(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(54)【発明の名称】操作された制御性T細胞の生成
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20230111BHJP
C12N 9/12 20060101ALI20230111BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20230111BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20230111BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20230111BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230111BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230111BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20230111BHJP
C12N 5/0735 20100101ALN20230111BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20230111BHJP
C12N 5/0789 20100101ALN20230111BHJP
C12N 15/861 20060101ALN20230111BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20230111BHJP
C12N 15/867 20060101ALN20230111BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230111BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20230111BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20230111BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230111BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N9/12
A61K35/545
A61K35/28
A61K35/15 A
A61P37/06
C12N15/09 110
C12N5/0783
C12N5/0735
C12N5/0775
C12N5/0789
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
C12N15/12
C07K19/00
C07K16/28
C12N15/13
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022526138
(86)(22)【出願日】2020-11-09
(85)【翻訳文提出日】2022-06-17
(86)【国際出願番号】 US2020059730
(87)【国際公開番号】W WO2021092581
(87)【国際公開日】2021-05-14
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508241200
【氏名又は名称】サンガモ セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】コンウェイ,アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】フォン,ヘレン
(72)【発明者】
【氏名】クォン,ジョージ
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B050CC07
4B050KK07
4B050LL01
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087NA14
4C087ZB08
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書では、制御性T細胞への分化能が向上した、遺伝子操作された哺乳類の幹細胞および前駆細胞を提供する。また、その製造方法および使用方法についても提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノム内に異種配列を含む遺伝子操作された哺乳類細胞であって、異種配列は系列決定因子(lineage commitment factor)をコードする導入遺伝子を含み、および系列決定因子は、細胞のCD4
+制御性T(Treg)細胞への分化を促進するか、または細胞のCD4
+Treg細胞としての維持を促進する、哺乳類細胞。
【請求項2】
導入遺伝子の発現が遺伝子座の転写調節エレメントの制御下にあるように、異種配列がT細胞特異的な遺伝子座に組み込まれる、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
哺乳類細胞に(i)異種配列および(ii)異種配列に隣接する第1相同領域(HR)および第2HRを含む核酸構築物を接触させる工程であって、
ここで、異種配列が導入遺伝子を含み、
第1および第2HRが、哺乳類細胞のT細胞特異的遺伝子座またはゲノムのセーフハーバー遺伝子座における第1ゲノム領域(GR)および第2GRとそれぞれ相同である、工程;および
T細胞特異的遺伝子座またはゲノムのセーフハーバー遺伝子座における第1GRと第2GRの間への異種配列の組み込みを可能にする条件下で細胞を培養する工程;
を含む、遺伝子操作された哺乳類細胞の製造方法。
【請求項4】
組み込みが、ジンクフィンガーヌクレアーゼまたはニッカーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクタードメインヌクレアーゼまたはニッカーゼ(TALEN)、メガヌクレアーゼ、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、トランスポザーゼ、またはCRISPR/Casシステムによって促進される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
核酸構築物が、レンチウイルス構築物、アデノウイルス構築物、アデノ随伴ウイルス構築物、プラスミド、DNA構築物、またはRNA構築物である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
導入遺伝子がさらなるポリペプチドのコード配列を含み、ここで系列決定因子のコード配列とさらなるポリペプチドのコード配列が自己切断ペプチドをインフレームでコードする配列または内部リボソーム進入部位(IRES)によって分断されている、前述の請求項の何れか1項に記載の細胞または方法。
【請求項7】
さらなるポリペプチドが別の系列決定因子、治療用タンパク質またはキメラ抗原受容体である、請求項6に記載の細胞または方法。
【請求項8】
異種配列が、T細胞特異的遺伝子座のエキソンに組み込まれ、かつ導入遺伝子のすぐ上流に内部リボソーム進入部位(IRES)を含むかまたは導入遺伝子のすぐ上流にインフレームで自己切断ペプチドをコードする第2の配列を含む、前述の請求項の何れか1項に記載の細胞または方法。
【請求項9】
異種配列が、T細胞特異的遺伝子座が無傷のT細胞特異的遺伝子産物を発現し続けられるように、IRESまたは自己切断ペプチドをコードする第2の配列のすぐ上流に、組み込み部位の下流に存在する全てのT細胞特異的遺伝子座のエキソン配列を含むヌクレオチド配列をさらに含む、請求項8に記載の細胞または方法。
【請求項10】
T細胞特異的遺伝子座がT細胞受容体アルファ定常領域(TRAC)遺伝子座である、前述の請求項の何れか1項に記載の細胞または方法。
【請求項11】
異種配列がTRAC遺伝子座のエキソン1、2または3に組み込まれる、請求項10に記載の細胞または方法。
【請求項12】
導入遺伝子がFOXP3、Helios、またはThPOKをコードする、前述の請求項の何れか1項に記載の細胞または方法。
【請求項13】
導入遺伝子がFOXP3のコード配列およびThPOKのコード配列を含み、ここでこれら二つのコード配列はインフレームであり、かつ自己切断ペプチドをインフレームでコードする配列によって分断されている、請求項12に記載の細胞または方法。
【請求項14】
細胞がヒト細胞である、前述の請求項の何れか1項に記載の細胞または方法。
【請求項15】
細胞が、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、中胚葉系幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、リンパ系前駆細胞、またはT細胞前駆細胞から任意に選択される幹細胞または前駆細胞である、請求項1~14の何れか1項に記載の細胞または方法。
【請求項16】
細胞がT細胞、任意にはTreg細胞、CD4
+T細胞またはCD8
+T細胞から初期化される、請求項15に記載の細胞または方法。
【請求項17】
細胞がTreg細胞である、請求項1~14の何れか1項に記載の細胞。
【請求項18】
請求項15または16に記載の細胞を(i)低用量のIL-2、(ii)IL-7Ra(CD27)シグナル伝達阻害剤、(iii)CCR7シグナル伝達阻害剤、を含む組織培養培地中で培養する工程を含む、請求項17に記載のTreg細胞の製造方法。
【請求項19】
請求項15または16に記載の細胞を、MS5-DLL1/4間質細胞;OP9またはOP9-DLL1間質細胞;またはEpCAM
-CD56
+間質細胞と共培養する工程を含む、請求項17に記載のTreg細胞の製造方法。
【請求項20】
細胞が、
クラスII主要組織適合性複合体トランスアクチベーター(CIITA)遺伝子、
HLAクラスIまたはII遺伝子、
抗原の処理に関連するトランスポーター、
マイナー組織適合性抗原遺伝子、および
β2マイクログロブリン(B2M)遺伝子、
から選択される遺伝子内にヌル変異を含む、前述の請求項の何れか1項に記載の細胞または方法。
【請求項21】
細胞が、HSV-TK遺伝子、シトシンデアミナーゼ遺伝子、ニトロレダクターゼ遺伝子、シトクロムP450遺伝子またはカスパーゼ9遺伝子から任意に選択される自殺遺伝子を含む、前述の請求項の何れか1項に記載の細胞または方法。
【請求項22】
請求項18または19に記載の工程により生産される、遺伝子操作された哺乳類の制御性T(Treg)細胞。
【請求項23】
請求項1、2、6-17および20-22の何れか1項に記載の細胞を患者に投与する事を含む、免疫抑制を必要とする患者を処置するための方法。
【請求項24】
免疫抑制を必要とする患者の処置における医薬の製造における、請求項1、2、6~17、および20~22の何れか1項に記載の細胞の使用。
【請求項25】
免疫抑制を必要とする患者の処置における使用のための請求項1、2、6~17、および20~22の何れか1項に記載の細胞。
【請求項26】
患者が自己免疫疾患を有する、請求項23~25の何れか1項に記載の使用のための方法、使用、または細胞。
【請求項27】
患者が組織移植を受けたことがある、または受ける予定である、請求項23~25の何れか1項に記載の使用のための方法、使用、または細胞。
【請求項28】
患者がヒトである、請求項23~27の何れか1項に記載の使用のための方法、使用、または細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は2019年11月8日に出願された米国仮出願第62/933,252号の優先権を主張するものであり、ここに本明細書の一部として参照によりその全体を援用する。
【背景技術】
【0002】
背景
健康な免疫系とは、バランスのとれた免疫系の事である。適応性免疫にかかわる細胞としてはBおよびTリンパ球が含まれる。Tリンパ球には2つの一般的な種類がある-エフェクターT(Teff)細胞および制御性T(Treg)細胞である。Teff細胞にはCD4+ヘルパーT細胞およびCD8+細胞障害性T細胞を含む。Teff細胞は抗原曝露後の細胞介在性免疫において中心的な役割を担う。Teff細胞およびその他の免疫細胞の重要な制御因子がTreg細胞であり、これは過剰な免疫応答および自己免疫を防ぐ(例えば、Romano et al.,Front Immunol.(2019)10,art.43を参照。)
【0003】
一部のTreg細胞は、胸腺で生成される;これらは内因性Treg細胞(nTreg細胞)または胸腺Treg細胞(tTreg細胞)として知られる。その他のTreg細胞は、抗原遭遇後に末梢で生成されるか、または細胞培養で生成され、誘導型Treg細胞(iTreg細胞)または適応型Treg細胞として知られている。Treg細胞は、特異的な細胞表面受容体が関与する細胞間接触や、IL-10、TGF-β、IL-35などの抑制性サイトカインの分泌を介して、寛容の誘導を含めて、その他の免疫細胞の増殖および活性化を積極的に制御する(Dominguez-Villar and Hafler,Nat Immunol.(2018)19:665-73)。寛容の誘導に失敗すると自己免疫や慢性炎症を引き起こし得る。寛容性の喪失は、Treg細胞機能の欠陥やTreg細胞数の不足、またはTeff細胞の無反応または過剰な活性化によって引き起こされる(Sadlon et al.,Clin Transl Immunol.(2018)7:e1011,doi:10-1002/cti2.1011)。
【0004】
近年では、疾患の処置のためのTreg細胞の使用が注目されている。自己免疫疾患を処置することを目的として、Treg細胞の数および機能を亢進するための、養子細胞療法を含む多数のアプローチが探求されてきた。活性化した、および増殖させたTreg細胞集団を送達するTreg細胞移植は、I型糖尿病、皮膚エリテマトーデス、クローン病などの自己免疫疾患を患う患者、および臓器移植をした患者において試験されている(Dominguez-Villar,同上;Safinia et al.,Front Immunol.(2018)9:354)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在では、細胞療法のためのTreg細胞の供給源は成人または青年期の一次血液(例えば、全血またはアフェレーシス産物)および組織(例えば胸腺)のみである。これらの供給源からのTreg細胞の単離は侵襲的でかつ時間がかかるが、わずかな数のTreg細胞しか得られない。さらに、これらのサンプルから得たTreg細胞は天然にはポリクローナルであるため、その潜在的な免疫抑制反応においてばらつきが生じ得る。単純にTreg細胞の数を増やしても疾患の抑制に十分でないという証拠も存在する(McGovern et al.,Front Immunol.(2017)8,art.1517)。CARまたは操作されたTCRなどの抗原特異的部位を持つ操作されたモノクローナルなTreg細胞は自己免疫活性部位または臓器移植部位における免疫調節反応を増強し得る。遺伝子操作されたモノクローナルなTreg細胞を大量に、効率的に入手する事の必要性が依然存在している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
本開示は、人工多能性幹細胞(iPSC)および前駆細胞を含む幹細胞の制御性T細胞への分化を促進するための方法および組成物を提供する。好ましい実施形態では、操作された制御性T細胞は養子細胞療法のために調製される。
【0007】
1つの態様では、本開示はゲノム内に異種配列を含む遺伝子操作された哺乳類細胞(例えば、ヒト細胞)を提供し、ここで異種配列は系列決定因子(lineage commitment factor)(本明細書において系統誘導因子とも呼ぶ)をコードする導入遺伝子を含み、および系列決定因子は細胞のCD4+T細胞(Treg)への分化およびCD4+Treg細胞としての細胞の維持を促進する。いくつかの実施形態では、異種配列は、操作された細胞のゲノム内のセーフハーバー部位(例えば、AAVS1遺伝子座)に組み込まれる。その他の実施形態では、異種配列はT細胞特異的な遺伝子座、すなわちT細胞、例えばTreg細胞において特異的に発現される遺伝子を含む遺伝子座(例えば、FOXP3部位およびHelios部位)に組み込まれる;これらの実施形態では、導入遺伝子は当該遺伝子座における転写調節エレメントの制御下にあり得る。
【0008】
他の態様では、本開示は、遺伝子操作された哺乳類細胞の製造方法であって、以下:哺乳類細胞を(i)異種配列および(ii)異種配列に隣接する第1相同領域(HR)および第2HRを含む核酸構築物と接触させる工程であって、ここで異種配列が導入遺伝子を含み、第1および第2HRが哺乳類細胞のT細胞特異的遺伝子座またはゲノムのセーフハーバー遺伝子座における第1ゲノム領域(GR)および第2GRとそれぞれ相同である、工程;およびT細胞特異的遺伝子座またはゲノムのセーフハーバー遺伝子座における第1GRと第2GRの間への異種配列の組み込みを可能にする条件下で当該細胞を培養する工程、を含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、異種配列の組み込みはジンクフィンガーヌクレアーゼまたはニッカーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクタードメインヌクレアーゼまたはニッカーゼ(TALEN)、メガヌクレアーゼ、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、トランスポザーゼ、またはCRISPR/Cas系によって促進される。いくつかの実施形態では、核酸構築物はレンチウイルス構築物、アデノウイルス構築物、アデノ随伴ウイルス構築物、プラスミド、DNA構築物、またはRNA構築物である。
【0009】
いくつかの実施形態では、導入遺伝子はさらなるポリペプチドのコード配列を含み、ここで系列決定因子のコード配列とさらなるポリペプチドのコード配列は、自己切断ペプチドをインフレームでコードする配列または内部リボソーム進入部位(IRES)によって分断されている。特定の実施形態では、当該さらなるポリペプチドは別の系列決定因子、治療用タンパク質、またはキメラ抗原受容体(CAR)である。
【0010】
いくつかの実施形態では、異種配列はT細胞特異的遺伝子座のエキソンに組み込まれ、かつ導入遺伝子のすぐ上流に内部リボソーム進入部位(IRES)を含む、または導入遺伝子のすぐ上流にインフレームで、自己切断ペプチドをコードする第2の配列を含む。さらなる実施形態では、異種配列は、T細胞特異的遺伝子座が無傷のT細胞特異的遺伝子産物を発現し続けられるように、IRESまたは自己切断ペプチドをコードする第2の配列のすぐ上流に、組み込み部位の下流に存在する全てのT細胞特異的遺伝子座のエキソン配列を含むヌクレオチド配列をさらに含む。特定の実施形態ではT細胞特異的遺伝子座はT細胞受容体アルファ定常領域(TRAC)遺伝子座であり、および異種配列は任意にはTRAC遺伝子座のエキソン1、2、または3に組み込まれる。
【0011】
いくつかの実施形態では、導入遺伝子はFOXP3、Helios、またはThPOKをコードする。さらなる実施形態では、導入遺伝子はFOXP3のコード配列およびThPOKのコード配列を含み、ここでこれら二つのコード配列はインフレームであり、かつ自己切断ペプチドをインフレームでコードする配列によって分断されている。
【0012】
いくつかの実施形態では、細胞はヒト細胞である。さらなる実施形態では、細胞は、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、中胚葉系幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、リンパ系前駆細胞、またはT細胞前駆細胞から任意に選択される幹細胞または前駆細胞である。いくつかの実施形態では、細胞はT細胞(例えば、Treg細胞、CD4+T細胞、またはCD8+T細胞)から初期化される(reprogrammed)。いくつかの実施形態では、操作された細胞はTreg細胞である。
【0013】
いくつかの実施形態では、本開示は操作されたTreg細胞の製造方法であって、本明細書に記載の操作された幹細胞または前駆細胞を、(i)低用量のIL-2、(ii)IL-7Ra(CD27)シグナル伝達阻害剤(例えば抗体)、(iii)CCR7シグナル伝達阻害剤(例えば抗体)、を含む組織培養培地中で培養する工程を含む、方法を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は操作されたTreg細胞の製造方法であって、本明細書に記載の操作された幹細胞または前駆細胞を、MS5-DLL1/4間質細胞;OP9またはOP9-DLL1間質細胞;またはEpCAM-CD56+間質細胞と共培養することを含む、方法を提供する。本開示はまた、これらの方法によって得られたTreg細胞を提供する。
【0014】
いくつかの実施形態では、操作された細胞は、クラスII主要組織適合性複合体トランスアクチベーター(CIITA)遺伝子、HLAクラスIまたはII遺伝子、抗原の処理に関連するトランスポーター、マイナー組織適合性抗原遺伝子、およびβ2マイクログロブリン(B2M)遺伝子、から選択される遺伝子内にヌル変異をさらに含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、操作された細胞はHSV-TK遺伝子、シトシンデアミナーゼ遺伝子、ニトロレダクターゼ遺伝子、シトクロムP450遺伝子またはカスパーゼ9遺伝子から任意に選択される自殺遺伝子をさらに含む。
【0016】
本開示は、本明細書において提供する操作された細胞(例えば、操作されたTreg細胞)を患者に投与する事を含む、免疫抑制を必要とする患者(例えばヒト患者)を処置する方法をさらに提供する。また、免疫抑制を必要とする患者(例えばヒト患者)の処置における医薬の製造における本明細書の操作された細胞の使用、および免疫抑制を必要とする患者(例えばヒト患者)の処置における使用のための、本明細書の操作された細胞を提供する。いくつかの実施形態では、患者は自己免疫疾患を有するか、組織移植を受けたことがある、もしくは受ける予定である。
【0017】
その他の本発明の特徴、目的および利点は、以下の発明の詳細な説明において明らかになる。しかし詳細な説明は、本発明の実施形態および態様を示すものの、例示のためにのみ与えられており、限定するものでない事を理解されたい。本発明の範囲内での様々な変更および改変は、詳細な説明から当業者に明らかになるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図面の簡単な説明
【
図1】
図1は、1つ以上のTreg細胞決定(誘導)因子(「TF」)をコードする導入遺伝子をヒトTRAC遺伝子のエキソン2に組み込むためのゲノム編集アプローチを示す模式図である。導入されるmRNAから産生されるジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)はエキソン2の特異的部位(稲妻記号)において二本鎖切断を生成する。アデノ随伴ウイルス(AAV)6ベクターによって導入されたドナー配列は5’末端から3’にかけて以下を含む:相同領域1;自己切断ペプチドT2Aのコード配列;第1TF、自己切断ペプチドP2A、第2TF2、自己切断ペプチドE2Aおよび第3TF3の融合物のコード配列;ポリアデニル化(ポリA)シグナル配列;および相同領域2。相同領域はZFN切断部位に隣接するゲノム領域に対して相同である。組み込み部位の上流のTRAC2部分、T2Aコード配列、およびTFコード配列はそれぞれインフレームである。このアプローチでは、導入遺伝子の組み込みの結果として、TRACタンパク質の発現はノックアウトされる。組み込まれた配列の発現は内因性TCRアルファ鎖プロモーターによって制御される。
【0019】
【
図2】
図2は、
図1に示したものと類似のゲノム編集アプローチを示す模式図であるが、ここでは異種配列は、組み込み部位の下流のTRACエキソン配列(すなわち、3’から組み込み部位までのエキソン2配列およびエキソン3配列)を含む部分的TRAC cDNAを、含む。この部分的TRAC cDNAは、インフレームでT2Aコード配列のすぐ上流に置かれ、これによって操作された遺伝子座は、内因性TCRアルファ鎖プロモーターの下で無傷のTCRアルファ鎖およびTFを発現する。
【0020】
【
図3】
図3は1以上の決定因子をコードする導入遺伝子を組み込むためのさらに別のゲノム編集アプローチを示す模式図である。このアプローチでは、導入遺伝子はゲノムのセーフハーバーに組み込まれる。この図において、導入遺伝子はヒトAAVS1遺伝子座のイントロン1に挿入され、ドキシサイクリン(Dox)誘導性プロモーターと作動可能に連結されている。SA:スプライスアクセプター。2A;自己切断ペプチド2Aのコード配列。PuroR;ピューロマイシン耐性遺伝子。TI:標的化組み込み。
【0021】
【
図4】
図4は、
図3において概説される方法を用いて編集した細胞から得られたデータを示すグラフのパネルである。導入遺伝子は緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする。Puro:ピューロマイシン。Dox:ドキシサイクリン。
【0022】
【
図5】
図5は、1以上の決定因子をコードする導入遺伝子がヒトAAVS1遺伝子のイントロン1に組み込まれるゲノム編集アプローチを示す模式図である。ゲノムに組み込まれる異種配列はCARを含む。Treg細胞への分化が完了すると、決定因子をコードする導入遺伝子(2つのLoxP部位の間に位置する)は、組み込み部位にCAR発現カセットのみを残して切除される。
【0023】
【
図6】
図6は1以上の決定因子をコードする導入遺伝子をヒトTRAC遺伝子のエキソン2に組み込むためのゲノム編集アプローチを示す模式図である。このアプローチでは、ゲノムに組み込まれる異種配列はCARのコード配列を含む。Treg細胞への分化が完了すると、決定因子をコードする導入遺伝子(2つのLoxP部位の間に位置する)は、組み込み部位にCAR発現カセットのみを残して切除される。
【0024】
【
図7】
図7は、単一の再構成されたTCRを有する成熟Treg細胞を人工多能性幹細胞(iPSC)に初期化する(reprogramming)工程を示した模式図である。増殖後、このiPSCはTreg細胞表現型へと再度分化される。ここでのTCRは同種抗原(allo-antigen)でない抗原を標的とする。
【0025】
【
図8】
図8は、iPSCのTreg細胞への分化過程を示した模式図である。HSC:造血幹細胞。シングルポジティブ:CD4
+またはCD8
+。ダブルポジティブ:CD4
+CD8
+。
【0026】
【
図9】
図9は、IL-7受容体アルファユニット(IL-7Ra)に対する抗体を組織培養培地に加えると、iPSC由来のT細胞前駆細胞の分化が、CD8シングルポジティブ細胞の形成(左上の象限)からCD4シングルポジティブ細胞の形成(右下の象限)へと偏ることを示す細胞ソーティンググラフのパネルである。抗体を3段階の濃度で組織培養培地へ添加した(低、中、および高濃度)。この効果は2つの別々の実験において示された(実験#1および実験#2)。
【0027】
【
図10】
図10はiPSCをTreg細胞へと分化させるための複数の工程を示した模式図である。細胞は、リンパ球分化用コーティング剤(Lymphocyte Differentiation Coating Material)上で培養するか(フィーダー細胞非依存)、またはOP9間質細胞もしくはOP9-DLL1間質細胞(Notch ligand, Delta-like1を発現するOP9細胞)間質細胞と共に培養する(フィーダー細胞依存)。細胞は、Treg細胞への分化を促進するために、
図8に示すようにさらに培養される。別の経路では、iPSCをMSS-DLL1/4またはEpCAM
-CD56
+間質細胞と共培養する事で3次元胚性中胚葉オルガノイド(EMO)が形成される;EMOの造血系への誘導後、人工胸腺オルガノイド(ATO)が形成され、その形成は胸腺で選択を受けたTreg細胞により近いTCRレパトアを持つ成熟Treg細胞を生成するために誘導される。
【0028】
【
図11】
図11は、各々が、VPH活性化ドメインまたはKRAB阻害ドメインとそれぞれ融合したdeadCas9(dCas9)を含む、CRISPR活性化(CRISPRa)または阻害(CRISPRi)ライブラリーのいずれかを組み込むためのゲノム編集アプローチを示した模式図である。この図においてライブラリー(導入遺伝子)はヒトAAVS1遺伝子のイントロン1に組み込まれる。
【0029】
【
図12】
図12は、ナイーブ制御性、CD4
+、およびCD8
+T細胞に由来するiPSC(まとめてTiPSC)および34
+細胞に由来するiPSC間の、T細胞を生成する能力を比較したグラフのパネルである。パネルAはTiPSCおよびCD34由来iPSCにおいて、分化の間でCD3およびTCRαβを共発現する生存/単細胞の割合を示す。パネルBはiPSCから分化するT細胞におけるCD3およびTCRαβの発現を示す代表的なフローサイトメトリープロットのパネルである。各iPSC株のCD3
+TCRαβ
+細胞に由来する細胞の種類とその割合(パネルC)および生存/単細胞に由来する細胞の種類とその割合(パネルD)についても調べた。CD4sp:CD4シングルポジティブ。CD8sp:CD8シングルポジティブ。DN:ダブルネガティブ(CD4
ーCD8
ー)。DP:ダブルポジティブ(CD4
+CD8
+)。統計的有意性は、Welchの補正を用いて対応の無いt検定(unpaired t-test)をによって決定した。アスタリスクは統計的に有意であることを示す。
【0030】
【
図13-1】
図13Aは、
図2に示したアプローチにおいてTRAC遺伝子座のエキソン2が編集されたiPSC株由来のT細胞における、FOXP3遺伝子および抗HLA-A2キメラ抗原受容体(CAR)の発現を示すフローサイトメトリープロットのパネルである。導入遺伝子はFOXP3/Helios/CAR、FOXP3/CAR、FOXP3、またはGFPである。
【0031】
【発明を実施するための形態】
【0032】
詳細な説明
多能性幹細胞(PSC)は、際限なく増殖し、およびヒト生体内の任意の種類の細胞を生み出す事が可能である。PSC(例えば、ヒト胚性幹細胞および人工多能性幹細胞)は、医療用の多数の分化した細胞を製造するための理想的な出発材料の代表である。本開示は、人工PSC(iPSC)などのPSCからTreg細胞を生成する方法を提供する。また、本開示には中胚葉前駆細胞、造血幹細胞、およびリンパ系前駆細胞などの多分化能細胞からTreg細胞を生成する方法を含む。多分化能幹細胞および組織前駆細胞を含む多分化能細胞は、多能性細胞と比べて、異なる細胞種へと分化する能力が限定的である。
【0033】
本方法において、幹細胞および/または前駆細胞は遺伝子操作され、Treg細胞系列決定因子(例えばFOXP3、Helios、Ikaros)および/またはCD4+ヘルパーT細胞系列決定因子(例えばGata3およびThPOK)を過剰発現する(すなわち細胞が通常発現するよりも高いレベルで発現する)。これらの因子は、操作された幹細胞および/または前駆細胞のTreg細胞への分化を容易にする。これらの因子はTreg細胞への分化過程の全体または一部の期間にわたって構成的に過剰発現される;またはTreg細胞への分化過程の特定の期間中に誘導的に発現され得る(例えば、ドキシサイクリン誘導性TetR介在遺伝子発現によって)。
【0034】
いくつかの実施形態では、決定因子は、幹細胞または前駆細胞のゲノムに無作為に組み込まれる導入遺伝子によってコードされる(例えば、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクターまたはトランスポゾンを使用することで)。
【0035】
あるいは、決定因子は、幹細胞または前駆細胞のゲノムに部位特異的なやりかたで組み込まれる導入遺伝子によってコードされる。例えば、導入遺伝子は、ゲノムのセーフハーバー部位、または、T細胞受容体アルファ鎖定常領域(すなわち、T細胞受容体アルファ定常領域またはTRAC)遺伝子などのT細胞特異的遺伝子のゲノム遺伝子座に組み込まれる。前者のアプローチでは、導入遺伝子は任意にはT細胞特異的プロモーターまたは誘導性プロモーターの転写制御下に置かれ得る。後者のアプローチでは、導入遺伝子はT細胞特異的遺伝子の内因性プロモーターおよびその他の転写調節エレメント(例えばTCRアルファ鎖プロモーター)の制御下で発現され得る。導入遺伝子をT細胞特異的プロモーターの制御下に置く利点は、導入遺伝子が意図される通りにT細胞においてのみ発現され、それにより操作された細胞の臨床的な安全性が向上する事である。
【0036】
いくつかの実施形態では、本方法はこの分化をさらに促進する組織培養工程をさらに含み得る。
【0037】
制御性T細胞は、免疫の恒常性を維持し、および免疫寛容をもたらす。操作されたTreg細胞は、自己または同種で有り得、臓器移植または同種細胞療法を受けた患者、または自己免疫疾患を患う患者など、免疫寛容の誘導または免疫恒常性の回復を必要とする患者を処置するための細胞ベースの治療法において使用され得る。本発明のTreg細胞は、モノクローナルであることができ、従来のTreg細胞療法におけるポリクローナルであることに起因するばらつきを避ける事ができるため、改善された治療有効性を有する。さらにTreg細胞をその抗原特異性に基づいて選択し得る。例えば、Treg細胞は、in vivo部位における抗原に対して特異的なTCRまたは編集により組み込まれたCARの発現について選択され得、ここで当該invivo部位は、該TCRまたはCARがTreg細胞を向かわせ、よって細胞の効力を増強し得るように、Treg細胞が望まれる部位(例えば、炎症部位)である。
【0038】
I.CD4
+
Treg細胞決定因子をコードする導入遺伝子。
前駆細胞またはiPSCなどの幹細胞のTreg細胞への分化を促進するために、細胞は、CD4+ヘルパーT細胞へのおよび最終的にはTreg細胞への前駆細胞または幹細胞の系列決定を促進する1以上のタンパク質を発現するように操作される。本明細書で使用される場合、「制御性T細胞」、「制御性Tリンパ球」および「Treg細胞」という用語は、免疫系を調節し、自己抗原に対する寛容性を維持し、かつ一般にTエフェクター細胞の誘導および増殖を抑制または下方制御するT細胞の亜集団を意味する。Treg細胞の表現型は免疫抑制機能に必須の遺伝子ネットワークの発現を制御するマスター転写因子であるフォックスヘッドボックスP3(FOXP3)の発現に一部依存している(例えばFontenot et al.,Nature Immunology (2003)4(4):330-6を参照)。Treg細胞はしばしばCD4+CD25+CD127loFOXP3+の表現型で表される。いくつかの実施形態では、Treg細胞はまたCD45RA+、CD62Lhi、Helios+、および/またはGITR+である。特定の実施形態では、Treg細胞はCD4+CD25+CD127loCD62L+またはCD4+CD45RA+CD25hiCD127loで表される。
【0039】
本方法では、Treg細胞への分化を促進するために幹細胞または前駆細胞のゲノムに導入される導入遺伝子は、非限定的に、CD4、CD25、FOXP3、CD4RA、CD62L、Helios、GITR、Ikaros、CTLA4、Gata3、Tox、ETS1、LEF1、RORA、TNFR2、およびThPOKの内の1以上をコードするものである。これらのタンパク質をコードするcDNA配列はGenbankおよびその他の周知の遺伝子データベースから入手できる。これらのタンパク質の内の1以上の発現は分化の間において幹細胞または前駆細胞をTreg細胞へと分化する運命に拘束する(commit)事を助ける。いくつかの実施形態では、導入遺伝子はTreg細胞系列決定因子FOXP3および/またはCD4+ヘルパーT細胞系列決定因子ThPOKをコードする(He et al.,Nature (2005)433(7028):826-33)。いくつかの実施形態では、導入遺伝子はTreg細胞の亜集団において発現されるHeliosをコードする(Thornton et al.,Eur J Immunol.(2019)49(3):398-412)。
【0040】
いくつかの実施形態では、幹細胞または前駆細胞は、造血幹細胞(HSC)の多分化能を増強する系列決定因子を過剰発現するように操作され得る(Sugimura et al.,Nature (2017)545(7655):432-38を参照)。これらの因子は、非限定的に、HOXA9、ERG、RORA、SOX4、LCOR、HOXA5、RUNX1、およびMYBを含む。
【0041】
いくつかの実施形態では幹細胞または前駆細胞は、HSCの多分化能を増強するために、操作される部位に特異的な転写抑制構築物(例えば、ZFP-KRAB、CRISPRiなど)、shRNA、またはsiRNAを介してEZHIを下方制御するように操作され得る。
【0042】
II.決定因子をコードする導入遺伝子の組み込み
幹細胞または前駆細胞を遺伝子操作するために、目的の導入遺伝子を運ぶ異種ヌクレオチド配列を細胞に導入する。本明細書における「異種」という用語は、その配列が天然には生じないゲノム部位に配列が挿入されることを意味する。いくつかの実施形態では、異種配列はTreg細胞において特異的に活性なゲノム部位に導入される。このような部位の例は、T細胞受容体鎖(例えば、TCRアルファ鎖、ベータ鎖、ガンマ鎖、またはデルタ鎖)、CD3鎖(例えば、CD3ゼータ、イプシロン、デルタ、またはガンマ鎖)、FOXP3、Helios、CTLA4、Ikaros、TNFR2、またはCD4をコードする遺伝子である。
【0043】
例として、異種配列はゲノム内のTRACアレルの1つまたは両方に導入される。TRAC遺伝子座のゲノム構造を
図1および2に示す。TRAC遺伝子はTCRアルファ鎖VおよびJ遺伝子の下流である。TRACは3つのエキソンを含み、これらはTCRアルファ鎖の定常領域に転写される。ヒトTRAC遺伝子の遺伝子配列およびエキソン/イントロン境界はGenbank ID 28755または6955に見出すことができる。組み込みの標的部位は、例えばイントロン(例えばイントロン1または2)、TRAC遺伝子の最終エキソンの下流の領域、エキソン(例えば、エキソン1、2、または3)、またはイントロンとその隣接エキソンの接合部であり得る。
【0044】
図1および2は、遺伝子編集によってヒトTRAC遺伝子座のエキソン2へと異種配列を標的化する2つの異なるアプローチを示す。両方のアプローチにおいて、導入遺伝子は、自己切断ペプチド(例えば、P2A、E2A、F2A、T2A)によって分かたれた1以上のTreg細胞決定または誘導因子(例えばFOXP3)を含むポリペプチドをコードする。いくつかの実施形態では、FOXP3導入遺伝子は、Treg細胞抑制性活性を増強するために、アセチル化される事が知られているリジン残基をアルギニン残基へと置換(例えば、K31R、K263R、K268R)するために操作される(Kwon et al.,J Immunol.(2012)188(6):2712-21を参照)。
【0045】
図1に示すアプローチでは、操作された細胞におけるTCRアルファ鎖の発現は異種配列の挿入によって妨害される。このアプローチでは、ゲノムに導入される異種配列は、5’から3’にかけて、(i)自己切断ペプチドT2Aのコード配列(または内部リボソーム進入部位(IRES)配列)、(ii)決定因子のコード配列、および(iii)ポリアデニル化(polyA)部位を含む。一旦組み込まれると、操作されたTRAC遺伝子座は内因性プロモーターの下で決定因子を発現し、ここではT2Aペプチドによって、第1決定因子から任意のTCRアルファ鎖配列(すなわちエキソン1およびエキソン2の5’から組み込み部位までの部分によってコードされる任意のTCR可変ドメイン配列、および任意の定常領域配列)を取り除く事ができる。TRAC遺伝子は妨害されるので、操作された細胞において機能的なTCRα鎖は産生できない。P2Aのコード配列を導入遺伝子内に含むことで、操作された部位は全ての個々のTreg誘導因子を別々のポリペプチドとして発現し得る。このアプローチにおいて、幹細胞または前駆細胞は所望の抗原認識受容体(例えば目的の抗原を標的とするTCRまたはCAR)を発現するためにさらに操作され得る。
【0046】
図2に示すアプローチでは、異種配列は、5’から3’にかけて、(i)3’から組み込み部位までのTRACエキソン配列(すなわち、組み込み部位下流の残ったエキソン2配列、およびエキソン3配列全体)、(ii)自己切断ペプチドT2A(またはIRES配列)のコード配列、(iii)1以上の決定因子のコード配列、および(iv)ポリA部位、を含み得る。異種配列にTRACエキソン配列およびT2Aを含むことで、無傷のTCRアルファ鎖の産生が可能である。P2Aを含むことで、決定因子を別々のポリペプチドとして産生し得る。TCRアルファ鎖、外因性に導入された決定因子の全ては内因性TCRアルファ鎖プロモーターの制御下で発現される。このアプローチは、再構成済みの自身のTCRアルファおよびベータ鎖遺伝子座を有する成熟Treg細胞から初期化した操作されたiPSCに特に好適である(
図7および以下の説明を参照)。このような遺伝子操作されたiPSCから分化したTreg細胞は祖先のTreg細胞の抗原特異性を保持する。さらに、TCRシグナルは胸腺におけるT細胞およびTreg細胞の発達に統合的に関与しているため、TCRアルファ鎖の発現を保持することにより、T細胞およびTreg細胞の分化が促進され得る。
【0047】
代替の実施形態では、導入遺伝子はTRACエキソンよりもむしろTRACイントロンに組み込まれ得る。例えば、導入遺伝子はエキソン2または3の上流のイントロンに組み込まれる。このような実施形態では、導入遺伝子を運ぶ異種配列は、5’から3’にかけて、スプライスアクセプター(SA)配列、1以上のTreg細胞決定因子をコードする導入遺伝子、およびポリA部位を含む。再構成されたTCRアルファ鎖遺伝子を発現したい場合は、異種配列は、5’から3’にかけて、(i)SA配列、(ii)異種配列組み込み部位の下流の任意のエキソン、(iii)自己切断ペプチドのコード配列またはIRES配列、(iv)1以上の決定因子をコードする導入遺伝子、および(v)ポリA部位、を含み得る。一旦組み込まれると、SAによって、無傷の(すなわち全長の)TCRアルファ鎖、自己切断ペプチド、および決定因子をコードするRNA転写産物の発現が可能である。このRNA転写産物の翻訳によって、2つ(またはそれ以上)の別々のポリペプチド産物-無傷のTCRアルファ鎖および1以上の決定因子、を得られることになる。SA配列の例は、TRACエキソンのSAおよびその他の当分野で知られたSA配列である。
【0048】
いくつかの実施形態では、導入遺伝子は操作された細胞のゲノムセーフハーバーに組み込まれる。ゲノムセーフハーバー部位には、非限定的に、AAVS1遺伝子座;ROSA26遺伝子座;CLYBL 遺伝子座;アルブミン、CCR5、およびCXCR4遺伝子座;および操作された細胞における内因性遺伝子がノックアウトされた遺伝子座(例えば、T細胞受容体アルファまたはベータ遺伝子座、HLA遺伝子座、CIITA遺伝子座、またはβ2-マイクログロブリン遺伝子座)を含む。
図3はこのようなアプローチを示す。この例では、異種配列はヒトAAVS1遺伝子座の例えばイントロン1に組み込まれる。決定因子をコードする導入遺伝子の発現はドキシサイクリン誘導性プロモーターによって制御される。ドキシサイクリン誘導性プロモーターはTet応答性エレメントの5merの反復を含み得る。組織培養培地にドキシサイクリンを導入すると、構成的に発現される誘導型のテトラサイクリン調節性トランス活性化因子(rtTA)がTet応答性エレメント結合し、決定因子の転写が開始される。導入されるmRNAから産生されるジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)はイントロン1の特定部位(稲妻記号)で二本鎖切断を生じる。プラスミドDNAまたは線状化二本鎖DNAによって導入されるドナー配列は5’から3’にかけて、相同領域1、AAVS1エキソン1をスプライシングするためのスプライスアクセプター(SA)、自己切断ペプチド2Aコード配列、ピューロマイシン耐性遺伝子コード配列、ポリAシグナル配列、5’ゲノムインスレーター配列、ドキシサイクリン誘導性決定因子カセット、CAGGプロモーターに駆動されるrtTAコード配列および続くポリA配列、そして3’ゲノムインスレーター配列および相同領域2を含む。ゲノムインスレーター配列は、それらの内側にある導入遺伝子が分化過程の間でエピジェネティックにサイレンシングされない事を確実にする。相同領域はZFN切断部位に隣接するゲノム領域に対して相同である。標的化組み込み(TI)が成功した細胞を、培養培地にピューロマイシンを導入する事でポジティブに選択し得る。Treg細胞誘導因子の誘導性発現は、特定の因子が中胚葉、造血系、またはリンパ球の発達過程で毒性を示す可能性があるため、T細胞の発達過程でのみ因子をオンにしてTreg細胞系列へと分化を偏らせることは有利である。
【0049】
いくつかの実施形態では、異種配列はキメラ抗原受容体(CAR)などの抗原結合受容体の発現カセットを含む。
図5および6はこのような実施形態の例を示す、
図5において、異種配列は、プラスミドDNAまたは線状化二本鎖DNAによって導入され、および5’から3’にかけて、相同領域1、ポリA部位を含み自身のプロモーターから駆動されるCAR発現カセット(ドナーに対してアンチセンス方向)、5’LoxP部位、AAVS1エキソン1をスプライシングするスプライスアクセプター、自己切断ペプチド2Aコード配列、ピューロマイシン耐性遺伝子コード配列、自殺遺伝子HSV-TKコード配列、ポリA部位、5’ゲノムインスレーター配列、ドキシサイクリン誘導性決定因子発現カセット、CAGGプロモーターに駆動されるrtTAコード配列、2Aペプチドを介してrtTAと連結した4-ヒドロキシ-タモキシフェン(4-OHT)-誘導型Creリコンビナーゼと続くポリA部位、3’ゲノムインスレーター配列、3’LoxP部位、および相同領域2を含む。ゲノムインスレーター配列は、それらの内側にある導入遺伝子が分化過程の間でエピジェネティックにサイレンシングされない事を確実にする。相同領域はZFN切断部位に隣接するゲノム領域に対して相同である。標的化組み込み(TI)が成功した細胞を、培養培地にピューロマイシンを導入する事でポジティブに選択し得る。構成的に発現される4-OHT-誘導型Creによって、培地に4-OHTを添加した後、LoxP部位間のカセット全体を切除できる。リコンビナーゼ介在性切除を受けていない細胞は依然HSV-TKを発現するため、組織培養培地にガンシクロビル(GCV)を添加することでネガティブに選択(除去)することができる。GCVはHSV-TKを発現する任意の細胞の細胞死をもたらす。このシステムによって、Treg誘導性カセットを完全に無痕で除去する一方で、操作されるTreg細胞における標的免疫抑制を可能にするために、CARカセットは組み込んだままにしておくことができる。
【0050】
図6は、操作されたTRAC遺伝子からのCARの発現を示す。この例では、異種配列はプラスミドDNAまたは線状化二本鎖DNAによって導入され、5’から3’にかけて、相同領域1、CARコード配列に直接融合した2Aコード配列と続くポリA部位、5’LoxP部位、5’ゲノムインスレーター配列、AAVS1エキソン1をスプライシングするスプライスアクセプター、2Aコード配列、ピューロマイシン耐性遺伝子コード配列にさらに2Aペプチドで連結した自殺遺伝子HSV-TKコード配列(ここで両者は自身のプロモーターで駆動され、およびポリAシグナル配列が続く)、ドキシサイクリン誘導性Treg細胞誘導因子発現カセット、CAGGプロモーターに駆動されるrtTAコード配列、2Aペプチドを介してrtTA配列と連結した4-OHT-誘導型Creリコンビナーゼと続くポリA配列、3’ゲノムインスレーター配列、3’LoxP部位、および相同領域2を含む。ゲノムインスレーター配列は、それらの内側にある導入遺伝子が分化過程の間でエピジェネティックにサイレンシングされない事を確実にする。相同領域はZFN切断部位に隣接するゲノム領域に対して相同である。標的化組み込み(TI)が成功した細胞を、培養培地にピューロマイシンを導入する事でポジティブに選択し得る(任意には、組み込まれていないドナーエピソームが希釈されるまで1週間またはそれ以上待つ)。構成的に発現される4-OHT-誘導型Creによって、培地に4-OHTを添加した後、LoxP部位間のカセット全体を切除できる。リコンビナーゼ介在性切除を受けていない細胞は依然HSV-TKを発現するため、組織培養培地にGCVを添加することでネガティブに選択(除去)することができる。このシステムによって、Treg誘導性カセットを完全に無痕で除去する一方で、操作されたTreg細胞における標的免疫抑制を可能にするために、内因性TRACプロモーターに駆動されるCARカセットは組み込んだままにしておくことができる。
【0051】
図11は、ドキシサイクリン誘導性プロモーターによって駆動される、各々がVPH活性化ドメインまたはKRAB阻害ドメインとそれぞれ融合したdeadCas9(dCas9)を含むCRISPR活性化(CRISPRa)または阻害(CRISPRi)ライブラリーのいずれをヒトAAVS1遺伝子のイントロン1に組み込むためのゲノム編集アプローチを示した模式図である。培養培地にドキシサイクリンを導入すると、構成的に発現される誘導型のテトラサイクリン調節性トランス活性化因子(rtTA)がTet応答性エレメント結合し、組み込まれたCRISPRaまたはCRISPRi構築物の転写が開始される。これらのライブラリーはヒトゲノムにおける全てのコード遺伝子を標的とするgRNAを含むが、dCas9-gRNA構築物は細胞当たり最大で1つまたは2つのみ組み込まれる(モノ-またはb-アレル標的化組み込み)。導入されるmRNAから産生されるジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)はイントロン1の特定部位(稲妻記号)で二本鎖切断を生じる。プラスミドDNAまたは線状化二本鎖DNAによって導入されるドナー配列は、5’から3’にかけて、相同領域1、AAVS1エキソン1をスプライシングするためのスプライスアクセプター(SA)、自己切断ペプチド2Aコード配列、ピューロマイシン耐性遺伝子コード配列、ポリAシグナル配列、5’ゲノムインスレーター配列、ドキシサイクリン誘導性CRISPRaまたはCRISPRi構築物ライブラリー、CAGGプロモーターに駆動されるrtTAコード配列および続くポリA配列、3’ゲノムインスレーター配列および相同領域2を含む。ゲノムインスレーター配列は、それらの内側にある導入遺伝子が分化過程の間でエピジェネティックにサイレンシングされない事を確実にする。相同領域はZFN切断部位に隣接するゲノム領域に対して相同である。標的化組み込み(TI)が成功した細胞を、培養培地にピューロマイシンを導入する事でポジティブに選択し得る。CRISPRaまたはCRISPRi構築物の誘導性発現は、ライブラリー中における標的となる特定の遺伝子の上方制御または下方制御が中胚葉、造血系、またはリンパ球の発達過程で毒性を示すことがあるため、T細胞の発達過程(T細胞前駆細胞の段階の後)でのみ因子をオンまたはオフにしてTreg細胞系列へと分化を偏らせることは有利であり、新規のTreg細胞誘導因子および経路が見出され得る。
【0052】
上記で説明した図面は本発明のいくつかの実施形態を例示するのみである。例えば、図面で示したT2AおよびP2Aの代わりにその他の自己切断ペプチドを使用してもよい。自己切断ペプチドは典型的には18-22アミノ酸長のウイルス由来ペプチドである。自己切断2AペプチドにはT2A、P2A、E2A、およびF2Aを含む。さらに、コドンを多様化させたバージョンの2Aペプチドを、1つの大きな組み込まれる導入遺伝子カセット上の複数のTreg誘導遺伝子と組み合わせて使用してもよい。いくつかの実施形態では、自己切断ペプチドのコード配列の代わりにIRESが使用される。イントロンおよびエキソン両者共に標的となり得る。異種配列にはさらなるエレメントが含まれ得る。例えば、異種配列は、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(Woodchuck Hepatitis Virus Posttranscriptional Regulatory Element)(WPRE)などのRNA安定化エレメントを含み得る。
【0053】
III.遺伝子編集技術
異種配列を特定のゲノム部位へと標的化組み込みするための任意の遺伝子編集技術が使用され得る。導入遺伝子の部位特異的な組み込みの正確性を高めるために、異種配列を運ぶ構築物は、標的ゲノム部位に対して相同である相同性領域を、自身の一端、または両端に含み得る。いくつかの実施形態では、異種配列はその5’および3’末端領域の両方に、T細胞特異的遺伝子座またはゲノムセーフハーバー遺伝子座における標的ゲノム部位に対して相同な配列を有する。異種配列中の相同領域の長さは、例えば、50-1000塩基対の長さであり得る。異種配列中の相同領域は、標的ゲノム配列と同一であり得るが、そうである必要はない。例えば、異種配列中の相同領域は、標的ゲノム配列(例えば、異種配列中の相同領域によって交換される配列)に対して、80%以上(例えば、85%以上、90%以上、95%以上、99%以上)相同であるか、または同一である。さらなる実施形態では、直鎖状の場合、構築物は一端に相同領域1、およびもう一端に相同領域2を含み、ここで、相同領域1および2は、ゲノム中の組み込み部位を挟むゲノム領域1およびゲノム領域2に対してそれぞれ相同である。
【0054】
異種配列を運ぶ構築物は、任意の周知技術、例えば、化学的手法(例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、およびリポフェクション)、非化学的手法(例えば、エレクトロポレーション法およびセルスクイーズ(cell squeezing))、微粒子ベースの方法(例えばマグネトフェクション)、およびウイルストランスダクション(例えば、ワクシニアベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レトロウイルスベクター、およびハイブリッドウイルスベクター)によって標的細胞に導入され得る。いくつかの実施形態では、構築物はAAVウイルスベクターであり、この構築物をゲノム中に含む組み換えAAVビリオンによって標的ヒト細胞に導入され、ここで構築物は、昆虫細胞/バキュロウイルス生産システムおよび哺乳類細胞生産システム等の生産システムにおけるAAVビリオンの生産を可能にするために、その両端にAAV末端逆位反復配列(ITR)を有する事を含む。AAVは、例えばAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV8.2、AAV9、もしくはAAVrh10などの任意のセロタイプであり得、またはAAV2/8、AAV2/5、またはAAV2/6などのシュードタイプであり得る。
【0055】
異種配列は、任意の部位特異的な遺伝子ノックイン技術によってTRACゲノム遺伝子座に組み込まれ得る。このような技術には、非限定的に、相同組み換え、ならびにジンクフィンガーヌクレアーゼまたはニッカーゼ(本明細書では、まとめて「ZFN」とする)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼまたはニッカーゼ(本明細書では、まとめて「TALEN」とする)、クラスター化規則的散在短パリンドローム反復(CRISPR、例えば、Cas9またはCpf1を用いたものもの)、メガヌクレアーゼ、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、およびトランスポザーゼに基づく遺伝子編集技術を含む。下記の実施例に示すように、部位特異的な遺伝子編集では、典型的には、編集ヌクレアーゼが標的ゲノム配列内にDNA切断(例えば、一本鎖または二本鎖DNA切断)を生成し、標的ゲノム配列に対する相同性を有するドナーポリヌクレオチド(例えば、本明細書に記載の構築物)が、当該DNA切断の修復のための鋳型として用いられることで、当該ドナーポリヌクレオチドが当該ゲノム部位へと導入される。
【0056】
遺伝子編集技術は、当技術分野でよく知られている。例えば、CRISPR遺伝子編集技術について、米国特許第8,697,359号、8,771,945号、8,795,965号、8,865,406号、8,871,445号、8,889,356号、8,895,308号、8,906,616号、8,932,814号、8,945,839号、8,993,233号、8,999,641号、9,790,490号、10,000,772号、10,113,167号、および10,113,167号を参照する。例えば、ZFN技術ならびにT細胞および幹細胞の編集におけるその応用について、米国特許第8,735,153号、8,771,985号、8,772,008号、8,772,453号、8,921,112号、8,936,936号、8,945,868号、8,956,828号、9,234,187号、9,234,188号、9,238,803号、9,394,545号、9,428,756号、9,567,609号、9,597,357号、9,616,090号、9,717,759号、9,757,420号、9,765,360号、9,834,787号、9,957,526号、10,072,062号、10,081,661号、10,117,899号、10,155,011号、および10,260,062号を参照する。前述の特許の開示は、ここに本明細書の一部として参照によりその全体を援用する。
【0057】
遺伝子編集技術では、遺伝子編集複合体を、その複合体のDNA結合特異性を変更する事により、特異的なゲノム部位を標的とするように仕立てることができる。例えば、CRISPR技術では、ガイドRNA配列は、特異的なゲノム領域に結合するように設計され得る;ZFN技術では、ZFNのヌクレアーゼまたはニッカーゼドメインが部位特異的な方法でゲノムDNAを切断できるように、ZFNのジンクフィンガータンパク質ドメインは、特異的なゲノム領域に特異的なジンクフィンガーを有するように設計され得る。所望のゲノム標的部位によって、遺伝子編集複合体はそれに合わせて設計され得る。
【0058】
遺伝子編集複合体の成分は、導入遺伝子構築物と同時にまたは逐次的に、エレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、微粒子銃、ヴィロソーム、リポソーム、脂質ナノ粒子、免疫リポソーム、ポリカチオンまたは脂質:核酸コンジュゲート、裸のDNAまたはmRNA、および人工ビリオンといった周知の方法で標的細胞に送達される。例えば、Sonitron2000システム(Rich-Mar)を用いたソノポレーションもまた、核酸の送達に用いられ得る。特定の実施形態では、ヌクレアーゼまたはニッカーゼを含む遺伝子編集複合体の1以上の成分は、mRNAとして編集するべき細胞に送達される。
【0059】
IV.Treg細胞の抗原特異性
いくつかの実施形態では、幹細胞または前駆細胞は、TCRまたはCARなどの抗原認識受容体をコードする導入遺伝子を含むためにさらに操作される(例えば、本明細書に記載の遺伝子編集方法を用いて)。あるいは、幹細胞または前駆細胞は、自身のTCRアルファ/ベータ(またはデルタ/ガンマ)遺伝子座がすでに再構成済みの成熟Treg細胞から初期化した細胞であり、およびこのような幹細胞および前駆細胞から再分化したTreg細胞はその祖先であるTreg細胞の抗原特異性を保持するはずである。いずれにしても、Treg細胞は、特定の治療目標のための目的の抗原に対する特異性について選択され得る。
【0060】
いくつかの実施形態では、目的の抗原は、例えば固形臓器移植における細胞で発現する、または細胞ベースの治療における細胞(例えば、骨髄移植、がんCAR T療法、または細胞ベースの再生医療)で発現する、多型同種MHC分子である。標的とされるMHC分子には、非限定的に、HLA-A、HLA-B、またはHLA-C;HLA-DP、HLA-DM、HLA-DOA、HLA-DOB、HLA-DQ、またはHLA-DRを含む。例として、目的の抗原はクラスI分子HLA-A2である。HLA-A2は移植において一般にミスマッチする組織適合性抗原である。HLA-Aのミスマッチは、移植後の予後不良と関連する。MHCクラスI分子に特異的なCARを発現する操作されたTreg細胞は、MHCクラスI分子が全ての組織で広く発現するために、移植組織の種類を問わず、臓器移植に対して使用できるという利点がある。HLA-A2に対するTreg細胞は、HLA-A2がヒト集団のほとんどの割合において発現しており、したがって、多くのドナーの臓器で発現しているというさらなる利点を供する。Treg細胞におけるHLA-A2CARの発現が、移植拒絶反応の予防におけるTreg細胞の効力を増強する事を示す証拠がある(例えば、Boardman,同上;MacDonald et al.,J Clin Invest.(2016)126(4):1413-24;およびDawson,同上、を参照)。
【0061】
いくつかの実施形態では、目的の抗原は自己抗原、すなわち、生体内の特定の組織における自己免疫性の炎症部位で優勢に、または固有に発現する内因性抗原である。このような抗原に特異的なTreg細胞は、炎症組織に帰巣し、局所的な免疫抑制を引き起こすことで組織特異的な活性を示し得る。自己抗原の例は、アクアポリン水チャネル(例えば、アクアポリン-4 水チャネル)、傍腫瘍(paraneoplastic)抗原Ma2、アンフィフィジン、電位依存性カリウムチャネル、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)、a-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソキサゾールプロプリオン酸受容体(AMPAR)、甲状腺ペルオキシダーゼ、サイログロブリン、抗-N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NR1サブユニット)、Rh血液型抗原、デスモグレイン1または3(Dsgl/3)、BP180、BP230、アセチルコリン・ニコチン性シナプス後受容体、チロトロピン受容体、血小板インテグリン、糖タンパク質IIb/IIIa、カルパスタチン、シトルリン化タンパク質、アルファ-ベータ-クリスタリン、胃壁細胞の内因性因子、ホスホリパーゼA2受容体1(PLA2R1)、およびトロンボスポンジンタイプ1ドメイン含有7A(THSD7A)である。自己抗原のさらなる例は、多発性硬化症関連抗原(例えば、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、プロテオリピドタンパク質(PLP)、オリゴデンドロサイトミエリンオリゴタンパク質(OMGP)、ミエリン関連オリゴデンドロサイト塩基性タンパク質(MOBP)、オリゴデンドロサイト特異的タンパク質(OSP/クローディン11)、オリゴデンドロサイト特異的タンパク質(OSP)、ミエリン関連神経突起伸長阻害剤NOGO A、糖タンパク質Po、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、2’3’-サイクリックヌクレオチド3’-ホスホジエステラーゼ(CNPase)、およびその断片;関節関連抗原(例えば、シトルリンで置換された環状および直鎖状のフィラグリンペプチド、II型コラーゲンペプチド、ヒト軟骨糖タンパク質39ペプチド、ケラチン、ビメンチン、フィブリノゲン、I型、III型、IV型、V型コラーゲンペプチド);および眼関連抗原(例えば、網膜アレスチン、S-アレスチン、光受容体間レチノイド結合タンパク質、β-クリスタリンBl、網膜タンパク質、脈絡膜タンパク質、およびそれらのフラグメント)である。いくつかの実施形態では、Treg細胞に標的とされる自己抗原はIL23-R(例えば、クローン病、炎症性腸疾患または関節リウマチの処置のため)、MOG(多発性硬化症の処置のため)、またはMBP(多発性硬化症の処置のため)である。いくつかの実施形態ではTreg細胞はその他の目的の抗原((例えば、B細胞マーカーCD19およびCD20)を標的とし得る。
【0062】
いくつかの実施形態では、同種抗原ではなく外来ペプチド(例えば、CMV、EBV、およびHSV)を認識するTreg細胞は、同種抗原を認識して恒常的に活性化する危険性が無く、TCR発現のノックアウトを必要とせずに、同種養子細胞移植の場面で用いることができる。
【0063】
V.ゲノム編集に使用するための細胞
本開示の操作された細胞は、ヒト細胞、家畜(例えば、ウシ、ブタ、またはウマ)由来の細胞、およびペット(例えば、ネコまたはイヌ)由来の細胞、などの哺乳類細胞である。ソース(source)細胞、すなわちゲノム編集が行われる細胞は、多能性幹細胞(PSC)であり得る。PSCは生体内で任意の細胞種を生じさせることができる細胞であり、例えば胚性幹細胞(ESC)、体細胞核移植によって得られるPSC、および人工(induced)PSC(iPSC)を含む。iPSCからT細胞への分化については、Iriguchi およびKaneko,Cancer Sci.(2019)110(1):16-22を参照のこと。本明細書で使用する場合、「胚性幹細胞」という用語は、初期胚から得られる多能性幹細胞を指す;いくつかの実施形態では、この用語は、以前に確立された胚性幹細胞株から得られるESCを指し、ヒト胚の最近の破壊によって得られる幹細胞を含まない。
【0064】
その他の実施形態では、ゲノム編集のためのソース細胞は、中胚葉系幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞(例えば、骨髄または臍帯血から単離されたもの)、または造血系前駆細胞(例えば、リンパ系前駆細胞)などの多分化能細胞である。多分化能細胞は1以上の細胞種に発達し得るが、多能性細胞よりも細胞種分化能は限定的である。多分化能細胞は確立された細胞株に由来するか、またはヒト骨髄もしくは臍帯から単離され得る。例として、造血幹細胞(HSC)は、顆粒球コロニー形成刺激因子(granulocyte-colony stimulating factor )(G-CSF)誘導による細胞動員、プレリキサフォー誘導による細胞動員またはその組み合わせ、に続いて患者または健康なドナーから単離され得る。血液または骨髄からHSCを単離するために、血液または骨髄中の当該細胞を、CD4およびCD8(T細胞)、CD45(B細胞)、GR-1(顆粒球)、およびIad(分化した抗原提示細胞)に対する抗体などの、望ましくない細胞と結合する抗体でパンニングしてもよい(例えば、Inaba,et al.(1992)J Exp Med.176:1693-1702を参照)。その後、HSCはCD34に対する抗体によってポジティブに選択され得る。
【0065】
いくつかの実施形態では、操作された細胞は、非同種抗原を標的とするTCRを発現する成熟Treg細胞などの、成熟Treg細胞から初期化されたiPSCである((Takahashi et al.(2007)Cell 131(5):861-72))。
図7および以下のさらなる記載を参照のこと。
【0066】
以下に詳述するように、編集された幹細胞および/または前駆細胞は患者に移植する前にin vitroでTreg細胞に分化させられ得る。あるいは幹細胞および/または編集された前駆細胞は、患者に移植された後でTreg細胞への分化が誘導され得る。
【0067】
1.さらなるゲノム編集
本願の操作された細胞は、より効果的に、より広範な患者集団に使用できるように、および/またはより安全にするために、上記のゲノム編集の前または後でさらに遺伝子操作され得る。この遺伝子操作は、例えば、目的の異種配列の無作為な挿入(例えば、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクターまたはトランスポゾンを用いて)、または標的化ゲノム組み込み(例えば、ZFN、TALEN、CRISPR、部位特異的な操作されたリコンビナーゼ、またはメガヌクレアーゼ介在性ゲノム編集を用いて)によって行われる。
【0068】
例えば、細胞は、CARまたはTCR導入遺伝子の細胞のゲノムへの部位特異的な組み込みによって、1以上の外因性CARまたはTCRを発現するように操作され得る。外因性CARまたはTCRは、上記のように目的の抗原を標的とし得る。
【0069】
細胞はまた、Treg細胞の免疫抑制活性を促進する1以上の治療剤をコードするように編集され得る。治療剤の例には、サイトカイン(例えば、IL-10)、ケモカイン(例えば、CCR7)、成長因子(例えば、多発性硬化症の処置のための再ミエリン化因子)、およびシグナル伝達因子(例えば、アンフィレグリン)を含む。
【0070】
さらなる実施形態では、細胞は、サイトカイン放出症候群および/または神経毒性などの細胞療法の重篤な副作用および/または毒性を抑制する因子(例えば、抗IL-6scFvまたは分泌可能IL-12)を発現するためにさらに操作される(例えば、Chmielewski et al.,Immunol Rev.(2014)257(1):83-90を参照)。
【0071】
いくつかの実施形態では、操作された細胞において、それらのリンパ系への拘束(commitment)を増強するために、EZH1シグナルが妨害される(例えば、Vo et al.,Nature (2018)553(7689):506-10を参照)。
【0072】
いくつかの実施形態では、編集された細胞は患者の同種細胞であり得る。このような場合、これらの細胞への宿主の拒絶反応(移植拒絶反応)および/またはこれらの細胞の宿主への攻撃の可能性(移植片対宿主病)を抑制するために、細胞はさらに操作され得る。さらに操作された同種細胞は適合性の問題なしに複数の患者において使用することができるため特に有用である。よってこの同種細胞は、「ユニバーサル」と呼ばれ、かつ「既製品(off the shelf)」として使用され得る。「ユニバーサル」細胞を使用することで、養子細胞療法の効率を大きく向上させ、費用を削減することができる。
【0073】
「ユニバーサル」な同種細胞を生成するために、細胞は、例えば、以下の内の1つ以上について、ヌル遺伝子型を有するように操作され得る:(i)T細胞受容体(TCRアルファ鎖またはベータ鎖);(ii)多型の主要組織適合性複合体(MHC)クラスIまたはII分子、(例えば、HLA-A、HLA-B、またはHLA-C;HLA-DP、HLA-DM、HLA-DOA、HLA-DOB、HLA-DQ、またはHLA-DR;またはβ2-マイクログロブリン(B2M));(iii)抗原の処理に関連するトランスポーター(例えば、TAP-1またはTAP-2);(iv)クラスII MHCトランスアクチベーター(CIITA);(v)マイナー組織適合性抗原(MiHA;例えば、HA-1/A2、HA-2、HA-3、HA-8、HB-1H、またはHB-1Y);(vi)PD-1およびCTLA-4などの免疫チェックポイント阻害因子;および(vi)任意のその組み合わせ。
【0074】
同種の操作された細胞はまた、抗移植片拒絶反応に関与する宿主のナチュラルキラー細胞またはその他の免疫細胞に対する当該操作された細胞(特にHLAクラスIノックアウトまたはノックダウンのもの)の抵抗性を向上させるために、不変型(invariant)HLAまたはCD47を発現し得る。例えば、決定因子の導入遺伝子を運ぶ異種配列は、不変型HLA(例えば、HLA-G、HLA-E、およびHLA-F)またはCD47のコード配列をさらに含み得る。不変型HLAまたはCD47コード配列は、自己切断ペプチドのコード配列またはIRES配列を通じて異種配列内の第1の導入遺伝子と連結され得る。
【0075】
2.操作された細胞における安全性スイッチ
細胞療法において、移植される細胞が、患者におけるそれらの存在がもはや望ましくなくなった際に細胞増殖を停止できるように、そのゲノム内に「安全性スイッチ」を含む事が望ましいであろう(例えば、Hartmann et al.,EMBO Mol Med.(2017)9:1183-97を参照)。例えば、安全性スイッチは自殺遺伝子であり得、これは、医薬化合物を患者に投与した際に細胞がアポトーシスへと移行するように、活性化または不活性化される。自殺遺伝子は、ヒト細胞内で無害な基質を有毒な代謝産物に変換する、ヒトにおいて見られない酵素(例えば、細菌またはウイルスの酵素)をコードし得る。
【0076】
いくつかの実施形態では、自殺遺伝子は単純ヘルペスウイルス(HSV)由来のチミジンキナーゼ(TK)遺伝子であり得る。TKは、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、ファムシクロビルまたは別の類似の抗ウイルス薬を、DNA複製を阻害する毒性化合物へと代謝し、細胞のアポトーシスをもたらし得る。よって、このような抗ウイルス薬の内の1つを患者に投与する事で、宿主細胞におけるHSV-TK遺伝子をオンにし、細胞を傷害する事ができる。
【0077】
その他の実施形態では、自殺遺伝子は、例えば別のチミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ(またはウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(uracil phosphoribosyltransferase);これは抗真菌剤5-フルオロシトシンを5-フルオロウラシルに変換する酵素)、ニトロレダクターゼ(これはCB1954[5-(アジリジン-1-イル)-2,4-ジニトロベンズアミド]を毒性化合物4-ヒドロキシルアミンに変換する)、およびシトクロムP450(これはイホスファミドをアクロレン(ナイトロジェンマスタード)に変換する)(Rouanet et al.,Int J Mol Sci.(2017)18(6):E1231)、または誘導性カスパーゼ9(Jones et al.,Front Pharmacol.(2014)5:254)である。さらなる実施形態では、自殺遺伝子は細胞内抗体、テロメラーゼ、別のカスパーゼ、またはDNAaseをコードし得る。例えば、Zarogoulidis et al.,J Genet Syndr Gene Ther.(2013)doi:10.4172/2157-7412.1000139を参照のこと。
【0078】
安全性スイッチは、「オン」、または「アクセラレーター(accelerator)」スイッチであり得、細胞の生存に必須な細胞タンパク質の発現を妨害する低分子干渉RNA、shRNA、またはアンチセンスであり得る。
【0079】
安全性スイッチには、任意の好適な哺乳類の、およびその他の必要な転写調節配列を利用し得る。安全性スイッチは、無作為な組み込みによって、または本明細書に記載の遺伝子編集技術もしくはその他の当分野で周知の技術を用いた部位特異的な組み込みによって細胞に導入され得る。操作された細胞の遺伝的安定性および臨床的安全性が維持されるように、安全性スイッチがゲノムセーフハーバーに組み込まれることは望ましいだろう。本開示で用いられるようなセーフハーバーの例は、AAVS1遺伝子座;ROSA26遺伝子座;CLYBL遺伝子座;アルブミン、CCR5、およびCXCR4遺伝子座;および操作された細胞において内因性遺伝子がノックアウトされた遺伝子座(例えば、T細胞受容体アルファまたはベータ鎖遺伝子座、HLA遺伝子座、CIITA遺伝子座、またはβ2-マイクログロブリン遺伝子座)である。
【0080】
VI.in vitroでの細胞の初期化および分化
本開示の細胞は、組織培養において、当分野で知られた方法を用いて、成熟Treg細胞から初期化され、および/またはTreg細胞へと分化され得る。以下に記載する方法は単に例示であり、限定するものではない。
【0081】
1.Treg細胞のiPSCへの初期化
ある実施形態では、遺伝子操作のソース細胞は成人、青年または胎児のTreg細胞から初期化された人工多能性幹細胞である(Takahashi et al.,Cell (2007)131(5):861-72)。これらの実施形態では、初期化した幹細胞は自身の元となるTreg細胞表現型のエピジェネティックな記憶を保持するであろうため(Kim et al.,Nature (2010)467(7313):285-90)、異なる細胞種から初期化された幹細胞などのその他の幹細胞よりも高い効率でTreg細胞に再分化し得る。Treg細胞から初期化した幹細胞はまた、V(D)J-再構成がなされたTCR遺伝子座も保持し、V(D)J組み換えはT細胞の個体発生期間における発達のハードルであるため、幹細胞のTreg細胞への分化可能性をさらに向上させ得る(例えば、Nishimura et al.,Cell Stem Cell (2013)12(1):114-26を参照)。
【0082】
初期化に用いるTreg細胞は、末梢血単球細胞(PBMC)、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、または脾臓組織など、多くの供給源から単離され得る。例えば、Treg細胞は、Ficoll(商標)分離、赤血球の溶解および単球の除去に続くPERCOLL(商標)勾配による遠心分離、逆流遠心分離による水簸、白血球アフェレーシス、およびその後の細胞表面マーカーベースの磁気またはフローサイトメトリーによる単離、などの周知の技術を用いて対象から回収した血液単位から単離され得る。
【0083】
フローサイトメトリー細胞選択および/またはコンジュゲートしたビーズを用いた磁気免疫粘着(magnetic immunoadherence)などの技術を用いた、固有の表面マーカー指向性の抗体の組み合わせによるポジティブおよび/またはネガティブな選択によって、単離された白血球細胞からTreg細胞をさらに濃縮し得る。例えば、ネガティブな選択によってCD4+細胞を濃縮するためにモノクローナル抗体のカクテルには、典型的にはCD14、CD20、CD11b、CD16、HLA-DR、およびCD8に対する抗体を含み得る。Treg細胞の濃縮またはポジティブな選択には、CD4、CD25、CD45RA、CD62L、GITR、および/またはCD127に対する抗体が使用され得る。
【0084】
例示的および非限定的なプロトコルにおいて、Treg細胞は以下のようにして取得され得る(Dawson et al.,JCI Insight.(2019)4(6):e123672を参照)。RosetteSep(商標)(STEMCELL Technologies,15062)を用いて、CD4+T細胞をヒトのドナーから単離し、そしてCD25+細胞を濃縮し、(Miltenyi Biotec,130-092-983)その後、MoFlo Astrios(Beckman Coulter)またはFACSAria II(BD Biosciences)を用いて、生存CD4+CD25hiCD127lo Treg細胞またはCD4+CD127loCD25hiCD45RA+Treg細胞を選別する。選別されたTreg細胞は、MacDonald et al.,J Clin Invest.(2016)126(4):1413-24に記載のように、1000U/ml IL-2(Proleukin)を添加したImmunoCult-XF T細胞増殖培地(STEMCELL Technologies,10981)中で、L細胞および抗CD3モノクローナル抗体(例えば、OKT3、UBC AbLab;100ng/ml)を用いて刺激され得る。1日以上経過後、このTreg細胞を、下記に記載するように幹細胞へと初期化(脱分化)し得る。表現型分析のために、細胞は、fixable viability dye (FVD、Thermo Fisher Scientific、65-0865-14;BioLegend、423102)で染色され、および表面マーカーについて固定および透過処理の前にeBioscienceFOXP3/Transcription Factor Staining Buffer Set (Thermo Fisher Scientific、00-5523-00)を用いて染色され、および細胞内タンパク質について染色し得る。サンプルは、CytoFLEX(Beckman Coulter)で読み取った。
【0085】
そしてTreg細胞は、OCT3/4、SOX2、KLF4、およびc-MYC (またはL-MYC)などの初期化因子を用いてiPSCに初期化し得る(例えば、Nishino et al.,Regen Ther.(2018)9:71-8を参照)。初期化因子は非組み込み的方法(例えば、センダイウイルス、プラスミド、RNA、ミニサークル、AAV、IDLVなど)または組み込み的方法(例えば、レンチウイルス、レトロウイルスおよびヌクレアーゼ介在性標的化組み込み)によって送達され得る。
【0086】
図7は、成熟Treg細胞をiPSCへ初期化し、それを増殖し、かつ高い効率でTreg細胞へと再分化させる工程を示す。この工程は、単一のTreg細胞から増殖し、「若返った(rejuvenated)」Treg細胞プールを提供する。
【0087】
2.幹細胞のCD4
+Treg細胞系列への偏向分化
操作された幹細胞は、そのゲノム中に決定因子をコードする導入遺伝子が存在するため、Treg細胞へと分化する潜在能力が向上している。
図8は、iPSCがTreg細胞へと分化する、段階的な分化過程を示す:iPSC、中胚葉系幹(前駆)細胞、HSC、リンパ系前駆細胞、T細胞前駆細胞、未成熟シングルポジティブ(CD4
+またはCD8
+)T細胞、ダブルポジティブ(CD4
+CD8
+)T細胞、成熟CD4
+T細胞および最終的にTreg細胞となる。これらの幹細胞の分化をCD4
+T細胞および最終的なTreg細胞へと偏らせるために、組織培養技術を用いることができる。
【0088】
いくつかの実施形態では、CD4
+T細胞およびTreg細胞系列へと分化を歪めるために、T細胞の発達後期の間、幹細胞はIL-7Ra(CD127)シグナル遮断の対象となる(Singer et al.,Nat Rev Immunol.(2008)8(10):788-801;
図8および
図9を参照)。その他の実施形態では、T細胞の発達中においてCCR7シグナルが遮断される。CCR7はCD4
+T細胞と比較してCD8
+T細胞において上方制御され、T細胞前駆細胞のCD8
+の運命への拘束を促進することが示されている(Yin et al.,J Immunol.(2007)179(11):7358-64を参照)。ある実施形態では、IL-2の濃度は、高親和性IL-2受容体(CD25)を高いレベルで発現するTreg細胞に増殖成長の優位性を供するために、低くされる(Singer,同上;
図8)。ある実施形態では、Treg細胞の増殖を優先的に促進する活性化ビーズを用いて、エフェクターT細胞よりも優先的にTreg細胞を活性化および増殖させる(例えば、Thermo Fisher Scientific社のTreg Xpander beads)。
【0089】
図10は、採用され得るさらなる組織培養技術を示す。ここで示されるいくつかの実施形態では、操作された幹細胞は間葉系間質細胞と共培養される(Di Ianni et al.,Exp Hematol.(2008)36(3):309-18を参照)。このような間質細胞の例には、OP9またはOP9-DLL1間質細胞を含み、これはリンパ系への拘束を促進する(Hutton et al.,J Leukocyte Biology (2009)85(3):445-51;
図10を参照)。その他の実施形態では、多能性幹細胞から胚性中胚葉前駆細胞が形成され、およびこれらはMS5-DLL1/4細胞またはEpCAM
-CD56
+間質細胞との共培養を介して三次元胚性中胚葉オルガノイド中で培養される(
図10)。そしてこれらの胚性中胚葉前駆細胞は、胸腺での発達過程をより正確に再現するために、人工胸腺オルガノイドへと分化される(Montel-Hagen et al.,Cell Stem Cell (2019)24(3):376-89.e8;Seet et al.,Nat Methods (2017)14(5):521-30)。
【0090】
3.Treg細胞表現型の維持
可塑性はほとんど全ての種類の免疫細胞に元々備わっている性質である。Treg細胞は、炎症および環境条件下でTeff細胞に移行(「ドリフト」)し得るようである(Sadlon et al.,Clin Transl Immunol.(2018)7(2):e1011を参照)。操作されたTreg細胞においてTreg細胞表現型を維持する、および/または導入遺伝子(例えば、FOXP3、Helios、および/またはThPOK)の発現を増加させるために、細胞は、ラパマイシンおよび/または高濃度のIL-2を含む組織培養培地中で培養され得る(例えば、MacDonald et al.,Clin Exp Immunol.(2019)doi:10.1111/cei.13297を参照)。いくつかの実施形態では、Teff細胞と比較してTreg細胞を優先的に増殖させるために、細胞は、低用量IL-2を含む組織培養培地中で培養され得る(例えば、Congxiu et al.,Signal Transduct Targ Ther.(2018)3(2):1-10を参照)。
【0091】
VII.操作されたTreg細胞の使用
本開示の遺伝子的に操作されたTreg細胞は、免疫寛容の誘導または免疫恒常性の回復を必要とする患者(例えば、ヒト患者)を処置するための細胞療法において使用され得る。「処置する」および「処置」という用語は、処置された病状の1つ以上の症状の緩和または除去、症状の発生または再発の予防、組織損傷の回復または治癒、および/または疾患の進行の遅延、を指す。
【0092】
本明細書の患者は、自己免疫疾患などの望まない炎症状態を有する、またはその危険性があるものであり得る。自己免疫疾患の例は、アジソン病、AIDS、強直性脊椎炎、抗糸球体基底膜病自己免疫性肝炎、皮膚炎、グッドパスチャー症候群、ポリアンギエーシスを伴う肉芽腫症、バセドウ病、ギラン・バレー症候群、橋本甲状腺炎、溶血性貧血、ヘノッホ・ショーンライン紫斑病(HSP)、若年性関節炎、若年性筋炎、川崎病、炎症性腸疾患(クローン病および潰瘍性大腸炎など)、多発性筋炎、肺胞蛋白症、多発性硬化症、重症筋無力症、視神経脊髄炎、PANDAS、尋常性乾癬、乾癬性関節炎、リューマチ性関節炎、シェーグレン症候群、全身性強皮症、全身性硬化症、全身性エリテマトーデス、血小板減少性紫斑病(TTP)、I型糖尿病、ぶどう膜炎、血管炎、尋常性白斑、およびヴォークト・小柳・原田病、である。
【0093】
いくつかの実施形態では、Treg細胞は、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(多発性硬化症)、ミエリンタンパク質ゼロ(自己免疫性末梢神経障害)、HIV envまたはgagタンパク質(AIDS)、ミエリン塩基性タンパク質(多発性硬化症)、CD37(全身性エリテマトーデス)、CD20(B細胞介在性自己免疫疾患)、およびIL-23R(クローン病または潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患)などの自己免疫疾患に関連する自己抗原を標的とする抗原結合受容体(例えば、TCRまたはCAR)を発現する。
【0094】
本明細書の患者は、同種組織もしくは固体臓器移植、または同種細胞療法などの同種移植を必要とする患者であり得る。1以上の同種MHCクラスIまたはII分子を標的とするCARを発現するTreg細胞などの本開示のTreg細胞は、患者に導入されてよく、患者において該Treg細胞は移植部に帰巣し、そして宿主の免疫系に賦活された同種移植片拒絶反応および/または移植片対宿主拒絶反応を抑制する。組織もしくは臓器移植、または同種細胞療法を必要とする患者には、例えば、腎移植、心臓移植、肝臓移植、すい臓移植、腸移植、静脈移植、骨髄移植、および皮膚移植を必要とする患者;再生細胞療法を必要とする患者;遺伝子療法(AAVベース遺伝子療法)を必要とする患者;およびがんCAR T療法を必要とする患者を含む。
【0095】
所望により、本明細書の操作されたTreg細胞を受け取る患者(in vivoでTreg細胞に分化する予定の操作された多能性細胞または多分化能細胞を受け取る患者を含む)は、細胞移植片の導入前に軽度の骨髄破壊処理(myeloablative)によって処置される、または強力な骨髄破壊的前処置(myeloablative conditioning)レジメンによって処置される。
【0096】
本開示の操作された細胞は、この細胞および医薬的に許容できる担体を含む医薬組成物中において提供され得る。例えば、医薬組成物は、滅菌水、生理食塩水、または中性の緩衝生理食塩水(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)、塩、抗生物質、等張剤、およびその他の賦形剤(例えば、グルコース、マンノース、スクロース、デキストラン、マンニトール;タンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン);アミノ酸(例えば、グリシンおよびアルギニン);抗酸化剤(例えば、グルタチオン);キレート剤(例えば、EDTA);および保存剤)を含む。医薬組成物は、さらにTreg細胞の表現型および増殖を支持する因子(例えば、IL-2およびラパマイシンまたはその誘導体)、抗炎症性サイトカイン(例えば、IL-10、TGF-β、およびIL-35)および細胞療法のためのその他細胞(例えば、がん治療のためのCAR Tエフェクター細胞、または再生治療のための細胞)、を含み得る。保存および輸送のために、当該細胞は、任意には冷凍保存され得る。使用前に、当該細胞は解凍され、医薬的に許容できる担体中に希釈される。
【0097】
本開示の医薬組成物は、全身投与(例えば、静脈注射または輸液)、または目的の組織への局所的な注射または輸液(例えば、肝動脈を介した輸液、および脳、心臓、または筋肉への注射)によって、治療有効量で患者に投与される。「治療有効量」とは、患者に投与された際に、処置効果を示すのに十分な医薬組成物の量、または細胞の数を指す。
【0098】
いくつかの実施形態では、医薬組成物の単回投与単位には、104個以上の細胞(例えば、約105から約106個の細胞、約106から約1010個、約106から107個、約106から108個、約107から108個、約107から109個、または約108から109個の細胞)を含む。ある実施形態では、組成物の単回投与単位は、約106個、約107個、約108個、約109個、または約1010個またはそれ以上の細胞、を含む。患者には、2日に1回、3日に1回、4日に1回、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、1ヶ月に1回、または患者において操作されたTreg細胞の十分な細胞数を確立するために必要な別の頻度で、医薬組成物を投与してもよい。
【0099】
また、本明細書に記載のジンクフィンガーヌクレアーゼまたはその他のヌクレアーゼおよびポリヌクレオチドの何れかを含む医薬組成物を提供する。
【0100】
本明細書で別段の定義がされない限り、本開示に関連して使用される科学用語および技術用語は、当業者に一般的に理解される意味を有するものとする。例示的な方法および材料を下記に記載するが、本明細書に記載するものと同様または同等の方法および材料も、本開示の実施または試験において用いられ得る。矛盾が生じた場合には、定義を含む本明細書が支配する。一般に、本明細書に記載の心臓学、医学、医薬化学、および細胞生物学に関連する命名法、およびその技術は、当技術分野で知られ、および一般的に使用されるものである。酵素反応および精製技術は、当技術分野で一般に行われるように、または本明細書に記載するように、製造元の仕様に従って実行される。さらに、文脈における別段の求めが無い限り、単数形の用語は複数を含み、および複数形の用語は単数を含むものとする。本明細書および実施形態を通して、「有する」および「含む」、または「有する」、「有する」、「含む」、または「含む」などの変形は、記載された整数または整数群を含むことを意味するが、その他の何れの整数または整数群を除外することも意味しないと理解されるであろう。本明細書に記載する全ての刊行物およびその他の参考文献は、ここに本明細書の一部として参照によりその全体を援用する。本明細書では多数の文書を引用するが、この引用は、これらの文書の何れかが、当技術分野における一般的な知識の一部を形成していることを認めるものではない。本明細書で使用する場合、目的の1以上の値に適用する「約」または「約」という用語は、記載した参照値に類似する値を指す。ある実施形態では、この用語は、別段の記載がない限り、または文脈から明らかでない限り、記載された参照値のいずれかの方向(より大きいまたはより小さい)において、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、またはそれ以下の範囲に入る値の範囲を指す。
【0101】
本発明をよりよく理解するために、以下の実施例を記載する。これらの実施例は、説明のみを目的とするものであり、いかなる方法においても本発明の範囲を限定するものとして解釈されない。
【実施例】
【0102】
実施例
実施例1:iPSCのAAVS1遺伝子座への導入遺伝子の組み込み
この実施例では、
図3に示すように、緑色蛍光タンパク質発現カセットをAAVS1遺伝子座へと組み込んだ実験について記載する。AAVS1 ZFN mRNAおよびドナープラスミドを、-7日目にエレクトロポレーション法によってiPSCへ送達した。1週間後(0日目)にピューロマイシン(0.3μg/mL)を組織培養培地に添加し、標的化組み込みを受けた細胞のポジティブな選択を開始した。15日目にドキシサイクリンを添加し、培養培地中のドキシサイクリンを3種類の用量(0.3、1、および3μg/mL)で維持し、Dox誘導性GFP発現カセットの発現を誘導させた。コントロールの細胞には培養培地中にドキシサイクリンを添加しなかった。細胞をドキシサイクリンの存在下で13日間維持した。この期間中、3μg/mL用量のドキシサイクリンで最も高いレベルの誘導性GFP導入遺伝子の発現が得られた(94%;
図4)。この高レベルの発現はドキシサイクリンが培養培地中に存在する間、維持された。細胞はドキシサイクリンに加えピューロマイシンの存在下で15日目から28日目まで維持され、さらにポジティブに選択した(標的化組み込みをもつアレルは~50%から~70%へと増加した)。
【0103】
実施例2:iPSCの分化をCD4
+Treg細胞系列へと偏らせる
iPSCの分化をCD4
+T細胞および最終的にはTreg細胞となるように偏らせるために、幹細胞は、IL-7受容体アルファユニット(IL-7Ra)を標的とする抗体を用いた、IL-7受容体を介するシグナル伝達の遮断の対象とされた。T細胞の発達の後期において、抗IL-7Ra抗体を細胞培養培地に濃度を上げながら添加した。二重の実験(実験1および実験2)共に、抗IL-7Ra抗体の添加によって、CD4
+シングルポジティブ細胞の割合(右下の象限)は増加し、未処置の細胞の2.81%または4.78%と比較して6.9%(実験1)または7.7%(実験2)に達する、一方でC8
+シングルポジティブ細胞の割合は減少した(左上の象限)(
図9)。
【0104】
実施例3:TiPSCおよびCD34由来iPSCからのT細胞の生成
この実施例は、成熟T細胞(Treg細胞、CD4+およびCD8+細胞)を初期化したiPSC(ここでは「TiPSC」と呼ぶ)から分化T細胞を得る効率と、CD34+HSPCを初期化したiPSCから分化T細胞を得る効率とを比較する実験について記載する。
【0105】
T細胞およびCD34+HSPCを初期化するために、末梢血単核細胞(PBMC)を健康なヒトドナーから白血球アフェレーシスによって取得した。CliniMACS(登録商標)(Miltenyi Biotec)を用いたバルクT細胞の磁気抗体による濃縮の後に、T細胞のサブセットをフローサイトメーター(Sony SH800)でソーティングし、ナイーブCD4+CD25highCD127lowCD45RA+Treg細胞、バルクCD4+T細胞、およびバルクCD8+T細胞を得た。これらのT細胞の亜集団をセンダイウイルスベースの初期化キット(Thermo Fisher Scientific)を用いて初期化した。CD34+細胞はCliniMACS(登録商標)でPBMCから濃縮した。
【0106】
解析は、ナイーブTreg細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞、またはCD34+幹細胞に由来する少なくとも2つの異なるクローンにおいて、少なくとも2つの実験について行った。iPSCは56日間にわたってT細胞へと分化させた。
【0107】
図12のデータは、TiPSCがCD3およびTCRαβの両者を発現する細胞へと効率的に分化する事を示す(パネルAおよびB)。TiPSC株では、両方のT細胞マーカーの共発現が20%を超えていた。対照的に、CD34由来iPSC株から分化した細胞の内、CD3およびTCRαβを発現したのは僅か5%であった。P値は以下の通り:ナイーブTreg細胞=0.03、CD4=0.48、CD8=0.02。
【0108】
分化したiPSCは、生存/単細胞からゲーティングした際、様々なT細胞の亜集団を生成した(
図12、パネルC)。T細胞の亜集団はCD3
+TCRαβ
+細胞であり、およびCD4sp、CD8sp、ダブルポジティブ(CD4
+CD8
+)、およびダブルネガティブ細胞を含む。データは、ナイーブTreg細胞およびCD8由来iPSCのみが、CD34由来iPSCよりもダブルネガティブ細胞を有意に少なく生成したことを示す。P値は以下の通り:ナイーブTreg細胞=0.004、CD8=0.03。
【0109】
対照的に、CD34由来iPSCからはCD3およびTCRαβを発現する亜集団は生成されなかった(
図12、パネルD)。データはCD4由来iPSCがCD34由来iPSCよりも優位に、CD3
+TCRαβ
+でもあるCD8sp細胞を生成した事を示す(P値=0.02)。
【0110】
実施例4:iPSC由来T細胞におけるFOXP3および抗HLA-A2CARの発現
この実施例は、
図2に示されるアプローチを用いた遺伝子編集実験におけるデータを示す。この実験では、編集されたiPSC TRAC遺伝子座は、5’から3’にかけて、(i)3’から組み込み部位までのTRACエキソン配列(すなわち、組み込み部位の下流の残ったエキソン2配列およびエキソン3配列全体);(ii)T2Aのコード配列;(iii)(a)FOXP3/Helios/CAR、(b)FOXP3/CAR、(c)FOXP3、または(d)GFP、のコード配列;(iv)ポリA部位を含む。TCRアルファ鎖および導入遺伝子は、内因性TCRアルファ鎖プロモーターの制御下で全て発現される。明確にするため、全ての導入遺伝子コード配列は、ポリシストロニック発現を可能にするため、隣接する導入遺伝子間に2A自己切断ペプチドのコード配列をインフレームで含んでいた。
【0111】
編集したiPSCを胚様体法(embryoid body method)を用いてCD34+造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)へと分化させた後、続いてStemSpan(商標)T細胞生成キット(StemCell Technologies)を用いてDP T細胞へと分化させた(LDCM上で2週間増殖および1週間成熟させた)。DP T細胞を可溶性CD3/CD28/CD2活性化因子でさらに刺激する事で分化させた。CARの発現を、蛍光標識したHLA-A2デキストラマーと細胞をインキュベートする事でアッセイした。
【0112】
データは、TRAC遺伝子座を編集されたiPSC由来T細胞において、導入遺伝子構築物によって導入された部分的なTCRコード配列はTCRαβの発現を維持し得ること、およびFOXP3およびCAR導入遺伝子はこれらの細胞においても過剰発現された事を示す(
図13A)。
【0113】
iPSC由来T細胞を、そのサイトカイン産生プロファイルについてさらに評価した。細胞を3日間、200μL のX-VIVO
(商標)培地(Lonza)中で培養した後、Luminex FLEXMAP 3D
(登録商標)装置上でサイトカイン分泌(IL-10、IFN-γ、TNF-α、およびIL-2)を解析した。サイトカイン濃度は培養培地中に播種された全生存細胞に対して正規化した。データは、編集により導入されたFOXP3またはFOXP3-2A-CAR導入遺伝子構築物を含むiPSC由来T細胞において、エフェクターT細胞の分化/活性化の阻害を通じて制御性T細胞の抑制機能に関連する免疫抑制性サイトカインであるIL-10の分泌が増加する事を示した(
図13B)。TNF-αの分泌において大きな差は観察されなかったが、IL-2およびIFN-γの分泌はFOXP3およびFOXP3-2A-CAR導入遺伝子構築物を含む細胞において減少した。IL-2はエフェクターT細胞の生存および増殖の促進に重要であり、IL-2の枯渇は、制御性T細胞がその抑制機能を達成するための1つのメカニズムである。活性化T細胞によるIFN-γの産生が制御性T細胞によって抑制される事が示された。よって、ここに示す結果は、内因性TRAC遺伝子座に編集されたFOXP3導入遺伝子からのFOXP3の過剰発現は、編集されたT細胞にTreg細胞様の表現型を与える事ができる事を実証する。編集された細胞はCARに加えて内因性TCRの両者を発現し得る(ここでCARは導入遺伝子構築物の一部である)。
【国際調査報告】