IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キャンサー・リサーチ・テクノロジー・リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-06
(54)【発明の名称】がん処置のためのベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/861 20060101AFI20221226BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20221226BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221226BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221226BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221226BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221226BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20221226BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20221226BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20221226BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221226BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221226BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20221226BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221226BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221226BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20221226BHJP
【FI】
C12N15/861 Z ZNA
C12N15/864 100Z
C12N5/10
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
A61K35/761
A61K35/76
A61K39/00 H
A61K45/00
A61P35/00
A61P37/04
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61K48/00
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523067
(86)(22)【出願日】2020-10-16
(85)【翻訳文提出日】2022-06-15
(86)【国際出願番号】 GB2020052620
(87)【国際公開番号】W WO2021074648
(87)【国際公開日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】1914984.8
(32)【優先日】2019-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2009420.7
(32)【優先日】2020-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598176569
【氏名又は名称】キャンサー・リサーチ・テクノロジー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CANCER RESEARCH TECHNOLOGY LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】リー,リアン・ナイ
(72)【発明者】
【氏名】チンナカンナン,センティル
(72)【発明者】
【氏名】クレナーマン,ポール
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084AA19
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB072
4C084ZB092
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZC411
4C085AA03
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG03
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA08
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZC41
(57)【要約】
本発明は、単一のがん特異的CD8+ T細胞エピトープをコードするヌクレオチド配列を含むアデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターであって、ベクターが、膨張性メモリCD8+ T細胞応答を誘導する能力があり、ベクターが、さらなるがん特異的T細胞エピトープをコードする核酸を含まない、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターに関する。それはまた、ベクターの方法および使用に関する。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一のがん特異的CD8+ T細胞エピトープをコードするヌクレオチド配列を含むアデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターであって、ベクターが、膨張性メモリCD8+ T細胞応答を誘導する能力があり、ベクターが、さらなるがん特異的T細胞エピトープをコードする核酸を含まない、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクター。
【請求項2】
CX3CR1+、KLRG-1+、CD44+、CD62L-を含む群から選択されるマーカーによって特徴づけられるCD8+ T細胞の産生を誘導する能力がある、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
CX3CR1+、KLRG-1+、CD44+、CD62L-、CD27-(low)、CD127-(low)を含む群から選択されるマーカーによって特徴づけられるCD8+ T細胞の産生を誘導する能力がある、請求項1に記載のベクター。
【請求項4】
がん特異的CD8+ T細胞エピトープをコードするヌクレオチド配列が、12個~45個のヌクレオチド塩基対を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項5】
がん特異的CD8+ T細胞エピトープをコードするヌクレオチド配列が、24個~45個のヌクレオチド塩基対を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項6】
がん特異的CD8+ T細胞エピトープが腫瘍関連抗原に由来する、請求項1~5のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項7】
T細胞エピトープががん細胞において変異している、請求項1~6のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項8】
T細胞エピトープががん細胞において過剰発現している、請求項1~7のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項9】
T細胞エピトープが、TRP-1、CEA、TAG-72、9D7、Ep-CAM、EphA3、テロメラーゼ、メソテリン、SAP-1、Melan-A/MART-1、チロシナーゼ、CLPP、サイクリン-A1、サイクリン-B1、MAGE-A1、MAGE-C1、MAGE-C2、SSX2、XAGE1b/GAGED2a、CD45、グリピカン-3、IGF2B3、カリクレイン-4、KIF20A、レングシン、メロエ、MUC5AC、サバイビン、PRAME、SSX-2、NY-ESO-1/LAGE1、gp70、MC1R、TRP-1/-2、β-カテニン、BRCA1/2、CDK4、胎児タンパク質SIM1からなる群から選択される腫瘍関連抗原に由来する、請求項1~8のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項10】
T細胞エピトープが配列番号2(SLLMWITQC)を含む、請求項9に記載のベクター。
【請求項11】
がん特異的CD8+ T細胞エピトープが、結腸直腸がん、前立腺がん、食道がん、肝臓がん、腎がん、肺がん、乳がん、乳がん、膵臓がん、脳がん、肝細胞がん、リンパ腫、白血病、胃がん、子宮頚がん、卵巣がん、甲状腺がん、黒色腫、癌腫、頭頚部がん、皮膚がん、上咽頭がん、エプスタインバー駆動型がん、ヒトパピローマウイルス駆動型がん、および軟組織肉腫に特異的である、請求項1~6のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項12】
ヒト血清型5(AdHu5)である、請求項1~11のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項13】
CMVプロモーターを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項14】
TATAボックスを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項15】
E1およびE3タンパク質を欠損する、請求項1~14のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載のベクターを含む、免疫原性組成物。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか一項に記載の少なくとも2個のベクターを含む、免疫原性組成物。
【請求項18】
各ベクターが異なるがん特異的CD8+ T細胞エピトープをコードする、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
1つまたは複数の追加の活性成分、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、またはアジュバントを含む、請求項16~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
請求項1~15のいずれか一項に記載のベクターまたは請求項16~19のいずれか一項に記載の免疫原性組成物を含む、宿主細胞。
【請求項21】
治療における使用のための、請求項1~19のいずれか一項に記載のベクターまたは組成物。
【請求項22】
がんの処置または防止における使用のための、請求項1~19のいずれか一項に記載のベクターまたは組成物。
【請求項23】
請求項1~15のいずれか一項に記載のベクターまたは請求項16~19のいずれか一項に記載の組成物の治療有効量を投与するステップを含む、がんを処置または防止する方法。
【請求項24】
膨張性メモリCD8+ T細胞応答を誘導する方法であって、請求項1~15のいずれか一項に記載のベクターまたは請求項16~19のいずれか一項に記載の組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与するステップを含み、CD8+ T細胞が、CX3CR1+、KLRG-1+、CD44+、およびCD62L-を含む群から選択されるマーカーによって特徴づけられる、方法。
【請求項25】
ベクターまたは組成物が静脈内にまたは筋肉内に投与される、請求項21もしくは22に記載のベクターまたは組成物、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
ベクターまたは組成物が単回投与として投与される、請求項21もしくは22に記載のベクターまたは組成物、請求項23または24に記載の方法。
【請求項27】
ベクターまたは組成物が複数回投与として投与される、請求項21もしくは22に記載のベクターまたは組成物、請求項23または24に記載の方法。
【請求項28】
ベクターまたは免疫原性組成物が対象に予防的に投与される、請求項21もしくは22に記載のベクターまたは組成物、請求項23または24に記載の方法。
【請求項29】
ベクターまたは免疫原性組成物が対象に治療的に投与される、請求項21もしくは22に記載のベクターまたは組成物、請求項23または24に記載の方法。
【請求項30】
ベクターまたは組成物が免疫調節性分子と併用して、別々に、逐次的に、または同時にのいずれかで、投与される、請求項21もしくは22に記載のベクターまたは組成物、請求項23または24に記載の方法。
【請求項31】
免疫調節性分子が免疫チェックポイントインヒビターである、請求項30に記載の方法、ベクター、または組成物。
【請求項32】
免疫チェックポイントインヒビターが、CTLA-4、PD-1、PD-L1、PD-L2、TIM3、LAG-3、B7-H3、B7-H4、B7-H6、A2aR、BTLA、GAL9、およびIDOからなる群から選択される免疫チェックポイントタンパク質のインヒビターである、請求項31に記載の方法、ベクター、または組成物。
【請求項33】
i)センスおよびアンチセンスプライマーとして、エピトープをコードする核酸配列を合成するステップ、
ii)エピトープ配列をコードする核酸配列を第1のプラスミドへクローニングするステップ、
iii)エピトープをコードする核酸配列を含む配列を、アデノウイルスDNAを含む第2のベクターへクローニングするステップ、
を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載のベクターを作製する方法。
【請求項34】
請求項1~15のいずれか一項に記載のベクターまたは請求項16~19のいずれか一項に記載の組成物、1つまたは複数の追加の活性成分、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、またはアジュバント、および任意選択で使用説明書を含む、キット。
【請求項35】
請求項1~15のいずれか一項に記載のベクターまたは請求項16~19のいずれか一項に記載の組成物と細胞を接触させるステップを含む、がん特異的CD8+ T細胞エピトープに対して、動物においてT細胞免疫応答を誘導するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張性メモリCD8+ T細胞応答を誘発する能力があるベクターに関する。膨張性メモリCD8+ T細胞応答を誘発するこれらのベクターは、がんの処置に用いるのに適している。本発明はまた、そのベクターを作製するための方法、および膨張性メモリCD8+ T細胞応答を誘導するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
免疫のCD8 T細胞アームを活性化することを目指す抗がん戦略は、顕著な効力を示している。慢性感染に対する良好なCD8 T細胞応答のための必要条件とがんに対するものとの間には、かなりの重複がある-それらは、耐久性があり、機能的であり、持続的であり、正しい部位へホーミングし、長期のTCR刺激による疲弊に抵抗できなければならない。
【0003】
エピトープに基づいたがんワクチンは、特定の腫瘍関連抗原に対するT細胞応答を活性化するために用いられている一つの戦略である。当初は、ペプチドに基づいた単一エピトープワクチンが用いられたが、これらは自然免疫系を十分には活性化しなかったため、不良な臨床応答を示した。免疫活性化を増強するために、複数のエピトープが一緒に投与される、複数ペプチドのワクチンが開発された。
【0004】
複数エピトープを投与するこのアプローチはまた、アデノウイルスベクターを用いて実施されている。大きな導入遺伝子をコードする能力を有するアデノウイルスベクターを用いることにより、複数エピトープが、コードされ、かつコンカテマーとして送達され得る(BeiおよびScardino.、J Biomed Biotechnol 2010;2010:102758)。あるいは、完全長抗原がコードされ、かつ送達され得る。しかしながら、がん細胞に対する免疫活性化を向上させる必要性がなおも存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、本明細書でミニ遺伝子ベクターと呼ばれる、単一のがん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープをコードするベクターが、膨張性メモリCD8+ T細胞応答を誘導し得るという驚くべき所見から生まれている。メモリ膨張は、細胞が別個の表現型および機能を有する、安定で、拡大したCD8+ T細胞メモリプールの長期的発生を説明する。この膨張性メモリ応答は、感染の急性期を越えてまでも大量かつ機能的なままであるエピトープ特異的T細胞の長命のプールを生じる(Klernerman.、Immunol Rev 2018 283(1):99~11)。膨張性メモリ細胞の特徴は抗腫瘍応答の増強を生じ得ると考えられている。
【0006】
本発明者らは、目的のCD8+ T細胞エピトープのみが挿入される、複製欠損AdHu5アデノウイルスベクターバックボーンに基づいたワクチンプラットフォームを開発した。この様式において、抗原プロセシングの必要性が回避され、それは膨張性応答、そうでなければ、非膨張性エピトープが発生することを可能にする。そのベクターの単回のプライミング注射が、大きなエピトープ特異的CD8+ T細胞応答を生じ、そのT細胞が膨張性メモリ表現型を示すことが実証されている。驚くべきことに、生じた応答は、長命であり、予防的免疫化実験において、およびすでに腫瘍を有するマウスへ投与された場合において、免疫化から50~90日後より遅くでも、腫瘍を制御することができた。これらの応答は、長期間検出でき、PD-1が低く、チェックポイントインヒビター、Lag-3およびTim-3も低かった。比較して、完全長タンパク質抗原をコードするベクターの投与は、同じ規模のCD8+ T細胞応答も同じ表現型のCD8+ T細胞応答も生じなかった。
【0007】
アデノウイルスベクターは、一般的に、1つまたは複数のウイルス遺伝子の除去により、大きな導入遺伝子のパッケージング能力という利点を提供する。そのようなものとして、アデノウイルスベクターを用いる、エピトープに基づいたワクチンについての以前のアプローチは、コンカテマーとして複数のT細胞エピトープをコードしている。しかしながら、本アプローチは、長期かつ耐久性のある免疫応答が、およそ70bpの相対的に小さい挿入断片および最小のエンハンサーエレメントを含むアデノウイルスベクター(本明細書ではミニ遺伝子ベクターと呼ばれる)により生じ得ることを見出した。驚くべきことに、短い核酸配列がインビボで転写され、MHC分子上に成功裏に提示され、ペプチド特異的CD8+ T細胞を生成させることが示された。
【0008】
追加として、ミニ遺伝子により生じたCD8+ T細胞応答の規模および耐久性は、送達後のより遅い時期(50日目より遅く)において、複数のCD8+ T細胞エピトープを含有するアデノウイルスベクターを用いて誘導された応答において以前観察されたものより、はるかに高い規模である。短いエピトープペプチド配列をコードするアデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルスを提供することにより、そのコードされたペプチドが、MHC分子上での提示のための正常な抗原プロセシングの必要性を回避すると考えられる。これは、結果として、予測することがより容易であり、より信頼性が高く、より広範である、ならびにより頑強かつ効果的であるT細胞応答を生じる。
【0009】
これらのミニ遺伝子ベクターは、伝統的なペプチドに基づいたワクチンおよびDNAワクチンを凌ぐいくつかの利点を提供する。第1に、アデノウイルスベクターミニ遺伝子は、感染細胞内に適切なプライミング応答(同時刺激)を誘導することができる。これは、強力な抗原特異的CD8+ T細胞応答の発生をもたらす。DNAおよびペプチドワクチンは、アジュバントと組み合わせない限り、プライミング応答を誘導することができない。第2に、アデノウイルスベクターミニ遺伝子は、持続的に細胞に感染することができる。この特性は、ベクターが、抗原の長期的供給源としての役割を果たすことを可能にし、それにより、抗原特異的T細胞プールのサイズを維持し得る。第3に、ペプチドおよびDNAワクチンは、複数回のプライムブースト投与計画で、かつ通常、アジュバントと組み合わせて与えられない限り、長命の抗原特異的CD8+ T細胞応答を発生させることができない。対照的に、長命の抗原特異的CD8+ T細胞の大きなプールが、ミニ遺伝子の単回注射から生成される。これらの長命の腫瘍特異的CD8+ T細胞応答は、血液中に見出され、したがって、全身に存在する。それゆえに、それらは、原発腫瘍制御後の微小転移を抑制することにおいて重要な役割を果たし得る。最後に、アデノウイルスベクターミニ遺伝子はまた、ベクターおよびコード配列の単純さにより、設計および作製することが容易であるという利点も有する。
【0010】
そのようなものとして、本発明は、単一のがん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープをコードするヌクレオチド配列を含むアデノウイルスベクターであって、ベクターが、膨張性メモリCD8+ T細胞応答を誘導する能力がある、アデノウイルスベクターに関する。
【0011】
ある実施形態において、本発明は、単一のがん特異的CD8+ T細胞エピトープをコードするヌクレオチド配列を含むアデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、ベクターが、膨張性メモリCD8+ T細胞応答を誘導する能力がある、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに関する。ある実施形態において、ベクターは、CX3CR1+、KLRG-1+、CD44+、CD62L-を含む群から選択されるマーカーにより特徴づけられるCD8+ T細胞の産生を誘導する能力がある。ある実施形態において、ベクターは、CX3CR1+、KLRG-1+、CD44+、CD62L-、CD27(low)、CD127(low)を含む群から選択されるマーカーにより特徴づけられるCD8+ T細胞の産生を誘導する能力がある。ある実施形態において、がん特異的CD8+またはCD4+ T細胞エピトープをコードするヌクレオチド配列は、12個~45個のヌクレオチド塩基対を含む。ある実施形態において、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープをコードするヌクレオチド配列は、24個~45個のヌクレオチド塩基対を含む。ある実施形態において、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、腫瘍関連抗原に由来する。ある実施形態において、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、がん細胞において変異している。ある実施形態において、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、がん細胞において過剰発現している。ある実施形態において、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、TRP-1、CEA、TAG-72、9D7、Ep-CAM、EphA3、テロメラーゼ、メソテリン、SAP-1、Melan-A/MART-1、チロシナーゼ、CLPP、サイクリン-A1、サイクリン-B1、MAGE-A1、MAGE-C1、MAGE-C2、SSX2、XAGE1b/GAGED2a、CD45、グリピカン-3、IGF2B3、カリクレイン-4、KIF20A、レングシン、メロエ、MUC5AC、サバイビン、PRAME、SSX-2、NY-ESO-1/LAGE1、gp70、MC1R、TRP-1/-2、β-カテニン、BRCA1/2、CDK4、胎児タンパク質SIM1からなる群から選択される腫瘍関連抗原に由来する。ある実施形態において、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、配列番号1(SPSYVYHQF)または配列番号2(SLLMWITQC)を含む。ある実施形態において、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、結腸直腸がん、前立腺がん、食道がん、肝臓がん、腎がん、肺がん、乳がん、乳がん、膵臓がん、脳がん、肝細胞がん、リンパ腫、白血病、胃がん、子宮頚がん、卵巣がん、甲状腺がん、黒色腫、癌腫、頭頚部がん、皮膚がん、上咽頭がん、エプスタインバー駆動型がん(Epstein Barr driven cancers)、ヒトパピローマウイルス駆動型がん(Human Papilloma virus driven cancers)、および軟組織肉腫に特異的である。ある実施形態において、ベクターはヒト血清型5(AdHu5)である。ある実施形態において、ベクターはCMVプロモーターを含む。ある実施形態において、ベクターはTATAボックスを含む。ある実施形態において、ベクターはE1およびE3タンパク質を欠損する。ある実施形態において、ベクターは、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープをコードするいかなる追加のヌクレオチド配列も含まない。したがって、ベクターは、単一のがん特異的CD8+ T細胞エピトープを有し、その核酸の転写に必要な他のベクターエレメントを含み得るが、CD8+ T細胞エピトープではないがん特異的エピトープ、例えば、CD4+ T細胞エピトープをコードする核酸配列を含まない。さらに、それは、1つより多いがん特異的CD8+またはCD4+ T細胞エピトープを含まない。したがって、ベクター内の複数の抗がんT細胞エピトープの存在は排除される。これは、同じ抗がんT細胞エピトープの複数コピーまたは異なる抗がんT細胞エピトープのコピーを排除する。ベクターは、コンカテマー、すなわち、直列に連結された同じがん特異的T細胞エピトープの複数コピーを含有する長い連続したDNA分子を有しない。
【0012】
ある態様において、本発明は、本発明によるベクターを含む免疫原性組成物に関する。
ある態様において、本発明は、本発明による少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、または10個、20個まで、30個まで、40個まで、または50個までのベクターを含む免疫原性組成物またはワクチン組成物に関する。
【0013】
ある態様において、本発明は、本発明によるベクターまたは本発明による免疫原性組成物を含む、宿主細胞に関する。
ある態様において、本発明は、治療における使用のための、本発明によるベクターまたは組成物に関する。
【0014】
ある態様において、本発明は、本発明によるベクターまたは組成物の治療的有効量を投与するステップを含む、がんを処置または防止する方法に関する。
ある態様において、本発明は、膨張性メモリCD8+ T細胞応答を誘導する方法であって、本発明によるベクターまたは組成物の治療的有効量をそれを必要とする対象に投与するステップ、を含み、CD8+ T細胞が、CX3CR1+、KLRG-1+、CD44+、およびCD62L-を含む群から選択されるマーカーにより特徴づけられる、方法に関する。
【0015】
ある態様において、本発明は、上記のベクターを作製する方法であって:
i)センスおよびアンチセンスプライマーとして、エピトープをコードする核酸配列を合成するステップ、
ii)エピトープ配列をコードする核酸配列を第1のプラスミドへクローニングするステップ、
iii)エピトープをコードする核酸配列を含む配列を、アデノウイルスDNAを含む第2のプラスミドへクローニングするステップ、
を含む、方法に関する。
【0016】
ある態様において、本発明は、本発明によるベクター、1つまたは複数の追加の活性成分、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、またはアジュバント、および任意選択で、使用説明書を含む、キットに関する。
【0017】
ある態様において、本発明は、細胞を、本発明によるベクターまたは組成物と接触させるステップを含む、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープに対して、動物においてT細胞免疫応答を誘導するための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】AH1 CD8+ T細胞腫瘍エピトープをコードするAdHu5複製欠損ベクターでのBalb/cマウスの免疫化は、末梢において耐久性のあるCD8+ T細胞応答を刺激する。図1Aは、MHC-1結合性CT26特異的がんエピトープを発現するAdHu5ベクターの作製に用いられる構築物の概略図である。図1Bは、AH1(左)およびAd-I8V(右)ワクチン接種されたマウス由来の血液における%CD8+ AH1テトラマー+(tet+) 細胞を示すFACSプロットである。図1Cは、2つの独立した実験からの7日目(左)および50日目(右)における血液中のAH1テトラマー特異的CD8+ T細胞応答を示す図である。図1Dは、同じ試料由来の血液におけるCD8+ AH1-tet+(左)およびAH1-tet-(右)集団の示されたマーカーの存在を示すFACSプロットである。図1Eは、2つの独立した実験からの7日目(左)および50日目(右)における同じ群由来のAH1-tet- CD8+ T細胞と比較したAH1-tet+ CD8+ T細胞の表現型を示す図である。Geo M FI=幾何平均蛍光強度。
図2-1】膨張性メモリAH1特異的T細胞は、Ad-AH1での予防的ワクチン接種後も治療的ワクチン接種後も、Balb/cマウスにおいてCT26腫瘍成長の阻害を示す。(A)予防的ワクチン接種(P1およびP2の2回、独立して実施された)および治療的ワクチン接種(T1)についての実験設定を示す図である。星は、触知できる腫瘍の存在を示す。(B~D)予防的(P1およびP2)(BおよびC)および治療的ワクチン接種設定(T1)(D)における異なる群(群あたりN=5)についての腫瘍成長曲線を示す図である。T1において、矢印は、ワクチン接種の時点を示す。Ad-AH1(1×10IU)でワクチン接種されたマウスは緑色、Ad-AH1 Low(1×10IU)はオレンジ色、Ad-AH1(1×10IU)+Ad-GSW11(1×10IU)は赤色、Ad-GSW11(1×10IU)は薄紫色、Ad-I8V(1×10IU)は灰色、ナイーブマウスは黒色で示されている。TF=腫瘍なし。
図2-2】(E、G、L)曝露後18日目における群間での腫瘍サイズの統計的有意差を示す図である。点は、個々のマウスを示す。(F、H、J)グラフは、腫瘍が明らかな腫瘍成長を示す日(対照については曝露後7日目、Ad-AH1ワクチン接種マウスについては曝露後18日目)からの線形回帰により決定された腫瘍成長曲線の傾きを示す。(K)腫瘍成長速度は、比成長速度を決定するように再計算された。移植と人道的なエンドポイントとの間の腫瘍成長速度は、以下の方程式を用いて計算された比成長速度(SGR、%/日)のパラメータを用いて定量化された:[15]SGR=ln(V2/V1)/(t2-t1)、式中、V1およびV2は、移植後1日目(V1は0.01mmに固定された)(t1=0日目)およびエンドポイント(t2)、それぞれにおける腫瘍体積である。
図3】AH1特異的CD8+ T細胞は、腫瘍と脾臓の間で存在量および表現型の両方が異なる。(A)Ad-AH1ワクチン接種マウス由来の腫瘍(上部パネル)および脾臓(下部パネル)における%CD8+ AH1-tet+ 細胞を示す代表的なFACSプロット。陰性対照について、腫瘍および脾臓試料が、完全な範囲の蛍光色素コンジュゲート型抗体、および腫瘍試料についての無関係のH2-Ld結合テトラマー(pp89)または脾臓試料についてのテトラマーなし(tetなし)を用いて染色された。(B)グラフは、予防的(左パネル)および治療的(右パネル)ワクチン接種マウスからの腫瘍(上部パネル)および脾臓(下部パネル)における%CD8+ AH1-tet+ 細胞を示す。(C)予防的ワクチン接種マウス(Ad-AH1)および対照マウス(Ad-I8Vおよびナイーブ)からの腫瘍および脾臓におけるAH1特異的CD8+ T細胞の表現型を示すヒートマップ。細胞における値は、2つの独立した実験(N=5~10)の平均を示す。幾何的MFIにより定量化されたマーカーは、0~100%スケールに標準化されている。
図4】(A)Ad-AH1ワクチン接種マウス由来の腫瘍において、制御性T細胞(CD4+ FoxP3+ 細胞)の存在は、予防的ワクチン接種後(左)も治療的ワクチン接種後(右)も対照マウスと比較して低いように思われる。Ad-AH1およびAd-AH1+Ad-GSW11ワクチン接種マウスからのデータはグループ化され、同様に、Ad-I8Vワクチン接種マウスおよびナイーブマウスがグループ化された(それぞれ、ワクチン接種および対照により示されている)。(B)AdHu5-AH1-MG免疫化は、腫瘍におけるTrm tet+ 細胞のパーセンテージを増加させる。単独かまたは組み合わせてのAdHu5-AH1-MGで免疫されたマウスは、対照マウス(ナイーブまたは無関係のAdHu5構築物(AdHu5-I8V-MGまたはAdHu5-GSW11)で免疫された)と比較してレジデントメモリ表現型を有する腫瘍におけるAH-1特異的CD8 T細胞(TIL)のパーセンテージの増加を示している。
図5】AdHu5-AH1-MG免疫化は、腫瘍成長の間、機能的なままである、脾臓におけるAH-1+ CD8 T細胞を誘導する。脾細胞およびTILを、AH-1ペプチドで刺激して、IFN-ガンマ分泌に基づいたそれらの細胞傷害性潜在能力を測定した。免疫化動物由来のAH-1ペプチド特異的脾細胞は、ペプチド刺激に応答することができる(AおよびB)。対照的に、TILにおけるCD8 T細胞は、ペプチド刺激に応答しなかった(CおよびD);しかしながら、PMA-イオノマイシンに応答して分泌されたIFN-gのレベルもまた低く、腫瘍におけるCD8 T細胞下方制御の全般的な状態を示している。
図6】(A)図は、各動物(点で示されている)についての腫瘍成長曲線の傾きと血液(左)、脾臓(中央)におけるCD8+ AH-1特異的T細胞のパーセンテージ、および腫瘍におけるCD8+ AH1 tet+ 細胞の絶対数(右)との間での相関を示す。データは、2つの独立した予防的実験(P1およびP2)および単一の治療的実験(T1)について示されている。より低い腫瘍成長速度が、腫瘍曝露後の脾臓および血液におけるAH1特異的CD8+ T細胞のレベルの増加と相関しているが、腫瘍におけるAH-1特異的CD8 T細胞の絶対数とは弱く相関している。(B)は、比成長速度に関する様々なコンパートメント由来の抗原特異的細胞の比較を示す。
図7A】(A)完全長gp90をコードするAdHu5ベクター(AdHu5-gp90FL)での治療的免疫化は、類似したレベルの腫瘍制御を与えない。各群における腫瘍の比成長速度は、Mann Whitney検定を用いて比較された。p<0.05、**p<0.005。
図7B】(B)治療的および予防的免疫化により腫瘍を排除したマウスは、循環中のAH-1特異的細胞を有し続けている。6カ月前に腫瘍を完全に排除したマウスの血液がサンプリングされ、テトラマー染色によりAH1+ CD8 T細胞について染色された。
図8-1】AdHu5-NY-ESO-1157-165ミニ遺伝子構築物で免疫されたHHDマウスは、膨張性メモリ表現型を有するNY-ESO-1157-165 Tet+ CD8 T細胞の長命の循環する集団を発生した。(A) NY-ESO-1157-165 Tet+ 細胞のレベルは、HHDマウスの群(群あたりN=4~5)が1×10IU AdHu5-NY-ESO-1miniまたは1×10I.U.AdHu5-NY-ESO-1-FLで免疫された後の血液においてテトラマー染色により測定された。用いられた構築物の概略図が示されている。これらの細胞は、(B)メモリサブセットを決定するためにCD44およびCD62L、膨張性細胞のマーカー(C)CX3CR1および(D)KLRG-1、ならびに疲弊のマーカー(E)PD-1、(F)Tim3、および(G)Lag-3に関して、表面染色により表現型を決定された。示された結果は、2つの独立した実験の1つからの群あたり4~5匹のマウスからである。
図8-2】AdHu5-NY-ESO-1157-165ミニ遺伝子構築物で免疫されたHHDマウスは、膨張性メモリ表現型を有するNY-ESO-1157-165 Tet+ CD8 T細胞の長命の循環する集団を発生した。(A) NY-ESO-1157-165 Tet+ 細胞のレベルは、HHDマウスの群(群あたりN=4~5)が1×10IU AdHu5-NY-ESO-1miniまたは1×10I.U.AdHu5-NY-ESO-1-FLで免疫された後の血液においてテトラマー染色により測定された。用いられた構築物の概略図が示されている。これらの細胞は、(B)メモリサブセットを決定するためにCD44およびCD62L、膨張性細胞のマーカー(C)CX3CR1および(D)KLRG-1、ならびに疲弊のマーカー(E)PD-1、(F)Tim3、および(G)Lag-3に関して、表面染色により表現型を決定された。示された結果は、2つの独立した実験の1つからの群あたり4~5匹のマウスからである。
図9】AdHu5-NY-ESO-1157-165ミニ遺伝子の単回投与でプライムされたマウスは、腫瘍曝露後、より高いパーセンテージの循環NY-ESO-1157-165 Tet+ CD8 T細胞を発生し、腫瘍成長のより良い制御を示している。(A)1×10IU AdHu5-NY-ESO-1miniかまたは1×10I.U.AdHu5-NY-ESO-1-FLのいずれかでの免疫化後53日目(実線)または99日目(破線)において、動物に1×10(実線))かまたは5×10(破線)のいずれかのHHD-NY-ESO-1肉腫細胞を皮下(s.c)注射した。陰性対照として、マウスの群を1×10I.U.の無関係のAdHu5-ミニ遺伝子構築物で免疫するか(N=5)またはナイーブのままにしておくか(N=10)のいずれかであった。腫瘍は、1~2日ごとにデジタルカリパスを用いて測定された。(B)NY-ESO-1157-165 Tet+ 細胞の循環レベルが、腫瘍曝露から14日後に採取された血液においてテトラマー染色により測定された。(C~D)腫瘍曝露前の血液中で検出されたNY-ESO-1157-165 Tet+のレベルに対する、(C)初期(14日目)および(D)後期、27/28日目において測定された腫瘍のサイズが示されている。統計的測定はT検定により実施された。示されたデータは、2つの別々の独立した実験からである。
図10】腫瘍由来のNY-ESO-1157-165 Tet+ CD8 T細胞(TIL)は、疲弊および活性化のマーカーのレベルの上昇を示している。治癒していない潰瘍によるかまたはそれらのサイズが1300mmに近づいたときかのいずれかである、人道的なエンドポイントに達したとき、マウスは屠殺され、脾臓および腫瘍が取り出され、分析された。リンパ球は、両方のコンパートメントから単離され、(A)CD8 T細胞のパーセンテージが測定された。(B)NY-ESO-1157-165 Tet+ 細胞のパーセンテージもまた決定され、アポトーシスマーカー(F)FasLと共に、疲弊マーカー(C)PD-1、(D)Tim-3、および(E)Lag-3のレベルも決定された。
図11】AdHu5-NY-ESO-1157-165ミニ遺伝子免疫化後、CX3CR1が、脾臓およびTILにおいてNY-ESO-1157-165 Tet+ CD8 T細胞上で優先的に上方制御されている。人道的なエンドポイントに達したときにTILまたは脾臓から単離されたリンパ球が、テトラマーで染色され、Tet+ 細胞上の以下の分子のレベルが決定された。(A)脾臓および(B)TILにおける膨張性マーカーCX3CR1。(C)エフェクターメモリ表現型のマーカー、CD44およびCD62L、ならびに(D)レジデントメモリマーカーCD103およびCD69。(E)両方のコンパートメントにおけるCD4+ 制御性T細胞(Treg)のレベルもまた、細胞内染色により決定された。
図12-1】CX3CR1+ CD8 T細胞は、酸化ストレスに対してより抵抗性が高く、より高いレベルの健康な分極したミトコンドリアを含有する。(A)Ad-lacZまたはMCMV感染マウス由来のCX3CR1+/-gfp脾細胞における感染後51日目以降での細胞内活性酸素種(ROS)のレベルがCellROX Redアッセイにより検出された(N=2つの独立した実験)。(B)MCMVまたはAdHu5組換えアデノベクター(Ad-I8V)で100日より前に感染したC57BL/6マウス由来の末梢血リンパ球が、MitoTracker Green(全てのミトコンドリアを検出する)およびMitoTracker DeepRed(健康な分極したミトコンドリアのみを検出する)で染色され、その後、抗マウスCD8、抗マウスCX3CR1、LiveDead近赤外固定可能なマーカー(LiveDead nearIR Fixable Marker)で表面染色され、その後、LSRIIで分析され、データがFlowJoで計算された。抗原特異的CX3CR1+ 膨張性細胞は、より健康なミトコンドリアを含有し、酸化還元回復力の増強を示す。
図12-2】(D)および(E)は、無血清培地(すなわち、ストレス)中でインキュベートされた場合、バルク(図D)および抗原特異的集団(図E)において、CX3CR1陰性T細胞と比較してCX3CR1+ 集団が顕著に生存したことを示す。(F)は、血清飢餓での活性酸素種(ROS)のレベルを示し、CX3CR1+ T細胞(バルクおよび抗原特異的)が内因的に、より低いレベルの活性酸素種を有し、酸化ストレスに対してより抵抗性が高いことを示している。
図13】HPV16 E749-57ミニ遺伝子ベクターでの予防的免疫化は、腫瘍曝露からの保護を与える。E749-57特異的細胞は、腫瘍移植の部位へ移動することができ、腫瘍曝露からの保護を与える。
図14】MCMVに対するCD8 T細胞エピトープをコードするパネルミニ遺伝子の最適以下の用量での免疫化後の相乗効果。既知のMCMV特異的CD8 T細胞エピトープに対する3つのミニ遺伝子のパネル、すなわち、M45(985HGIRNASFI993)、M38(316SSPPMFRV325)、およびm139(419TWYGFCLL426)が構築された。これらは、C57BL/6マウスへ個々のミニ遺伝子としてかまたはカクテルとしてかのいずれかで静脈内注射された。M38およびm139をコードするミニ遺伝子は、1×10感染単位(I.U)の最適以下の用量で注射され、一方、M45をコードするミニ遺伝子は、1×10I.Uの最適用量で注射された。免疫化後6日目における血液中のM38特異的細胞のレベルが測定された。驚くべきことに、最適以下の用量のM38ミニ遺伝子およびm139ミニ遺伝子ベクター、加えて最適用量におけるM45ミニ遺伝子を含有する混合ミニ遺伝子ワクチンを受けたマウスは、最適以下の用量のM38ミニ遺伝子ベクター単独のみを注射された群と比較してより高いレベルのM38特異的T細胞を発生した。この予想外の結果は、最適以下の用量でのミニ遺伝子ベクターのカクテルの送達が、相加効果を生じて、単一ベクター単独での免疫化により観察されたものより抗原特異的T細胞の規模を増強し得ることを示唆している。
図15】AdHu5-AH1-MG免疫化マウスの腫瘍由来のCD8 T細胞は、より高いレベルのグランザイムBを発現する。15Aは、移植から23日後、免疫化から16日後の腫瘍の全CD8 T細胞におけるグランザイムBのレベル、および分析時点における腫瘍サイズを示す。15Bは、移植から23日後、免疫化から16日後の腫瘍のAH1特異的CD8 T細胞における転写因子T-betおよびEomesのレベルを示す。
図16】抗PD-L1と併用した治療的ワクチンとしてのGP70423-431(AH1)ミニ遺伝子の試験。16Aは、腫瘍曝露から7日後に、示されたアデノベクターで免疫されたマウスの群が、その後、抗PD-L1またはアイソタイプ対照で処置されたことを示す。個々のマウスの腫瘍サイズが示されている。16Bは、マウスの全ての群の生存曲線を示す。16Cは、免疫化から15日後(腫瘍曝露から22日後)の循環中のGP70423-431(AH1)Tet+ 細胞の%を示す。16Dは、各群における腫瘍の比成長速度がMann-Whitney検定を用いて比較されたことを示す。p<0.05、**p<0.005
図17-1】17A、B、C、D予防的(A、C)または治療的(B、D)ワクチン接種からの脾臓由来および腫瘍由来の単一細胞が、エクスビボで、AH1ペプチド(4μg/ml)またはPMA-イオノマイシン(IO)で7時間、刺激され、その後、IFNγの細胞内サイトカイン産生について染色された。各試料について、低レベルバックグラウンド活性化(培地のみ)が引き算された。
図17-2】17E~H 抗PD-L1と併用された治療的ワクチン接種からの脾臓由来および腫瘍由来の単一細胞が、エクスビボで、AH1ペプチド(4μg/ml)またはPMA-イオノマイシン(IO)で7時間、刺激され、その後、IFNγの細胞内サイトカイン産生について染色された。各試料について、低レベルバックグラウンド活性化(培地のみ)が引き算された。脾臓(17E)および腫瘍(17G)におけるCD8 T細胞応答、ならびに脾臓(17F)および腫瘍(17H)におけるCD4 T細胞応答が示されている。
図18】2つの腫瘍抗原をコードする2つのミニ遺伝子が腫瘍制御を向上させるかどうかを決定するためのパイロット実験。Aは、用いられたプロトコールを示す-0日目における腫瘍移植の実施、7日目におけるAdHu5-AH1ミニ遺伝子(MG)、AdHu5-e2F8-27mer MG、Combo(両方のMG - AdHu5-AH1およびAdHu5-e2F8-27mer)、無関係のAdHu5-MGのうちの1つでのワクチン接種、ワクチン接種なし、処置群あたりN=6。移植後12日目、16日目、および19日目に、各群の半分はチェックポイントインヒビター抗PD-1で処置され、群の半分はアイソタイプ対照で処置された。13日目および20日目に採血が実施された。図18B、C、D、E、およびFは、時間経過に対する腫瘍成長を示す。
図19】陰性対照および単一ミニ遺伝子でのワクチン接種と比較した、抗PD-1を加えた混合ミニ遺伝子処置の比較を示す。
図20】混合ミニ遺伝子処置、単一ミニ遺伝子処置、および陰性対照についての線形回帰により計算された腫瘍の成長速度。
図21】混合ミニ遺伝子処置でのワクチン接種ならびに単一ミニ遺伝子AdHu5-AH1およびAdHu5-e2F8-27merでのワクチン接種から産生され、ワクチン接種から6日後に測定された、%CD8+ AH1-tet+ 細胞および%CD8+ ef28-tet+ 細胞。
図22-1】2つのミニ遺伝子構築物/ワクチン(combo-AdHu5-AH1およびAdHu5-e2F8)での同時的静脈内免疫化が、ワクチン接種から11日後に測定された単一ワクチンと類似した規模および表現型での両方の抗原特異的集団を誘導する。
図22-2】2つのミニ遺伝子構築物/ワクチン(combo-AdHu5-AH1およびAdHu5-e2F8)での同時的静脈内免疫化が、ワクチン接種から11日後に測定された単一ワクチンと類似した規模および表現型での両方の抗原特異的集団を誘導する。
図23】がん細胞におけるCD8 T細胞エピトープをターゲットする2つのミニ遺伝子(AdHu5-AH1およびAdHu5-e2F8)での免疫化は、腫瘍成長を制御する。図20における線形回帰データが、比成長速度として再計算されている。
図24】メモリT細胞の非通常性サブセット:膨張性メモリT細胞の転写プロファイリング。(A)膨張性/非膨張性CD8 T細胞のPCA。急性期(7日目または21日目)およびより遅い時期(50日目または100日目)における、膨張性試料(M38、D8V(より遅い時期)、すなわち、膨張性メモリ、青色の円で囲まれている)および非膨張性試料(M45、I8V(より遅い時期)、すなわち、セントラルメモリ、茶色の円で囲まれている)、ならびにナイーブ試料の2つの独立したモデルの転写プロファイルの分布を示す3D PCA。(B)疲弊/非疲弊CD8 T細胞のPCA。異なる時期における、非疲弊試料(30日目におけるArm、球形は青色の円で囲まれている)と共に、疲弊のモデル(30日目におけるCl13、四面体は灰色の円で囲まれている)、およびナイーブ試料の転写プロファイルの分布を示す3D PCA。時期:6日目(黄色)、8日目(茶色)、15日目(ピンク色)、30日目(黒色)、ナイーブ(緑色)。
図25】膨張性メモリサブセットは、他のT細胞メモリサブセットと比較して異なる遺伝子モジュールを発現する。(A)膨張性試料の重み付け遺伝子同時発現ネットワーク分析。遺伝子同時発現ネットワーク分析は、6つの遺伝子モジュールを検出した(マージ距離=0.25、soft-thresholding power β=9);青色モジュール(強調)遺伝子は、免疫関連GOカテゴリーに関して濃縮されており、Tbx21、Eomes、Zeb2、およびE2f2などの関連遺伝子を含有する。(B)青色モジュール遺伝子に基づいた膨張性/疲弊試料のPCA。最初の3つの主成分を用い、かつ膨張性試料のみの遺伝子同時発現ネットワーク分析における青色モジュールとして検出された588個の遺伝子の遺伝子セットに基づいたPCAプロット。プロットは、ナイーブ(緑色)、非膨張性および非疲弊(青色)、ならびに膨張性および疲弊(赤色)試料の分布を示す(球形:疲弊研究;四面体:膨張研究)(膨張性メモリ集団は、青色の円で囲まれた赤色四面体である)。(C)青色モジュール遺伝子に基づいた膨張性/疲弊試料の階層的クラスタリング。外れ値を除去した後(Soft-thresholding power β=20)に膨張性試料の反復遺伝子同時発現ネットワーク分析において青色モジュールとして検出された469個の遺伝子の遺伝子セットに基づいた、膨張性-疲弊マージセットに関する試料クラスタリング分析(ユークリッド距離)を示すデンドログラムプロット。メモリ膨張クラスターは長方形に含有されている。
図26A】(A)ミニ遺伝子免疫原カセットを有するAdHu5アデノウイルスの概略図およびミニ遺伝子免疫原カセットのクローズアップ表示を示す。
図26B】(B)ミニ遺伝子免疫原カセットと共のAAV ITRの概略図、およびミニ遺伝子免疫原カセットのクローズアップ表示を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ここで、本発明は、さらに記載される。以下の段落において、本発明の種々の態様はより詳細に定義されている。そのように定義された各態様は、明らかにそれとは反対に示されていない限り、任意の他の態様と組み合わせられ得る。特に、好ましいまたは有利であるとして示された任意の特徴は、好ましいまたは有利であるとして示された任意の他の特徴と組み合わせられ得る。本発明の実践は、他に指定がない限り、当業者の能力の範囲内である、免疫学、分子生物学、化学、生化学、および組換えDNAテクノロジーの通常の技術を用いる。そのような技術は、文献に十分、説明されており、例えば、GreenおよびSambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第4版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(2012)を参照されたい。
【0020】
本発明は、単一のがん特異的エピトープをコードするアデノウイルスベクターが、膨張性メモリCD8+ T細胞応答を生じるという驚くべき所見に基づいている。膨張性メモリ応答という用語は、持続的で、機能的で、耐久性のあるCD8+ T細胞応答を指す。生じたCD8+ T細胞のプールは、長期TCR刺激により起こり得る疲弊に抵抗することができる。T細胞疲弊は、PD-1、Tim-3、およびLag-3などのマーカーの上方制御により特徴づけられ得る。
【0021】
膨張性メモリCD8+ T細胞は、他のCD8+ メモリサブセットと比較して独特な表現型により特徴づけられ、例として、マーカーCX3CR1およびKLRG-1の発現が挙げられる。その細胞はまた、セントラルメモリT細胞サブセットとも疲弊メモリT細胞サブセットとも異なる転写プロファイルを示す。その細胞はまた、内因的に活性酸素種のより低いレベルによる可能性がある酸化還元回復力の増強および酸化ストレスに対する回復力などの特徴を示す。特に、転写プロファイルは、転写因子Tbx21により駆動され、Eomesからの寄与は最小である。これは結果として、長命であり、かつエフェクター機能を保持しながら末梢器官において大量に存在するCD8+ T細胞表現型を生じる。抗原特異的膨張性メモリCD8+ T細胞は、独特なセットのプロセシング、提示、および共刺激の条件を通して発生する。エピトープのプロセシングは、免疫プロテアソームとは無関係に起こり、より後期における非造血性非通常性APCによる提示が、この表現型を保存するのに役立ち得る。理論によって縛られるものではないが、目的の単一エピトープをコードする本発明のベクターを用いることにより、抗原プロセシングの必要性が回避され、それにより、膨張性メモリ応答を生じると考えられる。
【0022】
ある実施形態において、本発明は、単一のがん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープをコードするヌクレオチド配列を含むアデノウイルスベクターであって、前記ベクターが膨張性メモリCD8+ T細胞応答を誘導する能力がある、ベクターに関する。ある実施形態において、アデノウイルスベクターは、単一のがん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープ、例えば、単一のがん特異的CD8+ T細胞エピトープをコードするヌクレオチド配列を含み、そのベクターは、いかなる追加のがん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープも含まない。そのようなものとして、本発明のベクターは、単一のがん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープ、例えば、単一のがん特異的CD8+ T細胞エピトープをコードする。本発明は、1つより多いまたは複数のがん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープをコードするアデノウイルスベクターにまで及ぶことはない。
【0023】
ある実施形態において、本発明は、単一のがん特異的CD8+ T細胞エピトープをコードするヌクレオチド配列を含むアデノウイルスベクターであって、前記ベクターが膨張性CD8+ T細胞応答を誘導する能力がある、ベクターに関する。ある実施形態において、アデノウイルスベクターは、単一のがん特異的CD8+ T細胞エピトープをコードするヌクレオチド配列を含み、そのベクターはいかなる追加のがん特異的CD8+ T細胞エピトープも含まない。そのようなものとして、本発明のアデノウイルスベクターは、単一のがん特異的CD8+ T細胞エピトープをコードする。本発明は、1つより多いまたは複数のがん特異的CD8+ T細胞エピトープをコードするアデノウイルスベクターにまで及ぶことはない。
【0024】
単一のがん特異的CD8+ T細胞エピトープをコードする本発明のベクターは、単回投与から、持続的で、機能的で、耐久性のあるCD8+ T細胞応答を発生させることができる。生じたCD8+ T細胞のプールは、長期TCR刺激により起こり得る疲弊に抵抗することができる。生じたCD8+ T細胞のプールはまた、酸化還元回復力の増強および低レベルの活性酸素種を示し得る。
【0025】
本明細書で用いられる場合、用語「ベクター」は、そのベクター配列が連結されている別の核酸を細胞へ輸送する能力がある核酸配列を指す。本発明のベクターは、アデノウイルスであり、細胞による発現に適した(例えば、転写調節エレメントに連結された)形態をとる遺伝子構築物を含有する、単一のがん特異的CD8+またはCD4+ T細胞エピトープをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0026】
本明細書で用いられる場合、用語「エピトープ」は、短いタンパク質配列であり得る、免疫系により認識される抗原の一部を指す。「がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープ」は、MHC分子と結合した抗原提示細胞により提示され得、その後、T細胞受容体(TCR)により認識されるエピトープを指す。CD4+ T細胞は、MHC IIと結合するCD4共受容体を発現し、MHC II分子により提示されたペプチドを認識する。CD8+ T細胞は、MHC Iと結合するCD8共受容体を発現し、MHC I分子により提示されたペプチドを認識する。
【0027】
膨張性メモリT細胞は、特異的なマーカーおよび細胞表面マーカーの存在により特徴づけられ得る。これらのマーカーを同定および定量化するための方法は当技術分野において周知されている。適切な方法の例には、親和性に基づいた分離方法、磁気細胞ソーティング技術、FACS(蛍光活性化細胞ソーティング)などの蛍光に基づいた細胞ソーティング技術が挙げられるが、それらに限定されない。膨張性メモリCD8+ T細胞は、いくつかのマーカーの存在により特徴づけることができ、そのマーカーの例には、CX3CR1、KLRG-1、CD44が挙げられるが、それらに限定されない。膨張性メモリCD8+ T細胞はまた、いくつかのマーカーの低発現により特徴づけることができ、そのマーカーの例には、CD62L、CD27、CD127が挙げられるが、それらに限定されない。用語「低発現」は、そのマーカーの発現がない細胞を指す場合があり、その用語はまた、試料において他の細胞と比べてそのマーカーの発現が低い細胞を指す場合もある。
【0028】
ある実施形態において、膨張性メモリCD8+ T細胞は、CX3CR1+、KLRG-1+、CD44+、CD62L-を含む群から選択されるマーカーにより特徴づけられ、ただし、記号表示(+)はそのマーカーの存在を示し、記号表示(-)はそのマーカーの低発現または発現なしを示す。(-)記号表示が低発現を意味する場合、これは、「(low)」によりさらに示される場合がある。膨張性メモリCD8+ T細胞は、CX3CR1+、KLRG-1+、CD44+、CD62L-、CD27-(low)、CD127-(low)を含む群から選択されるマーカーにより特徴づけられ得る。
【0029】
膨張性メモリCD8+ T細胞は、表現型CX3CR1+、KLRG-1+、CD44+、CD62L-により特徴づけられ得る。膨張性メモリCD8+ T細胞は、表現型CX3CR1+、KLRG-1+、CD44+、CD62L-、CD27-(low)、CD127-(low)により特徴づけられ得る。
【0030】
膨張性メモリ応答において産生されたCD8+ T細胞は、いくつかの他の特性を有し得る。例えば、細胞は、Tbx21(T-betとも呼ばれる)により駆動された転写プロファイルを含む。これらの細胞は、Tbx21の持続発現を示す。その細胞はまた、一般的に細胞成長および増殖に関与する転写因子、E2f2の持続発現を示し得る。その細胞はまた、転写因子Eomesの発現を欠き、または低い発現を有し得る。
【0031】
膨張性メモリCD8+ T細胞は、抗原への曝露後、古典的収縮を示し得ない。抗原への曝露後の古典的なメモリ進化の間、細胞は、全循環CD8+ T細胞の1%未満を構成する収縮したセントラルメモリプールを形成する。しかしながら、膨張性メモリ細胞は、血液中を循環する細胞の大きなプールとして維持される。そのようなものとして、ある実施形態において、生じた膨張性メモリCD8+ T細胞は、全CD8+ T細胞のおよそ2%~およそ20%、好ましくは全CD8+ T細胞のおよそ8%~およそ20%、より好ましくは全CD8+ T細胞のおよそ12%~およそ20%を形成する。
【0032】
ある実施形態において、膨張性メモリCD8+ T細胞の大きなプールは、それらのエフェクターメモリ表現型を保持する。生じた膨張性メモリCD8+ T細胞は、それらのメモリエフェクター表現型を長期間、保持し得、そのエフェクター表現型はCD44+、CD62L-により特徴づけられる。膨張性メモリCD8+ T細胞は、本発明のベクターへの曝露後最長60日間、本発明のベクターへの曝露後最長55日間、本発明のベクターへの曝露後最長50日間、本発明のベクターへの曝露後最長40日間、または本発明のベクターへの曝露後最長30日間、それらのメモリエフェクター表現型を保持し得る。
【0033】
膨張性メモリCD8+ T細胞はまた、疲弊のマーカーを欠損し得る。T細胞疲弊は、過剰なTCR(T細胞受容体)刺激から起こり得る。T細胞疲弊のマーカーは、PD-1、Tim-3、Lag-3などのマーカーの上方制御を含み得る。そのようなものとして、ある実施形態において、膨張性メモリCD8+ T細胞は、PD-1、Tim-3、Lag-3からなる群から選択されるマーカーを欠きまたはその低発現を示し得る。
【0034】
単一のがん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープをコードするヌクレオチド配列は、およそ12塩基対~およそ45塩基対までを含み得、別の実施形態において、前記ヌクレオチド配列はおよそ15塩基対~およそ45塩基対を含み得、別の実施形態において、前記ヌクレオチド配列はおよそ18塩基対~およそ45塩基対を含み得、別の実施形態において、前記ヌクレオチド配列はおよそ21塩基対~およそ45塩基対を含み得、好ましい実施形態において、前記ヌクレオチド配列はおよそ24塩基対~およそ45塩基対を含み得る。そのようなものとして、ベクターは、およそ5アミノ酸~およそ15アミノ酸を含む単一のがん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープをコードし、別の実施形態において、ベクターはおよそ6アミノ酸~およそ15アミノ酸を含むエピトープをコードし、別の実施形態において、ベクターはおよそ7アミノ酸~およそ15アミノ酸を含むエピトープをコードし、好ましい実施形態において、ベクターはおよそ8アミノ酸~およそ15アミノ酸を含むエピトープをコードする。
【0035】
単一のがん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、それが免疫応答を誘発する点において免疫原性エピトープである。T細胞エピトープは、その後の免疫応答を惹起するために主要組織適合複合体と結合する。そのようなものとして、ある実施形態において、そのエピトープは、MHC分子に結合し、かつ提示される能力がある。MHCと結合し、それにしたがって、免疫応答を生じさせるエピトープを同定するための、当技術分野において知られた多数の方法がある。これらの方法は、ペプチド-MHC結合予測モデルを含み、そのモデルの、公的に利用可能な多数のプログラムがある。
【0036】
ある実施形態において、単一のがん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、腫瘍関連抗原(TAA)に由来する。TAAは、がんによって産生された抗原性産物であり、それは、腫瘍の標的同定のためのバイオマーカーを提供する。TAAは、異常に発現した自己抗原、変異した自己抗原、および腫瘍特異的抗原へ大きく分類され得る。そのようなものとして、TAAは、がん細胞において上方制御されまたは過剰発現し得る。TAAは、がん細胞内で変異し得る。TAAは、がん細胞に特異的であり、かつがん細胞内でのみ発現する場合があり、これは、腫瘍特異的抗原とも呼ばれ得る。
【0037】
ある実施形態において、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、がん細胞において変異している。ある実施形態において、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、がん細胞において過剰発現している。ある実施形態において、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、非コード腫瘍特異的エピトープである。本明細書で用いられる場合、用語「非コード腫瘍特異的エピトープ」は、がん細胞に見出されるペプチドであって、そのペプチドが、健康な細胞において後成的に抑制されているヌクレオチド配列に由来する、ペプチドを指す。これらのペプチド配列は、腫瘍細胞内で異常に発現している。
【0038】
ある実施形態において、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、潜在性エピトープではない。本明細書で用いられる場合、「潜在性エピトープ」とは、免疫適格性個体において免疫原性ではないエピトープを指す。
【0039】
ある実施形態において、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、ウイルス性に駆動されたがんに関連しているウイルスエピトープであり得る。ウイルス性に駆動されたがんは、HPV(ヒトパピローマウイルス)、HTLV(ヒトTリンパ球向性ウイルス)、またはEBV(エプスタインバーウイルス)であり得る。
【0040】
ある実施形態において、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、TRP-1、CEA、TAG-72、9D7、Ep-CAM、EphA3、テロメラーゼ、メソテリン、SAP-1、Melan-A/MART-1、チロシナーゼ、CLPP、サイクリン-A1、サイクリン-B1、MAGE-A1、MAGE-C1、MAGE-C2、SSX2、XAGE1b/GAGED2a、CD45、グリピカン-3、IGF2B3、カリクレイン-4、KIF20A、レングシン、メロエ、MUC5AC、サバイビン、PRAME、SSX-2、NY-ESO-1/LAGE1、gp70、MC1R、TRP-1/-2、β-カテニン、BRCA1/2、CDK4からなる群から選択される腫瘍関連抗原に由来する。
【0041】
がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、プライベートエピトープであり得る。本明細書で用いられる場合、用語「プライベートエピトープ」は、もっぱら、たった一人のがんにおけるたった1つの抗原にだけ見出されるエピトープを指す。がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、パブリックエピトープであり得る。本明細書で用いられる場合、用語「パブリックエピトープ」は、2人以上の人のがんに見出されるエピトープを指す。
【0042】
ある実施形態において、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、ネオエピトープであり得る。本明細書で用いられる場合、用語「ネオエピトープ」は、腫瘍細胞内での変異を通して生じているエピトープを指し、特に、体細胞変異またはパッセンジャー変異が、ネオエピトープの生成をもたらし得る。ある実施形態において、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、ネオエピトープではない。
【0043】
ある実施形態において、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、結腸直腸がん、前立腺がん、食道がん、肝臓がん、腎がん、肺がん、乳がん、乳がん、膵臓がん、脳がん、肝細胞がん、リンパ腫、白血病、胃がん、子宮頚がん、卵巣がん、甲状腺がん、黒色腫、癌腫、頭頚部がん、皮膚がん、上咽頭がん、エプスタインバー駆動型がん、ヒトパピローマウイルス駆動型がん、および軟組織肉腫に特異的である。本明細書で用いられる場合、用語「がん」は、異常な細胞成長を有する疾患を指し、本明細書で用いられる場合、その用語は、原発腫瘍と原発腫瘍の転移の両方を指す。
【0044】
ある実施形態において、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、配列番号1(SPSYVYHQF)または配列番号2(SLLMWITQC)または配列番号37(SLLMWITQV)を含む。がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープが、ウイルス性に駆動されたがんに関連しているウイルスエピトープである場合、そのエピトープは、配列番号7(RAHYNIVTF)を含み得る。ウイルス性に駆動されたがんは、EBV駆動型がん、HTL駆動型がん、およびHPV駆動型がんから選択され得る。EBV駆動型がんは、ホジキンリンパ腫(HL)、バーキットリンパ腫(BL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、ならびに深刻な免疫障害に関連した2つのより希少な腫瘍、形質芽球性リンパ腫(PBL)および原発性体腔性リンパ腫(PEL)、T細胞またはNK細胞のLPDおよび悪性リンパ腫、上皮由来の上咽頭癌腫(NPC)および胃癌腫、ならびに平滑筋肉腫から選択され得る。HPV駆動型がんは、肛門生殖器がん、中咽頭がん、口腔がん、頭頸部扁平上皮がん、および咽頭がんを含み得る。
【0045】
ある実施形態において、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、表1におけるエピトープのうちの1つまたは複数を含む。
【0046】
【表1】
【0047】
さらに、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープは、プロテオミクスアプローチ、質量分析アプローチ、ゲノムアプローチ、トランスクリプトーム分析、バイオインフォマティクスアプローチ、およびインシリコ方法などの当技術分野において知られた技術を用いて決定され得る。当業者が、本発明のベクター内にコードされるべき適切なエピトープを選択することは可能である。
【0048】
がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞をコードする核酸は、哺乳動物コドン使用頻度について最適化されたコドンであり得る。適切には、その核酸配列は、ヒトコドン使用頻度について最適化されたコドンであり得る。
【0049】
ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)を含み得る。ベクターはアデノウイルスを含み得る。
アデノウイルスベクターまたはAAVベクターはまた、エンハンサーおよびプロモーター領域などの追加の特徴を有し得る。ある実施形態において、ベクターは、強いプロモーターを含み得、その例には、CMVプロモーター、RSVプロモーター、EF1αプロモーターが挙げられるが、それらに限定されない。好ましい実施形態において、ベクターは、CMVプロモーターを含み、CMVプロモーターについての適切な配列は、配列番号18に提供されている。ある実施形態において、ベクターは、TATAボックスを含み得る。ある実施形態において、ベクターは、翻訳開始配列、例えばコザック配列を含む。コザック配列は、コンセンサス配列(gcc)gccRccAUGGを有し、適切なコザック配列は、配列番号19に提供されている。ある実施形態において、ベクターは、終結配列および/またはポリアデニル化配列を含む。適切なポリアデニル化配列は、配列番号34に提供されている。AAVベクターは、逆方向末端反復(ITR)配列を含み得る。適切なITR配列は、配列番号42に提供されている。
【0050】
ある実施形態において、ベクターは、追加のがん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープを含まない。ベクターは、単一のがん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープをコードするだけである。ある実施形態において、アデノウイルスベクターは、ベクターバックボーン、プロモーター領域、および単一のがん特異的CD8+ T細胞エピトープをコードするヌクレオチド配列からなる。アデノウイルスバックボーンは、エンハンサー領域、プロモーター領域、TATAボックス、翻訳開始配列などの追加の特徴を含み得る。
【0051】
AAVベクターは、血清型1、2、3、4、5、6、7、8、または9であり得る。好ましい実施形態において、AAVベクターは、血清型2または5であり得る。AAVベクターはITR配列を含み得、好ましい実施形態において、そのITR配列は、コードされたがん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープに隣接する。がん特異的エピトープの5’側に存在するITR配列、およびがん特異的エピトープの3’側に存在するITR配列があり得る。5’ITR配列は、配列番号39を含み得る。3’ITR配列は配列番号42を含み得る。AAVベクターは、がん特異的エピトープの5’側に配列、例えば配列番号38を含み得る。AAVベクターは、がん特異的エピトープの3’側に配列、例えば配列番号41を含み得る。がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープを含むAAVベクターを産生するために、ヘルパープラスミドが用いられ得る。ヘルパープラスミドは、AAV複製またはパッケージングに必要とされる遺伝子を提供するために用いられ得る。ある実施形態において、ヘルパープラスミドは、E2A、E4、およびVAアデノウイルスタンパク質をコードし、ならびに/またはAAVのrepおよびcap遺伝子をコードする。
【0052】
アデノウイルスベクターは種Cの血清型であり得る。種Cは、Ad1、2、5、および6血清型を含む。好ましい実施形態において、アデノウイルスベクターはヒト血清型5(AdHu5)である。アデノウイルスベクターが、例えば免疫原性を低下させ、かつそのベクターのバイオセーフティを向上させるために、改変されることは好ましくあり得る。そのようなものとして、アデノウイルスベクターは、複製不能であり得る。アデノウイルスベクターは、E1およびE3タンパク質を欠損し得る。アデノウイルスベクターは、がん特異的エピトープの5’側に配列、例えば配列番号13を含み得る。アデノウイルスベクターは、がん特異的エピトープの3’側に配列、例えば配列番号14を含み得る。
【0053】
他のアデノウイルスベクターもまた、本発明のためのベクターに適し得る。ある実施形態において、ベクターは、動物、例えば、イヌ、サル、特にアカゲザルおよびチンパンジー由来のアデノウイルスベクターであり得る。ある実施形態において、アデノウイルスベクターは、非ヒト霊長類に由来した希少な血清型ベクターであり得る。チンパンジーに由来したベクターは、本発明のためのベクターに適し得、例には、ChAd63、ChAd3、ChAdY25が挙げられるが、それらに限定されない。
【0054】
ある実施形態において、上記で定義されているようなベクターを含む免疫原性組成物が提供される。免疫原性組成物はさらに、1つまたは複数の追加の活性成分、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、またはアジュバントを含み得る。
【0055】
本発明によるベクターを含む免疫原性組成物は、本発明によるベクターを含む少なくとも1つの他の免疫原性組成物と組み合わせて用いられ得、各ベクターが、異なるがん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープをコードする。本発明による第1のベクターを含む免疫原性組成物は、本発明による第2のベクターを含む免疫原性組成物と別々に、逐次的に、または同時に投与され得る。
【0056】
ある実施形態において、免疫原性組成物は、本発明による少なくとも2つのベクターを含み得る。少なくとも2つのベクターが、異なるがん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープをコードすることは、好ましくあり得る。さらなる追加のベクターが組成物中に存在する場合、そのベクターは、異なるがん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープをコードし得る。免疫原性組成物はさらに、1つまたは複数の追加の活性成分、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、またはアジュバントを含み得る。理論によって縛られるものではないが、異なるエピトープをコードするベクターのカクテルの使用は、結果として、より強い免疫応答を生じ得、さらに、免疫応答を増強する相乗効果があり得る。
【0057】
本発明の組成物は、本明細書に記載されているような少なくとも2つのベクターを含む場合、そのベクターは、同じ時点または異なる時点での投与のための別々の薬物として提供され得る。
【0058】
ある実施形態において、本明細書に記載されているような少なくとも2つのベクターを含む場合、そのベクターは、異なる時点での投与のための別々の薬物として提供され得る。別々にかつ異なる時点で投与される場合、一方のベクターが最初に投与され得る。いくつかの実施形態において、両方が、同じ日または異なる日に投与され得、それらは、処置サイクルの間、同じスケジュールまたは異なるスケジュールを用いて投与され得る。
【0059】
あるいは、組成物が、本明細書に記載されているような少なくとも2つのベクターを含む場合、そのベクターの投与は、同時に実施され得る。同時投与が用いられる場合、ベクターは、別々の薬学的組成物として製剤化され得る。好ましい実施形態において、少なくとも2つのベクターは、単一の薬学的組成物として製剤化され得る。
【0060】
本発明の組成物は、液体、例えば、溶液、乳濁液、または懸濁液の形態をとり得る。本発明の液体組成物は、それらが溶液であろうと、懸濁液であろうと、または他の同類の形であろうと、以下のうちの1つまたは複数も含み得る:水、食塩水、好ましくは生理食塩水、リンゲル液、等張食塩水、合成モノもしくはジグリセリド、ポリエチレングリコール、グリセリンなどの固定油、または他の溶媒などの無菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗細菌剤;および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張度の調整のための作用物質。組成物は、ガラス、プラスチック、または他の材料でできたアンプル、使い捨てシリンジ、または複数回投与用バイアルに封入され得る。
【0061】
本発明のベクターまたは組成物の静脈内製剤は、無菌注射用水性液または非水性(例えば、油性)溶液または懸濁液の形態をとり得る。無菌注射用調製物はまた、無毒の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の無菌注射用溶液または懸濁液、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液であり得る。許容される媒体および溶媒の中で用いられ得るものは、水、リン酸緩衝溶液、リンゲル液、および等張食塩水である。加えて、無菌固定油が溶媒または懸濁化剤として用いられ得る。この目的のために、任意の無刺激性の固定油が用いられ得、それには、合成モノまたはジグリセリドが挙げられる。加えて、オレイン酸などの脂肪酸が、本発明の静脈内製剤の調製に用いられ得る。
【0062】
免疫原性組成物は、薬学分野において周知された方法論を用いて調製され得る。例えば、注射により投与されることを意図される組成物は、溶液を形成するために本発明のベクターを水と組み合わせることにより調製され得る。均一な溶液または懸濁液の形成を促進するために、界面活性剤が加えられ得る。
【0063】
ある実施形態において、本発明は、本明細書に記載されているようなベクターまたは免疫原性組成物を含む宿主細胞に関する。宿主細胞は、哺乳動物、例えばヒトまたはマウスであり得る。宿主細胞はベクターを形質導入され得る。宿主細胞は、アデノウイルスストックを作製するために用いられ得る。
【0064】
ある実施形態において、ベクターまたは免疫原性組成物は、治療用である。好ましい実施形態において、ベクターまたは免疫原性組成物は、がんの処置または防止用である。
用語「処置」は、疾患、病的状態、または障害を治癒させ、改善し、安定化させ、または防止する意図での患者の医学的管理を指す。この用語は、積極的療法、すなわち、疾患、病的状態、または障害の好転へ特定的に向けられた処置を含み、およびまた原因療法、すなわち、関連した疾患、病的状態、または障害の原因の除去へ向けられた処置も含む。加えて、この用語は、対症療法、すなわち、疾患、病的状態、または障害の治癒よりむしろ症状の軽減のために設計された処置;予防的療法、すなわち、関連した疾患、病的状態、または障害の発生を最小限にし、または部分的もしくは完全に阻害することに向けられた処置;および支持療法、すなわち、関連した疾患、病的状態、または障害の好転へ向けられた別の特定的治療を補うために用いられる処置を含む。
【0065】
本発明はさらに、がんを処置または防止する方法であって、それを必要とする対象に、本発明によるベクターまたは組成物の治療的有効量を投与するステップを含む、方法に関する。
【0066】
ある実施形態において、本発明は、がんの処置または防止のための薬物の製造における本明細書に記載されたベクターまたは組成物の使用に関する。ある実施形態において、本発明は、がんの処置または防止における本明細書に記載されたベクターまたは組成物の使用に関する。
【0067】
本明細書で用いられる場合、用語「治療的有効な」は、用いられる組成物の量が、疾患または障害の1つまたは複数の原因または症状を改善するのに十分な量であることを指す。そのような改善は、低下または変化を必要とするだけであり、必ずしも除去を必要としない。
【0068】
本発明はまた、膨張性メモリCD8+ T細胞応答を誘導する方法であって、前記方法が、それを必要とする対象に、本発明によるベクターまたは組成物の治療的有効量を投与するステップを含み、前記CD8+ T細胞が、CX3CR1+、KLRG-1+、CD44+、およびCD62L-を含む群から選択されるマーカーによって特徴づけられる、方法を提供する。
【0069】
好ましくは、CD8+ T細胞は、表現型CX3CR1+、KLRG-1+、CD44+、およびCD62L-により特徴づけられる。より好ましくは、それらは、表現型CX3CR1+、KLRG-1+、CD44+、CD62L-、CD27(low)、CD127(low)により特徴づけられる。
【0070】
ベクターまたは免疫原性組成物は、結腸直腸がん、前立腺がん、食道がん、肝臓がん、腎がん、肺がん、乳がん、乳がん、膵臓がん、脳がん、肝細胞がん、リンパ腫、白血病、胃がん、子宮頚がん、卵巣がん、甲状腺がん、黒色腫、癌腫、頭頚部がん、皮膚がん、および軟組織肉腫の処置または防止に用いられ得る。
【0071】
本明細書に記載されているようなベクターまたは組成物は、任意の通常の経路により投与され得る。ベクターまたは組成物は、任意の通常の経路により投与され得、その経路には、経口、局所的、非経口、舌下、直腸、膣、眼、鼻腔内、肺、皮内、硝子体内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、脳内、経皮、経粘膜、吸入による経路が挙げられるが、それらに限定されない。非経口投与には、例えば、静脈内、筋肉内、動脈内、腹腔内、鼻腔内、直腸、膀胱内、皮内、局所的、または皮下の投与が挙げられる。ある実施形態において、ベクターまたは組成物は、静脈内または筋肉内に投与される。組成物は、1つまたは複数の投薬量単位の形態をとり得る。
【0072】
特定の実施形態において、腫瘍の部位においてなど、処置を必要とするエリアへ局所的に本発明のベクターまたは組成物を投与することは望ましくあり得る。別の実施形態において、静脈内注射または注入によりベクターまたは組成物を投与することは望ましくあり得る。特定の障害または状態の処置において有効である/活性がある本発明のベクターの量は、障害または状態の性質に依存し、標準臨床技術により決定され得る。加えて、任意で、インビトロまたはインビボアッセイが、最適な投薬量範囲を同定するのを助けるために用いられ得る。組成物中に用いられる正確な用量はまた、投与の経路、および疾患または障害の重症度に依存し、医師の判断および各患者の状況に従って決定されるべきである。
【0073】
組成物は、適切な投薬量が得られるように、本発明によるベクターの有効量を含む。化合物の正しい投薬量は、特定の製剤、投与様式、ならびに処置されることになっているそれの特定の部位、宿主、および疾患によって異なる。年齢、体重、性別、食事、投与の時間、排出の速度、宿主の状態、混合薬、反応感受性、および疾患の重症度のような他の因子が考慮されるべきである。投与は、連続的にまたは定期的に行われ得る。
【0074】
がんの治療において、本発明のベクターまたは免疫原性組成物は、既存の治療と併用して用いられ得る。一実施形態において、ベクターまたは組成物は、既存の治療または治療剤、例えば抗がん治療と併用して、用いられる。したがって、別の態様において、本発明はまた、本発明のベクターまたは組成物の投与および抗がん治療を含む併用療法に関する。抗がん治療は、治療剤または放射線療法を含み得、遺伝子治療、ウイルス治療、RNA治療、骨髄移植、ナノセラピー、標的抗がん治療、または腫瘍退縮薬を含む。他の治療剤の例には、チェックポイントインヒビター、抗悪性腫瘍剤、免疫原性剤、弱毒化がん性細胞、腫瘍抗原、腫瘍由来抗原または核酸でパルスされた樹状細胞などの抗原提示細胞、免疫刺激サイトカイン(例えば、IL-2、IFNa2、GM-CSF)、標的小分子および生物学的分子(例えば、シグナル伝達経路のコンポーネント、例えば、チロシンキナーゼのモジュレータおよび受容体型チロシンキナーゼのインヒビター、ならびに腫瘍特異的抗原と結合する作用物質、例えば、EGFRアンタゴニスト)、抗炎症剤、細胞毒性剤、放射能毒性剤、または免疫抑制剤、および免疫刺激サイトカイン(例えば、GM-CSF)をコードする遺伝子をトランスフェクトされた細胞、化学療法が挙げられる。一実施形態において、ベクターまたは組成物は、手術と併用して用いられる。本発明のベクターまたは組成物は、他の治療と同じ時点または異なる時点に、例えば同時に、別々に、または逐次的に、投与され得る。
【0075】
ある実施形態において、ベクターまたは組成物は、免疫調節剤と併用して用いられる。免疫調節剤は、免疫調節剤と同時に、逐次的に、または別々に投与され得る。特定の実施形態において、免疫調節剤は、免疫チェックポイントインヒビターであり得、免疫チェックポイントインヒビターの例には、CTLA-4、PD-1、PD-L1、PD-L2、TIM3、LAG-3、B7-H3、B7-H4、B7-H6、A2aR、BTLA、GAL9、およびIDOからなる群から選択される免疫チェックポイントタンパク質のインヒビターが挙げられるが、それらに限定されない。
【0076】
ある特定の腫瘍タイプは、抗PD-1および抗PD-L1単剤療法に対して無応答性であると以前、報告されている。驚くべきことに、ミニ遺伝子ベクターでの免疫化が、抗PD-L1治療などのチェックポイントインヒビターと併用して投与された場合、腫瘍制御の増強を生じ得ることが、本明細書で示されている。これは、標準チェックポイントインヒビター治療に対して無応答であると知られている腫瘍モデルにおいて有効であると示されている。そのようなものとして、ある実施形態において、本ベクターまたは組成物は、チェックポイントインヒビター無応答性腫瘍の処置のためにチェックポイントインヒビターと組み合わせて用いられ得る。
【0077】
本発明のベクターまたは組成物および免疫調節剤は、同じ時点または異なる時点における投与のための別々の薬物として提供され得る。
ある実施形態において、本発明のベクターまたは組成物および免疫調節剤は、異なる時点における投与のための別々の薬物として提供される。別々にかつ異なる時点に投与される場合、ベクターかまたは免疫調節剤のいずれかが、最初に投与され得る。いくつかの実施形態において、両方が同じ日または異なる日に投与され得、それらは、処置サイクルの間、同じスケジュールまたは異なるスケジュールを用いて投与され得る。
【0078】
あるいは、免疫調節剤の投与は、ベクターまたは免疫原性組成物の投与と同時に実施され得る。同時投与が用いられる場合、ベクターまたは免疫原性組成物および免疫調節剤は、別々の薬学的組成物として製剤化され得る。ベクターまたは免疫原性組成物および免疫調節剤は、単一の薬学的組成物として製剤化され得る。
【0079】
本発明のベクターまたは組成物は、予防的または治療的に投与され得る。用語「予防的に」は、疾患に対して保護効果を生じることを意図された投与を指す。用語「治療的に」は、治癒効果を生じることを意図された投与を指す。
【0080】
本発明のベクターまたは組成物は、単回投与として投与され得る。その投与は、予防的設定または治療的設定で提供され得る。ある実施形態において、単回投与は、1つまたは複数の活性成分、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、またはアジュバントをさらに含む、単一用量単位として提供され得る。
【0081】
本発明のベクターまたは組成物は複数回投与として投与され得る。複数回投与が投与される場合、1回もしくは複数回が予防的に投与され、または1回もしくは複数回が治療的に投与され得る。複数回投与が投与される場合、1回または複数回が予防的に投与され、かつ1回または複数回が治療的に投与され得る。ある実施形態において、ベクターは、「プライムブースト」レジメンとして投与され得、アデノウイルスベクターの最初の投与(プライミング投与)、続いて、2回目の投与(ブースト投与)がある。
【0082】
投薬遅延および/または用量低減ならびにスケジュール調整が、個々の患者の処置に対する耐性に依存して必要な場合、実施される。
免疫原性組成物が少なくとも2つのベクターを含み、かつ前記ベクターが、上記のように異なるエピトープをコードする場合、前記ベクターの間で相乗作用があり得る。そのようなものとして、ベクターのそれぞれは、最適以下の用量で投与され得る。用語「最適以下の」用量は、腫瘍を完全に除去または根絶することを意図されていないが、それにも関わらず、一部の腫瘍細胞または組織が壊死になることを生じる用量レベルを指す。当業者は、患者の年齢、疾患の状態、ならびに腫瘍または転移のサイズおよび位置などの因子によって、これを達成するために必要とされる適切な用量を決定することができる。
【0083】
ある実施形態において、上で記載されたベクターを作製する方法であって:
i)センスおよびアンチセンスプライマーとして、エピトープをコードする核酸配列を合成するステップ、
ii)前記エピトープ配列をコードする核酸配列を第1のプラスミドへクローニングするステップ、
iii)前記エピトープをコードする核酸配列を含む配列を、アデノウイルスDNAを含む第2のプラスミドへクローニングするステップ、
を含む、方法が提供される。
【0084】
適切なクローニング方法は当技術分野内で知られており、クローニング方法の例には、制限ライゲーション方法、Gatewayクローニング、Gibsonアセンブリ、ライゲーション非依存性クローニングが挙げられるが、それらに限定されない。当業者は、前記配列をプラスミドへクローニングするための適切な方法を決定することができる。エピトープ配列をコードする核酸配列を第1のプラスミドへ導入するためのクローニング方法は、以前のクローニング方法と同じまたは異なり得る。ある実施形態において、エピトープ配列をコードする核酸配列を第1のプラスミドへ導入するためのクローニング方法は、制限ライゲーション方法、Gatewayクローニング、Gibsonアセンブリ、ライゲーション非依存性クローニングから選択される。ある実施形態において、エピトープをコードする核酸配列を、アデノウイルスDNAを含む第2のプラスミドへ導入するためのクローニング方法は、制限ライゲーション方法、Gatewayクローニング、Gibsonアセンブリ、ライゲーション非依存性クローニングから選択される。
【0085】
ある実施形態において、ステップiii)は、エピトープをコードする核酸配列を含む配列を、アデノウイルスDNAを含む第2のプラスミドへクローニングすることを含み、前記エピトープをコードする核酸配列を含む配列がまた、翻訳開始配列、プロモーター、終結配列、ポリアデニル化配列を含む群から選択される追加の特徴も含む。
【0086】
ある実施形態において、ベクターを作製する方法は:
i)センスおよびアンチセンスプライマーとして、エピトープをコードする核酸配列を合成するステップ、
ii)センスおよびアンチセンスプライマーをアニールさせるステップ、
iii)アニールされたプライマーを、供与体プラスミドへの挿入を可能にするために適切な制限酵素で消化するステップ、および
iv)供与体プラスミドを、アデノウイルスDNAを含む第2のプラスミドへ移入するステップ、
を含む。
【0087】
適切な制限酵素および部位は、当業者に知られている。供与体プラスミドへの挿入を可能にするためにセンスおよびアンチセンスプライマー内に適切な制限部位を設計することは、当業者の能力の範囲内である。
【0088】
コードされるエピトープは、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープである。複数のがん特異的エピトープが決定されており、当技術分野において知られている。ベクター内でコードされる適切なエピトープを選択することは、当業者にとって可能である。がん特異的エピトープを同定するためのさらなる方法は、当技術分野において知られており、それには、バイオインフォマティクスアプローチ、トランスクリプトーム分析、およびインシリコ方法が挙げられる。
【0089】
アデノウイルスベクターをコードする第2のプラスミドは、以下の特徴のいずれかを含み得る。アデノウイルスベクターは、エンハンサーおよびプロモーター領域、例えば、CMVプロモーター、RSVプロモーター、EF1αプロモーターなどの強いプロモーターを含み得る。好ましい実施形態において、ベクターはCMVプロモーターを含む。ベクターはTATAボックスを含み得る。ある実施形態において、ベクターは、翻訳開始配列、例えば、コザック配列を含む。コザック配列は、コンセンサス配列(gcc)gccRccAUGGを有する。ある実施形態において、ベクターは、終結配列および/またはポリアデニル化配列を含む。アデノウイルスベクターは、種Cの血清型、例えば、Ad1、2、5、および6血清型であり得る。好ましい実施形態において、アデノウイルスベクターはヒト血清型5(AdHu5)である。アデノウイルスベクターが、例えば免疫原性を低下させ、かつそのベクターのバイオセーフティを向上させるために、改変されることは好ましくあり得る。そのようなものとして、アデノウイルスベクターは、複製不能であり得る。アデノウイルスベクターは、E1およびE3タンパク質を欠損し得る。
【0090】
供与体プラスミドを第2のプラスミドへ移入するステップは、任意の方法、例えば、ライゲーション方法により実施され得る。
本発明のある実施形態において、本明細書に記載されているようなベクターまたは免疫原性組成物、1つまたは複数の追加の活性成分、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、またはアジュバント、および任意で、使用説明書を含む、キットが提供される。
【0091】
追加の活性物質には、チェックポイントインヒビター、抗悪性腫瘍剤、免疫原性剤、弱毒化がん性細胞、腫瘍抗原、腫瘍由来抗原または核酸でパルスされた樹状細胞などの抗原提示細胞、免疫刺激サイトカイン(例えば、IL-2、IFNa2、GM-CSF)、標的小分子および生物学的分子(例えば、シグナル伝達経路のコンポーネント、例えば、チロシンキナーゼのモジュレータおよび受容体型チロシンキナーゼのインヒビター、ならびに腫瘍特異的抗原と結合する作用物質、例えば、EGFRアンタゴニスト)、抗炎症剤、細胞毒性剤、放射能毒性剤、または免疫抑制剤、および免疫刺激サイトカイン(例えば、GM-CSF)をコードする遺伝子をトランスフェクトされた細胞が挙げられ得る。
【0092】
薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、またはアジュバントには、水、食塩水、好ましくは生理食塩水、リンゲル液、等張食塩水、合成モノもしくはジグリセリド、ポリエチレングリコール、グリセリンなどの固定油、または他の溶媒などの無菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗細菌剤;および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張度の調整のための作用物質が挙げられ得る。
【0093】
ある実施形態において、本発明は、本明細書に記載されているようなベクターまたは免疫原性組成物と細胞を接触させるステップを含む、がん特異的CD8+および/またはCD4+ T細胞エピトープに対して、動物においてT細胞免疫応答を誘導するための方法に関する。
【0094】
細胞を、ベクターまたは組成物と、インビトロ様式で、エクスビボ様式で、またはインビボ様式で接触させ得る。細胞をベクターまたは組成物と、インビトロかまたはエクスビボかのいずれかで接触させる場合、その後に、細胞を対象に投与し得る。
【0095】
T細胞免疫応答は、膨張性メモリCD8+ T細胞応答を含み得る。
別の態様において、本発明は、実施例および/または添付の図面に示されているようなベクターを提供する。
【0096】
本明細書で他に規定がない限り、本開示に関連して用いられる科学的および技術的用語は、当業者により一般的に理解されている意味をもつものとする。前述の開示は、この発明を作製および使用する方法、加えてその最良の様式を含め、本発明の範囲内に包含される主題の一般的説明を提供するが、以下の実施例は、当業者がこの発明を実施するのを可能にするために、およびその完全な書面での説明を提供するために、提供される。しかしながら、当業者は、これらの実施例の詳述が、本発明への制限として読まれるべきではなく、本発明の範囲は、この開示に添付された特許請求の範囲およびその等価物から捉えられるべきであることは認識しているだろう。本発明の様々なさらなる態様および実施形態は、本開示を鑑みれば、当業者に明らかであろう。
【0097】
この明細書に言及された全ての文書は、全体として参照により本明細書に組み入れられている。
本発明は、非限定的例においてさらに記載されている。
【実施例
【0098】
実施例1
CT26結腸直腸癌腫で同定されたCD8エピトープである、優性AH1エピトープをコードする単一のAdHu5構築物は免疫原性である
内因性ネオ抗原を有するマウスがんモデルにおける一連の実験を、ミニ遺伝子ワクチン接種が内因性T細胞エピトープに対してT細胞応答を生じさせることができるかどうかを調べるために実施した。CT26マウス結腸直腸癌腫モデルを利用し、そのペプチド配列SPSYVYHQF(AH-1と名付けられた、配列番号1)は、BalbcマウスによりH2-DL拘束様式で認識される内因性レトロウイルスであるマウス白血病ウイルスのタンパク質(MuLV env gp70423-432)に由来した。「潜在性」CD8 T細胞エピトープ、GGPESFYCASW(MuLV env gp90147-158由来、GSW11と名付けられた、配列番号3)をコードするミニ遺伝子もまた試験した。このH-2D拘束性エピトープは、健康な免疫適格性BALB/cマウスにおいてCD8 T細胞応答を誘導しない - それもまたMuLVに由来するが、それは、AH-1とは異なるオープンリーディングフレームでコードされている。さらに、それは、カノニカルペプチドモチーフに従わないため、D MHC分子と安定的に結合せず、そのため、それが細胞表面から失われる前の20分間の安定化の非常に速い半減期を有する。対照的に、AH-1は、60分間の半減期を有する;結果的に、GSW11に対するCD8 T細胞特異的応答は、制御性CD4 T(Treg)細胞が全身性に枯渇したときのみ発生し(Jamesら、2010 J.Immunol.185:5048~5055)、抗原提示細胞の非常に高いレベルの活性化をもたらす(Shevach.、2009 Immunity 30(5):636~45)。これは、そのような不安定な「潜在性」エピトープに対する応答が、全身性Treg枯渇を必要とすることなく、免疫適格性動物においてミニ遺伝子免疫化により生じ得るかどうかを調べるために含まれた。2つのエピトープを、別々のミニ遺伝子として、前に記載されているようにAdHu5バックボーン上に構築した(図1A)。
【0099】
Ad-AH1 lowとして1×10または1×10感染単位(IU)の用量におけるミニ遺伝子ベクターAdHu5-AH1-MGでのBALB/cマウスの注射は、AH1テトラマー染色により検出されているように(図1B)、ワクチン接種後7日目において全CD8+ T細胞のおよそ25%での血液中にAH1特異的CD8+ T細胞を誘導した(図1C、左)。このレベルは、時間と共に徐々に50日目において約5%(図1C、右)へ、ワクチン接種後80日目において約2.5%(データ未呈示)へ減少した。C57BL/6マウスにおけるAdミニ遺伝子ワクチン接種後に、より高いレベルにおいてはプラトーであるが、類似したパーセンテージが観察されている。AH1特異的応答は、ナイーブマウスにおいても無関係のエピトープ(I8V、β-ガラクトシダーゼ(細菌の酵素)に由来したエピトープ)をコードするAdHu5ミニ遺伝子でワクチン接種されたマウスにおいても検出することができなかった(図1C、左および右)。
【0100】
GSW11特異的応答は、GSW11テトラマー染色によってもGSW11ペプチド刺激によっても検出することができず、そのような「潜在性」の不安定なエピトープが免疫適格性動物においてCD8 T細胞応答を発生させることができないことを示している。それにも関わらず、AdHu5-AH-1のみで免疫された群対両方のミニ遺伝子AdHu5-AH-1+AdHu5-GSW11で免疫された動物におけるAH-1+ テトラマー応答の規模の差はなかった(図1C、左)ことに注目することは興味深く、非免疫原性エピトープをコードするAdHu5ミニ遺伝子構築物の同時送達は、AH-1特異的応答の誘導に干渉しなかったことを示している。
【0101】
AH1特異的CD8+ T細胞の規模は時間と共に減少したが、それらの表現型は安定したままであった - C57BL/6マウス15において観察されたそれと類似して、同じマウス由来の血液中のテトラマー陰性(tet-)集団と比較して、エフェクターメモリ表現型(CD44+ CD62L-、図1Dおよび1E、上の行)を有し、より低いレベルのCD27(図1Dおよび1E、中央の行)およびより高いレベルのPD-1(図1Dおよび1E、下の行)を発現する(図1Dおよび1E)。加えて、この集団内で、高レベルのCX3CR1および低レベルのCD127も検出された。50日までに、そのエフェクターメモリ表現型のわずかな喪失が、活性化マーカーCD27およびPD-1のいくらかの上方制御と共に、観察された(図1E、それぞれ、左パネル、上、中央、および下)。
【0102】
実施例2
AdHu-5ミニ遺伝子免疫化は、予防的および治療的免疫化モデルにおいてCT26腫瘍成長を遅らせる
この予防的免疫化レジメンの保護効率を測定するために、免疫された動物に、Ad-AH1ワクチン接種から5日後、CT26腫瘍細胞を皮下(s.c.)注射した(図2A、B~C)。Ad-AH1で免疫された全ての動物は、腫瘍成長を有意に抑制し、曝露された動物のうちの1匹(1/15)において完全寛解があった(図2BおよびC)。免疫原性データから予想されるように、無関係のミニ遺伝子Ad-GSW11のみで免役された群(図2B-P1)も免疫されていない群(図2B-P1)も保護は見られなかった。興味深いことに、低用量のAd-AH1(1×10IU)17でワクチン接種された群においてわずかにより良い制御が見られた(図2C-P2)(統計的に有意ではなかったが)。AD-AH1ワクチン接種マウスと対照マウスとの間で、腫瘍曝露後18日目において、腫瘍サイズの有意な差が観察された(図2Eおよび2G)。加えて、腫瘍が成長し始めた日から、腫瘍が成長する速度(曲線にフィッティングされた線形回帰線の傾きによって決定された)は、対照マウスと比較してAd-AH1ワクチン接種マウスにおいて低かった(図2F、2H、および2K)。結論として、CT26腫瘍曝露前と後のAd-AH1ワクチン接種は、腫瘍成長を遅らせる。
【0103】
次に、治療的曝露モデルにおいてミニ遺伝子構築物を試験した(図2D)。マウスの群に、腫瘍細胞を皮下注射し、その6日後、Ad-AH1を静脈内注射した(図2Aおよび図2D)。前述同様に、Ad-AH-1での免疫化は腫瘍成長を遅らせた - Ad-AH1免疫化マウスは、免疫後18日目において、ナイーブおよび無関係のAdHu5免疫化動物と比較して有意により小さい腫瘍を有し(図2Iおよび2J)、ある動物は腫瘍なしのままであった(1/10)。
【0104】
実施例3
AdHu5-AH1ミニ遺伝子免疫化は特異的CD8+ T細胞の表現型を変化させる
担がんマウスを、人道的なエンドポイントに達したとき、選別して屠殺した。そのポイントにおいて、腫瘍(TIL)および脾臓におけるAH-1特異的CD8 T細胞の規模を決定した。AH1テトラマー染色(図3A、上部パネル)は、ワクチン接種マウス由来の腫瘍、加えて対照マウスにおいて高レベルのAH1特異的CD8+ T細胞を示した(図3B、上の行の左と右)。異なる/無関係のH2-Ld結合テトラマーと共に蛍光色素コンジュゲート型抗体(MCMV pp89エピトープを認識する)の完全パネルでの染色は、少しの陽性細胞も示さず(図3A)、高レベルのAH-1テトラマー細胞が、自己蛍光の結果でもH2-Ldテトラマーの非特異的結合の結果でもないことを確認した。しかしながら、この時期において、腫瘍制御の喪失が生じていたことは注目に値する。
【0105】
予防的免疫化の後期において、AH-1特異的CD8 T細胞の集団が全群において脾臓(図3B、下の行の左)で検出され、群間でほとんど差はなかった。対照的に、腫瘍曝露後にAd-Hu5 AH-1で免疫された動物だけが、脾臓においてAH-1テトラマー陽性細胞のレベルの上昇を生じ(図3B、下の行の右)、免疫化が、他のコンパートメントにおけるテトラマー陽性細胞のレベルをブーストし得ることを示唆した。
【0106】
表現型分析は、脾臓において、Ad-AH1ワクチン接種マウス由来のこれらのAH1特異的CD8+ T細胞は、大部分、CX3CR1、CD127、Fas、およびLFA-1を上方制御し、かつCD27およびTrm細胞マーカー(CD69+ CD103+)を下方制御するエフェクターメモリ細胞(CD44+ CD62L-)であることを示した(図3C、右パネル)。対照的に、腫瘍におけるAH1特異的CD8+ T細胞は、異なる表現型を発現し、高度に上方制御されるようになったが、高レベルのPD-1により証明されているように、疲弊していた(図3C、左パネル)。PD-1上方制御は、TILにおける他のCD8 T細胞上のPD-1のレベルがそれほど高くないため(図3C、中央のパネル)、大規模なTCR刺激による可能性が高い。下方制御されているCD127、ならびにテトラマー陽性TILと非テトラマー陽性TILの両方において同じままであるCD27およびCD69+ CD103+を除いて、全ての示されたマーカーが上昇している(図3C、左および中央のパネル)。したがって、免疫化は、リンパ球系コンパートメントにおけるテトラマー陽性細胞のレベルを変化させ、かつTILにおいて表現型をエフェクターメモリの1つへ歪めるように思われる。
【0107】
実施例4
制御性T細胞のパーセンテージは、対照マウスと比較してAd-AH1ワクチン接種マウス由来の腫瘍において、より低いように思われ、一方、Ad-AH1免疫化後のTILにおいてTrmが増加している
免疫化が腫瘍微小環境において他の変化を生じるかどうかを決定するために、TregおよびAH-1特異的レジデントメモリT細胞(Trm)のレベルを測定した。CD4 T細胞コンパートメント内で、Treg(CD4+ FoxP3+)細胞の集団が、対照群(ナイーブおよび無関係のAd免疫化群)と比較して、Ad-AH1ワクチン接種群由来の腫瘍において、より低いことを見出した(図4A)。
【0108】
最近、Trm表現型を発現する抗原特異的CD8 T細胞が、より優れた腫瘍制御を発揮したことが報告されている。これと一致して、アデノウイルスベクターミニ遺伝子免疫化が、TILにおいてAH1+ CD103+ CD69+ Trmのパーセンテージを増加させることを見出した。これは、免疫化群が組み合わされ、陰性対照(IrrAd(無関係の抗原)およびナイーブ)群と比較された場合、統計的に有意である。ナイーブ群において、AH1+ テトラマーの大きな集団の存在にも関わらず(図8A)、CD103+ CD69+ CD62L低(low)、CD44高(hi)のTrm表現型をほとんど示さなかった(図4B)。予防的と治療的の両方の免疫化設定においてこの増加は明らかであった(図4B)。まとめると、このがんモデルにおいて、ミニ遺伝子免疫化は、腫瘍微小環境を、腫瘍細胞の好都合な認識および殺害へと変化させるように思われる。
【0109】
実施例5
TILにおける抗原特異的CD8 T細胞は同族ペプチドに対して応答性ではないが、同族動物由来の脾細胞はそれらの機能性を保持する
AH1テトラマー染色により腫瘍において検出されたAH1特異的CD8+ T細胞の高いパーセンテージ(図3A)は、AH1特異的TCRを発現する細胞の数を示す。しかしながら、これは、TCRシグナル伝達およびT細胞活性化がAH1ペプチドとの相互作用で起こるかどうかを立証していない。したがって、脾臓および腫瘍由来の単一細胞を、(1)TCRシグナル伝達の効果を測定するためにAH1ペプチドで、および(2)非特異的活性化を測定するためにPMA/IOで刺激した。炎症促進性サイトカインのインターフェロンガンマ(IFNγ)の産生を読み出しとして用いた。対応するマウス由来の脾細胞もまた、同族ペプチドおよびPMA/IOで刺激した。
【0110】
図5Aおよび5Bに示されているように、ミニ遺伝子免疫化群由来のCD8+ 脾細胞は、予防的ワクチン接種マウスと治療的ワクチン接種マウスの両方から、エクスビボで、AH1ペプチドで刺激した場合、応答する(すなわち、IFNγを産生する)ことができ、AH1で免疫されていない脾細胞からは非常に小さい応答が記録された。対照的に、対応する免疫化動物のTILにおいて観察されたサイトカイン産生は非常に低いか、全くなかった。PMA/IO刺激もまた、免疫化TILから非常に少ないIFN-ガンマ産生を誘導し、AH-1で免疫されていない動物においてさらにより低いレベルが観察された。まとめると、その結果は、遅い時点で、腫瘍における抗原特異的CD8 T細胞は機能障害性であるが、他のコンパートメントにおける類似した抗原特異的CD8 T細胞はそれらの機能を維持することを示唆している。さらに、TILにおける機能障害は、その細胞が、無傷の抗原提示細胞を必要としないPMA/IO刺激に応答することができなかったため、内因性である可能性が高い。最後に、これらの結果はまた、ミニ遺伝子免疫化が、他のコンパートメント、例えば脾臓においてIFN-ガンマ産生抗原特異的細胞の集団を上昇させるが、これは、抗原特異的細胞が腫瘍細胞に応答して上昇したときには、起こらないことを示している。
【0111】
実施例6
ミニ遺伝子免疫化は、腫瘍成長を遅くさせる末梢におけるAH1特異的CD8 T細胞の集団を誘導する
腫瘍の成長速度が計算されたとき、免疫化の追加の効果が明らかにされた。成長速度は、腫瘍が明らかな腫瘍成長を示した日(陰性対照について移植後7日目、およびAH1免疫化動物について移植後18日目)からとられた曲線にフィットする線形回帰線の傾きを計算することにより決定された(図6A)。あるいは、比成長速度が、同じ生データを用いて計算された(図6B)。腫瘍エスケープが起こったときでさえ、腫瘍は、対照と比較して、より遅い速度で成長したことを見出し、膨張性細胞により発揮された淘汰圧が、適合性のより低い腫瘍集団の成長を生じた可能性があることを示唆している。あるいは、腫瘍は、実際、対照と同じ速度で分裂しているが、それらのある割合が、膨張性抗AH1 CD8 T細胞によって常に排除される。腫瘍の成長速度(図2Dから)を、腫瘍曝露後のTILまたは脾臓におけるテトラマー陽性細胞のパーセンテージに対してプロットされた場合、予防的曝露研究と治療的曝露研究の両方から、腫瘍成長速度とAH1テトラマー+ 脾細胞との間に強い逆相関が観察され(図3B)、これらの細胞のより高いレベルが結果として、腫瘍成長のより良い制御を生じることを示している。
【0112】
実施例7
AdHu5-AH1ミニ遺伝子構築物での免疫化は、AdHu5-gp90FLでの免疫化と比較して、より良い腫瘍制御を与え得る
優性CD8 T細胞エピトープをコードするアデノウイルス構築物および完全長タンパク質gp90(前記エピトープが由来している)をコードする類似した構築物により与えられる保護を、治療的免疫化実験において比較した。ここで、ミニ遺伝子構築物は、腫瘍の統計的有意なより低い成長速度により証明されているように、AdHu5-gp90-FLと比較して、より良い制御を発揮することが見出された(図7A)。腫瘍を排除したマウス(図2Bから)由来の血液を、曝露からおよそ6カ月後、サンプリングし、AH1 Tet+ 細胞の集団が循環中に検出され続け、機能性CD8 T細胞応答が長期に存在することを示している(図7B)。
【0113】
実施例8
HLA:A2拘束性CD8 T細胞エピトープである、AdHu5-NY-ESO-1(157~165)(配列番号2)での免疫化は、HLA:A2拘束性膨張性メモリ応答の発生をもたらす
がん精巣抗原NY-ESO-1由来の優性HLA-A2拘束性エピトープを発現するミニ遺伝子構築物を、E1およびE3遺伝子が欠失している複製欠損AdHu5バックボーン上のCMVプロモーターの調節下に前記エピトープを挿入することにより作製した(図8A)。完全長NY-ESO-1を含有する対照アデノベクターもまた構築した。これらを、C57BL/6バックグラウンドにおけるHLA-A2抗原を発現するトランスジェニックHHDマウスへ静脈内注射した。HHDマウスにおいて、H-2Dbおよびマウスのベータ-2-ミクログロブリン(b2m)のノックアウトもある(HLA-A2 HHDb2mハイブリッド分子に加えて)。これは、結果として、MHCクラス1としてHLA-A2のみを生じる。テトラマー染色により血液中において、エピトープNY-ESO-1に対するそれらのCD8 T細胞応答が追跡された。図8Aに示されているように、免疫されたマウスは、いずれの構築物に対しても応答し、テトラマー特異的細胞の集団は7日目に測定可能であった。完全長NY-ESO-1タンパク質で免疫されたマウスの大部分において、その応答は、21日目までに減少し、実験の期間の間、低いが検出可能なレベル(およそ2~5%)で残存したが、遅い時点でさえもこの応答の高レベル(最高20%)を示すいく匹かのマウスがあった。対照的に、ミニ遺伝子構築物で免疫されたマウスの大部分は、その後の時点においてテトラマー陽性CD8 T細胞の一貫して上昇するレベルを示した。これは、ミニ遺伝子ベクターでの免疫化後の以前報告された動態と一致した。
【0114】
テトラマー陽性細胞の表現型が決定され、膨張性細胞表現型を示すことが見出され、主にエフェクターメモリ(CD44+ CD62L-、図8C)であり、高度に分化し、KLRG1-hi(図8D)およびCX3CR1+(図8E)を発現した。これらの細胞はまた、より遅い時期においてPD-1 lowであり、興味深いことに、完全長構築物での免疫化により産生されたテトラマー陽性細胞と比較して、より低いレベルのPD-1を発現するように思われた(図8F)。Tim-3およびLag-3などの他の疲弊マーカーのレベルもまた、それらの完全長で誘導された対応物と比較して、ミニ遺伝子で誘導されたテトラマー+ CD8 T細胞において低かった(図8GおよびH)。まとめると、データは、ミニ遺伝子構築物上のCD8 T細胞ペプチドエピトープが、プロセシングされ、ヒトHLA-A2抗原上へ負荷され得、その後、プライムし、膨張性CD8 T細胞応答を発生させ得ることを示している。さらに、これらの応答は、大きくかつ耐久性があり、免疫化後の遅い時点でさえも、チェックポイントインヒビターの発現が非常に低いか、全くなかった。
【0115】
実施例9
AdHu5-NY-ESO-1(157~165)での免疫化は腫瘍曝露を制御する
これらの応答が腫瘍を制御することができるかどうかを決定するために、NY-ESO-1タンパク質を安定的にトランスフェクトされたHHDマウスに由来した多数の肉腫細胞(0.5~1×10細胞)をマウスに皮下(s.c.)注射した。腫瘍成長を追跡した。その結果は、AdHu5-NY-ESO-1ミニ遺伝子で免疫されたマウスが、早い時点および遅い時点において腫瘍成長を遅らせることができ(図9A)、2/10匹の動物が、腫瘍の完全な排除を示した。加えて、この制御は、高い用量(実線)とより低い用量(破線)の両方の曝露おいて観察された。対照的に、FLベクターで免疫されたマウスは、より低い曝露用量において腫瘍成長を制御することができたが、より高い細胞濃度(実線)においてそのようにすることができなかった。マウスがHLA-A2についてのみトランスジェニックであるため、ヒトタンパク質であるNY-ESO-1は、おそらく、免疫原性であり、腫瘍曝露で、ナイーブマウスCD4およびCD8 T細胞により認識されただろうことは注目に値する。腫瘍曝露から2週間後に採取された血液を、Tet+ 細胞の存在について分析した。全ての群は、腫瘍曝露から14日後、検出可能な循環tet+ 応答を発生し、MGで免疫された群が、最も大きい規模を示した(図9B)。腫瘍曝露前に循環中の2.5%より多いtet+ 細胞を有する動物は、早い時点および遅い時点において腫瘍成長のより良い制御を発揮した(図9CおよびD)。この相関は、FLベクターで免疫された動物においては観察されなかった。実験のこの部分からのデータは、ミニ遺伝子ベクターでの単一プライミング免疫化が腫瘍曝露に対して長命の保護を与え得ることを示している。
【0116】
実施例10
AdHu5-NY-ESO-1(157~165)での免疫化は、脾臓において抗原特異的T細胞の集団をもたらす
動物を、腫瘍サイズが1300mmに近づきつつあるときかまたは48時間後好転しない潰瘍が発生したときのいずれかであるエンドポイントにそれらが達したとき、選別して屠殺した。ナイーブ群について17~29日目の間、MGについて28~29日目の間、FLについて26~29日目の間、無関係のAd群について22~29日目の間に腫瘍を取り出した。その時点において、腫瘍および脾臓からリンパ球を単離して、免疫化が腫瘍免疫微小環境の組成および腫瘍特異的細胞の機能性を変化させたかどうかを調べた。脾細胞および腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を単離し、全ての群由来のTILが類似したレベルのCD8 T細胞を含有することが見出された(図10A)。脾臓のCD8 T細胞のレベルは、MG免疫化群においてわずかに上昇したが、これは、統計的有意性に達していなかった。NY-ESO-1 tet+ 細胞が、全ての群のTILにおいて検出され、免疫化群と非免疫化群との間のTet+ TILのパーセンテージにおいて統計的差はなかった(図10B)。しかしながら、Tet+ 脾細胞のパーセンテージにおける差が観察され、非免疫化動物と比較して、MGおよびFL免疫化動物においてより高いレベルであった。腫瘍は、それらがそれらのエンドポイントに達したため、取り出され、この時点において、チェックポイントインヒビターPD-1の発現が、全ての群においてtet+ TILで上昇していることが見出された(図10C)。Fasが全ての群の脾細胞およびまたTILにおいて上方制御され(図10D)、Tet+ 細胞の活性化を示している。興味深いことに、MGおよびFL免疫化動物由来のCD8 Tet+ 脾細胞が、より高いレベルのPD-1を発現し、FL免疫化動物が脾細胞上のPD-1の最も高い発現を示した。FL免疫化はまた、脾細胞およびTIL上のより高いレベルのLag-3を生じた。Lag-3およびTim-3は、他の条件のTet+ 脾細胞上で上方制御されなかった;しかし、全ての群において、Tet+ TILで類似したレベルで検出された(図10EおよびF)。
【0117】
実施例11
AdHu5-NY-ESO-1(-)での免疫化後にCX3CR1が抗原特異的脾細胞において上方制御される
TILおよび脾細胞を、膨張性メモリのマーカーに関してさらに特徴づけた。脾臓において、仮定された通り、ミニ遺伝子免疫化マウス由来の抗原特異的CD8 T細胞のみが、上方制御されたCX3CR1発現のより大きい集団を示したが、腫瘍において、全ての群由来の抗原特異的細胞が、CX3CR1hiの細胞の大きいパーセンテージを示した(図11B)。全ての群の脾臓および腫瘍における抗原特異的細胞の大部分は、エフェクターメモリであった(図11C)。アデノウイルス免疫化が腫瘍微小環境を変化させるかどうかを調べるために、腫瘍および脾臓におけるTregのレベルを測定した - 脾臓におけるTregのレベルは、完全長免疫化群においてわずかに上昇したが、腫瘍におけるTregのレベルは、群間で異ならなかった(図11D)。同様に、CT26腫瘍モデルにおいて観察されたものとは違って、腫瘍においてレジデントメモリ抗原特異的CD8 T細胞のレベルに差はなかった(図11E)。
【0118】
実施例12
CX3CR1hi CD8 T細胞は酸化ストレスに対して、より抵抗性が高い
膨張性メモリ細胞は、Bcl-XLを含む抗アポトーシス経路に関与するいくつかの分子を上方制御する。ヒト単球上のCX3CR1発現は、抗酸化ストレスを低下させることにより、細胞生存を助けることが報告されている。したがって、CX3CR1発現が、膨張性メモリ細胞に生存促進性効果を与えるかどうかを調べた。感染後51日目以降におけるAd-lacZまたはMCMV感染マウス由来のCX3CR1+/-gfp脾細胞における細胞内活性酸素種(ROS)のレベルをCellROX Redアッセイによって検出した。定常状態において、CX3CR1hi CD8 T細胞は、CX3CR1陰性(neg)および中間(int) CD8 T細胞集団と比較して、より低いレベルのROSを含有し(図12Aおよび12C)、CX3CR1hi 細胞が内因的に、より低いレベルのROSを有することを示唆した。興味深いことには、CX3CR1 gfp/gfpマウス由来のCX3CR1hi 細胞もまた、CX3CR1neg サブセットと比較して、より低いレベルのROSを有し、この効果が、もっぱらCX3CR1シグナル伝達だけに依存するのではないことを示している。また、バルクCX3CR1+ CD8 T細胞サブセット(図12F、中央)および抗原特異的CX3CR1+ T細胞(図12F、右)における活性酸素種(ROS)のレベルは、血清飢餓時、それらのCX3CR1neg 対応物と比較して、より低いままであり、したがって、酸化還元回復力の増強を示している。追加として、無血清培地においてインキュベートされた場合(すなわち、ストレス)、バルク(図12D)および抗原特異的集団(図12E)におけるCX3CR1neg T細胞と比較して、CX3CR1+ 集団が顕著に生存した。
【0119】
次に、MCMVまたはアデノベクターに持続的に感染したマウス由来の末梢血リンパ球を、ミトコンドリア質量のマーカーとして用いられるMitoTracker Greenおよび分極した健康なミトコンドリアのみを染色するMitoTracker DeepRedを用いて染色することにより、これらのサブセットにおける脱分極したミトコンドリアのパーセンテージを決定した。脱分極したミトコンドリアは、MitoTracker Greenが陽性であるが、MitoTracker DeepRedが陽性ではなく、分極したミトコンドリアからフローサイトメトリーにより分離され得る。野生型C57BL/6マウス由来のCX3CR1hi CD8 T細胞は、CX3CR1neg CD8と比較して、より低いパーセンテージの脱分極したミトコンドリアを含有する。
【0120】
T細胞(図12B)。まとめると、これらの結果は、マウスCX3CR1hi CD8 T細胞が、それらのCX3CR1neg CD8 T細胞の対応するものに対して、宿主においてそれらの長期残留性および蓄積を促進し得る、生存促進の優位性を有することを示している。
【0121】
重要なことには、がんは、腫瘍微小環境において悪性細胞、顆粒球、TAM、およびMSDCにより発生した活性酸素種(ROS)を通して主に媒介される酸化ストレスに関連づけられる。したがって、これらの性質はまた、いったんその細胞が腫瘍内にあるならば、それらの細胞傷害能力を保護しかつ保存し得る。
【0122】
実施例13:
HPVにおける優性E7エピトープをコードするAdHu5-R9Fでの免疫化はTC1-HPV E6/E7子宮頚癌腫曝露に対抗してレベルを保護する
E7タンパク質における優性CD8 T細胞エピトープをコードするミニ遺伝子構築物により与えられる保護を、予防的免疫化モデルにおいて、完全長E7タンパク質をコードする類似した構築物により与えられるものと比較した。いずれかの構築物で免疫されたマウスは、腫瘍曝露で完全な保護を与える(図13B)大きなエピトープ特異的応答(図13A)を生じ、タンパク質全体対エピトープ単独により与えられた保護のレベルにおいて差は観察されなかった。
【0123】
実施例14
最適以下の用量におけるMCMVに対するCD8 T細胞エピトープをコードするミニ遺伝子のパネルでの免疫化後の相乗効果
既知のMCMV特異的CD8 T細胞エピトープに対する3つのミニ遺伝子のパネル、すなわち、M45(985HGIRNASFI993 配列番号10)、M38(316SSPPMFRV325 配列番号11)、およびm139(419TWYGFCLL426 配列番号12)を構築した。これらを、個々のミニ遺伝子としてかまたはカクテルとして一緒に混合してかのいずれかで、C57BL/6マウスへ静脈内注射した。M38およびm139をコードするミニ遺伝子は、1×10感染単位(I.U)の最適以下の用量で注射され、一方、M45をコードするミニ遺伝子は1×10I.U.の最適用量で注射された。免疫化後6日目における血液中のM38特異的細胞のレベルを測定した。驚くべきことに、最適以下の用量でのM38ミニ遺伝子およびm139ミニ遺伝子ベクター、加えて、最適用量でのM45ミニ遺伝子を含有する混合ミニ遺伝子ワクチンを受けたマウスは、最適以下の用量のM38ミニ遺伝子ベクター単独のみを注射された群と比較して、より高いレベルのM38特異的T細胞を発生した。この予想外の結果は、最適以下の用量でのミニ遺伝子ベクターの混合物の送達が、最適以下の用量の単一のベクター単独での免疫化で観察されたものに対して、抗原特異的T細胞の規模を増強する相加効果を生じ得ることを示唆している。
【0124】
実施例15
ミニ遺伝子免疫化は、腫瘍環境を変化させ、より高いレベルのグランザイムBを生じる
ミニ遺伝子免疫化を実施し、続いてグランザイムBのレベルを分析した。腫瘍の全CD8+ T細胞におけるグランザイムBのレベルを、腫瘍移植から23日後、ミニ遺伝子での免疫化から16日後に、細胞内サイトカイン染色、続いて腫瘍から調製された単一細胞懸濁液のフローサイトメトリーにより評価した。図15に見られるように、グランザイムBのレベルは、免疫化が完全長エピトープベクターで実施された場合と比較して、ミニ遺伝子ベクターで免疫されたCD8+ T細胞において有意により高かった。腫瘍サイズもまた、腫瘍移植後23日目に評価し、図15は、ミニ遺伝子免疫化が対照と比較して腫瘍サイズを有意に低下させたことを示している。
【0125】
テトラマー+ CD8 T細胞をまた、転写因子EomesおよびTbetのレベルについて評価した。ミニ遺伝子ベクターで免疫された動物から採取されたテトラマー+ CD8 T細胞は、他の群から単離されたテトラマー+ 細胞と比較して、より高いレベルのTbetおよびより低いレベルのEomesを発現した。
【0126】
実施例16
ミニ遺伝子免疫化および抗PD-L1治療での併用処置は腫瘍制御を増強する
CT26腫瘍は、抗PD-1またはPD-L1単剤療法に対して無応答性であることが報告されている(Selbyら、Preclinical Development of Ipilimumab and Nivolumab Combination Immunotherapy:Mouse Tumor Models、In Vitro Functional Studies、and Cynomolgus Macaque Toxicology. PLoS ONE.Public Library of Science;2016年9月9日;11(9):e0161779-19)。しかしながら、本データは、ミニ遺伝子と抗PD-L1の併用療法が腫瘍制御および生存の増強を生じることを実証している。
【0127】
マウスの群を、図16に示されているように、アデノウイルスベクターで免疫した。腫瘍曝露から7日後、マウスに抗PD-L1またはアイソタイプ対照を投与した。図16Aは、ミニ遺伝子が抗PD-L1治療と併用して投与された場合、腫瘍制御の増強(すなわち、腫瘍サイズの低下)が観察されることを示している。その併用療法はまた、無関係(irr)AdHu5で免疫された未処置の対象と比較しておよそ33%の、全ての処置された動物の人道的エンドポイントまでの時間の増加を生じている。マウスの全ての群の生存曲線は図16Bに示されている。免疫化から15日後(腫瘍曝露から22日後)の循環中のGP70423-431 Tet+ 細胞の%を評価した。併用療法は、ミニ遺伝子単独処置と比較して循環中のテトラマー+ 細胞のレベルを増加させ(図16C)、腫瘍の成長速度を有意に低下させた(図16D)。
【0128】
実施例17
腫瘍由来および脾臓由来細胞におけるIFNγ産生の分析
脾臓由来および腫瘍由来単一細胞を、予防的と治療的の両方で免疫されたマウスから取得し、AH1ペプチド(4μg/ml)またはPMA-イオノマイシン(IO)で7時間、エクスビボで刺激し、その後、IFNγの細胞内サイトカイン産生について染色した。IFNγ分泌細胞が検出され、予防的(図17A)または治療的(図17B)に免疫された群の脾臓においてのみ上昇しており、腫瘍において検出されたIFNγ分泌細胞は少なくまたは全くなかった(図17Cおよび図17D)。抗PD-L1と併用した治療的ワクチン接種の実験は、AH1ペプチド(4μg/ml)またはPMA-イオノマイシン(IO)で7時間、エクスビボで刺激し、その後、IFNγの細胞内サイトカイン産生について染色した。脾臓と腫瘍の両方におけるIFNγ分泌性CD8 T細胞は、ミニ遺伝子単独処置と比較して併用療法で処置された試料において増加した(図17Eおよび図17G)。CD4 T細胞コンパートメントにおいて、IFNγ分泌性CD4 T細胞が、抗PD-L1と併用されたワクチン接種群の腫瘍(図17H)において検出することができたが、脾臓においては検出することができなかった(図17F)。
【0129】
実施例18
2つの異なる腫瘍抗原をコードする2つのAdHu5ミニ遺伝子(MG)の組合せでの免疫化は、治療的免疫化モデルにおいて、単一での免疫化に対して生存の増強を与える
マウスの皮下にCT26腫瘍細胞(5×10細胞/マウス)を移植した。6日後、マウスに、それぞれ、異なるCT26腫瘍をコードする単一のミニ遺伝子ワクチンAdHu5-AH1-MGもしくはAdHu5-e2F8-27merMGを1×10IUで、または両方のミニ遺伝子ワクチンを一緒に(Combo、両方とも1×10IUで)、ワクチン接種した。移植から12日後、16日後、および19日後、各群の半分を、チェックポイントインヒビター抗PD-1で処置し、群の半分を、アイソタイプ対照で処置した。腫瘍成長を、1.3cmに近づくまでモニターした。
【0130】
図18B~Fは、混合ワクチン(Combo)でのワクチン接種が、陰性対照(非ワクチン接種または無関係の抗原をコードするAdHu5-MGでワクチン接種された)と比較して、腫瘍成長を遅くすることを示している。図19Aは、抗PD-1を加えた混合ワクチン処置が、陰性対照に対して生存を増強したことを示し、一方、図19Bに示されているように、混合ワクチンでの処置は一般的に、陰性対照または単一のミニ遺伝子ワクチンのみでワクチン接種された群と比較して、中央値生存を増加させた。
【0131】
腫瘍の成長速度を、曲線の傾き(急勾配=より速い成長速度)を計算するための時間に対する腫瘍サイズの単純線形回帰分析により決定した(図20)。あるいは、同じデータを用いて、比成長速度として成長速度を計算した(図23)。ワクチン接種タイプによる個々のマウスの値が示されている。混合ワクチン接種は、陰性対照群と比較して、腫瘍成長を有意に遅くした(図20および図23)。ワクチン接種から6日後に血液をサンプリングし、CD8に対する表面マーカーおよびAH-1またはe2f8抗原に特異的なテトラマーに関して染色した(図21)。生きているCD8 T細胞コンパートメントにおける%Tet+が示されている。混合ワクチンでのワクチン接種は、AdHu5-AH-1 MGのみでワクチン接種された群と比較して、AH-1 tet+ 集団の規模を増加させる(図21)。図22および23は、2つのミニ遺伝子構築物/ワクチンでの同時静脈内免疫化(combo)が両方の抗原特異的集団を、単一ワクチンと類似した規模および表現型で誘導し、腫瘍成長を制御するように作用することを示している。
【0132】
方法
動物
マウス実験は、UK Home Office規則に従って実施され(プロジェクトライセンス番号PBA43A2E4およびPPL 30/3293)、University of Oxfordにおける地域倫理審査委員会により認可された。雄および雌マウスは、特定病原体除去(SPF)条件で個々に換気されたケージにおいて維持され、通常の固形飼料食餌を与えられた。HLA-A2についてトランスジェニックの成体HHDマウスは、前記大学のBSL2施設で飼育され、Vincenzo Cerundolo(HIU、University of Oxford、Oxford)好意で提供された。週齢6~8週間のBalbcマウスは、Charles River(Margate、UK)から入手された。
【0133】
アデノウイルスベクター
NY-ESO-1研究について、完全長NY-ESO-1遺伝子または優性CD8 T細胞エピトープSLWTQCを、AdHu5ベクターバックボーンへクローニングした。CT-26研究について、完全長マウス白血病ウイルス遺伝子gp90または優性CD8 T細胞エピトープSPSYVYHQF(配列番号1)を上記のように挿入して、構築物AdHu5-FLおよびAdHu5- AH1-MGを作製した。その構築物は、ウイルスベクターコア施設(Oxford、UK)により、293A細胞において塩化セシウム遠心分離による精製を用いて、スケールアップされ、精製され、定量化され、ストックはPBS中、-80℃で保存された。推定CD8 T細胞エピトープVILPQAPSGPSYATYLQPAQAQMLTPP(配列番号4)を含有するCT26腫瘍由来の免疫原性変異をコードする第2の構築物AdHu5-e2f8-27MGを、作製し、293A細胞においてスケールアップし、膜精製(Sartorious)により精製した。
【0134】
HPV16 E7研究について、完全長HPV16 E7遺伝子または優性CD8 T細胞エピトープRAHYNIVTF(配列番号7)をAdHu5ベクターバックボーンへクローニングした。対照ベクターは、AdHu5ベクターバックボーンへ挿入された、細菌酵素β-ガラクトシダーゼ由来のCD8 T細胞エピトープICPMYARV(配列番号8)で構成された。
【0135】
マウス免疫化および腫瘍曝露および抗PD-L1抗体での処置
示されているように、マウスを、ウイルスの1×107~9感染単位(IU)での尾静脈注射により静脈内で免疫した。NY-ESO-1についてトランスジェニックなHHD肉腫細胞株またはCT26結腸直腸がんまたはTC-1(HPV16 E7発現)細胞株を、0.1~1×10細胞/200μlの間で側腹部に皮下注射した。マイコプラズマ検査を、注射前の細胞株に実施し、マイコプラズマ陰性細胞のみを用いた。
【0136】
腫瘍曝露後、マウスをモニターし、触知できたとき、腫瘍直径を、1~2日ごとにデジタルカリパスを用いて測定し、体積を、変形楕円式、体積=(幅)×長さ/2を用いて計算し、腫瘍成長の速度を決定した。
【0137】
治療的曝露研究について、マウスに、まず、側腹部の皮下に腫瘍細胞を移植した - 6~7日後、その動物を、1×107~9IUでの関連アデノウイルスベクターで尾静脈を介して静脈内に免疫し、前述のように腫瘍を測定した。いくつかの実験において、マウスを、0.2mgの抗マウスPD-L1(クローン10F、9G2、Biolegend)かまたはアイソタイプ対照かのいずれかで、腫瘍移植後14日目、17日目、20日目、および22日目に静脈内注射により処置した。
【0138】
血液および組織からのリンパ球単離
血液、脾臓、および腫瘍試料を、酵素的および機械的消化を用いて処理し、高生存能を有するリンパ球集団を取得した。腫瘍を切除し、その後、コラゲナーゼおよびDNアーゼで、37℃、45分間、消化した。消化された腫瘍を100μm細胞篩に通し、その後、完全RPMIで洗浄し、1500rpmで5分間の遠心分離によりペレット化した。細胞ペレットを再懸濁し、その後、前述のように洗浄しかつペレット化する前に、40μm細胞篩に通した。その後、単離された腫瘍細胞を再懸濁し、カウントした。
【0139】
腫瘍およびワクチン特異的T細胞の検出および分析
ウイルスおよびワクチン特異的T細胞を検出するために用いられたテトラマーおよびペンタマーの詳細は表2に示されている。
【0140】
【表2】
【0141】
表2に列挙された試薬を、モノマーとして合成し、ストレプトアビジン-PE(BD Bioscience)またはストレプトアビジン-APC(Invitrogen、Paisley、UK)の添加によりテトラマー化した。モノマーの構築のためのペプチドをProimmune(Oxford、UK)から入手した。全血のおよそ50μlのアリコートを、テトラマーのクラスIペプチド複合体を含有する溶液の50μlを用いて37℃で20分間、染色し、続いて、mAbおよび固定可能なNIR LIVE/DEAD染色で染色した。
【0142】
抗体染色
単一細胞懸濁液を、非特異的抗体結合を防止するためにFcRブロッキング試薬(CD16/CD32、eBiosciences)でブロッキングした(4℃で20分間)。引き続いて、細胞を、テトラマー(上記のような)および様々な蛍光色素コンジュゲート型抗体で免疫染色した(4℃で20分間)。全ての抗体パネルにおいて、固定可能な生死判別色素(LIVE/DEAD(商標)近赤外色素(Invitrogen))を加えて、分析から死細胞を排除した。以下の抗体は、リストにおいてマークされたものを除いて、1:100の濃度でフローサイトメトリーに用いられた:CD4-AF700(RMA4-4、Biolegend)、CD8(53-6.7 eBiosciences or Biolegend)、CD11a/CD18/LFA-1(H155-78、Biolegend)、CD25(PC61.5、eBiosciences)、CD27(LF.3A10、Biolegend)、CD44(IM7、eBiosciences)、CD62L(MEL-14、Biolegend)、CD69(H1.2F3、Biolegend、1/200)、CD95/Fas(Jo2 BD)、CD103(2E7、Biolegend、1/200)、CD127(SB/199、Biolegend)、CD279/PD-1(RMP1-30、Biolegend)、CX3CR1(SA011F11、Biolegend)、FoxP3(FJK-16s、eBiosciences)、IFN-γ(XMG1.2、eBiosciences)、IL-2(JES6-5H4、eBiosciences)、KLRG1(2F1、abcam)、TNF-α(MP6-XT22、eBiosciences)。細胞内染色に必要とされる単一細胞試料の固定化および透過処理(FoxP3/転写因子染色バッファーセット、Invitrogenを用いる)の前に、細胞外染色を実施した。細胞内サイトカイン染色について、腫瘍由来または脾臓由来の単一細胞を、エクスビボで、陽性対照(2μg/mlにおけるPMAおよび4.4μg/mlにおけるIO)および陰性対照(培地のみ)と共にペプチド(4μg/ml)で2.5時間、刺激し、その後、細胞を、GolgiPlug(BD、1μl/ml)と37℃で4、5時間、インキュベートした。用いられた抗体は、以下の表に列挙されている。これらは、示されている場合を除いて1:100希釈で用いられた。
【0143】
【表3-1】
【0144】
【表3-2】
【0145】
フローサイトメトリー
全ての免疫染色試料を、BD LSR IIフローサイトメーターを用いるフローサイトメトリーにより分析した。データ解析を、ソフトウェアFlowJo v10を用いて行った。細胞は、リンパ球、単一細胞、生細胞、および引き続き、分析のために関連マーカーに関してゲーティングした。
【0146】
CellROX redアッセイ
50日より前にMCMVまたはAd-lacZに感染したCX3CR1gfp/+またはgfp/gfpマウスから単一細胞の脾細胞を調製した。その脾細胞を、96ウェルプレートへ蒔き、完全培地(RPMI+10%FCS)中で48時間、培養した。細胞を遠沈し、200μl無菌DPBS(Life Technologies)で洗浄した。その後、細胞を.無血清RPMIかまたはRPM+10%FCSかのいずれかで処理した(ウェルあたり40μlで加えた)。これらを、37℃で1~1.5時間、インキュベートした。CellROX red試薬(Life Technologies)を無血清培地で1:50に希釈し、その後、希釈された試薬の4μlを各ウェルに加え、37℃で40分間、インキュベートした。その後、細胞を、適切な表面抗体(適切なテトラマー-PE、CD8-eFluor 450、CD62L-AlexaFluor 700、CD44-PerCP-Cy5.5、および固定可能なLiveDeadマーカー)で、37℃、20分間、染色した。細胞を、PBSで洗浄し、その後、PBS中に再懸濁し、LSRIIで分析し、生きているCD8 T細胞に関するCellROX redの幾何平均をFlowJoソフトウェアで計算した。
【0147】
MitoTrackerアッセイ
100日より前にMCMVまたはAdHu5組換えアデノベクター(Ad-I8V)に感染したC57BL/6由来のPBLを、抗マウスCD8、抗マウスCX3CR1、LiveDead近赤外固定可能なマーカーで染色した。12.5nm MitoTracker Greenおよび12.5nm MitoTracker DeepRed(Fisher Scientific)での37℃、30分間の染色を、表面染色の前に行い、その後、LSRIIで分析し、データを FlowJoで計算した。
【0148】
統計解析
記述統計学(パーセント平均値、標準偏差、カウント数)をGraphPad PRISM(Graphpad software,Inc.、La Jolla、CA)を用いて計算した。平均値の比較のためのP値を、T検定、一元配置および二元配置ANOVAによって決定し、多重比較のためにHolm-Sidakを用いて補正した。統計的有意性をp<0.05として定義した。
【0149】
組換えAAVミニ遺伝子作製のための方法
目的のミニ遺伝子をコードする組換えAAVは、HEK 293細胞を3つのプラスミド:(1)目的のミニ遺伝子を含有するAAV-ITRプラスミド[AAV-ITR-ミニ遺伝子]、(2)AAV複製に必要とされるE2A、E4、およびVAアデノウイルスタンパク質をコードするアデノウイルスヘルパープラスミド、ならびに(3)AAV-ITR-ミニ遺伝子をAAVウイルス粒子内にパッケージングするために必要とされるAAVのrepおよびcap遺伝子をコードするヘルパープラスミドでトランスフェクトすることにより作製される。
【0150】
ベクター配列:
以下は、本発明のベクターに用いられ得る例示的な配列を提供する。
配列番号13 ミニ遺伝子免疫原カセットの5’側のAdHu5アデノウイルスヌクレオチド配列:
配列番号14 ミニ遺伝子免疫原カセットの3’側のAdHu5アデノウイルスヌクレオチド配列:
ミニ遺伝子免疫原カセット:
配列番号15 T細胞エピトープの5’側のミニ遺伝子免疫原カセットヌクレオチド配列
T細胞エピトープ配列の5’側のミニ遺伝子免疫原カセットヌクレオチド配列
配列番号16 attR1配列
配列番号17 attL1配列
配列番号18 CMVプロモーター配列
配列番号19 コザック配列
配列番号20 開始コドン
T細胞エピトープ:
配列番号2 NY-ESO-1エピトープ
配列番号21 ヒト(Homo sapiens)コドン最適化NY-ESO-1エピトープヌクレオチド配列
配列番号1 AH1エピトープ
配列番号22 マウス(Mus Musculus)コドン最適化AH1エピトープヌクレオチド配列
配列番号3 GSW11エピトープ
配列番号23 マウス(Mus Musculus)コドン最適化GSW11エピトープヌクレオチド配列
配列番号4 e2f8エピトープ
配列番号24 マウス(Mus Musculus)コドン最適化e2f8エピトープヌクレオチド配列
配列番号5 Mtch1-10merエピトープ
配列番号25 マウス(Mus Musculus)コドン最適化Mtch1-10merエピトープヌクレオチド配列
配列番号6 Mtch1-9merエピトープ
配列番号26 マウス(Mus Musculus)コドン最適化Mtch1-9merエピトープヌクレオチド配列
配列番号8 I8Vエピトープ
配列番号27 マウス(Mus Musculus)コドン最適化I8Vエピトープヌクレオチド配列
配列番号9 pp89エピトープ
配列番号28 マウス(Mus Musculus)コドン最適化pp89エピトープヌクレオチド配列
配列番号10 M45エピトープ
配列番号 29 マウス(Mus Musculus)コドン最適化M45エピトープヌクレオチド配列
配列番号11 M38エピトープ
配列番号30 マウス(Mus Musculus)コドン最適化M38エピトープヌクレオチド配列
配列番号12 m139エピトープ
配列番号31 マウス(Mus Musculus)コドン最適化m139エピトープヌクレオチド配列
配列番号7 HPV16 E749-57エピトープ
配列番号32 マウス(Mus Musculus)コドン最適化HPV16 E749-57エピトープヌクレオチド配列
配列番号33 T細胞エピトープ配列の3’側のミニ遺伝子免疫原カセットヌクレオチド配列
T細胞エピトープ配列の3’側のミニ遺伝子免疫原カセットヌクレオチド配列:
停止コドン
配列番号34 BGHポリA配列
配列番号35 attL2配列
配列番号36 attR2配列
上記のミニ遺伝子免疫原カセットは、AAVベクターと共に用いられ得る。例えば、逆方向末端反復配列を含むAAVベクターが用いられ得る。配列例は、下記に提供されている。
配列番号38 ミニ遺伝子免疫原カセットの5’側のAAVヌクレオチド配列
ミニ遺伝子免疫原カセットの5’側のAAVヌクレオチド配列についての記述:
配列番号39 5’ITRヌクレオチド配列
配列番号40 ミニ遺伝子免疫原カセットの5’側の余分な配列
配列番号41 ミニ遺伝子免疫原カセットの3’側のAAVアデノウイルスヌクレオチド配列
ミニ遺伝子免疫原カセットの3’側のAAVアデノウイルスヌクレオチド配列についての記述:
配列番号42 3’ITRヌクレオチド配列
配列番号43 ミニ遺伝子免疫原カセットの3’側の余分配列
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8-1】
図8-2】
図9
図10
図11
図12-1】
図12-2】
図13
図14
図15
図16
図17-1】
図17-2】
図18
図19
図20
図21
図22-1】
図22-2】
図23
図24
図25
図26A
図26B
【配列表】
2023500436000001.app
【国際調査報告】