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特表2023-500948高リスクのDLBCL対象を特定するための鉄スコアおよびインビトロ方法ならびに治療的使用および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-11
(54)【発明の名称】高リスクのDLBCL対象を特定するための鉄スコアおよびインビトロ方法ならびに治療的使用および方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20221228BHJP
   A61K 31/4196 20060101ALI20221228BHJP
   A61K 31/16 20060101ALI20221228BHJP
   A61K 31/4412 20060101ALI20221228BHJP
   A61K 31/35 20060101ALI20221228BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221228BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20221228BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20221228BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20221228BHJP
   A61K 31/52 20060101ALI20221228BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20221228BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20221228BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20221228BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221228BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20221228BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20221228BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20221228BHJP
   C12N 15/00 20060101ALN20221228BHJP
【FI】
C12Q1/68
A61K31/4196
A61K31/16
A61K31/4412
A61K31/35
A61K45/00
A61K31/675
A61K31/704
A61K31/7048
A61K31/52
A61K31/519
A61K31/5377
A61K31/496
A61P35/00
A61P39/02
G01N33/50 P
G01N33/68
C12N15/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022526704
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(85)【翻訳文提出日】2022-07-06
(86)【国際出願番号】 EP2020081349
(87)【国際公開番号】W WO2021089819
(87)【国際公開日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】19306436.7
(32)【優先日】2019-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】515267677
【氏名又は名称】サントル オスピタリエ ユニヴェルシテール ド モンペリエ
(71)【出願人】
【識別番号】511074305
【氏名又は名称】インセルム(インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ リシェルシェ メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】521240402
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ド モンペリエ
(71)【出願人】
【識別番号】500026533
【氏名又は名称】アンスティテュ・キュリ
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT CURIE
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100168631
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 康匡
(72)【発明者】
【氏名】モロー ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】デヴィン ジュリー
(72)【発明者】
【氏名】ブレ カロリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】カネケ コボ タティアナ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045DA13
2G045DA14
2G045DA15
2G045DA36
2G045DB11
2G045FA37
2G045FB01
2G045FB02
2G045FB03
2G045FB12
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ53
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB26
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086BC60
4C086CA01
4C086CB05
4C086CB06
4C086CB07
4C086DA35
4C086EA10
4C086EA11
4C086GA02
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA06
4C086ZB26
4C206AA01
4C206AA02
4C206HA16
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA06
4C206ZB26
(57)【要約】
本発明は、特に再発および/または死亡などの不良転帰を有する対象を特定するための、DLBCLを有する対象における予後マーカーとしての、鉄代謝に関与するALAS1、HIF1A、LRP2、HMOX1、HMOX2、HFE、ISCA1、SLC25A37、PPOX、STEAP1およびTMPRSS6からなる群の中で選択される少なくとも2つの遺伝子、特に少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子の発現レベルに基づく鉄スコアの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に再発および/または死亡などの不良転帰を有する対象を特定するための、DLBCLを有する対象における予後マーカーとしての、鉄代謝に関与するHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも2つの遺伝子、特に少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子の発現レベルに基づく鉄スコアの使用。
【請求項2】
鉄代謝を標的とする治療処置の恩恵を受けることができる不良転帰を有するDLBCL対象を特定するためのインビトロ方法であって、
a)前記対象から得られた生体試料における、鉄代謝に関与するHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも2つ、特に少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子および/または前記少なくとも1つ、特に少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルを測定する工程と、
b)工程a)で得られた前記発現レベルからスコア値を計算する工程と、
c)所定の参照値(PRV)と比較したスコア値に従って不良転帰を有する前記対象を分類および特定する工程と
を含む、方法。
【請求項3】
鉄代謝を標的とする治療処置が、鉄キレート剤およびリソソーム鉄を封鎖する小分子からなる群の中で選択され、特にデフェラシロクス、デフェロキサミン、デフェリプロン、サリノマイシン、これらの類似体または誘導体、好ましくはサリノマイシンおよび窒素含有サリノマイシン誘導体からなる群の中で選択される、請求項2に記載のインビトロ方法。
【請求項4】
前記対象の試料中のHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも2つ、好ましくは少なくとも5つ、より好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは少なくとも11個の遺伝子および/またはタンパク質の発現レベルを決定するための試薬を含むまたはからなる、請求項1~3のいずれか1項に記載のインビトロ方法に専用のキット。
【請求項5】
HMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子および/または前記少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルを測定するためのプライマーおよび/またはプローブのセットを含む、DLBCL対象に専用の請求項4に記載のキット。
【請求項6】
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)を有する対象を処置するための方法において使用するための、薬学的に許容されるビヒクル中に、特にデフェラシロクス、デフェロキサミン、デフェリプロン、サリノマイシン、これらの類似体または誘導体、好ましくはサリノマイシンおよびサリノマイシンの窒素含有類似体からなる群の中で選択される、鉄代謝を標的とする分子、特に鉄キレート剤またはリソソーム鉄を封鎖する小分子を含む医薬組成物。
【請求項7】
鉄スコアに従って不良転帰を有し、結果的にDLBCLの再発および/または死亡を示す可能性が高いとして請求項2に記載のインビトロ方法に従って特定される対象を処置するための方法における、請求項6に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項8】
鉄キレート剤が、式(I)
【化1】
[式中、
-Wは、=O、-NR12、-NR3-(CH2n-NR45、-O-(CH2n-NR45、-NR3-(CH2n-N+678および-O-(CH2n-N+678からなる群から選択され、
-Xは、=O、-OH、-NR12、-NR3-(CH2n-NR45、-O-(CH2n-NR45、-NR3-(CH2n-N+678および-O-(CH2n-N+678からなる群から選択され、
-Yは、-OH、=N-OH、-NR12、-NR3-(CH2n-NR45、-O-(CH2n-NR45、-NR3-(CH2n-N+678および-O-(CH2n-N+678からなる群から選択され、
1およびR2は、同一であるかもしくは異なり、H、(C1-C16)-アルキル、(C3-C16)-アルケニル、(C3-C16)-アルキニル、(C3-C16)-シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、(C1-C6)-アルキル-アリール、(C1-C6)-アルキル-ヘテロアリールからなる群から選択され、またはR1はHを表し、R2はOR9を表し、式中、R9は、H、(C1-C6)-アルキル、アリールおよび(C1-C6)-アルキル-アリールであり、
3は、H、(C1-C6)-アルキル、(C1-C6)-アルキル-アリールからなる群から選択され、
4およびR5は、同一であるかまたは異なり、H、(C1-C6)-アルキル、アリールおよび(C1-C6)-アルキル-アリールからなる群から選択され、
6、R7およびR8は、同一であるかまたは異なり、(C1-C6)-アルキル、アリールおよび(C1-C6)-アルキル-アリールからなる群から選択され、
-Zは、OH、NHNR910、NHOC(O)R11、N(OH)-C(O)R11、OOH、SR12、2-アミノピリジン、3-アミノピリジン、-NR3-(CH2n-NR45および-NR3-(CH2n-OHなどの基であり、式中:
9およびR10は、同一であるかまたは異なり、H、(C1-C6)-アルキル、アリールおよび(C1-C6)-アルキル-アリールからなる群から選択され、
11は、H、(C1-C16)-アルキル、(C3-C16)-アルケニル、(C3-C16)-アルキニル、アリール、ヘテロアリール、(C1-C6)-アルキル-アリール、(C1-C6)-アルキル-ヘテロアリールからなる群から選択され、
12は、H、(C1-C16)-アルキル、(C3-C16)-アルケニル、(C3-C16)-アルキニル、アリール、ヘテロアリール、(C1-C6)-アルキル-アリール、(C1-C6)-アルキル-ヘテロアリールからなる群から選択され、
n=0、2、3、4、5または6であり、
但しW、XおよびYのうちの少なくとも1つは、-NR12、-NR3-(CH2n-NR45、-O-(CH2n-NR45、-NR3-(CH2n-N+678および-O-(CH2n-N+678からなる群から選択される]
のサリノマイシンの窒素含有類似体である、請求項6または7に記載のその使用のための医薬組成物。
【請求項9】
鉄キレート剤が、請求項8に規定の式(I)の化合物であり、式中、XはOHであり、ZはOHであり、YはNR12であり、式中、R1はHであり、R2は(C1-C16)-アルキル、有利には(C8-C14)-アルキル、(C3-C16)-アルケニル、有利には(C3-C5)-アルケニル、(C3-C16)-アルキニル、有利には(C3-C5)-アルキニルおよび(C3-C16)-シクロアルキル、有利には(C3-C6)-シクロアルキルからなる群から選択される、請求項7または8に記載のその使用のための請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
鉄キレート剤が、請求項8に規定の式(I)の化合物であり、式中、Wは=Oであり、XはOHであり、ZはOHであり、YはNR12であり、式中、R1はHであり、R2は(C3-C5)-アルキニルおよび(C3-C6)-シクロアルキル、好ましくは(C3-C5)-アルキニルからなる群から選択される、請求項6または7に記載のその使用のための請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
特に請求項2に記載のインビトロ方法に従って不良転帰を有するびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)対象において、DLBCLの処置における医薬として同時、個別または交互に使用するための併用製品としての、
(i)鉄代謝を標的とする分子、特に鉄キレート剤またはリソソーム鉄を封鎖する小分子と、
(ii)化学療法、標的処置、免疫療法、およびこれらの組み合わせにおいて使用される薬剤からなる群から選択される別の抗癌剤と
を含む、医薬品。
【請求項12】
鉄代謝を標的とする分子、特に鉄キレート剤またはリソソーム鉄を封鎖する小分子(i)が、デフェラシロクス、デフェロキサミン、デフェリプロン、サリノマイシン、これらの類似体または誘導体、好ましくはサリノマイシンおよび請求項9~11に規定のサリノマイシンの窒素含有類似体からなる群の中で選択され、他の抗癌剤(ii)が、化学療法(iia)において使用される薬剤、特にシクロホスファミド、ドキソルビシン、エトポシド、ベネトクラクス、イデラリシブ、イブルチニブ、またはエントスプレチニブおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される、DLBCLの治療における、請求項11に記載のその使用のための医薬品。
【請求項13】
鉄キレート剤(i)が、請求項10に規定の式(I)の化合物であり、式中、Wは=Oであり、XはOHであり、ZはOHであり、YはNR12であり、式中、R1はHであり、R2は(C3-C5)-アルキニルおよび(C3-C6)-シクロアルキル、好ましくは(C3-C5)-アルキニルからなる群から選択され、他の化学療法化合物(ii)が、ドキソルビシン、ベネトクラクス、イデラリシブ、イブルチニブ、またはエントスプレチニブである、請求項12に記載のその使用のための医薬品。
【請求項14】
(i)請求項8に規定の式(I)の化合物[式中、Wは=Oであり、XはOHであり、ZはOHであり、YはNR12であり、式中、R1はHであり、R2は(C3-C5)-アルキニルおよび(C3-C6)-シクロアルキル、好ましくは(C3-C5)-アルキニルからなる群から選択される]と、
(ii)シクロホスファミド、ドキソルビシン、エトポシド、イデラリシブ、イブルチニブ、またはエントスプレチニブ、好ましくはドキソルビシン、イデラリシブ、イブルチニブ、またはエントスプレチニブからなる群の中で選択される化学療法化合物と
を含む、医薬品または医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B細胞リンパ腫、特にDLBCLに罹患している対象の転帰を予後判定するためのインビトロ方法、ならびに関連する治療的使用および方法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
リンパ腫は体内のすべての臓器に影響し得、広範囲の症状を伴って存在する。従来より、ホジキンリンパ腫(全リンパ腫の約10%を占める)と非ホジキンリンパ腫とに分けられる。非ホジキンリンパ腫は、最も無痛性のものから最も侵襲性の悪性腫瘍までさまざまな広範囲の病気を表す。それらは、さまざまな発達段階のリンパ球から生じ、特定のリンパ腫亜型の特性は、発生源の細胞の特性を反映する。ヒト成熟B細胞悪性腫瘍は、最新治療法では部分的にしか満たされないという医療課題を示し、分子電子回路および病態の一斉検査が妥当である。各リンパ腫亜型は、免疫グロブリン(Ig)可変(V)領域変異の存在または不在により、および遺伝子発現プロファイルにより判断した場合、特定の分化段階でB細胞と表現型が類似している。
最も一般的なB細胞リンパ腫は、非ホジキンリンパ腫、特に:びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫、辺縁層B細胞リンパ腫(MZL)または粘膜関連リンパ組織リンパ腫(MALT)、小リンパ球性リンパ腫(慢性リンパ性白血病、CLLとしても知られる)、およびマントル細胞リンパ腫(MCL)である。
本発明は、例としてDLBCLに集中する。
【0003】
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)は、成人において最も一般的なリンパ性悪性疾患であり、非ホジキンリンパ腫の最大35%を占める。DLBCLは、臨床的および生物学的不均一性によって特徴付けられる。
不均一性は、起始細胞分類に基づいて2つの主な分子群に分類する転写的に規定された亜型において反映され、種々の臨床転帰を伴う。胚中心細胞-DLBCL亜型(GCB)は、リンパ節の暗帯の中心芽球に由来し、形質芽球細胞に由来する活性化B型DLBCL亜型(ABC)が不良転帰を伴うのに反し、より良好な転帰を伴う(Rosenwaldら、2002)。DLBCLは、60%超の患者において、CHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチンおよびプレドニゾン)などのリツキシマブ(R)を用いた化学療法レジメンで治癒でき、残りは致死であることが多い再発病または進行性疾患を発症する。したがって、高リスク/難治性DLBCLに効果的な処置を実現するために新規の治療手法が依然として必要とされる。
【0004】
本発明者らは、11個の予後的遺伝子に基づく遺伝子発現プロファイル(GEP)ベースのリスク点数である、特にDLBCL対象のための鉄スコアを開発した。鉄は、酸素検知、エネルギー代謝、呼吸および葉酸代謝を含めた多くの必須細胞機能において中心的役割を果たし、細胞増殖にも必要とされ、DNA合成およびDNA修復に関与するいくつかの酵素の補助因子として作用する。本発明の鉄スコアは、不良転帰のDLBCL患者の特定を可能にし、標的療法から恩恵を受けることができる。加えて、本発明者らは、従来治療と比較して、鉄キレート剤であるイロノマイシンが、微環境由来の非腫瘍細胞の主要毒性なしに、かつ造血系幹細胞に低い毒性を示す、患者の生存初代DLBCL細胞の中央値を顕著に減少することを実証した。興味深いことには、本発明者らは、イロノマイシンをドキソルビシンと合わせたときに大きな相乗的効果を特定したが、ベネトクラクス、イデラリシブ、イブルチニブ、およびエントプレチニブの場合でも特定した。
全体的に見て、これらのデータは、高リスクのDLBCL患者サブグループが鉄スコアによって特定でき、鉄代謝の阻害因子を含む処置から恩恵を受けることができることを実証した。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第1の目的は、特に再発および/または死亡などの不良転帰を有する対象を特定するための、B細胞リンパ腫、特にDLBCLを有する対象における予後マーカーとしての、鉄代謝に関与するHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される、鉄代謝に関与する少なくとも1つの遺伝子および/またはタンパク質、特に少なくとも1つの遺伝子および/または表3に列挙する62個の遺伝子によってコードされるタンパク質、好ましくは少なくとも1つの遺伝子、特に少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子の発現レベルに基づく鉄スコアの使用である。
【0006】
特定の実施形態において、本発明は、特に再発および/または死亡などの不良転帰を有するDLBCL対象を特定するための、DLBCL対象における予後マーカーとしての、鉄代謝に関与するHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子および/または前記少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルに基づく鉄スコアの使用に関する。
【0007】
本発明はまた、鉄代謝を標的とする治療処置から恩恵を受けることができる不良転帰を有するB細胞リンパ腫の対象、特に不良転帰を有するDLBCL対象を特定するためのインビトロ方法であって、
a)前記対象から得られた生体試料中の、鉄代謝に関与するHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも1つ、特に少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子および/または前記少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルを測定する工程と、
b)工程a)で得られた前記発現レベルからスコア値を計算する工程と、
c)所定の参照値と比較したスコア値に従って不良転帰を有する前記対象を分類および特定する工程と
を含む、方法にも関する。
【0008】
特定の実施形態において、本発明は、鉄代謝を標的とする治療処置から恩恵を受けることができる不良転帰を有するDLBCL対象を特定するためのインビトロ方法であって、
a)前記対象から得られた生体試料中の、鉄代謝に関与するHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子および/または前記少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルを測定する工程と、
b)工程a)で得られた前記発現レベルからスコア値を計算する工程と、
c)所定の参照値と比較したスコア値に従って不良転帰を有する前記対象を分類および特定する工程と
を含む、方法に関する。
【0009】
本発明の別の主題は、B細胞リンパ腫、特に高リスクのびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)を有し、鉄代謝を標的とする治療処置を受ける対象における前記処置の効力を監視するためのインビトロ方法であって、
a)対象が前記鉄代謝を標的とする治療処置を投与される前または投与中または投与された後の時点T1で、前記対象から得られた生体試料中の、鉄代謝に関与するHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも1つ、特に少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子および/または前記少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルを測定する工程と、
b)工程a)で得られた前記発現レベルからT1の時点のスコア値を計算する工程と、
c)対象が前記鉄代謝を標的とする治療処置を投与される前または投与中または投与された後の時点T2で、前記対象から得られた生体試料中の、鉄代謝に関与するHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも1つ、特に少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子および/または前記少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルを測定し、前記時点T2が前記時点T1より後にある、工程と、
d)工程c)で得られた前記発現レベルからT2の時点のスコア値を計算する工程と、
e)工程d)で得られたT2のスコア値と工程b)で得られたT1のスコア値との比較に基づいて治療処置の効力を評価する工程と
を含む、方法である。
【0010】
特定の実施形態において、本発明は、高リスクのびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)を有し、鉄代謝を標的とする治療処置を受ける対象における前記処置の効力を監視するためのインビトロ方法であって、
a)対象が前記鉄代謝を標的とする治療処置を投与される前または投与中または投与された後の時点T1で、前記対象から得られた生体試料中の、鉄代謝に関与するHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子および/または前記少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルを測定する工程と、
b)工程a)で得られた前記発現レベルからT1の時点のスコア値を計算する工程と、
c)対象が前記鉄代謝を標的とする治療処置を投与される前または投与中または投与された後の時点T2で、前記対象から得られた生体試料中の、鉄代謝に関与するHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子および/または前記少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルを測定し、前記時点T2が前記時点T1より後にある、工程と、
d)工程c)で得られた前記発現レベルからT2の時点のスコア値を計算する工程と、
e)工程d)で得られたT2のスコア値と工程b)で得られたT1のスコア値との比較に基づいて治療処置の効力を評価する工程と
を含む、方法に関する。
【0011】
本発明のインビトロ方法は、データの正規化のために1つ以上のハウスキーピング遺伝子を含んでもよい。
「ハウスキーピング遺伝子」とは、細胞に常に必要とされるタンパク質をコードし、したがって細胞に必須であり、常にいかなる条件下にも存在するため、多くのまたはすべての公知の条件にわたって比較的一定のレベルで構成的に発現される遺伝子を意味する。該ハウスキーピング遺伝子の発現は、実験条件による影響を受けないと仮定する。該ハウスキーピング遺伝子がコードするタンパク質は一般に、細胞の栄養または維持に必要な基本機能に関与する。本発明の方法において使用され得るハウスキーピング遺伝子の非限定例としては:
- HPRT1(ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ1)、
- UBC(ユビキチンC)、
- YWHAZ(チロシン3-モノオキシゲナーゼ/トリプトファン5-モノオキシゲナーゼ活性化タンパク質、ゼータポリペプチド)、
- B2M(β-2-ミクログロブリン)、
- GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)、
- FPGS(葉酸ポリグルタミン酸シンターゼ)、
- DECR1(2,4-ジエノイルCoAレダクターゼ1、ミトコンドリア)、
- PPIB(ペプチジルプロリルイソメラーゼB(サイクロフィリンB))、
- ACTB(アクチンβ)、
- PSMB2(プロテアソーム(プロソーム、マクロパイン)サブユニット、ベータタイプ、2)、
- GPS1(Gタンパク質経路サプレッサー1)、
- CANX(カルネキシン)、
- NACA(新生ポリペプチド会合錯体アルファサブユニット)、
- TAX1BP1(Tax1(ヒトT細胞白血病ウイルスタイプI)結合タンパク質1)、および
- PSMD2(プロテアソーム(プロソーム、マクロパイン)26Sサブユニット、非ATPアーゼ、2)
が挙げられる。
該ハウスキーピング遺伝子が発現プロフィールに加えられる場合(必ずしも必要とは限らない)、これは正規化を目的として使用される。この場合、本発明による方法における正規化に使用されるハウスキーピング遺伝子の数は、好ましくは1~5つを占め、優先的には3つである。
【0012】
本発明のインビトロ方法は、本発明により「予後遺伝子」または「対象となる遺伝子」とも呼ばれる、転帰予測に有用な少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10個または11個の遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む。
【0013】
本発明はまた、特にDLBCL対象のための本発明によるインビトロ方法に専用のキットであって、前記対象の試料中のHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも1つ、好ましくは少なくとも5つ、より好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは少なくとも11個の遺伝子および/またはタンパク質の発現レベルを決定するための試薬を含むまたはからなるキットにも関する。
【0014】
本発明はまた、B細胞リンパ腫、特にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫、辺縁層B細胞リンパ腫(MZL)、または粘膜関連リンパ組織リンパ腫(MALT)、小リンパ球性リンパ腫(慢性リンパ球性白血病、CLLとしても知られる)、およびマントル細胞リンパ腫(MCL)を有する対象、好ましくはDLBCLを有する対象を処置するための方法において使用するための、薬学的に許容されるビヒクル中に、特にデフェラシロクス、デフェロキサミン、デフェリプロン、サリノマイシン、これらの類似体または誘導体、好ましくはサリノマイシンおよびサリノマイシンの窒素含有類似体からなる群の中で選択される鉄代謝を標的とする分子、特に鉄キレート剤およびリソソーム鉄を封鎖する小分子を含む医薬組成物にも関する。
特定の実施形態において、医薬組成物は、鉄スコアに従って不良転帰を有し、結果的にB細胞リンパ腫の再発および/または致死、特にDLBCLの再発および/または致死を示す可能性が高いとして、本発明のインビトロ方法に従って特定されるB細胞リンパ腫対象を処置するための方法において使用される。
【0015】
本発明の別の主題は、特に本発明のインビトロ方法に従って不良転帰を有するDLBCL対象において、B細胞リンパ腫、好ましくはDLBCLの処置における医薬として同時、個別、または交互に使用するための組み合わせ(併用)製品としての、
(i)鉄代謝を標的とする分子、特に鉄キレート剤またはリソソーム鉄を封鎖する小分子と、
(ii)化学療法、標的処置、免疫療法、およびこれらの組み合わせにおいて使用される薬剤からなる群から選択される別の抗癌剤と
を含む、医薬品である。
【0016】
本発明はまた、上で特定した遺伝子および/またはタンパク質の上記発現レベルに基づいて本発明のインビトロ方法を実施するためのシステム(およびコンピューターシステムを引き起こすためのコンピューター可読媒体)にも関する。
特に、システムは、コンピューターおよび/または計算機などの機械可読メモリー、ならびに本発明による、R Maxstat機能およびCox多変数関数を算出するように構成されたプロセッサを含む。このシステムは、特にB細胞リンパ腫の不良転帰を有する対象を特定するための本発明によるインビトロ方法の実施に専用である。
特に、B細胞リンパ腫、特にDLBCLに罹患している対象の生体試料を分析するためのシステム1は:
(a)生体試料を受け取り、本発明に開示する予後遺伝子および任意の1つ以上のハウスキーピング遺伝子に関する発現レベル情報を決定するように構成された決定モジュール2と、
(b)決定モジュールからの発現レベル情報を保存するように構成された記憶装置3と、
(c)記憶装置に保存された発現レベル情報を参照データと比較するように適応され、対象の転帰を示す比較結果を提供する比較モジュール4と、
(d)使用者の比較結果に部分的に基づく内容であって、対象の転帰のシグナルを示す内容を表示するための表示モジュール5と
を含む。
【0017】
定義
用語「対象」または「患者」または「個人」は、年齢または性別を問わないヒト対象を指す。対象は、B細胞リンパ腫に罹患している。対象は、既に任意の化学療法薬による処置を受けていてもよく、または依然として未処置であってもよい。
用語「DLBCL対象」は、早期から末期段階のDLBCLのDLBCL対象の集団に由来するDLBCLを有する対象であって、治療処置を受けるまたは受けない対象、特にDLBCLの再発を経験しているDLBCL対象を指す。
【0018】
本発明による「鉄スコア」は、GEP(遺伝子発現プロファイル)ベース鉄スコアであり、プローブセットMaxstat値の上下の患者シグナル±1で秤量した各予後的遺伝子のCoxモデルのベータ係数の合計によって規定される。
「予後マーカー」とは、対象の転帰の評価に適切なマーカーを意味する。特に、本発明においてB細胞リンパ腫の対象に異なった形で発現されたことが特定された1~11個の遺伝子および/またはタンパク質の発現プロファイルまたは発現レベルは、「不良予後」を有する対象から「良好な予後」を有する対象を特定することを可能にする予後マーカーを表す。
【0019】
対象の転帰を評価する情報が特定されたDLBCLの11個の遺伝子は、本開示において、「対象となる遺伝子」または「予後遺伝子」または「予後的遺伝子」とも呼ばれる。
本発明による「予後良好」または「転帰良好」とは、対象の生存を意味する。
本発明による「予後不良」または「不良転帰」とは、対象の「疾病再発」または「死亡」を意味する。
【0020】
本発明による「鉄代謝を標的とする治療処置」は、鉄キレート剤およびリソソーム鉄を封鎖する小分子を包含する。該分子の例を、本開示において後に例示する。
用語「処置する」または「処置」は、B細胞リンパ腫、特にDLBCLの進行を安定化、緩和、治癒、または低減することを意味する。
本発明による「生体試料」は、対象、特に細胞培養物、細胞株、組織生検または血液もしくは骨髄などの流体から得た、単離したまたは採取した生体試料を指す。特に、生体試料は、リンパ節もしくは脾臓を含む組織生検または血液もしくは骨髄などのリンパ球Bを含む流体である。
【0021】
「参照試料」とは、臨床転帰(すなわち、無病生存率(DFS)の期間または無イベント生存率(EFS)もしくは全生存率(OS)または両方)が既知の患者の生体試料を意味する。好ましくは、参照試料のプールは、少なくとも1名(好ましくは数名、より好ましくは少なくとも5名、より好ましくは少なくとも6名、少なくとも7名、少なくとも8名、少なくとも9名、少なくとも10名)の「良好な転帰」の患者および少なくとも1名(好ましくは数名、より好ましくは少なくとも6名、少なくとも7名、少なくとも8名、少なくとも9名、少なくとも10名)の「悪い転帰」の患者を含む。参照試料の数が多いほど、本発明に従って試験した対象の転帰の予測方法の信頼性が高い。
予後遺伝子の発現プロファイルが評価される前記参照試料(B細胞リンパ腫対象の採取試料)は、所定の参照値(さらに開示するPREVおよびPREL)の測定を可能にし、これらは比較の目的に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】DLBCL患者における鉄スコアの予後値。 Lenz R-CHOPコホート(n=233)の患者を、増加した鉄スコアに応じて格付けし、0.16872の鉄スコアでOS(全生存率)における最大差が得られ(カットポイントとも呼ばれる)、患者を高リスク群と低リスク群とに分ける(A)。鉄スコアはまた、別に3つの独立コホート(Melnick R-CHOPコホート、Lenz CHOPコホートおよびFFPE R-CHOPコホート)の患者における予後値も有していた(B、CおよびD)。鉄スコアは、GCB(胚中心細胞-DLBCLサブタイプ)のDLBCL患者と比較してABC(活性化B細胞-DLBCLサブタイプ)で顕著に高い(E)。
図2】DLBCLを有する患者における予後値を表す鉄のホメオスタシスに関与する遺伝子。 図2Aは、11個の予後遺伝子の研究および選択の図式モデルを表す。ALAS1、HIF1A、およびLRP2を含めた3つの遺伝子の高発現は、良好な予後に関連していた(図2B)。反対に、8つの遺伝子:HMOX1、HMOX2、HFE、ISCA1、SLC25A37、PPOX、STEAP1およびTMPRSS6の高発現は、不良予後に関連していた(図2C)。
図3】鉄キレート剤およびイロノマイシンは、DLBCL細胞増殖を阻害する。 DLBCL細胞を、種々の濃度の鉄キレート剤またはビヒクルを用いて96Hインキュベートした。デフェロキサミン(A)、デフェラシロクス(B)およびイロノマイシン(C)で処置した後の濃度-応答曲線を用いて阻害濃度50%(IC50)を計算した。ATPアッセイの定量化を用いて細胞の生存を調べた。データは、6部構成で実施される少なくとも3つの独立実験の平均百分率+/-SEMとして表される。IC50を表6にまとめる。
図4】イロノマイシンは、G1/S細胞周期停止およびDNA損傷を誘発した。 細胞を、ビヒクル、7μMのデフェロキサミン、80μMのデフェラシロクスまたはIC50イロノマイシンを用いて72時間インキュベートした。OCI-LY3(A)およびDB細胞(B)において、フローサイトメトリーを用いて細胞周期を分析し、BrdUの投入後に抗BrdU抗体によってS期を染色し、DNA含有物を4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)によって染色した。ヒストグラムは、3つの独立実験の細胞周期の各期の平均百分率およびSEMを表す。*および**は、ペアになったスチューデントt検定により、それぞれP<0.05およびP<0.01の有意な差を示す。 細胞を、ビヒクルまたは7μMのデフェロキサミン、80μMのデフェラシロクスもしくは50nMのイロノマイシンを用いて24時間インキュベートした。DSB誘発を、リン酸化-H2A.X(Ser139)染色によって監視し、核をDAPIで染色した。フォーカスを蛍光顕微鏡検査によって視覚化した。初期の倍率は63倍である。スケールバー:10μm。1細胞当たりのリン酸化-H2A.X(Ser139)を超えるフォーカスを有する細胞の百分率(±SEM)をヒストグラムに表示する。**および****は、フィッシャーの直接確率検定を用いて、それぞれP<0.01およびP<0.0001の有意な差異を示す。NS:有意でない(C)。 細胞を鉄キレート剤(80μMのデフェラシロクス)ならびにイロノマイシン(20nMおよび100nM)で24H処置した。リン酸化-H2A.X(S139)のタンパク質レベルをウエスタンブロットによって分析した(D)。 DBおよびOCI-LY3 DLBCL由来細胞株を50nMのイロノマイシンで24H処置した。リン酸化RPA2 T21、S期(EdU統合)のフォーカスの免疫蛍光染色およびDAPIをDLBCL細胞中で実施した(倍率63倍)。スケールバー:10μm。1細胞当たり10個を超えるリン酸化RPA2 T21フォーカスを有する細胞の百分率をヒストグラムに表示する(E)。 少なくとも300細胞が、それぞれの群で計数された。統計学的差異は、フィッシャーの直接確率検定を用いて試験した。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。NS:有意でない。
図5】イロノマイシンは、欠陥のあるDNA複製フォークの進行を誘発する。 DBおよびOCI-LY3細胞をIdUで標識化し、ビヒクル、ゲムシタビン(10μM)またはイロノマイシン(100μM)で処置し、CldUで標識化し(それぞれ30分)、次いでDNA繊維アッセイのために採取した(AおよびB)。 DB細胞を前処置し、または30分間のデオキシヌクレオチドによらず、IdUで標識化し、ビヒクル、ゲムシタビン(10μM)またはイロノマイシン(100μM)で処置し、CldUで標識化し(それぞれ30分)、次いでDNA繊維アッセイのために採取した(CおよびD)。 ボックスプロットは、中心値±四分位範囲を表し、ドットは、トラック長の外れ値(μmで表す)を表す。結果は、少なくとも200トラックの測定値を表す。*P<0.05、****P<0.0001、NS:有意でない、マン‐ホイットニー検定法。
図6】イロノマイシンは、DLBCL初代細胞上の有意な毒性を表し、ドキソルビシン細胞毒性の可能性を持たせる。 DB(DLBCL由来の細胞株)を、ドキソルビシンと組み合わせた高濃度のイロノマイシンで96H処置し、細胞の生存をATP定量化によって試験して、生存率マトリックスを得た。相乗作用マトリックスは、Material and Methodsに記載されるとおりに計算した(A)。 初代DLBCL細胞をイロノマイシンおよび/またはドキソルビシンで処置し、CD40Lで96Hインキュベートした。腫瘍細胞(B)をフローサイトメトリー(Material and Methodに記載)によって分析し、対照の%で表した。 造血前駆細胞コロニー形成単位アッセイを、5名のドナーのアフェレーシスからのCD34+細胞で実施した。細胞を、従来の化学療法またはイロノマイシンを用いて、または用いずにヒドロキシル-メチル-セルロース媒体中で培養した。CFU-C、CFU-EおよびCFU-GMを14日間の培養後に計数した(C)。 結果は、5名の患者の各集団細胞の中央値±IQRを表す。統計的有意性は、ペアのt検定を用いて試験した:*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001およびNS:有意でない。
図7】イロノマイシンは、患者の初代DLBCL細胞の死亡率を誘発する。 DLBCL患者の初代試料を、50nMおよび100nMのイロノマイシンの存在下または不在下で、微環境組み換え型CD40Lを用いて培養した。各個人患者の悪性DLBCL細胞の百分率をフローサイトメトリーによって分析し、対照の%で表す(A)。表は、患者の特性を表す(B)。イロノマイシン単独またはドキソルビシンとの組み合わせの正常CD3+細胞への効果をフローサイトメトリーによって評価した(C)。
図8】イロノマイシンとベネトクラクス(Bcl2阻害因子)との相乗的効果。 3種のDLBCL由来の細胞株を、ベネトクラクスと組み合わせた高濃度のイロノマイシンで96H処置し、細胞生存率をATP定量化によって試験して生存率マトリックスを得た。相乗作用マトリックスを、Material and Methodsに記載されるとおりに計算した。図8A:U2932細胞株;図8B:DB細胞株;図8C:OCI-LY3細胞株。
図9】イロノマイシンとイブルチニブ(BTK阻害因子)との相乗的効果。 2種のDLBCL由来の細胞株を、イブルチニブと組み合わせた高濃度のイロノマイシンで96H処置し、細胞生存率をATP定量化によって試験して生存率マトリックスを得た。相乗作用マトリックスをMaterial and Methodsに記載されるとおりに計算した。図9A:U2932細胞株;図8B:DB細胞株。
図10】イロノマイシンとエントスプレチニブ(Syk阻害因子)との相乗的効果。 2種のDLBCL由来の細胞株を、ベネトクラクスと組み合わせた高濃度のイロノマイシンで96H処置し、細胞生存率をATP定量化によって試験して生存率マトリックスを得た。相乗作用マトリックスを、Material and Methodsに記載されるとおりに計算した。図10A:U2932細胞株;図10B:DB細胞株。
図11】イロノマイシンとイデラリシブ(P13K阻害因子)との相乗的効果。 3種のDLBCL由来の細胞株を、ベネトクラクスと組み合わせた高濃度のイロノマイシンで96H処置し、細胞生存率をATP定量化によって試験して生存率マトリックスを得た。相乗作用マトリックスを、Material and Methodsに記載されるとおりに計算した。図11A:U2932細胞株;図11B:DB細胞株;図11C:OCI-LY3細胞株。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは、健常な対象(正常なB細胞)と比較してDLBCLを有する個人(DLBCL細胞)において異なった形で発現する鉄代謝に関与する11個の遺伝子群および/またはタンパク質群を特定した。この遺伝子発現プロファイル(GEP)ベースのリスク点数は、有利には、鉄阻害因子を含む標的処置(オーダーメイド医療とも呼ばれる)の恩恵を受け得る不良転帰を有する対象を特定するために使用することができる。スコア値は、Cox統計モデルに基づいて、各遺伝子またはタンパク質のベータ係数を考慮して計算した。
【0024】
実施例で例示するように、本発明者らは、鉄生物学の調節に関与する62個の遺伝子のリストから、Maxstat R機能およびBenjamini Hochberg多重検定補正を用いて、DLBCL患者の2つの独立コホートの予後値(それぞれn=233およびn=181)を実証する11個の遺伝子を特定した。
【0025】
特に、本発明者らは:
- ALAS1(アミノレブリン酸、デルタ-シンターゼ1)、HIF1A(低酸素誘導因子1、αサブユニット)、およびLRP2(低比重リポタンパク関連タンパク質2)を含めた3つの遺伝子の高い発現が、良好な予後(「良好な転帰」)に関連したことと、
- 8つの遺伝子:HMOX1(ヘムオキシゲナーゼ(デサイクリング)1)、HMOX2(ヘムオキシゲナーゼ(デサイクリング)2)、HFE(ヘモクロマトーシス)、ISCA1(鉄-硫黄クラスターアセンブリー1ホモログ)、SLC25A37(溶質キャリアファミリー25(ミトコンドリア鉄トランスポーター)、メンバー37)(MSCP(ミトコンドリア溶質キャリアタンパク質)とも呼ばれる)、PPOX(プロトポルフィリノーゲンオキシダーゼ)、STEAP1(前立腺6回膜貫通型上皮抗原1)およびTMPRSS6(膜貫通プロテアーゼ、セリン6)の高い発現が、不良予後(「不良転帰」)に関連したことと
を実証した。
【0026】
したがって、本発明は、特に再発および/または死亡などの不良転帰を有する対象を特定するための、B細胞リンパ腫、特にDLBCLを有する対象における予後マーカーとしての、鉄代謝に関与するHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも2つの遺伝子、特に少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子および/または前記少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルに基づく鉄スコアの使用に関する。
【0027】
本発明に従って鉄スコア値によって特定された再発および/または死亡などの不良転帰を有する該B細胞リンパ腫対象、特にDLBCL対象は、有利には、鉄代謝の阻害因子を含む標的治療処置によって処置され得る。
特定の実施形態において、前記標的治療処置は、鉄代謝を標的とする分子、特にデフェラシロクス、デフェロキサミン、デフェリプロン、サリノマイシン、これらの類似体または誘導体、好ましくはサリノマイシンおよび窒素含有サリノマイシン誘導体からなる群の中で選択される特に鉄キレート剤またはリソソーム鉄を封鎖する小分子を含む。
本発明による「鉄代謝を標的とする分子」とは、特に鉄キレート剤およびリソソーム鉄を封鎖する小分子を意味する。鉄キレート剤は、鉄と可逆的に相互作用しやすい小分子である。また、リソソーム鉄を封鎖する小分子は、このオルガネラ中の金属をブロックできるエンドソーム/リソソーム区画中に蓄積するルース鉄バインダーである。そのような化合物の例を、本明細書中で後に開示する。
本発明による「これらの誘導体」とは、より強力な作用を示し、正常細胞に対して潜在的により低い毒性を示すサリノマイシンに化学的に由来する合成小分子を意味する。
「少なくとも1つ、特に少なくとも5つ」の遺伝子および/またはタンパク質とは、1、2、3、4、特に5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15個の遺伝子、または5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15個のタンパク質を意味する。
【0028】
ある実施形態では、HMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される2つの遺伝子および/または前記遺伝子によってコードされるタンパク質の組み合わせが評価される。
ある実施形態では、HMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される3つの遺伝子および/または前記遺伝子によってコードされるタンパク質の組み合わせが評価される。
ある実施形態では、HMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される4つの遺伝子および/または前記遺伝子によってコードされるタンパク質の組み合わせが評価される。
ある実施形態では、HMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される5つの遺伝子および/または前記遺伝子によってコードされるタンパク質の組み合わせが評価される。
別の実施形態では、HMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される6つの遺伝子および/または前記遺伝子によってコードされるタンパク質の組み合わせが評価される。
別の実施形態では、HMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される7つの遺伝子および/または前記遺伝子によってコードされるタンパク質の組み合わせが評価される。
別の実施形態では、HMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される8つの遺伝子および/または前記遺伝子によってコードされるタンパク質の組み合わせが評価される。
別の実施形態では、HMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される9つの遺伝子および/または前記遺伝子によってコードされるタンパク質の組み合わせが評価される。
別の実施形態では、HMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される10個の遺伝子および/または前記遺伝子によってコードされるタンパク質の組み合わせが評価される。
別の好ましい実施形態では、HMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される11個の遺伝子および/または前記遺伝子によってコードされるタンパク質の組み合わせが評価される。
【0029】
各遺伝子のNCBI参照を以下の表1に記載する:
【表1】
【0030】
対象とする前記遺伝子群またはタンパク質群(「予後遺伝子」)の発現レベル
そのような測定は、対象の試料から開始してインビトロで行われ、試料の変形を必要とする。実際、試料の何らかの変形なしには、ある程度の特異遺伝子発現レベルを得ることはできない。ほとんどの技術は、対象となるRNAに特異的に結合する試薬の使用に依存し、その結果、検出試薬をさらに含む修飾試薬が得られる。加えて、ほとんどの技術は、特異試薬と結合する前の対象の試料からのRNAの予備抽出も要する。したがって、特許請求の範囲で請求される方法は、対象の試料からRNAを抽出する予備工程も含み得る。
【0031】
本発明による、特にHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される遺伝子群および/またはタンパク質群の発現レベルは、一般的に使用される任意の技術によって測定することができる。
【0032】
前記遺伝子の存在またはレベルは、当業者に公知の通常の方法によって決定される。特に、各遺伝子発現レベルは、ゲノムおよび/または核および/またはタンパク質レベルで測定することができる。好ましい実施形態において、発現プロファイルは、PCR、定量PCR(qPCR)、NGS(次世代シーケンシング(NGS))およびRNAシーケンシングなどの各遺伝子の核酸転写物の量を測定することによって決定される。別の実施形態では、発現プロファイルは、各遺伝子によって生成されたタンパク質の量を測定することによって決定される。
核酸転写物の量は、当業者に公知の任意の技術によって測定することができる。特に、測定は、抽出されたメッセンジャーRNA(mRNA)試料上で直接、または当該技術分野において周知の技術によって抽出されたmRNAから調製されたレトロ転写(retrotranscribed)相補的DNA(cDNA)上で実施することができる。mRNAまたはcDNA試料から、核酸転写物の量を、核マイクロアレイ、定量PCR、次世代シーケンシングおよび標識プローブを用いたハイブリダイゼーションを含めた当業者に公知の任意の技術を使用して測定することができる。
上で開示する対象となる遺伝子を包含するDNA単位複製配列のためのPCRプライマーは、NCBIから得たゲノム配列を使用して設計された。
特に、各遺伝子群のmRNA発現レベルは、好適なプライマーまたは各遺伝子mRNAに特異的なプローブを使用する、ハイブリダイゼーション技術および/または増幅技術(PCR)などの当業者に周知の技術によって実施され得る。
例証として、mRNAは、例えば溶菌酵素もしくは化学溶液を使用して抽出してもよく、または製造業者の取扱説明書に従って市販の核酸結合樹脂によって抽出してもよい。抽出したmRNAは、後続して、ノーザンブロットおよび/または増幅法(定量または半定量RT-PCR)などのハイブリダイゼーションによって検出することができる。他の増幅法としては、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写仲介増幅(TMA)、鎖置換増幅(SDA)および核酸配列ベース増幅(NASBA)が挙げられる。いくつかの実施形態において、対象となる各遺伝子のmRNA発現レベルは、一逆転写酵素により、テンプレートとして、前記mRNAから合成されたcDNAの定量化によって測定することができる。
mRNAの量は、mRNAマイクロアレイ、定量PCR、次世代シーケンシングおよび標識プローブを用いたハイブリダイゼーションを含めた当業者に公知の任意の技術によって測定することができる。特に、リアルタイム定量RT-PCR(qRT-PCR)が有用であり得る。いくつかの実施形態では、qRT-PCRを、RNA標的の検出および定量化の両方に使用することができる。市販のqRT-PCRをベースとする方法(例えば、Taqman(登録商標)Array)を、例として用いることができ、プライマーおよび/またはプローブの設計は、上で開示した「予後的遺伝子」の配列に基づいて容易に作製される。
mRNAアッセイまたはアレイも、試料中のmRNAのレベルを評価するために使用することができる。
【0033】
いくつかの実施形態において、mRNAオリゴヌクレオチドアレイを作製しても、購入してもよい。アレイは、典型的には、固体支持体および支持体を接触させる少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含有し、オリゴヌクレオチドは、少なくとも一部のmRNAに対応する。
試料中のmRNAの存在を決定するために任意の好適なアッセイプラットフォームを使用することができる。例えば、アッセイは、メンブレン、チップ、ディスク、試験片、フィルター、微小球、マルチウェルプレートなどの形態であってもよい。アッセイシステムは、mRNAに対応するオリゴヌクレオチドが結合されている固体支持体を有していてもよい。固体支持体は、例えば、プラスチック、シリコン、金属、樹脂、またはガラスを含んでもよい。アッセイ部品を作製し、mRNAを検出するためのキットとして一緒に包装することができる。標的核酸試料の発現プロファイルを決定するために、前記試料を標的化し、ハイブリダイゼーション条件下でマイクロアレイと接触させ、マイクロアレイ表面に結合されたプローブ配列に補完的な標的核酸間に錯体の形成をもたらす。次いで標的化した混成錯体の存在を検出する。マイクロアレイハイブリダイゼーション技術の多くの変形体が当業者に利用可能である。
マイクロアレイまたはRNAシーケンシングによってmRNAの量を決定するための方法も使用してよい。ある種の実施形態において、増幅によって得られる二本鎖核酸間の錯体および蛍光SYBR(登録商標)分子を得ることができ、次いで前記増幅核酸と錯体を形成するSYBR(登録商標)分子によって発生される蛍光シグナルを測定することができる。各遺伝子mRNAに特異的な好適なプライマーの同定は、当業者にとっての通常業務からなる。
特定の実施形態において、DLBCL対象の例で例示したように、マイクロアレイによってmRNAの量を決定する方法は、上で開示した11個の特定の予後的遺伝子のプローブセットを使用する。2.0マイクロアレイおよび前記11個の特定の予後的遺伝子に関連するプローブセットIDをプラスしたAffymetrix HG-U133を挙げることができる。特定の実施形態において、マイクロアレイによってmRNAの量を決定する方法は、さらなる例において例示されるように、11個の特定の予後的遺伝子のための12個のプローブセット(1つの遺伝子に対して2つのプローブセットを含む)を使用する。
【0034】
いくつかの実施形態において、ハイブリダイゼーションによる検出は、蛍光プローブ、酵素反応または他の配位子(例えば、アビジン/ビオチン)などの検出可能な標識を用いて実施してもよい。
前記タンパク質の存在またはレベルは、前記タンパク質に特異的に結合する任意のタイプの配位子分子(核酸(例えば、周知のSELEX法を通して結合するように選択された核酸)、抗体および抗体フラグメントを含む)の手段による対象となるタンパク質の検出および定量化を含めた周知の技術によって測定することができる。対象となる前記所与のタンパク質に対する抗体は、抗体産生ハイブリドーマの発生を含めた従来の技術によって容易に得ることができる。
【0035】
したがって、好ましい実施形態において、マーカーの発現は、例えば:
- 放射性標識抗体、特に、例えば3H、121I、123I、14Cまたは32Pを含む群の中で選択することができる本発明に適した放射性部分;
- 発色団標識または蛍光団標識抗体(本発明に適した発光マーカー、特に蛍光マーカーは、フルオレセイン、蛍光プローブ、クマリンおよびその誘導体、フィコエリトリンおよびその誘導体、またはGFPもしくはDsRedなどの蛍光タンパク質などの分野において一般的に使用される任意のマーカーであり得る);
- ポリマー骨格抗体;
- 酵素標識抗体(本発明に適した前記標識酵素は、アルカリホスファターゼ、チロシナーゼ、ペルオキシダーゼ、またはグルコシダーゼであってもよく、例えば、好適なアビジン標識酵素は、アビジン-セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)であってもよく、好適な基質は、AEC、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェート(BCIP)、ニトロブルーテトラゾリウムクロリド(NBT)であってもよい);
- 抗体誘導体、例えば基質とまたはタンパク質もしくはタンパク質-配位子対の配位子と共役した抗体、特にビオチン、ストレプトアビジンまたはポリヒスチジンタグを結合する抗体;
- 抗体フラグメント、例えば、一本鎖抗体、単離抗体超可変領域など(正常な翻訳後修飾の全部または一部を経たマーカータンパク質を含めたマーカータンパク質またはそのフラグメントに特異的に結合する)
を使用して評価される。
【0036】
特定の好ましい実施形態において、マーカーの発現は、GFP蛍光タンパク質を使用して評価される。
生物学的マーカータンパク質を検出するためのインビトロ技術としては、酵素免疫吸着法(ELISA)、ウエスタンブロット法、免疫沈降および免疫蛍光法が挙げられる。
特に好ましい実施形態において、本発明による対象となる前記遺伝子の発現レベルの検出および定量化のための好ましいインビトロ方法としては、マイクロアレイ法、NGS、RNAシーケンシングおよびPCR技術が挙げられる。
【0037】
対象となる遺伝子またはタンパク質の前記発現レベルからのスコア値(「鉄スコア」)の計算
上で定義する「予後遺伝子」の発現レベルに基づく、本発明によるスコア値または「予後スコア」または「鉄スコア」は、B細胞リンパ腫対象を「良好な転帰」または「悪い転帰」への分類を助ける。
「悪い転帰」に関連する遺伝子の発現が低くなるほど、対象の生存率は高くなる。したがって、鉄スコアのレベルが高いほど、対象は、鉄代謝を標的とする処置に応答する傾向が強くなる。好ましい実施形態において、対象は、そのようにして「不良転帰」を有すると予測され得、結果的に、患者の試料中の前記予後遺伝子の発現レベルと1つ以上の閾値(所定の参照値PREV)との比較に基づく鉄代謝を標的とする処置に応答する可能性が高くなる。
特定の実施形態において、患者は、鉄スコアが閾値より高い場合に不良転帰を有すると見なされる。そのような閾値は、上で定義したように、参照試料のプールに基づいて決定することができる。この実施形態では、患者は、予後遺伝子の前記発現レベルに基づき、この発現レベルが前記閾値より低いかまたは高いかに応じて2つの群に分類される。閾値より高い鉄スコアを有する患者は、不良転帰を有すると見なされ、鉄代謝を標的とする処置に応答する可能性が高い。
【0038】
別の実施形態では、方法は、前記予後遺伝子の発現レベルに基づいて予後的スコアを決定することをさらに含み、ここで、予後的スコアは、患者が不良転帰を有するかを示す。特に、前記予後スコアは、所定の閾値(PREVまたはPREL)より高い場合または低い場合(二分された結果)に患者が不良転帰または悪い転帰を有する可能性が高いかを示すことができる。結果として、予後スコアは、本発明の前記予後遺伝子の発現レベルと上記の参照試料のプールの無進行生存率(PFS)または全生存率(OS)との間の相関性の分析に基づいて決定することができる。そのため、PFSまたはOSと本発明の前記予後遺伝子の発現レベルとの相関性を持つ関数であるPFSおよび/またはOSスコアは、対象の転帰を予測するための予後スコアとして使用することができる。
【0039】
本発明に従い、上で開示される、対象となる11個の遺伝子および/またはタンパク質の各組み合わせの発現レベルは、本発明において「鉄スコア」とも呼ばれるスコア値と関連し得る。
B細胞リンパ腫、特にDLBCL対象から得られた生体試料中の、HMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも2つ、特に少なくとも5つまたはそれより多くの遺伝子および/または前記5つ以上の遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルの測定(方法の工程a))の後、スコア値の算出を、以下の工程:
i)工程a)で決定した発現レベルを所定の参照発現レベル(PREL)と比較する工程と、
ii)以下の式:
【数1】
[式中、
- nは、発現レベルが測定された遺伝子および/またはタンパク質の数を表し、すなわち、nは1~11、特に5~11を占め、
- βiは、所与の遺伝子またはタンパク質の回帰β係数参照値を表し、
- Ciは、前記遺伝子またはタンパク質の発現レベルが所定の参照レベル(PREL)より高い場合に「1」を表し、またはCiは、遺伝子またはタンパク質の発現レベルが所定の参照レベル(PREL)以下である場合に「-1」を表す]
を有するスコア値(「鉄スコア」)を計算する工程と
を含む方法によって実施することができる。
【0040】
所定の参照レベル(PREL)は、多くの場合、「Maxstat値」または「Maxstatカットポイント」と称される。
【0041】
いくつかの実施形態において、良好な予後状態または「良好な転帰」は、所定の参照値(PRV)以下のスコア値を有する個人を指す。
いくつかの実施形態において、悪い予後状態または「悪い転帰」は、所定の参照値(PRV)より高いスコア値を有する個人を指す。
「回帰β係数参照値」は、生存率データを分析するためのモデリング手法に基づく周知の統計Coxモデルを使用して、各遺伝子またはタンパク質について、当業者によって容易に決定することができる。モデルの目的は、いくつかの変数の生存率への影響を同時に調査することである。これを使用して臨床試験で患者の生存率を分析した場合、モデルは、処置の効果を他の変数の効果から切り離すことを可能にする。Coxモデルは、比例ハザード回帰分析とも称され得る。特に、このモデルは、規定の変数に対する生存期間(または、より具体的には、いわゆる「ハザード関数」)の回帰分析である。「ハザード関数」は、個人が時間間隔の始点までは生存していた場合に、個人が、短い時間間隔内で事象、例えば死を経験する確率である。したがって、時間tで死亡するリスクとして理解され得る。量h0(t)は、基線または基となるハザード関数であり、すべての規定の変数がゼロであるときに死亡する(または事象に到達する)確率に相当する。基線ハザード関数は、通常の回帰の交点に類似している(exp0=1のため)。「回帰係数β」から、規定の変数における変化に関連して、推定できるハザードに比例した変化が得られる。係数βは、最尤法と呼ばれる統計的方法によって推定される。生存率分析において、ハザード比(HR)(ハザード比=exp(β))は、2セットの規定の変数によって説明される条件に対応するハザード比の比率である。
【0042】
比較する目的で使用されるPRELまたはPRVなどの所定の参照値は、「カットオフ」値からなってもよい。
例えば、各遺伝子またはタンパク質の各参照(「カットオフ」)値PRELは、以下の工程を含む方法を実施することによって決定することができる:
a)B細胞リンパ腫、特にDLBCLに悩まされている対象(患者)由来の試料(「参照試料」)の採集物を得る工程、
b)工程a)の採集物に含まれる各試料の関連遺伝子またはタンパク質の発現レベルを決定する工程、
c)前記発現レベルに応じて試料を格付けする工程、
d)発現レベルに応じて格付けされた、数がそれぞれ増加および減少した要素のサブセットのペアで前記試料を分類する工程、
e)工程a)で得られた各試料について、B細胞リンパ腫患者、特にDLBCL患者の実際の臨床転帰に関する情報(すなわち、無病生存期間(DFS)または無イベント生存率(EFS)もしくは全生存率(OS)または両方)を提供する工程、
f)腫瘍組織試料のサブセットの各ペアについて、カプランマイヤー生存率曲線を得る工程、
g)腫瘍組織試料のサブセットの各ペアについて、両サブセット間の統計的有意性(p値)を計算する工程、
h)発現レベルの参照値PRELとして、p値が最小の発現レベルの値を選択する工程。
【0043】
例示するように、対象となる遺伝子またはタンパク質の発現レベルを、100名の対象(患者)の100個の試料(「参照試料」)について評価することができる。100個の試料は、前記所与の遺伝子またはタンパク質の発現レベルに応じて格付けされる。試料1は、最高の発現レベルを有し得、試料100は、最低の発現レベルを有し得る。第1の群化は、一方の試料Nr1と他方の他99個の試料との2つのサブセットを提供する。次の群化は、一方の試料1および2と他方の残りの98個の試料などを提供し、最後の群化:一方の試料1~99と他方の試料Nr100まで続く。対応するDLBCL患者の実際の臨床転帰に関する情報によれば、99群の2つのサブセットそれぞれについてカプランマイヤー曲線を作製することができる。また、99群それぞれについて、両サブセット間のp値を計算した。次いで、最小p値の基準に基づく識別が最も強力になるように参照値PRELを選択する。言い換えると、p値が最小の両サブセット間の境界に対応する発現レベルを参照値と考える。本発明者らによって行われた実験によれば、参照値PRELは必ずしも発現レベルの中央値ではないことに留意すべきである。
当業者はまた、参照値を得、その後に鉄代謝の阻害因子を含む本発明の標的化処置への応答を評価するためにPRVの評価に同じ技法を用いることができることも理解する。しかしながら、一実施形態において、参照値PRVはPRVの中央値である。
【0044】
次いで、本発明の例においてさらに例示するように、これらの対象となる11個の遺伝子(「予後遺伝子」)の予後情報を、GEP(遺伝子発現プロファイル)ベースの鉄スコアにおいて合わせた。「鉄スコア」は、各予後遺伝子のCoxモデルのベータ係数の合計によって規定され、前述のプローブセットMaxstat値の上下の患者シグナルに応じて±1で秤量される(Herviouら、2018)。MaxstatアルゴリズムLenz R-CHOPコホートを、全生存率(OS)における最大差で、鉄スコア>-0.168を有する39.5%の患者と鉄スコア≦-0.168を有する60.5%の患者とに分けた。Lenz R-CHOPコホート中、高リスクの鉄スコアを有する患者は、50.6カ月の中央OSを有するのに対し、低い鉄スコアを有する患者(P=3、7E-15)はそれに達しなかった。例において例示するように、鉄スコアの予後値は、OSに対する3つの追加の独立コホートで確認された。
【0045】
本発明の例においてさらに開示されるように、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(R-CHOP Lenzコホート、n=233)を有する患者における全生存率(OS)のCox単変量および多変量解析は、胚中心B細胞様亜群(GCBサブタイプ)または活性化B細胞様サブタイプ(ABCサブタイプ)、年齢およびIPI(国際予後指標)などの予後不良転帰関連因子を用いて作製した。前記予後因子を個別に(A)、2つずつ(B)、または多変量解析(全変数)において、Cox回帰モデルを使用して試験した。さらに例示する例に示すように、各条件のP値およびハザード比(HR)に基づいて、GCBまたはABCサブタイプ、年齢および多変量COX解析におけるIPIなどの他の不良転帰関連因子と比較して、鉄スコアは、独立した予後因子のままだった。全体的に見て、これらのデータは、DLBCLにおける不良転帰に関連する鉄代謝遺伝子の脱制御を強調する。
特定の実施形態において、回帰β係数参照値、ハザード比および11個の対象となる遺伝子またはタンパク質のそれぞれの参照値PREPを測定した。これらの値は、DLBCL対象の参照試料(>200個の試料)で測定したが、参照試料の数によって5~15%で変動し得る。参照試料の数が最大になると、本発明に従って試験した対象の転帰の予測方法の信頼性が高くなる。
以下の表2は、対象となる11個の各遺伝子についてのMaxstat_カットポイント、β係数およびハザード比(HR)の関連パラメータの範囲を例示する。
【0046】
【表2】

【0047】
この表2ならびに関連の図2Bおよび2Cは、遺伝子HMOX2、PPOX、TMPRSS6、SLC25A37、HFE、STEAP1が、最大ハザード比(HR>2)を有することを示し、これらの遺伝子の少なくとも2つ、3つ、4つまたは5つの発現レベルに基づく鉄スコアが、DLBCL患者にとって良好な予後マーカーになることを意味する。
スコアは、コンピュータープログラムによって生成することができ、特に鉄代謝の阻害因子を含む標的化処置の恩恵を受け得る不良転帰を有するDLBCL対象を特定するための、および/または標的化治療処置の効力をさらに監視するための、本発明によるインビトロ方法において使用することができる。
【0048】
不良転帰を有するB細胞リンパ腫対象、特に不良転帰を有するDLBCL対象を特定するための方法
本発明はまた、鉄代謝の阻害因子を含む標的化治療処置の恩恵を受け得る、不良転帰を有するB細胞リンパ腫対象、特に不良転帰を有するDLBCL対象を特定するためのインビトロ方法であって、
a)前記対照から得られる生体試料における、鉄代謝に要するHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも2つ、特に少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子および/または前記少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルを測定する工程と、
b)工程a)で得られた前記発現レベルからスコア値を計算する工程と、
c)所定の参照値と比較したスコア値に従って不良転帰を有する前記対象を分類および特定する工程と
を含む方法にも関する。
【0049】
特定の実施形態において、本発明は、鉄代謝の阻害因子を含む標的化治療処置の恩恵を受けることができる不良転帰を有するDLBCL対象を特定するためのインビトロ方法であって、
a)前記対象から得られる生体試料における、鉄代謝に要するHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子および/または前記少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルを測定する工程と、
b)工程a)で得られた前記発現レベルからスコア値を計算する工程と、
c)所定の参照値と比較したスコア値に従って不良転帰を有する前記対象を分類および特定する工程と
を含む方法に関する。
【0050】
工程a)の対象となる前記遺伝子またはタンパク質の発現レベルを、当該技術分野において周知の検出および/または定量化方法に従って測定する。そのような方法の例を上に開示する。
【0051】
工程b)のスコア値(「鉄スコア」)の計算は、上で開示するように、特に:
i)工程a)で決定した発現レベルを所定の参照発現レベル(PREL)と比較すること、
ii)以下の式:
【数2】
[式中、
- nは、発現レベルが測定された遺伝子および/またはタンパク質の数を表し、すなわちnは5~11を占め、
- βiは、所与の遺伝子またはタンパク質の回帰β係数参照値を表し、
- Ciは、前記遺伝子もしくはタンパク質の発現レベルが所定の参照レベル(PREL)より高い場合に「1」を表す、またはCiは、遺伝子もしくはタンパク質の発現レベルが所定の参照レベル(PREL)以下である場合に「-1」を表す]
を用いてスコア値を計算すること
によって行われる。
【0052】
「良好な転帰」の亜群および「悪い転帰」の亜群による対象の分類は、所定の参照値(PRV)と比較したその鉄スコア値に基づく。
本発明において、「不良転帰」を有する対象は、所定の参照値(PRV)より高いスコア値を有する個人を指す。
【0053】
特定の実施形態において、DLBCL対象の場合、鉄スコアがHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる11個の遺伝子またはタンパク質の発現レベルに基づき、所定の参照値(PRV)または「カットポイント」は-0.16872であり、上記のインビトロ方法の工程c)において、鉄スコアに従って不良転帰を有する対象が、-0.16872より高い鉄スコア値を有する者であることを意味する。
【0054】
標的化治療処置の効力を監視する方法
本発明の別の目的は、高リスクのB細胞リンパ腫、特にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)を有し、鉄代謝を標的とする治療処置を受ける対象における前記処置の効力を監視するためのインビトロ方法であって、
a)対象に前記鉄代謝を標的とする治療処置を投与する前または投与する間または投与した後の時間T1の、前記対象から得られた生体試料における、鉄代謝に要するHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも2つ、特に少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子および/または前記少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルを測定する工程、
b)工程a)で得られた前記発現レベルから時間T1の第1のスコア値を計算する工程、
c)対象に前記鉄代謝を標的とする治療処置を投与する前または投与する間または投与した後の時間T2の、前記対象から得られた生体試料における、鉄代謝に要するHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも2つ、特に少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子および/または前記少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルを測定するが、ここで、前記時間T2が前記時間T1より後にくる工程、
d)工程c)で得られた前記発現レベルから時間T2の第2のスコア値を計算する工程、
e)工程d)で得られたT2の第2のスコア値と工程b)で得られたT1の第1のスコア値との比較に基づいて治療処置の効力を評価する工程
を含む方法である。
【0055】
工程a)およびd)の本発明の対象となる遺伝子またはタンパク質の発現レベルは、上で開示するとおりに得られる。
それぞれ時間T1および時間T2の第1および第2のスコア値(鉄スコア値)は、上で開示されるとおりに得られる。
好ましい実施形態において、本発明は、高リスクのびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)を有し、鉄代謝を標的とする治療処置を受ける対象における前記処置の効力を監視するためのインビトロ方法であって、
a)対象に、DLBCLに対する活性剤および/または鉄代謝の阻害因子を含む前記治療処置を投与する前の時間T1における、前記対象から得られた生体試料中の、鉄代謝に要するHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる11個の遺伝子またはタンパク質の発現レベルを測定する工程、
b)工程a)で得られた前記発現レベルから時間T1の第1のスコア値を計算する工程、
c)対象に、DLBCLに対する活性剤および/または鉄代謝の阻害因子を含む前記治療処置を投与した後の時間T2における、前記対象から得られた生体試料中の、鉄代謝に要するHMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる11個の遺伝子またはタンパク質の発現レベルを測定し、ここで前記時間T2が前記時間T1より後にくる工程、
d)工程c)で得られた前記発現レベルから時間T2の第2のスコア値を計算する工程、
e)工程d)で得られたT2の第2のスコア値と工程b)で得られたT1の第1のスコア値との比較に基づいて治療処置の効力を評価する工程
を含む方法に関する。
【0056】
本発明のインビトロ方法専用のキット
本発明のキットは、本発明のインビトロ方法専用である。
「専用である」とは、本発明のキット中の上で特定した遺伝子および/またはタンパク質の発現レベルを決定するための試薬が、本質的に、1つ以上のハウスキーピング遺伝子を有していてもよい上記の(i)発現プロファイルの発現レベルを決定するための試薬からなり、したがって、上記の(i)発現プロファイルおよびハウスキーピング遺伝子以外の他の遺伝子の発現を決定するための試薬は最低限しか含まないことを意味する。例として、本発明の専用キットは、好ましくは、上記(i)発現プロファイルのものに属さず、ハウスキーピング遺伝子ではない遺伝子の発現レベルを決定するための20個以下、好ましくは12個以下、好ましくは10個以下、好ましくは9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個、または1個以下の試薬を含む。
そのようなキットは、対象の転帰が不良か良好かを決定するための指示をさらに含んでもよい。
【0057】
そのため、本発明は、特にB細胞リンパ腫対象、具体的にはDLBCL対象が死亡および/または再発の高リスクを有するかを決定するためのインビトロ方法に専用のキットであって、前記対象の試料中の、HMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも2つ、好ましくは少なくとも5つ、より好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは少なくとも11個の遺伝子および/またはタンパク質の発現レベルを決定するための試薬、ならびに上記のうちの1つに属さない遺伝子の発現レベルを決定するための20個以下、好ましくは12個以下、好ましくは10個以下、好ましくは9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個、または1個以下の試薬を含むまたはからなる、キットに関する。
【0058】
前記対象の試料中の前記予後遺伝子の発現レベルを決定するための試薬は、前記予後遺伝子または前記予後遺伝子に特異的な配列を含むマイクロアレイに特異的なプライマー対(フォワードおよびリバースプライマー)ならびに/またはプローブ(特に標的配列およびそれに結合した標識、特に蛍光標識に特異的な核酸を含む標識プローブ)を顕著に含んでもよく、またはからなってもよい。プライマーおよび/またはプローブの設計は、上で開示した前記遺伝子の配列に基づいて当業者により容易に作製することができる。
【0059】
特定の実施形態において、前記キットは、上で特定した「予後遺伝子」の転写物の特異的定量増幅のための特異的増幅プライマーおよび/もしくはプローブならびに/または上で特定した前記「予後遺伝子」の検出のための核酸マイクロアレイを含む。
本発明はまた、上に開示するインビトロ方法を実施するための予後マーカーのセットとして、HMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子および/または前記少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10個、さらに好ましくは11個の遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルを測定するためのプライマーおよび/またはプローブのセットを含む本発明のインビトロ方法に専用のキットにも関する。特に、前記キットは、上記のものに属さない遺伝子の発現レベルを決定するための20個以下、好ましくは12個以下、好ましくは10個以下、好ましくは9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個または1個以下の試薬を含む。
第1の実施形態において、本発明のキットは、上で開示した標的化治療処置の恩恵を受けることができる不良転帰を有するB細胞リンパ腫対象、特に不良転帰を有するDLBCL対象を特定するためのインビトロ方法を実施するために使用される。
【0060】
別の実施形態において、本発明のキットは、高リスクのB細胞リンパ腫、特にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)を有し、鉄代謝を標的とする治療処置を受ける対象における前記処置の効力を監視するためのインビトロ方法を実施するために使用される。
B細胞リンパ腫、特にDLBCL患者の不良転帰の検出または標的化治療処置の効力の監視それぞれのためのキットは、本発明による対象となる前記遺伝子またはタンパク質の発現の検出および/または定量化に必要な全試薬も含んでよい。
特定の実施形態において、DLBCL対象に専用のキットは、HMOX2、PPOX、TMPRSS6、HFE、SLC25A37、STEAP1、ISCA1、HMOX1、LRP2、HIF1A、およびALAS1からなる群の中で選択される11個の遺伝子および/または前記11個の遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルを測定するためのプローブセットを含む。特に、前記キットは、上記のうちの1つに属さない遺伝子の発現レベルを決定するための20個以下、好ましくは12個以下、好ましくは10個以下、好ましくは9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個または1個以下の試薬を含む。キットはまた、Taqポリメラーゼまたは増幅バッファーなどの任意の遺伝子の発現レベルの決定に有用な一般試薬も含んでよい。
【0061】
医薬組成物
本発明の別の目的は、B細胞リンパ腫対象、特にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫、辺縁層B細胞リンパ腫(MZL)、または粘膜関連リンパ組織リンパ腫(MALT)、小リンパ球性リンパ腫(慢性リンパ球性白血病、CLLとしても知られる)、およびマントル細胞リンパ腫(MCL)、好ましくはDLBCLを有する対象を処置するための方法において使用するための、薬学的に許容されるビヒクル中に、特にデフェラシロクス、デフェロキサミン、デフェリプロン、サリノマイシン、これらの類似体または誘導体、好ましくはサリノマイシンおよびサリノマイシンの窒素含有類似体からなる群の中で選択される鉄代謝を標的とする分子、特に鉄キレート剤またはリソソーム鉄を封鎖する小分子を含む医薬組成物である。
特に、前記医薬組成物は、鉄スコアに従って不良転帰を有し、結果的にB細胞リンパ腫の再発および/または死亡、好ましくはDLBCLの再発および/または死亡を示す可能性が高いとして、本発明のインビトロ方法に従って特定される対象を処置する方法において使用される。
サリノマイシンの窒素含有類似体の例は、WO2016/038223に開示されている。
【0062】
特定の実施形態において、鉄キレート剤は、式(I)
【化1】
[式中:
-Wは、=O、-NR12、-NR3-(CH2n-NR45、-O-(CH2n-NR45、-NR3-(CH2n-N+678および-O-(CH2n-N+678からなる群から選択され、
-Xは、=O、-OH、-NR12、-NR3-(CH2n-NR45、-O-(CH2n-NR45、-NR3-(CH2n-N+678および-O-(CH2n-N+678からなる群から選択され、
-Yは、-OH、=N-OH、-NR12、-NR3-(CH2n-NR45、-O-(CH2n-NR45、-NR3-(CH2n-N+678および-O-(CH2n-N+678からなる群から選択され、
1およびR2は、同一であるかもしくは異なり、H、(C1-C16)-アルキル、(C3-C16)-アルケニル、(C3-C16)-アルキニル、(C3-C16)-シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、(C1-C6)-アルキルアリール、(C1-C6)-アルキルヘテロアリールからなる群から選択され、またはR1はHを表し、R2はOR9を表し、式中、R9は、H、(C1-C6)-アルキル、アリールおよび(C1-C6)-アルキルアリールであり、
3は、H、(C1-C6)-アルキル、(C1-C6)-アルキルアリールからなる群から選択され、
4およびR5は、同一であるかまたは異なり、H、(C1-C6)-アルキル、アリールおよび(C1-C6)-アルキルアリールからなる群から選択され、
6、R7およびR8は、同一であるかまたは異なり、(C1-C6)-アルキル、アリールおよび(C1-C6)-アルキルアリールからなる群から選択され、
-Zは、OH、NHNR910、NHOC(O)R11、N(OH)-C(O)R11、OOH、SR12、2-アミノピリジン、3-アミノピリジン、-NR3-(CH2n-NR45および-NR3-(CH2n-OHなどの基であり、式中:
9およびR10は、同一であるかまたは異なり、H、(C1-C6)-アルキル、アリールおよび(C1-C6)-アルキルアリールからなる群から選択され、
11は、H、(C1-C16)-アルキル、(C3-C16)-アルケニル、(C3-C16)-アルキニル、アリール、ヘテロアリール、(C1-C6)-アルキルアリール、(C1-C6)-アルキルヘテロアリールからなる群から選択され、
12は、H、(C1-C16)-アルキル、(C3-C16)-アルケニル、(C3-C16)-アルキニル、アリール、ヘテロアリール、(C1-C6)-アルキルアリール、(C1-C6)-アルキルヘテロアリールからなる群から選択され、
n=0、2、3、4、5または6であり、
但しW、XおよびYのうちの少なくとも1つは、-NR12、-NR3-(CH2n-NR45、-O-(CH2n-NR45、-NR3-(CH2n-N+678および-O-(CH2n-N+678からなる群から選択される]
のサリノマイシンの窒素含有類似体である。
【0063】
有利には、R1およびR2は、同一であるかまたは異なり、H、(C1-C16)-アルキル、有利には(C3-C14)-アルキル、より有利には(C8-C14)-アルキル、(C3-C16)-アルケニル、有利には(C3-C5)-アルケニル、(C3-C16)-アルキニル、有利には(C3-C5)-アルキニル、(C3-C16)-シクロアルキル、有利には(C3-C6)-シクロアルキル、(C1-C6)-アルキルアリール、有利にはベンジル、および(C1-C6)-アルキルヘテロアリール、有利にはCH2-ピリジニルからなる群から選択される。
有利には、R1およびR2は両方ともHではない。
より有利には、R1はHであり、R2は、(C1-C16)-アルキル、有利には(C3-C14)-アルキル、より有利には(C8-C14)-アルキル、(C3-C16)-アルケニル、有利には(C3-C5)-アルケニル、(C3-C16)-アルキニル、有利には(C3-C5)-アルキニル、(C3-C16)-シクロアルキル、有利には(C3-C6)-シクロアルキル、(C1-C6)-アルキルアリール、有利にはベンジル、および(C1-C6)-アルキルヘテロアリール、有利にはCH2-ピリジニルからなる群から選択される。
【0064】
有利には、R3は、Hおよび(C1-C6)-アルキルからなる群から選択される。好ましくは、R3はHである。
有利には、Zは、OH、OOH、NHNH2、NHOH、またはNH2OHであり、好ましくはOHである。
好ましい実施形態において、鉄キレート剤は、上に定義した式(I)の化合物であり、式中、XはOHであり、ZはOHであり、YはNR12であり、式中、R1はHであり、R2は、(C1-C16)-アルキル、有利には(C8-C14)-アルキル、(C3-C16)-アルケニル、有利には(C3-C5)-アルケニル、(C3-C16)-アルキニル、有利には(C3-C5)-アルキニル、および(C3-C16)-シクロアルキル、有利には(C3-C6)-シクロアルキル、(C1-C6)-アルキルアリール、有利にはベンジル、および(C1-C6)-アルキルヘテロアリール、有利にはCH2-ピリジニルからなる群から選択される。
【0065】
より好ましい実施形態において、鉄キレート剤は、上に定義した式(I)の化合物であり、式中、Wは=Oであり、XはOHであり、ZはOHであり、YはNR12であり、式中、R1はHであり、R2は、(C3-C5)-アルキニルおよび(C3-C6)-シクロアルキルからなる群から選択され、好ましくは(C3-C5)-アルキニルである。
式(I)の化合物[式中、Wは=Oであり、XはOHであり、ZはOHであり、YはNR12であり、式中、R1はHであり、R2は、(C3-C5)-アルキニル基、好ましくはプロパルギルである]は、イロノマイシンまたは特許出願WO2016/038223に開示されている化合物AM5とも呼ばれる。
【化2】
【0066】
式(I)の化合物[式中、Wは=Oであり、XはOHであり、ZはOHであり、YはNR12であり、式中、R1はHであり、R2は、(C3-C6)-シクロアルキル基、好ましくはシクロプロピルである]は、特許出願WO2016/038223に開示されているAM23とも呼ばれる。
【化3】
【0067】
別の特定の実施形態において、Wは=Oであり、XはOHであり、ZはOHであり、YはNR12であり、式中、R1はHであり、R2は、(C3-C6)-シクロアルキル基、特に以下に開示される置換シクロプロピルである:
【化4】
【0068】
別の特定の実施形態において、Wは=Oであり、XはOHであり、ZはOHであり、YはNR12であり、式中、R1はHであり、R2は、(C1-C6)-アルキルアリール基、特に以下に開示されるヒドロキシによって置換されるベンジル基である:
【化5】
【0069】
別の特定の実施形態において、Wは=Oであり、XはOHであり、ZはOHであり、YはNR12であり、式中、R1はHであり、R2は、(C1-C6)-アルキルピリジル基、特に以下に開示されるCH2-ピリジニル基である:
【化6】
【0070】
化合物AM5、AM23、AV10、AV13およびAV16、好ましくは、AM5は、医薬組成物、医薬品および以下に開示する治療的用途において使用される特定の好ましい化合物である。
本発明に従って使用するための医薬組成物は、上で定義した式(I)の少なくとも1種の化合物、その医薬塩、溶媒和物または水和物、および薬学的に許容される少なくとも1種の賦形剤を含む。
本発明の目的のためには、用語「薬学的に許容される」は、医薬組成物の調製に有用なもの、および製薬学的用途に全般的に安全かつ非毒性のものを意味するように意図される。
【0071】
用語「薬学的に許容される塩、水和物または溶媒和物」は、本発明において、上で定義したように薬学的に許容され、対応する化合物の薬理作用を持つ化合物の塩を意味するように意図される。
そのような塩は以下を含む:
- 水和物または溶媒和物、
- 塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸およびリン酸などの無機酸で形成される、または酢酸、ベンゼンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヒドロキシナフトエ酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコン酸、2-ナフタレンスルホン酸、プロピオン酸、コハク酸、ジベンゾイル-L-酒石酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸、トリメチル酢酸、およびトリフルオロ酢酸などの有機酸で形成される酸付加塩、ならびに
- 化合物中に存在する酸プロトンが、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、もしくはアルミニウムイオンなどの金属イオンによって置き換えられるか、または有機もしくは無機塩基に配位されるかのいずれかの場合に形成される塩。許容される有機塩基は、ジエタノールアミン、エタノールアミン、N-メチルグルカミン、トリエタノールアミン、トロメタミンなどを含む。許容される無機塩基は、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを含む。
【0072】
本発明に従って使用するための医薬組成物は、経口、舌下、皮下、筋内、静脈内、経皮、局所または直腸投与用とすることができる。活性成分を、単位投与形態で従来の医薬担体と混合して、動物またはヒトに投与することができる。錠剤の形態で固体組成物を調製する場合、主要活性成分を医薬ビヒクルおよび当業者に公知のその他の従来の賦形剤と混合する。
本発明の化合物は、1日当たり0.01mg~1000mgの範囲の用量で、1日に1回のみ、または1日にわたって何回か、例えば1日に2回投与する医薬組成物中に使用することができる。連日投与する用量は、有利には5mg~500mg、より有利には10mg~200mgを占める。しかしながら、これらの範囲外にも当業者に認められる投与を利用する必要があり得る。
【0073】
本発明はまた、好ましくは本発明のインビトロ方法によって特定される不良転帰を有するB細胞リンパ腫対象、特にDLBCL対象、より好ましくは本発明のインビトロ方法によって特定される不良転帰を有するDLBCL対象を処置する方法であって、(i)本発明によるインビトロ方法により、また鉄スコアに基づいて、対象が再発および/または死亡を有する可能性が高いかを決定することと、(ii)対象が「不良転帰」を有すると決定された場合、鉄代謝を標的とする分子を前記対象に投与することとを含む方法にも関する。
方法は、対象が「不良転帰」を有する可能性が低いと決定された場合、代替の抗癌処置を対象に投与する工程(iii)をさらに含んでもよい。そのような代替抗癌処置は、特定のB細胞リンパ腫および先に試験した処置によるが、放射線療法、他の化学療法分子、または他の生物学的製剤(他の抗原を対象とするモノクローナル抗体など)から特に選択することができる。
ある種の実施形態では、抗B細胞リンパ腫処置としては、抗癌化合物、放射線、手術または幹細胞移植を用いた処置を挙げることができる。
【0074】
医薬品(「併用製品」とも呼ばれる)
本発明はまた、特に本発明のインビトロ方法に従って不良転帰を有するDLBCL対象において、B細胞リンパ腫、特にDLBCLの処置における医薬として同時、個別、または交互に使用するための併用製品としての、
(i)鉄代謝を標的とする分子、特に鉄キレート剤またはリソソーム鉄を封鎖する小分子と、
(ii)化学療法、標的処置、免疫療法、およびこれらの組み合わせのいずれかにおいて使用される薬剤からなる群から選択される別の抗癌剤と
を含む、医薬品にも関する。
本発明による「化学療法に使用される薬剤」とは、細胞を死滅させること、または細胞の分化を停止させることのいずれかによって、癌細胞の増殖を停止できる「化学療法薬」とも呼ばれる薬物を意味する。
【0075】
本発明による「標的処置において使用される薬剤」とは、正常細胞に害が少ない特定タイプの癌細胞を特定でき侵襲できる薬物または他の物質を意味する。一部の標的療法は、癌細胞の増殖および転移に関与する、ある種の酵素、タンパク質、または他の分子の作用を遮断する。他のタイプの標的療法は、免疫系による癌細胞の根絶を助けるか、または毒性物質を癌細胞に直接送達して癌細胞を根絶する。標的療法は、他のタイプの癌処置より副作用を少なくできる。ほとんどの標的療法は、小分子の薬物またはモノクローナル抗体のいずれかである。
本発明による「免疫療法において使用される薬剤」とは、身体が癌と闘うのを免疫系が助けることを刺激または抑制できる「免疫調節薬」とも呼ばれる物質を意味する。一部の免疫療法のタイプは、免疫系の特定の細胞のみを標的とする。他は、一般的に免疫系に影響を及ぼす。免疫療法のタイプとしては、例えば、サイトカイン、および一部のモノクローナル抗体が挙げられる。
【0076】
いくつかの実施形態において、抗癌化合物は、特にビンクリスチン、シクロホスファミド、エトポシド、ドキソルビシン、リポソーム化ドキソルビシン、シタラビン、メルファラン、ベンダムスチン、シスプラチン、ダウノルビシン、フルダラビン、メトトレキサートを含む群の中で選択される化学療法薬を含んでもよい。
いくつかの実施形態において、抗癌化合物は:
- Bcl2阻害因子、または
- PI3K阻害因子、または
- BTK阻害因子、または
- Syk阻害因子
およびこれらの混合物を含んでもよい。
【0077】
「Bcl-2(B細胞リンパ腫2)阻害因子」は、(抗アポトーシス)の阻害または(プロアポトーシス)の誘発のいずれかによって、細胞死(アポトーシス)を調節する調節タンパク質のBcl2ファミリーを阻害する化合物群である。これは、悪性細胞中のアポトーシスを選択的に誘発するために使用される。ABT-737およびNavitoclax(ABT-263)、好ましくは、Bcl-2を阻害するがBcl-xLまたはBcl-wは阻害しない高度に選択的な阻害因子であるVenetoclax(ABT-199、CAS番号1257044-40-8)を挙げることができる。
「ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)阻害因子」は、1種以上のホスホイノシチド3-キナーゼ酵素を阻害する化合物群である。これらの酵素は、細胞増殖および生存ならびに多くの癌において高頻度に活性化されるいくつかの他のプロセスに関与する経路であるPI3K/AKT/mTOR経路の一部を形成する。これらの酵素を阻害することによって、PI3K阻害因子は細胞死を引き起こし、悪性細胞の増殖を抑制し、いくつかのシグナリング経路を妨げる。イデラリシブ(CAL-101、GS-1101、CAS番号870281-82-6)を挙げることができる。
「ブルトン型チロシンキナーゼ(BtkまたはBTKと略す)」阻害因子は、チロシン-タンパク質キナーゼBTK阻害因子としても知られ、B細胞の成長において重要な役割を果たすチロシンキナーゼを阻害する化合物群である。イブルチニブ(PCI-32765、CAS番号936563-96-1)を挙げることができる。
【0078】
「脾臓チロシンキナーゼ(Syk)阻害因子」は、造血細胞中で主に発現され、B細胞受容体シグナリング経路中の重要な要素として認識された細胞質非受容体型タンパク質チロシンキナーゼ(PTK)を阻害する化合物群である。いくつかの経口Syk阻害因子(フォスタマチニブ(R788)、エントスプレチニブ(GS-9973)、セルデュラチニブ(PRT062070)、およびTAK-659を含む)は、臨床試験で評価される。特にエントスプレチニブ(GS-9973、CAS番号1229208-44-9)を挙げることができる。
いくつかの実施形態において、抗癌化合物は、特にボルテゾミブ、カルフェイルゾミブおよびイキサゾミブを含む群から選択されるプロテアソーム阻害因子を含んでもよい。
いくつかの実施形態において、免疫調節薬は、サリドマイド、レナリドマイド、ポマリドミドおよびこれらの誘導体を含む群から選択される。
いくつかの実施形態において、抗癌化合物は、特にデキサメタゾンおよびプレドニゾンを含む群の中で選択されるコルチコステロイドを含んでもよい。
いくつかの実施形態において、抗癌化合物は、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害因子、DNMT阻害因子、EZH2阻害因子、BET阻害因子、PRMT5阻害因子、IDH阻害因子を含めたエピドラッグを含んでもよい。
いくつかの実施形態において、抗癌化合物は、特にリツキシマブおよびオビヌツズマブを含む群の中で選択されるモノクローナル抗体を含んでもよい。
【0079】
いくつかの実施形態において、抗癌化合物は、特にチサゲンレクロイセルおよびアキシカブタゲンシロロイセルおよびリソカブタジェンマラロイセルを含む群の中で選択される、CAR-T細胞による免疫療法を含んでもよい。
特定の実施形態において、DLBCL対象の処置では、鉄代謝を標的とする分子、特に鉄キレート剤またはリソソーム鉄を封鎖する小分子(i)は、デフェラシロクス、デフェロキサミン、デフェリプロン、サリノマイシン、これらの類似体または誘導体、好ましくはサリノマイシンおよび上に定義したサリノマイシンの窒素含有類似体からなる群の中で選択され、他の抗癌剤(ii)は、化学療法において使用される薬剤(iia)、特にシクロホスファミド、ドキソルビシン、エトポシド、ベネトクラクス、イデラリシブ、イブルチニブ、エントスプレチニブおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0080】
DLBCL処置の特定の好ましい実施形態において、鉄キレート剤(i)は、上に定義した式(I)の化合物であり、式中、Wは=Oであり、XはOHであり、ZはOHであり、YはNR12であり、式中、R1はHであり、R2は(C3-C5)-アルキニルおよび(C3-C6)-シクロアルキルからなる群から選択され、好ましくは(C3-C5)-アルキニルであり、他の化学療法化合物(ii)は、ドキソルビシン、ベネトクラクス、イデラリシブ、イブルチニブ、またはエントスプレチニブである。
DLBCL処置のための本発明の別の好ましい主題は、
(i)上で定義した式(I)の化合物[式中、Wは=Oであり、XはOHであり、ZはOHであり、YはNR12であり、式中、R1はHであり、R2は(C3-C5)-アルキニルおよび(C3-C6)-シクロアルキルからなる群から選択され、好ましくは(C3-C5)-アルキニルである]と、
(ii)シクロホスファミド、ドキソルビシン、エトポシド、ベネトクラクス、イデラリシブ、イブルチニブ、エントスプレチニブからなる群の中で選択される、好ましくはドキソルビシン、ベネトクラクス、イデラリシブ、イブルチニブ、またはエントスプレチニブである化学療法化合物と
を含む医薬品または組成物である。
本発明を、ここで非限定例によって例示していく。
【実施例
【0081】
材料および方法
鉄スコアの遺伝子発現データ解析および構築
鉄生物学の調節に関与する62個の遺伝子のリストを、先に公開されたデータ(Millerら、2011年)を用いて構築した。
これらの遺伝子の発現を、Compagno(Compagnoら、2009年)のグループによって公開されたデータを用いて、正常B細胞(n=5の胚中心細胞、n=5の中心細胞)およびDLBCL試料(n=73)中で調べた。アフィメトリクス遺伝子発現データは、受入番号GSE12195で、オンラインのGene Expression Omnibus(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/)を介して公的に入手可能である。
鉄代謝に関与する関連の62個の遺伝子を、以下の表3に列挙する:
【表3】

【0082】
マイクロアレイ解析の有意性の分析を、1000個の順列、2倍率変化、および0%の偽発見率(t-検定)で、種々の試料の62個の選択されたプローブセットに適用した。
DLBCLと診断され、R-CHOP(リツキシマブならびにシクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、およびプレドニゾン)によって処置された患者の2つの独立コホートから得た遺伝子発現マイクロアレイデータを使用した。第1のコホートは、233名の患者を含み(Lenzら、2008年)、第2のコホートは、69名の患者を含んでいた(Shaknovichら、2010年)。患者の前処置の臨床的の特徴は、G.LenzのグループおよびR.Shaknovichのグループによって先に公開されている。アフィメトリクス遺伝子発現データは、受入番号GSE10846およびGSE23501で、オンラインのGene Expression Omnibus(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/)を介して公的に入手可能である。これは、患者の2つのコホートに対して、Affymetrix HG-U133 plus 2.0マイクロアレイを使用して実施した。データは、正規化法としてアフィメトリクスのデフォルト分析設定および全体スケーリングを用いて、Microarray Suite バージョン5.0(MAS5.0)で分析した。各アレイのトリム平均標的強度は、任意に500まで設定した。
各コホートにおいて、鉄リストの各プローブセットの発現の全生存率(OS)の統計的有意性を、ログランク検定によって計算した。多変量解析は、Cox比例ハザードモデルを用いて実施した。生存曲線は、プラットフォームGenomicscapeにおいてカプランマイヤー法を用いてプロットした(Kassambaraら、2015年)。2つのコホートの共通の予後値を持つプローブセットを選択した。それらの予後情報を一パラメータに収集するために、DLBCLの鉄スコアを、プローブセットMaxstat値の上下の患者シグナル±1で秤量したベータ係数の合計として構築した(Kassambaraら、2012年)。
【0083】
ヒトDLBCL細胞株
16個のDLBCL細胞株(U2932、OCI-LY-3、NU-DHL-1、OCI-LY-19、DB、SUDHL4、OCILY1、SUDHL5、DOHH2、SUDHL10、HT、RI-1、SU-DHL-6、NUDUL-1、WSU-DLCL-2およびOCI-LY-7)をDSMZ(Leibniz-Institut DSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH,Germany)から購入した。これを、U2932、SUDHL-4、HT、DOHH2、SUDHL-10、RI-1、WSU-DLCL-2細胞株、20%のFBS OCI-LY-3、DB、SUDHL-5、NUDHL-1、SU-DHL-6、NUDUL-1細胞株用の10%のウシ胎仔血清(PAA実験用GmbH)で補完したRPMI-1640(Gibco、Invitrogen)中で維持した。OCI-LY1およびOCI-LY7を、20%のウシ胎仔血清で補完したIMDM(Gibco、Invitrogen)中で培養し、OCI-LY19を、20%のウシ胎仔血清で補完したα修飾MEM(Gibco、Invitrogen)中で培養した。培養物を、37℃の湿気のある環境下で5%のCO2と共に維持した。
【0084】
試薬
デフェロキサミン(Novartis Pharma SAS社製)を滅菌蒸留水に30mMの濃度に溶解し、デフェラシロクス(Selleckchem S1712)をジメチルスルホキシド(DMSO)中に50mMの濃度に溶解した。特許出願WO2016/038223において「AM5」とも呼ばれるイロノマイシンを10mMの濃度までジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解した。エラスチン(Selleckchem S7242製、DMSO中10mM)およびフェロスタチン-1(Selleckchem S7243製、DMSO中50mM)Q-VD Oph(SelleckChem S7311製、DMSO中10mM、30’前処置)塩化鉄(III)六水和物(31232 Sigma Aldrich、水中0.1M、4hの後処置)、還元グルタチオンGSH(Sigma Aldrich G4251、PBS中0.1M)H22(Sigma Aldrich 216763)。マフォスファミド(シクロホスファミドの代用、Santa Cruz ChemCruz SC-211761、食塩水中10mM)、ゲムシタビン(Sellekchem S1149製、食塩水中50mM)、ドキソルビシン(Sellekchem S1208製、DMSO中20mM)、ベネトクラクス(Selleckchem S8048製、DMSO中10mM)、イデラリシブ(Selleckchem S2226製、DMSO中50mM)、イブルチニブ(Selleckchem S2680製、DMSO中50mM)、エントスプレチニブ(Selleckchem S7523製、DMSO中50mM)、CldU(abcam ab213715、水中20mM)、IdU(abcam ab142581、水中2mM)。
【0085】
細胞の生存率アッセイ
DLBCL由来の細胞株を、さまざまな化合物の存在下のRPMI 1640培地(10%または20%のFCS(対照培地))中の96ウェルの平底マイクロタイタープレート中で4日間培養した。培養物中の生存細胞の数を、Centro LB960照度計(Berthold Technologies,Bad Wildbad,Germany)を使用したPromega,Madison,WI,USA製のCellTiter-GloLuminescent Cell Viability Assayを使用して決定した。
この試験は、代謝的に活性な細胞の存在を信号で伝える、存在する細胞内ATPの定量化に基づく。データは、未処置の対照に正規化された、6回の複製の平均百分率として表される。
【0086】
初代DLBCL細胞
リンパ節試料は、ヘルシンキ宣言による患者の同意書およびモンペリエ大学病院からの企業研究委員会の承認の後に採集された。5名のDLBCL患者のリンパ節または血液から細胞を入手する。血液由来の細胞は、密度勾配分離法によって入手し、リンパ節由来の細胞は、組織解離装置によって入手し、フローサイトメトリーによって定量化する。
20%のFBSと抗生物質-抗真菌剤(Gibcoペニシリン-ストレプトマイシン-アムホテリシンB 100X、#15240-096)(密度0.5×10^6細胞/mL)と50ng/mLのヒスチジンタグ化CD40L(R&D System、2706-CL)および5μg/mLの抗ヒスチジン抗体R&D System、MAB050)、Gibco(登録商標)ピルビン酸塩100X、#1136-039を有するGibco(登録商標)IscoveのMEM(Glutamax)培地(#31980-022)中で細胞を培養する。細胞を、解糖の24時間後に播種し、さまざまな化合物で72時間処置する。
全細胞をトリパンブルーで計数し、パネルCD45 V500(BD、#560777)、κ FITC(Dako、F0434)、CD19 PE-Cy7(BD、#341113)、λ PE(Dako、R0437)、CD3 APC-H7(BD、#641415)、CD10 APC(BD、#332777)およびCD20 V450(BD、#655872)で染色し、フローサイトメトリー(Canto II細胞計算器、BD Pharmigen)によって分析した。腫瘍状の集団細胞をCD19+、CD45+、CD20+、カッパまたはラムダ上でゲート化し、非腫瘍状集団細胞をCD45+、CD19-ならびにCD45+、CD3+、CD19-上のT細胞上でゲート化した。
【0087】
造血系幹細胞コロニー形成単位(CFU)アッセイ
アフェレーシス機を使用してドナーの動員末梢血を集めた。細胞は、免疫磁気細胞分離法および蛍光活性化細胞分類(FACS)によってCD34+に富んだ。
約250個のCD34+生存細胞/mLを、Methocult GF H84434培地(幹細胞、#84434)中で培養した。16ゲージ平滑末端針に取り付けられた3mL注射器を使用して、1mLの混合物を235mm皿に分配した。
皿を、37℃、湿度95%以上で、5%のCO2中で14日間インキュベートした。
【0088】
相互作用の定量化
インビトロで試験した薬物間の相互作用を、各単一薬物の濃度の上昇を他の薬物のすべての可能な組み合わせで評価した濃度マトリックス試験によって調べた。それぞれの組み合わせについて、影響が関係しない場合の推定される増殖細胞の百分率をBliss式:
fuC=fuA.fuB
[式中、fuCは、影響が関係しない場合の薬物の組み合わせによって影響されない細胞の推定される割合であり、fuAおよびfuBは、処置AおよびBそれぞれによって影響されない細胞の割合である]に従って計算した(Combesら、2019年)。細胞毒性試験における生細胞の割合とfuC値との間の差を相互作用効果の推定と見なし、正の値は相乗作用を示し、負の値は拮抗作用を示す。
【0089】
結果:
癌細胞生物学における鉄代謝の重要な役割を考慮して、本発明者らは、DLBCLにおける予後値に関連する鉄代謝遺伝子を特定することを第1の目的とした。鉄生物学の調節に関与する62個の遺伝子のリストを、上記の材料および方法(表3)において開示したように、文献(Millerら、2011年)から抜粋した。
【0090】
Maxstat R関数およびBenjamini-Hochberg多重検査補正を使用して(LausenおよびSchumacher、1992年)、上で開示し、以下の表4に報告するように、11個の遺伝子は、DLBCL患者の2つの独立コホートの予後値(それぞれn=233およびn=181)を実証した(図2A):
【表4】
【0091】
ALAS1(アミノレブリン酸、デルタ-シンターゼ1)、HIF1A(低酸素誘導因子1、アルファサブユニット)、およびLRP2(低比重リポタンパク関連タンパク質2)を含めたこれらの遺伝子の高度発現は、良好な予後に関連していた(図2B)。反対に、8つの遺伝子:HMOX1(ヘムオキシゲナーゼ(デサイクリング)1)、HMOX2(ヘムオキシゲナーゼ(デサイクリング)2)、HFE(ヘモクロマトーシス)、ISCA1(鉄-硫黄クラスターアセンブリー1ホモログ)、SLC25A37(溶質キャリアファミリー25(ミトコンドリア鉄トランスポーター)、メンバー37)、(MSCP(ミトコンドリア溶質キャリアタンパク質)とも呼ばれる)、PPOX(プロトポルフィリノーゲンオキシダーゼ)、STEAP1(前立腺6回膜貫通型上皮抗原1)およびTMPRSS6(膜貫通プロテアーゼ、セリン6)の高度発現は、不良予後に関連していた(図2C)。
次に、本発明者らは、これらの遺伝子の予後情報をGEPベースの鉄スコアにまとめた。鉄スコアは、前述のプローブセットMaxstat値の上下の患者MMCシグナルの-1で秤量した、各予後遺伝子についてのCoxモデルのベータ係数の合計によって規定される(Herviouら、2018年)。Maxstatアルゴリズムは、全生存率(OS、図1A)の最大差で、Lenz R-CHOPコホートを2つの群(39.5%の鉄スコアが-0.168超の患者と60.5%の鉄スコアが-0.168以下の患者)に分けた。高リスクの鉄スコアを有する患者は、Lenz R-CHOPコホートにおける低い鉄スコア(P=3,7E-15)の患者には到達しなかったのに対し、50.6カ月の中央OSを有する(図1A)。鉄スコアの予後値は、OSの場合、3つの追加の独立コホートにおいて有効だった(図1B、CおよびD)。
【0092】
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫を有する患者における全生存率(OS)のCox単変量および多変量解析(R-CHOP Lenzコホート、n=233)。図示の予後因子を、Cox回帰モデルを使用して、個別に(A)、2つずつ(B)、または多変量解析(全変量)において(C)試験した。P値およびハザード比(HR)を表5に示す。
【表5】

【0093】
鉄スコアは、GCBと比較してABCのDLBCL患者において有意に高い(図1E)。DNA修復スコアを他の不良転帰関連因子(GCBまたはABCサブタイプ、年齢および多変量COX解析におけるIPI)と比較して、鉄スコアは独立予後因子のままだった。GSEA解析は、鉄スコアが、高リスクの患者がMYC標的遺伝子の有意な富化およびプリン代謝に関連することを規定することを明らかにした。鉄スコアは、低リスクのDLBCL患者が免疫応答に関与する遺伝子の有意な富化を表すことを規定した。まとめて、これらのデータは、DLBCLにおける不良転帰に関連する鉄代謝遺伝子の脱制御を強調する。鉄代謝の標的化は、高リスクのDLBCL患者のための新規の可能な治療手段を表すことができる。
【0094】
鉄代謝の標的化はDLBCL細胞毒性を誘発する
これらの結果によれば、本発明者らは、2つのABC細胞株OCI-LY3およびU-2932ならびに2つのGCB細胞株DBおよびSUDHL-5を使用した鉄キレート剤のデフェロキサミンおよびデフェラシロクスの治療的利益を調査した。デフェロキサミンまたはデフェラシロクスによる処置後の細胞の生存における濃度依存的減少を特定した。デフェロキサミンで得られた50%阻害濃度(IC50)値は、OCI-LY3、DB、U2932およびSUDHL-5細胞に対して、それぞれ、3.75μM、3.24μM、2.42μMおよび1.55μMだった(図3A)。また、デフェラシロクスで得られた50%阻害濃度(IC50)値は、OCI-LY3、DB、U2932およびSUDHL-5細胞において、それぞれ、9.50μM、13.9μM、4.79μMおよび1.48μMだった(図3B)。
【表6】

【0095】
イロノマイシンは、リソソーム中の鉄を蓄積および封鎖することによって癌における治療的利益をもたらすサリノマイシンの合成誘導体である(Maiら、2017年)。イロノマイシン処置は、デフェロキサミンおよびデフェラシロクスと比較してナノモルIC50値で細胞の生存における濃度依存的減少を誘発する(OCI-LY3、DB、U2932およびSUDHL-5細胞において、それぞれ、16.8nM、17.2nM、30.4nMおよび28.9nM)(図3C)。
本発明者らは、分析を、16個のDLBCL細胞株のより広いパネルに拡大した。16個のDLBCL細胞株のパネルを、濃度を増大させたイロノマイシンまたはビヒクルで96時間インキュベートした。以下の表7は、16個のDLBCL細胞株についてのイロノマイシンの阻害濃度50%(IC50)を表す。興味深いことに、すべてのDLBCL細胞株は、ナノモル濃度のIC50(範囲:7.2~91.5nM)をもたらす。
【表7】
【0096】
本発明者らは、これらの処置によって誘発された細胞死に対する鉄添加の効果をさらに調査した。鉄キレート剤の濃度は、患者において達成可能な最大血漿中濃度に応じて選択した(Nisbet-Brownら、2003年)。本発明者らは、鉄キレート剤およびイロノマイシンが、アネキシンVおよびPARP開裂によって監視したOCI-LY3およびDB細胞株においてアポトーシスを誘発することを実証した。鉄添加は、DLBCL細胞アポトーシスへの鉄キレート剤の効果を有意に阻害した(デフェロキサミンおよびデフェラシロクス処置それぞれにおいて、P<0.05およびP<0.01)。しかしながら、鉄添加は、イロノマイシンに誘発されるDLBCL細胞の細胞毒性に影響を与えなかった。
【0097】
本発明者らは、また、イロノマイシンによって誘発されるDLBCL細胞死に関与する機構も研究し、
- イロノマイシン処置が、キノリン-Val-Asp-ジフルオロフェノキシメチルケトン(Oph-Q-VD)汎カスパーゼ阻害剤(P<0.001)によって部分的に阻害されるDLBCL細胞株におけるアポトーシスを誘発し、イロノマイシンによって誘発されるアポトーシスが、カスパーゼ-3および7の活性化に関連し、Oph-Q-VDを添加することによって救出することができることと、
- イロノマイシンは、脂質過酸化反応の存在を示すBodipy-C11染色によって強調されたDLBCL細胞中のフェロトーシスを誘発する。さらに、イロノマイシンが誘発する細胞死は、フェロトーシス阻害因子のフェロスタチン-1nよって部分的に防止できる(Dixonら、2012年)。フェロスタチンは、DLBCL細胞中に有意な毒性を実証しなかったが、陽性対照として使用されるフェロトーシス誘導物質のエラスチンの影響を無効化した。Oph-Q-VDとFer-1の組み合わせは、イロノマイシンに仲介された毒性を完全には無効化できず、他の機構がイロノマイシン誘発性の細胞死に関与し得ることが示唆されることと、
- 本発明者らは、また、イロノマイシン処置がDLBCL細胞中の自食作用を誘発するかも調査した。イロノマイシン(100nM)で24時間処置した後に、DLBCL細胞中の自食作用に関連するタンパク質LC3I-IIの発現を監視し(OrhonおよびReggiori、2017年)、それに対して、BIX-01294を陽性対照として使用し(Dingら、2013年)、イロノマイシン処置の際にDLBCL細胞中にLC3B II点の明らかな増加を特定した(P<0.0001)ことと、
- 最後に、鉄キレート剤またはイロノマイシンによるOCI-LY3およびDB DLBCL細胞の処置が、蛍光プローブ5-(および-6-)クロロメチル-2’、7’-ジクロロヒドロフルオレセインジアセテート-アセチルエステル(CM-H2DCFDA)染色によって監視したROS生成を誘発する。イロノマイシンを介したROS生成は、フェロスチンによって部分的に阻害されたが、グルタチオン(GSH)によっては阻害されなかった。ケトシンを、GSHによって阻害されるROS生成の陽性対照として使用した(Ishamら、2007年)ことと
を示した。
まとめて、これらの結果は、イロノマイシンが、フェロトーシス自食作用を通してDLBCL細胞毒性を誘発することを実証した。
【0098】
イロノマイシンは、DLBCL細胞分化に影響を与え、DNA損傷応答を誘発する
DLBCL細胞増殖における鉄欠乏の影響を調査するために、OCI-LY3およびDB細胞株を鉄キレート剤およびイロノマイシンで処置し、細胞周期分布を72時間で評価した。鉄キレート剤のデフェラシロクスは、生存細胞の細胞周期分布に大きな影響を与え、BrdU投入を阻止し、G0/G1相を増加させた(P<0.01)。同じ結果がイロノマイシンで特定された(図4Aおよび4B)。
DNA複製における鉄の役割から、自然のDNA損傷への鉄除去の影響を調査した。興味深いことに、鉄キレート剤およびイロノマイシンは、γH2AXフォーカスの形成によって証明されるDNA二本鎖切断を誘発し、ウエスタンブロットによって監視されるH2AXのリン酸化反応を増加する(図4C、D)。
真核細胞は、鉄-硫黄(Fe-S)クラスタータンパク質、ヘムタンパク質およびDNA複製において重要な役割を果たし、補助因子として鉄を要するリボヌクレオチドレダクターゼなどの多数の鉄を必要とするタンパク質を含有する(Zhang、2014年)。次に、本発明者らは、DNA繊維分析を用いて、DLBCL細胞中のフォーク進行へのイロノマイシンの影響を監視した。これを行うために、10μMのIdUおよび100μMのCldUでDLBCL細胞株をパルス標識し、CldUの軌跡の長さを測定してパルス中の個々のフォークに含まれる距離を推定した。興味深いことに、CldU軌跡の長さは、対照細胞に比べてイロノマイシンによって処置した後は有意に短かった(P<0.0001、図5AおよびB)。これらのデータは、欠陥のあるフォーク進行が、DLBCL細胞におけるイロノマイシン処置を介して増加した自然DNA損傷の原因となることを示唆している。ゲムシタビンを陽性対照として使用した。イロノマイシン鉄キレート化は、トレオニン21上の複製タンパク質Aサブユニット2(RPA2)の増加したリン酸化反応によって証明される、DNA一本鎖の蓄積および複製ストレスにも関連していた(図4E)。鉄はdN合成において重要な役割を果たすことが知られているため(TortiおよびTorti、2013年)、本発明者らは、イロノマイシンで処置した細胞における複製フォーク進行に与えるdN添加の影響を調査した。デオキシヌクレオチド添加は、イロノマイシンによって誘発される複製フォークの遅延を部分的に逆転させた(図5C~D)。
【0099】
鉄欠乏は、初代DLBCL細胞の細胞死を誘発し、DLBCL処置の化合物(ドキソルビシン、ベネトクラクス、イブルチニブ、エントスプレチニブ、イデラリシブ)に可能性を持たせる
鉄欠乏がDLBCLにおける治療的利益となることを確認するために、DLBCL患者の初代試料を、50nMおよび100nMのイロノマイシンの存在下と不在下とで、微環境組み換え型CD40Lで培養した。イロノマイシン処置は、生存している初代DLBCL細胞の数の中央値を、50nMおよび100nMでそれぞれ、63.1%(P=0.02、N=5)および67.1%(P=0.006、N=5)に有意に減少した(図6Bおよび図7A&B)。興味深いことに、イロノマイシンは、微環境の正常細胞と比較して、DLBCL細胞中でより高い毒性を実証した(図7C)。
次いで本発明者らは、イロノマイシンと従来のDLBCLにおいて一般的に使用される薬物(例えば、ドキソルビシン、エトポシド、シクロホスファミド、ベネトクラクス、イブルチニブ、エントスプレチニブ、イデラリシブ)とを合わせる可能性を調査した。
細胞を、より高濃度のイロノマイシンと、より高濃度の従来の化学療法薬とで処置した。相乗効果マトリックスが構築され、生存率マトリックスからBliss式を適用した(Combesら、2019年)。イロノマイシンは、DLBCL細胞においてドキソルビシンの毒性を有意に相乗させた(図6A)。これらのデータは、患者の初代試料で有効だった(図6B)。イロノマイシンとドキソルビシンとの組み合わせは、単剤療法と比較して有意に高い毒性を実証し(P<0.05、N=5)、生存DLBCL細胞の減少率は92.3%だった(図6B)。イロノマイシンに関連した造血毒性を検査するために、5名の正常ドナーのアフェレーシスからのCD34+細胞で、造血系幹細胞コロニー形成単位アッセイを実施した。細胞を、従来の化学療法薬(5μMの4-OH-シクロホスファミドもしくは200nMのドキソルビシン)またはイロノマイシン(10、50もしくは100nM)の存在下または不在下のヒドロキシメチルセルロース培地中で培養した。シクロホスファミドおよびドキソルビシンは、対照と比較して81.8%および99%の平均成長幹細胞の主要毒性を誘発した。イロノマイシン処置は、CFU-C、CFU-EおよびCFU-GM形成に10nMで使用した場合は有意な毒性を実証しなかった(N=5)。50nMおよび100nMのイロノマイシンによる処置は、従来の化学療法と比較して有意に低い造血毒性を実証した(図6C)。
本発明者らは、種々のDLBCL由来細胞株(U2932、DBおよびOCI-LY3)上で、イロノマイシンとDLBCLにおいて使用される従来の化学療法薬とを合わせる治療的利益を試験した。興味深いことに、イロノマイシンをベネトクラクスBcl2阻害因子と合わせた場合、相乗的効果が特定された(図8)。また、イロノマイシンをイブルチニブ、BTK阻害因子(図9)、エントスプレチニブ、Syk阻害因子(図10)およびイデラリシブ、PI3K阻害因子(図11)とそれぞれ合わせた場合も、相乗的効果が特定された。これらは、イロノマイシンをDLBCLの処置において使用される従来の薬物と合わせる治療的利益を強調した。
【0100】
まとめると、これらのデータは、鉄スコアによって特定された高リスクのDLBCL患者の亜群が、イロノマイシン単独でまたはドキソルビシンと組み合わせて、鉄ホメオスタシスを標的とすることで恩恵を受けることができることを実証する。
【0101】
参考文献


図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
図11-1】
図11-2】
【国際調査報告】