(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(54)【発明の名称】上顎直接牽引用および下顎間接牽引用口腔外矯正装置
(51)【国際特許分類】
A61C 7/06 20060101AFI20230111BHJP
A61F 5/01 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
A61C7/06
A61F5/01 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022526814
(86)(22)【出願日】2020-10-07
(85)【翻訳文提出日】2022-07-04
(86)【国際出願番号】 GR2020000050
(87)【国際公開番号】W WO2021090035
(87)【国際公開日】2021-05-14
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522181463
【氏名又は名称】コウツォグロウ,スタイリアノス
【氏名又は名称原語表記】KOUTZOGLOU, Stylianos
【住所又は居所原語表記】L. Kountouriotou 129-131 74132 Rethymno Crete (GR)
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コウツォグロウ,スタイリアノス
(72)【発明者】
【氏名】コウツォグロウ,エレニ
【テーマコード(参考)】
4C052
4C098
【Fターム(参考)】
4C052JJ10
4C098AA02
4C098BB20
4C098BC45
(57)【要約】
上顎を直接牽引し、かつ、下顎を間接的に牽引する口腔外矯正装置であり、前記口腔外矯正装置は、脳頭蓋の周りにのみ配置される円形頭蓋支持部と、弾性牽引体を介して口腔内装置と結合される横桁と、前記円形頭蓋支持部および前記横桁と結合する縦桁と、を有する。前記円形頭蓋支持部は、個々の患者に合う配置とすることを保証するために設けられた、第一の調整・指示手段を有し、縦桁は、第二の調整・指示手段を有し、個々の前記患者に合った弾性牽引体の方向および強度を最適化することを目的としている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上顎を直接牽引し、かつ、下顎を間接的に牽引する口腔外矯正装置(I)であり、
前記口腔外矯正装置(I)は、
脳頭蓋の周りにのみ配置される円形頭蓋支持部(II)と、
弾性牽引体(V)を介して口腔内装置(VII)と結合される横桁(IV)と、
前記円形頭蓋支持部(II)および前記横桁(IV)と結合する縦桁(III)と、を有し、
前記円形頭蓋支持部(II)は、前記脳頭蓋の周りにのみに固定され、前頭骨部および前記前頭骨部の外側の領域へ固定するための締め付け機構(II.4、II.6)と、個々の患者に合わせて2つの前記縦桁(III)を容易かつ対称に配置することを保証するために設けられた、第一の調整・支持手段(11.2)と、を有すること、
前記縦桁(III)は、前記横桁(IV)の容易かつ対称な配置を保証し、個々の患者に合わせて弾性牽引体(V)の方向および強度を最適化するための、第二の調整・支持手段(III.1)を有すること、および
前記口腔外矯正装置(I)は、前記円形頭蓋支持部(II)を介して患者の頭蓋の周りにのみ支持されように構成されていることを特徴とする、口腔外矯正装置(I)。
【請求項2】
前記第一の調整・支持手段は、個々の患者に合わせて容易かつ対称に調整できるように、前記縦桁(III)を収容するための溝(II.2)を有する、請求項1に記載の口腔外矯正装置(I)。
【請求項3】
前記溝(II.2)のそれぞれは、最終位置への調整後に前記縦桁を固定するために、対応する固定用ネジ(II.3)を有する、請求項2に記載の口腔外矯正装置(I)。
【請求項4】
前記第二の調整・支持手段は、個々の患者に合わせて容易かつ対称に調整できるように、前記横桁(IV)を収容するための溝(III.1)を有する、請求項1に記載の口腔外矯正装置(I)。
【請求項5】
前記溝(III.1)のそれぞれは、最終位置への調整後に前記横桁(IV)を固定するために、対応する固定用ネジ(III.2)を有する、請求項4に記載の口腔外矯正装置(I)。
【請求項6】
前記口腔外矯正装置は、個々の患者に合った高さに、簡便にかつ完全に対称に調整できるように、上端(III.6)に印が設けられている前記縦桁(III)を2つ有する、請求項1に記載の口腔外矯正装置(I)。
【請求項7】
前記口腔外装置は、円柱形とすることができる2つの縦桁(III)を有し、横方向に並んだ位置決め用の縦方向の前記溝(II.2)のうち所定のものに人間工学的に固定する、請求項1に記載の口腔外矯正装置(I)。
【請求項8】
2点で曲げられた前記横桁(IV)を有し、前記横桁(IV)は、前記2点の曲げ箇所の間に、金属棒(IV.2)を一体に備えている、請求項1に記載の前記口腔外矯正装置(I)。ここで、前記金属棒(IV.2)は対称な位置に内ネジ状のソケット(IV.3)を有し、前記ソケットは、前記弾性牽引体(V)を口腔外で取り付けるネジ(IV.4)を収容できる。
【請求項9】
前記口腔外矯正装置(I)は、縦に並んだ位置決め用の前記溝(III.1)のうち所定のものに、人間工学的な調整による固定を行うための前記横桁(IV)を備えており、前記横桁(IV)は、両端が円柱形であり、かつ、2つの屈曲点の間の最長の部分が半円柱形で、前記金属棒(IV.2)が組み込まれている、請求項8に記載の口腔外矯正装置(I)。
【請求項10】
各患者の頭部に迅速かつ容易に取り付け、完全に対称に配置できるように、両端(IV.5)に印を備え2点で曲げられた前記横桁(IV)を有する、請求項8および9に記載の口腔外矯正装置(I)。
【請求項11】
前記円形頭蓋支持部(II)の外側の硬い部位、前記縦桁(III)、および前記横桁(IV)のうち内部に組み込まれた金属部の部位は、優れた機械的特性、軽量性に適う構造材料よりなり、好ましくは炭素繊維よりなる、請求項1に記載の口腔外矯正装置(I)。
【請求項12】
前記円形頭蓋支持部は、前記患者の頭部に接する内面に、好ましくは医療用シリコンからなる、周方向に沿って幅が変化する軟質裏地(II.5)を有する、請求項1に記載の口腔外矯正装置(I)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
上記の発明品は、それぞれの症例に応じて前方、下方、または上方へ調整することにより、上顎を直接牽引する口腔外装置であり、また、必要な場合には、下顎を間接牽引するものである。
【背景技術】
【0002】
この口腔外装置は、「交互方式(alternate way)」[5-7]において、「急速拡大装置」[1-4]の直後に、口腔外装置に取り付けた弾性体、および古典的な[1-4]、あるいは骨格支持を介する形態[8]の「口蓋急速拡大装置」とともに用いられ、上顎を牽引するものである。口腔外装置を口腔内装置と組み合わせることで、顎が骨格性II級不正咬合症の患者の下顎を間接的に牽引することも可能である。(ここで口腔内装置とは、下顎を前方に移動させるための「口蓋急速拡大」装置などの機構を指す。例えば、下顎に設置される取外し可能、もしくは固定的な機能的装置であり、II級弾性体もしくは下顎を前方に動かすための他の装置と組み合わられる。)
【0003】
A.これまでのところ、上顎を牽引する口腔外装置は、Delaire[9、10]とPettit[11]が考案した「マスク」が一般的に使用されており、これらの装置は骨格性III級不正咬合症のみに対応している。これらの両装置では、弾性力を加えるための支えとして額と顎を使用し、一般に片側あたり約400grの弾性力を加えている。
【0004】
この方法により、上顎の牽引が得られるが(作用)、同時に顎関節組織(特に顆頭、関節円板、関節窩)への圧迫(反作用)が、関節円板の前方変位(顎関節音の発生、痛み、口の開きにくさなど)として、顎関節症に繋がる可能性がある。
【0005】
同じ用途(前頭骨と顎のサポート)の口腔外矯正装置として、Turley[12]の「マスク」やフェイスマスク/Reverse-pull headgear Tuebinger Model [13]もある。
【0006】
また、上顎の「急速拡大」後の上顎牽引に使用されている「スカイフック」ヘッドギア[14]もある。このヘッドギアは頭蓋骨、頭頂骨、後頭骨、そして顎の位置に支持される。上顎にかかる弾力は、そのほとんどが顎の支持部から加えられる。
【0007】
B.グラモンズフェイスマスク[15]は、額を支持体として使用し、顎の代わりに眼窩下の頬骨領域を支持体とするものである。このような支持の仕方は上記のどの装置とも異なる点である。レオーネ社が製造するフェイスマスク[16]は同じ思想のものである。これらは上顎の急速拡大後に上顎を牽引する目的で使用される装置ではあるが、眼窩下の頬骨領域を支持体として使用するため、治療結果については大いに議論の余地がある。顔面のこれらの部位は、頬骨上顎縫合を含み、この部分に反作用の圧力がかかり、上顎を牽引する作用が発生するからである。
【0008】
C.時折、上顎の牽引のために、頭蓋骨の前頭骨のみを支持する骨格として使用する装置が登場してきた。「上顎用改良牽引ヘッドギア」[17]は、その一つである。この装置の唯一の利点は、その支持法にある。上顎を牽引する際の支持に下顎を使用しないため、A分類の装置に共通する顎関節症の副作用の可能性を排除できる。この装置の工業生産と実用化は、第一に、口腔内のワイヤーを個々の口腔内装置のチューブに容易に挿入すること、第二に、上顎牽引時に周知の副作用をさけることを目的として、全ての患者一人一人の口腔外および口腔内のワイヤーを曲げて合わせる必要があるため極めて困難である。
【0009】
D.現在、アングルIII級不正咬合症の治療には、骨格支持の口腔内矯正装置が広く使用されている。ミニプレート[18]やチタン製ミニプレート[8]は、頬骨内に、つまり、犬歯と側切歯の間[18]や下の切歯の根尖の下[8]に外科的に設置される。上顎の骨格固定は、上顎の「口蓋急速拡大」および牽引に使用する器具に組み込まれた2つの口蓋ミニスクリュー[8]か、もしくは、第一大臼歯の頬側根の上の頬骨下稜に設置したチタン製ミニプレート[18]とすることができる。下顎の成長抑制は、これらの装置によって顎が後方に同時に圧迫されるために起こる。顆粒突起の変位[19]に伴い、関節窩が変形する。これらの解剖学的変化は、上顎の大きさや位置により、上顎後退と同時に下顎の生理的成長を示す患者など、全てのアングルIII級不正咬合症に必要な訳ではない。これは、口唇口蓋裂の患者によく見られるケースである。このケースにおいてこれらの解剖学的変化は良い結果をもたらす可能性はあるが、顎関節組織の圧迫によって顎関節の機能障害につながる可能性があるため、医学的有用性は失われる。前頭骨と顎に支えられる口腔外矯正装置は、チタン製の頬骨下に設置されるミニプレートと一緒に上顎の牽引に使用されてきた。これら3種全てのD分類の装置では、下顎が後方に押し出される一方で、上顎が牽引される。顎関節症を誘発するリスクに加えて、上記ですでに述べたように(A分類の装置)、III級不正咬合症を示す大多数の症例では、下顎は顔面において適切な位置に配置されている。それにもかかわらず、これらの装置はすべて代償的に作用し、下顎を後方に押しやり、その成長を修正し、その機能と顔の美しさに悪影響を及ぼす。機能的には、顎関節の圧迫による副作用の他に、下顎、およびそれに続く舌の後方への押し込みが、将来の睡眠時無呼吸症候群の問題を引き起こす可能性があることを念頭に置いておく必要がある。睡眠時無呼吸症候群の治療に使用される全ての矯正装置は、下顎を前方に移動させ、下顎の移動に合わせて舌が追随し、それと同時に中咽頭レベルにおいて気道を確保するように設計されていることを忘れてはならない。
【0010】
E.我々の意見では、「上顎列を牽引するための矯正装置」[21][国際公開2017/089971号]および「上顎牽引装置」[22][米国特許出願公開第2018028282号]は、使用による顎関節の圧迫を避けるため、正確に設計されている。しかし、我々の発明品は、頭蓋で支持する解剖学的な設計により、また人間工学的構成により、そして全ての患者の頭部へ迅速に、より正確に調整できることにより、さらに使用時に上顎を牽引するための弾性力の方向によって、使用において大きな安定性をもたらす。我々の発明品を主に構成している素材は炭素繊維製のプレートと桁であり、そのお蔭で我々の装置は軽量で耐久性に優れ、扱いやすい。最後に、アングルI級またはII級不正咬合症の歯列関係にあるにもかかわらず、主に顔面において顎の後退を呈する(上顎後退症の)患者の上顎の直接的な牽引は、上記の発明では言及されていない[21、22]。これらの不正咬合では、牽引した上顎を本装置で新しい位置に保持し、その後、別の口腔内機構を用いて下顎を前方に移動させることが可能である。この装置は、アングルI級およびII級不正咬合症における上顎後退症の病因的な治療を達成させる唯一の手段である。
【0011】
現在、多くは成長期にあるアングルII級不正咬合症の患者において、その将来的な成長を修正することができるため、矯正歯科医は上顎の永久歯を遠位に移動させるような技術を用いて、アングルI級の臼歯の咬み合わせを目指しており、下顎後退症を無視することが多い。最良のケースでは、矯正歯科医は取外し可能な、固定式またはハイブリッドタイプの機能的な装置を使用して、下顎を前方に移動させる。このようなケースにおいてでさえ、使用される装置は下顎を前方へ移動させるために上顎で支持するので、結果的に上顎の前方への成長が抑制される。
【0012】
上顎が顔の中で調和的に、あるいは後方に位置するアングルII級不正咬合症例では、患者の横顔の鼻唇角の増大によって明らかでるが、アングルI級の歯列関係を目指して、顔全体の一部である顎の骨格データを無視して同じ治療技術が使用される。顔面内の2つの顎骨の関係性を調和的で若々しいものとするために、成人において、主に上顎と下顎を前方に移動させ、二次的にアングルI級の臼歯関係を作り出す顔面成形のための外科的介入が行われる[23]。
【0013】
我々の発明の目的は、装置の調整と機能において安定し、かつ正確な、便利な口腔外矯正装置であって、口腔内の装置と組み合わせることで上顎を直接的に、簡単に、かつ副作用なしに牽引することが可能であり、さらに、必要な場合には下顎を間接的に牽引することが可能な口腔外矯正装置を創作することである。我々の装置は、協力的な成長期の患者に問題なく使用することができる。
【0014】
アングルII級不正咬合症の患者に対して、我々が推奨する口腔外装置を用いれば行える、まず上顎をさらに前へ移動させてII級の咬み合わせを一時的に悪化させ、その後で、下顎をさらに前方へ移動させると同時に牽引された状態の上顎を保持することは、現在に矯正歯科医は行えていない。
【0015】
実際、アングルII級不正咬合症の成長期の患者で、両顎骨が後退した位置にあるが、顔の成長を修正可能な患者は、たくさんいる。それにもかかわらず、矯正医は「流れに任せて」上顎骨を顔面内の元の後方位置に保持したまま、その支持で下顎骨を前方に移動させようする。
【0016】
頭と体の適切な位置、スムーズな鼻呼吸、柔らかい食べ物だけでない咀嚼、そして生理的な嚥下のパターンは歯列矯正治療の全体論を述べる際に真剣に検討される必要がある。
【0017】
顔面内の上顎の元の位置が前突している(唇の一部が上の永久中切歯にかかっており、口唇角が非常に小さい)ケース、もしくは、真性の骨格III級不正咬合症であり、頭蓋底に対する下顎のサイズのせいで下顎が前に前突しているケース[24]において、私たちは、広く使われている装置[9-11]の使用を、必要なものと共に使用することができる。
【0018】
我々の口腔外矯正装置は、協力的で成長期の患者に特に使用することができ、顎口腔系の成長を修正可能である。
a.骨格性III級不正咬合症の治療に用いることができる。この場合には、上顎の「急速拡大」[1-4、8]を「交互方式(alternate way)」[5-7]と共に行った後に、下顎の成長を同時に圧迫し阻害することなく、上顎を直接的に牽引することができ、顎関節の機能障害、舌の重要なスペースの縮小、その結果引き起こされる睡眠時無呼吸症候群などを回避することができる。
b.骨格性II級不正咬合症かつアングルI級もしくはII級不正咬合症の歯列関係で、顔面内の上顎の元の位置が後退しているケースにおける治療。「交互方式(alternate way)」[5-7]と共に「口蓋急速拡大」技術[1-4、8]を用いて、顔面頭蓋を動けるようにした後に、我々の口腔外装置によって最初に上顎は牽引され、続いて、再配置された位置に保持される。最後に、もう一つの口腔内装置を使用して下顎を牽引する。この方法では、上顎および下顎両方の成長修正によって、顔全体の外観は無比の美しい結果を示し、口腔内のスペースが大幅に拡大された後は、呼吸と舌の機能が大いに助けられる。よって、睡眠時無呼吸症候群の原因となる可能性が著しく減少する。
【0019】
図1-5に示しているように、我々の口腔外矯正装置(I)は大まかに4つの部品から構成されている。脳頭蓋の周りに局所的に配置される円形頭蓋支持部(II)、縦桁(III)、横桁(IV)、そして弾性牽引体(V)を介して、我々の装置(I)は口腔内装置(VII)の「急速拡大装置」と結合される。
【0020】
図1には、使用中の我々の装置(I)の正面図、円形頭蓋支持部(II)、円形頭蓋支持部(II)に対して垂直な円柱形の縦桁(III)、水平で2点で曲げられた、2つの屈曲点の中間部が半円柱形になった円柱形の桁(IV)が模式的に示されている。横桁(IV)は円柱形の縦桁を介して円形頭蓋支持部(II)と結合している。横桁の半円柱部には、支持用のネジ穴(IV.3)と、支持用の穴に固定されて弾性牽引体(V)の取り付けに使用される、取り付けネジ(IV.4)があある。また、患者の頭部(VI)と「急速拡大装置」の口腔内装置(VII)も図示されている。患者の頭部上の円形頭蓋支持部(II)には、締付け用のネジ(II.4)、縦桁(III)を人間工学的に対称な位置に調整するための溝(II.2)、最終調整後に円柱形の縦桁を固定するための固定用ネジ(II.3)が図示されている。左右の縦桁(III)の高さを対称に調整するための印(III.6)も図示されている。最後に、横桁(IV)を迅速に、正確に、そして対称な高さに配置するための、縦桁に設けられた溝(III.1)が図示されており、最終調整後に横桁を固定するための固定用ネジ(III.2)、そして、患者の頭の左右の矢状面において、縦桁(III)の中に横桁を対称的に配置するための、横桁に設けられた印(IV.5)も図示されている。
【0021】
図2には、我々の装置(I)の背面図、患者の頭部(VI)、背面が非常に薄くて丈夫な部品(II.1-炭素繊維板)および内側の柔らかい部品(II.5-医療用シリコン)から構成される円形頭蓋支持部(II)の背面を図示しており、2つの円柱形の縦桁(III)と横桁(IV)の接続の仕方も図示している。
【0022】
図3には、前頭骨領域および頭蓋骨の周りに円形頭蓋支持部(II)を有する我々の装置(I)の上面図を示す。外側の丈夫な炭素繊維の部品(II.1)、内側の柔らかい医療用シリコンインレー(II.5)、縦桁を配置するための縦方向の位置決め溝(II.2)、患者それぞれの頭に合わせた調整を行った後で縦桁を固定するための固定用ネジ(II.3)、患者の頭部の外周に個々に合わせて我々の装置を骨格に固定するための円形頭蓋支持部(II)の固定用ネジ(II.4)が図示されている。そして、内ネジの形をしたソケット(IV.3)と取り付け用ネジ(IV.4)を備える横桁(IV)の上面図も、患者の口の外に弾性牽引体(V)を取り付けた状態で図示されている。
【0023】
図4では、前頭骨領域および頭蓋骨周囲における円形頭蓋支持部(II)の高さにおける我々の装置(I)の横断面図が図示されている。患者頭部の前方の領域が具体的に図示されている。この図において、固定用ネジ(II.4)を介して円形頭蓋支持部(II)を十分に支持する役割を果たす締付け装置(II.6)[25]、ならびに患者の頭部に対する矯正装置の最終調整後に円形頭蓋支持部の締め付けのために矯正歯科医によって切り取られる可能性がある、余剰の柔らかい医療シリコン部分(11.7)が、正確に図示されている。
【0024】
図5においては、横桁(IV)の構造の詳細が図示されている。その横桁は、炭素繊維部位(IV.1)と、炭素繊維部位内に組み込まれた金属棒(IV.2)を有している。金属棒には、弾性牽引体(V)を外付けするための取り付け用ネジ(IV.4)のための内部ネジ(IV.3)が設けられている。横桁(IV)の両端にある印(IV.5)は、矢状面で横桁を調整することによって、患者の頭部の左右で直接、簡単かつ完全に対称になるようにすることを目的としている。最後に横桁の半円柱部に設けられた垂直部(IV.6)には、金属棒(IV.2)が一体に備えられている。
【0025】
最初に、「交互方式(alternate way)」[5-7]と一緒に「口蓋急速拡大」が、任意の口腔内装置[1-4、8]によって行われる。上顎の臼歯部にグラスアイオノマーセメントを用いて帯環を固定した「ハイラックス」装置を例として挙げる。帯環の頬側には金属製の棒が溶接されており、その棒の前端は、弾性牽引体に口腔内で結合するために、犬歯部またはその少し後ろで、丸く曲がっている。永久上顎第1大臼歯と上顎第2大乳臼歯に、高さ約3mmの可視光線硬化型材料の固定咬合床を装着することで、上顎大臼歯の突出を妨げる。続いて、「ハイラックス」装置を用いて正中口蓋縫合を開かせることにより、下方および後方に下顎を回転させる。下顎の歯の咬み合わせが上顎の前方移動を妨げる場合に、来院のたびに咬合床を管理し、都度修復する。
【0026】
我々の口腔外矯正装置(I、
図1-4)は、腋窩周囲の縫合線を外した直後に、十分な上顎の牽引を目的として装着される。
【0027】
まず、幅と厚みの異なる炭素繊維製の板からなる円形頭蓋支持部(II、
図1-4)を頭蓋骨に設置する(VI、
図1-4)。締め付け装置(II.4、II.6、
図1、3、4)を介して患者の頭の周りに円形頭蓋支持部(II)を固定した後、我々の装置の残りの部位の調整を続けて行う。
【0028】
円形頭蓋支持部(II、
図1)は、前頭骨と外眼角の遠位側の位置において、比較的重くなっている。中央部に締め付け装置(II.4、
図1、3、4、II.6、
図4)を収容し、また、横方向に、個別の位置に固定するための垂直溝(II.2)を介して円柱形の縦桁(III、
図1)を収容するためである。全ての溝(II.2)は固定用ネジ(II.3)に対応している。
【0029】
まず、円柱形の縦桁を、患者の顔幅に合わせて、患者の頭の左右対称な適切な位置に配置する。その後で、上端にある印(III.6)によって左右の高さが完全に対称になるように縦桁を調整し、最後に小さな固定用ネジ(II.3、
図1)で固定する。
【0030】
円形頭蓋支持部のうち、円柱形の縦桁(III、
図1)を適切に調整し固定する役割を担う溝(II.2、
図1、3、4)のすぐ後ろに位置する部分(II.1、
図1)は、頭蓋支持部の前部の幅を保ったまま極めて厚みが薄くなっており、頭頂骨の背側に行くと幅が大きくなる。そのため、通常はラムダ縫合において小さな部分(II.1、
図2)を構成する。このようにして、我々の装置は作動中、所定の位置にうまく保持される。
【0031】
圧迫感を和らげるためには、頭蓋支持部の内側に、炭素繊維の板の幅に対応し、後頭骨背側領域で幅が広くなるような帯状の柔らかい医療用シリコンインレー(11.5、
図1-4)を使用する(II.5、
図2)。
【0032】
その後、横桁(IV、
図1-5)を、矢状面で調整する。この調整は、付属の弾性牽引体の牽引力の大きさに影響を与える。両端の印(IV.5、
図1-5)を使用することで、患者の頭の左右で、人間工学的に完全に対称に調整することが可能となる。上顎牽引の角度に影響を与える高さの調整は、円柱形の縦桁(III、
図1,2)の締結式の半円柱形の溝(III.1、
図1、2)により、患者の頭の左右のサイドを容易かつ正確に、そして完全に対称に調整することが可能である。最終的に、小さな固定用ネジ(III.2、
図1)により縦桁の中へ固定される。
【0033】
最後に、弾性牽引体(V、
図1,3-5)を上顎に装着し、上顎の牽引を行う。まず、弾性牽引体は、口腔内装置の側面のフックに口腔内で取り付けられ、その後に、金属棒(IV.2、
図1,4,5)に取り付けられた2本の取り付け用ネジ(IV.4、
図1,3-5)に口腔外で取り付けられる。金属棒は、炭素繊維で構成された横桁の屈曲点の間にある半円柱形の部位に組み込まれている(IV.4、
図1-5)。弾性牽引体の口腔外への装着は、人間工学に基づき、患者の頭部を左右対称に、また患者の口輪の幅に合わせて行われ、口輪の幅全体に多くの装着位置があるため、口唇癒着症による外傷を回避することができる。
【0034】
以上のことから、本装置は、骨格性III級およびII級不正咬合症の成長期の患者に使用することで、上顎および下顎の成長を治療的に改善するのに非常に有効な口腔外矯正装置であることを我々は強調する。
主な利点を以下に述べる。
1.上顎を前方に牽引する際、脳頭蓋に対してのみ骨格固定され、下顎への圧迫がないため、使用中の怪我による顎関節への悪影響がない。
2.骨格性III級不正咬合症の患者だけでなく、骨格性II級不正咬合症の患者の病因論的治療、さらには今まで口腔外装置や口腔内装置では対応できなかった、顔面内での上顎および下顎の後退症を伴うアングルI級・II級不正咬合症にも容易に使用することが可能である。
3.我々の装置を患者の頭蓋骨に使用する場合、多用途汎用的かつ安全な方法で、装置の設定に最適な対称性を確保することができる。人間工学に基づいた実用的な設計により、縦方向にも横方向にも矯正歯科医が望む方向に適用適応する弾性牽引体を取り付けることが可能である。
【0035】
最後に、本装置の部品は、上記以外の材料で製造することも可能である。指標としては、非常に軽量でプレートや桁の破損を起こしにくい炭素繊維材料を、硬質のプラスチック化合物に置き換えることも可能である。桁の炭素繊維を金属に置き換えることも可能である。円形頭蓋支持部の前面に締め付け装置を設けないようにするため、円形頭蓋支持部の背面部を柔らかい自己接着性のテープ状の面ファスナー(ベルクロ)に置き換えることもできる。横桁は、弾性牽引体の取り付けを容易にするために、突出したフックを前面全体に一体に設けることができ、その場合に本装置の主形態で言及した一体型の金属棒を排除することができるだろう。
【0036】
(参考文献)
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【国際調査報告】