(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-11
(54)【発明の名称】インバータスイッチングロスを減少させた三相誘導負荷の部分負荷作動での起動
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20221228BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02P27/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022527129
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(85)【翻訳文提出日】2022-05-11
(86)【国際出願番号】 EP2020076682
(87)【国際公開番号】W WO2021099012
(87)【国際公開日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】102019217688.7
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】マヌシン,イリア
(72)【発明者】
【氏名】ヴェスナー,ヨッヘン
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505BB02
5H505CC01
5H505DD03
5H505DD06
5H505EE52
5H505FF01
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H770AA02
5H770BA01
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770EA19
(57)【要約】
インバータ(1)を作動させる方法(100)であって、前記インバータが、3つの半ブリッジ(5a~5c)内に配置されているスイッチング素子(3a~3f)を起動することにより、誘導負荷(4)の3つの交流電流相(U,V,W)を、それぞれ前記インバータ(1)の入力部(1a)に印加されている直流電圧(2)のプラス極またはマイナス極と選択的に結合させる前記方法において、前記スイッチング素子(3a~3f)のスイッチング状態を回転空間ベクトル変調によって変化させ(110)、加えて、少なくとも1つの半ブリッジ(5a~5c)に関してそれぞれのスイッチング素子(3a,3d;3b,3e;3c,3f)の同じスイッチング状態を有している空間ベクトル(6a~6f)の間で変調を行う際に、このような半ブリッジ(5a~5c)はすべてオフ状態のままである(120)前記方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ(1)を作動させる方法(100)であって、前記インバータが、3つの半ブリッジ(5a~5c)内に配置されているスイッチング素子(3a~3f)を起動することにより、誘導負荷(4)の3つの交流電流相(U,V,W)を、それぞれ前記インバータ(1)の入力部(1a)に印加されている直流電圧(2)のプラス極またはマイナス極と選択的に結合させる前記方法において、前記スイッチング素子(3a~3f)のスイッチング状態を回転空間ベクトル変調によって変化させ(110)、加えて、少なくとも1つの半ブリッジ(5a~5c)に関してそれぞれのスイッチング素子(3a,3d;3b,3e;3c,3f)の同じスイッチング状態を有している空間ベクトル(6a~6f)の間で変調を行う際に、このような半ブリッジ(5a~5c)はすべてオフ状態のままである(120)前記方法。
【請求項2】
少なくとも1つの半ブリッジ(5a~5c)に付設されている前記スイッチング素子(3a,3d;3b,3e;3c,3f)のスイッチング状態が同じである、空間ベクトル図において関連性のあるセクター(7a~7c)の内側では、このような半ブリッジ(5a~5c)はすべてオフ状態のままである(121)、請求項1に記載の方法(100)。
【請求項3】
前記交流電流相(U,V,W)のうち少なくとも2つの間に零とは異なる電圧が印加されているような状態を表すアクティブな空間ベクトル(6a~6f)の間でのみ前記空間ベクトル変調(110)を行う(111)、請求項1または2に記載の方法(100)。
【請求項4】
回転磁界の趣旨で整流する所定の実効値を持つ三相交流電流(4a)が前記誘導負荷(4)を流れることを目的にして前記空間ベクトル変調(110)を制御および/または調整する(112)、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項5】
誘導負荷(4)として電動機を選択する(105)、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項6】
前記電動機を、アースされていない中性点(8)を備える星形結線で作動させる(105a)、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記誘導負荷(4)がその公称出力の最大20%で、有利には最大10%で、特に有利には最大5%で作動されるような、前記誘導負荷(4)の作動相(4’)を選択する(106)、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項8】
1つまたは複数のコンピュータで実施する場合に、前記コンピュータをして請求項1~7のいずれか一項に記載の方法(100)を実施させる機械可読命令文を含んでいるコンピュータプログラム。
【請求項9】
請求項8に記載の前記コンピュータプログラムを備えた機械可読データキャリアおよび/またはダウンロード製品。
【請求項10】
請求項8に記載のコンピュータプログラム、ならびに/または、請求項9に記載の機械可読データキャリアおよび/もしくはダウンロード製品を備えたコンピュータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータでの三相誘導負荷の作動に関するもので、この場合有効電流はパルス幅変調により設定される。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーを機械エネルギーに変換する電気駆動システムでは、有利には三相または多相の交流電動機が使用され、三相または多相の交流電動機は優れた効率を持ち、直流電動機とは異なり、摩耗しやすいブラシを必要としない。この種の駆動システムはたとえばエレベータ、ポンプ、電気駆動車両のためのパワートレインで使用される。しかしながら、たとえばバッテリーまたは燃料電池のような車両に積載可能な電気エネルギー源は、通常は直流電圧を提供する。産業上の適用のためには、ほとんどの場合、整流器で整流される三相交流が利用される。
【0003】
直流電圧を三相または多相の交流電圧へ変換するため、インバータが使用される。
【0004】
この場合、走行作動においては、トルクおよび回転数に対する要求が常時変化する。すなわち、加速するためにはより高い回転数が要求され、登り坂で速度を保持するにはより高いトルクが要求される。インバータは、交流電流の周波数も有効電流強度も広範囲に変化させることができる。しかしながら、インバータ内で複数の出力半導体を高速で時間的に同期させることによって交流電流に変換するにはエネルギーを消費する。特許文献1は、インバータによって正弦三相交流電圧を発生させる際にスイッチングロスの一部を節減できるようにしたパルス幅変調方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許出願公開第102004027629A1号明細書
【発明の概要】
【0006】
本発明の範囲内で、インバータが、3つの半ブリッジ内に配置されているスイッチング素子を起動することにより、誘導負荷(たとえば同期機械)の3つの交流電流相を、それぞれインバータの入力部に印加されている直流電圧のプラス極またはマイナス極と選択的に結合させる、インバータを作動させる方法が開発された。スイッチング素子は、特に、たとえば出力半導体として形成されていてよい。この場合、スイッチング素子のスイッチング状態は回転空間ベクトル変調によって変化させる。空間ベクトル図において、三相に関する電流分布は、一方では空間ベクトルの量、実数部分、または虚数部分によって特徴づけられ、他方では座標軸に対する空間ベクトルの角度によって特徴づけられる。これに関連して、「回転」とは、変調によって繰り返し新たな合成空間ベクトルが発生し、その角度が一定の回転方向において絶えず変化することを意味する。
【0007】
各半ブリッジはそれに割り当てられている交流電流相を直流電圧のプラス極と結合させることができるか、或いは、マイナス極と結合させることができるかのいずれかにすぎないので、スイッチング素子の静止スイッチング状態でもって最大でもわずか23=8の異なる空間ベクトルを表すことができるにすぎない。これらの空間ベクトルは、たとえば1つの電動機を回転駆動させるにも十分ではない。このため、調整可能なこれらわずかな空間ベクトルの間にあるような他の空間ベクトルがさらに多数必要である。空間ベクトル変調の範囲内では、角度の正または負の方向或いは零状態で隣り合っている複数の調整可能な空間ベクトルを交互に印加することによって、それぞれこれら調整可能な空間ベクトルの間にある他の空間ベクトルをパルス幅変調で発生させる。
【0008】
少なくとも1つの半ブリッジに関してそれぞれのスイッチング素子の同じスイッチング状態を有している空間ベクトルの間で変調を行う場合、このような半ブリッジはすべてオフ状態のままである。
【0009】
従来の空間ベクトル変調では、各半ブリッジがそれに割り当てられている相を直流電圧のプラス極かマイナス極かのいずれかと結合させているスイッチング状態しか許されなかった。すなわち、各半ブリッジにおいては、常にちょうど1つのスイッチング素子がオンにされ、他のスイッチング素子はオフにされている。1つの半ブリッジの2つのスイッチング素子がオフにされているスイッチング状態はありえない。まさにこのようなスイッチング状態の導入こそがそれぞれに付属の空間ベクトルを変化させ、それ故空間ベクトル変調の際に最終的に形成される、交流電流相を流れる電流の時間的変化が、正弦形状からずれることになる。その対抗策として、すべてオフになっている半ブリッジでのすべてのスイッチング過程を節減させる。まさに誘導負荷の起動の際には、正弦形状からのずれがあっても、多くの場合、負荷がその都度行う機能を阻害しないことが認められた。それ故、スイッチング過程のタイムプログラムは、説明的には「ロスを伴う圧縮をする」ことができる。この状況はある程度画像データ、オーディオデータ、ビデオデータの圧縮と比較でき、そこではロスのない圧縮方法からロスを伴う圧縮方法への移行は、圧縮の効率を新たなオーダーで上昇させる。
【0010】
特に有利な構成では、少なくとも1つの半ブリッジに付設されているスイッチング素子のスイッチング状態が同じである、空間ベクトル図において関連性のあるセクターの内側では、このような半ブリッジはすべてオフにさせる。なお「関連性のある」とは、空間ベクトルの角度の正または負の方向において理解すべきである。
【0011】
空間ベクトル図において、角度の正または負の方向には、第1、第2、第3の空間ベクトルのシーケンスが次のように存在することが認められ、すなわち第1の半ブリッジのスイッチング状態の変化によって第1の空間ベクトルから第2の空間ベクトルへ交替させることができ、そしてそれに続く第2の半ブリッジのスイッチング状態の変化によって第2の空間ベクトルから第3の空間ベクトルへ交替させることができるように、存在することが認められた。すなわち、第1の空間ベクトルと第3の空間ベクトルとによって取り囲まれるセクターにおいては、前進は総じて2つの半ブリッジのスイッチング状態の変化だけで特徴づけられる。したがって、第3の半ブリッジのスイッチング状態は更なる情報をなんら付加せず、もし第3の半ブリッジがすべてオフ状態のままであれば、重要なことは何も失われない。
【0012】
更なる有利な構成では、空間ベクトル変調はいわゆるアクティブな空間ベクトル間でのみ行われる。アクティブな空間ベクトルは、複数の交流電流相のうち少なくとも2つの間に零とは異なる電圧が印加されているような状態を表している。さらに、そのうえに、3つの交流電流相がすべて互いに短絡されているようなスイッチング状態を表すいわゆる零電圧空間ベクトルが存在する。空間ベクトル変調によって正弦状の回転域を発生させる必要がある場合には、これら零電圧空間ベクトルも必要になる。しかし、本方法の範囲内では、半ブリッジをすべてオフにすることによって、発生した交流電流の正確な正弦形状を断念することはそもそもすでに「決定事項」であるので、零電圧空間ベクトルの印加に必要なスイッチング過程を同様に節減できる。
【0013】
特に有利な構成では、回転磁界の趣旨で整流する所定の実効値を持つ三相交流電流が誘導負荷を流れることを目的にして空間ベクトル変調を制御および/または調整する。まさにこのような適用例においては、実効値がデフォルトに相当している限りでは、交流電流の1周期内での電流の正確な時間的変化は特に問題でない。すなわち、この時間的変化を正弦形状に「整形すること」は誘導負荷の技術的機能のために必要でなく、複数のスイッチング過程を要するにすぎない。
【0014】
誘導負荷は、特に有利には電動機であってよい。電動機の回転を励起して維持するためには、回転をさらに推進させる合成磁力がステータとロータとの間に各時点で発生することが必要であるにすぎない。これは、電動機の磁気コイルの励磁が時間的に正確に正弦状の変化を持っていることを必ずしも前提とするものではない。
【0015】
更なる特に有利な構成では、電動機を星形結線で作動させる。これは、3つの交流電流相によって給電される電動機の3つのコイルが1つの共通の中性点を持っていることを意味している。この中性点はアースされていない。
【0016】
この構成では、たとえば直流電圧のプラス極を起点としてインバータの1つの半ブリッジから電動機の1つのコイルを通って流れた電流は、他の2つのコイルだけを通ってインバータの他の半ブリッジに到達し、そこから最終的に直流電圧のマイナス極に戻って、電流回路を閉じる。ここで、1つの半ブリッジを完全にオフにすることには、直流電圧のマイナス極に戻すために、2つの半ブリッジの代わりに1つの半ブリッジだけを使用するという効果がある。しかしこれは、中性点からマイナス極への途上で電流が前記他の2つのコイルの並列接続をもはや克服する必要がなく、複数のコイルのうちの1つの特定のものを克服すればよいことを意味している。すなわち、各コイルは不可避のインピーダンスを有しているので、電流は総じてより高いインピーダンスを克服しなければならない。
【0017】
その結果、各コイルにおいて電圧がわずかに落ち、したがって総じてモータ内で電気出力がわずかに変化することになる。同時に、インバータのスイッチング素子を介してもそれぞれわずかに電圧が落ちる。これらのスイッチング素子が出力半導体(たとえばトランジスタのような)であれば、スイッチングロスにもなりかねないこれら半導体の伝導損が減少する。伝導損は、スイッチング素子を介しての電圧降下にも、その都度流れる電流にも依存している。
【0018】
電力消費量が減少するということは、逆に推論すれば、電動機がわずかに機械的動力を出力しうることを意味している。したがって、全負荷作動において電動機の機能が狭められるかもしれない。しかしながら、本方法は電動機および他の誘導負荷の特に部分負荷作動および無負荷作動に対して想定されている。
【0019】
電動機のまさに部分負荷作動または無負荷作動においても、トータルロスに占めるスイッチングロスの割合は著しく増大することが認められた。要求される有効電流がファクタ20だけ減少するならば、スイッチングロスは、従来の技術水準によればファクタ2だけ減少するにすぎない。これによって、無負荷作動においては、インバータの効率が25%以下に低下することがある。このとき、電流の時間的変化が多かれ少なかれ正弦状の三相交流電流から著しくずれていることを犠牲にすれば、明らかな改善が生じる。しかしながら、電流の電流リップルには影響しない。なぜなら、PWM周波数は常に固定されたままだからである。しかし、まさに部分負荷作動および無負荷作動においては、抵抗の上昇によって生じる、および、場合によっては付加的に正弦形状からのずれによっても生じる電動機の最大出力の減少は重要でない。重要なのは、むしろインバータの効率の改善である。
【0020】
多くの駆動システムは、典型的には、その作動時間の非常にわずかな部分に対してだけ高速で運転される。これに対応して、部分負荷作動と無負荷作動はともに電気パワートレインの作動時間の大部分をなす。提案された方法により、部分負荷作動でのシステムの効率は著しく改善される。
【0021】
それ故、スイッチングロスの低減によりかなりのエネルギー量が節減され、このことは特に車両のパワートレインでの使用の際に有利である。通常、車両は制限されたエネルギー貯留手段を搭載しているので、節減されたエネルギーは走行可能距離の向上にも表れる。
【0022】
それ故、有利には、誘導負荷がその公称出力の最大20%で、有利には最大10%で、特に有利には最大5%で作動されるような、誘導負荷の作動相を選択する。
【0023】
本方法は、特に、完全にまたは部分的にコンピュータで実施されていてよい。それ故本発明は、1つまたは複数のコンピュータで実施される場合には、コンピュータをして本方法を実施させる機械可読命令文を含んでいるコンピュータプログラムにも関する。この意味では、同様に機械可読命令を実施できる車両用制御器および技術機器用組込みシステムもコンピュータと見なされる。
【0024】
また、本発明は、コンピュータプログラムを備えた機械可読データキャリアおよび/またはダウンロード製品にも関する。ダウンロード製品は、データネットワークを介して伝送可能で、すなわちデータネットワークのユーザーによってダウンロード可能で、たとえばオンラインショップで瞬間ダウンロードで売りに出すことができるデジタル製品である。
【0025】
さらに、コンピュータは、前記コンピュータプログラム、前記機械可読データキャリア、または、前記ダウンロード製品を備えていてよい。
【0026】
次に、本発明を改善させる更なる手段を、本発明の有利な実施形態の説明とともに図を用いて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図3】誘導負荷4としての電動機を備えたインバータ1に方法100を適用した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、インバータ1を作動させるための方法100の1実施形態を説明する図である。インバータ1自体は
図3に詳細に図示されている。
【0029】
ステップ110で、インバータ1のスイッチング素子3a~3fのスイッチング状態を回転空間ベクトル変調によって変更する。ステップ120によれば、まさに変調の際に使用した空間ベクトル6a~6fが同じスイッチング状態を設定するそれぞれの半ブリッジ5a~5cは、すべてオフ状態のままである。
【0030】
その際、この実施形態では、ステップ105で誘導負荷4として電動機を選択する。ブロック105aによれば、この電動機は、アースされていない中性点8を備える星形結線で作動される。
【0031】
ステップ106では、誘導負荷4の部分負荷作動相4’を、半ブリッジ5a~5cがすべてオフ状態のままであって、それ故回転空間ベクトル変調が修正されるような作動相として選択する。
【0032】
ボックス110の内側には、回転空間ベクトル変調をいかに詳細に構成できるかが例示されている。
【0033】
ブロック111によれば、空間ベクトル変調は特にアクティブな空間ベクトル6a~6fの間でのみ行うことができる。いわゆる零電圧空間ベクトルとは異なり、アクティブな空間ベクトルは、交流電流相U,V,Wのうちの少なくとも2つの間に零とは異なる電圧が印加されている状態を表している。零電圧空間ベクトルを使用しない場合には、同相モード電流が減少するので有利である。
【0034】
ブロック112によれば、空間ベクトル変調は、特に対応的な制御および/または調整により、回転磁界の趣旨で整流する所定の実効値を持つ三相交流電流4aが誘導負荷4を流れるという目的に向けられていてよい。
【0035】
ブロック121によれば、少なくとも1つの半ブリッジ5a~5cに付設されているスイッチング素子3a,3d;3b,3e;3c,3fのスイッチング状態が同じ状態のままである空間ベクトル図において関連性のあるセクター7の内側においては、このような半ブリッジ5a~5cはすべてオフ状態のままであってよい。
【0036】
図2は、空間ベクトル図における空間ベクトル変調を説明する図である。記入されているのは6つのアクティブな空間ベクトル6a~6fである。座標軸は、複素交流電圧U
*の実数部分および虚数部分を表している。表1には、半ブリッジ5a~5cの付属のスイッチング状態とそのスイッチング素子3a~3fが記載されている。
【0037】
【表1】
表1:空間ベクトル変調(半ブリッジ5a~5cを非動作状態にしない)
【0038】
角度φの正の回転方向に連続している空間ベクトル6a,6b,6cに共通していることは、半ブリッジ5cの2つのスイッチング素子3cと3fがそれぞれ同じスイッチング状態のままであることである。それ故、空間ベクトル6aと6cはセクター7aを取り囲み、このセクター内では半ブリッジ5cのスイッチング状態は一定である。いま、表1で太枠によって特徴づけたこのセクター7の内側で、半ブリッジ5cがすべてオフ状態のままであれば(すなわち両スイッチング素子3cと3fが常に「オフ」)、2つの切換え過程が節約される。すなわち、空間ベクトル6cから空間ベクトル6dへ移行する際、スイッチング素子3fをオフにする必要がない。なぜなら、すでにオフになっているからである。同様に、空間ベクトル6fから空間ベクトル6aへ移行する際、スイッチング素子3fをオンにする必要がない。なぜなら、オフ状態を維持すべきだからである。
【0039】
対応的に、空間ベクトル6cと6eは第2のセクター7bを取り囲み、このセクター内では第1の半ブリッジ5aのスイッチング状態は一定である。表1で点線枠によって特徴づけたこのセクター7bの内側では、第1の半ブリッジ5aはすべてオフ状態のままであってよい。
【0040】
空間ベクトル6eと6aは第3のセクター7cを取り囲み、このセクター内では第2の半ブリッジ5bのスイッチング状態は一定である。表1では破線枠によって特徴づけたこのセクター7cの内側では、第2の半ブリッジ5bはすべてオフ状態のままであってよい。
【0041】
これらの変化は、誘導負荷4によってドライブされる交流電流4aの最終的な時間的変化が多かれ少なかれ正弦形状とは著しく異なることを生じさせる。正弦状出力電流のためには、空間ベクトル図において円K上にある空間ベクトルだけを使用すればよい。このためには、3つの半ブリッジ5a~5cのすべてをアクティブに切換えることが必要なばかりでなく、零電圧空間ベクトルを付け加えることも必要である。これによって、総じてスイッチング素子3a~3fの多数の切換え過程が必要である。
【0042】
半ブリッジ5a~5cをすべてオフにすることにより、空間ベクトル6b,6d,6fだけを全公称電圧U1で切換えることができる。それ故、3つの空間ベクトル6b,6d,6fの間だけでパルス幅変調を調整すればよい。それ故、パルス幅変調を用いて、空間ベクトル6b,6d,6fの終端点の間を結ぶ破線の結合線上に終端を有するような合成空間ベクトルだけを発生させることができる。これは、減少電圧U2に対応している。この点に、前述したように、星形結線で作動される電動機の電気抵抗がより大きくなることが反映されている。
【0043】
図3(a)は、インバータ1と誘導負荷4としての電動機とから成る構成の全体図である。インバータ1は、その入力部1aにおいて直流電圧2を受け取り、その出力部1bにおいて相U,V,Wを持つ交流電流4aを出力する。相Uは第1の半ブリッジ5aを介して起動され、そこでスイッチング素子3aを介して直流電圧2のプラス極と、或いは、スイッチング素子3dを介して直流電圧2のマイナス極と、選択的に結合される。相Vは第2の半ブリッジ5bを介して起動され、そこでスイッチング素子3bを介して直流電圧2のプラス極と、或いは、スイッチング素子3eを介して直流電圧2のマイナス極と、選択的に結合される。相Wは第3の半ブリッジ5cを介して起動され、そこでスイッチング素子3cを介して直流電圧2のプラス極と、或いは、スイッチング素子3fを介して直流電圧2のマイナス極と、選択的に結合される。
【0044】
相U,V,Wのそれぞれは電動機4のコイル11,12,13の1つに給電し、その際これら3つのコイル11,12,13は1つの共通のアースされていない中性点8を持っている。コイル11,12,13はインダクタンスLばかりでなく、これに対して直列に接続されるオーム抵抗RU,RVまたはRWをも有している。
【0045】
図3(b)は、本方法に従ってすべての半ブリッジ5a~5cをオフにすることを行わない場合のこれらオーム抵抗の作用を示している。もし交流電流4aがたとえば直流電圧2のプラス極から第1の半ブリッジ5aを経て抵抗R
Uを持つ第1のコイル11を通るように誘導されれば、マイナス極へのリターン誘導は、抵抗R
Vを持ったコイル12と抵抗R
Wを持ったコイル13とから成る並列回路を介してのみ行うことができる。
【0046】
図3(c)は、第3の半ブリッジ5cをすべてオフにした場合に全抵抗にどのように影響するかを示している。このとき、リターン誘導のために、抵抗R
Vを持った第2のコイル12のみが使用されるにすぎない。すなわち、全抵抗はより大きくなる。
【符号の説明】
【0047】
1 インバータ
2 直流電圧
1a インバータの入力部
3a~3f スイッチング素子
4 電動機(誘導負荷)
4a 三相交流電流
4’ 誘導負荷の部分負荷作動相
5a~5c 半ブリッジ
6a~6f 空間ベクトル
8 中性点
100 インバータを作動させる方法
105 誘導負荷として電動機を選択するステップ
105a 電動機を星形結線で作動させるステップ
106 誘導負荷の作動相を選択するステップ
110 スイッチング素子のスイッチング状態を変更させるステップ
111 アクティブな空間ベクトルの間でのみ空間ベクトル変調を行うステップ
112 空間ベクトル変調を制御および/または調整するステップ
120 半ブリッジ(5a~5c)がすべてオフ状態のままであるステップ
121 半ブリッジ(5a~5c)がすべてオフ状態のままであるステップ
U,V,W 交流電流相
【手続補正書】
【提出日】2022-05-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ(1)を作動させる方法(100)であって、前記インバータが、3つの半ブリッジ(5a~5c)内に配置されているスイッチング素子(3a~3f)を起動することにより、誘導負荷(4)の3つの交流電流相(U,V,W)を、それぞれ前記インバータ(1)の入力部(1a)に印加されている直流電圧(2)のプラス極またはマイナス極と選択的に結合させる前記方法において、前記スイッチング素子(3a~3f)のスイッチング状態を回転空間ベクトル変調によって変化させ(110)、加えて、少なくとも1つの半ブリッジ(5a~5c)に関してそれぞれのスイッチング素子(3a,3d;3b,3e;3c,3f)の同じスイッチング状態を有している空間ベクトル(6a~6f)の間で変調を行う際に、このような半ブリッジ(5a~5c)はすべてオフ状態のままである(120)前記方法。
【請求項2】
少なくとも1つの半ブリッジ(5a~5c)に付設されている前記スイッチング素子(3a,3d;3b,3e;3c,3f)のスイッチング状態が同じである、空間ベクトル図において関連性のあるセクター(7a~7c)の内側では、このような半ブリッジ(5a~5c)はすべてオフ状態のままである(121)、請求項1に記載の方法(100)。
【請求項3】
前記交流電流相(U,V,W)のうち少なくとも2つの間に零とは異なる電圧が印加されているような状態を表すアクティブな空間ベクトル(6a~6f)の間でのみ前記空間ベクトル変調(110)を行う(111)、請求項1または2に記載の方法(100)。
【請求項4】
回転磁界の趣旨で整流する所定の実効値を持つ三相交流電流(4a)が前記誘導負荷(4)を流れることを目的にして前記空間ベクトル変調(110)を制御および/または調整する(112)、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項5】
誘導負荷(4)として電動機を選択する(105)、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項6】
前記電動機を、アースされていない中性点(8)を備える星形結線で作動させる(105a)、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記誘導負荷(4)がその公称出力の最大20%
で作動されるような、前記誘導負荷(4)の作動相(4’)を選択する(106)、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項8】
前記誘導負荷(4)がその公称出力の最大10%で作動されるような、前記誘導負荷(4)の作動相(4’)を選択する(106)、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項9】
前記誘導負荷(4)がその公称出力の最大5%で作動されるような、前記誘導負荷(4)の作動相(4’)を選択する(106)、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項10】
1つまたは複数のコンピュータで実施する場合に、前記コンピュータをして請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法(100)を実施させる機械可読命令文を含んでいるコンピュータプログラム。
【請求項11】
請求項
10に記載の前記コンピュータプログラムを備えた機械可読データキャリアおよび/またはダウンロード製品。
【請求項12】
請求項
10に記載のコンピュータプログラム、ならびに/または、請求項
11に記載の機械可読データキャリアおよび/もしくはダウンロード製品を備えたコンピュータ。
【国際調査報告】