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特表2023-500670蝸牛内耳有毛細胞プロモーター及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-10
(54)【発明の名称】蝸牛内耳有毛細胞プロモーター及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20221227BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20221227BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221227BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20221227BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221227BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20221227BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20221227BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20221227BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/864 100Z
C12N15/63 Z
C12N15/86 Z
C12N5/10
A61P27/16
A61K31/7088
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525640
(86)(22)【出願日】2020-11-04
(85)【翻訳文提出日】2022-05-23
(86)【国際出願番号】 US2020058782
(87)【国際公開番号】W WO2021091940
(87)【国際公開日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】62/930,503
(32)【優先日】2019-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520299511
【氏名又は名称】デシベル セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】DECIBEL THERAPEUTICS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】バーンズ、ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】パレルモ、アダム
(72)【発明者】
【氏名】プレーゲルニッヒ、ガブリエラ
(72)【発明者】
【氏名】シュワンダー、マーティン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA23
4B065CA24
4B065CA44
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZA34
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA34
(57)【要約】
本開示は、内耳有毛細胞特異的プロモーターを含むポリヌクレオチド、及び、それを含むベクターを提供し、これを用いて、特に内耳有毛細胞において導入遺伝子の発現を促進することができる。本明細書に記載のポリヌクレオチドを、導入遺伝子、例えば、治療用タンパク質をコードする導入遺伝子に操作可能に連結し、それにより、導入遺伝子の内耳有毛細胞特異的発現を促進することができる。本明細書に記載のポリヌクレオチドを、治療用導入遺伝子に操作可能に連結し、難聴を有するか、または発症するリスクを有する対象の治療に使用してもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸ベクターであって、配列番号1~3のいずれか1つに対して少なくとも85%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含む、前記核酸ベクター。
【請求項2】
前記ポリヌクレオチドは、配列番号1に対して少なくとも85%の配列同一性を有する、請求項1に記載の核酸ベクター。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドは、配列番号2に対して少なくとも85%の配列同一性を有する、請求項1に記載の核酸ベクター。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドは、配列番号3に対して少なくとも85%の配列同一性を有する、請求項1に記載の核酸ベクター。
【請求項5】
前記ポリヌクレオチドは、導入遺伝子に操作可能に連結されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の核酸ベクター。
【請求項6】
前記導入遺伝子は、異種導入遺伝子である、請求項5に記載の核酸ベクター。
【請求項7】
前記導入遺伝子は、治療用タンパク質、低分子干渉RNA(siRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、ヌクレアーゼをコードするか、またはマイクロRNAである、請求項5または6に記載の核酸ベクター。
【請求項8】
前記ポリヌクレオチドは、哺乳類IHCにおいて前記導入遺伝子の蝸牛内耳有毛細胞(IHC)特異的発現を指示することができる、請求項5~7のいずれか1項に記載の核酸ベクター。
【請求項9】
前記哺乳類IHCは、ヒトIHCである、請求項8に記載の核酸ベクター。
【請求項10】
前記治療用タンパク質は、アクチンγ1(ACTG1)、ファスシンアクチンバンドリングタンパク質2(FSCN2)、ラジキシン(RDX)、POUクラス4ホメオボックス3(POU4F3)、Trio及びF-アクチン結合タンパク質(TRIOBP)、タペリン(TPRN)、Xinアクチン結合リピート含有2(XIRP2)、Atonal BHLH転写因子(ATOH1)、成長因子非依存性1転写抑制因子(GFI1)、コリン作動性受容体ニコチンα9サブユニット(CHRNA9)、コリン作動性受容体ニコチンα10サブユニット(CHRNA10)、カルシウム及びインテグリン結合ファミリーメンバー3(CIB3)、カドヘリン関連23(CDH23)、プロトカドヘリン関連15(PCDH15)、キノシリン(KNCN)、ペジバキン(DFNB59)、オトフェリン(OTOF)、MKRN2反対鎖(MKRN2OS)、LIMホメオボックス3(LHX3)、膜貫通型チャネル様1(TMC1)、ミオシンXV(MYO15)、ミオシン7A(MYO7A)、ミオシンVI(MYO6)、ミオシンIIIA(MYO3A)、ミオシンIIIB(MYO3B)、グルタレドキシン及びシステインリッチドメイン含有1(GRXCR1)、タンパク質チロシンホスファターゼ受容体タイプQ(PTPRQ)、後期角化エンベロープ6A(LCE6A)、リポキシゲナーゼホモロジードメイン1(LOXHD1)、ADP-リボシルトランスフェラーゼ1(ART1)、ATPアーゼプラズマ細胞膜Ca2+輸送体2(ATP2B2)、カルシウム及びインテグリン結合ファミリーメンバー2(CIB2)、カルシウム電位依存性チャネル補助サブユニットα2δ4(CACNA2D4)、カルシウム結合タンパク質2(CABP2)、表皮成長因子受容体経路基質8(EPS8)、EPS8様2(EPS8L2)、エスピン(ESPN)、エスピン様(ESPNL)、ペリフェリン2(PRPH2)、ステレオシリン(STRC)、溶質キャリアファミリー8メンバーA2(SLC8A2)、亜鉛フィンガーCCHCタイプ含有12(ZCCHC12)、ロイシンリッチ膜貫通及びO-メチルトランスフェラーゼドメイン含有2(LRTOMT2)、ロイシンリッチ膜貫通及びO-メチルトランスフェラーゼドメイン含有1(LRTOMT1)、USH1タンパク質ネットワーク成分ハーモニン(USH1C)、細胞外ロイシンリッチリピート及びフィブロネクチンIII型ドメイン含有1(ELFN1)、テトラトリコペプチドリピートドメイン24(TTC24)、ジストロテリン(DYTN)、キーリン・システインリッチBMP制御因子(KCP)、コイルドコイルグルタミン酸リッチタンパク質2(CCER2)、ロイシンリッチリピート及び膜貫通ドメイン2(LRTM2)、カリウム電位依存性チャネルサブファミリーAメンバー10(KCNA10)、クラリン1(CLRN1)、クラリン2(CLRN2)、SKIファミリー転写コリプレッサー1(SKOR1)、Tctex1ドメイン含有1(TCTEX1D1)、Fc受容体様B(FCRLB)、溶質キャリアファミリー17メンバー8(SLC17A8)、グルタレドキシン及びシステインリッチドメイン含有2(GRXCR2)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、セルピンファミリーEメンバー3(SERPINE3)、Nescientヘリックス・ループ・ヘリックス1(NHLH1)、熱ショック70kDaタンパク質4(HSP70)、熱ショック90kDaタンパク質1,α(HSP90)、活性化転写因子6(ATF6)、真核生物翻訳開始因子2αキナーゼ3(PERK)、イノシトール要求性タンパク質1(IRE1)、Whirlin(WHRN)、Oncomodulin(OCM)、LIMホメオボックス1(Isl1)、ニューロトロフィン3(NTF3)、膜貫通及びテトラトリコペプチドリピート含有4(TMTC4)、及び結合免疫グロブリンタンパク質(BIP)からなる群から選択される、請求項7~9のいずれか1項に記載の核酸ベクター。
【請求項11】
前記核酸ベクターは、ウイルスベクター、プラスミド、コスミド、または人工染色体からなる群から選択される、請求項1~10のいずれか1項に記載の核酸ベクター。
【請求項12】
前記核酸ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、及びレンチウイルスからなる群から選択されるウイルスベクターである、請求項11に記載の核酸ベクター。
【請求項13】
前記ウイルスベクターは、AAVベクターである、請求項12に記載の核酸ベクター。
【請求項14】
前記AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、rh10、rh39、rh43、rh74、Anc80、Anc80L65、DJ/8、DJ/9、7m8、PHP.B、PHP.eb、またはPHP.Sキャプシドを有する、請求項13に記載の核酸ベクター。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の核酸ベクターを含む、組成物。
【請求項16】
薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
配列番号1に対して少なくとも85%の配列同一性を有するポリヌクレオチド。
【請求項18】
前記ポリヌクレオチドは、異種導入遺伝子に操作可能に連結されている、請求項17に記載のポリヌクレオチド。
【請求項19】
前記導入遺伝子は、治療用タンパク質、siRNA、ASO、ヌクレアーゼをコードするか、またはマイクロRNAである、請求項18に記載のポリヌクレオチド。
【請求項20】
前記治療用タンパク質は、ACTG1、FSCN2、RDX、POU4F3、TRIOBP、TPRN、XIRP2、ATOH1、GFI1、CHRNA9、CHRNA10、CIB3、CDH23、PCDH15、KNCN、DFNB59、OTOF、MKRN2OS、LHX3、TMC1、MYO15、MYO7A、MYO6、MYO3A、MYO3B、GRXCR1、PTPRQ、LCE6A、LOXHD1、ART1、ATP2B2、CIB2、CACNA2D4、CABP2、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESPNL、PRPH2、STRC、SLC8A2、ZCCHC12、LRTOMT2、LRTOMT1、USH1C、ELFN1、TTC24、DYTN、KCP、CCER2、LRTM2、KCNA10、CLRN1、CLRN2、SKOR1、TCTEX1D1、FCRLB、SLC17A8、GRXCR2、BDNF、SERPINE3、NHLH1、HSP70、HSP90、ATF6、PERK、IRE1、WHRN、OCM、ISL1、NTF3、TMTC4、及びBIPからなる群から選択される、請求項19に記載のポリヌクレオチド。
【請求項21】
導入遺伝子に操作可能に連結された、配列番号2または3に対して少なくとも85%の配列同一性を有するポリヌクレオチド。
【請求項22】
前記ポリヌクレオチドは、配列番号2に対して少なくとも85%の配列同一性を有する、請求項21に記載のポリヌクレオチド。
【請求項23】
前記ポリヌクレオチドは、配列番号3に対して少なくとも85%の配列同一性を有する、請求項21に記載のポリヌクレオチド。
【請求項24】
前記導入遺伝子は、異種導入遺伝子である、請求項21~23のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項25】
前記導入遺伝子は、治療用タンパク質、siRNA、ASO、ヌクレアーゼをコードするか、またはマイクロRNAである、請求項24に記載のポリヌクレオチド。
【請求項26】
前記治療用タンパク質は、ACTG1、FSCN2、RDX、POU4F3、TRIOBP、TPRN、XIRP2、ATOH1、GFI1、CHRNA9、CHRNA10、CIB3、CDH23、PCDH15、KNCN、DFNB59、OTOF、MKRN2OS、LHX3、TMC1、MYO15、MYO7A、MYO6、MYO3A、MYO3B、GRXCR1、PTPRQ、LCE6A、LOXHD1、ART1、ATP2B2、CIB2、CACNA2D4、CABP2、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESPNL、PRPH2、STRC、SLC8A2、ZCCHC12、LRTOMT2、LRTOMT1、USH1C、ELFN1、TTC24、DYTN、KCP、CCER2、LRTM2、KCNA10、CLRN1、CLRN2、SKOR1、TCTEX1D1、FCRLB、SLC17A8、GRXCR2、BDNF、SERPINE3、NHLH1、HSP70、HSP90、ATF6、PERK、IRE1、WHRN、OCM、ISL1、NTF3、TMTC4、及びBIPからなる群から選択される、請求項25に記載のポリヌクレオチド。
【請求項27】
請求項17~26のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドまたは請求項1~14のいずれか1項に記載の核酸ベクターを含む、細胞。
【請求項28】
前記細胞は、哺乳類IHCである、請求項27に記載の細胞。
【請求項29】
前記哺乳類IHCは、ヒトIHCである、請求項28に記載の細胞。
【請求項30】
哺乳類IHCで導入遺伝子を発現させる方法であって、前記哺乳類IHCを請求項1~14のいずれか1項に記載の核酸ベクター、または請求項15もしくは16に記載の組成物に接触させることを含む、前記方法。
【請求項31】
前記導入遺伝子は、IHC以外の内耳細胞では実質的に発現しない、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
難聴を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療する方法であって、有効量の請求項1~14のいずれか1項に記載の核酸ベクター、または請求項15もしくは16に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項33】
前記難聴は、遺伝性難聴である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記遺伝性難聴は、常染色体優性難聴、常染色体劣性難聴、またはX連鎖性難聴である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記難聴は、後天性難聴である、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記後天性難聴は、騒音性難聴、加齢性難聴、疾患もしくは感染症関連性難聴、頭部外傷性難聴、または耳毒性薬誘発性難聴である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
IHC再生を促進することを必要とする対象においてそれを実施する方法であって、有効量の請求項1~14のいずれか1項に記載の核酸ベクター、または請求項15もしくは16に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項38】
耳毒性薬誘発性IHC損傷または死を予防または軽減することを必要とする対象においてそれを実施する方法であって、有効量の請求項1~14のいずれか1項に記載の核酸ベクター、または請求項15もしくは16に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項39】
前記耳毒性薬は、アミノグリコシド、抗腫瘍薬、エタクリン酸、フロセミド、サリチル酸塩、及びキニンからなる群から選択される、請求項36または38に記載の方法。
【請求項40】
耳鳴症を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療する方法であって、有効量の請求項1~14のいずれか1項に記載の核酸ベクター、または請求項15もしくは16に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項41】
IHC損傷または死を予防または軽減することを必要とする対象においてそれを実施する方法であって、有効量の請求項1~14のいずれか1項に記載の核酸ベクター、または請求項15もしくは16に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項42】
IHC生存を増加させることを必要とする対象においてそれを実施する方法であって、有効量の請求項1~14のいずれか1項に記載の核酸ベクター、または請求項15もしくは16に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項43】
前記方法は、前記核酸ベクターまたは前記組成物を投与する前に、前記対象の聴力を評価することをさらに含む、請求項32~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記方法は、前記核酸ベクターまたは前記組成物を投与した後に、前記対象の聴力を評価することをさらに含む、請求項32~43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記核酸ベクターまたは前記組成物は、局所的に投与される、請求項32~44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記核酸ベクターまたは前記組成物は、難聴を予防または軽減するか、耳鳴症を予防または軽減するか、難聴の発症を遅らせるか、難聴の進行を遅らせるか、聴力を改善させるか、有毛細胞機能を改善させるか、有毛細胞損傷を予防または軽減するか、有毛細胞死を予防または軽減するか、有毛細胞生存を促進または増加させるか、あるいは、有毛細胞数を増加させるのに十分な量で投与される、請求項32~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記対象は、ヒトである、請求項32~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
請求項1~14のいずれか1項に記載の核酸ベクター、または請求項15もしくは16に記載の組成物を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。2020年11月3日に作成された上記ASCIIコピーの名前は、51471-005WO2_Sequence_Listing_11.02.20_ST25であり、サイズは7,108バイトである。
【背景技術】
【0002】
難聴は公衆衛生上の重要な課題であり、学齢期の子供たちの15%近く、及び65歳までに3人に1人が影響を受けると推定されている。最も一般的なタイプの難聴は、感音難聴であり、これは、蝸牛内耳有毛細胞などの内耳の細胞、または内耳から脳に突出する神経経路の欠陥によって引き起こされるタイプの難聴である。感音難聴は多くの場合、後天性であり、音響外傷、疾患または感染症、頭部外傷、耳毒性薬、及び老化を含む、様々な原因がある。内耳の発達及び機能に関与する遺伝子の変異など、感音難聴の遺伝的原因も存在する。常染色体劣性遺伝変異、常染色体優性遺伝変異、及びX連鎖パターン遺伝変異を含む、90種類を超えるそのような遺伝子の変異が同定されている。
【0003】
近年、難聴を治療するための努力は、可能な解決策として遺伝子治療にますます集中しているが、難聴に頻繁に関与している有毛細胞を特異的に標的とするアプローチはほとんど残っていない。感音難聴を治療するために有毛細胞を標的とする新規治療法が必要である。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、特定の細胞型において、有毛細胞の機能、再生、または生存を促進または向上させる遺伝子として、目的の遺伝子の発現を促進するための組成物及び方法を提供する。本明細書に記載の組成物及び方法は、内耳の蝸牛有毛細胞(例えば、内耳有毛細胞(IHC))における導入遺伝子の転写を刺激するポリヌクレオチドに関する。本明細書に記載のポリヌクレオチドは、導入遺伝子に操作可能に連結されてよく、難聴(例えば、感音難聴)を治療または予防するために患者に投与されてもよい。
【0005】
第1の態様において、本発明は、配列番号1~3のうち任意の1つに対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチドを含む核酸ベクターを提供する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号1に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号2に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号3に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する。
【0006】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、導入遺伝子に操作可能に連結される。いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、異種導入遺伝子である。いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、タンパク質(例えば、治療用タンパク質、レポータータンパク質、または他の目的のタンパク質)、低分子干渉RNA(siRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、ヌクレアーゼ(例えば、CRISPR関連タンパク質9(Cas9)、転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、またはガイドRNA(gRNA))をコードするポリヌクレオチド配列を含むか、またはマイクロRNAである。いくつかの実施形態では、タンパク質は、治療用タンパク質である。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、哺乳類IHCにおいて、ポリヌクレオチド配列に由来する、タンパク質、siRNA、ASO、ヌクレアーゼ(例えば、Cas9、TALEN、ZFN、またはgRNA)、またはマイクロRNAのIHC特異的発現を指示することができる。いくつかの実施形態では、哺乳類IHCは、ヒトIHCである。
【0007】
いくつかの実施形態では、治療用タンパク質は、アクチンγ1(ACTG1)、ファスシンアクチンバンドリングタンパク質2(FSCN2)、ラジキシン(RDX)、POUクラス4ホメオボックス3(POU4F3)、Trio及びF-アクチン結合タンパク質(TRIOBP)、タペリン(TPRN)、Xinアクチン結合リピート含有2(XIRP2)、Atonal BHLH転写因子(ATOH1)、成長因子非依存性1転写抑制因子(GFI1)、コリン作動性受容体ニコチンα9サブユニット(CHRNA9)、コリン作動性受容体ニコチンα10サブユニット(CHRNA10)、カルシウム及びインテグリン結合ファミリーメンバー3(CIB3)、カドヘリン関連23(CDH23)、プロトカドヘリン関連15(PCDH15)、キノシリン(KNCN)、ペジバキン(DFNB59)、オトフェリン(OTOF)、MKRN2反対鎖(MKRN2OS)、LIMホメオボックスタンパク質3(LHX3)、膜貫通型チャネル様1(TMC1)、ミオシンXV(MYO15)、ミオシン7A(MYO7A)、ミオシンVI(MYO6)、ミオシンIIIA(MYO3A)、ミオシンIIIB(MYO3B)、グルタレドキシン及びシステインリッチドメイン含有1(GRXCR1)、タンパク質チロシンホスファターゼ受容体タイプQ(PTPRQ)、後期角化エンベロープ6A(LCE6A)、リポキシゲナーゼホモロジードメイン1(LOXHD1)、ADP-リボシルトランスフェラーゼ1(ART1)、ATPアーゼプラズマ細胞膜Ca2+輸送体2(ATP2B2)、カルシウム及びインテグリン結合ファミリーメンバー2(CIB2)、カルシウム電位依存性チャネル補助サブユニットα2δ4(CACNA2D4)、カルシウム結合タンパク質2(CABP2)、表皮成長因子受容体経路基質8(EPS8)、EPS8様2(EPS8L2)、エスピン(ESPN)、エスピン様(ESPNL)、ペリフェリン2(PRPH2)、ステレオシリン(STRC)、溶質キャリアファミリー8メンバーA2(SLC8A2)、亜鉛フィンガーCCHCタイプ含有12(ZCCHC12)、ロイシンリッチ膜貫通及びO-メチルトランスフェラーゼドメイン含有2(LRTOMT2)、ロイシンリッチ膜貫通及びO-メチルトランスフェラーゼドメイン含有1(LRTOMT1)、USH1タンパク質ネットワーク成分ハーモニン(USH1C)、細胞外ロイシンリッチリピート及びフィブロネクチンIII型ドメイン含有1(ELFN1)、テトラトリコペプチドリピートドメイン24(TTC24)、ジストロテリン(DYTN)、キーリン・システインリッチBMP制御因子(KCP)、コイルドコイルグルタミン酸リッチタンパク質2(CCER2)、ロイシンリッチリピート及び膜貫通ドメイン2(LRTM2)、カリウム電位依存性チャネルサブファミリーAメンバー10(KCNA10)、クラリン1(CLRN1)、クラリン2(CLRN2)、SKIファミリー転写コリプレッサー1(SKOR1)、Tctex1ドメイン含有1(TCTEX1D1)、Fc受容体様B(FCRLB)、溶質キャリアファミリー17メンバー8(SLC17A8)、グルタレドキシン及びシステインリッチドメイン含有2(GRXCR2)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、セルピンファミリーEメンバー3(SERPINE3)、Nescientヘリックス・ループ・ヘリックス1(NHLH1)、熱ショック70kDaタンパク質4(HSP70)、熱ショック90kDaタンパク質1,α(HSP90)、活性化転写因子6(ATF6)、真核生物翻訳開始因子2αキナーゼ3(PERK)、イノシトール要求性タンパク質1(IRE1)、Whirlin(WHRN)、Oncomodulin (OCM)、LIMホメオボックス1(ISL1)、ニューロトロフィン3(NTF3)、膜貫通及びテトラトリコペプチドリピート含有4(TMTC4)、または結合免疫グロブリンタンパク質(BIP)である。
【0008】
いくつかの実施形態では、核酸ベクターは、ウイルスベクター、プラスミド、コスミド、または人工染色体である。いくつかの実施形態では、核酸ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、及びレンチウイルスからなる群から選択されるウイルスベクターである。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、AAVベクターである。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、rh10、rh39、rh43、rh74、Anc80、Anc80L65、DJ/8、DJ/9、7m8、PHP.B、PHP.eb、またはPHP.Sキャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV1キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV9キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV6キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV8キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、Anc80キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、Anc80L65キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、DJ/9キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、7m8キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV2キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、PHP.Bキャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV2quad(Y-F)キャプシドを有する。
【0009】
別の態様において、本発明は、本発明の核酸ベクターを含有する組成物を提供する。いくつかの実施形態では、組成物は、薬学的に許容される賦形剤をさらに含む。
【0010】
別の態様において、本発明は、配列番号1に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチドを提供する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは導入遺伝子に操作可能に連結される。いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、タンパク質(例えば、治療用タンパク質、レポータータンパク質、または他の目的のタンパク質)、siRNA、ASO、ヌクレアーゼ(例えば、Cas9、TALEN、ZFN、またはgRNA)をコードするか、またはマイクロRNAである。いくつかの実施形態では、タンパク質は、治療用タンパク質である。いくつかの実施形態では、治療用タンパク質は、ACTG1、FSCN2、RDX、POU4F3、TRIOBP、TPRN、XIRP2、ATOH1、GFI1、CHRNA9、CHRNA10、CIB3、CDH23、PCDH15、KNCN、DFNB59、OTOF、MKRN2OS、LHX3、TMC1、MYO15、MYO7A、MYO6、MYO3A、MYO3B、GRXCR1、PTPRQ、LCE6A、LOXHD1、ART1、ATP2B2、CIB2、CACNA2D4、CABP2、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESPNL、PRPH2、STRC、SLC8A2、ZCCHC12、LRTOMT2、LRTOMT1、USH1C、ELFN1、TTC24、DYTN、KCP、CCER2、LRTM2、KCNA10、CLRN1、CLRN2、SKOR1、TCTEX1D1、FCRLB、SLC17A8、GRXCR2、BDNF、SERPINE3、NHLH1、HSP70、HSP90、ATF6、PERK、IRE1、WHRN、OCM、ISL1、NTF3、TMTC4、またはBIPである。
【0011】
別の態様において、本発明は、導入遺伝子に操作可能に連結された、配列番号2または3に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチドを提供する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号2に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号3に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する。
【0012】
いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、異種導入遺伝子である。前述の態様のうちいくつかの実施形態では、導入遺伝子は、タンパク質(例えば、治療用タンパク質、レポータータンパク質、または他の目的のタンパク質)、siRNA、ASO、ヌクレアーゼ(例えば 、Cas9、TALEN、ZFN、またはgRNA)をコードするか、またはマイクロRNAである。いくつかの実施形態では、タンパク質は、治療用タンパク質である。
【0013】
いくつかの実施形態では、治療用タンパク質は、ACTG1、FSCN2、RDX、POU4F3、TRIOBP、TPRN、XIRP2、ATOH1、GFI1、CHRNA9、CHRNA10、CIB3、CDH23、PCDH15、KNCN、DFNB59、OTOF、MKRN2OS、LHX3、TMC1、MYO15、MYO7A、MYO6、MYO3A、MYO3B、GRXCR1、PTPRQ、LCE6A、LOXHD1、ART1、ATP2B2、CIB2、CACNA2D4、CABP2、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESPNL、PRPH2、STRC、SLC8A2、ZCCHC12、LRTOMT2、LRTOMT1、USH1C、ELFN1、TTC24、DYTN、KCP、CCER2、LRTM2、KCNA10、CLRN1、CLRN2、SKOR1、TCTEX1D1、FCRLB、SLC17A8、GRXCR2、BDNF、SERPINE3、NHLH1、HSP70、HSP90、ATF6、PERK、IRE1、WHRN、OCM、ISL1、NTF3、TMTC4、またはBIPである。
【0014】
別の態様において、本発明は、前述の態様及び実施形態のいずれかのポリヌクレオチドまたは核酸ベクターを含む細胞(例えば、IHCなどの、哺乳動物細胞、ヒト細胞)を提供する。いくつかの実施形態では、細胞は、哺乳類IHCである。
【0015】
別の態様において、本発明は、哺乳類IHCを本発明の核酸ベクターまたは本発明の組成物と接触させることによって、哺乳類IHCで導入遺伝子を発現させる方法を提供する。いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、IHCで特異的に発現する。いくつかの実施形態では、哺乳類IHCは、ヒトIHCである。いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、IHC以外の内耳細胞では実質的に発現しない。
【0016】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の核酸ベクターまたは本発明の組成物を対象に投与することによって、難聴(例えば、感音難聴、聴覚消失、または聴神経障害)を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療する方法を提供する。いくつかの実施形態では、難聴は、遺伝性難聴である。いくつかの実施形態では、遺伝性難聴は、常染色体優性難聴、常染色体劣性難聴、またはX連鎖性難聴である。いくつかの実施形態では、難聴は後天性難聴である。いくつかの実施形態では、後天性難聴は、騒音性難聴、加齢性難聴、疾患もしくは感染症関連性難聴、頭部外傷性難聴、または耳毒性薬誘発性難聴である。いくつかの実施形態では、後天性難聴は加齢性難聴である。いくつかの実施形態では、難聴は騒音性難聴である。いくつかの実施形態では、難聴は耳毒性薬誘発性難聴である。
【0017】
前述の態様のうちいずれかのいくつかの実施形態では、難聴は、IHCの喪失に関連している。
【0018】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の核酸ベクターまたは本発明の組成物を対象に投与することによって、それを必要とする対象におけるIHCの再生を促進する方法を提供する。
【0019】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の核酸ベクターまたは本発明の組成物を対象に投与することによって、それを必要とする対象における耳毒性薬誘発性IHC損傷または死を予防または軽減する方法を提供する。
【0020】
前述の態様のうちいずれかのいくつかの実施形態では、耳毒性薬は、アミノグリコシド(例えば、ゲンタマイシン、ネオマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、カナマイシン、バンコマイシン、及びアミカシン)、抗腫瘍薬(例えば、プラチナ含有化学療法剤、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、及びオキサリプラチン)、エタクリン酸、フロセミド、サリチル酸塩(例えば、特に高用量のアスピリン)、及びキニンからなる群から選択される。
【0021】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の核酸ベクターまたは本発明の組成物を対象に投与することによって、耳鳴症を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療する方法を提供する。
【0022】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の核酸ベクターまたは本発明の組成物を対象に投与することによって、それを必要とする対象におけるIHC損傷または死を予防または軽減する方法を提供する。
【0023】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の核酸ベクターまたは本発明の組成物を対象に投与することによって、それを必要とする対象におけるIHC生存を増加させる方法を提供する。
【0024】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の核酸ベクターまたは本発明の組成物を対象に投与することによって、それを必要とする対象におけるIHC成熟を誘導または向上させる方法を提供する。
【0025】
前述の態様のうちいずれかのいくつかの実施形態では、IHCは、哺乳類IHCである。いくつかの実施形態では、哺乳類IHCは、ヒトIHCである。
【0026】
前述の態様のうちいずれかのいくつかの実施形態では、方法は、核酸ベクターまたは組成物を投与する前に、対象の聴力を評価すること(例えば、聴力検査、聴性脳幹反応(ABR)、蝸電図検査(ECOG)、または耳音響放射などの標準的な検査を使用して聴力を評価すること)をさらに含む。
【0027】
前述の態様のうちいずれかのいくつかの実施形態では、方法は、核酸ベクターまたは組成物を投与した後に、対象の聴力を評価すること(例えば、聴力検査、ABR、ECOG、または耳音響放射などの標準的な検査を使用して聴力を評価すること)をさらに含む。
【0028】
前述の態様のうちいずれかのいくつかの実施形態では、核酸ベクターまたは組成物は、局所的に投与される。いくつかの実施形態では、核酸ベクターまたは組成物は、対象の耳に投与される(例えば、内耳に、例えば、外リンパまたは内リンパ内に、卵円窓、正円窓または水平半規管などを介して、あるいは経鼓膜注入または鼓室内注入によって投与される)。
【0029】
前述の態様のうちいずれかのいくつかの実施形態では、核酸ベクターまたは組成物は、難聴を予防または軽減するか、耳鳴症を予防または軽減するか、難聴の発症を遅らせるか、難聴の進行を遅らせるか、聴力を改善させるか、有毛細胞機能(例えば、IHC機能)を改善させるか、有毛細胞損傷(例えば、IHC損傷)を予防または軽減するか、有毛細胞死(例えば、IHC死)を予防または軽減するか、有毛細胞成熟(例えば、IHC成熟)を向上させるか、有毛細胞生存(例えば、IHC生存)を促進または増加させるか、あるいは、有毛細胞数(例えば、IHC数)を増加させるのに十分な量で投与する。
【0030】
前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態では、対象は、ヒトである。
【0031】
別の態様において、本発明は、本発明の核酸ベクターまたは本発明の組成物を含むキットを提供する。
【0032】
定義
本明細書中で使用する場合、用語「約」とは、記載する値から10%以内で上回るかまたは下回る値を指す。
【0033】
本明細書中で使用する場合、「投与」とは、任意の有効な経路によって、対象に治療薬(例えば、導入遺伝子に操作可能に連結された内耳有毛細胞(IHC)特異的プロモーターを含む核酸ベクター)を提供するか、または与えることを指す。例示的な投与経路を、本明細書において以下に記載する。
【0034】
本明細書中で使用する場合、用語「細胞型」とは、遺伝子発現データに基づいて統計的に分離可能な表現型を共有する細胞群を指す。例えば、一般的な細胞型の細胞は、同様の構造的特徴及び/または機能的特徴、例えば、同様の遺伝子活性化パターン及び抗原提示特性を共有している場合がある。一般的な細胞型の細胞には、生物内の一般的な組織(例えば、上皮組織、神経組織、結合組織、または筋組織)及び/または一般的な臓器、組織系、血管、または他の構造及び/または領域から分離された細胞が含まれ得る。
【0035】
本明細書中で使用する場合、用語「保存的変異」、「保存的置換」、及び「保存的アミノ酸置換」とは、1つ以上のアミノ酸から、極性、静電荷、及び立体化学的ボリュームなどの同様の物理化学的特性を示す1つ以上の異なるアミノ酸への置換を指す。これらの特性を、天然の20種のアミノ酸のそれぞれについて、以下の表1に要約する。
【0036】
【表1】
【0037】
この表によれば、保存的アミノ酸のファミリーには(i)G、A、V、L及びI;(ii)D及びE;(iii)C、S及びT;(iv)H、K及びR;(v)N及びQ;ならびに(vi)F、Y及びWが含まれる。したがって、保存的変異または置換とは、あるアミノ酸を、同じアミノ酸ファミリーのメンバーで置換する変異または置換である(例えば、ThrをSerに、またはArgをLysに置換)。
【0038】
本明細書中で使用する場合、本明細書に記載の組成物、ベクター構築物、またはウイルスベクターの「有効量」、「治療有効量」、及び「十分な量」という用語は、哺乳類、例えばヒトを含む対象に投与する場合に、臨床結果を含む有益なまたは望ましい結果をもたらすのに十分な量を指し、したがって、その「有効量」またはその同義語は、それが適用されている状況に依存する。例えば、感音難聴の治療に関して、それは、組成物、ベクター構築物、またはウイルスベクターを投与せずに得られる応答と比較して、治療応答を実現するのに十分な組成物、ベクター構築物、またはウイルスベクターの量である。そのような量に対応する本明細書に記載の所与の組成物の量は、所与の薬剤、医薬製剤、投与経路、疾患もしくは障害のタイプ、対象の特性(例えば、年齢、性別、体重)または治療対象の宿主などの様々な要因に応じて変化するが、それにもかかわらず、当業者によって日常的に決定することができる。また、本明細書中で使用する場合、本開示の組成物、ベクター構築物、またはウイルスベクターの「治療有効量」は、対照と比較して、対象において有益なまたは所望の結果をもたらす量である。本明細書中で定義するように、本開示の組成物、ベクター構築物、またはウイルスベクターの治療有効量は、当業者であれば、当技術分野で公知の日常的な方法によって容易に決定し得る。投与計画を調整して、最適な治療応答を提供してもよい。
【0039】
本明細書中で使用する場合、用語「内因性」とは、特定の生物(例えば、ヒト)または生物内の特定の場所(例えば、器官、組織、または細胞、例えば、ヒト細胞、例えば、IHC)に自然に見出される分子(例えば、ポリペプチド、核酸、または補因子)を指す。
【0040】
本明細書中で使用する場合、用語「発現する」とは、以下の事象、(1)DNA配列からのRNAテンプレートの産生(例えば、転写による)、(2)RNA転写物のプロセシング(例えば、スプライシング、編集、5’キャップ形成、及び/または3’末端プロセシング);(3)RNAからポリペプチドまたはタンパク質への翻訳、及び(4)ポリペプチドまたはタンパク質の翻訳後修飾、のうち1つ以上を指す。
【0041】
本明細書中で使用する場合、用語「外来性」とは、特定の生物(例えば、ヒト)または生物内の特定の場所(例えば、器官、組織、または細胞、例えば、ヒト細胞、例えば、ヒトIHC)において、天然には見出されない分子(例えば、ポリペプチド、核酸、または補因子)を表す。外来性物質には、生物またはそこから抽出された培養物に対して、外部供給源から提供される物質が含まれる。
【0042】
本明細書中で使用する場合、用語「エキソン」とは、そのヌクレオチド配列が、対応するタンパク質のアミノ酸配列を決定する遺伝子のコード領域内の領域を指す。用語エキソンはまた、遺伝子から転写されたRNAの対応する領域を指す。エキソンは、mRNA前駆体に転写され、選択的スプライシングに依存して遺伝子の成熟mRNAに含まれる。プロセシング後の成熟mRNAに含まれるエキソンは、タンパク質に翻訳されるが、ここで、エキソンの配列がタンパク質のアミノ酸組成を決定する。
【0043】
本明細書中で使用する場合、用語「異種」とは、天然に存在しないエレメントの組み合わせを指す。例えば、異種導入遺伝子とは、それが操作可能に連結されているプロモーターによって自然に発現されない導入遺伝子を指す。
【0044】
本明細書中で使用する場合、用語「内耳有毛細胞特異的発現」または「IHC特異的発現」とは、主に蝸牛IHC内での、蝸牛の他の細胞型(例えば、らせん神経節ニューロン、グリアまたは他の蝸牛細胞型)と比較したRNA転写物またはポリペプチドの産生を指す。導入遺伝子のIHC特異的発現は、任意の標準的な技術(例えば、定量的RT PCR、免疫組織化学、ウェスタンブロット分析、またはプロモーターに操作可能に連結されたレポーター(例えば、GFP)の蛍光測定)を使用して、蝸牛の様々な細胞型の間で(例えば、IHC対IHCで)、導入遺伝子の発現(例えば、RNAまたはタンパク質の発現)を比較することによって確認することができる。IHC特異的プロモーターは、それが操作可能に連結されている導入遺伝子の発現(例えば、RNAまたはタンパク質の発現)を誘導し、その誘導される発現は、内耳細胞型:外有毛細胞、境界細胞、内指節細胞、内柱細胞、外柱細胞、第1列目のダイテルス細胞、第2列目のダイテルス細胞、第3列目のダイテルス細胞、ヘンゼン細胞、クラウディウス細胞、内溝細胞、外溝細胞、らせん隆起細胞、根細胞、歯間細胞、血管条の基底細胞、血管条の中間細胞、血管条の辺縁細胞、らせん神経節ニューロン、シュワン細胞のうち少なくとも2つ(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上)と比較して、IHCにおいて、少なくとも50%(例えば、50%、75%、100%、125%、150%、175%、200%以上)大きい。IHC特異的プロモーターは、それが操作可能に連結されている導入遺伝子の発現(例えば、RNAまたはタンパク質の発現)を誘導し、その誘導される発現は、蝸牛の他の細胞と比較して、蝸牛のIHCにおいて、少なくとも50%(例えば、50%、75%、100%、125%、150%、175%、200%以上)大きい。
【0045】
本明細書中で使用する場合、用語「増加する」及び「減少する」とは、参照と比較して、それぞれ、より多いかまたはより少ない量の、機能、発現、または活性の計量をもたらす調節を指す。例えば、本明細書に記載の方法での組成物の投与に続いて、本明細書に記載の計量マーカー(例えば、導入遺伝子の発現)の量を、対象において、投与前のマーカー量に対して、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%もしくは98%またはそれ以上、増加または減少させてもよい。一般的に、計量は、投与によって記載の効果が得られる時点、例えば、治療レジメンを開始してから、少なくとも1週間、1か月、3か月、または6か月後に測定する。
【0046】
本明細書中で使用する場合、用語「イントロン」とは、そのヌクレオチド配列が、対応するタンパク質のアミノ酸配列に翻訳されない遺伝子のコード領域内の領域を指す。用語イントロンはまた、遺伝子から転写されたRNAの対応する領域も指す。イントロンは、mRNA前駆体に転写されるが、プロセシング中に除去され、成熟mRNAには含まれない。
【0047】
本明細書中で使用する場合、「局所的」または「局所投与」とは、全身的効果ではなく局所的効果を目的とした身体の特定の部位での投与を意味する。局所投与の例は、対象の皮膚上、吸入、関節内、髄腔内、膣内、硝子体内、子宮内、病変内投与、リンパ節投与、腫瘍内投与、内耳への投与、及び粘膜への投与であり、その場合、投与は、全身的効果ではなく、局所的効果をもたらすことを目的とする。
【0048】
本明細書中で使用する場合、用語「操作可能に連結された」とは、第1の分子が第2の分子に結合されることを指し、その場合、この第1の分子は、第1の分子が第2の分子の機能に影響を与えるように配置される。2つの分子は、単一の切れ目のない分子の一部であってもよく、そうでなくてもよく、隣接していても、隣接していなくてもよい。例えば、プロモーターが細胞内の目的の転写可能なポリヌクレオチド分子の転写を調節する場合、そのプロモーターは転写可能なポリヌクレオチド分子に操作可能に連結されている。さらに、転写調節エレメントの2つの部分は、一方の部分の転写活性化機能が他方の部分の存在により悪影響を受けないようにそれらが結合している場合、互いに操作可能に連結している。2つの転写調節エレメントは、リンカーポリヌクレオチド(例えば、介在非コードポリヌクレオチド)を介して互いに操作可能に連結されるか、または介在ヌクレオチドが存在せずに互いに操作可能に連結されてもよい。
【0049】
本明細書中で使用する場合、用語「プラスミド」とは、追加のDNAセグメントをライゲートし得る染色体外環状二本鎖DNA分子を指す。プラスミドとは、ベクターのタイプであり、連結している別の核酸を輸送することができる核酸分子である。特定のプラスミドは、それらが導入される宿主細胞において自己複製が可能である(例えば、細菌の複製起点を有する細菌プラスミド及びエピソーム性哺乳類プラスミド)。他のベクター(例えば、非エピソーム性哺乳類ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれることが可能であり、それにより、宿主ゲノムとともに複製される。特定のプラスミドは、それらが操作可能に連結された遺伝子の発現を指示することができる。
【0050】
本明細書中で使用する場合、用語「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオシドのポリマーを指す。一般的には、ポリヌクレオチドは、ホスホジエステル結合によって結合した、DNAまたはRNAに天然に見出されるヌクレオシド(例えば、アデノシン、チミジン、グアノシン、シチジン、ウリジン、デオキシアデノシン、デオキシチミジン、デオキシグアノシン、及びデオキシシチジン)から構成される。この用語には、天然の核酸に見出されるかどうかにかかわらず、化学的または生物学的に修飾された塩基、修飾された骨格などを有するヌクレオシドまたはヌクレオシド類似体を含む分子が包含され、そのような分子は特定の用途に好ましい場合がある。本出願がポリヌクレオチドに言及する場合、DNA、RNAの両方と、それぞれの場合における一本鎖及び二本鎖形態の両方(及び各一本鎖分子の相補体)が提供されることが理解される。本明細書中で使用する「ポリヌクレオチド配列」とは、ポリヌクレオチド物質自体及び/または特定の核酸を生化学的に特徴付ける配列情報(すなわち、塩基の略語として使用される一連の文字)を指し得る。本明細書中に提示するポリヌクレオチド配列は、特に明記しない限り、5’から3’の方向で示される。
【0051】
本明細書で使用する場合、用語「プロモーター」とは、RNAポリメラーゼが結合するDNA上の認識部位を指す。ポリメラーゼは、導入遺伝子の転写を促進する。
【0052】
参照ポリヌクレオチド配列または参照ポリペプチド配列に対する「配列同一性の割合(%)」とは、配列をアラインメントし、必要に応じてギャップを導入して、最大の配列同一性の割合を達成した後、参照ポリヌクレオチド配列または参照ポリペプチド配列内の核酸またはアミノ酸と同一である候補配列内の核酸またはアミノ酸の割合と定義される。核酸またはアミノ酸配列同一性割合を測定する目的のアラインメントは、例えば、BLAST、BLAST-2、またはMegalignソフトウェアなどの、一般に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して、当業者の能力の範囲内の様々な方法で達成することができる。当業者は、比較されている配列の完全長にわたる最大のアラインメントを得るために必要とされる任意のアルゴリズムを含む配列をアラインメントするために適切なパラメータを決定することができる。例えば、配列同一性割合の値は、配列比較コンピュータプログラムBLASTを使用して生成することができる。例として、所与の核酸配列またはアミノ酸配列Aの、所与の核酸配列またはアミノ酸配列Bに対する配列同一性割合(あるいは、所与の核酸配列またはアミノ酸配列Aは、所与の核酸配列またはアミノ酸配列Bに対してある程度の配列同一性割合を有する、と表現することもできる)は、下記のように計算される。
100×(分数X/Y)
式中、Xは、AとBとのプログラムのアラインメントにおいて、配列アラインメントプログラム(例えば、BLAST)によって同一の一致としてスコアリングされたヌクレオチドまたはアミノ酸の数であり、Yは、Bの核酸の総数である。核酸配列またはアミノ酸配列Aの長さが核酸配列またはアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、Bに対するAの配列同一性割合は、Aに対するBの配列同一性割合と等しくないと考えられる。
【0053】
本明細書中で使用する場合、用語「医薬組成物」とは、対象に影響を与えるか、または対象に影響を与える可能性のある特定の疾患または病態を予防、治療または制御するために、場合により、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤、希釈剤、及び/または担体と組み合わせて、哺乳類、例えばヒトなどの対象に投与する治療薬を含む混合物を指す。
【0054】
本明細書中で使用する場合、用語「薬学的に許容される」とは、過度の毒性、刺激、アレルギー反応及び他の問題となる障害がなく、妥当なベネフィット/リスク比を有し、哺乳類(例えば、ヒト)などの対象の組織との接触に適した化合物、物質、組成物、及び/または剤形を指す。
【0055】
本明細書中で使用する場合、用語「試料」とは、対象から分離された標本(例えば、血液、血液成分(例えば、血清または血漿)、尿、唾液、羊水、脳脊髄液、組織(例えば、胎盤または皮膚)、膵液、絨毛膜絨毛試料、及び細胞)を指す。
【0056】
本明細書中で使用する場合、用語「転写調節エレメント」とは、目的の遺伝子の転写を少なくとも部分的に制御するポリヌクレオチドを指す。転写調節エレメントは、遺伝子転写を制御するか、または制御するのを支援するプロモーター、エンハンサー、及び他のポリヌクレオチド(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含み得る。転写調節エレメントの例は、例えば、Lorence,Recombinant Gene Expression:Reviews and Protocols(Humana Press,New York,NY,2012)に記載されている。
【0057】
本明細書中で使用する場合、用語「形質移入」とは、原核生物または真核生物の宿主細胞への外来性DNAの導入に一般的に使用される任意の多種多様な技術、例えば、電気穿孔法、リポフェクション、リン酸カルシウム沈殿、DEAE-デキストラン形質移入法、Nucleofection、スクイーズポレーション、ソノポレーション、光学形質移入法、マグネトフェクション、インパレフェクションなどを指す。
【0058】
本明細書中で使用する場合、用語「対象」及び「患者」とは、動物(例えば、ヒトなどの哺乳動物)を指す。本明細書に記載の方法に従って治療する対象は、難聴(例えば、感音難聴)と診断された対象、またはこの病態を発症するリスクを有する対象であり得る。診断は、当技術分野で公知の任意の方法または技術によって実施してもよい。当業者であれば、本開示に従って治療する対象が、標準的な検査を受けている可能性があるか、または検査を受けていないが疾患もしくは病態に関連する1つ以上のリスク因子の存在に起因するリスクを有する対象として同定されている可能性があることを理解するであろう。
【0059】
本明細書中で使用する場合、用語「形質導入」及び「形質導入する」とは、ベクター構築物またはその一部を細胞に導入する方法を指す。ベクター構築物が、例えば、AAVベクターなどのウイルスベクターに含まれる場合、形質導入とは、細胞のウイルス感染、及びその後のベクター構築物またはその一部の細胞ゲノムへの移入及び組み込みを指す。
【0060】
本明細書で使用する場合、疾患または病態に言及する「治療」及び「治療すること」とは、有益な、または所望の結果、例えば臨床結果を得るためのアプローチを指す。有益な、または所望の結果としては、検出可能であるか検出不可能であるかにかかわらず、1つ以上の症状または病態の緩和または改善;疾患または病態の程度の減少;疾患、障害、または病態の状態の安定化(すなわち、悪化しないこと);疾患または病態の拡大の予防;疾患または病態の進行の遅延または減速;疾患または病態の改善または一時的軽減;及び、(部分的または完全)寛解を挙げることができるが、これらに限定されない。疾患または病態を「改善すること」または「一時的に軽減すること」とは、治療がない場合の程度または時間経過と比較して、疾患、障害、または病態の程度及び/または望ましくない臨床発現を減少させ、及び/または進行の時間経過を減速または延長させることを意味する。「治療」はまた、治療を受けていなかった場合に予想される生存期間と比較して、生存期間を延長することも意味し得る。治療を必要とする者としては、病態もしくは障害を既に有する者、及び病態もしくは障害を有する傾向にある者、または病態もしくは障害を予防する必要がある者が挙げられる。
【0061】
本明細書中で使用する場合、用語「ベクター」とは、核酸ベクター、例えば、プラスミド、コスミド、または人工染色体などのDNAベクター、RNAベクター、ウイルス、または任意の他の適切なレプリコン(例えば、ウイルスベクター)を指す。外来性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを原核細胞または真核細胞に送達するために、様々なベクターが開発されてきた。そのような発現ベクターの例は、例えば、Gellissen,Production of Recombinant Proteins:Novel Microbial and Eukaryotic Expression Systems(John Wiley & Sons,Marblehead,MA,2006)に記載されている。本明細書に記載の組成物及び方法での使用に適した発現ベクターは、ポリヌクレオチド配列、及び、例えば、タンパク質の発現及び/または哺乳動物細胞のゲノムへのこれらのポリヌクレオチド配列の組み込みに使用する追加の配列エレメントを含む。本明細書に記載の導入遺伝子の発現に使用することができる特定のベクターには、遺伝子転写を指示するプロモーター及びエンハンサー領域などの調節配列を含むベクターが含まれる。導入遺伝子の発現のための他の有用なベクターは、導入遺伝子の翻訳速度を増強するか、または遺伝子転写から生じるmRNAの安定性または核外輸送を向上させるポリヌクレオチド配列を含む。これらの配列エレメントには、例えば、発現ベクター上に組み込まれた遺伝子の効率的な転写を指示するために、5’及び3’非翻訳領域ならびにポリアデニル化シグナル部位が含まれる。本明細書に記載の組成物及び方法での使用に適した発現ベクターはまた、そのようなベクターを含む細胞を選択するためのマーカーをコードするポリヌクレオチドを含み得る。適切なマーカーの例としては、アンピシリン、クロラムフェニコール、カナマイシン、またはノーセオスリシンなどの抗生物質に対する耐性をコードする遺伝子が挙げられる。
【0062】
本明細書中で使用する場合、用語「野生型」とは、所与の生物における特定の遺伝子について最も出現頻度が高い遺伝子型を指す。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1】カルシウム結合タンパク質2(CABP2)遺伝子座を含むマウス染色体19のゲノムマップを示す。単一細胞(sc)-トランスポゼース接近可能クロマチンアッセイ(ATAC)-シーケンシング(seq)ピークを、CABP2翻訳開始部位(TSS)近くのCABP2座にアラインメントした。CABP2 TSS近くの領域には、蝸牛有毛細胞のsc-ATAC-seqピークの注釈付きサミット、及び哺乳類の保存性が高い領域を含めた(図1の黒色の長方形)。
図2A】マウスCABP2プロモーター(配列番号1)の制御下で緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子に融合しているヒトヒストンH2B遺伝子を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで形質導入したマウス蝸牛外植片の蛍光画像である。抗ミオシン7a(MYO7A)抗体を使用して、全ての有毛細胞を標識し、かつ抗GFP抗体を使用して、CABP2プロモーター媒介GFP発現を標識した。生後1日目のB6/CAST-Cdh23Ahl+/Kjnマウスの外植片における蝸牛有毛細胞の形質導入は、内耳有毛細胞(IHC)特異的GFP発現をもたらした。この図は、低拡大率のものを示している。
図2B】マウスCABP2プロモーター(配列番号1)の制御下で緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子に融合しているヒトヒストンH2B遺伝子を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで形質導入したマウス蝸牛外植片の蛍光画像である。抗ミオシン7a(MYO7A)抗体を使用して、全ての有毛細胞を標識し、かつ抗GFP抗体を使用して、CABP2プロモーター媒介GFP発現を標識した。生後1日目のB6/CAST-Cdh23Ahl+/Kjnマウスの外植片における蝸牛有毛細胞の形質導入は、内耳有毛細胞(IHC)特異的GFP発現をもたらした。この図は、高拡大率のものを示している。
図2C】マウスCABP2プロモーター(配列番号1)の制御下で緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子に融合しているヒトヒストンH2B遺伝子を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで形質導入したマウス蝸牛外植片の蛍光画像である。抗ミオシン7a(MYO7A)抗体を使用して、全ての有毛細胞を標識し、かつ抗GFP抗体を使用して、CABP2プロモーター媒介GFP発現を標識した。生後1日目のB6/CAST-Cdh23Ahl+/Kjnマウスの外植片における蝸牛有毛細胞の形質導入は、内耳有毛細胞(IHC)特異的GFP発現をもたらした。この図は、高拡大率のものを示している。
図2D】マウスCABP2プロモーター(配列番号1)の制御下で緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子に融合しているヒトヒストンH2B遺伝子を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで形質導入したマウス蝸牛外植片の蛍光画像である。抗ミオシン7a(MYO7A)抗体を使用して、全ての有毛細胞を標識し、かつ抗GFP抗体を使用して、CABP2プロモーター媒介GFP発現を標識した。蝸牛外植片は、P4 C57BL/6NTac幼マウスから調製した。GFP発現は、蝸牛IHCで観察された。この図は、低拡大率のものを示している。
図2E】マウスCABP2プロモーター(配列番号1)の制御下で緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子に融合しているヒトヒストンH2B遺伝子を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで形質導入したマウス蝸牛外植片の蛍光画像である。抗ミオシン7a(MYO7A)抗体を使用して、全ての有毛細胞を標識し、かつ抗GFP抗体を使用して、CABP2プロモーター媒介GFP発現を標識した。蝸牛外植片は、P4 C57BL/6NTac幼マウスから調製した。GFP発現は、蝸牛IHCで観察された。この図は、高拡大率のものを示している。
図2F】マウスCABP2プロモーター(配列番号1)の制御下で緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子に融合しているヒトヒストンH2B遺伝子を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで形質導入したマウス蝸牛外植片の蛍光画像である。抗ミオシン7a(MYO7A)抗体を使用して、全ての有毛細胞を標識し、かつ抗GFP抗体を使用して、CABP2プロモーター媒介GFP発現を標識した。蝸牛外植片は、P4 C57BL/6NTac幼マウスから調製した。GFP発現は、蝸牛IHCで観察された。この図は、低拡大率のものを示している。
図2G】マウスCABP2プロモーター(配列番号1)の制御下で緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子に融合しているヒトヒストンH2B遺伝子を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで形質導入したマウス蝸牛外植片の蛍光画像である。抗ミオシン7a(MYO7A)抗体を使用して、全ての有毛細胞を標識し、かつ抗GFP抗体を使用して、CABP2プロモーター媒介GFP発現を標識した。蝸牛外植片は、P4 C57BL/6NTac幼マウスから調製した。GFP発現は、蝸牛IHCで観察された。この図は、高拡大率のものを示している。
【発明を実施するための形態】
【0064】
特に蝸牛内耳有毛細胞(IHC)において導入遺伝子発現を誘導するための組成物及び方法について本明細書に記載する。本発明はまた、内耳のIHCにおいて導入遺伝子を特異的に発現することができるIHC特異的プロモーターを特徴とする。本発明はまた、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに操作可能に連結された上記のプロモーターを含む核酸ベクターを特徴とする。本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、IHCにおいてタンパク質(例えば、治療用タンパク質、レポータータンパク質、または他の目的のタンパク質)をコードするポリヌクレオチドを特異的に発現させることができ、その結果、本明細書に記載の組成物は、難聴などのIHCの機能不全が原因の障害を治療するために、対象(哺乳動物対象、例えば、ヒト)に投与することができる。
【0065】
有毛細胞
有毛細胞は、内耳に存在する聴覚系及び前庭系の感覚細胞である。蝸牛有毛細胞は、聴覚系の感覚細胞であり、2つの主要な細胞型:音の感知に関与するIHC、及び低音を増幅すると考えられている外有毛細胞(OHC)で構成される。有毛細胞は、細胞の頂端面から突出して有毛細胞の束を形成する不動毛にちなんで名付けられた。不動毛の偏向(例えば、蝸牛有毛細胞の音波による)により、機械刺激依存性イオンチャネルが開放され、有毛細胞が神経伝達物質を放出して神経を活性化し、それによって機械音シグナルを、脳に伝達可能な電気シグナルに変換することができる。蝸牛有毛細胞は正常な聴力に不可欠であり、蝸牛有毛細胞の損傷及び蝸牛有毛細胞の機能を破壊する遺伝子変異は、難聴及び聴覚消失に関係している。近年、難聴を治療するための魅力的な治療アプローチとして遺伝子治療が注目されているが、この分野には、遺伝子治療で使用する核酸ベクターを有毛細胞に特異的に標的化する方法が存在しない。
【0066】
本発明は、他の蝸牛細胞型と比較して、蝸牛IHCで特異的に発現する遺伝子の発見に部分的に基づくものである。したがって、これらの遺伝子のプロモーターは、内耳のIHCにおける遺伝子の特異的発現を誘導することができる。したがって、本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、IHCにおける目的の遺伝子、例えば、IHC発達、IHC機能、IHC運命の特定、IHC再生、IHC生存、IHC維持に関与する遺伝子、または、難聴を有する対象において破壊されている、例えば変異していることが知られている遺伝子を発現させて、難聴(例えば、感音難聴)を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療することができる。
【0067】
カルシウム結合タンパク質2
カルシウム結合タンパク質2(CABP2)は、カルモジュリンに対する類似性を共有するカルシウム結合タンパク質のサブファミリーに属する。カルモジュリンと同様に、これらのファミリーメンバーは、カルモジュリン依存性キナーゼII及びタンパク質ホスファターゼカルシニューリンを刺激する可能性がある。カルシウム結合タンパク質は、カルシウム媒介細胞シグナル伝達の重要な要素である。
【0068】
本発明は、CABP2転写物が、他の蝸牛細胞型(例えば、外有毛細胞)と比較してIHCにおいて非常に高レベルで発現し、このことは、CABP2プロモーター配列を使用してIHCにおける導入遺伝子の特異的発現を促進できる可能性があることを示唆しているという発見に部分的に基づくものである。したがって、本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、IHCにおいて目的の遺伝子(例えば、IHC発達、機能、細胞運命の特定、再生、生存、維持に関与する遺伝子、または、難聴を有する対象において破壊されている、例えば変異していることが知られている遺伝子)を発現させて、難聴(例えば、感音難聴)を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療することができる。
【0069】
本明細書に記載の組成物及び方法は、配列番号1~3のうち任意の1つに対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド配列など、IHCにおいて導入遺伝子を特異的に発現することができる表2に挙げたCABP2プロモーター(例えば、配列番号1~3のうち任意の1つ)を含む。本明細書に記載のポリヌクレオチドは、CABP2遺伝子の翻訳開始部位(TSS)の上流及び下流の両方に位置する領域を含み得るか、CABP2遺伝子の上流領域のみを含む場合がある。
【0070】
CABP2の例示的プロモーター配列を表2に列挙する。
【表2-1】

【表2-2】

【表2-3】

【表2-4】
【0071】
前述のポリヌクレオチドを、核酸ベクターに含め、導入遺伝子に操作可能に連結させて、IHCにおいて導入遺伝子を特異的に発現させることができる。いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、IHC機能、IHC発達、IHC運命の特定、IHC再生、IHC生存、またはIHC維持に関与するタンパク質をコードしているか、あるいは導入遺伝子は、難聴、聴覚消失、聴神経障害、または耳鳴症を有する対象において変異していることが見出されている遺伝子の野生型バージョンである。本明細書に記載の方法に従って、難聴、聴覚消失、聴神経障害、または耳鳴症の治療のための治療用タンパク質をコードする導入遺伝子に操作可能に連結された前述のポリヌクレオチド(例えば、IHC特異的プロモーター、例えば、表2に挙げたポリヌクレオチド配列(例えば、配列番号1~3)のうち任意の1つ)のうち1つ以上を含む組成物を対象に投与することができる。いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、アクチンγ1(ACTG1)、ファスシンアクチンバンドリングタンパク質2レチナール(FSCN2)、ラジキシン(RDX)、POUクラス4ホメオボックス3(POU4F3)、TRIO及びF-アクチン結合タンパク質(TRIOBP)、タペリン(TPRN)、Xinアクチン結合リピート含有2(XIRP2)、Atonal BHLH転写因子1(ATOH1)、成長因子非依存性1転写抑制因子(GFI1)、コリン作動性受容体ニコチンα9サブユニット(CHRNA9)、コリン作動性受容体ニコチンα10サブユニット(CHRNA10)、カルシウム及びインテグリン結合ファミリーメンバー3(CIB3)、カドヘリン23(CDH23)、プロトカドヘリン15(PCDH15)、キノシリン(KNCN)、ペジバキン(DFNB59)、オトフェリン(OTOF)、MKRN2反対鎖(MKRN2OS)、LIMホメオボックスタンパク質3(LHX3)、膜貫通型チャネル様1(TMC1)、ミオシン15(MYO15)、ミオシン7A(MYO7A)、ミオシン6(MYO6)、ミオシンIIIA(MYO3A)、ミオシンIIIB(MYO3B)、グルタレドキシンドメイン含有システインリッチタンパク質1(GRXCR1)、タンパク質チロシンホスファターゼ受容体タイプQ(PTPRQ)、後期角化エンベロープ6A(LCE6A)、リポキシゲナーゼホモロジードメイン含有タンパク質1(LOXHD1)、ADP-リボシルトランスフェラーゼ1(ART1)、ATPアーゼプラズマ細胞膜Ca2+輸送体2(ATP2B2)、カルシウム及びインテグリン結合ファミリーメンバー2(CIB2)、カルシウム電位依存性チャネル補助サブユニットα2δ4(CACNA2D4)、カルシウム結合タンパク質2(CABP2)、表皮成長因子受容体経路基質8(EPS8)、EPS8様2(EPS8L2)、エスピン(ESPN)、エスピン様(ESPNL)、ペリフェリン2(PRPH2)、ステレオシリン(STRC)、溶質キャリアファミリー8メンバーA2(SLC8A2)、亜鉛フィンガーCCHCタイプ含有12(ZCCHC12)、ロイシンリッチ膜貫通及びO-メチルトランスフェラーゼドメイン含有(LRTOMT2、LRTOMT1)、USH1タンパク質ネットワーク成分ハーモニン(USH1C)、細胞外ロイシンリッチリピート及びフィブロネクチンIII型ドメイン含有1(ELFN1)、テトラトリコペプチドリピートタンパク質24(TTC24)、ジストロテリン(DYTN)、キーリン/コーディン様タンパク質(KCP)、コイルドコイルグルタミン酸リッチタンパク質2(CCER2)、ロイシンリッチリピート及び膜貫通ドメイン含有タンパク質2(LRTM2)、カリウム電位依存性チャネルサブファミリーAメンバー10(KCNA10)、ニューロトロフィン3(NTF3)、クラリン1(CLRN1)、クラリン2(CLRN2)、SKIファミリー転写コリプレッサー1(SKOR1)、Tctex1ドメイン含有タンパク質1(TCTEX1D1)、Fc受容体様B(FCRLB)、溶質キャリアファミリー17メンバー8(SLC17A8)、グルタレドキシンドメイン含有システインリッチタンパク質2(GRXCR2)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、セルピンファミリーEメンバー3(SERPINE3)、Nescientヘリックス・ループ・ヘリックス1(NHLH1)、熱ショックタンパク質70(HSP70)、熱ショックタンパク質90(HSP90)、活性化転写因子6(ATF6)、真核生物翻訳開始因子2αキナーゼ3(PERK)、セリン/スレオニンタンパク質キナーゼ/エンドリボヌクレアーゼIRE1(IRE1)、Whirlin(WHRN)、Oncomodulin(OCM)、LIMホメオボックス1(Isl1)、膜貫通及びテトラトリコペプチドリピート含有4(TMTC4)、ならびに結合免疫グロブリンタンパク質(BIP)からなる群から選択されるタンパク質をコードする。
【0072】
哺乳動物細胞における外来性ポリヌクレオチドの発現
MYO7A、POU4F3、SLC17A8、及びTMC1などの種々の遺伝子の変異が、感音難聴に関連している。本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列に操作可能に連結されたIHC特異的プロモーター配列(表2に挙げたプロモーター配列のうち任意の1つ(例えば、配列番号1~3のうち任意の1つ)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)を含む核酸ベクターを投与することによって、例えば、IHCにおいて目的の遺伝子(例えば、難聴に関与する野生型形態の遺伝子、またはIHC発達、IHC機能、IHC運命の特定、IHC再生、IHC生存、もしくはIHC維持に関与する遺伝子)によってコードされるタンパク質の特異的な発現を誘導または増加させることができる。哺乳動物細胞へのタンパク質の送達、及び哺乳動物細胞におけるタンパク質をコードする遺伝子の安定的な発現のための幅広い方法がこれまでに確立されている。
【0073】
本明細書に記載の組成物に関連して発現される場合があるタンパク質(例えば、タンパク質をコードする導入遺伝子が、IHC特異的プロモーター(例えば、表2に挙げたプロモーター配列のうち任意の1つ(例えば、配列番号1~3のうち任意の1つ)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)に操作可能に連結されている場合)は、健康なIHCに発現しているタンパク質(例えば、IHC発達、IHC機能、IHC再生、IHC運命の特定、IHC生存、もしくはIHC維持の役割を果たすタンパク質、または感音難聴を有する対象において不足しているタンパク質)、あるいは他の目的のタンパク質である。本明細書に記載の組成物及び方法を使用して有毛細胞において発現させることができるタンパク質としては、ACTG1、FSCN2、RDX、POU4F3、TRIOBP、TPRN、XIRP2、ATOH1、GFI1、CHRNA9、CHRNA10、CIB3、CDH23、PCDH15、KNCN、DFNB59、OTOF、MKRN2OS、LHX3、TMC1、MYO15、MYO7A、MYO6、MYO3A、MYO3B、GRXCR1、PTPRQ、LCE6A、LOXHD1、ART1、ATP2B2、CIB2、CACNA2D4、CABP2、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESPNL、PRPH2、STRC、SLC8A2、ZCCHC12、LRTOMT2、LRTOMT1、USH1C、ELFN1、TTC24、DYTN、KCP、CCER2、LRTM2、KCNA10、CLRN1、CLRN2、SKOR1、TCTEX1D1、FCRLB、SLC17A8、GRXCR2、BDNF、SERPINE3、NHLH1、HSP70、HSP90、ATF6、PERK、IRE1、WHRN、OCM、ISL1、NTF3、TMTC4、及びBIPが挙げられる。本明細書に記載のポリヌクレオチド(例えば、IHC特異的プロモーター)を使用して、IHCにおいて、低分子干渉RNA(siRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、ヌクレアーゼ(例えば、CRISPR関連タンパク質9(Cas9)、転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、またはガイドRNA(gRNA))、あるいはマイクロRNAを発現させることができる。
【0074】
目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチド
哺乳動物細胞内で目的のタンパク質を治療上有効な細胞内濃度に到達させるために使用することができる1つのプラットフォームは、目的のタンパク質をコードする遺伝子を安定的に発現させる(例えば、哺乳動物細胞の核ゲノムもしくはミトコンドリアゲノムへの組み込みによって、または哺乳動物細胞の核におけるエピソーム鎖状体形成によって)ことによる。遺伝子は、対応するタンパク質の一次アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドである。外来性遺伝子を哺乳動物細胞に導入するために、遺伝子をベクターに組み込むことができる。ベクターは、形質転換、形質移入、形質導入、直接取り込み、粒子衝撃法、及びリポソームへのベクターのカプセル化を含む様々な方法によって、細胞に導入することができる。細胞を形質移入または形質転換する適切な方法の例としては、リン酸カルシウム沈殿、電気穿孔法、マイクロインジェクション、感染、リポフェクション、及び直接取り込みが挙げられる。そのような方法は、例えば、Green,et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Fourth Edition(Cold Spring Harbor University Press,New York 2014);及びAusubel,et al.,Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sons,New York 2015)にさらに詳細に記載されており、それぞれの開示は参照により本明細書に援用される。
【0075】
目的のタンパク質をコードする遺伝子を含むベクターを細胞膜リン脂質に標的化することにより、目的のタンパク質を哺乳動物細胞に導入することもできる。例えば、すべての細胞膜リン脂質に親和性を有するウイルスタンパク質であるVSV-Gタンパク質にベクター分子を結合させることにより、ベクターを細胞膜の細胞外表面上のリン脂質に標的化することができる。そのような構築物は、当業者に周知の方法を使用して生成することができる。
【0076】
目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが、哺乳類RNAポリメラーゼによって認識され、結合されることは、遺伝子発現にとって重要である。したがって、RNAポリメラーゼを動員し、転写開始部位での転写複合体のアセンブリを促進する転写因子に対して高い親和性を示す配列エレメントを、ポリヌクレオチド内に含めてもよい。そのような配列エレメントとしては、例えば、哺乳類プロモーターが挙げられ、その配列は、特定の転写開始因子、そして最終的にはRNAポリメラーゼによって認識され、結合され得る。哺乳類プロモーターの例は、Smith,et al.,Mol.Sys.Biol.,3:73(オンライン公開)に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。本明細書に記載の方法及び組成物で使用するプロモーターは、IHC特異的プロモーター(例えば、表2に挙げたプロモーター配列のうち任意の1つ(例えば、配列番号1~3のうち任意の1つ)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)である。
【0077】
目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが哺乳動物細胞の核DNAに組み込まれると、このポリヌクレオチドの転写は、当技術分野において知られている方法によって誘導することができる。例えば、哺乳類プロモーターへの転写因子及び/またはRNAポリメラーゼの結合を調節し、したがって遺伝子発現を調節する薬剤などの外部化学試薬に哺乳動物細胞を曝露することによって、発現を誘導することができる。化学試薬は、例えば、プロモーターに結合したリプレッサータンパク質を除去することによって、哺乳類プロモーターへのRNAポリメラーゼ及び/または転写因子の結合を促進するように機能することができる。あるいは、化学試薬は、RNAポリメラーゼ及び/または転写因子に対する哺乳類プロモーターの親和性を高め、それによりプロモーターの下流に位置する遺伝子の転写速度を化学試薬の存在下で増加させるように機能することができる。上記のメカニズムによってポリヌクレオチド転写を増強する化学試薬の例としては、テトラサイクリン及びドキシサイクリンが挙げられる。これらの試薬は市販されており(Life Technologies,Carlsbad,CA)、確立されたプロトコールに従って遺伝子発現を促進するために哺乳動物細胞に投与することができる。
【0078】
本明細書に記載の組成物及び方法で使用するためのポリヌクレオチドに含めてもよい他のDNA配列エレメントとしては、エンハンサー配列が挙げられる。エンハンサーは、DNAが、転写開始部位での転写因子及びRNAポリメラーゼの結合に有利な三次元配向をとるように、目的の遺伝子を含むポリヌクレオチドの立体構造変化を誘導する別のクラスの調節エレメントを表す。したがって、本明細書に記載の組成物及び方法で使用するためのポリヌクレオチドには、目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが含まれ、さらに哺乳類のエンハンサー配列が含まれる。現在、哺乳類遺伝子由来の多くのエンハンサー配列が知られており、例としては、哺乳類のグロビン、エラスターゼ、アルブミン、α-フェトプロテイン、及びインスリンをコードする遺伝子のエンハンサーが挙げられる。本明細書に記載の組成物及び方法で使用するためのエンハンサーには、真核細胞に感染することができるウイルスの遺伝物質に由来するエンハンサーも含まれる。例としては、複製起点の後半側のSV40エンハンサー(bp100~270)、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後半側のポリオーマエンハンサー、及びアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。真核生物の遺伝子転写の活性化を誘導するさらなるエンハンサー配列としては、CMVエンハンサー及びRSVエンハンサーが挙げられる。エンハンサーは、目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクター内に、例えば、この遺伝子の5’または3’の位置にスプライシングさせてもよい。好ましい配向では、エンハンサーをプロモーターの5’側に配置し、次いでプロモーターを、目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドに対して5’側に配置する。
【0079】
本明細書に記載のIHC特異的プロモーターを含む核酸ベクターには、ウッドチャック転写後調節エレメント(WPRE)を含めてもよい。WPREは、mRNAレベルで作用し、転写物の核外輸送を促進することによって、及び/または新生の転写物のポリアデニル化の効率を高めることによって、細胞内のmRNAの総量を増加させる。ベクターへのWPREの付加は、in vitro及びin vivoの両方で、いくつかの異なるプロモーターからの導入遺伝子発現のレベルの実質的な改善をもたらし得る。
【0080】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のIHC特異的プロモーターを含む核酸ベクターは、レポーター配列を含み、これは、例えば、細胞及び組織(例えば、IHC)において、IHC特異的プロモーターに操作可能に連結された遺伝子の発現を検証するのに有用である場合がある。導入遺伝子において提供し得るレポーター配列としては、β-ラクタマーゼ、β-ガラクトシダーゼ(LacZ)、アルカリホスファターゼ、チミジンキナーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ルシフェラーゼ、及び当技術分野で周知の他のレポーターをコードするDNA配列が挙げられる。レポーター配列は、それらの発現を駆動するIHC特異的プロモーターなどの調節エレメントに関連付けられる場合、酵素アッセイ、放射線アッセイ、比色アッセイ、蛍光アッセイまたは他の分光アッセイ、蛍光活性化細胞選別アッセイ、ならびに酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、及び免疫組織化学を含む免疫学的アッセイを含む、従来の手段によって検出可能なシグナルを提供する。例えば、マーカー配列がLacZ遺伝子である場合、シグナルを組み込んだベクターの存在は、β-ガラクトシダーゼ活性のアッセイによって検出される。導入遺伝子が緑色蛍光タンパク質またはルシフェラーゼである場合、シグナルを組み込んだベクターは、照度計での色または光の生成によって視覚的に測定することができる。
【0081】
外来性ポリヌクレオチドを標的細胞に送達するための方法
導入遺伝子、例えば、本明細書に記載のIHC特異的プロモーターに操作可能に連結された導入遺伝子を標的細胞(例えば、哺乳動物細胞)に導入するために使用することができる技術は、当技術分野で周知である。例えば、電気穿孔法を使用して、目的の細胞に静電ポテンシャルを印加することにより、哺乳動物細胞(例えば、ヒト標的細胞)を透過性にすることができる。このようにして外部電場にさらされたヒト細胞などの哺乳動物細胞は、その後、外来性ポリヌクレオチドを取り込みやすくなる。哺乳動物細胞の電気穿孔法は、例えば、Chu et al.,Nucleic Acids Research 15:1311(1987)に詳細に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。同様の技術であるNucleofection(商標)は、真核細胞の核への外来性ポリヌクレオチドの取り込みを刺激するために印加する電場を利用する。Nucleofection(商標)及びこの技術を実施するのに有用なプロトコールは、例えば、Distler et al.,Experimental Dermatology 14:315(2005)、及びUS2010/0317114に詳細に記載されており、それぞれの開示は、参照により本明細書に援用される。
【0082】
標的細胞の形質移入に有用なさらなる技術としては、スクイーズポレーション法が挙げられる。この技術は、加えられたストレスに応答して形成される膜状の細孔を介した外来性DNAの取り込みを刺激するために、細胞の急速な機械的変形を誘導する。この技術は、ヒト標的細胞などの細胞へのポリヌクレオチドの送達にベクターを必要としないという点で有利である。スクイーズポレーションは、例えば、Sharei et al.,Journal of Visualized Experiments 81:e50980 (2013)に詳細に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。
【0083】
リポフェクションは、標的細胞への形質移入に有用な別の技術である。この方法は、リポソームへのポリヌクレオチドのローディングを含み、この方法は、多くの場合、第四級アミンまたはプロトン化アミンなどのカチオン性官能基をリポソームの外部に向かって提示する。これにより、細胞膜のアニオン性によってリポソームと細胞との間の静電相互作用が促進され、最終的に、例えば、リポソームと細胞膜との直接融合によって、または複合体のエンドサイトーシスによって、外来性ポリヌクレオチドが取り込まれる。リポフェクションは、例えば、米国特許第7,442,386号に詳細に記載されており、その開示は、参照により本明細書に援用される。細胞膜とのイオン相互作用を利用して外来性ポリヌクレオチドの取り込みを誘導する同様の技術には、細胞をカチオン性ポリマー-ポリヌクレオチド複合体と接触させることが含まれる。細胞膜との相互作用に有利な正電荷を与えるようにポリヌクレオチドと会合させる例示的なカチオン性分子としては、活性化デンドリマー(例えば、Dennig,Topics in Current Chemistry 228:227(2003)に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される)、ポリエチレンイミン、及びジエチルアミノエチル(DEAE)-デキストランが挙げられ、形質移入剤としてのこれらの使用は、例えば、Gulick et al.,Current Protocols in Molecular Biology 40:I:9.2:9.2.1(1997)に詳細に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。磁気ビーズは、穏やかで効率的な方法で標的細胞を形質移入するために使用することができる別のツールであり、なぜなら、この方法論は、ポリヌクレオチドの取り込みを指示するために磁場の印加を利用するためである。この技術は、例えば、US2010/0227406に詳細に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。
【0084】
標的細胞による外来性ポリヌクレオチドの取り込みを誘導するための別の有用なツールは、レーザーフェクションであり、これは光学形質移入法とも呼ばれ、細胞を穏やかに透過性にし、ポリヌクレオチドが細胞膜に浸透できるようにするために、細胞を特定の波長の電磁放射に曝露することを含む技術である。この技術の生物活性は、電気穿孔法に類似しており、場合によっては電気穿孔法よりも優れていること見出されている。
【0085】
インパレフェクションは、遺伝物質を標的細胞に送達するために使用することができる別の技術である。この技術は、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、及びナノワイヤーなどのナノ材料の使用に依存する。針状のナノ構造を、基板の表面に対して垂直に合成する。細胞内送達を目的とした遺伝子を含むDNAを、ナノ構造の表面に付着させる。次に、これらの針のアレイを備えたチップを、細胞または組織に押圧する。ナノ構造によって刺激された細胞は、送達された遺伝子(複数可)を発現することができる。この技術の実施例は、Shalek et al.,PNAS 107:1870(2010)に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。
【0086】
マグネトフェクションを使用して標的細胞にポリヌクレオチドを送達することもできる。マグネトフェクションの原理は、ポリヌクレオチドをカチオン性磁性ナノ粒子と会合させることである。磁性ナノ粒子は、完全に生分解性の酸化鉄でできており、用途に応じて異なる特定の独自のカチオン性分子でコーティングされている。遺伝子ベクター(DNA、siRNA、ウイルスベクターなど)とのそれらの会合は、塩によって誘発されるコロイド凝集及び静電相互作用によって達成される。次いで、磁石によって生成された外部磁場の影響により、磁性粒子が標的細胞上に濃縮される。この技術は、Scherer et al.,Gene Therapy 9:102(2002)に詳細に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。
【0087】
標的細胞による外来性ポリヌクレオチドの取り込みを誘導するための別の有用なツールは、ソノポレーションであり、これは細胞形質膜の透過性を改変するために音波(通常は超音波周波数)を使用することを含む技術であり、細胞を透過性にし、ポリヌクレオチドが細胞膜に浸透することを可能にする。この技術は、例えば、Rhodes et al.,Methods in Cell Biology 82:309(2007)に詳細に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。
【0088】
微小胞は、本明細書に記載の方法に従って標的細胞のゲノムを改変するために使用することができる別の潜在的な媒体を表す。例えば、糖タンパク質VSV-Gと、例えば、ヌクレアーゼなどのゲノム修飾タンパク質との共過剰発現によって誘導した微小胞を使用して、タンパク質を細胞に効率的に送達し、その後、内因性ポリヌクレオチド配列の部位特異的切断を触媒し、それにより、遺伝子または調節配列などの目的のポリヌクレオチドを共有結合によって組み込むために細胞のゲノムを調製することができる。真核細胞を遺伝子改変するためのGesicleとも呼ばれるそのような小胞の使用は、例えば、Quinn et al.,Genetic Modification of Target Cells by Direct Delivery of Active Protein[abstract] In:Methylation changes in early embryonic genes in cancer[abstract],in:Proceedings of the 18th Annual Meeting of the American Society of Gene and Cell Therapy;2015 May 13,Abstract No.122に詳細に記載されている。
【0089】
外来性ポリヌクレオチドを標的細胞に送達するためのベクター
高速の転写及び翻訳を達成することに加えて、哺乳動物細胞における外来性遺伝子の安定した発現を、その遺伝子を含むポリヌクレオチドを哺乳動物細胞の核ゲノムへ組み込むことによって達成することができる。外来性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを哺乳動物細胞の核DNAに送達し、組み込むための様々なベクターが開発されてきた。発現ベクターの例は、例えば、Gellissen,Production of Recombinant Proteins:Novel Microbial and Eukaryotic Expression Systems(John Wiley & Sons,Marblehead,MA,2006)に記載されている。本明細書に記載の組成物及び方法で使用する発現ベクターは、目的のタンパク質、ならびに例えば、これらの作用物質の発現及び/またはこれらのポリヌクレオチド配列の哺乳動物細胞ゲノムへの組み込みに使用される追加の配列エレメントをコードするポリヌクレオチド配列に操作可能に連結された、IHC特異的プロモーター(例えば、表2に挙げたプロモーター配列のうち任意の1つ(例えば、配列番号1~3のうち任意の1つ)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)を含む。目的のタンパク質をコードする導入遺伝子に操作可能に連結された有毛細胞特異的プロモーターを含ませることができるベクターとしては、プラスミド(例えば、細胞内で自律的に複製できる環状DNA分子)、コスミド(例えば、pWEベクターまたはsCosベクター)、人工染色体(例えば、ヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、またはP1由来人工染色体(PAC))、及びウイルスベクターが挙げられる。目的のタンパク質の発現に使用することができる特定のベクターとしては、遺伝子転写を指示するエンハンサー領域などの調節配列を含むプラスミドが挙げられる。目的のタンパク質の発現に有用な他のベクターは、これらの遺伝子の翻訳速度を高めるか、または遺伝子転写から生じるmRNAの安定性もしくは核外輸送を向上させるポリヌクレオチド配列を含む。これらの配列エレメントには、例えば、発現ベクターが保有する遺伝子の効率的な転写を指示するための、5’及び3’非翻訳領域、配列内リボソーム進入部位(IRES)、及びポリアデニル化シグナル部位が含まれる。本明細書に記載の組成物及び方法での使用に適した発現ベクターはまた、そのようなベクターを含む細胞を選択するためのマーカーをコードするポリヌクレオチドを含み得る。適切なマーカーの例としては、アンピシリン、クロラムフェニコール、カナマイシン、またはノーセオスリシンなどの抗生物質に対する耐性をコードする遺伝子が挙げられる。
【0090】
ポリヌクレオチド送達用のウイルスベクター
ウイルスゲノムは、目的の遺伝子を標的細胞(例えば、ヒト細胞などの哺乳動物細胞)のゲノムに効率的に送達するために使用することができるベクターの豊富な供給源を提供する。ウイルスゲノムは、そのようなゲノム内に含まれるポリヌクレオチドが、通常、普遍形質導入または特殊形質導入によって哺乳動物細胞の核ゲノムに組み込まれるため、遺伝子送達のための特に有用なベクターである。これらのプロセスは、天然のウイルス複製サイクルの一部として発生し、遺伝子の組み込みを誘導するためにタンパク質や試薬を追加する必要がない。ウイルスベクターの例としては、レトロウイルス(例えば、Retroviridae科ウイルスベクター)、アデノウイルス(例えば、Ad5、Ad26、Ad34、Ad35、及びAd48)、パルボウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス)、コロナウイルス、マイナス鎖RNAウイルス、例えば、オルソミクソウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、ラブドウイルス(例えば、狂犬病ウイルス及び水疱性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、麻疹及びセンダイ)、プラス鎖RNAウイルス、例えば、ピコルナウイルス及びアルファウイルス、ならびにアデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス1型及び2型、エプスタイン-バーウイルス、サイトメガロウイルス)、及びポックスウイルス(例えば、ワクシニア、変異ワクシニアアンカラ(MVA)、鶏痘及びカナリア痘)を含む二本鎖DNAウイルスが挙げられる。他のウイルスとしては、例えば、ノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パポーバウイルス、ヘパドナウイルス、ヒトパピローマウイルス、ヒト泡沫状ウイルス、及び肝炎ウイルスが挙げられる。レトロウイルスの例として:トリ白血病肉腫、トリC型ウイルス、哺乳類C型、B型ウイルス、D型ウイルス、オンコレトロウイルス、HTLV-BLV群、レンチウイルス、アルファレトロウイルス、ガンマレトロウイルス、スプーマウイルスが挙げられる(Coffin,J.M.,Retroviridae:The viruses and their replication,Virology,Third Edition(Lippincott-Raven,Philadelphia,1996))。他の例としては、マウス白血病ウイルス、マウス肉腫ウイルス、マウス乳腺腫瘍ウイルス、ウシ白血病ウイルス、ネコ白血病ウイルス、ネコ肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒヒ内因性ウイルス、テナガザル白血病ウイルス、マソン-ファイザーサルウイルス、サル免疫不全ウイルス、サル肉腫ウイルス、ラウス肉腫ウイルス及びレンチウイルスが挙げられる。ベクターの他の例は、例えば、米国特許第5,801,030号に記載されており、その開示は、それが遺伝子治療で使用するためのウイルスベクターに属するため、参照により本明細書に援用される。
【0091】
ポリヌクレオチド送達用のAAVベクター
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法のポリヌクレオチドを、細胞へのそれらの導入を促進するために、rAAVベクター及び/またはウイルス粒子に組み込む。本明細書に記載の組成物及び方法に有用なrAAVベクターは、(1)本明細書に記載のIHC特異的プロモーター(例えば、表2に挙げたプロモーター配列のうち任意の1つ(例えば、配列番号1~3のうち任意の1つ)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)、(2)発現させる異種配列、及び(3)異種遺伝子の組み込み及び発現を促進するウイルス配列、を含む組み換えポリヌクレオチド構築物である。ウイルス配列は、DNAの複製及びウイルス粒子へのパッケージング(例えば、機能的ITR)のためにシスで必要とされるAAVの配列を含み得る。一般的な応用では、導入遺伝子は、有毛細胞発達、有毛細胞機能、有毛細胞再生、有毛細胞運命の特定、有毛細胞生存、または有毛細胞維持を促進することができるタンパク質か、あるいは遺伝性難聴の形態を有する対象において変異している有毛細胞タンパク質の野生型形態をコードし、これらは、難聴または聴覚消失に関連している変異を有する対象の聴力を改善するのに有用であり得る。そのようなrAAVベクターは、マーカーまたはレポーター遺伝子も含み得る。有用なrAAVベクターでは、1つ以上のAAV WT遺伝子の全体または一部が削除されているが、機能的な隣接ITR配列は保持されている。AAV ITRは、特定の応用に適した任意の血清型であり得る。本明細書に記載の方法及び組成物で使用するために、ITRはAAV2 ITRであり得る。rAAVベクターの使用方法は、例えば、Tal et al.,J.Biomed.Sci.7:279(2000)、及びMonahan and Samulski,Gene Delivery 7:24(2000)に記載されており、それらの各開示は、それらが遺伝子送達用のAAVベクターに属するため、参照により本明細書に援用される。
【0092】
細胞へのポリヌクレオチドまたはベクターの導入を容易にするために、本明細書に記載のポリヌクレオチド及びベクター(例えば、目的のタンパク質をコードする導入遺伝子に操作可能に連結されたIHC特異的プロモーター)をrAAVウイルス粒子に組み込むことができる。AAVのキャプシドタンパク質は、ウイルス粒子の外部の非核酸部分を構成し、AAV cap遺伝子によってコードされる。cap遺伝子は、ウイルス粒子アセンブリに必要な3つのウイルスコートタンパク質VP1、VP2、及びVP3をコードする。rAAVウイルス粒子の構築は、例えば、US5,173,414;US5,139,941;US5,863,541;US5,869,305;US6,057,152;及びUS6,376,237;ならびにRabinowitz et al.,J.Virol.76:791(2002)及びBowles et al.,J.Virol.77:423(2003)に記載されており、それらの各開示は、それらが遺伝子送達用のAAVベクターに属するため、参照により本明細書に援用される。
【0093】
本明細書に記載の組成物及び方法と組み合わせて有用なrAAVウイルス粒子としては、AAV1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、rh10、rh39、rh43、rh74、Anc80、Anc80L65、DJ/8、DJ/9、7m8、PHP.B、PHP.eb、及びPHP.Sを含む様々なAAV血清型に由来するウイルス粒子が挙げられる。有毛細胞を標的とする場合、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV6、AAV8、AAV9、Anc80、Anc80L65、DJ/9、7m8、及びPHP.Bが特に有用であり得る。網膜の形質導入のために進化させた血清型もまた、本明細書に記載の方法及び組成物において使用してもよい。異なる血清型のAAVベクター及びAAVタンパク質の構築及び使用は、例えば、Chao et al.,Mol.Ther.2:619(2000);Davidson et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:3428 (2000);Xiao et al.,J.Virol.72:2224(1998);Halbert et al.,J.Virol.74:1524(2000);Halbert et al.,J.Virol.75:6615(2001);及びAuricchio et al.,Hum.Molec.Genet.10:3075(2001)に記載されており、それらの各開示は、それらが遺伝子送達用のAAVベクターに属するため、参照により本明細書に援用される。
【0094】
本明細書に記載の組成物及び方法と組み合わせて有用なものは、偽型rAAVベクターである。偽型ベクターには、所与の血清型(例えば、AAV9)のAAVベクターが、所与の血清型以外の血清型(例えば、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8など)に由来するキャプシド遺伝子で偽型化されたものが含まれる。偽型rAAVウイルス粒子の構築及び使用を含む技術は当技術分野で公知であり、例えば、Duan et al.,J.Virol.75:7662(2001);Halbert et al.,J.Virol.74:1524(2000);Zolotukhin et al.,Methods,28:158(2002);及びAuricchio et al.,Hum.Molec.Genet.10:3075(2001)に記載されている。
【0095】
ウイルス粒子のキャプシド内に変異を有するAAVウイルス粒子を使用して、変異していないキャプシドウイルス粒子よりも効果的に特定の細胞型に感染させ得る。例えば、適切なAAV変異体は、AAVを特定の細胞型に標的化することを容易にするためのリガンド挿入変異を有し得る。挿入変異体、アラニンスクリーニング変異体、及びエピトープタグ変異体を含むAAVキャプシド変異体の構築及び特徴決定は、Wu et al.,J.Virol.74:8635(2000)に記載されている。本明細書に記載の方法で使用することができる他のrAAVウイルス粒子としては、ウイルスの分子育種によって、及びエキソンシャッフリングによって生成されるキャプシドハイブリッドが挙げられる。例えば、Soong et al.,Nat.Genet.,25:436(2000)及びKolman and Stemmer,Nat.Biotechnol.19:423(2001)を参照されたい。
【0096】
医薬組成物
本明細書に記載のポリヌクレオチド(例えば、表2に挙げたプロモーター配列のうち任意の1つ(例えば、配列番号1~3のうち任意の1つ)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)は、導入遺伝子(例えば、目的のタンパク質をコードする導入遺伝子)に操作可能に連結されて、感音難聴に罹患しているヒト患者などの患者に投与するための媒体に組み込まれ得る。治療用導入遺伝子に操作可能に連結された本明細書に記載のポリヌクレオチドを含む、ウイルスベクターなどのベクターを含む医薬組成物は、当技術分野で公知の方法を使用して調製することができる。例えば、そのような組成物は、例えば、生理学的に許容される担体、賦形剤または安定剤(Remington:The Science and Practice of Pharmacology 22nd edition,Allen,L.Ed.(2013);参照により本明細書に援用される)を使用して、所望の形態、例えば、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で調製することができる。
【0097】
導入遺伝子に操作可能に連結された本明細書に記載のポリヌクレオチド(例えば、表2に挙げたプロモーター配列のうち任意の1つ(例えば、配列番号1~3のうち任意の1つ)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)を含む核酸ベクター(例えば、ウイルスベクター)の混合物は、1つ以上の賦形剤、担体、または希釈剤と水中で適切に混合して調製することができる。分散液もまた、グリセロール、液状ポリエチレングリコール、及びこれらの混合物中で、及び油中で調製してもよい。これらの製剤は、通常の保存条件及び使用条件下で、微生物の増殖を阻止するための保存剤を含有してもよい。注射用途に好適な医薬形態としては、注射可能な無菌溶液または無菌分散液を即時調製するための無菌水溶液または無菌分散液及び無菌粉末が挙げられる(US5,466,468に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される)。いずれにしても、製剤は、無菌であってもよく、容易に注射できる程度の流動性を有していてもよい。製剤は、製造及び保管条件下で安定であってもよく、細菌及び真菌などの微生物の混入作用から保護され得る。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液状ポリエチレングリコールなど)、その好適な混合物、及び/または植物油を含有する溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散液の場合には必要とされる粒径の維持によって、また界面活性剤の使用によって、維持され得る。微生物の作用の抑制は、種々の抗細菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。注射可能な組成物の吸収の延長は、吸収を遅延させる作用物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物中で使用することによってもたらされ得る。
【0098】
例えば、本明細書に記載の医薬組成物を含有する溶液を必要に応じて適切に緩衝し、液体希釈剤を最初に十分な生理食塩水またはグルコースで等張にしてもよい。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下、及び腹腔内の投与に特に好適である。これに関して、採用することができる無菌水性媒体は、本開示に照らして、当業者に公知である。例えば、1用量を1mlのNaCl等張液中に溶解し、1000mlの皮下注射液に加えるか、または注入予定部位に注射してもよい。治療する対象の状態に応じて、用量にはいくらかの変動が必然的に生じる。内耳への局所投与のために、組成物を、合成外リンパ溶液を含有するように製剤化してもよい。例示的な合成外リンパ溶液は、20~200mM NaCl、1~5mM KCl、0.1~10mM CaCl、1~10mMグルコース、及び2~50mM HEPESを含有し、pH約6~9及び重量オスモル濃度約300mOsm/kgを有する。いずれにしても、投与を担当する者が個々の対象に適切な用量を決定する。さらに、ヒトへの投与の場合、製剤は、FDA Office of Biologics基準によって要求される無菌性、発熱性、一般的安全性、及び純度の基準を満たしていてもよい。
【0099】
治療方法
本明細書に記載の組成物を、感音難聴を有するか、または発症するリスクを有する対象に、例えば、内耳への局所投与(例えば、卵円窓、正円窓、または半規管(例えば、水平半規管)を介した外リンパまたは内リンパへの投与、あるいは経鼓膜注入または鼓室内注入による例えば、IHCへの投与)、静脈内、非経口、皮内、経皮、筋肉内、鼻腔内、皮下、経皮、気管内、腹腔内、動脈内、血管内、吸入、灌流、洗浄、及び経口投与などの様々な経路によって、投与してもよい。所与の場合における投与に最も適切な経路は、投与する特定の組成物、患者、医薬製剤化方法、投与方法(例えば、投与時間及び投与経路)、患者の年齢、体重、性別、治療する疾患の重症度、患者の食事、及び患者の排泄率に依存する。組成物は、1回、または2回以上(例えば、年1回、年2回、年3回、隔月、または毎月)投与してもよい。
【0100】
本明細書に記載のように治療される可能性がある対象は、感音難聴を有するか、または発症するリスクを有する対象である。本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、IHCへの損傷(例えば、音響外傷、疾患もしくは感染症、頭部外傷、耳毒性薬、または加齢に関連する損傷)を有するか、または発症するリスクを有する対象、感音難聴、聴覚消失、または聴神経障害を有するか、または発症するリスクを有する対象、耳鳴症(例えば、耳鳴症単独、または感音難聴に関連する耳鳴症)を有する対象、難聴に関連する遺伝子変異を有する対象、あるいは遺伝性難聴、聴覚消失、聴神経障害、または耳鳴症の家族歴を有する対象を治療することができる。いくつかの実施形態では、有毛細胞(例えば、IHC)への損傷または有毛細胞の喪失に関連する疾患は、自己免疫反応が有毛細胞損傷または死をもたらす自己免疫疾患または病態である。感音難聴に関連する自己免疫疾患としては、自己免疫内耳疾患(AIED)、結節性多発動脈炎(PAN)、コーガン症候群、再発性多発性軟骨炎、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、ヴェーゲナー肉芽腫症、シェーグレン症候群、及びベーチェット病などが挙げられる。ライム病及び梅毒などの一部の感染性も、感音難聴を(例えば、自己抗体産生を誘発することによって)引き起こす場合がある。風疹、サイトメガロウイルス(CMV)、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)、HSVタイプ1&2、西ナイルウイルス(WNV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、水痘帯状ヘルペスウイルス(VZV)、麻疹、及びおたふく風邪などのウイルス感染も、感音難聴を引き起こす可能性がある。いくつかの実施形態では、対象は、IHCの喪失に関連して、またはその結果として生じる難聴を有する。本明細書に記載の方法は、本明細書に記載の組成物による治療または投与の前に、難聴に関連することが知られている遺伝子の1つ以上の変異について対象をスクリーニングする工程を含み得る。当業者に公知の標準的な方法(例えば、遺伝子検査)を使用して、対象を遺伝子変異についてスクリーニングすることができる。本明細書に記載の方法はまた、本明細書に記載の組成物による治療または投与の前に、対象の聴覚機能を評価する工程を含み得る。聴力検査、聴性脳幹反応(ABR)、蝸電図検査(ECOG)、及び耳音響放射などの標準的な検査を使用して、聴覚を評価することができる。これらの試験を使用して、本明細書に記載の組成物による治療または投与後の対象における聴覚機能を評価することもできる。本明細書に記載の組成物及び方法はまた、難聴を発症するリスクを有する患者、例えば、難聴の家族歴(例えば、遺伝性難聴)を有する患者、難聴に関連する遺伝子変異を有するが、聴力障害を未だ示していない患者、または後天性難聴(例えば、音響外傷、疾患または感染症、頭部外傷、耳毒性薬、または加齢)のリスク因子にさらされている患者への予防的治療として投与してもよい。
【0101】
本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、対象の有毛細胞の再生(例えば、IHC再生)を促進または誘導することができる。IHC再生を促進または誘導する組成物から利益を得る可能性のある対象には、IHCの喪失(例えば、外傷(例えば、音響外傷または頭部外傷)、疾患もしくは感染症、耳毒性薬、または加齢に関連したIHCの喪失)の結果として難聴に罹患している対象、及び異常なIHC(例えば、正常なIHCと比較して適切に機能しないIHC)、損傷したIHC(例えば、外傷(例えば、音響外傷または頭部外傷)、疾患もしくは感染症、耳毒性薬、または加齢に関連したIHC損傷)を有する対象、または遺伝子変異または先天性異常によってIHC数が減少している対象が含まれる。本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、IHC生存を促進または増加させることもできる(例えば、損傷したIHCの生存率を高めるか、損傷したIHCの修復を促進するか、またはIHCの喪失(例えば、加齢、大きな音への曝露、疾患もしくは感染症、頭部外傷または耳毒性薬によるIHCの喪失)のリスクを有する対象のIHCを保存することもできる)。本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、IHC成熟を促進または向上させることができ、これにより、聴覚機能の改善をもたらすことができる。
【0102】
本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、耳毒性薬で治療された対象、または耳毒性薬で現在治療を受けているかもしくは治療を開始する予定の対象における耳毒性薬誘発性の有毛細胞損傷または死(例えば、IHC損傷または死)を予防または軽減することもできる。耳毒性薬は、内耳細胞に対して毒性を有し、感音難聴、耳鳴症、またはこれらの症状の併発を引き起こし得る。耳毒性が見出されている薬物としては、アミノグリコシド系抗生物質(例えば、ゲンタマイシン、ネオマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、カナマイシン、バンコマイシン、及びアミカシン)、バイオマイシン、抗腫瘍薬(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、及びオキサリプラチンなどのプラチナ含有化学療法剤)、ループ利尿薬(例えば、エタクリン酸及びフロセミド)、サリチル酸塩(例えば、特に高用量のアスピリン)、及びキニンが挙げられる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、音響外傷、疾患もしくは感染症、頭部外傷、または加齢に関連する有毛細胞損傷または死(例えば、IHC損傷または死)を予防または軽減する。
【0103】
本明細書に記載のような対象を治療するための有毛細胞特異的プロモーター(例えば、表2に挙げたプロモーター配列のうち任意の1つ(例えば、配列番号1~3のうち任意の1つ)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)に操作可能に連結された導入遺伝子は、健康な有毛細胞(例えば、IHC)に発現しているタンパク質(例えば、IHC発達、IHC機能、IHC運命の特定、IHC再生、IHC生存、もしくはIHC維持の役割を果たすタンパク質、または感音難聴を有する対象において不足しているタンパク質)、別の目的のタンパク質(例えば、蛍光タンパク質、lacZ、もしくはルシフェラーゼなどの治療用タンパク質またはレポータータンパク質)、siRNA、ASO、ヌクレアーゼ、またはマイクロRNAをコードする導入遺伝子であり得る。導入遺伝子は、対象の難聴(例えば、対象の難聴が特定の遺伝子変異に関連している場合、導入遺伝子は、対象において変異している遺伝子の野生型形態とすることができ、または対象が有毛細胞の喪失に関連する難聴を有している場合、導入遺伝子は、有毛細胞再生を促進するタンパク質をコードし得る)、対象の難聴の重症度、対象の有毛細胞の健康状態、対象の年齢、対象の難聴の家族歴、または他の要因に基づいて選択してもよい。本明細書に記載するような対象を治療するために有毛細胞特異的プロモーターに操作可能に連結される導入遺伝子によって発現され得るタンパク質としては、ACTG1、FSCN2、RDX、POU4F3、TRIOBP、TPRN、XIRP2、ATOH1、GFI1、CHRNA9、CHRNA10、CIB3、CDH23、PCDH15、KNCN、DFNB59、OTOF、MKRN2OS、LHX3、TMC1、MYO15、MYO7A、MYO6、MYO3A、MYO3B、GRXCR1、PTPRQ、LCE6A、LOXHD1、ART1、ATP2B2、CIB2、CACNA2D4、CABP2、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESPNL、PRPH2、STRC、SLC8A2、ZCCHC12、LRTOMT2、LRTOMT1、USH1C、ELFN1、TTC24、DYTN、KCP、CCER2、LRTM2、KCNA10、CLRN1、CLRN2、SKOR1、TCTEX1D1、FCRLB、SLC17A8、GRXCR2、BDNF、SERPINE3、NHLH1、HSP70、HSP90、ATF6、PERK、IRE1、WHRN、OCM、ISL1、NTF3、TMTC4、及びBIPが挙げられる。
【0104】
治療は、本明細書に記載のIHC特異的プロモーターを様々な単位用量で含む核酸ベクター(例えば、AAVウイルスベクター)を含む組成物の投与を含み得る。各単位用量には、通常、所定量の治療用組成物が含まれる。投与する量、ならびに特定の投与経路及び製剤化は、当業者の技術の範囲内である。単位用量は、単回注射として投与する必要はないが、設定された期間にわたる持続注入を含み得る。投与は、内耳(例えば、蝸牛)への損傷を最小限に抑えるために、シリンジポンプを用いて実施して注入速度を制御してもよい。核酸ベクターがAAVベクターである場合(例えば、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、rh10、rh39、rh43、rh74、Anc80、Anc80L65、DJ/8、DJ/9、7m8、PHP.B、PHP.eb、またはPHP.Sベクター)、ウイルスベクターは、例えば、約1x10ベクターゲノム(VG)/mL~約1x1016VG/mL(例えば、1x10VG/mL、2x10VG/mL、3x10VG/mL、4x10VG/mL、5x10VG/mL、6x10VG/mL、7x10VG/mL、8x10VG/mL、9x10VG/mL、1x1010VG/mL、2x1010VG/mL、3x1010VG/mL、4x1010VG/mL、5x1010VG/mL、6x1010VG/mL、7x1010VG/mL、8x1010VG/mL、9x1010VG/mL、1x1011VG/mL、2x1011VG/mL、3x1011VG/mL、4x1011VG/mL、5x1011VG/mL、6x1011VG/mL、7x1011VG/mL、8x1011VG/mL、9x1011VG/mL、1x1012VG/mL、2x1012VG/mL、3x1012VG/mL、4x1012VG/mL、5x1012VG/mL、6x1012VG/mL、7x1012VG/mL、8x1012VG/mL、9x1012VG/mL、1x1013VG/mL、2x1013VG/mL、3x1013VG/mL、4x1013VG/mL、5x1013VG/mL、6x1013VG/mL、7x1013VG/mL、8x1013VG/mL、9x1013VG/mL、1x1014VG/mL、2x1014VG/mL、3x1014VG/mL、4x1014VG/mL、5x1014VG/mL、6x1014VG/mL、7x1014VG/mL、8x1014VG/mL、9x1014VG/mL、1x1015VG/mL、2x1015VG/mL、3x1015VG/mL、4x1015VG/mL、5x1015VG/mL、6x1015VG/mL、7x1015VG/mL、8x1015VG/mL、9x1015VG/mL、または1x1016VG/mL)を、1μL~200μL(例えば、1、2、3、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、または200μL)の用量で患者に投与してもよい。AAVベクターは、約1x10VG/耳~約2x1015VG/耳(例えば、1x10VG/耳、2x10VG/耳、3x10VG/耳、4x10VG/耳、5x10VG/耳、6x10VG/耳、7x10VG/耳、8x10VG/耳、9x10VG/耳、1x10VG/耳、2x10VG/耳、3x10VG/耳、4x10VG/耳、5x10VG/耳、6x10VG/耳、7x10VG/耳、8x10VG/耳、9x10VG/耳、1x10VG/耳、2x10VG/耳、3x10VG/耳、4x10VG/耳、5x10VG/耳、6x10VG/耳、7x10VG/耳、8x10VG/耳、9x10VG/耳、1x1010VG/耳、2x1010VG/耳、3x1010VG/耳、4x1010VG/耳、5x1010VG/耳、6x1010VG/耳、7x1010VG/耳、8x1010VG/耳、9x1010VG/耳、1x1011VG/耳、2x1011VG/耳、3x1011VG/耳、4x1011VG/耳、5x1011VG/耳、6x1011VG/耳、7x1011VG/耳、8x1011VG/耳、9x1011VG/耳、1x1012VG/耳、2x1012VG/耳、3x1012VG/耳、4x1012VG/耳、5x1012VG/耳、6x1012VG/耳、7x1012VG/耳、8x1012VG/耳、9x1012VG/耳、1x1013VG/耳、2x1013VG/耳、3x1013VG/耳、4x1013VG/耳、5x1013VG/耳、6x1013VG/耳、7x1013VG/耳、8x1013VG/耳、9x1013VG/耳、1x1014VG/耳、2x1014VG/耳、3x1014VG/耳、4x1014VG/耳、5x1014VG/耳、6x1014VG/耳、7x1014VG/耳、8x1014VG/耳、9x1014VG/耳、1x1015VG/耳、または2x1015VG/耳)の用量で対象に投与してもよい。
【0105】
本明細書に記載の組成物は、聴力を改善し、耳鳴症を軽減し、IHC特異的プロモーターに操作可能に連結された導入遺伝子によってコードされるタンパク質の発現を増加させ、IHC特異的プロモーターに操作可能に連結された導入遺伝子によってコードされるタンパク質の機能を向上させ、IHC損傷(例えば、音響外傷、頭部外傷、耳毒性薬、疾患もしくは感染症、または加齢に関連するIHC損傷)を予防または軽減し、IHC死(例えば、耳毒性薬誘発性IHC死、騒音性IHC死、加齢性IHC死、疾患もしくは感染症関連性IHC死、または頭部外傷性IHC)を予防または軽減し、IHC発達を促進または改善し、IHC数を増加させ(例えば、IHC再生を促進または誘導し)、IHC生存を促進または増加させ、IHC成熟を促進または向上させ、あるいは、IHC機能を改善するのに充分な量で投与する。聴力は、標準的な聴力検査(例えば、聴力検査、ABR、蝸電図検査(ECOG)、及び耳音響放射)を使用して評価してもよく、治療前に得られる聴覚測定値に比べて5%以上(例えば、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、125%、150%、200%またはそれ以上)改善し得る。いくつかの実施形態では、組成物は、対象の発話を理解する能力を改善するのに十分な量で投与する。本明細書に記載の組成物はまた、(例えば、難聴に関連する遺伝子変異を有し、難聴の家族歴(例えば、遺伝性難聴)を有するか、または難聴に関連するリスク要因(例えば、耳毒性薬、頭部外傷、疾患もしくは感染、または音響外傷)にさらされているが、聴力障害を示していない対象、あるいは軽度~中程度の難聴を示す対象における)感音難聴の発症または進行を遅延または予防するのに十分な量で投与してもよい。対象に投与する核酸ベクターでIHC特異的プロモーターに操作可能に連結された導入遺伝子によってコードされるタンパク質の発現は、免疫組織化学、ウェスタンブロット分析、定量的リアルタイムPCR、またはタンパク質もしくはmRNAを検出するための当技術分野で公知の他の方法を使用して評価してもよく、またその発現は、本明細書に記載の組成物の投与前の発現に比べて5%以上(例えば、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、125%、150%、200%またはそれ以上)増加し得る。IHC数、IHC機能、または対象に投与する核酸ベクターによってコードされるタンパク質の機能は、聴力検査に基づいて間接的に評価してもよく、またそれらは、本明細書に記載の組成物の投与前のIHC数、IHC機能、またはタンパク質の機能と比べて5%以上(例えば、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、125%、150%、200%またはそれ以上)向上し得る。IHC損傷または死は、未治療の対象において通常観察されるIHC損傷及び死に比べて5%以上(例えば、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、125%、150%、200%またはそれ以上)低減し得る。これらの効果は、本明細書に記載の組成物の投与後、例えば、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、15週間、20週間、25週間以内、またはそれ以上の間に生じ得る。治療に使用する用量及び投与経路に応じて、組成物を投与してから、1か月、2か月、3か月、4か月、5か月、6か月またはそれ以上後に患者を評価してもよい。評価の結果に応じて、患者に追加の治療を受けさせてもよい。
【0106】
キット
本明細書に記載の組成物を、感音難聴の治療に使用するためのキットで提供することができる。組成物は、本明細書に記載のポリヌクレオチド(例えば、表2に挙げたプロモーター配列のうち任意の1つ(例えば、配列番号1~3のうち任意の1つ)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)、そのようなポリヌクレオチドを含む核酸ベクター、及び目的のタンパク質(例えば、難聴を治療するために有毛細胞で発現できるタンパク質)をコードする導入遺伝子に操作可能に連結された本明細書に記載のポリヌクレオチドを含む核酸ベクターを含んでいてもよい。核酸ベクターは、AAVウイルスキャプシド(例えば、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV6、AAV8、AAV9、Anc80、Anc80L65、DJ/9、7m8、またはPHP.B)にパッケージングしてもよい。キットには、キットのユーザ、例えば医師に、本明細書に記載の方法を実施するように指示する添付文書をさらに含ませることができる。キットには、場合により、組成物を投与するための注射器または他の器具を含ませてもよい。
【実施例
【0107】
以下の実施例は、本明細書に記載の組成物及び方法をどのように使用し、製造し、評価し得るかについての説明を当業者に提供するために提示し、純粋に本発明を例示することを意図するものであり、発明者らが自身の発明と見なすものの範囲を限定することを意図しない。
【0108】
実施例1:マウスカルシウム結合タンパク質2(CABP)プロモーターの生成
標的細胞における外来性導入遺伝子の内耳有毛細胞(IHC)特異的発現を促進するために、マウスCABP2プロモーターを構築した。1526個の塩基対(bp)調節エレメント(配列番号1)を、マウスCABP2遺伝子の翻訳開始部位の上流でゲノム領域を組み合わせることによって生成した。これらの領域には、蝸牛有毛細胞の単一細胞(sc)-トランスポゼース接近可能クロマチンアッセイ(ATAC)-シーケンシング(seq)ピークの注釈付きサミット、及び哺乳類の保存性が高い領域を含めた。(図1の黒色の長方形)。IHCにおいて選択的活性のあるプロモーター断片を生成するために、最遠位(5’)断片を拡張して、IHCの注釈付きsc-ATACseqピークを含むゲノム領域を含めた。ただし、外有毛細胞(OHC)または前庭支持細胞のものは含んでいない(図1、破線の長方形)。マウスCABP2(1526bp)プロモーター断片(配列番号1)の組み合わせたゲノム領域は、マウスゲノム(GRCm38/mm10)アセンブリ(chr19:4,080,449-4,082,705)の2,257bpにまたがるものであった。
【0109】
実施例2:in vitroにてマウス蝸牛のIHCにおける導入遺伝子発現を誘導するCABP2プロモーター配列
in vitroにてIHCにおける導入遺伝子発現を誘導する際の構築したマウスCABP2プロモーター(配列番号1)の有効性を測定するために、生後1日目(P1)のB6/CAST-Cdh23Ahl+/Kjnマウスからマウス蝸牛外植片を調製した。培養したマウス蝸牛外植片を、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子に融合したヒトヒストンH2B遺伝子を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)プラスミド(AAV1-mCABP2-H2B-GFP)を用いて、1x1011ウイルスゲノム(vg)/培養物のウイルス用量で処置した。外植片を72時間インキュベートし、固定し、かつ全ての有毛細胞を標識するための抗ミオシン7a(MYO7A)抗体、及びCABP2プロモーターによるGFP発現を測定するための抗GFP抗体によって免疫染色した。Zeiss LSM 780顕微鏡で蛍光イメージングを実施し、最大z投影として表示した。GFP発現は、特に蝸牛IHCで観察された(図2A~2C)。別の一連の実験では、蝸牛外植片は、P4幼マウスC57BL/6NTacから調製した。培養した外植片を、AAV1-CABP2-H2B-GFPを用いて、1×1011vg/培養物のウイルス用量で処置した。外植片をインキュベートし、固定し、かつ抗MYO7A抗体及び抗GFP抗体によって免疫染色した。イメージングを前述のように実施した。GFP発現は、蝸牛IHCで観察された(図2D~2G)。
【0110】
実施例3:有毛細胞特異的促進因子を含む核酸ベクターを含む組成物の感音難聴を有する対象への投与
本明細書に開示する方法に従って、当技術分野の医師は、患者、例えば、感音難聴を有するヒト患者を治療し、それにより聴力を改善または回復させることができる。このために、当技術分野の医師は、治療用タンパク質をコードする導入遺伝子に操作可能に連結された、内耳有毛細胞特異的プロモーター(例えば、配列番号1~3のうち任意の1つの配列に対して、少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)を含むAAVベクター(例えば、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV6、AAV9、Anc80、Anc80L65、DJ/9、7m8、またはPHP.B)を含む組成物を、ヒト患者に投与することができる。AAVベクターを含む組成物を、例えば、内耳への局所投与(外リンパへの注射)によって患者に投与して、感音難聴を治療することができる。
【0111】
組成物を患者に投与した後、当技術分野の医師であれば、導入遺伝子によってコードされる治療用タンパク質の発現、及び治療に応答した患者の改善を様々な方法でモニタリングすることができる。例えば、医師は、組成物の投与後に、聴力検査、ABR、蝸電図検査(ECOG)、及び耳音響放射などの標準的な検査を実施することにより、患者の聴力をモニタリングすることができる。組成物の投与前の聴力検査結果に比べて、組成物の投与後に1つ以上の検査において患者の聴力に改善が見られると判断される場合、それは患者が治療に対して良好に応答していると言える。その後の用量を必要に応じて決定し、投与することができる。
【0112】
他の実施形態
本明細書に記載する本発明の様々な改変及び変形が、本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本発明を特定の実施形態に関連して記載したが、請求される本発明は、そのような特定の実施形態に必要以上に限定されるべきではないことを理解すべきである。実際に、当業者には明らかである本発明を実施するために記載する様式の様々な改変は、本発明の範囲内であることが意図される。他の実施形態は、特許請求の範囲に見出される。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
【配列表】
2023500670000001.app
【国際調査報告】