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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-11
(54)【発明の名称】二酸化炭素生成
(51)【国際特許分類】
   A21D 8/04 20060101AFI20221228BHJP
   A21D 10/04 20060101ALI20221228BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20221228BHJP
   A21D 10/02 20060101ALI20221228BHJP
   A21D 13/45 20170101ALI20221228BHJP
   A21D 13/44 20170101ALI20221228BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20221228BHJP
   A21D 13/60 20170101ALI20221228BHJP
【FI】
A21D8/04
A21D10/04
A21D13/00
A21D10/02
A21D13/45
A21D13/44
A21D13/80
A21D13/60
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022526187
(86)(22)【出願日】2020-11-09
(85)【翻訳文提出日】2022-06-08
(86)【国際出願番号】 EP2020081479
(87)【国際公開番号】W WO2021089869
(87)【国際公開日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】19207757.6
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512320560
【氏名又は名称】カトリック ユニヴェルシテット ルーヴェン
(71)【出願人】
【識別番号】509333933
【氏名又は名称】フエー・イー・ベー・フエー・ゼツト・ウエー
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】デルクール,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】デルー,ロメ
(72)【発明者】
【氏名】フーイバークス,キャスリーン
(72)【発明者】
【氏名】ピカレール,サラ
(72)【発明者】
【氏名】ラヴィエ,エリアス
(72)【発明者】
【氏名】シュムコヴィッツ,ヨースト
(72)【発明者】
【氏名】ルソー,フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル カント,ロブ
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB05
4B032DB10
4B032DB11
4B032DB21
4B032DB24
4B032DB28
4B032DG02
4B032DK01
4B032DK07
4B032DK12
4B032DK19
4B032DK42
4B032DK48
4B032DK49
4B032DK51
4B032DL01
4B032DP08
4B032DP40
4B032DP80
(57)【要約】
本発明は、ベーカリー製品のバッター又はドウを膨張させる方法であって、単離グルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素又は単離アスパラギン酸デカルボキシラーゼ酵素と、それぞれ1 kgのドウ又はバッターあたり少なくとも0.005モルのグルタミン酸の濃度のグルタミン酸若しくはその塩又はアスパラギン酸若しくはその塩とを含むバッター又はドウを提供する工程を含み、バッター又はドウが、添加された酵母又はサワードウ細菌を含有しない、方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーカリー製品のバッター又はドウを膨張させる方法であって、
単離グルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素又は単離アスパラギン酸デカルボキシラーゼ酵素と、それぞれ1 kgのドウ又はバッターあたり少なくとも0.005モルのグルタミン酸の濃度のグルタミン酸若しくはその塩又はアスパラギン酸若しくはその塩とを含むバッター又はドウを提供する工程を含み、該バッター又はドウが、添加された酵母又はサワードウ細菌を含有しない、方法。
【請求項2】
グルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素を含む前記バッター又はドウに、グルタミン酸又はその塩を添加することを含むか、又は、
アスパラギン酸デカルボキシラーゼ酵素を含む前記バッター又はドウに、アスパラギン酸又はその塩を添加する工程を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ドウ又はバッターの加熱を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ドウ又はバッター中のグルタミン酸若しくはその塩、又はアスパラギン酸若しくはその塩の量が、1 kgのドウ又はバッターあたり0.010モル~0.20モルの間である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ベーカリー製品が、アメリカンビスケット、ケーキ、ケーキドーナツ、クッキー、マフィン、パンケーキ、プレッツェル、ウエハース、及びワッフルからなる群より選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ドウ又はバッターが、単離アスパラギン酸デカルボキシラーゼ及び単離グルタミン酸デカルボキシラーゼ及びアスパラギン酸又はその塩及びグルタミン酸又はその塩の両方を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ドウ又はバッターが、単離グルタミン酸デカルボキシラーゼを含み、かつ単離アスパラギン酸デカルボキシラーゼを含まない、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
互いにpH最適条件及び/又は温度最適条件が異なる2つ以上のグルタミン酸デカルボキシラーゼを用い、及び/又は互いにpH最適条件及び/又は温度最適条件が異なる2つ以上のアスパラギン酸デカルボキシラーゼを用いる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記グルタミン酸デカルボキシラーゼがストレプトマイセス属種のグルタミン酸デカルボキシラーゼであるか、又は前記グルタミン酸デカルボキシラーゼがバチルス・メガテリウムのグルタミン酸デカルボキシラーゼである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ベーカリー製品のバッター又はドウの膨張における単離グルタミン酸デカルボキシラーゼ及び/又は単離デアスパラギン酸カルボキシラーゼの使用であって、前記ドウ又はバッターが、添加された酵母又はサワードウ細菌を含有しない、使用。
【請求項11】
ベーカリー製品の調製のための穀粉を含むドライミックスであって、該組成物が、添加された酵母又はサワードウ細菌を含有せず、該組成物が15%(w/w)未満の水含量を有し、単離グルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素及び1 kgの組成物あたり0.005モルより大きいグルタミン酸又はその塩の濃度のグルタミン酸又はその塩の存在によって、及び/又は単離アスパラギン酸デカルボキシラーゼ酵素及び1 kgの組成物あたり0.005モルより大きいアスパラギン酸又はその塩の濃度のアスパラギン酸又はその塩の存在によって特徴づけられる、ドライミックス。
【請求項12】
砂糖、乾燥卵黄、乾燥卵白、粉乳及びカカオの1つ以上を更に含む、請求項11に記載のドライミックス。
【請求項13】
グルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素とグルタミン酸又はその塩とを含み、
アスパラギン酸デカルボキシラーゼ酵素とアスパラギン酸又はその塩とを含む、請求項11又は12に記載のドライミックス。
【請求項14】
前記酵素及び/又は前記アミノ酸基質若しくはその塩が別個のパッケージング中にある成分のキットである、請求項11~13のいずれか一項に記載のドライミックス。
【請求項15】
添加された酵母又はサワードウ細菌を含有しないドウ又はバッターであって、
単離グルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素及び1 kgのドウ又はバッターあたり少なくとも0.005モルのグルタミン酸又はその塩の濃度のグルタミン酸又はその塩の存在、及び/又は、
単離アスパラギン酸デカルボキシラーゼ酵素及び1 kgのドウ又はバッターあたり少なくとも0.005モルのアスパラギン酸又はその塩の濃度のアスパラギン酸又はその塩の存在、
によって特徴づけられる、ドウ又はバッター。
【請求項16】
1 kgのドウ又はバッターあたり少なくとも0.020モルの濃度のグルタミン酸又はその塩を含むか、又は1 kgのドウ又はバッターあたり少なくとも0.020モルの濃度のアスパラギン酸又はその塩を含む、請求項15に記載のドウ又はバッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーキ、ケーキドーナツ、マフィン、カップケーキ、パンケーキ、ワッフル及びアイリッシュソーダブレッド等の膨張した(leavened)食品の製造に関する。
【0002】
本発明は、膨張した食品の製造のための脱炭酸酵素の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
膨張剤(leavening agents)は、ケーキ、ケーキドーナツ、マフィン、カップケーキ、パンケーキ、ワッフル等のバッターに基づく多くの焼成食品を提供するが、適切なエアリー構造を有するアイリッシュソーダブレッド等のドウに基づく製品も提供する。
【0004】
小麦粉(flour)には一般的に、重炭酸ナトリウム(NaHCO3)及び無機酸(複数の場合もある)(HX)が補充される。これらの膨張剤は、互いに接触すると直ちに二酸化炭素(CO2)を放出する。NaHCO3は、ドウ及びバッターの水性相に非常に溶解性である。異なるHXを用いてCO2放出を制御し、この放出自体は、本質的に、HXが溶解する時点に依存する。HXの迅速な溶解の結果として、CO2があまりにも早く放出されると、ドウ又はバッターを通じて拡散し、失われる。HXの作用が遅すぎると、体積が少なく、構造が劣った製品が得られる。膨張系で用いられる非常に効率的なHXは、リン酸又はアルミニウムに基づくものである。しかし、これらの使用には、健康上の懸念から、ますます圧力が掛けられている。
【0005】
したがって、バッター及びドウ中のCO2生成の代替法が望ましい。
【0006】
アクリルアミド形成を減少させるため(アスパラギナーゼ)、及びγ-アミノ酪酸(GABA)の生成のため(グルタミン酸デカルボキシラーゼ)、食品適用に、アミノ酸変換酵素が用いられている。非特許文献1には、朝食用シリアル中のGABA含量を増加させるための少量のグルタミン酸の使用が記載されている。非特許文献2には、ブレッド製造におけるGABA動力学を研究するためのグルタミン酸デカルボキシラーゼの使用が記載されている。非特許文献3には、サワードウブレッド製造に用いられる或る特定のラクトバチルス株のグルタミン酸デカルボキシラーゼ活性が論じられている。
【0007】
GABAの工業生産には、組換えグルタミン酸デカルボキシラーゼが用いられる。pH最適条件及び熱耐性が変化した突然変異体が当該技術分野において知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Joye et al. (2011) Food Chem. 129, 395-401
【非特許文献2】Lamberts et al. (2012) Food Chem. 130,896-901
【非特許文献3】Su. et al. (2011) Microb. Cell Fact. 10S1,S8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、適切なエアリー構造を有する、異なる焼成製品(例えばケーキ、ケーキドーナツ、マフィン、カップケーキ、パンケーキ、ワッフル及びアイリッシュソーダブレッド)の製造に関する。典型的には、これらの製品は、加糖ドウの使用によって得られる。
【0010】
これは、典型的にはアミノ酸デカルボキシラーゼ及びその基質を用いる、酵素に基づく膨張系を用いることによって行われる。こうすることで、金属に基づく化学膨張化合物を含まずに、よりクリーンなラベル(cleaner label)の食品が提供され、同時に、ベーカリー製品において、正の健康上の効果の原因とされている化合物、例えばGABA又はβ-アラニン(BALA)を強化し得る。こうした健康上の効果又は要求が望ましくない場合、L-アラニンを生じる酵素を用いてもよい。
【0011】
本発明は、食品に容認され得る酵素基質(例えばアミノ酸)が使用可能であり、酵素及び基質の選択に応じて、食品に容認され得る製品が得られ得るという利点を有する。
【0012】
基質及び/又は酵素の量を適応させることによって、又はpH最適条件及び/又は温度最適条件に関して酵素を選択することによって、産生される二酸化炭素の量及びタイミングを調節し得る。
【0013】
化学膨張は、一般的に、膨張した製品を得るために必要である時間を短縮させるため、酵母膨張の代替法として用いられる。
【0014】
非特許文献2(上記に引用)は、ブレッドドウにおける、及び添加された酵母を含まないモデル系における、グルタミン酸及びグルタミン酸デカルボキシラーゼの使用を開示しているが、こうした酵素プロセスは、化学膨張で典型的に用いられる期間で、十分な量の二酸化炭素を生じ得ず、かつこれを緩衝水性系とかなり異なる条件では行い得ないと予期され得る。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は以下のステートメントに更に要約される:
【0016】
1. ベーカリー製品のバッター又はドウを膨張させる方法であって、
a)単離された食品適合性デカルボキシラーゼ酵素と、1 kgのドウ又はバッターあたり少なくとも0.003モルの基質の濃度の上記酵素の基質とを含むバッター又はドウを提供する工程と、
b)上記バッター又はドウを、上記酵素による二酸化炭素の生成が可能になる条件下でインキュベーションする工程と、
を含む、方法。
【0017】
2. 工程a)が、バッター又はドウに上記デカルボキシラーゼの基質を添加することを含み、及び/又は工程a)が、単離グルタミン酸デカルボキシラーゼをバッター又はドウに添加することを含む、ステートメント1に記載の方法。
【0018】
3. ドウ又はバッターに添加される基質の量が、1 kgのドウ又はバッターあたり0.004モル~0.20モルの間である、ステートメント1又は2に記載の方法。
【0019】
4. ベーカリー製品が、アメリカンビスケット、ケーキ、ケーキドーナツ、クッキー、マフィン、パンケーキ、プレッツェル、ウエハース、ワッフル及びアイリッシュソーダブレッドからなる群より選択される、ステートメント1~3のいずれか一項に記載の方法。したがって、この方法は、典型的には、こうした製品を得るために加糖ドウを用いる。
【0020】
5. ドウ又はバッターが、添加された酵母を含有しないか、又はサワードウの製造中に用いられる添加された細菌を含有しない、ステートメント1~4のいずれか一項に記載の方法。
【0021】
6. ドウ又はバッターが、非酵素的反応を介して二酸化炭素を生成する試薬を含まない、ステートメント1~5のいずれか一項に記載の方法。
【0022】
7. 酵素がアミノ酸デカルボキシラーゼである、ステートメント1~6のいずれか一項に記載の方法。
【0023】
8. 酵素が、pH 3.0~8.0の間、又は4~7の間のpH最適条件を有する、ステートメント1~7のいずれか一項に記載の方法。
【0024】
9. 酵素が、20~90℃の間、20~30℃の間、30~40℃の間、又は40~60℃の間の温度最適条件を有する、ステートメント1~8のいずれか一項に記載の方法。
【0025】
10. 酵素がグルタミン酸デカルボキシラーゼ又はアスパラギン酸デカルボキシラーゼ又はこれらの混合物である、ステートメント1~9のいずれか一項に記載の方法。
【0026】
11. pH最適条件及び/又は温度最適条件が互いに異なる、2つ以上のグルタミン酸デカルボキシラーゼを用いる、ステートメント1~10のいずれか一項に記載の方法。
【0027】
12. 酵素がグルタミン酸デカルボキシラーゼである、ステートメント1~11のいずれか一項に記載の方法。
【0028】
13. 酵素がストレプトマイセス(Streptomyces)属種のグルタミン酸デカルボキシラーゼ、又はバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)のグルタミン酸デカルボキシラーゼである、ステートメント1~12のいずれか一項に記載の方法。
【0029】
14. 添加される基質がグルタミン酸及び/又はアスパラギン酸又はそれらの塩(例えばグルタミン酸ナトリウム及び/又はアスパラギン酸ナトリウム)である、ステートメント1~13のいずれか一項に記載の方法。
【0030】
15. 基質が、化合物から基質への、化学的、物理的又は酵素的変換によって生成される、ステートメント1~14のいずれか一項に記載の方法。
【0031】
16. グルタミン酸基質が、グルタチオン又はその塩及びグルタチオンヒドロラーゼ(EC 3.4.19.13)の存在によって生成される、ステートメント15に記載の方法。
【0032】
17. ドウ又はバッターを膨張させるための単離デカルボキシラーゼ酵素の使用。
【0033】
18. デカルボキシラーゼ酵素がグルタミン酸デカルボキシラーゼ又はアスパラギン酸デカルボキシラーゼである、ステートメント17に記載の使用。
【0034】
19. 穀粉及び/又は単離デンプンを含むベーカリー製品の調製のための組成物であって、15%未満の水含量を有し、単離デカルボキシラーゼ酵素及び上記酵素の基質の存在によって特徴づけられ、上記基質の濃度が1 kgの組成物あたり0.005モルの基質より大きい、組成物。
【0035】
20. 砂糖、卵黄、卵白、粉乳及びカカオの1つ以上を更に含む、ステートメント19に記載の組成物。
【0036】
21. デカルボキシラーゼ酵素がグルタミン酸デカルボキシラーゼ又はアスパラギン酸デカルボキシラーゼである、ステートメント19又は20に記載の組成物。
【0037】
22. 基質がグルタミン酸若しくはその塩、又はアスパラギン酸若しくはその塩である、ステートメント19~21のいずれか一項に記載の組成物。
【0038】
23. 酵素及び/又は基質が別個のパッケージング中にある成分のキットである、ステートメント19~22のいずれか一項に記載の組成物。
【0039】
24. 食品に容認され得る単離デカルボキシラーゼ酵素、及び1 kgのドウ又はバッターあたり少なくとも0.005モル、0.010モル又は0.20モルの基質の濃度の上記酵素の基質の存在で特徴づけられる、ドウ又はバッター。
【0040】
25. デカルボキシラーゼ酵素がグルタミン酸デカルボキシラーゼ又はアスパラギン酸デカルボキシラーゼである、ステートメント24に記載のドウ又はバッター。
【0041】
26. 基質がグルタミン酸若しくはその塩、又はアスパラギン酸若しくはその塩である、ステートメント24又は25に記載のドウ又はバッター。
【0042】
27. ベーカリー製品のバッター又はドウを膨張させる方法であって、
単離グルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素又は単離アスパラギン酸デカルボキシラーゼ酵素と、それぞれ1 kgドウ又はバッターあたり少なくとも0.005モルのグルタミン酸の濃度のグルタミン酸若しくはその塩又はアスパラギン酸若しくはその塩とを含むバッター又はドウを提供する工程を含み、バッター又はドウが、添加された酵母又はサワードウ細菌を含有しない、方法。
【0043】
28. 工程a)が、
グルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素を含むバッター又はドウに、グルタミン酸又はその塩を添加することを含むか、又は、
アスパラギン酸デカルボキシラーゼ酵素を含むバッター又はドウに、アスパラギン酸又はその塩を添加することを含む、
ステートメント27に記載の方法。
【0044】
29. 上記ドウ又はバッターの加熱を更に含む、ステートメント27又は28に記載の方法。
【0045】
30. ドウ又はバッター中のグルタミン酸若しくはその塩、又はアスパラギン酸若しくはその塩の量が、1 kgのドウ又はバッターあたり0.010モル~0.20モルの間である、ステートメント27~29のいずれか一項に記載の方法。
【0046】
31. ベーカリー製品が、アメリカンビスケット、ケーキ、ケーキドーナツ、クッキー、マフィン、パンケーキ、プレッツェル、ウエハース、及びワッフルからなる群より選択される、ステートメント27~30のいずれか一項に記載の方法。
【0047】
32. ドウ又はバッターが、単離アスパラギン酸デカルボキシラーゼ及び単離グルタミン酸デカルボキシラーゼ及びアスパラギン酸又はその塩及びグルタミン酸又はその塩の両方を含む、ステートメント27~31のいずれか一項に記載の方法。
【0048】
33. ドウ又はバッターが、単離グルタミン酸デカルボキシラーゼを含み、かつ単離アスパラギン酸デカルボキシラーゼを含まない、ステートメント27~31のいずれか一項に記載の方法。
【0049】
34. 互いにpH最適条件及び/又は温度最適条件が異なる2つ以上のグルタミン酸デカルボキシラーゼを用い、及び/又は互いにpH最適条件及び/又は温度最適条件が異なる2つ以上のアスパラギン酸デカルボキシラーゼを用いる、ステートメント27~33のいずれか一項に記載の方法。
【0050】
35. グルタミン酸デカルボキシラーゼがストレプトマイセス属種のグルタミン酸デカルボキシラーゼであるか、又はグルタミン酸デカルボキシラーゼがバチルス・メガテリウムのグルタミン酸デカルボキシラーゼである、ステートメント27~34のいずれか一項に記載の方法。
【0051】
36. ベーカリー製品のバッター又はドウの膨張における単離グルタミン酸デカルボキシラーゼ及び/又は単離アスパラギン酸デカルボキシラーゼの使用であって、上記ドウ又はバッターが、添加された酵母又はサワードウ細菌を含有しない、使用。
【0052】
37. ベーカリー製品の調製のための穀粉を含むドライミックスであって、組成物が、添加された酵母又はサワードウ細菌を含有せず、組成物が15%(w/w)未満の水含量を有し、単離グルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素及び1 kgの組成物あたり0.005モルより大きいグルタミン酸又はその塩の濃度のグルタミン酸又はその塩の存在によって、及び/又は単離アスパラギン酸デカルボキシラーゼ酵素及び1 kgの組成物あたり0.005モルより大きいアスパラギン酸又はその塩の濃度のアスパラギン酸又はその塩の存在によって特徴づけられる、ドライミックス。
【0053】
38. 砂糖、乾燥卵黄、乾燥卵白、粉乳及びカカオの1つ以上を更に含む、ステートメント37に記載のドライミックス。
【0054】
39. グルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素とグルタミン酸又はその塩とを含み、
アスパラギン酸デカルボキシラーゼ酵素とアスパラギン酸又はその塩とを含む、ステートメント37又は38に記載のドライミックス。
【0055】
40. 酵素及び/又はアミノ酸基質若しくはその塩が別個のパッケージング中にある成分のキットである、ステートメント37又は38に記載のドライミックス。
【0056】
41. 添加された酵母又はサワードウ細菌を含有しないドウ又はバッターであって、
単離グルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素及び1 kgのドウ又はバッターあたり少なくとも0.005モルのグルタミン酸又はその塩の濃度のグルタミン酸又はその塩の存在、及び/又は、
単離アスパラギン酸デカルボキシラーゼ酵素及び1 kgのドウ又はバッターあたり少なくとも0.005モルのアスパラギン酸又はその塩の濃度のアスパラギン酸又はその塩の存在、
によって特徴づけられる、ドウ又はバッター。
【0057】
42. 1 kgのドウ又はバッターあたり少なくとも0.020モルの濃度のグルタミン酸又はその塩を含むか、又は1 kgのドウ又はバッターあたり少なくとも0.020モルの濃度のアスパラギン酸又はその塩を含む、ステートメント41に記載のドウ又はバッター。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】化学膨張系(1.5 g NaHCO3 + 1.5 g SAPP28)、等モルレベルのグルタミン酸ナトリウム(3.34 g)及び0.75g NaHCO3[1 Glu + 0.5 NaHCO3(pH 5.0)]、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GD)、等モルレベルのグルタミン酸ナトリウム(3.34 g)及び0.75 g NaHCO3[1 Glu + GD + 0.5 NaHCO3(pH 5.0)]、GD及び等モル用量のグルタミン酸ナトリウム(3.34 g)[1 Glu + GD(pH 5.0)]、GD及び等モルレベル×2のグルタミン酸ナトリウム(6.68 g)[2 Glu + GD(pH5.0)]、又はGD及び等モルレベル×2のグルタミン酸ナトリウム(6.68 g)[2 Glu + GD +砂糖(pH 5.0)]を含有するバッターに関する、50℃の水槽に入れられた後の時間の関数としてのパンケーキ(PC)バッターの高さを示す図である。
図2】添加された膨張系を含有しない(陰性対照)か、化学膨張系(NaHCO3 + SAPP28)、グルタミン酸ナトリウム[等モル量×2、2 Glu(pH 5.0)]、又はグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GD)及びグルタミン酸ナトリウム[等モル量×2、2 Glu + GD(pH 5.0)]を含有するクリームケーキの電気抵抗オーブン(ERO)における焼成中の時間の関数としてのクリームケーキ(CC)(バッター)の高さを示す図である。
図3】添加された膨張系を含有しない(陰性対照)か、グルタミン酸ナトリウム[等モル量×2、2 Glu(pH 5.0)]、又はグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GD)及びグルタミン酸ナトリウム[等モル量×2、2 Glu + GD(pH 5.0)]を含有するクリームケーキ(CC)バッターの焼成中の電気抵抗オーブン(ERO)における時間の関数としてのヘッドスペースCO2レベルを示す図である。
図4】パンケーキバッターの膨張を示す図である。GD ST:ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)のグルタミン酸デカルボキシラーゼ、GDBM:バチルス・メガテリウムのグルタミン酸デカルボキシラーゼ、Glu:グルタミン酸ナトリウム。
図5】焼成時間の関数としてのクリームケーキの膨張を示す図である。GD BM:バチルス・メガテリウムのグルタミン酸デカルボキシラーゼ、Glu:グルタミン酸ナトリウム。
図6】ERO中の時間の関数としてのヘッドスペースCO2レベルを示す図である。GD BM:バチルス・メガテリウムのグルタミン酸デカルボキシラーゼ、Glu:グルタミン酸ナトリウム。
図7】時間の関数としてのPCバッターの膨張を示す図である。PLP:リン酸ピリドキサール。
図8】時間の関数としての、30℃、50℃及び70℃での異なるpH値を用いたパンケーキバッターの膨張を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
食品等級の酸には、クエン酸、酢酸、フマル酸、乳酸、リン酸、リンゴ酸又は酒石酸、酸性ピロリン酸ナトリウム(SAPP、Na2H2P2O7)一カルシウムリン酸[MCP、Ca(H2PO4)2]、リン酸アルミニウムナトリウム(SALP)及び硫酸アルミニウムナトリウム(SAS)が含まれる。
【0060】
小麦粉は無菌製品ではなく、微量の酵母及び/又は細菌も含有し得る。本発明の背景において、「添加された酵母を伴わない/含まない」及び「添加されたサワードウ細菌を伴わない/含まない」は、更なる細菌又は酵母が接種されていない小麦粉を含有するバッター又はドウを指す。
【0061】
バッター及びドウという用語は、Delcour JA and Hoseney RC, Principles of CerealScience and Technology, AACC International, St. Paul, MN, 2010の第5章におけるように用いられる。本パラグラフで言及される製品は、この参考文献におけるように定義される。米国では、クッキーは、軟質小麦由来の小麦粉から製造される製品である。これらは、砂糖及びショートニングが多く、水が比較的少ない製法によって特徴づけられる。欧州及び英国で製造される類似の製品は、「ビスケット」と称される。米国で製造される「ビスケット」(本明細書においてアメリカンビスケットと称する)は、より正確には、化学的に膨張したブレッドと定義される。クッキー製品の多様性は非常に広範である。これらは製法が多様であるだけでなく、製造タイプも多様である。クッキーは、そのドウの特性に従って分類され得る。ハードドウは、発展したグルテンネットワークを有するが、かた練り(stiff consistency)であるため、ブレッドドウに関連する。他方、ショートドウは、ケーキバッターにより似ているが、含有する水は、遥かにより少ない。そのコンシステンシーは湿った砂のものに匹敵する場合があり、その結果、引っ張るか又は圧を加えると、構造が壊れ、すなわち脆い(short)。これらのドウは、あるとしても限定されたグルテン発展しか持たない。おそらく、ショートドウから製造されたクッキーを分類する最適の方法は、ドウを焼成バンド上に置く方法によるものである。Delcour JA and Hoseney, RC(上記引用)にも記載されるように、こうした分類により、クッキーは、3つの一般的なタイプ(回転式成形クッキー、裁断機クッキー、及びワイヤカットクッキー)に分けられる。「ケーキ」という用語は、本明細書において、Godefroidt et al.(2019) Comp. Rev. Food Sci. Food Safety 18, 1550-1562に記載される食品のありとあらゆるものに関して用いられる。ケーキレシピは、典型的には、成分として小麦粉、砂糖、及び卵を列挙する。ケーキタイプに応じて、脂質(例えばマーガリン、油、ショートニング、界面活性剤)もまた、成分表の一部であり、膨張剤及び食塩等の成分も同様である。「ケーキ」という用語は、その成分及び比率、並びにこれらを製造するために用いられるプロセシング法の両方に関して非常に異なる、広範囲のベーカリー製品に関して用いられる。異なるタイプのケーキもある。第一の相違点は、バッタータイプ及び泡タイプケーキの間のものである。バッタータイプケーキ(例えばクリームケーキ、パウンドケーキ)は、かなりのレベルの脂肪を含有する。これらのバッターは、エマルジョンと見なされ得る。泡タイプケーキ、例えばエンジェルフード及びスポンジケーキは、そのレジピがマーガリン、ショートニング、又は油に言及しないため、低レベルの脂肪しか含有しない。これらのバッターは、泡と記載され得る。しかし、スポンジケーキという用語が、添加された脂肪を含有する系に関して用いられてきたように、文献で用いられる用語は時に不明瞭である。さらに、泡タイプ及びバッタータイプのケーキの組み合わせと見なされ得るケーキは、時に、シフォンケーキと称される。シフォンケーキバッターは、エマルジョンであり、かつ泡である。第二の相違点は、高率及び低率ケーキの間のものである。前者のレシピは、小麦粉より多くの砂糖を含有し、後者のものは最大限、小麦粉と同じ量の砂糖を含有する。エンジェルフードケーキは、高率ケーキの一例であり、一方、パウンドケーキ(又はキャトルキャールケーキ)は、低率ケーキの例である。スポンジケーキという用語は、低率及び高率ケーキの両方を記載するために用いられてきている。
【0062】
ケーキドーナツは、膨張剤の補助で膨張する、加糖ドウから製造される。製品を得るため、ドウを油中で調理して、わずかにザクザクした(crunchy)外部及び柔らかいケーキ様の内部を有する製品にする。
【0063】
マフィンは、小さい丸型の甘いケーキであり、通常、内部にフルーツ又はふすま(bran)を有する。マフィンはしばしば朝食に食される。その製造において、マフィンバッターは、しばしば、焼成カップからあふれ出て、その上部が直径よりも大きく、幾分マッシュルーム状になることを推奨される。
【0064】
カップケーキは、小型のケーキである。カップケーキは、甘く、バニラ、チョコレート、及びレッドベルベットのようなフレーバーがある。カップケーキは柔らかく、卵及びバターが豊富である。
【0065】
パンケーキ(又はホットケーキ、グリドルケーキ、又はフラップジャック)は平面状のケーキであり、しばしば薄くかつ丸く、卵、牛乳及びバターを含有してもよい、デンプンに基づくバッターから調製され、グリドル又はフライパン等の熱い表面で両側が調理され、しばしば油又はバターで揚げられる。
【0066】
ワッフルは、特徴的なサイズ、形状、及び表面を生じるようにパターン化されている2つのプレートの間で調理される、膨張バッター又はドウから製造される食品である。
【0067】
アイリッシュソーダブレット、又は単にソーダブレッドは、クイックブレッドの一種である。伝統的な製造において、バターミルクと共に、NaHCO3が膨張系として用いられる。こうしたソーダブレッドは、小麦粉、バターミルク、NaHCO3及び食塩という4つの基本成分を有する。製造のより伝統的でない方法では、こうしたブレッドバターミルクは、(部分的に)膨張性の酸によって置換され得る。
【0068】
「ブレッド」という単語の使用は、それ自体、酵母の存在を暗示する。
【0069】
ブレッドは、典型的には、100 gの小麦粉に対して0 g~6 gの砂糖を用いて調製される。こうしたレベルの砂糖を用いる場合、一部は、酵母によって、二酸化炭素及びエタノールに変換される。
【0070】
100 gの小麦粉に対して10 gの砂糖を超える糖含量を含むドウは、スイートドウと分類される(Delcour and Hoseney 2010)。「スイートドウ」は、したがって、上述のビスケット、アメリカンビスケット、クッキー、及びプレッツェルの調製のためのドウを含む。
【0071】
しかし、特に上述のアイリッシュソーダブレッドでの使用に加えて、本組成物の方法及び化合物は、原則、酵母が、完全に又は部分的に、本発明の酵素膨張系によって置換された、小麦、ライ麦又は他の穀物若しくは擬穀類(ソバ(buckwheat)等)のブレッド(全粒粉又は篩に掛けたもの)の調製に用いられるレシピに対して等しく適用可能である。しかし、本発明の酵素膨張の適用は、より好ましくないか、又は阻止されさえする。ブレッドの味及び匂いは、部分的に、酵母によって産生される代謝産物によって得られる。酵母が酵素膨張によって置換されると、この味及び匂いは失われる。
【0072】
酵母によって生成される匂い及び味の側面は、ケーキ、或る種のパンケーキ等においては、より重要でないか、又は望ましくない場合さえある。したがって、酵素に基づく膨張系は、バッター及びスイートドウに特に適している。
【0073】
上記ケーキ、ケーキドーナツ、マフィン、カップケーキ、及びパンケーキ製品の製造は今日まで、適切なエアリー構造を確実にする化学剤の作用に頼ってきている。これはまた、或る種のワッフル及びアイリッシュソーダブレッドにも当てはまる。市販の膨張剤は、一般的に、NaHCO3及び無機酸(複数の場合もある)(HX)を含有する。塩及び酸は、互いに接触すると、それらのバッター/ドウの液相中で、互いに反応する。膨張剤のタイプに応じて、用いられる塩及びHXは、バッター/ドウ調製中(すなわち早期作用膨張剤)又は初期焼成期中(すなわち後期作用膨張剤)に反応する。ケーキ製造中に最も一般的に用いられる塩はNaHCO3であり、これは水性媒体への高溶解性、価格及び反応性のためである。NaHCO3との反応を制御し得るという事実に基づいて、関心対象の多数のHXが同定されてきている。どの酸を用いるか決定する際の主な要因は、CO2放出の望ましい時点である。本質的に、これは、焼成酸が、バッターの水相中に溶解する時点に依存する。NaHCO3は、以下の反応に従って酸と反応し、ここで中性塩(NaX)、水(H2O)、及びCO2が形成される:
【化1】
【0074】
HX溶解があまりに迅速なため、焼成前にCO2が放出される場合、全てではないとしても或る程度の膨張したガスセルはバッターを通じて拡散し、表面で失われる。有意なガスセル合体もまた起こり得る。CO2は、存在するガスセルを拡張するのみで、新規のものを生成しないため、上記は、例えば低体積のケーキ及び/又は粗いパンくずを生じ得る。
【0075】
対照的にHXの作用が遅すぎる場合、CO2は、焼成の終了時、したがってその時点ではケーキマトリックスが既に硬化しているため、ガスセルがもはや拡張できない時点でしか放出されない。
【0076】
用いられるHXは、無機又は有機化合物のいずれかである。無機HXは、CO2放出のより優れた制御を可能にする一方、有機酸は、一般的に、早期(すぎる)CO2放出を生じるため、無機HXが好ましい。
【0077】
単一作用膨張剤は、1つのHX(例えばSAPP)を含有し、ケーキ製造プロセス中の初期又は後期のいずれかでCO2を放出する。二重作用膨張剤は2つのHX、典型的には早期及び後期作用のもの、例えばそれぞれMCP及びSALPを含有する。
【0078】
しかし、CO2はまた、以下の反応において、NaHCO3の熱分解によっても形成され得る:
【化2】
【0079】
SALPは熱活性化されるため、最も一般的に用いられる無機焼成HXの1つであった。これは、主に焼成中にCO2の放出を生じ、したがって高体積の食品を生じる。これはなお好ましいHXであるが、膨張剤中のアルミニウムの使用には圧力が掛けられている。EUでは、これらの緩慢作用性の酸は、NaHCO3のもの(E500)と共に、E番号(例えばSASに関してはE521、及びSAPに関してはE450)として製品ラベル上に列挙される。
【0080】
現在のアルミニウム又はリン含有膨張性酸のいくつかの特徴は、もはやこれらを使用するなとする消費者主導の要求に寄与する。
【0081】
これらを含有するレシピによる製品に、焦げた(「高熱の(pyro)」)味を感じる消費者もいる。
【0082】
消費者のかなりのグループが、「クリーンラベル」を有する食品に関して警戒しており、例えば欧州では、こうした消費者はラベル上にE番号がある食品を避ける。
【0083】
健康上の懸念から、効率的なより高温の膨張剤SASには、ますます圧力が掛けられている。同じことはリン酸に基づく膨張性酸にも言える。上記のため、既に、異なる小売業者が食品製造におけるその使用を禁じるようになってきている。
【0084】
本発明の目的は、アルミニウムを含む上述の化合物の使用に頼らない、代替膨張系を提供することである。
【0085】
本発明は、とりわけ、ケーキ、ワッフル、パンケーキ、マフィン及びアイリッシュソーダブレッドの膨張のためにCO2を生成するための酵素に基づく技術を提供する。典型的な実施形態は、対応する基質と組み合わせた、グルタミン酸ナトリウムデカルボキシラーゼ(グルタミン酸デカルボキシラーゼ、EC 4.1.1.15)及び/又はアスパラギン酸ナトリウムデカルボキシラーゼ(アスパラギン酸デカルボキシラーゼ、EC 4.1.1.11)酵素を用いる。
【0086】
酵素は焼成食品製造中に変性するため、添加物とは見なされず、製品ラベル上に列挙する必要がない。
【0087】
酵素を調製する方法に応じて、ドライミックス又はバッター又はドウに補因子を添加することが有益であり得る。
【0088】
したがって、新規技術は、E500又はE521等の少なくとも2つの化学物質を含有する現在の膨張系の使用に対する、よりクリーンなラベルの代替物である。また、いくつかの実施形態においては、この技術は、GABA及び/又はBALAの放出を提供する。これらの化合物には、多くの健康上の効果が記載されてきている。GABAはヒトの血圧を低下させ、癌細胞アポトーシスを刺激する。BALAは骨格筋生理において役割を果たす。BALAは、高強度の一連の運動中の高強度運動成績を改善し、男性及び女性の両方において、神経筋肉疲労を軽減し、かつ骨格筋緩衝能力を増進することによって筋肉トレーニング量を増加させることが一貫して示されてきている。
【0089】
あるいは、特定の健康上の効果の原因とならないL-アラニンが生成される。
【0090】
本発明は、ドウ又はバッターにおいて二酸化炭素を生成するためのデカルボキシラーゼ酵素及びその基質の使用に関する。最も広い背景において、デカルボキシラーゼ酵素は、E.C.クラス4.1.1の酵素に関する。CO2の生成にいかなる酵素及びその基質を用いてもよいが、当業者には、残存し得る微量の基質及び酵素によって形成される産物の匂い、味又は健康上の効果を考慮して、或る特定の酵素/基質の組み合わせが食品調製の背景では適切でないことが理解されるであろう。
【0091】
基質及び形成される製品が食品製造に容認され得るか又は許容されるデカルボキシラーゼ酵素は、「食品に容認され得る」酵素と称される。
【0092】
より具体的には、デカルボキシラーゼ酵素は、基質としてアミノ酸を用いる酵素に関する。
【0093】
典型的には、請求する発明で使用される酵素は、
L-アスパルテートをBALA + CO2に変換する、アスパラギン酸1-デカルボキシラーゼ(EC4.1.1.11)、
L-アスパルテートをL-アラニン+ CO2に変換する、アスパラギン酸4-デカルボキシラーゼ(EC4.1.1.12)、
L-グルタメートをGABA + CO2に変換する、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(EC4.1.1.15)である。
【0094】
典型的な実施形態において、グルタミン酸デカルボキシラーゼは、E.コリ(E. coli)のグルタミン酸デカルボキシラーゼA(タンパク質寄託番号:P69908)又はE.コリのグルタミン酸デカルボキシラーゼB(タンパク質寄託番号P69910)である。
【0095】
グルタミン酸デカルボキシラーゼは、非常に特異的であると記載され、L-グルタミン酸/グルタメート及びα-メチルグルタミン酸/グルタメートに対してのみ有意な活性を示す一方、以下の化合物は基質でも阻害剤でもない:D-グルタメート、D-及びL-アスパルテート、α-アミノアジピン酸及びα-アミノピメリン酸。純粋なL-グルタミンは基質ではない。
【0096】
グルタミン酸デカルボキシラーゼは、およそ50 kDaの同一サブユニットの六量体として存在し、各々、1分子のリン酸ピリドキサール(PLP)を含有し、3.8の最適pHを有する。
【0097】
リン酸ピリドキサールは、必要であるが、堅く結合した補酵素である。約pH 5.5での可逆性立体配置変化(O’Leary & Brummund (1974) J. Biol. Chem. 249, 3737-3745)のため、塩化物イオンは活性に対して刺激性であり得て、酢酸イオンは阻害し得る。
【0098】
E.コリのGADの阻害剤には、L-イソグルタミン酸、脂肪族ジカルボン酸、特にグルタル酸、ピメリン酸、α-(フルオロメチル)グルタミン酸及びいくつかのスルフヒドリル基試薬、例えば塩化第二水銀、pCMB、及びDTNBが含まれる。
【0099】
更に別の特定の実施形態において、グルタミン酸デカルボキシラーゼは、ストレプトコッカス・サーモフィルス由来である。この酵素は、約50℃の温度最適条件を有する。
【0100】
更に別の特定の実施形態において、グルタミン酸デカルボキシラーゼは、バチルス・メガテリウム由来である。
【0101】
典型的な実施形態において、アスパラギン酸1-デカルボキシラーゼは、E.コリのアスパラギン酸1-デカルボキシラーゼである。
【0102】
アスパラギン酸1-デカルボキシラーゼは、共有結合したピルボイル補欠分子族を用いる酵素クラスに属する。
【0103】
ピルボイル含有酵素は、セリノリシス(serinolysis)と称される自己成熟切断によって、翻訳後にプロセシングされるチモーゲンとして発現される。E.コリは、更に2つのこうした酵素、ホスファチジルセリンデカルボキシラーゼ及びS-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼを含有する。
【0104】
PanDプロ酵素(πタンパク質)は、25位のセリン残基でプロセシングされて、2つのサブユニットα及びβを生じ、これらのサブユニットは酵素的に活性である複合体を形成する。精製酵素調製物の自己触媒プロセシングは、室温又は37℃ではゆっくり起こり、上昇した温度ではより高い速度で起こる。N→Oアシルシフトによって形成されるSer25でのエステル中間体は、エステルの自己タンパク質分解β-除去を促進し、タンパク質分解及びデヒドロアラニンの形成を生じ、これが加水分解を経て、ピルボイル基を形成する。E.コリ及びサルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)における実験によって、現在、PanZが成熟因子であり、この因子がプロPanDの成熟及び活性型への切断を誘発することが示されてきている。
【0105】
単離組換え酵素を用いる本発明の目的のため、酵素は真菌、植物又は動物由来であってもよい。
【0106】
酵素は、典型的には、細菌発現系で発現されるが、例えば酵母、昆虫細胞、又は哺乳動物発現系における発現を排除しない。
【0107】
酵素は、細胞内発現されてもよいし、又は培地内に分泌されてもよい。酵素は、クロマトグラフィ法を用いて、溶解物又は培地から単離され得る。あるいは、酵素は、例えばHis-タグとの融合タンパク質として、GST融合として、MBP融合として発現されてもよい。酵素活性に対する影響に応じて、タグは、融合構築物中のプロテアーゼ切断部位を用い、酵素から除去されてもよい。
【0108】
特定の酵素の選択は、ドウ又はバッターとの適合性、並びにpH、温度、糖レベル、イオン強度、及び脂質含量等の要因によって、その触媒活性が影響を受けるかどうか、及びこれらがどのような影響を受けるかに基づく。
【0109】
本発明は、異なる基質を変換するが、どちらも二酸化炭素を生成する、異なる酵素の使用(例えばグルタミン酸デカルボキシラーゼ及びアスパラギン酸デカルボキシラーゼの使用)を想定する。
【0110】
本発明は、異なる生物由来の酵素(例えば熱水中に生存する微生物由来の熱耐性酵素)を用いるか、又はドウ若しくはバッターのpH、温度、糖レベル、イオン強度若しくは脂質含量の特定の条件下で、最適の成績を生じるために改変されている酵素の突然変異体を用いる、同じ酵素の異なる変異体の使用を想定する。
【0111】
他の産業適用における使用が知られる多様な改変酵素を、ベーカリー製品の調製において試験し、従来技術の化学的に膨張された製品と比較してもよい。
【0112】
基質として機能するアミノ酸は、アミノ酸型又は塩型(典型的にはナトリウム塩)及び/又は水和型で提供され得る。アミノ酸は、純粋(90% w/w超、95% w/w超、98% w/w)アミノ酸調製物として、或いはタンパク質加水分解物等のアミノ酸を含む製品、又はキノア粉若しくは小麦ふすま調製物等の製品として添加され得る。
【0113】
グルタミン酸デカルボキシラーゼの活性は、時間の関数として、グルタミン酸からのGABAの放出(又はグルタミン酸の喪失)を測定することによって、非特許文献1(上記引用)におけるように決定され得る。非特許文献1(上記引用)によって用いられるクロマトグラフィ条件が、時間の関数としてアスパラギン酸の酵素誘導性喪失を測定するためにも適している(Rombouts et al. (2009) J. Chrom. A 1216, 5557-5562)ため、この手法はまた、アスパラギン酸デカルボキシラーゼの活性を決定するためにも使用され得る。これらの酵素の1酵素単位は、30℃及びpH 5.5で、1分間あたり基質1.0マイクロモルを変換する量と定義される。供給される酵素単位は、成分混合物の重量単位あたり、すなわち全ての固形及び液体レシピ成分の重量総計の重量単位あたりで表される。
【0114】
同じアッセイを用いて、アスパラギン酸の消費及びBALA又はL-アラニンの生成を測定することによって、アスパラギン酸デカルボキシラーゼの活性を決定してもよい。
【0115】
化学膨張は、想定されるベーカリー製品のタイプに応じて異なる、或る特定の体積の二酸化炭素の産生を要する。非特許文献2(上記引用)は、最大量のグルタミン酸ナトリウム(分子量169.1)が380 ppm(すなわち380 mg/kg小麦粉)であり、2.25ミリモル/kg小麦粉、又は1 kgのドウあたり約1.41ミリモルに対応する例を開示する。これらの条件下でのCO2産生は、体積の有意な増加を観察するには少なすぎる。基質が完全に変換され、CO2の喪失がなかったと仮定して、1 kgのドウあたり約30 mlの体積増加しか生じない。これは、新鮮に混合されたドウが、典型的には1.1 kg/リットルの密度を有する(Junge et al. (1981) Cereal Chem. 58, 338-342)ため、1リットルのドウあたり約27 mlに対応する。
【0116】
これは、典型的には1 kgのドウあたり、少なくとも2リットル体積が増加する、酵母膨張ブレッドの体積の典型的な増加とは非常に対照的である。
【0117】
10%の体積増加と共に、1リットルのドウ又はバッターは、気体として存在する0.1リットルのCO2を含有し、これは室温では0.00446モルに等しい。酵素により基質が完全に変換され、ドウ又はバッターからのCO2の逸出がなかったと仮定して、溶液中には或る程度のCO2が存在するため、10%の体積増加を得るには、同様に、最小限0.00446モル(4.46ミリモル)の基質が必要である。基質としてのアミノ酸アスパラギン酸(Asp)又はグルタミン酸(Glu)を基準として、10%の増加は、アミノ酸の分子量に基づいて計算した際、1リットルあたり少なくとも600 mg Asp又は650 mg Gluを必要とする。これらの重量は、これらのアミノ酸の塩及び/又は水和型を用いる場合には、更に適応が必要である。
【0118】
さらに、完全に変換され、焼成プロセス中の分解がないと仮定すると、これはグルタミン酸デカルボキシラーゼに関して460 mg GABAの放出、及びアスパラギン酸デカルボキシラーゼに関して400 mg ala又はBALAの放出を生じる。表1は、体積の他の増加を考慮した際の対応する値を提供する。
【0119】
表1:1リットルのバッター又は1.1 kgのドウあたりに生成されるCO2体積(ml)の関数としての酵素膨張における基質及び製品
【表1】
【0120】
したがって、本発明は、1リットルのバッター又は1.1 kgのドウが、少なくとも4ミリモル、6ミリモル、8ミリモル、10ミリモル、15ミリモル、20ミリモル、30ミリモル、40ミリモル、50ミリモル、75ミリモル又は100ミリモルのデカルボキシラーゼ基質を含む、バッター又はドウ、及びこれらを調製する方法に関する。
【0121】
本発明の実施形態は、1リットルのバッター又は1.1 kgのドウが、少なくとも0.5 g、0.75 g、1.0 g、2 g、4 g、5 g、7.5 g又は10 gのAsp又はGlu(アミノ酸として計算)を含む、バッター又はドウ、及びこれらを調製する方法に関する。
【0122】
本発明は更に、デカルボキシラーゼ酵素の基質を含む、ベーカリー製品の小麦粉又はプレミックス(すなわち砂糖、乾燥卵黄、乾燥卵白、砂糖又はカカオの1つ以上を更に含む小麦粉)に関する。これらは、水又は牛乳及び他の構成要素が添加された乾燥組成物(すなわち15% v/w未満の水を含む)である。したがって、1リットルのバッター又は1 kgのドウに関して用いる基質の量は、パッケージング中にて100 gと少ない量で存在し得る。
【0123】
したがって、本発明は、1 kgの小麦粉あたり、少なくとも40ミリモル、60ミリモル、80ミリモル、100ミリモル、150ミリモル、200ミリモル、300ミリモル、400ミリモル、500ミリモル、750ミリモル又は1000ミリモルのデカルボキシラーゼ基質を含む小麦粉に関する。
【0124】
したがって、本発明は、1 kgの小麦粉又はプレミックスあたり、少なくとも5 g、7.5 g、10 g、20 g、40 g、50 g、75 g又は100 gのAsp又はGlu(アミノ酸として計算)を含む小麦粉に関する。
【0125】
したがって、本発明は、1 キログラムのプレミックスあたり、少なくとも20ミリモル、30ミリモル、40ミリモル、50ミリモル、75ミリモル、100ミリモル、150ミリモル、200ミリモル、250ミリモル、400ミリモル又は500ミリモルのデカルボキシラーゼ基質を含むプレミックスにも関する。
【0126】
したがって、本発明は、1 kgのプレミックスあたり、少なくとも2、3、4、5、10、20、25、40又は50 gのAsp又はGlu(アミノ酸として計算)を含む小麦粉に関する。
【0127】
したがって、本発明は、1 kgのベーカリー製品あたり、少なくとも4ミリモル、6ミリモル、8ミリモル、10ミリモル、15ミリモル、20ミリモル、30ミリモル、40ミリモル、50ミリモル、75ミリモル又は100ミリモルのGABAを含むベーカリー製品に関する。
【0128】
したがって、本発明は、1 kgのベーカリー製品あたり、少なくとも4ミリモル、6ミリモル、8ミリモル、10ミリモル、15ミリモル、20ミリモル、30ミリモル、40ミリモル、50ミリモル、75ミリモル又は100ミリモルのL-アラニン又はBALAを含むベーカリー製品に関する。
【0129】
したがって、本発明は、1 kgのベーカリー製品あたり、少なくとも4ミリモル、6ミリモル、8ミリモル、10ミリモル、15ミリモル、20ミリモル、30ミリモル、40ミリモル、50ミリモル、75ミリモル又は100ミリモルのL-アラニン又はBALAを含むベーカリー製品に関する。
【0130】
本発明で使用するための小麦粉又はプレミックスは、デカルボキシラーゼ酵素及びその基質の両方を含有し得る。
【0131】
残渣水分による望ましくないCO2形成を防ぐため、基質及び/又は酵素を、小麦粉又はプレミックスと共に、別個のパッケージングとして提供し、再構成してもよい。
【0132】
その実施形態において、酵素は、別個のパッケージングで提供され、任意選択で、アルブミン若しくはデンプン若しくは多糖等のタンパク質安定化剤を含むか、吸湿化合物を含むか、又は精製酵素組成物としてパッケージングされる際に過剰な酵素喪失を回避するための充填剤を含む。
【0133】
小麦粉において使用するための酵素及び製品を配合する異なる方法が欧州特許第1224273号に概説され、これには以下が含まれる:
a)液体酵素含有溶液がスプレー乾燥タワー中で微粒子化されて、小滴を形成し、これが乾燥タワーを降りる間に酵素含有微粒子物質を形成する、スプレー乾燥製品。
b)酵素が予め形成された不活性コア粒子周囲の層としてコーティングされ、典型的には予め形成されたコア粒子が流体化される流動床装置中で、酵素含有溶液が微粒子化されて、酵素含有溶液がコア粒子に付着し、乾燥されて、コア粒子表面上に乾燥酵素の層が残る、層状製品。
c)コア周囲の層として酵素をコーティングするのではなく、酵素をコア表面上及び/又は表面内に吸収させる、吸収コア粒子。
d)酵素含有ペーストをペレットにプレスするか、又は圧力下で小さい開口部を通じて押し出し、カットして粒子にして、続いて乾燥させる、押し出し又はペレット化製品。
e)酵素粉末を融解ワックス中に懸濁し、懸濁物を、例えば回転ディスクアトマイザを通じて、小滴が迅速に固化する冷却チャンバー内にスプレーする、製品。
f)酵素含有液を慣用的な顆粒化構成要素の乾燥粉末組成物に添加する、ミキサー顆粒化製品。適切な比率の液体及び粉末を混合し、液体の水分が乾燥粉末に吸収されるにつれて、乾燥粉末の構成要素が接着し、塊を形成し始め、粒子が構築され、酵素を含む顆粒が形成される。
【0134】
本発明のドウ及びバッターは、典型的には酵母を含まないため、これらは、すぐに使用できる組成物として提供され得て、酵素を液体バッターに添加し、混合するか若しくは攪拌し、又は酵素をドウに添加し、続いて混合するか又はこねて、ドウ中に酵素を分散させる。
【実施例
【0135】
実施例1.材料
市販の白小麦粉(13.4%水分含量(MC)及び10%タンパク質含量)、半脱脂乳、砂糖、菜種油及び卵を地元ベルギーのスーパーマーケットで購入した。卵を3℃で保存し、消費期限前に用いた。L-グルタミン酸一ナトリウム塩一水和物(分子量187.12)はFluka Honeywell(Morristown, NJ, USA)のものであった。クエン酸、塩化ナトリウム、二酸化ケイ素及びL-アスパラギン酸ナトリウム塩一水和物(分子量173.10)はMerck(Darmstadt, Germany)のものであった。NaHCO3及びSAPP 28(酸性ピロリン酸ナトリウム)は、Budenheim(Budenheim, Germany)のものであった。水酸化ナトリウムはJ.T. Baker(Phillipsburg, NJ, USA)のものであった。補因子ピリドキサール5'-リン酸水和物(PLP又はビタミンB6)をMerck(Darmstadt, Germany)から得た。
【0136】
全ての化学薬品は少なくとも分析等級であった。
【0137】
アスパラギン酸デカルボキシラーゼは、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)(Genbank寄託EFN38897.1)由来であった。
【0138】
グルタミン酸デカルボキシラーゼは、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Genbank寄託ABI31651.2)由来、又はバチルス・メガテリウム(例えばGenbank寄託KT895523.1)由来であった。
【0139】
どちらの酵素もHisタグ付きタンパク質としてE.コリ中で発現され、Ni-NTAアフィニティクロマトグラフィによって精製され、300 mM塩化ナトリウムを含有する50 mM Tris-HCl緩衝液(pH 8.5)中の溶液として供給された。
【0140】
実施例2.異なるpH値でのアスパラギン酸デカルボキシラーゼ及びグルタミン酸デカルボキシラーゼによる二酸化炭素のin vitro放出
グルタミン酸デカルボキシラーゼ及びアスパラギン酸デカルボキシラーゼによるCO2形成を、PLPの非存在下及び存在下両方で、異なるpHで測定した。pH 5.0、6.0及び7.0のクエン酸緩衝液(50 mM)は、300 mM塩化ナトリウム及び130 mMグルタミン酸ナトリウム又はアスパラギン酸ナトリウムを含有した。5.0 mL緩衝液及び0.1 g二酸化ケイ素(CO2放出を容易に検出するための核形成剤として添加)を、50℃の水槽中で10分間インキュベーションした。次いで、1 gの成分混合物あたり少なくとも13酵素単位を提供する100 μLのグルタミン酸デカルボキシラーゼ又はアスパラギン酸デカルボキシラーゼ溶液、及び任意選択で少量の補因子PLP(2 mg~5 mgの間)を添加した。試験管をボルテックスして最初に存在した泡を取り除き、水槽に戻し、この時点で観察を開始した。各pHに関して、酵素を用いない陰性対照を行った。
【0141】
以下の基質/酵素の組み合わせを試験した:
アスパラギン酸ナトリウム/アスパラギン酸デカルボキシラーゼ、
グルタミン酸ナトリウム/グルタミン酸デカルボキシラーゼ、及び、
アスパラギン酸ナトリウム/グルタミン酸デカルボキシラーゼ。
【0142】
CO2形成を視覚的に評価した。提供するスコアは、泡が全く見られない場合「0」であった。「+」から「++++」のスケールを用いて、それぞれ、微量から激しい泡放出を示した。
【0143】
これらの実験において、試験溶液には、バッター又はドウで典型的に遭遇する構成要素、例えば牛乳、卵白又は卵黄、砂糖又は脂肪はいずれも含まれなかった。
【0144】
表2は、アスパラギン酸デカルボキシラーゼ(AD)又はグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GD)及び任意選択で補因子ピリドキサール5'-リン酸(PLP)水和物の添加後の、300 mM塩化ナトリウム及び130 mMアスパラギン酸ナトリウム又はグルタミン酸ナトリウムを含有する、pH 5.0、6.0又は7.0でクエン酸緩衝液(50 mM)中、50℃でインキュベーションしている間のそれらの基質のグルタミン酸デカルボキシラーゼ及びアスパラギン酸デカルボキシラーゼによる脱カルボキシル化によるin vitro泡形成に関する情報を提供する。
【0145】
表2:泡放出の概観。泡が全く見られない場合、スコアは「0」であった。「+」から「++++」のスケールを用いて、それぞれ、微量から激しい泡放出を示した。
【表2】
【0146】
最も激しい気体放出は、補因子が添加されているかどうかに関わらず、基質としてグルタミン酸ナトリウムを用いた、pH 5.0での、グルタミン酸デカルボキシラーゼに関して観察された。試験した全てのpHのうち、5.0が、このグルタミン酸デカルボキシラーゼの報告される最適条件(pH 4.0)に最も近い。グルタミン酸デカルボキシラーゼはまた、このモデル系において、pH 6.0及び7.0でも活性であった。グルタミン酸デカルボキシラーゼの基質としてアスパラギン酸ナトリウムを用いると、わずかであるが、なお有意な気体放出が観察することができた。
【0147】
アスパラギン酸デカルボキシラーゼは、基質としてアスパラギン酸ナトリウムを用いると、気体放出を誘導したが、全体の気体放出は、グルタミン酸ナトリウムと共にグルタミン酸デカルボキシラーゼを用いた場合に得られるものよりも少なかった。アスパラギン酸デカルボキシラーゼでも、最多の気体放出は、pH 5.0で観察された。この特定の場合、補因子の添加は影響があった。驚くべきことに、補因子を全く添加しない場合、気体放出はpH 6.0で最も顕著であった。
【0148】
上記は、試験した酵素での気体放出を明らかに示した。試験した酵素及び条件のうち、pH 5.0の媒体中、グルタミン酸ナトリウムと組み合わせたグルタミン酸デカルボキシラーゼが、最も有効であり、したがってこれを更なる実験に用いた。必要ではないが、続く実施例の全ての実験で、PLP補因子を添加した。
【0149】
実施例3.グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性によるパンケーキ(PC)バッターの膨張
以下の試料を調製した。
【0150】
PCバッター0:
175 g牛乳、100 g小麦粉、100 g新鮮卵白、50 g新鮮卵黄、並びに1.5 g SAPP28及び1.5 g NaHCO3
【0151】
全ての液体成分をWaringブレンダー中で混合した。液体をブレンドした後、固体を混ぜ入れた。生じたバッター25 mlを充填したメスシリンダーをParafilmで密封し、50℃の水槽中に入れた。30分間に亘って、バッターの高さの増加を監視した。
【0152】
PCバッター1:
159 g牛乳、100 g小麦粉、100 g新鮮卵白、50 g新鮮卵黄、6.68 gグルタミン酸ナトリウム、クエン酸粉末、グルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液(以下を参照されたい)及びPLPのアリコット(以下を参照されたい)。
【0153】
グルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液以外の全ての液体成分をWaringブレンダー中で混合した。牛乳の量は、参照バッターにおけるよりも少なく、グルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液が添加されたら、参照バッターと同じ液相含量となるバッターを得られるようにした。全ての液体をブレンドした後、配合物に小麦粉を混ぜ入れた。クエン酸粉末を添加して、pH 5.0のバッターを得た。生じたバッター10 mlを50 mlメスシリンダーに充填して、補因子アリコット及び1 gの成分混合物あたり少なくとも4.2酵素単位を提供する1.0 mlのグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液を添加した。シリンダーに、更に25 mlまでの体積のバッターを充填し、シリンダー内容物をガラス棒でホモジナイズし、シリンダーをParafilmで密封し、50℃の水槽に入れた。30分間に亘って、バッターの高さの増加を監視した。
【0154】
バッター1中のグルタミン酸ナトリウムのモル量は、パンケーキバッター0中のNaHCO3のモル量の2倍である(本明細書で以後、等モル量×2と称する)。
【0155】
PCバッター2:
136.65 g牛乳、31.8 g砂糖、100 g小麦粉、100 g新鮮卵白、50 g新鮮卵黄、6.68 gグルタミン酸ナトリウム、クエン酸粉末、グルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液(上記の通り)及びPLPのアリコット(上記の通り)。牛乳の量を減少させて、砂糖の存在によって引き起こされる体積増加を補償した。
【0156】
バッター2の調製は、小麦粉及び砂糖の両方を混合液に添加する以外は、バッター1と同じである。
【0157】
バッター2を調製して、食品中で遭遇するような砂糖の濃度が、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性に影響を有するかどうかを決定する。
【0158】
PCバッター3:
159 g牛乳、100 g小麦粉、100 g新鮮卵白、50 g新鮮卵黄、3.34 gグルタミン酸ナトリウム、クエン酸粉末、グルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液(上記の通り)及びPLPのアリコット(上記の通り)。
【0159】
バッター2に比較して、バッター3は、半量のグルタミン酸ナトリウムを含有し、これは参照バッター中のNaHCO3量とモル当量である。
【0160】
この濃度を、以後、等モル量と称する。
【0161】
PCバッター4:
159 g牛乳、100 g小麦粉、100 g新鮮卵白、50 g新鮮卵黄、並びに0.75 g NaHCO3及び3.34 gグルタミン酸ナトリウムの両方をレシピ中で用いた。
【0162】
このバッターは、化学膨張及び酵素膨張を可能にする。
【0163】
PCバッター5~9:
PCバッター5はバッター0と同じレシピから製造されるが、NaHCO3の使用を伴わず、SAPP28を含まなかった。
【0164】
PCバッター6はバッター1と同じレシピから製造されるが、グルタミン酸デカルボキシラーゼ及びPLPの使用を伴わなかった。
【0165】
PCバッター7はバッター2と同じレシピから製造されるが、グルタミン酸デカルボキシラーゼ及びPLPを含まなかった。
【0166】
PCバッター8はバッター3と同じレシピから製造されるが、グルタミン酸デカルボキシラーゼ及びPLPを含まなかった。
【0167】
PCバッター9はバッター4と同じレシピから製造されるが、グルタミン酸デカルボキシラーゼ及びPLPを含まなかった。
【0168】
図1は、時間の関数としてのPCバッターの膨張を示す。グルタミン酸デカルボキシラーゼの添加に際して、等モル量×2及び等モル量のグルタミン酸ナトリウムの両方で、非常に効率的な膨張が観察された。砂糖添加は、酵素膨張に負の影響を及ぼさず、むしろバッターの安定化を補助した。あり得る説明は、砂糖がバッターをより粘性にし、次いで、形成されたCO2のより優れた保持を生じたというものである。
【0169】
このモデル設定では、膨張は、NaHCO3と共に、HXとしてSAPP28を使用するよりも、明らかにより迅速に作用した。しかし、本発明者らは、この試験を23℃(水槽導入時点の室温)から50℃(水槽と平衡にある際)に増加する温度で行った。SAPP28はより高い温度のみで、十分により活性である可能性がある。
【0170】
NaHCO3とグルタミン酸デカルボキシラーゼ及びより少ない用量のグルタミン酸ナトリウムとの組み合わせは、グルタミン酸デカルボキシラーゼ及び等モル×2の用量のグルタミン酸ナトリウムの添加と類似の膨張を生じた。この体積増加は、グルタミン酸デカルボキシラーゼと共に等モル用量のグルタミン酸ナトリウムを含むバッター、並びにNaHCO3(及びグルタミン酸ナトリウムのみ)を含むバッターにおける膨張の合計よりも多かった。
【0171】
このモデル系は、より高い温度での酵素膨張を示す。これはまた、グルタミン酸デカルボキシラーゼは、小麦粉、卵白、卵黄又は牛乳構成要素による(あるとしても)有意な阻害を伴わずに使用可能であることを示す。
【0172】
実施例4.グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性によるクリームケーキ(CC)バッターの膨張
以下の試料を調製した。
【0173】
CCバッター0:
70.0 g小麦粉、59.5 g砂糖、42.0 g菜種油、31.5 g新鮮卵白、21.0 g新鮮卵黄、28.0 g水、並びに1.05 g SAPP28及び1.05 g NaHCO3
【0174】
固形成分をWaringブレンダー中で混合した。次に、卵白、卵黄、水、及び菜種油を混ぜ入れた。
【0175】
CCバッター1:
70.0 g小麦粉、59.5 g砂糖、42.0 g菜種油、31.5 g新鮮卵白、21.0 g新鮮卵黄、22.0 g水、4.68 gグルタミン酸ナトリウム(すなわち等モル量×2)、クエン酸粉末、6.0 mlグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液(以下を参照されたい)、及び2 mg~5 mgのPLP。
【0176】
固形成分をWaringブレンダー中で混合した。次に、卵白、卵黄、水、及び菜種油を混ぜ入れた。少量のクエン酸粉末を添加して、pH 5.0のバッターを得た。最後に、1 gの成分混合物あたり少なくとも2.5酵素単位を提供する6.0 mlのグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液を混ぜ入れた。
【0177】
CCバッター2:
CCバッター2はバッター1と同じレシピから製造されるが、グルタミン酸デカルボキシラーゼ及びPLPの使用を伴わなかった。
【0178】
電気抵抗オーブン(ERO、75 mm×60 mm×180 mm、l×w×h)に150 gバッターを充填し、密封した。CO2データロガー(CO2Meter、Ormond Beach, FL, USA)によって、ヘッドスペース中のCO2レベルの監視を可能にした。ルーラーを用いて、焼成中のバッターの高さを監視した。温度-時間プロファイルは、伝統的なケーキ焼成中の中心でのものと類似であった。温度は、線形に23分間で25℃から90℃、次いで、8分間で90℃から100℃、最後に100℃で9分間、一定に保持した。
【0179】
図2は、焼成時間の関数としてのクリームケーキの膨張を示す。
【0180】
その基質と組み合わせたグルタミン酸デカルボキシラーゼは、酵素膨張を提供し、これは、50℃でのパンケーキバッターに関する結果と一致した。膨張は、焼成4分後、すなわち32℃の温度で、既に観察可能であった。これは、焼成8分後(約46℃)で開始する、試験した化学膨張よりも早かった。この結果は、この技術が、ベーカリー製品における化学膨張に取って代わることができることを示す。
【0181】
図3は、EROにおける時間の関数としてのヘッドスペースCO2レベルを示す。
【0182】
22分間の焼成以後、化学膨張系で、又はグルタミン酸デカルボキシラーゼ及びグルタミン酸ナトリウムで製造した場合、かなりの量のCO2がクリームケーキバッターから放出された。グルタミン酸ナトリウムのみでは、ケーキ焼成処置中、CO2の産生はなく、添加されるグルタミン酸デカルボキシラーゼの重要性を明らかに示した。ヘッドスペースへのCO2の最大の増加は、物理的ガスセル開裂開始時にのみ見られた。これより前には、CO2はバッターの泡に捕捉されたままであり、膨張を引き起こした。セル開裂は、ケーキの高さの更なる増加を停止し、これは通常の膨張の構造硬化に関連した。
【0183】
結果は、膨張が、酵素的であっても又は化学的であっても、CO2産生によって有効に確立されることを示す。
【0184】
実施例5.グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性によるパンケーキ(PC)バッターの膨張:ストレプトコッカス・サーモフィルス及びバチルス・メガテリウム由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ
以下の試料を調製した。
【0185】
PCバッター10:
159 g牛乳、100 g小麦粉、100 g新鮮卵白、50 g新鮮卵黄、6.68 gグルタミン酸ナトリウム、クエン酸粉末(以下を参照されたい)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(ST、以下を参照されたい)由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液、及びPLPのアリコット(以下を参照されたい)。
【0186】
グルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液を除く全ての液体成分をWaringブレンダー中で混合した。ブレンド後、固体を配合物内に混ぜ入れた。クエン酸粉末を添加して、バッターpHを5.0に調節した。50 mlメスシリンダーに、生じたバッター10 ml、PLPのアリコット及び1 gの成分混合物あたり総計少なくとも4.2酵素単位を提供するST由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液1000μLを添加した。シリンダーに更に25 mlまでの体積のバッターを充填し、シリンダー内容物をガラス棒でホモジナイズし、シリンダーをParafilmで密封し、50℃の水槽に入れた。30分間に亘って、バッターの高さの増加を監視した。
【0187】
PCバッター11:
159 g牛乳、100 g小麦粉、100 g新鮮卵白、50 g新鮮卵黄、6.68 gグルタミン酸ナトリウム、クエン酸粉末、ST由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液、及びPLPのアリコット(以下を参照されたい)。
【0188】
バッター11の調製は、わずか100.0 μLの、したがって1 gの成分混合物あたり総計少なくとも4.2酵素単位を提供する同じグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液を添加した以外は、バッター10と同じである。
【0189】
PCバッター12:
159 g牛乳、100 g小麦粉、100 g新鮮卵白、50 g新鮮卵黄、6.68 gグルタミン酸ナトリウム、クエン酸粉末、バチルス・メガテリウム(BM、以下を参照されたい)由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液、及びPLPのアリコット(以下を参照されたい)。
【0190】
バッター12の調製は、1 gの成分混合物あたり総計少なくとも2.8酵素単位を提供する、100.0μLのBMグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液を添加した以外は、バッター10と同じである。
【0191】
PCバッター13:
PCバッター13は、バッター10と同じレシピで製造されたが、グルタミン酸デカルボキシラーゼの使用を伴わなかった。したがって、このバッターは、他のバッターの陰性対照である。
【0192】
図4は、時間の関数としてのPCバッターの膨張を示す。
【0193】
ST由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼと共にBM由来のもので、膨張を観察した。BMグルタミン酸デカルボキシラーゼを添加すると、大規模な膨張が観察された。この酵素で製造されるバッターの高さは、ST由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼで製造されるバッターに関する120%に比較して、約185%に増加した。また、1000 μlのST由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液を添加した際のパンケーキバッターの膨張は、BM由来の100.0 μlのグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液が添加されているバッターのものよりも効率的ではなかった。
【0194】
BM由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼは、0分でのバッターの高さから推測され得るように、室温で既にパンケーキバッター膨張を引き起こした。バッターをシリンダーに充填してから50℃の水槽に入れるまでの時間枠で、バッターの高さは、100%から約108%に増加した。
【0195】
これらのモデル系は、異なる供給源に由来するグルタミン酸デカルボキシラーゼで、より高い温度での酵素膨張が可能であることを示す。
【0196】
実施例6.グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性によるクリームケーキ(CC)バッターの膨張:バチルス・メガテリウム由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ
以下の試料を調製した。
【0197】
CCバッター3:
70.0 g小麦粉、59.5 g砂糖、42.0 g菜種油、31.5 g新鮮卵白、21.0 g新鮮卵黄、22.0 g水、4.68 gグルタミン酸ナトリウム、クエン酸粉末。
【0198】
固形成分をWaringブレンダー中で混合した。次に、卵白、卵黄、水、及び菜種油を混ぜ入れた。クエン酸粉末を添加して、バッターpHを5.0に調節した。
【0199】
CCバッター4:
70.0 g小麦粉、59.5 g砂糖、42.0 g菜種油、31.5 g新鮮卵白、21.0 g新鮮卵黄、22.0 g水、4.68 gグルタミン酸ナトリウム、クエン酸粉末、BM(以下を参照されたい)由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液550 μL、及びPLPのアリコット。
【0200】
クエン酸粉末を除く固形成分をWaringブレンダー中で混合した。次に、卵白、卵黄、水、及び菜種油を混ぜ入れた。少量のクエン酸を添加して、バッターpHを5.0に調節した。電気抵抗オーブン中に150 gのバッターを秤量した後、補因子PLP及びBMグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液(1 gの成分混合物あたり総計少なくとも2.5酵素単位を提供した)を混ぜ入れた。
【0201】
電気抵抗オーブン(ERO、75 mm×60 mm×180 mm、l×w×h)に、150 gバッターを充填し、密封した。CO2データロガー(CO2Meter, Ormond Beach, FL, USA)は、ヘッドスペース中のCO2レベルの監視を可能にした。ルーラーを用いて、焼成中のバッターの高さを監視した。温度-時間プロファイルは、伝統的なケーキ焼成中の中心でのものと類似であった。温度は、線形に23分間で25℃から90℃、次いで、8分間で90℃から100℃、最後に100℃で9分間、一定に保持した。
【0202】
図5は、焼成時間の関数としてのクリームケーキの膨張を示す。
【0203】
その基質と組み合わせたBM由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液は、クリームケーキ焼成中に酵素膨張を提供し、これは、50℃でのパンケーキバッターに関する結果と一致した。バッターの高さは焼成開始直後に増加し、焼成24分後(約91℃)で約330%の最高の高さに到達した。これは、バッターが約260%の最高の高さに到達するST由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼで製造したケーキバッターに関して観察される膨張(実施例4tを参照されたい)より遥かに高い。
【0204】
大規模な膨張のため、ケーキマトリックスは非常に引き延ばされた。その結果、物理的ガスセル開裂が起こると、ケーキ構造は崩壊した。したがって、BM由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼの用いた濃度は、過剰量であった。
【0205】
結果は、異なる供給源に由来するグルタミン酸デカルボキシラーゼと組み合わせて、グルタミン酸ナトリウムを添加することによって、クリームケーキ膨張が、到達され得ることを示す。
【0206】
図6は、EROにおける時間の関数としてのヘッドスペースCO2レベルを示す。
【0207】
22分間の焼成以後、BMグルタミン酸デカルボキシラーゼ及びグルタミン酸ナトリウムで製造した場合、かなりの量のCO2がクリームケーキバッターから放出された。
【0208】
焼成終了時、クリームケーキ製造に関して、BM由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ(およそ57000 ppm CO2)を用いた際に、ST由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ(およそ36000 ppm CO2、実施例4を参照されたい)よりも、EROヘッドスペース中に遥かにより多くのCO2が放出されたこともまた、前者が過剰量で使用されていることを更に示した。
【0209】
グルタミン酸ナトリウムのみでは、ケーキ焼成処置中、CO2の産生はなく、これは、添加されるグルタミン酸デカルボキシラーゼの重要性を明らかに示した。
【0210】
結果は、グルタミン酸デカルボキシラーゼと一緒のグルタミン酸ナトリウムの使用は、CO2産生による、焼成中のクリームケーキ膨張を確立することを確証する。
【0211】
実施例7.グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性によるパンケーキ(PC)バッターの膨張:ストレプトコッカス・サーモフィルス由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼの補因子依存性
パンケーキバッターを、多様な量の補因子PLP及び等量のST由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液で製造して、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性が、バッター中に存在するPLPの量に依存するかどうかを調べた。
【0212】
以下の試料を調製した。
【0213】
PCバッター14:
159 g牛乳、100 g小麦粉、100 g新鮮卵白、50 g新鮮卵黄、6.68 gグルタミン酸ナトリウム(すなわち等モル量×2)、クエン酸粉末、及びST(以下を参照されたい)由来の250.0μLのグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液。
【0214】
グルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液以外の全ての液体成分をWaringブレンダー中で混合した。全ての液体をブレンドした後、配合物に固体を混ぜ入れた。クエン酸を添加して、バッターpHを5.0に調節した。生じたバッター10 mlを50 mlメスシリンダーに充填して、その後、1 gの成分混合物あたり総計少なくとも4.2酵素単位を提供するST由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液を添加した。シリンダーに、更に25 mlまでの体積のバッターを充填し、シリンダー内容物をガラス棒でホモジナイズし、シリンダーをParafilmで密封し、50℃の水槽に入れた。30分間に亘って、バッターの高さの増加を監視した。
【0215】
PCバッター15:
PCバッター15は、バッター14と同じレシピから製造されたが、5 mg PLPの添加を伴った。PLPは、グルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液と共に添加された。
【0216】
PCバッター16:
PCバッター16は、バッター14と同じレシピから製造されたが、10 mg PLPの添加を伴った。PLPは、グルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液と共に添加された。
【0217】
PCバッター17:
PCバッター17は、バッター14と同じレシピから製造されたが、25 mg PLPの添加を伴った。PLPは、グルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液と共に添加された。
【0218】
PCバッター18:
PCバッター18は、バッター14と同じレシピから製造されたが、50 mg PLPの添加を伴った。PLPは、グルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液と共に添加された。
【0219】
図7は、時間の関数としてのPCバッターの膨張を示す。
【0220】
PLPを添加しないと、パンケーキバッター膨張は、50℃でのインキュベーション5分後に開始したが、PLPを添加すると、インキュベーション1分後、膨張が開始した。補因子PLP及びグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液が添加されたケーキバッターは、後者のみが添加されたバッターよりも迅速に膨張した。
【0221】
PLPを含めて製造されたパンケーキバッターの高さは、50℃で約10分間インキュベーションした後、最大値に到達した。その後、バッターの高さは、約10分間一定のままであり、次いで実験終了時にわずかに減少した。PLPを含まずに製造されたパンケーキバッターは実験終了時(すなわち30分)で最大の高さに到達し、これはおそらく、より長い期間インキュベーションすると、更に増加していたであろう。
【0222】
パンケーキバッター膨張は、バッター中のPLP濃度が増加するにつれて、より顕著であった。
【0223】
結果は、パンケーキバッター中のグルタミン酸デカルボキシラーゼ及びその基質の使用による酵素膨張は、バッター中のPLP濃度に応じることを示す。
【0224】
実施例8.グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性によるパンケーキ(PC)バッターの膨張:ストレプトコッカス・サーモフィルス由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼのpH及び温度依存性
以下の試料を調製した。
【0225】
PCバッター19:
159 g牛乳、100 g小麦粉、100 g新鮮卵白、50 g新鮮卵黄、6.68 gグルタミン酸ナトリウム(すなわち等モル量×2)、ST(以下を参照されたい)由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液、及びPLPのアリコット(以下を参照されたい)。
【0226】
グルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液を除く全ての液体成分をWaringブレンダー中で混合した。全ての液体をブレンドした後、配合物に固体を混ぜ入れた。バッターpHは6.9であった。
【0227】
12 mlのバッターをFalcon試験管に移した後、120.0 μlのST由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ溶液及び24 mg PLPを添加した。1分間のボルテックス後、10 mlパンケーキバッターを25 mlシリンダーに移した。シリンダーをParafilmで密封し、30℃、50℃又は70℃の水槽に入れた。全ての温度で、30分間に亘って、バッターの高さの増加を監視した。
【0228】
PCバッター20:
PCバッター20は、バッター19と同じレシピから製造されたが、クエン酸粉末が添加され、バッターpHが6.0に調節された。
【0229】
PCバッター21:
PCバッター21は、バッター19と同じレシピから製造されたが、クエン酸粉末が添加され、バッターpHが5.0に調節された。
【0230】
図8は、時間の関数としての、30℃、50℃又は70℃の異なるpH値でのPCバッターの膨張を示す。
【0231】
バッターpHとは関わりなく、パンケーキバッター膨張は、インキュベーション温度の増加と共に増加した。これは部分的に、より高い温度では、CO2溶解度がより低いこと及び熱気体膨脹によって説明される。さらに、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性は、温度と共に増加する可能性がある。その温度最適条件は約50℃である(オリジナルテキストの10ページを参照されたい)。
【0232】
用いるインキュベーション温度とは関わりなく、6.9又は6.0のpHのパンケーキバッターの膨張は、5.0のpHのパンケーキバッターのものよりも低かった。これらの結果は、部分的に、CO2が遊離CO2として、又は重炭酸塩(HCO3 -)としてのいずれでも存在し得るという事実によって説明される。これらの相対的な比率は、Delcour JA and Hoseney RC, Principles of Cereal Science and Technology, AACC International, St. Paul, MN, 2010の第13章に記載されるように、pHに依存する。例えば、pH 6では、相対的な比率は、およそ70% CO2及び30% HCO3 -である。上記の次に、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性はまた、バッターpHにも依存し得る。上記の結果はおそらく、両方の現象の組み合わせによって説明される。
【0233】
図面訳
図1
Height (% from initial height) 高さ(最初の高さからの%)
Time (min) 時間(分)
sugar 砂糖
図2
Height (% from initial height) 高さ(最初の高さからの%)
Time (min) 時間(分)
Baking 焼成
Cooling 冷却
Temperature 温度
Negative control 陰性対照
T-t profile T-tプロファイル
図3
baking time (min) 焼成時間(分)
Temperature 温度
Negative control 陰性対照
T-t profile T-tプロファイル
図4
Height (% from initial height) 高さ(最初の高さからの%)
Time (min) 時間(分)
図5
Batter Height (% from start height) バッターの高さ(最初の高さからの%)
Time (min) 時間(分)
Baking 焼成
Cooling 冷却
Temperature 温度
T-t profile T-tプロファイル
図6
baking time (min) 焼成時間(分)
Temperature 温度
T-t profile T-tプロファイル
図7
Height (% from initial height) 高さ(最初の高さからの%)
Time (min) 時間(分)
図8
Height (% from initial height) 高さ(最初の高さからの%)
Time (min) 時間(分)
Batter バッター
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】