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特表2023-500711薬物誘発細胞毒性及び鬱病のバイオマーカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-10
(54)【発明の名称】薬物誘発細胞毒性及び鬱病のバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20221227BHJP
【FI】
G01N33/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022526234
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(85)【翻訳文提出日】2022-07-06
(86)【国際出願番号】 EP2020081273
(87)【国際公開番号】W WO2021089772
(87)【国際公開日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】1916185.0
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512145734
【氏名又は名称】ランドックス ラボラトリーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イノセンジ,ポール
(72)【発明者】
【氏名】フィッツジェラルド,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ラドック,マーク
(72)【発明者】
【氏名】ラモント,ジョン
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045FB01
2G045FB03
(57)【要約】
薬物誘発細胞毒性及び鬱病のマーカーとしてのGFAPの使用を記載する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物の細胞毒性を評価する方法であって、前記薬物に曝された個体から採取されたインビトロサンプルにおける、又は、前記薬物に曝されているインビトロ細胞株若しくは細胞モデルにおける、GFAPの量を測定すること、及び、前記測定されたGFAPの量を対照測定値と比較することを含み、前記インビトロサンプル又はインビトロ細胞株若しくは細胞モデルから得られたGFAP測定値が前記対照測定値よりも大きいことが、細胞毒性を示す、方法。
【請求項2】
前記対照測定値が、前記個体、細胞株又は細胞モデルが前記薬物に曝される前の前記インビトロサンプル又はインビトロ細胞株若しくは細胞モデルから得られるGFAPレベル測定値である、請求項2に記載の方法。
【請求項3】
前記薬物が、脳関連の病状における使用のためのものである、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記薬物が、脳における神経伝達経路に影響する、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記薬物が、選択的セロトニン再取り込み阻害剤、選択的ドーパミン再取り込み阻害剤、選択的ノルエピネフリン再取り込み阻害剤、セロトニン受容体アゴニスト若しくはアンタゴニスト、ドーパミン受容体アゴニスト若しくはアンタゴニスト、GABA受容体アゴニスト若しくはアンタゴニスト、アドレナリン受容体アゴニスト若しくはアンタゴニスト、グルタミン酸受容体アゴニスト若しくはアンタゴニスト、グリシン受容体アゴニスト若しくはアンタゴニスト、又はオピオイド受容体アゴニスト若しくはアンタゴニストである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記薬物が、選択的セロトニン再取り込み阻害剤、選択的ドーパミン再取り込み阻害剤、選択的ノルエピネフリン再取り込み阻害剤、セロトニン受容体アゴニスト若しくはアンタゴニスト、又はドーパミン受容体アゴニスト若しくはアンタゴニストである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記薬物が、選択的セロトニン再取り込み阻害剤である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記脳関連の病状が、鬱病、不安、ストレス、パニック障害、疼痛、てんかん、認知症、自殺念慮、アルツハイマー病又はパーキンソン病である、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記脳関連の病状が、鬱病である、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
個体における鬱病の診断を支援する方法であって、前記個体のインビトロサンプルにおけるGFAPの量を測定すること、及び、前記測定されたGFAPの量を対照測定値と比較することを含み、前記対照測定値よりも高い前記サンプルから得られたGFAP測定値が、前記個体が鬱状態にあることを支持する、方法。
【請求項11】
前記対照測定値が、前記薬物へ曝される前の、好ましくは、前記個体が鬱病に罹患していない時点の前記個体のインビトロサンプルから得られるGFAPレベル測定値である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記サンプルが、血液、血清又は血漿である、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項13】
薬物誘発細胞毒性のマーカーとしての、GFAPの使用。
【請求項14】
前記薬物が、脳にある細胞受容体に結合する、又は、脳における生理的経路を遮断する、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記薬物が、選択的セロトニン再取り込み阻害剤、選択的ドーパミン再取り込み阻害剤、選択的ノルエピネフリン再取り込み阻害剤、セロトニン受容体アゴニスト若しくはアンタゴニスト又はドーパミン受容体アゴニスト若しくはアンタゴニストである、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記薬物が、選択的セロトニン再取り込み阻害剤である、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
鬱病のマーカーとしての、GFAPの使用。
【請求項18】
GFAPが、血液、血清又は血漿由来である、請求項13又は17に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、実際の又は危険が迫っている深刻な傷害、死又は性的暴力に曝されることに起因する症候群である(1)。PTSDは、民間人及び特に現役の軍人に影響する。リスク要因として、性別、以前の心的外傷への曝露、既存の心の病、社会経済的地位の低さ、精神遅滞及び幼少期の逆境が挙げられる。心的外傷後の要因として、急性ストレス障害(ASD)の発症、他のストレス、例えば、経営不振、その後の人生における不利な出来事及び社会的支援の欠失が挙げられる。精神状態、例えば、PTSDは、あまり理解されておらず、病気が個体においてどのようにして発症するかについての不均一性に幅がある。心的外傷事象後、不安の感情、悲しみ、ストレス、悪夢、当該事象に関する侵入性記憶、及び問題となる睡眠が存在し得る。しかし、これらの症状は、個体がPTSDを有することを必ずしも意味しているわけではない。精神障害の診断と統計マニュアル(DSM、DSM-5が最新バージョンである)は、精神病を診断するために臨床医及び精神科医によって使用されている。DSMは、症状を記載しており、性別、発症年齢及び処置の効果を含めた統計値を提供している。DSMについての主な課題は有効性である。アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)が出した声明において、「DSM-5により、精神障害の臨床診断に現在利用可能な最良の情報が提示されている」と述べられている。診断は、患者の状態又は障害を正確に記載しているときに有効である。しかし、DSM-5に記載されている診断は、心疾患、糖尿病、がんなどのような、客観的に記載されている身体的な医学的状態ではなく、患者によって報告されていて、臨床医によって解釈されている症状及び性状である。かかるアプローチの可能性のあるリスクとして、誤診又は過剰診断が挙げられる。結果を予期し、見出し、解釈する臨床医の傾向は、確証バイアスにつながる場合がある。そのため、患者は、簡単に障害を有するとして表示付けされる可能性があり得る、なぜなら、これらの性状が現在の「理想」に常に従うわけではないからである。これまで、PTSDを有する患者の診断、処置及び管理を補助する臨床的に有効な生物学的バイオマーカー又はバイオマーカーの組み合わせ(とりわけ、タンパク質バイオマーカー)は見出されていない。他の精神神経障害、例えば、鬱病及び不安による症状及び共存疾患は、単一のバイオマーカーが診断用となりそうにないことを示唆している。PTSDの重要な共存疾患である鬱病は、PTSD自体よりも大きな社会的課題を表しており、個体の平均10%が、それらの生存期間の間に鬱病に罹患するであろうと現在見積もられている。鬱病を診断することは、等しく困難であり、感情、記憶、身体的病気、人格などの重要な変化を特定しようと努める掘り下げたパーソナルヒストリー及び臨床検査を必要とする。主観的なプロセスは、最大で50%の誤診率につながる可能性があり、最終的に、患者のケアに影響する。鬱病の診断に対するより客観的なアプローチは、現在の医療の課題であり、鬱病のタンパク質バイオマーカーは、活発な研究分野である。
【0002】
臨床的なリスク要因を有するバイオマーカー又はバイオマーカーの組み合わせを、PTSDの「リスクのある」患者を臨床医が特定する及び/又は階層化するのを助けるのに使用することができるかを調査するための研究が発達した。予想外にも、この研究により、薬物誘発細胞損傷/毒性のバイオマーカーを特定した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
心的外傷後ストレス障害の、可能性のある血液バイオマーカーの調査の際に、グリア細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP)が、薬剤を摂取したPTSD及び非PTSDコホートによる個体において上方調節されることが驚くべきことに見出された。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、個体が曝された又はインビトロ細胞株に添加された薬物の細胞効果を、前記個体のインビトロサンプル又は前記インビトロ細胞株におけるGFAPの量を測定することによって評価するエキソビボ方法であって、測定されたGFAPの量の増加が、細胞毒性又は損傷を示している、上記方法を記載する。
【0005】
同じ患者コホートから、鬱状態の個体は、血液GFAPの量が非鬱状態の個体よりも多いことがさらに特定された。
【0006】
薬物誘発細胞毒性及び鬱病のバイオマーカーとしてのGFAPの使用は、潜在的に毒性の薬物を特定するための診断用の随伴物としての、臨床医学、臨床試験及び精密医療におけるその使用を支援し得る。精神疾患バイオマーカーとしてのGFAPの使用は、鬱病の臨床診断に、より大きな客観性及び正確性を付与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】PTSDコホート(3つの左側の棒図)及び非PTSDコホート(3つの右側の棒図)からの個体における平均GFAPレベル。GFAPアッセイは、0.16ng/mlのカットオフ値を有するため、健康コホートにおける多数の個体が統計分析で検出可能なGFAPを有さなかったとき、これらの個体には、カットオフ値を割り当てた;したがって、健康コホートにおいて示されている値は、過大評価となる。
図2】処方されたSSRI薬剤及び処方された非SSRI薬剤を摂取しているPTSDコホートにおける個体に関する平均GFAPレベル。
図3】処方されたSSRI薬剤及び処方された非SSRI薬剤を摂取している、鬱病を有する個体(上)、及び、処方されたSSRI薬剤及び処方された非SSRI薬剤を摂取している、鬱病を有さない個体(下)に関する平均GFAPレベル。
図4】鬱状態であった及び鬱状態でなかった、処方されたSSRI薬剤を摂取している(上)、並びに、鬱状態であった及び鬱状態でなかった、処方された非SSRI薬剤を摂取している(下)、PTSDコホートにおける個体に関する平均GFAPレベル。
図5】フォローアップ研究。処方された薬剤を摂取していない個体、脳細胞受容体又は脳の生理的経路に作用しない処方された薬剤(脳に影響しない薬剤)を摂取している個体、及びこれに作用する処方された薬剤(脳に影響する薬剤)を摂取している個体に関する平均GFAPレベル。
【発明を実施するための形態】
【0008】
個体における血液系バイオマーカーを検出してPTSD診断を支援することが目標である、PTSDコホート及び非PTSDコホートを含めた研究により、予想外にも、薬物誘発細胞損傷及び鬱病のバイオマーカーを特定した。PTSD個体は、鬱病及び不安関連障害を含めた併存状態の群に悩まされており、また、当該群によって部分的に定義されていて、多くの場合、当該状態に対抗するためにいくつかの薬剤が処方されている。PTSD研究により、いくつかのバイオマーカーレベルが評価されたが、GFAPレベルのばらつきが顕著であったため、さらなる分析を招いた。
【0009】
GFAPは、脳星状細胞において主に見られる構造タンパク質であり、認知症のリスク要因であり得る状態である脳卒中及び外傷性脳損傷(TBI)(WO2018096049、WO2018095872)の末梢血バイオマーカーである。GFAPは、それぞれ翻訳後修飾(PTM)を伴う又は伴わない、Uniprotデータベースに列挙されている3つの特徴付けられたGFAP全長アイソフォーム、Uniprot番号P14136-1のGFAPアイソフォーム1、異名GFAPアルファ、Uniprot番号P14136-2のGFAPアイソフォーム2、異名GFAPデルタ、Uniprot番号P14136-3のGFAPアイソフォーム3、異名GFAPイプシロンのうちの1以上におい
て存在する。「GFAP種」は、PTMを伴う及び伴わない全てのネイティブGFAPアイソフォーム並びに他のGFAPアイソフォーム、例えば、GFAPベータ、GFAPカッパ、GFAPガンマ、GFAPΔEx6、GFAPΔ135、GFAPΔ164及びGFAPΔEx7(Moeton et al 2016を参照されたい)、GFAPマルチマー(様々なアイソフォームのいずれかをベースとするダイマー、テトラマーなど)、GFAPに構造的に特有のGFAP断片及びペプチドを含めたあらゆるGFAP系タンパク質を意味する。「GFAP断片」(分解産物)は、酵素により消化されたネイティブGFAPに由来しており;GFAP分解産物は、PTMも含み得る。本明細書において使用されているとき、用語「GFAP」は、別途記述又は文脈により暗示されない限り、あらゆるGFAP種及びあらゆるGFAP分解産物に相当する(GFAP種及び分解産物の詳細な定義についてはWO2018096049を参照されたい)。脳は、2つの主な細胞タイプ、ニューロン及びより豊富なグリア細胞、から構成されており、後者は、乏突起膠細胞及び星状細胞から構成される。個体が脳卒中又はTBIに罹患しているとき、脳細胞死が起こり、当該細胞の細胞質分は、細胞外環境に放出され、体循環に進入し得る。当該放出の一環として、GFAPは、体循環に入ることができ、GFAPを患者病歴と一緒に特定するための血液試験により、状態、及び脳卒中又はTBIが生じているか否かを確認して、細胞死及び脳損傷を強調することができる。GFAPは、健康個体の血液においては基本的に検出されない(Mayer 2013)。
【0010】
さらなる分析により、以下のカテゴリー:i.薬剤治療中のPTSD鬱状態患者対薬剤治療中患者対鬱状態でなく薬剤を摂取していないPTSD患者、並びに、ii.薬剤治療中の鬱状態患者対薬剤治療中及び非鬱状態患者対健康患者(薬剤を摂取していない、及び、疾患無し)における、i.PTSDコホート及びii.非PTSDコホート(対照群)でのGFAPレベルを比較した。PTSDコホート及び非PTSDコホートの両方において、薬剤治療群及び非薬剤治療群の血液中のGFAPレベルが有意に異なること;両方の場合において、GFAPレベルが、薬剤治療群において、より高いことが驚くべきことに見出された。
【0011】
本発明の第1態様は、薬物の細胞毒性を評価する方法であって、前記薬物に曝された個体から採取されたインビトロサンプルにおける、又は、前記薬物に曝されているインビトロ細胞株若しくは細胞モデルにおける、GFAPの量を測定すること、及び、前記測定されたGFAPの量を対照測定値と比較することを含み;前記インビトロサンプル又はインビトロ細胞株若しくは細胞モデルから得られたGFAP測定値が対照測定値よりも大きいことが、細胞毒性を示している、上記方法である。
【0012】
さらなる分析により、併存疾患を有さない未薬剤治療PTSD患者及び健康非PTSD個体の間のGFAPレベルに差がないことが強調された(結果及び図1を参照されたい)。しかし、PTSD及び非PTSDの両方のコホートでの個体における鬱病において、GFAPレベルの小さいが有意な増加が結果として生じた(結果及び図1を参照されたい)
【0013】
本発明のさらなる態様は、個体における鬱病の診断を支援する方法であって、個体のインビトロサンプルにおけるGFAPの量を測定すること、及び、測定されたGFAPの量を対照測定値と比較することを含み、対照測定値よりも高い前記サンプルから得られたGFAP測定値が、前記個体が鬱状態にあることを示唆している、上記方法である。
【0014】
本発明の文脈において、「対照測定値」又は「対照値」又は「対照レベル」は、健康個体において典型的に見られるGFAPレベルであることが理解される。対照のバイオマーカーレベルは、健康個体から単離されるサンプルの分析によって決定されてよく、又は、健康個体に典型的であることが当業者によって理解されているバイオマーカーのレベルであってよい。対照値は、健康個体においてバイオマーカーについて正常なレベルであると
当業者によってみなされる値の範囲であってよい。当業者は、バイオマーカーに関する対照値が、健康個体からのサンプルにおけるバイオマーカーのレベルを分析するユーザーによって、又はサンプルにおけるバイオマーカーのレベルを求めるのに使用されるアッセイの製造者によって提供される典型的な値を参照することによって算出されてよいことを認識する。代替的には、対照値は、健康と分類されたときに同じ個体のインビトロサンプルから採取される値である。対照測定値は、好適なGFAP種又はGFAP分解産物の閾値量(カットオフ値としても知られている)又は絶対量であり得る。現発明の文脈における語「個体」は、いずれの哺乳類にも適用されるが、好ましくは人類である。
【0015】
好ましい実施形態において、患者の薬物治療又は患者の鬱病診断に関連して、対照測定値は、好ましくは、薬物治療の前に又は鬱病の発症の前に個体から採取されるインビトロサンプルにおけるGFAPの測定量である。句「の前」は、記載されている事象の前の任意の時点におけることを暗示している。
【0016】
潜在的な薬物毒性は、医薬品の開発段階の際、及び、臨床試験の前に、薬物をインビトロ細胞株又はインビトロ細胞モデル(健康若しくは罹患動物/患者から抽出した細胞を含む)に投与/付加することによって人類以外の哺乳類に薬物を投与すること、及び、哺乳類から又は薬物の添加前後の細胞環境からのエキソビボサンプルにおけるGFAPレベルを比較することで、評価され得る。用語「細胞毒性」及び「細胞損傷」は、本明細書において同義に使用される。
【0017】
そのため、本発明の好ましい実施形態は、薬物の細胞毒性を評価する方法であって、個体、又はインビトロ細胞株若しくは細胞モデルが前記薬物に曝された後の時点の、個体から採取されたインビトロサンプルにおける、又は、インビトロ細胞株若しくは細胞モデルにおける、GFAPの量を測定すること、及び、測定されたGFAPの量を対照測定値と比較することを含み;前記個体から採取されるインビトロサンプルにおいて、又は前記インビトロ細胞株若しくは細胞モデルにおいて測定されるGFAPを比較するために使用される前記対照測定値は、前記薬物に曝される前の個体のインビトロサンプル又はインビトロ細胞株若しくは細胞モデルから得られるGFAP測定値であり、GFAP測定値が対照測定値よりも高いことが、細胞毒性を示しており;前記対照測定値、又は、インビトロ細胞株若しくは細胞モデルへの薬物添加後のインビトロ細胞株若しくは細胞モデルにおけるGFAPの量を比較するのに使用される値は、保存されているデータベースの対照測定値、又は、好ましくは、薬物の添加の前のインビトロ細胞株若しくは細胞モデルにおいて測定されるGFAPの量であってよい、上記方法である。
【0018】
したがって、本発明の方法のさらなる好ましい実施形態では、薬物の細胞毒性の評価であって、インビトロ細胞株又は細胞モデル(対照測定値)におけるGFAPの量を測定すること、次いで、インビトロ細胞株又は細胞モデルを薬物に曝すこと、インビトロサンプル又はインビトロ細胞株若しくは細胞モデルにおけるGFAP量をさらに測定することを含み、GFAPの量がさらなる測定において対照測定値よりも高いことが、細胞毒性を示している、上記評価である。個体、細胞株又は細胞モデルの前記薬物への曝露、前記薬物の摂取、添加又は適用の時点は、インビトロサンプル、細胞株又は細胞モデルにおけるGFAP濃度を分析する本発明の方法を実施する前の数時間、数日、数週間又は数ヶ月で行われ得る。
【0019】
用語「細胞モデル」は、動物又は個体から採取される細胞を含めた、認識されている細胞株ではない任意の細胞群である。細胞群は、オルガノイド及び組織レベルで構造化された常套的な細胞培養物及び細胞を含む。バイオマーカーの「量」は、サンプル内のバイオマーカーの量、発現レベル又は濃度を指す。バイオマーカーの量は、1以上の他の検体の量の比又は百分率として表記されるバイオマーカー測定値を指してもよい。1以上のかか
る他の検体の量は、大部分のサンプル又は状態において一貫して残存してよい。例として、他の検体は、アルブミン、β-アクチン、又はマトリックスタンパク質全体であり得る。バイオマーカーの量は、1以上の他の検体の量の比又は百分率として表記されるバイオマーカー測定値を指してもよく、ここで、1以上の他の検体の量が、対象の臨床状態にいくらかの生化学的有意性を保持することが提案されている。
【0020】
研究において使用される薬物(治療薬物)の大多数における有効成分の作用の主張されているメカニズムには、脳にある1以上の細胞受容体/神経伝達物質-影響系に作用する分子、例えば、セロトニン輸送体分子、ノルエピネフリン輸送体分子、ドーパミン輸送体分子、セロトニン受容体アゴニスト/アンタゴニスト(「5-HT」受容体ファミリーと相互作用する)、ドーパミン受容体アゴニスト/アンタゴニスト(「DT」受容体ファミリーと相互作用する)、アドレナリン受容体アゴニスト/アンタゴニスト(ベータ-2-アドレナリン受容体アゴニストを含めた「アルファ」及び「ベータ」受容体ファミリーと相互作用する)、GABA受容体アゴニスト/アンタゴニスト(「GABA」及び「GABA」受容体ファミリーと相互作用する)、アセチルコリン受容体アゴニスト/アンタゴニスト(「ムスカリン性」及び「ニコチン性」受容体ファミリーと相互作用する)、グルタミン酸受容体アゴニスト/アンタゴニスト(例えば、NMDA受容体アゴニスト/アンタゴニスト)、オピオイド受容体アゴニスト/アンタゴニスト(「デルタ」、「カッパ」、「ミュー」、「ノシセプチン」受容体ファミリーと相互作用する)、ヒスタミン受容体アゴニスト/アンタゴニスト(「H」受容体)が含まれる。他の処方された薬剤には、ACE阻害剤、抗菌及びHNG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)が含まれる。「薬剤」への言及は、本明細書において、別途制限されない限り、処方された薬剤を暗示している。本明細書において言及されている様々な治療薬物の作用メカニズム及び他の薬力学的特性は、標準の薬局方において閲覧することができる。
【0021】
好ましい実施形態において、個体が曝される薬物は、好ましくは、脳にある細胞受容体と相互作用するもの(膜質及び細胞質)若しくは脳における生理的経路と相互作用するもの(輸送体への作用)、又は、脳にある細胞受容体と相互作用する若しくは脳の生理的経路に影響する/干渉する、脳以外の器官を標的とする薬物である。代替的には、薬物は、脳関連の病状を処置する際の使用のためのものであり;脳関連の病状は、鬱病、不安、ストレス、パニック障害、疼痛、てんかん、認知症、自殺念慮、アルツハイマー病、パーキンソン病を含み得る。個体に投与される薬物は、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)、選択的ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)、選択的ドーパミン再取り込み阻害剤(SDRI)、セロトニン受容体アゴニスト/アンタゴニスト(「5-HT」受容体ファミリーと相互作用する)、ドーパミン受容体アゴニスト/アンタゴニスト(「DT」受容体ファミリーと相互作用する)、アドレナリン受容体アゴニスト/アンタゴニスト(ベータ-2-アドレナリン受容体アゴニストを含めた「アルファ」及び「ベータ」受容体ファミリーと相互作用する)、GABA受容体アゴニスト/アンタゴニスト(「GABA」及び「GABA」受容体ファミリーと相互作用する)、アセチルコリン受容体アゴニスト/アンタゴニスト(「ムスカリン性」及び「ニコチン性」受容体ファミリーと相互作用する)、グルタミン酸受容体アゴニスト/アンタゴニスト(例えば、NMDA受容体アゴニスト/アンタゴニスト)、オピオイド受容体アゴニスト/アンタゴニスト(「デルタ」、「カッパ」、「ミュー」、「ノシセプチン」受容体ファミリーと相互作用する)、ヒスタミン受容体アゴニスト/アンタゴニスト(「H」受容体);又は脳にある細胞受容体と相互作用する若しくは脳の生理的経路を間接的に混乱させる、脳以外の他の器官を標的とする薬物を含んでいてよい。好ましくは、当該薬物は、神経伝達物質関連生理的経路に対するホメオスタシスの変化を結果として生じさせる。研究に関与する個体に対して処方される薬剤(薬物)は、方法及び結果のセクションにおいて列挙されている。本発明の好ましい実施形態において、毒性が評価中である薬物は精神神経的状態を処置する際の使用に意図される薬物であるか又は当該処置に使用される;上記状態は、好ま
しくは、鬱病、不安、パニック障害、自殺念慮又はストレスである。上記状態は、最も好ましくは鬱病である。薬物は、精神神経的状態を処置する際の使用に関して試験される又は当該処置に使用されるいずれの薬物であってもよいが、好ましくは、神経伝達物質再取り込み阻害剤、例えば、SSRI、SNRI、若しくはSDRI又は神経伝達物質受容体アゴニスト又はアンタゴニスト(部分的アゴニスト/アンタゴニストを含む)、特にセロトニン又はドーパミン受容体である;GFAPレベルは、神経伝達物質再取り込み阻害剤クラスの薬物によって特に影響されることが研究において見出された。
【0022】
好ましくは、分析されるインビトロの生物学的サンプルは、血液、血漿又は血清サンプルであるが、脳脊髄液(CSF)、尿又は唾液であってもよい。バイオマーカーのレベルの決定は、患者からの1以上のサンプルにおいてなされてよい。サンプルは、当該分野において日常的に使用されている方法によって患者から得られ得る。
【0023】
本発明のさらなる態様は、脳関連状態を有する個体の処置の方法であって、薬物は、個体に対して処方されており、薬物の摂取後、サンプルが個体から採取されてサンプルにおけるGFAPの量が測定され;GFAPの量が対照値よりも大きいとき、薬物を異なる薬物で置き換えるか、又は薬物を薬物の副作用を弱める薬剤で補うかどうかの決定を行う。対照値は、個体について正常な又は健康な値、すなわち、脳関連疾患又は状態を暗示するとみなされない値であると医学的に認められているいずれのGFAP値であってもよい。好ましくは、対照値は、処方の薬物の投与の前の時点で個体において測定されたGFAPのレベルである。
【0024】
本発明はまた、哺乳類又はインビトロ細胞株若しくは細胞モデルを、哺乳類の脳にある受容体に結合する薬物又は哺乳類の脳における生理的経路と相互作用するものによって処置する方法であって、薬物が哺乳類又はインビトロ細胞株若しくは細胞モデルに投与され、薬物の投与後、GFAPのレベルが、哺乳類から採取されるエキソビボサンプルにおいて、又は細胞株若しくは細胞モデルの細胞環境において測定され、GFAPのレベルが対照値と比較される、上記方法を記載する。対照値は、先に記載されている値を呈し得る。
【0025】
GFAPを測定するのに使用され得る多くの分析技術が存在するが、現発明の好ましい方法は、大部分の臨床検査室及び臨床試験に共通して、免疫系又は抗体系試験を経由する。かかる試験は、疎水性又は親水性コーティングを含有し得且つ化学的に活性化されて結合又は捕捉剤が付着され得るようにし得る、基質、例えば、スライド、チップ、ビーズ、マイクロタイタープレートなどを使用する競合アッセイ形式、免疫比濁アッセイ形式及びサンドイッチアッセイ形式を含み得る。用語「抗体」は、重及び軽鎖(VHS及びVLS)の免疫グロブリン可変ドメインの結合特性によって決定される、標的に対してエピトープを特異的に認識させる免疫グロブリン、より詳細には、相補性決定領域(CDR)を指す。多くの潜在的な抗体形態が当該分野において公知であり、現発明の文脈において、限定されないが、複数のインタクトモノクローナル抗体又はインタクトモノクローナル抗体を含むポリクローナル混合物、抗体断片(例えば、Fab、Fab’、及びFv断片、抗体断片を含む線状抗体、単鎖抗体、及び多特異的抗体)、単鎖可変断片(scFvS)、多特異的抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、並びに、標的に対する所与のエピトープの認識に必要なドメインを含む融合タンパク質が含まれ得る。抗体は、限定されないが、放射性核種、フルオロフォア、染料、又は、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ビオチン及びアルカリ性ホスファターゼを含めた酵素を含めた様々な検出可能な標識にコンジュゲートされて検出を可能にすることもできる。用語「特異的に結合する」は、抗体-エピトープ相互作用の文脈において、抗体及びエピトープが、抗体又はエピトープのいずれかが代替物質、例えば無関係のタンパク質に置換されるときよりも、頻繁若しくは迅速に、又は、より高い持続性若しくは親和性で、或いはこれらのいずれかの組み合わせで関連する相互作用を指す。概して、必ずしもではないが、結合への言及は、特異的な認識を意味する
。抗体又はその欠失によって標的の特異的結合を決定するための、当該分野において公知の技術として、限定されないが、FACS分析、免疫細胞化学的染色、免疫組織化学、ウエスタンブロッティング/ドットブロッティング、ELISA、親和性クロマトグラフィが挙げられる。例として、非限定で、特異的結合、又はその欠失は、上記標的を特異的に認識することが当該分野において公知である抗体の使用を含む対照及び/又は上記標的の特異的認識が存在しない若しくは最小である対照(例えば、当該対象は非特異的抗体の使用を含む)との比較分析によって決定され得る。当該比較分析は、定性的であっても定量的であってもよい。しかし、所与の標的の排他的な特異的認識を実証する抗体又は結合部位は、当該標的について、例えば、標的及び相同タンパク質の両方を特異的に認識する抗体と比較したときに、特異性がより高いことが言われていることが理解される。
【0026】
診断方法の正確性は、受信者動作特性(ROC)によって最も良好に記載されている(Zweig,M.H.,and Campbell,G.,Clin.Chem.39(1993)561-577)。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって識別閾値を連続的に変動させることから得られる感度/特異性対の全てのプロットである。ROCプロットは、識別閾値の完全範囲に関して感度対1-特異性をプロットすることによる2つの分布間の重複を示す。y軸は感度であり、又は、[(真陽性試験結果数)/(真陽性+偽陰性試験結果数)]として定義される真陽性画分である。これはまた、疾患又は状態の存在下での陽性度とも称されている。これは、罹患亜群のみから算出される。x軸は偽陽性画分であり、又は、1-特異性[(偽陽性結果数)/(真陰性+偽陽性結果数)として定義される]である。これは、特異性の指標であり、罹患していない亜群から全体に算出される。真及び偽陽性画分は、2つの異なる亜群からの試験結果を使用することによって全体に別個に算出されるため、ROCプロットは、サンプルにおける疾患の有病率から独立している。ROCプロットにおける各点は、識別閾値に相当する感度/特異性対を表す。完全な識別を有する試験(2つの結果の分布に重複はない)は、左上隅を通過するROCプロットを有し、ここで、真陽性画分が1.0又は100%(完全感度)であり、偽陽性画分が0(完全特異性)である。識別のない試験の理論的プロット(2つの群の結果の同一分布)は、左下隅から右上隅の45°の対角線である。ほとんどのプロットは、これらの2つの両端の間に入る。定性的に、プロットが左上隅に近づくほど、試験の全体精度が高くなる。実験室試験の診断精度を定量する1つの好都合な方法は、その性能を単一の数によって表すことである。最も一般的な包括的尺度は、ROCプロットの曲線下面積(AUC)である。ROC曲線下面積は、把握される測定値が状態の正確な特定を可能にする確率の尺度である。慣例により、この面積は常に≧0.5である。値は1.0(2つの群の試験値の完全分離)及び0.5(2つの群の試験値間の明白な分布差はない)の間の範囲である。面積は、プロットの部分、例えば、対角線に最も近い点又は90%特異性での感度だけでなく、プロット全体にも依存する。これは、ROCプロットが完全なもの(面積=1.0)にどれくらい近いかを定量的に記述した表現である。
【実施例
【0027】
方法及び結果
患者
78歳の、性別を適合させた参加者を、Discovery Life Sciences(DLS),1236 Los Osos Valley Rd、Suite T,Los Osos,CA93402 USA及びPrecisionMed,132 N.Acacia Ave,Solana Beach,CA92075,USAによってUSにおいて採用した。参加者は、PTSDコホート(N=39)及び非PTSDコホート(N=39)から構成された。静脈血液サンプル及び詳細な病歴を各研究参加者から収集した。研究は、全てのデータ利用同意書(DUA)に従った。社会人口統計学的及び臨床的要因を各参加者から収集し、これらは;年齢、性別、処方された薬剤、並びに併存疾患、例えば、鬱病、不安、パニック障害、糖尿病、及び高血圧を含んだ。採血の時点で患
者に処方されている薬剤は:エビリファイ、アダラート、アタラックス、アチバン、バクロフェン、Benzarpil、塩酸ブスピロン、セレクサ、クロザピン、クレストール、シクロベンザプリン、サインバルタ、デパコテ、ドキシサイクリン、イフェクサー、エリキュース、Fetzima、ガバペンチン、ヒドロクロロチアジド、イミトレックス、インデラル、イルベサルタン、ジャヌメット、クロノピン、ラミクタール、ラシックス、ラツーダ、レクサプロ、ロバスタチン、マクサルト、メトホルミン、ミノサイクリン、モービック、ネキシウム、ノルコ、パロキセチン、プラキニル、プロザック、プラゾシン、サフリス、セロクエル、トラゾドン、ビブライド、ザナックス、ゾロフト及びジルテックであった。
【0028】
フォローアップ研究(N=84)により、PTSDを有さない個体におけるGFAPのレベルを測定した。採血の時点で患者に処方されている薬剤は:アトルバスタチン、アザチオプリン、セチリジン、クロルフェニラミン、コルチゾン、デスモプレシン、ジアゼパム、ジクロフレックス、イフェクサー、フェモストン、フリクソナーゼ、フォサマックス、ヒドロコルチゾン、ランソプラゾール、レボチロキシン、リシノプリル、ロペラミド、メトホルミン、メトトレキサート、ミダゾラム、ミコフェノール酸塩、オメプラゾール、ペリンドプリル、プレドニゾン、プレマリン、プロプラノロール、プロペシア、プロザック、ラミプリル、ロスバスタチン、セルトラリン、シンバスタチン、スピリーバ、シムビコート、チロキシン、ワルファリンであった。
【0029】
サンプリング及び実験室方法
参加者データが見えない科学者により、以下のタンパク質についてサイトカインアッセイ(Randox Laboratories Ltd,Crumlin,UK)を使用してRandox Clinical Laboratory Services(RCLS)(Antrim,UK)におけるバイオマーカーの分析を完了させた:サイトカインIアレイ:インターロイキン-1α、-1β、-2、-4、-6、-8、-10、VEGF、EGF、TNFα、IFNγ及びMCP-1;代謝アッセイI:フェリチン、インスリン、レプチン、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤-1(PAI-1)、及びレジスチン;代謝アッセイII:C-反応性タンパク質(CRP)、アディポネクチン及びシスタチンC;脳アッセイI:脳由来向神経因子(BDNF)、グリア細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP)、及び心臓由来脂肪酸結合タンパク質(H-FABP);脳アッセイII:D-ダイマー、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)、及び可溶性腫瘍壊死因子受容体I(sTNFR1)。アレイを、製造者の指示(Randox Laboratories Ltd,Crumlin,UK)に従ってEvidence Investigator(著作権)分析器において実行した。コレステロール(合計)、HDL及びLDLコレステロールをRandox RX Series分析器(RCLS,Antrim,UK)において分析した。ヒト組織型プラスミノーゲン活性化因子(tPA)及びヒト1型プラスミノーゲン活性化因子阻害剤PAI-1/tPA複合体ELISAをAssayPro,3400 Harry S.Truman Blvd,St.Charles,MO63301から得た。アッセイを製造者の指示に従って完了させた。調査下でのバイオマーカーの検出限界(LOD)は以下の通りであった:サイトカインI-IL-2 2.97pg/ml;IL-4 2.12pg/ml;IL-6 0.12pg/ml、IL-8 0.36pg/ml;VEGF 3.24pg/ml;IFNγ 0.44pg/ml;TNFα 0.59pg/ml;IL1α 0.19pg/ml;MCP1 3.53pg/ml;EGF 1.04pg/ml;IL-10 0.37pg/ml;IL-1β 0.26pg/ml;代謝アッセイI-フェリチン 3.27ng/ml、インスリン 2.32μIU/ml、レプチン 1.10ng/ml、PAI-1 2.34ng/ml、及びレジスチン 1.06ng/ml;代謝アッセイII-CRP 0.69mg/l、アディポネクチン
164ng/ml、及びシスタチンC 60ng/ml;脳アッセイI-BDNF 0
.59pg/ml、及びGFAP 0.18ng/ml;脳アッセイII-D-ダイマー
2.1ng/ml、NSE 0.26ng/ml、NGAL 17.8ng/ml、及びSTNFRI 0.24ng/ml。直接法HDL-コレステロール(HDL)0.189mmol/l(7.30mg/dl)、直接法LDL-コレステロール(LDL)0.189mmol/l(7.30mg/dl)、コレステロール:0.865mmol/l(33.4mg/dl)。AssayPro ELISA-ヒトtPA ELISA-0.013ng/ml及びヒトPAI-1tPA複合体ELISA-0.05ng/ml。血清中の32のバイオマーカーを調査した。LOD未満のバイオマーカー値にLOD値の90%を割り当てた。
【0030】
統計分析及び結果
いずれの研究においても性別の影響は観察されなかった。
【0031】
主要研究。対照(非PTSD)群及びPTSD群間のBMI、脈拍数又は収縮期血圧の有意差は無かった。PTSD群の拡張期血圧がより高かった(p=0.004)。PTSD個体は、対照群よりも有意に多くの併存疾患、例えば、パニック障害、鬱病、及び不安を呈した。PTSD個体は、対照群よりも有意に多くの薬剤が処方された(それぞれ2.8±2.4対0.7±1.2、p<0.001)。鬱病及び薬剤を伴う/伴わないPTSD患者(N=39)内及び非PTSD患者(N=39)内のGFAPレベルを、Tukeyの比較により一元配置分散分析を使用して分析した;全ての他の分析はt-試験によるものであった。P<0.05及びP<0.10の有意水準を使用した。全てのデータを、適用可能であればlog10変換に従ってグラフパッドプリズムを使用して分析した。
【0032】
分析した、2つの年齢適合コホート(性別はGFAPレベルに影響しなかった)は
1.PTSD患者/個体:薬剤治療中鬱病あり(D+M)、薬剤治療中鬱病無し(D無+M)及び薬剤治療中でなく鬱病無し(D無+M無)
2.非PTSD患者/個体(対照群):薬剤治療中鬱病あり(D+M)、薬剤治療中鬱病無し(D無+M)及び健康患者(H)
であった。
【0033】
結果を表1にまとめる。
【0034】
【表1】
【0035】
非PTSDコホートにおいて、薬剤治療中の鬱状態及び非鬱状態の両方の個体の血清におけるGFAPレベルが、健康個体と比較して有意に増加した(P<0.001)。PTSDコホートにおいて、薬剤が、健康個体と比較して薬剤治療中の鬱状態及び非鬱状態の両方の個体の血清におけるGFAPレベルを有意に増加させることも示されている(P<0.05)。ROC曲線分析は、これらの知見を支持した(表2)。薬剤治療中でもなく鬱状態でもないPTSD個体、及び健康個体は、同様のGFAPのレベルを有した(0.26対0.28ng/ml;図1)。PTSD及び非PTSDの両方のコホートにおいて
、薬剤治療中の鬱状態の個体は、血液GFAPの絶対量が薬剤治療中の非鬱状態の個体よりも多かった。
【0036】
【表2】
【0037】
薬剤の効果を、PTSDコホートを使用して薬剤タイプによってさらに分析した。選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)を摂取する薬剤治療中の個体は、SSRIを摂取しない薬剤治療中の個体よりもGFAPレベルが有意に高かった(P<0.05;図2)。この分析を、SSRI薬剤を摂取する鬱状態の個体対非SSRI薬剤治療中の鬱状態の個体のGFAPレベルの比較によってさらに支援した(P=<0.05、図3上図)。非鬱状態のPTSD個体において、絶対GFAPのレベルは、非薬剤治療個体よりもSSRI薬剤治療個体において高かった(P>0.05、図3下図)。鬱状態の個体におけるGFAPレベルは、SSRI(P<0.010)及び非SSRIの両方の薬剤治療群において非鬱状態の個体と比較して増加した(図4)。
【0038】
非PTSDコホート内では、非処方の、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を摂取している個体は、検出可能なGFAPのレベルを有さなかった。SSRI薬剤を摂取している個体は、非SSRI薬剤を摂取している個体よりもGFAPのレベルが高かった(1.01ng/ml対0.85ng/ml)。GFAPのレベルに対しての、個体当たりの摂取している薬物の数によって引き起こされる可能性のある効果があるかどうかを決定するために、GFAPレベル対摂取薬剤数の相関分析を実施した;有意な相関は無かった(r=0.212、P>0.05)。結果は、GFAPレベルが、処方された薬剤を摂取しているPTSD及び健康の両方の個体、SSRI薬剤を摂取している個体、並びに鬱状態にある個体の血液において増加することを実証している。
【0039】
フォローアップ研究。薬剤治療無し、脳に影響しない薬剤治療中及び脳に影響する薬剤治療中を個体で比較するフォローアップ研究を、Tukeyの比較による一元配置分散分析を使用して分析した。上記で記載されているように、脳に影響する薬剤は、脳にある細胞受容体と相互作用する薬物(標的及び標的外の両方の薬物)を含み、又は、神経伝達プロセスを含めた脳の生理的経路に干渉する。フォローアップ研究結果(表3)において、脳に影響する薬剤が、GFAPレベルを増加させることを確認している(一元配置分散分析P=0.0113)。脳にある受容体又は脳の生理的経路に対して活性な薬剤を摂取している個体は、薬剤を摂取していない個体よりも血清GFAPのレベルが有意に高かった(P<0.01)。また、他の薬剤治療をしている個体(図5の中央の棒グラフ)は、薬剤を摂取していない患者よりも平均絶対GFAPのレベルが高かった。鬱病を有する5人の患者を省いたデータの再分析は、結果に影響しなかった。
【0040】
【表3】
【0041】
これらの知見の可能な解釈では、星状細胞(又は他のGFAP含有細胞)が、薬剤及び鬱病によって駆動されて機能停止し且つ末梢循環に漏出する。大部分の薬物と同様に、薬剤に対する全身性反応は、個体基準で変動し得;いくらかの個体が、その他の個体よりも重篤な脳細胞の影響及び損傷を経験し得るが、一方で、その他の個体は、影響されず、血液中のGFAPのレベルが応じて変動する。現発明の利点は、薬剤治療、特に、精神異常、例えば、脳の神経伝達系を妨害するとされている鬱病を処置するのに使用される薬剤治療の後にGFAP血液レベルが増加する個体を特定することによって、臨床医が、個体基準で、より多くの情報に基づいてコストベネフィット評価をすることができ、且つ、患者の状態を管理するために異なる薬物を潜在的に処方することができる。ポイントオブケア試験は、臨床医(病院医又は開業医)が、薬物処置前後の患者の血液サンプルを採取し、GFAPの量及び応じての反応を適切に測定することを容易に可能にし得る。代替的には、患者は、好適な医療デバイスを使用して自宅で薬物処置の際に(例えば、フィンガープリックサンプルからの血液を使用して)GFAP血液レベルを容易且つ迅速に自己モニタリングすることができる。GFAP濃度によって評価される細胞損傷に対する薬剤の影響もまた、薬物開発プロセスの際に大いに役立ち得るインビトロ細胞モデル及び方法を使用して容易に適用され得る。現在の知見から誘導されるさらなる利点は、鬱病の客観的尺度、すなわち、GFAP濃度を使用して臨床医の鬱病の診断を支援することができるということである。メンタルヘルス関連の病気を診断することの困難な性質及び多くの場合これらの状態に付随する社会的不名誉を考慮すると、この発見は、有意に患者の利益になり得る。
【0042】
参照文献
1.American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders [インターネット].American Psychiatric
Association;2013[引用2019年7月4日].
https://psychiatryonline.org/doi/book/10.1176/appi.books.9780890425596から利用可能
2.Moeton M. et al.(2016),Cellular and Molecular Life Sciences,73:4101-4120.
3.Mayer C.A.et al.(2013),PLoS ONE,8(4):e62101.
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】