(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(54)【発明の名称】衝撃分散機能を強化した歯科治療用インプラントのアバットメント
(51)【国際特許分類】
A61C 8/00 20060101AFI20230111BHJP
A61K 6/58 20200101ALI20230111BHJP
A61K 6/891 20200101ALI20230111BHJP
【FI】
A61C8/00 Z
A61K6/58
A61K6/891
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523200
(86)(22)【出願日】2020-10-21
(85)【翻訳文提出日】2022-06-02
(86)【国際出願番号】 KR2020014377
(87)【国際公開番号】W WO2021091125
(87)【国際公開日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】10-2019-0141914
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522142350
【氏名又は名称】ジャン,チョン ソク
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,チョン ソク
【テーマコード(参考)】
4C089
4C159
【Fターム(参考)】
4C089AA04
4C089AA07
4C089BE07
4C089BE14
4C089CA03
4C159AA47
(57)【要約】
本発明によるインプラントのアバットメントは衝撃分散機能を強化した歯科治療用インプラントのアバットメントであって、人工歯牙と結合される上側部位である上側結合部と、フィクスチャと結合される下側部位である下側結合部と、前記上側結合部及び下側結合部の間で外部に露出された部位であって、充填材が充填された複数の遊動溝を備えた露出部とを含むことを特徴とする。本発明によるインプラントのアバットメントは、アバットメントの露出部位に複数の遊動溝を形成することにより、まるで露出部位が弾性的に揺れるような機能を果たすことによってインプラントで発生する歯牙の咬合力を分散させることができ、インプラントが挿入された部位が受ける衝撃を緩和させる緩衝機能を提供することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝撃分散機能を強化した歯科治療用インプラントのアバットメントであって、
人工歯牙と結合される上側部位である上側結合部と、
フィクスチャと結合される下側部位である下側結合部と、
前記上側結合部及び下側結合部の間で外部に露出された部位であって、充填材が充填された複数の遊動溝を備えた露出部と、を含み、
前記充填材は、充填材の総重量に対して、ベース物質70~90重量%、及びヒアルロン酸ナトリウム(Sodium Hyaluronate)を含む充填溶液10~30重量%の混合物であり、
前記充填溶液は、充填溶液の総重量に対して、10~25重量%のポリカーボネートジオール(Polycarbonate diol)を含む弾性補助剤を含むことを特徴とする、歯科治療用インプラントのアバットメント。
【請求項2】
前記遊動溝は、前記露出部の外周面に沿ってネジ山形に陥入して形成されたことを特徴とする、請求項1に記載の歯科治療用インプラントのアバットメント。
【請求項3】
前記遊動溝は、
前記露出部の内周面から前記露出部の外周面方向に一定の深さに陥入した第1スリットと、
前記第1スリットから一定の距離だけ離隔した状態で前記露出部の外周面から前記露出部の内周面方向に一定の深さに陥入した第2スリットと、からなり、
前記第1及び第2スリットが前記露出部の高さ方向に繰り返して交互に形成されたことを特徴とする、請求項1に記載の歯科治療用インプラントのアバットメント。
【請求項4】
前記遊動溝は、前記露出部の外周面から前記露出部の幅方向に延びて陥入した水平スリットからなり、
前記水平スリットは前記露出部の高さ方向に一定の間隔で複数が形成されたことを特徴とする、請求項1に記載の歯科治療用インプラントのアバットメント。
【請求項5】
前記遊動溝は、前記露出部の外周面に陥入した複数のホールであることを特徴とする、請求項1に記載の歯科治療用インプラントのアバットメント。
【請求項6】
前記充填溶液は、
第1溶液の総重量に対して、水95~99.9重量%、及びヒアルロン酸ナトリウム0.1~5重量%を混合した後、0~10℃に冷却して第1溶液を製造する、第1溶液製造段階と、
第2溶液の総重量に対して、前記第1溶液95~99.9重量%、及び塩化アクリロイル(Acryloyl chloride)0.1~5重量%を混合して第2溶液を製造する、第2溶液製造段階と、
前記第2溶液を濾過して不純物を除去した濾過液を収得した後、前記濾過液を20~30時間透析し凍結乾燥して第1物質を収得する、第1物質収得段階と、
窒素雰囲気の下で、第3溶液の総重量に対して、無水ベンゼン(Benzene anhydride)80~94重量%、架橋高分子5~19重量%、トリエチルアミン(Triethylamine)0.1~1重量%、及び塩化アクリロイル(Acryloyl chloride)0.1~1重量%を混合して第3溶液を製造する、第3溶液製造段階と、
前記第3溶液を濾過して不純物を除去した後、沈澱溶液の総重量に対して、ヘキサン90~99重量%、及び不純物の除去された前記第3溶液1~10重量%を混合して沈澱した第2物質を収得する、第2物質収得段階と、
前記第2物質を水で2~5回洗浄した後、30~50℃で乾燥させる、乾燥段階と、
充填溶液の総重量に対して、PBS(Phosphate Buffer Saline)85~95重量%、前記第1物質0.5~5重量%、前記第2物質1~10重量%、及び光重合開始剤0.1~0.5重量%を混合して充填溶液を完成する段階と、によって製造されることを特徴とする、請求項1に記載の歯科治療用インプラントのアバットメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衝撃分散機能を強化した歯科治療用インプラントのアバットメントに関し、より詳しくは人工歯牙及びフィクスチャによって遮られないアバットメントの露出部位が歯牙の咬合力を分散させることができる衝撃分散機能を強化した歯科治療用インプラントのアバットメントに関する。
【背景技術】
【0002】
インプラントとはチタンのような高強度の生体に優しい素材から形成されたものであり、これを機能の喪失した歯牙部位の歯槽骨に植え込み、その上に人工歯牙を装着して収復する治療方法のもので、元の自然歯牙と類似している形態及び機能を回復することができる治療方法のものである。一般に、インプラントは、人工歯牙、アバットメント及びフィクスチャから構成されることができる。フィクスチャは歯槽骨に挿入固定される部分であり、アバットメントは人工歯牙とフィクスチャとを連結する部分である。このようなインプラントは自然歯牙の大部分の機能を果たすことができるが、フィクスチャと歯槽骨とが堅たく結合されなければならないので、自然歯牙の固有の動きを再現することができない。具体的には、咬合力に対して自然歯牙周囲の歯周靭帯が果たす役割である自然歯牙にかかる力を緩衝させる機能はないという問題点が発生する。
【0003】
韓国登録特許第10-1981778号公報の‘アバットメント及びこれを含むインプラント’によれば、フィクスチャに装着される中央部と、前記中央部の上側面に配置され、クラウンが締結される上側部と、前記中央部の下側面に配置され、側面に溝部が形成された下側部と、前記下側部の外側に伸張することができるように前記溝部に回転可能に挿入される固定部とを含むアバットメントを提供する。また、公知の特許において、前記溝部は、前記下側部の一側面に形成された第1溝と、前記下側部の一側面と対向する他側面に形成され、前記下側部の内部で前記第1溝と連通する第2溝とを含み、前記固定部は、前記第1溝に配置され、外周面にネジ山が形成された第1ネジと、前記第2溝に配置され、前記下側部の内部で前記第1ネジとネジ山が噛み合うように外周面にネジ山が形成された第2ネジとを含むことができる。このような構造によれば、公知の特許は、フィクスチャの内部に装着される下側部の側面から延びることができる固定部を含むことで、フィクスチャとアバットメントとの堅固な締結をはかることができ、フィクスチャに対するアバットメントの微細角度調節が可能であるので、口腔構造にかかわらず効果的なインプラント施術を行うことができるだけでなく、フィクスチャの内部に連結されているアバットメントの回転運動及び垂直運動が制限されることにより、堅固な固定力を有することができると開示している。
【0004】
しかし、このような技術はフィクスチャとアバットメントとの結合力をより一層強化させるだけで、先に言及した人工歯牙に加わる歯牙の咬合力を分散させるための別の解決手段を提示することができないという問題がある。
【0005】
したがって、フィクスチャと歯槽骨を堅たく固定することができるだけではなく、人工歯牙に加わった歯牙の咬合力に応じて、自然歯牙の動きに近い機能を提供することができる新規の進歩したインプラントの開発が至急な状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国登録特許第10-1981778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記技術の問題点を克服するために案出されたものであり、人工歯牙及びフィクスチャによって遮られないアバットメントの露出部位に複数の溝を形成して歯牙の咬合力を分散させる機能を提供することを主目的とする。
【0008】
本発明の他の目的は、アバットメントの露出部位に設けられた溝がネジ山形に陥入して歯牙の咬合力を斜線方向に分散させることができる機能を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、アバットメントの露出部位に設けられた複数の溝をスリット形に形成して歯牙の咬合力を水平方向に分散させることができる機能を提供することである。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、アバットメントの遊動溝に充填材を充填することにより、アバットメントの弾性遊動を補助し、外部の緩衝機能を補助することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明によるインプラントのアバットメントは、衝撃分散機能を強化した歯科治療用インプラントのアバットメントであって、人工歯牙と結合される上側部位である上側結合部と、フィクスチャと結合される下側部位である下側結合部と、前記上側結合部及び下側結合部の間で外部に露出された部位であって、充填材が充填された複数の遊動溝を備えた露出部とを含むことを特徴とする。
【0012】
また、前記遊動溝は、前記露出部の外周面に沿ってネジ山形に陥入して形成されたことを特徴とする。
【0013】
また、前記遊動溝は、前記露出部の内周面から前記露出部の外周面方向に一定の深さに陥入した第1スリットと、前記第1スリットから一定の距離だけ離隔した状態で前記露出部の外周面から前記露出部の内周面方向に一定の深さに陥入した第2スリットとからなり、前記第1及び第2スリットが前記露出部の高さ方向に繰り返して交互に形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によるインプラントのアバットメントによれば、
1)インプラントのアバットメントの露出部位に複数の溝を形成することで、まるで露出部位が弾性的に揺れるような機能を果たすことによってインプラントに加わる歯牙の咬合力を分散させることができる機能を提供する。
2)露出部位に形成された溝をネジ山形に陥入して形成することにより、露出部位が傾斜構造を成して歯牙の咬合力を斜線方向に迂回させて歯牙の咬合力を、特に斜線方向に効率的に分散することができる機能を提供する。
3)露出部位に形成された溝を露出部位を貫通する溝の形態に3個~4個形成して歯牙の咬合力を吸収することができる。
4)露出部位に形成された溝を露出部位の水平方向に陥入したスリット形に形成し、このようなスリットが水平方向に放射状構造を成すように配置することにより、歯牙の咬合力を放射方向に伝達して歯牙の咬合力を水平方向に放射状に分散させることができる機能を提供することができる。
5)アバットメントの遊動溝に充填材を充填することにより、アバットメントの弾性遊動を補助し、外部の緩衝機能を補助することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明によるインプラントアバットメントの実施例を示す斜視図である。
【
図2】本発明によるインプラントアバットメントの他の実施例を示す斜視図である。
【
図3】本発明によるインプラントアバットメントの第1変形実施例を示す断面図である。
【
図4】本発明によるインプラントアバットメントの第2変形実施例を示す断面図である。
【
図5】本発明によるインプラントアバットメントの第3変形実施例を示す正面図である。
【
図6】本発明の充填溶液を製造する方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は衝撃分散機能を強化した歯科治療用インプラントのアバットメントであって、人工歯牙と結合される上側部位である上側結合部と、フィクスチャと結合される下側部位である下側結合部と、前記上側結合部及び下側結合部の間で外部に露出された部位であって、充填材が充填された複数の遊動溝を備えた露出部と、を含み、前記充填材は、充填材の総重量に対して、ベース物質70~90重量%、及びヒアルロン酸ナトリウム(Sodium Hyaluronate)を含む充填溶液10~30重量%の混合物であり、前記充填溶液は、充填溶液の総重量に対して、10~25重量%のポリカーボネートジオール(Polycarbonate diol)を含む弾性補助剤を含むことを特徴とする。
【0017】
以下、添付図面に基づいて本発明の好適な実施例を詳細に説明する。添付図面は一定の縮尺によって示されていなく、各図で同じ参照番号は同じ構成要素を指称する。
【0018】
図1は本発明によるインプラントのアバットメントの実施例を示す斜視図である。
【0019】
インプラント1は人工歯牙20を歯槽骨に挿入することにより、虫歯や歯槽骨病によってなくなった歯牙に代わる機能を提供するものであり、人工歯牙20、人工歯牙20と連結されるアバットメント100、及び歯槽骨に挿入されるフィクスチャ30から構成される。
【0020】
人工歯牙20は自然歯の代わりに人工で形成した歯牙であり、施術部位の歯牙形状に合うように多様な形態に形成されることができ、フィクスチャ30は歯槽骨に挿入されて歯槽骨と人工歯牙20を堅く固定させる機能を果たすものであり、公知のフィクスチャ30と同様にネジ山220の形態に形成されることができる。
【0021】
本発明は人工歯牙20とフィクスチャ30との間に位置するアバットメント100に関するものであり、公知のアバットメント100と同様に、全体的な外観は円筒状を成し、内部が中空130に形成されることができる。このようなアバットメント100は、上側結合部110、下側結合部120及び露出部200からなる。
【0022】
まず、上側結合部110はアバットメント100の上側部を成す部位で、人工歯牙20の内部に挿合される部位である。このような上側結合部110は、上側結合部110の下側部位を上側結合部110の上側部位より大きく形成することにより、すなわち上側結合部110は内部に中空130が形成された円筒状を成し、断面を台形に形成することにより、人工歯牙20の重さを安定的に支持することができる構造を提供することが好ましい。
【0023】
下側結合部120はアバットメント100の下側部を成す部位で、歯槽骨に挿入されたフィクスチャ30と結合される部位である。このような下側結合部120はフィクスチャ30の上端に形成された六角ヘッドに対応する形状に形成されることによりフィクスチャ30に装着されることができる。また、六角ヘッドと六角孔は、スクリューが挿入することができるように、スクリューの直径に対応するサイズにホールが形成されている。ここで、六角ヘッドと六角孔は一例に過ぎないもので、他の多様な形状に形成されることもできるというのは言うまでもない。
【0024】
上述したように、上側結合部110は人工歯牙20によって遮られ、下側結合部120はフィクスチャ30によって遮られるので、上側結合部110及び下側結合部120の間に遮られずに露出された部位が形成される。これを本発明では露出部200と言う。
【0025】
露出部200は露出部200の上部から露出部200の下部に行くほど徐々に直径が小さくなるようにテーパー処理することにより、上側結合部110と、上側結合部110の下側部位より相対的に小さな直径に形成された下側結合部120とを自然に連結して人工歯牙20の荷重を充分に支持することができるとともに構造的安定性を確保することができる。
【0026】
このような構成を有するアバットメント100を用いたインプラントの施術方法について説明すると次のようである。
【0027】
まず、フィクスチャ30を歯槽骨に挿入した後、アバットメント100の下側結合部120の六角孔とフィクスチャ30の六角ヘッドとが噛み合うように位置を調整してアバットメント100とフィクスチャ30とを安定的に結合させる。次いで、アバットメント100の中空130にスクリューを貫通させてスクリューのヘッドが下側結合部120の六角孔と結合するように締め付けることにより、アバットメント100とフィクスチャ30を回転しないように堅く結合することができる。最後に、アバットメント100の上側結合部110に人工歯牙20を結合することでインプラント1の施術を仕上げることが一般的である。
【0028】
このようなインプラント1は自然歯牙の機能を代替することができるが、フィクスチャ30を歯槽骨に堅たく固定させなければならないので、自然歯牙が有する固有の動きを再現しにくいという問題点がある。このために、本発明は改善されたアバットメント100、具体的には露出部200を特化させることによってアバットメント100の弾性力を強化することを核心とする。
【0029】
具体的には、上述した露出部200は人工歯牙20やフィクスチャ30によって遮られないので、インプラント1に加わる歯牙の咬合力に露出された部分で、直接的な歯牙の咬合力の影響をより多く受ける部位である。したがって、露出部200を遊動可能に動くように形成して歯牙の咬合力を分散させることができれば、露出部200とフィクスチャ30との結合力が減少することを防止することができるだけでなく、フィクスチャ30が咬合力によってクラック(crack)が発生する問題を防止することができるという利点がある。
【0030】
このように露出部200がまるで弾性的に動けるように形成するために、
図1に示すように、本発明は露出部200に遊動溝210を形成することができる。
【0031】
遊動溝210は露出部200の外周面に複数が形成されることができ、またはアバットメント100の内側に位置する中空130に形成されることができる。このような複数の遊動溝210が露出部200に形成されることにより、露出部200はまるで弾性的に揺れることができ、露出部200に加わる歯牙の咬合力を効果的に分散させる機能を果たすことができる。
【0032】
まず、遊動溝210は、
図1のように、多孔の構造を有するように形成することができ、これは本発明による遊動溝210の基本的な例であると言える。
【0033】
このような多孔構造を有する遊動溝210は露出部200の表面にランダムに配置されることができる。仮に、露出部200が一定の弾性力を有する素材から形成された場合、露出部200は遊動的に伸縮することができるので、歯牙の咬合力を分散させることができる。ただ、露出部200を含む一般的なアバットメント100は金属素材から形成されるので、上述した例のように遊動的に伸縮しないが、金属固有の屈曲性によって多孔性構造で歯牙の咬合力を誘導し、結果的に露出部200に加わる歯牙の咬合力を充実に分散させる役割を果たすことができる。ここで、歯牙の咬合力は上歯と下歯とがぶつかる力によって発生するので、インプラント1の垂直方向、すなわち長手方向に加わることが一般的である。
【0034】
言い換えれば、多孔構造を有する遊動溝210は垂直方向に加わる歯牙の咬合力を金属の屈曲性及び多孔性構造の遊動溝210の存在によって多方向に分散させることができる機能を提供する。
【0035】
また、遊動溝210は一定の深さに陥入した形態または露出部200を貫通した形態に形成されることができる。
【0036】
具体的には、遊動溝210が一定の深さに陥入した形態に形成された場合、インプラント1の垂直方向に加わる歯牙の咬合力が遊動溝210に集中して遊動溝210に応力が発生することができる。これにより、遊動溝210は微細に揺れて、すなわち振動して歯牙の咬合力を分散及び吸収させることができる機能を提供する。また、陥入した形態に形成された遊動溝210は、後述する遊動溝210が貫通形態に形成された場合に比べて、基本的にインプラント1の構造的安全性と露出部200の支持力とを同時に保障することができる。
【0037】
次に、遊動溝210が露出部200を貫通する形態に形成される場合、インプラント1の垂直方向に加わる歯牙の咬合力によって遊動溝210は前述したような原理で振動することができ、さらに流動性を極大化させることができる。ここで、遊動溝210が貫通形態に形成されることにより、減少した露出部200の支持力を補うために、露出部200は堅い性質を有する素材、例えばニチノール合金素材から形成されることができる。
【0038】
このように、本発明の遊動溝210は一定の深さに陥入した形態だけでなく、露出部200を貫通する形態にも形成されることができる。
【0039】
まとめると、陥入した形態または貫通された形態によって、遊動溝210はインプラント1に加わる歯牙の咬合力を分散及び吸収させることができる特性を提供する。
【0040】
図2は本発明によるインプラントのアバットメントの他の実施例を示す斜視図である。
【0041】
図2に示すように、アバットメント100は、
図1で上述したものとは違い、スクリューを介してフィクスチャと結合された形態に形成されることができる。このようなアバットメント100はワンピース(one-piece)型アバットメント100と言う。
【0042】
公知のワンピース(one-piece)型アバットメントはアバットメント100とフィクスチャ30とを結合させるためのスクリューを別に備える必要がないアバットメント100であり、アバットメント100の内部に中空130が形成されないか、またはアバットメント100の上面にアバットメントの上部からフィクスチャ30に向けておよそ1mm~12mm、すなわちアバットメント100の上面付近まで陥入した小型陥入孔が形成されることにより、人工歯牙20と容易に着脱可能な機能を提供することができる。
【0043】
これに対して、
図2に示す本発明のワンピース(one-piece)型アバットメント100は、陥入孔が露出部200の底面周辺部位まで拡張した拡張陥入部140を備えることができる。ここで、露出部200の底面周辺部位とは、アバットメントをフィクスチャに結合したとき、フィクスチャの上端に相当する部位を言う。
【0044】
このような拡張陥入部140は、上述した陥入孔と同様に、人工歯牙20に容易に着脱することができる機能を提供するだけでなく、人工歯牙20と結合するとき、拡張陥入部140に空気層が形成されることができるので、人工歯牙20に加わる外力を緩衝させる役割を果たすことができる。
【0045】
また、拡張陥入部140の底面には、ドライバーを適用することができる結合孔150が形成されることができる。この結合孔150は使用ドライバーに対応する形態に形成されることができる。
【0046】
図3は本発明によるインプラントのアバットメントの第1変形実施例を示す断面図である。
【0047】
図3の(a)及び(b)に示すように、
図3の(a)及び(b)に示す遊動溝210はネジ山220の形態に陥入した溝である。
【0048】
図3の(a)及び(b)に示す遊動溝210は露出部200の上部から下部に向けて斜線方向に延びたものである。言い換えれば、
図3の(a)及び(b)に示す遊動溝210は傾いた構造を有する。これにより、人工歯牙20に歯牙の咬合力がインプラント1の垂直方向に加わったとき、
図3の(a)及び(b)による遊動溝210は歯牙の咬合力を露出部200の傾いた方向、具体的には歯牙の咬合力に垂直または水平ではない方向に迂回させることができる。
【0049】
これをより具体的に説明すると、
図3の(a)及び(b)に示す遊動溝210は露出部200を基準に露出部200の長手方向に複数の傾斜溝から形成されるので、上述した咬合力が下側結合部120に進行するうちにそれぞれの傾斜溝によって反復的に吸収されることができるという意味である。結果的に、
図3の(a)及び(b)に示す遊動溝210は歯牙の咬合力を傾斜方向に効率的分散させることができる機能を提供する。
【0050】
ここで、
図3(a)に示す遊動溝210は
図3(b)に示す遊動溝210より多い個数で形成されることにより、歯牙の咬合力の吸収及び分散の機能をより効率的に果たすことが可能である。
【0051】
一方、
図3(b)に示す遊動溝210は3個または4個が形成されることにより、
図3(a)に示す遊動溝210に比べて構造的安全性を保障することができるとともに、歯牙の咬合力の吸収及び分散の機能を兼備することができるという特性がある。
【0052】
さらに、
図3の(a)及び(b)に示す構造は、先に
図1で説明したもののように貫通形態に形成されることができる。ただ、より少ない数の遊動溝210が形成された
図3(b)のものが構造的に安定であるので、敢えて貫通構造を適用する場合であれば、
図3(a)より
図3(b)がより好ましいと言える。
【0053】
図4は本発明によるインプラントのアバットメントの第2変形実施例を示す断面図である。
【0054】
図4による遊動溝210はスリット230の形態に陥入した溝であり、露出部200の内周面に形成された溝は第1スリット231といい、露出部200の外周面に形成された溝は第2スリット232という。
【0055】
第1スリット231は露出部200の内周面、すなわち中空130に沿って中空130の内周面から露出部200の外周面に向けて一定の深さに陥入した遊動溝210であり、第2スリット232は露出部200の外周面に沿って露出部200の外周面から中空130に向けて一定の深さに陥入した遊動溝210であり、第1スリット231から一定の距離だけ離隔した位置に形成されることができる。ここで、第1及び第2スリット231、232の陥入形態は、図面に示したものの他にも、ラウンド状に陥入するか、テーパー処理された形態に陥入するなどの多様な形態に形成されることもできる。
【0056】
このような第1及び第2スリット231、232は露出部200の高さ方向に繰り返して交互に形成される。すなわち、露出部200の断面を基準に第1及び第2スリット231、232がジグザグ形に形成されることができる。
【0057】
言い換えれば、
図4による遊動溝210は放射状に、すなわち露出部200の周囲に複数が形成され、露出部200の長手方向にジグザグ形に配置された構造を有する。
【0058】
このような構造を有するアバットメント100の露出部200を、弾性的に収縮することができない剛性素材から形成された構造と、収縮することができる非剛性素材から形成された構造とに区別して説明する。
【0059】
まず、アバットメント100の露出部200が剛性素材から形成された場合、このような構造によれば、人工歯牙20に歯牙の咬合力がインプラント1の垂直方向に伝達されるとき、
図4に示す遊動溝210は歯牙の咬合力を露出部200の放射状に、具体的には歯牙の咬合力の進行方向に垂直な水平方向に伝達することができる。
【0060】
これをより具体的に説明すると、
図4に示す遊動溝210は露出部200の長手方向にジグザグ形に配置されるので、露出部200の内部で発生した歯牙の咬合力だけでなくインプラント1の垂直方向に発生した外力を含めてインプラント1の水平方向に伝達することができるという意味である。言い換えれば、
図4に示す遊動溝210は歯牙の咬合力を放射状に水平に分散させることができる機能を提供する。
【0061】
次に、アバットメント100の露出部200が非剛性素材から形成された場合、歯牙の咬合力がインプラント1の垂直方向に加われば、第1及び第2スリット231、232の形態に形成された遊動溝210の陥入開始部位の直径が繰り返して拡大及び収縮するので、すなわち弾性的に伸縮することができるので、露出部200は歯牙の咬合力を吸収することができる。
【0062】
図5は本発明によるインプラントのアバットメントの第3変形実施例を示す断面図である。
【0063】
図5に示す遊動溝210は露出部200の表面に一定の長さに延びて陥入した溝であり、本発明ではこれを水平スリット240という。
【0064】
水平スリット240は露出部200の水平方向に露出部200の表面から露出部200の内部に向けて延びて陥入したものであり、露出部200の高さ方向に一定の間隔で複数が形成されることができる。ここで、水平スリット240は露出部200が人工歯牙20とフィクスチャ30を充分に支持することができる厚さを維持するほどに陥入することが好ましい。また、水平スリット240は、
図4の遊動溝210とは違い、露出部200の外周面を基準に特定の面に形成することができる。
【0065】
このような構造によれば、人工歯牙20に歯牙の咬合力がインプラント1の垂直方向に加わったとき、
図5に示す遊動溝210は歯牙の咬合力をインプラント1の水平方向に分散させることができる。特に、
図4とは違い、
図5の遊動溝210は露出部200の特定部位、例えば口腔内の外側、口腔内の内側または口腔内の内外対称側のようなインプラント1の外周面を基準に特定の方向に歯牙の咬合力を分散させることができる。
【0066】
まとめると、
図4の遊動溝210は放射状に歯牙の咬合力を分散させることができるのに対し、
図5の遊動溝210は特定の部位に形成されることにより、歯牙の咬合力を分散させることができる方向を提供することができる。
【0067】
図6は本発明の充填溶液を製造する方法を示すフローチャートである。
【0068】
ここで、本発明のアバットメント100の遊動溝210には弾性の特性を有する充填材が充填されることができる。これにより、充填材はアバットメント100の弾性遊動を補助し、外部の衝撃を緩衝する役割を果たすことができる。
【0069】
また、充填材は、充填材の総重量に対して、ベース物質70~90重量%、及びヒアルロン酸ナトリウム(Sodium Hyaluronate)を含む充填溶液10~30重量%の混合物であることができ、充填溶液は2~10分間紫外線を照射することによって固化することができる。ここで、ベース物質とはシリコンなどの高弾性を有し、人体に無害な物質であることができ、充填溶液との混合のためには、融解して液体状態のものを使うことが好ましい。
【0070】
また、充填溶液は紫外線の照射によってゲル(gel)状の固体に固化することができ、上述したベース物質の弾性力及び緩衝作用を一層補助することができる。ここで、紫外線は397~1000nmの電磁波を総称する用語であるが、本発明で、充填溶液の固化のためには、250~260nmの波長を有する紫外線を照射することが好ましい。
【0071】
ここで、紫外線の照射過程だけはなくベース物質の固化のために、冷却、乾燥などの他の過程も一緒に遂行することができるというのは言うまでもない。
【0072】
このような充填溶液は、第1溶液製造段階、第2溶液製造段階、第1物質収得段階、第3溶液製造段階、第2物質収得段階、乾燥段階、及び充填溶液完成段階によって製造することができる。
【0073】
まず、第1溶液製造段階は、第1溶液の総重量に対して、水95~99.9重量%、及びヒアルロン酸ナトリウム0.1~5重量%を混合した後、0~10℃に冷却して第1溶液を製造する過程であり、第1溶液の製造の後には、別に水酸化ナトリウムを添加して第1溶液のpHを10に調整することが好ましい。ここで、ヒアルロン酸ナトリウムは‘ヒアルロン酸’ともよく知られた成分で、実際に体内に存在する粘液多糖類であり、人体に無害であるので、一般的に化粧品の成分または健康補助食品の材料として使われ、高弾性の特性を有するので、外部の衝撃及び刺激を緩衝することができる物質である。
【0074】
次いで、第2溶液製造段階は、第2溶液の総重量に対して、第1溶液95~99.9重量%、及び塩化アクリロイル(Acryloyl chloride)0.1~5重量%を混合して第2溶液を製造する過程であり、第1物質収得段階は、第2溶液を濾過して不純物を除去した濾過液を収得した後、濾過液を20~30時間透析し凍結乾燥することによって第1物質を収得する過程であり、pH範囲を9~10に維持しながら遂行することが好ましい。ここで、透析とは低分子またはイオンが混合されている不純物が膜外に拡散することを用いて溶液を精製する過程であり、透析過程によって精製された第1物質を収得することができる。この過程により、塩化アクリロイルは上述したヒアルロン酸ナトリウムと反応してアクリレート化ヒアルロン(Acrylated-Hyaluronic)物質である第1物質が生成されることができる。
【0075】
次いで、第3溶液製造段階は、窒素雰囲気の下で、第3溶液の総重量に対して、無水ベンゼン(Benzene anhydride)80~94重量%、架橋高分子5~19重量%、トリエチルアミン(Triethylamine)0.1~1重量%、及び塩化アクリロイル(Acryloyl chloride)01~1重量%を混合して第3溶液を製造する過程であり、10,000~12,000rpmの速度で撹拌しながら遂行することが好ましい。ここで、架橋高分子は充填溶液の架橋化及び構造的安全性を提供するために添加し、後述する紫外線照射過程によって充填溶液が架橋化して固化することができ、天然高分子、合成高分子、PEO-PPO-PEO(poly(ethylene oxide)-poly(propylene oxide)-poly(ethylene oxide))三重ブロック共重合体を架橋高分子として使うことができる。このような架橋高分子は、第1物質と構造的に結合することによって物理的及び構造的安全性及び機械的物性を向上させることができる。また、塩化アクリロイルは、第1物質と架橋高分子との架橋反応のために架橋高分子にビニル機能基を提供することができ、トリエチルアミンは架橋高分子と塩化アクリロイルとの反応を促進させるために添加した。
【0076】
その後、第2物質収得段階は、第3溶液を濾過して不純物を除去した後、沈澱溶液の総重量に対して、ヘキサン90~99重量%、及び不純物の除去された第3溶液1~10重量%を混合して沈澱した第2物質を収得する過程であり、乾燥段階は、第2物質を水で2~5回洗浄した後、30~50℃で乾燥させる過程である。ここで、第3溶液を過量のヘキサンと混合することによって沈殿物である第2物質を生成することができ、このような第2物質は塩化アクリロイルによって機能基が改質された架橋高分子である。
【0077】
最後に、充填溶液完成段階は、充填溶液の総重量に対して、PBS(Phosphate Buffer Saline)85~95重量%、第1物質0.5~5重量%、第2物質1~10重量%、及び光重合開始剤0.1~0.5重量%を混合して充填溶液を完成する過程である。ここで、PBSは第1物質と第2物質との反応のための溶媒としての役割を果たし、光重合開始剤は、充填溶液に紫外線を照射するとき、充填溶液を充填材に固化させるために添加する。また、光重合開始剤は照射される紫外線光源からエネルギーを吸収して重合反応を開始させる物質であり、ベンゾフェノン(Benzophenone)、チオキサントン(Thioxantone)、フェニルグリオキシレート(phenylglyoxylate)系、アシルホスフィンオキサイド(acyl phosphine oxide)系、オキシムエステル(oxime ester)系光重合開始剤を使うことができ、上述した機能を果たすことができれば、その種類に具体的な制限はない。
【0078】
このような方法によって製造された充填溶液は、ベース物質と混合された後、紫外線照射によって固化して充填材になることができ、固化した充填材は、前述したように、アバットメント100の弾性遊動を補助することができ、し外部の衝撃を効果的に低減させるのに役立つことができる。
【0079】
これに加えて、充填溶液は、充填溶液の総重量に対して、10~25重量%のポリカーボネートジオール(Polycarbonate diol)を含む弾性補助剤をさらに含むことができ、これにより充填材の外部衝撃吸収能力及び構造的安全性がより向上することができる。
【0080】
これまで説明したように、本発明による歯科治療用インプラントのアバットメントを前記説明及び図面で表現したが、これは例として説明したものに過ぎなく、本発明の思想が前記説明及び図面に限定されないし、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で多様な変化及び変更が可能であるというのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0081】
上述したように、本発明による衝撃分散機能を強化した歯科治療用インプラントのアバットメントは、インプラントのアバットメントの露出部位に複数の溝を形成することで、まるで露出部位が弾性的に揺れるような機能を果たすことによってインプラントに加わる歯牙の咬合力を分散させることができる機能を提供し、露出部位に形成された溝をネジ山形に陥入して形成することにより、露出部位が傾斜構造を成して歯牙の咬合力を斜線方向に迂回させて歯牙の咬合力を、特に斜線方向に効率的に分散することができる機能を提供し、露出部位に形成された溝を露出部位を貫通する溝の形態に3個~4個形成して歯牙の咬合力を吸収することができ、露出部位に形成された溝を露出部位の水平方向に陥入したスリット形に形成し、このようなスリットが水平方向に放射状構造を成すように配置することにより、歯牙の咬合力を放射方向に伝達して歯牙の咬合力を水平方向に放射状に分散させることができる機能を提供するだけでなく、アバットメントの遊動溝に充填材を充填することにより、アバットメントの弾性遊動を補助し、外部の緩衝機能を補助することができる有用な効果があるので、産業上利用可能性が非常に高い発明である。
【符号の説明】
【0082】
1:インプラント
20:人工歯牙
30:フィクスチャ
100:アバットメント
110:上側結合部
120:下側結合部
200:露出部
130:中空
140:拡張陥入部
150:結合孔
210:遊動溝
220:ネジ山
230:スリット
231:第1スリット
232:第2スリット
240:水平スリット
S100:第1溶液製造段階
S110:第2溶液製造段階
S120:第1物質収得段階
S130:第3溶液製造段階
S140:第2物質収得段階
S150:乾燥段階
S160:充填溶液完成段階
【国際調査報告】