(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(54)【発明の名称】近接した音源群のためのスペクトル補償フィルタ
(51)【国際特許分類】
H04R 3/12 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
H04R3/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525004
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(85)【翻訳文提出日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 EP2020082077
(87)【国際公開番号】W WO2021094549
(87)【国際公開日】2021-05-20
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507325312
【氏名又は名称】メリディアン オーディオ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホリンズヘッド リチャード ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】グリベン クリストファー エイ
(72)【発明者】
【氏名】ホブデン ローレンス ジェイ
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220AA16
5D220AB06
(57)【要約】
音源の第1ラインアレイを駆動する信号を生成する方法。音源の第1ラインアレイは、1次音源及び1つ以上の2次音源を備える。本方法は、オーディオシステムの第1チャンネルについてのオーディオ信号を受け取ること、前記オーディオ信号から、第1信号及び第2信号を導出すること、ローパスフィルタを前記第2信号に適用させることによって、前記1つ以上の2次音源を駆動する第2駆動信号を生成すること、及び対応する高域周波数シェルビングフィルタを前記第1信号に適用させることによって、前記1次音源を駆動する第1駆動信号を生成することを含む。平坦化された音場を発生させるためのコンピュータプログラム製品及びオーディオシステムも提供される。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源の第1ラインアレイを駆動するための信号を生成する方法であって、前記音源の第1ラインアレイは、1次音源及び1つ以上の2次音源を備え、前記方法は、
オーディオシステムの第1チャンネルについてのオーディオ信号を受け取ること、
前記オーディオ信号から、第1信号及び第2信号を導出すること、
ローパスフィルタを前記第2信号に適用させることによって、前記1つ以上の2次音源を駆動する第2駆動信号を生成すること、及び
対応する高域周波数シェルビングフィルタを前記第1信号に適用させることによって、前記1次音源を駆動する第1駆動信号を生成すること
のステップを含む方法。
【請求項2】
フィルタの特性周波数の近傍でのエネルギーの損失を生じる、前記ローパスフィルタ及び前記高域周波数シェルビングフィルタの相対的な位相応答に起因する追加の干渉を補償するように、オールパスフィルタを前記第1信号に適用することをさらに含む
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1駆動信号及び前記第2駆動信号の間のタイムアライメントを改善するように、オールパスフィルタを前記第1信号に適用することと、オールパスフィルタを前記第2信号に適用することとをさらに含む
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ローパスフィルタ及び前記高域周波数シェルビングフィルタのそれぞれの特性周波数は、前記1次音源及び前記1つ以上の2次音源からリスニングポジションに音が到達する時間遅延の2倍の逆数にほぼ等しい
請求項1-3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記高域周波数シェルビングフィルタのゲインgが、g=20log
10(N+1)であり、ここでNは前記2次音源の数である
請求項1-4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記音源のラインアレイは、1次スピーカー及び1つ以上の2次スピーカーを含むスピーカーの第1ラインアレイである
請求項1-5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
オーディオシステムの1つ以上のプロセッサ上で実行されるとき、前記オーディオシステムに請求項1-6のいずれか1項に記載の前記方法を実行させる、コンピュータ実行可能なコードを備えたコンピュータプログラム製品。
【請求項8】
既存のデジタルシグナルプロセッサの音源システムのアップデート又は改良品として実現される
請求項7に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項9】
既存のマルチチャンネル又はステレオオーディオプロセッサのアップデート又は改良品として実現される
請求項7に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項10】
請求項1-6のいずれか1項の前記方法を実行するように構成された1つ以上のデジタルシグナルプロセッサ群を備えるオーディオシステム。
【請求項11】
前記高域周波数シェルビングフィルタは前記1次音源と関連付けられたデジタルシグナルプロセッサによって実現され、前記ローパスフィルタは前記1つ以上の2次音源と関連付けられた少なくとも1つのデジタルシグナルプロセッサによって実現される
請求項10に記載のオーディオシステム。
【請求項12】
平坦化された音場を生成するオーディオシステムであって、前記オーディオシステムは、
1次音源と1つ以上の2次音源とを備えた音源の第1ラインアレイであって、
前記1次音源は第1駆動信号によって駆動され、前記1つ以上の2次音源は第2駆動信号によって駆動され、
第1信号及び第2信号は、前記オーディオシステムの第1チャンネルについて受け取られたオーディオ信号から導出される、
第1ラインアレイと、
前記第2信号に適用されて前記第2駆動信号を生成するローパスフィルタと、
第1信号に適用されて前記第1駆動信号を生成する対応する高域周波数シェルビングフィルタと
を備えるオーディオシステム。
【請求項13】
フィルタの特性周波数の近傍でのエネルギーの損失を生じる、前記ローパスフィルタ及び前記高域周波数シェルビングフィルタの相対的な位相応答に起因する追加の干渉を補償するように、前記第1信号に適用されるオールパスフィルタをさらに備える
請求項10-12のいずれか1項に記載のオーディオシステム。
【請求項14】
前記第1駆動信号及び前記第2駆動信号の間のタイムアライメントを改善するように、前記第1信号及び前記第2信号の両方に適用される追加の、異なるオールパスフィルタをさらに備える
請求項10-13のいずれか1項に記載のオーディオシステム。
【請求項15】
前記ローパスフィルタ及び前記高域周波数シェルビングフィルタのそれぞれの特性周波数は、前記1次音源及び前記1つ以上の2次音源からリスニングポジションに音が到達する間の時間遅延の2倍の逆数にほぼ等しい
請求項10-14のいずれか1項に記載のオーディオシステム。
【請求項16】
前記高域周波数シェルビングフィルタのゲインgが、g=20log
10(N+1)であり、ここでNは前記2次音源の数である
請求項10-15のいずれか1項に記載のオーディオシステム。
【請求項17】
前記第1ラインアレイの前記音源は、壁面に取り付けるためのものである
請求項10-16のいずれか1項に記載のオーディオシステム。
【請求項18】
前記音源の第1ラインアレイのスピーカーは、垂直又は水平に配置される
請求項10-17のいずれか1項に記載のオーディオシステム。
【請求項19】
前記第1駆動信号及び前記第2駆動信号と同様の方法において、前記オーディオシステムのための第2チャンネルから導出され、前記第1チャンネルにおける対応する信号群と同様の方法でフィルタリングされる、第3駆動信号及び第4駆動信号によって駆動される音源の第2ラインアレイをさらに備える
請求項10-18のいずれか1項に記載のオーディオシステム。
【請求項20】
前記第1駆動信号及び前記第2駆動信号と同様の方法において、前記オーディオシステムのための少なくとも1つのさらなるチャンネルから導出され、前記第1チャンネルにおける前記対応する信号群と同様の方法でフィルタリングされる、対応する第1駆動信号及び第2駆動信号によって駆動される1次音源及び1つ以上の2次音源を含む音源の少なくとも1つのラインアレイをさらに備える
請求項19に記載のオーディオシステム。
【請求項21】
前記音源の第1ラインアレイは、1次スピーカー及び1つ以上の2次スピーカーを含むスピーカーの第1ラインアレイである
請求項10-20のいずれか1項に記載のオーディオシステム。
【請求項22】
前記スピーカーの第1ラインアレイは、前記スピーカーの第1ラインアレイのそれぞれ次のスピーカーの音響的中心の間の距離が15 cmと30 cmとの間になるように配置される
請求項21に記載のオーディオシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のコヒーレントな音源のスペクトル応答を改善する方法に関し、その場合、複数の音源から受信点に到達する音の間の遅延は、周波数と空間との両方にわたってスペクトルの変動を生じてしまう。
【背景技術】
【0002】
カスタムインストール(CI)市場は、スピーカーメーカーにとって、その規模が拡大しており、メーカー各社は、新築住宅及び改築で自社製品が指定される数が増加しているのを経験している。これらのプロジェクトのうちの多くは、例えば、通常のリビングルームの広さの3-4倍の広さのホームシアターのような、増々大きくなる空間を伴う。空間がますます大きくなっても、リスニングエリア全体にわたり、高い音圧レベル(SPL)の目標値を維持することが依然として望まれている。さらに、これらの高いSPLの目標値への要望の一方で、高忠実度再生への要望もまた根強い。
【0003】
プロフェッショナルオーディオ及びライブサウンドの世界では、高いSPLの目標値を達成するためのいくつかのよく知られたソリューションが存在する。例えば、線音源アレイの概念はよく知られており、これは、密接して配置された音源群(ドライブユニット群)を用いて線音源を近似するものであり、従来の点音源スピーカーのように、距離が2倍になるごとに-6 dBで減衰するのではなく、距離が2倍になるごとに-3 dBしか減衰しない。しかし、そのようなアレイは、ドライブユニットを線音源の音響特性に近似するように揃えるために、多数のドライブユニットと、複雑な機械設計又は計算的に高価な処理とを必要とする。さらに、現実的には、ラインアレイを使用しても、低域周波数及び中域周波数でしか線音源を近似できない。したがって広域周波数で高いSPLを出力するためには、ホーンロードコンプレッションドライバー群(horn-loaded compression drivers)のような代替の音源が使用されなければならず、それは高いSPLを実現できるが、CIアプリケーションにおいて求められる高忠実度を実現することはできない。
【0004】
代替手段としては、単一のチャンネルとして、同じオーディオ信号が入力される複数の高忠実度スピーカーを使用することがある。
図1は、ホームシアターシステム100としての例示的なCI設置を示し、ここでは左、中央、及び右のチャンネルのそれぞれについて、3つの壁埋込用スピーカーの3セットが投影スクリーン102の後ろ及びその両側において用いられる。3つの壁埋込用スピーカー104の第1セットは、投影スクリーン102の後ろにあり、第2セット106は、投影スクリーン102の左側にあり、第3セット108(スピーカー108a、108b、及び108cで構成される)は、投影スクリーン102の右側にある。3つのスピーカーのそれぞれのセットには、同じ信号が入力される。所望のSPLによって、それぞれのチャンネルに使用されるスピーカーの数を減らす、又は増やすことができる(スピーカーの個数が2倍になるごとに、SPLは+6 dB増加する)。しかし、同じ信号が与えられる複数のスピーカーを使用すると、複数のコヒーレントな音源の間での、コムフィルタとしても知られる、破壊的な干渉に起因して問題が生じる。
【0005】
この問題は、3つのドライブユニットからなる2.5ウェイスピーカーにおいて知られており、ここでドライブユニットのうちの1つは最も高い周波数帯域で動作し、ドライブユニットのうちの他の2つは通常は同一だが、わずかに異なる周波数帯域にわたって動作する。2つの同一のドライブユニットのうちの1つは、最も高い周波数のドライブユニットとのクロスオーバーに至るまでの周波数帯域をカバーし、もう一方のドライブユニットは、追加の低域周波数エネルギーを供給するようローパスフィルタ処理されて、その結果、ドライブユニット間の距離がコムフィルタを生じさせる中域周波数帯域において干渉を生じさせることなく、「バッフルステップ」現象を克服できる。しかし、2.5ウェイスピーカーは、依然として、性能に問題がある。
【0006】
時間遅延、位相変化、及びビームステアリングに基づく方法は、干渉を減少又は除去できるが、それは空間におけるある与えられた1つの点に対してだけであり、他の位置では実際には干渉を増加させてしまうことがあり得る。
【0007】
したがって、全体のスペクトルバランスを維持しつつ、複数のコヒーレントな音源の間での干渉を減少させるための改善された方法の要求が存在する。
【発明の概要】
【0008】
本発明の第1局面によれば、音源の第1ラインアレイを駆動するための信号を生成する方法が提供され、前記音源の第1ラインアレイは、1次音源及び1つ以上の2次音源を備える。前記方法は、
オーディオシステムの第1チャンネルについてのオーディオ信号を受け取ること、
前記オーディオ信号から、第1信号及び第2信号を導出すること、
ローパスフィルタを前記第2信号に適用させることによって、前記1つ以上の2次音源を駆動する第2駆動信号を生成すること、及び
対応する高域周波数シェルビングフィルタを前記第1信号に適用させることによって、前記1次音源を駆動する第1駆動信号を生成すること
のステップを含む。
このようにして、複数のコヒーレントな音源の間の干渉は低減され得ながらも、全体のスペクトルバランスは維持され得る。
【0009】
本発明の第2局面によれば、オーディオシステムの1つ以上のプロセッサ上で実行されるとき、前記システムに第1局面の方法を実行させる、コンピュータ実行可能なコードを備えたコンピュータプログラム製品を備える。このようにして、本発明の第1局面の方法は、複数のコヒーレントな音源の間の干渉を低減するようにオーディオシステムの1つ以上のプロセッサによって実現され得ながらも、全体のスペクトルバランスは維持され得る。1つ以上のプロセッサを用いて方法を実現するためには、この方法はオーディオシステムの単一のプロセッサによって実行されてもよく、又は複数のプロセッサにわたって実行されてもよい。
【0010】
本発明の第3局面によれば、オーディオシステムは、上述の方法を実行するように構成された1つ以上のデジタルシグナルプロセッサ群を備える。このようにして、オーディオシステムは、1つ以上のデジタルシグナルプロセッサのみを用いて、上述の方法を実現し得る。
【0011】
本発明の第4局面によれば、平坦化された音場を生成するオーディオシステムは、1次音源と1つ以上の2次音源とを備えた音源の第1ラインアレイを備える。前記1次音源は第1駆動信号によって駆動され、前記2次音源は第2駆動信号によって駆動される。第1信号及び第2信号は、前記オーディオシステムの第1チャンネルについて受け取られたオーディオ信号から導出される。ローパスフィルタは、前記第2信号に適用されて前記第2駆動信号を生成し、対応する高域周波数シェルビングフィルタは、第1信号に適用されて前記第1駆動信号を生成する。このようにして、複数のコヒーレントな音源の間の干渉は低減され得ながらも、全体のスペクトルバランスは維持され得る。
【0012】
好ましくは、前記方法はさらに、オールパスフィルタを前記第1信号に適用させることを含む。このようにして、前記フィルタの特性周波数の近傍でのエネルギーの損失を生じる、前記ローパスフィルタ及び前記高域周波数シェルビングフィルタの相対的な位相応答に起因する追加の干渉のために補償が行われる。
【0013】
オプションとして、前記方法はさらに、追加の、異なるオールパスフィルタを前記第1信号及び前記第2信号に適用することを含む。このようにして、前記第1駆動信号及び前記第2駆動信号の間の前記タイムアライメントは改善される。
【0014】
ある実施形態では、前記ローパスフィルタ及び前記高域周波数シェルビングフィルタのそれぞれの前記特性周波数は、前記1次音源及び前記1つ以上の2次音源からリスニングポジションに音が到達する間の時間遅延の2倍の逆数にほぼ等しい。このようにして、それぞれのフィルタ群の特性周波数は、少なくとも2つの音源の間の破壊的な干渉の第1ノッチが発生する周波数にある。これにより、フィルタが複数のコヒーレントな音源の間の干渉を低減する点で最大限の効果を発揮しつつも、全体のスペクトルバランスを維持することが確実になる。
【0015】
ある実施形態では、前記高域周波数シェルビングフィルタのゲインgが、g=20log10(N+1)であり、ここでNは前記2次音源の数である。これにより、前記高域周波数シェルビングフィルタがほぼ正確な方法において適用され、複数のコヒーレントな音源の間の干渉を低減する点で最大限の効果を発揮しつつも、全体のスペクトルバランスを維持することが確実になる。
【0016】
オプションとして、前記音源の第1ラインアレイは、1次スピーカー及び1つ以上の2次スピーカーを含むスピーカーの第1ラインアレイであってもよい。
【0017】
本発明の第2局面のコンピュータプログラム製品は、既存のデジタルシグナルプロセッサの音源システムのアップデート又は改良品として、又は他には、既存のマルチチャンネル又はステレオオーディオプロセッサのアップデート又は改良品として実現され得る。これにより、既存のシステムは、既存のオーディオシステムにアップデートを与えることによりアップデートされ得る。
【0018】
好ましくは、本オーディオシステムでは、前記高域周波数シェルビングフィルタは前記1次音源と関連付けられたデジタルシグナルプロセッサによって実現され、前記ローパスフィルタは前記1つ以上の2次音源と関連付けられた少なくとも1つのデジタルシグナルプロセッサによって実現される。このように、フィルタリングは、第1駆動信号及び第2駆動信号を、1次音源及び1つ以上の2次音源に供給するために、取り除かれたレベルにおいて実行され得る。代替として、フィルタリングは、オーディオシステム内のローカルのデジタルシグナルプロセッサにおいて、又は音源自体のドライブユニット内のデジタルシグナルプロセッサにおいて、実行されてもよい。しかし、ローカルのデジタルシグナルプロセッサ及びドライブユニット内のデジタルシグナルプロセッサの場合、デジタルシグナルプロセッサは1次音源又は1つ以上の2次音源と関連付けられており、よって、対応する第1駆動信号及び第2駆動信号を生成するために、適切なフィルタが実現される。
【0019】
好ましくは、オーディオシステムは、壁埋込用オーディオシステムであってもよい。これにより、スピーカーの位置決め、及び音を反射する壁と他の表面との近接に依存して、音源の後方及び周囲に、予測不可能な方法で破壊的な干渉を引き起こし得る壁からの音の反射を最小限に抑えることができるであろう。
【0020】
オプションとして、オーディオシステムは、垂直又は水平に配置される音源の第1ラインアレイからなる音源を有していてもよい。これにより、オーディオシステムが取り付けられる場所に応じて最適なように音源が配置され得る。
【0021】
ある実施形態では、オーディオシステムは、前記第1駆動信号及び前記第2駆動信号と同様の方法において、前記オーディオシステムのための第2チャンネルから導出され、前記第1チャンネルにおける対応する信号群と同様の方法でフィルタリングされる、第3駆動信号及び第4駆動信号によって駆動される音源の第2ラインアレイをさらに備える。これにより、本発明の概念は、オーディオシステムの2つに拡大され得る。
【0022】
ある実施形態では、オーディオシステムは、前記第1駆動信号及び前記第2駆動信号と同様の方法において、前記オーディオシステムのための少なくとも1つのさらなるチャンネルから導出され、前記第1チャンネルにおける前記対応する信号群と同様の方法でフィルタリングされる、駆動信号によって駆動される音源の少なくとも1つのラインアレイをさらに備えてもよい。これによって、本発明の概念は、オーディオシステムの3つ以上のチャンネルに拡大され得る。
【0023】
ある実施形態では、前記音源の第1ラインアレイは、1次スピーカー及び1つ以上の2次スピーカーを含むスピーカーの第1ラインアレイである。好ましくは、オーディオシステムは、前記スピーカーの第1ラインアレイのそれぞれ次のスピーカーの音響的中心の間の距離が15 cmと30 cmとの間になるように配置される、前記スピーカーの第1ラインアレイを有してもよい。これによって、1次スピーカー及び2次スピーカーからリスニングポジションに到達する音の間の時間遅延が計算され得て、次に、最初のノッチが発生するであろう周波数が計算され得て、ローパスフィルタと高域周波数シェルビングフィルタとが設定されるべき特性周波数が正確に計算され得る。
【0024】
当業者には理解されるように、本発明は、用途に応じてさまざまな実現方法が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本発明の例は、添付の図面を参照して詳細に記載される。
【
図1】
図1は、複数のインウォールスピーカーの例示的設置を示す。
【
図2】
図2は、どのように時間遅延が起きるかを図示するための2個の音源の例を示す。
【
図3】
図3は、
図2に示されるシステムの周波数応答におけるコムフィルタリングの例を示す。
【
図4】
図4は、典型的な既知の音楽のパワースペクトルの例を示す。
【
図5】
図5は、異なる個数の2次音源による可能性のあるフィルタ応答を示す。
【
図6】
図6は、本発明におけるローパス及びハイシェルビングフィルタの特性周波数と、コムフィルタの第1ノッチ周波数との典型的な関係を示す。
【
図7】
図7は、3つの音源について実現される本発明の実施形態の概略図を示す。
【
図8】
図8は、3つの音源について実現される本発明の第2実施形態の概略図を示す。
【
図9】
図9は、3つの音源について実現される本発明の第3の好ましい実施形態の概略図を示す。
【
図10】
図10は、単一音源に比較して、3つの異なる実施形態における処理がどのように音圧レベルを変化させるかの例を示す。
【
図11A】
図11Aは、提案されたフィルタがない場合の、空間にわたるスペクトル変動を示す等高線図である。
【
図11B】
図11Bは、提案されたフィルタがある場合の、空間にわたるスペクトル変動を示す等高線図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、使用されているオーディオシステムによって、いくつかの異なる方法で実現され得る。以下の記述は、図を参照しながら、いくつかの実現例について記載する。
【0027】
本発明は、近接する2つ以上の音源間の空間的折り返し歪(spatial aliasing)の影響を緩和することを目的とする。本発明は、
図1で示されているようにホームシアターシステム100内で、単一のチャンネルとして複数のスピーカーを使用するときのように、それぞれの近接する音源についての音源信号群がコヒーレントであるときに必要である。
【0028】
図1における例示的なシステムにおいて、スピーカー群は垂直に配置されているが、水平に配置されてもよい。さらに、スピーカー104の中央のセットは必須ではなく、システムは、スピーカーの左のセット106及び右のセット108だけからなるステレオシステムであってもよく、又は実際には、システムはモノフォニックの、スピーカー群のセットが1セットだけからなるものであってもよい。スピーカー108の右のセットは、スピーカー108a、108b、及び108cで構成される。これらのうちの1つは、第1スピーカーとなり、2つは第2スピーカーとなる。さらに、この例における音源は2ウェイ壁埋込用スピーカーであるが、本発明は、任意の近接したコヒーレントな音源に適用され得る。
【0029】
本発明が克服しようとする課題を説明するために、
図2で与えられたシステム200を考える。
図2は、音響的中心の間の距離がd
1メートルである2つの音源202及び204の単純な例を示す。「X」によって印をつけられたリスニングポジション206は、音源のうちの一方、すなわち1次音源202からd
2メートル離れており、この音源に対しては水平方向及び垂直方向の両方について軸上に配置される。ピタゴラスの定理より、他方の音源である2次音源204への距離d
3=√(d
1
2+d
2
2)がd
2より大きいことは明らかである。したがって、このことにより、1次音源202からリスニングポジション206及び2次音源204からリスニングポジション206に到達する2つの音の間の時間遅延がΔt(d
3-d
2)/c秒だけ生じる。ここでc=343m/sは摂氏20度における空気中の音速である。この結果、1次音源202と2次音源204との間の破壊的な干渉により、リスニングポジション206において観測される周波数応答において一連のノッチ群が生じる。これはコムフィルタ効果として知られる。ノッチは、周波数f
n=(n/2Δt)H
Zにおいて発生し、nは全て、奇数の整数となる。
【0030】
このコムフィルタ効果は、単一の音源と比較した、周波数に対する音圧レベルをプロットする
図3に図示される。
図3に示される「くし型」のノッチ群は、2つの音源202及び204の間で発生する破壊的な干渉である。第1ノッチ302はf
1において、第2ノッチ304はf
3において、第3ノッチ306はf
5において、等とそれぞれ発生する。
【0031】
例えば、1次音源202と2次音源204との間に50センチメートルの距離があり、1次音源202の前方2メートルにリスニングポジション206がある場合、6.15センチメートルの伝搬路長(path length)の違いとなる。これは、リスニングポジションに到達する2つの音の間の時間遅延が179マイクロ秒であることに相当する。したがって
図3に示されるように、リスニングポジションにおける周波数スペクトルは、f
1=2.8kHzの奇数倍においてノッチが現れる。
【0032】
この例は、2個の音源202及び204だけからなるが、2より大きい任意の数の音源の場合でも原理は同じである。ただし周波数応答におけるノッチのパターンはより複雑になり、ノッチは、それぞれの2次音源に対する時間遅延に相当する周波数群と、これらの周波数の奇数倍高調波とにおいて現れる。
【0033】
1次音源及び2次音源がスピーカーであるとき、音源の音響的中心の間の距離d1は、典型的には15 cmと30 cmとの間であり得る。1次音源及び2次音源が1つのスピーカー内のドライブユニットであるとき、それらの音響的中心の間の距離d1は、5 cmにしかならないこともあり得る。音源の音響的中心が離れるほど、コムフィルタ効果は、より低い周波数にまで伸び、そのため高域周波数シェルビングフィルタのための入力信号のヘッドルームが失われる。しかし、音源の音響的中心の間の距離d1の上限は、リスニング距離d2に依存し、リスニング距離が大きくなるほど、音源群は互いにより遠くまで離れてもよい。
【0034】
コムフィルタ効果を低減させるために、本発明は、破壊的な干渉が発生する周波数群においては1次音源202だけが動作するように、2次音源204にローパスフィルタを適用する。しかし、これは、実効的には当該ローパスの上に1つの音源とローパスの下に2つの音源とを有することになるため、当該ローパスの上及び下(f1の上及び下)の周波数において、SPLにおけるミスマッチにつながる。
【0035】
幸いにも、
図4において示されるように、1kHzより上の音楽コンテンツにおいては、エネルギーが周波数とともに一般的に減少し、それは、Stuart, J.R. (2006) 「Active loudspeakers」,第21回AES英国会議講演論文集:Audio at Homeからの異なるデータセットを示す。データセットIEC268-1はオーディオ製品のパワーテストのためのIEC標準ノイズスペクトルであり、データセットSivian及びAdamsは従来の研究に関連し、データセットJRSは当該論文の著者によって行われたデータ分析である。したがって、4つの異なるデータセット全てにおいて、1kHzより上のエネルギーと100Hzより下のエネルギーとに一般的な減少があることから、この1kHzより上のエネルギーにおける減少が、音楽コンテンツに共通して発生することは明らかである。この高域周波数においてエネルギーが減少することによって、前述のローパスフィルタのカットオフ周波数以上では寄与する音源が1つしかないという事実を補償するための処理の潜在的なヘッドルームを提供する。この補償を実現するために、対応する高域周波数シェルビングフィルタは、1次音源202に適用される。
【0036】
高域周波数シェルビングフィルタのゲインは、g=20log
10(N+1)の法則に従って2次音源の個数に依存し、ここでgはデシベルで表されたシェルビングフィルタのゲインであり、Nは2次音源の個数である。
図5は、N=1及びN=2の2次音源についてのローパスフィルタ及び高域周波数シェルビングフィルタの可能性のある応答を図示する。
図5における実線は、N=1の場合の高域周波数シェルビングフィルタの可能性のある応答を図示し、破線は、N=2の場合の高域周波数シェルビングフィルタの可能性のある応答を図示し、点線は、ローパスフィルタの可能性のある応答を図示する。
【0037】
図6は、典型的には、ローパスフィルタ604及び高域周波数シェルビングフィルタ602の両方は、特有の特性遷移周波数(characteristic transition frequency)を有することになり、それらは互いに近接していてもよいが、f
1と必ずしも同一でなくてもよく、第1ノッチの周波数であるf
1の狭い周波数帯域幅の中にあるか、又はその近傍の範囲内にあるであろう。ローパスフィルタ(群)及び高域周波数シェルビングフィルタの両方の特性周波数群(characteristic frequencies)は、前に計算されたf
1608によって予測され得る。
図6において示されるように、典型的には、高域周波数シェルビングフィルタ606の特性周波数f
C1は、f
1608の周波数よりわずかに下に位置し、ローパスフィルタ(群)610の特性周波数f
C2は、f
1608の周波数よりわずかに上に位置するであろう。しかし、正確な周波数は、特定のシステム及び実現例に基づいて、当業者によって調整される必要があるであろう。
【0038】
図4において示されるように、音楽における周波数のピークレベルは、1kHzを超えると急速に落ち、高域周波数シェルビングフィルタを適用するためのヘッドルームを提供するが、それは、ほとんどの現実の世界のシステムでは1kHzより下では破壊的な干渉が現れることは少ないからである。そうは言っても、典型的ではない信号(群)の場合、音源への破損を防ぐために、システムが適切な保護を提供するよう、十分な注意が払われなければならない。
【0039】
したがって、本発明は、全体のスペクトルのバランスを維持しながら、複数のコヒーレントな音源の間の干渉を低減するために、このヘッドルームを利用する方法に関する。
【0040】
図7は、3つの音源のための、つまり1つの1次音源710並びに2つの2次音源712及び714のためのそのような実施形態を図示する。
図7は、オーディオシステムのチャンネルのためのオーディオ信号702が704で分割され、1次音源710の駆動信号、並びに2つの2次音源712及び714の駆動信号になることを示す。高域周波数シェルビングフィルタ706は、1次音源710の駆動信号に適用され、ローパスフィルタ708は、2次音源712及び714の駆動信号に適用される。
【0041】
図8に示されている更なる実施形態は、オールパスフィルタ816を1次音源810に導入する。
図8は、オーディオシステムのチャンネルのためのオーディオ信号802が804で分割され、1次音源810の駆動信号、並びに2つの2次音源812及び814の駆動信号になることを示す。高域周波数シェルビングフィルタ806及びオールパスフィルタ816は、1次音源810の駆動信号に適用され、ローパスフィルタ808は、2次音源812及び814の駆動信号に適用される。1次音源810に新たに導入されたオールパスフィルタ816は、2次音源812及び814に対するローパスフィルタ808の位相シフトを補償するためである。例えば、2次ローパスフィルタ808は、フィルタの中心周波数について180度の位相シフトをもたらす。したがって、1次オールパスフィルタ816は、相補的な180度の位相シフトを適用するために、1次音源810に適用され得る。よって、オールパスフィルタ816の中心周波数は、ローパスフィルタ808のために使用される中心周波数と近似しているべきである。
【0042】
図9に示されているように、第3の好ましい実施形態は、追加のオールパスフィルタ918及び920を、1次音源910並びに2次音源912及び914の両方に導入する。
図9は、オーディオシステムのチャンネルのためのオーディオ信号902が904で分割され、1次音源910の駆動信号、並びに2つの2次音源912及び914の駆動信号になることを示す。高域周波数シェルビングフィルタ906、オールパスフィルタ916、及び追加のオールパスフィルタ918は、1次音源910の駆動信号に適用され、ローパスフィルタ908及びオールパスフィルタ920は、2次音源912及び914の駆動信号に適用される。新たに導入されたオールパスフィルタ918及び920は、1次駆動信号及び2次駆動信号の間のタイムアライメントを改善するために使用され得て、その結果、コムフィルタの周波数キャンセル効果を低減する。例えば、位相関係を反転させることによって、第1ノッチの周波数におけるキャンセルを低減するために、2次音源に対するオールパスフィルタは、第1ノッチの周波数(f
1)より下に適用されてもよく、1次音源に対するオールパスフィルタは、第1ノッチの周波数(f
1)より上に適用されてもよい。
【0043】
図10は、本発明によって提案されたフィルタを用いない場合、及び上で提案されたフィルタの異なる組み合わせを用いる場合のリスニングポジションにおけるシミュレートされた周波数応答を示す。点線1002は、フィルタが適用されないときの周波数応答を示す。一点鎖線1004は、ローパスフィルタ及び高域周波数シェルビングフィルタだけが適用されるとき(
図7で示される)の周波数応答を示す。破線1006は、1次音源に対してオールパスフィルタが、ローパスフィルタ及び高域周波数シェルビングフィルタに加えて適用されるとき(
図8で示される)の周波数応答を示す。実線1008は、追加のオールパスフィルタが、適用される全ての他のフィルタに加えて1次音源及び2次音源の両方に追加されるとき(
図9で示される)の周波数応答を示す。提案された全てのフィルタの組み合わせが、スペクトルの変動を大きく低減することが理解されよう。しかし、さらにオールパスフィルタが適用されるとき、スペクトルの変動は、フィルタの他の組み合わせに比べてさらに低減されていることが理解されよう。
【0044】
加えて、
図11A及び
図11Bに示されるように、提案されている発明は、リスニングポジションにおける周波数応答を改善するだけではなく、スペクトルの変動を当該場所にわたって低減する。
図11Aは、フィルタが適用されていないときの、当該場所にわたった音圧レベルにおける変動を示す。
図11Bは、
図9に示されているように、全てのフィルタが適用されるときの、音圧レベルの当該場所にわたる変動を示す。
図11A及び
図11B両方の水平軸1102は、音源アレイの平面におけるリスニングポジションの軸から外れている距離を表す。垂直軸1104は、リスニングポジションのアレイからの距離を表す。プロット内の等高線は、当該位置におけるSPLをデシベルによって表し、それぞれの線は、3デシベル(dB)のSPLの減少を表す。6dBの倍数の減少を表すいくつかの等高線は、その旨、ラベルが付されている。
【0045】
図11Aから分かるように、フィルタが適用されないときは、等高線の変化に示されるように、著しい破壊的な干渉があり、高SPLの領域は1110とラベルが付されている。逆に、
図11Bでは、
図9で示されるようにフィルタリングが適用されるときは、等高線の変化がなく、SPLは均一に低下していく。
【0046】
好ましい実施形態では、ローパスフィルタ、高域周波数シェルビングフィルタ、及びオールパスフィルタは、2ポール2ゼロのデジタルバイカッドフィルタであり、その設計は当業者には知られている。そのようなフィルタ群が好ましいのは、これらのフィルタ群の実現例が、簡単で、計算効率が良く、多くの既存の信号処理システムにおいてサポートされているという事実による。しかし、フィルタのより複雑な設計は使用され得て、フィルタ群は、アナログ又はデジタルのいずれの領域でも、またソフトウェア又はハードウェアのいずれによっても実現され得る。
【0047】
ある実施形態では、フィルタは、既存のシステムのアップデート又は改良品として、又は新しいシステムの設計の一部として実現され得る。さらに、ある実施形態では、フィルタは、例えば
図1に示されるそれぞれのスピーカーの中のような、システムの内部で実現されるかもしれないが、他の実施形態では、フィルタはプリプロセッサデバイスにおいて外部で適用されるであろう。
【0048】
奇数個の音源が、放射音場における対称性を維持するためには好ましい。さらに、フィルタの実効性を最大化し、シェルビングフィルタの必要なゲインを抑えるためには、好ましい音源の数は3である。しかし、本発明は、1より大きい任意の数の近接した音源群に適用されてもよい。
【国際調査報告】