(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-05
(54)【発明の名称】骨ゼラチンを生成するための方法、及び生成された骨ゼラチン
(51)【国際特許分類】
C07K 14/78 20060101AFI20221223BHJP
A23J 1/10 20060101ALI20221223BHJP
C07K 1/14 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
C07K14/78
A23J1/10
C07K1/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022526446
(86)(22)【出願日】2020-09-28
(85)【翻訳文提出日】2022-07-06
(86)【国際出願番号】 EP2020077094
(87)【国際公開番号】W WO2021089244
(87)【国際公開日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】102019130197.1
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502084056
【氏名又は名称】ゲリタ アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ ペルシュケ
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA01
4H045EA60
4H045FA70
4H045GA01
(57)【要約】
本発明は、以下のステップ:a)脊椎動物の骨を提供するステップと;b)骨を1500μm未満、好ましくは500μm未満、より好ましくは300μm未満の粒子径に機械的に破砕するステップと;c)水性媒体を用いて破砕された骨を100℃~140℃、好ましくは120℃~130℃で0.5~10分、好ましくは1~5分、より好ましくは1~3分の期間、抽出するステップと;d)破砕された骨から水性ゼラチン溶液を分別するステップと、e)6未満の等電点を有する骨ゼラチンを得るために、水性ゼラチン溶液を乾燥させるステップと、を含む、6未満の等電点を有する骨ゼラチンを生成するための方法であって、該方法は、塩基による骨のライミングを含まず、ステップa)で提供された骨は、ライミングを受けていない、方法に関する。本発明はさらに、この方法により生成された、6未満の等電点を有する骨ゼラチンに関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ:
a)脊椎動物の骨を提供するステップと;
b)前記骨を1500μm未満、好ましくは500μm未満、より好ましくは300μm未満の粒子径に機械的に破砕するステップと;
c)水性媒体を用いて前記破砕された骨を100℃~140℃、好ましくは120℃~130℃で0.5~10分、好ましくは1~5分、より好ましくは1~3分の期間、抽出するステップと;
d)前記破砕された骨から水性ゼラチン溶液を分別するステップと、
e)6未満の等電点を有する前記骨ゼラチンを得るために、前記水性ゼラチン溶液を乾燥させるステップと、
を含む、6未満の等電点を有する骨ゼラチンを生成するための方法であって、
前記方法が、塩基による前記骨のライミングを含まず、ステップa)で提供された前記骨が、ライミングを受けていない、方法。
【請求項2】
前記方法が、酸による前記骨のマセレーションを含まず、ステップa)で提供された前記骨が、マセレーションを受けていない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記骨が、哺乳動物、詳細にはウシに由来する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記骨が、破砕される前、詳細には脱脂される前に浄化される、請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記骨の前記浄化が、1種又は複数の酵素での、好ましくはプロテアーゼ及び/又はリパーゼでの処理を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
破砕する前に、前記骨が、4重量%未満、好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満の脂肪量を有する、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記機械的破砕が、前記骨の乾式粉砕又は湿式粉砕を含み、好ましくは前記抽出のための前記水性媒体中での湿式粉砕を含む、請求項1~6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記抽出が、0.05~0.5kg/l、好ましくは0.1~0.3kg/l、より好ましくは0.15~0.2kg/lの、前記水性媒体中の重量による破砕された骨の量で実行される、請求項1~7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記抽出が、7.5~9、好ましくは8~8.5の範囲内のpH値で実行される、請求項1~8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
抽出前に、塩基を添加することにより、好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化カルシウム溶液を添加することにより、前記pH値が調整される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記水性ゼラチン溶液が、分別されたら、前記破砕された骨が、ステップc)及びd)をさらに最大2回、受ける、請求項1~10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記水性ゼラチン溶液を分別することが、濾過、詳細には膜濾過を含む、請求項1~11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ゼラチン溶液を乾燥させることが、ローラ乾燥及びベルト乾燥を含む、請求項1~12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13の何れか一項に記載の方法により生成される、6未満の等電点を有する骨ゼラチン。
【請求項15】
5.2~5.6の等電点を有する、請求項14に記載の骨ゼラチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6未満の等電点を有する骨ゼラチンを生成するための方法に関する。
【0002】
本発明はさらに、この方法により生成される骨ゼラチンに関する。
【背景技術】
【0003】
動物の骨からゼラチンを得ることは、古くから知られている。ゼラチンを生成するための他の出発原料(動物の皮膚など)と同様に、骨は、構造タンパク質であるコラーゲン、詳細にはI型コラーゲンを高い割合で含有する。
【0004】
骨ゼラチンを生成するために工業規模で用いられる典型的方法は、その後に高温で(典型的には50~100℃の間)で複数の段階でゼラチンを抽出することができるように、本質的ステップとして、強酸性媒体中での骨の脱ミネラル化(マセレーション)と、続く強アルカリ媒体での処理(ライミング)を含む多段階手順である(R Schrieber and H Gareis:Gelatin Handbook,2007,Section 2.2.5参照)。
【0005】
マセレーションの間、骨組織からミネラル成分(炭酸カルシウム及びリン酸カルシウム)を溶出するために、大まかに粉砕された骨が、希塩酸での向流工程でおよそ1週間の期間、処理される(Gelatin Handbook,Section 2.2.1.1参照)。この工程により得られた生成物は、オセインと呼ばれる。マセレーションに関連するコスト要因が、塩酸とカルシウムミネラルとの発熱反応により要求される冷却である。さらなる欠点は、廃水中の高い塩化物負荷である。
【0006】
次のオセインのライミングは、ゼラチンの効果的抽出を可能にするために必要である。典型的にはライミング工程は、数か月の期間の水酸化カルシウム懸濁液(12より高いpH値)での処理を含む(Gelatin Handbook,Section 2.2.4.1参照)。処理時間は、より強いアルカリを用いることにより(例えば、水酸化ナトリウムが用いられる場合には2、3日に)短縮され得るが、これは、収率の減損をもたらす。
【0007】
先に記載された方法は、5.6未満、典型的には4.8~5.5の範囲内の等電点(IEP)を特徴とするBタイプ骨ゼラチンを与える。このIEPは、ゼラチン(又はそれから生成されたコラーゲンペプチド)のポリペプチド鎖が中性の全体的電荷を有する場合のpH値に対応する。Bタイプゼラチンの相対的に低いIEPは、アミノ酸のアスパラギン及びグルタミンをライミングする間に、ほぼ全体がそれぞれアスパラギン酸及びグルタミン酸に変換するという事実からもたらされる。
【0008】
この理由から、Bタイプ骨ゼラチンの生成は、長い処理時間のため、そして/又は高い化学薬品消費量のため、資本の提携に関して相対的に高いコストを生じる。
【0009】
同じく知られるのは、オセインがライミングなしに酸性媒体で抽出される、Aタイプ骨ゼラチンの生成である。Aタイプゼラチンは、6を超える高いIEPを有し、Aタイプ骨ゼラチンの場合には、典型的には6~8の間の範囲内(豚皮ゼラチンの場合には8~9の範囲内)の高いIEPを有する。しかしAタイプゼラチンは、同じゲル強度でBタイプゼラチンよりもより低い粘度であるため、2、3の適用分野にしか適さない。その上、Aタイプ骨ゼラチンは、かなり低い費用で生成され得る豚皮ゼラチンと競合する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、低い等電点を有する骨ゼラチンを生成するための簡単で低コストの方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、以下のステップ:
a)脊椎動物の骨を提供するステップと;
b)骨を1500μm未満、好ましくは500μm未満、より好ましくは300μm未満の粒子径に機械的に破砕するステップと;
c)水性媒体を用いて破砕された骨を100℃~140℃、好ましくは120℃~130℃で0.5~10分、好ましくは1~5分、より好ましくは1~3分の期間、抽出するステップと;
d)破砕された骨から水性ゼラチン溶液を分別するステップと、
e)6未満の等電点を有する骨ゼラチンを得るために、水性ゼラチン溶液を乾燥させるステップと、
を含む、冒頭で述べられたタイプの方法を有する本発明により実現され、
該方法は、塩基による骨のライミングを含まず、ステップa)で提供された骨は、ライミングを受けていない。
【0012】
本発明の状況において、驚くべきことに、対応する方法パラメータが、観察されれば、骨からのゼラチンが、この簡単な方法により相対的に少ない工程ステップで生成され得ることが見出された。この場合、本発明により生成された骨ゼラチンは、6未満の低いIEPを有し、したがってBタイプゼラチンの典型的な適用分野に適する。
【0013】
本発明による方法は明確に、極端な例では数か月かかるが、少なくとも数日かかる骨のライミングを行わずに済む。これのみで、本発明による方法の時間と、エネルギー必要量と、廃水汚染とを有意に低減する。本明細書の文脈において、用語「ライミング」は、12を超えるpH値の塩基での処理を意味すると理解される。
【0014】
予めの骨のマセレーションは、本発明による生成方法の状況内で可能であるが、基本的に必要でない。この理由から、好ましくは本発明による方法は、酸による骨のマセレーションを含まず、ステップa)で提供される骨は、好ましくはマセレーションを受けていない。これは、該方法の時間要件及びコストも低減する。本明細書の文脈において、用語「マセレーション」は、1未満のpH値の酸での処理を意味すると理解される。
【0015】
本発明による方法のための出発原料としては、原則として任意の脊椎動物の骨、したがって鳥又は魚の骨などが用いられてもよい。しかし好ましくは、該方法は、哺乳動物の骨、詳細にはウシの骨で実行される。
【0016】
骨が、破砕される前、詳細には脱脂される前に浄化されれば、好適である。出発原料を浄化することが、ステップc)の効率的抽出に好都合であり、それにより高品質の骨ゼラチンを生成することができる。
【0017】
好ましくは骨の浄化は、1種又は複数の酵素での、好ましくはプロテアーゼ及び/又はリパーゼでの処理を含む。リパーゼは、脱脂に役立ち、非コラーゲン性タンパク質は、プロテアーゼを利用して分解及び除去され得る。骨が適当に破砕される前に、プロテアーゼが、コラーゲンを無視できる程度にまで加水分解する。
【0018】
破砕する前に、骨は、好適には4重量%未満、好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満の脂肪量を有する。
【0019】
1500μm未満の粒子径を与えるための好ましくは浄化された骨の機械的破砕は、本発明による方法の本質的特色である。小さな粒子径が、マセレーション又はライミングなどの先行技術から知られる前処理を必要とせずに骨材料からのゼラチンの直接的抽出を可能にする。機械的破砕は、骨の乾式粉砕又は湿式粉砕を含んでいてもよい。湿式粉砕は、好ましくは抽出のための水性媒体中で実施される。
【0020】
本発明による方法での抽出は、好ましくは0.05~0.5kg/l、好ましくは0.1~0.3kg/l、より好ましくは0.15~0.2kg/lの、水性媒体中の重量による破砕された骨の量で実施される。
【0021】
本発明による方法において、破砕された骨の抽出は、100~140℃の高温で実施され、つまり抽出は、熱エネルギーの投入により実質的に引き起こされる。場合により、抽出は、キャビテーションの手段による追加的エネルギー投入により、例えば超音波又は高圧ホモジナーザにより、さらに加速及び/又は増強されてもよい。別の可能性は、抽出の間にAC電場を印加することである。
【0022】
抽出が、7.5~9、好ましくは8~8.5の範囲内のpH値で実行されれば、好適である。抽出の間のpH値を調整することにより、生成された骨ゼラチンの等電点に影響を及ぼすことが可能である。本発明によれば、これは、6未満、好ましくは5.2~5.6の範囲内である。
【0023】
抽出の前に、pH値が、詳細には塩基を添加することにより、好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化カルシウム溶液を添加することにより、調整される。
【0024】
本発明の好ましい態様において、水性ゼラチン溶液が、分別されたら、破砕された骨は、ステップc)及びd)をさらに最大2回、受ける。複数回の抽出は、ゼラチンの収率を増加させ得る。この場合、各抽出ステップのために、本発明による方法のステップc)において長くとも10分の相対的に短い抽出時間が、充分である。
【0025】
好ましくは、破砕された骨から水性ゼラチン溶液を分別することは、濾過、詳細には膜濾過を含む。これは、破砕された骨及び他の固体の最小粒子さえも除去することができる。
【0026】
濾過の後、水性ゼラチン溶液は(適宜、複数回の抽出の結果をひとまとめにした後)、好ましくはイオン交換手順、詳細には塩除去を受けてもよい。
【0027】
6未満のIEPを有する骨ゼラチンを得るための水性ゼラチン溶液の乾燥は、当該技術分野でそれ自体が知られる様々な方法により実施されてもよい。典型的には第一のステップにおいて、濃縮が、エバポレータ及び/又は限外濾過を利用して実行される。そしてゼラチンは、典型的には10~12%の所望の水分量を有するまで、ゲル化の後に加熱されたローラ又は対流乾燥機で乾燥されてもよい。
【0028】
本発明はまた、本発明による方法により生成される6未満の等電点を有する骨ゼラチンに関する。
【0029】
好ましくは本発明による骨ゼラチンは、5.2~5.6の等電点を有する。
【0030】
本発明による骨ゼラチンは、Bタイプゼラチンの通常の適用分野の全てで用いられ得る。特に有利には、本発明による骨ゼラチンは、ゼラチンのソフトカプセルを作製するのに適する。
【0031】
本発明のこれら及びさらなる利点は、以下に記載される実施例から明白となろう。
【実施例】
【0032】
実施例:実験室規模での骨ゼラチンの生成
水735gが、ウシの骨からの骨粉(d50<350μm;d90<700μm)165gに添加された。形成された懸濁液のpH値が、水酸化ナトリウム溶液を用いて8.5の値に調整された。その後、懸濁液が、撹拌されながら電子レンジでおよそ1分間、120~127℃の間まで加熱された。
【0033】
95℃に冷却された後(およそ20分)、骨粉から抽出されたゼラチンの水溶液を固体成分から分別することができた。分離された固体は、記載された手順をもう一度受けて、ひとまとめにされたゼラチン溶液が、シートフィルターを用いた濾過により仕上げられた。
【0034】
完全なイオン交換の後、導電率2.1μS及び5.5のpH値を有する水性ゼラチン溶液が、得られた。このpH値は、おおよそゼラチンの等電点に対応する。
【0035】
この二段階抽出の後の骨ゼラチンの収率は、用いられた骨粉に対して16重量%である。
【国際調査報告】