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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-11
(54)【発明の名称】認知障害の決定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/497 20060101AFI20221228BHJP
【FI】
G01N33/497 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525378
(86)(22)【出願日】2020-10-29
(85)【翻訳文提出日】2022-06-27
(86)【国際出願番号】 GB2020052730
(87)【国際公開番号】W WO2021084251
(87)【国際公開日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】1915753.6
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521435318
【氏名又は名称】サ・ユニバーシティ・オブ・ウォーリック
【氏名又は名称原語表記】The University of Warwick
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100221534
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 志穂
(72)【発明者】
【氏名】コビントン,ジェイムズ
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB22
2G045DA28
2G045DA29
2G045DA74
(57)【要約】
対象体の呼気サンプル中の1つ以上のVOCの濃度を測定すること、および参照濃度と濃度を比較することを含む、対象体が軽度認知障害(MCI)またはアルツハイマー病を有するかを決定する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象体が軽度認知障害(MCI)を有するかを決定する方法であって、該方法が:
a)対象体の呼気サンプル中の、ヘキサナールおよびヘプタナールからなる群より選択されるVOCの一方または両方の濃度を測定する工程;
b)工程a)で測定した濃度を参照濃度と比較する工程;および
c)工程a)で測定した濃度が参照濃度より約5%超高い場合、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示すと決定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
工程(a)が、対象体の呼気サンプル中の2-プロパノールの濃度を測定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)で測定したヘキサナールの濃度がヘキサナールの参照濃度より約100%超高いことを決定することが、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示す、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)における2-プロパノールの濃度が2-プロパノールの参照濃度より約10%超高いことを決定することが、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示す、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
工程a)におけるヘプタナールの濃度がヘプタナールの参照濃度より約10%超高いことを決定することが、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示す、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
対象体がADを有するかを決定する方法であって、該方法が:
a)対象体の呼気サンプル中の、アセトンおよび2-ブタノンからなる群より選択されるVOCの一方または両方の濃度を測定する工程;
b)工程a)で測定した濃度を参照濃度と比較する工程;および
c)工程a)で測定した濃度が参照濃度より約5%超高いかまたは約5%超低い場合、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示すと決定する工程
を含む、方法。
【請求項7】
工程(a)が、対象体の呼気サンプル中の2-プロパノールの濃度を測定することをさらに含み、所望により、工程a)で測定した2-プロパノールの濃度が2-プロパノールの参照濃度より高いことを決定することが、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示す、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
工程a)で測定したアセトンの濃度がアセトンの参照濃度より高いことを決定することが、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示す、所望により、工程a)で測定したアセトンの濃度がアセトンの参照濃度より約5%超高いことを決定することが、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示す、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
工程a)で測定した2-プロパノールの濃度が2-プロパノールの参照濃度より約10%超高いことを決定することが、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示す、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
工程a)で測定した2-ブタノンの濃度が2-ブタノンの参照濃度より低いことを決定することが、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示す、請求項6~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程a)で測定した2-ブタノンの濃度が2-ブタノンの参照濃度より約5%超低いことを決定することが、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示す、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
対象体がMCIまたはADを有するかを決定する方法であって、該方法が:
a)対象体の呼気サンプル中の、1-ブタノールであるVOCの濃度を測定する工程;
b)工程a)で測定した濃度を参照濃度と比較する工程;および
c)工程a)で測定した濃度が参照濃度より約5%~約60%高い場合、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示すと決定する工程、または工程a)で測定した濃度が参照濃度より約60%超高い場合、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示すと決定する工程
を含む、方法。
【請求項13】
工程(a)が、対象体の呼気サンプル中の、1-ブタノール、ならびにヘキサナールおよび2-プロパノールからなる群より選択されるVOCの一方または両方の濃度を測定することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程a)で測定したヘキサナールの濃度がヘキサナールの参照濃度より約5%~約100%高いことを決定することが、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示す、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
工程a)で測定した2-プロパノールの濃度が2-プロパノールの参照濃度より約5%~約49%高いことを決定することが、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示す、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象体が軽度認知障害(MCI)を有するかを決定する方法に関する。本発明はまた、対象体がアルツハイマー病を有するかを決定する方法に関する。本発明はまた、対象体がMCIまたはADを有するかを決定する方法にも及ぶ。
【背景技術】
【0002】
人類の寿命の延長は、必然的に神経変性疾患(NDD)の罹患率の増加につながる。アルツハイマー病(AD)は変性脳障害であり、認知症の最も一般的な原因である。認知症は、記憶、言語、問題解決、計画、推論、および他の基本的な認知能力の低下を特徴とし、日常活動の遂行に直接影響を及ぼす。低下は、認知機能に関与する脳の一部にある神経細胞(ニューロン)が損傷または破壊されることにより発生する。現在、認知症の進行を停止または遅延させる治療法または手段はないが、疾患の薬物療法、サポートおよびケアは、症状の管理とクオリティ・オブ・ライフの向上に役立ち得る。2017年における認知症の世界的な罹患率は、5,000万人であり、直接(医療および社会的ケア)および間接(家族および友人による無償の介護)の費用から生じる世界の社会的費用は1兆ドルと推定された。経済的影響および費用は、心臓病および癌などの一般的な慢性疾患よりも大きいと推定されている。
【0003】
ADの最初の最も軽度の段階は、前臨床段階である。この段階の後に軽度認知障害(MCI)が続き、次に臨床的に診断可能なADが続く。前臨床段階には、目立った臨床徴候は含まれないが、疾患の病因に関連している細胞レベルで段階的な生理学的変化がある。MCIは、ADの進行における一過性の段階である。MCIを有する人は、初期の記憶喪失および思考の問題がある人として定義され、診断ではなく臨床記述子に基づいて特定される。したがって、MCIを有する人の特定は、臨床スキルおよび/または経験が必要である。例えば、MCIを有する人の特定には、病歴の取得、認知症のスクリーニング血液のチェック、脳スキャン(CT、MRIまたはPET)の実行および神経心理学検査の使用(例えばMoCA、ACE-IIIおよびM-ACEサブスコアの使用)を含み得る。しかしながら、MCIはADに特有のものではないことに留意する必要がある。したがって、MCIを発症するすべての人がADを発症するわけではなく、一部の人は、パーキンソン病(PD)などの他のNDD、またはうつ病または低ビタミンレベルなどの他の病状を発症し得る。したがって、典型的には、ADを発症する可能性が高いMCIの対象体は、バイオマーカー(例えばアミロイドタンパク質)の存在について検査される。例えば、アミロイドタンパク質の検査結果が陽性の場合、対象体はADによって引き起こされるMCIを有すると考えられる。しかしながら、これ以降、MCIという用語は、ADになる可能性があるまたはADになるMCIを指す。
【0004】
ADを発症した後、個人は認知症に進む可能性があり、これは、認知機能の複数の領域の障害と、着衣および家事などの日常生活動作を実行する能力の障害によって示される。しかしながら、これ以降、アルツハイマー病(AD)という用語は、MCIから認知機能の複数の領域の障害、そして日常生活動作が損なわれる認知症への進行を指すために使用する。
【0005】
ADの早期発見(理想的には前臨床段階)が、疾患の予防、遅延および停止の鍵となることは広く受け入れられている。これは、疾患改変処置が最も効果的であるときである。いくつかの研究は、最初のAD関連の脳の変化が、臨床症状が現れる20年以上前に始まり得ることを示唆している。AD関連の発症を早期に確実に特定できるバイオマーカーを特定することは、早期の予防的処置を可能にし得るため、高い臨床的価値がある。
【0006】
したがって、アルツハイマー病の進行における異なる段階を診断および/または区別するための改善された方法が必要である。
【発明の概要】
【0007】
本発明の第1態様によれば、対象体が軽度認知障害(MCI)を有するかを決定する方法であって、該方法が:
a)対象体の呼気サンプル中の、ヘキサナールおよびヘプタナールからなる群より選択されるVOCの一方または両方の濃度を測定する工程;
b)工程a)で測定した濃度を参照濃度と比較する工程;および
c)工程a)で測定した濃度が参照濃度より約5%超高い場合、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示し得ると決定する工程
を含む、方法を提供する。
【0008】
本発明者らは、対象体の呼気サンプルと参照濃度(例えば、健常な対象体の参照サンプルの参照濃度)の間のVOC濃度の差が、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症する可能性が高いことを示唆するマーカーとして有用であり得ることを見出した。したがって、本発明は、対象体がMCIを有するかを臨床医が早期に決定することを可能にするため、有利である。これは、次に、臨床医が疾患の進行を予防、遅延または停止する、または少なくとも処置を改善するのに役立つ。
【0009】
工程(a)は、対象体の呼気サンプル中の、2-プロパノール、アセトン、2-ブタノンおよび1-ブタノールを含む/それらからなる群より選択される1つ以上の更なるVOCの濃度を測定することをさらに含み得る。
【0010】
工程a)で測定した濃度が、参照濃度よりおよそ2.5%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%超高いかまたは低いことを決定することは、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。
【0011】
一実施態様において、呼気サンプル中のアセトンの濃度が、参照濃度よりおよそ2.5%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%超高いまたは低い場合、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。好ましくは、参照濃度より高いアセトンの濃度は、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示す。
【0012】
一実施態様において、呼気サンプル中の2-ブタノンの濃度が、参照濃度よりおよそ2.5%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%超高いまたは低い場合、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。好ましくは、参照濃度より低い2-ブタノンの濃度は、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示す。
【0013】
一実施態様において、呼気サンプル中の2-プロパノールの濃度が、参照濃度よりおよそ2.5%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%超高いまたは低い場合、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。好ましくは、参照濃度より高い2-プロパノールの濃度は、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示す。
【0014】
一実施態様において、呼気サンプル中のヘキサナールの濃度が、参照濃度よりおよそ2.5%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%超高いまたは低い場合、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。好ましくは、参照濃度より高いヘキサナールの濃度は、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示す。
【0015】
一実施態様において、呼気サンプル中の1-ブタノールの濃度が、参照濃度よりおよそ2.5%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%超高いまたは低い場合、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。好ましくは、参照濃度より高い1-ブタノールの濃度は、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示す。
【0016】
一実施態様において、呼気サンプル中のヘプタナールの濃度が、参照濃度よりおよそ2.5%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%超高いまたは低い場合、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。好ましくは、参照濃度より高いヘプタナールの濃度は、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示す。
【0017】
好ましくは、工程(a)は、対象体の呼気サンプル中の、ヘキサナール、2-プロパノールおよびヘプタナールからなる群より選択される1つ以上のVOCの濃度を測定することを含む。最も好ましくは、工程(a)は、対象体の呼気サンプル中の、ヘキサナール、2-プロパノールおよびヘプタナールからなる群におけるVOCのすべての濃度を測定することを含む。
【0018】
好ましくは、工程a)で測定したヘキサナールの濃度が、ヘキサナールの参照濃度より約100%超高いことを決定することは、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示す。第1態様による方法は、第1態様による方法は、工程a)で測定したヘキサナールの濃度が、参照濃度より約100%未満高い場合、対象体が健常であることを示し得ることを決定することをさらに含み得る。第1態様による方法は、第1態様による方法は、工程a)で測定したヘキサナールの濃度が、参照濃度より約100%高いと約100%低いとの間である場合、対象体が健常であることを示し得ることを決定することをさらに含み得る。
【0019】
好ましくは、工程a)における2-プロパノールの濃度が、2-プロパノールの参照濃度より約10%超高いことを決定することは、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示す。第1態様による方法は、第1態様による方法は、工程a)で測定した2-プロパノールの濃度が、参照濃度より約10%未満高い場合、対象体が健常であることを示し得ることを決定することをさらに含み得る。第1態様による方法は、第1態様による方法は、工程a)で測定した2-プロパノールの濃度が、参照濃度より約10%高いと約10%低いとの間である場合、対象体が健常であることを示し得ることを決定することをさらに含み得る。
【0020】
好ましくは、工程a)におけるヘプタナールの濃度が、ヘプタナールの参照濃度より約10%超高いことを決定することは、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示す。第1態様による方法は、第1態様による方法は、工程a)で測定したヘプタナールの濃度が、参照濃度より約10%未満高い場合、対象体が健常であることを示し得ることを決定することをさらに含み得る。第1態様による方法は、第1態様による方法は、工程a)で測定したヘプタナールの濃度が、参照濃度より約10%高いと約10%低いとの間である場合、対象体が健常であることを示し得ることを決定することをさらに含み得る。
【0021】
第2態様によれば、対象体がADを有するかを決定する方法であって、該方法が:
a)対象体の呼気サンプル中の、アセトンおよび2-ブタノンからなる群より選択されるVOCの一方または両方の濃度を測定する工程;
b)工程a)で測定した濃度を参照濃度と比較する工程;および
c)工程a)で測定した濃度が参照濃度より約5%超高いかまたは約5%超低い場合、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示すと決定する工程
を含む、方法を提供する。
【0022】
本発明者らは、対象体の呼気サンプルと参照濃度(例えば、健常な対象体の参照サンプルの参照濃度)の間のVOC濃度の差が、対象体がADを有しているかまたはこれから発症する可能性が高いことを示唆するマーカーとして有用であり得ることを見出した。したがって、本発明は、対象体がADを有するかを臨床医が早期に決定することを可能にするため、有利である。これにより、次に、臨床医が疾患の進行を予防、遅延または停止する、または少なくとも処置を改善することができる。
【0023】
工程(a)は、対象体の呼気サンプル中の、ヘキサナール、ヘプタナール、2-プロパノールおよび1-ブタノールを含む/それらからなる群より選択される1つ以上の更なるVOCの濃度を測定することをさらに含み得る。
【0024】
したがって、工程a)で測定した濃度が、参照濃度よりおよそ2.5%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%超高いまたは低いことを決定することは、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。
【0025】
一実施態様において、呼気サンプル中のアセトンの濃度が、参照濃度よりおよそ2.5%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%超高いまたは低い場合、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。好ましくは、ADの対象体におけるアセトンの濃度は、参照濃度より高い。
【0026】
一実施態様において、呼気サンプル中の2-ブタノンの濃度が、参照濃度よりおよそ2.5%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%超高いまたは低い場合、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。好ましくは、ADの対象体における2-ブタノンの濃度は、参照濃度より低い。
【0027】
一実施態様において、呼気サンプル中の2-プロパノールの濃度が、参照濃度よりおよそ2.5%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%超高いまたは低い場合、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。好ましくは、ADの対象体における2-プロパノールの濃度は、参照濃度より高い。
【0028】
一実施態様において、呼気サンプル中のヘキサナールの濃度が、参照濃度よりおよそ2.5%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%超高いまたは低い場合、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。好ましくは、ADの対象体におけるヘキサナールの濃度は、参照濃度より高い。
【0029】
一実施態様において、呼気サンプル中の1-ブタノールの濃度が、参照濃度よりおよそ2.5%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%超高いまたは低い場合、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。好ましくは、ADの対象体における1-ブタノールの濃度は、参照濃度より高い。
【0030】
一実施態様において、呼気サンプル中のヘプタナールの濃度が、参照濃度よりおよそ2.5%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%超高いまたは低い場合、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。好ましくは、ADの対象体におけるヘプタナールの濃度は、参照濃度より高い。
【0031】
好ましくは、工程(a)は、対象体の呼気サンプル中の、アセトン、2-プロパノールおよび2-ブタノンからなる群より選択される1つ以上のVOCの濃度を測定することを含む。最も好ましくは、工程(a)は、対象体の呼気サンプル中の、アセトン、2-プロパノールおよび2-ブタノンからなる群におけるVOCのすべての濃度を測定することを含む。
【0032】
好ましくは、工程a)で測定したアセトンの濃度が、アセトンの参照濃度より高いことを決定することは、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示す。最も好ましくは、工程a)で測定したアセトンの濃度が、アセトンの参照濃度より約5%超高いことを決定することは、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示す。第2態様による方法は、工程a)で測定したアセトンの濃度が、参照濃度より約5%未満高い場合、対象体が健常であることを示し得ることを決定することをさらに含み得る。第2態様による方法は、工程a)で測定したアセトンの濃度が、参照濃度より約5%高いと約5%低いとの間である場合、対象体が健常であることを示すことを決定することをさらに含み得る。
【0033】
好ましくは、工程a)で測定した2-プロパノールの濃度が、2-プロパノールの参照濃度より高いことを決定することは、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示す。最も好ましくは、工程a)で測定した2-プロパノールの濃度が、2-プロパノールの参照濃度より約10%超高いことを決定することは、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示す。第2態様による方法は、工程a)で測定した2-プロパノールの濃度が、参照濃度より約10%未満高い場合、対象体が健常であることを示し得ることを決定することをさらに含み得る。第2態様による方法は、工程a)で測定した2-プロパノールの濃度が、参照濃度より約10%高いと約10%低いとの間である場合、対象体が健常であることを示し得ることを決定することをさらに含み得る。
【0034】
好ましくは、工程a)で測定した2-ブタノンの濃度が、2-ブタノンの参照濃度より低いことを決定することは、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示す。最も好ましくは、工程a)で測定した2-ブタノンの濃度が、2-ブタノンの参照濃度より約5%超低いことを決定することは、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示す。第2態様による方法は、工程a)で測定した2-ブタノンの濃度が、参照濃度より約5%未満低い場合、対象体が健常であることを示し得ることを決定することをさらに含み得る。
【0035】
第3態様によれば、対象体がMCIまたはADを有するかを決定する方法であって、該方法が
a)対象体の呼気サンプル中の、1-ブタノールであるVOCの濃度を測定する工程;
b)工程a)で測定した濃度を参照濃度と比較する工程;および
c)工程a)で測定した濃度が参照濃度より約5%~約60%高い場合、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示すと決定する工程、または工程a)で測定した濃度が参照濃度より約60%超高い場合、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示し得ると決定する工程
を含む、方法を提供する。
【0036】
本発明者らは、対象体の呼気サンプルと参照サンプル(例えば、健常な対象体の参照サンプルの参照濃度)の間のVOC濃度の差が、MCIとADを区別できるマーカーとして有用であり得ることを見出した。したがって、VOC濃度は、対象体がMCIまたはADを有するか、またはADを発症する可能性が高いかを示すのに用い得る。結果として、本発明は、臨床医が疾患の進行を予防、遅延または停止するのに最も適切な処置を提供する、または最低でも処置を改善することを可能にする。
【0037】
工程(a)は、対象体の呼気サンプル中の、ヘキサナール、ヘプタナール、2-プロパノール、アセトンおよび2-ブタノンを含む/それらからなる群より選択される1つ以上の更なるVOCの濃度を測定することをさらに含み得る。
【0038】
一実施態様において、対象中の呼気サンプルのアセトンの濃度が、参照濃度より約5%~約40%高い、約5%~約35%高い、約5%~約30%高い、約5%~約25%高いまたは約5%~約20%高い場合、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示す。対象中の呼気サンプルのアセトンの濃度が、参照濃度より約2.5%~約40%高い、約5%~約35%高い、約10%~約35%高い、約15%~約35%高いまたは約20%~約35%高い場合、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示す。したがって、対象中の呼気サンプルのアセトンの濃度が、参照濃度よりおよそ40%、35%、30%、25%または20%超高い場合、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。
【0039】
一実施態様において、対象中の呼気サンプルの2-ブタノンの濃度が、参照濃度より約2.5%~約12%低いまたは約5%~約12%低い場合、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示す。したがって、対象中の呼気サンプルの2-ブタノンの濃度が、参照濃度より約12%超低い場合、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。
【0040】
一実施態様において、対象中の呼気サンプルの2-プロパノールの濃度が、参照濃度より約5%~約49%高い、約5%~約45%高い、約5%~約40%高い、約5%~約35%、約5%~約30%高いまたは約5%~約25%高い場合、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。対象中の呼気サンプルの2-プロパノールの濃度が、参照濃度より約2.5%~約49%高い、約5%~約45%高い、約10%~約45%高い、約15%~約45%、約20%~約45%高いまたは約25%~約45%高い場合、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。したがって、対象中の呼気サンプルの2-プロパノールの濃度が、参照濃度よりおよそ49%、45%、40%、35%、30%または25%超高い場合、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。
【0041】
一実施態様において、対象中の呼気サンプルのヘキサナールの濃度が、参照濃度より約5%~約170%高い、約5%~約160%高い、約5%~約150%高い、約5%~約140%高い、約5%~約130%高い、約5%~約120%高い、約5%~約110%高い、約5%~約100%高い、約5%~約90%高い、約5%~約80%高い、約5%~約70%高い、約5%~約60%高いまたは約5%~約50%高い場合、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。対象中の呼気サンプルのヘキサナールの濃度が、参照濃度より約2.5%~約170%高い、約5%~約160%高い、約10%~約150%高い、約15%~約140%高い、約20%~約130%高い、約25%~約130%高い、約25%~約130%高い、約30%~約130%高い、約35%~約130%高い、約40%~約130%高い、約45%~約130%高い、約50%~約130%高いまたは約55%~約130%高い場合、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。したがって、対象中の呼気サンプルのヘキサナールの濃度が、参照濃度よりおよそ170%、160%、150%、140%、130%、120%、110%、100%、90%、80%、70%、60%または50%超高い場合、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。
【0042】
一実施態様において、対象中の呼気サンプルの1-ブタノールの濃度が、参照濃度より約5%~約80%高い、約5%~約75%高い、約5%~約70%高い、約5%~約65%高い、約5%~約60%高い、約5%~約55%高い、約5%~約50%高い、約5%~約45%高いまたは約5%~約40%高い場合、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。対象中の呼気サンプルの1-ブタノールの濃度が、参照濃度より約2.5%~約80%高い、約5%~約75%高い、約10%~約70%高い、約15%~約65%高い、約20%~約65%高い、約25%~約65%高い、約30%~約65%高い、約35%~約65%高いまたは約40%~約65%高い場合、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。したがって、対象中の呼気サンプルの1-ブタノールの濃度が、参照濃度よりおよそ80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%または40%超高い場合、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。
【0043】
一実施態様において、対象中の呼気サンプルのヘプタナールの濃度が、参照濃度より約5%~約30%高い、約5%~約28%高い、約5%~約25%高い、約5%~約20%高いまたは約5%~約15%高い場合、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。
【0044】
対象中の呼気サンプルのヘプタナールの濃度が、参照濃度より約2.5%~約30%高い、約5%~約28%高い、約10%~約25%高いまたは約15%~約25%高い場合、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。したがって、対象中の呼気サンプルのヘプタナールの濃度が、参照濃度よりおよそ30%、28%、25%、20%または15%超高い場合、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示し得る。
【0045】
第3態様による方法は、工程a)で測定した1-ブタノールの濃度が、参照濃度より約5%未満高い場合、対象体が健常であることを示し得ることを決定することをさらに含み得る。第3態様による方法は、工程a)で測定した1-ブタノールの濃度が、参照濃度より約5%高いと約5%低いとの間である場合、対象体が健常であることを示し得ることを決定することをさらに含み得る。
【0046】
好ましくは、工程(a)は、対象体の呼気サンプル中の、1-ブタノール、ならびにヘキサナールおよび2-プロパノールからなる群より選択されるVOCの一方または両方の濃度を測定することを含む。最も好ましくは、工程(a)は、対象体の呼気サンプル中の、1-ブタノール、ヘキサナールおよび2-プロパノールからなる群におけるVOCのすべての濃度を測定することを含む。
【0047】
好ましくは、工程a)で測定したヘキサナールの濃度が、ヘキサナールの参照濃度より約5%~約100%高いと決定することは、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示す。好ましくは、工程a)で測定したヘキサナールの濃度が、参照濃度より約100%超高いかを決定することは、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示す。第3態様による方法は、工程a)で測定したヘキサナールの濃度が、参照濃度より約5%未満高い場合、対象体が健常であることを示すことを決定することをさらに含み得る。第3態様による方法は、工程a)で測定したヘキサナールの濃度が、参照濃度より約5%高いと約5%低いとの間である場合、対象体が健常であることを示し得ることを決定することをさらに含み得る。
【0048】
好ましくは、工程a)で測定した2-プロパノールの濃度が、2-プロパノールの参照濃度より約5%~約49%高いと決定することは、対象体がMCIを有しているかまたはこれから発症することを示す。好ましくは、工程a)で測定した2-プロパノールの濃度が、参照濃度より約49%超高いかを決定することは、対象体がADを有しているかまたはこれから発症することを示す。第3態様による方法は、工程a)で測定した2-プロパノールの濃度が、参照濃度より約5%未満高い場合、対象体が健常であることを示すことを決定することをさらに含み得る。第3態様による方法は、工程a)で測定した2-プロパノールの濃度が、参照濃度より約5%高いと約5%低いとの間である場合、対象体が健常であることを示し得ることを決定することをさらに含み得る。
【0049】
当業者は、a)で測定したVOCの濃度が参照濃度とほぼ同じである場合、対象体が健常であることを示すと決定することを理解する。
【0050】
揮発性有機化合物は、大気圧での沸点が低い有機化合物として定義できる。その結果、それらは液相を形成し、それは蒸発/拡散して気相も形成する。
【0051】
実施例に示すとおり、本発明者らは、驚くべきことに、(ヒトなどの哺乳類の呼気中に存在する3000以上のVOCのうち)呼気(ガス状)サンプルに存在する特定のVOCの濃度が、対象体が健常であるか、MCIを有するか、またはADを有することを示すことを見出した。その結果、臨床医は、本発明を用いて、ADを有する患者が最も適切な処置(例えば、症状に対する緩和ケアおよび/または投薬)を確実に受けられるようにできる。ADの発症年齢と進行速度は人によって大きく異なる。これを考慮すると、本発明は、ADを急速に発症するかまたは急速に発症している個体を特定する上で特に重要である。
【0052】
さらに、本発明は非侵襲的であり、サンプルを採取して数分以内で、健常人と、MCIを有する人と、ADを有する人とを区別するために容易に使用できる。したがって、本発明は、ADを診断するのに用いられる公知の方法(例えば、CSFの検査またはPETスキャンの実施を含む)に対する有意な改善である。CSFの検査には、患者のコンプライアンスを必要とする侵襲的なステップが含まれ、一方、PETスキャンは複雑で高価である。
【0053】
したがって、本発明者らは、対象体の呼気サンプルと参照サンプル(例えば、健常な対象体の参照サンプル)の間のVOC濃度の差が、MCIまたはADの存在または不存在を示唆するか、またはMCIまたはADを発症する可能性が高いかまたは発症する可能性が低いことを示唆するマーカーとして有用であり得ることを見出した。
【0054】
当業者は、a)で測定したVOCの濃度が参照濃度とほぼ同じである場合、対象体が健常であることを示すと決定することを理解する。したがって、例えば、本発明による方法は、a)における1つ以上のVOCの濃度が参照濃度より約5%高いかまたは約5%低い場合、対象体が健常であることを示すと決定することをさらに含み得る。
【0055】
単一のVOCの検出は、健常な対象体、MCIを有する対象体、またはADを有する対象体を特定するために用いられ得ることが理解される。しかしながら、2つ以上の関連するVOCの検出は、より頑健な診断を提供し得る。MCIと健常人を区別するとき、ヘキサナール、2-プロパノールおよびヘプタナールが最も頑健な診断を提供し得る。ADと健常人を区別するとき、アセトン、2-プロパノールおよび2-ブタノンが最も頑健な診断を提供し得る。MCIとADを区別するとき、ヘキサナール、2-プロパノール、および1-ブタノールが最も頑健な診断を提供し得る。本発明の第1、第2または第3の態様による方法は、他の(公知の)方法によって補完され得る。
【0056】
VOCの不存在または存在および/または濃度は、ガスクロマトグラフ-イオンモビリティー分光分析(GC-IMS)技術、ガスクロマトグラフ(GC)、ガスクロマトグラフ-質量分析(GCMS)、質量分析(MS)、イオンモビリティー分光分析(IMS)、微分モビリティー分光測定(DMS)、光吸収分光分析、フィールド非対称イオンモビリティー分光分析(FAIMS)、電子ノーズ、選択イオンフローチューブ質量分析(SIFT-MS)、タンパク質移動反応-MS、光吸収/非分散型赤外線およびガスセンサー(個別またはアレイ)などの当技術分野で知られている任意の適切な方法/技術/テクノロジーズを用いて決定し得ると理解される。好ましくは、対象体の呼気サンプル中のVOCの濃度を測定する工程は、例えば、GC-IMS技術を用いることにより、サンプル中のVOCの濃度を検出することを含む。
【0057】
参照濃度(健常な対象体とMCIの対象体を区別するため、または健常な対象体とADの対象体を区別するための)は、健常な対象体から採取した参照サンプルに基づき得る。参照濃度は、統計的に有意な数の健常な対象体(例えば、25名または50名の対象体)を分析することにより得られ得る。したがって、参照濃度は、平均値(mean)、中央値また最頻値などの平均(average)濃度であり得る。好ましくは、平均は平均値である。
【0058】
当業者は、VOCの不存在または存在および/または濃度がGC-IMSにより決定される実施形態において、VOCの濃度は、VOCのイオン電流シグナルの強度(参照イオン強度)と等価であり得ることを理解する。
【0059】
参照強度は、ボルトで測定され得る。健常な対象体におけるアセトンの参照強度は、約2.66Vであってもよく、あるいは約2.5V~約2.9Vまたは約2.6V~約2.7Vの範囲内であってもよい。健常な対象体における2-ブタノンの参照強度は、約2.33Vであってもよく、あるいは約2.2V~約2.5Vまたは約2.3V~約2.5Vの範囲内であってもよい。健常な対象体における2-プロパノールの参照強度は、約1.03Vであってもよく、あるいは約0.5V~約1.5Vまたは約0.75V~約1.25Vの範囲内であってもよい。健常な対象体におけるヘキサナールの参照強度は、約0.27Vであってもよく、あるいは約0.1V~約0.5Vまたは約0.2V~約0.4Vの範囲内であってもよい。健常な対象体における1-ブタノールの参照強度は、約0.33Vであってもよく、あるいは約0.1V~約0.5V、または約0.2V~約0.4Vの範囲内であってもよい。健常な対象体におけるヘプタナールの参照強度は、約0.06Vであってもよく、あるいは約0.01V~約0.2Vまたは約0.03V~約0.1Vの範囲内であってもよい。
【0060】
本発明による方法は、対象体が、対象体の呼気サンプル中の1つ以上のVOCの濃度に影響を与える交絡因子を有するかを決定することをさらに含み得る。交絡因子は、週に14単位以上のアルコール消費量を有すること、75歳以上であること、喫煙者であること、男性であることからなる群より選択され得る。1つ以上の交絡因子の存在は、対象体がMCIまたはADを有しているかまたはこれから発症することを示す方向に、本発明による方法にバイアスをかけ得る。したがって、参照濃度は、好ましくは、交絡因子(週に14単位以上のアルコール消費量を有すること、75歳以上であること、喫煙者であること、男性であること)の選択が一致する健常な対象体から取られる。
【0061】
「対象体」は、ADまたはMCIを有する疑いのある人であり得る。「対象体」は、脊椎動物、哺乳類または家畜哺乳類であり得る。したがって、本発明による方法は、あらゆる動物、例えば、ブタ、ネコ、イヌ、ウマ、ヒツジまたはウシを診断または処置するのみ用いられ得る。好ましくは、対象体はヒトである。対象体は、男性または女性であり得る。用語「健常な」は、ADまたはMCIを有しない個体を指し得る。好ましくは、「健常な対象体」は、既知の疾患を有しない対象体である。
【0062】
用語「サンプル」は、対象体の身体から採取された検体を指し得る。サンプルは、鼻および/または口からの呼気サンプルであり得る。好ましくは、サンプルは呼気ガスサンプルである。
【0063】
用語「VOC濃度」は、ヘキサナール、2-プロパノール、ヘプタナール、アセトン、2-ブタノンおよび1-ブタノールからなる群より選択される1つ以上のVOCの濃度を指し得る。
【図面の簡単な説明】
【0064】
本発明をよりよく理解するために、そして本発明の実施態様がどのように実施され得るかを示すために、ここで、例として、添付の図を参照する。
図1図1は、健常人の呼気サンプルの成分のGC-IMS分析により作成した3D地形図である。
図2図2は、異なる対象体群から採取したサンプルの分析に基づくAUC ROC曲線である:健常対MCI(青);健常対AD(黒);MCI対AD(赤)。サンプルをG.A.S.GC-IMS器を用いて分析した。
【実施例
【0065】
本発明者らは、呼気中の呼気揮発性有機化合物(VOC)を非侵襲的バイオマーカーとして用いて、健常対照をMCIから、健常対照をADから、そしてMCIをADから区別できることを実証した。VOCの検出を、ガスクロマトグラフィー-イオンモビリティー分光分析(GC-IMS)技術を用いて実施した。結果の有効性を実証するために、年齢、喫煙習慣、性別、アルコール消費量などの交絡因子も調査した。
【0066】
材料および方法
(対象体)
本症例対照試験究では、合計100名の対象体を募集した。倫理的承認を、地元の研究倫理委員会から取得した(Ref No.17/18-829、University of Plymouth、UK)。MCIおよびAD患者を、Re: Cognition Health(Plymouth、UK)によって、健常対照としてのそれぞれのパートナーと共に採用した。ボランティアおよび患者は、情報シートを受け取り、医師による対面インタビューの後に同意した。研究コホートは、50名の患者(25名のMCI、25名のAD)と50名の健常対照ボランティアを含む。MCI患者を、試験実施者の評価(発明者S.P.)に基づき募集し、患者の病歴をレビューし、対象体がADを強く示唆する健忘症の症状を示したことを確認した。したがって、MCIの対象体を、NIAAA(国内基準を定義するNational Institute of Aging-Alzheimer's Association)によって定義された現在の慣行に沿って、精神機能の臨床試験により特定した。同様の臨床基準をAD群にも適用した。具体的には、ADの対象体を、23未満のM-ACEスコア、健忘症の問題の存在の臨床評価、および機能障害のある認知症の患者を含む認知問題の別の領域に基づき募集した。健常対照には、神経障害の病歴が知られていない対象体が含まれた(自己申告)。MCIおよびAD群の平均年齢は74.9歳(標準偏差:7.6)であり、男性29名と女性21名が含まれていた。MCI、ADおよび対照対象体の人口統計データの概要を表1に示す。
【表1】
【0067】
(呼気分析プラットフォーム)
GC-IMSテクノロジーを用いて、対象体の呼気中のVOCを検出した。近年、医療診断で能力が示されているポータブルGC-IMS分析装置の存在感が高まっている。用いたBreathSpec(G.A.S.、Dortmund、Germany)は、ガスクロマトグラフ(GC)とイオンモビリティー分光計(IMS)で構成される市販の機器である。重要なことに、ユニットは治療現場で分析し、分析を行うのに数分しかかからず、患者にやさしく、対象体に負担をかけずに呼気サンプルを収集する。
【0068】
BreathSpecは、カラムとの化学的相互作用に基づいたガスクロマトグラフィー分離用のMXT-200中極性カラム(Thames Restek、Saunderton、UK)を備えている。
【0069】
したがって、VOCを含む呼気サンプル中の化学物質を、カラムの内側を覆う保持層との相互作用に基づいて、GCカラムにより予め分離する。したがって、VOCを含む化学物質は、異なる時間(保持時間として知られている)にカラムから溶出される。これに続いて、分離した化学物質(分析物)を、IMSによりさらに分離する。分析物を、放射線源を用いてイオン化し、シャッターグリッドを用いてドリフトチューブに注入する。イオンは、均一な電界(400V/cm)の影響下でバッファーガスに対してドリフトし、ここで、様々なイオンは、サイズ、質量および電荷に反比例して、異なる速度を達成する。その後、イオンをファラデープレートに収集し、イオンモビリティーに対応する時間依存シグナルを生じさせる。イオンがファラデープレートに到達するのにかかる時間は、ドリフト時間と呼ばれる。この技術は、10億分の1(ppb)の低い範囲の物質を測定でき、10分未満で測定結果を提供する。このユニットは、周囲の空気を再循環およびろ過して、外部ガス供給を必要とせずにユニットを動作させることができる。
【0070】
(呼気サンプリング)
サンプリング手順は、4秒の呼気しか必要としない。対象体には、マウスピースホルダー/サンプル注入口に押し込まれ、機器のフロントパネルに直接接続される使い捨てのプラスチック製マウスピースが提供された。マウスピースはオープンエンドであり、息を吐きだすに連れてマウスピース内の空気を置き換えることができる。その結果、サンプリングシステムは呼気の最後の部分(呼気終末または肺胞呼吸として知られている)を分離できる。肺胞呼吸は、肺胞内の血液とガス交換された、肺および下気道内から排出される呼気の最後の部分(350mL)を指す。使用者は、肺ができるだけ空になるまで息を吐く必要はなく、代わりに通常の呼吸をするように求められる。これは再現性を向上させ、高齢者などの脆弱な対象体に適したデバイスにする。
【0071】
呼気サンプルに対する典型的なGC-IMS出力応答(この研究の健常対照対象体)を図1に示す。得られたサンプルを3D地形図で表し、各ポイントは、クロマトグラフィーカラムの保持時間(秒単位)、ドリフト時間(ミリ秒単位)、およびイオン電流シグナルの強度(ミリ秒単位)により特徴付けられる。シグナル強度は色で示され、各高強度領域は単一または組合せの化学物質(同じ特性を持つ)を表す。赤い長い線は、バックグラウンドシグナルであるRIP(反応性イオンピーク)である。GC-IMSシグナルの表示には、Laboratory Analytical Viewer(LAV)ソフトウェア(v2.2.1、G.A.S.、Dortmund、Germany)を用いた。
【0072】
(データ分析)
使用するデータ分析アプローチは、AD、MCIおよび対照の3つの診断群を区別することに焦点を当てている。しかしながら、MCIまたはADの対象体より多くの対照がいるため、不均衡なデータセットの影響を考慮する必要がある。このため、25名の健常な対象体の無作為の選択をこの分析に用いた。データ分析の第1工程は、前処理段階を含む。この目的は、次元を減らし、これにより、非バックグラウンドのデータを残すことである。典型的なGC-IMSデータセットは、1100万のデータポイントを含み、これは、高次元であるが、情報量は少ない。したがって、対象とする領域をデータセットの中心から切り取り、その後、閾値を適用して、バックグラウンドを除去する。これらの手順により、データポイントの数が100分の1に減少する。これに続いて、監視下での特徴選択手順を実施し、クラス予測はk分割交差検証法(ここではk=10)を用いて実施する。この方法は、元のデータセットを10個の同じサイズのサブセットに分割することを含む。10個のサブセットのうち、1個のサブセットを、モデルを試験するための検証データとして保持し、残りの9個のサブセットをトレーニングデータとして使用する。トレーニング特徴を、2群間のWilcoxon順位和検定を用いて特定し、p値が最も低い特徴点を選択し、5つの異なる分類器に基づいてモデルを構築するために使用する。これらの特徴は、この段階では生物学的機能ではなく、純粋に統計に基づいて特定される。この分析を、標準的機械学習サブパッケージ(サポートベクターマシン(SVM)-kernlab;スパースロジスティック回帰(SLR)-glmnet;ガウス過程-gbm、ニューラルネットワーク-ニューラルネット、およびランダムフォレスト(RF)-randomForest)を備えたR(バージョン3.6.0)を用いて実施した。このプロセスを10回(フォールド数)繰り返し、各サブセットを検証データとして1回使用する。その後、10個の結果を組み合わせて単一の推定値を生成し、これから統計パラメーターを計算する。
【0073】
分類分析に加えて、生成した結果の有効性に大きく関係する未知のVOCを特定することができる。GC-IMS Library Searchソフトウェア(v1.0.1、G.A.S.、Dortmund、Germany)を用いて、約83,000の化合物エントリを有するNISTデータベースを参照することにより、ガスクロマトグラフの保持時間とイオンモビリティードリフト時間に基づいて化合物を特定できる可能性がある。ここでは、特定された特徴を元のGC-IMS出力にプロットし、化学物質を特定する。品質管理のために、標準ケトン混合物(2-ブタノン、2-ペンタノン、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、2-オクタノン、2-ノナノン)を用いて、GC-IMS Library Searchソフトウェアを装備されたカラムと一致するように機器を標準化した。
【0074】
(交絡因子)
診断および/またはモニタリングの目的での呼気分析の適用は、考えられる交絡因子を考慮する必要がある。これらは、呼気量に何らかの影響を与えることが知られている因子であり、したがって、バイアスをもたらしたり、または偽の関連性を生じさせたりし得る。例えば、年齢の増加はADの最大の危険因子であるため、この研究では年齢が重大な交絡因子である。年齢に加えて、喫煙習慣、性別、アルコール消費量を考慮した。これらの因子の影響は、交絡因子に基づいて患者とボランティアを再編成した後、診断群に適用した分類分析を再実行することにより評価できる。分析を簡素化し、より均等にバランスの取れた群を作成するために、交絡群を次のように定義した:年齢[75歳以上対74歳以下]、喫煙習慣[非喫煙者対元/現喫煙者]、性別[男性対女性]およびアルコール消費量[1週間当たり14単位以上対14単位未満]。後者の閾値、定期的なアルコール消費に関する英国のガイドラインを表している。交絡因子群を表2に要約する。
【表2】
【0075】
(結果)
実施例1 化学的特定
VOC分析は、アセトン、2-プロパノールおよび2-ブタノンとして特定される3つの化合物の濃度が、健常対照とADの対象体を区別する上で重要な役割を果たすことを示している。AD対MCIの試験では、2-プロパノール、ヘキサナールおよび1-ブタノールの濃度の変化が重要であった。健常対照とMCIの区別は、2-プロパノール、ヘキサナールおよびヘプタナールの濃度の変化に依存していた。
【0076】
GC-IMSで測定した観察された変化を、100名の対象体すべてに関して表3に示す。
【表3】
【0077】
実施例2 統計分析
分析結果を、重複する受信者動作特性(ROC)曲線として図2に示す。対応する曲線下面積(AUC)は、パラメーターが診断群間、すなわちMCI、ADおよび健常をどれだけうまく区別できるかを示す尺度である。様々な比較のNPV(負の予測値)およびPPV(正の予測値)をまた計算した。診断群の分析結果を、SLRを用いて達成し、表4に示す。
【表4】
【0078】
実施例3 交絡因子
AD、MCIおよび健常群で先に実施した分析を、同じ分析手法とアルゴリズムを用いて、年齢、喫煙習慣、性別およびアルコール消費量の交絡因子群で繰り返した。分析結果を表5に要約する。
【表5】
【0079】
表5は、性別、喫煙および年齢の考えられる交絡因子が呼気量にわずかな影響しか及ぼさないことを示している。しかしながら、アルコール消費量は呼気に最も影響を与えると考えられ、AUCは0.60である。
【0080】
(考察)
ADの病因に関連する正確なメカニズムは完全には理解されていないが、ミトコンドリア代謝の欠陥(すなわちミトコンドリア機能の変化および潜在的な機能障害)が神経変性において重要な役割を果たすことを示唆するいくつかの証拠がある。さらに、NDDにおけるミトコンドリア機能障害は、細胞損傷および細胞間酸化ストレスを引き起こす活性酸素種(ROS)の生成の増加に関連していると考えられている。内因性VOC(体内で生成される)は代謝経路をたどり、血流を介して肺に輸送され、そこで呼気中に吐き出される。酸化ストレスは血液中で検出されているため、呼吸分析を適用して、細胞のエネルギー代謝、ミトコンドリア機能障害および酸化ストレスに関連するバイオマーカーの発見と評価を容易にする機会を提供する。
【0081】
本願内の結果の主な利点は、対象体コホートの年齢と性別がほぼバランスが取れていることである。また、MCIおよびADの患者を、健常対象としてのそれぞれのパートナーと共に募集することにより、より頑健な実験を設計し、個人間の大きな相違を生じる可能性があるライフスタイルおよび環境要因の考えられる影響を最小限にすることができる。さらに、男性より多くの女性がADおよび認知症の他の形態を有するため、年齢の一致は考慮すべき重要な要因である。例えば、アルツハイマー病のアメリカ人の約3分の2は女性である。この不一致は、一般的に女性が男性より長生きし、それがADを発症する危険因子を増加させるためであることが示唆されている。しかしながら、臨床的有効性の変動に寄与し得る性別固有の遺伝的およびホルモン的要因などの他の要因がある。さらに、喫煙、過度のアルコール消費、質の悪い食生活、および結果として生じる健康状態(肥満、2型糖尿病および心血管疾患)などのライフスタイルの選択は、性別により認知症のリスクに様々な影響を与え得る。この分析では、年齢を「前期高齢者」(65~74歳)と「後期高齢者」(75歳以上)にさらに分割した。この分割は、75歳以上の認知症症例の急増により説明され、アルツハイマー病患者の15%が65~75歳で、44%が75~85歳である。
【0082】
VOC分析は、アセトン、2-プロパノールおよび2-ブタノンがAD対対照の分析の有効性に大きく寄与したことを示している。これらの化合物は一般的に、通常の呼吸に関連している。同様に、2-プロパノール、ヘキサナール、ヘプタナールおよび1-ブタノールなどの他の呼気マーカーの変化は、AD対MCIおよびMCI対対照の試験での区別に寄与した。これは、ADに関連する呼気の変化が全体的な呼気量に微妙な影響を与えることを示唆している。アセトンの変化は特に興味深いものである。ADの初期段階は、脳のグルコース代謝の領域固有の低下に関連している。これは、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸およびアセトンなどのケトン体で補うことができる。これらは通常、グルコースが利用できない場合、例えば長時間の絶食中またはケトン食療法を受けている場合に脂肪貯蔵から生成され、これはAD患者の呼気中のアセトンレベルの上昇につながる可能性がある。AD患者はしばしば食欲不振に陥り、軽度のAD患者のほぼ半数が食欲の変化を報告している。この研究において呼気アセトンで観察された変化は、この現象に関連している可能性がある。我々の知る限りでは、現在、1-ブタノールとADまたは他のNDDに関連する代謝経路との間に既知の関連性はない。
【0083】
考えられる交絡因子の分析は、性別、喫煙、年齢およびアルコール消費量が呼気量にわずかな影響しか及ぼさないことを示している。これらの因子の中で、アルコールが最も影響力があると考えられ、AUCは約0.60である。しかしながら、この因子は、2つの異なる群を作成したり、またはAD関連の分析を台無しにするほど重要ではない。
【0084】
(結論)
この研究の結果は、MCI、ADおよび健常対照を区別するために呼気VOCを分析することの潜在的な有用性を確認している。これは単純な研究であり、比較的クリーンで明確に定義された群を用いたが、用いたアプローチは、診断群間を一貫して分離することができた[AUC±95%、感度、特異性]、健常対MCI:[0.77(0.64~0.9)、0.68、0.8]、健常対AD:[0.83(0.72~0.94)、0.6、0.96]、およびMCI対AD:[0.70(0.55~0.85)、0.6、0.84]。考えられる交絡因子の分析は、性別、年齢、喫煙習慣およびアルコール消費量が呼気量にわずかな影響しか及ぼさないことを示唆している。VOC分析は、アセトン、2-プロパノール、2-ブタノン、ヘキサナール、ヘプタナールおよび1-ブタノールとして暫定的に特定した6つの化合物が、診断群を区別する上で重要な役割を果たすことを示している。GC-IMS分析技術は、高齢対象体の非侵襲的サンプリングに適していることが示され、ポイントオブケア臨床環境におけるADについての高速、ハイスループット、リアルタイムの診断ツールとしての可能性を示している。
図1
図2
【国際調査報告】