecurus myosuroides)AmACCaseタンパク質のアミノ酸配列(例えば、配列番号3に示される通り、遺伝子配列は配列番号4に示される通り)における部位I1781、E1874、N1878、W1999、W2027、I2041、D2078、C2088またはG2096、およびAmACCaseアミノ酸配列を参照標準として使用することにより上記アミノ酸部位に相当する別の単子葉植物のACCaseタンパク質のアミノ酸部位を指す。crRNAまたはsgRNAは、I1781、E1874、N1878、W1999、W2027、I2041、D2078、C2088、G2096またはそれらの任意の組合せからなる群から選択されるAmACCaseアミノ酸配列部位をコードする配列を含んでなる標的配列、ならびに別の単子葉植物のACCaseタンパク質における、AmACCaseアミノ酸配列を参照標準として使用することにより上記アミノ酸部位、およびそれらの任意の組合せに相当するアミノ酸部位をコードする配列を含んでなる標的配列を標的とする。ACCase W2027部位が好ましい。選択圧は、好ましくは、キザロホップ-p-エチル処理である。
【0099】
特定の実施形態において、「第1の標的遺伝子」がHPPDであり、前記「遺伝子の特定の部位」がイネ(Oryza sativa)OsHPPDタンパク質のアミノ酸配列(配列番号5に示される通り、ゲノム配列は配列番号6に示される通り)における部位H141、L276、P277、N338、G342、R346、D370、P386、K418またはG419、および別の植物のHPPDタンパク質における、OsHPPDアミノ酸配列を参照標準として使用することにより上記アミノ酸部位に相当するアミノ酸部位を指す。crRNAまたはsgRNAは、H141、L276、P277、N338、G342、R346、D370、P386、K418、G419またはそれらの任意の組合せからなる群から選択されるOsHPPDアミノ酸配列部位をコードする配列を含んでなる標的配列、ならびに別の植物のHPPDタンパク質における、OsHPPDアミノ酸配列を参照標準として使用することにより上記アミノ酸部位、およびそれらの任意の組合せに相当するアミノ酸部位をコードする配列を含んでなる標的配列を標的とする。選択圧は、好ましくはビンスカルフェントラゾン(biscarfentrazone)処理である。
【0100】
特定の実施形態において、「第1の標的遺伝子」はPPOであり、「遺伝子の特定の部位」は、イネOsPPO1タンパク質のアミノ酸配列(配列番号7に示される通り、ゲノム配列は配列番号8に示される通り)における部位S128、V217、S223、V364、K373、L423、Y425またはW470、および別の植物のPPOタンパク質における、OsPPO1のアミノ酸配列を参照標準として使用することにより上記アミノ酸部位に相当するアミノ酸部位を指す。crRNAもしくはsgRNAは、S128、V217、S223、V364、K373、L423、Y425、W470またはそれらの任意の組合せからなる群から選択されるOsPPO1アミノ酸配列部位をコードする配列を含んでなる標的配列、ならびにOsPPO1アミノ酸配列を参照標準として使用して、別の植物のPPOタンパク質に相当する上述のアミノ酸部位およびそれらの組合せの配列を含んでなる標的配列を標的とする。選択圧は、好ましくはサフルフェナシル処理である。
【0101】
特定の実施形態において、「第1の標的遺伝子」はTIR1であり、「遺伝子の特定の部位」は、イネOsTIR1タンパク質のアミノ酸配列(配列番号9に示される通り、ゲノム配列は配列番号10に示される通り)における部位F93、F357、C413またはS448、および別の植物のTIR1タンパク質における、OsTIR1アミノ酸配列を参照標準として使用することにより上記アミノ酸部位に相当するアミノ酸部位を指す。crRNAまたはsgRNAは、F93、F357、C413、S448、またはそれらの任意の組合せからなる群から選択されるOsTIR1アミノ酸配列部位をコードする配列を含んでなる標的配列、ならびに別の植物のTIR1タンパク質における、OsTIR1アミノ酸配列を参照標準として使用することにより上記アミノ酸部位、およびそれらの任意の組合せに相当するアミノ酸部位をコードする配列を含んでなる標的配列を標的とする。選択圧は、好ましくは2,4-D処理である。
【0102】
本発明はさらに、前述の方法を使用する非トランスジェニック一過性編集システムを提供する。
【0103】
本発明はさらに、選択マーカーとしての前述の非トランスジェニック一過性編集システムの使用を提供する。
【0104】
本発明はさらに、疾患の治療における前述の非トランスジェニック一過性編集システムの使用を提供する。
【0105】
本発明はさらに、生物育種における前述の非トランスジェニック一過性編集システムの使用を提供する。
【0106】
本発明はさらに、前述の方法によって得られる、ゲノムに第1の標的遺伝子の編集イベントを含む遺伝子改変植物を提供し、遺伝子改変植物は非トランスジェニック様式で得られる。
【0107】
本発明はさらに、前述の方法によって得られる、ゲノムに第1の標的遺伝子の編集イベントを含み、さらに少なくとも1つの第2の標的遺伝子編集イベントを含む遺伝子改変植物を提供し、遺伝子改変植物は非トランスジェニック様式で得られる。
【0108】
本発明はさらに、前述の方法によって得られる、ゲノムに少なくとも1つの第2の標的遺伝子編集イベントを含む遺伝子改変植物を提供し、遺伝子改変植物は非トランスジェニック様式で得られ、第1の標的遺伝子編集イベントは遺伝的分離によって除去されている。
【0109】
本発明はさらに、ゲノムに1)第1の標的遺伝子の編集イベント;2)第1の標的遺伝子の編集イベントと少なくとも1つの第2の標的遺伝子の編集イベント;または3)少なくとも1つの第2の標的遺伝子編集イベント、この場合、第1の標的遺伝子の編集イベントは遺伝的分離により除去されている、を含んでなり、非トランスジェニック様式で得られる、前述の方法によって得られる遺伝子改変植物のゲノムを提供する。
【0110】
本発明の別の側面は、前述の方法によって得られる新規植物遺伝子突然変異を提供する。
【0111】
本発明はまた、以下のタイプ:
アラビドプシスALS376に相当する部位におけるアスパラギン酸の、任意の他のアミノ酸での置換、アラビドプシスALS574に相当する部位におけるトリプトファンの、任意の他のアミノ酸での置換、アラビドプシスALS653に相当する部位におけるセリンの、任意の他のアミノ酸での置換、もしくはアラビドプシスALS654に相当する部位におけるセリンの、任意の他のアミノ酸での置換;またはノスズメノテッポウACCase2027に相当する部位におけるトリプトファンの、任意の他のアミノ酸での置換の1つまたは2以上の組合せを含んでなる、植物に作出された新規突然変異を提供する。
【0112】
特定の実施形態において、アラビドプシスALS376に相当する部位におけるアスパラギン酸がグルタミン酸により置換され(D376E)、アラビドプシスALS574に相当する部位におけるトリプトファンがロイシンもしくはメチオニンにより置換され(W574LもしくはW574M)、アラビドプシスALS653に相当する部位におけるセリンがアスパラギンもしくはアルギニンにより置換され(S653NもしくはS653R)、またはアラビドプシスALS654に相当する部位におけるグリシンがアスパラギン酸により置換され(G654D)、ここで、これらのアミノ酸部位は、シロイヌナズナの対応するアミノ酸の部位を参照として使用することにより述べられる;あるいはノスズメノテッポウACCase2027に相当する部位におけるトリプトファンがロイシンまたはシステインにより置換され(W2027LまたはW2027C)、ここで、これらのアミノ酸部位は、ノスズメノテッポウの対応するアミノ酸の部位を参照として使用することにより述べられる。
【0113】
別の特定の実施形態において、突然変異タイプはS653R/G654Dであり、これらのアミノ酸部位は、シロイヌナズナの対応するアミノ酸部位を参照として使用することにより述べられる。
【0114】
特定の実施形態において、イネALSの部位350におけるアスパラギン酸は任意の他のアミノ酸により置換され、イネALSの部位548におけるトリプトファンは任意の他のアミノ酸により置換され、もしくはバレイショ(Solanum tuberosum L.)ALS2の部位561におけるトリプトファンは任意の他のアミノ酸により置換され;またはイネACCase2の部位2038におけるトリプトファンは任意の他のアミノ酸により置換されている。
【0115】
別の特定の実施形態において、イネALSの部位350におけるアスパラギン酸はグルタミン酸により置換され(D350E)、イネALSの部位548におけるトリプトファンはロイシンもしくはメチオニンにより置換され(W548LもしくはW548M)、またはバレイショALS2の部位561におけるトリプトファンがロイシンもしくはメチオニンにより置換され(W561LもしくはW561M);あるいはイネACCase2の部位2038におけるトリプトファンがロイシンまたはシステインにより置換され(W2038LまたはW2038C)、ここで、イネALSタンパク質のアミノ酸配列は配列番号11に示され、バレイショStALS2タンパク質のアミノ酸配は配列番号19に示され、イネACCase2タンパク質のアミノ酸配列は配列番号13に示される。
【0116】
本発明はさらに、前述の新規突然変異を有するタンパク質またはその生物学的に活性な断片を提供する。
【0117】
本発明はまた、前記タンパク質またはその生物学的に活性な断片をコードする核酸配列または相補配列を含んでなる核酸を提供する。
【0118】
本発明はさらに、核酸およびそれに機能的に連結されたプロモーターを含んでなる組換え発現ベクターを提供する。
【0119】
本発明はさらに、核酸を含んでなる発現カセットを提供する。
【0120】
本発明はさらに、発現カセットを含んでなる植物細胞を提供する。
【0121】
本発明はさらに、前記植物細胞を使用することにより再分化された植物を提供する。
【0122】
本発明の別の側面は、除草剤に対する抵抗性または耐性が改良された植物を生産するための方法であって、前記植物細胞を植物体に再分化させることを含んでなる、方法。
【0123】
本発明の別の側面は、植物栽培地の雑草を防除するための方法であって、前記植物が前述の植物または前述の方法によって生産された植物を含み、栽培地に1種類以上の除草剤を、雑草を防除するために有効な量で施与することを含んでなる方法を提供する。
【0124】
本発明の別の側面はまた、除草剤に対する植物細胞、植物組織、植物部分または植物体の抵抗性または耐性の改良おける、新規突然変異、タンパク質もしくはその生物学的に活性な断片、核酸、組換え発現ベクターまたは発現カセットの使用を提供する。
【0125】
本発明は以下の優れた技術効果を有する:
連続的編集によって生じた新規修復イベントから生成された配列に基づいて新規標的を設計することができ、これはゲノム中の特定の部位に多数回連続的に突然変異を形成することができ、それによりDNA切断後の修復イベントのタイプが指数関数的に増え、単一の遺伝子編集では見ることのできない新規タイプの塩基置換、欠失および挿入突然変異が実現する。すなわち、前の遺伝子編集修復から生成された配列を後の遺伝子編集標的として使用する、本発明により採用されるプログラムされた連続的切断/編集法は、単純なノックアウトを介する一塩基編集および部位に正確な欠失および挿入という新規機能を有するCRISPR/Casを提供する。
【0126】
本発明は、外因性マーカーの不在下で遺伝子編集イベントのスクリーニングを実現し、さらに、非トランスジェニック遺伝子編集を実現することができ、細胞治療および生物育種における方法の生物学的安全性の懸念を大幅に軽減することができる。
【0127】
特に、本発明によって提供される植物非トランスジェニック一過性編集法は、Casタンパク質および人工的に合成されたgRNAまたはsgRNAの小断片を含むだけで、工程のどこにも外因性DNAの関与はなく、第1の標的遺伝子を連続的切断/編集を介して編集することによって内因性抵抗性選択マーカーを作出し、従って、編集イベントは、事実上、遺伝子改変操作を含まずに効果的にスクリーニングすることができ、よって、この方法は化学的突然変異誘発法または放射線誘導育種法と同等であり、何世代にもわたる継続的な外因性トランスジェニック成分の分離および検出の必要もなく、これにより育種周期が短縮され、生物学的安全性が保証され、管理費用および承認費用が節約でき、厳密な植物育種に多大な応用展望が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0128】
発明の詳細な説明
本発明において、特に断りのない限り、本明細書に使用される科学用語および技術用語は、当業者に共通に理解されている意味を有する。さらに、タンパク質および核酸化学、分子生物学、細胞および組織培養、微生物学、免疫学関連用語および本明細書に使用される研究手順は総て、対応する分野で広く使用されている用語および常法である。同時に、本発明をより良く理解するために、関連用語の定義および説明を以下に示す。
【0129】
用語「ゲノム」は、本明細書において使用する場合、生物の各細胞もしくはウイルスもしくはオルガネラに存在する遺伝物質(遺伝子および非コード配列)の総ての相補物、ならびに/または一単位(ハプロイド)として親から受け継いだ完全なゲノムを指す。
【0130】
用語「遺伝子編集」は、生きている生物の遺伝情報またはゲノムの標的化された特定の改変を行うための戦略および技術を指す。従って、遺伝子コード領域の編集を含むだけでなく、ゲノムの遺伝子コード領域以外の領域の編集も含む。この用語はまた、核(存在する場合)および細胞のその他の遺伝情報の編集または改変も含む。
【0131】
用語「CRISPR/Casヌクレアーゼ」は、限定されるものではないが、1)SpCas9、ScCas9、SaCas9、xCas9、VRER-Cas9、EQR-Cas9、SpG-Cas9、SpRY-Cas9、SpCas9-NG、NG-Cas9、NGA-Cas9(VQR)などを含むCas9;2)LbCpf1、FnCpf1、AsCpf1、MAD7などを含むCas12、または上記CRISPR系ヌクレアーゼの任意の変異体もしくは誘導体を含むCRISPR系ヌクレアーゼまたはそれをコードする核酸配列であり得、好ましくは、少なくとも1つのCRISPR系ヌクレアーゼは、対応する野生型配列に比べて、得られたCRISPR系ヌクレアーゼが異なるPAM配列を認識するような突然変異を含んでなる。本明細書において使用する場合、「CRISPR系ヌクレアーゼ」は、天然のCRISPRシステムで確認され、その後、その天然バックグラウンドから単離され、好ましくは改変または組み合わせて、標的ゲノム工学のツールとして好適な、対象とする組換え構築物とされた任意のヌクレアーゼである。元の野生型CRISPR系ヌクレアーゼがDNA認識、すなわち、結合特性を提供する限り、いずれのCRISPR系ヌクレアーゼも使用可能であり、場合により、本発明の種々の実施形態に好適となるようにリプログラムまたはそうでなければ突然変異されていてもよい。
【0132】
用語「CRISPR」は、遺伝子発現を転写レベルで調節するRNA干渉とは異なる、クラスター化され規則的に間隔を置いた短鎖パリンドローム反復(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)に頼る配列特異的遺伝子操作技術を指す。
【0133】
「Cas9ヌクレアーゼ」および「Cas9」は、本明細書では互換的に使用され、Cas9タンパク質またはその断片(例えば、活性なCas9のDNA切断ドメインおよび/またはCas9のgRNA結合ドメインを含むタンパク質)を含んでなるRNAガイドヌクレアーゼを指す。Cas9は、CRISPR/Cas(クラスター化され規則的に間隔を置いた短鎖パリンドローム反復および関連システム)ゲノム編集システムの一成分である。ガイドRNAの誘導下でDNA標的配列を標的として切断してDNA二本鎖切断(DSB)を形成することができる。
【0134】
「Casタンパク質」または「Casポリペプチド」は、Cas(CRISPR関連)遺伝子によりコードされるポリペプチドを指す。Casタンパク質は、Casエンドヌクレアーゼを含む。Casタンパク質は、細菌または古細菌タンパク質であり得る。例えば、本明細書のI~III型CRISPR Casタンパク質は、一般に原核生物に起源し、I型およびIII型Casタンパク質は、細菌または古細菌種に由来し、II型Casタンパク質(すなわちCas9)は細菌種に由来し得る。「Casタンパク質」には、Cas9タンパク質、Cpf1タンパク質、C2c1タンパク質、C2c2タンパク質、C2c3タンパク質、Cas3、Cas3-HD、Cas5、Cas7、Cas8、Cas10、Cas12a、Cas12b、またはそれらの組合せもしくは複合体が含まれる。
【0135】
「Cas9変異体」または「Cas9エンドヌクレアーゼ変異体」は、親Cas9エンドヌクレアーゼの変異体を指し、crRNAとtracRNAに、またはsgRNAに会合した場合、Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は、DNA標的配列の全部または一部を認識してそれに結合し、場合により、DNA標的配列の全部または一部を解き、DNA標的配列の全部もしくは一部にニックを入れるか、またはDNA標的配列の全部もしくは一部を切断する能力を保持する。Cas9エンドヌクレアーゼ変異体には、本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体が含まれ、Cas9エンドヌクレアーゼ変異体は、以下のように親Cas9エンドヌクレアーゼとは異なる:Cas9エンドヌクレアーゼ変異体(標的部位を改変し得るポリヌクレオチド特異的エンドヌクレアーゼ複合体を形成するためのgRNAとの複合体とした場合)は、親Cas9エンドヌクレアーゼ(同じ標的部位を改変し得るポリヌクレオチドガイドエンドヌクレアーゼ複合体を形成するために同じgRNAとの複合体とした場合)に比べて、限定されるものではないが、形質転換効率の上昇、DNA編集効率の上昇、標的外切断の低減、またはそれらの任意の組合せなどの少なくとも1つの改良された特性を有する。
【0136】
本明細書に記載のCas9エンドヌクレアーゼ変異体には、crRNAとtracrRNAに、またはsgRNAに会合した場合の二本鎖DNA標的部位に結合してニックを入れることができる変異体が含まれるが、親Casエンドヌクレアーゼは、crRNAとtracrRNAに、またはsgRNAに会合した場合に標的部位に結合して二本鎖切断(切断)を生じ得る。
【0137】
「ガイドRNA」および「gRNA」は、本明細書においては互換的に使用され、通常、複合体を形成するように部分的に相補的なcrRNAおよびtracrRNA分子からなり、crRNAは、標的配列とハイブリダイズし、CRISPR複合体(Cas9+crRNA+tracrRNA)に標的配列と特異的に結合するよう指示するために標的配列と十分な相補性を有する配列を含む、CRISPR技術を用いた補正のために特定の遺伝子を標的とするために使用されるガイドRNA配列を指す。しかしながら、crRNAおよびtracrRNAの両方の特性を含むシングルガイドRNA(sgRNA)を設計し得ることも当技術分野で公知である。
【0138】
用語「シングルガイドRNA」および「sgRNA」は、本明細書においては互換的に使用され、可変の標的化ドメイン(tracrRNAにハイブリダイズしたトレーサー対合配列に連結)のcrRNA(CRISPR RNA)とtracrRNA(トランス活性化CRISPR RNA)の融合を含んでなる、2つのRNA分子の合成融合を指す。sgRNAは、II型Casエンドヌクレアーゼと複合体を形成することができるII型CRISPR/CasシステムのcrRNAまたはcrRNA断片およびtracrRNAまたはtracrRNA断片を含んでなってよく、ガイドRNA/Casエンドヌクレアーゼ複合体は、CasエンドヌクレアーゼがDNA標的部位を認識し、場合によりDNA標的部位に結合し、または場合によりDNA標的部位にニック入れるかもしくはDNA標的部位を切断する(一本鎖または二本鎖切断を導入する)ことができるように、CasエンドヌクレアーゼをDNA標的部位に誘導することができる。
【0139】
特定の実施形態において、ガイドRNAおよびCas9は、リボヌクレオタンパク質(RNP)複合体として細胞に送達することができる。RNPは、gRNAとの複合体とされた精製Cas9タンパク質から構成され、RNPが、限定されるものではないが、幹細胞および免疫細胞を含む多くのタイプの細胞に効率的に送達可能であることは当技術分野で周知である(Addgene, Cambridge, MA, Mirus Bio LLC, Madison, WI)。
【0140】
本明細書において、プロトスペーサー隣接モチーフ(protospacer adjacent motif)(PAM)は、gRNA/Casエンドヌクレアーゼシステムによって認識される(標的とされた)標的配列(プレスペーサー)に隣接する短いヌクレオチド配列を指す。この標的DNA配列が適当なPAM配列に隣接しなければ、Casエンドヌクレアーゼは標的DNA配列を上手く認識することはできない可能性がある。本明細書におけるPAMの配列および長さは、使用するCasタンパク質またはCasタンパク質複合体によって異なり得る。PAM配列はいずれの長さであってもよいが、一般には1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20ヌクレオチド長である。
【0141】
本明細書において使用する場合、用語「生物」または「生体」は、動物、植物、真菌、細菌などを含む。
【0142】
本明細書において使用する場合、用語「宿主細胞」は、植物細胞、動物細胞、真菌細胞、細菌細胞などを含む。
【0143】
本発明において、「動物」としては、限定するものではないが、脊椎動物、例えば、ヒト、非ヒト哺乳動類、鳥類、魚類、爬虫類、両生類など、ならびに無脊椎動物、例えば、昆虫が挙げられる。
【0144】
本発明において、「植物」は、光合成を行うことができるいずれの分化した多細胞生物も意味すると理解されるべきであり、特に、単子葉植物または双子葉植物、例えば、以下のものである:(1)食用作物:イネ属種(Oryza spp.)、例えば、イネ(Oryza sativa)、野生イネ(Oryza latifolia)、イネ(Oryza sativa)、アフリカイネ(Oryza glaberrima);コムギ属種(Triticum spp.)、例えば、コムギ(Triticum aestivum)、デュラムコムギ(T. Turgidumssp. Durum); オオムギ属種(Hordeum spp.)、例えば、オオムギ(Hordeum vulgare)、ホルデウム・アリゾニカム(Hordeum arizonicum);ライムギ (Secale cereale);カラスムギ属種(Avena spp.)、例えば、エンバク(Avena sativa)、カラスムギ(Avena fatua)、アベナ・ビザンチン(Avena byzantine)、アベナ・ファツアvar.サティバ(Avena fatua var.sativa)、アベナ・ハイブリダ(Avena hybrida);ヒエ属種(Echinochloa spp.)、例えば、トウジンビエ(Pennisetum glaucum)、ソルガム、ソルガム(Sorghum bicolor)、ソルガム・バルガレ(Sorghum vulgare)、ライコムギ、ゼア・メイ (Zea mays)またはトウモロコシ、キビ、イネ、アワ(Foxtail millet)、キビ、ソルガム(Sorghum bicolor)、キビ属(Panicum)、ソバ属種(Fagopyrum spp.)、キビ(Panicum miliaceum)、アワ(Setaria italica)、ワイルドライス(Zizania palustris)、テフ(Eragrostis tef)、キビ(Panicum miliaceum)、シコクビエ(Eleusine coracana); (2)マメ科作目:ダイズ属種(Glycine spp.)、例えば、ダイズ(Glycine max)、ソーヤ・ヒスピダ(Soja hispida)、ソーヤ・マックス(Soja max)、ソラマメ属種(Vicia spp.)、ササゲ属種(Vigna spp.)、エンドウ属種(Pisum spp.)、ソラマメ、ルピナス属種(Lupinus spp.)、ソラマメ属、タマリンド(Tamarindus indica)、レンズマメ(Lens culinaris)、レンリソウ属種(Lathyrus spp.)、フジマメ、ソラマメ、リョクトウ、アズキ、ヒヨコマメ;(3)油料作物:ラッカセイ(Arachis hypogaea)、ラッカセイ属種(Arachis spp)、偽ゴマ属種(Sesamum spp.)、ヒマワリ属種(Helianthus spp.)、例えば、ヒマワリ(Helianthus annuus)、アブラヤシ属(Elaeis)、例えば、アブラヤシ(Eiaeis guineensis)、アメリカアブラヤシ(Elaeis oleifera)、ダイズ、セイヨウアブラナ(Brassicanapus)、ブラシカ・オレラセア(Brassica oleracea)、ゴマ(Sesamum orientale)、カラシナ(Brassica juncea)、ナタネ、アブラツバキ(Camellia oleifera)、アブラヤシ、オリーブ、ひまし油植物、セイヨウアブラナ(Brassica napus L.)、カノーラ;(4)繊維作物:サイザルアサ(Agave sisalana)、ワタ属種(Gossypium spp.)、例えば、ワタ属(Gossypium)、ゴシピウム・バルバデンセ(Gossypium barbadense)、ゴシピウム・ヒルスツムGossypium hirsutum)、ケナフ(Hibiscus cannabinus)、サイザルアサ(Agave sisalana)、マニラアサ(Musa textilis Nee)、アマ(Linum usitatissimum)、コウマ(Corchorus capsularis L)、カラムシ(Boehmeria nivea) (L.)、アサ(Cannabis sativa)、アサ(Cannabis sativa);(5)果実作物:ナツメ属種(Ziziphus spp.)、キュウリ属種(Cucumis spp.)、パッションフルーツ(Passiflora edulis)、ブドウ属種(Vitis spp.)、スノキ属種(Vaccinium spp.)、セイヨウナシ(Pyrus communis)、サクラ属種(Prunus spp.)、バンジロウ属種(Psidium spp.)、ザクロ(Punica granatum)、リンゴ属種(Malus spp.)、スイカ(Citrullus lanatus)、ミカン属種(Citrus spp.)、イチジク(Ficus carica)、キンカン属種(Fortunella spp.)、オランダイチゴ属種(Fragaria spp.)、サンザシ属種(Crataegus spp.)、カキノキ属種(Diospyros spp.)、ピタンガ(Eugenia unifora)、ビワ(Eriobotrya japonica)、リュウガン(Dimocarpus longan)、パパイヤ(Carica papaya)、ヤシ属種(Cocos spp.)、スターフルーツ(Averrhoa carambola)、マタタビ属種(Actinidia spp.)、アーモンド(Prunus amygdalus)、バショウ属種(Musa spp.) (マレーヤマバショウ(musa acuminate))、ワニナシ属種(Persea spp.)(アボカド(Persea Americana))、グァバ(Psidium guajava)、マメーリンゴ(Mammea Americana)、マンゴー(Mangifera indica)、カンラン(Canarium album)(オリーブ(Oleaeuropaea))、パパイヤ)(Caricapapaya)、ココヤシ(Cocos nucifera)、アセロラ(Malpighia emarginata)、サポジラ(Manilkara zapota)、パイナップル(Ananas comosus)、アナナス属種(Annona spp.)、ポンカン(Citrus reticulate)(ミカン属種)、パンノキ属種(Artocarpus spp.)、レイシ(Litchi chinensis)、スグリ属種(Ribes spp.)、キイチゴ属種(Rubus spp.)、セイヨウナシ、モモ、
アンズ、ウメ、ヤマモモ、レモン、キンカン、ドリアン、オレンジ、イチゴ、ブルーベリー、ハミウリ、マスクメロン、ナツメヤシ、クルミ、サクラ;(6)根茎作物:キャッサバ属種(Manihot spp.)、サツマイモ(Ipomoea batatas)、サトイモ(Colocasia esculenta)、塊茎カラシ、アリウム・セパ(Allium cepa) (タマネギ)、エレオカリス・ツベロサ(eleocharis tuberose)(シログワイ)、ハマスゲ(Cyperus rotundus)、サンヤク(Rhizoma dioscoreae);(7)野菜作物:ホウレンソウ属種(Spinacia spp.)、インゲンマメ属(Phaseolus spp.)、レタス(Lactuca sativa)、ツルレイシ属種(Momordica spp)、パセリ(Petroselinum crispum)、トウガラシ属種(Capsicum spp.)、ナス属種(Solanum spp.)(例えば、バレイショ(Solanum tuberosum)、ヒラナス(Solanum integrifolium)、トマト(Solanum lycopersicum))、トマト属種(Lycopersicon spp.)(例えば、トマト(Lycopersicon esculentum)、トマト(Lycopersicon lycopersicum)、リコペルシコン・ピリフォルム(Lycopersicon pyriforme))、マクロチロマ属種(Macrotyloma spp.)、ケール、トカドヘチマ(Luffa acutangular)、レンティル、オクラ、タマネギ、バレイショ、アーティチョーク、アスパラガス、ブロッコリー、芽キャベツ(Brussels sprouts)、キャベツ、ニンジン、カリフラワー、セロリ、カラードグリーン、カボチャ、トウガン(Benincasa hispida)、アスパラガス(Asparagus officinalis)、セロリ(Apium graveolens)、ヒユ属種(Amaranthus spp.)、ネギ属種(Allium spp.)、トロロアオイ属種(Abelmoschus spp.)、エンダイブ(Cichorium endivia)、カボチャ属種(Cucurbita spp.)、コリアンダー(Coriandrum sativum)、アピシニアガラシ(B.carinata)、ダイコン(Rapbanus sativus)、アブラナ属種(Brassica spp.)(例えば、ナタネ(Brassica napus)、カブ種(Brassica rapa ssp.)、キャノーラ、ナタネ、アブラナ、アブラナ、カラシナ、キャベツ、クロガラシ、キャノーラ(ナタネ)、
メキャベツ、ナス科(Solanaceae)(ナス)、アマトウガラシ(Capsicum annuum)(ピーマン)、キュウリ、ヘチマ、ハクサイ、アブラナ、キャベツ、ヒョウタン、ニラ、ハス、レンコン、レタス;(8)花卉作物:ノウゼンハレン(Tropaeolum minus)、キンレンカ(Tropaeolum majus)、ダンドク(Canna indica)、ウチワサボテン属種(Opuntia spp.)、マンジュギク属種(Tagetes spp.)、シンビジウム属(Cymbidium)(ラン)、ハマユウ(Crinum asiaticum L.)、クンシラン、アマリリス(Hippeastrum rutilum)、ハマナス(Rosa rugosa)、コウシンバラ(Rosa Chinensis)、マツリカ(Jasminum sambac)、チューリップ(Tulipa gesneriana L.)、サクラ属種(Cerasus sp.)、ファルビチス・ニル(Pharbitis nil)(L.)アサガオ、キンセンカ(Calendula officinalis L.)、ハス属種(Nelumbo sp.)、ヒナギク(Bellis perennis L.)、カーネーション(Dianthus caryophyllus)、ペチュニア(Petunia hybrida)、チューリップ(Tulipa gesneriana L.)、リリウム・ブラウニー(Lilium brownie)、ウメ(Prunus mume)、スイセン(Narcissus tazetta L.)、オウバイ(Jasminum nudiflorum Lindl.)、オトメザクラア(Primula malacoides)、ジンチョウゲ(Daphne odora)、ツバキ(Camellia japonica)、ギンコウボク(Michelia alba)、モクレン(Magnolia liliiflora)、ムーシュウチュウ(Viburnum macrocephalum)、クンシラン(Clivia miniate)、ホンカイドウ(Malus spectabilis)、ボタン(Paeonia suffruticosa)、シャクヤク(Paeonia lactiflora)、チョウジ(Syzygium aromaticum)、アザレア(Rhododendron simsii)、シャクナゲ(Rhododendron hybridum)、カラタネオガタマ(Michelia figo (Lour.) Spreng.)、ハナズオウ(Cercis chinensis)、ヤマブキ(Kerria japonica)、タニウツギ(Weigela florida)、レンギョウ(Fructus forsythyae)、オウバイモドキ(Jasminum mesnyi)、ブルークローバー(Parochetus communis)、シクラメン(Cyclamen persicum Mill.)、コチョウラン交配種(Phalaenophsis hybrid)、デンドロビウム・ノビル(Dendrobium nobile)、ヒヤシンス(Hyacinthus orientalis)、イチハツ(Iris tectorum Maxim)、オランダカイウ(Zantedeschia aethiopica)、キンセンカ(Calendula officinalis)、ヒイロサンジコ(Hippeastrum rutilum)、
ベゴニア・センパフローレンス(Begonia semperflorenshybr)、フクシア(Fuchsia hybrida)、シラホシベゴニア(Begonia maculataRaddi)、(ゼラニウム)、ポトス(Epipremnum aureum);(9)薬用作物:ベニバナ(Carthamus tinctorius)、ハッカ属種(Mentha spp.)、ルバーブ(Rheum rhabarbarum)、サフラン(Crocus sativus)、クコ(Lycium chinense)、ポリゴナツム・オドラツム(Polygonatum odoratum)、ポリゴナツム・キンギアヌム(Polygonatum Kingianum)、ハナスゲ(Anemarrhena asphodeloides Bunge)、バクモンドウ(Radix ophiopogonis)、バイオ(Fritillaria cirrhosa)、キョウオウ(Curcuma aromatica)、ヨウシュンシャ(Amomum villosum Lour.)、ツルドクダミ(Polygonum multiflorum)、シンシュウダイオウ(Rheum officinale)、カンゾウ(Glycyrrhiza uralensis Fisch)、キバナオウギ(Astragalus membranaceus)、チョウセンニンジン(Panax ginseng)、サンシチニンジン(Panax notoginseng)、ゴカヒ(Acanthopanax gracilistylus)、トウキ(Angelica sinensis)、センキュウ(Ligusticum wallichii)、ミシマサイコ(Bupleurum sinenses DC.)、シロバナチョウセンアサガオ(Datura stramonium Linn.)、チョウセンアサガオ(Datura metel L.)、タイワンハッカ(Mentha haplocalyx)、メハジキ(Leonurus sibiricus L.)、カワミドリ(Agastache rugosus)、コガネバナ(Scutellaria baicalensis)、ウツボグサ(Prunella vulgaris L.)、ピレトルム・カルネウム(Pyrethrum carneum)、イチョウ(Ginkgo biloba L.)、ボリビアキナノキ(Cinchona ledgeriana)、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)(野生種)、ムラサキウマゴヤシ(Medicago sativa Linn)、コショウ(Piper Nigrum L.)、バンランコン(Radix Isatidis)、オオバナオケラ(Atractylodes macrocephala Koidz);(10)原料作物:パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)、トウゴマ(Ricinus communis)、オオアブラギリ(Vernicia fordii)、クワ(Morus alba L.)、ホップ(Humulus lupulus)、カバノキ属(Betula)、アルヌス・クレマストギン・ブルク(Alnus cremastogyne Burk.)、ウルシ(Rhus verniciflua stokes);(11)牧草作物:カモジグサ属種(Agropyron spp.)、シャジクソウ属種(Trifolium spp.)、ススキ(Miscanthus sinensis)、チカラシバ属種(Pennisetum sp.)、クサヨシ(Phalaris arundinacea)、パニクム・ウィルガツム(Panicum virgatum)、プレーリーグラス、インディアングラス、ビッグブルーステムグラス、オオアワガエリ(Phleum pratense)、シバ、カヤツリグサ科(cyperaceae)(コブレシア・ピグマエア(Kobresia pygmaea)、タカヒカゲスゲ(Carex pediformis)、ホソバヒカゲスゲ(Carex humilis))、ムラサキウマゴヤシ(Medicago sativa Linn)、オオアワガエリ(Phleum pratense L.)、ムラサキウマゴヤシ(Medicago sativa)、シナガワハギ(Melilotus suavcolen)、ゲンゲ(Astragalus sinicus)、サンヘンプ(Crotalaria juncea)、ツノクサネム(Sesbania cannabina)、アカウキクサ(Azolla imbircata)、ホテイアオイ(Eichhornia crassipes)、クロバナエンジュ(Amorpha fruticose)、ルピナス(Lupinus micranthus)、シャジクソウ属(Trifolium)、ムラサキモメンヅル(Astragalus adsugens pall)、ボタンウキクサ(Pistia stratiotes linn)、ナガエツルノゲイトウ(Alternanthera philoxeroides)、ドクムギ属(Lolium);(12) 糖料作物:サトウキビ属種(Saccharum spp.)、テンサイ(Beta vulgaris);(13)飲料作物:チャノキ(Camellia sinensis)、チャノキ(Camellia Sinensis)、チャ、コーヒー(コーヒーノキ属種(coffea spp.))、カカオ(Theobroma cacao)、
ホップ(Humulus lupulus Linn.);(14)芝生植物:ビーチグラス(Ammophila arenaria)、イチゴツナギ属種(Poa spp.)(ナガハグサ(Poa pratensis)(ブルーグラス))、ヌカボ属種(Agrostis spp.)(ヌカボ(Agrostis matsumurae)、コヌカグサ(Agrostis palustris))、ドクムギ属種(Lolium spp.) (ネズミムギ)、ウシノケグサ属種(Festuca spp.) (ウシノケグサ(Festuca ovina L.))、シバ属種(Zoysia spp.)(ノシバ(Zoysiajaponica))、ギョウギシバ属種(Cynodon spp.) (ギョウギシバ(Cynodon dactylon)/バミューダグラス)、セントオーガスチングラス (Stenotaphrum secundatum)、スズメノヒエ属(Paspalum spp.)、ムカデシバ(Eremochloa ophiuroides) (センチピードグラス)、アキソノプス属種(Axonopus spp.)(カーペットグラス)、ボウテロウア・ダクチロイデス(Bouteloua dactyloides) (バッファローグラス)、ボウテロウア属品種(Bouteloua var. spp.)(ブルーグラマ(Bouteloua gracilis))、メヒシバ(Digitaria sanguinalis)、ハマスゲ(Cyperus rotundus)、ヒメクグ(Kyllingabrevifolia)、チャガヤツリ(Cyperusamuricus)、ヒメムカシヨモギ(Erigeron canadensis)、チドメグサ(Hydrocotylesibthorpioides)、ヤハズソウ(Kummerowiastriata)、ニシキソウ(Euphorbia humifusa)、ビオラ・アルベンシス(Viola arvensis)、ノヤマスゲ(Carex rigescens)、カレックス・ヘテロスタキヤ(Carex hetelostachya)、シバ;(15)樹木作物:マツ属種(Pinus spp.)、ヤナギ属種(Salix spp.)、カエデ属種(Acer spp.)、フヨウ属種(Hibiscus spp.)、ユーカリ属種(Eucalyptus spp.)、イチョウ(Ginkgo biloba)、ホウライチク属種(Bambusa sp.)、ハコヤナギ属種(Populus spp.)、プロソピス属種(Prosopis spp.)、コナラ属種(Quercus spp.)、ナツメヤシ属種(Phoenix spp.)、ブナ種(Fagus spp.)、パンヤノキ(Ceiba pentandra)、ニッケイ属種(Cinnamomum spp.)、シナソ属種(Corchorus spp.)、ヨシ(Phragmites australis)、ホオズキ属種(Physalis spp.)、ヌスビトハギ属種(Desmodium spp.)、ハコヤナギ、セイヨウキヅタ(Hedera helix)、モウハクヨウ(Populus tomentosa Carr)、サンゴジュ(Viburnum odoratissinum)、イチョウ(Ginkgo biloba L.)、コナラ属(Quercus)、ニワウルシ(Ailanthus altissima)、ツバキ(Schima superba)、ナナメノキ(Ilex purpurea)、モミジバスズカケノキ(Platanus acerifolia)、トウネズミモチ(ligustrum lucidum)、ブクスス・メジストフィラ・レブル(Buxus megistophylla Levl.)、ダフリアカラマツ(Dahurian larch)、ブラックワトル(Acacia mearnsii)、バビショウ(Pinus massoniana)、カシアマツ(Pinus khasys)、ショウコウ(Pinus yunnanensis)、ウンナンマツ(Pinus finlaysoniana)、アブラマツ(Pinus tabuliformis)、チョウセンゴョウマツ(Pinus koraiensis)、クロクルミ(Juglans nigra)、レモン(Citrus limon)、モミジバスズカケノキ(Platanus acerifolia)、フトモモ(Syzygium jambos)、ハンカチノキ(Davidia involucrate)、キワタ(Bombax malabarica L.)、パンヤノキ(Ceiba pentandra (L.))、バウヒニア・ブラケアナ(Bauhinia blakeana)、アメリカネムノキ(Albizia saman)、ネムノキ(Albizzia julibrissin)、サンゴシトウ(Erythrina corallodendron)、デイコ(Erythrina indica)、タイサンボク(Magnolia grandiflora)、ソテツ(Cycas revolute)、サルスベリ(Lagerstroemia indica)、針葉樹、高木、低木;(16)堅果作物:ブラジルナッツノキ(Bertholletia excelsea)、クリ属種(Castanea spp.)、ハシバミ属種(Corylus spp.)、ペカン属種(Carya spp.)、クルミ属種(Juglans spp.)、ピスタチオ(Pistacia vera)、カシュー(Anacardium occidentale)、マカダミア(Macadamia integrifolia)、ペカン(Carya illinoensis Koch)、マカダミア、ピスタチオ、アーモンド、堅果を産生するその他の植物;(17)その他:シロイヌナズナ(arabidopsis thaliana)、ヒメスズメノヒエ(Brachiaria eruciformis)、シンクリノイガ(Cenchrus echinatus)、エノコログサ(Setaria faberi)、オヒシバ(eleusine indica)、カダバ・ファリノーサ(Cadaba farinose)、藻類、カレックス・エラータ(Carex elata)、観賞植物、オオバナカリッサ(Carissa macrocarpa)、チョウセンアザミ属種(Cynara spp.)、
ニンジン(Daucus carota)、ヤマノイモ属種(Dioscorea spp.)、エリアンサス属種(Erianthus sp.)、オニウシノケグサ(Festuca arundinacea)、ワスレグサ(Hemerocallis fulva)、ミヤコグサ属種(Lotus spp.)、オオスズメノヤリ(Luzula sylvatica)、ムラサキウマゴヤシ(Medicago sativa)、シナガワハギ属種(Melilotus spp.)、クロミグワ(Morus nigra)、タバコ属種(Nicotiana spp.)、オリーブ属種(Olea spp.)、オルニソプス属種(Ornithopus spp.)、アメリカボウフウ(Pastinaca sativa)、ニワトコ属種(Sambucus spp.)、シロガラシ属種(Sinapis sp.)、シジギウム属種(Syzygium spp.)、ガマグラス(Tripsacum dactyloides)、リンパウイ(Triticosecale rimpaui)、ニオイスミレ(Viola odorata)など。
【0145】
特定の実施形態において、植物は、イネ、トウモロコシ、コムギ、ダイズ、ヒマワリ、ソルガム、ナタネ、ムラサキウマゴヤシ、ワタ、オオムギ、キビ、サトウキビ、トマト、タバコ、キャッサバ、バレイショ、サツマイモ、ハクサイ、キャベツ、キュウリ、ブッソウゲ、ポトス(Scindapsus aureus)、スイカ、メロン、イチゴ、ブルーベリー、ブドウ、リンゴ、ミカン、モモ、セイヨウナシ、バナナなどから選択される。
【0146】
本明細書において使用する場合、用語「植物」は、植物全体および植物のいずれの後代、細胞、組織または部分も含む。用語「植物部分」は、例えば、限定するものではないが、種子(成熟種子、種皮を含まない未熟胚、および未熟種子を含む);挿し穂;植物細胞;植物細胞培養物;植物器官(例えば、花粉、胚、花、果実、蕾、葉、根、茎、および関連の外植体)を含む植物のいずれの部分も含む。植物組織または植物器官は、種子、カルス組織、または構造もしくは機能的単位に組織化された他のいずれかの植物細胞集団であり得る。植物細胞または組織培養物は、その細胞または組織が由来する植物の生理学的および形態学的特徴を有する植物を再生することができ、その植物と実質的に同じ遺伝子型を有する植物を再生することができる。これに対して、植物を再生できない植物細胞もある。植物細胞または組織培養物における再生可能な細胞は、胚、プロトプラスト、分裂組織細胞、カルス、花粉、葉、葯、根、根端、絹糸、花、仁、穂、穂軸、鞘、または茎であり得る。
【0147】
植物部分は、収穫可能な部分および後代植物を繁殖させるために使用できる部分を含んでなる。繁殖に使用可能な植物部分としては、例えば、限定するものではないが、種子;果実;接ぎ穂;実生;塊茎;および根茎が挙げられる。収穫可能な植物部分は、例えば、限定するものではないが:花;花粉;実生;塊茎;葉;茎;果実;種子;および根を含む有用な植物部分のいずれであってもよい。
【0148】
植物細胞は、植物の構造的および生理学的単位である。本明細書において使用する場合、植物細胞にはプロトプラストおよび部分的に細胞壁を有するプロトプラストが含まれる。植物細胞は、単離された単細胞または細胞凝集塊(例えば、ルーズカルスおよび培養細胞)の形態であってもよく、より高次の組織単位(例えば、植物組織、植物器官、および植物体)の一部であってもよい。従って、植物細胞は、プロトプラスト、配偶子生産細胞、または完全な植物を再生することができる細胞もしくは細胞集合物であり得る。従って、本明細書における実施形態において、複数の植物細胞を含有し、完全な植物に再生可能な種子は「植物部分」と見なされる。
【0149】
本明細書において使用する場合、用語「プロトプラスト」は、細胞壁が完全にまたは部分的に除去され、脂質二重膜が露出している植物細胞を指す。一般に、プロトプラストは、細胞培養物または完全な植物を再生する能力を有する、細胞壁のない単離された植物細胞である。
【0150】
植物「後代」には、植物のいずれの後続世代も含む。
【0151】
用語「細菌」は、原核生物界の総ての生物を含む総ての原核生物を意味する。用語「細菌」は、マイコプラズマ属、クラミジア属、アクチノミセス属、ストレプトミセス属、およびリケッチア属を含む、細菌と見なされる総ての微生物を含む。この定義には、球菌、桿菌、螺旋状菌、スフェロプラスト、プロトプラストなどを含むあらゆる形態の細菌が含まれる。この用語はまた、グラム陰性またはグラム陽性である原核生物も含む。「グラム陰性」および「グラム陽性」は、当技術分野で周知のグラム染色法(例えば、Finegold and Martin, Diagnostic Microbiology, 6th Ed., CV Mosby St. Louis, pp. 13 -15[1982]を参照のこと)を用いた染色パターンを意味する。「グラム陽性細菌」は、グラム染色に使用される原色素を保持することができる細菌であり、染色された細胞は顕微鏡下で濃青色~紫色に見える。「グラム陰性菌」は、グラム染色に使用される原色素を保持しないが、対比色素で染まる。よって、グラム陰性菌は、グラム染色反応後に赤く見える。
【0152】
本明細書において使用する場合、用語「真菌」は、二相性真菌を含む、カビおよび酵母などの真核生物を指す。
【0153】
用語「除草剤耐性」および「除草剤抵抗性」は、互換的に使用可能であり、両方とも除草剤耐性および除草剤抵抗性を指す。「除草剤耐性の改良」および「除草剤抵抗性の改良」は、除草剤に対する耐性または抵抗性が、野生型遺伝子を含む植物に比べて改良されていることを意味する。
【0154】
用語「野生型」は、自然界で見出すことができる核酸分子またはタンパク質を指す。
【0155】
本発明において、用語「栽培地」は、本発明の植物が栽培される土壌などの場所を含んでなり、また、例えば、植物種子、植物実生および生育植物も含んでなる。用語「雑草を防除する有効量」は、標的雑草の生長または発達に影響を及ぼすため、例えば、標的雑草の生長もしくは発達を妨げるもしくは阻害するため、または雑草を枯死させるために十分な除草剤の量を指す。有利には、雑草を防除する有効量は、本発明の植物種子、植物実生または植物の生長および/または発達に有意な影響を及ぼさない。当業者は、慣例の実験からこのような雑草を防除する有効量を決定することができる。
【0156】
用語「標的DNA」は、本明細書において使用する場合、「標的部位」または「標的配列」を含んでなるDNAポリヌクレオチドを指す。
【0157】
用語「溶解(lysis)」は、DNA分子の共有結合性の主鎖の切断を意味する。溶解は、限定するものではないが、ホスホジエステル結合の酵素的または化学的加水分解を含む様々な方法によって誘発させることができる。一本鎖および二本鎖両方の溶解が可能であり、二本鎖溶解は2つの異なる一本鎖溶解イベントによって生じ得る。DNA溶解は、平滑末端または突出末端を生じ得る。特定の実施形態において、DNA標的化RNAおよび部位特異的改変ポリペプチドを含んでなる複合体が標的化二本鎖DNA溶解のために使用される。
【0158】
用語「遺伝子」は、コード配列の前(5’非コード配列)および後(3’非コード配列)に調節配列を含む機能的分子(例えば、限定するものではないが、特定のタンパク質)を発現する核酸断片を含んでなる。
【0159】
特定のRNAを「コードする」DNA配列とは、RNAへ転写され得るDNA核酸配列である。DNAポリヌクレオチドは、タンパク質へ翻訳され得るRNA(mRNA)をコードすることができ、またはDNAポリヌクレオチドは、タンパク質へ翻訳できないRNA(例えば、tRNA、rRNA、もしくはDNA標的化RNA;これらは「非コード」RNAまたは「ncRNA」としても知られる)をコードすることもできる。
【0160】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、本発明においては互換的に使用され、アミノ酸残基のポリマーを指す。これらの用語は、1以上のアミノ酸残基が、対応するおよび天然のアミノ酸の人為的化学類似体である、アミノ酸ポリマー、ならびに天然アミノ酸ポリマーに当てはまる。用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、「アミノ酸配列」および「タンパク質」はまた、限定するものではないが、グリコシル化、脂質連結、硫酸化、グルタミン酸残基のγ-カルボキシル化、水酸化およびADP-リボシル化を含む、それらの修飾形態も含み得る。
【0161】
用語「生物学的に有効な断片」は、タンパク質のN末端および/またはC末端から1以上のアミノ酸残基が欠損しているがその機能活性を保持している断片を指す。
【0162】
本明細書で使用されるアミノ酸置換に関する用語に関して、最初の文字は、特定の配列中の特定の位置の天然アミノ酸を表し、その後の数字は、対応する配列中の位置を表し、2つ目の文字は、天然アミノ酸を置換するための異なるアミノ酸を表す。例えば、W574Lは、574番の位置のトリプトファンがロイシンにより置換されていることを意味する。二重または多重突然変異に関しては、各突然変異を「/」で分ける。
【0163】
用語「ポリヌクレオチド」および「核酸」は、互換的に使用され、DNA、RNAまたはそのハイブリッドを含んでなり、二本鎖であっても一本鎖であってもよい。
【0164】
用語「ヌクレオチド配列」および「核酸配列」は両方とも、DNAまたはRNAにおける塩基の配列を指す。
【0165】
本発明において使用される場合、「発現カセット」、「発現ベクター」および「発現構築物」は、植物において対象とするヌクレオチド配列の発現に好適な、組換えベクターなどのベクターを指す。用語「発現」は、機能的生成物の産生を指す。例えば、ヌクレオチド配列の発現は、ヌクレオチド配列の転写(例えば、mRNAまたは機能的RNAを生成するための転写)および/またはRNAの、前駆体または成熟タンパク質への翻訳を指し得る。
【0166】
本発明の「発現構築物」は、線状核酸フラグメント、環状プラスミド、ウイルスベクターであり得、またはいくつかの実施形態では、翻訳され得るRNA(例えば、mRNA)であり得る。
【0167】
本発明の「発現構築物」は、異なる供給源からの対象とする調節配列およびヌクレオチド配列、または同じ供給源からの対象とする調節配列およびヌクレオチド配列を含んでなり得るが、通常天然に存在するものとは異なる様式で配置されている。
【0168】
用語「組換え発現ベクター」または「DNA構築物」は、本明細書においては互換的に使用され、ベクターおよび少なくとも1つの挿入配列を含んでなるDNA分子を指す。組換え発現ベクターは、通常、挿入配列の発現および/または増幅の目的で、または他の組換えヌクレオチド配列の構築のために作出される。この挿入配列はプロモーター配列に、作動可能に連結してもよいし、または作動不能に連結してもよく、またはDNA調節配列に、作動可能に連結してもよいし、または作動不能に連結してもよい。
【0169】
用語「調節配列」および「調節要素」は、互換的に使用され、コード配列の上流(5’非コード配列)、中流または下流(3’非コード配列)に位置し、関連のコード配列の転写、RNAプロセシング、安定性または翻訳に影響を与えるヌクレオチド配列を指す。植物発現調節要素は、植物における対象とするヌクレオチド配列の転写、RNAプロセシングまたは安定性または翻訳を制御し得るヌクレオチド配列を指す。
【0170】
調節配列としては、限定するものではないが、プロモーター、翻訳リーダー配列、イントロン、およびポリA認識配列が挙げられる。
【0171】
用語「プロモーター」は、別の核酸フラグメントの転写を制御し得る核酸フラグメントを指す。本発明のいくつかの実施形態において、プロモーターは、それが植物細胞に由来するかどうかにかかわらず、植物細胞において遺伝子の転写を制御し得るプロモーターである。このプロモーターは、構成プロモーターまたは組織特異的プロモーターまたは発達段階により調節されるプロモーターまたは誘導プロモーターであり得る。
【0172】
用語「構成プロモーター」は、一般に、ほとんどの場合、ほとんどの細胞腫で遺伝子発現を生じるプロモーターを指す。「組織特異的プロモーター」および「組織好適プロモーター」は、互換的に使用され、必ず例外なくというわけではないが主としてある組織または器官で発現され、また、特定の細胞または細胞種でも発現されるプロモーターを指す。「発達段階により調節されるプロモーター」とは、活性が発達事象によって決定されるプロモーターを指す。「誘導プロモーター」は、内因性または外因性刺激(環境、ホルモン、化学シグナルなど)に応答して作動可能に連結されたDNA配列を選択的に発現する。
【0173】
本明細書において使用する場合、用語「作動可能に連結された」とは、ヌクレオチド配列の転写が転写調節要素によって制御および調節されるような、調節要素(例えば、限定するものではないが、プロモーター配列、転写終結配列など)と核酸配列(例えば、コード配列またはオープンリーディングフレーム)の連結を指す。調節要素領域と核酸分子を作動可能に連結するための技術は当技術分野で公知である。
【0174】
核酸分子(例えば、プラスミド、線状核酸フラグメント、RNAなど)またはタンパク質を植物に「導入すること」とは、核酸またはタンパク質が植物細胞内で機能し得るように植物細胞をその核酸またはタンパク質で形質転換することを指す。本発明において使用される用語「形質転換」は、安定形質転換および一過性形質転換を含んでなる。
【0175】
用語「安定形質転換」は、外因性ヌクレオチド配列の植物ゲノムへの導入がその外因性遺伝子の安定な遺伝をもたらすことを指す。ひと度、安定に形質転換されると、外因性核酸配列は植物ゲノムおよびそのいずれの後代にも安定に組み込まれる。
【0176】
用語「一過性形質転換」は、機能を遂行するための核酸分子またはタンパク質の植物細胞への導入が外来遺伝子の安定な遺伝をもたらさないことを指す。一過性形質転換において、外因性核酸配列は、植物ゲノムに組み込まれない。
【0177】
特に定義のない限り、本明細書において使用される総ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の熟練者に共通に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似または等価ないずれの方法および材料も本発明の実施または試験に使用可能であるが、以下、好ましい方法および材料を説明する。
【0178】
本明細書に引用されている総ての刊行物および特許は、各個の刊行物および特許が正確かつ個々に引用することにより本明細書の一部とされ、および引用されている刊行物に関連する方法および/または材料を開示および記載するために引用することにより本明細書の一部とされるかのように、引用することにより本明細書の一部とされる。出願日までに刊行されたいずれの刊行物の引例も、本発明が既存の発明の公開に先行するに適格でないことを承認するものと解釈されるべきでない。さらに、示されている公開日は実際の公開日とは異なることがあり、実際の公開日は独立検証を要する場合がある。
【0179】
特に記載や暗示のない限り、本明細書において使用する場合、「1つの(a)」、「1つの(a/an)」および「その(the)は、「少なくとも1つの」を意味する。本明細書に記載または引用される総ての特許、特許出願、および刊行物は、それらが個々に引用されている場合と同じ引例の程度で、それらの全内容が引用することにより本明細書の一部とされる。
【図面の簡単な説明】
【0180】
図1図1は、本発明に従って生物内に新規突然変異を作出するための方法の概略図を示す。この図では、PAMとしてNGGを有するCas9のみを例に挙げているが、同様にして、異なるPAM(例えばNG)を有する他のCas9変異体も使用可能である。
図2図2は、シロイヌナズナのALS遺伝子部位W574およびS653におけるgRNA設計の概略図を示す。
図3図3は、2つの異なるプログラムされた連続的切断/編集ベクターで形質転換されたシロイヌナズナT2世代除草剤抵抗性系統を示す。pQY743およびpQY745はベクター番号である。抵抗性系統は正常に発根することができたが、野生型Col-0および非抵抗性系統はそうではなかった。
図4図4は、イマザピック抵抗性T2世代シロイヌナズナ系統のALS遺伝子のシーケンシグピークの図を示し、矢印で示されるTはGから変異し、W574L変異を生じている。
図5図5は、シロイヌナズナのALS遺伝子のW574部位におけるプログラムされた連続的切断/編集スキームの設計を示す。T-DNA配列は、sgRNA1、sgRNA2、Cas9およびHygRの4つの遺伝子を発現した。それらのうち、sgRNA1とCas9は複合体を形成し、これはゲノム中のALSのW574コドンを切断し、細胞の自発的修復を介して-G遺伝子型を形成すると思われた。この新規配列は、sgRNA2とCas9によって形成された複合体によって認識および切断可能であり、細胞の自発的修復を介して+T遺伝子型を形成し、W574Lを生じていた。
図6図6は、イマザピックによってスクリーニングされたシロイヌナズナの抵抗性実生およびALS W574部位のシーケンシング結果を示す。
図7図7は、シロイヌナズナのALS遺伝子のS653部位におけるプログラムされた連続的切断/編集スキームの設計を示す。T-DNA配列は、sgRNA1、sgRNA2、Cas9およびHygRの4つの遺伝子を発現した。それらのうち、sgRNA1とCas9は複合体を形成し、これはゲノム中のALSのS653コドンを切断する。細胞の自発的修復の後、-G遺伝子型が形成された。この配列はsgRNA2とCas9によって形成された複合体によって認識および切断可能であった。細胞の自発的修復の後、+A遺伝子型が形成され、S653Nが生じてした。
図8図8は、イマザピックによってスクリーニングされたシロイヌナズナの抵抗性実生およびALS S653部位のシーケンシング結果を示す。左のパネルは抵抗性実生のスクリーニング結果および抵抗性実生の比率を示し、右のパネルはシーケンシングピークの図およびS653部位の突然変異のタイプを示す。
図9図9は、シロイヌナズナのALS遺伝子のW574部位におけるプログラムされた連続的切断/編集スキームの設計を示す。T-DNA配列は、sgRNA1、sgRNA2、Cas9およびHygRの4つの遺伝子を発現した。それらのうち、sgRNA1およびCas9は複合体を形成し、これはゲノム中のALSのW574コドンを切断する。細胞の自発的修復の後、+A遺伝子型が形成された。この配列はsgRNA2とCas9によって形成された複合体によって認識および切断可能であった。細胞の自発的修復の後、-G遺伝子型が形成され、W574Mが生じていた。これら2つの切断は異なるPAM部位を使用していた。
図10図10は、イネのACCase2遺伝子のW2038部位におけるプログラムされた連続的切断/編集スキームの設計を示す。この部位は、ノスズメノテッポウのACCase2遺伝子の部位W2027に相当する。T-DNA配列は、sgRNA1、sgRNA2、Cas9およびHygRの4つの遺伝子を発現した。それらのうち、sgRNA1とCas9は複合体を形成し、これはゲノム中のACCaseのW2038コドンを切断する。細胞の自発的修復の後に-G遺伝子型が形成された。この配列はsgRNA2とCas9によって形成された複合体によって認識および切断可能であった。細胞の自発的修復の後、+T遺伝子型が形成され、W2038Lが生じていた。
図11図11は、ハイグロマイシン(50ug/L)およびキザロホップ-p(50ug/L)で同時スクリーニングされたイネの抵抗性カルスおよびW2038部位のシーケンシング結果を示す。
図12図12は、原核生物発現により産生され、精製されたSpCas9およびNGA-Cas9タンパク質のポリアクリルアミドゲル電気泳動の図を示す。矢印で示されるバンドは、Cas9タンパク質バンドである。
図13図13は、アガロースゲル電気泳動により検出された、OsALS W548標的部位およびOsACCase2 W2038標的部位を含むDNA断片に対する精製Cas9タンパク質のin vitro切断活性を示し、Cas9タンパク質とsgRNA断片が同時に添加された場合にのみ、DNA断片が予測された大きさに切断され得ることが見て取れる。
図14図14は、RNP形質転換イネプロトプラストのOsALS W548標的部位のシーケンシングピークの図を示し、この部位はシロイヌナズナのALS W574部位に相当する。元のG塩基シグナルピークに加え、矢印で示される場所に突然変異によって得られたT塩基シグナルピークが存在し、W548L変異に至っていた。
図15図15は、OsACCase2 W2038部位においてRNPにより編集され、50ug/L キザロホップ-pでスクリーニングされたイネの抵抗性カルスを示す。矢印は抵抗性カルスを示す。
図16図16は、抵抗性カルスから分化したイネ実生のOsACCase2 W2038標的部位のシーケンシングピークの図を示す。矢印で示されるTはGから変異し、W2038L変異を生じていた。
図17図17は、ハロキシホップ-pに対するT1世代OsACCase2 W2038L編集実生の抵抗性試験を示す。左から右へ、実生1番は野生型Huaidao No.5(イネ品種)の水処理対照の結果を示し、実生2~4番は、野生型Huaidao No.5および2つのRNPで遺伝子銃により形質転換したT1世代W2038L編集系統QY367-7-12およびQY367-7-18の結果を示し、これらは総て5g/mu(mu、面積の単位、1mu=1/15ヘクタール)のハロキシホップ-p有効成分で処理した。編集された系統がハロキシホップ-pに対する抵抗性を生じたことは明らかである。
図18図18は、キザロホップ-pに対するT1世代OsACCase2 W2038L編集実生の抵抗性試験を示す。左から右へ、実生1番は野生型Huaidao No.5の水処理対照の結果を示し、実生2~4番は、野生型Huaidao No.5および2つのRNPで遺伝子銃により形質転換されたT1世代W2038L編集系統QY367-5-10およびQY367-5-21の結果を示し、これらは総て5g/muのハロキシホップ-p有効成分で処理した。編集された系統がハロキシホップ-pに対する抵抗性を生じたことは明らかである。
図19図19は、OsACCase2 W2038部位およびOsBADH2遺伝子においてRNPによって同時に編集し、50ug/Lキザロホップ-pでスクリーニングしたイネの抵抗性カルスを示す。矢印は抵抗性カルスを示す。
図20図20は、T0世代2部位編集実生のOsACCase2 W2038標的部位のシーケンシングピークの図を示す。矢印で示されるTはGから変異し、W2038L変異を生じていた。
図21図21は、T0世代2部位編集実生のOsBADH2標的部位のシーケンシングピークの図を示す。+A同型接合突然変異が矢印で示される位置に生じていた。
図22図22は、OsALS W548部位およびOsSWEET14遺伝子においてRNPによって同時に編集され、5mg/Lピロキシスラムでスクリーニングしたイネの抵抗性カルスを示す。矢印は抵抗性カルスを示す。
図23図23は、T0世代2部位編集実生のOsALS W548標的部位のシーケンシングピークの図を示す。G塩基およびT塩基の両方のシグナルピークが矢印で示される位置に存在し、W548L変異を生じていた。
図24図24は、T0世代2部位編集実生のOsSWEET14標的部位のシーケンシングピークの図を示す。-C同型接合突然変異が矢印で示される部位に生じていた。
図25図25は、ニコスルフロンに対するT1世代OsALS W548部位およびOsSWEET142部位編集実生の抵抗性試験を示す。左から右へ、実生1番は野生型Huaidao No.5の水処理対照の結果を示し、実生2~3番は、野生型Huaidao No.5およびRNPで遺伝子銃により形質転換されたT1世代W548L編集系統QY360-7-11の結果を示し、これらは両方とも4g/muのニコスルフロン有効成分で処理した。編集された系統がニコスルフロンに対する抵抗性を生じたことは明らかである。
図26図26は、フルカルバゾン-Naに対するT1世代OsALS W548部位およびOsSWEET142部位編集実生の抵抗性試験を示す。左から右へ、実生1番は野生型Huaidao No.5の水処理対照の結果を示し、実生2~3番は、野生型Huaidao No.5およびRNPで遺伝子銃により形質転換されたT1世代W548L編集系統QY360-7-9の結果を示し、これらは両方とも2g/muのフルカルバゾン-Na有効成分で処理した。これらの編集系統がフルカルバゾン-Naに対する抵抗性を生じたことは明らかである。
図27図27は、イマザピックに対するT1世代OsALS W548部位およびOsSWEET142部位編集実生の抵抗性試験を示す。左から右へ、実生1番は野生型Huaidao No.5の水処理対照の結果を示し、実生2~3番は、野生型Huaidao No.5およびRNPで遺伝子銃により形質転換されたT1世代W548L編集系統QY360-7-11の結果を示し、これらは両方とも7g/muイマザピック有効成分で処理した。これらの編集系統がイマザピックに対する抵抗性を生じたことは明らかである。
図28図28は、ピロキシスラムに対するT1世代OsALS W548部位およびOsSWEET142部位編集実生の抵抗性試験を示す。左から右へ、実生1番は野生型Huaidao No.5の水処理対照の結果を示し、実生243番は、野生型Huaidao No.5およびRNP RNPで遺伝子銃により形質転換されたT1世代W548L編集系統QY360-7-2およびQY360-7-11の結果を示し、これらは総て2g/muピロキシスラム有効成分で処理した。これらの編集系統がピロキシスラムに対する抵抗性を生じたことは明らかである。
図29図29は、293T細胞におけるHBB遺伝子のプログラムされた連続的切断/編集スキームを示す。A.293T細胞におけるプログラムされた連続的切断/編集のためのHBB遺伝子部位の設計を示す;B.各編集ベクターの48時間の形質転換後の、293T細胞におけるHBB遺伝子のプログラムされた連続的切断/編集の変換効率;C.293T細胞におけるHBB遺伝子のプログラムされた連続的切断/編集およびHBB遺伝子の単一の部位切断/編集から生成された遺伝子編集タイプの比率;WT:野生型、indel:欠失または挿入の遺伝子型、C->T SNP:切断部におけるCからTへの塩基置換を有する遺伝子型。
【0181】
配列表の説明
本発明に含まれる主要な配列は次のようにまとめられ、関連する配列は配列表に示す。
【0182】
【表1】
【実施例
【0183】
発明の行うための実施形態
以下、さらに本発明を実施例と併せて説明する。以下の実施例は例として示され、本発明の保護範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例の実験方法は、特に断りのない限り、慣用される分子生物学、組織培養技術および農学の手引書に記載されている方法であった。例えば、具体的な工程は、"Molecular Cloning: A Laboratory Manual (第3版)" (Sambrook, J., Russell, David W., 2001, Cold Spring Harbor)、"Plant Propagation by Tissue Culture" (Edwin F. George , Michael A. Hall, Geert-Jan De Klerk, 2008, Springer)に見出すことができる。以下の実施例で使用される材料、試薬、機器などは、特に断りのない限り、商業的供給源から入手することができる。
【0184】
実施例1:シロイヌナズナのALS遺伝子のW574およびS653部位に対するプログラムされた連続的切断/編集により導入される予測可能な塩基置換の設計
A.実験材料
1.シロイヌナズナ材料
野生型シロイヌナズナCol-0は双子葉植物のモデル品種であり、その原種種子は、the Department of Weeds, College of Plant Protection, China Agricultural Universityにより提供され、その繁殖および保存は、本分野の標準法に従って本発明者らの研究室で行った。
【0185】
2.ベクター
ベクタープラスミドpCBC-dT1T2(Xing HL, Dong L, Wang ZP, Zhang HY, Han CY, Liu B, Wang XC, Chen QJ 2014. A CRISPR/Cas9 toolkit for multiplex genome editing in plants. BMC Plant Biol. Nov 29;14(1):327、詳細についてはhttps://www.addgene.org/50590/を参照のこと)、pHEE401E(Wang ZP, Xing HL, Dong L, Zhang HY, Han CY, Wang XC, Chen QJ Genome Biol. 2015 Jul 21; 16:144. doi: 10.1186/s13059-015-0715-0.具体的な情報はhttps://www.addgene.org/71287/for specific informationを参照のこと)、およびpHEE401E-NG(Nishimasu et al. 2018 Engineered CRISPR-Cas9 nuclease with expanded Targeting space. Science 361(6408):1259-1262. doi: 10.1126/science.aas9129に報告されているような突然変異をpHEE401Eに導入して、NG PAMを認識することができるベクターpHEE401E-NGを構築した)はAddgeneウェブサイトから購入するか、または従来の分子生物学的方法に従って本発明者らの研究室で構築し、本発明者らの研究室で維持した。
【0186】
3.主要な機器
ピペットガン、水浴、PCR装置(Bio-rad T100)、電気泳動装置(WIX-EP600)、ゲルイメージャー、電気ブラストドライヤー、遠心機(Eppendorf 5424R)、ハイスループットティッシュレイヤー、振盪機、電子天秤、pHメーターなど。
【0187】
4.主要な試薬
ハイフィデリティーDNAポリメラーゼ(Tsingke Bioから購入)、アガロースゲル回収キットおよびプラスミド抽出キット(Sparkjadeから購入)、BsaIおよびT4 DNAリガーゼ(NEBから購入)、Trans5αコンピテント細胞およびEHA105コンピテント細胞(TransGen Biotech、北京、中国から購入)、GV3101アグロバクテリウムコンピテント細胞(Shanghai AngyuBioから購入)、Tris、EDTA、カナマイシン、セファロスポリン、ハイグロマイシン、アガロース、酵母粉末、トリプトン、NaCl(Sangon Biotechから購入)、MS粉末、スクロース、Silwet-77、ハイグロマイシン(Solarbioから購入)、核酸色素(Dured)、無水エタノール(Sinopharmから購入)など。
【0188】
5.主要な溶液の調製
1)種子殺菌剤: 4mLの10%SDS、20mL NaClO、水を加えて200mLとする。
2)SDS抽出バッファー: 40mLの1M Tris・HCl(pH8.0)、50mLの0.1M EDTA、10mLの5M NaCl、10mLの10%SDS、水を加えて200mLとする。
3)感染溶液: 1.5gのスクロース、9μLのSilwet-77、30mLの超純水を加える。
4)LB固形培地: 5gの酵母粉末、10gのトリプトン、10gのNaCl、15gの寒天、水を加えて1Lとし、121℃で15分間滅菌し、後の使用のためにプレートに注ぐ。
5)50×TAE保存液: 242gのTris、37.2gのNaEDTA・2HO、800mLの超純水を加え、よく撹拌して溶解させ、57.1mLの酢酸を加え、よく撹拌し、最後に脱イオン水で1Lに希釈し、室温で保存する。
6)MS固形培地: 4.42gのMS粉末および10gのスクロースを秤量し、800mLの超純水を加え、pH5.8に調整し、水を加えて1Lとし、10gのフィタゲルを加え、121℃で15分間滅菌し、後の使用のためにプレートに注ぐ。
【0189】
B.実験方法
1.CRISPR/Cas9二重標的ベクターの設計および構築
1.1標的設計
シロイヌナズナALS遺伝子を配列番号2に示した。19塩基の標的配列gRNA1(5’-GCATGGTTATGCAATGGGA-3’)を、シロイヌナズナALS574部位付近のAGAをPAMとして用いて設計し、編集後にPAMの最初の3-4位の間で1個のG塩基の欠失があると予測され、その後、その欠失から生成された配列に基づいて第2の標的配列gRNA2(5’-GGCATGGTTATGCAATGGA-3’)が設計され、図2に示されるように、第2編集によって1個のT塩基が挿入され、それによりTGG-TTGの変換が実現すると予測された。
【0190】
同様に、19塩基の標的配列gRNA3(5’-TGCCGATGATCCCGAGTGG-3’)を、シロイヌナズナALS653部位付近のTGGをPAMとして用いて設計し、編集後にPAMの第1の3-4位の間で1個のG塩基の欠失があると予測され、その後、その欠失から生成された配列に基づいて第2の標的配列gRNA4(5’-TTGCCGATGATCCCGATGG-3’)が設計され、図2に示されるように、第2編集の後に1個のA塩基が挿入され、それによりAGT-AATの変換が実現すると予測された。
【0191】
1.2 ベクターの構築
Xing HL, Dong L, Wang ZP, Zhang HY, Han CY, Liu B, Wang XC, Chen QJ 2014. A CRISPR/Cas9 toolkit for multiplex genome editing in plants. BMC Plant Biol. Nov 29;14(1): 327によって記載されている方法に従った。具体的には、dT1T2プラスミドを、それぞれALS574および653部位の二重標的断片を増幅するための鋳型として使用してsgRNA発現カセットを構築した。pHEE401EおよびpHEE401E-NGのベクター骨格をBsaIで消化し、これらのバンドをゲルから切り出し、回収し、この標的断片をそのまま、消化の後に連結反応に使用した。T4 DNAリガーゼを用いてこれらのベクター骨格と標的断片を連結し、連結産物をTrans5αコンピテント細胞に形質転換し、異なるモノクローンをシーケンシングのために採取した。シーケンシングによる確認の後、プラスミドを抽出するためにSparkjade High Purity Plasmid Mini Extraction Kitを用いて組換えプラスミドを得、これらをそれぞれpQY743およびpQY745と呼称した。
【0192】
2.標的検出のためのプライマーの設計
標的検出のためのプライマーはALS574およびALS653標的部位を中心とし、上流検出用のプライマーはALS574標的部位から約100bpであり、下流検出用のプライマーはALS653標的部位から約280bpであった。プライマー配列は次の通りであった:574/653checking-F:5’ATTGACGGAGATGGAAGCTT3’、および574/653checking-R:5’CCAAACTGAGCCAGTCACAA3’。
【0193】
3.シロイヌナズナ遺伝子形質転換システムの樹立
3.1 アグロバクテリウム形質転換
構築された組換えプラスミドをアグロバクテリウムGV3101コンピテント細胞に形質転換して組換えアグロバクテリウム細胞を得た。
【0194】
3.2 アグロバクテリウム感染溶液の調製
1)活性化したアグロバクテリウムを採取し、30mlのYEP液体培地(25mg/L Rifおよび50mg/L Kan含有)に植え込み、200rpmにて28℃で一晩、OD600値が約1.0~1.5となるまで培養した。
2)6000rpmで10分間の遠心分離の後、アグロバクテリウムを回収し、上清を廃棄した。
3)アグロバクテリウムを感染溶液(Hを調整する必要はない)に、後の使用のためにOD600=0.8となるように再懸濁した。
【0195】
3.3 シロイヌナズナの形質転換
1)植物の形質転換前には、植物が十分に生育しているか、花序が豊富か、ストレス応答がないか注意を払った。第1の形質転換は草丈が約20cmとなった際に行った。灌水は、土壌が乾燥した際に適宜行うことができる。形質転換の前日に、生長した長角果をハサミで切り取った。
2)形質転換させる植物の花序を上記の溶液に30秒~1分間、穏やかに撹拌しながら浸漬し、浸潤した植物に液体膜の層がなければならない。
3)形質転換が完了した後に、植物を暗所で24時間培養し、その後、取り出して生育のために通常の明所環境に置いた。
4)1週間後、第2の形質転換を同様にして行うことができる。
【0196】
3.4 採種
種子が成熟した後、それらを採取した。採取後、種子を37℃のオーブンで約1週間乾燥させた。
【0197】
4.トランスジェニック植物の選択
種子を殺菌剤で5分間処理し、脱イオン水で5回洗浄し、MS選択培地(30μg/mLハイグロマイシン、100μg/mLセファロスポリン含有)に一様に拡げ、この培地を明所インキュベーター(温度22℃、16時間明期、8時間暗期、光強度100~150μmol/m/s、湿度75%)に置き、1週間後、陽性実生を選択し、土壌に移植した。
【0198】
5.T1突然変異植物の検出
5.1 ゲノムDNAの抽出
1)シロイヌナズナの葉を切り取り、2mLの遠沈管に入れ、鋼球を加え、これらの葉をハイスループットティッシュライザーで摩砕した。
2)摩砕が完了した後に、400μLのSDS抽出バッファーを加え、転倒して混合し、65℃の湯浴中で15分間インキュベートし、5分おきに転倒して混合した。
3)13,000rpmで5分間遠心分離を行った。
4)300μLの上清をピペットで吸い取り、新しい1.5mLの遠沈管に移し、-20℃に予冷した等容量のイソプロパノールをこの遠沈管に加え、この遠沈管を-20℃で1時間または一晩置いた。
5)13,000rpmで10分間遠心分離を行い、上清を廃棄した。
6)500μLの70%エタノールをこの遠沈管に加えてペレットを洗浄し、洗浄溶液を遠心分離の後に廃棄し(ペレットを捨てないように注意する)、室温で乾燥させ、30μLの超純水を加えてDNAを溶解させ、DNAを-20℃保存した。
【0199】
5.2 PCR増幅
抽出したT1植物ゲノムを鋳型として使用し、検出プライマーを用いて標的断片を増幅させ、5μLの増幅産物をピペットで吸い取り、1%アガロースゲル電気泳動により検出し、ゲルイメージャーで画像を得た。残った生成物をシーケンシング会社に送り、直接シーケンシングを行った。
【0200】
6.T2突然変異植物の検出
単一の植物からT1系統の種子を採取した後、2つのベクターの異なる系統の種子を選択し、イマザピック選択培地(MS培地+0.24μg/mLイマザピック)に拡げて選択を行い、1週間後に陽性実生を土壌に移植し、分子検出を行い、この方法は工程5と同じであった。
【0201】
使用したプライマーおよびそれらの配列:
【0202】
【表2】
【0203】
C.実験結果
1.T1植物の遺伝子型検出
T1種子をMSハイグロマイシン抵抗性培地によって選択し、pQY743ベクターについては合計32個体の陽性実生を得、pQY745ベクターについては合計18個体の陽性実生を得た。各ベクターに関して10個体の実生を選択し、その葉のゲノムDNAを抽出して標的部位を検出した。T1世代ではALS574部位に編集は生じておらず、ALS653部位に設計予測と符合した編集イベントが存在したことが判明した。検出結果を表1に示す。
【0204】
【表3】
【0205】
2.T2世代種子の選択結果
単一植物のT2世代種子を採取した後、それらをイマザピック抵抗性培地に拡げて選択を行い、図3に示されるように、野生型Col-0はこの抵抗性培地で生長できないが、突然変異系統の陽性植物はこの抵抗性培地で正常に生長できたことが見て取れる。
【0206】
各ベクターについて10個体の実生を選択し、分子検出のために葉からそのゲノムDNAを抽出した。図4に示されるように、pQY743ベクターでは、予測に即して同型接合突然変異、すなわち、TGGからTTGへの突然変異を有するものが6系統存在することが判明した。さらに、異型接合性突然変異を有するものが1系統存在し、キメラ突然変異を有するものが3系統存在した。検出結果を表2に示す。
【0207】
【表4】
【0208】
上記の結果は、本発明のプログラムされた連続的切断/編集という技術的解決策を使用することによって、標的部位における予測した突然変異の設計および実現が達成でき、Cas9タンパク質を用いて連続的sgRNA組合せを設計した場合にのみ塩基置換突然変異が実現できることを示した。
【0209】
実施例2:シロイヌナズナALS遺伝子のW574およびS653部位におけるプログラムされた連続的切断/編集による複数の突然変異タイプの達成
ベクターの設計、構築、ならびにシロイヌナズナの形質転換および選択のための操作工程は実施例1を参照して行った。AtALS W574部位については、ベクター設計は実施例1と同じであった。ベクターの概略図を図5に示し、W574L突然変異は、特定の部位においてまず-G、次いで+Tによって実現されるはずであることが予測された。ベクターで形質転換されたシロイヌナズナのT1世代には編集イベントは検出されなかった。トランスジェニックシロイヌナズナのT2世代を0.24mg/Lイマザピックで選択したところ、図6の左のパネルに示されるように、多数の除草剤抵抗性植物が得られ、これらの抵抗性植物の分子検出を行ったところ、PCR産物シーケンシング結果は、図6の右のパネルに示されるように、予測されたW574L突然変異がW574部位に見られただけでなく、別の抵抗性突然変異W574Mも見られたことを示した。
【0210】
AtALS S653部位についても、ベクター設計は実施例1と同じであった。ベクター図を図7に示し、S653N突然変異は、特定の部位においてまず-G、次いで+Aによって実現されるはずであると予測された。ベクターで形質転換されたシロイヌナズナのT1世代には、予測されたS653Nの編集イベントは検出されなかった。トランスジェニックシロイヌナズナのT2世代を、0.24mg/Lイマザピックで継続的に選択したところ、図8の左のパネルに示されるように、多数の除草剤抵抗性植物が得られ、これらの抵抗性植物に分子検出を行ったところ、PCR産物シーケンシング結果は、図8の右のパネルに示されるように、S653部位に予測されたS653N突然変異が生じただけでなく、他の2つの抵抗性突然変異S653RおよびS653R/G654Dも生じたことを示した。
【0211】
上記の結果は、本発明のプログラムされた連続的切断/編集という技術的解決策を使用することによって、標的部位に関して設計された予測される突然変異に加え、対応するCas9タンパク質を用いて連続的sgRNA組合せを設計した場合にのみ複数の機能的突然変異タイプが作出できることも示した。
【0212】
実施例3:シロイヌナズナALS遺伝子のW574部位付近でプログラムされた連続的切断/編集を行うための異なるPAMを使用することによるW574M抵抗性突然変異の作出
AtALS W574部位付近の配列
【化1】

については、W574部位により近いGGをまずPAMとして用いてsgRNA1:5’CTTGGCATGGTTATGCAATG3’を設計したこと以外(ここで、W574部位を下線で示し、NG PAMを斜体で示した)、ベクターの設計、構築、ならびにシロイヌナズナの形質転換および選択のための操作工程は実施例1を参照して行った。切断および修復の後に+Aによって新規配列
【化2】

が生成されるはずであることが予測された。AGを新規PAM部位として使用してsgRNA2:5’CTTGGCATGGTTATGCAAATGGGA3’を設計し、細胞の自発的修復の後に-G遺伝子型が生成され、W574Mが生じていた。すなわち、このスキームでは、2つの切断のために異なるPAM部位が使用された。ベクター図を図9に示す。ベクターを用いてシロイヌナズナを形質転換し、T1世代トランスジェニック系統に遺伝子型検出を行い、そこから予測されるW574Mの編集イベントが検出され、植物はイマザピック処理に対して抵抗性を示した。
【0213】
これらの結果は、プログラムされた連続的切断/編集を実行するために本発明の技術的解決策を使用し、異なるPAMを使用することで、アミノ酸置換を得るためにより広い配列範囲で編集が行えることを示した。
【0214】
実施例4:ネALS遺伝子のD350およびW548部位に関する予測可能な塩基置換の設計
Nishimasu et al. 2018 Engineered CRISPR-Cas9 nuclease with expanded targeting space. Science 361(6408):1259-1262. doi: 10.1126/science.aas9129に報告されているような突然変異をpHUE411(A CRISPR/Cas9 toolkit for multiplex genome editing in plants. Xing HL, Dong L, Wang ZP, Zhang HY, Han CY, Liu B, Wang XC, Chen QJ. BMC Plant Biol. 2014 Nov 29;14(1):327. 10.1186/s12870-014-0327-y, see details in https://www.addgene.org/71287/)に導入して、NG PAMを認識することができるベクターpHUE411-NGを構築した。
【0215】
イネALS遺伝子配列を配列番号12に示した。5’GGCGTGCGGTTTGATGATCG3’(下線の部分がシロイヌナズナALS-D376に相当するOsALS-D350部位であった)および編集から生成されると予測された新規配列5’GGCGTGCGGTTTGATGACG3’を標的として使用することにより、Xing HL, Dong L, Wang ZP, Zhang HY, Han CY, Liu B, Wang XC, Chen QJ. BMC Plant Biol. 2014に記載されている方法に従って二重標的ベクターを構築し、GAT-GAAの変換を獲得してOsALS D350E突然変異を生じると予測された。
【0216】
5’GGTATGGTTGTGCAATGGGA3’(下線部はシロイヌナズナALS-W574に相当するOsALS-W548部位であった)および編集から生成されると予測された新規配列5’GGTATGGTTGTGCAATGGA3’を標的として使用することにより、二重標的ベクターを構築し、TGG-TTGの変換を獲得してOsALS W548L突然変異を生じると予測された。
【0217】
次に、これら2つのベクターをイネに導入してトランスジェニック植物を得、同定したところ、予測された置換D350EおよびW548Lを有する植物が得られたことが示された。圃場での除草剤抵抗性生物検定の結果は、D350EおよびW548L突然変異体はALS阻害剤除草剤に対する抵抗性を獲得したことを示した。
【0218】
実施例5:予測可能な塩基置換の設計およびイネACCase2遺伝子のW2038部位に関する複数の突然変異タイプの選択
イネACCase2遺伝子配列を配列番号14に示し、配列中、OsACCase2 W2038部位はノスズメノテッポウのACCase W2027部位に相当した。この部位に近接したAGGをPAMとして用いてsgRNA1:5’TTCATCCTCGCTAAC-TGAG3’を設計し、切断および修復の後に-Gによって新規配列が形成されると予測された。このAGGを引き続きPAMとして用いてsgRNA2:5’CTTC-ATCCTCGCTAACTGAG3’を設計し、再び切断および修復の後に+T遺伝子型が形成されてW2038L突然変異が生じた。sgRNA1およびsgRNA2をpHUE411ベクター上に構築して編集ベクターを形成し、このベクターの図を図10に示した。
【0219】
この編集ベクターを用いてHuaidao No 5(イネ品種)のカルスを形質転換し、3週間の50μg/Lハイグロマイシンおよび50μg/Lキザロップ(quizalop)-pでの同時選択の後に、図11の左のパネルに示されるように多数の抵抗性カルスが得られた。抵抗性カルスを遺伝子型同定のために採取し、図11の右のパネルに示されるように、予測されたW2038L突然変異だけなくW2038C突然変異も生じていたことが判明した。
【0220】
イネ遺伝子のプログラムされた連続的切断/編集の上記結果は、本発明の技術的解決策が単子葉植物および双子葉植物の両方に適用可能であることを示した。
【0221】
実施例6:SpCas9およびNGA-Cas9タンパク質の発現および精製
1.実験機器および試薬
【0222】
【表5】
【0223】
【表6】
【0224】
2.実験方法
2.1 pET15b-Cas9発現ベクターの構築
植物コドンの最適化の後に得られたSpCas9およびNGA-Cas9タンパク質のDNA配列をそれぞれ配列番号15および配列番号16に示し、これらの配列がGenScriptにより鋳型DNAとして合成された。
【0225】
NG-Cas9配列およびNGA-Cas9配列をそれぞれ増幅した後、インフュージョン法によって2つの断片をpET15b発現ベクターに連結し、DH5aに形質転換し、確認の後に配列を決定した。
【0226】
【表7】
【0227】
2.2 タンパク質の発現および精製
構築した発現ベクターを大腸菌(Escherichia coli)Rosetta(DE3)に形質転換し、IPTGによってその発現を誘導し、これらの細菌を採取し、溶解させ、Ni-NTAカラムによって精製した。具体的な方法は次の通りであった。
a)組換え発現ベクターをRosetta(DE3)株に形質転換し、単一のコロニーを10mlのLB培地、CmR+Amp(pET15b)またはCmR+Kana(pET28a)抵抗性に採取し、200rpmにて37℃で一晩培養し、1LのLB培地を含有する2L振盪フラスコに移し、37℃、200rpmで、OD600が0.6~0.8となるまで培養し、18℃に冷却し、0.5mM IPTGで一晩、その発現を誘導し、これらの細菌を4000gでの遠心分離によって採取した。
b)採取した細菌をNi-バッファーA:50mM HEPES、pH7.4、500mM NaCl、20mMイミダゾール、5mM β-メルカプトエタノールに再懸濁し、終濃度1mMのPMSFおよび250ulのカクテル阻害剤を添加した後、よく混合した。
c)再懸濁させた細胞を超音波破砕器で破砕した後、それらを40000gにて30分間4℃で遠心分離し、上清を回収し、Ni-NTAカラムに通した。
d)Ni-NTAカラムによる精製: 溶解液上清を20分間、樹脂と合わせ、50mMイミダゾールを含有するバッファーAで溶出させて不純物を除去し、最後に400mMイミダゾールを含有する溶出バッファーで溶出させた。
e)SDS-PAGEゲル電気泳動システムを用いてタンパク質の精製効果を検出した。
f)このバッファーを50mM HEPES pH7.5、150mM KCl、1mM DTT、3%グリセロールに変更することで透析を行った。
h)最終のサンプルをSDS-PAGEゲル電気泳動にかけてタンパク質の精製効果を検出した。限外濾過により濃縮した後、後の使用のためにタンパク質を-80℃で冷凍した。
【0228】
2.3 Cas9融合タンパク質の発現および精製
SpCas9およびNGA-Cas9タンパク質の精製結果を図12に示した。矢印はCas9タンパク質バンドを示し、より高純度が達成されたことを示す。
【0229】
実施例7:OsACCase2 W2038標的部位およびOsALS W548標的部位に対してそれぞれ検出されたSpCas9タンパク質およびNGA Cas9タンパク質のin vitro酵素切断活性
1.OsALS遺伝子およびOsACCase2遺伝子のDNA配列をCRISPORオンラインツール(http://crispor.tefor.net/)に入力し、シロイヌナズナALSタンパク質のアミノ酸部位574に相当するOsALSのW548(OsALSの548番目のアミノ酸、イネALSタンパク質のアミノ酸配列は配列番号11に示した)およびノスズメノテッポウのアミノ酸部位2027に相当するOsACCase2のW2038(OsACCase2の2038番目のアミノ酸、イネACCase2タンパク質のアミノ酸配列は配列番号13に示した)に関して以下のsgRNAを設計し、これらのsgRNAはGenScriptにより合成された。
【0230】
【化3】
【0231】
2.特定の検出プライマー、OsALS265AA-F:5’ggtcttgcgtctggttggc3’およびOsALS-end-R:5’ccatgccaagcacatcaaacaag3’を用いて、OsALS W548標的部位を含む断片を増幅したところ、このPCR産物は1200bpの長さであった。
【0232】
特定の検出プライマー、OsACC1750AA-F:5’gcgaagaagactatgctcgtattgg3’およびOsACC2196AA-R:5’cttaatcacacctttcgcagcc3’を用いて、OsACCase W2038標的部位を含む断片を増幅したところ、このPCR産物は1500bpの長さであった。
【0233】
PCRシステムを下表に示した。
【0234】
【表8】
【0235】
3.PCR反応を確立し、反応条件を下表に示した。
【0236】
【表9】
【0237】
4.PCR産物をアガロースゲル電気泳動により検出し、さらなる確認のために配列決定を行った。適正に確認された後、ゲルを切り出してDNA断片を回収した。回収したDNA断片を、30ulのRNアーゼ非含有超純水を加えることによって溶解させ、その濃度を測定した。
【0238】
5.以下の検出システムを用いてCas9タンパク質活性を検出し、システムが準備された後に、それを37℃で1時間インキュベートした。
【0239】
【表10】
【0240】
6.反応が完了した後、システムを65℃で10分間処理し、4ulの6×DNAローディングバッファーを加え、2%アガロースゲル上に流してバンドサイズを検出した。
【0241】
結果を図13に示し、精製されたCas9タンパク質はsgRNAの存在下でのみ、DNA二本鎖を設計された標的部位で切断できたことが見て取れる。
【0242】
実施例8:イネプロトプラストを2つの異なる標的化RNP複合体で形質転換することによるOsALS548部位におけるW548L突然変異の達成
1.イネプロトプラストの調製およびPEG媒介形質転換は、公開されている方法(Bart et al., 2006)の基づき、一部改変して行い、具体的な調製工程は次の通りであった。
(1)プロトプラスト用のイネ実生をまず準備した。イネ品種は日本晴であった。まず、イネ種子を脱穀し、脱穀した種子を75%エタノールで1分間すすぎ、5%(v/v)次亜塩素酸ナトリウムで20分間処理し、次に、無菌水で5回洗浄し、ウルトラクリーンテーブル上に置き、ブロー乾燥させ、次に、1/2MS培地を含む組織培養フラスコに、各フラスコに種子20個として入れた。プロトプラストは、種子を26℃、12時間明期で約10日間インキュベートすることによって調製した。
(2)実生の葉鞘を選別し、鋭利なGilletteかみそり刃で約1mm片に刻み、後の使用のために0.6MマンニトールおよびMES培養培地(配合:0.6Mマンニトール、0.4M MES、pH5.7)中に入れた。総ての材料を刻んだ後、それらを20mLの酵素溶解溶液(配合:1.5%セルラーゼR10/RS(YaKult Honsha)、0.5%マセロザイムR10(YaKult Honsha)、0.5Mマンニトール、20mM KCl、20mM MES、pH5.7、10mM CaCl、0.1%BSA、5mM β-メルカプトエタノール)に移し、アルミニウム箔に包み、28℃にて振盪機に置いた。酵素溶解は50rpmにて暗所で約4時間行い、最後の2分間は速度を100rpmに増した。
(3)酵素溶解後、等容量のW5溶液(配合:154mM NaCl、125mM CaCl、5mM KCl、15mM MES)を加え、10秒間水平振盪してプロトプラストを遊離させた。酵素溶解から得られた細胞を300メッシュの篩で濾過し、150gにて5分間遠心分離してプロトプラストを回収した。
(4)これらの細胞をW5溶液で2回すすぎ、150gで5分間の遠心分離によってプロトプラストを回収した。
(5)プロトプラストを適当量のMMG溶液(配合:3.05g/L MgCl、1g/L MES、91.2g/Lマンニトール)で再懸濁させ、プロトプラスト濃度は約2×10細胞/mLとした。
【0243】
2.RNP複合体の調製:
OsALS548標的部位配列
【化4】

(OsALS W548部位に下線、シロイヌナズナALS W574に相当、Cas9タンパク質により認識されるPAM部位を斜体の小文字で示した)に従い、精製されたNGA-Cas9タンパク質を、RNP複合体を調製するために選択した。GGAをPAMとして使用し>CrRNA1-548-G:5’-GGGUAUGGUUGUGCAAUGGGAguuuuagagcuaugcu-3’を設計し、編集後にPAMの最初の3-4位の間で1個のG塩基が欠失すると予測され、次に、上記の欠失から生じた配列を用いて第2の>CrRNA2-548+T:5’-UGGGUAUGGUUGUGCAAUGGAguuuuagagcuaugcu-3’を設計し、第2の編集の後に1個のT塩基が挿入されてTGG-TTGの変換が得られると予測された。
【0244】
>CrRNA1-548-Gおよび>CrRNA1-548+TはGenScript Biotechnology Companyにより合成され、sgRNAもまた合成された。
【0245】
【化5】
【0246】
説明書に従い、合成されたcrRNAおよびGenCRISPR tracrRNA(GenScript SC1933)を等モルで混合し、crRNA&tracrRNAアニーリングバッファー(GenScript SC1957-B)を加え、アニーリングしてgRNAを調製した。tracrRNA配列は、5’-agcauagcaaguuaaaauaaggcuaguccguuaucaacuugaaaaaguggcaccgagucggugcuuu-3’であった。
【0247】
RNP反応系は下表に従って準備し、反応系が準備された後に、それを25℃で10分間インキュベートした。
【0248】
【表11】
【0249】
3.プロトプラストの形質転換
(1)上記で調製した、MMGに再懸濁させたプロトプラスト200μlを取り、インキュベーション後に生成されたRNP複合体(20μgのCas9タンパク質、20μgのsgRNA)を加え、軽く打ちつけてよく混合した。
(2)等容量の40%(w/v)PEG溶液(配合:40%(w/v)PEG、0.5Mマンニトール、100mM CaCl)を加え、軽く打ちつけてよく混合し、28℃、暗所で15分間静置した。
(3)誘導および形質転換後、1.5mLのW5溶液をゆっくり加え、軽く打ちつけて細胞をよく混合し、これらの細胞を150gで3分間の遠心分離によって回収した。この工程を1回繰り返した。
(4)これらの細胞を1.5mLのW5溶液を加えることによって再懸濁させ、28℃のインキュベーターに入れ、暗所で12~16時間培養した。これらの細胞をプロトプラストゲノムDNAの抽出に使用する場合には、48~60時間インキュベートしなければならない。
【0250】
4.ゲノム標的編集イベントの検出
(1)プロトプラストDNAは、一部改変したCTAB法を用いて抽出し、この方法は以下に具体的に記載した:プロトプラストを遠心分離し、上清を廃棄し、500μLのDNA抽出溶液を加え、振盪し、よく混合し、65℃の湯浴中で1時間インキュベートし;湯浴中でのインキュベーション後にこのサンプルを冷却し、等容量のクロロホルムを加え、数回転倒してよく混合し、10,000rpmで10分間遠心分離し;400μlの上清を取り、新しい1.5mL遠沈管に移し、1mLの70%(v/v)エタノールを加え、-20℃で20分間静置して沈降させ;DNAを12,000rpmで15分間の遠心分離により沈降させ、沈降物を空気中で乾燥させ、次いで、50μlの超純水を加えることにより溶解させ、後の使用のために-20℃で保存した。
【0251】
(2)遺伝子特異的プライマーを用いて、W548標的部位を含む断片を増幅させ、標的部位に対して以下の検出プライマーを設計した。
【化6】
【0252】
PCR反応系を下表に示した。
【0253】
【表12】
【0254】
(3)PCR反応を確立し、一般反応条件を下表示した。
【0255】
【表13】
【0256】
(4)検出はアガロースゲル電気泳動によって行い、PCR断片を回収し、配列を決定した。
【0257】
5.実験結果:
合成crRNAおよびtracrRNAを用いてアニーリングにより調製されたgRNAを使用するか、または合成sgRNAを直接使用することによって、精製NGA-Cas9タンパク質との活性RNP複合体が形成できた。OsALS548標的化部位の配列決定により、TGGからTTGへの突然変異が検出でき、このことは、一連の順序でcrRNAまたはsgRNAと組み合わせたRNP複合体から生成されたプログラムされた連続的切断/編集によって、細胞内で標的部位の部位特異的突然変異が達成できたことを証明した。図14のプロトプラストOsALS548標的シーケンシングピーク図に、矢印の先で示されるように、最初のG塩基シグナルピークに加えて、この突然変異から生成されたT塩基シグナルピークも存在し、これによりOsALS548部位のW548L突然変異が生じていた。
【0258】
実施例9:2つの異なる標的化RNP複合体を用いたイネカルス衝撃によるOsACCase2 W2038部位におけるW2038L突然変異の達成
1.RNP複合体の調製:
OsACCase2 W2038標的部位配列
【化7】

(ここで、ノスズメノテッポウACCase W2027に相当するOsACCase2 W2038部位を下線で示し、Cas9タンパク質によって認識されるPAM部位を斜体の小文字で示した)に従い、精製されたSpCas9タンパク質を、RNP複合体を調製するために選択した。GGAをPAMとして使用して>CrRNA1-2038-G:5’-GUUCAUCCUCGCUAACUGGAGguuuuagagcuaugcu-3’を設計し、編集後にPAMの最初の3-4位の間で1つのG塩基が欠失されると予想され、次に、その欠失から生じた配列を用いて第2の>CrRNA2-2038+T:5’-UGUUCAUCCUCGCUAACUGAGguuuuagagcuaugcu-3’を設計し、第2の編集の後に1個のT塩基が挿入されてTGG-TTGの変換が得られると予測された。
【0259】
>CrRNA1-2038-Gおよび>CrRNA2-2038+TはGenScript Biotechnology Companyにより合成され、sgRNAもまた合成された。
【化8】
【0260】
説明書に従い、合成されたcrRNAおよびGenCRISPR tracrRNA(GenScript SC1933)を等モルで混合し、crRNA&tracrRNAアニーリングバッファー(GenScript SC1957-B)を加え、アニーリングしてgRNAを調製した。
【0261】
RNP複合体は、実施例8と同じ反応系でインキュベートすることによって調製した。形質転換のための10回の遺伝子銃衝撃の量を例に挙げると:20μgのCas9タンパク質、20μgのgRNAまたはsgRNA、10μlの10×Cas9反応バッファーを、RNアーゼ非含有超純水で合計100μlとし、25℃で10分間インキュベートし、穏やかに混合する。
【0262】
2.イネカルスの誘導
成熟および充実したイネ種子を選別し、脱穀し、以下の工程に従って消毒した。
(1)イネ種子を脱穀し、イネ品種は、種子市場から購入したHuaidao No.5であった。
(2)種子を無菌水で、水が透明になるまで回数に制限無く洗浄した。
(3)70%アルコールで1分間滅菌した後、種子を、水平振盪機上の10%次亜塩素酸ナトリウム中に置き、振盪下で25分間インキュベートした。
(4)次亜塩素酸ナトリウム消毒後、種子を無菌水で5回洗浄した。これらの種子をカルス誘導培地(配合:MS粉末(4.42g/L)+2,4-D(2mg/L)+スクロース(30g/L)+フィタゲル(4g/L))に播種し、暗所、28℃で培養してカルスを誘導した。
【0263】
3.遺伝子銃RNP衝撃:
(1)高張培養
良好な胚形成能を有するカルスを高張培地(配合:MS粉末(4.42g/L)+2,4-D(2mg/L)+スクロース(30g/L)+D-マンニトール(0.4M))+フィタゲル(4g/L))に移し、無菌操作はウルトラクリーンベンチで行い、培養は暗所、25℃で4~6時間行った。
(2)金粉末懸濁液の調製:輸入した1.5mL EPチューブを使用することにより、30mgの金粉末(直径0.6μm)を秤量し;1mLの70%エタノールを加え、ボルテックスで十分に撹拌し、氷上で10分静置した。1分間の遠心分離の後、上清を廃棄し;1mLの無菌水を加え、ボルテックスで十分に撹拌し、1分間遠心分離し、上清を廃棄し、上記の操作を3回繰り返した。500μLの滅菌グリセロール(50%)を加え、ボルテックスで十分に撹拌し、濃度60μg/μlで金粉末懸濁液を調製し、-20℃で保存した。
(3)50μlの金粉末懸濁液(60μg/ml)を取り、100μLの調製されたRNP複合体を加え、穏やかに混合した。
(4)15μlのRNP/金粉末混合物を取り、PDS-1000ベンチトップ遺伝子銃(Bio-Rad)の切断可能な膜の中央に置き、ブロー乾燥させ、その後、機器の説明書に従って衝撃を行った。
衝撃パラメーター:真空度は26~28であり、距離は6cmであり、空気圧は1100psiまたは1350psiであった。
(5)衝撃が完了した後、カルスを高張培地にて25℃で一晩、暗所で培養した(16時間)。
【0264】
4.選択、分化および発根:
(1)衝撃を施したカルスを一晩培養した後、誘導培地に移し、28℃で1週間培養した。
(2)1週間の再生の後、カルスを選択培地(配合:4.1g/L N6粉末+0.3 g/Lカゼイン加水分解物+2.8g/Lプロリン+2mg/L 2,4-D+3%スクロース+50ug/Lキザロホップ-p+500mg/L Cef(セファロスポリン)+0.1g/Lイノシトール+0.35%フィタゲル、pH5.8)に移して3~4週間選択を行い;図15に示されるように、OsACCase2 W2038の予測編集のために、50ug/Lキザロホップ-pを選択に使用した。
(3)選択された、生長状態が良好な抵抗性カルスを分化培地(配合:MS粉末(4.42g/L)+KT(1mg/L)+スクロース(30g/L)+フィタゲル(4.5g/L)+50ug/Lキザロホップ-p、pH5.8)に移し、分化を誘導するために2~4週間、照明下、28℃で培養した。
(4)分化した実生を発根のために発根培地(配合:1/2MS粉末(2.3g/L)+スクロース(30g/L)+フィタゲル(4.5g/L))に移し、発根が完了した後に実生を強化し、次いで、土壌を詰めたポットに移植し、栽培のために温室に移した。
【0265】
5.抵抗性カルスおよびT0組織培養実生における標的編集イベントの検出:
選択から合計11の抵抗性カルスが得られ、それらのDNAをCTAB法によって抽出した。標的部位に対する検出プライマーは次のように設計した:OsACC2038test-F:5’CTGTAGGCATTTGAAACTGCAGTG3’、OsACC2038test-R:5’GCAATCCTGGAGTTCCT-CTGACC3’、OsACCase2 W2038部位を含むPCR断片を増幅し、回収し、配列決定した。シーケンシング検出は、それらのうち10がOsACCase2 W2038部位においてTGGからTTGの突然変異を有することを示し、3サンプルは同型接合突然変異体であった。
【0266】
抵抗性カルス分化によって得られたT0世代組織培養実生に関して、そのDNAを、編集標的部位配列を検出するために抽出し、図16に示されるように、OsACCase2 W2038部位においてTGGからTTGへの型接合突然変異も存在した。
【0267】
6.ACCase阻害剤除草剤に対するT1世代実生の抵抗性試験
W2038L突然変異を含むT0系統の繁殖の後に、T1世代突然変異実生を、圃場濃度のキザロホップ-pおよびハロキシホップ-pを用いた除草剤抵抗性に関して試験した。図17~18に示されるように、OsACCase2 W2038L突然変異系統がこれら2つのACCase阻害剤除草剤に対して有意に抵抗性であったことが見て取れた。
【0268】
概要を述べると、合成crRNAおよびtracrRNAを用いてアニーリングにより調製されたgRNAを使用するか、または合成sgRNAを直接使用することによって、精製SpCas9タンパク質との活性RNP複合体が形成でき;遺伝子銃衝撃を受けたカルスは、組織培養段階でキザロホップ-pを使用することによって選択することができ;T0世代組織培養実生のOsACCase2 W2038標的部位の配列決定によってTGGからTTGへの同型接合突然変異が検出でき;この突然変異はT1世代に遺伝可能であり、ACCase阻害剤除草剤に対する抵抗性を示し、このことはさらに、連続的標的化crRNAまたはsgRNAと組み合わせたRNP複合体から生成されたプログラムされた連続的切断/編集は細胞において標的部位の部位特異的突然変異を達成でき、組織培養選択のための細胞内因性選択マーカーの生産を誘導し、それにより除草剤抵抗性作物を作出できることを実証した。
【0269】
実施例10:異なる標的化RNP複合体はイネカルスのOsACCase2 W2038部位およびOsBADH2遺伝子を同時に編集する
RNP複合体は実施例8に従う方法によって調製し、遺伝子銃衝撃および組織培養手順は実施例9のものと同じであった。OsACCase2 W2038部位を標的とするcrRNAまたはsgRNAの他、OsBADH2遺伝子を標的とするcrRNAまたはsgRNAを同時に加え、それらをSpCas9タンパク質とともにインキュベートして第2の標的遺伝子OsBADH2に対する標的化RNP複合体を形成した。遺伝子銃衝撃を行い、再生培養、スクリーニング、分化および発根の後にT0世代組織培養実生を得、繁殖後にT1世代を得た。
【0270】
イネOsBADH2ゲノム配列を配列番号17に示した。CRISPORオンラインツール(http://crispor.tefor.net/)に従い、標的部位配列
【化9】

(ここで、Cas9タンパク質により認識されるPAM部位を斜体の小文字で示した)
を選択し、精製されたSpCas9タンパク質を選択してRNP複合体を調製した。CGGをPAMとして使用して>CrRNA1-OsBADH2:5’-CCAAGUACCUCCGCGCAAUCGguuuuagagcuaugcu-3’を設計し、キザロホップ-pの選択によって得られた抵抗性カルスにおいて、OsACCase2 W2038Lの抵抗性突然変異およびOsBADH2のノックアウト突然変異イベントが同時に検出できると予測された。
【0271】
>CrRNA1-OsBADH2はGenScript Biotechnology Companyにより合成され、sgRNAもまた合成された。
【化10】
【0272】
図19に示されるように、実施例9の形質転換工程に従って抵抗性カルスを選択し、抵抗性カルスを選択し、分化および実生の出現を経てカルスおよびT0世代組織培養実生のOsACCase2およびOsBADH2標的部位における配列を決定した。OsBADH2標的検出プライマーは次の通りであった。
【化11】
【0273】
結果として、選択によって合計13の抵抗性カルスが得られ、そのうち11カルスでOsACCase2 W2038L突然変異イベントが検出され、これらの11のカルスサンプルに関するOsBADH2標的配列の検出は、それらのうち8カルスがOsBADH2標的部位における編集イベントを同時に含むことを示した。分化により得られたT0世代組織培養実生では、図20~21に示されるように、OsACCase2 W2038L突然変異およびOsBADH2+A同型接合突然変異の存在が検出された。
【0274】
概要を述べると、イネカルスに一連の標的化crRNA標的化またはsgRNA標的化RNP複合体で遺伝子銃衝撃を施してOsACCase2 W2038の部位特異的編集を実行し、同時に、第2の標的遺伝子OsBADH2を標的とする標的化RNP複合体を加え、カルスの選択は組織培養段階においてキザロホップ-pを用いて行い;抵抗性カルスの61%にOsACCase2 W2038突然変異およびOsBADH2の標的化ノックアウトが同時に生じ、T0世代組織培養実生にOsBADH2の同型接合突然変異を含む系統が検出された。これらは、連続的切断/編集を耐性遺伝子の部位特異的編集に関するRNP形質転換と組み合わせると、内因性選択マーカーが生成でき、対応する選択圧を富化すると第2の標的遺伝子の編集イベントを同時にスクリーニングすることができ、それにより非トランスジェニック手段によるゲノムの部位特異的編集が達成できることを示した。
【0275】
実施例11:異なる標的化RNP複合体はイネカルスのOsALS548部位およびOsSWEET14遺伝子を同時に編集する
OsALS548部位に対する標的化RNP複合体は、実施例8に従う方法によって調製し、crRNAおよびsgRNA配列はそれぞれ実施例8の場合と同じであった。
【化12】
【0276】
実施例8を参照して、gRNAまたはsgRNAをNGA-Cas9とともにインキュベートして、OsALS548部位を標的とするRNP複合体を調製した。
【0277】
OsALS548部位に対する標的化RNP複合体に加え、OsSWEET14遺伝子に対するcrRNAまたはsgRNAを同時に加え、SpCas9タンパク質とともにインキュベートすることによって第2の標的遺伝子OsSWEET14に対する標的化RNP複合体を形成した。遺伝子銃衝撃、再生培養、選択、分化、発根を行うことによってT0世代組織培養実生を得、繁殖によってT1世代を得た。選択圧は5mg/Lピロキシスラムであった。
【0278】
イネOsSWEET14ゲノム配列を配列番号18に示した。CRISPORオンラインツール(http://crispor.tefor.net/)に従い、標的部位配列
【化13】

(ここで、SpCas9タンパク質により認識されるPAM部位を斜体の小文字で示す)を選択し、精製されたSpCas9タンパク質をRNP複合体の調製のために選択した。GGGをPAMとして用いて以下を設計し、
【化14】

ピロキシスラムの選択によって得られた抵抗性カルスにおいて、OsALS W548Lの抵抗性突然変異およびOsSWEET14のノックアウト突然変異が同時に検出できると予測された。
【0279】
>CrRNA1-Os SWEET14はGenScript Biotechnology Companyにより合成され、sgRNAもまた合成された。
【化15】
【0280】
抵抗性カルスは、図22に示されるように、実施例9に記載されているような遺伝子銃衝撃および組織培養手順に従って選択し、抵抗性カルスを選択して分化および実生の出現を行い、ここで、選択培地の配合は、4.1g/L N6粉末+0.3g/Lカゼイン加水分解物+2.8g/Lプロリン+2mg/L 2,4-D+3%スクロース+5mg/Lピロキシスラム+500mg/L Cef(セファロスポリン)+0.1g/Lイノシトール+0.35%フィタゲル、pH5.8であった。
【0281】
カルスおよびT0世代組織培養実生のOsALS548部位およびOsSWEET14標的部位の配列を決定した。OsSWEET14標的部位検出プライマーは次の通りであった。
【化16】
【0282】
結果として、選択によって合計9つの抵抗性カルスが得られ、そのうち8カルスでOsALS W548L突然変異イベントが検出され、これら8つのカルスサンプルにおけるOsSWEET14標的配列の検出は、そのうち5カルスがOsSWEET14標的部位に編集イベントを含むことを示した。分化によって得られたT0世代組織培養実生では、図23~24に示されるように、OsALS W548L突然変異とOsSWEET14-C同型接合突然変異の両方が検出できた。
【0283】
OsALS W548L突然変異の存在が検出されたT0系統を繁殖させた後、T1世代突然変異実生系統に対して、圃場濃度のピロキシスラム、イマザピック、ニコスルフロンおよびフルカルバゾン-Naを用いて除草剤抵抗性を検定した。図25~28に示されるように、OsALS W548L変異系統は、これらの4種類のALS阻害剤除草剤の総てに対して有意な抵抗性を示したことが見て取れる。
【0284】
概要を述べると、合成crRNAおよびtracrRNAを用いてアニーリングにより調製されたgRNAを使用するか、または合成sgRNAを直接使用することによって、精製SpCas9タンパク質との活性RNP複合体が形成でき;細胞における標的部位の部位特異的突然変異は、RNP複合体と一連の標的化crRNAまたはsgRNAとの組合せから生成されるプログラムされた連続的切断/編集によって達成でき、遺伝子銃衝撃を受けたカルスの選択は、組織培養段階でピロキシスラムを用いて実行することができ、T0世代組織培養実生のOsALS548標的部位の配列決定によって、TGGからTTGへの突然変異が検出され、この突然変異はT1世代へ遺伝可能であり、ALS阻害剤除草剤に対する抵抗性を示した。
【0285】
第2の標的遺伝子OsSWEET14を標的とする標的化RNP複合体を同時に加え、かつ、NGG PAMを認識するSpCas9タンパク質を使用することによって、イネカルスが遺伝子銃衝撃を受けた後、カルスの選択を、組織培養段階においてピロキシスラムを用いて行った。抵抗性カルスの55%にOsALS W548L突然変異およびOsSWEET14の標的化ノックアウトが同時に見られ、OsSWEET14の同型接合突然変異の存在がT0世代組織培養実生で検出でき、このことはさらに、内因性選択マーカーが、プログラムされた連続的切断/編集とPNP形質転換から生成された抵抗性遺伝子の部位特異的編集との組合せによって生成可能であり、第2の標的遺伝子の編集イベントは、異なるPAM部位を認識するCas9タンパク質を同時に使用し、対応する選択圧を付加することによって同時に選択でき、それにより、非トランスジェニック的手段によってゲノムの部位特異的編集が達成できることを示した。
【0286】
実施例12:バレイショ(Solanum tuberosum L.)外植体を2つの異なる標的化RNP複合体で衝撃することによるStALS561部位におけるW561L突然変異の作出
バレイショStALS2タンパク質のアミノ酸配列を配列番号19に示し、バレイショStALS2遺伝子の配列を配列番号20に示した。RNP複合体の調製および遺伝子銃衝撃のための方法は実施例8~9を参照し、シロイヌナズナALS574部位に相当するバレイショStALS2のStALS2W561部位の元の配列および設計された編集配列に関するsgRNAは次の通りであった。
【化17】
【0287】
そしてRNP複合体は、実施例8に記載の方法に従って調製した。
【0288】
レシピエントバレイショ品種はAtlanticまたはFavoritaであり、葉、茎およびその腋芽をそれぞれ外植体として用いた。遺伝子銃衝撃および選択および分化のための方法は次の通りであった。
(1)葉: 全葉を切り取り、高張M6培地(配合:4.42g/L MS粉末+1ml/L B5ビタミン(Phytotechlab、G219)+30g/Lスクロース+8g/L寒天+2mg/L 2,4-D+0.8mg/Lゼアチンリボシド+0.2Mマンニトール+250mg/L Cef)に平らに拡げ、各衝撃ショット当たり約5~6葉を使用した。プレインキュベーション24時間の後、金粉末による衝撃を行った。衝撃後、それらを高張M6培地中、暗所で2日間継続培養し、その後、M6培地(4.42g/L MS粉末+1ml/L B5ビタミン(Phytotechlab、G219)+30g/Lスクロース+8g/L寒天+2mg/L 2,4-D+0.8mg/Lゼアチンリボシド+250mg/L Cef)に移し、1週間継続培養し、次いで1週間後に選択圧をかけたM6培地に移し、20μg/Lクロルスルフロン(配合:4.42g/L MS粉末+1ml/L B5ビタミン(Phytotechlab、G219)+30g/Lスクロース+8g/L寒天+2mg/L 2,4-D+0.8mg/Lゼアチンリボシド+250mg/L Cef+20μg/Lクロルスルフロン)の選択圧を用いて抵抗性カルスの選択を行い、4週間後、それらを、選択圧を含む幼芽誘導培地R4(配合:4.42g/L MS粉末+1ml/L B5ビタミン(Phytotechlab、G219)+30g/Lスクロース+8g/L寒天+2mg/L GA3+0.8mg/Lゼアチンリボシド+250mg/L Cef+20μg/Lクロルスルフロン)に実生が出現するまで移した。
【0289】
(2)茎: バレイショ茎(腋芽を含まない)を採取し、切り口を上に向けて縦切りにし、CIMI培地(4.42g/L MS粉末+20g/Lスクロース+8g/L寒天+0.5mg/Lゼアチンヌクレオシド+2mg/L 2,4-D+250mg/L Cef+20μg/Lクロルスルフロン)に置き、次いで遺伝子銃衝撃を行い、衝撃後1日暗所で培養し、これらの茎を新鮮なCIMI培地に移し、1週間、継続培養し、その後これらの茎を、選択圧を含むSIMI培地(配合:4.42g/L MS粉末+20g/Lスクロース+8g/L寒天+1mg/Lゼアチンリボシド+0.1mg/L GA3+250mg/L Cef+20μg/Lクロルスルフロン)に移し、実生が出現するまで抵抗性幼芽に関して選択を行った。
【0290】
(3)腋芽: バレイショの茎から腋芽を採取し、縦切りにし、CIMI培地に移し
、切り口を上に向けてCIMI培地に置き、次いで遺伝子銃衝撃を行い、衝撃後1日暗所で培養し、それらを新鮮なCIMI培地に移し、1週間、継続培養し、その後それらを、選択圧を含むSIMI培地に移し、実生が出現するまで抵抗性幼芽に関して選択を行った。
【0291】
StALS2 W561部位の検出プライマーは次の通りであった。
【化18】
【0292】
検出後、抵抗性スクリーニングT0世代バレイショ組織培養実生のStALS2 W561部位にW561Lの編集イベントが見られ、これは、本発明により提供された非トランスジェニック一過性遺伝子編集方法が外因性トランスジェニック要素を自殖または交雑によって分離および除去することが困難であり得るバレイショなどの作物に好適であることを実証した。
【0293】
実施例13:ヒト293T細胞における塩基置換のためのプログラムされた連続的切断/編集スキームの使用の成功
ヒト胎児腎臓細胞293TのHBB(ヘモグロビンサブユニットβ)遺伝子(そのDNA配列を配列番号21に示し、そのCDS配列を配列番号22に示し、そのアミノ酸配列を配列番号23に示した)を選択し、sgRNAの連続的切断/編集のための標的部位を第1エキソンの領域内に設計し、この第1の標的はcatggtgcaCctgactcctgAGGであった。この標的を認識するsgRNAをsgHBBと呼称し、この部位のsgRNA切断部に1個のC塩基の欠失が生成され得ると予測された。第2の標的は、第1の標的の切断/編集から生成される1個のC塩基の欠失を有する配列を認識するccatggtgcatctgactctgAGGであり、この標的のsgRNAはsgHBB-cと呼称した。293T細胞において標的部位を有さないsgRNAを設計し、sgNOTARと呼称し、これを本実験のトランスフェクションの相補的プラスミドとして使用した。
【0294】
上記の設計に従って、それぞれ相補的一本鎖DNA断片を合成した。アニーリング後、BbsI酵素で消化したpx458(addgene:48138)プラスミドに連結し、大腸菌DH5aコンピテントに形質転換した。結果として得られる大腸菌の単一コロニーを配列決定によって確認した後、プラスミドを抽出し、内毒素非含有プラスミド抽出キット(Tiangen Bio)で精製した。
【0295】
増殖の旺盛な293T細胞を消化し、0.05%トリプシン(Gibico)で単離し、DMEM培地(10%ウシ胎児血清;ペニシリン+ストレプトマイシン二重抵抗性)で希釈し、24ウェル培養プレートに播種し、二酸化炭素インキュベーター内に一晩置いた。翌日、それらを、連続的切断/編集:sgHBBおよびsgHBB-cプラスミド各0.5ug;単一標的切断/編集:sgHBBおよびsgNOTARプラスミド各0.5ug;無標的対照:pEGFP-c1プラスミド1μgに従って別々に混合した。形質転換はリポフェクタミン3000(Invitrogen)で行った。各群3反復とした。
【0296】
形質転換の48時間後に、蛍光顕微鏡で写真を撮影して形質転換効率を記録し、各ウェルの全DNAを核酸抽出キット(Omega)で抽出した。
【0297】
設計したHi-tomシーケンシングプライマーは次の通りであった。
【化19】
【0298】
これらのプライマーを用いて各DNAサンプルについてPCRを行った。PCR産物のハイスループットシーケンシングを、Hi-tom法(Sci China Life Sci. 2019 Jan;62(1):1-7. doi: 10.1007/s11427-018-9402-9)を用いて行った。
【0299】
シーケンシング結果の統計データを表6および表7に示した。これらのデータは、HBB部位における連続的切断/編集法が約1.67%の割合でCからTへの編集結果(結果としてP6S突然変異を生じる)を生じ、一方、単一標的切断/編集法はこのような塩基置換を生じることができないことを示した。
【0300】
【表14】
【0301】
【表15】
【0302】
さらに、鎌形赤血球貧血およびβ-サラセミアは両方とも、成人のヘモグロビンβサブユニットをコードするHBB遺伝子における突然変異によって引き起こされる遺伝性貧血である。これらの疾患を有する患者は、生涯を通して輸血またはその他の療法を必要とすることがある。上記の実験の結果は、本発明によって提供されるようなプログラムされた連続的切断/編集という技術的解決策によって、HBB遺伝子の突然変異部位に関して、突然変異部位に予測された修復を誘導するようにcrRNAまたはsgRNAの組合せが設計可能であり、その結果、細胞が活性なヘモグロビンを産生し、機能を回復し、それにより治療効果が達成されることを実証した。すなわち、本発明によって提供される組成物は疾患の治療において用途を有する。
【0303】
様々な試験を同時に行った後、この新規な方法は完全にCas9の既存の機能に基づいていることから、本発明の方法は、Cas9が十分に機能し得る他の生物(植物、動物、真菌または細菌など)において特定の断片の塩基置換、欠失および挿入の新たな機能を達成するために十分適用可能である。
【0304】
本明細書に記載されている総ての刊行物および特許出願は、各刊行物または特許出願が個々に具体的に引用することにより本明細書の一部とされるかのように、引用することにより本明細書の一部とされる。
【0305】
明瞭な理解のため、実施例および実施形態により以上の本発明をより詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲内で特定の変更および改変が実施可能であることは明らかであり、このような変更および改変は総て本発明の範囲にある。
図1
図2
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図5
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【配列表】
2023500357000001.app
【国際調査報告】