(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-05
(54)【発明の名称】カルボキシル基配位に基づいてピリジルアクリジンを含む四座配位環金属白金(II)錯体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07D 401/14 20060101AFI20221223BHJP
H10K 50/00 20230101ALI20221223BHJP
C07F 15/00 20060101ALN20221223BHJP
【FI】
C07D401/14
H05B33/14 B
C07F15/00 F CSP
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022526755
(86)(22)【出願日】2021-06-10
(85)【翻訳文提出日】2022-05-09
(86)【国際出願番号】 CN2021099496
(87)【国際公開番号】W WO2021249507
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】202010522102.5
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515126422
【氏名又は名称】浙江工▲業▼大学
(71)【出願人】
【識別番号】522181061
【氏名又は名称】浙江華顕光電科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG HUAXIAN PHOTOELECTRICITY TECHNOLOGY CO., LTD
【住所又は居所原語表記】NO.58 Zhuangchi Middle Road, Ganyao Town, Jiashan County Jiaxing, Zhejiang 314107 (CN)
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】李 貴杰
(72)【発明者】
【氏名】沈 剛
(72)【発明者】
【氏名】▲シャ▼ 遠斌
(72)【発明者】
【氏名】周 春松
【テーマコード(参考)】
3K107
4C063
4H050
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107CC04
3K107CC22
3K107DD64
3K107DD67
4C063AA03
4C063BB02
4C063CC16
4C063DD12
4C063EE10
4H050AA01
4H050AB92
4H050BB12
4H050BC10
4H050BC19
4H050WB11
4H050WB13
4H050WB14
(57)【要約】
【要約】
【課題】本発明は、カルボキシル基配位に基づいてピリジルアクリジンを含む四座配位環金属白金(II)錯体及びその使用を提供する。
【解決手段】前記四座配位環金属白金(II)錯体は、一般式(I)に示される構造を有する。
本発明の四座配位環金属白金(II)錯体には、酸素アニオン強電界配位子を含む四座配位子が使用され、強力な配位能力と大きな剛性を持ち、同時に量子効率と光学安定性を向上させることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基配位に基づいてピリジルアクリジンを含む四座配位環金属白金(II)錯体であって、前記四座配位環金属白金(II)錯体は一般式(I)の構造を有し、
ここで、R
1、R
2、R
3和R
4それぞれ独立し、一置換、二置換、三置換、四置換又は無置換、且R
1、R
2、R
3和R
4それぞれ独立し、水素、重水素、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基、ヘテロアリール基又はそれらの組み合わせを表す。また、2つ又は複数の隣接するR
1、R
2、R
3及びR
4はそれぞれ独立し、又は選択的に接続されて縮合環を形成する、ことを特徴とする四座配位環金属白金(II)錯体。
【請求項2】
有機発光素子であって、
基板に、請求項1に記載の四座配位環金属白金(II)錯体を含む発光層を有する、ことを特徴とする有機発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光材料技術の分野に関し、特にカルボキシル基配位に基づいてピリジルアクリジンを含む四座配位環金属白金(II)錯体及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
OLED、即ち、有機発光ダイオード(Organic Light-Emitting Diode)は、自発光デバイスであり、バックライトを必要とせず、応答速度が速く、エネルギー消費量が少なく、発光効率が高く、コントラストが高く、製造プロセスが簡単で、大面積の製造ができるという利点がある。初期のデバイスに使用されている発光材料は主に、有機小分子蛍光材料であり、スピン統計量子論によると、蛍光材料の理論的な内部量子効率はわずか25%である。1998年に、米国のプリンストン大学のForrest教授は、室温での金属有機錯体分子材料のリン光エレクトロルミネセンス現象を発見した。重金属原子の強いスピン-軌道結合を用いて、電子の一重項状態から三重項状態への項間交差を効果的に促進することができる。それにより、OLEDデバイスは、電気励起によって生成されたすべての一重項状態及び三重項状態励起子(exciton)を十分に活用して、発光材料の理論的な内部量子効率が100%に達することを可能にする(Nature, 1998, 395, 151)。
【0003】
初期段階で研究された環金属白金(II)錯体燐光材料の多くは、二座配位子及び三座配位子を含む有機金属分子である。その剛性は低く、二座配位子は容易にねじれて振動するため、燐光量子効率が低下する(Inorg. Chem. 2002, 41, 3055)。三座配位子を含む環金属白金(II)錯体は、分子に2番目の配位子(例えば、Cl-、フェノキシアニオン、アセチレンアニオン、カルベン)が必要となるため、錯体の電気化学的安定性、光化学的安定性及び熱安定性が低下する。そのため、二座配位子及び三座配位子環金属白金(II)錯体燐光材料はすべて、安定した効率的なOLEDデバイスの製造に不利になり、特に市販の燐光材料の要件を満たすことが困難である。従って、安定した効率的な燐光材料を設計及び開発する方法は、依然としてOLED分野のキーコンテンツである。
【発明の概要】
【0004】
本発明の実施例の目的は、既存の燐光材料における低い量子効率の問題を解決し、高い量子効率、優れた安定性を有し、OLEDデバイスの発光材料として使用できる、カルボキシル基配位に基づきピリジルアクリジンを含む四座配位環金属白金(II)錯体及びその使用を提供することである。
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明が採用する技術的解決策は下記のとおりである。
本発明の実施例は、カルボキシル基配位に基づきピリジルアクリジンを含む四座配位環金属白金(II)錯体を提供する。前記四座配位環金属白金(II)錯体は、一般式(I)で示される構造を有する。
【0006】
ここで、R1、R2、R3和R4は、それぞれ独立し、一置換、二置換、三置換、四置換又は無置換、且R1、R2、R3和R4は、それぞれ独立し、水素、重水素、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基、ヘテロアリール基又はそれらの組み合わせを表す。また、2つ又は複数の隣接するR1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立し、又は選択的に接続されて縮合環を形成する。
【0007】
第2態様では、本発明の実施例は、第1態様に記載の四座配位環金属白金(II)錯体を含む発光層を基板上に有する有機発光素子をさらに提供する。
【0008】
上記の技術的解決策によれば、この錯体は、酸素アニオン強電界配位子を含む四座配位子を使用し、強力な配位能力と大きな剛性を持ち、同時に量子効率と光学安定性を向上させることができるので、OLEDデバイス内の発光材料として使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
以下、本発明の実施例の技術的解決策を更に詳細に説明するために、実施例の説明に必要な図面を簡単に説明する。
【
図1】本発明の実施例における白金錯体Pt1のDCM溶液、PMMA中の室温発光スペクトル、2-MeTHF中の77K発光スペクトルである(DCM、PMMA、2-MeTHFはそれぞれジクロロメタン、ポリメチルメタクリレート、2-メチルテトラヒドロフランである)。
【
図2】本発明の実施例の白金錯体Pt1の高分解能である。
【
図3】375nmの紫外線500W/M
2の励起下での白金錯体Pt1をドープしたポリスチレンフィルムの光安定性試験である。
【
図4】375nmの紫外線500W/M
2の励起下での白金錯体Pt(bp-2)、Pt(bp-3)、Pt(bp-4)、Pt(bp-5)をドープしたポリスチレンフィルムの光安定性試験である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の化合物は、「オプションで置換された」部分を含み得る。一般に、「置換された」という用語(その前に「オプションで」という用語があるかどうかにかかわらず)は、示された部分の1つ又は複数の水素が適切な置換基で置換されていることを意味する。特に明記しない限り、「オプションで置換された」基は、基の各置換可能な位置に適切な置換基を有し得、任意の所与の構造における複数の位置が、所与の置換基から選択される複数の置換基で置換され得る場合、各位置の置換基は、同じでも異なっていてもよい。本発明に想定される置換基の組み合わせは、好ましくは、安定な又は化学的に実現可能な化合物を形成するものである。幾つかの態様では、明確に反対に示されない限り、各置換基がさらにオプションで置換され得ることも含まれる(即ち、さらに置換又は非置換)。
【0011】
【0012】
【0013】
ここで、mは通常整数である。即ち、(Ra)mは、5個の個別の置換基Ra(1)、Ra(2)、Ra(3)、Ra(4)、Ra(5)を表すと理解される。
【0014】
新規化合物の調製方法を以下の実施例に示すが、そのような化合物の調製はこの方法に限定されない。この専門技術分野では、本特許で保護されている化合物は修飾・調製が容易であるため、以下の方法や他の方法で調製することができる。以下の例は実施例としてのみ使用され、この特許の保護範囲を制限することを意図したものではない。温度、触媒、濃度、反応物以及反応プロセスはすべて変更され得、異なる反応物の場合、異なる条件を選択して前記化合物を調製することに用いる。
【0015】
1H NMR(500 MHz)スペクトルは、ANANCEIII(500M)型核磁気共鳴分光計で測定される。特に明記しない限り、NMRはいずれもDMSO-d6又は0.1%TMS含有CDCl3を溶媒として使用する。1H NMRスペクトルでは、CDCl3を溶媒として使用する場合、TMS(δ=0.00ppm)を内標準として使用しており、DMSO-d6を溶媒として使用する場合、TMS(δ=0.00ppm)又は残留DMSOピーク(δ=2.50ppm)又は残留水ピーク(δ=3.33ppm)を内標準として使用する。1H NMRスペクトルのデータにおいて、s=singlet、一重ピーク;d=doublet、二重ピーク;t=triplet、三重ピーク;q=quartet、四重ピーク;p=quintet、五重ピーク;m=multiplet、多重ピーク;br=broad、ブロードなピーク。
【0016】
カルボキシル基に基づいてピリジルアクリジンを含む四座配位環金属白金(II)錯体の合成実施例:
以下の合成方法を参照して調製を行うことができる
【0017】
理解されるように、上記の合成方法は特定の生成物を制限するものではなく、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ、独立して、一置換、二置換、三置換、四置換又は無置換を表し、且つR1、R2、R3及びR4はそれぞれ、独立して、水素、重水素、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基、ヘテロアリール基又はそれらの組み合わせを表す。また、2つ又は複数の隣接するR1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立し、又は選択的に接続されて縮合環を形成する。材料を入れる順序、及び具体的な反応条件は限られない。例えば、温度、溶媒の種類と量、触媒の種類と量、配位子の種類と量、アルカリの種類と量、反応基質の量は、当業者によって容易に本発明の実施例における例から合理的に一般化することができる。他の基の定義は、一般式(I)と一致している。
【0018】
〈実施例1〉白金錯体Pt1は、以下の経路に従って合成することができる。
【0019】
中間体2bの合成:磁気撹拌子を備えた乾燥した三つ口フラスコに、中間体1a(1.50g、4.11mmol、1.00当量)、ビス(ピナコラート)ジボロン(1.57g、6.17mmol、1.50当量)、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(120mg、0.16mmol、0.04当量)、酢酸カリウム(1.61g,16.44mmol,4.00当量)を順に入れ、次に窒素を3回抽出して置換し、窒素保護下でジメチルスルホキシド(25mL)を添加した。この混合物を80℃の油浴中で24時間撹拌し反応させ、室温まで冷却し、酢酸エチルを添加し抽出を行い、有機層を水で2回洗浄し、水層を酢酸エチルで2回抽出した。有機相を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、溶媒を減圧下で蒸留除去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離し精製した。溶離液:石油エーテル/酢酸エチル=20:1~5:1で、生成物2bを、白色固体898mgとして取得し、收率が56%であった。1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 1.28 (s, 12H), δ1.62 (s, 6H), 7.01-7.05 (m, 2H), 7.10 (td, J=8.0, 1.5 Hz, 1H), 7.17 (ddd, J = 7.0, 4.5, 0.5 Hz, 1H), 7.28 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 7.39 (s, 1H), 7.43 (dd, J = 8.0, 1.5 Hz, 1H), 7.46 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.50 (dd, J = 7.5, 1.0 Hz, 1H), 7.76 (td, J = 8.0, 2.0 Hz, 1H), 8.62 (dd, J = 5.0, 1.5 Hz, 1H)。
【0020】
中間体3cの合成:磁気撹拌子を備えた乾燥した三つ口フラスコに、中間体2b(0.68g、1.65mmol、1.00当量)6-ブロモ-2-ピリジンカルボン酸メチル(0.39g、1.80mmol、1.10当量)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(57mg、0.05mmol、0.03当量)、炭酸カリウム(570mg,4.13mmol,2.50当量)を順に入れ、次に窒素を3回抽出して置換し、窒素保護下で1,4-ジオキサン(30mL)を添加した。この混合物を100℃の油浴中で24時間撹拌し反応させ、室温まで冷却し、溶媒を減圧下で蒸留除去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離し精製した。溶離液:石油エーテル/酢酸エチル=10:1~3:1で、生成物3cを、黄色固体0.58gとして取得し、收率が83%であった。1H NMR (500 MHz, DMSO-d6): δ1.69 (s, 6H), 4.00 (s, 3H), 6.82 (dd, J = 8.0, 1.0 Hz, 1H), 7.05 (td, J=7.5, 1.5 Hz, 1H), 7.08-7.12 (m, 1H), 7.2-7.31 (m, 1H), 7.38 (dt, J=8.0, 1.0 Hz, 1H), 7.48-7.50 (m, 2H), 7.58 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 7.71-7.73 (m, 2H), 7.83 (t, J= 2.5 Hz, 1H), 7.87-7.88 (m, 1H),8.00 (dd, J = 7.5, 1.0 Hz, 1H), 8.72-8.74 (m, 1H)。
【0021】
配位子2の合成:磁気撹拌子を備えた乾燥した三つ口フラスコに、中間体3c(0.64g、1.55mmol、1.00当量)、水酸化ナトリウム(2.48g、6.20mmol、1.10当量)を順に入れ、次に窒素を3回抽出して置換し、窒素保護下でエタノール(30mL)を添加した。この混合物を78℃の油浴中で2時間撹拌し反応させ、室温まで冷却し、溶媒を減圧下で蒸留除去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離し精製した。溶離液:石油エーテル/酢酸エチル=3:1、酢酸エチル/メタノール=10:1で、配位子2を、黄褐色固体0.58gとして取得し、收率が92%であった。1H NMR (500 MHz, DMSO-d6): δ 1.64 (s, 6H), 6.65(dd, J = 8.0, 1.5 Hz, 1H), 7.05 (td, J = 7.5, 1.0 Hz, 1H), 7.10 (td, J=8.0, 2.0 Hz, 1H), 7.42(d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.43-7.46 (m, 2H), 7.54 (dd, J=7.5, 1.5 Hz, 1H), 7.65 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 7.78 (dd, J = 8.5, 2.0 Hz, 1H), 7.90-7.94 (m, 2H), 8.00 (t, J=7.5,Hz, 1H), 8.03 (td, J = 8.0, 2.0 Hz, 1H),8.69 (dd, J = 5.0, 2.0 Hz, 1H)。
【0022】
Pt1の合成:磁気撹拌子を備えた乾燥した三つ口フラスコに、中間体配位子2(300mg、0.74mmol、1.0当量)、テトラクロロ白金酸カリウム(336mg、0.81mmol、1.10当量)を順に入れ、次に窒素を3回抽出して置換し、窒素保護下でクロロホルム(4mL)、酢酸(40mL)を添加した。この混合物を室温で12時間撹拌し、次に油浴中で110℃に加熱し、60時間撹拌し反応させ、室温まで冷却し、溶媒を減圧したで蒸留除去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離し精製した。溶離液:石油エーテル/ジクロロメタン=2:1、ジクロロメタン/酢酸エチル/メタノール=10:10:1で、生成物Pt1を、黄色固体309mgとして取得し、收率が70%であった。1H NMR (500 MHz, DMSO-d6): δ 1.36 (s, 3H), δ1.90 (s, 3H), 7.21-7.26 (m, 2H), 7.27-7.30 (m, 3H), 7.57 (dd, J=7.5, 1.5 Hz, 1H), 7.63 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.67 (dd, J=7, 1.5 Hz, 1H), 8.04-8.08 (m, 1H), 8.10-8.14 (m, 2 H), 8.87 (dd, J = 6.0, 1.5 Hz, 1H)。
【0023】
金属Pt(II)錯体の性能評価実施例:
以下では、本発明の上記の実施例で調製された錯体に対して光物理的分析を行う。
光物理的分析:発光スペクトル、励起状態寿命はすべてHORIBA FL3-11分光計でテストされた。テスト条件:低温での発光スペクトル及び励起状態寿命は、発光材料の2-メチルテトラヒドロフラン固溶体としてテストされた。室温での発光スペクトル及び励起状態寿命は、発光材料のジクロロメタン溶液としてテストされた。PMMA(ポリメチルメタクリレート)フィルムサンプルのドーピング濃度は5%であった。
【0024】
四座配位白金錯体Pt1燐光発光材料の光物理的性質データは、以下の表1に示される。
表1:四座配位白金錯体Pt1燐光発光材料の光物理的性質データ表
【0025】
表1のデータから、次のことがわかる。第一に、ジクロロメタン溶液における量子効率は99%に達する可能性があり、ポリメチルメタクリレートフィルムで量子効率も68%に達する可能性があり、白金錯体の量子効率が非常に高く安定していることを示し、OLEDデバイスの優れた燐光発光材料として使用できることを示す。第二に、白金錯体Pt1燐光発光材料は、様々な環境での発光波長が緑色光の範囲にあり、非常に優れた緑色発光材料である。第三に、白金錯体Pt1燐光発光材料は、励起状態寿命(τ)が非常に短く、室温で2-メチルテトラヒドロフラン又はジクロロメタン溶液又はポリメチルメタクリレートフィルムにおいていずれも10μs以下であり、特に、ポリメチルメタクリレートフィルムでの励起状態寿命が5μsに近い。短い励起状態寿命は、発光材料としてのOLEDデバイスの応答速度の向上に有益であるとともに、燐光效率の改善、デバイスの製造に有益である。第四に、白金錯体Pt1燐光発光材料は、様々な環境と条件での最大発光波長(λ
max)シフトが非常に小さい。
図1からわかるように、白金錯体Pt1燐光発光材料の、低温(77K)での2-メチルテトラヒドロフラン、室温でのジクロロメタン、及び室温でのポリメチルメタクリレートにおいて得られた発光スペクトルの比較図では、λ
maxシフトが非常に小さく、この種の材料が高い発光色安定性を持っていることを示す。
表2:錯体Pt1の高分解能
【0026】
図2及び水素スペクトルから、白金錯体Pt1の構造は正しいことが確認された。
【0027】
開発した材料の安定性を確認するために、5wt%のPt1をドープしたポリスチレンフィルムの光安定性をテストした。励起光源は375nmの紫外線、光強度:500W/m
2であった。光安定性データは
図3に示される。同時に、文献(Inorganic Chemistry, 2020, 59, 3718.)に報告された環金属白金(II)錯体Pt(bp-2)、Pt(bp-3)、Pt(bp-4)和Pt(bp-5)とも比較した。その構造は以下に示され、すべての光安定性データはPt1と同じ条件下でテストされた。
【0028】
図3からわかるように、燐光発光材料5%のPt1:ポリスチレンフィルムは、375nmの紫外線の励起下(光強度:500W/m
2)で優れた光安定性を示し、5%減衰するのに約225分かかった。
【0029】
図3と
図4の比較からわかるように、同じ条件下で、光安定性テストでは、Pt1が225分で5%減衰した。一方、Pt(bp-2)は225分で20%減衰したのに対し、Pt(bp-3)、Pt(bp-4)及びPt(bp-5)は225分でいずれも50%超に減衰した。このことから、カルボキシル基配位に基づきピリジルアクリジンを含む四座配位環金属白金(II)錯体を含有する、本願で開発した燐光発光材料Pt1の光安定性は、上記の文献で窒素原子を介して配位した四座配位金属Pt(II)錯体よりもはるかに高い。
【0030】
有機エレクトロルミネセンスデバイスとしての発光層における本発明の四座配位環金属白金(II)燐光発光材料の使用。有機発光素子では、正と負の両電極から発光材料にキャリアが注入され、励起状態の発光材料が生成されて発光する。一般式(I)で表される本発明の錯体は、燐光発光材料として、有機フォトルミネセンス素子又は有機エレクトロルミネセンス素子などの優れた有機発光素子に適用することができる。有機フォトルミネセンス素子は、基板上に少なくとも発光層が形成された構造を有する。また、有機エレクトロルミネセンス素子は、少なくとも陽極、陰極、及び陽極と陰極との間の有機層が形成された構造を有する。有機層は、少なくとも発光層を含み、発光層のみで構成されてもよく、発光層に加えて1層以上の有機層を有してもよい。そのような他の有機層として、正孔輸送層、正孔注入層、電子阻止層、正孔阻止層、電子注入層、電子輸送層、励起子阻止層などが挙げられる。正孔輸送層は、正孔注入機能を有する正孔注入輸送層であってもよい。電子輸送層は、電子注入機能を有する電子注入輸送層であってもよい。具体的な有機発光素子の構造の概略は、
図5に示される。
図5では、下から上まで合計7層があり、順に基板、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び陰極を表す。そのうち、発光層は、ゲスト材料がホスト材料にドープされた混合層である。
【0031】
実施例1に示される化合物は、燐光発光材料としてOLEDデバイスに適用され、構造は以下のように表される。
ITO/HATCN(10nm)/TAPC(65nm)/CBP:実施例1に示される化合物(10-20wt.%,20nm)/Bepp2(10nm)/Li2CO3:Bepp2(5%,30nm)/Li2CO3(1nm)/Al(100nm)
【0032】
ITOは、透明な陽極である。HATCNは正孔注入層、TCTAは正孔輸送層、CBPはホスト材料、実施例1に示される化合物(10-20wt.%がドーピング濃度、20nmが発光層の厚さ)はゲスト材料、Bepp2は電子輸送層、Li2CO3は電子注入層、Alは陰極である。括弧内のナノメートル(nm)単位の数字は、フィルムの厚さである。
【0033】
なお、前記構造は、本発明の発光材料の使用の一例であり、本発明に示される発光材料の特定のOLEDデバイス構造の制限を構成するものではなく、燐光発光材料も、実施例1に示される化合物に限定されない。
【0034】
デバイスに適用される材料の分子式以下のとおりである。
【0035】
当業者であれば、上述した各実施形態が本発明を実施するための具体的な実施例であるが、実際の使用においては、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、形式的及び詳細的に様々な変更を行うことができることを理解できる。例えば、本明細書に記載された置換基構造の多くは、本発明の精神から逸脱することなく、他の構造で置き換えることができる。
【国際調査報告】