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特表2023-500934RTK測位における周波数間ハードウェアバイアスを誤差補正情報を用いて較正するシステムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-11
(54)【発明の名称】RTK測位における周波数間ハードウェアバイアスを誤差補正情報を用いて較正するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/23 20100101AFI20221228BHJP
   G01S 19/05 20100101ALI20221228BHJP
   G01S 19/41 20100101ALI20221228BHJP
【FI】
G01S19/23
G01S19/05
G01S19/41
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022526217
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(85)【翻訳文提出日】2022-06-30
(86)【国際出願番号】 IB2020059827
(87)【国際公開番号】W WO2021090097
(87)【国際公開日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】16/677,299
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501141253
【氏名又は名称】マゼランシステムズジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】岸本 信弘
(72)【発明者】
【氏名】永松 俊信
(72)【発明者】
【氏名】大西 健広
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062BB01
5J062BB03
5J062BB08
5J062CC07
5J062DD01
5J062EE04
5J062GG00
(57)【要約】
RTK測位において、較正メモリは、GNSS受信機の組み合わせに対する較正情報を格納する。メモリプロセッサは、基地局用の第1のGNSS受信機とローバー用の第2のGNSS受信機とによる選択された組み合わせに対する較正情報を較正メモリから取得する。較正装置は、ローバーおよびメモリプロセッサと通信することにより、第1のGNSS受信機に関連する第1の補正信号を受信し、較正情報を取り出し、第1の補正信号を取り出した構成情報によって修正して、第1のGNSS受信機に関して第2のGNSS受信機用に較正された修正補正信号を生成し、修正補正信号をローバーへ送信する。ローバーは、修正補正信号を用いて、基地局用の既知のGNSS受信機に関してRTK測位を行い、それによって、第1のGNSS受信機に対する第2のGNSS受信機のための周波数依存性ハードウェアバイアス較正が自動的に達成される。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局とローバーとの間の周波数依存性ハードウェアバイアスの較正を伴うRTK測位のための補正信号を生成するシステムであって、前記システムは、
基地局用の複数のGNSS受信機とローバー用の少なくとも1つのGNSS受信機とによる基地局・ローバーの組み合わせに対して、較正情報のセットを格納する較正メモリと、
前記較正メモリから、基地局用の第1のGNSS受信機とローバー用の第2のGNSS受信機とを選択することにより選択された基地・ローバーの組合せに対する前記較正情報を取り出すように構成されるメモリプロセッサと、
前記ローバーおよび前記メモリプロセッサと通信する較正装置であって、前記較正装置は、前記第1のGNSS受信機に関連する第1の誤差補正情報を含む第1の補正信号を受信し、前記第1の補正信号に基づいて前記メモリプロセッサによって選択された前記較正情報を取得し、前記選択された較正情報を用いて前記第1の誤差補正情報を修正することにより、前記第1のGNSS受信機に関して前記第2のGNSS受信機用に較正された修正誤差補正情報を含む修正補正信号を発生し、前記修正補正信号を前記ローバーに送信するように構成されている、較正装置と、
を含み、
前記ローバーが前記修正補正信号を用いて前記基地局用の既知のGNSS受信機に関するRTK測位を行うことにより、前記第1のGNSS受信機に対する前記第2のGNSS受信機の周波数依存性ハードウェアバイアスの較正が自動的に達成される、システム。
【請求項2】
前記第1のGNSS受信機のメーカー、タイプ、モデル、およびファームウェアバージョンの少なくとも1つが、前記基地局用の既知のGNSS受信機のものとは異なっている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第2のGNSS受信機は前記第1のGNSS受信機を認識せず、前記修正誤差補正情報は、
既知のGNSS受信機の識別情報と、
前記第2のGNSS受信機によって前記既知のGNSS受信機に対する較正プロセスに使用された場合に、前記第1のGNSS受信機に対する正しい周波数依存性ハードウェアバイアスの較正がなされるように構成された修正パラメータ値と、
を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1のGNSS受信機は、前記第2のGNSS受信機によって認識される複数の既知のGNSS受信機のうちの1つであるが、前記第2のGNSS受信機にとって未知のハードウェア特性を有しており、 前記修正誤差補正情報は、
既知のハードウェア特性を有する第1のGNSS受信機の識別情報と、
前記第2のGNSS受信機において、前記既知のハードウェア特性を有する第1のGNSS受信機に対する較正プロセスに使用された時、前記第1のGNSS受信機に対する正しい周波数依存性ハードウェアバイアス較正がなされるように構成された修正パラメータ値と、
を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記ハードウェア特性は、前記第1のGNSS受信機のタイプ、モデル、およびファームウェアバージョンのうちの少なくとも1つに依存する、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記較正メモリ、前記メモリプロセッサ、および前記較正装置は、前記基地局および前記ローバーと通信しているサーバに設置されるように構成された、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記較正メモリ、前記メモリプロセッサ、および前記較正装置は、前記基地局に設置されるように構成された、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記較正メモリおよび前記メモリプロセッサは、前記基地局および前記ローバーと通信するサーバに設置されるように構成され、前記較正装置は、前記ローバーと連結されて前記第2のGNSS受信機と通信するように構成された、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記第1のGNSS受信機および前記第2のGNSS受信機は、各々、GLONASS信号を含む複数のGNSS信号を受信する、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記較正情報のセットは、
基地局・ローバーの組み合わせに関する周波数依存性ハードウェアバイアスの測定された較正値の較正テーブル、および
GLONASS衛星の各周波数番号に関する周波数依存性ハードウェアバイアスの線形近似の較正係数のセット
のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記ローバーは、その中の前記第2のGNSS受信機の識別情報を前記メモリ・プロセッサに送信するように構成されており、前記システムは、
ローバー用の複数のGNSS受信機の情報を格納し、前記メモリプロセッサに結合されたデータベース
をさらに含み、
前記メモリプロセッサは、前記識別情報に基づいて前記データベース内のローバー用の複数のGNSS受信機の中から前記第2のGNSS受信機を識別し、そのことにより、前記較正メモリに対し、前記第1のGNSS受信機および前記第2のGNSS受信機の組み合わせを選択するように構成された、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記メモリプロセッサは、更新された較正情報によって、或いは新しい基地局・ローバーの組み合わせに対する新しい較正情報によって、前記較正メモリを更新するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
第1のGNSS受信機を有する基地局と第2のGNSS受信機を有するローバーとの間の周波数依存性ハードウェアバイアスの較正を伴うRTK測位のための補正信号を生成する方法であって、前記方法は、
基地局用の複数のGNSS受信機とローバー用の少なくとも1つのGNSS受信機とによる基地局・ローバー組み合わせに対する較正情報のセットを格納することと、
前記第1のGNSS受信機に関連する第1の誤差補正情報を含む第1の補正信号を受信することと、
前記第1の補正信号に基づいて前記基地局用の前記第1のGNSS受信機と前記ローバー用の前記第2のGNSS受信機とによる基地局・ローバーの組み合わせを選択することと、
選択された基地局・ローバーの組み合わせに対する較正情報を、格納された較正情報セットの中から取り出すことと、
前記取り出された較正情報を用いて前記第1の誤差補正情報を修正し、前記第1のGNSS受信機に関して前記第2のGNSS受信機用に較正された修正誤差補正情報を生成する、修正ことと、
前記修正誤差補正情報を含む修正補正信号を生成することと、
前記修正補正信号を前記ローバー内の前記第2のGNSS受信機に送信することと、
前記ローバーが前記修正補正信号を用いて前記基地局用の既知のGNSS受信機に関するRTK測位を行うことにより、前記基地局内の前記第1のGNSS受信機に対する前記ローバー内の前記第2のGNSS受信機の周波数依存性ハードウェアバイアスの較正が自動的に達成される、RTK測位ことと、
を含む、方法。
【請求項14】
前記第1のGNSS受信機のメーカー、タイプ、モデル、およびファームウェアバージョンの少なくとも1つは、前記既知のGNSS受信機のものと異っている、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第2のGNSS受信機は前記第1のGNSS受信機を認識せず、
前記修正誤差補正情報は、
前記既知のGNSS受信機の識別情報、および
前記第2のGNSS受信機による前記既知のGNSS受信機に関する較正プロセスに使用された場合、前記第1のGNSS受信機に対して正しい周波数依存性ハードウェアバイアス較正を生成する修正パラメータ値
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記第1のGNSS受信機は前記第2のGNSS受信機によって認識される複数の既知のGNSS受信機のうちの1つであるが、前記第1のGNSS受信機は、前記既知のGNSS受信機のものとは異なり、前記第2のGNSS受信機に未知のハードウェア特性を有し、
修正された誤差補正情報は、
前記第2のGNSS受信機に認識される第1のGNSS受信機の識別情報と、
前記第2のGNSS受信機に既知のハードウェア特性を有する前記既知の第1のGNSS受信機に関する前記第2のGNSS受信機の較正プロセスに使用される場合、前記未知のハードウェア特性を有する前記第1のGNSS受信機に対する正しい周波数依存性ハードウェアバイアス較正が生成されるように構成された修正されたパラメータ値と、
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記ハードウェア特性は、前記第1のGNSS受信機のタイプ、モデル、およびファームウェアバージョンのうちの少なくとも1つに依存する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記格納すること、前記受信すること、前記選択すること、前記取り出すこと、前記修正こと、前記生成すること、および前記送信することは、前記基地局および前記ローバーと通信しているサーバーで実行される、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記格納すること、前記受信すること、前記選択すること、前記取り出すこと、前記修正こと、前記生成すること、および前記送信することは、前記基地局において実行される、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記格納すること、前記受信すること、前記選択すること、および前記取り出すことは、前記基地局および前記ローバーと通信しているサーバーにおいて実行され、前記方法は、
前記受信した第1の補正信号および前記取り出された較正情報とを前記ローバーに送信すること
を更に含み、
前記修正こと、前記生成すること、および前記送信することは、前記ローバー内の前記GNSS受信機と通信するように前記ローバーに提供された較正装置において実行される、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記RTK測位ことは、
GLONASS信号を含む複数のGNSS信号を受信すること
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記較正情報のセットは、
基地局・ローバーの組み合わせに関する周波数依存性ハードウェアバイアスの測定された較正値を含む較正テーブルと、
GLONASS衛星の周波数番号に関する周波数依存性ハードウェアバイアスの線形近似のために使用される較正係数セットと、
の少なくとも1つを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記較正情報のセットに関連付けられたデータベースを提供することであって、前記データベースは、前記ローバー用の複数のGNSS受信機の情報を格納することと、
前記ローバーから前記第2のGNSS受信機の識別情報を受信すること、
前記識別情報に基づいて前記データベース内の前記複数のGNSS受信機の中から前記第2のGNSS受信機あるいは前記ローバーを識別し、それにより前記第1のGNSS受信機と前記第2のGNSS受信機との組み合わせを選択することと、
を更に含む、請求項13に記載の方法。
【請求項24】
更新された較正情報または基地局・ローバーの新しい組み合わせのための新しい較正情報によって、前記較正情報メモリのセットを更新すること
をさらに含む、請求項13に記載の方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張:本出願は、2019年11月7日に出願された米国特許出願16/677,299号の優先権を主張するものであり、その全開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
1.本発明の分野
本発明は、GNSS受信機によって実行されるリアルタイムキネマティック(RTK)測位における周波数間(またはチャネル間)ハードウェアバイアスの較正に関するものである。より具体的には、本発明は、互いに通信しているGNSS受信機が異なるメーカー、タイプ、および/またはモデルである場合に、RTK測位における周波数間ハードウェアバイアスを誤差補正情報を使用して較正するためのシステムおよび方法に関するものである。
【0003】
2. 関連技術の説明
現在利用可能な全地球衛星測位システム(GNSS)には、米国の全地球測位システム(GPS)、ロシアの全軌道航法衛星システム(GLONASS)、欧州連合のガリレオ(Galileo)、中国の北斗(BeiDou)衛星航法システム(BDS、旧称コンパス)、日本の準天頂衛星システム(QZSS)等がある。
【0004】
リアルタイムキネマティック(RTK)測位などの相対測位技術は、ディファレンシャルGNSS(DGNSS)測位技術を用い、既知の位置にある基地局(または基準局)を使うことによりローバー(移動局)内のGNSS受信機の正確な位置(座標)を取得している。典型的なRTKでは、2つのGNSS衛星からのそれぞれのGNSS信号を2つのGNSS受信機(例えば、基地局とローバー)において受信し、4つの疑似距離を測定する。即ち、第1の衛星から基地局までの第1の擬似距離:ρ S1(=λΦ S1)、第1の衛星からローバーまでの第2の擬似距離:ρ S1(=λΦ S1)、第2の衛星から基地局までの第3の疑似距離:ρ S2(=λΦ S2)、および第2の衛星からローバーまでの第4の疑似距離:ρ S2(=λΦ S2)である。また、第1および第2のGNSS衛星からの疑似距離は、括弧内に示すように、それぞれのGNSS受信機で観測されるGNSS信号の波長λと位相Φ(整数アンビギュイティNを含む)の積として表現される。
【0005】
各GNSS受信機のハードウェアや回路の遅延が実質的に同一であると仮定できる場合、同一の衛星に対して受信機間における第一差分(一重差)をとることにより、電離層信号遅延、対流圏信号遅延、衛星クロック誤差、衛星間周波数バイアスなどの観測誤差が排除される。さらに、例えばGPS衛星のように2つのGNSS衛星からのGNSS信号の信号周波数(すなわち波長)が同じである場合、2つの異なるGNSS衛星について上記第一差分の差である二重差を取ることにより、受信機クロック誤差および/または受信機ハードウェアバイアスなどの他の誤差も除去することができる。
【0006】
しかし、GLONASSのように周波数分割多重アクセス(FDMA)を採用している衛星システムでは、L1やL2などの同じ周波数帯域内であっても、各衛星のGNSS信号は独自の(すなわち異なる)周波数を有する。そのような場合、各受信回路の応答が周波数に依存するため、2つのGLONASS衛星間の同一周波数帯における二重差には、依然として受信クロック誤差の第一差分が残ることになる。この残留した受信クロック誤差の第一差分は、整数アンビギュイティNがフィックスできないど、アンビギュイティ解消に悪影響を及ぼす。
【0007】
GLONASS衛星信号がGNSS受信機によって受信されると、GNSS受信機において各GLONASS衛星信号はそれぞれの周波数に依存した回路遅延と共に処理されるため、信号位相の測定値(および測定コード)における周波数間バイアスが観察される。一般的に、同じメーカー、同じタイプ、モデル、またはバージョン(すなわち、同じハードウェア構造)のGNSS受信機においては、周波数依存の回路遅延の量は実質的に同じである。従って、このようなGNSS受信機間の周波数間バイアス(周波数依存性ハードウェアバイアス)は、受信機間の第一差分をとることで除去することができる。しかし、GNSS受信機が異なるメーカー、タイプ、モデル、および/またはバージョンである場合(すなわち、異なるハードウェア構造を有する場合)、第一差分を取った後でも、周波数間バイアスが依然として残ることになる。
【0008】
従って、メーカー/タイプ/モデル/バージョンの異なるGNSS受信機間の周波数間バイアスを除去するための較正処理に必要な較正テーブル等をローバー側受信機に備えることによって、RTK測位にGLONASS衛星信号を使用できるようにすることができる。例えば、そのような較正テーブルは、各周波数における回路遅延パラメータを含んでいてもよい。回路遅延が周波数の線形関数で近似される場合は、較正テーブルには、そのような周波数依存の線形関数の勾配に対応する係数が含まれていてもよい。また、ある種のGNSS受信機には自己較正機能が備えられており、RTK測位を開始する前にGNSS受信機が較正処理を行う場合もある。
【発明の概要】
【0009】
基地局およびローバーにおける2つのGNSS受信機によってRTK測位を行う時、それらのGNSS受信機が異なるメーカーまたは異なるタイプ/モデル/バージョンであり得る場合、ローバー側受信機の製造者は、基地局側受信機に対するローバー側受信機の周波数間バイアスを除去するための較正テーブル等をローバー側受信機に備えておくことが必要かもしれない。そうすれば、ローバー側受信機は、ローバー内の較正テーブルに基地局側受信機を見出して、それに対する周波数間バイアスを除去することにより、GLONASS信号によるRTK測位を行うことができるからである。しかし、そのような較正表を作成するには、予め、基地局に使用されることが予想される得る全てのGNSS信号受信機(メーカー/タイプ/モデル/バージョン)に対し、各周波数毎に回路遅延(すなわち、較正量)を測定しておかなければならない。従って、新しい基地局にローバー側受信機が接続されたり、新しいタイプ/モデル/バージョンのGNSS受信機が利用可能になり、基地局がそのような新しい受信機で更新された場合など、実際に基地局に設置されたGNSS受信機のメーカーやタイプ/モデル/バージョンが較正テーブル内に見つからない(つまり、基地局に未知のGNSS受信機がある)ような事態も生じ得る。
【0010】
従って、ローバーが任意の基地局でRTK測位を適切に行うことができるようにするためには、ローバーの製造者が、新しく開発されたまたは新しいバージョンのGNSS受信機を認識し、かかる新しいGNSS受信機の周波数依存性回路遅延について新たに測定を行い、ローバー側の受信機のファームウェアまたは較正テーブルを迅速に更新することが必要になる。これは、ローバーやそれに搭載されるGNSS受信機の製造者にとっては大きな負担となる。また、自己較正機能を持つローバー側受信機の場合であっても、基地局側のメーカー/タイプ/モデル/バージョンが不明の新しいGNSS受信機に対しての較正処理が完了し、ローバー側受信機がRTK測位可能な状態になるまでは、RTK測位を行うことができない。これでは、迅速なRTK測位と、RTK測位の結果に依存するその後の処理または作業に支障を来すであろう。
【0011】
従って、本発明の実施形態は、ローバー側GNSS受信機にとって基地局側GNSS受信機が未知である場合、即ち、ローバー側GNSS受信機が、基地局側GNSS受信機のメーカー、モデル、タイプ、および/またはバージョン情報を有しない場合でも、ローバー側GNSS受信機が、そのファームウェアまたは較正テーブルを更新することなくGLONASS信号を使用してRTK測位を実行できるようにするシステムおよび方法を提供するものである。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、基地局とローバーとの間の周波数に依存する(周波数依存性)ハードウェアバイアスの較正を伴う、RTK測位のための補正信号を生成するシステムが提供される。このシステムは、較正メモリと、メモリプロセッサと、較正装置とを含む。前記較正メモリは、基地局用の複数のGNSS受信機とローバー用の少なくとも1つのGNSS受信機とによる基地局・ローバーの各組み合わせに対して、較正情報(較正パラメータ)のセットを格納する。前記メモリプロセッサは、前記較正メモリから、前記基地局用の第1のGNSS受信機と前記ローバー用の第2のGNSS受信機とによる選択された基地・ローバーの組合せに対する較正情報を取り出すように構成される。前記較正装置は前記ローバーおよび前記メモリプロセッサと通信状態にある。前記較正装置は、(i)第1のGNSS受信機に関連する第1の誤差補正情報を含む第1の補正信号を受信し、(ii)前記第1の補正信号に基づいて前記メモリプロセッサによって選択された前記較正情報を取得し、(iii)前記選択された較正情報によって前記第1の誤差補正情報を修正することにより、前記第1のGNSS受信機に関して前記第2のGNSS受信機用に較正された修正誤差補正情報を含む修正補正信号を発生し、(iv)前記修正補正信号を前記ローバーに送信する、ように構成される。前記ローバーが前記修正補正信号を用いて前記基地局用の既知のGNSS受信機に関するRTK測位を行うことにより、前記第1のGNSS受信機に対する前記第2のGNSS受信機の周波数依存性ハードウェアバイアスの較正が自動的に達成される。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、第1のGNSS受信機のメーカー、タイプ、モデル、およびファームウェアバージョンの少なくとも1つが基地局用の既知のGNSS受信機のものと異なっているかもしれず、第2のGNSS受信機は第1のGNSS受信機を認識できない。前記修正誤差補正情報は、(a)既知のGNSS受信機の識別情報、および(b)修正パラメータ値を含み、この修正パラメータ値は、前記第2のGNSS受信機によって、前記既知のGNSS受信機に関する較正プロセスに使用された時、前記第1のGNSS受信機に対する正しい周波数依存性ハードウェアバイアス較正がなされるように構成されている。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、第1のGNSS受信機は、第2のGNSS受信機によって認識される複数の既知のGNSS受信機のうちの1つであるが、第1のGNSS受信機は第2のGNSS受信機にとって未知のハードウェア特性を有する。 前記修正誤差補正情報は、(a)既知のハードウェア特性を有する第1のGNSS受信機の識別情報、および(b)第2のGNSS受信機において、既知のハードウェア特性を有する第1のGNSS受信機に対する較正プロセスに使用された時、前記第1のGNSS受信機に対する正しい周波数依存性ハードウェアバイアス較正がなされるように構成された修正パラメータ値、を含んでもよい。前記ハードウェア特性は、前記第1のGNSS受信機のタイプ、モデル、およびファームウェアバージョンのうちの少なくとも1つに依存してもよい。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、前記較正メモリ、前記メモリプロセッサ、および前記較正装置は、前記基地局および前記ローバーと通信しているサーバに設置されるように構成される。
【0016】
本発明の別の実施形態によれば、前記較正メモリ、前記メモリプロセッサ、および前記較正装置は、前記基地局に設置されるように構成される。
【0017】
本発明のさらに別の実施形態によれば、前記較正メモリおよび前記メモリプロセッサは、前記基地局および前記ローバーと通信するサーバに設置されるように構成され、前記較正装置は、前記ローバーと連結されて前記第2のGNSS受信機と通信するように構成される。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、前記第1のGNSS受信機および前記第2のGNSS受信機は、各々、GLONASS信号を含む複数のGNSS信号を受信する。前記較正情報のセット(較正パラメータ)は、(i)基地局・ローバーの組み合わせに関する周波数依存性ハードウェアバイアスの測定された較正値の較正テーブル、および(ii)GLONASS衛星の各周波数番号に関する周波数依存性ハードウェアバイアスの線形近似の較正係数のセット、のうちの少なくとも1つを含んでもよい。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、前記ローバーは、その中の前記第2のGNSS受信機の識別情報をメモリ・プロセッサに送信するように構成される。前記システムは、ローバー用の複数のGNSS受信機の情報を格納し、前記メモリプロセッサに結合されたデータベースをさらに含んでもよい。前記メモリプロセッサは、識別情報に基づいて前記データベース内のローバー用の複数のGNSS受信機の中から前記第2のGNSS受信機を識別し、そのことにより、前記較正メモリに対し、前記第1のGNSS受信機および前記第2のGNSS受信機による組み合わせを選択するように構成されてもよい。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、前記メモリプロセッサは、更新された較正情報によって、或いは基地局・ローバーの新しい組み合わせに対する較正情報によって、前記較正メモリを更新するように構成されてもよい。前記メモリプロセッサは、更に、ローバー用の新しいGNSS受信機のための更新された識別情報によって前記データベースを更新するように構成されてもよい 。
【0021】
本発明の別の態様によれば、第1のGNSS受信機を有する基地局と第2のGNSS受信機を有するローバーとの間の周波数依存性ハードウェアバイアスの較正を伴う、RTK測位のための補正信号を生成する方法が提供される。前記方法は、(a)基地局用の複数のGNSS受信機とローバー用の少なくとも1つのGNSS受信機とによる基地局・ローバーの組み合わせに対する較正情報のセットを格納することと、(b)第1のGNSS受信機に関連する第1の誤差補正情報を含む第1の補正信号を受信することと、(c)前記第1の補正信号に基づいて、前記基地局用の第1のGNSS受信機と前記ローバー用の第2のGNSS受信機とによる基地局・ローバーの組み合わせを選択することと、(d)選択された基地局・ローバーの組み合わせに対する較正情報を、格納された較正情報セットの中から取り出すことと、(e)取り出された較正情報を用いて前記第1の誤差補正情報を修正し、前記第1のGNSS受信機に関して前記第2のGNSS受信機用に較正された修正誤差補正情報を生成する、修正ことと、(f)前記修正誤差補正情報を含む修正補正信号を生成することと、(g)前記修正補正信号を前記ローバー内の第2のGNSS受信機に送信することと、(1)前記ローバーが前記修正補正信号を用いて前記基地局用の既知のGNSS受信機に関するRTK測位を行うことにより、前記基地局内の前記第1のGNSS受信機に対する前記ローバー内の前記第2のGNSS受信機の周波数依存のハードウェアバイアスの較正が自動的に達成される、RTK測位ことと、を含む。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、前記第1のGNSS受信機のメーカー、タイプ、モデル、およびファームウェアバージョンの少なくとも1つは、既知のGNSS受信機のものと異り、前記第2のGNSS受信機が前記第1のGNSS受信機を認識しない場合がある。前記修正誤差補正情報は、前記既知のGNSS受信機の識別情報および修正されたパラメータ値を含んでいてもよい。この修正されたパラメータ値は、前記第2のGNSS受信機による前記既知のGNSS受信機に関する較正プロセスに使用された場合、前記第1のGNSS受信機に対して正しい周波数依存性ハードウェアバイアス較正を生成するような修正パラメータ値である。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、前記第1のGNSS受信機は、前記第2のGNSS受信機によって認識される複数の既知のGNSS受信機のうちの1つであるが、前記第1のGNSS受信機のハードウェア特性は、前記第2のGNSS受信機にとって未知であるかもしれない。修正された誤差補正情報は、前記第2のGNSS受信機に既知である第1のGNSS受信機の識別情報と、修正されたパラメータ値とを含んでもよい。この修正されたパラメータ値は、前記第2のGNSS受信機に既知のハードウェア特性を有する第1のGNSS受信機に関する前記第2のGNSS受信機の較正プロセスにおいて使用された場合、前記第2のGNSS受信機に未知の異なるハードウェア特性を有する前記第1のGNSS受信機に対する正しい周波数依存性ハードウェアバイアス較正が成されるように構成される。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、前記ハードウェア特性は、前記第1のGNSS受信機のタイプ、モデル、およびファームウェアバージョンのうちの少なくとも1つに依存し得る。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、前記格納すること、前記受信すること、前記選択すること、前記取り出すこと、前記修正こと、前記生成すること、および前記送信することは、前記基地局および前記ローバーと通信しているサーバーで実行されてもよい。
【0026】
本発明の別の実施形態によれば、前記格納すること、前記受信すること、前記選択すること、前記取り出すこと、前記修正こと、前記生成すること、および前記送信することは、前記基地局において実行されてもよい。
【0027】
本発明のさらに別の実施形態によれば、前記格納すること、前記受信すること、前記選択すること、および前記取り出すことは、前記基地局および前記ローバーと通信しているサーバーにおいて実行され、本方法は、更に、前記受信した第1の補正信号および前記取り出された較正情報とを前記ローバーに送信することを含み、前記修正こと、前記生成すること、および前記送信することは、前記ローバー内のGNSS受信機と通信するようにローバーに提供された較正装置において実行されてもよい。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、前記RTK測位を行うことは、GLONASS信号を含む複数のGNSS信号を受信することを含んでもよい。
【0029】
本発明の一実施形態によれば、前記較正情報のセットは、較正テーブルおよび較正係数セットのうちの少なくとも1つを含む。前記較正テーブルは、基地局・ローバーの組み合わせに関する周波数依存のハードウェアバイアスの測定された較正値を含んでもよい。前記較正係数セットは、GLONASS衛星の周波数番号に関する周波数依存性ハードウェアバイアスの線形近似のために使用されてもよい。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、前記方法は、更に(i)前記較正情報のセットに関連付けられ、前記ローバー用の複数のGNSS受信機の情報を格納する、データベースを提供すること、(j)前記ローバーから前記第2のGNSS受信機の識別情報を受信すること、(k)前記識別情報に基づいて前記データベース内の前記複数のGNSS受信機の中から前記第2のGNSS受信機あるいは前記ローバ―を識別し、それにより前記第1のGNSS受信機と前記第2のGNSS受信機との組み合わせを選択すること、含んでもよい。
【0031】
本発明の一実施形態によれば、前記方法は、更新された較正情報または基地局・ローバーの新しい組み合わせのための較正情報によって、前記較正情報メモリのセットを更新することをさらに含んでもよい。前記方法は、前記ローバー用の新しいGNSS受信機のための更新された識別情報で前記データベースを更新することをさらに含んでもよい。
【0032】
本発明は、添付の図面において、限定としてではなく例として示されており、同様の参照番号は同様の構成要素を指している。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の実施形態が実装される環境を示す概略図である。
図2】現在利用可能なGNSS信号とその周波数範囲を示している。
図3】本発明の一実施形態による、基地局とローバーとの間の周波数に依存するハードウェアバイアス較正を伴うRTK測位のための補正信号を生成するシステムを模式的に示す図表である。
図4】本発明の一実施形態による、較正情報を格納する較正メモリの一例を模式的に示す図表である。
図5】本発明の一実施形態による、サーバに実装されるシステムを模式的に示す図表である。
図6】本発明の他の実施形態による、基地局に実装されるシステムを模式的に示す図表である。
図7】本発明の一実施形態による、一部がサーバに、一部がローバーに実装されるシステムを模式的に示す図表である。
図8】本発明の一実施形態による、基地局とローバーとの間の周波数依存性ハードウェアバイアスの較正を伴うRTK測位のための補正信号を生成する方法を示すプロセス流れ図表である。
図9】本発明の別の実施形態による、基地局とローバーとの間の周波数依存性ハードウェアバイアスの較正を伴うRTK測位のための補正信号を生成するための方法を示すプロセス流れ図表である。
図10】本発明の一実施形態による、図8および/または図9の方法における追加のステップを示すプロセス流れ図表である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施形態によれば、ローバー側GNSS受信機のための補正信号にハードウェアバイアス較正情報(メカニズムおよび機能)を組み込むことにより、ローバー側GNSS受信機が、周波数依存性ハードウェアバイアスを考慮せずにGLONASS信号を用いてリアルタイムキネマティック(RTK)測位を実行できるようにするシステムおよび方法が提供される。本発明の実施形態によれば、ローバー側GNSS受信機にとって基地局のGNSS受信機が未知である、即ち、ローバー側GNSS受信機が、基地局側GNSS受信機の周波数依存性ハードウェアバイアス(回路遅延)を決定するために必要な、メーカー、モデル、タイプおよび/またはバージョン等のハードウェア情報を有していない場合でも、ローバー側GNSS受信機は、そのファームウェアまたは較正テーブルを更新する必要が無い。
【0035】
図1は、本発明の実施形態が実施される環境を模式的に示す図である。図1に示されるように、基地局10を用いたRTK測位がローバー20(移動局)によって実行され、基地局10およびローバー20の両方が、GLONASS衛星を含む複数のGNSS衛星30からの複数のGNSS信号を受信する。図2は、GLONASSを含む様々なGNSSシステムにおける現在利用可能なGNSS信号とその周波数帯を示す図である。上述したように、各GLONASS衛星には、各周波数帯において固有の周波数が割り当てられている。従って、L1などの同じ周波数帯であっても、各々のGLONASS衛星はL1帯内の異なる周波数を有しており、複数のGLONASS衛星から同じL1帯内の信号を受信するGNSS受信機で異なる回路遅延が生じることになる。
【0036】
基地局10は、固定された場所に設置された基準局または電子基準点であり得る。固定された場所は、恒久的な場所であってもよいし、一時的な場所であってもよい。また、基地局10は、必要に応じて異なる作業現場で使用される携帯型の(ポータブル)基準点であり得る。RTK測位においては、基地局10の正確な位置(座標)が既知であるまたは容易に知ることができることが前提である。基地局10は、そのアンテナ12を介してGNSS信号を受信し、測位精度を向上させるための疑似距離補正(PRC)情報等の誤差補正情報を含む従来の誤差補正信号40を生成することが可能である。基地局10で生成されたPRC情報は、無線ビーコン、インターネットプロトコルを介したRTCMネットワークトランスポート(NTRIP)、デジタルマルチメディア放送(DMB)、無線データシステム(RDS)、FMデータラジオチャネル(DARC)などの通信回線を通じて提供される。例えば、アメリカ船舶電波技術委員会(RTCM)では、様々な差分補正アプリケーションのための差分補正情報のデータ構造を定義した伝送規格(「RTCM規格」)を提供している。
【0037】
ローバ―20は、車両、ドローン、トラクタ、その他の測量機器(GNSSユーザ)等であってもよく、そのアンテナを介して複数のGNSS衛星30からのGNSS信号を受信するものであってもよい。ローバー20は、基地局10の既知の正確な位置とその他の必要な誤差補正情報とを用いて、基地局10の位置に対する相対位置として自己の位置を決定することが可能である。
【0038】
図3は、本発明の一実施形態による、基地局10とローバー20との間の周波数依存性ハードウェアバイアス較正を伴うRTK測位のための補正信号を生成するためのシステム100を概略的に示す図である。システム100は、ローバーが、基地局の未知のGNSS受信機に関して周波数依存性ハードウェアバイアスを自動的に較正しながらRTK測位を行うことを可能にするシステムであるとも言える。図3に示すように、基地局10は、第1のアンテナ12および第1のGNSS受信機14を含み、ローバー20は、第2のアンテナ22および第2のGNSS受信機24を含む。システム100は、較正メモリ50と、メモリプロセッサ60と、較正装置(プロセッサ)70とを含む。システム100は、その用途に応じて、サーバに設置、基地局に設置、或いは、一部をサーバに、一部をローバに設置してもよい。また、システム100は、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせで実装されてもよく、その一部または全体が非一過性のコンピュータ可読媒体として実装されてもよい。「非一過性のコンピュータ可読媒体」という用語は、一般に、主記憶、二次記憶、取り外し可能な記憶装置、およびハードディスク、フラッシュメモリ、ディスクドライブメモリ、CD―ROM、および他の形態の永続記憶などの記憶装置などの媒体を指すために用いられ、搬送波または信号などの一過性の主題を包含すると解釈されるべきではない。
【0039】
較正メモリ50は、基地局10用の複数のGNSS受信機とローバー20用の少なくとも1つの第2のGNSS受信機との間の基地局・ローバーの組み合わせについて較正情報(較正パラメータ)のセットを格納する。基地局用の複数のGNSS受信機は、第1のGNSS受信機14として基地局10に実装される可能性のあるGNSS受信機である。ローバー20用の少なくとも1つのGNSS受信機は、第2のGNSS受信機24としてローバー20に実装される可能性のある少なくとも1つのGNSS受信機である。例えば、システム100が、特定のローバー用GNSS受信機に対応してカスタマイズされる場合には、較正メモリ50は、その特定のローバー用GNSS受信機が使用する基地局に用いられる複数のGNSS受信機の較正情報のセットのみを含んでもよい。
【0040】
例えば図4に示すように、較正メモリ50は、較正情報を、基地局・ローバーの組合せの各々についての較正情報セット(較正情報)54を含む較正テーブル52の形で格納してもよい。各GNSS受信機は、例えば回路遅延などの固有のハードウェア特性に対応するメーカ、モデル、タイプ、および/またはバージョンなどを指定するID番号で識別されてもよい。基地局・ローバーの組み合わせは、基地局側受信機のID番号とローバー側受信機のID番号との組み合わせによって特定されてもよい。また、第2のGNSS受信機における回路遅延の周波数依存性ハードウェアバイアスが周波数の線形関数で近似される場合、較正情報54はそのような線形関数に対する較正係数であってもよい。
【0041】
メモリプロセッサ60は、基地局10用の第1のGNSS受信機14とローバ―20用の第2のGNSS受信機24の選択された組み合わせに対する較正情報54を較正メモリ50から取得するように構成されている。メモリプロセッサ60は、さらに、更新された較正情報によって、または新しいGNSS受信機が利用可能になったときには、その新しい基地局とローバーとの組み合わせに対する較正情報によって、較正メモリ50を更新するように構成されてもよい。
【0042】
図3に示すように、較正装置70は、ローバー20およびメモリプロセッサ60と通信している。較正装置70は、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせとしてプロセッサとして実装されてもよいし、コンピュータ可読媒体を用いて実装されてもよい。基地局10は第1の補正信号40を生成し、上述したように、無線ビーコン、インターネットプロトコルによるRTCMネットワークトランスポート(NTRIP)、デジタルマルチメディア放送(DMB)、無線データシステム(RDS)、FMデータラジオチャネル(DARC)などの通信リンクを介して送信する。第1の補正信号40は、従来の誤差補正信号であってもよく、例えば、RTCM規格またはフォーマットを用いた誤差補正信号であってもよい。第1の誤差補正信号40は、上述したように、第1のGNSS受信機14に関連する第1の誤差補正情報および第1のGNSS受信機14の識別情報を含んでいる。
【0043】
メモリプロセッサ60は、第1のGNSS受信機14の識別情報(GNSS受信機情報)に基づいて、基地局10用の第1のGNSS受信機14とローバ―20用の特定の第2GNSS受信機24とによる特定の組合せに対応する較正情報54を選択する。メモリプロセッサ60は、受信した第1の補正信号40からGNSS受信機情報を取得してもよいし、或いは、第1の補正信号40を受信する較正装置70と通信することによりGNSS受信機情報を取得してもよい。
【0044】
較正装置70は、第1の補正信号40を受信し、メモリプロセッサ60によって選択された較正情報54を取得する。較正装置70は、選択された較正情報54によって第1の補正信号40に含まれる第1の誤差補正情報を修正誤差補正信号に修正することにより、修正誤差補正情報を含む修正補正信号42を生成する。修正誤差補正情報は、選択された較正情報54を用いて第2のGNSS受信機24のために第1のGNSS受信機14に対して較正されたものである。較正装置70が修正補正信号42をローバー20に送信することにより、修正補正信号42が第2のGNSS受信機24に提供される。
【0045】
ローバー20は、修正補正信号42を使用して第2のGNSS受信機24により基地局10用の既知のGNSS受信機に関するRTK測位を実行する。ここで、「既知のGNSS受信機」とは、そのGNSS受信機が第2のGNSS受信機24にとって「既知」であり、第2のGNSS受信機24がそのGNSS受信機を周波数依存性のハードウェア特性(回路遅延および/または対応するバイアス量)と共に識別でき、RTK測位において、適切なハードウェアバイアス較正と共にGLONASS信号を使用できることを意味する。すなわち、たとえ、実際の第1のGNSS受信機14が第2のGNSS受信機24にとって未知である場合でも、基地局10で生成される第1の誤差補正信号40および/または既存の較正テーブル(もしあれば)を用いる代わり、較正装置70によって与えられる修正補正信号42を使用することにより、ローバー20(第2のGNSS受信機24)は、第1のGNSS受信機14に対する周波数依存のハードウェアバイアス較正を自動的に達成することができる。すなわち、修正された較正情報(修正された較正パラメータ)を用いて、既知のGNSS受信機に関する周波数依存性ハードウェアバイアス較正を伴うRTK測位を行うことにより、未知の第1のGNSS受信機に対する第2のGNSS受信機24の正しい周波数依存性ハードウェアバイアス較正が成される。
【0046】
例えば、第1のGNSS受信機14のメーカ、タイプ、モデル、およびファームウェアバージョンのうちの少なくとも1つが、第2のGNSS受信機24に既知のGNSS受信機のものとは異なっているため、第2のGNSS受信機24が第1のGNSS受信機14を認識できない場合がある。例えば、第1の補正信号40を介して基地局10から送信される第1のGNSS受信機14の識別情報が、第2のGNSS受信機24に保持されている基地局用のGNSS受信機の識別情報のいずれとも一致しない場合がある。これは、第2のGNSS受信機24が、第1のGNSS受信機14に対してハードウェアバイアス較正を行うことができない、または適切に行うことができない、ということを意味する。
【0047】
従って、修正補正信号42内の修正誤差補正情報は、(a)第2のGNSS受信機24に認識可能な、基地局10用の既知のGNSS受信機の識別情報と、(b)第2のGNSS受信機24によって、前記既知のGNSS受信機に関する較正プロセスにおいて使用されるとき、第1のGNSS受信機14に対して正しく周波数依存のハードウェアバイアス較正が行われるように構成された修正パラメータ値と、を含む。
【0048】
本発明の一実施形態によれば、特別な応用例として、特定の第2GNSS受信機を有するローバー20に対してシステム100がカスタマイズされてもよい。その場合、修正補正信号42における既知のGNSS受信機の識別情報を第2のGNSS受信機自身の識別情報とすることにより、ローバー20内の第2のGNSS受信機24は、基地局10の第1のGNSS受信機14が第2のGNSS受信機24と同じGNSS受信機であると判断するようにしてもよい。第2のGNSS受信機24が修正された較正パラメータ値を用いて第2のGNSS受信機24と同じGNSS受信機に関する周波数依存性ハードウェアバイアス較正を実行する時、その較正プロセスによって基地局10の実際の受信機である第1のGNSS受信機14に対する周波数依存性ハードウェアバイアスが正しく補正されるように、較正パラメータ値を修正しておくのである。例えば、修正された補正信号42は、第2のGNSS受信機24と同じ(仮想)GNSS受信機から(仮想的に)送信されるRTCM標準補正信号の形式を有し、そこに含まれる較正パラメータを修正較正パラメータに置き換えたものとすることができる。
【0049】
また、システム100がローバー20用の特定の第2のGNSS受信機にカスタマイズされる場合、較正メモリ50内の較正テーブル52は、そのような特定の第2のGNSS受信機に対する基地局用のGNSS受信機の較正情報54のみを含むように簡略化することも可能である。メモリプロセッサ60は、基地局10からの第1の補正信号40に示される第1のGNSS受信機14の識別情報に基づいて、較正パラメータを取り出すことができる。
【0050】
別の例では、第1のGNSS受信機14は、第2のGNSS受信機24によって認識される複数の既知のGNSS受信機の1つであるかもしれないが、第1のGNSS受信機14のハードウェア特性(例えば、周波数依存回路遅延)は、第2のGNSS受信機24にとって未知、あるいは第2のGNSS受信機24にとって以前に知られていたものとは異なっている場合がある。従って、修正された補正信号42内の修正された誤差補正情報は、(a)第2のGNSS受信機24に既知のハードウェア特性を有する第1のGNSS受信機14の識別情報と、(b)第2のGNSS受信機24によって既知のハードウェア特性を有する第1のGNSS受信機14に関する較正プロセスにおいて用いられるときに、未知あるいは異なるハードウェア特性を有する実際の第1のGNSS受信機14に対して正しく周波数依存性ハードウェアバイアス較正が行われるように構成された修正パラメータ値と、を含むように構成される。ハードウェア特性は、第1のGNSS受信機のタイプ、モデル、およびファームウェアバージョンのうちの少なくとも1つに依存してもよい 。この実施態様は、例えば、基地局10用の第1のGNSS受信機14がより新しいモデルまたはバージョンに更新されたが、第2のGNSS受信機24によって従来と同じ(旧モデルあるいは旧バージョンの)第1のGNSS受信機14であると識別されるような場合に有用である。
【0051】
本発明の一実施形態によれば、システム100は、ローバー20用の複数の異なるGNSS受信機を管理するように構成されてもよい。 そのような場合、ローバー20は、第2のGNSS受信機24の識別情報をメモリプロセッサ60に送信するように構成される。例えば、図3に示すように、ローバー20は、GNSS受信機情報(または識別情報)44をメモリプロセッサ60に送信してもよい。あるいは、ローバー20(第2のGNSS受信機24)がGNSS受信機情報44を較正装置70に送信し、較正装置70がその識別情報をメモリプロセッサ60に提供してもよい。この例では、図3に示すように、システム100は、オプションとして、メモリプロセッサ60と結合されたデータベース56をさらに含んでもよい。データベース56は、ローバー20用の複数のGNSS受信機の情報を格納する。メモリプロセッサ60はさらに、識別情報に基づいてデータベース56内の複数のGNSS受信機の中からローバー20用の第2のGNSS受信機24を識別し、第1のGNSS受信機14と第2のGNSS受信機24の特定の組み合わせを選択し、較正メモリ50からその組み合わせに対応する較正情報54を取り出すように構成される。
【0052】
較正情報セット54は、(i)基地局・ローバーの組み合わせに関する周波数依存性ハードウェアバイアスの測定された較正値の較正テーブル、および(ii)GLONASS衛星の周波数番号に関する周波数依存性ハードウェアバイアスの線形近似のための較正係数セット、のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0053】
新しいGNSS受信機、または既存のGNSS受信機の新しいタイプ/モデル/バージョンが利用可能になって基地局に設置された場合、較正メモリの内容をそれに応じて更新してもよい。従って、メモリプロセッサ60は、そのような更新された較正情報により、または新しい基地局・ローバーの組み合わせに対する較正情報の追加により、較正メモリ50を更新するように構成されてもよい。さらに、メモリプロセッサ60は、1つ以上の新しいGNSS受信機、またはローバー20用のGNSS受信機の新しいモデル/バージョンが利用可能になった時点で、データベース56を更新してもよい。
【0054】
図5は、本発明の一実施形態によるシステム120を概略的に示しており、このシステム120はサーバ80に実装される。本実施形態および以下の実施形態において、同一の要素には同一の参照数字を付し、特に断りのない限り、機能または実装が異なる場合を除き、詳細な説明を省略する。本実施形態においては、較正メモリ50、メモリプロセッサ60、および較正装置70は、基地局10およびローバー20と通信可能なサーバ80に設置されるように構成される。さらに、上述の実施形態と同様に、システム120はデータベース56を含み、ローバー20用の第2のGNSS受信機24の複数の異なるメーカー、タイプ、モデル、および/またはバージョンを管理できるようにしてもよい。
【0055】
図5に示されているように、第1の補正信号40は、基地局10からサーバ80に送信され、修正補正信号42は、サーバ80からローバー20に送信される。また、GNSS受信機情報44(第2のGNSS受信機24の識別情報等)は、システム120が複数の異なる第2のGNSS受信機24を取り扱うことができる場合に、ローバー20からサーバ80に送信される。システム120全体がサーバ80に実装されているので、基地局10の第1のGNSS受信機14が、ローバー20の第2のGNSS受信機24に未知であったとしても、周波数依存性ハードウェアバイアス較正を伴うGLONASS信号を用いたRTK測位を行う場合に、基地局10およびローバー20のいずれをも変更する必要がない。
【0056】
本実施の形態では、基地局側GNSS受信機(第1のGNSS受信機14)および/またはローバー側GNSS受信機(第2のGNSS受信機24)に使用され得る全てのGNSS受信機のメーカー、タイプ、モデル、ファームウェアバージョン等の情報をサーバ80に登録し、サーバ80内の較正メモリ50に較正情報54と対応させて格納してもよい。なお、サーバ80は、基地局10から第1の補正信号40を受信することにより、予め基地局10から第1のGNSS受信機の情報を取得してもよい。
【0057】
さらに、サーバ80は、基地局10、ローバー20、メモリプロセッサ60、および較正装置70と通信して、第1の補正信号40、修正補正信号42、およびGNSS受信機情報44を受信/送信するためのインターフェース(図示せず)をさらに含んでもよい。或いは、そのようなインタフェースは、較正装置70と一体化されてもよい。 代替的に、または追加的に、メモリプロセッサ60は、第1の補正信号40および/またはGNSS受信機情報44を直接受信し、較正メモリ50から較正情報54を取り出し、較正装置70に提供するようにしてもよい。
【0058】
図6は、本発明の別の実施形態によるシステム140を概略的に示している。このシステム140は基地局10に実装され、較正メモリ50、メモリプロセッサ60、および較正装置70が基地局10に設置される。加えて、システム140は上述の実施形態と同様にデータベース56を更に含み、ローバー20用の第2のGNSS受信機24に対する複数の異なるメーカー、タイプ、モデル、および/またはバージョンを管理できるように構成されてもよい。
【0059】
この実施形態では、基地局側GNSS受信機(第1のGNSS受信機14)および/またはローバー側GNSS受信機(第2のGNSS受信機24)として使用され得る全てのGNSS受信機に関する情報、例えばメーカー、タイプ、モデルおよびファームウェアバージョンを基地局10に登録し、基地局10内の較正メモリ50に、基地局・ローバーの各組み合わせに関連させて対応する較正情報54とともに格納してもよい。較正情報54は、上述のように、新しいGNSS受信機の測定により新しい較正情報が利用可能になったときに、必要に応じて更新することができる。さらに、データベース56は、上述のように、ローバー用の新しいGNSS受信機が利用可能になったときに、必要に応じて更新してもよい。
【0060】
RTK測位の実行に際し、基地局10が未だローバー20のGNSS受信機24を識別していない場合、基地局10はローバー20から第2のGNSS受信機24に関する情報(GNSS受信機情報)を取得してもよい。なお、システム140が特定のローバー側GNSS受信機にカスタマイズされている場合、このような識別処理は省略することができる。
【0061】
本実施形態では、較正装置70が、第1のGNSS受信機14が生成した第1の補正信号40に含まれる第1のGNSS受信機14の識別情報に基づいて、第1の補正信号40に含まれる第1の誤差補正情報を、較正メモリ50から取得した第2のGNSS受信機24の較正情報により修正することにより、修正補正信号42が生成される。基地局10は、第1の補正信号40を送信する代わりに、修正補正信号42をローバー20に送信する。例えば、修正補正信号42は、第1のGNSS受信機14を示すGNSS受信機識別情報と、修正された較正情報とを有するRTCM信号の補正信号であってもよい。ローバー20は、修正された補正信号42を用いてRTK測位を行う。
【0062】
システム140全体が基地局10に実装されているので、基地局10の第1のGNSS受信機14が第2のGNSS受信機24にとって未知である場合、または第1のGNSS受信機14が未知のハードウェア特性を有する場合でも、周波数依存性ハードウェアバイアス較正を伴うGLONASS信号を用いたRTK測位を行うために、ローバー20を変更する必要がない。
【0063】
図7は、本発明の別の実施形態によるシステム160を概略的に示しており、システム160の一部がサーバ80に、一部がローバー20に実装される。図7に示すように、本実施形態では、較正メモリ50およびメモリプロセッサ60が、基地局10およびローバー20と通信するサーバ80に設置され、較正装置70が、第2のGNSS受信機24と通信するようにローバー20に連結されるように構成される。更に、上述の実施形態と同様に、システム160は、サーバ80に設けられたデータベース56をさらに含み、ローバー20内の第2のGNSS受信機24に対する複数の異なるメーカー、タイプ、モデル、および/またはバージョンを管理できるようにしてもよい。
【0064】
本実施形態では、基地局側GNSS受信機(第1のGNSS受信機14)および/またはローバー側GNSS受信機(第2のGNSS受信機24)に使用される可能性のある全てのGNSS受信機に関する情報(メーカー、タイプ、モデル、ファームウェアバージョン等)をサーバ80に登録し、基地局・ローバーの組み合わせ毎に、対応する較正情報54と共に、サーバ80内の較正メモリ50に格納してもよい。較正情報54および/またはデータベース56は、上述したように、測定によって新しい情報が利用可能になったとき、または新しいGNSS受信機が利用可能になったときに、必要に応じて更新することができる。
【0065】
システム160が特定の第2のGNSS受信機24にカスタマイズされるような実装では、較正メモリ50内の較正テーブル52(較正パラメータ)を、複数の基地局側GNSS受信機に関する特定の第2のGNSS受信機のための較正情報54のみを含むように簡素化することができる。また、このようなカスタマイズされた実装では、データベース56を省略することができ、ローバー20はGNSS受信機情報44をサーバ80に送信しなくてもよい。
【0066】
図7に示すように、基地局10は第1の補正信号40をサーバ80に送信し、メモリプロセッサ60は、第1の補正信号40に示される第1のGNSS受信機14の識別情報に基づいて、特定のGNSS受信機24のための較正情報54(較正パラメータ)を取り出す。本実施形態では、メモリプロセッサ60(サーバ80)は、受信した第1の補正信号40および取り出した較正情報54(較正パラメータ)をローバー20に送信する。なお、本実施形態では、サーバ80は、第1の補正信号40を変更せず、取り出された較正情報54とともに第1の補正信号40を単にローバー20に転送するだけであることに留意されたい。取り出された較正情報54は、RTCMメッセージ内の特定のデータフィールドに割り当てられてもよい。
【0067】
ローバー20において、較正装置70は、第1の補正信号40および較正情報54を受信し、上述の実施形態によるシステム100、120、または140の較正装置70と同様の方法で、受信した第1の補正信号40中の第1の誤差補正情報を、受信した較正情報54を用いて修正補正情報に修正することにより、修正補正信号42を生成する。なお、較正装置70は、例えば、ローバー20の通信基板(または通信用回路基板)に実装されてもよい。
【0068】
第2のGNSS受信機24は、較正装置70から修正された補正信号42を受信し、修正された補正情報を用いて周波数依存性ハードウェアバイアス較正を伴うRTK測位を実行する。
【0069】
本発明の別の態様では、本発明の実施形態として、図8に示すように、基地局とローバーとの間の周波数依存性ハードウェアバイアスの較正を伴うRTK測位のための補正信号を生成する方法200が提供される。基地局は第1のGNSS受信機および第1のアンテナを含み、ローバーは第2のGNSS受信機および第2のアンテナを含む。RTK測位において、GLONASS信号を含む複数のGNSS信号が、基地局およびローバーによって受信されてもよい。本方法は、較正メモリ、メモリプロセッサ、および較正装置を含む、上述のシステム100、120、140、および160のうちのいずれか1つによって実行されてもよい。
【0070】
図8に示されているように、方法200は、基地局用の複数のGNSS受信機とローバー用の少なくとも1つのGNSS受信機との間の基地局・ローバーの組み合わせについての較正情報のセットを格納すること(202)を含む。本発明の一実施形態によれば、較正情報のセットは、較正テーブルおよび較正係数のセットのうちの少なくとも1つを含んでもよい。例えば、較正テーブルは、基地局・ローバーの組み合わせに関する周波数依存性ハードウェアバイアスの測定された較正値を含む。較正係数のセットは、GLONASS衛星の各周波数番号に関する周波数依存性ハードウェアバイアスの線形近似のために使用され得る。較正情報は較正メモリに格納されてもよい。従って、較正情報のセットを格納すること(202)は、較正情報を格納するこのような較正メモリを提供することによって実現され得る。較正メモリは、基地局およびローバーと通信可能なサーバに実装されてもよいし、基地局に実装されてもよい。
【0071】
第1のGNSS受信機に関連付けられた第1の誤差補正情報を含む第1の補正信号が受信される(204)。この第1の補正信号は、ローバーから送信され、プロセッサメモリおよび/または較正装置によって受信されてもよい。そして、第1のGNSS受信機の識別情報(GNSS受信機情報)を含む第1の補正信号に基づいて、第1のGNSS受信機(基地局用)と第2のGNSS受信機(ローバー用)とによる基地局・ローバー組合せが選択される(206)。この選択は、メモリプロセッサによって実行され、第1のGNSS受信機の識別情報(基地局側受信機を決定するため)、および第2のGNSS受信機の識別情報(ローバー側受信機を決定するため)に従って基地局・ローバーの組み合わせが決定されてもよい。方法200がローバー用の特定の第2GNSS受信機のためにカスタマイズされる場合、第2のGNSS受信機が既知であるため、組み合わせを選択することは、基地局側受信機として第1のGNSS受信機を選択することと同じことになる。一方、方法200が複数の異なるローバー側受信機を管理している場合、ローバーから送信される識別情報(GNSS受信機情報)に基づいて第2のGNSS受信機が決定される。なお、第2のGNSS受信機をローバー側受信機として特定するために、ローバー側GNSS受信機情報を含むデータベースを用いてもよい。
【0072】
選択された組み合わせのための較正情報(較正パラメータ)が較正メモリから取り出される(208)。較正情報の取り出しは、メモリプロセッサによって実行されてもよい。取り出された較正情報は、較正装置に提供される。第1の誤差補正情報は、較正装置により、取り出された較正情報を用いて修正され(210)、これにより、第1のGNSS受信機に関して第2のGNSS受信機のために較正された修正誤差補正情報を含む修正補正信号が生成される(212)。修正補正信号は、ローバー内の第2のGNSS受信機に送信され(214)、これにより、ローバー(第2のGNSS受信機)は、修正補正信号を使用して、基地局の既知のGNSS受信機に関する周波数依存性ハードウェアバイアス較正を伴うRTK測位を実行することができる(216)。 その結果、基地局の第1のGNSS受信機に対するローバーの第2のGNSS受信機の周波数依存性ハードウェアバイアス較正が自動的に達成される(218)。
【0073】
GLONASS信号を用いたRTK測位を行うため、基地局内の既知のGNSS受信機に対する周波数依存性ハードウェアバイアスを補正するための較正テーブル等が既にローバーに提供されていることもある。しかし、基地局内の実際のGNSS受信機(第1のGNSS受信機)のメーカー、タイプ、モデル、ファームウェアバージョンの少なくとも1つが、既知のGNSS受信機のものとは異なる場合がある。従って、ローバーが基地局から第1の補正信号を受信したとき、ローバーの第2のGNSS受信機が第1のGNSS受信機を認識できない可能性がある。例えば、第2のGNSS受信機は、較正テーブル内に、第1のGNSS受信機の較正情報を見つけることができないかもしれない。従って、本発明の一実施形態による修正誤差補正情報は、(i)第2のGNSS受信機に認識可能な既知のGNSS受信機の識別情報と、(ii)第2のGNSS受信機によって、既知のGNSS受信機に関する較正プロセスにおいて使用されるとき、第1のGNSS受信機に対して周波数依存性ハードウェアバイアス較正が正しく行われるように構成された修正パラメータ値と、含み得る。
【0074】
本発明の一実施形態により、方法200がローバー用の特定の第2GNSS受信機に対してカスタマイズされる場合、修正補正信号における既知のGNSS受信機の識別情報は、第2のGNSS受信機自体の識別情報と同じであってもよい。ローバー内の第2のGNSS受信機は、自身と同じ(すなわち、既知の)GNSS受信機に関して実行するかのように、RTK測位を実行することができる。そして、第1のGNSS受信機・第2のGNSS受信機の組み合わせに対して修正されたパラメータ値を使用することにより、(未知の)第1のGNSS受信機に関する波長依存性ハードウェアバイアス較正が第2のGNSS受信機において自動的に達成される。
【0075】
別の状況では、基地局の第1のGNSS受信機は、第2のGNSS受信機によって認識される複数の既知のGNSS受信機の1つであるかもしれないが、第1のGNSS受信機のハードウェア特性が第2のGNSS受信機にとって未知、或いは実際のハードウェア特性が第2のGNSS受信機にとって既知のハードウェア特性とは異なっている場合もある。そのようなハードウェア特性は、第1のGNSS受信機のタイプ、モデル、およびファームウェアバージョンのうちの少なくとも1つに依存し得る。例えば、ローバーは基地局内の第1のGNSS受信機をメーカーとモデルで識別するが、ファームウェアのバージョンによってハードウェア特性が異なる場合、ローバー(第2のGNSS受信機)は第1のGNSS受信機の識別に基づくハードウェア較正を適切に行うことができないことになる。
【0076】
従って、本発明の一実施形態による修正誤差補正情報は、(i)第2のGNSS受信機に既知の第1のGNSS受信機の識別情報と、(ii)ハードウェア特性の変化を反映するまたはその他の方法で補償する修正パラメータ値と、を含むことができる。修正パラメータ値は、第2のGNSS受信機によって、第2のGNSS受信機に既知のハードウェア特性を有する第1のGNSS受信機に関する較正プロセスにおいて使用される場合、第2のGNSS受信機に未知の異なるハードウェア特性を有する第1のGNSS受信機に対して正しい周波数依存性ハードウェアバイアス較正が成されるように構成される。
【0077】
本発明の一実施形態によれば、上述の格納するステップ(202)、受信するステップ(204)、選択するステップ(206)、取り出すステップ(208)、修正するステップ(210)、生成するステップ(212)、および送信するステップ(214)は、基地局およびローバーと通信しているサーバーにおいて実行され、RTK測位を行うステップ(216)および自動的に達成するステップ(218)はローバーにおいて実行されてもよい。
【0078】
本発明の別の実施形態によれば、上述の格納するステップ(202)、受信するステップ(204)、選択するステップ(206)、取り出すステップ(208)、修正するステップ(210)、生成するステップ(212)、および送信するステップ(214)は、基地局において実行され、一方、RTK測位を行うステップ(216)および自動的に達成するステップ(218)はローバーによって実行されてもよい。
【0079】
図9は、本発明のさらに別の実施形態による別の方法300を示しており、上述の格納するステップ(202)、受信するステップ(204)、選択するステップ(206)、及び取り出すステップ(208)は、基地局およびローバーと通信するサーバーにおいて実行される。方法300は、受信した第1の補正信号および取り出された較正情報をサーバからローバーへ送信すること(309)を更に含み、上述の修正すること(210)および生成すること(212)は、ローバーに提供される較正装置において実行されてもよい。較正装置は、修正補正信号を第2のGNSS受信機に送信するか、さもなければ提供し(214)、第2のGNSS受信機は、RTK測位(216)および周波数依存性ハードウェアバイアス較正こと(218)を実行する。
【0080】
本発明の一実施形態によれば、図10に示されているように、上述の方法200および/または300は、複数の異なるローバー側受信機(第2のGNSS受信機)を管理することができるように構成できる。即ち、方法200および300は各々、基地局・ローバー受信機の組み合わせを選択する(206)前に、好ましくは較正情報のセットを格納する(202)時に、ローバー用の複数のGNSS受信機の情報を格納し、較正情報のセットに関連付けられたデータベースを提供することをさらに含むことができる。データベースは、1つ以上の新しいローバー側受信機(第2のGNSS受信機)が利用可能になったときに更新されてもよい(404)。方法200または300は、図10に示すように、第1のGNSS受信機と第2のGNSS受信機との組み合わせを選択する(206)前に、ローバーから第2のGNSS受信機の識別情報を受信し(406)、識別情報に基づいて、データベース内の複数のGNSS受信機の中から第2のGNSS受信機を識別すること(408)を更に含んでもよい。さらに、方法200および/または300は、図10に示すように、メモリに格納された較正情報のセットを、更新された較正情報、または新しい基地局・ローバーの組み合わせのための新しい較正情報で更新すること(410)をさらに含んでもよい。その後の処理ステップは、図7(方法200の場合)または図8(方法300の場合)に示されるものと同じである。
【実施例
【0081】
1つの実施例として、GLONASSのRTCM 多重信号メッセージ(MSM)を基地局・ローバー間RTK測位に使用することができる。MSMは、GNSS衛星とその信号とを識別し、疑似距離、位相範囲、位相範囲レート(ドップラー)などのGNSS観測値の情報を、粗範囲、精密範囲とともに提供するものである。現在、MSM1~MSM7が定義されており、同じデータ(観測値)を異なる詳細度で提供している。例えば、MSM6およびMSM7は、各々MSM4とMSM5と同じ内容であるが、当業者にはよく知られているように、いくつかのフィールドがより細かい解像度および/またはより広い範囲で提供される。
【0082】
基地局10内の第1のGNSS受信機14は、MSM5でRTCMv.3xフォーマット(例えば、RTCMv.3.2)で第1の補正信号40を送信してもよい。ローバー20内の第2のGNSS受信機24は第1のGNSS受信機14を知らない(認識できない)が、第3のGNSS受信機、例えば主要メーカー製の広く使用されているGNSS受信機(「既知のGNSS受信機」)を認識するとする。
【0083】
本実施例では、周波数帯域L1、L2のGLONASS信号が使用される。周波数番号kのGLONASS信号が、周波数帯L1において周波数fL1 を有し、周波数帯L2において周波数fL2 を有するとする。なお、周波数番号kは、-7~6として表記されるが、異なる表記体系では、0~13と表記されることもある。各GLONASS衛星には、固有のスロット番号(1~24)が割り当てられており、このスロット番号は、各周波数帯(L1、L2)において割り当てられた周波数番号kのうちの1つをも特定することに留意されたい。表1にスロット番号と周波数番号の対応を示す。
【0084】
【表1】
【0085】
RTCMv.3.2、MSM5フォーマットでは、精密測位に用いられる値のうち、ハードウェアバイアスに相当するGNSS信号の精密位相範囲が、修正されるべき値である。精密位相範囲データの単位は2-29ms(ミリ秒)である。周波数帯L1、L2における周波数番号kのGLONASS信号について、修正前の精密位相範囲データの元の値ΨL1 、ΨL2 であり、対応する修正値が、それぞれΦL1 、ΦL2 であったとする。
【0086】
周波数帯L1における周波数番号kのGLONASS信号に対する第1のGNSS受信機14と既知のGNSS受信機との間のハードウェアバイアスの差がΔΦL1 であり、周波数帯L2におけるそれがΔΦL2 であるとする。ハードウェアバイアスの差ΔΦL1 、ΔΦL2 は、周期(サイクル数)で測定される。その場合、修正値ΦL1 、ΦL2 は、以下のように表される。
【数1】
【数2】
【0087】
以下の表2は、周波数帯L1、L2における周波数番号kのGLONASS信号に対する第1のGNSS受信機14と既知のGNSS受信機との間のハードウェアバイアスの一例ΔΦL1 およびΔΦL2 を示すものである。ハードウェアバイアスの値は、測定によって、或いはGNSS受信機の製造元からデータを受け取ることによって得ることができる。
【0088】
【表2】
【0089】
ローバー20(あるいはその中の第2のGNSS受信機24)が第1のGNSS受信機14についての同様の較正テーブルを有している場合、ローバー20は、適切なハードウェアバイアス較正をしながらRTK測位を行うことができるであろう。しかし、第2のGNSS受信機24にとって第1のGNSS受信機14が未知である場合、および/またはローバー20が第1のGNSS受信機14のための較正テーブルを持っていない場合には、RTK測位を満足に実行することができなくなる。本発明の実施形態によれば、そのような場合に有効な解決策を提供し、第1のGNSS受信機14が未知である場合、またはローバー20が較正テーブルを有していない場合でも、ローバー20が基地局10を基準としたRTK測位を実行することができるようになる。
【0090】
例えば、第1のGNSS受信機14が、スロット番号20の特定のGLONASS衛星からGLONASS信号L1、L2を受信したとすると、そのGLONASS周波数番号は2であり(表1参照)、第1の補正信号40は、補正情報として元の(修正されていない)微細な位相範囲データ値ΨL1 、ΨL2 を含む。ここで、2-29ms(ミリ秒)単位として、ΨL1 =-170255、ΨL2 =126557である。
【0091】
上述されている式を用いると、
【数3】
【数4】
となり、ここで、分母の周波数は以下のように計算される。
【数5】
【数6】
【0092】
このように、修正補正信号42では、周波数帯域L1、L2の微細位相範囲データの値が、各々、(-170255の代わりに)-170271、(126557の代わりに)126520に変更され、第1のGNSS受信機14の識別(名称)が既知のGNSS受信機の識別に変更されている。ローバー20(第2のGNSS受信機24)は、修正補正信号42を受信し、修正された補正情報(すなわち、修正値)を用いて既知のGNSS受信機に対するハードウェアバイアス較正と共にRTK測位を実行し、これにより、基地局の第1のGNSS受信機14に対する実際のハードウェアバイアス較正が実現される。
【0093】
なお、上述されている数値は例として示したものであり、これらの特定の数値に限定されるものではない。
【0094】
本発明をいくつかの好ましい実施形態によって説明してきたが、代替物、置換物、修正物、および様々な代用物があり、それらは本発明の範囲内である。また、本発明の方法および装置を実施する多くの代替な方法があることにも留意すべきである。従って、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の主旨および範囲内に含まれるものとして、そのようなすべての代替形態、置換形態、および様々な代替均等物を含むと解釈されることが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】