(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-06
(54)【発明の名称】急速充電方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/378 20190101AFI20221226BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20221226BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20221226BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20221226BHJP
H02J 7/02 20160101ALI20221226BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20221226BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20221226BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20221226BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20221226BHJP
【FI】
G01R31/378
H01M10/44 Q
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/10 B
H02J7/10 L
H02J7/02 H
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/389
G01R31/392
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022524648
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(85)【翻訳文提出日】2022-04-26
(86)【国際出願番号】 EP2020076778
(87)【国際公開番号】W WO2021083587
(87)【国際公開日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】102019129468.1
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】398037767
【氏名又は名称】バイエリシエ・モトーレンウエルケ・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ニュルンベルガー・ジーモン
(72)【発明者】
【氏名】シュミット・ヤン・フィリップ
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA01
2G216BA21
2G216BA23
2G216BA51
2G216BA56
2G216CA01
5G503AA01
5G503BA03
5G503BB02
5G503CA02
5G503CA10
5G503CA12
5G503CB11
5G503EA08
5G503FA06
5H030AA02
5H030AA10
5H030AS08
5H030BB01
5H030BB02
5H030BB03
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】できる限り短い充電時間を可能とし、セルの早期の劣化又は損傷を回避することが可能な急速充電方法を提供する。
【解決手段】初期の充電状態SOC0から目標充電状態SOCZielへのセルユニットの電圧及びインピーダンスの成分を測定する手段が設けられており、
-セルユニットのセル電圧及びインピーダンス値を検出し、
-セル電圧と、検出されたインピーダンス値とに基づきバッテリシステムの充電状態SOCを特定し、
-検出されたインピーダンス値に基づき、セルユニットの温度T1・・・Nを特定し、
-セルユニットの健全度SOH1・・・Nを特定し、
-第1の充電状態限界値SOC1に到達するまで、第1の充電プロファイルP1でバッテリシステムを充電し、
-充電状態限界値SOC1・・・Nに到達するまで、選択される別の充電プロファイルP2・・・Mでバッテリシステムを充電する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリチウムイオンセルを含むバッテリシステムを急速充電する方法であって、個別のセル又は並列に接続されたセルのブロックから成るユニットが直列に接続されており、さらに、初期の充電状態SOC
0から所定の目標充電状態SOC
Zielへのセルユニットの電圧及びインピーダンスの少なくとも1つの成分を測定する手段が設けられており、当該方法は、目標充電状態SOC
Zielが達成されるか、又は充電過程が中断されるまで、
-セルユニットのセル電圧及びインピーダンス値を連続的又は断続的に検出するステップであって、インピーダンス値が、1つ又は複数の周波数においてインピーダンスの1つ又は複数の成分を含む前記ステップと、
-セル電圧と、任意で、検出されたインピーダンス値とに基づきバッテリシステムの充電状態SOCを特定するステップと、
-検出されたインピーダンス値に基づき、個別のセルユニットの温度T
1・・・Nを特定するステップと、
-少なくとも、容量に関する健全度SOH_C
1・・・Nと、好ましくは検出されたインピーダンス値に基づき特定される内部抵抗に関する健全度SOH_R
1・・・Nとを含む、個別のセルユニットの健全度SOH
1・・・Nを特定するステップと、
-第1の充電状態限界値SOC
1に到達するまで、又はセルユニットのうち1つにおいて所定の最大温度T
max,1を超過するか、若しくは最小温度T
min,1を下回るまで、SOC
0並びにT
1・・・N及びSOH
1・・・Nについての検出された値に基づいて選択される第1の充電プロファイルP
1でバッテリシステムを充電するステップと、
-各充電プロファイルについて対応する充電状態限界値SOC
1・・・Nに到達するまで、又はセルユニットのうち1つにおいて所定の最大温度T
max,2・・・Mを超過するか、若しくは最小温度T
min,2・・・Mを下回るまで、SOC並びにT
1・・・N及びSOH
1・・・Nについてそれぞれ検出された値に基づいて選択される1つ又は複数の別の充電プロファイルP
2・・・Mでバッテリシステムを充電するステップと
を行うことを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
充電プロファイルP
1・・・Nが、一定の電流での充電プロファイル、一定の電圧での充電プロファイル、一定の出力での充電プロファイル及びこれらの組合せから選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
充電がパルス式に行われることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
SOC
0が容量の10~30%であり、P
1が2.0~10.0Cの範囲の一定の充電電流での充電プロファイルであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
SOC
Ziel到達前の最後の充電プロファイルP
2あるいはP
Nが一定の電圧での充電プロファイルであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
SOC
Zielが60~80%であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
インピーダンス値が、少なくとも2つの異なる周波数において実部及び虚部を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
当該方法が、T
max,1あるいはT
max,2を上回るとき、又はT
min,1あるいはT
min,2を下回るときに、さらに、充填過程が進行する前に、充填過程の遮断と、目標温度へのバッテリシステムの調温とを含んでいることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~8の少なくとも1項に記載の方法を実行するために構成されたバッテリシステムであって、
-個別のリチウムイオンセルから成る複数のセルユニット、又はそれぞれ互いに直列に接続された、並列に接続されたリチウムイオンセルの複数のブロックと、
-励起信号としての交流信号を全てのセル若しくはブロックへ共通に印加するように構成された1つの信号発生器、又はセル若しくはブロックへ個別に励起信号を印加する1つ若しくは複数の信号発生器と、
-総セル電圧U及び交流電圧割合を測定するように構成された、各セル又は各ブロックのための少なくとも1つの電圧測定装置と、
-励起信号及びセル電圧の交流電圧割合に基づいてインピーダンス値を特定するために構成された1つ又は複数の制御機器と、
-請求項1~8のいずれか1項に記載の方法を実行するために構成された、充電過程を制御するためのバッテリマネジメント制御機器と
を含んでいることを特徴とするバッテリシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インピーダンス測定あるいはインピーダンス分光法を用いて、1つのリチウムイオンセル(リチウムイオン電池)又は複数のリチウムイオンセル(リチウムイオン電池)を含むバッテリシステムを急速充電する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用の、特に電動車両用のバッテリシステムにとって、急速充電性が特別な課題となっている。実用的な観点において、バッテリシステムの充電が、内燃エンジンによって動作する車両における給油過程よりも本質的に長時間でなければ望ましい。
【0003】
これには、2C又はそれより多くの範囲における高い充電電流が必要である。しかしながら、このような充電電流は、強い自己加熱ひいては電解物の増大する劣化及びバッテリの加速する劣化につながり得る。さらに、高電流においては、アノードには、インターカレーションのほか、金属であるリチウムも析出され(Liメッキ)、これにより、同様に内部の短絡が引き起こされ得るというおそれがある。
【0004】
更に悪いことに、適切な急速充電条件は、同様に典型的にはセルの劣化状態(State of Health、SOH)に依存することとなる。したがって、新たなセルに基づいて最適化されたある程度の急速充電条件が良好でないSOHを有するセルにおいて問題となるということが起こり得る。
【0005】
現在、充電出力350kWまでの自動車用の急速充電ストラテジがOEM及びセル製造者において開発/検討されている。劣化に対する急速充電の影響についての情報の欠如及び350kWまでの充電出力での当該使用ケースについてのフィールドデータの欠如により、セルの劣化が更に進んだ場合にもまだ機能するように、充電ストラテジは、大きなバッファをもって非常に保守的にしか設定されることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第102013103921号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術の現在の急速充電方法では、充電条件は、典型的には、同様にセル電圧(無負荷電圧)に基づき検出されるSOCに基づいて適合される。例えば、低いSOCでは、まず、一定の充電電流(constant current,CC)で充電されることができ、限界値を超過する場合には、より低い充電電流によるCC-充電が進行し、別の限界値を下回る場合には、所定の目標SOC(すなわち所定の目標電圧)に到達するまで一定の電圧(constant voltage,CV)で更に充電される。しかしながら、セル電圧は、SOCのみによって特定されず、温度及び劣化状態(健全度状態)に依存し、すなわち、電圧のみが必ずしもSOCについての信頼性のある度合いではない。
【0008】
そのほか、急速充電条件を温度に依存して規定することも望ましい。なぜなら、高い充電電流に関連して、高い温度では電解物劣化が促進され得る一方、低い温度ではLiメッキが生じ得るためである。しかし、ここで、例えばバッテリシステムのハウジング又はセルのハウジングに設けられたセンサによって測定される周囲温度がセルの内部における温度とは異なることがあるという難点が生じる。最後に、特に、最大充電電流あるいは最大充電率についての制限的なファクタとしての劣化(健全度)状態(SOH)の影響も考慮する必要がある。
【0009】
まとめると、リチウムイオンセルの理想的な急速充電条件は、特に温度、SOCあるいはセル電圧及びSOHに依存する。したがって、この問題に鑑み、当該依存性を考慮し、それにより一方ではできる限り短い充電時間を可能とし、他方ではセルの早期の劣化又は損傷を回避することが可能な急速充電方法を開発するという課題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題に関して、本発明は、最適化された急速充電条件がセル温度T、SOC及びSOHのうち少なくとも1つに依存してインピーダンス測定あるいはインピーダンス分光法(EIS)を用いて検出(算出)されるバッテリシステムを急速充電する方法を提供する。
【0011】
特に、本発明は、複数のリチウムイオンセルを含むバッテリシステムを急速充電する方法に関するものであって、個別のセル又は並列に接続されたセルのブロックから成るユニットが直列に接続されており、さらに、初期の充電状態SOC0から所定の目標充電状態SOCZielへのセルユニットの電圧及びインピーダンスの少なくとも1つの成分を測定する手段が設けられており、当該方法は、目標充電状態SOCZielが達成されるか、又は充電過程が中断されるまで、
-セルユニットのセル電圧及びインピーダンス値を連続的又は断続的に検出するステップであって、インピーダンス値が、1つ又は複数の周波数においてインピーダンスの1つ又は複数の成分を含む前記ステップと、
-セル電圧と、任意で、検出されたインピーダンス値とに基づきバッテリシステムの充電状態SOCを特定するステップと、
-検出されたインピーダンス値に基づき、個別のセルユニットの温度T1・・・Nを特定するステップと、
-少なくとも、容量に関する健全度SOH_C1・・・Nと、好ましくは検出されたインピーダンス値に基づき特定される内部抵抗に関する健全度SOH_R1・・・Nとを含む、個別のセルユニットの健全度SOH1・・・Nを特定するステップと、
-第1の充電状態限界値SOC1に到達するまで、又はセルユニットのうち1つにおいて所定の最大温度Tmaxを超過するか、若しくは最小温度Tminを下回るまで、SOC0並びにT1・・・N及びSOH1・・・Nについての検出された値に基づいて選択される第1の充電プロファイルP1でバッテリシステムを充電するステップと、
-各充電プロファイルについて対応する充電状態限界値SOC1・・・Nに到達するまで、又はセルユニットのうち1つにおいて所定の最大温度Tmax,2・・・Mを超過するか、若しくは最小温度Tmin,2・・・Mを下回るまで、SOC並びにT1・・・N及びSOH1・・・Nについてそれぞれ検出された値に基づいて選択される1つ又は複数の別の充電プロファイルP2・・・Mでバッテリシステムを充電するステップと
を行うことを含むことを特徴とする方法。
【0012】
本発明の別の観点は、急速充電方法を実行するために構成されているバッテリシステムに関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
バッテリシステム
本発明による急速充電方法は、複数のリチウムイオンセルを含むバッテリシステムを充電するために用いられる。電気的に動作する車両又は(プラグイン)ハイブリッド電気車両において用いるために典型的に必要な200~500ボルトの総電圧を提供するために、セルは、個々に、又は並列接続されたセルから成るブロックにおいて列状に直列に接続されている。並列接続された個別セルから成るブロックは、電気的に、相応のより大きな容量を有する個別セルと同様に振る舞う。以下では、個別セル又はバッテリシステムにおいて直列に接続されている並列なブロックを、まとめてセルユニットという。
【0014】
各セルユニットについて、電圧を監視し、インピーダンスの少なくとも1つの成分を測定する手段が準備されており、当該手段の実装は特に限定されていない。可能な一実施形態では、各セルユニットは、少なくとも電圧の測定のために構成されたセル監視部(Cell Supervision Circuit,CSC)のための制御機器を備えることが可能である。CSCは、同様に、バッテリマネジメント部(Battery management unit,BMU)のための中央制御機器に接続されている。有利には、測定される電圧データは、同時にインピーダンスの特定に用いられ、インピーダンス演算は、選択的にCSC又はBMUにおいて行われることが可能である。電圧データによる通信路の過剰な負荷を回避するために、CSCによる演算が好ましい。
【0015】
さらに、複数のセルユニットを同時に監視するCSCも用いられることができるか、又は全セルユニットの監視機能を唯一の制御機器としてのBMUへ統合することが可能である。
【0016】
典型的には、急速充電方法の制御は、個々のセルユニットの電圧データ及びインピーダンスデータを考慮しつつBMUによって行われる。このために、BMUは、適切なデータ接続、例えばCANバスを介して充電器に接続されており、その結果、提供される充電電流あるいは印加される電圧が適当に閉ループ制御されることが可能である。
【0017】
充電電流を提供する充電器は、バッテリシステムあるいはバッテリシステムが統合されている車両にしっかりと統合されることができるか、又は充填過程の実行のためのみにバッテリシステムに接続された外部の充電器を用いることが可能である。
【0018】
インピーダンス測定
本発明による急速充電方法では、インピーダンス測定あるいはインピーダンス分光法は、以下のうち1つ又は複数の目的に用いられる:
-セル温度Tの特定;インピーダンスに基づき、各時点でのセルの内部における温度を直接検出することができる;従来の温度センサのような時間的な慣性効果又は複数のセルについての空間平均を回避することが可能である;
-SOCの特定の改善;従来、SOCは、無負荷電圧に基づいて特定されるが、当該無負荷電圧は、場合によっては劣化状態にも依存し、したがって、SOCを十分に反映することができない;
-SOHの特定;インピーダンススペクトルにより、電解質導電率の算出(検出)が可能であるとともに、電極におけるLiインターカレーション/デインターカレーションの反応速度についての推定が可能であり;これにより、同様に、電解質及び電極の劣化状態を推測することが可能である。
-Li-メッキ限界の特定;これにより、最適な温度限界を算出することができ、当該温度限界を下回る場合には、充電電流が低減されるべきであるか、あるいは充電が中断されるべきである。
【0019】
一般的には、励起信号として発振電流信号(I(t),ガルバノスタット)又は電圧信号(U(t),ポテンショスタット)がセルへ印加され、対応する応答信号(U(t)あるいはI(t))が測定されることで、インピーダンスを測定することが可能である。そして、インピーダンスは、U(t)/I(t)として演算されることができ、一般には複合的である。
【0020】
有利には、本発明による方法では、励起信号として、例えば充電電流に影響し得る電流信号が用いられ、個々のセルユニットに対して提供される電圧測定のための手段が同時に応答信号の検出に用いられる。
【0021】
励起信号は、個別の周波数又は複数の周波数の重ね合わせを含むことができ、連続的に又はパルス式にセルへ印加されることが可能である。周波数は、特に制限されておらず、例えば10Hz~10kHzの範囲、有利には100Hz~5kHzの範囲であってよい。基本的には、1つの励起周波数を用いることが十分である。これに代えて、2つ若しくは複数の励起周波数を交互に若しくは重ねて用いることができるか、又はスペクトルを記録するために、励起周波数における所定のバンド幅を進行することが可能である。別の可能性として、励起を、例えば多くの周波数の重ね合わせであるパルスの形態でパルス式に行うことが可能であり、測定される信号は、フーリエ変換を用いて解析される。そして、このように得られるスペクトルは、インピーダンススペクトルを同様に得るために、励起パルスのスペクトルと相関される。
【0022】
一般的に、周波数は、応答信号に寄与するセルにおけるプロセスへの影響を有している。高い周波数(例えば1kHz)では、インピーダンスは、主に電解質、電極及びアレスタにおけるイオン抵抗割合及び電子抵抗割合によって実現される一方、低い周波数では、固体拡散又は電荷通過(転送)反応のような比較的緩慢な時間スケールでのプロセスによる寄与が加わる。
【0023】
加えて、低い周波数では、特にセルの充電状態(SOC)及び劣化状態(SOH)のような他のファクタへの依存性も高まる。これに対して、比較的高い周波数では、主に電解質抵抗の影響が用いられ、当該影響は、本質的に温度及び劣化状態に依存する。
【0024】
インピーダンスへの温度、SOC及びSOHの影響の異なる周波数依存性(加えて、実部あるいは虚部への影響も異なり得る)により、逆に、複数の異なる周波数におけるインピーダンス測定によって温度、SOC及びSOHを算出することが可能である。
【0025】
インピーダンスに基づきT、SOC及びSOHを特定するための適切な手法は、従来技術において基本的には知られており、本発明による方法に用いることが可能である。すなわち、特許文献1には、例えば、インバータによって設定される交流電圧信号に基づく、電気的に動作する車両のリチウムバッテリシステムにおけるセル温度測定及び劣化測定が記載されている。当該方法は、信号周波数に対するインピーダンスのプロットの推移が温度に依存しないという監察に基づくものである。
【0026】
Li-メッキ限界の検出は、例えばSOH_Rの特定のための内部抵抗の測定におけるアノード過電圧の推定によって行うことが可能である。
【0027】
可能な一実施形態では、インピーダンスをT、SOC及びfの関数として得るために、セルが所定の温度値(T)及びSOC値へもたらされ、複数の周波数fにおいてインピーダンスが測定されることで基準データを算出することが可能である。そして、当該データに基づき、例えばルックアップテーブルを作成することが可能である。そして、本発明による急速充電方法の実施時には、当該テーブルに基づいて、異なる測定周波数において測定されたインピーダンス値の入力に際して、例えばT及びSOCについての対応する値を読み取り、あるいは内挿(補間)することが可能である。加えて、SOHの影響を特定するために、データの変更は、サイクル数及び/又はセルの健全度(劣化度)に依存して検討されることが可能である。
【0028】
好ましくは、このとき、特にセル電圧及びハウジング温度のような別のパラメータを追加的に考慮することが可能である。したがって、例えば、セル電圧をSOCについての追加的なインプットパラメータとして考慮に入れることができ、これにより、自由度が低減され、T及びSOHのようなその他のパラメータの特定時の正確性を改善することが可能である。ハウジング温度は、例えば結果の信頼性の試験のために考慮に入れられることができ、また、偏差は、異常、例えば初期の短絡についての兆候であることがあり、これにより、充電過程の中断又は警告メッセージの発出のような更なる措置が必要となり得る。
【0029】
別の実施形態では、セルは、電解質抵抗を表す直列抵抗Rsと、電極における固体拡散を表すために、場合によってはワールブルク要素によって補足される少なくとも1つのRC要素とを有する等価回路によってモデル化されることができ、ここで、Rは電荷転送抵抗であり、Cは電荷二重層の容量である。つづいて、等価回路のパラメータは、インピーダンス測定値に基づいて算出され、T並びにSOC及びSOHと相関される。
【0030】
したがって、Rsは、本質的に温度及び電解質の劣化状態に依存する。これに対して、R及びCは、T及び場合によっては電極の劣化状態にも依存するが、温度依存性は、Rsのそれとは異なるとともに、おおよそアレニウス特性を有している。等価回路のパラメータのSOC依存性、SOH依存性及びT依存性について、同様に基準データを作成することができ、当該基準データに基づき、本発明の方法の実施時に、場合によってはセル電圧及び外部温度を考慮して、SOC、SOH及びTが算出される。
【0031】
充電方法
本発明による方法は、初期の充電状態SOC0から所定の目標充電状態SOCZielへのバッテリシステムの急速充電のために用いられる。
【0032】
一般的に、必要な外部の電流供給に応じて、交流充電(AC充電)と直流充電(DC充電)が区別される。AC充電においては、バッテリシステムは車両に統合された充電器(典型的には<11kW)を備えており、当該バッテリシステムは、バッテリシステムの充電のために必要な直流電流を提供するために、交流電源に接続される。これに対して、DC充電においては、充電電流を提供する外部の充電器(>50kW~350kW)が用いられる。今日、急速充電に必要であるような高い充電電流には、多くの場合DC充電が用いられる。本発明による方法は、AC充電との接続においても、またDC充電との接続においても用いられることが可能である。
【0033】
初期SOCであるSOC0は、特に制限されていない。しかし、実際には、バッテリシステムが既にほぼ放電されており短時間の内に再びできる限り充電されるべき場合、例えば、電気的に動作する車両での走行において充電スタンドでの「給油ストップ」(給油のための停車)を行う必要があり、これにつづき走行が継続されるべき場合には、急速充電が考慮に入れられる。そのため、SOC0は、典型的には総容量の50%よりわずかであり、例えば約10~30%である。
【0034】
早期の劣化を避けるために、目標充電状態SOCZielは、好ましくは総容量の100%よりわずかであり、例えば60~80%である。これは、所定の最大SOCであってよく、当該最大SOCに対してバッテリシステムが急速充電に関して規定されている。これに代えて、用途に応じて、よりわずかな目標SOCを設定することができ、当該目標SOCは、例えば電気的に動作する車両で更に走行すべき区間を考慮して選択される。別の代替態様として、使用可能な充電時間を設定することができ、当該時間において到達可能な目標SOCは、バッテリマネジメントシステムによって演算される。
【0035】
現在のSOCの特定は、少なくとも、充電中に各セルについて監視される無負荷電圧(セル電圧)に基づいて行われる。SOCとセル電圧の間の相関は、例えば特性曲線の記録によって既知であるとともに、基準データの形態でバッテリマネジメントシステムにメモリされているため、測定されたセル電圧に基づいてSOCを導出することが可能である。
【0036】
しかし、セル電圧は、他の影響ファクタ、例えば温度(T)及び容量に関連する劣化状態(SOH_C)にも依存し得る。本発明による方法では、好ましくは、例えばインピーダンス測定に基づき特定されるSOC値の特定と、場合によってはセル電圧に基づき特定されるSOCの補正とによって、当該追加的な影響も同様に考慮される。そのほか、SOC基準データも、T依存性あるいはSOH依存性を含み得る。T及びSOHは、本発明による方法において用いられるインピーダンス測定に基づいて算出されることができるとともに、SOCの算出に導入されることが可能である。このとき、SOHの特定は、場合によっては、特にセルの劣化度、充電サイクルの数及び/又はバッテリマネジメントシステムに記録された、取り出され、若しくは充電された総エネルギー量のようなSOHに関連する別のパラメータを考慮してなされる。
【0037】
充電プロファイルP1・・・PNは、特に一定の電流(constant current,CC)での充電プロファイル又は一定の電圧(constant voltage,CV)での充電プロファイルであってよい。CC充電においては、電流が一定に維持され、電圧はSOCの上昇に伴って上昇し、一方、CV充電においては、電圧が一定に維持され、電流はSOCの上昇に伴って低下する。そのほか、一定の出力での充電プロファイルも可能であり、当該充電プロファイルでは、電流と電圧の積が一定に維持される。例えば矩形パルスとしての電流パルスが中断につづいて供給されるパルス式の充電も同様に考慮に値する。パルスは、同様に一定の電流振幅又は一定の電圧を有することが可能である。
【0038】
本発明による方法では、好ましくは第1の充電プロファイルP1としてCC充電プロファイルが用いられ、目標SOCへの到達前の最後の充電プロファイルP2あるいはPNとしてCV充電プロファイルが用いられる。この間に、所定のSOC閾値SOC1・・・SOCN-1に到達する場合には、充電プロファイルは、例えば低減された充電電流を有する別のCC充電プロファイルへ切り換えられることが可能である。
【0039】
充電プロファイルにおける選択された充電電流は、典型的には上昇するSOCに伴って減少し、すなわち、通常、電流は、第1の充電プロファイルP1において最大であり、選択された値は、少なくとも初期SOC及び場合によっては温度及びSOHに依存する。一般的に、バッテリシステムの充電電流あるいは放電電流は、バッテリシステムの容量に対して相対的にいわゆるCレートとして記述され、当該Cレートは、最大電流と(定格)容量の商として規定されている。1のCレートは、例えば、1Ahの定格容量を有するバッテリシステムにおいて、1Aの電流で1時間にわたる充電あるいは放電を意味する。急速充電においては、30分より短い充電時間、例えば約10~15分が望ましく、このことは、相応して約2.0~6.0Cの理論上の充電電流に対応する。しかし、初期SOCは典型的には0%より大きく、目標SOCは100%より小さく、すなわち、供給されるべき電荷は定格容量よりもわずかであるため、よりわずかな充電電流も考慮に値する。他方で、充電電流は、典型的にはSOCに依存して選択されるとともに、最初はより大きいことがあり得るとともにSOCが上昇するのに伴い低下し得る。したがって、10~30%の初期のSOC範囲では、充電電流は、例えば2.0~10.0C、好ましくは2.5~5.0Cであり得る。そして、上昇するSOCに伴って、例えば30~50のSOCについて1.0~5.0C、好ましくは1.5~3.0Cのよりわずかな充電電流へ移行され、これにつづき、電流は、更に減少されるか、又は一定の出力若しくは一定の電圧での充電プロファイルへ切り換えられることが可能である。
【0040】
場合によっては、例えば低温でのLiメッキのおそれを回避するために、まず、P1についてよりわずかな電流での充電プロファイルを選択することが必要となり得る。充電時にはセルが加熱されるため、所定の温度限界値に到達すると、より大きな電流での充電プロファイルへ切り換えられることが可能である。
【0041】
本発明による方法では、充電プロファイルを温度へ適合させるために、セル温度は、個々のセルについてのインピーダンスデータに基づいて算出される。温度が高すぎれば、例えば50℃を超える場合には、早期の劣化のおそれがあり、一方、温度が低すぎれば、例えば10℃未満では、特に大きな充電電流に関連して、Liメッキが生じることがある。
【0042】
したがって、セル温度が所定の温度限界値TmaxあるいはTminを上回るか、あるいは下回る場合には、まずは冷却あるいは加熱によって目標温度へもたらすために、適当に適合された、低下された充電電流での充電プロファイルへ切り換えられることができるか、又は急速充電を中断することが可能である。複数の温度限界値Tmax,1・・・NあるいはTmin,1・・・Nを選択することも可能であり、上回るか、あるいは下回る場合には、まず、充電電流の連続的な低減がなされ、最終的には充電過程の中断がなされる。
【0043】
SOHは、セルの劣化状態を表す。セルの劣化に伴って、時間的にも、またサイクル数及び変換された総エネルギー量に関しても、特に電解物分解、リチウムの損失、活性物質の劣化(変質)又は腐食作用のような不可逆的な劣化過程が生じ得る。これにより、内部抵抗の増大と、元々の定格容量に比べて使用可能な容量の損失とにつながってしまう。これに対応して、容量に関するSOH(SOH_C)と抵抗に関するSOH(SOH_R)が区別される。
【0044】
SOH_Cは、例えば元々の定格容量に対する使用可能な容量の比率として、容量損失によって特徴付けられることが可能である。使用可能な容量は、バッテリマネジメントシステムによって算出されるSOCデータに基づき、取り出される、あるいは充電時に供給される電荷量に関連して特定されることができるとともに、各セルユニットについてバッテリマネジメントシステムの記憶媒体にメモリされ、動作中に継続的に更新される。
【0045】
SOH_Rは、電解質の劣化による内部抵抗の増加を表すとともに、インピーダンスデータに基づいて特定されることが可能である。本発明による方法では、SOHの特定は、少なくともSOH_C、好ましくはSOH_C及びSOH_Rの特定である。そのほか、SOHの特定には、例えばセルの劣化、充電サイクルの数又は変換された総エネルギー量のような別の基準を導入することも可能である。
【0046】
本発明による方法では、SOHが良好でない場合には、より小さな充電電流での充電プロファイルが選択される。そのほか、セルを調温するために、充電プロファイルが切り換えられるか、又は充電が中断される温度限界値TmaxあるいはTminは、SOHに依存して設定されることができ、その結果、劣化の更なる加速を回避し、あり得る損傷を防止するために、良好でないSOHを有するセルではより狭い限界値が適用される。
【0047】
したがって、充電プロファイルP1・・・Nの選択は、少なくともバッテリシステムのSOC並びにセルユニットのT及びSOHに依存してなされる。しかし、当該選択は、外部の別の条件、例えば使用可能な充電時間についての規定も考慮して行うことが可能である。十分な時間が使用可能であれば、場合によっては、バッテリシステムの早期の劣化を避けるために、小さな充電電流でのより保守的な充電プロファイルを選択することが可能である。
【0048】
そのほか、例えば充電中にセルのうち1つにおける異常な動作状態(例えば大きな温度上昇)が検出されるときに、例えば、ユーザ入力によって、又は損傷を防止するためにバッテリシステムによって、目標SOCの到達前にも充電を中断することが可能である。
【国際調査報告】