(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-11
(54)【発明の名称】パーキンソン病の予測及び同定のためのバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20221228BHJP
C12Q 1/02 20060101ALN20221228BHJP
【FI】
G01N33/68
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022526724
(86)(22)【出願日】2020-11-11
(85)【翻訳文提出日】2022-07-08
(86)【国際出願番号】 GB2020052872
(87)【国際公開番号】W WO2021094751
(87)【国際公開日】2021-05-20
(32)【優先日】2019-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2019-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】507226592
【氏名又は名称】オックスフォード ユニヴァーシティ イノヴェーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トファリス、ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィス、ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】ジアン、チェン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045BA13
2G045BB12
2G045CA25
2G045DA36
2G045FB03
4B063QA01
4B063QQ03
4B063QQ79
4B063QS36
(57)【要約】
本発明は、パーキンソン病を有する対象の予測及び同定におけるバイオマーカーとして、血清エキソソームタンパク質、α-シヌクレイン及びクラステリンを使用することに関し、それらのレベルを測定するための方法を提供する。バイオマーカーはまた、パーキンソン病のモニタリング、予防及び/又は処置、並びにパーキンソン病を、MSAを含む非定型パーキンソン症候群から鑑別する際に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象からの血液試料を分析するための方法であって、血液試料中のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレイン及びクラステリンのレベルを測定することを含み、α-シヌクレイン及びクラステリンのレベルが、パーキンソン病(PD)に罹患しやすい対象又はPDを有する対象の診断指標を提供する、上記方法。
【請求項2】
α-シヌクレイン及びクラステリンのレベルが、前駆PDを有する対象の診断指標を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
参照と比較したα-シヌクレインのレベルの増加が、対象がPDに罹患しやすいか又はPDを有することを示し、場合により、参照が10~20pg/mlの間の閾値である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
参照と比較したクラステリンのレベル増加の欠如が、対象がPDに罹患しやすいことを示し、場合により、参照が7~17ng/mlの間の閾値である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
パーキンソニズムの1つ又は複数の徴候又は症候を有し、PDと診断されていない対象からの血液試料を分析するための方法であって、血液試料中のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレインのレベルを測定することを含み、α-シヌクレインのレベルが、PDに罹患しやすい対象の診断指標を提供する、上記方法。
【請求項6】
パーキンソニズムの徴候又は症候が、
-非運動徴候の1つもしくは複数:急速眼球運動睡眠行動障害(RBD)、嗅覚機能障害、便秘、日中の過度の眠気、症候性低血圧、勃起不全、排尿機能障害の診断、及び/又はうつ病の診断、
-非運動徴候の1つもしくは複数:変化した筆跡、寝返り、歩行障害、唾液分泌障害、言語障害、顔面表情の減少、固縮、バランス障害、安静時振戦、動作緩慢(遅い動き)、及び/又は姿勢不安定性、並びに/或いは
-シナプス前ドパミン作動系の異常なトレーサー取込み
を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ニューロン由来エキソソームにおけるクラステリンのレベルをさらに測定することを含み、クラステリンのレベルが、PDに罹患しやすい対象の診断指標を提供する、請求項5又は請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ニューロン由来エキソソームが、L1CAMなどのニューロンタンパク質を含有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
L1CAMに対して親和性を有するリガンドを使用してエキソソームを単離することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
バイオマーカーレベルが、対象の血液試料から得られた血清において決定される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
α-シヌクレインを特徴とする症状(PD及び関連症状(例えば、認知症を伴うPD及びMSA)など)を非α-シヌクレインタンパク質症を特徴とする症状から識別するための方法であって、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法に従って、対象からの血液試料を分析することを含む、上記方法。
【請求項12】
PDをMSAなどのその関連症状から識別するための方法であって、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法に従って、対象からの血液試料を分析することを含む、上記方法。
【請求項13】
PDに罹患しやすい対象を同定するための方法であって、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法に従って対象からの血液試料を分析することを含む、上記方法。
【請求項14】
(a)パーキンソン病の公知のバイオマーカー;
(b)非α-シヌクレインタンパク質症の公知のバイオマーカー;
(c)対象に関する他の情報;及び
(d)PDのための他の診断試験又は臨床指標
のうちの少なくとも1つの決定をさらに含む、請求項11から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
対象におけるPDを予防及び/又は処置する方法であって、請求項13又は14に記載の方法に従ってPDに罹患しやすい対象を同定することと、対象をPDのための治療で処置することとを含む、上記方法。
【請求項16】
対象に投与されているPDのための治療などのα-シヌクレイン標的療法の有効性をモニタリングする方法であって、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法に従って対象からの血液試料を分析することを含み、各バイオマーカーが2つ以上の異なる時点で測定され、各バイオマーカーのレベルが経時的に変化することで、疾患が改善しているか悪化しているかを示す、上記方法。
【請求項17】
エキソソームの選択された集団に対して親和性を有するリガンドにカップリングされた双性イオン性ポリマーを含む、コーティングを有する被覆粒子。
【請求項18】
双性イオン性ポリマーが、カルボキシベタイン、スルホベタイン及び/又はホスホリルコリン部分を含む、請求項17に記載の被覆粒子。
【請求項19】
リガンドがニューロン由来エキソソームに対して親和性を有し、例えば、リガンドが抗L1CAM抗体である、請求項17又は18に記載の被覆粒子。
【請求項20】
試料からエキソソームを単離する方法であって、
-試料を請求項17から19のいずれか一項に記載の被覆粒子と接触させるステップ;
-非結合試料を除去するステップ;及び
-捕捉されたエキソソームを分離するステップ
を含む、上記方法。
【請求項21】
請求項18から20のいずれか一項に記載の方法に従ってニューロン由来エキソソームを試料から単離することを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
血液試料中のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレイン及びクラステリンのレベルを測定するための試薬を含むキット。
【請求項23】
α-シヌクレインを特徴とする症状(PD及び関連症状(例えば、認知症を伴うPD及びMSA)など)を、非α-シヌクレインタンパク質症を特徴とする症状から識別するため、及び/又はPDをMSAなどのその関連症状から識別するために、PDに罹患しやすい対象の診断指標を提供するためのバイオマーカーとしての、α-シヌクレイン及び場合によりクラステリンの使用。
【請求項24】
PDを有する対象の診断指標を提供するためのバイオマーカーとしての、α-シヌクレイン及びクラステリンの使用。
【請求項25】
タウオパチーに罹患しやすいか又はタウオパチーを有する対象の診断指標を提供するためのバイオマーカーとしてのクラステリンの使用。
【請求項26】
対象からの血液試料を分析するための方法であって、ニューロン由来エキソソームにおけるクラステリンのレベルを測定するステップを含み、クラステリンのレベルの増加が、タウオパチーに罹患しやすいか又はタウオパチーを有する対象の診断指標を提供する、上記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキンソン病を有する対象の予測及び同定に有用なバイオマーカーに関する。本発明はまた、バイオマーカーのレベルを測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病(PD)は、長い前駆フェーズ(1、2)及び認知症への進行リスク(3)を伴う最も一般的な運動障害である。これらの疾患フェーズは、α-シヌクレイン(4)の蓄積及び凝集を伴うレビー小体及び神経炎病変(5)の進展と広く相関している。
【0003】
PDの最も早いフェーズは前臨床PDとも呼ばれ、その間に神経変性は始まっているが、疾患の明白な症候又は徴候はない。次いで、疾患は、疾患の症候及び徴候が存在するが、疾患を定義するにはまだ不十分である前駆フェーズに進行する。前駆フェーズは著しく長く(多くの患者において10年超)、驚くべきことほど多様であり、嗅覚低下、不安、便秘、疲労及びわずかな運動緩慢を含む、複数の非運動症候及び運動症候を伴う。PDの臨床診断は、通常は、古典的な運動徴候の存在時に行われ、PDの3つの基本的な運動徴候は、安静時振戦、固縮及び動作緩慢である。
【0004】
しかしながら、かなりのPD誤診率がある一方で、社会においてPDを有する多くの患者は未診断のままである。疾患の確定診断は、剖検でのみ行うことができる。疾患の初期段階では、PD及び他の形態の変性性パーキンソニズムは共通の特徴を共有し、臨床的区別は困難であり得る(6)。
【0005】
現在、リスクを予測、又はPDを無関係な神経変性の症状から確実に区別することができる試験は、臨床診療において存在しない。そのような試験は、初期段階でのPDのより正確な診断を可能にすることにより著しい臨床的利益をもたらし、したがって適切な処置治療を早期に開始することができ、それにより個体に長期間の独立性及び高い生活の質を維持するより大きな可能性を提供する。
【0006】
異常なα-シヌクレイン蓄積がPD病理の主要な構成要素であることを考えて、α-シヌクレインは、PDの診断及び/又は疾患進行の指標の潜在的なバイオマーカーとして研究されている。α-シヌクレインは、脳脊髄液(CSF)中に見出すことができる。脳脊髄液(CSF)の総α-シヌクレインは、対照と比較して、PD患者において減少していることが見出されたが(7)、メタアナリシスは、プールされた感度が78~88%の間であり、特異度が40~57%の間であり、不十分な診断精度を示した(8)。さらに、腰椎穿刺によるCSF試料採取の侵襲性は、このアプローチが日常的なモニタリングに理想的ではないことを意味する。
【0007】
α-シヌクレインは、末梢体液中にも見出すことができる(9)。血液中のα-シヌクレインの濃度は、99%超のタンパク質供給源である赤血球により強く影響を受ける(10)。このため、PD患者における全遊離α-シヌクレインの血中含有量は、一つには赤血球溶血による汚染のために、有用性が限られている(11)。
【0008】
α-シヌクレインは、エキソソームに関連して見出され得る。循環エキソソームの組成及び機能は、PDにおいて変化する(12)。PD患者においてエキソソームのα-シヌクレイン総含有量が増加したかどうかに関する報告は一貫していないが(12、13、14)、血漿中の神経組織から放出されたエキソソーム(すなわち血漿ニューロン由来エキソソーム)の集団の分析は、疾患重症度と弱い相関を伴いながら、PD患者においてα-シヌクレイン含有量が増加したことを示した(15)。しかしながら、この研究は、PDと既に診断されている患者において、バイオマーカーとしてのα-シヌクレインの有用性を示しているにすぎない。
【0009】
初期段階でのPDの正確な診断、特にPDと他の形態の変性性パーキンソニズムとの間の識別力の改善をもたらすための新しい低侵襲試験が必要である。本発明の目的は、これらのニーズを満たすことである。
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、驚くべきことに、血液中の神経組織から放出されたエキソソーム(すなわち、ニューロン由来エキソソーム)中のある特定のタンパク質が、パーキンソン病のバイオマーカーとして、特に疾患の初期フェーズにおいて有用であり得ることを確認した。特に、本発明者らは、血清の神経エキソソームにおけるα-シヌクレイン放出の増加がPDの診断に先行し、疾患進行と共に持続することを見出した。クラステリンと組み合わせて、α-シヌクレインは、リスクのある患者群の層別化又はα-シヌクレイン標的療法のモニタリングにおいて臨床的に検討され得る、進化しつつあるα-シヌクレイノパチーの予測マーカーである。
【0011】
本発明者らは、レビー小体病変のスペクトラムにわたる神経変性の症状、すなわち、初期から後期段階のPDを含むα-シヌクレイノパチーを特徴とする症状、及び非α-シヌクレインタンパク質症(例えば、前頭側頭型認知症(FTD)、進行性核上性麻痺(PSP)及び大脳皮質基底核症候群(CBS))を特徴とする神経変性の症状を有する対象からの血液試料におけるニューロン由来エキソソームのタンパク質含有量を評価した。本発明者らは、血液中のニューロン由来エキソソームにおいて、平均α-シヌクレイン含有量が、対照又は他の神経変性の症状と比較した場合、前駆及び臨床PDにおいて2倍増加した(p<0.0001)ことを見出した。訓練群の対象314人及び検証群の対象105人では、血液中のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレイン含有量は、集団全体にわたり臨床PDを対照から分離する際に一貫した性能(AUC=0.86)を示した。縦断的試料分析は、以前の観察(15)とは対照的に、血液中のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレインがPD進行と共に安定して上昇したままであることを示した。
【0012】
理論により拘束されることを望むものではないが、データは、神経組織からのα-シヌクレインの放出が、臨床診断に先行し、疾患進行と共に持続するPDにおける特異的な病態生理学的応答であることを示唆する。したがって、α-シヌクレインは、PDを予測し、α-シヌクレインを特徴とする症状(PD及び関連症状(例えば、認知症を伴うPD及びMSA)など)を、非α-シヌクレインタンパク質症を特徴とする症状と識別するための有用なバイオマーカーであり得る。
【0013】
さらに、本発明者らは、血液中のニューロン由来エキソソームにおけるクラステリン含有量が、非α-シヌクレインタンパク質症(例えば、前頭側頭型認知症(FTD)、進行性核上性麻痺(PSP)及び大脳皮質基底核症候群(CBS))を特徴とする神経変性の症状を有する対象では上昇したが(p<0.0001)、レビー小体病変、すなわちα-シヌクレイノパチー(例えば、PDの前駆、運動及び認知段階)を特徴とする症状を有する対象では上昇しなかったことを見出した。したがって、クラステリンは、非α-シヌクレインタンパク質症、特にタウオパチーを特徴とする神経変性の症状を予測及び診断するための有用なバイオマーカーであり得る。
【0014】
血液中のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレインとクラステリンとの組合せ測定により、基本的なα-シヌクレイノパチーを有する対象と、非α-シヌクレインタンパク質症を有する対象とをAUC=0.98で区別した。したがって、クラステリンをα-シヌクレインと組み合わせて使用して、PDを予測するための診断力を改善し、α-シヌクレインを特徴とする症状(PD及び関連症状(例えば、認知症を伴うPD及びMSA)など)を、非α-シヌクレインタンパク質症を特徴とする症状から識別することができる。
【0015】
本発明者らはまた、平均エキソソームα-シヌクレインが、MSAと比較した場合、前駆及び臨床パーキンソン病において2倍増加したことを見出した。さらに、ニューロン由来エキソソームのα-シヌクレインとクラステリンとの組合せ測定は、パーキンソン病をMSAからAUC=0.94で予測した。したがって、エキソソームのα-シヌクレイン単独又はクラステリンとの組合せは、PDをその関連症状(例えば、MSAを含む非定型パーキンソン症候群などの同様の徴候及び症候を有する症状)から識別するのにも使用することができる。
【0016】
このように、本発明は、血液試料中のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレイン及びクラステリンのレベルを測定することを含む、対象からの血液試料を分析するための方法を提供し、α-シヌクレイン及びクラステリンのレベルは、PDに罹患しやすい対象又はPDを有する対象の診断指標を提供する。
【0017】
本発明はまた、血液試料中のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレイン及びクラステリンのレベルを測定することを含む、対象からの血液試料を分析するための方法を提供する。
【0018】
本発明はまた、血液試料中のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレインのレベルを測定することを含む、パーキンソニズムの1つ又は複数の徴候又は症候を有し、PDと診断されていない対象からの血液試料を分析するための方法を提供し、α-シヌクレインのレベルは、PDに罹患しやすい対象の診断指標を提供する。
【0019】
本発明はまた、本発明の方法のいずれかに従って対象からの血液試料を分析することを含む、α-シヌクレインを特徴とする症状(PD及び関連症状(例えば、認知症を伴うPD及びMSA)など)を、非α-シヌクレインタンパク質症を特徴とする症状から識別する方法を提供する。
【0020】
本発明はまた、本発明の方法のいずれかに従って対象からの血液試料を分析することを含む、PDをその関連症状(例えば、MSAを含む非定型パーキンソン症候群)から識別する方法を提供する。
【0021】
本発明はまた、本発明の方法のいずれかに従って対象からの血液試料を分析することを含む、PDに罹患しやすい対象を同定するための方法を提供する。
【0022】
本発明はまた、本発明の方法のいずれかに従ってPDに罹患しやすい対象を同定することと、対象をPDのための療法で処置することとを含む、対象においてPDを予防及び/又は処置する方法を提供する。
【0023】
本発明はまた、本発明の方法に従って対象からの血液試料を分析することを含む、対象に投与されているPDのための療法などのα-シヌクレイン標的療法の有効性をモニタリングする方法を提供し、各バイオマーカーは2つ以上の異なる時点で測定され、各バイオマーカーのレベルが経時的に変化することで、疾患が改善しているか悪化しているかを示す。
【0024】
上記の方法は、血液試料からエキソソームの選択された集団の抽出、及びエキソソームにおけるある特定のタンパク質の含有量の分析を必要とする。エキソソームへの結合を含むイムノアッセイは、当技術分野において記載されている。例えば、参考文献16は、エキソソームのバイオマーカータンパク質である上皮細胞接着分子(EpCAM)の認識を介してエキソソームを捕捉するように設計されたイムノアフィニティービーズに関係する方法を記載している。ビーズをポリアクリル酸でコーティングして機能的結合部位を用意し、次いでスルホベタイン(防汚双性イオン)とコンジュゲートさせる。次いで、抗EpCAM抗体をスルホベタイン分子にコンジュゲートする。
【0025】
しかしながら、本発明者らは、例えば15に記載されるような従来技術の方法を使用して、神経エキソソーム内の特定のタンパク質のレベルを測定することが、PDを予測する有用な診断指標を提供するために十分には正確ではないことを見出した。特に、本方法は、エキソソームの特定の選択された集団のみの単離を必要とする。これは、所望のエキソソームに対する高レベルの特異性を有するアッセイを必要とする。さらに、エキソソームのこの選択された集団内のある特定のタンパク質レベルの決定は、エキソソーム試料が非常に低レベルの干渉性生体分子で抽出されることを必要とする。したがって、本発明者らは、既存の方法論がニューロン由来エキソソームのタンパク質含有量を研究するのに十分ではないだろうと認識し、血液試料からエキソソームのこの集団を選択的に単離するための方法を改善した。
【0026】
本発明者らは、粒子の表面上で双性イオン性ポリマーを成長させ、エキソソームの選択された集団に対して親和性を有するリガンドを双性イオン性ポリマーにコンジュゲートすることにより、所望のエキソソームに対してより高い選択性を達成できることを見つけ出した。したがって、本発明はまた、エキソソームの選択された集団に対して親和性を有するリガンドにカップリングされた双性イオン性ポリマーを含むコーティングを有する被覆粒子を提供する。
【0027】
本発明はまた、試料を本発明の被覆粒子と接触させるステップ;非結合試料を除去するステップ;及び捕捉されたエキソソームを分離するステップを含む、試料からエキソソームを単離する方法を提供する。
【0028】
双性イオン性材料は、水分子に結合して高度の水和をもたらす能力により、生物学的材料の非選択的結合を防止するのに有効である。本明細書に記載の被覆粒子は、双性イオン性ポリマーの高い表面被覆率を有し、生物学的分子が結合し得る利用可能な表面を最小限に抑える。さらに、ポリマーは、典型的には、ブラシ状の様式でポリマーの表面から外側に成長する。これは、非ポリマー性双性イオン性分子のコーティングを使用して達成されるよりも高い水和度を粒子の周りにもたらす。また、ポリマー鎖の運動に起因して高度な配座エントロピーをもたらす。これらの要因はすべて、非特異的な生物学的分子との相互作用を最小限に抑えるのに非常に有効な被覆粒子をもたらす。
【0029】
双性イオン性ポリマーをナノ粒子などの小さい粒子に付着させることは些末なことではない。したがって、エキソソームを単離するための以前の方法は、例えば双性イオン性分子の単層の付着を伴うより単純なプロセスを使用していた。しかしながら、本発明者らは、より大きな選択性の必要性、それがなければ、特定されたマーカーの予測値は有意に低下することを確認した。本明細書に記載の被覆粒子及びエキソソームを捕捉するための方法は、所望のエキソソームの効果的な単離を提供し、これによりそれらのタンパク質含有量の正確な決定を可能にする。これらの方法を使用して、エキソソームのタンパク質含有量をpg/mLレベルまで測定することができる。
【0030】
本発明はまた、血液試料からエキソソームの選択された集団を単離するための本発明の被覆粒子、及び/又は血液試料中のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレイン及びクラステリンのレベルを測定するための試薬を含むキットを提供する。
【0031】
本発明はまた、PDに罹患しやすい対象の診断指標を提供するため、α-シヌクレインを特徴とする症状(PD及び関連症状(例えば、認知症を伴うPD及びMSA)など)を非α-シヌクレインタンパク質症を特徴とする症状から識別するため、及び/又はPDをその関連症状(例えばMSAを含む非定型パーキンソン症候群)から識別するための、バイオマーカー(複数可)としてのα-シヌクレイン及び場合によりクラステリンの使用を提供する。
【0032】
本発明はまた、パーキンソン病を有する対象の診断指標を提供するためのバイオマーカーとしてのα-シヌクレイン及びクラステリンの使用を提供する。
【0033】
本発明はまた、タウオパチーに罹患しやすい又はタウオパチーを有する対象の診断指標を提供するためのバイオマーカーとしてのクラステリンの使用を提供する。
【0034】
本発明はまた、ニューロン由来エキソソームにおけるクラステリンのレベルを測定するステップを含む、対象からの血液試料を分析するための方法を提供し、クラステリンのレベルの増加は、タウオパチーに罹患しやすいか又はタウオパチーを有する対象の診断指標をもたらす。
【0035】
本発明はまた、ニューロン由来エキソソームにおけるクラステリンのレベルを測定するステップを含む、対象からの血液試料を分析するための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】レビー小体病変のスペクトラムにわたる(すなわち、α-シヌクレイノパチーを特徴とする症状を有する)患者からの試料の血液中のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレイン含有量を示す。(A)レビー小体病変(REM睡眠行動障害(RBD)、運動性PD、PD認知症(PDD)、レビー小体型認知症(DLB))の症状のスペクトラム及び無関係な神経変性の症状(前頭側頭型認知症(FTD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核症候群(CBS))、並びに年齢及び性別が一致する対照にわたる平均総α-シヌクレインの箱ひげ図。α-シヌクレインの含有量の2倍の増加が、α-シヌクレイン病変を特徴とする症状から単離されたL1CAM陽性エキソソームにおいて検出された。(B)検出限界(0.5pg/ml)では、PSer129α-シヌクレインは、試験したPD患者の小さなサブグループ(28.6%)でのみ検出された。エキソソームのα-シヌクレインと、統一パーキンソン病評価尺度(UPDRS)(パネルC、r=0.0267)又はモントリオール認知評価(MoCA)(パネルD、r=0.0621)のいずれかとの間に有意な相関は見られなかった。
**p<0.01、
****p<0.0001。エキソソームマーカーの四分位範囲を伴う平均値及び係数1の標準偏差を使用したウィスカー範囲を、箱ひげ図で使用した。
【
図2】試料の血液中のニューロン由来エキソソームにおけるクラステリン含有量がタウオパチーにおいて増加し、α-シヌクレインと組み合わせると鑑別診断が改善したことを示す。(A)血清の神経エキソソームにおけるクラステリン(clu)放出は、FTD、PSP及びCBSにおいて増加するが、RBD、PD、PDD、DLB又は年齢及び性別が一致する対照においては増加しない。(B)α-シヌクレインとクラステリンとの比は、α-シヌクレイノパチーと別のタンパク質症との間の分離を改善した。個々のマーカーの受信者動作特性(ROC)分析及び複合測定のそれらの比又は線形回帰分析は、パネルC及びDに示されるように、前駆又は臨床PDを別のタンパク質症から鑑別する際の2つのバイオマーカーの改善された予測力を明らかにした。臨床PDは、PDとPDDの組み合わせた群を指す(
***p<0.001、
****p<0.0001)。
【
図3】コホート間の血液中のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレインのカットオフ値の推定を示す。訓練群(A)及び検証群(B)における平均エキソソームα-シヌクレインレベル及び対応するROC曲線の箱ひげ図。訓練群(Keil及びBrescia)から推定されたエキソソームα-シヌクレインのカットオフ値(≧14.21pg/mL)を検証群(Oxford)に適用した場合、アッセイ性能分析は、パネルCに示されるように、臨床PDを対照から区別する際に、同様な曲線下面積(AUC)、感度(Sens)、特異度(Spec)、陽性(PPV)及び陰性(NPV)予測値を有する集団全体にわたり一貫した結果を明らかにした。
【
図4】試料の血液中のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレイン及びクラステリン含有量の縦断的分析を示す。エキソソームのα-シヌクレイン(A)及びクラステリン(B)の線形混合モデルを、コバリアント(covariant)としての最初のサンプリングからの経時的な長期値に適合させ、患者を中央値に対する最初の来院時のレベルにより層別化した。臨床PDを対照試料と比較した場合、疾患サブグループと対照との間の持続的な分離が確認されたが、0からの勾配の全体的な有意差は確認されなかった。臨床PDは、PDとPDDとの組合せ群を指す。患者の特徴及びp値をパネルCに要約する。
【
図5】カルボキシベタインメタクリラート(CBMA)モノマーの分子構造及びD
2O中のCBMAの核磁気共鳴(NMR)スペクトルを示す。
【
図6】(A)むき出しの酸化鉄ビーズ及び対照として使用したCBMAモノマーと一緒にした、pCBMA被覆ビーズのフーリエ変換赤外分光減衰全反射(FTIR-ATR)スペクトル。いずれも抗HA抗体にコンジュゲートした市販のエポキシビーズと比較して、pCBMA被覆ビーズ上のBSA(B)又は血清タンパク質(C)の減少した吸着。
【
図7A】pCBMAベースの双性イオン性磁気ビーズの調製及びエキソソームの免疫捕捉を示す。(A)血清中のL1CAM陽性神経エキソソームの免疫捕捉のためのpCBMA被覆磁気マイクロビーズの合成及び適用。
【
図7B】pCBMAベースの双性イオン性磁気ビーズの調製及びエキソソームの免疫捕捉を示す。(B)血清からのエキソソームの免疫捕捉を実証する抗L1CAMコンジュゲート化又は対照pCBMA被覆ビーズのSEM(スケールバー、200nm)。
【
図7C】pCBMAベースの双性イオン性磁気ビーズの調製及びエキソソームの免疫捕捉を示す。(C)免疫捕捉された小胞の溶解物は、イムノブロッティングにより示されるように、膜貫通(CD81及びL1CAM)及び内部エキソソームタンパク質(Tsg101及びシンテニン-1)を含有する。
【
図7D】pCBMAベースの双性イオン性磁気ビーズの調製及びエキソソームの免疫捕捉を示す。(D)質量分析により同定されたタンパク質のGO分析は、エキソソーム及び関連する細胞外小胞機能がエンリッチされたタームを明らかにした。
【
図7E】pCBMAベースの双性イオン性磁気ビーズの調製及びエキソソームの免疫捕捉を示す。(E)質量分析により同定された真正エキソソームタンパク質及びトップヒットのリスト。
【
図8A】抗CD9(全エキソソーム集団)、抗L1CAM(神経エキソソーム亜集団)又は抗HA(エキソソーム上に存在しないエピトープに対する対照抗体)で免疫捕捉された血清エキソソームにおけるα-シヌクレインのトリプレックス電気化学発光による特異的検出を示す。
【
図8B】抗CD9(全エキソソーム集団)、抗L1CAM(神経エキソソーム亜集団)又は抗HA(エキソソーム上に存在しないエピトープに対する対照抗体)で免疫捕捉された血清エキソソームにおけるシンテニン-1のトリプレックス電気化学発光による特異的検出を示す。
【
図8C】抗CD9(全エキソソーム集団)、抗L1CAM(神経エキソソーム亜集団)又は抗HA(エキソソーム上に存在しないエピトープに対する対照抗体)で免疫捕捉された血清エキソソームにおけるクラステリンのトリプレックス電気化学発光による特異的検出を示す。
【
図9】疾患群にわたる対象からの試料の血液中のニューロン由来エキソソームにおけるシンテニン-1含有量を示す。バイオマーカーの開発に有意に寄与し得る群にわたり、疾患特異的な分布パターンは検出されなかった。
【
図10】pSer129α-シヌクレインの検出のための電気化学発光アッセイの開発を示す。(A)使用した抗体ペアの情報、(B)特異性試験及び(C)再現性。pSer129 a-シヌクレインのLLODは2.11pg/mLである。エキソソーム溶解物中のタンパク質が10倍濃縮されたこと:500μLの血清投入物をエキソソーム捕捉のために使用し、50μL溶解緩衝液(濃縮係数は10である)に溶解したことを指摘しておくべきである。検量線を使用して、溶解物中のバイオマーカーを検出した(例えば、溶解物中のマーカーの濃度が5pg/mLである場合、血清中のマーカーの濃度は5/10pg/mL=0.5pgエキソソームマーカー/血清(mL)である)。pSer129α-シヌクレインの場合、LLODは溶解物中で2.11pg/mL、血清中で0.211pg/mLのエキソソームpSer129α-シヌクレインである。したがって、群間の結果を比較するために、血清中のエキソソームpSer129 a-シヌクレインの検出のためのカットオフとして0.5pg/mLを考慮した。
【
図11】疾患群にわたるエキソソームシンテニン-1レベルを示す。バイオマーカーの開発に有意に寄与し得る群にわたり、疾患特異的な分布パターンは検出されなかった。
【
図12】粒子の表面上で表面開始RAFT重合を実施するための例示的な方法を提供する。
【
図13】ニューロン由来エキソソームのα-シヌクレインが、レビー小体病変のスペクトラムにわたって増加することを示す。(A)レビー小体病変(RBD、運動性PD、PDD、DLB)の症状のスペクトラム、MSA及び無関係な神経変性疾患(FTD、PSP、CBS)、並びに年齢及び性別が一致する対照にわたる平均総α-シヌクレインの箱ひげ図。α-シヌクレインの含有量の2倍の増加が、レビー小体病変を特徴とする症状から単離されたL1CAM陽性エキソソームにおいて検出された。(B)検出可能な最低濃度(0.32pg/ml)では、pSer129α-シヌクレインが、試験したPD患者のサブグループ(55.8%)において検出された。PD患者試料において、総エキソソームα-シヌクレインと、UPDRS(パネルC、r=0.0267)又はMoCA(パネルD、r=0.0621)のいずれかとの間に有意な相関は見られなかった。
**p<0.01、
***p<0.001、
****p<0.0001。エキソソームマーカーの四分位範囲を伴う平均値及び係数1のSDを使用したウィスカー範囲を、箱ひげ図で使用した。
【
図14】ニューロン由来エキソソームのクラステリンがタウオパチーにおいて増加し、α-シヌクレインと組み合わせると鑑別診断が改善したことを示す。(A)血清の神経エキソソームにおけるクラステリン(clu)放出は、FTD、PSP及びCBSにおいて増加するが、RBD、PD、PDD、DLB、MSA又は年齢及び性別が一致する対照においては増加しない。(B)α-シヌクレインとクラステリンとの比は、レビー小体病変と別のタンパク質症との間の分離を改善した。(C)疾患間を鑑別するα-Syn、Clu又はα-Syn/Cluを使用したエキソソームプロファイルのヒートマップ図。各エキソソームマーカーの濃度の変化をHCの値に対して正規化した。個々のマーカーのROC分析及び複合測定のそれらの比又は線形回帰分析は、前駆又は臨床PDを、パネルD及びパネルFに示されるように別のタンパク質症から、並びにパネルE及びパネルGに示されるようにMSAから鑑別する際の2つのバイオマーカーの相加効果を明らかにした。臨床PDは、PDとPDDの組み合わせた群を指す(
**p<0.01、
***p<0.001、
****p<0.0001)。
【
図15】疾患群にわたるエキソソームのシンテニン-1レベルを示す。バイオマーカーの開発に有意に寄与し得る群にわたり、疾患特異的な分布パターンは検出されなかった。
【
図16】異なる磁気ビーズ(MB)表面(1mgビーズ投入)上に吸着したBSAの定量的評価を示すヒストグラムを含む。エラーバーは、3つの別個に収集された実験データセットの標準偏差を表す。
【
図17A】
図17は、
図17A、
図17B、
図17C及び
図17Dを含む。(A)異なるAb修飾pCBMA@Fe
3O
4 MB表面上での組換えα-Synの定量化された吸着を示すヒストグラムである。市販のカルボン酸末端化MBを対照として使用した。
【
図17C】
図17は、
図17A、
図17B、
図17C及び
図17Dを含む。(C)エキソソームからの膜貫通タンパク質(L1CAM、CD81)及び内部タンパク質Synt-1の両方の検出を確認する、免疫捕捉された小胞の溶解物のイムノブロッティングを示す。
【
図18】10
-3g/mLのCRP、10
-3g/mLのα-Syn、10
-3g/mLのBSA及び10
-9g/mLのSynt-1に対する抗シンテニン-1修飾センサの相対応答を示す。エラーバーは、9回の測定から計算した:3つの独立した作用電極を使用した3つの実験にわたる3回の反復。
【
図19A】示されるような様々な濃度で、10%ヒト血清にスパイクしたα-Synに対する抗α-Syn修飾作用電極のナイキスト曲線を示す。
【
図19B】示されるような様々な濃度で、10%ヒト血清にスパイクしたSynt-1に対する抗シンテニン-1修飾作用電極のナイキスト曲線を示す。
【
図20A】10~10
4pg/mLのダイナミックレンジを有する10%ヒト血清にスパイクしたα-Synについてのインピーダンス検量線を示す。エラーバーは、9回の測定から計算した:3つの独立した作用電極を使用した3つの実験にわたる3回の反復。
【
図20B】10~10
4ng/mLの濃度範囲の10%ヒト血清にスパイクしたSynt-1についてのインピーダンス検量線を示す。エラーバーは、9回の測定から計算した:3つの独立した作用電極を使用した3つの実験にわたる3回の反復。エラーバーは、9回の測定から計算した:3つの独立した作用電極を使用した3つの実験にわたる3回の反復。
【
図21】異なる疾患群及び健常対照群にわたるα-シヌクレインレベルの箱ひげ図を示す。
**P<0.01、
***P<0.001、
****P<0.0001。エキソソームマーカーのIQRを伴う平均値及び係数1のSDを使用したウィスカー範囲を、箱ひげ図で使用した。
【
図22A】RBD対PSP+CBSの分離の特徴としてα-シヌクレインを使用した診断モードを表すROC曲線を示す。
【
図22B】RBD対MSAの分離の特徴としてα-シヌクレインを使用した診断モードを表すROC曲線を示す。
【
図22C】PD対PSP+CBSの分離の特徴としてα-シヌクレインを使用した診断モードを表すROC曲線を示す。
【
図22D】PD対MSAの分離の特徴としてα-シヌクレインを使用した診断モードを表すROC曲線を示す。
【
図23】異なる疾患群及び健常対照群にわたるクラステリンレベルの箱ひげ図を示す。
**P<0.01、
***P<0.001、
****P<0.0001。エキソソームマーカーのIQRを伴う平均値及び係数1のSDを使用したウィスカー範囲を、箱ひげ図で使用した。
【
図24】異なる疾患群及び健常対照群にわたるα-シヌクレイン/クラステリンレベルの箱ひげ図を示す。
**P<0.01、
***P<0.001、
****P<0.0001。エキソソームマーカーのIQRを伴う平均値及び係数1のSDを使用したウィスカー範囲を、箱ひげ図で使用した。
【
図25A】RBD対MSAの分離の特徴としてα-Syn/Cluを使用した診断モードを表すROC曲線を示す。
【
図25B】RBD対PSP+CBSの分離の特徴としてα-Syn/Cluを使用した診断モードを表すROC曲線を示す。
【
図25C】PD対MSAの分離の特徴としてα-Syn/Cluを使用した診断モードを表すROC曲線を示す。
【
図25D】PD対PSP+CBSの分離の特徴としてα-Syn/Cluを使用した診断モードを表すROC曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明のバイオマーカー
α-シヌクレイン
本発明の方法は、血液試料からのニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレインのタンパク質レベルを検出及び測定することを含み得る。α-シヌクレインは当技術分野で十分に記載されており(例えば、5を参照)、SNCA、NACP、PARK1、PARK4、PD1、又はシヌクレインアルファとしても公知である。α-シヌクレインの特定のタンパク質配列は、本発明を限定するものではない。本発明は、これらのタンパク質の多型バリアント、又はこれらのタンパク質の修飾バージョン、例えばセリン129位のリン酸化α-シヌクレインなどの翻訳後修飾バージョンのレベルを検出及び測定することを含む。
【0038】
血液中のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレインは、PDの予測及び/又は診断バイオマーカーとして使用することができる。血液中のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレイン含有量は、PD(疾患進行の初期から後期フェーズまで)と非PD(例えば健康な対象及び非α-シヌクレインタンパク質症を特徴とする症状を有する対象)対象との間の強い区別を提供する。特に、本発明者らは、PD対象(初期から後期フェーズまで)の血液中のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレイン含有量が非PD対象と比較して有意に増加したことを見出した。非PD対象の血液中のニューロン由来エキソソームにおける平均α-シヌクレイン含有量は、約12~13pg/mlの間である。例えば、下記の例では、非PD対象の血液試料中のニューロン由来エキソソームにおける平均α-シヌクレイン含有量を測定したところ、12.91±5.93pg/mL(+/-SD)であった。
【0039】
したがって、対象試料を分析するための方法は、対象がPDに罹患しやすいかどうかを同定する、すなわち対象がPDを有するかどうかを予測するための方法として機能し得る。対象試料を分析するための方法は、対象がPDを有するかどうかを診断するための方法として機能し得る。対象試料を分析するための方法はまた、α-シヌクレインを特徴とする症状(PD及び関連症状(例えば、認知症を伴うPD及びMSA)など)を、非α-シヌクレインタンパク質症を伴う神経変性疾患に由来するPDを特徴とする症状から識別するための方法として機能し得る。対象試料を分析するための方法はまた、PDをその関連する症状、例えば、MSAを含む非定型パーキンソン症候群などの同様の徴候及び症候を有する症状から識別するための方法として機能し得る。
【0040】
クラステリン
本発明の方法は、血液試料からのニューロン由来エキソソームにおけるクラステリンのタンパク質レベルを検出及び測定することを含み得る。クラステリンは当技術分野で周知であり(例えば、17を参照)、CLU、AAG4、APO-J、APOJ、CLI、CLU1、CLU2、KUB1、NA1/NA2、SGP-2、SGP2、SP-40、又はTRPM2としても公知である。クラステリンの特定のタンパク質配列は、本発明を限定するものではない。本発明は、これらのタンパク質の多型バリアント、又はこれらのタンパク質の修飾バージョン、例えば翻訳後修飾バージョンのレベルを検出及び測定することを含む。
【0041】
血液中のニューロン由来エキソソームにおけるクラステリンは、PDの予測及び/又は診断バイオマーカーとしても使用することができる。血液中のニューロン由来エキソソームにおけるクラステリン含有量は、PDの疾患進行を通して健康な対象と同様のレベルのままであることが見出された。健康な対象の血液中のニューロン由来エキソソームにおける平均クラステリン含有量は、約8~9ng/mlの間である。例えば、下記の例では、健康な対象の血液試料中のニューロン由来エキソソームにおける平均クラステリン含有量を測定したところ、8.67±4.92ng/mL(+/-SD)であった。
【0042】
したがって、対象試料を分析するための方法は、対象がPDに罹患しやすいかどうかを同定する、すなわち対象がPDを有するかどうかを予測するための方法として機能し得る。対象試料を分析するための方法は、対象がPDを有するかどうかを診断するための方法として機能し得る。対象試料を分析するための方法はまた、α-シヌクレインを特徴とする症状(PD及び関連症状(例えば、認知症を伴うPD及びMSA)など)を、非α-シヌクレインタンパク質症を伴う神経変性疾患に由来するPDを特徴とする症状から識別するための方法として機能し得る。対象試料を分析するための方法はまた、PDをその関連する症状、例えば、MSAを含む非定型パーキンソン症候群などの同様の徴候及び症候を有する症状から識別するための方法として機能し得る。
【0043】
血液中のニューロン由来エキソソームにおけるクラステリンは、タウオパチーの予測及び/又は診断バイオマーカーとして使用することができる。クラステリンは、タウオパチー対象と非タウオパチー対象(例えば健康な対象及びα-シヌクレイノパチーを特徴とする症状を有する対象)との間の強い区別を提供する。特に、本発明者らは、タウオパチー対象の血液中のニューロン由来エキソソームにおけるクラステリン含有量が非タウオパチー対象と比較して有意に増加したことを見出した。非タウオパチー対象、例えばα-シヌクレイノパチー対象の血液中のニューロン由来エキソソームにおける平均クラステリン含有量は、約9~10ng/mlの間である。例えば、下記の例では、PD対象の血液試料中のニューロン由来エキソソームにおける平均クラステリン含有量を測定したところ、9.72±6.02ng/mLであった。
【0044】
したがって、対象試料を分析するための方法は、対象がタウオパチーに罹患しやすいかどうかを同定する、すなわち対象がタウオパチーを有するようになるかどうかを予測する、及び/又は対象がタウオパチーを有するかどうか診断するための方法として機能し得る。
【0045】
α-シヌクレインとクラステリンとの組合せ
アッセイが集団にわたり高感度かつ特異的な結果を与えているという全体的な信頼性を高めるために、α-シヌクレイン及びクラステリンの両方のレベルを分析することが有利である。したがって、本発明の方法は、血液試料からのニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレイン及びクラステリンのタンパク質レベルを検出及び測定することを含み得る。バイオマーカーのレベルは、対象がPDに罹患しやすいかどうか、及び/又は対象がPDを有するかどうかの診断指標を提供し得る。
【0046】
本発明者らは、PD対象(初期から後期フェーズまで)の血液中のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレイン含有量が非PD対象と比較して有意に増加したことを見出した。非PD対象の血液中のニューロン由来エキソソームにおける平均α-シヌクレイン含有量は、約10~20pg/mlの間である。一方、血液中のニューロン由来エキソソームにおけるクラステリン含有量は、PDの疾患進行を通して健康な対象と同様のレベルのままであり、非α-シヌクレインタンパク質症を伴う神経変性疾患を有する対象では、健康な対象又はαシヌクレイノパチー(例えば、PDの初期から後期フェーズまで)を有する対象と比較して有意に増加することが見出された。健康な対象又はα-シヌクレイノパチーを有する対象の血液中のニューロン由来エキソソームにおける平均クラステリン含有量は、約7~17ng/mlの間である。2つのバイオマーカーの異なる挙動は、それらが同じ試料で評価される場合、PDの診断を強化することができる。このバイオマーカーの組合せは、PDと非α-シヌクレインタンパク質症試料との間に見られる区別を強化するために最も有用である。
【0047】
したがって、対象試料を分析するための方法は、対象がPDに罹患しやすいかどうかを同定する、すなわち対象がPDを有するかどうかを予測するための方法として機能し得る。対象試料を分析するための方法は、対象がPDを有するかどうかを診断するための方法として機能し得る。さらに、対象試料を分析するための方法は、α-シヌクレインを特徴とする症状(PD及び関連症状(例えば、認知症を伴うPD及びMSA)など)を、非α-シヌクレインタンパク質症を特徴とする症状から識別するための方法として機能し得る。対象試料を分析するための方法はまた、PDをその関連する症状、例えば、同様の徴候及び症候、例えばMSAを有する症状から識別するための方法として機能し得る。
【0048】
試料
本発明は、対象からの血液試料を分析する。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、対象から血液試料を得る最初のステップを含む。しかしながら、他の実施形態では、血液試料は、本発明の方法を実施するのとは別個に、かつ実施する前に得られる。血液試料が得られた後、本発明の方法をインビトロで実施することができる。
【0049】
バイオマーカーの検出は、対象から採取された試料に対して直接実施されてもよく、又は試料は、対象から採取されてから分析されるまでの間に処理されてもよい。例えば、血液試料は、抗凝固剤(例えば、EDTA)を添加し、続いて細胞及び細胞残屑を除去し、エキソソームを含有する血漿を分析のために残すことにより処理されてもよい。あるいは、血液試料を凝固させ、続いて細胞及び様々な凝固因子を除去し、エキソソームを含有する血清を分析のために残してもよい。例えば、下記の例では、バイオマーカーのレベルを血清試料で決定した。血漿又は血清が調製されたら、バイオマーカー検出の前に試料を等分し、凍結してもよい。
【0050】
本発明のある特定の態様では、対象は、パーキンソニズムの1つ又は複数の徴候又は症候を有し、PDと診断されていない。本発明は、パーキンソニズムの1つ又は複数の徴候又は症候を有し、PDと診断されていない対象を同定するステップをさらに含み得る。PDを診断するための臨床基準、例えば、英国パーキンソン病学会ブレインバンク(UKPDSBB)基準(18)、Gelb基準(19)又は運動障害学会(MDS)PD基準(20)は、当技術分野で十分に記載されている。対象は、これらの臨床PD基準のいずれかに記載されている要件を満たさない限り、PDと診断されない。
【0051】
パーキンソニズムはいくつかの症状を包含し、これは、PD並びに振戦、動作緩慢、固縮及び姿勢不安定性などの同様の症候を伴う他の症状(例えば、原発性進行性失語(FTD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核症候群(CBS)、薬物誘発性パーキンソニズム、多系統萎縮症(MSA)及び/又は血管性パーキンソニズム)を含む。パーキンソニズムの徴候及び症候は当技術分野で十分に記載されており、例えば、参考文献(21)を参照されたい。例えば、徴候及び症候は、変化した筆跡、寝返り、歩行障害、唾液分泌障害、言語障害、顔面表情の減少、固縮、バランス障害、安静時振戦、動作緩慢(遅い動き)、及び/又は姿勢不安定性などの非運動徴候の1つ又は複数を含み得る。徴候及び症候は、急速眼球運動睡眠行動障害(RBD)、嗅覚機能障害、便秘、日中の過度の眠気、症候性低血圧、勃起不全、排尿機能障害の診断、及び/又はうつ病の診断などの非運動徴候の1つ又は複数を含み得る。徴候及び症候は、シナプス前ドパミン作動系の異常なトレーサー取込みを含み得る。
【0052】
対象は、PDの初期フェーズであり得るが、例えば、PDの前臨床段階では無症候性である。対象はPDの前駆段階にあり得、例えば、対象はPDの前症候性であり得るか、又は臨床症候を既に示し得る。PDの初期フェーズの徴候及び症候は、例えば、参考文献1に記載されているように、当技術分野で公知である。
【0053】
いくつかの臨床PD症候を既に示している対象については、本発明を使用して別の診断を確認又は決着することができる。例えば、対象は、他の形態の変性性パーキン二ズム又は運動に影響を及ぼす他の症状を有すると疑われ得る。例えば、対象は、原発性進行性失語症(FTD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核症候群(CBS)、薬物誘発性パーキンソニズム、多系統萎縮症(MSA)、血管性パーキンソニズム及び/又は良性本態性振戦を有すると疑われ得る。これらの障害の症候は当技術分野で公知である(例えば、21を参照)。
【0054】
本発明は、α-シヌクレインを特徴とする症状(PD及び関連症状(例えば、認知症を伴うPD及びMSA)など)を非α-シヌクレインタンパク質症を特徴とする症状から識別するのに特に有用である。したがって、対象は、PD、FTD、PSP又はCBSを有することが疑われ得る。
【0055】
本発明は、PDをその関連症状(例えば、MSAを含む非定型パーキンソン症候群などの同様の徴候及び症候を有する症状)から識別するのに特に有用である。
【0056】
対象は既に処置を開始していてもよい。例えば、対象は、脳細胞を保護し、PDを遅らせることを目的としてα-シヌクレインを標的とする現在進行中の臨床試験である、免疫療法(例えば抗α-シヌクレイン抗体療法)、フェニルブチラート-トリグリセリド(PBT)、NPT200-11、ニロチニブ、アンブロキソール及びENT-01などのα-シヌクレイン標的療法を開始していてもよい。
【0057】
本発明のある特定の態様では、本発明がPDを有することが既に疑われている対象での使用に限定されないという点で、本発明を比較的容易に及び/又は安価に実施できることが意図される。むしろ、一般集団又は高リスク集団、例えば少なくとも50歳の対象(例えば、50歳以上、55歳以上、60歳以上、65歳以上、70歳以上)をスクリーニングするために使用することができる。少なくとも50歳である対象は、PDを発症する傾向がある。
【0058】
対象は、例えば家族関係又は遺伝的関係に起因して、PDの発症の素因があることが既に知られている場合がある。例えば、対象は以下の遺伝子に変異を含み得る:α-シヌクレイン(Park1)、パーキン(Park2)、DJ-1(Park7)、UCHL1(Park5)、A.53T、A30P及び/又はE46K。他の実施形態では、対象は、そのような素因を有しなくてもよく、例えば、特定の化学物質(毒素又は医薬品など)への曝露の結果として、食事の結果として、感染の結果としてなど、環境要因の結果として疾患を発症してもよい。
【0059】
対象は、関連する前駆PD徴候及び症候(例えば、睡眠障害、無嗅覚症、不安、無気力症)を調べる質問票、続いてPDに関連する遺伝子変異についての血液検査により同定されてもよい。
【0060】
対象は、典型的には、人間である。しかしながら、いくつかの実施形態では、本発明は、非ヒト生物、例えばマウス、ラット、ウサギ、モルモット、ネコ、イヌ、ウマ、ブタ、ウシ、又は非ヒト霊長類(サル又は類人猿、例えばマカク又はチンパンジー)において有用である。非ヒトの実施形態では、本発明によるタンパク質の検出に使用されるための任意の方法は、典型的には、本明細書に開示されるヒトタンパク質に関連する非ヒトオルソログに基づく。いくつかの実施形態では、動物を実験的に使用して、特定のバイオマーカーに対する治療薬の影響をモニタリングすることができる。
【0061】
エキソソーム
本発明は、対象の血液試料からのエキソソームにおけるバイオマーカー含有量を分析する。エキソソームは、ニューロンを含むほとんどの細胞型により放出される二重膜小胞(40~120nm)である(22)。循環エキソソームの組成及び機能は、PD、特にCNS組織から放出されるエキソソーム(例えば、ニューロン由来エキソソーム)を有する対象において変化する(12)。本発明者らは、驚くべきことに、循環エキソソームの組成がPDに罹患しやすい対象においても変化することを見出した。したがって、血液試料中のエキソソームにおけるタンパク質含有量は、PDの初期から後期フェーズまで、PDのバイオマーカーとして使用することができる。
【0062】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、対象の血液試料からエキソソームを単離するステップをさらに含む。しかしながら、他の実施形態では、エキソソームは、本発明の方法を実施するのとは別個に、かつ実施する前に単離される。
【0063】
超遠心分離、免疫磁気ビーズ、及び/又はクロマトグラフィーを含む複数の方法を使用して、エキソソームを血液試料から単離することができる。加えて、エキソソームは脂質二重層を有し、したがって、使用前のRNAse処理は、下流で使用されるカーゴが小胞内に封入されることを確実にする。エキソソームは、テトラスパニン(例えば、CD9、CD63及び/又はCD81)及び/又は生合成に必要なエンドソーム選別輸送複合体(ESCRT)機構に関与するタンパク質(例えば、PDCD6IP、TSG101、VPS28、VPS37、VPS25、VPS36、SNF8及び/又はCHMP)を含む、腔内小胞の生合成に関与するタンパク質を使用するウエスタンブロット又は質量分析を使用して同定され得る。
【0064】
本発明は、血液試料中のエキソソームの選択された集団におけるバイオマーカーのレベルを測定することに言及する。エキソソームの選択された集団は、ニューロンなどのCNS組織から放出されるエキソソームであり得る。ニューロンから放出されるエキソソームの選択された集団は、本明細書ではニューロン由来エキソソームと呼ばれる。したがって、エキソソームの選択された集団は、ニューロンタンパク質を含み得る。例えば、発達中及び成熟海馬ニューロンから放出されたエキソソームは、L1細胞接着分子(L1CAM)及びグルタミン酸受容体のGluR2/3サブユニットを含み、これらは両方とも既知のニューロンマーカーである(23、24)。したがって、エキソソームの選択された集団は、L1CAMを含み得る。エキソソームの選択された集団は、グルタミン酸受容体のGluR2/3サブユニットを含み得る。
【0065】
ニューロンマーカーに対して親和性を有するリガンドを使用して、ニューロン由来エキソソームを捕捉することができる。アフィニティーリガンドは、試料中の他の分子にも結合することなく、標的に結合する任意の分子であり得る。任意のタイプのリガンドを本発明と共に使用することができる。リガンドは、それらの抗原結合部位を介してニューロンマーカーを標的化するように設計することができる抗体、ニューロンマーカー上の結合部位にドッキングすることができる有機化合物、標的ニューロンマーカーの特定のアミノ酸と配位錯体を形成する無機金属、ニューロンマーカーの非極性ポケットに結合することができる疎水性分子、及び/又はニューロンマーカーと相互作用することができる特異的結合領域を有するタンパク質であり得る。例えば、リガンドは抗L1CAM抗体(例えば、Abcam社製クローンUJ127、Cambridge、MA、USA)であり得る。
【0066】
本発明による方法を使用して血液試料から単離されるエキソソームの選択された集団は、70%以上(すなわち、70%又はそれ以上)、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、99%以上又は100%の純度を有し得る。
【0067】
被覆粒子
上記のアフィニティーリガンドを被覆粒子上に固定化して、エキソソームの選択された集団を捕捉することができる。
【0068】
本発明はまた、エキソソームの選択された集団に対して親和性を有するリガンドにカップリングされた双性イオン性ポリマーを含むコーティングを有する被覆粒子を提供する。被覆粒子は、表面開始可逆的付加フラグメンテーション連鎖移動(RAFT)重合を使用して、粒子の表面から双性イオン性ポリマーを成長させることにより調製することができる。被覆粒子は、本発明の方法において使用するためのニューロン由来エキソソームを単離するために特に有用である。
【0069】
したがって、本発明はまた、試料を本発明の被覆粒子と接触させるステップ;非結合試料を除去するステップ;及び捕捉されたエキソソームを分離するステップを含む、試料からエキソソームを単離する方法を提供する。
【0070】
以下のステップを含む、被覆粒子を製造する方法も本明細書に記載される:
(a)可逆的付加フラグメンテーション連鎖移動(RAFT)を使用して粒子の表面上に双性イオン性ポリマーを成長させて、双性イオン性ポリマーを含むコーティングを有する粒子を用意するステップ;
(b)場合により、双性イオン性ポリマーを活性化して、双性イオン性ポリマー上に活性官能基を用意するステップ;及び
(c)エキソソームの選択された集団に対して親和性を有するリガンドを双性イオン性ポリマーにコンジュゲートするステップ。
【0071】
被覆粒子は、金属、磁性材料、常磁性材料、ガラス又はエポキシの粒子を含んでもよい。一般に、任意のイムノアッセイビーズが粒子として使用され得る。磁性又は常磁性粒子が好ましい。磁気ビーズは、例えば、酸化鉄粒子、例えばFe3O4を含み得る。酸化鉄粒子は、例えば、ポリマーマトリックス内に封入されてもよい。本発明での使用に好ましい粒子は、参考文献26及び27により記載されているものである。
【0072】
粒子は、典型的には、サイズが約30nm~5μm、より好ましくは50~3000nm、例えば1000nm~3000nmである。粒子は、サイズが30nm~1000nm、好ましくは50nm~800nm又は100nm~500nmのナノ粒子であり得る。
【0073】
双性イオン性ポリマーは、カルボキシベタイン、スルホベタイン及び/又はホスホリルコリン部分、好ましくはカルボキシベタイン及び/又はスルホベタイン部分、最も好ましくはカルボキシベタイン部分を含み得る。典型的には、双性イオン性ポリマーは、双性イオン性モノマーの繰り返し単位を含む。好ましくは、双性イオン性モノマーは、カルボキシベタイン及び/又はスルホベタイン、最も好ましくはカルボキシベタインを含む。モノマー単位は、例えば、アクリラート、メタクリラート、アクリルアミド又はメタクリルアミドであってもよい。アクリラート及びメタクリラートは、カルボン酸基の官能基の反応性のために好ましい。
【0074】
ポリマーは、ポリ(カルボキシベタインメタクリラート)(pCMBA)であってもよい。pCBMAは非常に効果的な防汚ポリマーであり、所望の抗体の付着を可能にする便利な官能化の利点も有する。
【0075】
ポリマーは、複数のポリマー鎖が中心粒子から放射状に広がるブラシポリマーであってもよい。ブラシポリマーが付着した粒子は、その高い立体配座エントロピー及び非特異的な生物学的材料をはじく能力のために、特に効果的な防汚性を示す。
【0076】
好ましい粒子は、それらの表面に高レベルのポリマーコーティングを有する。好ましくは、粒子表面の少なくとも20%がポリマーでコーティングされ、より好ましくは表面の少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも80%、90%又は95%がポリマーでコーティングされる。好ましい実施形態では、粒子の表面の少なくとも98%又は少なくとも99%がポリマーでコーティングされる。コーティングの程度は、SEMなどの視覚的技法を使用して測定することができる。
【0077】
ポリマーコーティングは、典型的には、少なくとも10nmの厚さ、好ましくは少なくとも100nm、例えば10nm~500nmの厚さ、好ましくは100~300nm、例えば100nm~200nmを有する。コーティングの厚さは、例えば、SEMなどの視覚的技法を使用して、非被覆粒子のサイズを双性イオン性ポリマーが付着した粒子のサイズと比較することにより測定することができる。
【0078】
抗体は、双性イオン性ポリマー上の官能基に共有結合していてもよく、例えば、ポリマーがpCBMAである場合、抗体はpCBMAのカルボキシル基に結合していてもよい。
【0079】
リガンドはニューロン由来エキソソームに対して親和性を有し、例えば、リガンドは抗L1CAM抗体である。
【0080】
被覆粒子は、典型的には、粒子の表面からポリマーを成長させることにより製造される。中間層は、粒子と双性イオン性コーティングとの間に存在してもよく、又は双性イオン性コーティングは、粒子に直接付着していてもよい。粒子表面からポリマーを成長させることにより(形成されたポリマーを粒子上にグラフトするのとは対照的に)、表面の高度に高密度なポリマー被覆率が達成可能となり、着実な被覆率を有し、ポリマーコーティングを欠く大きな領域を回避する。
【0081】
ポリマーコーティングを提供するための好ましい技法は、可逆的付加フラグメンテーション連鎖移動(RAFT)である。平坦な表面上でポリマーを成長させるための重合技法は当技術分野で公知であるが、5μm未満の粒子の表面からそのようなポリマーを成長させることは困難であり得る。本発明者らは、RAFTプロセスが以前に使用された他のプロセス(例えば原子移動ラジカル重合、すなわちATRP)よりも有利であり、RAFTプロセスが(i)良好なコロイド安定性;(ii)ポリマーフィルムの良好な密度及び構造;(iii)良好な非汚染性を有するポリマー被覆粒子の生成をもたらすことを見出した。
【0082】
RAFT技法は、典型的には表面開始RAFT重合であり、参考文献28に記載されているように行うことができる。4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸(ACVA)を開始剤として使用することができる。被覆粒子を調製するためのRAFT技法を使用した重合の典型的な例を
図12に示す。RAFT重合における第1のステップは、重合が起こる表面への連鎖移動剤(CTA)の付着である。適切な材料には、4-シアノ-4-(((デシルチオ)カルボノチオイル)チオ)ペンタン酸、ビス(カルボキシメチル)トリチオカーボナート(BCMTTC)及び4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイル)チオ)ペンタン酸(CPCTTP)が含まれる。小さい粒子の表面にRAFT重合を適用する際、正しい連鎖移動剤(CTA)の選択が重要であり、本発明者らは、ビス(カルボキシメチル)トリチオカーボナート(BCMTTC)の使用が、ポリマーフィルムの分光学的特徴、被覆粒子のコロイド安定性、及び非特異的吸着の減少により評価されるように、最も有益なポリマーフィルムを提供することを見出した。
【0083】
重合は、典型的には、少なくとも10nm又は少なくとも100nm、好ましくは10nm~500nm、より好ましくは100nm~300nmの厚さのコーティング厚さに成長させるのに十分な期間行われる。
【0084】
抗体は、ポリマー表面上に活性化官能基を用意し、抗体と反応することにより双性イオン性ポリマーコーティングにコンジュゲートされてもよい。適切な活性化官能基には、例えば、抗体上の遊離アミン基と反応性であるN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)が含まれる。例えば、pCBMAコーティングのカルボン酸基は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド/N-ヒドロキシスクシンイミド(EDC/NHS)と反応させることにより活性化されてもよい。典型的には、所望のエキソソームに特異的な単一の抗体が粒子に付着される。抗L1CAMが好ましい抗体である。いくつかの態様では、1つ又は複数の追加の分子もコーティングに付着され得る。
【0085】
被覆粒子は、所望の生物学的分子に対して高度に選択的であり、非常に低いレベルの非特異的吸着性を有する。非特異的吸着の程度は、(a)双性イオン性ポリマーを伴わない粒子と(b)双性イオン性ポリマーを伴う粒子とを比較することにより測定することができる。典型的には、本発明の粒子への非特異的吸着の程度は、双性イオン性ポリマーを欠く均等な粒子の50%未満である。好ましくは、非特異的吸着の程度は、双性イオン性ポリマーを欠く均等な粒子の20%未満、より好ましくは15%未満、10%未満、5%未満、2%未満又は1%未満である。
【0086】
非特異的吸着は、例えば、選択された非特異的粒子、例えばウシ血清アルブミン(BSA)の、抗HA抗体にコンジュゲートされた粒子への吸着を測定することにより決定することができる。非特異的吸着の程度は、溶液枯渇のレベルにより分光学的に、又は顕微鏡的に(例えば、SEM又は光学的に画像化されたタンパク質表面での粒子非特異的蓄積)測定することができる。
【0087】
エキソソームの単離は、試料、例えば血液試料を本明細書に記載の被覆粒子と接触させることにより達成され得る。試料を伴った被覆粒子のインキュベーション後、粒子-エキソソーム複合体を標準的技法により単離する。好ましい態様では、磁性又は常磁性粒子を使用し、粒子-エキソソーム複合体を磁気分離により分離する。
【0088】
バイオマーカー検出
タンパク質を検出するための技法、例えば、アフィニティーリガンド依存的方法(例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、タンパク質免疫沈降、免疫電気泳動、ウエスタンブロット又はタンパク質免疫染色)及び/又は分光法(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、又は液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS))は、当技術分野で周知である。
【0089】
本発明のバイオマーカーの検出は、典型的には、試料をアフィニティーリガンドと接触させることを含み、試料とアフィニティーリガンドとの間の特異的な(非特異的ではない)結合反応は、目的のバイオマーカーの存在を示す。
【0090】
アフィニティーリガンドは、試料中の他の分子にも結合することなく、標的に結合する任意の分子であり得る。任意のタイプのリガンドを本発明と共に使用することができる。リガンドは、それらの抗原結合部位を介してα-シヌクレインもしくはクラステリンを標的化するように設計することができる抗体、α-シヌクレインもしくはクラステリン上の結合部位にドッキングすることができる有機化合物、α-シヌクレインもしくはクラステリンの特定のアミノ酸と配位錯体を形成する無機金属、α-シヌクレインもしくはクラステリンの非極性ポケットに結合することができる疎水性分子、及び/又はα-シヌクレインもしくはクラステリンと相互作用することができる特異的結合領域を有するタンパク質であり得る。
【0091】
例えば、α-シヌクレインに対するアフィニティーリガンドは、例えばMSD社製の抗α-シヌクレイン抗体(例を参照)であってもよい。
【0092】
例えば、クラステリンに対するアフィニティーリガンドは、例えばMSD社製の抗クラステリン抗体(例を参照)であってもよい。
【0093】
アフィニティーリガンドは、固体支持体(例えば、ビーズ、プレート、フィルタ、フィルム、スライド、マイクロアレイ支持体、樹脂など)上に固定化され得る。
【0094】
両方のバイオマーカー(すなわち、α-シヌクレイン及びクラステリン)が検出される実施形態では、試料を、単一の反応区画、例えばマイクロタイターウェル、マイクロ流体チャンバ又は検出孔において、バイオマーカーに対して親和性を有する両方のリガンドと同時に接触(「マルチプレックス化」)させてもよい。あるいは、これらのバイオマーカーは、別個の個々の反応区画においてそのアフィニティーリガンドと接触させてもよく、及び/又は実験は、マルチプレックス化された単一の反応区画又は別個の個々の反応区画のいずれかにおいて異なるプラットフォーム技術を使用して時間をかけて分けてもよい。イムノアッセイによるタンパク質の検出のためのマルチプレックスプラットフォームは、当技術分野で周知であり、例えば、MSD(登録商標)マルチアレイアッセイシステムである。
【0095】
イムノアッセイにおいて結合反応を検出するための方法及び装置は、当技術分野において標準的である。例えば、蛍光ベースの検出方法及び/又は電気化学発光検出方法を本発明と共に使用することができる。例えば、サンドイッチイムノアッセイを使用してバイオマーカーを検出してもよく、アッセイは、典型的には、バイオマーカーをガラス基板上の固定化されたアフィニティーリガンドに結合させ、続いて、蛍光標識又は電気化学発光標識された第2のアフィニティーリガンドをバイオマーカーに結合させ、次いで蛍光又は電気化学発光を検出することを含む。
【0096】
バイオマーカーの検出から得られるデータは、多変量解析において組み合わせることができる。バイオマーカーの組合せは、単一のバイオマーカーと比較して分類力を増加させることができる。バイオマーカーの組合せは、同時に又は順番に評価することができる。順番での評価に関しては、各バイオマーカーについて得られるデータは、バイオマーカーを分析した後、例えばバイオマーカーのレベルを決定した後に組み合わせることができる。したがって、例えば、試料をサブサンプルに分割し、サブサンプルを順番にアッセイすることができる。
【0097】
データ解釈及び操作
本発明は、本発明のバイオマーカーのレベルを測定するステップを含む。本発明は、各バイオマーカーの定量的又は半定量的測定を必要とし得る。本発明は、相対的な判定(例えば、別のマーカーに対する比、又は対照試料中の同じマーカーに対する測定値)を含んでもよい。本発明は、閾値判定(例えば、レベルが閾値を上回るか下回るか、はい/いいえの判定)を含んでもよい。
【0098】
本発明のバイオマーカーのレベルは、対照コホートと比較して、疾患コホートにおいて変化する。症例及び対照集団におけるこれらのバイオマーカーのレベルの分析により、診断情報を提供する差異を同定することができる。当業者は、任意の所与の血液試料において、目的の特定の対照(例えば、陰性対照又は陽性対照)のいずれかに対する任意の所与のバイオマーカーの相対的変化(例えば、上方制御又は下方制御)を容易に判定することができる。
【0099】
対照試料は、陽性対照試料又は陰性対照試料であり得る。典型的には、対照試料は、試験対象に対して年齢が一致する。陽性対照試料は、PDの確認された症例からの試料を含む。陰性対照試料は、PDの非存在が確認された症例からの試料を含む。非PD試料は、他の無関係な神経変性の症状、例えば前頭側頭型認知症(FTD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核症候群(CBS)を呈する対象であり得る。特定の対照試料(例えば、FTDを有する非PD対象の試料)におけるバイオマーカーの絶対レベルは、別の対照試料(例えば、PSPを有する非PD対象の試料)におけるバイオマーカーの絶対レベルと異なり得る。本発明のバイオマーカーについて観察される、非PD試料(すなわち、陰性対照試料)と比較したPD試料における相対発現プロファイル(例えば、上方もしくは下方制御又は倍数変化)は、示された特定の対照のみに関連し得ることが理解されよう。
【0100】
通常、バイオマーカーは、定量的又は半定量的な結果(相対濃度、絶対濃度、倍数変化などであるかどうか)を提供するために測定され、これは、分類器アルゴリズムで使用するよりも多くのデータを提供する。通常、存在、非存在又はレベル(絶対的又は相対的)を判定するためのアッセイから得られる生データは、それらの使用前にいくらかの操作を必要とする。例えば、ほとんどの検出技法の性質として、バイオマーカーが実際には存在しない場合であってもいくらかのシグナルが時折見られることを意味し、そのため、このノイズは、結果が解釈される前に除去され得る。同様に、相殺される必要がある一般集団におけるバイオマーカーのバックグラウンドレベルが存在し得る。データは、実験間の比較を容易にするためにスケーリング又は標準化を必要とし得る。これら及び類似の問題、並びにそれらに対処するための技法は、当技術分野で周知である。
【0101】
特定の実験においてバックグラウンドシグナルを相殺するために、様々な技法が利用可能である。例えば、アッセイ内変動を判定するために反復測定が通常実施され(例えば、二連又は三連の反応を使用する)、反復からの平均値(例えば、イムノアッセイの中央値)を比較することができる。さらに、標準的なマーカーを使用して、アッセイ間の変動を判定し、較正及び/又は正規化を可能にすることができる。例えば、イムノアッセイ反応は、既知の濃度の1つ又は複数の「標準」を含み、イムノアッセイ反応の増幅効率を決定し、他の未知試料と比較して、未知試料の総タンパク質含有量の推定を可能にすることができる。
【0102】
異なる実験間に固有の変動を相殺するだけでなく、一般集団中に存在するバイオマーカーのバックグラウンドレベルを相殺することも重要であり得る。ここでも、適切な技法は周知である。例えば、試料における特定のバイオマーカーのレベルは、通常、そのバイオマーカーのバックグラウンドレベルとの比較を可能にするために、定量的又は半定量的に測定される。様々な対照を使用して、比較のための適切なベースラインを用意することができ、適切な対照を選択することは診断分野で日常的である。
【0103】
任意の相殺又は正規化後のバイオマーカーの測定レベルを、それぞれ様々な方法で診断結果に変換することができる。この変換は、測定されたレベル(複数可)の関数として診断結果を提供するアルゴリズムを含み得る。
【0104】
測定されたレベル又は生データをスコア又は結果に換算するためのアルゴリズムの作成は、当技術分野で周知である。例えば、線形又は非線形の分類器アルゴリズムを使用することができる。これらのアルゴリズムは、マーカーを測定するための任意の特定の技法からのデータを使用して訓練することができる。適切な訓練データは、「症例」及び「対照」試料、すなわちPDに罹患していることが知られている対象及びPDに罹患していないことが知られている対象からの試料におけるバイオマーカーを測定することにより得られるであろう。最も有用には、対照試料はまた、PDから区別されるべきFTD、PSP又はCBSなどの無関係な神経変性の症状を有する対象からの試料を含む(例えば、前駆症状を有する対象からのデータ及び/又は無関係な神経変性の症状を有する対象からのデータを用いてアルゴリズムを訓練することが有用である)。分類器アルゴリズムは、例えば、最適カットオフ値などを変化することにより、症例試料と対照試料とを区別することができるまで改変される。例えば、例2及び
図3に示されるように、臨床PD試料と健常対照試料とを区別するためにα-シヌクレインを使用するための最適カットオフ値は14.21pg/mlであることが見出された。
【0105】
したがって、本発明の方法は、そのような対象から採取された試料中の測定されたバイオマーカーレベルに基づいて、PD対象と非PD対象とを区別する分類器アルゴリズムを使用することにより、対象の試料におけるバイオマーカーレベルを分析するステップを含み得る。様々な適切な分類器アルゴリズム、例えば線形判別分析、単純ベイズ分類器、回帰モデリング、パーセプトロン、サポートベクターマシン(SVM)及び遺伝的プログラミング(GP)、並びに主成分分析(PCA)及び教師なし階層的クラスタリング及び線形モデリングなどの一連の統計的方法が利用可能である。
【0106】
さらに、これらのアプローチは、潜在的にPD対象を無関係な神経変性の症状を有する対象から区別することができる。本発明のバイオマーカーは、そのようなアルゴリズムを訓練してそのような区別を確実に行うために使用することができる。得られたデータを、統計学的有意性のレベル(一般的にp<0.05)を参照して、患者コホート間の差異に関する任意の潜在的シグネチャ、生物学的効果を示すことができる発現データ内の複数の試験補正及び倍数変化(通常、少なくとも1.5倍、例えば、1.75倍超、2倍超、2.5倍超、5倍超などの変化を示し得る技法を使用することが望ましい)について分析する。任意の推定バイオマーカーの分類性能(感度及び特異度(S+S)、受信者動作特性(ROC)分析)は、さらなる検証の前に、入れ子式交差検証及び順列分析を使用して厳密に評価される。
【0107】
診断
本発明の方法は、対象の試料におけるバイオマーカーレベルを参照と比較するステップを含んでもよい。参照は、(i)閾値、(ii)陽性対照からの試料中の対応するバイオマーカーレベル、及び/又は(iii)陰性対照からの試料中の対応するバイオマーカーレベルであり得る。比較は、対象が疾患に罹患しやすいか、又は疾患を有するかの診断指標を提供する。当業者の理解の範囲内であるように、バイオマーカーのレベルが増加するか減少するかは、使用される参照に依存する。例えば、PDを有する対象では、血液中のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレイン含有量は、陰性対照試料(非PD試料)よりも高いレベルであり、陽性対照試料(PD試料)と同様のレベルである。
【0108】
典型的には、本発明は、バイオマーカーのレベルを閾値に対して比較することを含み、最適な閾値は、上で説明したように、「症例」と「対照」試料との間を区別するように分類器アルゴリズムを訓練することにより測定することができる。
【0109】
例えば、α-シヌクレインに対する参照は、10~20pg/mlの間、例えば12~16pg/mlの間又は14~15pg/mlの間の閾値であり得る。血液試料が閾値と比較してニューロン由来エキソソームにおいてより高いα-シヌクレインレベルを含む場合、これは、対象がPDに罹患しやすいか又はPDを有することを示す。逆に、血液試料が閾値と同等のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレインレベルを含む場合、これは、対象がPDに罹患しにくいか又はPDを有しないことを示す。
【0110】
いくつかの実施形態では、血液試料が閾値と比較してニューロン由来エキソソームにおいてより高いα-シヌクレインレベルを含む場合、対象がα-シヌクレインを特徴とする症状(PD及び関連症状(例えば、認知症を伴うPD及びMSA)など)を有し、非α-シヌクレインタンパク質症を特徴とする症状を有しないことを示す。
【0111】
いくつかの実施形態では、血液試料が閾値と比較してニューロン由来エキソソームにおいてより高いα-シヌクレインレベルを含む場合、対象がPDを有し、その関連症状(例えば、MSAを含む非定型パーキンソン症候群などの同様の徴候及び症候を有する症状)を有しないことを示す。
【0112】
クラステリンに対する参照は、7~17pg/mlの間、例えば10~14ng/mlの間又は12~13ng/mlの間の閾値であり得る。血液試料が(i)α-シヌクレインの閾値と比較してニューロン由来エキソソームにおいてより高いα-シヌクレインレベルを含む場合、及び(ii)閾値より高くないクラステリンレベルを有する場合、これは、対象がPDに罹患しやすいか又はPDを有することを示す。
【0113】
いくつかの実施形態では、血液試料が(i)α-シヌクレインの閾値と比較してニューロン由来エキソソームにおいてより高いα-シヌクレインレベルを含む場合、及び(ii)閾値より高くないクラステリンレベルを有する場合、これは、対象がα-シヌクレインを特徴とする症状(PD及び関連症状(例えば、認知症を伴うPD及びMSA)など)を有し、非α-シヌクレインタンパク質症を特徴とする症状を有しないことを示す。
【0114】
いくつかの実施形態では、血液試料が(i)α-シヌクレインの閾値と比較してニューロン由来エキソソームにおいてより高いα-シヌクレインレベルを含む場合、及び(ii)閾値より高くないクラステリンレベルを有する場合、これは、対象がPDを有し、その関連症状(例えば、MSAを含む非定型パーキンソン症候群などの同様の徴候及び症候を有する症状)を有しないことを示す。
【0115】
あるいは、対象が閾値と比較して血液中のニューロン由来エキソソームにおいてより高いクラステリンレベルを含む場合、これは、対象がタウオパチーに罹患しやすいか又はタウオパチーを有することを示す。
【0116】
PDに罹患しやすい対象の診断に言及する場合、これは、対象が臨床PDを有するかどうかを予測することを意味する。したがって、診断は、対象がPDの初期フェーズ、例えば前臨床PD又は前駆PDにあるかどうかを示すことができる。前臨床PDは、神経変性が始まっているが、疾患の明白な症候又は徴候がない疾患フェーズである。前駆PDは、疾患の症候及び徴候が存在する疾患フェーズではあるが、疾患を定義するにはまだ不十分である。前臨床及び前駆PDのMDS基準は、参考文献1に提供されている。
【0117】
タウオパチーの診断に言及する場合、タウオパチーは、例えば前頭側頭型認知症(FTD)、進行性核上性麻痺(PSP)及び大脳皮質基底核症候群(CBS)であり得る。
【0118】
高度な統計ツールを使用して、様々な試料(症例又は対照)中の各バイオマーカーについて決定されたレベルが同じであるか異なるかを判定することができる。例えば、インビトロ診断は、単一の測定の比較に基づくことはほとんどない。むしろ、適切なレベルの精度で適切な数の測定が行われて、許容可能な感度及び/又は特異度で所望の統計的確実性を得る。バイオマーカーのレベルは、適切な比較を可能にするために定量的に測定され、レベルの差異のいずれもがp<0.05かそれより良いレベルで統計的有意にアサインできることを確実にするために十分な測定が行われる。
【0119】
本発明の方法は、少なくとも50%(例えば、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の感度を有し得るが、これに限定されない。
【0120】
本発明の方法は、少なくとも50%(例えば、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の特異度を有し得るが、これに限定されない。
【0121】
特に、本発明者らは、α-シヌクレインとクラステリンとの比を評価し、これらのバイオマーカーの組合せについてロジスティック回帰モデルを適用した。両方の分析は、α-シヌクレインとクラステリンとの組合せ測定が、臨床PD対他のタンパク質症を予測する際の鑑別診断に対して改善されたAUC、感度及び特異度推定値(AUC=0.98(感度=95%;特異度=93%))を示し、PDの前駆フェーズにおいてさえ、AUC=0.98(感度=94%、特異度=96%)であったことを示した。α-シヌクレインとクラステリンとの複合測定はまた、前駆又は臨床PDをMSAから識別する際に高い性能を示した(それぞれ、AUC=0.94及び0.91)。
【0122】
本発明の方法から得られるデータ及び/又はそれらのデータに基づく診断情報は、コンピュータ媒体(例えば、RAM、不揮発性コンピュータメモリ、CD-ROM、DVD)に保存されてもよく、及び/又は例えばインターネットを介してコンピュータ間で送信されてもよい。
【0123】
本発明の方法が、対象がPDを有することを示す場合、さらなるステップがその後に続き得る。例えば、対象は、対象の身体検査を含むものなどの確認診断手順を受けてもよく、及び/又はPDを処置するのに適した治療薬で処置されてもよい。確認診断手順には、PD及び/もしくは非α-シヌクレインタンパク質症についての公知のバイオマーカー、対象に関する他の情報;並びに/又は、ドパミン取込みを判定するためのDaTSCANなどのPDの他の診断試験もしくは臨床指標、並びに/又はMRIベースのマーカーを使用した脳画像化スキャンが含まれる。
【0124】
本発明はまた、本発明の方法に従ってパーキンソン病に罹患しやすい対象を同定することと、パーキンソン病の治療法で対象を処置することとを含む、対象においてパーキンソン病を予防及び/又は処置する方法を提供する。パーキンソン病の治療は、レボドパ、ドパミンアゴニスト(例えば、プラミペキソール、ロピニロール)及び/又はモノアミンオキシダーゼB阻害剤(例えば、セレギリン及びラサギリン)を投与することを含み得る。
【0125】
したがって、本発明はまた、本発明の方法に従ってパーキンソン病に罹患しやすい対象を同定することと、対象に治療有効量のレボドパを投与することとを含む、対象においてパーキンソン病を予防及び/又は処置する方法に使用するためのレボドパを提供する。
【0126】
本発明はまた、本発明の方法に従ってパーキンソン病に罹患しやすい対象を同定することと、対象に治療有効量のドパミンアゴニストを投与することとを含む、対象においてパーキンソン病を予防及び/又は処置する方法に使用するためのドパミンアゴニストを提供する。
【0127】
本発明はまた、本発明の方法に従ってパーキンソン病に罹患しやすい対象を同定することと、対象に治療有効量のモノアミンオキシダーゼB阻害剤を投与することとを含む、対象においてパーキンソン病を予防及び/又は処置する方法に使用するためのモノアミンオキシダーゼB阻害剤を提供する。
【0128】
本発明はまた、対象をα-シヌクレイン標的療法で処置することと、本発明の方法に従って疾患の有効性をモニタリングすることとを含む、対象においてα-シヌクレイノパチーを特徴とする症状を予防及び/又は処置する方法を提供する。α-シヌクレイン標的療法は、α-シヌクレインを標的とする治療薬、例えば抗α-シヌクレイン抗体、フェニルブチラート-トリグリセリド(PBT)、NPT200-11、ニロチニブ、アンブロキソール、又はENT-01を投与することを含み得る。したがって、本発明はまた、α-シヌクレインを標的とする治療薬の治療有効量を対象に投与することと、本発明の方法に従って疾患の有効性をモニタリングすることを含む、対象においてα-シヌクレイノパチーを特徴とする症状を予防及び/又は処置する方法に使用するためのα-シヌクレインを標的とする治療薬を提供する。
【0129】
治療の有効性のモニタリング
本発明の方法は、2つ以上の異なる時点で同じ対象からの試料を試験することを含み得る。経時的にバイオマーカーの変化を測定する方法は、例えば、対象に投与されている治療の有効性をモニタリングするために使用することができる。したがって、本発明はまた、対象に投与されているα-シヌクレイン標的療法の有効性をモニタリングする方法を提供する。本発明はまた、対象においてPDなどのα-シヌクレイノパチーを特徴とする症状の発症をモニタリングするための方法を提供する。本発明の各バイオマーカーは、2つ以上の異なる時点で本発明の方法に従って測定することができ、各バイオマーカーのレベルが経時的に変化することで、疾患が改善しているか悪化しているかを示す。
【0130】
治療は、第1の試料が採取される前、第1の試料が採取されるのと同時に、又は第1の試料が採取された後に投与され得る。本発明を使用して、α-シヌクレイン標的療法を受けている対象をモニタリングすることができ、例えば、対象は、脳細胞を保護し、パーキンソン病を遅らせることを目的としてα-シヌクレインを標的とする現在進行中の臨床試験である、免疫療法(例えば抗α-シヌクレイン抗体療法)、フェニルブチラート-トリグリセリド(PBT)、NPT200-11、ニロチニブ及びアンブロキソール、ENT-01などの治療薬を受けていてもよい。
【0131】
したがって、本発明の方法は、(i)第1の時点で採取された対象からの第1の試料におけるα-シヌクレイン及び/又はクラステリンのレベルを測定するステップ;及び(ii)第2の時点で採取された対象からの第2の試料におけるα-シヌクレイン及び/又はクラステリンのレベルを測定するステップを含み得、(a)第2の時点は第1の時点より後であり;(b)第1の試料と比較した第2の試料におけるバイオマーカーのレベルの変化は、PDなどのα-シヌクレイノパチーを特徴とする症状が寛解しているか又は進行していることを示す。したがって、方法は、疾患が改善しているか悪化しているかを示す、変化するレベルを用いて、経時的にバイオマーカーをモニタリングする。当業者の理解の範囲内であるように、バイオマーカーのレベルが健常対照において見られるレベルに向かって(及び疾患患者において見られるレベルから離れて)変化する場合、PDなどのα-シヌクレイノパチーを特徴とする症状は寛解状態にある。一方、バイオマーカーのレベルが疾患患者において見られるレベルに向かって変化するか、又は疾患患者において見られるレベルのままである(及び/又は健常対照において見られるレベルから離れている)場合、PDなどのα-シヌクレイノパチーを特徴とする症状が進行している。
【0132】
疾患の発達は改善又は悪化のいずれかであり得、この方法は、例えば、PDなどのα-シヌクレイノパチーを特徴とする症状の自然な進行をモニタリングするため、又は対象に投与されているα-シヌクレイン標的療法の有効性をモニタリングするために、様々な方法で使用され得る。したがって、対象は、第1の時点の前に、第1の時点で、又は第1の時点と第2の時点との間に治療薬を受けてもよい。
【0133】
方法が第1の時点及び第2の時点を含む場合、これらの時点は、少なくとも1日、1週間、1ヶ月又は1年異なっていてもよい。試料を定期的に採取してもよい。方法は、2つを超える時点で採取される2つを超える試料におけるバイオマーカーを測定することを含み得る、すなわち、3番目の試料、4番目の試料、5番目の試料などがあり得る。
【0134】
キット
本発明はまた、本発明のバイオマーカーを検出するための診断デバイス及びキットを提供する。
【0135】
本発明はまた、試料におけるα-シヌクレイン及び/又はクラステリンのレベルの決定を可能にする、パーキンソン病に罹患しやすいか又はパーキンソン病を有する対象の診断指標を提供するのに使用するための診断デバイスを提供する。
【0136】
本発明はまた、α-シヌクレイン及び/又はクラステリンのレベルの決定を可能にする、対象においてα-シヌクレイン(PD及び関連症状(例えば、認知症を伴うPD及びMSA)など)を特徴とする症状を、非α-シヌクレインタンパク質症を特徴とする症状から識別するのに使用するための診断デバイスを提供する。
【0137】
本発明はまた、α-シヌクレイン及び/又はクラステリンのレベルの決定を可能にする、対象においてPDをその関連症状(例えば、MSAを含む非定型パーキンソン症候群などの類似の徴候及び症候を有する症状)から識別するのに使用するための診断デバイスを提供する。
【0138】
本発明はまた、(i)本発明の診断デバイス、及び(ii)デバイスを使用してα-シヌクレイン及び/又はクラステリンを検出するための説明書を含むキットを提供する。キットは、パーキンソン病に罹患しやすいか又はパーキンソン病を有する対象の診断指標を提供するのに有用である。キットは、対象においてα-シヌクレインを特徴とする症状(PD及び関連症状(例えば、認知症を伴うPD及びMSA))を、非α-シヌクレインタンパク質症を特徴とする症状から識別するのに特に有用である。キットは、PDをその関連症状(例えば、MSAを含む非定型パーキンソン症候群などの同様の徴候及び症候を有する症状)から識別するのに特に有用である。
【0139】
本発明はまた、(i)シヌクレイン及び/又はクラステリンの測定を可能にする1つ又は複数の検出試薬、及び(ii)対象からの試料を含む製品を提供する。
【0140】
本発明はまた、血液試料からエキソソームの選択された集団を単離するための本発明の被覆粒子、及び/又は血液試料中のニューロン由来エキソソームにおけるα-シヌクレイン及びクラステリンのレベルを測定するための試薬を含むキットを提供する。
【0141】
その他
本明細書で使用される専門用語は、本発明の特定の実施形態を説明する目的のためだけであり、限定することを意図するものではないことを理解されたい。
【0142】
加えて、本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、内容が明らかにそうでないことを指示しない限り、複数の言及を含む。したがって、例えば、「細菌株(a bacteria strain)」への言及は、2つ以上の「細菌株(bacteria strains」を含む。
【0143】
さらに、本明細書における「≧x」への言及は、xと同じ又はそれ以上を意味する。
【0144】
「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」及び「からなる(consisting)」を包含し、例えば、Xを「含む(comprising)」組成物は、Xのみからなっていてもよく、又は追加の何か、例えばX+Yを含んでいてもよい。
【0145】
バイオマーカーの「レベル」への言及は、試料中で測定された分析物(例えば、α-シヌクレイン又はクラステリン)の量を意味し、これは、分析物の相対及び絶対濃度、分析物の力価、閾値との関係、ランキング、パーセンタイルなどを包含する。
【0146】
アッセイの「感度」は、正しく同定される真陽性の割合、すなわち、本発明の方法により陽性と試験されるPDを有する対象の割合である。これは、個々のバイオマーカー、両方のバイオマーカー(α-シヌクレイン及びクラステリン)、単一のアッセイ、又は複数の供給源から統合されたデータを組み合わせるアッセイに適用することができる。それは、特定の分析物(例えば、α-シヌクレイン又はクラステリン)を含有する試料を同定する方法の能力、又は疾患に罹患しやすいかもしくは疾患を有する対象からの試料を正しく同定する方法の能力に関し得る。
【0147】
アッセイの「特異度」は、正しく同定される真陰性の割合、すなわち、本発明の方法により陰性と試験されるPDを有しない対象の割合である。これは、個々のバイオマーカー、両方のバイオマーカー(α-シヌクレイン及びクラステリン)、単一のアッセイ、又は複数の供給源から統合されたデータを組み合わせるアッセイに適用することができる。それは、特定の分析物(例えば、α-シヌクレイン又はクラステリン)を含有する試料を同定する方法の能力、又は疾患に罹患しやすいかもしくは疾患を有する対象からの試料を正しく同定する方法の能力に関し得る。
【0148】
本明細書で引用されるすべての刊行物、特許及び特許出願は、上記又は下記にかかわらず、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0149】
以下の例は、本発明を例示する。
【実施例】
【0150】
例1
この例は、ニューロン特異的エキソソームを特異的に単離する方法を開発することを目的とする。
【0151】
カルボキシベタインメタクリラート(CBMA)の合成
CBMAは、適合した文献の手順(25)に従って合成した。3.16gの2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリラート(DMAEMA;20mmol、1当量;Sigma Aldrich)を50mLの乾燥ジクロロメタン(DCM)に溶解し、0~5℃に冷却した。次いで、10mLの乾燥DCMに溶解した1.72gのβ-プロピオラクトン(24mmol、1.2当量;Alfa Aesar)をゆっくり添加した。溶液を0~5℃で8時間撹拌した。得られた白色沈殿物を濾過により単離し、DCM及びEt2Oで洗浄して、1.91g(42%)の純粋なCBMAを得た。
【数1】
無水DCMをMBraun MPSP-800カラムから得て、直ちに使用した。NMRスペクトルを記録し、溶媒(δ=4.79ppm)を参照した。
【0152】
ポリ(カルボキシベタインメタクリラート)ベースの双性イオン性磁気ビーズ及び抗体コンジュゲーションの調製
磁気ビーズは、フェリハイドライト/ホルムアルデヒド複合マイクロビーズの形成と、それに続くフェリハイドライトのFe3O4への水熱還元とを含む2段階アプローチにより調製した(26、27)。次いで、ポリ(カルボキシベタインメタクリラート)を形成し、可逆的付加フラグメンテーション連鎖移動(RAFT)法を使用してFe3O4上にコーティングして、pCBMA磁気ビーズを生成した(28)。ビス(カルボキシメチル)トリチオカーボナート(Bittc、Sigma)及び4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(ACVA)を、それぞれRAFT剤及び開始剤として使用した。抗体のコンジュゲーションのために、pCBMAビーズのカルボン酸基を、50mg/mLの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド/N-ヒドロキシスクシンイミド(EDC/NHS、Sigma)を含有する2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)緩衝液(50mM、pH5.5)で室温にて1時間活性化した。次いで、ビーズをMES緩衝液及びPBSですすいだ後、1mgのビーズあたり8μgの抗L1CAM(ab80832、Abcam、UK)を添加した。混合物をローテーターで室温にて1.5時間インキュベートした。得られたpCBMA-抗L1CAMビーズをPBSで2回洗浄し、免疫捕捉のために使用した。
【0153】
血液中のニューロン由来エキソソームの単離及び検出のためのアッセイ開発
神経細胞に由来するエキソソームを特異的に単離するために、磁気マイクロビーズに共有結合した神経L1接着分子(L1CAM)に対する抗体を用いて、イムノアフィニティーに基づく捕捉アプローチを使用した。L1CAMは、主に神経系で発現される細胞接着分子の群に属し、血液を含む複数の供給源から単離されるニューロン由来エキソソームの表面マーカーであることが以前に示された[15]。本発明者らは、末梢供給源からの汚染を最小限に抑えるためにこのアッセイをさらに開発した。この目的のために、本発明者らは、可逆的付加フラグメンテーション連鎖移動を用いて、双性イオン性ポリマーのポリ(カルボキシベタインメタクリラート)pCBMAでプレコーティングされた磁気ビーズ(約2.4μm)を製造した(
図5)。ビーズ上でのpCBMAの重合の成功は、酸化鉄ビーズと比較して、減衰全IR反射分光法により示された(
図6A)。被覆ビーズの防汚特性は、両方とも抗HA抗体にコンジュゲートされた市販のエポキシビーズと比較して、ウシ血清アルブミン又は総血清タンパク質の非特異的吸着の減少により確認された(
図6B及び6C)。次いで、pCBMAのカルボン酸基を活性化し、抗L1CAM抗体に架橋し、血清中の神経エキソソームの免疫捕捉について評価した(
図7A)。第1に、本発明者らは、SEMにより、エキソソームは抗L1CAMコンジュゲートpCBMA被覆ビーズに結合したが、対照ビーズには結合しなかったことを示した(
図7B)。第2に、本発明者らは、抗L1CAMコンジュゲートpCBMA被覆磁気ビーズにより捕捉された小胞の溶解物中の表面(L1CAM、CD81)及び内部(シンテニン-1、tsg101)エキソソームマーカーの両方の存在を、イムノブロッティングすることにより試験し、確認した(
図7C)。第3に、本発明者らは、質量分析によりプールされたヒト血清からのL1CAM捕捉エキソソームにおける全プロテオーム組成をプロファイリングし、512個のタンパク質を同定した。本発明者らは、遺伝子オントロジー(GO)用語分析を使用して、これらのタンパク質内のエンリッチされた機能又は成分を定義した。エンリッチメントスコア(試験したタンパク質の全リストと比較した場合の、GOタームにおけるタンパク質のリストがタンパク質リスト内に表される程度)は、有意であったGOタームに対してプロットした(10
-3のp値閾値)。分析は、エキソソーム及び関連する細胞外小胞機能がエンリッチされた用語を明らかにした(
図7D)。同定されたタンパク質の中には、CD9、シンテニン-1、14-3-3ゼータ/デルタ(YWHAZ)、神経細胞接着タンパク質(N1CAM)及びタンパク質クラステリンなどの複数の真正エキソソームマーカーがあった(
図7E)。免疫捕捉されたエキソソームにおけるタンパク質濃度の標的化分析のために、本発明者らは、全α-シヌクレイン、クラステリン及びシンテニン-1についてのL1CAM陽性エキソソームのトリプレックス分析を開発し、免疫捕捉されたエキソソームにおけるこれらのマーカーの特異的検出を実証した(
図8)。
【0154】
フーリエ変換赤外減衰全反射率(FTIR-ATR)
調製したpCBMA磁気ビーズの適量をエタノール及び超純水で洗浄し、FTIR-ATR分析(Bruker Vertex 80、Bruker Corporation、Ettlingen、Germany)のために50℃で乾燥させた。CBMAモノマー及び非被覆磁気ビーズを対照として使用した。
【0155】
イムノブロッティング
免疫捕捉されたエキソソームをLDS緩衝液(Thermo Fisher)に溶解し、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を使用して分割し、ポリフッ化ビニリデン膜(PVDF、Invitrogen)に転写し、シンテニン-1(ab133267、Abcam)、CD81(sc-5275、Santa Cruz)、Tsg101(ab125011、Abcam)及びL1CAM(ab80832、Abcam)に対する抗体でイムノブロットした。すべての抗体を1:1,000希釈で使用した。西洋ワサビペルオキシダーゼがコンジュゲートした二次抗体(GE Healthcare)とのインキュベーション(1:10,000希釈)の後、化学発光を免疫検出のために使用した(ChemiDoc、Bio-Rad)。
【0156】
SEM
免疫捕捉されたエキソソームを清浄なシリコンウエハ上の2%グルタルアルデヒド中で固定し、PBSで2回洗浄した。自然蒸発後、スパッタコーター(Cressington)を使用して試料を約5nmの白金でコーティングし、走査型電子顕微鏡(Zeiss Crossbeam 540)、5kVで画像化した。
【0157】
質量分析
免疫捕捉されたエキソソームを、室温で15分間、RIPA緩衝液に溶解した。ジチオスレイトールを使用して溶解物を還元し、ヨードアセトアミドでアルキル化した。エキソソームタンパク質をメタノール-クロロホルム沈殿で単離し、NH4HCO3に希釈した0.1μg/μLのシーケンシンググレードの改変ブタトリプシン(Promega)を使用して消化した。ペプチドを、C18スピンカラム(Pierce)を使用して精製した。アセトニトリルを含有する溶出ペプチドをSpeedvac(Thermo scientific)中で10μLまで蒸発させ、次いで超純水中2%アセトニトリル、0.1%ギ酸で10μLに調整した。続いて、Waters、nanoAcquityカラム、75μm×250mm、1.7μm粒子サイズ、及び250nL/分の流量で60分間の1~40%アセトニトリルの勾配を使用して、nanoUPLC-MS/MSにより試料を分析した。Thermo LTQ Orbitrap Velos(60,000解像度、Top20、CID、Waltham、MA、USA)で質量分析を実施した。Progenesis QI for Proteomicsソフトウェア(v3.0;Nonlinear Dynamics、Newcastle upon Tyne、UK)を使用して生のMSデータを分析した。Mascot(v2.5.1;Matrix Science,Inc.、Boston、MA)を使用してUniProt Homo Sapiens Referenceプロテオーム(2017年1月6日に読出し)に対してMS/MSスペクトルを検索し、10ppmの前駆体質量許容差及び0.05Daのフラグメントイオン許容差を認めた。
【0158】
例2
この実験の目的は、非αシヌクレインタンパク質症を特徴とする神経変性の症状に対するパーキンソン病のスペクトラムにわたる患者の層別化又は予測における血清の神経エキソソームの臨床的有用性を評価することであった。
【0159】
方法
患者集団
合計638人の対象がこの試験に含まれた(表1)。血清試料及び臨床データを、睡眠ポリグラフで確認されたRBD(n=53)、PD(n=275)、レビー小体型認知症(n=21、DLB)、行動障害型又は原発性進行性失語を含む前頭側頭型認知症(n=65 FTD)、進行性核上性麻痺、PSP(n=35)及び大脳皮質基底核症候群、CBS(n=45)を有する患者から収集した。健常対照(n=144、HC)は、同様の年齢及び性別であった。
【0160】
患者及び対照は、3つの異なる施設:Oxford Parkinson’s Disease Centre Discoveryコホート、Kiel-PDコホート及びBresicaコホートから募集した。
【0161】
比較的純粋なα-シヌクレイン病変を有するDLBの神経病理学的に確認された症例(n=10)及び健常対照(n=10)からの血清を使用した。
【0162】
パーキンソン病(n=40)及び対照(n=14)の個体から、縦断的血清試料を評価した。
【表1】
【0163】
エキソソーム免疫捕捉
血液試料を採取し、血清を単離し、アリコートに分け、さらなる使用まで-80℃で凍結した。
【0164】
エキソソーム単離のために、3段階逐次スピン(300gを10分間、2000gを20分間、及び10,000gを30分間)を使用して、血清中の細胞残屑、タンパク質凝集体及び脂肪物質を除去した。例1に記載の被覆ビーズを使用した免疫捕捉のために上清、すなわち事前に清澄化された血清を得た。免疫ビーズを4℃で一晩インキュベートし、ビーズ-エキソソーム複合体を回収し、洗浄した。単離されたエキソソームを、エキソソームタンパク質の定量のために、4%プロテアーゼ阻害剤を含むPBS中1%triton X-100に室温で溶解させた。
【0165】
エキソソームタンパク質の検出
電気化学発光(ECL)を、同じエキソソーム調製物におけるマーカーの多重化を可能にする96ウェルMeso Scale Discovery(MSD)U-Plexプレートで実施した。すべてのステップを室温で実施した。選択されたマーカー(シンテニン-1、クラステリン及びα-シヌクレイン)に対する3つのユニークなリンカーを製造業者のプロトコル(MSD)に従って使用した。プレートをビオチン化捕捉抗体でコーティングし、エキソソーム溶解物又は組換えタンパク質標準物、続いてスルホ-TAG標識を有する検出抗体を添加した。MSD-ECLプラットフォーム(QuickPlex SQ 120)を使用してプレートを読み取り、データを分析した。
【0166】
クラステリン及びα-シヌクレインに対する抗体ペアはMSDにより提供され、ビオチン及びルテニウムタグで予めコンジュゲートした。添加剤を含まない抗シンテニン-1ヤギポリクローナル抗体(PAB7132、Abnova)及び抗シンテニン-1ウサギモノクローナル抗体(ab236071、Abcam)をビオチン及びルテニウムでコンジュゲートし、それぞれ捕捉及び検出抗体として使用した。セリン129位のリン酸化α-シヌクレイン(pSer129)検出のために、使用される抗体ペアは、捕捉抗体として作用するpSer129α-シヌクレインに対するビオチン化抗体(11A5、PTA-8222ハイブリドーマ細胞株から精製、ATCC)、及び検出抗体として作用する全α-シヌクレインに対するルテニウム標識抗体(4B12、Biolegend)とからなる。
【0167】
エキソソームのα-シヌクレイン、クラステリン及びシンテニン-1の組合せに対して、本発明者らはトリプレックスMSDを開発し、免疫捕捉されたエキソソームにおけるこれらのマーカーの特異的検出を実証し(
図8)、すべてのアッセイについて、本発明者らはダイナミックレンジ及び検出下限を評価した(
図9及び
図10)。
【0168】
研究設計及び統計学的分析
多重比較に関しては、本発明者らは、データが正規分布していないため、ノンパラメトリック統計試験(個々のペアリング間の事後比較のためのダン検定を用いたクラスカル・ウォリス一元配置分散分析)を実施した。エキソソームマーカーと疾患期間、性別、MoCAスコア及びUPDRS運動スコアとの間の関係を、ピアソンの相関係数を使用して二変量相関を用いて分析した。α-シヌクレイノパチーを対照から分離する際の提案されたバイオマーカーの性能を評価し、カットオフ値を定義するために、本発明者らは、Kiel及びBresciaコホートを訓練群(n=314)並びにOxfordコホートを検証群(n=105)として使用した。これらの群からのデータを、受信者動作特性(ROC)を使用して分析した。「最適な」カットオフ点は、Youdenのインデックス、すなわち感度+特異度-1の最大値に関連する値により決定した。p<0.05の値を有意と見なした。ロジスティック回帰分析を使用することにより、診断群又はサブグループのセット間を識別するための異なるタンパク質マーカー(クラステリン及びα-シヌクレイン)の最良の組合せを決定した。バイオマーカー濃度と持続時間との間の相関を調査するために、線形混合モデルを使用して縦断的試料を分析し、最初の来院時の試料をベースラインとして取り扱った。ロバスト回帰及び外れ値除去法(ROUT)を外れ値の試験に適用した。
【0169】
MATLAB(登録商標)(MATLAB and Statistics Toolbox Release 2014a The MathWorks,Inc、Natick、Massachusetts、United States)を使用して、ロジスティック回帰及び線形混合モデルを実施した。
【0170】
結果
ニューロン由来エキソソームのα-シヌクレインは、レビー小体病変のスペクトラムにわたって増加する
本発明者らは、血液ベースのアッセイを包括的に評価し、前駆、運動及び認知段階の患者をアッセイすることにより、レビー小体病変のスペクトラムにわたるバイオマーカーとしてのニューロン由来エキソソームのα-シヌクレインの役割を調査するために、3つの多国籍コホートにわたり638人の対象からの血清試料を盲目的に分析した。この目的のために、本発明者らは、教育歴により補正されたMoCAスコアに従って、PD被験者を純粋な運動性PD又はPD認知症を有する者に分離した。PDの文脈における認知症は、試料採取時に21/30未満のMoCAスクリーニングスコア(29)として定義した。したがって、本発明者らは続いて、運動性PD(n=230)又は認知症を伴うPD(n=45)のサブグループを盲目的に分析した。本発明者らはまた、DLBの臨床診断を有する21症例の群を含め、そのうち10症例が剖検で確認された。前向きコホート研究により、RBDとその後の臨床的に定義されたα-シヌクレイノパチーとの間に非常に強い関連を観察し、症例の最大80%が主にPD又はDLBに変換したので、運動徴候のない特発性RBDの群(n=53)も前駆PDの代用として使用した(30、31)。
【0171】
本発明者らは、α-シヌクレインが、対照又は他のタンパク質症と比較して、RBD、PD及びDLBエキソソームにおいて約2倍上昇したことを見出した(
図1A)。具体的には、L1CAM陽性エキソソームにおけるα-シヌクレイン含有量は、健康な対象(HC、12.91±5.93pg/mL)と比較した場合、RBD(26.44±12.64pg/mL)、運動性PD(27.44±18.82pg/mL)及び認知症を伴うPD(PDD27.76±17.25pg/mL)において同様に上昇した(データは平均+/-SDとして示されている)。α-シヌクレインはまた、DLBにおいて上昇した(17.23±4.58pg/mL)。本発明者らは、剖検で確認された対照及びDLB症例において死亡前に採取された血清(n=10/群)を試験することにより、神経エキソソームにおけるα-シヌクレインの放出増加とレビー小体病変との間の関連を実証した。これらの2つのサブグループにおいて、平均神経エキソソーム関連α-シヌクレインは、DLBにおいて17.60±5.86pg/mLであり、対照において10.50±4.60pg/mLであった(1.7倍の増加、p=0.0097)。予想通り、エキソソームのα-シヌクレイン濃度は、報告されている血液中の全遊離α-シヌクレインのレベル(10~17ng/mL)(7、10)と比較してはるかに低かった。
【0172】
無関係な神経変性の症状におけるニューロン由来エキソソームのα-シヌクレインの存在量を評価するために、本発明者らは、主としてタウ又はTDP-43の凝集を病理学的に特徴とするFTD患者(n=65)、並びに4リピートタウの線維状凝集体を病理学的に特徴とするPSP患者(n=35)及びCBS患者(n=45)を含めた。本発明者らは、これらの疾患からのL1CAM陽性エキソソームにおけるα-シヌクレイン含有量が、
図1Aに示されるように、HCに類似することを見出した(FTD、12.60±4.03pg/mL;PSP、9.20±4.90pg/ml;CBS、9.93±3.68pg/mL)。
【0173】
最初の226人の対象において、本発明者らはまた、セリン129位のリン酸化α-シヌクレイン(pSer129)がL1CAM陽性エキソソームにおいて検出されるかどうか、及び血液ベースのバイオマーカーとしての価値を有するかどうかを判定した。pSer129α-シヌクレインは、レビー小体に見られるα-シヌクレインの90%超を占める主要な疾患関連修飾である(32)。この分析は、少数の個体のみが神経エキソソームにおいて検出可能レベルのpSer129α-シヌクレインを有することを示した。興味深いことに、アッセイの検出限界(
図10)内である0.5pg/mlのカットオフ値を適用した場合(
図1B)、pSer129α-シヌクレインは、PD患者(33)のサブグループ(試験した全PDの28.6%)において上昇した。このサブ集団では、pSer129α-シヌクレインは、7.3年より長い疾患期間(r=0.26、p=0.0263)及びUPDRS(r=0.34、p=0.0495)と相関したが、MoCA(r=0.006、p=0.3643)とは相関しなかった。以前の研究(15,13)とは異なり、本発明者らは、
図1C及び
図1Dに示されるように、エキソソームのα-シヌクレインと、UPDRS(r=0.0267)又はMoCA(r=0.0621)のいずれかとの間に有意な相関を何ら検出しなかった。
【0174】
α-シヌクレインとクラステリンとのマルチプレックス化測定は、α-シヌクレイノパチー全体にわたりエキソソーム試験の予測値を改善した。
マルチプレックス化エキソソーム測定の値を評価するために、本発明者らは、質量分析で検出された最も豊富なエキソソーム関連タンパク質であったことから、追加のマーカーとしてクラステリンを選択した(
図7E)。クラステリンは、認知症のリスク遺伝子(33、34)として以前に同定された。したがって、本発明者らは、神経エキソソームにおけるクラステリンの定量化が、認知障害を有する患者の層別化又は別の病理を有する患者の分離を助ける可能性があると仮定した。驚くべきことに、本発明者らは、クラステリンが、FTD(20.22±10.47ng/mL)、PSP(18.42±8.84ng/mL)及びCBS(16.16±6.07ng/mL)において上昇したが(
図2A)、RBD(9.55±3.71ng/mL)、臨床PD(9.72±6.02ng/mL)及びHC(8.67±4.92ng/mL)においては上昇しないことを見出した。無関係なタンパク質症におけるクラステリンのこの異なる存在量は、血液ベースのPDエキソソーム試験におけるクラステリンの組込みが、患者を主要な非α-シヌクレイン病変と識別するのに価値があり得ることを示唆する。対照的に、一般的なエキソソームタンパク質であるシンテニン-1は、バイオマーカーとして寄与するのに十分な分離を伴った疾患特異的分布を示さなかった(
図11)。
【0175】
バイオマーカーとしてのL1CAM陽性エキソソームにおけるα-シヌクレインとクラステリンとの組合せ測定の臨床的可能性をさらに評価するために、本発明者らは、α-シヌクレインとクラステリンとの比を評価し、これらのマーカーの組合せにロジスティック回帰モデルを適用した。両方の分析は、α-シヌクレインとクラステリンとの組合せ測定が、
図2及び表2に示されるように、臨床PD対他のタンパク質症を予測する際の鑑別診断に対して改善されたAUC、感度、及び特異度推定値(AUC=0.98(感度0.95;特異度0.93))を示し、PDの前駆フェーズにおいてさえ、RBD対他のタンパク質症、AUC=0.98、感度0.94、特異度0.96であったことを示した。
【0176】
表2α-シヌクレイン、クラステリン及び複合マーカー(α-シヌクレイン及びクラステリン)を使用して、シヌクレイノパチー及び対照又は他のタンパク質症を比較する、コホートにわたる患者群のROC分析の要約。
複合マーカーをロジスティック回帰で分析した。ROCベースの分離は、2つの群間に有意差がある場合に適用した。高性能マーカーを太字で示す。
【表2】
【0177】
集団全体にわたり臨床PDを健康な対象から鑑別する際において、エキソソームα-シヌクレインの一貫性を評価するために、本発明者らは、二段階設計モデルを適用した:Kiel及びBresciaコホートからの対象314人の訓練群を使用して最適カットオフ値を同定し、次いで、これをOxfordコホートからの対象105人の独立した検証群に適用した。このことは、
図3に示されるように、14.21pg/mlで、このアッセイは一貫した性能(訓練対検証)を示し、AUC0.86、感度0.82対0.85、特異度0.71対0.74、陽性予測値0.83対0.89及び陰性予測値0.72対0.68であることを明らかにした。
【0178】
疾患進行に伴うエキソソーム関連α-シヌクレイン及びクラステリンの縦断的軌跡
疾患の経過にわたって個体内のニューロン関連エキソソームマーカーの変動性を調べるために、本発明者らは、Oxfordコホートからの前向きで縦断的試料を盲目的に分析した。線形混合モデルを適用して、コバリアント(covariant)として最初のサンプリングからの経時的なエキソソームのα-シヌクレイン及びクラステリンの長期値に適合させ、患者を中央値に対する最初の来院時のレベルにより層別化した。PD、PDD及び対照の縦断的試料数を
図4に要約する。全体として、臨床PD(PDもしくはPDD又は組合せ)又は対照を比較した場合、α-シヌクレイン又はクラステリンのいずれの階層に対しても0からの勾配と有意には異ならなかった。この分析は、ニューロン由来エキソソームのα-シヌクレインレベルが、
図4に示されるように、対照からの持続的な分離を伴いつつ、5年間にわたってPDを有する個体において上昇したままであることを示す。
【0179】
考察
この研究は、PDなどのα-シヌクレイノパチーにおける臨床的有用性に関する血液ベースの試験を提示する。この分析は、臨床診療における潜在的有用性について定義されたパラメータを有する、血清中の神経エキソソームタンパク質に関する最大の多施設研究である:単一の断面測定として、血清の神経エキソソーム関連α-シヌクレイン及びクラステリンは、別のタンパク質症又は臨床及び前駆PDにおける健康な対象に対する基本的なα-シヌクレイノパチーの予測マーカーとして最もよく機能し、任意の以前に報告された血液ベースのアッセイ又はCSF総αシヌクレインもしくは病原性α-シヌクレインよりも優れている(7、35)。複数のサイトで採取された試料にわたる血清の神経エキソソーム試験でのこの向上した性能は、少なくとも部分的には、非特異的結合に抗する双性イオン性コーティングを使用した特異的免疫捕捉の改善による(36)。集団全体にわたるエキソソームα-シヌクレインのアッセイの一貫性及び個体内で評価した場合の疾患進行に対する安定性は、PD及び関連疾患におけるα-シヌクレイン標的療法の薬力学的バイオマーカーと見なすことができることを示唆する。
【0180】
3つの研究にわたり、対照と比較してPD及びPDDにおける神経エキソソームのα-シヌクレインレベルが約2倍増加したという発見は、エキソソームα-シヌクレインの増加がPDにおける有効な疾患関連所見であることをしっかりと立証している。加えて、本発明者らは、神経エキソソームのα-シヌクレインレベルが、PDを発症するリスクが高い群であるRBDを有する患者において上昇し、他の神経変性の症状(FTD/PSP/CBS)においては上昇しないことを実証した。臨床試料におけるこの観察は、神経組織からのα-シヌクレインの放出が、臨床診断に先行するα-シヌクレイノパチーのスペクトラムにわたり特異的な病態生理学的応答であることを示唆する。この文脈において、pSer129α-シヌクレインは、PDサブグループを除いて、血液由来の神経エキソソームにおいて一貫しては検出されなかった。したがって、少なくとも疾患の初期段階では、エキソソーム放出は主に非病原性形態のα-シヌクレインに関係するようだが、エキソソーム関連病原性α-シヌクレインは進行した段階で起こり得、より重度の運動表現型を意味する。
【0181】
興味深いことに、α-シヌクレインではなく、エキソソームのクラステリンは、主にタウ又はTDP-43タンパク質症及び最小α-シヌクレイン病変を病理学的に特徴とする3つの神経変性の症状である、FTD、PSP及びCBSにおいて上昇した(37)。総血清クラステリンはアルツハイマー病(AD)において上昇するが、この関連は議論の余地があり(38、39)、Aβ非依存性経路に関与する可能性がある(40)。この研究におけるデータは、クラステリンのニューロン関連エキソソーム画分が、タウオパチーを特徴とする神経変性の症状の診断バイオマーカーとして有用であり得ることを示唆する。この研究の文脈において、クラステリン定量化の組込みは、主に非α-シヌクレイン病変を有する患者の分離を助ける可能性がある。付随するタンパク質症が認知症で頻繁に見られること(3、37)を考えると、α-シヌクレインと組み合わせたクラステリンは、α-シヌクレインを標的とする治療から最も利益を得る可能性が高い、認知的関与(例えば、PDD、DLB)を有する患者を層別化するのに特に有用であり得る。この見解を支持して、本発明者らは、血清の神経エキソソームのα-シヌクレインとクラステリンとの組合せ測定又はそれらの比が、0.98のAUCで血液ベースのエキソソーム試験の感度及び特異度を改善することを見出した。
【0182】
本発明者らは以前に、血清エキソソーム数又はサイズがPD患者と対照との間で異ならないことを示した(12)。この発見、及び本明細書で報告される群間で異なるタンパク質パターン(すなわち、α-シヌクレインがRBD/PD/PDD/DLBにおいて最も高く、これに対して、クラステリンがFTD/PSP/CBSにおいて最も高い)は、L1CAM陽性エキソソーム組成の変化がこれらの観察の最も可能性の高い説明であることを示唆する。単一遺伝子が原因のPDのゲノムワイド関連研究及び機能的調査は、エンドソーム及びリソソームへのタンパク質輸送が病原性カスケードに関連することを示す(41)。エキソソームは、多胞体(MVB)としても公知の成熟(後期)エンドソーム内の腔内小胞に由来する。MVBの内容物は、典型的には、リソソームと融合したときに分解するように定められている。MVBの別の目的は、原形質膜及びエキソソームの放出である。したがって、エンドソームからリソソームへのニューロン内輸送の進行的障害は、エキソソームのα-シヌクレイン放出の増加をもたらす可能性がある。このモデルは、α-シヌクレインがエンドソームに輸送され、リソソーム分解を受ける(42、43、44)のに対して、リソソーム機能の阻害が馴化培地中のエキソソームにおけるα-シヌクレイン放出を増加させる(45、46、47)ことを示した、いくつかの細胞ベースの研究と一致するであろう。このモデルに基づくと、PDにおけるCSF総α-シヌクレインの報告された減少(7、8)は、タンパク質の不完全なニューロンハンドリングに応答した血清エキソソームへの適応的流出による可能性がある。
【0183】
この研究の強みには、α-シヌクレイノパチーのスペクトラムにわたっての、多施設の特性及び大きな試料サイズ、並びにPDにおける以前のいかなるエキソソーム調査を超える無関係なタンパク質症の包含が含まれる。これにより、本発明者らは、異なるコホートからの訓練及び検証群を使用することができ、エキソソームα-シヌクレインのカットオフ値を確立し、アッセイの一貫した性能を実証することができた。縦断的試料が利用可能であることにより、本発明者らは、経時的なマーカーの安定性を示すことができた。制限には、追加の患者コホートにおけるクラステリンの関連性を再現する必要性が含まれる。
【0184】
ニューロン由来エキソソームのα-シヌクレインが集団全体にわたり一貫して上昇し、5年間にわたって試験した場合、PDを有する個体内で上昇したままであるという発見は、血清中のα-シヌクレインの神経エキソソーム含有量の測定値を、そのニューロン内プロセシングの代用として、したがって特にPDの初期段階において、脳内のα-シヌクレインを標的とする疾患修飾療法をモニタリングするためのマーカーとして使用することができることを示唆する。PDへのRBD転換の高いリスク(48)及びPDに対する神経保護療法の潜在的な候補としてRBD患者が広く受け入れられていることを考えて、この研究はまた、前駆PDのこの群において根底にあるレビー病変に関して容易にアクセス可能な客観的読出しのためのパラメータを定義した。注目すべきことに、α-シヌクレイン及びクラステリンの神経エキソソーム含有量の組合せ測定は、原発性α-シヌクレイノパチーの予測検査値を別のタンパク質症に対して改善した(AUC0.98)。したがって、血清中のニューロン由来エキソソームのα-シヌクレイン及びクラステリンのアッセイは、PDなどの進行中のα-シヌクレイン病変の血液ベースの予測試験であり、これは、リスクのある集団を標的とするα-シヌクレイン標的療法の臨床試験で導入され得る。
【0185】
例3
この例は、パーキンソン病、多系統萎縮症及び他のタンパク質症のスペクトラムにわたるバイオマーカーとしての血清の神経エキソソームにおけるα-シヌクレイン測定、場合によりクラステリン測定との組合せの臨床的有用性をさらに実証する。
【0186】
材料及び方法
合計664人の対象がこの試験に含まれた(表3)。血清試料及び臨床データを、睡眠ポリグラフで確認されたRBD(n=65)、PD(n=275)、レビー小体型認知症(n=14、DLB)、多系統萎縮症(n=14、MSA)、行動障害型又は原発性進行性失語を含む前頭側頭型認知症(n=65、FTD)、進行性核上性麻痺(n=35、PSP)及び大脳皮質基底核症候群(n=45、CBS)を有する患者から収集した。健常対照(n=144、HC)は、同様の年齢及び性別であった。
【0187】
血清試料からのL1CAM陽性エキソソームにおけるα-シヌクレイン、クラステリン及びシンテニン-1のレベルを例2に詳述したように決定した。
【0188】
例2に詳述したように統計分析を行った。
【0189】
表3個々のコホートの特徴及びエキソソームマーカーの濃度の要約。
データは試料採取時の平均を表す。UPDRS及びMoCAは、健常対照の48%で利用可能であった。RBD=急速眼球運動睡眠行動障害、PD=パーキンソン病、PDD=認知症を伴うパーキンソン病、DLB=レビー小体型認知症、MSA=多系統萎縮症、HC=健常対照、FTD=行動障害型又は原発性進行性失語を含む前頭側頭型認知症、PSP=進行性核上性注視麻痺、CBS=大脳皮質基底核症候群。*死後の症例。
【表3】
【0190】
結果
ニューロン由来エキソソームのα-シヌクレインは、レビー小体病のスペクトラムにわたり増加する
レビー小体病変のスペクトラムにわたる対象664人からの血清試料を、前駆、運動及び認知段階の患者をアッセイすることにより分析した。この目的のために、教育歴により補正されたMoCAスコアに従って、PD被験者を純粋な運動性PD又はPD認知症を有する者に分離した。PDコホート内の認知症は、試料採取時に21/30未満のMoCAスクリーニングスコア(29)として定義した。したがって、続いて、運動性PD(n=230)又は認知症を伴うPD(n=45)のサブグループを盲目的に分析した。DLBの臨床診断を有する21症例の群も含め、そのうち10症例が剖検で確認された。前向きコホート研究により、RBDとその後の臨床的に定義されたα-シヌクレイノパチーとの間の非常に強い関連を観察し、症例の最大80%が主にPD又はDLBに変換したので、運動徴候のない特発性RBDの群(n=65)も前駆PDの代用として使用した(30、31)。
【0191】
α-シヌクレインが、対照、MSA又は他のタンパク質症と比較して、RBD、PD及びDLBエキソソームにおいて約2倍上昇したことを見出した(
図13A及び表3)。具体的には、L1CAM陽性エキソソームにおけるα-シヌクレイン含有量は、健康な対象(HC、12.71±5.93pg/mL)と比較した場合、RBD(26.69±12.82pg/mL)、運動性PD(27.44±18.82pg/mL)及び認知症を伴うPD(PDD26.76±17.25pg/mL)において同様に上昇した(データは平均+/-SDとして示されている)。α-シヌクレインはまた、DLBにおいて上昇した(17.23±4.58pg/mL)。剖検で確認された対照及びDLB症例において死亡前に採取された血清(n=10/群)を試験することにより、神経エキソソームにおけるα-シヌクレインの放出増加とレビー小体病変との間の関連を実証した。これらの2つのサブグループにおいて、平均神経エキソソーム関連α-シヌクレインは、DLBにおいて17.60±5.86pg/mLであり、対照において10.50±4.60pg/mLであった(1.7倍の増加、p=0.0097)。予想通り、エキソソームのα-シヌクレイン濃度は、報告されている血液中の全遊離α-シヌクレインのレベル(10~17ng/mL)(7,15)と比較してはるかに低かった。興味深いことに、ニューロン由来エキソソームのα-シヌクレインは、MSA試料を採取し、PD試料と同一の手順を使用して処理したという事実にもかかわらず、主に乏突起膠病変を特徴とする疾患であるMSAの症例(10.72±4.49pg/mL)のいずれにおいても上昇しなかった。
【0192】
無関係な神経変性の症状におけるニューロン由来エキソソームのα-シヌクレインの存在量を評価するために、以下の患者群を試験した:主としてタウ又はTDP-43の凝集を病理学的に特徴とするFTD患者(n=65)、並びに非定型パーキンソニズムを呈し、4リピートタウの線維状凝集体を病理学的に特徴とするPSP患者(n=35)及びCBS患者(n=45)。これらの疾患からのL1CAM陽性エキソソームにおけるα-シヌクレイン含有量が、
図13Aに示されるように、HCに類似することを見出した(FTD、12.60±4.03pg/mL;PSP、9.20±4.90pg/ml;CBS、9.93±3.68pg/mL)。
【0193】
226人の対象(18人のRBD、77人のPD、36人のPDD、11人のDLB、69人のHC、15人のFTD)において、レビー小体病における増加したα-シヌクレインが、L1CAM陽性エキソソームにおいてセリン129位でリン酸化(pSer129)されるかどうか、及び血液ベースのバイオマーカーとしての価値を有するかどうかも調査した。pSer129α-シヌクレインは、レビー小体に見られるα-シヌクレインの90%超を占める主要な疾患関連修飾である(32)。この分析は、少数の個体のみが神経エキソソームにおいて検出可能レベルのpSer129α-シヌクレインを有することを示した。興味深いことに、アッセイの検出限界内である0.5pg/mlのカットオフ値を適用した場合(
図13B)、pSer129α-シヌクレインは、22人のPD患者のサブグループ(試験した全PDの28.6%)において上昇した。このPDサブ集団では、pSer129α-シヌクレインは、7.3年より長い疾患期間(r=0.26、p=0.0263)及びUPDRS(r=0.34、p=0.0495)と相関したが、MoCA(r=0.006、p=0.3643)とは相関しなかった。以前の研究(15,13)とは異なり、
図13C及び
図13Dに示されるように、エキソソームのα-シヌクレインと、UPDRS(r=0.0267)又はMoCA(r=0.0621)のいずれかとの間に有意な相関は検出されなかった。
【0194】
α-シヌクレイン及びクラステリン測定は、エキソソーム試験の予測値を改善した
クラステリンが、FTD(20.22±10.47ng/mL)、PSP(18.42±8.84ng/mL)及びCBS(16.16±6.07ng/mL)において上昇したが(
図14A)、RBD(10.01±5.22ng/mL)、臨床PD(9.72±6.02ng/mL)、MSA(6.84±3.24ng/mL)及びHC(8.67±4.92ng/mL)においては上昇しなかったことを見出した。無関係なタンパク質症におけるクラステリンの異なる存在量は、血液ベースのエキソソーム試験におけるクラステリンの組込みが、PD患者をタウ関連非定型パーキンソン症候群から識別するのに価値があり得ることを示唆する(
図14B)。これは、HCに対して正規化された場合の、異なる患者群にわたるバイオマーカーの全体的な傾向(平均濃度を使用した)を要約するヒートマップ(
図14C)で実証される。対照的に、一般的なエキソソームタンパク質であるシンテニン-1は、バイオマーカーとして寄与するのに十分な分離を伴った疾患特異的分布を示さなかった(
図15)。
【0195】
バイオマーカーとしてのL1CAM陽性エキソソームにおけるα-シヌクレインとクラステリンとの組合せ測定の臨床的可能性をさらに評価するために、α-シヌクレインとクラステリンとの比を評価し、これらのマーカーの組合せにロジスティック回帰モデルを適用した。α-シヌクレインとクラステリンとの複合測定は、
図14D及び
図14F及び表4に示されるように、臨床PD対他のタンパク質症を予測する際の鑑別診断に対して改善されたAUC、感度及び特異度推定値(AUC=0.98(感度0.94;特異度0.96))を示し、PDの前駆フェーズにおいてさえ、RBD対他のタンパク質症、AUC=0.98、感度0.95、特異度0.93であったことを示した。この測定はまた、
図14E及び
図14Gに要約されるように、前駆又は臨床PDをMSAから識別する際に高い性能を示した(それぞれAUC=0.94及び0.91)。
【0196】
表4 α-シヌクレイン、クラステリン及び複合マーカー(α-シヌクレイン及びクラステリン)を使用して、シヌクレイノパチーを対照又は他のタンパク質症と比較する、コホートにわたる患者群のROC分析の要約。
複合マーカーをロジスティック回帰で分析した。ROCベースの分離を、2つの群間に有意差がある場合(p<0.001)に適用した。高性能(AUC≧0.90)マーカーを太字及び下線で示す。
【表4】
【0197】
結論
平均エキソソームα-シヌクレインが、多系統萎縮症(MSA)、対照又は他の神経変性疾患と比較した場合、前駆及び臨床パーキンソン病において2倍増加したことを見出した。訓練群の対象314人及び検証群の対象105人では、エキソソームのα-シヌクレインは、集団全体にわたり臨床パーキンソン病を対照から分離する際に一貫した性能(AUC=0.86)を示した。非α-シヌクレインタンパク質症を有する対象では、エキソソームクラステリンが上昇した。ニューロン由来エキソソームのα-シヌクレインとクラステリンとの組合せ測定は、パーキンソン病を、他のタンパク質症からAUC=0.98及びMSAからAUC=0.94で予測した。
【0198】
結論として、血清の神経エキソソームにおけるα-シヌクレイン放出の増加は、パーキンソン病の診断に先行し、疾患進行と共に持続し、クラステリンと組み合わせて、パーキンソン病を非定型パーキンソニズムから予測し、区別する。
【0199】
例4
この例は、本明細書に記載の被覆粒子の優れた防汚特性、及び市販の電気化学発光キットと比較したこれらのアッセイの改善された感度を実証する。
【0200】
材料
すべての化学試薬を受け取ったまま使用した。フェリシアン化カリウム、フェロシアン化カリウム、3-メルカプトプロピオン酸(3-MPA)、2-メルカプトエタノール(2-MU)、1-エチル3-(3-(ジメチルアミノ)プロピル)カルボジイミド(EDC)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、Triton X-100(TX)、ビス(カルボキシメチル)トリチオカーボナート(BisCTTC)は、Sigma-Aldrich(Gillingham、U.K.)から入手した。リンカー及びルテニウムタグを有する市販の電気化学発光(ECL)検出プレートをMeso Scale Discovery(MSD、United States)から注文した。Sera-Magカルボキシラート修飾磁気ビーズ(24152105050250)をGE Healthcareから購入し、対照として使用した。(Buckinghamshire、UK)。405nmレーザー及び高感度CMOSカメラ(OrcaFlash2.8、Hamamatsu C11440、NanoSight Ltd.)で構成されたMalvern NanoSight NS500(Malvern、UK)を使用して、ナノ粒子追跡分析を行った。カメラレベル及び検出閾値をそれぞれ14及び5に設定したNTAソフトウェア(バージョン2.3、ビルド0025)を使用して、映像を収集し、分析した。すべての分析は、23℃の制御された温度で行った。
【0201】
ウシ胎児血清(FBS)、C反応性タンパク(CRP)、ウシ血清アルブミン(BSA)及びヒト血清アルブミン(HSA)は、Sigma-Aldrichから購入した。α-シヌクレイン(αSyn)、シンテニン-1(Synt-1)標準、抗α-Syn、抗Syn-1、抗L1CAM及び抗ヘマグルチニン(HA)抗体をAbcam(Cambridge、UK)から入手した。すべてのタンパク質試料を濾過したPBS緩衝液(pH7.4)に希釈した。
【0202】
パーキンソン病(PD)及び健常対照(HC)を募集し、施設のガイドライン及び倫理的承認に従って全血試料を採取した。Kiel-PDコホートの完全な詳細は、参考文献49に公開されている。
【0203】
方法
防汚pCBMAコーティングMBの調製 磁気マイクロビーズは、フェリハイドライト/ホルムアルデヒド複合マイクロビーズの形成と、それに続くフェリヒドライトのマグネタイトへの水熱還元とを含む2段階アプローチにより調製した。水酸化鉄は、参考文献26及び27に記載されているように、室温で塩化第二鉄塩溶液の加水分解により合成した。簡単に説明すると、25gのFeCl3・6H2Oが溶解した100mLの超純水に、合計16gのNaHCO3をゆっくりと添加した。混合物を1時間撹拌して、赤褐色のフェリハイドライト溶液を得た後、1.05gの尿素を添加し、次いで2M硝酸でpHを2.0に調整した。これに続いて、撹拌下で1.57mLのホルムアルデヒド水溶液(37重量%)を添加した。添加が完了した後、混合物を周囲温度で撹拌せずに放置した。10分以内に、黄色がかったゲルが形成される。生成したマイクロスフェアを一晩熟成させた後、濾過による回収及びMilli-Q水(18.2MΩ、Millipore UK Ltd)での洗浄を行った。最後に、粒子試料を130mLの0.1M水素化ホウ素ナトリウム溶液(pH9.0)に懸濁し、懸濁液をオートクレーブに移した。反応を80℃で2時間行い、その間、最初は黄色がかったマイクロスフェアは黒色になり、EtOH及びMilli-Q水で十分に洗浄する前に容易に磁気的に抽出することができる。次いで、これらを40℃でオーブン乾燥させ、50mg/mLの濃度でMilli-Q水に再懸濁する。
【0204】
ビーズ表面を以下のように二官能性RAFT剤BisCTTCで官能化した:1mLのFe3O4懸濁液を10mLの水/エタノール(3/7、v/v)混合物に室温で10分間の超音波処理下で添加し、続いて10mgのBisCTTC(0.044mmol)を添加した。水/エタノール溶媒を選択して、磁気ビーズの分散及びBisCTTCの可溶化を確実にした。混合物を磁気撹拌及び窒素流下に24時間放置した。Fe3O4@BisCTTCの最終生成物を分離し、磁気的回収により精製し、エタノール及びMilli-Q水で3回洗浄した。
【0205】
最終ステップにおいて、BisCTTC及び4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(ACVA)を、モノマー、遊離鎖移動剤(溶液相中)及び開始剤としてそれぞれ使用した。pCBMA@Fe3O4の合成は、標準的なRAFT重合手順により実施した。典型的には、Fe3O4@BisCTTCビーズを含む1mLの懸濁液を、10mLのエタノール/水(1:1)に溶解したCBMA(360mg、1.568mmol)、ACVA(1.1mg、0.00392mmol)及び遊離CTA BisCTTC(3.55mg、0.01568mmol)と混合した。反応混合物を窒素で1時間パージした後、ガラスフラスコを70℃の油浴中で加熱し、S-5窒素下で機械的に撹拌しながら8時間放置した。反応フラスコを氷浴に挿入し、続いて空気に曝露(クエンチング)することにより、反応を終了させた。最終的なpCBMA@Fe3O4ビーズ生成物を磁気的に分離し、エタノール及び水で数回洗浄した。
【0206】
免疫ビーズの作製 防汚性免疫ビーズは、抗L1CAM Ab(ab20148、Abcam)をpCBMA@Fe3O4にコンジュゲートさせることにより調製した。具体的には、pCBMA@Fe3O4ビーズ(1mg/mL)のカルボキシル酸基をMES緩衝液中50mg/mLのEDC/NHSで活性化し、次いで8μg/mL(最終濃度)の抗L1CAM又はCD9抗体と室温で1.5時間反応させた。磁石を使用してPBSで洗浄した後、ビーズを、室温で30分間、5mg/mLのBSAを含有する1mLのPBS中で混合した(残りの活性化部位をクエンチし、残りの空間を埋め戻すため)。免疫ビーズを磁気的に回収し、さらなる使用まで4℃で保存した。すべてのそのような免疫ビーズを同じ日に調製し、消費した。
【0207】
フーリエ変換赤外減衰全反射率(FTIR-ATR) 調製したpCBMA磁気ビーズの適量をエタノール及びMilli-Q水で洗浄し、試験前に50℃で乾燥させた。CBMAモノマー及び非被覆Fe3O4磁気ビーズを対照として使用した。すべてのスペクトルを、テルル化カドミウム水銀(MCT)検出器及びATRユニット(DuraSamplIR II diamond ATR)を備えたBruker Vertex 80分光計を用いて2cm-1の分解能で4000から400cm-1の間で記録し、OPUS6.5ソフトウェアを使用して評価した。
【0208】
pCBMAビーズの防汚試験 pCBMAビーズの防汚性能を試験するために、1mgのAbpCBMA@Fe3O4又は1mgのpCBMA@Fe3O4(非被覆Fe3O4ビーズを対照として使用した)を10mg/mLのBSA溶液に別々に添加し、室温で1時間インキュベートした。非結合タンパク質を含有する上清を回収し、ビシンコニン酸(BCA)試験に供し、吸着したタンパク質を以下から決定した:
吸着量=投入量-上清中の非結合量
【0209】
免疫ビーズへの遊離α-シヌクレインの非特異的吸着レベルを評価するために、抗L1CAM抗体でコーティングした1mgのpCBMA磁気ビーズ(抗HA抗体又は対照として抗体なし)を、20ng/mLのα-シヌクレイン標準タンパク質(すなわち、血液中の遊離α-シヌクレインの臨床的に関連するレベルを反映する濃度)を含有する500μLのPBSに添加した。混合物を4℃で一晩穏やかに振盪した。インキュベーション後、上清画分を磁気ラックを使用して回収した。同じ実験設定の対照ビーズ(市販のカルボキシラート磁気ビーズ)を並行して行った。ビーズ上へのα-シヌクレインの吸着量を、ECLキットを使用し、以下の式を使用して定量した:
吸着量=投入量-上清中の非結合量。
【0210】
ゼータ電位 表面ゼータ電位分析は、光源として532nmレーザーを用いたMalvern Zetasizer Nanoで、PBS(10mM、pH=7.4)中の非被覆Fe3O4ビーズ及びpCBMA被覆MB(約1mg/mL)を用いて実施した。
【0211】
エキソソーム単離 エキソソーム単離のために、3段階逐次スピン(300gを10分間、2000gを20分間、及び10,000gを30分間)を使用して、細胞残屑、タンパク質凝集体及び脂肪物質を血清から除去した。適切な量(市販のECLプレートについては0.5mL、EISセンサについては0.1mL)の上清、すなわち事前に清澄化された血清を、非特異的吸着を減少させるために生成されたpCBMAビーズに事前にコンジュゲートした抗L1CAM抗体を使用して免疫捕捉のためにタンパク質低結合チューブ(Eppendorf)に移した。免疫ビーズを回転ミキサー上、4℃で一晩インキュベートし、ビーズ-エキソソーム複合体を磁気分離により回収し、PBS中の0.05%Tween-20(PBST)及びPBSで連続的に洗浄した。エキソソームタンパク質の定量のために、単離されたエキソソームを、4%プロテアーゼ阻害剤を含むPBS中の1%triton X-100を含有する溶解緩衝液(市販のECLプレートについては50μL及びEISセンサについては10μL)中で、エキソソームタンパク質の定量のために室温で15分間溶解した。
【0212】
透過型電子顕微鏡法 透過型電子顕微鏡法(TEM)を使用して、pCBMAビーズから溶出した捕捉エキソソームの形状及び形態を調べた。具体的には、20μLのグリシン溶液(pH2.9)を添加することにより、MB上に捕捉されたEVを溶出し、20μLのTris溶液(pH9.5)でpHを迅速に中性に戻した。得られた溶出液試料10μlを、新たにグロー放電したカーボンフォームバー300メッシュ銅グリッドに2分間適用し、濾紙でブロットし、2%酢酸ウラニル(水溶液)で10秒間染色し、次いでブロットし、風乾した。グリッドを、Gatan OneView CMOSカメラを使用して、120kVで操作したTEMで画像化した。
【0213】
走査型電子顕微鏡法 pCBMAビーズ上に免疫捕捉されたエキソソームを、清浄なシリコンウエハ上の2%グルタルアルデヒドに固定し、PBSで2回洗浄した。自然蒸発後、スパッタコーター(Cressington)を使用して試料を約5nmの白金でコーティングし、走査型電子顕微鏡(JEOL 6010LV)、5kVで画像化した。
【0214】
ウエスタンブロット ウエスタンブロットを使用して、免疫捕捉されたエキソソームからの膜貫通及び内部タンパク質を特徴付けた。抗L1CAM免疫ビーズ(一般的なエキソソームを標的とする陽性対照として抗CD9及び陰性対照として抗HA免疫ビーズ)により捕捉されたエキソソームをLDS緩衝液(Thermo Fisher)に溶解し、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を使用して分割し、ポリフッ化ビニリデン膜(PVDF、Invitrogen)に転写し、Synt-1(ab133267、Abcam)、CD9(CBL162、Millipore)、及びL1CAM(ab80832、Abcam)に対する抗体でイムノブロットした。すべての抗体を1:1,000希釈で使用した。西洋ワサビペルオキシダーゼがコンジュゲートした二次抗体(GE Healthcare)とのインキュベーション(1:10,000希釈)の後、化学発光を免疫検出のために使用した(ChemiDoc、Bio-Rad)。
【0215】
市販の電気化学発光検出 電気化学発光(ECL)検出を、製造者の指示に従って、96ウェルMeso Scale Discovery(MSD)U-Plexプレートで実施した。選択された捕捉抗体に対する2つのユニークなリンカー(抗Synt-1、抗α-シヌクレイン)を製造業者のプロトコルに従って使用した。免疫捕捉されたエキソソーム溶解物又はS-8標準溶液(50μL)を負荷し、室温で1時間インキュベートした。3回洗浄後、スルホ-TAG標識を有する検出抗体を1時間インキュベートした。洗浄緩衝液(Meso Scale Discoveryから)による洗浄及びMSD Read緩衝液(Meso Scale Discoveryから)の添加の後、MSDECLプラットフォーム(QuickPlex SQ 120)を使用してプレートを読み取った。データを、MSD Discovery Workbench 3.0 Data Analysis Toolboxを用いて分析した。α-シヌクレイン(ビオチン及びルテニウムタグとプレコンジュゲートされ、Meso Scale Discoveryにより提供される)に対する抗体ペアをMSDにより用意した。添加剤を含まない抗Synt-1ヤギポリクローナル抗体(PAB7132、Abnova)及び抗Synt-1ウサギモノクローナル抗体(ab236071、Abcam)をビオチン及びルテニウムとコンジュゲートさせ、それぞれ捕捉及び検出抗体として使用した。
【0216】
エキソソーム捕捉効率 免疫ビーズを使用してエキソソーム捕捉効率を評価するために、抗CD9抗体修飾pCBMA@Fe3O4 MBを上記の「免疫ビーズの作製」と同じ手順に従って調製した。免疫ビーズ(0.2mg)を100μLの予め清澄化した血清と混合し、4℃で一晩インキュベーションした。インキュベーション後、外部磁気ラックの補助を用いて上清を回収した。次いで、投入血清及び上清中のエキソソーム濃度を、40から140nm(すなわち、エキソソームの典型的なサイズ)にわたる粒子画分のナノ粒子追跡分析を使用して測定した。捕捉効率は、以下の式を使用して測定した:
(投入(CD9+エキソソーム)-非結合量)/投入(CD9+エキソソーム)×100%
=(総投入量×75%*-非結合量)/総投入量×75%)×100%
=(2.66-0.51)/2.66×100%=80.8%
(注:CD9+エキソソームは、全エキソソーム集団の約75%を構成する)。
【0217】
レセプタ界面の作製及びEIS検出 Auディスク電極(直径3.0mm、BASi(登録商標)、USAから購入)を、それぞれ1.0μm、0.3μm及び0.05μmのアルミナスラリーで機械的に研磨した。電極をエタノール中で10分間超音波処理し、ピラニア(v/v3:1、H2SO4:H2O2)に10分間浸漬した。Milli-Q水ですすぎ、窒素で乾燥させた後、電極を0.5M KOH水溶液に100サイクルのサイクリックボルタンメトリースキャン(-1.7~-0.7V)で浸漬した。次いで、それらを、アノード及びカソードのピークの高さ及び形状が一定になるまで、Agワイヤ参照電極0.1V/sに対して、0.5M H2SO4中、-0.15V~1.35Vで電気化学的にサイクルした。
【0218】
3-MPAと2-MUとの混合SAMは、清浄な金ディスク電極を50mMの3-MPAと10mMの2-MU溶液に暗所で室温にて一晩浸漬することにより生成した。電極をエタノールですすぎ、物理的に吸着した分子を除去し、次いでアルゴン流中で乾燥させた。次いで、3-MPAの末端カルボキシル基を0.4M EDC/NHS溶液で30分間活性化し、PBSで慎重に洗浄した。次いで、100μg/mLの最適化された濃度での10μLの抗体溶液を電極上で1時間インキュベートし、次いで表面をFBS溶液で30分間ブロックして、残留カルボキシル基を不活性化した。抗体修飾電極の安定性を、PBS中で20分間の反復インキュベーション、及びその後の5mMのK3[Fe(CN)6]及びK4[Fe(CN)6]中でのEIS評価により試験した。その後、10%ヒト血清又はエキソソーム溶解物(4%プロテアーゼ阻害剤を含むPBS中1%triton X-100をエキソソーム-ビーズ複合物に室温で15分間添加することにより得られる)にスパイクした10μLのα-Syn、Synt-1を、次いで20分間の最適化されたインキュベーション時間の間、電極上でインキュベートし、PBS溶液で洗浄した。PBS溶液で洗浄する前に、センサ電極を10-3g/mLのCRP、10-3g/mLのα-Syn、又は10-3g/mLのBSAと共に20分間インキュベートすることにより、選択性分析を行った。EIS測定は、標準的な3電極構成を有するPalmSens電気化学ワークステーションを用いて記録し、PBS溶液中5mMのK3[Fe(CN)6]及びK4[Fe(CN)6]で行った。すべての測定は、振幅0.01V及び周波数100kHz~100mHzの範囲に固定した設定で行った。抗体の添加時のRct(Rct-antibody)及びS-10抗原の添加時のRct(Rct-antigen)を、等価回路図のフィッティングから計算した。相対応答は、以下から決定される:
相対応答=Rct-antigen-Rct-antibody。
【0219】
患者試料の統計分析は、標準的なスチューデントのt検定により行った。
【0220】
結果
性能と防汚特性の検討
上記のように、磁気ビーズ(約2.4μm)をRAFTプロセスを介して双性イオン性ポリマーpCBMAでコーティングし、抗L1CAM抗体でさらに修飾した。
【0221】
ゼータ電位評価を、重合前(Fe3O4、-33.8±3.2mV)及び重合後(pCBMA@Fe3O4、-2.3±1.2mV)に測定し、最適な性能のために所望されるように、ほぼゼロの全電荷を示した(参考文献50及び51を参照)。
【0222】
pCBMA@Fe
3O
4 MBの防汚特性は、そのままのFe
3O
4ビーズと比較した場合に、ウシ血清アルブミン(BSA)の非特異的吸着が著しく減少した(約90%)ことにより確認された(
図16を参照)。抗体コンジュゲーション(すなわち、抗L1CAM修飾pCBMA@Fe
3O
4 MB)後でさえ、防汚性能が著しく損なわれないことは注目に値する。pCBMA@Fe
3O
4 MBは、市販のカルボキシラートMBとは異なり、使用される抗体に関係なく、可溶性組換えα-シヌクレインとインキュベートした場合に良好な防汚特性を示すことがさらに実証された(
図17Aに示される抗L1CAM又は抗HA)。これは、血清試料からのエキソソームの選択的かつ清浄な単離を裏付ける点で非常に重要である。
【0223】
次いで、抗L1CAM抗体被覆pCMBAを、血清中の神経エキソソームの免疫捕捉について評価した。SEM画像分析は、エキソソームが抗L1CAMコンジュゲートpCBMA@Fe
3O
4 MBに結合したが(
図17B)、対照ビーズには結合しなかった(すなわち、
図17Bの挿入図の抗HA Ab被覆pCBMA@Fe
3O
4ビーズ)ことを明確に示した。
【0224】
それらの分子組成をさらに確認するために、捕捉された小胞を溶解し、イムノブロッティングのために処理した(
図17C)。膜貫通マーカーL1CAM及びCD81並びに内部タンパク質マーカーSynt-1は、抗L1CAM@pCBMA@Fe
3O
4 MB試料からの溶解物中に検出されたが、対照溶解物(抗HA被覆pCBMA@Fe
3O
4 MBと共にインキュベートした試料)中には検出されなかった。
【0225】
抗L1CAM修飾pCBMA Fe
3O
4 MBが、α-Synを含有する血清の神経エキソソームからの単離に有効であることも確認された(
図17D)。
【0226】
市販の電気化学発光キットとの選択性の比較
選択的に捕捉されたエキソソームを上記のように電気化学的に定量した。特に、バイオマーカー定量の信頼性を、予想されるマーカーレベルの10
6倍超過剰の対照タンパク質(例えば、C反応性タンパク(CRP)及びBSA)を用いた分析を含む、α-Syn及びSynt-1の両方について調製したスパイク溶液の反復分析によって試験した(
図18)。両方のマーカーの信頼できる三連定量(
図19)は、α-Synについてそれぞれ0.3及び0.8pg/mLの検出限界(LOD)及び定量限界(LOQ)で30分以内に実証可能であった(
図20)。これは、ほとんどの以前のエキソソーム分析よりも顕著に良好である。したがって、本明細書のアッセイは、市販の電気化学発光キットよりも有意に感度が高く(ほぼ一桁)、はるかに安価であり、はるかに高速であり、著しく少ない試料投入量(500μLに対して100μL)を必要とする。
【0227】
例5
この例は、追加のコホートからの患者を使用することにより、パーキンソン病、多系統萎縮症及び他のタンパク質症のスペクトラムにわたるバイオマーカーとしての血清の神経エキソソームにおけるα-シヌクレイン測定、場合によりクラステリン測定との組合せの臨床的有用性をさらに検証する。
【0228】
材料及び方法
合計288人の対象がこの試験に含まれた(表5)。血清試料及び臨床データを、睡眠ポリグラフで確認されたREM(急速眼球運動(REM))睡眠行動障害(RBD)(n=26)、PD(n=45)、多系統萎縮症(MSA)(n=36)、進行性核上性麻痺(PSP)(n=81)及び大脳皮質基底核症候群(CBS)(n=43)を有する患者から収集した。健常対照(HC)(n=57)は、同様の年齢及び性別であった。
【0229】
より少量の血清(500μLの代わりに250μL)を使用したことを除いて、例2に詳述されているようにL1CAM陽性神経エキソソームを単離した。
【0230】
例2に詳述されているように、試料をα-シヌクレイン、クラステリン及びシンテニン-1について盲目的に分析した。
【0231】
例2及び3に詳述したように、統計分析を行った。
【表5】
【0232】
【0233】
対照と比較して、RBD及びPDにおいてはエキソソームのα-シヌクレインが有意に増加し(
図21)、PSP及びCBSにおいてはより高いクラステリンがあった(
図23)ことが見られ得る。対照と比較して、RBD及びPDにおいてもα-シヌクレイン/クラステリン比の有意な増加が見られ得る(
図24)。
【0234】
ROC分析を使用することにより、α-シヌクレイン又はα-シヌクレイン/クラステリン比は、独立して、RBD及びPD対MSA(グリア性シヌクレイノパチー)又はタウオパチー(PSP、CBS)においてニューロン性シヌクレイノパチーを予測する正確なバイオマーカーを提供することがさらに確認された(
図22及び
図25を参照)。
【0235】
これらの観察は、上記の例からの観察と一致している。
【0236】
【国際調査報告】