(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-10
(54)【発明の名称】表面改質微粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料を生成するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20221227BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20221227BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20221227BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525815
(86)(22)【出願日】2020-11-10
(85)【翻訳文提出日】2022-05-27
(86)【国際出願番号】 GB2020052854
(87)【国際公開番号】W WO2021094736
(87)【国際公開日】2021-05-20
(32)【優先日】2019-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522306561
【氏名又は名称】イーブイ・メタルズ・ユーケイ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】EV Metals UK Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】ロペス ロペス、エミリオ
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AA05
4G048AB01
4G048AB04
4G048AB06
4G048AC06
4G048AD04
4G048AD06
4G048AE05
4G048AE07
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA05
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
表面改質微粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料を生成するためのプロセスが提供される。このプロセスは、音響エネルギーを使用してリチウムニッケル金属酸化物粒子を少なくとも1つの金属含有化合物と乾燥混合し、次いで混合物を800℃以下の温度で焼成することを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1による組成物を有する表面改質微粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料を生成するためのプロセスであって、
Li
aNi
xM
yA
zO
2+b
式1
[式中、
Mが、Co及びMnのうちの1つ以上であり、
Aが、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、及びCaのうちの1つ以上であり、
0.8≦a≦1.2であり、
0.5≦x<1であり、
0<y≦0.5であり、
0≦z≦0.2であり、
-0.2≦b≦0.2であり、
x+y+z=1である]
前記プロセスが、
(i)粒界によって分離された複数の一次粒子を含む二次粒子の形態のリチウムニッケル金属酸化物粒子を提供する工程と、
(ii)前記リチウムニッケル金属酸化物粒子を、音響エネルギーを使用して少なくとも1つの金属含有化合物と乾燥混合する工程と、
(iii)前記混合物を800℃以下の温度で焼成して、前記表面改質微粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料を形成する工程と、を含む、プロセス。
【請求項2】
前記表面改質微粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料の粒界における、M及びAの群から選択される少なくとも1つの金属の濃度が、前記混合及び焼成工程の前の前記リチウムニッケル金属酸化物粒子の粒界における前記金属の濃度よりも大きい、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
Aが、Al及び/又はMgである、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
Mが、Coを含み、前記リチウムニッケル金属酸化物粒子が、コバルト含有化合物、好ましくは硝酸コバルトと混合される、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記表面改質微粒子状リチウムニッケル金属酸化物の前記粒界におけるコバルトの濃度が、前記表面改質微粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料の前記一次粒子中のコバルトの濃度よりも大きい、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
Aが、Alを含み、前記リチウムニッケル金属酸化物粒子が、アルミニウム含有化合物、好ましくは硝酸アルミニウムと混合される、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記表面改質微粒子状リチウムニッケル金属酸化物の前記粒界におけるアルミニウムの濃度が、前記表面改質微粒子状リチウムニッケル金属酸化物の前記一次粒子中のアルミニウムの濃度よりも大きい、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記リチウムニッケル金属酸化物粒子が、リチウム含有化合物、好ましくは硝酸リチウムと混合される、請求項4~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
Mが、Coである、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記金属含有化合物又は各金属含有化合物が、無機金属塩などの金属塩である、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記金属塩又は各金属塩が、金属硝酸塩である、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記混合が、30g~100gの加速度で実行される、請求項1~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記混合が、1~10分の期間にわたって前記音響エネルギーを印加することによって実施される、請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記音響エネルギーが、約15Hz~約1000Hz、好ましくは約15Hz~約100Hzの周波数を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記乾燥混合が、音響共鳴によって混合される、請求項1~14のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記焼成が、前記混合物を400~800℃の温度に加熱する工程を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項17】
前記混合物が、400℃~800℃の温度で30分~8時間保持される、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
前記焼成が、前記混合物を600~800℃の温度に加熱する工程を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項19】
前記混合物が、600℃~800℃の温度で30分~8時間保持される、請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】
前記混合物が、750℃以下の温度、又は700℃以下の温度で焼成される、請求項1~19のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項21】
前記プロセスが、前記焼成工程後に前記表面改質微粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料を粉砕する工程を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項22】
前記表面改質微粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料を含む電極を形成する工程を更に含む、請求項1~21のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項23】
表面改質微粒子状ニッケル金属酸化物材料を含む電極を含む電池又は電気化学セルを構築する工程を更に含む、請求項22に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次リチウムイオン電池におけるカソード材料として有用であるリチウムニッケル金属酸化物材料を作製するための改良されたプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
層状構造を有するリチウムニッケル金属酸化物材料は、二次リチウムイオン電池におけるカソード材料としての有用性が見出されている。かかる材料中の種々の量のニッケルを他の金属で置換して、電気化学的安定性及び/又はサイクル性能を改善することができる。複数の一次粒子を含む二次粒子の形態のリチウムニッケル金属酸化物材料の場合、隣接する一次粒子間の粒界におけるある特定の金属元素の量を増加又は富化することが、電気化学的性能を改善するための効果的な手法であり得ることも見出されている。
【0003】
典型的には、粒界富化は、リチウムニッケル金属酸化物材料の二次粒子を1つ以上の金属含有化合物の溶液中に浸漬し、次いで溶媒を蒸発により除去し、続いて熱処理又は焼成工程を行うことによって達成される。
【0004】
例えば、国際公開第2013/025328号には、層状α-NaFeO2型構造を有するリチウムニッケル金属酸化物組成物を含む複数の微結晶と、隣接する微結晶間の粒界とを含む粒子であって、粒界におけるコバルトの濃度が微結晶における濃度よりも高い粒子が記載されている。国際公開第2013/025328号の実施例2は、組成Li1.01Mg0.024Ni0.88Co0.12O2.03を有し、コバルト富化粒界を有する。粒界富化を達成するために、リチウムニッケル金属酸化物材料の二次粒子が硝酸リチウム及び硝酸コバルトの水溶液に添加され、得られたスラリーが熱処理工程の前に噴霧乾燥される。
【0005】
粒界富化を用いることには、追加のプロセス工程を必要とし、より高いエネルギー消費、プロセス廃棄物のレベルの増加、及びより高い製造コストをもたらすという欠点がある。これは、かかる材料の商業的実行可能性に影響を及ぼし、環境的影響を与える可能性がある。
【0006】
リチウムニッケル金属酸化物材料の製造のための改善されたプロセスが依然として必要とされている。特に、粒界富化につながるプロセスにおける改善の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、驚くべきことに、1つ以上の金属含有化合物の溶液中へのリチウムニッケル金属酸化物粒子の浸漬が、粒界富化を達成するために必要とされないこと、及び音響エネルギーを使用した乾燥混合の使用と、それに続く800℃未満の温度での焼成との組み合わせを含むプロセスを使用すると、溶媒蒸発を要せずに、粒界における組成物の改質を行うことができることを見出した。更に、浸漬蒸発法によって生成された材料の電気化学的性能は、本明細書に記載のプロセスによって生成された材料と少なくとも同等であり得、製造プロセス中に噴霧乾燥又は代替の蒸発工程が不要で、エネルギー消費及び産業廃棄物が大幅に低減されるという利点を有することが見出された。
【0008】
したがって、本発明の第1の態様では、式1による組成物を有する表面改質微粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料を生成するためのプロセスが提供され、
LiaNixMyAzO2+b
式1
[式中、
Mが、Co及びMnのうちの1つ以上であり、
Aが、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、及びCaのうちの1つ以上であり、;
0.8≦a≦1.2であり、
0.5≦x<1であり、
0<y≦0.5であり、
0≦z≦0.2であり、
-0.2≦b≦0.2であり、
x+y+z=1である]
プロセスは、
(i)粒界によって分離された複数の一次粒子を含む二次粒子の形態のリチウムニッケル金属酸化物粒子を提供する工程と、
(ii)リチウムニッケル金属酸化物粒子を、音響エネルギーを使用して少なくとも1つの金属含有化合物と乾燥混合する工程と、
(iii)混合物を800℃以下の温度で焼成して、表面改質微粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料を形成する工程と、を含む。
【0009】
本発明の第2の態様では、本明細書に記載のプロセスによって得られるか、又は得ることができる表面改質微粒子状リチウムニッケル金属酸化物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】コバルト粒界富化を示す、実施例2Bで形成されたリチウムニッケル金属酸化物材料の粒子のFIB-TEM画像を示す。
【
図2】実施例2A及び実施例2Bで生成された材料のCレート試験の結果を示す。
【
図3】実施例2A及び実施例2Bで生成された材料のサイクル寿命保持試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
これより、本発明の好ましいかつ/又は任意選択的な特徴が、記載される。本発明のいずれの態様も、文脈による別途の要求がない限り、本発明のいずれの他の態様とも組み合わせることができる。いずれの態様の好ましい及び/又は任意選択的な特徴のいずれも、文脈による別途の要求がない限り、本発明のいずれの態様とも、単一又は組み合わせのいずれかで、組み合わせることができる。
【0012】
本発明は、上記で定義された式Iによる組成物を有する表面改質微粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料の生成のためのプロセスを提供する。
【0013】
式Iでは、0.8≦a≦1.2である。aは、0.9又は0.95以上であることが好ましい場合がある。aは、1.1以下、又は1.05以下であることが好ましい場合がある。0.90≦a≦1.10、例えば、0.95≦a≦1.05であることが好ましい場合がある。一部の実施形態では、a=1である。
【0014】
式Iでは、0.5≦x<1である。0.6≦x<1、例えば、0.7≦x<1、0.75≦x<1、0.8≦x<1、0.85≦x<1又は0.9≦x<1であることが好ましい場合がある。xは、0.99、0.98、0.97、0.96、又は0.95以下であることが好ましい場合がある。0.75≦x<1、例えば、0.75≦x≦0.99、0.75≦x≦0.98、0.75≦x≦0.97、0.75≦x≦0.96又は0.75≦x≦0.95であることが好ましい場合がある。0.8≦x<1、例えば、0.8≦x≦0.99、0.8≦x≦0.98、0.8≦x≦0.97、0.8≦x≦0.96又は0.8≦x≦0.95であることが更に好ましい場合がある。また、0.85≦x<1、例えば、0.85≦x≦0.99、0.85≦x≦0.98、0.85≦x≦0.97、0.85≦x≦0.96又は0.85≦x≦0.95であることが好ましい場合がある。
【0015】
Mは、Co及びMnのうちの1つ以上である。換言すれば、一般式はLiaNixCoyaMnybAzO2+bと代替的に記述することができ、ya+ybは0<ya+yb≦0.5を満たし、ya又はybのいずれかが0であってもよい。好ましくは、Mは、Coだけであり、すなわち、表面改質リチウムニッケル金属酸化物は、好ましくはMnを含有しない。
【0016】
式1では、0<y≦0.5である。yは0.01以上、0.02以上又は0.03以上であることが好ましい場合がある。yは0.4、0.3、0.25、0.2、0.15、0.1又は0.05以下であることが好ましい場合がある。0.01≦y≦0.5、0.02≦y≦0.5、0.03≦y≦0.5、0.01≦y≦0.4、0.01≦y≦0.3、0.01≦y≦0.25、0.01≦y≦0.2、0.01≦y≦0.1又は0.03≦y≦0.1であることも好ましい場合がある。
【0017】
Aは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、及びCaのうちの1つ以上である。好ましくは、Aは、少なくともMg及び/若しくはAlであるか、又はAはAl及び/若しくはMgである。Aが2つ以上の元素を含む場合、zはAを構成する各元素の量の合計である。
【0018】
式Iでは、0≦z≦0.2である。0≦z≦0.15、0≦z≦0.10、0≦z≦0.05、0≦z≦0.04、0≦z≦0.03、又は0≦z≦0.02であることが好ましい場合がある。一部の実施形態では、zは0である。
【0019】
式Iでは、-0.2≦b≦0.2である。bは、-0.1以上であることが好ましい場合がある。bはまた、0.1以下であることが好ましい場合がある。-0.1≦b≦0.1であることが更に好ましい場合がある。いくつかの実施形態では、bは、0又は約0である。
【0020】
0.8≦a≦1.2、0.75≦x<1、0<y≦0.25、0≦z≦0.2、-0.2≦b≦0.2であり、x+y+z=1であることが好ましい場合がある。
【0021】
0.8≦a≦1.2、0.75≦x<1、0<y≦0.25、0≦z≦0.2、-0.2≦b≦0.2、x+y+z=1、及びM=Coであることが更に好ましい場合がある。0.8≦a≦1.2、0.75≦x<1、0<y≦0.25、0≦z≦0.2、-0.2≦b≦0.2、x+y+z=1、M=Co、及びA=Mgだけ、又はAl、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Sr、及びCaの1つ以上との組み合わせが好ましい場合もある。0.8≦a≦1.2、0.75≦x<1、0<y≦0.25、0≦z≦0.2、-0.2≦b≦0.2、x+y+z=1、M=Coだけ、及びA=Alだけ又はMg、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Sr、及びCaの1つ以上との組み合わせが好ましい場合もある。0.8≦a≦1.2、0.75≦x<1、0<y≦0.25、0≦z≦0.2、-0.2≦b≦0.2、x+y+z=1、M=Coだけ、並びにA=Al及びMgだけ、又はMg、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Sr、及びCaのうちの1つ以上との組み合わせであることが更に好ましい場合がある。
【0022】
典型的には、微粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料は結晶質(又は実質的に結晶質の材料)である。これは、α-NaFeO2型構造を有してもよい。
【0023】
リチウムニッケル金属酸化物粒子は、複数の一次粒子(1つ以上の微結晶で構成された)を含む二次粒子の形態である。一次粒子は、結晶粒としても知られ得る。一次粒子は、粒界によって分離される。
【0024】
典型的には、表面改質微粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料の粒界における、M及びAの群から選択される少なくとも1つの金属の濃度は、混合及び焼成工程の前のリチウムニッケル金属酸化物粒子の粒界における金属の濃度よりも大きい。
【0025】
式Iの微粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料は、表面改質されている。本明細書において、「表面改質された」という用語は、粒子の表面付近の少なくとも1つの元素の濃度を増加させる表面改質プロセスを受けた一次及び/又は二次粒子を含む微粒子状材料を指しており、すなわち、粒子は、粒子の表面又は表面付近に、粒子の残りの材料、すなわち粒子のコアよりも高い濃度の少なくとも1つの元素を含有する材料の層を含む。表面改質は、粒子を1つ以上の更なる金属含有化合物と接触させ、次いで材料を加熱することから生じる。明確にするために、本明細書における式Iによる組成物の説明は、表面改質粒子の文脈において、粒子全体、すなわち改質表面層を含む粒子に関する。
【0026】
典型的には、式Iの微粒子状表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料は、富化粒界を含み、すなわち、粒界中の1つ以上の金属の濃度は、一次粒子中の1つ以上の金属の濃度よりも大きい。粒界は、M又はAのうちの1つ以上、例えば、コバルト及び/又はアルミニウムで富化され得る。
【0027】
Mがコバルトを含み、表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料の一次粒子間の粒界のコバルトの濃度が、表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料の一次粒子中のコバルトの濃度よりも大きいことが好ましい場合がある。あるいは、又は加えて、表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料の一次粒子間の粒界におけるアルミニウムの濃度が、表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料の一次粒子中のアルミニウムの濃度よりも大きいことが更に好ましい場合がある。
【0028】
一次粒子中のコバルトの濃度は、一次粒子中のNi、M及びAの総含有量に対して、少なくとも0.5原子%、例えば、少なくとも1原子%、少なくとも2原子%、又は少なくとも2.5原子%であり得る。一次粒子中のコバルトの濃度は、一次粒子中のNi、M及びAの総含有量に対して、35原子%以下、例えば、30原子%以下、20原子%以下、原子%以下、15原子%以下、10原子%以下、8原子%以下、又は5原子%以下であり得る。
【0029】
粒界中のコバルトの濃度は、粒界におけるNi、M、及びAの総含有量に対して少なくとも1原子%、少なくとも2原子%、少なくとも2.5原子%、又は少なくとも3原子%であり得る。粒界中のコバルトの濃度は、一次粒子中のNi、M及びAの総含有量に対して、40原子%以下、例えば、35原子%以下、30原子%以下、20原子%以下、原子%以下、15原子%以下、10原子%以下、又は8原子%以下であり得る。
【0030】
一次粒子中のコバルトの濃度と粒界との差は、少なくとも1原子%、例えば、少なくとも3原子%又は少なくとも5原子%であり得る(原子%での粒界中のコバルトの濃度から原子%での一次粒子中のコバルトの濃度を引くことによって計算される)。
【0031】
粒界及び一次粒子中のコバルト又はアルミニウムなどの金属の濃度は、集束イオンビームミリングなどの切断技術によって粒子の薄くスライスされた(例えば、厚さ100~150nm)断面について、粒界の中心及び隣接する一次粒子の中心のエネルギー分散型X線分光法(energy-dispersive X-ray、EDX)によって決定することができる。
【0032】
表面改質リチウムニッケル金属酸化物の粒子は、その表面上にコバルトリッチコーティングを有し得る。二次粒子中のコバルトの濃度は、二次粒子の表面から二次粒子の中心までの方向に減少し得る。二次粒子の表面におけるコバルトの濃度と二次粒子の中心におけるコバルトの濃度との差は、少なくとも1原子%、例えば、少なくとも3原子%又は少なくとも5原子%であり得る(原子%での粒子の中心におけるコバルトの濃度から原子%での粒子の表面におけるコバルトの濃度を引くことによって計算される)。コバルトの濃度は、粒界及び一次粒子について上で定義されたように決定され得る。
【0033】
あるいは、又は加えて、表面改質リチウムニッケル金属酸化物の粒子は、その表面上にアルミニウムリッチコーティングを有し得る。二次粒子中のアルミニウムの濃度は、二次粒子の表面から二次粒子の中心までの方向に減少し得る。二次粒子の表面におけるアルミニウムの濃度と二次粒子の中心におけるアルミニウムの濃度との差は、少なくとも1原子%、例えば、少なくとも3原子%又は少なくとも5原子%であり得る(原子%での粒子の中心におけるアルミニウムの濃度から原子%での粒子の表面におけるアルミニウムの濃度を引くことによって計算される)。アルミニウムの濃度は、粒界及び一次粒子中のコバルトのレベルについて上で定義されたように決定され得る。
【0034】
表面改質リチウムニッケル金属酸化物の粒子は、典型的には、少なくとも1μm、例えば、少なくとも2μm、少なくとも4μm、又は少なくとも5μmの体積D50粒径を有する。表面改質リチウムニッケル金属酸化物(例えば、二次粒子)の粒子は、典型的には、30μm以下、例えば、20μm以下又は15μm以下の体積D50粒径を有する。表面改質リチウムニッケル金属酸化物の粒子は、1μm~30μm、例えば、2μm~20μm、又は5μm~15μmの体積D50を有することが好ましい場合がある。本明細書で使用される場合、体積D50は、体積加重分布の中央粒径を指す。体積D50粒径は、(例えば、粒子を水中に懸濁させ、Malvern Mastersizer 2000を使用して分析することによって)レーザー回折法を使用することによって決定することができる。
【0035】
本明細書に記載のプロセスは、音響エネルギーを使用して、リチウムニッケル金属酸化物粒子を少なくとも1つの金属含有化合物と乾燥混合することを含む。
【0036】
リチウムニッケル金属酸化物粒子は、複数の一次粒子を含む二次粒子の形態で提供される。コーティング液を添加する前の粒子は、「基材」として知られ得る。一部の実施形態では、基材の粒子は、式(II)による組成物を有する。
Lia1Nix1My1Az1O2+b1
式II
[式中、
Mが、Co及びMnのうちの1つ以上であり、
Aが、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、及びCaのうちの1つ以上であり、
0.8≦a1≦1.2であり、
0.5≦x1<1であり、
0<y1≦0.5であり、
0≦z1≦0.2であり、
-0.2≦b1≦0.2であり、
x+y+z=1である]
【0037】
AはAlではないことが好ましい場合がある。かかる場合、Aは、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、及びCaのうちの1つ以上である。Mは、Coだけ、すなわち、基材がMnを含有しないことが好ましい場合がある。
【0038】
当業者によって、a1、x1、y1、z1及びb1、並びに元素Aが、本明細書に記載のプロセス後の式1の所望の組成を達成するように選択されることが理解されるであろう。
【0039】
基材は、当業者に周知の方法によって生成される。これらの方法は、例えば、アンモニア及びNaOHなどの塩基の存在下で、金属硫酸塩などの金属塩の溶液から混合金属水酸化物を共沈させることを伴う。場合によっては、好適な混合金属水酸化物は、当業者に知られている商業的供給業者から得ることができる。次いで、焼成工程の前に、混合金属水酸化物を、水酸化リチウム若しくは炭酸リチウムなどのリチウム含有化合物、及びその水和形態と混合して、基材を形成する。
【0040】
選択された金属含有化合物は、粒界及び/又は表面改質微粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料の表面層に富化レベルで存在することが望ましい1つ以上の元素を含むことが当業者によって理解されるであろう。金属含有化合物は、典型的には、硝酸塩、硫酸塩、クエン酸塩、又はアセテートなどの金属塩である。金属含有化合物は、無機金属塩であることが好ましい場合がある。硝酸塩が特に好ましい場合がある。
【0041】
好ましくは、リチウムニッケル金属酸化物粒子は、アルミニウム含有化合物と混合される。アルミニウム含有化合物は、典型的には、無機アルミニウム塩などのアルミニウム塩、例えば、硝酸アルミニウムである。これは、表面改質リチウムニッケル金属酸化物粒子の粒界における、及び/又はその表面若しくはその近くにおけるアルミニウムの濃度の増加をもたらし得る。
【0042】
あるいは、又は加えて、リチウムニッケル金属酸化物粒子をコバルト含有化合物と混合することが好ましい。コバルト含有化合物は、典型的には、無機コバルト塩、例えば、硝酸コバルトなどのコバルト塩である。これは、表面改質リチウムニッケル金属酸化物粒子の粒界における、及び/又はその表面若しくはその近くにおけるコバルトの濃度の増加をもたらし得る。コバルト含有化合物は、添加されるコバルトの重量パーセントが、リチウムニッケル金属酸化物粒子の重量の0.5~4.0重量%の範囲及びそれを含む量、又はより好ましくは0.5~3.0重量%、又は0.5~2.0重量%の範囲及びそれを含む量で添加されることが好ましい場合がある。
【0043】
任意選択的に、リチウムニッケル金属酸化物粒子は、アルミニウム含有化合物(アルミニウム塩など)及び/又はコバルト含有化合物(コバルト塩など)などの少なくとも1つの他の金属含有化合物に加えて、リチウム塩、例えば、硝酸リチウムなどのリチウム含有化合物と混合される。これは、寿命の短縮につながり得る表面改質微粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料の構造における空隙又は欠陥を回避するために有益であり得ることが提案されている。
【0044】
1つ以上の金属含有化合物は、金属塩の水和物、例えば、硝酸コバルトの水和物及び/又は硝酸アルミニウムなどの金属硝酸塩の水和物、任意選択的に硝酸リチウム、又は硝酸リチウムの水和物として提供されることが好ましい場合がある。
【0045】
リチウムニッケル金属酸化物粒子は、少なくとも1つの金属含有化合物と乾燥混合される。本明細書で使用される場合、乾燥混合とは、水などの溶媒を添加することなく、リチウムニッケル金属酸化物粒子及び金属含有化合物が粉末として混合されることを意味する。
【0046】
材料は、音響エネルギーの存在下で混合される。音響エネルギーを混合容器に印加して、混合物内に巨視的及び微視的な乱流が引き起こされる。混合は、典型的には、インペラ、ブレード、ロータ、又はパドルを使用せずに達成される。
【0047】
混合物は、混合される材料の共振を引き起こす周波数で音響エネルギーに供されることが好ましい場合がある。この場合、周波数は、混合容器及び混合される材料の共振周波数と一致するように選択される。これにより、リチウムニッケル金属酸化物粒子が、金属含有化合物又は各金属含有化合物と急速に混合される。
【0048】
典型的には、混合中に印加される音響エネルギーの周波数が、超音波混合よりもはるかに低い周波数であること、すなわち、混合が超音波混合ではないことが好ましい。印加される音響エネルギーは、約15Hz~約1000Hzの範囲であることが好ましい場合がある。音響エネルギーの周波数範囲は、約15Hz~500Hz、15Hz~200Hz、15Hz~100Hz、20Hz~100Hz、より好ましくは25Hz~100Hz、30Hz~100Hz、40Hz~100Hz、50Hz~100Hz、50Hz~90Hz、50Hz~80Hz、50Hz~70Hz、55~65Hz、又は58及び62Hzであることが更に好ましい場合がある。
【0049】
混合物への音響エネルギーの印加のレベルは、重力加速度又は「g」(1g=9.81m/s2)の単位で測定される。典型的には、音響エネルギーは、30g~100gの範囲、好ましくは60g~100g、又は60g~90gの範囲で印加される。30~100gの音響エネルギーレベルの使用は、長い混合時間を使用することなく、基材と金属含有化合物又は各金属含有化合物との十分な混合を達成することが見出された。
【0050】
混合工程は、典型的には、30秒~10分、好ましくは1~10分、より好ましくは1~5分の期間にわたって実行する。
【0051】
混合工程は、30秒~10分間、30g~100gの範囲の音響エネルギーを印加することによって実施されることが好ましい場合がある。
【0052】
音響エネルギーは、バッチミキサとして構成されたミキサに印加され得るか、又はミキサは、半連続的又は連続的な様式で動作するように構成され得る。混合プロセスが半連続的又は連続的な様式で実行される場合、混合工程の関連時間は、混合される材料の滞留時間であり、滞留時間が典型的には30秒~10分であることが当業者によって理解されるであろう。
【0053】
混合工程は、表面改質リチウムニッケル金属酸化物粒子中の炭酸リチウムなどの不純物のレベルを低下させることができる、CO2及び/又は水分を含まない雰囲気などの制御された雰囲気下で実行することが好ましい場合がある。
【0054】
典型的には、混合後、混合物は、追加の乾燥を必要とせずに、焼成工程に直接供される。有利には、混合物は、混合容器から焼成器に直接移送され得る。
【0055】
次いで、混合物は焼成工程に供される。焼成工程は、800℃以下の温度で実行される。より高い焼成温度は、リチウムニッケル金属酸化物粒子内のより低い粒界富化及び/又は金属元素の均一な分布をもたらし得ることが見出された。
【0056】
焼成工程は、750℃以下、740℃以下、730℃以下、720℃以下、730℃以下、又は700℃以下の温度で実行することが更に好ましい場合がある。700℃未満の温度での焼成は、より高い放電容量などの改善された電気化学的特性をもたらし得る。
【0057】
焼成工程は、少なくとも400℃、少なくとも500℃、少なくとも550℃、少なくとも600℃、又は少なくとも650℃、例えば、400℃~800℃、400℃~750℃、500℃~750℃、550℃~750℃、又は550℃~700℃の温度で実行され得る。加熱される混合物は、少なくとも30分間、少なくとも1時間、又は少なくとも2時間の期間にわたって、400℃、少なくとも500℃、少なくとも600℃、又は少なくとも650℃の温度であり得る。期間は、8時間未満であり得る。
【0058】
好ましくは、焼成は、混合物を400~800℃の温度で30分~8時間、より好ましくは400~750℃の温度で30分~8時間、更により好ましくは400~750℃の温度で30分~6時間加熱する工程を含む。
【0059】
より好ましくは、焼成は、混合物を600~800℃の温度に30分間~8時間、より好ましくは600~750℃の温度で30分間~8時間、更により好ましくは600~750℃の温度で30分間~4時間加熱する工程を含む。
【0060】
焼成工程は、CO2を含まない雰囲気下で実行することができる。例えば、CO2を含まない空気を、加熱中及び任意選択的に冷却中に材料上に流してもよい。CO2を含まない空気は、例えば、酸素と窒素との混合物であり得る。好ましくは、雰囲気は、酸化性雰囲気である。本明細書で使用される場合、「CO2を含まない」という用語は、100ppm未満のCO2、例えば、50ppm未満のCO2、20ppm未満のCO2又は10ppm未満のCO2を含む雰囲気を含むことが意図される。これらのCO2レベルは、CO2スクラバを使用してCO2を除去することによって達成され得る。
【0061】
CO2を含まない雰囲気は、O2とN2との混合物を含むことが好ましい場合がある。混合物は、N2及びO2を5:95~90:10、例えば50:50~90:10、又は60:40~90:10、例えば約80:20の比で含むことが更に好ましい場合がある。
【0062】
このプロセスは、焼成工程後に実行され得る1つ以上の粉砕工程を含み得る。粉砕装置の性質は特に限定されない。例えば、それは、ボールミル、遊星ボールミル又はローリングベッドミルであり得る。粉砕は、粒子が所望のサイズに達するまで実行され得る。例えば、表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料の粒子は、D50粒径が少なくとも5μm、例えば少なくとも5.5μm、少なくとも6μm、又は少なくとも6.5μmであるような体積粒径分布を有するまで粉砕され得る。表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料の粒子は、D50粒径が15μm以下、例えば14μm以下又は13μm以下であるような体積粒径分布を有するまで粉砕され得る。
【0063】
本発明のプロセスは、表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料を含む電極(典型的にはカソード)を形成する工程を更に含み得る。典型的には、これは、表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料のスラリーを形成し、スラリーを集電体(例えば、アルミニウム集電体)の表面に塗布し、任意選択的に処理(例えば、カレンダリング)して電極の密度を増加させることによって実行される。スラリーは、溶媒、結合剤、炭素材料、及び更なる添加物のうちの1つ以上を含んでもよい。
【0064】
典型的には、本発明の電極は、少なくとも2.5g/cm3、少なくとも2.8g/cm3、又は少なくとも3g/cm3の電極密度を有する。これは、4.5g/cm3以下、又は4g/cm3以下の電極密度を有し得る。電極密度は、電極が形成される集電体を含まない、電極の電極密度(質量/体積)である。したがって、活性物質、あらゆる添加剤、あらゆる追加の炭素材料、及びあらゆる残りの結合剤が関係する。
【0065】
本発明のプロセスは、表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料を含む電極を含む電池又は電気化学セルを構築することを更に含んでもよい。電池又はセルは、典型的には、アノード及び電解質を更に含む。電池又はセルは、典型的には、二次(再充電式)リチウム(例えば、リチウムイオン)イオン電池であってもよい。
【0066】
ここで、本発明の理解を助けるために提供され、その範囲を限定することを意図しない以下の実施例を参照し、本発明を説明する。
【実施例】
【0067】
実施例1-リチウムニッケル金属酸化物基材(Li1.03Ni0.91Co0.08Mg0.01O2、基材A)の調製例
Ni0.91Co0.08Mg0.01(OH)2(100g、Brunp)及びLiOH(26.3g)をポリ-プロピレンボトル中で1時間乾燥混合した。LiOHを真空下200℃で24時間事前乾燥させ、乾燥N2で充填したパージされたグローブボックス内で乾燥させ続けた。
【0068】
粉末混合物を99%+のアルミナるつぼに装填し、CO2を含まない空気下で焼成した。焼成を次のとおり実施した:450℃(5℃/分)にし、2時間保持、700℃(2℃/分)まで上昇させ、6時間保持、そして自然に130℃まで冷却。CO2を含まない空気を焼成及び冷却を通して粉末床上に流した。それにより、表題化合物を得た。
【0069】
次いで、試料を130℃の炉から取り出し、高アルミナライニングミルポットに移し、D50が9.5~10.5μmになるまでローリングベッドミルで粉砕した。
【0070】
実施例2-表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料を生成する方法
実施例2A
基材A(100g)を、硝酸コバルト(II)六水和物(11.83g)、硝酸アルミニウム九水和物(2.44g)及び硝酸リチウム(1.88g)とともにプラスチック容器に入れた。58~62Hzで作動するLabRAM(RTM)共鳴音響ミキサを40gで1分間使用して、材料を混合した。次いで、混合粉末を静置炉に移し、(i)5℃/分の速度で450℃まで加熱し、(ii)450℃で1時間保持し、(iii)2℃/分の速度で700℃に加熱し、(iv)700℃で2時間保持し、(v)周囲温度まで冷却することを可能にする温度プロファイルを使用して、CO2を含まない空気中で焼成した。
【0071】
ICP-MS分析は、形成された材料がLi1.01Ni0.867Co0.115Mg0.012Al0.006O2の組成を有することを示した。
【0072】
生成された材料のX線粉末回折(X-ray powder diffraction、XRD)は、層状α-NaFeO2型構造を有する結晶性材料を示した。XRDパターンは、浸漬噴霧乾燥法によって生成された同じ組成物の以前の試料に一致した。
【0073】
実施例2B
音響エネルギーを60gで5分間適用したこと以外は同じ実験条件で実験例2Aを繰り返した。
【0074】
ICP-MS分析は、形成された材料がLi1.01Ni0.867Co0.115Mg0.012Al0.006O2の組成を有することを示した。
【0075】
生成された材料のX線粉末回折(XRD)は、層状α-NaFeO2型構造を有する結晶性材料を示した。XRDパターンは、浸漬噴霧乾燥法によって生成された同じ組成物の以前の試料に一致した。
【0076】
また、試料をFIB-TEM(集束イオンビーム透過電子顕微鏡法)によって分析した。試料をグローブボックス内の導電性カーボンタブに取り付け、移送シャトルを使用してFIBに移した。試料は、30kVのガリウムイオンビームを有する集束イオンビーム器具を使用して調製した。最終研磨を5kVで実施した。試料を、以下の器具条件:電圧(kV)200、C2開口(um)70及び40、軸外環状検出器を使用した走査モードでの暗視野(Zコントラスト)撮像を用いて、JEM2800(走査)透過型電子顕微鏡で検査した。組成分析は、走査モードでX線発光検出(X-ray emission detection、EDX)によって実行された。
【0077】
この分析は、粒子表面及び粒界でコバルト富化があることを示した(
図1)。
【0078】
実施例3-音響混合条件の変動
更なる研究は、種々の音響混合条件を使用して実行された。各実験について、基材A(100g)を硝酸コバルト(II)六水和物(11.83g)、硝酸アルミニウム九水和物(2.44g)及び硝酸リチウム(1.88g)とともにプラスチック容器に入れ、混合物を、58~62Hzで作動するLabRAMミキサを使用して、以下の表1に示す条件で音響混合に供した。
【0079】
次いで、混合物を、1.4g/cm2の床充填量を有する匣鉢に入れ、匣鉢当たり1L/分のガス流量で80%N2/20%O2雰囲気、及び(i)5℃/分の速度で130℃に加熱し、(ii)130℃で5.5時間保持し、(iii)5℃/分の速度で450℃に加熱し、(iv)450℃で1時間保持し、(v)2℃/分の速度で700℃に加熱し、(vi)700℃で2時間保持し、(vii)周囲温度まで冷却することを可能にする温度プロファイルを使用して焼成した。
【0080】
【0081】
実施例4-音響エネルギーの不在下での基材の乾燥混合(比較例)
式Li1.03Ni0.90Co0.08Mg0.02O2の基材(500g)をWinkworth MixerモデルMZ05に充填し、ミキサを50rpmで作動させながら60℃に加熱した。次いで、硝酸コバルト(II)六水和物(59.0g、ACS、98~102%、Alfa Aesar製)、硝酸アルミニウム九水和物(12.2g、98%、Alfa Aesar製)及び硝酸リチウム(16.4g、無水、99%、Alfa Aesar製)の混合物を添加し、ミキサを作動させたままにした後、試料を排出した。約250gの混合粉末をアルミナるつぼに添加した。次いで、スクラバから供給されるCO2を含まない空気を用いて、Carbolite Gero GPC1200炉内で試料を焼成した。試料を、5℃/分で450℃に加熱し、450℃で1時間保持し、2℃/分で700℃に加熱し、700℃で2時間保持し、4ml/分の流量のCO2を含まない空気で室温に冷却することによって焼成した。
【0082】
実施例5-式Li1.01Ni0.867Co0.115Mg0.012Al0.006O2の表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料を生成する方法
以下の実験を3回繰り返して、プロセス条件の再現性を調べた(実施例5A~5C)。
【0083】
基材A(50g)を、硝酸コバルト(II)六水和物(5.91g、2.4重量%のCo)、硝酸アルミニウム九水和物(1.22g)及び硝酸リチウム(0.94g)とともにプラスチック容器に入れた。58~62Hzで作動するLabRAM(RTM)共鳴音響ミキサを80gで3分間使用して、材料を混合した。次いで、混合粉末を静置炉に移し、(i)5℃/分の速度で450℃まで加熱し、(ii)450℃で1時間保持し、(iii)2℃/分の速度で700℃に加熱し、(iv)700℃で2時間保持し、(v)周囲温度まで冷却することを可能にする温度プロファイルを使用して、CO2を含まない空気中で焼成した。
【0084】
ICP-MS分析は、形成された材料がLi1.01Ni0.867Co0.115Mg0.012Al0.006O2の組成を有することを示した。
【0085】
生成された材料のX線粉末回折(XRD)は、層状α-NaFeO2型構造を有する結晶性材料を示した。
【0086】
実施例6-式Li1.01Ni0.867Co0.115Mg0.012Al0.006O2の表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料を生成する方法
基材A(50g)を、硝酸コバルト(II)六水和物(3.01g、1.2重量%のCo)、硝酸アルミニウム九水和物(1.22g)及び硝酸リチウム(0.94g)とともにプラスチック容器に入れた。58~62Hzで作動するLabRAM(RTM)共鳴音響ミキサを80gで5分間使用して、材料を混合した。次いで、混合粉末を静置炉に移し、(i)5℃/分の速度で450℃まで加熱し、(ii)450℃で1時間保持し、(iii)2℃/分の速度で700℃に加熱し、(iv)700℃で2時間保持し、(v)周囲温度まで冷却することを可能にする温度プロファイルを使用して、CO2を含まない空気中で焼成した。
【0087】
ICP-MS分析は、形成された材料がLi1.01Ni0.867Co0.115Mg0.012Al0.006O2の組成を有することを示した。生成された材料のX線粉末回折(XRD)は、層状α-NaFeO2型構造を有する結晶性材料を示した。
【0088】
実施例7-式Li1.01Ni0.867Co0.115Mg0.012Al0.006O2の表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料を生成する方法
基材A(50g)を硝酸アルミニウム九水和物(1.22g)及び硝酸リチウム(0.94g)とともにプラスチック容器に入れた。材料を、LabRAM(RTM)共振音響ミキサを使用して、58~62Hzで動作する80gで5分間混合した。次いで、混合粉末を静置炉に移し、(i)5℃/分の速度で450℃まで加熱し、(ii)450℃で1時間保持し、(iii)2℃/分の速度で700℃に加熱し、(iv)700℃で2時間保持し、(v)周囲温度まで冷却することを可能にする温度プロファイルを使用して、CO2を含まない空気中で焼成した。
【0089】
ICP-MS分析は、形成された材料がLi1.01Ni0.867Co0.115Mg0.012Al0.006O2の組成を有することを示した。生成された材料のX線粉末回折(XRD)は、層状α-NaFeO2型構造を有する結晶性材料を示した。
【0090】
実施例8-電気化学的試験
実施例2~7の試料を、以下に記載のプロトコルを使用して電気化学的に試験した。
【0091】
電気化学プロトコル
電極は、94重量%のリチウムニッケル金属酸化物活性材料、導電性添加剤として3重量%のSuper-C、及び溶媒としてN-メチル-2-ピロリジン(NMP)中の結合剤として3重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)をブレンドすることによって調製した。スラリーをリザーバ上に添加し、125μmのドクターブレードコーティング(Erichsen)をアルミ箔に塗布した。電極を120℃で1時間乾燥させた後、3.0g/cm3の密度を達成するように圧縮した。典型的には、活性物質の充填量は9mg/cm2である。圧縮された電極を14mmのディスクに切断し、120℃で更に12時間減圧乾燥させた。
【0092】
電気化学試験を、アルゴン充填グローブボックス(MBraun)中で組み立てたCR2025型コインセルを用いて実施した。リチウム箔をアノードとして使用した。多孔性ポリプロピレン膜(Celgard2500)をセパレータとして使用した。1:1:1のエチレンカーボネート(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、及びエチルメチルカーボネート(EMC)と1%の炭酸ビニル(VC)との混合物中の1M LiPF6を電解質として使用した。
【0093】
セルを、3.0~4.3Vの電圧範囲を使用してCレート及び保持試験を使用して、MACCOR4000シリーズで試験した。Cレート試験は、23℃で0.1C~5C(0.1C=200mAh/g)でセルを充電及び放電させた。保持試験は、23℃又は45℃で50サイクルにわたって充電及び放電された試料を用いて1Cで実行した。
【0094】
電気化学的結果
図2は、実施例2A及び実施例2Bにおいて生成された材料の23℃でのCレート試験の結果を示す。このデータは、両方の試料が高い初期放電容量を有し、実施例2Bによって生成された材料(60gで5分間混合)が実施例2Aの初期容量(213mAh/g)よりも高い初期容量(217mAh/g)を有することを示している。
【0095】
図3は、実施例2A及び実施例2Bで生成した材料の23℃でのサイクル寿命保持試験の結果を示す。これは、両方の試料が50サイクル後に94%超の保持率を有することを示す。
【0096】
比較として、実施例4で生成した材料を23℃でのサイクル寿命保持試験で評価した。50サイクル後の保持率は92%であり、これは、音響混合を伴う方法が、乾燥混合と比較して改善されたサイクル寿命を有する材料を提供することを示す。
【0097】
実施例2Bにおいて生成された材料もまた、実施例2Bのものと一致する標的組成を有するが、国際公開第2013/025328号に記載されているものと類似の浸漬噴霧乾燥法(基材Aを硝酸コバルト(II)六水和物、硝酸アルミニウム九水和物及び硝酸リチウムの水性混合物に添加し、続いて噴霧乾燥し、実施例2Aに記載した焼成条件を使用して焼成)によって生成されたリチウムニッケル金属酸化物材料の3つの試料(参照試料1~3)とともに、23℃及び45℃で電気化学的に試験した。結果を表2A及び表2Bに示す。このデータは、従来技術の方法と比較して、本明細書に記載される方法を使用して、同等の電気化学的性能が達成されたことを示す。
【0098】
表2A-第1のサイクル充電(FCC)及び第1のサイクル放電(FCD)容量、第1のサイクル効率(Eff)、並びにCレート試験からの異なる放電レート(0.1C~2C)での放電容量を示す23℃での電気化学的試験データ。
【0099】
【0100】
【0101】
実施例3で生成された材料も電気化学的に試験した。結果を表3に示す。
【0102】
【0103】
表3のデータは、種々の音響混合電力条件及び混合時間を使用して、同等の電気化学結果が達成され得ることを示す。
【0104】
実施例5、6及び7で生成した材料を、比較材料(i)実施例1の方法に従って生成した基材Aの試料及び(ii)実施例5A~5Cのものと一致する標的組成を有するが、国際公開第2013/025328号に記載されているものと類似の浸漬噴霧乾燥法(基材Aを硝酸コバルト(II)六水和物、硝酸アルミニウム九水和物及び硝酸リチウムの水性混合物に添加し、続いて噴霧乾燥し、実施例5に記載した焼成条件を使用して焼成)によって生成したリチウムニッケル金属酸化物材料の参照試料と一緒に電気化学的に試験した。データを表4に示す。放電容量保持率に関して、結果は、表面改質方法(参照試料4及び実施例5~7)の各々が、基材、特にコバルト含有化合物を使用する表面改質に対して放電容量保持率の改善をもたらすことを示す。放電容量に関して、本明細書に記載される方法中に生成された表面改質材料の各々は、参照試料4と比較して、低及び高い放電率での放電容量の増加を示す。実施例6で得られた材料は、0.1C及び5Cでの最高放電容量を示す。
【0105】
【国際調査報告】