(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20230111BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230111BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230111BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230111BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20230111BHJP
H01M 4/1397 20100101ALI20230111BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20230111BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20230111BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M4/36 C
H01M4/1391
H01M4/1397
H01M4/131
H01M4/136
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022514019
(86)(22)【出願日】2020-12-14
(85)【翻訳文提出日】2022-02-28
(86)【国際出願番号】 CN2020136007
(87)【国際公開番号】W WO2021115469
(87)【国際公開日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】201911292224.3
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510268554
【氏名又は名称】▲華▼中科技大学
【氏名又は名称原語表記】HUAZHONG UNIVERSITY OF SCIENCE AND TECHNOLOGY
(71)【出願人】
【識別番号】522079230
【氏名又は名称】▲華▼中科技大学▲無▼▲錫▼研究院
【氏名又は名称原語表記】HUST-WUXI RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】100079577
【氏名又は名称】岡田 全啓
(74)【代理人】
【識別番号】100167966
【氏名又は名称】扇谷 一
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 蓉
(72)【発明者】
【氏名】向 俊任
(72)【発明者】
【氏名】単 斌
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 瀟
(72)【発明者】
【氏名】李 嘉▲偉▼
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 晶
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA02
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA24
5H050GA27
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA14
5H050HA15
5H050HA20
(57)【要約】
リチウムイオン電池の正極材料の製造方法であって、リチウムイオン電池の分野に関する。修飾対象の粉体を反応チャンバ内に充填し、そして前記反応チャンバを真空状態にし、次に前記反応チャンバを回転させて加熱して、前記修飾対象の粉体を前記反応チャンバ内に分散させるS110と、前記反応チャンバ内に前駆体及びパージガスを交互に導入し、前記前駆体と前記修飾対象の粉体とを反応させて、前記修飾対象の粉体の表面に一層の酸化物薄膜を形成させるS120と、S120を複数回繰り返して、前記修飾対象の粉体の表面に複数層の前記酸化物薄膜を形成させ、粉体修飾を完了させ、前記リチウムイオン電池の正極材料を得るS140と、を含む。リチウムイオン電池の正極材料粉末の表面に酸化物膜を堆積させることにより、充放電時のリチウムイオン電池の正極の安定性が向上し、リチウムイオン電池の寿命が長くなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池の正極材料の製造方法において、
修飾対象の粉体を提供し、前記修飾対象の粉体を前記反応チャンバ内に配置し、前記反応チャンバを真空にし、前記反応チャンバを回転させて加熱することで、前記修飾対象の粉体を前記反応チャンバ内に分散させるS110と、
前記反応チャンバ内に前駆体とパージガスを交互に導入し、前記前駆体と前記修飾対象の粉体とを反応させ、前記修飾対象の粉体の表面に一層の酸化物薄膜を形成させるS120と、
S120を複数回繰り返して、前記修飾対象の粉体の表面に複数層の前記酸化物薄膜を形成して、前記リチウムイオン電池の正極材料を得るS130と、
を含むことを特徴とするリチウムイオン電池の正極材料の製造方法。
【請求項2】
前記S110において、前記反応チャンバにおける真空度が10pa以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池の正極材料の製造方法。
【請求項3】
前記S110において、前記反応チャンバを加熱した後、前記反応チャンバの内部の温度は100℃~240℃となり、前記反応チャンバの外部の温度は120℃~260℃となる
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池の正極材料の製造方法。
【請求項4】
前記S110において、前記反応チャンバを、200r/min~400r/minの回転速度で回転させる
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池の正極材料の製造方法。
【請求項5】
前記S120において、前記前駆体のパルス幅が150s~200sであり、前記前駆体のキャリアガス流量が20sccm~40sccmである
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池の正極材料の製造方法。
【請求項6】
前記S120において、前記パージガスは不活性ガスであり、前記パージガスのパルス幅は210s~260sである
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池の正極材料の製造方法。
【請求項7】
前記酸化物薄膜は、酸化アルミニウムまたは酸化亜鉛である
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池の正極材料の製造方法。
【請求項8】
前記複数層の酸化物薄膜の層数が1~10層であり、前記複数層の酸化物薄膜の合計厚さが0.1nm~1nmである
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池の正極材料の製造方法。
【請求項9】
前記修飾対象の粉体は、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム又は三元材料粉末である
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池の正極材料の製造方法。
【請求項10】
リチウムイオン電池の正極の製造方法において、
修飾対象の粉体を反応チャンバ内に充填し、そして前記反応チャンバを真空状態にし、次に前記反応チャンバを回転させて加熱して、前記修飾対象の粉体を前記反応チャンバ内に分散させるS110と、
前記反応チャンバ内に前駆体及びパージガスを交互に導入し、前記前駆体と前記修飾対象の粉体とを反応させて、前記修飾対象の粉体の表面に一層の酸化物薄膜を形成させるS120と、
S120を複数回繰り返して、前記修飾対象の粉体の表面に複数層の前記酸化物薄膜を形成させ、修飾後の粉体材料を得るS130と、
前記修飾後の粉体材料を正極材料スラリーに調合して集電体に塗布し、真空乾燥して前記リチウムイオン電池の正極を得るS140と、
を含むことを特徴とするリチウムイオン電池の正極の製造方法。
【請求項11】
前記S110において、前記反応チャンバにおける真空度が10pa以下である
ことを特徴とする請求項10に記載のリチウムイオン電池の正極の製造方法。
【請求項12】
前記S110において、前記反応チャンバを加熱した後、前記反応チャンバの内部の温度は100℃~240℃となり、前記反応チャンバの外部の温度は120℃~260℃となる
ことを特徴とする請求項10に記載のリチウムイオン電池の正極の製造方法。
【請求項13】
前記S110において、前記反応チャンバを、200r/min~400r/minの回転速度で回転させる
ことを特徴とする請求項10に記載のリチウムイオン電池の正極の製造方法。
【請求項14】
前記S120において、前記前駆体のパルス幅が150s~200sであり、前記前駆体のキャリアガス流量が20sccm~40sccmである
ことを特徴とする請求項10に記載のリチウムイオン電池の正極の製造方法。
【請求項15】
前記S120において、前記パージガスが不活性ガスであり、前記パージガスのパルス幅が210s~260sである
ことを特徴とする請求項10に記載のリチウムイオン電池の正極の製造方法。
【請求項16】
前記S140において、前記修飾後の粉体材料、カーボンブラック、ポリフッ化ビニリデンをN-メチルピロリドンに加えてスラリーにし、前記修飾後の粉体材料、前記カーボンブラック、前記ポリフッ化ビニリデンの質量比が8:1:1である
ことを特徴とする請求項10に記載のリチウムイオン電池の正極の製造方法。
【請求項17】
請求項10~16のいずれか1項に記載の方法によって製造される
ことを特徴とするリチウムイオン電池の正極。
【請求項18】
リチウムイオン電池の正極材料の製造方法において、
修飾対象のリチウムイオン電池の正極材料粉体を反応チャンバ内に充填し、そして反応チャンバを真空状態にし、次に反応チャンバを回転させて加熱して、前記修飾対象のリチウムイオン電池の正極材料粉体を反応チャンバ内に均一に分布させるS110であって、前記反応チャンバの内部温度は100℃~240℃であり、前記反応チャンバの外部温度は120℃~260℃であるS110と、
反応チャンバ内に前駆体とパージガスを交互に導入し、前駆体と前記修飾対象のリチウムイオン電池の正極材料粉体とを反応させ、前記修飾対象のリチウムイオン電池の正極材料粉体の表面に一層の酸化物薄膜を形成させるS120と、
S120を複数回繰り返し、前記修飾対象のリチウムイオン電池の正極材料粉体の表面に複数層の酸化物薄膜を形成させて粉体修飾を完了させ、前記リチウムイオン電池の正極材料を得るS130と、
ことを特徴とするリチウムイオン電池の正極材料の製造方法。
【請求項19】
前記S110において、前記反応チャンバの回転速度は、200r/min~400r/minの範囲内である
ことを特徴とする請求項18に記載のリチウムイオン電池の正極材料の製造方法。
【請求項20】
前記S120において、前記前駆体のパルス幅が150s~200sであり、前記前駆体のキャリアガス流量が20sccm~40sccmである
ことを特徴とする請求項18に記載のリチウムイオン電池の正極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本願は、2019年12月13日に出願された、出願番号が201911292224.3であり、名称が「リチウムイオン電池の正極およびその製造方法」である中国特許出願に基づいて優先権を主張し、ここで、その全体を援用により本願に取り込まれている。
【技術分野】
【0002】
本願は動力電池分野に属し、より具体的に、リチウムイオン電池材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、作動温度範囲が広く、サイズが小さく、エネルギー密度が高く、耐用年数が長いなどの利点を有するため、軍事、新エネルギー自動車、小型電気機器などの分野に広く応用されている。しかしながら、リチウムイオン電池のエネルギー密度が徐々に増加することにつれて、厳しい安定性の問題が引き起こされている。リチウムイオン電池の安定性の問題は主にリチウムイオン電池の熱暴走である。リチウムイオン電池の正極および負極材料は、長期過充電および過放電の場合に構造変化が発生することにより、リチウムイオン電池の熱暴走が引き起こされる時がある。長期過充電や過放電の場合にリチウムイオン電池の正極材料に構造変化が発生することを防止するためには、精確な被覆によりリチウムイオン電池の正極材料の安定性を向上させることに重要な意味がある。
【0004】
従来では、リチウムイオン電池の正極材料の安定性を向上させる方法として、表面被覆、ドーピングまたは材料複合、表面改質、特殊構造の構築などの方法が挙げられる。上記のリチウムイオン電池の正極材料の安定性を向上させる方法の多くは、電池正極材料の改質に基づくものであり、効率が低く効果が安定しない。上記の方法で得られたリチウムイオン電池の正極材料から、共沈、ゾルゲル、固相法、水熱法などのプロセスによって電極を製造する場合、性能の安定を保証することができない。
【0005】
従来、Al2O3、ZnO、AZO等の金属化合物を三元材料(よく使われるリチウムイオン電池の正極材料)に被覆する方法がある。リチウムイオン電池の正極材料は他の粉体と比較して重量が重すぎるという特徴を有する。リチウムイオン電池の正極粉体材料は分散性が悪く、凝集しやすい。従来の製造プロセスでは、リチウムイオン電池の正極粉体材料の表面に金属化合物を均一に被覆することができない。
【発明の概要】
【0006】
従来技術の上記不備又は改善ニーズに対して、本願は、原子層堆積技術を利用してリチウムイオン電池の正極材料粉末の表面に酸化物膜を堆積することにより、充電及び放電過程におけるリチウムイオン電池の正極の安定性を向上させるとともに、リチウムイオン電池の耐用年数を向上させ、高性能電池正極材料及び急速充電電池正極材料の製造を実現することを目的とするリチウムイオン電池の正極材料の製造方法を提供する。
【0007】
上記目的を達成するために、本願に従ってリチウムイオン電池の正極の製造方法を提供し、該方法は、
修飾対象の粉体を反応チャンバ内に充填し、そして前記反応チャンバを真空状態にし、次に前記反応チャンバを回転させて加熱して、前記修飾対象の粉体を前記反応チャンバ内に分散させるS110と、
前記反応チャンバ内に前駆体及びパージガスを交互に導入し、前記前駆体と前記修飾対象の粉体とを反応させて、前記修飾対象の粉体の表面に一層の酸化物薄膜を形成させるS120と、
S120を複数回繰り返して、前記修飾対象の粉体の表面に複数層の前記酸化物薄膜を形成させ、修飾後の粉体材料を得るS130と、
前記修飾後の粉体材料を正極材料スラリーに調合して集電体に塗布し、真空乾燥して前記リチウムイオン電池の正極を得るS140と、を含む。
【0008】
本願に従ってリチウムイオン電池の正極材料の製造方法を提供し、該方法は、
修飾対象の粉体を提供し、前記修飾対象の粉体を前記反応チャンバ内に配置し、前記反応チャンバを真空にし、前記反応チャンバを回転させて加熱することで、前記修飾対象の粉体を前記反応チャンバ内に分散させるS110と、
前記反応チャンバ内に前駆体とパージガスを交互に導入し、前記前駆体と前記修飾対象の粉体とを反応させ、前記修飾対象の粉体の表面に一層の酸化物薄膜を形成させるS120と、
S120を複数回繰り返して、前記修飾対象の粉体の表面に複数層の前記酸化物薄膜を形成して、前記リチウムイオン電池の正極材料を得るS130と、を含む。
【0009】
全体的には、本願によって考案された以上の技術案は、従来技術と比較して、主に以下の技術的利点を有する。
【0010】
1.本願はリチウムイオン電池の正極材料粉末の被覆プロセスに対して設定と研究を行った。本願の技術案は、原子層堆積技術を採用してリチウムイオン電池の正極材料粉末の表面にサブナノメートルの厚さの酸化物薄膜を堆積する。本願の製造方法によって得られたリチウムイオン電池の正極材料は、充電及び放電の過程においてよりよい安定性を有し、セパレータの構造強度を向上させ、リチウムイオン電池の耐用年数を向上させる。本願の技術案は製造プロセスが簡単で便利で、製造コストが低く、大面積リチウムイオン電池の正極コーティング材料の安定化に適用する。
【0011】
2.酸化物薄膜の堆積時に、水がリチウムイオン電池の正極材料の粉末粒子の表面で液化する可能性がある。リチウムイオン電池の正極材料粉末粒子の表面で液化した水により、リチウムイオン電池の正極材料粉末粒子間の凝集がより発生しやすくなる。本願の技術案では、反応チャンバの内部及び外部の温度を制御することによって、水をガス状態で排出し、リチウムイオン電池の正極材料粉末粒子の表面での水の液化を防止できる。したがって、本願の技術案では、前駆体とリチウムイオン正極コーティング材料粉末との十分な反応を可能にするとともに、リチウムイオン電池の正極材料粉末粒子自体の安定性を保証できる。
【0012】
3.本願は、リチウムイオン電池の正極粉体材料の重量が重く、リチウムイオン電池の正極粉体に粉体間のファンデルワールス力を克服させるために、反応過程においてリチウムイオン電池の正極粉体の分散を促進するより高い回転速度を必要とすることに対応する。本願の技術案では、反応チャンバの回転速度を制御することによって反応領域内のリチウムイオン電池の正極コーティング材料の通過速度を制御し、これにより、リチウムイオン電池の正極粉体材料の分散を制御することができる。反応チャンバの回転速度を制御することによって、リチウムイオン電池の正極粉体の表面における酸化物薄膜の堆積速度を制御し、生成された酸化物薄膜を均一に保持する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本願の実施例または従来技術の技術案をより明確に説明するために、本発明の実施例または従来技術の説明で使用する必要がある図面を簡単に説明するが、以下に説明される図面は本発明の実施例にすぎず、当業者にとって開示された図面から他の図面を得ることは、発明的な労働を費す必要がないことが明らかである。
【
図1】本願の一実施例によって提供されるリチウムイオン電池の正極材料の製造方法のフローチャートである。
【
図2】本願の一実施例によって提供されるリチウムイオン電池の正極の製造方法のフローチャートである。
【
図3】本願の一実施例によって製造されたリチウムイオン電池の正極と元のリチウムイオン電池の正極の性能との対比図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の目的、技術案、および利点をより明確にするために、以下は添付の図面および実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。本明細書に記載された特定の実施例は、単に本発明を説明するためのものであり、本発明を限定するためのものではないことを理解されたい。また、以下に説明する本発明の各実施形態に係る技術的特徴は、互いに競合するものでない限り、互いに組み合わせることができる。
【0015】
本願に提供される方法は、遠心流動化原子層堆積装置を用いて実施することができる。前記遠心流動化原子層堆積装置は、反応チャンバ、粒子ホルダ、前駆体吸気及び流動化ガス流供給システム、回転運動伝達及び制御システム、および真空排気システムを含む。前記反応チャンバは、前記粒子ホルダ、及び回転運動伝達及び制御システムに接続される。前記反応チャンバの外部に環状ヒーターが設けられる。前記反応チャンバにストレーナが設けられる。前記ストレーナにより、前記反応チャンバでガスを導入すると同時に粉漏れを防止することが可能になる。理解されるように、前記ストレーナのメッシュ数は、被覆される粉体粒子の粒径に依存する。前記粒子ホルダは、前記反応チャンバ内に配置される。前記前駆体吸気及び流動化ガス流供給システム、前記真空排気システムは前記反応チャンバの外部に配置される。前記粒子ホルダの一端は、前記反応チャンバの外側に配置される前記前駆体吸気及び流動化ガス流供給システムに接続される。前記粒子ホルダの他端は、前記反応チャンバの外側に配置される前記真空排気システムに接続される。
【0016】
上記遠心流動化原子層堆積装置に基づき、
図1に示すように、具体的には、本願の一実施例に提供されるリチウムイオン電池材料の製造方法は以下のステップを含む。
【0017】
S110において、修飾対象の粉体を提供し、前記修飾対象の粉体を前記反応チャンバ内に配置し、前記反応チャンバを真空にし、前記反応チャンバを回転させて加熱することで、前記修飾対象の粉体を前記反応チャンバ内に分散させる。
【0018】
S120において、前記反応チャンバ内に前駆体とパージガスを交互に導入し、前記前駆体と前記修飾対象の粉体とを反応させ、前記修飾対象の粉体の表面に一層の酸化物薄膜を形成させる。
【0019】
S130において、S120を複数回繰り返して、前記修飾対象の粉体の表面に複数層の前記酸化物薄膜を形成して、前記リチウムイオン電池の正極材料を得る。
【0020】
前記ステップS110において、まず、前記反応チャンバ及び前記ストレーナを洗浄することができる。前記反応チャンバ及び前記ストレーナを洗浄した後、前記反応チャンバ及び前記ストレーナを乾燥させる。前記反応チャンバ及び前記ストレーナを乾燥させた後、前記反応チャンバ内に前記修飾対象の粉体を充填する。理解されるように、前記修飾対象の粉体を前記反応チャンバ内に充填する前に、前記反応チャンバ内に洗浄ガスを導入して、前記反応チャンバおよび管路内の空気を排出しきれることができる。これにより、前記修飾対象の粉体、前駆体ガスと空気との他の副反応を防止することができる。理解されるように、前記反応チャンバを真空ポンプで真空にして、前記反応チャンバ内の真空度を10pa以下にすることができる。前記反応チャンバにおける真空度が10pa以下であると、原子層堆積反応が可能な真空条件に達成することができる。前記反応チャンバ内の真空度が原子層堆積反応が可能な真空条件に達した後、前記反応チャンバを回転させて前記反応チャンバを加熱することにより、前記反応チャンバ内に前記修飾対象の粉体を均一に分布させることができる。前記修飾対象の粉体は、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウムまたは三元材料粉末である。一実施例では、前記修飾対象の粉体は、三元材料粉末である。
【0021】
前記ステップS110において、前記洗浄ガスは、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであってもよい。一実施例では、前記洗浄ガスは窒素ガスである。
【0022】
前記ステップS110において、前記反応チャンバの内部温度は100℃~240℃である。前記反応チャンバの外部温度は120℃~260℃である。前記反応チャンバの内部温度と外部温度を上記の範囲内に設定することにより、前記修飾対象の粉体の間の液架橋力を克服することができる。液架橋力とは、粒子が親水性のものであれば、空気中で湿気て、粒子間に液架橋力が発生して凝集体を形成することになる。
【0023】
前記ステップS110において、前記反応チャンバは、200r/min~400r/minの回転速度で回転してもよい。前記反応チャンバを前記回転速度範囲内で回転させることにより、前記修飾対象の粉体の間のファンデルワールス力を克服することができる。前記反応チャンバの回転により、前記修飾対象の粉体を前記反応チャンバ内に均一に分散させることができる。
【0024】
前記ステップS120において、前記反応チャンバ内に前記前駆体と前記パージガスを交互に導入し、前記修飾対象の粉体の表面に一層の前記酸化物薄膜を形成させることができる。理解されるように、前記前駆体は、第1の前駆体および第2の前駆体を含むことができる。まずは第1の前駆体を反応チャンバ内に導入することができる。前記第1の前駆体は前記修飾対象の粉体と反応する。前記修飾対象の粉体には、前記第2の前駆体と反応できる化学結合が生成される。次いで、前記パージガスを前記反応チャンバ内に導入し、そして前記第2の前駆体を反応チャンバ内に導入する。前記第2の前駆体は前記修飾対象の粉体上の化学結合と反応する。その後、前記反応チャンバ内に再び前記パージガスを導入し、前記修飾対象の粉体の表面に一層の酸化物薄膜を形成させる。前記前駆体は、前記修飾対象の粉体表面に薄膜を形成させる際に必要なガスである。例えば、一層の酸化アルミニウム膜を形成する場合、TMA(トリメチルアルミニウム)およびH2O(脱イオン水)の前駆体が用いられる。
【0025】
理解されるように、前記前駆体は、キャリアガスギャップとして不活性ガスによって前記反応チャンバ内に導入されることが可能である。前記前駆体のパルス幅は、150s~200sである。前記前駆体のキャリアガス流量は、20sccm~40sccmである。前記パージガスは、窒素ガスまたは不活性ガスであってもよい。前記パージガスは、前記反応チャンバを洗浄するために使用される。前記パージガスのパルス幅は210s~260sである。一実施例では、前記酸化物薄膜は、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化亜鉛(ZnO)またはアゾ化合物(AZO)である。
【0026】
前記ステップS120において、前記ステップS120を複数回繰り返すことにより、前記修飾対象の粉体の表面に複数層の前記酸化物薄膜を形成させることができる。一実施例では、前記複数層の酸化物薄膜の合計厚さは、0.1nm~1nmである。前記酸化物薄膜の層数は1~10層である。一実施例では、前記酸化物薄膜の層数は3~5層である。前記ステップS120の終了後、前記修飾対象の粉体に対する粉体修飾が完了し、表面に酸化物薄膜が被覆されたリチウムイオン電池材料を得ることができる。
【0027】
図2を参照して、本願の一実施例に提供されるリチウムイオン電池の正極の製造方法は以下のステップを含む。
【0028】
S110において、修飾対象の粉体を反応チャンバ内に充填し、そして前記反応チャンバを真空状態にし、次に前記反応チャンバを回転させて加熱して、前記修飾対象の粉体を前記反応チャンバ内に分散させる。
【0029】
S120において、前記反応チャンバ内に前駆体及びパージガスを交互に導入し、前記前駆体と前記修飾対象の粉体とを反応させて、前記修飾対象の粉体の表面に一層の酸化物薄膜を形成させる。
【0030】
S130において、S120を複数回繰り返して、前記修飾対象の粉体の表面に複数層の前記酸化物薄膜を形成させ、修飾後の粉体材料を得る。
【0031】
S140において、前記修飾後の粉体材料を正極材料スラリーに調合して集電体に塗布し、真空乾燥して前記リチウムイオン電池の正極を得る。
【0032】
理解されるように、本実施例におけるステップS110~S130は、先の実施例におけるステップS110~S130と全く同様である。前記修飾後の粉体材料はその前記リチウムイオン電池の正極材料である。
【0033】
前記ステップS140において、N-メチルピロリドン(NMP)を溶媒とし、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)をN-メチルピロリドン(NMP)の溶媒に加えて、恒温40~60℃で30min~50min撹拌して分散剤を得ることができる。そして、前記修飾後の粉体材料とカーボンブラックとを前記分散剤に加え、恒温40℃~60℃で6h~8h撹拌して、前記修飾後の粉体材料とカーボンブラックとを前記分散剤に均一に分散させて前記正極材料スラリーを得る。前記正極材料スラリーを集電体に塗布し、最後に真空乾燥ボックス内で恒温60℃で6h~8h乾燥して、リチウムイオン電池の正極の製造を完了する。前記集電体は、金属シートであってもよい。
【0034】
一実施例では、前記ステップS140において、N-メチルピロリドンとポリフッ化ビニリデンとの比例は、PVDF0.1g当たりNMP6mlに対応する。前記修飾後の粉体、前記カーボンブラック、前記ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の質量比は8:1:1である。前記金属シートは、軽量で導電性に優れたアルミニウム箔であることが好ましい。
【0035】
具体的には、前記修飾対象の粉体は、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウムまたは三元材料粉末である。
【0036】
図2は、上記の方法によって修飾されたNCM811材料(それぞれ2回、4回のアルミナ薄膜の堆積が行われた)から作製されたリチウムイオン電池の正極シートと、標準サンプルで修飾されていないNCM811材料から作製されたリチウムイオン電池の正極シートとの性能対比図である。
図3から明らかなように、充放電サイクル数の増加に従って、修飾された正極シートの性能が良好である。標準サンプルは、100回の充放電サイクルの後、残存容量が80.5%になる。2回の酸化アルミニウム被覆を行った正極シートは、100回充放電サイクルの後、残存容量が87.8%になる。2回の酸化アルミニウム薄膜堆積を行ったリチウムイオン電池材料製のリチウムイオン電池の正極の性能は、標準サンプルのリチウムイオン電池の正極シートの性能よりはるかに高い。
【0037】
以下は具体的な実施例である。
【0038】
実施例1
高エネルギー貯蔵リチウムイオン電池の正極材料を製造するために、LiCoO2粉末の表面に、前記遠心流動化原子層堆積装置を用いて、酸化アルミニウム薄膜を堆積させることができる。酸化アルミニウム薄膜は、導電性が悪く、誘電効果が小さいである。前記LiCoO2は、比容量が大きく、構造が安定であるという特徴を有する。したがって、表面に酸化アルミニウム薄膜が堆積されるLiCoO2粉末は、高エネルギー貯蔵のリチウムイオン電池の正極材料とすることができる。前記リチウムイオン電池の正極材料の製造方法は具体的に以下のステップを含む。
【0039】
S110において、前記反応チャンバ及び前記ストレーナに超音波洗浄処理を30min行い、洗浄が完了した後、前記反応チャンバと前記ストレーナを接着剤で接続し、各部品の間をボルトで接続する。
【0040】
S120において、LiCoO2粉末を前記遠心原子層堆積装置の反応チャンバに入れ、前記反応チャンバを400r/minの回転速度で回転させるようにステッピングモータを調節する。加熱源により、前記反応チャンバの外部を160℃までに加熱する。加熱源により、前記反応チャンバの内部を100℃までに加熱する。前駆体TMA(トリメチルアルミニウム)と前駆体H2Oのキャリアガス流量を20sccmとする。前記前駆体TMAおよび前記前駆体H2Oのパルス幅を200sとする。不活性ガス流量を1000sccmとする。パルス幅を220sとする。前記前駆体TMA、窒素ガス、前記前駆体H2Oを順次に前記反応チャンバに導入し、一回の酸化アルミニウム薄膜の堆積を完成させる。その後、前記前駆体ガスと洗浄ガスを順次に交互に反応チャンバに導入する回数を制御して、複数の反応サイクルを完了させる。一実施例では、酸化アルミニウム堆積を2回行い、厚さ0.2nmの酸化アルミニウム膜を得て、LiCoO2粉末の修飾は完了する。
【0041】
S130において、修飾されたLiCoO2粉末とアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデンとを8:1:1の質量比で混合して正極材料混合物を得る。適量のN-メチルピロリドンを溶剤として、前記正極材料混合物を前記溶剤に添加し、30min超音波分散した後30min撹拌して均一に混合させることで、正極材料混合物スラリーを得る。次いで、前記正極材料混合物スラリーをアルミニウム箔上に均一に塗布する。前記アルミニウム箔を室温で10h放置し、そして真空乾燥ボックスに入れ、最後に80℃の真空条件で12時間以上乾燥させる。前記正極材料混合物スラリーは、アルミニウム箔の表面にしっかりと付着している。上記のように処理した後のアルミニウム箔を裁断すれば、リチウムイオン正極シートとすることができる。
【0042】
実施例2
急速充電リチウムイオン電池の正極材料を製造するために、NCM811粉末の表面に、前記遠心流動化原子層堆積装置を用いて、酸化アルミニウムと酸化亜鉛の複合薄膜を堆積させることができる。酸化アルミニウムと酸化亜鉛の複合薄膜は、誘電効果が高く、導電性が強いという利点を有する。酸化アルミニウムと酸化亜鉛との複合薄膜により、前記NCM811粉末の充放電速度をより速く、充放電効率をより高くすることができ、急速充電リチウムイオン電池の正極材料とすることができる。前記急速充電リチウムイオン電池の正極材料は具体的なに以下のステップを含む。
【0043】
S110において、前記反応チャンバと前記ストレーナに超音波処理を30min行い、洗浄が完了した後、前記反応チャンバと前記ストレーナを接着剤で接続し、各部品の間をボルトで接続する。
【0044】
S120において、NCM811粉末を前記遠心原子層堆積装置の反応チャンバに入れ、前記反応チャンバを300r/minの回転速度で回転させるようにステッピングモータを調節する。加熱源により、前記反応チャンバの外部を200℃までに加熱する。加熱源により、前記反応チャンバの内部を150℃までに加熱する。前駆体TMA(トリメチルアルミニウム)、前駆体DEZ(ジエチル亜鉛)および前駆体H2Oのキャリアガス流量を20sccmとする。前駆体TMA(トリメチルアルミニウム)、前駆体DEZ(ジエチル亜鉛)および前駆体H2Oのパルス幅を150sとする。不活性ガス流量を1000sccmとする。不活性ガス流量のパルス幅を210sとする。前記前駆体TMA、窒素ガス、前記前駆体H2O、前記窒素ガス、前記前駆体DEZ、前記窒素ガス、前記前駆体H2Oを順次に反応チャンバに導入して、一回のAZO複合薄膜の堆積を完成させる。上記アルミナ薄膜堆積を2回繰り返し、得られたAZO複合薄膜の厚さは0.4nmとなり、NCM811の粉末修飾は完了する。
【0045】
S130において、修飾されたNCM811粉末とアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデンとを8:1:1の質量比で混合して正極材料混合物を得る。適量のN-メチルピロリドンを溶剤として、前記正極材料混合物を前記溶剤に添加し、30min超音波分散した後30min撹拌して均一に混合させることで、正極材料混合物スラリーを得る。次いで、前記正極材料混合物スラリーをアルミニウム箔上に均一に塗布する。前記アルミニウム箔を室温で10h放置し、そして真空乾燥ボックスに入れ、最後に80℃の真空条件で12時間以上乾燥させる。前記正極材料混合物スラリーは、アルミニウム箔の表面にしっかりと付着している。上記のように処理した後のアルミニウム箔を裁断すれば、リチウムイオン正極シートとすることができる。
【0046】
当業者であれば、上記の説明は、本発明の好ましい実施例であるに過ぎず、本発明を限定することを意図するものではなく、本発明の精神及び原理の範囲内で行われるあらゆる変更、均等物及び改良等は、いずれも本発明の保護範囲内に含まれることを容易に理解できるであろう。
【0047】
以上説明した実施例の各技術的特徴は、任意に組み合わせることが可能であり、説明を簡潔にするために、上記実施例における各技術的特徴の全ての可能な組み合わせについては説明していないが、これらの技術的特徴の組み合わせに矛盾がない限り、本明細書に記載された範囲内であると考えられるべきである。
【0048】
上記の実施例は、本発明のいくつかの実施形態を示しているに過ぎず、その説明は具体的かつ詳細であるが、本発明の特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。当業者であれば、本発明の概念から逸脱することなく、本発明の範囲に含まれるいくつかの変形および改良を行うことができることに留意されたい。したがって、本発明の特許の保護範囲は、添付の特許請求の範囲に従うものとする。
【0049】
最後に、本明細書では、第1および第2などのような関係用語は、1つのエンティティまたは操作を別のエンティティまたは操作から区別するためにのみ使用され、必ずしもこれらのエンティティまたは操作の間にそのような実際の関係または順序が存在することを要求または示唆するものではないことにも留意されたい。さらに、用語「含む」、「包含する」、またはその任意の他の変形は、一連の要素を含むプロセス、方法、物品、またはデバイスが、それらの要素だけでなく、明示的に列挙されていない他の要素、またはそのようなプロセス、方法、物品、またはデバイスに固有の要素も含むように、非排他的な包含をカバーすることが意図される。それ以上の制限なし場合、「1つの……を含む」という文言によって限定された要素は、その要素を含むプロセス、方法、物品、またはデバイスにおいて他の同じ要素も存在することを排除するものではない。
【0050】
この明細書では、各実施例は累加的に記載されており、各実施例は、他の実施例との相違点に焦点を当てており、各実施例間の同一、類似部分は、相互に参照することによって提供される。
【0051】
開示された実施例の上記説明により、当業者が本願を実施または使用することは可能になる。これらの実施例に対する様々な変更は、当業者にとって明らかであり、本明細書で定義される一般的な原理は、本願の精神または範囲から逸脱することなく、他の実施例で実施することができる。したがって、本願は、本明細書に示される実施例に限定されるものではなく、本明細書に開示される原理および新規な特徴と一致する最も広い範囲に該当するものである。
【国際調査報告】