(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(54)【発明の名称】包装材料におけるガスバリアのためのコンポスト化可能なセルロース系紙
(51)【国際特許分類】
D21H 11/00 20060101AFI20230111BHJP
D21H 17/25 20060101ALI20230111BHJP
B32B 29/00 20060101ALI20230111BHJP
B65D 65/40 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
D21H11/00
D21H17/25
B32B29/00
B65D65/40 D BRQ
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022526508
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(85)【翻訳文提出日】2022-06-08
(86)【国際出願番号】 EP2020081281
(87)【国際公開番号】W WO2021089778
(87)【国際公開日】2021-05-14
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518147286
【氏名又は名称】アールストローム - ムンクショー オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カルティエ,ノエル
(72)【発明者】
【氏名】プランシャール,エルベ
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4L055
【Fターム(参考)】
3E086AA01
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3E086AD30
3E086BA04
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4L055AA01
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4L055EA16
4L055EA32
4L055GA05
4L055GA30
(57)【要約】
本発明は、23℃および50%相対湿度で決定されたとき、10cm3/(m2・日)未満の酸素透過率を有するコンポスト化可能なセルロース系紙に関し、コンポスト化可能なセルロース系紙は、天然セルロース性繊維および非繊維状セルロース性材料を含む連続的セルロース性繊維マトリックスを含み、連続的セルロース性繊維マトリックス中の非繊維状セルロース性材料の含有量は、15~50重量%である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
23℃および50%相対湿度で決定されたとき、10cm
3/(m
2・日)未満の酸素透過率を有するコンポスト化可能なセルロース系紙であって、前記コンポスト化可能なセルロース系紙が、天然セルロース性繊維および非繊維状セルロース性材料を含む連続的セルロース性繊維マトリックスを含み、前記連続的セルロース性繊維マトリックス中の前記非繊維状セルロース性材料の含有量が、15~50重量%である、コンポスト化可能なセルロース系紙。
【請求項2】
前記連続的セルロース性繊維マトリックスが、
(i)セルロース繊維を含むセルロース繊維ベースシートを提供することと、
(ii)前記セルロース繊維ベースシートをゲル化剤で処理して、非繊維状セルロース性材料を含む処理されたベースシートを得ることと、
(iii)前記非繊維状セルロース性材料を含む前記処理されたベースシートを洗浄して、前駆体セルロース性繊維マトリックスを得ることと、
(iv)前記前駆体セルロース性繊維マトリックスを乾燥させて、前記連続的セルロース性繊維マトリックスを得ることと、によって得ることができる、請求項1に記載のコンポスト化可能なセルロース系紙。
【請求項3】
前記ゲル化剤が、硫酸およびリン酸を含む無機酸、ZnCl
2およびCa(SCN)
2を含むルイス酸、NaOHを含む無機塩基、N-メチルモルホリンN-オキシドを含む有機塩基、ならびにテトラアルキルアンモニウム塩を含むイオン性液体からなる群から選択される少なくとも1つのセルロース溶媒を含み、好ましくは、前記ゲル化剤が、硫酸を含む、請求項2に記載のコンポスト化可能なセルロース系紙。
【請求項4】
前記ゲル化剤が、硫酸である、かつ/または前記硫酸が、63~75%の濃度を有する、請求項3に記載のコンポスト化可能なセルロース系紙。
【請求項5】
ステップ(ii)が、前記セルロース繊維ベースシートを前記ゲル化剤と少なくとも60秒間接触させることを伴う、請求項2~4のいずれか一項に記載のコンポスト化可能なセルロース系紙。
【請求項6】
前記ステップ(iii)における洗浄が、水で実施される、請求項2~5のいずれか一項に記載のコンポスト化可能なセルロース系紙。
【請求項7】
前記セルロース繊維が、木材パルプ繊維、非木材植物性繊維、および再生セルロース繊維から選択される、請求項2~6のいずれか一項に記載のコンポスト化可能なセルロース系紙。
【請求項8】
前記コンポスト化可能なセルロース系紙が、
150kPa以上の湿潤破裂強度と、
200kPa以上の乾燥破裂強度と、を有する、先行請求項のいずれか一項に記載のコンポスト化可能なセルロース系紙。
【請求項9】
前記コンポスト化可能なセルロース系紙が、200g/m
2以下の坪量および/または30μm~250μmの厚さを有し、好ましくは、前記コンポスト化可能なセルロース系紙が、30~130g/m
2の坪量および/または30μm~150μmの厚さを有する、先行請求項のいずれか一項に記載のコンポスト化可能なセルロース系紙。
【請求項10】
前記連続的セルロース性繊維マトリックスが、15~40重量%、好ましくは20~30重量%の前記非繊維状セルロース性材料を含む、先行請求項のいずれか一項に記載のコンポスト化可能なセルロース系紙。
【請求項11】
前記コンポスト化可能なセルロース系紙の前記酸素透過率が、23℃および50%相対湿度で決定されたとき、2cm
3/(m
2・日)未満、好ましくは1cm
3/(m
2・日)未満である、先行請求項のいずれか一項に記載のコンポスト化可能なセルロース系紙。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のコンポスト化可能なセルロース系紙を含む、酸素感受性製品用の包装材料。
【請求項13】
バターラッピング、飲料容器、コーヒーカプセル、コーヒーパッド、チョコレート包装、およびビスケット包装からなる群から選択され、好ましくは、コーヒーカプセルまたはコーヒーパッドである、請求項12に記載の包装材料。
【請求項14】
前記包装材料が、第1の材料層としての前記コンポスト化可能なセルロース系紙と、少なくとも1つの追加の材料層と、を含む多層製品であり、前記少なくとも1つの追加の材料層が、前記コンポスト化可能なセルロース系紙の表面上に積層される、請求項12または13に記載の包装材料。
【請求項15】
前記少なくとも1つの追加の材料層が、水蒸気バリア層、芳香バリア層、耐水層、熱密封可能な層、耐油層、および印刷可能な層からなる群から選択される、請求項11~14のいずれか一項に記載の包装材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品包装材料中のガスバリア層として使用することができるコンポスト化可能なセルロース系紙に関する。本発明のさらなる態様は、本明細書に記載のコンポスト化可能なセルロース系紙を含む酸素感受性製品用の包装材料を含む。
【背景技術】
【0002】
包装材料は、大量の廃棄物の原因となっており、現在、多くの国が、燃料系プラスチック包装材料を完全に生分解性のコンポスト化可能な、かつ生物源の包装材料と交換することによって、削減しようとしている。セルロース繊維は、生分解性包装材料として既知である。そのような生分解性包装材料は、食品と接触する食品包装として使用されるときに様々な条件を満たす必要がある。特に、酸素感受性製品用の包装材料として使用するとき、包装材料の十分なガスバリア特性が要求される。
【0003】
所望のガスバリア特性を達成するために、セルロース繊維で作製された生分解性包装材料は、通常、追加のガスバリア層で積層される。
【0004】
EP2841263A1は、接着剤によって一緒に結合される、生分解性ポリマー系層およびセルロース繊維系支持体を含む多層物品について記載している。しかしながら、接着剤の溶解は、多層構造が個々の層に分かれる層間剥離につながる場合がある。この場合、包装材料の所望のガスバリア特性および機械的特性を維持することができない。
【0005】
WO2017/187024A1およびWO2018/197676A1は両方とも、飲料を密封するためのコンポスト化可能な蓋に関し、これは、少なくとも50重量%の生分解性繊維を含有する不織布層、および植物性パーチメントからなる支持層を含む、多層構造で構成されている。WO2008/084139A1は、ソーセージケーシングとして使用することができる多層製品について記載しており、これは、沈殿セルロース材料の第1の不織布支持層、およびセルロース繊維と絡み合う熱可塑性繊維の第2の不織布層を含む、強化複合パーチメントシートである。該多層製品中の層は、セルロース含有層をゲル化剤で処理して、セルロース材料を部分的に溶解し(パーチメント化プロセス)、層間の接着剤として作用するゲル化セルロース材料を形成することによって結合される。
【0006】
しかしながら、これらの製品のガスバリア特性は、包装材料の所望の機械的強化特性を提供する生分解性セルロース支持層に追加の層を含むことによってのみ達成されるため、これらの先行技術の手法は依然として満足のいくものではない。したがって、先行技術の材料の製造は、複数のプロセスステップを伴う。これらのステップは、エネルギーを消費し、廃棄物を生み出し、大量の時間およびコストを必要とする。
【0007】
さらに、先行技術に記載の多層製品は合成繊維を含有するため、100%の生分解性を得ることは困難である。先行技術の多層構造中に含有される合成繊維は、パーチメント化プロセスにおいて溶解せず、ガスバリア特性を低減する複合材と繊維との間に追加の界面を提示するため、これらの製品において別の問題が起こる。
【0008】
十分なガスバリア特性および所望の機械的強化特性を達成するために、繊維状ウェブのビスコース含浸に関する以下の2つの手法が既知である。1つの手法は、押し出しまたはコーティングによって得られ、かつ良好なガスバリアとして働く再生セルロース(例えば、ビスコースフィルム)から作製されたポリマーフィルムを生分解性セルロース支持体(ベース紙)に添加することを含む。しかしながら、この手法は、積層体が湿った条件下で十分な強度を有しない場合があり、蒸気または水分との曝露によってガスバリアフィルムの層間剥離が起こり得るという問題を有する。他の手法は、湿式敷設されたセルロースベース紙中に再生またはナノ-セルロースを添加または使用することを含む。しかしながら、この他の手法では、コーティングまたは含浸によって構造に十分なナノセルロースを添加することが困難であり、十分なガスバリア特性を達成することはできない。さらに、ナノセルロースの生成のためのエネルギー消費は高く、その低い一貫性によって、ベース紙に十分なナノセルロースを含浸させることは困難である。
【0009】
再生セルロースで作製された繊維状肉ケーシングなどの既知の製品は、これらの製品の構造が多孔質のままであるため、特に酸素に対する十分なガスバリア特性を供与することができない。再生セルロースからガスバリアフィルムを形成することも可能であるが、これらのバリアフィルムは、材料中に繊維が存在しないため、所望の強化機械的特性を提供することができない。
【0010】
したがって、本発明の目的は、エネルギーおよび廃棄物が効率的であるように製造することが容易である、十分なガスバリア特性および強化機械的特性を有する改善された生分解性包装材料を提供することである。本発明のさらなる目的は、例えば、湿潤強度、湿潤破裂強度、および乾燥破裂強度に関して優れた機械的特性を有する生分解性包装材料の提供である。
【0011】
再生セルロースフィルムと比較して、本発明は、材料中の繊維の存在によって、より良好な機械的特性を有する。再生セルロースを含む既存の湿式敷設製品と比較して、本発明は、連続的非多孔質構造によって、より良好なガスバリア特性を供与する。ナノセルロースに関しては、エネルギー消費という点で経済的に実行可能である工業規模で、十分なバリア特性を有するナノセルロース系材料を開発することはまだ可能ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】EP2841263A1
【特許文献2】WO2017/187024A1
【特許文献3】WO2018/197676A1
【特許文献4】WO2008/084139A1
【発明の概要】
【0013】
本発明は、以下の手段によって先行技術の問題を解決する。
【0014】
第1の態様では、本発明は、23℃および50%相対湿度で決定されたとき、10cm3/(m2・日)未満の酸素透過率を有するコンポスト化可能なセルロース系紙に関し、
コンポスト化可能なセルロース系紙は、天然セルロース性繊維および非繊維状セルロース性材料を含む連続的セルロース性繊維マトリックスを含み、
連続的セルロース性繊維マトリックス中の非繊維状セルロース性材料の含有量は、15~50重量%である。
【0015】
連続的セルロース性繊維マトリックス中に15~50重量%の非繊維状セルロース性材料を含むコンポスト化可能なセルロース系紙は、優れたガスバリア特性を提供し、同時に、1つの層における機械的特性を強化することにより、先行技術の問題を解決することが見出されている。その上、さらなる利点は、本明細書に記載されるようなコンポスト化可能なセルロース系紙の調製が、先行技術の手順と比較して、エネルギーを節約し、廃棄物を最小限に抑えるのに役立つという事実にある。
【0016】
第2の態様では、本発明は、本明細書に記載のコンポスト化可能なセルロース系紙を含む酸素感受性製品用の包装材料に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1a】透過型電子顕微鏡(透過型電子顕微鏡法(TEM)、Philips EM 400T、3000倍の倍率)で測定された場合の本発明の例示的な実施形態によるコンポスト化可能なセルロース系紙の連続的セルロース性繊維マトリックスを示す。
【
図1b】透過型電子顕微鏡(透過型電子顕微鏡法(TEM)、Philips EM 400T、3000倍の倍率)で測定された場合の本発明の別の例示的な実施形態によるコンポスト化可能なセルロース系紙の連続的セルロース性繊維マトリックスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、23℃および50%相対湿度で決定されたとき、10cm3/(m2・日)未満の酸素透過率を有するコンポスト化可能なセルロース系紙に関し、
コンポスト化可能なセルロース系紙は、天然セルロース性繊維および非繊維状セルロース性材料を含む連続的セルロース性繊維マトリックスを含み、
連続的セルロース性繊維マトリックス中の非繊維状セルロース性材料の含有量は、15~50重量%である。
【0019】
本発明の文脈では、以下の定義および試験方法が適用される。
【0020】
「コンポスト化可能な」という表現は、一般に、2000年に公開されたバージョンでは、EN13432標準に沿って定義されており、したがって、EN13432:2000標準に対応している。「コンポスト化可能なセルロース系紙」という用語は、非コンポスト化可能な成分の最大5重量%を含むセルロース系紙を表し、それによってEN13432:2000を満たしている。材料または製品に適用されるときの「コンポスト化可能な」という表現は、材料または製品全体が生分解して分裂することを意味する。「生分解する」とは、化学構造または材料が微生物の作用下で破壊されることを意味し、一方、「分裂する」とは、典型的なコンポスト化サイクルの最後に、材料またはそれから作製された製品が物理的に細かい視覚的に区別することができない断片に粉々になることを意味する。コンポスト化可能なポリマー材料とみなされるためには、植物性廃棄物の通常のコンポスト化プロセスに適合する速い速度で全無機化(すなわち、有酸素条件下での、材料のCO2、水、無機化合物、およびバイオマスへの変換)が達成されるように、ポリマー鎖が微生物の作用下で破壊されなければならない。
【0021】
本明細書で使用される場合、「繊維」という用語は、長さ対直径の極めて高い比率によって特徴付けられた材料形態を指す。一般に、セルロース繊維は、繊維タイプおよび繊維の供給源に基づいて、非常に広範囲の直径ならびに長さを有する。本発明で使用されることが好ましい木材パルプ繊維の平均長さは、典型的には、0.3mm~3.5mm、好ましくは0.3mm~3.0mm、より好ましくは0.8mm~2.5mm、およびさらにより好ましくは1.0mm~2.0mmの範囲である。木材パルプ繊維の直径は、典型的には、10μm~40μm、好ましくは15μm~35μm、およびより好ましくは20μm~30μmの範囲である。したがって、木材パルプ繊維のアスペクト比(繊維長さ対繊維直径の比率)は、典型的には、7.5~350、好ましくは7.5~300、より好ましくは10~200、およびさらにより好ましくは20~150の範囲である。「繊維」および「フィラメント」という用語は、特に具体的に指示されない限り、本発明の目的のために互換的に使用することができる。
【0022】
「セルロース繊維ベースシート」という用語は、間に挟まれている個々の繊維の構造を有するが、織布または編み布におけるような識別可能な様態ではない、不織布繊維ベースシートを指し、不織布繊維ベースシートは、セルロース繊維に由来するか、またはそれから調製される。セルロース繊維は、実質的にセルロースで構成された繊維である。不織布材料は、例えば、スピン敷設、カーディング、空気敷設、および水敷設プロセスなどの多くのプロセスから形成され得る。セルロース繊維ベースシートなどの不織布材料の坪量は、通常、単位面積当たりの重量、例えば、平方メートル当たりのグラム(gsm=g/m2)または平方フィート当たりのオンス(osf)で表現される。本発明で使用されるセルロース繊維ベースシートは、好ましくは、湿式敷設紙シートである。本発明の実施形態で使用され得るセルロース繊維ベースシートは、人工供給源(例えば、再生セルロース繊維またはリヨセル繊維)、または木質植物および非木質植物からのセルロース繊維またはセルロースパルプなどの自然供給源を含む。木質植物としては、例えば、落葉樹および針葉樹が挙げられる。非木質植物としては、例えば、綿、亜麻、エスパルト草、ケナフ、サイザル、アバカ、トウワタ、わら、ジュート、麻、およびバガスが挙げられる。好ましくは、セルロース繊維ベースシートは、ウォーターリーフシートまたは植物性パーチメントであり、これは、パーチメント化プロセス中にゲル化剤を繊維に接近させるのに有利な多孔度を有する木材パルプ紙シートである。本発明で使用されるセルロース繊維ベースシートは、好ましくは、セルロース繊維ベースシート中の繊維の総量に対して、少なくとも10%、および好ましくは50%を超える量の堅木繊維、より好ましくはユーカリ繊維を含む。
【0023】
「セルロース材料」という表現は、実質的にセルロースで構成された材料について述べている。材料は、繊維またはフィルムであり得る。セルロース材料は、再生セルロース繊維またはフィルムなどの人工供給源、あるいは木質植物もしくは非木質植物からの繊維またはパルプなどの自然供給源に由来する。
【0024】
「連続的セルロース性繊維マトリックス」という用語は、天然セルロース性繊維および非繊維状セルロース性材料を含むセルロース材料を指し、天然セルロース性繊維は、非繊維状セルロース性材料中に埋め込まれ、それによって繊維状骨格の細孔が閉塞される。したがって、連続的セルロース性繊維マトリックスは、天然セルロース繊維と非繊維状セルロース性材料との間の界面にある任意の空隙を回避する、天然セルロース繊維と非繊維状セルロース性材料との間にセルロース連続体を提供する高密度材料を表す。したがって、連続的セルロース性繊維マトリックスは、特に酸素に対して高いガスバリア特性を有する連続的な非多孔質材料である。好ましくは、連続的セルロース性繊維マトリックスは、天然セルロース性繊維、脱構造化セルロース性繊維、および非繊維状セルロース性材料からなり得る。
【0025】
「天然セルロース性繊維」という用語は、落葉樹および針葉樹を含む木質植物、または綿、亜麻、エスパルト草、ケナフ、サイザル、アバカ、トウワタ、わら、ジュート、麻、およびバガスを含む非木質植物などの自然供給源からのセルロース繊維を指す。好ましくは、天然セルロース性繊維は、パーチメント化プロセスにおいてゲル化剤によって溶解されるのに好適である。溶解に好適な繊維は、例えば、ユーカリ繊維、カバノキ繊維、または他の一年生植物繊維である。天然セルロース性繊維は、全平行配向セルロース鎖を含むセルロースIの結晶形態を有する結晶化画分を含む結晶材料を形成する。
【0026】
「非繊維状セルロース性材料」という用語は、天然セルロース性繊維をゲル化剤で溶解または部分的に溶解すること(パーチメント化プロセス)によって得られ、それによって天然セルロース性繊維が分裂し、ゲル状粘性材料を形成し、その後、水で洗浄することによってゲル化剤を排除し、それによってゲル状材料が沈殿して、固体材料を形成する材料を特定する。本明細書で非繊維状セルロース性材料と称されるこの固体材料は、ほとんどの場合、非晶質であり、逆平行セルロース鎖を含むセルロースIIの結晶形態を有する結晶化画分などの他の形態の結晶化画分を含み得る。非繊維状セルロース性材料は、好ましくは、再沈殿ゲル化セルロース性材料である。
【0027】
「脱構造化セルロース性繊維」という表現は、パーチメント化プロセスにおいてゲル化剤で部分的に溶解され、それによって天然セルロースから沈殿セルロースへの漸進的構造変化が生じる天然セルロース性繊維の周辺について述べている。そのような漸進的構造変化は、連続的セルロース性繊維マトリックスの構造が構造勾配を含み、天然セルロース性繊維の結晶構造が、天然セルロース性繊維の表面上で脱構造化セルロース性繊維の形成によって、非繊維状セルロース性材料の大部分の非晶質構造へとゆっくり変化することを意味する。したがって、脱構造化セルロース性繊維は、天然セルロース性繊維を取り囲み、天然セルロース性繊維と非繊維状セルロース性材料との間に挿入される。
【0028】
「再生セルロース」という用語は、繊維状構造を有し、可溶性化学誘導体または中間化合物を形成するための天然セルロースの化学処理、および繊維状構造を有するセルロースを再生するための誘導体のその後の分割によって得られた人工セルロースを指す。再生セルロースとしては、スパンレーヨンおよびセロファンフィルムが挙げられる。再生セルロースを調製するためのプロセスとしては、ビスコースプロセス、銅アンモニアプロセス、および酢酸セルロースの鹸化が挙げられる。
【0029】
「合成繊維」という表現は、ガラス、ポリマー、ポリマーの組み合わせ、金属、炭素、再生セルロース、リヨセルなどの人工材料で形成されている繊維を指す。
【0030】
材料の「酸素透過率(OTR)」は、1.013バール(1atm)の大気圧、温度23℃の温度、および50%の相対湿度で、1日の間に材料の指定された領域(m2)を通って透過する酸素の量(cm3)を指す。酸素透過率(OTR)(cm3/m2・日)は、ASTM D 3985およびASTM F 1927に従って測定される。材料のOTRは、材料のガスバリア特性についての指標であり、ガスバリアレベルを示す。言い換えれば、材料のOTRが低いほど、材料を通して透過されるガスの量が少なくなり、その結果、材料はガス、特に酸素に高いバリアを供与する。
【0031】
「植物性パーチメント」という用語は、ゲル化剤とセルロースとの反応時間がセルロース溶解、加水分解、および分解を制御することを制限する条件下で、例えば硫酸を含むゲル化剤でセルロース紙シートを処理することによって作製された紙を指す。次いで、ゲル化剤を除去するために、処理された紙を徹底的に洗浄し、その後乾燥させる。浴化学物質は、紙シート中のセルロースを部分的に溶解またはゲル化する。次いで、溶解されたセルロースは、処理された紙を洗浄することによって浴化学物質が希釈されるときに沈殿される。パーチメントまたはパーチメント化と呼ばれるこのプロセスは、本物のパーチメントの外観のような外観をある程度有する非常に強靭で硬く滑らかな紙を形成する。このようにして処理された紙は、乾燥時に脆くなり、しわになる傾向があるため、可塑剤、例えば、グリセリン、グルコース、またはソルビトールで処理されることがある。バルカナイズドファイバーは、例えば塩化亜鉛を含むゲル化剤でセルロース紙シートを処理することによって作製された関連製品である。
【0032】
上述のように、本発明の第1の態様は、10cm3/(m2・日)未満の低い酸素透過率を有するコンポスト化可能なセルロース系紙に関し、コンポスト化可能なセルロース系紙は、15~50重量%の量で天然セルロース性繊維および非繊維状セルロース性材料を含む連続的セルロース性繊維マトリックスを含む。本発明者らは、驚くべきことに、非繊維状セルロース性材料が連続的セルロース性繊維マトリックス中に15~50重量%、好ましくは15~40重量%、より好ましくは18~35重量%、およびさらにより好ましくは20~30重量%の含有量で含まれるときに、特に、高い酸素バリア特性、および優れた機械的特性を有する高いガスバリア特性を有するコンポスト化可能なセルロース系紙が提供されることを見出した。
【0033】
本発明の1つの重要な態様は、ゲル化剤での天然セルロース性繊維の溶解により、このようにして形成された連続的セルロース性繊維マトリックスをさらに強化する非繊維状セルロース性材料の形成がもたらされ、それによってより高い破断強度を有するコンポスト化可能なセルロース系紙が提供されることにある。
【0034】
本発明のさらなる主要な態様は、非繊維状セルロース性材料がまた、天然セルロース性繊維間の空隙を満たし、連続的な高密度構造(連続的セルロース性繊維マトリックス)を提供することにより、繊維状骨格の実質的にすべての細孔を閉塞するように働き、特に酸素に対する優れたガスバリア特性を有し、水分からの優れた保護を提供するコンポスト化可能なセルロース系紙につながるという発見である。
【0035】
したがって、本明細書に記載のコンポスト化可能なセルロース系紙は、特に酸素感受性食品用の包装材料として、高いガスおよび水分不浸透性包装材料の構築のためのバリア層として有利に使用することができる。さらに、本明細書に記載のコンポスト化可能なセルロース系紙は、湿潤強度、湿潤破裂強度、および乾燥破裂強度に関して優れた機械的特性を有するため、特に、所定の形状を有する食品包装を必要とする非固形食品の包装のために、包装材料の構築のための強化層としても使用することができる。
【0036】
コンポスト化可能なセルロース系紙の湿潤破裂強度は、典型的には、100kPa以上、および好ましくは150kPa以上の範囲である。コンポスト化可能なセルロース系紙の乾燥破裂強度は、典型的には、200kPa以上、および好ましくは250kPa以上の範囲である。湿潤破裂強度はISO 3689に従って測定され、乾燥破裂強度はISO 2758に従って測定される。
【0037】
本発明は、実質的にセルロースからなり、ガスバリア層および強化層として作用する、完全に生分解性の、コンポスト化可能な、かつ生物源の製品を提供する。コンポスト化可能なセルロース系紙中に含まれる連続的セルロース性繊維マトリックスは、パーチメント化プロセス中にその場で直接生じさせることができ、それにより、生成に必要なエネルギーを節約することができ、生成中に生成される廃棄物を削減することができる。したがって、本発明のコンポスト化可能なセルロース系紙は、容易かつ効率的に生成される。
【0038】
連続的セルロース性繊維マトリックス
本発明のコンポスト化可能なセルロース系紙中に含まれる連続的セルロース性繊維マトリックスは、天然セルロース性繊維および非繊維状セルロース性材料を含む。好ましくは、連続的セルロース性繊維マトリックスは、天然セルロース性繊維、脱構造化セルロース性繊維、および非繊維状セルロース性材料からなる。連続的セルロース性繊維マトリックスでは、天然セルロース性繊維は、非繊維状セルロース性材料中に本質的に完全に埋め込まれ、それによって、連続的セルロース性繊維マトリックスからの任意の繊維放出が阻止される。「本質的に完全に埋め込まれた」という表現は、天然セルロース性繊維が非繊維状セルロース性材料中に理想的に完全に埋め込まれる、すなわち、それによって完全に取り囲まれることを意味する。しかしながら、「本質的に完全に埋め込まれた」は、天然セルロース性繊維が、そこからの任意の繊維放出が抑制されるように連続的セルロース性繊維マトリックス中の非繊維状セルロース性材料にしっかりと取り付けられる程度まで埋め込まれている限り、天然セルロース性繊維の一部が非繊維状セルロース性材料で覆われていないか、またはそれによって埋め込まれていないことを除外するものではない。したがって、本発明のコンポスト化可能なセルロース系紙が食品用の包装材料として使用されるとき、包装された食品、特に抽出中のコーヒーのセルロース繊維による潜在的な汚染は回避される。
【0039】
図1aは、本発明の実施形態による、例示的な連続的セルロース性繊維マトリックスを示す。
図1bは、本発明の実施形態による、別の好ましい例示的な連続的セルロース性繊維マトリックスを示す。
図1aおよび
図1bからわかるように、本発明は、繊維状材料中の細孔または空隙のすべてが非繊維状セルロース性材料によって満たされ、良好なガスバリア特性および優れた機械的強度を供与する非常に密な材料を生じさせるため、継ぎ目がなく連続的なセルロース構築を提供する。したがって、ガスおよび水分に対するバリア特性、ならびに機械的強度の両方が、追加の層の存在を必要とせずに、本発明のコンポスト化可能なセルロース系紙によって達成され得る。
【0040】
連続的セルロース性繊維マトリックスは、好ましくは、ゲル化剤を用いた、天然セルロース性繊維を含むセルロース繊維ベースシートのパーチメント化プロセス中にその場で生じ、それによって、再生セルロースを用いたセルロース繊維ベースシートの含浸によるものよりも非多孔質でより連続的な構造を得ることができる。これは、天然セルロース性繊維と非繊維状セルロース性材料との間に形成される界面がないことによるものである。本発明のコンポスト化可能なセルロース系紙中に含まれた非繊維状セルロース性材料の量と比較して、大量の再生セルロース、すなわち2倍多い再生セルロースでセルロース繊維ベースシートを含浸させるときでも、そのような含浸プロセス後に得られた紙は、依然として多孔質のままであり、ガスおよび水分に対して十分なバリア特性に到達するために追加のコーティング層が必要である。
【0041】
セルロース繊維ベースシート
セルロース繊維ベースシートは、天然セルロース性繊維、および任意選択的に、合成繊維である追加の非セルロース繊維を含む。本発明の好ましい実施形態では、不織布ベースシート中の繊維の少なくとも50パーセント、好ましくは少なくとも60パーセント、さらにより好ましくは少なくとも80パーセントが、セルロース繊維である。より好ましい実施形態では、不織布ベースシート中の繊維の少なくとも90パーセント、好ましくは少なくとも95パーセント、およびより好ましくは100パーセントが、セルロース繊維である。したがって、セルロース繊維ベースシートは、有利には、生分解性の観点から、実質的にセルロース繊維からなる。セルロース繊維ベースシートが100%生分解性であることが最も好ましい。したがって、セルロース繊維ベースシートは、好ましくは、EN 13432標準の要件を満たすために、5重量%以下の非コンポスト化可能な材料または未決定のコンポスト化性の材料を含有する。最も好ましくは、セルロース繊維ベースシートに添加される任意の添加剤は、コンポスト化可能である。
【0042】
それに限定されないが、セルロース繊維ベースシートは、セルロース繊維ベースシートの繊維状構造へのパーチメント化プロセスで使用されるゲル化剤の浸透を容易にするのに十分な多孔度を有することが好ましい。シートの多孔度は、ISO 5636-3標準に従って、シートを通して空気を押し出し、流量を測定することによって多孔度を計算するベントセン(Bendtsen)多孔度試験器を使用して測定することができる。セルロース繊維ベースシートは、好ましくは、1000mL/分~3000mL/分、より好ましくは1500mL/分~2500mL/分、および最も好ましくは1800mL/分~2200mL/分の範囲のベンドステン(Bendsten)多孔度を有する。
【0043】
セルロース繊維ベースシートのベンドステン(Bendsten)多孔度が1000mL/分よりも低いとき、ゲル化剤がセルロース繊維ベースシートの繊維状構造のコアに到達することができず、連続的セルロース性繊維マトリックスを十分に形成することができず、コンポスト化可能なセルロース系紙のガスバリア特性が低下する場合がある。もう一方では、セルロース繊維ベースシートのベンドステン(Bendsten)多孔度が3000mL/分よりも高いとき、セルロース繊維ベースシートがより容易に破断され得るため、セルロース繊維ベースシートは、パーチメント化プロセスを通して実行するのに十分な機械的強度を有していない場合がある。
【0044】
しかしながら、ベースシートを作製する際、および酸浴中でのパーチメント化ステップ中にプロセスパラメータを調整することによって、1000mL/分よりも低い多孔度を有するセルロース繊維ベースシートを使用することが依然として可能である。例えば、当業者は、機械速度などのプロセスパラメータを適合させて、セルロース繊維の繊維状構造のコアへのゲル化剤の十分な移動と、構造的完全性の喪失につながる該繊維状構造の過度なゲル化との間のバランスを見つけるであろう。より低い坪量またはより薄いシートを使用して、ゲル化剤の浸透を改善することもできる。
【0045】
好ましくは、セルロース繊維ベースシートは、パーチメント化プロセス中のゲル化剤を用いた溶解を簡略化するために、500未満、好ましくは200~400、より好ましくは300の規定された重合度(DP)を有する木材パルプ繊維を含む。DPが高すぎると、セルロースの溶解が長すぎて、規定された期間内に生じる非繊維状セルロース性材料を形成するゲル状の材料がより少なくなるであろう。DPが低すぎると、分解される最終生成物中の非繊維状セルロース性材料の機械的特性につながる溶解と比較して、過剰な加水分解が起こるであろう。
【0046】
好ましい実施形態では、セルロース繊維ベースシートは、ウォーターリーフシートまたは植物性パーチメントである。より好ましい実施形態では、セルロース繊維ベースシートは、ユーカリパルプで作製される。
【0047】
セルロース繊維ベースシートの坪量は、繊維および/またはフィラメント構成ならびに意図される最終用途に従って選択され得る。いくつかの実施形態では、乾量基準でのセルロース繊維ベースシートの坪量は、200gsm以下、好ましくは30gsm~130gsmであり得る。セルロース繊維ベースシートの坪量がこれらの範囲内であるとき、それによって得られたコンポスト化可能なセルロース系紙は、優れた機械的特性を有し、優れたバリア特性を供与する。つまり、上記範囲内のベース重量(bases weight)を有するセルロース繊維ベースシートは、有利には、150kPa超の湿潤破裂強度および250kPa超の乾燥破裂強度を呈し、湿潤破裂対乾燥破裂の比率は、少なくとも50%である。
【0048】
セルロース繊維ベースシートは、典型的には、優れた機械的強化特性を達成する観点から、30μm~150μm、好ましくは50μm~130μm、さらにより好ましくは80μm~120μm、および最も好ましくは約100μmの平均厚さを有する。
【0049】
典型的には、セルロース繊維ベースシートは、結合剤および他の添加剤を含まないであろう。しかしながら、添加剤を使用して、特定の所望の結果を達成することができる。例えば、Wilmington、Delaware、USAのHercules Incorporatedから入手可能なKYMENEなどの熱硬化性樹脂を添加して、セルロース繊維ベースシート中の繊維の反応性を後続のプロセス動作、例えばゲル化に変更することができるか、もしくは湿潤紙力増強剤は、破壊することなくその後の動作を保証する強度を有する湿潤ベースシートを提供するのに有利であり得、またはセルロース繊維ベースシートの不透明度を変更するためにTiO2などの充填剤を添加することができる。好ましくは、ベースシートは、EN 13432標準の要件を満たすために、5重量%以下の非コンポスト化可能な材料または未決定のコンポスト化性の材料を含有する。最も好ましくは、添加される任意の添加剤は、生分解性および/またはコンポスト化可能である。
【0050】
天然セルロース性繊維
天然セルロース繊維は、自然供給源または人工供給源に由来する。好ましくは、天然セルロース性繊維は、木材パルプ繊維、非木材植物性繊維、および再生セルロース繊維から選択される。天然セルロース性繊維は、好ましくは、セルロース繊維ベースシートのパーチメント化プロセスにおけるゲル化剤による溶解性の観点から、ユーカリ繊維、カバノキ繊維、または綿繊維、麻繊維、もしくは亜麻繊維(好ましくは、綿繊維)などの他の一年生植物繊維、好ましくは堅木繊維である。天然セルロース性繊維は、典型的には、セルロースIαおよび/またはセルロースIβの結晶形態を含む連続的セルロース性繊維マトリックス中に結晶材料を形成し、セルロース鎖は、平行に配向される。
【0051】
天然セルロース繊維は、例えば、湿式敷設または空気敷設プロセスを用いて、予め形成されたウェブまたは組織としてセルロース繊維ベースシートに適用され得る。セルロース適用プロセスの選定は、典型的には、利用可能なプロセス装置に依存するであろう。天然セルロース性繊維は、一般に、約10gsm~約200gsm、有利には、200gsm未満、および典型的には約30gsm~約130gsmの量で適用されるであろう。
【0052】
天然セルロース性繊維は、60~85重量%、好ましくは65~82重量%、およびより好ましくは70~80重量%の量で、連続的セルロース性繊維マトリックス中に含まれ得る。より少量の天然セルロース性繊維が含まれるとき、繊維によって提供された強化強度は十分でない場合があり、コンポスト化可能なセルロース系紙はより容易に破断され得る。さらに、コンポスト化可能なセルロース系紙の三次元安定性は、所定の形状を有する包装材料を必要とする非固形食品を包装するのに十分ではない場合がある。もう一方では、天然セルロース性繊維の量が多すぎるとき、ゲル化剤が繊維状材料に浸透しにくくなり、連続的セルロース性繊維マトリックスが十分に形成されない場合がある。この場合、コンポスト化可能なセルロース系紙は多孔質のままであり得、ガスおよび水分に対するバリア特性が低下する場合がある。連続的セルロース性繊維マトリックスが、天然セルロース性繊維および非繊維状セルロース性材料に加えて脱構造化セルロース性繊維をさらに含む場合の好ましい実施形態では、天然セルロース性繊維の量は、65~80重量%であり得る。
【0053】
セルロース繊維の直径は、好ましくは10μm~40μm、より好ましくは15μm~35μm、およびさらにより好ましくは20μm~30μmである。セルロース繊維の長さは、好ましくは0.3mm~3.5mm、より好ましくは0.3mm~3.0mm、さらにより好ましくは0.8mm~2.5mm、および最も好ましくは1.0mm~2.0mmである。したがって、平均アスペクト比(セルロース繊維の長さと直径との比率)は、好ましくは7.5~350、より好ましくは7.5~300、さらにより好ましくは10~200、および最も好ましくは20~150である。
【0054】
非繊維状セルロース性材料
非繊維状セルロース性材料は、典型的には、天然セルロース性繊維を取り囲む連続的セルロース性繊維マトリックス中に、ほとんどの場合、非晶質材料を形成する。非繊維状セルロース性材料のごく一部は、セルロースIIの結晶形態を含み得、セルロース鎖は逆平行に配向される。
【0055】
非繊維状セルロース性材料は、15~50重量%の量で連続的セルロース性繊維マトリックス中に含まれる。非繊維状セルロース性材料の含有量が15重量%未満であるとき、セルロース繊維ベースシートの細孔を十分に閉塞することができず、コンポスト化可能なセルロース系紙は多孔質のままである。したがって、ガスおよび水分に対する十分なバリア特性、特に十分な酸素バリア特性が達成されない場合がある。さらに、非繊維状セルロース性材料の量が少なすぎるとき、連続的セルロース性繊維マトリックスの機械的強度が低下する場合がある。もう一方では、非繊維状セルロース性材料の含有量が50重量%を超えるとき、連続的セルロース性繊維マトリックス中に含まれる天然セルロース性繊維は、より幅広く広がり得、それによって繊維によって得られる所望の強化特性が達成されない場合がある。次いで、例えば、非固形食品を包装するために、所定の形状を有する包装材料としてコンポスト化可能なセルロース系紙を使用することは困難であり得る。
【0056】
好ましい実施形態では、連続的セルロース性繊維マトリックス中の非繊維状セルロース性材料の含有量は、15~40重量%である。別のより好ましい実施形態では、連続的セルロース性繊維マトリックス中の非繊維状セルロース性材料の含有量は、18~35重量%である。別のさらにより好ましい実施形態では、連続的セルロース性繊維マトリックス中の非繊維状セルロース性材料の含有量は、20~30重量%である。
【0057】
本発明における連続的セルロース性繊維マトリックス中の非繊維状セルロース性材料の含有量に達するために、パーチメント化条件は、例えば反応時間の点で、適切に設定されなければならない。適切なパーチメント化条件は、後述される。
【0058】
非繊維状セルロース性材料は、ゲル状材料を生み出すパーチメント化プロセスにおいて、天然セルロース性繊維をゲル化剤で部分的に溶解し、その後、ゲル状材料を再沈殿させて、固体材料を形成することによって得られる。このようにして形成された非繊維状セルロース性材料は、セルロース繊維ベースシートの繊維状構造内の細孔および空隙をいっぱいに満たし、したがって、材料を通る酸素の流れを抑制する高密度の非多孔質材料を生み出すように働く。非繊維状セルロース性材料は、天然セルロース性繊維の各々の周りに形成され、繊維同士を付着させるように働き、それによって連続的セルロース性繊維マトリックスが形成される。
【0059】
連続的セルロース性繊維マトリックス中に15~50重量%の非繊維状セルロース性材料を含めることにより、コンポスト化可能なセルロース系紙は、10cm3/(m2・日)未満の低い酸素透過率を有する。
【0060】
コンポスト化可能なセルロース系紙の調製
本発明のコンポスト化可能なセルロース系紙は、当技術分野で周知である任意の一般的に採用されるパーチメント化プロセスによって調製され得る。つまり、セルロース繊維ベースシートは、時間および温度の所定の条件下で、ゲル化剤を含有する浴を通すことにより、ゲル化剤で処理することができる。セルロース繊維ベースシートをゲル化剤で処理するための好適な条件は、当業者によって容易に決定される。
【0061】
コンポスト化可能なセルロース系紙の連続的セルロース性繊維マトリックスは、
(i)セルロース繊維を含むセルロース繊維ベースシートを提供することと、
(ii)セルロース繊維ベースシートをゲル化剤で処理して、非繊維状セルロース性材料を含む処理されたベースシートを得ることと、
(iii)非繊維状セルロース性材料を含む処理されたベースシートを洗浄して、前駆体セルロース性繊維マトリックスを得ることと、
(iv)前駆体セルロース性繊維マトリックスを乾燥させて、連続的セルロース性繊維マトリックスを得ることと、によって得ることができる。
【0062】
ステップ(ii)において、例えば、セルロース繊維ベースシートをゲル化剤の浴中に浸漬するか、またはセルロース繊維ベースシートをゲル化剤に通すことにより、セルロース繊維ベースシートをゲル化剤と接触させるとき、天然セルロース性繊維は、部分的に溶解され、繊維状材料中の細孔および空隙を満たすゲル状の粘性材料を形成し、処理されたベースシートが得られる(パーチメント化プロセス)。その後、処理されたベースシートは、ステップ(iii)において、洗浄剤で洗浄され、そこからゲル化剤を除去する。好ましくは、処理されたベースシートは、ステップ(iii)において、水で洗浄される。したがって、天然セルロース性繊維およびゲル状材料を含む前駆体セルロース性繊維マトリックスが得られる。その後、前駆体セルロース性繊維マトリックスをステップ(iv)で乾燥させて、任意の残留洗浄剤および/または水分を除去し、連続的セルロース性繊維マトリックスが得られる。
【0063】
ゲル化剤は、セルロースベース紙シートに従って適切に選択することができる。ゲル化剤は、硫酸およびリン酸を含む無機酸、ZnCl2およびCa(SCN)2を含むルイス酸、NaOHを含む無機塩基、N-メチルモルホリンN-オキシドを含む有機塩基、ならびにテトラアルキルアンモニウム塩を含むイオン性液体からなる群から選択される少なくとも1つのセルロース溶媒を含み得る。好ましい実施形態では、ゲル化剤は、硫酸を含む。
【0064】
通常のパーチメント化条件下では、ゲル化剤は、非繊維状セルロース性材料の望ましい含有量を有する連続的セルロース性繊維マトリックスを形成する観点から、55重量パーセント~85重量パーセントの濃度、有利には63重量パーセント~75重量パーセントの濃度の水溶液中の鉱酸、有利には硫酸である。
【0065】
ステップ(ii)における処理持続時間は、非繊維状セルロース性材料が連続的セルロース性繊維マトリックス中で15~50重量%の量で形成されるように、好ましくは少なくとも60秒である。有利には、セルロース繊維ベースシートをステップ(ii)においてゲル化剤と少なくとも90秒間接触させて、繊維状材料のすべての細孔および空隙が閉塞されることを保証し、それによってコンポスト化可能なセルロース系紙のバリア特性を改善することができる。
【0066】
ゲル化剤として使用される鉱酸は、典型的には、-10℃~25℃、および有利には-5℃~20℃の温度である。ゲル化剤は、この薬剤と接触するセルロース繊維の部分を部分的に溶解またはゲル化するように働く。典型的には、処理されたベースシート中のセルロースの30パーセント以下がゲル化剤によって溶解される。
【0067】
処理されたベースシートがゲル化剤の浴の中、浴を通して、および浴から搬送されると、処理されたベースシートは、材料ハンドリングロールにわたって、およびその下を通る。処理されたベースシートのロールにわたる通過は、非繊維状セルロース性材料をシート表面にわたって、およびシートの他の繊維間に塗布するか、または広げるのに役立つ。
【0068】
本発明の好ましい実施形態では、コンポスト化可能なセルロース系紙は、上述のステップ(i)~(iv)を含むプロセスによって調製され、
ステップ(i)において提供されたセルロース性繊維ベースシートは、1000mL/分~3000mL/分のベンドステン(Bendsten)多孔度および30μm~150μmの厚さを有し、セルロース繊維ベースシート中に含まれるセルロース性繊維は、10μm~40μmの繊維直径および0.3mm~3.5mmの繊維長さを有し、
55~85重量パーセントの濃度を有する硫酸がゲル化剤として使用され、
セルロース性繊維ベースシートは、ステップ(ii)において、-10℃~25℃の温度のゲル化剤で、少なくとも60秒間処理される。
【0069】
この好ましい実施形態に従ってコンポスト化可能なセルロース系紙を調製するとき、コンポスト化可能なセルロース系紙は、
23℃および50%相対湿度で決定されたとき、10cm3/(m2・日)未満の酸素透過率、
150kPa以上の湿潤破裂強度、および
200kPa以上の乾燥破裂強度、の優れた機械的特性および優れたバリア特性を有する。
【0070】
コンポスト化可能なセルロース系紙
コンポスト化可能なセルロース系紙は、連続的セルロース性繊維マトリックスおよびさらなる任意成分を含み得る。そのような任意成分としては、合成繊維、好ましくは生分解性繊維でもある合成繊維が挙げられる。しかしながら、非生分解性である繊維、または未決定の生分解性の繊維の総量は、その生分解性を維持するために、好ましくは、コンポスト化可能なセルロース系紙の成分全体に対して、5重量%未満である必要がある。好ましくは、コンポスト化可能なセルロース系紙は、実質的に連続的セルロース性繊維マトリックスからなり得る。
【0071】
コンポスト化可能なセルロース系紙は、ガスおよび水分に対して、特に酸素に対して十分なバリア特性を提供する観点から、10cm3/(m2・日)未満の酸素透過率を有する。有利には、酸素透過率は、2cm3/(m2・日)未満であり、好ましくは1cm3/(m2・日)未満である。酸素透過率は、大気圧(1atm)下で、23℃および50%相対湿度で決定し、ASTM D 3985およびASTM F 1927に従って測定する。
【0072】
コンポスト化可能なセルロース系紙の坪量および厚さは、意図される最終用途に従って選択され得る。いくつかの実施形態では、乾量基準でのコンポスト化可能なセルロース系紙の坪量は、200gsm以下、好ましくは30gsm~130gsmであり得る。コンポスト化可能なセルロース系紙の厚さは、30μm~250μm、好ましくは30μm~150μm、より好ましくは80~120μm、および最も好ましくは約100μmであり得る。
【0073】
15~50重量%、好ましくは20~30重量%の非繊維状セルロース性材料を含むコンポスト化可能なセルロース系紙は、
23℃および50%相対湿度で決定されたとき、10cm3/(m2・日)未満、好ましくは2cm3/(m2・日)未満の酸素透過率、
100kPa以上、好ましくは150kPa以上の湿潤破裂強度、および
200kPa以上、好ましくは250kPa以上の乾燥破裂強度、の優れた機械的特性および優れたバリア特性を有する。
【0074】
本発明のコンポスト化可能なセルロース系紙は、ガスおよび/または水分感受性製品用の包装材料として、特に酸素感受性食品用の包装材料として使用することができる。好ましくは、コンポスト化可能なセルロース系紙は、その優れたバリア特性および機械的強度のために、コーヒーカプセルまたはコーヒーパッドの構築に使用することができる。
【0075】
包装材料
第2の態様では、本発明は、本明細書に記載のコンポスト化可能なセルロース系紙を含む酸素感受性製品用の包装材料に関する。
【0076】
包装材料は特に限定されるものではなく、例えば、酸素感受性食品などの食品を保存するために使用することができる。包装材料は、例えば、バターラッピング、飲料容器、コーヒーカプセル、コーヒーパッド、チョコレート包装、およびビスケット包装からなる群から選択され得る。好ましくは、包装材料は、コーヒーカプセルまたはコーヒーパッドの構築に使用される。
【0077】
包装材料は、セルロース系紙、および任意選択的に、追加の層を含む。つまり、包装材料は、第1の材料層としてのコンポスト化可能なセルロース系紙と、少なくとも1つの追加の材料層と、を含む多層製品であり得、少なくとも1つの追加の材料層は、コンポスト化可能なセルロース系紙の表面上に積層される。追加の層は特に限定されるものではなく、包装材料を補充する必要がある所望の追加の特性に依存して適切に選択することができる。追加の層は、好ましくは、水蒸気バリア層、芳香バリア層、耐水層、熱密封可能な層、耐油層、および印刷可能な層からなる群から選択される。
【実施例】
【0078】
本実施例では、以下の原材料を使用している。
【0079】
セルロース繊維ベースシート:1.0~3.0mmの平均繊維長さ、15μm~20μmの平均繊維直径、および50~200のアスペクト比(繊維長さ/繊維直径)を有するユーカリ繊維を含むウォーターリーフシート;セルロース繊維ベースシートは、61gsmの坪量を有し、30°SR(Schopper-Riegler)の叩解レベルを有する100%セルロースに基づく;セルロース繊維ベースシートの平均厚さは、102μmである。
【0080】
ゲル化剤:70%~75%の濃度を有する硫酸。
【0081】
本発明の実施例で調製したコンポスト化可能なセルロース系紙の特性は、以下の方法に従って測定している。
【0082】
酸素透過率(OTR)は、ASTM D 3985およびASTM F 1927に従って測定している。湿潤破裂強度はISO 3689に従って測定しており、乾燥破裂強度はISO 2758に従って測定している。
【0083】
コンポスト化可能なセルロース系紙中の非繊維状セルロース性材料の含有量を決定する方法:試験を開始する前に、コンポスト化可能なセルロース系紙の重量を測定する。次いで、コンポスト化可能なセルロース系紙を、室温および1atmの常圧でセルラーゼを含む酵素溶液中で軟化させる。セルラーゼは、紙を消化し始め、最も接近可能な材料でセルロース分解を開始し、これは、コンポスト化可能なセルロース系紙中のセルロース繊維間に存在する非繊維状セルロース性材料を意味する低結晶材料である。非繊維状セルロース性材料がセルラーゼによる消化によって構造から消失すると、一緒に結合されるセルロース繊維は次第に少なくなり、コンポスト化可能なセルロース系紙の機械的強度が劇的に低下する。コンポスト化可能なセルロース系紙の分解に続いて、引張強度、湿潤破裂強度、および乾燥破裂強度のようなコンポスト化可能なセルロース系紙の機械的強度特性を測定する。
【0084】
コンポスト化可能なセルロース系紙の機械的強度は、停止期に到達するまで、分解の進行のために、時間の経過とともに減少する。この時点で、コンポスト化可能なセルロース系紙の重量を再度測定する。その最初に測定された重量と比較して、減少した機械的強度の停止期に到達した後のコンポスト化可能なセルロース系紙の重量の損失は、セルラーゼによって消化される非繊維状セルロース性材料の全消失に対応する。最初の試料と分解したコンポスト化可能なセルロース系紙との間の重量の損失(停止期に到達したとき)は、コンポスト化可能なセルロース系紙中の非繊維状セルロース性材料の量に対応する。
【0085】
実施例1および比較例1~3
セルロース繊維ベースシートをゲル化剤の浴中に浸漬し、これを-6℃~-2℃の温度で以下の表1に示すような特定の持続時間保持した。その後、処理したベースシートを真水で少なくとも1分間洗浄して、反応を中和し、前駆体セルロース性繊維マトリックスを得た。次いで、前駆体セルロース性繊維マトリックスを90℃で少なくとも1分間乾燥させて、連続的セルロース性繊維マトリックスを含むコンポスト化可能なセルロース系紙を得た。
【表1】
【0086】
比較例4および5
コンポスト化可能なセルロース系紙を調製するための一般的な工業的プロセスでは、パーチメント化における反応時間(ゲル化剤との接触時間)は、より低いバリア特性を有する得られた製品につながる約10秒である。これは、表2の2つの例示的な工業的コンポスト化可能なセルロース系紙について示している。
【表2】
【0087】
実施例2ならびに比較例6および7
さらに、以下の実施例2ならびに比較例6および7のコンポスト化可能なセルロース系紙は、比較例4および5と同様の工業的方法を使用して、すなわち、セルロース繊維ベースシートをゲル化剤と約10秒間接触させることによって調製している。実施例2については、ゲル化剤との接触時間を約20秒に増やし、より高い非繊維状セルロース性材料の含有量がもたらされ、したがって、表3に示すように非繊維状セルロース性材料のより少ない量を有する比較例6および7と比較して優れたガスバリア特性および機械的特性を提供する。
【表3】
【国際調査報告】