(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-11
(54)【発明の名称】がん診断
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20221228BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20221228BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221228BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
G01N33/574 A
C12Q1/04
A61K45/00
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022524045
(86)(22)【出願日】2020-10-26
(85)【翻訳文提出日】2022-06-17
(86)【国際出願番号】 AU2020051155
(87)【国際公開番号】W WO2021077181
(87)【国際公開日】2021-04-29
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】504200892
【氏名又は名称】ザ・カウンシル・オヴ・ザ・クイーンズランド・インスティテュート・オヴ・メディカル・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ロブ, リチャード
(72)【発明者】
【氏名】メラー, アンドレアス
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QS10
4B063QS12
4C084AA17
4C084NA05
4C084NA06
4C084ZB261
4C084ZB262
(57)【要約】
本開示は、がんの分野に関する。より詳細には、本発明は、がんタイプを決定することを含む、がんを診断する方法及び処置する方法に関する。これらの方法は、対象のエクソソームサンプル中におけるマーカーの検出を伴う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象のがん又はがんの再発を診断する方法であって、前記対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルを決定するステップを含み、前記マーカーが、VCAN、NID1、PTX3、THBS1、APOE、PRSS23、HAPLN3、COL4A1、CTGF、COL4A2、CPD、CCBE1、SPOCK1、AIMP1、及びBGN、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、前記1種又は複数種のマーカーの発現レベルが、前記がんの診断若しくは再発を示すか、又は前記がんの診断若しくは再発と相関する、方法。
【請求項2】
前記がんと診断された前記対象のがんタイプを決定する更なるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
がんを有する対象のがんタイプを決定する方法であって、前記対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルを決定するステップを含み、前記マーカーが、VCAN、NID1、PTX3、THBS1、APOE、PRSS23、HAPLN3、COL4A1、CTGF、COL4A2、CPD、CCBE1、SPOCK1、AIMP1、BGN、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、前記1種又は複数種のマーカーの発現レベルが、前記がんタイプを示すか、又は前記がんタイプと相関する、方法。
【請求項4】
前記マーカーが、VCAN、NID1、PTX3、THBS1、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
対象のがんの攻撃性を決定する方法であって、前記対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルを決定するステップを含み、前記マーカーが、APOE、PRSS23、VCAN、HAPLN3、COL4A1、NID1、CTGF、COL4A2、CPD、CCBE1、PTX3、SPOCK1、AIMP1、THBS1、BGN、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、前記1種又は複数種のマーカーの発現レベルが、前記がんの攻撃性のレベルを示すか、又は前記がんの攻撃性のレベルと相関する、方法。
【請求項6】
対象のがんの予後を決定する方法であって、前記対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルを決定するステップを含み、前記マーカーが、VCAN、NID1、PTX3、THBS1、APOE、PRSS23、HAPLN3、COL4A1、CTGF、COL4A2、CPD、CCBE1、SPOCK1、AIMP1、及びBGN、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、前記1種又は複数種のマーカーの発現レベルが、前記がんの良くない予後若しくはより良い予後を示すか、又は前記がんの良くない予後若しくはより良い予後と相関する、方法。
【請求項7】
前記1種又は複数種のマーカーの相対的に低いか又は変化していない発現レベルが、より良い予後及び/若しくは低攻撃性のがんを示すか、又はより良い予後及び/若しくは低攻撃性のがんと相関する;並びに/又は、前記1種又は複数種のマーカーの相対的に高い発現レベルが、良くない予後及び/若しくは高攻撃性のがんを示すか、又は良くない予後及び/若しくは高攻撃性のがんと相関する、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記対象を、(i)高攻撃性のがん若しくは低攻撃性のがんを有すると診断する、及び/又は(ii)予後が良くない若しくは予後がより良いと診断する更なるステップを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
対象の抗がん処置に対するがんの反応性を予測する及び/又は決定する方法であって、前記対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルを決定するステップを含み、前記マーカーが、VCAN、NID1、PTX3、THBS1、APOE、PRSS23、HAPLN3、COL4A1、CTGF、COL4A2、CPD、CCBE1、SPOCK1、AIMP1、及びBGN、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、前記1種又は複数種のマーカーの発現レベルの変化又は調節が、前記抗がん処置に対する前記がんの反応性の相対的な増加若しくは減少を示すか、又は前記抗がん処置に対する前記がんの反応性の相対的な増加若しくは減少と相関する、方法。
【請求項10】
前記対象の前記がんを処置する更なるステップを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
対象のがんを処置する方法であって、前記対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルを決定し、前記決定に基づいて、抗がん処置を開始するか、継続するか、変更するか、又は中止するステップを含み、前記マーカーが、VCAN、NID1、PTX3、THBS1、APOE、PRSS23、HAPLN3、COL4A1、CTGF、COL4A2、CPD、CCBE1、SPOCK1、AIMP1、及びBGN、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、方法。
【請求項12】
前記がんと診断された前記対象のがんタイプを決定する更なるステップを含む、請求項5~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記抗がん処置が、前記対象への前記1種又は複数種のマーカーの発現及び/又は活性を減少させる抗がん剤の治療上有効な量の投与を含む、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記対象から前記エクソソームサンプルを得るステップを更に含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記エクソソームサンプル中における前記1種又は複数種のマーカーの発現レベルと、前記1種又は複数種のそれぞれのマーカーの基準エクソソーム発現レベルとを比較するステップを更に含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記がん及び/又はがんタイプが、NSCLC及びSCLC等の肺がん(例えば小細胞肺がん)、乳がん、結腸直腸がん、前立腺がん、胃がん、黒色腫等の皮膚がん、多形性膠芽腫(GBM)等の脳がん、卵巣がん、食道がん、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
(a)VCAN、NID1、PTX3、THBS1、APOE、PRSS23、HAPLN3、COL4A1、CTGF、COL4A2、CPD、CCBE1、SPOCK1、AIMP1、BGN、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1種又は複数種のマーカーを発現する細胞と、候補の薬剤とを接触させるステップと;
(b)前記候補の薬剤が、前記1種又は複数種のマーカーの発現及び/又は活性を調節するかどうかを決定するステップと
を含む、対象のがんの処置における使用のための薬剤を同定するか又は製造する方法。
【請求項18】
前記候補の薬剤が、前記マーカーの発現及び/又は活性を、少なくとも部分的に減少させるか、除去するか、抑制するか、又は阻害する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記1種又は複数種のマーカーが、VCAN、NID1、PTX3、THBS1、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項5~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
請求項11~16のいずれか一項に記載の方法に従う使用のための、請求項17~19のいずれか一項に記載の方法により製造された薬剤。
【請求項21】
がんを有するか又はがんを有すると疑われる対象からのエクソソームサンプルと、VCAN、NID1、PTX3、及びTHBS1のうちの1つ又は複数の発現レベルを決定するための試薬とを含む組成物。
【請求項22】
前記エクソソームサンプルが、単一の組成物中に、VCAN、NID1、PTX3、及びTHBS1のそれぞれのレベルを決定するための試薬を含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記エクソソームサンプルが、別々の組成物中に、VCAN、NID1、PTX3、及びTHBS1のそれぞれのレベルを決定するための試薬を含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項24】
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10種、又はより多くの特異的結合メンバーであって、これらのそれぞれが、VCAN、NID1、PTX3、THBS1、APOE、PRSS23、HAPLN3、COL4A1、CTGF、COL4A2、CPD、CCBE1、SPOCK1、AIMP1、及びBGNからなる群から選択されるマーカーに選択的に結合する、特異的結合メンバーと、前記1種若しくは複数種の特異的結合メンバーを検出するための1種若しくは複数種の試薬、又は前記特異的結合メンバー及び前記マーカーにより形成された複合体の形成を検出するための及び/若しくは定量するための1種若しくは複数種の試薬とを含む診断キット又は検査デバイス。
【請求項25】
対象のがん又はがんの再発を診断する方法における使用のための請求項24に記載の診断キット又は検査デバイス。
【請求項26】
前記マーカーが、VCAN、NID1、PTX3、及びTHBS1を含む、請求項24又は25に記載の診断キット又は検査デバイス。
【請求項27】
対象が化学療法剤による処置に対して感受性であるかどうかを決定するためのマーカーとしての、VCAN、NID1、PTX3、THBS1、APOE、PRSS23、HAPLN3、COL4A1、CTGF、COL4A2、CPD、CCBE1、SPOCK1、AIMP1、及びBGNのうちの1つ又は複数の使用であって、任意選択的に、前記使用が、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法におけるマーカーとしての使用である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願〕
本出願は、2019年10月24日に出願された豪州特許出願第2019904005号からの優先権を主張しており、この内容及び構成要素は、全ての目的のために、参照により本明細書に組み込まれる。
〔発明の分野〕
本出願は、がんに関する。より詳細には、本発明は、がんタイプを決定することを含む、がんを診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スクリーニング及び治療の進歩にもかかわらず、世界のがんの負担は絶えず増えており、男性では3人のうち1人及び女性では4人のうちの1人が、その生涯においてがんを発症する。更に、男性では8人のうち1人及び女性では11人のうち1人が、がんの処置不能な進行により死亡しており、そのため、がんは、世界での主要な死因の1つとなっている。がんによる死亡率を低下させるために、早期に患者を特定し、新規の治療法を開発するという、まだ満たされていない重要な臨床上の必要性が存在している。ほとんどの局所性がんは手術するだけで治癒され得るので、がんの早期検出が重要である。このため、血液検査等の低侵襲サンプリングから患者のがんを診断する、改善された方法が必要とされている。がんの血液検査は、多すぎる偽陽性及び偽陰性を回避するために、定期的な集団スクリーニングとして実施されるには高感度且つ特異的であるべきである。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、対象のがん(特定のがんタイプを含む)の診断マーカーとしての1種又は複数種のエクソソームタンパク質の発現レベルを決定することに広く関する。一部の態様では、本発明はまた、処置の選択及び/又は意思決定に情報を与えるためにそのようなエクソソームタンパク質を使用するがんの予後予測方法及び処置にも広く関する。
【0004】
第1の態様では、本発明は、対象のがん又はがんの再発を診断する方法であって、対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルを決定するステップを含み、このマーカーが、アポリポタンパク質E、セリンプロテアーゼ23、バーシカンコアタンパク質(versican core protein)、ヒアルロナン及びプロテオグリカンリンクタンパク質3、IV型コラーゲンアルファ1鎖、ナイドジェン-1、結合組織増殖因子、IV型コラーゲンアルファ2鎖、カルボキシペプチダーゼD、コラーゲン及びカルシウム結合EGFドメイン含有タンパク質1、ペントラキシン3、テスティカン-1(testican-1)、アミノアシルtRNAシンターゼ複合体相互作用多機能性タンパク質1(aminoacyl tRNA synthase complex-interacting multifunctional protein 1)、トロンボスポンジン-1、ビグリカン、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、この1種又は複数種のマーカーの発現レベルが、がんの診断若しくは再発を示すか、又はがんの診断若しくは再発と相関する、方法を提供する。
【0005】
一部の実施形態では、本態様の方法は、がんと診断された対象のがんタイプを決定するステップを更に含む。
【0006】
一部の実施形態では、1種又は複数種のマーカーの相対的に高い発現レベルは、対象のがん又はがんの再発の診断である。
【0007】
第2の態様では、本発明は、がんを有する対象のがんタイプを決定する方法であって、対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルを決定するステップを含み、このマーカーが、アポリポタンパク質E、セリンプロテアーゼ23、バーシカンコアタンパク質、ヒアルロナン及びプロテオグリカンリンクタンパク質3、IV型コラーゲンアルファ1鎖、ナイドジェン-1、結合組織増殖因子、IV型コラーゲンアルファ2鎖、カルボキシペプチダーゼD、コラーゲン及びカルシウム結合EGFドメイン含有タンパク質1、ペントラキシン3、テスティカン-1、アミノアシルtRNAシンターゼ複合体相互作用多機能性タンパク質1、トロンボスポンジン-1、ビグリカン、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、この1種又は複数種のマーカーの発現レベルが、がんタイプを示すか、又はがんタイプと相関する、方法に関する。
【0008】
第1及び第2の態様の方法に関して、1種又は複数種のマーカーが、バーシカンコアタンパク質、ナイドジェン-1、ペントラキシン3、トロンボスポンジン-1、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から好適には選択される。特定の一実施形態では、1種又は複数種のマーカーが、バーシカンコアタンパク質、ナイドジェン-1、ペントラキシン3、及びトロンボスポンジン-1を含む。
【0009】
第3の態様では、本発明は、対象のがんの攻撃性(aggressiveness)を決定する方法であって、対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルを決定するステップを含み、このマーカーが、アポリポタンパク質E、セリンプロテアーゼ23、バーシカンコアタンパク質、ヒアルロナン及びプロテオグリカンリンクタンパク質3、IV型コラーゲンアルファ1鎖、ナイドジェン-1、結合組織増殖因子、IV型コラーゲンアルファ2鎖、カルボキシペプチダーゼD、コラーゲン及びカルシウム結合EGFドメイン含有タンパク質1、ペントラキシン3、テスティカン-1、アミノアシルtRNAシンターゼ複合体相互作用多機能性タンパク質1、トロンボスポンジン-1、ビグリカン、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、この1種又は複数種のマーカーの発現レベルが、がんの攻撃性のレベルを示すか、又はがんの攻撃性のレベルと相関する、方法に属する。
【0010】
第4の態様では、本発明は、対象のがんの予後を決定する方法であって、対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルを決定するステップを含み、このマーカーが、アポリポタンパク質E、セリンプロテアーゼ23、バーシカンコアタンパク質、ヒアルロナン及びプロテオグリカンリンクタンパク質3、IV型コラーゲンアルファ1鎖、ナイドジェン-1、結合組織増殖因子、IV型コラーゲンアルファ2鎖、カルボキシペプチダーゼD、コラーゲン及びカルシウム結合EGFドメイン含有タンパク質1、ペントラキシン3、テスティカン-1、アミノアシルtRNAシンターゼ複合体相互作用多機能性タンパク質1、トロンボスポンジン-1、ビグリカン、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、この1種又は複数種のマーカーの発現レベルが、前記がんの良くない予後(less favourable prognosis)若しくはより良い予後(more favourable prognosis)を示すか、又は前記がんの良くない予後若しくはより良い予後と相関する、方法を提供する。
【0011】
前述した2つの態様の特定の実施形態では、1種又は複数種のマーカーの相対的に低い発現レベルは、より良い予後及び/若しくは低攻撃性のがんを示すか、又はより良い予後及び/若しくは低攻撃性のがんと相関する;並びに/又は、1種又は複数種のマーカーの相対的に高い発現レベルは、良くない予後及び/若しくは高攻撃性のがんを示すか、又は良くない予後及び/若しくは高攻撃性のがんと相関する。
【0012】
上記態様のある特定の実施形態では、本方法は、前記対象を、(i)高攻撃性のがん若しくは低攻撃性のがんを有すると診断する、及び/又は(ii)予後が良くない若しくは予後がより良いと診断するステップを更に含む。
【0013】
第5の態様では、本発明は、対象の抗がん処置に対するがんの反応性を予測する及び/又は決定する方法であって、対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルを決定するステップを含み、このマーカーが、アポリポタンパク質E、セリンプロテアーゼ23、バーシカンコアタンパク質、ヒアルロナン及びプロテオグリカンリンクタンパク質3、IV型コラーゲンアルファ1鎖、ナイドジェン-1、結合組織増殖因子、IV型コラーゲンアルファ2鎖、カルボキシペプチダーゼD、コラーゲン及びカルシウム結合EGFドメイン含有タンパク質1、ペントラキシン3、テスティカン-1、アミノアシルtRNAシンターゼ複合体相互作用多機能性タンパク質1、トロンボスポンジン-1、ビグリカン、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、この1種又は複数種のマーカーの発現レベルの変化又は調節が、抗がん処置に対するがんの反応性の相対的な増加若しくは減少を示すか、又は抗がん処置に対するがんの反応性の相対的な増加若しくは減少と相関する、方法に属する。
【0014】
前述の態様の方法は、対象のがんを処置する更なるステップを好適には含む。
【0015】
第6の態様では、本発明は、対象のがんを処置する方法であって、対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルを決定し、行なわれた決定に基づいて、抗がん処置を開始するか、継続するか、変更するか、又は中止するステップを含む方法に関し、上記マーカーが、アポリポタンパク質E、セリンプロテアーゼ23、バーシカンコアタンパク質、ヒアルロナン及びプロテオグリカンリンクタンパク質3、IV型コラーゲンアルファ1鎖、ナイドジェン-1、結合組織増殖因子、IV型コラーゲンアルファ2鎖、カルボキシペプチダーゼD、コラーゲン及びカルシウム結合EGFドメイン含有タンパク質1、ペントラキシン3、テスティカン-1、アミノアシルtRNAシンターゼ複合体相互作用多機能性タンパク質1、トロンボスポンジン-1、ビグリカン、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0016】
ある特定の実施形態では、第3、第4、第5、及び第6の態様の方法は、がんと診断された対象のがんタイプを決定する更なるステップを含む。
【0017】
第5及び第6の態様に関して、抗がん処置は、対象への1種又は複数種のマーカーの発現及び/又は活性を減少させる抗がん剤の治療上有効な量の投与を好適には含む。
【0018】
第5及び第6の態様に関して、本方法は、対象に抗がん処置又は抗がん剤の治療上有効な量を投与する更なるステップを含み得る。
【0019】
前述の態様の実施形態では、本方法は、対象からエクソソームサンプルを得るステップを更に含む。
【0020】
上記態様の特定の実施形態では、本方法は、エクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルと、この1種又は複数種のそれぞれのマーカーの基準エクソソーム発現レベルとを比較するステップを更に含む。
【0021】
好適には、上記態様のがん及び/又はがんタイプが、NSCLC及びSCLC等の肺がん、乳がん、結腸直腸がん、前立腺がん、胃がん、黒色腫等の皮膚がん、多形性膠芽腫(GBM)等の脳がん、卵巣がん、食道がん、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0022】
第7の態様では、本発明は、
(a)アポリポタンパク質E、セリンプロテアーゼ23、バーシカンコアタンパク質、ヒアルロナン及びプロテオグリカンリンクタンパク質3、IV型コラーゲンアルファ1鎖、ナイドジェン-1、結合組織増殖因子、IV型コラーゲンアルファ2鎖、カルボキシペプチダーゼD、コラーゲン及びカルシウム結合EGFドメイン含有タンパク質1、ペントラキシン3、テスティカン-1、アミノアシルtRNAシンターゼ複合体相互作用多機能性タンパク質1、トロンボスポンジン-1、ビグリカン、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1種又は複数種のマーカーを発現する細胞と、候補の薬剤とを接触させるステップと;
(b)候補の薬剤が、1種又は複数種のマーカーの発現及び/又は活性を調節するかどうかを決定するステップと
を含む、対象のがんの処置における使用のための薬剤を同定するか又は製造する方法に関する。
【0023】
一部の実施形態では、候補の薬剤が、マーカーの発現及び/又は活性を、少なくとも部分的に減少させるか、除去するか、抑制するか、又は阻害する。
【0024】
好適には、第3、第4、第5、第6、及び第7の態様に関して、1種又は複数種のマーカーが、バーシカンコアタンパク質、ナイドジェン-1、ペントラキシン3、トロンボスポンジン-1、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0025】
第3、第4、第5、第6、及び第7の態様の一部の実施形態では、本方法は、対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種の更なるマーカー(例えばトロンボスポンジン-1)の発現レベルを決定するステップを更に含む。
【0026】
第8の態様では、本発明は、第5又は第6の態様の方法に従う使用のための、第7の態様の方法により同定されたか又は製造された薬剤を提供する。
【0027】
好適には、上記態様の対象は、哺乳動物であり、好ましくはヒトである。
【0028】
別の態様では、本発明は、がんを有するか又はがんを有すると疑われる対象からのエクソソームサンプルと、VCAN、NID1、PTX3、及びTHBS1のうちの1つ又は複数の発現レベルを決定するための試薬とを含む組成物を提供する。
【0029】
一部の実施形態では、エクソソームサンプルが、単一の組成物中に、VCAN、NID1、PTX3、及びTHBS1のそれぞれのレベルを決定するための試薬を含む。一部の代替実施形態では、エクソソームサンプルが、別々の組成物中に、VCAN、NID1、PTX3、及びTHBS1のそれぞれのレベルを決定するための試薬を含む。
【0030】
更に別の態様では、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10種、又はより多くの特異的結合メンバーであって、これらのそれぞれが、APOE、PRSS23、VCAN、HAPLN3、COL4A1、NID1、CTGF、COL4A2、CPD、CCBE1、PTX3、SPOCK1、AIMP1、THBS1、及びBGNからなる群から選択されるマーカーに選択的に結合する、特異的結合メンバーと、前記1種若しくは複数種の特異的結合メンバーを検出するための1種若しくは複数種の試薬、又は前記特異的結合メンバー及び前記マーカーにより形成された複合体の形成を検出するための及び/若しくは定量するための1種若しくは複数種の試薬とを含む診断キット又は検査デバイス。
【0031】
一部の実施形態では、診断キット又は検査デバイスは、対象のがん若しくはがんの再発を診断する方法において使用されるか、又は対象のがんタイプを決定するために使用される。
【0032】
一部の実施形態では、マーカーが、VCAN、NID1、PTX3、及びTHBS1を含む。
【0033】
更に別の態様では、本発明は、対象が化学療法剤による処置に対して感受性であるかどうかを決定するためのマーカーとしての、APOE、PRSS23、VCAN、HAPLN3、COL4A1、NID1、CTGF、COL4A2、CPD、CCBE1、PTX3、SPOCK1、AIMP1、THBS1、及びBGNのうちの1つ又は複数の使用であって、任意選択的に、使用が、上記で説明されているか又は本明細書の他の箇所で説明されている態様のうちのいずれか1つに係る方法におけるマーカーとしての使用である、使用を提供する。
【0034】
別途文脈が求めない限り、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprising)」という用語、又は類似の用語は、要素又は特徴の列挙されたリストが、これらの述べられたか又は列挙された要素のみを含むのではなく、列挙されていないか又は述べられていない他の要素又は特徴を含み得るような、非排他的包含を意味することが意図されている。
【0035】
「a」及び「an」という不定冠詞は、本明細書では、単数又は複数の要素又は特徴を指すか又は包含するために使用されており、「1つ」又は「単一」の要素又は特徴を意味するか又は定義すると解釈されるべきではない。例えば、「1つ(a)」細胞は、1つの細胞、1つ又は複数の細胞、及び複数の細胞を含む。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】細胞由来エクソソームのタンパク質組成に対する発癌性誘発変化。(A)単離されたエクソソームの形態を、透過型電子顕微鏡を使用して評価した。正常なHBEC由来エクソソーム及び形質転換されたHBEC由来エクソソームの画像(サイズバー200nm)。(B)HBECから単離されたエクソソームの調整可能抵抗パルスセンシング(TRPS)を使用するナノ粒子分析により、エクソソームの大部分が30~150nmのサイズ範囲を有していること、及び形質転換によりエクソソーム分泌が増加しないことが実証される。(C)エクソソームタンパク質HSP70及びCD63の存在と、細胞マーカーカルネキシンの非存在とを示す、HBECからのエクソソームのウエスタンブロット。(D)定量的質量分析により、形質転換されたHBECに由来するエクソソームの細胞外表面で有意に上方制御される15種のタンパク質が同定された(FDR<0.02)。(E)質量分析の結果を、正常なHBEC及び形質転換されたHBECのTHBS1、NID1、PTX3、及びVCANに関してELISAを使用して確認した。(F)NSCLC、GBM、CRC、BCa、PCa、MEL、ECa、及びOVAからの22種の細胞株のエクソソームは、正常なHBECエクソソームの発現レベルに関するTHBS1、NID1、PTX3、及びVCANの発現の明確な増加を示す。
【
図2】発癌性エクソソームシグネチャは、患者血漿中のがんを診断する。(A)がん患者でのTHBS1、NID1、PTX3、及びVCANの発現レベルは、健常対照と比較して増加している。(B)ロジスティック回帰は、AUCが0.96で4種タンパク質エクソソームパネルの優れた診断能力を示す。(C)各がんの診断用エクソソームシグネチャの感度を、95%の固定特異性で評価した。エラーバーは、95%信頼区間を表す。
【
図3-1】ELISAによる(A)THBS1、(B)NID1、(C)PTX3、及び(D)VCAN個々の診断能力の評価は、受信者動作特性(ROC)曲線により評価した場合に、各エクソソームタンパク質は、非小細胞肺がん、膠芽腫、結腸直腸がん、前立腺がん、黒色腫、胃がん、食道がん、及び小細胞肺がんにおいて様々な診断能力を有することを示す。
【
図3-2】ELISAによる(A)THBS1、(B)NID1、(C)PTX3、及び(D)VCAN個々の診断能力の評価は、受信者動作特性(ROC)曲線により評価した場合に、各エクソソームタンパク質は、非小細胞肺がん、膠芽腫、結腸直腸がん、前立腺がん、黒色腫、胃がん、食道がん、及び小細胞肺がんにおいて様々な診断能力を有することを示す。
【
図4】腫瘍ステージによる診断用エクソソームシグネチャの感度。A、診断用エクソソームシグネチャは、95%の特異性で、NSCLC、食道がん、及び胃がんの初期ステージI患者並びに後期ステージII~IV患者を検出し得る。エラーバーは、95%信頼区間を表す。
【
図5】機械学習は、がんタイプの識別に役立ち得る。がんタイプに関して正確に又は不正確に識別された患者の割合は、エクソソームシグネチャが、存在するがんのタイプの識別に役立ち得ることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、腫瘍原性変異で形質転換された正常なヒト気管支上皮細胞(HBEC)からインビトロで上方制御されたと同定されたエクソソームタンパク質が広範囲のがんの正確な診断バイオマーカーであるという驚くべき発見に少なくとも部分的に基づいている。更に、これらのエクソソームマーカーは、がんの進行及び攻撃性並びに患者における抗がん処置に対する反応のバイオマーカーとしても機能し得る。
【0038】
広い形態では、本発明は、対象のエクソソームサンプル中における、
図1に示されているもの等の1種又は複数種のマーカーの発現レベルを決定するか又は測定することにより、対象のがん(がんの再発を含む)を診断するか又は検出する方法に関する。
【0039】
したがって、ある態様では、本発明は、対象のがん又はがんの再発を診断する方法であって、対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルを決定するステップを含み、マーカーが、アポリポタンパク質E(APOE;Uniprot Accession No:P02649)、セリンプロテアーゼ23(PRSS23;Uniprot Accession No:O95084)、バーシカンコアタンパク質(VCAN;Uniprot Accession No:P13611)、ヒアルロナン及びプロテオグリカンリンクタンパク質3(HAPLN3;Uniprot Accession No:Q96S86)、IV型コラーゲンアルファ1鎖(COL4A1;Uniprot Accession No:P02462)、ナイドジェン-1(NID1;Uniprot Accession No:P14543)、結合組織増殖因子(CTGF;Uniprot Accession No:P29279)、IV型コラーゲンアルファ2鎖(COL4A2;Uniprot Accession No:P08572)、カルボキシペプチダーゼD(CPD;Uniprot Accession No:O75976)、コラーゲン及びカルシウム結合EGFドメイン含有タンパク質1(CCBE1;Uniprot Accession No:Q6UXH8)、ペントラキシン3(PTX3;Uniprot Accession No:P26022)、テスティカン-1(SPOCK1;Uniprot Accession No:Q08629)、アミノアシルtRNAシンターゼ複合体相互作用多機能性タンパク質1(AIMP1;Uniprot Accession No:Q12904)、トロンボスポンジン-1(THBS1;Uniprot Accession No:P07996)、ビグリカン(BGN;Uniprot Accession No:P21810)並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、この1種又は複数種のマーカーの発現レベルが、がんの診断若しくは再発を示すか、又はがんの診断若しくは再発と相関する、方法を提供する。これらの表現番号(expression number)で定義されるタンパク質は、典型的には、ヒト野生型アミノ酸配列のものであるが、遺伝子又はタンパク質への言及は、他の哺乳動物配列(例えば哺乳動物ホモログ)を含む場合がある。
【0040】
一部の実施形態では、本態様の方法は、がんと診断された対象のがんタイプを決定するステップを更に含む。
【0041】
関連する態様では、本発明は、がんを有する対象のがんタイプを決定するか又は診断する方法であって、対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルを決定するステップを含み、このマーカーが、アポリポタンパク質E、セリンプロテアーゼ23、バーシカンコアタンパク質、ヒアルロナン及びプロテオグリカンリンクタンパク質3、IV型コラーゲンアルファ1鎖、ナイドジェン-1、結合組織増殖因子、IV型コラーゲンアルファ2鎖、カルボキシペプチダーゼD、コラーゲン及びカルシウム結合EGFドメイン含有タンパク質1、ペントラキシン3、テスティカン-1、アミノアシルtRNAシンターゼ複合体相互作用多機能性タンパク質1、トロンボスポンジン-1、ビグリカン、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、この1種又は複数種のマーカーの発現レベルが、がんタイプを示すか、又はがんタイプと相関する、方法に関する。
【0042】
「診断」、「診断する」、及び「診断の」という用語は、患者が所与の疾患又は状態、例えば、がん又は特定のがんタイプに罹患しているか否かを当業者が推定し得る及び/又は決定し得る方法を指す。当業者は、存在、非存在、量、又は量の変化が状態の存在、重症度、又は非存在を示し得る1種又は複数種の診断指標(例えばエクソソームマーカー)に基づいて、診断を行なうことが多い。また、「診断」という用語は、がん等の特定の疾患の存在若しくは非存在を100%の正確さで決定する能力を指すものではないか、又は所与の経過若しくは転帰が起こる可能性が、診断されていない場合と比べて高いことを指すものでもないことも認識されるだろう。代わりに、当業者は、「診断」という用語が、ある特定の疾患、障害、又は状態、例えば、がん又は特定のがんタイプが対象に存在する可能性が高いことを指すことを理解するだろう。
【0043】
したがって、特定の実施形態では、がん又はがんタイプの陽性診断は、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、若しくは100%(又はこれらの任意の範囲)の確率又は可能性で、このがん又はがんタイプが対象に存在することを示す。この文脈中の「約」という用語は、±2%を指す。
【0044】
本明細書で一般的に使用される場合には、「がん」、「腫瘍」、「悪性の」、及び「悪性」という用語は、腫瘍形成、腫瘍マーカーの発現、腫瘍抑制因子の発現若しくは活性の喪失、及び/又は異常な(aberrant)若しくは異常な(abnormal)細胞表面マーカー発現と関連する1つ又は複数の遺伝子変異又は他の遺伝子変化を含む異常な(aberrant)又は異常な(abnormal)分子表現型を伴うことが多い異常な(aberrant)又は異常な(abnormal)細胞の増殖、分化、及び/又は遊走を特徴とする疾患若しくは状態を指すか、又はこの疾患若しくは状態と関連する細胞若しくは組織を指す。
【0045】
がんは、あらゆる攻撃的な又は潜在的に攻撃的ながん、腫瘍、又は他の悪性腫瘍、例えば、http://www.cancer.gov/cancertopics/alphalistにてNCI Cancer Indexに列挙されているものを含み得、全ての主要ながん形態、例えば、肉腫、癌腫、リンパ腫、白血病、及び芽細胞腫が挙げられるが、これらに限定されない。これらとして、乳がん、肺がん、例えば、肺腺癌及び中皮腫、生殖系のがん、例えば、卵巣がん、子宮頸がん、子宮がん、精巣がん、及び前立腺がん、脳及び神経系のがん、頭頸部がん、消化器系のがん、例えば、結腸癌、結腸直腸がん、食道がん、及び胃がん、肝がん、膀胱がん、腎がん、皮膚がん、例えば、黒色腫及び皮膚癌、血液細胞のがん、例えば、リンパ球のがん及び骨髄単球のがん、内分泌系のがん、例えば、膵がん、副腎がん、及び脳下垂体がん、筋骨格のがん、例えば、骨及び軟部組織のがんが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
特定の実施形態では、本明細書で説明されているがん及び/又はがんタイプは、非小細胞癌(NSCLC)等の肺がん(例えば、扁平上皮癌、腺癌、及び大細胞癌)、小細胞癌(SCLC)、及び中皮腫、乳がん、結腸直腸がん、前立腺がん、胃がん、黒色腫等の皮膚がん、多形性膠芽腫(GBM)等の脳がん、卵巣がん、食道がん、並びにこれらの任意の組み合わせからからなる群から選択される。
【0047】
本明細書で一般的に使用される場合には、「再発」及び「がんの再発」という用語は、改善又は寛解の期間後にがんの徴候及び症状が再び現れることを指す。一部の実施形態では、がんは、がんが検出され得ない期間後に再発したか、又は手術により少なくとも部分的にがんが切除された後に再発したか、又は治療的処置によりがんの増殖が阻害された後に再発した。がんは、元々の(原発性)腫瘍と同じ場所に再発し得るか若しくは戻り得るか、又は例えば転移性再発により身体中の別の場所に再発し得るか若しくは戻り得る。
【0048】
本明細書で使用される場合、「転移」又は「転移性」は、悪性腫瘍細胞又は新生物の、循環系若しくはリンパ系を介した又は自然の体腔を介した、典型的には腫瘍、がん、又は新生物の原発巣から身体中の離れた部位への遊走又は移動、及びその後の1箇所又は複数箇所の新たな位置での1つ又は複数の二次腫瘍又はそのコロニーの発生を指す。「転移」は、転移の結果として形成された二次腫瘍又はコロニーを指し、且つ微小転移並びにリンパ節等の局所転移及び遠位転移も包含する。
【0049】
特定の実施形態では、本態様の方法を、がんのあらゆる微小残存病変を診断するために利用し得る。これに関して、「微小残存病変」という用語は、対象が寛解中であり且つがんの症状又は徴候を典型的には示さない場合に処置の最中又は後に対象中に残存する少数のがん細胞を示す。
【0050】
本明細書で使用される場合、「がんタイプ」という用語は、がんが発生した組織のタイプ(組織学的タイプ)により、又は原発部位、若しくはがんが最初に発生した身体中の位置若しくはがんが由来する細胞の種類、及びがん細胞の外観により決定されたがんのタイプを意味する。
【0051】
興味深いことに、本出願人は、本明細書で説明されている1種又は複数種のエクソソームマーカーの発現プロファイル又はシグネチャを、対象のがんを診断するか又は検出するために使用し得るだけでなく、がんの具体的なタイプ及び/又はサブタイプに診断される際にがんを分類するか又は同定するためにも使用し得ることを決定した。したがって、これらのエクソソームマーカーは、その後に臨床医により使用されて、例えば、対象の診断された特定のがんタイプに特異的ながんの攻撃性、生存予後、処置レジメン、処置への反応等の指標を提供し得る。
【0052】
本明細書で使用される場合、「がんサブタイプ」という用語は、がんタイプの二次分類を意味しており、がんタイプに含まれる。この用語は、がんの分子分類と称され得る。特に、がんサブタイプは、分子変更、がんの生存、明確な臨床的特徴及び病理的特徴、特定の遺伝子発現シグネチャ、及び調節解除されたシグナル伝達経路と関連し得る。
【0053】
がんタイプの決定に関して、これは、下記のうちの1つ又は複数を含み得る:
(a)対象からのエクソソームサンプル等の生体サンプル中における、本明細書で説明されている1種又は複数種のエクソソームマーカーから発現プロファイル又はシグネチャを算出するか又は得るステップ;
(b)対象からの生体サンプルの発現プロファイルと、1種又は複数種の試験がんタイプ又は基準がんタイプに対応する1つ又は複数の基準発現プロファイルとを比較するステップ;及び
(c)生体サンプルの発現プロファイルをがんタイプに割り当てるステップであって、このがんタイプは、対象からの生体サンプルの発現プロファイルと比較して、試験がんタイプの最も近いか又は最も密に合致する基準発現プロファイルに対応する試験がんタイプと同定される、割り当てるステップ。
【0054】
一部の実施形態では、がんの診断又はがんタイプを少なくとも部分的に使用して、対象ががんの処置から利益を得ることになるかどうかを決定する。例として、低攻撃性のがん又はがんタイプと診断された患者は、がんの急速な局所的進行及び/又は転移を患う可能性が低い場合があり、且つ積極的なモニタリング及び/又は治療を免れ得る。
【0055】
別の実施形態では、がんの診断及び/又はがんタイプを少なくとも部分的に使用して、対象の処置戦略を開発する。したがって、特定の実施形態では、前述の態様の診断方法は、対象の診断されたがん及び/又はがんタイプに適切な処置計画と組み合わされている。
【0056】
エクソソームはエンドサイトーシス起源の小さい(即ち、典型的には30~150nm)細胞由来膜小胞であることが、当業者に認識されるだろう。エクソソームは、脂質、核酸、及びタンパク質を含み得、且つ形質膜との融合時に細胞外環境に放出される。一般的に、エクソソームは、マーカータンパク質、例えば、CD63、CD9、HSP70、フロチリン-1、及びTSG101の存在、並びにこの形態及びサイズによって特徴づけられる。
【0057】
本発明の方法に従って、1種又は複数種のエクソソームを含むエクソソームサンプルは、ほとんどの体液を含み得るか、又はほとんどの体液から得ることができ、この体液として血液、血清、血漿、腹水、嚢胞液、胸水、腹膜液、脳脊髄液、涙、尿、唾液、喀痰、乳頭吸引液、リンパ液、呼吸管、腸管、泌尿器管の液体、母乳、内臓系液、又はこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。この目的のために、エクソソームサンプルを、上記に示されているもの等の体液又は生体サンプルから単離するか又は精製して、夾雑タンパク質、リポタンパク質等の除去を容易にし得る。
【0058】
この目的のために、エクソソーム又はエクソソームサンプルを、当該技術分野で既知の任意の手段、例えば、限定されないが、超遠心分離、サイズ排除クロマトグラフィー、エクソソーム沈殿(例えばSystem Biosciences製のExoQuick)、エクソソームの親和性ベースの捕捉(例えば、CD63、CD81、CD82、CD9、Alix、アネキシン、EpCAM、及びRab5に対する抗体による親和性精製)、並びにこれらの任意の組み合わせにより単離し得る。
【0059】
好適には、アポリポタンパク質E、セリンプロテアーゼ23、バーシカンコアタンパク質、ヒアルロナン及びプロテオグリカンリンクタンパク質3、IV型コラーゲンアルファ1鎖、ナイドジェン-1、結合組織増殖因子、IV型コラーゲンアルファ2鎖、カルボキシペプチダーゼD、コラーゲン及びカルシウム結合EGFドメイン含有タンパク質1、ペントラキシン3、テスティカン-1、アミノアシルtRNAシンターゼ複合体相互作用多機能性タンパク質1、トロンボスポンジン-1、並びに/又はビグリカンの1種又は複数種のエクソソームマーカーを、単一のバイオマーカーとして利用し得るか、又はこの1種若しくは複数種のバイオマーカーのうちの2、3、4、5、6、7、8、9、10等、若しくはより多くのいずれかの組み合わせとして(例えば、発現プロファイル若しくはシグネチャとして)利用し得る。
【0060】
特定の一実施形態では、1種又は複数種のマーカーは、バーシカンコアタンパク質、ナイドジェン-1、ペントラキシン3、トロンボスポンジン-1、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から好適には選択される。したがって、特定の一実施形態では、1種又は複数種のマーカーは、バーシカンコアタンパク質、ナイドジェン-1、ペントラキシン3、及びトロンボスポンジン-1を含む。
【0061】
特定の実施形態では、上記態様の方法は、対象の生体サンプル、例えば血液サンプル中における1種又は複数種の更なるマーカー又はバイオマーカーの発現レベルを決定する更なるステップを含む。
【0062】
更なるバイオマーカーは、対象のがんの診断若しくは検出及び/又はがんタイプの決定で利用され得る、当該技術分野で既知の任意のものであり得ることが予想される。例として、更なるバイオマーカーとして、8種の循環タンパク質バイオマーカー(例えば、がん抗原125(CA-125)、癌胎児性抗原(CEA)、がん抗原19-9(CA19-9)、プロラクチン(PRL)、肝細胞増殖因子(HGF)、オステオポンチン(OPN)、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)、及びメタロプロテイナーゼ1の組織インヒビター(TIMP-1))、並びに/又はCancerSEEK試験に関して説明されている循環DNA中における腫瘍特異的変異(例えば、Cohen,Science 2018を参照されたい)のうちの1つ又は複数が挙げられ得る。
【0063】
本明細書で一般的に使用される場合、
図1において上方制御されたと同定された1種又は複数種のエクソソームマーカータンパク質の発現レベルは、別途指定しない限り、前記タンパク質をコードする核酸(例えば、RNA、mRNA、及びcDNA)、このタンパク質自体、又は両方の発現レベルを指し得る。
【0064】
本発明の目的のために、「単離された」は、自然状態から取り出されているか又は別の方法により人為的な操作に供されている物質を意味する。単離された物質は、通常その天然状態で付随する成分を実質的に又は本質的に含んでいなくてもよいし、通常その天然状態で不随する成分と一緒に人為的状態であるように操作されていてもよい。単離された物質は、天然形態であってもよいし、化学合成形態であってもよいし、組み換え形態であってもよい。
【0065】
「タンパク質」は、アミノ酸のポリマーを意味する。アミノ酸は、当該技術分野で十分に理解されているように、天然又は非天然のアミノ酸、D-又はL-アミノ酸であり得る。当業者に認識されるはずであるように、「タンパク質」という用語はまた、その範囲内に、タンパク質のリン酸化形態(即ちリンタンパク質)及び/又はタンパク質のグリコシル化形態(即ち糖タンパク質)も含む。「ペプチド」とは、50個以下のアミノ酸を有するタンパク質のことである。「ポリペプチド」とは、50個超のアミノ酸を有するタンパク質のことである。
【0066】
同様に提供されるのは、タンパク質「バリアント」であり、例えば、本明細書で提供される1種又は複数種のマーカー、例えば、
図1で列挙されたものの天然に存在するバリアント(例えば対立遺伝子バリアント)及びオルソログ又はアイソフォームである。好ましくは、タンパク質バリアントは、本明細書で開示されているか又は当該技術分野で既知の1種又は複数種のマーカーのアミノ酸配列と少なくとも70%若しくは75%の、好ましくは少なくとも80%若しくは85%の、又はより好ましくは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の配列同一性を共有する。この目的のために、列挙されたタンパク質マーカーのタンパク質配列の一例を参照するAccession Numberは、当該技術分野で十分に理解されているように、上記で説明されており、且つ参照により本明細書に組み込まれる。
【0067】
同様に提供されるのは、タンパク質断片であり、アミノ酸配列全体の100%未満を含むペプチド断片を含む。特定の実施形態では、タンパク質断片は、例えば、前記タンパク質の少なくとも10、15、20、25、30 35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1050、1100、1150、及び1200個の連続したアミノ酸を含み得る。
【0068】
本明細書で使用される場合、「遺伝子」とは、1つ又は複数のアミノ酸コードヌクレオチド配列と、1つ又は複数の非コードヌクレオチド配列、例えば、これらに限定されないが、プロモーター及び他の5’非翻訳配列、イントロン、ポリアデニル化配列及び他の3’非翻訳配列とを含み得るゲノムの構造的で遺伝的な単位である核酸のことである。ほとんどの細胞生物では、遺伝子は、二本鎖DNAを含む核酸である。
【0069】
用語「核酸」は、本明細書で使用される場合、一本鎖又は二本鎖のDNA及びRNAを示す。DNAとして、ゲノムDNA及びcDNAが挙げられる。RNAとして、mRNA、RNA、RNAi、siRNA、cRNA、及び自己触媒RNAが挙げられる。核酸はまた、DNA-RNAハイブリッドでもあり得る。核酸は、A、G、C、T、又はU塩基を含むヌクレオチドを典型的には含むヌクレオチド配列を含む。しかしながら、ヌクレオチド配列は、他の塩基、例えば、限定されないが、イノシン、メチルシトシン、メチルイノシン、メチルアデノシン、及び/又はチオウリジンを含み得る。
【0070】
同様に含まれるのは、本明細書で提供される1種又は複数種のマーカーをそれぞれコードする核酸の天然に存在する(例えば対立遺伝子)バリアント及びオルソログ(例えば異なる種に由来するもの)のヌクレオチド配列を含む核酸等の「バリアント」核酸である。好ましくは、核酸バリアントは、本明細書で開示されているヌクレオチド配列と少なくとも70%若しくは75%の、好ましくは少なくとも80%若しくは85%の、又はより好ましくは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の配列同一性を共有する。
【0071】
同様に含まれるのは、核酸断片である。「断片」とは、核酸のセグメント、ドメイン、一部、又は領域のことであり、それぞれヌクレオチド配列の100%未満を構成する。非限定的な例は、増幅産物、又はプライマー、又はプローブである。特定の実施形態では、核酸断片は、例えば、前記核酸の少なくとも10、15、20、25、30 35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、及び7500個の連続したヌクレオチドを含み得る。
【0072】
本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチド」とは、80個以上の連続したヌクレオチドを有する核酸のことであり、「オリゴヌクレオチド」は、80個未満の連続したヌクレオチドを有する。「プローブ」は、一本鎖又は二本鎖のオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドであってもよく、例えば、ノーザンブロッティング又はサザンブロッティングにおいて相補配列を検出する目的で適切に標識されている。「プライマー」は、通常は一本鎖オリゴヌクレオチドであり、好ましくは15~50個の連続したヌクレオチドを有しており、これは、相補核酸「テンプレート」にアニーリングし得、且つDNAポリメラーゼ、例えば、Taqポリメラーゼ、RNA依存性DNAポリメラーゼ、又はSequenase(商標)の作用によりテンプレート依存的な様式で伸長され得る。「テンプレート」核酸とは、核酸増幅に供される核酸のことである。
【0073】
当業者に理解されるように、本明細書で提供される1種又は複数種のマーカーの遺伝子及び/又はタンパク質発現レベルは、コントロールサンプル若しくは基準サンプルでの発現レベルと比較するか又は閾値の発現レベルと比較した場合に、相対的に(i)高いか、増加しているか、若しくは大きいか;又は(ii)低いか、低下しているか、若しくは小さい場合がある。一部の実施形態では、発現レベルが基準集団の平均値及び/又は中央値の発現レベルを超えている場合には、この発現レベルを、より高いか、増加しているか、又はより大きいと分類し得る。一部の実施形態では、発現レベルが基準集団の平均値及び/又は中央値の発現レベルと比べて低い場合には、この発現レベルを、より低い、低下している、又は小さいと分類し得る。これに関して、基準集団は、発現レベルを決定する前記哺乳動物と同一のがんのタイプ、サブグループ、ステージ、及び/又はグレードを有する対象の一群であり得る。他の実施形態では、基準集団は、がんを患っていないか、又はがんを有していないことが立証されている健常対照の一群であり得る。更なる実施形態では、コントロールサンプルは、がん又はがんタイプの診断のための検査を受ける前の、問題となっている対象から得られる。
【0074】
「より高い」、「増加している」、及び「より大きい」等の用語は、本明細書で使用される場合、コントロール又は基準のレベル又は量と比較した場合での、例えばエクソソームサンプル中における核酸及び/又はタンパク質の量又はレベルの上昇を指す。1種又は複数種のマーカーの核酸及び/又はタンパク質の発現レベルは、相対的であってもよいし、絶対的であってもよい。一部の実施形態では、1種又は複数種のマーカーの遺伝子及び/又はタンパク質発現は、その発現のレベルが、コントロール又は基準のレベル又は量でのそれぞれの又は対応する遺伝子及び/又はタンパク質の遺伝子及び/又はタンパク質発現のレベルよりも約0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、150%、200%、300%、400%、又は少なくとも約500%高い場合には、より高いか、増加しているか、又はより大きい。
【0075】
「より低い」、「小さい」、及び「低下している」という用語は、本明細書で使用される場合、コントロール又は基準のレベル又は量と比較した場合での、例えばエクソソームサンプル中における核酸及び/又はタンパク質の量又はレベルの低下を指す。本明細書で提供される1種又は複数種のマーカーの核酸及び/又はタンパク質の発現レベルは、相対的であってもよいし、絶対的であってもよい。一部の実施形態では、1種又は複数種のマーカーの遺伝子及び/又はタンパク質発現は、その発現のレベルが、コントロール又は基準のレベル又は量でのそれぞれの又は対応する遺伝子及び/又はタンパク質の遺伝子及び/又はタンパク質発現のレベル又は量の約95%、90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、若しくは10%未満であるか、又は更には約5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.01%、0.001%、若しくは0.0001%未満である場合には、より低いか、小さいか、又は低下している。
【0076】
「コントロールサンプル」という用語は、典型的には、がんを有していない(健康な)非罹患個体からの生体サンプル、例えばエクソソームサンプルを指す。一部の実施形態では、コントロールサンプルは、がんを有していないことが分かっている対象由来であってもよいし、この対象から以前の時点で得られたサンプルであってもよい。或いは、コントロールサンプルは、がんが寛解している対象由来であってもよい。コントロールサンプルは、プールされたサンプルであってもよいし、平均サンプルであってもよいし、個別サンプルであってもよい。内部コントロールとは、検査する同一の生体サンプル(例えばエクソソームサンプル)からのマーカーのことである。
【0077】
本明細書で使用される場合、遺伝子及び/又はタンパク質発現レベルは、その絶対量であってもよいし相対量であってもよい。したがって、一部の実施形態では、本明細書で提供される1種又は複数種のマーカーの遺伝子及び/又はタンパク質発現レベルと、対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種の「ハウスキーピング」遺伝子及び/又はタンパク質の遺伝子及び/又はタンパク質発現のレベル等の発現のコントールレベルとを比較する。
【0078】
更なる実施形態では、1種又は複数種のマーカーの遺伝子及び/又はタンパク質発現レベルと、エクソソームサンプル中における遺伝子及び/又はタンパク質発現のレベル等の発現の閾値レベルとを比較する。発現の閾値レベルとは、一般的に、本発明の1種又は複数種のマーカーの遺伝子及び/又はタンパク質発現の定量されたレベルのことである。典型的には、発現の閾値レベルを超えているか又は下回っている、エクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの遺伝子及び/又はタンパク質発現レベルから、特定の疾患の状態又は転帰が予測される。発現の閾値レベルの性質及び数値(存在する場合)は、典型的には、例えば、対象のがん、がんタイプ、予後、及び/又は抗がん治療に対する反応の診断の決定で使用される1種若しくは複数種の遺伝子又はその産物の発現を決定するために選択される方法に基づいて変動する。
【0079】
当業者は、本明細書で説明されているもの等の当該技術分野で既知の遺伝子又はタンパク質の発現を測定する任意の方法を使用して、例えば、がん、がんタイプ、予後、及び/又は抗がん治療に対する反応の診断の決定で使用され得る、エクソソームサンプル中における遺伝子及び/又はタンパク質発現の閾値レベル(例えば所定の閾値)を決定し得るだろう。一部の実施形態では、閾値レベルとは、例えば、発現レベルが決定されている前記対象と同一のがんのタイプ、サブグループ、ステージ、及び/又はグレードを有する基準集団中における1種又は複数種のマーカーの平均及び/又は中央値の遺伝子及び/又はタンパク質発現レベル(中央値又は絶対値)のことである。加えて、発現の閾値レベルの概念は、単一の値又は結果に限定されるべきではない。これに関して、発現の閾値レベルは、例えば対象のがんの転移の例えば、高い、中程度の、又は低い確率を意味する可能性がある複数の閾値発現レベルを包含し得る。
【0080】
本明細書で使用される場合、「所定の閾値」という用語は、その上又は下が、処置に対する疾患の反応性、又は疾患の一般的な予後を示す、値を指す。例えば、本発明の目的のために、所定の閾値は、適切なコントロール対象、例えば、がんを有することが分かっている対象、若しくはがんを再発しやすい対象からの、又は複数のコントロール対象からの、サンプル中、又は複数のコントロール対象の中央値若しくは平均値におけるタンパク質のレベル若しくは活性、又はタンパク質をコードする核酸の発現レベルを表し得る。そのため、閾値よりも上又は下の活性又は発現レベルは、本明細書で教示されるように、対象中にがんが存在する可能性、又は対象中でがんが再発している可能性、又は抗がん治療に対して腫瘍が反応している可能性を示す。他の例では、所定の閾値は、この所定の閾値よりも上又は下のレベル又は比率が、対象中にがんが存在していること、又は対象中でがんが再発していること、又は抗がん治療に対して腫瘍が反応していることを示すという更なる信頼度を組み込むために、コントロール対象に関して決定されたレベルと比べて大きいか又は小さい値を表し得る。例えば、所定の閾値は、±1、2、3、又はより大きい標準偏差と共に、コントロール対象群における、本明細書中で開示されているマーカーの平均又は中央値の活性レベルを表し得る。当業者は、適切なコントロール対象からの生体サンプルの分析に基づいて、適切な所定の閾値を容易に決定し得る。
【0081】
一部の実施形態では、1種又は複数種のマーカーの相対的に高い発現レベルは、対象のがん又はがんの再発の診断である。関連する実施形態では、1種又は複数種のマーカーの相対的に低いか又は相対的に変化していない発現レベルは、対象の、がんを有していないか又はがんが再発していないという診断である。
【0082】
「決定すること」、「測定すること」、「評価すること(evaluating)」、「評価すること(assessing)」、及び「アッセイすること」という用語は、本明細書では互換的に使用され、且つ下記で説明するもの等の当該技術分野で既知の測定の任意の形態を含み得る。
【0083】
1種又は複数種のエクソソームタンパク質のタンパク質レベルを決定すること、評価すること(assessing)、評価すること(evaluating)、アッセイすること、又は測定することは、エクソソームの表面若しくは内部で発現しているか、又は対象のエクソソームサンプルから単離されているか、抽出されているか、若しくは他の方法で得られているかを問わず、このようなタンパク質を検出し得る、当該技術分野で既知の任意の技術により実施し得る。これらの技術として、タンパク質と結合する1種又は複数種の抗体を使用する抗体ベースの検出、電気泳動、等電点電気泳動、タンパク質配列決定、クロマトグラフィー技術、及び質量分析、並びにこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。抗体ベースの検出として、蛍光標識抗体を使用するフローサイトメトリー、ELISA、免疫ブロット、免疫沈降、ラジオイムノアッセイ(RIA)、及び免疫細胞化学が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0084】
本明細書で提供される1種又は複数種のマーカーの対応する核酸、例えば、RNA、mRNA、及びcDNAを決定すること、評価すること(assessing)、評価すること(evaluating)、アッセイすること、又は測定することを、当該技術分野で既知の任意の技術により実施し得る。これらは、核酸配列増幅、核酸ハイブリダイゼーション、ヌクレオチド配列決定、質量分析、及び任意のこれらの組み合わせを含む技術であり得る。
【0085】
核酸増幅技術は、典型的には、適切な条件下で1種又は複数種のプライマーを「テンプレート」ヌクレオチド配列にアニールさせ、ポリメラーゼを使用して、標的に相補的なヌクレオチド配列を合成し、それにより標的ヌクレオチド配列を「増幅させる」サイクルの反復を含む。核酸増幅技術は、当業者に公知であり、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR);鎖置換増幅(SDA);ローリングサークル複製(RCR);核酸配列ベース増幅(NASBA);Q-βレプリカーゼ増幅;ヘリカーゼ依存増幅(HAD);ループ媒介等温増幅(LAMP);ニッキング酵素増幅反応(NEAR);及びリコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)が挙げられるがこれらに限定されない。本明細書で一般的に使用される場合、「増幅産物」は、核酸増幅技術により生成された核酸産物を指す。
【0086】
PCRとして、定量PCR及び半定量PCR、リアルタイムPCR、対立遺伝子特異的PCR、メチル化特異的PCR、非対称PCR、ネステッドPCR、多重PCR、タッチダウンPCR、デジタルPCR、及び「基本的な」PCR増幅に対する他のバリエーション及び改変が挙げられる。
【0087】
核酸増幅技術を、細胞源又組織源から抽出されたか、単離されたか、又は他の方法で得られたDNA又はRNAを使用して実施し得る。他の実施形態では、核酸増幅を、適切に処理された細胞又は組織のサンプルにより直接実施し得る。
【0088】
核酸ハイブリダイゼーションは、典型的にはプローブの形態のヌクレオチド配列を、適切な条件下で標的ヌクレオチド配列に、典型的にはハイブリダイズさせ、その後に、ハイブリダイズしたプローブ-標的ヌクレオチド配列を検出することを含む。非限定的な例として、ノーザンブロッティング、スロットブロッティング、インサイチュハイブリダイゼーション、及び蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)検出が挙げられるが、これらに限定されない。核酸ハイブリダイゼーションを、細胞源又は組織源から抽出されたか、単離されたか、増幅されたか、又は他の方法で得られたDNA又はRNAを使用して実施してもよいし、適切に処理された細胞又は組織のサンプルにより直接実施してもよい。
【0089】
核酸増幅と核酸ハイブリダイゼーションとの組み合わせを利用し得ることも認識されるだろう。
【0090】
本明細書で提供される1種又は複数種のマーカーの発現を決定することは、核酸増幅及び/又は核酸ハイブリダイゼーション等による、その核酸レベルを決定すること、並びにそのタンパク質レベルを決定することの両方を含み得ることが、認識されるだろう。したがって、対象のエクソソームサンプルからの1種又は複数種のマーカーの発現の検出及び/又は測定を、本明細書で説明されているこれらの方法又はその組み合わせのうちのいずれかにより(例えば、mRNAレベル若しくはその増幅cDNAコピーを測定することにより、及び/又はそのタンパク質産物を測定することにより)実施し得るが、これらに限定されない。
【0091】
前述を踏まえると、本明細書で提供される1種又は複数種のマーカーの発現レベルは、RNA、mRNA、及びcDNA等の核酸、並びに/又はタンパク質を含む発現遺伝子又はその遺伝子産物の絶対量又は相対量であり得ることが、更に認識されるだろう。
【0092】
更なる態様では、本発明は、対象のがんの攻撃性を決定する方法であって、対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルを決定するステップを含み、このマーカーが、アポリポタンパク質E、セリンプロテアーゼ23、バーシカンコアタンパク質、ヒアルロナン及びプロテオグリカンリンクタンパク質3、IV型コラーゲンアルファ1鎖、ナイドジェン-1、結合組織増殖因子、IV型コラーゲンアルファ2鎖、カルボキシペプチダーゼD、コラーゲン及びカルシウム結合EGFドメイン含有タンパク質1、ペントラキシン3、テスティカン-1、アミノアシルtRNAシンターゼ複合体相互作用多機能性タンパク質1、トロンボスポンジン-1、ビグリカン、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、この1種又は複数種のマーカーの発現レベルが、がんの攻撃性のレベルを示すか、又はがんの攻撃性のレベルと相関する、方法に属する。
【0093】
別の態様では、本発明は、対象のがんの予後を決定する方法であって、対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルを決定するステップを含み、このマーカーが、アポリポタンパク質E、セリンプロテアーゼ23、バーシカンコアタンパク質、ヒアルロナン及びプロテオグリカンリンクタンパク質3、IV型コラーゲンアルファ1鎖、ナイドジェン-1、結合組織増殖因子、IV型コラーゲンアルファ2鎖、カルボキシペプチダーゼD、コラーゲン及びカルシウム結合EGFドメイン含有タンパク質1、ペントラキシン3、テスティカン-1、アミノアシルtRNAシンターゼ複合体相互作用多機能性タンパク質1、トロンボスポンジン-1、ビグリカン、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、この1種又は複数種のマーカーの発現レベルが、前記がんの良くない予後若しくはより良い予後を示すか、又は前記がんの良くない予後若しくはより良い予後と相関する、方法を提供する。
【0094】
上記態様のある特定の実施形態では、本方法は、前記対象を、(i)高攻撃性のがん若しくは低攻撃性のがんを有すると診断する、及び/又は(ii)予後が良くない若しくは予後がより良いと診断するステップを更に含む。
【0095】
「攻撃性」及び「攻撃性の(aggressive)」は、がんの処置に利用可能な治療に対する少なくとも部分的な耐性;侵襲性;転移能;処置後の再発;及び患者の生存の低い可能性が挙げられるがこれらに限定されない特徴又は因子の組み合わせのうちの1つ又は複数に起因して、がんが相対的に不良な予後を有する性質又は傾向を意味する。
【0096】
特定の実施形態では、本明細書で提供されるタンパク質、例えば、
図1で提供されるものは、攻撃性疾患(aggressive disease)に関して予後的であり、特に、病理学的再発までのより短い時間及び/又はより短い患者の生存期間に関して予後的である。更なる実施形態では、本明細書で提供されるタンパク質、例えば、
図1で提供されるものは、転移性がんと相関するか、又は転移性がんを示す。
【0097】
「予後(prognosis)」及び「予後的(prognostic)」という用語は、本明細書では、予後を見立てることを含むように使用され、この予後は、(医学的処置の有無にかかわらず)臨床転帰を予測すること、適切な処置経過(又は処置が有効であろうかどうか)を選択すること、及び/又は現在の処置をモニタリングしてこの処置を潜在的に変更することを提供し得る。このことは、本発明の方法による1種又は複数種のマーカーの遺伝子及び/又はタンパク質の発現レベルの決定に少なくとも部分的に基づき得、この決定を、追加のタンパク質及び/又は他の核酸バイオマーカー、例えば、トロンボスポンジン-1、又はCancerSEEKに関して下記で説明するものの発現レベルの決定と組み合わせ得る。予後はまた、がんが成功裏に処置されるか又は他の方法で消散された後に、対象が罹患するがんの任意の持続的な又は永続的な身体的な又は心理的な影響の予測、予想、又は期待も含み得る。更に、予後は、転移の可能性又は発生の決定、治療反応性、適切な処置レジメンの実施、治療後のがん再発の確率、可能性(likelihood)、又は可能性(potential)の決定、及び確立された治療(例えば化学療法)に対する耐性の発現の予測のうちの1つ又は複数を含み得る。予後良好は、対象のがんの再発を伴わない長期生存等の有益な臨床転帰又は見通しを典型的には指し、予後不良は、がんの再発又は進行等の否定的な臨床転帰又は見通しを典型的には指すことが認識されるだろう。
【0098】
2つの前述の態様の方法の一部の実施形態では、1種又は複数種のマーカーの相対的に低いか若しくは相対的に変化していない発現レベルは、より良い予後及び/若しくは低攻撃性のがんを示すか、又はより良い予後及び/若しくは低攻撃性のがんと相関する;並びに/又は1種又は複数種のマーカーの相対的に高い発現レベルは、良くない予後及び/若しくは高攻撃性のがんを示すか、又は良くない予後及び/若しくは高攻撃性のがんと相関する。
【0099】
特定の一実施形態では、がんの予後又は攻撃性を少なくとも部分的に使用して、前記対象におけるがんの転移の可能性を決定する。
【0100】
好適には、1種若しくは複数種のマーカーの相対的に低いか若しくは変化していない発現レベルは、前記がんの転移の低い可能性を示すか、若しくは前記がんの転移の低い可能性と相関し;及び/又は1種若しくは複数種のマーカーの相対的に高い発現レベルは、前記がんの転移の高い可能性を示すか、若しくは前記がんの転移の高い可能性と相関する。
【0101】
一部の実施形態では、がんの予後又は攻撃性を少なくとも部分的に使用して、対象が、がんの処置から利益を得るであろうかどうかを決定する。例として、良好な予後及び/又は低攻撃性のがんを有する患者は、がん及び/又は転移の急速な局所的進行に悩まされる可能性が低い場合があり、より積極的なモニタリング及び/又は治療から免れ得る。
【0102】
別の実施形態では、がんの予後又は攻撃性を少なくとも部分的に使用して、対象のための処置戦略を開発する。
【0103】
一部の実施形態では、がんの予後又は攻撃性を少なくとも部分的に使用して、対象の微小残存病変、疾患の進行又は再発を決定する。
【0104】
一部の実施形態では、がんの予後又は攻撃性を少なくとも部分的に使用して、推定の生存期間を決定する。
【0105】
好適には、前述の態様の方法は、前記対象を、(i)高攻撃性のがん若しくは低攻撃性のがんを有すると診断する、及び/又は(ii)予後が良くない若しくは予後がより良いと診断するステップを更に含む。
【0106】
一部の実施形態では、本明細書で提供される1種又は複数種のマーカーの相対的に低い遺伝子及び/又はタンパク質発現レベルは、抗がん処置に対するがんの相対的に高い反応性を示すか、又は抗がん処置に対するがんの相対的に高い反応性と相関する。代替実施形態では、本明細書で提供される1種又は複数種のマーカーの相対的に低い遺伝子及び/又はタンパク質発現レベルは、抗がん処置に対するがんの相対的に低い反応性を示すか、又は抗がん処置に対するがんの相対的に低い反応性と相関する。
【0107】
好適には、がんは、下記で説明するタイプのものであるが、これらに限定されない。
【0108】
更なる態様では、本発明は、対象の抗がん処置に対するがんの反応性を予測する及び/又は決定する方法であって、対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルを決定するステップを含み、このマーカーが、アポリポタンパク質E、セリンプロテアーゼ23、バーシカンコアタンパク質、ヒアルロナン及びプロテオグリカンリンクタンパク質3、IV型コラーゲンアルファ1鎖、ナイドジェン-1、結合組織増殖因子、IV型コラーゲンアルファ2鎖、カルボキシペプチダーゼD、コラーゲン及びカルシウム結合EGFドメイン含有タンパク質1、ペントラキシン3、テスティカン-1、アミノアシルtRNAシンターゼ複合体相互作用多機能性タンパク質1、トロンボスポンジン-1、ビグリカン、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、この1種又は複数種のマーカーの発現レベルの変化又は調節が、抗がん処置に対するがんの反応性の相対的な増加若しくは減少を示すか、又は抗がん処置に対するがんの反応性の相対的な増加若しくは減少と相関する、方法に属する。
【0109】
当業者に理解されるように、遺伝子又はタンパク質の発現レベルは、この発現レベルが、コントロール又は基準のサンプル又は発現レベル、例えば閾値レベルと比較された場合に高い/増加しているか又は低い/低下している場合には、「変化している」か又は「調節されている」と判断され得る。一部の実施形態では、発現レベルは、基準集団の相対発現レベルの平均及び/又は中央値と比べて大きい場合には高いと分類され得、且つ発現レベルは、基準集団の発現レベルの平均及び/又は中央値と比べて小さい場合には低いと分類され得る。これに関しては、基準集団は、発現レベルが決定される前記哺乳動物と同一のがんのタイプ、サブグループ、ステージ、及び/又はグレードを有する対象の一群であり得る。更に、発現レベルは、相対的であってもよいし、絶対的であってもよい。
【0110】
一部の実施形態では、1種又は複数種のマーカーが、バーシカンコアタンパク質、ナイドジェン-1、ペントラキシン3、トロンボスポンジン-1、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。より具体的には、1種又は複数種のマーカーが、バーシカンコアタンパク質、ナイドジェン-1、及びペントラキシン3を好適には含み、任意選択的には、トロンボスポンジン-1の更なるバイオマーカーを更に含む。
【0111】
一部の実施形態では、1種又は複数種のマーカーの相対的に高い発現レベルが、抗がん処置に対するがんの相対的に高い反応性を示すか、又は抗がん処置に対するがんの相対的に高い反応性と相関する。代替実施形態では、1種又は複数種のマーカーの相対的に高い発現レベルが、抗がん処置に対するがんの相対的に低い反応性を示すか、又は抗がん処置に対するがんの相対的に低い反応性と相関する。
【0112】
一部の実施形態では、1種又は複数種のマーカーの発現レベル、例えば、その相対的に高い発現レベルは、継続的な存在(例えば微小残存病変)、がんの進行若しくは再発、又は抗がん処置に対するがんの反応性の欠如若しくは低い反応性を示すか、又はこれらと相関する。
【0113】
一部の実施形態では、本発明の方法は、対象中におけるか又は対象に由来するサンプル(例えばエクソソームサンプル)中における1種又は複数種のバイオマーカーの活性、発現、又は量を評価して、より多くのバイオマーカーのサンプルプロファイルを得るステップ;及び1種又は複数種のバイオマーカーのサンプルプロファイルに基づいて予測を行なうステップを含む。任意選択的に、この予測を、サンプルプロファイルとコントロールプロファイルとを比較することにより行なう。例えば、使用し得る好適なコントロールプロファイルは、(i)がんを有するコントール対象の集団から得られるか;又は(ii)再発したがんであるがんを有するコントロール対象若しくはコントロール対象の集団から得られるか;(iii)がんを有するコントロール対象若しくはコントロール対象の集団から得られたバイオマーカーの発現、活性、若しくは量の値の「平均値、中央値、若しくは平均」又は「標準範囲」の所定のプロファイルであるか;(iv)がんを有するコントロール対象若しくはコントロール対象の集団を示すバイオマーカーの既知の「平均値、中央値、若しくは平均」の値を有するコントロールサンプルから得られるか;(v)がんを有するコントロール対象若しくはコントロール対象の集団から得られるバイオマーカーの発現、活性、若しくは量の「閾値」の所定のプロファイルであるか、又は(vi)がんを有するコントロール対象若しくはコントロール対象の集団を示すバイオマーカーの既知の「閾値」を有するコントロールサンプルから得られる。
【0114】
前述した態様の本発明に関して、本方法は、対象のがんを処置する更なるステップを好適には含む。
【0115】
本発明の更なる態様は、対象のがんの処置に関する。
【0116】
特定の一態様では、がんの処置を、対象のエクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルの決定と共に実施し、このマーカーは、アポリポタンパク質E、セリンプロテアーゼ23、バーシカンコアタンパク質、ヒアルロナン及びプロテオグリカンリンクタンパク質3、IV型コラーゲンアルファ1鎖、ナイドジェン-1、結合組織増殖因子、IV型コラーゲンアルファ2鎖、カルボキシペプチダーゼD、コラーゲン及びカルシウム結合EGFドメイン含有タンパク質1、ペントラキシン3、テスティカン-1、アミノアシルtRNAシンターゼ複合体相互作用多機能性タンパク質1、トロンボスポンジン-1、ビグリカン、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、行なわれた決定に基づいて、がんの処置を開始するか、継続するか、変更するか、又は中止する。
【0117】
具体的な一実施形態では、1種又は複数種のマーカーは、バーシカンコアタンパク質、ナイドジェン-1、ペントラキシン3、トロンボスポンジン-1、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。より具体的には、1種又は複数種のマーカーは、バーシカンコアタンパク質、ナイドジェン-1、及びペントラキシン3を好適には含み、任意選択的に、トロンボスポンジン-1の更なるバイオマーカーを更に含む。
【0118】
これに関して、抗がん剤に対するがんの反応性を予測する及び/又は決定するための本明細書で説明されている方法は、抗がん処置、例えば抗がん剤の治療上有効な量を哺乳動物に投与するステップを更に含み得ることが認識されるであろう。好ましい実施形態では、本明細書で説明されている1種又は複数種のマーカーの遺伝子及び/又はタンパク質発現レベルが、抗がん剤に対するがんの相対的に高い反応性を示すか又は抗がん剤に対するがんの相対的に高い反応性と相関する場合には、抗がん処置を投与する。
【0119】
他の実施形態では、本明細書で説明されている1種又は複数種のマーカーの遺伝子及び/又はタンパク質発現レベルが、継続的な存在(例えば微小残存病変)、がんの進行若しくは再発、又は抗がん処置に対するがんの反応性の欠如若しくは低下を示すか、又はこれらと相関する場合には、抗がん処置を変更するか、又は中止する。
【0120】
好適には、薬剤(複数可)を、薬学的に許与される担体、希釈剤、又は賦形剤を含む医薬組成物として、対象に投与する。これに関して、任意の剤形及び投与経路、例えば、本明細書に記載されているものを用いて、本発明の組成物を対象に投与し得る。
【0121】
がん処置として、薬物療法、例えば、小さい有機分子又は無機分子、化学療法、抗体、核酸、及び他の生体分子療法、放射線療法、手術、栄養療法、リラクゼーション又は瞑想療法、及び他の自然又はホリスティック療法が挙げられ得るが、これらに限定されない。一般的に、薬物(例えば、小さい有機分子若しくは無機分子)、生体分子(例えば、抗体、siRNA等の阻害性核酸)、又は化学療法剤は、本明細書では、「抗がん治療薬」又は「抗がん剤」と称される。
【0122】
がんを処置する方法は、予防的(prophylactic)であってもよいし、予防的(preventative)であってもよいし、治療的であってもよく、且つ哺乳動物、特にヒトのがんの処置に適していてもよい。本明細書で使用される場合、「処置すること(treating)」、「処置する(treat)」、又は「処置(treatment)」は、がん及び/又はその症状が少なくとも発症し始めた後に、がんの症状を少なくとも緩和させる治療介入、行動方針、又はプロトコルを指す。本明細書で使用される場合、「予防すること」、「予防する」、又は「予防」は、がん又はがんの症状の発症又は進行を予防するか、阻害するか、又は遅延させるために、このがん及び/又はこのがんの症状の発症前に開始される治療介入、行動方針、又はプロトコルを指す。
【0123】
「治療上有効な量」という用語は、特定の薬剤で処置される対象において所望の効果を達成するのに十分な、この薬剤の量を説明する。例えば、これは、がん、又はがんに関連する疾患、障害、若しくは状態を軽減し、緩和し、及び/又は予防するのに必要な化学療法剤の量であり得る。一部の実施形態では、「治療上有効な量」は、がんの症状を軽減するか又は除去するのに十分である。他の実施形態では、「治療上有効な量」は、所望の生物学的効果を達成するのに十分な量であり、例えば、がんの増殖及び/又は転移を減少させるか又は予防するのに有効な量である。
【0124】
理想的には、薬剤の治療上有効な量は、対象中において実質的な細胞毒性効果を引き起こすことなく所望の結果を誘発するのに十分な量である。がんを軽減し、緩和し、及び/又は予防するのに有用な薬剤の有効な量は、処置される対象、あらゆる関連する疾患、障害、及び/又は状態のタイプ及び重症度(例えば、あらゆる関連する転移の数及び位置)、並びに治療用組成物の投与方法に依存するだろう。
【0125】
好適には、抗がん治療薬を、薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤を含む医薬組成物として、哺乳動物に投与する。
【0126】
「薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤」は、全身投与で安全に使用され得る固体又は液体の充填剤、希釈剤、又はカプセル化物質を意味する。特定の投与経路に応じて、当該技術分野で公知の様々な担体を使用し得る。これらの担体は、糖、デンプン、セルロース及びその誘導体、麦芽、ゼラチン、タルク、硫酸カルシウム、リポソーム及び他の脂質ベースの担体、植物油、合成油、ポリオール、アルギン酸、リン酸緩衝液、乳化剤、等張食塩水、並びに塩、例えば鉱酸塩、例えば塩酸塩、臭化物、及び硫酸塩、有機酸、例えば酢酸塩、プロピオン酸塩、及びマロン酸塩、並びにパイロジェンフリー水を含む群から選択され得る。
【0127】
薬学的に許容される担体、希釈剤、及び賦形剤を説明している有用な参考文献は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Co.N.J.USA,1991)であり、これは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0128】
本発明の組成物を患者に投与するために、任意の安全な投与経路を用い得る。例えば、経口、直腸、非経口、舌下、口腔内、静脈内、関節内、筋肉内、皮内、皮下、吸入、眼内、腹腔内、脳室内、経皮などを用い得る。筋肉内注射及び皮下注射は、例えば、免疫療法用組成物、タンパク性ワクチン、及び核酸ワクチンの投与に適している。
【0129】
剤形として、錠剤、分散剤、懸濁液、注射液、溶液、シロップ、トローチ、カプセル、座薬、エアロゾル、経皮パッチなどが挙げられる。これらの剤形はまた、この目的のために特別に設計された放出制御デバイス、又はこの様式で更に作用するように改変された移植片の他の形態を注射すること又は移植することも含み得る。治療薬の放出制御を、例えば、アクリル樹脂、ワックス、高級脂肪族アルコール、ポリ乳酸及びポリグリコール酸、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロース等のある特定のセルロース誘導体等の疎水性ポリマーで治療薬をコーティングすることにより達成し得る。加えて、放出制御を、他のポリマーマトリックス、リポソーム、及び/又はミクロスフィアを使用することに達成し得る。
【0130】
経口又は非経口投与に適した本発明の組成物は、それぞれが所定量の本発明の1種若しくは複数の治療薬を含むカプセル、サシェ、若しくは錠剤等の別個の単位として表され得るか、粉末若しくは顆粒として表され得るか、又は水性液体、非水性液体、水中油型エマルション、若しくは油中水型液体エマルション中の溶液若しくは懸濁液として提示され得る。そのような組成物を、薬学の方法のいずれかにより調製し得るが、全ての方法は、上記で説明されている1種又は複数種の薬剤を、1種又は複数種の必要な成分を構成する担体と会合させるステップを含む。一般的に、この組成物を、本発明の薬剤と、液体担体又は微細に分割された固体担体又は両方とを均一に及び密接に混合し、次いで、必要に応じて、所望の提示物に生成物を成形することにより調製する。
【0131】
上記組成物を、剤形に適合した方法で且つ薬学的に有効であるような量で投与し得る。患者に投与される用量は、本発明に関連して、適切な期間にわたり患者に有益な反応をもたらすのに十分であるべきである。投与する薬剤(複数可)の量は、処置される対象に依存し得、例えばこの対象の年齢、性別、体重、及び一般的な健康状態、医師の判断に依存する因子に依存し得る。
【0132】
特定の実施形態では、抗がん処置及び/又は抗がん剤は、1種又は複数種のマーカーの作用の阻害及び/又はこのマーカーの発現の減少を目的とし得る。
【0133】
他の実施形態では、抗がん処置及び/又は抗がん剤は、がんの転移の予防又は阻害を目的とし得る。
【0134】
代替実施形態では、抗がん処置及び/又は抗がん剤は、本発明の1種又は複数種のマーカー以外の遺伝子又は遺伝子産物を目的とし得る。例として、抗がん処置は、1種又は複数種のマーカーと直接的に又は間接的に相互作用することが知られている遺伝子又は遺伝子産物を標的とし得る。
【0135】
特定の実施形態では、本発明は、がん処置に関連して「コンパニオン診断」を提供し、これにより、本発明の1種又は複数種のマーカーの発現レベルは、前記がん処置の安全な及び/又は効果的な投与に使用される情報を、臨床医等に提供する。
【0136】
好適には、がんは、下記で説明するタイプのものであるが、これらに限定されない。
【0137】
特定の実施形態では、本方法は、エクソソームサンプル中における1種又は複数種のマーカーの発現レベルと、この1種又は複数種のそれぞれのマーカー、例えば、下記で説明されているものの基準エクソソーム発現レベル又はコントロールエクソソーム発現レベルとを比較するステップを更に含む。
【0138】
前述の態様に関して、この方法は、対象、例えば、下記で説明する生物学的サンプルからエクソソームサンプルを得る最初のステップ及び/又は単離方法を好適には含む。
【0139】
ある特定の実施形態では、前述の態様の方法は、対象のがんタイプを決定する更なるステップを更に含む。この方法では、がんタイプを、例えば、対象のがんのがん攻撃性、予後、処置レジメン、及び/又は処置の反応性の決定で利用し得る。
【0140】
更なる態様では、本発明は、
(a)アポリポタンパク質E、セリンプロテアーゼ23、バーシカンコアタンパク質、ヒアルロナン及びプロテオグリカンリンクタンパク質3、IV型コラーゲンアルファ1鎖、ナイドジェン-1、結合組織増殖因子、IV型コラーゲンアルファ2鎖、カルボキシペプチダーゼD、コラーゲン及びカルシウム結合EGFドメイン含有タンパク質1、ペントラキシン3、テスティカン-1、アミノアシルtRNAシンターゼ複合体相互作用多機能性タンパク質1、トロンボスポンジン-1、ビグリカン、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるマーカーを発現する細胞と、候補の薬剤とを接触させるステップと;
(b)候補の薬剤が、マーカーの発現及び/又は活性を調節するかどうかを決定するステップと
を含む、対象のがんの処置での使用のための薬剤を同定するか又は製造する方法を提供する。
【0141】
ある特定の実施形態では、候補の薬剤が、マーカーの発現及び/又は活性を、少なくとも部分的に減少させるか、除去するか、抑制するか、又は阻害する。
【0142】
好適には、この薬剤は、有意なオフターゲット及び/又は非特異的効果をほとんど又は全く有しないか又は示さない。
【0143】
好ましくは、この薬剤は、抗体又は小分子である。
【0144】
好適には、マーカーは、バーシカンコアタンパク質、ナイドジェン-1、ペントラキシン3、トロンボスポンジン-1、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0145】
抗体阻害剤に関する実施形態では、抗体は、ポリクローナルであってもよいしモノクローナルであってもよく、天然であってもよいし組み換えであってもよい。抗体の製造、精製、及び使用に適用される公知のプロトコルを、例えば、Coligan et al.,CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY(John Wiley & Sons NY,1991-1994)の第2章、及びHarlow,E. & Lane,D.Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,Cold Spring Harbor Laboratory,1988で見出し得、これらは両方とも、参照により本明細書に組み込まれる。
【0146】
一般的に、本発明の抗体は、マーカーの単離されたタンパク質、断片、バリアント、又は誘導体に結合するか、又はコンジュゲートする。例えば、抗体は、ポリクローナル抗体であり得る。そのような抗体を、例えば、マーカータンパク質産物の単離されたタンパク質、断片、バリアント、又は誘導体をマウス又はウサギが挙げられ得る産生種に注射してポリクローナル抗血清を得ることにより、調製し得る。ポリクローナル抗体を製造する方法は、当業者に公知である。使用され得る例示的なプロトコルは、例えば、Coligan et al.,CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY,上記参照、及びHarlow & Lane, 1988,上記参照で説明されている。
【0147】
モノクローナル抗体を、例えば、Kohler & Milstein,1975,Nature 256,495(参照により本明細書に組み込まれる)による論文で説明されている標準方法を使用して製造し得るか、又は単離されたマーカータンパク質産物、並びに/又はその断片、バリアント、及び/若しくは誘導体のうちの1つ又は複数が接種されている産生種に由来する脾臓又は他の抗体産生細胞を脾臓又は他の抗体産生細胞を不死化させることにより、例えばColigan et al.,CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY,上記参照で説明されているより最近の改変により製造し得る。
【0148】
典型的には、候補のインヒビター抗体の阻害活性を、この抗体の存在下でのマーカータンパク質の発現レベル及び/又は活性を検出するか又は測定するインビトロ及び/又はインビボアッセイにより評価し得る。
【0149】
一部の実施形態では、阻害剤等のモジュレーターを、合理的に設計し得る。これらの方法は、マーカーの構造解析、並びにマーカーと結合するか、マーカーと相互作用するか、又は別の方法でマーカーの活性を調節する分子の設計及び/又は構築を含み得る。これらの方法は、候補モジュレーターとマーカーとの相互作用のコンピュータ支援3次元モデリングを特に含み得る。
【0150】
小有機分子阻害剤等のモジュレーターの他の実施形態では、これは、潜在的な新薬又はリード化合物を発見するために数百の分子標的のうちのいずれか1つでの生物活性に関してスクリーニングされ得るか又は試験され得る数十万から数百万の候補阻害剤(合成された小有機分子又は天然物、例えば阻害ペプチド又はタンパク質等の化合物)に達する大きい化合物ライブラリのスクリーニングを含み得る。スクリーニング方法として、コンピュータベース(「インシリコ」)のスクリーニング、及びインビトロアッセイに基づくハイスループットスクリーニングが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0151】
典型的には、次いで、この最初のスクリーニングプロセスからの活性化合物、即ち「ヒット」を一連の他のインビトロ及び/又はインビボ試験により連続的に試験して、この活性化合物の特徴を更に明らかにする。各ステージでの徐々に少数となる「成功」化合物を次の試験に選択し、最終的には、1種又は複数種の薬物の候補を選択し、ヒト臨床試験での試験へと進む。
【0152】
臨床レベルでは、候補薬剤のスクリーニングは、試験対象が試験化合物に曝露される前後でこの対象からサンプルを得ることを含み得る。次いで、マーカータンパク質のサンプル、例えばエクソソームサンプル中でのレベルを測定して分析し、このマーカータンパク質のレベル及び/又は活性が候補薬剤への曝露後に変化しているかどうかを決定し得る。例として、サンプル中のタンパク質産物レベルを、質量分析、ウエスタンブロット、ELISA、電気化学、及び/又は当業者に既知の任意の他の適切な手段により決定し得る。
【0153】
これに関して、次いで、マーカーの発現レベル及び/又は活性を減少させ得るか、除去し得るか、抑制し得るか、又は阻害し得ると確認されている候補薬剤を、がんに罹患している患者に投与し得る。例えば、バイオマーカーの高い活性ががんの進行及び/又は発症に少なくとも部分的に関与している場合には、このマーカーの活性及び/又は発現を阻害するか又は減少させる候補薬剤の投与により、がんを処置し得、及び/又はがんのリスクを減少させ得る。
【0154】
最後の態様では、本発明は、本明細書で説明されている方法に従う使用のための、前述の態様により同定されたか又は製造された薬剤を提供する。
【0155】
前述の態様に関して、「対象」という用語は、ヒト、パフォーマンスアニマル(performance animal)(例えば、ウマ、ラクダ、グレイハウンド)、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ウマ)、並びにコンパニオンアニマル(例えば、ネコ及びイヌ)を含む哺乳動物を含むが、これらに限定されない。好ましくは、対象は、ヒトである。
【0156】
本明細書で言及されている全てのコンピュータプログラム、アルゴリズム、特許、及び科学文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0157】
本発明のために、本明細書で提示されているもの等の遺伝子又はタンパク質、並びに遺伝子及び/若しくはタンパク質配列又はこれらと関連する配列の、本明細書に記載されているデータベースアクセッション番号又は固有の識別子は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0158】
本発明の好ましい実施形態を完全に理解して実際に実施し得るように、下記の非限定的な例を参照する。
【実施例】
【0159】
近年、エクソソームと呼ばれる小さい細胞外小胞が、がんを潜在的に識別する非侵襲的方法として機能することが示されている。エクソソームは、がん細胞等の全ての細胞により放出される小さい膜結合小胞(直径30~150nm)である。エクソソームのタンパク質含有量は、由来する細胞に依存しており、現在では、エクソソームは、診断及び予後の目的のための材料の実行可能な供給源であることが明らかになっている。しかしながら、がん細胞由来のエクソソームと正常細胞とを区別する特異的マーカーの利用可能な証拠は、現在では不足している。がん特異的なエクソソームマーカーを同定することにより、がん患者の識別が可能となり、結果として生存率が改善される可能性がある。
【0160】
腫瘍分泌因子及び循環腫瘍DNA(ctDNA)の分析等のがんの存在を確認するためのヒト生体液の最適な分析を同定するために、多数の試みがなされている。がん由来のエクソソームは、半減期が長く且つエクソソーム分泌の活発なプロセスに起因して、cDNAと比較して優れた液体バイオマーカーとして機能し、それにより、がん抗原又はバイオマーカーの一貫した存在を示す可能性がある。本実施例では、本発明者らは、がん診断のためにがん由来エクソソームタンパク質を利用する包括的な臨床アッセイを説明する。このアッセイの臨床性能は、高感度であり且つ高特異的であり、初期ステージ1でがんを検出し、それにより、多数のがん患者に早期検出及び生存の改善の機会を提供する。
【0161】
細胞培養
細胞株認証を、短いタンデムリピートプロファイリング(tandem repeat profiling)を使用して実行した。p53ノックダウン及びKras v12過剰発現(30KTp53/KRAS)で形質転換された同質遺伝子型不死化正常ヒト気管支上皮細胞(HBEC30KT)を、Dr.Jill Larsenから受け取った22,27。HBECを、37℃、5%CO2下にて、EGF(5ng/mL)及びウシ下垂体抽出物(50mg/L)が補充されているケラチノサイト無血清培地(KSFM)で培養した。他の全ての細胞株を、5%のウシ胎児血清、100U/mLのペニシリン、及び100mg/mLのストレプトマイシンが補充されているDMEM又はRPMI中で維持し、37℃、5%下でインキュベートした。無血清培地で培養された細胞から、細胞馴化培地(CCM)を採取した。CCMを、100,000gavgでの一晩の遠心分離により、ウシエクソソームが枯渇したKSFM中のHBEC細胞から採取した。
【0162】
エクソソームの単離及び分析
エクソソームを、既に説明されているように単離して分析した8,28。質量分析用のエクソソームの場合には、CCMを4℃にて10分にわたり300gで遠心分離し、0.22μmフィルタに通してろ過して、浮遊細胞及び大きい細胞外小胞を除去した。次いで、清澄化されたCCMを500μLに濃縮し、不連続のイオジキサノール密度勾配にオーバーレイし、4℃にて100,000gavgで16時間にわたり遠心分離した。エクソソーム含有画分をPBSで20mLに希釈し、2時間にわたり4℃にて100,000gavgで遠心分離した。得られたペレットをPBS中に再懸濁させ、使用するまで-80℃で保存した。同様に、インビトロCCMからの他の全てのエクソソーム単離物を、上記で説明されているように清澄化して濃縮し、次いでサイズ排除クロマトグラフィーを使用して精製した。ヒト血漿からのエクソソームの単離の場合には、血漿を室温で解凍し、それぞれ10分及び20分にわたる1,500g及び10,000gでの遠心分離によって残存する血小板及び大きい小胞を除去することにより調製した。調製された血漿を、サイズ排除カラムにオーバーレイし、続いてPBSで溶出させ、Amicon(登録商標)Ultra-4 10kDa公称分子量遠心分離フィルタユニットで濃縮し、使用するまで-80℃で保存した。細胞培養物及びヒト血漿からのエクソソーム単離を、既に説明されているように8、ウエスタンブロット、調整可能抵抗パルスセンシング(TRPS)、及び透過電子顕微鏡で確認した。
【0163】
抗体及び試薬
ウエスタンブロッティングでは、下記の抗体を使用した:Calnexin(Cell Signalling Technology,2679S)、CD63(Abcam,ab8219)、HSP70(Transduction Laboratories,610608)。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート二次抗体を、Thermo Scientificから購入した。THBS1、NID1、及びPTX3 ELISA DuoSetsをR & D Systemsから購入し、VCAN ELISAキットをNovus Biologicalsから購入した。qEVカラムをIzonから購入し、4℃にてPBS(0.1%アジ化ナトリウム)中で保存した。
【0164】
ウエスタンブロット分析
ウエスタンブロットを、既に説明されているように実施した1,2。簡潔に説明すると、タンパク質をSDS-PAGEで分離し、フッ化ポリビニリデン膜に移し、PBS-T(0.5%Tween-20)中の5%脱脂粉乳でブロックし、抗体で調べた。タンパク質バンドを、増強された化学発光試薬(Amersham ECL Select)で検出した。
【0165】
質量分析
エクソソーム調製物を、2%のSDS、プロテアーゼ阻害剤(SigmaAldrich、P8340)、及び50mMのTris.HCl pH8.8の存在下での10mMのジチオスレイトールの添加(4℃で1時間、22℃で2時間)により還元させた。次いで、サンプルを、25mMまでのヨードアセトアミドの添加(22℃で1時間)によりアルキル化し、トリプシンと共に(1:100 酵素:基質)-20℃で一晩メタノール共沈殿させた。ペレットを、10%のアセトニトリル、40mMの炭酸水素アンモニウム中で再懸濁させ、8時間にわたり37℃で消化し、2時間後にトリプシンを更に添加した(1:100 酵素:基質)。
【0166】
酸性化した消化物(トリフルオロ酢酸)のLCMS分析を、Elite Orbitrap ETD質量分析計(Thermo Fisher Scientific)の前にNanoAcquity UPLC(Waters)を接続することにより実施した。消化物2マイクログラムを、20mm×180μm Symmetry C18トラップ(Waters)にロードし、一連の直線勾配(緩衝液A:0.1%ギ酸水溶液;緩衝液B:アセトニトリル中の0.1%のギ酸)5分かけて2%のBから5%のBへ、75分かけて30%のBへ、10分かけて50%のBへ、5分かけて95%のBへ、及び6分間保持、2%のBでの再平衡化を使用して、200mm×75μm、BEH130 1.7μmカラム(Waters)により120分かけて分離した。このカラムからの溶出液を、10μmのP200Pでコーティングされたシリカエミッター(New Objective)及びNanospray-Flexソース(Proxeon Biosystems A/S)を介して、質量分析計に導入した。電源電圧1.8kV、加熱キャピラリ温度275℃、120000分解能AGC 1E6にてオービトラップ中で取得した上位15の方法MSの使用、イオントラップAGC 1E4中のMS2、50ms最大注入時間。445.120024のMS1ロック質量を使用した。
【0167】
タンパク質の同定及び無標識定量を、MaxQuant(バージョン1.4.1.23)を使用して実施した。MaxQuantを使用して、Xcalibur rawファイル(Thermo Fisher Scientific,Germany)からピークリストを抽出し、埋め込まれたデータベース検索エンジンAndromeda4を使用して、ペプチド対スペクトルマッチに割り当てた(PSM)。検索したデータベースは、ホモサピエンスの完全プロテオーム(www.uniprot.org August 2013からダウンロードした88,378個の標準配列)からなっていた。逆配列及びMaxQuantコンタミナントデータベースも検索した。無標識定量を実施し、機器タイプをOrbitrapに設定し、前駆体質量許容値を、最初の検索では20ppmに設定し、主要の検索では4.5ppmに設定し、断片イオン質量許容値を0.5Daに設定し、酵素特異性をトリプシン/Pに設定し、最大2つの開裂の欠損を許容し、カルバミドメチルシステインを固定修飾として指定し、タンパク質のN末端のアセチル化、アスパラギン/グルタミンの脱アミド化、及びメチオニンの酸化を、可変修飾として指定した。2回目のペプチド検索及び実行間でのマッチングを、デフォルト設定で可能にした。同定のために、PSM及びタンパク質レベルのFDRを0.01に設定した。他の全てのパラメータには、デフォルト設定を適用した。タンパク質の推測、及びスペクトルの計数による無標識定量(正規化を含む)を、既に説明されているように実施した5。
【0168】
患者コホート
2001~2019年に採取した患者の血漿/血清サンプルの患者コホートの遡及分析を、実施した。
【0169】
統計解析
全ての計算に、GraphPad Prism バージョン6.0、EdgeR バージョン2.6.10、MedCalc バージョン16.8.4、及びIPAを使用した。対応のないスチューデントのt検定を使用して、インビトロでのエクソソームからのタンパク質の発現値の差違を算出した。タンパク質の細胞内局在を、IPA(QIAGEN Inc)により作成した。負の二項正確検定(negative-binomial exact test)を使用して、質量分析由来のスペクトル数を評価し、ここで、Benjamini-Hochber調整を適用してFDRを制御した。0.001のFDR閾値を除いて、p値が0.05未満である差違を有意であると考えた(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【0170】
結果
がんのエクソソームタンパク質シグネチャの生成
本発明者らは、発癌性変異を有するHBECは、エクソソームタンパク質プロファイルが異なるエクソソームを分泌するであろうと仮定した。本発明者らは、正常なHBEC及び形質転換されたHBEC
(p53/KRAS)により分泌されるエクソソームを単離した。TEM、ナノ粒子トラッキング、及びウエスタンブロッティングにより、エクソソームは典型的なサイズ分布を示し且つ標準的なエクソソームマーカーを含むことが実証された(
図1A~C)。次いで、正常なHBEC及び形質転換されたHBECのプロテオームを、質量分析計を使用して評価した。スペクトルの計数による無標識定量により、正常なHBECと比較して、形質転換されたHBECにおいて上方制御された15種の細胞外タンパク質を同定した(
図1D)。THBS1、NID1、PTX3、及びVCANを選択して更に評価し、HBECにおいてELISAにより確認した(
図1E)。
【0171】
全ての固形悪性腫瘍の現在の臨床管理は、原発腫瘍の病理組織学的及び/又は分子学的特徴により指示される。しかしながら、腫瘍の分類のためのバイオマーカーの発現は、個々の腫瘍内であっても非常に変動し得る。がんの進行中には、がん細胞は多種多様な表現型を示し得、その一部は、エピジェネティックな変化、発癌性形質転換、更には環境要因の変化により引き起こされる。特定のがん(肺、脳、黒色腫)内であっても、腫瘍は非常に不均一な疾患であり、様々な臨床的分類及び分子的分類に反映される。これを前提として、本発明者らは、更なるがん細胞株におけるこれら4種のタンパク質の発現を評価して、これらのタンパク質が様々ながん株で普遍的に上方制御されているかどうか、又はがん細胞の特定のサブセットに特異的であるかどうかを確認した。これに対処するために、本発明者らは、下記を含む合計22種の細胞株からエクソソームを単離した:非小細胞肺がん(NSCLC)、膠芽腫(GBM)、結腸直腸(CRC)、乳房(BCa)、前立腺(PCa)、黒色腫(MEL)、食道(ECa)、及び卵巣(OVA)がん。興味深いことに、本発明者らは、4種全てのマーカー(特にNID1)が、がんタイプに関係なく、正常なHBECエクソソームと比較してがん細胞由来エクソソーム中で上方制御されることを発見した。
【0172】
がん患者でのエクソソームタンパク質シグネチャの評価
次いで、本発明者らは、発癌性に誘発されたエクソソームの変化が、がん患者における疾患の存在の診断用バイオマーカーとして利用し得ると仮定した。エクソソームを、250例の健常対照、並びに肺、脳、結腸直腸、前立腺、黒色腫、胃、及び食道のがんと診断されている497例のがん患者の血清/血漿から単離した。診断時の健常対照及び患者の年齢の中央値は、65.5であった。
【0173】
興味深いことに、組み合わされた4種のタンパク質エクソソームシグネチャ(THBS1、NID1、PTX3、及びVCAN)は、健常対照と比較してがん対象に由来するエクソソーム中で増加した(
図2A)。エクソソームシグネチャからの各タンパク質は、受信者動作特性(ROC)曲線により評価した場合に、様々ながんコホートにおいて様々な診断能力を有していた(
図3)。興味深いことに、ロジスティック回帰を使用したシグネチャタンパク質の組み合わせを使用して、本発明者らは、0.96の曲線下面積(AUC)で、健常対照及びがん患者の優れた分離を行ない得た(
図2B)。重要なことに、95%の固定特異性では、8種のがんタイプにおける診断用エクソソームシグネチャの感度の中央値は、77.6%であった(95%CI:72.0%、82.3%)。これは、前立腺がんでの44%から胃がんでの100%の範囲であった(
図2C)。
【0174】
次に、本発明者らは、初期ステージのがん患者の識別での診断用エクソソームシグネチャの能力を評価したいと考えた。液体生検が最も有益であるためには、可能な限り早いステージで患者を識別して全体的ながん生存を大きく改善する必要がある。本発明者らは、NSCLC、食道がん、及び胃がんでのステージII~IVと比較してステージIでのエクソソームバイオマーカーの感度を評価し得た。重要なことに、95%の特異性での感度は、3種全てのがんの後期ステージに匹敵しており(
図4)、このことから、診断用エクソソームシグネチャが初期ステージのがん患者を識別し得ることが実証される。
【0175】
近年、CancerSEEK(REF)は、液体生検を使用して、がんの存在だけでなく、機械学習を使用した臨床フォローアップの腫瘍タイプも識別し得ることを実証した。したがって、本発明者らは、本発明者らのエクソソームシグネチャが、患者が有するがんのタイプも正確に識別し得るかどうかを調べた。この試験の精度は大きく変化し、NSCLCが最も正確な予測であり、且つ胃がんが最も低かった(
図5)。
【0176】
参考文献
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【国際調査報告】