(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(54)【発明の名称】CEACAM1の立体エピトープ、及びCEACAM1の立体エピトープに特異的に結合する抗CEACAM1抗体又はその断片
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230111BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20230111BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20230111BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230111BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230111BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230111BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230111BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230111BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230111BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20230111BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230111BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K14/705
C07K16/30
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61P35/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 E
A61K39/395 T
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022526137
(86)(22)【出願日】2019-11-07
(85)【翻訳文提出日】2022-07-01
(86)【国際出願番号】 KR2019015080
(87)【国際公開番号】W WO2021090985
(87)【国際公開日】2021-05-14
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 開催日 2018年11月13日 集会名 第10回 アニュアル ピーイージーエス ヨーロッパ: プロテイン アンド アンティボディー エンジニアリング サミット 開催日 2019年3月18日 集会名 ケンブリッジ ヘルステック インスティテュート 第4回 アニュアル イミューノ‐オンコロジー サミット ヨーロッパ 2019 開催日 2019年4月17日 集会名 バイオ コリア 2019 開催日 2019年9月30日 集会名 イーエスエムオー 2019 コングレス 掲載日 2019年10月1日 掲載アドレス https://doi.org/10.1093/annonc/mdz253.025 掲載日 2019年11月6日 掲載アドレス https://jitc.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40425-019-0763-1
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】506379781
【氏名又は名称】グリーン・クロス・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】GREEN CROSS CORP.
(71)【出願人】
【識別番号】504385351
【氏名又は名称】モガム・インスティテュート・フォー・バイオメディカル・リサーチ
【氏名又は名称原語表記】MOGAM INSTITUTE FOR BIOMEDICAL RESEARCH
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】オー, ミ‐ヨン
(72)【発明者】
【氏名】リー, ジェ‐チョル
(72)【発明者】
【氏名】パク, ヘ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ヤム, へ イン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ドン‐シク
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
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4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB36
4C085BB41
4C085BB43
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045BA10
4H045BA13
4H045BA14
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4H045BA16
4H045BA17
4H045BA18
4H045BA19
4H045BA20
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、CEACAM1の立体エピトープ、及びCEACAM1の立体エピトープに特異的に結合する抗CEACAM1抗体又はその断片に関する。本発明のCEACAM1の立体エピトープは、抗CEACAM1抗体への特異的結合のための重大な位置の全てのアミノ酸を含み、適切な三次元構造を維持するので、抗CEACAM1抗体に対する高い親和性を示すことができる。更に、本発明に係る立体エピトープに特異的に結合する抗体又はその断片は、CEACAM1-CEACAM1相互作用及びCEACAM1-CEACAM6相互作用を効果的に抑制することができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CEACAM1の35~141位に対応するアミノ酸の配列の4~69個のアミノ酸からなる立体配座エピトープであって、前記立体配座エピトープが、63位、64位、66位、68位、75位、76位、78位、83位、86位、90位、123位、125位、129位及び131位の前記アミノ酸並びにそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸を含む、立体配座エピトープ。
【請求項2】
前記CEACAM1が配列番号1のアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の立体配座エピトープ。
【請求項3】
63番目の前記アミノ酸がフェニルアラニン(Phe)であり、64番目の前記アミノ酸がグリシン(Gly)であり、66番目の前記アミノ酸がセリン(Ser)であり、68番目の前記アミノ酸がチロシン(Tyr)であり、75番目の前記アミノ酸がグリシン(Gly)であり、76番目の前記アミノ酸がアスパラギン(Asn)であり、78番目の前記アミノ酸がグルタミン(Gln)であり、83番目の前記アミノ酸がアラニン(Ala)であり、86番目の前記アミノ酸がスレオニン(Thr)であり、90番目の前記アミノ酸がスレオニン(Thr)であり、123番目の前記アミノ酸がグルタミン(Gln)であり、125番目の前記アミノ酸がイソロイシン(Ile)であり、129番目の前記アミノ酸がロイシン(Leu)であり、131番目の前記アミノ酸がアスパラギン(Asn)である、請求項1に記載の立体配座エピトープ。
【請求項4】
CEACAM1のアミノ酸位置63、64、66、68、75、76、78、83、86、90、123、125、129及び131のアミノ酸を含む、請求項1に記載の立体配座エピトープ。
【請求項5】
CEACAM1の35~141位のアミノ酸の配列の4~69個のアミノ酸からなる立体配座エピトープに特異的に結合する抗CEACAM1抗体又はその断片であって、前記立体配座エピトープが、63位、64位、66位、68位、75位、76位、78位、83位、86位、90位、123位、125位、129位及び131位の前記アミノ酸並びにそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸を含む、抗CEACAM1抗体又はその断片。
【請求項6】
CEACAM1の35~141位のアミノ酸の配列の4~69個のアミノ酸からなる立体配座エピトープに特異的に結合する、抗CEACAM1抗体又はその断片であって、前記立体配座エピトープが、63、64、66、68、75、76、78、83、86、90、123、125、129及び131位の前記アミノ酸を含む、請求項5に記載の抗CEACAM1抗体又はその断片。
【請求項7】
分子間距離が4.5Å以内でCEACAM1に結合する、請求項5に記載の抗CEACAM1抗体又はその断片。
【請求項8】
ファンデルワールス、疎水結合又は静電結合によってCEACAM1に結合する、請求項5に記載の抗CEACAM1抗体又はその断片。
【請求項9】
CEACAM1に対する結合親和性が1×10
-8KD未満(M)である、請求項5に記載の抗CEACAM1抗体又はその断片。
【請求項10】
請求項5に記載の抗CEACAM1抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項10に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項12】
請求項11に記載の発現ベクターが導入されている形質転換細胞。
【請求項13】
請求項12に記載の形質転換細胞を培養するステップを含む、抗体又はその断片を作製するための方法。
【請求項14】
請求項5~9のいずれか一項に記載の抗CEACAM1抗体又はその断片を活性成分として含む抗がん剤。
【請求項15】
がんを予防又は処置するための、請求項5~9のいずれか一項に記載の抗CEACAM1抗体又はその断片の使用。
【請求項16】
がんを予防又は処置するための医薬の調製のための、請求項5~9のいずれか一項に記載の抗CEACAM1抗体又はその断片の使用。
【請求項17】
請求項5~9のいずれか一項に記載の抗CEACAM1抗体又はその断片を個体に投与するステップを含む、がんを予防又は処置するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CEACAM1の立体配座エピトープ、及びCEACAM1の立体配座エピトープに特異的に結合する抗CEACAM1抗体又はその断片に関する。
【背景技術】
【0002】
癌胎児性抗原関連細胞接着分子1(CEACAM1)は、癌胎児性抗原の群に属する膜貫通糖タンパク質のうちの1種である。CEACAM1は、活性化T細胞及びナチュラルキラー細胞において主に発現し、がん細胞においても高い発現を示す。
【0003】
CEACAM1は、先天性免疫応答及び適応免疫応答を調節する役割を果たす。この点に関して、CEACAM1が過剰発現するがん細胞の場合、CEACAM1-CEACAM1は、CEACAM1が発現するT細胞と相互作用する。CEACAM1-CEACAM1相互作用が生じると、Src相同性領域2ドメイン含有ホスファターゼ-1(SHP1)が、リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(LCK)によってリン酸化されており、且つT細胞のT細胞受容体(TCR)のCD4終端に結合しているCEACAM1の免疫受容体チロシンベース抑制モチーフ(ITIM)部分に結合する。更に、CD3ζ末端がSHP1タンパク質によって脱リン酸化される場合、RAS-MAPKシグナル伝達機序が活性化されないので、T細胞が活性化されないことにより、がん細胞が免疫応答を回避するという研究報告があった(Scott D.Gray-Owen&Richard S.Blumberg、Nature Reviews Immunology、6巻、433~446頁、2006年)。
【0004】
更に、CEACAM1は、同種親和性相互作用だけでなく、CEACAM5又はCEACAM6との異種親和性相互作用も有する。CEACAM5及びCEACAM6の中で、CEACAM6は、様々な癌腫(例えば、乳房腫瘍、膵腫瘍、卵巣腺癌、肺腺癌等)で発現する(Blumenthalら、BMC Cancer、2007年1月3日;7:2)。活性化T細胞で発現するCEACAM1がCEACAM6に結合することによりTCRシグナルを阻害することによって、T細胞がCEACAM1-CEACAM1相互作用における機序等の機序によって活性化されることが阻止され、その結果CEACAM6発現がん細胞が免疫応答を回避するという研究報告があった(Witzens-Harigら、Blood2013年5月30日:121(22):4493~503)。
【0005】
したがって、がん細胞におけるCEACAM1-CEACAM1相互作用の阻害は、有望な抗がん治療として出現しており、CEACAM1-CEACAM1相互作用を効果的に阻害し得るCEACAM1に対する抗体を作製し、確認するようなCEACAM1の正確な立体配座エピトープの同定の必要性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、CEACAM1の立体配座エピトープを確認するために、本発明者らは、抗CEACAM1抗体及びCEACAM1がX線回折(XRD)によってコンジュゲートされる複合体の構造を結晶化させ、立体配座エピトープに特異的に結合している抗体がCEACAM1-CEACAM1相互作用及びCEACAM1-CEACAM6相互作用を阻害することを確認したことにより、本開示を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本開示の態様は、CEACAM1の35~141位のアミノ酸の配列の4~69個のアミノ酸からなる立体配座エピトープであって、前記立体配座エピトープが、63位、64位、66位、68位、75位、76位、78位、83位、86位、90位、123位、125位、129位及び131位の前記アミノ酸並びにそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸を含む、立体配座エピトープを提供する。
【0008】
本開示の別の態様は、CEACAM1の35~141位のアミノ酸の配列の4~69個のアミノ酸からなる立体配座エピトープに特異的に結合する抗CEACAM1抗体又はその断片であって、前記立体配座エピトープが、63位、64位、66位、68位、75位、76位、78位、83位、86位、90位、123位、125位、129位及び131位の前記アミノ酸並びにそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸を含む、抗CEACAM1抗体又はその断片を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示のCEACAM1の立体配座エピトープは、抗CEACAM1抗体への特異的結合のために重要な位置のアミノ酸の全てを含むと共に適切な三次元構造を維持することによって、抗CEACAM1抗体に対する高い親和性を示す。更に、本開示に係る立体配座エピトープに特異的に結合する抗体又はその断片は、CEACAM1-CEACAM1相互作用及びCEACAM1-CEACAM6相互作用を効果的に阻害することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】X線回折(XRD)分析による、実施形態に係る抗CEACAM1抗体のFabとCEACAM1のN-ドメインとの複合体の結晶構造を示す図面。
【
図2】実施形態に係る抗CEACAM1抗体の可変領域とCEACAM1のN-ドメインとの複合体の構造(左)、及びCEACAM1のN-ドメインの間の二量体結合構造の構造(右)を示す図面。
【
図3】実施形態に係る抗CEACAM1抗体のFabとCEACAM1のN-ドメインとが結合している部分におけるアミノ酸を示す図面。
【
図4】CEACAM1のN-ドメインの間の二量体結合を形成しているアミノ酸を示す図面。
【
図5A】抗CEACAM1抗体のFabとCEACAM1のN-ドメインとの間の分子間距離が4.5Å以内であるアミノ酸を示す図面。
【
図5B】抗CEACAM1抗体のFabとCEACAM1のN-ドメインとの間の分子間距離が4.5Å以内であるアミノ酸を示す図面。
【
図5C】抗CEACAM1抗体のFabとCEACAM1のN-ドメインとの間の分子間距離が4.5Å以内であるアミノ酸を示す図面。
【
図5D】抗CEACAM1抗体のFabとCEACAM1のN-ドメインとの間の分子間距離が4.5Å以内であるアミノ酸を示す図面。
【
図6】hCEACAM1細胞外ドメインのアミノ酸と前記アミノ酸をコードするDNAとの配列情報を示す図面。
【
図7】hIgG4 Fc領域におけるアミノ酸と前記アミノ酸をコードするDNAとの配列情報を示す図面。
【
図8】CEACAM1-Fcの濃度に応じたCEACAM1-Fc及びCEACAM1-Fcの間の同種親和性相互作用を確認する図面。
【
図9】実施形態に係る抗CEACAM1抗体の濃度に応じたCEACAM1-Fc及びCEACAM1-Fcの間の同種親和性相互作用に対する阻害効果を確認する図面。
【
図10】hCEACAM6(ECD)-FcをコードするDNAの配列情報を示す図面。
【
図11】CEACAM1-Fcの濃度に応じたCEACAM1-Fc及びCEACAM6-Fcの間の異種親和性相互作用を確認する図面。
【
図12】実施形態に係る抗CEACAM1抗体の濃度に応じたCEACAM1-Fc及びCEACAM6-Fcの間の異種親和性相互作用に対する阻害効果を確認する図面。
【
図13】CEACAM1過剰発現ジャーカット細胞における、実施形態に係る抗CEACAM1抗体のZAP70リン酸化を増大させる効果を確認する図面。
【
図14】NFAT及びCEACAM1を過剰発現させるジャーカット細胞における、実施形態に係る抗CEACAM1抗体のNFAT発現を増大させる効果を確認する図面。
【
図15】CEACAM1過剰発現ジャーカット細胞における、実施形態に係る抗CEACAM1抗体のIL-2発現を増大させる効果を確認する図面。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を詳細に説明する。
【0012】
本開示の態様は、CEACAM1の35~141位のアミノ酸の配列の4~69個のアミノ酸からなる立体配座エピトープであって、前記立体配座エピトープが、63位、64位、66位、68位、75位、76位、78位、83位、86位、90位、123位、125位、129位及び131位の前記アミノ酸並びにそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸を含む、立体配座エピトープを提供する。
【0013】
癌胎児性抗原関連細胞接着分子1(CEACAM1)は、癌胎児性抗原の群に属する膜貫通糖タンパク質のうちの1種である。CEACAM1は、活性化T細胞及びナチュラルキラー細胞において主に発現し、がん細胞においても高い発現を示す。CEACAM1の35~141位のアミノ酸配列はCEACAM1のN-ドメインに対応し、CEACAM1-CEACAM1相互作用又はCEACAM1-CEACAM6相互作用に関与することが知られている。CEACAM1はヒトCEACAM1であってもよく、ヒトCEACAM1のアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列であってもよい。
【0014】
63番目のアミノ酸はフェニルアラニン(Phe)であり、64番目のアミノ酸はグリシン(Gly)であり、66番目のアミノ酸はセリン(Ser)であり、68番目のアミノ酸はチロシン(Tyr)であり、75番目のアミノ酸はグリシン(Gly)であり、76番目のアミノ酸はアスパラギン(Asn)であり、78番目のアミノ酸はグルタミン(Gln)であり、83番目のアミノ酸はアラニン(Ala)であり、86番目のアミノ酸はスレオニン(Thr)であり、90番目のアミノ酸はスレオニン(Thr)であり、123番目のアミノ酸はグルタミン(Gln)であり、125番目のアミノ酸はイソロイシン(Ile)であり、129番目のアミノ酸はロイシン(Leu)であり、131番目のアミノ酸はアスパラギン(Asn)である。
【0015】
立体配座エピトープは、隣接するアミノ酸、又はタンパク質の三次元折り畳みによって隣接しないアミノ酸を含んでもよい。具体的には、立体配座エピトープは、独立空間の立体配座構造において少なくとも4個、5個、9個又は10個のアミノ酸を含んでもよい。
【0016】
具体的には、立体配座エピトープは、CEACAM1の35~141位のアミノ酸の配列の63位、64位、66位及び68位のアミノ酸を含んでもよい。更に、立体配座エピトープは、CEACAM1の35~141位のアミノ酸配列の75位、76位、78位、83位、86位及び90位のアミノ酸を含んでもよい。更に、立体配座エピトープは、CEACAM1の35~141位のアミノ酸配列の123位、125位、129位及び131位のアミノ酸を含んでもよい。
【0017】
更に、立体配座エピトープは、CEACAM1の35~141位のアミノ酸の配列の63位、66位、68位、78位、123位、125位、129位及び131位のアミノ酸を含んでもよい。更に、立体配座エピトープは、CEACAM1の35~141位のアミノ酸の配列の64位、75位、76位、83位、86位及び90位のアミノ酸を含んでもよい。好ましくは、立体配座エピトープは、CEACAM1の35~141位のアミノ酸の配列の4~69個のアミノ酸で構成され、63位、64位、66位、68位、75位、76位、78位、83位、86位、90位、123位、125位、129位及び131位のアミノ酸を含んでもよい。
【0018】
本発明において、CEACAM1の新規な立体配座エピトープを同定するために、CEACAM1及び実施形態に係る抗CEACAM1抗体が結合している複合体の構造を、1.8Åの分解能で結晶化させた(
図1~5D)。結果として、CEACAM1の新規なエピトープと、実施形態に係る抗CEACAM1のパラトープとを確認し、以下の表1に示す。
【0019】
【0020】
表1に示されるように、抗CEACAM1抗体は、CEACAM1の35~141位のアミノ酸の配列の63位、64位、66位、68位、75位、76位、78位、83位、86位、90位、123位、125位、129位及び131位のアミノ酸に結合することが確認された。
【0021】
本開示の別の態様は、CEACAM1の35~141位のアミノ酸の配列の4~69個のアミノ酸からなる立体配座エピトープに特異的に結合する抗CEACAM1抗体又はその断片であって、前記立体配座エピトープが、63位、64位、66位、68位、75位、76位、78位、83位、86位、90位、123位、125位、129位及び131位の前記アミノ酸並びにそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸を含む、抗CEACAM1抗体又はその断片を提供する。
【0022】
立体配座エピトープは、上記と同じである。
【0023】
具体的には、前記抗体又はその断片は、CEACAM1の35~141位のアミノ酸の配列の63位、64位、66位及び68位のアミノ酸を含む立体配座エピトープに特異的に結合してもよい。更に、前記抗体又はその断片は、CEACAM1の35~141位のアミノ酸配列の75位、76位、78位、83位、86位及び90位のアミノ酸を含む立体配座エピトープに特異的に結合してもよい。更に、前記抗体又はその断片は、CEACAM1の35~141位のアミノ酸の配列の123位、125位、129位及び131位のアミノ酸を含む立体配座エピトープに特異的に結合してもよい。
【0024】
更に、前記抗体又はその断片は、CEACAM1の35~141位のアミノ酸の配列の63位、66位、68位、78位、123位、125位、129位及び131位のアミノ酸を含む立体配座エピトープに特異的に結合してもよい。更に、前記抗体又はその断片は、CEACAM1の35~141位のアミノ酸の配列の64位、75位、76位、83位、86位及び90位のアミノ酸を含む立体配座エピトープに特異的に結合してもよい。好ましくは、前記抗体又はその断片は、CEACAM1の35~141位のアミノ酸の配列の4~69個のアミノ酸で構成され、63位、64位、66位、68位、75位、76位、78位、83位、86位、90位、123位、125位、129位及び131位のアミノ酸を含む立体配座エピトープに特異的に結合してもよい。
【0025】
前記抗体又はその断片は、分子間距離が4.5Å以内でCEACAM1に結合してもよい。前記抗体又はその断片は、CEACAM1とのファンデルワールス結合、疎水結合又は静電結合を有してもよい。
【0026】
前記抗体又はその断片は、1×10-8KD(M)未満のCEACAM1に対する結合親和性を有してもよい。具体的には、前記抗体又はその断片は、9×10-9KD(M)未満、8×10-9KD(M)未満、7×10-9KD(M)未満、6×10-9KD(M)未満、5×10-9KD(M)未満、又は4×10-9KD(M)未満のCEACAM1に対する結合親和性を有してもよい。本開示の一実施形態、すなわち、上記の実施形態の抗体において、CEACAM1に対する結合親和性は3.36×10-9KD(M)であると測定された。
【0027】
前記抗体又はその断片は、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1と、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2と、配列番号4で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3と、配列番号5で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1と、配列番号6で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2と、配列番号7で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3とを含んでもよい。
【0028】
前記抗体又はその断片は、配列番号8で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号9で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでもよい。
【0029】
前記抗体の断片は、Fab、scFv、F(ab’)2及びFvからなる群から選択されるいずれか1種であってもよい。抗体断片は、細胞、補体等に抗原結合性刺激を伝えるエフェクタ機能を有する結晶化可能断片領域(Fc領域)を除く抗原結合性ドメインを指し、第三世代抗体断片(例えば、単一ドメイン抗体、ミニボディ(minibody)等)を含んでもよい。
【0030】
本発明の更に別の態様は、活性成分として前記抗体又はその断片を含む抗がん剤を提供する。
【0031】
活性成分として前記抗体又はその断片を含む抗がん剤は、CEACAM1が過剰発現しているがん又は腫瘍を処置するために使用されてもよい。具体的には、がん細胞を除去する役割を果たす細胞傷害性T細胞のT細胞受容体(TCR)が、がん細胞又は腫瘍細胞の抗原決定基を認識する場合、(TCRの成分のうちの1種である)表面抗原分類4(CD4)の末端に結合しているリンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(LCK)タンパク質は、(TCRの別の成分である)表面抗原分類3ζ(CD3ζ)をリン酸化する。ゼータ鎖会合タンパク質キナーゼ70(ZAP70)タンパク質が、リン酸化されたCD3ζ部分に結合する場合、ZAP70タンパク質の末端がLCKタンパク質によってリン酸化され、Ras-MAPキナーゼシグナル形質導入が活性化されることによって、T細胞が活性化される。
【0032】
しかし、CEACAM1が過剰発現しているがん細胞又は腫瘍細胞の場合、Src相同性領域2ドメイン含有ホスファターゼ-1(SHP1)タンパク質が、CEACAM1-CEACAM1相互作用によりTCRのCD4末端に結合しているLCKタンパク質によってリン酸化されたCEACAM1の免疫受容体チロシンベース抑制モチーフ(ITIM)部分に結合する。更に、CD3ζ末端がSHP1タンパク質によって脱リン酸化され、結果として、RAS-MAPKシグナル伝達機序を活性化することができないので、T細胞は活性化されない。
【0033】
したがって、前記抗体又はその断片は、細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラー細胞及びがん細胞において発現するCEACAM1に結合し、CEACAM1-CEACAM1相互作用のブロッキングをあらかじめ行うので、抗がん剤として使用され得る。
【0034】
更に、本明細書において使用される場合、「抗がん」という用語は、「予防」及び「処置」を含み、「予防」は、抗がん剤の投与によってがんの増殖を阻害するか、又はがんの進行を遅延させる全ての作用を指し、「処置」は、本開示の抗体の投与によってがんの病徴を改善するか、又は有益に変化させる全ての作用を指す。
【0035】
更に、本明細書において使用される場合、「がん」という用語は、膵がん、黒色腫、肺がん及び骨髄腫からなる群から選択されることを特徴としてもよいが、受容体としてCEACAM1を有し、免疫チェックポイント経路が異常に操作される限り特に限定されるものではなく、固形がん及び血液がんを含んでもよい。
【0036】
本発明の更に別の態様は、前記抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチドを提供する。具体的には、前記ポリヌクレオチドは、配列番号10及び/又は11で表されるヌクレオチド配列を含んでもよい。
【0037】
前記ポリヌクレオチドは、1つ又は複数の塩基の置換、欠失、挿入又は組合せによって修飾されてもよい。前記ヌクレオチド配列がヌクレオチド配列を化学的に合成することによって調製される場合、本技術分野でよく知られている合成方法(例えば、Engels及びUhlmann、Advances in biochemical engineering/biotechnology、37:73~127、1988年、に記載されている方法)を使用してもよく、前記合成方法としては、亜リン酸トリエステル法、ホスホラミダイト法及びH-ホスフェート法、PCR法及び他の自動プライマー(autoprimer)法、固形担体におけるオリゴヌクレオチド合成法等が挙げられる。
【0038】
更に、本発明の更に別の態様は、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。前記発現ベクターは、プラスミドDNA、ファージDNA等であってもよく、商業的に開発されたプラスミド(pUC18、pBAD、pIDTSAMRT-AMP等)、大腸菌由来プラスミド(pYG601BR322、pBR325、pUC118、pUC119等)、枯草菌由来プラスミド(pUB110、pTP5等)、酵母由来プラスミド(YEp13、YEp24、YCp50等)、ファージDNA(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)、動物ウイルスベクター(レトロウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス等)及び昆虫ウイルスベクター(バキュロウイルス等)であってもよい。前記発現ベクターは、宿主細胞に応じて異なる発現レベル及び発現修飾のタンパク質を示すので、目的のために最も適した宿主細胞を選択し、使用することが好ましい。
【0039】
本発明の更に別の態様は、前記発現ベクターが導入されている形質転換細胞を提供する。前記形質転換細胞の宿主細胞としては、哺乳動物起源、植物起源、昆虫起源、細菌起源又は細胞起源の細胞を挙げることができるが、それらに限定されるものではない。哺乳動物細胞として、CHO細胞、F2N細胞、CSO細胞、BHK細胞、Bowes黒色腫細胞、HeLa細胞、911細胞、AT1080細胞、A549細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞等があるが、それらに限定されるものではなく、哺乳動物宿主細胞として使用されることが当業者に知られているいずれの細胞も使用することができる。
【0040】
更に、発現ベクターを宿主細胞に導入する場合、CaCl2沈殿法等の方法、CaCl2沈殿法においてジメチルスルホキシド(DMSO)と呼ばれる還元材料を使用することによって効率性を向上させたHanahan法、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿法、原形質溶融法、炭化ケイ素繊維を使用する撹拌法、アグロバクテリア(Agrobacteria)媒介形質転換法、PEG、硫酸デキストラン、リポフェクタミンを使用する形質転換法及び乾燥/阻害媒介形質転換法等を使用してもよい。
【0041】
本発明の更に別の態様は、前記形質転換細胞を培養することを含む、抗体又はその断片を作製する方法を提供する。具体的には、前記作製方法は、i)前記形質転換細胞を培養することによって培養物を得るステップと、ii)前記培養物から前記抗体又はその断片を回収するステップと、を含む。
【0042】
前記形質転換細胞を培養する前記方法は、本技術分野でよく知られた方法を使用して行われてもよい。具体的には、前記培養物は、回分プロセス、供給回分プロセス(fed batch process)又は反復供給回分プロセス(repeated fed batch process)によって連続して培養されてもよい。
【0043】
前記培養物から前記抗体又はその断片を回収する前記ステップは、本技術分野で知られている方法によって行われてもよい。具体的には、前記回収方法としては、遠心分離、濾過、抽出、噴霧、乾燥、蒸留、沈澱、結晶化、電気泳動、分別溶解(例えば、硫安沈殿)、クロマトグラフィ(例えば、イオン交換、親和性、疎水性及びサイズ排除)等が挙げられ、使用されもよい。
【0044】
本発明の更に別の態様は、がんを予防するか、又は処置するための前記抗体又はその断片の使用を提供する。
【0045】
本発明の更に別の態様は、がんを予防するか、又は処置するための医薬を調製するための前記抗体又はその断片の使用を提供する。
【0046】
本発明の更に別の態様は、前記抗体又はその断片を個体に投与することを含む、がんを予防するか、又は処置するための方法を提供する。
【実施例】
【0047】
以下、本開示を以下の実施例によって更に詳細に説明する。しかし、以下の実施例は、例示的目的のためだけであり、本開示の範囲は、それらに限定されるものではない。
【0048】
I. CEACAM1及び抗CEACAM1抗体の結合構造の確認
実施例1. CEACAM1のN-ドメインの作製
10個のヒスチジンが連結するマルトース結合タンパク質(MBP)タグへの結合によってCEACAM1のN-ドメインに対応する35~141位のアミノ酸配列を発現させるために、pET28-MBP-TEVベクターから誘導された10His-MBP-TEV-X-pJAベクターにアミノ酸配列をクローニングした(Addgene、プラスミド#69929)。クローニングされたベクターを使用して大腸菌株BL21(DE3)RIPLを形質転換し、18℃でイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG、200μM)で処置することによって前記タンパク質を発現させた。前記タンパク質を発現させた大腸菌を100mMのNaCl及び20mMのTris-HCl(pH7.5)の緩衝液において音波破砕し、遠心分離し、前記大腸菌から溶解物だけを分離した。その後、コバルト樹脂を使用して10Hisタグのための親和性クロマトグラフィを行った。前記大腸菌から得られた溶出液をTEVプロテアーゼで処置して、10His-MBPタグを切断した。HitrapQ陰イオン交換カラム及びHistrap親和性クロマトグラフィカラムを使用して、10His-MBPタグを分離し、除去したことによって、純度が高いCEACAM1のN-ドメインを精製した。
【0049】
実施例2. 抗CEACAM1抗体のFabの調製
実施例2.1. 重鎖がIgG1型で置換される抗CEACAM1抗体の調製
抗CEACAM1抗体のFabを調製するために、抗CEACAM1抗体のIgG4重鎖(配列番号12及び13)をヒトIgG1(配列番号14及び15)に転化させた。ヒトIgG1型への転化のために、ヒトIgG1型のCH1-hinge-CH2-CH3断片をコードする遺伝子をPCRによって得た。この時に使用したプライマーを以下の表2に示す。
【0050】
【0051】
NotI(NEB、カタログ番号R0189L)及びHindIII(NEB、カタログ番号R0104T)のための制限部位を有するプライマーを使用して、PCRによって得たIgG1型のCH1-hinge-CH2-CH3断片をコードする遺伝子と、抗CEACAM1抗体の重鎖可変領域をコードする遺伝子とのオーバーラップPCRによって、抗CEACAM1抗体-IgG1型の重鎖をコードする遺伝子を得た。特に、使用したプライマーを以下の表3に示す。
【0052】
【0053】
PCRによって得た遺伝子(DNA)を1%アガロースゲルに載せ、DNA Gel抽出キット(QIAGEN、カタログ番号28706)を使用して分離した。
【0054】
制限酵素NotI(NEB、カタログ番号R0189L)及びHindIII(NEB、カタログ番号R0104T)を単離したDNAに加え、37℃で4時間反応させ、次いで、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN、カタログ番号28106)を使用してDNAを得た。
【0055】
更に、得られたDNA及びT4 DNAリガーゼ(NEB、カタログ番号M0203S)を、NotI制限酵素及びHindIII制限酵素で処置した線形化pCIWベクターに加え、16℃の温度で4時間反応させた。4時間後、1μLの連結反応混合物を採取し、100μLのXL1-Blueエレクトロポレーション-コンピテント細胞に加え、混合し、エレクトロポレーションシステムを使用して形質転換した。
【0056】
形質転換が生じたプレートにおいて、単一のコロニーをSB/car培地に接種し、一晩培養した。QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN、カタログ番号127106)を使用してDNAを形質転換細胞から得て、外部の会社であるCosmogenetechに配列決定を依頼した。結果として、配列番号33で表されるヌクレオチド配列で表される抗CEACAM1抗体-IgG1型重鎖をコードする遺伝子を確認した。確認された形質転換細胞を培養した後、QIAGEN Plasmid Plus Midi Kit(QIAGEN、カタログ番号12945)を使用して大量のDNAを得た。
【0057】
実施例2.2. 重鎖がIgG1型で置換される抗CEACAM1抗体の作製
Expi293F(商標)細胞(Gibco、カタログ番号A14527)を、Expi293(商標)Expression Medium(Gibco、カタログ番号A1435101)において、2.0×106個/mLの濃度で、トランスフェクションの1日前に播種した。24時間、37℃、8%CO2及び125rpmの条件下のインキュベーションの後、2.5×106個/mLの濃度で25.5mLを調製した(生存率=95%)。
【0058】
得られたCEACAM1抗体-IgG1型の30μgの重鎖DNA(15μgのpCIW_MG1124HC_IgG1及び15μgのpCIW_MG1124LC)を、1.5mLのOptiPro(商標)SEM培地(Gibco、カタログ番号12309019)において希釈し、室温で5分間反応させた。次いで、80μLのExpiFectamine(商標)293試薬(Gibco、カタログ番号A14524)も1.5mLのOptiPro(商標)SEM培地(Gibco、カタログ番号12309019)に加え、室温で5分間反応させた。その後、希釈したDNA及びExpiFectamine(商標)293試薬をそれぞれよく混合し、3mLの混合物を室温で30分間反応させた。
【0059】
3mLの混合物を2.5×106個/mLの濃度の30mLのExpi293F(商標)細胞に加えた(生存率=95%)。前記混合物を16~18時間インキュベートした後、150μLのExpiFectamine(商標)293エンハンサ1(Gibco、カタログ番号A14524)及び1.5μLのExpiFectamine(商標)293エンハンサ2(Gibco、カタログ番号A14524)を前記混合物に加え、CO2振盪インキュベータ(MB-206CXXL)において6日間培養した。
【0060】
培養が完了した後、前記細胞を4,000rpmで20分間遠心分離し、細胞ペレットを除去し、上清を0.45μmのフィルタを通してフィルタ処理した。Protein A樹脂である100μLのCaptivA Protein A樹脂(REPLIGEN、CA-PRI-0100)を各培養物30mL毎に調製し、1,000rpmで2分間遠心分離して、保存緩衝液を除去し、各洗浄物について1mLのProtein A結合緩衝液(Pierce、カタログ番号21007)で3回洗浄した。
【0061】
調製した培養溶液にProtein A樹脂を加えた。回転インキュベーションを室温で2時間行った後、混合物をPierce Spinカラムスナップキャップ(Thermo、カタログ番号69725)及びQIAvac24plus(QIAGEN、カタログ番号19413)に加え、真空マニホールドを使用して前記カラムに樹脂を充填した。前記樹脂に5mLのProtein A結合緩衝液(Pierce、カタログ番号21007)を加えることによって前記樹脂を洗浄し、前記樹脂に200μLのProtein A溶出緩衝液(Pierce、カタログ番号21009)を加えた。前記混合物を室温で2分間インキュベートし、次いで、1分間で1,000rpmの条件下における遠心分離によって溶出した。
【0062】
実施例2.3. 抗CEACAM1抗体のFabの単離及び精製
実施例2.2で調製された前記抗CEACAM1抗体-IgG1型からFabだけを精製するために、1:100の比で前記抗CEACAM1抗体-IgG1型においてパパインプロテアーゼを処置した。IgG1重鎖のFab及びFcの間の配列を切断することによってFab及びFcを分離するためにパパインプロテアーゼを使用した。PBS緩衝液においてパパインプロテアーゼ処置物を反応させ、次いで、0mMのNaCl及び20mMのTris-HCl(pH7.5)による透析によって緩衝液条件を変更した。抗CEACAM1抗体のFab部分は理論的pI値が8.8であったので、HitrapSP陽イオン交換カラムを使用してFab部分を分離し、精製した。抗CEACAM1のFcを前記カラムに付着させることなく放出し、約50mM~約70mMのNaClの条件下で高純度で抗CEACAM1のFabを分離し、精製した。精製した抗CEACAM1 Fab及び実施例1で分離したCEACAM1 N-ドメインを1:2の比で混合し、そしてHiLoad26/60Superdex75ゲル-濾過カラムによって精製した。
【0063】
実施例3. CEACAM1 N-ドメイン及び抗CEACAM1抗体のFab複合体の結晶化及び構造分析
結晶化条件を約800の条件下のスクリーニングによって最適化した。
【0064】
そして、抗CEACAM1抗体のFab及びCEACAM1のN-ドメインの複合体(36.6mg/mL)を、0.1Mの硫酸リチウム一水和物、0.1MのN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)(pH6.5)、14%(w/v)のポリエチレングリコール4000及び2%(v/v)のイソプロパノールの条件下で結晶化させた。得られた結晶を、凍結の防止のために追加的に17.5%のエチレングリコールがある条件下で処置した。
【0065】
X線回折(XRD)データをPohang Accelerator Laboratoryにおける5Cビームラインで収集し、HKL2000suit(1)で処理した。PhenixプログラムのMolecular置換(2)法を使用して複合体の構造を決定したが、前記構造のために使用されるモデルは、抗CEACAM抗体との高い配列相同性を有する構造(PDBエントリ:4EVN)及びCEACAM1 N-ドメインに対応する構造(PDBエントリ:4WHD)であった。前記構造の改善のために、Phenix(3)のRefinement機能、CNSプログラム(4)及びCOOTプログラム(5)を使用した。以下の表4に、結晶学的データの統計量を示す。
【0066】
【0067】
結晶化プロセスを経た後、XRDデータを得て、そして、分解能が1.8Åである抗CEACAM1抗体のFab及びCEACAM1 N-ドメインの複合体の構造を同定した。結晶構造に基づいて、分子間距離が4.5Å以内で結合する抗CEACAM1抗体のFabのパラトープとCEACAM1 N-ドメインのエピトープとを同定した。
【0068】
結果として、抗CEACAM1抗体の重鎖可変領域は、軽鎖可変領域よりも高いCEACAM1への結合数を示した。前記重鎖可変領域の場合、アミノ酸Asn31、Tyr32、Gly54、Gly56、Ser57、Asn74、Pro100、Thr101、Lys102、Tyr104及びAla105が、CEACAM1 N-ドメインに疎水性結合したか、又は静電結合した。前記軽鎖可変領域の場合、アミノ酸Tyr33、Tyr50、Ala51及びLeu94が、CEACAM1 N-ドメインに疎水性結合したか、又は静電結合した。
【0069】
CEACAM1 N-ドメインに基づいて、アミノ酸Phe63、Gly64、Ser66、Tyr68、Gly75、Asn76、Gln78、Ala83、Thr86、Thr90、Gln123、Ile125、Leu129及びAsn131が、抗CEACAM1抗体に結合した。抗原-抗体結合の総表面積は、791.98Å
2であった(
図1及び
図2)。以前に知られているCEACAM1 N-ドメインの二量体の形成で重要な役割を果たすアミノ酸は、Phe63、Ser66、Tyr68、Gln78、Gln123、Ile125、Leu129及びAsn131であり、
図3及び
図4に示される。このことによって、抗CEACAM1抗体のFabによりCEACAM1 N-ドメインが結合される可能性もあることが確認される(
図5A~
図5D)。これらの結果から、抗CEACAM1抗体が結合するCEACAM1 N-ドメインのエピトープが、CEACAM1の二量体界面と重なるので、抗CEACAM1はCEACAM1の活性を効果的に阻害する可能性があることが確認された。
【0070】
実験例4. 抗CEACAM1抗体及びCEACAM1の間の結合力の測定
Octet QKe((Pall ForteBio)を使用して、CEACAM1への抗CEACAM1抗体の定量的結合力を測定した。抗CEACAM1抗体を400nMの濃度で6倍の1/2濃度希釈に供し、400nM、200nM、100nM、50nM、25nM、12.5nM及び6.25nMの濃度の抗体をそれぞれ200μLの量で一列にGreiner96ウェルプレート(Greiner、カタログ番号655209)に加え、最後のウェルには0nMの濃度で加えた。別の列で、hCEACAM1(R&D Systems、カタログ番号2244-CM)を6.25μg/μLの濃度に希釈し、それぞれ200μLの量で一列に加えた。
【0071】
Reagent/Kinetics緩衝液(10×)(Fortebio、カタログ番号18-1092)で洗浄緩衝液、中和緩衝液及びベースライン緩衝液を10倍で希釈し、各列において200μLの量で加え、再生緩衝液を200μLの量で一列に加えた。別々のGreiner96ウェルプレートを調製し、使用されるバイオセンサの数と同じだけのウェルにReagent/Kinetics緩衝液(1×)を200μLの量で加え、Biosensors/Anti-His(His1K)(Fortebio、カタログ番号18-5120)Cassetteを載置した。
【0072】
会合及び解離の時間をそれぞれ300秒及び600秒に設定し、会合及び解離のKD値を測定した。
【0073】
結果として、以下の表5に示されるように、抗CEACAM1抗体はCEACAM1に対する親和(KD)値が3.90nMであったことを確認した。
【0074】
【0075】
II. 抗CEACAM1抗体の活性の確認
実施例5.1. hCEACAM1-Fcの調製
NotI-SS-CEACAM1フォワードプライマー及びCEACAM1-Hingeリバースプライマーを使用して、ヒトCEACAM1 cDNA(R&D systems、RDC0951)に由来するCEACAM1の細胞外ドメイン(Gln35-Gly428)をPCRに供した。特に、以下の表6に、使用したプライマーを示す。
【0076】
【0077】
PCRによって得たDNAを1%アガロースゲルに載せ、DNA Gel抽出キットを使用して、hCEACAM1細胞外ドメイン(
図6及び配列番号23)をコードするDNAを得た。
【0078】
更に、ヒトIgG4 Fc領域の遺伝子を得るために、鋳型として配列番号12の抗CEACAM1抗体の重鎖DNAを使用し、且つhIgG4-Hingeフォワードプライマー及びhIgG4-CH3-stop-HindIIIリバースプライマーを使用して、PCRを行った。特に、以下の表7に、使用したプライマーを示す。
【0079】
【0080】
PCRによって得たDNAを1%アガロースゲルに載せ、DNA Gel抽出キットを使用して、hIgG4 Fc領域(
図7及び配列番号26)をコードするDNAを得た。hCEACAM1細胞外ドメインをコードするDNAとhIgG4 Fc領域をコードするDNAとを使用し、制限酵素切断部位を有するNotI-SS-CEACAM1フォワードプライマーとhIgG4-CH3-stop HindIIIリバースプライマーとを使用して、PCRを行った。
【0081】
PCRによって得られたDNAを1%アガロースゲルに載せ、DNA Gel抽出キットを使用してhCEACAM1-Fc DNAを得た。得られたhCEACAM1-Fc DNAをNotI制限酵素及びHindIII制限酵素で処置し、37℃で4時間反応させ、次いで、QIAquick PCR Purification Kitを使用してhCEACAM1-Fc挿入DNA断片を単離した。その後、調製されたhCEACAM1-Fc挿入DNA断片をpcIWベクターにクローニングするために、NotI制限酵素及びHindIII制限酵素による処置によってpcIWベクターも線形pCIWベクターに分離した。T4 DNAリガーゼを、NotI制限酵素及びHindIII制限酵素で消化させたhCEACAM1-Fc挿入DNA断片並びに線形pcIWベクターに加え、16℃で4時間反応させた。4時間後、1μLの連結反応混合物を収集し、100μLのXL1-Blueエレクトロポレーション-コンピテント細胞に加え、混合し、エレクトロポレーション法を使用して形質転換した。
【0082】
形質転換プレートにおいて、単一コロニーをSB/car培地に接種し、一晩培養した。QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN、カタログ番号127106)を使用して形質転換細胞からDNAを得て、外部の会社であるCosmogenetechに配列決定を依頼した。結果として、配列番号34のヌクレオチド配列で表されるhCEACAM1-Fcをコードする遺伝子を同定した。同定された形質転換細胞を培養した後、QIAGEN Plasmid Plus Midi Kit(QIAGEN、カタログ番号12945)を使用して大量のDNAを得た。
【0083】
その後、実施例2.2.と同じ方法でExpi293F動物細胞を使用して一過性過剰発現系によってhCEACAM1-Fcタンパク質を作製し、単離した。
【0084】
実施例5.2. hCEACAM1-Fc及びhCEACAM1-Fcの間の相互作用の確認
実施例5.1で調製したhCEACAM1-FcをPBSで2.5μg/mLの濃度に希釈し、次いで、得られたものの各々100μLをNUNCイムノモジュール(NUNC、468667)プレートに加え、4℃で一晩コーティングした。翌日、(0.05%のTween20を加えた)PBSで洗浄した後、コーティングされたプレートの各ウェルに300μLの(1%のBSAを加えた)PBSを加え、室温で2時間反応させることによってブロッキングを行った。
【0085】
更に、(0.05%のTween20を加えた)PBSで3回洗浄した後、ビオチン標識hCEACAM1-Fcを150μg/mLの濃度から開始して3倍に連続的に希釈し、hCEACAM1-Fcでコーティングされたプレートにおける11のウェルに加えた。1%のBSAを加えたPBSだけを最後のウェルに加えた。ウェルを37℃で1時間反応させた。1時間後、(0.05%のTween20を加えた)300μLのPBSを加えることによって、各ウェルを3回洗浄し、次いで、ストレプトアビジン-ペルオキシダーゼポリマー(Sigma、S2438-250UG)を(1%のBSAを加えた)PBSにおいて1:5,000の比で希釈し、得られたものの各々100μLを各ウェルに加え、37℃で40分間反応させた。反応が完了した各ウェルを、(0.05%のTween20を加えた)300μLのPBSを各ウェルに加えることによって3回洗浄し、次いで、100μLのTMBマイクロウェルペルオキシダーゼ基質(KPL、50-76-03)を各ウェルに加え、5分間反応させた。反応を終了させるために、等量の硫酸(Sigma-Aldrich、339741)を加え、ELISAリーダを使用してOD値を450nmの波長で測定した。
【0086】
結果として、結合はhCEACAM1-Fcタンパク質の濃度に依存することが確認された。特に、EC50値は0.286μg/mLであった(
図8)。
【0087】
実施例5.3. hCEACAM1-hCEACAM1相互作用の阻害に対する抗CEACAM1抗体の効果の確認
実施例5.1で調製したhCEACAM1-FcをPBSで2.5μg/mLの濃度に希釈し、次いで、得られたものの各々100μLをNUNCイムノモジュール(NUNC、468667)プレートに加え、4℃で一晩コーティングした。翌日、コーティングされたプレートにおける各ウェルに300μLの(1%のBSAを加えた)PBSを加え、室温で2時間反応させることによってブロッキングを行った。
【0088】
別の96ウェルプレートにおいて、抗CEACAM1抗体を60μg/mLの濃度から開始して2倍に連続的に希釈し、11のウェルに加え、1%のBSAを加えたPBSだけを最後のウェルに加え、次いで、ビオチン標識hCEACAM1-Fcを(0.5μg/mLに希釈した)抗CEACAM1抗体と同じ量で加え、室温で1時間反応させた。1時間後、ブロッキングを行ったプレートに、抗CEACAM1抗体及びビオチン標識hCEACAM1-Fcの混合物の各々100μLを加え、室温で1時間再度反応させた。
【0089】
1時間後、(0.05%のTween20を加えた)300μLのPBSを各ウェルに加えることによって、各ウェルを3回洗浄し、次いで、ストレプトアビジン-ペルオキシダーゼポリマー(Sigma、S2438-250UG)を(1%のBSAを加えた)PBSにおいて1:5,000の比で希釈し、得られたものの各々100μLを各ウェルに加え、37℃で40分間反応させた。反応が完了した各ウェルを、(0.05%のTween20を加えた)300μLのPBSを加えることによって3回洗浄し、次いで、100μLのTMBマイクロウェルペルオキシダーゼ基質(KPL、50-76-03)を各ウェルに加え、5分間反応させた。反応を終了させるために、等量の硫酸(Sigma-Aldrich、339741)を加え、ELISAリーダを使用してOD値を450nmの波長で測定した。
【0090】
結果として、抗CEACAM1抗体の濃度が増加するにつれてhCEACAM1-Fcの同種親和性相互作用が阻害されたことが分かった。特に、IC50値は、1.055μg/mLであった(
図9)。
【0091】
実施例6.1. hCEACAM6-Fcの調製
SS-hCEACAM6フォワードプライマー及びCEACAM6-Hingeリバースプライマーを使用して、ヒトCEACAM6 cDNA(R&D Systems、RDC0955)に由来するCEACAM6の細胞外ドメイン(Lys35-Gly320)をPCRに供した。特に、以下の表8に、使用したプライマーを示す。
【0092】
【0093】
PCRによって得たDNAを1%アガロースゲルに載せ、DNA Gel抽出キットを使用して、hCEACAM6細胞外ドメインをコードするDNAを得た。
【0094】
更に、ヒトIgG1 Fc領域の遺伝子を得るために、鋳型として抗CEACAM1抗体-IgG1型の重鎖ベクターを使用し、且つhinge(HIgG1)フォワードプライマー及びCH3(HIgG1)_HindIIIリバースプライマーを使用して、PCRを行った。特に、以下の表9に、使用したプライマーを示す。
【0095】
【0096】
PCRによって得たDNAを1%アガロースゲルに載せ、DNA Gel抽出キットを使用して、hIgG1 Fc領域をコードするDNAを得た。制限酵素切断部位を有するNotI-SSフォワードプライマーとCH3(HIgG1)_HindIIIリバースプライマーとを使用して、hCEACAM6細胞外ドメインをコードするDNA及びhIgG1 Fc領域をコードするDNAをPCRに供した。特に、以下の表10に、使用したプライマーを示す。
【0097】
【0098】
PCRによって得たDNAを1%アガロースゲルに載せ、DNA Gel抽出キットを使用して、hCEACAM6(ECD)-FcをコードするDNAを得た(
図10及び配列番号32)。得られたhCEACAM6-Fc DNAをNotI制限酵素及びHindIII制限酵素で処置し、37℃で4時間反応させ、次いで、QIAquick PCR Purification Kitを使用して、hCEACAM6-Fc挿入DNA断片を単離した。その後、調製されたhCEACAM6-Fc挿入DNA断片をpcIWベクターにクローニングするために、NotI制限酵素及びHindIII制限酵素で処置することによって線形pCIWベクターにpcIWベクターも単離した。T4 DNAリガーゼを、NotI制限酵素及びHindIII制限酵素で消化させたhCEACAM6-Fc挿入DNA断片及び線形pcIWベクターに加え、16℃で4時間反応させた。4時間後、1μLの連結反応混合物を収集し、100μLのXL1-Blueエレクトロポレーション-コンピテント細胞に加え、混合し、エレクトロポレーション法を使用して形質転換した。
【0099】
形質転換プレートにおいて、単一コロニーをSB/car培地に接種し、一晩培養した。QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN、カタログ番号127106)を使用して形質転換細胞からDNAを得て、外部の会社であるCosmogenetechに配列決定を依頼した。結果として、hCEACAM6-Fcをコードする遺伝子を同定した。同定された形質転換細胞を培養した後、QIAGEN Plasmid Plus Midi Kit(QIAGEN、カタログ番号12945)を使用して大量のDNAを得た。
【0100】
その後、実施例2.2.と同じ方法でExpi293F動物細胞を使用して一過性過剰発現系によってhCEACAM6-Fcタンパク質を作製し、単離した。
【0101】
実施例6.2. hCEACAM1-Fc及びhCEACAM6-Fcの間の相互作用の確認
実施例6.1で調製したhCEACAM6-FcをPBSで2.5μg/mLの濃度に希釈し、次いで、得られたものの各々100μLをNUNCイムノモジュール(NUNC、468667)プレートに加え、4℃で一晩コーティングした。翌日、コーティングされたプレートにおける各ウェルに300μLの(1%のBSAを加えた)PBSを加え、室温で2時間反応させることによってブロッキングを行った。
【0102】
更に、ビオチン標識hCEACAM1-Fcを150μg/mLの濃度から開始して3倍に連続的に希釈し、hCEACAM6-Fcでコーティングされたプレートにおける11のウェルに加え、(1%のBSAを加えた)PBSだけを最後のウェルに加え、前記ウェルを37℃の温度で1時間反応させた。1時間後、(0.05%のTween20を加えた)300μLのPBSを各ウェルに加えることによって各ウェルを3回洗浄し、次いで、ストレプトアビジン-ペルオキシダーゼポリマー(Sigma、S2438-250UG)を(1%のBSAを加えた)PBSにおいて1:5,000の比で希釈し、得られたものの各々100μLを各ウェルに加え、37℃で40分間反応させた。反応が完了した各ウェルを、(0.05%のTween20を加えた)300μLのPBSを各ウェルに加えることによって3回洗浄し、次いで、100μLのTMBマイクロウェルペルオキシダーゼ基質(KPL、50-76-03)を各ウェルに加え、5分間反応させた。反応を終了させるために、等量の硫酸(Sigma-Aldrich、339741)を加え、ELISAリーダを使用してOD値を450nmの波長で測定した。
【0103】
結果として、hCEACAM1-Fcタンパク質の濃度が増加するにつれて、hCEACAM1-FcがhCEACAM6-Fcに結合したことが確認された。特に、EC50値は0.305μg/mLであった(
図11)。
【0104】
実施例6.3. hCEACAM1-hCEACAM1相互作用の阻害に対する抗CEACAM1抗体の効果の確認
実施例6.1で調製したhCEACAM6-FcをPBSで2.5μg/mLの濃度に希釈し、次いで、得られたものの各々100μLをNUNCイムノモジュール(NUNC、468667)プレートに加え、4℃で一晩コーティングした。翌日、コーティングされたプレートにおける各ウェルに300μLの(1%のBSAを加えた)PBSを加え、室温で2時間反応させることによってブロッキングを行った。
【0105】
別の96ウェルプレートにおいて、抗CEACAM1抗体を60μg/mLの濃度から開始して2倍に連続的に希釈し、11のウェルに加え、(1%のBSAを加えた)PBSだけを最後のウェルに加え、次いで、ビオチン標識hCEACAM1-Fcを0.5μg/mLの濃度に希釈された抗CEACAM1抗体と同じ量で加え、室温で1時間反応させた。1時間後、ブロッキングを行ったプレートに抗CEACAM1抗体及びビオチン標識hCEACAM1-Fcの混合物の各々100μLを加え、室温で1時間再度反応させた。
【0106】
1時間後、(0.05%のTween20を加えた)300μLのPBSを各ウェルに加えることによって、各ウェルを3回洗浄し、次いで、ストレプトアビジン-ペルオキシダーゼポリマー(Sigma、S2438-250UG)を(1%のBSAを加えた)PBSにおいて1:5,000の比で希釈し、得られたものの各々100μLを各ウェルに加え、37℃で40分間反応させた。反応が完了した各ウェルを、(0.05%のTween20を加えた)300μLのPBSを各ウェルに加えることによって3回洗浄し、次いで、各々100μLのTMBマイクロウェルペルオキシダーゼ基質(KPL、50-76-03)を各ウェルに加え、5分間反応させた。反応を終了させるために、等量の硫酸(Sigma-Aldrich、339741)を加え、ELISAリーダを使用してOD値を450nmの波長で測定した。
【0107】
結果として、抗CEACAM1抗体の濃度が増加するにつれてhCEACAM1-Fc及びhCEACAM6-Fcの間の結合が阻害されたことが分かった。特に、IC50値は、0.795μg/mLであった(
図12)。
【0108】
III. TCRシグナル伝達の活性化に対する抗CEACAM1抗体の効果の確認
抗CEACAM1抗体がCEACAM1-CAECAM1相互作用のためにT細胞活性化の阻害をブロックすることによってTCRシグナル伝達を活性化するかどうかを確認するために、TCRシグナル伝達経路のうちの1つであるZAP70のリン酸化の存在と、活性化T細胞(NFAT)転写因子の核因子及びIL-2発現レベルの核因子の増加とを検討した。
【0109】
実施例7.1. ZAP70リン酸化の効果の確認
まず、CEACAM1を過剰発現するジャーカット細胞を調製するために、制限酵素を使用して、CEACAM1をコードするヌクレオチド配列をpEF1α-AcGFP-N1プラスミド(Clontech、カタログ番号631973)に挿入することによって、pEF1α-AcGFP-N1-CCM1プラスミドを調製した。
【0110】
具体的には、HindIII制限酵素切断部位を有するCEACAM1フォワードプライマーとSalI制限酵素切断部位を有するリバースプライマーとを使用して、pEF1α-AcGFP-N1-CCM1プラスミドをヒトCEACAM1 cDNA(R&D、カタログ番号RDC0951)からPCRに供した。特に、以下の表11に、使用したプライマーを示す。
【0111】
【0112】
PCRによって得たDNAを0.8%のアガロースゲルに載せ、DNAゲル抽出キット(Promega、カタログ番号A9282)を使用してHindIII/SalI hCEACAM1 DNAを得た。得られたhCEACAM1 DNAをHindIII制限酵素及びSalI制限酵素で処置し、37℃で2時間反応させ、次いで、Gel及びPCRクリーンアップシステム(Promega、カタログ番号A9282)を使用して、hCEACAM1挿入DNA断片を単離した。その後、調製されたhCEACAM1挿入DNA断片をpEF1α-AcGFP-N1ベクター(Clontech、カタログ番号631973)にクローニングするために、pEF1α-AcGFP-N1ベクターもHindIII制限酵素及びSalI制限酵素で処置して、線形pEF1α-AcGFP-N1ベクターを単離した。T4 DNAリガーゼを、線形pEF1α-AcGFP-N1ベクター並びにHindIII制限酵素及びSalI制限酵素で消化させたhCEACAM1挿入DNA断片に加え、16℃で4時間反応させた。4時間後、1μLの連結反応混合物を収集し、DH-5α大腸菌株の100μLのコンピテント細胞に形質転換した。形質転換されたプレートにおいて、単一コロニーを培地に接種し、一晩培養した。DNAプラスミドSV(Geneall、カタログ番号101~102)を使用して形質転換細胞を得て、外部の会社であるCosmogenetechに配列決定を依頼した。
【0113】
結果として、配列番号37のヌクレオチド配列で表されるhCEACAM1をコードする遺伝子を同定した。同定された形質転換細胞を培養した後、QIAGEN Plasmid Plus Midi Kit(QIAGEN、カタログ番号12945)を使用して大量のDNAを得た。
【0114】
その後、Neonトランスフェクションシステム(1,400電圧/20ms/2パルス)を使用して、10μgのpEF1α-AcGFP-N1-CCM1プラスミドを3×106個のジャーカットE6.1細胞(ATCC)にトランスフェクトした。72時間後、トランスフェクトしたジャーカット細胞を採取し、フローサイトメータ(FACSAria)を使用して、GFPを発現するジャーカット細胞を選別した。選別されたジャーカット細胞を、1mg/mLのG418(Sigma、カタログ番号G8168)を含有する培養培地で培養した。特に、使用した培養培地は、Pen/Strep(1×)、NEAA(1×)、ピルビン酸ナトリウム(1×)及び10%FBSを含有する完全IMDM(cIMDM)培地であった。
【0115】
ジャーカット細胞及びCEACAM1を過剰発現するジャーカット細胞を、1つのウェル当たり3×106個の細胞の密度で分注し、10μg/mLのhIgG4(Sigma、カタログ番号I4639)又は抗CEACAM1抗体で5時間処置し、37℃の温度で5%CO2の条件下で培養した。その後、幾つかの培養されたジャーカット細胞及びCEACAM1を過剰発現するジャーカット細胞を、1μg/mLの抗CD3抗体(eBioscience、カタログ番号16-0037-85)及び抗CD28抗体(eBioscience、カタログ番号16-0289-85)で処置することによって1分間刺激した。
【0116】
RIPA緩衝液(氷冷溶解緩衝液)を使用して、ジャーカット細胞及びCEACAM1を過剰発現するジャーカット細胞を各々溶解させた。その後、細胞溶解物を各々遠心分離し、6×のLaemmli緩衝液と混合し、MESランニング緩衝液を使用して混合物をNovex4~12%Bis-Tris勾配ゲルに載せ、混合物におけるタンパク質をニトロセルロース膜に移した。その後、得られたものを5%のウシ血清アルブミン(BSA)で処置することによって非特異的反応をブロックし、一次抗体と、HRPにコンジュゲートした二次抗体とを使用してウエスタンブロットを行った。特に、使用した一次抗体は、抗リン酸化ZAP70(Y319、細胞シグナル伝達、カタログ番号2717S)、抗ZAP70抗体(細胞シグナル伝達、カタログ番号2705S)、抗CEACAM1抗体(ORIGENE、カタログ番号TA350817)及び抗アクチン抗体(細胞シグナル伝達、カタログ番号49671)であった。
【0117】
特に、CEACAM1を発現せず、抗CD3抗体及び抗CD28抗体で刺激しなかったジャーカット細胞を陰性対照として設定し、抗CD3抗体及び抗CD28抗体(antibodt)で刺激し、CEACAM1を発現せず、hIgG4で処置したジャーカット細胞を陽性対照として設定した。更に、抗CD3抗体及び抗CD28抗体で刺激し、hIgG4又は抗CEACAM1抗体で処置した、CEACAM1を過剰発現するジャーカット細胞を実験群として設定された。
【0118】
結果として、
図13に示されるように、陰性対照群の場合、ZAP70はリン酸化されなかったが、陽性対照群の場合、ZAP70はリン酸化された(p-ZAP70)ことが確認された。更に、hIgG4で処置した実験群の場合、リン酸化されたZAP70の量は、陽性対照群の量よりも少なかった。対照的に、抗CEACAM1抗体で処置した実験群の場合、測定された、リン酸化されたZAP70の量は、陽性対照群の量と同等であった。
【0119】
実施例7.2. NFAT転写因子の発現レベルの増加の確認
NFAT及びCEACAM1を発現するジャーカット細胞を調製するために、Neonトランスフェクションシステム(1400電圧/20ms/2パルス)を使用して、細胞数が3×106個である、実施例7.1で調製されたCEACAM1を発現するジャーカット細胞を、10μgのpGL4.30[luc2p/NFAT-RE/Hygro]及び1μgのpTurbo RFP-Cプラスミドでトランスフェクトした。72時間後、トランスフェクトされたジャーカット細胞を採取し、フローサイトメータ(FACSAria)を使用して、RFPを発現するジャーカット細胞を選別した。選別されたジャーカット細胞を、1mg/mLのG418(Sigma、カタログ番号G8168)及び0.5mg/mLのヒグロマイシンB(Invitrogen、カタログ番号10687010)を含有する培養培地で培養した。特に、実施例7.1で使用された同じ培養培地を使用した。
【0120】
NFAT及びCEACAM1を過剰発現するジャーカット細胞を、1つのウェル当たり3×106個の細胞の細胞数で分注し、hIgG4(Sigma、カタログ番号I4639)又は抗CEACAM1抗体で処置し、次いで、0.05μg/mLの抗CD3抗体(eBioscience、カタログ番号16-0037-85)で刺激した。特に、hIgG4(Sigma、カタログ番号I4639)又は抗CEACAM1抗体を、30μg/mLの濃度から開始して3倍に連続的に希釈し、使用した。24時間後、100μLの上清を96ウェルプレートに移し、100μLのBright-Gloルシフェラーゼアッセイシステム(Promega、カタログ番号E2610)で処置した。その後、GloMax Discoverマルチモードマイクロプレートリーダを使用して、蛍光を測定した。
【0121】
特に、抗CD3抗体で刺激し、hIgG4で処置した、NFAT及びCEACAM1を過剰発現するジャーカット細胞を対照群として設定し、抗CEACAM1抗体で処置した、NFAT及びCEACAM1を過剰発現するジャーカット細胞を実験群として設定した。
【0122】
結果として、
図14に示されるように、蛍光強度は、実験群において濃度依存的に増加したが、この結果から、NFATの発現レベルが増加したことが確認された。
【0123】
実施例7.3. IL-2発現レベルの増加の確認
まず、96ウェルプレートを4℃で1μg/mLの抗CD3抗体(OKT-3)で一晩コーティングした。細胞を加える前に、各ウェルを冷たいDPBSで2回洗浄した。次いで、実施例7.1で調製したCEACAM1を過剰発現するジャーカット細胞を各ウェルに1×105個の細胞数で分注し、抗CEACAM1抗体の各々200μLを10μg/mLの濃度で各ウェルに加え、3日間培養した。その後、上清を収集し、IL-2 ELISAキット(BD Bioscience、カタログ番号550611)を使用して、IL-2の発現レベルを測定した。
【0124】
特に、抗CD3抗体で刺激し、hIgG4で処置した、CEACAM1を過剰発現するジャーカット細胞を対照群として設定し、抗CEACAM1抗体で処置した、CEACAM1を過剰発現するジャーカット細胞を実験群として設定した。
【0125】
結果として、
図15に示されるように、実験群におけるIL-2発現レベルは、対照群と比較して有意に増加したことが確認された。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-07-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CEACAM1の35~141位に対応するアミノ酸の配列の4~69個のアミノ酸からなる立体配座エピトープであって、前記立体配座エピトープが、63位、64位、66位、68位、75位、76位、78位、83位、86位、90位、123位、125位、129位及び131位の前記アミノ酸並びにそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸を含む、立体配座エピトープ。
【請求項2】
前記CEACAM1が配列番号1のアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の立体配座エピトープ。
【請求項3】
63番目の前記アミノ酸がフェニルアラニン(Phe)であり、64番目の前記アミノ酸がグリシン(Gly)であり、66番目の前記アミノ酸がセリン(Ser)であり、68番目の前記アミノ酸がチロシン(Tyr)であり、75番目の前記アミノ酸がグリシン(Gly)であり、76番目の前記アミノ酸がアスパラギン(Asn)であり、78番目の前記アミノ酸がグルタミン(Gln)であり、83番目の前記アミノ酸がアラニン(Ala)であり、86番目の前記アミノ酸がスレオニン(Thr)であり、90番目の前記アミノ酸がスレオニン(Thr)であり、123番目の前記アミノ酸がグルタミン(Gln)であり、125番目の前記アミノ酸がイソロイシン(Ile)であり、129番目の前記アミノ酸がロイシン(Leu)であり、131番目の前記アミノ酸がアスパラギン(Asn)である、請求項1に記載の立体配座エピトープ。
【請求項4】
CEACAM1のアミノ酸位置63、64、66、68、75、76、78、83、86、90、123、125、129及び131のアミノ酸を含む、請求項1に記載の立体配座エピトープ。
【請求項5】
CEACAM1の35~141位のアミノ酸の配列の4~69個のアミノ酸からなる立体配座エピトープに特異的に結合する抗CEACAM1抗体又はその断片であって、前記立体配座エピトープが、63位、64位、66位、68位、75位、76位、78位、83位、86位、90位、123位、125位、129位及び131位の前記アミノ酸並びにそれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸を含む、抗CEACAM1抗体又はその断片。
【請求項6】
CEACAM1の35~141位のアミノ酸の配列の4~69個のアミノ酸からなる立体配座エピトープに特異的に結合する、抗CEACAM1抗体又はその断片であって、前記立体配座エピトープが、63、64、66、68、75、76、78、83、86、90、123、125、129及び131位の前記アミノ酸を含む、請求項5に記載の抗CEACAM1抗体又はその断片。
【請求項7】
分子間距離が4.5Å以内でCEACAM1に結合する、請求項5に記載の抗CEACAM1抗体又はその断片。
【請求項8】
ファンデルワールス、疎水結合又は静電結合によってCEACAM1に結合する、請求項5に記載の抗CEACAM1抗体又はその断片。
【請求項9】
CEACAM1に対する結合親和性が1×10
-8KD未満(M)である、請求項5に記載の抗CEACAM1抗体又はその断片。
【請求項10】
請求項5に記載の抗CEACAM1抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項10に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項12】
請求項11に記載の発現ベクターが導入されている形質転換細胞。
【請求項13】
請求項12に記載の形質転換細胞を培養するステップを含む、抗体又はその断片を作製するための方法。
【請求項14】
請求項5~9のいずれか一項に記載の抗CEACAM1抗体又はその断片を活性成分として含む抗がん剤。
【請求項15】
がんを予防又は処置するための
組成物であって、請求項5~9のいずれか一項に記載の抗CEACAM1抗体又はその断片
を含む、組成物。
【請求項16】
がんを予防又は処置するための医薬の調製のための、請求項5~9のいずれか一項に記載の抗CEACAM1抗体又はその断片の使用。
【国際調査報告】