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特表2023-501133フタロニトリル樹脂、その作成法、およびそれらの組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(54)【発明の名称】フタロニトリル樹脂、その作成法、およびそれらの組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 8/28 20060101AFI20230111BHJP
   C08L 61/34 20060101ALI20230111BHJP
   C08L 61/14 20060101ALI20230111BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230111BHJP
   C08G 14/073 20060101ALI20230111BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C08G8/28 A
C08L61/34
C08L61/14
C08L101/00
C08G14/073
C08J5/04 CEZ
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022524119
(86)(22)【出願日】2020-10-30
(85)【翻訳文提出日】2022-04-25
(86)【国際出願番号】 US2020058099
(87)【国際公開番号】W WO2021087193
(87)【国際公開日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】62/928,466
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509282365
【氏名又は名称】ハンツマン・アドバンスド・マテリアルズ・アメリカズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガアオ,クアンチアン
(72)【発明者】
【氏名】ボルジギン,ナラソ
(72)【発明者】
【氏名】タオ,タオ
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
4J033
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AD14
4F072AD18
4F072AD53
4F072AL01
4F072AL02
4F072AL16
4F072AL17
4J002AA023
4J002BQ003
4J002CC071
4J002CC282
4J002CD003
4J002CM003
4J002CM013
4J002CM023
4J002DB006
4J002EE036
4J002EN056
4J002EV216
4J002EV236
4J002EW126
4J002EW146
4J002EW156
4J002FD146
4J033CA01
4J033CA04
4J033CA11
4J033CA12
4J033CA18
4J033CA19
4J033CA22
4J033CA31
4J033CA32
4J033CB18
4J033CC01
4J033CD05
4J033CD06
4J033FA01
4J033FA04
4J033FA10
4J033FA11
4J033FA13
4J033HA03
4J033HA04
(57)【要約】
本開示は、フラン基またはチオフェン基の少なくとも1つを含んでなる多価フェノール、および4-ニトロフタロニトリルに由来する官能化フタロニトリルモノマーを提供する。官能化フタロニトリルモノマーは、様々な熱硬化性組成物に使用されることができ、これらは硬化して高い熱安定性、熱耐性、高いチャー生成率および構造的剛性のような優れた熱および機械特性を有する熱硬化性ポリマーを形成することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)フラン基またはチオフェン基の少なくとも1つを含んでなる多価フェノール化合物、および(ii)4-ニトロフタロニトリルの反応から得られる官能化フタロニトリルモノマー。
【請求項2】
多価フェノール化合物がフェノール化合物および式(1)
【化1】
式中、Xは酸素または硫黄であり、Qは水素またはC1-C5アルキル基であり、
そしてjは1から3の整数である
の化合物に由来する請求項1に記載の官能化フタロニトリルモノマー。
【請求項3】
多価フェノール化合物が、フェノール、クレゾール、キシレノール(ジメチルフェノール)、2-tert-ブチル―5-メチル-フェノール、2-tert-ブチル―4-メチルフェノール、アリルフェノール、アルキニルフェノール、オクチルフェノール、フェニルフェノール、ジフェニルフェノール、グアイアコール、ハイドロキノン、レゾルシノール、カテコール、ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、メチルナフトール、ビスフェノールAまたはビスフェノールFを含んでなる請求項1に記載の官能化フタロニトリルモノマー。
【請求項4】
フラン基またはチオフェン基の少なくとも1つを含んでなる多価フェノール化合物が、式(2)ないし(10)
【化2】
から選択される化合物である請求項1に記載の官能化フタロニトリルモノマー。
【請求項5】
請求項1に記載の官能化フタロニトリルモノマーおよび硬化剤を含んでなる熱硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の官能化モノマー以外の少なくとも1つの第2のフタロニトリルモノマー、および添加剤をさらに含んでなる請求項5に記載の熱硬化性組成物。
【請求項7】
ビニル、エチニル、マレイミド、イミノ、シアノ、またはエポキシ基の少なくとも1つを含んでなる熱硬化性樹脂をさらに含んでなる請求項5に記載の熱硬化性組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の官能化フタロニトリルモノマー;
単官能性ベンゾオキサジン、多官能性ベンゾオキサジンおよびそれらの混合物から選択される熱硬化性樹脂;および
硬化剤
を含んでなる熱硬化性組成物。
【請求項9】
単官能性ベンゾオキサジンがアセチレン担持ベンゾオキサジン化合物である請求項8に記載の熱硬化性能性組成物。
【請求項10】
多官能性ベンゾオキサジンが、式:
【化3】
式中、bは2から4の範囲の整数であり;各Rは独立して水素、置換もしくは非置換C1-C20アルキル基,置換もしくは非置換C2-C20アルケニル基,置換もしくは非置換C6-C20アリール基,置換もしくは非置換C2-C20ヘテロアリール基,置換もしくは非置換C4-C20炭素環式基,置換もしくは非置換C2-C20複素環式基,またはC3-C8シクロアルキル基であり;各R1は独立して水素、C1-C20アルキル基,C2-C20アルケニル基,またはC6-C20アリール基であり;そしてbが2である時,Zは直接結合、置換もしくは非置換C1-C20アルキル基,置換もしくは非置換C6-C20アリール基,置換もしくは非置換C2-C20ヘテロアリール基,またはO,S,S=O,O=S=OまたはC=Oであり、そしてbが3または4である時、Zは置換もしくは非置換C1-C20アルキル基,置換もしくは非置換C6-C20アリール基,置換もしくは非置換C2-C20ヘテロアリール基である;
を有する化合物である請求項8に記載の熱硬化性組成物。
【請求項11】
請求項5に記載の熱硬化性組成物を硬化することにより得られる熱硬化性ポリマー。
【請求項12】
請求項8に記載の熱硬化性組成物を硬化することにより得られる熱硬化性ポリマー。
【請求項13】
強化繊維の層を請求項5に記載の熱硬化性組成物と接触させて強化繊維に塗布および/または含侵させ;そして塗布および/または含侵させた強化繊維を硬化して複合品を生成することを含んでなる複合品の生成プロセス。
【請求項14】
強化繊維の層を請求項8に記載の熱硬化性組成物と接触させて強化繊維に塗布および/または含侵させ;そして塗布および/または含侵させた強化繊維を硬化して複合品を生成することを含んでなる複合品の生成プロセス。
【請求項15】
a)強化繊維を含んでなるファイバ母材を型に導入し;b)請求項8に記載の熱硬化性組成物を型に射出し;c)熱硬化性組成物をファイバ母材に含浸させ;d)樹脂を含浸させた母材を、少なくとも部分的に硬化した固体の物品を生成するための期間加熱し;そして場合によりe)部分的に硬化した固体の物品を追加の熱に供する工程を含んでなるRTMシステムで複合品を生成する方法。
【請求項16】
a)強化繊維を含んでなるファイバ母材を型に導入し;b)請求項8に記載の熱硬化性組成物を型に射出し;c)型内の圧を下げ;d)型をおよそ該下げられた圧に維持し;e)熱硬化性組成物をファイバ母材に含浸させ;f)樹脂を含浸させた母材を加熱して、少なくとも部分的に硬化した固体の物品を生成し;そして場合によりg)少なくとも部分的に硬化した固体の物品を追加の熱に供する工程を含んでなるVaRTMシステムで複合品を形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との関係
本出願は、2019年10月31日に出願された米国特許仮出願第62/928,466号明細書の利益を主張し、その全内容は引用により明白に本明細書に編入する。
【0002】
連邦政府による研究開発による資金援助の表明
なし
【0003】
分野
本開示は一般に新規フタロニトリル樹脂、そのようなフタロニトリル樹脂の作成法、および限定するわけではないが建築および建設、エレクトロニクスパッケージ、エネルギーおよび電力生産、航空宇宙、輸送および医療用デバイス産業のような様々な産業での応用のための重合性熱硬化性組成物におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
フタロニトリルモノマーは、プリプレグ、積層体および構造複合体部品の生産のような高温の応用に開発された新たな種類の高性能モノマーである。例えば特許文献1,2,3,4および5は、フェノール、ジフェニルアセチレンと反応した芳香族ジオール、再生可能な供給源に由来するポリフェノールおよびビスフェノールに由来する様々なフタロニトリルモノマーを開示する。このようなフタロニトリルモノマーは硬化後、450℃より高い初期分解温度で優れた熱および熱酸化安定性、ならびに強化された耐炎性、熱分解前のガラス転移温度の不存在、高温で良好な機械特性、低い吸水、優れた腐食耐性および進歩したUV遮蔽挙動のような無数の他の高度に魅力的な性能特性を保有することが分かった。
【0005】
しかし最新のフタロニトリルモノマーはモノマー前駆体の剛性による脆さ、および最終硬化生成物における高度な架橋結合に悩まされていることが知られている。加えてこのようなフタロニトリルモノマーは一般に、室温で固体であり、したがって使用前に融解されなければならない。さらに完全に硬化するためには望ましい硬化温度よりも高温(例えば250℃より高い)で、しかも長い時間を必要とする可能性がある。
【0006】
このような欠点を克服するために、モノマーの融点を下げ、そして硬化した生成物の柔軟性を改善するために、フタロニトリルモノマー単位間の鎖長部分を調整する試みがなされた。種々の触媒がこれらフタロニトリルモノマーの硬化挙動を改善するために使用された。最終的に、硬化したフタロニトリル生成物の加工性、硬化挙動および最終的な特性を改善するために、特許文献6および7はエポキシまたはベンゾオキサジン樹脂と共重合した特定のフタロニトリルモノマーを開示する。
【0007】
さらに一層良い加工性および硬化挙動を現わし、しかも改善された熱および機械特性を有する硬化生成物を生成する重合性の熱硬化性組成物に使用できる新規フタロニトリルモノマーを開発することにより、これら最新のフタロニトリルモノマーをさらに改善することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,420,464号明細書
【特許文献2】米国特許第8,039,576号明細書
【特許文献3】米国特許第8,853,343号明細書
【特許文献4】米国特許第9,920,165号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2019/0047946号明細書
【特許文献6】米国特許第5,939,508号明細書
【特許文献7】国際公開第2017105890号パンフレット
【発明の概要】
【0009】
本開示は一般に、(i)フラン基またはチオフェン基の少なくとも1つを含んでなる多価フェノール化合物、および(ii)4-ニトロフタロニトリルの反応から得られる官能化フタロニトリルモノマーを提供する。
【0010】
別の態様によれば、官能化フタロニトリルモノマーおよび硬化剤を含む熱硬化性組成物が提供される。さらに別の態様では、熱硬化性組成物はさらに、ビニル、エチニル、マレイミド、イミノ、シアノ、オキサジンまたはエポキシ基の少なくとも1つを含んでなる第2の熱硬化性樹脂を含むことができ、ここで官能化フタロニトリルモノマーが「第1」の熱硬化性樹脂である。
【0011】
本開示の熱硬化性組成物は、硬化して改善された熱および機械特性を有する熱硬化性ポリマーを形成することができる。したがって熱硬化性組成物は、限定するわけではないが建築および建設、エレクトロニクスパッケージ、軍用、エネルギーおよび電力生産、航空宇宙、輸送および医療用デバイス産業のような様々な応用に用途を見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例2で生成された化合物のLC-MSクロマトグラムである。
図2】実施例2で生成された化合物のGPCスキャンである。
図3】実施例2で生成された化合物のプロトンNMRである。
図4】実施例2で生成された化合物の13C―NMRである。
図5】実施例2で生成された化合物のプロトン-プロトンCOSYスペクトルの二次元NMRである。
図6】実施例2で生成された化合物の二次元NMR HSQCスペクトルである。
図7】実施例2で生成された化合物のDSCにより測定された融点である。
図8】実施例2で生成された化合物のFT-IRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は一般に、(i)フラン基またはチオフェン基の少なくとも1つを含んでなる多価フェノール化合物、および(ii)4-ニトロフタロニトリルの反応から得られる官能化フタロニトリルモノマーを提供する。驚くことに本開示の官能化フタロニトリルモノマーは、最新のフタロニトリルモノマーに優る幾つかの利点を提供することが分かった。例えば本開示の官能化フタロニトリルモノマーは、単独重合および架橋結合することができるフラン/チオフェン基を含み、硬化した時に上昇した熱安定性、耐熱性、チャー生成率、および強化された構造的剛性のような改善された熱および機械特性を有する熱硬化性の
重合化生成物を形成する。加えて本開示の官能化フタロニトリルモノマーは、他の不飽和熱硬化性樹脂と反応してさらに加工性、硬化挙動、および最終的に硬化した生成物の特性を改善することができる。したがって本開示の官能化フタロニトリルモノマーは、最新のフタロニトリルモノマーに比べて未硬化および硬化した状態で物理的、機械的および熱的特性の優れたバランスを現わす。
【0014】
以下の用語は以下の意味を有するものとする:
【0015】
「含んでなる」(comprising)という用語やその派生語は、それが明細書中に開示されていようがいまいが、任意の追加の成分、工程、または手順の存在を除外することを意図していない。不確かさを避けるため、「含んでなる」という用語を使用して本明細書にて特許請求されている組成物はいずれも、それとは反対の記述がない限り、任意の追加の添加剤、または化合物を含んでよい。これとは対照的に、明細書中に「から本質的になる」(consisting essentially of)という用語が出てきた場合、この用語は、後続する記載の範囲から、他のいかなる成分、工程、または手順も除外すること(但し、操作性にとって必須ではない事物は除く)を表し、「からなる」(consisting of)という用語が使用された場合、この用語は、明確に記載または列挙されていない任意の成分、工程、または手順を除外することを表す。「または」(or)という用語は、特に明記しない限り、記載の個別の員(member)ならびに員の任意の組み合わせも指す。
【0016】
冠詞「a」や「an」は、本明細書では、1もしくは複数(すなわち少なくとも1つの)冠詞の文法的目的語を表すために使用される。例えば「官能化フタロニトリルモノマー」(a functionalized phthalonitrile monomer)は、1つの官能化フタロニトリルモノマー、または1より多い官能化フタロニトリルモノマーを意味する。
【0017】
「1つの観点では」(in one aspect)、「1つの観点によれば」(according to one aspect)等の句は、一般にその句に続く特定の機能、構造および特性が本開示の少なくとも1つの観点に含まれること、そして本開示の1より多くの観点に含まれ得ることを意味する。重要なことはそのような句が必ずしも同じ観点を指していない点である。
【0018】
明細書で成分または機能が特徴に含まれる、またはそれを有する可能性がある(「may」、「can」、「could」、または「might」)と述べる場合、その特定の成分または機能が含まれる、またはそれを有することを必要としない。
【0019】
1つの観点によれば、本開示は(i)フラン基またはチオフェン基の少なくとも1つを含んでなる多価フェノール化合物、および(ii)4-ニトロフタロニトリルの反応から得られる官能化フタロニトリルモノマーを提供する。
【0020】
フラン基またはチオフェン基の少なくとも1つを含んでなる多価フェノール化合物は、フェノール化合物および式(1)
【化1】
式中、Xは酸素または硫黄であり、Qは水素またはC1-C5アルキル基であり、
そしてjは1から3の整数である
の化合物に由来する化合物を含む。式(1)のそのような化合物には限定するわけではないがフルフラル、3-フルアルデヒド、5-メチルフルフラル、5-エチルフルフラル、2-チオフェン-カルボキシアルデヒド、3-チオフェン-カルボキシアルデヒド、3-メチル-2-チオフェン-カルボキシアルデヒド等を含む。
【0021】
フェノール化合物は限定するわけではないが、フェノール、クレゾール、キシレノール(ジメチルフェノール)、例えば2,6-キシレノール、トリメチルフェノール、2,5-アルキルフェノール、例えば2-tert-ブチル―5-メチル-フェノールまたは2-tert-ブチル―4-メチルフェノール、アリルフェノール、アルキニルフェノール、オクチルフェノール、フェニルフェノール、ジフェニルフェノール、グアイアコール、ハイドロキノン、レゾルシノール、カテコール、ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、メチルナフトール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等を含む。
【0022】
前記式(1)の化合物およびフェノール化合物は、前述したものに具体的に限定されない。さらに各式(1)の化合物およびフェノール化合物は、単独または2以上の混合物として使用され得る。
【0023】
フラン基またはチオフェン基の少なくとも1つを含んでなる多価フェノール化合物は、当業者に一般に知られている方法により調製されることができる。例えばフェノール化合物は、式(1)の化合物を塩基および場合によりアルコールまたはモノ-置換ベンゼンの存在下で、約30℃から約150℃の間、または約60℃から約90℃の間の温度で縮合させることができる。一般に縮合中に存在するフェノール化合物および式(1)の化合物の量は、1モルの式(1)の化合物あたり約1.5モルから約20モルの間の範囲のフェノール化合物であることができる。幾つかの態様では縮合中に存在する式(1)の化合物に対するフェノール化合物の量は、1モルの式(1)の化合物あたり約1.8モルから約10モルの間の範囲であることができる。
【0024】
使用できる塩基の例は、限定するわけではないが、アルカリ金属水酸化物、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等;アルカリ土類金属水酸化物、例えば水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等;アルカリ金属アルコキシド、例えばナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウム-tert-ブトキシド等;およびアルカリ土類アルコキシド、例えばマグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド等を含む。これらの塩基は、単独または2以上の組み合わせで使用されることができる。これらの塩基は、1モルのフェノール化合物あたり約0.005モルから約2.0モルの間の量、あるいは1モルのフェノール化合物あたり約0.01から約1.1モルの間の量で使用され得る。
【0025】
使用できるアルコールまたはモノ-置換ベンゼン溶媒には限定するわけではないが、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、トルエン、キシレン等を含み
、これらは単独または混合物として使用できる。必要ならばそのような溶媒は、100重量部のフェノール化合物に対して約5重量部から約500重量部の間の量、あるいは100重量部のフェノール化合物に対して約10重量部から約300重量部の間の量で使用することができる。
【0026】
反応は塩基をフェノール化合物および式(1)の化合物(そして場合によりアルコールまたはモノ-置換ベンゼン溶媒)の混合物に加え、そして生じた混合物を加熱することにより行うことができる。別法では式(1)の化合物をフェノール化合物と塩基(そして場合によりアルコールまたはモノ-置換ベンゼン溶媒)の混合物に加熱下で加えることができる。反応時間は約5時間から約100時間の間の範囲でよい。反応が完了したら、反応混合物を中和することができる。続いて任意の未反応物質は、濾過により、または真空中での加熱により除去することができる。
【0027】
1つの態様によれば、フラン基またはチオフェン基の少なくとも1つを含んでなる多価フェノール化合物は、式(2)ないし(10)から選択される化合物である。
【化2】
式中、nは約3から約3.2の整数である。
【0028】
さらに別の態様では、フラン基またはチオフェン基の少なくとも1つを含んでなる多価フェノール化合物は、ビスフェノールAまたはビスフェノールFおよびXが酸素であり、そしてQおよびjが前記定義の式(1)の化合物に由来する。
【0029】
次いでフラン基またはチオフェン基の少なくとも1つを含んでなる多価フェノール化合物は、4-ニトロフタロニトリルと反応して本開示の官能化フタロニトリルモノマーが形
成される。
【0030】
1つの態様によれば、フラン基またはチオフェン基の少なくとも1つを含んでなる多価フェノール化合物は、触媒および場合により溶媒の存在下で4-ニトロフタロニトリルと反応させる。触媒の例には限定するわけではないが、前記の塩基、ならびにアルカリ金属塩、例えば炭酸セシウム、炭酸カリウムまたは炭酸ナトリウム、有機リチウム試薬、例えばメチルまたはn-ブチルリチウム、グリニャール試薬、またはそれらの任意の組み合わせを含む。使用できる溶媒の例には限定するわけではないが、任意の極性または非極性溶媒、例えばアセトン、アセトニトリル、アルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルホルムアミド、n-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスルアミドまたはそれらの組み合わせを含む。別の態様では、溶媒はトルエンまたはキシレンのような水と共沸を形成できる溶媒であり得る。驚くことにそのような溶媒は、反応混合物(すなわちフランまたはチオフェン基の少なくとも1つを含んでなる多価フェノール化合物、4-ニトロフタロニトリルおよび塩基)を形成する化合物中に見いだされる水、ならびにフラン基またはチオフェン基の少なくとも1つを含んでなる多価フェノール化合物と4-ニトロフタロニトリルとの反応中に形成される水の両方の除去を援助するために使用できる。官能化フタロニトリルは、生じる生成物のモノマー含量を上げるために、溶媒と水との混合物からの再結晶化により精製することができる。
【0031】
別の態様によれば、フラン基またはチオフェン基の少なくとも1つを含んでなる多価フェノール化合物および官能化フタロニトリルモノマーは、同じ反応槽で形成されて全体的なプロセス時間および効率を改善することができる。そのような態様では、第一工程でフラン基またはチオフェン基の少なくとも1つを含んでなる多価フェノールが前記のように反応槽中に形成される。第二工程で、4-ニトロフタロニトリルが反応槽中のフラン基またはチオフェン基の少なくとも1つを含んでなる多価フェノールに加えられて官能化フタロニトリルモノマーが形成される。第一工程および第二工程で反応に使用される塩基、触媒および溶媒は、同じか、または異なってもよい。幾つかの態様では、溶媒はトルエンまたはキシレンである。
【0032】
本開示の官能化フタロニトリルモノマーは、熱により硬化されて化学的、機械的および熱的特性の優れたバランスを現わす熱硬化性ポリマーを形成することができる。硬化剤は熱硬化形成のスピードアップに使用することができる。このように別の態様では、官能化フタロニトリルモノマーおよび硬化剤を含んでなる熱硬化性組成物が提供される。
【0033】
熱硬化性組成物中に存在する官能化フタロニトリルモノマーの量は、熱硬化性組成物の総重量に基づき少なくとも約1重量%、少なくとも約5重量%、または少なくとも約10重量%、または少なくとも約20重量%、または少なくとも約30重量%、または少なくとも約40重量%、または少なくとも約50重量%、または少なくとも約60重量%、または少なくとも約70重量%、または少なくとも約80重量%、または少なくとも約90重量%、または少なくとも約99重量%の量となり得る。他の態様では、熱硬化性組成物中に存在する官能化フタロニトリルモノマーの量は、熱硬化性組成物の総重量に基づき約1重量%から約99重量%の間、または約5重量から約90重量%の間、または約10重量%から約80重量%の間、または約20重量%から約70重量%の間、または約30重量%から約60重量%の間の量となり得る。
【0034】
使用できる硬化剤には限定するわけではないが、芳香族アミン、第一級アミン、二級アミン、ジアミン、ポリアミン、アミン-置換ホスファゼン、フェノール、強酸、有機酸、強有機酸、無機酸、金属、金属塩、金属塩水和物、金属化合物、ハロゲン含有芳香族アミン、クレーおよび化学的に修飾されたクレーを含む。クレーまたは化学的に修飾されたクレーの使用は、熱硬化性樹脂の機械的および燃焼性の特性を改善することができる。一般
にクレーの化学的修飾にはナトリウムイオンをアンモニウムに換えて四級アンモニウム塩を形成することが関与する。
【0035】
具体的な硬化剤には限定するわけではないが、ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニルスルホン(p-BAPS),ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニルスルホン(m-BAPS),1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(p-APB),1,12-ジアミノドデカン,ジフェニルアミン,エポキシアミン硬化剤,1,6-ヘキサンジアミン,1,3-フェニレンジアミン,1,4-フェニレンジアミン,p-トルエンスルホン酸,ヨウ化第一銅,臭化第一銅、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(m-APB),3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン,3,3’-ジエトキシ-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン,3,3’-ジカルボキシ-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン,3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン,3,3’-ジスルホ-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン,3,3’-ジアミノベンゾフェノン,4,4’-ジアミノベンゾフェノン,3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン,3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノベンゾフェノン,3,3’-ジカルボキシ-4,4’-ジアミノベンゾフェノン,3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノベンゾフェノン,3,3’-ジスルホ-4,4’-ジアミノベンゾフェノン,4,4’-ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド,4,4’-ジアミノジフェニルフェニルホスフィンオキシド,ビス(3-アミノフェノキシ-4’-フェニル)フェニルホスフィンオキシド,メチレンジアニリン,ヘキサキス(4-アミノフェノキシ)シクロトリホスファゼン,3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン,2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル,2,2’-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン,ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]2,2’-ヘキサフルオロプロパン,1,1-ビス(4-アミノフェニル)-1-フェニル-2,2,2-トリフルオロエタン,3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノベンゾフェノン,3,3’-ジブロモ-4,4’-ジアミノベンゾフェノン,アニリン-2-スルホン酸,8-アニリン-1-ナフタレンスルホン酸,ベンゼンスルホン酸,ブチルスルホン酸,10-カンファースルホン酸,2,5-ジアミノベンゼンスルホン酸,6-ジメチルアミノ-4-ヒドロキシ-2-ナフタレンスルホン酸,5-ジメチルアミノ-1-ナフタレンスルホン酸,4-ヒドロキシ-3-ニトロソ-1-ナフタレンスルホン酸四水和物,8-ヒドロキシキノリン-5-スルホン酸,メチルスルホン酸,フェニルホウ酸,1-ナフタレンスルホン酸,2-ナフタレンスルホン酸,1,5-ナフタレンジスルホン酸,2,6-ナフタレンジスルホン酸,2.7-ナフタレンジスルホン酸,ピクリルスルホン酸水和物,2-ピリジンエタンスルホン酸,4-ピリジンエタンスルホン酸,3-ピリジンスルホン酸,2-ピリジニルヒドロキシメタンスルホン酸,スルファニル酸,2-スルホ安息香酸水和物,5-スルホサリチル酸水和物,2,4-キシレンスルホン酸,スルホン酸含有染料,有機リン含有酸,フェニルホスフィン酸,ジフェニルホスフィン酸,プロピルホスホン酸,1-アミノエチルホスホン酸,4-アミノフェニルホスホン酸,ブチルホスホン酸,t-ブチルホスホン酸,2-カルボキシエチルホスホン酸,2-クロロエチルホスホン酸,ジメチルホスホン酸,エチルホスホン酸,メチレンジホスホン酸,メチルホスホン酸,ホスホノ酢酸,ビス(ヒドロキシメチル)ホスホン酸,クロロメチルホスホン酸,ジ-n-ブチルホスホン酸,ジクロロメチルホスホン酸,ジフェニルジチオホスホン酸,1,2-エチレンジホスホン酸,n-ヒスタデリルホスホン酸(n-hystaderylphosphonic acid),ヒドロキシメチルホスホン酸,n-オクタデシルホスホン酸,n-オクチルホスホン酸,フェニルホスホン酸,プロピレンジホスホン酸,n-テトラデシルホスホン酸,濃硫酸,フェニルホスホン酸,銅,鉄,亜鉛,ニッケル,クロム,モリブデン,バナジウム,ベリリウム,銀,水銀,スズ、鉛,アンチモン,カルシウム,バリウム、マンガン,マグネシウム,コバルト、パラジウム,白金,臭化第一銅,シアン化第一銅,フェリシアン化第一銅,塩化亜鉛,臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛,シアン化亜鉛,フェロシアン化亜鉛,酢酸亜鉛
,硫化亜鉛,塩化銀,塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、フェリシアン化鉄(II)、クロロ白金酸鉄(II)、フッ化鉄(II),硫酸鉄(II)、塩化第一コバルト、硫酸コバルト(II),シアン化コバルト(II),塩化ニッケル(II),シアン化ニッケル(II),硫酸ニッケル(II),炭酸ニッケル(II),塩化第二スズ、塩化第一スズ水和物、塩化第一スズ二水和物、硝酸アルミニウム水和物、硝酸アルミニウム九水和物、トリフェニルホスフィンオキシド錯体,モンモリロナイト、化学的に修飾されたモンモリロナイト、4,4’-(1,3-フェニレンジオキシ)ジアニリン,4,4’-(1,4-フェニレンジオキシ)ジアニリン,ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン,4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェニル-1,1’-ジイルジオキシ)ジアニリン,4,4’-(1,3-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン,4,4’-(1,4-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン,4,4’-(1,1’-ビフェニル-4,4’-ジイルジオキシ)ジアニリン,4,4’-メチレンジアニリン,4,4’-スルホニルジアニリン,4,4’-メチレン-ビス(2-メチルアニリン),3,3’-メチレンジアニリン,3,4’-メチレンジアニリン,4,4’-オキシジアニリン,4,4’-(イソプロピリデン)ジアニリン,4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジアニリン,4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(p-フェニレンオキシ)ジアニリン,4,4’-ジアミノベンゾフェノン,化合物:
【化3】
およびそれらの混合物を含む。
【0036】
硬化剤は、熱硬化性組成物中に熱硬化性組成物の総重量に基づき、少なくとも約0.5重量%、または少なくとも約1重量%、または少なくとも約2重量%、または少なくとも約5重量%、または少なくとも約10重量%、または少なくとも約15重量%、またはさらに少なくとも約20重量%の量で存在することができる。他の態様では、硬化剤は熱硬化性組成物の総重量に基づき約40重量%未満、または約35重量%未満、または約30重量%未満、または約25重量%未満の量で存在することができる。さらに他の態様では、硬化剤は熱硬化性組成物の総重量に基づき約0.25重量%から約45重量%の間、または約1重量%から約40重量%の間の量で存在することができる。
【0037】
また熱硬化性組成物は、本開示のものの他に第二のフタロニトリルモノマー、ならび任意の添加剤を含んで望ましい構造的および/または熱特性を与えることができる。添加剤には限定するわけではないが、充填材、例えばカーボンナノチュ-ブ、クレー、カーボンナノファイバー、金属酸化物、亜鉛酸化物、珪藻土、硫酸バリウム、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、フッ化カルシウム、およびそれらの組み合わせ、着色剤、抗酸化安定化剤
、熱分解安定化剤、光安定化剤、フロー(flow)剤、増ちょう(bodying)剤、艶消し剤、結合剤、発泡剤、殺菌・殺カビ剤、殺バクテリア剤、表面活性剤、可塑剤、ゴム強化剤、および当業者に知られている他の添加剤を含むことができる。これらの添加剤が存在する場合、それらの意図する目的に効果的な量で加えられる。
【0038】
硬化剤(および場合により他のフタロニトリルモノマーおよび/または添加剤)を、官能化フタロニトリルモノマーに任意の所望する順序で加え、そして撹拌容器、撹拌棒、ボールミル、サンプルミキサー、静置ミキサーのような通常の装置を使用して混合されるか、またはリボンブレンド(ribbon blended)されて熱硬化性組成物を形成することができる。次いで組成物は硬化されて熱硬化性ポリマーを形成することができる。本明細書で使用する「硬化される(cured)」という表現は、前記熱硬化性組成物の不溶性かつ不融性の架橋結合生成物への変換を表し、それと同時に成形して成形品、加圧形成品または積層体のような造形品を与えるか、あるいはコーティング、エナメルまたは接着結合のような二次元構造を与える。典型的な硬化プロセスには周囲温度の硬化から熱、照射またはエネルギー源の任意の組み合わせを使用する高温の硬化を含む。加えて、硬化は1もしくは複数の硬化段階で起こることができる。典型的な硬化温度は約50℃から約500℃の間、例えば約75℃から約375℃の間、または約80℃から約300℃の間の範囲で、例えば4から20時間、または4から16時間、または6から12時間のような組成物が少なくとも部分的に、または実質的に、または完全に硬化するために十分な時間であることができる。
【0039】
さらに別の態様では、熱硬化性組成物はビニル、エチニル、マレイミド、イミノ、シアノ、オキサジンまたはエポキシ基の少なくとも1つを含んでなる第二の熱硬化性樹脂を含むことができる。本開示の官能化フタロニトリルモノマーをそのような第二の熱硬化性樹脂と組み合わせることは、より低い粘度を現わす可能性がある熱硬化性組成物を素早く硬化するマトリックスとし、そして硬化後により高い耐熱性、改善された機械的性能、より低い吸水、難燃性および高いチャー生成率のような広い範囲の改善された特性を有する熱硬化性ポリマーを生成する。
【0040】
このように1つの特定の態様では、本開示の官能化フタロニトリルモノマーは単官能性ベンゾオキサジンまたは多官能性ベンゾオキサジンまたはそれらの組み合わせ、および任意の1もしくは複数の硬化剤、および場合により添加剤、または前記の本開示の官能化フタロニトリルモノマーに加えて第二のフタロニトリルモノマーと合わせて、熱硬化性組成物を形成することができる。
【0041】
1つの態様によれば、単官能性ベンゾオキサジンはアセチレン担持ベンゾオキサジン化合物である。そのようなアセチレン担持ベンゾオキサジン化合物は、国際公開第1999/18092号パンフレットに記載され、その内容は引用により本明細書に編入する。特にアセチレン担持ベンゾオキサジン化合物は、モノフェノール化合物、アルデヒドおよび第一級アミンの反応から調製されることができる。
【0042】
フェノール型化合物はモノフェノール化合物でよく、例えば限定するわけではないが、フェノール、クレゾール、2-ブロモ-4-メチルフェノール,2-アリルフェノール,1,4-アミノフェノール等であることができる。1つの特定の態様では、フェノール型化合物はフェノールである。
【0043】
アルデヒド化合物は限定するわけではないが、ホルムアルデヒド,パラホルムアルデヒド,ポリオキシメチレン、または式RaCHOを有する化合物(式中、RaはC1-C12脂肪族基である)でよい。1つの特定の態様では、アルデヒド化合物はホルムアルデヒドである。
【0044】
第一級アミンは、2から40個の炭素を有し、1もしくは複数の炭素対炭素の三重結合基を有し、そして場合によりO,N,Sまたはハロゲンヘテロ原子を持つアミンであることができる。第一級アミンの窒素と炭素対炭素三重結合基との間の中間体は、場合により6から12個の炭素を有する芳香族基で置換されたC1-C6アルキル基であるか、または場合によりC1-C6アルキル基で置換された6から12個の炭素を有する芳香族基であることができる。炭素対炭素の三重結合基は、式-C≡CRd,-CH2-C≡CRd
【化4】
を有するものを含み、式中、Rdは水素、場合により6から12個の炭素を有する芳香族基で置換されたC1-C5アルキル基、または場合によりC1-C5アルキル基で置換された6から12個の炭素を有する芳香族基である。1つの特定の態様では、1もしくは複数の炭素対炭素の三重結合を有する第一級アミンは、3-アミノフェニルアセチレンである。
【0045】
別の態様によれば、多官能性ベンゾオキサジンは式
【化5】
を有する化合物であり、式中、bは2から4の範囲の整数であり;各Rは独立して水素、置換もしくは非置換C1-C20アルキル基、置換もしくは非置換C2-C20アルケニル基、置換もしくは非置換C6-C20アリール基、置換もしくは非置換C2-C20ヘテロアリール基、置換もしくは非置換C4-C20炭素環式基、置換もしくは非置換C2-C20複素環式基、またはC3-C8シクロアルキル基であり;各R1は独立して水素、C1-C20アルキル基、C2-C20アルケニル基、またはC6-C20アリール基であり;そしてbが2である時、Zは直接結合、置換もしくは非置換C1-C20アルキル基、置換もしくは非置換C6-C20アリール基、置換もしくは非置換C2-C20ヘテロアリール基、O,S,S=O,O=S=OまたはC=Oであり、そしてbが3または4である時、Zは置換もしくは非置換C1-C20アルキル基、置換もしくは非置換C6-C20アリール基、置換もしくは非置換C2-C20ヘテロアリール基である。置換基には限定するわけではないが、ヒドロキシ,C1-C20アルキル、C2-C10アルコキシ、メルカプト、C3-C8シクロアルキル、C6-C14複素環式基、C6-C14アリール、C6-C14ヘテロアリール、ハロゲン、シアノ、ニトロ、ニトロン、アミノ、アミド、アシル、オキシアシル、カルボキシル、カルバメート、スルホニル、スルホンアミド、およびスルフリルを含む。
【0046】
1つの態様によれば、前記多官能性ベンゾオキサジン化合物は多官能性フェノール化合物、アルデヒド、例えばホルムアルデヒド、および第一級アミンの反応から得られる化合物である。
【0047】
多官能性フェノール化合物は限定するわけではないが、レゾルシノール、ビスフェノー
ルA、ビスフェノールF、ビスフェノールE、ビスフェノールS,1,2,2,2-テトラフェノールエタン、チオジフェノール,フェノールフタレイン、ジシクロペンタジエニルジフェノール,1,8-ヒドロキシアントラキノン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2-2’-ジヒドロキシアゾベンゼン、および1,3,5-トリヒドロキシベンゼンであることができる。
【0048】
第一級アミンは限定するわけではないが、前記の少なくとも1つの炭素対炭素三重結合基を有するそのような第一級アミン、ならびにアニリン、o-,m-およびp-フェニレンジアミン、ベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、シクロヘキシルアミン,1,4-ジアミノシクロヒデキシル、ブチルアミン、メチルアミン、ヘキシルアミン、アリルアミン、フルフリルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、およびジアミノジフェニルスルホンであることができる。
【0049】
1つの態様によれば、熱硬化性組成物は単官能性ベンゾオキサジンまたは多官能性ベンゾオキサジンまたはそれらの組み合わせ、および官能化フタロニトリルモノマーを、全ベンゾオキサジン:官能化フタロニトリルモノマーの重量比で、約1:1から約10:0.1、または約1.5:1から約10:1、または約2:1から約10:1の間で含むことができる。
【0050】
熱硬化性組成物は、前記のように単官能性ベンゾオキサジンまたは多官能性ベンゾオキサジンの少なくとも1つを官能化フタロニトリルモノマーおよび任意の硬化剤、本開示の官能化フタロニトリルモノマーに加えて他のフタロニトリルモノマー、および添加剤を、撹拌容器、撹拌棒、ボールミル、サンプルミキサー、静置ミキサーのような通常の装置を使用して任意の順序で混合することにより、またはリボンブレンドして熱硬化性組成物を形成することにより調製することができる。次いで熱硬化性組成物は前記のように硬化されて熱硬化性ポリマーを形成することができる。
【0051】
さらに別の態様では、任意の適切な基材を前記の熱硬化性組成物の任意の1つと接触させ、そして基材/熱硬化性組成物を熱、照射またはエネルギー源の組み合わせに供して基材/熱硬化性組成物を硬化することにより得られる熱硬化性ポリマーが提供される。1つの態様では、本開示の熱硬化性組成物は、熱硬化性組成物を硬化するために十分な条件下で、熱硬化性組成物で結合されることになる同様な、または似ていない基材の1もしくは複数の表面を接触させることにより、1もしくは複数の基材を一緒に結合するために使用できる。
【0052】
別の態様では本開示の熱硬化性組成物を硬化することにより、当該産業で周知な技術、例えば引抜、注入、成形、封入またはコーティングにより複合品が得られる。このように本開示の熱硬化性組成物は、キャスティング、プリプレグ、結合シート、積層体および金属-箔クラッド積層体のような複合品を製造する方法に使用することができる。
【0053】
複合品の特性は、強化繊維の添加により特定の応用に仕立てることができる。強化繊維の例にはガラス、石英、炭素、アルミナ、セラミック、金属、アラミド、天然繊維(例えば亜麻、ジュート、サイザル麻、ヘンプ)、紙、アクリル酸およびポリエチレン繊維およびそれらの混合物を含む。強化繊維は任意の様々な様式でよく、例えば一方向の平行する連続繊維または不連続繊維(短い繊維)により形成されるストランドまたは粗紡、織物ファブリックまたはマットのようなクロス、組紐、一方向、二方向、ランダム、疑似-等方性または三次元的に分散したマット様の材料、不均一格子またはメッシュ材料および三軸織物のような三次元材料であることができる。
【0054】
このように別の態様では複合品を生成するプロセスが提供され、それは:強化繊維の層
を熱硬化性組成物と接触させて強化繊維に塗布(coating)および/または含侵させ;そして塗布および/または含侵させた強化繊維を硬化して複合品を生成する工程を含む。
【0055】
塗布および/または含侵は、湿式法またはホットメルト法のいずれかにより行うことができる。湿式法では、熱硬化性組成物は最初に溶媒に溶解されて粘度を下げ、その後、強化繊維の塗布および/または含侵が行われ、そして溶媒がオーブン等を使用することにより蒸発される。
【0056】
ホットメルト法では、塗布および/または含侵は強化繊維を熱硬化性組成物で直接塗布および/または含侵させることにより行うことができ、熱硬化性組成物は粘度を下げるためにすでに加熱されていてもよく、あるいは別法では熱硬化性組成物が塗布されたフィルムが最初に剥離紙などの上に生成され、そしてフィルムが強化繊維の片側または両側に置かれ、そして熱および圧をかけて塗布および/または含侵を行うことができる。
【0057】
別の観点によれば、RTMシステムで複合品を生成するプロセスが提供される。このプロセスは:a)強化繊維を含んでなるファイバ母材を型に導入し;b)熱硬化性組成物を型に射出し;c)熱硬化性組成物をファイバ母材に含浸させ;そしてd)樹脂を含浸させた母材を、少なくとも部分的に硬化した固体の物品が生成するための期間加熱し;そして場合によりe)部分的に硬化した固体の物品を追加の熱に供する工程を含む。
【0058】
さらに別の態様では、VaRTMシステムで複合品を形成するプロセスが提供される。このプロセスは:a)強化繊維を含んでなるファイバ母材を型に導入し;b)熱硬化性組成物を型に射出し;c)型内の圧を下げ;d)型をおよそ該下げられた圧に維持し;e)熱硬化性組成物をファイバ母材に含浸させ;f)樹脂を含浸させた母材を加熱して、少なくとも部分的に硬化した固体の物品を生成し;そして場合によりg)少なくとも部分的に硬化した固体の物品を追加の熱に供する工程を含む。
【0059】
RTMおよびVaRTMシステムの他に、熱硬化性組成物は複合品を生成するための他の方法およびシステムに使用でき、それらにはプリプレグのホット-プレス、シート成形コンパウンド、成形、注型、引抜およびフィラメント巻きを含む。
【0060】
別の態様では、熱硬化性組成物は硬化で物理的、機械的および熱的特性の優れたバランスを持つ熱硬化性ポリマーを提供する。本開示により良好なバランスの熱硬化性ポリマーの特性には:約250℃より高い、または約270℃より高い、または約290℃より高いガラス転移温度(Tg);3500Mpaより大きい、または3750MPaより大きい、または4000MPaより大きい貯蔵弾性率;75℃で250センチポイズより低い、または200センチポイズより低い、または175センチポイズより低い粘度;および少なくとも60%、または少なくとも65%、または少なくとも70%のチャー生成率のうちの少なくとも2つを含むことができる。
【0061】
本開示の熱硬化性組成物および複合品は、様々な応用、例えば航空宇宙での応用、ここではそれらは飛行機の一次構造材料(主翼、尾翼、床梁等)、二次構造材料(フラップ、補助翼、カウル、フェアリング、内装品等)、ロケットモーターケースとして、人工衛星または他の移動物体用、例えば車、船および客車の構造材料、駆動軸内、燃料電池、板バネ、風力タービン翼、加圧容器、フライ-ホイール、製紙ローラーおよび土木工学、および建材(屋根材料、ケーブル、強化棒、後付け(retrofitting)材料に使用することができる。
【0062】
実施例
【実施例1】
【0063】
テトラメチルビスフェノールフランの合成
【化6】
機械的撹拌機および還流冷却器を備えた500mlの四ツ首丸底フラスコに、61.08グラムの2,6-キシレノールおよび32.04グラムのメタノールを付加した。次いで2グラムの水酸化ナトリウムを加え、そして撹拌して溶解した。生じた混合物を加熱還流し、そして24.0グラムのフルフラルを還流下にて2時間の期間にわたり滴下した。次いで混合物をさらに15時間還流し、そして完全な変換に関してHPLCによりモニターし、その後、混合物を35グラムの20%リン酸二水素ナトリウム水で中和した。沈殿した結晶を濾過により集め、1:1のメタノール/水溶液で洗浄し、そして真空乾燥オーブン中で乾燥した。72.6グラムのテロラメチルビスフェノールフラン(90.8%)が生成した。生成物はHPLCで大変純粋であることが分かった(99.7%)。
【実施例2】
【0064】
テトラメチルビスフェノールフランフタロニトリルの合成
【化7】
温度計、冷却器付きディーン-スタークトラップおよび窒素入口を備えた1000mlの四ツ首丸底フラスコに、実施例1からのテトラメチルビスフェノールフラン(32.2グラム,0.1モル),粉末化K2CO3(33.2グラム,0.24モル),トルエン(100mL),およびN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(146.1グラム)を加えた。生じた混合物を窒素で脱気し、そして混合物を140℃で10-12時間、加熱還流した。次いでトルエンを蒸留により除去し、そして反応混合物を30℃に冷却した。次いで4-ニトロフタロニトリル(35.3グラム,0.204モル)を1回で加え、そして反応混合物を80℃に加熱し、そして完全な変換についてHPLCでモニターした。次いで混合物を周囲温度に冷却し、そして冷却した脱イオン水に注いで固体の形成を生じた。沈殿した結晶を濾過により集め、脱イオン水で中性になるまで洗浄し、次いで1:1のメタノール/水溶液で洗浄した。得られた暗黄色の固体を真空乾燥して54.5グラム(95%)の官能化フタロニトリルモノマー生成物を得た。この生成物の構造はLC-MS,GPC、NMRおよびFTIRで確認した。図1のLC-MSクロマトグラム、図2のGPCスキャン、図3から6のNMR、および図9のFT-IRスペクトルは、目的と
するテトラメチルビスフェノールフランフタロニトリル生成物と一致する。テトラメチルビスフェノールフランフタロニトリルに関する融点は、図8に示すように219.6℃であることが分かった。
【実施例3】
【0065】
官能化フタロニトリルモノマー/ベンゾオキサジン
4オンスのガラスジャーに20グラムのフェノール3-アミノフェニルアセチレンベンゾオキサジンを付加した。次いでガラスジャーを材料が融解するまで80℃のオーブンに入れ、次いで撹拌しながら6グラムのフタロニトリル(4,4’-(((フラン-2-イルメチレン)ビス(2,6-ジメチル-4,1-フェニレン))ビス(オキシ))ジフタロニトリル)をガラスジャーに加えた。生じた混合物は、加えた材料が融解したベンゾオキサジンに溶解するまで、時折撹拌した。次いで約14グラムの混合物をアルミニウムの平鍋に移した。65℃で脱気した後、混合物を120℃で2時間、150℃で2時間、180℃で2時間、そして200℃で2時間、段階的に硬化(staged cured)した。新たに作成したサンプルのDSC、および硬化した生成物の半分のDMA,TGAを測定した。硬化した生成物の他の半分は、さらに250℃で3時間、後硬化(post
cured)し、そしてこの硬化した生成物のDMAおよびTGAを測定した。結果を以下の表1に示す。
【実施例4】
【0066】
官能化フタロニトリルモノマー/ベンゾオキサジン
4オンスのガラスジャーに12グラムのフェノール3-アミノフェニルアセチレンベンゾオキサジンを付加した。次いでガラスジャーを材料が融解するまで80℃のオーブンに入れ、次いで撹拌しながら2.4グラムのフタロニトリル(4,4’-(((フラン-2-イルメチレン)ビス(2,6-ジメチル-4,1-フェニレン))ビス(オキシ))ジフタロニトリル)をガラスジャーに加えた。生じた混合物は、加えた材料が融解したベンゾオキサジンに溶解するまで、時折撹拌した。約12.5グラムの混合物をアルミニウムの平鍋に移した。65℃で脱気した後、混合物を120℃で2時間、150℃で2時間、180℃で2時間、そして200℃で2時間、段階的に硬化した。新たに作成したサンプルのDSC、および硬化した生成物の半分のDMA,TGAを測定した。硬化した生成物の他の半分は、さらに250℃で3時間、後硬化し、そしてこの硬化した生成物のDMAおよびTGAも測定した。結果を以下の表1に示す。
【実施例5】
【0067】
官能化フタロニトリルモノマー/ベンゾオキサジン
4オンスのガラスジャーに10.8グラムのフェノール3-アミノフェニルアセチレンベンゾオキサジンを付加した。次いでガラスジャーを材料が融解するまで80℃のオーブンに入れ、次いで撹拌しながら5.38グラムのフタロニトリル(4,4’-(((フラン-2-イルメチレン)ビス(2,6-ジメチル-4,1-フェニレン))ビス(オキシ))ジフタロニトリル)をガラスジャーに加えた。生じた混合物は、加えた材料が融解したベンゾオキサジンに溶解するまで、時折撹拌した。約12.5グラムの混合物をアルミニウムの平鍋に移した。65℃で脱気した後、混合物を120℃で2時間、150℃で2時間、180℃で2時間、そして200℃で2時間、段階的に硬化した。新たに作成したサンプルのDSC、および硬化した生成物の半分のDMA,TGAを測定した。硬化した生成物の他の半分は、さらに250℃で3時間、後硬化し、そしてこの硬化した生成物のDMAおよびTGAも測定した。結果を以下の表1に示す。
【実施例6】
【0068】
比較例
アルミニウムの平鍋に、14グラムのわずかに重合したフェノール3-アミノフェニル
アセチレンベンゾオキサジンを付加した。次いでアルミニウムの平鍋は80℃の真空オーブンに入れて融解し、そして1時間、脱気した。脱気後、材料を120℃で2時間、150℃で2時間、180℃で2時間、そして200℃で2時間、段階的に硬化した。新たに作成したサンプルのDSC、および硬化した生成物の半分のDMA,TGAを測定した。硬化した生成物の他の半分は、さらに250℃で3時間、後硬化し、そしてこの硬化した生成物のDMAおよびTGAも測定した。結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0069】
本発明の様々な態様の作成および使用を上に詳細に記載してきたが、本発明は広い様々な具体的内容に具体化され得る多くの応用可能な概念を提供すると考えるべきである。本明細書で検討した具体的態様は、本発明を作成および使用するための具体的方法の単なる例であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【国際調査報告】