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特表2023-501147局所モードの使用による長い鎖におけるイオン運動の急速冷却
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  • 特表-局所モードの使用による長い鎖におけるイオン運動の急速冷却 図1
  • 特表-局所モードの使用による長い鎖におけるイオン運動の急速冷却 図2A
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  • 特表-局所モードの使用による長い鎖におけるイオン運動の急速冷却 図2C
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(54)【発明の名称】局所モードの使用による長い鎖におけるイオン運動の急速冷却
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/40 20220101AFI20230111BHJP
   G02F 3/00 20060101ALI20230111BHJP
   G06E 3/00 20060101ALI20230111BHJP
   G06F 1/20 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
G06N10/40
G02F3/00
G06E3/00
G06F1/20 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022524685
(86)(22)【出願日】2020-10-14
(85)【翻訳文提出日】2022-06-07
(86)【国際出願番号】 US2020055610
(87)【国際公開番号】W WO2021086615
(87)【国際公開日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】62/929,374
(32)【優先日】2019-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/069,120
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520132894
【氏名又は名称】イオンキュー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】デブナス シャンタヌ
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102BB10
2K102BD03
2K102EB20
2K102EB24
(57)【要約】
【課題】本開示の態様は、局所運動モードの使用による長い鎖におけるイオン運動の急速冷却技術を記載している。
【解決手段】例えば、イオン鎖におけるイオンを冷却する方法が記載され、この方法は、個々のイオンに関連する局所運動モードを励起及び脱励起することにより、前記イオン鎖における前記イオンからフォノンを除去する冷却工程を実行するステップであって、同じイオン鎖に対して集団運動モードよりも局所運動モードでは前記冷却工程の一部である側波帯遷移がより急速に駆動されるステップと、前記局所運動モードが基底状態に達すると前記冷却工程を完了するステップと、を含む。局所運動モードの使用による長い鎖におけるイオン運動の急速冷却のための対応するシステム及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体も記載されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン鎖におけるイオンを冷却する方法であって、
個々のイオンに関連する局所運動モードを励起及び脱励起することにより、前記イオン鎖における前記イオンからフォノンを除去する冷却工程を実行するステップであって、同じイオン鎖に対して、集団運動モードよりも前記局所運動モードでは前記冷却工程の一部である側波帯遷移がより急速に駆動されるステップと、
前記局所運動モードが基底状態に達すると前記冷却工程を完了するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記冷却工程を実行するステップは、前記局所運動モードをそれぞれ励起及び脱励起するためにレーザビームを生成するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記冷却工程を実行するステップは、複数のイオンに関連する前記局所運動モードを並行して励起及び脱励起するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記イオン鎖における前記イオンは、操作イオン及び傍観イオンを含み、前記冷却工程を実行するステップは、前記操作イオンに関連する前記局所運動モードを励起及び脱励起するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記イオン鎖における前記イオンは、均一に間隔を空けて配置され、前記イオン間の間隔は、3ミクロン~6ミクロンの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記冷却工程は、複数のサイクルを含み、各サイクルは、側波帯πパルス及び光ポンピングの形の側波帯遷移を有し、前記側波帯πパルスの継続時間(tπ)は、励起されたイオンとその最も近い隣接イオンとの間のホッピング速度の逆数(1/Hi、i+1)よりも短いか又は該逆数と同じ桁である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記イオン間の間隔が3.5ミクロン~4.5ミクロンの範囲である場合、前記ホッピング速度は、0.2MHz~0.5MHzの範囲にある、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記イオン鎖における前記イオンは、イッテルビウムイオンである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
イオン鎖におけるイオンを冷却するシステムであって、
個々のイオンに関連する局所運動モードを励起及び脱励起することにより、前記イオン鎖における前記イオンからフォノンを除去する冷却工程を実行するように構成された光制御器であって、同じイオン鎖に対して集団運動モードよりも前記局所運動モードでは前記冷却工程の一部である側波帯遷移がより急速に駆動される光制御器を含み、前記光制御器は、前記局所運動モードが基底状態に達すると前記冷却工程を完了するように更に構成される、システム。
【請求項10】
前記冷却工程を実行するように構成された前記光制御器は、前記局所運動モードをそれぞれ励起及び脱励起するためにレーザビームを生成するように構成された複数の光源を含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記冷却工程を実行するように構成された前記光制御器は、複数のイオンに関連する前記局所運動モードを並行して励起及び脱励起するように更に構成される、請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
前記光制御器は複数の光源を更に含み、前記複数の光源は、それぞれが個別に制御可能であり、かつ複数のイオンに関連する前記局所運動モードを並行して励起及び脱励起するために複数のレーザビームを生成するように構成される、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記イオン鎖における前記イオンを保持するように構成されたイオントラップを更に含み、前記イオン鎖における前記イオンは、操作イオン及び傍観イオンを含み、前記光制御器は、前記冷却工程を実行して前記操作イオンに関連する前記局所運動モードを励起及び脱励起するように構成される、請求項9に記載のシステム。
【請求項14】
前記イオン鎖における前記イオンを保持するように構成されたイオントラップを更に含み、前記イオン鎖における前記イオンは、前記イオントラップ内にほぼ又は実質的に均一に間隔を空けて配置され、前記イオン間の間隔は、3ミクロン~6ミクロンの範囲である、請求項9に記載のシステム。
【請求項15】
前記冷却工程は、複数のサイクルを含み、各サイクルは、側波帯πパルス及び光ポンピングの形の側波帯遷移を有し、前記側波帯πパルスの継続時間(tπ)は、励起されたイオンとその最も近い隣接イオンとの間のホッピング速度の逆数(1/Hi、i+1)よりも短いか又は該逆数と同じ桁である、請求項9に記載のシステム。
【請求項16】
前記イオン間の間隔が3.5ミクロン~4.5ミクロンの範囲である場合、前記ホッピング速度は、0.2MHz~0.5MHzの範囲にある、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記イオン鎖における前記イオンは、イッテルビウムイオンである、請求項9に記載のシステム。
【請求項18】
量子情報処理(QIP)システムである、請求項9に記載のシステム。
【請求項19】
プロセッサによって実行可能なコードを記憶するように構成されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、
個々のイオンに関連する局所運動モードを励起及び脱励起することにより、イオン鎖におけるイオンからフォノンを除去する冷却工程を実行するためのコードであって、同じイオン鎖に対して集団運動モードよりも前記局所運動モードでは前記冷却工程の一部である側波帯遷移がより急速に駆動されるコードと、
前記局所運動モードが基底状態に達すると前記冷却工程を完了するためのコードと
を含む、コンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項20】
前記冷却工程は、複数のサイクルを含み、各サイクルは、側波帯πパルス及び光ポンピングの形の側波帯遷移を有し、前記側波帯πパルスの継続時間(tπ)は、励起されたイオンとその最も近い隣接イオンとの間のホッピング速度の逆数(1/Hi、i+1)よりも短いか又は該逆数と同じ桁である、請求項19に記載のコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年10月13日出願の発明の名称「FAST COOLING OF ION MOTION IN A LONG CHAIN USING LOCAL MODES(局所モードの使用による長い鎖におけるイオン運動の急速冷却)」の米国非仮出願第17/069,120号及び2019年11月1日出願の発明の名称「FAST COOLING OF ION MOTION IN A LONG CHAIN USING LOCAL MODES(局所モードの使用による長い鎖におけるイオン運動の急速冷却)」の米国仮出願第62/929,374号の優先権を主張し、これらの出願の内容全体は、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0002】
本開示の態様は、全体として、鎖におけるイオンの冷却に関し、より具体的には、局所モードの使用による長い鎖におけるイオン運動の急速冷却に関する。
【背景技術】
【0003】
トラップされたイオン鎖、例えば、イオントラップ型量子コンピュータ又は量子情報処理(QIP)システムで使用されるトラップされたイオン鎖の全ての集団運動モードの冷却は、信頼性が高くて忠実度がある量子ビット演算に必要とされる。冷却プロセスは、通常、これらの集団運動モードのそれぞれから運動励起又はフォノンを除去するために運動側波帯遷移をコヒーレントに駆動することによって実装される。これらの集団運動モードを同じ時間に冷却するとき、隣接する集団運動モードを励起することなく、各集団運動モードに個別に対処することができるように、この冷却プロセスの実装には、側波帯遷移を十分に遅い速度で駆動する必要がある。イオントラップ型プロセッサのサイズが大きくなり、つまり、鎖における量子ビット又はイオンの数が増加すると、集団運動モードの側波帯冷却プロセスは、鎖の全ての集団運動モードの冷却を達成するのにより時間がかかる。これにより、トラップされたイオンの加熱速度が競合するため、各集団運動モードの運動基底状態の達成が妨げられ、長い時間の側波帯冷却プロセスの結果として、モードの望ましくない再加熱につながる可能性がある。
【0004】
したがって、このプロセスの全体的な継続時間を短縮する、トラップされたイオン鎖の集団運動を冷却する代替の方法を考案することが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、1つ以上の態様の基本的な理解を提供するために、そのような態様の簡略化された要約を提示する。この要約は、考えられる全ての態様の広範な概要ではなく、全ての態様の重要又は不可欠な要素を特定することも、いずれか又は全ての態様の範囲を描写することも意図しない。その唯一の目的は、後で提示されるより詳細な説明の前置きとして、簡略化された形式で1つ以上の態様のいくつかの概念を提示することである。
【0006】
本開示の一態様では、イオン鎖におけるイオンを冷却する方法が記載され、この方法は、個々のイオンに関連する局所運動モードを励起及び脱励起することにより、イオン鎖におけるイオンからフォノンを除去する冷却工程を実行するステップであって、同じイオン鎖に対して集団運動モードよりも局所運動モードでは冷却工程の一部である側波帯遷移がより急速に駆動されるステップを含む。この方法は、局所運動モードが基底状態に達すると冷却工程を完了するステップを更に含む。
【0007】
本開示の別の態様では、イオン鎖におけるイオンを冷却するシステムが記載され、このシステムは、個々のイオンに関連する局所運動モードを励起及び脱励起することにより、イオン鎖におけるイオンからフォノンを除去する冷却工程を実行するように構成された光制御器であって、同じイオン鎖に対して集団運動モードよりも局所運動モードでは冷却工程の一部である側波帯遷移がより急速に駆動される光制御器を含む。この光制御器は、局所運動モードが基底状態に達すると冷却工程を完了するように更に構成される。
【0008】
本開示の更に別の態様では、プロセッサによって実行可能なコードを記憶するように構成されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体が記載され、このコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、個々のイオンに関連する局所運動モードを励起及び脱励起することにより、イオン鎖におけるイオンからフォノンを除去する冷却工程を実行するためのコードであって、同じイオン鎖に対して集団運動モードよりも局所運動モードでは冷却工程の一部である側波帯遷移がより急速に駆動されるコードを含む。このコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、局所運動モードが基底状態に達すると冷却工程を完了するためのコードを更に含む。
【0009】
前述及び関連する目的を達成するために、上記1つ以上の態様は、以下に完全に説明され、特に特許請求の範囲で示される特徴を含む。以下の説明及び添付の図面は、1つ以上の態様の特定の例示的な特徴を詳細に示す。しかしながら、これらの特徴は、様々な態様の原理を使用し得る様々な方法のほんの一部を示しており、この説明は、そのような全ての態様及びそれらの同等物を含むことを意図する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
以下、添付の図面を組み合わせて開示された態様を説明する。添付の図面は、開示された態様を限定するためではなく例示するために提供され、図面では、同様の符号は同様の要素を示す。
【0011】
図1】本開示の態様に係る、線形又は一次元配置でトラップされたイオンの例を示している。
図2A】本開示の態様に係る、トラップされたイオン鎖の異なる集団モード周波数の例を示している。
図2B】本開示の態様に係る、トラップされたイオン鎖の異なる集団モード周波数の例を示している。
図2C】本開示の態様に係る、トラップされたイオン鎖の異なる集団モード周波数の例を示している。
図3】本開示の態様に係る側波帯冷却工程の例を示す略図である。
図4】本開示の態様に係る、イオン鎖における1つのイオンの局所運動モードの例を示す略図である。
図5】本開示の態様に係る、トラップされたイオン鎖におけるイオン間のホッピング速度の例を示す略図である。
図6】本開示の態様に係る量子情報処理(QIP)システムの例を示すブロック図である。
図7】本開示の態様に係るコンピュータデバイスの例を示すブロック図である。
図8】本開示の態様に係る方法の例を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付の図面に関連して以下に記載される詳細な説明は、様々な構成の説明として意図されており、本明細書に説明される概念が実施されてもよい唯一の構成を表すことを意図しない。詳細な説明には、様々な概念を完全に理解するための具体的な詳細が含まれる。しかしながら、これらの概念がこれらの特定の詳細なしで実施されてもよいことは当業者には明らかであろう。場合によっては、そのような概念を曖昧にすることを回避するために、周知のコンポーネントはブロック図の形で示される。
【0013】
上述したように、イオントラップ型プロセッサのサイズを大きくしてコンピューティング能力を高めることにより、プロセッサとして使用されるイオン鎖における量子ビット又はイオンの数が増加し、そして集団運動モードの側波帯(サイドバンド)冷却プロセスは、鎖の全ての集団運動モードの冷却を達成するのにより時間がかかる。これにより、トラップされたイオンの加熱速度が競合するため、各集団運動モードの運動基底状態の達成が妨げられ、長い時間の側波帯冷却プロセスの結果として、モードの望ましくない再加熱につながる可能性がある。したがって、このプロセスの全体的な継続時間を短縮する、トラップされたイオン鎖の集団運動を冷却する代替の方法を考案することが望ましい。そのような方法の1つでは、各イオンの局所運動モード側波帯を駆動し、冷却プロセスにおいて鎖における全てのイオンを並列して使用する必要がある。
【0014】
したがって、本開示は、鎖の集団運動モードを冷却するための、鎖における個々のイオンの運動の局所モードの使用を説明する。イオン間の強い静電反発力により、鎖における任意のイオンの運動が励起の隣接イオンへの移動又はホッピング速度よりも急速に摂動される場合、局所モードが励起される可能性がある。鎖における各イオンに対応する局所運動モードの運動側波帯遷移をコヒーレントに駆動することにより、鎖における全てのイオンを同時に駆動することにより全ての局所運動モードを並行して冷却することが可能になる可能性がある。このアプローチにより、鎖の集団運動モードが基底状態近くまで冷却され、その後にイオントラッププロセッサにおけるゲート演算の忠実度が向上する。局所運動モードを使用する全体的な冷却プロセスは、冷却中に鎖における複数のイオンが同時に使用されるため、集団運動モードを使用する冷却プロセスと比較して短くなる。これは、局所運動モードと共鳴する側波帯遷移の駆動が、集団運動モードと共鳴する側波帯遷移の駆動よりもはるかに急速に実行され、また必要な冷却サイクルの数が、イオン鎖の初期温度(フォノン励起の平均数)によって制御される集団運動モードの冷却に必要な数と同等又は同じであるためである。
【0015】
したがって、本開示は、運動の局所モードを使用することによって長いイオン鎖をより効率的に冷却するための機構又はスキームを説明する。運動の局所モードは、イオントラップに関連して現在広く使用されている概念又はアプローチではなく、通常、より大きなイオン鎖の状況で見られるだけである。例えば、長いイオン鎖がある場合、この鎖が非常に長いため、(鎖における複数又は全てのイオンの集団運動ではなく)鎖における単独又は個々のイオンの運動の摂動は、鎖全体に伝播するのに時間がかかる場合がある。運動は、伝播し始まるまで、単にイオンの局所運動である。イオン鎖は、バネで接続された複数の質量体(例えば、イオン)と見なすことができる。鎖におけるイオンが一緒に振動するとき、この振動は集団運動と呼ばれ、様々な振動モードは集団運動モード、運動の集団モード又は運動の通常モードと呼ばれる。鎖全体が同じ周波数で振動する場合、集団運動モードが存在する可能性がある。更に、鎖におけるイオンと同じ数の集団運動モードがある(例えば、集団運動モードの数と鎖におけるイオンとの間には1対1の対応関係がある)。集団運動モードでは、長時間スケールから見たとき、鎖全体が一緒に移動するため、鎖全体のイオンが互いに通信する。しかしながら、短時間スケールでは、あるイオンの運動が別のイオンの運動に影響を与え、この運動を時間の経過とともに平均すると、集団運動モードのように見える。
【0016】
集団運動モードは、例えば、2量子ビット量子ゲートなどの量子ゲートを実装するために使用できる。長いイオン鎖では、集団運動モードは、イオン間の情報交換の媒体を形成する。例えば、これらの通常運動モード又は集団運動モードを使用して、量子ビット(例えば、イオン)を鎖における様々なイオンと絡ませることによって、2量子ビット量子ゲートを実装することができる。
【0017】
量子演算で高い忠実度を達成するために、集団運動モードから励起を除去することによって、集団運動モードを冷却する必要がある。このプロセスは、鎖におけるイオンを基底状態に冷却することによって(例えば、イオンを凍結することによって)行われてもよく、また、集団運動モードのそれぞれに対してこのようにすることができる。1つのアプローチは、特定の共鳴周波数を有する特定の集団運動モードを励起し、その周波数で共鳴するとき、イオンにレーザビームを印加してラマン遷移を実行することにより側波帯遷移を駆動して運動励起を除去することである。このアプローチに基づいて、ユニットパケット、量子又はフォノンを集団運動モードから除去して、集団運動モードを冷却することができる。
【0018】
この冷却プロセスは、非常に時間とリソースがかかる可能性がある。鎖が長くなると、運動モードの数が鎖におけるイオンの数に比例して増加するため、冷却される集団運動モードがより多くなる。
【0019】
生じる別の問題は、鎖の長さが増加しても(すなわち、イオンの数が増加しても)、イオン鎖における(すなわち、イオンを保持するトラップにおける)イオン間の間隔が変化しないことである。これは、イオン間の間隔が、システムで使用される光学系の制限及び/又はイオンから光が収集される方法によって決定されるためである。つまり、鎖におけるイオンの制御及び操作を可能にする様々な光学設定は、通常、イオン間の特定の間隔(たとえば、通常3~6ミクロンの範囲)に最適化される。したがって、鎖におけるイオン間の間隔は、システムに依存し、通常同じままである。
【0020】
図1は、線形又は一次元配置、例えば、線形結晶又はイオン鎖110にトラップされ、原子イオン106間に同じ間隔115を有する複数の原子イオン106を示す略図100を示している。本開示で使用される場合、「原子イオン」及び「イオン」という用語は、交換可能に使用されてもよい。イオン106は、線形無線周波数(RF)トラップ、例えば線形RFポール(Paul)トラップを使用することによって、鎖110にトラップされ、構成されてもよい(鎖110は、図示されていない真空チャンバー内にあってもよい)。図1に示される例では、トラップは、鎖110に閉じ込められ、ほぼ静止するようにレーザ冷却される複数のイッテルビウムイオン(例えば、171Ybイオン)をトラップするための電極を含んでもよい。他の原子種も使用できる。トラップされた原子イオンの数は設定可能であり、図1に示されるものよりも多い又は少ない原子イオンがトラップされてもよい。一例では、トラップされてもよいイオンの数はNであり、Nは1よりも大きく、Nは、100又はそれ以上の数であり、いくつかの実装では、N=32である。イオンは、171Ybの共鳴に調整されたレーザ(光学)放射線で照射され、イオンの蛍光がカメラに画像化されてもよい。この例では、蛍光によって示されるように、イオンは互いに約5ミクロン(μm)分離されてもよい。原子イオンの分離は、外部からの閉じ込め力とクーロン反発力との間のバランスの関数であり、上述したように、鎖110におけるイオンの制御及び操作を可能にする光学設定の最適化を条件とする(その最適化に基づいて決定される)。
【0021】
量子プロセッサ(例えば、鎖110におけるイオンから得られた量子ビットに基づくプロセッサ)がより多くの量子ビットを有することができるように、鎖110におけるイオンの数を増加させることによって、鎖110に関連する集団運動モードの数も増加する。イオン間の間隔が小さい場合により多くのイオンを追加しても鎖110のサイズが明らかには変化しないため、集団運動モードの数の増加に関連する周波数は、互いに近づき始める。これは、スペクトル混雑と呼ばれ得る。このような場合、冷却プロセス中に各集団運動モードを別々に駆動することが望ましいが、これらの集団運動モードの周波数が近づくにつれて、別の集団運動モードを駆動せずにある集団運動モードを優先的に駆動することが困難になる可能性がある。別の集団運動モードを励起することを回避するために、検討中の集団運動モードを非常にゆっくりと駆動する必要がある。したがって、集団運動モードの冷却は、集団運動モードを適切に駆動するために必要な時間スケールによって根本的に制限される。その結果、側波帯遷移を使用してフォノンを除去することによって集団運動モードの冷却を実行しようとすると、集団運動モードを冷却するために必要な工程にかかる全体的な時間が非常に長くなり、すぐに利用可能で量子演算を実行する準備ができている量子コンピューティングシステムを有する能力に影響を与える。
【0022】
図2A~2Cは、本開示の態様に係る、トラップされたイオン鎖の異なる集団モード周波数の例を示す略図200a~200cを示している。各略図は、周波数帯域内に異なる数のイオンを有するトラップされたイオン鎖の様々な集団運動モードを示している。図2Aの略図200aは、7個のイオンを有するイオン鎖に対応するため、集団運動モードについて7個の周波数が示されている。図2Bの略図200bは、17個のイオンを有するイオン鎖に対応するため、集団運動モードについて17個の周波数が示されている。同様に、図2Cの略図200cは、27個のイオンを有するイオン鎖に対応するため、集団運動モードについて27個の周波数が示されている。この例では、鎖における隣接イオン間の横方向閉じ込めと平均間隔は、全ての場合でそれぞれ3MHzと4.3ミクロンで一定に保持されている。これらの計算は、イオントラップ型プロセッサで鎖の長さが長くなると、δwとして示される隣接するモード周波数間の間隔の値が減少する集団運動モードのスペクトル混雑が発生することを示している。したがって、δwの値は、任意の2つの集団運動モード又は通常運動モード間の周波数分割を指してもよい。したがって、δwは、集団運動モードの側波帯をどれだけ遅く駆動してモードを冷却するかを指示する。δwが低下すると、冷却継続時間は1/δwとして増加する。
【0023】
図3は、上述したような側波帯冷却工程の例の略図300を示しており、この側波帯冷却工程は、側波帯πパルス及び量子ビットの光ポンピングの反復サイクルからなる。例えば、第1のサイクル310aは、側波帯πパルス315aと、それに続く光ポンピング320aとを有することが示されている。第2のサイクル310bは、側波帯πパルス315bと、それに続く光ポンピング320bとを有することが示されている。その後、同様のサイクルが繰り返される。側波帯πパルス(例えば、315a、315b)は、フォノンを除去するために使用されるが、量子ビットのスピン状態も変化させる。次に、光ポンピング(例えば、320a、320b)を使用して、スピン状態を元の形式に戻す。側波帯πパルスの継続時間は、使用される側波帯冷却スキームの選択によって設定されるtπである。集団運動モードの側波帯冷却スキームでは、各モードが個別に分割されて対処されるように、tπ>l/δwが必要とされる。イオン鎖の運動を基底状態近くまで冷却するために必要なサイクルの数は、各集団運動モードでの平均振動/フォノン励起に比例する。図2A~2Cに示されるようなスペクトル混雑のため、集団運動モードの側波帯冷却は、鎖の長さ(すなわち、鎖におけるイオンの数)が増加するにつれて遅くなる。換言すれば、鎖におけるイオンの数が増加すると、周波数がより混雑し、δwがより小さくなるため、側波帯πパルス(例えば、315a、315b)の継続時間が長くなる。
【0024】
イオン鎖の運動を基底状態近くまで冷却するのにかかる時間を短縮し、またイオンの数が増加するにつれてそのようなプロセスが明らかに長くなることを回避するために、本開示は、集団運動モードの代わりに、局所運動モード又は運動の局所モードの使用を提案する。このアプローチにはいくつかの利点がある。このプロセスにはフォノンの除去が含まれるため、局所運動モードの冷却では、イオンを冷却して運動励起を除去することにより、集団運動モードの冷却と同じ結果が得られる。つまり、集団運動モードと局所運動モードの間に関係(例えば、線形変換)があるため、フォノンの除去は、両方の状況で同じ効果がある。
【0025】
局所運動モード及び側波帯遷移を使用してフォノンを除去し、フォノンが局所運動モードから除去されていることを保証するために、この遷移を非常に急速に駆動することが重要である。したがって、このアプローチは、デフォルトで冷却プロセスの動作速度を向上させる。遷移を急速に駆動する理由は、局所運動モードの概念が非常に短い時間スケールの状況でのみ有効であることである。したがって、局所運動モードは、あるイオンから隣接イオンにホッピング又はジャンプすることよりも急速に駆動される必要がある。一般的に、あるイオンがその位置に移動すると、このイオンが隣接イオンを摂動させる傾向がある。しかしながら、あるイオンが十分に急速に移動し、情報がこのイオンから隣接イオンに移動することよりも急速に移動すると、隣接イオンに影響を与えることなく、このイオンを励起又は脱励起することができる。このアプローチにより、局所運動モードの使用が可能になり、冷却プロセスが加速される。
【0026】
図4は、イオン鎖における1つのイオン410の局所運動モードの例を示す略図400を示している。略図400は、より長いイオン鎖における少数のイオンを示しており、その中に、1つのイオン410(例えば、イオンi)の局所運動モードは、局所横方向運動励起又はフォノン数を変化させるレーザビーム420を使用して励起又は脱励起される。この局所横方向運動は、黒い実線の矢印で示される方向にある(例えば、イオン410の周りの上下矢印)。このイオンと隣接イオンの静電反発力のため、この局所モード励起は、イオン410(例えば、イオンi)から隣接イオンjに速度Hijでホッピング又はジャンプする可能性がある。ホッピングの速度は、イオン間の均一な間隔D(例えば、図1の略図100の間隔115)によって決定される。
【0027】
図5は、トラップされたイオン鎖におけるイオン間のホッピング速度の例を示す略図500を示している。この特定の例は、約3MHzの均一な横方向閉じ込め及び鎖におけるイオン間の可変であるが均一に(又はほぼ均一に)設定された間隔を有する、トラップされたイッテルビウムイオン鎖におけるイオン間のホッピング速度を示している。線510aは、イオン間隔(例えば、D)が3.5ミクロンである場合のホッピング速度に対応し、線510b及び510cは、それぞれ、イオン間隔が4ミクロン及び4.5ミクロンである場合のホッピング速度に対応する。ホッピング速度は、鎖の全長に依存せず、イオン間隔に依存する。更に、ホッピング速度は、最も近い隣接イオン間で最も大きく、イオン間の距離の3乗として急速に減少する。したがって、図3の略図300に示されるように、局所モードの側波帯冷却プロトコルにおいて各イオンの局所運動モード(例えば、局所フォノンモード)を、tπ<1/Hi、i+1を使用して、操作する必要がある。これには、集団運動モードの側波帯冷却で使用される側波帯πパルスと比較して、はるかに急速な側波帯πパルス(例えば、側波帯πパルス315a、315b)が必要とされる。より急速な側波帯πパルスは、モードをより速く駆動するように、より多くのレーザ出力(例えば、図4の略図400のレーザビーム420に対してより大きな出力)の使用が必要とされる可能性がある。しかしながら、必要な繰り返しの回数は、イオン鎖の初期温度によって設定されるのと同じである。追加的に、複数のレーザビームを使用することが可能であり、各レーザビームが鎖における個々のイオンを同時に脱励起するように調整され、それにより局所運動モードを並行して冷却する。散在する(不連続の)ポンピング継続時間(例えば、ポンピング320a、320b)により、局所運動モードの脱励起を鎖全体に伝播させることが可能になり、それにより鎖の集団運動を冷却することが可能になる。したがって、局所運動モードの側波帯冷却技術は、長いイオン鎖をその運動基底状態に冷却するための全体的な継続時間を劇的に短縮する。
【0028】
図500は、全体として、ホッピング速度が距離とともに非常に急速に低下し、鎖におけるイオン間の間隔を変更しても実質的に変化しないことを示している。したがって、局所運動モードを操作する場合、局所運動モードが駆動される速度は、主にイオン間の間隔によって支配され、鎖のサイズによってそれほど支配されない。一方では、上述したように、鎖のサイズ(つまり、鎖におけるイオン又は量子ビットの数)は、任意の2つの集団運動モード又は通常運動モード間の周波数分割δwに依存する。
【0029】
上述したように、局所運動モードを使用する冷却プロセスを並行して実行することができ、すなわち、鎖における各イオンを個別に並行に十分に急速に駆動することができ、それにより情報があるイオンから任意の隣接イオンに移動することなく、このイオンの局所運動を脱励起することができる。1つのイオンが脱励起される前に情報が隣接イオンに移動すると、局所運動モードが制御できなくなる可能性がある。
【0030】
局所運動モードを並行して駆動することは、少なくとも2つの利点を有する。第1に、局所運動モードを急速に駆動する必要があるため、デフォルトでプロセスがより急速になることであり、第2に、全ての局所運動モードを同じ時間に(例えば、同時に又は並行に)駆動することができるため、処理も促進される。
【0031】
また、局所運動モードを冷却するために全てのイオンを駆動する必要がない。実験的なレベルの快適さがある鎖におけるごくわずかのイオンを駆動することができる。例えば、イオン鎖には、操作イオン、つまり、様々な演算、計算又は実験のための量子ビットとして使用されるイオンと見なされるいくつかのイオンが含まれてもよい。傍観イオンと呼ばれる1つ以上のイオンが鎖に存在してもよく、これらのイオンは、鎖の安定化を支援するために使用されるが、ラマン遷移が実行されない。
【0032】
鎖における全てのイオンが駆動されるか又は鎖におけるイオンのサブセットのみが駆動されるに関わらず、局所運動モードからフォノン励起を除去した後に情報が鎖全体を急速に移動するため、鎖全体を冷却することができる。つまり、(例えば、1つ以上のフォノンを除去することによって)1つのイオンからエネルギーを除去した後、エネルギーは、鎖における残りのイオンからそのイオンに逆流するため、鎖におけるイオンのセット全体から本質的に除去される。安定した固有振動モードであり、かつ互いに独立している集団運動モード又は通常運動モードとは異なり、局所運動モードは、互いに相互作用する傾向がある。例えば、また上述したように、フォノンが1つの局所運動モードから除去されると、別の局所運動モードは、除去されたフォノンを埋めるためにホッピングオーバーする可能性があるフォノンを失う可能性がある。したがって、局所モードが相互に作用するため、鎖全体を冷却することができる。この冷却は、いくつかの冷却サイクルを実行してシステム内の局所運動モードの全てのフォノンを除去し、これらのモードを基底状態にする(これは、システム内の集団運動モード又は通常運動モードが基底状態にあることも意味する)ことで実行できる。したがって、局所運動モードを非常に急速に冷却することにより、基底状態の集団運動モードを達成することができる。
【0033】
図6は、本開示の態様に係る量子情報処理(QIP)システム600の例を示すブロック図である。QIPシステム600はまた、量子コンピューティングシステム、コンピュータデバイス、イオントラップ型システム、イオントラップ型量子コンピュータなどと呼ばれることもある。一態様では、QIPシステム600は、量子計算及び量子実験を実行するように構成されてもよい。更に、QIPシステム600は、イオン鎖におけるイオンの冷却を実行して、鎖をプロセッサ又はプロセッサの一部として使用するように準備するように構成されてもよい。より具体的には、QIPシステム600は、局所運動モードを使用して鎖におけるイオン運動の急速冷却を実行するように構成されてもよい。或いは、QIPシステム600は、集団運動モード又は通常運動モードを使用して鎖におけるイオン運動の冷却を実行するように構成されてもよい。イオン鎖の長さは変化してもよく、つまり、鎖におけるイオン(例えば、量子ビット)の数は動的に増減してもよい。
【0034】
QIPシステム600は、チャンバー650に原子種(例えば、中性原子のフラックス)を提供する源660を含んでもよく、このチャンバー650は、光制御器620によって一度イオン化された(例えば、光イオン化された)原子種をトラップするイオントラップ670を有する。イオントラップ670を使用して、図1の略図100に関連して上述した鎖110などの線形アレイにイオンをトラップしてもよい。イオントラップ670は、イオントラップ型プロセッサ又はその一部であると見なすことができる。光制御器620内の光源630は、原子種のイオン化、原子イオンの制御、光制御器620内の撮像システム640で動作する画像処理アルゴリズムによって監視及び追跡ができる原子イオンの蛍光に、及び/又は本開示で説明される冷却機能の実行のために使用できる1つ以上のレーザ源(例えば、光学ビーム又はレーザビームの源)を含んでもよい。光源630は、レーザビームの線形アレイを制御及び生成して、イオントラップ670内の鎖のイオンに対して並行動作を実行するように構成されてもよい。一態様では、光源630は、光制御器620とは別に実装されてもよい。
【0035】
撮像システム640は、高解像度撮像装置(例えば、CCDカメラ)を含んでもよく、この高解像度撮像装置は、原子がイオントラップ670に提供されている間及び/又は原子がイオントラップ670に提供されて光イオン化された後に原子を監視する。一態様では、撮像システム640は、光制御器620とは別に実装されてもよいが、画像処理アルゴリズムを使用して原子イオンを検出、識別、標識及び/又は制御するための蛍光の使用は、光制御器620と調和する必要がある場合がある。
【0036】
QIPシステム600はまた、単一量子ビット演算及び/又はマルチ量子ビット演算(例えば、2量子ビット演算)の大量若しくは一連の組み合わせ並びに拡張量子計算を含む、量子アルゴリズム又は量子演算を実行するために、QIPシステム600の他の部分(図示せず)と共に動作し得るアルゴリズムコンポーネント610を含んでもよい。したがって、アルゴリズムコンポーネント610は、量子アルゴリズム又は量子演算の実装を可能にするために、QIPシステム600の様々なコンポーネント(例えば、光制御器620)に命令を提供してもよい。
【0037】
光制御器620は、冷却動作の様々な態様を制御するように構成された冷却コンポーネント645を含んでもよい。例えば、冷却コンポーネント645は、図3の略図300に関連して上述したような一連のサイクルを制御してもよい。この点に関して、冷却コンポーネント645は、側波帯πパルス(例えば、側波帯πパルス315a、315b)の継続時間、光ポンピング(例えば、ポンピング320a、320b)の継続時間及び/又は一連のサイクル(例えば、サイクル310a、310b)の数及びタイミングを制御してもよい。
【0038】
冷却コンポーネント645は、局所運動モードを使用してイオン鎖におけるイオンを冷却するために本明細書に記載される全ての態様を制御及び処理するように構成されたコンポーネントである局所モード645aを含んでもよい。冷却コンポーネント645は、集団運動モードを使用してイオン鎖におけるイオンを冷却するために本明細書に記載される全ての態様を制御及び処理するように構成されたコンポーネントである集団モード645bを任意選択に含んでもよい。冷却コンポーネント645は、局所運動モード(例えば、局所モード645a)又は集団運動モード(例えば、集団モード645b)の使用に基づくようにその動作を選択するように構成されてもよい。
【0039】
これより図7を参照して、本開示の態様に係るコンピュータデバイス700の例が示される。コンピュータデバイス700は、例えば、単一のコンピューティングデバイス、複数のコンピューティングデバイス又は分散コンピューティングシステムを表すことができる。コンピュータデバイス700は、量子コンピュータ(例えば、QIPシステム)、古典的コンピュータ又は量子コンピューティング機能と古典的コンピューティング機能の組み合わせとして構成されてもよい。例えば、コンピュータデバイス700は、トラップされたイオン技術に基づく量子アルゴリズムを使用して情報を処理するために使用されてもよいため、局所運動モードを使用してイオン鎖におけるイオンを冷却する、説明された技術のいくつかの技術を実装してもよい。本明細書に説明される技術を実装することができるQIPシステムとしてのコンピュータデバイス700の一般的な例は、図6及びQIPシステム600に関連して上で説明された例に示されている。
【0040】
一例では、コンピュータデバイス700は、本明細書に説明される1つ以上の特徴に関連する処理機能を実行するためのプロセッサ710(例えば、イオントラップ型プロセッサ)を含んでもよい。例えば、プロセッサ710は、イオン又は原子に記憶された量子情報を操作する態様を制御、調整及び/又は実行するように構成されてもよい。プロセッサ710は、単一又は複数のセットのプロセッサ又はマルチコアプロセッサを含んでもよい。更に、プロセッサ710は、統合処理システム及び/又は分散処理システムとして実装されてもよい。プロセッサ710は、中央処理装置(CPU)、量子処理装置(QPU)、画像処理装置(GPU)又はこれらの種類のプロセッサの組み合わせを含んでもよい。一態様では、プロセッサ710は、より特定の機能を実行するための追加のプロセッサ710も含み得るコンピュータデバイス700の一般的なプロセッサを指してもよい。プロセッサ710は、1つ以上のトラップされたイオンを使用して、量子演算、アルゴリズム又はシミュレーションを実行することを含んでもよい。
【0041】
一例では、コンピュータデバイス700は、本明細書に説明される機能を実行するためにプロセッサ710によって実行可能な命令を記憶するためのメモリ720を含んでもよい。実装において、例えば、メモリ720は、本明細書に説明される1つ以上の機能又は演算を実行するためのコード又は命令を記憶するコンピュータ読み取り可能な記録媒体に対応してもよい。一例では、メモリ720は、図8に関連して以下に説明される方法800の態様を実行するための命令を含んでもよい。プロセッサ710と同様に、メモリ720は、より特定の機能のための命令及び/又はデータを記憶するための追加のメモリ720も含み得るコンピュータデバイス700の一般的なメモリを指してもよい。
【0042】
更に、コンピュータデバイス700は、本明細書に説明されるようにハードウェア、ソフトウェア及びサービスを利用する1つ以上の関係者との通信の確立及び維持を提供する通信コンポーネント730を含んでもよい。通信コンポーネント730は、コンピュータデバイス700上のコンポーネント間、並びにコンピュータデバイス700と、通信ネットワークをわたって配置されたデバイス及び/又はコンピュータデバイス700にシリアル若しくはローカルに接続されたデバイスなどの外部デバイスとの間の通信を行ってもよい。例えば、通信コンポーネント730は、1つ以上のバスを含んでもよく、外部デバイスと対話するように動作可能な送信機及び受信機にそれぞれ関連する送信チェーンコンポーネント及び受信チェーンコンポーネントを更に含んでもよい。
【0043】
追加的に、コンピュータデバイス700は、データストア740を含んでもよく、データストア740は、ハードウェア及び/又はソフトウェアの任意の適切な組み合わせであってもよく、本明細書に説明される実装に関連して使用される情報、データベース及びプログラムの大容量記憶を提供する。例えば、データストア740は、オペレーティングシステム760(例えば、古典的OS又は量子OS)のためのデータリポジトリであってもよい。一実装では、データストア740は、メモリ720を含んでもよい。
【0044】
コンピュータデバイス700はまた、コンピュータデバイス700のユーザーからの入力を受信するように動作可能であり、更にユーザーに提示するための出力を生成するように、又は(直接的又は間接的に)異なるシステムに提供するように動作可能なユーザーインタフェースコンポーネント750を含んでもよい。ユーザーインタフェースコンポーネント750は、キーボード、テンキー、マウス、タッチ感応ディスプレイ、デジタイザ、ナビゲーションキー、機能キー、マイクロフォン、音声認識コンポーネント、ユーザーからの入力を受信することができる任意の他の機構、又はそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない1つ以上の入力デバイスを含んでもよい。更に、ユーザーインタフェースコンポーネント750は、ディスプレイ、スピーカー、触覚フィードバック機構、プリンタ、ユーザーに出力を提示することができる任意の他の機構、又はそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない1つ以上の出力デバイスを含んでもよい。
【0045】
一実装では、ユーザーインタフェースコンポーネント750は、オペレーティングシステム760の動作に対応するメッセージを送信及び/又は受信してもよい。また、プロセッサ710は、オペレーティングシステム760及び/又はアプリケーション若しくはプログラムを実行してもよく、メモリ720又はデータストア740は、オペレーティングシステム760及び/又はアプリケーション若しくはプログラムを記憶してもよい。
【0046】
コンピュータデバイス700がクラウドベースのインフラストラクチャーソリューションの一部として実装される場合、ユーザーインタフェースコンポーネント750は、クラウドベースのインフラストラクチャーソリューションのユーザーがコンピュータデバイス700とリモートで対話することを可能にするために使用されてもよい。
【0047】
図8は、本開示の態様に係る、イオン鎖におけるイオンを冷却するための方法800の例を示す流れ図である。一態様では、方法800の機能は、イオントラップ型システム又はQIPシステムの1つ以上のコンポーネント、例えばQIPシステム600及びそのコンポーネント(例えば、光制御器620及びそのコンポーネント又はサブコンポーネント)によって実行されてもよい。同様に、方法800の機能は、コンピュータデバイスの1つ以上のコンポーネント、例えばコンピュータデバイス700及びそのコンポーネントによって実行されてもよい。
【0048】
810では、方法800は、個々のイオンに関連する局所運動モードを励起及び脱励起することにより、イオン鎖におけるイオンからフォノンを除去する冷却工程(例えば、局所運動モードに適用される図3の略図300を参照)を実行するステップを含み、同じイオン鎖に対して集団運動モードよりも局所運動モードでは冷却工程の一部である側波帯遷移がより急速に駆動される。イオン鎖におけるイオンはイッテルビウムイオンであることができるが、他の種類のイオンも使用できる。
【0049】
820では、方法800は、局所運動モードが基底状態に達すると冷却工程を完了するステップを含む。
【0050】
方法800の別の態様では、冷却工程を実行するステップは、各局所運動モードを励起及び脱励起するためにレーザビームを生成するステップを含む。
【0051】
方法800の別の態様では、冷却工程を実行するステップは、複数のイオンに関連する局所運動モードを並行して励起及び脱励起するステップを含む。
【0052】
方法800の別の態様では、イオン鎖におけるイオンは、操作イオン及び傍観イオンを含み、冷却工程を実行するステップは、操作イオンに関連する局所運動モードを励起及び脱励起するステップを含む。
【0053】
方法800の別の態様では、イオン鎖におけるイオンは、均一に(ほぼ又は実質的に均一に)間隔を空けて配置され、イオン間の間隔は3ミクロン~6ミクロンの範囲である。
【0054】
方法800の別の態様では、冷却工程は、複数のサイクルを含み、各サイクルは、側波帯πパルス及び光ポンピングの形の側波帯遷移を有し、側波帯πパルスの継続時間(tπ)は、励起されたイオンとその最も近い隣接イオンとの間のホッピング速度の逆数(1/Hi、i+1)よりも短いか又は該逆数と同じ桁である。ホッピング速度は、鎖におけるイオン間の間隔と、使用されている特定の種類のイオンの電荷及び質量とによって決定され得る。例えば、トラップされたイッテルビウムイオン間の間隔が3.5ミクロン~4.5ミクロンの範囲である場合、ホッピングは、0.2MHz~0.5MHzの範囲にあることができる(例えば、図5の略図500を参照)。
【0055】
本開示の前述の説明は、当業者が本開示を製造又は使用できるようにするために提供される。本開示に対する様々な変更は、当業者にとって容易に明らかであり、本明細書に定義される一般的な原理は、本開示の精神又は範囲から逸脱することなく、他の変形例に適用されてもよい。更に、説明された態様の要素は、単数形で説明又は請求項に記載され得るが、単数形への限定が明示的に述べられていない限り、複数形が企図される。追加的に、特に明記しない限り、任意の態様の全部又は一部を、任意の他の態様の全部又は一部と共に利用することができる。したがって、本開示は、本明細書に説明される例及び設計に限定されるものではなく、本明細書に開示される原理及び新規の特徴と適合する最も広い範囲が与えられるものである。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】