IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クリシア リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(54)【発明の名称】ポリアミンコンジュゲート産生酵母
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20230111BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230111BHJP
   C12P 13/00 20060101ALI20230111BHJP
   C12N 9/00 20060101ALN20230111BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20230111BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
C12N1/19 ZNA
C12P21/02 G
C12P13/00
C12N9/00
C12N15/52 Z
C12N15/31
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525087
(86)(22)【出願日】2020-10-27
(85)【翻訳文提出日】2022-06-24
(86)【国際出願番号】 EP2020080140
(87)【国際公開番号】W WO2021083870
(87)【国際公開日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】1951232-6
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520011050
【氏名又は名称】クリシア リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キン、ジウフー
(72)【発明者】
【氏名】ニールセン、イェンス
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD02
4B050LL05
4B064AG01
4B064BJ12
4B064CA06
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA26Y
4B065AA72X
4B065AA80X
4B065AA80Y
4B065AA86Y
4B065AA88Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのポリアミンを産生することができる酵母細胞におけるポリアミンコンジュゲートの産生に関する。また、酵母細胞は、ポリアミン:グルタチオンリガーゼコード遺伝子および少なくとも1つのポリアミンシンターゼコード遺伝子を含むが、ポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を欠いているか、または破壊されたポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を含む。酵母細胞は、種々のポリアミン-グルタチオンコンジュゲートを産生することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタチオン-ポリアミンコンジュゲートを産生することができる酵母細胞であって、
少なくとも1つのポリアミンを産生することができ;
ポリアミン:グルタチオンリガーゼコード遺伝子を含み;
少なくとも1つのポリアミンシンターゼコード遺伝子を含み;かつ
ポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を欠いているか、または破壊されたポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を含む、酵母細胞。
【請求項2】
前記ポリアミン:グルタチオンリガーゼの過剰発現のために改変されている、請求項1に記載の酵母細胞。
【請求項3】
前記グルタチオン-ポリアミンコンジュゲートが、トリパノチオン、N-グルタチオニルスペルミジン、N10-グルタチオニルスペルミジン、N,N10-ビス(グルタチオニル)スペルミン、N,N,N10-トリ(グルタチオニル)スペルミン、およびN,N,N10,N14-テトラ(グルタチオニル)スペルミンからなる群から選択される、請求項1または2に記載の酵母細胞。
【請求項4】
前記ポリアミン:グルタチオンリガーゼコード遺伝子が、トリパノチオンシンターゼ、グルタチオニルスペルミジンシンターゼ、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項5】
前記トリパノチオンシンターゼコード遺伝子が、ブルーストリパノソーマ(Trypanosoma brucei brucei)TbbTryS、およびトリパノチオンシンターゼTbbTrySと少なくとも80%の配列同一性を有するトリパノチオンシンターゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される、請求項4に記載の酵母細胞。
【請求項6】
前記グルタチオニルスペルミジンシンターゼ(GSS)コード遺伝子が、大腸菌(Escherichia coli)EcGSS、およびグルタチオニルスペルミジンシンターゼEcGSSと少なくとも80%の配列同一性を有するグルタチオニルスペルミジンシンターゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される、請求項4または5に記載の酵母細胞。
【請求項7】
前記少なくとも1つのポリアミンが、スペルミン、サーモスペルミン、sym-ホモスペルミジン、1,3-ジアミノプロパン、プトレシン、カダベリン、アグマチン、スペルミジン、sym-ノルスペルミジン、ノルスペルミン、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項8】
前記少なくとも1つのポリアミンシンターゼの過剰発現のために改変されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項9】
前記ポリアミンシンターゼコード遺伝子が、スペルミンシンターゼコード遺伝子、サーモスペルミンシンターゼコード遺伝子、およびホモスペルミジンシンターゼコード遺伝子からなる群から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項10】
前記スペルミンシンターゼコード遺伝子が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)SPE4、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)AtSPMS、およびスペルミンシンターゼSPE4またはスペルミンシンターゼAtSPMSと少なくとも80%の配列同一性を有するスペルミンシンターゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される、請求項9に記載の酵母細胞。
【請求項11】
前記サーモスペルミンシンターゼコード遺伝子が、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)AtACL5、およびサーモスペルミンシンターゼAtACL5と少なくとも80%の配列同一性を有するサーモスペルミンシンターゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される、請求項9または10に記載の酵母細胞。
【請求項12】
前記ホモスペルミジンシンターゼコード遺伝子が、ハナノボロギク(Senecio vernalis)SvHSS、ブラストクロリス・ビリディス(Blastochloris viridis)BvHSS、およびホモスペルミジンシンターゼSvHSSまたはホモスペルミジンシンターゼBvHSSと少なくとも80%の配列同一性を有するホモスペルミジンシンターゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される、請求項9~11のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項13】
前記酵母細胞がサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)細胞であり、前記ポリアミンオキシダーゼがFMS1である、請求項1~12のいずれかに記載の酵母細胞。
【請求項14】
グルタチオン-ポリアミンコンジュゲートを生成する方法であって、
請求項1~13のいずれか一項に記載の酵母細胞を、培地中で、前記酵母細胞による前記グルタチオン-ポリアミンコンジュゲートの産生に適した培養条件で培養することと;
前記グルタチオン-ポリアミンコンジュゲートを前記培地から、および/または前記酵母細胞から収集することと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、遺伝子改変された酵母に、特に、ポリアミンコンジュゲートを産生することができる酵母に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の最も困難な生物医学的問題および農業問題に対処する一助となるような、新規な作用機序を有する小分子が必要とされている。しかしながら、数十年の間に、医薬および農薬開発のために鉛化合物を同定することを目的とした、合成化学によって生成された1億3500万を超える小分子が、最初のスクリーニングをパスしたにも拘わらず、段階的に排除されてきた。小分子の複雑性および多様性を改善することが必須であることが明らかになった。実際には、多様な化合物、すなわち複雑な構造を有する天然産物およびその誘導体が、自然界で容易に入手可能であり、これらは何千年もの間、疾患の研究および処置において、重要な役割を果たしてきた。特に、植物の多様な、かつ定量的に主要な二次代謝産物群であるポリアミンコンジュゲートは、広範な構造的多様性および複雑性を示す。これにより、これらの化合物の有益な特性についての複数の研究が報告されている。例えば、トリパノチオンとしても知られているポリアミン-グルタチオンコンジュゲートは、医薬化学における特異的分子プローブとして、そしてグルタチオンレダクターゼ阻害剤の開発のために提案されている。
【0003】
残念なことに、構造が複雑なこと、そして自然界での存在量が少ないことに起因して、ポリアミン類似体を、従来の合成化学、または天然源からの抽出のいずれかから得ることは困難である。急速に生育する、遺伝的に扱い易い種における微生物ベースの生成が、天然物およびその誘導体のための伝統的なサプライチェーンに代わるものとして推し進められてきた。特に、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)は、多くの異なる燃料、化学物質、食品成分、および医薬品を生成するための、特に天然物の生成のための細胞工場として機能してきた。
【0004】
結果的に、ポリアミンコンジュゲートの発見および製造のための新しい方法を開発することが所望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的な目的は、ポリアミンコンジュゲートを産生することができる酵母細胞を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的および他の目的は、実施形態によって満たされる。
【0007】
本発明は、独立請求項に定義されている。本発明のさらなる実施形態が、従属請求項に定義されている。
【0008】
本発明は、グルタチオン-ポリアミンコンジュゲートを産生することができる酵母細胞に関する。酵母細胞は、少なくとも1つのポリアミンを産生することができる。また、酵母細胞は、ポリアミン:グルタチオンリガーゼコード遺伝子および少なくとも1つのポリアミンシンターゼコード遺伝子を含むが、ポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を欠いているか、または破壊されたポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を含む。
【0009】
また、本発明は、グルタチオン-ポリアミンコンジュゲートを生成する方法に関する。本方法は、本発明に従う酵母細胞を、培地中で、酵母細胞によるグルタチオン-ポリアミンコンジュゲートの産生に適した培養条件で培養することを含む。また、本方法は、グルタチオン-ポリアミンコンジュゲートを培地から、および/または酵母細胞から収集することを含む。
【0010】
本発明は、トリパノチオン等の、一置換および/または多置換ポリアミンが挙げられる種々のグルタチオン-ポリアミンコンジュゲートを生成するための効率的な手段を提供する。したがって、本発明は、ポリアミンコンジュゲートを得るための従来の合成化学または天然源からの抽出を含む従来技術の方法に対する、費用効率の高い代替方法として使用することができる。
【0011】
実施形態は、そのさらなる目的および利点と共に、以下の説明を、添付の図面と共に参照することによって最もよく理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1a】スペルミジンおよびより高次のポリアミンの過剰合成のための酵母代謝の改変を示す。
図1b】スペルミジンおよびより高次のポリアミンの過剰合成のための酵母代謝の改変を示す。
図1c】スペルミジンおよびより高次のポリアミンの過剰合成のための酵母代謝の改変を示す。
図1d】スペルミジンおよびより高次のポリアミンの過剰合成のための酵母代謝の改変を示す。
図1e】スペルミジンおよびより高次のポリアミンの過剰合成のための酵母代謝の改変を示す。
図1f】スペルミジンおよびより高次のポリアミンの過剰合成のための酵母代謝の改変を示す。
図2a】酵母におけるトリパノチオン-(SH)産生を示す。
図2b】酵母におけるトリパノチオン-(SH)産生を示す。
図3a】酵母における複雑なフェノールアミドおよびトリパノチオン-(SH)の生合成のための改変した経路を示す。
図3b】酵母における複雑なフェノールアミドおよびトリパノチオン-(SH)の生合成のための改変した経路を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ポリアミンコンジュゲートの多様性への効率的なアクセスを可能にするために、本発明者らは、酵母代謝を改変して、複雑なポリアミンのカテゴリー、例えば、スペルミジン、ホモ-スペルミジン、サーモスペルミン、およびスペルミンを過剰産生させた。この酵母プラットフォームの汎用性は、多様なポリアミンコンジュゲートの、テーラリング経路による生合成によって実証される。特に、計算シミュレーションの助けを借りて、本発明者らは、酵母の中心炭素窒素代謝、メチオニンサルベージ経路、アデニンのサルベージ経路、ポリアミン輸送機構、およびポリアミン分解経路を体系的にリファクタリングすることによって、酵母が>400mg/lスペルミジンをディープウェルスケール発酵で産生できることを可能にした。さらに、テーラリング経路にプラグインし、かつ合成コンソーシアムを作出することによって、本発明者らは、酵母におけるトリパノチオンを含むポリアミンコンジュゲートのデノボ生合成を実証した。
【0014】
次に、本発明の実施形態を示す、添付の図面および例を参照して、本発明を以下で説明する。この説明は、本発明を実施することができる全ての異なる方法、または本発明に追加することができる全ての特徴の詳細なカタログであることは意図されない。例えば、一方の実施形態に関して示される特徴は、他方の実施形態に組み込まれてもよく、そして特定の実施形態に関して示される特徴は、その実施形態から削除されてもよい。ゆえに、本発明は、本発明の一部の実施形態において、本明細書中に記載の任意の特徴または特徴の組合せを除外または省略することができることを企図している。また、本明細書中で提案される種々の実施形態に対する、本発明から逸脱しない多数の変形および追加が、本開示に照らして、当業者に明らかであろう。それゆえに、以下の説明は、本発明の一部の特定の実施形態を説明することが意図されており、その全ての再配列、組合せ、および変形を網羅的に特定することは意図されていない。
【0015】
本明細書中で別段の定義がない限り、本明細書中で用いられる科学技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有する。
【0016】
一般に、本明細書中に記載される生化学、酵素学、分子細胞生物学、微生物学、遺伝学、タンパク質および核酸化学、ならびにハイブリダイゼーションの技術に関連して使用される命名法は、当該技術において周知であり、かつ一般的に使用されるものである。
【0017】
本明細書中で言及される従来の方法および技術は、例えば、分子クローニング、ラボマニュアル(Molecular Cloning,a laboratory manual)[第2版]Sambrook et al.Cold Spring Harbor Laboratory,1989において、例えば、その第1.21節「プラスミドDNAの抽出および精製(Extraction And Purification Of Plasmid DNA)」、第1.53節「プラスミドベクター中へのクローニングのための戦略(Strategies For Cloning In Plasmid Vectors)」、第1.85節「組換えプラスミドを含有する細菌コロニーの識別(Identification Of Bacterial Colonies That Contain Recombinant Plasmids)」、第6節「DNAのゲル電気泳動(Gel Electrophoresis Of DNA)」、第14節「ポリメラーゼ連鎖反応によるDNAのインビトロ増幅(In vitro Amplification Of DNA By The Polymerase Chain Reaction)」、および第17節「大腸菌(Escherichia coli)内でのクローン化遺伝子の発現(Expression Of Cloned Genes In Escherichia coli)」において、より詳細に説明されている。
【0018】
本明細書の全体を通して参照される酵素委員会(Enzyme Commission:EC)番号(本明細書中で「クラス」とも呼ばれる)は、そのリソース「酵素命名法(Enzyme Nomenclature)」(1992、別冊号6~17を含む)(例えば、「酵素命名法1992:酵素の命名法および分類に関する国際生化学・分子生物学連合の命名法委員会の勧告(Enzyme nomenclature 1992:recommendations of the Nomenclature Committee of the International Union of Biochemistry and Molecular Biology on the nomenclature and classification of enzymes)」、Webb,E.C.(1992)、San Diego(Academic Pressによる国際生化学・分子生物学連合(International Union of Biochemistry and Molecular Biology)に公開されている)(ISBN 0-12-227164-5)として入手可能)における国際生化学・分子生物学連合の命名法委員会(Nomenclature Committee of the International Union of Biochemistry and Molecular Biology:NC-IUBMB)に従う。これは、各酵素クラスによって触媒される化学反応に基づく数値分類スキームである。
【0019】
文脈がそうでないことを示さない限り、本明細書中に記載される本発明の種々の特徴は、あらゆる組合せで使用できることが特に意図される。さらに、本発明はまた、本発明の一部の実施形態において、本明細書中に記載の任意の特徴または特徴の組合せを除外または省略することができることも企図している。例示のために、組成物が成分A、B、およびCを含むと明細書が述べていれば、A、B、もしくはCのいずれか、またはそれらの組合せを、単独で、またはあらゆる組合せで省略かつ放棄できることが特に意図される。
【0020】
本発明の説明および添付の特許請求の範囲において使用される単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、複数形も含むことが意図される。また、本明細書中で使用される「および/または」は、関連する列挙された項目の1つ以上のありとあらゆる考えられる組合せを、そして択一的に(「または」)解釈される場合の組合せの欠如を指し、かつ包含する。
【0021】
本明細書の説明および特許請求の範囲の全体を通して、文言「含む(comprise)」および「含有する(contain)」、ならびに文言の変形、例えば「含んでいる(comprising)」および「含む(comprises)」は、「含むがこれに限定されない」を意味し、他の部分、添加物、成分、整数、または工程を排除するものではない。本明細書の説明および特許請求の範囲の全体を通して、文脈がそうでないことを要求しない限り、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、本明細書は、文脈がそうでないことを要求しない限り、複数および単数を企図するものとして理解されるべきである。
【0022】
本明細書中で使用される移行句、本質的にから「なる」は、特許請求の範囲が、特許請求の範囲に列挙される特定の材料または工程、および特許請求される発明の基本的かつ新規な特徴に、物質的に影響を及ぼさないものを包含すると解釈されるべきであることを意味する。ゆえに、用語、から本質的に「なる」は、本発明の特許請求の範囲において使用される場合、「含む」と等価であると解釈されることは意図されない。
【0023】
本発明の理解を促進するために、いくつかの用語を以下で定義する。
【0024】
本明細書中で使用される用語「ポリアミン」は、2つ以上の第一級アミノ基を有する有機化合物を指す。ポリアミンの例として、プトレシン(Put)、スペルミジン(Spd)、スペルミン(Spm)、サーモスペルミン(Tspm)、sym-ホモスペルミジン(Hspd)、1,2-ジアミノプロパン、カダベリン、アグマチン、sym-ノルスペルミジン、およびノルスペルミンが挙げられる。
【0025】
本明細書中で使用される用語「ポリアミンコンジュゲート」または「グルタチオン-ポリアミンコンジュゲート」は、少なくとも1つのグルタチオン(GSH)分子とポリアミンとのコンジュゲートを指す。グルタチオン-ポリアミンコンジュゲートは好ましくは、GSHのカルボキシル基とポリアミンのアミン基との間に形成されるアミド結合を含む。グルタチオン-ポリアミンコンジュゲートの非限定的であるが解説用の例として、トリパノチオン(N,N10-ビス(グルタチオニル)スペルミジン)、N-グルタチオニルスペルミジン、N10-グルタチオニルスペルミジン、N,N10-ビス(グルタチオニル)スペルミン、N,N,N10-トリ(グルタチオニル)スペルミン、N,N,N10,N14-テトラ(グルタチオニル)スペルミンが挙げられる。それゆえに、グルタチオン-ポリアミンコンジュゲートは、スペルミジンまたはスペルミン等の1つのポリアミンと、1つ、2つ、またはそれ以上、例えば3つまたは4つのグルタチオン分子とのコンジュゲートであり得る。
【0026】
また、本明細書中で使用される用語「ヌクレオチド配列」、「核酸」、「核酸分子」、「オリゴヌクレオチド」、および「ポリヌクレオチド」は、RNAまたはDNA(cDNA、DNA断片もしくは部分、ゲノムDNA、合成DNA、プラスミドDNA、mRNA、およびアンチセンスRNAが挙げられる)を指し、それらはいずれも、一本鎖もしくは二本鎖、直鎖もしくは分岐鎖、またはそれらのハイブリッドであり得る。本明細書中で提供される核酸分子および/またはヌクレオチド配列は、本明細書中では左側から右側に5’から3’方向に示され、そして米国配列規則(U.S.sequence rules)、米国特許施行規則(37 CFR)第1.821~1.825条、および世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization:WIPO)標準ST.25に記載されているヌクレオチド文字を表すための標準コードを使用して表される。dsRNAが合成的に生成される場合、イノシン、5-メチルシトシン、6-メチルアデニン、およびヒポキサンチン等のあまり一般的でない塩基も、アンチセンス、dsRNA、およびリボザイム対合に使用することができる。例えば、ウリジンおよびシチジンのC-5プロピン類似体を含有するポリヌクレオチドは、RNAに高い親和性で結合し、かつ遺伝子発現の強力なアンチセンス阻害剤であることが示されている。ホスホジエステル骨格、またはRNAのリボース糖基中の2’-ヒドロキシへの修飾等の、他の修飾も行うことができる。本明細書中で使用される用語「組換え体」は、使用される場合、特定の核酸(DNAまたはRNA)が、天然系において見出される内因性核酸と区別可能な構造コード配列または構造非コード配列を有する構築体を結果として生じさせるクローニング工程、制限工程、および/またはライゲーション工程の種々の組合せの産物であることを意味する。
【0027】
本明細書中で使用される用語「遺伝子」は、mRNA、アンチセンスRNA、miRNA、および抗マイクロRNAアンチセンスオリゴデオキシリボヌクレオチド(AMO)等を生成するのに使用することができる核酸分子を指す。遺伝子は、機能性タンパク質または遺伝子産物を産生するのに使用することができても、できなくてもよい。遺伝子は、コード領域および非コード領域の双方、例えば、イントロン、調節要素、プロモーター、エンハンサー、終止配列、ならびに/または5’および3’非翻訳領域を含み得る。遺伝子は、「単離」されていてよく、これは、その天然状態にある核酸に関連して通常見出される成分が実質的に、または本質的にない核酸を意味する。そのような成分として、他の細胞材料、組換え生成由来の培地、および/または核酸の化学合成に使用される種々の化学物質が挙げられる。
【0028】
本明細書中で定義される「破壊された遺伝子」は、部分的に、または完全に非機能的な遺伝子および遺伝子産物を結果として生じさせる、遺伝子へのあらゆる変異または修飾を含む。そのような変異または修飾として、ミスセンス変異、ナンセンス変異、欠失、置換、挿入、および標的化配列の付加等が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、遺伝子の破壊はまた、または代替的に、遺伝子の転写を制御する制御要素の変異または修飾、例えば、プロモーター、ターミネーター、および/またはエンハンスメント要素における変異または修飾によって達成することができる。そのような場合、そのような変異または修飾は、遺伝子の転写の部分的な、または完全な喪失、すなわち、天然かつ非修飾の制御要素と比較した転写の低下または引下げをもたらす。結果として、あるとしても少量の遺伝子産物しか、転写および翻訳後に利用可能でない。さらに、遺伝子の破壊はまた、遺伝子からの局在化シグナルの付加または除去を伴って、その天然の細胞内コンパートメント内での遺伝子産物の存在を減少させ得る。
【0029】
遺伝子破壊の目的は、遺伝子産物の利用可能な量を減少させること(遺伝子産物のいかなる産生も完全に防止することを含む)、または天然もしくは野生型遺伝子産物と比較して、酵素活性を欠く、もしくは酵素活性がより低い遺伝子産物を発現させることである。
【0030】
本明細書中で使用される用語「欠失」または「ノックアウト」は、作動不能である、またはノックアウトされている遺伝子を指す。
【0031】
用語「減弱活性」は、酵素に関連する場合、対照または野生型の状態と比較した、その天然のコンパートメント内での酵素の活性の低下を指す。酵素の減弱活性をもたらす改変として、ミスセンス変異、ナンセンス変異、欠失、置換、挿入、標的化配列の付加、または標的化配列の除去が挙げられるが、これらに限定されない。減弱酵素活性をもたらす修飾を含有する細胞は、そのような修飾を含有しない細胞と比較して、酵素の活性がより低い。酵素の減弱活性は、非機能性遺伝子産物、例えば、活性を本質的に有していない、例えば、野生型ポリペプチドの活性と比較して約10%未満またはさらには5%未満の活性しかないポリペプチドをコードすることによって達成されてよい。
【0032】
遺伝子のコドン最適化バージョンとは、細胞中に導入され、かつ特定の細胞に関して遺伝子のコドンが最適化されている外来遺伝子を指す。一般に、全てのtRNAが、種の全体にわたって等しく、または同じレベルで発現するわけではない。これにより、遺伝子配列のコドン最適化は、最も一般的なtRNAに一致するように、すなわち、一般性が低いtRNAによって認識されるコドンを、所与の細胞において比較的一般的なtRNAによって認識される同義コドンと変えるようにコドンを変えることを含む。このようにして、コドン最適化遺伝子由来のmRNAは、より効率的に翻訳されることとなる。コドンおよび同義コドンは好ましくは、同じアミノ酸をコードする。
【0033】
本明細書中で使用される用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを示すのに互換的に使用される。また、用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」は、脂質結合、グリコシル化、L-グルタミン酸残基のグリコシル化、硫酸化、ヒドロキシル化、およびγ-カルボキシル化、ならびにADP-リボシル化が挙げられるがこれらに限定されない修飾を含む。
【0034】
本明細書中で使用される用語「酵素」は、細胞内の化学反応または生化学反応を触媒するタンパク質として定義される。通常、本発明に従えば、酵素をコードするヌクレオチド配列は、スペルミジンを産生する能力を細胞に付与するのに十分な、細胞内での対応する遺伝子の発現を引き起こすヌクレオチド配列(プロモーター)に作動可能に連結されている。
【0035】
本明細書中で使用される用語「オープンリーディングフレーム(ORF)」は、ポリペプチド、ペプチド、またはタンパク質をコードするRNAまたはDNAの領域を指す。
【0036】
本明細書中で使用される用語「ゲノム」は、宿主細胞におけるプラスミドおよび染色体の双方を包含する。例えば、宿主細胞中に導入される本開示のコード核酸は、当該核酸が染色体に組み込まれているか、プラスミドに局在しているかに拘らず、ゲノムの一部であり得る。
【0037】
本明細書中で使用される用語「プロモーター」は、1つ以上の遺伝子の転写を制御する機能を有する核酸配列を指し、これは、遺伝子の転写開始部位の転写の方向に対して上流に位置する。この文脈における適切なプロモーターとして、天然の構成的プロモーターおよび誘導プロモーターの双方、ならびに改変されたプロモーターが挙げられ、これらは当業者に周知である。
【0038】
酵母細胞での使用に適したプロモーターとして、PDC、GPD1、TEF1、PGK1、およびTDHのプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。他の適切なプロモーターとして、GAL1、GAL2、GAL10、GAL7、CUP1、HIS3、CYC1、ADH1、PGL、GAPDH、ADC1、URA3、TRP1、LEU2、TPI、AOX1、およびENOlのプロモーターが挙げられる。
【0039】
本明細書中で使用される用語「ターミネーター」は、特に明記しない限り、「転写終止シグナル」を指す。ターミネーターは、ポリメラーゼの転写を妨害または停止する配列である。
【0040】
本明細書中で使用される、本開示に従う「組換え真核細胞」は、内因性核酸配列の追加のコピーを含有するか、または真核細胞内に天然には存在しないポリペプチドもしくはヌクレオチド配列で形質転換されているか、もしくは遺伝的に修飾されている細胞と定義される。野生型真核細胞は、本明細書中で使用される組換え真核細胞の親細胞と定義される。
【0041】
本明細書中で使用される用語「増大する」、「増大した」、「増大している」、「増強する」、「増強した」、「増強している」、および「増強」(およびそれらの文法的変形)は、対照と比較して、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、150%、200%、300%、400%、500%、もしくはそれ以上の、またはそれらの中のあらゆる範囲の上昇を示す。
【0042】
本明細書中で使用される用語「引き下げる」、「引き下げられた」、「引下げ」、「減少させる」、「抑制する」、および「低下させる」、ならびに類似した用語は、対照と比較して、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、150%、200%、300%、400%、500%、もしくはそれ以上の、またはそれらの中のあらゆる範囲の低下を意味する。
【0043】
本明細書中で使用される遺伝子の発現の引下げは、遺伝子の転写を減少させ、遺伝子から転写されるmRNAの翻訳を減少させ、かつ/またはmRNAから翻訳されるタンパク質の翻訳後プロセシングを減少させる遺伝的修飾を含む。そのような遺伝的修飾として、遺伝子の制御配列、例えばプロモーターおよびエンハンサーになされる挿入、欠失、置換、または変異が挙げられる。例えば、遺伝子のプロモーターは、あまり活性がないか、またはあまり誘導性でないプロモーターによって置き換えられることによって、遺伝子の転写を減少させ得る。また、プロモーターのノックアウトは、遺伝子の発現の引下げ、典型的には0をもたらす。
【0044】
本明細書中で使用される用語、本発明のヌクレオチド配列の「一部、部分」または「断片」は、参照核酸またはヌクレオチド配列と比較して長さが短く、かつ参照核酸またはヌクレオチド配列と同一またはほぼ同一、例えば、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、98%、または99%同一の連続ヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む、それから本質的になる、かつ/またはそれからなるヌクレオチド配列を意味すると理解される。本発明に従うそのような核酸断片または部分は、適切な場合には、より大きなポリヌクレオチド内に構成要素となって含まれてもよい。
【0045】
相同性を有する異なる核酸またはタンパク質は、本明細書中で「相同体」と称される。用語相同体は、同じ種および他の種由来の相同配列、ならびに同じ種および他の種由来のオーソログ配列を含む。「相同性」は、2つ以上の核酸配列間および/またはアミノ酸配列間の、位置同一性、すなわち配列類似性または同一性のパーセントに換算した類似性のレベルを指す。また、相同性は、異なる核酸間またはタンパク質間での類似の機能的特性の概念を指す。ゆえに、本発明の組成物および方法はさらに、本発明のヌクレオチド配列およびポリペプチド配列に対する相同体を含む。本明細書中で使用される「オーソログ」は、種分化中に共通の祖先遺伝子から生じた、異なる種において相同なヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列を指す。本発明のヌクレオチド配列の相同体は、前記ヌクレオチド配列と実質的な、例えば、少なくとも約70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、および/または100%の配列同一性を有する。
【0046】
本明細書中で使用される用語「過剰発現させる」または「過剰発現」は、例えば過剰発現することになる特定の異種ポリペプチドまたは組換えポリペプチドで形質転換されていない、その天然または対照の状態の細胞内で存在するよりも、遺伝子の高いレベルの活性、例えば遺伝子の転写;mRNAの、タンパク質への高いレベルの翻訳;および/または遺伝子産物、例えばポリペプチドの高いレベルの産生を指す。過剰発現遺伝子の典型的な例が、遺伝子の天然プロモーターと比較して別のプロモーターの転写制御下にある遺伝子である。また、または代替的に、遺伝子の制御要素、例えばエンハンサーの他の変化を使用して、特定の遺伝子を過剰発現させることができる。さらに、遺伝子から転写されたmRNAの翻訳に影響を及ぼす、すなわちこれを増大させる修飾を、代替的に、または追加的に使用して、本明細書中で使用される過剰発現遺伝子を達成することができる。また、当該用語は、細胞内の遺伝子のコピー数の増大、ならびに/またはmRNAおよび/もしくは遺伝子産物の量の増大を指し得る。さらに、同じ、または相同な遺伝子産物、例えば酵素をコードする、異なる種由来の遺伝子を含めることによって、過剰発現を達成することが可能である。過剰発現は、対照レベルと比較して、細胞内で、25%、50%、75%、100%、200%、300%、400%、500%、750%、1000%、1500%、2000%、もしくはそれよりも高いレベル、またはそれらの中のあらゆる範囲をもたらし得る。
【0047】
本明細書中で使用される用語「外来」または「異種」は、核酸(RNAまたはDNA)、タンパク質、または遺伝子に関して使用される場合、それが導入される細胞、生物、ゲノム、またはRNA配列もしくはDNA配列の一部として天然に存在しない核酸、タンパク質、または遺伝子(天然に存在するヌクレオチド配列の、天然に存在しない複数のコピーを含む)を指す。そのような外来遺伝子は、別の種もしくは株由来の遺伝子、宿主細胞内に天然に存在する遺伝子の修飾されたか、変異したか、もしくは進化したバージョン、または宿主細胞もしくは融合遺伝子内に天然に存在する遺伝子のキメラバージョンであり得る。これらの前者の場合、修飾、変異、または進化は、遺伝子のヌクレオチド配列の変化を引き起こすことによって、宿主細胞内に天然に存在する遺伝子と比較して別のヌクレオチド配列を有する、修飾されたか、変異したか、または進化した遺伝子が得られる。進化した遺伝子とは、進化した遺伝子をコードし、かつ野生型遺伝子または本来の遺伝子と比較して異なるヌクレオチド配列を有する新しい遺伝子を誘導するような遺伝的修飾、例えば変異、または進化的圧力への曝露によって得られる遺伝子を指す。キメラ遺伝子は、新しい遺伝子を生成するような、1つ以上のコード配列の部分の組合せによって形成される。これらの修飾は、遺伝子配列全体を単一のリーディングフレームに統合しており、かつ多くの場合、それらの元々の機能を保持する融合遺伝子とは異なる。
【0048】
「内因性」、「天然の」、または「野生型」核酸、ヌクレオチド配列、ポリペプチド、またはアミノ酸配列は、天然に存在するか、または内因性の核酸、ヌクレオチド配列、ポリペプチド、またはアミノ酸配列を指す。ゆえに、例えば、「野生型mRNA」は、生物内に天然に存在するか、または生物に内在するmRNAである。
【0049】
本明細書中で使用される用語「修飾された」は、生物に関して使用される場合、ポリアミンコンジュゲートを産生するように修飾された宿主生物(そのように修飾されていない、普通であれば同一の宿主生物と比較)を指す。原則として、本開示に従うそのような「修飾」は、宿主生物におけるポリアミンコンジュゲートの産生を(修飾を受けていない、普通であれば同一の生物と比較して)適切に変更するあらゆる生理学的、遺伝的、化学的、または他の修飾を含み得る。しかしながら、ほとんどの実施形態において、修飾は、遺伝的修飾を含むこととなる。特定の実施形態において、本明細書中に記載される修飾は、遺伝子を宿主細胞中に導入することを含む。ポリペプチドの活性をブーストする遺伝的修飾は、以下に限定されないが:ポリペプチドをコードする遺伝子(同じ活性を有するポリペプチドをコードする、宿主細胞内に既に存在するあらゆる遺伝子から区別することができる)の1つ以上のコピーを導入することと;遺伝子の転写または翻訳を増大させるように、細胞内に存在する遺伝子を変更(例えば、調節配列、プロモーター配列、または他の配列について、変更、さらなる配列を付加、1つ以上のヌクレオチドを置換、配列を欠失、または交換)することと;活性をブーストするように、ポリペプチドをコードする遺伝子の配列(例えば、非コード配列またはコード配列)を(例えば、酵素活性を増大させること、フィードバック阻害を低下させること、特定の細胞内位置を標的化すること、mRNA安定性をブーストすること、タンパク質安定性をブーストすることによって)変更することとを含む。ポリペプチドの活性を引き下げる遺伝的修飾は、以下に限定されないが、ポリペプチドをコードする遺伝子の一部または全てを欠失させることと;ポリペプチドをコードする遺伝子を破壊する核酸配列を挿入することと;細胞内に存在する遺伝子を変化させて、遺伝子の転写もしくは翻訳、または遺伝子によってコードされるmRNAもしくはポリペプチドの安定性を(例えば、1つ以上のヌクレオチドにさらなる配列を付加し、当該ヌクレオチドを変更し、当該ヌクレオチドから配列を欠失させ、当該ヌクレオチドを置換し、または当該ヌクレオチドを交換することによって、例えば、1つ以上のヌクレオチド、プロモーター配列、調節配列、もしくは他の配列を置換することによって)減少させることとを含む。用語「過剰産生」は、宿主細胞内の産物の産生に関して本明細書中で使用されており、宿主細胞の代謝経路に関与する様々なポリペプチドをコードする核酸配列の導入により、または他の修飾の結果として、宿主細胞が、非修飾宿主細胞または野生型細胞と比較して、より多くの産物を産生することを示す。
【0050】
本明細書中で使用される用語「ベクター」は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、かつその発現を確実にするさらなるヌクレオチドに作動可能に連結されている直鎖DNA分子または環状DNA分子と定義される。
【0051】
酵母細胞の文脈における「導入すること」は、核酸分子が細胞の内部にアクセスするように、核酸分子を細胞と接触させることを意味する。したがって、ポリヌクレオチドおよび/または核酸分子を酵母細胞に、別個の形質転換事象における単回の形質転換事象で導入することができる。ゆえに、本明細書中で使用される用語「形質転換」は、細胞中への異種核酸の導入を指す。酵母細胞の形質転換は、安定性があってもよいし、一過性であってもよい。
【0052】
ポリヌクレオチドの文脈における「一過性の形質転換」は、ポリヌクレオチドが、細胞中に導入されて、細胞のゲノム中に組み込まれないことを意味する。
【0053】
細胞中に導入されるポリヌクレオチドの文脈にける「安定に導入すること」または「安定に導入された」とは、導入されたポリヌクレオチドが、細胞のゲノム中に安定に組み込まれることで、細胞がポリヌクレオチドにより安定に形質転換されることが意図される。本明細書中で使用される「安定性形質転換」または「安定に形質転換された」は、核酸分子が細胞中に導入されて、細胞のゲノム中に組み込まれることを意味する。したがって、組み込まれた核酸分子は、その後代によって、より具体的には複数の連続した世代の後代によって継承されることができる。また、本明細書中で使用される安定性形質転換は、例えばミニ染色体として、染色体外に維持される核酸分子を指すこともできる。
【0054】
一過性形質転換は、例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)またはウエスタンブロットによって検出され得、これらは、生物中に導入された1つ以上の核酸分子によってコードされるペプチドまたはポリペプチドの存在を検出することができる。細胞の安定性形質転換は、例えば、細胞のゲノムDNAの、生物(例えば酵母)中に導入された核酸分子のヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズする核酸配列とのサザンブロットハイブリダイゼーションアッセイによって検出することができる。細胞の安定性形質転換は、例えば、細胞のRNAの、酵母または他の生物中に導入された核酸分子のヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズする核酸配列とのノザンブロットハイブリダイゼーションアッセイによって検出することができる。また、細胞の安定性形質転換は、例えば、核酸分子の標的配列とハイブリダイズして、標的配列の増幅をもたらす(これを、標準的な方法に従って検出することができる)特異的プライマー配列を用いる、当該技術において周知のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または他の増幅反応によって検出することができる。また、形質転換は、当該技術において周知の直接配列決定および/またはハイブリダイゼーションプロトコールによって検出することもできる。
【0055】
また、本発明の実施形態は、本明細書中で定義されるポリペプチドの変異体を包含する。本明細書中で使用される「変異体」は、配列内の1つ以上のアミノ酸が、他のアミノ酸で置換されているという点で、アミノ酸配列が、これが由来する塩基配列と異なるポリペプチドを意味する。例えば、配列番号1の変異体は、配列番号1と少なくとも約50%同一の、例えば、少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または約100%同一のアミノ酸配列を有し得る。変異体および/または断片は、変異体配列が、本明細書中で指定される非変異体アミノ酸配列を有する酵素と類似するか、または同一の機能的酵素活性特性を有するという点で、機能的変異体/断片である(そしてこれは、本明細書の全体を通して使用される用語「機能的変異体」の意味である)。
【0056】
したがって、提示されるアミノ酸配列のいずれかの「機能的変異体」または「機能的断片」は、非変異体配列と同じ酵素カテゴリー(すなわち、同じEC番号を有する)内に残るあらゆるアミノ酸配列である。酵素が特定のカテゴリーに入るかを判定する方法が、当業者に周知であり、当業者であれば、本発明の技術を使用せずとも酵素カテゴリーを決定することができる。適切な方法は、例えば、国際生化学・分子生物学連合(International Union of Biochemistry and Molecular Biology)から得ることができる。
【0057】
アミノ酸置換は、アミノ酸が、特性が大まかには類似する異なるアミノ酸で置換されている場合、「保存的」であるとみなされ得る。非保存的置換は、アミノ酸が、異なるタイプのアミノ酸で置換されている場合である。
【0058】
「保存的置換」とは、同じクラスの別のアミノ酸によるアミノ酸の置換を意味し、クラスは、以下のように定義される:クラスアミノ酸の例
非極性:A、V、L、I、P、M、F、W
非荷電極性:G、S、T、C、Y、N、Q
酸性:D、E
塩基性:K、R、H。
【0059】
当業者に周知であるように、保存的置換によってポリペプチドの一次構造を変更しても、当該ポリペプチドの活性が大きく変更されない場合がある。なぜなら、配列中に挿入されるアミノ酸の側鎖は、置換されたアミノ酸の側鎖と類似の結合および接触を形成することができる場合があるからである。これは、置換が、ポリペプチドの高次構造を決定するのに重要な領域内にある場合でも、そうである。
【0060】
本発明の実施形態において、本明細書中の他の箇所で定義されるように、ポリペプチドの酵素活性を妨げない限り、非保存的置換が可能である。酵素の置換バージョンは、上記のNC-IUBMB命名法を使用して決定される、非置換酵素と同じ酵素クラスのままであるような特徴を保持しなければならない。
【0061】
大まかに言えば、ポリペプチドの生物学的活性を変更することのない、保存的置換よりも少ない非保存的置換が可能であろう。任意の置換の(実際には、任意のアミノ酸の欠失または挿入の)効果の決定は、完全に、本発明の態様に従って、変異体ポリペプチドが酵素活性を保持しているかを容易に判定することができる当業者のルーチン能力の範囲内である。例えば、ポリペプチドの変異体が、本発明の範囲に入る(すなわち、先で定義される「機能的変異体または断片」である)かを判定する場合、当業者は、変異体または断片が、本明細書中の他の箇所で言及されているNC-IUBMB命名法を参照して定義される基質変換酵素活性を保持しているかを判定することとなる。そのような変異体は全て、本発明の範囲内である。
【0062】
標準的な遺伝コードを使用して、ポリペプチドをコードするさらなる核酸配列が、本明細書中で開示されるものに加えて、当業者によって容易に考えられ、かつ製造され得る。核酸配列は、DNAであってもRNAであってもよく、DNA分子である場合、例えば、cDNAを含んでもゲノムDNAを含んでもよい。核酸は、本明細書中の他の箇所に記載されるように、発現ベクター内に含有されてよい。
【0063】
したがって、本発明の実施形態は、本発明の実施形態によって企図されるポリペプチドをコードする変異体核酸配列を包含する。核酸配列に関する用語「変異体」は、ポリヌクレオチドによってコードされる、結果として生じるポリペプチド配列が、塩基配列によってコードされるポリペプチドと少なくとも同じか、または類似の酵素特性を示すことを条件とした、ポリヌクレオチド配列からの、またはポリヌクレオチド配列への1つ以上のヌクレオチドの任意の置換、変異、修飾、置換、欠失、または付加を意味する。当該用語は、対立遺伝子変異体を含み、そしてまた、本発明の実施形態のポリヌクレオチド配列に実質的にハイブリダイズするポリヌクレオチド(「プローブ配列」)も含む。そのようなハイブリダイゼーションは、低ストリンジェンシー条件にて、高ストリンジェンシー条件にて、またはそれらの間で起こり得る。一般的に、用語低ストリンジェンシー条件は、洗浄工程が0.330~0.825M NaClバッファ溶液中で、プローブ配列の計算されたか、または実際の融解温度)(Tm)よりも約40~48℃低い温度(例えば、約ラボ周囲温度~約55℃にて起こるハイブリダイゼーションと定義することができる。一方、高ストリンジェンシー条件は、プローブ配列の計算されたか、または実際のTmよりも約5~10℃低い温度(例えば、約65℃)での、0.0165~0.0330M Nバッファ溶液中での洗浄を含む。バッファ溶液は、例えば、生理食塩水-クエン酸ナトリウム(SSC)バッファ(0.15M NaClおよび0.015Mクエン酸三ナトリウム)であってよく、低ストリンジェンシー洗浄は3×SSCバッファ中で行い、高ストリンジェンシー洗浄は0.1×SSCバッファ中で行う。核酸配列のハイブリダイゼーションに関係する工程は、例えば分子クローニング、ラボマニュアル(Molecular Cloning,a laboratory manual)[第2版]Sambrook et al.Cold Spring Harbor Laboratory,1989において、例えばその第11節「合成オリゴヌクレオチドプローブ(Synthetic Oligonucleotide Probes)」において記載されている。
【0064】
好ましくは、核酸配列変異体は、本発明の実施形態の核酸配列と共通のヌクレオチドの約80%以上、より好ましくは少なくとも85%、さらに好ましくは90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有する。
【0065】
本発明の変異体核酸は、特定の宿主細胞における発現のためにコドン最適化されていてよい。
【0066】
本明細書中で使用される「配列同一性」は、2つのヌクレオチド配列間、または2つのペプチドもしくはタンパク質配列間の配列類似性を指す。類似性は、配列間の構造的関係および/または機能的関係を判定するための配列アラインメントによって判定される。
【0067】
アミノ酸配列間の配列同一性は、国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information:NCBI),Bethesda,Md.,米国から入手可能なNeedleman-Wunschグローバル配列アラインメントツール(Global Sequence Alignment Tool)を使用して、例えば、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiを介して、デフォルトパラメータ設定(タンパク質アラインメントについて、ギャップコスト存在(Gap costs Existence):11伸長(Extension):1)を使用して、配列のアラインメントを比較することによって求めることができる。本明細書中で言及される配列比較および同一性パーセンテージは、このソフトウェアを使用して求めた。配列同一性のレベルを、例えば配列番号1と比較する場合、比較は、好ましくは、高い同一性重複の短い領域が、同一性の高い全体評価を生じさせることを回避するために、配列番号1の全長に対してなされるべきである(すなわち、グローバルアライメント法を用いる)。例えば、例えば5つのアミノ酸を有する短いポリペプチド断片は、配列番号1の全体の中で5つのアミノ酸領域に対して100%同一の配列を有する場合があるが、これは、当該断片が、配列番号1内の位置に相当する他の位置でも同一のアミノ酸を有するより長い配列の部分を形成する場合を除き、100%のアミノ酸同一性を与えない。比較される配列中の等しい位置が、同じアミノ酸によって占められている場合、分子は、当該位置にて同一である。同一性のパーセンテージとしてのアラインメントのスコアリングは、比較される配列によって共有される位置にて同一のアミノ酸の数の関数である。配列を比較する場合、最適なアライメントは、配列内の可能性のある挿入および欠失を考慮するように、配列の1つ以上にギャップが導入されることを求めてもよい。配列比較方法は、比較される配列内の同じ数の同一分子について、2つの比較される配列間のより高い関連性を反映する、ギャップが可能な限り少ない配列アラインメントが、ギャップが多いものよりも高いスコアを達成することとなるように、ギャップペナルティを使用してもよい。最大同一性パーセントの計算は、ギャップペナルティを考慮した、最適なアライメントの生成を含む。上述のように、配列同一性パーセンテージは、デフォルトのパラメータ設定を使用するNeedleman-Wunschグローバル配列アラインメント(Global Sequence Alignment)ツールを使用して求めてもよい。Needleman-Wunschアルゴリズムは、J.Mol.Biol.(1970)第48巻:443-453において発表された。
【0068】
本発明の一態様は、グルタチオン-ポリアミンコンジュゲートを産生することができる酵母細胞に関する。酵母細胞は、少なくとも1つのポリアミンを産生することができ、そして酵母細胞は、ポリアミン:グルタチオンリガーゼコード遺伝子および少なくとも1つのポリアミンシンターゼコード遺伝子を含むが、ポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を欠いているか、または破壊されたポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を含む。
【0069】
一実施形態において、酵母細胞は、ポリアミン:グルタチオンリガーゼの過剰発現のために改変されている。
【0070】
一実施形態において、ポリアミン:グルタチオンリガーゼの過剰発現は、ポリアミン:グルタチオンリガーゼコード遺伝子を、酵母細胞内で高度に活性なプロモーターの転写制御下に置くことによって達成される。酵母細胞での使用に適したプロモーターとして、PDC、GPD、GPD1、TEF1、PGK1、TDH、およびTDH3のプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。他の適切なプロモーターとして、GAL1、GAL2、GAL10、GAL7、CUP1、HIS3、CYC1、ADH1、PGL、GAPDH、ADC1、URA3、TRP1、LEU2、TPI、AOX1、およびENOlのプロモーターが挙げられる。
【0071】
酵母細胞は、ポリアミン:グルタチオンリガーゼコード遺伝子の1つまたは複数、すなわち少なくとも2つのコピーを含み、これによって、ポリアミン:グルタチオンリガーゼ用のmRNAのコピー数を増大させ、かつこれによって、酵母細胞によって産生されるポリアミン:グルタチオンリガーゼの量を増大させることができる。そのような場合、ポリアミン:グルタチオンリガーゼコード遺伝子の複数のコピーは、1つのプロモーターの転写制御下にあってもよいし、各ポリアミン:グルタチオンリガーゼコード遺伝子が、それぞれのプロモーターの転写制御下にあってもよい。後者の場合、同じタイプのプロモーターを使用して、それぞれのポリアミン:グルタチオンリガーゼコード遺伝子の転写を制御してもよいし、異なるタイプのプロモーターを使用してもよい。
【0072】
一実施形態において、グルタチオン-ポリアミンコンジュゲートは、トリパノチオン(N,N10-ビス(グルタチオニル)スペルミジン)、N-グルタチオニルスペルミジン、N10-グルタチオニルスペルミジン、N,N10-ビス(グルタチオニル)スペルミン、N,N,N10-トリ(グルタチオニル)スペルミン、N,N,N10,N14-テトラ(グルタチオニル)スペルミンからなる群から選択される。それゆえに、当該コンジュゲートは、スペルミジンまたはスペルミン等の1つのポリアミンと、1つ、2つ、またはそれ以上、例えば3つまたは4つのグルタチオン分子とのコンジュゲートであり得る。
【0073】
一実施形態において、ポリアミン:グルタチオンリガーゼコード遺伝子は、トリパノチオンシンターゼ(EC6.3.1.9)、グルタチオニルスペルミジンシンターゼ(EC6.3.1.8)、およびそれらの組合せからなる群から選択される。
【0074】
一実施形態において、トリパノチオンシンターゼ(TryS)コード遺伝子は、ブルーストリパノソーマ(Trypanosoma brucei brucei)トリパノチオンシンターゼ(TbbTryS)、およびトリパノチオンシンターゼTbbTrSと少なくとも80%の配列同一性を有するトリパノチオンシンターゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される。一実施形態において、ヌクレオチド配列は、ブルーストリパノソーマ(Trypanosoma brucei brucei)TrrSと少なくとも85%、またはさらには90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するトリパノチオンシンターゼをコードする。一実施形態において、少なくとも80%の配列同一性を有するこのトリパノチオンシンターゼは、グルタチオンおよびポリアミンの、グルタチオニルポリアミンへの変換、ならびに/またはグルタチオンおよびグルタチオニルポリアミンの、ビス(グルタチオニル)ポリアミンへの変換を触媒することができ、好ましくはグルタチオンおよびスペルミジンの、グルタチオニルスペルミジンへの変換、ならびにグルタチオンおよびグルタチオニルスペルミジンの、N,N10-ビス(グルタチオニル)スペルミジンへの変換を触媒することができる。少なくとも80%の配列同一性を有するトリパノチオンシンターゼの酵素効率は、TbbTrrSの対応する酵素効率よりも低くても、これと実質的に等しくても、これよりも高くてもよく、好ましくは少なくとも実質的に等しいか、またはより高い酵素効率である。
【0075】
TbbTrySのアミノ酸配列を配列番号34に示し、TbbTrrSのヌクレオチド配列を配列番号35に示す。
【0076】
一実施形態において、グルタチオニルスペルミジンシンターゼ(GSS)コード遺伝子は、大腸菌(Escherichia coli)グルタチオニルスペルミジンシンターゼ(EcGSS)、およびグルタチオニルスペルミジンシンターゼEcGSSと少なくとも80%の配列同一性を有するグルタチオニルスペルミジンシンターゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される。一実施形態において、ヌクレオチド配列は、大腸菌(Escherichia coli)EcGSSと少なくとも85%、またはさらには90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するグルタチオニルスペルミジンシンターゼをコードする。一実施形態において、少なくとも80%の配列同一性を有するこのグルタチオニルスペルミジンシンターゼは、グルタチオンおよびポリアミンの、グルタチオニルポリアミンへの変換を触媒することができ、好ましくはグルタチオンおよびスペルミジンの、グルタチオニルスペルミジンへの変換を触媒することができる。少なくとも80%の配列同一性を有するグルタチオニルスペルミジンシンターゼの酵素効率は、EcGSSの対応する酵素効率よりも低くても、これと実質的に等しくても、これよりも高くてもよく、好ましくは少なくとも実質的に等しいか、またはより高い酵素効率である。
【0077】
EcGSSのアミノ酸配列を配列番号259に示し、EcGSSのヌクレオチド配列を配列番号260に示す。
【0078】
一実施形態において、少なくとも1つのポリアミンは、スペルミン、サーモスペルミン、sym-ホモスペルミジン、1,3-ジアミノプロパン、プトレシン、カダベリン、アグマチン、スペルミジン、sym-ノルスペルミジン、ノルスペルミン、およびそれらの組合せからなる群から選択される。
【0079】
本発明の酵母細胞は、ポリアミンオキシダーゼ(EC1.5.3.17)コード遺伝子を欠いており、または破壊されたポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を含む。また、酵母細胞は、少なくとも1つのポリアミンシンターゼコード遺伝子を含む。
【0080】
酵母細胞によって発現される少なくとも1つのポリアミンシンターゼは、酵母細胞内での少なくとも1つのポリアミンの産生を触媒する。ポリアミンオキシダーゼは、スペルミンの、スペルミジンに戻る変換を触媒する酵素である。それゆえに、酵母細胞は、あらゆるポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を欠いており、または破壊されたポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を含む。これは、酵母細胞が好ましくは、あらゆるポリアミンオキシダーゼを欠くか、またはそのようなポリアミンオキシダーゼが酵母細胞内で発現されるならば、ポリアミンオキシダーゼは好ましくは、酵素的に不活性であるか、または少なくとも、天然のポリアミンオキシダーゼと比較して酵素効率がかなり低いことを意味する。
【0081】
一実施形態において、酵母細胞は、少なくとも1つのポリアミンシンターゼの過剰発現のために改変されている。
【0082】
一実施形態において、少なくとも1つのポリアミンシンターゼの過剰発現は、少なくとも1つのポリアミンシンターゼコード遺伝子を、酵母細胞内で高度に活性なプロモーターの転写制御下に置くことによって達成される。酵母細胞での使用に適したプロモーターとして、PDC、GPD、GPD1、TEF1、PGK1、TDH、およびTDH3のプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。他の適切なプロモーターとして、GAL1、GAL2、GAL10、GAL7、CUP1、HIS3、CYC1、ADH1、PGL、GAPDH、ADC1、URA3、TRP1、LEU2、TPI、AOX1、およびENOlのプロモーターが挙げられる。
【0083】
酵母細胞は、ポリアミンシンターゼコード遺伝子の1つまたは複数のコピーを含み、これによって、ポリアミンシンターゼ用のmRNAのコピー数を増大させ、かつこれによって、酵母細胞によって産生されるポリアミンシンターゼの量を増大させることができる。そのような場合、ポリアミンシンターゼコード遺伝子の複数のコピーは、1つのプロモーターの転写制御下にあってもよいし、各ポリアミンシンターゼコード遺伝子が、それぞれのプロモーターの転写制御下にあってもよい。後者の場合、同じタイプのプロモーターを使用して、それぞれのポリアミンシンターゼコード遺伝子の転写を制御してもよいし、異なるタイプのプロモーターを使用してもよい。
【0084】
一実施形態において、ポリアミンシンターゼコード遺伝子は、スペルミンシンターゼ(EC2.5.1.22)コード遺伝子、サーモスペルミンシンターゼ(EC2.5.1.79)コード遺伝子、およびホモスペルミジンシンターゼ(EC2.5.1.44またはEC2.5.1.45)コード遺伝子からなる群から選択される。
【0085】
一実施形態において、スペルミンシンターゼコード遺伝子は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)スペルミンシンターゼ、好ましくはScSPE4、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)スペルミンシンターゼ(AtSPMS)、およびスペルミンシンターゼScSPE4またはスペルミンシンターゼAtSPMSと少なくとも80%の配列同一性を有するスペルミンシンターゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される。一実施形態において、ヌクレオチド配列は、ScSPE4またはAtSPMSと少なくとも85%、またはさらには90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するスペルミンシンターゼをコードする。一実施形態において、少なくとも80%の配列同一性を有するこのスペルミンシンターゼは、スペルミジンの、スペルミンへの変換を触媒することができる。少なくとも80%の配列同一性を有するスペルミンシンターゼの酵素効率は、ScSPE4またはAtSPESの対応する酵素効率よりも低くても、これと実質的に等しくても、これよりも高くてもよく、好ましくは少なくとも実質的に等しいか、またはより高い酵素効率である。
【0086】
ScSPE4のアミノ酸配列を配列番号1に示し、ScSPE4のヌクレオチド配列を配列番号2に示す。AtSPMSの対応するアミノ酸配列を配列番号3に示し、AtSPMSのヌクレオチド配列を配列番号4に示す。
【0087】
一実施形態において、サーモスペルミンシンターゼコード遺伝子は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)サーモスペルミンシンターゼ、好ましくはAtACL5、およびサーモスペルミンシンターゼAtACL5と少なくとも80%の配列同一性を有するサーモスペルミンシンターゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される。一実施形態において、ヌクレオチド配列は、AtACL5と少なくとも85%、またはさらには90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するサーモスペルミンシンターゼをコードする。一実施形態において、少なくとも80%の配列同一性を有するこのサーモスペルミンシンターゼは、スペルミジンの、サーモスペルミンへの変換を触媒することができる。少なくとも80%の配列同一性を有するサーモスペルミンシンターゼの酵素効率は、AtACL5の対応する酵素効率よりも低くても、これと実質的に等しくても、これよりも高くてもよく、好ましくは少なくとも実質的に等しいか、またはより高い酵素効率である。
【0088】
AtACL5のアミノ酸配列を配列番号5に示し、AtACL5のヌクレオチド配列を配列番号6に示す。
【0089】
一実施形態において、ホモスペルミジンシンターゼ(HSS)コード遺伝子は、ハナノボロギク(Senecio vernalis)ホモスペルミジンシンターゼ(SvHSS)、ブラストクロリス・ビリディス(Blastochloris viridis)ホモスペルミジンシンターゼ(BvHSS)、およびホモスペルミジンシンターゼSvHSSまたはホモスペルミジンシンターゼBvHSSと少なくとも80%の配列同一性を有するホモスペルミジンシンターゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される。一実施形態において、ヌクレオチド配列は、SvHSSまたはBvHSSと少なくとも85%、またはさらには90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するホモスペルミジンシンターゼをコードする。一実施形態において、少なくとも80%の配列同一性を有するこのホモスペルミジンシンターゼは、プトレシンの、sym-ホモスペルミジンへの変換、またはプトレシンもしくはスペルミジンの、sym-ホモスペルミジンへの変換を触媒することができる。少なくとも80%の配列同一性を有するホモスペルミジンシンターゼの酵素効率は、SvHSSまたはBvHSSの対応する酵素効率よりも低くても、これと実質的に等しくても、これよりも高くてもよく、好ましくは少なくとも実質的に等しいか、またはより高い酵素効率である。
【0090】
SvHSSのアミノ酸配列を配列番号7に示し、SvHSSのヌクレオチド配列を配列番号8に示す。BvHSSの対応するアミノ酸配列を配列番号9に示し、BvHSSのヌクレオチド配列を配列番号10に示す。
【0091】
一実施形態において、酵母細胞は、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クルイウェロマイセス(Kluyveromyces)属、ジゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、カンジダ(Candida)属、ハンセニアスポラ(Hanseniaspora)属、ピキア(Pichia)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、トリゴノプシス(Trigonopsis)属、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属、デバリオマイセス(Debaromyces)属、ナドソニア(Nadsonia)属、リポマイセス(Lipomyces)属、クリプトコックス(Cryptococcus)属、アウレオバシジウム(Aureobasidium)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、ヤロウイア(Yarrowia)属、ロードスポリディウム(Rhodosporidium)属、ファフィア(Phaffia)属、シュワニオマイセス(Schwanniomyces)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、およびアシビア(Ashbya)属からなる群から選択される。特定の実施形態において、酵母細胞は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)、チゴサッカロマイセス・バイリィ(Zygosaccharomyces bailii)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、ロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)、ヤロウイア・リポリティカ (Yarrowia lipolytica)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ハンゼヌラ・アノマラ(Hansenula anomala)、カンジダ・スファエリカ(Candida sphaerica)、またはシゾサッカロマイセス・マリデヴォランス(Schizosaccharomyces malidevorans)からなる群から選択される。サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)が好ましい酵母種である。
【0092】
一実施形態において、酵母細胞はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)細胞であり、ポリアミンオキシダーゼはFMS1である。それゆえに、一実施形態において、サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)細胞はFMS1を欠いており、または破壊されたFMS1を含む。
【0093】
本発明の別の態様は、グルタチオン-ポリアミンコンジュゲートを産生することができる酵母細胞に関する。酵母細胞は、少なくとも1つのポリアミンを産生することができ、そして酵母細胞は、ポリアミン:グルタチオンリガーゼコード遺伝子を含む。
【0094】
また、前掲の酵母細胞の種々の実施形態は、本発明のこの態様に利用することができる。
【0095】
本発明のさらなる態様は、グルタチオン-ポリアミンコンジュゲートを生成する方法に関する。本方法は、本発明に従う酵母細胞を、培地中で、酵母細胞によるグルタチオン-ポリアミンコンジュゲートの産生に適した培養条件で培養することを含む。また、本方法は、グルタチオン-ポリアミンコンジュゲートを培地から、および/または酵母細胞から収集することを含む。
【0096】
本発明のこの態様における培地は、酵母細胞が培養されてグルタチオン-ポリアミンコンジュゲートを産生することができるあらゆる培地であり得る。培養は、例えば、バッチ、流加培養、もしくは灌流培養、または発酵、バイオリアクター発酵等の形態であり得る。
【0097】

例1:酵母における天然代謝の系統的再配線によるスペルミジン産生の向上
例1において、本発明者らは、中心炭素窒素代謝、メチオニンサルベージ経路、アデニンのサルベージ経路、ポリアミン輸送機構、およびポリアミン消費/分解経路が挙げられる、酵母株における代謝を体系的にリファクタリングした。加えて、本発明者らは、追加の潜在的陽性遺伝子標的も導入した。この酵母株は、新しいモジュール式遺伝的設計により構築した。具体的には、デノボSpd生合成経路は、より大きな炭素フラックスを糖炭素源からSpdに迂回させるための多数の生合成酵素についてのコード配列を含有する複数の遺伝的モジュールに分割される。
【0098】
L-オルニチン(Orn)の蓄積を増大させるように設計した前駆体過剰産生モジュール(I)は、8つのタンパク質:サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来のNADP(+)依存性グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH1)[配列番号11]、サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来のミトコンドリアアスパラギン酸グルタミン酸担体タンパク質(AGC1)[配列番号12]、サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来のミトコンドリアL-オルニチン担体タンパク質(ORT1)[配列番号13]、大腸菌(E.coli)由来のグルタミン酸N-アセチルトランスフェラーゼ(EcargA)[配列番号14]、大腸菌(E.coli)由来のアセチルグルタミン酸キナーゼ(EcargB)[配列番号15]、コリネ菌(Corynebacterium glutamicum)由来のN-アセチル-ガンマ-グルタミル-リン酸レダクターゼ(CgargC)[配列番号16]、コリネ菌(C.glutamicum)由来のアセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ(CgargD)[配列番号17]、およびコリネ菌(C.glutamicum)由来のオルニチンアセチルトランスフェラーゼ(CgargJ)[配列番号18]の過剰発現を含んだ。さらに、2つのタンパク質の減弱または除去:天然プロモーターPARG3を、より弱いプロモーターPKEX2と交換することによる、酵母天然オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(ARG3)[配列番号19]の減弱、およびL-オルニチントランスアミナーゼ(CAR2)[配列番号20]の活性の、CAR2のノックアウトによる除去もまた、このモジュール(I)に含めた。
【0099】
L-オルニチンからPutを過剰産生するように設計したプトレシン(Put)モジュール(II)は、2つの遺伝的修飾;サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来のオルニチンデカルボキシラーゼ(SPE1)[配列番号21]の過剰発現および天然のオルニチンデカルボキシラーゼ抗酵素(OAZ1)[配列番号22]の欠失を含んだ。
【0100】
スペルミジン生合成モジュール(III)を、プトレシンからのスペルミジン(Spd)の過剰産生のために設計した(サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来の2つのタンパク質:アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ(AdoMetDC;SPE2)[配列番号23]およびスペルミジンシンターゼ(SpdSyn;SPE3)[配列番号24]の過剰発現を特徴とした)。また、このモジュールには、スペルミジンの消費または分解を回避するための2つの天然タンパク質の欠失:スペルミンシンターゼをコードするSPE4[配列番号2]および非特異的ポリアミンオキシダーゼをコードするFMS1[配列番号25]の欠失を含めた。
【0101】
S-アデノシル-L-メチオニン(AdoMet)モジュール(IV)を、補因子AdoMetのアクセシビリティを高めるように設計した。この修飾には、多数のタンパク質:サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来の5’-メチルチオアデノシンホスホリラーゼ(MEU1)[配列番号26]、サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来の分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼ(BAT2)[配列番号27]、サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来のアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(APT1)[配列番号28]、サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来のリボース-リン酸ピロホスホキナーゼ(PRS5)[配列番号29]、およびリーシュマニア・インファントゥム(Leishmania infantum)由来のS-アデノシルメチオニンシンターゼ(LiMAT)[配列番号30]の過剰発現を含めた。また、このモジュールには、アデニンデアミナーゼ活性(AAH1)[配列番号31]の欠失も含めた。
【0102】
ポリアミン流出モジュール(V)を、細胞に対する細胞傷害性またはポリアミン生合成に対する阻害を軽減するように設計した。このモジュールには、TPO5によってコードされる酵母天然ポリアミントランスポーター[配列番号32]の過剰発現を含めた。
【0103】
最後に、さらに重要なことに、追加のスペルミジン生合成モジュール(VI)を、プトレシンおよびAdoMetからのスペルミジンの過剰産生のために設計した。このモジュールには、SPE2-SPE3によってコードされるAdoMetDC-SpdSyn融合タンパク質[配列番号33]の過剰発現を含めた。
【0104】
CRISPR/cas9系または伝統的な遺伝的マーカーベースの方法を介して、組込み遺伝子座として増殖欠陥および活性発現がないと本発明者らが予想した領域への染色体組込みによって、例1における遺伝子の過剰発現を得た。CRISPR/cas9ベースのゲノム編集の実施は、Mans et al.2015によって開発されたプロトコルに従った。特に、Cas9の構成的発現を可能にする、HIS3マーカーを有するプラスミドpL-CAS9-HISを有するサッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae strain)株CEN.PK113-11Cが、全ての遺伝子改変についての開始株であった。選択した遺伝子座における効率的なゲノム編集を可能にするために、複数のガイドRNA(gRNA)プラスミドを構築した。遺伝的部分、すなわち、プロモーター、ターミネーター、ORF、および相同アームの種々の組合せを含む遺伝的モジュールを、オーバーラップ伸長PCR(OE-PCR)手順に従って、組込みカセットとして構築した。以下の遺伝子およびプロモーターの組合せを、例1に使用した:TPI1p-ORT1-pYX212t;tHXT7p-AGC1-CYC1t;TEF1p-GDH1-DIT1t;PGK1p-SPE3-pYX212t;TEF1p-SPE1-PRM9t;TDH3p-SPE2-DIT1t;TDH3p-CgargJ-TDH2t;PGK1p--EcargB-ADH1t;TEF1p-CgargC-FBA1t;tHXT7p-CgargD-TPI1t;TPI1p-EcargA-CYC1t;TPI1p-MEU1p-FBA1t;PGK1p-BAT2-CYC1t;TDH3p-APT1-DIT1t;TEF1p-PRS5-PRM9t;TEF1p-LiMAT-PRM9;TDH3p-TPO5-CYC1t;TEF1p-SPE2-SPE3-PRM9t。
【0105】
全ての天然の遺伝的部分、すなわち、天然のプロモーター、ターミネーター、ORF、および相同アームを、テンプレートとしてCEN.PK113-11CゲノムDNAを使用してPCR増幅した。最適化した異種遺伝子について、合成断片またはプラスミド(GenScriptから入手)を、PCR増幅に使用した。ハイフィデリティPhusion DNAポリメラーゼを、分子クローニング手順の全体を通して利用した。カセットまたはプラスミドを、標準的なLiAc/SS DNA/PEG形質転換法によって酵母中に導入した。URA3ベースのプラスミドまたはカセットを含有する株を、アミノ酸のない6.7g/l酵母ニトロゲンベース(YNB)、ウラシルのない0.77g/l完全サプリメントミクスチュア(CSM-URA)、20g/lグルコース、および20g/lアガーからなる、ウラシルのない合成完全培地(SC-URA)上で選択した。URA3マーカーを除去して、5-フルオロオロチン酸(5’-FOA)プレートに対して選択した。さらに、CRISPR/cas9ベースの系も使用して、AAH1、SPE4、およびFMS1の欠失を実施した。他の遺伝子ノックアウト実験を、従来の方法によって行った。本明細書中で使用される全てのプライマーを表1に列挙しており、全てのプラスミドを表2に列挙しており、全ての株を表3に列挙している。
【表1-1】

【表1-2】

【表1-3】

【表1-4】

【表1-5】

【表1-6】

【表1-7】

【表1-8】

【表1-9】

【表1-10】

【表1-11】

【表1-12】

【表1-13】

【表1-14】

【表1-15】

【表1-16】

【表2】

【表3-1】

【表3-2】

【表3-3】
【0106】
ディープウェルスケール発酵を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と組み合わせたアッセイを使用して、結果として生じた株JQSPD_AAを評価した。特に、ポリアミンを生成するための、結果として生じたJQSPD_AA株の24ディープウェルバッチ発酵を、Verduyn et al 1992によって開発された最小培地中で行った。24時間の前培養物由来の培養物を、0.2の初期OD600で24ディープウェルプレート中の2ml最小培地に接種して、300rpm、30℃にて120時間培養した。7.5g/l(NHSO、14.4g/l KHPO、0.5g/l MgSO・7HO、20g/lグルコース、2ml/l微量金属、および1ml/lビタミン溶液(必要に応じて、40mg/lウラシル、40mg/lヒスチジンを補充)を含有する最小培地のpHを4.5に調整した。0.1mlの液体培養物をとることによってサンプルを調製して、熱水(HW)抽出に供した。当該方法において、本発明者らは、抽出物の状況として、ディープウェルプレートの発酵に最小培地を使用した。0.9mlの発酵培地を含有するチューブを、100℃の水浴中で10分間予熱した。次いで、熱い発酵培地を、0.1mlの液体培養物上に素早く注いだ;混合液を直ちにボルテックスして、サンプルを水浴に入れた。30分後、各チューブを氷上に5分間置いた。遠心分離後、上清を直接、誘導体化に使用した。誘導体化のために、0.125mlの飽和NaHCO溶液および0.25mlの塩化ダンシル溶液(アセトン中5mg/ml)を、0.25mlのサンプルに添加した。次いで、反応混合液を、暗所において40℃にて1時間、時々振盪させながらインキュベートした。0.275mlのメタノールを添加することによって、反応を停止させた。サンプルを、HPLC検出に使用した25mmシリンジフィルター(0.45μmナイロン)で濾過した。以下のクロマトグラフィー条件を使用した:C18(100mm×内径4.6mm、2.6μm、Phenomenex Kinetex)、励起波長340nm、発光波長515nm、サンプル注入1.5μl、カラム温度40℃、検出器感度7、4.0分での取得開始。移動相は、1ml/分の速度による水およびメタノールであった。溶出プログラムは、以下の通りであった:0~5分50%~65%メタノール、5~7.5分65%~75%メタノール、7.5~9.5分75%~87.5%メタノール、9.5~10.5分87.5%~100%メタノール、10.5~11.5分100%メタノール、11.5~13.5分100%~50%メタノール、13.5~16分50%メタノール。
【0107】
株JQSPD_AAは、>400mg/lの濃度でのSpd力価をもたらし、本明細書中で使用する修飾を部分的にのみ有する株と比較して、Spd力価が有意に増大した(国際公開第2016/144247号パンフレットおよび国際公開第2019/013696号パンフレットにおける例を参照)。
【0108】
例2:酵母におけるより高次のポリアミン産生
生命(Life)が、ポリアミンの構造変異体を合成するための多様な経路を進化させてきた。実際に、PutおよびSpdは典型的に、一般的なポリアミンとしてほとんどの細胞に見出される一方、sym-ホモスペルミジン(Hspd)、サーモスペルミン(Tspm)、スペルミン(Spm)、分岐鎖ポリアミン、および長鎖ポリアミン(LCPA)等の珍しいポリアミンもまた自然界で同定されている。例2は、遺伝的モジュール(VII)を設計して、例1のSpdプラットフォーム株JQSPD_AA中に導入することによって、sym-ホモスペルミジン(Hspd)、サーモスペルミン(Tspm)、およびスペルミン(Spm)の生合成を調査した。
【0109】
本発明者らは最初に、植物および細菌の双方に存在するトリアミンHspdを異種合成することに着手した。植物において、Hspdは、ホモスペルミジンシンターゼ(植物HSS;EC2.5.1.45)によって形成されるピロリジジンアルカロイド生合成における第1の経路特異的中間体である。この酵素は、細菌ホモスペルミジンシンターゼ(細菌HSS;EC2.5.1.44)よりも特異的である。これは、後者が、アミノブチル基のドナーとしてPutを使用することができないからである。Hspd微生物産生のための植物および細菌の双方のHSSの可能性を調査するために、酵母におけるHspdの生合成のために設計した遺伝的サブモジュール(VII-a)および(VII-b)が、それぞれハナノボロギク(Senecio vernalis)SvHSSおよびブラストクロリス・ビリディス(Blastochloris viridis)BvHSS13の発現をコードした。サブモジュールを、GenSciptからオーダーした高コピープラスミドSvHSS_p426GPDおよびBvHSS_p426GPDとして導入して、酵母コドン最適化SvHSS遺伝子[配列番号8]およびBvHSS遺伝子[配列番号10]をそれぞれ、Spdプラットフォーム株JQSPD_AA中に保持した。形質転換実験は、例1と同じ手順に従った。結果として生じた株JQSPD_AA(SvHSS_p426GPD)およびJQSPD_AA(BvHSS_p426GPD)を、例1に記載したのと同じ手順で、Hspd産生についてアッセイした。
【0110】
本発明者らは、双方のHSSの過剰発現が、Hspdの生合成を可能にすることを見出した。特に、SvHSSは、40.9mg/でのHspd力価を可能にした一方、BvHSSは、31.1mg/でのHspd力価を可能にした(図1aおよび図1d参照)。
【0111】
その後、本発明者らはまた、サブモジュール(VII-c)、サブモジュール(VII-d)、およびサブモジュール(VII-e)を導入することによって、Spdプラットフォーム(例1)をテトラアミンSpmおよびTspmの生成に利用した。Spmは、後生動物、顕花植物、および酵母の全体を通じて見出される最も一般的なテトラアミンである。特定のアミノプロピルトランスフェラーゼ、すなわちスペルミンシンターゼ(SpmSyn;EC2.5.1.22)が、Spm生合成を担っている。本発明者らは最初に、Spm過剰産生のための酵母天然SpmSyn Spe4pを調査した。
【0112】
JQSPD_AAにおいて高コピープラスミドSPE4_p426GPD(サブモジュール(VII-c)としてコドン最適化酵母SPE4[配列番号2]を過剰発現した場合、53.1mg/lのSpmが得られた(図1cおよび図1f参照)。本発明者らはまた、JQSPD_AA株において高コピープラスミドAtSPMS_p426GPD(サブモジュール(VII-d))として過剰発現されたAtSPMS[配列番号4]によって、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のSpmSynを試験した。これにより、Spm(41.8mg/l;図1cおよび図1f参照)が産生した。シロイヌナズナ(A.thaliana)由来の植物ACL5アミノプロピルトランスフェラーゼ(TspmSyn;EC2.5.1.79)は、Spm異性体Tspmを合成することが示された。これにより、本発明者らはまた、JQSPD_AA株において高コピープラスミドAtACL5_p426GPD(サブモジュール(VII-e))としてAtACL5[配列番号6]を過剰発現させた。この戦略は、43.8mg/lのTspm産生を可能にした(図1bおよび図1e参照)。酵母コドン最適化遺伝子を有するプラスミドは全て、GenScriptから購入した。例2において、例1で使用したのと同じ形質転換および生成物アッセイを使用した。全てのプラスミドを表2に列挙しており、全ての株を表3に列挙している。
【0113】
図3aは、酵母におけるスペルミジンおよびより高次のポリアミンの生合成のための改変した経路を示す。
【0114】
例3:酵母におけるトリパノチオンの生合成
アミド結合は、疑う余地なく、自然界で最も重要な構造モチーフの1つである。全ての市販薬の約4分の1、および全ての薬物候補の3分の2が、少なくとも1つのアミド結合を有し、アミンのアシル化は、製薬業界において最も広く行われている反応の1つである。ポリアミンは、他の部分を結合させるための独特の足場を提示し、そして多くの場合、特殊な代謝に組み込まれて、複雑な構造を有する多様なアミド結合含有天然産物の生合成をもたらす。例えば、トリパノチオン(N,N10-ビス(グルタチオニル)スペルミジン、T(SH))は、クリチジア(Crithidia)属、トリパノソーマ(Trypanosoma)属、およびリーシュマニア(Leishmania)属のトリパノソーマ科(trypanosomatids)における主要な低分子量チオールであり、後者の2つは、致命的な、または身体障害性の疾患、例えばアフリカ睡眠病、カラアザール、シャーガス病、およびエスプンジアまたは東邦腫の原因物質を含む。一方、花、花粉、および種子の発生、ならびに病原体耐性に関与すると仮定されている豊富なポリアミン含有ヒドロキシケイ皮酸アミドを、植物において合成することができる。しかしながら、ポリアミン含有ヒドロキシケイ皮酸アミドを、伝統的な合成化学、または天然源からの抽出のいずれかから得ることは、困難である。第一に、これらのポリアミンコンジュゲートは、自然界では低い存在量を示す(Li et al.2018)。他方、直接アミド化反応のための効率的な触媒系を確立することは、有機化学において何年も手強い課題のままであった(Wang 2019)。例3において、発明者らは、モジュール(VIII)を導入することによって、ポリアミンコンジュゲートの生合成に、例1のポリアミンプラットフォームを利用した。
【0115】
本発明者らは最初に、酵母における[T(SH)]の異種生合成に着手した。病原性トリパノソーマにおける主要なレドックスメディエーターである[T(SH)]は、クリチディア・ファシキュラータ(Crithidia fasciculate)において、グルタチオン(GSH)およびスペルミジン(Spd)由来の2つの異なる酵素、すなわち、グルタチオニルスペルミジンシンターゼ(GspS;EC6.3.1.8)およびトリパノチオンシンターゼ(TryS;EC6.3.1.9)によって段階的に合成されるが、ブルーストリパノソーマ(Trypanosoma brucei brucei)において、双方の工程が、広い基質特異性を有する特殊なTryS(EC6.3.1.9)によって触媒される。[T(SH)2]微生物産生についてTbbTrySを調査するために、酵母において[T(SH)2]を合成するように設計した遺伝的サブモジュール(VIII-a)は、ブルーストリパノソーマ(T.brucei brucei)TryS(TbbTryS)の発現をコードした。サブモジュールを、GenScriptから注文した、酵母コドン最適化TbbTryS遺伝子[配列番号35]を有する高コピープラスミドTbbTryS_p426GPDとして、Spdプラットフォーム株JQSPD_AAに導入した。例1において説明したのと同じ手順に従って、形質転換実験を行った。結果として生じた株JQSPD_AA(TbbTryS_p426GPD)を、例1に記載したのと同じ手順で、24ディープウェルベースの発酵に使用した。0.1mlの液体培養物をとることによって、発酵サンプルを調製した。発酵サンプルを熱水(HW)抽出に供した。本発明者らの方法では、発酵培地を使用して抽出した。0.9mlの発酵培地を含有するチューブを、100℃の水浴中で10分間予熱した。次いで、熱い発酵培地を、0.1mlの液体培養物上に素早く注いだ;混合液を直ちにボルテックスして、サンプルを水浴に入れた。30分後、各チューブを氷上に5分間置いた。遠心分離後、上清を直接、検出に使用した。
【0116】
ポリアミンコンジュゲートの検出を、オービトラップ融合質量分析計(Thermo Fisher Scientific,San Jose,CA)に連結したDionex UltiMate 3000 UHPLC(Fisher Scientific,San Jose,CA)での液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)測定によって行った。系は、35℃に保ったAgilent Zorbax Eclipse Plus C18 2.1×100mm、1.8μmカラムを使用した。流量は、アセトニトリル中0.1%ギ酸(A)および0.1%ギ酸(B)(移動相として)を用いて、0.350mL/分であった。勾配は、5%Bとして1分間開始してから、5分まで95%Bへの直線勾配を続けた。この溶媒組成液を1.5分間保持した。その後、これを5%Bに変えて、8分まで保持した。サンプル(5μl)を、加熱エレクトロスプレーイオン化源(HESI)を備えたMSに、陽イオンモードまたは陰イオンモードで通した。シースガスを50(a.u.)に、補助ガスを10(a.u.)に、そしてスイープガスを1(a.u.)にセットした。コーン温度およびプローブ温度は、それぞれ325℃および380℃であり、スプレー電圧は3500Vであった。スキャン範囲は80から500Daであり、スキャン間の時間は50msであった。TbbTrがスペルミジン上の2つのGSH部分を触媒する特性と一致して、例1のSpdプラットフォームJQSPD_AAにおけるこの酵素の過剰発現は、[T(SH)]産生をもたらした。特に、722.2977[M+H]または361.6524[M+H]2+に相当するm/z値を有する単一の新しいLC-MSピークが検出された。このことは、[T(SH)]の存在を示した(図2aおよび図2b参照)。全てのプラスミドを表2に列挙しており、全ての株を表3に列挙している。
【0117】
図3bは、酵母におけるグルタチオン-ポリアミンコンジュゲートの生合成のための改変した経路を示す。
【0118】
上記の実施形態は、本発明の一部の実例として理解されるべきである。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、実施形態に対して種々の修正、組合せ、および変更を行うことができることを理解するであろう。特に、異なる実施形態における異なる部分の解決策は、技術的に可能な場合、他の構成で組み合わせることができる。しかしながら、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。
【0119】
参考文献

【配列表フリーテキスト】
【0120】
配列表36~258 <223>プライマー
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図1f
図2a
図2b
図3a
図3b
【配列表】
2023501189000001.app
【国際調査報告】