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特表2023-501228レドックスフロー電池における鉄の予備形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(54)【発明の名称】レドックスフロー電池における鉄の予備形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20230111BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20230111BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/04858
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525396
(86)(22)【出願日】2020-10-26
(85)【翻訳文提出日】2022-06-27
(86)【国際出願番号】 US2020057406
(87)【国際公開番号】W WO2021086795
(87)【国際公開日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】62/929,634
(32)【優先日】2019-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519297300
【氏名又は名称】イーエスエス テック インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】ESS Tech,Inc.
【住所又は居所原語表記】26440 SW Parkway Avenue,Wilsonville,Oregon 97070 United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ソン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】トンプソン ブレディー
(72)【発明者】
【氏名】マクドナルド ティモシー ジェイ.
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB10
5H126RR01
5H127AA10
5H127AC05
5H127BA01
5H127BA28
5H127BA57
5H127BB03
5H127BB13
5H127BB37
5H127DC42
(57)【要約】
レドックスフロー電池における鉄の予備形成のための方法及びシステムが提供される。一例において、方法は、第1状態において、レドックスフロー電池を放電させ、その後、充電し、第2状態において、レドックスフロー電池の負極で鉄金属を予備形成することを含むレドックスフロー電池を充電し、その後、1つ以上の電解質条件を調整することを含むレドックスフロー電池のアイドルモードに入ることを含むことができる。いくつかの例では、鉄金属を予備成形すること、及び1つ以上の電解質条件を調整することの各々が、電池の充電容量を閾値充電容量よりも大きくすることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レドックスフロー電池のための方法であって、
第1状態において、前記レドックスフロー電池を放電させ、その後、前記レドックスフロー電池をアイドルモードに入れることなく、前記レドックスフロー電池を充電し、
第2状態において、前記レドックスフロー電池の負極に一定量の鉄メッキの予備形成を含む前記レドックスフロー電池を充電し、その後、電解質pH及び電解質の充電状態(state of charge:SOC)不均衡の各々の調整を含むアイドルモードに入れる、
方法。
【請求項2】
第3状態において、前記レドックスフロー電池を充電し、その後、前記アイドルモードに入れることなく前記レドックスフロー電池を放電させる、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レドックスフロー電池の閾値劣化レベルが満たされているかどうかを判定し、
前記レドックスフロー電池の前記閾値劣化レベルが満たされていると、前記第2状態に入り、
前記レドックスフロー電池の前記閾値劣化レベルが満たされていないと、
前記レドックスフロー電池の前記SOCを決定し、
前記SOCが閾値SOC以上であると、前記第1状態に入り、
前記SOCが前記閾値SOC未満であると、前記第3状態に入る、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2状態において、
前記レドックスフロー電池の第二鉄電解質濃度及び前回のサイクル効率の1つ以上を決定し、
前記レドックスフロー電池の充電中に、前記レドックスフロー電池の前記第二鉄電解質濃度及び前記前回のサイクル効率の1つ以上に基づいて、前記負極に形成される前記一定量の鉄メッキを推定し、
前記一定量の鉄メッキが閾値量未満であると、前記レドックスフロー電池の充電を継続してさらなる前記一定量の鉄メッキを予備形成する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記レドックスフロー電池の充電は、電解質タンク圧を増加させる設定点において充電することを含み、
前記第2状態の間において、
前記電解質タンク圧が第1閾値圧力よりも大きいと、電解質の再平衡化を行い、
その後、前記負極の前記一定量の鉄メッキを決定し、
前記一定量の鉄メッキが閾値量未満であると、前記設定点における前記レドックスフロー電池の充電を継続する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記電解質の再平衡化は、
前記電解質タンク圧を低下させるために、前記電解質の再平衡化を開始し、
前記電解質タンク圧が第2閾値圧力未満であると、前記電解質の再平衡化を終了し、
前記第2閾値圧力は、前記電解質の再平衡化の間において、水素ガスの閾値量が反応したことを示すように選択される、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記電解質の再平衡化の開始は、
前記レドックスフロー電池からの直流電流を放電させて充電を終了し、
1つ以上の前記電解質の再平衡化反応器を運転し、
前記レドックスフロー電池の充電の継続は、充電を終了した後の再充電を含む、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記閾値量は、電池の充電容量を閾値充電容量よりも大きくするように選択される、
又は、前記第1閾値圧力は、前記レドックスフロー電池のセルの破裂又は損傷を防止するように選択される、
請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第2状態において、
前記レドックスフロー電池の充電は、前記電解質タンク圧を前記第1閾値圧力よりも大きくすることを含み、
前記アイドルモードに入れることは、前記電解質タンク圧を前記第2閾値圧力未満に低下させることを含み、
前記第2閾値圧力は、前記第1閾値圧力未満である、
又は、前記第2状態において、
前記レドックスフロー電池の充電は、第二鉄の電解質濃度を第1量だけ増加させることを含み、
前記アイドルモードに入れることは、第二鉄の電解質濃度を第2量だけ減少させることを含み、
前記第2量は、前記第1量よりも大きい、
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
酸化還元電極と、
メッキ電極と、
前記酸化還元電極及び前記メッキ電極の各々に電解質を供給する電解質サブシステムと、
1つ以上のセンサと、
前記1つ以上のセンサから信号を受信し、非一時的メモリに実行可能命令を格納するように動作可能なコントローラと、を含み、
前記実行可能命令は、
前記1つ以上のセンサから受信した前記信号に基づいて1つ以上のシステム調整入力条件を決定し、
前記1つ以上のシステム調整入力条件が満たされると、
前記メッキ電極に一定量の鉄金属を予備形成する充電モードを命令し、
前記電解質サブシステムの1つ以上の条件を均衡させるためにアイドルモードを命令し、
その後、前記一定量の鉄金属が閾値量を超えていると、さらに電池のサイクリングに入る、
レドックスフロー電池システム。
【請求項11】
前記アイドルモードは、前記レドックスフロー電池システムをアイドル閾値電流未満で動作させることを含み、
前記充電モードは、前記酸化還元電極に直流電流を供給し、前記酸化還元電極において第二鉄を酸化し、前記メッキ電極において第一鉄を還元して前記一定量の金属鉄をメッキすることによって前記レドックスフロー電池システムを充電することを含む、
請求項10に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項12】
前記1つ以上のシステム調整入力条件が、閾値劣化レベルに達する、前記レドックスフロー電池システムを含む、
請求項10及び11のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項13】
前記1つ以上のセンサから受信した前記信号に基づいて前記1つ以上のシステム調整入力条件を決定することは、
前記1つ以上のセンサから受信した前記信号に基づいて電池の充電容量を決定し、
前記電池の充電容量が閾値充電容量を超えていると、前記レドックスフロー電池システムが前記閾値劣化レベルに達したことを示す、ことを含む、
請求項12に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項14】
前記電解質サブシステムの1つ以上の条件は、第二鉄濃度、正電解質pH、負電解質pH、及び電荷不均衡の電解質状態を含む、
請求項10から13のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項15】
前記電解質サブシステムは、1つ以上の電解質平衡反応器を含み、
前記電解質サブシステムの1つ以上の条件を平衡させることは、前記1つ以上の電解質平衡反応器を作動させて前記第二鉄の接触水素還元を行い、前記第二鉄濃度を減少させることを含む、
請求項14に記載のレドックスフロー電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2019年11月1日に出願された「レドックスフロー電池における鉄の予備形成方法」と題する米国仮出願第62/929,634号の優先権を主張する。上記の出願の全内容は、全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、レドックスフロー電池における鉄の予備形成のための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
レドックスフロー電池は、従来の電池技術と比較して、電力と容量を独立してスケーリングすることができ、また、性能損失を低減しながら数千サイクルにわたって充電及び放電することができるため、グリッド規模の貯蔵用途に適している。全鉄製ハイブリッドレドックスフロー電池は、低コストで地球上に豊富に存在する素材を採用しているため、特に魅力的である。一般に、鉄レドックスフロー電池(iron redox flow battery:IFB)は、電解質として鉄、塩、水を使用するため、シンプルで、地球に豊富で、安価な材料を含み、過酷な化学物質を使用せず、環境負荷も低減することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
IFBは、酸化還元反応が起こる正極と、電解質中の第一鉄(Fe2+)が還元されてメッキされる負極とを含むことができる。Fe2+の還元には、プロトン還元、鉄腐食、及び鉄メッキの酸化など、様々な副反応が競合する可能性がある。
+e⇔1/2H (プロトン還元) (1)
Fe+2H⇔Fe2++H (鉄腐食) (2)
2Fe3++Fe⇔3Fe2+ (鉄メッキ酸化) (3)
ほとんどの副反応は、負極で起こるので、IFBサイクル能力は、負極の鉄メッキによって制限されうる。鉄メッキ損失を改善する試みは、触媒電解質の再平衡化に焦点を当て、式(1)及び式(2)から、式(4)を介して、水素ガスの発生に対処している。
Fe3++1/2H→Fe2++H (電解質の再平衡化) (4)
しかしながら、本発明者らは、水素ガスの発生を低減しても、第二鉄(Fe3+)がメッキされた鉄よりも多く残留し、全体的な電池容量を制限することを認識した。したがって、IFBは、メッキ容量を増大させて動作させることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一例として、上記課題は、レドックスフロー電池に関する下記方法によって対処されうる。第1状態において、レドックスフロー電池を放電させた後に、アイドルモードに入ることなく、レドックスフロー電池を充電する。第2状態において、レドックスフロー電池の負極に鉄メッキを予備形成し、レドックスフロー電池を充電する。その後、電解質pH及び電解質の充電状態(state of charge:SOC)不均衡のそれぞれを調整することを含むアイドルモードに入る。いくつかの例において、電解質pH及び電解質SOC不均衡のそれぞれを調整することは、電解質中のFe3+の濃度を減少させることを含んでもよい。このようにして、負極で鉄メッキを予め形成し、その後の鉄メッキ損失を緩和して、電池サイクル中の電気化学的性能を最適化することができる。
【0006】
上記の要約は、詳細な説明でさらに記載される概念の選択を簡略化して紹介するために提供されていることを理解されたい。請求項された主題事項の主要、又は本質的な特徴を特定することは意図しておらず、詳細な説明に続く特許請求の範囲によって、その範囲は一意的に定義される。さらに、請求項された主題は、上記又は本開示のいずれかの部分に記載された欠点を解決する実施形態に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】電極及び膜セパレータを有する電池セルを含む例示的なレドックスフロー電池システムの概略図を示す。
図2】レドックスフロー電池システムの負極における鉄の予備形成方法のフローチャートを示す。
図3】レドックスフロー電池システムにおける電解質を再平衡化する方法のフローチャートを示す。
図4】レドックスフロー電池システムの負極での鉄の予備形成に続く電池サイクルの第1例の予測的タイムラインを示す。
図5】レドックスフロー電池システムの負極での鉄の予備形成に続く電池サイクルの第2例の予測的タイムラインを示す。
図6A】レドックスフロー電池システムの負極での鉄の予備形成に続く電池サイクル中の電圧のプロット例を示す。
図6B】レドックスフロー電池システムの負極での鉄の予備形成に続く電池サイクル中の電圧のプロット例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の説明は、レドックスフロー電池の負極における鉄の予備形成のためのシステム及び方法に関する。レドックスフロー電池は、別個の正及び負電解質チャンバを有する一体型マルチチャンバタンクを備えた概略図として図1に示されている。いくつかの例において、レドックスフロー電池は、IFBの正極及び負極の両方で鉄酸化還元化学を利用する全鉄フロー電池(IFB)であってもよい。電解質チャンバは、負極及び正極を含む1つ以上の電池セルに結合されてもよい。鉄は、システム調整中に負極上に予備形成されてもよく、それによって、電池サイクル中のIFBの容量を増加させる。このような鉄の予備形成のための一例の方法が図2に示されており、IFBのアイドルモードは、電池サイクルの前に負極で鉄をメッキするためのシステム調整中に使用されてもよい。図3の例示的な方法におけるような電解質の再平衡化は、水素ガス発生を考慮するために、システム調整中にさらに利用されてもよい。図4及び図5は、システム調整及びその後の電池サイクルのための例示的なタイムラインを示している。鉄の予備形成に続く電池サイクル中の電圧は、図6A及び図6Bの例示的プロットにさらに示される。
【0009】
ハイブリッドレドックスフロー電池は、電極上の固体層として1つ以上の電気活性材料を堆積させることを特徴とするレドックスフロー電池である。ハイブリッドレドックスフロー電池は、例えば、電池充電プロセスを通して基板上の固体としての電気化学反応を介してメッキされる化学種を含んでもよい。放電中、メッキされた化学種は、さらなる電気化学反応を介してイオン化し、電解質中に可溶となる。ハイブリッドレドックスフロー電池システムにおいて、レドックスフロー電池の充電容量(例えば、貯蔵されるエネルギーの最大量)は、電池充電中にメッキされた金属の量によって制限され、それに伴い、メッキシステムの効率、ならびにメッキに利用可能な体積及び表面積に依存してもよい。
【0010】
図1に示すように、レドックスフロー電池システム10において、負極26をメッキ電極、正極28を酸化還元電極と呼ぶことができる。レドックスフロー電池セル18のメッキ側(例えば、負極区画20)の負電解質をメッキ電解質と称し、レドックスフロー電池セル18のレドックス側(例えば、正極区画22)の正電解質をレドックス電解質と呼ぶことができる。
【0011】
「陽極」とは、電気活性材料が電子を失う電極を指し、「陰極」とは、電気活性材料が電子を得る電極を指す。充電中、正電解質は負極26で電子を獲得し、負極26は電気化学反応の正極となる。放電中、正電解質は電子を失い、負の電極26は電気化学反応の負極となる。あるいは、放電中、負電解質及び負の電極26は、それぞれ電気化学反応の陽極液及び陽極と称され、正電解質及び正の電極28は、それぞれ電気化学反応の陰極液及び陰極と称されてもよい。充電中、負電解質及び負の電極26は、それぞれ電気化学反応の陰極液及び陰極と称され、正電解質及び正の電極28は、それぞれ電気化学反応の陽極液及び陽極と称されてもよい。簡略化のため、本明細書では、レドックス電池フロー系における電極、電解質、及び電極区画を指すために、「正」及び「負」という用語が使用される。
【0012】
ハイブリッドレドックスフロー電池の一例は、全鉄レドックスフロー電池(IFB)であり、電解質は鉄塩(例えば、FeCl、FeCl等)の形で鉄イオンを含み、負極26は金属鉄を含む。例えば、負極26では、第一鉄(Fe2+)は、充電中に2つの電子を得て、鉄金属(Fe)として負極26上にメッキし、Feは、放電中に2つの電子を失い、Fe2+として再溶解する。正極28において、Fe2+は、充電中に電子を失って第二鉄(Fe3+)を形成し、Fe3+は、放電中に電子を得てFe2+を形成する。電気化学反応は、式(5)及び(6)に要約され、順反応(左から右)は、充電中の電気化学反応を示し、逆反応(右から左)は、放電中の電気化学反応を示す:
Fe2++2e⇔Fe -0.44V(負極) (5)
Fe2+⇔2Fe3++2e +0.77V(正極) (6)
【0013】
上述したように、IFBで使用される負電解質は、十分な量のFe2+を提供することができ、その結果、充電中に、Fe2+が負極26から2つの電子を受け取り、Feを形成し、基板上にメッキすることができる。放電中、メッキされたFeは2つの電子を失い、Fe2+にイオン化し、電解質に再び溶解することができる。この反応の平衡電位は-0.44Vであり、この反応により、所望のシステムのための負の端子が得られる。IFBの正極側では、充電中、電解質からFe2+が供給され、電子を失ってFe3+に酸化される。放電中、電解質からFe3+が供給され、正極28が電子を吸収してFe2+となる。この反応の平衡電位は+0.77Vであり、所望のシステムのための正の端子が得られる。
【0014】
IFBは、非再生電解質を利用する他の電池タイプとは対照的に、IFBの中で電解質を充電及び再充電する能力を提供することができる。充電は、端子40及び42を介して電極26及び28にそれぞれ電流を印加することによって達成することができる。負極26は、電子が正極28を介して負電解質に送達される(例えば、正極区画22内の正電解質において、Fe2+がFe3+に酸化される)ように、端子40を介して電圧源の負側に結合されてもよい。負極26に供給された電子は、負電解質中のFe2+を還元して、基板にFe0を形成し、Fe2+を負極26上にメッキすることができる。
【0015】
Feが酸化のために負電解質に利用可能なままであり、Fe3+が還元のために正電解質に利用可能なままである間、放電は維持される。一例として、レドックスフロー電池セル18の正極区画22側の正電解質の濃度又は体積を増加させて、外部正電解質チャンバ52などの外部ソースを介して追加のFe3+イオンを提供することにより、Fe3+の利用可用性を維持することができる。より一般的には、放電中のFeの利用可能性がIFBシステムにおいて問題となる場合があり、放電に利用可能なFeは、負極基板の表面積及び体積、ならびにメッキ効率に比例してもよい。充電容量は、負極区画20におけるFe2+の利用可用性に依存してもよい。一例として、レドックスフロー電池セル18の負電極区画20側に、負電解質の濃度又は体積を増加させるために、外部負電解質チャンバ50などの外部ソースを介して追加のFe2+イオンを供給することによって、Fe2+の利用可用性を維持してもよい。
【0016】
IFBにおいて、正電解質は、第一鉄、第二鉄、第二鉄錯体、又はそれらの任意の組み合わせを含むことができ、一方、負電解質は、IFBシステムの充電状態(SOC)に応じて、第一鉄又は第一鉄錯体を含むことができる。前述したように、負電解質及び正電解質の両方で鉄イオンを利用することにより、レドックスフロー電池セル18の両側で同じ電解種を利用することができ、これにより、電解質の交差汚染を低減することができ、IFBシステムの効率を高めることができ、他のレドックスフロー電池システムと比較して電解質の交換が少なくすることができる。
【0017】
IFBにおける効率損失は、セパレータ24(例えば、イオン交換膜バリア、微孔性膜など)を介した電解質の交差に起因する場合がある。例えば、正電解質中のFe3+イオンは、Fe3+イオン濃度勾配及びセパレータ24を横切る電気泳動力によって、負電解質に向かって駆動されうる。続いて、Fe3+イオンがセパレータ24を透過して負極区画20に交差すると、クーロン効率損失が生じることがある。Fe3+イオンが低pH酸化還元側(例えば、性の高い正極区画22)から高pHメッキ側(例えば、酸性度の低い負極区画20)に交差すると、Fe(OH)が沈殿することがある。Fe(OH)の沈殿は、セパレータ24を劣化させ、永続的な電池性能及び効率の損失を引き起こす可能性がある。例えば、Fe(OH)沈殿物は、イオン交換膜の有機官能基を化学的に汚染したり、イオン交換膜の微小孔を物理的に詰まらせたりする可能性がある。いずれの場合も、Fe(OH)の沈殿により、膜のオーミック抵抗が経時的に上昇し、電池性能が低下する可能性がある。沈殿物は、IFBを酸で洗浄することによって除去することができるが、定常的なメンテナンス及びダウンタイムは、商業的な電池用途には不利である。さらに、洗浄は電解質の定期的な調製に依存し、付加的な処理コスト及び複雑さが増す。あるいは、電解質pHの変化に応じて、正電解質及び負電解質に特定の有機酸を添加することにより、全体的なコストを押し上げることなく、電池の充電及び放電サイクル中の沈殿形成を緩和できる可能性がある。さらに、Fe3+イオンの交差を阻害する膜障壁を実施することで、付着することを軽減できる。
【0018】
付加的なクーロン効率損失は、H(例えば陽子)の還元と、それに続くH(例えば水素ガス)の形成と、負極区画20内のプロトンと、負極26のメッキされた鉄金属で供給された電子との反応によって、水素ガスを形成することにより生じることができる。
【0019】
IFB電解質(例えば、FeCl、FeCl、FeSO、Fe(SOなど)は、容易に入手可能であり、低コストで製造することができる。IFB電解質は、負電解質及び正電解質に同じ電解質を使用することができるため、他のシステムと比較して交差汚染の問題を低減し、より高い再生利用価値を提供する。さらに、鉄の電子配置上、鉄を負極基板上にメッキする際、鉄はほぼ均一な固体構造に凝固することがある。ハイブリッド酸化還元電池で一般的に使用される亜鉛及び他の金属については、メッキ中に固体樹枝状構造が形成されることがある。IFBシステムの安定した電極形態は、他のレドックスフロー電池と比較して、電池の効率を増加させることができる。さらに、鉄レドックスフロー電池は、他のレドックスフロー電池の電解質と比較して、有毒な原料の使用を減らして比較的中性のpHで動作することができる。したがって、IFBシステムは、現在生産されている他の全てのレドックスフロー電池システムと比較して、環境上の危険性を低減することができる。
【0020】
図1に、レドックスフロー電池システム10の概略図が示される。レドックスフロー電池システム10は、一体型マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110に流体的に結合されたレドックスフロー電池セル18を含んでもよい。レドックスフロー電池セル18は、一般に、負極区画20、セパレータ24、及び正極区画22を含んでもよい。セパレータ24は、正電解質と負電解質とのバルク混合を防止する一方で、特定のイオンの伝導性を許容する電気絶縁性のイオン伝導障壁を含むことができる。例えば、セパレータ24は、イオン交換膜及び/又は微孔性膜を含むことができる。
【0021】
負極区画20は、負極26と電気活性材料を含む負電解質とを含んでもよい。正極区画22は、正極28と電気活性材料を含む正電解質とを含んでもよい。いくつかの例において、複数のレドックスフロー電池セル18は、レドックスフロー電池システムにおいて、より高い電圧又は電流を生成するために、直列に又は並列に結合されてもよい。
【0022】
さらに、図1には、レドックスフロー電池システム10を通して電解液を汲み上げるために使用される負及び正の電解液ポンプ30及び32が示されている。電解質は、セル外部の1つ以上のタンクに貯蔵され、レドックスフロー電池セル18の負極区画20側及び正極区画22側をそれぞれ介して、負及び正の電解質ポンプ30及び32を介して圧送される。
【0023】
また、レドックスフロー電池システム10は、負極26及び正極28のそれぞれの背面側、例えば、セパレータ24に対向する側とは反対側に沿ってそれぞれ配置された第1バイポーラ板36及び第2バイポーラ板38を含むことができる。第1バイポーラ板36は、負極26に接触し、第2バイポーラ板38は、正極28に接触してもよい。しかし、他の例では、バイポーラ板36及び38は、それぞれの電極区画20及び22内で、電極26及び28に近接しているが離間して配置されてもよい。IFB電解質は、第1及び第2バイポーラ板36及び38によって、バイポーラ板36及び38の材料の導電性に起因して、負電極26及び正電極28における反応部位に輸送されてもよい。電解質の流れもまた、負及び正の電解質ポンプ30及び32によって補助され、レドックスフロー電池セル18を通る強制対流を促進できる。また、強制対流と第1及び第2バイポーラ板36及び38の存在との組み合わせによって、反応された電気化学種を反応部位から遠ざけることもできる。
【0024】
図1に示すように、レドックスフロー電池セル18は、負極電池端子40と正極電池端子42とをさらに含んでもよい。充電電流が電池端子40、42に印加されると、正極28で正電解質が酸化され(1つ以上の電子を失って)、負極26で負電解質が還元される(1つ以上の電子を得る)。放電中に、逆酸化還元反応が電極26及び28上で生じる場合がある。換言すれば、正極28で正電解質が還元され(1つ以上の電子を得て)、負極26で負電解質が酸化されてもよい(1つ以上の電子を失う)。電池間の電位差は、正極区画22及び負極区画20内の電気化学的酸化還元反応によって維持することができ、反応が持続している間、集電体を介して電流を誘導することができる。レドックス電池によって貯蔵されるエネルギーの量は、電解質の総量及び電気活性材料の溶解度に応じて、放電のために電解質中で利用可能な電気活性材料の量によって制限される。
【0025】
フロー電池システム10は、一体型マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110をさらに含むことができる。マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110は、隔壁98によって分割されていてもよい。隔壁98は、正及び負の両方の電解質が単一のタンク内に含まれるように、マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110内に複数のチャンバを形成することができる。負電解質チャンバ50は、電気活物質を含む負電解質を保持し、正電解質チャンバ52は、電気活物質を含む正電解質を保持する。隔壁98は、負電解質チャンバ50と正電解質チャンバ52との間に所望の体積比をもたらすように、マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110内に配置されてもよい。一例では、隔壁98は、負及び正の酸化還元反応間の化学量論比にしたがって、負及び正の電解質チャンバ50及び52の容積比を設定するように配置されてもよい。図1は、さらに、マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110の充填高さ112を示しており、これは各タンク区画内の液面を示している。図1は、また、負電解質チャンバ50の充填高さ112の上方に位置するガスヘッド空間90と、正電解質チャンバ52の充填高さ112の上方に位置するガスヘッド空間92とを示す。ガスヘッドスペース92は、レドックスフロー電池の作動によって(例えば、プロトン還元及び鉄腐食の副反応によって)生成され、レドックスフロー電池セル18からの戻り電解液とともにマルチチャンバ電解質貯蔵タンク110へ送られる水素ガスを貯蔵するために利用されてもよい。水素ガスは、マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110内の気液界面(例えば、充填高さ112)で自発的に分離されてもよく、それによってレドックスフロー電池システム10の一部として追加の気液分離器を有することを排除できる。電解質から分離された水素ガスは、ガスヘッドスペース90及び92に充填されてもよい。このように、貯蔵された水素ガスは、マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110から他のガスをパージするのを助けることができ、それによって、電解質種の酸化を低減するための不活性ガスブランケットとして作用し、レドックスフロー電池の容量損失を低減するのを助けることができる。このようにして、一体型マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110を利用することは、従来のレドックスフロー電池システムに共通の別個の負及び正の電解質貯蔵タンク、水素貯蔵タンク、及び気液分離器を有することを回避でき、それによって、システム設計を簡素化し、レドックスフロー電池システム10の物理的フットプリントを低減し、システムコストを低減することができる。
【0026】
図1は、ガスヘッド空間90と92との間の隔壁98に開口部を形成し、チャンバ50と52との間のガス圧力を均等化する手段を提供することができるスピルオーバーホール96を示している。スピルオーバーホール96は、充填高さ112より上の閾値高さに配置されてもよい。スピルオーバーホール96は、さらに、電池の交差の際に、負及び正の電解質チャンバ50及び52の各々における電解質を自己平衡させる能力を可能にする。全鉄レドックスフロー電池システムの場合、同じ電解質(Fe2+)が負極区画20と正極区画22の両方で使用されるので、負電解質チャンバ50と正電解質チャンバ52との間で電解質がこぼれて全体のシステム効率が低下する可能性があるが、全体の電解質組成、電池モジュール性能、及び電池モジュール容量は維持されうる。フランジ継手は、漏れのない連続的な加圧状態を維持するために、マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110に出入りする入口及び出口の全ての配管接続に利用される。マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110は、負及び正の電解質チャンバ50及び52の各々からの少なくとも1つの出口と、負及び正の電解質チャンバ50及び52の各々への少なくとも1つの入口とを含むことができる。さらに、水素ガスを再平衡化反応器80及び82に導くために、ガスヘッド空間90及び92から1つ以上の出口接続部を設けてもよい。
【0027】
図1には示されていないが、一体型マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110は、負電解質チャンバ50及び正電解質チャンバ52の各々に熱的に結合された1つ以上のヒータをさらに含んでもよい。代替例では、負及び正の電解質チャンバ50及び52の一方のみが、1つ以上のヒータを含んでもよい。なお、正電解質チャンバ52のみが1つ以上のヒータを有する場合は、レドックスフロー電池セル18で発生した熱を負電解質に伝達することにより、負電解質を加熱してもよい。このようにして、レドックスフロー電池セル18は、負電解質を加熱して温度調節を容易にすることができる。1つ以上のヒータは、負電解質チャンバ50及び正電解質チャンバ52の温度を独立して又は一緒に調節するために、コントローラ88によって作動させることができる。例えば、電解質温度が閾値温度未満に低下することに応じて、コントローラ88は、電解質への熱流束が増加するように、1つ以上のヒータに供給される電力を増加させてもよい。電解質温度は、センサ60及び62のようなマルチチャンバ電解質貯蔵タンク110に取り付けられた1つ以上の温度センサによって示すことができる。一例として、1つ以上のヒータは、電解質流体に浸漬されたコイル型ヒータ又は他の浸漬ヒータ、又は負及び正の電解質チャンバ50及び52の壁を通して熱を伝達して内部の流体を加熱するような表面マントル型ヒータを含んでもよい。本開示の範囲から逸脱することなく、他の公知のタイプのタンクヒータを使用することができる。さらに、コントローラ88は、液体レベルが固体充填閾値レベル未満に減少することに応じて、負及び正の電解質チャンバ50及び52内の1つ以上のヒータを非活性化してもよい。別の方法で言えば、いくつかの例では、コントローラ88は、液体レベルが固体充填閾値レベルを超えて増加することに応じてのみ、負及び正の電解質チャンバ50及び52内の1つ以上のヒータを活性化してもよい。このようにして、負及び/又は正電解質チャンバ50、52内に十分な液体がなくても1つ以上のヒータを作動させることを回避でき、それによって、ヒータ(複数可)の過熱又は焼損のリスクを低減できる。
【0028】
さらに、1つ以上の入口接続部が、現場給水システム(図示せず)から負及び正の電解質チャンバ50及び52の各々に設けられてもよい。このようにして、現場給水システムは、システムの設置、充填及び給水を含むレドックスフロー電池システム10の最終使用場所での試運転を容易にする。さらに、レドックスフロー電池システム10を最終使用場所で試運転する前に、システム10を最終使用場所とは異なる電池製造施設にて乾式で組み立て、システム10を充填及び給水させずに、システム10を最終使用場所に配送してもよい。一例では、最終使用位置は、レドックスフロー電池システム10が設置され、現地エネルギー貯蔵のために利用される位置に対応する。別の言い方をすると、最終使用場所に設置され給水されると、レドックスフロー電池システム10の位置が固定され、レドックスフロー電池システム10はもはや可搬型の乾燥システムとはみなされないと理解されよう。したがって、エンドユーザの観点からは、乾燥した可搬型レドックスフロー電池システム10を現地に納入され、その後、レドックスフロー電池システム10を設置し、給水し、作動させることができる。給水前に、レドックスフロー電池システム10は、乾燥した可搬型システムと称され、レドックスフロー電池システム10は、水及び湿潤電解質を含まない、或いは有さない。一旦給水されると、レドックスフロー電池システム10は、湿式電解質を含むレドックスフロー電池システム10である湿式非可搬型システムと称される。
【0029】
さらに図1に示されるように、マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110内に典型的に貯蔵された電解質溶液は、レドックスフロー電池システム10全体にわたって負及び正の電解質ポンプ30及び32を介して圧送される。負電解質チャンバ50に貯留された電解質は、負電解質ポンプ30を介してレドックスフロー電池セル18の負極チャンバ20側を通って汲み上げられ、正電解質チャンバ52に貯留された電解質は、正電解質ポンプ32を介してレドックスフロー電池セル18の正極チャンバ22側を通って汲み上げられる。
【0030】
電解質の再平衡化反応器80及び82は、レドックスフロー電池システム10において、レドックスフロー電池セル18の負側及び正側でそれぞれ電解質の再循環流路と直列又は並列に接続することができる。1つ以上の再平衡化反応器は、電池の負側及び正側で電解質の再循環流路と直列に接続されてもよく、他の再平衡化反応器は、冗長性(例えば、再平衡化反応器は、電池及び再平衡化操作を中断することなく使用可能に維持される)及び再平衡化容量の増加のために、並列に接続されてもよい。一例では、電解質の再平衡化反応器80及び82は、負極区画20及び正極区画22からそれぞれ負極及び正電解質チャンバ50及び52への戻りの流路内に配置されてもよい。電解質の再平衡化反応器80及び82は、本明細書に記載されるように、副反応、イオン交差などによって生じるレドックスフロー電池システム10内の電解質電荷の不平衡を再平衡させるのに役立つ。一例では、電解質の再平衡化反応器80及び82は、トリクルベッド反応器を含んでもよく、ここで、水素ガス及び電解質は、電解質の再平衡化反応を実行するために充填ベッド内の触媒表面で接触させることができる。他の例では、再平衡化反応器80及び82は、水素ガスと電解質液とを接触させ、充填された触媒ベッドがなくても電解質の再平衡化反応を行うことができるフロースルー型反応器を含むことができる。
【0031】
レドックスフロー電池システム10の動作中、センサ及びプローブは、電解質pH、濃度、SOCなどの電解質の化学的特性を監視及び制御することができる。例えば、図1に示すように、センサ62及び60は、正電解質チャンバ52及び負電解質チャンバ50における正電解質及び負電解質の状態をそれぞれ監視するように配置されてもよい。別の例では、センサ62及び60は、それぞれ、正電解質チャンバ52及び負電解質チャンバ50内の電解質のレベルを示すために、1つ以上の電解質レベルセンサを含んでもよい。別の例として、図1にも示されているセンサ72及び70は、正極区画22及び負極区画20における正電解質及び負電解質の状態をそれぞれ監視してもよい。センサ72及び70は、pHプローブ、光学プローブ、圧力センサ、電圧センサなどとすることができる。電解質の化学的特性及び他の特性を監視するために、センサをレドックスフロー電池システム10全体の他の位置に配置してもよいことが理解されよう。
【0032】
例えば、センサを外部酸タンク(図示せず)内に配置して、外部酸タンクの酸の体積又はpHを監視してもよく、電解質中の沈殿物の形成を低減するために、外部酸タンクからの酸を、外部ポンプ(図示せず)を介してレドックスフロー電池システム10に供給してもよい。レドックスフロー電池システム10に他の添加剤を供給するために、追加の外部タンク及びセンサを設置することができる。例えば、現場給水システムの温度、導電率及びレベルセンサを含む様々なセンサは、コントローラ88に信号を送信することができる。さらに、コントローラ88は、レドックスフロー電池システム10の給水中に、現場給水システムのバルブ及びポンプなどのアクチュエータに信号を送信することができる。センサ情報は、コントローラ88に送信されてもよく、コントローラ88は、ポンプ30及び32を作動させて、一例としてレドックスフロー電池セル18を通る電解質の流れを制御し、又は他の制御機能を実行することができる。このようにして、コントローラ88は、センサ及びプローブの一方又は組み合わせに応答することができる。
【0033】
レドックスフロー電池システム10は、水素ガスの供給源をさらに含んでもよい。一例において、水素ガスの供給源は、別個の専用水素ガス貯蔵タンクを含んでもよい。図1の例では、マルチチャンバ電解質一体型タンク110内に水素ガスを貯蔵して、そこから供給してもよい。一体化マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110は、正電解質チャンバ52及び負電解質チャンバ50に追加の水素ガスを供給することができる。一体化マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110は、電解質の再平衡化反応器80及び82の入口に、追加の水素ガスを交互に供給することができる。一例として、質量流量計又は他の流量コントローラ(コントローラ88によって制御されてもよい)は、一体型マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110からの水素ガスの流れを調整することができる。マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110は、レドックスフロー電池システム10で生成された水素ガスを補うことができる。例えば、レドックスフロー電池システム10でガス漏れが検出された場合や、低水素分圧で還元反応速度が低すぎる場合には、正電解質と負電解質との間で電気活性材料のSOCを再平衡させるために、一体型マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110から水素ガスを供給してもよい。一例として、図3を参照して後述するように、コントローラ88は、測定されたpHの変化に応じて、又は電解質もしくは電気活性材料のSOCの測定された変化に応じて、一体化マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110から水素ガスを供給してもよい。
【0034】
例えば、負電解質チャンバ50又は負電極区画20のpHの上昇は、水素がレドックスフロー電池システム10から漏れていること及び/又は利用可能な水素分圧では反応速度が遅すぎることを示してもよく、コントローラ88は、pHの上昇に応じて、一体型マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110からレドックスフロー電池システム10への水素ガスの供給を増加させることができる。さらなる例として、コントローラ88は、pHが第1閾値pHを超えて増加する又は第2閾値pHを超えて減少するようなpH変化に応じて、一体型マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110から水素ガスを供給してもよい。IFBの場合、コントローラ88は、Fe3+イオンの還元速度及びプロトンの生成速度を増加させて正電解質のpHを低下させるために、追加の水素を供給してもよい。さらに、正電解質から負電解質へ交差するFe3+イオンの水素還元によって、又は、正側で生成され、プロトン濃度勾配及び電気泳動力によって負電解質へ交差するプロトンによって、負電解質のpHを下げてもよい。このようにして、負電解質のpHを安定領域内に維持しつつ、Fe3+イオンがFe(OH)として沈殿する(正極区画22から交差する)リスクを低減することができる。
【0035】
酸素還元電位(oxygen-reduction potential:ORP)計又は光学センサなどの他のセンサによって検出される電解質pHの変化又は電解質SOCの変化に応じて、一体化マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110からの水素ガスの供給速度を制御する他の制御スキームを実施してもよい。さらに、コントローラ88のpH又はSOCトリガ動作の変化は、変化率又はある期間にわたって測定された変化に基づくものであってもよい。変化率の期間は、レドックスフロー電池システム10の時定数に基づいて予め定められていてもよいし、調整されていてもよい。例えば、再循環速度が高い場合には、期間を短縮してもよく、時定数が小さいため、濃度の局所的変化(例えば、副反応やガス漏れによるもの)を迅速に測定することができる。
【0036】
コントローラ88は、レドックスフロー電池システム10の動作モードに基づく制御スキームをさらに実行してもよい。例えば、図2を参照して後述するように、コントローラ88は、レドックスフロー電池セル18の充放電を制御して、システム調整中に負極26に鉄の予備形成を生じさせることができる(ここで、システム調整は、電池サイクル以外のレドックスフロー電池システム10の電気化学的性能を最適化するために使用される動作モードを含んでもよい)。すなわち、システム調整中に、コントローラ88は、レドックスフロー電池システム10の1つ以上の動作条件を調整して、負極26上に鉄金属をメッキし、その後の電池サイクル中の電池充電容量を改善することができる(したがって、鉄金属は、電池サイクルのために予備成形されてもよい)。コントローラ88は、レドックスフロー電池システム10から過剰な水素ガスを取り除き、Fe3+イオン濃度を減少させるために、上述のように電解質の再平衡化をさらに実行してもよい。このように、負極26で鉄を予備形成し、システム調整中に電解質を再平衡させることは、鉄メッキの損失を緩和し、電池サイクル中のレドックスフロー電池セル18の全体容量を増加させることができる。本明細書で使用されるように、電池サイクルは、レドックスフロー電池システム10の充電モードと放電モードとの間で交互に行うことを含んでもよい。
【0037】
センサ60、62及び一体型マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110(及びそこに含まれる構成要素)を除く全ての構成要素は、電力モジュール120に含まれると考えてもよい。このように、レドックスフロー電池システム10は、一体型マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110に流体的に結合され、センサ60及び62に通信可能に結合された電力モジュール120を含むものとして説明することができる。いくつかの例では、電力モジュール120及びマルチチャンバ電解質貯蔵タンク110の各々は、レドックスフロー電池システム10が単一のユニットとして単一の場所に収容されうるように、単一のハウジング(図示せず)内に含まれ得る。正電解質、負電解質、センサ60及び62、電解質の再平衡化反応器80及び82、及び一体型マルチチャンバ電解質貯蔵タンク110(及びそこに含まれる構成要素)は、電解質サブシステム130に含まれると考えてもよい。したがって、電解質サブシステム130は、1つ以上の電解質をレドックスフロー電池セル18(及びそこに含まれる構成要素)に供給することができる。
【0038】
ここで図2を参照すると、レドックスフロー電池システムの負極における鉄の予備形成のための方法200のフローチャートが示されている。方法200は、上述の実施形態を参照して説明するが、本開示の範囲から逸脱することなく、同様の方法を他のシステムに適用してもよい。例えば、方法200は、図1のレドックスフロー電池システム10によって実行してもよい。具体的には、方法200は、コントローラ88を介して実行することができ、非一時的記憶媒体(例えばメモリ)に実行可能命令として記憶されてもよい。図2を参照して説明した他の構成要素は、図1のレドックスフロー電池システム10の対応する構成要素の例であってもよい。
【0039】
202において、方法200は、レドックスフロー電池システム(例えば10)の1つ以上の運転条件を決定、測定、又は推定することを含んでもよい。例として、1つ以上の動作条件を測定することは、pH、電池SOC、電解質濃度(例えば、Fe3+、Fe2+等の濃度)、電解質SOCなどを含む電解質の化学的特性を、様々なセンサ及び/又はプローブ(例えば、センサ60、62、70、72)を用いて測定することを含んでもよい。さらなる例として、1つ以上の動作条件は、電力モジュール電圧、DC電流(直流電流)、ポンプ活動(例えば、電解質ポンプのオン/オフ状態、電解質ポンプの流量、ポンプタイマー等)、電解質温度、電力モジュールに供給される電力(電流及び電圧を含む)、内部電力需要設定点、外部電力需要設定点、電池の充電容量などを含んでもよく、これらはそれぞれ、レドックスフロー電池システムの1つ以上のセンサからのフィードバック(例えば、決定、測定、推定)によって示されてもよい。
【0040】
204において、方法200は、レドックスフロー電池システム(例えば10)の1つ以上の決定/測定/推定された動作条件に基づいて、システム調整入力条件が満たされているかどうかを決定することを含んでもよい。例えば、コントローラ(例えば88)は、レドックスフロー電池システムが閾値劣化レベルに達したときに、システム調整入力条件が満たされたと判断してもよい。一例において、閾値劣化レベルは、電池の充電容量が閾値充電容量を超えて減少したときに到達することができる。いくつかの例では、レドックスフロー電池セル(例えば18)の負極(例えば26)での鉄メッキ損失の結果として、電池充電容量が減少してもよい。
【0041】
システム調整入力条件が満たされない場合、例えば、電池の充電容量が閾値充電容量よりも高い場合、方法200は206に進み、電池SOC(例えば、202で決定/測定/推定)が閾値電池SOC未満かどうかを判定することができる。電池SOCが閾値電池SOC以上である場合、方法200は208に進み、放電モードで電池サイクルに入ることができる。このように、レドックスフロー電池システム(例えば10)は放電モードに入ることができる。いくつかの例において、レドックスフロー電池システム(例えば10)は、アイドルモードであってよく、レドックスフロー電池システムの電池サイクルは、放電モードへの移行によって開始されてもよい。他の例では、レドックスフロー電池システムは、既に電池サイクル中(例えば充電モード)であってもよく、電池サイクルは、システム調整入力条件が満たされていないことに応じて、電池サイクルを継続するために放電モードに入ることを含んでもよい。
【0042】
レドックスフロー電池システムの放電は、電解質ポンプ(例えば、1つ以上の負及び正の電解質ポンプ30及び32)を作動させて、それぞれ、放電閾値の負及び正の電解質ポンプ流量で、負及び正の電極区画(例えば20及び22)に電解質を流すことを含んでもよい。別の例では、コントローラ(例えば88)は、例えば、電力の放電閾値供給よりも大きいDC電流を負極(例えば26)に供給することによって、電力モジュール(例えば120)に電力を供給することができる。さらに、コントローラは、放電モードにあるレドックスフロー電池システムに対応する電解質種の濃度、pH、イオン強度、及び他の電解質特性のうちの1つ以上を維持するために、1つ以上のアクチュエータを動作させてもよい。いくつかの例では、放電モードを終了し、充電モードに入ることによって(そしてアイドルモードに入ることなく)、電池のサイクリングを続けてもよい。方法200は、その後、終了してもよい。
【0043】
206に戻ると、電池SOCが閾値電池SOC未満である場合、方法200は210に進み、充電モードで電池サイクルに入ることができる。このように、レドックスフロー電池システム(例えば10)は、充電モードに入ることができる。いくつかの例において、レドックスフロー電池システム(例えば10)は、アイドルモードであってよく、レドックスフロー電池システムの電池サイクルは、充電モードに移行することによって開始されてもよい。他の例では、レドックスフロー電池システムは、既に電池サイクル中(例えば放電モード)であってもよく、電池サイクルは、システム調整入力条件が満たされていないことに応じて、電池サイクルを継続するために充電モードに入ることを含んでもよい。
【0044】
レドックスフロー電池システムを充電することは、電解質ポンプ(例えば、1つ以上の負及び正の電解質ポンプ30及び32)を作動させて、それぞれ充電閾値の負及び正の電解質ポンプ流量で、負及び正の電極区画(例えば20及び22)に電解質を流すことを含んでもよい。別の例では、コントローラ(例えば88)は、例えば、電力の充電閾値供給よりも大きいDC電流を正極(例えば28)に供給することによって、電力モジュール(例えば120)に電力を供給してもよい。さらに、コントローラは、充電モードにあるレドックスフロー電池システムに対応する電解質種の濃度、pH、イオン強度、及び他の電解質特性のうちの1つ以上を維持するために、1つ以上のアクチュエータを動作させてもよい。いくつかの例では、充電モードを終了し、放電モードに入ることによって(そしてアイドルモードに入ることなく)、電池のサイクリングを続けてもよい。方法200は、その後、終了してもよい。
【0045】
204に戻ると、システム調整入力条件が満たされる場合、例えば、電池の充電容量が閾値充電容量よりも低い場合、方法200は212に進み、システム調整に入ることができる。一般に、電池システムのコンディショニングは、電池セルの耐用期間中に電気化学的性能(電池の充電容量の改善など)を最適化するために使用されてもよい。例えば、システム調整は、同定された準最適運転条件(例えば、低充電容量)に応じて、コントローラ(例えば88)によってレドックスフロー電池システム(例えば10)内で開始されてもよい。システム調整は、最適でない動作条件を最適化するために、レドックスフロー電池システムの1つ以上の動作条件を変更するコントローラを含んでもよい。
【0046】
214において、方法200は、鉄の予備形成のための充電モードに入ることを含んでもよい。充電モードは、設定点で、又は所望の電池SOCにレドックスフロー電池システム(例えば10)を充電することを含んでもよい。上述のように、レドックスフロー電池システムの充電は、電解質ポンプ(例えば、図1の負電解質ポンプ30及び正電解質ポンプ32の1つ以上)を作動させて、負及び正の電解質ポンプ流量のそれぞれの充電閾値で、負及び正の電極区画(例えば20及び22)に電解質を流すことを含んでもよい。別の例では、コントローラ(例えば88)は、例えば、レドックスフロー電池セル(例えば18)の実際の電池SOCを所望の電池SOCに上昇させるために、電力の充電閾値供給よりも大きいDC電流を正極(例えば28)に供給することによって、電力モジュール(例えば120)に電力を供給することができる。いくつかの例において、レドックスフロー電池セルの実際の電池SOCを所望の電池SOCに上げることは、SOC増加の充電閾値速度よりも大きいSOC増加の速度によってSOCを増加させることを含んでもよい。いくつかの例では、実際の電池SOCが所望の電池SOCまで増加したという表示は、ORPプローブからコントローラで受信されたフィードバックによって確認することができる。さらに、コントローラは、電解質種の濃度、pH、イオン強度、及び他の電解質特性のうちの1つ以上を、充電モードにあるレドックスフロー電池システムに対応する所望の値に維持するために、1つ以上のアクチュエータを動作させることができる。一例において、所望の値は、充電モードにおけるレドックスフロー電池システムの動作に特徴的な閾値を超えることを含むことができる。このようにして、レドックスフロー電池システムは、電池充電容量が、充電モードに入るために典型的に利用される閾値電池充電容量(例えば、電池のサイクル)を下回る場合であっても、システム調整中に(例えば、鉄の予備形成のために)充電モードに入ることができる。
【0047】
一般に、図1を参照して上述したように、充電モードの間、正極(例えば28)において、Fe2+は電子を失い、Fe3+を形成してもよい。したがって、充電モードの間、電解質中のFe3+の濃度は、第1Fe3+量だけ増加してもよい。また、負極(例えば26)において、Fe2+は、2個の電子を得て、負極上にFeとしてメッキすることができる。しかし、負極(例えば、プロトン還元、鉄腐食)での副反応のために、レドックスフロー電池セル(例えば18)の電極区画(例えば20、22)にかなりの水素ガスが発生することがある。その結果、水素ガスの分圧(例えば水素ガス濃度)が高くなり、レドックスフロー電池セルに流体結合された一体型マルチチャンバ電解質貯蔵タンク(例えば110)のタンク圧が上昇する。
【0048】
このように、216において、方法200は、タンク圧が第1閾値圧力より大きいか否かを決定することを含んでもよい。第1閾値圧力は、レドックスフロー電池システム(例えば10)の1つ以上の構成要素が破裂又は劣化するタンク圧を下回るように選択することができる。タンク圧が第1閾値圧力以下である場合、方法200は218に進み、レドックスフロー電池セル(例えば18)の充電を継続する、すなわち、充電モードを維持することができる。
【0049】
タンク圧が第1閾値圧力より大きい場合、方法200は、220に進み、充電モードを終了し、アイドルモードに入ることができる。一般に、レドックスフロー電池システム(例えば10)のアイドルモードは、1つ以上の動作条件(例えば、電解質温度、電解質ポンプ流量など)を維持することを含んでもよいが、その一方で、能動的に充電/放電サイクルを行わず、その結果、コントローラ(例えば88)からの充電又は放電コマンドに応じて電力を供給するレドックスフロー電池システムの準備が維持されうる。一例において、充電モードを終了してアイドルモードに入ることは、レドックスフロー電池システムへの電力を切断することによって、電力モジュール(例えば120)からのDC電流をアイドル閾値電流以下に排出することを含んでもよい。一例では、アイドル閾値電流は0であってもよい。
【0050】
222において、方法200は、電解質の再平衡化を開始することを含んでもよい。図3を参照して説明したように、レドックスフロー電池システム(例えば10)における電解質の再平衡化は、触媒電解質再平衡化サブシステムを使用して、過剰なFe3+をFe2+に還元するための還元剤として水素ガスを供給することによって、不平衡であるFe3+を低下させる。したがって、電解質の再平衡化は、電解質中のFe3+の濃度を第2Fe3+量だけ減少させることができる。いくつかの例において、第2Fe3+の量は、第1Fe3+の量より大きくてもよい。このようにして、Fe3+をレドックスフロー電池システムから除去し、1つ以上の副反応の平衡をシフトさせ、Fe3+によってメッキされた鉄の酸化を緩和する。
【0051】
224において、方法200は、タンク圧が第2閾値圧力未満かどうかを決定することを含んでもよい。第2閾値圧力は、水素ガスの閾値量が反応したことを示すために選択されてもよい。いくつかの例において、第2閾値圧力は、第1閾値圧力よりも小さくてもよい。タンク圧が第2閾値圧力以上である場合、方法200は226に進み、電解質の再平衡化を継続することができる。
【0052】
タンク圧が第2閾値圧力未満である場合、方法200は228に進み、所望の鉄の予備形成(例えば、所望の鉄メッキ量)が達成されたか否かを判定してもよい。さらに、コントローラ(例えば88)は、タンク圧が第2閾値圧力未満であると判定されたときに、電解質の再平衡を終了するように命令することができる。いくつかの例では、鉄メッキ量が閾値量未満である場合に、所望の鉄の予備形成を達成することができ、閾値量は、閾値充電容量を超える電池の充電容量を増加させるように選択することができる。追加の又は代替の例では、閾値量は、レドックスフロー電池システム(例えば10)の以前のサイクル効率又は所望のサイクル効率に基づいて予め決定されてもよい。他の実施例では、電解液中のFe3+の濃度に基づいて鉄メッキ量を推定してもよい。例えば、所望の鉄の予備形成は、閾値濃度よりも低い電解質中のFe3+の濃度の表示を含んでもよく、ここで、閾値濃度は、Fe3+の濃度が、その後の電池サイクルにおいて鉄メッキ酸化が緩和されるように低下された点であるように選択されてもよい。所望の鉄の予備形成が達成されていない場合、方法200は、214に戻り、アイドルモードを終了し、再び充電モードに入ることができる。このように、レドックスフロー電池システムにおいて充電が継続され、それによって鉄の予備形成を継続することができる。このようにして、本開示によって提供される鉄の予備形成の方法は、所望の鉄の予備形成が達成されるまで、負極(例えば26)で鉄を予備形成するために、充電モードとアイドルモードとを能動的に繰り返すコントローラ(例えば88)を含むことができる。いくつかの例では、充電モード及びアイドルモードの能動的なサイクルを含む鉄の予備形成の方法は、最終的なレドックスフロー電池システムが長期の商業的使用のために調製されるように、製造プロセス中に実施されてもよい。
【0053】
所望の鉄の予備形成量が達成された場合、方法200は、230に進んでシステム調整を終了し、その後、210に進んで、電池の充電容量が閾値充電容量よりも大きい充電モードによる電池サイクルに入ることができる。方法200は、その後、終了してもよい。
【0054】
このようにして、レドックスフロー電池システムは、その中の負極で鉄を予備形成するためにシステム調整を利用することができ、その後、電解質再平衡を開始してFe3+の電解質濃度を減少させることができ、それによって、以降の電池サイクル時の鉄メッキ損失を緩和することができる。
【0055】
一般に、副反応(例えば、プロトン還元、鉄腐食)による水素ガスの発生の結果、負極区画内の負電解質は、pH3~6の範囲で安定化する傾向がある。正極区画では、Fe3+はFe2+よりもはるかに低い酸解離定数(pK)を有する。したがって、より多くのFe2+がFe3+に酸化されると、正極区画内の正電解質は、2未満のpH、いくつかの例では1に近いpHで安定化する傾向がある。
【0056】
したがって、負電解質(例えば、負極区画内)が安定している第1pH範囲に負電解質pHを維持し、正電解質(例えば、正極区画内)が安定している第2pH範囲に正電解質pHを維持すると、低サイクル性能を低下させ、レドックスフロー電池システム全体の効率を向上させることができる。例えば、負電解質のpHを3~4の間に維持することは、鉄の腐食を減少させ、鉄メッキの効率を増加させ、一方、正電解質のpHを2未満、いくつかの例では1付近に維持すると、酸化還元反応を促進し、Fe(OH)の形成を減少させることができる。
【0057】
さらに、水素ガスの発生は、レドックスフロー電池システムにおける電解質の不均衡を引き起こす可能性がある。例えば、充電中に、例えばFe2+酸化の結果として、正極から負極に流れる電子は、生成された水素ガスによって消費され、メッキに利用可能な電子が減少する場合がある。その結果、メッキが低減し、電池の充電容量が低減する。また、Feが腐食すると、電池の放電に利用できるFeの量が減少するので、電池の充電容量をさらに減少する。したがって、水素ガス発生の結果として、負極区画と正極区画との間の電解質SOC不均衡が生じる場合がある。さらに、上述したように、プロトンを消費するプロトン還元及び鉄腐食から生じる水素ガスの発生は、負電解質pHの増加をもたらす可能性がある。負電解質pHの増加は、それに付随して、酸化還元電池フローシステム内の電解質を不安定化させ、さらなる電池充電容量及び効率損失をもたらす。
【0058】
レドックスフロー電池システムにおける水素ガス発生に起因する電解質再平衡化の問題に対処するアプローチは、正電解質における不平衡Fe3+を、副反応から生成される水素ガスで触媒的に還元することを含んでもよい。このようにして、図3を参照すると、レドックスフロー電池システムにおいて電解質を再平衡させる方法300のフローチャートが(例えば、そこに含まれる1つ以上の電解質の再平衡化反応器を介して)示されている。方法300は、上述の実施形態を参照して説明するが、本開示の範囲から逸脱することなく、同様の方法を他のシステムに適用してもよいことが理解されるであろう。例えば、方法300は、図1のレドックスフロー電池システム10によって実行されてもよい。具体的には、方法300は、コントローラ88を介して実行され、非一時的記憶媒体(例えば、メモリ)に実行可能命令として記憶することができる。図3を参照して説明した他の構成要素は、図1のレドックスフロー電池システム10の対応する構成要素の例であってもよい。一実施形態では、方法300は、図2において上記で詳細に説明したように、方法200において222を部分的又は全体的に置換することができる。しかしながら、方法300が電解質再平衡化の一例示的実施形態を構成し、追加の又は代替の電解質再平衡化方法が本開示の範囲内で実施されうることが理解されるであろう。
【0059】
302において、方法300は、レドックスフロー電池システム(例えば10)の1つ以上の運転条件を決定、測定、又は推定することを含んでもよい。図2の202で上述したように、コントローラ(例えば88)は、pH、電池SOC、電解質濃度(例えば、Fe3+、Fe2+等の濃度)、電解質SOC、電力モジュール電圧、DC電流、ポンプ活性(例えば、電解質ポンプのオン/オフ状態、電解質ポンプの流量、ポンプタイマー等)、電解質温度、電力モジュールに供給される電力(電流及び電圧を含む)、内部電力要求設定点、外部電力要求設定点、電池の充電容量などを含む電解質の化学的特性のうちの1つ以上を決定することができる。レドックスフロー電池システムの1つ以上のセンサ(例えば60、62、70、72)からのフィードバックによって、種々の動作条件が示される(例えば、決定、測定、推定)。一例として、電池SOCは、光学センサを用いて測定することができ、pHは、pH計を用いて測定することができ、電解質濃度は、電解質電位を測定するためのORP計を用いて監視することができる。
【0060】
304において、方法300は、水素ガスを負極及び正極(例えば26、28)から触媒表面(例えば、充填された触媒ベッド上)に導入してもよい。一例として、1つ以上の副反応(例えば、プロトン還元、鉄腐食)から負極で生成されうる水素ガスは、電解質ポンプ(例えば30、32)を介して触媒表面に導入されてもよい。さらなる例として、外部ソースからの水素を、触媒表面に誘導することができる。触媒表面は、充填された触媒ベッドの触媒表面及び/又はセパレータ(例えば24)と負極との間に位置する触媒層を含んでもよい。触媒表面が触媒層を含む例では、触媒層は、水素ガスが触媒表面に誘導されるように、又は水素ガスが触媒表面に自己誘導される(例えば、水素ガスが上昇する)ように、負極及び/又は正極に対して配置されてもよい。Fe3+の水素還元の触媒作用を及ぼす他の触媒表面を使用することができる。例えば、触媒表面が充填された触媒ベッドの触媒表面を含む例では、充填された触媒ベッドは、トリクルベッド反応器以外の反応器タイプ内に含まれてもよい。
【0061】
306において、方法300は、電解質を触媒表面に導入してもよい。電解質は、正電解質及び/又は負電解質を含んでもよく、電解質は、1つ以上の金属イオンを含んでもよい。電解質は、電解質ポンプ(例えば30、32)を介して触媒表面に導入される。さらなる例として、電解質は、外部ソースから触媒表面に導入される。さらなる例として、触媒表面は、電解質が触媒表面に誘導されるように、又は自己誘導される(例えば、電解質が重力で流れる)ように、負極(例えば26)及び/又は正極(例えば28)に対して配置されてもよい。
【0062】
308において、方法300は、水素ガスを触媒表面で電解質と流体接触させてもよい。一例として、水素ガスを触媒表面で電解質と流体接触させることは、水素ガスを液体電解質と混合し、その結果として得られた気液混合物を、例えば、トリクルベッド反応器の充填された触媒ベッドを含む触媒表面に注入してもよい。さらなる例として、水素ガスを触媒表面で電解質と流体接触させることは、水素ガス及び電解質がそれぞれ触媒表面に誘導され、かつ触媒表面で流体接触するように、負極及び/又は正極に対して触媒表面を配置させてもよい。
【0063】
310において、方法300は、例えば、負電解質のpHを所定の範囲内に制御するために、pHの変化が検出されたか否かを決定することを含んでもよい。pH変化の測定は、例えばレドックスフロー電池セル(例えば18)又は電解質のソースに配置されたpH計、他のセンサ、及び/又はプローブ(センサ60、62、70、及び/又は72など)を用いてpH変化を測定することを含んでもよい。pH変化を検出することは、pHの増加又はpHの減少を検出することを含んでもよい。さらに、pH変化を検出することは、第1又は第2pH範囲を超えるpH増加又は減少を検出することを含んでもよい。例えば、IFBにおいて、第1pH範囲は、負電解質が安定であるpH範囲に対応する3~4であり、第2pH範囲は、正電解質が安定であるpH範囲に対応する1~2であり得る。別の例として、第1pH範囲は、4未満のpHに対応してもよい。第1及び第2pH範囲は、レドックスフロー電池システム(例えば10)の構成に応じて予め定められていてもよい。例えば、Pourbaix線図を用いて、レドックスフロー電池システムの第1及び第2pH範囲を予め決定することができる。
【0064】
pHの変化が検出されない場合、例えば負電解質のpHが所定の範囲内にある場合、方法300は312に進み、電解質SOC不均衡が検出されたかを判定することができる。電解質SOC不均衡を検出することは、1つ以上の電解質SOC値の変化を測定することを含んでもよい。例えば、正電解質中のORPで示されるFe3+イオンの全濃度が、レドックスフロー電池システム(例えば10)の負電解質中のORPで示されるFe2+イオンの全濃度と実質的に不均衡であれば、電解質SOC不均衡が検出される。さらなる例として、電解質SOC不均衡は、測定された電解質濃度又は電解質SOCを所定の期間にわたって平均化することによって決定することができる。例えば、既知の充電又は放電電流での所定の継続時間中に、移動された正確な電子の量(クーロン)は、充電又は放電電流(アンペア)に所定の持続時間(秒)を掛けることによって計算することができる。レドックスフロー電池システムの総移動クーロン、及び正負の反応に基づいて、正及び負電解質中の化学種の量の変化を決定することができる。測定された電解質SOCが、移動された全クーロンから計算された種の量の電荷と釣り合わない場合、電解質SOC不均衡が決定される。電解質SOC不均衡が検出されない場合、方法300は終了してもよい。方法300が方法200の222に置換されている場合、方法200は、図2を参照して詳細に説明したように、224に進むことができる。
【0065】
pHの変化が検出された場合、例えば、負電解質のpHが310で所定の範囲を超えた場合、又は電解質SOC不均衡が312で検出された場合、方法300は314に進み、外部ソースから水素ガスを供給することができる。例えば、レドックスフロー電池システム(例えば10)では、負電解質のpHが第1pH範囲(例えば、Fe3+イオンが安定する範囲)を超えて上昇すると、水素ガスがレドックスフロー電池セル(例えば18)に(例えば、コントローラ88を介して)供給され、触媒表面でFe3+還元を駆動することができる。外部ソースから供給される水素ガスは、触媒表面における水素ガスの分圧を増加させることができ、それによって、触媒表面におけるFe3+の水素還元を加速させ、プロトンを生成し、正電解質のpHを低下させることができる。いくつかの例において、負電解質のpHは、正電解質から負電解質へ交差するFe3+イオンの水素還元によって、又は正側で発生したプロトンがプロトン濃度勾配及び電気泳動力によって負電解質へ交差することによって、同時に低下することがある。したがって、負電解質のpHを安定領域内に維持しつつ、正極区画(例えば22)からFe(OH)として交差するFe3+イオンが沈殿するリスクを低減することができる。したがって、外部ソースから供給される水素ガスは、触媒表面におけるFe3+還元の速度を増加させることができ、それによって、正及び負電解質の電解質SOCを再平衡化することができる。
【0066】
次に図4を参照すると、レドックスフロー電池システムの負極での鉄の予備形成に続く電池サイクルの第1例を示すタイムライン400が例示されている。具体的には、システム調整中に、鉄の予備形成及びその後の電解質の再平衡化の両方が、レドックスフロー電池システムの電気化学的性能を最適化するために使用される。例えば、図5を参照して後述するように、電気化学的性能を最適化することは、レドックスフロー電池システムの電池充電容量を改善し、それによって有用なサイクル寿命を延長することを含んでもよい。鉄の予備形成及び電解質再平衡化は、図2及び図3を参照して、それぞれ上述した方法200及び300のような、コントローラによって実行される1つ以上の制御スキームから生じる。
【0067】
タイムライン400は、実線曲線401で電解質貯蔵タンク圧を、実線曲線411で充電中のDC電流を、短破線曲線412で放電中のDC電流を、実線曲線421でシステム調整状態を、実線曲線531で電池サイクル状態を、実線曲線441でアイドルモード状態を、実線曲線451で充電モード状態を、実線曲線461で放電モード状態を、実線曲線471でFe3+の量を、及び実線曲線481で鉄メッキの量を示している。さらに、長破線曲線402は第1閾値圧力を表し、長破線曲線403は第2閾値圧力を表し、長破線曲線413はアイドル閾値電流を表し、長破線曲線472は閾値Fe3+量を表す。全てのカーブが時間の経過とともに表示される(横座標に沿ってプロットされ、時間は横座標の左から右に増加する)。さらに、上述した各曲線によって表される従属変数は、それぞれの縦座標に沿ってプロットされ、従属変数は(他に記載又は図示されていない限り)所定の縦座標の下から上に増加する。
【0068】
t1とt2の間、レドックスフロー電池システムはアイドルモードにある(曲線441)。タイムライン400は、システム調整の直前にアイドルモードでのレドックスフロー電池システムを示しているが、レドックスフロー電池システムは、システム調整の直前に電池サイクル中であってもよいことが分かる。
【0069】
t2において、レドックスフロー電池システムはシステム調整に入る(曲線421)。したがって、レドックスフロー電池システムは、アイドルモード(曲線441)を出て、DC電流の増加(曲線411)を介して充電モード(曲線451)に入る。充電の結果、レドックスフロー電池システムの正極にFe3+が生成され、Fe3+量が増加する(曲線471)。さらに、レドックスフロー電池システムの負極でFe2+が還元され、Feとしてメッキされる。これにより、鉄メッキ量(曲線481)が増加する。さらに、負極で水素ガスを発生する副反応が起こり、電解質貯蔵タンクの圧力が上昇する(曲線401)。
【0070】
t3において、電解質貯蔵タンク圧(曲線401)は第1閾値圧力(曲線402)に到達し、充電モード(曲線451)は終了する。これに対応して、充電DC電流(曲線411)が排出され、鉄メッキが停止する(曲線481)。レドックスフロー電池システムの充電が終了したため、水素ガスの発生が遅くなり、電解質貯蔵タンクの圧力上昇が停止する。さらに、充電DC電流(曲線411)は、アイドル閾値電流(曲線413)を下回るので、レドックスフロー電池システムは、アイドルモード(曲線441)に入る。アイドルモード(例えば、t3とt4の間)の間、電解質の再平衡化が開始され、触媒水素還元を介してFe3+量(曲線471)を閾値Fe3+量(曲線472)未満に減少させる。Fe3+量が閾値Fe3+量を下回ると、その後の電池サイクル中(例えば、t4後)に、さらに蓄積されたFeメッキを緩和する。さらに、電解質貯蔵タンク圧(曲線401)は、Fe3+還元において水素ガスが消費されるにつれて減少する。
【0071】
t4において、電解質貯蔵タンク圧(曲線401)は第二閾値圧力(曲線403)に達し、レドックスフロー電池システムは、システム調整(曲線421)を終了し、電池サイクル(曲線431)に入る。これに伴い、レドックスフロー電池システムはアイドルモードを終了する(曲線441)。電池サイクルの間、レドックスフロー電池システムは、レドックスフロー電池システムを充電(曲線411)及び放電(曲線412)するためにそれぞれDC電流を印加することによって、充電モード(曲線451)と放電モード(曲線461)とを交互に繰り返す。さらに、レドックスフロー電池システムがシステム調整を終了すると、電解質の再平衡化が終了し、それに伴いFe3+量(曲線471)の減少は停止する。
【0072】
電池サイクル(例えば、t4後)中、Fe3+量(曲線471)及び鉄メッキ量(曲線481)の各々は、サイクル中に振動する(例えば、充電中に増加し、放電中に減少する)。さらに、電池のサイクル中は、水素ガスの発生が抑制されることが少なく、その結果、電解質貯蔵タンクの圧力が安定的に上昇する(曲線401)。レドックスフロー電池システムは、システム調整又はアイドルモードに再び入るまで、又はレドックスフロー電池システムがシャットダウンされるまで、電池サイクルを継続する。
【0073】
ここで図5を参照すると、レドックスフロー電池システムの負極における鉄の予備形成に続く電池サイクルの第2例を示すタイムライン500が例示されている。具体的には、電気化学的性能の最適化は、(図4を参照して上述したように)システム調整中に最初に鉄の予備形成及び電解質再平衡を採用することによって、電池サイクル中のレドックスフロー電池システムの電池充電容量を改善させることを含んでもよい。鉄の予備形成及び電解質再平衡化は、図2及び図3を参照し、それぞれ上述した方法200及び300のような、コントローラによって実行される1つ以上の制御スキームから生じる。
【0074】
タイムライン500は、実線曲線501で電池の充電容量を、実線曲線511でシステム調整状態を、実線曲線521で電池のサイクル状態を、実線曲線531でFe3+の量を、及び実線曲線541で鉄メッキの量を示している。さらに、破線曲線502は閾値充電容量を表し、破線曲線532は閾値Fe3+量を表す。全てのカーブが時間の経過とともに表示される(横座標に沿ってプロットされ、時間は横座標の左から右に増加する)。さらに、上述した各曲線によって表される従属変数は、それぞれの縦座標に沿ってプロットされ、従属変数は(他に記載又は図示されていない限り)所定の縦座標の下から上に増加する。
【0075】
t5とt6の間、レドックスフロー電池システムは電池サイクル中である(曲線521)。電池サイクル中、Fe3+量(曲線531)及びFeメッキ量(曲線541)の各々は、サイクル中に振動する(例えば、充電中に増加し、放電中に減少する)。しかしながら、時間の経過とともに、電池の充電容量(曲線501)はゆっくりと減少し、少なくとも部分的には、鉄メッキ量の全体的な安定した減少(曲線541)及び対応するFe3+量の全体的な安定した増加(曲線531)が生じる。
【0076】
t6において、電池の充電容量(曲線501)は、閾値充電容量(曲線502)に達し、レドックスフロー電池システムは、電池サイクル(曲線521)を終了し、システム調整(曲線511)に入る。システム調整(例えば、t6とt7の間)中に、鉄の予備形成が鉄メッキ量を増加させ(曲線541)、その後、電解質の再平衡化がFe3+量を閾値Fe3+量(曲線532)未満531に減少させることにより、電池の充電容量は大幅に増加する。Fe3+量が閾値Fe3+量を下回ると、その後の電池サイクル中(例えば、t7後)に、さらに蓄積されたFeメッキを緩和する。
【0077】
t7において、レドックスフロー電池システムは、システム調整(曲線511)を終了し、電池サイクル(曲線521)に再び入る。このように、t7以降は、鉄メッキ量(曲線541)が充放電に伴って振動し、経時的に安定して減少し、Fe3+量(曲線531)が充放電に伴って振動し、経時的に一定して増加することにより、電池の充電容量(曲線501)は再びゆっくりと減少する。レドックスフロー電池システムは、システム調整又はアイドルモードに再び入るまで、又はレドックスフロー電池システムがシャットダウンされるまで、電池サイクルを継続する。
【0078】
次に、図6A及び図6Bを参照すると、レドックスフロー電池システムの負極での鉄の予備形成に続く電池サイクル中の電力モジュール電圧の例示的プロット600及び650がそれぞれ示されている。図6Bに示されているプロット650は、図6Aに示されているプロット600の拡大部分を表し、拡大部分は破線ボックス604によって示されている。曲線602及び652によって示されるように、電力モジュール電圧の著しい低下は、鉄の予備形成に続く電流ドレインを示し、レドックスフロー電池システムがアイドルモードに入り、電解質の再平衡を開始することを可能にする。鉄の予備形成と電解質の再平衡との複合効果は、曲線602に示されるように、その後の電池サイクルにわたって持続的な容量保持をもたらす。このようにして、レドックスフロー電池システムの電気化学的性能は、電池サイクル(例えば、システム調整中)の前に、鉄の予備形成及び電解質の再平衡を採用することによって最適化される。
【0079】
このようにして、レドックスフロー電池の負極に鉄を予備形成することができる。鉄の予備形成は、充電中に行われてよく、その後、レドックスフロー電池は、電解質の再平衡を可能にするためにアイドルモードで作動させてもよい。負極で鉄を予備形成する技術的効果は、その後の電池サイクル中に容量を増加させることができ、それによってレドックスフロー電池の電気化学的性能を最適化することである。さらに、電解質の再平衡化は、Fe3+イオン濃度を減少させることができ、これは、負極における鉄メッキ損失をさらに軽減することができる。
【0080】
レドックスフロー電池の方法の一例は、第1状態において、レドックスフロー電池をアイドルモードに入れることなく、レドックスフロー電池を放電させた後、レドックスフロー電池を充電し、第2状態において、レドックスフロー電池の負極に一定量の鉄メッキを予備形成し、レドックスフロー電池を充電し、その後、電解質pH及び電解質の充電状態(SOC)不均衡の各々を調整することを含むアイドルモードに入れることを含む。本方法の第1実施例は、第3状態において、レドックスフロー電池を充電し、その後、アイドルモードに入ることなくレドックスフロー電池を放電することをさらに含む。本方法の第2実施例は、本方法の第1実施例を任意に含み、レドックスフロー電池の閾値劣化レベルが満たされているか否かを判定し、レドックスフロー電池の閾値劣化レベルが満たされると第2状態に入り、レドックスフロー電池の閾値劣化レベルが満たされていないとレドックスフロー電池のSOCを判定し、SOCが閾値SOC以上であると第1状態に入り、SOCが閾値SOC未満であると第3状態に入ることをさらに含む。本方法の第3実施例は、第1実施例及び第2実施例のうちの1つ以上を任意に含み、第2状態において、レドックスフロー充電中に負極に予備形成される鉄メッキ量を決定し、鉄メッキ量が閾値量未満であると、レドックスフロー電池の充電を継続して、さらなる鉄メッキ量を予備形成することをさらに含む。第4実施例は、第1~第3実施例のうちの1つ以上を任意に含み、鉄メッキ量を決定することは、第二鉄電解質濃度及びレドックスフロー電池の前回のサイクル効率のうちの1つ以上を決定することと、第二鉄電解質濃度及びレドックスフロー電池の前回のサイクル効率のうちの1つ以上に基づいて鉄メッキ量を推定することを含む。本方法の第5実施例は、第1~第4実施例のうちの1つ以上を任意に含み、第2状態において、レドックスフロー電池を充電することは、電解質タンク圧を第1閾値圧力よりも大きくすることを含み、アイドルモードに入ることは、電解質タンク圧を第2閾値圧力よりも小さくすることを含み、第2閾値圧力は、第1閾値圧力未満であることをさらに含む。本方法の第6実施例は、第1~第5実施例のうちの1つ以上を任意に含み、第2状態において、レドックスフロー電池を充電することは、第1量だけ第二鉄電解質濃度を増加させることを含み、アイドルモードに入ることは、第2量だけ第二鉄電解質濃度を減少させることを含み、第2量は第1量より大きいことをさらに含む。
【0081】
レドックスフロー電池システムの一例は、酸化還元電極と、メッキ電極と、酸化還元電極及びメッキ電極の各々に電解質を供給する電解質サブシステムと、1つ以上のセンサと、1つ以上のセンサから信号を受信し、実行可能命令を非一時的メモリに格納するように動作可能なコントローラとを備え、実行可能命令は、1つ以上のセンサから受信した信号に基づいて1つ以上のシステム調整入力条件を決定し、1つ以上のシステム調整入力条件が満たされていることに応じて、メッキ電極において、ある量の鉄金属を予備形成するために充電モードを命令し、電解質サブシステムの1つ以上の条件を均衡させるためにアイドルモードを命令し、さらに閾値量より大きい鉄金属の量に応じて、電池サイクルに入る。レドックスフロー電池システムの第1実施例は、アイドルモードが、アイドル閾値電流未満でレドックスフロー電池システムを動作させることをさらに含む。レドックスフロー電池システムの第2実施例は、レドックスフロー電池システムの第1実施例を任意に含み、充電モードは、酸化還元電極で第二鉄を酸化し、メッキ電極において、ある量の鉄金属をメッキするために第一鉄を還元することによって、酸化還元電極にDC電流を供給してレドックスフロー電池システムを充電することをさらに含む。レドックスフロー電池システムの第3実施例は、レドックスフロー電池システムの第1及び第2実施例のうちの1つ以上を任意に含むものであって、1つ以上のシステム調整入力条件は、レドックスフロー電池システムが閾値劣化レベルに達することをさらに含む。レドックスフロー電池システムの第4実施例は、レドックスフロー電池システムの第1~第3実施例のうちの1つ以上を任意に含み、1つ以上のセンサから受信した信号に基づいて1つ以上のシステム調整入力条件を決定することは、1つ以上のセンサから受信した信号に基づいて電池充電容量を決定し、閾値電池充電容量よりも大きい電池充電容量に応答し、レドックスフロー電池システムが閾値劣化レベルに達したことを示すことをさらに含む。レドックスフロー電池システムの第5実施例は、レドックスフロー電池システムの第1~第4実施例のうちの1つ以上を任意に含み、電解質サブシステムの1つ以上の条件が、第二鉄濃度、正電解質pH、負電解質pH、及び電荷不均衡の電解質状態を含むことをさらに含む。レドックスフロー電池システムの第6実施例は、レドックスフロー電池システムの第1~第5実施例のうちの1つ以上を任意に含むことができ、電解質サブシステムが1つ以上の電解質平衡反応器を含み、電解質サブシステムの1つ以上の条件を平衡させることが、1つ以上の電解質平衡反応器を作動させて第二鉄の接触水素還元を行い、第二鉄濃度を減少させることをさらに含む。
【0082】
方法の一例は、レドックスフロー電池セルのシステム調整中に、設定点でレドックスフロー電池セルを充電して電解質貯蔵タンクの圧力を上昇させ、電解質貯蔵タンクの圧力が第1閾値圧力より大きいことに応じて、電解質の再平衡化を行い、その後、レドックスフロー電池セルの負極における鉄メッキ量を決定し、鉄メッキ量が閾値量より小さいことに応じて、設定点でレドックスフロー電池セルを充電し続けることを含む。方法の第1実施例は、閾値量が、閾値充電容量を超える電池の充電容量を増加させるように選択されることをさらに含む。方法の第2実施例は、第1実施例を任意に含み、第1閾値圧力は、レドックスフロー電池セルの破裂又は損傷を防止するように選択されることをさらに含む。本方法の第3実施例は、方法の第1及び第2実施例のうちの1つ以上を任意に含むものであって、電解質の再平衡化を行うことは、電解質貯蔵タンク圧を減少させるために電解質の再平衡化を開始することと、電解質貯蔵タンク圧が第2閾値圧力未満であることに応じて電解質の再平衡化を終了することとを含み、第2閾値圧力は、電解質の再平衡化中に水素ガスの閾値量が反応したことを示すように選択されることを含む。本方法の第4実施例は、必要に応じて、本方法の第1~第3実施例のうちの1つ以上を含み、電解質再平衡を開始することは、レドックスフロー電池セルからDC電流を排出して充電を終了し、1つ以上の電解質の再平衡化反応器を作動させることをさらに含む。方法の第5実施例は、方法の第1~第4実施例のうちの1つ以上を任意に含むことができ、レドックスフロー電池セルの充電を継続することは、充電を終了した後に再充電することをさらに含む。
【0083】
以下の特許請求の範囲は、特に、新規かつ非自明とみなされる特定の組み合わせ及び下位の組み合わせを指摘する。これらの請求項は、「ある」要素、「第1」要素、又はそれらの等価物を参照することができる。このような請求項は、2以上のこのような要素を要求したり排除したりすることなく、1以上のこのような要素の組み込みを含むと理解されるべきである。開示された特徴、機能、要素、及び/又は特性の他の組み合わせ及び下位の組み合わせは、本請求項の補正を通じて、又は本出願もしくは関連出願における新たな請求項の提示を通じて、請求することができる。このような請求項は、範囲が当初の請求項よりも広いか、狭いか、等しいか、又は異なるかにかかわらず、本開示の主題に含まれるとみなされる。
図1
図2
図3
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図5
図6A
図6B
【国際調査報告】