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特表2023-500925神経炎症または炎症性脳疾患の処置および予防
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  • 特表-神経炎症または炎症性脳疾患の処置および予防 図1
  • 特表-神経炎症または炎症性脳疾患の処置および予防 図2
  • 特表-神経炎症または炎症性脳疾患の処置および予防 図3A
  • 特表-神経炎症または炎症性脳疾患の処置および予防 図3B
  • 特表-神経炎症または炎症性脳疾患の処置および予防 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-11
(54)【発明の名称】神経炎症または炎症性脳疾患の処置および予防
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/415 20060101AFI20221228BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221228BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20221228BHJP
   A61P 25/06 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
A61K31/415
A61P29/00
A61P25/00
A61P25/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022526195
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(85)【翻訳文提出日】2022-06-01
(86)【国際出願番号】 EP2020081268
(87)【国際公開番号】W WO2021089769
(87)【国際公開日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】1916234.6
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2000806.6
(32)【優先日】2020-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2003643.0
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2004315.4
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】520004395
【氏名又は名称】インフレイゾーム リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】クーパー,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】オーネイル,ルーク
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC36
4C086GA13
4C086GA15
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZB11
(57)【要約】
本発明は、神経炎症または炎症性脳疾患の処置または予防における使用のための、式(I)の化合物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経炎症または炎症性脳疾患の処置または予防における使用のための、式(I):
【化1】
の化合物またはその医薬的に許容できる塩。
【請求項2】
炎症性脳疾患の処置または予防における使用のための、請求項1に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項3】
前記炎症性脳疾患が、多発性硬化症である、請求項2に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項4】
前記炎症性脳疾患が、自己免疫系の無菌性髄膜炎である、請求項2に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項5】
前記炎症性脳疾患が、偏頭痛である、請求項2に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項6】
前記炎症性脳疾患の処置または予防が、神経炎症の処置または予防を含む、前記請求項2~5のいずれかに記載の使用のための化合物または塩。
【請求項7】
神経炎症の処置または予防における使用のための、請求項1に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項8】
前記処置または予防が、前記化合物または前記その塩の経口投与を含む、いずれかの前記請求項に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項9】
前記化合物または塩が、ナトリウム塩である、いずれかの前記請求項に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項10】
前記化合物または塩が、一ナトリウム塩である、いずれかの前記請求項に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項11】
前記化合物または塩が、一水和物である、いずれかの前記請求項に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項12】
前記化合物または塩が、結晶性である、いずれかの前記請求項に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項13】
前記化合物または塩が、結晶性一ナトリウム一水和物塩である、任意の前記請求項に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項14】
4.3°2θ、8.7°2θ、および20.6°2θ(全て±0.2°2θ)にピークを含むXRPDスペクトルを有する、請求項13に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項15】
XRPDスペクトルを有しその中の10個の最も強いピークが4.3°2θ、6.2°2θ、6.7°2θ、7.3°2θ、8.7°2θ、9.0°2θ、12.1°2θ、15.8°2θ、16.5°2θ、18.0°2θ、18.1°2θ、20.6°2θ、21.6°2θ、および24.5°2θ(全て±0.2°2θ)から選択される2θ値を有する5個以上のピークを含む、請求項13または14に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項16】
医薬的に許容できる賦形剤といずれかの前記請求項に記載の使用のための化合物または塩とを含む医薬組成物。
【請求項17】
経口投与に適する、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
それを必要とする患者における神経炎症または炎症性脳疾患の処置または予防のための方法であって、式(I):
【化2】
の化合物またはその医薬的に許容できる塩の治療的または予防的に効果的な量を前記それを必要とする患者に投与することを含む、方法。
【請求項19】
炎症性脳疾患の処置または予防のための、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記炎症性脳疾患が、多発性硬化症である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記炎症性脳疾患が、自己免疫系の無菌性髄膜炎である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記炎症性脳疾患が、偏頭痛である、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記処置または予防が、神経炎症の処置または予防を含む、請求項19~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
神経炎症の処置または予防のための、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記処置または予防が、前記化合物または前記その塩の経口投与を含む、請求項18~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記化合物または塩が、ナトリウム塩である、請求項18~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記化合物または塩が、一ナトリウム塩である、請求項18~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記化合物または塩が、一水和物である、請求項18~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記化合物または塩が、結晶性である、請求項18~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記化合物または塩が、結晶性一ナトリウム一水和物塩である、請求項18~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記結晶性一ナトリウム一水和物塩が、4.3°2θ、8.7°2θ、および20.6°2θ(全て±0.2°2θ)にピークを含むXRPDスペクトルを有する、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記結晶性一ナトリウム一水和物塩が、XRPDスペクトルを有しその中の10個の最も強いピークが4.3°2θ、6.2°2θ、6.7°2θ、7.3°2θ、8.7°2θ、9.0°2θ、12.1°2θ、15.8°2θ、16.5°2θ、18.0°2θ、18.1°2θ、20.6°2θ、21.6°2θ、および24.5°2θ(全て±0.2°2θ)から選択される2θ値を有する5個以上のピークを含む、請求項30または31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経炎症または炎症性脳疾患の処置または予防における使用のための、式(I):
【化1】
の化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症性脳疾患は、多発性硬化症、自己免疫系の無菌性髄膜炎、および偏頭痛を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、式(I)の化合物が血液脳関門を越えること、およびミクログリア中のNLRP3炎症応答を阻害することに特に効果的であり、これにより神経炎症および炎症性脳疾患の効果的処置を提供する、という発見に一部基づく。最も特別には、神経炎症は、式(I)の化合物の経口投与により効果的に阻害され得る。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第一の態様において、神経炎症または炎症性脳疾患の処置または予防における使用のための、式(I):
【化2】
の化合物またはその医薬的に許容できる塩が提供される。
【0005】
一実施形態において、化合物または塩は、炎症性脳疾患の処置または予防における使用のためである。一実施形態において、炎症性脳疾患は、多発性硬化症である。別の実施形態において、炎症性脳疾患は、自己免疫系の無菌髄膜炎である。別の実施形態において、炎症性脳疾患は、慢性偏頭痛などの偏頭痛である。
【0006】
化合物または塩が炎症性脳疾患の処置または予防における使用のためである、一実施形態において、処置または予防は、神経炎症の処置または予防を含む。典型的には、神経炎症の処置または予防は、NLRP3阻害を介して実現される。本明細書で用いられる用語「NLRP3阻害」は、NLRP3の活性レベルの完全な、または部分的な低減を指し、例えば活性NLRP3の阻害および/またはNLRP3活性化の阻害を包含する。
【0007】
一実施形態において、化合物または塩は、神経炎症の処置または予防における使用のためである。典型的には、神経炎症の処置または予防は、NLRP3阻害を介して実現される。
【0008】
一実施形態において、処置または予防は、化合物またはその塩の経口投与を含む。さらなる実施形態において、処置または予防は、化合物またはその塩の1日1回の経口投与を含む。
【0009】
一実施形態において、化合物または塩は、一ナトリウム塩などの、ナトリウム塩である。一実施形態において、化合物または塩は、一水和物である。一実施形態において、化合物または塩は、結晶性である。一実施形態において、化合物または塩は、結晶性一ナトリウム一水和物塩である。一実施形態において、結晶性一ナトリウム一水和物塩は、4.3°2θ、8.7°2θ、および20.6°2θ(全て±0.2°2θ)にピークを含むXRPDスペクトルを有する。一実施形態において、結晶性一ナトリウム一水和物塩は、XRPDスペクトルを有し、その中の10個の最も強いピークは、4.3°2θ、6.2°2θ、6.7°2θ、7.3°2θ、8.7°2θ、9.0°2θ、12.1°2θ、15.8°2θ、16.5°2θ、18.0°2θ、18.1°2θ、20.6°2θ、21.6°2θ、および24.5°2θ(全て±0.2°2θ)から選択される2θ値を有する5個以上のピークを含む。XRPDスペクトルは、全体として参照により本明細書に組み入れられるWO2019/206871号に記載された通り得られてよい。
【0010】
一実施形態において、結晶性一ナトリウム一水和物塩は、全体として参照により本明細書に組み入れられるWO2019/206871号に記載される通りである。一実施形態において、結晶性一ナトリウム一水和物塩は、全体として参照により本明細書に組み入れられるWO2019/206871号に記載される多形体を有する。一実施形態において、結晶性一ナトリウム一水和物塩は、全体として参照により本明細書に組み入れられるWO2019/206871号に記載される方法に従って調製される。
【0011】
典型的には、本発明の第一の態様の任意の実施形態により、処置または予防は、化合物またはその塩を患者に投与することを含む。患者は、任意のヒトまたは他の動物であってよい。典型的には患者は、哺乳動物、より典型的にはヒトまたはウシ、ブタ、ラム、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギ、マウスなどの家畜哺乳動物である。最も典型的には患者は、ヒトである。
【0012】
本発明の第二の態様において、医薬的に許容できる賦形剤と、本発明の第一の態様の化合物または塩とを含む医薬組成物が提供される。一実施形態において、医薬組成物は、経口投与に適する。
【0013】
本発明の第三の態様において、それを必要とする患者における神経炎症または炎症性脳疾患の処置または予防のための方法であって、式(I):
【化3】
の化合物またはその医薬的に許容できる塩の治療的または予防的に効果的な量を、それを必要とする患者に投与することを含む、方法が提供される。
【0014】
一実施形態において、方法は、炎症性脳疾患の処置または予防のための方法である。一実施形態において、炎症性脳疾患は、多発性硬化症である。別の実施形態において、炎症性脳疾患は、自己免疫系の無菌髄膜炎である。別の実施形態において、炎症性脳疾患は、慢性偏頭痛などの偏頭痛である。
【0015】
方法が炎症性脳疾患の処置または予防における使用のための方法である、一実施形態において、処置または予防は、神経炎症の処置または予防を含む。典型的には、神経炎症の処置または予防は、NLRP3阻害を介して実現される。
【0016】
一実施形態において、方法は、神経炎症の処置または予防のための方法である。典型的には、神経炎症の処置または予防は、NLRP3阻害を介して実現される。
【0017】
一実施形態において、処置または予防は、化合物またはその塩の経口投与を含む。さらなる実施形態において、処置または予防は、化合物またはその塩の1日1回の経口投与を含む。
【0018】
一実施形態において、化合物または塩は、一ナトリウム塩などの、ナトリウム塩である。一実施形態において、化合物または塩は、一水和物である。一実施形態において、化合物または塩は、結晶性である。一実施形態において、化合物または塩は、結晶性一ナトリウム一水和物塩である。一実施形態において、結晶性一ナトリウム一水和物塩は、4.3°2θ、8.7°2θ、および20.6°2θ(全て±0.2°2θ)にピークを含むXRPDスペクトルを有する。一実施形態において、結晶性一ナトリウム一水和物塩は、XRPDスペクトルを有し、その中の10個の最も強いピークは、4.3°2θ、6.2°2θ、6.7°2θ、7.3°2θ、8.7°2θ、9.0°2θ、12.1°2θ、15.8°2θ、16.5°2θ、18.0°2θ、18.1°2θ、20.6°2θ、21.6°2θ、および24.5°2θ(全て±0.2°2θ)から選択される2θ値を有する5個以上のピークを含む。XRPDスペクトルは、全体として参照により本明細書に組み入れられるWO2019/206871号に記載された通り得られてよい。
【0019】
一実施形態において、結晶性一ナトリウム一水和物塩は、全体として参照により本明細書に組み入れられるWO2019/206871号に記載される通りである。一実施形態において、結晶性一ナトリウム一水和物塩は、全体として参照により本明細書に組み入れられるWO2019/206871号に記載される多形体を有する。一実施形態において、結晶性一ナトリウム一水和物塩は、全体として参照により本明細書に組み入れられるWO2019/206871号に記載される方法に従って調製される。
【0020】
本発明の第三の態様の任意の実施形態により、患者は、任意のヒトまたは他の動物であってよい。典型的には患者は、哺乳動物、より典型的にはヒトまたはウシ、ブタ、ラム、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギ、マウスなどの家畜哺乳動物である。最も典型的には患者は、ヒトである。
【0021】
実験
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】試験A - 1または20mg/kgの化合物の経口投与後の健常な自由行動下の成体雄マウスの左線条体からのMetaQuant透析物中の式(I)の化合物のレベル(平均+SEM、n=4/群)。
図2】試験A - 1または20mg/kgの化合物の経口投与後の健常な自由行動下の成体雄マウスの右線条体からのMetaQuant透析物中の式(I)の化合物のレベル(平均+SEM、n=4/群)。
図3A】試験B - 式(I)の化合物(CPD)は、初代ミクログリアにおいてNLRP3インフラマソームを阻害することにおいてMCC950より高い効力を呈する。A)NLRP3阻害剤MCC950による、プライミングされたミクログリアにおけるATP誘導性NLRP3インフラマソーム活性化の用量依存的阻害。ATP(5mM)でのMCC950阻害のIC50は、初代マウスミクログリアでは7.5nMであると決定された。
図3B】試験B - 式(I)の化合物(CPD)は、初代ミクログリアにおいてNLRP3インフラマソームを阻害することにおいてMCC950より高い効力を呈する。B)式(I)の化合物(CPD)による、プライミングされたミクログリアにおけるATP誘導性NLRP3インフラマソーム活性化の用量依存的阻害。式(I)の化合物についてのATP(5mM)での阻害のIC50は、初代マウスミクログリアでは4.74nMであると決定された。
図4】試験C - 式(I)の化合物(CPD)による、プライミングされたヒトミクログリアにおけるATP誘導性NLRP3インフラマソーム活性化の用量依存的阻害。式(I)の化合物についてのATP(5mM)での阻害のIC50は、1名の健常ドナーから単離された初代ヒトミクログリアでは142nMであると決定された。データは、n=1の健常ドナーおよびn=4の技術的反復測定を表す。エラーバーはSEM。
【発明を実施するための形態】
【0023】
試験A - 健常マウスにおける血液脳関門通過
目的
本試験は、経口投与後の自由行動下の成体雄マウスの左および右線条体における式(I)の化合物の遊離濃度を決定するために設計された。
【0024】
動物
成体雄C57Bl/6マウス(22~28g、Envigo、オランダ)を、実験に用いた。到着後に、動物を、ワイヤーメッシュの天井が付いたポリプロピレンケージ(40×50×20cm)中にて5匹からなる群で、温度(22±2℃)および湿度(55±15%)制御環境ならびに12時間明周期(7:00~19:00)で飼育した。手術後に、動物を、個別に飼育した(ケージ30×30×40cm)。標準飼料(SDS Diets、RM1PL)および国内品質の水道水を随意に利用できた。
【0025】
手術
マウスにイソフルランを利用して麻酔をかけた(2%および500mL/分O)。Finadyne(1mg/kg、s.c.)を、手術前、手術中および術後回復期間に鎮痛のために投与した。ブピバカインとエピネフリンの混合物を、切開部位の局所鎮痛に用いた。
【0026】
微小透析プローブの植え込み
動物を、定位固定装置(Kopf instruments、米国)に配置した。3mmの露出したポリアクリロニトリル膜(MQ-PAN3/3)を有するMetaQuant微小透析プローブを、左および右線条体に両側性に植え込んだ(プローブのチップに関する座標:0°の角度および0.0mmに設定されたインサイザーバー(incisor bar)でAP=+0.8mm(ブレグマまで)、ML=±1.7mm(正中線まで)、DV=-4.0mm(硬膜まで))。全ての座標は、Paxinos and Franklin(2008)による「The mouse brain in stereotalic coordinates」に基づいた。プローブを、ステンレス鋼製ねじおよび歯科用セメントで頭蓋骨に取り付けた。
【0027】
用量配合剤
式(I)の化合物の一ナトリウム塩を、5mL/kgでの経口投薬用に0.2および4mg/mL;それぞれ1mg/kgおよび20mg/kg、の濃度で(非塩形態に関して)滅菌水道水中で配合した。用量配合剤を、表1に示す。各動物に投与された容量を、表2に示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0028】
実験計画
MetaQuant微小透析プローブを、可撓性PEEKチュービング(Western Analytical Products Inc.米国;PK005-020)で微小灌流ポンプ(Harvard)に連結し、流速0.12μL/分の147mM NaCl、3.0mM KCl、1.2mM CaCl、および1.2mM MgClを含有する人工CSF(灌流液)のスローフロー(slow flow)と、0.8μL/分のUP+0.02M FA+0.04%アスコルビン酸のキャリアフロー(carrier flow)で灌流した。最短で2時間の予備安定化の後、微小透析試料を、60分間隔で収集した。2種のベースライン試料の収集後に、式(I)の化合物(滅菌水道水中の1または20mg/kg)を、t=0分に経口投与した。具体的な微小透析試料採取スケジュールを、表3に示す。試料を、自動フラクションコレクター(UV8301501、TSE、Univentor、マルタ)を用いてミニバイアル(Microbiotech/se AB、スウェーデン;4001029)に収集した。実験終了時に、動物を殺処分した。
【表4】
【0029】
生物分析
MetaQuantプローブからの微小透析試料は、名目容量55.2μLの透析物を含有した。MetaQuant微小透析試料中の式(I)の化合物のレベルを、LC-MS/MSにより定量した。
【0030】
透析試料を、アセトニトリルと混合し、この混合物の分割量を、自動サンプルインジェクター(SIL-20AD、Shimadzu、日本)によりLCシステムに注入した。較正物質およびインラン(in-run)QC試料を、微小透析試料と同じ組成の分析用透析物中で調製した。
【0031】
化合物のクロマトグラフィー分離を、溶離液A(超純水+0.1%ギ酸)中の溶離液B(アセトニトリル+0.1%ギ酸)を流速0.3mL/分で用いて、勾配溶出実行中の温度40℃で保持された逆相カラム(100×3.0mm、粒子径2.5μm、Phenomenex)で実施した。
【0032】
MS分析を、API4000MS/MS検出器およびTurbo Ion Sprayインターフェース(両者ともApplied Biosystems、米国)からなるAPI4000MS/MSシステムを用いて実施した。取得を、5.5kVに設定されたイオン化スプレー電圧でのポジティブイオン化モードで実施した。プローブ温度を、550℃に設定した。機器を、多重反応モニタリング(MRM)モードで操作した。
【0033】
分析物のMRMトランジションを、表4に示す。適切なインラン検量線を、加重(1/x)回帰を利用してフィットさせ、試料濃度を、これらの検量線を利用して決定した。正確度を、一連の各試料の後に、品質管理試料により検証した。濃度を、Analyst(商標)データシステム(Applied Biosystems)で計算した。
【表5】
【0034】
データ評価
式(I)の化合物の薬物動態データを、実験の際の希釈について修正された微小透析液中の濃度(平均+SEM)として表す。透析物中の式(I)の化合物の薬物動態データは、回復については修正しなかった。結果を、Prism5 for Windows(GraphPad Software)でプロットした。
【0035】
結果
図1は、1または20mg/kgの化合物の経口投与後の自由行動下の成体雄C57Bl/6マウスの左線条体からのMetaQuant透析物中の式(I)の化合物の絶対レベルを示す。図2は、1または20mg/kgの化合物の経口投与後の自由行動下の成体雄C57Bl/6マウスの右線条体からのMetaQuant透析物中の式(I)の化合物の絶対レベルを示す。1mg/kgを投薬された動物は、化合物投与後5時間目に左および右の両方の線条体透析試料中で12~13nMの平均ピークレベルを示した。20mg/kgを投薬された動物は、化合物投与後6時間目に左および右の両方の線条体透析試料中で201~243nMの平均ピークレベルを示した。
【0036】
示された通り、結果は、経口投与後に血液脳関門を越える式(I)の化合物の能力を実証する。式(I)の化合物は、NLRP3インフラマソームの活性化の高度に効果的な阻害剤であることが過去に実証されている(全体として参照により本明細書に組み入れられるWO2016/131098号参照)。その上、NLRP3インフラマソームの阻害は、多発性硬化症および自己免疫系の無菌性髄膜炎などの障害の処置に関連づけられている(例えば、Masters, Clin Immunol, 2013, 147(3): 223-228; Braddock et al., Nat Rev Drug Disc, 2004, 3: 1-10; Inoue et al., Immunology, 2013, 139: 11-18;およびColl et al., Nat Med, 2015, 21(3): 248-255参照、全てが全体として参照により本明細書に組み入れられる)。NLRP3インフラマソームの阻害はまた、慢性偏頭痛のマウスモデルにおいて効果的であることが実証されている(全体として参照により本明細書に組み入れられる、He et al., J Neuroinflammation, 2019, 16: 78参照)。そのため、式(I)の化合物は、多発性硬化症、自己免疫系の無菌性髄膜炎、および偏頭痛などの、神経炎症または炎症性脳疾患の処置または予防に効果的であろうと考えられる。
【0037】
試験B - 初代ミクログリア中のNLRP3インフラマソームの阻害におけるMCC950との比較
目的
MCC950は、以下の式:
【化4】
を有する過去に報告されたNLRP3阻害剤である(全体として参照により本明細書に組み入れられる、Coll et al., Nature Medicine, 2015, vol. 21(3), pp.248-255参照)。
【0038】
試験Bの狙いは、カノニカルNLRP3活性化因子であるATPで活性化されたLPSでプライミングされたミクログリアにおいて式(I)の化合物およびMCC950のIC50を決定することであった。
【0039】
初代ミクログリア培養物
初代ミクログリア培養物を、C57BL/6生後1日目(P1)の子供マウスから調製し、過去に記載された通りカラムフリーの磁気分離システムにより精製した(全体として参照により本明細書に組み入れられるGordon et al., J. Neurosci. Methods, 2011, vol. 194(2)、 pp.287-296参照)。初代ミクログリアを、DMEM/F12完全培地(10%熱非働化FBS、50U/mLペニシリン、50μg/mLストレプトマイシン、2mM L-グルタミン、100μM非必須アミノ酸、および2mMピルビン酸ナトリウムを補充したDMEM-F12、GIBCO)中で保持した。細胞をその後、5%COインキュベータ中にて37℃で保持した。
【0040】
IC50決定のためのIL-1β ELISA
マウスIL-1βキット(R&D Systems、カタログ#DY008)を用いて、上昇する濃度のMCC950および式(I)の化合物で予め処置され、ATP 5mMで1時間活性化された、LPSでプライミングされたミクログリア(200ng/mlで3時間)の上清中のIL-1βレベルを測定した。
【0041】
結果
結果を図3に示す。MCC950は、7.5nMのIC50を得たが(図3A)、式(I)の化合物は、同様の条件下で4.7nMの効力を呈した(図3B)。したがって式(I)の化合物は、初代ミクログリア中のNLRP3インフラマソームの阻害においてMCC950と比較して高い効力を呈する。
【0042】
試験C-初代ヒトミクログリア中のNLRP3インフラマソームの阻害
目的
カノニカルNLRP3活性化因子であるATPで活性化されたLPSでプライミングされたミクログリアにおいて式(I)の化合物のIC50を決定することである。
【0043】
ヒト脳試料
ヒト脳材料を、臨床的に充分に証明されかつ神経学的に確認された症例および非神経学的対照からの死後材料を供給するNetherlands Brain Bank (NBB;オランダ アムステルダム)の迅速剖検システムを介して得た。剖検を、同意書がNBBにより得られているドナーについて、実施した。1例の健常脳組織試料を、この実験で用いた。
【0044】
ミクログリア単離法
ヒト成人ミクログリア細胞を、Bsibsiらにより過去に記載された通り単離および培養した(Journal of Neuropathology & Experimental Neurology, 2002, vol. 61(11), pp.1013-1021)。手短に述べると、Netherlands Brain Bank (オランダ アムステルダム)で、組織試料を皮質下白質から切り出し、培地を含む試験管中で4℃で貯蔵した。試料をその後、培地を含む試験管中でCharles River Laboratories(オランダ ライデン)に運搬した。目視できる血管を、除去し、脳組織を、PBSで洗浄した。0.25%トリプシン中での20分間消化の後、細胞懸濁液を、穏やかに研和し、10%FCSおよび抗生物質サプリメントを含有するDMEM/HAM-F12培地で洗浄した。100μmフィルターに通した後、ミエリンを、Percoll勾配遠心分離により除去した。赤血球を、PBS中の155mM NHCl、1mM KHCOおよび0.2%BSAと氷上で15分間インキュベートすることにより溶解した。次に、細胞懸濁液を、非コーティング96ウェルプレートに40000~100000細胞/ウェルの密度で播種した。ミクログリア細胞の増殖および生存を促進するために、組換えヒトGM-CSFを、播種の際およびその後3日ごとに最終濃度20ng/mlで培地に添加した。3~5日後に、培養物を、培地で洗浄して細胞片を除去し、これをアッセイ0日目と定義した。培養されたミクログリア細胞の純度を、ミクログリア同定マーカ(Iba1)および活性化マーカ(CD45)について免疫染色により検証した。加えて培養物を、アストロサイト(GFAP発現)および神経細胞(NeuN発現)を含む潜在的に混入する細胞集団についてチェックした。QCプレートを、実験開始の同日に4%ホルムアルデヒドで固定した。
【0045】
IC50決定のためのIL-1β ELISA
0日目にミエリンおよび細胞片を、培地での洗浄により除去した。2および3日目に(T=0時間)、培地を、100ng/ml LPS 80μl(無血清培地中で調製)と交換して、ミクログリアをプライミングした。T=+1.5時間に、1000nM、200nM、40nM、8nM、1.6nM、0.3nM、0.064nMの式(I)の化合物(PBS中)を添加した。30分後に、5mM ATP(無血清培地中の最終濃度)を、培養物に添加した。惹起後の異なる時点で、上清を、別の96ウェルプレートに収集し、-20℃で貯蔵した(分析される試料をATP添加後2時間目に収集した)。Meso Scale Discovery(MSD(登録商標))サイトカインイムノアッセイ(U-PLEX Human Kit)を用いて、キット(MSD # K151TUK-2)と共に提供された製造業者の使用説明書に従い、各条件からの細胞上清中のIL-1βの濃度を定量した。手短に述べると、MSDプレートを、振とう台の上で、Diluent100で希釈された捕捉抗体により室温で2時間コートした。プレートを、0.05%PBS-Tweenで洗浄し、25μL/ウェルのDiluent43、ならびに25μL/ウェルの未希釈試料および標準曲線濃度を、技術的に二重で添加し、振とうしながら(500rpm)4℃で一晩インキュベートした。プレートを、0.05%PBS-Tweenで洗浄し、Diluent3で希釈されたMSD Sulfo-Tagコンジュゲート化検出抗体を、各ウェルに添加し、振とうしながら室温で1時間インキュベートした。プレートをその後、0.05%PBS-Tweenで洗浄し、水で1:2希釈されたMSD Read Buffer-T 4x(界面活性剤含む)150μlを、各ウェルに添加した。プレートを、MSD sector imager model 6000を用いて読み取り、濃度を、MSD discovery workbench(登録商標)version4を用いて計算した。試料を、MSD SECTOR S600リーダで分析し、DISCOVERY WORLBENCHでMSDプレートから作成された複合データセットを解析した。
【0046】
結果
上清中のIL-1β濃度を、MSDキットに含まれる組換えIL-1βの標準曲線を利用して逆算した。図4に示される通り、式(I)の化合物は、142nMのIC50を得ており、したがって化合物がヒトミクログリア中のIL-1β産生を阻害するのに効果的であることを実証する。
【0047】
ミクログリアは、脳および脊髄に存在し、中枢神経系の能動免疫防御の主要な形態として作用する。ミクログリア中の炎症応答は、多発性硬化症、自己免疫系の無菌性髄膜炎、および慢性偏頭痛などの障害に関連づけられている(例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられる、Luo et al., Neuropsychiatric Disease and Treatment, 2017, vol. 13, pp. 1661-1667; Wang et al., Front. Pharmacol., 2019, vol. 10, article 286;およびHe et al., J Neuroinflammation, 2019, 16: 78参照)。本明細書に提示された結果は、(i)式(I)の化合物がミクログリア中のNLRP3の高度に強力な阻害剤であること、および(ii)それが経口投与後に血液脳関門を越えることによりそのようなミクログリアに到達し得ること、の両方を実証する。そのため、式(I)の化合物は、多発性硬化症および自己免疫系の無菌性髄膜炎などの神経炎症または炎症性脳疾患の処置または予防に効果的であろうと考えられる。
図1
図2
図3A
図3B
図4
【国際調査報告】