(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-11
(54)【発明の名称】カンナビノイド類の生成のための操作された微生物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/13 20060101AFI20221228BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221228BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20221228BHJP
C12P 7/02 20060101ALI20221228BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20221228BHJP
C12N 15/29 20060101ALN20221228BHJP
C12N 15/52 20060101ALN20221228BHJP
【FI】
C12N1/13 ZNA
C12N1/21
C12P21/02 C
C12P7/02
C12N15/31
C12N15/29
C12N15/52 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519998
(86)(22)【出願日】2020-10-29
(85)【翻訳文提出日】2022-05-26
(86)【国際出願番号】 CA2020051452
(87)【国際公開番号】W WO2021081647
(87)【国際公開日】2021-05-06
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522125434
【氏名又は名称】アルジー-シー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ALGAE-C INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】デスガニェ‐ぺニックス, イザベル
(72)【発明者】
【氏名】アーワド, ファティマ
(72)【発明者】
【氏名】グリビ, マネル
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B065AA01X
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA88X
4B065AA88Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA02
4B065CA27
4B065CA44
4B065CA60
(57)【要約】
カンナビノイドの生成のための、遺伝子操作された微生物が記載される。遺伝子操作された微生物は、少なくとも1種のカンナビノイド生合成経路の酵素をコードする少なくとも1種の核酸分子を含む。本開示は、遺伝子操作された微生物を使用してカンナビノイドを生成するための方法にも関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンナビノイドを生成することが可能な遺伝子操作された微生物であって、光合成微細藻類又はシアノバクテリアであり、芳香族プレニルトランスフェラーゼをコードする外来性の核酸分子を含まない、遺伝子操作された微生物。
【請求項2】
テトラヒドロカンナビノール酸又はテトラヒドロカンナビノールを生成することが可能であり、テトラヒドロカンナビノール酸シンターゼをコードする外来性の核酸分子を含まない、請求項1に記載の遺伝子操作された微生物。
【請求項3】
カンナビジオール酸又はカンナビジオールを生成することが可能であり、カンナビジオール酸シンターゼをコードする外来性の核酸分子を含まない、請求項1又は2に記載の遺伝子操作された微生物。
【請求項4】
テトラケチドシンターゼ及びオリベトール酸シクラーゼをコードする少なくとも1種の外来性の核酸分子を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物。
【請求項5】
テトラケチドシンターゼが配列番号1に示される配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、オリベトール酸シクラーゼが配列番号2に示される配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項4に記載の遺伝子操作された微生物。
【請求項6】
少なくとも1種の外来性の核酸分子が、テトラケチドシンターゼをコードする第1のポリヌクレオチド配列及びオリベトール酸シクラーゼをコードする第2のポリヌクレオチド配列を含む、請求項4又は5に記載の遺伝子操作された微生物。
【請求項7】
第1のポリヌクレオチド配列が第2のポリヌクレオチド配列に対して5’にある、請求項6に記載の遺伝子操作された微生物。
【請求項8】
少なくとも1種の外来性の核酸分子が、第1のポリヌクレオチド配列と第2のポリヌクレオチド配列の間に少なくとも1つのリンカー配列をさらに含む、請求項6又は7に記載の遺伝子操作された微生物。
【請求項9】
少なくとも1種の外来性の核酸分子が、テトラケチドシンターゼをコードする第1の核酸分子及びオリベトール酸シクラーゼをコードする第2の核酸分子を含む、請求項4又は5に記載の遺伝子操作された微生物。
【請求項10】
Steely1、Steely2又はそのバリアントをコードする少なくとも1種の外来性の核酸分子を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物。
【請求項11】
Steely1又はSteely2のバリアントが、それぞれ、配列番号7又は配列番号8に示される配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の遺伝子操作された微生物。
【請求項12】
少なくとも1種の外来性の核酸分子がエピソーム性ベクターである、請求項4~11のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物。
【請求項13】
少なくとも1種の外来性の核酸分子からなる、請求項4~12のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物。
【請求項14】
ヘキサノイル-CoAシンテターゼをコードする外来性の核酸分子を含まない、請求項1~12のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物。
【請求項15】
微細藻類が珪藻又は緑藻植物である、請求項1~14のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物。
【請求項16】
微細藻類が、フェオダクチラム・トリコルヌタム(Phaeodactylum tricornutum)又はコナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)である、請求項15に記載の遺伝子操作された微生物。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物及び実質的に糖を含まない培地を含む、細胞培養物。
【請求項18】
培地が実質的に固定炭素源を含まない、請求項17に記載の細胞培養物。
【請求項19】
独立栄養増殖を起こす、請求項17又は18に記載の細胞培養物。
【請求項20】
遺伝子操作された微生物中でカンナビノイドを生成するための方法であって、微生物にテトラケチドシンターゼ及びオリベトール酸シクラーゼをコードする少なくとも1種の核酸分子を導入するステップを含み、微生物が微細藻類又はシアノバクテリアである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0002]本開示は、カンナビノイド類の生成のための遺伝子操作された微生物及びそれを含む細胞培養物に関する。遺伝子操作された微生物は、カンナビノイド生合成経路の生成物を生成するための、カンナビノイド生合成経路の酵素をコードする核酸配列を有する核酸分子を含む。
【背景技術】
【0002】
[0003]有益な各種の植物天然生成物(PNPs)の商品化は、多くの場合、PNP生成植物の入手可能性、植物中のPNPsの低蓄積及び/又は時間がかかり多くの場合非効率的な抽出方法であって常に経済的に実行可能とは限らない抽出方法によって制限される。このように、商業的に興味深いPNPsの商品化は多くの場合困難を伴う。遺伝子工学及び合成生物学における最近の進歩は、微生物、例えば細菌、酵母及び微細藻類中で異種のPNPsを生成することを可能にする。例えば、操作された微生物が、抗マラリア薬アルテミシニン及びオピエート(モルヒネ、コデイン)鎮痛剤前駆体のレチクリンを生成すると報告されている(Keasling 2012;Fossatiら 2014;DeLoacheら 2015)。しかし、遺伝子改変された酵母が生成するレチクリンにおける有益な最終生成物、例えばコデイン及びモルヒネを得るための最後の代謝反応にはまだ成功していない。細菌又は酵母のプラットフォームが、複雑なPNP経路のアセンブリをサポートしていない場合もある。比較して、微細藻類の細胞は他の微生物よりも有利な点を持つことが示唆されており、それには、植物と類似するタンパク質翻訳後修飾が行われる可能性及び核ゲノム、ミトコンドリアゲノム又は葉緑体ゲノムを介した組換えタンパク質発現が行われる可能性が含まれる(Singhら 2009)。
【0003】
[0004]Δ9-テトラヒドロカンナビノール及び他のカンナビノイド類(CBs)は、大麻(Cannabis sativa)の向精神特性及び薬効特性に関与するポリケチドである。110超のCBsがこれまでに同定されており、それらはすべて脂肪酸及びテルペノイド前駆体に由来する(ElSohly及びSlade 2005)。大麻のCB生合成経路における最初の代謝物中間体は、カンナビノイド類のポリケチド骨格を形成するオリベトール酸である。III型ポリケチドシンターゼ(PKS;テトラケチドシンターゼ(tetraketide synthase)(TKS)又はオリベトールシンターゼとしても知られる)酵素は、多段階反応において、ヘキサノイル-CoAを3つのマロニル-CoAと縮合させてトリオキソドデカノイル-CoAを形成する。そこからオリベトール酸シクラーゼ(OAC)(OAC;3,5,7-トリオキソドデカノイル-CoA CoAリアーゼとしても知られる)が分子内アルドール縮合を触媒してOAを産する。次のステップでは、OA骨格への「装飾(decorating)」酵素の連続した作用により、CBの多様化が生じる。PKS及びOACの遺伝子配列が同定され、インビトロで特徴づけられた(Lussier 2012;Gagneら 2012;Marksら 2009;Stoutら 2012;Tauraら 2009)。
【発明の概要】
【0004】
[0005]本開示は、植物の天然生成物、例えばカンナビノイドの生成のための操作された微生物、例えば微細藻類又はシアノバクテリアについて記載する。
【0005】
[0006]本明細書に記載の遺伝子操作された微生物の一実施形態では、遺伝子操作された微生物は芳香族プレニルトランスフェラーゼをコードする外来性の核酸分子を含まない。
【0006】
[0007]本開示は、本明細書に記載の遺伝子操作された微生物及び実質的に糖を含まない培地を含む細胞培養物も提供する。
【0007】
[0008]本開示は、遺伝子操作された微生物中でカンナビノイドを生成するための方法であって、微生物にテトラケチドシンターゼ及びオリベトール酸シクラーゼをコードする少なくとも1種の核酸分子を導入するステップを含み、微生物が微細藻類又はシアノバクテリアである、方法も提供する。
【0008】
[0009]本開示は、遺伝子操作された微生物中でカンナビノイドを生成するための方法であって、微生物にSteely1、Steely2又はそのバリアントをコードする少なくとも1種の核酸分子を導入するステップを含み、微生物が微細藻類又はシアノバクテリアである、方法も提供する。
【0009】
[0010]本開示は、野生型の微生物中でカンナビノイドを生成するための方法であって、微生物を2,4-ジヒドロキシ-6-アルキル安息香酸又は2,4-ジヒドロキシ-6-アルキル安息香酸エステルを含む培地中で培養するステップを含み、微生物が微細藻類又はシアノバクテリアである、方法も提供する。
【0010】
[0011]本開示の他の特徴及び利点が、以下の詳細な記載から明らかになるであろう。しかし、本開示の趣旨及び範囲内の種々の変更及び改変がこの詳細な記載から当業者には明らかとなるため、詳細な記載及び具体例は本開示の好ましい実施形態を示す一方で、単に例示の手段としてのみ与えられていることを理解すべきである。
[0012]ここで本開示を図面に関連させて記載する:
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】大麻由来の酵素に基づく例示的なカンナビノイド生合成経路を示す図である。
【
図2】オリベトール酸の生成で終わる、大麻のカンナビノイド生合成経路の一部を示す図である。
【
図3】形質転換された細胞中のカンナビノイド類を検出するためのHPLC法における、時間に対する移動相中の濃度を示す図である。
【
図4A】野生型のP.トリコルヌタム(P.tricornutum)抽出液で作製した溶媒中に、0、5、10、25、50、75及び100ppmの濃度のカンナビノイドを希釈することによって決定した、(A)THC、(B)CBD及び(C)CBNの標準曲線を示す図である。各曲線について、赤線はピークの高さから計算した標準曲線を表し、青線は各濃度でのピークの面積から計算した標準曲線を表す。
【
図4B】野生型のP.トリコルヌタム(P.tricornutum)抽出液で作製した溶媒中に、0、5、10、25、50、75及び100ppmの濃度のカンナビノイドを希釈することによって決定した、(A)THC、(B)CBD及び(C)CBNの標準曲線を示す図である。各曲線について、赤線はピークの高さから計算した標準曲線を表し、青線は各濃度でのピークの面積から計算した標準曲線を表す。
【
図4C】野生型のP.トリコルヌタム(P.tricornutum)抽出液で作製した溶媒中に、0、5、10、25、50、75及び100ppmの濃度のカンナビノイドを希釈することによって決定した、(A)THC、(B)CBD及び(C)CBNの標準曲線を示す図である。各曲線について、赤線はピークの高さから計算した標準曲線を表し、青線は各濃度でのピークの面積から計算した標準曲線を表す。
【
図5A】コンストラクト(A)Ptref1、(B)Ptref2、(C)Ptref3、(D)Ptref7で形質転換されたP.トリコルヌタム中のカンナビノイド類の検出のための、HPLCクロマトグラム(280nm)を示す図である。(E)野生型P.トリコルヌタム対照のHPLCクロマトグラムを示す。カンナビノイド類の真正標準物質の保持時間(Rt)は、THC、17.8~18.4分;CBD 15.09~15.4分;及びCBN;17~17.5分である。
【
図5B】コンストラクト(A)Ptref1、(B)Ptref2、(C)Ptref3、(D)Ptref7で形質転換されたP.トリコルヌタム中のカンナビノイド類の検出のための、HPLCクロマトグラム(280nm)を示す図である。(E)野生型P.トリコルヌタム対照のHPLCクロマトグラムを示す。カンナビノイド類の真正標準物質の保持時間(Rt)は、THC、17.8~18.4分;CBD 15.09~15.4分;及びCBN;17~17.5分である。
【
図5C】コンストラクト(A)Ptref1、(B)Ptref2、(C)Ptref3、(D)Ptref7で形質転換されたP.トリコルヌタム中のカンナビノイド類の検出のための、HPLCクロマトグラム(280nm)を示す図である。(E)野生型P.トリコルヌタム対照のHPLCクロマトグラムを示す。カンナビノイド類の真正標準物質の保持時間(Rt)は、THC、17.8~18.4分;CBD 15.09~15.4分;及びCBN;17~17.5分である。
【
図5D】コンストラクト(A)Ptref1、(B)Ptref2、(C)Ptref3、(D)Ptref7で形質転換されたP.トリコルヌタム中のカンナビノイド類の検出のための、HPLCクロマトグラム(280nm)を示す図である。(E)野生型P.トリコルヌタム対照のHPLCクロマトグラムを示す。カンナビノイド類の真正標準物質の保持時間(Rt)は、THC、17.8~18.4分;CBD 15.09~15.4分;及びCBN;17~17.5分である。
【
図5E】コンストラクト(A)Ptref1、(B)Ptref2、(C)Ptref3、(D)Ptref7で形質転換されたP.トリコルヌタム中のカンナビノイド類の検出のための、HPLCクロマトグラム(280nm)を示す図である。(E)野生型P.トリコルヌタム対照のHPLCクロマトグラムを示す。カンナビノイド類の真正標準物質の保持時間(Rt)は、THC、17.8~18.4分;CBD 15.09~15.4分;及びCBN;17~17.5分である。
【
図6A】(A)コンストラクトG1C1で形質転換されたコナミドリムシ(C.reinhardtii)、及び(B)カンナビノイド標準物質を含む対照試料の、UPLCクロマトグラム(220nm)を示す図である。
【
図6B】(A)コンストラクトG1C1で形質転換されたコナミドリムシ(C.reinhardtii)、及び(B)カンナビノイド標準物質を含む対照試料の、UPLCクロマトグラム(220nm)を示す図である。
【
図7A】コンストラクト(A)Ptref1、(B)Ptref2、及び(C)野生型のP.トリコルヌタム対照で形質転換されたP.トリコルヌタム中のカンナビノイド類の検出のための、UPLCクロマトグラム(220nm)を示す図である。
【
図7B】コンストラクト(A)Ptref1、(B)Ptref2、及び(C)野生型のP.トリコルヌタム対照で形質転換されたP.トリコルヌタム中のカンナビノイド類の検出のための、UPLCクロマトグラム(220nm)を示す図である。
【
図7C】コンストラクト(A)Ptref1、(B)Ptref2、及び(C)野生型のP.トリコルヌタム対照で形質転換されたP.トリコルヌタム中のカンナビノイド類の検出のための、UPLCクロマトグラム(220nm)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔詳細な説明〕
[0020]本発明者らは、テトラケチドシンターゼ及びオリベトール酸シクラーゼをコードする外来性の核酸分子で形質転換された微細藻類、例えばフェオダクチラム・トリコルヌタム(Phaeodactylum tricornutum)及びコナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)が、その他の外来性のカンナビノイド生合成経路の酵素の非存在下でカンナビノイド類を生成したことを、意外なことに見出した。
【0013】
[0021]理論に縛られることを望むものではないが、前駆体、例えば、オリベトール又はオリベトール酸の存在下でカンナビノイド類の生成を可能にする大麻中に見出される酵素(例えば芳香族プレニルトランスフェラーゼ(APT)、テトラヒドロカンナビノール酸シンターゼ(THCAS)及び/又はカンナビジオール酸シンターゼ(CBDAS))と類似する活性を有する酵素をコードする遺伝子を、微細藻類のゲノムは含有すると予想される。例えば、P.トリコルヌタム株CCAP 1055/1(NCBI BLAST)のゲノムの探索により、活性部位(アミノ酸108~383、APT)を含有するAPTの一領域に対する81%のクエリーカバー(query cover)に対して、36%の共有同一性(shared identity)を有する予測タンパク質(NCBI参照配列 XP 002182033.1)が同定される。この予測タンパク質は、プレニル基転移が可能なホモゲンチジン酸ソラネシルトランスフェラーゼ酵素と配列同一性を共有し、ヒドロキシ安息香酸ポリプレニルトランスフェラーゼと配列同一性を共有し、大麻のAPTに類似する保存されたマグネシウム結合部位を含有する。P.トリコルヌタム内のAPT活性の他の潜在的な候補としては、ゲラニルゲラニルトランスフェラーゼ及び予測タンパク質(NCBI 参照配列:XP 002180392.1)が挙げられる。さらに、H2O2を生成する酵素に対するP.トリコルヌタムのゲノムの探索により、CBDASに類似する活性を有し得る、ビオラキサンチンデエポキシダーゼ様タンパク質及びスペルミンオキシダーゼが同定される。
【0014】
[0022]よって、本開示はカンナビノイドを生成することが可能な遺伝子操作された微生物を提供し、遺伝子操作された微生物は光合成微細藻類又はシアノバクテリアであり、遺伝子操作された微生物は芳香族プレニルトランスフェラーゼをコードする外来性の核酸分子を含まない。
【0015】
[0023]本開示は、カンナビノイドの生成のための遺伝子操作された微生物及び実質的に糖を含まない培地を含む細胞培養物をさらに提供し、遺伝子操作された微生物は光合成微細藻類又はシアノバクテリアであり、遺伝子操作された微生物は芳香族プレニルトランスフェラーゼをコードする外来性の核酸分子を含まない。
【0016】
[0024]本開示は、遺伝子操作された微生物中でカンナビノイドを生成するための方法であって、微生物にテトラケチドシンターゼ及びオリベトール酸シクラーゼをコードする少なくとも1種の核酸分子を導入するステップを含み、微生物が微細藻類又はシアノバクテリアである、方法をさらに提供する。
【0017】
[0025]本開示は、遺伝子操作された微生物中でカンナビノイドを生成するための方法であって、微生物にSteely1、Steely2又はそのバリアントをコードする少なくとも1種の核酸分子を導入するステップを含み、微生物が微細藻類又はシアノバクテリアである、方法をさらに提供する。
【0018】
[0026]本開示は、野生型の微生物中でカンナビノイドを生成するための方法であって、微生物を2,4-ジヒドロキシ-6-アルキル安息香酸又は2,4-ジヒドロキシ-6-アルキル安息香酸エステルを含む培地中で培養するステップを含み、微生物が微細藻類又はシアノバクテリアである、方法をさらに提供する。
【0019】
[0027]別段の指示のない限り、本項及び他項に記載の定義及び実施形態は、当業者によって理解されるように適切な、本明細書に記載の本開示のすべての実施形態及び態様に適用できるものとする。
【0020】
[0028]本開示の範囲を理解する上で、「含む(comprising)」という用語及びその派生語は、本明細書で使用される場合、言明される特徴、要素、成分、群、整数及び/又はステップの存在を明示するが、他の言明されない特徴、要素、成分、群、整数及び/又はステップの存在を除外しないオープンエンド型の用語であるものとする。前述は、類似の意味を有する語、例えば「含む(including)」、「有する」及びそれらの派生語にも適用される。「成る」という用語及びその派生語は、本明細書で使用される場合、言明される特徴、要素、成分、群、整数及び/又はステップの存在を明示するが、他の言明されない特徴、要素、成分、群、整数及び/又はステップの存在は除外するクローズド型の用語であるものとする。「から本質的に成る」という用語は、本明細書で使用される場合、言明される特徴、要素、成分、群、整数及び/又はステップ、並びに特徴、要素、成分、群、整数及び/又はステップの基本的かつ新規な特質(複数可)に物質的に影響を及ぼさないものの存在を明示するものとする。
【0021】
[0029]本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、内容上別段の明確な指示がない限り、複数への言及を含む。「さらなる」又は「第2の」成分を含む実施形態では、本明細書で使用される第2の成分は、他の成分又は第1の成分と異なる。「第3の」の成分は、他の、第1の、及び第2の成分と異なり、さらに挙げられる成分すなわち「さらなる」成分も、同様に異なる。
【0022】
[0030]反対のいかなる指示もない場合、本明細書全体にわたり「%」含有量に対してなされる言及は、w/v(重量/体積)%を意味すると解釈される。
【0023】
[0031]ここで使用される場合、「配列同一性」という用語は、2つの核酸(ポリヌクレオチド)配列又は2つのアミノ酸(ポリペプチド)配列の間の配列同一性のパーセンテージのことを指す。2つのアミノ酸配列又は2つの核酸配列のパーセント同一性を決定するためには、最適な比較のために配列がアラインされる(例えば、第2のアミノ酸配列又は核酸配列との最適なアライメントのために、第1のアミノ酸配列又は核酸配列の配列中にギャップが導入され得る)。対応するアミノ酸の位置又はヌクレオチドの位置でのアミノ酸残基又はヌクレオチドが次いで比較される。第1の配列のある位置が、第2の配列の対応する位置と同じアミノ酸残基又はヌクレオチドによって占有されている場合、分子はその位置において同一である。2つの配列の間のパーセント同一性は、配列によって共有される同一の位置の数の関数(すなわち、%同一性=同一の重なる位置の数/位置の総数、に100%を掛けたもの)である。一実施形態では、2つの配列は同じ長さである。2つの配列の間のパーセント同一性の決定は、数学アルゴリズムを使用して達成することもできる。2つの配列の比較のために利用される数学アルゴリズムの1つの非限定的な例は、KarlinとAltschul(1990)のアルゴリズムであり、KarlinとAltschul(1993)のように改変されたものである。そのようなアルゴリズムは、Altschulら(1990)のNBLAST及びXBLASTプログラム中に組み込まれている。本開示の核酸分子に相同なヌクレオチド配列を得るために、例えばスコア=100、語長=12に設定されたNBLASTヌクレオチドプログラムのパラメータを用いて、BLASTヌクレオチド検索を実施することができる。本開示のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得るために、例えばスコア=50、語長=3に設定されたXBLASTプログラムのパラメータを用いてBLASTタンパク質検索を実施することができる。比較のためにギャップ付きのアライメントを得るためには、Altschulら(1997)に記載されているように、Gapped BLASTを利用することができる。或いは、PSI-BLASTを、分子間の遠縁関係を検出する反復検索を実施するために使用することができる(Altschulら、1997)。BLAST、Gapped BLAST及びPSI-Blastのプログラムを利用する場合には、それぞれのプログラムのデフォルトパラメータ(例えば、XBLAST及びNBLASTのデフォルトパラメータ)を使用することができる(例えばNCBIウェブサイトを参照のこと)。配列の比較のために利用される数学アルゴリズムの別の非限定的な例は、MyersとMiller(1988)のアルゴリズムである。そのようなアルゴリズムは、GCG配列アライメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)中に組み込まれている。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを利用する場合には、PAM120重み残基表、12のギャップ長ペナルティー及び4のギャップペナルティーを使用することができる。2つの配列間のパーセント同一性は、ギャップを許可するか許可しないかにかかわらず、上記のものに類似する技術を使用して決定することができる。パーセント同一性の計算では、典型的には、正確な一致のみが数えられる。特定の実施形態では、核酸は、特定の微細藻類又はシアノバクテリアの種におけるコドン使用のために最適化される。特に、カンナビノイド生合成経路の酵素をコードする核酸配列には、GCリッチな微細藻類、例えばコナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)、クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)、クロレラ・ソロキニアナ(Chlorella sorokiniana)、クロレラ・プロトセコイデス(Chlorella protothecoides)、テトラセルミス・チュイ(Tetraselmis chui)、ナノクロロプシス・オクラテ(Nannochloropsis oculate)、セネデスムス・オブリクース(Scenedesmus obliquus)、アクトデスムス・ディモルフス(Acutodesmus dimorphus)、ドナリエラ・テルチオレクタ(Dunaliella tertiolecta)及びヘマトコッカス・プルシアリス(Heamatococus plucialis);珪藻、例えばフェオダクチラム・トリコルヌタム(Phaeodactylum tricornutum)及びタラシオシラ・シュードナナ(Thalassiosira pseudonana);又はシアノバクテリア、例えばアルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)、アルスロスピラ・マキシマ(Arthrospira maxima)、シネココッカス・エロンガタス(Synechococcus elongatus)及びアファニゾメノン・フロス・アクア(Aphanizomenon flos-aquae)のためにコドン最適化されたコドンが組み込まれている。
【0024】
[0032]本開示の配列は、本明細書に記載の配列に対して少なくとも80%同一であってもよい;別の例では、配列は、核酸又はアミノ酸レベルで、本明細書に記載の配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であってもよい。重要なことだが、バリアント配列によってコードされるタンパク質は、参照配列によってコードされるタンパク質の活性及び特異性を保持する。よって、本開示は、配列番号49~52から選択された配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する、カンナビノイド生合成経路の酵素をコードする核酸配列を含む核酸分子も提供する。さらに、配列番号1~11から選択される配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する、カンナビノイド生合成経路の酵素のアミノ酸配列も提供する。
【0025】
[0033]本明細書に記載の核酸及びアミノ酸配列を表1に提示する。
【0026】
【0027】
[0034]本明細書で使用される場合、「遺伝子操作された」という用語及びその派生語は、遺伝物質が、分子生物学的手法、例えば、これらに制限されないが、分子クローニング、組換えDNA法、形質転換及び遺伝子導入を使用して変えられた微生物のことを指す。遺伝子操作された微生物には、生きている改変微生物、遺伝子改変微生物又はトランスジェニック微生物が含まれる。遺伝子変化には、遺伝物質の付加、欠失、修飾及び/又は変異が含まれる。本開示における、本明細書に記載のそのような遺伝子工学は、対応する野生型の微生物と比べて、植物の各種天然生成物、例えばカンナビノイド類の生成を増加させる。「カンナビノイド」という用語には、カンナビノイド受容体に作用するあらゆる化合物が含まれると一般的に理解される。カンナビノイド類の例には、カンナビジオール(CBD)、カンナビノール(CBN)、カンナビゲロール(CBG)、カンナビクロメン(CBC)、テトラヒドロカンナビバリン(THCV)、カンナビクロマノン(CBCN)、カンナビエルソイン(CBE)、カンナビフラン(CBF)、テトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビノジオール(CBDL)、カンナビシクロル(CBL)、カンナビトリオール(CBT)、カンナビバリン(CBV)、カンナビジバリン(CBDV)、カンナビクロメバリン(CBCV)、カンナビゲロバリン(CBGV)、カンナビゲロールモノメチルエーテル(CBGM)、カンナビネロール酸、カンナビジオール酸(CBDA)、カンナビノジオール(CBND)、カンナビノールプロピルバリアント(cannabinol propyl variant)(CBNV)、カンナビトリオール(CBO)、カンナビゲロール酸(CBGA)、テトラヒドロカンナビノール酸(THCA)、カンナビクロメン酸(CBCA)、テトラヒドロカンナビバリン酸(THCVA)、カンナビゲロバリン酸(CBGVA)、カンナビジバリン酸(CBDVA)、カンナビクロメバリン酸(CBCVA)及びそれらの誘導体が含まれる。カンナビノイド類のさらなる例が、PCT特許出願国際公開第2017/190249号及び米国特許出願公開第2014/0271940号において述べられている。
【0028】
[0035]カンナビノイドは酸型又は非酸型であってもよく、酸型を脱炭酸することによって非酸型を生じさせることができるため、非酸型は脱炭酸型とも称される。特定のカンナビノイドを参照する本開示の文脈の範囲内では、カンナビノイドは酸型若しくは非酸型、又は酸型と非酸型の両方の混合物であってもよい。
【0029】
[0036]カンナビノイド生合成経路の生成物は、カンナビノイド類の生成と関連する生成物である。カンナビノイド生合成経路の生成物の例としては、ヘキサノイル-CoA、ブチリル-CoA、トリオキソドデカノイル-CoA、トリオキソデカノイル-CoA、オリベトール酸、オリベトール、ジバリノール酸(divarinolic acid)及びジバリノール(divarinol)が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、カンナビノイド生合成経路の生成物は、ヘキサノイル-CoA、ブチリル-CoA、トリオキソドデカノイル-CoA、トリオキソデカノイル-CoA、オリベトール酸、オリベトール、ジバリノール酸及びジバリノールのうちの、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ又は8つである。
【0030】
[0037]一実施形態では、遺伝子操作された微生物は、対応する野生型の微生物と比べて、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ又は8つのカンナビノイド生合成経路の生成物の生成を増加させた。別の実施形態では、カンナビノイド生合成経路の生成物は、ヘキサノイル-CoA、ブチリル-CoA、トリオキソドデカノイル-CoA、トリオキソデカノイル-CoA、オリベトール酸、オリベトール、ジバリノール酸及びジバリノールのうちの、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ又は8つである。例えば、遺伝子操作された微生物は、対応する野生型の微生物と比べて、オリベトール酸の生成、又はオリベトール酸とカンナビゲロール酸の生成を増加させた可能性がある。別の例では、遺伝子操作された微生物は、対応する野生型の微生物と比べて、オリベトールの生成、又はオリベトールとカンナビゲロールの生成を増加させた可能性がある。
【0031】
[0038]「核酸分子」という用語又はその派生語は、本明細書で使用される場合、修飾されていないDNA若しくはRNA又は修飾されたDNA若しくはRNAを含むものとする。例えば、本開示の核酸分子が、一本鎖DNA及び二本鎖DNA、一本鎖領域と二本鎖領域が混ざったDNA、一本鎖RNA及び二本鎖RNA、並びに一本鎖領域と二本鎖領域が混ざったRNAから構成されていることが有用であり、ハイブリッド分子は、一本鎖、又はより典型的には二本鎖のDNA及びRNA、或いは一本鎖領域と二本鎖領域が混ざったDNA及びRNAを含む。さらに、核酸分子は、RNA又はDNA或いはRNAとDNAの両方を含む三本鎖領域から構成されていることが有用である。本開示の核酸分子はまた、安定性又は他の理由のために修飾された、1つ又は複数の修飾された塩基又はDNA若しくはRNA骨格を含有してもよい。「修飾された」塩基には、例えば、トリチウム標識された塩基及び異常塩基、例えばイノシンが含まれる。種々の修飾をDNA及びRNAに行うことができ;それにより「核酸分子」は化学的、酵素的又は代謝的に修飾された形態を取り入れる。「ポリヌクレオチド」という用語は、対応する意味を有するものとする。いくつかの実施形態では、遺伝子操作された微生物は、少なくとも1種の本明細書に記載の核酸分子を含む。
【0032】
[0039]本明細書で使用される場合、「外来性の」という用語は、細胞に導入された要素のことを指す。外来性の要素には、タンパク質又は核酸が含まれ得る。外来性の核酸は、例えば形質転換の方法によって細胞に導入された核酸である。外来性の核酸は、RNA及び/又はタンパク質の発現をコードしていてもよい。外来性の核酸は、同じ種(相同の)、又は異なる種(異種の)から由来したものであってもよい。外来性の核酸は、自然界の細胞では通常見られない形態で細胞に導入されるように変えられた相同配列を含んでもよい。例えば、核酸の内在性のバージョンと比べて、相同である外来性の核酸は変異を含有してもよく、異なる制御領域に作動可能に連結されるか、又はゲノムの異なる領域に組み込まれてもよい。外来性の核酸は、1つ又は複数のコピーで形質転換された細胞の染色体に組み込まれ得るか、形質転換された細胞の色素体又はミトコンドリアのDNAに組み込まれ得るか、又は形質転換された細胞のゲノムの外で独立した核酸として維持され得る。
【0033】
[0040]本明細書で使用される「核酸配列」という用語は、天然に存在する塩基、糖及び糖間(骨格)結合からなるヌクレオシド又はヌクレオチドのモノマーの配列のことを指し、cDNAを含む。その用語は、天然に存在しないモノマー又はその一部を含めた、修飾又は置換配列も含む。本出願の核酸配列は、デオキシリボ核酸配列(DNA)又はリボ核酸配列(RNA)であってもよく、アデニン、グアニン、シトシン、チミジン及びウラシルを含む天然に存在する塩基を含み得る。配列は、修飾塩基も含有してもよい。そのような修飾塩基の例としては、アザ及びデアザのアデニン、グアニン、シトシン、チミジン及びウラシル;並びにキサンチン及びヒポキサンチンが挙げられる。核酸は、二本鎖又は一本鎖のいずれかであり得、センス又はアンチセンス鎖に相当する。さらに、「核酸」という用語には、相補的な核酸配列が含まれる。
【0034】
[0041]本明細書で提供される遺伝子操作された微生物によって生成されるカンナビノイド類は、カンナビノイド生合成経路に関連する1種又は複数の酵素の活性を増加させた結果である可能性がある。微生物内の酵素の活性の増加は、例えば、酵素をコードする核酸配列を含む核酸分子の導入を伴い得る。一実施形態では、酵素をコードする核酸配列を含む核酸分子の導入は、形質転換によって達成され得る。カンナビノイド生合成経路の酵素の例には、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ、III型ポリケチドシンターゼ(例えば、テトラケチドシンターゼ、Steely1及びSteely2)、オリベトール酸シクラーゼ、ゲラニルピロリン酸シンターゼ、芳香族プレニルトランスフェラーゼ(APT)、ゲラニルピロリン酸:オリベトール酸ゲラニルトランスフェラーゼ、カンナビクロメンシンターゼ、テトラヒドロカンナビノール酸シンターゼ(THCAS)及びカンナビジオール酸シンターゼ(CBDAS)が含まれるが、これらに限定されない。
【0035】
[0042]
図1は、大麻由来の酵素に基づく例示的なカンナビノイド生合成経路を示す:テトラケチドシンターゼ(TKS)は、ヘキサノイル-CoAとマロニル-CoAを縮合させて中間体のトリオキソドデカノイル-CoAを形成する;オリベトール酸シクラーゼ(OAC)は、分子内アルドール縮合を触媒してオリベトール酸(OA)を産する;芳香族プレニルトランスフェラーゼはゲラニル二リン酸(GPP)をOAに転移させてカンナビゲロール酸(CBGA)を生成する;テトラヒドロカンナビノール酸シンターゼ又はカンナビジオール酸シンターゼは、それぞれ、CBGAの酸化的環化を触媒してテトラヒドロカンナビノール酸(THCA)又はカンナビジオール酸(CBDA)にする。カルボキシル基を除くためのTHCA又はCBDAの脱炭酸は、それぞれ、脱炭酸されたカンナビノイド類の、テトラヒドロカンナビノール(THC)又はカンナビジオール(CBD)を生成することになる。
【0036】
[0043]
図1に示される、大麻の例示的なカンナビノイド生合成経路に加えて、代替の生合成中間体を、遺伝子操作された微生物内のカンナビノイド生合成経路において使用することができる。例えば、オリベトールはオリベトール酸のカルボキシル基を欠く中間体である。カンナビノイド生合成経路において、オリベトール酸の代わりにオリベトールを使用することにより、カルボキシル基を同様に欠くカンナビノイド類、例えばカンナビゲロール(CBG)、テトラヒドロカンナビノール(THC)又はカンナビジオール(CBD)が生成されることになる。別の例では、テトラケチドシンターゼ(TKS)がブチリル-CoAとマロニル-CoAを縮合させて中間体のトリオキソデカノイル-CoAを形成し、オリベトール酸シクラーゼ(OAC)がトリオキソデカノイル-CoAの分子内アルドール縮合を触媒してジバリノール酸を産する。ジバリノール酸は、オリベトール酸で見られるn-ペンチル基の代わりにn-プロピル基を含有する中間体である。カンナビノイド生合成経路において、オリベトール酸の代わりにジバリノール酸を使用することにより、n-プロピル基を同様に含有するカンナビノイド類、例えばカンナビゲロバリン酸(CBGVA)、テトラヒドロカンナビバリン酸(THCVA)、カンナビジバリン酸(CBDVA)又はカンナビクロメバリン酸(CBCVA)が生成されることになる。別の例では、ジバリノールはジバリノール酸のカルボキシル基を欠く中間体であり、オリベトールで見られるn-ペンチル基の代わりにn-プロピル基を含有する。カンナビノイド生合成経路において、ジバリノール酸の代わりにジバリノールを使用することにより、n-プロピル基を同様に含有し、カルボキシル基を同様に欠くカンナビノイド類、例えばカンナビゲロバリン(CBGV)、テトラヒドロカンナビバリン(THCV)、カンナビジバリン酸(CBDV)又はカンナビクロメバリン酸(CBCV)が生成されることになる。
【0037】
[0044]
図1に示される大麻の例示的なカンナビノイド生合成経路に加えて、代替の酵素を、遺子操作された微生物内のカンナビノイド生合成経路において使用することができる。例えば、大麻中に見出される酵素に加えて、カンナビノイド生合成経路の代替の酵素が、他の植物(例えば、ホップ(Humulus lupulus))、細菌(例えば、ストレプトマイセス属)又は原生生物(例えば、キイロタマホコリカビ(Dictyostelium discoideum))中に見出され得る。構造は異なるが同じ機能を果たす酵素を、遺伝子操作された微生物内のカンナビノイド生合成経路において、互いに交換可能に使用することができる。例えば、大麻由来の芳香族プレニルトランスフェラーゼCsPT1(配列番号3)及びCsPT4(配列番号10)、ホップ由来のHlPT1(配列番号11)及びストレプトマイセス属の種の株Cl190由来のOrf2(配列番号9)は、すべて、GPP及びOAからのCBGAの合成を触媒する芳香族プレニルトランスフェラーゼである。さらなる実施例では、キイロタマホコリカビ由来のSteely1(配列番号7)若しくはSteely2(配列番号8)ポリケチドシンターゼ又はそのバリアントが、マロニル-CoAをオリベトールに縮合させるのに使用することができ、OACの非存在下でオリベトールを生成するためにTKSの代わりに使用してもよい。
【0038】
[0045]本明細書で述べられる生物中に見出される野生型の酵素に加えて、これらの酵素の改変されたバリアントを、遺伝子操作された微生物内のカンナビノイド生合成経路において使用することができる。カンナビノイド生合成経路における使用のための酵素のバリアントは、例えば、ドメインの活性を増加/減少させるように、ドメインを追加/除去するように、シグナル伝達配列を追加/除去するように、又は酵素の活性若しくは特異性を別様に変えるように、前記酵素をコードする核酸配列を変えることによって生じさせることができる。例えば、非メチル化カンナビノイド類を生成するために、Steely1の配列を改変してメチルトランスフェラーゼドメインの活性を低下させることができる。参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2018/148849号に開示されているように、例として、これは、配列番号7に対してアミノ酸をG1516D+G1518A又はG1516Rに変異させることによって行うことができる。さらなる例では、テトラヒドロカンナビノール酸シンターゼ又はカンナビジオール酸シンターゼの配列を改変してN末端の分泌ペプチドを除去することができる。参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2018/200888号に開示されているように、例として、これは、配列番号5又は6のアミノ酸1~28を除去して短縮型酵素を生成することによって行うことができる。
【0039】
[0046]アシル-CoAシンテターゼは、CoAと、2~6個の炭素原子を含有する直鎖アルカン酸又はアルカノエートを連結してアルカノイル-CoAを生成するアシル活性化酵素であり、アルカノイル-CoAは、2~6個の炭素原子のアルカノイル基を含有する、コエンザイムAのチオエステルである。一実施形態では、アシル-CoAシンテターゼはヘキサノイル-CoAシンテターゼであり、これは、CoAと、ヘキサン酸又はヘキサノエートを連結してヘキサノイル-CoAを生成する。ヘキサノイル-CoAシンテターゼは、配列番号4のアミノ酸配列又は配列番号4に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有してもよい。別の実施形態では、アシル-CoAシンテターゼは、CoAと、酪酸又はブチレートを連結してブチリル-CoAを生成する。
【0040】
[0047]III型ポリケチドシンターゼは、チオエステルが連結した出発分子へのアセチル単位の縮合反応を触媒することによってポリケチドを生成する酵素である。III型ポリケチドシンターゼは、配列番号1、7若しくは8のアミノ酸配列又は配列番号1、7若しくは8に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有してもよい。一実施形態では、III型ポリケチドシンターゼは、多段階反応において、アルカノイル-CoAを3つのマロニル-CoAと縮合させて3,5,7-トリオキソアルカノイル-CoAを形成し、3,5,7-トリオキソアルカノイル-CoAは8~12個の炭素原子を含有する。別の実施形態では、III型ポリケチドシンターゼは、当分野ではオリベトールシンターゼ及び3,5,7-トリオキソドデカノイル-CoAシンターゼとしても知られる大麻由来のテトラケチドシンターゼである。一実施形態では、テトラケチドシンターゼは、多段階反応において、ヘキサノイル-CoAを3つのマロニル-CoAと縮合させて3,5,7-トリオキソドデカノイル-CoAを形成する。別の実施形態では、テトラケチドシンターゼは、多段階反応において、ブチリル-CoAを3つのマロニル-CoAと縮合させて3,5,7-トリオキソデカノイル-CoAを形成する。別の実施形態では、III型ポリケチドシンターゼは、キイロタマホコリカビ由来の、III型ポリケチドシンターゼ活性を有するドメインを含むSteely1若しくはSteely2、又はそのバリアント(例えば、国際公開第2018/148849号に開示されているSteely1(G1516D+G1518A)又はSteely1(G1516R))である。Steely1は当分野ではDiPKS又はDiPKS1としても知られ、Steely2は当分野ではDiPKS37としても知られる。
【0041】
[0048]オリベトール酸シクラーゼは、本明細書で使用される場合、3,5,7-トリオキソアルカノイル-CoAの分子内アルドール縮合を触媒して2,4-ジヒドロキシ-6-アルキル安息香酸を形成する酵素のことを指し、安息香酸のアルキル基は1~5個の炭素を含有する。一実施形態では、オリベトール酸シクラーゼは、3,5,7-トリオキソドデカノイル-CoAからのオリベトール酸の形成を触媒する。別の実施形態では、オリベトール酸シクラーゼは、3,5,7-トリオキソデカノイル-CoAからのジバリノール酸の形成を触媒する。オリベトール酸シクラーゼは、配列番号2のアミノ酸配列又は配列番号2に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有してもよい。大麻由来のオリベトール酸シクラーゼは、当分野では、オリベトール酸シンターゼ及び3,5,7-トリオキソドデカノイル-CoA CoA-リアーゼとしても知られる。
【0042】
[0049]芳香族プレニルトランスフェラーゼは、本明細書で使用される場合、ゲラニル二リン酸を5-アルキルベンゼン-1,3-ジオールに転移させて2-ゲラニル-5-アルキルベンゼン-1,3-ジオールを合成することが可能な酵素のことを指し、生成物のアルキル基は1~5個の炭素を含有する。一実施形態では、芳香族プレニルトランスフェラーゼは、ゲラニル二リン酸をオリベトールに転移させてカンナビゲロール(CBG)を合成する。別の実施形態では、芳香族プレニルトランスフェラーゼは、ゲラニル二リン酸をオリベトール酸(OA)に転移させてカンナビゲロール酸(CBGA)を合成する。別の実施形態では、芳香族プレニルトランスフェラーゼは、ゲラニル二リン酸をジバリノール酸に転移させてカンナビゲロバリン(CBGV)を合成する。別の実施形態では、芳香族プレニルトランスフェラーゼは、ゲラニル二リン酸をジバリノール酸に転移させてカンナビゲロバリン酸(CBGVA)を合成する。芳香族プレニルトランスフェラーゼの例は、当分野ではCsPT1としても知られる大麻由来の芳香族プレニルトランスフェラーゼ、プレニルトランスフェラーゼ1、ゲラニルピロリン酸-オリベトール酸ゲラニルトランスフェラーゼ及びゲラニル二リン酸:オリベトレートゲラニルトランスフェラーゼである。芳香族プレニルトランスフェラーゼのさらなる例としは、ホップ由来のHIPT1、大麻由来のCsPT4及びストレプトマイセス属の種の株Cl190由来のOrf2(NphB)が挙げられる。芳香族プレニルトランスフェラーゼは、配列番号3、9、10若しくは11のアミノ酸配列又は配列番号3、9、10若しくは11に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有してもよい。
【0043】
[0050]テトラヒドロカンナビノール酸シンターゼは、当分野ではΔ9-テトラヒドロカンナビノール酸シンターゼとしても知られ、カンナビゲロール酸のモノテルペン部分の環化を触媒することによってΔ9-テトラヒドロカンナビノール酸を合成する。テトラヒドロカンナビノール酸シンターゼは、配列番号5のアミノ酸配列又は配列番号5に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有してもよい。
【0044】
[0051]カンナビジオール酸シンターゼは、カンナビゲロール酸のモノテルペン部分の立体選択的な酸化的環化を触媒することによってカンナビジオール酸を合成する。カンナビジオール酸シンターゼは、配列番号6のアミノ酸配列又は配列番号6に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有してもよい。
【0045】
[0052]一実施形態では、本明細書で提供される遺伝子改変微生物は、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ、III型ポリケチドシンターゼ(例えば、テトラケチドシンターゼ、Steely1及びSteely2)並びにオリベトール酸シクラーゼのうちの1つ、2つ又は3つ以下をコードするか;又はIII型ポリケチドシンターゼ(例えば、テトラケチドシンターゼ、Steely1及びSteely2)並びにオリベトール酸シクラーゼのうちの1つ又は2つ以下をコードする外来性の核酸分子を含み、芳香族プレニルトランスフェラーゼをコードする外来性の核酸分子を含まず、任意選択でテトラヒドロカンナビノール酸シンターゼ又はカンナビジオール酸シンターゼをコードする外来性の核酸分子を含まない。
【0046】
[0053]一実施形態では、少なくとも1つのヘキサノイル-CoAシンテターゼをコードする核酸配列を含む核酸分子は、配列番号4に示される配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、III型ポリケチドシンターゼは配列番号1、7又は8に示される配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、オリベトール酸シクラーゼは配列番号2に示される配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、核酸分子は、ヘキサノイル-CoAシンテターゼをコードする核酸配列を含まない。別の実施形態では、核酸分子は遺伝子操作された微生物中に含まれる。
【0047】
[0054]一実施形態では、III型ポリケチドシンターゼをコードする核酸配列を含む核酸分子は、配列番号1に示される配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、オリベトール酸シクラーゼは配列番号2に示される配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0048】
[0055]一実施形態では、III型ポリケチドシンターゼをコードする核酸配列を含む核酸分子は、配列番号7又は8に示される配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0049】
[0056]本明細書で使用される場合、「ベクター」又は「核酸ベクター」という用語は、制御エレメント及びトランスジェニックDNAを導入するための部位を含む核酸分子、例えばプラスミドを意味し、前記トランスジェニックDNAを微生物に導入するために使用される。トランスジェニックDNAは異種タンパク質をコードすることができ、異種タンパク質を微生物中で発現させ、微生物から単離することができる。トランスジェニックDNAは、相同又は非相同組換えによって、核、ミトコンドリア又は葉緑体のゲノム中に組み込むことができる。トランスジェニックDNAは、核、ミトコンドリア又は葉緑体のゲノムに組み込まれることなく、染色体外ベクターにおいて自己複製することもできる。ベクターは、プロモーター、5’非翻訳領域(5’UTR)、トランスジェニックDNAのための挿入部位、3’非翻訳領域(3’UTR)及びターミネーター配列を含む単一の、作動可能に連結された一式の制御エレメントを含有することができる。本方法において有用なベクターは、当分野では周知である。一実施形態では、核酸分子はエピソーム性ベクターである。
【0050】
[0057]本明細書で使用される場合、「エピソーム性ベクター」という用語は、形質転換された細胞のゲノムに組み込まれることなく形質転換された細胞中で発現することができる、細菌のエピソームに基づくDNAベクターのことを指す。エピソーム性ベクターは、細菌(例えば大腸菌(Escherichia coli))から別の標的微生物(例えば微細藻類)に接合を介して移すことができる。
【0051】
[0058]別の実施形態では、ベクターは市販のベクターである。本明細書で使用される場合、「発現カセット」という用語は、プロモーター、5’非翻訳領域(5’UTR)、トランスジェニックDNAのための挿入部位、3’非翻訳領域(3’UTR)及びターミネーター配列を含む単一の、作動可能に連結された一式の制御エレメントを意味する。一実施形態では、少なくとも1種の核酸分子がエピソーム性ベクターである。
【0052】
[0059]「作動可能に連結された」という用語は、本明細書で使用される場合、2つ以上の成分の配置のことを指し、そこではそのように記載される成分は、それらが協調的に機能することを可能にする関係にある。例えば、転写制御配列又はプロモーターがコード配列の転写の局面を促進する場合、転写制御配列又はプロモーターはコード配列に作動可能に連結されている。当業者は、開始、伸長、減衰及び終結を含むがこれらに限定されない転写プロセスの局面を容易に認識することができる。一般的に、作動可能に連結された転写制御配列はコード配列とcisでつながっているが、必ずしもコード配列に直接隣接しているとは限らない。
【0053】
[0060]従って、カンナビノイド生合成経路の酵素をコードする核酸ベクターは、微生物中での酵素の適切な発現に適したエレメントを含有する。特に、各発現ベクターは微生物中での転写を促進するプロモーターを含有する。「プロモーター」という用語は、本明細書で使用される場合、それが作動可能に連結された遺伝子すなわちコーディング配列の転写を誘導するヌクレオチド配列のことを指す。適したプロモーターには、pEF-1α、p40SRPS8、pH4-1B、pγ-Tubulin、pRBCMT、pFcpA、pFcpB、pFcpC、pFcpD、HSP70A-RbcS2(配列番号21~28、53及び55として表1に示される;Slatteryら、2018を参照のこと)及びRbcS2が含まれるが、これらに限定されない。当業者は、化学的に誘導可能なプロモーター、アルコール誘導性プロモーター及びエストロゲン誘導性プロモーターを含む誘導性プロモーターも使用することができることを容易に理解することができる。予測プロモーター、例えばゲノムデータベースマイニング(genome database mining)から見出され得るものも使用してもよい。さらに、核酸分子又はベクターは、目的の遺伝子の強力な発現を駆動するために、クローニング部位の前又は遺伝子配列内部に、1つ又は複数のイントロンを含有してもよい。1つ又は複数のイントロンには、FBAC2-1 TUFA-1、EIF6-1、RPS4-1、RbcS2-1、RbcS2-2のイントロン(配列番号15~20として表1に示される)が含まれる。核酸分子は、1つを超えるイントロン又は1つを超える同じイントロンのコピーを含有してもよい。核酸分子又はベクターは、適したターミネーター、例えばtEF-1α、t40SRPS8、tH4-1B、tγ-Tubulin、tRBCMT、tFcpB、tFcpC、tFcpD、tFcpA、tRbcS2(配列番号29~36、54及び56として表1に示される)も含有する。選択可能なマーカー遺伝子、例えばカナマイシン耐性遺伝子(ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII遺伝子又はnptIIとしても知られる)、ゼオシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、バスタ耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子又はその他の遺伝子もベクターに連結することができる。本明細書で使用される場合、「タグ」という用語は、抗体によって認識されるアミノ酸配列のことを指す。タグのアミノ酸配列は、例えば、酵素の配列に連結しており、それによって、タグとタグ特異的抗体間の結合による酵素の検出又は単離が可能となる。例えば、当分野で知られる一般的なタグには、6His、MYC、FLAG、V5、HA及びHSVが含まれる。これらタグは、N又はC末端に配置された場合に有用である。
【0054】
[0061]一実施形態では、核酸分子はルビスコ小サブユニットをコードする配列を含む。ルビスコ小サブユニットは、それが結合するポリペプチドを、内部色素体標的化シグナルを介して葉緑体に輸送されるように標的化することを可能にし得る(Hirakawa及びIshida 2010)。理論に拘束されるものではないが、葉緑体中ではアセチル-CoA及びマロニル-CoAを含む基質が利用できるため、カンナビノイド生合成酵素を葉緑体コンパートメントに輸送することによって、微細藻類中の外来性のカンナビノイド生合成経路が亢進される可能性があると予想される。いくつかの実施形態では、少なくとも1種の核酸分子が、配列番号12に示される配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するルビスコ小サブユニットをコードする配列を含む。
【0055】
[0062]本明細書で使用される場合、「レポーター」という用語は、該レポーターが結合若しくは関連する別の分子の検出、又は該レポーターを含む生物の検出を可能にする分子のことを指す。レポーターは、蛍光タンパク質、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)及び赤色蛍光タンパク質(RFP)を含む蛍光分子を含み得る。いくつかの実施形態では、少なくとも1種の核酸分子が、配列番号13~14に示される配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するレポーターをコードする1つ又は複数のレポーター配列を含む。
【0056】
[0063]一実施形態では、少なくとも1種のカンナビノイド生合成経路の酵素をコードする核酸分子又はベクターが、配列番号21~28、53及び55から選択されるプロモーター核酸配列を含む。別の実施形態では、核酸分子は、配列番号15~20から選択される少なくとも1つのイントロン配列を含む。別の実施形態では、核酸分子は、配列番号29~36、54及び56から選択されるターミネーター核酸配列を含む。別の実施形態では、遺伝子操作された微生物は、配列番号37~42から選択されるアミノ酸配列を有するタグをコードする少なくとも1つの配列を含む核酸分子を含む。
【0057】
[0064]核酸分子は、カンナビノイド生合成経路と関連する1つ、2つの又は3つ以下の酵素を発現するように構築することができる。一実施形態では、核酸分子は2つ以上のポリヌクレオチド配列を含み、そのそれぞれが1つのカンナビノイド生合成経路の酵素をコードし、同じプロモーターに作動可能に連結される。コンストラクト中に2つ又は3つの酵素がコードされる場合は、コンストラクトは自己切断型のペプチドリンカー、例えばFMDV2a、extFMDV2a又はT2Aをコードするヌクレオチド配列を含有し、それによって独立したタンパク質として生成される酵素がもたらされ得るか;又はコンストラクトは融合タンパク質として酵素を連結するペプチドリンカー配列、例えば3(GGGGS)及びFPL1ペプチドリンカーを含有し、1つの酵素の中間代謝産物を溶液中に遊離することなく直接別の酵素又は活性部位に渡す基質チャネリングを可能にし得るか;又はコンストラクトは自己切断型及び非自己切断型の配列の組み合わせを含有し得る。一実施形態では、核酸分子は、少なくとも2つのポリヌクレオチド配列の間に少なくとも1つのリンカー配列を含む。別の実施形態では、リンカー配列は、自己切断型のペプチドリンカー、任意選択で配列番号43~45に示されるアミノ酸配列を有する自己切断型のペプチドリンカーをコードする。いくつかの実施形態では、少なくとも1種の核酸分子が、配列番号43~48に示される配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するペプチドリンカーをコードする1つ又は複数のリンカー配列を含む。
【0058】
[0065]別の実施形態では、ベクターは本明細書に記載の核酸配列を含む。別の実施形態では、宿主細胞は、本明細書に記載の核酸配列を含むベクター又は核酸分子で形質転換される。別の実施形態では、宿主細胞は、本明細書に記載の任意の微生物である。
【0059】
[0066]本明細書に記載の核酸配列は、様々な配置又は組み合わせのベクターで提供することができる。カンナビノイド生合成経路の酵素をコードする個別の各配列は、独立したベクターで提供することができる。或いは、複数の配列を同じベクターで一緒に提供することができる。例えば、III型ポリケチドシンターゼ及びオベリトール酸シクラーゼをコードする核酸配列を第1のベクターで一緒に提供することができ、ヘキサノイル-CoAシンテターゼをコードする核酸配列を第2のベクターで提供することができる。或いは、すべての酵素をコードする配列を、同じベクターで一緒に提供することができる。酵素をコードする1つを超える配列が同じベクターで提供される場合、配列は、独立した発現カセットか、又は同じ発現カセットで一緒に提供することができる。2つ以上の配列が同じ発現カセットにある場合、それらを同じオープンリーディングフレームで提供して融合タンパク質を生成することができる。融合タンパク質をコードする2つ以上の配列は、制限酵素認識部位又は自己切断型のペプチドリンカーをコードするリンカー配列によって分離することができる。よって、カンナビノイド類の生成のための遺伝子改変微生物は、それぞれがカンナビノイド生合成経路の1種又は複数の酵素をコードする核酸配列を含む複数のベクターを用いた段階的なトランスフェクション、又はすべての酵素をコードする核酸配列を含む単一のベクターを用いた段階的なトランスフェクションによって操作することができる。
【0060】
[0067]本明細書で使用される場合、「微細藻類」という用語及びその派生語には、真核生物である光合成微生物及び非光合成微生物が含まれる。本明細書で使用される場合、「シアノバクテリア」という用語及びその派生語には、原核生物である光合成微生物が含まれる。一実施形態では、微細藻類はGCリッチな微細藻類である。本明細書で使用される場合、「GCリッチな微細藻類」とは、核ゲノム及び/又は色素体ゲノムのDNAが少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%又は少なくとも75%のGC含有量を含む微細藻類のことを指す。一実施形態では、微細藻類は油性微細藻類である。本明細書で使用される場合、「油性」とは、少なくとも35重量%、少なくとも40重量%、少なくとも45重量%又は少なくとも50重量%の脂質含有量を含む微細藻類のことを指す。一実施形態では、微細藻類は低温適応微細藻類である。本明細書で使用される場合、「低温適応」とは、自然界における温帯、亜寒帯若しくは極地で増殖する微細藻類、又は温帯、亜寒帯又は極地で確認される温度で増殖させる人工の増殖条件に適応した微細藻類のことを指す。いくつかの実施形態では、低温適応微細藻類は、24℃未満、20℃未満、16℃未満又は12℃未満の温度で増殖する。一実施形態では、微細藻類は、24℃未満、20℃未満、16℃未満又は12℃未満の温度で増殖させた場合に脂質含有量の増加を示す低温適応型微細藻類である。
【0061】
[0068]一実施形態では、微細藻類は緑藻類である。一実施形態では、微細藻類は緑藻植物門由来である。一実施形態では、微細藻類は、アンキストロデスムス属(Ankistrodesmus)、アステロモナス属(Asteromonas)、オーキセノクロレラ属(Auxenochlorella)、バシクラミス属(Basichlamys)、ボツリオコッカス属(Botryococcus)、ボトリオコリネ属(Botryokoryne)、ボロディネラ属(Borodinella)、ブラキオモナス属(Brachiomonas)、カテナ属(Catena)、カルテリア属(Carteria)、カエトフォラ属(Chaetophora)、カラシオクロリス属(Characiochloris)、カラシオシフォン属(Characiosiphon)、クライノモナス属(Chlainomonas)、クラミドモナス属(Chlamydomonas)、クロレラ属(Chlorella)、クロロキトリウム属(Chlorochytrium)、クロロコッカム属(Chlorococcum)、クロロゴニウム属(Chlorogonium)、クロロモナス属(Chloromonas)、クロステリオプシス属(Closteriopsis)、ジクチオクロロプシス属(Dictyochloropsis)、ドナリエラ属(Dunaliella)、エリプソイドン属(Ellipsoidon)、エレモスファエラ属(Eremosphaera)、ユードリナ属(Eudorina)、フロイディエラ属(Floydiella)、フリエドマニア属(Friedmania)、ヘマトコッカス属(Haematococcus)、ハフニオモナス属(Hafniomonas)、ヘテロクロレラ属(Heterochlorella)、ゴニウム属(Gonium)、ハロサルシノクラミス属(Halosarcinochlamys)、コリエラ属(Koliella)、ロボカラシウム属(Lobocharacium)、ロボクラミス属(Lobochlamys)、ロボモナス属(Lobomonas)、ロボスファエラ属(Lobosphaera)、ロボスファエロプシス属(Lobosphaeropsis)、マルバニア属(Marvania)、モノラフィジウム属(Monoraphidium)、ミルメシア属(Myrmecia)、ナンノクロリス属(Nannochloris)、オオキスティス属(Oocystis)、オーガモクラミス属(Oogamochlamys)、パビア属(Pabia)、パンドリナ属(Pandorina)、パリエトクロリス属(Parietochloris)、ファコタス属(Phacotus)、プラチドリナ属(Platydorina)、プラチモナス属(Platymonas)、プレオドリナ属(Pleodorina)、ポルリクロリス属(Polulichloris)、ポリトーマ属(Polytoma)、ポリトメラ属(Polytomella)、プラシオラ属(Prasiola)、プラシオロプシス属(Prasiolopsis)、プラシノコッカス属(Prasiococcus)、プロトテカ属(Prototheca)、シュードクロレラ属(Pseudochlorella)、シュードカルテリア属(Pseudocarteria)、シュードトレボウクシア属(Pseudotrebouxia)、プテロモナス属(Pteromonas)、ピロボトリス属(Pyrobotrys)、ロゼンビンギエラ属(Rosenvingiella)、セネデスムス属(Scenedesmus)、アオミドロ属(Spirogyra)、ステファノスファエラ属(Stephanosphaera)、テトラバエナ属(Tetrabaena)、テトラエドロン属(Tetraedron)、テトラセルミス属(Tetraselmis)、トレボウキシア属(Trebouxia)、トロキスシオプシス属(Trochisciopsis)、ビリジエラ属(Viridiella)、ビトレオクラミス属(Vitreochlamys)、ボルボックス属(Volvox)、ボルブリナ属(Volvulina)、バルカノクロリス属(Vulcanochloris)、ワタナベア属(Watanabea)、ヤマギシエラ属(Yamagishiella)、ユーグレナ属(Euglena)、イソクリシス属(Isochrysis)、ナンノクロロプシス属(Nannochloropsis)由来である。一実施形態では、微細藻類はコナミドリムシ、クロレラ・ブルガリス、クロレラ・ソロキニアナ、クロレラ・プロトセコイデス、テトラセルミス・チュイ、ナノクロロプシス・オクラテ、セネデスムス・オブリクース、アクトデスムス・ディモルフス、ドナリエラ・テルチオレクタ又はヘマトコカス・プルシアリスである。別の実施形態では、微細藻類は珪藻、任意選択でフェオダクチラム・トリコルヌタム又はタラシオシラ・シュードナナである。
【0062】
[0069]別の実施形態では、シアノバクテリアはスピルリナ科(Spirulinaceae)、フォルミジウム科(Phormidiaceae)、シネココッカス科(Synechococcaceae)又はネンジュモ科(Nostocaceae)由来である。一実施形態では、シアノバクテリアはアルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira plantensis)、アルスロスピラ・マキシマ、シネココッカス・エロンガタス又はアファニゾメノン・フロス・アクアである。
【0063】
[0070]本開示は、カンナビノイド類の生成のための、本明細書に記載の遺伝子操作された微生物、及び遺伝子操作された微生物を培養するための培地を含む、細胞培養物も提供する。一実施形態では、培地は実質的に糖を含まない、すなわち糖の濃度は2重量%未満、1.5重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満又は0.1重量%未満である。別の実施形態では、培地は微量以下の糖を含有し、微量とはわずかな量又は検出限界に近い量のことを指すと、当分野では通常理解される。光合成ができない微生物を培養するために必要であることが知られている糖には、モノサッカライド(例えばグルコース、フルクトース、リボース、キシロース、マンノース及びガラクトース)並びにジサッカライド(例えばスクロース、ラクトース、マルトース、ラクツロース、トレハロース及びセロビオース)が含まれるが、これらに限定されない。
【0064】
[0071]別の実施形態では、培地は実質的に固定炭素源を含まない、すなわち固定炭素源の濃度は2重量%未満、1.5重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満又は0.1重量%未満である。別の実施形態では、培地は微量以下の固定炭素源を含有する。「固定炭素源」という用語は、本明細書で使用される場合、増殖、生合成及び/又は代謝のための炭素の供給源を与える、常温及び常圧で液体又は固体である有機炭素分子のことを指す。固定炭素源の例には、糖(例えばグルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、スクロース、ラクトース)、アミノ酸又はアミノ酸誘導体(例えばグリシン、N-アセチルグルコサミン、グリセロール、フロリドシド、グルクロン酸、トウモロコシデンプン、解重合したセルロース材料、植物材料(例えばサトウキビ、サトウダイコン))、及びカルボン酸(例えばヘキサン酸、酪酸及びそれらの個別の塩)が含まれるが、これらに限定されない。固定炭素の供給源は国際公開第2015/168458号において開示されており、その内容を参照により本明細書に組み込む。
【0065】
[0072]微生物は、それらの増殖に許容的な条件において培養することができる。光合成微生物は、(固定炭素源ではない)二酸化炭素を、光源からのエネルギーを使用して有機分子、例えば糖に固定する炭素固定が可能であることが知られている。光源からのエネルギーを使用する二酸化炭素の固定が光合成である。光合成におけるエネルギーの供給に適した光源には、太陽光及び人工光が含まれる。光合成微生物は、固定炭素源を用いずに増殖及び/又は代謝することが可能である。微細藻類は、大気中の二酸化炭素、工業的に排出された二酸化炭素(例えば煙道ガス及びフレアリングガス)を含む種々の供給源並びに可溶性炭酸(例えばNaHCO3及びNa2CO3)から二酸化炭素を固定することができる(その内容が参照により本明細書に組み込まれる、Singhら 2014を参照のこと)。非固定炭素源、例えば二酸化炭素は、二酸化炭素ガス混合物を培養培地に注入又は通気することによって、微細藻類の培養物に添加することができる。光合成増殖は独立栄養増殖の1種であり、そこでは微生物は、外部のエネルギー供給源、例えば光を使用して有機分子を自ら生成することができる。これは、従属栄養増殖と対照的であり、そこでは微生物は、増殖及び/又は代謝のために有機分子を消費しなければならない。従属栄養生物は、従って、増殖及び/又は代謝のために固定炭素源を必要とする。一部の光合成生物は混合栄養増殖が可能であり、そこでは微生物は、固定炭素源も消費しながら、光合成によって炭素を固定する。混合栄養増殖では、独立栄養代謝は、培養培地中で利用可能な還元炭素供給源を酸化する従属栄養代謝と統合される。光合成微細藻類は、本明細書に記載の固定炭素源を培養培地に添加することによる混合栄養条件において、通常は培養される。使用される固定炭素の一般的な供給源には、グルコース、エタノール又は産業からの廃棄物、例えばアセテート若しくはグリセロールが含まれる(その内容が参照により本明細書に組み込まれる、Cecchinら 2018を参照のこと)。微生物、例えば微細藻類及びシアノバクテリアは、当分野で知られる方法及び条件を使用して培養することができる(例えば、その内容が参照により本明細書に組み込まれる、Biofuels from Algae編、Pandeyら、2014、Elsevier、ISBN 978-0-444-59558-4を参照のこと)。一部の微生物は化学独立栄養増殖が可能である。光合成微生物と同様に化学独立栄養生物は二酸化炭素固定が可能であるが、光の代わりに化学的供給源(例えば硫化水素、第一鉄、分子状水素、アンモニア)に由来するエネルギーを使用する。
【0066】
[0073]微細藻類は、有機的に生産された製品に対する基準に違反する化学物質又は添加剤を使用せずに、有機条件で増殖させることができる。微細藻類は、例えば、管轄の基準、例えば米国よって定められた基準(US Organic Food Production Act;USDA National Organic Program Certification;USDA Organic Regulations)、欧州連合によって定められた基準(2021年1月1日より前の規制No 834/2007;2021年1月1日からの規制2018/848)及びカナダよって定められた基準(Canadian Food Inspection Agency Canadian Organic Standards)に従う条件において増殖させることによって、有機的に増殖させることができる。有機条件で微細藻類を増殖させることによって、微細藻類中での有機植物天然生成物の生成が可能となる。
【0067】
[0074]本開示は、1種、2種の又は3種以下のカンナビノイド生合成経路の酵素をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子も提供する。一実施形態では、核酸分子は、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ、III型ポリケチドシンターゼ(例えば、テトラケチドシンターゼ、Steely1及びSteely2)並びにオリベトール酸シクラーゼのうちの1つ、2つ又は3つ以下をコードする核酸配列を含む。別の実施形態では、核酸分子は、III型ポリケチドシンターゼ(例えば、テトラケチドシンターゼ、Steely1及びSteely2)、オリベトール酸シクラーゼ、又はその両方をコードし、ヘキサノイル-CoAシンテターゼをコードしない核酸配列を含む。
【0068】
[0075]「微生物に核酸分子を導入する」という句には、遺伝子操作された微生物を調製するための、微生物のゲノムへの核酸分子の安定な組込み並びに微生物への核酸の一過性の組込みの両方が含まれる。細胞への核酸の導入は、当分野では形質転換としても知られている。核酸ベクターは、ガラスビーズを用いた撹拌、エレクトロポレーション、アグロバクテリウム属を介した形質転換、加速粒子送達法、すなわち微粒子銃、細胞融合法を含むがこれらに限定されない当分野で知られる技術を使用して、又は核酸ベクターを微生物に送達するための任意の他の方法によって、微生物に導入することができる。
【0069】
[0076]本開示の特定の実施形態には、以下が含まれるが、これらに限定されない:
1.カンナビノイドを生成することが可能な遺伝子操作された微生物であって、光合成微細藻類又はシアノバクテリアであり、芳香族プレニルトランスフェラーゼをコードする外来性の核酸分子を含まない、遺伝子操作された微生物。
2.テトラヒドロカンナビノール酸又はテトラヒドロカンナビノールを生成することが可能であり、テトラヒドロカンナビノール酸シンターゼをコードする外来性の核酸分子を含まない、実施形態1に記載の遺伝子操作された微生物。
3.カンナビジオール酸又はカンナビジオールを生成することが可能であり、カンナビジオール酸シンターゼをコードする外来性の核酸分子を含まない、実施形態1又は2に記載の遺伝子操作された微生物。
4.テトラケチドシンターゼ及びオリベトール酸シクラーゼをコードする少なくとも1種の外来性の核酸分子を含む、実施形態1~3のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物。
5.テトラケチドシンターゼが配列番号1に示される配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、オリベトール酸シクラーゼが配列番号2に示される配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、実施形態4に記載の遺伝子操作された微生物。
6.少なくとも1種の外来性の核酸分子が、テトラケチドシンターゼをコードする第1のポリヌクレオチド配列及びオリベトール酸シクラーゼをコードする第2のポリヌクレオチド配列を含む、実施形態4又は5に記載の遺伝子操作された微生物。
7.第1のポリヌクレオチド配列が第2のポリヌクレオチド配列に対して5’にある、実施形態6に記載の遺伝子操作された微生物。
8.少なくとも1種の外来性の核酸分子が、第1のポリヌクレオチド配列と第2のポリヌクレオチド配列の間に少なくとも1つのリンカー配列をさらに含む、実施形態6又は7に記載の遺伝子操作された微生物。
9.リンカー配列が、自己切断型のリンカー配列(例えば、アミノ酸配列配列番号43~45)又は融合リンカー配列(例えば、アミノ酸配列配列番号46~48)をコードする、実施形態8に記載の遺伝子操作された微生物。
10.第1のポリヌクレオチド配列が、少なくとも1つのイントロン配列(例えば、配列番号15~20)を含む、実施形態6~9のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物。
11.少なくとも1種の外来性の核酸分子が、テトラケチドシンターゼをコードする第1の核酸分子及びオリベトール酸シクラーゼをコードする第2の核酸分子を含む、実施形態4又は5に記載の遺伝子操作された微生物。
12.少なくとも1種の外来性の核酸分子が、プロモーター核酸配列(例えば、配列番号21~28、53及び55)、タグをコードする配列(例えば、アミノ酸配列配列番号37~42)、レポーターをコードする配列(例えば、アミノ酸配列配列番号13~14)、ルビスコ小サブユニットをコードする配列(例えば、アミノ酸配列配列番号12)及びターミネーター核酸配列(例えば、配列番号29~36、54及び56)のうちの1つ又は複数をさらに含む、実施形態4~11のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物。
13.少なくとも1種の外来性の核酸分子がエピソーム性ベクターである、実施形態4~12のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物。
14.少なくとも1種の外来性の核酸分子からなる、実施形態4~13のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物。
15.Steely1、Steely2又はそのバリアントをコードする少なくとも1種の外来性の核酸分子を含む、実施形態1~3のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物。
16.Steely1又はSteely2のバリアントが、それぞれ、配列番号7又は配列番号8に示される配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、実施形態15に記載の遺伝子操作された微生物。
17.少なくとも1種の外来性の核酸分子が、少なくとも1つのイントロン配列(例えば、配列番号15~20)を含む、実施形態15又は16に記載の遺伝子操作された微生物。
18.少なくとも1種の外来性の核酸分子が、プロモーター核酸配列(例えば、配列番号21~28、53及び55)、タグをコードする配列(例えば、アミノ酸配列配列番号37~42)、レポーターをコードする配列(例えば、アミノ酸配列配列番号13~14)、ルビスコ小サブユニットをコードする配列(例えば、アミノ酸配列配列番号12)及びターミネーター核酸配列(例えば、配列番号29~36、54及び56)のうちの1つ又は複数をさらに含む、実施形態15~17のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物。
19.少なくとも1種の外来性の核酸分子がエピソーム性ベクターである、実施形態15~18のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物。
20.少なくとも1種の外来性の核酸分子からなる、実施形態15~19のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物。
21.ヘキサノイル-CoAシンテターゼをコードする外来性の核酸分子を含まない、実施形態1~20のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物。
22.微細藻類が珪藻又は緑藻植物である、実施形態1~21のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物。
23.微細藻類がフェオダクチラム・トリコルヌタム又はタラシオシラ・シュードナナである、実施形態22に記載の遺伝子操作された微生物。
24.微細藻類が、フェオダクチラム・トリコルヌタムである、実施形態23に記載の遺伝子操作された微生物。
25.微細藻類がコナミドリムシ又はクロレラ・ブルガリスである、実施形態22に記載の遺伝子操作された微生物。
26.微細藻類がコナミドリムシである、実施形態25に記載の遺伝子操作された微生物。
27.シアノバクテリアが、スピルリナ科、フォルミジウム科、シネココッカス科又はネンジュモ科、任意選択でアルスロスピラ・プラテンシス、アルスロスピラ・マキシマ、シネココッカス・エロンガタス又はアファニゾメノン・フロス・アクアである、実施形態1~21のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物。
28.実施形態1~27のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物及び実質的に糖を含まない培地を含む、細胞培養物。
29.糖が2重量%未満の濃度で培地中に存在する、実施形態28に記載の細胞培養物。
30.糖が1重量%未満の濃度で培地中に存在する、実施形態29に記載の細胞培養物。
【0070】
31.糖が0.5重量%未満の濃度で培地中に存在する、実施形態30に記載の細胞培養物。
32.糖が0.1重量%未満の濃度で培地中に存在する、実施形態31に記載の細胞培養物。
33.糖が微量以下で培地中に存在する、実施形態32に記載の細胞培養物。
34.糖がモノサッカライドである、実施形態28~33のいずれか一項に記載の細胞培養物。
35.モノサッカライドが、グルコース、フルクトース、リボース、キシロース、マンノース及びガラクトースのうちの少なくとも1つである、実施形態34に記載の細胞培養物。
36.糖がジサッカライドである、実施形態28~33のいずれか一項に記載の細胞培養物。
37.ジサッカライドが、スクロース、ラクトース、マルトース、ラクツロース、トレハロース及びセロビオースのうちの少なくとも1つである、実施形態36に記載の細胞培養物。
38.培地が実質的に固定炭素源を含まない、実施形態28~37のいずれか一項に記載の細胞培養物。
39.固定炭素源がカルボン酸及びグリセロールのうちの少なくとも1つである、実施形態38に記載の細胞培養物。
40.カルボン酸がヘキサン酸である、実施形態39に記載の細胞培養物。
41.独立栄養増殖を起こす、実施形態28~40のいずれか一項に記載の細胞培養物。
42.独立栄養増殖が光合成増殖である、実施形態41に記載の細胞培養物。
43.光合成増殖が太陽光源の存在下で起こる、実施形態42に記載の細胞培養物。
44.光合成増殖が人工の光源の存在下で起こる、実施形態42に記載の細胞培養物。
45.有機条件での増殖を起こす、実施形態28~44のいずれか一項に記載の細胞培養物。
46.遺伝子操作された微生物中でカンナビノイドを生成するための方法であって、微生物にテトラケチドシンターゼ及びオリベトール酸シクラーゼをコードする少なくとも1種の核酸分子を導入するステップを含み、微生物が微細藻類又はシアノバクテリアである、方法。
47.遺伝子操作された微生物中でカンナビノイドを生成するための方法であって、微生物にSteely1、Steely2又はそのバリアントをコードする少なくとも1種の核酸分子を導入するステップを含み、微生物が微細藻類又はシアノバクテリアである、方法。
48.野生型の微生物中でカンナビノイドを生成するための方法であって、微生物を2,4-ジヒドロキシ-6-アルキル安息香酸又は2,4-ジヒドロキシ-6-アルキル安息香酸エステルを含む培地中で培養するステップを含み、微生物が微細藻類又はシアノバクテリアである、方法。
【実施例】
【0071】
[0077]以下の非限定的な実施例は本開示の実例である:
実施例1
[0078]エピソーム性ベクターの構築及び珪藻フェオダクチラム・トリコルヌタム細胞の形質転換
実施例1.1 遺伝子配列
[0079]CB生合成経路の初期に、ヘキサノイル-CoAシンテターゼが、ヘキサン酸をヘキサノイル-CoAに変換することが示唆されている(
図1;Gagne ら 2012から改変)。CB生合成経路における別の初期の代謝物中間体は、カンナビノイド類のポリケチド骨格を形成するオリベトール酸(OA)である。理論に縛られることを望むものではないが、OAは以下の通りに生成される(
図2):最初に、III型テトラ/ポリケチドシンターゼ(TKS)酵素が、多段階反応において、ヘキサノイル-CoAを3つのマロニル-CoAと縮合させてトリオキソドデカノイル-CoAを形成する。次いで、オリベトール酸シクラーゼ(OAC)が分子内アルドール縮合を触媒してOAを産する。次のステップで、CBの多様化が、OA骨格への「装飾」酵素の連続した作用によって生じ、それがカンナビノイド類のΔ9-テトラヒドロカンナビノール酸(THCA)及びカンナビジオール酸(CBDA)をもたらし、そのそれぞれが脱炭酸して、それぞれΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)及びカンナビジオール(CBD)を産する(
図1)。
【0072】
[0080]TKS及びOACの遺伝子配列が同定され、インビトロで特徴づけられた(Lussier 2012;Gagneら 2012;Marksら 2009;Stoutら 2012;Tauraら 2009)。最適化されていないTKS(GenBank:AB164375.1)及びOAC(GenBank:JN679224.1)の完全なコード配列を、公共のデータベースから得た。TKSのオープンリーディングフレーム(1158bp)は、42kDaの計算MWを有する385アミノ酸のタンパク質をコードする(Tauraら 2009;Flores-Sanchezら 2010)。一方でOACは、12kDaのMWの、101アミノ酸の小型のタンパク質をコードする、比較的短い配列(485bp)である(Marksら 2009)。理論に縛られることを望むものではないが、特定のアミノ酸(すなわちコドン)の核酸コーディングを宿主生物中でより良く発現すると言われている別のコドンで置き換えることによって宿主生物中でのタンパク質発現を改善させるために、コドン最適化が提案されている。この効果は、異なる生物が異なるコドンの嗜好性を示すために生じ得る。特に、微細藻類及びシアノバクテリアは、植物及び動物とは異なるコドンを好む可能性がある。コドン嗜好性に基づいたより良い発現を実現するために核酸の配列を変えるプロセスを、コドン最適化と呼ぶ。統計学的手法が種々の生物におけるコドン使用のバイアスを分析するために生み出され、コドン最適化された遺伝子配列のデザインにおいてこれらの統計学的解析を実行するために、多くのコンピューターアルゴリズムが開発されている(Lithwick及びMargalit 2003)。コドンバイアスに依存しない、タンパク質発現を増加させるための、コドン使用における他の改変も記載されてきた(Welchら 2009)。遺伝子及び他のエレメント(例えば、レポーター、タグ、ペプチドリンカー)を含むコンストラクトのオープンリーディングフレームをコドン最適化し(例えば、配列番号49~52)、合成し、形質転換ベクターに挿入した。
【0073】
実施例1.2 操作された珪藻
[0081]微細藻類は、価値の高い化学物質のバイオプロダクションのための、有望だが困難を伴うプラットフォームを提供する。モデル生物、例えば大腸菌及びサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)と比較すると、藻類の複雑な生物学及び生化学の特徴づけ並びに株の改良は、非効率的な分子ツールによって妨げられてきた。現在まで、多くの微細藻類が形質転換可能であるものの、導入されたDNAは非相同組換えが関与するメカニズムによって無作為に核ゲノムに組み込まれ、遺伝子発現抑制に直面する確率が高い。それゆえに、これらの難題を回避するための分子ツールが効率的な遺伝子操作を促進するために必要である。最近、珪藻に対するエピソーム性ベクターシステムが開発され、非常に安定であることが示された(Karasら 2015)。エピソームは遺伝子発現抑制メカニズムによって影響されないはずであるため、珪藻株をTKS及びOAC導入遺伝子を含むコンストラクトで操作した。フェオダクチラム・トリコルヌタムのコドン使用に対して最適化されたコンストラクトを、配列番号49~52に示す。これらの最適化された配列は、他の珪藻、例えばタラシオシラ・シュードナナにも使用することができる。
【0074】
実施例1.3 HPLC分析のための抽出
[0082]本明細書に記載の例示的な方法によって作製した細胞抽出液に対し、HPLC分析を行った。約100mgの藻の培養物を遠心分離し、上清を捨てた。5mLの100%エタノールを沈殿物に添加し、一晩-20℃で置いた。沈殿物を4℃で10分間4000gで遠心分離した。1mlの上清を1.7mlのエッペンドルフチューブに移し、Speedvac中で、最大真空レベルにおいて加熱せずにエタノールを蒸発させた。250μlの移動相溶液(59.9%、0.1%及び40%における、水:ギ酸:アセトニトリル)を、沈殿物を再懸濁するために使用した。各チューブを2分間高速でボルテックスすることによって懸濁液をホモジナイズし、次いで4℃で10間最大速度で遠心分離した。200μlの上清をHPLCバイアル中に回収した。
【0075】
実施例1.4 HPLC分析
[0083]機器:Prominence-i LC-2030 C 3D;検出器:UV-DAD//PDA;カラム:P/No:00F-4633-EVO、モデル Kinetex 5μm EVO C18 100Å、LCカラム 150×4.6mm、シリアルナンバー:H15010692、B/No:5720-050;乾燥器温度:30℃;流速:0.5mL/分;移動相:A=1%のギ酸を含む水、B=アセトニトリル100%;勾配相:T0:40%B、T16:90%B、T18:90%B、T20:99%B、T23:99%B、T25:40%B。時間に対する移動相の濃度を
図3に示す。
【0076】
[0084]分析する波長は、Cary 60 UV-Vis精密分光光度計における野生型藻類マトリックス中での各標準物質の最大ピークに基づいて選択した:THC:280nm、中性型か酸型かに依存して17.8~18.4分(THCAがさらに出現する);CBD:275nm、15.09~15.4分;CBN:285nm、17~17.5分。
【0077】
[0085]試料のバックグラウンドを超えるTHC、CBD又はCBNのピークを決定するために、野生型P.トリコルヌタム抽出液からマトリックスとして作製した溶媒中で、各標準物質を0、5、10、25、50、75及び100ppmの濃度に希釈した。試料におけるピークは、標準曲線及びブランクを用いた正規化後に同定した。THC、CBD及びCBNに対する標準曲線を
図4に示す。
【0078】
実施例2
実施例2.1 (AC_1/Ptref1)
[0086]TKS及びOACの酵素をコードする配列を含むコンストラクトを、P.トリコルヌタムに形質転換した。
【0079】
[0087]5’から3’までを含むコンストラクト(Ptref1、配列番号49):TKSをコードする配列(位置1~1155);T2A自己切断型のペプチドリンカー配列(位置1156~1218);及びOACをコードする配列(位置1219~1521)を、藻類に対するゼオシン耐性遺伝子及び大腸菌に対するクロラムフェニコール耐性遺伝子及び酵母におけるHis選択を含有する改変pPtGE30プラスミド(Slatteryら 2018)に挿入した。
【0080】
[0088]コンストラクトを、40SRPS8プロモーター(配列番号22)及びFcpAターミネーター(配列番号54)に作動可能に連結させた。
【0081】
[0089]PtGE30エピソーム性ベクターを、大腸菌からP.トリコルヌタムに接合移行させた。
【0082】
[0090]PCR及び全エピソームシーケンシングによってP.トリコルヌタムのゼオシン耐性クローンを確認し、HPLCによる分析のために選択した。
実施例2.2 (AC_2/Ptref2)
[0091]TKS及びOACの酵素をコードする配列を含むコンストラクトを、P.トリコルヌタムに形質転換した。
【0083】
[0092]5’から3’までを含むコンストラクト(Ptref2、配列番号50):TKSをコードする配列(位置1~1155);3(GGGGS)ペプチドリンカー配列(位置1156~1200);及びOACをコードする配列(位置1201~1503)を、藻類に対するゼオシン耐性遺伝子及び大腸菌に対するクロラムフェニコール耐性遺伝子及び酵母におけるHis選択を含有する改変pPtGE30プラスミド(Slatteryら 2018)に挿入した。
【0084】
[0093]コンストラクトを、40SRPS8プロモーター(配列番号22)及びFcpAターミネーター(配列番号54)に作動可能に連結させた。
【0085】
[0094]PtGE30エピソーム性ベクターを、大腸菌からP.トリコルヌタムに接合移行させた。
【0086】
[0095]PCR及び全エピソームシーケンシングによってP.トリコルヌタムのゼオシン耐性クローンを確認し、HPLCによる分析のために選択した。
【0087】
実施例2.3 (AC_3/Ptref3)
[0096]TKS及びOACの酵素をコードする配列を含むコンストラクトを、P.トリコルヌタムに形質転換した。
【0088】
[0097]5’から3’までを含むコンストラクト(Ptref3、配列番号51):TKSをコードする配列(位置1~1155);6Hisタグ(位置1156~1173);T2A自己切断型のペプチドリンカー配列(位置1174~1236);OACをコードする配列(位置1237~1539);及びMycタグ配列(位置1540~1569)を、藻類に対するゼオシン耐性遺伝子及び大腸菌に対するクロラムフェニコール耐性遺伝子及び酵母におけるHis選択を含有する改変pPtGE30プラスミド(Slatteryら 2018)に挿入した。
【0089】
[0098]コンストラクトを、40SRPS8プロモーター(配列番号22)及びFcpAターミネーター(配列番号54)に作動可能に連結させた。
【0090】
[0099]PtGE30エピソーム性ベクターを、大腸菌からP.トリコルヌタムに接合移行させた。
【0091】
[00100]PCR及び全エピソームシーケンシングによってP.トリコルヌタムのゼオシン耐性クローンを確認し、HPLCによる分析のために選択した。
【0092】
実施例2.4 (AC_7/Ptref7)
[00101]TKS及びOACの酵素をコードする配列を含むコンストラクトを、P.トリコルヌタムに形質転換した。
【0093】
[00102]5’から3’までを含むコンストラクト(Ptref7、配列番号52):YFPレポーター配列(位置1~753);グリシンコドン(位置754~756);TKSをコードする配列(位置757~1911);3(GGGGS)ペプチドリンカー配列(位置1912~1956);OACをコードする配列(位置1957~2259);及びMycタグ配列(位置2260~2289)を、藻類に対するゼオシン耐性遺伝子及び大腸菌に対するクロラムフェニコール耐性遺伝子及び酵母におけるHis選択を含有する改変pPtGE30プラスミド(Slatteryら 2018)に挿入した。
【0094】
[00103]コンストラクトを、40SRPS8プロモーター(配列番号22)及びFcpAターミネーター(配列番号54)に作動可能に連結させた。
【0095】
[00104]PtGE30エピソーム性ベクターを、大腸菌からP.トリコルヌタムに接合移行させた。
【0096】
[00105]PCR及び全エピソームシーケンシングによってP.トリコルヌタムのゼオシン耐性クローンを確認し、HPLCによる分析のために選択した。
【0097】
実施例2.5
[00106]HPLC曲線により、TKS及びOACの導入遺伝子を含むコンストラクトPtref1(
図5A)、Ptref2(
図5B)、Ptref3(
図5C)及びPtref7(
図5D)で形質転換したP.トリコルヌタムのクローン中に、野生型の対照(
図5E)と比較して、CBD、THC及び他のカンナビノイド類の存在が示された。カンナビノイド生合成経路を完成させるためには、APT及びCBDAS/THCASを含む追加の外来性の酵素を微生物に形質転換することが必要であると考えられていたため、本結果は予想外であった。
【0098】
[00107]各試料におけるCBDの量を、HPLCによって検出されたCBDに対する標準曲線(
図4B)に基づいて計算し、表2に示す。
[00108]
【0099】
【0100】
[00109]UPLCによる分析により、コンストラクトPtref1(
図7A)及びPtref2(
図7B)で形質転換したP.トリコルヌタムのクローン中に、野生型の対照(
図7C)と比較して、CBD及びTHCの存在がさらに示された。
【0101】
[00110]これらの結果により、微細藻類は、TKS及びOACの酵素をコードする遺伝子のみで形質転換した場合にカンナビノイド類を生成できることが示され、これにより、微細藻類は、基質としてオリベトール酸(OA)及び/又は誘導体を利用する酵素並びにCBD及び他のカンナビノイド類を合成できる酵素を有する可能性があることが示される。
【0102】
実施例3
[00111]ベクターの構築及び緑藻植物コナミドリムシの形質転換。
実施例3.1 プラスミドの増殖及び大腸菌からの抽出
[00112]コナミドリムシへの形質転換のための合成コンストラクトを、まずデフォルトベクター(KanR、高コピー)に挿入し、エレクトロポレーションによって大腸菌に形質転換した。形質転換した大腸菌を増殖させてコンストラクトを含有するプラスミドを増やした。コロニーPCRによって陽性大腸菌を確認した。次いでプラスミドを抽出し、pChlamy3へのギブソン・アセンブリのために調製した。pChlamy3は、強力なハイブリッドプロモーターのHSP70-RbcS2及びRbcS2のイントロン1を、クローニング部位の前に含有している。
【0103】
実施例3.2 ギブソン・アセンブリ及び大腸菌における形質転換
[00113]アセンブルされたpChlamy3ベクターを、熱ショックによる大腸菌の形質転換のために使用した。陽性コロニーをアンピシリンプレート上で増殖させ、コロニーPCRによって確認した。次いで、形質転換した大腸菌を液体培地LB-amp100中で増殖させて、抽出及び精製の前にベクターを増やした(Biobasic社、ミニプレップキット)。3時間の直線化(ScaIでの消化)後、直線化したベクターをアガロースゲル1%上で確認し、精製した(Biobasic社、PCRクリーンアップキット)。精製したベクターを、コナミドリムシ細胞の形質転換のために使用した。
【0104】
実施例3.3 エレクトロポレーションによるコナミドリムシの形質転換
[00114]細胞は、50μmol光子m-2s-1の強度の適度かつ連続的な白色蛍光下で、50%の相対湿度(Rh)を有する振とうフラスコ内又は寒天プレート上のトリス-アセテートホスフェート(TAP)培地中で、混合栄養的に25℃で培養した。
【0105】
[00115]エレクトロポレーションを、以前に記載された通りに(Shimogawaraら 1998;Wittkopp 2018;Wangら 2019)、わずかな改変を加えて、形質転換のために実施した。コナミドリムシ細胞を、Bio-Rad社のジーンパルサーエクセル(Genepulser Xcell)(商標)エレクトロポレーション装置及び4mmのキュベットを使用して、以下のパラメータ:電圧 0.5kV;電気容量 50μF;抵抗 800Ωの下で、形質転換した。
【0106】
[00116]簡潔に言えば、液体状態の細胞を、125mLのエルレンマイヤーフラスコ内の30mLのTAP培養培地中で、最初のOD750nmは0.1(1×105細胞/mL)で、穏やかに振とう(100rpm)させながら、最終的なOD750nmが0.7(7×106細胞/mL)になるまで増殖させた。細胞を、7000×gでの5分間の遠心分離によって回収し、次いで、沈殿物を、5mLの藻類用のマックスエフィシエンシー(Max Efficiency)(商標)形質転換試薬(Invitrogen社、カタログ番号#A24229)中に再懸濁することによって3回洗浄し、回収ステップと同じ条件で遠心分離した。試料を氷上で10分間インキュベートした後、エレクトロポレーションを、250μLのコナミドリムシ細胞及び500ngの直鎖化した精製プラスミドを使用して、電気パルスを加えることによって実施した。トランスジェニック株を、5mLの、40mMのスクロースを補ったTAP液体培地(TAP/スクロース)中に再懸濁し、次いで、25℃で穏やかに振とう(100rpm)させながら、連続光下で22時間インキュベートした。インキュベーション後、形質転換した細胞を、7000×gでの5分間の遠心分離により回収し、250μlのマックスエフィシエンシー中に再懸濁した。次いで、ハイグロマイシン(10μg/mL)を補ったTAP寒天培地上に広げ、グロースチャンバー内でおよそ5~7日間インキュベートした。
【0107】
[00117]単一のクローンが寒天ペトリ皿上に出現したら、各プレート上の形質転換体の総数をOpenCFUソフトウェアを使用して数えて、形質転換効率を決定した。
実施例3.3 トランスジェックコンストラクト及びHPLC分析
[00118]TKS及びOACの酵素をコードする配列を含むコンストラクトを、コナミドリムシに形質転換した。5’から3’までを含むコンストラクト(G1C1、配列番号57):TKSをコードする配列(位置1~1155);FMDV2A自己切断型のペプチドリンカー配列(位置1156~1227);及びOACをコードする配列(位置1228~1530)をpChlamy3プラスミドに挿入した。コンストラクトを、HSP70A-RbcS2ハイブリッドプロモーター(配列番号55)及びRbcS2ターミネーター(配列番号56)に作動可能に連結させた。ベクターを、エレクトロポレーションによって、コナミドリムシ株C-137にトランスフェクトした。
【0108】
[00119]陽性の形質転換体をハイグロマイシン耐性及びPCRによって選択し、TAP培地中で増殖させた後、UPLCによる分析のために回収及び抽出した。220nmでのUPLC分析により、カンナビノイド標準物質を含む対照試料の25.406分でのカンナビノール(CBN)(
図6B)に相当する、25.023分でのピークの存在が明らかになった(
図6A)。カンナビノイド標準物質を含む対照試料(
図6B)は、68.240においてTHCAのピーク、31.587分においてTHCのピーク、25.406分においてCBNのピーク、20.130分においてCBGAのピーク、16.292分においてCBDAのピーク、及び14.628分においてCBDのピークを示す。
【0109】
[00120]本開示を、好ましい実施例であると現時点で考えられるものに関して記載してきたが、本開示は開示される実施例に限定されるものではないと理解すべきである。それとは反対に、本開示は、添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲内に含まれる種々の改変及び等価な配置に及ぶものとする。
【0110】
[00121]すべての公表文献、特許及び特許出願は、個々の公表文献、特許又は特許出願が参照によりその全体が組み込まれていると具体的且つ個別に示される場合と同程度に、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれている。
【0111】
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【0112】
〔関連出願の相互参照〕
[0001]本出願は、2019年10月29日出願の米国仮特許出願第62/927,321号の利益及びそれからの優先権を主張する。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-05-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】