(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-11
(54)【発明の名称】筋疾患のための併用療法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/06 20060101AFI20221228BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20221228BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221228BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20221228BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20221228BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221228BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20221228BHJP
A61P 21/06 20060101ALI20221228BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221228BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20221228BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20221228BHJP
【FI】
A61K45/06
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/86 Z
A61K31/7088
A61K48/00
A61P21/04
A61P21/06
A61P43/00 105
A61P43/00 121
A61K38/18
C07K14/47
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525861
(86)(22)【出願日】2020-11-05
(85)【翻訳文提出日】2022-07-04
(86)【国際出願番号】 EP2020081200
(87)【国際公開番号】W WO2021089736
(87)【国際公開日】2021-05-14
(32)【優先日】2019-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520296842
【氏名又は名称】アソシエーション・アンスティトゥート・ドゥ・マイオロジー
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フランス・ピエトリ-ルクセル
(72)【発明者】
【氏名】セスティーナ・ファルコーネ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA21
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA53
4C084DB52
4C084NA05
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA94
4C086ZB21
4C086ZC75
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA28
(57)【要約】
本発明は筋疾患の処置に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋疾患の処置における使用のための、GDF5経路活性化物質と、前記筋疾患の処置において使用するのに好適な少なくとも1つの他の有効成分とを含む組合せ物。
【請求項2】
GDF5経路活性化物質が、
ヒトGDF5等のGDF5をコードする遺伝子を含むベクター、又は
組換えヒトGDF5等の組換えGDF5
である、請求項1に記載の組合せ物。
【請求項3】
少なくとも1つの他の有効成分が、(i)ジストロフィンpre-mRNAにエクソンスキッピングを誘導することが可能なアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)と、(ii)デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療物をコードする、AAVベクター等のウイルスベクターとの組合せであり、前記成分(i)が成分(ii)を投与する前に投与される、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの処置における使用のための、請求項1又は2に記載の組合せ物。
【請求項4】
成分(ii)のウイルスベクターが、(a)ジストロフィンpre-mRNA内にエクソンスキッピングを誘導することができるアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードするか、(b)ジストロフィン遺伝子編集手段をコードするか、又は(c)機能性ジストロフィンタンパク質をコードする、請求項3に記載の組合せ物。
【請求項5】
前記AONが、ペプチド-ホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー、特にPip6a-PMOオリゴマー等のホスホロジアミデートモルホリノオリゴマーである、請求項3又は4に記載の組合せ物。
【請求項6】
成分(ii)の前記ウイルスベクターがU7-AONをコードする、請求項3から5のいずれか一項に記載の組合せ物。
【請求項7】
成分(ii)の前記ウイルスベクターがミニ又はマイクロジストロフィン等の機能性短縮型ジストロフィンをコードする、請求項3から5のいずれか一項に記載の組合せ物。
【請求項8】
GDF5経路活性化物質が、
- 成分(i)の投与前、
- 成分(i)の投与中、
- 成分(i)の投与と成分(ii)の投与との間、
- 成分(ii)の投与中、又は
- 成分(ii)の投与後
に投与される、請求項3から7のいずれか一項に記載の組合せ物。
【請求項9】
少なくとも1つの他の有効成分が、SOD1 pre-mRNAにエクソンスキッピングを誘導し、それによって未成熟停止コドンの成熟mRNAへの組込みを引き起こすことが可能なアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)である、筋萎縮性側索硬化症の処置における使用のための、請求項1又は2に記載の組合せ物。
【請求項10】
少なくとも1つの他の有効成分が、SMN1又はSMN2遺伝子等の運動神経細胞生存タンパク質をコードする遺伝子を含むベクターである、請求項1又は2に記載の組合せ物。
【請求項11】
- GDF5経路活性化物質、及び
- 少なくとも1つの他の有効成分
を含むキット。
【請求項12】
少なくとも1つの他の有効成分が、
- ジストロフィンpre-mRNAにエクソンスキッピングを誘導することが可能な単離されたAON、及び
- デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療ウイルスベクター
を含む、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
デュシェンヌ型筋ジストロフィーウイルスベクターが、
- ジストロフィンpre-mRNA内にエクソンスキッピングを誘導することができるアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードするか、
- ジストロフィン遺伝子編集手段をコードするか、又は
- 機能性ジストロフィンタンパク質をコードする、
請求項12に記載のキット。
【請求項14】
GDF5経路活性化物質が、GDF5、特にヒトGDF5をコードする遺伝子を含む、プラスミド又はウイルスベクター等のベクター、特にウイルスベクター、より詳細にはAAVベクターである、請求項11から13のいずれか一項に記載のキット。
【請求項15】
GDF5経路活性化物質が組換えGDF5、特に組換えヒトGDF5である、請求項11から14のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筋疾患の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
筋疾患は、筋肉に影響を及ぼす障害であり、脱力、疼痛、又は麻痺さえも引き起こすことがある。
【0003】
筋疾患のうち、筋ジストロフィーは、骨格筋の衰弱及び破壊の経時的な亢進を生じる筋疾患群である。特に、ジストロフィン異常症は、ジストロフィンと呼ばれる筋細胞膜下タンパク質をコードするDMD遺伝子の異常によって引き起こされる病態である。最も頻繁な遺伝子変化である広範な欠失に関して、表現型の重症度は主として、その変異がジストロフィン転写物のタンパク質読み枠に与える影響に左右される。ジストロフィン構造(24個のスペクトリン様リピートから構成される中央ロッドドメイン)は広範な内部欠失を許容し(1)、このことが2つの主要な治療戦略、すなわち、機能性マイクロジストロフィンcDNAの筋肉への転移を伴う古典的な遺伝子療法、及び標的化エクソンスキッピングの開発をもたらした。本発明者らは以前にも国際公開第2016198676号において、筋ジストロフィーの2工程組合せ療法が先行技術で公知の処置戦略よりも好都合であることを示している。この組合せ療法は、ジストロフィンpre-mRNA内にエクソンスキッピングを誘導すること、及び機能性ジストロフィンタンパク質をコードするmRNA転写物を産生するように筋細胞を誘導することに好適な単離されたAONの投与を含む。第2の工程において、この療法は、同じ対象に、デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療物をコードする少なくとも1つのウイルスベクターを投与する工程を含む。ウイルスベクター(又は治療ウイルスベクター)は、筋細胞におけるジストロフィン機能を回復するために設計される。例えば、筋細胞におけるジストロフィン機能を回復することができる少なくとも1つのウイルスベクターは、(i)ジストロフィンpre-mRNA内にエクソンスキッピングを誘導することができ、機能性ジストロフィンタンパク質をコードするmRNA転写物を産生するように筋細胞を誘導するアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする(以下の説明において「AONコードウイルス」とも称される)か、(ii)筋細胞に、前記筋細胞のゲノムにおけるジストロフィン遺伝子を修正するための手段、例えば、ジストロフィン遺伝子に特異的な1つ若しくは複数のエンドヌクレアーゼを実装するゲノム編集手段を導入するように設計されるか、又は(iii)機能性ジストロフィンタンパク質をコードするウイルスベクターである。
【0004】
そのような戦略、及び筋ジストロフィーだけでなく他の筋疾患も処置するための他の戦略がGDF5経路活性化物質の投与からの恩恵を受けるということが本明細書において示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2016198676号
【特許文献2】国際公開第201308649号
【特許文献3】国際公開第2016016449号
【特許文献4】国際公開第2013/053928号
【特許文献5】国際公開第11036640号
【特許文献6】国際公開第13163628号
【特許文献7】国際公開第14009567号
【特許文献8】国際公開第14197748号
【特許文献9】国際公開第02/29056号
【特許文献10】国際公開第01/83695号
【特許文献11】国際公開第08/088895号
【特許文献12】国際公開第2011/113889号
【特許文献13】国際公開第2006/021724号
【特許文献14】国際公開第2017098187号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nakamura, K.ら(1999) Exp. Cell Res. 250:351
【非特許文献2】Charbordら、Stem Cells. 2013年9月;31(9):1816~28
【非特許文献3】http://rulai.cshl.edu/cgi-bin/tools/ESE3/esefinder.cgi?process=home
【非特許文献4】Collins及びMorgan、lnt J Exp Pathol 84:165~172、2003
【非特許文献5】Zincarelli Mol Ther. 2008
【非特許文献6】Schultz Mol Ther. 2008
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様では、本発明は、筋疾患を遺伝子療法によって処置するための方法における使用のためのGDF5経路活性化物質であって、筋疾患の処置に好適な別の有効成分と組み合わせて使用される、GDF5経路活性化物質に関する。
【0008】
第2の態様では、本発明は、(i)GDF5経路活性化物質、及び(ii)筋疾患の処置に好適な有効成分を含むキットに関する。本発明のキットは、本明細書に記載される治療方法を行うのに有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは本明細書において、GDF5過剰発現が除神経筋と神経支配筋の両方の筋量の増加をもたらすことを示す。この観察は、有利には、筋疾患の処置のための方法であって、筋疾患を処置するのに好適な有効成分がそれを必要とする対象に投与され、GDF5経路活性化物質が前記有効成分との組合せにおいて使用され、筋量及び/又は筋機能を増加又は安定化する、方法においてなされうる。
【0010】
GDF5経路活性化物質
特定の実施形態では、GDF5経路活性化物質はGDF5ペプチド、特に合成又は組換えGDF5、より詳細には組換えGDF5、例えば組換えヒトGDF5である。未処理野生型ヒトGDF-5(Uniprot受託番号P43026)は以下の配列を有する:
【0011】
【0012】
(配列番号8)
【0013】
配列番号8は、1~27アミノ酸位にシグナルペプチド、28~381アミノ酸位にプロペプチド、及び382~501アミノ酸位に、上に提供した配列において下線が引かれている、成熟ペプチドに対応する部分を含む。
【0014】
したがって、そのような成熟ペプチドは、以下の配列番号9に示される配列を有する:
APLATRQGKRPSKNLKARCSRKALHVNFKDMGWDDWIIAPLEYEAFHCEGLCEFPLRSHLEPTNHAVIQTLMNSMDPESTPPTCCVPTRLSPISILFIDSANNVVYKQYEDMVVESCGCR
(配列番号9)。
【0015】
他の組換えヒトGDF5、例えばThermo Fischer社から入手可能な配列番号3に示される配列を有するタンパク質(カタログ番号RP-8663)は市販されている:
APSATRQGKRPSKNLKARCSRKALHVNFKDMGWDDWIIAPLEYEAFHCEGLCEFPLRSHLEPTNHAVIQTLMNSMDPESTPPTCCVPTRLSPISILFIDSANNVVYKQYEDMVVESCGCR
(配列番号10)
【0016】
本発明の文脈において、配列番号9又は配列番号10に示されるペプチドは「参照組換えヒトGDF5」と称される場合がある。
【0017】
別の特定の実施形態においては、GDF5経路活性化物質はGDF5ペプチドの機能性誘導体である。本発明における機能性誘導体とは、参照ペプチドの活性を少なくとも1つ、特に全て有するペプチドである。本発明の文脈において、GDF5ペプチドの機能的バリアントは、0.01~10μg/mL、例えば0.2~4μg/mL、例えば0.2~1.2μg/mLのED50でATDC5マウス軟骨形成細胞(Nakamura, K.ら(1999) Exp. Cell Res. 250:351.)によるアルカリホスファターゼ産生を誘導する能力を有しうる。特に、GDF5ペプチドの機能的バリアントは、本出願の実験に関する部分において提供されるような状態の動物モデル又はヒト対象におけるサルコペニアを処置又は防止しうるペプチドである。GDF5シグナル伝達もまた、SMAD1/5/8リン酸化、SMAD4核移行、及び以下の実験に関する部分において提供されるId-1転写を測定することによって評価されうる。機能的バリアントの活性は、参照GDF5ペプチドの活性の少なくとも30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は少なくとも100%でありうる。特定の実施形態では、機能性ペプチドは、参照GDF5ペプチドの活性よりも大きい活性、例えば参照GDF5ペプチドの活性の少なくとも105%、110%、115%、120%、125%、130%、135%、140%、145%、又は少なくとも150%の活性を有する。加えて、本発明においては、GDF5ペプチドの機能的バリアントは、参照GDF5アミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性、特に参照ヒト組換えGDF5と少なくとも81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有する。例えば、GDF5ペプチドの機能的バリアントは、参照組換えヒトGDF5と比較して1~20個のアミノ酸修飾(すなわちアミノ酸付加、欠失、又は置換)、例えば参照組換えヒトGDF5と比較して1~15個のアミノ酸修飾、特に1~10個のアミノ酸修飾、より詳細には1~6個のアミノ酸修飾、更により詳細には1、2、3、4、5、又は6個のアミノ酸修飾を含みうる。組換えヒトGDF5のそのような機能的バリアントはGDF5の天然バリアントであってもよい。特定の態様では、機能的バリアントは最適化されたGDF5ペプチドである。最適化としては、例えば上に提供したアミノ酸修飾、グリコシル化、アセチル化、リン酸化等のペプチドの種々の変化、又は少なくとも1つのD-アミノ酸、例えば少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、若しくは少なくとも5つのDアミノ酸の包含を挙げることができる。別の態様では、GDF5ペプチドは、挿入、付加物、又はGDF5配列の別のアミノ酸との置換によって含まれる少なくとも1つの非天然アミノ酸を含む。更に別の態様では、組換えGDF5は別の部分、例えば別のペプチド部分と融合しうる。そのような他の部分は、例えばペプチドを安定化することができる。
【0018】
別の特定の実施形態では、物質は、BMP受容体IB(BMPR-IB)に対する向上した親和性及び/又はBMP受容体IA(BMPR-IA)に対する低下した親和性を有する、国際公開第201308649号に記載されているGDF5関連タンパク質に対応するGDF5ペプチドの機能的バリアントである。特定の実施形態では、タンパク質はヒト野生型GDF5に由来する。特定の実施形態では、GDF5関連タンパク質は、GDF-5ペプチドのアミノ酸配列におけるBMPR-IB及び/又はBMPR-IA結合部位に関する少なくとも1つのアミノ酸残基を、好ましくは遺伝子操作技術によって置き換えることによって取得される。更なる実施形態では、GDF5ペプチドのBMPR-IB及び/又はBMPR-IA結合部位における少なくとも1つの疎水性アミノ酸は、親水性又は極性アミノ酸、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、セリン、及びスレオニンからなる群から選択される親水性アミノ酸残基又は極性アミノ酸残基で置き換えられる。代替的な実施形態では、GDF5ペプチドのBMPR-IB及び/又はBMPR-IA結合部位における少なくとも1つの親水性又は極性アミノ酸は、疎水性アミノ酸、例えば、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、チロシン、バリンからなる群から選択される疎水性アミノ酸で置き換えられる。別の代替的な実施形態では、GDF5関連タンパク質は、GDFペプチドのBMPR-IB及び/又はBMPR-IA結合部位における少なくとも1つのアミノ酸の保存的置換であって、特に、疎水性アミノ酸がより小さい若しくはより大きい疎水性アミノ酸と置き換えられるか、又は親水性若しくは極性アミノ酸がより小さい若しくはより大きい親水性若しくは極性アミノ酸と置き換えられる、保存的置換を含む。BMPR-IA及び/又はBMPR-IBとの結合に関与するGDF-5関連タンパク質の領域は、当技術分野で周知であるか、又は通常の知識内の方法を使用して容易に決定することができる。配列番号8の野生型ヒトGDF5の未処理全長アミノ酸配列を参照して、特定の実施形態は、以下のアミノ酸のうちの1つ又は複数の、任意の異なるアミノ酸との置換えを実現する:
R399、
F409~W417のうちのいずれか1つ、特にM412、G413、W414、及び/又はW417、
E434~M456のうちのいずれか1つ、特にF435、P436、L437、R438、S439、H440、P443、N445、V448、I449、L452、M453、S455、及び/又はM456、
S475、
I476、
F478、
K488~M493のうちのいずれか1つ、特にK488、Y490、及び/又はD492。
【0019】
特定の実施形態では、配列番号8の未処理全長アミノ酸配列を参照して、以下のアミノ酸のうちの1つ又は複数は、指定のアミノ酸と置き換えられる
- R399はV、L、I、M、F、Y、W、E、又はDと置き換えられる、
- M412はV、L、I、F、Y、W、H、K、又はRと置き換えられる、
- W414はR、K、F、Y、H、E、又はDと置き換えられる、
- W417はR、K、F、Y、H、E、又はDと置き換えられる、
- F435はV、L、I、M、P、Y、W、H、K、又はRと置き換えられる、
- P436はV、L、I、M、F、Y、又はWと置き換えられる、
- L437はD又はEと置き換えられる、
- R438はK、D、H、N、M、E、Q、S、T、Y、又はWと置き換えられる、
- S439はK、D、E、H、R、M、T、N、Q、Y、又はWと置き換えられる、
- H440はV、I、M、F、Y、W、E、又はDと置き換えられる、
- P443はV、L、I、M、F、Y、W、A、又はSと置き換えられる、
- N445はD、Q、H、F、L、R、K、M、S、Y、又はWと置き換えられる、
- V448はF、L、I、M、P、Y、又はWと置き換えられる、
- I449はF、L、V、M、P、Y、又はWと置き換えられる、
- L452はF、I、V、M、P、Y、又はWと置き換えられる、
- M456はF、I、L、P、Y、W、S、T、N、Q、K、又はDと置き換えられる、
- S475はM、T、N、Q、Y、又はWと置き換えられる、
- K488はR、M、S、T、N、Q、Y、又はWと置き換えられる、
- Y490はE、H、K、R、Q、F、T、M、S、N、Q、又はWと置き換えられる、
- D492はG、E、M、S、T、N、Q、Y、W、H、K、又はRと置き換えられる、
- I476はG、A、V、L、M、F、Y、又はWと置き換えられる、
- F478はG、A、V、L、I、Y、又はWと置き換えられる。
【0020】
別の特定の実施形態では、配列番号8の未処理全長アミノ酸配列を参照して、以下のアミノ酸のうちの1つ又は複数は、指定のアミノ酸と置き換えられる:
R399はM又はEと置き換えられる、
W414はRと置き換えられる、
W417はR又はFと置き換えられる、
R438はKと置き換えられる、
S439はK又はEと置き換えられる、
I449はVと置き換えられる。
【0021】
成熟ペプチド(例えば配列番号9又は配列番号10)における対応する位置は、未処理全長野生型ヒトGDF-5に関する上記情報から容易に導くことができる。
【0022】
本発明の特定の実施形態では、物質は、アミノ酸が配列番号9又は配列番号10からなるGDF5ペプチドである。別の特定の実施形態では、物質は、アミノ配列が配列番号9又は配列番号10からなる、N末端にメチオニン残基の付加を伴うGDF5ペプチドである。別の実施形態では、物質は、アミノ酸が配列番号9又は配列番号10からなる、最初のアラニン残基がメチオニン残基と置き換えられているGDF5ペプチドである。
【0023】
更なる特定の実施形態では、GDF5経路活性化物質は、CaVβ1-E/GDF5軸を誘導する物質である。この実施形態において、変形形態は、小化学分子である物質の使用を含む。この実施形態の非限定的な変形形態では、GDF5経路活性化物質はNRSF(神経特異的転写抑制因子;REST又はRE1抑制転写因子とも称される)の阻害薬である。
【0024】
特定の実施形態では、NRSF阻害薬としてのGDF5経路活性化物質はバルプロ酸である。更なる特定の実施形態では、GDF5経路活性化物質は、Charbordら、Stem Cells. 2013年9月;31(9):1816~28に開示されているNRSF阻害薬、特に、そこに開示されている2-(2-ヒドロキシ-フェニル)-1H-ベンゾイミダゾール-5-カルボン酸アリルオキシ-アミド(X5050)、2-チオフェン-2-イル-1H-ベンゾイミダゾール-5-カルボン酸(2-エチル-ヘキシル)-アミド(X5917)、3-[1-(3-ブロモ-フェニル)-3,5-ジメチル-1H-ピラゾール-4-イル]-1-{4-[5-(モルホリン-4-カルボニル)-ピリジン-2-イル]-2-フェニル-ピペラジン-1-イル}-プロパン-1-オン(X38210)、又は3-[1-(2,5-ジフルオロ-フェニル)-3,5-ジメチル-1H-ピラゾール-4-イル]-1-{4-[5-(モルホリン-4-カルボニル)-ピリジン-2-イル]-2-フェニル-ピペラジン-1-イル}-プロパン-1-オン(X38207)分子、より詳細には、そこに開示されているX5050分子から選択される。
【0025】
更に別の実施形態では、GDF5経路活性化物質は、ヒトGDF5又はその機能的バリアント等のGDF5をコードする核酸を含むベクターである。特定の実施形態では、ベクターはプラスミドベクター、又はアデノウイルスベクター若しくはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター等のウイルスベクターである。特定の実施形態においては、ウイルスベクターは、筋細胞及び/又は神経細胞に形質導入するのに好適である。より特定の実施形態では、筋細胞及び/又は神経細胞に形質導入するのに好適なそのようなウイルスベクターは、AAVベクター、例えば、AAV2/2、AAV2/6、AAV2/8、AAV2/9、又はAAV2/10カプシドを有するAAVベクターである。更なる特定の実施形態では、GDF5コード配列は、プロモーター、エンハンサー、リプレッサー、及びポリアデニル化シグナル等の制御配列の制御下にあってもよい。特定の実施形態では、ベクターは、プロモーター、GDF5コード配列、及びポリアデニル化シグナルをこの順番で含む発現カセットを含む。プロモーターはユビキタスであっても組織選択的であってもよい。特定の実施形態では、プロモーターは、ヒトGDF5遺伝子のプロモーター等のGDF5遺伝子の天然プロモーターである。
【0026】
別の特定の実施形態では、GDF5経路活性化物質はGDF5の活性又は発現を増加する物質である。
【0027】
更なる実施形態では、GDF5経路活性化物質は、ヒトCaVβ1-E等のCaVβ1-Eをコードする核酸を含むベクターである。特定の実施形態では、ベクターはプラスミドベクター、又はアデノウイルスベクター若しくはアデノ随伴ウイルスベクター等のウイルスベクターである。したがって、本発明はまた、CaVβ1-Eコード配列を含む、ウイルスベクター、例えば上に記載したアデノウイルス又はAAVベクター等のベクターに関する。CaVβ1-Eコード配列は、プロモーター、エンハンサー、リプレッサー、及びポリアデニル化シグナル等の制御配列の制御下にあってもよい。特定の実施形態では、ベクターは、プロモーター、CaVβ1-Eコード配列、及びポリアデニル化シグナルをこの順番で含む発現カセットを含む。プロモーターはユビキタスであっても組織選択的であってもよい。特定の実施形態では、プロモーターは、ヒトCaVβ1-E遺伝子のプロモーター等のCaVβ1-E遺伝子の天然プロモーターである。
【0028】
特定の実施形態では、GDF5経路活性化物質は、(i)ヒトGDF5若しくはその機能的バリアント等のGDF5をコードする核酸を含む、AAVベクター等のベクター、又は(ii)上に開示した、組換えヒトGDF5若しくはその機能的バリアント等の組換えGDF5のいずれかである。更に別の特定の実施形態では、GDF5経路活性化物質は、組換えヒトGDF5又はその機能的バリアント等の組換えGDF5である。
【0029】
特定の実施形態では、GDF5経路活性化物質は、他の有効成分と別個に、逐次に、又は同時に投与される。例えば、投与は、同時でありうる(例えば、物質と成分とが同じ組成物内に含まれているため、若しくは各々が物質及び有効成分をそれぞれ含む2つの異なる組成物が同時に投与されるため)か、又は数時間、数日、数週間、若しくは数か月空けられる。別の特定の実施形態では、GDF5経路活性化物質はプラスミドベクター又はウイルスベクター等のベクター、特にAAVベクターであり、前記物質は1回のみ投与される。更なる実施形態では、GDF5経路活性化物質は、上で上記実施形態のそれぞれにおいて記載した組換えタンパク質であり、前記組換えGDF5タンパク質は、他の有効成分が作用しうる前、間、又は後に筋量及び/又は機能を増加させるために、例えば他の有効成分の投与前、中、又は後に1回のみ投与されうる。別の実施形態では、GDF5経路活性化物質は、上で上記実施形態のそれぞれにおいて記載した組換えタンパク質であり、前記組換えGDF5タンパク質は、処置プロトコル全体にわたって好適な筋量及び/又は機能を維持するために数回投与されうる。例えば、GDF5組換えタンパク質の投与は、少なくとも1年に1回、例えば少なくとも6か月ごとに1回、例えば少なくとも四半期に1回、例えば少なくとも1か月に1回、例えば少なくとも1週間に1回、例えば少なくとも1日に1回実行されうる。
【0030】
筋疾患及びその処置に好適な有効成分
本発明は、筋疾患の処置に関する。遺伝子疾患は本発明からの恩恵を受けうる筋疾患のうちの1つである。特定の実施形態では、筋疾患は神経筋疾患又は筋骨格疾患である。
【0031】
特定の実施形態では、筋疾患は筋萎縮性側索硬化症(ALS)又は脊髄性筋萎縮症(SMA)等の運動ニューロン疾患である。
【0032】
特定の実施形態では、本発明は、ALSの処置であって、ALSの処置に好適な有効成分がヒトSOD1 pre-mRNAを標的とするAONであり、前記AONが前記pre-mRNAにエクソンスキッピングを誘導するのに好適である、処置に関する。当業者はどのような戦略がALSの処置に関連するかを認識している。例えば、国際公開第2016016449号の開示を参照することができる。特定の実施形態では、AONは、プラスミド又はウイルスベクター等のベクター、例えばAAVベクター内に導入される目的のヌクレオチド配列によってコードされる。AONの設計に有用な一般的な情報は、当業者に利用可能であり、ジストロフィンpre-mRNAを標的とするAONに関しては以下に提供され、同じ原理がSOD1 pre-mRNAを標的とするAONの設計に適用される。
【0033】
更なる特定の実施形態では、本発明は、脊髄性筋萎縮症の処置であって、有効成分が、SMN1又はSMN2遺伝子等の運動神経細胞生存タンパク質をコードする遺伝子を含む、プラスミド又はウイルスベクター等のベクター、例えばAAVベクターである、処置に関する。
【0034】
更に別の実施形態では、筋疾患は萎縮性筋障害、例えば筋ジストロフィーである。本発明によって処置することができる筋ジストロフィーの非限定的な例としては、遠位型ミオパチー、VII型糖原病、肢帯型筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、エメリー・ドレフュス型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、眼咽頭型筋ジストロフィー、及び筋強直性ジストロフィーが挙げられる。
【0035】
特定の実施形態では、処置される筋疾患はデュシェンヌ型筋ジストロフィーである。更なる特定の実施形態では、DMDの処置のための有効成分は、筋ジストロフィーの2工程組合せ療法が行われる国際公開第2016198676号に開示されているものである。この実施形態では、初めに、ジストロフィンpre-mRNA内にエクソンスキッピングを誘導すること、及び機能性ジストロフィンタンパク質をコードするmRNA転写物を産生するように筋細胞を誘導することに好適な単離されたAONが投与される。第2の工程において、同じ対象は、DMD治療物をコードする少なくとも1つのウイルスベクターを投与される。ウイルスベクター(又は治療ウイルスベクター)は、筋細胞におけるジストロフィン機能を回復するために設計される。例えば、筋細胞におけるジストロフィン機能を回復することができる少なくとも1つのウイルスベクターは、
(i)ジストロフィンpre-mRNA内にエクソンスキッピングを誘導することができ、機能性ジストロフィンタンパク質をコードするmRNA転写物を産生するように筋細胞を誘導するアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする(以下の説明において「AONコードウイルス」とも称される)か、
(ii)筋細胞に、前記筋細胞のゲノムにおけるジストロフィン遺伝子を修正するための手段、例えば、ジストロフィン遺伝子に特異的な1つ若しくは複数のエンドヌクレアーゼを実装するゲノム編集手段を導入するように設計されるか、又は
(iii)機能性ジストロフィンタンパク質をコードする
ウイルスベクターである。
【0036】
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」及び「AON」という用語は、交換可能に使用され、ジストロフィンタンパク質をコードするpre-mRNAの一部に相補的であり、したがってワトソン・クリック塩基対形成によって標的配列内でヘテロ二重鎖を形成することができる一本鎖核酸配列、例えばDNA又はRNA配列を指す。特に、本発明のAONは、スプライス受容(SA)部位、及び/又はエクソンスプライシングエンハンサー(ESE)、及び/又はジストロフィンpre-mRNAにおける分岐点、及び/又はスプライス供与(SD)部位、及び/又はpre-mRNAスプライシングを調節しうる任意の配列をブロックするように設計される、すなわち、本発明のAONは、SA、ESE、分岐点配列、SD、及び/又はpre-mRNAスプライシングを調節しうる任意の配列を含むジストロフィンpre-mRNAの一部に相補的となるように設計される(14、15)。特定の実施形態では、ジストロフィンpre-mRNA内の標的化配列には、pre-mRNAの3'若しくは5'スプライス部位、又は分岐点が含まれうる。標的配列は、エクソン内であっても、イントロン内であっても、イントロン-エクソン又はエクソン-イントロン接合部と重なっていてもよい。スプライス部位の標的配列には、プロセシング前のmRNAにおける通常のスプライス受容接合部から1~約50塩基対下流の5'末端を有するmRNA配列が含まれうる。スプライスに好ましい標的配列は、スプライス部位を含む、並びに/又はエクソンコード配列内に完全に含有される、並びに/又はスプライス受容及び/若しくはドナー部位に及ぶ、pre-mRNAの任意の領域である。当然、標的配列には、pre-mRNAスプライシングを調節することができるこれらの配列のうちの複数が含まれていてもよく、いくつかのそのような標的配列は所望の効果を達成するために組み合わせることができる。
【0037】
目的のpre-mRNAにおけるSA、ESE、SD、及び分岐点配列を同定するためのツールが利用可能である。当業者に周知であるように、SAは保存配列であり、イントロンの3'末端に位置し、ほとんど不変のAG配列でイントロンを終結する。SDは保存配列であり、イントロンの5'末端に位置し、ほとんど不変のGT配列でイントロンを開始する。加えて、ESEfinderソフトウェアツール(http://rulai.cshl.edu/cgi-bin/tools/ESE3/esefinder.cgi?process=home)を使用して、スキッピングされることが意図されるエクソン配列上のESEモチーフが予測されうる。その後、AONの設計はAartsma-Rusら(16)において公開されている原則に従って実行することができる。
【0038】
本発明のAONは、標的化エクソンの正確なスプライシングに必要とされるジストロフィンpre-mRNA内の好適な配列を補完し、それによって標的化エクソンを成熟mRNAに組み込むスプライシング反応を阻止するように設計される。
【0039】
変異したヒトジストロフィン遺伝子は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者の筋肉において、測定可能なジストロフィンを全く発現しない。この状態を治療するために、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、典型的には、変異したヒトジストロフィン遺伝子のpre-mRNAの選択された領域にハイブリダイズし、ジストロフィンmRNAにエクソンスキッピングを誘導し、それによって筋細胞に、機能性ジストロフィンタンパク質をコードするmRNA転写物を産生させる。エクソンスキッピング戦略は、アウトオブフレーム変異をインフレーム変異に変換して、内部に欠失を有するが部分的に機能性のジストロフィンを生じる。したがって、スキッピングされるエクソンに応じて、救済されるタンパク質は、最良の場合、ジストロフィー表現型をより軽症のベッカー様表現型の方向へ改善することができる。ある特定の実施形態では、結果として生じるジストロフィンタンパク質は、必ずしも「野生型」形態のジストロフィンではなく、むしろ短縮型形態であるが、依然として機能性又は半機能性のジストロフィンである。筋細胞における機能性ジストロフィンタンパク質のレベルを増加することによって、これら及び関連する実施形態は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの予防及び処置に有用となりうる。本明細書に記載される併用療法は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを処置する代替方法を上回る重要且つ実践的な利点を提供する。
【0040】
「エクソンスキッピング」とは、一般に、エクソン全体又はその一部が所与のpre-mRNAから除去され、それによって成熟mRNAに存在することから除外されるプロセスを指す。したがって、その他の場合ではスキッピングされるエクソンによってコードされるタンパク質の一部は、タンパク質の発現形態には存在せず、発現形態は、典型的には、変更されているが依然として機能性の形態のタンパク質を作出する。ある特定の実施形態では、スキッピングされているエクソンは、その配列に変異又は他の変更を含有しているおそれがある、ヒトジストロフィン遺伝子由来の異常なエクソンである。ある特定の実施形態では、スキッピングされているエクソンは、ジストロフィン遺伝子のエクソン1~79のうちのいずれか1つ又は複数であるが、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン23、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、及び/又は55のうちのいずれか1つ又は複数が好ましい。ジストロフィンコードフレームを回復し、内部に欠失を有するが部分的に機能性のジストロフィンを生じるために、DMD患者変異の局在性に応じて、スキッピングされる1つ又はいくつかのエクソンが選択される。「ジストロフィン」とは、棒状の細胞質タンパク質であり、細胞膜を介して筋肉線維の細胞骨格を周囲の細胞外マトリックスに接続するタンパク質複合体の不可欠な部分である。ジストロフィンは多数の機能ドメインを含有する。例えば、ジストロフィンは、アミノ酸14~240付近にアクチン結合ドメイン、及びアミノ酸253~3040付近に中央ロッドドメインを含有する。この大きな中央ドメインは、アルファ-アクチニン及びスペクトリンと相同性を有する、約109アミノ酸の24個のスペクトリン様三重螺旋エレメントによって形成される。リピートは典型的には、ヒンジ領域とも称される4つのプロリンリッチ非リピートセグメントによって分断されている。リピート15及び16は、ジストロフィンのタンパク質分解切断のための主要な部位を提供していると考えられる18アミノ酸ストレッチによって隔てられている。大半のリピート間の配列同一性は10~25%の範囲である。1つのリピートは3つのアルファ-ヘリックス1、2、及び3を含有する。アルファ-ヘリックス1及び3はそれぞれ、おそらくは疎水性界面を介してコイルド
コイルとして相互作用する7つのヘリックスターンによって形成される。アルファ-ヘリックス2はより複雑な構造を有し、グリシン又はプロリン残基によって隔てられている4つのヘリックスターンと3つのヘリックスターンとのセグメントによって形成される。各リピートは2つのエクソンによってコードされ、エクソンは、典型的には、アルファ-ヘリックス2の第1の部分におけるアミノ酸47及び48をコードする核酸位間のイントロンによって分断されている。他のイントロンはリピートコード領域の種々の位置に見出され、通例ヘリックス-3に分散する。ジストロフィンはまた、粘菌(キイロタマホコリカビ(Dictyostelium discoideum))アルファ-アクチニンのC末端ドメインと相同性を示すシステインリッチセグメント(すなわち、280アミノ酸中15個のシステイン)を含むシステインリッチドメインをアミノ酸3080~3360付近に含有する。カルボキシ末端ドメインはアミノ酸3361~3685付近に位置する。
【0041】
ジストロフィンのアミノ末端はF-アクチンに結合し、カルボキシ末端は筋細胞膜のジストロフィン関連タンパク質複合体(DAPC)に結合する。DAPCは、ジストログリカン、サルコグリカン、インテグリン、及びカベオリンを含み、これらの成分のいずれかの変異は常染色体遺伝性筋ジストロフィーを引き起こす。ジストロフィンが存在しない場合、DAPCは不安定化し、構成タンパク質のレベルの減少を招き、今度は進行性線維損傷及び膜漏出を引き起こす。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)及びベッカー型筋ジストロフィー(BMD)等の様々な形態の筋ジストロフィーでは、主に遺伝子配列の変異のために、筋細胞は、変更され機能的に欠陥のある形態のジストロフィンを産生するか、又はジストロフィンを全く産生しない。欠陥ジストロフィンタンパク質の優勢な発現、又はジストロフィン若しくはジストロフィン様タンパク質の完全な欠如は、上に示したように筋変性の急速な進行を引き起こす。この点において、「欠陥」ジストロフィンタンパク質は、当技術分野で公知のDMD若しくはBMDを有するある特定の対象において産生されるジストロフィンの形態、又は検出可能なジストロフィンの非存在によって特徴付けることができる。
【0042】
本明細書で使用する場合、「機能」及び「機能性」等の用語は、生物学的、酵素的、又は治療上の機能を指す。「機能性」ジストロフィンタンパク質とは、全般に、DMD又はBMDを有するある特定の対象に存在する変更又は「欠陥」形態のジストロフィンタンパク質と典型的には比較して、筋組織の進行性分解を抑制するのに十分な生物活性を有する、その他の点では筋ジストロフィーに特徴的なジストロフィンタンパク質を指す。ある特定の実施形態では、機能性ジストロフィンタンパク質は、野生型ジストロフィンの約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%(これらの間の全ての整数を含む)のin vitro又はin vivo生物活性を有することができ、これは当技術分野における慣例的な技法に従って測定される。一例として、in vitroでの筋肉培養におけるジストロフィン関連活性は、筋管サイズ、筋原線維組織化(又は崩壊)、収縮活動、及びアセチルコリン受容体の自発的クラスター形成に従って測定することができる(17)。動物モデルもまた、疾患の病因を研究するための貴重な資源であり、ジストロフィン関連活性を試験する手段を提供する。DMD研究のために最も広く使用される2種類の動物モデルは、いずれもジストロフィン陰性のmdxマウス及びゴールデンレトリバー筋ジストロフィー(GRMD)犬である(例えば、Collins及びMorgan、lnt J Exp Pathol 84:165~172、2003を参照のこと)。これら及び他の動物モデルは、様々なジストロフィンタンパク質の機能活性を測定するために使用することができる。本発明のエクソンスキッピングアンチセンス化合物のうちのいくつかによって産生される形態等の短縮型形態のジストロフィンは含まれる。
【0043】
本発明の単離されたAONは任意の好適な種類のものでありうる。AONの代表的な種類としては、オリゴデオキシリボヌクレオチド、オリゴリボヌクレオチド、モルホリノ(例えばホスホロジアミデートモルホリノ(PMO)若しくはペプチド-ホスホロジアミデートモルホリノ(PPMO))、2'-O-メチル-ホスホロチオエート(2'OMePS)、2'-O-2-メトキシエチル-アンチセンスオリゴヌクレオチド、トリシクロ-DNA-アンチセンスオリゴヌクレオチド、トリシクロ-ホスホロチオエートDNAオリゴヌクレオチド、LNA、核内低分子RNA修飾、例えばU7、U1、若しくはU6修飾AON(若しくは他のUsnRNP)、又はそれらのコンジュゲート生成物、例えばペプチドコンジュゲート若しくはナノ粒子複合AONが挙げられる。
【0044】
特に、in vivoでの使用の場合、AONは、例えばリン酸骨格修飾を介して安定化されうる。例えば、この発明の安定化AONは、修飾骨格、例えばホスホロチオエート連結を有しうる。他の考えられる安定化修飾としては、ホスホジエステル修飾、ホスホジエステル修飾とホスホロチオエート修飾との組合せ、メチルホスホネート、メチルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、p-エトキシ、及びそれらの組合せが挙げられる。また、AONの化学的に安定化された修飾型としては、「モルホリノ」(ホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー、PMO)、2'-O-メチルオリゴマー、トリシクロ-DNA、トリシクロ-DNA-ホスホロチオエートAON分子(国際公開第2013/053928号)、又はU核内低分子(sn)RNAが挙げられる。この効果に対して使用されうる後者の形態のAONは、U1、U6、又はU7(又は他のUsnRNP)等の核内低分子RNAの分子と結合することができる。
【0045】
特定の実施形態では、本発明において使用される単離されたAONは2'OMePSオリゴヌクレオチド又はPPMOオリゴヌクレオチドである。好ましくは、AONはPPMOオリゴヌクレオチドである。
【0046】
本発明の実施において用いられるAONは、全般に、約10~約40ヌクレオチド長であり、ジストロフィンpre-mRNA内の標的化配列及びAON化学に応じて、例えば、約10、若しくは約15、若しくは約20、若しくは約25、若しくは約30、若しくは約35、若しくは約40ヌクレオチド長、又はそれ以上でありうる。
【0047】
本発明の実施のための代表的なAONは、ヒトジストロフィンpre-mRNAのエクソン51スキッピング又はエクソン53スキッピングをもたらす。より特定の実施形態では、本発明の実施のためのAONは、ヒトジストロフィンpre-mRNAのエクソン51スキッピングをもたらす。別の特定の実施形態では、本発明の実施のためのAONは、CATTCAACTGTTGCCTCCGGTTCTGAAGGTGTTCTTGTAC(配列番号1)でありえ、ヒトジストロフィンpre-mRNAのエクソン53スキッピングをもたらしうる。
【0048】
当然、上に記載した特性を有するいかなるAONも本発明の実施において使用することができる。
【0049】
ある実施形態では、本発明の単離されたAONは配列番号1に示される配列を有し、PPMOオリゴヌクレオチドである。
【0050】
安定且つ効率的なin vivo送達のために、本発明の実施において使用される単離されたAONはまた、任意の細胞透過性ペプチド及びタンパク質分泌を媒介するシグナルペプチドと融合又は同時投与されてもよい。細胞透過性ペプチドは、RVGペプチド(18)、PiP(19)、例えばPip6a-PMO(20)、P28(21)、又はTAT(22)若しくはVP22(23)のようなタンパク質形質導入ドメインでありうる。特定の実施形態では、単離されたAONはPPMOオリゴヌクレオチド、すなわちペプチド部分と融合したPMOオリゴヌクレオチド、より詳細にはPip6a-PMO、更により詳細にはPip6a-PMOである。特定の実施形態では、PPMOオリゴヌクレオチド部分は配列番号1に示される配列を含むか又はそれからなる。更なる特定の実施形態では、単離されたAONは、オリゴヌクレオチド部分が配列番号1に示される配列を含むか又はそれからなるPip6a-PMOである。
【0051】
更に、本発明の実施において使用される単離されたAONは、薬学的に許容される担体及びオリゴヌクレオチド送達効率を改善する試薬を更に含む組成物として投与することができる。そのような試薬としては、限定されないが、F127を挙げることができる(24)。
【0052】
本発明の特定の実施形態では、本発明の単離されたAONは、野生型ジストロフィンの通常の発現レベルと比較して少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは50%、より好ましくは少なくとも51%、52%、53%、54%、55%、又は少なくとも56%の機能性ジストロフィン発現を誘導することが可能である。当然、より高い機能性ジストロフィン発現、例えば、野生型ジストロフィンの通常の発現レベルと比較して少なくとも60%、70%、80%、又は更には少なくとも90%の発現もまた好ましい。
【0053】
方法発明の第2の工程では、治療物をコードするウイルスベクターもまた処置を必要とする同じ患者に投与される。本発明の文脈において、治療物は、それを必要とする筋細胞におけるジストロフィン機能を回復することができる。
【0054】
特定の実施形態では、治療物をコードするウイルスベクターはAONコードウイルスである。このウイルスによってコードされるAONは、上で定義された通りであり、ジストロフィンpre-mRNA内にエクソンスキッピングを誘導すること、及び機能性ジストロフィンタンパク質をコードするmRNA転写物を産生するように筋細胞を誘導することができる。
【0055】
別の具体的な実施形態では、1つ又はいくつかのウイルスベクターは、筋細胞のゲノムにおけるジストロフィン遺伝子を修正するための手段をコードする。この実施形態では、筋細胞におけるジストロフィン機能を回復することができるウイルスベクターは、前記細胞のゲノムにゲノム編集システムを導入することによって、対象における変異型ジストロフィン遺伝子を修正するために設計される。例えば、部位特異的ヌクレアーゼがウイルスベクターによってコードされてもよく、これにより、ジストロフィン遺伝子全体又は変異を含有する領域を置き換えることができる修復鋳型又はドナーDNAを用いて、完全に機能性であるか又は部分的に機能性であるジストロフィンタンパク質の発現を回復することができる。部位特異的ヌクレアーゼは、標的化ゲノム座位に部位特異的二本鎖切断を導入するために使用されてもよい。部位特異的二本鎖切断は、部位特異的ヌクレアーゼが標的DNA配列に結合し、それによって標的DNAの切断を可能にする場合に生じる。このDNA切断は、天然DNA修復機構を刺激して、2つの生じうる修復経路、すなわち相同組換え修復(HDR)又は非相同末端結合(NHEJ)経路のうちの1つを引き起こしうる。この実施形態は、ジストロフィン遺伝子に特異的な1つ又は複数のエンドヌクレアーゼ(例えば、1つ又は複数のメガヌクレアーゼ、TALEN、ZFN、又はCRISPR/Cas9エンドヌクレアーゼ)と1つ又は複数の修復マトリックスとを実装するゲノム編集手段を筋細胞に導入する工程を含みうる。そのようなシステムは、例えば国際公開第11036640号、国際公開第13163628号、国際公開第14009567号、及び国際公開第14197748号に記載されており、当業者に公知である。
【0056】
別の実施形態では、ウイルスベクターによってコードされる治療物は機能性ジストロフィンである。上述したように、「機能性」ジストロフィンタンパク質とは、全般に、DMD又はBMDを有するある特定の対象に存在する変更又は「欠陥」形態のジストロフィンタンパク質と典型的には比較して、筋組織の進行性分解を抑制するのに十分な生物活性を有する、その他の点では筋ジストロフィーに特徴的なジストロフィンタンパク質を指す。ある特定の実施形態では、機能性ジストロフィンタンパク質は、野生型ジストロフィンの約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%(これらの間の全ての整数を含む)のin vitro又はin vivo生物活性を有することができ、これは当技術分野における慣例的な技法に従って測定される。機能性ジストロフィンタンパク質はミニ又はマイクロジストロフィン等の短縮型ジストロフィンタンパク質でありうる。そのようなミニ及びマイクロジストロフィンは当技術分野、例えば国際公開第02/29056号、国際公開第01/83695号、国際公開第08/088895号、及びFosterら、2008(37)において公知である。特定の実施形態では、マイクロジストロフィンは、ΔAB/R3-R18/ΔCT又はΔR4-R23/ΔCTマイクロジストロフィン(より詳細にはΔR4-R23/ΔCTマイクロジストロフィン)、例えばFosterら、2008に記載されているΔAB/R3-R18/ΔCT又はΔR4-R23/ΔCTマイクロジストロフィン、より詳細にはΔR4-R23/ΔCTマイクロジストロフィンである。更なる特定の実施形態では、ミニ又はマイクロジストロフィンコード遺伝子はコドン最適化される。更なる特定の実施形態では、ミニ又はマイクロジストロフィンコード遺伝子は、コドン最適化され、ΔAB/R3-R18/ΔCT又はΔR4-R23/ΔCTマイクロジストロフィン、特にFosterら、2008に記載されているΔR4-R23/ΔCTマイクロジストロフィンをコードする。対応するコード配列はそれぞれ配列番号6及び7に示される。
【0057】
マイクロジストロフィンのDMDを有するジストロフィン欠損マウスへのアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)媒介送達は、著しい効率を示しており(25、26、27)、早期臨床試験の開始に至っている(28)。
【0058】
ウイルスベクターとしては、これらに限定されないが、アデノウイルス;アデノ随伴ウイルス等のパルボウイルス;SV40型ウイルスを含む、エピソームとして維持されるベクター等の非組込み型ウイルスベクター(又は標的細胞のゲノムを低い有効性で組み込むベクター)が挙げられる。命名されていないが当技術分野で公知である他のベクターを容易に用いることができる。臨床応用に関してバリデートされており、アンチセンス配列を送達するために使用することができるベクターのうち、AAVはエクソンスキッピング戦略に対して比較的高い可能性を示す。
【0059】
好ましい実施形態では、ウイルスベクターはパルボウイルス、特にAAVベクターである。パルボウイルスであるアデノ随伴ウイルス(AAV)は、複製に関する欠陥を天然に有し、感染細胞のゲノムに組み込まれて潜伏感染を確立することができる依存性ウイルスである。組込みは、19番染色体(19q13.3-qter)に位置するAAVS1と呼ばれるヒトゲノムの特異的部位で行われるため、最後の特性は哺乳動物ウイルスの間で特有のものであると考えられる。AAVに基づく組換えベクターは、Repタンパク質を欠き、低い有効性で組み込まれ、数か月、場合によっては数年にわたって標的細胞中で存続することができる安定な環状エピソームとして主に存在する。したがって、AAVはヒト遺伝子療法のための潜在的なベクターとして大きな関心を呼んでいる。あらゆるヒト疾患との関連性の欠如、及び感染することができる種々の組織に由来する細胞株の範囲の広さは、このウイルスの好都合な特性である。実際、それぞれ異なる組織指向性を有する12のAAV血清型(AAV1~12)及び最大120のバリアントが公知である(29、30)。したがって、本発明は、ジストロフィンpre-mRNAを標的とし、前記ヒトpre-mRNAにエクソンスキッピングを誘導するように、及び筋細胞における機能性ジストロフィンタンパク質の産生を誘導するように構成された、上に記載したAONをコードするAAVベクターに関する。特定の実施形態においては、AAVゲノムはAAV1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12血清型に由来する。好ましい実施形態では、AAVカプシドはAAV1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、若しくは12血清型又はAAVバリアントに由来する。更なる特定の実施形態では、AAVベクターはシュードタイプベクターである、すなわち、そのゲノムとカプシドとは、異なる血清型のAAVに由来する。例えば、シュードタイプAAVベクターは、ゲノムがAAV2血清型に由来し、カプシドがAAV1、3、4、5、6、7、8、9、10、11、若しくは12血清型AAV又はAAVバリアントに由来するベクターでありうる。加えて、AAVベクターのゲノムは一本鎖又は自己相補的二本鎖ゲノムでありうる(31)。自己相補的二本鎖AAVベクターは、AAV末端リピートのうちの1つから末端解離部位(trs、terminal resolution site)を欠失させることによって生成される。複製ゲノムが野生型AAVゲノムの半分の長さであるこれらの修飾ベクターは、DNA二量体をパッケージングする傾向を有する。
【0060】
好ましくは、本発明の実施において実装されるAAVベクターは、筋細胞を標的とするベクターである。特に、AAV1、6、8、及び9は、横紋筋への高い指向性を呈し(Zincarelli Mol Ther. 2008、Schultz Mol Ther. 2008)、特に好ましい。好ましい実施形態では、AAVベクターは、AAV1、6、8、又は9カプシドを有し、このベクターは任意選択でシュードタイプベクターである。
【0061】
特定の実施形態では、上に記載したAONコードベクターによってコードされるAONは、U1、U2、U6、U7、若しくは任意の他の核内低分子RNA(snRNA)、又はキメラ核内低分子RNA等の核内低分子RNAの分子と連結する(32、33)。U7修飾に関する情報は、Goyenvalleら(34)、国際公開第2011/113889号、及び国際公開第2006/021724号に特に見出されうる。特定の実施形態では、D. Schumperliによって記載されているU7カセットが使用される(35)。これは、天然U7プロモーター(-267~+1位)、U7smOpt snRNA、及び116位までの下流配列を含む。U7 snRNAにおけるヒストンpre-mRNAに相補的な18nt天然配列は、既に記載されたように、例えばPCR媒介変異誘発を使用して、選択されたAON配列の1つ又は2つ(2回使用される同じ配列か、若しくは2つの異なる配列)、又はそれ以上のリピートと置き換えられる(34)。
【0062】
特定の実施形態では、U7修飾AONは、配列番号2に示される配列:CATTCAACTGTTGCCTCCGGTTCTGAAGGTGTTCTTGTAC(配列番号2)を含み、ジストロフィンpre-mRNAにおいてエクソン53スキッピングをもたらす。より詳細には、ジストロフィンpre-mRNAにおいてエクソン53スキッピングをもたらすU7修飾AONは国際公開第2017098187号に開示されている通りである。
【0063】
特定の実施形態では、核内低分子RNA修飾AON、特にU7修飾AONはAAVベクターに搭載される。
【0064】
典型的には、ウイルスベクター、とりわけ機能性ジストロフィンコードベクター又はAONコードベクターは、コードされている機能性ジストロフィン又はAONの発現を可能にする制御配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、内部リボソーム進入部位(IRES)、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)をコードする配列等も含みうる。この点において、ベクターは、最も好ましくは、コード配列と作動可能に連結してAONの発現を引き起こすか又は改善するプロモーター領域を含む。そのようなプロモーターは、ユビキタスプロモーター、組織特異的プロモーター、強いプロモーター、弱いプロモーター、制御型プロモーター、キメラプロモーター等でありえ、AONの効率的且つ好適な産生を可能にする。プロモーターは、細胞プロモーター、ウイルスプロモーター、真菌プロモーター、植物プロモーター、又は合成プロモーターでありうる。本発明における使用に最も好ましいプロモーターは筋細胞において機能性であるものとする。筋特異的プロモーターの非限定的な例としては、デスミンプロモーター、C5~12合成プロモーター、及び筋クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーターが挙げられる。AONの発現に関する態様に関し、プロモーターは、U1、U2、U6、U7、若しくは他の核内低分子RNAプロモーター等の核内低分子RNAプロモーター、又はキメラ核内低分子RNAプロモーターから選択されうる。他の代表的なプロモーターとしては、H1プロモーター等のRNAポリメラーゼIII依存性プロモーター、又はRNAポリメラーゼII依存性プロモーターが挙げられる。制御型プロモーターの例としては、限定されないが、Tet on/offエレメント含有プロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーター、及びメタロチオネインプロモーターが挙げられる。ユビキタスプロモーターの例としては、ウイルスプロモーター、特にCMVプロモーター、RSVプロモーター、SV40プロモーター、ハイブリッドCBA(ニワトリベータアクチン/CMV)プロモーター等、及びPGK(ホスホグリセリン酸キナーゼ)又はEF1アルファ(伸長因子1アルファ)プロモーター等の細胞プロモーターが挙げられる。
【0065】
実施者は、上に記載した単離されたAON又はウイルスベクターを薬学的に許容される担体に含む組成物を使用することができる。AON又はウイルスに加えて、本発明の医薬組成物は、薬学的又は生理学的に許容される担体、例えば、生理食塩水、リン酸ナトリウム等も含みうる。組成物は、全般に、液体の形態になる、常にそうである必要はない。好適な担体、添加剤、及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギネート、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチル及びプロピル、鉱油等が挙げられる。配合物は、滑沢剤、湿潤剤、乳化剤、保存剤、緩衝剤等も含むことができる。特に、本発明は、単離されたAON又はAONコードウイルスの投与を伴い、したがって遺伝子療法に幾分類似している。当業者は、核酸が、多くの場合リポソーム、又は他の好適なマイクロ若しくはナノ構造材料(例えば、ミセル、脂質複合体、デンドリマー、エマルション、立方相等)の形態において、脂質(例えばカチオン性脂質若しくは中性脂質、又はこれらの混合物)と共に送達されることが多いことを認識するであろう。
【0066】
本発明の組成物は、全般に、経腸又は非経口経路を介して、例えば、静脈内(i.v.)、動脈内、皮下、筋肉内(i.m.)、脳内、脳室内(i.c.v.)、髄腔内(i.t.)、腹腔内(i.p.)投与されるが、他の種類の投与は排除されない。
【0067】
注射用調製物、例えば、滅菌注射用水性又は油性懸濁剤は、好適な分散剤又は湿潤剤と懸濁化剤とを使用して、公知の技術に従って配合されうる。滅菌注射用調製物はまた、例えば1,3-ブタンジオールにおける溶液のような、非経口的に許容される非毒性希釈剤又は溶媒における滅菌注射用溶液又は懸濁剤でありうる。送達は局所(すなわちin situ、すなわち筋組織等の組織へ直接)であっても全身であってもよいが、通例、送達は罹患した筋組織、例えば、骨格筋、平滑筋、心筋等に対する局所になる。投与されるAON又はウイルスベクターの形態、及び標的とされる組織又は細胞型に応じて、エレクトロポレーション、ソノポレーション、「遺伝子銃」(核酸コーティング金粒子の送達)等の技法が用いられうる。
【0068】
当業者は、投与される単離されたAON又はウイルスベクターの量が望ましくない筋ジストロフィー症状の寛解を誘導するのに十分な量でになるということを認識するであろう。そのような量は、とりわけ、患者の性別、年齢、体重、全身の健康状態等の因子に応じて変動する場合があり、個的に決定することができる。量はまた、処置プロトコルの他の構成要素(例えば他の医薬の投与等)に従って変動する場合もある。全般に、好適な用量は約1mg/kg~約100mg/kg、より通例には約2mg/kg/日~約10mg/kgの範囲である。ウイルスに基づくAONの送達の場合、好適な用量は、用いられるウイルス、送達の経路(筋肉内、静脈内、動脈内、又はその他)等の種々の因子に依存することになるが、典型的には10e9~10e15ウイルス粒子/kgの範囲でありうる。当業者は、通常そのようなパラメータは臨床試験中に明らかとなるということを認識するであろう。更に当業者は、疾患症状は本明細書に記載される処置によって完全に軽減されうるが、そうである必要はないことを認識するであろう。症状の部分的又は間欠的緩和でさえレシピエントの大きな利益となることがある。加えて、患者の処置は単一の事象でありうるか、又は患者は、AON及び/又はウイルスベクターを複数回投与され、投与は、取得される結果に応じて、数日空けられるか、数週間空けられるか、又は数か月空けられるか、又は数年空けられる場合さえある。
【0069】
GDF5経路活性化物質を用いる組合せ療法
上述したように、本発明は、遺伝子療法による筋疾患の処置のための方法における、別の有効成分と組み合わせた使用のためのGDF5経路活性化物質に関する。
【0070】
したがって、本発明は、GDF5経路活性化物質と、筋疾患の処置に好適な別の有効成分とを含む組合せ物を定義する。
【0071】
特定の実施形態では、組合せ物は、GDF5、例えば上に開示したGDF5タンパク質のうちの1つをコードする、ウイルスベクター等のベクター、特にAAVベクターを含む。
【0072】
更に別の実施形態では、組合せ物は、組換えGDF5、特に組換えヒトGDF5、例えば上に開示したGDF5タンパク質のうちの1つを含む。
【0073】
別の実施形態では、組合せ物は、筋疾患の処置に好適な有効成分、例えば、
- ALSの処置のための、SOD1 pre-mRNA内におけるエクソンスキッピングに好適なAON、
- SMNタンパク質をコードする遺伝子、例えばSMN1若しくはSMN2遺伝子、より詳細にはSMN1遺伝子を含む、ウイルスベクター等のベクター、特にAAVベクター、
- DMDの処置のための、上に記載した機能性ジストロフィンをコードする遺伝子を含む、ウイルスベクター等のベクター、特にAAVベクター、又は
- (i)上に記載した、ジストロフィンpre-mRNA内におけるエクソンスキッピングに好適なAON若しくはそれをコードするベクター、及び(ii)DMDの処置のための、上に記載した機能性ジストロフィンをコードする遺伝子を含む、ウイルスベクター等のベクター、特にAAVベクター
を含む。
【0074】
更なる特定の実施形態では、組合せ物の成分は、逐次、別個、又は同時使用のためのものである。例えば、GDF5経路活性化物質は、遺伝子療法ベクター又はAONの投与前、中、又は後に投与されうる。
【0075】
例えば、GDF5経路活性化物質は、AON、例えばALS又はDMDの処置における使用のためのAONの投与前に投与されうる。
【0076】
例えば、GDF5経路活性化物質は、AON、例えばALS又はDMDの処置における使用のためのAONの投与中に投与されうる。この実施形態では、GDF5経路活性化物質とAONとは、同じ組成物中にあっても異なる組成物中にあってもよい。
【0077】
別の例では、GDF5経路活性化物質は、AON、例えばALS又はDMDの処置における使用のためのAONの投与後に投与されうる。
【0078】
別の実施形態においては、GDF5経路活性化物質は、筋疾患の処置における使用のための遺伝子療法ベクター、例えば上に記載した、SMA又はDMDの処置のための遺伝子療法ベクターの投与前に投与されうる。
【0079】
特定の実施形態では、GDF5経路活性化物質は、遺伝子療法ベクター、例えば筋疾患の処置における使用のための遺伝子療法ベクター、例えば上に記載した、SMA又はDMDの処置のための遺伝子療法ベクターの投与中に投与されうる。この実施形態では、GDF5経路活性化物質と遺伝子療法ベクターとは、同じ組成物中にあっても異なる組成物中にあってもよい。
【0080】
別の特定の実施形態では、GDF5経路活性化物質は、筋疾患の処置における使用のための遺伝子療法ベクター、例えば上に記載した、SMA又はDMDの処置のための遺伝子療法ベクターの投与後に投与されうる。
【0081】
上に開示した2工程での方法に従ったDMDの処置に関する詳細を以下に提供する。しかしながら、当業者は、本明細書において提供される情報及び遺伝子療法の分野における通常の一般的知識のために、処置戦略を他の有効成分及び疾患に容易に適合させるであろう。
【0082】
デュシェンヌ型筋ジストロフィーの処置は、
- 第1に、ジストロフィンpre-mRNAの一部に相補的であり、このpre-mRNAのmRNAへのプロセシングの間にエクソンスキッピングを誘導することができる、単離されたアンチセンスオリゴヌクレオチド、及び
- 第2に、デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療物をコードする、例えば、(i)ジストロフィンpre-mRNA内にエクソンスキッピングを誘導することができるアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードするか、(ii)ジストロフィン遺伝子編集手段をコードするか、又は(iii)機能性ジストロフィンをコードする、ウイルスベクター
の2工程投与を含みうる。
【0083】
特定の実施形態では、GDF5経路活性化物質は、第1の工程の前に投与されうる。
【0084】
更なる特定の実施形態では、GDF5経路活性化物質は、第1の工程中に投与されうる。
【0085】
別の実施形態では、GDF5経路活性化物質は、第1の工程と第2の工程との間に投与されうる。
【0086】
別の実施形態では、GDF5経路活性化物質は、第2の工程の後に投与されうる。
【0087】
更なる特定の実施形態では、GDF5経路活性化物質は、第2の工程中に投与されうる。
【0088】
特定の実施形態では、治療物はU7修飾AON、特にジストロフィン遺伝子のエクソン53を標的とする配列番号2に示される配列を含むU7修飾AONである。
【0089】
上に記載したように、単離されたAONの第1の投与は、膜完全性を確保するのに十分な機能性ジストロフィン発現を筋細胞に誘導し、したがって、その他の点ではジストロフィー筋線維の壊死-再生のサイクルの繰返しに起因する、ウイルスベクター、特にAONコードウイルス(例えばAAV)、ジストロフィン修正ウイルス(例えばAAV)、又は機能性ジストロフィンコードウイルス(例えばAAV)の喪失を限定すると思われる。
【0090】
単離されたAONの注射とウイルスベクターの注射との間の期間は、疾患の段階、患者の年齢又は状態、及び療法の投薬量等の多くの因子に応じて変動しうる。いずれの事象においても、本方法の第1の工程と第2の工程との間の時間は、ウイルスベクター処置の長期持続的な利益を実現するのに十分である。本方法は、ジストロフィー筋における高いウイルス治療ゲノム含量の維持と導入遺伝子発現の改善とを可能にする。これらの初期事象の結果は、非併用療法よりも長期間持続するAAVに基づく療法のより強力な治療上の利益となる。したがって、本発明の方法の第1の工程と第2の工程との間の時間は、1~40日、例えば、少なくとも1日若しくは2日以上、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、若しくは40日;又は少なくとも1週間若しくは2週間以上、例えば、少なくとも1、2、3、4、若しくは5週間でありうる。特定の実施形態では、両方の投与の間の期間は、2週間(すなわち約12~16日、例えば、約12、13、14、15、若しくは16日)、約3週間(すなわち約19~23日、例えば、約19、20、21、22、若しくは23日)、又は約4週間(すなわち約26~30日、例えば、約26、27、28、29、若しくは30日)である。より詳細には、この期間は、14~28日の間に含まれ、より詳細には12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、又は28日である。別の実施形態では、両方の投与の間の期間は、約14(すなわち13、14、若しくは15日、より具体的には14日)、21(すなわち20、21、若しくは22日、より具体的には21日)、又は28日(すなわち27、28、若しくは29日、より具体的には28日)である。
【0091】
本発明の更なる態様及び利点は、単に例示的なものに過ぎず本出願の範囲を限定しないと考えられるものとする以下の実験の節に開示されるであろう、
【図面の簡単な説明】
【0092】
【
図1】ウイルスゲノムがPip6a-PMO救済mdx筋において効率的に維持されることを示す図である。(a)mdx及びwtマウス由来のTAに1nmoleのPip6a-PMOを、1E+11vgの非治療AAV1-U7scrベクターの注射(0日目、d0)の2週間前(-2w)に注射した。対照mdx及びwt TAにはAAV1-U7scrベクターを単独で注射した。1群当たり4つのTAに注射した。マウスを3週間後(3w)に屠殺した。(b)TA筋の横断切片に対するNCL-DYS2モノクローナル抗体を用いた免疫染色によってモニタリングしたジストロフィン救済。条件1つ当たり1つの代表的な免疫染色切片を示す。(c)PPMO処置筋からの全タンパク質抽出物に対するNCL-DYS1モノクローナル抗体を用いたウェスタンブロッティングによって評価したジストロフィン回復(上段のパネル)(下段のパネル:α-アクチニン)。ジストロフィン回復は、ImageJソフトウェアによって定量し、wt筋におけるジストロフィン発現の百分率として表す。(d)絶対Taqman qPCRによるAAVゲノムの定量。AAVゲノム含量は、非PPMO処置mdx筋に関して取得した値に対するAAVゲノム数として表す。データは、1群当たり4つの筋肉の平均値±SEMを表す。n.s.:有意ではない、***p<0.001、スチューデントのt検定。2つの代表的な実験のうちの1つを示す。
【
図2】Pip6a-PMO前処置が6か月後に低AAV-U7ex23用量での重要なジストロフィン救済を可能にすることを示す図である。(a)Mdx TAに1nmoleのPip6a-PMOを、1E+10vgの治療AAV1-U7ex23ベクターの注射(0日目、d0)の2週間前(-2w)に注射した。対照mdx TAにはPPMO又はAAV1-U7ex23ベクターを単独で注射した。1群当たり4つのTAに注射した。マウスを6か月後(6m)に屠殺した。(b)ネステッドRT-PCRによって推定したエクソン23スキッピングのレベル。901bpのPCR産物は全長ジストロフィン転写物に対応するが、688bpの産物はエクソン23を欠く転写物に対応する。(c)相対TaqMan qPCRによって実施し、総ジストロフィン転写物の百分率として表したエクソン23スキッピングの定量。(d)絶対Taqman qPCRによるAAVゲノムの定量。AAVゲノム含量は、非PPMO処置mdx筋に関して取得した値に対するAAVゲノム数として表す。(c)及び(d)に提示されるデータは、1群当たり4つのTAの平均値±SEMを表す。*p<0.05、***p<0.001、スチューデントのt検定。(e)処置した筋肉からの全タンパク質抽出物に対するNCL-DYS1モノクローナル抗体を用いたウェスタンブロッティングによって評価したジストロフィン回復(上段のパネル)(下段のパネル:α-アクチニン)。ジストロフィン回復は、ImageJソフトウェアによって定量し、wt筋におけるジストロフィン発現の百分率として表す。
【
図3】AAV1媒介マイクロジストロフィン遺伝子療法に対するPip6a-PMO前処置の効果を示す図である。(a)Mdx TAに1nmoleのPip6a-PMOを、1E+10vgのAAV1-MD1マイクロジストロフィン発現ベクターの注射(0日目、d0)の2週間前(-2w)に注射した。対照mdx TAにはPPMO又はAAV1-MD1ベクターを単独で注射した。1群当たり5つのTAに注射した。マウスを4週間後(4w)に屠殺した。(b)絶対Taqman qPCRによるAAVゲノムの定量。AAVゲノム含量は、非PPMO処置mdx筋に関して取得した値に対するAAVゲノム数として表す。データは、1群当たり5つの筋肉の平均値±SEMを表す。*p<0.05、スチューデントのt検定。(c)処置した筋肉からの全タンパク質抽出物に対するMANEX1011Bモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロッティングによって評価した、PPMO誘導ジストロフィン(DYS、427kDa)及びマイクロジストロフィン(μDYS、132kDa)の発現(上段のパネル)(下段のパネル:α-アクチニン)。
【
図4】若齢マウスの筋肉におけるGDF5過剰発現を示す図である。A~C:Scra又はGDF5を用いて処置した、15日間神経支配した(Inn)か又は除神経した(Den)成体TAにおける(A)Gdf5、(B)Cacnb1-E(Ex2~3)、及び(C)Cacnb1-DのRT-qPCR。A:中間の省略線の最小値=150、上部の省略線の最小値=3000。D、E:GDF5(マゼンタ)、CaVβ1E(黄)を用いて染色した、(D)Scra又は(E)GDF5を用いて処置したTA Inn(上)又はDen(下)の免疫蛍光画像。バー:10μm。F、G:Scra又はGDF5を用いて処置したTA Inn又はDenにおける(F)Id1及び(G)Id2のRT-qPCR。H、I:(H)Scra又は(I)GDF5を用いて処置したTA Inn(上)又はDen(下)のヘマトキシリン及びエオジン(H/E)染色。バー 100μm。J、K:(J)Scra又は(K)GDF5を用いて処置したTA Inn(上)又はDen(下)のシリウスレッド(SR)染色。バー 100μm。L:Scra又はGDF5を用いて処置したInn又はDen成体TAの筋肉/体重比。A:平均±s.e.m.(n=6) *P<0.05、***P<0.001、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001;(ベンジャミニ、クリーガー、及びイェクティエリの2段階線形上昇手順、Q=1%。各行は、一貫したSDを想定せずに個々に分析した)。B、C、F~G、L:平均±s.e.m.(n=6) *P<0.05、***P<0.001、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001(シダック検定による通常の一元配置分散分析)。
【実施例】
【0093】
材料及び方法
ウイルスベクター作製及び動物実験
一本鎖AAV1-U7ex23(7)、AAV1-U7scr(13)、及びAAV1-MD1(37)ベクターの生成のために、pAAV(U7smOPT-SD23/BP22)、pAAV(U7smOPT-scr)、及びコドン最適化pΔR4-R23/ΔCT(MD1)プラスミドを用いて3プラスミドトランスフェクションプロトコルを使用した。AAV-GDF5を、EcoRI及びNheI部位(GeneArt string、ThermoFisher社)に隣接するGdf5 ORF(NM_008109.2)のpSMD2 AAV2ベクター骨格への、CMVプロモーター下での直接クローニングによって生成した。pSUPER retro puro Scr ShRNA(SCRA)はJohn Gurdonから寄贈されたものであった(Addgeneプラスミド#30520)。BamHI部位をPCRによって挿入し、H1-SCRAカセットを、BamHI及びSalI部位を介してpSMD2-shにクローニングした。最終ウイルス調製物をPBS溶液において-80℃で保持した。ベクターの力価をリアルタイムPCRによって決定し、1ml当たりのベクターゲノム(vg/ml)として表した。3か月齢mdxマウスの前脛骨(TA)筋に1nmoleのPip6a-PMOオリゴヌクレオチド(GGCCAAACCTCGGCTTACCTGAAAT、配列番号11)を注射した(20)。加えて、1E+10又は1E+11vgを含有する50μlのAAV1-U7scr、AAV1-U7ex23、又はAAV1-MD1をC57BL/6(wt)又はmdx TAに注射した。AAV-GDF5を8週齢C57BL/6 TAに5E+10で注射した。対照として、8週齢C57/BL6マウスに同じ手順を使用してSCRA AAVベクターを注射した。マウスを注射の10又は12週間後に屠殺した。これらの動物実験は、Myology Research Center、Paris、Franceにおいて、倫理審査委員会によって承認されたガイドライン及びプロトコルに従って実施した。各実験につき1群当たり最低4匹のマウスに注射した。屠殺時、筋肉を回収し、液体窒素冷却イソペンタン中で急速凍結し、-80℃で保存した。
【0094】
除神経実験
マウスへのAAVの注射の10週間後、坐骨神経を、ブプレノルフィン(vetergesic 1mg/Kg、皮下)を用いた全身麻酔(イソフルラン、3%誘導、2%維持)下で神経切除した(坐骨神経の5mm片の切除)。マウスを除神経の1、3、7、又は15日後に屠殺し、TAを切開、秤量し、その後、液体窒素において予め冷却したイソペンタン中で凍結し、組織学又は分子分析まで-80℃で保存した。
【0095】
ウイルスゲノム定量
ゲノムDNAを、Puregene Bloodキット(Qiagen社)を使用してマウスの筋肉から抽出した。AAVゲノム及びゲノムDNAのコピー数を、Taqman(登録商標)Universal Master Mix(Applied Biosystems社)を使用したStepOnePlus(商標)(Applied Biosystems社)での絶対定量リアルタイムPCRによって100ngのゲノムDNAに関して測定した。プライマー(順方向:CTCCATCACTAGGGGTTCCTTG(配列番号3)及び逆方向:GTAGATAAGTAGCATGGC(配列番号4))、並びにプローブ(TAGTTAATGATTAACCC(配列番号5))を使用して、ウイルスゲノム配列を特異的に増幅した。参照試料として、pAAVプラスミドを10倍段階希釈した(107~101コピー)。全てのゲノムDNA試料を2連で分析した。
【0096】
RT-PCR分析
総RNAを、NucleoSpin(登録商標)RNA II(Macherey-Nagel社)を用いてマウスの筋肉から単離し、Superscript(商標)II及びランダムプライマー(Life technologies社)を使用することによって200ngのRNAに対して逆転写(RT)を実施した。スキッピングされていないジストロフィン転写物、及びスキッピングされたジストロフィン転写物をネステッドPCRによって検出し、記載の通りに定量した(9)。
【0097】
RT-qPCRによる遺伝子発現分析
総RNAを、TRizol(Life Technologies社)を製造業者の説明書に従って使用して、TA凍結切片から調製した。相補的DNAを、Superscript II逆転写酵素(Life Technologies社)を用いて生成するか、RT-PCRのためのPCR Master Mix(M7505、Promega社)を使用して増幅するか、又はリアルタイムqPCRによって分析した。リアルタイムqPCRを、Power SyberGreen PCR MasterMix(Applied Biosystems社)を使用したStepOne PlusリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社)において実施した。全てのデータは、ΔΔCT法を使用して分析し、PO(マウス酸性リボソームリン酸化タンパク質)mRNA発現レベルに対して正規化した。mRNA倍率変化を算出するために基準とした試料を各パネルに示す。使用したプライマーを表にする。
【0098】
【0099】
ウェスタンブロット分析
タンパク質抽出物を、125mMスクロース、5mMトリス-HCl pH6.4、6%のXTトリシン泳動用緩衝液(Bio-Rad社)、10%SDS、10%グリセロール、5%β-メルカプトエタノールを用いて処理した、プールした筋肉切片から取得した。試料を、Pierce Compat-Able(商標)タンパク質アッセイ調製試薬セット(Thermo Scientific社)を用いて精製し、総タンパク質濃度を、Pierce BCAタンパク質アッセイキット(Thermo Scientific社)を用いて決定した。試料を95℃で5分間変性させ、100μgのタンパク質をCriterion XT酢酸トリスプレキャストゲル3~8%(Bio-Rad社)に添加した。膜を、ジストロフィンを対象とする一次モノクローナル抗体(NCL-DYS1、1:50、Leica Biosystems社;MANEX1011B、1:50、The Muscular Dystrophy Association Monoclonal Antibody Resourceから好意により寄贈された(38))及びα-アクチニン(1:1000、Sigma-Aldrich社)を用いてプロービングし、続いて、ヒツジ抗マウス二次抗体(西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート;1:15000)及びPierce ECLウェスタンブロッティング基質(Thermo Scientific社)と共にインキュベートした。
【0100】
免疫組織化学及び組織学
12μmのTA切片を切断し、NCL-DYS2モノクローナル抗体(Leica Biosystems社)を使用してジストロフィン発現に関して検査した。Cavβ1 C末端のためのウサギポリクローナル抗体(AP16144b)をAbGent社から購入し、GDF5に対するマウスモノクローナルをSanta Cruz Biotechnologies社から取得した(SC-373744)。蛍光二次抗体であるヤギ抗ウサギ及びヤギ抗マウスをLife technologies社から購入した。
【0101】
H&E染色のために、切片を4%PFAに10分間固定し、PBSにおいて洗浄し、次いでヘマトキシリンにおいて5分間、エオジンにおいて30秒間染色した。更に、筋切片を漸増濃度のエタノール/水溶液において乾燥させ、100%キシレンでの固定後、Vectamount(Vector Laboratories社)に封入した。シリウスレッド染色を実施して、総コラーゲンI及びIII含量を分析した。筋凍結切片をPFA 4%に10分間固定し、水において洗浄し、100%エタノールにおいて5分間乾燥させた。次いで、切片をピクロシリウスレッド(0.3%)溶液において1時間、遮光しながら染色した。酸化水での洗浄後(酢酸0.5%容積/容積において5分)、切片を100%エタノールに固定し(5分間の洗浄を3回)、最終脱水をキシレン100%において実施し、Vectamountに封入し、ズーム顕微鏡(macroscope)であるNikon社製AZ100を使用して可視化した。共焦点画像を、電動ステージと、Prime 95 sCMOSカメラ(Photometrics社)を接続したYokogawa社製CSU-W1スピニングディスクヘッドとを備えたLeica社製SPE又はNikon社製Ti2顕微鏡を用いて撮影した。
【0102】
結果
非治療ウイルスゲノム維持に対するAON前処置によるジストロフィン回復の効果
Mdx筋線維の筋細胞膜に一過性ジストロフィン発現を誘導するために、Mdx前脛骨(TA)筋に、11μgのPip6a-PMO、すなわちmdxエクソンスキッピングに特に効率的であるペプチド-ホスホロジアミデートモルホリノ(PPMO)アンチセンスオリゴヌクレオチドを注射した(20)。非治療AAV-U7scrベクター(非特異的スクランブル配列を保有)を同じ筋肉に、ジストロフィン救済が最適となる2週間後に高用量(1E+11ウイルスゲノム)で注射した(
図1a)。本発明者らは、エクソンスキッピングを誘導することができず、それによってジストロフィン発現を救済することができないこれらのU7scrベクターが、3週間以内にジストロフィン欠損mdx筋から劇的に喪失することをこれまでに示した(13)。
【0103】
エクソンスキッピングを誘導するAON前処置後の、AAV1-U7scr注射の3週間後、免疫蛍光染色は、mdxを注射した筋肉の筋細胞膜における強力なジストロフィン回復及びジストロフィンの正確な局在化を明らかにした(
図1b)。mdx筋におけるジストロフィンレベルをウェスタンブロッティングによって定量し、これは、AON前処置が正常レベルと比較して56~98%の準ジストロフィン回復をもたらしたことを示した(
図1c)。予期されたように(13)、定量PCR(qPCR)によって分析されたウイルスゲノム含量は、野生型筋(wt)では非AON処置mdx筋の6倍の量であった。興味深いことに、qPCRによって分析されたmdxのAON処置群におけるウイルスゲノム含量は、wt筋において観察されたウイルスゲノム含量と同等である(
図1d)。したがって、AAV1-U7scr注射の時点における、PPMO前処置によって誘導される著しいジストロフィン発現は、wt筋において観察されたものに匹敵するmdx筋におけるAAV1-U7scrゲノムの急速な喪失を防ぐ。
【0104】
低用量の治療AAV-U7ex23でのジストロフィン救済に対するPip6a-PMO前処置の効果
U7ex23をコードするAAV1ベクター(AAV1-U7ex23)は、効率的なエクソン23スキッピング、したがって、mdx筋における準ジストロフィン救済を可能にする。AAV1-U7ex23を介した準ジストロフィン救済に対するAON前処置の利益を評価するために、11μgのPip6a-PMOアンチセンスオリゴヌクレオチドをmdx TAに注射し、2週間後にAAV1-U7ex23ベクターを注射した(
図2a)。低ベクター用量(1E+10ウイルスゲノム)は弱い準ジストロフィン救済(正常レベルの5%未満)を可能にするため(13)、この用量を選択した。
【0105】
AAV1-U7ex23注射の利益を、単回PPMO注射によって誘導されたジストロフィン救済がほとんど消失した6か月後に分析した。AAV1-U7ex23又はPPMOを単独で用いて処置したmdx TAにおける、ネステッドRT-PCRによって分析し(
図2b)、qPCRによって定量した(
図2c)エクソン23スキッピングのレベルは予期された通り低く、それぞれ9及び6%のスキッピングされた転写物であり、正常レベルのおよそ2%の救済ジストロフィンの合成をもたらした(
図2e)。反対に、PPMO及びAAV1-U7ex23を用いて逐次に処置したTAは、54%のスキッピングされた転写物(
図2c)及び正常レベルの20%のジストロフィン(
図2e)を示した。絶対qPCRによって定量したAAVゲノムコピー数は、二重PPMO/AAV1-U7ex23処置筋において、AAV1-U7ex23のみを注射した筋肉の8倍の数であった(
図2D)。これらのデータは、PPMO前処置がAAV-U7注射の6か月後のmdx筋における治療U7ex23ゲノムのより良好な維持を可能にし、注目すべきことに、救済ジストロフィン量の10倍の改善をもたらしたことを実証する。
【0106】
Pip6a-PMO前処置はAAV1媒介マイクロジストロフィン遺伝子療法の有効性を有意に向上する
AAV-マイクロジストロフィン遺伝子療法に対するAON前処置の有効性を評価するために、Pip6a-PMO AONをmdx TAに注射し、2週間後にマウスマイクロジストロフィン(MD1)を発現するAAV1-MD1ベクター(1E+10vg)を注射した(37)(
図3a)。4週間後、強力なジストロフィン回復が、PPMO前処置によって誘導されたPPMO処置mdx TAにおいて観察された(
図3c)。AAVゲノムコピー数及びマイクロジストロフィン発現は、PPMO/AAV1-MD1処置筋において、AAV1-MD1のみで処置した筋肉の3倍の大きさであり(
図3b及び
図3c)、AAV-マイクロジストロフィン遺伝子療法に対するPPMO前処置の利益を例証した。この実験は、AON前処置はDMDのためのAAVに基づく遺伝子療法の全てを増強することが可能であるという概念実証を確立する。
【0107】
GDF5過剰発現の効果
神経支配TAにCacnb1-E転写を誘導した(
図4B、
図4D、
図4E)若齢TAにおいて、Cacnb1-D発現に影響を及ぼさずに(
図4C)、GDF5をスクランブルと比較して過剰発現させた(
図4A、
図4D、
図4E)。にもかかわらず、Id-1及びId-2転写によって確認されたGDF5過剰発現及びその活性化シグナル伝達(
図4F、
図4G)は、大半の場合、神経支配筋量を増加した(
図4H~
図4L)。
【0108】
考察
AAVゲノムは、確実にそのエピソーム性のために、AAV-U7媒介エクソンスキッピング療法中にジストロフィー筋から急速に喪失し、壊死/生成のサイクルを受けるジストロフィー筋肉線維の脆弱性は、異常に漏出性の膜を示し、加えてエクソソーム及び微小粒子の排泄の増加によって特徴付けられる(36)。本発明者らはここで、AAV-U7注射の時点での、PPMO前処置後の著しい(60%超)準ジストロフィン救済が、3週間後のmdx筋におけるウイルスゲノムの効率的な維持を可能にすることを示した。加えて、ウイルスゲノムのこの初期維持は、6か月後にAAV-U7による準ジストロフィン回復を、RNAレベルではおよそ6倍、タンパク質レベルではおよそ10倍向上する。
【0109】
PPMO前処置は、AAV-U7注射の時点における実質的なジストロフィン発現をもたらした。おそらくこれは、AAV-U7誘導準ジストロフィン発現が生じる前に、正常な対照筋肉と同様に、AAVゲノム喪失を引き起こす膜異常を減少させる。AAV-U7媒介高準ジストロフィン発現は、それ自身で導入遺伝子喪失を防止するため、一度確立されると維持される。したがって、AAV注射と処置ジストロフィー筋におけるAAV媒介導入遺伝子発現との間の臨界期における高ウイルスゲノム含量の維持を可能にすることによって、PPMO媒介準ジストロフィン回復はAAV-U7処置の長期持続的な利益を保証する。
【0110】
この前処置は、ここでPPMO化学を用いて実証された原理を使用して実質的な準ジストロフィン救済を可能にする(すなわち、種々のスキッピング可能な変異、及び種々の標的配列、及びトリシクロ-DNA等の種々のAON化学を使用する(36))任意のAONによって誘導することができた。
【0111】
このAON前処置は、本明細書に提示されるデータによって実証されるように、AAVベクターを使用するデュシェンヌ型ミオパチーのための全ての治療手法、特にAAV-U7媒介エクソンスキッピング、及び機能性マイクロジストロフィンcDNAの筋肉への転移を伴う古典的な遺伝子療法に適用可能である。
【0112】
加えて、GDF5が過剰発現する場合に筋量が増加することが本明細書において示され、これは、処置される筋肉が、GDF5を発現するベクター又は組換えGDF5タンパク質のいずれかの投与のために、上記治療戦略の適用中に更に保護されうることを意味する。
【0113】
DMD患者のためのAAVに基づく療法を使用する臨床試験の直前に、本研究は、長期間におけるより大きなレベルのジストロフィン発現のための、より低い、したがってより安全なベクター用量の使用を可能にするAAVに基づく療法の利益を向上する併用手法の強力な影響を強調する。
【0114】
【配列表】
【国際調査報告】