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特表2023-500413磁気ビーズベースの検体検出のためのビーズシステム、方法、および装置
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  • 特表-磁気ビーズベースの検体検出のためのビーズシステム、方法、および装置 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-05
(54)【発明の名称】磁気ビーズベースの検体検出のためのビーズシステム、方法、および装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/10 20060101AFI20221223BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20221223BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20221223BHJP
   G01N 33/553 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
G01N24/10 510A
G01N21/64 F
G01N33/543 541A
G01N33/553
G01N24/10 510Y
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022527123
(86)(22)【出願日】2020-11-03
(85)【翻訳文提出日】2022-06-23
(86)【国際出願番号】 US2020058664
(87)【国際公開番号】W WO2021096725
(87)【国際公開日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】62/934,197
(32)【優先日】2019-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519223088
【氏名又は名称】クアンタム ダイヤモンド テクノロジーズ インク.
【氏名又は名称原語表記】QUANTUM DIAMOND TECHNOLOGIES INC.
【住所又は居所原語表記】c/o Greentown Labs, 28 Dane Street, Somerville, MA 02143 (US).
(74)【代理人】
【識別番号】100136630
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 祐啓
(74)【代理人】
【識別番号】100201514
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 悦
(72)【発明者】
【氏名】グレン, デイビット, アール.
(72)【発明者】
【氏名】コノリー, コリン, ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ランドール, ジェフリー, ディー.
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043CA04
2G043EA01
2G043FA01
2G043HA01
2G043JA02
2G043LA03
(57)【要約】
【要約】
本願は、検体を含む複合体を検出するための方法および装置であって、検体を含有するサンプル溶液を、適切な条件下で検体に結びつく第1部分を含むよう機能化された機能化超常磁性ビーズの集団に接触させることと、サンプル溶液を、第2部分を含むよう機能化された機能化強磁性ビーズの集団に接触させることを含む、方法および装置を開示する。接触は、機能化超常磁性ビーズと機能化強磁性ビーズとの共局在化によって検出可能な複合体の形成に至る。サンプル溶液中に検体を含まないサンプルとの接触は、機能化超常磁性ビーズと、機能化強磁性ビーズとの間に磁気相互作用エネルギーUintを生じさせ、磁気相互作用エネルギーUintは5kBT以下であり、ここでkBはボルツマン定数であり、Tはサンプル溶液の温度である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーズベースの検体検出用ビーズシステムであって:
(a)直径dAおよび容積磁化率XA.を備えた複数の機能化超常磁性ビーズであって、サンプル溶液内の適切な条件下で検体と結びつく第1部分を含むよう機能化されている複数の機能化超常磁性ビーズと;
(b)直径dBおよび磁気双極子モーメントpBを備えた複数の機能化強磁性ビーズであって、前記サンプル溶液内の適切な条件下で前記検体と結びつく第2部分を含むよう機能化されている複数の機能化強磁性ビーズとを含み、
前記サンプル溶液中に前記検体を含むサンプルと、前記機能化超常磁性ビーズと、前記機能化強磁性ビーズとの接触は、それぞれが前記機能化超常磁性ビーズの1つと、前記検体と、前記機能化強磁性ビーズの1つとを含む複合体を形成させ、前記検体は、前記機能化超常磁性ビーズと前記機能化強磁性ビーズの共局在化によって検出可能であり、
サンプル溶液中に前記検体を含まないサンプルと、前記機能化超常磁性ビーズと、前記機能化強磁性ビーズとの接触は、前記機能化超常磁性ビーズと前記機能化強磁性ビーズとの間に磁気相互作用エネルギーUintを生じさせ、前記磁気相互作用エネルギーUintは5kBT以下であり、ここでkBはボルツマン定数で、Tは前記サンプル溶液の温度である、ビーズシステム。
【請求項2】
前記直径dAは、約0.1 μmと約10 μmとの間の範囲である、請求項1に記載のビーズシステム。
【請求項3】
前記直径dAは、約0.3 μmと約3 μmとの間の範囲である、請求項2に記載のビーズシステム。
【請求項4】
前記直径dAは、約0.5 μmと約2 μmとの間の範囲である、請求項3に記載のビーズシステム。
【請求項5】
前記直径dAは約1 μmである、請求項4に記載のビーズシステム。
【請求項6】
前記容積磁化率XAは、約0.01と約10との間の範囲である、請求項1に記載のビーズシステム。
【請求項7】
前記容積磁化率XAは、約0.1と約5との間の範囲である、請求項6に記載のビーズシステム。
【請求項8】
前記容積磁化率XAは、約0.5と約3との間の範囲である、請求項7に記載のビーズシステム。
【請求項9】
前記容積磁化率XA.は約1.37である、請求項8に記載のビーズシステム。
【請求項10】
前記直径dBは、約0.1 μmと約10 μmとの間の範囲である、請求項1に記載のビーズシステム。
【請求項11】
前記直径dBは、約0.3 μmと約3 μmとの間の範囲である、請求項10に記載のビーズシステム。
【請求項12】
前記直径dBは、約0.5 μmと約2 μmとの間の範囲である、請求項11に記載のビーズシステム。
【請求項13】
前記直径dBは、約1.8 μmである、請求項12に記載のビーズシステム。
【請求項14】
前記磁気双極子モーメントpBは、0.02・( dB / [μm] )3 mA・μm2
mA・μm2との間の範囲であり、ここでμ0は真空透磁率で、kBはボルツマン定数で、Tは前記サンプル溶液の温度であり、Q(dA,dB)の数値は表1に示されている、請求項1に記載のビーズシステム。
【請求項15】
前記磁気双極子モーメントpBは、0.2・( dB / [μm] )3 mA・μm2
mA・μm2との間の範囲である、請求項14に記載のビーズシステム。
【請求項16】
前記磁気双極子モーメントpBは、約1.0 mA・μm2である、請求項15に記載のビーズシステム。
【請求項17】
前記直径dAは、約0.1 μmと約10 μmとの間の範囲であり、前記容積磁化率XA.は、約0.01と約10との間の範囲であり、直径dBは、約0.1 μmと約10 μmとの間の範囲であり、前記磁気双極子モーメントpBは、0.02・( dB / [μm] )3 mA・μm2
mA・μm2との間の範囲であり、ここでμ0は真空透磁率であり、kBはボルツマン定数であり、Tは前記サンプル溶液の温度であり、Q(dA,dB)の数値は表1に示されている、請求項1に記載のビーズシステム。
【請求項18】
前記機能化超常磁性ビーズのそれぞれは、非磁性コアと、当該非磁性コアの周りに実質的に均一に分布する超常磁性材料とを含む、請求項1に記載のビーズシステム。
【請求項19】
前記機能化超常磁性ビーズのそれぞれは、前記機能化超常磁性ビーズの体積全体にわたって実質的に均一に分布した超常磁性材料を含む、請求項1に記載のビーズシステム。
【請求項20】
前記機能化強磁性ビーズのそれぞれは、前記機能化強磁性ビーズのコアに集中した強磁性材料を含む、請求項1に記載のビーズシステム。
【請求項21】
前記機能化強磁性ビーズのそれぞれは、前記機能化強磁性ビーズの体積全体にわたって実質的に均一に分布した強磁性材料を含む、請求項1に記載のビーズシステム。
【請求項22】
前記機能化強磁性ビーズのそれぞれは、前記機能化強磁性ビーズの表面に分布した強磁性材料を含む、請求項1に記載のビーズシステム。
【請求項23】
前記機能化超常磁性ビーズまたは前記機能化強磁性ビーズのそれぞれは、当該ビーズの表面の周りに非磁性バッファー層をさらに含む、請求項1に記載のビーズシステム。
【請求項24】
前記第1および第2部分のぞれぞれは、受容体、タンパク質、抗体、細胞、ウイルス、または核酸配列である、請求項1に記載のビードシステム。
【請求項25】
(a)ビードシステムであって:
(i)直径dAおよび容積磁化率XA.を備えた複数の機能化超常磁性ビーズであって、サンプル溶液内の適切な条件下で検体と結びつく第1部分を含むよう機能化されている複数の機能化超常磁性ビーズと;
(ii)直径dBおよび磁気双極子モーメントpBを備えた複数の機能化強磁性ビーズであって、前記サンプル溶液内の適切な条件下で前記検体と結びつく第2部分を含むよう機能化されている複数の機能化強磁性ビーズとを含み、
前記サンプル溶液中に前記検体を含むサンプルと、前記機能化超常磁性ビーズと、前記機能化強磁性ビーズとの接触は、それぞれが前記機能化超常磁性ビーズの1つと、前記検体と、前記機能化強磁性ビーズの1つとを含む複合体を形成し、前記検体は、前記機能化超常磁性ビーズと前記機能化強磁性ビーズの共局在化によって検出することができ、
前記サンプル溶液中に前記検体を含まないサンプルと、前記機能化超常磁性ビーズと、前記機能化強磁性ビーズとの接触は、前記機能化超常磁性ビーズと、前記機能化強磁性ビーズとの間に磁気相互作用エネルギーUintを生じさせ、前記磁気相互作用エネルギーUintは5kBT以下であり、ここでkBはボルツマン定数であり、Tは前記サンプル溶液の温度である、ビードシステムと;
(b)前記機能化超常磁性ビーズと前記機能化強磁性ビーズとの共局在化を検出することによって、前記検体を含む複合体を検出する検出装置とを備えた、検体を含む複合体を検出するためのシステム。
【請求項26】
前記検出装置は:
(i)前記サンプルが配置される基板であって、少なくとも1つの光学検出磁気共鳴(ODMR)中心を含む基板と;
(ii)前記少なくとも1つのODMR中心内で電子を基底状態から励起状態まで励起する入射光を発生するよう構成された光源と;
(iii)バイアス磁場を前記少なくとも1つのODMR中心上に配置された前記複合体に印加する磁石と;
(iv)前記少なくとも1つのODMR中心に入射するマイクロ波場を生成するよう構成されたマイクロ波源であって、前記マイクロ波源は、前記少なくとも1つのODMR中心での基底状態遷移に対応した周波数を備えた前記マイクロ波場を生成するようさらに構成されており、前記少なくとも1つのODMR中心は、前記入射光により照らされると、放射光を発生し、前記放射光の特徴は、前記マイクロ波場によっても、前記複合体内で前記検体に結びついた前記磁気機能化ビーズによっても影響される、マイクロ波源と;
(v)前記少なくとも1つのODMR中心により放射された光を検出する光学式光検出器とを含む、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記少なくとも1つのODMR中心は、前記基板の炭化ケイ素格子中のケイ素空孔中心である、請求項26に記載のシステム。
【請求項28】
前記少なくとも1つのODMR中心は、前記基板のダイヤモンド格子中のケイ素空孔中心である、請求項26に記載のシステム。
【請求項29】
前記少なくとも1つのODMR中心は、前記基板のダイヤモンド格子中の窒素-空孔中心である、請求項26に記載のシステム。
【請求項30】
前記少なくとも1つのODMR中心は前記基板の上面に形成されている、請求項29に記載のシステム。
【請求項31】
前記少なくとも1つのODMR中心は、前記基板の前記上面に形成された複数のODMR中心である、請求項30に記載のシステム。
【請求項32】
前記光学式光検出器は、前記複数のODMR中心からの前記放射光をイメージングするイメージングセンサーを備えた光学イメージングシステムである、請求項31に記載のシステム。
【請求項33】
検体を含む複合体を検出する方法であって:
(a)検体を含有している可能性があるサンプル溶液を、適切な条件下で前記検体に結びつく第1部分を含むよう機能化された機能化超常磁性ビーズの集団に接触させる段階と;
(b)前記サンプル溶液を、適切な条件下で前記検体に結びつく第2部分を含むよう機能化された機能化強磁性ビーズの集団に接触させる段階であって、
前記サンプル溶液と、前記機能化超常磁性ビーズの集団および前記機能化強磁性ビーズの集団との接触は:
(i)前記検体が前記サンプル溶液に存在する場合は、それぞれが、前記機能化超常磁性ビーズの1つと、前記検体と、前記機能化強磁性ビーズの1つとを含む複合体の形成に至るか;または
(ii)前記サンプル溶液中に前記検体が存在しない場合は、前記機能化超常磁性ビーズと、前記機能化強磁性ビーズとの間に磁気相互作用エネルギーUintを生じさせることになり、前記磁気相互作用エネルギーUintは5kBT以下であり、ここでkBはボルツマン定数であり、Tは前記サンプル溶液の温度である、接触させる段階と、
(c)前記機能化超常磁性ビーズと前記機能化強磁性ビーズとの共局在化を検出することによって、前記検体を含む前記複合体を検出する段階とを含む、方法。
【請求項34】
前記サンプルを前記機能化超常磁性ビーズの集団に接触させた後に、磁場勾配を前記サンプル溶液に印加する段階をさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記磁場勾配を前記サンプル溶液に印加する段階は、前記サンプル溶液を前記機能化強磁性ビーズの集団に接触させた後に実行される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記機能化超常磁性ビーズの集団および前記機能化強磁性ビーズの集団は、前記サンプル溶液に順次加えられる、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記機能化超常磁性ビーズの集団および前記機能化強磁性ビーズの集団は、前記サンプル溶液に同時に加えられる、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
前記サンプル溶液を前記機能化超常磁性ビーズおよび前記機能化強磁性ビーズの集団に接触させた後に、磁場勾配を前記サンプル溶液に印加する段階をさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
前記サンプル溶液に印加される前記磁場勾配を変動させる段階をさらに含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記サンプル溶液を前記機能化強磁性ビーズの集団に接触させた後に、前記サンプル溶液を濃縮する段階をさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項41】
前記サンプル溶液を前記機能化強磁性ビーズの集団に接触させた後で、前記複合体を検出する前に、複数の機能化超常磁性ビーズおよび機能化強磁性ビーズを凝集させる段階をさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項42】
前記複合体を検出する段階は、前記複合体を含む可能性がある前記サンプル溶液を、その内部に形成された少なくとも1つの光学検出磁気共鳴(ODMR)中心を含む基板上に配置する段階と;前記少なくとも1つのODMR中心内で、電子を入射光によって基底状態から励起状態まで励起する段階と;バイアス磁場を前記複合体に印加する段階と;前記少なくとも1つのODMR中心に入射するマイクロ波場を生成する段階であって、前記マイクロ波場は、前記少なくとも1つのODMR中心での基底状態遷移に対応した周波数を含む生成する段階と;前記少なくとも1つのODMR中心によって放射された光を分析する段階であって、前記放射された光の特徴は、前記マイクロ波場によっても、前記複合体内で前記検体に結びついた前記機能化超常磁性ビーズおよび前記機能化強磁性ビーズによっても影響される、分析する段階とを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項43】
前記少なくとも1つのODMR中心は、前記基板のダイヤモンド格子中の窒素-空孔中心である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記少なくとも1つのODMR中心は前記基板の上面に形成されている、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記少なくとも1つのODMR中心は、前記基板の前記上面に形成された複数のODMR中心である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記複数のODMR中心によって放射された光を分析する段階は、前記放射された光のイメージングを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記サンプル溶液を前記基板上に配置した後に、前記サンプル溶液を脱水する段階をさらに含む、請求項42に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の引用
本出願は、2019年11月12日付けで提出され、「磁気ビーズベースの検体検出のためのビーズシステム、方法、および装置」と題された米国仮特許出願第62/934,197号の優先権を主張し、その出願は参照して本明細書に援用する。
【背景技術】
【0002】
酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)は、1960年代のその導入以来、生物学的マトリックスからのタンパク質検体の測定に用いられる産業全体の標準的な研究技法となってきた。その基本的な概念では、単一のタンパク質検体を捕捉するために2つの抗体(免疫グロブリン)が用いられる。酵素およびレポーターバッファーを用いることで、得られた免疫複合体が識別されかつ測定される。この酵素は、典型的には、共有結合を介して抗体の1つと結合する。この酵素は、このレポーターバッファーの存在下でインキュベートされると、基質を、分光測光的手段によって分析的に測定可能な機能的レポーター(functional reporter)に変換する。
【0003】
最新のELISA関連技術の水準では、プレートに基づいた方式が単一のビーズベースの方式に取って代わられつつある。単一のビーズベースのELISAは、典型的にはビーズである固体表面に結合した1つの抗体と、ビオチンで標識化された第2抗体を備える。捕捉ビーズは、印加される磁場よってそれを容易に操作可能とする材料を含有しており、この操作は、このビーズおよびこのビーズに結合した任意検体をサンプル懸濁液から分離することを含む。磁気分離と呼ばれるこの過程は、本発明の分野では周知であり、標的検体を濃縮し、かつ信号バックグラウンドに寄与する可能性がある望ましくないタンパク質などの非結合物質を除去するために使用できる。従来のELISAと比べると、単一のビーズベースのELISAは、バックグラウンドがより低く、より短時間で、標的検体への感度を向上できる。
【0004】
磁気式多ビーズアッセイは別個のビーズタイプを使用して、標的検体により結合されたビーズ複合体の形成を検出することによりサンプル中の検体濃度を特定する。2017年12月22日付けで提出され、「磁気式多ビーズアッセイのための方法および装置(METHODS AND APPARATUS FOR MAGNETIC MULTI-BEAD ASSAY)」と題された、参照して本明細書に援用するPCT特許出願第PCT/US2017/068126号に記載されたアッセイのようないくつかの磁気ビーズアッセイは、超常磁性ビーズAおよび強磁性ビーズBという2種類の区別可能な磁気ビーズ間の標的特異結合の検出に依存する。ビーズAは標的検体(例えば抗原)に特異的なX型の抗体で塗布され、ビーズBは同じ標的検体の異なる部分に特異的なY型の抗体で塗布されている。標的検体の存在下では、ビーズAとビーズBはそれぞれが同じ標的検体に結合することで互いに結合した状態となり、免疫複合体のような複合体を形成する。いくつかの磁気ビーズベースのアッセイでは、2017年10月20日付けで提出され、「ダイヤモンド磁気イメージングを用いた磁気微粒子分析のための方法および装置(METHODS AND APPARATUS FOR MAGNETIC PARTICLE ANALYSIS USING DIAMOND MAGNETIC IMAGING)」と題された、参照して本明細書に援用するPCT特許出願第PCT/US2017/057628号に記載された広視野ダイヤモンド磁気イメージング装置は、ビーズAとビーズBの共局在化によって複合体を識別し、それらを、結合していないビーズAやビーズBから、およびビーズAまたはビーズBのみを含む凝集体(「A様」または「B様」凝集体)から区別する。
【特許文献1】国際公開WO2018119367公報
【特許文献2】国際公開WO2018075913公報
【0005】
標的物質がない場合、アッセイは複合体を検出しないはずである。アッセイの感度はこのヌル測定に依存するため、ごく少数(例えばたった1個)の複合体が検出されれば、サンプル中の標的検体濃度がゼロでないという結論づけに繋がることもある。そのためには、ビーズAとビーズBは、標的検体の非存在下では結合した複合体を形成してはならない。磁気イメージングアッセイは、標的検体を直接検出せず、ビーズAとビーズBの共局在化のみを検出するため、検体を含む結合複合体と、標的検体を含まない偽陽性結合複合体とを区別することができない。
【0006】
標的検体の非存在下で結合複合体を形成するメカニズムの1つは、ビーズAとビーズBとの間で引きつけ合う磁気的相互作用である。ビーズAは超常磁性、ビーズBは強磁性であり、検出されるには十分な磁性が必要なため、これらビーズ間の引きつけ合う磁気的相互作用は、一般的に常にある程度存在する。しかし、安定に結合した複合体を形成するためには、サンプル溶液中に常に存在するブラウン運動のランダムな熱揺らぎのような、ビーズを引き離す力に抗することができるほどの強い磁気引力が必要である。
【0007】
したがって、磁気ビーズベースのアッセイでは、標的検体に対する感度や特異性を継続的に向上させる必要性が存在する。
【発明の概要】
【0008】
本明細書で開示されている様々な実施形態は、1つの検体により結合された2つ以上の区別可能なビーズ(すなわち、区別可能な磁気特性を持ったビーズ)を含有する複合体を観察することによって、サンプル中の前記検体を含む複合体を検出するための方法および装置に関する。1つ以上の実施形態によれば、ビーズベースの検体検出のためのビーズシステムは、直径dAおよび容積磁化率XA.を備えた複数の機能化超常磁性ビーズを含む。前記機能化超常磁性ビーズは、サンプル溶液内の適切な条件下で検体と結びつく第1部分を含むよう機能化されている。本システムは、直径dBおよび磁気双極子モーメントpBを備えた複数の機能化強磁性ビーズをさらに含む。前記機能化強磁性ビーズは、前記サンプル溶液内の適切な条件下で前記検体と結びつく第2部分を含むよう機能化されている。前記サンプル溶液中に前記検体を含むサンプルと、前記機能化超常磁性ビーズと、前記機能化強磁性ビーズとの接触は、それぞれが前記機能化超常磁性ビーズの1つと、前記検体と、前記機能化強磁性ビーズの1つとを含む複合体を形成させ、前記検体は、前記機能化超常磁性ビーズと前記機能化強磁性ビーズの共局在化によって検出可能である。前記サンプル溶液中に前記検体を含まないサンプルと、前記機能化超常磁性ビーズと、前記機能化強磁性ビーズとの接触は、前記機能化超常磁性ビーズと、前記機能化強磁性ビーズとの間に磁気相互作用エネルギーUintを生じさせ、前記磁気相互作用エネルギーUintは5kBT以下であり、ここでkBはボルツマン定数であり、Tは前記サンプル溶液の温度である。いくつかの実施形態では、前記直径dAは、約0.3 μmと約3 μmとの間の範囲などの約0.1 μmと約10 μmとの間の範囲とすることができ、または、好適には約0.5 μmと約2 μmとの間の範囲とすることができ、または、さらに好適には約1 μmとすることができる。いくつかの実施形態では、前記容積磁化率XAは、約0.1と約5との間の範囲などの約0.01と約10との間の範囲とすることができ、または、好適には、約0.5と約3との間の範囲とすることができ、または、さらに好適には約1.37とすることができる。いくつかの実施形態では、前記直径dBは、約0.3 μmと約3 μmとの間の範囲などの約0.1 μmと約10 μmとの間の範囲であり、または好適には約0.5 μmと約2 μmとの間の範囲であり、さらに好適には約1.8 μmである。いくつかの実施形態では、磁気双極子モーメントpBは、0.02・( dB / [μm] )3 mA・μm2
mA・μm2との間の範囲とすることができ、好適には、0.2・( dB / [μm] )3 mA・μm2
mA・μm2との間の範囲とすることができ、ここで、μ0は真空透過率であり、kBはボルツマン定数であり、Tは前記サンプル溶液の温度であり、Q(dA,dB)の数値は表1中に示されており、またはより好適には約1.0 mA・μm2である。具体的な実施形態では、前記直径dAは、約0.1 μmと約10 μmとの間の範囲とすることができ、前記容積磁化率XAは、約0.01と約10との間の範囲とすることができ、直径dBは、約0.1 μmと約10 μmとの間の範囲とすることができ、前記磁気双極子モーメントpBは、0.02・( dB / [μm] )3 mA・μm2
mA・μm2との間の範囲とすることができ、ここでμ0は真空透磁率であり、kBはボルツマン定数であり、Tは前記サンプル溶液の温度であり、Q(dA,dB)の数値は表1に示されている。いくつかの実施形態では、前記機能化超常磁性ビーズのそれぞれは、非磁性コアと、当該非磁性コアの周りに実質的に均一に分布する超常磁性材料とを含むことができる。他の実施形態では、前記機能化超常磁性ビーズのそれぞれは、前記機能化超常磁性ビーズの体積全体にわたって実質的に均一に分布した超常磁性材料を含むことができる。いくつかの実施形態では、前記機能化強磁性ビーズのそれぞれは、前記機能化強磁性ビーズのコアに集中した強磁性材料を含むことができる。他の実施形態では、前記機能化強磁性ビーズのそれぞれは、前記機能化強磁性ビーズの体積全体にわたって実質的に均一に分布した強磁性材料を含むことができる。さらに別の実施形態では、前記機能化強磁性ビーズのそれぞれは、前記機能化強磁性ビーズの表面に分布した強磁性材料を含むことができる。前記機能化超常磁性ビーズおよび/または前記機能化強磁性ビーズのそれぞれは、当該ビーズの表面の周りに非磁性バッファー層をさらに含むことができる。特定の実施形態では、前記第1および前記第2部分のぞれぞれは、受容体、タンパク質、抗体、細胞、ウイルス、または核酸配列とすることができる。
【0009】
1つ以上の実施形態によれば、検体を含む複合体を検出するためのシステムは、直径dAおよび容積磁化率XA.を備えた複数の機能化超常磁性ビーズを含むビーズシステムを含む。前記機能化超常磁性ビーズは、サンプル溶液内の適切な条件下で検体と結びつく第1部分を含むよう機能化されている。本システムは、直径dBおよび磁気双極子モーメントpBを備えた複数の機能化強磁性ビーズをさらに含む。前記機能化強磁性ビーズは、前記サンプル溶液内の適切な条件下で前記検体と結びつく第2部分を含むよう機能化されている。前記サンプル溶液中に前記検体を含むサンプルと、前記機能化超常磁性ビーズと、前記機能化強磁性ビーズとの接触は、それぞれが前記機能化超常磁性ビーズの1つと、前記検体と、前記機能化強磁性ビーズの1つとを含む複合体を形成させ、前記検体は、前記機能化超常磁性ビーズと前記機能化強磁性ビーズとの共局在化によって検出可能である。サンプル溶液中に前記検体を含まないサンプルと、前記機能化超常磁性ビーズと、前記機能化強磁性ビーズとの接触は、前記機能化超常磁性ビーズと前記機能化強磁性ビーズとの間に磁気相互作用エネルギーUintを生じさせ、前記磁気相互作用エネルギーUintは5kBT以下であり、ここでkBはボルツマン定数で、Tは前記サンプル溶液の温度である。前記システムは、前記機能化超常磁性ビーズと前記機能化強磁性ビーズとの共局在化を検出することによって、前記検体を含む複合体を検出する検出装置をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記検出装置は、前記サンプルが配置される基板であって、少なくとも1つの光学検出磁気共鳴(ODMR)中心を含む基板と、前記少なくとも1つのODMR中心内で電子を基底状態から励起状態まで励起する入射光を発生するよう構成された光源と、バイアス磁場を前記少なくとも1つのODMR中心上に配置された複合体に印加する磁石とを含むことができる。これらの具体的な実施形態では、前記システムは、前記少なくとも1つのODMR中心に入射するマイクロ波場を生成するよう構成されたマイクロ波源であって、前記マイクロ波源は、前記少なくとも1つのODMR中心での基底状態遷移に対応した周波数を備えた前記マイクロ波場を生成するようさらに構成されており、前記少なくとも1つのODMR中心は、前記入射光により照らされると、放射光を発生し、前記放射光の特徴は、前記マイクロ波場によっても、前記複合体内で前記検体に結びついた前記磁気機能化ビーズによっても影響される、マイクロ波源と、前記少なくとも1つのODMR中心により放射された光を検出する光学式光検出器とを含む。いくつかの実施形態では、前記少なくとも1つのODMR中心は、前記基板の炭化ケイ素格子中のケイ素空孔中心とすることができる。別の実施形態では、前記少なくとも1つのODMR中心は、前記基板のダイヤモンド格子中のケイ素空孔中心とすることができる。別の実施形態では、前記少なくとも1つのODMR中心は、前記基板のダイヤモンド格子中の窒素-空孔中心とすることができる。一定の実施形態では、前記少なくとも1つのODMR中心は、前記基板の上面に形成することができる。これらの実施形態のいくつかでは、前記少なくとも1つのODMR中心は、前記基板の前記上面に形成された複数のODMR中心とすることができる。いくつかの実施形態では、前記光学式光検出器は、前記複数のODMR中心からの前記放射光をイメージングするイメージングセンサーを備えた光学イメージングシステムとすることができる。
【0010】
1つ以上の実施形態によれば、検体を含む複合体を検出する方法は、検体を含有している可能性があるサンプル溶液を、適切な条件下で前記検体に結びつく第1部分を含むよう機能化された機能化超常磁性ビーズの集団に接触させる段階と、前記サンプル溶液を、適切な条件下で前記検体に結びつく第2部分を含むよう機能化された機能化強磁性ビーズの集団に接触させる段階とを含む。
【0011】
前記サンプル溶液と、前記機能化超常磁性ビーズの集団および前記機能化強磁性ビーズの集団との接触は:前記検体が前記サンプル溶液に存在する場合は、それぞれが、前記機能化超常磁性ビーズの1つと、前記検体と、前記機能化強磁性ビーズの1つとを含む複合体の形成に至るか、または接触は、前記サンプル溶液中に前記検体が存在しない場合は、前記機能化超常磁性ビーズと、前記機能化強磁性ビーズとの間に磁気相互作用エネルギーUintを生じさせることになり、前記磁気相互作用エネルギーUintは5kBT以下であり、ここでkBはボルツマン定数であり、Tは前記サンプル溶液の温度である。前記方法は、前記機能化超常磁性ビーズと前記機能化強磁性ビーズとの共局在化を検出することによって、前記検体を含む前記複合体を検出する段階をさらに含む。いくつかの実施形態では、この方法は、前記サンプルを前記機能化超常磁性ビーズの集団に接触させた後に、磁場勾配を前記サンプル溶液に印加する段階をさらに含むことができる。他の実施形態では、前記磁場勾配を前記サンプル溶液に印加する段階は、前記サンプル溶液を前記機能化強磁性ビーズの集団に接触させた後に実行することができる。一定の実施形態では、前記機能化超常磁性ビーズの集団および前記機能化強磁性ビーズの集団は、サンプル溶液に順次加えることができる。他の実施形態では、前記機能化超常磁性ビーズの集団および前記機能化強磁性ビーズの集団は、前記サンプル溶液に同時に加えてもよい。
【0012】
いくつかの実施形態では、この方法は、前記サンプル溶液を前記機能化超常磁性ビーズおよび前記機能化強磁性ビーズの集団に接触させた後に、磁場勾配を前記サンプル溶液に印加する段階をさらに含むことができる。いくつかの実施形態では、前記方法は、前記サンプル溶液に印加される前記磁場勾配を変動させる段階をさらに含むことができる。幾つかの実施形態では、前記方法は、前記サンプル溶液を前記機能化強磁性ビーズの集団に接触させた後に、前記サンプル溶液を濃縮する段階をさらに含むことができる。いくつかの実施形態では、前記方法は、前記サンプル溶液を前記機能化強磁性ビーズの集団に接触させた後で、前記複合体を検出する前に、複数の機能化超常磁性ビーズおよび機能化強磁性ビーズを凝集させる段階をさらに含むことができる。いくつかの実施形態では、前記複合体を検出する段階は、前記複合体を含む可能性がある前記サンプル溶液を、その内部に形成された少なくとも1つの光学検出磁気共鳴(ODMR)中心を含む基板上に配置する段階をさらに含むことができる。これらの実施形態では、前記複合体を検出する段階は、電子を前記少なくとも1つのODMR中心内で基底状態から励起状態まで入射光によって励起する段階と、バイアス磁場を前記複合体に印加する段階と;前記少なくとも1つのODMR中心に入射するマイクロ波場を生成する段階であって、前記マイクロ波場は、前記少なくとも1つのODMR中心での基底状態遷移に対応した周波数を含む生成する段階と;前記少なくとも1つのODMR中心によって放射された光を分析する段階であって、前記放射された光の特徴は、前記マイクロ波場によっても、前記複合体内で前記検体に結びついた前記機能化超常磁性ビーズおよび前記機能化強磁性ビーズによっても影響される、分析する段階とをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記少なくとも1つのODMR中心は、前記基板のダイヤモンド格子中の窒素-空孔中心とすることができる。特定の実施形態では、前記少なくとも1つのODMR中心は前記基板の上面に形成できる。幾つかの実施形態では、前記少なくとも1つのODMR中心は、前記基板の前記上面に形成された複数のODMR中心でよい。これらの実施形態では、前記複数のODMR中心から放射された光の分析は、前記放射された光のイメージングを含むことができる。幾つかの実施形態では、前記方法は、前記サンプル溶液を前記基板上に配置した後に、前記サンプル溶液を脱水する段階をさらに含むことができる。
【0013】
互いに関連した磁気特性を備えたビーズを含む磁気式多ビーズアッセイは、標的検体に対する高い感度や特異性などの多くの利点を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
上記事項は、添付した図面で例示されるような代表的な実施形態の以下のさらに具体的な記載から明白となるが、ここでの類似の参照符号は、異なる図にわたって同一部分を参照する。これら図面は必ずしも一定の縮尺ではなく、実施形態を図示することにむしろ重点が置かれている。
図1A図1Aは、1つ以上の実施形態による機能化超常磁性ビーズおよび機能化強磁性ビーズを概略的に示す。
図1B図1Bは、1つ以上の実施形態による別の機能化超常磁性ビーズおよび別の機能化強磁性ビーズを概略的に示す。
図1C図1Cは、1つ以上の実施形態による別の機能化強磁性ビーズを概略的に示す。
図2図2は、1つ以上の実施形態による機能化超常磁性ビーズの1つと、第1部分と、機能化強磁性ビーズの1つと、第2部分と、検体とを含む複合体を概略的に示す。
図3図3は、1つ以上の実施形態による正規化された機能化強磁性ビーズ直径dB/dAの関数としてのQ(dA,dB)のグラフである。
図4図4は、1つ以上の実施形態による検体を含む複合体を検出する方法を示す。
図5図5は、1つ以上の実施形態による広視野ダイヤモンド磁気イメージング装置を概略的に示す。
図6図6Aは、1つ以上の実施形態による機能化超常磁性ビーズの1つと、機能化強磁性ビーズの1つと、検体とを含む複合体を概略的に示す。図6Bは、1つ以上の実施形態による、1つの超常磁性ビーズと、2つの強磁性ビーズと、1つの超常磁性ビーズおよび1つの強磁性ビーズを含む複合体とを概略的に示す。図6Cは、1つ以上の実施形態による図6Bに示した磁気ビーズの正磁気画像を示す。図6Dは、1つ以上の実施形態による図6Bに示した磁気ビーズの負磁気画像を示す。図6Eは、1つ以上の実施形態による、検体が存在しない場合の機能化超常磁性ビーズの1つと機能化強磁性ビーズの1つとを概略的に示す。
図7図7は、1つ以上の実施形態による残留磁気および磁化率に基づいた磁気ビーズの識別を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述のように、本明細書で開示されている様々な実施形態は、1つの検体により結合された2つ以上の区別可能なビーズ(すなわち、区別可能な磁気特性を備えたビーズ)を含有する複合体を観察することによって、サンプル中のその検体を含む複合体を検出するための方法および装置に関する。様々な実施形態において、磁気式多ビーズアッセイは、2つ以上の区別可能なビーズによって生じる磁場を検出することによって、サンプル中の検体濃度を求めるために使用される。磁場の検出は、以下にさらに説明するように、磁力顕微鏡検査法、走査ホールプローブ、または広視野ダイヤモンド磁気イメージングシステムなどの任意の磁気イメージング技術を利用することを含むことができる。広視野ダイヤモンド磁気イメージングは、広範囲の磁気条件下で磁気ビーズが発生するベクトル磁場の像を提供する。この汎用ツールは、例えば、後述するように、ビーズを最初に大きな磁場で磁化した後、低印加磁場での磁化率や残留磁気を測定することによって、磁性ビーズのタイプを区別するために使用することができる。
【0016】
超常磁性ビーズA
1つ以上の実施形態に従って、図1Aおよび1Bに示すように、ビーズベースの検体検出用ビーズシステム100は、複数の機能化超常磁性ビーズA 110および120を含み、それぞれの1つが図1Aおよび1Bにそれぞれ示されている。超常磁性ビーズA 110および120はそれぞれ、約0.1 μmと約10 μmとの間の範囲の直径dAを有する。直径範囲の小さい方の端値0.1 μmは、それらに充填するために使用される磁性ナノ粒子125のサイズによって設定され、それは典型的には5 nmと20 nmとの間の範囲である。100 nm (0.1 μm)より小さい磁気充填ポリマービーズの例は文献で見つけるのが難しく、仮に合成できたとしても、各ビーズに比較的少数の磁性ナノ粒子が充填されるため、比較的不均一な磁気特性を備えた可能性が非常に高くなるはずである。適切な超常磁性材料には、例えば、典型的には5 nmから10 nm範囲にわたる、大きさ約20 nm未満の単結晶ナノ粒子形状の酸化鉄(Fe2O3またはFe3O4)、マンガンフェライト(MnFe2O4)またはコバルトフェライト(CoFe2O4)が含まれる。これら磁性ナノ粒子は十分小さくなるように構成して、印加磁場の不在下で無視できるほど少ない残留磁化を示すようにする(すなわち超常磁性)。磁場を印加すると、これら粒子は磁場の方向に磁化して、磁気分離に十分なビーズ磁化をもたらす。
【0017】
直径範囲の大きい方の端値10 μmは、後述する広視野ダイヤモンド磁気イメージング装置などの磁気イメージングを用いる際のイメージングを考慮して設定されており、観察画像にビーズが過剰に密集するのを避けるためである。有限の視野では、小さいビーズよりも少ない数のより大きなビーズを撮像することができる。また、ビーズの直径はある程度の範囲に分布していると考えられるので、直径dAは、サイズ分布のピークが10 μm未満であること、あるいはサンプル中の半分のビーズが10 μmより小さい直径を備えたものとして指定することもできる。下端においては均一磁気特性が望ましいことを考慮し、かつ上端でのイメージングを考慮すると、直径dAは、好ましくは約0.3 μmと約3 μmの間の範囲、より好ましくは約0.5 μmと約2 μmの間の範囲である。図1Aに示すように、機能化超常磁性ビーズ110は、非磁性コア115と、非磁性コア115の周りに実質的に均一に分布する超常磁性材料125とを含むことができる。あるいは、図1Bに示すように、超常磁性材料125は、機能化超常磁性ビーズ120の体積全体にわたって実質的に均一に分布させることができる。図1Aおよび1Bに示すように、機能化超常磁性ビーズA 110および120は、それぞれビーズ110および120の表面の周りに非磁性バッファー層135を任意に含むことができる。非磁性バッファー層135および非磁性コア115に適した材料には、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、およびポリメタクリル酸メチル(PMMA)などのポリマー、または他の非磁性材料が含まれる。非磁性コア115および非磁性バッファー層135のそれぞれは、同じまたは異なる非磁性材料で作ることができる。
【0018】
超常磁性ビーズA 110および120は、それぞれ、約0.01と約10と間の範囲にある容積磁化率XA (無次元)を有している。容積磁化率の下端0.01は、磁気イメージングの要件から設定されている。容積磁化率が小さくなると、ビーズAの磁気モーメントが小さくなり(固定バイアス磁場に関して)、信号が検出されにくくなる。容積磁化率が現在入手可能なビーズより10倍小さいビーズでも検出は可能なはずである。容積磁化率をさらに10倍低下させても、バイアス磁場を大きくすることで補償することができるはずである。そこで、容積磁化率の下限は、現在入手可能なビーズに全容積にわたって均一に充填した場合の典型的な容積磁化率の約100分の1倍とした。(XA=(81 m3/kg)・(1.7 × 10-5 g/cm3)=1.37、マサチューセッツ州ウォルサム所在のサーモフィッシャーサイエンティフィック社、Dynabeads(登録商標) MyOne)。引用することにより本明細書に組み込まれるFonnum, G. et al., "Characterisation of Dynabeads by magnetization measurements and Moessbauer spectroscopy", J. Magn.Magn.Mater.293, 41 - 47 (2005)を参照のこと。
【0019】
また、超常磁性ビーズの容積磁化率の上端10は、磁気イメージングを考慮して設定されている。ビーズAの磁気モーメント(ビーズAの容積磁化率に作用するバイアス磁場によって生じる)が大きくなると、ビーズAに近い磁場の勾配が大きくなる。後述するように、広視野ダイヤモンド磁気イメージングでは、ダイヤモンドセンサーの単一の撮像素子から収集される蛍光は、その撮像素子内のすべての窒素-空孔(NV)中心から発せられる蛍光の総和である。勾配が大きいと、異なるNV中心が異なる磁場を受け、異なるエネルギー準位のシフトを受けるため、その撮像素子の光学検出磁気共鳴スペクトルがぼやけてしまう。単一の撮像素子の磁場値の幅が小さい場合でも、その撮像素子の平均磁場を推定することは可能である。しかし、磁場値の範囲が大きい(0.1 mTより大幅に大きい)場合、ぼやけが非常に大きくなってスペクトルの解像度が悪くなるため、磁場測定の感度が低下してしまう。ビーズAの容積磁化率が大きいことによる影響は、センサーを低バイアス磁場で動作させるか、より大きなビーズを使用することによってある程度打ち消すことができるが、いずれのパラメータにおいても10倍を超えることはない。現在入手可能なビーズ(例えばDynabeads(登録商標))には、すでに約10体積%のマグネタイトナノ粒子が含まれているため、実際には10倍の容積磁化率を持つビーズが合成できる可能性は非常に低い。したがって、容積磁化率の上限は、現在入手可能なビーズの典型例(
)の容積磁化率の約7倍となるよう選択されている。上記の磁気イメージングの考慮事項から、磁化率XAは、好ましくは約0.1と約5との間の範囲で、より好ましくは約0.5と間の約3の範囲である。
【0020】
図1Aおよび1Bを再び参照すると、超常磁性ビーズA 110および120は、サンプル溶液内の適切な条件下で検体と結びつく(associate)第1部分(moiety)X 140を含むように機能化される。明瞭化のために、第1部分X 140のうちの1つだけが図1Aおよび図1Bにおいて標識されている。好適な部分は、受容体、タンパク質、抗体、細胞、ウイルス、または核酸配列を含む。
【0021】
強磁性ビーズB
1つ以上の実施形態に従って、図1A-1Cに示すように、ビーズベースの検体検出用ビーズシステム100は、約0.1 μm と約10 μmとの間の範囲の直径dBを備えた複数の機能化強磁性ビーズB 150および190も含む。直径範囲の小さい方の端値0.1 μmは、図1Aおよび1Cに示されるように、機能化超常磁性ビーズA 110および120について上述したのと同様の理由により設定され、典型的には25 nmと100 nmとの間の範囲にわたる、それらに充填するために使用される磁性ナノ粒子155のサイズが含まれる。明確性のため、磁性ナノ粒子155のうちの1つだけが図1Aおよび図1Cにおいて標識されている。一実施形態では、図1Aに示すように、好適な強磁性材料は、直径が概ね1 μmの球形ポリマー基質160の表面に分散かつ付着した大きさが30 nmの強磁性コバルトフェライトのナノ粒子を含んでおり、球形ポリマー基質160は付加的なポリマー層170も備えている。均一な磁気特性を得るためには、磁性ナノ粒子155は、球状ポリマー基質160の周囲に均一に分散していることが好ましい。不均一な磁気特性は、超常磁性ビーズAよりも強磁性ビーズBにとって望ましくなく、潜在的にいくつかのビーズにおいて局所的に強い残留磁化を引き起こし、双極子モーメントおよび高次の項を含む多重極モーメントの合計として表され得るそれらの合計磁気モーメント分布について考慮することが必要である。均一な磁気特性を得るために、機能化強磁性ビーズ190は、代替的に、図1Bに示すように、球状ポリマー基質160のコアに集中した強磁性材料195を含むようにしてもよい。他の実施形態では、強磁性ナノ粒子155は、図1Cに示すように、球状ポリマー基質160の体積全体にわたって実質的に均一に分布させることができる。
【0022】
また、直径範囲の大きい方の端値10 μmは、後述する広視野ダイヤモンド磁気イメージング装置の磁気イメージングを考慮することによって、ダイヤモンドセンサー上でビーズが過剰に混雑しないように設定されている。また、ビーズの直径はある程度の範囲に分布していると考えられるので、直径dBは、サイズ分布のピークが10 μm未満であること、あるいはサンプル中の半分のビーズが10 μmより小さい直径を備えたものとして規定することもできる。下端においては均一磁気特性が望ましいことを考慮しかつ上端におけるイメージングを考慮すると、直径dBは、好ましくは約0.3 μmと約3 μmの間の範囲、より好ましくは約0.5 μmと約2 μmの間の範囲である。図1A-1Cに示すように、機能化強磁性ビーズ150および190は、それぞれビーズ150および190の表面の周りに非磁性バッファー層175を任意に含むことができる。非磁性バッファー層175、球形ポリマー基質160、および付加的なポリマー層170に適した材料には、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、およびポリメタクリル酸メチル(PMMA)などのポリマー、または他の非磁性材料が含まれる。球形ポリマー基質160、付加的なポリマー層170、および非磁性バッファー層175のそれぞれは、同じまたは異なる非磁性材料で作ることができる。磁気相互作用はビーズ間の分離が増大するにつれ急激に弱くなるので、元々のビーズ半径よりかなり薄い非磁気層175であっても磁気相互作用による二量体形成を劇的に減少させることができるので、機能化超常磁性ビーズA 110および120ならびに機能化強磁性ビーズ150および190の少なくとも1つは、そのビーズ表面の周りに非磁性バッファー層135または175を含むことが好ましい。
【0023】
機能化強磁性ビーズ150および190は、サンプル溶液内の適切な条件下で検体と結びつく第2部分Y 180を含むように機能化されている。 第2部分Y 180のうちの1つだけが、明瞭化のために図1A-1Cにおいて標識されている。好適な部分は、受容体、タンパク質、抗体、細胞、ウイルス、または核酸配列を含む。
【0024】
強磁性ビーズB 150および190はそれぞれ、0.02・( dB / [μm] )3 mA・μm2
mA・μm2との間の範囲である磁気双極子モーメントpBを備え、ここでμ0は真空透磁率であり、kBはボルツマン定数であり、Tはサンプル溶液の温度であり、Q(dA,dB)の数値は表1に示されている。
【0025】
磁気双極子モーメントpBの範囲の下端0.02・( dB / [μm] )3 mA・μm2は、磁気イメージングの要件から設定されている。ダイヤモンド表面BBで発生する磁場は、次の式に比例する。
【0026】
【数1】
【0027】
広視野ダイヤモンド磁気イメージング装置で通常使用されるこれらのパラメータの特性値は、
であり、ダイヤモンド表面からの距離とビーズB磁化の配向次第で、1 μTと低い磁場BBとなる。10倍の信号低下は許容範囲であると思われるが、信号が低下するとアッセイや画像取得時間に著しい悪影響を及ぼすはずである。平均化時間は信号の二乗として変倍することが予想されるので、信号の10倍の減少であっても、アッセイの実行可能性にかなりの影響を与える可能性がある。したがって、機能化強磁性ビーズBの磁気双極子モーメントpBの下限は、0.02・( dB / [μm] )3 mA・μm2となるように、好ましくは0.2・( dB / [μm] )3 mA・μm2となるように選択されている。
【0028】
磁気双極子モーメントpBの範囲の上端は、強磁性ビーズBと超常磁性ビーズAの非特異的磁気相互作用が、これらビーズ間のサンプル特異的抗体媒介結合よりもはるかに弱くあるべきであるという要件によって決定される。特に、ビーズAとBが物理的に接触しているときのこれらビーズ間の磁気相互作用エネルギーUintは、室温でボルツマンエネルギーの5倍(5kBT)以下でなければならず、kBはボルツマン定数であり、Tはサンプル溶液の温度であり、通常は室温である。磁気相互作用エネルギーの上限は、抗体反応の平衡定数Keqの典型的な値と関係がある。図2に示すように示すように、サンプル溶液中に抗原などの検体220を含むサンプルと、適切な条件下で検体220と結びつく抗体などの第1部分X 215を含む機能化超常磁性ビーズ210と、適切な条件下で検体220と結びつく、別の抗体などの第2部分Y 235を含む機能化強磁性ビーズ230とを接触させると、機能化超常磁性ビーズ210の1つと、検体220と、機能化強磁性ビーズ230の1つとを含む複合体245が形成されることになる。検体220は、機能化超常磁性ビーズ210および機能化強磁性ビーズ230の共局在化により検出される。
【0029】
非特異的に磁気結合したA-B二量体の数が、磁気イメージング視野内の抗原媒介性の A-B二量体の数よりはるかに少なくなるように、ほぼ等しい(10倍以内)濃度のビーズA、ビーズB、および抗原(すなわち検体)を使用しており、特異的抗原抗体反応ABの平衡定数Keq (AB)は、非特異的磁気相互作用の平衡定数Keq (mag)の106倍に設定することが可能である。平衡定数比Keq (AB) / Keq (mag)は、存在するすべての成分の濃度が等しい場合(測定用にサンプルをダイヤモンド基板上に置く直前のイメージングバッファーの中など)、2種類の二量体の平衡濃度比[AB]/[mag]にほぼ比例すると仮定すれば、この条件では約100万分の1の「偽陽性」率が予測される。磁場シグネチャは通常、1つの磁気イメージング視野内の1,000-10,000個の磁気物体(ビーズおよびビーズ複合体)から記録されるので、このレベルではアッセイでは偽陽性が確実に回避され(すなわち、偽陽性は1つ未満)、Keq (AB) / Keq (mag) > 106の感度のアッセイが可能になる。抗原抗体反応に関する平衡定数Keq (AB)の典型的な値は、およそ
である。ここで、Ka (AB)は抗原抗体反応の結合定数で、単位はM-1であり、C0 = 1 Mは標準状態濃度である。参照により本明細書に組み込まれるGilson, M. K. et al., "The Statistical-Thermodynamic Basis for Computation of Binding Affinities: A Critical Review". Biophys. J. 74, 1047 - 1069 (1997)およびLandry, J. P, Fei, Y., and Zhu, X., "Simultaneous Measurement of 10,000 Protein-Ligand Affinity Constants Using Microarray-Based Kinetic Constant Assays". Assay Drug Dev. Technol. 10, 250 - 259 (2012)を参照のこと。
【0030】
平衡定数の比Keq (AB) / Keq (mag)を磁気相互作用エネルギーUint,の限界に変えるには、平衡定数が次のように反応のギブス自由エネルギーと関連付けられることに注目すべきである。
【0031】
【数2】
【0032】
ここで、ΔGはギブスエネルギーで(発熱反応の場合は負)、R = 8.31 J・mol-1・K-1で、T = 293 Kはサンプル溶液の温度で、通常は室温である。Gilson, M. K. et al.を参照(同上)。次に、上記で引用した抗原抗体反応平衡定数の下限値と思われるKeq (AB) > 108を用いると、所望の平衡定数の比は次のように求められる。
【0033】
【数3】
【0034】
磁気結合によるエントロピーの減少を無視し(負のΔS(mag)に関しては、ΔU(mag) = ΔG(mag) + TΔS(mag) > ΔG(mag)なので、もし含まれていれば磁気相互作用の制約を緩和することになるだけである)、負符号を除き(磁気結合状態はより低いエネルギーを持つと理解されるので)、最後の行を(ビーズ対のモル当たりではなく)ビーズ対当たりのエネルギー単位で表現すると
となる。ここでkBはボルツマン定数である。
【0035】
ビーズAとビーズBとの間の磁気相互作用エネルギーUintは、以下に述べるようにビーズBの磁気双極子モーメントpBに関連している。強磁性材料は、図1Aに示すようにポリマービーズの表面でまたは図1Cに示すようにその体積内部で、強磁性ビーズBにおいて空間的に集中しており、点双極子で近似できると仮定する。また、図1Bに示すように、超常磁性材料が超常磁性ビーズAの体積に空間的に一様に分布していると仮定する。
【0036】
強磁性ビーズの双極子モーメントの典型的な値は、経験的に約
であることが観察されている。この大きさの双極子モーメントは、双極子からの距離r < 235 nmにおいてのみ、概ねBtyp > 0.1 Tの磁場を発生させるが、その理由は次の通りである。
【0037】
【数4】
【0038】
したがって、rは次にほぼ等しい。
【0039】
【数5】
【0040】
超常磁性材料の容積磁化率は、印加磁場Btypが0.1 Tより大きく、したがって距離rが235 nmより小さい場合にのみ感知できるほど非線形となるため、非線形応答を持つマイクロメーター規模の超常磁性ビーズでは、たとえ超常磁性ビーズの表面に強磁性双極子を直接配置しても、その体積分率は小さいと言える。したがって、以下の計算では、超常磁性ビーズに対して線形容積磁化率を用いる。
【0041】
超常磁性粒子の体積で積分した全磁気エネルギーUintは、次のようになる。
【0042】
【数6】
【0043】
磁化率を含む項は磁気的相互作用エネルギーを記述し、1を含む項は超常磁性材料がない場合の双極子場の自己エネルギーに過ぎない。ビーズが直接接触しているときの最大の磁気相互作用エネルギーは、次式で与えられる。
【0044】
【数7】
【0045】
最後から2番目の段階では,半径方向の積分変数r' = ρ'・dA/2およびr = ρ・dA/2を再定義して、積分因子Qを無次元化した。(ただし、Qは正規化されたビーズBの直径dB/dAの関数である。)積分Qは数値的に評価される。pBの極限を他のビーズパラメータとQで書き直すと、次のようになる。
【0046】
【数8】
【0047】
式8は、強磁性ビーズがほとんど双極性であると仮定して、その磁気モーメントpBの上限の最終的な記述である。0.1 μm < dA < 10 μmと0.1 μm < dB < 10 μmを想起して、dBとdAの比の全範囲 (0.01-100)にわたるQ(dA,dB)の数値が表1に記載されている。
【0048】
【表1】
【0049】
具体例として、あるアッセイで使用した近似ビーズパラメータ、に対する次元前因子(pre-factor) U0を以下に示すように計算するが、ここでdA = 1 μm、XA = 1.37、dB = 1.8 μm、およびpB = 1.0 mA・μm2である。図3に示す水平破線は、これらのビーズパラメータに関するUmax / U0を表している。
【0050】
磁気相互作用エネルギーUintのこの値2.2x10-21 Jは、磁気相互作用エネルギーの許容上限値Umax = 5 kB T = 5・[1.38 × 10-23 J/K]・[293 K] = 2.0 × 10-20 J未満である。図表的には、図3に示すように、ドットは、想定した粒子形状にのみ依存する汎用数値関数Qを表している。水平の破線はUmax / U0を表し,ここでは約0.45に等しく、dA、XA、およびpB次第で上下に移動可能である。ビーズBの正規化直径(= dB / dA)が、ここでは1.8に等しく、これら2本の線の交差点(ここでは約1.0に等しい)より大きいとすると、この条件は満たされ(1.8>1.0)、検体の非存在下での強磁性ビーズBと超常磁性ビーズAの非特異的磁気相互作用は、ビーズ間の検体特異的抗原媒介結合よりもかなり弱くなるであろう。
【0051】
磁気式多ビーズアッセイ
この磁気式多ビーズアッセイの感度は、次の3つの特徴に部分的には由来する:
(1)このアッセイは少なくとも2つの区別可能なビーズの共存在を測定し、標的検体の検出は、この検体が、少なくとも2つの区別可能なビーズタイプ上の少なくとも2つの別個の抗体に結合することにのみに起因するか、または少なくとも2つの区別可能なビーズタイプ上のポリクローナル抗体に結合し、このポリクローナル抗体が標的抗原(すなわち標的検体)上の2つの異なるエピトープに結合することのみに起因する。検体が少なくとも2つの異なる抗体に結合することで、複数抗体の複合特異性(combined specificity)を介して高度な標的特異性を実現でき、それがより優れた感度をもたらす。
(2)標的検体以外のサンプル成分が原因となる信号バックグラウンドのような混乱をもたらす作用は、磁気分離を用いてサンプルを浄化することによって、減少または排除できる。
(3)ビーズは迅速にかつ高度な正確性および精度で検出できる。ビーズ信号は、蛍光染料および酵素活性の蛍光生成物を含む分子レポーターからの信号よりも強くより安定しており、分子レポーターからの信号よりも迅速に検出できる。
【0052】
複合体形成
多ビーズアッセイにおける標的検体を測定するには、その検体が少なくとも2つの区別可能なビーズに結合して複合体を形成する必要があり、それにより両方のビーズの存在が検出可能となる。ある標的検体の一定の領域に特異的に結合しよってそれに結びつく(associate with)抗体などの本明細書で部分(moiety)とも呼ぶ結合リガンドを、これらビーズに塗布してもよい。多ビーズアッセイの各ビーズには、1つ以上の異なるタイプの結合リガンドを塗布してもよい。この多ビーズアッセイで使用される異なるビーズタイプは、同じ結合リガンドのタイプ、重複する組の結合リガンドのタイプ、または別個の結合リガンドのタイプを備えることができる。2つの異なるビーズタイプが使用され、ここではビーズAおよびビーズBと呼ばれる。2ビーズの例では、ビーズAおよびビーズBには抗体を塗布し、抗体XがビーズAに、抗体YがビーズBに塗布される。抗体Xは、抗体Yとは異なる標的検体の領域に特異に結合するので、標的検体は両方に同時に結合できる。
【0053】
免疫複合体のような複合体は、サンプル溶液をビーズAおよびビーズBの懸濁液と共にインキュベートすることなどによって適切な条件下で形成できる。サンプル中の標的検体は、それらがサンプル内で拡散する際にビーズ表面に遭遇し、それに結合する。この過程を促進するために、このサンプル溶液は混合、振盪、またはそれ以外の方法で撹拌すればよい。ビーズもサンプル溶液内を移動する際には、反対のタイプのビーズに結合した検体にも遭遇してこれらの検体にも結合し、A-B、A-B-A、B-A-B、または他の組合せの形状の異質ビーズ複合体を形成する。
【0054】
これらビーズおよびビーズ複合体は、続いて磁気分離によって一緒に濃縮される。まず、磁気力を超常磁性ビーズAおよび強磁性ビーズBに掛ける磁場勾配が印加される。任意のビーズA、ビーズB、およびビーズAまたはビーズBを含むビーズ複合体は、サンプルから分離されて、磁気材料および結合された検体の「ペレット」を形成する。「バックグラウンド物質」と本明細書で呼ぶ非結合性サンプル成分は分離されることはないので、ペレットの上に浮かぶ上澄みと共に廃棄できる。次に、磁場勾配を除去し、ビーズを同一または異なるバッファー溶液内に再び懸濁させることができる。この過程を繰り返してバックグラウンド物質の濃度を減少させてもよい。磁気分離は手動で行ってよいし、市販のプレートウォッシャーで自動化してもよい。
【0055】
あるいは、複合体形成は複数の別個の段階を経て順次に行うこともでき、これにより、標的検体の不存在下での複合体へのビーズの非特異的結合による信号バックグラウンドを減少させることができる。標的検体を捕捉するためビーズAをまずサンプルに付加することができ、続いて、磁気分離によってバックグラウンド物質の濃度を減少させるため磁場勾配を印加することができる。次に、ビーズBをこの浄化したサンプルに別個に加えることができる。ビーズAおよびビーズBを同時に加えるのか順次に加えるのかは経験的に決定され、さらに、使用する抗体および非特異的結合が、順次結合段階を用いることで有意に減少されるのかに依存する。
【0056】
ビーズBがビーズAより磁性が低い場合、磁気分離を複合体の形成後に使用して、非結合ビーズBに関連付けられた信号バックグラウンドを減少させることができる。例えば、磁性が低いビーズBはビーズAに比べて低速でサンプル懸濁液から分離されるので、ビーズBの分離が不完全なうちにビーズAが適切にペレット内に分離された時点で、磁気分離を停止させることができる。もしこの時点でペレットの上に浮かぶ上澄みが廃棄される場合は、ビーズBの有意な部分が除去されるが、ビーズAは保持され、これにはビーズAを含有する複合体も含まれる。
【0057】
上述したように、ビーズAおよびビーズBの直径は、0.1 μmと10 μmとの間の範囲とすることができる。ビーズAおよびビーズBは異なる直径を備えるよう選択してもよく、それにより機能化超常磁性ビーズの直径は機能化強磁性ビーズの直径とは少なくとも50%異なり、よってこれら2つのビーズタイプはそれぞれの磁場信号の空間的分布によって区別できる。代替的には、ビーズAおよびビーズBは、50%未満の直径差のような類似の直径を備えるように選択して、類似の表面積を備え、サンプル懸濁液中で類似の運動を行い、検出領域で類似の量の空間を占有し、類似の信号強度を示すようにしてもよい。ビーズ直径を0.5 μmから5 μmまでの範囲とすることによって、迅速な磁気分離(数秒以内)と、各ビーズ上での大量の結合リガンドを実現するための十分な表面積とがもたらされる。さらに、この範囲のビーズ直径は、光学顕微鏡または広視野ダイヤモンド磁気イメージングシステムの典型的な回折限界イメージング解像度と似ているか、わずかに大きい。
【0058】
複合体の検出
後に詳述するように、免疫複合体のような複合体が一旦形成されると(検体によって結合されたビーズAおよびビーズBを含有する異質ビーズ複合体)、これらは、両方のビーズタイプの共存在を検出することによって測定される。検体を含有する複合体の測定は、検体濃度が既知である一定範囲の複数の較正サンプルを用いて較正でき、複合体の所与の測定値が一定の検体濃度を意味することになる。この範囲の較正サンプルの測定値を全体として較正曲線と呼ぶ。本明細書に記載した方法および装置による複合体の検出は、較正曲線と組み合わせて検体濃度の測定を可能とする。
【0059】
1つ以上の実施態様によれば、図4に示したように、検体を含む複合体を検出する方法400は、検体を含有している可能性があるサンプル溶液を、適切な条件下で検体に結びつく第1部分を含むよう機能化された機能化超常磁性ビーズの集団に接触させる段階410と、サンプル溶液を、適切な条件下で検体に結びつく第2部分を含むよう機能化された機能化強磁性ビーズの集団に接触させる段階とを含む。これら接触させる段階410および420は逆にしてもよい。接触の結果として、それぞれが機能化超常磁性ビーズの1つ、検体、および機能化強磁性ビーズの1つを含む複合体が形成されることになる。図6Eに示すように、サンプル溶液中に検体が存在しない場合に接触させると、機能化超常磁性ビーズA 610と、機能化強磁性ビーズB 630との間に磁気相互作用エネルギーUintが生じることになるが、磁気相互作用エネルギーUintは5kBT以下であり、kBはボルツマン定数で、Tはサンプル溶液の温度である。図4に戻ると、この方法は、機能化超常磁性ビーズと機能化強磁性ビーズとの共局在化を検出することによって、検体を含む複合体を検出する段階430をさらに含む。いくつかの実施形態では、この方法は、サンプルを機能化超常磁性ビーズの集団に接触させた後に、磁場勾配をサンプル溶液に印加する段階をさらに含むことができる。他の実施形態では、磁場勾配をサンプル溶液に印加する段階は、サンプル溶液を機能化強磁性ビーズの集団に接触させた後に実行してもよい。一定の実施形態では、機能化超常磁性ビーズの集団および機能化強磁性ビーズの集団は、サンプル溶液に順次加えればよい。他の実施形態では、機能化超常磁性ビーズの集団および機能化強磁性ビーズの集団は、サンプル溶液に同時に加えてもよい。いくつかの実施形態では、この方法は、サンプルを機能化超常磁性ビーズの集団に接触させた後に、磁場勾配をサンプル溶液に印加する段階をさらに含むことができる。他の実施形態では、磁場勾配をサンプル溶液に印加する段階は、サンプル溶液を機能化強磁性ビーズの集団に接触させた後に実行してもよい。一定の実施形態では、機能化超常磁性ビーズの集団および機能化強磁性ビーズの集団は、サンプル溶液に順次加えればよい。他の実施形態では、機能化超常磁性ビーズの集団および機能化強磁性ビーズの集団は、サンプル溶液に同時に加えてもよい。いくつかの実施形態では、機能化超常磁性ビーズと機能化強磁性ビーズの共局在化の検出は、磁力顕微鏡検査法、走査ホールプローブ、または広視野ダイヤモンド磁気イメージングシステムなどの任意の磁気イメージング技術を使用することを含む。ダイヤモンド中の窒素-空孔(NV)中心を用いた広視野ダイヤモンド磁気イメージングは、ダイヤモンドセンサーの表面上に配置された磁場を、室温でかつサブミクロン解像度ですばやくイメージングできる。
【0060】
1つ以上の実施態様によれば、図5に示したように、光学検出磁気共鳴(ODMR)に基づいて検体を含む複合体を検出するための広視野ダイヤモンド磁気イメージングシステム500などのシステムは、少なくとも1つのODMR中心540(図5に示した複数のODMR中心540)を含む基板532と、少なくとも1つのODMR中心540内で電子を基底状態から励起状態まで励起する入射光を発生するよう構成された光源536と、少なくとも1つのODMR中心540上に配置されたサンプル溶液530にバイアス磁場を印加する磁石534とを含み、サンプル溶液530は、図2に示したように、それぞれが機能化超常磁性ビーズ210の1つと、検体220と、機能化強磁性ビーズ130の1つとを含む複合体245を含む。ODMR中心540は、ODMRによって測定することができるスピン構造を備えた局所的な結晶欠陥である。サンプル溶液530は、ODMR中心540と直接接触している必要はない。サンプリング構成の更なる詳細は、2018年7月30日付けで提出され、「サンプル測定のための方法および装置(METHODS AND APPARATUS FOR SAMPLE MEASUREMENT)」と題された、参照して本明細書に援用するPCT特許出願第PCT/US2018/044409号に記載されている。図5に戻ると、広視野ダイヤモンド磁気イメージングシステム500は、少なくとも1つのODMR中心540に入射するマイクロ波場を生成するよう構成されたマイクロ波源538とをさらに含み、マイクロ波源538は、少なくとも1つのODMR中心540での基底状態遷移に対応した周波数を備えたマイクロ波場を生成するようさらに構成されており、ここでは、少なくとも1つのODMR中心540は、入射光536により照らされると、放射光542を発生し、放射光542の特徴は、マイクロ波場により影響され、さらにサンプル溶液530内の検体220と合体した機能化超常磁性ビーズ210および機能化強磁性ビーズ230により影響される。図5に示した実施形態では、複数のODMR中心540は、ダイヤモンド格子内の窒素-空孔(NV)中心であり、ダイヤモンド基板532の上面に形成されている。別の側面では、複数のODMR中心は、炭化ケイ素格子またはダイヤモンド格子内のケイ素-空孔中心でよい。図5に戻ると、光励起536の下で、ダイヤモンド基板532の表面近くにあるODMR中心540の薄層から放射される蛍光542は、電荷結合素子(CCD)または相補型金属酸化膜半導体(CMOS)カメラなどのイメージングセンサーを備えた光学イメージングシステムである光学式光検出器アレイ544へイメージングされる。マイクロ波励起の下でのODMR中心蛍光の変動は、ODMR電子スピン共鳴(ESR)周波数と、従ってODMRスピン部分準位の磁場シフトとを明らかにする。従って、サンプル(すなわち複合体)530によって発生されるダイヤモンド表面での磁場の空間構成は、その特性がマイクロ波場によっても、複合体530内の検体220に結びついた超常磁性ビーズ210および機能化強磁性ビーズ230が発生する磁場によっても影響されるODMR中心蛍光542の画像から特定できる。
【0061】
簡潔に言えば、磁気画像を取得するための処理は次の通りである:
1. イメージングすべき磁気サンプル(すなわち複合体)530を、ダイヤモンド基板532の感知面540全体に、その上に、または近くに配置する。中間層(図示しない)をサンプル530とダイヤモンド基板532との間に挿入してもよい。
2. 任意の方向に磁気バイアス場534を印加する。
3. ダイヤモンド中心のODMR中心540を緑色光536 (532 nm付近の波長)で照らす。
4. 源538からのマイクロ波場を、ODMR中心ESR遷移のいずれかに近い周波数で、ダイヤモンドに印加する。
5. 感知面540から放射されたODMR中心蛍光542の画像を、イメージング対物レンズ546および光学フィルター548を介して光検知器アレイ544で取得する。
6. 1つ以上のNV中心ESR遷移付近の1つ以上の範囲にわたる様々なマイクロ波周波数を用いて段階4および5を繰り返す。結果として、それぞれが異なるマイクロ波周波数に対応する画像のスタックが得られる。
7. この画像スタックのイメージングノイズを減少させるため、段階4-6を複数回繰り返し、結果を平均する。
8. この画像スタックにおける各画像ピクセルに関し、そのピクセルの値からESRスペクトルをそのスタック中のすべての画像にわたって構築する。このスペクトルを分析して1つ以上のESR遷移の周波数を特定する。
9. 画像スタック内の各画像ピクセルに関して、磁場を、そのピクセルにおいて観察されたESR遷移の周波数に基づいて計算する。
【0062】
印加された磁場534は、ビーズA内の磁化およびそのビーズから関連磁場を誘起する。0.5-10 mT範囲の磁場は、永久磁石または電磁石で発生でき、ダイヤモンドイメージングセンサーの電子スピン共鳴スペクトルの特徴を解像するのに十分である。このダイヤモンド磁気撮像装置はこれらビーズ磁場を直接イメージングして、個々のビーズの検出および位置特定を可能とする。
【0063】
さらに、磁気イメージングは、不要な光、検出器のノイズ、蛍光を発し、光を散乱し、または吸収するサンプルの汚染物による信号バックグラウンドに対して特に感度が悪い。磁気信号バックグラウンドは生物学的サンプルでは極めて低く、磁性の程度が低い磁気ビーズを測定する能力を妨げることはない。
【0064】
磁気イメージングを用いた磁気ビーズタイプの区別
広視野ダイヤモンド磁気イメージングは、広範囲の磁気条件下で磁気ビーズが発生するベクトル磁場を直接撮像する。この汎用ツールを用いて、広い範囲の異なる特性にわたって磁気ビーズタイプを区別できる。
【0065】
1つ以上の実施形態によれば、図6Aに示すように、ビーズA 610は超常磁性であり、ビーズB 630は強磁性であり、図2に示され上述した機能化超常磁性ビーズAおよび機能化強磁性ビーズBと実質的に同様である。単ビーズ空間解像度を備えた磁気イメージングを用いて、ビーズA 610を識別し、さらにビーズB 630も識別するので、これら2つが区別される。一実施形態では、ビーズA 610およびビーズB 630は、最初にこれらビーズを大きな磁場で磁化させた後に、低印加磁場で磁化率と残留磁気とを測定することによって区別される。例えば、ビーズA 610は一定量の酸化鉄を含んでおり、4 mTの印加バイアス磁場でのビーズA 610の平均誘導磁気は、概ね3 × 10-15 A m2である。ビーズB 630は、50%を上回る残留磁化割合を備えるので、少なくとも300 mTの磁場で磁化された後にその磁化場が除去されると、ビーズB 630はその飽和磁化値の大きな部分を保持する。例えば、ビーズB 630は一定量のコバルトフェライトを含んでおり、磁化場が除去された後のビーズB 630の平均残留磁気の大きさは概ね2 × 10-15 A m2である。
【0066】
標的検体620、ビーズA 610、およびビーズB 630を含有する複合体645を特定するための磁気イメージング手順を後述する。サンプル懸濁液内で複合体645を形成した後で、このサンプルの代表的部分が、図5に示したダイヤモンド磁気イメージングセンサーの図6Bに示した表面632上に配置され、乾燥される。このセンサーのイメージング面は{100}面であり、この表面は、窒素-空孔(NV)中心に富んだ概ね1 μmの薄層を含有する。図6B-6Dに戻ると、磁気イメージングの後、画像で空間解像されないほど近い場合も含め、互いに近接したビーズA 610およびビーズB 630を特定することで、複合体645が特定される。磁気イメージングに先だって、磁化場は、水平ダイヤモンド面に垂直方向に印加される。数秒間にわたって印加された200 mTを上回る磁化場は、ビーズA内の磁気材料を磁化するのに十分である。次に、乾燥したサンプルは、イメージング面に対して概ね35度の角度に配向されたダイヤモンドセンサーの結晶軸に平行に印加された4 mTのバイアス磁場で磁気的に二度にわたりイメージングされる。この4 mTのイメージング場は、図6Cおよび6Dに示した正画像(図6C)および負画像(図6D)と呼ぶ2つの磁気画像の取得で逆転されており、これらはそれぞれ+4 mTおよび-4 mTイメージング場を示す。これら磁気画像は、イメージング場の軸へのサンプル磁場ベクトルの投影を測定する。
【0067】
ビーズA 610が超常磁性だとすれば、200 mTより強い磁化場は、有意な残留磁化をビーズA 610に残存させることはない。正画像でも負画像でも、ビーズAの磁化は、4 mTイメージング場によって超常磁性ビーズ内で誘導される磁化のみである。ビーズA 610の磁化ベクトルは両方の場合でイメージング場に平行なので、ビーズA 610は、両方の磁気画像で同じ特徴641を生成する。
【0068】
対照的に、200 mTより強い磁場は、ビーズB 630を垂直方向に強く磁化し、水平ダイヤモンドセンサーイメージング面に対して垂直で上方に配向させる。磁化場が一旦除去されると、より弱い4 mTのイメージング場はビーズB 630の磁化を大きく変化させないが、それは、同じ軸に沿って以前に磁化されていると、ゼロ磁場近くにおけるビーズB 630の磁化率が低いからである。従って、ビーズB 630は、正磁気画像と負磁気画像との間で符号が反転する画像特徴642を生成し、図6B、6C、および6Dに示したように、正磁場投影は負磁場投影に変わり、その逆も同様である。
【0069】
この磁気画像視野で特定されるすべての磁気物体は磁化によって定量化され、ビーズA 610は両方の画像で正値を割り当てられ、ビーズB 630は、正画像および負画像でそれぞれ正値および負値を与えられる。ビーズ複合体645には、その複合体組成を反映した磁化値が割り当てられる。A-AまたはB-B形状のビーズ二量体は、ビーズAまたはビーズB単量体と同じ符号でより大きな値が割り当てられる。A-B形状またはより大型の異質ビーズ複合体のビーズ二量体645は、正画像(図6C)に比べ負画像(図6D)でより小さな値が割り当てられ、これはその複合体内の反対磁化ビーズを反映する。
【0070】
磁気画像内のすべての磁気物体は、その軸が正および負画像磁化値のそれぞれ和および差である散布図上で表すことができる。この和および差は、単ビーズ磁化曲線の磁化率および残留磁気と呼ぶこともできるが、それはこれらがこうした特性に概ね比例するからである。図7に示したように、ビーズAおよびビーズAのみを含有するビーズ複合体は、磁化率が大きくかつゼロ残留磁気を呈した状態で一方の軸の近くに密集し、図7では2,155カウントが示され;ビーズBおよびビーズBのみを含有するビーズ複合体は、残留磁気が大きくかつほぼゼロの磁化率を呈した状態で他方の軸の近くに密集し、図7では176カウントが示されている。ビーズAおよびビーズB両方を含有する複合体は、かなりの磁化率および残留磁気を呈し、これら物体は、散布図における両方の軸から十分に離間した領域にある物体として特定でき、図7では73カウントが示されている。この領域は、ビーズAおよびビーズBのみから、またはA-AまたはB-B形状の複合体などの同質ビーズ複合体からの信号を含有する可能性は低い。
【0071】
促進ビーズ相互作用動態
イムノアッセイは、液体サンプル中の標的検体の検出を可能とするには、それら標的検体が抗体に結合する時間を与えなければならないことは本発明の分野で知られている。試薬濃度およびサンプル条件(例えば、サンプルを撹拌または混合するための温度、粘度、および工程など)によれば、過剰な数の結合部位が使用可能な場合であっても、検体が拡散、能動的揺動、または撹拌によってサンプル中を移動するのに必要な時間のため、ほとんどの検体が結合するのに数分を要することがある。
【0072】
サンプル懸濁液中の異なるビーズ間の相互作用の割合が多ビーズアッセイ速度を決定することがあり、それは、ビーズ拡散がより小型の分子検体の拡散と比べて一般に遅いからである。ビーズ結合標的検体はビーズ表面積の比較的小さい部分を占めることができるので、検体が結合したビーズが第2ビーズと相互作用するときに、この検体は、結合を促す様態で第2ビーズに暴露されないことがある(例えば、検体が位置した側とは反対の第1ビーズの側で相互作用が起こる)。免疫複合体を形成するのに平均していくつかのビーズ相互作用が必要となることがある。この多ビーズアッセイ時間は、免疫複合体の形成に至るビーズ間の相互作用を誘発するようサンプル溶液を機能化強磁性ビーズの集団に接触させた後に、サンプル溶液を濃縮することによって短縮でき、拡散または撹拌のみで期待できる以上にビーズ動態を促進できる。
【0073】
一実施形態では、サンプル溶液を機能化強磁性ビーズの集団に接触させた後で、複合体を検出する前に、遠心分離器でサンプル懸濁液を回転させてビーズをサンプルチューブ内でペレットに濃縮することによって、複数の機能化超常磁性および機能化強磁性ビーズを凝集させることで、ビーズ間の相互作用が誘発される。この工程は、標準的な卓上遠心分離システムを用いて1分未満で実行できる。ペレット内のビーズは互いに隣接して離間または接触しており、ペレット内で多くのビーズが相互作用する。このペレットは、懸濁液を混合することによって再度懸濁させることができる。標的検体を含有する免疫複合体を形成するのに十分な相互作用がビーズ間で確実に行われるように、必要に応じてこの遠心分離過程を繰り返すことができる。
【0074】
別の実施形態では、サンプル溶液を機能化超常磁性および機能化強磁性ビーズに接触させた後に磁場勾配をサンプル溶液に印加することで、サンプル懸濁液中でビーズペレットを形成しかつビーズ間の相互作用を引き起こすために、磁気分離を使用できる。この遠心分離過程と同様に、ビーズ動態を促進するためのこの磁気アプローチは、1分未満で実行しかつ必要であれば繰り返して、標的検体を含む免疫複合体を形成することができる。この磁気アプローチは、電力消費が最小である簡素、安価、かつコンパクトな工程を実現するため永久磁石で実行できる。電磁石を用いて可動部材なしで磁場を印加してもよい。
【0075】
サンプル懸濁液の磁気分離により生成されたビーズペレットは、磁場を除去することなく、ビーズに対してサンプル溶液に印加された磁場勾配を変動または他の様態で変化させることによって撹拌できる。例えば、ビーズに異なる磁気力を印加するには、磁場強度、方向、または空間的分布を変化または振動させればよい。代替的または付加的に、サンプルチューブを磁場に対して移動させてもよい。例えば、チューブを回転させることによって、ペレットをその平衡位置から移動させることができ、ペレットが磁場勾配によって新たな位置まで引っ張られることになる。これらの変化はペレット内のビーズを互いから移動させることになり、付加的なビーズ相互作用と免疫複合体の形成を引き起こすことができる。
【0076】
さらに別の実施形態では、永久磁石を、複数タイプの磁気ビーズを備えたサンプル懸濁液を含有するチューブに対して移動させればよい。この磁石は固定的な運動パターンに従うことができる。例としては、磁石がサンプルチューブの周りを円形に周回すること、それ自身の軸で回転すること、または2点間で前後に揺動することが挙げられる。この運動は連続的としてよく、その場合、ビーズペレットはチューブ内を連続的に移動して、ビーズには液体、チューブ壁、および他のビーズからの剪断力がかかる。この運動およびビーズにかかる関連した力が、ペレットを連続的に撹拌してビーズ間の相互作用を駆動する。別の例では、この運動は、静止期間によって間隔を開けた期間毎に行えばよく、この間にビーズペレットは連続動作時に達成されるより高いビーズ密度まで濃縮される。これら異なるビーズタイプが永久磁石の磁場に有意に異なって反応する場合は、静止期間によって、これら複数ビーズタイプが連続運動時よりも効果的に共局在化できる。
【0077】
さらに別の実施形態では、複数の永久磁石を1つのプレートの別個ウェル内の複数サンプルに対して移動させることで、各ウェル内のサンプルを実質的に類似した時間および空間の磁場プロフィルに曝すことができる。このアプローチによって、ビーズ間相互作用を複数のサンプルにわたって並行して駆動でき、サンプル調製スループットを向上させる。
【0078】
サンプル懸濁液内のビーズ動態およびビーズ間相互作用を促進すると、標的検体を検出可能な多ビーズ複合体に結合させるのに必要な時間が短縮され、より高速のアッセイがもたらされる。
【0079】
さらに、この方法では、その理由は所与のリガンドが標的検体に結合する可能性が、ビーズ間相互作用の頻度が増大したことによって増加するので、ビーズ表面上で使用される結合リガンドの量を少なくできる。使用する結合リガンドの数をより少なくすると、アッセイのコストをかなり減少できる。
【0080】
多重化
アッセイでは、単一のサンプルにおける複数の別個の検体の濃度を測定することが、しばしば有用である。多重化アッセイは、別個の信号を各標的に関連付けることで別個の標的検体を測定するので、これら検体信号をアッセイ測定で区別できる。この磁気2種ビーズアッセイは、2つ以上の区別可能なビーズタイプを用いることで多重化多ビーズアッセイに一般化できる。少なくとも第3のタイプを含んだ複数の機能化ビーズであって、適切な条件下で少なくとも第2の検体と特異的に合体できる少なくとも第3の部分を含むよう機能化された複数の機能化ビーズを含んだ検体特異複合体の形成を観察することによって、異なる検体を特異的に検出できる。
【0081】
別個の磁気ビーズタイプは、磁気イメージングにより区別可能な異なる磁気特性を備えたビーズタイプを調製することで区別できる。例示的な場合では、これら別個の磁気ビーズタイプは、各ビーズタイプに個別で区別可能な量の磁気材料を加えることで調製できる。代替的には、別個の磁気ビーズタイプは、各ビーズタイプに異なる特性を示す異なる磁気材料を加えることで調製できる。上述した完全に磁気的な多ビーズアッセイは、この方式で2つのビーズタイプを区別する。多重化アッセイは、上述した異なる組合せの特性を用いて区別可能な付加的なビーズを加えることで実現できる。例えば、ビーズAは超常磁性とすることができる一方で、ビーズBおよびCは強磁性を有しており、異なる強磁性材料を含むビーズBおよびビーズCに由来する異なる保磁力を備えている。この場合、磁化後に残留磁気を測定し、次に、この残留磁化がビーズBの保磁力を上回る一方でビーズCの保磁力を上回らない反磁場の印加後に、この残留磁化が反転するかを測定することでこれらビーズは区別できる。この場合のこれら3ビーズを使用することで、上述の実施形態を用いて3つの検体用の多重化アッセイを実現できる。
【0082】
サンプル調製
多ビーズアッセイのサンプル調製に適した条件の一例は、数滴の血液を多ビーズ混合物に混ぜ合わせ、動力学的混合(kinetic mixing)を促進させつつ数分間インキュベートし、サンプル溶液をダイヤモンド面上に乾燥のため配置して、その後に磁気イメージングを行うものである。このサンプル溶液は、複合体を検出する前に部分的または完全に脱水すればよい。
【0083】
適切なサンプル調製は次のように行われる。すなわち、血漿または血清を、アッセイバッファーで1-100倍に希釈し(例えば、5 μLのサンプルを45 μLに加えることによって10倍に)、短時間にわたり渦混合する。この希釈したサンプルは、さらに50 μLのビーズ混合物で2倍希釈して最終体積を100 μLとする。ビーズ混合物は、約2,000-1,000,000(例えば、約100,000のビーズA)の超常磁性ビーズと約2,000-1,000,000(例えば、100,000ビーズB)の強磁性ビーズとを含んでいる。最終的なアッセイ反応は、100 μL中のサンプルの2-200倍(例えば、20倍)希釈である。このアッセイ反応は、室温で15分にわたり毎分回転数50-1200回(例えば、毎分回転数800回)の渦混合でインキュベートする。このサンプルは次に遠心分離器内に配置し、0.5-30分(例えば3分)にわたり500-10,000 g (例えば1500 g)で回転させ、続いてパルス渦混合する。この遠心分離および混合のサイクルは0-5回繰り返し(例えばさらに2回)、その後、サンプルを永久磁石(磁場~300 mT)に対して5-300秒(例えば30秒)にわたり配置して、磁気ビーズを反応チューブの側壁に対してペレット成形する。このアッセイボリュームはピペットで除去し、ビーズペレットを磁石に対して側壁上で完全な状態で残す。このチューブを磁石から取り外し、ペレットを渦混合によって50-1000 μL (例えば、500 μL)の洗浄バッファー内に懸濁させる。このチューブは1-5秒(例えば3秒)にわたり500-20,000 g (例えば、1500 g)でパルス回転させて流体をキャップから除去し、磁石上に10-300(例えば、30秒)にわたり置かれる。この洗浄サイクルはさらに0-5回(例えば、2回)繰り返され、合計1-6回(例えば、3回)の洗浄とする。ペレットは200 μLのイメージングバッファーで一度洗浄され、最終的に~40 μLのイメージングバッファー内で懸濁される。磁気イメージングのため約10 μLをダイヤモンドセンサーに加える。
【0084】
代替的なサンプル調製は次のように行われる。すなわち、血漿または血清を、アッセイバッファーで1-100倍希釈し(例えば、5 μLのサンプルを45 μLに加えることによって)、短時間にわたり渦混合する。この希釈したサンプルは、アッセイプレート(例えば、96個のウェル)内に入れ、さらに50 μLのビーズ混合物で2倍希釈して最終体積を100 μLとする。ビーズ混合物は、約2,000-1,000,000(例えば、約300,000のビーズA)の超常磁性ビーズと約2000-1,000,000(例えば、100,000ビーズB)の強磁性ビーズとを含んでいる。最終的なアッセイ反応は、100 μL中のサンプルの1-100倍(例えば、20倍)希釈である。このアッセイ反応を渦混合(例えば、毎分回転数850回)しながら、プレートミキサー上で室温で15分にわたってインキュベートする。このサンプルは次にプレート遠心分離器内に配置し、10-300秒(例えば2分)にわたり100-20,000 g (例えば850 g)で回転させ、続いてパルス渦混合する。この遠心分離および混合のサイクルは繰り返し(例えばさらに1回)、その後、サンプルを永久磁石(約300 mTの磁場)に対して5-300秒(例えば約60秒)にわたり配置して、磁気ビーズを反応チューブの側壁に対してペレット成形する。このアッセイボリュームはピペットで除去し、ビーズペレットを磁石に対して側壁上で完全な状態で残す。このプレートを磁石から取り外し、ペレットを渦混合によって50-400 μL (例えば、250 μL)の洗浄バッファー内に懸濁させる。プレートは、磁石上に約5-300秒(例えば、約60 秒)にわたり配置する。この洗浄サイクルはさらに1-5回(例えば、1回)繰り返され、合計2-6回(例えば、2回)の洗浄とする。最終的に、ペレットを5-100 μL (例えば、40 μL)のイメージングバッファー内に懸濁させる。磁気イメージングのため約10 μLをダイヤモンドセンサー(または薄膜カートリッジ)に加える。
【0085】
このサンプルは、全血、血液成分(血漿、血清)、組織培養、細胞培養、体液(脳脊髄液(CSF)、涙液、唾液、母乳、尿、精液、鼻汁)、組織サンプル(咥内綿棒標本、生検材料、外科切除)、組換えDNA、RNA、もしくはタンパク質、内生的DNA、RNA、もしくはタンパク質、合成核酸、またはタンパク質ペプチドなどの任意の化学または生物学的サンプルでよい。
【0086】
付加的なサンプル要件としては、0.1 μLから1000 μLまでのサンプルタイプの体積と、サンプルタイプおよび体積のアッセイバッファーへの希釈を含むことができる。サンプルタイプの希釈には、2-1,000倍の希釈を含むことができる。アッセイバッファーは、最適信号生成および最小非特異的バックグラウンドまたは任意種類の誤結合(false binding)となるよう、経験的に決定できる。
【0087】
サンプルを様々な方法、例えば、血液採取チューブ、アッセイチューブ、アッセイプレート/ウェル、マイクロ流体デバイス、反応チャンバ、インキュベーションチャンバ、側方流動デバイス、血液成分分離デバイス、または他の液体取扱または操作デバイス内の多ビーズ混合物を含むものと多くの方法で組み合わせることができる。
【0088】
サンプルは、例えば、磁場、遠心力、重力、音誘発、光誘発、電気誘発、イオン相互作用、ファンデルワールス誘発、ブラウン運動、回転、または他の機械的手段を含む、様々な方法で混合できる。
【0089】
サンプルは、対象の標的を捕捉するのに必要な例えば1秒から数時間までの範囲で、多ビーズ混合物と混合させればよい。
【0090】
サンプルは、ビーズ混合液での希釈以上に洗浄または処理したり、手動ピペットやプレート洗浄機または液体処理器で洗浄したりする必要はない。洗浄したサンプルは、アッセイ用に経験的に決定されたバッファー組成を使用するか、0.1x-10x(すなわちPBS)または1 mMから4 MのNaClおよび/または他の生体塩溶液の塩濃度を使用することができる。洗浄量は、アッセイプレートでは0-400 μL、アッセイ用遠心チューブでは0-2.0 mlとすることができる。
【0091】
サンプルは、例えば、ピペット、毛管流チューブまたはデバイス、サンプル取扱デバイス、液体取扱デバイス、総合デバイス、側方流動デバイス、使い捨てまたは再利用可能デバイスによるものを含む様々な方法で、磁気イメージング装置に導入できる。
【0092】
サンプルは、例えば、ピペット操作、流し込み、滴下、毛管流、ポンピング、重力誘発流動、磁気誘発流動、イオン誘発流動、音誘発流動、光誘発流動、機械的振動誘発流動、シース流、遠心誘発、および熱誘発流を含む、様々な様式での付加によってダイヤモンド面に配置できる。
【0093】
サンプルは、乾燥、脱水(すなわち、部分的に乾燥またはゲル化して)または湿潤状態で磁気的にイメージングできる。
【0094】
さらなる例示的実施形態
例1は、ビーズベースの検体検出用ビーズシステムであり、直径dAおよび容積磁化率XA.を備えた複数の機能化超常磁性ビーズを含む。機能化超常磁性ビーズは、サンプル溶液内の適切な条件下で検体と結びつく第1部分を含むよう機能化されている。本システムは、直径dBおよび磁気双極子モーメントpBを備えた複数の機能化強磁性ビーズをさらに含む。機能化強磁性ビーズは、サンプル溶液内の適切な条件下で検体と結びつく第2部分を含むよう機能化されている。サンプル溶液中に検体を含むサンプルと、機能化超常磁性ビーズと、機能化強磁性ビーズとを接触させると、それぞれが機能化超常磁性ビーズの1つと、検体と、機能化強磁性ビーズの1つとを含む複合体が形成され、検体は、機能化超常磁性ビーズと機能化強磁性ビーズの共局在化によって検出することができる。サンプル溶液中に検体を含まないサンプルと、機能化超常磁性ビーズと、機能化強磁性ビーズとの接触により、機能化超常磁性ビーズと機能化強磁性ビーズとの間に磁気相互作用エネルギーUintが生じることになり、磁気相互作用エネルギーUintは5kBT以下であり、ここでkBはボルツマン定数で、Tはサンプル溶液の温度である。
【0095】
例2は例1の主題を含み、直径dAは、約0.1 μmと約10 μmとの間の範囲である。
【0096】
例3は例2の主題を含み、直径dAは、約0.3 μmと約3 μmとの間の範囲である。
【0097】
例4は例3の主題を含み、直径dAは、約0.5 μmと約2 μmとの間の範囲である。
【0098】
例5は例4の主題を含み、直径dAは、約1 μmである。
【0099】
例6は例1-5の何れかの主題を含み、容積磁化率XA.は、約0.01と約10との間の範囲である。
【0100】
例7は例6の主題を含み、容積磁化率XA.は、約0.1と約5との間の範囲である。
【0101】
例8は例7の主題を含み、容積磁化率XA.は、約0.5と約3との間の範囲である。
【0102】
例9は例7の主題を含み、容積磁化率XA.は、約1.37である。
【0103】
例10は例1-9の何れかの主題を含み、直径dAは、約0.1 μmと約10 μmとの間の範囲である。
【0104】
例11は例10の主題を含み、直径dBは、約0.3 μmと約3 μmとの間の範囲である。
【0105】
例12は例11の主題を含み、直径dBは、約0.5 μmと約2 μmとの間の範囲である。
【0106】
例13は例12の主題を含み、直径dBは、約1.8 μmである。
【0107】
例14は例1-13のいずれかの主題を含み、磁気双極子モーメントpBは、0.02・( dB / [μm] )3 mA・μm2
mA・μm2との間の範囲であり、ここでμ0は真空透磁率であり、kBはボルツマン定数であり、Tはサンプル溶液の温度であり、Q(dA,dB)の数値は表1に示されている。
【0108】
例15は例14の主題を含み、磁気双極子モーメントpBは、0.2・( dB / [μm] )3 mA・μm2
mA・μm2との間の範囲である。
【0109】
例16は例15の主題を含み、磁気双極子モーメントpBは、約1.0 mA・μm2である。
【0110】
例17は例1の主題を含み、直径dAは、約0.1 μmと約10 μmとの間の範囲であり、容積磁化率XA.は、約0.01と約10との間の範囲であり、直径dBは、約0.1 μmと約10 μmとの間の範囲であり、磁気双極子モーメントpBは、0.02・( dB / [μm] )3 mA・μm2
mA・μm2との間の範囲であり、ここでμ0は真空透磁率であり、kBはボルツマン定数であり、Tはサンプル溶液の温度であり、Q(dA,dB)の数値は表1に示されている。
【0111】
例18は例1-17の何れかの主題を含み、機能化超常磁性ビーズのそれぞれは、非磁性コアと、この非磁性コアの周りに実質的に均一に分布する超常磁性材料とを含む。
【0112】
例19は例1-17の何れかの主題を含み、機能化超常磁性ビーズのそれぞれは、機能化超常磁性ビーズの体積全体にわたって実質的に均一に分布した超常磁性材料を含む。
【0113】
例20は例1-19の何れかの主題を含み、機能化強磁性ビーズのそれぞれは、機能化強磁性ビーズのコアに集中した強磁性材料を含む。
【0114】
例21は例1-19の何れかの主題を含み、機能化強磁性ビーズのそれぞれは、機能化強磁性ビーズの体積全体にわたって実質的に均一に分布した強磁性材料を含む。
【0115】
例22は例1-19の何れかの主題を含み、機能化強磁性ビーズのそれぞれは、機能化強磁性ビーズの表面に分布した強磁性材料を含む。
【0116】
例23は例1-22の何れかの主題を含み、機能化超常磁性ビーズまたは機能化強磁性ビーズのそれぞれは、当該ビーズの表面の周りに非磁性バッファー層をさらに含む。
【0117】
例24は例1-23の何れかの主題を含み、第1および第2部分のぞれぞれは、受容体、タンパク質、抗体、細胞、ウイルス、または核酸配列である。
【0118】
例25は、直径dAおよび容積磁化率XA.を備えた複数の機能化超常磁性ビーズを含むビーズシステムを含んだ検体を含む複合体を検出するためのシステムである。機能化超常磁性ビーズは、サンプル溶液内の適切な条件下で検体と結びつく第1部分を含むよう機能化されている。本システムは、直径dBおよび磁気双極子モーメントpBを備えた複数の機能化強磁性ビーズをさらに含む。機能化強磁性ビーズは、サンプル溶液内の適切な条件下で検体と結びつく第2部分を含むよう機能化されている。サンプル溶液中に検体を含むサンプルと、機能化超常磁性ビーズと、機能化強磁性ビーズとを接触させると、それぞれが機能化超常磁性ビーズの1つと、検体と、機能化強磁性ビーズの1つとを含む複合体が形成され、検体は、機能化超常磁性ビーズと機能化強磁性ビーズの共局在化によって検出することができる。サンプル溶液中に検体を含まないサンプルと、機能化超常磁性ビーズと、機能化強磁性ビーズとの接触により、機能化超常磁性ビーズと機能化強磁性ビーズとの間に磁気相互作用エネルギーUintが生じることになり、磁気相互作用エネルギーUintは5kBT以下であり、ここでkBはボルツマン定数で、Tはサンプル溶液の温度である。このシステムは、機能化超常磁性ビーズと機能化強磁性ビーズとの共局在化を検出することによって、検体を含む複合体を検出する検出装置をさらに含む。
【0119】
例26は例25の主題を含み、検出装置は、サンプルが配置される基板であって、少なくとも1つの光学検出磁気共鳴(ODMR)中心を含む基板と、少なくとも1つのODMR中心内で電子を基底状態から励起状態まで励起する入射光を発生するよう構成された光源と、バイアス磁場を少なくとも1つのODMR中心上に配置された複合体に印加する磁石と、少なくとも1つのODMR中心に入射するマイクロ波場を生成するよう構成されたマイクロ波源であって、マイクロ波源は、少なくとも1つのODMR中心での基底状態遷移に対応した周波数を備えたマイクロ波場を生成するようさらに構成されており、ここでは、少なくとも1つのODMR中心は、入射光により照らされると、放射光を発生し、放射光の特徴は、マイクロ波場によっても、複合体内で検体に結びついた磁気機能化ビーズによっても影響される、マイクロ波源と、少なくとも1つのODMR中心により放射された光を検出する光学式光検出器とを含む。
【0120】
例27は例26の主題を含み、少なくとも1つのODMR中心は、基板の炭化ケイ素格子中のケイ素空孔中心である。
【0121】
例28は例26の主題を含み、少なくとも1つのODMR中心は、基板のダイヤモンド格子中のケイ素空孔中心である。
【0122】
例29は例26の主題を含み、少なくとも1つのODMR中心は、基板のダイヤモンド格子中の窒素空孔中心である。
【0123】
例30は例26-29の何れかの主題を含み、少なくとも1つのODMR中心は基板の上面に形成されている。
【0124】
例31は例26-30の何れかの主題を含み、少なくとも1つのODMR中心は、基板の上面に形成された複数のODMR中心である。
【0125】
例32は例31の主題を含み、光学式光検出器は、複数のODMR中心からの放射光をイメージングするイメージングセンサーを備えた光学イメージングシステムである。
【0126】
例33は、検体を含む複合体を検出する方法であって、検体を含有するサンプル溶液を、適切な条件下で検体に結びつく第1部分を含むよう機能化された機能化超常磁性ビーズの集団に接触させる段階と、サンプル溶液を、適切な条件下で検体に結びつく第2部分を含むよう機能化された機能化強磁性ビーズの集団に接触させる段階であって、サンプル溶液と機能化超常磁性ビーズの集団および機能化強磁性ビーズの集団との接触は、検体がサンプル溶液に存在する場合は、複合体が形成されることになり、各複合体は、機能化超常磁性ビーズの1つと、検体と、機能化強磁性ビーズの1つとを含み、或いは、接触は、サンプル溶液中に検体が存在しない場合は、機能化超常磁性ビーズと、機能化強磁性ビーズとの間に磁気相互作用エネルギーUintを生じさせることになり、磁気相互作用エネルギーUintは5kBT以下であり、ここでkBはボルツマン定数であり、Tはサンプル溶液の温度である、接触させる段階と、機能化超常磁性ビーズと機能化強磁性ビーズとの共局在化を検出することによって、検体を含む複合体を検出する段階とを含む。
【0127】
例34は例33の主題を含み、サンプル溶液を機能化超常磁性ビーズの集団に接触させた後に、磁場勾配をサンプルに印加する段階をさらに含む。
【0128】
例35は例34の主題を含み、磁場勾配をサンプル溶液に印加する段階は、サンプル溶液を機能化強磁性ビーズの集団に接触させた後に実行される。
【0129】
例36は例33の主題を含み、機能化超常磁性ビーズの集団および機能化強磁性ビーズの集団は、サンプル溶液に順次加えられる。
【0130】
例37は例33の主題を含み、機能化超常磁性ビーズの集団および機能化強磁性ビーズの集団は、サンプル溶液に同時に加えられる。
【0131】
例38は例33の主題を含み、サンプル溶液を機能化超常磁性ビーズおよび機能化強磁性ビーズに接触させた後に、磁場勾配をサンプル溶液に印加する段階をさらに含む。
【0132】
例39は例34-38の何れかの主題を含み、サンプル溶液に印加される磁場勾配を変動させる段階をさらに含む。
【0133】
例40は例33-39の何れかの主題を含み、サンプル溶液を機能化強磁性ビーズの集団に接触させた後に、サンプル溶液を濃縮する段階をさらに含む。
【0134】
例41は例33-40の何れかの主題を含み、サンプル溶液を機能化強磁性ビーズの集団に接触させた後で、複合体を検出する前に、複数の機能化超常磁性ビーズおよび機能化強磁性ビーズを凝集させる段階をさらに含む。
【0135】
例42は例33-41のいずれかの主題を含み、複合体を含む可能性があるサンプル溶液を、その内部に形成された少なくとも1つの光学検出磁気共鳴(ODMR)中心を含む基板上に配置する段階と;少なくとも1つのODMR中心内で、電子を入射光によって基底状態から励起状態まで励起する段階と;バイアス磁場を複合体に印加する段階と;少なくとも1つのODMR中心に入射するマイクロ波場を生成する段階であって、マイクロ波場は、少なくとも1つのODMR中心での基底状態遷移に対応した周波数を含む生成する段階とをさらに含み;検体を含む複合体を検出する段階は、少なくとも1つのODMR中心によって放射された光を分析する段階をさらに含み、放射された光の特徴は、マイクロ波場によっても、複合体内で検体に結びついた機能化超常磁性ビーズおよび機能化強磁性ビーズによっても影響される。
【0136】
例43は例42の主題を含み、少なくとも1つのODMR中心はダイヤモンド格子中の窒素-空孔中心である。
【0137】
例44は例42-43のいずれかの主題を含み、少なくとも1つのODMR中心は基板の上面に形成されている。
【0138】
例45は例42-44の何れかの主題を含み、少なくとも1つのODMR中心は、基板の上面に形成された複数のODMR中心である。
【0139】
例46は例42-45の何れかの主題を含み、少なくとも1つのODMR中心から放射された光を分析する段階は、その放射光のイメージングを含む。
【0140】
例47は例42-46の何れかの主題を含み、サンプル溶液を基板上に配置した後に、サンプル溶液を脱水する段階をさらに含む。
【0141】
同等物
これまでいくつかの実施形態を説明してきたが、当業者であれば様々な変更、修正、及び改善を容易に想到できることは理解すべきである。こうした変更、修正、及び改善は本開示の一部を構成することが意図されており、本開示の趣旨及び範囲に入ることが意図されている。本明細書で示したいくつかの実例は、複数の機能又は構造的要素の具体的な組み合わせを含むが、これら機能及び要素を本開示に従い他の方法で組み合わせて、同一又は異なる目的を達成できることは理解すべきである。具体的には、一実施形態に関連して説明した動作、要素、及び特徴は、他の実施形態における類似又はそれ以外の役割から排除されることを意図したものではない。さらに、本明細書に記載された素子又は構成要素は、同一の機能を実行する付加的な構成要素にさらに分割し、或いは結合して同一の機能を実行するより少ない構成要素としてもよい。
【0142】
例示的な実施形態の上述の記載は、例証および説明を目的として示されたものである。これはすべてを網羅すること、または本開示を開示した通りの形式に限定することを意図したものでもない。この教示に照らして、多くの修正及び変更が可能である。従って、本開示の範囲は、この詳細な説明によって限定されるのでなく、添付された特許請求の範囲によって限定されることが意図されている。本願の優先権を主張して将来的に提出される出願は、開示された主題の権利を異なる様態で主張することができ、概して、本明細書で様々に開示またはそれ以外の方法で例示された1つ以上の限定の任意の組を含むこともできる。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】