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特表2023-501279患者の細胞の画像をラベル付けする方法、およびそのためのコンピュータ化システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(54)【発明の名称】患者の細胞の画像をラベル付けする方法、およびそのためのコンピュータ化システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20230111BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230111BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20230111BHJP
【FI】
G01N33/53 Y
G01N33/48 M
G06T7/00 350C
G06T7/00 630
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525624
(86)(22)【出願日】2020-11-04
(85)【翻訳文提出日】2022-06-03
(86)【国際出願番号】 EP2020080895
(87)【国際公開番号】W WO2021089589
(87)【国際公開日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】19206849.2
(32)【優先日】2019-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522173055
【氏名又は名称】ウモン・ヘルステック
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ナタン・ヴァンソン
(72)【発明者】
【氏名】ルイ-オスカル・オリヴィエ・フェリクス・モレル
【テーマコード(参考)】
2G045
5L096
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CB02
2G045FA19
2G045FB03
2G045GB02
2G045JA03
5L096BA06
5L096BA13
5L096DA01
5L096FA15
5L096FA60
5L096GA34
5L096HA11
5L096JA11
5L096MA07
(57)【要約】
患者の細胞の画像をラベル付けするための方法、およびそのためのコンピュータ化システム。患者の細胞の画像を表示するこの方法は、患者の染色免疫細胞化学生体試料のデジタル画像の受け取りと、デジタル画像内の色、形状、およびテクスチャに基づく、デジタル画像内の細胞のコンピュータ化分類とを含み、デジタル画像が、コンピュータ化分類中に第1のカテゴリーの下に分類された1つの細胞のデジタル画像を含む、デジタル画像の少なくとも一部分に対する、トレーニングされたニューラルネットワークの適用によってラベル付けされる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の細胞の画像、詳細には免疫細胞化学画像、をラベル付けする方法であって、
前記患者の染色免疫細胞化学生体試料のデジタル画像を受け取るステップと、
前記デジタル画像内の色、形状、およびテクスチャのうちの少なくとも1つに基づいて、前記デジタル画像内の細胞のコンピュータ化分類を実施するステップと、
前記コンピュータ化分類中に第1のカテゴリーの下に分類された1つの細胞のデジタル画像を含む、前記デジタル画像の少なくとも一部分に、トレーニングされたニューラルネットワークを適用することによって、前記デジタル画像をラベル付けするステップと
を含む、方法。
【請求項2】
細胞の前記コンピュータ化分類が、前記デジタル画像内の細胞または前記細胞の核の重心を決定するステップを伴う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞の前記コンピュータ化分類が、
前記デジタル画像の一部分に対するそれぞれの検査に対して陽性性を表す検査結果を提供するために、前記部分に複数の検査関数を適用するステップと、
前記デジタル画像の前記部分に対する前記検査関数の前記検査結果を組み合わせたコアリング関数を適用するステップと
を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの検査関数が解釈可能および/または説明可能であり、少なくとも1つの検査関数が解釈不可能関数である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記検査関数が前記重心の周りの前記画像の一部分に適用される、請求項2、およびさらに請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
細胞のコンピュータ化分類を実施するステップが、前記コンピュータ化分類に従って順序付けられた候補細胞を表示するステップをさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
細胞のコンピュータ化分類を実施するステップが、ピクセルをそれらの色に従って分類するステップを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
細胞のコンピュータ化分類を実施するステップが、事前定義された色範囲の近隣ピクセルの数に従って、前記デジタル画像の領域を分類するステップを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
細胞のコンピュータ化分類を実施するステップが、前のラベル付けされたデータに適用された機械学習を通して得られている少なくとも1つの関数を使用するステップを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
細胞の分類を実施するステップが、
前記画像内の色、形状、およびテクスチャのうちの少なくとも1つに基づいて、前記デジタル画像の細胞の第1のコンピュータ化分類を実施するステップと、
前記第1のコンピュータ化分類中に第1のカテゴリーの下に分類された細胞に対して、前記デジタル画像内の色、形状、およびテクスチャのうちの少なくとも1つに基づいて、前記第1のコンピュータ化分類とは異なる、前記細胞の第2のコンピュータ化分類を実施するステップと
を含み、
ラベル付けするステップが、前記第2のコンピュータ化分類中に第1のカテゴリーの下に分類された細胞に前記トレーニングされたニューラルネットワークを適用するステップを含む
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
細胞のコンピュータ化分類を実施するステップが、成長阻害性マーカーおよび/または増殖マーカーに関して細胞をラベル付けするステップを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
細胞のコンピュータ化分類を実施するステップが、KI67マーカーまたはp16-マーカーのうちの1つまたは両方に関して細胞をラベル付けするステップを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記患者の生体剥離細胞試料を非外科的に採取するステップと、
前記患者の染色免疫細胞化学生体試料のデジタル画像を収集するステップと
をさらに含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
命令を備えたコンピュータプログラムであって、前記命令が、前記プログラムがコンピュータによって実行されると、前記コンピュータに請求項1から12のいずれか一項に記載の方法を行わせる、コンピュータプログラム。
【請求項15】
患者の細胞の画像、詳細には患者の免疫細胞化学画像の画像、をラベル付けするためのコンピュータ化システムであって、
前記患者の染色免疫細胞化学生体試料のデジタル画像を受け取るための受信モジュールと、
前記デジタル画像内の色、形状、およびテクスチャのうちの少なくとも1つに基づいて、前記デジタル画像内の細胞のコンピュータ化分類を実施するための分類モジュールと、
前記分類モジュールによって第1のカテゴリーの下に分類された1つの細胞のデジタル画像を含む、前記デジタル画像の少なくとも一部分に、トレーニングされたニューラルネットワークを適用することによって、前記デジタル画像をラベル付けするためのラベル付けモジュールと
を備える、コンピュータ化システム。
【請求項16】
機械学習されたラベル付けプロセスによる癌の診断において使用するための染色免疫細胞化学生体剥離細胞試料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の細胞の画像をラベル付けする方法、患者の細胞の画像、詳細には免疫細胞化学画像をラベル付けするためのコンピュータ化システム、関連コンピュータプログラム、およびこの文脈で使用される生体試料に関する。
【0002】
より正確には、本発明は、細胞を含む患者の生体試料の画像をラベル付けする方法に関する。
【背景技術】
【0003】
癌を診断するために、患者、一般に、ヒト患者の細胞試料を使用することが知られている。そのような方法は、患者の組織試料を採取するステップと、前記組織をマークするステップと、癌の場合に一般に存在するマーカーの存在を探索する際にマークされた組織を分析するステップとを含む。上記のステップの各々を実施する多くの考えられる方法が存在する。
【0004】
上記の方法の1つの一般的な例は、いわゆる、p16/ki67検査である。
【0005】
一般に、この検査は、患者に対して実施された生検を通して採取された患者の組織試料に対して実施される。採取された組織試料は、Rocheが提供する特定のCINtec PLUSキットを使用して染色され、染色試料は、病理学者によって、たとえば、顕微鏡を使用して、観察され得る。病理学者は、染色試料に目を通し、両方の検査に対して陽性である細胞、すなわち、p16陽性およびki67陽性(または「二重陽性」)細胞、を識別することを試みることになる。
【0006】
最近、コンピュータを使用して二重陽性細胞の探索を染色生体試料のデジタル画像に対して実施できるように、染色生体試料をデジタル化することが提案された。しかしながら、コンピュータスクリーン上ですら、病理学者が二重陽性細胞を識別することは依然として困難である。組織試料は多くの細胞を含むことがあり、病理学者は、その中から単一の二重陽性細胞を識別しなければならいため、これは特に問題である。
【0007】
最近、2018年1月19日に公開された、「Automatic labeling of molecular biomarkers of immunochemistry images using fully convolutional networks」、Sheikhzadehら、PLoS ONE13(1):e0190783(https://doi.Org/10.1371/iournal.pone.0190783)では、二重陽性細胞である可能性が高い細胞を識別するために、生体組織試料の免疫化学画像(または「免疫組織化学画像」)にニューラルネットワークを適用することが提案された。本出願は、従来の刊行物「Automatic labeling of molecular biomarkers on a cell-by-cell basis in immunohistochemistry images using convolutional neural networks」、Sheikhzadehら、Progress in Biomedical Optics and Imaging、SPIE-International Society for Optical Engineering、Bellingham、WA、US、第9791巻、2016年3月23日に基づくと思われる。
【0008】
しかしながら、そこで説明されるプロセスは、非常に計算集約的である。さらに、ニューラルネットワーク、したがってプロセス全体が、ブラックボックスとして動作し、これは、病理学者が、信頼性のある診断を実施するために、結果を解釈すること、詳細には結果を信頼することを困難にする。
【0009】
この刊行物の1つの他の課題は、使用される生体組織が、侵襲的検査である生検を通して採取されたことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO00/50451
【特許文献2】WO02/17,947
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】2018年1月19日に公開された、「Automatic labeling of molecular biomarkers of immunochemistry images using fully convolutional networks」、Sheikhzadehら、PLoS ONE13(1):e0190783(https://doi.Org/10.1371/iournal.pone.0190783)
【非特許文献2】「Automatic labeling of molecular biomarkers on a cell-by-cell basis in immunohistochemistry images using convolutional neural networks」、Sheikhzadehら、Progress in Biomedical Optics and Imaging、SPIE-International Society for Optical Engineering、Bellingham、WA、US、第9791巻、2016年3月23日
【非特許文献3】Serrano,M.ら、Nature、1993年12月16日;366(64S6):704-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、これらの課題のうちのいくつかを緩和することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本発明は、患者の細胞の画像、詳細には免疫細胞化学画像をラベル付けする方法に関し、この方法は、
患者の染色免疫細胞化学生体試料のデジタル試料を受け取るステップと、
デジタル画像内の色、形状、およびテクスチャのうちの少なくとも1つに基づいて、デジタル画像内の細胞のコンピュータ化分類を実施するステップと、
コンピュータ化分類中に第1のカテゴリーの下に分類された1つの細胞のデジタル画像を含む、デジタル画像の少なくとも一部分にトレーニングされたニューラルネットワークを適用することによって、デジタル画像をラベル付けするステップと
を含む。
【0014】
したがって、ニューラルネットワークは、画像の候補部分の選択物のみに適用される。これは、迅速かつ効率的なラベル付け方法を得ることを可能にする。
【0015】
様々な態様によれば、以下の特徴のうちの1つまたは複数が実装され得る。
【0016】
いくつかの実施形態によれば、細胞のコンピュータ化分類は、デジタル画像内の細胞または前記細胞の核の重心を決定するステップを伴う。
【0017】
いくつかの実施形態によれば、細胞のコンピュータ化分類は、
デジタル画像の一部分に対するそれぞれの検査に対して陽性性(positivity)を表す検査結果を提供するために、この部分に複数の検査関数を適用するステップと、
デジタル画像のこの部分に対する検査関数の検査結果を組み合わせたスコアリング関数を適用するステップと
を伴う。
【0018】
いくつかの実施形態によれば、少なくとも1つの検査関数は解釈可能および/または説明可能であり、少なくとも1つの検査関数は、解釈不可能関数である。
【0019】
いくつかの実施形態によれば、検査関数は前記重心の周り画像の一部分に適用される。
【0020】
いくつかの実施形態によれば、細胞のコンピュータ化分類を実施するステップは、コンピュータ化分類に従って順序付けられた候補細胞を表示するステップをさらに含む。
【0021】
いくつかの実施形態によれば、細胞のコンピュータ化分類を実施するステップは、ピクセルをそれらの色に従って分類するステップを含む。
【0022】
いくつかの実施形態によれば、細胞のコンピュータ化分類を実施するステップは、事前定義された色範囲の近隣ピクセルの数に従って、デジタル画像の領域を分類するステップを含む。
【0023】
いくつかの実施形態によれば、細胞のコンピュータ化分類を実施するステップは、前のラベル付けされたデータに適用された機械学習を通して得られている少なくとも1つの関数を使用するステップを含む。
【0024】
いくつかの実施形態によれば、細胞の分類を実施するステップは、
画像内の色、形状、およびテクスチャのうちの少なくとも1つに基づいて、デジタル画像の細胞の第1のコンピュータ化分類を実施するステップと、
第1のコンピュータ化分類中に第1のカテゴリーの下に分類された細胞に対して、デジタル画像内の色、形状、およびテクスチャのうちの少なくとも1つに基づいて、第1のコンピュータ化分類とは異なる、前記細胞の第2のコンピュータ化分類を実施するステップと
を含む。
【0025】
またラベル付けするステップは、第2のコンピュータ化分類中に第1のカテゴリーの下に分類された細胞にトレーニングされたニューラルネットワークを適用するステップを含む。
【0026】
いくつかの実施形態によれば、細胞のコンピュータ化分類を実施するステップは、成長阻害性マーカーおよび/または増殖マーカーに関して細胞をラベル付けするステップを含む。
【0027】
いくつかの実施形態によれば、細胞のコンピュータ化分類を実施するステップは、KI67マーカーまたはp16-マーカーのうちの1つまたは両方に関して細胞をラベル付けするステップを含む。
【0028】
いくつかの実施形態によれば、この方法は、
患者の生体剥離細胞試料を非外科的に採取するステップと、
患者の染色免疫細胞化学的生体試料のデジタル画像を収集するステップと
をさらに含む。
【0029】
別の態様によれば、本発明は、命令を備えたコンピュータプログラムであって、命令が、プログラムがコンピュータによって実行されると、コンピュータに上記の方法を行わせる、コンピュータプログラムに関する。
【0030】
別の態様によれば、本発明は、患者の細胞の画像、詳細には患者の免疫細胞化学画像、をラベル付けするためのコンピュータ化システムであって、
患者の染色免疫細胞化学生体試料のデジタル画像を受け取るための受信モジュールと、
デジタル画像内の色、形状、およびテクスチャのうちの少なくとも1つに基づいて、デジタル画像内の細胞のコンピュータ化分類を実施するための分類モジュールと、
分類モジュールによって第1のカテゴリーの下に分類された1つの細胞のデジタル画像を含む、デジタル画像の少なくとも一部分にトレーニングされたニューラルネットワークを適用することによって、デジタル画像をラベル付けするためのラベル付けモジュールと
を備えた、コンピュータ化システムに関する。
【0031】
別の態様によれば、本発明は、機械学習されたラベル付けプロセスによる癌の診断に使用するための染色免疫細胞化学生体剥離細胞試料に関する。
【0032】
以下の図面との関係で、本発明の実施形態について以下で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の一実施形態のフレーム内で使用可能な生体試料のデジタル画像を示す図である。
図2】本発明の一実施形態によるスコアリングステップの結果の表示の抽出物を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本明細書で使用する「p16」または「サイクリン依存性キナーゼ阻害因子(cyclin-dependent kinase inhibitor)p16INK4a」は、その遺伝子が染色体領域9p21内に位置する、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子p16INK4a(CDKN2またはMTS1とも表示される)を指す。p16INK4aは、Serrano,M.ら、Nature、1993年12月16日;366(64S6):704-7において最初に記述された。本発明の文脈で使用する「p16INK4a」または「サイクリン依存性キナーゼ阻害因子pl6INK4a」という用語は、核酸ならびにポリペプチド分子を指す。「p16」または「サイクリン依存性キナーゼ阻害因子p16INK4a」は、したがって、たとえば、RNA(mRNA、hnRNA、など)、DNA(cDNA、ゲノムDNA、など)、タンパク質、ポリペプチド、プロテオグリカン、糖たんぱく質、およびこれらの分子のそれぞれのフラグメントを含む。p16タンパク質は、非増殖因子であることが知られている。
【0035】
本発明の文脈で使用する「(細胞)増殖マーカー」または「細胞増殖用マーカー」という用語は、細胞の増殖状態に特徴的であるとして当技術分野で知られている任意のマーカー分子を含むものとする。増殖状態は、たとえば、活発に増殖している細胞の、遅滞細胞増殖の、停止細胞増殖の、老化細胞の、最終分化細胞の、アポトーシスの、などの状態であり得る。本発明の一実施形態では、細胞増殖マーカーは、活性細胞増殖に特徴的なマーカー分子である。本発明の別の実施形態では、増殖マーカー分子は、停止細胞、最終分化細胞、老化細胞、またはアポトーシス性細胞に特徴的な分子であり得る。概して、本文を通して、「(細胞)増殖マーカー」または「細胞増殖用マーカー」という用語は、タンパク質ならびに核酸マーカーを表示するために様々な文法形式で使用される。たとえば、「複製タンパク質」など、マーカーのタンパク質名が本明細書で使用される場合、この使用は、換喩的であり、特定のタンパク質を符号化する核酸マーカー分子に関するタンパク質にも関すると理解すべきである。
【0036】
いくつかの実施形態では、本発明の文脈で使用する増殖マーカーは、たとえば、転写開始前複合体のまたは複製フォークのタンパク質など、DNA複製に関連する遺伝子を含み得る。そのような分子は、たとえば、真核生体ヘリカーゼまたはMCMタンパク質(MCM2、MCM3、MCM4、MCMS、MCM6、MCM7)などのヘリカーゼ、(HELAD1、(Pomfil2、Unc53とも呼ばれる)WO00/50451およびWO02/17,947で開示されたようなタンパク質IP、たとえば、CDC6、CDC7、CDC7タンパク質キナーゼ、Dbf4、CDC14、CDC14タンパク質ホスファターゼ、CDC45およびMCM10など、複製プロセスに関連するキナーゼまたはホスファターゼを含み得る。さらに、増殖マーカーは、たとえば、トポイソメラーゼ(たとえば、topoisomerase2alpha)PCNAまたはDNAポリメラーゼデルタ、複製タンパク質A(RP A)、複製因子C(RFC)、FEN1など、プロセッシブ(processive)複製フォークに関連するタンパク質を含み得る。
【0037】
他の実施形態では、増殖マーカーは、Ki67、Ki-S5、またはKi-S2などの細胞増殖の維持に必要な分子を含み得る。この実施形態では、タンパク質は、たとえば、細胞周期全体にわたって存在し得る。タンパク質は、活性細胞増殖に特徴的であり、停止状態、最終分化状態、アポトーシス性状態、または老化状態の細胞においてあまり発現しないとすれば、タンパク質は本発明の枠内で有用である。本明細書で使用するKi67、Ki-S2、およびKi-S5は、それぞれの抗体ならびにこれらの抗原を符号化する核酸によって検出されるタンパク質マーカー分子を表すものとする。
【0038】
「生体試料」という表現は、任意の種類または性質の任意の組織試料または細胞試料を含む。そのような組織試料または細胞試料の例は、分泌物、スワブ、洗浄、体液、精液、細胞試料および組織試料、血液、スメア、喀痰、尿、糞便、脳脊髄液、胆液、胃腸分泌物、リンパ、骨髄、針生検またはパンチ生検および(細)針吸引など、臓器の吸引および生検である。試料は、いくつかの実施形態では、子宮頸管、乳頭吸引液、気管支肺泡洗浄、などを含み得る。詳細には、肛門性器癌、たとえば、子宮頸癌、の検出が懸念されるとき、スメア、スワブ、および生検が示される。本発明によれば、細胞試料または組織試料は、場合によっては、肛門性器の、気道の、または皮膚の細胞、およびその付属物を含み得る。いくつかの実施形態では、細胞は、子宮頸部、膣、外陰部、陰茎、肛門、直腸、胸部、気管支樹、肺、腹膜、腹膜腔、鼻腔、口腔、または皮膚の細胞であり得る。
【0039】
以下で、本発明の一例がp16/ki67検査に関して説明される。
【0040】
この例によれば、子宮頸癌を診断する際に病理学者を支援することを目的として検査が実施される。
【0041】
本実施形態の第1のステップによれば、患者生体試料が採取されなければならない。一態様によれば、患者生体試料が非侵襲的に採取される。詳細には、患者生体試料は、生検を使用せずに採取される。一例によれば、患者生体試料は、子宮頸部スメアを通して採取された婦人科試料を含む。患者生体試料は、子宮頸部サンプリングデバイスを使用して収集され、次いで、スライド上に患者生体試料を提供するために、一般的な生体試料処理手順に従って処理される。試料処理は、分散、希薄、および/またはフィルタ処理を含み得る。生体試料は、したがって、剥離細胞を含み得る。
【0042】
患者試料は、次いで、特定の検査に適した手順に従って染色される。一例によれば、試料の一部分にパニコロウ染色が施されてよく、試料の別の部分は、潜在的CINtec PLUS検査のために保存される。
【0043】
パパニコロウ染色の一形態は、3つの溶液の5つの染色に関連する。
【0044】
第1の染色溶液は、細胞核を染色するヘマトキシリン、たとえば、ハリスヘマトキシリン、を含み得る。
【0045】
第2の染色溶液は、少量の(たとえば、約5%から10%)のリンタングステン酸を有する95%エチルアルコールのオレンジGを含み得る。
【0046】
「EA溶液」とも呼ばれる第3の染色溶液は、少量のリンタングステン酸および炭酸リチウムを有する95%エチルアルコールの3つの染料、すなわち、エオシンY、ライトグリーンSFイエローイッシュ、およびビスマルク茶色Yから成り得る。
【0047】
対比染色を使用することも可能である。特に、細胞がスライド上で重なっているとき、核細部および細胞輪郭をあいまいにすることになる細胞の過剰染色を防ぐために、対比染色は95%エチルアルコール内に溶かされてよい。対比染色のPHを調整するためにリンタングステン酸が加えられてよく、色強度を最適化することを助ける。
【0048】
エオシンYは、表層扁平上皮細胞(superficial epithelial squamous cells)、核小体、細毛、および赤血球細胞を染色する。ライトグリーンSFイエローイッシュは、表層扁平細胞(superficial squamous cells)以外の他の細胞の細胞質を染色する。表層細胞は、オレンジからピンクであり、中間細胞および傍基底細胞は青緑から青である。
【0049】
染色検査の結果の観察は、病理学者が生体試料内の細胞の細胞タイプを決定することを可能にすることになる。
【0050】
場合によっては、病理学者は、次いで、生体試料の第2の部分に対してp16/KI67検査を行うことになる。
【0051】
これは、この生体試料に対してRocheによって提供されたCINtec PLUS検査キットを使用することを必要とする。この検査キットは、標的タンパク質に反応するように設計された結合剤を含む。
【0052】
p16INK4aまたはp14ARFポリペプチドなど、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子ポリペプチド、およびMCM5、MCM2、Ki67、Ki-S5、PCNA、またはKi-S2ポリペプチドなどの増殖マーカーポリペプチドのレベルの検出のための本実施形態の文脈で使用される結合剤は、抗体を含み得る。抗体結合剤または抗原結合剤は、それが本明細書で開示するタンパク質と検出可能なレベルで反応し、他のタンパク質とはあまり反応しない場合に特に反応すると言われる。本発明の文脈で使用されるすべてのその文法形式で「抗体」という用語は、モノクロナール抗体およびポリクロナール抗体、抗原結合フラグメント、抗体フラグメント、fabフラグメント、二官能性ハイブリッド抗体、一本鎖抗体、最小抗原結合エピトープを含むヒト化抗体ペプチド模倣、アンチカリン(anti-caline(商標))などを含む、任意の種類の抗体を含むものとする。
【0053】
キットは、子宮頸部細胞診標本に対して2ステップ免疫細胞染色手順を実施するように設計され、当該タンパク質を対象とする一次抗体、およびこの化合物を対象とし、マーカーでマークされた試薬を含み得る。たとえば、一次抗体は、すぐに使用できる、ヒトp16INK4aタンパク質を対象とするモノクロナール抗体とヒトKi67タンパク質を対象とするモノクロナール抗体との両方を含む一次抗体カクテルを含む。たとえば、第1の抗体は、ヒトp16INK4aタンパク質を対象とするネズミモノクロナール抗体(クローンE6H4)を含み、第2の抗体は、ヒトKi67タンパク質を対象とするウサギモノクロナール抗体(クローン274-11AC3)を含む。
【0054】
一例によれば、すぐに使用できる試薬は、1)ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)およびヤギ坑マウス(goat antimouse)フラグメント抗原結合Fab抗体フラグメントに接合された高分子剤、および2)アルカリホスファターゼ(AP)およびヤギ坑ウサギ(goat antirabbit)Fab抗体フラグメントに接合された高分子剤を含む。抗体フラグメントは、KI67化合物およびp16化合物にそれぞれの結合することになる。3,3'ジアミノベンジジン(DAB)色原体のHRP仲介変換およびファスト赤色色原体のAP仲介変換は、p16およびKi67の抗原部位において、それぞれ、茶色および赤色の染色をもたらす。アルコールフリーヘマトキシリンによる対比染色の後、最初に、ファスト赤色信号のアルコールベースの退色を防ぐためのキットが提供された水性封入剤を使用し、その後、永続的封入ステップを使用することによって、2ステップ封入手順が適用される。
【0055】
このようにして得られたスライドは、処理準備が整っている。処理することは、デジタルカメラでスライドを走査することを伴う。
【0056】
本発明は、前のラベル付けされたデータに依存する。前のラベル付けされたデータは、本方法を使用せずに、たとえば、病理学者が画像を分析するノウハウおよび細胞または核の画像を陽性および陰性としてラベル付けするノウハウに依存してラベル付けされ得る。詳細には、本実施形態の文脈で、病理学者は、p16陽性またはp16陰性およびKI67陽性またはKI67陰性として細胞を分類し得る。これは、4つの細胞分類、すなわち、「二重陰性」、「KI67陽性のみ」、「p16p陽性のみ」、および「二重陽性」をもたらすことになる。場合によっては、細胞の二重陽性性は、細胞が二重陽性と分類される前に、別のトレーニングされた病理学者によって確認される必要があり得る。全生体試料が分類されてもよい。たとえば、少なくともk個の二重陽性細胞を含む生体試料は、陽性として分類され得る。数kは、たとえば、1に等しくてよい。本発明に従って十分な試料が処理された後、それらのプロセスの結果も前のラベル付けされたデータとして入力され得る。
【0057】
図1は、スメアから非侵襲的に採取された、染色されたヒト患者の生体試料を含むスライドのデジタル画像の一例を示す。
【0058】
各ピクセルは、(x;y)面の座標および3つのRGBチャネルの各々の強度を特徴とする。
【0059】
第1のステップによれば、この方法は、陽性としてラベル付けされる可能性が高いデジタル画像の領域の探索を含む。探索ステップは、複数の離間されたウィンドウに対して繰り返し実施され、ウィンドウは各々、デジタル画像の一部分を含む。たとえば、ウィンドウは、同じサイズを有する。一実施形態によれば、ウィンドウは互いに重複する。たとえば、前のウィンドウに重複している、現在のウィンドウの部分は、ウィンドウサイズの10%から75%の間からなる。ウィンドウの一般的なサイズは、1つの一般的な細胞または1つの一般的な細胞核を包含するように選定される。ウィンドウの一般的な絶対サイズは、したがって、50マイクロメートルから150マイクロメートルの間である。現在のデジタルカメラの一般的な解像度によれば、それは、一般的に100ピクセルから1000ピクセルの間のウィンドウサイズを意味することになる。ウィンドウは、たとえば、正方形、または矩形であり、ここで、上記のサイズは、より小さい側のサイズである。他の形状が可能である。
【0060】
所与のウィンドウ上で、ピクセル分類関数が適用される。ピクセル分類関数は、エントリーパラメータとして、RGBピクセルの様々なチャネルに対する強度を使用する。この例では、ピクセル分類関数は、KI67マーカーに対するピクセルの分類の関数である。得られたピクセルは陽性または陰性のいずれかとして分類される。ピクセル分類関数は、上記で論じたように、前のラベル付けされたデータに機械学習プロセスを適用することによって得られた。たとえば、機械学習プロセスは、進化論者アルゴリズムを含む。前のラベル付けされたデータに基づいて、ピクセル分類関数が決定され、ピクセル分類関数は、有効な確率で、陽性細胞のピクセルまたは陰性細胞のピクセルのいずれかとして、前のラベル付けされたデータに基づいてピクセルを分類する。p16マークされた細胞は茶色に染まることになるため、これはやはりp16陽性であるKI67陽性細胞を識別する能力に影響を及ぼし得るが、それは、これらのピクセルは赤色の上の茶色のオーバーレイとして、異なる色を有する可能性があるためである。プロセスの他のステップが陽性細胞を正確に決定することを可能にするため、このステップにおいて、精度はそれほど高くなくてよいことに留意されたい。本ステップは、ここで特に、画像内のデータの大部分である、明白に無関係なデータを迅速に除去する。特に、核内で発現するKI67マーカーに関して、ピクセル分類関数は、陽性または陰性のいずれかであることが既知の細胞の核の前のラベル付けされたデータに機械学習プロセスを適用することによって得られた。
【0061】
時々、新しい前のラベル付けされたデータが得られるとき、ピクセル分類関数は、この新しい前のラベル付けされたデータに基づいて更新され得る。新しい前のラベル付けされたデータは、患者データに本プロセスを適用する結果として得ることができる。
【0062】
したがって、ピクセル分類関数の結果として、各ピクセルは、その座標、RGBチャネルの各々に対するその強度、およびピクセル分類関数に対するその陽性性を特徴とする。
【0063】
次いで、さらなる処理のためにウィンドウが評価される。一例によれば、これは、あらかじめ決定されたしきい値数のピクセルと比較して、ウィンドウ内の陽性ピクセルの総数をチェックすることを伴う。ウィンドウがあらかじめ決定されたしきい値よりも少ない数の陽性ピクセルを含む場合、そのウィンドウは廃棄される。一般に、これは、ウィンドウが少なくとも1つの陽性核を含まないことを示すことになる。
【0064】
改変例によれば、ピクセル分類関数は各ピクセルに対して使用され、次いで、さらなる処理のためにウィンドウが定義され、調査される。
【0065】
第2のステップによれば、この方法は、領域のラベル付けを含む。このステップにおいて、領域は、先行ステップ中に陽性と分類された近隣ピクセルのグループのサイズに従ってラベル付けされる。たとえば、このステップは、先行ステップ中に廃棄されなかった各ウィンドウに対して実施される。領域ラベル付けステップは、任意の好適な方法によって実施され得る、近隣陽性ピクセルの表面エリアの決定を含む。たとえば、1つの方法は、ウィンドウ内の評価されていない陽性ピクセルを識別するステップと、直接的にまたは中間陽性ピクセルを通して間接的にその1つのピクセルに接触しているすべての陽性ピクセルを決定するステップとを伴う。接触は、横方向のみまたは横方向と対角方向との両方のいずれかであってよい。ピクセルのこのセットは、ラベル付け領域に割り当てられる。このステップは、ウィンドウが評価されていない陽性ピクセルを含む限り繰り返される。
【0066】
したがって、ピクセルは、その座標、RGBチャネルの各々に対するその強度、ピクセル分類関数に対するその陽性性、および領域ラベル付け関数による評価に関するそのステータスを特徴とし得る。
【0067】
ラベル付け領域は、それらのサイズに従って分類される。たとえば、領域は、上記で決定された、それらのサイズをあらかじめ決定されたサイズしきい値と比較することによって分類される。詳細には、より高いサイズを有する領域は、陽性と分類される。あるいは、領域の形状など、この決定のために、代替的または追加のパラメータが考慮される。
【0068】
陽性ピクセルが現在のウィンドウの境界上に位置する場合、これらのピクセルを中心とする新しいウィンドウが定義される。次いで、その領域の初期の陽性ピクセルの近隣の、この新しいウィンドウのすべての陽性ピクセルに対するこの新しいウィンドウに対して領域ラベル付けステップが実施され、これは、陽性領域の場合、陽性にラベル付けされた領域をもたらす。
【0069】
ステップの以下のプロセスが、陽性に分類された領域に適用されることになる。領域の重心は、その領域の部分である陽性ピクセルの座標に基づいて決定される。したがって、領域ラベル付け関数の結果として、陽性領域は、2つのパラメータ、すなわち、識別およびその重心座標、を特徴とする。
【0070】
次のステップによれば、各陽性に分類された領域に対してスコアリング演算が実施される。スコアリング演算は、陽性に分類された領域の一部分に適用された複数の検査関数の結果を組み合わせることによって実施される。この部分は、陽性に分類された領域にマスクを適用することによって定義され得る。一例によれば、マスクの定義のために、陽性に分類された領域の重心を中心とするウィンドウが定義される。ウィンドウは、たとえば、上記で論じたウィンドウと同じサイズを有する。したがって、ウィンドウは、核と核を取り巻く細胞物質の部分との両方を網羅することになる。マスクは、ピクセル分類関数に基づいて定義され得る。ピクセル分類関数は、ウィンドウ内のデジタル画像のピクセルに適用され得る。ピクセル分類関数は、エントリーパラメータとして、RGBピクセルの様々なチャネルに対する強度を使用する。本例では、ピクセル分類関数は、KI67マーカーに対するまたはp16マーカーに対するピクセルの分類の関数であり、ここで「または」は、論理的な「または」を表す。得られたピクセルは、陽性または陰性のいずれかとして分類される。このピクセル分類関数は、上記で論じたように、機械学習プロセスを前のラベル付けされたデータに適用することによって得られた。たとえば、機械学習プロセスは、進化論者アルゴリズムを含む。前のラベル付けされたデータに基づいて、高い可能性で陽性細胞のピクセルまたは陰性細胞のピクセルのいずれかとして前のラベル付けされたデータに対してピクセルを分類する関数が決定される。マスクの出力は、ピクセルが現在のピクセル分類関数のいずれかの色である、陽性に分類された領域の一部分である。あるいは、検査関数は、陽性に分類された領域に直接的に適用され得る。
【0071】
スコアリングステップは、陽性に分類された領域のこの部分の中のデジタル画像のピクセルに複数の検査関数を適用する。検査関数は、所与の色に対する所与のウィンドウに対するスコアを提供することになる色検査関数を含み得る。たとえば、色検査関数が特定の色相に関する場合、検査結果は、ウィンドウ内のこの色相の存在または不在に関する、たとえば、0から100の間からなる所与のスコアになる。詳細には、検査結果は、定義された陽性色範囲内の画像の部分のサイズ、すなわち、ピクセルの数またはサイズ、に関係し得る。
【0072】
検査関数は、テクスチャ検査関数を含み得る。たとえば、テクスチャは、Haralickテクスチャとして定義され得る。このテクスチャ定義は、各ピクセルとその近隣との間の共分散行列を使用する。この行列は、機械学習スコアリングプロセスの入力として使用され得る。機械学習スコアリングプロセスは、それに対してこの行列が計算され得る従来の画像およびその画像のテクスチャに関するラベル付けに基づいてよい。テクスチャの他の定義が使用され得る。したがって、デジタル画像がテクスチャ処理される場合、すなわち、多くのゾーンが上記条件を検証する場合、高いスコアが得られることになる。
【0073】
検査関数は、均一性検査関数を含み得る。たとえば、この検査関数は、陽性に分類された領域内のピクセルの色が均一である場合により高くなる検査結果をもたらすことになる。この検査関数は、色同士の間の距離に依存する。任意の好適な距離が使用され得る。
【0074】
検査関数は、形状検査関数を含み得る。たとえば、この検査関数は、陽性として分類された領域内のピクセルの形状が事前定義された形状のうちの1つまたは複数のうちの1つに近似する場合により高くなる検査結果をもたらすことになる。この検査関数は、形状同士の距離に依存する。陽性に分類された領域の形状は、重心の中心の周りのピクセルの位置の分散に基づいて決定され得る。たとえば、Kullback-Leiblerダイバージェンスアルゴリズム(divergence algorithm)を使用するなど、任意の好適な距離が使用され得る。
【0075】
検査関数は、接触サイズ検査関数を含み得る。たとえば、この検査関数は、KI67陽性ピクセルとp16陽性ピクセルとの間の接触領域のサイズがより高い場合により高くなる検査結果をもたらすことになる。この検査関数は、関連するエリアのサイズがより高い場合により高くなる検査結果をもたらすことになる。この検査関数は、たとえば、p16陽性ピクセルである、少なくとも1つの近隣を有する、KI67陽性ピクセルの数の決定に依存する。
【0076】
したがって、陽性に分類された領域の各部分に対して、スコアが得られる。
【0077】
様々な色および/またはテクスチャに対して、1から20またはより多くの検査関数が適用され得る。
【0078】
スコアは、上記の検査結果の組合せとして定義される。
【0079】
スコアリング演算は、上記の検査関数の各々の結果にスコアリング関数を提供する。スコアリング関数は、機械学習プロセスによって定義され得る。機械学習プロセスは、前のラベル付けされたデータに基づく。特に、スコアリング関数は、細胞の前のラベル付けされた画像に適用されるとき、前のラベル付けされたデータ内で陽性として分類された細胞の画像に対してより高いスコアを提供するように開発されることになる。これは、検査関数が前のラベル付けされたデータに適用され、スコアリング関数が細胞の前のラベル付けされた画像に適用された検査関数の結果および陽性または陰性として知られているそれらの分類に対してトレーニングされることになることを意味する。機械学習プロセスは、好適なスコアリング関数を決定するために、たとえば、進化アルゴリズムを提供する。スコアリング関数は、たとえば、加算、乗算、指数関数、または対数など、単純な数学演算のみを使用し得る。スコアリング関数は、機械学習アルゴリズムによって定義される実数である重みを含み、スコアは、やはり実数の形で提供され得る。
【0080】
時々、新しい前のラベル付けされたデータが得られるとき、スコアリング関数は、この新しい前のラベル付けされたデータに基づいて更新され得る。新しい前のラベル付けされたデータは、本プロセスを患者データに適用した結果として得ることができる。
【0081】
したがって、スコアリングは、デジタル画像に単純な処理を適用する検査関数、および少数の数学演算を必要とする検査関数の結果の事前定義された組合せに基づく。
【0082】
領域は、それらのスコアに従ってソートされ、この順序でスクリーン上に表示されてよく、最高のスコアを有する領域が最初に表示される。
【0083】
図2は、上記で説明したプロセスの結果の表示を示す。病理学者は、これにより、陽性になる可能性が最も高いデジタル画像の領域をレビューすることが可能である。
【0084】
ニューラルネットワークが検査結果に適用される。ニューラルネットワークの入力は、上記のプロセスによって定義されているデジタル画像の部分であり、領域の決定された重心を中心とし(核の重心に対応する可能性があり)、たとえば、300から1000のサイドピクセルのサイズを有する正方形ウィンドウ、または矩形、多角形、または円形のウィンドウなど、この重心の周りの形状を有する。ニューラルネットワークの出力は、この領域に対する生体マーカーに対する陽性性の可能性になる。ニューラルネットワークは、生体マーカーに対して陽性または陰性のいずれかとして分類された細胞の画像を含むデータに対してトレーニングされた。
【0085】
ニューラルネットワークの結果は、病理学者が診断を実施するのを支援するために、それが関係するデジタル画像の部分に近いディスプレイスクリーン上に表示され得る。たとえば、ディスプレイスクリーン上で、ニューラルネットワークによって定義された可能性に従って、デジタル画像の領域が順序付けられる。
【0086】
検証ステップ中、上記のプロセスが、デジタル画像の変更されたバージョンに対して再度実施され得る。変更されたバージョンは、画像の光学特性を変更させないが、数学的変換関数を元のデジタル画像に適用することによって、細胞または核の形状を変更させることになる。画像の変更されたバージョンに適用されるプロセスの結果が元のプロセスと同じ分類を与えない場合、この情報は、病理学者に提供されることになる。
【0087】
病理学者は、生体試料を陽性または陰性のいずれかであるとして記録し得る。生体試料が陽性である場合、さらなるプロセスが患者に適用され得る。これは、たとえば、生検またはコルポスコピーを含み得る。
【0088】
検査に応じて、知られている規則に従って、陽性性が病理学者によって査定され得る。一例によれば、病理学者は、1つの単一のウィンドウが陽性であるとすぐに検査を陽性と見なすことができる。病理学者に陽性の単一のウィンドウが存在する場合、そのウィンドウは、上記のプロセスの最初の100件の結果の中にある可能性がある。
【0089】
いくつかの他の検査によれば、所与の量のウィンドウが陽性である、たとえば、5件または10件が陽性ウィンドウである場合、陽性性が病理学者によって決定され得る。
【0090】
以下の例は二重陽性マーカーに関して説明されたが、本発明は、他の実装形態では、単一のマーカーに関して実装され得る。二重マーカーは、両方のマーカーによる画像内のオーバーレイにより、処理がより困難な場合がある。
【0091】
上記の例は、患者の免疫化学画像に関して提供されている。別の実施形態によれば、代替プロセスが免疫組織化学画像に適用され得る。特に、この他の実施形態の下で、陽性領域の探索は変更されてよいかまたは使用されなくてもよい。
【0092】
上記の、本発明の一実施形態は、大部分に関して、コンピュータ化されたプロセスを参照しながら説明された。したがって、プロセスステップが上記で説明されるとき、文脈からステップ(特に、生体試料収集および準備ステップの部分)がコンピュータ化されないことが明らかでない限り、そのプロセスステップはコンピュータで実施されることを理解されたい。
【0093】
本発明は、したがって、上記のステップを実行するコンピュータ化モジュールを備えたコンピュータ化システムで実装され得る。そのようなコンピュータ化システムは、上記のステップを実施するためにコンピュータプログラムを実行することになる、プロセッサ、または他のクラスのコンピュータを備えることになる。コンピュータプログラムは、ある点において、好適なサポートによって伝えられることがある。コンピュータ化システムはまた、デジタル画像などの情報を記憶するメモリ、および/または以前の検査結果のデータベースを備え得る。コンピュータ化システムはまた、人間が、ディスプレイを有するスクリーンなど、プログラム、および/または様々な情報入力デバイスと対話することを可能にするための人間/機械インターフェースを備え得る。コンピュータ化システムの様々な構成要素、またはこれらの構成要素の部分は、ネットワーク上に分散されてよい。
【0094】
詳細には、コンピュータ化システムは、患者の染色免疫細胞化学生体試料のデジタル画像を受け取る受信モジュールを備え得る。これは、一般に、可能性としてはネットワークを通して、スキャナから受け取られ、メモリ内に記憶されることになる。
【0095】
コンピュータ化システムは、一実施形態に従って上記で説明したように、デジタル画像内の色、形状、およびテクスチャのうちの少なくとも1つに基づいて、デジタル画像内の細胞のコンピュータ化分類を実施する分類モジュールをさらに備える。得られる分類は、表示されかつ/またはメモリ内に記憶され得る。
【0096】
コンピュータ化システムは、分類モジュールによって第1のカテゴリーの下に分類された1つの細胞のデジタル画像を含む、デジタル画像の少なくとも一部分にトレーニングされたニューラルネットワークを適用することによって、デジタル画像をラベル付けするラベル付けモジュールをさらに備える。得られるラベル付けは、表示されかつ/またはメモリ内に記憶され得る。
【0097】
上記で説明したプロセスは、減少していく効率性/特異性率を有する複数の連続ステップを適用する。最初のステップは、低い特異性を有するが、高い効率性を有する。最後のステップは、高い特異性を有するが、低い効率性を有する。効率性/特異性比率のこの段階的変化は、低い計算コストで高い精度を得ることを可能にする。
【0098】
一実施形態によれば、上記で説明した検査関数のうちのいくつかは、解釈可能および/または説明可能である。これは、検査関数が決定論的であることを暗示する。したがって、検査関数の結果は、人間によって説明され得る。この実施形態によれば、検査関数のうちのいくつかは解釈不可能である。「解釈不可能」は、その検査関数がそのような結果をなぜ提供するのかを人間が説明することが常に可能であるとは限らないことを意味する。これは、検査関数が深層学習された場合、すなわち、深層学習プロセスの結果として得られた場合に該当し得る。そのような場合、深層学習関数の結果が正確である高い可能性が存在するが、この関数の結果に対する人間による低い信頼性が存在する。スコアは、解釈可能関数の結果と解釈不可能関数の結果とを組み合わせることによって得られ、これは全体で、高い精度と高い信頼性との両方を提供する。さらに、システムは、解釈可能関数の結果に基づいて、解釈不可能関数を制御するコンピュータ化スーパーバイザーを備え得る。
図1
図2-1】
図2-2】
【手続補正書】
【提出日】2022-06-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の細胞の画像、詳細には免疫細胞化学画像、をラベル付けする方法であって、
前記患者の染色免疫細胞化学生体試料のデジタル画像を受け取るステップと、
前記デジタル画像内の色、形状、およびテクスチャのうちの少なくとも1つに基づいて、前記デジタル画像内の細胞のコンピュータ化分類を実施するステップと、
前記コンピュータ化分類中に第1のカテゴリーの下に分類された1つの細胞のデジタル画像を含む、前記デジタル画像の少なくとも一部分に、トレーニングされたニューラルネットワークを適用することによって、前記デジタル画像をラベル付けするステップと
を含む、方法。
【請求項2】
細胞の前記コンピュータ化分類が、前記デジタル画像内の細胞または前記細胞の核の重心を決定するステップを伴う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞の前記コンピュータ化分類が、
前記デジタル画像の一部分に対するそれぞれの検査に対して陽性性を表す検査結果を提供するために、前記部分に複数の検査関数を適用するステップと、
前記デジタル画像の前記部分に対する前記検査関数の前記検査結果を組み合わせたコアリング関数を適用するステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの検査関数が解釈可能および/または説明可能であり、少なくとも1つの検査関数が解釈不可能関数である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
細胞の前記コンピュータ化分類が、前記デジタル画像内の細胞のまたは前記細胞の核の重心を決定するステップを伴い、前記検査関数が前記重心の周りの前記画像の一部分に適用される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
細胞のコンピュータ化分類を実施するステップが、前記コンピュータ化分類に従って順序付けられた候補細胞を表示するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
細胞のコンピュータ化分類を実施するステップが、ピクセルをそれらの色に従って分類するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
細胞のコンピュータ化分類を実施するステップが、事前定義された色範囲の近隣ピクセルの数に従って、前記デジタル画像の領域を分類するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
細胞のコンピュータ化分類を実施するステップが、前のラベル付けされたデータに適用された機械学習を通して得られている少なくとも1つの関数を使用するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
細胞の分類を実施するステップが、
前記画像内の色、形状、およびテクスチャのうちの少なくとも1つに基づいて、前記デジタル画像の細胞の第1のコンピュータ化分類を実施するステップと、
前記第1のコンピュータ化分類中に第1のカテゴリーの下に分類された細胞に対して、前記デジタル画像内の色、形状、およびテクスチャのうちの少なくとも1つに基づいて、前記第1のコンピュータ化分類とは異なる、前記細胞の第2のコンピュータ化分類を実施するステップと
を含み、
ラベル付けするステップが、前記第2のコンピュータ化分類中に第1のカテゴリーの下に分類された細胞に前記トレーニングされたニューラルネットワークを適用するステップを含む
請求項1に記載の方法。
【請求項11】
細胞のコンピュータ化分類を実施するステップが、成長阻害性マーカーおよび/または増殖マーカーに関して細胞をラベル付けするステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
細胞のコンピュータ化分類を実施するステップが、KI67マーカーまたはp16-マーカーのうちの1つまたは両方に関して細胞をラベル付けするステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記患者の生体剥離細胞試料を非外科的に採取するステップと、
前記患者の染色免疫細胞化学生体試料のデジタル画像を収集するステップと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
命令を備えたコンピュータプログラムであって、前記命令が、前記プログラムがコンピュータによって実行されると、前記コンピュータに請求項1に記載の方法を行わせる、コンピュータプログラム。
【請求項15】
患者の細胞の画像、詳細には患者の免疫細胞化学画像の画像、をラベル付けするためのコンピュータ化システムであって、
前記患者の染色免疫細胞化学生体試料のデジタル画像を受け取るための受信モジュールと、
前記デジタル画像内の色、形状、およびテクスチャのうちの少なくとも1つに基づいて、前記デジタル画像内の細胞のコンピュータ化分類を実施するための分類モジュールと、
前記分類モジュールによって第1のカテゴリーの下に分類された1つの細胞のデジタル画像を含む、前記デジタル画像の少なくとも一部分に、トレーニングされたニューラルネットワークを適用することによって、前記デジタル画像をラベル付けするためのラベル付けモジュールと
を備える、コンピュータ化システム。
【請求項16】
機械学習されたラベル付けプロセスによる癌の診断において使用するための染色免疫細胞化学生体剥離細胞試料。
【国際調査報告】